キモ姉&キモウト小説を書こう!Part16at EROPARO
キモ姉&キモウト小説を書こう!Part16 - 暇つぶし2ch450:名無しさん@ピンキー
08/12/30 00:17:05 39zrYJg0
>>448
真の自分を好きになって欲しい、という乙女心じゃないか。
いじましくて可愛いなあ。

451:名無しさん@ピンキー
08/12/30 12:08:53 lxGrCtBb
>>448
浮気者だ!浮気者がいる!

しかし最近では不況→財布の紐がかたくなる→家で飲む
のコンボでキモ姉妹歓喜だとか

452:名無しさん@ピンキー
08/12/30 13:21:52 i09lXtcT
一般の女性の貞操が緩くなる→女性不振

キモ姉妹涙目

453:名無しさん@ピンキー
08/12/30 16:01:27 9ig0TeoG
なんで俺の気に入ってる作品は来ないんだよ!
そろそろ来てもいいだろ!作者、ちゃんと書いてんのか!?
・・・・頼むよ、いい年明けを迎えさせてくれよ・・・・
いや、転成とかきて嬉しいんだけどさ・・・・

454:名無しさん@ピンキー
08/12/30 17:52:50 7yXCq3Z3
>>453
来年まで待てんのかカス

455:名無しさん@ピンキー
08/12/30 18:04:23 hE4d8usT
まあ気持ちがわからんでもない。
が、そんなレスしてるぐらいなら職人のやる気を出させるようなレスをしたほうが現実的

456:名無しさん@ピンキー
08/12/30 20:18:54 uyWB6pmg
>>431
キモ姉の勝因が一つも見当たらない
が、頑張れキモ姉!

457:名無しさん@ピンキー
08/12/30 20:22:44 PRIyaEs3
結局来世に繰り越しだったらおもしろい

458:名無しさん@ピンキー
08/12/30 20:34:41 7VXsI/j4
>>457
そうか、今生で姉に対する嗜好を刻み込んでおいて、来世に自分が姉として生まれるなんて
裏技もありなんだな

459:名無しさん@ピンキー
08/12/30 21:12:27 sNpHGnKK
>>458
このスレ的には妹もありじゃない。

460:名無しさん@ピンキー
08/12/30 22:22:10 5KTuUos2
現世は姉で弟にアタックしまくった末に嫌われて
「やっぱ俺、妹が欲しかったなあ。」といわれ来世では妹として生まれ変わるんですね

461:名無しさん@ピンキー
08/12/30 23:31:06 VD85smRj
姉弟心中とな?

462:名無しさん@ピンキー
08/12/31 12:42:20 iEicP2Qe
まさか猿だけに猿まねなのか?
とりあえず次の投下まで全裸待機だな
正月?関係ねえよ

463:ねえたん家の年越し
08/12/31 17:59:44 rC1zFgPj
『さー始まりました!カウントダウンお笑い紅白ネタ合戦!笑って年越し大スペシャル~!!』
テレビ画面のベテラン芸人が高らかに番組名を読み上げる。
豪華絢爛なタイトルテロップと、雛段にぎっしりと詰まった人気芸人の面々。
ありがちな年末のお笑い番組だ。
『はい!今回20組の芸人達を審査していただく特別ゲストの登場です!』
カメラが審査員席に移動すると、弾かれたように政人はテレビ前に飛び出した。
「居た!ねえたん映った!!今チラッと映った!顔ちっちゃい!可愛い!」
「ははは。政人君落ち着いて、ちゃんと録画してるから」
「未来ちゃん大晦日もお仕事なんて大変ねぇ」

頑張る姉を夜通し実況する弟であった。
よいお年を。

464:名無しさん@ピンキー
08/12/31 19:03:46 nA0sRVBT
デレのターン

465:名無しさん@ピンキー
08/12/31 19:20:05 tdJCEDdX
ほほえましい

466:名無しさん@ピンキー
08/12/31 19:38:15 DKmDlLKo
まーちゃん、すっかり陥落しちゃってw

467:名無しさん@ピンキー
08/12/31 19:50:31 brdrdgn8
落ちたな…まーちゃんww

468:名無しさん@ピンキー
09/01/01 00:03:16 AhqtFenx
明けましておめでとうマイシスターズ
そして同胞達よ

469:名無しさん@ピンキー
09/01/01 00:58:38 WB23FP/0
「お兄ちゃん、ずっと携帯見てるけど誰かからメール来たの?」
「……サーバーが混雑しててメールが来にくくなってるだけさ……きっと……」
「でももう、朝の五時よ。いくらなんでも、もう」
「黙ってろ! あと、あと一時間は混雑してるから来ないだけなんだって俺は信じる!」
「信じるって……じゃあ、問い合わせしてみたら?」
「問い合わせたら負けかな、って思ってる」
「は?」
「いや、いい。とにかくお前は口を出すな。これは俺の戦いなんだ。妹の出る幕じゃない」
「そこまで向きになってる時点で、もう来ないと思うけど」
「黙ってろって言ってんだろ!!」
「はいはい」
「……? そういや、お前は何通来たんだ?」
「私? ……教えてもいいけど、本当に言っていいの?」
「何?」
「もし私が何十通って来てるって言ったら、お兄ちゃんヤバいんじゃない?」
「う」
「それでも、聞く?」
「いや、や、やっぱりいい」
「ふふ、なんてね。嘘よ。私も一通も来てないわ」
「え? そ、そっか。なんか悪いこと聞いちゃったな」
「大丈夫よ、気にしてないわ」
「……あー、何だったら、俺が今から送ろうか?」
「やあよ。こんなこと言ったあとじゃ強制したみたいだもん」
「いや、そんなことないと思うけど」
「……じゃあ、お兄ちゃん一緒にお参りに行かない?」
「え?」
「だって、お互い誰も行く相手がいないんだから丁度いいでしょう?」
「そうだなぁ。行くか?」
「うん。行こうお兄ちゃん」
「じゃあ、準備してくるから待っててくれ」
「うん、私はもうほとんど準備できてるからここで待ってるね」
「ああ」
「…………さて、と。アドレスを元に戻しておこうかしら。もちろん、両方、ね」

470:名無しさん@ピンキー
09/01/01 01:03:10 WB23FP/0
今日あけおめメールが来なかったお兄ちゃん、つまりこういうことです

471:名無しさん@ピンキー
09/01/01 01:09:54 y8svybNL
>>470
これってキモウト?

472:名無しさん@ピンキー
09/01/01 01:23:07 r5Vm6Uys
>>471
わたしにはキモウトにみえましたがあなたはちがうのですか

473:名無しさん@ピンキー
09/01/01 01:31:18 1c5+powc
>>471
最後の一文を声に出して嫁

474:名無しさん@ピンキー
09/01/01 02:28:46 g/UKlAiB
このあと妹には作業がありそうだな

475:名無しさん@ピンキー
09/01/01 11:49:55 S7oTxUXO
 初詣に着物で行って、仕込みしていた鼻緒が切れて、帰りはおんぶして貰う。
 胸を押し当て、首に手を回し、兄の耳を舐めながら、
「あんっ♪ オシリにあたってるお兄ちゃんの手、感じちゃうよぉっ♪」
 と挑発する。その後に酒を飲ませて、翌日の朝に、衣服を破り、嘘泣きしながら、
「責任、とってね?」
 でハッピーニューイヤー。


476:名無しさん@ピンキー
09/01/01 12:11:56 NSdUA5S5
問い合わせメールの削除ですね わかります
あとおめでとう同志達

477: 【末吉】
09/01/01 16:46:44 Sd+sxdH0
今年も同志たちにキモウトの祝福がありますようね

478:名無しさん@ピンキー
09/01/01 16:54:03 xHvvjrXh
妹を正常にする薬アンチキモウトを手に入れた。
後はこれを妹に怪しまれないように服用させれば。

説明
キモウトの妹にこの薬を飲ませるのは至難です。
なので口うつしで飲ませましょう。

これを一年間服用させましょう。

見事あなたにとってキモウトではなくなっています。

479: 【豚】 【56円】
09/01/01 16:56:43 ilM1ErlF
今年もよろしく。兄さん

480:名無しさん@ピンキー
09/01/01 20:09:15 czA1VjcR
>>479
雌豚ってことですね、わかります

近親相姦なんて不純です
あなたのお兄さんは私が責任もって幸せにしますから

481:【キモウトの論理】
09/01/01 22:08:02 gBwVE81R
ねえ、お兄ちゃん。

お兄ちゃんは、まだ学生で、
女の子とエッチしたら責任とって結婚しなくちゃいけないとか、
エッチは子供を作る目的でしかしちゃダメだと考えるほど頭が堅くもないわよね。
つまり、女の子とエッチすることと、結婚したり子供を作ったりはイコールでは結ばれないわけ。

だとしたらだよ?
法律上は結婚できないし子供を作るのもちょっと問題あるような関係の相手とでも、
エッチするのは全く問題ないわけで……
何の話かって?

あのね、日本には姫初めという伝統行事があって、
それをすると一年の運気が開けると言い伝えられてるわけ。

でね、彼女イナイ歴十八年のお兄ちゃんと、
彼氏作る気ない歴十六年の私たち兄妹の一年間の幸福のために……

……ねえ、お兄ちゃん?
どこに行くの?
ちょっと、まだ話、終わってないってば……ねえ!
部屋? 部屋に行くの? その気になってくれた?

……って、なにドア閉めてんの!
鍵なんかかけないで……ねえ!
開けてよ、お兄ちゃん! お兄ちゃんってば!
やろうよ、姫初め……!

【UN-HAPPY END(妹的に)】

482: ◆sw3k/91jTQ
09/01/01 23:31:30 lGjcFKa1
>>481 GJ
&酉テスト

483:思い出の村1話  ◆sw3k/91jTQ
09/01/01 23:38:01 lGjcFKa1
短いですが、投下します。因みにSS書くの初めてなので、改善点などがありましたら、
教えて下さい。

484:思い出の村1話  ◆sw3k/91jTQ
09/01/01 23:38:42 lGjcFKa1

「うふふふふ。」
目の前で女が笑う。嫌な笑い方だ。まるでこの世は自分の思う通りに回っているとでも言いたげだ。
思い返してみる。どうしてこうなったのかを。



 俺、水野秀樹は中肉中背、妹曰く可もなく不可もなくな容姿をしている高校二年生だ。
容姿と同様に、成績も普通。強いてフォローするならば人よりもちょっとだけ頭の回転が速い(自称)事くらいか。
そんな俺は夏休みを利用して小学三年生の時まで過ごした離島に妹と二人でやってきている。
「兄さん、あれは何という生き物ですか?」
「ハハッ、瑞樹よ。あれはどこからどう見てもエチゼンクラゲじゃないか。刺身にするとうまいぞ。」
こいつは俺の妹、水野瑞樹。誰に似たのかスタイル抜群、容姿端麗な花の高校一年生だ。
「知ってます。聞いてみただけです。因みにエチゼンクラゲは食べれないこともありませんが美味しくはないですよ。」
ツンツンしてるがその表情は普段より柔らかい。久しぶりの旅行で内心はしゃいでるのかもな。
「久しぶりの旅行で気持ちはわかるがあんまりはしゃぐと海に落ちるぞ。」
「はしゃいでなどいませんよ。でももしそうなっても絶対に兄さんが助けにきてくれますから大丈夫ですよ。」
そして結構なブラコンである。
学校でもその容姿から男女問わずにもてた。しかし言い寄ってくる男はすべて振り、浮いた話は今まで一度も聞いたことがない。
しかも先日何で男を作らないかを聞いたところ、「兄さん以外の男に興味がないんです。」と、さらっと言われてしまった。
兄としてこんな妹を心配する気持ちが無いことも無いけど。ま、そういうのは時が解決してくれるだろう。
 なんて物思いにふけっているともう船着場に着いていて妹が急かしてくる。とっとと降りなきゃな。
「なにか考え事ですか?兄さん。」
「ああ、瑞樹についてちょっと考えてた。急がず焦らずいこうな。」
瑞樹は一瞬逡巡し、急に顔を赤らめて何を思ったのか、
「こっ、こちらにも心の準備がありますのでいきなりプロポーズに入るのはやめていただけませんか?」
と言ってきた。さっきの台詞のどこをどう取ればプロポーズになるのかは分からないが一応、
「おおすまん、プロポーズにも順序があったな。すまんすまん。」
とツッコミを入れておいた。そして妹の反応を待たずにわが故郷を見渡す。
そういえば、あの子は元気だろうか。茜ちゃん。元気にしてればいいんだけどな……

side瑞樹
 私、水野瑞樹は今、小学二年生までを過ごした離島に最愛の人と来ている。新婚旅行気分だ。
あの人は私を妹としてしか見ていないが、いつか絶対手に入れてやる。あわよくば既成事実でも作ってしまおうとかとさえ思っている。
そのためにこの旅行もセッティングしたのだ。これで夏休みは兄と二人の時間が増えて、間違いが(私にとってはバッチこいだが)起こる可能性も高くなるだろう。
しかしこの時私は浮かれて忘れていた。最強で最狂の敵、楢崎茜(ならざき あかね)の存在を。


485: ◆sw3k/91jTQ
09/01/01 23:41:16 lGjcFKa1
1レス分しか無かった...orz
次回はもっと書き溜めます。
スレ汚しすみませんでした

486:名無しさん@ピンキー
09/01/01 23:45:22 2ZG88VVx
よし、全裸で待ってます
がんばって続きかいてください

487:名無しさん@ピンキー
09/01/01 23:46:24 9scU010v
イイヨイイヨー!
GJ!
最初からオープンなキモウトもまたタマラン!

488:名無しさん@ピンキー
09/01/02 00:43:38 kQsU/zZ1
期待してるぜ!

489:名無しさん@ピンキー
09/01/02 01:20:01 n2yP90xU

妹「お兄ちゃん!お年玉ちょ~だい?」
兄「は?俺まだ中学生だぞ?あげるわけないじゃん」
妹「いいじゃ~ん!」
兄(…無視無視)
妹「うー!…なら、こっちの玉ちょ~らい♪」
兄「ホゲッ!」



…オヤジ臭い

490:名無しさん@ピンキー
09/01/02 01:32:42 UcunR8EI
妹「お兄ちゃん!おかねちょ~だい?」
兄「は?俺まだ中学生だぞ?あげるわけないじゃん」
妹「いいじゃ~ん!」
兄(…無視無視)
妹「うー!…なら、こだねちょ~らい♪」
兄「ホゲッ!」



…改変してごめんね。


491:【世界の黄昏に愛する人と】投下予告
09/01/02 03:20:20 3B1y5CUw
9レス分、投下します。
セカイ系のラノベっぽい話の途中まで。
(いちおう結末まで書き上がってますが、スレ投下用に改稿しながら小分けしていきます。)

えっちっぽい描写は後の展開で出てきますが、直接的なエロは……ごにょごにょ
その辺りもラノベ並みですね。
それでは↓

492:【世界の黄昏に愛する人と】(1) 1/4
09/01/02 03:21:18 3B1y5CUw
 黄金色をした金属製の球体だった。
 地球儀をかたどっているのだろうか、表面には各大陸の輪郭と経緯線が彫り込んである。
 それに加えて太平洋に相当する部分には人間の眼のかたちが彫られている。
 地球儀に描かれた眼。
 美術品として作られたとすれば、さほど優れた作品とはいえない。
 奇妙なデザインではあるが強く印象に残るものではない。
 素材が純金であるとすれば、その重量分の経済価値しかないであろう。
 そして―それが、たとえば駐輪場に停めた自転車のカゴの中に入っていたとすれば。
 本物の金で作られたものだとは誰も考えまい。ただのガラクタとしか思わないであろう。
 外見的には。
 手を触れてみるまでは―
 自分の自転車のカゴの中に、いつの間にかそのようなものが入っていれば、誰でも手を触れてしまうだろう。
 その場に捨てていくか、他人の自転車のカゴに黙って移し替えるか。
 あるいは落とし物として駐輪場の管理人に預けるかは、人それぞれとしても。
 だが。
 手を触れた途端、彼あるいは彼女は、知ってしまうのだ。
 それの、真の価値を。
 それが持つ、力を―


   【世界の黄昏に愛する人と   第一章 陽祐】


「ふぁ……、あ……」
 校門からバス停までの坂道を下りながら、陽祐(ようすけ)は、あくびした。
 授業中ほとんど寝ていたのに、まだ眠い。予備校で寝るわけにはいかないけど。
「―セ・ン・パイッ!」
 肩を叩かれ、振り向いた。
 麻生夏花(あそう・なつか)が微笑んでいた。陽祐に追いついて隣に並び、
「陽祐センパイ、朝も帰りも一日中、眠そうですねぇー?」
「朝なんか会ったか?」
「駅で見かけたんですよぉ。でも声かける前にセンパイ、電車に乗っちゃって。あたしは乗り遅れて次の電車」
「……はーん」
 陽祐は曖昧にうなずく。
 電車に乗ったというから地元の駅のことだろうが、陽祐にとっては、どうでもいいことだ。
 陽祐は私立高校の三年生で、夏花は二年下の後輩だった。
 地元が一緒で同じ中学の出身である。
 並んで歩けば、陽祐と夏花は絵になるコンビだ。
 白いシャツと紺のネクタイという夏の制服が二人ともよく似合う。
 陽祐は先月の県総体を最後に引退するまでは水泳部員で、肩幅があって引き締まった体つき。
 端正な顔が日に焼けていないのは学校のプールが屋内にあるからだ。
 一方、夏花は現役の水泳部員である。
 セミロングの艶やかな黒髪に、かたちのいい眉と涼しげな眼。通った鼻筋に、ぷっくりした唇。
 体つきはスレンダーで、きわどく丈を詰めたスカートから伸びた脚が周囲の視線を惹きつけずにおかない。
 もっとも陽祐は、あえて眼を向けないようにしていたが……

493:【世界の黄昏に愛する人と】(1) 2/4
09/01/02 03:22:10 3B1y5CUw
「……おまえ、部活はどうした?」
 陽祐はたずねた。
 たとえサボりでも夏花自身の競技成績が落ちるだけで知ったことではないが、ほかに話題がない。
 すると夏花は、くすくす笑い、
「やだなぁ、きょうはサボりじゃですよぉ。テスト前だからお休みでぇす」
「ああ、そっか……」
 苦い顔でうなずく陽祐に、夏花は屈託のない様子で、
「陽祐センパイもテスト勉強で眠いんじゃないんですかぁ?」
「学校のテストなんか無視だよ。こっちは受験で手一杯だ」
「そっかぁ、受験生だから。そうでしたよねぇー……」
 ふむふむと夏花はうなずくと、ちらりと上目遣いに陽祐の顔を見た。
「じ・つ・はぁ、クラスの子に、陽祐センパイを紹介してくれって頼まれたんですけどぉ?」
「……あ?」
 眉をひそめる陽祐に、夏花は、にんまりと笑い、
「可愛い子ですよぉ? ほら、こないだ学食でセンパイと会ったとき、一緒にいた子ですけどぉ」
「ンなの、相手してる暇ねーよ」
 さらに渋い顔になる陽祐に、夏花は笑顔のままで、
「もちろん受験生だし答えはそうでしょうけど、いまフリーかどうかだけ確かめてくれって頼まれちゃってぇ」
「聞いても答えなかったと言っておけ」
「うーん、そうですかぁ」
 夏花は両手を広げて肩をすくめる芝居じみた仕草をした。
「彼女、センパイの趣味とか好きな歌手は誰かとか、しつこく聞いてくるんですよねぇ」
「…………」
 陽祐が仏頂面のまま答えずにいると、夏花は、ふふっと悪戯っぽく笑い、
「まぁ、あたしも中学のとき、美沙(みさ)に同じことしたから文句言えないですけどぉ……」
 美沙は陽祐の妹で、夏花とは中学の同級生だった。いまは県立の女子高に通っている。
「……でも、元カノのあたしにそんなこと聞くなんて、遠慮ないですよねぇー?」
 陽祐は返事をしなかった。
 一方的にフラれた元カノに、いま彼女がいるのかと訊かれても答える気になれない。
 坂の下の停留所にバスが着くのが見えた。並んでいた生徒たちが乗り込み始める。
「……俺、予備校急ぐけど、おまえは?」
 たずねる陽祐に、夏花は微笑み、
「どうぞぉ、行っちゃってくださぁい」
「わりーな」
 陽祐は駆け出した。
 ぎりぎりでバスに乗り込み、吊り革につかまって窓の外を見ると、夏花がこちらに手を振っていた。
 だが、すぐにバスは角を曲がり、夏花の姿は見えなくなった。


 陽祐が予備校から家に帰り着いたのは夜の九時半過ぎだった。
 ドアの鍵を開けて玄関に入る。
「……たでーまー」
「おかえりー」
 奥から美沙の声がして、パタパタとスリッパで駆けて来た。
「ネギは?」

494:【世界の黄昏に愛する人と】(1) 3/4
09/01/02 03:22:55 3B1y5CUw
「……え?」
 通学靴を脱ぎながら陽祐はきき返す。
 何故だかエプロン姿の美沙は、腰に手を当てて口をとがらせ、
「メールしたじゃない、買って来てって」
「わりー、読んでねーよ。オフクロは?」
 たずねながらスリッパを履く。
 美沙がエプロンなど着けて主婦の真似をしているのは母親が風邪でもひいたのかと思ったのだが、
「まだ帰ってない」
「まだ? どこか出かけてんの?」
 美沙の横を抜けて陽祐は居間へ向かう。美沙はあとを追って来て、
「なに言ってんの、クラス会でしょ。きのうも今朝もママが言ってたじゃない」
「そうだったか?」
「だから晩ごはんは美沙が作るって。もうっ、お兄ちゃんってば、いつも人の話を聞いてない!」
 ふくれ面をする美沙に、陽祐は気まずく口をつぐむ。
 美沙は陽祐から見ても、よくできた妹だった。家の手伝いは当然のようにやるし、学校の成績も優秀だ。
 おまけに見映えも悪くなかった。
 生まれつき栗色のふわふわした髪に、くりくりと表情豊かな眼に、人形みたいに整った小作りな鼻と口。
 中学時代はよくモテて、複数の男子から告白されたが全て断っていたとは夏花からの情報だった。
「なんだか美沙ってぇ、男嫌いじゃないかと思ってぇ……」
 実際、美沙は県立を含めて女子校ばかり受験していたから、夏花の分析も当たっているのかもしれない。
 とはいえ、妹の恋愛事情など兄が心配することでもないと陽祐は思っている。
 つまらない男に遊ばれて泣かされるようでは困るが、しっかり者の美沙にはその心配もないだろう。
 居間にはソファにテレビ、AVラックにパソコン一式などが揃えてある。
 美沙はアニメのDVDを観ていたようだ。
 一時停止された画面には虎縞のビキニを着た鬼娘のキャラクターが映っている。
 アニメに興味がない陽祐はソファに通学鞄を放り投げ、続き部屋のダイニングキッチンへ向かう。
 だがテーブルに夕食が並べてあるのかと思ったら、箸しか用意されていなかった。
「冷蔵庫に冷しゃぶサラダが入ってるから出して。お皿二つに分けてあって、一つはパパの分だから」
 美沙が種明かしのように言いながらキッチンに立った。
「いまお素麺、茹でるから。ネギがないから薬味は生姜だけで我慢してね」
「ああ……」
 言われた通りに冷蔵庫を開けると、きちんと皿に盛りつけてラップをかけられた料理が作り置いてあった。
 見た目は母親の料理と遜色ない。
 美沙が水を張った鍋を火にかけて、振り向き、
「あと麦茶も冷やしてあるけど、それとも温かいお茶がいい?」
「とりあえず、ビールにするわ」
 陽祐が缶ビールを冷蔵庫から引っぱり出すと、美沙は眉を吊り上げた。
「ばか、なに言ってんの。ちょっと、やめて!」
「いいじゃん。オフクロもオヤジもいねーんだから、飲ませろよ」
「だめ、絶対だめ! どうしても飲みたいなら美沙が見てないところで独りで飲んで!」
 本気で怒りだした美沙に、陽祐は苦笑いして、
「ほんと優等生だな、おまえ。クラス委員長向きだよ、来年こそ立候補しろ」
「ほんっと、頭にくる! お兄ちゃんには二度とごはん作ってあげない!」
「じゃあ、これが最後の晩餐か。じっくり味わって食うとするか」
 陽祐はビールを冷蔵庫に戻し、自分の分の料理をテーブルに並べた。

495:【世界の黄昏に愛する人と】(1) 4/4
09/01/02 03:23:43 3B1y5CUw
 美沙は、くすくす笑いだす。
「……まったく、お兄ちゃんってば悪い冗談ばっかり」
 どうやら冗談だと思ってくれたらしい。ビールを出したのは本気だったけど、機嫌が直ったのはありがたい。
 素麺が茹で上がる前に、陽祐は冷しゃぶサラダから食べ始めた。
 味は母親と遜色ない。妹の手料理を口にする機会は多くはないが、なかなかの腕前と認めていい。
 やがて出てきた素麺の茹で具合も問題なしだった。
 美沙は父親の分も一緒に茹でて水にさらしてから、ざるに移しラップをかけて冷蔵庫にしまった。
 食後は皿洗いをしようと陽祐は申し出たが、それより風呂に入るよう勧められた。
「このあとも勉強するんでしょ、お兄ちゃん?」
 にっこり笑顔で言われると、やらざるを得ない気分になる。
 きょうは眠いから自宅学習はナシにしようと思ったのだけど。


 二階の自室で陽祐が勉強しているうちに、母親が帰って来たらしい。
 玄関まで迎えに出た美沙と話す声が聞こえてきた。十一時過ぎのことだ。
 やがて、零時を回って父親が帰宅した。美沙はまだ起きていたようで、母親と三人で話す声がした。
 陽祐は机に広げていた勉強道具を片づけてダイニングへ降りていった。
 父親と母親がテーブルについてビールを飲んでいた。
 母親は風呂を済ませたらしくパジャマ姿で、父親は背広の上着だけ脱いでいる。
 キッチンで素麺を茹でていた美沙が、陽祐に気づいて振り返り、
「お兄ちゃんも、お素麺食べる? ママが夜食にするって」
「素麺はいいや」
 陽祐は食器棚からグラスを出して、テーブルについた。父親にグラスを突き出して、
「俺も、いい?」
「まあ」
 クラス会帰りでテンションが上がっているらしい母親は、おどけるように眼を丸くした。
「オヤジと酒を酌み交わそうなんて、一年早いぞ」
 言いながらも父親はまんざらでもない顔で、陽祐のグラスにビールを注ぐ。
 陽祐は美沙の顔を見て、にやりと笑ってみせた。
 美沙は口をとがらせながら、皿に盛りつけたキュウリの糠漬けを運んで来て、
「一年じゃ、まだお兄ちゃん十九じゃないの」
「大学生になれば酒と煙草と賭け麻雀は解禁だよ。なあ、陽祐?」
 父親が言って、母親が、
「あら、賭け麻雀はまずいでしょ。せめてパチンコじゃないの?」
「やだもう、この家のオトナ。つき合いきれない。先に寝ちゃえばよかった」
 美沙はあきれた顔で、火にかけた素麺の鍋の前に戻る。
 その背に向かって母親が、
「美沙ちゃんも一杯やる? 仲間にお入りなさいな」
「結構です!」
 美沙は振り返らずに答えた。
 本気で怒っているような口ぶりだったが、母親も父親も笑うばかりだった。


 ―そして翌朝、陽祐は異変を知った。
【第一章 幕】

496:【世界の黄昏に愛する人と】(2) 1/5
09/01/02 03:24:33 3B1y5CUw
   【世界の黄昏に愛する人と   第二章 美沙】


「―て、―ちゃん。ねえ、起きて……」
 揺り起こされた。
「んあ……?」
 陽祐は、しかめ面で目を開ける。美沙が不安げな顔で自分を見下ろしていた。
「変なの。ママもパパも、どこにもいないの」
 美沙は女子高のセーラー服姿だった。カーテンの隙間から差し込む日の明るさで、いまが朝だとわかる。
 じきに自分の目覚ましも鳴る頃だったろうが、なんだか損をさせられたように陽祐は思う。
「いないって……オフクロなら台所で朝メシと弁当作ってるだろうし、オヤジはまだ寝てるだろ?」
 眠い眼をこすりながら陽祐が言うと、泣きそうな顔で美沙は叫んだ。
「だからキッチンにもいないし、ベッドも空なの! 家じゅう捜したけど、いないんだってば!」
「…………」
 陽祐は眉をしかめた。起きぬけに両親が失踪したなどと言われても頭がついていかない。
 ベッドから起き上がろうとして、
「……わりーけど」
「えっ……?」
「ちょっと外に出ていてくれ。着替えるから」
 タオルケットの下はトランクス姿だった。最近はパジャマを着ないで寝ているのだ。
 おまけに男の朝の生理現象が起きていた。


 陽祐は手早くTシャツとジーンズに着替えた。
 部屋の外で待っていた美沙と二人でもう一度、家じゅうを捜してみることにする。
「……いつもはママ、美沙より先に起きてごはん作ってくれてるのに、キッチンは昨日の夜、片づけたままで」
 階段を降りながら美沙が説明する。
「寝坊かなと思って起こしに行ったら、ママもパパもベッドが空だし、ほかのどこにもいないの……」
「置き手紙とか、なかったか? 誰か親戚が死にかけて病院に駆けつけるとか?」
「何もなかった。二人とも携帯も置きっぱなしで」
 両親の寝室は一階にあった。念のため途中にある居間とダイニングも覗いたが、誰もいない。
 寝室もやはり無人だった。家具はダブルベッドと、その脇にサイドテーブル。クロゼットは作りつけ。
 ほかに鏡台があり、両親の携帯がその上に置かれていた。
 母親の携帯の着信履歴を見たが、昨日の昼間、登録名『聡子ちゃん』という相手からかかってきたきりだ。
 恐らくは母親の友人だろう。発信履歴は、おとといまで遡る。
 メールも発着信を過去十件ずつチェックしたが、不審なところはないように思えた。
 父親の携帯はロックがかかっていた。試しに父親の誕生日を暗証番号に入れてみたが、違っていた。
 サイドテーブルの引き出しを開けると、父親の財布とキーホルダーが入っていた。
 四つある鍵は、自宅と車と、あとは会社の机やロッカーのものだろうか。
 そういや、車はあるのか? キーなら居間にスペアがある。
 カーテンを開けて、窓の外の車庫を見た。車は車庫にあった。
 クロゼットも開けてみたが、両親の服が下がっているだけだった。
 誰からか連絡があるかもしれないので、両親の携帯はジーンズのポケットに入れて持ち歩くことにした。
 一階にはもう一部屋、六畳の和室があった。
 この家が建てられた当時は客間という想定だったようだが、陽祐が知る限り、客が泊まったことはない。

497:【世界の黄昏に愛する人と】(2) 2/5
09/01/02 03:25:16 3B1y5CUw
 その客間にも当然のように誰もおらず、念のため開けた押入れも、布団が二組、入っているだけだった。
 和室を出て玄関へ向かう。美沙があとからついてくる。
 靴入れを開けながら美沙にたずねる。
「オフクロの靴がなくなってるか、わかるか?」
「ママがどんな靴もってるか、全部は知らないよ」
「オヤジの靴はあるみたいだ。いつも同じのしか履かないから、すぐわかる」
 ドアの鍵はかかっていた。鍵が開いたままなら、いよいよ不審だったけど。
 サンダルを突っかけて玄関の外に出た。
 日差しがいやに眩しかった。顔をしかめて、門の脇の郵便受けを確かめた。
 手紙などは入ってなかった。それに、朝刊もない。
 玄関から心配そうに見ている美沙にたずねた。
「……新聞、とったか?」
「まだとってない。いつもパパがとりに行くでしょ」
「オヤジは何時に起きてる、いつも?」
「美沙より少しあとだよ」
 それなら、今朝は父親が新聞をとったわけではないのだろう。配達を忘れられただけかもしれない。
「…………」
 ふと違和感を覚えて、家の前の道を左右、見渡した。
 物音がしなかった。人も車も通らない。
「……きょう、日曜じゃねーよな?」
「木曜だよ。なに言ってんの」
「そうだよな。日曜ならオヤジたち、二人で早起きして散歩かもしんねーけど……」
 もう一度、辺りを見渡す。
 景色はいつもと変わりないようでいて、庭木の葉っぱが風にそよぐほか、何も動くものがない。
 あまりにも静寂。
「……隣近所をピンポンダッシュして回ったら、怒られるよな?」
「ばか、当たり前でしょ! 冗談を言ってる場合じゃないんだよ!」
「逃げるから怒られるんだ。適当なこと言って、ごまかせばいいのか」
「ちょっと、お兄ちゃん……?」
 陽祐は門の外に出た。道を横切り、向かいの家を門の前から覗き込んだ。
 いつもなら、たちまち吠えかかってくるはずの、玄関脇の犬小屋のラブラドールがいなかった。
 もちろん、散歩に出かけているだけかもしれない。
 チャイムを押した。
 ―応答なし。
 開いていた門の中に入り、玄関のドアをノックして「すいません」と呼びかけたが、返事はなかった。
 その隣の家へ行って、またチャイムを押した。やはり応答なし。
 ドンドンとドアを叩き、「すいませーん!」と叫んだ。
 反応がないので、そのまた隣の家へ走った。チャイムを押し、ドアを叩いた。
 そしてまた次の家で、同じことの繰り返し。
 面倒になって、道の真ん中で怒鳴ってみた。
「おーいっ! 誰か、いねーのかっ!」
「お兄ちゃん……」
 心配そうな顔をして、そばまで来た美沙に、陽祐は言った。
「おまえ、向こう側の家、チャイム鳴らして回れ」
「ママたちが来てるって言うの?」

498:【世界の黄昏に愛する人と】(2) 3/5
09/01/02 03:26:11 3B1y5CUw
「……いや。どの家も、誰も出て来ねーと思うから」
「そんなこと……」
 美沙は眼を丸くして、陽祐の顔を見つめた。


 家に戻って居間のテレビをつけた。どのチャンネルも砂嵐だった。
「……くそっ」
 テレビを消した陽祐に、美沙が、
「どういうこと、お兄ちゃん……?」
「わからん。だけど、消えたのはオヤジやオフクロだけじゃない」
「え……?」
「隣近所の人間がみんな消えた。向かいの犬もいないから、人間だけじゃないかもな」
「どうして? 漫画やSFじゃないんだよ?」
「考えられるのは、地震とか災害が予知されて、みんな避難したのかも」
「でも、ママやパパまで……」
「……ああ。オヤジやオフクロが、俺たちを置いて逃げるわけがない」
 その点は両親を信頼していいはずだ。
 ならば、何故みんな消えたのか? いったい、どこへ消えたのか?
 自分たち兄妹を残して……
「……いや、消えたのは、うちの近所だけか? テレビも映らないってことは……」
「美沙、友達に電話してみる。携帯とってくるね」
「俺も自分の携帯とりに行く。なるべく一緒に行動したほうがいいだろ、俺たち」
 離れた途端に、もう一人まで消えるかもしれないから……とは恐ろしすぎて口には出せず。
 二人で二階に上がって、それぞれの部屋から携帯を回収した。
 廊下に出て美沙は、すぐに何人かの友達に電話したが、
「誰も出ない……」
 陽祐も同じことを試したが、無駄だった。
「北海道の伯父さんはどうだ?」
 母親の携帯に登録されていた番号にかけてみたが、やはり相手は出なかった。父親の実家も同様だ。
 二人は、無言で居間に戻った。
 陽祐はソファに座り、役立たずな携帯を傍らに投げ出す。
 美沙はうつむきながら、その前に立った。いまにも泣き出しそうな赤い顔。
「…………、美沙が……」
 何やらつぶやき、陽祐はきき返す。
「え?」
「……まさか、こんなこと……。だって、そんな……」
 意味のある言葉ではなかった。よほど混乱しているのだろう。
 陽祐はソファの上で胡坐をかいて、膝に頬杖をついた。
 何やら考え込むようなポーズだったけど、実際には何も考られなかった。
 父親と母親が消えた。隣近所の住人も消えた。
 親戚や友人に電話しても誰も出ない。テレビも映らない。その事実を反芻しているだけだ。
 どうして、みんな消えた?
 ―考えたって、わかるわけがない。
「……おまえも座ったら? とりあえず、これからどうするか、考えてみるから」
 陽祐が声をかけると、美沙は首を振る。

499:【世界の黄昏に愛する人と】(2) 4/5
09/01/02 03:26:57 3B1y5CUw
 それから、思いきったように顔を上げて、美沙は微笑んでみせ、
「とりあえず、朝ごはん作るね。タイマーでごはんだけ炊けちゃってるから」
 食欲なんて、あるはずなかった。
 けれども、美沙が料理で気を紛らわしてくれるのなら、ありがたかった。
 泣かれたりするのが一番困るのだ。
 陽祐自身、途方に暮れて、意味もなく叫び出したい気分なのだから。


 美沙が料理をしている間、陽祐は居間のパソコンのネットで、思いつく限りの場所にアクセスしてみた。
 二十四時間随時更新が売りのはずのニュースサイトは、夜中の一時以降、新しいニュースがなかった。
 不特定多数が書き込む匿名掲示板も、最後の投稿が午前一時。
 一時といえば、陽祐が寝た時間だ。
 その頃に、みんな消えたのだ。おそらく、日本中の人間が。
 海外のサイトも見てみたが、陽祐の語学力では、いつから更新されていないのか判断がつかなかった。
 国際電話をかければいいと思いつく。
 相手が出れば、少なくとも日本以外の国では、まだ全ての人間が消えたわけじゃないとわかる。
 各国の観光協会あたりなら、日本語の通じるスタッフがいるだろう。彼らにこちらの事情を説明してみよう。
 日本と連絡がとれなくなっていることは海外でも騒ぎになっているはずだ。
 自分たち兄妹に、救いの手が差し延べられるかもしれない。
 ―世界中の人間が消えたわけじゃなければ。
 ネットの世界時計で時差を確かめ、オーストラリア政府とハワイ州とロサンゼルス市の観光局を検索。
 それぞれの公式サイトに掲載されていた代表番号に電話してみた。
 いずれも相手は出なかった。
 この世界に自分たち二人だけが取り残されたと思うほか、なくなってきた。
 いまさらだけど、夢じゃねーよな?
 頬をつねったら痛かった。
「お兄ちゃん、ごはんだよ」
 美沙に呼ばれてダイニングへ行く。
 ごはんと味噌汁、卵焼きとトマトとキャベツの千切りという、申し分のない朝食が用意されていた。
「……おまえがいてくれてよかったよ」
 ぽつりと言った陽祐に、きょとんとした顔で美沙は、
「えっ……?」
「とりあえず温かい食い物にありつけるもんな。これがオヤジと二人だったら、どうなってたか」
「なに言ってるの」
 美沙は笑う。
 二人で「いただきます」と言い合って、食べ始めた。
 うるさいことは言わない両親だけど、食事の挨拶はしつけられてきた。
 たぶん、この世界で一人きりになっても自分は「いただきます」を言うだろうと陽祐は思った。
 それが食べ物に対する礼儀だというのが両親の教えだ。
 美沙は小さな茶碗によそったごはんを、小鳥がついばむように少しずつ口に運んでいる。
 少食なのは元からなので、食欲がないわけではないらしい。
 陽祐も、食べ始めてしまえば失せていたはずの食欲が戻って来た。
 美沙がきいてきた。
「ネットで何かわかったの?」
「ああ。あとで話そうと思ったけど……」

500:【世界の黄昏に愛する人と】(2) 5/5
09/01/02 03:27:47 3B1y5CUw
「何? いま聞いても平気だから、教えて」
「俺たちがいるこの世界には、いま、おまえと俺の二人きりしかいない。ほかの人間は誰もいないと思う」
「…………」
 さすがに美沙は箸を止めた。
「……待って。『俺たちがいるこの世界』って、どういう意味?」
 微妙な言い回しに、美沙も気づいたらしい。
 陽祐は味噌汁をすすって、
「何の確証もないけど、ここは俺たちがいた世界とは別の、パラレルワールドみたいなもんかと思えてきた」
 お椀を置いて、トマトを一切れ、口に運びながら言い添える。
「おまえのほうが、こういう話は詳しいんじゃねーか、漫画とかアニメで?」
「…………」
 美沙は、じっと陽祐を見つめている。
「……どうして、そう思うの?」
「だって、そうじゃなければ本当にみんな消えたことになるだろ? オヤジやオフクロを含め、人類全てが」
 陽祐は再び味噌汁をすすり、
「それよりは、俺たち二人だけが違う世界に迷い込んだと考えたほうが納得いく」
「ママやパパか、美沙たちか、世界から消えたのは、どちらかってこと……?」
 美沙は箸を置いて、うつむいた。
 陽祐はごはんを口に運んで、
「……あとで聞いたほうがよかったろ?」
「どうせ聞くなら、早いほうがいい。悪い話は……」
 美沙は、うつむいたまま首を振り、
「……でも、確かに現実感ないね。世界中の人間が消えて、美沙たち二人が残ったなんて」
「戦争とか疫病で全滅したならわかるけどな。いや、そのほうがいいって言ってるわけじゃねーけど」
 卵焼きを口に運び、
「全人類が跡形もなく消えるよりは、理解できるってことで」
「なんだかお兄ちゃんって、冷静だね」
「現実感がねーからな、おまえの言う通り。だけど、まだ消えただけのほうが救いがあるか」
「救いって……?」
「消えたときと同じように、そのうち急にまた、みんな戻って来るかもしれねーだろ?」
 あるいは、俺たちが元の世界に戻れるか……と、陽祐は付け加える。
「…………」
 美沙は無言のままもう一度、箸を手にとった。
「無理して食わねーでいいぞ」
 陽祐が言うと、美沙は首を振り、
「食べる。ママやパパがいつか戻って来るのなら、この世界で美沙たちも、元気に頑張らなくちゃ」
 美沙は顔を上げて、まっすぐ陽祐の顔を見た。
「そうでしょ、お兄ちゃん?」
「そうだな……」
 陽祐は眼を細めた。
 しっかり者の妹が意外と芯まで強いことは、新しい発見だと思った。


【第二章 幕】

501:【世界の黄昏に愛する人と】投下終了
09/01/02 03:30:20 3B1y5CUw
次の投下は1月3日以降になります。
この手の話はダメ、つまらねー! って方は、NGワード【世界の黄昏に愛する人と】で……

502:名無しさん@ピンキー
09/01/02 03:45:52 Ppa4ZhbD
まさかのリアルタイムに遭遇w

GJですた

503:名無しさん@ピンキー
09/01/02 04:06:11 jJVI5mEY
GJ!! まじGJ!

504:名無しさん@ピンキー
09/01/02 04:07:28 ZtMlyIiv
おもしろくなりそう、
頑張って

505:名無しさん@ピンキー
09/01/02 21:37:10 Ebtf1zdN
GJダヨー!
ウヒョヒョーだよー!

506:名無しさん@ピンキー
09/01/02 22:19:13 7v5XG9eV
>>501
GJ!
富樫義博の漫画「レベルE」にでてきた超能力の例を思い出した
娘が両親の喧嘩による極度のストレスから父親を自分の心の中に閉じ込めて父親を改心させたって話

507:名無しさん@ピンキー
09/01/02 23:46:42 cpI9k2Ei
なるほどね、兄以外はいらない・・・と

508: ◆3vvI.YsCT2
09/01/03 04:53:21 JdF7eMxf
かくなる上は拙者も作品を投下いたしたいと思う所存に在りますでござる。
……全然キモくないけど、なんというか、最近の妹もの作品の内容を反映させた作品になれれば幸いでござる。
(参考文献:忘却録音とか俺妹とか)

ちょっと長めの作品になり、しかも完結してないという最悪のパターンでござるが、
とりあえず現状の状態で投下するでござる。

タイトル:サワーデイズ(仮)
内容:クローズドタイプのキモウトが出てきます。

↓いざ!


509:名無しさん@ピンキー
09/01/03 04:55:21 JdF7eMxf
この想い。もし遂げられるなら、悪魔に魂を売り渡してもいい。
―そう思っている。本気で。

私は夢を見る。私の年子の兄―御門迅(みかど じん)と手を繋いで一緒に春の野を行く夢を。
花咲き誇る丘の上。桜舞い散るその場所で、私は兄に抱きつく。
兄はそんな私をやさしく受け止め、唇にキスをするのである。
―そして二人は結ばれる。

そういう夢を見る。願わくば、これが夢でなければ良いとも思う。
しかして現実はそうともいかない。

何の間違いか、私こと御門華音(みかど かのん)は実の兄のことを一人の男性として愛してしまった。
いつの頃からか。ずっと昔からだ。
初めの頃は、これが人間として普通のことだと思っていた。
家族のことを好きでいて、愛しているのは誰しもそうである、と小学校の道徳の授業ではそう教えていた。
だから、小学校の、高学年まではずっとお兄ちゃん好きで通していた。
お風呂にも一緒に入っていたし、一緒の布団でも寝ていた。
ある日突然、それが許されなくなった。
母は兄と私が一緒の風呂に入ることを禁じ、一緒の布団に入ることを禁じられた。
何故? きっかけは単純だ。禁止令が発布される前の日に、私には初潮が訪れていた。
母にそのことを話したらその日の晩にはお赤飯が出されていたことを覚えている。
二つの事象は繋がっていた。……母は何も言っていなかったが、今ならそう言える。
もちろんその時の私は理不尽な命令に対して拒絶をした。何故なのか、説明を求めた。
だが、返ってきた答えは「みんなそうしてるし、あなたたちもそうするべき」との一点張りだった。
母は従兄弟の努お兄ちゃんと友香お姉ちゃんを例に出して私たちにそう言い包めた。
努お兄ちゃんと友香お姉ちゃんは5歳ほど歳の離れた姉弟で、友香お姉ちゃんはその時丁度二十歳だった。
二人は小学生の頃から別々の部屋を与えられており、私たちよりずっと早く別々に風呂に入るようになったそうだ。
だから、それに比べたら私たちのそれは、遅すぎるというのだ。
私は納得できていなかった。しかし、兄は納得した様子だった。
それどころか「華音は甘えんぼさん過ぎるんだ。だから、もうちょっと大人にならないとな」とまで言ってきた。
そして、「分かったかい、華音。大人しく言うこと聞いてくれたら、お兄ちゃんちゅーしてあげるからな」
と頭を撫でてくれたのが決定打となった。
私はうん、とそのまま頷くと、その日から独りでなんでもするようになった。
それからもう五年にもなるだろうか。私はもう16歳になった。しかし、約束はまだ果たされていない。

―私はまだ、子供だということだろうか。


510:サワーデイズ 2 上のは1 ◆3vvI.YsCT2
09/01/03 04:57:21 JdF7eMxf
暗闇の中、ひたすらに兄を想う。目を開けたまま見る夢があるとすれば、私は瞬きすら惜しんでその夢を見るだろう。
せめて、夢の中ならば、私は兄と自由にいられる。一緒にキスをすることも、抱き合うことも―
股間に手が伸びる。
兄を想い、寂しくなり、涙が出そうなときは、こうやって自分を慰める。
それが一時の快楽でしかなく、心の隙間を埋められる行為でないことは百も承知の上だ。
体だけが大人になってしまった。心はまだ子供のまま。兄離れは、できていない。
繰り返される虚無との対面。私は、この家に於いて、世界に於いて孤独を患う。


「華音。朝だよ、起きなさい」
とうに目は覚めている。兄が起こしに来るまで、ずっと目を瞑って待っていた。
すう、すう。寝ている振りだ。
私は、そうそう良い子と認められるような娘ではなく、ちょっとだけわがままで手のかかる娘である。
少なからず、そう思われるように生きていくつもりだ。―兄に構ってもらう為に。
「華音は全くお寝坊さんなんだからなぁ、これだから、世話が焼けるよ……っと」
兄が布団をめくりにかかる。
「……寝相も悪いし……」
そんなことは無い。兄が部屋に来る直前に、寝巻きをはだけさせておいたのである。
胸元のボタンはいくつか開けておいた。下半分も、下品にならない程度にずり下げておいた。
寝るときにブラジャーは着けない。見えているはずだ。
自慢ではないが、私はスタイルに自信がある。胸はDカップだし、ウエストも綺麗にくびれている。
身長はちょっと低めだけれど、でも雑誌の読者モデルに誘われたことだってあるし、
結構良い線行ってるんじゃないかなって思ってる。
会ったことも無い男子からラブレターを貰った事だってある。全部、開封もせずに捨てたけど。キモいし。
だから、兄だって、そうそう私の体を意識しないということも無いだろう、と睨んでいる。
私は女の子である。兄は、男の子である。
理性が私と兄との関係を抑制しようと、本能のレベルではそのくびきからも開放されるだろう。そう信じている。
……ただ残念なことは、これを続けてから今までに兄がそういう気分になった気配がない、ということだ。
「なにしてるのよ、お兄ちゃんのエッチ!」
しかし、恥じらいは必要である。私はだらしの無い娘かもしれないが、貞操観念の緩い女ではない。



511:サワーデイズ 3 ◆3vvI.YsCT2
09/01/03 05:00:09 JdF7eMxf
ある年の四月に兄が生まれた。翌年三月に私が生まれた。
年子ではあるが、学校での学年は同じである。
ゆえに、私と兄とが距離的に離れたことは無い。
幼稚園から小学校、中学校。高校に至るまで。
私は兄と一緒の空間にいることを選択した。
この選択が正しかったのかどうか、疑問に思うこともある。

私と兄が近親者であること以前の問題である。
接触回数の非常に多い人間、例えばそのもの親や親 友間に於いて、
男女間の関係に発展することは全くといって良いほど無い。
これはウェスターマー ク効果といって、我々生物全般に刷り込まれた遺伝子の命令のようなものらしい。
卵から孵った雛 が初めて視る動物を親だと思い込むそれと同じ類である。
それらは誰に教えられるでもなく、みん な自然にそうなるという。

だとすれば、生まれてからずっと一緒にいる兄が、
私のことを異性と見做さないのもまた自然にな された選択だといえる。
―だが、現に私は兄を異性として認識している。
兄は、私と血の繋がりを持つ者だ。私だけがそ うであるはずなど、ない。そう思いたい。そうであって欲しい。

いっそのこと、兄と離れて暮らし、より女性らしくなり
兄妹という関係を薄らげた状態で兄と接すればよいのではないか、と考えたこともあった。
しかし、それをやるためには私が我慢をし続ければいけないこと、
及び兄にたかる「何か」の存在 を軽視できなかったため、今に至っている。

兄は取り立てて特徴のある顔をしているわけではない。
いわゆるイケメンかと聞かれれば、私であ ってもそうでもない、と答えてしまうほどに普通の顔をしている。
服飾センスは無い。(もっとも 、これは私が任意で兄をごまかしているからだが)
積極性はあまり無い。―だけれど、一つだけ 大きな欠点がある。
兄は、決定的に人に甘い。私に対してもそうだが、万人に対して甘い。
まるで宮沢賢治の詩に出てくる人間のように。
我慢強く、いつもにこやかに笑い、困った人を放っ ておけず、人と一緒に泣き、笑い、励ましてもくれる。
優しすぎるのである。―私が、手放したくなくなるほどに!

そんな兄のことだから、いつ私以外の女が纏わりつくか知れたものじゃない。
だからいつ何処であ ろうと監視の目を光らせておかなければ気が気でない。
そのためにずっと一緒にいる道を選んだ。
お陰で、今のところ兄は彼女いない暦は年齢と同じに保たれている。
もっとも、私を彼女とカウントしたならば、彼女いない暦は常にゼロで固定だが。


512:サワーデイズ 4 ◆3vvI.YsCT2
09/01/03 05:02:07 JdF7eMxf
問題はある。

私と兄が兄妹の関係であることは周知であり、これをして極度にいちゃつくようなことがあれば
関係が疑われるだろうことにある。

仲の良い兄妹。
それすらなるべくならば避けておくべき領域だ。……外聞上は。
目の前にいるのに。友達のように接することすら控えねばならないというのは、とても辛いものだ。
せめてもの救いは、兄が帰宅部で、私も帰宅部で「偶然」帰り道が一緒になるということくらいか。
あまり学校とは関係が無いが。その時だって雑談をする程度で、手を握ったりなんてとんでもない。
普通の恋人同士がやるようなことは何一つ出来ない。
だって、私たちは体面上恋人同士ではないし、もしそのような噂が立てば一番困るのは兄である。
兄に迷惑をかけることだけは全力で避けたい。
例えば手作り弁当。やってみたいと思っているが、周囲から冷やかされるのが怖くて出来ない。
同じクラスであるのに一緒にお弁当を食べることさえままならない。
これで、本当にいいのかな……と思うことしきりである。

兄を好きでいること。
そのことに後悔は、したくない。
そのために出来ることはないか―
一人で考えていてもなかなか思いつかない。時間は刻々と過ぎてゆく。

相談相手がいないわけでもない。私にだってちゃんと心の内を吐き出せる友人の一人や二人はいる。
ただし、ちょっとだけ変わっている娘なのでそんなにまともな回答は返ってこない。
……ま、話を聞いてもらえるだけでも有難いし、秘密を守ってくれているだけでも感謝すべきなんだけどね。

513:サワーデイズ 5 ◆3vvI.YsCT2
09/01/03 05:04:43 JdF7eMxf
相談しましょう。そうしましょう。

一日のうちで一番の楽しみである、兄との下校ツアーをキャンセルして向かうは学校の図書室。
そこには司書席に座りながらBL小説を机に積み上げ、ものすごい速度でページを捲る少女がいる。
名前は神楽坂朱未(かぐらざか あけみ)。私と同じく高校二年生である。
分厚い瓶底メガネは小さ い頃に暗いところで本を読みすぎたせいだとかなんとか。
今はちゃんと本を読むときは明るい場所で 読むようになったので、近視は進まなくなったのだとか。
いやに長い髪をゴムで纏めてポニーテール のようにしている。
本人曰く、「これが一番本読みに適した髪型さね。前髪かからんし」とのことだ 。
切ればよいんじゃないのか? との意見に対しては「切るの面倒」との返答だった。
髪を洗う手間 は度外視されているらしい。
実際のところ、朱未の髪はオタク特有の―手入れされていないぼさぼ さのそれとは違い、
エナメルの如きキューティクルが女の命たる輝きを存分に発揮していた。
ただし 、それに気づくものは私のほかにはいない。


ひたすらにBL小説を読む、朱未の存在こそが彼女を魅力のある異性とは映していなかった。
それは同性にとってもそうであるようで、一時期彼女が教室内で常に浮いた存在であったことは否定 はしない。
ただし本人は浮いていようが浮いていまいが他人に興味など無く、
ひたすら小説や物語にのみ興味の矛先が向いていたため、寂しさなどは感じなかったようだ。
人から見て孤独であるように 見えたが、彼女は決して孤独ではなかった。
―私とは正反対だ。

だから、私は彼女に憧れた。
彼女の強さを手に入れたいと思った。
なので、勇気を出して彼女に話し かけてみることにしたのだ。


514:名無しさん@ピンキー
09/01/03 05:05:42 6eCGb/0t
連投支援

515:サワーデイズ 6 ◆3vvI.YsCT2
09/01/03 05:07:28 JdF7eMxf
「ねえ、あなた、何でそんなにいつも幸せそうなの?」

今思えば嫌味な質問だったかもしれない。
でも実際に私は彼女の生き方と言うものに憧れていたし、 その疑問は嘘ではなく本当に知りたかったことだ。
「知りたいかいな? うひひ、ならこれあげるから読んでみ~」
朱未が私に渡してくれたのは一冊の小説だった。
表紙には線の細い男性とボーイッシュな女の子が描かれている。
何かの漫画だろう。その時はそう思 った。
「これ、貸してくれるの? ありがとう。早速、家に帰って読んでみるね」
その渡された本にどういった秘密が隠されているのか。
なんてことはなかった。秘密など隠されていなかった。

渡された本は俗に言うBL(ボーイズ・ラブ)と呼ばれるジャンルの本であり、
漫画ではなく小説、 それもライトノベルというジャンルになるだろうキャラクタ小説の一種であった。
表紙に書かれてい たカップルは男女のペアではなく、両方男であり、作中この二人は行為にまで発展する。
行為は男女間のそれと変わりなく(多分)、性別を除いて通常の恋愛小説とそう変わりなく話は展開 していく。
そこに「男同士だから宜しくない」というような社会通念は入り込まない。
まるで、男と男が愛する ことは当然かのように描かれる。
女性の存在は極めて薄く描かれる。それが、その世界での価値観だった。
はっきり言う。訳が、分からなかった。
だから、私は朱未にも、ちゃんとそう言った。すると
「ふふふふふ。最初は誰だってそうさね。でもね、これがまた辞められんのですよ……」
と言い、今度は二冊程鞄に捻じ込まれた。そして家に帰って読みきってみせた。
やはり感想は変わりなかった。何が面白いのか? 疑問はそれに尽きる。
「説明させるのかい? なぁーがーいよぉ。それでも聞く?」
したり顔で笑いながら私に問いかける朱未に、「……うん」と答えてしまったことが
彼女に私を友人 だと認められた瞬間であったような気がする。
場所を図書館に移して、朱未の講義は閉門まで続いた。私はただ聞いてるだけだった。
相変わらず、理解は出来なかった。だけど一つだけ分かったことがあった。
好きなものを好きでいることを厭わないこと。これが彼女の、朱未の強さだということだ。

「やぁ御門くんじゃないかい。あちきのお勧めBLでも借りていくんかい?」
私の接近を音だけで感知したらしい。本から目を離さずとも私を認識できているようだ。行儀は悪い が。
「あのね、今日は乙女の方」
乙女、というは隠語のようなものである。本来なら乙女といえば乙女小説、
つまり女性向けのハーレム小説を指すものだが、私と朱未の間ではその意味が違ってくる。
―お兄ちゃんのことで相談がある。
朱未と私の間だけで通じる言葉のやり取り、である。
朱未はこの言葉の重要さを良く知っている。だから、軽い意味で私がこのような相談を持ち掛けないことを理解している。
「ん、ああ。OKですお。今人居ないみたいだしの」
朱未はBLから目を離し、辺りを確認しながらそう言った。

516: ◆3vvI.YsCT2
09/01/03 05:10:50 JdF7eMxf
というわけで今のところはここまででござる。
(実は今日書いた内の半分であることは内緒)
展開の遅さ、gdgdじゃねえ?など、文句は随時受け付けておりまする。無視するけど。

あと、「ぼくの考えた妹」は作品に登場する可能性がありますのでどんどんアイデアをくださいまし。
以上。お目汚し失礼いたし申した。これにて!

517:名無しさん@ピンキー
09/01/03 08:56:22 +oqnqCp8
僕の考えた妹
・右手がドリル
・汗がニトロ
・スカートの中から武器が出てくる
・物凄く細かいゴリラのモノマネができる

・・・これどうすんだよ・・・w

518:名無しさん@ピンキー
09/01/03 09:19:01 GvKmgHqR
シスマゲドン?

519:名無しさん@ピンキー
09/01/03 09:35:19 5dn1iHFy
他のはともかく。
『スカートの中から武器が出て来る』はキモ姉妹のたしなみじゃないか?


520:名無しさん@ピンキー
09/01/03 11:01:18 IUGs019M
>>516
GJ!!

521:名無しさん@ピンキー
09/01/03 11:47:29 K3ZLfhsn
>>516
乙です。

このBLちゃんが、兄を巡る、恋のライヴァルとなっていくわけですか。
となると、兄がどういう人間なのか、もう少し詳しい描写が欲しいところですな。

522:名無しさん@ピンキー
09/01/03 12:44:31 U7Hs43nc
不思議に思ったんだが
キモ姉やキモウトは寵愛対象が性転換した場合
どういう反応をするのだろう

523:名無しさん@ピンキー
09/01/03 12:57:16 3sKtPPUD
>>519
そんなっ!胸の谷間から凶器が出てくるのはキモ姉妹じゃないのか?

524:名無しさん@ピンキー
09/01/03 13:24:49 dDqsySjR
>>522
TSものでは日常茶飯事だが
「兄は女としては0歳も同然だから私が上」という論法で徹底的に性的な意味で攻めまくってくるのが常道

525:名無しさん@ピンキー
09/01/03 17:17:06 znOQ3miP
>>519

それはなんというかメイドさんの嗜みな気がする

526:名無しさん@ピンキー
09/01/03 17:17:27 wJcXqFOd
>>523
むしろ、対兄弟用の凶器が足の間に(ry

527:名無しさん@ピンキー
09/01/03 21:21:27 LcZf8gXq
こえ~
俺もキモウトに襲われてーな

528:名無しさん@ピンキー
09/01/03 21:23:16 9AzPi92b
URLリンク(dec.2chan.net)

529:名無しさん@ピンキー
09/01/03 22:14:24 gTbBxhHK
>>528
kwsk

530:名無しさん@ピンキー
09/01/03 22:16:01 gTbBxhHK
あげちまった……
早く自宅から書き込みたいぜ

531:名無しさん@ピンキー
09/01/03 22:24:06 nenYoCDT
犬星?

532:名無しさん@ピンキー
09/01/03 22:40:47 uYdddhBJ
巻田佳春だと思うよ?

533:名無しさん@ピンキー
09/01/03 22:56:55 dLSzsSSq
>>528
・・・ゴクリ

534:名無しさん@ピンキー
09/01/03 23:42:17 2U2EZF/A
中に     \  きゅんきゅん        / 子
  出したら   \      どぷんっ!   /  作
  赤ちゃんが!!\  きゅうっ      /    り
            \    びゅぷっ/中出し
精  ふあああんっ!!! \∧∧∧∧/       小学生嫁
液            <      >   和
で  中はいやあ… < 予 巻  >    姦
おなか熱いよおっ…!!<    田  >        妊娠
─────< 感 佳 >─────
  八王子海パン   <   春 >           び
   突         <  !!! の > びゅるるっ     く
と   撃        /∨∨∨∨\            ん
ら    騎      / テンプレ   \ きゅっきゅっ  っ
ぶ     兵   /下      RiN  \          び
る      隊/  の  中学生     \ ずぷっ   く
すくらんぶる/   口         ロリ  \ずぷぷっ んっ

535:名無しさん@ピンキー
09/01/03 23:50:03 Hy8Qw6j1
態度のデカイ男キャラがウザくて(流される女キャラもだが)
どうも受け付けられないんだよな、この人の漫画

536:名無しさん@ピンキー
09/01/04 01:39:04 CfpJ+Id8
このスレってどっちかっていうと迫られるほうだしね

537:【世界の黄昏に愛する人と】投下予告
09/01/04 01:40:33 EcflRkum
全11レス、投下します。
続きものの途中まで。まだキモウト性は発揮してません。

それでは↓

538:【世界の黄昏に愛する人と】(3) 1/11
09/01/04 01:41:26 EcflRkum
   【世界の黄昏に愛する人と   第三章 美沙(二)】


 朝食後、陽祐と美沙は自転車に乗って町を探索した。
 世界中の「ほとんど」全ての人間が消えたらしい。
 だが、わずかな例外である自分たち兄妹と同様、この世界に残っている人間が、ほかにいるかもしれない。
 あるいは、なぜ自分たち以外の人間が跡形もなく消えたのか謎を解く手がかりが見つかるかもしれない。
 それとも、この世界が推測通りのパラレルワールドであるならば、その証拠が見つかるかもしれない。
 車が通らないので、車道上を二人並んで自転車を走らせた。
 バス通りを駅へ向かう。道沿いに並ぶ商店はシャッターを下ろしたままだ。
「……午前一時にみんなが消えたとして、その時間でも道を走ってる車やトラックはいたはずだよな?」
 陽祐は言う。
「だったら、運転手が消えた車が事故を起こしてもいいのに、そんな形跡は見当たらねーな」
「でも、道端に停まってる車はあるね。路上駐車っていうの?」
 美沙が言って、陽祐はうなずき、
「可能性としては、走行中の車だけが全て、運転手ごと消えたってことか」
 行く手の信号が赤になり、美沙がブレーキをかけようとしたが、陽祐はスピードを落とさない。
 美沙は「もうっ!」と怒りながらも、それに従った。横から車が飛び出して来ることは当然、なかった。
 その先にコンビニがあった。店内は明かりがついているが、外から見える範囲で人影はない。
「ちょっと寄ってみよう」
 店の前に自転車を停めて、中に入った。
 客も店員もいないこと以外は何の変哲もないコンビニエンスストアだった。
 陳列棚が寂しく見えるのは早朝に行なうはずの商品補充がされていないからだろう。
 残っていた弁当を手にとってみた。賞味期限はきょうの昼まで。おにぎりやお惣菜も同じ。
 だが、冷凍食品のコーナーには、それなりの数の商品が並んでいる。
「食料は当分、なんとかなりそうだ。冷凍庫の電源が切れなきゃだけど」
「停電とかするかな?」
「わからん。トラブルさえなければ、発電所は自動で送電してるもんだと思うけど」
「ここで食べ物を手に入れるとして、お金はどうする? パパのお財布から借りておく?」
「店員もいないのに、誰に金を払うんだよ」
「レジに入れておけば……」
「本気で言ってる?」
 陽祐は美沙の顔を、じっと見つめた。美沙は気まずそうに眼を伏せ、
「いちおう本気だけど……変?」
「いや、おまえらしいけどな」
 コンビニを出て、再び駅へ向かって二人で自転車を走らせた。
 駅へ行って何をしようという考えはなかったが、ほかに目指す場所もない。
 駅前の大型スーパーは駐車場のゲートバーが閉まり、案内板に『定休日』と表示されている。
 本来は水曜定休だから、きのうからそのままということだ。
 駐車場の奥にある店舗の入口はシャッターは下りていないが当然、施錠されているだろう。
 いざとなればガラス戸を割って押し入るほかはない。
 駅前にも、やはり人の姿がなかった。
 ロータリーにタクシーを含めて数台の車が停まっているが、いずれも車内は無人だ。
 銀行はシャッターが下りていた。それを指差して、陽祐は言う。
「世界が元に戻るときに備えて、いくらかカネを持ち出しておくか? いまなら誰も追いかけて来ないし」

539:【世界の黄昏に愛する人と】(3) 2/11
09/01/04 01:42:12 EcflRkum
「閉店してるから、お金は全部、金庫にしまってあるんじゃない?」
 美沙が冷静に答えて、陽祐は苦笑いする。
「おまえの言うとおりだな。どこからか爆弾でも手に入れてくるしかねーや」
 交番も無人だった。中を探せば拳銃が見つかるのだろうか。
 そんなものに触ってみたいと思わない自分は、まだ正常なのだろう。
 いずれ、この世界に絶望したら、どうなるかわからないけど。
 駅のシャッターは下りていなかった。午前一時といえば最終電車が到着する前後だ。
 終点は、まだ先である。この駅を出発した電車は、そのまま乗客ごと消えたのか。
「駅の中を見てみる?」
 美沙が言って、陽祐は首を振る。
「いや、無駄だろう。それより、ほかに確かめておきたい場所がある」
「どこ?」
「スタンド」
「えっ……?」
 きょとんとしている美沙にそれ以上は説明せず、陽祐は自転車を出す。
 ロータリーから放射状に伸びている道の一本を進むと、すぐ先にセルフ式のガソリンスタンドがあった。
 給油機の前まで自転車を乗りつけて、料金投入口のイルミネーションが点滅しているのを確かめる。
 どうやら使える状態だ。料金は前払いで機械に入れなければならないけど。
 美沙がたずねた。
「ガソリンなんてどうするの?」
「車で移動することになったとき、必要だろ?」
「車? お兄ちゃん、運転できるの?」
「たぶん。うちのオートマなんてオモチャみたいなもんだろ」
「……美沙、一緒に乗らなきゃダメ?」
 陽祐は妹の顔を、じろりと睨む。美沙は苦笑いして、
「冗談だって」
「この世界で一人きりになるのと俺の運転、どっちが怖いだろうかね?」
「……やめて! やだ、一人になるのは考えたくない……」
 美沙は本気で怖がる顔をした。冗談のつもりが脅かしてしまったようだ。
 これは自分が道化を演じるしかないと、陽祐は苦笑いしながら、
「情けねーこと言っていいか?」
「え……?」
「俺も一人きりになるのはごめんだ。頼むから一緒に乗ってくれ」
 両手を合わせてみせると、美沙は笑ってくれた。
「……いいよ。これから、どこへ行くときも一緒ね」


 先ほどのコンビニまで戻って、当面の食料と必要な物資を調達することにした。
 もったいないので賞味期限寸前の弁当は昼食に充てる。
 さらに夕食以降の食材としてカット野菜と冷凍肉を手に入れる。
 ガスや水道が止まったときに備えてミネラルウォーターと缶詰も確保した。
 バンソウコウや薬は家にあるはずだが、予備があってもいいだろう。
 ほかに入用のものはないか探して、買い物カゴを手に店内を回る陽祐のそばから、
「ちょっとだけ待ってて」
 と、美沙が離れて行き、棚から何かの商品をとってレジに向かった。

540:【世界の黄昏に愛する人と】(3) 3/11
09/01/04 01:43:00 EcflRkum
「どうした?」
「ごめん、ちょっと……」
 美沙はカウンターの向こうに回り、手にした商品をレジ袋に入れている。
 陽祐にも何となく理解できた。つまりは女の事情だ。
 考えたら、美沙もいちおう女なのだ。実の妹だから意識しなかったけど。
 世界中の人間が消えて、自分以外でたった一人残った相手が妹だったというのも色気のない話である。
 この世界のアダムとイブにはなれねーな、俺たちじゃ。
 いっぱいにふくらんだレジ袋をそれぞれの自転車のカゴに押し込み、陽祐と美沙はコンビニをあとにした。
 結局、金は置いてこなかったが、美沙は何も言わなかった。
 バス通りを家に向かって走りながら、美沙が言う。
「もし、世界がずっとこのままなら、どこか田舎に引っ越して農業を始めるのもいいんじゃない?」
「農業?」
「だって、コンビニやスーパーの食料なんて、すぐになくなっちゃうだろうし」
「そっか……。コメは長持ちするから当分は米屋の倉庫を漁るにしても、野菜がな……」
 陽祐は、ふと気がついて、
「この世界って、俺たちのほかに動物もいないのか?」
「えっ……?」
「向かいの家の犬は消えてたし、鳥が空を飛んでる様子もないだろ? それに、蝉の声もしないし……」
「そういえば……」
「人間だけが消えて、牧場の牛や豚とかペットの犬や猫が取り残されてたら悲惨なことになるけど」
「そうだね、その点は救われてるみたい……」
 うなずく美沙に、陽祐は眉をひそめて、
「でも、それじゃ俺たち、肉も魚も食えねーじゃん。せめてニワトリを飼って卵くらい食いたかったけど」
「そうだね……」
 美沙は苦笑いする。


 家に帰ったが、まだ昼食には早かった。
 陽祐と美沙は、プリンター用のA4の白紙を三枚、ダイニングのテーブルに広げて、

  1・いま現在わかっていること
  2・考えられる原因
  3・今後の対策

 を、思いつく限り書き出した。
 わかっているのは、世界中の人間がきょうの午前一時前後に消えた「らしい」こと。
 この町も調べた限りでは無人である「らしい」こと。動物も全て消えた「らしい」が植物は残っていること。
 いまのところ、世界のどことも連絡がつかないこと。
「『らしい』ってのは、この世界に残って途方に暮れている人間が俺たちのほかにいないと言いきれないから」
「そうだね……」
 そのほか、先ほど見て来た町の状況についても一枚目の紙に書き足した。

  ・コンビニ △(品揃えに限りあり)
  ・スーパー ?(ガラスを割って押し入れば?)
  ・ガソリンスタンド ○(ただし現金で前払い)

541:【世界の黄昏に愛する人と】(3) 4/11
09/01/04 01:43:46 EcflRkum
「これは今後の対策に絡んでくるけど、もし野生動物まで全部消えてたら、自然の生態系はどうなるんだ?」
 腕組みをして言った陽祐に、美沙がきき返す。
「食物連鎖とか、そういう話?」
「植物の中には昆虫が花粉を運んで育つのもあるだろ? 農業やるにしても、そこをきちんと考えないと」
「そうだね……」
 二枚目の「考えられる原因」は、全てが想像でしかなかった。推理といえるほどの根拠もない。
 陽祐は最初に『パラレルワールド』と書いた。
「でも、普通はパラレルワールドって歴史のIF(イフ)みたいな世界だよな? 信長が桶狭間で負けたとか」
 クエスチョンマークを書き加えながら、
「人間が誰ひとり存在しないのに家や車があるこの世界は、それとは違う気がするんだ」
「そうだね……」
 うなずいている美沙に、陽祐は苦笑いして、
「おまえって、さっきから『そうだね』ばかりだな」
「えっ? ……ごめんなさい」
 美沙がうつむいてしまい、陽祐はあわてた。
「いや、悪いってわけじゃなくて。こんな状況じゃ、ほかに言葉が出てこなくても仕方ねーよな」
 書いたばかりの文字を棒線で消しながら、
「俺が適当に思いつく限りのことを書くから、おまえも何か気づいたら意見を言ってくれ」
 陽祐は原因の二番目として『コピーワールド』と書いた。
「コピーってのは、元の世界から人間だけ取り除いて、そっくり同じものを作ったってことだ。つまり……」
 下に線を引っぱって、書き添える―『ニセモノの世界』
 美沙がその文字を見つめながら、
「……世界をコピーするなんて、仮にそんなことができたとしても、誰が何のためにやるの?」
「わからんけど、宇宙人か、どこかの秘密機関が、追い込まれた人間の心理を観察するためとか」
「よくそんなこと思いつくね、お兄ちゃん……」
 あきれているのか感心したのか、美沙は、まじまじと陽祐の顔を見た。陽祐は苦笑いして、
「俺だって漫画くらい読むからな。予備校に通い始めてから、ほとんど買ってないけど」
 三番目には『夢またはバーチャル』と書いた。
 美沙が小首をかしげ、
「夢……?」
「世界を丸ごとコピーするより早いだろ。本当は俺たち、頭に電極つけられて怪しい夢を見せられてるのかも」
「夢だとしたら、ここまでリアルな夢はないと思うよ」
「そこが宇宙人の超科学だよ。さっき頬をつねったら痛かったし」
 陽祐は言って、にやりとした。
「おまえは試した?」
「えっ?」
「つねってやろうか、頬?」
「やめてよ」
 ふくれ面をする美沙の頬に、陽祐は手を伸ばす真似をして、
「そのふくれた頬、つねり甲斐ありそーだ」
 美沙は、じっと陽祐を睨んだ。
「……あー、すまん」
 陽祐は手を引っ込めて、自分の頬を掻く。
「真面目にやろうな」
「そうだよ」

542:【世界の黄昏に愛する人と】(3) 5/11
09/01/04 01:44:37 EcflRkum
「……で、お次は『超常現象』だが」
 陽祐は用紙にそのままの言葉を書いた。
「人が原因不明のまま突然消えるといったら、普通はこれだけど」
「つまり、この世界は美沙たちが元いた世界だけど、ほかのみんながいなくなったって可能性ね?」
 美沙が言って、陽祐はうなずき、
「乗員全員が姿を消した『マリー・セレスト号』が有名だが、世界中の人間が消えるのとは規模が違いすぎる」
 もっとも……と、陽祐は言い添えて、
「常識じゃ説明つかないことが起こるのが超常現象だ。どんな規模で起きてもおかしくないとは言えるけど」
「そうだね……」
 言ってから美沙は、はっと気づいたように、うつむき、
「……ごめんなさい」
「いいって」
 陽祐は笑って、
「超常現象の場合だけど、消えた人間がどうなるか、二通り考えられるな」
 そう言うと、用紙に書き加える。

  ・別の世界で生きている
  ・ブラックホール? に飲み込まれて消滅

 それを見た美沙が眉をしかめた。
「やだ……」
「……すまん、俺のほうは謝ってばかりだ」
 陽祐は『消滅』の字を棒線で消した。
 美沙が陽祐を、じっと見つめて、
「お兄ちゃんは、ママやパパがいなくなって平気なの?」
「まだ現実感がない。とか言ってる場合じゃねーけど、オヤジやオフクロが完全に消えたとは考えられない」
 陽祐は消した字を、さらに塗り潰しながら、
「そのうち何でもない顔をして帰って来るんじゃないかと思う。だったら消滅なんて書くなって話だけど……」
「美沙も、ママたちはどこかで無事にいると思う。そう思いたいよ。でなきゃ美沙、普通でいられないよ」
「ああ……、俺だってそうだ」
 陽祐は二枚目の紙を脇によけて、三枚目を引き寄せた。
「今後のことだが、一つは、この世界を徹底的に調べるって選択肢がある。世界中を飛び回るくらいの覚悟で」
「……それでママたちが帰って来ると思う?」
 美沙が陽祐を見つめながら言って、陽祐は首を振り、
「わからん。世界中の人間を消すとか世界をコピーするとか、とんでもない超常現象だか超能力が相手だし」
「でも……何もしないよりは、いいのかも」
「いや、何もしないのも一つの選択肢だと思う」
「え……?」
 きょとんとする美沙に、陽祐は用紙に『平凡な日常』と書いてみせ、
「俺は、いまの状況は何らかの意図があって作り出されたものだと思う。偶発的な超常現象とかじゃなくて」
「…………、どうして……?」
 じっと見つめてたずねる美沙を、陽祐は真っすぐ見つめ返し、
「世界中の人間の中で、俺たち兄妹だけが選ばれたみたいに、この世界に残るなんて偶然は考えられないだろ」
「それは……そうかもしれないけど」
「だとすれば、誰だか知らないが俺たちをいまの状況に放り込んだ奴がいるってことだ」

543:【世界の黄昏に愛する人と】(3) 6/11
09/01/04 01:45:27 EcflRkum
 陽祐は『平凡な日常』と書いた文字に向かって矢印を引き、逆側の一端に『退屈』と書いた。
「そいつの目的はわからん。世界で二人きりという状況に置かれた俺たちに何を期待してるのか。……でも」
 矢印の横に『観察』と書き添えて、
「一つ言えるのは、そいつがいま俺たちを観察してるだろうってことだ。だったら裏を掻いてやるんだよ」
「裏を掻く……?」
「俺たち二人で全く普通の日常を演じてみせるんだ。観察してる奴には、さぞ退屈だろうけどそれこそ狙いだ」
「…………」
 美沙は、ぽかんと口を開けて陽祐の顔を見た。
「……お兄ちゃんって、ホントにいろいろ思いつくね」
「まーな、俺たちが観察対象として役立たずとわかれば、元の世界に戻してもらえるかと期待してるんだが」
 陽祐は眉をしかめて腕組みをする。
「だけど、あまりに退屈で逆ギレした相手が天変地異とかイベントを押しつけてくる可能性も否定できねーか」
「いや、でも……うん、それが一番だと思う」
 うんうんと美沙はうなずいてみせ、
「ママたちも、そのうち帰って来るかもしれないんだから、なるべく普通にして待ってたほうがいいよね」
「ま、ほかにもう一つ選択肢はあるんだけど」
 陽祐は用紙に『世界の終わり』と書いた。
「俺たちのほかに誰もいない世界だ。町中のガラスを割ろうが火をつけようが、やりたい放題できるだろ」
「お兄ちゃん、それ本気で言ってるの?」
 あきれた顔をする美沙に、陽祐は肩をすくめ、
「いや。それじゃ観察野郎を楽しませるだけだし、それに俺だってオヤジたちが帰って来ると思ってるんだ」
 用紙の余白に、わざと乱暴な字体で書いてみせる―『陽祐参上★夜露死苦』
「暴走族(ゾク)が暴れたみたいにガラスが割れたりペンキで落書きしてあるのをオヤジに見せられねーだろ」
「そうだね」
 美沙は、くすくす笑う。
「だったら答えは決まりだね。美沙たちは、できるだけ普通に生活する」
「そーゆーことだ」


 昼食のあとは、駅とは反対の方向を自転車で探索することにした。
「何も発見はないと思うけど、家に閉じこもってるより気が晴れるだろ?」
 住宅地を抜け、国道を越えて、その向こう側の団地も抜けた先には大きな川の堤防がそびえていた。
 一面、緑の草に覆われているのが鮮やかだ。
 自転車を停めて、堤防の斜面を登っていく。
 離れた場所に階段もあったが、そこまで行くのが面倒だし、草を踏みしめていくほうが心地いい。
 陽祐と美沙は、並んで堤防の上に立った。
 眼下には河川敷のグラウンド。その向こうに、夏の日差しに輝く水面。
 対岸には、こちらと同じような堤防。その奥に、どこまでも広がる町並み。
 何でもないような風景を眺めて、陽祐は、ため息をついた。
「川の向こうが世界の果てだったりしないかと思ったんだけどな……」
「世界の果て……?」
「そんなものが見つかれば、この世界がニセモノだって確信できるだろ?」
 美沙はそれには答えず、
「あした……」
「ん?」

544:【世界の黄昏に愛する人と】(3) 7/11
09/01/04 01:46:19 EcflRkum
「お昼、ここに食べに来ようよ。サンドイッチ作るよ」
 そう言って、美沙は微笑んだ。陽祐も笑って、
「じゃあ、どこかでパンを仕入れねーとか」
 自転車を停めた場所まで戻り、帰りに団地を抜けるときは先ほどと違う道を通ることにした。
 国道との交差点の角にレンタルビデオ屋があった。
 入口のシャッターが半分下りた状態で、ガラス戸が開いている。
「閉店直後だったみたいだな。何か借りていくか?」
「お兄ちゃんが観たいものがあるなら……」
 自転車を停め、シャッターをくぐって店内に入った。
 明かりはついているが、営業時間中なら流れているはずのBGMは止まっている。
 陽祐は新作のスパイ映画と刑事アクション映画と戦争アクション映画のDVDを借りることにした。
 返しに来ることがあるのかは、わからない。
「おまえも何か選んでおけよ」
 美沙に声をかけると、動物のキャラが主人公のアメリカ製CGアニメを一本だけ選んできた。
 陽祐は見本のパッケージを手に貸出カウンターの向こうに回った。
 後ろの棚に並んだDVDの整理番号と、パッケージに記された番号を照らし合わせて目当ての作品を探す。
 美沙が感心したように、
「お兄ちゃん、ビデオ屋でバイトしたことあったっけ?」
「いや……でも、いつも店員がやってるの見てるから」
 DVDを手に入れて店の外に出た。
 ふと思いついて、陽祐は言う。
「駅前のスーパーって、通用口に回れば開いてないかな?」
「そうだね……。できればお野菜とか、ちゃんとしたの欲しいし」
「あした、買い出しに行ってみようぜ。買うと言っても、金は払わねーけど」
 国道を挟んでビデオ屋の斜め向かいにコンビニがあった。
 二人はそこで八枚切りの食パンとハムとスライスチーズを手に入れてから、家に帰った。


 美沙が夕食の支度をしている間、陽祐は居間で戦争アクション物のDVDを観ることにした。
 ほかの二本は一緒に観たいけど、これだけは興味がないと美沙が言ったからだ。
 映画の中の兵隊たちは、ばたばたと容赦なく敵弾に撃ち倒されていた。
 同じような光景がフィクションではなく現実として、つい十数時間前まで世界中で見られたのだろう。
 世界中から人間が消えて、戦争もなくなった。
 考えたら空しくなり、陽祐はリモコンの停止ボタンを押してDVDをデッキから取り出した。
「どうしたの?」
 美沙がキッチンから声をかけてきた。
「つまんねー映画だった」
 陽祐は美沙のそばへ行き、
「俺も何か手伝うよ」
「え? いいよ。お兄ちゃん、きのうまで毎日、受験勉強だったでしょ? 少し休みなよ」
「そう言われりゃ、そうだけど」
「ね? ちょっと早いけど、夏休み」
 美沙は微笑む。
 陽祐は妹の言葉に甘えて、代わりにネットで超常現象について調べることにした。
 本当の夏休みが来たときは、陽祐は休む暇などなく夏期講習に通いつめる予定だったけど。

545:【世界の黄昏に愛する人と】(3) 8/11
09/01/04 01:47:30 EcflRkum
 夕食のメニューは豚肉の生姜焼きだった。
 食事の間、陽祐は超常現象について調べたところを美沙に披露した。
 人間が原因不明のまま忽然と消えた事件は、過去に世界中で起きている。
 一八七二年、大西洋上の帆船『マリー・セレスト号』事件、乗員乗客計十一名消失。
 第一次世界大戦中のトルコにおける『ノーフォーク連隊』事件、イギリス軍兵士三百四十一名消失。
 遡って十六世紀末、当時イギリス領だった北アメリカの『ロアノーク島』事件、入植者百十六名が消失。
「どうしても人が消えてそれっきりの事件が有名になるけど、ちゃんと帰って来るケースもないわけじゃない」
 それは数ヵ月後であったり、数百キロ離れた場所で保護されたりであるのだが―
「でも、やっぱり帰って来ることもあるんだね」
 美沙が言って、陽祐はうなずき、
「ただしその場合、戻って来た人間は自分が消えていた間の記憶を失っていることが多い」
「何が起きたか覚えてないってこと?」
「だから、あしたの朝、みんなが戻って来たとすると、本当は金曜なのに木曜だと思って生活することになる」
「でも時計は丸一日、進んでるよね? それはそれで謎の事件になりそうだけど……」
 美沙は眼を伏せて、ため息をついた。
「……お兄ちゃんも最初に言ってたけど、やっぱり消えたのは世界中の人間じゃなくて、美沙たちのほうかも」
「おまえもコピーワールド説に転向か?」
 陽祐が笑うと、美沙は眼を伏せたまま、
「だって……そのほうが世界のみんなは普通に暮らしてるってことでしょ?」
「まあ、オヤジやオフクロには心配かけてるだろうけど。俺たち二人がいなくなって」
「そうだね……」
 美沙は首をかしげて考え込む様子を見せてから、ふと思いついたように陽祐に視線を向け、
「……お兄ちゃん、ビール飲む?」
「え? いいのかよ、委員長?」
 陽祐が眼を丸くすると、美沙は笑って、
「委員長はヤメてよ。次にそれ言ったら、もうお兄ちゃんにはごはん作ってあげないから」
 席を立って冷蔵庫から缶ビールと、食器棚からグラスを二つ出してきた。
「おまえも飲むのか?」
「ダメ?」
「許す。というか飲め、俺ひとりで飲んでもつまらん」
 お互いのグラスにビールを注いで、乾杯した。
 陽祐は一息にグラスを干した。旨かった。
 だが、美沙はほんの少し口をつけただけで、咳き込んだ。
「……けほっ! 何これ? よくお兄ちゃんやママたち、こんなの美味しそうに飲むね」
「この味がわかんねーんじゃ、まだまだ子供だな」
「子供だもん、どうせ。きのうも本屋で中学生と間違われたし」
 美沙はふくれ面で、もう一口、飲んでみせ、
「参考書の売り場を店員に聞いたら、小中学生用のコーナーに案内されたし」
「おい、無理して飲むな。酒の味がわかんねー奴が飲んでも、もったいねーだろ」
「わかるようになるまで飲むの! ママやパパの子供だもん、美沙だってお酒に強いに決まってるんだから!」
「むしろ酒癖の悪さを発揮しそうだけどな、おまえ……」
 陽祐は苦笑いするしかない。


 食後は陽祐が皿洗いをした。美沙は赤い顔をしていたので、ソファで休ませた。

546:【世界の黄昏に愛する人と】(3) 9/11
09/01/04 01:49:02 EcflRkum
 突然、携帯の着メロが聞こえて、陽祐は思わず皿を落としそうになった。
 まさか―誰からの着信だ!?
 振り返ると、ソファに寝転がった美沙が陽祐の携帯をいじっていた。
 着メロの設定を操作していただけだ。あきれ返って陽祐はたずねた。
「……おまえ、何してんの?」
「ん? あ、ちょっと借りてた」
 美沙は悪びれた様子もなく笑ってみせる。本当に酔っているようだ。普段と態度が違う。
 陽祐は、ため息をついて、
「まあ、見られて困るよーなもんは、ねーけどな」
「そうなの? メールとかも?」
「前の彼女とのは全部消したぞ、そのこと言ってるなら」
「ふうん」
 美沙はつまらなそうな顔で、ソファの上で寝返りを打って陽祐に背を向けたが、携帯は手放さない。
 陽祐は肩をすくめ、皿洗いを再開した。
 しばらくしてから美沙が言った。
「……お兄ちゃんって、今年に入って携帯買い換えたよね?」
「ああ」
「電話帳は昔のまま?」
「データはそのまま移してもらったけど、なんで?」
「べつに……」
 見られて困るものが本当になかったか心配になってきた。
 だが、登録名にはフルネームを入れているだけでクラスメートも部活の女子も同じ扱いだ。
 元カノ―麻生夏花の名前も、つき合っていた当時からフルネームで特別扱いはしていない。
 部活の後輩という関係でなければ、別れた時点で登録自体を消してもよかったのだが……
 夏花のことを頭から追いやるためと、携帯から美沙の気をそらすために陽祐は言った。
「おまえ……きのう観てたアニメは、どんなやつ?」
「え? どんなって……何で?」
「……あん?」
 陽祐が振り返ると、美沙は携帯をいじる手を止めて、じっとこちらを見ている。
 きかれて困ることでもないだろうにと思いながら、陽祐は苦笑いで、
「いや……昔のアニメなのかなって、ちょっと画面を見た感じが」
「ああ、友達に借りたんだけど……」
 美沙はアニメのタイトルと原作者名を挙げた。そのタイトルは知らなかったが作者は陽祐も知っていた。
 少し前に少年漫画誌で別の人気作品を完結させた大物漫画家だ。
 美沙が観ていたアニメは、その作家が二十年ほど前まで連載していた漫画が原作だという。
「きのうのは劇場版で、漫研の子と文化祭の相談してるときに話題が出て。文化祭が舞台で面白いからって」
「漫研の……文化祭? おまえ、漫研入ってたの?」
 妹のアニメや漫画好きは知っていたが、自分で漫画を描くとまでは思わなかった。だが、美沙は首を振り、
「そうじゃないけど、漫研が文化祭に向けてドラマCDを自主制作するから声優やってみないかって誘われて」
「声優?」
 陽祐が眼を丸くすると、美沙は口をとがらせた。
「もうっ、いいでしょ! 美沙の趣味なんだから!」
「悪いとは言ってねーだろ」
「どうせ美沙、アニヲタだもん……将来の夢は声優って小学校でも中学でも卒業文集に書いたもん……」
 ぶつぶつ言いながら背を向けてしまう美沙に、陽祐は苦笑いするほかない。本当に酒癖が悪いようだ。

547:【世界の黄昏に愛する人と】(3) 10/11
09/01/04 01:50:01 EcflRkum
 皿洗いを終えた陽祐は、機嫌を直した美沙と一緒にレンタル屋から持ち出したCGアニメを観ることにした。
 あまり子供向けとはいえないブラックなジョークが利いていて、二人で大笑いした。
 アニメが終わって、美沙はソファから立ち上がり、「うーん」と伸びをした。
「……美沙、そろそろシャワー浴びようかな」
「ああ、行ってこい」
 デッキからDVDを取り出しながら陽祐が答えると、
「ねえ」
「……あん?」
 振り向いた陽祐に、美沙が頬を赤らめて言った。
「お兄ちゃん、ついて来てくれない?」


 まったく、色気のねー話だな……
 陽祐は文庫本を片手に脱衣場の床にあぐらをかきながら、ため息をついた。
 曇りガラス一枚隔てた風呂場では、うら若き十六歳の娘がシャワー中である。
 それが実の妹でなければ少しは興奮していいシチュエーションだろう。
 美沙がもう少しくだけた性格ならば、ガラス戸をちょっと開けて「背中流そうか?」と声をかけるところだ。
 しかし、美沙にそれをしたら、悲鳴を上げたあとに泣き出すか、本気で怒り出すかだろう。
 かといって、戸を閉めたまま脱衣場から話しかけても、シャワーの水音で美沙には聞こえない。
 だから陽祐は、黙って本を読んで待つしかないのである。
 しばらく前に買ったけど、読む暇のなかった歴史小説だった。
 これから毎晩、妹のシャワーの間に脱衣場で待たされるならば、しっかり読み終えることができそうだ。
 シャワーの音が止まった。風呂場から美沙の声。
「お兄ちゃん、ありがと。もう出るから、廊下で待ってて」
「ああ」
 やれやれと陽祐は立ち上がり、脱衣場から廊下に出て、ドアを閉めた。
 逆に自分がシャワーを浴びている間、美沙は脱衣場で待つつもりだろうか。
 勘弁してほしいけど、仕方ないのか。
 理由もわからず消えた両親に続いて、兄まで消えるのではないかと不安なのだろう。
 そのうちトイレまでついて来てほしいと言い出さなければいいけど。


 予想した通り、陽祐がシャワーを浴びている間、パジャマ姿の美沙は脱衣場で待つと申し出た。
 やむを得ず陽祐は承知した。
 シャワーを終えて、脱衣場でTシャツと短パンに着替えていると、ドアの向こうの廊下から美沙が言った。
「ねえ、きょうは一階で一緒に寝ない?」
「いいけど」
 夏場だし、枕とタオルケットだけ用意して居間でゴロ寝もいいだろう。
 ところが美沙は、
「じゃあ、あとでママたちのベッドのシーツ替えるね」
「ちょっ……ちょっと待て、そりゃー……アレだろ」
「ママとパパのベッドで寝るの、嫌?」
「オフクロたちがどうのってんじゃなくて……」
 ダブルベッドで妹と一緒に寝る気にはならんぞ、さすがに。
「だったら和室で寝ようぜ、そのほうがいいだろ」

548:【世界の黄昏に愛する人と】(3) 11/11
09/01/04 01:51:18 EcflRkum
「でも、お布団ずっと干してないと思うよ」
「敷布団だけなら我慢できるだろ。枕とかは自分のを用意して」
「いいけど……」
 納得してくれ。それで。


 和室に布団を並べて、二人で横になった。
 窓は開けて、網戸だけ閉めておいた。この世界では虫が入ってくることはないと思ったけど。
「二人で一緒の部屋で寝るのって、いつ以来?」
 美沙がきいてきた。
 陽祐は、天井を見上げたまま、
「さあ……」
「おじいちゃんの家に泊まるときは、お兄ちゃんはパパと二人で寝るし」
「うん」
「家族旅行はお兄ちゃん、嫌がるし」
「中学一年か二年のときから行ってないな、そういえば」
「そうだよ。お兄ちゃんが留守番するとか言うから、美沙たちも日帰りになったりして」
「そりゃ悪かった」
「……ねえ」
 指先に美沙の手が触れた。陽祐は妹の顔を見た。
 窓から差し込む月明かりの中で、美沙は、じっと陽祐を見つめていた。
「子供だよね、美沙。お風呂場までついて来てとか言って、一人になるのが怖いなんて」
「俺だって怖いよ。その点は安心しろ」
 陽祐は美沙の手を握ってやった。そんなことをするのも幼い頃以来だったけど。
 美沙は安心したように微笑んだ。
「……おやすみ、お兄ちゃん」
「ああ、おやすみ……」


 二人きりの世界での一日目が終わった。
【第三章 幕】

549:【世界の黄昏に愛する人と】投下終了
09/01/04 01:53:04 EcflRkum
次の投下は、また何日かおきます。
いちおう書き上がってる話なんですが……投下前に各章ごとに見直すと、結構な修正が必要だったり……

550:名無しさん@ピンキー
09/01/04 02:01:05 gcAarOR+
>>549
リアルタイムGJ
これからどんな展開で進むのか全く分からないw
早く続きが読みたいものですな

551:名無しさん@ピンキー
09/01/04 02:02:45 xaZZb3FN
GJ!
wktk。

552:名無しさん@ピンキー
09/01/04 02:51:38 u24pYsjP
やべぇ一瞬なんのスレか忘れちまってたぜ

553:名無しさん@ピンキー
09/01/04 05:51:58 KHRtUkBc
>>549
GJ
確かに今の美沙タンはちょっとブラコンの入った普通の妹だが
所々にキモウトの兆しが見えたのがたまらん

554:名無しさん@ピンキー
09/01/04 12:21:54 oLJ80NDX
>少し前に少年漫画誌で別の人気作品を完結させた大物漫画家だ。

ガモウひろしですね。わかります。

555:燃料投下
09/01/04 15:47:05 5ZFo1qmH
ここから泥棒猫のターン↓

556: ◆sw3k/91jTQ
09/01/04 16:22:38 sIGuX/zK
投下します。
4レス予定

557:思い出の村 2話(1/4)  ◆sw3k/91jTQ
09/01/04 16:23:38 sIGuX/zK


side秀樹
 俺達は実家を目指して歩いていた。
「月並みですが懐かしいですね、兄さん。」
「ああ、こっからの夕日が凄く綺麗なんだよな。」
昔まだ新しかったアスファルトが、今ところどころ欠けて、古めかしくなっているのを見て、なんとなくノスタルジックな感じになる。
そういえば気になったいた事を聞いてみる。
「なあ、瑞樹。」
「何ですか?兄さん。……ハッまさか!」
「プロポーズネタはくどいぞ。」
「ネタじゃ無いのに…。」
そっちのがこええよ!、とは突っ込まない。
「楢崎茜ちゃんのこと、覚えてるか?仲良かっただろ瑞樹。」
「楢崎...ッッッ」
瑞樹は急に何かを思い出したような顔をしてひどくうろたえた。
「に、兄さん……。私急にハウスダストになってしまって、ええと、その、つまり……、かっ、帰りましょう!!」
「マテ瑞樹、落ち着くんだ。言いたいことはわかるがお前は決してアレルゲンではない。それにじっちゃやばっちゃが待ってるからさ、
急には帰れないよ。大丈夫、かっこいい兄さんがついてるから。」
しかし瑞樹はまだどこか落ち着かない様子で、「しまった...、でも、どうして?」だのとブツブツつぶやいている。
コイツ大丈夫かよ...。
「兄さん、用事が出来たのでおじいさんおばあさんの所には先に兄さんだけで行ってて下さい。」
ようやく落ち着きを取り戻した瑞樹はそう言い残し来た道を戻って行った。
「ちょっと!お~い。何かあったらメールしろよ~。」
「ちゃんと見ましたか~?圏外ですよ~。」
あらホントだ。見慣れたディスプレイには圏外の文字。
「...っかしーな。電波悪いんかな?」
無事に島に着いたことも親に報告したいし、実家ついたら電話でも借りるか。
心配性な親のためにも電話しとかなきゃな。

558:思い出の村 2話(2/4)  ◆sw3k/91jTQ
09/01/04 16:24:27 sIGuX/zK



side瑞樹
「おかしい、忘れるはずなんて無いのに...どうして?」
さっきから私はずっと自問している。
自慢ではないが私は記憶力が良い。それなのになぜこんなに大事な事を忘れてしまっていたのだろう。
あのたぶん私にとって一番の敵、楢崎茜の事を。
兎に角一刻も早くこの島から脱出しなければ。
あの汚らわしい雌犬を兄さんに会わせてはいけない。
明日の朝に帰るための連絡船のチケットを買おうと営業所まで戻ってきた。
営業所の中は、じめっとしていて、夏特有の不快感が体を巡る。
とっとと用事を済ませてしまおう。
私は販売員らしき初老の男性に話しかけた。
「すみません。明日の朝の船のチケット2枚いただきたいのですが。」
男性はこちらに一瞥をくれ、無愛想に言い放った。
「船は来ん。」
男性の態度に腹が立った。
「ふざけないで下さい。船が来ないわけ無いじゃないですか。」
「ふふふふふ、その人は冗談を言っている訳じゃないのよ。瑞樹ちゃん。私の許可がないと物流船以外の船は緊急時を除いて入港しないわ。」
突然の乱入者。何の気配もなく、私の背後に回っていた。
「くっ...楢崎...さん。」
「茜でいいわよ。"トモダチ"でしょ。」
その眼は昔となんら変わらずに、どうしようもないほどに、濁っていた。
「あの人はどこ?教えて。"トモダチ"なら教えてくれるわよね。」
こんな女に、負けたくない。
「学校があった所に行きましたよ。」
「あっはっはっは嘘おっしゃい。あなたたちの実家とは逆方向じゃない。」
怖い。怖い。すべて見透かされている。逆らえない。昔みたいに、屈伏させられる。
「そうそう。言い忘れてたけど、あなた達のおじいさんおばあさんね、昨日から旅行に行っちゃってるの。残念ねぇ。
でも安心して。船が来るまで、私の屋敷に住む事になったから。ご両親からの許可はとってあるわ。」
ここまでするのか。この女は。
「昔の様にはいきませんから。」
自分を奮い立たせる呪文。
「そう、残念ねぇ。」
それさえも、この女はあっさりと打ち消した。
「それじゃあ私あの人に会ってくるけど、邪魔したら、ワカルヨネ。瑞樹"ちゃん"。
それと、私の事忘れてたのあなたのせいじゃないから、そんなに思いつめる事無いのよ。」
そう言い残し、茜は去って行く。止めることなんて、できなかった。

559:思い出の村 2話(3/4)  ◆sw3k/91jTQ
09/01/04 16:25:13 sIGuX/zK


茜side
 あの人のことを好きになったのは、小学校に上がってすぐの事だった。
もともと人口が少ない離島だけあって、クラスは小中学年、高学年で、2つのクラスしかなかった。
そんな中、屋敷の生まれで、常に他者との間に壁を作っていた私は、いじめられていた。
そんな私に一番最初に声をかけてくれたのがあの人、水野秀樹さんだった。
いつものようにいじめられていて、お気に入りの人形を隠されてしまったとき、雨の中ずぶぬれになって探し出してきてくれた。
髪の毛を引っ張られて泣いていた私に、立ち向かうことを教えてくれた。
当時の私にとって彼は、ピンチの時に来てくれる、王子様のような存在だったのだ。
そんな彼に恋をしないほうがおかしいのだ。
二年生にあがると、あの人の妹が入ってきた。
彼の妹、瑞樹は、何かにつけてよく泣く子だった。
私が彼と遊んでいるのを見ると、兄を取られまいと泣き落としにかかる。
そんな瑞樹のことが、私は大嫌いだった。
彼の見ていないところで、昔私がされたことをした。
彼女は臆病だったので、口封じは簡単だった。
愉悦に顔を歪めながら、「"トモダチ"だからゆるしてくれるよね?おにいちゃんにいわないよね?」
と言うと、泣きながら頷いてくれた。
それに味をしめ、強者の立場に酔ってしまった私は、今まで私をいじめてきた人に復讐し始めた。
各界に顔が利く親に頼み、いじめっ子の親に圧力をかけ、島から追い出した。
裏ではこんなに黒い事をしていた私だが、あの人の前では、猫をかぶっていた。
一人、また一人とクラスメイトがクラスから消え、幸せな日々が続いた。ずっと続くと思っていた。
しかし、今度は別の問題が起きた。
ただでさえ子供が少ないのに、島から追い出してしまったから、学校が廃校になってしまったのだ。
今思うととても馬鹿なことだが、まだ子供だった私には想像が出来なかったのだ。
私は父が教師を雇っていて大丈夫だったが、彼は学校へ通わなければならない。
彼はあっけなく本土に帰ることになった。
私はすでに傀儡となっていた瑞樹の私に関する記憶を操作し、恐怖による支配がなくても私の悪行を彼にばらされないようにした。
別れの日、ぼろぼろに泣いた事と、泣いている私に彼が「またあえる。だからもう泣かないで」と言ってくれた事を覚えている。
また会える。その言葉を信じ、私は必死に自分を磨いた。その日を夢見て。

560:思い出の村 2話(4/4)  ◆sw3k/91jTQ
09/01/04 16:25:45 sIGuX/zK
 あの人が帰って来る。
そのことを知ったのは、七月に入ってからのことだった。
いつものようにあの人の実家に仕掛けた盗聴器のログを確認していた時、あの人の声で、夏休みにこっちに帰ってくる。
と言う内容のメッセージが入っていた。
私は飛び上がりそうになるのを抑え、刻々と準備に取り掛かった。
病床に伏している父を操り、連絡船を操作し、うまく計画が進むまでこの島から彼らが出られないように仕向けた。
彼の祖父母には、屋敷の地下に旅行に来てもらっている。これは切り札だ。出来れば使いたくない。
だがもし万が一彼が私を拒んだら、このカードを切るしかない。
優しい彼のことだ。祖父母の事をちらつかせればこちらの言いなりになってくれるだろう。
いつも彼に羽虫のように付きまとっていた妹は、この時あまり問題視していなかった。
また力で屈伏させればいい。それに彼女は私に関する負の記憶は消してあるから大丈夫だ。
ふとしたことで戻るかもしれないが、この島にきた時点で、思い出そうが思いださまいが私の勝ちは決まりだ。
もう待つのは嫌だ。独りは嫌だ。

 そして、運命の日。
船着場で瑞樹を見た時、彼女は欲情した女の眼をしていた。
彼は気づいていないと思うが、あれはだらしなく発情した雌犬の眼。
許せなかった。今すぐ殺してやろうかとも思った。
だが彼を悲しませる様な事はしたくない。
唇を強く噛みすぎて、口の中に鉄の味が広がる。
彼の実家までの道中、彼が私の事について何か言っていた。
遠くて聞き取りづらかったが、私の事を覚えていてくれて、とてもうれしかった。
茜というワードで、私の事を思い出したのか、青ざめた顔をした瑞樹が船着場まで戻って行く。
ちょうどいい。釘をさしておこう。
そう思い、気配を殺し、近づいた。
船のチケットが欲しいらしい。馬鹿な子。
声をかけると、ポーカーフェイスでこちらを睨んできた。怖がってるのばればれよ。お馬鹿さん。
やっぱりあの子は私には逆らえない。
内心の笑いをこらえ、彼のところに行くことにした。

561: ◆sw3k/91jTQ
09/01/04 16:27:27 sIGuX/zK
以上です。
なんかgdgdですみません。
生産力が低いのでスローペースになりますが、お付き合いください。

562:燃料……
09/01/04 16:40:13 5ZFo1qmH
本当に泥棒猫のターン
キタ━━━(゚∀゚)━━━ !!!!!

ここから瑞樹が逆転できるのか、続きにキタイ

563:名無しさん@ピンキー
09/01/04 17:25:50 OJhLUWp/
<<561
この作品の1話目ってどこにある?

564:名無しさん@ピンキー
09/01/04 17:28:15 TeYKFLir
>>563
「思いでの村」でページ内単語検索かけろ
後アンカーの方向が逆だろ
「<」ではなく「>」だ

565:名無しさん@ピンキー
09/01/04 17:31:54 wPX43vda
記憶の操作ってどうやったの? 催眠術?

566:名無しさん@ピンキー
09/01/04 17:32:09 7WGDGjpM
>>562
死ね

567:名無しさん@ピンキー
09/01/04 17:34:54 OJhLUWp/
563です
普通にありましたorz


568:名無しさん@ピンキー
09/01/04 20:52:23 5ZFo1qmH
>>566
お兄ちゃんってば、また勝手に抜け出して!
ほら、お兄ちゃんの居場所まで、一緒についてってあげるから!
URLリンク(changi.2ch.net)

569:傷 (その9)
09/01/05 01:32:20 X9LVBZCy
投稿します。

570:傷 (その9)
09/01/05 01:33:42 X9LVBZCy

「兄さんはどうなのですか? こんなわたしを、迷惑に思いますか……?」

 やぶれかぶれになったわけではない。
 口に出した瞬間、葉月は、自分の言葉が紛れも無い本心であることを知った。
 自分はこの男を愛している。
―そう考えたとき、今まで欠けていたパズルのピースが、音を立てて当て嵌まったのを感じたのだ。
 無論、今までは弥生の冬馬に対するストレートすぎる愛情表現に顔をしかめる立場を取っていた彼女だ。変節とも言うべき心境の変化には、当然ながら葛藤がある。
 だが、五日間の引き篭もりを含む紆余曲折の結果、葉月の心理は、もはや意地を張ることに、あまり意味を見出せなくなっていた。

「迷惑に思うかって……それはこっちの台詞だろうが」
 
 たっぷり二呼吸ほど間を取り、冬馬はぼそりと呟いた。
「おれがいなければ、お前は何も迷うことも悩むことも無く、研究や論文に全力を尽くせたはずだろうが。おれがここにいたことが、結果として、お前を苦しませることに繋がったんじゃねえのか?」

 葉月は何も言えなかった。
 彼の言葉は、確かに一面の真実を突いていたからだ。
 もしも冬馬が、兄として我が家に現れることさえなかったら。
 単なる知人友人として違う出会い方をしていたなら、自分はこんなに苦しまずに済んだに違いない。
―そう思うのは、あまりにも当然だ。
 だが、いま問題とすべきはそんな事ではない。
 そんなことは、いまさら考えても仕方のないことだし、なにより葉月はもう覚悟を決めたのだ。
―行けるところまで行く、と。


「……はぐらかさないで下さい、兄さん」
 葉月の視線は、もはや揺るぎない。
 近親相姦もクソも知ったことか。
 好きな異性と結ばれたい。その想いの、いったい何が間違っているというのか。
 現に姉は、タブーの向こう側にいとも無雑作に足を踏み入れている。姉にできたことが自分にできない道理があるものか。
(わたしは柊木葉月。柊木弥生の妹です!!)
 弥生の名は、葉月にとって現世に存在する唯一の劣等感であるが、それだけではない。彼女自身、“完璧超人”と謳われた弥生の妹であることに、大いに誇りを持っている。

「質問に質問を返すのはマナー違反です。二度は許しませんよ」
「葉月……」
「さあ、答えて下さい兄さん。兄に男性としての好意を抱く妹は、迷惑ですか?」

 冬馬はやがて、太い溜め息をついた。
 葉月の硬い視線から目を逸らすようにして、だ。
「迷惑なわけ、ないだろ」
 だが、そう言い切る彼の表情に、いつもの明るさは無い。
 その事実に、心が折れそうになるのを必死にこらえながら、葉月はなおも食い下がる。
「兄さんの表情は、そうは言っていませんが」
「だって、それは、―当たり前だろっ!!」
 冬馬の口から、ハッキリそれと分かる唾が一滴飛ぶのが葉月には見えた。


「おれたちは兄妹なんだぞ!? 好きとか嫌いとか、そんな感情を抱いていい関係じゃねえだろ!?」



571:傷 (その9)
09/01/05 01:35:15 X9LVBZCy

―来た。
 浮世の正義たる一般論。
 兄を男性として意識する妹にとっては、最初に乗り越えなければならない常識の壁。
 だが、その言葉に反論の余地が無いわけではない。
 そう、近親相姦の禁忌を主張するのが冬馬本人である限り、葉月は彼の常識に言葉を返すことが出来る。なにしろ反論の論拠を実証したのは、柊木冬馬その人なのだから。


「白々しい事を言わないで下さいっ!! 兄さんはかつて、『おれが好きなのは弥生姉さんだ』とハッキリ言ってるじゃないですかっっ!!?」


 呆然と目を見開く兄に、葉月は半ば、凶暴な気分で言葉をぶつける。
「……なんで……」
「何故わたしがそれを知っているのか訊きたいなら答えます。―聞いたんですよ、この耳で。一週間ほど前の早朝に、兄さんが電話の相手にそう言っているのを、ドア越しに盗み聞きさせてもらったんですよ!!」

 いまや葉月の心の内には、あの時の激情がふつふつと甦っていた。冬馬が自分ではなく、姉の弥生を選んだとハッキリ言い切った一言を聞いた瞬間の、我ながらどうしようもない絶望感と屈辱を、いまの葉月は明確に思い出していたのだ。
 無論、その言葉のフォローは弥生から受けている。
―冬馬の言葉は当てにならない。
―あれは、しつこい電話相手を黙らせるための、彼一流の方便だ。
 確かに弥生はそう言った。そして葉月も、その姉の言葉には納得せざるを得ない。
 だがその時、込み上げる歓喜を懸命に押し殺そうとしている光が、姉の瞳に宿っていたのを気付かぬほどに、葉月は鈍感な少女ではない。
(姉さんは、喜んでいる……!!)
 姉が喜ぶのは分からない話ではない。普段の言動から察すれば、むしろ当然だと言えよう。だが、それでも葉月は、そんな姉に殺意すら伴う嫉妬を感じずにはいられない。
 また、たとえ弥生の言う通り、兄の言葉が偽りであるならば、葉月としては、その釈明を、やはり他ならぬ兄本人から聞きたかったのだ。

「おれは嘘をついちゃいないよ」
 冬馬は、ごりごりと頭を掻きながら、そう言った。
 見方によっては、痛いところを突かれて不貞腐れているような口調に聞こえないでもないが、葉月は辛抱強く、引き続き兄の言葉を待った。
 もし冬馬が話の矛先を逸らすつもりなら、葉月が自白した盗み聞きというマナー違反を話題に持ち出し、空気を変えればいい。だが、彼はそうはしなかった。兄は兄なりに、自分の言葉を真摯なものとして受け止め、応えようとしている。―葉月はそう判断した。
 そして冬馬は、煩悶の極限のような表情の末、搾り出すように言った。
「……分かった。泥を吐くよ」

「姉さんのことは嫌いじゃない。客観的に見て、あの人はやっぱり……ふるいつきたくなるようないい女だからな……。でも、それはお前にしても同じだ。あと五年もすれば、お前は姉さんに負けないくらいのいい女になるだろう。―そう思うよ」
「……お世辞ですか?」
 だが、冷たく言い放つ葉月の皮肉にも、冬馬はひるまない。むしろ話の腰を折るんじゃねえと言いたげな尖った一瞥を向ける兄に、妹は黙らざるを得なかった。
「お前にしても、姉さんにしても、おゆきや千夏にしてもそうだ。―この四人は特別なんだよ、おれの中じゃあな。だから、柊木冬馬としては、お前の女性としての魅力が、弥生姉さんに劣っているなんて言うつもりはないんだ。あくまでな」
「…………」
「だから、姉さんの存在を口実に、お前の気持ちに応えられないとか、そんなことを言う気は無いよ」
「……どういうことですか」
「だから―おれは、女とは付き合えないんだよ。姉だったらOKで妹ならNGだとか、血縁ならNGで義理ならOKだとか、そんな下らねえ事を言うつもりは無いんだ。地球上のどんな女にアプローチをかけられても、おれにはその好意に応えられない理由があるんだよ」

 そこまで聞いては、いかに葉月といえど、気付かざるを得ない。
 兄は、尋常な人間だ。変わり者の部類に入ると言えば入るだろうが、それでも世間並みには、充分に“普通”の範疇に入るであろう人間だ。だが、彼の過去は尋常ではない。
「―まさか、トラウマですか……虐待されたときの……?」


572:傷 (その9)
09/01/05 01:41:24 X9LVBZCy

 冬馬の目の色が、その一瞬で変わった。
 彼が虐待の経験者であるということは、肌の無残な傷痕を見ればバカでも分かる。
 だが、その傷痕が“性的虐待”の痕跡であることは、事前に情報を知っていなければ、すぐに結びつけるのは難しい。彼の全身に刻まれた傷は、傍目に見て、セックスを基本とする性的虐待など、とても連想できないほどに無残極まりないものだったからだ。
 そして、冬馬が柊木家に於いて、過去の虐待の具体的内容を語った事実はない。
 つまり―。

「誰から聞いた?」
 さっきまでとはまるで別人のような冷たい声が、彼の口から飛ぶ。
 その迫力に、葉月は反射的に口をつぐんだ。
 だが、冬馬とて鈍重ではない。葉月が口篭もった数瞬の間に、たちまち正解に辿り着いた。
「なるほど……千夏のやつか。なら、弥生姉さん経由のネタってところか」
 葉月としては、俯かざるを得ない。

 いままで柊木家においては、冬馬の過去―それも虐待に関して、直接的に言及することは控えられてきた。父も母も姉も、そして自分も、その肌の傷痕についての質問を冬馬にしたことが無い。それが家族としての気遣いだと信じていたからだ。
 だが―知っていたのに、あえて知らないフリをしていたというなら話は違う。知らないフリというのは、捉え方によっては明確な嘘であり、欺瞞であるからだ。
 そして、その事実がアッサリ露見してしまった今、少なくとも葉月の抱く気まずさは、それまでの流れの攻守を入れ替えてしまった。追求する側に冬馬が立ち、葉月は劣勢に立ってしまった。……少なくとも葉月の心中には、それまでの攻撃性は跡形も無く消失してしまっていた。
 だが、


「なんだよ……知ってるんなら、話は早えじゃねえか」


 そう呟いた兄の声は、先程の質問の鋭さはまるでない、飄々としたものだった。
―え? 
 と、言わんばかりの表情で葉月が顔を上げると、兄は、拍子抜けしたような顔で、冷蔵庫のドアに歩み寄るところだった。
「どこまで知ってる?」
 きんきんに冷えたトマトジュースのスチール缶を一本取り出しながら、冬馬は訊く。
 冷蔵庫の位置的に、彼がどんな表情で、その台詞を吐いたのかは分からないが、少なくとも葉月には、その声と背に緊張の様子は見えない。

「兄さんと千夏さんを引き取ったのが、―あの芹沢家だったということは聞きました。ですが、そこで兄さんが、どういう虐待を受けたのかまでは知りません」
「なるほど」
 プルタブを押し開け、そのまま缶ビールでも飲む父のような姿勢で、冬馬はトマトジュースを一口飲む。
「ん~~~~デルモンテもいいけど、やっぱトマトジュースはカゴメだよね」
 冬馬の表情には、一点の曇りも無い。
 だが、葉月としては、カゴメだよねと言われても『そうですね』と答える状況には無い。

「おれも千夏も非道い目にあったよ。色々とな」

 カゴメだよね、と言ったまったく同じ表情で、冬馬はいきなり切り出した。
「以前、墓参りの時にした話と同じだ。暗くて長くて、ひたすら救いの無い話だ。まあ、お袋が親父を刺した話よりも、少しだけこっちの方が……ひどい、かな」
「…………」
「だから、お前が知っているなら、それはそれで構わねえんだ。むしろ、くどくど詳細を説明する手間が省けるってもんだ。だから―」
 冬馬はそこで言葉を切ると、冷蔵庫からトマトジュースをもう一本取り出し、葉月に放り投げた。
「だから、そんなツラすんなって言ってるのさ。知らねえフリしてた事に罪悪感を覚える必要はないって言ってるんだよ」
 そう言って、冬馬は笑った。



次ページ
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch