☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第88話☆at EROPARO
☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第88話☆ - 暇つぶし2ch450:B・A
08/11/16 02:12:31 Rdbz/Po+
>>448
GJ。
ウーノが可愛すぎる。
もう切なくて2人の幸せを祈らずにはいられない。
残る2話でどう決着させるのか気になります。



さて、5分後くらいから投下いきます。

451:B・A
08/11/16 02:24:22 Rdbz/Po+
推敲完了、ではいきます。


注意事項
・非エロでバトルです
・時間軸はJS事件から3年後
・JS事件でもしもスカ側が勝利していたら
・捏造満載
・一部のキャラクターは死亡しています
・一部のキャラクターはスカ側に寝返っています
・色んなキャラが悲惨な目にあっています、鬱要素あり
・物騒な単語(「殺す」とか「復讐」とか)いっぱい出てきます
・SSXネタもあります、未聴の人は気をつけて
・主人公その1:エリオ
     その2:スバル
・タイトルは「UNDERDOGS」  訳:負け犬

452:UNDERDOGS 第五話①
08/11/16 02:25:48 Rdbz/Po+
自身に注がれる複数の視線に耐えられず、スバルは顔を俯かせる。
苦労しながらも追っ手の目を搔い潜り、野良犬に扮していたザフィーラを見つけたスバル達は、
カルタスの治療のために彼らが拠点としているクラウディアへと招かれた。
懐かしい面々と再会したのに、あまり喜ばしい気持ちにはなれなかった。迷惑をかけまいと自分から出て行ったのだ、
気まずくて当然である。

「たった1人で局の関連施設への破壊工作。よくも生き残れたものだ」

この3年間の足取りを手短に説明されたクロノは、呆れたように顔をしかめる。
ロクな支援も得られないまま、現地調達の部品でメンテナンスを繰り返しつつ重要施設に潜入、情報を集めた後に破壊する。
言葉にするのは簡単だが、凄腕の武装局員でも難しいことだ。人よりも無茶の利く機械の体に高い生存能力、
そして彼女のISがあったからこそ今日まで生き残ってこれたのだ。最も、そのおかげでスバルの体は目に見えてボロボロになっていたが。

「あの、カルタスさんのことですが・・・・・・・」

「ああ、それに関しては少々問題があってね」

「問題ですか?」

「簡単なメンテナンスくらいならこちらでもできるわ。協力者のおかげで、私達も戦闘機人の取り扱い方がわかってきたから」

シャマルの言葉が終るか終らないかの内に、会議室の扉が開いて茶髪の少女が姿を現す。
見覚えのあるその姿に、スバルはイクスを庇うように彼女から距離を取る。

「お前、ナンバーズの・・・・・」

「スバル、彼女は味方よ」

「初めまして、ゼロ・セカンド。直に話をするのは初めてですね」

恭しく一礼した彼女の名はディード。かつてはスカリエッティの手先として機動六課の前に立ち塞がり、
最終決戦においてティアナと対峙した戦闘機人だ。

「何で、お前が・・・・・・・」

「彼女もメンバーの1人だ。3年前に機動六課が保護したナンバーズは、治療中の1人を含めて3人ともクラウディアに乗船している」

「お見知りおきを、ゼロ・セカンド。それとも、スバル姉様とお呼びした方がよろしいですか?」

問いかけるディードに、スバルは無言で返答する。大切な家族をスカリエッティによって奪われたスバルに、
その配下であった者に良い感情は抱けという方が難しい。だが、少なくともクロノ達は彼女を信頼しているようだ。
スバル・ナカジマという異物が現れたことによる張り詰めた空気が、彼女の登場でほんの少しだけ和らいだ気がする。


453:UNDERDOGS 第五話②
08/11/16 02:26:42 Rdbz/Po+
「ディード、検査の結果を」

「はい。結論から述べますと、修復は不可能です。幾つかのパーツはストックがありますし、私やオットーでも修理可能ですが、
基礎フレームの修復まではできません。人工臓器も幾つか取り換えねばなりませんし、ちゃんとした知識のある人間でなければ施術は困難でしょう」

「やはりか。なら、多少の危険を覚悟してでも奪ってくるしかないか」

何やら考え込むようにクロノは瞼を閉じ、数秒置いてからスバルに向き直る。

「彼の治療は全面的にこちらで引き受けよう。ただし、今後は君が我々に協力してくれることが条件だ」

「良いんですか、わたしみたいなのがいても」

「ナカジマ二等陸士、私達は何も戦闘機人を排斥したいわけじゃない。あくまで敵はスカリエッティ、そして公然と人道に反している管理局だ。
現にディードのように戦闘機人がメンバーに加わっているし、実弾デバイスを使用している者もいる。それに敵は強大だ。
情けない話だが、今のままでは勝ち目は薄い。だから君のように優秀な者の力が必要だ」

「戦闘機人の力をですか?」

「スバル!」

あまりにも辛辣な言葉に、今まで黙っていたティアナが声を荒げて立ち上がる。
だが、彼女がスバルに掴みかかるよりも早く、彼女の傍らにいた少女の平手がスバルの頬に飛んでいた。

「・・・!?」

「すみません。ですが、そのような言葉はあなたらしくありません」

鋭い目つきでスバルを睨んでいるのはイクスだ。さっきまで怯える様に縮こまっていたのに、今はその面影は微塵も感じられない。
ただの傍観者でしかなかった彼女が、一転してこの場を支配する主役へと変化していた。

「スバル、この方々はあなたの仲間なのでしょう。ならば、卑屈になるのは止めてください」

「けど・・・・・・・」

反論しようとするスバルの額に、イクスは容赦なく自分の指を叩きつける。俗にいうでこピンという奴だ。

「・・・!?」

「おバカな子にはでこピンです」

「・・・・そう、でしたね」

「もう少し信じてあげては如何ですか? 少なくとも、スカリエッティを憎む気持ちはみんな同じなのでしょう」

「すみません。けど・・・・・・いえ、そうですね、こんなのはわたしらしくないや」

頭を振り、スバルはクロノに向き直る。彼女の脳裏に蘇ったのは、前にカルタスが言ってくれた言葉だ。

『汚れた手でも、抱きしめることはできる』

復讐が目的だからといって、孤独でいる必要はないのだ。
自分の戦いは正義のためではない。そんな風に決めつけて、安っぽい正義感に押し潰されるのを避けていただけだ。
けど、どんなに誤魔化しても自分の本心は曲げられない。スカリエッティは許せないし、できることなら人殺しはしたくない。
それは偽善かもしれないし、自分の甘さなのかもしれない。けれど、どっちか捨てることなんてできないのだ。
どっちも自分の中から生まれた気持ちに違いはない。なら、とことん貫いてみるのも良いかもしれない。


454:UNDERDOGS 第五話③
08/11/16 02:27:35 Rdbz/Po+
「正直に言います。わたしはスカリエッティが許せない。もしもチャンスがあるのなら、この手であいつを殺したい。
それでも・・・・・・・構いませんか?」

「良いだろう。歓迎しよう、スバル・ナカジマ二等陸士。ようこそ、我らが家、クラウディアへ」

クロノは立ち上がり、握手を求めて右手を差し出す。だが、スバルはその手を掴もうとして一歩踏み出した瞬間、
バランスを崩して前のめりに倒れ込んだ。咄嗟にティアナが駆け寄って支えなければ、テーブルに頭をぶつけていたかもしれない。

「スバル!?」

「大丈夫・・・・・・少し、よろめいただけだから・・・・・・」

「今日までの疲労が一気に出たんです。本当は、あなただって診てもらわないといけないのに」

「提督、スバルを医務室まで連れて行きます」

「ああ、頼むよ」

ティアナの肩を借り、スバルは会議室を後にする。1人残されたイクスは、どうしたものかと困惑気味に周囲を見回した後、
無言で一礼して彼女達の後を追った。何と言うか、不思議な少女だ。毅然とした態度を取ったかと思えば、
年相応の少女のような反応も見せる。子どもの頃のなのはやフェイトを見ているようだと、クロノは思った。

「とりあえず、協力はこぎつけられたか」

「ご苦労さまです、提督」

「こういうのは僕の性分じゃない。彼女がいなかったら、どうなっていたものか」

「不思議な娘ですね、あの娘。けど、どこかで会ったことあるような・・・・・・・・」

「知り合いかい?」

「いえ、多分人違いです。私が彼女と会ったのは大昔の戦場ですから、他人の空似でしょう」

「そうか。それじゃ、大至急エリオとギャレットを呼んでくれ。襲撃計画を立てなきゃいけない。
場合によっては、君やザフィーラにも動いてもらうかもしれない」

「了解。マリエル技師官奪還大作戦ですね」

「いいや、悪党らしく誘拐させてもらうのさ」





クラウディアの内部は見た目に違わず非常に広く、通路も数人が横に列を成しても歩けるように造られている。
天井に至っては空戦魔導師が空中戦を行えるくらい高く造られており、艦内に敵が侵入された場合の白兵戦も考慮されて設計されているのだろう。
だが、艦内の広さに反してすれ違う人間は疎らだった。ほとんどの乗員が何かしらの仕事をしているのもあるのだろうが、
それ以前に乗り込んでいる人間自体が少ないのだ。3年前と比較して、明らかに人員は減っている。


455:UNDERDOGS 第五話④
08/11/16 02:28:15 Rdbz/Po+
「相手は戦闘機人に人造魔導師、無傷で生還する方が難しいわ。非戦闘員は残りたいって人以外降ろしちゃったし、
今じゃ食事を作るのも当番制なのよ」

「ははっ、シャマル先生の料理だけは食べたくないなぁ」

「艦長命令で禁止されているわ」

乾いた笑みが高い天井に響いて反響する。
3年前の決戦の時以上に、ここでは死というものが身近にある。隣で肩を貸してくれているかつてのパートナーも、
ひょっとしたら明日にはいなくなっているかもしれない。或いは、肩を借りている自分自身が。

「ティア・・・・・ヴァイス陸曹と会ったよ」

「・・・!」

「ううん、顔は見ていない。けど、空の上から狙撃してきた人がいるんだ。あのヘリの形、ストームレイダーに似ていた。
ティアの言っていたことが本当なら、きっとカルタスさんを狙撃したのは・・・・・・・・・」

「止めて」

感情を押し殺したような声で、ティアナはスバルの言葉を遮る。
ヴァイス・グランセニックは機動六課でヘリのパイロットをしていた男性だ。陽気だがどこか陰のある男で、
危なっかしい新人であった自分達をいつも見守ってくれていた。また、武装隊出身で狙撃に関してはエース級の実力を持ち、
その経歴を知ったティアナは同じガンナーとして尊敬のような思いを抱いていた。だが、彼は自分達の前から姿を消した。
あの決戦の時、ティアナはディードを始めとする3人の戦闘機人と対峙し、後一歩というところまで追い詰めていた。
だが、長時間の戦闘の疲労によって不意を突かれ、背後に回り込まれてしまった。その時、ヘリに乗って上空を飛んでいた
ヴァイスはティアナを守ろうと長距離狙撃を行ったのだが、撃ち出された魔力弾はディードではなくティアナの右目を誤射してしまった。
それでもティアナは辛うじてディードの攻撃から身を守り、他の2人を取り逃がしたものの戦闘に勝利することはできた。
だが、ティアナの右目を誤射してしまったヴァイスが乗っていたヘリは墜落してしまい、ヴァイス自身はそのまま消息不明になっていたのだ。

「きっと、何か事情があるのよ・・・・・・・でなきゃ、ヴァイス陸曹がスバル達を傷つけようとするはずない」

「ティア・・・・・・・」

かける言葉が見つからず、スバルは押し黙る。
その時、通路の角からエリオが現れ、スバルと鉢合わせの格好となった。

「・・・・・スバルさん」

「久し振り・・・・・・エリオ」

気まずい沈黙が場を支配する。
3年前ならスバルの方から話しかけていた。他愛のない冗談にうぶなエリオが頬を赤らめ、照れながら抗議する。
そんな2人をキャロが楽しそうに見つめていて、ティアナが辛辣なツッコミで調停役に回る。
それが彼女達の日常だった。
だが、それは3年前に崩壊した。
そして、スバルとエリオの間には、埋めようもない齟齬が生じているのだ。

「失礼します」

一礼し、エリオは早足でその場を立ち去ろうとする。だが、スバルは苦しげに呻きながらもそれを制した。

「まだ、救おうとしているの?」

「・・・・・・ダメですか?」

感情のこもらない凍えるよう返答。
エリオが命を賭けて成そうとしていることのはずなのに、そこには熱意が感じられない。
まるで天井に反響する声のように空虚な響きがそこにあった。

456:UNDERDOGS 第五話⑤
08/11/16 02:29:21 Rdbz/Po+
「本当に、それがしたいこと?」

「それがキャロの願いです」

「エリオはどうしたいの?」

「キャロの願いを叶えます」

「・・・キャロのため?」

「はい」

迷うことなく、エリオは答えた。しかし、その表情は目に見えて辛そうだった。
握り締めた拳はふるふると震えており、視線も定まっていない。まるで自分に言い聞かせているみたいだ。

「エリオは、憎くないの?」

「憎む? 誰をですか? 何のために? それが何になるって言うんですか?」

「楽になれるよ、今よりは」

「憎しみは何も生みません。恨んじゃいけないんです」

「それでエリオは救われるの? 自分を押さえつけて、強い思いで羽交い絞めにして!?」

「復讐したって、スバルさんは救われないじゃないですか!?」

拳を壁に叩きつけ、エリオはスバルを睨みつける。
鈍い痛みが走ったが、気にはならなかった。それよりも、スバルの問いかけの方が遙かに堪える。
彼女の言葉を許容してはいけないと、エリオの中の誰かが告げている。

「誰かを傷つけても、虚しいだけです。自分から手を伸ばさなきゃ、何にも変わらないんです。
一人ぼっちのままなんですよ、ずっと!」

「それでもわたしは、自分に嘘だけはつきたくない。ううん、ついちゃいけないって、最近やっとわかってきた」

エリオの視線を、スバルは真っ向から迎え撃つ。
一触即発の気配が漂い始め、傍らのティアナは口を挟むこともできずにうろたえるしかなかった。
幼少の頃に兄を犯罪者に殺された彼女には、2人の言い分のどちらも理解できたからだ。
スバルが言うように相手を憎めば、少なくとも気持ちは楽になる。
エリオが言うように憎しみからは何も生まれない。仇を討っても死んだ人は蘇らないし楽しかった日々は戻ってこない。
お互いに大事な人を失いながらも、2人は正反対の答えに辿り着いていた。

「あの・・・・・・・」

そんな張り詰めた空気を破ったのは他でもない、イクスであった。

「無関係な私が口を挟むのはおこがましいことかもしれませんが、一言言わせてください」

「イクス?」

少しだけ緊張した面持ちで、イクスはエリオに向き直った。
透き通った緑色の瞳には、険しい表情を浮かべてエリオの顔が映っている。


457:UNDERDOGS 第五話⑥
08/11/16 02:30:17 Rdbz/Po+
「子どもは、泣いても良いのですよ」

「・・・・・・・・・・」

「辛いのなら泣いて良いし、苦しいのなら叫べば良い。違いませんか?」

「泣いても何も解決しないし、叫んだって何も変わりません」

「けど、後悔し続けるよりは良いと思います。一歩踏み出す勇気があなたにあるのなら、認めてください」

意味深な言葉で締めくくり、イクスは医務室へ向かうようにスバル達を促す。
向けるべき怒りの矛先を失ったエリオは、戸惑いながらもイクスを呼び止める。
最後の言葉は、エリオの心に深々と突き刺さっていた。自分でも見ようとしていなかった本心を、
無関係な赤の他人である彼女は意図も容易く見抜いていたのだ。

「君は、いったい・・・・・・」

「私はイクスヴェリア。スバルの友達です」

作り物めいた美しさと高貴な佇まいに、エリオは思わず息を飲んだ。
彼女の儚げな微笑みは、重傷を負って今も苦しんでいるフェイトとよく似ている気がしたからだ。





扉の前に立ち、チンクは自分の格好に不備がないかを確認する。
袖を通しているのはいつもの戦闘服ではなく、大人っぽさと可愛らしさが同居した子ども用の外出着だ。
片手には利便性も何もない小さなハンドバック、念入りにシャンプーした銀髪からは仄かにフローラルな香りが漂ってきている。
問題ない。全て、彼の記憶の通りだ。
緊張を解すかのように頬を叩き、チンクはインターホンに指を伸ばす。

『今、開ける』

スピーカー越しに聞こえた男の声に、チンクの鼓動は一瞬だけ高鳴った。
情けない話だが、百戦錬磨の戦闘機人である自分がたった1人の男と会話を交えようとしているだけで緊張しているのだ。
程なくして、ジャージ姿の茶髪の青年が姿を現す。その男はチンクの顔を見ると、何故か安心したかのようにホッと胸を撫で下ろし、
彼女を部屋へと招き入れた。

「悪いな、前もって言ってくれていればこっちから迎えに行ったんだが」

「いや、別に気にするな・・・いや、しないで良いよ」

いつもの尊大な口調が出てしまい、慌てて言い直す。
男は特に気にしていないようで、冷蔵庫からオレンジジュースを取り出してコップに注ぎ、椅子に座ったチンクの前に差し出した。


458:UNDERDOGS 第五話⑦
08/11/16 02:31:49 Rdbz/Po+
「・・・ありがとう」

「今日はどうしたんだ、俺に何か用か?」

「別に用はないが・・・・・ないけど、会いに来ちゃダメだった?」

「物好きだな。出来の悪い兄なんて放っておいて友達と遊びに行けば良いのによ」

そう言って、男は最近の職場での扱いがどうのだとか、薄着が流行っているがみっともないからお前はするなといった
どうでも良いようなことを話し出す。チンクはそれらに逐一相槌を打ったり、簡単な質問をするなどして男の話に耳を傾ける。
だが、すぐに虚しくなって黙り込んでしまった。男の話はどこかズレテいる。
例えば今の季節は秋なのに春であるかのように喋っていたり、少し前の出来事を話していたかと思うといきなり十何年も前のことを話し出す。
視線も虚ろで定まっておらず、質問への答えもどこかピントがずれたものになっていた。
何より、彼は自分のことをチンクとしては見ていない。かつて自分が誤って目を撃ち抜いてしまった妹であると思い込んでいるのだ。
男の名はヴァイス・グランセニック。ウーノの調べでは、あの機動六課のヘリパイロットであり、かつては武装隊で並ぶ者がいないほどの
狙撃のエースであったらしい。実際その腕前は確かなもので、先日もチンクは危ういところを彼に命を救われた。
しかし、今の彼を見ているとそれが夢だったのではないのかと思えてくる。
彼を見ていて込み上げてくるのは憐れみしかなかった。敵対していた自分がそう思えてしまうくらい、彼の心は壊れていたのだ。
チンクがヴァイスと出会ったのは、3年前の戦いの少し後だった。タイプゼロ・セカンドによる負傷を修復し終え、
ドクターと管理局との仲介役として飛び回っていた時のことだ。ヴァイスは襤褸切れのような服を身に纏い、
うわ言のように「俺のせいだ・・・・俺のせいだ・・・・」と繰り返しながら泥に汚れた体を引きずって歩いていた。
それだけならば、チンクもただの浮浪者として見過ごしていただろう。だが、彼はチンクの存在を認めると
疲れ果てた足を躓かせながらも這い寄って来て、手を伸ばしてきたのだ。これにはチンクも驚き、その顔に平手を打ち込んでやろうかとも考えた。
しかし、それをしなかったのは彼の呟きを聞いたからだ。

『ラグナ・・・・・・ティアナ・・・・』

ティアナ。
それはかつて敵対していた者の名前だ。
あまり詳しくは知らないが、自分達のアーキタイプとなったタイプゼロ・セカンドとコンビを組んで活動していたとは聞いている。
最後の戦いではノーヴェ、ウェンディ、ディードと交戦し、片目を失うもののディードを撃破、ノーヴェとウェンディを撤退にまで
追い込んだらしい。彼がそいつとどのような関係にあるのかまではわからないが、どこか安心したかのように縋りつくその姿を見ていると、
何故だか振り払うことができなかったのだ。雨の中を孤独に歩いている野良犬を思わず見てしまった時のような憐れみの心が、
チンクの胸を過ぎったのである。そして、そのまま気を失ってしまったヴァイスをチンクは病院に運び、治療を施させた。
だが、目覚めたヴァイスはどういう訳かチンクを自らの妹である「ラグナ」と思い込んでおり、何度言い聞かせても認識を改めようとはしなかった。
それだけでなく、彼は9年前からの記憶を全て失っており、自分がどうしてあんな恰好でうろついていたのかも覚えていなかった。
医者は精神的なショックが原因で記憶の錯乱が起きているのだろうと言っていた。そして、日常生活そのものは問題ないと診断されたので退院したのだが、
行く宛てもなかったのでそのまま「ラグナ」の兄としてチンクに着いて回っているのだ。そして、今ではゆりかごの中に一室を設けられて
そこで寝泊まりしているのだ。
もちろん、これには反対の意見もあった。特に上3人の姉は彼を住まわせることに最後まで難色を示していたが、
チンクの説得とドクターの「重要区画に入らせなければ構わない」という言葉のおかげで許しを得ることができた。
それにヴァイスは用がなければ一歩も外に出ようとせず、部屋の中に閉じこもっているので有害になることはなかった。
最初の頃に見られた不安定な情緒も、「ラグナ」を演じたチンクと接している内に安定を見せ始め、
今では彼女の相棒的なポジションに収まっている。


459:UNDERDOGS 第五話⑧
08/11/16 02:32:28 Rdbz/Po+
「なあ、ラグナ。管理局の仕事、まだ続けるのか?」

不意を突くその言葉に、チンクは我に返った。
まただ。このところ、事あるごとに彼は危険な仕事は止めろと言ってくる。
戦闘機人として前線で戦っている理由を、管理局の局員になったからと誤魔化したのだが、
彼はそれを快く思っていないようなのだ。任務でゆりかごを離れる度に着いてきているのも、
パートナーだからというよりは単に心配なだけなのだ。もちろん、彼に黙って出て行くこともできるのだが、
長時間自分と会わないと情緒が乱れた錯乱状態に陥るので、同行させてやるしかないのだ。

「俺がもっと働くからさ、お前は普通に女の子らしい生活を送ったらどうだ?」

「ヴァ・・・・お兄ちゃん、私だってもう・・・社会人? なんだから、したいようにしても良いだ・・・でしょ?」

「そうだな。いくら兄貴でも個人の生き方にまで口出しはできないか。我が妹はいつからこんなに口達者になったのかね」

「・・・・・・・・・」

「まあ、お前の自由にやれよ。けど、辛かったら止めて良いんだぜ。兄貴は妹を守るもんだ。
お前1人を養うくらいはできるからな」

「・・・・・ありがとう・・・・お兄ちゃん。あの、もう時間だから・・・・・行くね」

「ああ・・・・それじゃ、また・・・・・・」

寂しそうに手を振るヴァイスに見送られ、チンクは彼の部屋を後にする。
言葉にできないもやもやが胸の中にわだかまっていた。
彼と話していると、自分達と一般人との間に大きな価値観の差があることを思い知らされる。
今まで当然のように信じてきたことが、大きく音を立てて崩れてしまう。

「チンク姉?」

ハッと前を向くと、大きなトレイを持ったディエチが心配そうにこちらを見つめていた。

「ディエチ・・・・・」

「その格好、ヴァイスのところに行って来たんだね」

「あ、ああ・・・・・お前は陛下のところに?」

「食事を届けに行ったんだけど、部屋に入れてもらえなかった。ママとの時間を邪魔するな、だってさ」

トレイの上に置かれた蓋を取ると、まったく手がつけられていない料理が芳しい香りを発していた。
見ているだけで食欲がそそられ、チンクも思わず自分の腹に手を当てた。そう言えば、今日はまだ昼食を取っていない。
ヴァイスのところで食べるつもりだったのだが、居づらくなって出てきたのは失敗だった。今更戻っても不審がられるだけだ。

「チンク姉?」

「あ、いや・・・・・何でもない。そう言えば、私も長らく陛下と会っていないな」

「最近は、誰とも会っていないよ。ずっと部屋に閉じこもっている」

「そうか・・・・・・なあ、ディエチ。自由に生きるとは、何だと思う?」

「どうしたの、突然?」

チンクらしくない質問に、ディエチは首を傾げる。
チンクもどうしてこんなことを聞いたのか、自分でも不思議でならなかったが、口にしてしまった以上は後には退けなかった。


460:UNDERDOGS 第五話⑨
08/11/16 02:33:24 Rdbz/Po+
「率直な意見を聞かせてくれ」

「そうだな・・・・・・確か強制や妨害を受けないって意味だったはずだから、今のあたし達みたいなことを指すんじゃないかな。
ゆりかごと陛下のおかげで管理局も聖王教会も手が出せないし、ドクターは自分のやりたい研究に没頭している。
けど、こんな質問に何か意味があるの?」

「いや、何でもない。気紛れだ・・・・・忘れてくれ」

そう言って、チンクはディエチがやって来た方向へと目をやった。その視線の先には、聖王であることを定められた少女が、
血の繋がらない母親と共に過ごしている部屋がある。

(それはきっと、ヴァイスの言っている自由とは違う。自由とはいったい何だ? 法に縛られぬこと? 誰にも強制されないこと? 
違う・・・・・・自由とは、いったい・・・・・・・・・)

自問するが、答えは出てこない。
こんな考えを抱く自分は、ナンバーズ失格なのだろうか。
悩みは深まるばかりで、求める答えはどこにも見当たらなかった。





照明の消えた暗闇の中で、少女は愛しい母の体をその腕に抱いていた。
少女は聖王と呼ばれていた。古の時代に世界の混乱を鎮めたベルカの王。この聖王のゆりかごの所有者にしてベルカの民を導き、守る者。
少女はレリックウェポンと呼ばれていた。ロストロギア“レリック”をその身に宿し、無限の魔力と鉄壁の防御“聖王の鎧”によって
立ち塞がる者を悉く焼き払う無敵の兵器。
だが、誰も彼女の本当の名前を呼んではくれない。そして、彼女自身も本当の名を呼ばれることを拒んでいた。
ただ1人、目の前にいる母だけを除いて。

「ママ・・・・大好きな私のママ・・・・・ママだけなの・・・・ヴィヴィオの名前を呼んでくれるのはママだけで良いの」

少女は孤独だった。
訳もわからずこの世界に放り出され、頼れる者もおらずに恐怖に震えていた。そんな彼女に優しく手を差し伸べてくれたのが、
腕の中で沈黙している母だった。彼女は行く宛てのなかった少女を自分の手許に置き、温かいベッドと学習の場を与えてくれた。
少女にとって、彼女との生活はとても穏やかで温もりに満ちたものだった。
母が作ってくれたキャラメルミルクを飲み、母の腕に抱かれて眠る。目覚めたら朝の仕事を終えた母を迎えに行き、共に朝食を取る。
そんな平和な時間は、突然の来訪者の手で奪われてしまった。
少女は連れ去られ、その身にレリックと呼ばれる結晶を埋め込まれた。彼女は聖王のゆりかごを起動させるための鍵であり、
そのためだけに造り出された古代ベルカの聖王のクローンだったのだ。少女はその運命に逆らえるだけの強さは持ち合わせていなかった。
そして、手にした力で少女は母を自らのものとした。
今の母は何も応えてくれない。呼びかけても、抱き締めても、虚ろな瞳に自分の姿が映ることはない。
高町なのはは、もう二度と自分のことを見てはくれない。

461:UNDERDOGS 第五話⑩
08/11/16 02:34:24 Rdbz/Po+
「ねえ、ママ・・・・・なのはママ・・・・・・私の名前を呼んで・・・・・ヴィヴィオって呼んで・・・・・呼んでよ・・・ママ・・・・・・」

少女は静かにむせび泣く。
返事は返ってこない。
それでも呼びかける。
返ってくるのは沈黙だけ。
それでも呼びかける。
枯れたはずの涙がまた溢れてくる。
ここは彼女を捕らえる牢獄。
孤独の中で、ヴィヴィオは懸命に母に呼びかけ続けた。





何か手土産を持ってくるべきだったかと後悔しながら、ザフィーラは医務室を訪れた。
途端に、耳に突き刺さるような言葉の応酬が聞こえてきた。

「やーい、このバッテンチビ!」

「チビじゃありません、この中古デバイス! どうしてあなたがシグナムのパートナーなんですか!?」

「あたしの方が優秀だからに決まってんじゃねぇか。バッテンチビはベッドで大人しく寝ていて良いぜ、
あたしがシグナムをばっちりサポートしてやるから」

「リインの方が優秀です。最新鋭の技術で生み出されたミッド式とベルカ式の混合デバイスなんですよ!」

「雑種じゃねぇか! あたしは正真正銘の純血だぜ!」

「うるさいぞ、お前達!」

ここが医務室だということも忘れて言い合いを続ける2人に耐え切れず、ザフィーラは一喝する。
たちまち、2人は互いの手を取り合って竦み上がり、シグナムの陰に隠れた。

「ああ、ザフィーラか。元気そうだな」

「そちらも無事で何よりだ。しかし、これは何の騒ぎだ?」

「嫁と小姑の争いだ」

「そうか」

「そこ、サラリと納得しないでください!」

「そうだそうだ、あたしにそっちの気はねぇぞ!」

リインとアギトは声を揃えて抗議するが、ザフィーラがひと睨みするとすぐに怖がって隠れてしまう。
どうやら、何だかんだで融合騎同士、気は合うようだ。3年前と違って、どちらも実験体として扱われたという経験があるからかもしれない。


462:UNDERDOGS 第五話⑪
08/11/16 02:34:58 Rdbz/Po+
「とにかく、他の患者に迷惑をかけぬようにな。わかったな!?」

「は、はいです」

「わ、わかったよ」

「なら良い」

そう言って、ザフィーラは奥の方のフェイトが眠っているベッドへと向かう。
その足元には子犬用の小さなベッドが置かれていて、赤毛の可愛らしい子犬が丸まっていた。
フェイトの使い魔であるアルフだ。フェイトが負傷して魔力の供給が減ったことで、今の彼女は主に負担をかけぬように
最も燃費の良い子犬フォームのまま1日を眠って過ごす日々を送っている。
ザフィーラの気配に気づいたのか、アルフは閉じていた瞼を開けて気だるそうに口を開く。

「ザフィーラかい?」

「ああ、私だ」

「久し振り。元気そうで何よりだ」

「お前もな。生憎、土産も何もない、許してくれ」

「気にしていないさ。あんたの甲斐性なしは今に始まったことじゃないしね」

苦笑するアルフの表情は辛そうだった。肉体的にではなく、精神的にだ。
主人思いの彼女は、主の負担となることを極端に嫌う。きっと、できることならば契約を破棄してでもフェイトの負担を軽減したかったはずだ。
だが、目覚めた後もフェイトは彼女を側に置くことを望んでいる。自分のためにかけがえのない家族が犠牲になることを、
フェイトは是としていないのだ。その気持ちを知っているからこそ、アルフは何も言わずにフェイトに付き添っているのだ。

「2時間後にはまた地上に降りなければならない。それまで、ここに居ても構わぬか?」

「こんなところで良ければ、何時間でも居て良いさ。ほら、隣が空いているよ」

「良いのか?」

「あんた以外に譲るつもりはないよ」

「そうか」

静かに頷き、ザフィーラは子犬形態に変身してアルフの隣にうずくまる。
2匹以上で使用することは想定されていないのか、ベッドは少しばかり窮屈だったが、気にはならなかった。
ごく自然に体を横たわらせ、アルフは当然のように彼の横腹に首を乗せて枕にする。
どちらも無言のまま、ただ時だけが過ぎていく。あれほど騒がしかったリインとアギトも、いつの間にか沈黙していた。





偉くなるほど仕事は楽になる、とある官僚は言っていた。
その官僚は3日後に贈収賄疑惑で査察の対象となり、ほどなくして逮捕された。
あんな台詞を口にできるとは、いったいその男はどれだけ仕事に手を抜いていたのかとグリフィスは問いただしてみたくなった。
確かに楽かもしれない。エアコンの効いた部屋で出された書類に判子を押し、会議という名目で美人のコンパニオンを侍らせて
酒を飲み交わしているだけならば気が楽だろう。だが、実際にはそんなに甘くはない。
些細なミスが大きな失敗に繋がる。書類に記された数字の間違い、関係各所に出す指示の間違い、スケジュール管理の間違い。
どれか1つでも起こせば大惨事が起き、多くの部下を路頭に迷わせるかもしれない。
偉くなったからこそ、人間は責任を持たねばならないのだ。

463:UNDERDOGS 第五話⑫
08/11/16 02:36:17 Rdbz/Po+
「准将も楽じゃないな」

望んで得た地位とはいえ、目の回るような忙しさはさすがに苦痛だった。
睡眠時間なんて3時間あれば良いところだ。最初の内は取り寄せてでも食べていた高級レストランのフルコースも
久しく食べていないし、ルキノにも長い間寂しい思いをさせている。
それでも仕事を止める訳にはいかなかった。
次から次に起きる事件への対処、各部隊に割り振られる予算のチェック、関連施設への視察、あわよくば足下を掬おうとする
ライバルを蹴散らすための情報戦、そして戦争。
そう、管理局は現在、異世界と戦争状態にあった。今の管理局は悪く言えば暴君だ。そんな彼らを快く思わない世界も多い。
第56管理世界などその筆頭だ。今は戦闘機人や人造魔導師のおかげで勝利できているが、粘り強い抵抗を続けられるようならば
質量兵器の使用も考えねばならない。

「使いたくないんだがな、こういう心のない武力は」

それが欺瞞だとわかっているから、グリフィスは苦笑を禁じ得なかった。
どうやら、人並みの良心はまだ持ち合わせていたらしい。だが、そんなものは出世に不要だ。
まだ自分は准将。実動部隊の全権を握るには程遠い。
その時、ルキノからの緊急の通信が入った。

「私だ」

『准将、南部方面のアテンザ研究所が、レジスタンスの襲撃を受けています。敵の目的は、恐らく所長のマリエル・アテンザと
その助手であるシャリオ・フィニーノだと思われます』

「あの2人を・・・・・・・このタイミングで彼らが動くのは、少々予定外だな」

『現在、アルピーノ一等陸尉が防衛にあたっていますが、援軍を送りますか?』

「そうだな。では、今からゆっくりと部隊を編成しよう。さて、間に合うと良いけれど」

眼鏡のズレを直し、グリフィスは不敵な笑みを浮かべる。
彼が何を望み、何をしようとしているのか。それを知る者は、まだ誰もいない。


                                                        to be continued

464:B・A
08/11/16 02:37:05 Rdbz/Po+
以上です。
何だかもの凄い勢いで色んな連中に死亡フラグが乱立した気がしなくもない。
どうして前々回、医務室でのエリオとフェイトのシーンでアルフが出なかったのか、
それは眠っていたからです(決して忘れていたわけではない、決して)。

465:名無しさん@ピンキー
08/11/16 05:19:59 z8PnPPYd
>>464
GJです。
どいつもこいつも枯れ果てた漢(性別♀も含む)ばかりで、大好物です。

そして
>3年前の決戦の時以上に、ここでは死というものが身近にある。
シャマルさんどんだけ貴女の料理は深化してるんですか!
と、一瞬思ってしまいました。

466:7の1
08/11/16 10:37:48 mpEKBUMv
ハードすぎる世界が凄いですね。

では第2章を掲載します。
注意事項
・一部エロありです
・時間軸はJS事件から1年後
・JS事件のもたらしたもの
・捏造満載
・オリキャラ出てます。
・StSキャラはヴィヴィオしか出ていません
・ユーノ×なのはは基本です。
・主人公:ユーノ
・タイトルは「再び鎖を手に」  


467:7の1
08/11/16 10:38:40 mpEKBUMv
第二章 本局食堂
 午後の予定をキャンセルしたユーノは、マテウスから渡された二枚のディスクのデータにざっと目を通すと、
久しぶりに暗い穴蔵である無限書庫の司書長室を出て本局の食堂で食事をとることにした。
 食堂に続く廊下を颯爽と歩くユーノと行き会った女性局員たちが、あこがれの視線を送るが、2枚のディスク
の内容を頭の中で反芻し続けるユーノは、女性局員たちの熱い視線に気づくことなく足早に通り過ぎていった。
「あのクールさが良いのよね」
「それでいて、優しいのよ。この間なんか、うちの部署から請求した資料を取りに行った娘が、別の部署の資料
も持ってきちゃって、あわや資料紛失って騒ぎになったの。課長がその娘と一緒に謝罪に行ったのよ」
「うん、うん、それでどうなったの?」
「それでね。土下座しようとした課長とその娘にバインドをかけて椅子に座らせてから、翠屋製のケーキと紅茶
を振る舞ってくれたのよ。課長とその娘、涙流して喜んでたわ。普通なら二人とも怒鳴りつけられて減給処分が
当たり前だけど、ユーノさん、間違えは誰にでもあるからって不問にしてくれたそうよ」
「優しすぎるよ。特に翠屋のケーキのところ」
 ユーノの後ろ姿を目で追う二人の女性局員の熱い会話は、いつ果てるともなく続いていた。
「それ間違ってるよヴィータちゃん!そんなんじゃ皆、私の二の舞になっちゃうよ。もっと厳しく教導しないと
 駄目だと思うんだ」
「でもよ。なのはのやり方じゃ、怪我人だらけになるぞ。現に午前中の教導でBランクの武装局員が3人もシャ
 マルの世話になってるんだぜ」
「だから~なに?私の言うこと間違ってるかな」
 食堂の入り口から昼のランチもそこそこに逃げ出す職員たちに苦笑しながらユーノは、修羅場と化しつつある
食堂に足を踏み入れた。

468:7の1
08/11/16 10:39:19 mpEKBUMv
 食堂の中央にある円卓型のテーブルで対峙している白い魔王と深紅の鉄槌鬼が繰り広げる論争が醸し出す殺気
が、周囲の空気を絶対零度のレベルに引き下げテーブルの周囲20mには人っ子一人いない状況が現出していた。
 ユーノが本日のおすすめと書かれているスタミナ定食A`sとホットチョコレートのカップ三つをトレイに載
せて、二人の方に軽い足取りで歩いていった
「なのは、話に夢中でランチに手を付けてないようだね」
「ふぇぇ、ユ、ユーノくん」
「ユーノ、どうしたんだ。無限書庫で火事でもあったのか」
 ユーノを見たとたん白い魔王から白い教導官殿にもどったなのはを見て、ほっと一息ついたヴィータは、1年
近く本局の食堂で食事をしたことがなく、出前を無限書庫の司書長室に届けさせているという都市伝説の持ち主
が、救世主として現れた事態に面食らっていた。
「火事はひどいなヴィータ。僕だってたまには明るいところで食事をしたいときもあるさ。なのは、ホットチョ
 コレート飲むかい」
「う、うん」
「ユーノ・・・」
「ヴィータの分もあるよ。どうぞ」
「ありがと、お、おい・・・なのは、ちょっ」
 ユーノからホットチョコレートの入ったカップを受け取ったヴィータは、再び白い魔王化したなのはを見て
震え上がった。
(だいたいプログラム生命体のあたしがユーノに手を出すはずがないだろうに。シャマルか、シャマルなのか?
 あいつ昼ドラマニアだから、治療を受けに来たなのはにいろいろ吹き込んでじゃねーだろーな)


469:7の1
08/11/16 10:40:46 mpEKBUMv
 深紅の鉄槌鬼の面目なんぞ、かなぐり捨て席を立って逃げだそうとしたヴィータを救ったのは、ユーノの一言だった。
「なのは、手がお留守だよ。ちゃんと食べないと午後の仕事に差し支えるよ」
「そ、そーだね。ちゃんと食べないと教導ができないね。よしちゃんと食べるぞ。ユーノ君、そのソーセージくれない」
「どうぞ、その代わりにトマトをくれないかな。無限書庫で暮らしてると太陽の恵みが、無性にほしくなるときがあるんだよ」
「それじゃ、どーぞ」
「ありがとう」
 トマトを器用にフォークに載せてユーノに渡すなのはとソーセージをなのはの皿に移すユーノの間に、糖度
200%を超えるスイーツな雰囲気が漂い、桃色のオーラが先ほどの殺気と違った意味で、テーブルの周囲から
人影を遠ざけていた。
「お前ら仲良いな」
 ぼそっとつぶやいたヴィータは、周囲のテーブルはおろか食堂内に人がほとんどいないことに気がつき愕然とした。
(長い春が終わったと思ったら、今度は暑い夏かよ。)
 今でこそ周囲に桃色の結界魔法を張り巡らせる二人だが、長い春とか友達以上恋人未満とかクロノ提督に至っては、
フェレットもどきに心底同情すると言わしめた、二人の関係が進展したのは、JS事件終結に伴う六課解散後からだった
なと、なのはから惚気話を聞かされていたヴィータは思い返していた。


470:7の1
08/11/16 10:41:51 mpEKBUMv
 六課解散以降、執務官であるフェイトは多忙を極め、ヴィヴィオの保護者と言っても名ばかりだけのため、
ヴィヴィオの育児に関するなのはの負担は、教導官の重責もあいまってかなりのものになっていた。
 ちょっとしたヴィヴィオのわがままを許せず、手をあげてしまった自分に恐怖を覚えたなのはは、このままで
はヴィヴィオも自分も駄目になると感じ、ある日無限書庫にユーノを尋ねにきた。
 たまたま暇だったユーノは、なのはを快く迎えたが、司書長室に入るやいなや涙を流して抱きついてきたなの
はに思わず面食らってしまった。
「ユーノくん助けて、このままじゃ私もヴィヴィオも駄目になっちゃうよぉ」
 今までこらえてきた感情が堰を切ってあふれでて、子供のように泣きじゃくるなのはを落ち着かせるために
背中に回した腕に力を込めたユーノは、涙にぬれるなのはの顔を正面から見つめると
「僕が君の杖になるよ。ヴィヴィオの保護者には僕がなろう。ヴィヴィオに一度合わせてくれないかな」
「ユ、ユーノくん、それってプ、プロポーズみたい」
「みたいじゃなくてプロポーズだ。僕は君が好きだ。友達としてじゃない。一人の異性としてだ。なのは」
「・・・・・」
「でね 突線の告白に驚いて黙っちゃった私の沈黙に耐えきれなくなったユーノくんは、今のは忘れてくれと
言い出しそうになるのを必死に抑えたんだって後で告白されたの」
 緩みきった顔で惚気る白い魔王の顔を思い出したヴィータは、なのはと笑顔で話し合うユーノを見ながら、
勇気を出して長い春を乗り越えた男の笑顔は爽やかもんだなと感じていた。
「今日の午後、学校が休みなんでヴィヴィオがユーノパパに逢いたいって言うんだけど良いかな?」
「そうだね。今日の午後、珍しい口碑を積み込んだ船が入港してるんで鑑定してくれって話があるんだけど
 ヴィヴィオを連れて行って良いなら引き受けるよ。どうかな?」


471:7の1
08/11/16 10:46:18 mpEKBUMv
「その船、大丈夫なの?」
 船という言葉で、ゆりかごの中でヴィヴィオと戦った記憶を呼び起こしたのか、なのはの眉がひそめられた。
「デートリッヒっていう時空管理局の船だよ。第三管理世界の遺跡で見つかった口碑の鑑定を依頼されてね。
 ヴィヴィオも無限書庫で本を読むばかりじゃ退屈するよ。たまには実物教育も必要だと思うんだがどうかな?」
「うーん・・・・」
 考え込むなのはの表情を見て困惑するユーノを見かねたヴィータは思わず口を挟んだ。
「なのは、午後の教導代わってやろうか」
「そ、それは駄目だよ。教導を休むなんて、訓練生に悪いよ」
「なのは、たまには休むことも必要じゃないかな。ここ半月ばかり土日も休みなしで働いてるんだろう。
 ヴィヴィオも心配してたよ。なのはママ、お家に帰ってきてからもずっと仕事してるって」
 ヴィータに助け船をだしたユーノの一言が効いたのか、なのはは、ヴィータに手を合わすとヴィヴィオを
迎えに行くと言って席を立った。
「ユーノ君、ヴィヴィオを連れて2時に無限書庫に行くから待っててね」
「ヴィヴィオ向けの絵本も無限書庫で見つけたから、コピーしておくよ。この間みたいに無限書庫で
 迷子になられたら大騒ぎになるからね」
 空になったトレーを手にしたなのはを見送ったユーノは、ヴィータの方を向かずに尋ねた。
「いつから、ひどくなった」
「5ヶ月ほど前からかな。妙にテンションが高くなったと思うと、翌日には落ち込むって繰り返しで、行き詰
 まると教導で切れまくって訓練生を壊しまくるって繰り返しだ。あたしが補助に付くようになったのも、それが原因だよ」


472:7の1
08/11/16 10:47:20 mpEKBUMv
 5ヶ月前、自分がなのはに告白した時期と前後していることを確かめたユーノは、マテウスのディスクに記録
されている症例を思い浮かべた。
「レベル3か」
「なんか言ったか」
「このホットチョコレートも飲まないかって聞いたんだが」
「ありがとな。これで午後の教導、がんばれるぜ」
 ホットチョコレートを受け取ったヴィータは、午後の教導が楽しみだぜと不適な笑顔を浮かべた。
(午前の魔王に、午後の鬼か、どっちにしても訓練生には地獄だな)
 定食のミニハンバーグを食べながら、以前、見学したヴィータの教導で訓練生があげていた悲鳴を脳内再生
したユーノは、訓練生に同情の念を覚えた。
 司書長室のモニターに、夢中でチリコンカーンを食べているマテウスが出た瞬間、ユーノは顔をしかめた。
「すみません。食事中だったみたいですね。後でかけ直します」
「いやぁぁ、お気になさらず。時は金なりですから」
 あわてて、食事を片付けたマテウスだが、唇の端にソースが残ったままだったことに本人は気づいていない
らしい。
 ユーノの話を聞いたマテウスは、額に手をやって俯くと1分間ほど考えていたが、ユーノの視線に気がつい
たのか、ひょいと顔を上げた。
「まあ良いでしょう。ヴィヴィオ様に口碑を見せても問題ないと思います。封印は3重にかけてますし、口碑
 の周囲にAMFも展開しておきます。問題は・・」
「なのはですか、彼女がなにか?」
「あなたの診断ではレベル3ですか、感情の起伏が激しいんですね。発掘隊との会談は別の日にしませんか?」


473:7の1
08/11/16 10:49:39 mpEKBUMv
 盗聴されることを考慮しているのかマテウスは、盗掘者たちを発掘隊と面接を会談と慎重に言い換えながら
提案した。
「理由は?別に彼女を連れて行っても問題ないと思いますが」
「発掘隊の中にラーナって女性がいましてね。どうしました? 顔色が悪いようですが、やはり別の日にしますか?」
「いや、やりましょう。この際、はっきりさせた方が良いこともありますし、なのはにとっても良い効果を生むかもしれません」
「ふむ、勇気がありますな。では、デートリッヒでお待ちしております」
 通話が切れたモニターを閉じながらユーノは、長年、置き去りにしてきた問題に決着を付ける時が来たのを
感じ、ため息をついた。


第2章 終了です。 第3章は、今日の夜に上げます。

474:名無しさん@ピンキー
08/11/16 13:25:54 kwDnihF7
>>464
GJ!!
皆のひどい変わりようにびっくり。でも各々仕方ないといえば仕方がない…
ヴァイスもああいう事情があったのか、グリフィスは…もうぶっちゃけスバル達に殺されてもかまいませんw
ヴィヴィオも可哀そうだ。
ルーテシアと同じようにエリオやスバルが連れ出さなければ永遠になのはを助けることもできず、束縛されたままか
次回はVSルーテシアの再戦でしょうか?
エリオはスバルとイクスの言葉を受けてどういう行動をとるのか。
楽しみにしております。

475:B・A
08/11/16 13:36:22 Rdbz/Po+
すみません、読み返していたら間違いがありました。

>>452
>「彼女もメンバーの1人だ。3年前に機動六課が保護したナンバーズは、治療中の1人を含めて3人ともクラウディアに乗船している」 ×
>「彼女もメンバーの1人だ。3年前に保護されたナンバーズは、 治療中の1人を除く3人が我々に賛同してくれている」 ○


レジスタンス側のナンバーズはディード、○○○○、○○○、それと治療中の○○○の4人だったことを思い出しました。
お手数ですが、保管の際は訂正をお願いします。

476:名無しさん@ピンキー
08/11/16 13:41:11 PxplVCkp
ディードってキャラが空気すぎるよね…

477:名無しさん@ピンキー
08/11/16 13:45:37 OcbUvurZ
そもそもナンバーズは顔と名前が一致するのが四人くらいしかいない俺

478:名無しさん@ピンキー
08/11/16 14:10:52 IVevj9eF
>>476
本編で空気 = 捏造設定やり放題

479:名無しさん@ピンキー
08/11/16 16:16:20 EXGBz6dO
初代からナンバーズスレにいて本編終了前から顔と名前とISと固有装備の名前を覚えてる俺は小数派か

480:名無しさん@ピンキー
08/11/16 16:24:20 uG2QoWs4
>>480
なんという俺wwww

481:名無しさん@ピンキー
08/11/16 16:25:06 bjUH3kBi
確かにお前だなそれは・・・

482:名無しさん@ピンキー
08/11/16 16:27:09 B4TbKkIw
ああ、確かにお前だわ

483:名無しさん@ピンキー
08/11/16 16:46:12 IVevj9eF
>>479
小数派は数学板へ行って分数派と争えばいいと思うよ。

484:7の1
08/11/16 17:58:09 mpEKBUMv
大相撲が終わりましたので第3章を掲載します。

注意事項
・一部エロありです
・時間軸はJS事件から1年後
・JS事件のもたらしたもの
・捏造満載
・オリキャラ出てます。
・StSキャラはヴィヴィオしか出ていません
・ユーノ×なのはは基本です。
・主人公:ユーノ
・タイトルは「再び鎖を手に」  


485:7の1
08/11/16 18:03:31 mpEKBUMv
第3章 デートリッヒ
「わぁぁ、大きいな。ユーノパパ、アースラより大きいよ、この船。」

 JS事件の後、六課の宿舎が再建されるまでアースラで暮らした経験のあるヴィヴィオは、目の前にある船の巨大さに目を丸くしていた。
 三人を迎えるために大きく開かれた荷受け用ハッチの高さだけでもアースラの2倍近くあるのだから、ヴィヴィオが驚くのも無理はない。

「そうだね。クロノおじさんのクラウディアより大きいんだよ。ZX級時空航行艦だからね。なのは、どうしたの?」
「ねぇユーノ君、なんでAMFが展開されてるの? 本局内での使用は禁止されてるはずだよ。ヴィヴィオ ママの側から離れちゃ駄目」

 ヴィヴィオを引き寄せたなのはは、バリアジャケットを形成すると愛杖のレイジングハートを起動して周囲に注意を払った。

「いやぁ、お待たせしてすみません。・・・高町一尉、何かあったんですか?そんな大仰な格好で、本局内でのバリアジャケット着用は
 第一種制限解除が必要なはずですが」

 武装したなのはの姿を部下から知らされたマテウスが、よれよれのレインコートを翻しながら、荷受けハッチの奥から出てくるや、
なのはの武装を見て眉をしかめた。

「緊急事態の際には、尉官権限で解除できます。それよりお聞きしたいのですが、本局内でのAMFの使用は 禁止されています。
AMF使用は許可を得ているんですか?バウアー卿、ご返答次第では、あなたを逮捕します」

 なのはを抑えようとしたユーノを目で制するとマテウスは、人の良さそうな笑顔を浮かべた。

「ああ、AMFの件ですね。本局管理部に照会していただければわかりますが今回の積み荷の口碑はロストロギ アの疑いがあるので
 結界魔法のほかにAMFも展開しているんです。使用許可のディスクは、ここにあります。どうかご確認ください」

 レインコートから取り出したディスクを一瞬で、自分の目の前に転送したマテウスの魔術になのはは、内心舌を巻いていた。
発動の気配さえ感じさせず魔法を発動できる魔導師が、三提督以外に本局内に何人いるか

(間違いなくSS+、いえSSSクラスだわ。はやてちゃんでも、この手の魔法を使う際にかすかな気配を感じるもの。三提督級の人だわ)



486:7の1
08/11/16 18:08:08 mpEKBUMv
「すみません。誤解していたみたいです」

 ディスクの内容を素早く確認したなのはは、バリアッジャケットを解除すると頭を下げた。つられてヴィヴィオもごめんなさいと謝った。

「こ、これは、どうか頭をお上げください。ヴィヴィオさ・・さん」

 ヴィヴィオさまと言いかけるのをさん付けに戻したマテウスの額にうっすらと汗が浮かんでいた。

 ベルカ文明出身者特有の癖なのか聖王の生まれ変わりであるヴィヴィオに対して、必要以上にへりくだるマテウスの態度を見て、
なのははヴィヴィオの将来を危惧した。
 聖王様、聖王様と言われているうちに気づいたら、時空管理局の敵対者に祭り上げられるかもしれない。

(魔法学院なら問題ないと思うけど、他の世界のことも知っておいた方がよいわ。そうだ、今度の休暇、ユーノくんとヴィヴィオ連れて
翠屋に帰ろう。アリサやすずかにも逢わせて、もっと普通の女の子として育てなきゃ)

 まだ本格的にユーノとの交際を家族や親友に紹介していないのを思い出したなのはは、ユーノとヴィヴィオをみんなに紹介する覚悟を固めた。

「話が付いたようですね。バウアー卿、口碑を発掘した人たちと話したいんですが、なのは、話がすんだらヴィヴィオと君を呼ぶから、
それまで待っていてくれないかな?」

「えぇぇユーノくん。同行しちゃ駄目なの?」

「ロストロギアの疑いがあるからね。もしもの時は、ヴィヴィオを連れて逃げるんだよ。転送魔法の使用許可は取ってあるから、
バウアー卿、ご案内願います」

「口碑の説明は発掘隊の責任者にさせましょう。レミオ一等航海士、ユーノ博士をご案内するように。高町一等空尉、ヴィヴィオさんのご同意が
あれば、艦内食堂で、第三管理世界自慢のフルーツとスイーツを振る舞いたいんですが如何でしょう?」

「ヴィヴィオ、食べたいな。ねぇ、なのはママ駄目?」
「ヴィヴィオ!」

(なのは、バウアー卿は、幹部評議会の評議員だ。素直に従ったほうが良い)
 いつにないユーノの強い念話に、なのはは思わず左のこめかみに手をやった。

487:7の1
08/11/16 18:11:11 mpEKBUMv
「マ、ママぁぁ」
「ヴィヴィオごめん。バウアー卿、ご案内いただけますか」
「どうぞ、こちらの方のエレベーターへ、直行で食堂にご案内しましょう」

 マテウスは、揉み手せんばかりの愛想を振りまきながら、なのはたちに先だってエレベーターの扉を開けると乗り込んだ。

 目の前を歩くレミオという士官が、伸ばした黒髪を三つ編みにし白いリボンで結んでいるのに気づいたユーノは、一見、
ひょろりとした優男にしか見えない彼が、聖王陵騎士団の精鋭であることに気がついた。
     
「ユーノ博士は、結界魔導師だそうですね」
「ええ一応は、本局登録では空戦Aですが」

「高町なのは一等空尉のディバインバスターを素手で防がれたとのことですが、事実ですか?」
「昔のことです。今の彼女の敵じゃないでしょう」

「しかし、今でも一等空尉が模擬戦をやる際には、訓練室の結界を担当されてるそうですね」
「本局には、結界魔導師が不足気味ですから、僕みたいな専門外の者でも起用せざるえないんです」

「本局最強の盾と称されるかたの言にしては、謙遜がすぎますよ。噂では対AMF用の新技ディバインバスター
 クラスターのお相手をしたとか、如何でした?」

 強者への尊敬の念が込められたレミオの問いかけにユーノは苦笑を浮かべた。

「実体弾に魔力を込められて撃たれました。AMFで防げると思ったんですが、実体弾でAMF装備のガジェッ
 トドローンを打ち抜かれた上に、内部からバスターを爆散させるんですから、死にかけましたよ」

 対AMFに、ある種の封時結界が有効だということを無限書庫の古文献から発見したユーノは、自己責任という言葉を
思い出して苦笑を浮かべた。
 元々、不足気味だった結界魔導師を、前線の武装隊に引き抜かれた責任を取らされる羽目になったユーノは、なのはが模擬戦
をする際の専用結界魔導師を勤めているというか勤めさせられている。

 局内では、”魔王の使い魔”とか”悪魔の下僕”とか、隠れなのはファンから妬まれ、ある意味、悪評が高いユーノだが、部外者の
評価が意外に高いことを知らされ、警戒の念を抱いた。

(バウアー卿の言うとおり、僕がハラオウン閥と見なされているとしたら、他の評議員が無限書庫を警戒するのも無理はないか)


488:7の1
08/11/16 18:15:25 mpEKBUMv
「こちらです。彼らはこの中にいます」

 レミオに発掘隊と称されている盗掘者の一団が収容されている格納庫の前に案内されたユーノは、部屋の前に
立っていた歩哨からレミオが着ているのと同じ深紅のベストを手渡された。

「対AMF用ベストです。卿のご命令でユーノ様が中に入る際は、絶対着用していただくようにとのことです。
 着用されない場合は、入室を命に駆けて阻止せよとのことで」

 必死の面持ちで、ベストを差し出す歩哨の肩を叩きながらユーノは笑顔で答えた。

「このごろ、運動不足でね、僕のサイズに合うかな」
「卿は、三種類のサイズをご用意されてますので大丈夫です」

 ユーノがベストを着用したのを確認したレミオは、歩哨に扉を開けさせると先に入って、中にいる兵士に何かを
確認するとユーノを差し招いた。

「ユーノ博士、入っても大丈夫だそうです」               

 室内は、強力なAMFが展開されているらしく、手のひらにむず痒い感覚が走り、背中を蟻が這い回り、靴底を通して、
芋虫が蠢く感覚がおぞましい。
 女の嬌声や子供のはしゃぐ声、中年男の酒枯れただみ声、若者の意味をなさない叫び声が耳元を直撃し、魔法の
詠唱を不可能にする。

(スカリエッティのAMFより強力だ。精神攪乱効果まで備えているとは、かっての時空管理局が手も足も出なかったのも無理はない)

「ユーノ博士、どうされました?もしAMFが強すぎるのでしたら、ジャケットの襟にあるボタンを押して調整してください」

 レミオが真剣な顔で声を掛けた。

(僕が気持ち悪くなって倒れでもしたらと懸念しているようだ。)
「ありがとう。もう大丈夫なようです」

 襟のボタンを数秒押し続けると、先ほどまでのおぞましい感覚が、嘘のように消えていった。
 改めて、部屋を見渡すとどうやら調査艇を収納する格納庫らしいことに気づいた。薄暗い間接照明の部屋の中央に発掘された口碑が、
三重の結界魔法で厳重に囲まれているのが見えた。

「あそこです。アル、代表者を呼んでくれ」
 歩哨の一人が、部屋の隅に敷かれた絨毯に寝転がっている人々に近寄ると声を掛けた。しばらくして、小柄な人影が立ち上がるとユーノ
たちの方へ足を引きずりながらやってきた。
 目が悪いのかサングラスをかけているが、長い栗色の髪と体つきからして女性らしい。
「レミオ、レナードに何かあったの? ま、まさか・・・ユーノどうして?」
「ラーナ、何があったんだ? 族長は何処にいる?」
 かっての許嫁の変わり果てた姿に声もないユーノにラーナが詰め寄った。

「族長は死んだわ」


489:名無しさん@ピンキー
08/11/16 18:19:58 P5374p6C
支援

490:7の1
08/11/16 18:20:39 mpEKBUMv
 族長が死んだ・・・・孤児の自分を拾い上げ、育ててくれた人物の死を告げられ絶句したユーノにラーナは怒りをぶつけた。

「ユーノのおかげで、まともな遺跡発掘の仕事が増えたわ。でも収入には結びつかなかったの。時空管理局の 身内を持つ
発掘屋に、うま味のある裏仕事を回す馬鹿はいないもの」
「だからって盗掘に手を出すことはないだろう。僕に連絡してくれれば、ロストロギア絡みの仕事を回せたよ。何故、連絡をしなかったんだ」

「連絡なんかできるもんですか!割が良いって引き受けた辺境世界の遺跡発掘で事故にあったの。3人死んだしすぐに手術する必要な
怪我人が4人もいたわ。でもお金が足りなくて、2人しか助からなかった。それで族長は、盗掘を決意したの」

 族長は依頼を受けたロストロギアの発掘に成功はしたが、依頼者が時空犯罪者だったのが運の尽きだった。
 報酬を受け取りに行った族長と長老たちは、殺され宿営地も襲撃を受け、一族は散り散りになって逃げざるをえなかった。

「レナード兄さんと私が、10日後に再会したときには、父さんも母さんも襲撃されたときの傷が悪化して死ん でいたわ。生き残った一族は、
発掘前の3分の1以下、それからは墜ちるばかり、そのあげくがこのざまよ」

 サングラスをはずして、潰れた目をさらしたラーナは話し続ける。

「新しい族長には、レナード兄さんが選ばれたわ。年長者は、フリック爺さんしか生き残ってなかったから選択肢はなかったの」

 生き残った一族の総意で新族長に選ばれたレナードは、盗掘屋として生きていくためにはスクライアとういう姓を捨て、一族名をライヤー
と改めるしかないと宣言したのよとラーナは自嘲の笑みを浮かべた。

「ライアーと名乗ってからは、しばらくは順調だったわ。族長と長老たちが仕事を取り仕切っていたから、レナード兄さんがスクライアだって
知ってる人はいないし、レナード兄さんの優秀さは知ってるでしょ」
「ああ、義兄さんの探索魔法は、僕より凄いからね」

 人が良すぎるのも僕以上だったねという言葉を呑み込んだユーノは、ラーナに話を続けるよう促した。

「年寄りと若い子ばかりだから、遺跡発掘のような大きな仕事は出来なかったけれど、ロストロギアの無い陵墓の盗掘や封印されたB級ロスト
ロギアの回収のような仕事は、いくらでもあったから、生活はスクライアのころより楽になったわ。今思えば、あのころが一番、楽しかったな」

「しかし、陵墓の盗掘は、第一級遺跡破壊犯罪だ。捕まれば死刑は免れないんだぞ。生活のためとは言うなら、何故、僕に」
「どの面下げて行けると思うの? スクライアが時空犯罪者に協力したなんてこと、ユーノに言えるはず無いでしょ。それにレナード兄さんが、
迷惑を掛けたくないって言ったの、だから」

「ラーナ、薬の時間だ。後は僕がユーノ博士に話そう。君は本調子じゃないんだから休みたまえ。」
「レミオ邪魔しないでちょ・・う・・だい」

 言いつのるラーナの後頭部に左手をかざしたレミオの掌から、ユーノの膨大な魔法知識の中にも覚えのない魔法の波動が発せられた。



491:7の1
08/11/16 18:22:48 mpEKBUMv
「ラーナ!」
「発作です。病室に連れて行きますので、しばらくお待ちください」

 意識を失ったラーナを抱え上げたレミオは、ユーノに一礼すると背を向けた。

「ユーノすまんかった。お前を頼っていれば、皆、死なずにすんだんじゃ」
 半ば呆けたのか、何回も謝罪を繰り返すフリック爺さんにかける言葉もないユーノに、生き残った一族の若者
たちは、頭を下げてひたすら謝罪し続けた。

「レミオ三尉のところに、ご案内申し上げます」
 歩哨がユーノを案内した部屋には、手書きで医務室とミッドチルダ語で書かれた木の札が掛かっていた。

「昏睡状態ですが、命に別状はありません。意識も、あと2,3日もすれば戻るでしょう」
 部屋の中央に置かれている高酸素カプセルの中に寝かされているレナードを指さすレミオの声は、ラーナの発作を抑えた時
とは対照的に、いたって平静だった。

「犯罪者の彼に、正規の医務室を使うわけにいかないので、この部屋を臨時の医務室にしています。設備に問題ないので、ご安心ください」
「ラーナは、ここにいないようですが?」

「彼女は、保護された状況が状況ですから犯罪者扱いになりません。発作の問題もありますので、正規の医務室で寝てもらっています」
「ラーナやレナードを助けてくれたそうですね。皆、感謝していましたよ」

「・・・彼らの今後は、あなた次第でしょう。私は、卿の命に従うだけです」
 一瞬、口ごもったレミオの顔を見たユーノは、一族の運命が自分の手に委ねられているのを自覚せざるえなかった。
 ラーナの告白したことが事実なら、スクライア一族の破滅は避けがたい。
 そして、それを阻止できるの自分しかいないのだ。


492:7の1
08/11/16 18:24:14 mpEKBUMv
すみません。491で第3章終了です。

明日の夜に第4章を上げます。

493:名無しさん@ピンキー
08/11/16 19:34:45 3MAoMN/U
>>464
GJ!
実に素晴らしいほどの死亡フラグ乱立
でも誰も死なずに終わるとは思えない
グリフィスならくたばってOKだがw
スバルとエリオの主人公二人は生き残って欲しいもんだ


494:名無しさん@ピンキー
08/11/16 19:56:19 hInQALNu
>>493
ⅩⅡ「偽りの任務、失礼しました…あなた方には、ここで果てて頂きます 理由はお分かりですね」
カルタス「まぁ、そういうことだ どうせ、確信犯なんだろ? 話しても仕方ない」
Ⅴ「所詮は獣だ、人の言葉も解さんだろう」
スバル「偉そうに…選んで殺すのが、そんなに上等かな」
クロノ「殺しすぎる、お前たちは」

スバルとエリオのオチはこうですね

495:名無しさん@ピンキー
08/11/16 20:39:51 WDglNbHB
つまり、エリオは性的な意味でフェイトそんの首輪付きかw

社長=なのは
ウィン・D=トーレ
ババア=フェイトそん
トーラス社員=スカ博士

ですね、わかります。

496:名無しさん@ピンキー
08/11/16 22:18:06 LURi49B/
FAかよwww
ということは
『燃え尽きるがいいの、何も残りはしないんだから…』
とか
『そんな装甲でこのNANOHAに挑むの?笑わせないで…』
とか
『正面から行くの、それしか能が無いの…全てを焼き尽くすだけなの』
とか
『陰険メガネが…吹き飛ぶの』


ぶっちゃけ全く違和感無いんですけどwww
後フェイトそんがオペ子だと、ピンチになるたびに通信機越しにオロオロしてるのが目に浮かびます、はい。

497:ザ・シガー
08/11/16 22:39:39 c6om57DN
うし、45分くらいまでチェックしたら投下する。

ヴァイス×シグナムで、一応“まだ”非エロ(微エロ?)。
一応今まで書いたヴァイシグSSとは関係のない短編です。

498:名無しさん@ピンキー
08/11/16 22:42:40 hM3VxrmZ
待ってるぜ!

499:狙撃手と彼の灯火(前編)
08/11/16 22:47:45 c6om57DN
狙撃手と彼の灯火


 息を吐く、何度も何度も息を吐く。
 呼吸を整え、心臓の鼓動の周期を理解し、五体に響き渡るリズムを完全に熟知する。
 三脚(トライポッド)の上に鎮座する愛銃、その銃口に起こる振幅に全神経を集中。
 手元で起こる一ミリのズレは数百メートル先では致命的な着弾の誤差を生み出す、決して意識を途切れさせてはならない。
 スコープの先に映る敵影、ターゲット、獲物、様々な呼び名で呼ばれる哀れな標的に瞳を釘付けにする。
 こうして銃で狙い続けていると銃と自分とが一体化するような錯覚すら覚えた。
 そうだ、今の俺は人じゃない。
 命令された対象をただただ正確に射抜くだけの一丁の銃、狙撃を成功する為に存在する一個の装置。
 人間性という名の情緒が死んでいき代わりに冷たいものが精神を鋼にした。
 そしていつしか下される指令に応じて機械と化した身体は忠実に駆動する。
 全ての感情を殺し、肉体と精神を精密機械に転じ、耳に取り付けたインカムから来た狙撃許可の言葉に従い、狙撃装置と化した俺は引き金を引いた。
 羽毛が触れただけでも落ちるような極限の軽さに調整された引き金が俺の意思で引き落とされる。
 眩い閃光が煌めき、カートリッジの魔力を得た高出力の直射弾が空気を切り裂きながら目標目掛けて駆け抜けた。
 世界はその刹那で塗り替えられる。
 スコープの先では愛銃の放った弾丸に倒された男が哀れにも地に伏していた。
 決着は一瞬で完了、狙撃機械と化していた俺は再び元の脆弱な人間に戻る。
 課され続けたプレッシャーから解放されて吐き気にも似た感覚が去来した。
 今日はあの日のように狙いを外す事はなかった、その事に安堵する。
 そして俺は今日も自分の一部となって共に戦ってくれた愛銃に一言囁きかけた。


「ありがとよ、ストームレイダー……」


 そう言った刹那、俺の意識は闇に消えた。





 ヴァイス・グランセニックはその日電車で家路に着いた。
 狙撃任務のあった日はいつもそうだ、出勤するときに使ったバイクはそのまま部隊の駐車場に置いて電車に乗る。
 特に今日のように、過度な緊張を強いられた狙撃を行った日は必ずそうしていた。
 長時間銃を構え続けた反動、いやむしろ精神的なストレスでハンドルすら握れないのだ。
 二輪を繰り、夜風を切る爽快感は好きだが、だからといって事故を起こしては敵わない。
 正直、満員電車に揺られる不快感も堪らないが、事故で命を落とすのはごめんだ。

 十数分ほど電車に揺られ、ヴァイスはやっと目的の駅に到着した。
 駅を降りて歩くことさらに数分、愛しの我が家へと辿り着く。
 マンションのエレベーターに乗り、三階のボタンを押せばあとはもう二分も待たずにドアを潜り、ベッドに身体を預けられる。
 ヴァイスは柔らかいシーツの感触が待ち遠しくてしょうがなかった。
 エレベーターを降りて足早に自分の部屋に向かう、途中で鍵を取り出すのも忘れない。
 そしてドアの前に辿り着いた瞬間、彼は妙な違和感を覚えた。


「ん? この匂い……俺の部屋から?」


 なにか美味しそうな料理の匂い、それが自分の部屋から漂っていた。
 だがおかしい、今自分の部屋には誰もいない筈だ。
 胸に生じる僅かな疑問、ヴァイスは首を傾げながらドアノブに手を伸ばす。
 すると鍵を掛けられて回らぬ筈のドアノブは、なんの抵抗も示さず即座に開いた。
 盗人か? いや、それならばこの香ばしい香りの意味が分からない。
 大方、妹のラグナあたりが来ているのかと想像しつつヴァイスはドアを開ける。
 しかし玄関に鎮座する靴を見て、その想像は一瞬で破られた。

500:狙撃手と彼の灯火(前編)
08/11/16 22:51:05 c6om57DN
 それは、見慣れたかつての上司の愛用していたものだった。


「おお、ヴァイスか。おかえり、勝手に上がらせてもらったぞ」


 玄関を開けたヴァイスの下に、鮮やかな緋色の髪をポニーテールに結った素晴らしいプロポーションの美女がエプロン姿で迎えに現れた。
 それはヴォルケンリッター剣の騎士にして烈火の将シグナム、ヴァイスのかつての上司にして今の恋人。


「ええ、ただいま姐さん」


 JS事件終結後から一年、久しぶりに会えた愛しい人に、ヴァイスは最高の笑みを見せた。





 ヴァイスの部屋の合鍵を持っている人間は二人だけ、妹のラグナに恋人のシグナム。
 特にラグナはお兄ちゃんっ子という事もありちょくちょく彼の部屋に来ては掃除やら食事やら、色々と家事をしてくれる。
 そしてシグナムもまた仕事の合間に時間を作っては彼の家に訪れて、不精者な彼のために色々と家事を手伝ってくれていた。
 局の仕事の関係で二人の時間が重なることは難しいが、今日はどうやら運良くそれが重なったらしい。

 ヴァイスは上着を脱いで居間のテーブルに着くと、目の前に並べられた料理の数々に視線を向ける。
 そこには焼き魚、ホウレン草のお浸し、味噌汁、肉じゃが、ほかほかのご飯、そして納豆、完璧な和食のメニューが並んでいた。
 元々はそれほど和食が好きでなかったヴァイスだが、彼女と日々を過ごすようになってそれはすっかり変わった。
 今では白いご飯と納豆を見るだけで思わず涎が垂れそうになるくらいだ。


「それじゃあ、いただきます」


 ヴァイスは手を合わせてそう言うと、早速箸を手に料理を突きだす。
 魚は脂が良く乗っており、味噌汁は良いダシが出ている、他の料理も申し分なく実に美味だった。
 蓄積された肉体的・精神的疲労から生まれる食欲に従い、ヴァイスは次々と料理を胃に収めていく。
 それほど時間をかけぬ内に、彼は用意された夕食を食べ終えた。
 〆に熱い緑茶を啜り、独特の渋い味わいを楽しんで至福の一時を感じる。
 湯飲みの中に満ちたお茶を飲み終えると、ヴァイスは“ふう”と一息ついた。


「ごちそうさんです姐さん」

「お粗末様、お茶のお代わりはいるか?」

「ああ、それじゃあもらいます」


 ヴァイスがお茶を飲み終えると、シグナムはすかさず急須を手にまたお茶を注ぐ。
 まるで長年連れ添った夫婦のような時間、身も心もひどく落ち着くそんな穏やかな空気が満ちる。


「それにしても、姐さんの料理凄く美味しくなりましたね」

「おい、その言い方では昔は酷い味だったみたいじゃないか」


 ヴァイスの言葉にシグナムは少しヘソを曲げたように眉を歪めてその美貌に怒りを浮かべる。

501:狙撃手と彼の灯火(前編)
08/11/16 22:52:29 c6om57DN
 彼女の様子にヴァイスは思わずすいませんと頭を下げたが、実際彼女の昔の料理は結構ヒドかったので彼の言葉はあながち間違ってはいなかった。


「まあ、アレだ……私もそれなりに勉強したんだ……その……お前には美味しいものを食べて欲しいし……」


 自分も緑茶を啜りながら、シグナムは少し朱に染まった頬を隠すように俯いてそう零した。
 恥じらいに頬を染めるその様は、普段の凛然とした雰囲気からは想像もできないほど愛らしく、ヴァイスの胸の鼓動は自然と高鳴る。
 シグナムがときおり見せるこのような可憐な仕草はほとんど反則だった。
 烈火の将が見せたその愛くるしい様はさながら糖蜜で出来た刃の如く彼の胸に突き刺さり、なんとも言えない恋慕の甘い陶酔をもたらす。
 彼女への恋しさが自然と身体を火照らせ、芯から生まれる熱に汗が出てきた。
 そして流れるのはなんとも言えない沈黙、シグナムは自分の言った言葉が恥ずかしくて、ヴァイスはそんな彼女の言葉が嬉しくて、双方口を紡ぐ。

 そして、最初にこの沈黙を破ったのは将だった。


「と、とりあえず風呂にでも入ったらどうだ? 丁度沸いている」

「ああ……そうっすね」


 シグナムに促されるまま、ヴァイスは一つ頷いて席を立った。
 そういえば、自分が今日の狙撃任務に当たって身体中から吹き出た汗で結構匂っている事にも気付く。
 これは早急に清めねば彼女にも失礼になるだろう。


「それじゃあちょっと風呂行ってきます」

「ああ、ゆっくりな」


 台所で食器を洗いだしたシグナムを残し、ヴァイスは一人風呂場に向かった。
 洗面所に入れば即座に纏っていた服を全て脱ぎ去り、彼は裸身になる。
 そうすれば、鍛えられたしかし決して無駄に筋肉を付けすぎてはいないしなやかな男の裸体が現われた。
 ヴァイスの肌には無数に傷跡、総魔力量の低い彼が今までどれだけの実戦を潜り抜けてきたかの証が刻まれていた。
 だが別に自身の姿に感慨を抱く筈もなく、彼はそのまま風呂場へと足を進める。
 ドアを開ければ視界を薄い湯気が漂い、湯船に満ちた熱湯から熱気が伝わる。
 ヴァイスは足を踏み入れると、ひとまず風呂イスに腰掛けてシャワーのコックを捻った。
 シャワーは最初一瞬だけ冷たかったが、即座に熱湯に変わって気持ちの良い爽快感を与えてくれる。
 一日の疲れ、特に多大な緊張感を強いられた狙撃任務で全身にかいた汗が洗い流され、素晴らしい爽快感をもたらす。
 しばらくの間、ヴァイスは身体を伝う熱湯の心地良さに浸る。

 そんな時、ふと背後で物音がしたのを感じた。
 誰かが洗面所にいる、そう思った刹那、ドアが開きその誰かが風呂場に侵入してきた。
 無論だが、今この家には二人しかいないのだから相手が誰かなんて考えるまでもない。


「邪魔するぞ」


 素っ気無いほどの簡素な言葉と共に、烈火の将は風呂場に足を踏み入れる。
 思わずヴァイスが振り向けば、タオルで身体の前面を隠しただけのシグナムが立っていた。
 一応タオルで隠してはいるが、その凄まじいボディラインは小さなタオル程度では到底隠しきれず白く美しい肌をあちこちから晒している。
 普段はポニーテールに結っている長い髪はバスターバンで纏められてなんとも新鮮。
 いつもと違うその姿に青年の胸の鼓動は否応なく高鳴った。
 ドクドクと心臓が脈打つ音が聞こえくる、狙撃の時とはまったく違う緊張に、ヴァイスは思わず彼女から眼をそらした。
 これ以上見ていたら理性が一気に崩壊してしまいそうだったから。
 しかし、ヴァイスのそんな意識などお構い無しにシグナムは彼へと近づく。
 そして直ぐ後ろに腰を下ろすと、そのしなやかな指をヴァイスの背中に這わせた。

502:狙撃手と彼の灯火(前編)
08/11/16 22:55:20 c6om57DN
 ゆっくりと指を動かし、まるで彼の身体に刻まれた傷を慈しむようになぞる。
 指先に愛しい人の肌を感じながら、シグナム静かに口を開いた。


「それでは背中を流してやろう、今日は疲れただろう?」

「え、ええ……それじゃあ、お願いします」


 ヴァイスの口から了承の意を受け取ると、シグナムは分かったと一つ返事をして奉仕を始めた。
 スポンジを手に取り、ボディソープを泡立てて彼の背中を洗い出す。
 強すぎず弱すぎず、丁度気持ちの良い具合の力加減でヴァイスの大きな背中が洗い流されていった。
 柔らかな手で行われるその奉仕に、ヴァイスは正直気が引けた。
 これほどの美女を恋人にしているだけでも自分にはもったいないのに、さらにこんな事までしてもらっては“自分如きに”とつい卑屈な感情を抱いてしまう。
 どれだけパイロットとしての腕を持とうと、どれだけ狙撃手として有能であろうと、どうしてもこの劣等感は消えてくれなかった。
 そうして少しだけ憂鬱な思考が脳裏を駆ける中、ヴァイスはふとある事に気付く。
 先ほどシグナムの言った言葉、その意味に。


「あの、姐さん……」

「なんだ? もう少し強くするか?」

「いや、違いますよ。その……さっきの言葉、“今日は疲れただろう”って」

「それがどうかしたか?」

「知ってたんっすか……今日の仕事の事……」


 その言葉で、二人の間に沈黙が流れた。
 ヴァイスの背中を流していたスポンジの動きまで止まり、風呂場に静寂が満ちる。
 一秒か、それとも数分か、形容し難い沈黙が流れた。
 そして、唐突に生まれた沈黙はまた唐突に破られる。


「ああ、知っていたよ。アルトに聞いた」

「……そうっすか……じゃあ、今日来てくれたのもそれが理由っすね」

「まあな」


 その日、ヴァイスは部隊の任務で武装強盗の鎮圧に当たった。
 もちろん彼の仕事は、その持ち前の狙撃技術を用いての犯人の無力化する事である。
 圧倒的遠距離より、防御不可の貫通力を誇る魔弾を、神技の粋に到達した狙撃術で叩き込む。
 彼の狙撃は一片の滞りもなく寸分のミスもなく、即座に完了した。
 だが、任務を終えた直後にヴァイスは意識を失って倒れた。
 局の医療施設に送られたが、外傷も疾病もなく原因は不明。
 彼の経歴を知る医師は、過度のストレスによる精神的なものではないか、と漏らしていた。


「心配……かけちゃいましたね」

「気にするな」


 JS事件が解決し、地上本部の陸士部隊に所属する事となったヴァイスはその持ち前の狙撃技術により再び武装隊員として前線に出るようになった。
 しかしかつてのトラウマ、妹への誤射事件の影響なのか、重度のストレスを感じる狙撃の際に身体的不調を度々引き起こしていた。
 ある時は嘔吐し、ある時は気絶し、様々な不調がヴァイスを襲った、だがそれでも彼は決して任務を仕損じる事はない。

503:狙撃手と彼の灯火(前編)
08/11/16 22:57:26 c6om57DN
 全ては狙撃を終えてから絶え続けたプレッシャーの末に起こる。
 どんな苦痛があったとしても、ヴァイスは任務を放棄する事はなかった。
 まるでかつて自分が犯した罪への贖罪のように、ただ苦痛を耐え殺して引き金を引き続けていた。
 そして、同じ部隊に所属する後輩のアルトが彼のこの現状を案じぬ訳がない。
 今日こうしてシグナムに連絡し、彼女をヴァイスの家に向かわせたというのが突然の訪問の理由である。

 シグナムはヴァイスの背中を丹念に洗いながら、まるで囁きかけるような声量で彼に言葉をかけた。


「身体の調子はどうだ? もう苦しくはないか?」

「ええ、まあなんとか」

「……そうか」


 その言葉に込められた感情に、背中越しでもシグナムが安堵したのが分かった。
 彼女にそれだけ思われているという事を自覚させられ、ヴァイスは思わず胸が熱くなるのを感じた。
 本当にこの女性は自分には過ぎた恋人だと、改めて自覚させられる。


「すいませんね、心配ばっかりかけちまって」

「さっきも言ったろ、気にするな」


 そう言うと、シグナムは風呂桶に掬ったお湯でヴァイスの背中を流す。
 ボディソープの泡が流されて、彼の身体はすっかり綺麗になった。


「ほら、綺麗になったぞ。早く風呂に入れ」

「はい、それじゃお先に」


 彼女に促されるまま、ヴァイスは立ち上がって湯船に身体を沈めた。
 少しお湯の量が少ないと思ったが、それでも十分に熱い湯の温度が心地良い。
 ジワジワと身体の芯まで伝わる温かさに、まるで身体の内側から汗と共に疲労が溶け出すような錯覚すら感じた。
 思わずヴァイスの口から心地良さげに息が漏れる。


「ふぅ~」


 一日の疲れを癒す湯船と言う名の極楽、言葉にならない気持ちの良さに青年は最上の至福を感じた。
 オマケに目を開ければ、視界には極上の美女がいるのだからこの上ない。
 シグナムは先ほどヴァイス腰掛けていた風呂イスにその素晴らしく肉付きの良い美尻を乗せて座っていた。
 そして、数多の男を虜にして止まない壮絶・凄絶としか形容できない爆発的な肢体に満遍なくボディソープを這わせて洗っている。
 彼女の裸体はその須らくが凶器と読んで差し支えない威力を誇るが、中でも特に“魔人”の二つ名を持つ乳房と来たら……
 何度も何度も、それこそ飽き果てる程に見ているのに、ヴァイスはその豊かに実った二つの果実から目が離せなかった。
 美女・美少女ばかりで構成されていた機動六課でも最強・最大・最美乳と称えられたその乳房、見るたびに圧巻である。
 ヴァイスはその麗しい乳肉を一切合財脳髄に保存すべく、まるで狙撃時にスコープを覗くような集中力で観察した。

 絡み付くようなその熱視線がシグナムの敏感な柔肌を舐める。
 白く透き通る肌に降り注ぐ視線の愛撫、長く艶やかな髪を洗い始めた将はシャンプーの泡を少し手でどけるとちらりと顔を彼に向けた。

504:狙撃手と彼の灯火(前編)
08/11/16 22:59:34 c6om57DN
 そこには案の定自分を凝視するヴァイスの瞳、彼の熱い眼差しに思わず鼓動が一つ高鳴る。
 思えば彼と最後に身体を重ねたのは随分前だった気がする、欲情の溶けた視線も仕方のない事だろう。
 それを自覚すると、シャワーの熱とは違う肉の火照りがシグナムの下腹部に生まれた。
 彼との睦事に想いを馳せれば、自然と彼女の中の雌(おんな)の部分が甘い期待に疼きだす。
 シグナムは羞恥心により赤みを増した顔を上げて、ヴァイスのその瞳に己が視線を向けた。
 突如視線を重ねられて彼はギョッとする。そして将は恥ずかしそうに口を開いた。


「ヴァイス……そ、その……今するか?」

「はい?」

「いや、だから……セ、セックスとか……」


 最後の方はそれこそ蚊の鳴くような程に、かなり語気が弱くなっていたが良く音の響く風呂場ではしっかりと知覚できた。
 その言葉の意味に、ヴァイスはしばし思案する。
 確かに自分は彼女が欲しい、願わくば即座に組み伏せて欲望の限りにその甘美な女体を貪り尽くしたかった。
 既に肉棒も怒張し、鋼の如く硬度を増して熱く滾っている。
 だが今ここで彼女を犯すのは正直嫌だった。
 欲望ウンヌンではなく、感情的な問題として許せない。
 自分にここまで甲斐甲斐しく尽くしてくれる彼女を、こんな場所で犯すのはあまりにも勝手が過ぎると思う。
 故に、ヴァイスは股間で雌を欲している己が分身を強靭な意志で抑え付けた。


「いや、別にしなくても良いっすよ」

「なっ! そ、それはもう私の身体は飽きたという意味か!?」


 ヴァイスの言葉にナニを勘違いしたのか、シグナムはこの世の全てに絶望したかのような表情で嘆いた。
 そうそう拝めない彼女の慌てふためく様子に思わず苦笑しつつ、ヴァイスはできるだけ優しく答える。


「違いますよ、俺が姐さんに飽きる訳ないじゃないっすか」

「うぅ……本当か?」

「ええ」


 そもそもからして、彼女の身体に飽きるというのは無理な話だった。
 シグナムのその艶めかしさ極まる女体は、一度味わえば決してその悦楽が忘れられなくなるほどに甘美。
 さらに、身体を重ねれば重ねる程にどんどん奈落の底に堕ち、深みにはまるような麻薬めいた中毒性を持っていた。
 これに“飽く”など不可能も良いところだ。

505:狙撃手と彼の灯火(前編)
08/11/16 23:02:22 c6om57DN
 そしてヴァイスは、少し鼻の頭を掻きながらやや恥ずかしそうに言葉を続けた。


「まあ、その……そういうのは、後でちゃんとベッドの上でしましょう」


 自分にこれだけ尽くしてくれる彼女を愛すなら、柔らかく温かいベッドの中でしたかった。
 それに、今ここで始めたらとてもじゃないが抑制なんて効きそうにない。それこそ狂った獣のようにシグナムの身体を徹底的に貪るだろう。
 だからヴァイスは理性を鋼にして耐えた。
 そして、彼の言葉を聞いたシグナムは頬をうっすらと朱に染めて頷く。


「ああ……分かった……あ、後でな」


 彼女の頬を染めるのはシャワーの熱だけでなく、脳裏を過ぎった彼との睦み合いへの羞恥、そして肉欲への期待。
 入浴の時間は、ただ互いの身体を火照らせるだけに終わる。
 愛と欲望を交わす甘い情交は、少しの間だけお預けされた。


続く。

506:ザ・シガー
08/11/16 23:06:22 c6om57DN
投下終了。

シグナム分が足りねえ! って事で自給自足で補う事にしました。
オッパイ最高です、ポニテで剣士ならさらに良いです。

んで俺思うのね、シグナム姐さんっていつも凛々しいけど嫁になったらきっと凄く旦那に尽くす良い嫁になるって。


次回は後半、エロエロ甘甘で行くぜベイベー!

507:名無しさん@ピンキー
08/11/16 23:36:59 LURi49B/
ヴァイス貴様!!
俺の姐さんになんて真似させてるんだゆるさ~ん!!!







シガー様たっぷりとシグナム分を堪能させて頂きました。
ポニテにロケットおぱ~いは正義ですwww

508:名無しさん@ピンキー
08/11/17 01:04:37 CfkOlLUX
>>
同意!
リリカル世界の女性たちは旦那とか彼氏にはすごく甘えそうだw

509:名無しさん@ピンキー
08/11/17 01:53:25 GikxVb9+
そいえば、シグナムがヴァイスが自分に手を出してくれないことをアルトに相談してる作品って完結してる?

510:名無しさん@ピンキー
08/11/17 01:58:20 jCLq2+MN
>>492
上がってる話全部読ましてもらいました
GJ
スクライアを筆頭に、存在するけどもスポットを当てるとどうしてもオリジナルにならざるを得ない人々を愛しているので応援しますよ
レイジングハートが出来た時とか、アリシアの父親とか、アレックスやランディとか
そんな中、スクライアを取り上げたのは目を開かされました
あと3話で行間空けてくれたのはありがたかったです

あんまり反応なくても、読む人いますから

511:名無しさん@ピンキー
08/11/17 02:29:16 Eh9oGwxZ
>>464
ここでまさかのエリオ復讐者フラグの成立か
でも本当は幾度となく、復讐しようと考えたことだろう
しかしやってしまうとキャロが何のために死んだのか解らなくなる
13歳としてはあまりに重い選択だ…
GJ。

512:名無しさん@ピンキー
08/11/17 07:08:27 PPWvNtUj
今のエリオはまるで大人だ
長生き出来るタイプじゃないな

513:名無しさん@ピンキー
08/11/17 08:51:53 qzqK6KYQ
>>506

GJ!

シガー氏のシグナム姐さんは可愛くてエロいな~と心から思います。


514:名無しさん@ピンキー
08/11/17 13:14:14 yRcYZszS
>>492
続き楽しみにしています

515:7の1
08/11/17 19:32:03 RIy3MV2V
注意事項
・一部エロありです(この章はエロというか虐待です)
・時間軸はJS事件から1年後
・JS事件のもたらしたもの
・捏造満載
・オリキャラ出てます。
・StSキャラはヴィヴィオしか出ていません
・ユーノ×なのはは基本です。
・主人公:ユーノ
・タイトルは「再び鎖を手に」  

それでは第4章を始めます。


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08/11/17 19:38:07 RIy3MV2V
第4章 聖王の碑

 扉が開くと、艦内食堂とは思えない世界が広がっていた。

 柔らかい光に満ちた天井は、その高さがわからないほどで、その中を青い羽根をした鳥が飛んでいる。

 聖王樹の森に囲まれた芝生の中央には木製の丸いテーブルと四脚椅子が置かれており、テーブルの上に置かれた
ガラス製の鉢には見たこともない果物が盛られていた。

「こちらが、本船自慢の食堂です。ユーノ博士からお二方を同伴されるとのことでしたので、聖王陵特産の果物を用意
しておきました。どうぞ、お座りくださいヴィヴィオさん、高町一尉」

 テーブルを挟んでヴィヴィオとなのはの前に座ったマテウスが、人差し指を立てるとガラス鉢の果物の一つが二人の
前に置かれた白磁の皿に現れた。

「こちらが、聖王陵特産のスレビアとい果物で、別名”聖王玉”と言って97管理外世界のリンゴに味が似てい ます。
皮は手で向いて食べてください」

「なのはママ。これ、おいしいよ」

 皮をむいてスレビアを食べ始めたヴィヴィオは、まだ手を付けていないなのはに声を掛けたが、なのはは、あえて無視した。

「おいしいですか、それは良かった。ヴィヴィオさん、後でご自宅にお届けしましょう。スレビアも良いですがこのモレス”聖王の星”は、
もっとおいしいですよ。いかがですか?」
「わあ、きれい」

 ヴィヴィオの皿にあったスレビアの皮が消えると、代わりに深紅の色をした星形のモレスが現れた。モレスを手に取るや躊躇すること
なくかぶりつき、夢中で食べるヴィヴィオの周囲にモレスの濃厚な香りが広がる。

「高町一尉、先ほどから手をお付けになっていませんが、スレビアやモレスは、なじみがないのでお気に召しませんかな? 
それでは、これは如何?白いナザンなら高級将校のパーティーでよく出されるものですからご存じでしょう」

「いい加減にしてくださいバウアー卿!」
「はあぁ?」

「何が目的です。ヴィヴィオに聖王の洗礼果を食べさせるなんて・・・・」
「なのはママ怖い」

 血相を変えて抗議するなのはに怯えたヴィヴィオが、食べかけのモレスを皿に落とした。




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08/11/17 19:40:32 RIy3MV2V
「ごめんね、ヴィヴィオ。これ食べる?」
「なのはママが食べないなら、ヴィヴィオも我慢する」

 差し出されたスレビアに手を出そうとしないヴィヴィオに根負けしたなのはは、スレビアの皮をむくと二つに分けて、
一方をヴィヴィオに差し出した。

「ママも食べるから、ヴィヴィオも食べるのよ」
「うん」

 なのはの抗議の意味がわからないのか、しきりに首をかしげていたマテウスだが、二人のやりとりを見て

「これも、おいしいんですがね。ヴィヴィオさん食べないんですか?」

 とナザンを勧めるが、ヴィヴィオはマテウスの前に置かれたナザンから顔を背けた。

「それ、ママは嫌いみたいだから、ヴィヴィオ食べない」

 ナザンの皮をむき、自分の皿に盛っていたマテウスは、ヴィヴィオの言葉を聞くとがっくりと首を垂れた。

「美味いんですよ、これ~ 。残念です、実に残念です」

 ナザンのやけ食いを始めたマテウスの愚痴は、なのはとヴィヴィオから完全に無視された。 

「失礼します。マテウス様、ユーノ博士が碑の解読で話があるそうです」

 いつの間にか芝生の上に出現した黒髪を肩の高さに切りそろえた女性士官にマテウスは、軽くうなずくと椅子から立ち上がった。

「ヴィヴィオさん、高町一尉、お聞きの通りです。ちょっと席を外します。リアン三尉、お二方の接待を頼む」

「了解、全力を尽くします」
「頼んだよ。リアン」

 リアンと呼ばれた女性士官が胸に左手を当て頭を下げ、マテウスを見送った

「ヴィヴィオ様、高町一尉、翠屋製のアップルパイは如何でしょうか?先日、注文していたものが、転送便で先ほど届きました」
「翠屋のアップルパイが食べられるなんて、リアンさんありがとう」

 ニコニコしながらアップルパイの入ったボックスをテーブルの上に出現させたリアンになのはは微笑んだ。

(バウアー卿と違って魔法の気配を感じるわ。どんな系統の魔術かしら、波動は、レイジングハートが記録したから、
後でユーノくんに聞いてみよう。ユーノくんならわかるかも)


518:7の1
08/11/17 19:43:40 RIy3MV2V
 手書き文字で医務室と書かれた木札が掛かった部屋の中で、ユーノとマテウスは、レナードの寝かされている
高酸素カプセルを挟んで対峙していた。

「何をお聞きになりたいので?」
「陵墓盗掘の真実です」

 ユーノの鋭い視線が、眼鏡越しに、ちびた葉巻を吹かすマテウスのさえない顔を射抜く。

「はて?真実とは難しいものですな。真実は必ずしも美しくなく、かつ正しいとも言えないという俚言がありま
 す。事実は遺跡盗掘をしていたスクライア、いやライアー一族を我々が捕縛したとういうだけのことです」

「嘘だ!バウアー卿、あなた方は真実を隠している。彼らに、ラーナやレナードに何があったんです?」

「知らない方が良いこともありますよ。私としては、貴方を評議会入りさせる切り札に、これを持ち出すつもりはないんですから」
「僕は真実が知りたいんです」
「言い出したのは貴方です。若さ故の代償を払うことになるかもしれませんよ」

 マテウスが、左手の人差し指をユーノの眼前に突きつけるとモニター画面が出現した。

 密林の向こうに見える、いかなる樹木の侵攻をも許していない赤茶けた土肌をむき出した墳墓の一角に直径10mほどの大きな
穴が穿たれ、そこからバインドで縛り上げられ、泣き叫ぶラーナを担いだ3人の男が出てくるシーンが映し出された。

 3人の首には黒い首輪がはめられており、その足取りはラーナの抵抗を考慮してものろのろしていた。

「サック、ビルス、それにバック・・・」

 生き残った一族の中にいなかった長老3人の蛮行を見て、ユーノは言葉を失った。彼らは、こちらに背を向けている褐色の装甲服
を着た10数人の男たちの前に泣き叫ぶラーナを置くと、うずくまって深々と頭を垂れた。

「言われたとおりにしました。どうか命ばかりは」

 卑屈な笑みを浮かべ命乞いするサックの首輪が爆発した。首を失った身体は、そのまま後ろに跳ね上がって地面にたたきつけられる。

 あたりに漂う血臭の中をビルスとバックが狂ったように駆けだし、こちらの方に走ってくるが、無造作に振り返った装甲服の一人が、
はなったクナイが背中に刺さった瞬間、ビルスの身体が内部から弾け四散した。

(チンクと同系統のIS、いや人体を内部から破壊している。遺失技術の波動系ISだ!)

 次元連合の総攻撃にあって完膚無きまでに殲滅された、いにしえの時空管理局の武装機兵が標準装備していたISの威力を眼の前で
見せつけられたユーノは戦慄した。

 記録映像が写真でしか残っていない為、実感がなかったが、この技術が現在も生きているなら管理局の武装局員にとって最大の脅威
になるのは明らかだった。


519:7の1
08/11/17 19:47:57 RIy3MV2V
「た、助けてくれ。あんたたちに言われたとおり女を、ラーナを連れてきたじゃないか?頼む、頼みます」

 ビルスの悲惨すぎる最後に気力が尽きたのか、地面にしゃがみ込んだバックは、ゆっくりと近づいてきた男の
一人に弱々しく訴える。

「男はどうした?探索にはやつが必要だ。レナードは何処だ?」
「・・・・・」
「何処だと聞いている。答えんか」

 男の一人が、無造作にバックを蹴り上げた。骨の折れるいやな音と共にバックが血反吐をはいて跳ね上がる。

「ふ、墳墓の中だ。ラ、ラーナの件で抵抗したんで痛めつけ・・・ぐぎゃあぁ」
 
バックの言葉が終わらないうちに、男の一人がバックの首を左手に仕込んでいた刀で切り落とした。

「奴を連れてこい。怪我をしていたら、手当をして、すぐに働かせろ」
「女はどうします」
「殺さない程度に楽しめ。お前たちは、レナードの確保と一族の身柄を押さえろ。行け!」
「はっ、ただちに取りかかります」

 バックの首を切り落としたリーダとおぼしき男の命令で、待機していた装甲服の男たちが、空に飛び上がると
穴の中に突入する。しばらくして穴の中から、悲鳴が聞こえてきた。

「墳墓の監視カメラの送ってきたデータを確認したのがこの辺からですな。見ての通りの状況ですから、ただち
 にレミオ指揮下の武装隊を派遣することになったわけです」

 続けますかと尋ねるマテウスにユーノは苦い顔でうなずいた。

 しばらくして血のにじみ出ている白い布を額に巻かれたレナードとユーノが再会できた一族の若者たちが、鎖
付きの首輪をはめられた状態で男たちに引っ立てられてきた。

「バックたちはどこだ?」

 レナードの前に血にまみれたバックの首が投げ出された。それが男たちのリーダーの返答だった。

「お前の妹は預かった。すぐに封印を解除しろ」
「封印?」
「とぼけるな。お前たちが掘り出している石碑がロストロギアだってことは、割れてるんだ。我々に残された時間は残り少ない。
早急に聖王の猟犬を浮上させ同志スカリエッティに合流しなければならない。お前の役割は石碑の封印を解除して、聖王の
猟犬の動力源を解放することだ」

 聖王の猟犬という言葉を聞いた瞬間、ユーノの顔色が変わった。
 いにしえの時空管理局と戦った聖王軍の主力戦艦にして、ゆりかごを上回る殺戮を管理世界で行った殺戮兵器が生き残っ
ていて、スカリエッティと共闘する連中の手に渡っていたのだ。 

「・・・・命は、俺の命はどうでも良い。妹と他の一族の命を保証してくれ」
「早くしないとラーナだったかな。お前の妹の命も保証できんぞ。17号、見せてやれ」
 17号と呼ばれた装甲服の男が、ラーナを抱えてレナードたちの前に降り立った。 

「に、兄さん助けて・・・痛い、痛いよぉぉぉ、や、やめて、やめてよぉぉぉ」

 固定カメラの映像は、悲鳴を上げるラーナを抱きかかえている17号と呼ばれる男の背中しか捉えていないが、
その足下にぽたぽたと血が垂れて血だまりが広がっていくのが見える。

「やめろ、やめてくれ。封印は解除する。だから妹を助けてくれ」
 できもしない事を口にするレナードの必死さを思ってユーノの心中に苦い思いが広がる。
 ユーノの探索魔法の師であったレナードだが、封印の解除に必要な検索魔法や魔道書などの速読魔法については、
ユーノに遠く及ばないのだ。


520:7の1
08/11/17 19:50:50 RIy3MV2V
「同志が石碑を運んできたようだ。早くしないと妹の身体が持たんぞ」

 墳墓に穿たれた穴からデートリッヒに積み込まれているものに酷似している石碑が装甲服の男たちによって
運ばれてきた。
 レナードの背後に石碑が置かれると石碑の隣に17号が着地した。

「お兄ちゃんを応援しないのか?いけない妹だ。これはお仕置きが必要だね」

 軽口を叩く17号に抱かれているラーナの股間に突き刺さった金属製の肉棒が、上下するたびに耳を覆いたく
なる悲鳴と血が地面に流れ落ちる。

「ひぎゃぁぁぁぁ、いやぁぁぁぁ、いやぁぁぁぁ」
「よい妹だ。お兄ちゃんのために、精一杯、応援するんだよ」

「やります。封印解除でもなんでもやります。だから妹に、これ以上ひどいことはしないでください」
「では、やってもらおうか  な、何奴!」 

 狼狽したリーダーが石碑へ顔を向けた瞬間、17号の頭がまっぷたつに割れ、血のシャワーをまき散らして
倒れた。
 聖王陵の騎士甲冑を纏ったレミオを先頭にした魔導騎士の奇襲を受けた戦闘機人たちが、反撃する間も許さ
れず、呆気なく倒されていく。
ISを作動させ高速起動で上空に逃れたリーダーが、腹部に根本まで刺し仕込ま
れた狩猟ナイフと狩猟ナイフを握っているレナードを見て信じられないと言った表情を浮かべた瞬間、腹部が爆発し、
リーダーの身体が四散した。

 同時に右肘から先を失ったレナードも血の花を咲かせながら地上に墜ちていく。

「戦闘機人は全滅。後に残ったのは陵墓盗掘の実行犯たちだけ。情状酌量の余地はありますが、如何せん戦闘機人
たちの目的が目的ですからねぇ。まあ戦闘機人の生存者がゼロってことが救いですかね」

 JS事件の裏側で進行していた恐るべき事件に、スクライア一族が関わっていた事実に衝撃を受けたユーノの顔色は
死人のようだった。

「・・・・」

「そろそろ石碑をお披露目と行きますか、ユーノ博士」



第4章はここで終わります。

明日、第5章を上げます。


521:名無しさん@ピンキー
08/11/17 20:15:52 sJTyUto8
GJ。ただこの話のなのはさんの口調、ちと違和感が
「だわ」とか「かしら」とか「~のよ」とか‥‥

522:名無しさん@ピンキー
08/11/17 20:47:21 YnMY9dyI
なのはさんなら
「~だね」「~かな」「~だよ」

蛇足的には
「~なの」

といった感じだからな

523:名無しさん@ピンキー
08/11/17 20:57:13 r0tJth+2
余談だが、語尾を文字だけで表すと、フェイトとなのはの区別はちょっと難しい。
耳で聞くと、イントネーションの違いですぐわかるのにね。
「断定口調」→なのは
「疑問口調」→フェイト


524:名無しさん@ピンキー
08/11/17 20:59:51 lWOD1dyb
フェイトは戦闘時は途端に断定口調になるけどなw
「~だ」、「~ない」って。

なのはの「~なの」はニュアンスで断定or疑問だから文字にするとちょいややこしいな。
まあ、そこが良いんだがw

525:名無しさん@ピンキー
08/11/17 21:38:40 MUpfjqOW
>>464
GJ!!
うわあああああヴィヴィオもなのはもヴァイスも皆…
何人かはもうすでに変えられない運命になってしまっているのですね。
ヴィヴィオとなのははまだやり直せるけど、大切なものを失って支えがないスバルとヴァイスは取り戻せない。
エリオも下手をすればそうなる。
逃れられるならば、全員辛い運命なら脱して欲しい。そう思ってなりません。

>>506
GJ!!
シグナムはこんな感じで嫁にいけば気立てのよい優しい妻になると私も思います。


526:名無しさん@ピンキー
08/11/18 19:15:06 qxpTklGi
注意事項
・一部エロありです
・時間軸はJS事件から1年後
・JS事件のもたらしたもの
・捏造満載
・オリキャラ出てます。
・StSキャラはヴィヴィオしか出ていません
・ユーノ×なのはは基本です。
・主人公:ユーノ
・タイトルは「再び鎖を手に」  

それでは第5章を始めます。


527:名無しさん@ピンキー
08/11/18 19:17:29 qxpTklGi
第5章 口碑

 森に囲まれた芝生の上にあるテーブルに座って談笑しているなのはとヴィヴィオとリアンの頭上には、艦内
食堂とは思えない光景が広がっていた。

 のどかな日の光が天井から降り注ぐ。見上げれば、太陽は見えないが柔らかい光が降り注いでいる。その中
を青い鳥が、雁行陣を組んで飛んでいる。

「リアンさんが、海鳴市の人だとは思わなかったよ」

 リアンの話を聞いたなのはは、マテウスの前で演じていた良き母の口調を忘れる程、興奮していた。

「曾祖母が出身者ってだけですわ。まだ曾祖母の兄の家系が続いているので、親戚づきあいの関係で地球に行き
ますが、まさか親戚の住んでいる都市が、なのはさんの出身地の海鳴市とは思いませんでした」

「翠屋のケーキっておいしいでしょ。リアンお姉ちゃん」
「ヴィヴィオちゃんは、何が好きかな?」

「翠屋のガトーショコラ」

「あ、それも良いかも。でも私はブランデーケーキ、でもヴィヴィオちゃんには、まだ早いかな。なのはさん
 は、何が好きです?」

「子供の頃、翠屋を継ぐつもりだったからシフォンケーキをよく作ってたからシフォンケーキが好きかな」

「今度、シフォンケーキの作り方教えてくださいよ。私が作ると型を抜いた後で必ず萎んじゃうんですよ」

「それじゃ、作ってるところをメールで送るからメールアドレスを」

「後で、戦技教導隊のなのはさんのアドレスにメールを送りますので、都合の良い時に返信していただければあ
 りがたいです」

「ママ、ブランデーケーキってリアンお姉ちゃんにしか食べれないの?ヴィヴィオ食べれないの?」
「ヴィヴィヴォが、これぐらい大きくなったら、翠屋でブランデーケーキ食べられるんだよ。それまではだーめ」

「ええ~、そんなに大きくなれないよ~」
「ママは、ヴィヴィオより小さかったから、ぜったい大きくなれるんだよ」

 他愛ない会話を交わすなのはとヴィヴィオを見ながら、微笑んでいたリアンの表情が、急に引き締まった。

「は、了解しました」
「リアンさん?」

「ユーノ博士が、石碑の解読を終えたようです。お二方に見せたいので、ご案内するようにとのことです。こち
 らにおいでください」

 武官らしいきびきびした口調に戻ったリアンは、立ち上がったなのはとヴィヴィオを芝生の上に姿を現した
転送ポートに誘った。

528:名無しさん@ピンキー
08/11/18 19:20:26 qxpTklGi
 AMFを解除した格納庫に案内されたなのはは、自分とヴィヴィオを迎えたユーノに走りよると、にっこり微笑んだ。

「ユーノくん、がんばったね。ヴィヴィオもパパのお仕事、見たいって言ってたし、グッドタイミングだよ」
(顔色が悪いよ。なにか嫌なことでもあったのかな?)

「なのは、皆が見てるよ。ほら、ヴィヴィオもこっち来たがってる。ヴィヴィオ、こっちおいで」
(なんでもないよ。口碑の解読に手間取っただけさ)

「ユーノパパ、ママがね。ブランデーケーキ、まだ食べちゃ駄目だって言うの。もっと大きくならないと駄目なんだって
ヴィヴィオ食べたい。ヴィヴィオの言うこと、そんなに間違ってる」

 なのはの魔王モードの口癖を真似てせがむヴィヴィオを見て、ユーノの緊張感が緩むのを見たなのはの微笑み
が深くなる。

「そうだね。ほんのちょっとならヴィヴィオでも食べられるかな。でもブランデーケーキって少し苦いんだよ、
 ヴィヴィオ、苦いもの嫌いだよね」

「うーん、苦いのは嫌だな。でもユーノパパが食べさせてくれるならヴィヴィオは平気だよ」

 ヴィヴィオの笑顔につられるようにユーノも笑顔を浮かべる。

(子供の笑顔ってのは救いだな。助かるよ)
(あら、私の笑顔は救いにならないのユーノくん何か隠してるんだね。恋人にも隠し事するなんて間違ってない?
 私の言うことそんなに間違ってるかな)

 その言葉に驚いたユーノは、目から笑いが消えているなのはの笑顔を見てぎょっとした。

(なのは・・・・後で話がある。君の助けが必要だ)(うん)

「じゃあユーノくん、今度の休暇にヴィヴィオと翠屋に行こうよ」
「そうだね。行こう」

 糖度200%のバカップルの雰囲気を振りまく二人のやりとりに辟易したのか、ユーノと一緒にいたレミオ
やなのはたちを案内したリアンの姿は、いつのまにか格納庫から消えていた。

「ユーノ博士、高町一尉、ヴィヴィオさん、お邪魔でしたかな?」
「うん、マテウスのおじちゃん、邪魔だよ~」

 間髪入れずに答えるヴィヴィオを見たマテウスは、途方に暮れた表情を浮かべると頭をかきだした。

「後にしましょうか?晩餐を用意しますので・・・」

(ユーノくん!)
「いや、すぐに始めましょう」

「聖王陵自慢の食材をご賞味いただけないとは残念の極みです。ではご案内しますのでおいでください」


529:名無しさん@ピンキー
08/11/18 19:23:12 qxpTklGi
 格納庫の中央に一同を案内するよれよれのレインコートを着たマテウスの背中を見ながら、なのははヴィヴ
ィオの手を引いているユーノに話しかけた。

(バウアー卿ってどんな人なの? 教導隊の総隊長から名前だけは聞いた覚えがあるけど、総隊長も面識がない
 って話だったよ)

(第三管理世界始原ベルカ聖王陵出身。新暦47年若干11歳で入局、武装局員を経て戦技教導官に昇格。ここ
 までは、なのはとほぼ同じだね。一等空尉昇任直後、監察部へ異動、以後、監察部でキャリアを重ね、現在、
 監察部S級監察官、幹部評議会評議員、戦技教導隊最高名誉顧問、聖王陵伯爵)

(聖王陵伯爵って・・・本物の貴族なの!? )

(あんな格好してても伯爵だ。あのレインコートは、戦技教導官時代の愛用品って話だ)

(魔法ランクは、総合?それとも空戦か陸戦?)

(監察部異動時に情報保護のため記録を抹消してる。入局時 総合A+って記録しか残っていない。一等空尉だ
 から空戦S+以上は確実だね)

 目の前を歩くさえない中年男が、ベテラン執務官ですら恐れるS級監察官で、自分の大先輩でもあるという事
実に衝撃を受けたのか、なのはは押し黙ったまま、ユーノの腕を強くつかんだ。

「痛っ なのは、顔が怖いよ」

「ふぇぇユーノくん見てたの?」

「なのはママ・・・怖い」

 よほど厳しい顔をしていたのか、自分を見ているヴィヴィオの目が怯えているのに気づいたなのはは、小声で
ごめんと謝った。

 そんな3人のやりとりを聞いているのかいないのか、3人の前を歩くマテウスが振り返った。

「みなさん、着きましたよ。ユーノ博士、解説をお願いします」

 マテウスが指を鳴らすと直径2m高さ10mほどの石碑が足下に配置された照明によってライトアップされた。

 石の材質は不明だが、光沢のある材質で照明の当たり具合によって碧色や紅色、黄色などめまぐるしく色が変

わり、石碑の正面に刻まれた碑文を読み取ることができない。

「あれなんて読むのかな?ヴィヴィオ読めないや」

「古代ベルカ文字の方言だよ。ヴィヴィオ」

 自分には見られない文字を見ることが出来るユーノとヴィヴィオに、なのはは漠然とした不安を感じた。



第5章 終わり

第6章は、明日、上げます。


530:名無しさん@ピンキー
08/11/18 19:32:34 BBYc5GWz
贅沢を言って済まない。
この長さなら、数日分まとめてアップした方が読みやすくないかな?

531:名無しさん@ピンキー
08/11/18 19:48:44 Pe2d6zVS
章ごとなんだし別にいんじゃね
何も投下ないのも寂しいし

532:名無しさん@ピンキー
08/11/18 22:04:49 quIUiE3K
ゆのふぇ

533:名無しさん@ピンキー
08/11/18 22:09:08 /x2OKPZg
サイヒ氏のクロノ×フェイト×カリム3Pの投下をずっと待ってる。

534:名無しさん@ピンキー
08/11/18 22:11:33 BBYc5GWz
じゃあ俺は、ユーノに囲われたティアナの話をずっと待ってる

535:名無しさん@ピンキー
08/11/18 22:25:43 Fe0h9eKm
じゃあ俺はターンA氏のエリオのごとくをずっと待ってる


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