09/06/20 04:04:38 xiGDLVO7
「リース?」
こちらもこちらで悶々とした気持ちを誤魔化すように足早に帰路を辿っていた達哉は
月人居住区の端で黒づくめの少女の待ち伏せに遭っていた。
「こんな時間に一人で出歩くなんて危ないよ? どうして……」
「分別は美徳。でも過ぎた遠慮と依存は単なる甘え。伝えようとする意志と言葉無し
で絆を守れるほど人間は便利に出来ていない」
「え……えっと?」
「エステル、寒い場所で泣いてた。達哉を呼びながら」
「エステルが!?」
咄嗟に教会に向かって一歩を踏み出した達哉だが、目の前の少女を放っておくのも拙い
と思い直し、一緒に戻ろうとリースに向かって手を差し伸べる。
「あれ?」
が、そこにはほんの数瞬前まで居たはずのリースの姿は無かった。代わりに冷たい夜風
が達哉の体から体温を奪いながら教会の方へと流れてゆく。
「……いや、それよりもエステルを……!」
月人居住内なら治安も良いだろう。そう判断し颯爽と駆け出した達哉が運悪くエステル
が身支度を調え証拠を隠滅している最中に踏み込んで平手打ちを喰らい、それでも何故か
朝帰りとなり、麻衣にコッテリと搾られる羽目になったのは、また別の話である。