【田村くん】竹宮ゆゆこ 6皿目【とらドラ!】at EROPARO
【田村くん】竹宮ゆゆこ 6皿目【とらドラ!】 - 暇つぶし2ch500:名無しさん@ピンキー
08/12/24 17:29:29 YDfPuMlP
 『マフラー』

「高須とタイガー今ケンカしてるらしいぜ」
つまらないと言っては失礼だがこれといって面白くもない古文の授業の中、生徒達の小さくひそめた声
しかし凄まじい地獄耳を持つ虎はそれを聞き逃しはしない
「チッ」
そいつは授業中だというのに構わず舌打ちを炸裂させる
「今回はあの高須くんもちょっとキレてるらしいよ」
「えぇっ!あの見た目とかなりギャップある性格の高須君が?」
「チッ」
「いつもみたいにタイガーだけが一方的にキレてるってわけじゃなさそうだぜ今回は」
「チッ」
「………………」
さすがに虎の顔…もとい仏の顔も三度まで、と悟った2‐Cの生徒達は口を閉ざした
しかしそんな中…ことわざなんか知っているわけのない裏口入学疑惑の容疑者の声
「ていうか原因は何なの~?高っちゃんがキレてるなんて相当じゃん~!」
「…………春田…」
声をsaveすることが出来ないそのアホの声は虎の耳にはよく聞こえたのだろう
次の瞬間、虎の席から放たれたそれはそれは分厚い参考書が春田めがけて発射され教室に鈍い音が響く
春田はそのまま机にひれ伏し、散った…
「春田…お前はどうしていつもこう…」
春田の隣りの能登はその場で手を合掌し、春田に別れを告げたのだった

501:名無しさん@ピンキー
08/12/24 17:32:20 YDfPuMlP
休み時間―
クラスの生徒達はこの数ヶ月でいかにも何人か殺ってそうと思われる竜児の生まれつき犯罪者フェイスにもやっと慣れつつあった
「俺さ~最近高須のことやっとヤンキーじゃないってわかったんだけどさ…」
「そーそーあいつ根は母ちゃんみたいないいやつなんだよ。でも今日はヤバいよな…」
生徒達の目の先にいるその人物はとにかく今日はやばいらしい
その男はその鋭い眼光をいつも以上にぎらめつかせ、よく見るとカタカタと震えている
「ヤクが切れたんだよきっと…」
誰か一人がつぶやく
実際はただの貧乏ゆすり…のはずだ
「おい北村が高須の所に行くぞ」
北村は竜児のもとに駆け寄り、さすが少しずれてる生徒会会長
「どうしたんだ高須。今日、お前機嫌悪そうな面してるぞ。逢坂とでも何かあったのか?」
いきなり核心をつくのだった
すると竜児はいつもの三割増し犯罪者フェイスのまま口を開けた
「あんまり陰口みたいで言いたくないが…あいつのことなんかもう知らねぇ、それだけだ」
野次馬根性丸出しの2のCメンバーはぴたりと会話をやめ耳を傾けていた
「そうか…原因は何なんだ?」
北村はその先を聞こうとしたが竜児はそれ以上何も口に出さなかった

502:名無しさん@ピンキー
08/12/24 17:33:18 YDfPuMlP
噂通り昨日の夕方から大河と竜児はけんかをしていた
大河がいつものように豪快に高須家のボロドアを開けると、そこには背を向け胡座をしながらごそごそしている竜児が居た
「今何してたのあんた?今隠したの何?こっちよこせ」
とてもその小さく華麗な容姿から発するとは思えない乱暴な言葉
「べっ…別に何も…それより今日の飯どうする?何か食いたいもんでもあ…」
「嘘こけ!話をそらすんじゃない!見せなさいよぉぉ!」
その小さい体ではありえない力で大河は竜児が隠したぶつを引っ張る
「だめだ!お前が持つとほつれる!確実にぃぃ!」
沈黙の中…数秒間の引っ張り合い
ピリピリピリ…
それに竜児が気付いたときにはもう遅かった
「「あっ!」」
そのぶつは見事に引き裂かれた
「ったく何やってんだよお前は。あ~あ…ていうか普通ここまで破れねえだろ。これはもう最初から編まねえと…」
「あんたがさっさとこっちに渡さないからよ 」
マフラーを手に取り竜児は大河を睨み付ける
迫力はあるが大河にとってその顔は日常茶飯事だ
「お前なあ…これ作るのに何時間かかると思ってんだよ!?見てみろこのクマ!」
竜児の両目の下には誰が見ても明らかな立派なクマが二つ
「うっさいわね!あんたがさっさと素直に見せないから悪いのよ!また作ればいいでしょ!そもそも高二の男がちまちまマフラーなんか編んでんじゃないわよ!気持ち悪い!」
「はぁ!?お前こそ素直に謝ったらどうだよ!どう考えてもお前に非があるだろうが!性格が悪いのも大概にしろよ!鬼だお前は!」
竜児は久し振りに近所迷惑を無視して声を荒げてしまう
「帰る!!」
大河は来たときと同じくらい荒々しくドアを開けて自分の巣へ帰って行った
「何で俺が悪いみたいになってるんだ…」
イライラしながら破れたマフラーを何とかしようとしたがさすがの竜児にもお手上げの惨状らしい

503:名無しさん@ピンキー
08/12/24 17:34:17 YDfPuMlP
「何よっ!」
大河は訳の分からない気持ちになっていた
自分が悪いのは分かっていた
だがなぜだろう…素直に謝れなかった
大河は見てしまった
マフラーに刺しゅうされたT・Yという文字を
「なんでやっちゃんなのよ…」
私がマフラー持ってないの前から知ってるくせに
大河はマフラーを見た時自分のために竜児が作ってくれていると勘違いをした
自分は期待し過ぎたのだ竜児に
自分の為に作ってくれたマフラーを『寒くなってきたから作ってやったぞ』とか言いながらそっと自分の首にかけてくれる竜児の姿があった
でも実際はそんなわけない
そうであってはならない
竜児にそこまで求めてはいけない
竜児が自分の為にマフラーなんか作ればまた誤解されるじゃないか。あのすぐに勘違いをする親友に。やっぱり大河は高須君のことが好きなんだねって
「……はあ…寝よ…」そして大河はベッドに潜り込む
『ぎゅるぎゅるぎゅる~』
そういえば結局夕飯食べてなかったっけ…

504:名無しさん@ピンキー
08/12/24 17:34:58 YDfPuMlP
朝―
大河が起きると台所には竜児がいた
そしていつものように竜児が作った朝食を食べ竜児が作った弁当を持って一緒に家を出る
しかし今日はいつもとは違い家を出るまで二人に会話らしい会話はなかった
チラッと横で歩く竜児に目をやる
わずかだがいつもの竜児の顔じゃないことに大河は気付く
最初は昨日のことを謝ろうとしていた大河だったが、いつもと違う竜児を見ていると話がなかなか切り出せない
結局、一言の会話もないまま実乃梨が待っているいつもの道までやって来てしまう
「あっ!おっはよう~お二人さん!あれっ?今日は高須君…なんかいつもと違う顔してるね~?なんかあったでしょ?」
それでも竜児はいつものように挨拶を返した
「別にそんなことねえよ…生まれつき機嫌の悪そうな面なんだよ俺は」
そしてついに大河は口を開ける。謝ろうとしたのだ。でもやっぱり自分は不器用な女らしい
「絶対機嫌悪いでしょあんた…顔の極悪性がいつもの三割増してるわよ」
今日一番の竜児と大河のまともな会話がこれだった
「あんたまだ昨日のこと怒ってるわけ?ほんと―にどうしようもなく狭量ねあんたは…一回自分の心をその自慢の高須棒とやらでピカピカに気が済むまで磨いてみれば?」
大河はいつも竜児が常備している高須棒が入ったポケットを指で指す
「お前…朝からずっとおとなしくしてるから昨日のこと…少しは反省でもしてるかと思ってたのによ…もう知らねー許してやるか!」
やはり竜児は怒っていた
大河はそれがわかると急に罪悪感が出てくる
「べっ…別にあんたの許しなんかいらないわよ!もう行こっ!みのりん」
大河はその場から実乃梨の手を持ちさっさと走って行ってしまう
「さらばだ~高須くん!また会おう~」
実乃梨の声が余韻に残る


そして現在に至るのであった
2のCの教室は竜児の顔面から放たれる黒いオーラと手乗りタイガーの不機嫌面によって一日中空気が悪かったのだった
二人は結局一日中お互いを無視し続けていたのだった

505:名無しさん@ピンキー
08/12/24 17:35:42 YDfPuMlP
放課後―
いつもなら竜児と一緒に帰るはずだがそういうわけにもいかず大河は一人で帰っていた
「謝らなきゃいけないのに…」
大河は一人ごちになりながら今日一日を思い返していた
結局いつもみたいに竜児が構ってきてくれると思っている自分がいた
こけそうになったらいつも腕を引っ張って助けてくれる竜児
お弁当のおかずを制服にこぼしてもしょうがないなと拭き取ってくれる竜児
そして今回もきっと自分が謝らなくても自分のドジを心配して竜児の方から話しかけてくれるだろうと心のどこかで思っていた
「どうしよう…はぁ…」
大河が大きなため息をすると後ろから爽やかな声
「よう!逢坂どうした?ため息なんかついて」
その男…北村は大河の肩をぽんと軽く叩いた
「きっ北村くん!?どっどうして?生徒会は?部活は?」
「生徒会はやっと仕事に一段落ついたから今日は久しぶりに休みをもらったんだ。部活はこのところずっと土日も試合やら練習やらがあったから今日は休み」
そうこの超がつくほど多忙な北村が放課後に普通に帰っているなんてめったにないのだ
「と言うことで今日は奇跡的にこの時間帯に帰宅しているんだ。逢坂も今帰りか?良かったら一緒に帰らないか?」
「えぇっ!?……うん…帰ろっか…」
北村が自分を誘ってくれている
普段なら相当嬉しいはずだが大河はそんな浮かれる気分にはなれなかった
でも今はそばに誰かが居て欲しかった
誰かが横にいることで今のうじうじした気分が少しは飛んでいってくれるだろうと思ったからだ
最初に口を開けたのは北村だった
「逢坂…高須と何があったんだ?男の俺がこんなこと言うのは気持ち悪いと思うが…」
北村は続ける
「あいつは自分の感情を表に出さないタイプなんだ。前にも言ってた。『俺は見た目がこうだからどんなに嫌なこと、むかつくことがあっても顔には出さねえ。たぶんもっとひどくなるからな』と。だから今日の高須はよっぽどなはずなんだよ」
そこまで言われると大河も昨日の出来事を話すしかなかった

506:名無しさん@ピンキー
08/12/24 17:36:16 YDfPuMlP
「……ってことなの。どうしたら良いんだろ…」
「そうか…逢坂は自分が悪いとわかってるんだな」
「うん…」
「なら謝れば良いじゃないか」
「え……?」
北村の答えは単純だった
「そもそもなぜ逢坂はそのときに謝れなかったんだ?高須にも何か原因があるんじゃないのか?」
北村は大河に鋭い質問をした
大河は立ち止まり地面に顔を向けてしまう
自分の身長の三分の二はあるであろうその髪で耳まで真っ赤な顔を隠すようにして
「どうした逢坂…?」
北村は心配そうに大河の顔を除き込む
「……から」
「何だって?」
「……じゃなかったから」
「悪い。聞こえないんだが逢坂…」
すると大河は意を決したかのように顔を上げ北村に聞こえるように言った
「……わ…私のマフラーじゃなかったから…マフラーにね…T・Yって…」
T・Y?
北村は少し考えるとそれが誰なのかすぐに分かった
「T・Y…ああ。泰子さんだな」
大河は沸騰まじかの顔をしながら続ける
「竜児は私のことをいつも見てくれてるの…だから…今回も…今回も竜児が私のためにマフラーを編んでくれてるって勘違いしたの… それで…」
「何言ってるんだろうね私…勝手に期待してそうじゃなかったからキレてさ…親子なんだからマフラーくらい作ってあげるよね…竜児が怒ってるのはわかってる…」
沈黙
自分は何を言ってるんだろうと思う
好きな男の前で別の男に対しての悩みを打ち明けているのだ
そんなこと言えばまた竜児と自分が誤解されるじゃないか、この好きな男に…好きな男?
大河は自分に問い掛けた
そうだ…合ってるじゃないか…自分が好きな男はこの目の前にいる北村祐…
それと同時に頭に浮かぶのは目付きの悪い一人の男
そして気付く
そうか…自分はずっと前から…
北村がようやく口を開ける。その整った顔はいつもより真剣な表情
「逢坂…そろそろ素直になっても良いんじゃないか?」
北村はわかっていたのだ。大河の気持ちを
だからこそ今日のことが気になりわざわざ追いかけて来たのだ
「北村くん……」
北村は下を向く大河をしばらく見つめていると気付く
大河の背後10メートルの電柱に一応隠れているつもりなのだろう…よく知っている男がいる
「逢坂。悪いな…用事を思いだしたからもう一度学校に行ってくる。じゃあまた明日」
北村はそう言うと大河を放ったらかしてさっさと来た道を逆走して行った
そしてそのまま隠れている目付きの悪い男に口パクで「行け」と
男は目を丸くした
ばれていないと本気で思っていたからだ
北村と入れ代わりでその男は大河の前に駆け寄った


507:名無しさん@ピンキー
08/12/24 17:37:53 YDfPuMlP
学校が終わってどれ位時間が経っただろう
辺りはそろそろ暗くなり冬だといわんばかりの痛々しい風も吹いている
「はっ…はっくしょい!!」
目付きの悪い男は寒がりな大河の後ろから自分の掛けているマフラーをそっと掛けてやる
カシミアの結構良いやつだ
「えっ…竜児…!?」
竜児が優しくマフラーを巻いてくれる
大河は顔を見ずともその男が誰なのかすぐにわかった
いつも竜児から強引に奪うマフラー
竜児の匂いがする……自分を安心させるその匂い…
大河はその作業を黙って受け入れた
だがそれが終わると同時に反射的に大河は竜児から距離を取った
「あんた…いつからいたのよ…?」
「いや…今来たばっかだぞ…家に帰ってたらお前が立ち止まってて…」
大河にはわかる
竜児は嘘をつくのが下手くそな方なのだ
だがその嘘を否定すれば自分と北村とのさっきまでの会話を聞かれてしまったのかも知れないと思ってしまう
「へっくしゅん!」
竜児のくしゃみ
自分にマフラーを掛けるためにそいつは相当我慢しているのだろう
よく見ると震えている
大河は竜児がうまく巻いてくれたマフラーを取って持ち主の首に巻いてやる
「いいって……俺は別に寒くねえからお前が掛けてろよ」
竜児は最初は抵抗したが背伸びしながらマフラーを巻く大河を見てすぐに観念した
「……私も…別に寒くないからいらないだけ…………はっくしょい!!」
大河の嘘は二秒でばれた
「あ~あ~鼻水出てるじゃねえか」
竜児は大河の鼻をいつものようにティッシュで拭いてやる
その作業を終えると今度は自分のバッグから何かを取り出した
大河は不思議そうにそれを眺める
「本当はクリスマスに渡したかったんだが…これだけ寒いんじゃもうしょうがねえよな」
竜児はそう言いながらあからさまにクリスマスを思わせる包装紙から鮮やかなピンク色の何かを取り出す
「そっ…それって…?」
大河はそれが何かすぐにわかった
だけど聞いてみた
だって昨日…自分はそれの色違いを破壊したばかりなのだから
大河はそのマフラーの存在にしばらく戸惑った
A・T……誰それ?
そして竜児はさっきのようにそれを大河の首に優しく巻いてやる
竜児の長いマフラーとは違って、それは大河の小さい首に対してジャストサイズに仕上がっている
「やっぱりお前はピンクが似合うな」
竜児は手で軽く大河の頭を叩いて満足そうに大河を眺める
「大河…?」
大河の両目が潤んでしまう
「これ…私に?私にも作ってくれてたんだ……」
「当たり前じゃねえか。お前のはとっくに仕上がってたんだよ。クリスマスまで学校のロッカーにでも隠して置こうと思ってたんだけどよ、掃除道具(私物)で満席でさ」
竜児は得意そうに大河に顔を向ける
大河はそのままマフラーの暖かさをかみ締めた後、己の全身を竜児に倒した
竜児は一瞬驚くが大河を抱くようにして見事にキャッチする
「っ……どうした?大河……?」
大河はその状態のまま何かごにょごにょ言っている
「………?」
気が付くと辺りはもう真っ暗。こんな時間帯だ。今の二人は抱き合うカップルにしか見えないだろう
「りゅっ…りゅじ…ごめん…私…やっちゃんの…やっちゃんのマフラー破っちゃったのに…なのにりゅうじは…」
かすかに匂うカシミアマフラーと同じ匂い…
体は徐々に暖まっていく。竜児が自分に流れてくるようだ
一度竜児の体温を感じてしまうともう体は離れられない。離れたくない
竜児も最初は戸惑ったがすぐに大河を受け入れてその小さい頭を撫でてやる
なぜなら大河が泣いているから。それ以外に理由なんていらない
「もういいって大河…もういいから…」

508:名無しさん@ピンキー
08/12/24 17:38:39 YDfPuMlP
「…どうだ…?落ち着いたか?」
それから三十分は経っただろうか
その間、竜児はずっと大河の頭を撫でたり背中を擦ったりしていた
そうだ。こいつは普段はああだが素直になるとこうも可愛いくなるのだ
だから自分はこいつをほっとけないんだ
時に実乃梨と同じ…いや、それ以上の感情を抱いている自分がいる
「ありがと…竜児…マフラーすっごくあったかい…」
「…おうっ」
竜児は今までずっと泣いていた大河が急に口を開けたので少しトーンがずれた間抜けな声で返事をしてしまう
間―
この後どうすればいい?
二人は同じ質問を自身に問うていた
自分達は抱き合っている…互いの顔は見えてはいないがあれからずっと…ゼロ距離だ
「………ほっ…ほらやっちゃん……そろそろ仕事の時間でしょ…」
「……ああ…いや今日は早めに仕事行って飯はあっちで食うそうだ…イタリアン…」
「そっ…そうなんだ…イタリアン…」
間―
マフラーとお互いの体の体温のおかげでもあるのか、外の冷えた空気をあまり感じない。むしろ暑いくらいだ
そしてついに動き出したのは竜児の方だ
そっと大河の体を自分の体から離す
竜児には見えていなかったが大河は一瞬名残惜しそうな顔をした
「そろそろ帰るか…」
辺りはやけに静かでまわりには誰もいなかった
この冬空の中、誰も外になんてしたくないのだろう
竜児が家に向かって先に歩きだそうとすると大河は竜児を呼び止めた
「……待って!竜児!」
竜児は大河の方に振り返る
「あの…今ならなんか…なんかね素直にっていうか正直になれるっていうか…話があるのよ…」
大河は爆発するくらいの真っ赤な顔で話を続けた
「最近ね…変なんだ…そう…さっきも最初は北村君と一緒に帰ってたんだ…」
「………そうか」
「いつもなら緊張してまともに話せなかったはずなんだけどさっきは大丈夫だった…」
竜児は帰る途中で偶然二人が並んで帰っているのを目撃していた
そして竜児は二人が良いムードで帰っている気がしたので二人の会話を聞くような野暮なことはしなかったのだ
しかし今思えば確かに変だ…二人きりだというのに大河はいつものように緊張して変な動きや変な顔をしていなかった
そういえばここ最近も………いや、それはそうだろう
亜美の家の別荘、文化祭、北村がぐれた事件、いろいろな行事(?)を通して大河と北村は確実に仲良くなったはずなのだ
「そりゃそうだろ、いろいろなことがあったからな。今さらお前が北村とまともに話せても別に変じゃないと思うけどな俺は」
大河は竜児の顔をまっすぐ見つめたまま残念そうな顔をする
「違う…そうゆうことじゃなくて…うん、確かに最近は北村君ともよく話せるようになった…けど…何ていうか…どきどきしたりしないの…」
「……だからあれだろ。免疫が付いたんだよお前は。北村に対しての」
『この駄犬は…』いつもの自分ならここでキレて話をうやむやに流してしまうだろう
だが今日こそはやっと気付いた自分の今の気持ちを打ち明けたい…いや打ち明けなければならない
このままじゃ実乃梨といつまでたってもフェアじゃないから
「私…今ね…ほんの少しだけど北村君とは別の人にどきどき…してるんだ…」
大河は精一杯のヒントを与えたつもりだった
「……そうだったのか…誰なんだ?俺の知ってる奴か?」
そして大河は覚悟を決め、竜児の足元を睨みつけながら小さく言葉を発した
「あんたなのよ…」
まわりはまるで大河にスポットが当たったように静かだった
「…………は?」
竜児はもう一度聞き直すかのようにたった一文字で返答する
「『は?』じゃない!だから……今はあんたのことが好きなの!北村君じゃなくて…わたち…わ…私は高須竜児が好きなのよ!!」


509:名無しさん@ピンキー
08/12/24 17:44:23 YDfPuMlP
竜児はもう一度聞き直すかのようにたった一文字で返答する
「『は?』じゃない!だから……今はあんたのことが好きなの!北村君じゃなくて…わたち…わ…私は高須竜児が好きなのよ!!」
竜児は驚いた。大河が噛んだことに驚いたわけではないが本気で驚いた
だが嬉しくもあった
こんな感情はあの日以来だ
自分が溺れたときに起こった大河の『竜児は私のだぁ事件』
だめだ…何を言っているんだ自分は。自分には想いを寄せる実乃梨という女がいるじゃないか
大河とはただの家族、兄弟みたいなもので別にそういった特別な感情なんてないに決まって……
………なぜ言い切ることが出来ない?
「大河…俺は…ぶはっっ!?」
大河の小さい手の平が竜児の口を捉えた
「ごめん…ちょっとまだ黙ってて」
大河はその状態のままあのね…と続けるのだった
「卑怯だってことはわかってる…あんたと私は互いの親友に想いを寄せていた言わば戦友…そしてあんたが今もみのりんのことが好きなのもわかってる…わかってるけど………好きなのよ…どうしたって…あんたのことが…」
「…だから…勝手だと思うけど私はあんたに振り向いてもらえるように頑張る。今日からあんたの家にも入り浸らない、お弁当もいい、起こしに来なくてもいい、あんたはみのりんを追い続けていい、何も文句なんて言わない」
「でもお前…ぶふっ!」
再び大河は竜児を抑える
「私はいつまでもあんたに甘えてたら駄目なのよ…あんたが好きだから…それに大丈夫!何とかするから!ちゃんと炊事も洗濯も掃除も始めてみるから…だから竜児にはその後の私を見て欲しいの…竜児に頼らなくなった私を……!」
ようやく竜児の口から手を離すと大河は帰り道とは違う道に走って行く
「大河!どこ行くんだよ!」
状況をまだよく飲ま込めないままの竜児だったが大河を引き止めようとする
「どこって…買い物よ!今日からいろいろ頑張るって言ったじゃない。あとマフラーありがと!大事にする。じゃあね竜児!」
大河は風のように竜児の前から去って行く
「ったく……」
いつもながらだが本当にあいつには振り回されっ放しだ
竜児は見えなくなるまで大河がこけたりしないかを確認する
そして再び歩き出す
いつもの見慣れた通学路を、今日は一人で歩く

510:名無しさん@ピンキー
08/12/24 17:44:59 YDfPuMlP
クラス替えまで残り三か月ちょっと
それまでには答えを出したい
いや出さなくてはならない
これからの為、自分の為、そして大河の為にも答えを









「……で、これがそのときのマフラーよ。久しぶりに見つけたけどちゃんと大切にしまってたのよ」
「……ママ達ののろけ話って数え切れないくらいあるよねほんと…」
普通の家庭の親子の会話
「なっ…何言ってんのよ!べっ別にのろけ話とかしょんなじゃ…」
うまく喋れていないこの人は私の母親
「……のろけ話でしょ。この前の文化祭の話ものろけっぽかったし。いいな~私もパパみたいに尽くしてくれる彼氏欲しいな~」
私はもうすぐ高校生
思春期とやらか母と父の昔の話を聞くと本当にうらやましく思う
「だから別にそうゆう話じゃないったら…文化祭…あの時も…パパが私のために全力で走ってきて…」
人より少し小さいがまだまだ若く綺麗な(自慢の?)母は照れながら顔を赤くする
この年でまだ夫に対して照れたりするなんてうちの母くらいじゃ…とか思ったり思わなかったり
「はいはい…その話は聞いたって」
私は呆れて母の話を流した
「何の話をしてるんだ?」
家に帰宅してきたのは目付きは悪いが家事万能、この家の大黒柱で私の父親
「あっパパ。おかえり。今ね、またママったら…ふがっ!?」
母は私の口をその小さい手で塞いでくる
なんて力なんだろう
「あっ…明日の入学式のことを話してたのよ…」
「そうかもう明日なのか…それよりそのマフラーって…」
父はピンク色のそれに気付く
「えっ!?まだ覚えてたんだ…へへ…なんか嬉しいな…」
「当たり前だろ。そのマフラーから今までいろんなことがあったよな…」
「そうね…本当にいろいろあった…」
そして両親はお互いを見つめ合い顔を赤らめ幸せそうな顔をする
もはやこの二人は私の存在を消している
というかリアルに消されかけている
「………っ…マ…マ…息…でき…な…い」
母は今にも私を窒息死させようとしていたのだから
「あら忘れてたわ」
母は手をやっと私から離す
「ったく…もうじき高校生の娘がいるってのにいまだにお熱いわね~」
私は両親をちょっと意地悪く言ってやる。まあ本音なんだけどね
「うっ…うっさい!それより明日早いんでしょ?さっさともう寝なさいよ!」
母は自分の顔の温度の上昇にも気付かないまま私を怒鳴ってくる
明日のことを思うとまだ眠れそうにないのだが母には逆らえない


なんたってママは明日から通うあの大橋高校で名をはせたあの手乗り……



終わり


511:名無しさん@ピンキー
08/12/24 17:46:45 TAO18IaG
>>510
GJ!!

512:名無しさん@ピンキー
08/12/24 17:53:10 0km9XopG
>>470
>>480
>>500
GJGJGJ!
竜虎祭りktkr
どれも素晴らしい作品で感動

513:名無しさん@ピンキー
08/12/24 18:26:22 XWplxpMn
あーみんはまだかぁ…

514:名無しさん@ピンキー
08/12/24 18:37:29 BALCxG9b
>>510
子供が高校生となると2人の年齢は・・・ 考えない方がいいとわかっていても考えちゃうんだよな
でも良かったよGJ
こうやってもっと早く虎が素直になってたらクリスマス以降、高須が傷つくことは無かったのかもしれないな
まあ、ああいう辛い経験した方が人として成長できるのかもしれないけど

515:名無しさん@ピンキー
08/12/24 18:38:09 1PnhK/W5
>>510
乙でしたー。大河可愛い

北村といたときに大河キョドってたけど、3か月まえなら免疫ついてると思ったがあんなもんか
原作7~9巻と相違無かったか。気のせいか

516:名無しさん@ピンキー
08/12/24 18:41:17 LEQdh3o5
GJ!
今鏡見たらキモい生物が映っててびびった

517:名無しさん@ピンキー
08/12/24 20:19:16 1PnhK/W5
>>516
風呂上がりにみてみろ。イケメンが映るぜ

518:名無しさん@ピンキー
08/12/24 20:22:54 4VZnvEla
>>470
>>480
>>510
GJGJGJGJGJ!
どの作品も大河が可愛すぎるw
やっぱ竜虎が一番だわ

519:名無しさん@ピンキー
08/12/24 21:15:46 Za/uwKq2
>>470
>>480
>>510
帰ってくると、朝の荒れようが嘘みたいな優良竜虎SS祭だった…

もう乙!とGJ!しか出てこねえよ!
こんな何でもない平日に素晴らしいプレゼントを落としてくなんて…
もうあんたら大好きなんだぜ!

520:名無しさん@ピンキー
08/12/24 22:27:31 uuYttAZV
俺、大阪からはるばる九州まで夜行バスで帰る途中なんですが、
寝せないき?
GJ過ぎてヤバイよ…
神は…ここにいた…

521:名無しさん@ピンキー
08/12/24 23:08:43 THmBOQ3D
竜虎滅牙斬

522:名無しさん@ピンキー
08/12/24 23:29:19 zQWkANeJ
竜虎王
虎竜王

523:名無しさん@ピンキー
08/12/25 00:21:03 SBXq1lFB
>>510
和んだ
親子ネタって癒される

524:名無しさん@ピンキー
08/12/25 00:25:51 XVVXdyGH
ああ、シングルベルに最高のプレゼントだ
>>470>>480>>500本当にありがとう
これで年末まで戦える。

525:これは『恋』であって『恋』ではない はじめ
08/12/25 00:35:37 v2C/ex9b
クリスマス間に合わなかった。ーヽ(`Д´)ノ ウワォォォ
今から、亜美→祐作もの投下します。
乱文ですので、あまり期待しないでください。

526:これは『恋』であって『恋』ではない 1
08/12/25 00:36:07 v2C/ex9b
ふぅ、振られちゃったか…。
やっぱり、高須君ってばあの子のほうが大切なんじゃない。
クリスマスだけでも、あのダンスの後だけでもいいからわたしのほうをむいてほしかった。
思い出すと落ち込んでしまう。だったら、思い出さなければよいのだが、一人の寂しさがわたしにそのことだけしか考えさせない。
帰ると言い残し出てきた手前、体育館にはもう戻れない。
あの時のキャンプファイヤーのときの『仲良しの五人組』のままでいたかった。
でも、それはもうできなくなった。みんな、自分の思いに気づき始めてしまったからだ。
あの子も高須君もみのりちゃんも、そして…私も…。
わたしが入ったからかな…。こんなにこじれたのは…。わたしがなんにでも首をつっこんだから…。わたしが高須君のことを好きになってしまったから…。
自分を責める言葉は止まらず、そして意外と暖かい自動販売機の横で、現実から逃げるように夢の世界へと逃げた。



527:これは『恋』であって『恋』ではない 2
08/12/25 00:36:38 v2C/ex9b
肩をゆすられる。誰だろう…。
目を開けると祐作だった。
「こんなところでなにやってるんだよ。亜美…」
心配そうな顔、寒いのに汗をかいている額、それらは全部私を探すためのものだった。
「クリスマス・パーティーは終わった?」
「いや、亜美が出て行ってからそんなにたってないぞ」
わたしはそれほど寝ていなかったのか…。
「どうして、わたしがここにいるってわかったの?」
「亜美は落ち込んでるときはいつも狭いところに隠れるからな」
わたしは、何てことないように言う祐作の姿に昔のことを思い出した



528:これは『恋』であって『恋』ではない 3
08/12/25 00:37:18 v2C/ex9b
小学校の低学年のときだった。
まだ、自分が世界の中心だと信じていて、性格の隠し方も笑いの作り方も知らなかった頃。
クラスの女の子をわたしが泣かせてしまった。原因は、わたしの性格、わたしがクラスの男子を奴隷のようにあつかったことに対する怒りからくる口げんか。
泣いてしまえば、どうあっても泣かせたほうが悪い。子供の理屈だ。みんなの視線に耐え切れず、わたしは逃げ出した。
その頃のわたしのお気に入りの場所は図工室の石膏像の隙間だった。
泣いた。自分が何をしているのか、自分が何を口走ったのかを思い出して…。
そのとき、図工室のドアが開いた。祐作だった。うれしかったはずなのに、幼いわたしはついついこう口走ってしまった。
「なにしにきたのよ。ゆうさく。でてってよ」
でも、祐作はそんなわたしにこう言ってわたしのまえに座ってくれた。
「あみのことがしんぱいだからな」
そして、こう言ってくれた。
「ぼくは、あみのいわるいところもしってるよ。だけど、ぼくはあみのみかただよ。だって、あみのことだいすきだから」
その言葉に、わたしはまた泣いた。悲しいからではない。うれしいからだ。
「さあ、いっしょにきょうしつにいこう。ぼくも、あやまってあげるから」
いつもそうだった。わたしが落ち込んだりしてるしてるときは、祐作がいた。



529:これは『恋』であって『恋』ではない 4
08/12/25 00:37:49 v2C/ex9b
そこまで思い出してるとき、わたしのほほに冷たいものが当てられた。
「ひゃうっ」
思わず、変な声が出してしまった。
「なに、ボーっとしてるんだよ」
「いや~子供のときはかわいかったのになと思って…。っていうか、亜美ちゃんの顔にいきなり何するのよ」
普段の調子を取り戻す。自分の心にかすかに浮かんだ気持ちを押し殺して、仮面をかぶって…。
「ハハ、やっぱり亜美は泣いてる顔よりそっちの顔のほうが似合ってるぞ」
「ハ~アッ、亜美ちゃんがいつ泣いてたのよ?っていうか、亜美ちゃんの寝顔見たんだろ、お金を請求してぇ」
言われて気づいた。確かにわたしは泣いていた。
耐え切れず、わたしは話した。自分の犯した罪について話した。祐作はそれをちゃんと聞いてくれた。
話し終えてしまった後、祐作は笑いながら言った。
「そうか…。でも、心配しなくていいだろう。高須も逢坂も櫛枝も自分で自分の道を見つけるだろう。それと、亜美おまえにはそういう相手はいないのか?」
「フンッ、いたら、ここでこういうふうにすごしてねぇよ」
「確かにな。でも、亜美。困ったら相談してくれよ。俺は亜美の味方なんだからな」
何気なく言ったその一言、でも大切な一言。


530:これは『恋』であって『恋』ではない 5
08/12/25 00:38:43 v2C/ex9b

わたしの恋は実らない運命なのだろう。なぜなら祐作にも高須君にも振られてしまったからだ。
どちらにも勝てないのだ。狩野すみれにも逢坂大河にも、わたしは敵わないのだ。
なにせ、わたしが来る前に固まってしまった関係だ。わたしの入り込む場所はない。
そして、わたしは分からない。わたしは祐作と高須君のどちらが好きだったんだろう。
祐作はわたしのすべてを受け入れくれる人、高須君はわたしの心にじかで触れてくれた人。
わからない、どちらが『恋』かなんてわたしは分からない。
あの子もこれに悩んだのだろうか。この、複雑な感情に…。
でも、今はいい。
「祐作、戻ろ」
「ああ」
わたしの味方だといってくれた祐作が横にいる。今は、それだけでいい。



531:これは『恋』であって『恋』ではない あとがき
08/12/25 00:40:49 v2C/ex9b
本当に乱文失礼しました。また、わたしの小説のおかしいところがあったらぜひ教えてください。











































532:名無しさん@ピンキー
08/12/25 00:42:27 6PZNGq34
SSは良かったんだが最後の改行には何か意味あるの?

533:名無しさん@ピンキー
08/12/25 00:44:57 6tfOJg6P
乙。
亜美は個人的に一番作品中で幸せになってほしいキャラクターなので
北村という救いの可能性を見せてくれたのは新鮮で面白かったです

というかその改行は何だ

534:名無しさん@ピンキー
08/12/25 00:45:48 v2C/ex9b
>>532
すいません、こちらのミスです。


535:始めの一歩
08/12/25 01:46:22 r8iBA2v5
竜児×実乃梨です。とらドラのSSは始めて書きます。
クリスマスの夜、めぐり合わせが良くて告白がすんなりいった後の話。
というか、気づいたらどうしてクリスマスイブにこんなもん書いてるんだぜ?

536:始めの一歩 1
08/12/25 01:47:26 r8iBA2v5
「じゃーねー、大河、高須君っ」

 言って手を振りながら、向こうへ駆けて行く少女……櫛枝実乃梨の背中に声をかける。
「おう。バイト、頑張れよな」
「うんっ」
 顔だけ振り返り返事をするその笑顔は、自分の贔屓目でなければ、確かに以前とは違う
輝きを持っており―
「なに会話だけで発情してんのよ馬鹿犬。死ぬ?」
 ―感極まっているところで、隣の少女に水を差される。
「大体いまだに名字で呼び合ってるってのはどういうことなのよ。私はあんたを去勢した
覚えはないわよ、甲斐性なし」
「ぐ……」
 浴びせられる罵詈雑言に胸を抉られつつ、しかし高須竜児は反論する術を持たなかった。
言われるだけの覚えはあったからだ。

 時は一月、年も明けたばかりの今。
 高須竜児と櫛枝実乃梨は、恋人同士であるはずだった。

 クリスマスのあの夜、パーティの余韻も静まった学校で、竜児は実乃梨に恋の告白をし
―そして、実乃梨もそれを受け入れた。
 晴れて恋人同士となり、新学期が始まって毎日会うようになれば、夢のような生活が待
っているかと思いきや、
「一緒に学校行って、ご飯食べて……今までとやってること変わんないじゃない」
「だ、だってよ。櫛枝は放課後大体バイトか部活で、俺も家事があるし……」
「土日も全部埋まってるわけじゃないでしょ。ちゃんとデートにでも誘いなさいよ」
「……どうやって何に誘えばいいのかわかんねんだよ」
 呆れた駄犬ね、と頭を左右に振り溜息をつく少女―逢坂大河と竜児は、今でも奇妙な
共同生活を続けていた。
 三人でいるとき、時折実乃梨は大河に気を遣う様な素振りを見せ、大河は気にしないで
という風に笑顔を見せる。それを竜児は気づかないことにしている。
 理由を考えると、なんだか頭に浮かべるのもおこがましいような傲慢な考えに至るのと
……二人の間で話がついて、自分に伝えないことに決まった何かがあるのなら、自分が口
を出すのは余計なことだと思うからだ。
 ―そのうち大怪我する、と亜美に言われたことを思い出す。
(……大怪我したら、治すさ。絶対、死んでも)
 そう思える程度には、腹は決まっていた。

537:始めの一歩 2
08/12/25 01:48:20 r8iBA2v5
「ああやだやだ、これだから年齢イコール彼女いない暦の男は。球種が少ないったらあり
ゃしない」
 明らかに年齢イコール彼氏いない暦である少女に何か反論してやりたかったが、抑えた。
 口調は辛辣でも、大河が心底実乃梨と、自分のことを心配してくれていることは知って
いたからだ。
 代わりに続きを促す。
「……じゃあ先生だったら、どんな球を投げるんですかね」
「人に聞かなきゃ何も出来ない? これだから童貞は」
 めげそうだった。
「まあ、今回は哀れな犬に免じて、ご主人様が必勝法を伝授してあげる。一生恩に着なさ
いよ」
「……おう」
 竜児は身を乗り出した。
 なんだかんだ言って花の男子高校生、かわいい彼女との距離を縮める方法があるのなら
土下座してでも知りたいのだ。
「今週の土曜から日曜の昼にかけて、みのりんは暇よ。そこで新年会とかなんとか言って
みのりんをあんたんちに呼んで、飲むもん飲ませなさい」
「はあ」
「名づけて」
「名づけて?」
 大河は一呼吸置き、自信の炎を眼にたぎらせつつ、拳を握り締め叫んだ。
「『酔ったみのりんを押し倒して既成事実バンザイ作戦』……っ!」
「お前のがド直球だろうがあああっ!」
 ついでに暴投だった。

「新年会、北村君とばかちーも呼んどいたから。デコイとして」
「は?」
 翌日の帰り道、二人きりになった瞬間言われる。
 一瞬何の話か分からなかった。
「……え、もしかして昨日言ってたやつ? え? ギャグじゃなかったのか?」
「私がそんなつまらない冗談をいう女だと思う?」
「……お前の冗談で笑えたためしがねえよ」
 頭を抱えた。本気で押し倒せとか言ってんのかこの虎は。
「あのなあ、お前―」
 説教してやろうと思って、止まった。
 横を歩く大河の顔は、本当に、真剣にこちらを向いていた。
「うるさい。あんたはとっとと、ちゃんとみのりんとくっつきなさい。それが義務なの、
男の責任なの。でないと―」
 ―諦めきれないじゃない。
 かすかに聞こえたその声は、果たして幻聴だったのか。
 竜児が確かめる間もなく、大河は駆け出し、
「みのりんは自分で誘いなさいよ。反論は聞かないからね!」
 言葉どおり何かを言う暇を与えず、足早に去って行った。

538:始めの一歩 3
08/12/25 01:49:08 r8iBA2v5
「あのさ」
「ん? なあに高須君?」
 部活へと赴く実乃梨を送るわずかな逢瀬(というほど色気のあるものではなかったが)
の際、辺りに人がいないことを見計らってから、竜児は話を持ちかけた。
「今度の土曜なんだけど」
「うん」
「うちに来ないか」
 瞬間、目の前の美少女がぶほぉと噴き出した。
「うおっ!」
「たっ、たたた高須君っ、ちょ、それはちょっと早すぎるんじゃないかなーと小生愚考す
る次第でありますけれどもっ!?」
 顔を真っ赤に染めて、つばを飛ばしながら叫ぶ。
 無駄に驚異的コミュニケーション能力を誇る実乃梨だが、この手の話になると思考回路
に支障が出ることを、竜児と大河は知っていた。
「お、落ち着けよっ。二人じゃなくて、大河や北村や……そうそう川島なんかも呼んで、
新年会でもやろうって話になってさ!」
 慌てて訂正すると、
「へ、あ。……新年会?」
 顔に理解の色が広がっていき、落ち着きを取り戻す。
「あ、あはは、なーんだ新年会! やだなあ、おじさん勘違いしちまったい!」
 安堵したかのように笑う実乃梨を見て、良心がちくりと疼いた。すいません、嘘です、
やる気満々です。
「そんなら一発芸とか任しといてよ。櫛枝48の殺人技と52の関節技を披露するときがつい
にやってきたぜ」
「……いや、いい、そういう物騒なのは」
 ていうか持ってんのか、殺人技。聞こうかと思ったが、本気で首を縦に振りそうな気が
してやめた。
「まあ、そういうわけだから。土曜空けといてくれな」
 部活棟も近くなったので、会話を打ち切り踵を返す。
 その背中に声が掛けられた。
「高須君」
「ん?」
 振り返ると―実乃梨は両手を腰の後ろで組み、やや恥ずかしそうな笑顔で告げた。
「楽しみにしてるね、その……高須君のうちに行くの」
「……おう」
 男の意地にかけて表情を崩さず返事をし、実乃梨から顔を背けてから、にやけた。
(……俺は三国一の幸せもんだ)
 飛び上がりたい気分だった。

539:始めの一歩 4
08/12/25 01:49:44 r8iBA2v5
 土曜日の夕方。
「お邪魔します」
「お邪魔しま~す」
「おう、いらっしゃい」
 ドアを開けると、北村と亜美が立っていた。
 すでに居間でぐうたらしている大河を含めてこれで四人。あえて少し遅めの集合時間を
伝えた実乃梨を除く全員が揃う。
「……ていうか、マジで来たんだな、川嶋」
「来ちゃいけない?」
 亜美が、外面を気にしない顔で―つまりは仏頂面で聞き返す。
「いやそうじゃなくてさ、お前こういうの好きじゃないかなと思って」
「別に、今日暇だったし。それに……」
 そこで言葉を区切り、竜児の顔を悪戯っぽく見てから続けた。
「面白いモンが見れるって聞いたから」
「見んのかよっ!?」
 思わず叫ぶ。
 見れば、いつの間にか玄関にやって来ていた大河と亜美が目線を交わし、にやりと笑う。
なんだお前ら、なんでこんなときだけ仲よさげなんだ。
「高須」
「お、おう、きたむ……ら?」
 途中で言い淀む。北村が何かを差し出していた。
「俺たちはまだ学生だ。これだけはきっちり着けとけ」
「だあああああああっ!」
 北村の手から、いわゆるゴム製品を弾き飛ばした。
「なんでそんなに準備がいいんだよっ!」
「これはな、俺が来るべき会長戦に備えて、二年間財布に忍ばせておいたシロモノだ。つ
いぞ実戦の機会は訪れなかったが……高須、お前に俺の夢を託すぞ」
「そんな呪われたアイテムを俺に託すな! 捨てろ!」
 後ろでは、亜美が「きもっ」と吐き捨てるように呟いている。
「はは、安心しろよ高須、冗談だ」
 爽やかに笑い、肩を叩きながら告げる。
「それはちゃんと箱から出した新しいやつだ」
「結局お前のかよおおおお!?」
 今日幾度目かの叫びを上げながら、竜児は気づいた。
 ―ああ、もしかしてこいつら、俺をネタに笑いにきただけじゃねえのか―。
 悲しいことに、多分当たってる気がする。

540:始めの一歩 5
08/12/25 01:50:34 r8iBA2v5
 ぴんぽーん。
「あ、はいはい……っと、櫛枝」
 憔悴しながらも、玄関のチャイムに反応しドアを開けると、想い人がそこにはいた。
「本日はお招き頂きありがとうございますッ! 私、櫛枝実乃梨と申しまして、息子さん
にはいつもお世話になっておったりしましてッ―って高須君?」
 何故か右手で敬礼しつつ、突如として礼儀正しい(風味な)挨拶をかます実乃梨は、顔
を出したのが竜児と分かるや否や、体勢を崩した。
「おっす、オラ櫛枝。その、高須君、親御さんは……」
「……いや、いねえよ。朝まで」
 一転してんちゃ、と微妙に間違った挨拶をしてくる実乃梨に返答すると、その顔ははっ
きり分かるほど弛緩した。
「なーんだ、緊張して損しちゃった。うへへ」
 笑いながら、お邪魔しまーすと玄関に入ってくる。
 亜美たちに無意味なハイタッチを強要して嫌がられている実乃梨の後姿を見て、
 ―彼氏の親に会うって意識してくれたのか?
 報われる気持ちになる竜児だった。

 不純な動機があるとはいえ、新年会は楽しく過ごせた。
 竜児の用意した鍋を五人で突付きながら、いかなるルートから用意されたものか知れな
い酒類を流し込む。
「いや、いいのかそれ」
「いいんじゃなーい? チューハイなんてジュースみたいなもんだし」
「えええ……」
 躊躇する竜児をよそに、他の面々は次々と缶を開けていく。
 まあ、ちょっとくらいいいか……と缶に伸ばした手を、大河に叩かれた。
「いてっ。なんだよ」
「あんたは飲むんじゃない」
 どうしてだよ―疑問の表情になった竜児の耳元に口を寄せ、
「飲むと勃たなくなることがあるというわ」
「……」
 二の句を告げずにいる竜児の肩を寄せ、にやりと嫌らしい笑みを浮かべる大河。
「見なさいみのりんを」
 言われるがまま見ると、やべえうめえよコレすげえよ高須君、何がいいってナベはカロ
リー少ないのが最高だよほふほふ―と、貪るように鍋の中身を平らげていく実乃梨がい
る。
「ふふふ、みのりんったらがっついちゃって……デザートにポークビッツが待っていると
も知らないで……!」
 ―デザートって何だよとか、ポークビッツって何のことだよとか、誰のがポークビッ
ツだコラとか、そもそもマジでやるんすか先生とか、いくつものツッコミを胸に秘めたま
ま、一言だけ発した。
「お前、酔ってるだろ」
「酔ってなんかいないわ! これっぽっちも!」
 どう見ても酔っていやがる。

541:始めの一歩 6
08/12/25 01:51:14 r8iBA2v5
「ここは私に任せて先に行けええええ!」
「そんな……! 一人でトイレに行くなんて、死ぬつもりなのみのりん!?」
「へっ、背中は任せたぜ……大河!」
「いいからとっとと行きなさいよ馬鹿」
 鍋も酒も大半がなくなった深夜、亜美の無情なツッコミを受け、実乃梨は千鳥足でトイ
レへ向かう。
 その後姿を見送ってから、酔った様子も見せず亜美が立ち上がる。
「……んじゃ、亜美ちゃんそろそろ帰るねー。ほらあんたも」
「んー」
 先ほどのコントが最後の元気だったのか、力尽きたようにぐでりとしている大河の腕を
引っ張り上げる亜美に、どう声を掛けるべきか迷い、言葉を失う竜児。
 その視線をどう解釈したのか、興味なさそうに言う。
「……ま、あんたは実乃梨ちゃんを選んだんでしょ? じゃあ、ちゃんと仲良くしてれば
いいんじゃないの」
 それだけ言って、右手に大河、左手に自分の荷物を持って玄関に向かう亜美に、
「……ありがとな、今日」
 礼だけを簡潔に言う。
 亜美は、呆れたように苦笑していた。

「……いい加減起きなさいよあんた、いつまで亜美ちゃんのかよわい腕によっかかってん
のよ」
「ぐうう……頭痛い」
 夜道を歩く大小二つの影。
 高須家に来たときと表情の変わらない亜美に比べ、酒が回ったのか、大河はしかめっ面
になっていた。
「……ばかちーは酔ってないの」
「ばぁか、あたしは―」
 一度言葉を切り、吹っ切るように息を吐いてから続ける。
「―あたしは、あんたみたいに、失恋くらいで酔いつぶれるほど弱くないのよ」
 答えはなかった。
 言葉は交わさず、ただ暗い夜道を二人で歩いた。

542:始めの一歩 7
08/12/25 01:51:50 r8iBA2v5
 一人になると、途端に頭が冷静な方向に向かっていく。
(……やるのか? 本当に? マジで?)
 大河にけしかけられ、勢いで計画に乗ったはいいものの、いざとなると尻込みしてしまう。
(襲うなんて……いやでも、案外櫛枝もそういう展開を望んでくれてたり、は……しねえ
よなあ? する? しねえだろ?)
 考えがまとまらず、とりあえず散らかったテーブルと焦げ付いた鍋を片付けるか、と逃
避しかけたとき、トイレのドアが開いた。
「待たせたな! この俺が来たからにはもう好きにはさせねえ……って、あれ? あれ?」
 勢いよく開いたドアからずばっと飛び出し、奇妙なポーズを取りながら口上を述べる実
乃梨が、辺りの静寂さに気づいてきょとんとする。
「あれ? 高須君、大河たちは?」
 落ち着け。慌てるな。
「ああ、その……帰ったよ。酔いが回りすぎたとかで」
「えー、なんでえなんでえ、薄情なやつらめ! 私一人置き去りにしやがって」
 ぶー、と唇を膨らます。
 その細い身体に、じわり、じわり、と近づきながら、
(……もしかして今の俺は、変態めいてはいないだろうか)
 そう考える頭はあるが、身体は止まりはしなかった。
「…………櫛枝」
「……え?」
 実乃梨が気づいたときには、竜児との距離はわずか1メートルに満たず。
 切羽詰った表情で荒く息をつく男がそこにはいた。
「うおっ……高須君、変態ぽいよ、マジで」
 さすがに慄いた実乃梨に言われるが、構わなかった。何せ否定できない。
「櫛枝、俺は、……俺は、」
 気の利いたセリフが出てこない自分の脳みそが恨めしい。
 実乃梨の、微妙に汗ばんだ顔が、ひどくいやらしく見える。
「高須君、いや、ちょ、ダメ……今日は」
 そこでぷちんと、どこかが切れた。
「櫛枝……っ!」
 何も考えられない。右手を実乃梨の肩に掛け、実乃梨を―

543:始めの一歩 8
08/12/25 01:52:36 r8iBA2v5
「だ……だっしゃあああああああああ!!」
 ぐるん。
 ごしゃっ。
「うごっ!?」
 視界が回転する。
 押し倒そうとした勢いを利用してブン投げられたことに気づいた時には、すでに実乃梨
は次の技に入っていた。
「おっしゃあああああああああ!!」
 倒れ伏した竜児の背後から、手足を自分の両手でつかみ、膝で竜児の背中を押し曲げる。
 竜児の身体は大きく海老ぞりをする形となった。
「あ、いでででええっ!?」
 これぞ櫛枝52の関節技のひとつ、ボー・バック・ブリーカー!
「って、……なにすんだよ櫛枝っ! あだだっ!」
「だってだってだって! た、高須君、何しようとしてんのさあっ!?」
 無理矢理顔を上げ見てみれば、泣きそうな顔をしながら(しかし技は極めながら)実乃
梨がこちらを見ている。
「きょ、今日、もしかして最初からそのつもりだったっ?」
「ぐ、は、はい……ムチャクチャやる気でした……」
 痛みでただでさえなかった余裕が消し飛び、問われるままに答えてしまう。
 ああ、やっぱり彼女は、こんな行為望みはしなかったのか―
「さささ先に言うべよそういうことはよう! 皆一緒だって言うからそういう展開はない
と思って、おもっくそ暖かさ重視のババくさい下着で来ちゃったじゃんよおおお!」
 うおお、と咆哮する実乃梨のセリフに、……一瞬引っかかった。
「……え」
「鍋もめっちゃめちゃ食ったし! 腹出てるよ! ただでさえ出てる腹が! あ、自分で
言って泣けてきた……コンチクショオオオ!」
「ちょ、ちょい、待って」
 実乃梨が叫ぶたびに力が入り、背骨がぎしぎし悲鳴を上げるため喋りづらかったが、こ
れだけは確認したかった。
「その、さ。もしかして櫛枝も、そういうこと俺とするの、想像したりしてくれてたの……か?」

544:始めの一歩 9
08/12/25 01:53:18 r8iBA2v5
 瞬間、
「……っ!」
 実乃梨の顔が赤く、これ以上なく赤く、染まった。
「だっ……それは、だってっ……そりゃあ……付き合ってるんだし……そのうちそういう
ことにもなるかなー、くらいには……ねえ」
 ぼそぼそと、普段の快活さからは想像できない声量で答える実乃梨の様子に、
「……ははっ」
 考え込んでいた自分が馬鹿みたいで、笑えてきた。
「んなっ……笑うことないじゃん」
「や、違うよ。俺、その、女の子と付き合うの櫛枝が初めてで……櫛枝と話してても俺ば
っか焦ってる気になって、でも櫛枝も、当たり前だけど色々考えてるんだってわかったら、
なんか俺馬鹿みたいだなって」
 ゆっくりと、自分の気持ちを咀嚼しながら喋ることができた。
 焦ることはなかったんだ。もう、お互いを遮るものはないんだから。恋人同士になれた
んだから。

「……高須君、私と、あんなことしたいとかこんなことしたいとか、いつも考えてた?」
「おう。健康だからな」
 探るような声色の問いに、てらいもなく答える。
 途端、技が解かれた。
「ぐへっ」
 手足が開放され、そのままの勢いで仰向けに寝そべる。
 見上げた天井に、にゅっと実乃梨の顔が現れた。
「……そういうことは、また今度ってことでさ」
 言いながら、赤く染めたままの顔を、どんどん近づけてくる。
「……え」
 唇に、かすかな感触。
 それはわずかに触れるだけのものではあったが、竜児は信じられないような心地でその
感覚を味わい、やがて離れていく実乃梨の顔をただ見上げる。
「今日のところは、これでどうかな」
 恥ずかしさ五割、悪戯っぽさ五割の表情で呟く実乃梨が、
「……もう一個。実乃梨って呼んで、いいか」
「うんっ。竜児……君」
 たまらなく、愛しかった。

545:始めの一歩 10
08/12/25 01:53:51 r8iBA2v5
 一緒に部屋を片付けて実乃梨を家まで送り、もう一度唇を重ねてから自宅に帰る。何事
もなかったかのように片付いた部屋を見ると、今夜の出来事がまるで夢のように思える。
「……夢じゃねえんだよな」
 確認するように唇を手でさすって、感触を思い出し……にやけた。
「うわ、きもっ」
「うざっ」

 ……………………。
 深呼吸をしてから、振り返る。
 大河と亜美がいた。

「ひあああああああっ!?」
「うるさい竜児」
「ちょっとお、近所迷惑じゃないのー? まあ亜美ちゃんのご近所じゃないから知ったこ
っちゃねーけど」
「なん、なん、なんでいるんだよお前ら!?」
「うわ失礼、せっかく忘れ物回収しにきてあげたってのに」
 は? 回収?
 見るからに疑問符を上げる竜児に、口で説明するのも面倒だと思ったのか、おもむろに
押入れを開ける。
「……っ!」
 人は本当に驚いたとき、声は出ないものだと知った。
 押入れの中には、パンツ一丁のまま気を失い涎を垂らした親友北村が、さかさまになっ
て入っている。
「なんだこの地獄絵図……」
「酔ったみのりんが殺人技の練習とか言って色々やってるうちにこうなったんだけど、覚
えてない?」
 ―そういえば、テンパっていて記憶が空ろだが、櫛枝バスターだか櫛枝ドライバーだ
かの叫びを耳にしたような。それでどうして裸になるのかは定かではなかったが。
 んしょ、んしょ、と北村を引っ張りながら玄関に向かう大河(亜美は触りたくないらし
く、その後を手ぶらで歩いている)が、思い出したように振り向き、聞いてきた。
「んで、ちゃんとみのりんとはアレしてコレできたんでしょうね。ここまでお膳立てさせ
といて、何もありませんでしたじゃ済まないわよ」
 えーと。
「……キスして、名前で呼び合うようになりました」

 一瞬の沈黙の後、「小学生かよ!」という叫びと共に、二対のローキックが放たれた。

546:始めの一歩
08/12/25 01:55:02 r8iBA2v5
終わりです。楽しんで読んでいただければ幸いです。
とらドラはアレですね、ヒロイン三人とも幸せになって欲しすぎて扱いに困りますね。

547:名無しさん@ピンキー
08/12/25 02:51:18 RJ3bkMMQ
GJ!
やっぱりみのりんはいいなぁ

548:名無しさん@ピンキー
08/12/25 03:05:25 Ep/IhIZv
ありゃ、ミラー保管庫の6スレ目の作品が404になっとうぜ

549:名無しさん@ピンキー
08/12/25 03:09:13 piIccvan
乙でっす。

アニメの方今週かなりいいな・・・

550:名無しさん@ピンキー
08/12/25 03:38:28 jzd+DWFB
>>546
超GJ!、つか上手いな、マジで上手いなw、ゆゆぽテイストの再現率が半端ないw
羨ましいよマジで、俺もこれくらい書ければ妄想フォルダに溜め込んだ数々を文章化できるんだが…

是非また書いておくれ

551:名無しさん@ピンキー
08/12/25 04:16:07 VgYKKuR7
>>546
文才あり杉ワロタwwwwwwみのりん最高だぁぁぁ
竜児とみのりんがあんなことやこんなことをしちゃう後日談はもちろんあるよNE?

書かないと…お仕置きだべ~!!!!111

552:名無しさん@ピンキー
08/12/25 09:52:39 0Km+kGQp
>>531
GJ こうでもしないと川嶋は救われないよな
>>546
ギャグとシリアスの調和具合がすごくGJ
ってか書くの上手いな どんどん書いちゃってくれ いや、書いて下さいお願いします 

553:名無しさん@ピンキー
08/12/25 10:20:25 Q5ZHHjGR
ef - a tale of memoriesでエロパロを話しませんか?

554:名無しさん@ピンキー
08/12/25 14:17:55 bNwbqnsJ
GJすぎる
まじクリスマスの寂しさが紛れたぜ
いや、紛れたのではなく満たされた

555:名無しさん@ピンキー
08/12/25 16:21:40 iD/BCKJl
>>546
GJ!

556:名無しさん@ピンキー
08/12/25 17:56:13 YLNitcaG
作中のクリスマスがアレなせいか、
クリスマスネタ書いてる職人さんはあんまりいないのかね

557:名無しさん@ピンキー
08/12/25 20:07:48 5YGn8i7O
一つ質問なんだけど、モブ設定のオリキャラを主人公にして書くってのはナシなのかな?
傍観者的なポジションから学校生活やら恋愛模様やらを記述する、みたいな感じで

558:ミラーの”管理”人
08/12/25 20:08:40 Tuj1X3dv
>>548
当方の記述ミスです。訂正しました。
気が付きませんでした、ご指摘ありがとうございます。
年末年始はペース落ちますがご容赦くださいませ。

559:名無しさん@ピンキー
08/12/25 20:11:18 0Km+kGQp
>>557
俺はありだと思う いままでそういうの無かったから新鮮な感じがする
是非とも書いてみてくれ
>>558
いつもながら乙

560:名無しさん@ピンキー
08/12/25 20:25:20 +9fgtf8G
>>557
冒頭に注意書きしとけば有りだと思う
ただオリキャラ書くなら叩かれても泣かない覚悟は必須
オリキャラである必要がちゃんとあればいいんだが
傍観者というだけなら春田や能登や奈々子様とかでもかまわない気がする

>>558
いつも乙です

561:名無しさん@ピンキー
08/12/25 22:05:53 TzooVqZF
ミラー保管庫の七夕ボンバー。が竜児×みのり、大河になってたけど
みのり登場してないと思ったんだが。

562:名無しさん@ピンキー
08/12/25 22:16:27 5YGn8i7O
>>559-560
わかった
とりあえず注意書きと鋼の精神とある程度の必然性があればおk、ってことで

563:名無しさん@ピンキー
08/12/25 23:13:37 W6j+cnOv
>>562
がんばって。期待してる。

564:名無しさん@ピンキー
08/12/26 00:08:04 W6j+cnOv
  それは特別、何でもない日。
  学校から帰ればだらだらと過ごすだけの、何でもない日常。
  ただ一つ。
  いつもと違っていたことは
  担任の残されたお人形さんみたいな虎が自分の家の隣にあるアパートに行ったとき、そこに住む竜が着替えもせず眠っていたことだけ。
  そう。 ただそれだけのこと。


565:名無しさん@ピンキー
08/12/26 00:08:35 Yx27n9hQ
                    『何でもない日』
  


  帰宅したとき
  自分の家では言ったことのない習慣となった「ただいま」の言葉に、返事がなかったことが物足りない。
  いつも返ってくる「おう、おかえり」の言葉。
  それがなかったことが物足りない。

  玄関からリビングを通り抜け、台所へ。
  水道の蛇口をひねり、冷たい水でよく手を洗う。これも、竜児に言われて習慣となった行為だ。
  うがいと洗顔も忘れない。
  顔と手をタオルでよく拭ってから、冷蔵庫を開ける。
  お気に入りのメーカーの、紙パック入りの牛乳。
  コップに注がず、直に口をつけて飲む。
  そうする度にいつも注意されるのに、今日に限ってはそれもない。
  それがやっぱり虚しくて。
  一口だけ飲んで、牛乳をしまった。
  これでどうだと、お尻で冷蔵庫を閉じる。



566:名無しさん@ピンキー
08/12/26 00:09:06 1XTcvIJt

  「…竜児」

 通り過ぎたときは気がつかなかった、こたつの中で眠っている少年。
 普段の目つきの悪さを隠し年相応のあどけない顔で眠ってる、力の抜けたこの部屋の主人の姿。
  替えもすませず制服姿のまま、こたつの中で眠っている。

 「あたしを出迎えもせずに……幸せそうな顔、しちゃって」

 言葉と裏腹、少女に自然とうかんだ微笑。
 竜児の寝顔なんて、こんなふうに見たことはなかったから。
 隣に腰掛けて、初めて見る同居人の寝顔をじっと観察する。
 いつも自分より早起きして。
 いつも自分より遅く寝る。
 学校でも家でも、昼寝なんてしない優等生。
  
 それが今こうして、手を伸ばせば、届くことさえできるほど近くに。

 「どうするのよ。 夕飯」
 「あんたが寝てたら…誰もつくってくれないじゃない」
 そういえば、やっちゃんは今日で外で食べてくるとテーブルにメモが置いてあったことを思い出した。


567:名無しさん@ピンキー
08/12/26 00:09:39 1XTcvIJt
 起こさぬよう、起こしてしまわぬよう。
 時間をかけて。
 ゆっくりと、白い指先で触れてみる。
 触ってみると自分とは違うごつごつとした、男らしい顔つき。
 意外と柔らかな頬。
 そして、唇。
 なぞるように指先で触れる。
 その指先をそっと自分の唇に持っていく。
 今は、これだけで…。

 竜児の横に寝そべる。顔を、眠る竜児の首元に。
 頭を預けてみる。
 耳にとどく、小さく、でも確かな息づかい。
 生きている証。
 それがくすぐったくも心地いい。

 「…竜児」

 起きたときにこんな格好だったら―どんな顔をするだろう?
 そう思って、瞳を閉じる。



568:名無しさん@ピンキー
08/12/26 00:10:09 Yx27n9hQ
それは特別、何でもない一日。
 仕事を終えて、息子と娘の待つ我が家に帰宅した泰子が目にしたのは。
 着替えもせずに眠り続ける、寄り添う子供達の安らいだ寝顔。
 普段見られぬ子供のままの姿。
 部屋から、毛布だして彼らにかけ背中を向けた。
 「いい夢をね。 竜ちゃん、大河ちゃん」

 柔らかな笑顔でそう呟いた。
 彼女はそっと、リビングの電気を消した。

 それは多分、何でもない日だからこそ見つかる。
 小さな小さな、幸せの一コマ。



569:名無しさん@ピンキー
08/12/26 00:10:16 LmrhN+Q5
とりあえず避けとけと言わざるをえないw
やっぱ既存のキャラを動かしたり、それを読むのが楽しいんだし
俺はこれ以上スレが荒れるのは嫌だ

570:名無しさん@ピンキー
08/12/26 00:11:01 1XTcvIJt
すいません、改行とかがおかしくなってました…。

571:名無しさん@ピンキー
08/12/26 00:22:41 SsqFNFj/
>>564
みのりんが竜児の寝姿みる話があったから、俺も書こうとしてた大河バージョンだ
雰囲気がGJだ、俺が書かなくて良かったよ

俺は寝言で、大河の名前が出る、太るぞとか続くオチ、怒る
しかしまた二回目、大河と優しい顔で寝言
「夢ぐらいみのりんの夢みなさいよ」といいつつ、大河も優しい顔になり髪を撫でる
というネタだったよ

572:名無しさん@ピンキー
08/12/26 00:29:03 89BCobhL
>564さん
 GJです。幸せな気持ちをいただきました。ありがとう!

573:名無しさん@ピンキー
08/12/26 00:37:19 Yx27n9hQ
>>571
すいませんでした。ネタかぶっちゃいましたね。
そちらのほうも、ぜひ投下してください。実際、そちらのほうが面白そうですし…。

574:名無しさん@ピンキー
08/12/26 02:13:19 cApVZy0J
>>564
GJです、いや大河が一人の時の空気が切なくもいいですな
あとは、亜美が竜児の寝顔を見てたときのSSですね
実乃梨版や大河版の作者さん、亜美好きの職人さんのどなたかお願いします

575:名無しさん@ピンキー
08/12/26 02:35:50 0Hkpd6+j
>>535
俺の頭が幸せでパンクしそうだ
作品の雰囲気とかキャラの特徴とかすごくよく再現してる
また書いてくれたら嬉しいぜ

576:名無しさん@ピンキー
08/12/26 03:37:45 yBSkq0BG
>>574
受信したので書いてみます。投下はいつになるかは少し分かりませんが、気長に待っていただければ幸いです

577:名無しさん@ピンキー
08/12/26 09:07:07 RhMTiRPj
櫛枝最高ォォォォォ!!
今なら言える気がする

578:名無しさん@ピンキー
08/12/26 15:56:04 V3MzIw0N
今でなくともいうといい
俺はむしろこの5人組が好き


579:名無しさん@ピンキー
08/12/26 15:56:14 WA47N9Un
保管庫、更新されたな。
だが>>170-181が収録されてる・・・。
たしか作者が収録しないでくれと言ってなかったか?

580:名無しさん@ピンキー
08/12/26 15:56:44 kENAYAQ6
>>546
あんた最高だぁ!超うめぇし超萌ぇ!

あ~カレー食いたいな

581:名無しさん@ピンキー
08/12/26 16:38:30 HF0UObtG
>>580
いい加減sageようぜ?

582:名無しさん@ピンキー
08/12/26 17:19:45 pZaU18RT
>>424-425も収録されとるな>保管庫
これ改変じゃなかったっけ

583:名無しさん@ピンキー
08/12/26 18:03:06 cA4Mr3Us
保管庫見てて思い出したんだが前スレで北村が成人しても会長から卒業できてないって感じのSSを書いた職人が
北村救済策として続編を書くと言ってたんだがもしかして忘れてる?それとも煮詰まってる?
忘れてるんだったら是非とも続編希望

584:名無しさん@ピンキー
08/12/26 18:36:39 6AISJ0PH
私も北村救済策に期待。

585:名無しさん@ピンキー
08/12/26 19:24:42 Lgzwu4Ry
ここ投下も頻繁で早いスレだから麻痺ってるんだろうけど
急かし過ぎww期待してるのは同じだけどね

586:名無しさん@ピンキー
08/12/26 20:18:26 1kMZ32Cr
>>585
 同感ww
 早く読みたいって気持ちはよくわかるけど
 急かすのはかわいそうだべや

587:名無しさん@ピンキー
08/12/26 20:36:29 cA4Mr3Us
>>585>>586
すまんすまん ついつい気持ちが抑えられなくなっちまった
俺このスレ以外のSSスレ見たこと無いから知らんかったけどこのスレは流れが速い方なのか


588:名無しさん@ピンキー
08/12/26 21:07:53 30AKuYCS
>>587
まずMCって単語をスレ検索して>>1がいつの書き込みかみるんだ

589:名無しさん@ピンキー
08/12/26 21:12:49 kENAYAQ6
>>581
ゴメンやり方分からないんだけど
教えて

590:名無しさん@ピンキー
08/12/26 21:18:33 XLzGIl4S
>>583
リアルが忙しくて書けなかった
今日から休みなんだ

591:名無しさん@ピンキー
08/12/26 21:37:23 wqRZJN85
>>535
GJ!
大河派の俺としては凄まじく切ない気分だぜ・・・

592:名無しさん@ピンキー
08/12/26 21:40:53 Snrwa8ir
>>589
マジかネタかは知らんが、メール欄に『sage』だ
全角じゃなくて半角だぞ

593:名無しさん@ピンキー
08/12/26 21:46:21 /WwIebL5
>>588
サンクス 向こうはDAT落ちも経験してるスレなのか
このスレの流れがいかに速いかよーくわかった
>>590
忙しかったのか 急かしてすまん 乙
待ってますぜ

594:名無しさん@ピンキー
08/12/26 21:53:15 HF0UObtG
>>589
メール欄に「sage」って入れるだけ。


595:名無しさん@ピンキー
08/12/26 22:25:50 Aq68dxYg
sageわからんとかIE厨かよ!
専ブラいれろ

596:名無しさん@ピンキー
08/12/26 22:33:19 kENAYAQ6
教えてくれてありがとう ネタじゃないんだ…
まだここ来たばかりで分からなくて
それと保管庫と言うのはドコに?
質問ばかりでゴメン

597:名無しさん@ピンキー
08/12/26 22:36:40 QAe86GC2
>>1

598:名無しさん@ピンキー
08/12/26 22:39:33 I7QvEerW
半年ROMれ

599:名無しさん@ピンキー
08/12/26 22:45:39 kENAYAQ6
>>597
ありがとう こんなにあるとは…全部読むの大変そうだ

600:名無しさん@ピンキー
08/12/26 22:53:31 Lgzwu4Ry
現行スレくらいログろうぜ
そして2ちゃん初心者用のスレなら他にあるから読んでみたら?
聞く前に調べようよ

601:名無しさん@ピンキー
08/12/26 22:53:54 zX4IOhzg
>>599
そろそろ気の短い奴がキレ始めるから自重しとけ

602:名無しさん@ピンキー
08/12/26 22:55:34 Aq68dxYg
あ゛ぁーーーっ!!!!!

603:名無しさん@ピンキー
08/12/26 23:51:07 NJyCl+AM
教えてクンに調べろは無意味
むしろなんで教えてくれないのって聞き返す動物だから

604:名無しさん@ピンキー
08/12/26 23:57:48 gXIeK5On
>>601
実際切れられても仕方ないレベル。みんながsageてるぶん、ある意味コテハン状態だぜよ。


605:名無しさん@ピンキー
08/12/27 00:14:37 mai+OBuv
北村覚醒の巻き
よろしく

606:名無しさん@ピンキー
08/12/27 01:50:49 OGRg/vY1
いろいろとありがとう
そしてゴメン

607:名無しさん@ピンキー
08/12/27 02:03:21 VeVsmxxi
成長したな・・・

608:名無しさん@ピンキー
08/12/27 03:43:35 v1p0LykL
スレの速度やばすぎだろ、3日ぶりくらいに来たらもう600いってるとか
職人の皆さんほんとGJです

609:名無しさん@ピンキー
08/12/27 22:21:37 mai+OBuv
そしてみな老けて行くのさ

610:名無しさん@ピンキー
08/12/27 22:28:16 oYIP6Drl
>>1
>◆エロパロスレなので18歳未満の方は速やかにスレを閉じてください。

611:名無しさん@ピンキー
08/12/27 22:39:27 ad8MSb/A
みなさん、春日ですよ

612:名無しさん@ピンキー
08/12/27 22:47:09 VeVsmxxi
\ウィ/

613:名無しさん@ピンキー
08/12/27 23:59:06 ebbSMC39
亜美ちゃんマダー??

614:Fire ◆V2fRu40gJE
08/12/28 01:23:45 ZgAegDil
竜児から大河へのプロポーズ。
ゆゆこ先生の作風とは違ってしまいましたが、どうかお読みください。


615:Fire ◆V2fRu40gJE
08/12/28 01:24:18 ZgAegDil
「プロポーズ」


それは、あまりにも突然だった。
そして、嬉しかった。
あの日から数年が経つ。私は、あの日のことは決して忘れないだろう。
竜児も、忘れないでいてくれてるのかな・・・?


***

竜児と大河の日常。それはあまりにも当たり前のこと。
高2の春以来、2人はずっと馴れ合いの関係を続けていた。
そして、高2の終わり頃、2人は恋人関係となった。
とはいえ、1年近くも馴れ合ってきた仲。恋人らしいことも、やるにはやったが大して変化はなかった。
そんな、奇妙な恋人関係が始まってから数年後の、大河の誕生日。
竜児がプレゼントを渡すときに、事件は起きた。

ささやかな、大河と竜児と、泰子の3人だけのパーティ。
大河は相変わらずといった感じで、竜児に話しかけ、泰子と笑いあっている。
突如として、竜児が言う。
「なあ、大河。プ、プレゼント、受け取ってくれないか?」
「ん?なになに?」
大河は、待ってましたと言わんばかりに、期待に満ち溢れた目で竜児を見る。
そんな大河を見て、竜児はポケットの中から、震える手で箱を取り出す。
「・・・」
大河は、その箱を食い入るように見つめていた。
ゆっくりと、開いた箱の中には、銀色に輝く―
「指輪・・・」
大河が、つぶやいた。
「そう、指輪だ」
竜児がうやうやしく指輪を取り出すと、
「で、その指輪をどこにつけてくれるのかしら?」
不躾に、竜児の目の前に手が突き出される。
「そりゃ」
竜児は大河の左手をとり、
「ここだろ」
薬指にそっとはめた。


616:Fire ◆V2fRu40gJE
08/12/28 01:25:19 ZgAegDil
恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
蛮勇を奮い、誕生日に結婚指輪をプレゼントするという計画を立てたのは自分だけで。
泰子にも秘密にしていた。恥ずかしさ×2。

顔を上げ、大河の顔を見る。
「・・・・・」
大河は、何故か泣いていた。指輪を見つめたまま、頬を涙が伝っていく。
「おう!どうしたんだ大河?・・・もしかして、嫌・・・」
「ねぇ、竜児」
涙を流したまま、大河は竜児に話しかけた。
「やっちゃんに、教わらなかった?女の子を泣かしちゃいけないって」
「・・・え・・・」
そうか・・・、嫌・・・なのか・・・。
そう思い、肩を落とす。が、大河は言葉を続ける。
「でも・・・許してあげる。嬉し涙は別よ。」
「・・・いいのか?」
「あたりまえじゃない・・・。なんであんたのプロポーズを断んなきゃならないのよ」
大河は竜児に、甘えたように抱きつきながら言う。
そんな大河を、竜児も抱きしめる。

そのとき、存在を消していた泰子が2人を抱きしめた。
「よかったね~大河ちゃん。これで大河ちゃんは正式にうちの子だよ~」
涙ぐみながら、心から嬉しそうに言うのだった。


この世で、竜児だけが見つけられなかったもの。
この世で、竜児にしか見つからないようになっていたもの。
竜児は、それを守り抜く義務がある。

End


617:名無しさん@ピンキー
08/12/28 01:32:26 V7rqI7+Y
なかなかいい話じゃないか

618:名無しさん@ピンキー
08/12/28 01:38:39 bfXhavtc
GJすぎるぜ、ありがとう

619:名無しさん@ピンキー
08/12/28 03:04:08 8kyzwYc6
凄い好きだよ!乙

620:名無しさん@ピンキー
08/12/28 03:25:39 Aa5cCss2
>>615
GJ! 寝る前にありがとう! いい夢が見れそうだ。

621:名無しさん@ピンキー
08/12/28 03:49:39 87QZnXbg
GJ!!俺ちょっとドンキで指輪買ってくる

622:名無しさん@ピンキー
08/12/28 05:39:18 TlE3gpxk
GJ!心が温まったぜ

623:名無しさん@ピンキー
08/12/28 10:38:33 0kwTcp7Y
>>615
GJ 高須の鈍感さは健在だな だがそれが良い

624:名無しさん@ピンキー
08/12/28 12:20:28 ZgAegDil
>>616の修正です
この世で、竜児だけが見つけられなかったもの。

これは、「この世で、竜児だけしか見つけられなかったもの。」
でした。

625:名無しさん@ピンキー
08/12/28 14:24:01 RT0rZxor
>>616
いい話だが、Fireてwwwwww
恥ずかしくて顔からFireが出そうだったんですね、分かります^^

626:名無しさん@ピンキー
08/12/28 23:29:29 0kwTcp7Y
職人様 あんまり需要無いかもしれないけど能登×木原お願いします

627:名無しさん@ピンキー
08/12/28 23:31:54 oKD4bviq
能登乙

628:名無しさん@ピンキー
08/12/28 23:34:16 ZnbruEW4
職人様 需要ありまくりであろう竜児×みのりん
たのんます

629:名無しさん@ピンキー
08/12/28 23:36:03 SzG3FYbm
能登に木原はもったいない
どちらかというと能登×木原のブラウスくらいでちょうどいい

630:名無しさん@ピンキー
08/12/28 23:41:33 0kwTcp7Y
>>629
そうか?友人思いのいいやつじゃないか 能登良い奴だよ能登
まあサブキャラ故に細かい描写が無いから説得力ないかもしれないけどさ

631:名無しさん@ピンキー
08/12/29 00:35:34 4EUZXTNy
あんだけフラグ立ててりゃそのうちゆゆぽが書いてくれるでしょ<木原能登

632:名無しさん@ピンキー
08/12/29 00:36:32 kswWgkz/
能登ってどうも北村にコンプレックス持ってるっぽい
んだよな。「あいつだってアホでメガネなのに、
なんであいつばっかり」的な。
麻耶の邪魔をするのも、麻耶に対してどうこうよりも
北村への対抗意識のほうが強いように思う。
呼び方も「高須」「春田」「大先生」と、微妙に
一線引いてるっぽいし。

633:名無しさん@ピンキー
08/12/29 00:41:35 4EUZXTNy
穿ちすぎだと思います。

634:名無しさん@ピンキー
08/12/29 00:55:50 kswWgkz/
そうかなあ?
7巻辺りでは「北村×タイガー、超ウケルwww」
とか言ってたし、麻耶の邪魔をするのは単なる懸想
だけじゃない、もっとこう黒いものがあるように見えるんだが・・・

635:名無しさん@ピンキー
08/12/29 01:17:21 eSIOJ06p
能登も木原も自身の恋愛のために大河や竜児を使おうとして自爆した者同士
適当に傷の舐めあいさせられるだろ

636:arl ◆GjySNanGL2
08/12/29 04:20:02 eCBsBu2U
 初投稿。正直、どういう風にやればいいのかわかんないけど、竜児×亜美を投下したい。
 よかったら読んでみてくれ。ちなみに時系列とか色々と―無視、だ☆ぜ。



 …


『こんな年末』


 何故か今年の年越しは我が家ですることになって、ボロ借家の狭い我が家では現在、北村、櫛枝、大河、川嶋がやんややんやと盛り上がっている。
 泰子は仕事仲間と年越しをするそうで、家にはいない。

 保護者がいない、子供だけの空間で、何故か自分が保護者になっているような気がしてため息が出る。

 だって俺以外皆酒飲んでるし。北村と櫛枝なんか、大声で歌い始めて何時大家が飛んでくるかと内心ビクビクしているのだ。
 大河に至っては……、

「ブス☆インコ。アハハハハ!!!」

 愛しのインコちゃんに絡んでやがる。
 アイツ、何らき☆○たのノリでインコちゃん罵倒してやがる。
 ブス、ということに否定できないのが悔しくて堪らない。

 ……とまぁ、本当に皆がすき放題やっている中で、

「あれ?そういや川嶋は?」

 一人いないことに気づいた。
 トイレか?なんて思ったが、それならば俺に声をかけるはず。
 泰子の部屋は初めに出入り禁を言っておいたのでそれもない。
 風呂?ないない。

 となると、狭い我が家で川嶋がいる所は、一つしか思い当たらない。


637:arl ◆GjySNanGL2
08/12/29 04:22:20 eCBsBu2U

 …

「…何してるんだよ」

 思った通り、川嶋は俺の部屋の窓を開けて、大河のマンションを見ていた。
 川嶋は俺の声に振り向いて、「こんばんわぁ☆」と陽気に挨拶。

「こんばんわ…じゃねえだろ。大河のマンションなんか見て、なにしてんだ?」

 ため息をつきながら尋ねると、川嶋は小さく笑って、

「あそこから見える景色はどうなのかな…って」
「…は?」

 間抜けな声が出てしまった。何を言ってるんだ、川嶋は。

「どうって…、大河の寝室からは俺の部屋しか―」
「そうじゃなくて」

 俺の言葉を川嶋が遮る。

「そうじゃ…ないんだよ…」

 いつも見せる余裕な川嶋亜美はそこにいなくて、

「お前……どうしたんだ?酔ってるのか?」

 戸惑う俺に川嶋は「うん…、そうかもしれない」と意味深に微笑む。

「ねえ高須君、お願いがあるんだけど」
「あん?」

 そして、こんなことを言いやがった。

「―新年までさ、一緒にいてくれない?」


638:arl ◆GjySNanGL2
08/12/29 04:23:20 eCBsBu2U

「は?」
「ダメ?」
「いや別にいいけど…」

 了承すると、「そっか」と川嶋は言って俺の傍に近寄ってきた。

「じゃあ一緒にいようね♪」 
「…お、おう…ってか、川嶋!?」 
「? なぁに?」
「何故そんなにピッタリくっつく!?」

 そしてあろうことか、俺の腕を取ってピッタリと寄り添ってきました。
 鼻腔に香る、川嶋の匂いに(変態チックとか言うな)、俺の心音が速くなる。

「えー、別にいいでしょ?それとも…、高須君はこういうの、嫌?」
「嫌とか…そんなんじゃ…なくて…」

 本当にどうしちまったんだ、今日の川嶋は。
 こんなんじゃまるで…。

「ふふ…。今『恋人みたい』って思ったでしょ?」
「!?」

 川嶋の言葉に、身体が強張る。…だって、図星ですから。
 以心伝心!?と思ってしまうくらいに心を読まれましたから。

 川嶋に言われて、妙に緊張してしまった俺を見て、川嶋がくすくすと笑った。

「あはは…。高須君カワイイ♪」
「なっ…!」
「カワイイのに強面…。コワカワイイ?あはは!チョーウケるんだけど!?」
「お…お前なぁっ!!」

 誰のせいだ!と言ってやろうかと思ったら、川嶋がさらにぎゅう、とくっ付いてきた。
 おい、いい加減に…、と距離をとろうとしたが、

「でも、好きだよ。高須君」

 川嶋のその一言に、本当に身体が硬直した。


639:arl ◆GjySNanGL2
08/12/29 04:24:38 eCBsBu2U

「おまっ…!いきなり何を…」
「さぁ?亜美ちゃんわかんな~い」

 顔に血が上っていく。間違いなく俺の顔は真っ赤だ。
 川嶋の『好き』があまりにも衝撃的だったから。

 でもそれは、どういう『好き』なのかわからない。

 からかいがいのある高須竜児が好きなのか、それとも恋愛対象としての高須竜児が好きなのか…。

 どちらにしろ、コイツから答えは返ってこないだろう。

「……なんなんだよ、全く」

 急に抱きついてきたり、よく分からない『好き』発言だったり。
 酒の勢いからなのか?それとも自覚アリ?

 どちらにしろ、質が悪すぎるぞ性悪女。
 
 やられてばかりは悔しすぎたから、俺は反撃しようと思う。
 もうじき今年が終わる。だから今年最後の、最大の、反撃を。

「なぁ川嶋」
「なぁに?高須君?」


 喰らえぃ!竜の一撃を!!


「好きだぞ」





 その一言が川嶋にどれだけ効果があったか分からないが、きっと間違いなく反撃は成功したと俺は思った。
 なぜなら川嶋が、物凄く驚いた表情をしていたからだ。


 これで俺をからかうこともなくなるだろう、と川嶋の顔を見てニヤニヤしていたら、


「高須君」
「何だ?川――…」



 かわしまにきすされた。


 
………アレ?



end


640:arl ◆GjySNanGL2
08/12/29 04:27:19 eCBsBu2U

拙い文で申し訳なかった。
でも書きたかった。後悔はしていない。
ここに投稿するのってある意味初体験だから…緊張しました…。
良かったらまた投稿したいと思うんで、そのときは生暖かい目で見守ってください。

 竜児と亜美、他三人に目撃されこのあと事情聴取。

641:名無しさん@ピンキー
08/12/29 04:29:32 nTtIMFeK
GJ!乙だぜ

642:名無しさん@ピンキー
08/12/29 07:59:20 BdHUHX5V
興奮シマスタ

643:名無しさん@ピンキー
08/12/29 10:18:54 5nzrKA6G
ニヤニヤが止まらんw
GJ!!

644:名無しさん@ピンキー
08/12/29 12:22:57 Cw9CrNYo
>>640
GJ 高須家は新年早々盛り上がりそうだな

645:名無しさん@ピンキー
08/12/29 12:28:49 u9xZ05Xz
あみちゃん最高!

646:名無しさん@ピンキー
08/12/29 12:51:08 I1FM1crP
網ちゃんは俺の嫁!

647:名無しさん@ピンキー
08/12/29 15:13:35 4M1K5hy5
>>640 GJ過ぎる!ここ最近で一番ツボです!続きキボンヌ。

648:名無しさん@ピンキー
08/12/29 15:31:19 0CsqDAri
竜児はらき☆すた知らないと思う。ネタなんだろうけどかなり違和感があった。
でもそれ以外はGJ!続編キボンヌ


649:名無しさん@ピンキー
08/12/29 15:41:06 8g4FP76N
レギュラーメンバーで知ってる人いなさそうだならきすた
サブ含めても能登くらいしかいなさそう

650:名無しさん@ピンキー
08/12/29 15:41:40 nTtIMFeK
まあ叩いてるのは一人の基地外って感じだがw

651:名無しさん@ピンキー
08/12/29 16:50:20 ix2hKGiV
この位で叩きってお前……
打たれ弱すぎだろw

652:名無しさん@ピンキー
08/12/29 16:55:05 VNqihr7S
冬休みだから耐性無いガキが沸くのはしょうがない

653:名無しさん@ピンキー
08/12/29 17:22:21 9RHHkqUT
このくらいで叩いてるって思うようだと
他の所いったら発狂するんじゃないか

654:名無しさん@ピンキー
08/12/29 17:24:24 nhgfWgiU
ここの住民は叩き耐性無いからな
内容指摘しただけでめちゃくちゃ言われてたりしてた

655:名無しさん@ピンキー
08/12/29 17:29:20 nTtIMFeK
あー、ホントすまん
凄い勢いで誤爆してた

656:名無しさん@ピンキー
08/12/29 17:29:35 adotIFnA
 『竜虎 温泉に行く』

冬休みも残りわずか…いつもと変わらないある日のこと―

「あー…全くこの家は本当に寒いわね…本当に壁なのかしら?この壁…」
信じられないことを言うその虎はボロアパートの壁をがんがんと叩く
「おい!やめろって大河!また家賃上がったりしたらもうしゃれになんねえよ」
台所で洗い物をしながら竜児は家賃の心配をする
そしてその虎…いや大河の動きはようやく止まる
「でもこの寒さは尋常だわ…この壁…実は壁じゃないのよ…きっと…」
何を言い出すんだ、こいつは…
じゃあ何か?自分は壁のないこの家で何年も生活してきた…というのか?
「残念だが大河…これは紛れもない壁だ。ていうか俺の家は毎年この時期、これぐらいの温度なんだよ…」
竜児は悲しい事実を大河に告げる
「そうなんだ…毎年…へえ…やっぱ壁だったんだ」
当たり前のことだが未だ信じられない顔をしている大河は一応納得する
しかし、竜児の家はとにかく寒いのだ
そして二人はため息をつく
「まあ…でもお前は良いじゃねえか。お前は帰れば家には暖房付きエアコンがそこら中に取り付けられてるんだしよ」
竜児は隣りの大河のマンションに目をやりながら卑屈っぽさ丸出しで言葉に出してしまう
そしてすぐに…
しまった…あの家は大河が親に捨てられた象徴…言ってはいけないことを言ってしまった
竜児は今ので大河がキレてしまうとこれまでの付き合いで察知したが何やら様子がいつもと違う…
「…そりゃね…まあ帰ればエアコンだってあるし、壁だって本物だけど…その…あの…竜児が…いないじゃない…」
そっちの方が嫌…とそのまま大河はうつむいて顔を赤らめる
『ズキュン!』
今の竜児の心の中の音を再現すると、きっとこの音に限り無く近いだろう
あんな顔して…上目使い…なんて破壊力なんだ…大河…いつからそんなに素直になったんだ…
思わず竜児はうつむいている大河を抱き締めてしまう

657:名無しさん@ピンキー
08/12/29 17:31:32 adotIFnA
竜児と大河が付き合い出したのはつい最近だ
今の竜児の行動もだからこそ許される
ちょっと前に同じことでもやろうとすれば…(まあ、しようとは思わなかったが…)確実に竜児は二秒で死んでいるだろう

だが今では…
「好きだぞ…大河…」
大河も黙ったまま竜児の背中に手を回す
そして竜児の胸に自分の頬を猫のようにすり付ける

その状態のまま三分が経った
大河は急に竜児の胸に埋めていた顔を離して声を張り上げた
「ねえ竜児!温泉にでも行かない!?」
「…………え?」
「だから、温泉よ。お、ん、せ、ん。まさかあんた…温泉知らないの…?大丈夫…?」
大河は今の三分間をリセットし、いつものように自分を馬鹿にする口調で聞いてくる
さっきのあの可愛らしい真っ赤な顔は何処に…?
「知ってるよ…温泉かあ…そうだなあ…行きてえなあ…」
そして竜児も竜児で今のいいムードをぶち壊して気の抜けた返答をする
「でしょ!行きたいでしょ。じゃあいつ行く?明日?明後日?何泊する?」
「おい待てよ…お前、まさかこの冬休み中に行くつもりなのか…?泰子とインコちゃんの飯とかどうするんだよ」
「あっそうよね。じゃあ学校始まってからズル休みでもして……」
ズル休みは駄目だと悪党顔とは打って変わってのくそ真面目の竜児が口を開こうとした瞬間、ふすまがゆっくりと開く


658:名無しさん@ピンキー
08/12/29 17:32:25 adotIFnA
「行ってくればいいじゃな~い」
仰向けの姿勢で顔はふすまの間から…というこの家の大黒柱の声
「「…えっ……!」」
「だーかーらー行ってきなよ~せっかくの休みなんだし~竜ちゃんと大河ちゃんが付き合いだして初めての旅行でしょ~」
「でもよ…」
自分でも認めるマザコン野郎竜児はマイマザーを心配するが泰子は続ける
「ほら~別荘行った時もやっちゃん、ちゃんとお留守番出来たでしょ~今回も大丈夫。行ってきなって~」
竜児は、それでもなあ…と思いつつチラッと横を見る
大河がその大きな目をうるうるしながら竜児を見ていた
だから…そんな目をするなよ大河…卑怯だぞ…
「………わかった…じゃあ行くか!温泉旅行!」
「やったー!」
とはしゃいだのは大河
パチパチパチパチと馬鹿らしい拍手をしてくれているのは泰子
そして竜児はあることに気付く
「………泰子…お前いつから俺達の会話を…?」
そして大河も気付いてしまう
「ええっと~確か~大河ちゃんが顔を真っ赤にして~竜ちゃんがいないと嫌…」
「ストッーープ!!」
大河はふすまを閉める
「ほらっ!やっちゃん…まだ酔いが冷めてなさそうだからもうちょっと寝てたほうがいいわよ!」
「そう~?わかった~じゃあもうちょっと寝てるね~」
ふすま越しに聞こえる泰子の声
「泰子の野郎…まさかずっと聞いてたのか…?ていうか、ふすまから覗いていたのか…?」
「ああ゛ーーー」
大河は再び顔を真っ赤にして唸っている
何も聞こえていなかった振りでもしているらしい

659:名無しさん@ピンキー
08/12/29 17:33:04 adotIFnA
「じゃあ行ってくる。本当に大丈夫なんだな?」
「……うーん…だいじょ~ぶ~…いってらっさい~…」
酔いが抜けていないのと無理矢理起こされたので泰子は今にも倒れそうだ
「ごめんね、やっちゃん…私のわがままでやっちゃんを一人にして…」
「いいんだよ~それより~…」
ふらふらな泰子はそれでも大河のそばに寄り竜児に聞こえないように耳打ちをする
「竜ちゃんはね、超奥手ちゃんだから、積極的に責めないと~何もないまま旅行終わっちゃうから頑張ってね~」
大河はそのまま硬直してしまう
顔面信号はいつも通り赤だ
「なっ…なにいってるの……だって…そんな…キスだって…その…まだ…だし…」
何の話をしてるんだ?と思いながら竜児は携帯のフリップを開け時間を確認する
そろそろ行かないと電車に間に合わない時間だ
「おい大河!そろそろ行くぞ。じゃあ泰子、行ってくる。インコちゃんを…餓死させるなよ」
そう言って竜児は未だに固まっている大河の腕を無理矢理に引っ張って高須家を後にする


行き先は京都
張り切った大河が何から何まで手配した
大河は行こう思えば豪華なホテルにでも何でも行けたのだが、竜児に合わせて格安の旅館を手配した
その旅館は設備も充実しており露天風呂もあるそうだ
それでも格安で済んだのは、そこに泊まるはずだった団体の何人かが急遽キャンセル
元々安い宿泊費だったが旅館の人はその空いた部屋ならさらに格安で泊まれますよと、図々しく大河に勧めてきたらしい
出来るだけ竜児に負担をかけたくなかった大河はその話に乗っかりそこに予約をしたのだ

660:名無しさん@ピンキー
08/12/29 17:33:45 adotIFnA
新幹線の中―
竜児は駅弁を豪快に食らう大河を見つめる
別に大河をこの新幹線から引きずり落として完全犯罪をしてやろうと思っているわけではない
感謝しているのだ
大河は普段はああだが、優しいやつだ
経済的に問題のある自分のこともちゃんと考えてくれている
この旅行もそんな大河の頑張りがあったから
竜児はそれがとても嬉しかったのだ
だから無意識に大河を見つめてしまう
「………あんた…何さっきからジロジロ見てんのよ…私の食欲が失せる一方なんだけど…」
………駅弁二つ目で何を言ってるんだ…こいつは…
「いや…その…なんとなくだな………うっ!…めっ…目が~!!…」
竜児の言い訳と同時に右目に飛び込んでくる黄緑色の物体
枝豆だ
「ったく…そんなキモい目で私を見るんじゃない。落ち着いて駅弁も食べれやしないわ!」
『もぐもぐもぐもぐ…』
食ってんじゃねえか…
竜児は涙がぽろぽろと出る右目を抑えながら大河に心の中でつっこむ
…やっぱり訂正だ!こいつは優しくなんかない…なんていうか…黒い…
しかし、そんなことを言えばまた大河は自分の想像を遥かに超えた暴言を放つので口には出さない竜児であった

まあそんなこんながありつつも竜児と大河を乗せた新幹線は走り続けるのであった

661:名無しさん@ピンキー
08/12/29 17:34:40 adotIFnA
「おお!高須に逢坂!終業式以来だな!」
「………おっ…おう…そうだな…久しぶり…北村…」
「元気だったかね~二人共!櫛枝はバリバリ元気だったぜ!冬の寒さなんかぶっ飛ばしてやったわ!わっはっは!」
「……み…みのりん…そう…私も…元気だったよ…」
そして北村と実乃梨の二人は竜児達が歩く逆方向の廊下を歩いていく
「「…………なんで……?」」
竜児と大河はお互いの顔を見合わせた


五時間前―
京都に着いた二人は早速、京都の観光に来ていた
とりあえず二人はパンフレット片手に有名な観光地をひたすらに巡った
写真を撮ったり、京都名物を食らったり(大河)迷子になったり(大河)迷子になったり(大河)…
いろいろあったが、二人はそれなりに京都を満喫した
そして歩き疲れた二人はようやく予約していた旅館に到着した
「おう…なかなか…っていうか…充分立派な旅館じゃねえか…」
竜児は旅館を眺める
別に今日中にこの旅館を灰にしてやると考えているわけではない
感動しているのだ
「へへっ…そうでしょうよ。感謝しなさいよ!この旅館に泊まれるのはこのわ、た、し、のおかげなんだからね」
そう言って大河はふん反り返る
二人が認めるように確かに今夜泊まる旅館はいい感じの旅館であった
少々古い造りだが逆にそれによって代々から続いている歴史ある旅館だと物語っているかの様
あの値段で泊まれるなんて嘘のような申し分ない旅館だ
「そうだな。本当にありがとな…大河」
大河は少し驚く
竜児が素直過ぎるお礼を言ってきたからだ
「……まあ今日はゆっくりしなさいよ…私への奉仕は今日は免除してあげる。この旅行は竜児への…普段の感謝?的なあれでもあるし…」
「ああ。じゃあ今日は思う存分ゆっくりさせてもらうな。だから…迷子とか…今日はもう勘弁してくれよ…」
後半の本音をぽろりと出してしまった竜児は大河に軽く睨まれる
しかし確かに今日はゆっくりさせてくれるらしい。普段なら、ここで蹴りの一発や二発は当たり前だ
そして二人は旅館の中に入る
名前を名乗って部屋の鍵をもらう
鍵は一つ。つまり二人で一部屋

662:名無しさん@ピンキー
08/12/29 17:35:11 adotIFnA
前の日―
大河いわく「一部屋ならより安く済むから…私もしょうがなく…仕方なく…妥協してあげるわ」だと
「まあ今さらお前と同じ部屋でもいつもと対して変わらねえよな」と答えると大河から回し蹴りを食らった…なぜだ…?
そして実はその時の蹴りがまだちょっと痛い…

そんなこともあったが、竜児はこの旅行が本当に楽しみだった
別に何かを期待している訳ではないが今日と明日の二日間は泰子もいないし、インコちゃんだっていない
つまり二人きりだ
京都巡りで横にいる大河もいつもより機嫌が良さそうだし
とにかく竜児はうきうきしていたのだ。していたのに…


そして今に至る
竜児と大河は今の状況についていけない
だって……なぜ奴らがここにいる?
よく知っている坊っちゃん刈りメガネと元気ハツラツ天然少女と廊下でばったり会うなんてありえない。ありえてはいけない
だってここは京都。東京じゃない。だからこのよく知る二人がましてやこの旅館にいるなんてもっとありえない
普通に話し掛けてくるなんてもっともっとありえない
竜児はこの二人の存在を頭の中で否定する
そして恐る恐るその二人が歩く方に駆け寄った
大河もその後に続く
二人を呼び止めてみる
「お…おい…お前ら…北村と櫛枝なのか…?」
「ああ。そうだが…何当たり前のこと言ってるんだ、高須」
「……………そうなのか…やっぱり北村だよなお前は…ははっ……」
竜児は壊れてしまう
「いや~でも偶然って怖いですな~まっさか高須くんと大河のお泊まり旅行に居合わせちゃうなんて。なんかごめんね」
「……………やっぱりみのりんなんだ…ははっ……」
後に続くように大河も壊れてしまう

663:名無しさん@ピンキー
08/12/29 17:35:53 adotIFnA
二人の話によると、ここは大橋高校ソフト部御用達の旅館
毎年この時期に参加出来る者だけを集めて合宿を行なうそうだ
合宿と言ってもそんなのは名ばかりで、ほとんどただの正月明けのお楽しみ旅行
参加人数が毎年多いので、もはや恒例の行事となっているらしい
ちなみに竜児と大河が今夜泊まる部屋は元々はインフルエンザで欠席したソフト部部員の部屋だったらしい


「はあ…どうするのよ…」
「……どうするって言ってもなあ…」
時刻は午後六時、二人は各々の座椅子にへばり付くように、もたれかかっていた
「まあ、別にいいんじゃねえか?北村達がいたところで別に俺達、やましいことなんかしねえわけだしよ」
「………まあ…そうね…」
心なしか大河は残念そうな顔をする
えっ…おい…なぜそんな顔をするんだ大河…まさか…やましいことを望んでいるのか…?…いや…そんな訳ない…のか…?
竜児は勝手に汗をかいたり首を横に振ったりしてしまう。一人でジェスチャーゲーム状態だ
そんな竜児に目もくれず大河は立ち上がる
「竜児………あのさ……」
えっ…何なんだ大河…何なんだ…その溜めは……まさか…
「温泉行くわよ」
えっ…温泉だと…?温泉……ああ温泉か…
竜児は気が抜けてしまう。だって…あの溜めは何だったんだ…?嫌がらせか…?
「なんて顔してんのよ…言っとくけど、別々だからね。混浴もあるらしいけど、あんたと一緒じゃ毛とか脂とかがねえ…」
嫌味ったらしく大河は竜児を罵る
「…べっ…別にそんなこと期待してねえよ…」
負けじと竜児も応戦する。しかし嘘だ。大河があんな風に言うからムッとなってるだけ
竜児だって年頃の男なのだ。好きな女と混浴なんていう嬉し恥ずかしイベント…嫌なはずないだろう
「あ~らそう。どうしても一緒に入りたいって泣き付いてくるなら考えてやっても良かったけど、いいのね?あっそ。」
そして大河は部屋を出ていく
「……はあ…」
残された竜児は溜め息。そして重い体を無理矢理起こす
せっかくこんな所まで来たのだ。温泉に行かないとMOTTAINAI
下着と浴衣とバスタオル、そして大河の分のバスタオルを手に持つ
どうやらあのドジはバスタオルの存在を忘れているらしい
結局今日も虎の世話をしなければならないのだろうなと思いながら竜児は大河を追いかける

664:名無しさん@ピンキー
08/12/29 17:42:25 adotIFnA
竜児からバスタオルを渡された大河は一人で女湯と書かれているのれんをくぐる
せっかく奇跡的に親友がこの旅館にいるのだが、あえて誘ったりはしない
中に入り、人がいるかを確かめる
別に誰かいたところで引き返したりはしないが一応だ
誰もいないことがわかると早速服を脱ぐ
竜児が可愛いぞと言ってくれたおニューの服をだ
そんなことを思い出して少しにやけてしまう
「…可愛い…か…ふふっ…」
そしてこの旅行の一番の目的であった温泉へと続く扉を開ける


「はあ~生き返る~」
大河は湯船の中で定番の言葉を発する
温泉はパンフレットで見た通りの大浴場。掃除も丁寧に行き届いていてぴかぴかだ。奥には露天風呂だってある
今日一日の疲れが嘘のように消えていく。歌だって歌いたくなる
「い~い湯だな。あははん…」
この後の歌詞はよく知らないが、まあいいか
『ガララッ』
大河は振り返る
この音はさっき自分がこの浴場に入って来た時の扉の音だ
つまり誰かが入ってきたのだ
せっかく一人でいい気分だったのに…と思ってもしょうがない。自分だけの温泉じゃないからだ
扉から光臨したその女は走り出す。タオルは…巻いていない…
そしてそのまま全裸で大河の浸かる湯船にダイビング
「………みっ…みの………ぶはっ!…」
その女のダイブによってできた飛沫が大河を襲う
「ふっふっふ…お前だけに温泉を独り占めなんてさせてやらないぜよ…」
「みのりん…相変わらず登場の仕方が最高ね…」
その女の名はみのりんこと実乃梨
説明しなくてもさっき会ったばかりだ
そして実乃梨は大河の傍らに浸かる
「あれっ…みのりんだけなの?他の部員は?」
「それがさ~奴等め…私がミーティングしてる間にさっさと行ってしまいやがって…はあ…取り残されちまったぜ!」
そう言って実乃梨は親指をぐっと立てる
「まあいいや。大河が居たし、寂しくなんかねえよ!それよりさ~…」
実乃梨は急に顔をにやけつかせる
「高須君と混浴に行ったりしないの~?た、い、がー?」
大河はにやにやする実乃梨から顔を背ける
「別に…いいの。竜児だって、私と入ったって嬉しくないと思うし…」
「えっ…なんでそんな事思うのさ~?高須くんは大河のことが好きなんでしょ?」
大河は口ごもる
「まあ…たぶん…この前も『好きだ』とは言ってくれたし…」
そして大河はお湯の中に口を入れてぶくぶくさせる
「なら一緒に入りたいはずだって。男っていうのは、好きな女のこと想ってムラムラしたりする生物なんだからさ」
男女交際は恐らくないだろうと思われる親友の理論。根拠はどこからなのか?

665:名無しさん@ピンキー
08/12/29 17:43:08 adotIFnA
温泉から上がった竜児は待ち合わせ場所で大河と落ち合う
夕食まで少し時間があったので大河の提案で卓球をした
予想以上に白熱してしまったので二人はヘトヘトになって部屋に戻る
そしてここが旅館だと言わんばかりの和の夕食をたらふく食べて、いつもの風景が出来上がる
大河が座布団を枕にして寝そべり、竜児は机の前に座り一緒にテレビを見るというものだ
ほどほどにテレビを切り上げて布団を敷く。もちろん二人分だ
電気を消して二人はそれぞれの布団に入る
「おやすみ、竜児。今日はゆっくりしてね」
「…おう…おやすみ」

電気を消して三十分が経った―
…横には大河がいる……
竜児はそれだけで一杯一杯だった
大河とは普段から共同生活をしているようなものの寝る時はいつも別々なのだ
だが今日は違う…
手を伸ばせば横に眠っているまるで人形のような少女に届いてしまう距離
「すぅ……すぅ……」
耳を澄すと大河の寝息
「………何を考えているんだ…俺は…」
今日の旅行は自分の為に大河が用意してくれたもの
変な気を起こしては大河に失礼だ
竜児はそう自分に言い聞かせてようやく眠りに入る

666:名無しさん@ピンキー
08/12/29 17:43:51 adotIFnA
深夜一時―
竜児は目を開けてしまう
何かが自分の顔をぺちぺちと叩いているからだ
別に痛くはないがそれが何かはわからない
ようやく暗闇に慣れた目でそれが何かを確認する
手だ。当然その手の持ち主は自分より先に寝てしまったはずの大河だ
「竜児…起きて…起きてったら…起きろ!」
大河が自分の顔を叩いていた。しかも最後の一回は少し痛かった…ていうか、ほぼビンタだ…
「…ったく…何だよ…便所か…?それくらい自分で…」
「違う…温泉…混浴……」
「はい…?」
「だから…温泉行くわよ…混浴の…今ならたぶん…誰も入ってないと思うから…」
「何だ温泉かよ。ったく………………えっ…混浴……?」
竜児は起きたばかりなので大河が何を言ったのかを脳で整理するのに時間が掛かってしまう
混浴……?つまり俺と大河が同じ湯船に浸かるということなのか……?そうなのか大河…?
「嫌……?」
大河は動揺しまくっている竜児に顔を近付けて困った顔をする
「……いっ…嫌…じゃない…むしろ……ていうか…大河はいいのか…?」
竜児は答える。もちろんOKに決まっている
「そう…嫌じゃないのね…じゃあ私と混浴…嬉しい…?」
なんてハズい質問をしてくるんだ…こいつは…
そう思いつつ、ここで変に受け流してはいけない気がした竜児は素直に答える
「…そりゃ…嬉しいに…決まってるじゃねえか…好きな女との混浴だし…」

大河は微笑む。この旅行一番の笑顔。大好きな男からの愛が確認できたから

667:名無しさん@ピンキー
08/12/29 17:44:38 adotIFnA
「良い温泉よね~何回でも入りたいくらい」
「………おう…そうだな…」
「やっぱりこの時間帯じゃさすがに誰もいないわね」
「………おう…そうだな…」
「あんた…どうしたの…?さっきから同じことばっか言ってるわよ」
「………おう…そうだな…」
深夜一時半―
他の観光者達はもうとっくに夢の中だろう
だからこの混浴露天風呂にいるのは大河と自分の二人だけのはずだ
外の冷たい空気が二人の顔を冷やす
「……大河…そろそろ上がらないか…?」
「えっ…何言ってんのよ。まだ入ってから五分も経ってないじゃない」
「まあ…そうだけど…」
大河のハズい質問に素直に答えた竜児であったが、やはりこの状況には耐えられないのだった
横を向くとタオルは巻いているが、透き通っているかのような大河の白い肌が嫌でも目に入る
華奢な体つきだが大河だって充分立派な女性。年頃の男児をどきどきさせるフェロモンだって持っている
まるで一分が一時間…五分が一日のように感じられるほど時間の流れが緩やかだ
とにかく早くここから離れたい…

668:名無しさん@ピンキー
08/12/29 17:45:20 adotIFnA
「あのさ…」
大河の声が聞こえる
竜児はこれ以上刺激を与えて欲しくなかったが一応返事をしてみる
「…なっ…なんだ…?」
「実は私…混浴なんて来たくなかったのよ…」
「………え…?」
「ほら、半年前のプール開き…覚えてる?」
手をちゃぷちゃぷと湯船で遊ばせながら大河は続ける
「哀れな姿を北村君に見せたくないって…」
「おう…覚えてる。それで俺が偽乳パッド作ったっけな」
竜児は理性を保ちながら、そのときのことを思い出す
あの時、北村のことが好きだった大河は胸の小ささで悩んでいた
そのことで水泳の授業を全部受けないつもりだったのだから相当悩んでいたのだろう
「だから…今回もこんな姿…竜児には見せたくなかったのよ…でもね…」
大河はそばにいる竜児に近付こうとする
「おっ…おい…?大河…!?」
竜児は慌てて再び大河と距離を取る
「………ほら…竜児はこんな姿の私でもドキドキしてくれる…女として見てくれてる…それが嬉しい…」
「そりゃ…な…お前はそんな綺麗な肌してるし…可愛いし…」
竜児は精一杯の言葉を出す。恥ずかしいが本音だ
「……ありがと…やっぱり来てよかった…」

669:名無しさん@ピンキー
08/12/29 17:46:09 adotIFnA
そして二人は早めに温泉を上がる
あまり浸かっていたらのぼせて眠れなくなってしまうからだ
互いに恥ずかしいことを言ってしまったためか、部屋に戻るまで二人に会話はなかった
部屋に辿りついてもやはり何を喋っていいのかわからない
そうなるとやはり明日に逃げてしまうしかない
「……大河…おやすみ」
「……うん…おやすみ」
竜児はこの微妙な空気を取り除き、明日に持ち越すために電気を消し布団に入る

そして時間はどんどん過ぎていく
だが…眠れるはずないのだ
さっき寝ようとした時だって横にいる大河を意識して、なかなか眠れなかったばかりなのだから
大河はどうだろう?やはりさっきみたいにすぐに寝てしまったのだろうか
ふとそんなことを思ってしまった竜児は横にいる大河の方に体を向ける
「………たっ…大河…どうした?眠れないのか…?」
大河はばっちり起きていた
何がばっちりかと言うと大河は寝ているどころか…ちょこんと布団に座っていたのだ
一人で勝手に明日へ逃げようとしていた竜児は全く気付かなかった
「……うん、ちょっと目が覚めちゃったかも…」
大河はそう言って枕を抱き抱えながら横になる
「………一緒に寝るか?別に変なことはしないし…頭擦ってやるよ」
「……えっ……うん…そうする…」
その言葉に驚いた大河だったがすぐにそれを受け入れ竜児の布団に体を潜らせる
布団の中は竜児の体温で暖められ、こたつみたいだ
早速竜児が頭を優しく撫でてくれる。心地よくてすぐに眠れそう…
大河はすぐに意識が朦朧となってしまうが、それを振り切りそばにいる男の名を呼ぶ

670:名無しさん@ピンキー
08/12/29 17:47:02 adotIFnA
「竜児…ちょっといい…?」
竜児は大河の頭を撫で続けながら返事をする
「どうした大河?」
「実は私ね…最近までずっと勝手に勘違いして悩んでたことがあるんだ…」
「何だよ…?」
「竜児はどうして私のそばに居てくれるかって…馬鹿みたいでしょ…?」
「なんでって、そんなの好きだからだよ…」
竜児はすぐに答える。今日は恥ずかしいことばかり言ったのだ。今さら口ごもることもない
「そのことで悩んでたの…私達ってさ、四月からずっと一緒にいるでしょ…」
「まあな…」
「だから竜児がそばに居てくれるのは、竜児にとってそれが習慣になったから…義務だからって思ってたのよ」
大河の大きな瞳が潤む
「だから…竜児がそれに気付いて…いつか居なくなるんじゃないかって想像して…怖かった…ずっと…」
「『俺はいつまでこいつの世話をしているんだ?こんなことする必要なんてないじゃないか?』って思ってないかなって…」
そう言って大河は竜児から背を向ける。潤んだ瞳からは涙がにじみ出す
「付き合うことになった時も…竜児は私のこと…本当は好きじゃないかもって…一人ぼっちの私に同情したからかもって…」
「そんなことばかり考えてた…だから今日の竜児の言葉…すごく嬉しかった…」
竜児は背を向ける大河にゆっくりと手を伸ばす。別に変なことをするためじゃない
大河が急に愛しくなったからだ
そうして大河を優しく抱き抱える
丁寧に扱わないとすぐに傷付いてしまう少女だから
慎重に触れないとガラスのように割れてしまう少女だから
「大丈夫だよ…大河…お前のそばにいるのは、習慣でも義務でもねえ…本当にお前が好きだからだ…」
背を向けていた大河は体を反転させ竜児の体に飛び付く
「……へへっ…私も好き…竜児が…大好き…」


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