キモ姉&キモウト小説を書こう!Part16at EROPARO
キモ姉&キモウト小説を書こう!Part16 - 暇つぶし2ch550:名無しさん@ピンキー
09/01/04 02:01:05 gcAarOR+
>>549
リアルタイムGJ
これからどんな展開で進むのか全く分からないw
早く続きが読みたいものですな

551:名無しさん@ピンキー
09/01/04 02:02:45 xaZZb3FN
GJ!
wktk。

552:名無しさん@ピンキー
09/01/04 02:51:38 u24pYsjP
やべぇ一瞬なんのスレか忘れちまってたぜ

553:名無しさん@ピンキー
09/01/04 05:51:58 KHRtUkBc
>>549
GJ
確かに今の美沙タンはちょっとブラコンの入った普通の妹だが
所々にキモウトの兆しが見えたのがたまらん

554:名無しさん@ピンキー
09/01/04 12:21:54 oLJ80NDX
>少し前に少年漫画誌で別の人気作品を完結させた大物漫画家だ。

ガモウひろしですね。わかります。

555:燃料投下
09/01/04 15:47:05 5ZFo1qmH
ここから泥棒猫のターン↓

556: ◆sw3k/91jTQ
09/01/04 16:22:38 sIGuX/zK
投下します。
4レス予定

557:思い出の村 2話(1/4)  ◆sw3k/91jTQ
09/01/04 16:23:38 sIGuX/zK


side秀樹
 俺達は実家を目指して歩いていた。
「月並みですが懐かしいですね、兄さん。」
「ああ、こっからの夕日が凄く綺麗なんだよな。」
昔まだ新しかったアスファルトが、今ところどころ欠けて、古めかしくなっているのを見て、なんとなくノスタルジックな感じになる。
そういえば気になったいた事を聞いてみる。
「なあ、瑞樹。」
「何ですか?兄さん。……ハッまさか!」
「プロポーズネタはくどいぞ。」
「ネタじゃ無いのに…。」
そっちのがこええよ!、とは突っ込まない。
「楢崎茜ちゃんのこと、覚えてるか?仲良かっただろ瑞樹。」
「楢崎...ッッッ」
瑞樹は急に何かを思い出したような顔をしてひどくうろたえた。
「に、兄さん……。私急にハウスダストになってしまって、ええと、その、つまり……、かっ、帰りましょう!!」
「マテ瑞樹、落ち着くんだ。言いたいことはわかるがお前は決してアレルゲンではない。それにじっちゃやばっちゃが待ってるからさ、
急には帰れないよ。大丈夫、かっこいい兄さんがついてるから。」
しかし瑞樹はまだどこか落ち着かない様子で、「しまった...、でも、どうして?」だのとブツブツつぶやいている。
コイツ大丈夫かよ...。
「兄さん、用事が出来たのでおじいさんおばあさんの所には先に兄さんだけで行ってて下さい。」
ようやく落ち着きを取り戻した瑞樹はそう言い残し来た道を戻って行った。
「ちょっと!お~い。何かあったらメールしろよ~。」
「ちゃんと見ましたか~?圏外ですよ~。」
あらホントだ。見慣れたディスプレイには圏外の文字。
「...っかしーな。電波悪いんかな?」
無事に島に着いたことも親に報告したいし、実家ついたら電話でも借りるか。
心配性な親のためにも電話しとかなきゃな。

558:思い出の村 2話(2/4)  ◆sw3k/91jTQ
09/01/04 16:24:27 sIGuX/zK



side瑞樹
「おかしい、忘れるはずなんて無いのに...どうして?」
さっきから私はずっと自問している。
自慢ではないが私は記憶力が良い。それなのになぜこんなに大事な事を忘れてしまっていたのだろう。
あのたぶん私にとって一番の敵、楢崎茜の事を。
兎に角一刻も早くこの島から脱出しなければ。
あの汚らわしい雌犬を兄さんに会わせてはいけない。
明日の朝に帰るための連絡船のチケットを買おうと営業所まで戻ってきた。
営業所の中は、じめっとしていて、夏特有の不快感が体を巡る。
とっとと用事を済ませてしまおう。
私は販売員らしき初老の男性に話しかけた。
「すみません。明日の朝の船のチケット2枚いただきたいのですが。」
男性はこちらに一瞥をくれ、無愛想に言い放った。
「船は来ん。」
男性の態度に腹が立った。
「ふざけないで下さい。船が来ないわけ無いじゃないですか。」
「ふふふふふ、その人は冗談を言っている訳じゃないのよ。瑞樹ちゃん。私の許可がないと物流船以外の船は緊急時を除いて入港しないわ。」
突然の乱入者。何の気配もなく、私の背後に回っていた。
「くっ...楢崎...さん。」
「茜でいいわよ。"トモダチ"でしょ。」
その眼は昔となんら変わらずに、どうしようもないほどに、濁っていた。
「あの人はどこ?教えて。"トモダチ"なら教えてくれるわよね。」
こんな女に、負けたくない。
「学校があった所に行きましたよ。」
「あっはっはっは嘘おっしゃい。あなたたちの実家とは逆方向じゃない。」
怖い。怖い。すべて見透かされている。逆らえない。昔みたいに、屈伏させられる。
「そうそう。言い忘れてたけど、あなた達のおじいさんおばあさんね、昨日から旅行に行っちゃってるの。残念ねぇ。
でも安心して。船が来るまで、私の屋敷に住む事になったから。ご両親からの許可はとってあるわ。」
ここまでするのか。この女は。
「昔の様にはいきませんから。」
自分を奮い立たせる呪文。
「そう、残念ねぇ。」
それさえも、この女はあっさりと打ち消した。
「それじゃあ私あの人に会ってくるけど、邪魔したら、ワカルヨネ。瑞樹"ちゃん"。
それと、私の事忘れてたのあなたのせいじゃないから、そんなに思いつめる事無いのよ。」
そう言い残し、茜は去って行く。止めることなんて、できなかった。

559:思い出の村 2話(3/4)  ◆sw3k/91jTQ
09/01/04 16:25:13 sIGuX/zK


茜side
 あの人のことを好きになったのは、小学校に上がってすぐの事だった。
もともと人口が少ない離島だけあって、クラスは小中学年、高学年で、2つのクラスしかなかった。
そんな中、屋敷の生まれで、常に他者との間に壁を作っていた私は、いじめられていた。
そんな私に一番最初に声をかけてくれたのがあの人、水野秀樹さんだった。
いつものようにいじめられていて、お気に入りの人形を隠されてしまったとき、雨の中ずぶぬれになって探し出してきてくれた。
髪の毛を引っ張られて泣いていた私に、立ち向かうことを教えてくれた。
当時の私にとって彼は、ピンチの時に来てくれる、王子様のような存在だったのだ。
そんな彼に恋をしないほうがおかしいのだ。
二年生にあがると、あの人の妹が入ってきた。
彼の妹、瑞樹は、何かにつけてよく泣く子だった。
私が彼と遊んでいるのを見ると、兄を取られまいと泣き落としにかかる。
そんな瑞樹のことが、私は大嫌いだった。
彼の見ていないところで、昔私がされたことをした。
彼女は臆病だったので、口封じは簡単だった。
愉悦に顔を歪めながら、「"トモダチ"だからゆるしてくれるよね?おにいちゃんにいわないよね?」
と言うと、泣きながら頷いてくれた。
それに味をしめ、強者の立場に酔ってしまった私は、今まで私をいじめてきた人に復讐し始めた。
各界に顔が利く親に頼み、いじめっ子の親に圧力をかけ、島から追い出した。
裏ではこんなに黒い事をしていた私だが、あの人の前では、猫をかぶっていた。
一人、また一人とクラスメイトがクラスから消え、幸せな日々が続いた。ずっと続くと思っていた。
しかし、今度は別の問題が起きた。
ただでさえ子供が少ないのに、島から追い出してしまったから、学校が廃校になってしまったのだ。
今思うととても馬鹿なことだが、まだ子供だった私には想像が出来なかったのだ。
私は父が教師を雇っていて大丈夫だったが、彼は学校へ通わなければならない。
彼はあっけなく本土に帰ることになった。
私はすでに傀儡となっていた瑞樹の私に関する記憶を操作し、恐怖による支配がなくても私の悪行を彼にばらされないようにした。
別れの日、ぼろぼろに泣いた事と、泣いている私に彼が「またあえる。だからもう泣かないで」と言ってくれた事を覚えている。
また会える。その言葉を信じ、私は必死に自分を磨いた。その日を夢見て。

560:思い出の村 2話(4/4)  ◆sw3k/91jTQ
09/01/04 16:25:45 sIGuX/zK
 あの人が帰って来る。
そのことを知ったのは、七月に入ってからのことだった。
いつものようにあの人の実家に仕掛けた盗聴器のログを確認していた時、あの人の声で、夏休みにこっちに帰ってくる。
と言う内容のメッセージが入っていた。
私は飛び上がりそうになるのを抑え、刻々と準備に取り掛かった。
病床に伏している父を操り、連絡船を操作し、うまく計画が進むまでこの島から彼らが出られないように仕向けた。
彼の祖父母には、屋敷の地下に旅行に来てもらっている。これは切り札だ。出来れば使いたくない。
だがもし万が一彼が私を拒んだら、このカードを切るしかない。
優しい彼のことだ。祖父母の事をちらつかせればこちらの言いなりになってくれるだろう。
いつも彼に羽虫のように付きまとっていた妹は、この時あまり問題視していなかった。
また力で屈伏させればいい。それに彼女は私に関する負の記憶は消してあるから大丈夫だ。
ふとしたことで戻るかもしれないが、この島にきた時点で、思い出そうが思いださまいが私の勝ちは決まりだ。
もう待つのは嫌だ。独りは嫌だ。

 そして、運命の日。
船着場で瑞樹を見た時、彼女は欲情した女の眼をしていた。
彼は気づいていないと思うが、あれはだらしなく発情した雌犬の眼。
許せなかった。今すぐ殺してやろうかとも思った。
だが彼を悲しませる様な事はしたくない。
唇を強く噛みすぎて、口の中に鉄の味が広がる。
彼の実家までの道中、彼が私の事について何か言っていた。
遠くて聞き取りづらかったが、私の事を覚えていてくれて、とてもうれしかった。
茜というワードで、私の事を思い出したのか、青ざめた顔をした瑞樹が船着場まで戻って行く。
ちょうどいい。釘をさしておこう。
そう思い、気配を殺し、近づいた。
船のチケットが欲しいらしい。馬鹿な子。
声をかけると、ポーカーフェイスでこちらを睨んできた。怖がってるのばればれよ。お馬鹿さん。
やっぱりあの子は私には逆らえない。
内心の笑いをこらえ、彼のところに行くことにした。

561: ◆sw3k/91jTQ
09/01/04 16:27:27 sIGuX/zK
以上です。
なんかgdgdですみません。
生産力が低いのでスローペースになりますが、お付き合いください。

562:燃料……
09/01/04 16:40:13 5ZFo1qmH
本当に泥棒猫のターン
キタ━━━(゚∀゚)━━━ !!!!!

ここから瑞樹が逆転できるのか、続きにキタイ

563:名無しさん@ピンキー
09/01/04 17:25:50 OJhLUWp/
<<561
この作品の1話目ってどこにある?

564:名無しさん@ピンキー
09/01/04 17:28:15 TeYKFLir
>>563
「思いでの村」でページ内単語検索かけろ
後アンカーの方向が逆だろ
「<」ではなく「>」だ

565:名無しさん@ピンキー
09/01/04 17:31:54 wPX43vda
記憶の操作ってどうやったの? 催眠術?

566:名無しさん@ピンキー
09/01/04 17:32:09 7WGDGjpM
>>562
死ね

567:名無しさん@ピンキー
09/01/04 17:34:54 OJhLUWp/
563です
普通にありましたorz


568:名無しさん@ピンキー
09/01/04 20:52:23 5ZFo1qmH
>>566
お兄ちゃんってば、また勝手に抜け出して!
ほら、お兄ちゃんの居場所まで、一緒についてってあげるから!
URLリンク(changi.2ch.net)

569:傷 (その9)
09/01/05 01:32:20 X9LVBZCy
投稿します。

570:傷 (その9)
09/01/05 01:33:42 X9LVBZCy

「兄さんはどうなのですか? こんなわたしを、迷惑に思いますか……?」

 やぶれかぶれになったわけではない。
 口に出した瞬間、葉月は、自分の言葉が紛れも無い本心であることを知った。
 自分はこの男を愛している。
―そう考えたとき、今まで欠けていたパズルのピースが、音を立てて当て嵌まったのを感じたのだ。
 無論、今までは弥生の冬馬に対するストレートすぎる愛情表現に顔をしかめる立場を取っていた彼女だ。変節とも言うべき心境の変化には、当然ながら葛藤がある。
 だが、五日間の引き篭もりを含む紆余曲折の結果、葉月の心理は、もはや意地を張ることに、あまり意味を見出せなくなっていた。

「迷惑に思うかって……それはこっちの台詞だろうが」
 
 たっぷり二呼吸ほど間を取り、冬馬はぼそりと呟いた。
「おれがいなければ、お前は何も迷うことも悩むことも無く、研究や論文に全力を尽くせたはずだろうが。おれがここにいたことが、結果として、お前を苦しませることに繋がったんじゃねえのか?」

 葉月は何も言えなかった。
 彼の言葉は、確かに一面の真実を突いていたからだ。
 もしも冬馬が、兄として我が家に現れることさえなかったら。
 単なる知人友人として違う出会い方をしていたなら、自分はこんなに苦しまずに済んだに違いない。
―そう思うのは、あまりにも当然だ。
 だが、いま問題とすべきはそんな事ではない。
 そんなことは、いまさら考えても仕方のないことだし、なにより葉月はもう覚悟を決めたのだ。
―行けるところまで行く、と。


「……はぐらかさないで下さい、兄さん」
 葉月の視線は、もはや揺るぎない。
 近親相姦もクソも知ったことか。
 好きな異性と結ばれたい。その想いの、いったい何が間違っているというのか。
 現に姉は、タブーの向こう側にいとも無雑作に足を踏み入れている。姉にできたことが自分にできない道理があるものか。
(わたしは柊木葉月。柊木弥生の妹です!!)
 弥生の名は、葉月にとって現世に存在する唯一の劣等感であるが、それだけではない。彼女自身、“完璧超人”と謳われた弥生の妹であることに、大いに誇りを持っている。

「質問に質問を返すのはマナー違反です。二度は許しませんよ」
「葉月……」
「さあ、答えて下さい兄さん。兄に男性としての好意を抱く妹は、迷惑ですか?」

 冬馬はやがて、太い溜め息をついた。
 葉月の硬い視線から目を逸らすようにして、だ。
「迷惑なわけ、ないだろ」
 だが、そう言い切る彼の表情に、いつもの明るさは無い。
 その事実に、心が折れそうになるのを必死にこらえながら、葉月はなおも食い下がる。
「兄さんの表情は、そうは言っていませんが」
「だって、それは、―当たり前だろっ!!」
 冬馬の口から、ハッキリそれと分かる唾が一滴飛ぶのが葉月には見えた。


「おれたちは兄妹なんだぞ!? 好きとか嫌いとか、そんな感情を抱いていい関係じゃねえだろ!?」



571:傷 (その9)
09/01/05 01:35:15 X9LVBZCy

―来た。
 浮世の正義たる一般論。
 兄を男性として意識する妹にとっては、最初に乗り越えなければならない常識の壁。
 だが、その言葉に反論の余地が無いわけではない。
 そう、近親相姦の禁忌を主張するのが冬馬本人である限り、葉月は彼の常識に言葉を返すことが出来る。なにしろ反論の論拠を実証したのは、柊木冬馬その人なのだから。


「白々しい事を言わないで下さいっ!! 兄さんはかつて、『おれが好きなのは弥生姉さんだ』とハッキリ言ってるじゃないですかっっ!!?」


 呆然と目を見開く兄に、葉月は半ば、凶暴な気分で言葉をぶつける。
「……なんで……」
「何故わたしがそれを知っているのか訊きたいなら答えます。―聞いたんですよ、この耳で。一週間ほど前の早朝に、兄さんが電話の相手にそう言っているのを、ドア越しに盗み聞きさせてもらったんですよ!!」

 いまや葉月の心の内には、あの時の激情がふつふつと甦っていた。冬馬が自分ではなく、姉の弥生を選んだとハッキリ言い切った一言を聞いた瞬間の、我ながらどうしようもない絶望感と屈辱を、いまの葉月は明確に思い出していたのだ。
 無論、その言葉のフォローは弥生から受けている。
―冬馬の言葉は当てにならない。
―あれは、しつこい電話相手を黙らせるための、彼一流の方便だ。
 確かに弥生はそう言った。そして葉月も、その姉の言葉には納得せざるを得ない。
 だがその時、込み上げる歓喜を懸命に押し殺そうとしている光が、姉の瞳に宿っていたのを気付かぬほどに、葉月は鈍感な少女ではない。
(姉さんは、喜んでいる……!!)
 姉が喜ぶのは分からない話ではない。普段の言動から察すれば、むしろ当然だと言えよう。だが、それでも葉月は、そんな姉に殺意すら伴う嫉妬を感じずにはいられない。
 また、たとえ弥生の言う通り、兄の言葉が偽りであるならば、葉月としては、その釈明を、やはり他ならぬ兄本人から聞きたかったのだ。

「おれは嘘をついちゃいないよ」
 冬馬は、ごりごりと頭を掻きながら、そう言った。
 見方によっては、痛いところを突かれて不貞腐れているような口調に聞こえないでもないが、葉月は辛抱強く、引き続き兄の言葉を待った。
 もし冬馬が話の矛先を逸らすつもりなら、葉月が自白した盗み聞きというマナー違反を話題に持ち出し、空気を変えればいい。だが、彼はそうはしなかった。兄は兄なりに、自分の言葉を真摯なものとして受け止め、応えようとしている。―葉月はそう判断した。
 そして冬馬は、煩悶の極限のような表情の末、搾り出すように言った。
「……分かった。泥を吐くよ」

「姉さんのことは嫌いじゃない。客観的に見て、あの人はやっぱり……ふるいつきたくなるようないい女だからな……。でも、それはお前にしても同じだ。あと五年もすれば、お前は姉さんに負けないくらいのいい女になるだろう。―そう思うよ」
「……お世辞ですか?」
 だが、冷たく言い放つ葉月の皮肉にも、冬馬はひるまない。むしろ話の腰を折るんじゃねえと言いたげな尖った一瞥を向ける兄に、妹は黙らざるを得なかった。
「お前にしても、姉さんにしても、おゆきや千夏にしてもそうだ。―この四人は特別なんだよ、おれの中じゃあな。だから、柊木冬馬としては、お前の女性としての魅力が、弥生姉さんに劣っているなんて言うつもりはないんだ。あくまでな」
「…………」
「だから、姉さんの存在を口実に、お前の気持ちに応えられないとか、そんなことを言う気は無いよ」
「……どういうことですか」
「だから―おれは、女とは付き合えないんだよ。姉だったらOKで妹ならNGだとか、血縁ならNGで義理ならOKだとか、そんな下らねえ事を言うつもりは無いんだ。地球上のどんな女にアプローチをかけられても、おれにはその好意に応えられない理由があるんだよ」

 そこまで聞いては、いかに葉月といえど、気付かざるを得ない。
 兄は、尋常な人間だ。変わり者の部類に入ると言えば入るだろうが、それでも世間並みには、充分に“普通”の範疇に入るであろう人間だ。だが、彼の過去は尋常ではない。
「―まさか、トラウマですか……虐待されたときの……?」


572:傷 (その9)
09/01/05 01:41:24 X9LVBZCy

 冬馬の目の色が、その一瞬で変わった。
 彼が虐待の経験者であるということは、肌の無残な傷痕を見ればバカでも分かる。
 だが、その傷痕が“性的虐待”の痕跡であることは、事前に情報を知っていなければ、すぐに結びつけるのは難しい。彼の全身に刻まれた傷は、傍目に見て、セックスを基本とする性的虐待など、とても連想できないほどに無残極まりないものだったからだ。
 そして、冬馬が柊木家に於いて、過去の虐待の具体的内容を語った事実はない。
 つまり―。

「誰から聞いた?」
 さっきまでとはまるで別人のような冷たい声が、彼の口から飛ぶ。
 その迫力に、葉月は反射的に口をつぐんだ。
 だが、冬馬とて鈍重ではない。葉月が口篭もった数瞬の間に、たちまち正解に辿り着いた。
「なるほど……千夏のやつか。なら、弥生姉さん経由のネタってところか」
 葉月としては、俯かざるを得ない。

 いままで柊木家においては、冬馬の過去―それも虐待に関して、直接的に言及することは控えられてきた。父も母も姉も、そして自分も、その肌の傷痕についての質問を冬馬にしたことが無い。それが家族としての気遣いだと信じていたからだ。
 だが―知っていたのに、あえて知らないフリをしていたというなら話は違う。知らないフリというのは、捉え方によっては明確な嘘であり、欺瞞であるからだ。
 そして、その事実がアッサリ露見してしまった今、少なくとも葉月の抱く気まずさは、それまでの流れの攻守を入れ替えてしまった。追求する側に冬馬が立ち、葉月は劣勢に立ってしまった。……少なくとも葉月の心中には、それまでの攻撃性は跡形も無く消失してしまっていた。
 だが、


「なんだよ……知ってるんなら、話は早えじゃねえか」


 そう呟いた兄の声は、先程の質問の鋭さはまるでない、飄々としたものだった。
―え? 
 と、言わんばかりの表情で葉月が顔を上げると、兄は、拍子抜けしたような顔で、冷蔵庫のドアに歩み寄るところだった。
「どこまで知ってる?」
 きんきんに冷えたトマトジュースのスチール缶を一本取り出しながら、冬馬は訊く。
 冷蔵庫の位置的に、彼がどんな表情で、その台詞を吐いたのかは分からないが、少なくとも葉月には、その声と背に緊張の様子は見えない。

「兄さんと千夏さんを引き取ったのが、―あの芹沢家だったということは聞きました。ですが、そこで兄さんが、どういう虐待を受けたのかまでは知りません」
「なるほど」
 プルタブを押し開け、そのまま缶ビールでも飲む父のような姿勢で、冬馬はトマトジュースを一口飲む。
「ん~~~~デルモンテもいいけど、やっぱトマトジュースはカゴメだよね」
 冬馬の表情には、一点の曇りも無い。
 だが、葉月としては、カゴメだよねと言われても『そうですね』と答える状況には無い。

「おれも千夏も非道い目にあったよ。色々とな」

 カゴメだよね、と言ったまったく同じ表情で、冬馬はいきなり切り出した。
「以前、墓参りの時にした話と同じだ。暗くて長くて、ひたすら救いの無い話だ。まあ、お袋が親父を刺した話よりも、少しだけこっちの方が……ひどい、かな」
「…………」
「だから、お前が知っているなら、それはそれで構わねえんだ。むしろ、くどくど詳細を説明する手間が省けるってもんだ。だから―」
 冬馬はそこで言葉を切ると、冷蔵庫からトマトジュースをもう一本取り出し、葉月に放り投げた。
「だから、そんなツラすんなって言ってるのさ。知らねえフリしてた事に罪悪感を覚える必要はないって言ってるんだよ」
 そう言って、冬馬は笑った。


573:傷 (その9)
09/01/05 01:42:47 X9LVBZCy

「警察に保護されて、また施設に放り込まれたのが5年前―おれが11歳の時だ」
 そこで言葉を切ると、冬馬は一口トマトジュースを飲み、
「トラウマは無いって言えば、さすがに嘘になるけど、でも後遺症は無いんだよ。日常生活に支障をきたすようなヤツはさ。少なくとも暗闇が怖いとか、悪夢にうなされて眠れないとか、メシの味がしなくなるとか、そういうひどい症状はマジでおれには無縁なんだ」
 と、言った。
 だが、その言い方に葉月は引っ掛った。
「―では、日常生活に支障をきたさない程度なら、後遺症はあるということですか?」

 冬馬は薄く笑った。
 そして、またトマトジュースを一口あおると、
「つまり、それさ。おれがこれから言おうとしていたのは」
 と、自嘲するように言い、彼はスチール缶をそのまま不燃ゴミ用のくず入れに投げ入れた。


「勃たなくなっちまった」


「―は?」
 葉月は、目をぱちくりさせながら、訊き返す。
 冬馬は、そんな葉月に頬をゆがめると、足りない台詞をさらに言い直した。
「勃起不全、ED、インポテンツ。……呼び方はいろいろだが、早い話が、朝勃ちすらもしやしねえ。排尿以外に全く役に立たない飾り物になっちまったのさ、おれの“男”はな」

「……だから、女性と交際はできない、ということなのですか……たった、それだけの理由で……?」

 冬馬は微動だにしなかった。
 だが、やがて、先程に倍するほどの太い溜め息をつくと、
「ま、―お前には分かんねえか」
 と言い、寂しげに笑った。
 だが、葉月は彼のそんな笑顔に激しく苛立ちを覚えた。
 冬馬が嘘をついていないことは分かる。そして彼が話をはぐらかそうとしていないという事もだ。だが、だからこそ葉月は、自分が全く理解できないところで話を完結させている兄に、激しい憤りを覚えたのだ。

「わたしには分かりません。だって、そうじゃないですか!? 生殖機能を失ったからといって、人としての兄さんの価値がいかほどに変わるものではないでしょう!? わたしたちが求めているのは兄さんそのものであって、兄さんとのセックスだけではありませんよ!?」
「当たり前だ。人が人として在る理由をセックスだけに求められてたまるかよ」
「だったら―」
「だがな葉月、それはあくまでも人間論としての話だ。“男女交際”という生臭いものを正視するためには、前提条件として、おれたちそれぞれが一対の牡であり牝である事実から目を逸らすことは出来ない。そして、おれは牡としての機能を失っている……」
「わたしはそんなものを兄さんに求めてはいませんっ!!」
「だったらお前が、兄妹という関係に不服を抱く必要はないはずだ。男としてのおれに、女としての扱いを求めるからこそ、お前は本音を吐いたんだろう? だが、男としての機能を持たないおれには、お前という“女”を受け入れることなど出来はしない」
「……ッッ!!」
 その冬馬の言葉に、葉月は絶句した。


「おれという人間はここにいる。だが、おれという“男”は、もう死んだんだよ。死んだ男に家族や隣人を愛することは出来ても、“女”を愛することは出来ないんだ」


 冬馬の言い分が正しいとは思わない。
 性的不能者には異性を愛する資格は無いと言わんばかりの冬馬の言い分には、少女独特の潔癖さを差し引いてもなお、やはり葉月は納得がいかなかった。
 だが、それでも葉月は、彼に何を言い返すことも出来なかった。
 冬馬の口調は、さほど重々しいものではない。
 だが、彼の発する雰囲気は、今の言葉が、その場しのぎのいい加減なものではない、歴とした思想に基づいたものであることを厳然と証明している。
 男にとって、“男”を失うという現実がどういう意味を持つのか、いまだ若すぎる葉月には見当も付かない。たとえ天才と謳われた学識の所有者であっても、彼女は弱冠13歳の少女に過ぎないからだ。


574:傷 (その9)
09/01/05 01:44:36 X9LVBZCy

(もし、ここに姉さんがいたなら……)
 弥生ならば、ただ絶句するしかない自分とは違い、頑なな兄に、違う言葉をかけてやれるかも知れない。―葉月は、そう思わずにはいられない。
 だが、そう期待しながらも、同時に葉月は絶望する。
 彼女にも分かるのだ。兄の信念は、他者の理解を必要としない境地まで辿り着いているということが。おそらく、姉妹が百万言を費やして反論しても、彼に自説を翻させることは不可能に違いない。
 ならばどうする?
 どうすれば兄の心を開くことが出来る?


「信用……できません」


「え?」
 今度ぽかんとなったのは、冬馬の方であった。
「兄さんの言葉の全てが真実であると確認するまでは、わたしとしても引くわけには行きません。兄さんが本当に勃起不全なのかどうか、本当に女性を諦めねばならない身体なのか、わたしに証明する義務があるはずでしょう」
「おれが嘘ついてるってのか?」
「わたしには、兄さんの言葉がすべて真実なのかどうか知る権利がある。そう言っているのです」
「おい葉月……てめえ、さっきから何言ってやがる……!」

 冬馬の瞳に、ふたたび剣呑な光が宿りつつある。
 彼が怒るのは当然だ。
 兄といえど、一人の少年に過ぎない。
 少年の身ながら、男として不能である事実を吐露することがどれほどの苦痛を伴うものだったか、それこそ計り知れない。おそらくその羞恥は、葉月の“愛の告白”の比ではないはずだ。その言葉を信じられないと言い切られては、彼としても立つ瀬が無かろう。
 だが、葉月としても、もはや退路は無い。
 兄の静かな怒りに、身の毛もよだつような恐怖を覚えながらも、それでも彼女は踏み止まった。冬馬の殺気に対抗するために―萎え果てそうな己を奮い立たせ、毅然と兄に向き合うために、懸命に心の内の激情をかき集める。

(わたしは、この男にフラれたのだ)
 勃起できない。―それがどうした?
 セックスができない。―だから何だ?
 兄が何と言おうが、その程度のことが、他者からの愛を拒む条件になり得るわけが無い。

 兄の告白にどれほどの意味があろうが、それは葉月にとって重要ではない。どういう理由にせよ、葉月の愛が冬馬に拒絶されたという事実には何ら変わりは無いのだから。
 ならば、ここで問題にすべきは彼の証言の真偽―ではない。彼の信念が、前提条件として、すでにして間違っていると証明することだ。
(―そう、証明だ)
 不能の告白が真実かどうか、証明して見せろと言った葉月だが、いまから自分が為すべきことこそ、真実の証明に他ならない。説得が通じぬ相手に、言葉で交渉を続ける愚を葉月は知っている。ならば彼女としては兄に対し、その目で、その身体で証明して見せねばならない。
 そのためには、むしろ兄の怒りは幸いとも言える。
 いまの彼は、とても冷静な判断が出来そうも無いからだ。


「人が人を愛するということは、もっと高い次元で語られるべき話のはずです。兄さんの身体が、女性をもはや愛せないと言うのなら、わたしが証明して見せます。―そんなことはないのだと。たとえ、どんな兄さんであろうとも、愛を交わすことはできるのだと」


 そういう話をしているつもりは無い。
 冬馬はそう言おうとしたのだろうか、だが、彼は口をつぐんだ。そして、押し殺すような口調で、訊き返した。
「口で言うのは簡単だ。だが、どう証明する?」
「お風呂場に行きましょう。どんな兄さんでもわたしには関係ないということを、生身の肉体で証明します。兄さんが抱く絶望など、浅はかな男根信仰でしかないと、兄さんに教えて差し上げます」
―葉月はそう、凛然と言い放った。


575:傷 (その9)
09/01/05 01:47:58 X9LVBZCy

「ごちそうさま」

 冬馬がそう言って箸を置いた。
 葉月はびくりと身を震わせる。
 兄は、そんな葉月の様子に一瞬、目を細めたが、
「お茶、淹れるな」
 そう言うと、冬馬は立ち上がり、食器棚から急須と茶葉を取り出し、ポッドから熱い湯を注いで、煎茶を二人前用意する。

 葉月の皿には、まだ三分の一ほどお好み焼きが残っている。
 だが、彼女には、今更それを口にする気はなかった。食欲など、とっくの昔に無くなっている。それどころか、今はひたすらに喉が渇いて仕方が無い。
 湯飲みに手を伸ばすと、ぐいっと喉に流し込む。
 だが―、

「~~~~~~~~~~~~~っっっ!!!」

 何とか、口中の熱茶を飲み下すまで、たっぷり30秒はかかったろうか。
 当然兄は、そんな妹の様子を見て、腹を抱えて笑っている。
「ひっ、ひどいです兄さんッッ!! そんなに笑うことは無いじゃありませんか!!」
「いっ、いやっ、だってよ……くっくっくっくっ……っっっ!!」
「ひどいですっ、ひどいですっ、ひどいですっっ!!」
 懸命に笑いを押し殺そうとする冬馬の背中を、真っ赤になった葉月はぽかぽかと殴る。まるで、重圧に押し潰されそうになっていた鬱憤を、ただひたすらに晴らそうとするように。

「―葉月」

 兄の声で、葉月の手がぴたりと止まった。
 その声に、彼女の動きを封じる鋭いものが含まれていたからではない。むしろ逆だ。兄の声は、さっきまでの重苦しい雰囲気とうって変わった、のんびりとした日常の声だった。その声が与えてくれる、いつもの安心感こそが葉月の手を止めたのだ。
「もう……やめとくか?」

 優しい瞳で、冬馬は尋ねる。
 これは質問ではない。提案だ。
―そんなに怯えるくらいなら、そんなに無理をするくらいなら、もう、やめようよ。
 彼の目がそう言っているのが葉月にも分かる。
 だが、その気遣いが、今の葉月には逆に気に入らなかった。
 兄が自分のことを気遣ってくれているという嬉しさは、当然、ある。
 でも葉月は、それ以上に、冬馬に子供扱いされているという現実が、非常に癇に障った。
 いや、それだけではない。その瞬間、彼女は気付いてしまったのだ。
 
「いやです。やめません」
「でも、よう……」
「わたしはやめないと言っているんです」
「…………」
「さあ、お風呂に行きますよ、兄さん」
 そう言うと、自らの両頬をぱんと叩いて気合を入れ、葉月は冬馬の手を曳き、脱衣場まで歩き始めた。
 すでに彼女を襲っていた恐怖はない。
 冬馬の目を見た瞬間、その恐怖は、まるで化学変化を起こしたかのように、別のものになっていた。


 食事というワンクッションを置いたことで、少しはものを考える余裕が生まれた。
 その余裕こそが、少女としての自分に恐怖を感じさせたことは事実であるにしても、それでも葉月は、兄の心理を推し量るだけの時間を持てたことは僥倖だと思う。
『もう……やめとくか?』
 と言った時の、あの冬馬の表情。陽気で優しい、いつもの兄の素顔。だが、葉月には、その優しげな瞳の奥に潜む、冬馬の、もう一つの感情が見えた気がしたのだ。
 その瞬間、葉月は自分の推論に、確信を持った。
(兄さんは、おびえている……)
 おそらくはそのおびえこそが、彼の紛れも無い本音なのだろう。


576:傷 (その9)
09/01/05 01:49:03 X9LVBZCy

 勃起不全という現実が、冬馬の心理にいかほどの衝撃を与えたか、それは葉月に想像することは出来ない。だが、強制売春の手駒として、おびただしい性行為を強要されたトラウマを持つ少年にとって、それは喪失であると同時に、解放でもあったのではないか。
 己の“男”を売り物とされた少年からすれば、“男”を失って、初めて男娼たる自分の過去との決別が果たせたのかも知れない。ならば、現在の彼を、心的外傷の後遺症が襲わないのも、ある意味、必然だとも言える。

 だが、その結論は、女としての葉月を著しく不快にさせる。
 女性を愛せない―なら分かる。まだいい。
 しかし、女性を愛せなくなったことによって解放された―というなら、客観的に見てそれは、トラウマからの逃避に他ならない。
(兄さんが、“女”から尻尾を丸めて逃げ回っているだけの男であるわけが無い)
 少なくとも、自分や弥生が魅力を覚えた冬馬という少年が、そんなだらしない男であるとは、葉月としては信じたくは無かった。

 彼のトラウマが「女性」でなければ、あるいは、葉月自身が彼を慕う一人の女性でさえなければ、もっと違う考え方が出来たかも知れない。
 だが、葉月は認めたく無かった。
 自分を魅了した男ならば、やはり、一人で世界と対峙し得る男であって欲しかったのだ。
 わがままだとは思う。
 だが、理不尽だとは思わない。
(女の理想に応えられる男だと思わねば、誰が禁忌を犯してまで惚れるものか)
 冬馬の手を曳きながら葉月は、内心にそう毒づいた。


「兄さん、まさか今になって、逃げようなんて思っちゃいないでしょうね?」
「……バカ言え」
「フフフ、そうでなければ困ります。―ま、どのみち逃がしませんけどね」



 心に傷を負った一人の人間の心理がどれほど微妙なものであるか、それを想像するよりも先に、女性としての感情を優先して「女体」というトラウマを兄に突き付ける事を選択した自分を、のちに葉月は死ぬほど悔やむことになる。
 だが、神ならぬ今の彼女には、そんな未来は知るよしも無い。



577:傷 (その9)
09/01/05 01:50:07 X9LVBZCy
今回はここまでです。

578:名無しさん@ピンキー
09/01/05 01:51:28 07LSO3RV
リアルタイムGJ!!

579:名無しさん@ピンキー
09/01/05 01:52:24 /O7wW74F
リアルタイムGJ!だけど・・・
ここで終わるのかああああ!!!今から全裸待機してますね。

580:名無しさん@ピンキー
09/01/05 02:25:56 ngfiz04p
GJ!!
今後の展開と兄のイチモツが復活することに期待

581:名無しさん@ピンキー
09/01/05 02:26:32 ngfiz04p
・・・sage忘れorz

582:名無しさん@ピンキー
09/01/05 03:54:28 Y0iV1Ze7
勃たぬなら勃たせてしまえインポテンツ

583:名無しさん@ピンキー
09/01/05 10:51:32 0Cm5z0wI
なんだこの投下ラッシュは…
興奮してきた…全裸で待つ

584:未来のあなたへ4
09/01/05 17:23:00 8b01TZGy
投下します。

585:未来のあなたへ4
09/01/05 17:23:49 8b01TZGy
PRRRRRRRR
PRRRRRRRR
『もしもし』
ガチャン
ツーッ、ツーッ、ツーッ…………
「…………女…………」



作戦構築。
予備作戦B:索敵。
作戦概要:敵A(目標からの仮称『先輩』)に対する情報収集。
手法条項:
 手法:目標に、敵Aに関して直接尋問を行う。ただし、敵Aに関する情報を私は知らないはずなので、誘導尋問に留める。
 手法:情報源Yを使用しての情報収集。同高校に属しているため効果が見込める。
 手法:協力者Aを使用しての情報収集。
総括:
 本作戦において最も重要なのは、敵Aの個人情報ではなく。目標-敵A間における恋愛感情有無の確認。
 また、最終目的を達成するのに必要なのは敵Aの排除ではなく、あくまで本次作戦(一次作戦B:洗脳)の遂行。
 それを念頭に置き、手段と目的を履き違えないよう、感情のコントロールを行わなければいけない。
 だが……もしも一線を越えていたら……その時は…………殺してやる。憎悪と共に殺してやる。


586:未来のあなたへ4
09/01/05 17:25:27 8b01TZGy
「ふうん、榊君には妹さんがいるのか」
「はい。これが、俺と違ってすごく出来のいい奴なんですよ」

五月も半ばを過ぎた頃の放課後。
その日、俺は図書室で片羽先輩に勉強を教えてもらっていた。
図書室には他にも勉強をする生徒がたくさんいて(さすが進学校!)勉強を教えてもらうのも目立つというほどじゃなかったけど。
なにしろ先輩はすごい美人なわけで、そんな人が横に座ってこちらを覗き込んでいるというのは、むしろ俺の方が周囲を意識してしまった。
先輩が俺の勉強を見てくれてるのは今日で三日目だけど、なんでそんなことになったのかといえば。
『ところで、榊君は勉強が辛いと泣き言を吐いていたわけだが』
『うう。まあ、そうなんですが……先輩、俺のこといじめて楽しいんですか』
『まあね。で、覚悟を以って乗り越えるのもいいんだが、少しは抜本的な解決も試みてみようか』
『え、ばっぽんてき、ですか? でも、俺の頭が悪いのが原因だし……』
『ふふん、そこだ。つまり頭が良くなれば、この場合言い換えるとしたら効率的な学習ができたなら、諸問題は解決するとは思わないかな』
『えーと……そりゃまあそうですけど。そんなうまい話はないでしょう』
『ああ、基本的にはその考え方でいいと思う。学問に王道なし、と言うしね。まあ、上手くいったら儲け物、程度の気持ちでいいだろう』
『はあ……それで、具体的にはどうすればいいんですか?』
『榊君の勉強の仕方を見てみたいな。良ければ放課後、一緒に勉強しないかい?』
『え、ええっ! そ、そりゃまあいいですけど』
片羽先輩の携帯は、本人が言った通り電源が切れている時が割とある。そんな日を除いて、図書室で待ち合わせて勉強をすること三日目。
『ところで勉強の方法は誰に教わったんだい?』と聞かれたので。妹です、と普通に答えて冒頭の会話に繋がったのだった。

「うーん。でも、やっぱり妹に教わるっておかしいですかね」
「いやいや、愚兄賢弟という言葉もあるさ。ところで兄妹仲は良好かい?」
「う、聞き辛いこと聞きますね。やっぱ思春期だからと思うんですけど、キツいですよ」
実際は物心ついた時からかなりキツかったわけだけど。受験に入ってからは特に厳しい。
けどまあ、それでも優香は立派な人間だと思うし、守るべき妹だ。物心ついてからそれも変わりない。
「では嫌がらせなのかな……」
「へ? 今、なんて」
「いや、なんでもないよ。ところでもう一つ疑問なんだけど。ここしばらく見てたんだが、予習をしないのは何故だい?」
「え、予習……ですか?」
ぽかんとした。予習……そういえば俺、復習ばっかりで全然そんなことしてないな。
けど、受験の時からこんな風に勉強してきたんだし。大体、復習だけで手一杯なんだから、予習している暇なんて無いんじゃないだろうか?
「予習と復習では主旨が違う。予習は授業内容の吸収を効率よく行う意味があり、復習は学んだことを身につける意味がある。まあ、遅れを取り戻すなら復習に重点を置くべきだろうが、追いついているなら予習復習をバランスよく行った方が効率が良いはずだよ」
「そ……そうなんですか」
うーん。けど優香には今までそんなこと、一度だって言われたことはないんだけどなあ。
『復習、復習、復習です。兄さんに他人よりも理解力に劣っているという自覚があるのなら、人の三倍復習を行わなければいけません』
こんな感じで。鞭を持っていてもおかしくないぐらいの気迫だった。
なので予習だなんて、考えたこともない。
「ふふん。教師がいても、授業内容を理解していない復習では自習と同じだよ。せっかく学費を払ってるんだ、活用しない手はないだろう?」
「まあ、それはそうですけど……予習ってどんなふうにやればいいんですか?」
「なあに、そう身構えることはない。教科書の進み具合からあたりをつけて、明日はどのようなことを学ぶのか、それはどんな意味を持つのか、あらかじめ関連付けておくだけだよ」
「ふんふん」
「大事なのは学問に対して能動的に取り組むということさ。事前に疑問が沸いた箇所は授業中にでも教師に質問してみるといい。なに、彼等だってそのために給料を貰ってるんだ、遠慮することはないよ」
「えー、それはさすがにちょっと恥ずかしいっていうか、気後れしますよ」


587:未来のあなたへ4
09/01/05 17:26:19 8b01TZGy
そんな感じで。
周りに迷惑をかけない程度に、片羽先輩と一緒に勉強する。
正直、勉強というよりは雑談がメインで、その時間はとても楽しいものだった。
片羽先輩は、自分では成績が悪いと言っていたけれど、とてもそうとは思えない。頭が良い、というか。物事に対して、明瞭に判断を下すところは優香とタイプが似ているかもしれない。
優香と違うところは、やっぱり態度に余裕があるところだろうか。なんだかんだ言って、この人は俺よりも年長なのだ。
むしろ俺の方が(例えば妹に対するより)甘えている部分が大きいんだろう。
「ところで繰り返しになるけれど、兄妹仲は悪くないのかな?」
「え、まあ。ちょっとキツいところもありますけど、そんなに悪くないと思いますよ。時々一緒に出かけますし」
「ふむふむ。受験勉強も手伝ってもらったのかな? というか、もしかして受験先を決定したのも?」
「まあ、恥ずかしながら、ほとんど妹のおかげで受かったようなものです。でも俺と違って、本当にすごい奴なんですよ。部活……あ、柔道部にも打ち込んでるし、自慢の妹です」
「なるほど。ところで何度も繰り返して悪いんだけど、妹さんになにか恨まれるようなことはしてないかい?」
「それ三回目じゃないですか。別に、ちょっとぎくしゃくする時もありますけど、普通の仲ですよ」
「そうか。いや、すまないね……しかし凄まじい執念だな。気付かれずに縛り付けるとは……」
「ん? なんですか?」
「いやなに。君の妹さんに会ってみたくなったということさ。ふふん」
と。
そこでいきなり、がしい!と背後からヘッドロックを食らった。
く、くるしっ! うぐぐぐぐぐぐっ。
「だ、だれだー! ってお前かよ柳沢!」(小声)
「てめえええ! タレコミで張ってみれば、なに親友に黙ってこんな美人といちゃいちゃしてやがるううう!」(小声)
「普通に話してるだけだろっ! 大体、こんなところで何もあるわけないだろっ! ていうか、タレコミってなんだ!」(小声)
「そいつは企業秘密だ! とにかく許すまじ!」(小声)
お互いに小声なのは図書室だからだ。それでもアクションが派手なせいで、周囲から迷惑そうな視線を向けられる。
というわけで。いきなり背後から忍び寄って俺にヘッドロックをかましたのは俺の友達兼クラスメイトの柳沢だった。
って、このパターン前もあったよな……
一通り見苦しいやりとりを続けた後。柳沢は先輩を挟んで俺の反対側に座った。きらーん、と歯を光らせて笑顔。爽やかなつもりらしい。
「俺、榊の親友の柳沢浩一っていいます。よろしくお願いします」
「いや、だから親友……?」
「ふふん。僕は片羽桜子、三年生で榊君の友達だ。よろしくね」
「うっす!」
「……あれ?」
前みたいなパターンで、てっきり先輩に迫るかと思ったんだけど。柳沢はあっさり引っ込んだ。
いや、先輩を口説こうとするなら断固として阻止するつもりだったけど。普段と違う行動を取られるというのも気味が悪い。
と。柳沢が席を立って俺に顔を寄せてきた。おいおいおいおい。どういう風の吹き回しだ?
「で、だ。榊、物は相談なんだが……」
「なんだなんだ。悪い物でも食ったのか?」
「んなわけあるか。それよりさっき思いついたんだが、今度の週末ダブルデートに行かないか?」
「ダブルって……誰と誰と誰と誰だよ」
「俺とお前、んでもって片羽先輩と優香ちゃんでだ」
「優香ぁ? なんでここで優香が出てくるんだよ?」
「いやあ、毎日メル友やってんだけど、デートに誘ってもなかなかOKしてくれないんだよな。で、兄貴も一緒に出かけるならいけるかな! と」
「あのなあ、勝手に……」
「ふふん、なかなか面白そうだね。僕としては構わないよ」
「頼む、榊!」
手を合わせて拝んでくる友人。一方、先輩の方は意外と乗り気のようだった。そういえば優香と会ってみたいって言ってたしな。
俺としても、休日に片羽先輩と一緒に遊ぶのはとても楽しそうだと思う。
けれど……うーん。なんか妹を裏切るようで、あんまり気が進まなかった。
「それじゃ、家に帰ってから優香に話してみるよ」
「よっしゃ! 結果が出たらメールしてくれよな!」
その時の俺は、優香に話は通すけど、強く進めるつもりはなかった。
妹が少しでも嫌がるようなら、すぐに断ればいいと、そんな風に考えていた。
けれど夜。優香は少し悩んでから、条件付きでOKを出した。


588:未来のあなたへ4
09/01/05 17:27:35 8b01TZGy

優香に、片羽先輩のことを話したことはない。
少し前に『最近楽しそうですけど、彼女でもできたんですか?』と皮肉交じりに聞かれたことはあったけど、その時も適当にお茶を濁すだけだった。
勿論、先輩は彼女なんかじゃない。まあ、そういう期待がないとは言わないけど。話すに値する人であることは確かだ。
けれど、優香に先輩のことを話したことはない。
なんとなくだけど。この二人を関わらせたくない気持ちが、俺の中で働いているようだった。
なんでだろう……まあ、いいか。
今は週末を楽しみにしながら、勉強をしよう。


589:未来のあなたへ4
09/01/05 17:28:55 8b01TZGy
議長「それではこれより一人緊急対策協議を開始します。案件は敵Aこと片羽桜子への対応について」
強行「殺しましょう」
常識「却下」
分析「目標に対する情報が足りなさすぎます。また、殺人というリスクを背負ってまで排除すべき存在なのか、それすら不明です」
議長「それから、ダブルデートの申し込みについての対応も検討してください」
潔癖「反対します。兄さん以外の男とデートなんて絶対に嫌です」
分析「私は賛成します。片羽桜子に対して情報収集を行う絶好の機会です」
常識「まあ、ダブルデートですから。そこまで警戒するものではないのでは」
潔癖「以前雨宮明義に行ったように、二手に分かれるよう嵌められたらどうするんですか。兄さんと片羽桜子を二人きりにすることになりますし、情報収集すらできませんよ」
打算「もしもそうなったら、私は兄さんに売られたことになりますね。片羽桜子とデートするために」
潔癖「…………」
強行「…………」
分析「…………」
議長「…………」
常識「…………」
打算「禁句でしたか」
強行「その時は片羽桜子を殺しましょう」
潔癖「兄さんはそのようなことをする人ではありません」
分析「私に対する好感度はそれなりにあるはずです。問題は、片羽桜子に対する好感度が不明なことですが」
打算「では兄さんの申し出を受ける代わりに、交換条件を提示して。二手に分かれることができないようにしたらどうでしょう」
潔癖「兄さんとずっと手を繋いでいるとか?」
常識「馬鹿ですか」
分析「後一人誘うというのはどうでしょう。そうすれば奇数になるので二手に分かれてもリスクは減ります」
打算「それなら藍園晶を誘いましょう。適当な報酬で動くはずです」
強行「彼女は信用できるのですか?」
分析「お互いに良心などという物では動いてはいませんから、問題ないでしょう」
常識「兄さんに対する理由付けはそうですね。『以前から約束していた』というあたりでいいでしょう」
議長「それではダブルデートは受けると言うことで」
性欲「ちょっといいですか? デートがどうこうはさておき、私としては。兄さんと片羽桜子が既に性的関係を持っているかどうか、の方が気になります」
強行「殺しましょう」
潔癖「兄さんに限って有り得ません」
分析「ダブルデートという申し出、最長で出会って一ヶ月半という期間、以前に『恋人なんていない』と明答したこと。総合的に考えて可能性は低いですよ」
性欲「会って一日で性行為に及ぶ人間はいくらでもいるでしょう」
常識「兄さんはそのような人間ではありませんし、そのような人間に好かれるような容貌でもないのでは」
打算「まあ、ここに一名ベタ惚れがいますけどね」
性欲「それに、性的関係まで行かなくても、デートをする以上はお互いに好意を抱いている可能性は高いと思われます」
強行「殺しましょう」
性欲「その場合、一刻の猶予もありません。一次作戦をAに切り替えて強姦しましょう」
議長「可能性の段階でそのような賭に出ることはできません。一次作戦Aへの切り替えは最終目的の達成を困難にします」
潔癖「いえ、下手をすると兄さんの童貞が奪われてしまいます。私は賛成です」
打算「しかし、童貞を奪うのはあくまで予備目的。最終目的の達成を優先すべきではないでしょうか」
潔癖「嫌です。兄さんの童貞は私のものです」
強行「まどろっこしいですね。片羽桜子を殺してしまえば一緒です」


590:未来のあなたへ4
09/01/05 17:29:32 8b01TZGy
打算「ただ、兄さんが好意を抱いているとしたら、片羽桜子は私よりも魅力的ということになりますね」
潔癖「兄さんは私の一体何が不満だというのですか」
性欲「胸とか」
強行「ぶっ殺しますよ」
常識「まあ、妹補正でマイナスがかかっているからではないでしょうか。私は客観的に見て、十分魅力的です」
分析「私とは全く違うタイプなのかもしれませんね。その場合は比較対象にはなりにくいでしょう」
議長「議論が後退しています。好意の有無を探るために、情報収集を行うのではないですか」
性欲「そもそも、このような事態になったのは長期戦略の誤りが問題ではないですか?」
議長「私が間違っていたというのですか」
分析「確かに。一年間、所属場所が異なることで監視と対応が遅れる可能性は指摘されていましたね」
強行「こんなことなら足でも折ってさっさと留年させておけば良かったんです」
常識「それはあまりに酷すぎるでしょう。人生から落伍したらどうするんですか」
性欲「何を言っているんですか。最終目的がまともな人生からの落伍そのものでしょう」
潔癖「それに、柳沢浩一の相手をするのもいちいち面倒です。吐き気がします」
分析「メールだけなんだから我慢してください。彼は情報源として、最低でも一年間は必要です」
議長「とにかく。この一年間が危険だということはわかっていました。だからこそ、高偏差値校に進学させ、勉強三昧にさせたのではないですか」
常識「しかし非効率的な勉強方法を刷り込むというのは、将来的に大きなマイナスになるのでは」
議長「過ぎたことを議論しても仕方ありません。今年は凌いで、来年再来年で勝負を賭ける。この戦略に変わりはありません」
性欲「しかしあまり戦略に拘りすぎるのも問題です。兄さんが誰かと性交を行えば、一次作戦Aの効果は半減します。快楽で縛り付けるのも目的なのですから」
常識「それでは取れる作戦が無くなってしまいます」
潔癖「そんなことになったら兄さんを殺して私も死にます」
強行「いえ、それより片羽桜子を」
分析「たしかに。不測の事態が発生した以上、戦略の見直しは必要かもしれませんね」
議長「わかりました。戦略の見直しも視野に入れて、週末に臨むことにしましょう。それでは一人緊急対策協議を終了します」

591:未来のあなたへ4
09/01/05 17:30:56 8b01TZGy
とりあえずここまで。残りは明日投下します。
改行の関係で小刻みになってしまい申し訳ありません。

592:名無しさん@ピンキー
09/01/05 17:31:54 yoqBzRV6
強行派ww

593:名無しさん@ピンキー
09/01/05 17:40:06 vwvBNlbW
これが秘技マサル会議か

594:名無しさん@ピンキー
09/01/05 18:00:46 fDvfUoLI
駄目だ強行たんが面白すぐるwww

595:名無しさん@ピンキー
09/01/05 18:10:52 lDgYHpRv
ダメなゼーレみたいだw


596:名無しさん@ピンキー
09/01/05 18:45:19 ngfiz04p
強行wwってかすげー会議だなw

597:名無しさん@ピンキー
09/01/05 18:51:33 y0DqNZyu
潔癖の思考が性欲よりヨゴレていることについて

598:名無しさん@ピンキー
09/01/05 19:46:19 0Cm5z0wI
潔癖w

599:名無しさん@ピンキー
09/01/05 19:53:44 fmCCfw+R
キモ姉妹は正月休みが明けても兄を実家から出さないんだろうな…

600:名無しさん@ピンキー
09/01/05 20:27:22 5faxC5M5
潔癖たんが潔癖じゃない件について。

601:名無しさん@ピンキー
09/01/05 21:31:40 wg4fhTmz
第一話のピュアな優香はどこへやら

602:名無しさん@ピンキー
09/01/05 21:36:26 unHImGbt
やっぱ面白いな

603:名無しさん@ピンキー
09/01/05 22:02:03 P2W60DQX
作者さんGJ
潔癖たんなのに性欲剥き出しでワロタw

>>601
最初は死にたいとか言ってたのになw

604:名無しさん@ピンキー
09/01/05 22:28:13 bFWD56/g
GJ!

しかし優香はどこへ行くんだwww

605:名無しさん@ピンキー
09/01/05 22:40:24 8iox3di+
脳内会議クソワロタ

606:未来のあなたへ4
09/01/06 08:05:28 eKIsSSlG
後半投下します。
特に盛り上がりもなく終わり。


607:未来のあなたへ4
09/01/06 08:06:51 eKIsSSlG
さて、週末。
柳沢の提案によりダブルデート(というより遊び)に集まった俺たちは、アーケードの広場で無事に合流していた。
「ちーっす! はじめまして。優香ちゃんの友達で、藍園晶っていいます。どうか気軽に晶ちゃんと呼んでくださいっ」
「OK! 俺は柳沢幸一。榊の親友だ、よろしくな!」
「ふふん。僕は片羽桜子。彼等の先輩で三年生をやっている。よろしく頼むよ」
「榊優香です。いつも兄が御世話になっております」
とりあえず、お互いに自己紹介合戦。賑やかだなあ。あ、全員知ってるのは俺だけか。
ちなみに、なんで晶ちゃんがいるのかというと。優香が以前から同じ日に遊ぶ約束をしていたらしい。
それならば、と取りやめようと思ったけど。どうせなら一緒に遊べば良いじゃないですか、という妹の言葉で合流することになった。
「晶ちゃん、久しぶりだなあ。サッカー部はどうなってる?」
「頑張ってますよー。新入生が結構入ったんで、びしばし鍛えてるところです。そうそう。雨宮先輩は高校でもサッカー部はいりましたよ」
晶ちゃんは相変わらず元気だった。背も少し伸びたようだ。短めのスカートにパーカーというラフな服装をしている。
優香は女物のジーンズに厚手のシャツ。いつものポシェットにポニーテールという活動的な格好。
片羽先輩は、裾の長いスカートに、水色のサマーセーター、白いブラウスという服装だった。美人って何着ても似合うんだなあ。
あ、俺と柳沢は、まあ適当なズボンと上着。特筆するようなことはない。
「それじゃ映画いこーぜー!」
「「おー!」」
「おっと。榊君には伝えたが、僕はホラー映画が死ぬほど苦手なので、それだけは避けてくれないかな」
「あ、はいはい。わかってますよ」
「そうなんですか。片羽……さん」
「まあね。優香君だって、苦手の一つや二つはあるだろう?」
「そういえば、優香ちゃんの苦手な物って全然聞かないっすね。何かあるんですか、榊先輩」
「おお、そいつは俺も興味ある! 是非とも教えろ、榊!」
「えー、うーん」
優香の弱点……そういえば思いつかないなあ。昔はちょっと運動が苦手だったけど、今はもうそれもこなすようになったし。
あ、そういえば男関係には弱いかな。美人な奴ではあるんだけど、どうも男というものを怖がっている気がする。
そこまで考えたところで「に、い、さ、ん?」と、腕を思いっきりつねられて、その話題はお開きになった。あいたたた。

映画は、柳沢があらかじめ調べておいたんだろう、すんなり見ることができた。
ハリウッドものの映画で、内容は囚人が銃とかで武装した車を使って、釈放のためにレースをするというもの。
席順は、先輩、俺、優香、柳沢、晶ちゃんの順。多分、柳沢は映画中に手を握るとか、そんなアプローチを考えていたんだろう。実を言うと、俺も似たようなことを考えていた。
けれど映画が始まってしまえば、派手なアクションの連続で。思わず見入ってそんな思惑はすっ飛んでしまった。
あ。そういえば、映画の途中で先輩は薬を飲んでたみたいだけど、大丈夫かなあ。


608:未来のあなたへ4
09/01/06 08:08:11 eKIsSSlG

映画の後は、近くのファミレスで食事を取る。運良くテーブル席が空いていたのでそこに座り、それぞれ注文を終えると。さっき見た映画の話題になった。
「いやー、でもすげえアクションだったよな。特にあのバケモノトレーラーがさあ」
「しかもあれ、CG合成とかじゃなく全部実写撮影らしいっすからね。中の人も大変っすね」
「へーへー、すっごいなあ。俺だったらあんな運転、絶対できないよ」
「あれは映画ですよ。けれど、命懸けの行為を見せ物として金を取るなんて趣味の悪い設定でしたね」
「まあ、囚人だって勝ち続ければ出所できるんだ。それを承知で命を賭けているのだし、その自由があるだけマシじゃないかな」
「あの主人公は思いっきり嵌められてましたけどねー」
「まあ、悪い奴はぶっ飛んだんだからそれでいいじゃん」
「ふふん、そうだね。まあ、アクションは見事だったよ」
そんな感じで映画の話をしていると食事が来た。
みんなランチセットを頼んでいて、先輩だけは小食らしくスパゲティ。逆に晶ちゃんは、追加でフルーツパフェなんて頼んでた。
「いあー、こういうところでパフェ頼むのが昔っからの夢だったんすよー」
「夢って大袈裟じゃね? ウチの女子だって、学校帰りに普通に寄ってるしな」
「あー、あるある。そういえば、優香は頼まなくていいのか?」
「いえ……結構です。私も、あまり余裕があるわけではないですから」
「と言いつつ、晶君の方を恨めしげに見ているのは何故なんだろうね」
現役の運動部で、筋トレも欠かさない優香は、見た目は細いけど結構食う。
けど、そういうのは女の子としてあまり注目されたくないことなのかもしれない。気をつけないとなあ。
その後、これからどうするのかと相談して。柳沢の提案で、ボーリングに行くことになった。
というか、最初からそのつもりで決めてあったんだろう。俺は知っているが、柳沢はかなりボーリングが上手い。
俺はといえば、昔何回かやったことがあるぐらい。優香も同レベルだろう。片羽先輩に至ってはなんと初めてだという。
柳沢としては、ここで優香に良いところをアピールしようとする魂胆に違いなかった。
だが

がっこーん。
「スットラーイック、いえーい!」
「なにいいいい! ここでか!」
「おおー。上手いなあ、晶ちゃん」
「はっはーん。負けたほうが全額支払いデスマッチで、鍛えに鍛えた勝負強さ、見たかー!」
「負けるかこのやろー! 俺だって、この勝負は負けられねーんだよ!」
「おおー、柳沢も凄い気迫だ!」
次の順番を待ちながら、歓声を上げる。スコア的には晶ちゃんと柳沢はデットヒートを繰り広げていた。
柳沢は完全に熱中していて、優香をどうこうとか、そんな余裕はかけらもないようだ。
その優香といえば、さっきからずっと片羽先輩と話している。うーん、タイプは似てるし、意外といいコンビなのかもしれない。
ちなみにスコアは、トップ二人から大分離れて俺と優香。そしてぶっちぎり最下位で先輩だった。
この人の非力さはある種感動もので、一番小さなボールの穴にすっぽりと指が入り、しかも片手ではどう頑張っても持ち上げられない。
下手に投げれば指を折る、ということで満場一致し、よちよちと両手で抱えるようにして投げている。そりゃまあスコアを稼げるわけがない。可愛い。
映画のことといい、成績も劣等生、プロポーションもあれだし、体も弱い。見た目と違って弱点の多い人だなあ。その辺、優香とは正反対だ。
「うっし、取ったあ!」
「榊先輩、次ですよー」
おっと、俺の番か。よーし、投げるぞー。


609:未来のあなたへ4
09/01/06 08:09:50 eKIsSSlG
「運動、苦手なんですね」
「ふう、ふう。まあね。歩く以外で体を動かすこと自体、随分久しぶりだよ」
「体育の授業はどうしてるんですか」
「ふふん、毎回のように休ませてもらっているよ。おかげで成績表のあの項目が恐ろしくて仕方がない」
「しかし、そこまで運動能力が低いと、護身が大変ですね」
「そういえば優香君は柔道ガールだったね。まあ、それに関して僕は手を抜いてるかな。日本は治安が良いしね」
「なるほど」
「と。失礼」
「その薬、映画の時も飲んでいましたね」
「目敏いね。それとも、映画はあまり楽しくなかったかな?」
「いえ、そんなことはないのですが、たまたま目についただけです。多分、兄も気付いていると思いますよ」
「ああ。榊君は知っているが、これは貧血の薬でね。今日は激しい運動をするから、飲んでおかないといけない」
「……飲まないとどうなるんですか?」
「ふふん、大変なことになる。少々ぞっとしないね」
「そうですか、お大事に」
「ところで優香君は胸に対して何かこだわりでもあるのかい?」
「……何故そう思うのですか?」
「いやなに。初対面から胸を凝視されているような気がしてね。見ての通り、これ以上ないぐらい貧相なものだし。ならば原因は僕じゃなくて君にあるのかと思ってね」
「まあ、貧相といっても藍園さんには勝ってますよ」
「ああ、彼女は凄いね。僕は肉付きの問題だけど、晶君は肉付きと骨格のダブルパンチだからね!」
「同情しますよ。もしも人知の及ばない領域があるとしたら、それは胸囲のみ……! 少なくとも、私はそう信じてます」
「まあ、性的魅力という点では、僕よりも君の方が遥かに勝ってるから安心したまえ。誰もアバラの浮き出た裸なんて、好きこのんで見たくはないだろう?」
「よくわかりませんが。どうして私が、片羽さんの性的魅力を気にしなければいけないんでしょうか」
「ふふん、だって君は――」

「ゆうかー。お前の番だぞー」

「おっと。優香君、君が投げる番のようだよ」
「そのようですね。では」

610:未来のあなたへ4
09/01/06 08:10:54 eKIsSSlG
さて。
その後、もう二ゲームやってからボーリングは終わった。
最終的にトップを取ったのは柳沢で、ビリは俺だった。片羽先輩は、結局一ゲーム目でリタイアしたのでカウントしていない。
ボーリング場のロビーで、それぞれ缶ジュースを手にしながら軽くだべる。
「じゃ、今日はお開きにしよっか」
「気を使わせてすまないね、榊君」
「時間的にもちょうどいいと思います」
「あー、疲れたぜ。まあ、最後に勝ったからいいけどな」
「一応。今日は負けてもいい日だったからー、と言い訳をしておきます」
「ああっと! そうだ優香ちゃん。帰るんだったら、家まで送るぜ!」
「……おい、柳沢」
「兄と帰りますから結構です」
「ぎゃー! くそう榊、俺と変われ!」
「俺も帰るところ同じだっての」
「今のは天然だったのか、柳沢君は中々得難い人材なのかもしれないな」
「まあ、同じ方向に帰る者同士で組めば良いのではないのでしょうか。私達はあちらです」
「俺は向こうだ……」
「僕はこっちの方だね」
「おっと、片羽先輩、わたしと同じ方向ですね。途中までご一緒しませんか?」
「あ、そうだったんだ。晶ちゃん」
「ええ、そうですよ。知らなかったんですか、兄さん」
「ではよろしく頼んだよ、晶君」
「それじゃ、今日はお疲れ様でした」
「「「「おつかれさまー」」」」
みんなでお別れの挨拶を交わして、それぞれ帰途に就く。
一人で帰る柳沢はすごく名残惜しげだった。まあ、優香とはほとんど話せてなかったからなあ。ご愁傷様。
それを言うなら、俺もあんまり片羽先輩とは話せなかったしな。そこはお互い様か。
と。帰り際、晶ちゃんを待たせて片羽先輩が俺に声をかけてきた。
「今日はありがとう、榊君。こんな風に一日を楽しんだのは初めてだよ」
「あ。俺も楽しかったですよ。こっちこそ、ありがとうございます」
「おかげで、今日は少々羽目を外しすぎてしまったよ。明日は筋肉痛確定だね、ふふん」
「大丈夫ですか? また倒れたり……」
「晶君も同行するし、問題ないさ。さて。それじゃ榊君。また会おう」
「はいっ。また明日」


611:未来のあなたへ4
09/01/06 08:11:31 eKIsSSlG

「兄さん」
「なんだ?」
帰り道。
優香と二人、夕暮れに染まる道を歩く。妹から声をかけられるまで、なんとなく無言だった。
二人ともボーリングで疲れていたこともあるけれど。それより、無理して話すような間柄ではないのだから。
あまり仲良くはないかもしれないけれど、兄妹っていうのはそういうものじゃないか。
いや。優香も最近は、俺と普通に接してくれてるよな。受験勉強を手伝って(というか叱咤して)くれたり、こうして遊びに出かけたり。
優香のことは、まだあまりわかってやれていないけど。優香は、少しは俺と仲良くしてやろうと、思ってくれたのかな。
こうして、普通に、自然に話せるぐらいには。
「あの人は、どういう人なんですか?」
「あの人って、片羽先輩のこと?」
「はい」
「どんな人って、改めて聞かれると難しいなあ」
片羽先輩。片羽桜子。
同じ高校の先輩で、高校三年生。
髪がとても綺麗な人で、凄い美人。
背は低めで、全体的に華奢で、プロポーションはかなり悪くて、指がとても細い。
体が弱くて、貧血のための薬を常備していて、初対面の時には倒れていたりもした。
運動が壊滅的に苦手で、学校の成績も悪くて、けれどとても頭が良くて、でもホラー映画が苦手で、絵が上手な人。
連絡が取れなくなることが多々あり、そういう時は学校中を探しても見つからなかったりする。
俺から見ても、弱点というか欠点の多い人だ。
だけどあの人は、それらのことを何一つとして負い目にしていない。
ふふんと笑って、無意味に偉そうに、胸を張って生きている。
俺の知る、片羽先輩とは、そんな人だ。
けど、俺にとっての片羽先輩というのは、どういう人なのか。
…………
「ちょっと変わった人だけど。いつもお世話になってるし、俺も尊敬してるよ」
「尊敬、ですか」
「あはは。それに話してると楽しいしね。今日は優香も話してたろ?」
「楽しいというか、鋭い人間だと私は感じました。それと」
「ん?」
「兄さんは、胸の薄い女性が好みなんですか?」
「ぶふっ! な、なに言ってんだよ。そんなことないって!」
「いえ、申し訳ありません。そうではなく……兄さんは、あの人のことが好きなんですか?」
「あのなあ、優香」
「違うのですか」
ひたり、と妹が俺を見据える。優香の目は、ひどく静かで、深く澄んでいた。
嘘は許さない、そんな目だった。
どうして。真面目で冷静で、成績優秀で、部活動も頑張っていて、はっとしてしまうほど美人で、仲もせいぜい普通の、そんな妹が。
兄とはいえ俺みたいな奴に対して、そんな真剣になっているんだろう。
けれど、妹が真剣だということは痛いほどわかった。
だから、真剣に答えないと。
問われる理由はわからなくても、優香は俺の妹なのだから。
「片羽先輩のことは……さっきも言ったけど、尊敬してるし、普通に好きだよ」
「それは、男女として、ですか?」
「んー、どうかな。それはまだわからないけど。今は、普通に話してるだけで十分かな」
「そうですか」
………………


612:未来のあなたへ4
09/01/06 08:12:19 eKIsSSlG
沈黙。
夕陽の朱に染まる中、二人の影法師が長々と道路に伸びている。
優香がゆっくりと、目を閉じて、また開いた。
「もしも兄さんに好きな人ができたら、私に言ってください」
「い!? な、なんでだよ! どんな罰ゲームだ、それっ」
「兄さんはクソったれ鈍感ですから。何時までも結婚できずに三十を超えられても迷惑です」
「汚い言葉を使っちゃいけません。てか、そんなわけないだろ!」
「ふう。もしかして兄さんは、自分が女心をわかっているとか途方もない勘違いをしていませんか?」
「いや、そうは思ってないけどさ……」
なにしろ、十数年の付き合いがある、今目の前にいる妹のことすら、よくわからないというのに。
「フラれ続けて下らない人間と結婚されても、迷惑するのは家族でしょう」
「ま、待て待て待て、落ち着け優香。いくらなんでも、他人の色恋沙汰に首を突っ込むなよ。優香だって、好きな奴ができた時に俺に口出しされたら嫌だろ?」
「…………。他人ではありません、家族です。それに、文句をつけるわけではなく、ただの助言をしてもいい、というだけです」
「もしかして……俺のこと、心配してくれてるのか?」
「まさか。理由は先程述べた通り、問題を事前に処理したいだけです」
「ふーん」
「何故そこで笑うのですか。また何か勘違いしていますね」
にやりと笑った俺に対して、つまらなそうに腕を組む妹。
けれどどうふて腐れようと、優香の申し出は相談の受付だ。心配していなければ、そんなことは言い出さない。
それとも単に、他人の色恋沙汰に興味があるという、女の子らしい理由なのかもしれない。
本人は男を怖がっているみたいだけど。いや、だからこそ、かな?
そう思えば。いつも『すごい妹』である優香が、ごく当たり前の女の子にも見えて。
手を伸ばして、優香の頭を撫でる。そんなことをしたのは子供の頃以来かもしれない。よしよし。
「な……なんですか」
「んー、別に? それじゃまあ、好きな人ができたら優香に相談するよ、うん」
「そうですか。面倒ですが、将来のためです。仕方ありませんね」
「はいはい」
そんな風にやりとりしながら、並んで家路をたどる。
こんな風に帰るのは、二人とも部活をやっていた中学以来だ。
今日は、デートとしては失敗だったかもしれないけれど。
片羽先輩とはまた明日会えるし。優香と少しは仲良くなれたと思うから、まあいいか。
そうして、その日は帰宅した。明日という日を楽しみにして、眠る。

けれど翌日、片羽先輩は学校に来なかった。
次の日も。
その次の日も。





PRRRRRRRR
PI
「もしもし」
「今日はお疲れさまでした」
「はい。経費は私が受け持ちます。後で領収書を提出してください」
「いえ。デザート程度なら適切な報酬だと思いますよ。別に怒ってはいません」
「それで……片羽桜子の住居は突き止めたんですね?」


613:未来のあなたへ4
09/01/06 08:13:32 eKIsSSlG
以上です。
次は端数挟まず5になります。

614:名無しさん@ピンキー
09/01/06 09:18:40 oIztgDDd
>>612

> 沈黙。
> 夕陽の朱に染まる中、二人の影法師が長々と道路に伸びている。
> 優香がゆっくりと、目を閉じて、また開いた。
> 「もしも兄さんに好きな人ができたら、私に言ってください」
> 「い!? な、なんでだよ! どんな罰ゲームだ、それっ」
> 「兄さんはクソったれ鈍感ですから。何時までも結婚できずに三十を超えられても迷惑です」
> 「汚い言葉を使っちゃいけません。てか、そんなわけないだろ!」
> 「ふう。もしかして兄さんは、自分が女心をわかっているとか途方もない勘違いをしていませんか?」
> 「いや、そうは思ってないけどさ……」
> なにしろ、十数年の付き合いがある、今目の前にいる妹のことすら、よくわからないというのに。
> 「フラれ続けて下らない人間と結婚されても、迷惑するのは家族でしょう」
> 「ま、待て待て待て、落ち着け優香。いくらなんでも、他人の色恋沙汰に首を突っ込むなよ。優香だって、好きな奴ができた時に俺に口出しされたら嫌だろ?」
> 「…………。他人ではありません、家族です。それに、文句をつけるわけではなく、ただの助言をしてもいい、というだけです」
> 「もしかして……俺のこと、心配して%

615:名無しさん@ピンキー
09/01/06 09:19:39 oIztgDDd
>>613
GJです。
優香が何かしたのか先輩に普通に何かあったのか

616:名無しさん@ピンキー
09/01/06 09:20:46 oIztgDDd
>>614で変なのかましてすみません。

617:名無しさん@ピンキー
09/01/06 09:25:46 a6AW97t4
強行さんが出てこないように~って思ってたら最後なんかあるしw 非常に気になる

618:名無しさん@ピンキー
09/01/06 11:40:45 fjADaAz2
強行ちゃん「SATSUGAIせよ SATSUGAIせよ」
潔癖さん「で、出ました……これが強行さんの48の泥棒猫殺し」

619:名無しさん@ピンキー
09/01/06 12:09:14 TWVXji4S
端数を挟まないと言うことはなんか先輩の生命が不安になって来た!
流石に殺されてはないだろうけど…
何はともあれおもしろかったです

620:名無しさん@ピンキー
09/01/06 13:34:17 9UwbU+zj
潔癖たんと強行たんは俺の嫁

621:名無しさん@ピンキー
09/01/06 14:39:55 QIRMFO7v
GJ!
先輩もただでは引き下がる人ではなさそうだし、楽しみだな。



潔癖「>>620の嫁なんて吐き気がします」
強行「殺しましょう」

622:名無しさん@ピンキー
09/01/06 14:48:06 iscNud29
久しぶりに晶ちゃんがでてきて嬉しかったですよ

623:名無しさん@ピンキー
09/01/06 16:52:44 UsblWni5
GJ
これで片羽先輩もキモウトだったら…

624:名無しさん@ピンキー
09/01/06 18:25:53 5p0XX7Cv
>>613
GJ
好きな人を教えたらその子はこの世からいなくなるわけですねわかります

しかし潔癖たんと強行たんは名コンビ過ぎるwww

625:名無しさん@ピンキー
09/01/06 18:44:30 tISWy8AJ
やはりボクッ子はいいな
そして優香可愛いよ優香

626:名無しさん@ピンキー
09/01/06 21:37:42 ZDkuDW+a
晶も栄養状況が改善されて成長が…と思いきや一部絶望的とかある意味悲しすぎる

627:名無しさん@ピンキー
09/01/06 22:43:01 2ZNAQ/TN
凄い罰ゲームキター!!

628:名無しさん@ピンキー
09/01/07 00:18:37 R7UI4689
>>623
その場合、
晶「たまげたー、まさか片羽さんがキモ姉だったなんて」
優香「フッフフ、わたしたちも恐ろしい先輩を持ってしまったものね」
みたいな展開に
そして三十路未婚の俺涙目

629:名無しさん@ピンキー
09/01/07 11:59:13 SWRZDlnu
5人の姉と4人の妹の姉妹に囲まれる男が、夕方自宅で何かの液体でぐしょぐしょになった自分のトランクス
と一緒に置いてあった紙を見つける。

こんや 12じ おとこを おかす

そうして、唯一信頼がおける一つ上の姉と一緒に姉妹の中に潜むキモウトだかキモ姉を暴き出す。

そんな、きもしまいたちの夜が見たいです。

630:名無しさん@ピンキー
09/01/07 13:01:25 64MSG5O9
you書いちゃいなよ

631:名無しさん@ピンキー
09/01/07 13:56:23 2VkYRB2t
>>629
実は信頼してる一つ上の姉がキモ姉ということか

632:名無しさん@ピンキー
09/01/07 13:59:40 NVJlUA4P
犯人はカメラを持ってる奴

633:名無しさん@ピンキー
09/01/07 14:39:25 3eSbOq99
>>631
犯人はヤス子

634:名無しさん@ピンキー
09/01/07 14:55:44 CrcFjl3s
>>631
何言ってるんだ、全員キモ姉妹に決まってるじゃないか

635:名無しさん@ピンキー
09/01/07 15:16:36 G9mJ0OxM
9人姉妹・・・だと・・・!?
隙が・・・ない・・・

636:名無しさん@ピンキー
09/01/07 16:04:50 c6eNmJGI
男を入れれば10人
更に両親が加わると12人
これ何て大家族スペシャル?

637:名無しさん@ピンキー
09/01/07 16:21:46 D3bCxlC1
一番上の姉と一番下の妹では歳の差も結構なものになっていそうだな

638:名無しさん@ピンキー
09/01/07 16:37:41 QksMgaP+
>>637
っ姉しよ

639:名無しさん@ピンキー
09/01/07 16:41:59 APsBRF3s
つまり、長女をロリ姉にしろと?

640:名無しさん@ピンキー
09/01/07 16:47:11 M038aySY
>>637
5人の姉は五つ子とかの力技を用いるのはどうだ?


641:名無しさん@ピンキー
09/01/07 19:28:01 TRhLboLc
俺も姉妹の数増やして主人公の童貞を狙って駆け引きしあう小説を書こうと思ったんだが、
いかんせんキャラが動かないわ、口調の書き分けがめんどいし不自然になるわで挫折した。
筆力がある人、是非多人数物を書いて欲しい。

642:名無しさん@ピンキー
09/01/07 20:14:04 IcvXPjfq
理論的にいえば双子×3なら6人で口調、特徴3つで済む

643:名無しさん@ピンキー
09/01/07 20:20:30 dKLDZwuH
>>641
修羅場スレで誰かが登場人物が多いと大変だと言ってたな
影が薄くなるキャラも必然的に出て、物語が進みにくいから長編になるとかがあるらしい
読者側も全員の名前覚えるの大変だしな

644:名無しさん@ピンキー
09/01/07 21:37:16 vif9I9Gf
陳腐なハーレムコメディになるのが目に見えてる

645:名無しさん@ピンキー
09/01/07 21:54:30 lwPe3KvS
ゆるさない……俺は許さない……
12人の妹という設定にした奴らを許さない……!

646:名無しさん@ピンキー
09/01/07 22:06:51 xnHVUBCc
あれはあれで偉大な試みだったと思うデスよ。何人かキモウトもいたような気がしたし

647:名無しさん@ピンキー
09/01/07 23:10:35 UhIs8pBC
一人の妹は大切なきょうだいだが、百人の妹は統計に過ぎない

648:名無しさん@ピンキー
09/01/07 23:15:43 q15v4CSF
キモウト一人描写するのにも一苦労する身からすれば、
二桁のキャラを個別に扱うなんてもはや神の領域。

649:名無しさん@ピンキー
09/01/08 00:37:36 WX57Foj6
ヒロインの個別ルートがあるゲームと違って、基本的にSSは一本道だ。
複数人だとどうしても一人当たりの描写は薄くならざるを得ないし、
姉妹関係にある以上ヒロイン同士の関係も書く必要がある。
せいぜい4人ぐらいが実用的な限界だと思う。

650:名無しさん@ピンキー
09/01/08 00:46:48 TYqz13vY
だな
ゲームだと何本も道が作れるから
ヒロイン個別をそれぞれつくるんだが
SSは一本道が基本なので
恋に破れるヒロインがでてきたりハーレムルートになったりと
キャラごとの単独エンドがみれないやつもある

まぁ分岐を作ってキャラごとのエンドを作ってる人もいるがな

651:名無しさん@ピンキー
09/01/08 00:46:50 +hjC9H6H
キモウトプリンセスとかいうSSあったじゃん
かなりカオスな設定だったけど

652:名無しさん@ピンキー
09/01/08 00:50:07 vbChb7Yw
そろそろ淫獣の群れが来てもいい頃

653:名無しさん@ピンキー
09/01/08 10:05:34 nNc5a+1J
おそ松くんのうち1人だけが男とか
そんな6つ子とか

・・・キモキャラはどこいった

654:名無しさん@ピンキー
09/01/08 11:43:35 dfYN6Xev
そろそろ転生恋生の続きが来てもいい頃

655:名無しさん@ピンキー
09/01/08 14:03:02 cCReOOuS
そろそろ永遠の白が来てもいい頃

656:名無しさん@ピンキー
09/01/08 14:39:25 LOohjZC6
そろそろ俺にキモウトができていい頃

657:名無しさん@ピンキー
09/01/08 15:48:37 GHhuVias
>>656にいさーん
 
   / ̄ ̄\ 
  i/ ̄\_
  L_Y_|]_」_ ____
  |・  ・ |  | \  |   |
  | <   |  | \|_|__ |
  | ▽  人丿/ /     ∪
 ○\_/ ○=、
 ||_____|| ||_________∧
 ________________/ 


658:名無しさん@ピンキー
09/01/08 18:54:17 t1rvxhMk
そろそろノスタルジアが来てもいい頃

659:名無しさん@ピンキー
09/01/08 20:11:53 2KFHfiqo
ギモウト

660:名無しさん@ピンキー
09/01/08 21:16:54 NMh63LHQ
エロパロ板では
そろそろ = 三ヶ月  
に相当します。

661:名無しさん@ピンキー
09/01/09 04:15:14 ZpZZnG2+
こんな時間に起きてる者はいまい。
キモウトに気づかれずに家を出て行くなら今のうち・・・

662:名無しさん@ピンキー
09/01/09 04:42:11 j3t81zwD
こんな時間に>>661兄さんはどこに行く気かしら?
私から逃げる気なら
せめて兄さんの服全部に発信機がついてることに気付かないとお話にもならないって言うのに。

663:名無しさん@ピンキー
09/01/09 04:44:57 RG/iqOx8
ミぃつケた…





て弟君じゃないじゃない!
まぎらわしいのよ!
このっ!このっ!

664:名無しさん@ピンキー
09/01/09 04:46:10 RG/iqOx8
ごめん

665:名無しさん@ピンキー
09/01/09 06:51:13 vCaXwmlb
俺もキモウトに愛されたい

666:名無しさん@ピンキー
09/01/09 09:30:03 bBSgeaZ/
百万円使ってキモウトとキモ姉から三日間逃げ切ったら縁切り
捕まったら一生監禁される

そんなゲーム出ないかな
行き先と選択肢間違えたらゲームオーバー

667:名無しさん@ピンキー
09/01/09 09:34:31 oAFRwCpe
せっかくだから俺はわざと監禁されるぜ

668:名無しさん@ピンキー
09/01/09 12:57:32 d3mu/Z9D
監禁される間際に

どうして、どうして、何で俺がぁぁ!!
と叫ぶんですねわかります

669:名無しさん@ピンキー
09/01/09 13:15:52 /lAq8iRv
デスノート??

670:名無しさん@ピンキー
09/01/09 15:04:52 gd50TGvv
キモアネ/キモウトなら発振機なんて必要ないだろ。
特に何の理由も無く、素で探知されそう。


671:名無しさん@ピンキー
09/01/09 16:19:26 XtjwXlJz
女のカン・執念は尋常じゃないぞ、あれは怖すぎる…

赤の他人でもそうなのだから、+身内の情 が追加されたらどうなることやら… 

672:名無しさん@ピンキー
09/01/09 16:47:30 mqO21eZr
ある日キモウトは『アニノート』を拾う。
・これに書かれた兄は、思いや言葉とは無関係に、書かれた事を必ず実行してしまう。
 ―すらさらすら
『今夜、兄は、私をレイプする』。
そして、夜。兄は「違うんだ、違うんだ!」と叫びながらキモウトをレイプ。
罪悪感から言いなりになって、二人は一生幸せに暮らしましたとさ。
でめたしでめたし

673:名無しさん@ピンキー
09/01/09 16:50:35 oAFRwCpe
籠の中は最高だったな

674:名無しさん@ピンキー
09/01/09 20:31:01 XRCNxr1x
673…禿げ同。

675:名無しさん@ピンキー
09/01/09 21:03:12 7Y0/lPfJ
仕事から帰って来るなり甘えさせろと抱きついてくる姉

を、拒絶したい

676:名無しさん@ピンキー
09/01/09 22:27:25 D4v1Y9Vg
>>675
分かる分かる
弟に依存してる姉が拒絶されたときの反応と顔と脳内で考えてる事が見たい
そんでそのあとどんな行動に出るのかwktkしたい

677:名無しさん@ピンキー
09/01/09 22:32:25 4aozjFg0
頭の中では自分は無敵だからいくらでも妄想出来るw

678:名無しさん@ピンキー
09/01/10 00:43:39 2w+GAlKB
>>666
それちょっと読んでみたい

679:名無しさん@ピンキー
09/01/10 01:10:15 Mw7vAOXn
強気なキモ姉に「そんなことする姉さんなんか嫌いだ!!」って言うと
どうなるんですか?…ちょっと言ってきてみます

680:名無しさん@ピンキー
09/01/10 08:15:34 gHbOhwK5
キモウトもキモ姉もちょろいぜ

681:名無しさん@ピンキー
09/01/10 08:35:58 320yqiYS
とりあえず>>679はどうしたんだ?
7時間レスなしだが。

682:名無しさん@ピンキー
09/01/10 10:34:11 xKg+9Tmg
>>679
拉致監禁調教→性交妊娠出産

683:名無しさん@ピンキー
09/01/10 10:39:46 6sV3sLcf
>>681
いずれにせよ,>>679さんはもはや書き込みなど出来ない所に行ってしまったのですね

684:名無しさん@ピンキー
09/01/10 13:04:45 OFyjrG5e
奥さまは実姉だったのです!

685:名無しさん@ピンキー
09/01/10 13:28:01 nkx2Wfjn
>>679の父です。
 生前は679が大変お世話になりました。

 679ですが、残念なことに姉のベッドに全裸でくくりつけられ、ショック死しているところを発見されました。
 姉も、679と……大変申し上げにくいのですが……679に上に折り重なった状態で全裸死体がありました。
 解剖の結果ですが、姉の膣内には679の多量の精液が、679の胃内にはバイアグラや興奮剤の未消化分が
多量に発見されました。
 側の机には、大好きな弟と天国で夫婦になると書かれた書き置きがあり、遺書だろうと警察では見ている模様です。

 ただの仲が良い姉弟と思っていたのですが、因果は巡るというか、これが近親相姦の呪いなのかと思うと
自らの所行に深く思いを馳せざるを得ません。
 私も、今から妻であり妹であった最愛の人をこの手に抱きながら、皆様にご迷惑を掛けた報いを精算させていただこうと
思います。妻も笑顔で共に逝けて嬉しいと言っております。

 どうか皆々様方には、この悲しき事件を、親の資格のなき、タブーを踏みにじった者が子供を作った報いと思っていただき、
子達への非難や批判は全て私達のせいであるとお含み置き下さい。
 どうか、679や姉をそっとしてやってくださいますよう、これが最後のお願いでございます。

 それでは、皆様。ごきげんよう。

686:名無しさん@ピンキー
09/01/10 16:03:44 fm2CSgkl
>>685

「お願い…で…ございます、と。よーし完成ー。
679ちゃんの身代わりになってもらったあの人には悪いけど、しょうがないわ、わたしと679ちゃんの幸せのためだもの。
でも、そもそも679ちゃんというものがあるこのわたしに、ナンパなんかしてきたのがいけないのよね。
やたら迫ってきたから思わず顔面つぶしちゃったけど、結局おもわぬところで役に立ってもらえたわ。
わたしの身代わりがあの泥棒猫っていうのが気に入らないけどね。

さーて、遺書通りにお父さんとお母さんの始末をつけてこなくっちゃ」

687:名無しさん@ピンキー
09/01/11 01:10:30 oZF7lYZa
キモ姉Koeeeeeeeeeeeeeeee!

688:名無しさん@ピンキー
09/01/11 01:13:59 qK2Q5rr3
679羨ましいいいぃぃぃぃ!!!
俺にもキモ姉くれ!!!
キモウトなんて全然いらないからさ!

689:名無しさん@ピンキー
09/01/11 01:29:12 eGRF4a/1
今日未明、~県在住の>>688さんと妹の○○さんが行方不明になりました

>>688さんは「コンビニに行く」と行って家を出てから行方がわからなくなっており

5分ほど遅れて家を出た○○さんの行方もわからなくなっていることから
~県警は二人が事件に巻き込まれた可能性があるとして捜査しています

690:名無しさん@ピンキー
09/01/11 01:46:30 VA84KB75
test

691:未来のあなたへ5
09/01/11 02:06:23 Q/D96k9j
投下します。
話が進むごとにキモウト分が薄くなっていくのはスレ的にどうなんだろう。


692:未来のあなたへ5
09/01/11 02:07:31 Q/D96k9j
コンコン
「どうぞ」
「失礼します」
「おや、誰かと思ったら優香君じゃないか。よく此処がわかったね」
「藍園さんに伺いました。こんにちは、片羽先輩。こちらお土産です」
「おっと、ありがとう。鉢植えだね、飾っておくよ」
「それにしても、変わった部屋ですね」
「ああ、僕の部屋に入る人は大抵そう言うんだ。ちょっと、らしくないからね」
「体に障ったりはしないんですか?」
「大丈夫。僕の問題は別のところにあるからね」
「なるほど。というと?」
「ふふん。恋することのできない病、さ」
「は?」
「ところで榊君は一緒ではないんだね」
「ええ、まあ。私も、帰る時に思いついただけで、兄さんは違う学校ですから」
「なるほど。特に一緒に来る理由はない、ということかい?」
「そうです」
「優香君は。お兄さんとは、あまり仲は良くないのかな」
「兄さんに聞いたんですか?」
「まあね。榊君は、自慢の妹だとベタ褒めだったよ」
「兄さんは兄さんで、私は私です。別に、わざわざ……仲良くする必要は、ないと思います……が」
「なにか苦しそうだけど大丈夫かい、優香君」
「問題ありません」
「つまり一般的な兄妹の距離感、ということだね。僕はてっきり、何か榊君を恨んでるのかと思ったよ」
「……何を根拠に」
「ああ、気分を害したなら謝るよ。わざわざ来てくれた客人に不躾過ぎたね。この通り」
「いえ、頭を下げられても困ります。それより何故、そう思ったんですか?」
「まあ、そこは環境と勘、さ」

693:未来のあなたへ5
09/01/11 02:08:33 Q/D96k9j
片羽先輩が学校に来なくなって一週間が経った。
あの人とはまだ、連絡が取れない。

「はあ……」
「なんだなんだ榊。今日も冴えねーな」
「ああ……ん、まあな」
「あの先輩にフラれたのがそんなにショックなのかよ。もう一週間なんだし、いい加減吹っ切ったらどうだ?」
「フラれてねーよ!」
「どおお! 落ち着け榊! ギブギブ!」
「そんなんじゃなくて……連絡が取れないだけだよ」
「それをフラれたってーか自然消滅って言うんじゃね?」
「………」
「絞めんなって! わかった、なら会いに行けばいいじゃねーか!」
「先輩のクラスも見て来たんだけど、どうも休んでるみたいでさ……それも心配なんだよなあ……」
「風邪でもこじらせてんじゃね? まだ六月に入ったところだけどよ」
「かもしれないけどさ……だったらお見舞いぐらい行きたいよ」
「家、知ってんのか?」
「わからない……徒歩通学だから、学校の近くだとは思うんだけど……先輩のクラスに行っても教えてくれなかったし」
「あー、個人情報だから仕方ねーな。ていうか、上級生のクラスに毎日顔出してたのかよ。必死すぎ」
「美術部にも顔を出したけど、先輩の家は知らなかったし……あの人、友達いないみたいだ……」
「ふーん。人当たり良さそうな先輩だったけどなあ。美人だし」
「はあ……」

教室での昼休み。食事もそこそこに、机に突っ伏してため息をつく。
この一週間、ため息ばかりついている気がする。
ため息の原因を何とかしようと、できる限り動き回ってみたけど、結局手がかりは得られなかった。
最初は。部活を尋ねていけば、先輩の友達にでも住所を聞けるかと思ったけれど。柳沢の言うとおり、先輩に友達がいないのは誤算だった。
携帯は、やっぱりずっと電源が切れていて。それでも、毎日何回も短縮を押し、メールを打ってしまっている。
それでも諦められず、毎日先輩のクラスに顔を出したり、先輩と一緒に話した場所をうろついてるけど。傍から見ればストーカーなのかもしれない。
けれど……会いたかった。先輩に、会いたかった。
元々、連絡の途切れることが多い人だったけど。一週間も会えないというのは初めてだ。
いや……携帯番号を交換する前は、普通にそれくらいは開いていた。そのときは何てこともなかったけど、今はこんなにも、胸が掻き毟られる。
なんでだろう。
何度も、何度も。日曜日の最後、別れ際に笑った先輩の姿を思い出す。そのときの言葉を思い出す。
『それじゃ榊君。また会おう』
『はいっ。また明日』
あのときの俺は。なんの疑いもなく、次の日もまた片羽先輩に会えると思っていた。
けれど今思えば先輩は、また明日という約束に答えなかった。
あの人は、次の日に会えないと知っていたんだろうか。
けれど、また会おう、と言っていたじゃないか!
あの人の声が、聞きたかった。片羽先輩らしく、また胸を張ってほしかった。
けれど、今の俺には待つことしかできなくて。ああ、先輩に会いに行きたい、会いに行ければいいのに。

「となると、後は夜中に職員室に忍び込んで名簿を盗み出す! とかどうだ?」
「するわけないだろ……」
「ホントにしおれてんなあ。そこはツッコめよ」
「はあ……」
「後はそーだな。あー、そういやボーリングのとき、あっちの方向って言ってたよな」
「そういえばそうだけど。方向だけわかっても仕方ないだろ、どれだけ行けばいいのかもわからないし……」
「いや、ほら。たしか優香ちゃんの友達が、一緒に帰ってたじゃん。途中の道順ぐらいならわかるんじゃね?」
「!」


694:未来のあなたへ5
09/01/11 02:08:59 VA84KB75
そうだ……そうだ! あの日、晶ちゃんは先輩と一緒に帰ったんじゃないか!
もしも晶ちゃんの家のほうが遠かったなら、先輩の家まで付き添ったかもしれない!
そうだ、聞こう。今すぐ聞こう。落ち着け、俺。
晶ちゃんは携帯を持ってはいない。連絡を取るには放課後中学校に行くしか……いや、この時間なら!
自分の携帯を取り出し、アドレスから短縮を呼び出してプッシュする。
PRRRRRRR
PI
『もしもし。なんですか、兄さん』
「優香! 晶ちゃんに代わってくれないか!?」



「教えてよかったんですか?」
「不本意ですが、知らない場所で暴発されるより適度に発散した方がマシでしょう。私も放課後に向かいます」
「しっかし、榊先輩切羽詰ってましたよねー。アレはもう惚れてんじゃ?」
「……釣橋効果の一種かと思います。対象への不安を、恋愛感情と混同しているのではないでしょうか」
「なーるほどー。にしても、思い込んだら一直線なところに、ちょっと血の繋がりを感じましたよ」
「兄妹ですから」
「話は戻るんですが。榊先輩も物好きですよね。知り合って間もない先輩をそこまで気にかけるなんて、やっぱり外見は偉大だってことでしょうか」
「おそらく突然の不在期間で、幻想を膨らませてしまったのでしょう。実際に会えば幻滅しますよ。男女関係というのは、適度に離れた方がうまくいくものです」
「え、その発言は妹キャラ的にどうなんですか?」
「私が兄さんに与えるイメージは完璧です。幻滅だなんて、ボロを出すような真似はしませんよ」
「なんか色々墓穴を掘っている気がしないでもないですが。まあ、参考にさせてもらいますから、適度に頑張ってくださいねー」


695:未来のあなたへ5
09/01/11 02:09:51 VA84KB75
先輩に会うため、早退した。
もちろん。本来なら、その日の放課後まで待って、晶ちゃんに教えてもらった住所に向かうべき、だということはわかっている。
けれど、居ても立ってもいられなかった。あと二時間、我慢するなんてとてもできなかったのだ。
柳沢には盛大に呆れられたけど、体調不良ということで口裏を合わせてくれた。感謝。
校門前で、ちょうど来ていたバスに飛び乗る。
自分でも。
自分でも、こんなに片羽先輩に会いたい気持ちが募っていたなんて、思いもしなかった。
教室からバス停まで走りきったせいだろうか、動悸が激しい。どきどき、どきどき。
けれど動悸が激しいのは、もしかしたら運動のせいだけではないのかもしれない。体温が高いのは、陽気のせいだけではないのかもしれない。
夕陽の中で交わされた、妹の会話を思い出す。
『それは、男女として、ですか?』
『んー、どうかな。それはまだわからないけど。今は、普通に話してるだけで十分かな』
あの時、何気なく口にした言葉は、本音だった。
先輩との会話が、勉強ばかりの日々をどれだけ潤してくれたことか。陳腐な物言いだけど、失って初めて気付いたんだ。
バスの停留所案内を見て、自分が何処で降りるべきか確認する。
市立病院。
それが、晶ちゃんから聞いた、先輩のいる場所だった。



うららかな初夏の日差し。
そよ風にはためく、クリーム色のカーテン。
窓から臨む青い空。ざあざあと伝わる、街の発するざわめき。
ある平日の昼間、市立病院の個室で。
片羽桜子はベッドに腰を降ろして、イーゼルに立てかけられたカンバスに筆を走らせていた。
服装は水色の入院着。膝の上には使い込まれたスケッチブック。窓際にはサフランの小さな鉢植え。
壁の一面には彩色の終わったカンバスが何枚も立てかけられ、反対の一面には画材が積まれている。その上には、ハンガーに掛けられた制服。
病室らしく清潔に保たれてはいるが、まるで画家のアトリエのような一室だった。
「ふう」
一息ついて、片羽桜子が筆を置く。小休止。
テーブルに置かれた水を飲み、自分で肩を揉みながら窓の外を見やる。
そのまましばらく病院の庭を眺めていた彼女は、おや、と目を丸くする。
見覚えのある後輩が正門に止まったバスから飛び出して、正面玄関に走っていくのを発見したのだった。
「おお、まだ授業中のはずなんだが……若いなあ、榊君」

696:未来のあなたへ5
09/01/11 02:10:44 Q/D96k9j
「片羽先輩っ、大丈夫ですかっ!」
「やあ、いらっしゃい榊君。ひとまず水でも飲んで落ち着いたらどうかな、ほら」
「あ、はい」
ごくごくごく。
……あれ?
「落ち着いたかな?」
「じゃなくて! その、先輩……」
「ん? ああ。季節の変わり目だから入院してたけど、体調については大分良くなったよ。あと二三日で登校できるんじゃないかな」
「そ、そうなんですか。よかったあ……」
先輩の無事を確認して、へなへなと力が抜けた。此処まで走ってきた疲労がもろに出て、自分の膝に両手をつく。がっくり。
なでなで、とベッドに半身を起こした先輩が手を伸ばして、俺の頭を撫でた。
「ふふん。榊君は可愛いな。よしよし」
「や、やめてくださいよぅ」
わたわたと先輩とじゃれつく。ああ、癒されるなあ……
いや、男としてどうなんだ榊健太、飼い犬みたいな扱いを受けるというのは。まあ心地よいしどうでもいいか。
けど自分で言うのもなんだけど、先輩はちょっと落ち着きすぎじゃないだろうか。俺は平日の昼間に、学校を早退していきなり訪ねてきたんだから、もうちょっと驚いてもいい気がする。
「なに。この窓から正面玄関に入る君が見えただけだよ。さっきは驚いたとも。授業はちゃんと受けないと損だよ」
「ご、ごめんなさい。けど、先輩が入院してるって聞いて。いても立ってもいられなくて」
「入院なんて僕にとっては実家帰りみたいなものさ。珍しい話でもなし、気にしないでいいよ」
「珍しくもないって……あ。もしかして、時々携帯が通じなかったのは」
「ああ。病院では通話禁止だからね。榊君も電源は切らないとダメだからね」
「あ、すみません」
あたふたと携帯電話を取り出して電源を切る。
けど、そうか。先輩が時々連絡途絶するのは、病院にいるから、だったのか。
けれど逆に考えるなら、電話が通じない間は。先輩は入院、もしくは通院していたことになる。
それは……かなりの頻度だ。
平均して、一週間に二日は連絡が取れない日があったのだから。下手をすれば、学校と同じぐらい病院にいることになる。
そんなに、悪いんだろうか。
改めて先輩を見る。白い肌、長い髪、痩せた体、細い指。水色の病院着を着た先輩は、確かに美人ではあるけれど、紛れもない病人だった。
ベッドの脇にはカンバスと三脚、壁際には先輩の描いたと思わしき色とりどりの絵や、画材。窓際には花の鉢植え。壁にかけられているのは、見慣れた高校の制服。
この部屋は確かに、先輩の帰るべき場所だった。けれど、ここは病室なのだ。
観察の中でふと、壁に立てかけられた一枚の絵が目に付いた。見覚えのある絵柄。
「あれ? 先輩。この絵って……もしかして、雨の日にスケッチした、桜の絵ですか」
その絵は間違いなく。桜の季節が終わる頃、あの雨の日に。先輩と一緒に見た、雨に打たれて花びらの散った桜だった。あの時感じた悲しさが蘇る。
「ああ。入院中は暇だからね。昔から、退院中に書き溜めたものに筆を入れて時間を潰してるんだよ」
「…………」
言われて見てみれば。
壁に立てかけてある絵は、みんな俺にも見覚えのある内容ばかりだった。
夕陽に染まる校舎、人の居ない教室、サッカーに励む生徒、桜が満開の公園、青い空と町並。
この人は。
この人は、昔から、ずっとそうやって生きてきたのか。
絵に書かれた内容は、なんてことはない日々の風景ばかりだった。町を歩けば、学校に通えば、当たり前に目にすることのできる風景。
俺にとっては、当たり前すぎて辟易するほどの、ありふれた景色でしかない。
けれど、この人にとっては。この人の生きてきた道程にとっては。
当たり前の風景は。体の弱さと戦って、退院して、薬を飲みながら日々を過ごして、やっと見られるものなんだ。
限られた、その時間に。この細い体で、この細い指で。できるだけ多く描くだけの価値があるものなんだ。
胸の中に、暖かいものと、冷たいものが、同時に満ちて溢れた。
ああ。

697:未来のあなたへ5
09/01/11 02:12:01 VA84KB75
「う、う、う、う、う……」
「な、待て。ちょっと待て榊君。何故、突然泣き出すんだ」
「ご、ごめんなさい。でも……」
「え、えーと。そうだな、とりあえずほら、落ち着きたまえ」
あたふたと先輩の渡してくれたハンカチを受け取り、ぐしぐしと顔を拭う。なんてみっともない、なんてみっともない。この人の前で泣き出すのは二度目だ。
けれど、胸に満ちた感情はなかなか収まらず、しばらくしてようやく衝動は引いていった。消えるのではなく、胸のどこかに、収まる。
珍しく慌てていた先輩も、目に見えてほっとしたようで。
「やれやれ。体に悪いんだから、あまり驚かせないでほしいな。全く、榊君は泣き虫だなあ」
「ご、ごめんなさい……」
「よくわからないが。僕の絵で泣くほど感動してくれたのかな? もしそうなら、端くれとはいえ絵描き冥利に尽きるけどね」
自分で言っておきながら、先輩はあまりそうとは思っていないようだった。どちらかといえば冗談の調子だ。
俺には絵の善し悪しはよくわからないけれど、先輩の絵は普通に上手だと思う。
俺が泣いてしまったのは、絵の内容そのもののせいじゃない。これらの絵が示す、片羽桜子という人の生き方に、だ。
「いえ。先輩の絵はすごく上手だと思いますよ。なんというか、先輩らしくて」
「ふふん、ありがとう。一応、昔からの趣味だからね。褒められると嬉しいよ」
華奢な胸を張って、片羽先輩が笑う。
気付く。
俺は、先輩と話したくて。学校を早退してまでここに来たと思っていたけれど。
俺がこの人から貰っていたのは、言葉だけじゃなかった。
日々の生活は手応えがなくて。未来のことを考えると、辛いことがいくらでも思い浮かんで挫けそうになるけれど。
片羽先輩の。胸を張って、軽く笑って、この世の全てに相対しているその空元気に。俺は、何度も勇気付けられてきたんだ。
空元気だ。
片羽先輩は、優香のような完璧人間じゃない。俺と同じかそれ以上に、弱い部分を抱えた人だ。未来に対して、不安を抱かないわけがない。
それでも、この人は胸を張って笑っている。それなら、俺だって笑っていられるかもしれない。
人間は。どんなに不完全でも笑ってさえいられるなら、人生に堂々と相対できるということを。片羽先輩は、自らの生き方で教えてくれている。
この人に会えて良かった。
「先輩」
「なんだい、榊君」
「俺、先輩に会えて良かったです」
「なんだい、その唐突に死にフラグな台詞は。まあ、僕も榊君に会えて良かったと思ってるよ」
「そのうちでいいですけど。迷惑でなければ、俺も描いてくれませんか?」
「それは……悪くないね。うん、悪くない。いや、喜んで描かせて貰うよ」

698:未来のあなたへ5
09/01/11 02:13:06 VA84KB75
放課後。
榊優香が藍園晶と別れて柔道部に休む旨を伝え、下駄箱で靴を履き替えたところ。
ぶつんとスニーカーの紐が切れた。
「…………」
しばし沈黙してから、榊優香は鞄からGPS受信機を取り出した。兄の鞄に仕込んだ発信器の電波を受信するもので、携帯よりもかなりごつい。
起動。発信器の座標確認……榊健太の公立高校。
確認を終えた彼女は受信機を鞄にしまい、紐はそのままにして靴を履いた。
目的地である病院へのルートを思い浮かべながら、校門を抜けたところで。
しゅたた、と。電柱の陰から飛び出してきた黒猫が目の前を横切った。
「…………」
しばしの沈黙後、榊優香は携帯を取り出して一番上の短縮を押す。
『お客様のお掛けになった電話番号は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っておりません……』
榊優香は携帯を耳に当てたまま硬直した。
仮説1
 榊健太は何らかの事情で高校に残っており、携帯は偶然電池切れ。
仮説2
 榊健太は発信機の入った鞄を学校に置いて病院にいる。
「!」
榊優香は即座に、目標地点に向けて駆け出した。
途中、通りがかったアパートの脇に止めてある自転車の鍵がちゃちと見るや、ドライバー(マイナス)を鍵穴に突っ込んで鞄で一撃。がしゃんと鍵が外れた自転車に盗み乗った。この間僅か五秒。
目撃者は幸運にも居なかったが、居ても同様の行動を取らなかったかどうかは定かではない。最短ルートを検索し、しゃかしゃかと立ち漕ぎをする。
激しい運動に息を弾ませながら、彼女は一人呟いていた。
「っ……どうして……!」
どうして。
既に病院にいるとしたら、時間的に榊健太が放課後になってから病院行きのバスに乗ったとは考えにくい。ならば授業を早退したのだろう。この論理は明解だ。
その理由は、それだけ片羽桜子が心配だったからだろう。他に動機などありはしない。この論理もまた明解。
彼女が納得できないのは。どうして、そこまで、片羽桜子を大事に思っているのか、という点だった。
自分が、榊優香がいるというのに。
確かに片羽桜子と、容姿に於いては同レベル……いや、百歩譲って僅かに劣っているかもしれない。けれど他のあらゆるスペックに於いて、上回っているという自負が彼女にはあった。
頭脳も、運動能力も、戦闘能力も、性的魅力も、胸囲も、精神力も、社会性も、耐久力も、全て。勝っているはずなのだ。
全く違うタイプだというのなら比べようがないかもしれないが、この目で見るに二人の持つ方向性は同じのはずだ。
なのにどうして、劣った方を大事にするのか。
「どうしてっ……!」
その時道半ばで。向かい側から歩いてくる榊健太を発見。
急ブレーキしながらハンドルを切った。道路を横断。途中で迫る障害物を回避回避。
甲高いブレーキ音とクラクションを尻目に、榊優香は目を丸くした兄の元に到着した。
「にい……はーっ、はーっ……さん」
「ななななな、なにやってんだよ優香! 大丈夫か危ないじゃないか!?」
「問題、ありません……ふぅ」
ハンドルに体を預けて肩で息をする榊優香。優等生のイメージなど、どこかに飛んでいってしまっていた。
とはいえ、外面を取り繕うことに関しては年季が違う。深呼吸数回とハンカチで、普段の落ち着きを取り戻した。今更かどうかはさておき。
「兄さん。病院は?」
「あ、ああ。もう行って来た。さっきまで先輩と話してたんだけど、診察の時間になったから帰ることにしたんだ」
「授業を早退して、ですか」
「う」
「兄さん。兄さんは私が今まで散々言ってきた、学生の本分というものを理解しているんですか。放課後に何をしようが勝手ですが、学生として授業を無断で欠席するなどと……」
がみがみ。
以後五分にわたり説教タイム。
あーあーあー、と耳を押さえながら榊健太は自宅に向かって歩き出す。後ろからきこきこと自転車を引きながら、妹が続く。

699:未来のあなたへ5
09/01/11 02:13:52 VA84KB75
しばらくして、ようやくS気を満足させた榊優香が一息をつく。それを見計らって、兄は話題を変えようと話しかけた。
「そういえば。その自転車、どうしたんだ?」
「急いでいたので。一日だけ友達から借りました」
「へえー。そうだ、どうせなら二人乗りで帰るか? 俺が漕ぐからさ」
「ん……危なっかしいですね。体力も衰えてるでしょうし、大丈夫ですか?」
「んなおじいさんみたいに扱うなって。大丈夫だよ、ほら。どいたどいた」
ひょい、と榊健太が妹を押しのけてサドルにまたがる。榊優香はやれやれ、という顔だけして喜び勇んで荷台に腰掛けた。横座りである、無論。
「まあ、私も少々疲れましたから利用させてもらいますが。転倒したら迷わず逃げますからね」
「はいはい」
妹が兄の原に両腕を回す。落ちないようにという名目で強く、広い背中に上半身を押し付ける。計算。以前よりも胸は大きくなっているはず。いや、胸筋だから硬いのか?
知ってか知らずか。兄はよいしょと声をかけて、自転車を漕ぎ出した。
日は傾き始めていたが、まだ夕方には遠い。青空の下、二人乗りの自転車は家路を辿る。
「そういえば。お見舞いに行かなくてもいいのか? わざわざ自転車まで借りたのに」
「また後日にしておきます。ここで兄さんと別れて病院に行くというのも、非効率的ですし」
「んじゃ、また明日にでも一緒に行くか」
「明日ですか? 病人に対して、毎日押しかけるのも迷惑ですよ」
「う、そうかな」
ぐい、と角を曲がるときは二人一緒に体を傾ける。押しa付けられる体と体。
制服に包まれた兄の背中は、彼女が普段妄想する通りの広さと暖かさがあった。
地面をかむ車輪と、ゆっくりと漕がれるペダルの、一定のリズム。
穏やかな気分で、目を閉じる。久しぶりに、本当に久しぶりに、彼女は一切の計算をやめた。
頬を撫でる風さえも、自分達を祝福しているような気分。
「こうして二人乗りなんて、初めてじゃないでしょうか」
「んー、そうかもな。小学校の頃が一番自転車使ってたけど、昔から優香はなんていうか大人びてたしな」
「老けていた、と言いたげですね」
「ああ、そうかも」
「そういう兄さんは、昔からガキッぽいところが抜けませんね」
「ひでえ! ……ってまあ、お互い様か。考えてみれば俺たち、正反対な性格してるよな」
「それは私が心から感謝することの一つですね」
「うおい!」
その言葉に嘘はない。榊優香は心から感謝している。
比翼連理。
互いに互いを補い合う在り方の形。榊健太とそのような形で生まれてきたことに、榊優香は心の底から感謝する。
欠けた自分を補う欠片を持つのが、この榊健太であることに。榊優香は心の底から感謝している。
そんな妹の心を、兄は知らず。
そして妹もまた、兄の心を知らなかった。
「……なあ、優香」
「はい。なんですか、兄さん」


「俺……好きな人ができたよ」


『もしも兄さんに好きな人ができたら、私に―――

700:未来のあなたへ5
09/01/11 02:15:02 VA84KB75
その日の夜。
僕……片羽桜子は、市立病院の個室にて午後九時に就寝した。
早すぎると言うなかれ。今日は榊君の相手もしたし、何よりずっと絵を描いていた。
休憩を挟みながらとはいえ、結構集中力を使うんだよ、創作活動というのは。
そもそも消灯時間が午後九時だし、入院しているなら体力の回復が優先されるべきじゃないか。
入院中に趣味に熱中しすぎで倒れたなんて、本末転倒の見本にされてしまうよ。
まあとにかく。僕は午後九時に就寝したわけだ。ぐう、とね。
そして、ふと深夜―おそらくは午前一時頃に目を覚ました。
何故か? トイレ……おっと失敬。花摘みは就寝前に行っていたので、それは肉体的欲求ではなく精神的欲求だったのだろう。
もっと言えば虫の知らせ、第六感、そんなものの仕業と思われる。さておき。
目を覚ました僕は、ベッドの上で覆い被さる人影に押さえつけられていた。
「――!」
驚いたよ、そりゃ驚いたさ。
思わず心臓が止まってしまいそうになるほどだった。悲鳴を上げようにも、口元は手で塞がれていたけどね。
だって想像してみなよ。何事もなく一日が終わって、夜中にふと目が覚めたら。真っ暗な病室で、誰かに押さえ込まれてるんだよ。
しかもその上
「助けを呼んだら殺す。抵抗したら殺す」
こんなことを言われてみなよ。これはもう凄まじい恐怖だね。
ただ、その声を聞いて更なる驚愕が僕を襲ったんだ。やれやれ、強すぎる感情は体に毒なんだけどね。
なにしろ、その声には聞き覚えがあったんだから。
折り良く、雲が流れて月光がカーテンの間から差し込んだ。闇に慣れていた僕の目に映ったのは

榊優香君だった。

「…………」
「――」
信じられるかい? 僕はまた大声を上げそうになったよ。まあ、口元は押さえられていたけどね。
優香君は中学校のセーラー服を着ていた。まあ、紺一色は夜中での迷彩効果は高いかもしれない。
僕を押さえつけている体勢は、布団の上からお腹に乗り、両膝で僕の両腕を押さえ、左手で口を押さえている。
柔道の技なんだろうか。とにかく、僕の四肢は布団と膝に押さえられて、とても満足な動きはできそうになかった。
優香君は、空いた右手でベッドの脇にあるスイッチ……ナースコールを手にとって、そっと手の届かない場所に置いた。さっき自分で言った通り、まず助けを呼ぶ手段から潰していくらしい。
僕はといえばその間、なんとか興奮と驚愕を落ち着かせようと努力していた。
クールになれ、片羽桜子。落ち着いて素数を数えるんだ。素数は孤独な数字。この僕に勇気を与えてくれる。
2、3、5、7、11、13、17,19、23、28、いや違う29だ……ふう。落ち着いて状況を整理してみよう。
状況から判断するに。優香君が病院に忍び込み、消灯後まで人目をやり過ごし、その上で僕の部屋に押し入ってきた、ということになる。正気だろうか。
僕の記憶が確かなら、看護婦の見回りは三時間ごと。そして午前一時という時間感覚が確かなら、後二時間は見回りは来ない。
おっと、今は看護師と言うんだったね。失敬。
具体的な危険についてだが、警告を受けたということは下手を打たなければ殺されることはなさそうだ。僕もまだ命は惜しいんで、これは非常に助かる。
では彼女の目的は何なのか、というと。これが全く謎なのだった。まあ、優香君が話してくれるだろう。
「…………」
す、と。試すように僕の口元から手が離され、喉に当てられる。軽く絞められた。ぐえ。いつでも絞め殺せるというパフォーマンスらしい。
僕が叫びださないのを確認してから、彼女はこの場に来た目的を、口にした。

「兄さんに……これ以上、近づくな。でなければ……殺す。このことを誰かに話しても、殺す」

……ああ。

「なるほど。つまり君は、榊君のことを異性として愛してる、ということか」



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