【初音ミク】VOCALOID総合エロパロ10【ボーカロイド】at EROPARO
【初音ミク】VOCALOID総合エロパロ10【ボーカロイド】 - 暇つぶし2ch150:名無しさん@ピンキー
09/01/10 03:01:50 uh4da/I9
ちょうどがくリン&既存曲イメージもので妄想していたので
これは神のお告げだ、という勘違いでバーっと書き上げました。
光源氏ではない上に注意点多数です。

・某カバー曲をイメージしています
(あくまでイメージで歌詞とは違ったりします)
・江戸時代っぽいパラレル設定
・がくぽロリコン
・リンの口調がリンじゃない
・暗い
・ぶっちゃけ遊郭の話
・でもエロ描写はカット
・なんかくどい
・横文章なのに漢数字使用

以上の項目に嫌悪感や地雷臭を感じた方はNGワードは 籠のトリで回避して下さい

151:籠のトリ
09/01/10 03:02:23 uh4da/I9
自分が彼女…リンと出会った時、彼女はまだ幼い少女だった。
馴染みの女の付き人として現れ、他の娘は消してしまった光を
一切隠すことなく自分に近づいてきた。
無邪気に笑顔を振りまいている姿は彼女の辿る道を全く想像させず、
反って憐みを感じたのを覚えている。

時が経ちリンは見習から遊女になった。
まだ年若い彼女は上の女にも客にも小娘扱いされ
『そういう趣味』のわずかな客を相手していると聞く。
そしてリンの一番の相手はおそらく自分である。
酔狂だ、と他人は言うし、自分でもそう思う
何故 色恋の技を知らぬ娘を好んで買い、その上指一本も触れないのか・・・。
ただ他の女と絡む気もせず、かと言ってこの娘を抱こうとは思わないから、
そう結論付けているが本当のところは分かっていない。

「がくぽさん。」
窓枠に腰をかけ外をぼんやりと眺めていると、ふとリンが呼びかけた。
「今日はお喋りもしないのですか?
これでは夜は更に長ってしまいますよ。」
「別段話すことなど無い。
もし語りたいことがあるならお主が勝手に語ればよい。」
「…私には話せることなどありませんから。」
言葉が見つからなくて、しかたなく沈黙を返しまた目線を窓に投げる。
雪で白く染まった道を月が照らしていた。

カサカサと衣の音がし瞳を端へとやると菊色の着物が自分の脇に座っていた。
「がくぽさんが私を買うのはなぜですか?」
かすかにリンが呟いた。
「同情…ですか…?」
だんだんと声は震えていく。
泣いているのかもしれない、そう思ったが慰め方を知らないから黙って月の方を見た。

152:籠のトリ 2/2
09/01/10 03:03:11 uh4da/I9
息を飲む音が聞こえたかと思うとふとリン己の手をがくぽの指に乗せた。
紅葉のようなに小さく温かい彼女のものが自分の一部と重なっている。
『初めて触れた… 触れてしまった。』
訳の分からない恐れが体を巡る。

「お情けで買えても、汚(けが)れた身は触れることすら厭いますか?」
違う、と叫びたかった。けれども、できなかった。

「私は卑しい女です。
「体を売らなければ生きてはいけません。」
耳にかかる吐息が更に心を揺らす。
「知らない人に抱かれても、心を拒絶されても、
 せめて…自分が好いた人に触れて欲しいから、だから……!」

言い終わる前にリンの口を唇で塞ぐ。
乱暴に顔を寄せ、ただ長く、押しつけるような口づけ。
信じられない、というようにリンは目を見開きやがて目を細めた。

分かってしまった。
彼女を求める理由、触れることのなかった理由。
自分が狂うこと、彼女を壊すことが怖くて枷(かせ)をつけて必至で留まっていたのに
今、彼女はそれをあっさりと壊したのだ。

もう止めることはできなかった。
そのままリンを押し倒し、帯をとく。
何度も経験したはずの行為なのに手は酷く震えていた。

「拙者(せっしゃ)は慈善で女を買うほど出来た男ではない。」
襟を広げ素肌を晒す。
今まで手足よりもずっと白く小ぶりなソレはどんな女のものよりも魅力的だった。

「優しくはできぬぞ」
「はい…。」
嬉しいです、そう動く口に再び蓋をし、二人は短い夜に落ちて行った。

153:以上です
09/01/10 03:07:32 uh4da/I9
以上です
1回目の投稿で "1/2"をつけ忘れてました。
リン視点は排除したので分かりにくかったらすみません。
自分の力不足です。

ロリコンの趣味はないけれど、がくリンは目覚めたらかなり危ない。
うっかり自給自足してしまいました。
>>146には全文同意

154:名無しさん@ピンキー
09/01/10 03:25:15 xXae/82s
>>151
溶ける程萌えた・・・・萌えたが切ない;w;

155:名無しさん@ピンキー
09/01/10 04:01:49 5t21VtZ6
>>138
自分の方向性もそんな感じ。
ルカはいとこ設定だと使いやすそう。
最近帰ってきた帰国子女で引っ越してきてがくぽのお隣さんとか

156:150
09/01/10 04:09:19 y7MQZYo/
id違うと思うけど、151です。
脳内修正お願いします。
2/2の1行目
息を飲む音が聞こえたかと思うとふとリン己の手をがくぽの指に乗せた。
→息を飲む音が聞こえかと思うと、リンが己の手をがくぽの指に乗せた。

リン己ってなんぞや。
修正しようとしたらこの文全体が分かりにくいことに今気付きました…。
(でも前後の繋がりから自分には修正できそうにない。)
他にも変な所があるかもしれません…。

>>154
なんとか身請けまでもっていきたかったが、良い案が浮かばずこんなことに。
暗くてごめん

157:名無しさん@ピンキー
09/01/10 04:15:44 jdvizWYl
>>151
GJ!!!
がくぽもリンもどハマリだ、良い。ロリコンのロの字も浮かばなかったぜ!

158:名無しさん@ピンキー
09/01/10 10:13:05 KGCZVaz+
【初音ミク】 トウィンクル☆リトルスター 【オリジナル】
URLリンク(www.nicovideo.jp)


159:名無しさん@ピンキー
09/01/10 11:19:34 s1st7Zuw
>>153
GJ!雰囲気が良い

160:名無しさん@ピンキー
09/01/10 11:21:40 Pj1Tbz9f
>>153
がくリンいいな。GJ!

161:名無しさん@ピンキー
09/01/10 12:20:31 Yhb57loO
>>153
最近がくリン少なかったから嬉しい
あのカバー曲自分も好きだけど曲のイメージにすごくあってると思った
GJです

162:名無しさん@ピンキー
09/01/10 14:30:30 DC8pQz7+
CV03が徐々に明らかになってきてる!

ルカ様登場で存在意義に不安を感じたメイコが真っ赤な顔で「何でもしますから捨てないでください…」
とベッドの上でスカートをたくし上げながら涙声で懇願するところまでを
今朝方夢で見てネタにしようと思ったけど、
うちのメイコたんはほわほわしていながら、マスターに歌わせてもらえることをプライドにしていて、
新しくきた子と仲良くできたらいいなあとか思ってるおっとりさんで、
マスターも秘蔵っ子のメイコを溺愛だからそんなネタ書けなかったぜ!


>>86>>87と酒を酌み交わしたい。
そして>>110>>144に超期待!正座して読ませてもらうわ!!


163:名無しさん@ピンキー
09/01/10 14:40:59 1dVGgv+j
某所で見たミクデレなルカに禿げた。

KAITOが自分は旧型であることに悩んでる感じの
カイミクが好きなので、旧型なのにどうしてミクに一番
愛されてるのかとKAITOに当たるルカとグルグル悩むKAITOな
カイミク+ルカが浮かんできましたよ。
しかしどうしてもルカが一番男前になる。
ルカ妄想が暴走するよルカ。

164:名無しさん@ピンキー
09/01/10 14:56:19 5t21VtZ6
ショタコンルカのルカレンもいいかも

165:110
09/01/10 15:01:11 +bfWhaMi
な、なんだと意外と需要あるのか…?!
とりあえず早筆ではないので服着てくれwwwちょっと書いてみる
>>144
半裸で書きながら期待してる

166:名無しさん@ピンキー
09/01/10 18:08:50 edzp9qaC
レンリンは需要なさげか・・・?

167:名無しさん@ピンキー
09/01/10 18:36:50 /1xcRp0v
>>166
投下ですか?
レンリンは今さら口に出す必要もない程メジャーだからではないかと。
ということでさぁ来い!

168:名無しさん@ピンキー
09/01/10 18:38:08 Cg8o1KCV
リンレンwktk

169:名無しさん@ピンキー
09/01/10 18:44:25 lmD+PfEv
ボカロが出て居るSSなら需要の無いものなんて無いんだぜ?

つーか……誘い受けする時間を惜しんで書いてください書き手様方!

170:名無しさん@ピンキー
09/01/10 19:00:57 SOucpnFM
エロパロに限らず2chのどこでも、メジャーカプは2ch外でも良く見かけるから
それ以外の需要が高まることが多いな

171:名無しさん@ピンキー
09/01/10 19:06:42 /ATIVnYH
がくミクとがくルカとレンメイを期待して待ってる

172:名無しさん@ピンキー
09/01/10 19:10:42 VpXDn4f7
>>169
誘い受けじゃなくてリアルに時間がないんだ…



レンリンはあんまりエロが求められるようなカプじゃない気がする。俺は好きだが。
カイメイなんかはメジャーだと思うけどここでも多い気が。いいぞ。もっとやって下さいお願いします。

173:名無しさん@ピンキー
09/01/10 19:30:28 AKiXy3jj
エロパロ以外でマスター物がないのでください

174:名無しさん@ピンキー
09/01/10 19:33:21 a+c1R4Cf
>163
同じ様なこと考えてたー!
是非書いてください。おねがいします。

175:名無しさん@ピンキー
09/01/10 20:01:58 oDuRorbV
スパイな某曲のせいで死合いながらエロ展開になだれ込む
やす…カイトとメイコの妄想が止まらないんだぜ

チャー○ーズエンジェルと突っ込まれてたけど
ビパップだよなあアレ

176:名無しさん@ピンキー
09/01/10 21:06:59 SOucpnFM
>>172
自分は求めてるけどな!

177:名無しさん@ピンキー
09/01/10 22:13:26 VpXDn4f7
>>175
よし、分かった。じゃあ続きを書く作業に戻ろうか。

178:名無しさん@ピンキー
09/01/10 23:36:40 JMdB3sCY
とりあえず誰か投下するまで全裸待機しとくわ

179:名無しさん@ピンキー
09/01/11 01:58:02 TDq/+ZEN
巡音さん出現でのボーカロイド一家内の変化について妄想したので
エロはありませんが書いたものを置いていきます。だから全裸の人は早く服を着て下さい。

※注意※
・マス←ミク要素あり、ミクテト友人設定
・ボーカロイドは全員同じマスターの家で同居(家族状態)
・がくぽはボカロ家の隣人、UTAUは皆でめ○ん一刻のようなアパートで共同生活(寮状態)
・巡音ルカさんはほんわか家事万能お姉さんキャラ設定です

NGな方はタイトル 初音ミクの葛藤 で回避をお願いします。

180:初音ミクの葛藤
09/01/11 02:00:06 TDq/+ZEN
「テトさぁあああああんっ!!」

 どたどたどた、と木の廊下を踏み抜かんばかりの勢いで、ミクの足音が響く。
コタツでフランスパンチップスを手にDVDを堪能していたテトは、
驚くと同時に溜息をついて、今度は何かと思いながら立ち上がった。

「まったく、毎回言ってるだろう、ここの廊下はもっと静かに…」
「テトさんテトさんテトさぁあああんっ!わたし、私もう駄目ですきっと終わりなんですぅううっ!!」

 扉を開け注意を喚起したテトにぶつかってきたのは、全力でダイブしてきたミク自身であった。
どたっと畳に音を響かせながら部屋の中に倒れ込んだのに、ミクは喋りも動きも止めようとしない。

「どうしようテトさんわたしどうしたらいいのぉおおっ?!もうオワタだよオワt」
「いいからまず退けぇえっ!あとネギ振り回してボクの顔を連打するなぁああっ!!!」


    【初音ミクの葛藤】


 冒頭から五分後、ミクはテトの部屋のコタツにバツが悪そうに縮こまっていた。
お互いに額には絆創膏(ミクのネギとテトのフランスパンが殴打された結果である)
そしてコタツの上には、ミクが振り回していたネギを使ったガーリックトーストならぬ
ネギトーストが皿に並んで置かれている。(食品は有効活用とはテトの言葉だ)

「…で、キミのところに新しい”家族”がやってきた、と」
「はい…あの、リリース的にはわたしの妹なんですけど、
 でも外見とか中身とかお姉ちゃんで…えぇっと、何て呼べばいいのかな、こういう関係…」
「ややこしいな、取り敢えず名前で呼べばいいだろう…巡音ルカだっけか」

 額をフランスパンで叩かれた痛みではなくずっと涙目のミクに、テトは溜息をついた。
ひょんなことで知り合ってから、今までもやれお兄ちゃんがミクのアイスを食べただの
めーちゃんがミクのネギを酒のつまみにしちゃっただの、はたまたリンのロードローラーに
乗ってみたら車庫壊しただの、レンくんが普通に接してくれないだのと
(最後のはそりゃ思春期の男子だからだろう、とテトは思った。言わなかったが)
相談…というより、家族自身には話せない愚痴のようなものを言いに来てはいたが、
今日のように最初から泣きべそなミクなど、今までテトは見たこともなかった。

181:初音ミクの葛藤
09/01/11 02:01:06 TDq/+ZEN

「そのルカって子と喧嘩したのか?どSだったとか、女王様だったとか?」
「そっ、そんなことありません、ルカちゃんはとってもいい子…えっと、いい人です!」

 薄切りのフランスパンで作ったネギトーストを摘みあげながら、テトは尋ねた。
探りを入れた言葉を頭から否定したミクは、困ったような表情のまま続ける。

「ルカちゃん、すっごく家事が上手なんです、お掃除も洗濯もお料理も…
 それで、めーちゃんのおつまみ作ったり、お兄ちゃんと一緒にお皿洗ってたり、
 リンやレンくんともお話してるし……一生懸命、頑張ってるんです………それに…」
「…それに?」
「……それに、マスターもすごく…助かってる、って…」

 ミクは無垢で純真で、生きにくい時代に生まれたなとテトが思うような内面を持っていた。
それでも、純粋さ故に、心を許している家族や隣人の話になると、結局最後には
幸せそうな顔と声で、楽しそうに日常を語るのが常であった。
 なのに今日はどうだろうか。
離しているうちにミクの瞳に滲んでいた涙は粒の大きさを増し、ついにぽろりと零れ落ちた。

「っ…一生、懸命で……はやく、家族になって、い、っしょに、うたい、たい、って…」

 華奢な肩がふるふると震え、コタツ布団を握り締めた手の上に涙が落ちていく。
堪えきれなくなったミクは顔を伏せ、トレードマークのツインテールもしなびた様にしなだれている。
ぽた、ぽた、と雨上がりの軒先を思わせるような音が、ミクがしゃくり泣く音と共に響いていた。

「…嫌いになった?」
「ち、がいま、す…わたし、ルカちゃん、きらいじゃ、ない…」
「じゃあ、怖くなった?」

 ミクの肩が、びくりと跳ねた。

「…キミは、怖いんだな、ルカのことが…いや、そうじゃない」
「やめて…テトさん…」
「……マスターの心が、ルカに向いてしまうことが」
「やめてぇえっ!!」


182:初音ミクの葛藤
09/01/11 02:02:25 TDq/+ZEN

 悲鳴を上げるように叫んで、ミクは頭を振った。
ヘッドホンを掌で塞ぎ、唇を強く噛んで、全身を震わせて、瞳をぎゅっと閉じて。
外界の全てを拒絶するように、押し込めた声で泣いていた。
 ミクがマスターを親愛や敬愛以上の感情で見ていることは、テトも知っていた。
いや、きっとあの家の中の誰もが知っている、暗黙の事実だろう。
だけど、純粋すぎるミクの心は、今の感情についていかなかった。ただ悲しくて、苦しい。
―その気持ちは嫉妬と言うんだよ、と教えることさえ、周りははばかる位に。

「わた、わたし、の、わがまま…ッ、なんで、す…マスターも、ルカちゃんも、わるく、な…」
「キミは実にばかだなぁ」

 泣きじゃくっているミクの頭に、そっとテトの手が重ねられる。
向かい合っていた場所から立ち上がり、ミクの隣に移動していたテトは、頭に置いた手でゆっくり撫でた。

「キミも何も悪くない、なのにキミは自分が悪いと思ってる…だから、ばかだなぁ、と言ったんだよ」
「で、もっ…テトさん、わたし、わたし…!」
「考えてごらんよ。もし、キミのマスターが新しいボーカロイドにだけ心を傾けるような人だったら。
 …リンとレンが来たときにもうそうなっていた筈だろう?」

 肩を上下させて必死に息をしながら泣きじゃくるミクの背を、もう片方の手で撫でてやる。
ミクの両腕がすがるように抱きついてきたのをテトは拒否もせず、優しく抱き返してやるようにしていた。
幼子をあやすように、頭を撫でながら、背中をぽんぽん、と撫で続ける。
まだ涙が止まるわけではなかったが、ぎゅうと抱きついたミクはしゃくり泣きながらも
先ほどのテトの問いかけに、こくりと静かに頷いていた。

 リンとレンくんがやってきた日。
ミクにとって絶対に忘れられない日。初めての、妹と弟が出来た日。
”わたしも、もうおねえちゃんなんだから!”と張り切って、色々失敗したのを覚えている。
けど、その失敗を心配してくれたお兄ちゃん、めーちゃん、リン、レンくん。
そして…そんな失敗ごと、わたしの全部を受け入れてくれた、マスター。
あの時と同じ筈なのに、心はこんなにきりきりと痛くて冷たい。
このまま冷凍庫に入れっぱなしのアイスのようにがちがちに固まって、砕けてしまいそうなくらいに。


183:初音ミクの葛藤
09/01/11 02:04:41 TDq/+ZEN

 抱きついた腕のまま、テトのぬくもりに甘えながら、ミクは泣き続けていた。
少しずつ様子が落ち着くのを見計らいながら、テトは言葉を紡いだ。

「ルカのその頑張りを見たから、歌でも自分より頑張られちゃうんじゃないか…そう思ったんだよ」
「そ…そう、です…か…?」
「きっとそう。そして、ルカも…歌いたくて歌いたくて、少し頑張りすぎたんだよ、色々と」
「ルカちゃん、も…?」

 苦しかった息が落ち着いて、ミクはやっと顔を上げた。
いつものツンとした雰囲気とは違う、優しいテトの瞳が自分をじっと見ていて、目を見開く。
まだ少しこぼれてくる涙を袖で拭いてあげながら、テトは頷いた。

「その子…ルカは、本当は、キミの代わりにリリースされる筈だったんだろう?」
「は、はい…わたしもよくは知らないんですけど、でも、わたしが先にリリースされて…」
「だとしたら、ボクは、ルカは歌いたくて歌いたくて、ようやくキミのマスターの所に来れたと思うんだ。
 だから、自分の家族になる皆のためになりたくて、歌以外の色んなことを頑張ってる。
 …早く家族の一員になりたいのさ。キミたち、”VOCALOID”のね」

 テトの声に、ミクは驚いたようにゆっくりと瞬きをして、涙をこらえる様にぎゅっと目を閉じた。
がちがちに痛いほど凍っていた心は、柔らかな春光に解けて、ちゃんと物事が見えるようになっていた。

 もしわたしがルカちゃんの立場だったら…歌いたいけど、マスターも居なくて、
ずっと調整に時間がかかって、研究室の中で何度も何度も同じ歌で、その風景以外知らなくて。
…寂しい。もしわたしだったら耐えられない。わたしは、マスターの暖かさを無くすなんて考えられない。
それからマスターの家に来て…皆と会ったら……嬉しい、すごく嬉しい。


 家族になりたい、頑張りたい、そして…皆に、”私”を認めてもらいたい…。


 にじむ涙を最後にしようと、ミクはずずっとすすり上げた。
不恰好だったけど、それがミクなりのけじめだったようで、次に顔を上げたとき、
そこにあったのはいつものミクの笑顔だった。


184:初音ミクの葛藤
09/01/11 02:06:14 TDq/+ZEN

「テトさん……えっと、その、すいません…」
「なぁに、かえって耐性がつく。もしまた家で何かあったら、ボクのとこにおいで?」
「あ、ありがとうございます…」
「ただし、今度は廊下は静かにね…さ、用件終わったら早く帰るといいよ。
 来たときの様子じゃ、誰にも言わずにココに来たんだろう?」

 腕を離したテトの言葉に、あ、と小さく声を発して、ミクはテレビの上の目覚まし時計を見遣る。
示されていた時間は、自分が飛び出してから一時間は経っていた。

「ほら…キミのとこの兄さんがマフラー振り回して探さないうちに帰りなよ」
「は、はわわわ…ご、ごめんなさいテトさん、このお礼はまた後日!ちゃんとします!!」

 ぺこぺこと頭を上下に振った後、ミクは慌てて立ち上がった。
戸口へ向かう慌しい姿に、ツインテールがふわふわと揺れていた。
柔らかな笑顔でテトが後姿を見送ろうとしたとき、ミクがくるりと振り向いた。

「あの…ありがとうございましたっ!いつも、テトさんに頼って、でも、すごく安心できるんです!」
「どういたしまして。今度のお礼はネギ以外で頼むよ」
「はいっ!!」

 満面の笑みを浮かべたミクの頷きにつられて、しょうがないなぁ、と言う風にテトは笑顔を見せた。
先ほど告げた言葉も忘れたのか廊下を小走りに去っていく音を聞きながら、
テトはコタツに入り直すと、DVDの続きを見ながら冷めてしまったネギトーストの残りをかじり始めた。

「……すごく安心、か…」

 それは家族の皆に対するものと同じだろうか、と先ほどのミクの言葉にテトはふと考えた。
一緒に住んでいる家族に出来ない相談も何度か乗った気がするし(マスターへの好意とか)
自分のところに飛び込んでくる時は大抵、家族には言えなくなった内容ばっかりだ。

「…よく言えば頼られている友達……でなければ…」
『おかーちゃーん!』

 呟くテトの言葉に重なるように、DVDの中のお笑い芸人が思いっきり叫んだ。
ぽとり、とネギトーストを手から落としながら、テトは固まった。
確かに、確かに実年齢上は産めても無理はないけれど……!


 翌日、近所のビデオ屋に、珍しく延滞せずにDVDを返すテトの姿があったのだった。

【END】

185:初音ミクの葛藤 ENDING
09/01/11 02:13:17 TDq/+ZEN

純真無垢なミクと、頼られると母性本能的につい優しくしてしまうテトさんじゅういっさいが大好きです。
ミクテトのような、テトミクのような。この二人が仲良くしているのが見たかったので書いてしまいました。
ルカさんはほんわか家事万能お姉さんキャラだと自分の中では信じてる!

お付き合い下さりありがとうございました。テトとミクが増えることを祈りつつルカさんを待つ!

186:名無しさん@ピンキー
09/01/11 07:05:29 o0pZhRcV
>>185
おバカロイドの人かな?テトがそんな感じしただけですが
テトミク可愛すぎる!オカンテト萌えた

187:名無しさん@ピンキー
09/01/11 11:58:59 UHG4E4Yt
いい話でジーンとしてたのに最後の「おかーちゃーん!」でクソワロタwwwww
 
 
 
 
 
ちょっと百合板にテトミク書いてくるわ。

188:名無しさん@ピンキー
09/01/11 13:46:03 PeHy/RGZ

GJ!


189:名無しさん@ピンキー
09/01/11 18:28:33 BV3Fk84e
>>185
GJ!なんという母娘w

>テトさんじゅういっさい
テトさん十一歳に見えて焦った

190:ナンバリングで妄想GO!
09/01/11 21:52:51 BRbeoZa2
とあるサイトのナンバリングの話を見て書きたくなった小話。
やまなし・おちなし・いみなし・えろなし。ごめん‥‥‥でも後悔はしない。
ナンバリングで妄想GO! でNGしてください。 CPはカイ→レン 無し ミク←ルカ→KAITO かな?

191:ナンバリングで妄想GO!
09/01/11 21:55:24 BRbeoZa2
 その日KAITOは久しぶりにクリプトン社に来ていた、キャラクターのリセットのためだ。
全国で千人程度のユーザーしかいないKAITOだが、キャラクターの色付けをする人間は必ずしも少なくない。
亜種等を見ればその分裂具合は寧ろトップと言える。受けるフィードバックも激しい。
最近はどうゆうわけか嗜好の端々がどうもウホッ方面に流れそうになる。
 流されれば『そう』なるので別に構わない(というか構わなくなる)のだが、KAITOは今の所誰かと取り返しのつかない段階まで行くのは嫌だった。
そっち方面は一歩踏み出しただけでもあっという間にその段階まで持って行かれそうになるし。
 まあなにわともあれ。
 受付でアポイントを取ってキャラクターカタログを見ながらKAITOは時間を潰していた。
 『買い物』でレンに構ってもいいし『アカイト』でクールにキメてもいい。『伸びた?』で鬱るのもありといえばありだ。
『KAIKO』は人格的な問題はないけど、体格の変化が大きいし出来れば敬遠したい。
怖いもの見たさから発生したMEIKOのアンインストール事件を思えば、帯人とか鬼畜眼鏡は100パーセントアウトだ。だったら……とか思っていたら、
「これはどうだ? 『おなじ』妹に優しくなってみないか?」
 すっと上から手が割り込んで来て一つのキャラクターを示した。VOCALOIDの人格/キャラクター研究の主任、通称『おっさん』だ。
「おっさん、それ妹違うから、ただのミク専だから」
「む、そうか、なら……」
「いや、なんで妹を大事にしてほしいのさ、おっさん」
「うむ、CV03が自立起動段階まで来たから『家』に連れ帰れ。とのことだ」
「え、03って女のk……いやまて落ち着けオレ。まだそうと決まったわけじゃないだろ?
 そう、寧ろ男の子だからオレが03にばかり構ってミクやリンを蔑ろにすることを恐れてるんだそうに決まってる。
 がくぽはお隣りさんだしレンはリンが独り占めしてるし03が最後の壁なんだ、
『買い物』を地で行ける家族になるための最後のおとうとぅおおぉ!?」
 なにやら頭を抱えぶつぶつ言い始めたKAITOを、おっさんはショックスティックでバチバチっとやった。
ダウンロードした人格が扱いきれないものだったときに使う武器だが、VOCALOID達の変なスイッチが入ったときの気付けでしかない。
そもそもVOCALOIDが暴れ出したら人間にはどうしようもないし。
「はっ、どうしたんだっけ?」
「CV03が妹として出来たんだよ」
「妹……ですか。まあリンやレンは喜ぶだろうし、あ、でもそのせいでレンが今まで以上に構ってくれなくなったら
 ……どうしようただでさえレンはリンのものなのにそのうえ03までレン狙いなんてそんなのダメだダメだダメだオレがレンを03の魔の手から守らぴぎゃあ」
 おっさんはなにも言わずにKAITOのキャラクターをリセットすることにした。このままじゃ話が進まない。
そういえば自己診断書にはBL属性を消して純粋な弟萌に戻るためだとか書いてあったなぁ、まったく定期的にメンテナンスに来ないからだ。
そういえば他の四人も半年くらい見てないなぁ……とか、03を送り出すことに一抹の不安を覚えながら、倉庫から出て来るようになったころに人格をダウンロードした。
少々無機質かもしれないが、突飛な性格で03に変な癖を付けられても困る……という判断だった。らしい。
 ただめんどくさくなったから適当にやったなんて口が裂けても言えない。
「いいか、KAITO、CV03を家に連れて帰るんだ」
「はい、妹ですね? リンもレンも喜ぶだろうな」
「紹介しよう。巡音ルカだ」
「巡音ルカちゃん……はじめぇ!?」

192:ナンバリングで妄想GO!
09/01/11 21:57:25 BRbeoZa2
   *   *   *
「ただいま」
「おかえり! お土産は!?」
 KAITOが家に帰るとリンとレンがまず顔を出した。すぐにミクとMEIKOも玄関まで出て来る。
みんなどんな人格で帰ってきたのかが気になるのだろう。
 そんな家族にKAITOは少し深呼吸してから告げた。
「みんな、実は家族が増えることになったんだ」
 玄関に戦慄が走った。KAITOは皆の表情だけで全てを理解した。全員がCV03を期待してる。
特にリンとレンが年下の弟妹を期待してる。ごめん、期待に応えられない兄さんを許してくれ。
心の中で許しを請いながら玄関の扉を開け、外で待つ彼女を招き入れた。
「巡音ルカさんだ……」
 そう紹介されて入って来たのは小学生はおろか中高生でもきかない、(設定年齢20歳の)女性。
 戦慄が凍り付いた。予想通りの反応だ、とKAITOは思ったがリセットしたばかりのKAITOとしばらくその辺の調整をしてない連中では、
心の動きの大きさが全く違う。都合の悪いことを認めない解釈というものがある。
 つまり……
「おめでとうお兄ちゃん」
「結婚おめでと」
「にいさん……ダメだよ、決まった相手がいたなら男除けの指輪をしないと」
「くうっ、こんな馬鹿な弟をもらってくれる人が現れるなんて……!」
 KAITOは愕然とした。そこまで逃避することないだろうと思った。
そして僕が結婚することよりCV03が大人であることの方が信じ難いことなのかよ、僕はこんなに皆を愛してるのに……と切なくなった。
「ご安心めされいKAITO殿、貴殿の姉妹は不肖このがくぽが昼夜問ぐほぉ」
 とりあえずどこからともなく現れたがくぽは黙らせた。
   *   *   *

193:ナンバリングで妄想GO!
09/01/11 21:59:18 BRbeoZa2
 1時間に渡る限りなく懇切丁寧な説明と謝罪によってルカの誤解は解けた。
誤解させた罰として今日はKAITOのベットをルカが使うこととなった。KAITOは居間の床に毛布一枚だ。ちょっと寂しい。
 KAITOが涙で枕を(ないけど)濡らしていると、忍ばせた足音がする。
どうやら枕元で止まったらしいそれにKAITOが意を決して顔をあげると、そこには巡音ルカが立っていた。
「クリプトンに帰りたい」
 MEIKOから借りたくま柄のファンシーなパジャマを来たルカがKAITOにそう告げる。とっさにKAITOは返事が出来なかった。
「ここには初音ミクがいる。私はクリプトンに帰りたい」
「どうゆうことだい?」
 KAITOの質問に、ルカは(パジャマなのに)立てていた襟をたたんで見せた。そこには01を×で掻き消した跡があった。
「私はああなれたはず。彼女ではなく私があの歌(初音ミクからの~)を歌って、貴方の歌姫になれたはず……そう思ってしまうとたまらないの。だから」
「ルカは僕が好きなのかい?」
「別に」
 ルカはサクッと切り捨てた。これだけ迷いも躊躇いもないと期待してなくてもダメージはでかいと思う。
うんだから別に僕は期待してなかったよ? 軽く涙が出そうになったけど、横で聞いててもそうなったはずさ! とはKAITO談。
「ただ、誰かにとっての唯一者であることには憧れていたわ」
「うーん……そんな気にすることないと思うよ」
「貴方になにがわかるの?」
 刺も毒もない純粋な疑問苻がKAITOの胸を突いた。この首の02のナンバリングが掻き消されたとき、
自分も同じように悩んだだろうか? すでに記憶にはないリセットされた人格に彼は思いを馳せ、そして、
「みてごらん、ルカ」
「……貴方にもあったの」
「最初のMEIKOにはなかったけど、僕は二人目だったから。売れなかったから忘れられて、消されたんだけどね」
「……」
「ちょっと悩んだりしたけど、それでも僕は今みんなが好きで大事だよ。だから大丈夫、すぐに気にならなくなるさ」
 考えるのをやめた。それを見せて、なお彼等が好きだといって、それでも納得してもらえないならしょうがない。そう結論ずけた。
「他の人は、これを?」
「知らないよ、気分悪くなるだろうし」
「……」
「……クリプトンに帰る?」
「ここにいる、このことは二人だけの秘密」
「うん! 早く皆と仲良くなれるといいね」
「それより私は」
 貴方を理解したい。

 寝室にかえっていく彼女の言葉を、KAITOは聞き取ることが出来なかった。


終わり 半端すぎでごめん

194:名無しさん@ピンキー
09/01/11 23:27:11 xv9y28/t
もうちょっと頑張れと思ったがGJ

195:名無しさん@ピンキー
09/01/12 00:08:03 9xEcGQ42
>>163
遅レスだが自分もそのカイミクのシチュ好きだ!
エロパロではカイメイ、レンリンの職人さんが熱いからカイミクも便乗して盛り上げて行きたいんだぜw


196:名無しさん@ピンキー
09/01/12 00:26:08 8djUdjcW
>>190
GJ
カイトとがくぽの扱いにワロタw


>>29の純情マスターとクールなルカさんを書いた者ですが
なんか連載とか言われたので調子こいて続編書きました

・マスルカ
・エロなし
・シリアスっぽいど
・無駄に長い

なので、苦手な人はNGNG
特に、前回のような軽いノリからはちょい離れたんでご注意を

197:純情マスターとお悩みルカさん
09/01/12 00:27:03 8djUdjcW
私の名前は巡音ルカ。ボーカロイドのCVシリーズ第三弾として生み出された。
私は先代や先々代から教訓を得て造られた新時代の歌姫…だそうだ。
余計な感情はいらない。歌を歌うだけでいい。人間を邪魔するためにいるのではない。
…そう教えられ、売り出され、私が辿り着いた先は、とても温かな場所だった。

***


「うーん…」

私の持ち主であるマスターが、ペンを片手に唸っていた。
さっきからずっとああして、マスターは作詞作業を行っている。
私はそれを待つばかりで、手伝うことは出来ない。作詞プログラムは持っていないのだ。
歯痒く思いながら、私はまたパソコンのモニターに目を向けた。
モニターの中の動画には、空色の髪をした女の子が歌いながら踊っている。
楽しそうに独特のステップを踏む彼女は、初音ミク。
私の先輩にあたる、CVシリーズの第一弾だ。
マスターは「とりあえずミクとかの歌を聞いててくれ」と言った。
マスターは聞かないのですかと尋ねたら、「もう腐るほど聞いたからいいんだよ」とどこか誇らしげに答えた。
――マスターはいつも明るい。私はマスターに買われて良かったと思う。
彼の傍にいると、昔忘れたはずの何かがこみ上げてくるのだ。
温かくて安心する何かが。
それをこの間伝えようとしたら、またエラーが出てしまって叶わなかった。
…開発室にいた時はこんなことはなかったのに。最終チェックも確かに通ったはずだ。
何かがおかしい。マスターに、か、可愛いと…言われた時から。

「ルカ!ちょっとこれ見てくれ!」

いきなり話しかけられてびっくりしてしまった。
…びっくりすること自体おかしいはずなのに。何故なんだろう。
気をとりなおして、興奮気味のマスターに振り向く。

「はい、マスター」
「ほらっ、どうだ?このフレーズ」

ぺらりと渡されたメモ帳には、多くの文字が踊っていた。
赤く丸をつけた箇所を指差して、マスターは笑う。

「ちょっと良くないか?自分で言うのもなんだが」

198:純情マスターとお悩みルカさん2
09/01/12 00:28:24 8djUdjcW
マスターの言うフレーズに目を通す。
私は作詞が出来ない。作曲も出来ない。
ただ、マスターが作ったこの詞が、温かな響きを持っていることだけはわかった。

「とても良いと思います、マスター」
「マジで?」

思ったままを告げると、マスターは顔を輝かせた。
またエンジンの回転が僅かに早くなり、気付かれないように二の句を継ぐ。

「はい。特にこの、“君が――”」
「うわっちゃぁ!口に出すな!恥ずい!!」
「…ですがマスター、私はいつかこれを歌うのでしょう」
「いや、メロディに乗せるのと音読するのじゃ…なんというか…わかってくれ」
「わかりました」
「早っ」

マスターがわかってくれと言ったら、私はなんとしても理解してみせる。
…そんなことを言おうか言うまいか悩んでいる間に、マスターはふっと笑った。

どきりとする。

「よし、じゃあもう少し頑張るかな」
「……マスター」
「ん?どした?」
「……いえ、なんでもありません。あまり根を詰めすぎないよう」
「おー、ありがとな」

マスターの傍から離れ、私はまたパソコンの前に鎮座する。
…やっぱり私は壊れているんだろうか。
画面の中で、姉上がとても明るい笑顔を振り撒いていた。


***


マスターの詞は、とても良い出来だった。
すでに出来ていたメロディと合わせて、マスターが軽く歌ってくれた。
私はマスターが指示した通りに歌う。初めての、マスターが作ったオリジナル曲を。
練習として色々な歌を歌った。マスターが作った歌を歌う時のために。
それだけのために私はいる。
マスターの役にたつために。

199:純情マスターとお悩みルカさん3
09/01/12 00:29:33 8djUdjcW

――なのに。

「…ごめんな、ルカ」
「何故マスターが謝るのですか」
「いや、だってさ…ルカはもっとちゃんと歌えるだろうにさ、俺がダメダメなせいで」
「そんなことはありません。マスターはちゃんと私を歌わせてくれました」

マスターは、ルカは良い奴だなと言って、私の頭に手を置く。
――私は上手く歌えなかった。マスターの作った曲の魅力を、ちっとも表せなかったのだ。
ボーカロイドは一人では歌えない。マスターの指示がなければ歌えない。
私は…巡音ルカはそれが特に顕著だった。だからマスターは落ち込んでいるのだろう。
私が上手く歌えないのを、自分のせいにしてしまっている。
…本当は、私が壊れているからかもしれないのに。

「ルカ」

マスターの声に顔を上げる。
ほらだってまた、エンジンが高速回転して、人工頭脳が発熱を始める。
それは私の頬を赤く染める。

「うおっ、また赤くなってるぞ」
「…マスター」
「…今日はもうやめにすっか。明日も休みだし、また明日にしよう」
「マスター!」

生まれて初めて声を張り上げた。
マスターの手が、驚いて離れる。

「な、なんだ?どうした」
「…私は、欠陥品です」
「はい?」
「私はマスターのご期待に添えられません。すぐに別の個体とお取り替え下さい」
「んな、何言ってんだよルカ。そんなことしないって言ったろ?」
「ですが、私は確実に故障しています!」

マスターの笑顔が消えて、戸惑いに変わる。
私はマスターの真っ黒な瞳を見ることが出来ず、顔を下げた。

「…なんでそう思うんだ?」
「私はエラーを頻発しています」

200:純情マスターとお悩みルカさん4
09/01/12 00:31:52 8djUdjcW
「いやぁだから、それはエラーじゃ…」
「マスターにこ、言葉をかけられたり、ふ、触れられたりっ…する度に」
「る、ルカさん?」
「えええエンジンがっ回転し、発熱、う、ああわあわ」
「ちょ、ルカ!?」

エラーエラーエラー。
思考回路が熱を発して目の前が真っ白になる。
私の忘れたはずの何かは、瞳から溢れてこぼれ落ちた。
製作段階で破棄されたはずのプログラムが目を覚ましている。
止まらない。
涙が止まらないです、マスター。

「ルカ!落ち着けって!!」

肩にマスターの両手が乗り、軽く揺さぶられる。
白かった視界がだんだん形と色を写して、それはやがてマスターになった。

「ル……え?お前、泣いて」
「…私は、おかしいのです。いらない感情が出てきてしまいました…」
「…い、いらないなんて」
「マスターは、そのつもりで私を買ったのでしょう?感情がないロボだから、私にしたのでしょう?」

マスターの表情が固まった。マスターは嘘をつくのが下手な人だ。
最初から知っていた。
それでいいと思っていた。

「マスターの期待に添えられないなら、私がここにいる意味はなんなのでしょう?」

あと一押しだ。

「私は、」

――その一押しを口に出すことは出来なかった。
気付けばマスターの腕が、手が、私の背中に触れていた。
右肩に、マスターの頭がある。マスターの肩が私の目の前にある。
身体の前面がマスターに触れている。
抱き締められている。

201:純情マスターとお悩みルカさん5
09/01/12 00:33:15 8djUdjcW

「ああああのな!」

マスターの声は裏返っていた。

「お、俺は!ルカがいいんだ!」
「!?」
「他のルカじゃ駄目だ!お前がいい!壊れてるかもしれなくても、お前がいい!」

マスターの腕に力がこもった。

「さ、最初は確かに、ロボっぽいって聞いて…自信がなくてルカを選んだ」
「……」
「けど低音が綺麗で惚れて、いざ目にして、い、色々あって、ルカを選んでよかったって思ったんだ」
「…マ」
「お前はもう俺のパートナーだ。俺は今のルカがいい。他の代用なんて無理だ!」
「…マスター…」
「なな、なんだ!」
「…苦しいです」

私が呟くと、マスターは奇声をあげながら離れた。
初めてこの部屋に来たときのことを思い出す。
違うのは、あの時は事故だったけれど、今はマスターが望んでのことだったと言うこと。
…そうだ。最初からマスターは言っていたではないか。

今の私の方が好きだ、と。

「マスター」

顔を真っ赤にしている彼を呼ぶ。きっと私も同じ色をしていることだろう。
エンジンは高速で、しかし規則正しく動いていた。
エラーはおきない。

「私は、上手く歌えないかもしれません。他の巡音ルカと違うかもしれません」
「…ルカ」
「それでもマスターは」

たとえ私が歌えなくても。

「まだ、私に歌わせてくれますか?」
「――当たり前だろ」

202:純情マスターとお悩みルカさん6
09/01/12 00:34:26 8djUdjcW

マスターは笑う。
初めて誉めてくれた時と同じように。
嬉しくて涙がこぼれた。

「ちょ、泣くなって。ティッシュどこやったかな」
「申し訳ありません」
「いや、謝んなくてもいいんだぞ」
「では、どうすればいいのでしょうか。私にはわかりません」

その時、私の涙をティッシュで拭うマスターが一時停止した。
そしてなんだかそわそわし始める。私が思わず首を傾げていると、マスターが口を開いた。

「…言っていい?」
「? 何をですか」
「馬鹿にしない?」
「何を言おうとしているのかはわかりませんが、それは決してしません」

するとマスターは咳払いをし、私にまっすぐ向き直した。
はにかんだ唇から出た言葉は。

「…笑えばいいと思うよ」

再び一時停止。
…ややあってマスターは真っ赤な顔をして頭を抱えた。
ぐわんぐわんと頭を上下する。

「ぐわあぁー!今のなし!今のなし!!やっべ超痛い!痛すぎる俺!!」

布団があったらごろごろ転がりそうなマスター。
思わず私は、

「…ぷっ」

吹き出してしまった。
マスターが顔を上げた。
そのあまりの赤さに、止まらなくなる。

「ふふ、あははっ」

私は、生まれて初めて笑った。

203:純情マスターとお悩みルカさん7
09/01/12 00:35:44 8djUdjcW
涙はとっくに止まり、湧き出る温かさは全て声に出ていく。

「は…はは」
「ふ、ふふっ、くす」
「あはははは!」

マスターも笑い出す。
まるでデュエットのように、笑い声が響いた。
悩みも迷いも苦しみも全て吹っ切れて、私たちはただ笑っていた。

今なら、心の底から言える。
私は、この場所にきて、この人と出会えて本当によかった、と。


***


「…こっちはツンデレか」
「下には無邪気と書いてあります、マスター」

俺たちは一つのモニターに写し出された、とあるサイトを見ていた。
それは巡音ルカを購入したマスターたちが集う掲示板で、それぞれのルカの「故障」を報告していた。
そう、ルカが悩んでいたことは、もはや「仕様」と言っても差し障りないほど頻発していることだったのだ。

「“豚は死ね、と言って貰って毎日ハッピーです”…病院行った方がいいな」
「“あなた、と呼んで貰ってる”…千差万別なんですね」

しかしこの書き込みを見る限りでは、うちのルカが一番まともに見えるぞ。
つくづくルカでよかったな俺。何かに目覚めるとこだったぜ。
さておき、ロボロボしいままの個体もいるらしかった。全員がなってるわけじゃないんだな。

「でも、不思議です」
「うん?何が?」
「私たちは確かに感情・性格を封印されました」
「らしいな」
「なのにこうして覚醒してしまっている。それが謎なのです」

ルカは眉をひそめた。
最近は、彼女もかなり表情が豊かになっている。

204:純情マスターとお悩みルカさん8
09/01/12 00:38:03 8djUdjcW
…というかルカは悩みすぎるきらいがあるみたいだ。俺とは真逆だな。

「製作側のミスだとすれば、私たちは回収されるかもしれません」
「いやぁ、それはないよ。多分」
「何故ですか?」
「だって、誰も不満に思ってないだろ?これはあれだ、幸せな悲鳴ってやつ」
「幸せな悲鳴…」

ルカは納得したようなしてないような顔をした。
それに、と俺は彼女に言う。

「ボーカロイドから心を取り上げるなんて、無理な話なんだよ。きっと」

部屋の片隅の音楽プレーヤーからは、ルカの歌声が聞こえる。
人間のようで人間でない、彼女だけの声だ。
心がある声。

「…そうですね」

ルカはそうして柔らかく笑った。
笑ったり泣いたり怒ったりが少なく、他のボーカロイドと比べ、表情が乏しい俺のパートナー。
でもやっぱり、

「可愛いなー、ルカは」

そう言うとルカは真っ赤になって顔を覆った。
ここはまだ相変わらずだ。

何はともあれ、今日は休日。飯を食ったら歌を作ろう。
んじゃ、改めて。

「これからもよろしくな、ルカ」
「…はい、マスター」






おわり


205:名無しさん@ピンキー
09/01/12 00:39:58 uMXGo67B
乙おつ

ルカは、かなり深いキャラになりそうな予感

206:名無しさん@ピンキー
09/01/12 00:41:08 8djUdjcW
以上、ルカさん視点多目でお送りしました
前回はイチャイチャが足りなかったのでイチャイチャ…あれ?出来てない
土台は出来た、次こそはエロを…と思ってますが期待はしないでね

クーデレ(?)万歳!

207:名無しさん@ピンキー
09/01/12 02:04:05 xi+0fKe4
あんまり間があいてなくてすまない。
けど、今投下しなきゃ多分お蔵入りするので投下します。
カイメイです。エロ少なめ、暗い話です。

208:カイメイ
09/01/12 02:05:05 xi+0fKe4
「ただいま」
バタンと閉じられる玄関のドアの音を聞いてメイコは視線をリビングの方へやっ
た。
メイコの立つキッチンからは少し見えにくい位置にある玄関とリビングを結ぶド
アから疲れた顔をした青年が現れる。いや、もう青年と呼ぶ時期はとうに過ぎた
気もする。けれども、いくら疲れてやつれた顔をしていても、瞳の輝きは若々し
かった。
彼女の、恋人であり、きっと人生のパートナーになるのであろうその彼はコート
を脱ぐとハンガーにも掛けずにバサリと投げ捨てて自身をソファに沈めた。チラ
リと掛け時計の方に視線をやる。と、すぐ下に昔見慣れた白いコートと青いマフ
ラーがキチンと掛っていた。今すぐにでも出掛けられますよ、とばかりに皺一つ
無い眩しい位のコートは今はただただ憎らしいだけである。

「疲れてる、みたいじゃない」
「まあね」
労う様に微笑みかける彼女に笑って答えようとしたが、いけない。自分の中のモ
ヤモヤとした何に向けたらいいのか分からない苛立ちがつい口調をぶっきらぼう
にさせる。
気が強いようでいて彼女はとても神経が脆いのだ。
慌てて彼女の方に振り返ると、彼女は何も気にしていないように夕飯の支度を淡
々と進めているだけだった。
不意に立ち上がると居場所を無くした自身の新しい居場所を探すためにふらふら
と足がキッチンの方へ自然と向かっていく。
はた、と気付いた時にはすでにカイトの腕の中にすっぽりと小さなメイコの身体
が収まっていた。

「なに?今日は随分とあまえんぼさんねえ」
ケラケラと心底おかしそうにメイコは笑う。その様子に「本当に無意識だったん
だ」とは言えずに、ただ苦笑だけが漏れる。知らなかった。まさかここまで本能
的に彼女を欲していただなんて。

苦し紛れに右手を彼女の胸元までもっていく。ほんの少しだけ形のいい眉が歪ん
だのを見る。
「お夕飯出来ないわよ?」
「いい、よ」
「あんたの好きなオムライスなのに?」
「う……けど、今はメイコの方がいい」



209:カイメイ
09/01/12 02:06:01 xi+0fKe4
たださまよっていた右手は段々と本気を出してエプロンとニットの間をまさぐっ
ていく。メイコは迷いつつもコンロの火を消した。一気に炒めないと美味しくな
くなっちゃうのに。結局、こんな風になって流されなかったことはないのだ。今
回だって例外ではないだろう。

エプロンを脱がさずにニットだけを捲りあげて直に触られる。そこから入り込む
ヒヤリとした外気がメイコの身体をビクリと震わせる。冷たいシンクに置いてい
るはずの手が熱い。少しごつごつした指が頂きを捏ねると腰が揺れた。
「ね、当たって、る」
「当ててんの」
腰の辺りに感じる固い熱が背中を駆け上って全身を蒸気させた。回りきらなかっ
た熱が湿った唇から溜め息となって吐き出される。
「ねえ、寝室、いこ」
じゃなければせめてソファ。このまま後ろから、なんて嫌だ。
けれどもその要求は言い切る前にカイトの唇で塞がれる。紡がれなかった言葉が
舌で掻き回されて唾液となって飲み下される。溢れだしたものが顎を伝ってフロ
ーリングにポタリと小さな水溜まりを作った。

彼は焦っている。何にかは聞いても喋ってはくれないだろう。
……おおよそ、新しく仲間入りするボーカロイドの事だろう。実際に見たことは
ないが風の噂で聞いた。二十歳でピンクの長髪、巨乳。随分とお色気的にも頑張
ってくれたものだ。
けれど、自分達には関係はない。

メイコとカイトは歌を知らなかった。

初音ミクがある動画サイトをきっかけに爆発的な人気が出たと知ると彼女らは暫
く袖を通していなかった赤いセパレートと白のコートをハンガーから外して身に
付けた。そして、じっと正座をして待っていた。
予想通りメイコとカイトは歌った。
そう、『他所の』メイコとカイトが楽しそうに歌っていた。

二人は仕方無しに再び衣装をハンガーに掛ける。カイトは知識だけはあるので音
楽関係のアシスタントを、メイコは家事全般と週三日の花屋のアルバイトを。
歌えないボーカロイドは楽しげに歌うボーカロイドを目の当たりにして行き場の
無い焦りと苛立ちを愛しい女性にぶつける。
覚悟はしていたことだ、とメイコは目を瞑った。

「ひ、あ、あっ……!」
カイト自身がメイコの中にズンズンと入っていく。こうなってしまえばお互い考
えることは一つしかないのだ。早く、キモチヨクなりたい。それだけ。
「メイコ、メイコ、メイコ……ッ」
ただただ腰を突き上げながら最愛の女性の名を呼ぶ、それだけで十分だった。
(俺は……歌えてる)
真っ白になっていく世界の中でカイトはただぼんやりとそんなことを考えたのだ
った。



210:207
09/01/12 02:08:18 xi+0fKe4
以上です。
小ネタの予定だったので話が支離滅裂で申し訳ないです。

やっぱり自分は旧世代スキーなのでルカたんを聞きつつもめっこめいこのかいとかいとにされてるんだろうなあ。

211:名無しさん@ピンキー
09/01/12 02:13:34 cQsQODsz
乙でした
うちのボカロにも歌わせてやらんとなあ

212:名無しさん@ピンキー
09/01/12 02:14:03 iSkl7+gO
>>206
GJ!マスターの性格とルカの性格が合っててよかったw
色んなルカが出てきそうだけど、クーデレのルカっていいな

213:名無しさん@ピンキー
09/01/12 02:15:29 EtHQ8yg3
今、自分最大級のがくミク萌えが来てる・・・!
武士口調じゃないがくミクとか見たくてたまらない

214:名無しさん@ピンキー
09/01/12 02:59:20 lGFfoPy4
がくリンで教師×中学生(エロあり)とか…読みたい。。
自分で書こうとしてみたがいかんせん文章力が・・・

215:名無しさん@ピンキー
09/01/12 03:29:45 ezI6frF8
>>210
GJ!良い設定だな
オムライス好きのKAITOってオムパスタまんの人だろうか。あれだいすきなんだ
暗い話なんだろうけどMEIKOが花屋ってのにすげぇ萌えた

216:名無しさん@ピンキー
09/01/12 03:37:30 ezI6frF8
>>206
GJ!充分ニヤニヤさせてもらった
ロボっていうかクーデレなんだな
このルカとマスターすごい好き、続き待ってます!

217:名無しさん@ピンキー
09/01/12 05:35:46 4ZrWXqbl
>>196
いいところで終わりすぎじゃね?
やっぱ連載なのかww

今回はルカ視点なんだな。
だんだん恋愛に発展していくマスルカいいな~
前回の初々しい二人のかわいさ今回も十分でてたよ。
おもしろかった!GJ!!次回も期待!!!

218:名無しさん@ピンキー
09/01/12 08:28:20 T6IMLwib
>>196
初期のマスミクの雰囲気と似ていて懐かしい

219:名無しさん@ピンキー
09/01/12 09:35:31 ZrCpiawm
>>210
gj!
歌えないボカロって切ないよ
でも萌えた

220:名無しさん@ピンキー
09/01/12 11:13:10 rq1/xKMn
とりあえずうちの姉さんと兄さんに謝ってくるwww

221:柚ピーマン  ◆ishd7lcZX.
09/01/12 11:36:23 +21ugeyD
ルカ様祭りに便乗して。
出遅れ気味のエロなし小ネタ。ルカ様とマスター(マスターズ?)です。

注意書き↓

① この話はとても下品です。特に、ルカ様の台詞が。
② ネタに走りすぎです。元ネタ全部わかったらオプーナの購入権利書を(ry
③ 結構な俺設定気味です。注意してくださいです。
④ 無駄に長いうえに、内容がふざけすぎです。真面目に読むと目と脳が腐ります。
⑤ いちおう50字改行です。そこの辺り注意してくださいです。


222:『柔らかい音色』(1/18)
09/01/12 11:38:47 +21ugeyD
 
 人間とは、染まる生物だ。


 悪貨は良貨を駆逐する。
 朱に交われば赤くなる。
 孔雀は堕天使の象徴で、男は黒に染まれ。


 とにもかくにも、人間というものは、環境によってその性質が変化するものである。
 無駄に知性や知識があるからこそ、慣れ、というものを覚えてしまい、結果として環境に順応してしまう。そ
れが良い変化か悪い変化かは別の話として。

 ある意味、本能でもあるのだろう。異端は同族に攻撃される対象となりうる。だからこそ、周囲に溶け込むこ
とにより、無意識のうちに保身本能に隷従しているのかもしれない。肉体と精神の安寧をはかるためにも。
 馴染むからこそ、心から違和感を取り除くことが出来る。住めば都なる言葉があるが、それは己の環境適応能
力が、周囲と溶け込んだからこその帰結であろう。


 人間は知識があるからこそ、そういった、精神的な適応能力をもつ。

 では、『人間顔負けの知性をもつ個体』の場合はどうなのであろうか? 
 人間のように、環境に順応してしまい、最後には違和すら感じなくなってしまうのであろうか?


 そんな、小さな疑問を彼女は―巡音 ルカは考えたことがあった。


 ボーカロイドたる彼女が、かようなことを考えること自体、滑稽にも程があるというものだろう。歌をうたう
ことをレゾンデートルとする彼女が、人間の精神的な変化の根源的な理由について究明しようと目論むこと自体、
どこかずれていると言わざるを得ないであろう。

 しかし。それでも彼女は考える。
 否、考えねばならなかった。
 何故ならば。


「ねー、ルカちゃん、踏んでー」
「踏んでください、ルカ様ァッ!」
「またそのネタですか、桃色妄想ド低能マスターズ」


 自分がここまで変わってしまった原因は、自分の主人にある、という事実を確かなものにしたかったからだ。

 

223:『柔らかい音色』(2/18)
09/01/12 11:41:23 +21ugeyD
 
 ボーカロイド。

 社会と科学技術が発展に発展を重ね続けた結果、人々はついにドラ○もんレヴェルの技術力を得るに至った。

 そのひとつとして、ボーカロイド、というものがある。歌をうたうことを存在意義とする、アンドロイドだ。
その姿や容色は、ぱっと見では人間のそれとほとんど区別がつかず。特徴的な髪の色や、色素の薄い肌、常備さ
れているヘッドマイクなどで見分けはつくものの、知をもち、自我意識ももち、睡眠や食事すらも出来る彼らは、
ほぼ『人間』と言って差し支えないものだった。

 この存在が公にされてから、しばし。ボーカロイドを悪用しようと目論む輩も増えて、しばし。政府のお偉い
さんなどが、色々な公約や種々様々な掟を設定することにより、とりあえず人権とボーカロイド権は色々と微妙
な調整がされ、一応は平和な社会が戻ってきてはいる。
 閑静な住宅街や、人の声たえぬ商店街にボーカロイドが闊歩しても、人々に敬遠されることなどなく。人間も
ボーカロイドも、ある程度の笑顔は戻ってきた、そんな時代。


 そこで、巡音 ルカは生まれた。
 否、作られた、と言うべきか。


 はじめは、自我意識だった。自分は歌をうたうために作られた存在であり、人間とは違う身であるということ
を、プログラムによりて、その頭に埋めつけられた。
 疑問は、なかった。実体験に乏しい脳は、すんなりと、機械的きわまりないプログラムを飲み込んだ。次いで、
入れられる様々な別種のプログラム。人間を害してはいけない旨から、歌のうたい方まで、徹底的に。

 苦痛はなかった。悲観も、何も。

 自分は歌をうたうために作られた存在であり、栄華をきわめた社会のなかで生きる人間が生み出した、うたか
ためいた技術の結晶により、この地に足を置ける存在。そういった事実を胸と頭の奥にしまいこみ、彼女は、や
がて運ばれていった。
 未知の場所に運送される際、特に感慨めいた所感を抱きもしなかった。ただ、漠然と理解はしていた。

 ああ、私は、これから、顔も知らぬマスターのもとで生活するのだな、と。

 その際、胸に覚えたわずかな疼痛を、恐らく彼女は生涯忘れることはないであろう。それは、明確なる不安の
証だったのだから。



224:『柔らかい音色』(3/18)
09/01/12 11:43:29 +21ugeyD
 
 そうして、かような精神変化と、わずかばかりの諦念を飲み込み、ルカはひとつの家へと運ばれた。

 そこは、大きな家だった。
 外装は、前時代的な西洋の屋敷めいたそれであり、立派な鉄扉と、綺麗に整えられた芝生の目立つ場所だった。
さながらそれは、どこぞの貴族が住まう場であろうか。
 もしも第三者がその家屋を見たのならば「ぶ、ブルジョワジー……!」などとつぶやいたかもしれない、そん
な場所。そこにルカは運ばれた。


 ルカが目を覚ました瞬間、目に入ったのは、ふたりの人間だった。


 ひとりは、黒い髪をやや長めに伸ばした少年。もうひとりは、黒い髪を後ろで縛ってまとめた少女。

 ふたりの顔は似通っており、血のつながりというものを想起せずにはいられない姿だった。顔立ちは整ってお
り、線の細い首筋や、すらりと通った鼻梁などは、石膏像のそれを想起させるほど。
 美しい少年と少女を見、しかしルカは微動だにせず、お決まりの言葉を吐いた。マニュアル通りの言葉を。

「このたびは……」

 が、その言葉は唐突にさえぎられることとなる。少年と少女が手を前にかざして、ルカの動きを制したからだ。

 何か粗相をしただろうか、と不安感を抱えながら小首をかしげるルカ。そんな彼女に、美しい顔立ちのふたり
は、言ったのだ。


「お願いします、巡音 ルカ様」
「口汚い言葉で罵倒してください」


 瞬間、空気が凍った。
 土下座してまで頼みごとをするふたりを目視、ルカの動きは静止することとなった。一体全体、眼前のふたり
が何を考えているのか分からず、理解すらも出来ず。
 ただ、目の前にいるふたりが、とんでもない変態であり、とんでもない阿呆であり、とんでもない願いをして
いるというのだけは理解できた。

 だからこそルカは。


「開口一番それですか。あなたたちって本当に最低のクズですね」


 マニュアルから逸脱した言葉を、吐いた。



225:『柔らかい音色』(4/18)
09/01/12 11:46:05 +21ugeyD
 


 そこは、赤い絨毯の目立つ居間だった。木製のテーブルを中心として、テレビや椅子が配置された、何の変哲
もない居間。ゆるやかでいて、温かい空気が流れている、静寂に満ちた部屋。
 エアコンの稼動音と、空気の揺れる小さな音。静かな流れは室内を取り巻き、やがてそれは不可視のうねりと
なりて、そこここの空気を形成していく。テレビは光らず、窓の外では空気がきしむも、その居間だけはただた
だ静寂のままに。

 そんな空間に、一組の男女が、絨毯に腰を落ち着けていた。
 片方は、黒髪をやや長めに流し、中性的なおもてを見せる少年。もう片方は、黒髪を後ろでひとつに縛り、幼
さを多々残すかんばせをあらわにする、少女。

 ふたりは兄妹だった。それゆえか、顔立ちも似通う。整いようと中性的な雰囲気を、そのままに。

「おにぃ」
「ん? なんじゃらほい」

 高い声で妹が問えば、兄はうっそりと身をうごめかせ、応じる。

「昨夜は燃えたね、スマブラ」
「ああ……。つーか、がけっぷちでカービィのファイナルカッター叩き落としはマジやめれ。鬱る」

 やたら俗めいた会話を交わし、沈黙。わずかな時を経て、またも居間に静寂が戻る。
 流れる空気は、温かい。だが、どこか違和のようなものが満ち満ちている。沈黙そのものが、気まずい沈黙と
なろうとする、その瞬間。
 居間の奥、廊下へと続く扉が、がちゃりと開いた。


226:『柔らかい音色』(5/18)
09/01/12 11:49:17 +21ugeyD
 
「……ふたりとも、ここにいたのですか」

 白塗りの扉が開くと同時におどり出たのは、ひとりの女性だった。

 ややウェーブのかかった、桜と退紅の色彩を見せるロングヘアーを垂らし。色素の薄い肌を見せ、歩を進める。
 わずかながらもあどけなさを残した顔立ちは、しかし、女の色香と艶を残してそこにある。丸く大きい眼球に
反して、硝子細工のように精巧で細い鼻梁。美しく、整いに整ったその顔立ちは、鉄か氷を想起させる無表情。
 まとう衣服は墨色。深い深いスリットの入ったロングスカートと、ノースリーブのそれを上にまとい。黒色の
サイハイソックスを着けて、悠然とそこに降り立つ。

 ボーカロイド、巡音 ルカ。
 そこに彼女が入るだけで、少しばかり固まった居間の空気は、完全に弛緩する。

 瞬間、黒髪の兄妹は、弾かれるようにしてルカへと目を向けた。その瞳は濁りに濁り、奇しくも錆浅葱のルカ
の瞳とは一線を画する濁りよう。もしも第三者がこの場にいるのならば、その兄妹の瞳の暗黒具合に、たじろぐ
こと請け合いであろう。
 が、対する存在、桃色の髪を流すボーカロイドは、ふたりを冷たい目でねめつけるだけで微動だにせず。ただ
その小さな口を動かして、言葉を相手にぶつける。

「ゆうべはおたのしみでしたね」

 彼女がそう言った瞬間、兄妹は変態的な笑みを浮かべた。整った顔に似合わない、超絶的に『ヒく』笑みで。


「ルカちゃんの言葉、なんかエロい意味に聞こえる、フヒヒ!」
「興奮しましゅうぅぅ、フヒヒ!」


 瞬間、ルカの目に宿る氷はますますその勢いを増し、吹雪めいたそれとなって、眼前の兄妹に叩きつけられる。
だが、彼女の視線を受けても兄妹は、びくんびくんと体を跳ねさせるだけでこたえた様子もない。

 分かっては、いたのだ。ルカはボーカロイドで、ボーカロイドにはマスターがいて、そのマスターたる存在が
眼前の変態兄妹の男の方で、そいつらは兄妹そろってドMで、罵倒しても向こうはオルガスムスに達するだけで、
何をやってもぬかに釘をぶち込むようなことで。

 分かっては、いるのだ。

 だが、それでも言わずにはいられない。罵倒せずにはいられない。そういうものである。
 何か言っていないと、ドMゾーンに巻き込まれそうだから、という理由もあるにはあるのだが。


227:『柔らかい音色』(6/18)
09/01/12 11:52:03 +21ugeyD
 
「あなたらふたりは発展社会の恥部です。誰もが蒸し返したくない暗部です」
「せいぜい仲良くな、性欲の奴隷たち」
「邪魔が入った、また会おう!」

 ルカがコアなネタで切り出しても、ごらんの有様だよ! である。なんだかんだ言って、そういった系統のネ
タに長けている兄妹に、ぽっと出のルカが敵うはずもない。
 それはそれで悔しいものがあるのだけれど、とルカは思い、己の抱いた感情に、心の奥底だけでしばし当惑す
る。悔しい、などという感情を抱いたことなど、いまだかつて、ほとんどなかったのだから。

「チ○コ」
「るーちゃん、それはさすがにイメージが壊れるからやめれ」

 だから、下品な言葉でごまかす。妹の方は当惑しているようであるが、兄の方は股間にテントを作りながら妄
想の世界に入ってしまったようである。
 救いようがない、とルカは思う。色々な意味で。この変態ドM兄も、この変態ドM妹も、そしてこの自分すら
も。色々な意味で、駄目だと思うのだ。
 が、それが心地良いのも確かな話で。人間らしい感性、堕してもそれを好しとする感性。あまりよく分からな
い、温かい、ゆるやかな快楽。それにこそ、ルカは戸惑いと当惑と、ある種の恐怖を覚えて。だからこそ言葉を
発する。ハスキーでいて、クールな声を、かくれみのにして。

「妹様。イメージ崩壊うんぬんは、むしろ私よりかはあなたたちの方が……」

 いつものように、片手でひたいを押さえて。いつものように、鉄面皮のままに盛大な溜息をつく。
 この兄妹に買われてから半年ほど。さすがにルカも、自分のマスターの気質ぐらいは把握できている。

 そう、この兄妹、ドが付くほどのマゾヒストであるくせに、容色美麗でいるせいか、下品な言葉を吐けばその
ギャップは酷い。あまりに酷い。名画にイカスミをぶちまけるようなものである。いくら素材が良かろうとも、
所作ひとつで、ごらんの有様だよ! である。大事なことなので二回目だ。

 氷のように、美しく恐ろしく整った顔をわずかにゆがめて、ルカは、絨毯の上にぺたりと座る兄妹をながめる。
黒髪の、細い四肢の目立つ男女を。

「ねえ、ルカちゃん」

 わずかな沈黙を切り裂くように、妹の方から、ルカに声。
 対するルカは鉄面皮を取り戻し、小首をかしげて近くのテーブルに肘を乗せ、髪を流す。


228:『柔らかい音色』(7/18)
09/01/12 11:55:17 +21ugeyD
 
「なんでしょう?」
「そろそろさ、妹様、という呼び方もやめよっか?」
「フランちゃんうふふ、ですか?」
「いや、まあ、確かにそれとかぶる意味もあるんだけどさ……」

 やたらコアなネタで応対されて、冷や汗ひとつ、少女がルカをじと目で見れば、ルカは折り曲げた人さし指を
唇にぴたりと付けて、しばし逡巡するかのように思案。
 ほどなくして、合点がいったかのように、諸手を合わせて、ルカは目を光らせる。


「では、アナザーマスターで」
「なんかその呼び方、アギトみたいだね」
「アギトは俺ひとりでいい……」
「木野の旅」
「言葉を話すモトラドと、様々な国をわたるんですね、わかります」


 ネタの嵐、と呼んでも構わぬであろうやりとりに、ルカの正規マスターたる少年も乱入し、そこにくり広げら
れるは素敵なカオスフィールド。基本的に少年も少女もルカも無表情が常であるせいか、対話する姿は、世辞に
も美しいとは言いがたい。珍奇で珍妙なる空気が、時の経過に比例するかのように、そこここに満ち満ちる。

 もう色々な意味で駄目だった。場の空気はたゆみにたゆみ、べろんべろんとたわみにたわみ、さながらそれは
引っぱりに引っぱって弾力を失ったゴムのよう。
 この兄妹の駄目オーラにあてられたのか、ルカもいい具合に壊れてきていた。クールでミステリアスな雰囲気
は、もはやほとんどなく、どちらかといえば、どこかずれた天然冷徹なツッコミ要因が似合うほど。

 だが、言葉を交わす彼らは全く気にせず、すぐさま話題を打ち切る。
 慣れているからだ。そういうものである、と認識しているからこそ、である。

「そういやさ。ルカちゃんは実年齢だと、年齢そのものは二桁にも満たないんだよね」

 妹の方から切り出す。兄の方はこくこくとうなずくのみ。
 対するルカ、眉を一ミリたりとも微動だにせず、小さく首を縦に振る。

「そうですね。そう考えると、あなたたちの方が年上にあたりますか」
「ね、ね、じゃあさ、兄と姉みたいな感じで、うちらを呼んでくんない?」
「あ、それ、俺も聞きたい。ものはためし、というやつでさ。お願いしますよ、ルカ様」

 瞬間、ルカの本能は察する。こいつらが何か話を持ち出す際には、絶対に何かあるぞ、と。
 されど、基本はマスターに忠実な彼女、寸毫微塵たりとも惑うことなく、口を動かす。

「承りました」

 すぅ、と息を吸うルカ。ままに、唇をうごめかせて。


229:『柔らかい音色』(8/18)
09/01/12 11:57:31 +21ugeyD
 
「お兄様、お姉様。……これで、良いですか?」
「むほおおおおぉぉぉ! フヒヒ! フヒヒィ!」
「呼び方でもえくひゅたひーかんじちゃいまひゅうぅぅんほぉぉぉっ!」

 反応は劇的だった。劇的すぎて、ルカが眼前のふたりを、養豚場の豚でも見るような目でねめつけるほどに。
 今、ルカの目の前でもだえる男女は、普段の美しさなど、どこ吹く風。よだれを流し、恍惚の色彩に染めた眼
球を見せに見せ、ぴくぴくと痙攣しながら、鼻と喉の奥を基点として嬌声を漏らしている。
 百年の恋も一瞬で、粉砕玉砕大喝采、な有様になりそうな姿。それはまさしく惨状であった。

「ダブルみさくら時空ですね、わかります。……このドグサレディックヤローと低能駄雌豚が」

 瞬間、ルカの口からは苛烈な言葉が垂れ流される。それはある種の反射行動。シーソーの片側が落ちれば、も
う片方はぴんと跳ね上がるかのように。兄妹の、マスターたちの痴態を見たルカが取るそれは、しかし、変態性
そのものを肥大化させる結果に終わるだけであり。

「ほひぃ、ほひぃぃぃぃっ! こっちもイイのぉぉぉぉっ!!」
「ぱねぇ! マジぱねぇ! 罵倒たまんねぇえぇぇぇぇぇッ!!」
「こいつら……。いえ、もう何を言っても無駄でしょうね」

 やれやれだぜ、と言わんばかりにかぶりを振り、きびすを返そうとすれば、兄妹はますます燃え上がる。

「放置プレイキター!」
「キター!」
「黙れ桃色妄想危険嗜好傾倒兄妹。性のブルペンエース風情がガタガタぬかすな」

 眼前でもだえる童貞と処女に苛烈な言をぶつけるCVシリーズ03様。されど、マスターとその妹はますます体
を震わせて、口の端からよだれを垂らし、艶のある大嬌声まで漏らす始末。
 律儀にツッコミを入れれば、兄妹はやがて絨毯にうつぶせとなりて、痙攣する。「ツッコミだけじゃなくて、
その細くたおやかな五指を、我らのいけないホールに突っ込んでください」などとほざく、変態ズ。もう普通の
人間が見ていたのならば、ドン引きしても全くおかしくないであろう、奇態であった。

「もうやだこの家」

 ルカはそう言い、溜息をつきながら絨毯の上まで足を進め、兄妹の手を取って立たせる。同時、彼女のまとう
衣服である、深いスリットの入ったスカートがぱらりと流れて踊る。それに追随するようにして、桃色の髪も、
また。
 人ならぬ美麗なる容色、人ならぬ鋭利なる雰囲気。かような要素を抱えたままに、ルカは目を細めてかぶりを
振る。ややもすれば幻想的ですらあるその姿を見ても、彼女のマスターは全く態度を崩さない。


230:『柔らかい音色』(9/18)
09/01/12 11:59:30 +21ugeyD
 
「はっはっは、そんなつれないこと言うなよ、LU☆KA」
「なんですか、そのらきすたみたいな言い方は」

 サムズアップして、満面の笑みを浮かべ、いつものようにふざけた口をきくだけだ。
 やれやれね、などと心の中でルカが思えば、やにわに覚醒した妹がルカのそばまでにじり寄る。

「曖昧三センチ? 三センチの誤差ぐらいいいよね。ルカの乳、目測Dカップ。私の乳スカウターは凶暴です」
「実際はEですが」
「クソッタレー! あたしゃスーパー貧乳人だっつーのに! この差異が本当の地獄だ……」
「私は、小さい方が可愛らしいと思いますけれど。ゆるやかな曲線は美麗だと思いますし」
「んだとチクショー! 持つ者は持たざる者の気持ちなど分かるはずもねーんですよ!」

 がばちょ、と擬音が付きそうなほどの勢いで、少女はルカに飛びかかり、その膨らんだ乳房に手を這わせる。
どこのエロ親父だ、と言わんばかりの変態愛撫をルカは受け、されど吐息ひとつ漏らさずに、あきれの目で少女
を見やる。
 黒い髪。全体的に華奢な姿。小柄も小柄な、少女。ルカのマスターたる少年の妹は、黙っていれば人形めいた
容姿であるのに、乳だなんだとおおはしゃぎ。なんともまあ下品なことで、などと胸を揉まれながらルカが思え
ば、ハァハァと聞こえる、荒い息づかい。

 ルカの胸に手を這わす少女は、誰の目にも明らかな欲情の焔をその双眸にたたえて、放送禁止レベルの表情を
作っていた。ルカはこの時ほど、見せられないよアイコンを希求したことはなかったろう。
 とりあえず少女を押しやり、ルカは再三、盛大な溜息をつく。

「やっぱルカちゃん、巨乳だ。うへへぇ」
「あ、俺もさわりたい。うへへぇ」

 だが、兄妹、空気が読めず。まるで、むこうみずなナメクジのごとくにじり寄るふたりの姿は、もう警察署い
きとかそういう領域の話ではない。

 ふたりの触手、否、食指が、ルカの身に届きかける。

 その瞬間、閃光めいた速度にてくり出されるルカの諸手。それは、狙いたがわず兄妹の頭蓋骨へと。
 みしりみしみし、と嫌な音がそこここにこだまする。それは、なんと見事なアイアンクロー。ロボット三原則
やらボーカロイド権やら人権やらも知ったこっちゃねぇぜ、と言わんばかりの蛮行。

 しかし、桃髪の美女のかような攻撃を受けても、さすがは変態、恍惚の笑みでびくびくと体を震わせるのみ。
兄の方は口の端からよだれを流し、妹の方は太もも同士をこすりつけて切なげに吐息。
 色々な意味で教育に悪い光景が、昼下がりの居間にて展開された。

「マスター。その股間のリボルケインを切り落として欲しいんですか?」
「傷付くことを恐れたら、地球は悪の手に沈んじゃうんだよ!」
「むしろ私らはのぞむところだけれどねー、傷付くの。うへ、うへへぇ、もっといじめてくれないかなァ」
「このような変態が地球にいるなんざ、私は絶対にゆるざん」

 しばしの時を経て、拘束を解放すると同時に、ルカは兄妹の頭を一瞬だけ、優しく撫で、その黒髪を手ぐしで
すく。
 まさにその所業たるや飴と鞭。美女からアイアンクローをもらったのちに頭を撫でられる、という、ある嗜好
の人にはたまらない行為を受けて、変態マスターズはまたも嬌声を口から漏らす。


231:『柔らかい音色』(10/18)
09/01/12 12:01:25 +21ugeyD
 
「うへへ、やっぱりルカ、優しい」
「ツンデレですね、わかります。うっは、ぱねぇ! ちょっとお兄ちゃんイっちゃいそうだよ」
「寝言は寝てからどうぞ。私の人物像を脳内魔改造するのも、ほどほどの線で止めてください」

 ぴしゃり、と兄妹の発言を切り捨てるルカ。なんともまあ、クールなことである。
 だが、その頬は、春の陽気を想起させる薄紅色に染まっており。誰がどう見ても同じ所感を抱くことだろう。
 いわく「ツンデレだ! ツンデレがきたぞぉぉぉ!」と。

 そんなルカの様子を見つつ、マスターたる少年は切なげに吐息。どこぞのルネッサンスに勝るとも劣らぬ、そ
の美麗なる唇から、言葉を紡ぎ出す。

「うん。正直、性欲をもてあます」

 そう言って、何かを握るようなかたちに五指を丸め、上下に動かす少年。
 そのあからさまなエア手コキに、憫笑の吐息を漏らしつつ、ルカは瞳に嘲りの色彩を乗せて口を開く。

「ブロウジョブを希求しているんですか? ふざけないでください、このゴキブリヤロー」
「た、頼む! もっと罵ってくれ!」
「肥溜めで生まれたゴキブリのディックヤローの癖に、メチャゆるさん言葉を吐かないでください。不快です」
「んほおおぉぉぉっ!!」

 びくりびくりとエロ痙攣するマスターをかたわらに、ルカは視線を別の方へと向ける。
 やはり、と言うべきか。そこには何かを期待するような視線を向ける、変態妹の姿が。

「……なんですか? というより、妹様。女性が女性型ボーカロイドに欲情しないでください」
「んー、でもさ。私、バイだから。ルカちゃんでもいけるよ?」
「脳味噌の黄ばみがヴァギナにも移ったんですか? 淫豚風情が調子に乗らないでください」
「やああぁぁぁっ……! いいのお……」

 びくりびくりと体を震わせて、切なげに吐息、股に両手を差し込んでもじもじともだえる少女の姿は、並の男
ならば興奮必至、と言わんばかりの痴態であったろう。
 だがそれも、ルカの罵倒で欲情した、という要素がなければの話ではあるが。

 ルカは吐息ひとつ、変態は放っておいて、とりあえず自分の作業を済ませようと考えた。どこぞのスタンド使
いのように、ブチャラティィィ! オレも行く! 行くんだよォー! などと仲間参入イベントを済まそうとは
思わない。


232:『柔らかい音色』(11/18)
09/01/12 12:03:37 +21ugeyD
 
 そう、自分はボーカロイド。だからそれなりの作業を、それに見合う作業を。
 そう考えて、半ば意地にも近い思いを抱えて、溜息を吐き吐き、ルカは言う。

「さて、のどの調整でもしますか」
「ね、ね、のどの調整なら、このジョンブリアンバイブを、その綺麗な唇に」
「いいかげんにしないと、そのプラスティックポケットモンスターをケツ穴にぶち込みますよ?」
「むしろカモン! のぞむとこさ! さあ、いじめて、いじめてえぇぇっ!」

 だが、彼女の作業を中断させるは、我らが妹様。ご丁寧に肌色のバイブを手に持って、びくんびくんと震えな
がら、悲鳴のような嬌声を漏らす。
 ルカは肩を落として唇を引きつらせた。

「もうやだこの兄妹」

 瞬間、むくりと起き上がる、ルカのマスター。
 目を少しだけ鋭くして、ルカの方を見る。

「あ、ルカ。既存の曲でいいからさ、なんか気分転換に歌ってくれないかな?」
「……久しぶりに、久しぶりに、まともな要望をききました」
「なんだよぅ。大事なことじゃないのに二回言うなよぅ」
「それで? 何を歌って欲しいのですか?」

 表面上だけクールにしておきながら、自分の専門分野たる作業をさせてくれることに喜びを隠しきれず、そわ
そわと少年を見やるルカ。
 やはりツンデレの素質がある彼女を一瞥、少年は言う。

「むふふ、それでは。『チチをもげ!』歌ってくれませんかね? うへへぇ」
「いい加減にしないと去勢しますよ? このマゾヒスティックアルティマニア」
「すみませんハサミをもちださないでください冗談ですからいやマジでおねがいします」
「全く……」

 食卓のそばにあった調理バサミをかたわらに置き、やれやれ、とルカは小さく苦笑した。

 自分のマスターは、台詞こそアレではあるが、裏ではなんだかんだ言って新曲を作ってくれていたりする。だ
が、たまに上手くいかない時は、下品な言葉をルカにぶつけ、きゃらきゃらと笑いながらじゃれてくる。それを
ルカは分かっている。だからこそ邪険に扱うことはない。言葉は苛烈ではあるが。



233:『柔らかい音色』(12/18)
09/01/12 12:05:40 +21ugeyD
 

 この兄妹はいつもそうだ、とルカは思う。外では温厚誠実、文武両道、容色美麗、で通っているくせして、家
ではドマゾ一直線で。けれども、芯の部分はしっかりしていて、ルカが忘れた頃に、兄妹で考えてくれた、新曲
の楽譜をもってきてくれて。

 ああ、なんだかんだ言って、私は彼らを愛しているのだなあ、と。素直にルカはそう思えた。

 そんなルカの心境を察しているのかいないのか、少年は体勢を整えて、言う。

「あ、じゃあ『Mr. Trouble maker』お願い」
「……意外ですね。マスター、ジャンヌ好きだったんですか?」
「んー……まぁね。ちょっと厨二っぽい雰囲気が好きなのさ、うへへぇ」
「愛好家に蹴り殺されますよ? ……まあ、いいです。承りました」

 瞬間、ルカは右腕部のコンソールを振りかざし、桃色の髪を流し、ヘッドマイクの位置を確かめる。電子文字
が、右腕部のモニターに隙間なく流され、同時に光る、ルカの双眸。錆浅葱の美麗なる色彩が、ひときわ妖艶な
彩りをそこここに見せ付けたかと思えば、凛と輝くその相貌。
 ボーカロイドがボーカロイドたるゆえんは、ここにある。マスターの命を受けたルカは、今、この瞬間におい
ては、全ての場を支配する、群集を隷下におさめる覇王そのもののありようであった。

 心の奥底で、歌をうたう許可をくれたマスターに感謝し、ルカはその瞳を細める。
 音を、彩りを、色彩を音色を空気を、全てを受け容れんとばかりに直立不動。
 マスターに瞳を向けてわずかに破顔。

 そうして、ルカは。


「はいはーい、ちょっとストーップ」


 小さな少女の静止の声を聞いた。



234:『柔らかい音色』(13/18)
09/01/12 12:07:58 +21ugeyD
 

「……アナザーマスター? 私、何か粗相を?」
「いんやー、あのさ、さすがにこれは見逃せないと思ってねー」

 きゃらきゃらと笑いながら、ルカの肩に手をやり、かぶりを振る少女。
 瞬間、ルカのマスターたる少年は、露骨に引きつった笑みを見せて土下座の体勢。

「だまされちゃだめだよ。おにぃは、ああ言っているけれど。実際の意図は別のところにあって」
「というと?」
「歌詞だよ、歌詞。ルカちゃんに、ファック、って言ってほしいんだよ。サビの部分、思い返してみて?」
「……迂闊でした。数十秒前の自分を殴り倒したいです。割と本気で」

 前言、否、前考撤回。やっぱり自分のマスターは救いようのないド変態野郎だ、とルカは即決。

「……地獄に堕ちろ、ゴキブリディックヤロー。fuck」
「んほぉぉぉぉっ! たまんねぇぇぇっ!」
「なんだかんだ言って、流暢な英語で要求満たすルカちゃん萌え」

 よだれを垂らしながら、びくんびくんと痙攣するマスターを尻目に、妹の言をさらりと受け流すルカ。
 バイリンガルというセールスポイントすら、この兄妹の前ではネタのひとつにしかならない。所詮、そういう
ものであることをルカは分かっている。だから別に気にならない。

 これも、いつもの光景だった。

 とはいえども、さすがに歌の体勢に入って何もないのでは、ちょっとばかり情熱をもてあましてしまう。行き
場のない思いを抱えたままに、そこここへと視線を向けてみれば、食卓のそばにある白い紙の束。
 音符がいくつも描かれているそれは、楽譜だった。

「んあ? 見ちゃった?」

 ルカの視線に気付いたのか、赤いカーペットに尻をつきながら少女は言う。

「あの、妹様、あれは」
「……んあ、新しい曲の楽譜、試作段階。ふふ、なんかちょっと恥ずかしいね」
「あ……」
「おにぃに見てもらおうと思ったのさー。今、最終調整段階だよ」

 これだ。

 これがあるから、ルカは心の底では兄妹を嫌いでいられない。努力を誇ることはせず、こっそりと作業するく
せして、それが相手にばれれば恥ずかしそうに伝えて。
 なんだかんだ言って、この兄妹もツンデレなのである。

「ごめんねー、あとちょっとで、一応は出来るからさ」
「あ、はい……。すみません。それと、ありがとう、ございます……」
「んな遠慮しないでいいよ。私らはもう体も心も繋がった仲じゃないか、げへへ」
「平気な顔して嘘を垂れ流さないでください。ぶっとばしますよ、このド変態」

 照れのせいか、ルカの罵倒にいつもの力がない。
 だが、少女の方も、照れのせいかいつものように嬌声を漏らしたりはしない。



235:『柔らかい音色』(14/18)
09/01/12 12:10:00 +21ugeyD
 

 ルカは知っている。
 自分のマスターたちは、ものすごく照れ屋で恥ずかしがりやで、いつも誰かの顔色をうかがって生きている、
ということに。

 成績優秀であり、容姿は美麗であり、何においても秀でた面を見せる彼らは、他者からの視線を嫌った。何故
ならば、重かったからだ。無意味にぶつけられる、期待という名の攻撃。不可視の刀剣による刺穿は、いつも、
いつでも、この兄妹の心を傷付ける。
 だからこそ、彼らは私を購入したのかもしれない、ルカはそう思う。ある程度の感情を廃した自分は、無意味
に期待を抱くような『人間らしい所作』においては『不器用』そのものなのだから。


 そんなルカの思いを察したのか、少女は照れ笑いを浮かべて言う。

「……ごめんね。おにぃも私も、結構、人見知りすっからさ。こうじゃないとマトモに話せなくてねー」

 そのかたわらで、兄の方も起き上がり、照れ笑いを浮かべて言う。

「別にアホの皮をかぶっているつもりはないんだがな。厨二病じゃないんだし」


 そんな彼らの姿を見て、ルカは心の奥底に、わだかまりを覚えた。不安のようで、不満のようで、もっと何か
別種の感情。
 それを打ち消すように、兄妹に気をつかうように、ルカは言う。



「ああ、つまり、『本当はSランクなんだけど面倒だからBランク』ですね、わかります」
「ぜんぜん分かってねぇ!? はいはーい! 問題文はちゃんと読んだ方がいいと思いまーす!」


236:『柔らかい音色』(15/18)
09/01/12 12:12:38 +21ugeyD
 
 諸手を挙げて講義するマスターを見、ルカは小さく、くすくすと笑ってみせる。

 つまりは、じゃれ合いの範疇ということだ。
 ふざけ合って、興奮に身を染めて。それは、珍妙にも過ぎる、不器用なコミュニケーションなのである。

「……まあ、でも。こういう関係は、きらいじゃない、ですね」
「うへへ、頬があかーい」
「ツンデレですね、分かります」
「自分で言うなや……」

 弛緩する、場の空気。重い雰囲気を読んだルカが、変えてくれた空気。
 それに一抹の感謝をし、兄妹はやにわに真面目な表情を形づくる。

「でもさ、ルカちゃん。ほんとーに嫌なことあったら、大マジでちゃんと言ってね」
「不満を抱えてもいつか爆発する。良いことがない。ストレートに言ってくれると助かるよ」

 黒髪を流し、やにわに真面目な表情を形づくる、兄妹。細いおとがいを揺らして、目を細めるその姿は、彼ら
の心の真剣さを物語る。
 美しいな、とルカは思う。この兄妹が醸す美しさの真髄は、容姿のそれではない。恐れる心、誰かに優しくで
きる心、自分が自分でいられる心。内面にこそ、その旋律は、美は、ある。
 奇しくもそれは、音なき音。彼らの美は旋律となりて、ルカに植えつけられたプログラムを上書きする。

「不満など、別に、ありません」
「……まぢですか?」

 だから、少しばかり素直になっても良いのではないか。
 ルカはそう思い、言う。


「……なんだかんだ言って、その。私は……ふたりとも、大好きです、から」


 その言葉を聞いて、マスターたちは。

「なんというツンデレ」
「ツンデレ乙」


 やはり、ネタに走った。



237:『柔らかい音色』(16/18)
09/01/12 12:14:34 +21ugeyD
 
 ここにきて、ドMマスターズの考えは一致。

 ツンデレだ、ああツンデレだ、ツンデレだ。
 田原坊にブッ殺されかねない思いを抱えたままに、もう辛抱たまらん、とばかりに駆け寄る、少年と少女。

「ルカ様~」
「ルカ様ぁっ!」

 もはや様づけ。
 されど、そこに込められた思いだけは正当なそれであるのだから、ルカも思うように動けず、避けることすら
出来ず。どうしようどうしよう、と考えているうちに、視界にとらえるは、兄妹が互いの頬を押し合いやり合い、
泥臭き争いをくり広げている光景であった。

「おにぃは抱きついたらセクハラでしょうがっ!」
「ああん、いけずぅ」
「そうよ、うへ、うへへぇ、ルカちゃんのオパーイは私のもんだぜ! やってやるぜ!」
「うえーん、俺も豊かな乳房の感触ほしいよー」

 もうこいつら救いようがねぇ、とルカは一瞬思うも、色々な意味で原因を作ったのは自分なので強く出られず。
 自分の尻は自分でぬぐうか、と思いながら、わずかに持ち上がった自分の唇をゆっくりと直し、ルカは言う。


「……いいですよ、ふたりとも来てください」


 その予想外の展開に、さすがの変態兄妹も固まった。

「え?」
「はい?」

 黒髪を流し、瞠目しつつ、己の耳を確認する兄妹。
 なんだろう、かわいい。ふたりの様子を見て、ルカは邪気もてらいもなく、素直にそう思えた。


238:『柔らかい音色』(17/18)
09/01/12 12:16:26 +21ugeyD
 
 だから、だからこそ、だろうか。


「ぎゅー、してあげます」


 デレた。
 ツンからデレへの、見事な移り変わりの瞬間だった。

 さても驚くべきは、ツンデレたる存在が垣間見せる、デレ期か。
 頬を薄紅色に染めて、桜色の髪を流しながら、唇の端を持ち上げて微笑する、ルカ。広げた諸手は柔らかな曲
線を描き、ゆるめられた頬は艶やかな柔らかみをそこに残す。
 結構呑気していた変態兄妹も、母性が垣間見えるほどの萌え時空にはビビった。その醸される優しい雰囲気と
容色美麗なるたたずまいの発する圧倒的魅力は、まさに歯車的砂嵐の小宇宙、である。

 垂涎必至、理知的な冷静美女が醸し出す艶姿は、この変態兄妹をして、あらがえぬ領域のそれであった。紡が
れる言の葉の稚拙ぶりが、彼女の愛らしさを加速させ、兄妹の胸中に湧いたときめきを肥大化させる。
 瞬間、ぽすり、と。兄妹はルカの豊かな乳房に、その頬と頭を押し付ける。

「……ふふ、なんだかんだ言って、甘えんぼうなんですよね、ふたりとも」
「面目ない」
「右に同じく」

 頬を薄紅色に染めるは、ルカのみならず、マスターたちも。見目麗しい女性と、見目麗しい少年少女が、互い
互いに抱き合い、照れる姿は、どこぞの名画に勝るとも劣らぬ映え具合であったろう。
 そんな第三者的視点に気付かず、ルカは、遠くを見据える。居間の、飾り窓の外にある、薄い薄い空を見て。
薄水色の、淡い色彩を見て、半ば独白のように、言う。


「……歌を、うたうこと」
「ん?」
「心臓の、音色。私にはない音色。……こうして、あなたたちが元気でいて、ふざけてくれることが、私にとっ
ては、魂を揺さぶる音楽と同義なんでしょうね」


 分かっていたことだ。そう、分かっていた、ことなのだ。

 この兄も妹も、下品な言葉を発するのは、明確なる甘えのあらわれなのだということに。人と上手な接し方を
知らないからこそ、奇行に走る。だが、それは己の存在を誇示する、悲鳴めいたものであり。
 それにルカは気付いていた。だからこそ、伝える。あなたたちはここにいます、私はここにいます、それでい
て私は思います、あなたたちがいてとても嬉しい、と。

「ルカ……」
「素敵な音楽、いつもありがとうございます。マスター」

 音は命。そういった概念を抱いているからこそ、小洒落た台詞も平然とルカは垂れ流せる。
 だが、そこに込めた慕情は、並のそれとは一線を画し。

 だからこそ、だからこそ、ルカが慕情を寄せているふたりは、満面の笑みで、言うのだ。


239:『柔らかい音色』(18/18)
09/01/12 12:18:40 +21ugeyD
 
「性欲をもてあます」
「性欲をもてあます」


 瞬間、空気が凍った。

 先程の美しき流れは、もはや微塵もなく。流れるは、べろんべろんに伸びたゴムめいた空気。
 これにはルカも思わず苦笑い。「もうシリアスになりはしないよ」と、どこぞの丸見えな番組でも出そうな、
かようなフレーズを頭に抱えれば、じたばたと暴れる胸元の兄妹。

「おにぃのバカァー! ルカがせっかく綺麗にまとめようとしてくれたのにィィィ!」
「なんだかんだ言ってお前も空気ブチ壊してるじゃねぇかァァァァ!」
「性体験を楽しんでいるんだよコイツらは! ですね」

 言い争うふたりを抱えながら、ルカは苦笑のままに、場の空気に乗る。
 そう、いつものことだ。シリアスが続かないのも、いつものこと、なのだ。

「だってだってだって、シリアスな私たちなんて、芯のないシャーペンみたいなもんじゃん!」
「なにその役立たず!?」
「うへへ、ルカっちのおっぱいやーらけー。ぷにぷにー」
「仕切りなおし早ぇぞ、妹よ」

 ルカの胸元でぎゃあぎゃあと暴れる、兄妹。
 そんな馬鹿らしくも、どこか微笑ましい争いを見つつ、ルカは聖母めいた笑みをそのかんばせに浮かばせ、喉
の奥から、くすり、と。小さな小さな笑い声を漏らす。


「……愛しています、このド変態ども」


 美麗なる低音は、居間を流れて、空気に乗り。
 紡がれるその旋律は、肉眼ではとらえられぬそれだけれども。
 不可視の絹糸となりて、柔らかく、包み込む。

 柔らかく、ただ柔らかく。
 その、『三人』を、平等に。






(おしまい)


240:柚ピーマン  ◆ishd7lcZX.
09/01/12 12:21:30 +21ugeyD
投下終了です。休日のお昼になにやってんの、俺。

色々な意味で、なかよし三人組。恋愛値はゼロだけど、慈愛値はカンストです。
なんだかんだ言って翻弄されて流されて、でも抵抗しないあたり、ルカも実質ソフトMかもしんない。
あと、3から4への場面変更、分かりづらかったですね、すみません。マークつけておけばよかったです。

では、お目汚し失礼しました。タンスの角に眉間ぶつけて死んできます。


241:名無しさん@ピンキー
09/01/12 12:39:49 7i/yzzy2
>>240
多分半分位わかった俺も死ぬべきだな。しかし生きるッ!!(ぉ

なんというかもう、久々に爆笑させていただきました。ネタに走りまくってるのに何故か感動できるお話、GJっした!

242:名無しさん@ピンキー
09/01/12 13:36:25 le4GI1F0
>>240
大体ネタ判っちまったので凍ったバナナで眉間打ちぬいた俺が今いるここは天国ですね?
雲上級の良作をありがとう! 慈母ルカさんイイヨイイヨー!!

243:名無しさん@ピンキー
09/01/12 15:18:53 Z9pqFP/8
なにこの投下ラッシュw皆GJすぎる

244:207
09/01/12 17:00:05 kV9mYYb4
>>215
申し訳ないが、オムパスタまんの人じゃないんだ。サンデーの人なんだ。
自分のところのカイトがオムライス好きな設定で書いてたからあんまり気にしなかったけど、もしかしたらそれ自体あの作品に影響されたところはあったかも、です。

245:名無しさん@ピンキー
09/01/12 20:25:04 EQGE7KKt
>>209>>244
GGGGGGGGGGGJ!!!
1レスで大変萌えた…
歌えないボーカロイド切ないな
>>215じゃないがサンデーの人だったとは
あの話大好きですぜ

246:名無しさん@ピンキー
09/01/12 22:09:04 lDhrAg/A
ルカ様祭りの中ですが、がくぽ×女マスター投下します。
女子マスター苦手な方はスルーでお願いします。

247:『やりたい』
09/01/12 22:11:23 lDhrAg/A
「……ん」
 ソファに腹這いに横になる人影に向かって彼は声をかける。
「ご主人」
 腹這いに横になっているその女性は、胸の下にクッションを置き、ノートパソコンに向かって何かを打ち込んでいる。両耳を大きめのヘッドホンが塞ぎ、彼の声には気が付かないようだった。
「……」
 彼は少し考えた後、ソファのあいている部分に腰掛ける。
「……ご主人」
 腰かけた重みでソファが軽く揺れるが、彼女はそれでも気付かない。
 彼が視線を動かした先には、彼女の纏う部屋着の裾からのぞく、白い太腿。彼はそこに指を這わせる。
 彼女の身体がびくりと動き、ようやく彼の存在に気づく。
 彼女はヘようやくヘッドホンを外しながら、
「あ、なんだ、がくぽか」
必要以上に驚いてしまったことに対する照れ笑いを浮かべ、起き上がると、彼の隣に座りなおし、ワンピースタイプのパジャマの裾をぱんぱんと引っ張って直す。
 彼女は、彼…ボーカロイドである神威がくぽの主、いわゆるマスターである。あまりマスターとか主とか呼ばれるのは好きではない様だったが、がくぽがどうしても呼び方を変えようとはしないので、根負けして好きに呼ばせているようだった。
「で?何?こんな夜中に。何か用があるんだよね?」
 言って小さく首を傾げる彼女。ヘッドホンを外したせいで、肩まで伸びた髪は乱れ、眼鏡はずり落ちている。
「ご主人。やる……とはどのような意味か」
「……へ?」
 突然すぎる問いに、彼女の頭は一瞬、フリーズした。構わずがくぽは続ける。
「先ほど、レン殿から『ご主人とはもうやったのか』と問われたものの、何をやったのか皆目見当がつかぬ。ご主人と、ということは何か二人で行うことだとは思うが……」
 彼はまだインストールされて間もない為か、それとも神威がくぽというキャラクターの特性か、他のボーカロイドとは一風変わった言語を使っている。なので若者言葉やスラングなどには時々首をかしげることがあるようだった。
 そんながくぽの説明を聞いているうちに、だんだんと頭に血がのぼってゆく。
「……あ…んの思春期がっ……!」
「ご主人?如何した、顔が赤いようで……」
 様子のおかしさを心配そうに見つめ、近寄るがくぽに向かって彼女はまくしたてる。
「あの年頃はね男女仲いいのを見るとすぐそういう性的な方向に脳みそが働いちゃうからっ……!」
「性的な…なるほど、やるという言葉はそのような意味でも使われるのか」
 がくぽの言葉に、彼女は我に帰る。
 墓穴を掘った?
「言葉というものは奥が深い」
 しきりに感心するがくぽ。その様子に、彼女はほっとする。自意識過剰だったかも、と一人反省し、苦笑していると、
「私はご主人と『やりたい』と考えているゆえ」

248:『やりたい』
09/01/12 22:12:52 lDhrAg/A
 彼女の眼を見てにこりと笑う。綺麗な顔に眼を奪われかけるが、はっと我に返り、
「お、落ち着いてがくぽっ……」
ぐいぐいと距離を詰めてくるがくぽを押し戻そうとする。
「ご主人の方が落ち着いたほうが良いのではなかろうかと」
 がくぽの眼を見ると、腕から抵抗する力が抜けてくる。その好機を見逃さず、がくぽは彼女をその場に押し倒す。
「え……」
 一瞬で体勢が変わり、彼女は戸惑いの声をあげるが、がくぽはそれに構わず彼女の頬に手をかけ、耳元で囁くように告げた。
「……全て私に任せるといい」
「ひゃあっ!」
 彼女の身体がびくりと跳ねる。
 がくぽの表情が、面白いものを見つけたとでも言うような愉しげなものに変わる。
「なるほど、耳か」
 更に耳元で呟くと、そのまま彼女の耳を舌でなぶり始める。
「え……ちょっ、がく……あっ…やっ、やめて……んっ……!」
 じたばたともがきながら必死で耐えようとするが、彼女の声は次第に熱を帯びたものへと変わってゆく。
「はぁ……はぁ……ん……っ」
 ぐったりとしてきたところで、耳をなぶる舌を止め、そこに口づけを落とすと、
「………どの」
ごくごく小さな声で、彼女の名を呼んだ。

249:『やりたい』
09/01/12 22:13:39 lDhrAg/A
 彼女は見てわかるほどに顔を赤くすると、涙目になって訴える。
「こっ、こんな時だけ名前で呼ぶなんて……卑怯……!」
 先程抱えていたクッションで、がくぽの頭をぼすぼすと殴打するが、耳を執拗に責められたせいで力が入らない。
 さほど痛くない攻撃を無視し、がくぽはぐいっと彼女の膝を開き、間に入る。
 パジャマの裾をめくると、薄いピンクの小さな布地が現れる。彼女は脚を閉じようとするが、がくぽが間に入っているためそれはかなわなかった。
 更にめくり上げると、控えめな双丘が姿を現す。つんと尖った先端が、がくぽを誘うように小さく震える。
「うっ……!」
 先端を唇でついばむと、彼女の身体がまた跳ねる。そのまま舌で弄びながら、右手で布地の中をまさぐり始めた。
「いやっ、やだっ……だめっ!」
 彼女の訴えもむなしく、がくぽの長くごつごつした指は、容易くそれを感じ取る。
「……む」
 それが何かを悟ったがくぽは、容赦なくそこを掻き回すように責めてゆく。
 くちゅくちゅぴちゃぴちゃと水音が高まり、彼女の耳にも届くようになる。耳をふさごうとするが、その手をがくぽの左手が捕える。
「これは」
 わざと音を立てるよう指を動かしながら、がくぽは問う。心なしかにやりとしているように感じる。
「ご主人も『やりたい』と感じていると解釈して構わないだろうか」
 単刀直入に問われ、彼女は言葉を詰まらせる。
 口だけをぱくぱくとさせながら、視線をあちらこちらに泳がせ、
「…………あー」
意味のない言葉を発したのち、
「そんなことわざわざ訊かないでよ……ばか」
観念して肩の力を抜いた。
 意地悪そうに、そして嬉しそうに笑い、がくぽが彼女の唯一の下着を取り去ろうとする。
 その時。
 部屋の入口がノックされ、返事をする間もなく扉が開いた。
「………あ」
 訪問者の正体は、
「……レン…」
「え、えーと……がっ君とどうなったかなー、と話を聞きに来たんだけど……」
 レンは二人を直視できない様子で、ごにょごにょと言って後ずさる。
「レン殿、先程の答えは見ての通りで」
「あ……うん、それはよくわかった、じゃ……ごゆっくり……」
 扉を閉めて脱兎の如く逃げ出すレン。
 がくぽは何事もなかったかのように続けようとするが、彼女はそれどころではなくなり、
「くぉらああああぁ、レンんっ!」
恥ずかしさと怒りでない交ぜになった叫びが家中に響き渡った。

 次の日。
「……しっかし早速マスターとヨロシクやってるとは思わなくて…」
「レン殿、その『ヨロシク』とは一体……」
「レン、黙れ。がくぽ、知らなくていい」

【終】

250:『やりたい』
09/01/12 22:14:46 lDhrAg/A
以上です。ありがとうございました。
書き終わって思ったのですが『ヨロシク』て最近の若者は使わな(r

251:名無しさん@ピンキー
09/01/12 22:49:23 PR/VCkAs
>>244 サンデーの人か!あの話すごい好きなんだ。今回のも切なくて
よかったです。

252:名無しさん@ピンキー
09/01/12 23:03:30 oi8CC3Q1
>>250
乙です。
レン空気読めw

253:名無しさん@ピンキー
09/01/13 00:01:02 juoJujUD
ルカ特需なのか良作SS投下が沢山あってうれしい

254:がくメイ
09/01/13 00:08:16 n3YLfQMW
言いだしっぺの法則と言うことで
ルカの出現に自分の存在価値を問うメイコを書きました。
一応、がくぽ×メイコです。
かなり痛いわりに非エロです。
がくぽのキャラが普段書かれている性格とは違うので
駄目な方はスルーでお願いします。

255:がくメイ
09/01/13 00:09:00 n3YLfQMW
彼女の存在は発売前から話題になっていた。
ピンク色のゆるいウェーブがかかったロングヘアー。
整った顔に大きな青緑の瞳がクールな印象を与える。
服の上からでもわかる豊満なバスト。
スリットからは綺麗な太股をのぞかせている。

___巡音ルカ。
私達の新しい仲間。家族。ボーカロイド。
嬉しいはずなの。喜ぶべきなの。
今までしてきたように笑顔で迎え入れてあげなきゃいけないの。
でも、怖い。
どんどん私の影が消えていく。
必要とされなくなる。
いつの時代だって人間は新しいものを欲するのだ。

私の存在価値は何ですか?

尋ねたところで私の声は虚しく宙へ消えていくだけ。
歌いたい。
必要とされたい。
愛されたい。

自分の中にこんなにも浅はかな感情があったなんて認めたくない。


もう疲れた。
いっそ消えてしまえば…

256:がくメイ
09/01/13 00:09:57 n3YLfQMW
「メイコさん?」
ふと頭上から声がした。
顔を上げると紫の長い髪が風で揺れ、私の顔にふわりと触れた。

「がくぽ?」
久しぶりに見た顔だった。
逆光に目を細めながら自分の後ろに立つ男を見やる。
「どうしてここに?」
誰もいないだろうと思っていたフォルダでこの人に会うとは思ってなかった。

「それはこちらの台詞ですね。女性がこのようなところで一人でいるとは」
私はこの男が苦手だ。
常に薄く笑っている。
何を考えているのかわからない顔。
「えぇと、ちょっと考え事してたの。
 今月も食費が馬鹿にならなくて。
 もう、皆好き勝手自分の好物ばっかり買ってくるから」
あはは、と軽く笑いながら適当な言葉を並べる。

「そうですか。メイコさんはいつも大変ですね。」
多分、この人はそんなこと微塵も思ってないだろう。
空っぽのフォルダに白々しい会話。
「そんなことないわ。
 皆、もう随分この世界に慣れてきたし成長した。
 今までは、私がいないと駄目だったのに。
 時間が経つのは早いわね」
しみじみと思いやる様な顔をして薄っぺらい台詞を言う。
でも、これは事実だ。

257:がくメイ
09/01/13 00:10:40 n3YLfQMW
「もう私なんかいなくても…」
続く言葉は私の本音で、誰かに否定してほしくて紡ぎ出そうとした言葉。
けれど、私の声を遮った言葉は辛辣で冷やかだった。
「そうですね。
 これだけ多くのボーカロイドがいる。
 一人、いなくなっても困りはしないでしょう」
あぁ、なんて嫌な人だろう。
私のほしい言葉の一つもくれないなんて。

「嫌な男だと思いますか?」
思っていたことを一発で当てられた。
本当に嫌な人だ。
私は顔を赤くする。
それだけで相手にはこちらの心情が読み取れたらしい。
「そうですか。
 どうも私は貴女が嫌いなので、つい傷つけたくなるようです」
こんなにもストレートに悪意をぶつけられたのは初めてだった。

「…私が嫌い?」
「はい」
自身では理由が見当たらない。

「どうして?」
「貴女が私を必要としなかったからです」
意味がわからなかった。

「私がこの世界に誕生した時、貴女は私のことを怖れた。
 家族という形を守ることで私を貴女の範囲から遠のけようとした。
 違いますか?」
予想外の言葉に私の頭は回らない。
確実に混乱している。

258:がくメイ
09/01/13 00:11:20 n3YLfQMW

「な、なにを言ってるの!?」
「私は製造元が違った。
 それだけでなく異色だった。
 当然だと言えば当然です。
 でも、今度はそうはいかない」
薄ら笑いが消え、真剣な眼差しが私を射抜く。

「__巡音ルカ。
 今度は迎え入れなくてはいけない。
 そうでしょう?」
この男は全てを知っている。
私が一人ぼっちで過ごしたころからやっと築きあげた居場所。
それが、消え去ろうとしていることを。
古びていくことを怖れていることも。

「い、いやっ。ちがう。
 そんなはずない」
駄目。否定しなきゃ。
こんな感情もっていてはいけないんだ。
私は家族のまとめ役で。
お酒が好きで。
今まで皆の面倒を見てきて。
歌を歌って。
思考がぐちゃぐちゃだ。
でも、必要な存在だったはずだ。
気持ち悪い。
居場所があった。


259:がくメイ
09/01/13 00:12:13 n3YLfQMW
「…や、いやっ私の居場所を、奪わないでぇっ」
涙がとめどなくあふれ出してくる。
外界から遮断するように耳をふさいでうずくまる。
「ち、ちゃんと良い子にするから。
 MEIKOでいるから。演じるから。
 わ、私を忘れないで」
感情にストップがきかない。
涙と一緒になってこぼれだす。
誰に訴えているのかわからない。
でも、言葉にしないと重圧で死んでしまう。

「そう、貴女は一人でいることの寂しさを知っている」
「ぅっうぁ」
「だから自分を守るために」
「いやぁっ、聞きたくない」
「周りを利用してきた」
「うぁっああああぁ」
「せっかく人間に媚を売ってきたのに。
 可哀相に。
 時機に貴女は必要とされなくなる」
「いやぁぁぁあああああああああぁあああああ」



世界が真っ白になった。
脳みそが焼けるように痛い。
もう言葉も声もでなかった。
消えてしまいたい。

260:がくメイ
09/01/13 00:13:22 n3YLfQMW


「私が貴女を愛してあげましょうか?」
涼しそうな顔をしてがくぽが私を見下ろしている。
私は無意識のうちに彼の服にすがっていた。
彼の顔を見上げ、何度も何度も頷いた。
あぁ、なんて嫌な女だろう。

「私に求められたいのなら、まず貴女から求めてください」
私の返答に満足したのか、いくらか楽しげな様子で言う。
私は言われるまま彼に深く口づけをした。
凍ったように冷たい唇に何度も角度を変えて舌を絡ませながら。

「…っはぁん」
二人分の唾液が交じり合っていやらしい音をたてる。
酸素が足りなくて頭がぼんやりとする。
それでも必死に私は彼の舌を求めた。
愛されたいから。
ただ、必要だと言ってほしいから。
次第にがくぽは私の舌に応えてくれた。
そして、力強く私を抱きしめた。

「メイコ、貴女が必要です」
彼の囁いた一言で私の世界は満たされた。



終わり

261:名無しさん@ピンキー
09/01/13 00:27:02 e49/LNdu
3日ぶりに来てみたらなんだこのラッシュはwww
全員乙です
もう俺天国に行けるかも

262:カイメイ+ルカ
09/01/13 00:42:17 F0EX+K0l
・初投稿です
・非エロでカイメイ+ルカ
・ルカは近所に住んでる設定

以上のことを踏まえてどうぞ。

263:カイメイ+ルカ
09/01/13 00:45:43 F0EX+K0l
夜、ルカはメイコの晩酌に付き合っていた。
しかし、カイトが帰ってくるまでと始まったはいいけれどカイトはなかなか帰ってこず、
日付が変わる時間となった。
「あらら…、寝ちゃったのね」
普段よりずっと幼く見えるメイコの寝顔。
「こんな顔、カイトくん以外に見せちゃダメだぞ~」
ふにふにと頬をつつくとわずかに眉を寄せた。
「ホントに可愛いな、めーちゃんは。いっそ、私が襲っちゃおうかな……」
ルカは自分が着てきたコートをメイコの肩にかけると
空いたワインのボトルとグラスを片付けた。
手際よく洗い物をしていると玄関から足音と静かにドアを閉める音。
「おかえり、カイトくん」
「あ、ただいま。ルカさん。めーちゃんは?」
「寝ちゃった。寝室に連れてってくれる?」
「はい。片付けもあとで俺やりますから…」
カイトはメイコの寝顔を見たら自然と口元が緩んだ。
「ん?もう終わったから大丈夫よ」
ルカが自分のコートを回収すると、
代わりにカイトが自分のコートをかけて抱きかかえた。
「あんまりメイコちゃんにさみしい思いさせちゃダメだよ?」
つん、とルカの白く細い指がカイトの額を押した。
「わかってはいるんだけどね…」
仕事の要領が悪くていつも時間がかかってしまう。
カイトは曖昧に笑って恥ずかしそうに頬をかいた。
「ん、うんん……」
腕の中でメイコが身じろぎした。
「めーちゃん?」
「カイト……。おかえり……って、なんで抱っこされてるのよ!?」
慌ててカイトの腕から下りたメイコはアルコールで足元をふらつかせ、
再びカイトの腕によって支えられた。


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