【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合36at EROPARO
【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合36 - 暇つぶし2ch171:白い姫とワルツを〈三・発火〉
09/01/12 14:12:36 sloRilb4

 二人の男が黙って見つめる前で、泡の表面ににゅっと細い手首が生えた―むろんそう見えたのは錯覚で、泡の内側から誰かが手を伸ばしたのである。
 手につづいて腕が、肩が現れ、そして頭と脚が……
 出ようとしていた者が通過し終えても、泡は割れはしなかった。ただ表面に波紋を伝えて揺れただけである。

 裸の少女の姿を惜しげもなくさらした〈黒い女王〉に、ザミュエル・カーンが床にあった紫のローブをほうり投げる。
 宙でそれをつかみ、濡れた白い裸にローブを羽織った彼女は、開口一番に「つぎの素材がそろそろ欲しい」とベルナール・ギィに向けて言った。

「新鮮な生きた人間、できれば若い女がもっと必要だ。死刑囚に適当なやつはもういないのか」

 ベルナール・ギィはトリステイン女王の外見を模した少女に答える。

「そう何人も簡単に融通できるものか。都市参事会は都市内の法をつかさどる立場でもあるのだぞ。
 死刑囚とて本来は法にのっとって刑を執行されるべきなのだ。彼らを貴君に引き渡すことを、わたしがどれだけ良心を殺しておこなっているか知るまい」

「頭が固いな。公にならなければいいではないか。
 目を転じてみろ。売春婦ならば街にあふれているぞ。そして、いなくなってもさほど追求はされない」

「念を押させてもらうが、わたしの断りなく都市民になにかしようと思うな」

 ベルナール・ギィは細めた目を〈黒い女王〉にひた当てた。
 その強い警告に対し、彼女はあっさりとひきさがった。

「しかたない。なら、都市民以外でこっちで適当に調達するさ。戦場で捕虜を得てくるなりなんなり。
 まさかそれまで止めはしないだろうな」

「……ガヴローシュ侯爵の妻と娘を『素材』とやらにしたのはやりすぎだぞ。
 今後はたとえ敵であろうとも、身分の高い者はけっして無意味に殺すな」

 必要以上の敵意を買ってはならなかった。
 けっしてこの少女に言ったことはないが、適当な時期がきたら王政府と講和することをベルナール・ギィは考えている。
 ただし、こっちに有利な条件での講和でなければならない。そこに持ちこむまでの戦いのなかでは、この少女の存在はまだ役に立つはずだった。
 〈黒い女王〉が微笑む。

「それは残念。大貴族の女というのが好みなのだが。
 ならば農民にしておこう。連中はたくさんいるから」

 その言い方は、野ウサギの数について猟師が語るのと変わらなかった。
 ベルナール・ギィは嫌悪を顔にはっきり浮かべはしなかった。無表情のまま口をかたく引きむすんだだけである。

 この泡の内部にこもるとき彼女が何をしているか、彼は知らない。
 ただこの地下室に運びこまれた囚人は、ひとりたりとも出てきていないということを知っている。そして何かの残骸が夜の闇にまぎれて運びだされ、ひそかに郊外に掘った穴に捨てられているということも。
 囚人の調達も生ごみを入れる手押し車も、どちらも彼が手配しているのだから。

 そしてこの幼いトリステイン女王の外見をした怪物は、本物のアンリエッタとおなじく水系統の魔法を得意としていた。技の応用には相当の違いがあるようだったが。
 たとえばこの泡だが、これは一種の結界のような役目をはたしているらしい。
 『解呪石〈ディスペルストーン〉』の働きによって大河流域は魔法断絶圏となっているが、前もって張っておいたこの泡の結界のなかでは魔法が使えるとのことである。
 大気中に飛散した『解呪石』の目に見えないかけらを、泡の膜が通さないのだという。肌についたかけらは泡を通りぬけるとき、ほこりと共に泡表面にくっついてぬぐわれるらしい。だから内部に入るときは裸なのだろう。



172:白い姫とワルツを〈三・発火〉
09/01/12 14:13:08 sloRilb4

 泡の結界は一枚ではなく、この奥にさらに何重も張られているとのことだった。
 見透かすことはできないが、それでけっこうである。どんなことになっているにせよ、人が見たいと思う光景であるはずがない。

「ところで会議の顔ぶれはだれだれなのだ」

 〈黒い女王〉に唐突に訊かれて、ベルナール・ギィは一瞬みがまえた。どういう意図の質問なのかがわからない。
 裏をさぐりかけてやめた。この程度のことなら隠しても意味がない。

「市参事会員をはじめ、いまだトライェクトゥムにとどまっている各都市の代表。そんなところだ」

「全員の忠誠は確認したのか? 誓約文書はあるか」

「各代表の名のサインと血判により、われわれ河川都市連合は反・王政府でかたくむすびついた。その書状はトライェクトゥム市参事会があずかっている。
 これなら、おじけづいたどこかの都市がいまさらながらに無関係をきめこもうとしても不可能というものだ。ただし代表がさっさと帰ってしまった都市ガンをのぞくが」

 〈黒い女王〉はそれを聞くと「ふむ」と下唇に触れ、謎めいた沈黙に入った。
 その沈黙に、ベルナール・ギィは長く付き合うつもりはなかった。この暗い部屋が忌まわしかったし、この少女と向き合っていることそのものにいやな感じを覚えていた。
 だから彼は、言うべきことをさっさと口にした。

「ついに王軍が来る。こちらの倍となる一万余の兵をそろえてな。
 それも農民主体の諸侯軍とはわけがちがう。王軍を構成するのは、戦に慣れた傭兵たちだ」

「ほう。王軍はどんなふうに攻めてくるかな」

「冠水した土地をさけつつも、なるべく直進してくるだろう。
 王政府は財政上の問題で、小細工する余裕がおそらくない。はやいうちにこちらと決着をつけようとするはずだ」

「ああ、それをわたしに止めさせようと?」

「まさか。王軍の相手は市民軍がする。王政府の空海軍は、『水乞食』が相手する。
 貴君に頼みたいことはむしろ、残ったそれ以外の道をつぶすことだ」

「残ったそれ以外の道?」

 おうむ返しの形の質問に、ベルナール・ギィは答えた。

「山地だ。ゲルマニアに近い山地のあたりを押さえられたくはない、大河上流域も押さえられてしまうからな。
 ただ王政府も、それをやると軍事費がさらにかかるから多分そうはしないだろうが、絶対にないとはいいきれない」

 予想に反し、王政府が大量の兵を大河の上流域に送りこんできた場合、やっかいなことになる。
 そのまま川にそって下流まで攻めこまれずとも、たくみに大河とその支流の上流域を封鎖されてしまえば、こちらの喉元はじわじわ締め上げられているも同然だ。
 ゲルマニア側の都市が送りこんでくれるひそかな物資の流れが絶えていくのだから。

「幸いなことに、はやいうちならその戦略の芽をつぶせる。
 現地の畑をだめにしてしまえば、王軍はたとえ上流域をとっても山地をながく保持できない。糧秣を調達できないのだから」



173:白い姫とワルツを〈三・発火〉
09/01/12 14:13:55 sloRilb4

 上流域は山がちの地形であり、大河の両岸は崖がつらなる。山地を抜けて大砲を移動させることは困難だった。
 さらに山地では荷馬車も通りにくい。つまり補給を後方からおくりこむことがますますむずかしくなる。大軍の維持のためには、食料を現地調達しなければおぼつかない。
 だからこちらは先に上流域に兵をおくり、もともと平野にくらべて乏しい食糧を刈りつくしてしまえばいいのだ。

 ただ、その地の農民には残酷なことになるだろう。やっと山あいの畑に初夏の収穫があるころなのだ。それを奪われれば、かれらにとって餓死はそう非現実的な話ではなくなる。

 しかたない。ベルナール・ギィは思った。
 山地の農民には飢えてもらうしかない。都市の命運をおびやかす可能性のあることは、ささいなことでも消しておきたかった。
 それでもこういう任務に、市民軍を使う気はさらさらない。王軍が来ようとしている今そんな余裕もないし、余裕があっても汚い任務をさせる気はない。
 汚名をかぶったまま消えていくにふさわしい連中は、すでに用意していた。目の前に。

「貴君の連れてきた傭兵隊にそれを任せたい。できれば、ゲルマニアから流入してきた共和主義者たちとやらも連れて行ってもらいたい」

…………………………
………………
……

 ベルナール・ギィが一人で去り、階段の足音の余響が消えてしばらくしてから、〈カラカル〉が口を開いた。

「いいのか、あの男はこちらを汚れ仕事に使いつぶそうとしているぞ」

 傭兵隊長は、白く幼い裸身にタオルのみをはおった〈黒い女王〉に指摘する。

「これまでのところ、黒狼隊が食糧や弾薬の補充を求めて断られたことはない。報酬もさまざまな形で支払われている。
 だがあいつは、俺たちと契約文書をとりかわして正規の雇用関係を結ぼうとはしていないのだぞ。あくまで俺たち黒狼隊はあんたの私兵あつかいだ」

 少女は、傭兵隊長からすれば不可解に思える笑みを浮かべた。

「なんだ〈カラカル〉、おまえみたいなクズでもやっぱり安定した職を望んでいたか? たしかに魅力的だものな、専属傭兵となることで定期的に払われる俸給は。
 残念ながらこの都市は、都市の民自身からなる『市民軍』という奇怪なものを考えだしたのだ。ほとんどの傭兵は戦が終わればお払い箱さ」

「おい、俺はいま忍耐心を試されているのか? 話がそれている、そんな問題じゃない。
 このままだと、王政府と都市連合のどっちが勝っても俺たちに先はないと言っているのだ。
 今でさえあの男は、あんたと俺をうとんじている。俺たちを始末しようと考えだすのも、そう遠い未来ではあるまい」

「悲観的な未来予想だな。だが真に悲しむべきことに、お前の言葉が正しいようだ。
 わたしだって、あいつに愛されていると思っていたわけじゃない」

 〈黒い女王〉は傭兵隊長の予測を肯定した。
 だったらこれからどうするのだと言いたげな〈カラカル〉に対し、彼女はぴんと指を立てた。

「たしかに技術屋、便利屋あつかいされるのは嫌気がさした。使い捨てならなおさらだ。そろそろ独自に立ち回る時期に来たようだ、わたしたちも。
 〈カラカル〉、とりあえずはもう一度だけ、望まれた役割を果たしておこうか。ただし、ここはいっそ期待された水準をはるかに上回って。
 言ったとおり、傭兵どもにはいつでも出られる用意をさせているな。じゃあ、明日にでも兵を出そうか」



174:白い姫とワルツを〈三・発火〉
09/01/12 14:14:56 sloRilb4

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 二日後。トリスタニアちかくのとある人工池。
 ただの池ではなかった。王政府御用達の、水空両用のフネの発着場である。
 ラ・ロシェールなどの大型の港にくらべればとるに足りないもので、港と呼べるかさえ怪しい。
 なにしろ収容できるフネの数は小型船なら二、三隻、大型のフネならただ一隻である。

 それでもこのような発着場は必要とされていた。緊急時などで急行しなければならない事情のあるフネのためである。
 いまも、間近に出帆をひかえた小型の快速艇が一隻、停泊している。百合の紋がはいったそのフネは、王家の連絡船の一隻なのだった。

 その甲板にたたずみながら、ルイズははるか東のかなたを見ていた。
 トリスタニアから東のラ・ヴァリエール領へ、これから空路で向かう。
 まっすぐ進めば途中で反乱地域の上空に入ってしまうが、もちろんそこは迂回する。大きく南に半月弧をえがき、ゲルマニアとの国境ぎりぎりを航行して、実家をめざすのである。

 航路を頭のなかにえがいてから、ふとルイズは髪をそよがす風のなかにつぶやきをもらした。

「先に帰った姉さまとおなじ航路だわね」

 エレオノール・ド・ラ・ヴァリエールが王立魔法研究所を離れ、父公爵の領地へとフネで飛んで帰ったのは先々週のことだった。
 傍のものがひきとめる間もないほどのあわただしい帰郷に、“父公爵から指示がきたにちがいない”と世人はささやきかわしていた。

(それがただの根も葉もない陰口ならどんなにましだったかしら。
 最低の気分だわ、なんたって事実なんだから)

 ルイズは先々週、姉が王都を出ていく前にひそかに自分を訪ねてきたときのことを思い返して、苦さを噛み締めた。
 王宮まできたエレオノールは、ルイズの滞在している一室に踏み入るなり言ったのである。
 姉はすぐ発てるようにした簡素な旅装で、椅子に座りもせず帽子を手でおさえながら言った。『おちび、あなたも来るのよ。しばらく家のほうにいることになるわ』

 そのとき、むろんルイズは抗った。こんなときに無断で王都を離れていいとは思えなかったのである。

『陛下に……姫さまに申し訳がたたないではありませんか、姉さま! それに、ラ・ヴァリエール家の体面はどうなるんです』

『あんたがそんなことを気にしなくていいの! とにかく、お父さまは帰ってこいと言っているんですからね』

 叱りつけられても、ルイズはあとに退かなかった。
 彼女は幼いころの彼女ではなく、その心にいだく貴族としての理念は、彼女なりに成熟して固まりつつあった。

『いいえ、気にしないわけにはいきません! わたしはラ・ヴァリエール家の娘ですけど、王政府の臣下でもあるのですから。
 ……姉さまだってそうよ、お父さまだってそうでしょう? 国がこんな混乱にあるときこそ、お父さまは、トリステインの玉座に忠誠を誓ったすべての貴族の模範となるべきなのに!』

 正面から逆らわれて、エレオノールは驚いたようだった。これまで家内では、自分の前ですら萎縮しがちだった末の妹が、やや興奮ぎみとはいえ父公爵への批判を口にしたのである。
 怒ろうとして思いなおしたらしく、すこしの沈黙のあとで姉は抑えた声で妹をさとしはじめた。



175:白い姫とワルツを〈三・発火〉
09/01/12 14:15:23 sloRilb4

『ちびルイズ、あなただって大貴族の一員なんだからわかるでしょう。こんなときだからこそ、家長が判断したことにはあれこれ口をさしはさむべきじゃないのよ』

『納得できませんわ! いまでさえラ・ヴァリエール家が宮廷貴族たちになんと言われているかご存知でしょう!?
 帰るにしてもせめて姫さまに事情を話して、きちんと領地に帰る許可をいただいてでなければ、ますますわたしたちは……!』

『……それはしないわ。べつに帰郷のたびごとに直接、陛下の許可を得なければならないわけじゃないし』

 長姉は苦渋の表情でかぶりをふった。
 彼女はけっして言わなかったが、いまから思えば、父から来た指示の手紙に《引き止められぬよう宮廷人との余計な接触は避けて、すみやかに戻ってこい》くらいのことは書いてあったのかもしれない。

 そこから先は堂々めぐりとなり、折り合いがつくどころではなかった。
 エレオノールは最初こそ、彼女にはめずらしく温和にルイズを諭そうと試みていたが、けっきょく忍耐力が蒸発するまでそうはかからなかった。
 もともと高慢で激しやすい性格である。

『わたしが喜んでると思うの、ルイズ! ことあるごとにうしろ指をさされて何とも思わないわけがないじゃない、お腹のなかはあんたが想像できないくらい煮えくり返ってるわよ。
 けれどね、もう一度だけ言うけど、お父さまが決めたことなのよ! たぶんお母さまとも話しあってね。あの人たちがいろいろ考えなかったわけがないでしょう。
 大人が決めたことにあれこれ反発して危険に手をつっこもうとする馬鹿な子供よ、あんたは。あんたが少しは大きくなったことは認めてあげる、けどおあいにくさま、それでもまだ子供なのよ。
 黙ってわたしといっしょに帰ってきなさい!』

『いやです!』

『こ……この、頑固なちび!』

 いつしかたがいに興奮して声が大きくなりすぎていた。
 人がどんどん集まってくる気配にエレオノールははっとわれに返った様子で、ルイズの腕をとろうとした。
 引きずってでもつれて行こうとしたのだろうが、ルイズはつかまれる前にぱっととびのいてそれを避けた。
 その直後、戸口にアニエスがあらわれて一喝した。

『王宮内だぞ、なんの騒ぎだ!』

 エレオノールは開け放された部屋の入り口に立った銃士隊長をふりむいた。動揺がその後ろすがたから伝わった。
 彼女は一度だけ顔をもどしてルイズを見た。ルイズが固まったままでついてくる意思を見せないのを確認すると、その目に怒りのほかに悲しみがよぎった。
 それからエレオノールはぐいと婦人用帽子を目深にかぶって歩きだし、足早に戸口から出ていった。
 戸口のアニエスは、すれちがうときに彼女を引き止めようとしたらしかったが、ふと室内で唇をかみしめてうつむくルイズを見て、思いとどまったようだった。

『……姉君の身柄を拘束しておいたほうがいいか?』

 その問いに、ルイズは視線を落としたまま弱々しく首をふった……



176:白い姫とワルツを〈三・発火〉
09/01/12 14:15:44 sloRilb4

 ……―現在のアニエスの声が、ルイズを現実にひきもどした。

「フネが飛べなくなった空域を避けるとなると、やはり航路がゲルマニア側にはみ出てしまうな。
 いちおう同盟国だし、通行することをちゃんと伝えれば一隻くらいうるさく言われはすまいが、あちらも内乱状況なので注意が必要だろう。
 ところで、サイト?」

「あ、はい」

 ルイズと並んでぼうっと横に立っていた才人が、呼びかけられてアニエスに向いた。

「辛気くさい顔をしてどうしたんだ」

 それはルイズも気になっていたところだった。朝から少年はめずらしく、沈思の表情になっていたのである。
 心配を覚えたルイズは、長姉のことはひとまず頭のすみに押しやって声をかけた。

「サイト。なにか気にかかる事でもあるの?」

「いや、とくにどうってわけじゃないんだけど……うーん……
 アニエスさん、ルイズの護衛は俺でじゅうぶんじゃないんですか?」

「しかたあるまい、わたしは監視役もかねて付いているのだ。むろん建前だが。
 『使節団の代表をラ・ヴァリエール家の身内だけで構成するわけにはいかない、不安だ』と言いたてる輩が宮廷内にいないではないのだ。不愉快だろうが我慢してもらおう。
 いちおうわたしも近衛の隊長だ、公爵の前にでるのに身分に不足はない」

「でも、姫さまの護衛のほうは」

「なるほど、無理もない心配だな。だが問題はあるまい、マンティコア隊ががっちり固めている。しばらく陛下の護衛は銃士隊でなく、ほかの近衛隊にまかせることになりそうだ。
 われわれ銃士隊はおそらく、戦場近くに派遣されて任務をこなすことになる。メイジと違い、魔法断絶圏でも戦闘力が変わらない部隊だからな。
 そういうわけでよろしく頼むぞ」

 そう言ってアニエスは、出港の用意をしている水夫たちをさけて船首のほうへ歩いていった。
 才人はその後ろ姿を黙然と見送っている。その才人を見てルイズは、ちょっとむくれた。

「ふーん、あんたずっと姫さまのこと考えてたのね」

「え? ルイズ?」

 きょとんと見てくる才人に背を向ける。
 本来、アンリエッタが心配なのはルイズも同じである。傍から見て、あきらかにいまの女王は根のつめすぎと思えた。
 しかし、それはそれとして、才人がほかの少女のことを思案することには心おだやかではいられない。

「静かだったと思ったら、そういうことなんだ」



177:白い姫とワルツを〈三・発火〉
09/01/12 14:17:07 sloRilb4

 ただのやきもちだとうすうす知りながらも、ルイズは続けて言ってしまった。
 たぶん才人はむっとしてなにか言い返してくるだろう。喧嘩などしたいわけがないが、嫉妬の虫はどうも抑えられないのである。
 だがルイズの予測ははずれ、背後の才人から声がかかることはなかった。不安になり、彼女はふりむいて「怒ったの?」と訊いた。

 才人は首をふった。

「そうじゃねえよ、怒ってない。
 でも、いまはほんとに姫さまのことを考えてたわけじゃねえから。……いや、ある意味それも考えたかもだけど……」

 要領をえないことをもごもごと口中でつぶやいてから、ルイズの使い魔である少年はためらいがちに言った。

「なんだかわかんねえけど落ち着かない。ほんとにそれだけだ」

…………………………
………………
……

 その頭上。
 すみわたる青い空を背景に飛んできた緑の小鳥が、白い帆にとまり、きょろきょろ動く黒い目で甲板にうごく人々をながめはじめた。

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 昼時、魔法学院のすぐ近くの草原だった。
 使い魔召喚など野外授業にも使われる場所である。

 野をつらぬく道路には、数人の廷臣たちと多くの護衛がならんで待っていた。
 そのまえで、馬車をひいていたユニコーンが足を休め、車輪が回転をとめ、そして王家の馬車は止まった。
 なかから白よそおいの少女が下りてくる。

「お帰りなさい、陛下。マントノン公爵への説得はうまくいきましたようで、まずは喜ばしいかぎりです」

 マザリーニが、言葉ともに出迎えてきた。
 言祝ぎに対して、アンリエッタはふわふわした肩掛けを脱いで侍従に渡しつつやや不機嫌な声で応じた。

「説得などというものではありません。拍子抜けするくらいあっさりと応じてくれましたわ。
 書簡で詰問したときにはのらりくらりと逃げようとしていたのに」

 夜会から帰ってすぐ宰相にマントノン公爵のことを伝えようとした女王だったが、偶然にもその前に、マザリーニのほうからも同じ件を報告してきたのである。商人たちが訴え出てきていた。
 むろんまず書簡で叱責した。街道を通行する商人にむりやり物を買いとらせる行為は、即座にやめるよう命じた。

 それに帰ってきた返事は、文面だけはぎょうぎょうしく敬語をふんだんにつかいながらも、あいまいに言葉をぼかしてあるものだった。
 自分は公爵家の当主であり、トリステイン貴族でも高位にあるため、体面をたもつための出費が馬鹿にならない―そのような愚痴めいた言い訳が並んでいるだけである。
 それ以外には、反省はもとより、なんの中身もない文だった。

 その返事を見て、アンリエッタは怒りにかられたのだった。関税権を犯しておきながら、謝るでもなく、逆に大貴族であることを強調する。そこには、ことをうやむやにしてもらうつもりが透けて見えた。
 女王はみずからマントノン領を訪れることを決め、その日のうちに出立したのだった。
 彼女の姿を見たとたん、マントノン公はうろたえきって一も二もなく謝罪し、慈悲を求めてきたのである。



178:白い姫とワルツを〈三・発火〉
09/01/12 14:18:39 sloRilb4

 アンリエッタの後ろにつき従いながら、慇懃にマザリーニが評する。

「ふだん玉座から遠くはなれた自分の領地にいるときは大胆にふるまっていても、いざ王その人を眼前にすれば怖れにとらわれる。そんな領主はめずらしくないものです。
 ただ陛下、権威を利用するこうした手法はたしかに有効ですが、今後はあまり多用してはなりませんぞ。危険におちいることもありますから」

「うまくやりますわ。それより、なぜ魔法学院で待ち合わせなの? わたくしが王都にいてはだめなのかしら」

 アンリエッタの不機嫌の主因はそれだった。
 枢機卿のよこした急使によって、マントノン領から王都に帰ろうとした彼女は、予定していた帰路をまげて魔法学院に直行したのである。
 忙しいのである。無駄な手間をとらされたくはなかった。

「枢機卿、わざわざこちらへ呼んだのはなぜか説明していただけませんか。わたくしは王都に急いで帰りたいの。やらねばならない政務がたまっているのですよ」

「それです、陛下」

 主君のその質問を予期していた口ぶりでマザリーニは言った。

「しばし仕事から離れ、王都ではなくこちらに滞在してお休みください。学院長オスマン氏にはすでに話を通してあります。
 そのあいだ、政務はわたしが責任をもちましょう」

 息を呑み、アンリエッタは声を少し高めた。

「まってください、枢機卿。宮廷でも戦場でも臣下が駆け回っているのに、いまわたくし一人を休ませようというのですか」

「そうです、陛下にはご自愛いただきたい。これは侍従長ラ・ポルトも同意見です。この場に銃士隊長がいてもおそらく賛同を得られましょう。
 もちろん状況しだいです。心苦しいのですが、場合によってはまたすぐ陛下をわずらわせることになるでしょう」

「それでいいのです、休みなどいりませぬ。いまは働いていたいの、わたくしは。
 ……魔法学院にとどまっているなど」

 横をむいてトリステイン魔法学院の火の塔だか風の塔だかを一度見あげ、唇をかみしめてうつむく。
 血を流しているのは自分の王国なのだ。
 それに、頭を休めれば、ルイズ主従のことを考えてしまう。ましてここはあの二人がふだん生活している場所だった。考えたくなくてもいやでも思い出さざるをえない。
 戦ははやく終わらせたかったし、報われない想いはもう重かった。

 マザリーニが首を振った。

「臣の身にして不遜ではありますが、あとはわたしにお任せいただきたいと申し上げます。陛下は動かないでいただきたい」

「そんな、一方的すぎるわ。
 反乱鎮圧はこれからが肝心だとあなたは言っていたではありませんか。いまは都市ガンの攻略にかかっているのでしょう。
 兵士たちが命をかけて戦うというときに、かれらに命令を出したわたくしには休めと?」

 アンリエッタの抗議に、さらりと返ってきた答えは予想しなかったものだった。

「ご心配なく、緒戦はすでに終わりました。人は一人も死にませんでした。都市ガンは王軍に抵抗することなく城門を開いたのです」



179:白い姫とワルツを〈三・発火〉
09/01/12 14:19:02 sloRilb4

 女王はあっけにとられた顔でマザリーニを見た。
 説明をうながされる前に、宰相は弟子に対し口を開いた。

「ガンは反乱を起こした河川都市連合から離脱して、王政府がわについたのです。ほんの先刻、報せがとどきましてな。
 これで、もっとも近い水路と倉庫にいたる道の安全は確保できました。時間と兵、弾薬の節約になりましたな」

「それは……吉報ですわ、とびきりの吉報ですけれど……
 でも、あの、いきなりなぜ彼らはこっちについたのでしょう?」

「戦は見える軍の力と、見えない政治の力の双方で戦います。見えないほうを使ったまでです」

「順序だてて、細部まで話してください」

「ガンの代表が死んでいたことが大きかった。
 その男は、故ガヴローシュ侯がひきいていた最初の諸侯軍と遭遇し、戦死をとげています。かれはもともと河川都市連合の盟主である都市トライェクトゥムに対し、反感をあらわにしていたそうです。
 指導者が急に消えたばかりの組織というのはそれだけでも混乱しがちですが、ましてガン代表の死の状況にはいくつか怪しむべき『偶然』がありました」

 ガンの代表は、まとまった軍と戦うには少なすぎ、発見されやすい程度には大きい規模の護衛をともなっていたという。
 おそらくその護衛はトライェクトゥムから提供されたものだろうが、それで進軍する諸侯軍の前方をのこのこ横切ろうとしたというのは出来すぎていた。進路があらかじめ仕組まれていたのかもしれない。
 しかもその一団を発見し、彼を討ち取った諸侯軍の傭兵隊長は、そののち諸侯軍をすみやかに裏切って反乱軍に加わっている。
 最初から密約があったと考えてもおかしくはない。

「『都市連合内部で逆らってくる者が邪魔だ』というトライェクトゥムの意向によって、ガンの代表は謀殺された。そう人々がうたがえるだけの余地があります」

 説明を切って息をつき、マザリーニは締めくくりに入った。

「あんのじょう、ガンの市当局は内紛に突入していました。都市連合寄りの『都市派』と、われわれ寄りの『王党派』に分かれて、どちらに味方するべきか言い争っていたそうです。
 その情報がもたらされてすぐ、この枢機卿の名において使節を送り、『王軍がガンの城壁に砲弾を撃ちこむ前に、すみやかに降伏するならば』との条件で彼らに約束を与えておきました」

 約束とは、まず大逆の罪状を完全に赦免すること。
 それからトライェクトゥムにかわってガンが都市連合の領袖になる、と王政府が指名すること。ただし、王政府が完全に反乱を打倒できた場合にかぎる。
 甘い飴をちらつかせる一方で、マザリーニは武力と時間制限によって重圧をかけたのである。

「昨日夕刻、都市ガンの市当局は城門をひらいて王政府に降りました。
 彼らは軍資金や糧秣の提供などで積極的に王軍に協力するでしょう、いまやわれわれの勝利は彼らの利益と結びついたのですから」

 経緯の理解とともに、アンリエッタの心に喜びが追いついてきた。
 表情をかがやかせ、少女は思わず枢機卿の首に腕をまわして飛びついた。
 自分の娘のような年若い主君に親愛の抱擁をうけて、マザリーニの顔に苦笑があらわれる。

「陛下がいない間の勝手な判断を、どうかお許しください。
 彼らが動揺しているあいだに、機をのがさず迅速な手を打つ必要があると思いましたので」

「だれが責めるというの、枢機卿、あなたは最高よ!」

 そのまま宰相の手をとってダンスしかねないはしゃぎようのアンリエッタだったが、マザリーニに誇る様子はなかった。



180:白い姫とワルツを〈三・発火〉
09/01/12 14:19:23 sloRilb4

「じっさい難しいことではなかったのです。都市ガンは代表を暗殺されたとみてトライェクトゥムへ反感をいだいていました。
 そのうえ王軍の攻撃が真っ先に集中する以上、あの都市はどのみち陥落していたのです。ガン市当局のとれる賢明な行動は早期降伏のみでした。
 こちらはタイミングを見はからって、それをかれらに突きつけてやったにすぎません」

「いいえ、そうだとしても素晴らしいことですわ」

 ひとりの犠牲者もなく一つの都市を降すことができた。それはここ最近のうちでもっとも明るい知らせだった。
 それもただの無血勝利ではなく、いわば反乱都市に対する攻勢の拠点を手にいれたとみていい。
 弟子が体を離すと、枢機卿は僧服のしわを軽くのばしながら言った。

「これは第一歩にすぎません。さらなる効果を引き出すためには、ひきつづき手を打つ必要があります。
 われわれの軍が進んでいくのに先んじて、まずは都市ガンの周囲から、目に見えない力が反乱地域一帯に広がっていきます。人の心に作用する力です。
 雌伏している諸侯の心にも火はついたことでしょう。
 その火をさらに言葉であおり、炎と燃え上がらせましょう。うまく呼びかければ、反乱地域内の領主たちをいっせいに蜂起させることができます」

「でも、そんなにうまくいくのですか?
 魔法が使えなくなった地域の諸侯は、反乱軍に目をつけられまいとしているとの話だったではありませんか。
 かれらには王家への協力要請を断る口実もありますし」

 アンリエッタの心配はもっとものことだった。
 魔法断絶圏外でも、“王家の私戦には協力しない。中立を保つ”という名目で、じっさいに協力を拒む大貴族が続出していたのである。ラ・ヴァリエール家のように沈黙している諸侯も多かった。
 王家の私戦というのは河川都市連合が裏から宣伝していることだが、それの成果は着実にあがっていることになる。
 マザリーニは首をふった。

「勢いというものをガン攻略でわれわれはつかみかけています。なるべく冷静狡猾であろうとしても、人は勢いに押し流されがちなものです。
 戦わず沈黙していた諸侯のうち、今こそ王軍に呼応すべきではないかと考える者たちがかならず出てくるでしょう。
 もともと王軍を待っていた者、または王政府に忠義を見せておこうと計算する者、あるいはただ熱狂と王軍の威風にのせられた者、かれらは王軍支援にはしります」

 野にちらばる諸侯は生きのびるために身を伏せていても、けっして望んで反乱軍に屈服していたわけではない。
 トリステイン王政府が、繰り出した王軍の力をたしかな背景として呼びかければ、諸侯は時が来たと思うだろう。
 かれらを焚きつけ、ドミノを倒すように王政府になびかせるためには、今がまさに好機だった。

 魔法断絶圏内の領主たちを一斉蜂起させることに成功すれば効果は大きい。
 河川都市連合の市民軍は、突然そこかしこにひるがえる百合紋の旗に移動を邪魔され、四方八方をおびやかされ、うち払いながら必死で駆けずり回ることになる。
 これまでの記録を見れば、市民軍はたしかに強い。散らばって噛みついてくるひとつひとつの諸侯の軍を、各個に撃破するのは簡単だろう。
 だが、いまは王軍が参戦しているのだ。市民軍が諸侯の旗すべてを焼き尽くそうとしているあいだに、数で倍する王軍が肉薄していく。

 まして蜂起した諸侯すべてが、子や孫を殺されたガヴローシュ老公の戦い方をみならって、けっして正面からぶつからず小規模な襲撃をくりかえせば……

「成功すれば、諸侯に手間どる反乱軍を、王軍が野で追いつめていく戦いになるでしょう。
 河川都市連合は『水路を制した自分たちの軍に移動スピードの利がある』と計算しているでしょうから、そのスピードを殺ぐために地元諸侯に戦わせるのです。
 そして会議でも言ったとおり、王軍が反乱勢の野戦のための軍を壊滅したときに、われわれはかれらに勝利します。
 ただこの戦い方のためには、どれだけ多くの諸侯を王政府の忠実な手足にできるかが重要になります」

 軍役免除税をはらっても兵の供出を拒むという貴族が続出すれば、まずい事態である。
 いま説かれた戦略は、なるべく広い地域にわたって地元諸侯の兵をいちどきに動員できなければ失敗するのだ。



181:白い姫とワルツを〈三・発火〉
09/01/12 14:19:56 sloRilb4

(でも、こういった駆け引きなら、枢機卿のよく知った分野になるわ)

 マザリーニは政治力で勝つつもりなのだ、ということがアンリエッタにも理解できた。

「わかりましたわ。あなたの手腕をたのんだほうがよさそうですね。
 でも……やはりそんな重要なときに、わたくしのみは動くなとおっしゃられるのは釈然としませぬ」

「重ねて申しますが、休んでいただきたい。
 申し上げにくいのですが、この反乱の前後の事情で陛下は『貴族層に厳しい』というイメージを持たれてしまいました。
 実務の面で、一時的に陛下ではなくわたしが前面に出ていたほうが、彼らをより安心させるかもしれません。
 マントノン公のごとく明らかに国への害が大きい例なら罰してもやむをえませんが、本来ならいまはささいな不祥事を見逃してでも貴族たちの機嫌をとりむすぶべき時期なのです」

「……はい」

 厳しく押さえつけるような言葉に、アンリエッタはしゅんとうつむいた。
 ただ、萎縮させられはしても、マザリーニに対する反発は湧かない。
 もっともらしいことを言っていても、ほんとうはこの処置は、過労ぎみの自分を無理にでも休ませようという配慮だと気づいたのである。

…………………………
………………
……

 女王と宰相のいる場所から数百メイルほどへだたった、魔法学院内の一室。
 キュルケは長椅子の上で器用に寝返りをうった。

「ねえタバサ。二日も読み返してるけど、なんなのよそれ」

 腹ばいにねそべりながら、暖炉の前に椅子をおいて座っている青髪の少女に声をかける。
 タバサは誰かからの手紙を読んでいるのだった。
 じっくりと読み、文章の終わりまでくるとまた上のほうから読みかえす。ときどき視線が移動しなくなるのは、おそらく考えているのだろう。
 それにしても長かった。授業にも出ず、ずっと考えているようなのだ。

 ずいぶん煮詰まってるみたいね、と思いながらキュルケは軽く揺さぶってみた。

「あんた、ルイズたちについていきたかったんじゃないの?」

 才人のこともにおわせたつもりだったが、返答はなかった。
 ただタバサがわずかに身じろぎしたのが見えただけである。心は揺れたようだったが、彼女の視線は手紙から離れない。
 それでも、キュルケには読みとれた。手紙の内容をではない。タバサには、その手紙がそれだけ重要な意味を持っているということである。

 キュルケは問いかけるのをやめにした。話さないものを無理にききだす気はない。ただ、なにかの手紙のことはいちおう覚えておく。
 またごろりと仰向けにもどり、話題を転じた。

「どうなるのかしらね。うちの国は大貴族の反乱、こっちは平民の反乱。
 でもトリステインにはあの枢機卿猊下がいるか。それなりの手腕があるみたいだから、案外すぐにも反乱をおさめられるかもね」

 と、前ぶれなくタバサが手紙を火にくべた。
 軽く目を見ひらいたキュルケのところに、ぽつりとタバサのもらした声がとどいた。
 「智者がかならず勝つなら」眼鏡にうつる火がちらちら踊っている。「この世はずっと簡単になる」
 ととのった小さな顔はいつもの無表情だったが、わずかに苦悩の色と決意があった。



182:白い姫とワルツを〈三・発火〉
09/01/12 14:20:31 sloRilb4

\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\

「貴様らに給料は支払われない」

 トリステイン東南部のゲルマニア国境に近い山地地帯、大河から遠くない一盆地の村。白昼のことだった。
 彼ら襲撃者たちは何艘もの小船で川をさかのぼり、上流域の山地に分けいったのだった。
 マスケット銃や火縄銃、ピストル、短槍などで武装した服装もばらばらなこの一団は、岸に上陸してからすぐさまもっとも近い距離にあった村に踏みこんだのである。

 ただ働きを通告された共和主義者の義勇兵たちは、周囲の状況を受け入れたくないのか、石像のごとく固まっている。
 村の広場に密集して並ばされた二百人ほどの彼らを前にして、〈カラカル〉は「そのかわり」と続けた。

「トライェクトゥムの市参事会からは徴発権を……まあ、黙認された。
 貴様らは飢えずにすむ。―きちんと任務を果たしているかぎりはな。
 運がよければ、普通に給料を払われるだけの時よりずっと懐があたたまる。ほかにも楽しみはあるぞ、楽しもうと思うならいくらでも」

「任務?」

 おうむがえしに聞いたのは、最前列にいる若者だった。
 表情を完全に蒼白にして、視線を傭兵隊長だけにあて、周囲には向けようとしない。

「任務だ。非常に簡単だ、要は『残すな』、それだけだ」

 煙のにおいが傭兵隊長の背後からただよってくる。
 わら束と薪と油で火をつけられた教会の鐘の音が、リンドン、リンドンと叫ぶように響いている。
 本物の叫び声も家々の中や物陰からひっきりなしに起こり、良心ある者をさいなむ。
 村中へ警告するつもりだったのか鐘楼に上って鐘を鳴らしていた神父は、のどを短刀で掻き切られてとうに教会の前に投げ落とされていた。

 黒狼隊の大半とそれ以外の傭兵は、村中に散って駆け回り、「仕事」にかかっていた。
 粉引き場と小麦貯蔵庫と各家庭から、荷馬車に食料を移している者。畜舎に入って牛馬を斧で殺している者。
 絶え間ない殴打の音と悲鳴ともに「村内に金貨や銀食器をもっている家はあるのか? 上等な服は? 毛皮は、宝石は?」と尋ねる声。
 すでに嬉々として戸外に出て、奪った財貨や衣類を大きな布に包んでいる者。路上に転がって動かない村人のふところを念入りにまさぐっている者。

 〈カラカル〉の横で、広場の隅の井戸に腰かけて本を開いていた〈黒い女王〉が、ページをめくりながら朗読している。

「『昔ガリアの人、大地に向けて、“この世の災厄のうち、はなはだしいものは何ぞ”と問う。すると見るも恐ろしき怪物たち、こたえて地の底よりあらわれ出でたり。
 “われこそ〈罪業〉”と一匹が名乗る。“殺人、強盗、もろもろの罪咎、人のなすあらゆる悪行をつかさどる”と。
 〈火災〉〈疫病〉それにつぐ。〈飢餓〉が追いつき、押しのける。かれら大鎌をかざし“われわれは死なり”とこぞって叫ぶ。“多くの命を刈り取る”と。
 ガリアの王はこれらの怪物のはびこるを知り、すぐさま兵を出した。列なる災厄どよめきて、〈軍隊〉のまえに膝を折る。
 いわく“おお、汝こそわれらの領袖なり”と』」

 古書をぱたんと閉じ、つぶやく。

「この説話は、現実の軍の歴史そのままだな。
 ただ消費するだけの巨大な人間の群れが、物資や食料を吸いあげながら移動する。
 戦場や道端に打ち捨てられた死体は腐敗し、水を汚染し、疫病をもたらす。
 略奪、放火は黙認される。敵に対しては推奨される。敵国都市を陥落させたあと『略奪強姦は三日間に限る』と自軍をいましめれば、心優しい王の部類だ。
 これが輸送にあたってフネの力を存分に引きだせず、また国内各地に倉庫をもうけておく制度もなかった古い時代の、ハルケギニアの軍隊の姿だった」



183:白い姫とワルツを〈三・発火〉
09/01/12 14:21:08 sloRilb4

 目を開き、彼女は石だたみの上にすっと立ち上がった。

「〈カラカル〉、時代を逆行させてこい。
 おまえはこの連中を率いて、村々や町を食いつぶしつつ川下のほうへ戻ってこい。
 わたしはちょっと用事あって離れる。幻獣の騎兵を連れていくぞ、飛べるやつらを」

「なんだ、俺にこいつらの教育を押し付けるのか」

「とりあえず黒狼隊の一部、およびほかの傭兵どものすべてを引きつづき預けておく。
 おまえらと混じっているだけでも、素人どもの教育にはじゅうぶんだろう」

 そもそも農民相手の働きにたいした訓練は必要ない、本能のまま振る舞わせればいいだけだ―とひとりごちて、彼女は続ける。

「こいつらがおまえらに同化した時期をみはからって、残ってる共和主義者どもも追加で送りこむ。
 せいぜい新兵に反乱をおこされて殺されないように注意しろよ」

「いらん心配だ。
 戦闘員以外はどうする。従軍商人はともかくとして、社会にあぶれた屑どもまでそのうち寄ってきそうだが」

「黙認していい。流浪する人間の数が増えたほうが、収奪の規模が大きくなる。血を吸いつづけるヒルのようにこの『軍』をふくれあがらせて―」

「に、任務って……!」

 かぼそい声が彼らの会話をさえぎった。二人は頭をめぐらせてその声の主を見る。
 共和主義者たちのうち、最前列の若い男が思い切ったように顔を上げていた。勇気をこめてのどからふりしぼった声が出る。

「任務の具体的な内容って、い……家や畑に放火したり、食べるものや金を民から取り上げることなんですか」

 答えはない。が、冷ややかな沈黙のなかに否定は感じられなかった。
 何も言わない〈カラカル〉に向かい合って、若者は手に持たされた短槍を震えつつにぎりしめた。

「お……俺も農家の出です……戦う気持ちに偽りはありませんが、こんなのは……
 家はまたつくれます、さいわいに冬じゃないから今すぐ命にかかわったりは……でも農具が、この季節に農具をすべて燃やされてしまうと……農家にとって畑に必要な道具、それに牛馬やロバは命綱なんです。
 それに、それに、―王軍が進駐できないようにするためだけなら、村人を殺して服まで剥いだり、女子供に乱暴をはたらいたりする必要があるんでしょうか。
 俺たちが武器を向けたいのは王の軍隊であって、そこらで普通の生活をいとなむ民ではありません」

 若者が一息に言い終えたとき、前に踏みこんだ〈カラカル〉の腕が動いて騎兵用の湾曲した刃がかかげられ、しゃっと振り下ろされた。
 一呼吸のうちの早業に、若者が反応する暇もなかった。血しぶきを飛び散らせ、くずおれる死体の周囲で、悲鳴がおこって人の列が崩れる。
 抜き身のサーベルに血のりをべっとりつけて、傭兵隊長は横にいる黒狼隊の傭兵たちに声をかけた。



184:白い姫とワルツを〈三・発火〉
09/01/12 14:21:39 sloRilb4

「隊の司法官は今はカールだったか。不服従の罪で裁判、一名処断とでも記せ」

 同志の死をあまりに簡単に見せられ、恐怖に凍っている共和主義者たちに、狼の兜がふたたび向いた。

「命じられたことに余計な疑問をさしはさむ者、上官の命令にすみやかに従わない者、脱走や反逆を計画する者、すべて今のように処断する。
 今並んでいるのはちょうど二個中隊規模だからして……とりあえず後で黒狼隊から中隊長を二名選出しておく。あとのことはそいつらが取り仕切るから、貴様らはそれに従うように」

 〈カラカル〉のぼそぼそと事務的な声が、低いながらも無慈悲さをこめて響き、静まりかえった一同の上を流れていく。
 このとき、雰囲気を感じとった傭兵たちの多くが略奪狼藉の手を止め、ぞろぞろと路地に出てきている。
 周囲の家々の窓や路地から銃をかまえ、包囲を見せつける形で広場に向けていた。

 ほとんどが刃物か短槍しか持たされていない共和主義者たちは、たとえ気圧されて立ち尽くしていなかったとしても動けるものではなかった。
 反抗すればそれが虐殺に直結する状況では。

 そばで行われている一幕を完全に無視して、〈黒い女王〉は巨大な焚き火のそばへ歩みよっていく。教会正面の階段をあがる。
 常人ならば何メイルも離れてさえ、燃える教会のただならない熱量を肌で感じとれるだろう。教会は、外壁につみあげられたわらと、枯らした枝と、油によって火柱と化していた。
 燃えて崩れた正面扉、信じがたいほどの火の至近で彼女は立ちどまり、手にした本の黒い革表紙をちょっと撫でた。教会の書庫にあったその黒い革表紙の本は相当な年代物であったろう。
 それから彼女は無造作に、本を火に投げこんだ。

「おまえらは、始祖ブリミルに唾を吐け」

 教会に背を向けて兵たちに向きなおった少女の低い声は、諧謔の風味をまじえている。「麦を刈りとって、家畜を殺せ。行く先々で小づかい稼ぎにはげめ。奪えないものはのこらず焼け」
 火炎の黄金、赤、オレンジ、青―競演のように噴きあがる明るい火のなかで、一枚一枚本のページがめくれ、文字と価値ともに瞬時に灰となっていく。
 飛びちる火の粉を浴びながら彼女は微笑する。その身にまとった優麗な黒のドレスは、もつれる煙を後ろにしてより濃い陰影となっていた。

「邪悪のかぎりを尽くしてこい」

\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\

 王軍の行進する原野。
 羊雲のちらばる晴天の下、街道を本物の羊たちが追いたてられていく。
 変わっていることといえば、その羊群は長蛇の列をなす荷馬車や兵のあいだに混じっていることである。
 とりわけ大きな雄羊の一頭に、幼い男の子がしがみついて乗っていた。



185:白い姫とワルツを〈三・発火〉
09/01/12 14:22:26 sloRilb4

 それを指さしてギーシュは文句をつけた。

「おい、ありゃなんだね。行軍だぞ、なんで急に羊や幼児が加わってきたんだ」

 けっして模範的な優等生ではない彼でも、この光景にはさすがに突っこまずにはいられない。
 この新設軍で組織された輜重部隊を取りしきっているニコラが、のんびりと答えた。

「いましがた、この近所の貴族が持ってきたんですよ。ほら、あそこにいる男です。羊で遊んでるのはその末息子だそうで。ま、しばらくしたら父親といっしょに帰るでしょ。
 いいじゃないですか、羊の焼肉が食えますぜ。ニワトリもくれましたよ。
 それにしても増えたもんですな、すりよってくる領主が」

 かれの言うとおり、近隣の貴族たちがぞくぞくと王軍に接近してくるようになっていた。
 都市ガンが降伏し、王軍がその前を無傷で通過した日からである。

「いやあ、ガンの城壁に手間どらずにすんだのはありがてえ。
 枢機卿猊下のおかげでさ。鳥の骨とか悪く呼ばれてますが、たいしたもんで。
 知恵者の采配ってのはときに一軍にまさりますな」

 ニコラが急に上機嫌でマザリーニを褒めちぎりだしたのは焼肉の存在が大きいにちがいない、と思いながらも、ギーシュもそれに異論はなかった。
 時間も弾薬も人命ひとつもそこなうことなく最初の勝利をあげたあと、時をむだにせずトリステイン宮廷は王軍に指示を与えてきた。

 アンリエッタが印を押したマザリーニの回状を、王軍の進路周辺の領主たちにすぐさま届けよとのことである。

 そこで回状を持った騎兵が先発したのだったが、その日が終わる前にさっそく三人の領主から糧秣と金と人夫がとどけられてきた。
 それらの代金は戦後に支払われるのだろう。それは最低限確実として、ほかにマザリーニがどのような文をしるしたのかは知らないが、提供されてくる物資は引きもきらない。
 いまではこの近辺の詳細な地形図および道案内までつけられている。王軍の道中はすこぶる快適といってよい。

 ただ、本隊は先へ行ってしまい、荷馬車隊とともにあるギーシュの新設軍がそれらの提供物の整理をこなしている。
 行軍速度はさらに落ちていた。

「いいのかね、これ。領主たちが積極的に協力してくれるのはいいが、生きた家畜まで持ちこんでこられたらさすがに軍内が雑然としすぎだ。
 この補給部隊、ますます足が落ちてるぞ。ただでさえ父上の本隊にだいぶ遅れてしまったのに」

「まあ今のうちならさほど気にしなくとも大丈夫でしょうぜ。補給部隊の足が遅いのはいまにはじまったことじゃありませんやね。
 本隊はちょっと行ったあたりで追いつくのを待ってるのが通例です」

「ちょっとか? だいぶ離されたようなんだが」

「お父上は街道のこの先にある倉庫をさっさとおさえときたいんでしょ。この荷馬車隊がすぐに追いつかなくても、倉庫の備蓄で本隊をやしなえばいいですし。
 隊長どの、なにか懸念があるんで?」

「……あれだ、行軍で孤立してる補給部隊って敵に狙われやすいんじゃないのか。そう教えられたことがあるぞ」

「いやいや大げさでさ。こんなヘボ部隊ですがいちおう護衛がついてますし、本格的に攻められないかぎり大丈夫ですよ。それに周囲の諸侯は王政府寄りですぜ。反乱軍が接近してきたら報告がきますよ。
 で、本隊が先行してるったって、互いに孤立してるというほどの距離じゃねえです。半日あれば全軍合流できますし。
 だいいち、反乱軍はいまのところ王軍に近づくつもりはないでしょうぜ。おそらくですが」



186:白い姫とワルツを〈三・発火〉
09/01/12 14:23:26 sloRilb4

 微妙に心細げなギーシュを安心させようとしてか、ニコラは流ちょうに説明しはじめた。
 市民軍は、王軍に数で劣るのだから、原野での正面からのぶつかりあいはなるべく避けようとするだろう。有利な地形に陣地をきずいて王軍を待つつもりかもしれない。
 王軍が市民軍を無視して反乱都市を包囲すれば、かれらは王軍の後背をおびやかすつもりだろう。都市のほうは要塞と化しているため、ちょっと王軍に包囲されたくらいですぐ落ちはしない。
 王軍が本腰をいれて反乱軍をおいつめようとするなら、時間がかかるかもしれない。あちらのほうが移動スピードがはやいのだ。

 「つまり、持久戦にもちこむことが反乱軍の狙いじゃないですかね。王軍の狙いが短期決戦なのとは逆で」とニコラは述べた。
 思いあたるところがあってギーシュもうなずく。

「そういえば父上も『反乱勢は時間をかせぐ策に出るかもしれぬ』と言ってたな。
 なんだ、じゃすぐに敵とまみえることもないわけか。しかし逃げまわって時間かせぎしたからってどうなるんだろうな」

「そうですな。時間かせぎの意味ですか……金が尽きるのはどっちが先か、という我慢くらべじゃねえですかね。
 王軍の傭兵に払われてる給料が尽きるのを待つとか」

 ニコラのさらりとした言葉のなかに底冷えのするものがある。ギーシュはつい固唾を呑んだ。

「給料?」

「戦争じゃときどきあるんですよ、払われるはずの給料がとどこおるって事態が。
 雇ってもらってなんですが、勘弁してほしいですよ。戦場で金がなくなったってのは、弾がなくなったときより危ない。
 場合によっちゃ命にかかわります。ほんとに」

「え、そこまでのことか」

「飢え死にの危険ですよ。ずっとうしろのほう見えます? パンやワインを売ろうって商人たちがついてきてるでしょ。
 連中のおかげで兵は補給が足りないときも食いつなげますがね、それだって手元にパンを買うための現金あってのことでさ。
 そして、軍の公式な補給なんて、フネなしだとちょちょ切れになるのがあたりまえです。この荷馬車隊につんだ食料だって、一見多く見えますが、そんなに長く持ちやしませんぜ」

 歴戦の傭兵は乾いた口調だった。

「お父上が倉庫の備蓄をはやく確保したがってるのも、しごくもっとものことでさ。
 そんなわけですから、このまんまフネが使えず、金も払えなくなったら王軍もやばいですぜ。もし飢えが広がれば軍内で反乱すら起きかねねえ。
 ……なりふり構わなければ、また別のやりようもあるんですがね。いまは地元に『自発的にご協力』いただいてますが、いざとなればこっちのほうから押しかけてちょっと借り……」

 そこまで言ってニコラは、引き気味に沈黙したギーシュの様子に気がついたらしく話題をもどした。

「まあ、とにかく、逃げる反乱軍をどうやって追いつめるかが当面の問題ってことで。
 その点でも、なんとか地元の諸侯をもういちど動かそうという枢機卿猊下のやり方は、なかなかいいとこついてますぜ。
 諸侯の軍は、それだけ見れば役に立たない。兵も装備も弱いうえ、兵力があちこちに薄く広く散らばっちまってる。けど王軍に呼応するんなら、奴らにも使いようはあります」

「あ、そうだな。かれらが反乱軍の足を止めてくれるだけでも大助かりってことか」

 金が尽きたばあいの話が深まらなかったことに、ギーシュはほっとした。
 なにしろ、最終的にいきつくところは王軍による現地からの略奪だと示唆されたのである。あまり考えたくなかった。

(だが、いつまでも考えないわけにはいくまいね。
 もしずるずる時間がかかったあげくそんな事態になれば、やはりまずいだろうなあ)

 いま地元の領主や民から王政府によせられている好感は確実に下がる。
 地元諸侯をあおりたてて利用し、河川都市連合の市民軍を追いつめたあとで一気に決戦にもちこむというマザリーニの戦略も、そこにいたれば破綻しかねない。
 金が潤沢にあるうえ市民兵が主体の反乱勢は、くらべれば長期間耐えきることができるのだ。そうさせないために、マザリーニは諸侯の説得を急いでいるのだろう。



187:白い姫とワルツを〈三・発火〉
09/01/12 14:24:53 sloRilb4

(でもなあ。ほんとうに時間との勝負ってだけなのかな。都市の反乱した平民たちが考えているのはほんとうにそれだけなのかね)

 おかしなことに、敵の意図をそう結論してしまうのはどうしても気に入らなかった。
 論理が納得できなかったわけではない。ただひどく気に入らないという思いがあるのだ。
 それがなぜなのか考えてみる前に、横からニコラのいぶかる声が聞こえた。

「なんだありゃあ、いきなり来たぞ」

 顔をあげたとき、ギーシュにも見えた。
 街道を少しそれたところで、兵たちがざわめいて輪をつくっていた。輪の中心には、呼吸の荒い竜をかたわらに一人の竜騎士がいる。
 どう見ても、大急ぎで飛んできた伝令だった。

 馬を軽く走らせて、ギーシュは竜騎士の近くに寄った。

「やあご苦労。本隊のほうからかね」

 ギーシュの挨拶に、その竜騎士は肩を上下させながら「はい、そうです、そう」とあえぎ気味に答えた。
 かと思うと、わずかの間に呼吸をどうにか静め、彼は一息に言ってきた。

「この先によこたわる水路にかかった橋ですが、グラモン元帥の本隊がとおりすぎたあと、反乱勢によって破壊されてしまいました。
 あなたがたの部隊と本隊は切りはなされた状態です。一刻も早く橋を復旧させてください」

(あれ、いきなり雲行きがあやしいんだが)

 竜騎士の報告に、ギーシュの心に不安がきざした。その横でニコラがあわただしく詰問しはじめる。

「おいおい、どういうことだ。あんたらが見張ってたってえのに、こんな近くまで敵の工作部隊を近づけたんですかい?
 軍への直接襲撃じゃないにしても、こりゃ見おとしたじゃすみませんぜ」

「いえ、それとわかる形で敵の部隊が接近してきたのならば見おとさなかったのですが……
 橋を破壊したやつは、土地の住民に偽装していたのです。本隊が橋を通りすぎたあと、樽(タル)につめた爆薬を小舟で橋の下にはこんできて爆発させたしだいです」

「おいおい、貴族同士の戦いじゃあるまいし『正々堂々』と戦ってくれるわけがねえだろう」

 ニコラがうなり声をあげて呪いの言葉を吐きすてた。とはいえあまり強く言わなかったのは、さっきまで自分もつい気を抜いていたからかもしれない。
 ギーシュは声をついうわずらせた。

「ど、どうしたものだろう、ニコラ軍そ……でなくて、大隊長。兵だけなら水路を横ぎって向こう岸にわたれるとしても、砲や荷馬車はむりだぞ」

「そんなうろたえるこたありませんや、橋は工兵ですぐ復旧させられます。手際よくやれば一日もかかりやしません。
 水路の向こう岸で待ってるだろうお父上の本隊と、すぐに合流できまさ。
 しかしなんだってこんなとこで橋を破壊しにきやがったんだ? 行軍をちまちま足止めする気かねえ。だが時間かせぎにしてはどこか妙だ」

 首をかしげるニコラに対し、竜騎士がもどかしそうに焦った声で言った。

「意図はそのままでしょう。この部隊と本隊を分断することです」

 片眉をあげて、ニコラが竜騎士に言い返した。

「ですからね、たしかに分断されましたが、こんなとこで分断する意味はなんなんだってことですよ。まだ反乱地域にちょっと踏みこんだばかりなんですぜ。
 市民軍が近くにいるわけでもなし、分断されたっても一日あれば本隊と合流が―」

 竜騎士が強く首をふった。酸っぱいにおいのする汗が飛び散った。
 ギーシュはこのときはじめてまともに、かれの目を正面から見た。
 疲労とそれをはるかに上まわる恐慌があった。「いいえ―いいえ、違うんですよ、それが」毛細血管が浮きあがって奇妙に赤く……つまり目が血走っていた。

「敵の本隊も来ました、来たんです、もうすぐこちらの近くに来ます、総勢五千の市民軍が。
 逃げまわるどころか王軍めがけてまっしぐらに突き進んできていました。
 まちがいなく最初から会戦をいどむ気だったと思われます」

188:ボルボX
09/01/12 14:31:45 sloRilb4
つぎも引き続きシリアスを投下するつもりです。
でも、もしかしたら初のルイズエロになるかもしれません。

新年あけましておめでとうございます。

189:名無しさん@ピンキー
09/01/12 14:57:36 fEDvSFaN
ボルボ氏キタコレ(;゚∀゚)=3

190:名無しさん@ピンキー
09/01/12 15:09:09 dmdFpucS
>>166
けれどまで読んだ
あと飛ばした

191:名無しさん@ピンキー
09/01/12 15:09:20 DVXe6l0w
久しぶりにボルボ氏の読み応えのあるやつキター
GJ!
毎回楽しみにしてます

192:名無しさん@ピンキー
09/01/12 17:16:29 Mn6/TcEN
>>188
乙です。
タバサとキュルケも来たー!

193:名無しさん@ピンキー
09/01/12 17:37:55 VAHYarV+
エロパロ板なのにエロ無しとか

194:名無しさん@ピンキー
09/01/12 17:40:22 9k+WDw63
>>193
なんだ?このスレは初めてか?
ケツの力抜けよ

195:名無しさん@ピンキー
09/01/12 21:52:03 cTILlkOX
>193
エロパロだろうがなんだろうが面白ければ良いんだ
エロ読みたいなら保管庫いってこい
ボルボ氏の濃厚なのあるから

ボルボ氏 GJ!

196:名無しさん@ピンキー
09/01/12 22:14:36 Id+kOmqC
ちょっとだけ小腹がすいたな、と思ったら満漢全席を三日三晩かけてご馳走される
それがボルボ師匠クオリティ

半端ねえわ
俺、師匠のことはヤマグチノボルと同じくらい好きだ

197:名無しさん@ピンキー
09/01/12 23:35:04 6AA1lyi6
少々タイミングを遅いかもしれませんがボルボ氏 GJ!
相変わらず量と質が凄いですね

198:名無しさん@ピンキー
09/01/13 00:13:48 i72SaTB6
長いだけでつまんねぇ

199:名無しさん@ピンキー
09/01/13 00:54:04 7EpdNFaZ
>>164
まさにそれだ、ありがとう

200:名無しさん@ピンキー
09/01/13 01:06:24 tHf5k3Sx
もしかしたら
ギーシュ軍に近づいているのは
実は黒アン様の黒狼隊が肥大化した軍なのかなぁ・・・

黒アン様の狙いがさっぱりわからんがw

201:名無しさん@ピンキー
09/01/13 01:58:04 Cbo1wtlW
エロ以外全く興味ねえよ

202:名無しさん@ピンキー
09/01/13 02:00:24 xJL/R+dR
紳士は黙ってスルーするー

203:名無しさん@ピンキー
09/01/13 13:17:27 qeDEjEVn
そろそろ姫さまの牝おち○ちん虐めたい

204:名無しさん@ピンキー
09/01/13 17:08:35 gQQC0q4J
>>203
俺も俺も


205:名無しさん@ピンキー
09/01/13 19:50:42 4c89zRlP
>>203
俺も俺も

206:名無しさん@ピンキー
09/01/13 23:23:37 twv+1L/w
今更ながら気付いたが、『ボルボX』氏の名前の由来は
ミジンコに食べられるボルボックスなんだねぇ。

それはそうとボルボックス氏GJでした~

207:名無しさん@ピンキー
09/01/13 23:30:05 BAte7l0H
>>206
初めて気付いた。なるほど・・・。
あとボルボックス氏あけおめw

208:名無しさん@ピンキー
09/01/13 23:30:51 mEaacwv8
ずっとボルボエックスと読んでたオレ orz

209:名無しさん@ピンキー
09/01/14 00:38:04 GPu5+h0e
「え? いや、普通にボルボエックスなんスけど…(汗」とゆうコメントが本人から来る可能性もあるぜw

210:名無しさん@ピンキー
09/01/14 01:04:17 qN2MPNqp
表記の発音はどっちでも好きに読めばいいじゃないw
発音しようのないトリをコテハンにしてる作家もいるし。

俺は205氏をにひゃくご氏と読んでるけど、ヌィーマリィーゴ氏と読んでる人もいるだろう。
そんくらいの違いしかないさ。

211:名無しさん@ピンキー
09/01/14 01:34:46 F0YFegXP
そういえば205氏みかけないな。猛烈に寂しい。不幸せな友人達はマジ泣きしたぜ

212:X42
09/01/14 01:39:08 EuVA6GBE
お待たせした。前回のつづき投下します。
>>128 風邪ひいてないか?
ボルボX氏 GJ
これはギーシュが父、兄を助けて男を上げるフラグだと期待してます。
それにしても私の拙い小ネタまで見ているとは正直驚きました。
改めておわび申し上げます。

213:16巻への願望
09/01/14 01:40:05 EuVA6GBE
才人は、アニエスに貴賓室に押し込まれた。その際アニエスはデルフリンガーを
取り上げることを忘れなかった。

 流石にハルケギニア一の大国の貴賓室であった。部屋の広さは勿論の事、家具から
 調度品、小物全てに超一級品が惜しげもなく使われていた。それこそこの部屋で、城が
 一つ建つ程の金額が使われていた。
 警備の面でも万全であった。部屋の周囲には魔法探知装置を始め、警報装置の類が
 多数備え付けられ、壁は物凄く分厚い上、スクウェアメイジの硬化や固定化の魔法が
 掛けられている。階下の中庭には花壇騎士団が24時間(?)態勢で警護に当っている。
 ここを突破できる者は、想定外の者達だけであろう。

 才人が部屋の中に進むとアンリエッタが窓際に物憂げに佇んでいて、入って来た才人
に気付かずに外の景色をぼんやりと眺めていた。
才人は、声を掛けて良いものかどうか迷ったが、意を決して声を掛けた。

「姫様、大丈夫?」
 アンリエッタは驚いた。今の今まで才人が近くにいる事を気付かなかった為だが、無論
 それだけでは無い。才人の事を考えていたからだ。その本人が目の前にいる。
アンリエッタの心に様々な感情が湧きあがる。喜び、嫉妬、甘え、悲しみ…無数の感情
が心を埋め尽くして行く。
それでもアンリエッタは、女王の顔を崩さずに答えた。

「大丈夫ですよ、サイト殿。少し疲れが出たのかも知れません。心配掛けましたわね」
「それなら良いんですが…余り無理しないで下さいよ。姫様毎日激務の上、聖戦で更に
 忙しさが増したじゃないですか。今はひと段落ついたんですから、ゆっくり休んで
下さい。姫様の代わりは居ないんですから」
「有難うサイト殿。ところでどうしてここに?」
「アニエスさんに連れてこられたんですよ。姫様を慰めろって」
「えっ?アニエスが…他には何か言ってましたか?」
「えっと『鈍感の朴念仁が…周りを良く見ろ。そうすれば陛下の変化に気付いたろうに』
 とか言われましたね。後『姫様の気が済むまで部屋を出る事は許さん』とか言ってた
 ような…まあ姫様大丈夫なようだから俺失礼しますね」
 そう言って才人はドアの方に向き直った。その瞬間アンリエッタから声が掛った。

「待って下さい。サイト殿」
(アニエスは、私の想いに気付いたのね…いいえ、違いますわね。彼女は以前から私の


214:16巻への願望
09/01/14 01:40:56 EuVA6GBE
想いに気付いていたと見るべきね。でなければ先程の発言は出来ませんものね…感謝し
 ます、アニエス。貴女の好意有難く受けさせて頂きますわね)

「何すか?姫様」
 才人が振り返るとアンリエッタは、ロックを掛け更にサイレントを掛けた。
「えっ?如何したんです?姫様…一体何を…」
 そこまで才人が口にするとアンリエッタが抱きついて来た。
「ちょっ…姫様。ホントに如何…」
 才人はその先を言えなかった。アンリエッタが己の唇で才人の唇を塞いだからだ。
 そのままアンリエッタは、才人に体を預けてベットに押し倒した。

 アンリエッタは、そのまま己の舌を才人の口に割り込ませ、才人の舌に絡ませた。
 才人は、アンリエッタを離そうと肩を掴んだがすぐさま払いのけられ、更に濃厚に舌を
 絡ませて来た。
 どうも抵抗すればするほど口撃が厳しくなるようなので、仕方なく才人はアンリエッタ
 の気の済むまでキスを受け入れる事にした。

 どれ程の時間が過ぎただろう?5分?10分?もしかしたら未だ1分も経っていないかも
知れないが、才人にはとてつもなく長く感じられた。それでもなおアンリエッタは、唇
を離さず貪り続けた。

暫くしてアンリエッタは、才人の唇から離れたが才人の顔をなぞりながら吸っては舐め、
吸っては舐めを繰り返しながら、やがて才人の耳を甘噛みした。

「ひ、姫様。一体如何したんです?」
 才人はアンリエッタの口撃を受けながら問いかけた。

「貴方に慰めて欲しいのですよ。きっと貴方の事だから言葉でしか慰めてはくれないで
しょう。ですからこうしているのです。尤もそれは建前です。本音は嫉妬したのです。
シャルロット殿が、貴方に忠誠を誓った時、すぐには分かりませんでしたが嫉妬して
しまったのです。
それを抑え込もうとしたら気付かぬうちに泣いておりました。その時はっきりと
分かったのです。私は貴方が好きなのです。一人の男性として愛しております。
気の迷いでも何でもありません。心の底から貴方を愛しているのです。
貴方にはルイズがいる。それは分かっております。痛い程苦しい程分かっております。


215:16巻への願望
09/01/14 01:41:33 EuVA6GBE
ですが、もう止められぬのです。私の想いはもう止める事は出来ないのです。
はしたない女と思われようとも、もう後戻りは出来ぬのです。
貴方にルイズを忘れろなどと申しませぬ。私を貴方の愛人でも構いませぬ。
それに貴方は他にも私の様に女心を捉えてしまってますわね。
私もその中の一人として扱って構いませぬ。ですから貴方の愛を私にもお与えください
まし。たとえそれがルイズの半分であろうとも構いませぬ。ですから…ですからお願い
致しますわ。女王ではなく、一人の女として…貴方の愛をお与えくださいまし」
アンリエッタは、溜めこんだ思いのたけをぶちまけた。

「ひ、姫様。何言ってんすか。貴女は女王様なんですよ!俺みたいなのとは全然釣り合わないすっよ。とにかく落ち着いて冷静になって下さい」
(ピキッ)
(??今何か変な音が…)
「アン」
「へっ?」

「アンと呼ぶようあの時申し上げた筈ですわ。これからは何時いかなる時、何処であろう
 ともアンと呼ぶ事を命じますわ。例え王宮であろうとも」
「何無茶苦茶言ってんすか!俺は姫様の夫でも恋人でも無いんですよ!そんな事したら
 どんな誤解受けるか分かったもんじゃ無いですよ。俺はあの王子様じゃ無いんですよ。
 あの人の代わりなんか出来っこないですよ」
 そう言った瞬間、空気が凍結した。伝説級鈍感男才人でもはっきり分かった。
(マズい。非常にマズいぞ。地雷を…それも核地雷級を踏んじまった)

 アンリエッタの体から表現不能のオーラが立ち昇った。
「サイト殿、ウェールズ様が最後に私に誓わせた言葉を覚えていらっしゃいますか?」
「え?えっと確か『僕を忘れて他の男を愛する』とか言ってたような」
「その通りですわ。その誓いを果たす時が遂にやって来ましたわ」
 アンリエッタは、そう言うとシルクのドレスを脱ぎ捨て、ついでショーツも脱ぎ捨てた。
 才人の眼前には一糸纏わぬ生まれたままの姿のアンリエッタが初夏の陽光に照らされ、
 妖しく光り輝いていた。
 まるでその肢体から媚薬か魅惑の魔法が発せられてるかのようであった。

「さっきも姫様と仰いましたわね。アンと呼ぶよう言ったばかりですのに。その罰として
 一切の抵抗を許しません。貴方には私の初めてを貰って頂きますわ。いいですわね」


216:16巻への願望
09/01/14 01:42:14 EuVA6GBE
「それってつまり…」
「勿論男女の秘め事に決まってますわ。サイト殿は初めて?」
「当たり前です。そりゃあルイズと一緒に暮らして、いよいよって感じになった事はあり
 ます。けどそこまでなんですよね。まるで神様が邪魔しているみたいに…それよりも
 思い留まりませんか?それやったら正真正銘後戻り出来ないすから」

「何を申されても無駄ですわ。もう口論は此処までに致しましょ。時間も余り無いで
しょうし。サイト殿お覚悟を」
そう言ってアンリエッタは、才人のパーカーを脱がし、すぐさまズボンとパンツを同時
に降ろした。

「ひ、じゃない…アン。思い…」
 続きは言えなかった。再びアンリエッタに唇を塞がれたからだ。再び濃厚なディープ
 キスを行った後、アンリエッタは唇を首に移動し、そこから下にキスマークを遠慮なく
 付けまくって行った。一体幾つのキスマークを付けるつもりなのだろう?
 才人の前面にキスマークが付いて無い所を探すのが大変な程になるくらい付けまくって
 漸く唇を離した。そして白魚のような指先を才人の体に触れるか触れないかギリギリの
 所で全身を隈なく愛撫していった。サイトは体に電撃を受けた感じになっていた。
 アンリエッタはキスマークを付けていた時、同時に胸が擦られ、彼女の乳首はツンと
固く自己主張をしていた。
次にアンリエッタは、女王胸を才人の顔に押し付け、顔面パイズリを行った。
「サイト殿、揉んで吸って下さいまし。私に女の悦びを…」

 才人とて健全な18歳の男である。理性をフルに発揮して耐えていたが、既に限界を迎え
 ていた。もしここでアンリエッタの胸を味わってしまったら内に眠る野獣が理性を消し
飛ばし、貪り合ってしまうだろう。最悪の事態は避けなければ…しかしアンリエッタは、
すかさず右胸の乳首を才人の口の中に押し込んだ。
「サイト殿、遠慮は無用ですわ。お願いですから理性をかなぐり捨てて下さいまし」
 才人の中で何かのスイッチが入り、アンリエッタの胸を揉みまくり、乳首を吸って
 甘噛みを行った。

「アッ…サイト殿。漸く私を受け入れて下さいますのね。身体が打ち震えますわ」
 才人は、胸を揉みしごいた後、手を下半身の方に動かし、桃尻を揉みまくった。
 その後二人は体勢を入れ替え、才人がアンリエッタの胸から肢体に唇を這わせながら
 女性器の所までやって来た。


217:16巻への願望
09/01/14 01:42:53 EuVA6GBE
 誰にも侵された事の無いその場所は、今か今かと待ち望んでいるかのようであった。
 才人がクリトリスに触れるとビクンとアンリエッタの身体が反応し、口から喘ぎ声が
 漏れた。優しく撫でまわしているとその豆は徐々に肥大化した。そして才人は、その皮
 をめくり、クンニを行った。
「アッ…アー、アアアアアアアッ…イッ…イッてしまいます。サイト殿…もっと…もっと
 お願いいたしますわ。アアアアアアアッ…そうですわ。それをもっと…アアアアアアッ」

 アンリエッタは、初めて感じる快感に悶え喜んだ。アンリエッタの秘穴からは、
ねっとりとした愛液が滴り落ち、その匂いが才人の野生に更に火を付けた。
才人は、秘穴に指を侵入させ膣壁を刺激しまくった。その度にアンリエッタの身体は
敏感に反応し、艶めかし喘ぎ声と共に悶えまくった。
そしてGスポットと呼ばれる部分を才人が無意識に刺激した時「ア――――」
と一段と大きな喘ぎ声を出し、アンリエッタは、潮を吹いて絶頂を迎えた。

「サイト殿、お慈悲です。もう入れて下さいまし。もう私は待ちきれませぬ」
 アンリエッタの身体は、とっくに準備万端となっていた。無論才人も…

「最後に聞きますが…」
「もう何も仰らないで下さい。私が決めた事です。後悔など死んでも致しませぬ」
「分かりました。いきますよ」

そう言って才人は、亀頭でクリトリスを刺激した後、秘穴にゆっくりと挿入して行った。
そしてそのままアンリエッタの処女膜を突き破った。
「ア―∸―――――――――――――――――ッ」
 アンリエッタ自身初めて味わう激痛であった。しかしそれ以上に才人と結ばれた歓喜が
 大きくそれを上回っていた。

「大丈夫?ひっ…アン。痛いなら抜くけど…」
「大丈夫ですわ。確かにとても痛かったけれど…もう平気ですわ。さあ遠慮なく動いて
下さい。例えこの場で死ぬ事になっても思い残すことが無い位の悦びをお与えください」

「それじゃあ」
 才人はまず正常位でゆっくりピストン運動を行った。明らかにまだ痛みを感じているの
 が分かるので、無理はすべきじゃないと判断したのだ。
 才人は、亀頭を膣壁の上、下、右、左、となぞる様に突き込んで最後に「の」の字を


218:16巻への願望
09/01/14 01:43:31 EuVA6GBE
書くように腰を回した。才人は、アンリエッタの痛みが治まるまで何回かそれらを繰り
返した。その度にアンリエッタから艶めかしい喘ぎ声が漏れ続けた。
ヌチャヌチャ、ズップズップと結合部から合体行為音が聞こえ、「ンー、ンアッ、アッ」
と絶え間ない喘ぎ声にそろそろ大丈夫と判断した才人は、ピストン速度を速め、子宮口
 を叩きまくった。

「アッーーーーー、お、膣奥に、膣奥にコンコンきます…アアッもっと、もっと突いて下
さい…壊れる程…突きまくって…アアッ、イ、イクッ、イクーーーー」
アンリエッタは、オーガズムに達した。呼吸が激しく乱れ、全身しっとりと汗ばん
でいた。
そして才人は、アンリエッタを抱き上げ座位に体位を変えた。
アンリエッタは、再びディープキスを行い、才人は、アンリエッタの胸を揉みながら
下から突き上げた。
お互いの唇を貪った後、才人は、後ろに倒れて騎乗位に体位を変え今まで以上に下から
突き上げ、アンリエッタは、本能の赴くまま激しく腰を前後にグランドインさせ、快感
を味わいまくった。

「アッ、アッ…サイト殿…キテおります…キテおりますわ…」
 アンリエッタは、全身を震わせながら、なおもグランドイン激しくする。

「ア、 アン…俺…もう…ガマン出来ねぇ…降りてくれ…このままじゃ…」
「構いませぬ…このまま…サイト殿の…子種を出して下さい…これでやや子が授かれれば
 私にとって至福ですわ」
「それマズいって…結婚もしてないのに…妊娠したら…」
「その時は…私の全てで…貴方とやや子を守りますわ…心配要りませぬ…ですから…この
 まま…お互い…絶頂を…」
「分かったよ…じゃあ…イキますよ」
「きて…ください…」
 才人は、全力で腰を突き上げ、アンリエッタの膣奥に盛大に放出した。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ…膣奥が…熱い…サイト殿が…
 いっぱい…」

 アンリエッタは、才人に倒れ込み、気を失った。
 才人は、アンリエッタの髪や背中を撫でながらもの想いに耽っていた。
「出してって言われて出しちまったが…やっぱマズいよな…それにルイズがこの事
知ったら俺殺されるな…こじんまりした家買って一緒に住もうって言ったけど…
これだと最悪王宮住まいになっちまうな…」

そんな事を考えていた才人であったが、やはり無理が出て、アンリエッタを抱きしめ
ながらいつの間にか眠ってしまった。


219:X42
09/01/14 01:47:57 EuVA6GBE
今日は此処までです。
カトレアか…シリーズ物の方で帰国後ヴァリエール家に行くイベントがあるが
少し変えて「カトレアさんか…何もかも皆素晴らしい」と才人に発言させる
イベント追加しちゃおうかな。


220:名無しさん@ピンキー
09/01/14 03:31:20 F7wgzom+
アン様スキーとして言わせて貰う



GJ

221:名無しさん@ピンキー
09/01/14 08:27:18 PdWR/+XA
糞つまんね

222:名無しさん@ピンキー
09/01/14 10:52:25 qN2MPNqp
GJ!

223:名無しさん@ピンキー
09/01/14 13:23:05 sT2ELbcG
GJだぜ☆

224:名無しさん@ピンキー
09/01/14 13:47:22 A9Ocn7Rw
だがボルボが書くものは
ひどい…

225:名無しさん@ピンキー
09/01/14 23:25:04 rFLyKtKG
ボルボ氏の物を嫌ってるやつは
単に長文だからとか、エロがないからとか、
そんな下らない理由である気がしてならない

>X42氏
乙であります

226:名無しさん@ピンキー
09/01/15 01:08:23 6+/qb3OX
X42氏 乙でした 
>>225
それ以前に気に食わないならスルーが出来ない時点で文句を言っている連中
のレベルが知れるわな 

227:名無しさん@ピンキー
09/01/15 01:16:06 hEo2SCHv
>>226
日本語でおk?

228:名無しさん@ピンキー
09/01/15 01:43:28 YjDG7fkQ
>>225>>226みたいのが
騒ぎを大きくするわけよ
自覚は無いだろうけど

わざわざ触れてやって、自分の下らない考え披露してな

>X42氏
乙であります

X42氏 乙でした

これだけのレスでよろしい

229:名無しさん@ピンキー
09/01/15 02:08:43 P3euG+sD
>>228
あなた自身のことですね。わかります。

230:名無しさん@ピンキー
09/01/15 06:15:37 BM9s4Tcm
みんな仲良く姫様の牝お○んちん嬲ろうよ

231:名無しさん@ピンキー
09/01/15 15:55:39 EPkP2t29
>>230 あの・・・いつやるんですか?

232:名無しさん@ピンキー
09/01/15 16:46:26 49Wwonzz
つまり書いてみようぜってことではないかね

233:名無しさん@ピンキー
09/01/15 16:55:48 UwqUU1PQ
>>231
もう皆向こうで嬲ってるよ。俺はちょっと疲れたから
休憩してるけど

234:名無しさん@ピンキー
09/01/15 17:08:37 EPkP2t29
いってきます

235:名無しさん@ピンキー
09/01/16 00:59:08 XtcftnRQ
こうしてまた、戦士が一人戦場へと飛び立ったのであった…

236:名無しさん@ピンキー
09/01/16 01:52:09 cRT5WxSP
俺もちょっと7万の女軍相手に戦ってくる

237:名無しさん@ピンキー
09/01/16 03:37:56 Cvoc17gx
嗚呼なぜ誰も、戦場が二丁目な件を
彼に伝えてあげなかったのか

238:名無しさん@ピンキー
09/01/16 03:39:58 XtcftnRQ
男女男ってるんじゃなくて男男男ってたんですね

239:名無しさん@ピンキー
09/01/16 12:03:15 LlrNSl+A
男男男で声がギーシュなチョコボ頭のソルジャー思い出した。

ところでキュルケ分が足りない気がする。

240:名無しさん@ピンキー
09/01/16 12:37:20 e+6tyLND
よく考えたら「なぶる」って漢字凄いね。誰だこんな漢字にしたのw
男女男

前も後ろの口もにしか見えない

241:名無しさん@ピンキー
09/01/16 13:37:55 yC8Ny132
嫐るという逆パターンの文字もあるのです
こんな状況になってみてぇ!

242:名無しさん@ピンキー
09/01/16 14:15:12 X1lut+Nd
ルイズ+サイト+シエスタ状態ですね

243:名無しさん@ピンキー
09/01/16 19:54:01 w78+Wq+z
アン様とタバサとテファ乱入

244:名無しさん@ピンキー
09/01/16 20:07:02 ijNr5GVl
>>243
更にエレ姉+ちぃ姉+イザベラで
女女女
女男女
女女女 未来の才人 最終ハーレム ジェシカ入れないけど。

245:名無しさん@ピンキー
09/01/16 21:01:04 e/eaBC08
嫉妬が哀れみに変わるレベル

246:名無しさん@ピンキー
09/01/16 21:13:53 hLNZJUaC
うまいこと言うなぁ

247:名無しさん@ピンキー
09/01/16 21:16:15 zwBdYNav
>>239
キュルケ好きだし何か書いていい?

248:名無しさん@ピンキー
09/01/16 21:29:34 BA6tjnEs
そういう奴がちゃんと書いた例はクマー

249:名無しさん@ピンキー
09/01/17 07:24:11 O9S2EHcc
誘いうけのクズはスルーしよう。
どの道、書く奴は書く。

250:名無しさん@ピンキー
09/01/17 07:49:11 wFd4T3Uw
ちょっと言い過ぎだろ、クズとまで言うことはない。
というかスルーしようぜとか周りに言うなよ…

>>247
まだ書く気があるなら、よければ書いてくれ。読んでみたい。
ただ、誘い受け形式のレスは嫌う人も多いので、避けたが無難。

251:名無しさん@ピンキー
09/01/17 13:12:59 TXcLfPOg
無言で投下無言で去る


これが一番かっこいい

252:名無しさん@ピンキー
09/01/17 13:24:48 3/zw25QB
いや、前後に「投下します」「投下終わり」のレスがあったほうが無用のトラブルうまないと思う
うpが終わったのか終わってないのかよくわからないのでは困るし。

253:名無しさん@ピンキー
09/01/17 17:22:09 c+/FdXWp
>>251
言いたいことは分かる

254:名無しさん@ピンキー
09/01/17 21:05:49 mT12NDXi
埋め

255:名無しさん@ピンキー
09/01/17 21:57:23 sji3FUFr
>>252
それは無言の内じゃないか?

256:反・胸革命!
09/01/18 17:28:50 JSU0DQqV

いくらかのゴタゴタの末にティファニアが学院に馴染んでしばらくの時間が経った。
今現在、ベアトリスとその取り巻きも息を潜め、新たな学院の女子人気ヒエラルキーが形成されつつある。
言うまでもなく、トップに君臨するのは〝バストレボリューション〟と名高いハーフエルフの少女である。
まるで引力の大きい方へ衛星が引き寄せられるかのように、男子たちは彼女の周囲に集まっていた。
そんな若干様変わりした風景を前に、今日も食堂で一人の少女がため息をつく。

「はぁー、最近ヒマになったわ、ずいぶん……」

豊かな紅い長髪を指先で弄びながら、隣でただ一人座る友人に聞こえるよう呟く。
視線の先にはティファニアがいた。
今までは学院一を誇っていた自分の胸を軽く抜いてくれた張本人だ。
そうだ、そうなのだ。閑古鳥が鳴いているのはあの乳のおかげなのだ。

(忌々しい、ああ忌々しいわ)

微熱の二つ名を持つ少女はそう内心で連呼する。
なぜだか、最近自分の存在感が薄れていくような焦燥感が増すのだ。

「……そう」

パラリ、とページをめくり、タバサが応じた。


257:反・胸革命!
09/01/18 17:29:34 JSU0DQqV

一見するとかなり適当に対応しているように見えるが、この水色髪の少女にとってはこれが普通だった。
そのことを分かった上で、キュルケがテーブルに肘を立てた。
気だるげに男たちの人気を一身に集めるティファニアを見つめる。
こういったことに慣れていないのか、ティファニアは顔を赤くして必死になって誘いを断っている。
不思議なもので、彼女にエルフの血が流れていることが分かった後でも、その人気は衰えてはいなかった。

(変よねえ)

いつの間にか、彼女はこの学院にとけ込んでいる。
普通なら考えられないことだ。

(……あ)

困り果てている彼女を救うために、少年が割って入った。
周囲は彼にブーイングを浴びせたが、ニヤニヤしながら手を引かれてその場を去る二人を見送っている。
するとあまり運動神経がよくないのか、性格的に鈍重なのか、ティファニアがすっ転んで彼にもたれかかった。
男たちを魅了してやまない巨大な胸が彼の腕にのしかかる。

「こ、ここここのバカ犬ーっ!」

絶妙なタイミングというか、いつも通りというか、彼の主人がそれに激昂してドロップキックを飛ばす。
周囲で笑い声が起き、ギーシュがやれやれといった様子でサイトを抱え起こしていた。


258:反・胸革命!
09/01/18 17:30:20 JSU0DQqV
そうなのだ、彼の存在あってのことなのだ。キュルケは今のこの学院の変わりようをそう実感した。
サイトという破天荒な使い魔の存在なくして、今の学院はなかった。
ティファニアが受け入れられているのも、彼の活躍あってのことだ。

「ほんと、飽きないわよねぇ、ダーリンは」

呆れた口ぶりで、しかし微笑ましさを滲ませた声でそう呟く。

「……うん」

タバサも事の始終を眺めて、確かな返事をした。


・・
・・・

双月が窓から見える。
静かな夜だった。
静か、というのは文字通りの意味で、キュルケの部屋は今日も今日とて来客の予定はない。
残念なことに、そういった意味では悪い方向に変わったのだった。
コルベールに関しては自分を学院生以上に見る気がないのは薄々分かっている。
教師として一生を過ごすつもりで、自分に対する感情というのはあくまで〝恩人〟といったものなのだろう。



259:反・胸革命!
09/01/18 17:30:55 JSU0DQqV

「月が綺麗だわ……」

ハープでも弾こうかしら、と長らく手にしていない自分の特技でもある楽器のことを思い出す。
なんか寂しいわね、と思った。
自分には無縁なはずの感情だったが、こうしていつの間にか周囲から人が引き潮のようにいなくなってしまっては、感傷的にもなった。
今までは気にもしなかったが、ここはゲルマニアでもない。
ツェルプストー家の人間は孤独であるはずがなく、裏を返せば孤独になってしまうとどうすればいいのか分からないのだった。

(一人で寝るにはベッドは広いもの)

部屋の隅では使い魔のフレイムが丸まって寝息を立てていた。
サラマンダーとはいえ、寝顔は主人の贔屓目を差し引いてもカワイイものだ。
しばらくフレイムの尻尾のゆらめく炎をなんとなしに見つめていると、ドアをノックする音が聞こえた。

「あら……?」

こんな夜更けに誰かしら、と彼女はセクシーなベビードール姿のままドアへ向かった。

「や、やあ」
「ダーリン!?」

意外な人物がそこにいた。
少し遠慮がちにこちらを窺うその顔は、間違いなくルイズの使い魔ことヒラガ・サイトである。
好意こそあれ悪意などない彼の突然の来客に、キュルケは珍しく歳相応の少女らしい華が咲くような笑顔を見せた。


260:反・胸革命!
09/01/18 17:31:58 JSU0DQqV

「ダーリンどうしたの?! さあ入って入って」
「う、うん。悪いね、夜遅くに」
「んーん、いいのよ。来てくれて嬉しいわ!」

強引に手を引いて彼を部屋の中へ招き入れる。
そのままベッドに二人して腰を降ろしたところで、キュルケはサイトが何かバッグを抱えているのに気づいた。
何かしら、と思っていると、サイトが用件を切り出した。

「実はさ……」
「なあに?」

露出の大きいベビードールに、十代とは思えない色香を放つ彼女にどぎまぎしながら、サイトは続けた。
他でもない、わざわざ彼女の部屋を訪ねた理由である。

「キュルケにさ、コスプレして欲しいんだ」
「こ、すぷれ?」

きょとんとした顔で彼を見つめる。
サイトは慌ててコスプレについての説明を始めた。

「……つまり」

一通り説明を受けたキュルケは、思案顔で呟いた。

「スレイプニィルの舞踏会みたいなものなのかしら?」
「う、うん! そんな感じ」

納得はしたが、キュルケにはなぜそれを自分のところへやってきて頼み込むのかが分からなかった。


261:反・胸革命!
09/01/18 17:32:36 JSU0DQqV
尋ねてみると、サイトはしょんぼりとした顔で述懐する。

「ルイズは今朝のこともあってご機嫌斜めでさ……とても頼めたものじゃないんだ」
「あら、そうなの? じゃあティファニアは?」
「そこなんだけどさ、なんてーか、こう……」

サイトはキュルケのすらりと長い脚や、適度にくびれた腰つき、そしてその美巨乳を順に見やった。

「ただ胸が大きいだけじゃあ、似合わないからさ」

キュルケは久しく聞いていなかった自分への讃辞に、思わずサイトを抱きしめていた。
その胸の狭間に顔を埋める形になって、サイトは息ができなくなる。

「わぷっ!? きゅ、キュルケ!」
「あん、嬉しいわダーリン、私を選んできてくれたのね!」
「う、うん、まあ、そういうことになるんだけど……」

ちなみにシエスタは日本人の血を引いている関係もあってか、似合うには似合うが目新しさがないから除外していたのだった。
サイトは消去法の末にキュルケの部屋のドアをノックしたのである。
そのことを咎められないか内心気が気でなかったが、どうやらキュルケに負の感情は見受けられない。
むしろ、男なしでは生きられないといっても過言ではない家柄の彼女にとって、サイトが自分を選んだという事実だけでも歓喜に値したようだ。


262:反・胸革命!
09/01/18 17:33:43 JSU0DQqV

「で、その衣装はどんななの?」

頬にキスした後、キュルケは急かすように尋ねる。

「あ、ああ、それなんだけど」

ゴソゴソとバッグの中から取り出す。

「ふーん、見たことない服ね」
「だ、だろうねたぶん」

それはいわゆる女子高生の制服、それも以前シエスタが着ていたのとは少し違うブレザータイプのものだった。
微妙な時代のものだったからか、靴下はルーズソックスである。

「へえ、これってダーリンのいた国の学生服なのね。これに着替えればいいの?」
「そうなんだ」
「んふ、分かった。すぐ脱ぐね」
「わっ!?」

サイトは慌てて目をそらした。
何の躊躇いもなく、キュルケがその薄いベビードールを脱ぎ始めたからだ。
一瞬、その桃色の二つの蕾が見えたような気がした。


263:反・胸革命!
09/01/18 17:34:37 JSU0DQqV
心臓を高鳴らせながら、サイトは同時に期待感もふくらんでいた。
こちらの世界へやってきてもうだいぶ経つ。
元の世界へ帰還する機会もないわけではなかったが、それでもこの世界に残る選択をしてきたのだ。
あのただ一人の主人、ルイズを守るために。
しかし、だからといって望郷の念を消せるわけでもなく、逆に時間が経つほどその思いは強くなるばかりだ。
このままでは、ルイズを守る覚悟に迷いが出そうだった。
それを解消するために、少し自分の世界の風景や存在を思い出したくなったのだ。
具体的には、女子高生の制服を誰かに着てもらうという方法で。
運良くアイテム自体はトリスタニアで仕入れることができた。
キュルケが背後でごそごそと着替える衣擦れの音に耳をそばだてながら、サイトは悶々とした。

「はぁい、着替えたわよ」

とん、と彼女がベッドから立ち上がる気配がし、サイトは反射的に振り返った。

「おおーっ!」

サイトは思わず声を上げていた。
紺色のブレザーにミニのチェックのスカート、そこからのぞくすらりと長い脚には純白のルーズが褐色の肌にコントラストを作っていた。
キュルケは自分なりにアレンジしたのか、その長髪を背後でポニーテールにまとめ、胸元はだらしなくならない程度にボタンを外している。



264:反・胸革命!
09/01/18 17:35:27 JSU0DQqV

「どう? 似合ってる?」

くい、と艶めかしいポーズを取っても、やはり似合っていた。
似合っている、といっても、渋谷あたりに行けばいそうな感じというわけではない。
キュルケ本人が制服の持つファッション性を完全に活かせるような体型をしているのだ。
ただそこに立っているだけで、まるでモデルの撮影会のような錯覚に陥ってしまいそうである。
サイトは予想以上のキュルケの女子高生姿に感動を隠せなかった。

「すごいよキュルケ! マジ似合ってる」

鼻息荒くサイトが言うと、キュルケも嬉しそうに身をくねらせた。

「いやだわ、ダーリンたらそんな褒めちゃって……」

サイトは心からの感動に、この光景だけで少なくとも一ヶ月は幸せな気持ちで過ごせそうな気がしていた。
彼は思いきってキュルケにいくつかのポーズをとってもらい、その女子高生にしては扇情的過ぎる姿を脳裏に焼き付けた。

「いやー、本当にキュルケに頼んで良かったよ」

サイトは満足げに頷き、素直に礼を述べる。


265:反・胸革命!
09/01/18 17:36:21 JSU0DQqV

「あら、これだけでいいの……?」

しかし、キュルケはまだ何か足りないといった表情で、サイトの隣に腰を降ろす。
心なしか、頬が紅潮し、目が潤んでいる。
それだけで今まで夢中になっていて気づかなかった彼の少年の青い感情を呼び覚まされてしまう。

「これだけ、って?」

喉から絞り出すような声を発し、彼は思わずその大きな胸の谷間に視線を落としていた。

「……ルイズには黙っててあげるわよ?」

彼女が腰を上げ、彼の左太股に跨った。
キュルケの内股がぴっちりと密着してくる。
チェックのミニスカートの奥に微かに紫のパンティが確認できた。

「だ、だから何を?」

スリ、と無言で彼女が内股に力を入れて刺激すると、サイトのものが反応してしまう。
いつの間にか、彼のズボンは大きくふくらんでいた。
ツェルプストーの血が騒いだ。
彼女自身も欲求不満なのだ。


266:反・胸革命!
09/01/18 17:37:18 JSU0DQqV

「あっ……ダメだって……キュルケ…あ」
「んぅ……」

唇を塞がれた。
ルイズとのキスとは違う濃厚なキスだった。
柔らかな唇を確かめ合うと、キュルケの舌が侵入してくる。
唾液と唾液が混ざり合い、ぬめった舌はまるで二人の境目をなくすかのように複雑に絡み合う。
当然ながら、サイトは童貞である。
そのサイトにとって、それはまるで夢見心地の行為に違いなかった。

「ちゅっ」

息が続かなくなった頃、永遠のような接吻が終わった。
キュルケはその紅い舌で獲物を襲う猛獣のように舌なめずりした。
制服の向こうで、さっき見たピンク色の二つの蕾がツンと立っているのがわかる。
サイトはそれを無意識にまさぐっていた。

「あぁんっ!」

双丘を鷲掴みにされたキュルケが仰け反って喘ぐ。
初めて触る極上の乳房は、大きく手を開いて揉んでもまだ収まりきれない大きさだった。
少しでも多くの淫肉を楽しもうと、サイトが荒々しく揉みし抱くたびに、若く瑞々しい弾力が彼の手のひらに挑発するように押し戻ってくる。
キュルケは再び貪るように口づけを交わすと、銀色の唾液の橋を残しながら囁いた。



267:反・胸革命!
09/01/18 17:38:36 JSU0DQqV

「さ……脱いで。もっとキモチいいことしましょう」

その言葉の意味が分からないほどサイトも鈍くはない。
据え膳喰わぬわ男の恥……
彼はルイズに対する負い目もあったが、目の前の制服少女の魅力には抗えなかった。
青い性と、何より長期間生殺しの状態が続きすぎ、本能が耐えきれなくなっていたのかもしれない。
ただでさえルイズは金的蹴りをしてくるので、不能になる前に一回でも使いたいという意識も実はあった。

「た、頼みがあるんだけどさ」

意を決して言ってみる。

「なぁに?」
「えっと……制服着たまましない?」


・・
・・・

サイトの方が全裸、キュルケの方は胸元をさらけ、ブレザーもボタンを一つだけかけた半裸に近い格好だった。
彼女の二つの乳房は、その大きさに負けずに挑発的に天に向いている。
華の蕾のような桃色の乳首はツンと硬くなっていたが、サイトの愛撫に解きほぐされていく。


268:反・胸革命!
09/01/18 17:39:16 JSU0DQqV
慣れない手つきの愛撫だったが、その分熱心で丁寧だ。
彼女のたくし上げられたスカートの下には、もう何も身につけてはおらず、紅いアンダーヘアの奥から蜜が溢れ、蝋燭の明かりに照らされて輝いていた。

「な、なあ、その、入れていい?」

サイトは勃起しきった自分のものをしごきながら尋ねた。
互いに盛り上がり、絶頂を望むオスとメスに成り果てている。

「ええ……きて」

キュルケがそっと自らその花弁を指で開いた。
慣れないサイトの挿入を補助するように、先端を自らの膣口にあてがう。
彼はその瞬間を経験した。
ゆっくりと腰を降ろしていくと、先端から徐々に伝わってくる膣内の感触に息を飲んだ。

「っん!」

最後は一気に挿入を終える。
サイトの脳髄には快感の津波が押し寄せていた。
ぬめり、絡みついて放さない。
今完全に女体内に収まった彼の男性器は、メスの感触を得たことに歓喜に打ち震えている。
キュルケの膣内は、二つ名の〝微熱〟に相応しい熱を帯びていた。



269:反・胸革命!
09/01/18 17:40:22 JSU0DQqV

「はぁー……はぁー……」
「ダーリン……」

快楽のあまり身動きできない彼に腕を回し、口づけを交わす。
キュルケはそのまま、ゆっくりと腰をこね回してくわえ込んだ男を膣奥へと誘う。
あふれ出た愛液とこすれあう粘着質な音が卑猥だ。

「はうっ!?」

快感に弾けるように、サイトも彼女の身体をかき抱く。
結合部と胸、といった局所的な快楽ではなく、身体全体を利用した行為は、確実にサイトを追い詰めていく。
限界まで蓄えられた精が、もはや決壊寸前のダムのようにかろうじて暴発を免れている状態だ。

(ダメだっ! キュルケの中は〝凶器〟だよ!)

そう思った瞬間、左手のルーンが反応した。
あらゆる〝武器〟を操ることができる、伝説の能力が応じたのだ。

「えっ?」

すると、デルフを手にした時のように、身体が晴れ渡る空のように軽くなった。
キュルケの欲望が何なのか、どうすればイカせることができるかが、手に取るようにわかる。



270:反・胸革命!
09/01/18 17:41:23 JSU0DQqV

(わ、すごい! なんだか加○鷹になったみたいだ)

そうなれば話は早い。
キュルケをイカせるまでのことだ。
サイトは恋人同士がするように互いの手を合わせ、指を絡め合った。
そして、童貞とは思えない巧みな腰遣いで律動を始める。

「あっああんっ!」

キュルケの胸が勢いよく揺れ、突き上げる度に残像のように規則的に跳ねた。
ベッドがギシギシと軋み、二人は玉のような汗をかく。

「あっ あんっ あっ あぁっ いっ いぃっ サイトぉっ!」

キュルケの喘ぎが次第に切なく、余裕のないものへと変わっていく。

「キュルケっ! 俺もう……」

サイトも、ガンダールブという特殊能力があるにせよ、限界が近づいていた。
それを理解したキュルケも、熱い吐息に乗せて最後の言葉を口にした。

「いいわっ! 中に出してぇっ!」



271:反・胸革命!
09/01/18 17:42:27 JSU0DQqV

彼女の奥底に燃える微熱はもはや業火となり、白い男の証を注ぎ込まれなければ鎮火しない状態になっていた。
今まで必ず最後の一線で節度を保っていた彼女自身、膣内への射精を望んだことに驚きを隠せない。
しかし、今自分がもっとも欲しているものはそれに違いない。
その先に待ち受ける危険よりも、今の一瞬が満たされたいのだ。
次の瞬間、彼女が紅い長髪を振り乱し、大きく胸を仰け反らせた。

「あぁーっ!!」

膣肉がサイトの肉槍を絡み取り、同時にサイトは決壊の音が脳内に響いたのを聞いた。
一瞬、ルイズの顔が脳裏を過ぎった。

ドクッ! ドクドクッ! ビュクッ! ビュククッ!

キュルケは腹と胸元に降りかかる熱い体液に絶頂を迎えた。


・・
・・・

「ちょっとバカ犬、さっきから何そわそわしてんのよ?」

虚無の曜日にトリスタニアの通りを歩く機会が再び巡ってきたこともあり、彼は落ち着かない様子で露天の商品を眺めていた。

272:反・胸革命!
09/01/18 17:44:07 JSU0DQqV
他でもない、先日のキュルケとの一件によってせっかく買った制服が一式おしゃかになったからだ。
激しく突き過ぎてあちこち破れ、最後に自分の精液をぶっかけたためにシミがついてしまった。そんな濃く、大量に出たこと自体驚きである。
ルイズはそんな使い魔の様子を訝しげに見つめていたが、ややあってふと笑った。

「どーしたのよ? 私はアンタのご主人様なんだから、欲しいものがあったら買ってあげないこともないわよ」

ルイズのこういう屈託のない時の表情は反則だ、とサイトは思った。
最後の一線で踏みとどまったのは、この主人を悲しませたくなかったからだろう。

(……奴隷根性染みついてんなぁ)

我ながら律儀だ。
せっかくのキュルケの好意なんだから、初めてくらい中出しした方が気持ちよかったんでなかろうか。
ついついそう思ってしまう。

「わっ?!」

ルイズが目を離した瞬間、誰かに路地裏に引き込まれた。

「はぁい」
「キュ、キュルケ!?」

そこに立っていたのは他でもないキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーその人だった。
彼女はニヤニヤと不敵な笑みをたたえてこちらを見ている。
そして、ある物を彼の眼前に差し出した。


273:反・胸革命!
09/01/18 17:45:00 JSU0DQqV

「お探しの品はこれかしらー?」
「……こ、これって!?」

サイトは見覚えのあるその物体に度肝を抜かれた。

「なぁす服、とか言うんだっけ? ゲルマニアから取り寄せたの」

〝微熱〟の少女は、そう言って蠱惑的にウインクをしたのだった。


<終>


274:名無しさん@ピンキー
09/01/18 17:46:55 JSU0DQqV
以上キュルケ分補充してみました

275:名無しさん@ピンキー
09/01/18 17:52:50 1FeSzcbo
キュルケきたー!!
GJでした

276:名無しさん@ピンキー
09/01/18 17:56:53 m7egUqJi
加藤鷹わらたw
GJ!

277:名無しさん@ピンキー
09/01/18 18:42:44 MoW1Tr/o
>>274 GJ!です

テンポよく最後まで読めました。キュルケはレアなので勇者に拍手
エロシーンちょっと薄めだけど、そんなの関係ねー www
ラストもうまい。「ルイズオチ」かと思ったらいい意味で裏切られた

また読ませてくださいね

278:名無しさん@ピンキー
09/01/18 19:01:14 7IM6CVY/
GJ
加藤鷹吹いたw

279:名無しさん@ピンキー
09/01/18 19:49:34 CVHjUO5b
>>274GJ
でも才人地球に居た頃17歳の筈…

280:名無しさん@ピンキー
09/01/18 20:29:11 WhV2lnmo
おおおおおおぉぉぉっ!
GJ!
サイトキュルケ物最高ですなー。
虚無関連の戦争が起きなければ、原作でもサイトキュルケは十分ありえた展開だし。

いきなりコスプレとはサイトは漢だな

281:名無しさん@ピンキー
09/01/18 21:03:07 P/vRWAMU
糞つまんね

282:名無しさん@ピンキー
09/01/18 23:14:37 iwQJxG4O
>>274
GJ!
年齢差があるコルベールとの絡みには違和感を覚えてしまう自分には嬉しかったぜ

283:名無しさん@ピンキー
09/01/18 23:25:30 PiDULahg
>>274
サイトとキュルケのエロキタコレwwwwwww
お色気過多な女子高生とコスプレHとかレベルが高すぎるwww
俺のツボを見事についた最高の作品だったので、出来ればサイトとキュルケでエロ道を究めていくようなシリーズ物にして欲しいです。

284:名無しさん@ピンキー
09/01/18 23:51:09 PpBwLqeU
gjgj!
読みやすくて良かったですぜ。
上でも言われてたけど、ルイズにぶっ飛ばされて終わる
毎度の常套パターンを外してきたのがニクイw

285:名無しさん@ピンキー
09/01/19 00:19:50 KsHpkT5E
GJ!
オッキした。
次はナースキュルケ超希望。


286:せんたいさん ◆mQKcT9WQPM
09/01/19 01:19:41 zerfz1/p
エロキュルケktkr
>>274蝶GJ

さてすっかり遅くなったけど
>>134『亡国の王女』つづきいきまーす

287:亡国の王女 ◆mQKcT9WQPM
09/01/19 01:20:34 zerfz1/p
目を覚ますと、粗末な藁のベッドに寝かされていた。
見上げる天井は隙間も見える板張り。どこかの納屋のようであった。

…あれ…?ここは…?

目を覚まして数瞬の間は、記憶が混濁していて自分の置かれている状況が理解できなかった。
しかし、大きく息を吸い込んだ瞬間、否応なしに現実が襲い掛かる。
吸い込んだ息とともに、鼻腔の奥に蘇る生臭い雄の臭い。
ジョバンニの精液が、イザベラの口の中に染みこんでいた。

「うぇっ!えほっ、えほっ!」

気持ち悪さに咽こみ、両手をついてベッドの脇のむき出しの地面に吐く。
胃液と、精液の混合物が逆流し、さらなる不快感を呼ぶ。

「おえ…おええ…」

涙を流しながら、最後の一滴まで吐き出す。
そして、嘔吐が終わると、慌てて自分の身体を確認する。
あの時とは違う、粗末な貫頭衣。
そして何より、汚れていない自分の身体。
そこまで確認して、あの救出劇が夢ではないと、ようやく認識できた。
ほっとしたのも束の間、自分の状況を思い出す。
そう、自分の身が窮地にあることに何ら変わりは無い。
王家が潰えて、国を追われる身であることに変わりは無い。
しかも、イザベラは今完全に身一つだけである。
他に頼るものもいない。期せずして天涯孤独の身となったのである。
そう思った瞬間、とんでもない悪寒が身体を走りぬける。
毛布も何も無い藁を敷き詰めただけのベッドの上で、イザベラは自らを抱きしめ、震える。
そこへ。
きしんだ音を立て、納屋の扉が開く。

「あ、目が覚めましたか」

やってきたのは、イザベラを助けた銀髪の少年。皮鎧は脱いで、普通の白いシャツに皮のズボンといった出で立ちだ。
手には、湯を満たした木桶と、タオルを抱えている。

「…大丈夫ですか!?」

少年は震えるイザベラの様子がただ事ではないことを見て取り、慌てて駆け寄る。
そんな少年に、イザベラは思わず怒鳴ってしまう。

「あ、あなた、いったい何者なの!?何が目的なの!?」

ソレより前にすることがあるだろう、と言ってしまってから後悔する。
しかし、なんと少年は、そんなイザベラに笑いかけた。

「はは。もう大丈夫です。僕はあなたに酷いことしたりしません。
 申し遅れました、僕はガリア北花壇騎士、エミリオといいます」
「え?…北花壇騎士…?」

イザベラは驚いた。
ガリアには各方角の花壇ごとに騎士団がある。
しかし、日の差さない北側には花壇はない。従って、公式に北花壇騎士団、というものは存在しない。
王家直属の、汚れ仕事を片付けるための、裏の騎士団。それが北花壇騎士団である。
この少年が、その一員だというのだ。
そして驚くイザベラに、少年は続ける。

288:亡国の王女 ◆mQKcT9WQPM
09/01/19 01:21:25 zerfz1/p
「…っていっても見習い、っていうか騎士に任命される前に王家がなくなっちゃったんですけど」

なるほど。
この少年は、その実力を買われ、北花壇騎士団に組み入れられるところだったのだ。

「…任命の書状がきて、王都に出てきたらこの有様で。
 …あなたの悲鳴が聞こえたから、助けに走った次第です」

その話を聞いて、イザベラはほっとする。
エミリオは、自分の正体を知らない。きっと今も、自分のことを貴族の娘か何かのように思っているのだろう。
だから、彼が自分にとって脅威となることはない。今のところは。
そう、今のところは。
もし、この少年が自分の正体を知ればどうなるか。
それを想像せずにはいられなかった。
そして考える。
彼を、味方に引き込む方法を。
自分の正体を知っても、自分を裏切らない方法を。
思案を巡らせるイザベラに、エミリオは語りかける。

「あなたの名前、お聞きしてもいいですか?」

尋ねながら、湯に浸したタオルを差し出す。
はっとして床を見ると、自分の吐いたものが飛び散っていた。
イザベラは真っ赤になってタオルを受け取り、顔を拭く。
そんなイザベラに、エミリオはやさしい言葉をかける。

「酷い目に逢いましたね。もう大丈夫ですから」

屈託の無い笑顔で、イザベラを見つめる。
その瞳と視線を合わせた瞬間、きゅん、とイザベラの中で音がする。
彼女の今までの人生の中で、こんな風に何の打算もなく、自分の心配をしてくれる者などいなかった。
王族であるがゆえ、仕方なく優しくしたり、媚びへつらう者ばかりだった。
そして、イザベラは口を開く。

「…イザベラよ」
「え?」
「私の名前。イザベラ」

エミリオは思わずきょとんとする。
なぜなら、その名前は、本来自分が仕えるはずであった、王家の姫の名前。
そして彼は気づく。
今目の前にいる彼女の髪の色が、ガリア王家由来の青い色であることに。

「え?イザベラ…王女様?」

エミリオの目が点になり、そして。
思わずずざざぁっ!と後ずさり、床に膝をつき、首を垂れる。

「しっ、知らぬこととはいえっ!不敬を致しました、申し訳ありませんっ!」

エミリオの豹変した態度に、イザベラは思わず悲しくなった。
さっきまで、何の打算もなく接してくれた男の子ですら、ここまで変えてしまうほど、それほど王家の名前は重いのだ。
この時ほど、イザベラは王家の生まれであることを煩わしく思ったことは無かった。

289:亡国の王女 ◆mQKcT9WQPM
09/01/19 01:22:34 zerfz1/p
…ってちょっと待て。

よく考えてみると。

…王家、なくなったんじゃなかったっけ。

そう。
ガリア王ジョゼフ一世は崩御し、ガリアの王冠はシャルロット王女の手に還った。
そして、今、自分はただのイザベラ。
王家の一員でもなんでもない、一人の女。
だがしかし、それを世間は認めないだろう。そして、目の前の少年も。
だったら。
イザベラは考えた。

…ただの女に、なってしまえばいいんだ。

そうするには、どうすればいいか。
答は簡単だった。
自分の胸の奥で脈打つ器官が、それを教えてくれていた。
イザベラは心を決め、言葉を口に出す。

「いいわよ、そんな畏まらなくても。もう王家ないんだし」
「はっ、えっ?し、しかし」
「それとも何?私をロマリアに突き出す?それともここで殺す?」
「そ、そんな畏れ多い!」

イザベラは慌てながらも態度を変えないエミリオにだんだんムカついてきていた。
まだ膝をつき首を垂れたまま、視線を合わそうともしないエミリオの前に、イザベラは立つ。

「もうただのイザベラなんだってば。ただのオンナなの。
 それにお金も持ってないし。仕えても給金だってビタイチだせないわよ」
「し、しかしですね」
「あーもう!」

イザベラは怒ったように言い放つと、エミリオの前に屈んだ。
そして、下からエミリオの顔を両手で包み込むと。
無理やり、その唇を奪った。
目を白黒させて王女の口付けを受ける騎士。
しばらく唇を重ねた後、イザベラはエミリオの顔を固定して、無理やり自分と目を合わさせながら、言った。

「…た、助けてくれたお礼!あげるから!」
「は、はぁ」

思わぬ展開に呆気にとられ、エミリオは呆ける。
そして、今のキスがお礼なのだと、『勘違い』してしまう。

「は、あ、ありがたき幸せです!わ、私騎士として王家に」

そして考えてきていた騎士叙勲の際の口上を述べようとして。
目の前で展開される光景に目が点になった。
イザベラは、エミリオの目の前で、着せられていた貫頭衣を、勢いよく脱ぎ去ったのだ。
思わずエミリオは前かがみになる。
若さ溢れる10代前半、高貴な女性の裸を見て元気にならないはずがない。
実際、先ほど汚れた寝巻きを着替えさせる際にも、溢れる情欲を抑えるのに必死だったのである。


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