08/12/30 23:05:18 h8w0Fy56
別名幽霊寺、大惨寺・墓場裏。
麻岡高校ソフトボール部(ごく少数)、ボクシング部(ごく一部)、条青学園ボクシング部(ごくわずか)での
それなりに楽しい花火が終わり、麻岡高校一同は宿泊先である上鷺温泉に戻った。
秋葉が話した双子のおばあさんの怪談は寺の和尚の話でデタラメだと分かった美夏――中里美夏は、
女の子らしく怖じ気付いて先に帰ってしまった部員達にその真相を語った。
時刻は午後十時を回っていたが、年頃の女の子達のお喋り好きには何の障害にもならない。
設けられた消灯時間を部活動生らしく真面目に守りはするが、
布団の合間からのこそこそ話は暫し静まらない。
(美夏と沢村亜矢子、特に後者はそうした輪に積極的に加わらず、
割と早くに眠りについてしまったようだが)
モソ…と一枚の掛け布団が、擦れた音を出す。
何分間か時計の針の単調な音が響く。
また、モソモソと布団の下で寝返りを打つ身体。
寝返りとはいうが、寝相ではない。
(えい、くそ)
頭までかぶっていた布団をずらして顔半分を出す。枕と重力に押さえつけられたせいでぴんと跳ねた髪が一房。
美夏だった。
盗み見た雑魚寝部屋の中は暗いが、ベランダのカーテンが開いたままになっているせいだろう。
薄闇が部屋の様子を静かに静かに、ひっそりと照らし出していた。
(ポカリかなんか飲んでおけばよかった)
そもそもそのポカリを売っている自動販売機があったかも定かではない旅館だが。
取り合えずこの喉の乾きを潤さない限り我が平穏は訪れぬ。
コソコソと、なるべく物音を立てないように級友達が投げ出した
腕やら足やら頭やら枕やらの隙間を潜り抜け、自分の指定バッグに辿り着く。
用意周到に小銭入れを準備しておいたのが幸い、外側のポケット一つを開けるだけで済んだ。
本来おやつ目当てだったが、みんなが持参した分を仲良く分け合っているし、買う必要もない。
Tシャツにジャージの寝間着のままで引き戸式の戸を開ける。
間接照明が、そう危なくない程度に廊下を照らしていた。