09/04/04 16:01:24 iQ5B/5Gm
保守ついでに小ネタ つかこんな2レスネタばっかですまんこ
町へ向かう街道を闊歩する、一頭の荷馬車。
前の町を発ってから3日が過ぎ、それまで視界の片側をさえぎっていた森がようやく途切れたのが昨日の事。
御者台の上で手綱を握るロレンスは、目の前の平原にある緩やかな丘をあと5つも越えれば次の町に着く、と
大分先が見えてきた旅路に一つ安堵の溜息をついた。
「なぁぬしよ、次の町はもう近いのかや?」
そんなロレンスに声をかけるホロは、先刻からやけにそわそわとして落ち着きが無い。
糧食に持ったライ麦のパンに、初日から文句をつけていたホロの事だ、町への到着を待ちわびているのは
ロレンスにもよく分かる。しかし、今日のホロの様子はどうもそれだけでは無い気がした。
そこで、ロレンスは残念ながらという言葉を頭につけてから答えた。
「あと、丸1日はかかるな。着くのは明日の夜か、その次の日の朝になると思う。」
「そうかや……」
ホロは心底残念そうにうつむき、それからしばらく押し黙ってしまった。
体調でも優れないのだろうか?ロレンスが横目に見るホロは、うつむき唇を真一文字に結び、両の手は
太ももの上で固く握られていた。
ロレンスは思考をめぐらせる。朝方は特にこんな調子では無かった。そして、ついさっきまでもホロは
気分良く酒を飲んでいたはずだ。
となると、酒を飲んで揺られたせいで気持ち悪くなったとか?
しかし今までの経験からすれば、この程度の……いや、むしろ良く舗装されている方であるこの道で、
乗り物酔いするというのは考えにくかった。
ロレンスはあごに手をやり、他に原因を探す。しかし、程無くして袖が引っ張られて視線を移すと、そこには
切実な表情で何かを指差すホロの姿があった。
「すまぬが、ちょっと川べりの方に行ってくれんかや?」
ホロは街道の外れに流れる川を指差していた。
「具合でも悪いのか?」
ロレンスの不安はどんどんと増していく。慌ててうつむくホロの顔を覗き込むと、
恥ずかしそうに眉尻を下げ、顔を赤く染めていた。
その姿にようやく一つの可能性が頭をよぎり、小さく「あっ」と声を漏らした。
そして、それが正解である事をホロが告げる。
「すまぬ……もよおしてきた……」
森の中や、平原でも多少の木や背の高い草むらがあれば、用を足す事に不自由しない狼の娘も、
さすがに八方見通し全開の平原のど真ん中では恥ずかしいのだろう。男のロレンスだって気が引けるくらいだ。
ロレンスは「分かった」と頷き、馬車を急いで、慎重に川に向かって走らせた。