☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第89話☆at EROPARO
☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第89話☆ - 暇つぶし2ch2:名無しさん@ピンキー
08/11/19 22:36:33 9krqs/l6
【前スレ】
☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第88話☆
スレリンク(eroparo板)

【クロスものはこちらに】
 リリカルなのはクロスSS倉庫
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【書き手さん向け:マナー】
 読みやすいSSを書くために
 URLリンク(jbbs.livedoor.jp)

【参考資料】
 ・Nanoha Wiki
  URLリンク(nanoha.julynet.jp)
  (用語集・人物・魔法・時系列考察などさまざまな情報有)
 ・R&R
  URLリンク(asagi-s.sakura.ne.jp)
  URLリンク(asagi-s.sakura.ne.jp)
  (キャラの一人称・他人への呼び方がまとめられてます)

☆魔法少女リリカルなのはエロ小説☆スレの保管庫
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 URLリンク(wiki.livedoor.jp)   (wiki)







3:名無しさん@ピンキー
08/11/19 22:43:05 9AHcvSht
兄貴ぃーーーーー>>1

4:名無しさん@ピンキー
08/11/19 23:36:05 of5lOzZg
スレ立て乙です
しかし、そこはせめてデートを断られた回数とかにしてやっておくれよぉぉぅ!!!

ともあれ、89スレ。次でとうとう90。卒寿ですよ、目出度いですね
そしてシガー氏とアルカディア氏とB・A氏の投下を全力で待ってるぜ!

5:アルカディア ◆vyCuygcBYc
08/11/20 00:10:05 qiZQhfzT
では、先鋒、参ります。

「伊達眼鏡と狙撃銃」

 注意事項
・ザ・シガー氏原案の短編連作『ソープ・ナンバーズ』シリーズからのスピンアウトです。
・長編一部、微エロ描写有り。シリアス気味。エロ描写は基本薄め。
・ネトラレ気味な描写とかも有るので、苦手な方はご注意を。
・NGワードはトリップでお願いします。
・原作『ソープ・ナンバーズ』からの設定改変、こじつけ解釈の部分も存在します。
・原作者のザ・シガー氏に最高の敬意を表して――

*エロ描写は、このスレの普通のエロSSが普通のエロ漫画位だとすると、レディコミ位だと考えて下さい。


6:伊達眼鏡と狙撃銃3話 1/8 ◆vyCuygcBYc
08/11/20 00:11:01 debkKLuM
 白い女の裸身に、男の指が這う。
 女の体は、バストやヒップには美しい均整を保ちながら豊満な厚みを湛えているのに、括れたウエストは抱きしめれば折れてしまいそうな程細い。
 およそ、男として産まれ落ちた者は誰しも一度は抱いてみたいと憬れる、極上の肉体。
 男は、それを貪るように蹂躙する。
 その掌に収まりきらないサイズの乳房を揉みしだき、尻を持ち上げ、秘された部分を愛撫する。
 男の指動きは澱み無く、胸をまさぐる手つきだけ見ても、彼の今迄の女性遍歴が透けて見えるかのようだった。
 その熟練の愛撫に呼応するように、女の体が跳ね、その喉からは嬌声が漏れる。
 まるで、男が女の形をした楽器を演奏しているようだ。

「グリ…フィス、さ、ん――」

 女が助けを求めるかのように、男に手を伸ばす。――男はその手首を掴んで、ベッドに押し倒した。
 何か言おうとして開きかけた唇を己の唇で塞ぎ、そのまま舌を絡ませる。
 その感覚に恍惚としかけた女の瞳が大きく見開かれた。唐突に、男が深く深く己の裡に侵入したのだ。
 ――驚愕は一瞬、すぐに女の全身を快楽の洪水を襲い、忘我の境地に到る。
 ……薄暗い部屋の中、男が女を組み伏せ蹂躪する様は、肉食獣が容赦なく獲物を喰らうようなおぞましさがあった。

 ――此処は『ソープ・ナンバーズ』ただ一晩の春を求めて男達が集う、ミッドチルダの不夜城―― 

 
『伊達眼鏡と狙撃銃』 第三話:はじめてのおつかい 


「もう、グリフィスさんったら非道いです! あたしがいくら待って、って言っても全然止めてくれないんですもん」
「はは、ごめんごめん。暫く来れなかったから、ちょっと熱が入りすぎちゃったかな?」

 拗ねて見せるディエチに苦笑いをして、グリフィスは頭を掻いた。

「……それに、半分は君がいけないんだよ、ディエチ」
「――え?」
「君みたいに素敵な女の子に出会ったのは、本当に初めてなんだ。途中で止めろって言われたって、出来る筈が無い」

 グリフィスは眼鏡越しに柔らかく笑って、ディエチをそっと抱き締めて額にキスをした。
 ディエチは何も言い返せず、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
 もごもごと居心地悪そうに「そんなこと言って、誤魔化されませんよ……」とだけもらす。
 グリフィスは破顔して、幼い子供をあやすようにディエチの頭を撫でた。

「そう言ったって、君も随分楽しんでたじゃないか。ほら、ここもこんなに――」 

 その言葉に、俯いているディエチの耳が真っ赤に染まる。
 足繁く通った甲斐あって、彼女は随分初々しく可愛らしい反応を見せるようになった。
 初めて抱いた時の、どうしていいか判らずおろおろし、不安げな目つきで見上げてきた態度が嘘のようだ。

「君は本当に可愛いよ、ディエチ」

 グリフィスは胸中でほくそ笑む。この娘は、本当に思わぬ収穫だったのだ。
 巨根向けという触れ込みだったので、籐が立ったガバガバの娘だろうと思っていたが、擦れたところの全く無い初心な娘。
 それも抱き心地も中の具合も最高の上玉。縋るような上目遣いが嗜虐心をそそる、最高にグリフィス好みの娘だった。

「ねえディエチ、これが終わったら二人で食事にでも行かないかい? 夜景の綺麗のレストランを見つけたんだよ」

 混じりっけの無い善意をその顔に貼り付け、グリフィスは優しく微笑んだ。幾人もの女性を虜にしてきた伝家の宝刀だ。
 だが、ディエチは悲しげに顔を曇らせた。

「ごめんなさい、今夜はまだお仕事が――」
「ああ、済まない、僕が無神経だったね。また誘うよ。君が暇な時に、二人っきりで」

 グリフィスはしゅんとして下を向いた。
 ――勿論、彼女のスケジュールなんてとっくに知っていたのだけれど。

7:伊達眼鏡と狙撃銃3話 2/8 ◆vyCuygcBYc
08/11/20 00:12:34 qiZQhfzT
 がっくりと肩を落すグリフィスの姿は寂しげで、如何にも女性の庇護欲をそそるような有様だった。
 今迄楽しげに談笑していたグリフィスが悲しげに俯いている姿に、ディエチは罪悪感を覚える。

「ごめんなさいグリフィスさん、折角誘ってくれたのに――」
「いや、いいんだ。僕が軽率だったよ。大丈夫、この位じゃ僕の気持ちは変わったりしないよ」

 ディエチを元気付けるように笑みを浮かべ、ガッツポーズを作ったグリフィスだが、その表情から寂しげな色は消えなかった。
 居た堪れなくなり、ディエチは瞳に涙を浮かべてグリフィスに抱きついた。

「ごめんなさいグリフィスさん――あたしを、いやらしい女だと思わないで……」
「馬鹿なことを言わないでくれよ。誰が思うものか。
 この仕事が、君の姉妹達との絆だということは、僕も十分理解しているつもりだよ。
 ……でもね、その、男って、とっても嫉妬深い生き物だから――
 君が、僕以外の男の抱かれるのかと思うと、悔しくてどうにもならなくなる時があるんだ。
 僕を、嗤ってくれよ。狭量な男だって――」

 ディエチは、グリフィスの腰に顔を埋めるように抱きつき、声を押し殺してすすり泣いた。
 機動六課の実質上のNo.2であるグリフィスは、彼女達ソープ・ナンバーズの事情もかなり深い部分まで知っている。
 そう、末妹達では知りもしないような部分まで。……尤も、知っていた所で最早何の価値もない事情なのだけれど。
 彼女達は、例えるならば温室の花だ。外の世界を知らず、美しく大輪の花を咲かせている。
 だが、一度寒風吹き荒ぶ外気に晒されれば、忽ち枯れ果てる脆弱な花だ。
 彼女達は、ここでしか生きていけはしない。

「僕は時々、馬鹿な事を考えてしまうんだ。君を攫って逃げたしたい、どこか遠くで、君と二人で暮らせる場所を探して旅立ちたい、ってね。
 はは、本当に馬鹿みたいだろう?
 君の幸せは、ここで君の姉妹達と一緒に暮らすことなのに、僕の我が侭で君を攫ってしまいたい、なんて思ってるんだ」

 グリフィスの瞳から、涙が零れた。透明な涙だった。
 ディエチは、顔をくしゃくしゃにしてグリフィスを強く抱き締めた。

「あたしだって、貴方一人の女になりたいっ! どこか遠くで、貴方と二人で暮らしたいっ!
 グリフィスさん、あたしを連れて行ってっ! 遠くに、二人っきりで暮らせるどこかに!
 もう、ドクターも、姉妹のみんなも、誰もいらないっ! グリフィスさんだけ居てくれればいいっ――」

 グリフィスは、驚いたようにディエチの顔を見つめて言った。

「ディエチ、そんな軽率なことを言ってはいけないよ」
「グリフィスさん、あたしは本気です――!」

 グリフィスは真剣な顔でじっとディエチの瞳を見つめていたが、ふっ、と柔和に微笑んで、一枚の画像データを取り出した。
 ディエチはそれを覗き込んで歓声を上げた。

「わあ、素敵なお船」
「僕の家のボートなんだ。外海でも平気な頑丈な作りをしていてね。
 ……約束するよ。いつか君を攫って、この船で連れていくって。僕と君の、二人の楽園へ」
「――グリフィスさんっ……」

 堕ちたな、とグリフィスは胸中でほくそ笑んだ。
 これまでも何人もの女を食い物にしてきたが、ディエチは過去喰い潰してきた女達と同じ瞳をしていた。
 崇拝の目。これから先、彼女は犬より従順にグリフィスに従うことだろう。ゲーム・クリアだ。
 こうなってしまえば、女に大した楽しみはない。確かに体は極上だが、あと数回抱けば飽き果てるだろう。
 それより、もっと刺激的な楽しみ方がある。
 所詮は温室の花、外の世界に憬れたとて、独りでは生きる術など持ちはしまい。
 姉妹達と離反させ、外の世界に連れ出して――何処か異郷の地で、襤褸布のように、塵屑のように捨ててやろう。
 温室育ちのお嬢様が、路頭に迷う様が目に浮かぶようだ。
 売女風情が、キャリア街道を真っ直ぐに進むこの自分に釣り合うとでも思ったのだろうか。
 どこかの世界の、貧民街の娼館近くにでも捨ててやろう。あのナリだ、3日もせずに襤褸襤褸になるだろうが、まあ売女にはお似合いだ。
 ――詰まるところ、グリフィス・ロウランとは、そのような男なのだ。
 想像するだけで、楽しくて堪らない。その日が待ち遠しくて堪らない。
 ……明日は、駄菓子程度に仕込んでおいたあの娘の所にしけこもう。そんなことを考えてながら、グリフィスは優しくディエチの頭を撫で続けていた。

8:伊達眼鏡と狙撃銃3話 3/8 ◆vyCuygcBYc
08/11/20 00:13:21 debkKLuM
「クアットロ、機動六課まで少しお使いに行ってくれないか?」

 その一言が、事の発端だった。
 彼女達の父、ジェイル・スカリエッティが気紛れに命じる些細な『お使い』。
 スカリエッティを信仰しているクアットロにとって、その命に従うのは至極当然の話だ。
 彼女は、死ねと言われれば即座に自刎する程にスカリエッティを信仰している。
 
「どうか往けと命じて下さいな、ドクター。貴方の命とあれば、如何なる苦行も厭いませんわ」
「愛しいクアットロ、君は聡明なのに、この話となれば何時だって依怙地になるんだね。
 何度も言っているが、私は君達と単なるマスターとスレイブの関係には成りたくないんだよ。
 あくまで人として、君達と付き合っていきたいんだ」
「なら、私だけでも。――私はいつまでも、貴方の僕ですわ、ドクター」

 スカリエッティは嘆息して肩を竦める。この話がこれ以上進展した試しが無い。早々に切り上げ、本題に入ることにした。
 彼は、一枚の大きく分厚い封筒を取り出した。厳重に封が為されており、どこか物々しい雰囲気を醸し出している。

「なに、簡単な仕事だよ。機動六課に赴き、隊長の八神はやてに一等陸尉にこの封筒を手渡してくれればいい。
 先方から何か渡されたなら持って帰ってくれ。楽な仕事だろう? 休日だと思って、のんびり行ってきてくれればいいんだ。
 ――ああ、くれぐれも封筒は開封しないように頼むよ。それだけ守ってくれれば後は好きにしていい」

 開けるものか、とクアットロは思う。スカリエッティの命令は彼女にとって絶対だ、万に一つも違える筈も無い。
 それに、あの封筒の中身は、きっと自分にはもう何の関係も無い代物だという奇妙な確信があった。

「質問を、宜しいでしょうか? ドクター」
「ほう、興味深い。何なりと尋ねてくれたまえ」
「……何故、今回に限って私が仰せつかったのでしょうか? 
 このような重要書類の配達は、今まではウーノ姉様かドゥーエ姉様だけが任される、大切なお仕事だった筈ではありませんか?」

 スカリエッティは、器用に片方の眉を吊り上げて、意味ありげな笑みを浮かべた。

「勿論、君がこの仕事を任せるに足る有能さを持っているからだよ。
 ――それにほら、君、最近色々ストレスが溜まってるみたいだからね。外の空気でも吸って、気分転換でもしたらどうかと思ったのさ」
「……無用な心配をお掛けしたようで、申し訳御座いませんわ、ドクター。
 私は常に万全たることが出来るように、自己管理は入念に行っておりますので――」

 スカリエッティは彼女の言葉を掌で遮ると、金の眼を細め、くつくつと陰鬱に笑った。

「虚勢を張っているのか、それとも自分では気付いていないのか。さてさてどちらにしても興味深いね、これは……」
「ドクター、私は本当に――」
「ああ、君に思う処があるのなら、それは言葉ではなく是からの行いで証明してくれたまえ。
 学問とは机上の空論ではなく、生きた実学でなければ面白くないからね。
 兎に角、君はこの封筒を届けてくれさえすればそれでいいんだ。
 その他のことは私は一切関知しない――ということで良いだろう? では、宜しく頼むよ、私の可愛いクアットロ」

 クアットロは不満げな表情を押し殺して、にっこりと笑顔で封筒を恭しく受け取った。

「謹んで承りますわ、ドクター。この書類は、必ずや私が不備なく不足なく配達致しましょう」
「――ああ、宜しく頼むよ」

 どこか儀式めいた、事務的なやり取り。別れの挨拶を適度に済ませ、二人は踵を反して帰途に着く。
 背中越しに、スカリエッティの問いが響いた。

「クアットロ、君は今の私を軽蔑するかい? 大勢に与し初心を失った残骸、とね」
「全くもって有り得ませんわ、ドクター。貴方の選択は完全に正しいものでした。
 私達はここで、新たな生き方を模索すればそれでいい。
 ――それに、今時総力戦の殲滅戦なんて、騒々しいだけでちっとも美しくありませんもの」
「……そうか。この問いに答えたのは君が最後だよ、クアットロ。そして、これで回答は全員一致だ。
 これで私は心置きなくソープランドの経営を楽しむことができる――」

 スカリエッティは笑った。大魚を逃してしまった少年のように少し寂しそうな、それでいて邪気の無い晴れ晴れとした笑顔だった。

9:伊達眼鏡と狙撃銃3話 4/8 ◆vyCuygcBYc
08/11/20 00:15:09 qiZQhfzT
 与えられた任務は、恙なく終わった。
 部隊長に面会を許されるまで盥回しにされることも、延々と待たされることも覚悟していた。
 だが、予めアポイントが通っていたらしく機動六課に到着した途端、小さな空曹長に捕獲され、引きずられるように隊長室まで連行されたのだ。
 機動六課はフレンドリーな雰囲気な部隊だとは聞いていたが、ここまでだとは前代未聞である。
 形式ばった挨拶も程々に、書類の受け渡しなど5秒で済んでしまい、クアットロのミッションは完全にコンプリートされてしまった。
 気合を入れて、朝早くから出てきた自分が馬鹿みたいだった。
 その上、『折角だから、ゆっくり機動六課を見学して下さいですぅ』と、限りなくフリーパスに近い通行用のIDまで頂戴してしまった。
 正午は、まだ遠い。
 手持ち無沙汰になって、隊舎をうろうろと見学してまわったが、何処も彼処も和気藹々とした雰囲気で溢れている。
 とても、軍籍の下に位置するだろう組織だとは思えない。

(……これなら、うちの妹達なら一日で攻め落とせるわよ)

 そんな、剣呑な事を考えながら、当て所なく隊舎をぶらつく。

「うわっ、誰!? 今のあの美人!?」

 曲がり角の向こうで、又してもそんな叫びが上がった。
 ――さっきから、妙に擦れ違う男達の視線を集めている気がしてならない。
 今日のクアットロは髪を下ろし、一片の隙も無いスーツで身を包んだ外交用のOL姿だ。縁の無いシャープな眼鏡が、彼女の知的な面を強調して見せている。
 彼女に目を惹かれる男は少なくないが、当のクアットロはそんな男達を気にもかけず、訓練場に面した窓を覗いていた。

〝Knockout by buster. After that, arrests it"
「ほらほら、みんな、足を止めると直撃だよ~~~っ!!」
「「ひいぃいぃぃぃぃっ!!」」
「……………………」

 ――クアットロの中で機動六課の戦力評価が随分と上昇し、敵対を由としなかったスカリエッティの決断を高く評価したことを追記しておく。
 さて。
 特にこれといった出来事もなく、平穏無事に午前中の見学を終えたクアットロは、昼食を摂る場所を探して六課の裏庭を歩いていた。
 昼食は予め用意していたパン一つ、彼女にとってはこれで十分である。
 問題なのは日差しだ。夜の世界に住んで久しく、直射日光の眩しさがこんなに堪えるものとは思ってもなかった。
 男性職員に声をかけられるのが鬱陶しくてラウンジから出てきたが、失策だっただろうか……?
 胡乱にそんなことを考えていると、茂みの向こうに人の気配を感じた。

"The load by the silhouette control increases"
「まだこらえて。一気に撃つわよ……」
"All right.Barret V and RF"

 空中に浮かぶ魔力弾が一斉に解き放たれる。
 彼女の顔は資料で確認している。確か――ティアナ・ランスターだ。
 つい先ほども教導で高町隊長に追い回されていたのに休憩時間まで自主練とは、熱心なことだ。
 機動六課、常軌を逸して和気藹々とした部隊ではあるが……決して、緩い部隊ではないらしい。二度、三度と射撃魔法が繰り返される。
 誘導弾の数も、精度も、悪くない練度だ。これなら直ぐに実戦に出ても活躍できることだろう。
 だが、それ以上に目を惹くのは、時折彼女が出現させる幻影魔法だ。
 ……同じ幻影使いとして、その、中々興味深い。
 彼女は幻影使いとしても優秀のようだ。簡易スフィアを使用して回避訓練を行っているが、彼女の偽装能力には不釣合いだ。
 最低限のAIしか搭載されていない簡易スフィアなど、簡単に騙し通せてしまうのだが、彼女自身それを自覚し、より高いレベルの仮想的を相手にしている。
 とても優秀には違いないが、それでもクアットロからみればまだ詰めが甘い。
 若く、純粋過ぎる。偽装し敵を撹乱する、老獪さというべきものがティアナには欠けているのだ。
 ティアナは、自分の限界に挑戦するかのように、空中に誘導弾射出の為のスフィアを多数形成している。幻影と織り交ぜての一斉射撃を行うつもりだろうが――

「……虚実が判り安すぎるわね」

 気が緩んだのか、ぽろりとそんな感想が口から零れ落ちた。

「えっ――!?」

 そこで初めてクアットロに気付いたティアナが振り向く。集中が途切れたのか、制御を失った誘導弾が一つ、クアットロに向けて射出された。


10:伊達眼鏡と狙撃銃3話 5/8 ◆vyCuygcBYc
08/11/20 00:16:29 qiZQhfzT
「本っっっ当にごめんなさい! お詫びがこんなことで申し訳ありませんが、ここはあたしに奢らせて下さい!」 
「こちらこそご免なさいね。練習のお邪魔をしてしまって。こうして大事も無かった訳だし、そんなに畏まられたら困っちゃうわ」

 数分後、彼女達は六課のカフェラウンジで小さな卓に着いていた。 
 クアットロは前髪の先端が少々焦げてはいるものの、特に問題は無いようだ。
 ――木陰からティアナの様子を観察していたクアットロである、制御から零れた誘導弾の一つを避ける程度は容易であった。
 尤も、以前のスバルへの誤射を気にかけていたティアナはそうはいかない。
 只管に恐縮し、クアットロに頭を下げている。クアットロにとっては、どうにも居心地が悪い状況なのだ。

「いえ、これも全てあたしの未熟が招いた事です……、お詫びくらいはさせて下さい」

 しゅん、と肩を落として小さくなるティアナの姿に、クアットロは微笑ましさを覚えてくすりと笑みを漏らす。
 意志の強そうな瞳、利発そうな喋り方。

「本当に気にしないで。私が後ろから驚かせてしまったのが全ての原因なんだから」 
「お恥ずかしい話なんですけど、あたし、前にも仲間を誤射してしまいそうになった事があって。
 それ以来、誘導弾の制御には気をつけていたつもりなんですけど――今日は調子が良かったんで、つい調子に乗っちゃって……」

 きっと、若さに任せて失敗も苦労もして、時には肩肘も張って、それでも前を進んでいく健全な少女。
 クアットロは、羨ましさを己の裡に収めて、あくまで年長者として余裕を見せつつティアナに接する。

「ティアナさんぐらいの齢で、それだけの射撃魔法が扱える魔導師なんてそうそういないわ。
 流石は彼のエース・オブ・エース、高町なのはの愛弟子ね」
「とんでもありません! あたしなんて隊長方から見ればまだまだヒヨコみたいなもので……。
 なのは隊長なんて、9歳でAAAランクの実力を持っていたそうですし、あたしみたいな凡人なんて、比較の対象にもなりません。
 ――あの、クアットロさんも随分魔法の事情にお詳しいようにお見受け致しますが、教導隊かどこかにいらっしゃったんですか?」
 
 クアットロは苦笑する。使われること無く終わり、永遠に忘れ去られる筈だった知識が、こんな所で話の種となるとは。

「そんな大したものじゃないのよ。……昔、少しだけ部隊指揮をしたことがあっただけ。
 小さな部隊だったわ。でも結局まともな実戦経験を積む前に解散になっちゃって。
 張り切って色々勉強してたんだけど、それで全部パー。今のあたしは、昔取った杵柄でちょっぴり頭でっかちの一般人よ」

 何か思う所があるのか、ティアナはクアットロの言葉を神妙な顔で聞いていた。

「私もちょっぴり幻影を勉強したことがあって、それで懐かしくなっちゃって。
 それで、つい声をかけてしまったの。本当にごめんなさいね」
「――“虚実が判り安すぎる”って、クアットロさん仰りましたよね。あれ、どういう意味なのか、宜しければ教えて戴けますか?」
「……――」

 一拍の沈黙。クアットロはいまだ手付かずのコーヒーをスプーンで掻き混ぜながら、ティアナに問い返した。

「ティアナさん、幻影を創る時、どんな事を心がけてる?」
「虚を実に、実を虚に、です」
「そう。幻術の基礎にして奥義ね。それは、とても正しいわ。でもね――」

 クアットロは、手元のコーヒーに、つ、とミルクを垂らした。
 ゆっくりと、黒いコーヒーの水面に白いミルクが渦を巻く。陰陽の太極を描くように。

「だからこそ、ここの隊長格のような高位の魔導師なら、幻術と判った次の瞬間に、どれが虚でどれが実なのか、その未来位置を予測できてしまう。
 そう、このコーヒーを眺めていれば、次に何処にミルクが流れるのか判るように。
 “虚を実に、実を虚に”を単調に繰り返すだけでなく、次に虚を映すべき場所に実を移すような、更なる先読みが必要なのよ」

 彼女はスプーンを留めることなくコーヒーを掻き混ぜる。
 次第に、コーヒーとミルクは渾然一体と化して茶色い液体へと変化していく。

「それを繰り返して、どこか虚でどこか実なのか、誰にも解らない域まで高めるのが幻術の深奥。
 ――なんちゃって、偉そうなこと言っちゃったけど、これも私の幻術の先生からの受け売りなの。私だって出来はしないのよ」

 そう照れくさそうに笑って、クアットロは舌を出した。 

11:伊達眼鏡と狙撃銃3話 6/8 ◆vyCuygcBYc
08/11/20 00:17:03 qiZQhfzT
 呼吸まで止めて話に聞き入っていたのか、ティアナはぷはぁ、と大きく息を吐いた。
 彼女は目を輝かせて尊敬の眼差しでクアットロを見つめ、大きく頭を下げた。

「ありがとうございますっ! とても良い勉強になりましたっ! 
 クアットロさん、凄いですよ! 今の説明もとても解り易くて、“出来る大人の女”って感じで格好いいです!」

 そして、ティアナは声のトーンを落とした。

「……あの、内緒話なんですけど……本当は、あたしみたいな下っ端が言っちゃいけないことないですけど――。
 この機動六課って部隊はヘンな所ばかりなんです。
 隊長達も副隊長達も、みんな揃ってSランククラス、類を見ないぐらいの大戦力を保有しているんですが、その癖仕事が少ないんです。
 陸への出向や、救助活動の手伝いとか時々あるんですけど、機動六課単独の任務が殆ど見当たらないんです。
 これじゃあ宝の持ち腐れっていうか――あ、あたしとしては、自分を鍛えてもらえるので全然文句は無いんですけど――。
 きっと、管理局のお偉いさんから直接繋がってる、隠された任務があると思うんです……」

 本当に、この少女は、頭がいい。
 クアットロは舌を巻く。そして、彼女が次に言うだろうことも容易に予想できた。

「もしかしてクアットロさん、その、上からの連絡員だったりします?
 魔法資材メーカーの方だってお聞きしましたが、物腰といい、目の付け所といい、とても資材メーカーの方には見えません」

 ティアナは、悪戯っぽい上目遣いでクアットロを見上げた。
 勿論、本当にクアットロが密命を帯びた連絡員なら首を縦に振る筈も無い。すぐに冗談として流すつもりだろう。
 ……それ以前に、今の彼女は只のソープ嬢なのだが、それこそティアナに告げられる筈も無い。クアットロも冗談で反した。

「――よくぞ見破ったな、小娘! 知られたからには生かしてはおけぬ~~~」
「きゃ~、大変。殺されちゃう前に、誰かに手紙を残さなきゃ! ……ふふふ」
「あはは」
「あははははははっ!」

 見つめあい、破顔して、二人で肩を竦めて笑いあった。
 クアットロは、ティアナを微笑ましく思うと同時に、どこか自分に近しいものを感じていた。
 例えば、ロジックを積み立てて物事を判断する思考法。例えば、素直になりきれず肩肘張ってしまう不器用な生き方。

「あたし、執務官になるのが夢なんです。まだまだ未熟ですが、執務官の試験に合格して、一線で働けるようになりたいんです。
 ポジションはセンターガードなんですが、視野を広く持って戦況を判断するのがまだまだ苦手で……。
 普段は見栄張ってクールぶってるんですけど、実はすぐに頭に血が上ってカッとなっちゃうんですよね」

 照れくさそうに、ティアナは頭を掻く。――ほら、やっぱり私に似ている。

「私はポジションで言うならフルバック担当だったんだけど、ツーマンセルでセンターガードの砲手の観測手を務めることもあったわ。
 確かに辛いポジションよね。戦況を読みながら仲間に指示を出す。自分の判断が仲間の生死を分けることもあるんですもの」

 ティアナは驚いて身を乗り出す。彼女は一枚のカード――待機状態のデバイスを取り出した。

「クアットロさん、観測手もされてたんですか!?
 これがあたしのデバイス、クロスミラージュです。基本形態がさっきの拳銃形態で、第二形態では近接戦闘用の魔力刃が伸びます。
 ――第三形態が狙撃銃形態なんですが、まだあたしの手に余るんで封印中なんです。
 本当は狙撃も練習したいんですが、狙撃は初心者は観測手とツーマンセルで行うらしくて。
 今の相棒はフロントアタッカーで観測手というタイプじゃないので、練習に移れるのは当分先のことになりそうです。
 ……あーあ、クアットロさんみたいな方が観測手として指導して下されば、凄っごく心強いんですけどね」

 一瞬だけ、夢想してしまった。――狙撃銃を構えるティアナと、観測手として隣に立つ自分の姿を。
 クアットロはコーヒーを口に運び、無意味な妄想を打ち消す。それは、自分には似合わない昼の世界だ。
 
「クアットロさんって、不思議な方ですね。何でも相談できちゃうんですもの。
 あたし、初対面の人にこんなに色々なことを喋っちゃったの初めてです。
 ――あたしも、クアットロさんみたいな格好良い大人な女の人になりたいです」

 一瞬だけ、クアットロの仮面が凍りついた。いけない。それだけは。なにがあっても。

12:伊達眼鏡と狙撃銃3話 7/8 ◆vyCuygcBYc
08/11/20 00:18:51 debkKLuM
 ティアナは恥ずかしそうに笑って俯いている。
 クアットロは、自分がこの少女に魅せられていることをはっきりと自覚した。
 その理由は明らかだ。
 クアットロが心の奥底に抱きながらも、自分には必要ないものとして封印してきたif。
 
『もし自分が、普通の少女として生を受け、昼の世界に暮らしていたらどんなだっただろう?』

 という空想を、形にしたかのような少女だったからである。
 
『――クアットロさんって、不思議な方ですね。何でも相談できちゃうんですもの』
 
 彼女にとっては、ティアナこそ不思議な少女だった。普段は固辞して去る筈の所をお茶に付き合い、歓談を楽しみ、見栄を張って講釈を垂れ――。
 いつしか、自分の歩めなかった道を歩む自分の姿を、ティアナに重ねていた。
 ティアナは聡明で、不器用で、可愛らしく、微笑ましく、――直視が出来ない位、眩しい少女だった。
 内心を激しく揺られていることを隠しながら、クアットロは平静を装って他愛無い談笑を続ける。

「そういえば、ここには狙撃の専門の方が居ないわね。
 高町隊長は最高に優秀な砲撃手だけど、狙撃とは少し趣が違うようだし……」

 ティアナは、頬を染めて慌てたような仕草を見せた。

「その、元狙撃手の方ならいらっしゃるんです。エースと呼ばれた程の方なんですが、もう引退されちゃって。
 ――でもでも、とっても素敵な方で、今も時々あたしの相談に乗ってくれたりするんです!」

 なんて無垢で、判り易い反応。笑みを押し殺して意地悪げにティアナに尋ねる。

「それが、ティアナさんの恋人なの?」

 ティアナの反応は劇的だった。両手を振って、オーバーリアクションにしどろもどろな弁解をする。

「そ、そんな恋人だなんて! 先輩にあたる人で、時々相談に乗ってもらったり、食事をご一緒させてもらったりしてるだけで、その……」
「その?」
「その、あたしの片思いです……」
 
 彼女は胸元を押さえて、自分の心を確かめるように言葉を紡ぐ。

「齢も離れてるし、あたしなんて全然釣り合わない素敵な人だから……。
 ううん、それ以前に、きっとあたしなんて女性として見てすらもらえていないと思うんですけど――。
 それでも、その人の恋人になれたら素敵だな、って、そう思ってるんです」 

 時々言葉を詰まらせながらも、声音に不安を滲ませながらも、ティアナは前を向いてきっぱりとそう言い切った。
 そして笑った。少し照れくさそうな、それでいて強い意志を感じる綺麗な微笑みだった。
 ――自分も、昼の世界に生きていれば、こんな瑞々しい恋が出来たのだろうか? 
 クアットロは、作り笑いが顔に貼り付いてしまった自分にはもう出来ない、心からの笑みを浮かべるティアナを見つめる。
 ――凛として伸びた背筋、力強い瞳、精気に満ちたその全身。
 同じ女であるというのに、どうして彼女はこんなにも自分と違っているのだろう。ちくりと嫉妬が胸を刺す。
 ティアナの生き様は、クアットロが心の奥に抱いていた小さな夢、そのままだった。
  
 彼女の恋を応援しよう――クアットロは、そう決意した。
 彼女の透き通った美しい恋が叶うのを、見届けたかった。

「ねえ、ティアナさん。私、もっと貴女のことが知りたいわ。もし良ければ、お友達にならない?」
「ははは、はい! あたしも、もっとクアットロさんとお話したいと思っていたんです!
 あたしからお願いします! クアットロさん、あたしと友達になって下さい!」

 クアットロは微笑みで応え、静かに右手を差し出した。
 ティアナも、少しだけ遠慮がちに右手を伸ばし――二人は、強く握手を交わした。
 友など容易に作らぬ二人にとって、この日の出会いは正に得難き出会いだっただろう。
 ……この出会いが、お互いにとってどのような意味を持つのかを二人が知るのは、まだ先の話である。
 機動六課の穏やかな昼休み、心地良い風が吹き込むカフェラウンジでの出来事だった。

13:伊達眼鏡と狙撃銃3話 8/8 ◆vyCuygcBYc
08/11/20 00:19:55 qiZQhfzT
 ――そして、彼女は街を見下ろす。
 眼下に広がる景色は、色とりどりのネオンに彩られた歓楽街だ。
 窓ガラスに映る自分の姿は、派手なメイクで隈取った、ボンテージ姿のSM嬢だ。
 これが、本当の私なのだ。そうクアットロは自嘲する。
 今日は、昼の世界の余りの眩さにあてられて目が眩んだが、それを忘れてはならない。
 自分を、あの少女と同じだなどと勘違いしてはならない。クアットロは、そう強く自分を戒める。
 これが自分の本性。これが、自分の本懐。
 自分など、所詮はこの小さな箱、ソープ・ナンバーズの4号室の中でしか生きられない奇形の生物なのだと。

「―――――」

 馴染みの客が入室する。
 顔を見ることすら厭わしい最低の客だが、今日は歓迎したい気分だ。
 愛用の乗馬鞭を紅い舌でちろりと舐め上げながら、畜生以下と蔑む男を見下ろす。

「さあ、今日はどうして欲しいのかしら」

 返答など解りきっているし、返答を考慮する気すら無いのだが、始まりの儀式として彼女は男にこう尋ねる。
 男は、解りきった返答を聞き飽きた口調で寄越した。

「俺を打ってくれ。……打って、詰ってくれ――」
  
 言い終わらない内に、クアットロは乗馬鞭で男の胸を烈しく撃った。
 忽ち、太い朱線が浮かび上がる。
 腐りかけた魚のような目で、男は己の胸の蚯蚓腫れを見下ろした。床のタイルを見るのと全く同じ、興味なさげな視線だった。
 二撃、三撃と鞭を振るう。
 鞭が男の体を襲う度、男の体は痛みに震える。
 肉体の危急に瀕した際に、全身の筋肉を強張らせる――それは、生物として当然の反射行動だ。
 ぎっ、と歯を食いしばる音。
 この男は、決して痛みを感じている訳ではない。
 そして、この部屋を訪れる大多数の変態と同様に、痛みに性的な快楽を感じている訳でも無い。
 茫洋とした男の視線の先には、何も無い。彼の見ているものは、只の虚無だ。
 この男は、痛みに耐えている。この男にとって痛みとは苦痛である――苦痛であって尚、どうでも良いことなのだ。

「……この屑」

 それは、SM嬢としてのクアットロにとって最大限の侮辱だ。
 男の在り方は、絵描きに例えるなら、心血注いだ作品を尻拭き紙に使われるのと同じ事だ。
 料理人に例えるなら、全霊を注いだ料理を豚の餌にされるのと同じ事だ。
 クアットロも、SM嬢など、裏の世界の仕事であり、世間一般からは蔑まれるものだと理解している。
 だが、自分の生きる道として、全身全霊を注ぎ矜持を持って行ってきた道なのだ。
 クアットロは、男のペニスをピンヒールの踵で踏みつけた。
 これまでにこの部屋を訪れたマゾ豚達は、それだけで歓喜の声を上げて欲望に滾る逸物をいきり勃たせるのが常だが。
 男のペニスは、ふにゃりとだらしなくヒールの隙間から零れ落ちた。

「あははっ、インポ野郎、こんな役立たずの×××、ぶら下げてても仕方が無いんじゃない?
 千切り取ってオカマにでもしてやろうかしら?」

 自分は、ソープランドのSM嬢だ。そのことを誇りはしないが、蔑みもしない。
 この道を歩む事に、後悔も無い。――だが、別の道を歩む自分の姿を夢想することぐらい、許されるのではないだろうか。
 ささやかな楽しみとして、あの少女の小さな恋を応援するぐらい、きっと許される。

 クアットロは、最早同じ人すら思っていない男の体を乱暴に踏みつけながら夢想した。
 ――ティアナの想い人は、どんな素敵な男性なのだろう、と。

14:アルカディア ◆vyCuygcBYc
08/11/20 00:22:00 qiZQhfzT
 BGM「悲しみの向こうへ」は各自でご用意お願い致します。
 今作では、派手な魔法バトルとか無し、昼ドラ風の恋愛話というコンセプトです。
 魔法攻撃は無くても、場合によっちゃ包丁とノコギリくらいは出てくるかもしれません。

>>ザ・シガー氏
 グリフィスは初期構想から色々美味しい所を持ってくキャラとして製作しています。
 時々書きながら扱いに困ることもある子ですが、そういう時には元祖ソープのザ・シガー兄貴の外道グリフィスを勉強させて頂いています。

>>司書様
 お手数ですが、保管庫に保存の際に、投下のレスとレスの間の部分に、↓のラインに挟まれた部分を挿入して頂けますか?
―――――――――――――――――――――――――――― 


     ◆


―――――――――――――――――――――――――――― 
 内訳は、改行二つ、全角スペース5つと◆、改行二つです。
 投下の番号が同じで「その1」「その2」となっている部分の間はそのままでお願いします。
 度々お手数をお掛け致します。


 さて、お次の職人様、どうぞ! 今夜は当分眠れそうにありません!

15:名無しさん@ピンキー
08/11/20 00:34:58 nd2wHO9+
>>14
GJGJGJGJ!!!!
このクアットロ、大好きだー!!!
しかしディエチを泣かそうとする眼鏡男は許せんとわかった。

16:ザ・シガー
08/11/20 01:02:06 NPyun8oH
最高だぜ……最高過ぎるぜ……GJ!!

同じ幻影の使い手として、同じ立ち位置として仲間を指揮する者として似通いながらも昼と夜・未来の執務官と夜の淫婦としてまるで違う生き方をするティアナとクアットロの対比と出会いが素晴らしかったです。
状況が違えば心を通わせる親友となれたという奇妙な二人の邂逅に、思わずドキドキしてしまいました。

しかし、同じ男(ヴァイス)に対する見方は完全に正反対。
片方は憧れと淡い恋心を抱きつつ、片方は最低の屑と唾棄しているというwww
今後、これがどのように恋愛絡みの話になるかまるで想像もできません、続きを胸躍らせて待っております~。


あとグリフィス、最低だけど最高!
正に俺の理想像ですwww

17:B・A
08/11/20 01:06:32 sL/S6jvw
>>14
GJ。
クアットロにときめく日が来るなんて思わなかった。
ヴァイスがティアナの思い人だって知ったらどんな行動に出るんだろう?
そしてグリフィス、色んな意味で覚悟した方が良いよ。ドゥーエ姉さまは全てお見通しだろうから。


さて、こちらもそろそろ投下いきます。



注意事項
・非エロでバトルです
・時間軸はJS事件から3年後
・JS事件でもしもスカ側が勝利していたら
・捏造満載
・一部のキャラクターは死亡しています
・一部のキャラクターはスカ側に寝返っています
・色んなキャラが悲惨な目にあっています、鬱要素あり
・物騒な単語(「殺す」とか「復讐」とか)いっぱい出てきます
・クアットロが悪女全開
・主人公その1:エリオ
     その2:スバル(今回、出番なし)
・タイトルは「UNDERDOGS」  訳:負け犬

18:UNDERDOGS 第六話①
08/11/20 01:08:36 sL/S6jvw
打ち込まれる打撃を紙一重で回避し、捻り込むようにストラーダを相手の横腹に叩きつける。
だが、ガリューは咄嗟に樹木を盾にしてそれを回避し、持ち前のスピードを活かしてエリオの背後に回り込む。
それをエリオは研ぎ澄まされた直感で探知し、拳を打ち込まれるよりも早くソニックムーブを発動、ガリューが盾に使った
樹木の幹を蹴って横っ飛びに攻撃を回避する。

(手強い・・・・・・密林戦じゃ勝ち目がない)

真横からのルーテシアの射撃を薙ぎ払いながら、エリオは焦燥感にも似た思いに駆られていた。
エリオはザフィーラ、ギャレットらと共に武装隊を率い、マリエル・アテンザとシャリオ・フィニーノの救出任務を命じられた。
カルタス達を治療するためにはどうしても彼女達の力が必要なのだが、2人は早々に管理局の変革に順応したグリフィスと違い、
強引な管理局のやり方に反発して地方の研究所に栄転という名目で左遷させられていた。そのため、警備もそれほど大がかりではなく、
救出自体は滞りなく成功したのだが、脱出の際にルーテシアが立ち塞がったのだ。
転送魔法が使える彼女は、どこで事件が起きても即座に駆けつけることができる。しかも彼女が呼び出す召喚蟲は森を知り尽くしており、
こちらが徐々に追い詰められつつある。そのため、エリオはあえて自分が囮になることを選択した。
この手の持ち回りは本来、生存能力の高いザフィーラが行うのだが、彼には救出した2人の護衛と転送魔法で味方を脱出させるという役目がある。
かといって指揮官のギャレットではルーテシアとガリューの相手をするには力不足だ。その点、エリオならば機動力を活かしたかく乱と
緊急時の離脱が可能である。

(エリオ、後2分で転送の準備が整う。それまで何とか持ち堪えてくれ)

(了解!)

ザフィーラからの思念通話が届き、エリオは痺れ始めた手でストラーダの柄を持ち直す。
今回は戦場が森ということで、フリードは連れて来てはいない。エリオは召喚師ではないため、キャロのようにリミッターをかけて
フリードを小型化させることができないからだ。あの巨体では目立つ上に、障害物の多い森の中では身動きも取れないだろう。
対してルーテシアもマリエルとシャーリーを生かして連れ戻さねばならないため、地雷王による殲滅戦が行えずにいる。
条件はほぼ同じであるが、サポート役の有無と地の利が僅かに向こうに味方していた。
これで援軍が到着したら、エリオだけでは押さえられないかもしれない。

(ギャレットさん、増援の気配は!?)

(それが、どういう訳か一向に現れる気配がない。いつもならとっくに包囲されていてもおかしくないんだが、
今日に限っては追っかけてきているのはその娘とガジェットだけだ)

(何か罠が?)

(警戒はしている。とにかく・・・くっ、警備ガジェットがまだ・・・・・とにかく持ち堪えてくれ!)

思念通話が切れ、エリオは物陰から飛び出してガリューの背後から斬りかかる。
しかし、それは虚空に出現した紫色の魔法陣に阻まれ、穂先がガリューを捉える事はなかった。
すかさずガリューが捻りを利かせた右フックを放ち、エリオの頬を掠めていく。


19:UNDERDOGS 第六話②
08/11/20 01:09:35 sL/S6jvw
「背中からなんて、卑怯だ」

「僕だってそう思うよ。これが試合だったら、絶対しない」

頬を伝う血を拭い、エリオはストラーダを構え直す。掠っただけで皮膚を切るとは、相変わらず恐ろしい拳速だ。
いくら技術を磨き、魔法を学んでも、異形であるガリューと自分の間には身体能力において埋めようのない差が存在する。
守ってくれる人も、共に戦うパートナーもいない今、自分1人だけでこの2人を相手にどこまで戦えるのか。
気づかぬ内にエリオは奥歯を噛み締めていた。
勝てないのだ。
相手を打ち倒す戦い方では、この2人に勝つことはできない。パワーもスピードもテクニックも、ガリューの方が一枚上手だ。
真っ向からぶつかり合っていては、どうやっても勝ち目はない。
ならばどうするか。
決まっている、主を叩くのだ。
魔導師ランクではルーテシアの方が上かも知らないが、彼女の本分は召喚であって戦闘ではない。
その防御魔法がどれほど強固であっても、自分の槍ならば確実に打ち破ることができる。
だが、それだけはできない。彼女のバリアを破るとならば、こちらも全力で挑まねばならないだろう。
その時、ルーテシアを殺さずに済ます自信がない。自分の得物は魔力噴射の推進力を利用して貫くものだ。
防御を抜いた瞬間、勢いあまってあの小さな体を貫いてしまわない保証はない。
ギリギリの手加減が可能な技量が、自分にはない。

(どうして・・・・・どうして僕はいつも・・・・・・・)

焦燥感が膨れ上がる。
いつも力が及ばない。
肝心な時に、求める結果を出すことができない。
彼女はすぐ側にいるのに、言葉が届かない。心は遙か遠く、伸ばした手は虚しく空を切るだけだ。
まるで、自分のしていることが無意味な行為であると言われているかのようだった。
彼女を束縛から解放するためにずっと鍛錬を続けてきたのに、それは全て無駄だったのだろうか。
もしそうなのだとしたら、もういっそこの手で彼女を殺して楽になった方が良いのではと、そんな考えすら浮かんでくる。

(ダメだ。それだけはダメなんだ・・・・・選んじゃいけないんだ・・・・・僕は・・・・僕はルーを・・・・恨んでなんか・・・・・)

その焦りが、僅かな隙を生んでしまう。
いつのまにか詰め寄られたガリューの拳が目前まで迫っていた。
バックステップを踏んで回避を試みるが、ガリューは冷徹な思考で追撃を仕掛けてくる。一歩踏み込んだ態勢からの回し蹴り。
受け損なえば頭がトマトのように潰れてしまうだろう。咄嗟に、エリオは踏ん張りの利かない態勢のままストラーダに命じた。

「フォルムドライ!」

《Form Drei. Unwetterform》

「サンダー、レイジッ!!」

雷光と疾風がぶつかり合い、大気が震える。神速で打ち込まれたガリューの蹴りは、エリオの渾身のサンダーレイジによって威力が削がれ、
辛うじて致命傷にまでは至らなかった。だが、蹴り飛ばされたショックでほんの一瞬、エリオの思考は断絶し、解き放たれた電撃が
指向性を失って暗闇の密林を駆け巡る。直後、地面が激しい地鳴りを響かせた。


20:UNDERDOGS 第六話③
08/11/20 01:10:16 sL/S6jvw
「・・!?」

「これは・・・・・」

「ルー、危な・・・」

エリオが叫んだ瞬間、ルーテシアの足下の地面に亀裂が走り、巨大なクレパスが出現する。
偶然にも真下の地面が空洞になっており、制御を失った電撃が地面の脆い部分を刺激して落盤を引き起こしたのだ。
不意の出来事にルーテシアも対応しきれず、成す術もなく暗闇の底へと堕ちていく。ここからではどれほどの深さなのかわからないが、
飛行魔法の使えないルーテシアでは大けがを負う恐れがある。
ごく自然に、エリオの体は動いていた。
彼は起き上がり様に加速魔法を発動、主の危機にガリューが反応するよりも早く、クレパスの闇へと飛び込んで落下していくルーテシアの体を
抱き締める。当然、ルーテシアは嫌がって抵抗したが、それに反応を返す余裕はエリオにはなかった。
何とか左腕だけでルーテシアの体を抱え、ストラーダの魔力噴射でクレパスからの脱出を試みる。

「ストラーダ、カートリッジロード!」

《Explosion》

ストラーダからカートリッジシステムの起動が告げられる。しかし、肝心のサイドブースターが起動しない。
薬室からは空気の抜けるような音が聞こえるだけで、空薬莢すら飛び出してこなかった。

「弾切れ!?」

見る見る内に月光が遠ざかり、視界が暗闇に包まれていく。
後悔する暇すら与えられないまま、エリオはルーテシアと共に深い闇の中へと落ちていった。





頬を伝う冷たい感覚に、エリオは自分がまだ生きていることを実感した。
ゆっくりと瞼を開くが、光源がないのかそこは真っ暗闇だった。
不意に寒気を覚え、身震いする。横たわった体が地下水に晒されているのだ。恐らく、クレパスの下に地下水が流れていたのだろう。
そこに落ちたことで一命は取り留めたようだが、流されてかなり体力を消耗してしまった。
ザフィーラ達も撤退したのか、思念通話も繋がらない。完全に遭難してしまったようだ。

「ストラーダ?」

《・・・無事だ》

手元から聞こえた電子音声に、胸をなで下ろす。どうやら、起動状態のまま近くに転がっているようだ。
暗い場所は好きではない。小さい頃に親元から無理やり引き離され、研究所で実験動物扱いされていた時のことを思い出すからだ。
あの時は、拘束された状態で汚い部屋に転がされ、星すらも見られない生活を送っていた。
なので、ストラーダがいてくれることが少しだけ心強かった。少なくとも、今は1人ではない。
そこまで考えて、エリオは自分と一緒に落下した少女のことを思い出した。

「ストラーダ、ルーは?」

《魔力は感じられるが、正確な位置まではわからない。反応もかなり弱々しいな》

「この暗闇じゃ、探すのも一苦労か・・・・・・・仕方がない、こういうのは苦手だけど・・・・・」

意識を集中し、手の平に魔力を集めてボールのように固めていく。
変換資質を持つエリオは、純粋魔力の放出はあまり得意ではないが、どうにか苦労しつつも光り輝く魔力球を創り出すことには成功した。
これならば照明の代わりになるだろう。同時に、疲労しているリンカーコアを更に酷使したことで体力が一気に失われていく。
このような魔力の運用方法は本来、学校などで教わるのだろが、生憎とエリオは正規の教育を受けていないのであまり得意ではない。
少しでも早く恩人であるフェイトの力になろうと、基本よりも槍の扱いや魔法の習得に時間を割いてきたからだ。
つくづく、自分はスピードだけに特化しているのだなと自嘲したくなった。

21:UNDERDOGS 第六話④
08/11/20 01:11:36 sL/S6jvw
「くう・・・・・ああ・・・・・・」

《エリオ、無茶をするな》

「これくらい・・・・・ううぅ・・・何ともない」

ストラーダを杖代わりにして何とか立ち上がり、周囲を見回す。
どうやら、研究所付近の森の地下には巨大な洞窟が広がっていたようだ。ここは地下水に流されてきた土砂が堆積してできた河原のようで、
目を凝らすと、対岸の淵に誰かが引っかかるように横たわっている姿が見える。
エリオは水に足を掬われぬよう慎重に浅瀬を渡り、横たわる少女の体を抱き起こす。

「ルー、ルー!」

「・・・・・うぅ・・・・・んうう・・・・」

「良かった、生きて・・・・・る・・・・・」

手の平の粘っこい感触に、エリオは恐る恐るわき腹に添えていた手を離して手の平を翻す。
そこには、真っ赤な血がドッペりと付着していた。

「ルー!?」

慌ててわき腹に光を当てると、どこかで切ったのか大きな傷口がパックリと開いていた。
冷たい水に晒されていたせいか出血は留まることなく続いており、暗い地下水が赤く染まっている。
一瞬、エリオの脳裏に血まみれで息絶えたキャロの姿が蘇った。
あの時もそうだった。意識を取り戻した自分が駆けつけた時、あの娘は無残にも体を切り裂かれ、
全身を血で染めながら横たわっていた。

「あ・・あ・あ・あ・・・・・ああ・・・・・・」

助けなければと、理性が訴えている。だが、それよりも遥かにどす黒い感情が、エリオの中で鎌首を持ち上げようとしていた。
この瞬間、エリオは不覚にも愉悦を感じていたのだ。
ああ、いい気味だと。
これは天罰なのだと。
こうなって当然だったのだ。彼女は多くのものを傷つけ、スカリエッティに協力して社会を混乱させ、
キャロの命を冒涜し、自分の言葉をも拒絶した。
死んだって誰も文句を言わない。いや、寧ろ死んで償うべきなのだ。

「・・・・・違う、僕は・・・・僕は・・・・・・」

一度でも自覚した感情から、目を逸らすことはできなかった。
ずっと自分に言い聞かせてきた。
恨んではならない、憎んではならないと。だが、心の底ではいつも憎しみの炎が燃えていた。
彼女はキャロを殺した。キャロはエリオに取って妹のような存在であり、気になる異性であり、大事なパートナーであった。
きっとこれから先も、自分はキャロと一緒に歩いていくものなのだと思っていた。
キャロという大切な存在を、彼女は自分から奪ったのだ。
それでも彼女を許そうとしたのは、キャロが彼女とわかり合う道を望んでいたからだ。皮肉にも、エリオのキャロへの思いが復讐を許さなかったのである。
だが、それももう限界だった。
スバルは自分の気持ちを誤魔化していることを見透かしていた。イクスという少女は自分が本心から目を背けていることを見抜いていた。
どんなに憎しみを抑えようとしても、あの忌まわしい光景が目に焼き付いている限り、なくなることはない。
何かの拍子に膨れ上がっては、こうして自分を苛むのだ。

「僕は・・・・僕は君を・・・・・ダメなのに・・・・・憎んじゃいけないのに・・・・・」

ゆっくりと、ストラーダの切っ先を少女の心臓に向ける。ストラーダの制止の言葉も耳には届かなかった。
ここには自分達以外に誰もいない。例え彼女をこの手で殺したとしても、自分が偽証すれば誰にもバレることはない。


22:UNDERDOGS 第六話⑤
08/11/20 01:12:56 sL/S6jvw
「ごめん・・・・僕は君を、許せない」

もう限界だ。
誰かのために戦って、傷つくことが堪らなく辛い。本当は戦いたくなんかなかった。何もかも捨てて逃げ出してしまいたかった。
けれど、この少女の存在が自分を縛り付けている。この娘が存在する限り、自分は戦いから解放されない。
この娘の息の根を止めねば、これからも自分は戦い続けねばならない。

「・・・!?」

振り下ろされたストラーダが、少女の柔肌に達する寸前で停止する。
彼女は笑っていた。激痛に顔を歪め、死の恐怖を前にして、それでも彼女は不器用な笑顔を浮かべていたのだ。

「どうして、笑っているの?」

「前に、笑って欲しいって・・・・・だから、笑っているの・・・私に笑ってって言ったのは、あなただけだった。だから、笑っているの・・・・・」

「・・・!」

ストラーダを放し、苦しげな笑みを浮かべる少女の体を抱きしめる。自然と頬を涙が伝っていた。

「殺せない・・・・君はキャロだ。そして僕なんだ。そんな君を、殺すことなんてできない」

この娘は自分達と同じなのだ。拒絶されることが怖くて、傷つくことが怖くて、一人ぼっちが寂しくて。
けれど、それを表現する術を知らないから周りを傷つけてしまう。差し出された手をどうすれば良いのかわからないから、
怖がって拒んでしまう。それでも笑おうとする彼女に、エリオは亡きキャロの姿を重ねてしまった。
彼女もそうだった。強すぎる力のせいで忌み嫌われ、フェイトに引き取られるまではどこにも受け入れてもらえなかったらしい。
六課で過ごしていた時はいつも楽しそうに笑っていたが、稀にフッと寂しげな表情を浮かべることがあった。
あれは怯えだ。彼女の笑顔の裏には、いつだって現在の幸せがなくなることへの怯えがあった。
この娘も同じだ。眠ったままの母親との繋がりを失うことに怯え、それを知られまいと無理に笑顔を浮かべている。
そんな辛い笑顔を見せられては、もう自分には彼女を殺すことはできない。

「どうして・・・・・」

エリオの突然の豹変に、ルーテシアは戸惑いの色を隠せなかった。このまま自分は彼に殺されるものと思っていたからだ。

「どうして、泣いているの?」

「君が、笑いたがっていないからだよ」

疲れ果てた体に鞭を打ち、彼女を水の中から引き上げる。そして、傷口に手をかざして不慣れな治癒魔法を施していく。
完治とまではいかないが、出血を抑えて傷口を塞ぐくらいなら自分にもできる。

「わからない。あなたは、笑えって言ったのに」

「ルー、強がらなくても良いんだ。辛かったらないても良いし、苦しかったら叫んでも良い。僕はもう、君に憎しみは向けないから」

イクスの言葉には二重の意味が込められていた。1つは、自分が抱いている感情に嘘はつかないこと。
そしてもう1つは、何もかも1人で抱え込まないことだ。それは決して、憎しみの赴くままに復讐を成せという意味ではない。
エリオはずっと、キャロの遺志を引き継いで戦ってきた。しかし、それはエリオ自身の願いではない。
己の本心を自覚しなければ、許すことも殺すこともできずに苦しむだけだと言っていたのだ。
彼女が言っていた一歩を踏み出す勇気とは、隠し続けてきた憎悪を許容することだったのだ。

「僕は君を許せない、これは本当だ。けど、君を見捨てることはもっとできない。苦しんでいる君を見捨ててしまったら、
僕はもっと大事なものを失ってしまう。だから、僕は君を助けたい。これが僕の本心だ・・・・・・教えてくれないかい、君の本当の気持ちを」

「私の・・・・本当の・・・・・・」

胡乱げに暗闇を見つめ、ルーテシアはしばし思考を巡らせる。やがて、引きつったような笑顔が元の無表情に戻り、目じりから熱い雫が滲み出す。

23:UNDERDOGS 第六話⑥
08/11/20 01:13:46 sL/S6jvw
「うん・・・・痛いよ・・・痛いのは嫌だ・・・・痛くて苦しくて、涙が止まらない・・・・・助けて・・・・」

涙で顔を歪めながら、少女は助けを求める。エリオは伸ばされた手に自分の手を重ね、優しく諭すように囁いた。

「助けるよ、何があっても」

応急処置を終えると、エリオは放り捨てたストラーダを回収して待機状態に戻し、ルーテシアを背中で背負う。
とにかく出口を探さなければならない。そうすれば連絡を取る手段もあるだろうし、彼女の治療もすることができる。
それにガリューだって、主のことを探しているはずだ。
足下に注意しながら、エリオは空洞内を吹く風を頼りに暗い地下道を川下に進んでいく。
この風に逆らって進めば、必ず出口に辿り着けるはずだ。

「あなたは・・・・・不思議な人・・・・・・」

背中の少女が、か細い声でエリオに囁きかける。

「私のことを傷つけないと言った。けど、私のことを憎んでいる・・・・なのに、私を助けてくれる。
わからない・・・・・・あなたのことが、私にはわからない・・・・・・・・・」

「僕も君のことがわからない。それが普通なんだ。どんなに辛くても、言葉にしなくちゃ、形にしなくちゃ誰もわかってくれない。
自分から一歩踏み出さないと、世界は何も変わらない」

「自分から・・・・・・・言葉に・・・・・・・・」

エリオを言葉を、ルーテシアは静かに反芻する。
3年前も、同じようなことを言われた気がする。けれど、自分はそれに耳を貸そうとしなかった。
いつだってそうだ。自分の方から一方的に要求を突きつけるか、言われたことをただ盲目的にこなすだけ。
傷つくことが怖くて、言ってもわかってもらえないだろうからと諦観して、自分は差し伸べられた手を拒絶してきた。
けれど、この少年はそれでも自分の力になろうと呼びかけ続けてくれた。
傷つき倒れても、決して挫けなかった。今だって、ケガをした自分を背負って暗闇から脱出するための出口を探してくれている。
自分とそう年は変わらないはずなのに、彼の背中はかつて共にいたあの騎士のように逞しく、大きく見えた。
温もりが、冷水で冷えた体を包み込んでくれている。
不思議な気持ちだった。
この少年は敵なのに、こうしてくっついているととても安心できる。
どうしてそんな風に思ってしまうのか、ルーテシアにはどうしてもわからなかった。
そして気づく。自分はこの少年のことを何も知らないのだと。自分の前に現れては、訳のわからないことを告げる目障りな敵。
今まではその程度の認識しかなかった。けれど、今は違う。自分のためにこんなにも一生懸命になってくれるこの少年のことを、
自分はもっと知りたいと思っている。
知るためにはどうすれば良いのだろうか。
答えはつい先ほど、少年自身が述べていた。
まずは、自分の気持ちを言葉にすれば良いのだ。

「・・・・・シア・・・・・」

「え?」

「ルーテシア・・・・・・ルーテシア・アルピーノ・・・・・私の・・・名前・・・・・」

「ルー・・・・・テシア・・・・・」

呆ける様に、エリオは告げられた名前を呟く。
それはエリオがずっと待ち望み続けた瞬間であった。


24:UNDERDOGS 第六話⑦
08/11/20 01:15:03 sL/S6jvw
「・・・ルーテシア・・・・・ルーテシア・アルピーノ・・・」

「うん・・・・・」

「僕はエリオ・・・・エリオ・モンディアル。君の名前、絶対に忘れない」

「うん・・・・・忘れちゃ嫌だ・・・・1人は、もう嫌だ・・・・・・・」

悲しい呟きが、耳元で囁かれた。
やがて、ポツリポツリとルーテシアは自らの身の上を話してくれるようになった。
まだ赤ん坊だった頃に母親が死んでしまったこと。
物心ついた時には、既にスカリエッティの施設で暮らしていたこと。
そこで様々な実験や調整を受け、能力を強化されたこと。
それらはエリオが想像していたよりも遙かに過酷な人生であった。
エリオにはまだ、モンディアルの家で両親と過ごした記憶があった。けれど、ルーテシアは赤ん坊の頃からスカリエッティのもとで育てられたのだ。
彼女には楽しいと思える思い出が何一つない。自分と違って丁重に扱われていたようだが、繰り返される単調な日々はルーテシアから少しずつ
心を削り取っていったはずだ。そんな環境で育てば、こんな風に感情の発露が乏しい性格になってしまうのも頷ける。
ルーテシアは今まで、笑う必要がない世界で生きてきたのだ。

「君は、そんな生活を嫌だとは思わなかったの?」

「わからない。けど、ゼストやアギトが側にいてくれたし、ドクターも優しかった。それに、レリックを使って母さんを目覚めさせれば、
私にも心が生まれるってドクターが言っていた」

その言葉に、エリオの歩がピタリと止まる。

「ルーテシア、君のお母さんは死んだんじゃなかったの?」

「レリックを使えば、死んだ人を生き返らせることができるの。ドクターはそう言っていたし、ゼストもそうやって生き返ったって聞いた」

「ゼスト・グランガイツ・・・・・副隊長が言っていた騎士か」

どうして、死んだはずの人間が生きてスカリエッティに与していたのか、これで漸く合点がいった。
同時に、命を弄ぶスカリエッティに対する怒りと、そんな悪漢の甘言を信じ込んでいるルーテシアへの哀れみが込み上げてくる。

「ルーテシア、死んだ人を蘇らすのは不可能だ」

「どうして? ゼストは生き返ったって言ってた。レリックを使えば、ちゃんと生き返るってドクターも保証してくれた」

「死という現実は覆らない。どんな奇跡が起きても、どんなロストロギアの力を使っても、死んだ人は蘇らない。
仮に蘇ったとしても、それは全く同じ姿をした別人だ。心は・・・・・魂は、もうそこにはない」

首筋に冷たい感触が走る。ルーテシアが、魔法で作り出した短剣の先端を当てているからだ。
そうくるだろうと思っていた。彼女にとって、母親との再会が無に帰することはどうあっても認めたくないことのはずだ。
だが、自分は言わなくてはならない。死んだ人間が蘇らないことは、誰よりも自分がよく知っているのだから。


25:UNDERDOGS 第六話⑧
08/11/20 01:16:07 sL/S6jvw
「僕も、一度死んでいるんだ」

「え・・・・」

「僕は2人目だ。死んだエリオ・モンディアルを蘇らせるために、僕の両親が違法技術を使って生み出した存在。それが僕だ」

「それじゃ・・・・あなたは・・・・・」

「オリジナルの遺伝子を基に生み出されたクローン人間。けれど、僕は「エリオ・モンディアル」にはなれなかった。
姿は同じだし、生前の記憶もある。けどそれだけだった。思いはそこにない。僕の中にあるのは空っぽで実感のない思い出、ただの知識でしかない。
僕だって最初は、それが自分自身の思い出なんだって信じていた。けど、思い返せば思い返すほど、虚しくなるだけだった。
実際に経験していないから、その時に抱いていたはずの感情までは思い出せなかった。僕は「エリオ・モンディアル」にはなれなかったんだ」

知らぬ間に、嗚咽が言葉に混じっていた。
想像を絶するその出自に、さしものルーテシアも言葉を失わざる得なかった。
エリオはずっと苦しんできたのだ。望まれて生み出されたはずなのに、自分は彼らの期待を裏切ってしまったのだと。
どんなに頑張っても自分は「エリオ・モンディアル」を真似ているだけで、本物ではない。
自分が自分ではない苦しみ。そんなもの、とても想像できない。

「僕は、ずっと偽物だったんだ」

「ゼストも・・・・・あなたと同じだったのかな?」

「わからない。ひょっとしたら、レリックなら完全な蘇生も可能なのかもしれない。けど、これだけはわかって欲しい。
僕達は生きている。全力で、悔いを残さないように、いつも精一杯生きている。それは、いつ死ぬかわからないからだ。
人間はいつか死んでしまうから、全力で前を向くことができるんだ。僕もキャロも、現実から目を背けることはいつだってできた。
けど、そうしなかったのは辿り着いた先にある答えを見たかったからだ。辛い境遇に負けない強さを手に入れて、
後悔しない人生を送りたかったからなんだ。だから、僕は死者の蘇生を認めない。認めてしまったら、後悔の意味がなくなってしまう。
死んだ人のために流した涙が、無意味になってしまう」

「あの娘が、蘇るとしても?」

「それでも僕は、あの涙を無駄にしたくはない。悔しいけど、こうして君と話ができるのも、キャロの死に涙した思いが
胸の中に残っていたからなんだ。僕だけの力じゃない。死んだキャロがいつも力を貸してくれていたから、今のこの瞬間があるんだ」

「よくわからない。私には、最初から何もなかったから」

「だからこそ、僕はスカリエッティが許せない。彼は自分の欲望のために命を弄んでいる。
赤ん坊を攫ってきたり、人工的に生み出した人間を改造して自分の言いなりになるように洗脳したり。
彼は人を人とは思っていない。ただの作品、道具、駒としか見ていないんだ」

「それは、いけないことなの?」

言ってから、ルーテシアは後悔した。
エリオ・モンディアル。人のエゴによって生み出された名もなき人形。
彼の存在が、逆説的にスカリエッティの悪事を証明している。
彼の不幸な身の上が、スカリエッティの罪科そのものなのだ。

「ごめんなさい」

「良いんだ。君は何も悪くない。悪いのは全部スカリエッティだ」

「けど、ドクターは・・・・・・・」

言いかけた言葉を飲み込み、ルーテシアは虚空へと目をやる。
微かだが、ガリューの気配を感じ取れる。彼がすぐ近くまで来ているのだ。

26:UNDERDOGS 第六話⑨
08/11/20 01:16:48 sL/S6jvw
「エリオ、その角を右に行って。ガリューが近くまで来ている」

「わかった」

ルーテシアの言葉に従い、エリオは暗い角を右に曲がる。
すると、吹きつける風も少しずつ強くなっていった。出口が近いのだ。

「そのまままっすぐ・・・・・次は左に・・・・・」

「ルーテシア?」

「大丈夫・・・・・少し、喋り過ぎただけ・・・・だから・・・・・」

「待っていて、すぐに外に出してあげるから・・・・・・!?」

行き止まりにぶつかり、エリオは急ブレーキをかける。
風は壁の向こうから吹き込んでいた。どうやら、土砂崩れで出口が埋まってしまったようだ。
行く手を遮る壁は全体的に柔らかく、安易に土砂を除けようとすると落盤が起きる可能性がある。
だが、ルーテシアが言うにはガリューはこの壁の向こうにいるらしい。ならば、何とかしてこの土砂を取り除かねばならない。
だが、どうやって? 自分には、なのはのような砲撃で壁を撃ち抜くなどという芸当はできない。
メッサー・アングリフでは土砂の全てを取り除けないし、サンダーレイジは電撃が拡散するので落盤が起きてしまう。
手持ちの魔法でここから脱出できるものは、ただ一つをおいて他にない。

《紫電一閃だ》

「けど、あれは・・・・・・」

3年前、奥の手として用いながらも制御に失敗して自爆してしまった技だ。だが、あれならばこの土砂を一度に吹き飛ばすことができる。
ガリューやルーテシアにこの土砂を取り除く術はない、自分だけでどうにかしなければならないのだ。

「キャロ・・・・・・」

ルーテシアを地面に下ろし、左手首のケリュケイオンを右手で掴んで意識を集中する。
乱れていた思考が研ぎ澄まされ、耳障りな雑音は消える。そして、紫電が体全体から迸った。

「ルーテシア、ガリューを壁の向こうから下がらせて」

「エリオ?」

「僕が出口を作る・・・・さあ」

「わかった」

静かに瞼を閉じ、ルーテシアはガリューに下がるよう告げる。
そして、ルーテシアがそのことを伝えると、エリオは右の拳をゆっくりと振りかぶり、土砂の一点に狙いを定めた。
魔力光が増していき、暗闇が金色で包まれていく。
ここからは背中しか見えないが、その立ち姿は威風堂々としていて歴戦の騎士を彷彿とさせる。
理屈を抜きにした安心感があった。
エリオは、必ず自分をこの暗闇から救い出してくれる。
その思いに応えるように、エリオは迸る電流を拳へと凝縮する。

(この娘を解放する。これは、キャロだけの願いじゃない)

エリオにとって戦うことは失うことだった。
戦いによってキャロは命を落とし、フェイトは重傷を負った。
傷つくのが怖くて、大切なものを失うのが嫌で、エリオは心のどこかでもう戦いたくないとさえ考えていた。
けれど、自分が戦わねばルーテシアを救うことができない。
この手で守れるものがまだあるのなら、自分はそれを守るために戦いたい。
それが、己の憎しみを自覚したエリオが導き出した答えであった。


27:UNDERDOGS 第六話⑩
08/11/20 01:17:40 sL/S6jvw
「紫電、一閃!」

裂帛の気合と共に放たれた拳が、吸い込まれるように土砂の壁を叩く。
直後、指向性が込められた電流が地響きを起こし、轟音を上げながら土砂を吹き飛ばす。
落盤は起きなかった。
許容量を超えた電圧で腕を焼き、関節を痛めながらもエリオは3年前に成し得なかった奥義を成功させた。
助けたい。純粋なその思いが、彼の力となったのである。

(眩しい・・・・・・)

差し込む太陽の光に、ルーテシアは目を細める。
彼女が見たのは、太陽をバックに微笑みを浮かべる少年騎士の姿だった。
自分を暗闇の中から救い出してくれた小さな英雄。
まるで太陽が必ず東の空から昇るように、彼はいつも自分のことを追いかけてきてくれたのだ。
エリオ・モンディアル。
その名前を、自分は決して忘れないだろう。

「さあ・・・・・」

「うん」

一歩、光の世界へと足を踏み出す。
冷たい風が顔に吹き付けてくる。
そこはのどかな高原だった。緑色の芝生に艶やかな紅葉、空は抜けるように高く、水色と白のコントラストを描いている。
耳を澄ませば小鳥のさえずりが聞こえ、目を凝らせば野を駆け回る野うさぎ達が見える。
とても穏やかで平和な世界。
こんなにも世界を綺麗だと思ったことは、今までなかった。

「綺麗・・・・・・でも、これもずっと続かないんだね」

「命にはいつか終わりがある。それは生き物だけじゃない。自然だってそうだ。
花は枯れるし天気も変わる。時間が経てば夜になるし、月だって欠ける。
けど、だからこそその一瞬がとても眩しくて綺麗なんだ。その時間を永遠にしてしまったら、
もうその美しさは見えなくなる。ただの色あせた灰色の世界だ」

「そんなのは・・・・嫌だ」

音もなく、ガリューがルーテシアの隣へと降り立つ。
別れの時間が来たのだ。
ルーテシアは自分と共には来てくれない。自分にとってルーテシアの解放が至上の願いであるように、
ルーテシアにとって母親の蘇生は何よりも優先せねばならない願いなのだ。
だから、彼女はまだこちらには来てくれない。
3年前から続く因縁に決着をつけない限り、自分達はどちらも前には進めない。


28:UNDERDOGS 第六話⑪
08/11/20 01:18:27 sL/S6jvw
「ルーテシア・・・・・・・」

「・・・・ルーで良い」

「え?」

「私のことは、ルーで良い。今までどおり、そう呼んで」

「良いの?」

「あなたと話して、1つだけわかったことがある。私は今まで、ただドクターに言われた通りに動いていただけだった。
けど、自分を取り巻く世界を変えるには、まず自分から変わらなくちゃいけないんだ」

ルーテシアの足元に紫色の魔方陣が展開する。
長距離転送魔法だ。
エリオが黙って魔方陣の外に出ようとすると、ガリューが手でそれを制して回り込んでくる。
そして、無言で拳をかざして見せた。
それは再戦の誓いであった。
次に戦場で会った時、お互いの死力を尽くしてぶつかり合うことを誓う儀式。
エリオがルーテシアの解放を望み、ルーテシアが母親との邂逅を望むように、ガリューもまた3年前にお流れとなった
エリオとの決着を望んでいる。そうしなければ、自分もまた前に進めない。
3人の時間は、3年前から止まったままなのだ。その針を動かすためにも、自分達が納得できる結果が必要なのだ。

「ガリュー・・・・・」

「・・・・・・・・」

「うん、次は絶対に・・・・・負けない。僕は君に勝つ」

掲げられた拳に自らの拳をぶつけ、エリオは再戦の誓いを交わす。
その答えに満足したガリューは、静かに自身の定位置であるルーテシアの側へと戻った。
エリオも転送に巻き込まれないよう、魔法陣の外に出てルーテシアの言葉の続きを待つ。
やがて、ルーテシアはゆっくりと口を開いて言葉を紡いだ。

「どこまでできるかわからないけど、私は私でがんばってみる。だから、全部終わったら・・・・・・友達になってくれる?」

空中に浮かんだルーテシアとガリューの体が少しずつ消えていく。
彼女はこちらの返答を待っていた。
答えねばならないと思った。
難しく考えることはない。ただ、己のありのままの気持ちを言葉にすれば良いだけだ。

「ルー、僕達はもう友達だ。僕は・・・・僕はそう思っている。僕と君は、友達だ!」

言い終わる前に、2人の姿が虚空へと消えて魔法陣が収縮する。
消える瞬間、ルーテシアは微かに笑っているように見えた。
自分の言葉は、確かに届いていたのだ。





帰還したルーテシアは、傷の治療もそこそこにゆりかごの最深部へと向かっていた。
目当ての場所はスカリエッティが3年もの間、こもり続けている研究室だ。
ここに戻る途中、母親を預けている施設に立ち寄ったのだが、母と会うことはできなかった。
どういう訳か、母親の遺体はこちらに移送されたらしいのだ。その理由を問い質すためにも、スカリエッティと会わねばならない。

29:UNDERDOGS 第六話⑫
08/11/20 01:20:42 sL/S6jvw
「あら、ルーお嬢様。戻られたのなら一声かけてくださいな。心配したんですよ」

慌しくコンソールを弄っていたクアットロがこちらの存在を認め、笑顔を振りまきながら近づいてくる。
何故だろう。前は羨ましいと思っていた笑顔が、今は張り付いたお面のように見えてならない。

「・・・・ドクターは?」

「生憎、ドクターとウーノ姉様は数日前からお出かけになられています。なので、ゆりかごの全指揮は私が取っているんです」

「そう・・・・・なら、クアットロがやったんだね」

ゆらりとクアットロの背後の空間が揺らぎ、光学迷彩を解除したガリューが首筋に爪を突き当てる。

「母さんをどこに隠したの?」

「あら、お気づきでした?」

「母さんはどこ?」

「知ってどうするんですか? まだお目覚めになっていないのに」

「ドクターに治してもらう。11番のレリック、あなた達が隠しているんでしょ?」

「あらあら、それもお見通しなんですか。本当、お嬢様には嘘ってつけませんね」

「ふざけないで」

感情を押し殺したルーテシアの声は、静かであるが故に迫力があった。しかし、クアットロは軽薄な態度を崩さない。
まさかと思い、ルーテシアはガリューに彼女の殺害を命じる。忠実な召喚蟲は言われるままに首筋に爪を突き立てるが、
クアットロは苦悶の表情を浮かべたまま髪の毛一本残さずに消滅してしまった。彼女のIS“シルバーカーテン”によって
生み出された幻影だったのだ。

「クアットロ!」

『そんなに焦らずとも、ドクターはちゃんとお嬢様のお母様を治してくださいますよ。
お嬢様が私達に言うことをきちんと聞いてくれればね』

「3年間、ずっとそう言っていたけど、ドクターは何もしてくれない。あなた達は、私を騙していたんだ」

『あら、随分と疑り深いこと。子どもは素直でないといけませんよ』

「黙って。ドクターが何もしてくれないなら、私が治す。時間はかかるかもしれないけど、私が母さんを目覚めさせてみせる。
だから、母さんと11番のレリックを渡して!」

『よろしいんですか? 失敗したら二度と目を覚まさなくなるかもしれませんよ』

「その時は・・・・諦める。私はただ、自分が納得できる答えが欲しいだけなの。だから、母さんを連れてここを出ていく」

『それはできません。お嬢様にはまだまだやってもらわないといけないことがあるんですから』

その瞬間、ルーテシアの意識が断絶し、どす黒い破壊衝動がこみ上げてくる。
バランスを失ったルーテシアの体がぐらりと揺らぎ、ガリューに支えられて何とか立ち直したルーテシアは、
頭を振って意識を集中させると、乱れた呼吸を整えようと深々と息を吸う。
この感覚には覚えがあった。3年前、エリオ達と戦っていた時に起きたのと同じものだ。

「これは・・・まさ・・・・」

意識を失ったように、ルーテシアはガリューの腕の中で動かなくなる。
それを確認すると、ISで背景に溶け込んでいたクアットロが怪しい笑みを浮かべながら姿を現した。

30:UNDERDOGS 第六話⑬
08/11/20 01:21:33 sL/S6jvw
「コンシデレーション・コンソール。これがある限り、お嬢様は私達に逆らえませんよ」

ルーテシアを庇うように立ったガリューが、クアットロへと殴りかかる。しかし、その拳が届く寸前で背後に控えていたガジェットⅣ型が、
鋭い両手の鎌でガリューの四肢を突き刺して床の上に貼り付けにする。もがけば刃がいっそう深く食い込み、激痛がガリューを襲う。
成す術もなく悶えるしかないガリューの姿を見てクアットロはほくそ笑み、鋭いハイヒールの踵で彼の横顔を踏みつける。

「そういえば、あなたは生意気にも人並みの知能を持っているんだったわね。けど、主からの命令には逆らえない。
お嬢様、こんな野蛮な虫、とっとと送還してくださいな」

ゆらりとルーテシアは起き上がり、ぶつくさと座標を唱えて詠唱を開始する。展開された転送の魔法陣に、ガリューの顔が絶望で歪む。
また守れないのか。
折角、エリオと心を通わせて最初の一歩を模索し始めたのに、そのささやかな勇気すら守ることができないのか。
否、それは諦観だ。
あの男は諦めなかった。敗北にめげず、懸命に自分達を追いかけてきた。ならば、自分も諦める訳にはいかない。
あの男との再戦を待たずして、ここで消える訳にはいかない。主だってそれを望まないはずだ。
深々と突き刺さる刃を凝視し、手足に力をこめる。主の幸せのためならば、手足の一本や二本など惜しくはない。
だが、手足を引き千切ろうとしていたガリューを制したのは他の誰でもない、ルーテシアからの思念通話だった。

(ガリュー、あなたは逃げて)

(・・・!?)

(こんな状態じゃ、あなたをこの世界に繋ぎ止めておくことも精一杯なの。だから、エリオに伝えて・・・・あの子なら、きっとあなたの力になってくれる)

一向に送還されぬことを訝しんだクアットロが、ルーテシアの顔を覗き込む。
瞬間、ルーテシアは残る理性を総動員してクアットロに体当たりを食らわし、最後の詠唱を完了させる。

「行って、ガリュー!」

魔法陣に吸い込まれるように、ガリューはここではないどこかへと転送される。
後は、彼を信じて抗い続けるだけだ。

「驚いた。まだ、それだけの理性があったなんて。こういうことがあるから、兵器に感情は邪魔なだけなのよ」

「私は、兵器じゃない・・・・・クアットロ、私の母さんを・・・返せ!」

渾身の力を込めて、ルーテシアは短剣を投擲する。フェイントも何もない凡庸な一撃。戦闘は専門外とはいえ、
戦闘機人であるクアットロならば避けることは容易い。だが、どういう訳かクアットロは微動だにせず、
短剣は易々と彼女の体を貫いた。瞬間、ガラスが割れるような音が響き、緑色の液体をまき散らしながらクアットロの姿がかき消える。
その下から現れたのは、破壊されたポッドの中央でうずくまる、容姿が自分とよく似た紫色の髪の女性だった。
その胸には、自分が放った短剣が深々と突き刺さっている。間違いなく致命傷だ。

「嘘・・・・そんな・・・・・」

あれは母だ。施設から奪われた母の遺体に、クアットロの幻影が被されていたのだ。

「突き飛ばされた時に入れ替わったんです。1つ良いことを教えてあげますね。あなたのお母様は死んではいなかったんです。
本当は仮死状態なだけで、適切な治療を施せば目を覚ましたんですよ。つまり、ルーお嬢様がしてきたことは全部無駄だったってことです」

「ムダ・・・・・今までしてきたことが・・・・・全部・・・・」

たくさんの人を傷つけ、物を壊してきたことが、全部無意味なことだった。
友達になれたかもしれない娘を殺してまでやろうとしてきたことが、みんな無駄だった。

「残念でしたね、お嬢様。あなたのお母様は今度こそ本当に死んでしまいました。他でもない、実の娘であるお嬢様自身の手で。ああ、何て悲劇なんでしょう」

背後のクアットロの言葉はもう耳に入らなかった。焦がれ続けた母親をこの手で殺してしまった。
その事実が重くのしかかり、激しい自責の念が込み上げてくる。


31:UNDERDOGS 第六話⑭
08/11/20 01:22:05 sL/S6jvw
「いや・・・・・いやあぁぁぁぁぁっ!!」

そして、ルーテシアの心は粉々に砕け散った。
ほんの少しだけ見えた未来への希望は、非情な機械仕掛けのプログラムによって侵食されてしまう。
再び暗闇へと堕ちたルーテシアを見下ろしながら、クアットロは静かにほくそ笑んだ。

「ふふっ・・・・・あなたにはまだまだやってもらわなきゃいけないことがあるの。期待していますよ、可愛いルーお嬢様」





激しい衝撃と共に、ガリューは勢いよく地面に叩きつけられた。
全身がバラバラになってしまったかのような痛みに、意識が飛びそうになる。だが、何とか生きているようだ。
恐らく、転送先の座標に狂いがあったのだろう。クアットロの洗脳に抗いながらも転送を行ったのだ、無事に逃げられただけでも僥倖である。
今頃、彼女はどうしているだろうか。クアットロはまだやるべきことがあると言っていたので、生きてはいるだろう。
しかし、それもいつまで保つかわからない。最後の力を振り絞って自分を逃がしてくれたのだ、何としてでも彼女を助け出さなければならない。
だが、ガジェットに刺された傷の痛みと落下の衝撃でまともに動くこともできず、今は意識を保つので精一杯だった。
それでもガリューは必死で地面を這い、前に進もうとする。
エリオならば主を救ってくれる。彼と接触し、助けを求めなければ。
傷ついた彼の体を動かしているのは、主人への忠誠心だった。

「こっちだよ、こっちで大きな物音がしたんだ」

「待ってくれ、僕はそんなに早く歩けない」

「ああ、ごめん。ほら、肩貸して」

誰かが近づいてきている。
敵だろうか。
管理局ならば、自分のことを通報される恐れがある。そうなれば、その知らせはクアットロのもとまで届いてしまう。
かといって、面識のないレジスタンスでは問答無用で殺されてしまうかもしれない。自分は度々、彼らと交戦しては
多くのメンバーを血祭りに上げてきたからだ。
だが、その杞憂は次の一声で吹き飛ばされた。

「セイン、猟犬が何かを見つけた。人間ではないみたいだ」

這いずっていた体がピタリと止まる。
彼女なら信用できる。少なくとも、彼女は自分のことを知っているはずだ。
そして、クアットロとも繋がってはいない。彼女がレジスタンスとして活動していると、ゆりかごで聞いたことがある。
上手くいけば、エリオに主の危機を知らせることができるかもしれない。

「あっちだ」

「あれは・・・・・ガリュー!?」

「知り合いかい?」

「そんなところ。けど酷いケガだ。ガリュー、お嬢様はどうしたの? ガリュー!?」

懐かしい声に、ガリューは安堵の息を漏らす。
そして、自分を覗き込む水色の髪の少女に手を伸ばそうとしたところで、彼の意識は闇へと堕ちていった。


                                                       to be continued


32:B・A
08/11/20 01:25:27 sL/S6jvw
以上です。
クアットロをまともに書いたのは初めてだったけど、何故か筆が進む進む。
癖になりそうだ。
そして微妙にプロットの練り直しが出てきた今日この頃。
いつだって長編は予定通りに終わったことないんだ。

33:名無しさん@ピンキー
08/11/20 01:42:36 h/oeFBtE
投下乙!!
流石クアットロ!ゲロ以下の臭いがプンプンするぜ!!(誉め言葉)

34:名無しさん@ピンキー
08/11/20 02:04:09 bDUgCw3t
こいつはヤベェぜ……
一発目で上がったクアットロの株価が二発目で大暴落だぜw
なにはともあれ、アルカディア氏、B・A氏ともGJです。

35:名無しさん@ピンキー
08/11/20 02:07:49 nd2wHO9+
二作続けてクアットロ様が素敵すぎる。
どっちのクア姉も好きだー。

36:ザ・シガー
08/11/20 02:29:05 NPyun8oH
>B・A氏
ちょwww
分かり合えたと思ったら早速問題発生ですか!?
ああ、続きが気になって眠れん!!


という訳で投下行くぜ。
前スレに投下した「狙撃手と彼の灯火」の後編です。
今回はヴァイスがシグナム姐さんとエロエロだぜ!

37:狙撃手と彼の灯火(後編)
08/11/20 02:30:35 NPyun8oH
狙撃手と彼の灯火(後編)


「ふぅ……」


 ベッドサイドの薄明かりだけが照らす中、入浴を終えたヴァイスは濡れた身体を軽く拭くと服も纏わずに下半身にタオルを巻いただけの半裸の状態でベッドに腰掛けた。
 先ほどまで湯気が立ち上るほど熱かった身体もこんな格好ではすぐにちょっとした肌寒さを感じてしまう。
 だが股間の一部分だけは熱く熱を帯びていた。
 言うまでもなくそれはこれから交わす情交への期待に他ならない。
 シグナムは髪を乾かすのに時間がかかるというのでヴァイスは自分だけ先に風呂場から出てベッドで待っているのだが、何度味わってもこの緊張感は好きになれなかった。
 早く彼女が欲しいという獣染みた欲求とがっつく自分を情けなく思う部分が交じり合い、ヴァイスの心に火と水のような相反する要素を混在させる。
 だがこの精神状態がどう転がるかなんて分かり切っていた、どうせ結局最後に勝つのは獣欲の方だ。
 シグナムのあの艶めかしさ極まる肢体を前にすれば男の理性など紙屑よりも脆い。
 きっと自分は我を忘れて彼女の極上の肉体に溺れるのだろうという確信がヴァイスにはあった。
 だが、彼にはそれが酷く気に入らなかった。
 いつもそうだ、シグナムを前にすればあの極上の身体に溺れて一心不乱に彼女を貪る事しか出来ない。
 彼女が優しくして欲しいなどと言ってもお構い無しに責め立てて、それこそ気を失う程に犯す事もある。
 嗜虐的になりがちな自分にヴァイスは思わず独り言を呟いて自虐した。


「ダメだよなぁ、こんなんじゃ……今日くらいは優しくしねえと」


 そう漏らした時だった、風呂場から聞こえていたドライヤーの音が止み濡れた足音が近づいてくる。
 まるで熟し切った果実のように甘い香りが漂ってきたかと思えば、燃えるような緋色の髪を揺らした絶世の美女が現れた。


「すまん……待たせたな」


 僅かに濡れた淡い桜色の唇から紡ぎだされる言葉と吐息さえ甘く感じる。
 いつもはポニーテールに結われた髪はストレートに解かれて凛とした雰囲気を艶めかしさへと変えており、凄まじいプロポーションを誇る肢体はたった一枚のバスタオルで覆い隠されていた。
 シグナムの放つそのあまりの色香に、ヴァイスは呼吸すら忘れて魅入る。
 情交への期待の為かヴァイスを見つめる彼女の瞳は熱を帯びて潤んでいた。
 視線が交錯するとそれだけで互いが淫らな欲望を滾らせている事が分かった。
 期待と不安のない交ぜになったようなシグナムの熱い眼差しに見つめられ、ヴァイスは思わず顔を俯けて目を逸らす。


(やっべぇ……姐さん、綺麗過ぎる……)


 これ以上彼女の瞳を見続けたら一気に理性がぶち切れて襲い掛かるかと思ったからだ。
 しかしこれが不味かった。
 下方に移動した視線の先には、身体を覆うバスタオルからはみ出た瑞々しい太股があったのだ。
 むっちりとした素晴らしい肉付きを誇り、美しいラインを描く太股、白磁の如く白い肌は先ほどの入浴の為に淡く紅潮して芳しい色香を漂わせている。
 欲情を抑えようと視線を移したのに、それがかえって逆効果を生み出し余計に性欲が昂ぶってしまった。
 ヴァイスの腰を覆っていたタオルが著しく怒張を始めた肉棒に押し上げられ、股間に小さなテントを作り上げる。
 そうすれば、自然とシグナムの視線がそこへ収束してしまうのも無理からぬ事だろう。


「……」

「……」


 眼に見える彼の欲情の顕現に、シグナムは頬をさらに紅く染めて恥ずかしそうに顔を俯けた。

38:狙撃手と彼の灯火(後編)
08/11/20 02:32:28 NPyun8oH
 しばしの間続く沈黙、それを破ったのはヴァイスの方からだった。


「ええっと……とりあえず、こっち来たらどうっすか?」

「……ああ」


 ヴァイスの言葉に蚊の鳴くような小さな声で返事を返すと、シグナムは彼の傍にそっと歩み寄る。
 一歩また一歩と、距離が縮まる度に彼女から漂う蕩けるように甘い雌の香りが色濃くなっていくのを感じた。
 雄の欲情を誘う香り、人の中に潜む獣を呼び覚ます危険な芳香がヴァイスの鼻腔を刺激。
 そして、シグナムが目の前まで迫ればその匂いは最高潮へと達し、さらに彼女の火照る身体の微熱までもが空気を通して伝わってくる。
 ヴァイスは表面上こそ平静を保っていたが、彼の中では雄の獣性が目の前の極上の雌肉への渇望に荒れ狂っていた。
 それこそ、少しでも理性の抵抗が弱まれば彼は一匹の狂える野獣へと変貌するだろう。
 シグナムをベッドに引きずり倒し、有無を言わさず彼女を犯し、嬲り、喰らい、貪り、精の尽き果てるまで徹底的にヤり狂う事は必定だった。
 青年の身体からは自然と瘴気の如き気迫が滲み出る。
 空気を伝わるヴァイスの獣性に温度が僅かに高くなるような錯覚すら感じた。

 彼の様子が変貌しつつある事を察して、シグナムは少し身体を強張らせる。
 欲情したヴァイスの欲する激しい姦通を想像すると、彼女の内には期待とも不安とも知れない感情が芽生えた。
 気を失う程に激しく犯される事への恐怖、彼に愛される事への喜びが混在して美女の胸の中に混沌をもたらす。
 そして彼女に伸ばされる男の腕。
 シグナムは僅かに唇を噛み締めて来る陵辱への覚悟を決める。

 だがそれは杞憂に終わった。


「ひゃっ?」


 シグナムへと伸びた腕は、彼女を無理矢理引き倒そう等とはせずに優しく抱きしめながら引き寄せた。
 将の口からは、普段の彼女らしからぬ素っ頓狂で可愛げのある声が思わず漏れてしまう。
 そうして優しく抱き寄せられたかと思えば、次もまた優しく柔らかな手つきでベッドに寝かせられる。
 白いシーツの上に燃え盛るように鮮やかな緋色の髪が、さながら火の河のように美しく広がって甘やかな香りを撒き散らす。
 彼の突然の行動に、シグナムは目を丸くした。
 この状況、ヴァイスならばきっと激しい行為を欲すると考えていた予想が打ち破られて、烈火の将は心底驚く。


「……ヴァイス……その、どうしたんだ?」

「別にどうもしないっすよ」

「いや……いつもはもっと、その……激しいだろ?……無理せず好きにして良いぞ?」


 いつもとまるで違うヴァイスの対応に、シグナムは少し不安そうな色を表情に浮かべた。
 もしかして自分が何か不手際をしてしまい、それで彼に無理をさせているのではないか? 将はほとんど杞憂と言える不安に駆り立てられる。
 そんな彼女へのヴァイスの返礼は言葉ではなかった。
 そっと、静かに顔を寄せたかと思えば、二人の唇が音もなく重なる。
 ただ唇を触れ合わせるだけの優しいキス、だがそれは百万の言葉でも敵わぬ程に“愛している”という事を伝える愛撫。
 時間にすれば数分にも満たぬ間、二人は心まで溶け合うような口付けに身を委ねた。
 そして唐突に始まったキスは、再び唐突に終わりを告げる。

39:狙撃手と彼の灯火(後編)
08/11/20 02:34:21 NPyun8oH
 ヴァイスは最初顔を近づけた時と同じく、音も立てずにそっと顔を離した。


「別に無理なんてしてないっすよ。ただ、今日はこうしたいだけですから」

「そうかなの? いや……お前がそれで良いなら構わんが……好きにしろ」

「ええ、じゃあ好きにさせてもらいますよ」


 そう言うや否や、ヴァイスは目の前の美女の肢体を覆っていたバスタオルに手をかける。
 軽く結ばれた結び目を指で解けば、邪魔な薄布はいとも簡単に剥がされた。


「あっ……」


 唐突に裸身に剥かれ、シグナムの口からは思わず小さな声が漏れる。
 そうして現れるのは一糸纏わぬ極上の美女の裸体。
 タオルを脱がした反動で面白いくらいに揺れるたわわに実った二つの乳房、最低限の脂肪を乗せてキュっと引き締まったウエスト、大きく張りのある美しいラインを誇るヒップ。
 この世の男全てを虜にしてしまいそうな悩ましい肢体、その全てが露になる。
 先ほどの入浴で普段は白磁のように白く美しい肌はほのかに紅潮して鮮やかな桜色に染まり、さながら一個の究極的な芸術品の如き美麗さを誇っていた。
 何も遮る物がなくなった肌から漂う形容し難い甘く妖しい香りが鼻腔を刺激し、ヴァイスは思わずゴクリと音を立てて唾を飲み込む。
 滾る獣欲が身体の内側で“目の前の雌をメチャクチャにしたい”と荒々しい咆哮を上げるが、それを制して彼は優しく手を伸ばした。
 途端に、シグナムの唇からは小さく艶やかな声が僅かに漏れた。


「はぁぁ……」


 銃のグリップを握り締めトリガーを引き続けた大きくゴツゴツとした指が、豊かに実った果実に触れる。
 極上の柔らかさを誇るたわわな乳肉にヴァイスの指が沈み込み、乳房の形を面白いくらいに変えて行く。
 シグナムの肌はどこもかしこも素晴らしいキメの細かさとスベスベとしながらも吸い付くような潤いを有するが、中でもこの胸は格別の手触りだった。
 触ればその抵抗に一瞬張りをもって応えるが、すぐにそれは力に負けて柔い肉の内に沈み込む。
 正に至高にして至福の感触、一度触れば病み付きになりいつまでも愛撫し続けたくなるような魔性の魅力に満ちた乳房にしばしの間ヴァイスは酔い痴れる。


「んぅぅ……はぁ……」


 繰り返される乳房への愛撫に、烈火の将の口からは悦びの溶けた甘い声が漏れた。
 やんわりと乳房全体を優しく揉みしだかれ、時折先端の突起を指先で擦られて、ピリピリとした淡い桃色の電流が背筋を駆け上り脳髄を蕩かす。
 いつもはそれこそ苦痛と相半ばするような激しい愛撫だが、今日はソレとは打って変わったどこまでも優しいものだった。
 甘い、それこそ脳髄の奥まで溶けてしまいそうな切ない愛撫。
 徐々に身体の芯に先ほどの入浴とはまるで違う熱が生まれてくる。
 股ぐらの秘裂がじわじわと熱くなり、汗ではない水気がしっとりと滲んできた。
 シグナムがそれを意識した刹那、胸を愛撫していた片方の手がするりと下腹部に移動する。
 豊かな乳房から引き締まった腹部をなぞりながら下降した指先が湿り気を帯び始めた秘所に到達。
 そしてヴァイスは滲み出る果汁を確かめるように入り口を撫で上げた。
 途端に、シグナムの口からは今までの比でない艶やかな声が溢れ出る。


「はぁっ!……んぅぅ」


 全身に走る甘やかな刺激に、しなやかなラインを描く四肢が一瞬震えた。
 その上々な反応を見て、ヴァイスは愛撫を僅かに強める。
 乳房を責めていた手はもう少し力を込めて柔らかな乳肉を揉みしだき先端の愛らしい乳首を摘む、下腹部に移した反対の手は秘所の入り口を軽く弄りながら淫核を転がした。
 愛撫の刺激が生じる度に、うっすらと紅潮した艶めかしい女体が反応して小刻みに震える。
 決して普段は見る事の出来ない烈火の将の顔、それは彼女の中の雌(おんな)の顔だった。

40:狙撃手と彼の灯火(後編)
08/11/20 02:35:34 NPyun8oH
 シグナムが徐々に快楽の美酒に酔い始めた事を確信すると、さらにヴァイスは放置されていたもう片方の胸にも狙いを付ける。
 そしてそっと顔を寄せたかと思えば、さながら母乳に餓えた乳飲み子のように吸い付いた。


「ふにゃぁっ!」


 乳房に生じたとびきりの快感に、烈火の将は普段の彼女からは想像もできない甘えた声を発した。
 最初はうっすらと濡れていただけの秘裂はもはや洪水のような様を呈し、愛撫を続けていたヴァイスの指がふやけるかと思うほどに蜜を溢れさせていた。
 シーツにできた染みはまるで失禁でもしたかのように大きく広がっている。
 目の前の女体が既に雄の欲望を受け入れる準備を完了している事は分かり切っていたが、ヴァイスはそれでもまだ挿入を行おうとはしない。
 あと少し、あともう少しだけ愛撫を続ければ彼女が達すると踏んでいるからだ。
 シグナム与えられる絶頂寸前の快楽を完全に登り詰めさせる為に、ヴァイスは愛撫の手をさらにもう一段階強める。
 指先に力を込めて柔らかな乳房に指を沈ませて揉みしだくと共に先端の乳頭をキュッとつまみ、口に含んだもう片方の乳首はキャンディでも舐め溶かすように舌を這わした。
 胸の先から走る快感の波にシグナムのしなやかな肢体が小刻みに震える。
 だが、さらに下腹部から駆け抜けたモノはそれを大きく上回るものだった。
 蜜壷に侵入した人差し指が卓越した愛撫の手管で探り出した性感帯、Gスポットに狙いを定めて執拗に引っ掻くように擦り上げ、それに加えて敏感な淫核を親指の腹が押しつぶす。
 そうして胸と秘所の敏感な箇所を同時に責め立てられた瞬間、遂に彼女の快楽は決定的な崩落を起こした。


「はひゃぁぁあっ!」


 背筋を駆け巡り脳髄を焼いた絶頂の電撃にシグナムは堪らなく甘えた声で鳴いた。
 あっけなく達してしまった身体はその快楽に素直に反応し、全身をしならせ蜜壷に埋まっていた指をキュウキュウと締め付ける。
 しばらくの間、シグナムはただ荒い呼吸をして汗に濡れた身体を震わせた。


「はぁ……はぁ……」

「姐さん、大丈夫ですか?」


 僅かに焦点の合わぬトロンと潤んだ瞳で絶頂の余韻に浸るシグナムに、ヴァイスはそっと彼女の髪を撫でながら尋ねた。
 少し気をやったかに見えたシグナムだったが、以外に意識ははっきりとしており彼の言葉にすぐに反応する。


「ああ……気にするな……それよりも」

「うあっ!?」


 言葉と共にシグナムの手がするりと下に伸びると、硬く隆起して雄の欲望をこれでもかと体言していた肉棒に触れた。
 ヴァイスが腰に纏っていたタオルは一瞬で剥ぎ落とされ、白魚のようにしなやかな指が男根に絡みつく。
 熱く滾った男性器がひんやりとした女の指に握り締められて、その心地良い感触にビクンと小さく震えた。
 ヴァイスの口からは思わず陶酔と驚きとが混じった声が漏れる。


「お前もそろそろコッチを満足させたいだろう?」

「ええ……そりゃまぁ」


 彼の言葉に、シグナムは自分で両足を広げながら口元に微笑を宿してそっと甘く囁き返す。
 それは普段の彼女からは想像も出来ないほどいやらしく、そして筆舌しがたい美しさを宿した媚態。

41:狙撃手と彼の灯火(後編)
08/11/20 02:37:17 NPyun8oH
 さながら猛毒のような効き目を持つ誘惑の罠だった。


「だったら、ほら……早く来てくれ……」


 むっちりと素晴らしい肉付きをした白く美しい太股が左右に開かれれば、その間には少しのくすみも存在しない綺麗な桃色の媚肉が蠢いていた。
 絶頂するまで愛撫された事により秘裂からはコンコンと泉のように愛蜜が溢れ出してシーツにシミを作り、いやらしい雌の発情した甘酸っぱい香りを漂わせてヴァイスを堪らなく誘う。
 むせ返るような果汁の滴りから、そこから発する熱まで伝わってくる気がした。
 薄明かりの中で己を妖しく誘う眼前の雌穴にヴァイスは思わず唾を飲み込む。
 そして彼女のスラリと伸びた両足に手をかけると、ゆっくり自分の腰を突き出していった。
 石のように硬くそそり立った肉棒が雄を受け入れる為の淫穴へと徐々に距離を詰め、ぬちょりと粘着質な音を立ててその先端で入り口に触れる。
 その瞬間、互いの性器のあまりの熱さに両者の体が軽く震えた。
 分かる、このまま身体を沈めて繋がれば凄まじい快楽が身も心も焼き尽くすと。
 悦楽のもたらす陶酔への期待が二人の肉欲にさらに燃料を注いで燃え上がらせた。


「んぅ……はぁぁ……」


 徐々に進み行く肉棒が濡れそぼった肉穴を掻き分けて突き進み、彼女の体内へと侵入を果たして行く。
 与えられる快楽に、自然とシグナムの唇からは甘い吐息と切ない喘ぎ声が漏れる。
 そして、ゆっくりと姦通を行使していた肉棒が遂にその全身を蜜壷へと埋めた。


「ぐぅ……それじゃあ、動きますよ……」


 結合により与えられる快楽に呻きつつ、ヴァイスはそう言って腰の律動を始める。
 ぐしょ濡れになった肉の穴を、石の如く硬くなった男根がゆっくりと抉りだした。
 結合部からはいやらしい粘着質な音が響き、彼女の唇から零れ落ちる嬌声と重なり淫らな狂想曲を奏でる。


「ひゃぁっ……はぅんっ!……んぅ……ふあぁっ!」


 腰の律動に肉壁を擦りあげられ、常の凛然とした様が嘘のようにシグナムは乱れた。
 だらしなく開いた口からは唾液を垂れ流すと共に甘く蕩けるような喘ぎ声が漏れ、普段は凛々しい切れ長の瞳からは悦楽の悦びに涙を流して潤む。
 汗により濡れる艶めいた肢体が肉棒に突き上げられる度に揺さぶられ、豊満極まる乳房の柔肉を大きく震わせた。
 さながら発情しきった雌としか形容できぬ淫らな様、烈火の将でもベルカの騎士でもないただの女としてのシグナムの姿である。
 ベッドに広がる長く艶やかな緋色の髪の中で雄に貫かれて乱れる様は、もはやこの世のモノとは思えぬ程に美しくそしていやらしかった。
 だが圧倒的な快楽に悶えるのは彼女だけではない。


「ぐぅぅ……姐さん、もうちょい力抜いてください……これじゃ……すぐ出ちまう」

「そんなぁ……んはぁっ!……無茶なこと、言うなぁ……」


 ヴァイスの訴えに、シグナムはまるでいやいやをするかのように首を横に振って応える。
 彼女の蜜壷は凄まじい力で収縮を繰り返し、結合した肉棒をこれでもかと責め立てていた。
 それは単に締め付けが強いなどと言うレベルの話ではない。
 何箇所にも存在する締め付ける肉壁の蠢き、幾重にも幾重にも男根に妖しく絡みつき律動する肉ヒダ、さながら男を虜にする為に存在するかのような凄まじい快楽を与える淫穴。
 シグナムの意思とは無関係に、一個の生命体のように彼女の秘所は雄を蕩かせる魔性だった。
 その日まだ一度も射精を行っていないヴァイスには、苛烈と言って差し支えないほどの暴力的な快感である。
 我慢できる限界を超えた悦楽に、彼の中の白濁が決壊するのは時間の問題だった。
 快楽の頂きが近づくにつれてヴァイスの腰はどんどん動きを速く強く変化させていく。
 腰が激しく動くと共に汗で濡れた肉同士が激しくぶつかり合い、泉のように果汁を溢れさせた蜜壷を肉棒が抉りこんでグチャグチャと音を立て、凄まじく淫靡で背徳的な音を奏でる。
 もうすぐだ、もうすぐ最大最高の射精感が訪れる、ヴァイスはそれを求めてひたすらに彼女を貪った。

42:狙撃手と彼の灯火(後編)
08/11/20 02:39:09 NPyun8oH
 そして絶頂の頂きは、呆気ないほどにすぐ訪れた。


「がぁっ!」


 苦痛とも取れるような呻き声を上げてヴァイスは全身を一瞬硬直させる。
 瞬間、シグナムの体内に埋没した肉棒が欲望の白いマグマを吐き出した。
 燃え盛る灼熱のような熱を帯びたソレが尿道を駆け上り、蜜壷の内部に凄まじい勢いで噴出される。
 自分の体内に打ち出される精の勢いに、シグナムは耳までドクドクという音が聞こえてきそうな錯覚を覚えた。


「ふぁぁっ!……あつぅい……せいしがぁ……ヴァイスのせいし……ぜんぶわたしのなかにでてるぅ……」


 火傷しそうな程に熱く煮え滾った精液を秘所で受け止め、シグナムは蕩けきった甘い声で喘いだ。
 射精の熱と勢いが彼女にも絶頂をもたらし、その意識を欠片も残さず白く染め上げた。
 何度も何度も脈動しながら吐き出せる限りの子種を吐き散らし、たっぷり十秒はかけてヴァイスの射精はようやく終わる。
 膣では受け入れきれない凄まじい量の精液が性器の結合部から溢れ出し、愛液と交じり合ったそれはベッドのシーツに零れて大きなシミを作った。


「はぁ……はぁ……」


 互いに迎えた絶頂の凄まじい快楽に、二人はただ荒く呼吸をしてその余韻のもたらす陶酔に浸る。
 意識から理性が溶け出して桃色の愛欲に染まっていく。
 しかし、絶頂を迎えたとは言えどたった一度の射精でヴァイスの肉欲が満足し尽くす訳もない。
 彼の怒張は未だに硬度も大きさも失わず、“もっと犯したい”と無言の主張を続けてシグナムの蜜壷を貫いていた。
 この事に、彼女は絶頂の余韻で意識を蕩かせながらもそっと手をヴァイスの背中に回して彼を抱き寄せる。
 そして、まるで糖蜜のように甘い声で耳元に囁きかけた。


「ヴァイス……」

「姐さん?」

「我慢なんてするな……したかったら、好きなだけ私を犯して良いぞ?」


 優しげで温かい微笑みを浮かべながら、シグナムは彼にそう促す。
 それは淫婦のような妖しさと、慈母のような優しさが交じり合った形容し難い微笑だった。
 ヴァイスは目の前の愛しい人が見せるその表情に一瞬息を飲んで魅入られる。
 シグナムは自分をどこまでも受け入れてくれる、自分をどこまでも深く愛してくれる、その存在の全てを以って。
 本当に心の底から彼女を愛しいと思った、恋しいと感じた。
 そう思えば、いつの間にか唇と重ね合わせていた。


「ぴちゃ……んぅぅ……」


 そっと触れ合わせ、軽く舌を絡めるだけの優しいキス。
 でもその口付けにはどんな愛撫よりも深く心が繋がるような愛しさが込められていた。
 しばしの間、二人は心も身体も繋げた。
 一瞬の事なのに永久にも感じられる愛撫、互いに唇を味わうと二人はそっと顔を離す。

43:狙撃手と彼の灯火(後編)
08/11/20 02:41:20 NPyun8oH
 見詰め合う瞳と瞳、もう言葉なんていらなかった。


「ふあぁぁ……はぁぁあっ!……」


 愛し合う二人の体温により空気は熱を帯び、吐き出される吐息にむせ返るような性臭を漂わせる。
 後にはただ、蕩けるような雌(おんな)の嬌声に彩られながら、欲望と愛を混ぜ合わせた男女の睦み合いが続いた。

 二人の契りは熱く激しかったが、ヴァイスは最初に立てた誓い通り最後まで優しく彼女を抱いた……





 身も心も溶けるような愛欲の宴が終わり、うだるような熱気は引いて部屋の温度は僅かに下がった。
 その肌寒さの中で暖を得るように、ヴァイスとシグナムは同じシーツに包まりながら一糸纏わぬ身体を寄せ合って肌を重ねている。
 性交後の気だるげなまどろみ、漂う空気はどこか甘いように感じられた。
 そして、シーツの中からはシグナムの少し上ずったような声が漏れる。


「んぅ……くすぐったいぞ……」


 身体を寄せ合いながらヴァイスの伸ばした指に髪を撫でられ、シグナムはくすぐったそうに身をよじった。
 そんな彼女の仕草にヴァイスは名残惜しそうにそっと指を離して囁くように尋ねる。


「嫌っすか?」

「別に嫌じゃないが……お前は本当に髪が好きだな」

「ええ……凄く甘くて良い香りして……触ってると気持ち良いんすよ……」


 ヴァイスは少し疲れたのか、眠たそうにそう言いながらシグナムの髪を一房手に掬い指に間で弄ぶ。
 彼の愛撫にシグナムはくすぐったそうに、でも気持ち良さそうに目を細める。
 かつては自分の大きな胸も長い髪も、剣を振るうのに邪魔だとしか思えなかったが、今は違う。
 一年以上前、ある日彼に想いを告げられて恋仲になってから、こうして愛でられる悦びを覚えて全てが変わった。
 女である事すら鬱陶しいと思った事もあったが、そんな事今では想像もできない。
 八神家の家族へ向けるモノとは似ているようでまるで違う、狂おしい程に愛しく恋しい感情、この世でただ一人の男にだけ注ぐ想い。
 その情愛をたっぷりと込めて、シグナムはそっと囁き返した。


「そうか、なら好きなだけ触れ。私も悪い気はしない」


 自然と彼女の顔には微笑みが宿り、声はさながら子をあやす様に優しげなモノになっていた。
 甘い、それこそ骨の髄まで蕩けてしまいそうな空気が二人の間に満ちる。
 いつまでもこのまどろみの中に浸かっていたいような気さえした。

 だがシグナムはふと、表情と瞳に僅かに悲しみを混ぜて彼を見つめた。

44:狙撃手と彼の灯火(後編)
08/11/20 02:43:00 NPyun8oH
 薄暗がりの中でも意識できる視線の力に、ヴァイスは愛撫の手をそっと止める。


「なあヴァイス……」

「なんすか?」

「やはり……狙撃の任務は続けるのか?」

「……」


 シグナムの言葉にヴァイスは黙りこくる。
 その日の狙撃任務の最後に彼が倒れたと聞いてからシグナムは気が気ではなかった。
 アルトからの連絡で彼の容態に問題はなく無事だと聞いても仕事にほとんど手が付かず、無理を言って早退し彼の家まで押しかけた。
 それで帰ってきたヴァイスを迎えようと料理を作り風呂を沸かし、彼と何度も身体を契った。
 それでも不安の影は消えない、心配で堪らない。


「このまま続けたらいつか身体を……下手をしたら心を壊すぞ? もうしばらくヘリパイロットだけでも……」

「姐さん」


 不安そうな口ぶりで話すシグナムにヴァイスが一言、冷たく突き放すような響きの声で遮った。
 彼のその言葉の残響に、シグナムの言葉は一瞬で止まる。


「ダメなんっすよ……今しか……今じゃないと……」


 まるで内臓を搾り出すような声で、さながら地獄で懺悔するような声で彼は呻いた。


「一年前のJS事件の時……ティアナを助ける為にまたストームレイダーを握ってから、俺は決めたんです……もう二度と外さない、二度と引き金から指を離さないって」


 彼が語るのは固く誓った決意、決して曲げる事を自分自身が許さぬ不退転の誓い。
 かつて大切な肉親を傷つけたトラウマを完全に克服できず未だに悪夢にうなされようと、ヴァイスはもう絶対に狙撃任務から逃げる事を止めた。
 それがどれだけ自分の心と身体を蝕んだとしても……


「姐さんが心配してくれるのは嬉しいですよ……でも、これだけは貫きたいんですよ……つまらない意地ってヤツを」


 その言葉にはいったいどれだけの思いが、決意が込められていたのか。
 この一年、彼と誰よりも時間を共にし、身も心も重ねてきたシグナムには痛いほど理解できる。
 一度男が立てた誇り、どれだけ彼を案じたとしてもシグナムにそれを反故にする事は叶わなかった。


「そうか……ならもう何も言わん……」


 彼女の唇から哀しげな残響が漏れると同時に、そのしなやかな腕がヴァイスを抱き寄せた。


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