☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第88話☆at EROPARO
☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第88話☆ - 暇つぶし2ch400:名無しさん@ピンキー
08/11/15 01:41:53 BmwGs57m
現実でもクローン創る目的の一つに、拒否反応がなく取り換えられる臓器の作成があるし、10年程度未来であれ魔法文明なリリカルワールドの天才ドクタースカトロなら脳みそ以外とっかえひっかえ楽勝なんだろう

401:名無しさん@ピンキー
08/11/15 01:57:31 1K3UzSE8
ディエチにジュニアは手を出したのかな?

402:名無しさん@ピンキー
08/11/15 13:20:35 jcmh4aIu
このウェンディはライスピのタイガーロイドばりに
パーフェクトなサイボーグとして復活を…しないか

403:名無しさん@ピンキー
08/11/15 13:56:13 DDIKQa9r
ウェ「楽しい命のやり取りの後に立っているのは『死』という地獄をかい潜って来た真の『鬼』のこの私だ!」

404:名無しさん@ピンキー
08/11/15 14:24:47 BmwGs57m
次のウェンディは肩にキャノンつくわライディングボードの代わりにライドアーマーがつくわバーボンが泥水だわでえらい事ですね

405:名無しさん@ピンキー
08/11/15 14:40:11 jX35xviq
>>402
あんな悲壮感漂うウェンディはなんか嫌だw

406:名無しさん@ピンキー
08/11/15 15:02:54 t+xNU4A7
>>402
それだと、ポジション的にセインがZXじゃないか(ウェンディとコンビ組んでいたらしいし)w

407:名無しさん@ピンキー
08/11/15 18:48:51 fq57RdxW
>>393
GJ!!
実に燃える展開だ
エリオはルーテシアもキャロも全て守ると大口叩くぐらい自信持てばいい!
それが漢だ!

408:名無しさん@ピンキー
08/11/15 19:01:21 ex43zWTy
>>400
少なくとも、目は無理っぽいけどな

409:名無しさん@ピンキー
08/11/15 19:12:26 t+xNU4A7
>>408
チンクのことをさすのなら、あれは確かわざと治していなかったんじゃなかったっけ?

410:名無しさん@ピンキー
08/11/15 20:19:38 NWDXcSoF
>>409
>>408はラグナのこといってるんじゃね?
スカは関係ないがさ

411:69スレ264
08/11/15 20:39:14 BGSoWela
業務連絡です。
87スレ保管完了しました。
職人の方々は確認お願いします。

412:名無しさん@ピンキー
08/11/15 21:03:11 3aJjnvv7
>>411
いつもありがとうございます。

413:名無しさん@ピンキー
08/11/15 22:04:19 cgpvxGtZ
>>411
つ旦

414:名無しさん@ピンキー
08/11/15 22:07:21 t+xNU4A7
>>411
確認しました、ありがとうございます。

415:名無しさん@ピンキー
08/11/15 22:27:25 HUe9rSXJ
>>411
  ∬ 
つc□  コーヒードゾー  


416:名無しさん@ピンキー
08/11/15 22:37:17 Pru29odL
>>411
どうも乙です~

417:名無しさん@ピンキー
08/11/15 22:49:26 fq57RdxW
>>411
乙かれ様です

418:554
08/11/15 22:55:29 gr9Ly5eY
尻叩く意味でも0:00までにクリニックF更新するっ! と宣言しておく。

というわけで、少々のお待ちを。

419:名無しさん@ピンキー
08/11/15 23:04:37 kR0fsfzv
>554氏
きゃほ~い! 投下待ってます~♪

420:名無しさん@ピンキー
08/11/15 23:06:32 3aJjnvv7
来たッ!!!

421:7の1
08/11/15 23:47:52 gbKB4Z19
この流れの中で初の投稿になります。
注意事項
・一部エロありです
・時間軸はJS事件から1年後
・JS事件のもたらしたもの
・捏造満載
・オリキャラ出てます。
・StSキャラはヴィヴィオしか出ていません
・ユーノ×なのはは基本です。
・主人公:ユーノ
・タイトルは「再び鎖を手に」  




422:7の1
08/11/15 23:49:18 gbKB4Z19
 管理局の制服の上によれよれの薄茶色のレインコートを羽織ったさえない中年男が、時空管理局の廊下を
所在なさげにふらふらと歩いていく。
前から歩いてくる男性局員は、その男を気にする風もなく無視して通り過ぎる。廊下の角でぶつかりそうになった
女性局員をひょいと避けながら失礼と頭を下げる男の挨拶は見事に無視される。
足早に通り過ぎていった女性局員を見て肩をすくめた男は、無限書庫の入り口に着くとセキュリティチェッカーに
無造作に手をかざした。
「ID確認 幹部評議会議員マテウス・バウアー卿、入室を許可します」
「ご苦労さん」
 バウアー卿と呼ばれた男は、習慣なのか単なる機械にすぎないセキュリティチェッカーに声を掛けると無限書庫
の扉が開いた。
 無限書庫の無重力空間を縦横に走る通路代わりの梁に腰掛け、目の前にモニターを展開しながら口述筆記を続ける
ユーノは、二本下の右に走る梁の上を危なっかしく歩く男を認めると作業を中断して声を掛けた。
「マテウスさん、ここですよ」
「やあ、ユーノ先生、そこでしたか。ちょ、ちょっと待ってください」
「無理することないですよ。今、行きますから」
 無情力空間に不慣れなのか、上手く飛び上がれずじたばたするのを見かねたユーノは、梁を器用に蹴ると無重力空間
を優雅に飛翔して男の前に降り立った。
「相変わらず見事ですな。さすが大空のエースオブエースの師匠だけのことはある」
「お世辞は結構です。それよりご用件は?」

423:7の1
08/11/15 23:52:48 gbKB4Z19
自分の思い人のことにふれられたユーノは、素っ気ない口調で答えると胸ポケットから取り出した布で、はずした眼
鏡を拭きだした。
「相変わらず見事ですな。さすが大空のエースオブエースの師匠だけのことはある」
「お世辞は結構です。それよりご用件は?」
 自分の思い人のことにふれられたユーノは、素っ気ない口調で答えると胸ポケットから取り出した布で、はずした眼鏡を拭きだした。
「二つありましてね。一つは野暮用で、もう一つはご要望のありました例の件についての資料で・・・」
 レインコートのポケットからディスクの入ったケースを出して手のひらで弄ぶマテウスにユーノは鋭い視線を向けた。
「わかったんですか!」
 懸念していた件についての答えを得たユーノの声は、不安と希望がないまぜになったせいか、若干震えていた。
「ええ、聖王陵の書庫にある埃を被った本に載ってましたよ。ケースは全部で8件、完治率は4件ですから50%、
 まあそれほど分の悪い賭ではありませんね。それにしても、こんな資料、無限書庫にありそうなもんですがね?」
「第3管理世界始原ベルカの収集資料は、無限書庫にほとんどありません。いにしえの時空管理局ですら手を出せなかった世界ですよ
現在の時空管理局が収集できた資料も、聖王陵の許可を得て収集できた歴史書や口碑、伝承、詩歌 の類だけなんです」
 その資料があれば、ここまで悪化することもなかったんだとユーノは心の内で続けた。
「へぇぇ私が管理局に奉職して30年近くになりますが、資料請求の要請なんて一度もされませんでしたがね?
まあ、 私じゃ当てにならないと思われてたんでしょう」
 苦笑するマテウスの手のひらの上でくるくると回りだしたディスクを眼鏡を拭くのも忘れて食い入るように見つめていたユーノは、
にやにや笑いをうかべるマテウスに気づくと、あわてて眼鏡を掛けなおした。

424:7の1
08/11/15 23:55:41 gbKB4Z19
「で、野暮用とはなんですか?バウアー卿」
「なに、たいしたことじゃありません。かねて要請していた評議員就任の件ですよ。お受けいただけますかね。
いや、 誤解なさらないでください。このディスクはお渡ししますよ。なにせエースオブエースの命がかかってますからね」
 手のひらで回していたディスクを一瞬でユーノの胸ポケットに転送させるとマテウスはこれだから、私は駄目なんですがね
とつぶやき、櫛の通ってない髪を右手でがりがりと引っかき回しはじめた。
「評議会入りですか?無限書庫の人員的にも僕が抜けると資料請求作業の遅滞率が30%を超えるんですよ。本局評議会
は無限書庫の機能不全を望んでるんですか」
「正確には32%強ですな。評議会の意としては、個人頼りの無限書庫という体制を改革したい。それには無限書庫の代表者が、
評議会入りして人員の要求や予算の増額に関して発言してくれたたほうが良いというわけです」
「で、無限書庫は評議会の飼い犬になれと・・・」
「聖王教会ーハラオウン閥と見なされるている現状よりはましでしょう」
 JS事件解決の裏の立役者と識者の評価が高いのに3人ほどの人員増なんて常識じゃ考えられませんがねと続けた
マテウスは、髪の毛を引っかき回していた右手でポケットから吸いかけのちびた葉巻を取り出すと指先に浮かべた炎
で火をつけた。
「ここは禁煙ですよ。やめてください」 
「煙は次元の狭間行きです。ご心配なく」
 葉巻から吹き出した煙を転送魔法で次元の狭間にはき出すマテウスを睨み返したユーノは、部下の職員たちの顔を
思い浮かべながら考え続けた。どの部下も寝食の時間を削り、過酷を通り越して拷問としか思えない無限書庫への資料
請求に答えている。それでも請求者たちから、資料に間違いがある、不足がある、要求した項目を満たしていないなど不満や
苦情が絶えない。 そのストレスが原因で管理局を退職したり、鬱を発症して長期療養を要する羽目になった職員たち。
人員さえいれば避けられた事例が何件あったことか
「しかし、ぼくが評議員になったら実務から遠ざかることになりますよ。それでもいいんですか。資料請求の遅滞率は」
「その点は、ご心配なく。かねてご要望のスタッフを当方で用意しておりますから」
「評議会推薦の?忠誠心だけじゃ無限書庫のスタッフは勤まりませんよ。能力と資質がいるんです。その点を理解できている
とは、今までの経緯からして思えませんがね」

425:7の1
08/11/15 23:58:28 gbKB4Z19
 ハラオウン閥と見られているユーノが司書長を勤めている無限書庫の統制を目的として評議会より回された50名の人員が、
わずか1ヶ月後には、過労による病気やストレスによる鬱自殺(ユーノや他のスタッフの関与が疑われたが、
最終的には無実が証明されたが)などで2人しか残らなかった事実を思い返しながら言い返すユーノの口調は苦かった。
「ああ、評議会推薦スタッフの件ですか。ありゃ最高評議会の三無脳が文字通り無能だったことの証明ですな。いまじ ゃ文字通り
”脳なし”ですがね」
 後始末させられたものの身にもなってほしいもんですよと愚痴をこぼすマテウスの口調は皮肉げだった。
「今回のスタッフは、私の推薦ですよ。実力は折り紙付き、なにせ遺跡泥棒のプロフェッショナルで探索魔法にかけては、無限書庫
のスタッフも裸足で逃げ出す連中ですから」
「遺跡泥棒!?」
 いやな汗がユーノの背を伝って落ちる。
「ええ、聖王陵内の墳墓にあるロストロギア発掘を請け負った連中で、その道のプロですからね。捕獲するまで
ずいぶん手間が掛かりましたが、全員、無傷で収監していますよ」
 二本目の葉巻を取り出して火をつけながらマテウスは続けた。
「まだ本局には未通告でしてね。連中もあなたの元なら、喜んで働きたいと言ってるんです。いかがですか?まあ必要ないなら
本局に引き渡しますが、死刑は免れないでしょうねなにせ第一級ロストロギアに手を出したんですからね」
「・・・で、どんな人たちなんですか?こんな過酷な場所で働こうって奇特な人たちは」 
 平静を装うユーノだったが語尾がかすかにかすれていた。

426:7の1
08/11/16 00:00:14 gbKB4Z19
「ご自分で面接されたらどうですかな。連中のプロフィールは、こちらのディスクに入ってます。面接日時が決まったら、ご連絡ください」
「今すぐできますか?こういうのは早いほうが良いでしょう。情報リークの件もありますし・・・」
「スカリエッティのNo2の件ですね。確かドゥーエっていう機械人形でしたっけ?」
「戦闘機人です!彼女たちは人間だ」
 海上施設での社会復帰プログラムの一環としてミッドチルダ史の講義を行ったユーノは戦闘機人と恐れられる彼女たちが、無知にして
無垢の人間であることを知っている数少ない一人だった。それだけにマテウスの皮肉な口調に我慢がならなかったのだ。
激した口調で反駁するユーノをまじまじと見返しすと
「それは失礼。なにせ戦闘機械みたいな連中しか知らないもんでしてね」
 と言い訳したマテウスは、では4時間後に如何ですかと提案した。
「結構です。午後の予定はキャンセルします。場所は、どこです?」
「本局の第7ドックに入港している時空航行艦デートリッヒに収容してます。デートリッヒが積んできた口碑を見学したいとユーノ博士が
申請してくだされば、堂々と彼らに会えますよ。なにせ口碑を発掘した連中ですから」
 じゃあ、これでと手を挙げたマテウスは、ユーノに背を向けると危なっかしい足取りで梁の上を歩きながら闇の中に消えていった。


第一章終了です。 続きは明日上げます。

427:554
08/11/16 00:02:25 gr9Ly5eY
おうっ、先を越された!

一応ルールに則って1:00に延期しますです。

428:名無しさん@ピンキー
08/11/16 00:05:48 lmxyqzfr
GJGJ
待ってまっせwユーノが主役のSSは久しぶりな気がする

429:名無しさん@ピンキー
08/11/16 00:46:31 B2RP8Yi6
>>426
Gj
でもsageた方がいい

430:Clinic F 'through the night' Ⅲ
08/11/16 00:59:59 K9WM35jb
1時ぽーーー(ry
こんばんは。 なんつーか、遅くなって申し訳ないorz

さて、残り3話ですよクリニックF。
んで今回の話がプロットを立てたときに一番書きたかったお話です。 どうも私は相当のドSであるようでして。
なんか、スカさんとウーノさんが書いていて悲しいです。 自分で書いているのですが本当に幸せなれるのかと不安になります。
そんなこんなで注意書き行きます。

・カップリングはジェイル(あえてこう表記)×ウーノ
・スカの性格がかなり変化してます。それについては保管庫にある話を参照して下さい。
・なのはキャラはスカとウーノ以外はフェイトくらいしか出ません。よってほぼオリジナルストーリー。
・現在までの話はほのぼのでしたが、今回から作風が百八十度変わります。
・イメージBGMは水樹奈々さんの”through the night”です。 知らなくても楽しめますが、知っているとより楽しめます。
・NGワードは「Clinic F 'through the night' Ⅲ」です。

それでは原案の73-381氏に多大なGJを送りつつ、投下したいと思います。


431:Clinic F 'through the night' Ⅲ
08/11/16 01:00:49 K9WM35jb
 今では何も出来ないのは 動けない冷たい氷の中

 どうにか一人温める人 後ろ姿は悲しい


 何か企んでいるのかと思案しながら歩いていたフェイトだったが、ジェイルに教えられた通り丘を降りてすぐの所に温泉旅館らしき暖簾を見つける。
 周りの建物とは少し違う、木造ではあるがその立派な作りにフェイトはしばし圧倒される。佇まいというか、その歴史の重みというものを肌でひしひしと感じることが出来る。
 例えるならば、見るからに樹齢数百年と思えるような大木に宿っているその雰囲気に似ている。そうだ、力のある者は背中で語るという言葉を前にテレビで聞いたことがある。
 と、遠くで誰かが叫んでいるような声がフェイトの耳を微かに揺らした。その声は徐々にフェイトの方へと近づいてくる。

――さーい!! 待ってくださーい!!」

 自身が降りてきた丘の方を振り返ると、先程まで一緒にいた青年と女性が一目散にこちらへ駆けてくるのが見えた。
 はあ、はあ、と荒い息をしながら、しかしその目には決意という名の光が宿っているように、まだ執務官としては新米である彼女の眼にはそう写った。

「―ぁ、はあ……。えと……」
「フェイトです。フェイト・ハラオウン」
「フ、フェイトさんは、一体何をしにこの町へ? ジェイル先生とはどんな関係で?」

 もっともな疑問だった。低崎の売店のおばちゃんには旅行と称していたが、フェイトとジェイル・スカリエッティの会話を聞いてしまった今となっては旅行という言い訳が通用するとは思えない。
ましてや、外見は完全に外人のフェイトである。いくら日本語が上手いとは言えど、失礼ではあるがこんな辺鄙な街に外国人の旅行客などそうは訪ねて来まい。
 そして、フェイトは彼らをこの町でジェイル・スカリエッティに最も近しい人物達であると先程の会話から判断した。そうならば、ジェイル・スカリエッティの人となりを多少なりとも知っているはずである。例え優しい人間へ心変わりしたのだとしても。
 嘘を付いてもおそらく感づかれる。フェイトの執務官としての本能がそう告げていた。


432:Clinic F 'through the night' Ⅲ
08/11/16 01:01:47 K9WM35jb
「私は警察みたいな仕事をしていまして、その仕事の課程でちょっとジェイル博士に聞かなければならないことがあって、それで来たんです」
「……ジェイル先生を、連行するつもりですか」

 青年が少しくぐもった後に、唸るような低い声を発する。妙に勘の鋭い人たちだな。フェイトは本心からそう思った。
 これだけの情報から自分がジェイル・スカリエッティを捕縛するつもりであることを、よくも感じ取れたものだ。
 フェイトはより一層、洞を吹いても立場を悪くするだけだと、もう一度気を引き締める。

「なんでですか! ジェイル先生、あんないい人なのに」

 女性が声を張り上げる。まばらではあるが、歩いていた通行人が何の騒ぎかと三人の方を振り返る。
 彼と彼女がこうも必死にジェイル・スカリエッティを擁護する理由。それはおそらく、今まで彼は優しい人間を演じ続けていたか、あるいは何かしらの皮を被っていたのだろう。
一方的ではあるが、追い始めてからもうすぐ十年になるかという付き合いだ。そう簡単に性格まで変化するとは思えない。
 しかし、だからといって彼らの主張を足蹴にすることは、フェイトには出来なかった。かつて、自分を母親の呪縛から助けてくれたときの彼女の笑顔が、ふと頭をよぎった。
 私が変われたように、彼らだって変われているかも知れないのだ。
 自分は犯罪者をコケにして興奮を憶えるような特殊な性癖など持ち合わせていない。むしろ、この世から犯罪者など無くなればいいと思っている。自分の食が無くなろうが、構うものか。世界が平和であるならば、その方がよっぽど良い。
 だから、フェイトは彼らの更正をほんのちょっとでも期待し、そしてこのままそっとしてあげたいと思ってしまうのだった。それは執務官にとってあるまじき感情であり、管理局に楯突いていることにもなる。
 だが、フェイトはそんな希望的観測を捨てきれないのだ。彼女がかつてそうであったように、ジェイル・スカリエッティにも今という時間を夢を持って生きようとしていることに。
 それでも、彼女は時空管理局の執務官である。常に法の下に平等で無ければならない立場だ。それを、目の前に立ちふさがる彼らに理解して貰わねばならなかった。

「……彼が、ジェイル博士が何をしてきたのか。それをお聞きになれば理解してもらえるでしょう」

433:Clinic F 'through the night' Ⅲ
08/11/16 01:02:42 K9WM35jb
 それはある意味で禁忌だった。管理外世界で魔法が絡む様々なことを伝導するのだ。一歩間違えば大事になるのは避けられない。
 それでも、フェイトはそうすることで彼らを納得させようとした。フェイトは科白を言い終わった後、義兄に似て堅物になってしまったと自嘲的な溜息を吐いた。
 フェイトが話す内容。それはフェイトの捜査ファイルをそのまま朗読しているようなものだった。無論、魔法関連の事象は暈かしているが、それでも自分が掴んでいる事実ほぼ全てをその話の中に盛り込んでいた。彼らを絶望という形で納得させるには、これしかないのだ。
 ゼスト隊のこと――実験体にされた二人の同志、そしてその子供の悲しき戦いの記録。
 戦闘機人のこと――戦うためだけに生み出された儚き戦乙女たちの惨状。
 聖王のこと――戦力としてなら幼い子供さえも戦いに利用し、苦しめていく。
 彼も、ジェイル・スカリエッティも被害者であるのだ。管理局上層部の思惑によって、結果的にこんな状況まで追い込まれてしまった。しかし、だからといって彼を許すわけにはいかない。
 親友を、部下を、ミッドチルダの全市民を、ここまで苦しめた彼を野放しにしておくわけにはいかない。これは管理局の思いでもあり、彼女の思いでもあった。
 しかしそう思おうとしても、フェイトには彼が他人には思えなかった。自分と同じような境遇を背負い、あるいは発狂してしまったのではないだろうか。もしも、あの時手を差し伸べてくれた人が居なかったら、自分も同じか、あるいは惨めな末路が待っていたことだろう。

――。彼は、人の命など微塵にも思っていない人間なんです」

 フェイトは長い話を終えた。その間、ずっと聞き続けていた青年と女性であったが、フェイトの予想とは裏腹に先程まで持っていた光を未だ失っていない。
 やがて、青年が重い口を開くかのように顔をフェイトの方へ真っ直ぐ向け、ゆっくりと口を開く。

「……だから、どうしたって言うんですか」
「……え?」
「ジェイル先生はジェイル先生です。医療用の機会を作ったり、専門外の牛を助けたり、子供の面倒を見たり、遭難した女の子を助けたり、子供と一緒に親の所へ謝りに行ったり、風邪を引いた母親の変わりに運動会に行ったり、熱中症で倒れた子供を無償で助けたり」


434:Clinic F 'through the night' Ⅲ
08/11/16 01:03:29 K9WM35jb
 青年の紡ぐ言葉に女性が拳を握りしめてうんうんと頷く。

「今日だってそうです。あのケガ、難しいものだったんでしょう? なのにジェイル先生は惜しげもなく最先端の医療を使って治してしまった。そんな人が犯罪者だなんて、人の心を微塵にも思っていないだって? そんな言葉、俺には信じられません」
「私も、今までジェイル先生をずっと見てきました。私は、ずっと助けられてばかりで、それに、すごく頼りになって。私がここで先生を否定してしまったら、私が今まで糧にしてきたことは無駄だったなんて、そんなのあり得ません。だから、私は信じられません」

 フェイトは呆気にとられていた。しかし、表面上は何事もないように取り繕う。動揺した方が負けなのだ、このような駆け引きは。
 しかし、誰が何と言おうとフェイトはあくまで時空管理局の執務官である。情で罪人を許すほど、彼女の就いている職は甘くない。

「……言いたいことはそれだけですか」
「ッ……!」
「何と言われようと、私は私の仕事を果たさねばなりません。ああ、そうそう。明日の夕方は絶対に診療所には近づかないでください。もし来られた場合は武力行使も持さないことを覚えておいて下さい。それでは」

 フェイトはくるりと踵を返して旅館の暖簾をくぐっていく。
 その場には、ただ呆然とした表情で彼女の背中を見つめていた青年と女性がポツリと残されていた。
 既に夕陽は山裾に沈み、満月が夜の到来を知らせていた。




435:Clinic F 'through the night' Ⅲ
08/11/16 01:04:25 K9WM35jb
     □     □     □     □     □



「私は秘書として、そして部下として優秀であったから君を連れてきたんだ。私は君を、愛してなどいない」

 血の滲み出た手をそのままに、ジェイルはウーノを真っ直ぐ見て言った。
 ウーノは唯一の支えであった支柱を失ったのだ。それなのに、そのはずなのに、彼女は依然としてその光を失わず、それどころか微笑みさえ浮かべている。
 その笑みは全ての者に安らぎを与えるかのような、まるで聖母のような笑みであった。

「嘘、ですよね?」
「そんなわけがないだろう。第一――
「耳」
「何だって?」

 唐突にそう呟いたウーノに言っていることがよく分からずジェイルが聞き返す。

「貴方が嘘を付くときはいつも耳が動きます」
「なっ……!」

 不意を突かれたのか、普段の彼からは想像も付かないほど驚愕に染められた顔がウーノの瞳に映る。ジェイルの手は、彼の耳に添えられている。
 そしてそれを見届けたウーノは満足そうに微笑むと、ウーノは態とらしく舌をちょこんと出してみせた。


436:Clinic F 'through the night' Ⅲ
08/11/16 01:05:35 K9WM35jb
「嘘です」
「…………」

 ウーノは相変わらず微笑のままだ。
 しかし、その瞳は悲しみの炎が宿り、彼女の影の部分をいっそう濃くしているようだった。

「貴方は言いましたよね? 優しい嘘は付くけれど、悲しい嘘は付かないと」
「……ああ、言った」
「貴方にとって、これは優しい嘘なのですか?」

 目頭に雫を浮かべながら自分を問いただすウーノに折れ、ばれてしまっては仕方がない、と嘲笑を浮かべてウーノの問いに答えようと、重い口をゆっくりと開く。

「……君には私のことなど気にせずに、檻の外で生きていて欲しい。だから嘘を付いた。本音を言うならば、今もその気持ちは変わらない」

 はあ、と一瞬の溜息。



「君を愛している。それこそ、どうしようもないほどに」




437:Clinic F 'through the night' Ⅲ
08/11/16 01:08:26 K9WM35jb
「ふふふ……」
「何がおかしいんだい?」
「いいえ、何でも。ただ、嬉しいだけです」

 二人でお互いの目を見つめ合い、どちらが切欠だったかも分からずに唇を重ね合う。
 以前のように、異常なまでに顔を赤くしたり、妙に冷静であったり、そんなことは一切ない。ただ、目の前に存在する相手を、ただ見つめ続け、そして深く深く口づけを交わし続ける。
 綺麗に整えられていたはずのシーツは既に皺で所々が段々を形作り、ベッドの上では男と女が互いの唇を貪り合う。
 紳士とおしとやかという表現がよく似合う二人であったが、彼らはそんな体裁じみたことなど気にはしなかった。
 お互いを愛し合い、お互いを感じ合う。それこそ、獣のごとく。
 彼らに残された時間は後僅かしかないのだ。それを、誰が止める権利があるのか。いや、誰が何と言おうと彼らは止まらないだろう。彼らに、自らの瞳に映し出された人間以外のもの全て映ることはないのだから。

「……ドクター」
「ああ、分かった」

 女が悩ましげな声で男の名を呼ぶと、それに応えるかのように彼女の豊かな乳房を揉みしだき始める。
 ジェイルは先程のキスと今の声で既に達してしまいそうだった。彼女の感じ方は彼女のことを知り尽くしたジェイルであっても予想し得ないものであった。
 そして、そんなジェイルの手は既に汗で湿っており、温度は人の温もりを感じさせるような温かさだ。その温もりがウーノの胸を心地よく刺激し、それが心地よさとなってウーノの感覚全てを蝕んでいく。
証拠に、細く開いた口の隙間から絶え間ない嬌声が小さく漏れだしていた。

「っあ……ぁっ……」
「根を上げるにはまだ早いぞ、ウーノ」


438:Clinic F 'through the night' Ⅲ
08/11/16 01:09:14 K9WM35jb
 ジェイルは自らの舌をウーノの胸に這わせ、更にはさくらんぼを啄むように彼女の乳頭を口に含んで舌で転がす。
 ウーノの体もジェイルと同じく汗で湿り、ジェイルの攻めと同じタイミングで体を上下左右に捻り出す。頬は先刻にも増して朱に染まり、瞳はまるで子猫のように蕩けた表情へと変わっている。
 やがて乳房を口に含みながら、ジェイルは手をウーノの股座へと伸ばし、少しの力でちょこんと触れてみる。

「ふぅあっ……!」
「何だ、胸を弄っただけで準備万端じゃないか」
「い、言わな、っああっ! ……いで……っあっ」

 彼女の秘部は少し触れただけで雷で打たれたように体の感覚全てが快感によって押しつぶされ、意識が快楽によって強制的に淫らな方へと変えられていく。
 そんな彼女のうねうねと蠢くそこへジェイルが指を差し入れると、それを待ち望んでいたかのように彼の指を吸い尽くそうと潤滑油がしみ出し、膣内部での呼応によって次第に奥へと導いていく。
 それに応えてジェイルが中指を上下し始めと、それだけでウーノは腰を反らせて大きく喘ぐ。それはジェイルの知っている彼女の姿ではなかった
 何と淫らで、なんと扇情的なのであろうか。ジェイルの目の前で展開される愛欲の宴はそれだけで一種の芸出と言っても言い過ぎではなかった。

「いくぅぅぅぅっっ!! イっちゃいますうぅぅぅっっぅぅぅ!!」

 ジェイルの中指が次第にスピードを上げ、ウーノの中から溢れだしてくる愛液も次第に量を増してくる。
 それは、彼女が徐々に絶頂へと向かっている事への確かな証であった。証拠に、上ずっている声は徐々に途切れ途切れになり、口からはヒューヒューという空気の漏れる音だけが目立っていた。
 それから数秒の後にウーノの腰がくの字に曲がり、惚けた顔で絶頂を迎えたのも多少早かったにしろその前の乱れ方からして別段おかしいことではなかった。


439:Clinic F 'through the night' Ⅲ
08/11/16 01:09:53 K9WM35jb
「ひ、ひゃぃぃ……」
「……少しやりすぎたか」

 絶頂によって湿り、そして火照っている彼女の秘部にジェイルは自らの男根を宛う。それだけで絶頂を迎えて間もないウーノの躰を揺さぶるのには充分すぎる攻撃だった。
 しかし、ウーノの躰へは一向にそれ以上の波紋は訪れない。ジェイルの動きそのものが止まってしまっているのだ。

「……ど、ドクター、い、いれてください……」
「いいのか?」

 何故か執拗に同意を求めてくるジェイル。その瞳には迷いが浮かんでいた。
 それを見抜いたウーノが言う。

「どうしたんですか? いつもならこのまま…………なのに」
「いや、これが最後になるだろうから、キミに優しくしようと思ってだな……」

 最後。その言葉がウーノの脳裏で弾けた。

「……ドクターは私のことを愛していますか?」
「む、無論だ」
「でしたら簡単です」

 ウーノが見せた聖母のような笑み、そしてジェイルにとっての懐かしい笑み。思わず彼は息を呑んだ。

「私は愛された証が欲しい。貴方の、貴方だけのモノだという証が。それこそ、狂うくらいに」


440:Clinic F 'through the night' Ⅲ
08/11/16 01:12:34 K9WM35jb
 ジェイルは呆気にとられた表情から真剣な眼差しに変え、頷く。いつのまにかウーノは彼に押し倒されていた。

「本当に良いのか? 私は止まらないぞ」
「いいんです。最後なんですから」

 覚悟を決めたかのように目を閉じたが、彼女の顔が苦悶の表情に彩られることはない。
 彼とこうして触れあえるのも、これが最後なのだ。そう思うと、彼と過ごした今までの時間の証拠が欲しかった。無かったことにされないような、より強い何かが。
 それが、躰が傷つくことだって良い。機能停止に結びつくことだったとしても良い。とにかく、彼女は彼との時間を否定されることそのものを嫌ったのである。
 やがてその言葉に応えるように、襞を捉えてそのままになっていたジェイルの男根がゆっくりとウーノの膣へと侵入していく。

「っぅ……ふぅ、ん……」
「……いくぞ」

 その言葉の最中もジェイルのモノは進むことを止めず、そして上気し荒く甘い息を吐くウーノの口から「っつぅぅぅっ……!」という一際大きな声が吐かれた。ジェイルの挿入は止まっている。即ち、ウーノの最奥までジェイルの男根が貫いたことになる。
 ウーノはコンコンとドアを叩くようにノックするその存在を己の一番奥で直接感じていたが、止まらないと言った彼の一挙一動は未だにぎこちないままだ。
 ならば、と押し倒されていた体を無理矢理に起こし、その勢いで押し倒していたジェイル自身をも押し倒して、ウーノが彼の上に完全に馬乗りになった。
 その一挙一動にジェイルはただ唖然とすることしか出来ず、押し倒されている状況を把握するのが精一杯であった。

「ウーノ、これは……」
「貴方が積極的になってくださらないから。私はもっと、激しくして欲しいんです」

 そう言うと、ウーノはジェイルの腰に手を置いて、ジェイルの男根を支柱にして自らの体を上下させ始めた。
 その度にじゅぶじゅぶと卑猥な音が彼らの股間から奏でられ、お互いの顔を深紅に染め上げていく。

「っつぅ……ウーノ……!」
「はあっ……! ドクターぁぁぁっっ!!」


441:Clinic F 'through the night' Ⅲ
08/11/16 01:13:46 K9WM35jb
 ウーノが上下する速度は彼らの体の熱さに比例して速くなり、空いていたウーノの胸にはジェイルの手が添えられて形の良い乳房がジェイルの思うがままに変えられている。
 抜けるたび、挿さるたび、だらしなく涎を垂らすウーノの口からは躊躇のない喘ぎ声が大きく漏れだし、自分を襲う快感に顔をしかめるジェイルの口からも荒い息が絶え間なく吐き出される。
 お互いの情欲がお互いを直接染め上げていく。まるで、誰とも知れない誰かにこれは自分のモノだと分からせているかのように。

「っふぅ……! ウーノ……!!」
「っぁああああ……!! ドクタぁぁああっっ!!」

 野獣のごとく交じり合う二人には、もはや誰の声も、どんな音も、耳にはいることはないだろう。
 彼らを縛り付けているのはもうこれで最後だという覚悟。そして、思い出。
 一緒にご飯を食べることも、一緒に研究するのも、一緒に野菜を採るのも、一緒に作戦を練るのも、一緒にこんなことをするのも――一緒に笑い合うことさえも。
 彼らに残された時間は僅かだった。お互いが愛し合い、それを確かめ合う。残された時間で彼らが本能的に選んだ道はそれだった。ただ、お互いを感じ合う。お互いを愛し合う。これからの自分たちの、生きていく糧とするために。
 ウーノが腰を振り続ける中、体を起こしたジェイルはウーノを優しく抱きしめる。それこそ壊れ物を扱うかのようにゆっくりと。
 ジェイルが体を起こすとウーノの体は自然と彼の体へ寄りかかることになる。彼女もまた、なんの戸惑いもなく彼に抱かれ、そして自らの腕も彼の背中へと導いていく。
 まだ、股間から発せられる卑猥な音は止まらない。しかし、暗い寝室の中にうっすらと映し出される影は興奮を指すようなものではなく、一種の芸術であると言った方が正しいほどの美しさであった。
 人間は生まれたままが一番美しいというのは美術家の話であるが、彼らがまさしくそれだった。彼らは、本当の意味で人間だったのだ。
 作られた存在であっても、望まれて生まれてきたわけではなくとも、今彼らは人間だった。その辺にいる人間よりも、よっぽど人間らしかった。

「っあっ! ふぁあっ! うぅあっ!」
「ウーノ……! ウーノ……っ!!」


442:Clinic F 'through the night' Ⅲ
08/11/16 01:14:54 K9WM35jb
 これは自分のモノだと言わんばかりに、ジェイルは白く美しいウーノの首筋に吸い付いて赤い痕を付けていく。
 それを挿入と同時のタイミングでやってくるのだから、ウーノは常に絶頂と隣り合わせの所に置かれることになってしまった。
 彼のモノだという証を付けられるというこの行為をいつもなら気持ちいいと感じるだけだが、今日は何故だか嬉しく思う自分が居ることに今更ながら気づくウーノ。
 自分は彼のモノ。それがこれからずっと変わらない。そう思うと涙まで出てきた。
 ああ、これはこれから離別することになる運命を呪った涙だろうか。こうして彼と繋がっていられることでの安心感からだろうか。それとも、彼のモノだと直接教え込まれた躰が歓喜のあまり流した涙なのだろうか。
 答えは分からない。だが、ウーノは寂しさよりも、嬉しさを感じていた。彼と一つになれたこと。ただ、それだけを。

「……っ!……ウーノ、そろそろ限界だ……!」
「わたしもぉぉっ!! いっちゃいまっぁあああっっ……!! い、いきますすぅぅっっ!!」

 白濁とした液体が自分の中に注ぎ込まれるのを感じながら、ウーノの意識は白く飛んだ。
 その顔は倦怠感がもたらす疲労した顔ではなく、ただ満足そうな笑みが印象的な顔であった。




443:Clinic F 'through the night' Ⅲ
08/11/16 01:16:01 K9WM35jb
↑はミス。 すまんorz

444:Clinic F 'through the night' Ⅲ
08/11/16 01:17:14 K9WM35jb
 これは自分のモノだと言わんばかりに、ジェイルは白く美しいウーノの首筋に吸い付いて赤い痕を付けていく。
 それを挿入と同時のタイミングでやってくるのだから、ウーノは常に絶頂と隣り合わせの所に置かれることになってしまった。
 彼のモノだという証を付けられるというこの行為をいつもなら気持ちいいと感じるだけだが、今日は何故だか嬉しく思う自分が居ることに今更ながら気づくウーノ。
 自分は彼のモノ。それがこれからずっと変わらない。そう思うと涙まで出てきた。
 ああ、これはこれから離別することになる運命を呪った涙だろうか。こうして彼と繋がっていられることでの安心感からだろうか。それとも、彼のモノだと直接教え込まれた躰が歓喜のあまり流した涙なのだろうか。
 答えは分からない。だが、ウーノは寂しさよりも、嬉しさを感じていた。彼と一つになれたこと。ただ、それだけを。

「……っ!……ウーノ、そろそろ限界だ……!」
「わたしもぉぉっ!! いっちゃいまっぁあああっっ……!! い、いきますすぅぅっっ!!」

 白濁とした液体が自分の中に注ぎ込まれるのを感じながら、ウーノの意識は白く飛んだ。
 その顔は倦怠感がもたらす疲労した顔ではなく、ただ満足そうな笑みが印象的な顔であった。



     □     □     □     □     □



 ウーノがやんわりと瞼を開けると、そこにはあの頃のドス黒い笑みを浮かべていた人物とは思えないほどに優しく微笑むジェイルの顔があった。
 躰を見ると彼に付けられたのであろう、虫さされのような赤い痕がある。それを見て満足そうに微笑むウーノの笑顔とても優しいものであった。
 優しく微笑み合う男と女はまさしく夫婦だった。
 ふと、ウーノが呟くように口を開ける。


445:Clinic F 'through the night' Ⅲ
08/11/16 01:18:04 K9WM35jb
「また、こんな日が来ますよ。いえ、絶対来ます」
「……理由は?」
「『夜明けのない世界なんて無いから』 誰かがそんなことを言っていました」
「フッ……フハハハハハハ!! そうだ、それでこそ我が助手、そして我が妻!」
「ありがとうございます」

 あの時のような人を小馬鹿にしたような笑みではなく、純粋な、ただ自分の娘を褒めるかのようで。
 あの時のようなただ機械的な笑みではなく、純粋な、ただ飼い主に頭を撫でられた子犬のようで。
 正式な書類を出したわけでもない。結婚式を挙げたわけでもない。そうではなく真の意味で、彼と彼女は夫婦だった。お互いを尊重し、お互いを想い合う。形ではなく、二人で一人というその存在が、雰囲気が。
 それも明日の夕刻には終わりを告げようとしている。全ては明日の夕暮れまで。そう思うと悲しかった。

「ありがと……ござ、い……っ」
「……泣くな、ウーノ」
「すみませ……う、うわぁぁぁぁぁん!!」

 決して広くはない診療所の中で、ジェイルの胸に抱かれたウーノの泣き声だけが木霊している。とても悲しい泣き声が診療所を包み込む。
 哀愁と悲壮しか感じさせないその泣き声はジェイルの心をも悲しくさせ、ウーノの胸に一粒の水滴が落とさせた。
 そしてその声は診療所を飛び越え、丘の下へも届いていた。




446:Clinic F 'through the night' Ⅲ
08/11/16 01:19:12 K9WM35jb
     □     □     □     □     □



「泣き声……」

 フェイトは宿の自慢だという露天風呂に月光に照らされながら浸かっていた。その姿は月より舞い降りた天女のごとく、しなやかな体のラインに豊満な胸、それに長い髪の毛がより一層彼女の神秘さを引き立てている。
 本来ならば心休まるはずであるこの時も、嫌でも耳に入ってくるこの声を聞きながらでは落ち着くものも落ち着かない。

「どうしたらいいのかなぁ……」

 フェイトは迷っていた。あれだけ彼らの無実を訴えられて動じない執務官がいるとしたら教えて欲しいくらいだ。
 平静では装っているものの、本来冷静沈着とは対極にいる人間である。悪く言えば仕事が出来ない。良く言えば人情捜査官。彼女は他人を詮索するという仕事にはあまり向かない性格をしていた。
 自分はどうしたらいい。先程から頭の中のクロノに話しかけてみるも、反応は無し。どうにもならなかった。
 しかし、彼女は執務官だ。最後には自分で判断せねばならない。ふと、教えを請うかのように闇に美しく光る月を眺める。

「……よしっ」

 何かを決意したかのように目線を鋭くさせると、勢いよく湯船から上がる。
 女神のごとく肢体が月夜の中に浮かび上がる。周りには湯気が立ちこめ、その湯気も相まって彼女を人外なものと勘違いさせるほどの美しさを印象づける。
 彼女の眼にもう、迷いはなかった。



 
 その夜は泣き声とも喘ぎ声とも取れないよく分からない声が、しかし聞いた者の涙を自然と誘うような、そんな声が町のいたる所から聞こえたことが報告されている。


447:Clinic F 'through the night' Ⅲ
08/11/16 01:21:20 K9WM35jb




 ひらひらと舞い上がる 想いを受け止めて

 約束してよ.....


 あの日の場所に連れ戻して 広くても触れあう二人の世界

 もちろん一つ この夢だけ掻き乱さないでいて

 今では何も出来ないのは 動けない冷たい氷の中

 どうにか一人温める人 後ろ姿は悲しい


                                                     to be continued.....




448:554
08/11/16 01:23:46 K9WM35jb
さて、これで残り2話と相成りました。
もう何も言わないよ。 二人のファンの方、申し訳ない。謹んでお詫びします。
だけどハッピーエンドにはするよっ。これから何とか頑張るよっ!
まだまだ先が見えませんが、頑張ろうと思います。

それでは原案の73-381氏に多大なGJを送りつつ、投下を終わります。


449:名無しさん@ピンキー
08/11/16 01:25:50 581y6pHK
>>448
GJ!!
寝る前に見て良かったんだぜ
あと2話頑張ってください!

450:B・A
08/11/16 02:12:31 Rdbz/Po+
>>448
GJ。
ウーノが可愛すぎる。
もう切なくて2人の幸せを祈らずにはいられない。
残る2話でどう決着させるのか気になります。



さて、5分後くらいから投下いきます。

451:B・A
08/11/16 02:24:22 Rdbz/Po+
推敲完了、ではいきます。


注意事項
・非エロでバトルです
・時間軸はJS事件から3年後
・JS事件でもしもスカ側が勝利していたら
・捏造満載
・一部のキャラクターは死亡しています
・一部のキャラクターはスカ側に寝返っています
・色んなキャラが悲惨な目にあっています、鬱要素あり
・物騒な単語(「殺す」とか「復讐」とか)いっぱい出てきます
・SSXネタもあります、未聴の人は気をつけて
・主人公その1:エリオ
     その2:スバル
・タイトルは「UNDERDOGS」  訳:負け犬

452:UNDERDOGS 第五話①
08/11/16 02:25:48 Rdbz/Po+
自身に注がれる複数の視線に耐えられず、スバルは顔を俯かせる。
苦労しながらも追っ手の目を搔い潜り、野良犬に扮していたザフィーラを見つけたスバル達は、
カルタスの治療のために彼らが拠点としているクラウディアへと招かれた。
懐かしい面々と再会したのに、あまり喜ばしい気持ちにはなれなかった。迷惑をかけまいと自分から出て行ったのだ、
気まずくて当然である。

「たった1人で局の関連施設への破壊工作。よくも生き残れたものだ」

この3年間の足取りを手短に説明されたクロノは、呆れたように顔をしかめる。
ロクな支援も得られないまま、現地調達の部品でメンテナンスを繰り返しつつ重要施設に潜入、情報を集めた後に破壊する。
言葉にするのは簡単だが、凄腕の武装局員でも難しいことだ。人よりも無茶の利く機械の体に高い生存能力、
そして彼女のISがあったからこそ今日まで生き残ってこれたのだ。最も、そのおかげでスバルの体は目に見えてボロボロになっていたが。

「あの、カルタスさんのことですが・・・・・・・」

「ああ、それに関しては少々問題があってね」

「問題ですか?」

「簡単なメンテナンスくらいならこちらでもできるわ。協力者のおかげで、私達も戦闘機人の取り扱い方がわかってきたから」

シャマルの言葉が終るか終らないかの内に、会議室の扉が開いて茶髪の少女が姿を現す。
見覚えのあるその姿に、スバルはイクスを庇うように彼女から距離を取る。

「お前、ナンバーズの・・・・・」

「スバル、彼女は味方よ」

「初めまして、ゼロ・セカンド。直に話をするのは初めてですね」

恭しく一礼した彼女の名はディード。かつてはスカリエッティの手先として機動六課の前に立ち塞がり、
最終決戦においてティアナと対峙した戦闘機人だ。

「何で、お前が・・・・・・・」

「彼女もメンバーの1人だ。3年前に機動六課が保護したナンバーズは、治療中の1人を含めて3人ともクラウディアに乗船している」

「お見知りおきを、ゼロ・セカンド。それとも、スバル姉様とお呼びした方がよろしいですか?」

問いかけるディードに、スバルは無言で返答する。大切な家族をスカリエッティによって奪われたスバルに、
その配下であった者に良い感情は抱けという方が難しい。だが、少なくともクロノ達は彼女を信頼しているようだ。
スバル・ナカジマという異物が現れたことによる張り詰めた空気が、彼女の登場でほんの少しだけ和らいだ気がする。


453:UNDERDOGS 第五話②
08/11/16 02:26:42 Rdbz/Po+
「ディード、検査の結果を」

「はい。結論から述べますと、修復は不可能です。幾つかのパーツはストックがありますし、私やオットーでも修理可能ですが、
基礎フレームの修復まではできません。人工臓器も幾つか取り換えねばなりませんし、ちゃんとした知識のある人間でなければ施術は困難でしょう」

「やはりか。なら、多少の危険を覚悟してでも奪ってくるしかないか」

何やら考え込むようにクロノは瞼を閉じ、数秒置いてからスバルに向き直る。

「彼の治療は全面的にこちらで引き受けよう。ただし、今後は君が我々に協力してくれることが条件だ」

「良いんですか、わたしみたいなのがいても」

「ナカジマ二等陸士、私達は何も戦闘機人を排斥したいわけじゃない。あくまで敵はスカリエッティ、そして公然と人道に反している管理局だ。
現にディードのように戦闘機人がメンバーに加わっているし、実弾デバイスを使用している者もいる。それに敵は強大だ。
情けない話だが、今のままでは勝ち目は薄い。だから君のように優秀な者の力が必要だ」

「戦闘機人の力をですか?」

「スバル!」

あまりにも辛辣な言葉に、今まで黙っていたティアナが声を荒げて立ち上がる。
だが、彼女がスバルに掴みかかるよりも早く、彼女の傍らにいた少女の平手がスバルの頬に飛んでいた。

「・・・!?」

「すみません。ですが、そのような言葉はあなたらしくありません」

鋭い目つきでスバルを睨んでいるのはイクスだ。さっきまで怯える様に縮こまっていたのに、今はその面影は微塵も感じられない。
ただの傍観者でしかなかった彼女が、一転してこの場を支配する主役へと変化していた。

「スバル、この方々はあなたの仲間なのでしょう。ならば、卑屈になるのは止めてください」

「けど・・・・・・・」

反論しようとするスバルの額に、イクスは容赦なく自分の指を叩きつける。俗にいうでこピンという奴だ。

「・・・!?」

「おバカな子にはでこピンです」

「・・・・そう、でしたね」

「もう少し信じてあげては如何ですか? 少なくとも、スカリエッティを憎む気持ちはみんな同じなのでしょう」

「すみません。けど・・・・・・いえ、そうですね、こんなのはわたしらしくないや」

頭を振り、スバルはクロノに向き直る。彼女の脳裏に蘇ったのは、前にカルタスが言ってくれた言葉だ。

『汚れた手でも、抱きしめることはできる』

復讐が目的だからといって、孤独でいる必要はないのだ。
自分の戦いは正義のためではない。そんな風に決めつけて、安っぽい正義感に押し潰されるのを避けていただけだ。
けど、どんなに誤魔化しても自分の本心は曲げられない。スカリエッティは許せないし、できることなら人殺しはしたくない。
それは偽善かもしれないし、自分の甘さなのかもしれない。けれど、どっちか捨てることなんてできないのだ。
どっちも自分の中から生まれた気持ちに違いはない。なら、とことん貫いてみるのも良いかもしれない。


454:UNDERDOGS 第五話③
08/11/16 02:27:35 Rdbz/Po+
「正直に言います。わたしはスカリエッティが許せない。もしもチャンスがあるのなら、この手であいつを殺したい。
それでも・・・・・・・構いませんか?」

「良いだろう。歓迎しよう、スバル・ナカジマ二等陸士。ようこそ、我らが家、クラウディアへ」

クロノは立ち上がり、握手を求めて右手を差し出す。だが、スバルはその手を掴もうとして一歩踏み出した瞬間、
バランスを崩して前のめりに倒れ込んだ。咄嗟にティアナが駆け寄って支えなければ、テーブルに頭をぶつけていたかもしれない。

「スバル!?」

「大丈夫・・・・・・少し、よろめいただけだから・・・・・・」

「今日までの疲労が一気に出たんです。本当は、あなただって診てもらわないといけないのに」

「提督、スバルを医務室まで連れて行きます」

「ああ、頼むよ」

ティアナの肩を借り、スバルは会議室を後にする。1人残されたイクスは、どうしたものかと困惑気味に周囲を見回した後、
無言で一礼して彼女達の後を追った。何と言うか、不思議な少女だ。毅然とした態度を取ったかと思えば、
年相応の少女のような反応も見せる。子どもの頃のなのはやフェイトを見ているようだと、クロノは思った。

「とりあえず、協力はこぎつけられたか」

「ご苦労さまです、提督」

「こういうのは僕の性分じゃない。彼女がいなかったら、どうなっていたものか」

「不思議な娘ですね、あの娘。けど、どこかで会ったことあるような・・・・・・・・」

「知り合いかい?」

「いえ、多分人違いです。私が彼女と会ったのは大昔の戦場ですから、他人の空似でしょう」

「そうか。それじゃ、大至急エリオとギャレットを呼んでくれ。襲撃計画を立てなきゃいけない。
場合によっては、君やザフィーラにも動いてもらうかもしれない」

「了解。マリエル技師官奪還大作戦ですね」

「いいや、悪党らしく誘拐させてもらうのさ」





クラウディアの内部は見た目に違わず非常に広く、通路も数人が横に列を成しても歩けるように造られている。
天井に至っては空戦魔導師が空中戦を行えるくらい高く造られており、艦内に敵が侵入された場合の白兵戦も考慮されて設計されているのだろう。
だが、艦内の広さに反してすれ違う人間は疎らだった。ほとんどの乗員が何かしらの仕事をしているのもあるのだろうが、
それ以前に乗り込んでいる人間自体が少ないのだ。3年前と比較して、明らかに人員は減っている。


455:UNDERDOGS 第五話④
08/11/16 02:28:15 Rdbz/Po+
「相手は戦闘機人に人造魔導師、無傷で生還する方が難しいわ。非戦闘員は残りたいって人以外降ろしちゃったし、
今じゃ食事を作るのも当番制なのよ」

「ははっ、シャマル先生の料理だけは食べたくないなぁ」

「艦長命令で禁止されているわ」

乾いた笑みが高い天井に響いて反響する。
3年前の決戦の時以上に、ここでは死というものが身近にある。隣で肩を貸してくれているかつてのパートナーも、
ひょっとしたら明日にはいなくなっているかもしれない。或いは、肩を借りている自分自身が。

「ティア・・・・・ヴァイス陸曹と会ったよ」

「・・・!」

「ううん、顔は見ていない。けど、空の上から狙撃してきた人がいるんだ。あのヘリの形、ストームレイダーに似ていた。
ティアの言っていたことが本当なら、きっとカルタスさんを狙撃したのは・・・・・・・・・」

「止めて」

感情を押し殺したような声で、ティアナはスバルの言葉を遮る。
ヴァイス・グランセニックは機動六課でヘリのパイロットをしていた男性だ。陽気だがどこか陰のある男で、
危なっかしい新人であった自分達をいつも見守ってくれていた。また、武装隊出身で狙撃に関してはエース級の実力を持ち、
その経歴を知ったティアナは同じガンナーとして尊敬のような思いを抱いていた。だが、彼は自分達の前から姿を消した。
あの決戦の時、ティアナはディードを始めとする3人の戦闘機人と対峙し、後一歩というところまで追い詰めていた。
だが、長時間の戦闘の疲労によって不意を突かれ、背後に回り込まれてしまった。その時、ヘリに乗って上空を飛んでいた
ヴァイスはティアナを守ろうと長距離狙撃を行ったのだが、撃ち出された魔力弾はディードではなくティアナの右目を誤射してしまった。
それでもティアナは辛うじてディードの攻撃から身を守り、他の2人を取り逃がしたものの戦闘に勝利することはできた。
だが、ティアナの右目を誤射してしまったヴァイスが乗っていたヘリは墜落してしまい、ヴァイス自身はそのまま消息不明になっていたのだ。

「きっと、何か事情があるのよ・・・・・・・でなきゃ、ヴァイス陸曹がスバル達を傷つけようとするはずない」

「ティア・・・・・・・」

かける言葉が見つからず、スバルは押し黙る。
その時、通路の角からエリオが現れ、スバルと鉢合わせの格好となった。

「・・・・・スバルさん」

「久し振り・・・・・・エリオ」

気まずい沈黙が場を支配する。
3年前ならスバルの方から話しかけていた。他愛のない冗談にうぶなエリオが頬を赤らめ、照れながら抗議する。
そんな2人をキャロが楽しそうに見つめていて、ティアナが辛辣なツッコミで調停役に回る。
それが彼女達の日常だった。
だが、それは3年前に崩壊した。
そして、スバルとエリオの間には、埋めようもない齟齬が生じているのだ。

「失礼します」

一礼し、エリオは早足でその場を立ち去ろうとする。だが、スバルは苦しげに呻きながらもそれを制した。

「まだ、救おうとしているの?」

「・・・・・・ダメですか?」

感情のこもらない凍えるよう返答。
エリオが命を賭けて成そうとしていることのはずなのに、そこには熱意が感じられない。
まるで天井に反響する声のように空虚な響きがそこにあった。

456:UNDERDOGS 第五話⑤
08/11/16 02:29:21 Rdbz/Po+
「本当に、それがしたいこと?」

「それがキャロの願いです」

「エリオはどうしたいの?」

「キャロの願いを叶えます」

「・・・キャロのため?」

「はい」

迷うことなく、エリオは答えた。しかし、その表情は目に見えて辛そうだった。
握り締めた拳はふるふると震えており、視線も定まっていない。まるで自分に言い聞かせているみたいだ。

「エリオは、憎くないの?」

「憎む? 誰をですか? 何のために? それが何になるって言うんですか?」

「楽になれるよ、今よりは」

「憎しみは何も生みません。恨んじゃいけないんです」

「それでエリオは救われるの? 自分を押さえつけて、強い思いで羽交い絞めにして!?」

「復讐したって、スバルさんは救われないじゃないですか!?」

拳を壁に叩きつけ、エリオはスバルを睨みつける。
鈍い痛みが走ったが、気にはならなかった。それよりも、スバルの問いかけの方が遙かに堪える。
彼女の言葉を許容してはいけないと、エリオの中の誰かが告げている。

「誰かを傷つけても、虚しいだけです。自分から手を伸ばさなきゃ、何にも変わらないんです。
一人ぼっちのままなんですよ、ずっと!」

「それでもわたしは、自分に嘘だけはつきたくない。ううん、ついちゃいけないって、最近やっとわかってきた」

エリオの視線を、スバルは真っ向から迎え撃つ。
一触即発の気配が漂い始め、傍らのティアナは口を挟むこともできずにうろたえるしかなかった。
幼少の頃に兄を犯罪者に殺された彼女には、2人の言い分のどちらも理解できたからだ。
スバルが言うように相手を憎めば、少なくとも気持ちは楽になる。
エリオが言うように憎しみからは何も生まれない。仇を討っても死んだ人は蘇らないし楽しかった日々は戻ってこない。
お互いに大事な人を失いながらも、2人は正反対の答えに辿り着いていた。

「あの・・・・・・・」

そんな張り詰めた空気を破ったのは他でもない、イクスであった。

「無関係な私が口を挟むのはおこがましいことかもしれませんが、一言言わせてください」

「イクス?」

少しだけ緊張した面持ちで、イクスはエリオに向き直った。
透き通った緑色の瞳には、険しい表情を浮かべてエリオの顔が映っている。


457:UNDERDOGS 第五話⑥
08/11/16 02:30:17 Rdbz/Po+
「子どもは、泣いても良いのですよ」

「・・・・・・・・・・」

「辛いのなら泣いて良いし、苦しいのなら叫べば良い。違いませんか?」

「泣いても何も解決しないし、叫んだって何も変わりません」

「けど、後悔し続けるよりは良いと思います。一歩踏み出す勇気があなたにあるのなら、認めてください」

意味深な言葉で締めくくり、イクスは医務室へ向かうようにスバル達を促す。
向けるべき怒りの矛先を失ったエリオは、戸惑いながらもイクスを呼び止める。
最後の言葉は、エリオの心に深々と突き刺さっていた。自分でも見ようとしていなかった本心を、
無関係な赤の他人である彼女は意図も容易く見抜いていたのだ。

「君は、いったい・・・・・・」

「私はイクスヴェリア。スバルの友達です」

作り物めいた美しさと高貴な佇まいに、エリオは思わず息を飲んだ。
彼女の儚げな微笑みは、重傷を負って今も苦しんでいるフェイトとよく似ている気がしたからだ。





扉の前に立ち、チンクは自分の格好に不備がないかを確認する。
袖を通しているのはいつもの戦闘服ではなく、大人っぽさと可愛らしさが同居した子ども用の外出着だ。
片手には利便性も何もない小さなハンドバック、念入りにシャンプーした銀髪からは仄かにフローラルな香りが漂ってきている。
問題ない。全て、彼の記憶の通りだ。
緊張を解すかのように頬を叩き、チンクはインターホンに指を伸ばす。

『今、開ける』

スピーカー越しに聞こえた男の声に、チンクの鼓動は一瞬だけ高鳴った。
情けない話だが、百戦錬磨の戦闘機人である自分がたった1人の男と会話を交えようとしているだけで緊張しているのだ。
程なくして、ジャージ姿の茶髪の青年が姿を現す。その男はチンクの顔を見ると、何故か安心したかのようにホッと胸を撫で下ろし、
彼女を部屋へと招き入れた。

「悪いな、前もって言ってくれていればこっちから迎えに行ったんだが」

「いや、別に気にするな・・・いや、しないで良いよ」

いつもの尊大な口調が出てしまい、慌てて言い直す。
男は特に気にしていないようで、冷蔵庫からオレンジジュースを取り出してコップに注ぎ、椅子に座ったチンクの前に差し出した。


458:UNDERDOGS 第五話⑦
08/11/16 02:31:49 Rdbz/Po+
「・・・ありがとう」

「今日はどうしたんだ、俺に何か用か?」

「別に用はないが・・・・・ないけど、会いに来ちゃダメだった?」

「物好きだな。出来の悪い兄なんて放っておいて友達と遊びに行けば良いのによ」

そう言って、男は最近の職場での扱いがどうのだとか、薄着が流行っているがみっともないからお前はするなといった
どうでも良いようなことを話し出す。チンクはそれらに逐一相槌を打ったり、簡単な質問をするなどして男の話に耳を傾ける。
だが、すぐに虚しくなって黙り込んでしまった。男の話はどこかズレテいる。
例えば今の季節は秋なのに春であるかのように喋っていたり、少し前の出来事を話していたかと思うといきなり十何年も前のことを話し出す。
視線も虚ろで定まっておらず、質問への答えもどこかピントがずれたものになっていた。
何より、彼は自分のことをチンクとしては見ていない。かつて自分が誤って目を撃ち抜いてしまった妹であると思い込んでいるのだ。
男の名はヴァイス・グランセニック。ウーノの調べでは、あの機動六課のヘリパイロットであり、かつては武装隊で並ぶ者がいないほどの
狙撃のエースであったらしい。実際その腕前は確かなもので、先日もチンクは危ういところを彼に命を救われた。
しかし、今の彼を見ているとそれが夢だったのではないのかと思えてくる。
彼を見ていて込み上げてくるのは憐れみしかなかった。敵対していた自分がそう思えてしまうくらい、彼の心は壊れていたのだ。
チンクがヴァイスと出会ったのは、3年前の戦いの少し後だった。タイプゼロ・セカンドによる負傷を修復し終え、
ドクターと管理局との仲介役として飛び回っていた時のことだ。ヴァイスは襤褸切れのような服を身に纏い、
うわ言のように「俺のせいだ・・・・俺のせいだ・・・・」と繰り返しながら泥に汚れた体を引きずって歩いていた。
それだけならば、チンクもただの浮浪者として見過ごしていただろう。だが、彼はチンクの存在を認めると
疲れ果てた足を躓かせながらも這い寄って来て、手を伸ばしてきたのだ。これにはチンクも驚き、その顔に平手を打ち込んでやろうかとも考えた。
しかし、それをしなかったのは彼の呟きを聞いたからだ。

『ラグナ・・・・・・ティアナ・・・・』

ティアナ。
それはかつて敵対していた者の名前だ。
あまり詳しくは知らないが、自分達のアーキタイプとなったタイプゼロ・セカンドとコンビを組んで活動していたとは聞いている。
最後の戦いではノーヴェ、ウェンディ、ディードと交戦し、片目を失うもののディードを撃破、ノーヴェとウェンディを撤退にまで
追い込んだらしい。彼がそいつとどのような関係にあるのかまではわからないが、どこか安心したかのように縋りつくその姿を見ていると、
何故だか振り払うことができなかったのだ。雨の中を孤独に歩いている野良犬を思わず見てしまった時のような憐れみの心が、
チンクの胸を過ぎったのである。そして、そのまま気を失ってしまったヴァイスをチンクは病院に運び、治療を施させた。
だが、目覚めたヴァイスはどういう訳かチンクを自らの妹である「ラグナ」と思い込んでおり、何度言い聞かせても認識を改めようとはしなかった。
それだけでなく、彼は9年前からの記憶を全て失っており、自分がどうしてあんな恰好でうろついていたのかも覚えていなかった。
医者は精神的なショックが原因で記憶の錯乱が起きているのだろうと言っていた。そして、日常生活そのものは問題ないと診断されたので退院したのだが、
行く宛てもなかったのでそのまま「ラグナ」の兄としてチンクに着いて回っているのだ。そして、今ではゆりかごの中に一室を設けられて
そこで寝泊まりしているのだ。
もちろん、これには反対の意見もあった。特に上3人の姉は彼を住まわせることに最後まで難色を示していたが、
チンクの説得とドクターの「重要区画に入らせなければ構わない」という言葉のおかげで許しを得ることができた。
それにヴァイスは用がなければ一歩も外に出ようとせず、部屋の中に閉じこもっているので有害になることはなかった。
最初の頃に見られた不安定な情緒も、「ラグナ」を演じたチンクと接している内に安定を見せ始め、
今では彼女の相棒的なポジションに収まっている。


459:UNDERDOGS 第五話⑧
08/11/16 02:32:28 Rdbz/Po+
「なあ、ラグナ。管理局の仕事、まだ続けるのか?」

不意を突くその言葉に、チンクは我に返った。
まただ。このところ、事あるごとに彼は危険な仕事は止めろと言ってくる。
戦闘機人として前線で戦っている理由を、管理局の局員になったからと誤魔化したのだが、
彼はそれを快く思っていないようなのだ。任務でゆりかごを離れる度に着いてきているのも、
パートナーだからというよりは単に心配なだけなのだ。もちろん、彼に黙って出て行くこともできるのだが、
長時間自分と会わないと情緒が乱れた錯乱状態に陥るので、同行させてやるしかないのだ。

「俺がもっと働くからさ、お前は普通に女の子らしい生活を送ったらどうだ?」

「ヴァ・・・・お兄ちゃん、私だってもう・・・社会人? なんだから、したいようにしても良いだ・・・でしょ?」

「そうだな。いくら兄貴でも個人の生き方にまで口出しはできないか。我が妹はいつからこんなに口達者になったのかね」

「・・・・・・・・・」

「まあ、お前の自由にやれよ。けど、辛かったら止めて良いんだぜ。兄貴は妹を守るもんだ。
お前1人を養うくらいはできるからな」

「・・・・・ありがとう・・・・お兄ちゃん。あの、もう時間だから・・・・・行くね」

「ああ・・・・それじゃ、また・・・・・・」

寂しそうに手を振るヴァイスに見送られ、チンクは彼の部屋を後にする。
言葉にできないもやもやが胸の中にわだかまっていた。
彼と話していると、自分達と一般人との間に大きな価値観の差があることを思い知らされる。
今まで当然のように信じてきたことが、大きく音を立てて崩れてしまう。

「チンク姉?」

ハッと前を向くと、大きなトレイを持ったディエチが心配そうにこちらを見つめていた。

「ディエチ・・・・・」

「その格好、ヴァイスのところに行って来たんだね」

「あ、ああ・・・・・お前は陛下のところに?」

「食事を届けに行ったんだけど、部屋に入れてもらえなかった。ママとの時間を邪魔するな、だってさ」

トレイの上に置かれた蓋を取ると、まったく手がつけられていない料理が芳しい香りを発していた。
見ているだけで食欲がそそられ、チンクも思わず自分の腹に手を当てた。そう言えば、今日はまだ昼食を取っていない。
ヴァイスのところで食べるつもりだったのだが、居づらくなって出てきたのは失敗だった。今更戻っても不審がられるだけだ。

「チンク姉?」

「あ、いや・・・・・何でもない。そう言えば、私も長らく陛下と会っていないな」

「最近は、誰とも会っていないよ。ずっと部屋に閉じこもっている」

「そうか・・・・・・なあ、ディエチ。自由に生きるとは、何だと思う?」

「どうしたの、突然?」

チンクらしくない質問に、ディエチは首を傾げる。
チンクもどうしてこんなことを聞いたのか、自分でも不思議でならなかったが、口にしてしまった以上は後には退けなかった。


460:UNDERDOGS 第五話⑨
08/11/16 02:33:24 Rdbz/Po+
「率直な意見を聞かせてくれ」

「そうだな・・・・・・確か強制や妨害を受けないって意味だったはずだから、今のあたし達みたいなことを指すんじゃないかな。
ゆりかごと陛下のおかげで管理局も聖王教会も手が出せないし、ドクターは自分のやりたい研究に没頭している。
けど、こんな質問に何か意味があるの?」

「いや、何でもない。気紛れだ・・・・・忘れてくれ」

そう言って、チンクはディエチがやって来た方向へと目をやった。その視線の先には、聖王であることを定められた少女が、
血の繋がらない母親と共に過ごしている部屋がある。

(それはきっと、ヴァイスの言っている自由とは違う。自由とはいったい何だ? 法に縛られぬこと? 誰にも強制されないこと? 
違う・・・・・・自由とは、いったい・・・・・・・・・)

自問するが、答えは出てこない。
こんな考えを抱く自分は、ナンバーズ失格なのだろうか。
悩みは深まるばかりで、求める答えはどこにも見当たらなかった。





照明の消えた暗闇の中で、少女は愛しい母の体をその腕に抱いていた。
少女は聖王と呼ばれていた。古の時代に世界の混乱を鎮めたベルカの王。この聖王のゆりかごの所有者にしてベルカの民を導き、守る者。
少女はレリックウェポンと呼ばれていた。ロストロギア“レリック”をその身に宿し、無限の魔力と鉄壁の防御“聖王の鎧”によって
立ち塞がる者を悉く焼き払う無敵の兵器。
だが、誰も彼女の本当の名前を呼んではくれない。そして、彼女自身も本当の名を呼ばれることを拒んでいた。
ただ1人、目の前にいる母だけを除いて。

「ママ・・・・大好きな私のママ・・・・・ママだけなの・・・・ヴィヴィオの名前を呼んでくれるのはママだけで良いの」

少女は孤独だった。
訳もわからずこの世界に放り出され、頼れる者もおらずに恐怖に震えていた。そんな彼女に優しく手を差し伸べてくれたのが、
腕の中で沈黙している母だった。彼女は行く宛てのなかった少女を自分の手許に置き、温かいベッドと学習の場を与えてくれた。
少女にとって、彼女との生活はとても穏やかで温もりに満ちたものだった。
母が作ってくれたキャラメルミルクを飲み、母の腕に抱かれて眠る。目覚めたら朝の仕事を終えた母を迎えに行き、共に朝食を取る。
そんな平和な時間は、突然の来訪者の手で奪われてしまった。
少女は連れ去られ、その身にレリックと呼ばれる結晶を埋め込まれた。彼女は聖王のゆりかごを起動させるための鍵であり、
そのためだけに造り出された古代ベルカの聖王のクローンだったのだ。少女はその運命に逆らえるだけの強さは持ち合わせていなかった。
そして、手にした力で少女は母を自らのものとした。
今の母は何も応えてくれない。呼びかけても、抱き締めても、虚ろな瞳に自分の姿が映ることはない。
高町なのはは、もう二度と自分のことを見てはくれない。

461:UNDERDOGS 第五話⑩
08/11/16 02:34:24 Rdbz/Po+
「ねえ、ママ・・・・・なのはママ・・・・・・私の名前を呼んで・・・・・ヴィヴィオって呼んで・・・・・呼んでよ・・・ママ・・・・・・」

少女は静かにむせび泣く。
返事は返ってこない。
それでも呼びかける。
返ってくるのは沈黙だけ。
それでも呼びかける。
枯れたはずの涙がまた溢れてくる。
ここは彼女を捕らえる牢獄。
孤独の中で、ヴィヴィオは懸命に母に呼びかけ続けた。





何か手土産を持ってくるべきだったかと後悔しながら、ザフィーラは医務室を訪れた。
途端に、耳に突き刺さるような言葉の応酬が聞こえてきた。

「やーい、このバッテンチビ!」

「チビじゃありません、この中古デバイス! どうしてあなたがシグナムのパートナーなんですか!?」

「あたしの方が優秀だからに決まってんじゃねぇか。バッテンチビはベッドで大人しく寝ていて良いぜ、
あたしがシグナムをばっちりサポートしてやるから」

「リインの方が優秀です。最新鋭の技術で生み出されたミッド式とベルカ式の混合デバイスなんですよ!」

「雑種じゃねぇか! あたしは正真正銘の純血だぜ!」

「うるさいぞ、お前達!」

ここが医務室だということも忘れて言い合いを続ける2人に耐え切れず、ザフィーラは一喝する。
たちまち、2人は互いの手を取り合って竦み上がり、シグナムの陰に隠れた。

「ああ、ザフィーラか。元気そうだな」

「そちらも無事で何よりだ。しかし、これは何の騒ぎだ?」

「嫁と小姑の争いだ」

「そうか」

「そこ、サラリと納得しないでください!」

「そうだそうだ、あたしにそっちの気はねぇぞ!」

リインとアギトは声を揃えて抗議するが、ザフィーラがひと睨みするとすぐに怖がって隠れてしまう。
どうやら、何だかんだで融合騎同士、気は合うようだ。3年前と違って、どちらも実験体として扱われたという経験があるからかもしれない。


462:UNDERDOGS 第五話⑪
08/11/16 02:34:58 Rdbz/Po+
「とにかく、他の患者に迷惑をかけぬようにな。わかったな!?」

「は、はいです」

「わ、わかったよ」

「なら良い」

そう言って、ザフィーラは奥の方のフェイトが眠っているベッドへと向かう。
その足元には子犬用の小さなベッドが置かれていて、赤毛の可愛らしい子犬が丸まっていた。
フェイトの使い魔であるアルフだ。フェイトが負傷して魔力の供給が減ったことで、今の彼女は主に負担をかけぬように
最も燃費の良い子犬フォームのまま1日を眠って過ごす日々を送っている。
ザフィーラの気配に気づいたのか、アルフは閉じていた瞼を開けて気だるそうに口を開く。

「ザフィーラかい?」

「ああ、私だ」

「久し振り。元気そうで何よりだ」

「お前もな。生憎、土産も何もない、許してくれ」

「気にしていないさ。あんたの甲斐性なしは今に始まったことじゃないしね」

苦笑するアルフの表情は辛そうだった。肉体的にではなく、精神的にだ。
主人思いの彼女は、主の負担となることを極端に嫌う。きっと、できることならば契約を破棄してでもフェイトの負担を軽減したかったはずだ。
だが、目覚めた後もフェイトは彼女を側に置くことを望んでいる。自分のためにかけがえのない家族が犠牲になることを、
フェイトは是としていないのだ。その気持ちを知っているからこそ、アルフは何も言わずにフェイトに付き添っているのだ。

「2時間後にはまた地上に降りなければならない。それまで、ここに居ても構わぬか?」

「こんなところで良ければ、何時間でも居て良いさ。ほら、隣が空いているよ」

「良いのか?」

「あんた以外に譲るつもりはないよ」

「そうか」

静かに頷き、ザフィーラは子犬形態に変身してアルフの隣にうずくまる。
2匹以上で使用することは想定されていないのか、ベッドは少しばかり窮屈だったが、気にはならなかった。
ごく自然に体を横たわらせ、アルフは当然のように彼の横腹に首を乗せて枕にする。
どちらも無言のまま、ただ時だけが過ぎていく。あれほど騒がしかったリインとアギトも、いつの間にか沈黙していた。





偉くなるほど仕事は楽になる、とある官僚は言っていた。
その官僚は3日後に贈収賄疑惑で査察の対象となり、ほどなくして逮捕された。
あんな台詞を口にできるとは、いったいその男はどれだけ仕事に手を抜いていたのかとグリフィスは問いただしてみたくなった。
確かに楽かもしれない。エアコンの効いた部屋で出された書類に判子を押し、会議という名目で美人のコンパニオンを侍らせて
酒を飲み交わしているだけならば気が楽だろう。だが、実際にはそんなに甘くはない。
些細なミスが大きな失敗に繋がる。書類に記された数字の間違い、関係各所に出す指示の間違い、スケジュール管理の間違い。
どれか1つでも起こせば大惨事が起き、多くの部下を路頭に迷わせるかもしれない。
偉くなったからこそ、人間は責任を持たねばならないのだ。

463:UNDERDOGS 第五話⑫
08/11/16 02:36:17 Rdbz/Po+
「准将も楽じゃないな」

望んで得た地位とはいえ、目の回るような忙しさはさすがに苦痛だった。
睡眠時間なんて3時間あれば良いところだ。最初の内は取り寄せてでも食べていた高級レストランのフルコースも
久しく食べていないし、ルキノにも長い間寂しい思いをさせている。
それでも仕事を止める訳にはいかなかった。
次から次に起きる事件への対処、各部隊に割り振られる予算のチェック、関連施設への視察、あわよくば足下を掬おうとする
ライバルを蹴散らすための情報戦、そして戦争。
そう、管理局は現在、異世界と戦争状態にあった。今の管理局は悪く言えば暴君だ。そんな彼らを快く思わない世界も多い。
第56管理世界などその筆頭だ。今は戦闘機人や人造魔導師のおかげで勝利できているが、粘り強い抵抗を続けられるようならば
質量兵器の使用も考えねばならない。

「使いたくないんだがな、こういう心のない武力は」

それが欺瞞だとわかっているから、グリフィスは苦笑を禁じ得なかった。
どうやら、人並みの良心はまだ持ち合わせていたらしい。だが、そんなものは出世に不要だ。
まだ自分は准将。実動部隊の全権を握るには程遠い。
その時、ルキノからの緊急の通信が入った。

「私だ」

『准将、南部方面のアテンザ研究所が、レジスタンスの襲撃を受けています。敵の目的は、恐らく所長のマリエル・アテンザと
その助手であるシャリオ・フィニーノだと思われます』

「あの2人を・・・・・・・このタイミングで彼らが動くのは、少々予定外だな」

『現在、アルピーノ一等陸尉が防衛にあたっていますが、援軍を送りますか?』

「そうだな。では、今からゆっくりと部隊を編成しよう。さて、間に合うと良いけれど」

眼鏡のズレを直し、グリフィスは不敵な笑みを浮かべる。
彼が何を望み、何をしようとしているのか。それを知る者は、まだ誰もいない。


                                                        to be continued

464:B・A
08/11/16 02:37:05 Rdbz/Po+
以上です。
何だかもの凄い勢いで色んな連中に死亡フラグが乱立した気がしなくもない。
どうして前々回、医務室でのエリオとフェイトのシーンでアルフが出なかったのか、
それは眠っていたからです(決して忘れていたわけではない、決して)。

465:名無しさん@ピンキー
08/11/16 05:19:59 z8PnPPYd
>>464
GJです。
どいつもこいつも枯れ果てた漢(性別♀も含む)ばかりで、大好物です。

そして
>3年前の決戦の時以上に、ここでは死というものが身近にある。
シャマルさんどんだけ貴女の料理は深化してるんですか!
と、一瞬思ってしまいました。

466:7の1
08/11/16 10:37:48 mpEKBUMv
ハードすぎる世界が凄いですね。

では第2章を掲載します。
注意事項
・一部エロありです
・時間軸はJS事件から1年後
・JS事件のもたらしたもの
・捏造満載
・オリキャラ出てます。
・StSキャラはヴィヴィオしか出ていません
・ユーノ×なのはは基本です。
・主人公:ユーノ
・タイトルは「再び鎖を手に」  


467:7の1
08/11/16 10:38:40 mpEKBUMv
第二章 本局食堂
 午後の予定をキャンセルしたユーノは、マテウスから渡された二枚のディスクのデータにざっと目を通すと、
久しぶりに暗い穴蔵である無限書庫の司書長室を出て本局の食堂で食事をとることにした。
 食堂に続く廊下を颯爽と歩くユーノと行き会った女性局員たちが、あこがれの視線を送るが、2枚のディスク
の内容を頭の中で反芻し続けるユーノは、女性局員たちの熱い視線に気づくことなく足早に通り過ぎていった。
「あのクールさが良いのよね」
「それでいて、優しいのよ。この間なんか、うちの部署から請求した資料を取りに行った娘が、別の部署の資料
も持ってきちゃって、あわや資料紛失って騒ぎになったの。課長がその娘と一緒に謝罪に行ったのよ」
「うん、うん、それでどうなったの?」
「それでね。土下座しようとした課長とその娘にバインドをかけて椅子に座らせてから、翠屋製のケーキと紅茶
を振る舞ってくれたのよ。課長とその娘、涙流して喜んでたわ。普通なら二人とも怒鳴りつけられて減給処分が
当たり前だけど、ユーノさん、間違えは誰にでもあるからって不問にしてくれたそうよ」
「優しすぎるよ。特に翠屋のケーキのところ」
 ユーノの後ろ姿を目で追う二人の女性局員の熱い会話は、いつ果てるともなく続いていた。
「それ間違ってるよヴィータちゃん!そんなんじゃ皆、私の二の舞になっちゃうよ。もっと厳しく教導しないと
 駄目だと思うんだ」
「でもよ。なのはのやり方じゃ、怪我人だらけになるぞ。現に午前中の教導でBランクの武装局員が3人もシャ
 マルの世話になってるんだぜ」
「だから~なに?私の言うこと間違ってるかな」
 食堂の入り口から昼のランチもそこそこに逃げ出す職員たちに苦笑しながらユーノは、修羅場と化しつつある
食堂に足を踏み入れた。

468:7の1
08/11/16 10:39:19 mpEKBUMv
 食堂の中央にある円卓型のテーブルで対峙している白い魔王と深紅の鉄槌鬼が繰り広げる論争が醸し出す殺気
が、周囲の空気を絶対零度のレベルに引き下げテーブルの周囲20mには人っ子一人いない状況が現出していた。
 ユーノが本日のおすすめと書かれているスタミナ定食A`sとホットチョコレートのカップ三つをトレイに載
せて、二人の方に軽い足取りで歩いていった
「なのは、話に夢中でランチに手を付けてないようだね」
「ふぇぇ、ユ、ユーノくん」
「ユーノ、どうしたんだ。無限書庫で火事でもあったのか」
 ユーノを見たとたん白い魔王から白い教導官殿にもどったなのはを見て、ほっと一息ついたヴィータは、1年
近く本局の食堂で食事をしたことがなく、出前を無限書庫の司書長室に届けさせているという都市伝説の持ち主
が、救世主として現れた事態に面食らっていた。
「火事はひどいなヴィータ。僕だってたまには明るいところで食事をしたいときもあるさ。なのは、ホットチョ
 コレート飲むかい」
「う、うん」
「ユーノ・・・」
「ヴィータの分もあるよ。どうぞ」
「ありがと、お、おい・・・なのは、ちょっ」
 ユーノからホットチョコレートの入ったカップを受け取ったヴィータは、再び白い魔王化したなのはを見て
震え上がった。
(だいたいプログラム生命体のあたしがユーノに手を出すはずがないだろうに。シャマルか、シャマルなのか?
 あいつ昼ドラマニアだから、治療を受けに来たなのはにいろいろ吹き込んでじゃねーだろーな)


469:7の1
08/11/16 10:40:46 mpEKBUMv
 深紅の鉄槌鬼の面目なんぞ、かなぐり捨て席を立って逃げだそうとしたヴィータを救ったのは、ユーノの一言だった。
「なのは、手がお留守だよ。ちゃんと食べないと午後の仕事に差し支えるよ」
「そ、そーだね。ちゃんと食べないと教導ができないね。よしちゃんと食べるぞ。ユーノ君、そのソーセージくれない」
「どうぞ、その代わりにトマトをくれないかな。無限書庫で暮らしてると太陽の恵みが、無性にほしくなるときがあるんだよ」
「それじゃ、どーぞ」
「ありがとう」
 トマトを器用にフォークに載せてユーノに渡すなのはとソーセージをなのはの皿に移すユーノの間に、糖度
200%を超えるスイーツな雰囲気が漂い、桃色のオーラが先ほどの殺気と違った意味で、テーブルの周囲から
人影を遠ざけていた。
「お前ら仲良いな」
 ぼそっとつぶやいたヴィータは、周囲のテーブルはおろか食堂内に人がほとんどいないことに気がつき愕然とした。
(長い春が終わったと思ったら、今度は暑い夏かよ。)
 今でこそ周囲に桃色の結界魔法を張り巡らせる二人だが、長い春とか友達以上恋人未満とかクロノ提督に至っては、
フェレットもどきに心底同情すると言わしめた、二人の関係が進展したのは、JS事件終結に伴う六課解散後からだった
なと、なのはから惚気話を聞かされていたヴィータは思い返していた。


470:7の1
08/11/16 10:41:51 mpEKBUMv
 六課解散以降、執務官であるフェイトは多忙を極め、ヴィヴィオの保護者と言っても名ばかりだけのため、
ヴィヴィオの育児に関するなのはの負担は、教導官の重責もあいまってかなりのものになっていた。
 ちょっとしたヴィヴィオのわがままを許せず、手をあげてしまった自分に恐怖を覚えたなのはは、このままで
はヴィヴィオも自分も駄目になると感じ、ある日無限書庫にユーノを尋ねにきた。
 たまたま暇だったユーノは、なのはを快く迎えたが、司書長室に入るやいなや涙を流して抱きついてきたなの
はに思わず面食らってしまった。
「ユーノくん助けて、このままじゃ私もヴィヴィオも駄目になっちゃうよぉ」
 今までこらえてきた感情が堰を切ってあふれでて、子供のように泣きじゃくるなのはを落ち着かせるために
背中に回した腕に力を込めたユーノは、涙にぬれるなのはの顔を正面から見つめると
「僕が君の杖になるよ。ヴィヴィオの保護者には僕がなろう。ヴィヴィオに一度合わせてくれないかな」
「ユ、ユーノくん、それってプ、プロポーズみたい」
「みたいじゃなくてプロポーズだ。僕は君が好きだ。友達としてじゃない。一人の異性としてだ。なのは」
「・・・・・」
「でね 突線の告白に驚いて黙っちゃった私の沈黙に耐えきれなくなったユーノくんは、今のは忘れてくれと
言い出しそうになるのを必死に抑えたんだって後で告白されたの」
 緩みきった顔で惚気る白い魔王の顔を思い出したヴィータは、なのはと笑顔で話し合うユーノを見ながら、
勇気を出して長い春を乗り越えた男の笑顔は爽やかもんだなと感じていた。
「今日の午後、学校が休みなんでヴィヴィオがユーノパパに逢いたいって言うんだけど良いかな?」
「そうだね。今日の午後、珍しい口碑を積み込んだ船が入港してるんで鑑定してくれって話があるんだけど
 ヴィヴィオを連れて行って良いなら引き受けるよ。どうかな?」


471:7の1
08/11/16 10:46:18 mpEKBUMv
「その船、大丈夫なの?」
 船という言葉で、ゆりかごの中でヴィヴィオと戦った記憶を呼び起こしたのか、なのはの眉がひそめられた。
「デートリッヒっていう時空管理局の船だよ。第三管理世界の遺跡で見つかった口碑の鑑定を依頼されてね。
 ヴィヴィオも無限書庫で本を読むばかりじゃ退屈するよ。たまには実物教育も必要だと思うんだがどうかな?」
「うーん・・・・」
 考え込むなのはの表情を見て困惑するユーノを見かねたヴィータは思わず口を挟んだ。
「なのは、午後の教導代わってやろうか」
「そ、それは駄目だよ。教導を休むなんて、訓練生に悪いよ」
「なのは、たまには休むことも必要じゃないかな。ここ半月ばかり土日も休みなしで働いてるんだろう。
 ヴィヴィオも心配してたよ。なのはママ、お家に帰ってきてからもずっと仕事してるって」
 ヴィータに助け船をだしたユーノの一言が効いたのか、なのはは、ヴィータに手を合わすとヴィヴィオを
迎えに行くと言って席を立った。
「ユーノ君、ヴィヴィオを連れて2時に無限書庫に行くから待っててね」
「ヴィヴィオ向けの絵本も無限書庫で見つけたから、コピーしておくよ。この間みたいに無限書庫で
 迷子になられたら大騒ぎになるからね」
 空になったトレーを手にしたなのはを見送ったユーノは、ヴィータの方を向かずに尋ねた。
「いつから、ひどくなった」
「5ヶ月ほど前からかな。妙にテンションが高くなったと思うと、翌日には落ち込むって繰り返しで、行き詰
 まると教導で切れまくって訓練生を壊しまくるって繰り返しだ。あたしが補助に付くようになったのも、それが原因だよ」


472:7の1
08/11/16 10:47:20 mpEKBUMv
 5ヶ月前、自分がなのはに告白した時期と前後していることを確かめたユーノは、マテウスのディスクに記録
されている症例を思い浮かべた。
「レベル3か」
「なんか言ったか」
「このホットチョコレートも飲まないかって聞いたんだが」
「ありがとな。これで午後の教導、がんばれるぜ」
 ホットチョコレートを受け取ったヴィータは、午後の教導が楽しみだぜと不適な笑顔を浮かべた。
(午前の魔王に、午後の鬼か、どっちにしても訓練生には地獄だな)
 定食のミニハンバーグを食べながら、以前、見学したヴィータの教導で訓練生があげていた悲鳴を脳内再生
したユーノは、訓練生に同情の念を覚えた。
 司書長室のモニターに、夢中でチリコンカーンを食べているマテウスが出た瞬間、ユーノは顔をしかめた。
「すみません。食事中だったみたいですね。後でかけ直します」
「いやぁぁ、お気になさらず。時は金なりですから」
 あわてて、食事を片付けたマテウスだが、唇の端にソースが残ったままだったことに本人は気づいていない
らしい。
 ユーノの話を聞いたマテウスは、額に手をやって俯くと1分間ほど考えていたが、ユーノの視線に気がつい
たのか、ひょいと顔を上げた。
「まあ良いでしょう。ヴィヴィオ様に口碑を見せても問題ないと思います。封印は3重にかけてますし、口碑
 の周囲にAMFも展開しておきます。問題は・・」
「なのはですか、彼女がなにか?」
「あなたの診断ではレベル3ですか、感情の起伏が激しいんですね。発掘隊との会談は別の日にしませんか?」


473:7の1
08/11/16 10:49:39 mpEKBUMv
 盗聴されることを考慮しているのかマテウスは、盗掘者たちを発掘隊と面接を会談と慎重に言い換えながら
提案した。
「理由は?別に彼女を連れて行っても問題ないと思いますが」
「発掘隊の中にラーナって女性がいましてね。どうしました? 顔色が悪いようですが、やはり別の日にしますか?」
「いや、やりましょう。この際、はっきりさせた方が良いこともありますし、なのはにとっても良い効果を生むかもしれません」
「ふむ、勇気がありますな。では、デートリッヒでお待ちしております」
 通話が切れたモニターを閉じながらユーノは、長年、置き去りにしてきた問題に決着を付ける時が来たのを
感じ、ため息をついた。


第2章 終了です。 第3章は、今日の夜に上げます。

474:名無しさん@ピンキー
08/11/16 13:25:54 kwDnihF7
>>464
GJ!!
皆のひどい変わりようにびっくり。でも各々仕方ないといえば仕方がない…
ヴァイスもああいう事情があったのか、グリフィスは…もうぶっちゃけスバル達に殺されてもかまいませんw
ヴィヴィオも可哀そうだ。
ルーテシアと同じようにエリオやスバルが連れ出さなければ永遠になのはを助けることもできず、束縛されたままか
次回はVSルーテシアの再戦でしょうか?
エリオはスバルとイクスの言葉を受けてどういう行動をとるのか。
楽しみにしております。

475:B・A
08/11/16 13:36:22 Rdbz/Po+
すみません、読み返していたら間違いがありました。

>>452
>「彼女もメンバーの1人だ。3年前に機動六課が保護したナンバーズは、治療中の1人を含めて3人ともクラウディアに乗船している」 ×
>「彼女もメンバーの1人だ。3年前に保護されたナンバーズは、 治療中の1人を除く3人が我々に賛同してくれている」 ○


レジスタンス側のナンバーズはディード、○○○○、○○○、それと治療中の○○○の4人だったことを思い出しました。
お手数ですが、保管の際は訂正をお願いします。

476:名無しさん@ピンキー
08/11/16 13:41:11 PxplVCkp
ディードってキャラが空気すぎるよね…

477:名無しさん@ピンキー
08/11/16 13:45:37 OcbUvurZ
そもそもナンバーズは顔と名前が一致するのが四人くらいしかいない俺

478:名無しさん@ピンキー
08/11/16 14:10:52 IVevj9eF
>>476
本編で空気 = 捏造設定やり放題

479:名無しさん@ピンキー
08/11/16 16:16:20 EXGBz6dO
初代からナンバーズスレにいて本編終了前から顔と名前とISと固有装備の名前を覚えてる俺は小数派か

480:名無しさん@ピンキー
08/11/16 16:24:20 uG2QoWs4
>>480
なんという俺wwww

481:名無しさん@ピンキー
08/11/16 16:25:06 bjUH3kBi
確かにお前だなそれは・・・

482:名無しさん@ピンキー
08/11/16 16:27:09 B4TbKkIw
ああ、確かにお前だわ

483:名無しさん@ピンキー
08/11/16 16:46:12 IVevj9eF
>>479
小数派は数学板へ行って分数派と争えばいいと思うよ。

484:7の1
08/11/16 17:58:09 mpEKBUMv
大相撲が終わりましたので第3章を掲載します。

注意事項
・一部エロありです
・時間軸はJS事件から1年後
・JS事件のもたらしたもの
・捏造満載
・オリキャラ出てます。
・StSキャラはヴィヴィオしか出ていません
・ユーノ×なのはは基本です。
・主人公:ユーノ
・タイトルは「再び鎖を手に」  


485:7の1
08/11/16 18:03:31 mpEKBUMv
第3章 デートリッヒ
「わぁぁ、大きいな。ユーノパパ、アースラより大きいよ、この船。」

 JS事件の後、六課の宿舎が再建されるまでアースラで暮らした経験のあるヴィヴィオは、目の前にある船の巨大さに目を丸くしていた。
 三人を迎えるために大きく開かれた荷受け用ハッチの高さだけでもアースラの2倍近くあるのだから、ヴィヴィオが驚くのも無理はない。

「そうだね。クロノおじさんのクラウディアより大きいんだよ。ZX級時空航行艦だからね。なのは、どうしたの?」
「ねぇユーノ君、なんでAMFが展開されてるの? 本局内での使用は禁止されてるはずだよ。ヴィヴィオ ママの側から離れちゃ駄目」

 ヴィヴィオを引き寄せたなのはは、バリアジャケットを形成すると愛杖のレイジングハートを起動して周囲に注意を払った。

「いやぁ、お待たせしてすみません。・・・高町一尉、何かあったんですか?そんな大仰な格好で、本局内でのバリアジャケット着用は
 第一種制限解除が必要なはずですが」

 武装したなのはの姿を部下から知らされたマテウスが、よれよれのレインコートを翻しながら、荷受けハッチの奥から出てくるや、
なのはの武装を見て眉をしかめた。

「緊急事態の際には、尉官権限で解除できます。それよりお聞きしたいのですが、本局内でのAMFの使用は 禁止されています。
AMF使用は許可を得ているんですか?バウアー卿、ご返答次第では、あなたを逮捕します」

 なのはを抑えようとしたユーノを目で制するとマテウスは、人の良さそうな笑顔を浮かべた。

「ああ、AMFの件ですね。本局管理部に照会していただければわかりますが今回の積み荷の口碑はロストロギ アの疑いがあるので
 結界魔法のほかにAMFも展開しているんです。使用許可のディスクは、ここにあります。どうかご確認ください」

 レインコートから取り出したディスクを一瞬で、自分の目の前に転送したマテウスの魔術になのはは、内心舌を巻いていた。
発動の気配さえ感じさせず魔法を発動できる魔導師が、三提督以外に本局内に何人いるか

(間違いなくSS+、いえSSSクラスだわ。はやてちゃんでも、この手の魔法を使う際にかすかな気配を感じるもの。三提督級の人だわ)



486:7の1
08/11/16 18:08:08 mpEKBUMv
「すみません。誤解していたみたいです」

 ディスクの内容を素早く確認したなのはは、バリアッジャケットを解除すると頭を下げた。つられてヴィヴィオもごめんなさいと謝った。

「こ、これは、どうか頭をお上げください。ヴィヴィオさ・・さん」

 ヴィヴィオさまと言いかけるのをさん付けに戻したマテウスの額にうっすらと汗が浮かんでいた。

 ベルカ文明出身者特有の癖なのか聖王の生まれ変わりであるヴィヴィオに対して、必要以上にへりくだるマテウスの態度を見て、
なのははヴィヴィオの将来を危惧した。
 聖王様、聖王様と言われているうちに気づいたら、時空管理局の敵対者に祭り上げられるかもしれない。

(魔法学院なら問題ないと思うけど、他の世界のことも知っておいた方がよいわ。そうだ、今度の休暇、ユーノくんとヴィヴィオ連れて
翠屋に帰ろう。アリサやすずかにも逢わせて、もっと普通の女の子として育てなきゃ)

 まだ本格的にユーノとの交際を家族や親友に紹介していないのを思い出したなのはは、ユーノとヴィヴィオをみんなに紹介する覚悟を固めた。

「話が付いたようですね。バウアー卿、口碑を発掘した人たちと話したいんですが、なのは、話がすんだらヴィヴィオと君を呼ぶから、
それまで待っていてくれないかな?」

「えぇぇユーノくん。同行しちゃ駄目なの?」

「ロストロギアの疑いがあるからね。もしもの時は、ヴィヴィオを連れて逃げるんだよ。転送魔法の使用許可は取ってあるから、
バウアー卿、ご案内願います」

「口碑の説明は発掘隊の責任者にさせましょう。レミオ一等航海士、ユーノ博士をご案内するように。高町一等空尉、ヴィヴィオさんのご同意が
あれば、艦内食堂で、第三管理世界自慢のフルーツとスイーツを振る舞いたいんですが如何でしょう?」

「ヴィヴィオ、食べたいな。ねぇ、なのはママ駄目?」
「ヴィヴィオ!」

(なのは、バウアー卿は、幹部評議会の評議員だ。素直に従ったほうが良い)
 いつにないユーノの強い念話に、なのはは思わず左のこめかみに手をやった。

487:7の1
08/11/16 18:11:11 mpEKBUMv
「マ、ママぁぁ」
「ヴィヴィオごめん。バウアー卿、ご案内いただけますか」
「どうぞ、こちらの方のエレベーターへ、直行で食堂にご案内しましょう」

 マテウスは、揉み手せんばかりの愛想を振りまきながら、なのはたちに先だってエレベーターの扉を開けると乗り込んだ。

 目の前を歩くレミオという士官が、伸ばした黒髪を三つ編みにし白いリボンで結んでいるのに気づいたユーノは、一見、
ひょろりとした優男にしか見えない彼が、聖王陵騎士団の精鋭であることに気がついた。
     
「ユーノ博士は、結界魔導師だそうですね」
「ええ一応は、本局登録では空戦Aですが」

「高町なのは一等空尉のディバインバスターを素手で防がれたとのことですが、事実ですか?」
「昔のことです。今の彼女の敵じゃないでしょう」

「しかし、今でも一等空尉が模擬戦をやる際には、訓練室の結界を担当されてるそうですね」
「本局には、結界魔導師が不足気味ですから、僕みたいな専門外の者でも起用せざるえないんです」

「本局最強の盾と称されるかたの言にしては、謙遜がすぎますよ。噂では対AMF用の新技ディバインバスター
 クラスターのお相手をしたとか、如何でした?」

 強者への尊敬の念が込められたレミオの問いかけにユーノは苦笑を浮かべた。

「実体弾に魔力を込められて撃たれました。AMFで防げると思ったんですが、実体弾でAMF装備のガジェッ
 トドローンを打ち抜かれた上に、内部からバスターを爆散させるんですから、死にかけましたよ」

 対AMFに、ある種の封時結界が有効だということを無限書庫の古文献から発見したユーノは、自己責任という言葉を
思い出して苦笑を浮かべた。
 元々、不足気味だった結界魔導師を、前線の武装隊に引き抜かれた責任を取らされる羽目になったユーノは、なのはが模擬戦
をする際の専用結界魔導師を勤めているというか勤めさせられている。

 局内では、”魔王の使い魔”とか”悪魔の下僕”とか、隠れなのはファンから妬まれ、ある意味、悪評が高いユーノだが、部外者の
評価が意外に高いことを知らされ、警戒の念を抱いた。

(バウアー卿の言うとおり、僕がハラオウン閥と見なされているとしたら、他の評議員が無限書庫を警戒するのも無理はないか)


488:7の1
08/11/16 18:15:25 mpEKBUMv
「こちらです。彼らはこの中にいます」

 レミオに発掘隊と称されている盗掘者の一団が収容されている格納庫の前に案内されたユーノは、部屋の前に
立っていた歩哨からレミオが着ているのと同じ深紅のベストを手渡された。

「対AMF用ベストです。卿のご命令でユーノ様が中に入る際は、絶対着用していただくようにとのことです。
 着用されない場合は、入室を命に駆けて阻止せよとのことで」

 必死の面持ちで、ベストを差し出す歩哨の肩を叩きながらユーノは笑顔で答えた。

「このごろ、運動不足でね、僕のサイズに合うかな」
「卿は、三種類のサイズをご用意されてますので大丈夫です」

 ユーノがベストを着用したのを確認したレミオは、歩哨に扉を開けさせると先に入って、中にいる兵士に何かを
確認するとユーノを差し招いた。

「ユーノ博士、入っても大丈夫だそうです」               

 室内は、強力なAMFが展開されているらしく、手のひらにむず痒い感覚が走り、背中を蟻が這い回り、靴底を通して、
芋虫が蠢く感覚がおぞましい。
 女の嬌声や子供のはしゃぐ声、中年男の酒枯れただみ声、若者の意味をなさない叫び声が耳元を直撃し、魔法の
詠唱を不可能にする。

(スカリエッティのAMFより強力だ。精神攪乱効果まで備えているとは、かっての時空管理局が手も足も出なかったのも無理はない)

「ユーノ博士、どうされました?もしAMFが強すぎるのでしたら、ジャケットの襟にあるボタンを押して調整してください」

 レミオが真剣な顔で声を掛けた。

(僕が気持ち悪くなって倒れでもしたらと懸念しているようだ。)
「ありがとう。もう大丈夫なようです」

 襟のボタンを数秒押し続けると、先ほどまでのおぞましい感覚が、嘘のように消えていった。
 改めて、部屋を見渡すとどうやら調査艇を収納する格納庫らしいことに気づいた。薄暗い間接照明の部屋の中央に発掘された口碑が、
三重の結界魔法で厳重に囲まれているのが見えた。

「あそこです。アル、代表者を呼んでくれ」
 歩哨の一人が、部屋の隅に敷かれた絨毯に寝転がっている人々に近寄ると声を掛けた。しばらくして、小柄な人影が立ち上がるとユーノ
たちの方へ足を引きずりながらやってきた。
 目が悪いのかサングラスをかけているが、長い栗色の髪と体つきからして女性らしい。
「レミオ、レナードに何かあったの? ま、まさか・・・ユーノどうして?」
「ラーナ、何があったんだ? 族長は何処にいる?」
 かっての許嫁の変わり果てた姿に声もないユーノにラーナが詰め寄った。

「族長は死んだわ」


489:名無しさん@ピンキー
08/11/16 18:19:58 P5374p6C
支援

490:7の1
08/11/16 18:20:39 mpEKBUMv
 族長が死んだ・・・・孤児の自分を拾い上げ、育ててくれた人物の死を告げられ絶句したユーノにラーナは怒りをぶつけた。

「ユーノのおかげで、まともな遺跡発掘の仕事が増えたわ。でも収入には結びつかなかったの。時空管理局の 身内を持つ
発掘屋に、うま味のある裏仕事を回す馬鹿はいないもの」
「だからって盗掘に手を出すことはないだろう。僕に連絡してくれれば、ロストロギア絡みの仕事を回せたよ。何故、連絡をしなかったんだ」

「連絡なんかできるもんですか!割が良いって引き受けた辺境世界の遺跡発掘で事故にあったの。3人死んだしすぐに手術する必要な
怪我人が4人もいたわ。でもお金が足りなくて、2人しか助からなかった。それで族長は、盗掘を決意したの」

 族長は依頼を受けたロストロギアの発掘に成功はしたが、依頼者が時空犯罪者だったのが運の尽きだった。
 報酬を受け取りに行った族長と長老たちは、殺され宿営地も襲撃を受け、一族は散り散りになって逃げざるをえなかった。

「レナード兄さんと私が、10日後に再会したときには、父さんも母さんも襲撃されたときの傷が悪化して死ん でいたわ。生き残った一族は、
発掘前の3分の1以下、それからは墜ちるばかり、そのあげくがこのざまよ」

 サングラスをはずして、潰れた目をさらしたラーナは話し続ける。

「新しい族長には、レナード兄さんが選ばれたわ。年長者は、フリック爺さんしか生き残ってなかったから選択肢はなかったの」

 生き残った一族の総意で新族長に選ばれたレナードは、盗掘屋として生きていくためにはスクライアとういう姓を捨て、一族名をライヤー
と改めるしかないと宣言したのよとラーナは自嘲の笑みを浮かべた。

「ライアーと名乗ってからは、しばらくは順調だったわ。族長と長老たちが仕事を取り仕切っていたから、レナード兄さんがスクライアだって
知ってる人はいないし、レナード兄さんの優秀さは知ってるでしょ」
「ああ、義兄さんの探索魔法は、僕より凄いからね」

 人が良すぎるのも僕以上だったねという言葉を呑み込んだユーノは、ラーナに話を続けるよう促した。

「年寄りと若い子ばかりだから、遺跡発掘のような大きな仕事は出来なかったけれど、ロストロギアの無い陵墓の盗掘や封印されたB級ロスト
ロギアの回収のような仕事は、いくらでもあったから、生活はスクライアのころより楽になったわ。今思えば、あのころが一番、楽しかったな」

「しかし、陵墓の盗掘は、第一級遺跡破壊犯罪だ。捕まれば死刑は免れないんだぞ。生活のためとは言うなら、何故、僕に」
「どの面下げて行けると思うの? スクライアが時空犯罪者に協力したなんてこと、ユーノに言えるはず無いでしょ。それにレナード兄さんが、
迷惑を掛けたくないって言ったの、だから」

「ラーナ、薬の時間だ。後は僕がユーノ博士に話そう。君は本調子じゃないんだから休みたまえ。」
「レミオ邪魔しないでちょ・・う・・だい」

 言いつのるラーナの後頭部に左手をかざしたレミオの掌から、ユーノの膨大な魔法知識の中にも覚えのない魔法の波動が発せられた。



491:7の1
08/11/16 18:22:48 mpEKBUMv
「ラーナ!」
「発作です。病室に連れて行きますので、しばらくお待ちください」

 意識を失ったラーナを抱え上げたレミオは、ユーノに一礼すると背を向けた。

「ユーノすまんかった。お前を頼っていれば、皆、死なずにすんだんじゃ」
 半ば呆けたのか、何回も謝罪を繰り返すフリック爺さんにかける言葉もないユーノに、生き残った一族の若者
たちは、頭を下げてひたすら謝罪し続けた。

「レミオ三尉のところに、ご案内申し上げます」
 歩哨がユーノを案内した部屋には、手書きで医務室とミッドチルダ語で書かれた木の札が掛かっていた。

「昏睡状態ですが、命に別状はありません。意識も、あと2,3日もすれば戻るでしょう」
 部屋の中央に置かれている高酸素カプセルの中に寝かされているレナードを指さすレミオの声は、ラーナの発作を抑えた時
とは対照的に、いたって平静だった。

「犯罪者の彼に、正規の医務室を使うわけにいかないので、この部屋を臨時の医務室にしています。設備に問題ないので、ご安心ください」
「ラーナは、ここにいないようですが?」

「彼女は、保護された状況が状況ですから犯罪者扱いになりません。発作の問題もありますので、正規の医務室で寝てもらっています」
「ラーナやレナードを助けてくれたそうですね。皆、感謝していましたよ」

「・・・彼らの今後は、あなた次第でしょう。私は、卿の命に従うだけです」
 一瞬、口ごもったレミオの顔を見たユーノは、一族の運命が自分の手に委ねられているのを自覚せざるえなかった。
 ラーナの告白したことが事実なら、スクライア一族の破滅は避けがたい。
 そして、それを阻止できるの自分しかいないのだ。


492:7の1
08/11/16 18:24:14 mpEKBUMv
すみません。491で第3章終了です。

明日の夜に第4章を上げます。

493:名無しさん@ピンキー
08/11/16 19:34:45 3MAoMN/U
>>464
GJ!
実に素晴らしいほどの死亡フラグ乱立
でも誰も死なずに終わるとは思えない
グリフィスならくたばってOKだがw
スバルとエリオの主人公二人は生き残って欲しいもんだ


494:名無しさん@ピンキー
08/11/16 19:56:19 hInQALNu
>>493
ⅩⅡ「偽りの任務、失礼しました…あなた方には、ここで果てて頂きます 理由はお分かりですね」
カルタス「まぁ、そういうことだ どうせ、確信犯なんだろ? 話しても仕方ない」
Ⅴ「所詮は獣だ、人の言葉も解さんだろう」
スバル「偉そうに…選んで殺すのが、そんなに上等かな」
クロノ「殺しすぎる、お前たちは」

スバルとエリオのオチはこうですね

495:名無しさん@ピンキー
08/11/16 20:39:51 WDglNbHB
つまり、エリオは性的な意味でフェイトそんの首輪付きかw

社長=なのは
ウィン・D=トーレ
ババア=フェイトそん
トーラス社員=スカ博士

ですね、わかります。

496:名無しさん@ピンキー
08/11/16 22:18:06 LURi49B/
FAかよwww
ということは
『燃え尽きるがいいの、何も残りはしないんだから…』
とか
『そんな装甲でこのNANOHAに挑むの?笑わせないで…』
とか
『正面から行くの、それしか能が無いの…全てを焼き尽くすだけなの』
とか
『陰険メガネが…吹き飛ぶの』


ぶっちゃけ全く違和感無いんですけどwww
後フェイトそんがオペ子だと、ピンチになるたびに通信機越しにオロオロしてるのが目に浮かびます、はい。

497:ザ・シガー
08/11/16 22:39:39 c6om57DN
うし、45分くらいまでチェックしたら投下する。

ヴァイス×シグナムで、一応“まだ”非エロ(微エロ?)。
一応今まで書いたヴァイシグSSとは関係のない短編です。

498:名無しさん@ピンキー
08/11/16 22:42:40 hM3VxrmZ
待ってるぜ!

499:狙撃手と彼の灯火(前編)
08/11/16 22:47:45 c6om57DN
狙撃手と彼の灯火


 息を吐く、何度も何度も息を吐く。
 呼吸を整え、心臓の鼓動の周期を理解し、五体に響き渡るリズムを完全に熟知する。
 三脚(トライポッド)の上に鎮座する愛銃、その銃口に起こる振幅に全神経を集中。
 手元で起こる一ミリのズレは数百メートル先では致命的な着弾の誤差を生み出す、決して意識を途切れさせてはならない。
 スコープの先に映る敵影、ターゲット、獲物、様々な呼び名で呼ばれる哀れな標的に瞳を釘付けにする。
 こうして銃で狙い続けていると銃と自分とが一体化するような錯覚すら覚えた。
 そうだ、今の俺は人じゃない。
 命令された対象をただただ正確に射抜くだけの一丁の銃、狙撃を成功する為に存在する一個の装置。
 人間性という名の情緒が死んでいき代わりに冷たいものが精神を鋼にした。
 そしていつしか下される指令に応じて機械と化した身体は忠実に駆動する。
 全ての感情を殺し、肉体と精神を精密機械に転じ、耳に取り付けたインカムから来た狙撃許可の言葉に従い、狙撃装置と化した俺は引き金を引いた。
 羽毛が触れただけでも落ちるような極限の軽さに調整された引き金が俺の意思で引き落とされる。
 眩い閃光が煌めき、カートリッジの魔力を得た高出力の直射弾が空気を切り裂きながら目標目掛けて駆け抜けた。
 世界はその刹那で塗り替えられる。
 スコープの先では愛銃の放った弾丸に倒された男が哀れにも地に伏していた。
 決着は一瞬で完了、狙撃機械と化していた俺は再び元の脆弱な人間に戻る。
 課され続けたプレッシャーから解放されて吐き気にも似た感覚が去来した。
 今日はあの日のように狙いを外す事はなかった、その事に安堵する。
 そして俺は今日も自分の一部となって共に戦ってくれた愛銃に一言囁きかけた。


「ありがとよ、ストームレイダー……」


 そう言った刹那、俺の意識は闇に消えた。





 ヴァイス・グランセニックはその日電車で家路に着いた。
 狙撃任務のあった日はいつもそうだ、出勤するときに使ったバイクはそのまま部隊の駐車場に置いて電車に乗る。
 特に今日のように、過度な緊張を強いられた狙撃を行った日は必ずそうしていた。
 長時間銃を構え続けた反動、いやむしろ精神的なストレスでハンドルすら握れないのだ。
 二輪を繰り、夜風を切る爽快感は好きだが、だからといって事故を起こしては敵わない。
 正直、満員電車に揺られる不快感も堪らないが、事故で命を落とすのはごめんだ。

 十数分ほど電車に揺られ、ヴァイスはやっと目的の駅に到着した。
 駅を降りて歩くことさらに数分、愛しの我が家へと辿り着く。
 マンションのエレベーターに乗り、三階のボタンを押せばあとはもう二分も待たずにドアを潜り、ベッドに身体を預けられる。
 ヴァイスは柔らかいシーツの感触が待ち遠しくてしょうがなかった。
 エレベーターを降りて足早に自分の部屋に向かう、途中で鍵を取り出すのも忘れない。
 そしてドアの前に辿り着いた瞬間、彼は妙な違和感を覚えた。


「ん? この匂い……俺の部屋から?」


 なにか美味しそうな料理の匂い、それが自分の部屋から漂っていた。
 だがおかしい、今自分の部屋には誰もいない筈だ。
 胸に生じる僅かな疑問、ヴァイスは首を傾げながらドアノブに手を伸ばす。
 すると鍵を掛けられて回らぬ筈のドアノブは、なんの抵抗も示さず即座に開いた。
 盗人か? いや、それならばこの香ばしい香りの意味が分からない。
 大方、妹のラグナあたりが来ているのかと想像しつつヴァイスはドアを開ける。
 しかし玄関に鎮座する靴を見て、その想像は一瞬で破られた。


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