【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part19【改蔵】at EROPARO
【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part19【改蔵】 - 暇つぶし2ch250:名無しさん@ピンキー
08/12/19 19:57:47 JaaXTm9+
ポジティブ過ぎる人になってしまった
>>237の間違いね

251:名無しさん@ピンキー
08/12/19 21:41:30 n1vD7cYI
あの流れでこんな煽りっぽい言い方じゃ
職人(笑)の代わりなんかいくらでもいる、って意味に見えるがな

252:名無しさん@ピンキー
08/12/21 23:44:19 mNiJJQoL
もういいから萌えとズリネタを供給しろ

253:名無しさん@ピンキー
08/12/22 00:24:50 O+p86liA
>>238
>>246
>>252

工夫が無いな

254:名無しさん@ピンキー
08/12/22 03:37:28 UE9lq1TT
>>252
お前がこのスレにいる限り書いてやらん

255:名無しさん@ピンキー
08/12/22 19:17:47 wI4WLU6h
性欲処理うんたらって職人のこと?

256:糸色 望 ◆7ddpnnnyUk
08/12/23 05:58:33 4gwaLAFn
ズリネタ=トルコンがズルズルとすべっていますよ・・・。

黎明期のホンダマチックなどは、
変速1段・直結1段の簡単な構造の
オートマチックトランスミッションで、

時速60キロあたりまでトルコンのみで
引っ張っていたため、伝達効率が悪い。

257:266
08/12/23 07:37:04 y8RSMO+c
書いてきました。
先生×カフカが2本です。
一本目はエロ有りですが、本番ないです。
二本目は短いです。
それでは、いってみます。

258:266
08/12/23 07:38:08 y8RSMO+c
うっすらと目を開くと、見慣れた笑顔がそこにあった。
「先生、大丈夫ですか?」
目覚めたばかりの脳はぼんやりとしてその簡単な問いかけを理解することもできず、
何も答えることが出来ないままいつも通りの彼女の、風浦可符香の笑顔を見つめる。
頭の後ろに当たるやわらかな感触は、彼女の太もものものだ。
周囲にカーテンの引かれたベッド、お馴染みの学校の保健室の風景。
どうやら自分は今、保健室のベッドの上で、彼女の膝枕に頭を預けているようだ。
どうして、こんな所に自分はいるのだろう?
当然の疑問が頭に浮かぶ。
「私は……」
「みんな流石に反省してたみたいですよ。まさか倒れるなんて、私も思ってませんでしたから……」
そこでようやく彼は、糸色望はうっすらと記憶を取り戻し始める。
ひょんな事から自分の耳の後ろが敏感な部分である事が、彼の生徒達に知れ渡ってしまった。
それだけでも十分に恥ずかしかったのだけれど、彼のクラスの女子生徒、木津千里が同じ場所を指で突いたところ、
微妙にポイントを外して何やら経絡秘孔みたいな物を押されてしまい、望は人間のものとは思えないような苦悶の声と共に崩れ落ちた。
だが、事態はそれだけでは終わってくれなかった。
望が痛む体を何とか立ち上がらせられるようになった頃には、噂を聞きつけた彼のクラスの生徒達が集まっていた。
それからはもう、望はほとんど玩具のような扱いを受ける羽目になった。
彼に想いを寄せる女子生徒達は望の艶声聞きたさに、彼の耳の後ろを触りまくった。
さらには男子生徒達までが微妙に頬を染めながら、同じように耳の後ろを突いてくる始末。
生徒達に翻弄されて息も絶え絶えの状態の望の背後に、最後に立ったのはまたしても千里だった。
みんなが望に艶っぽい声を出させているのが羨ましかったのだろう。
彼女は今度こそはと期待を込めて再び望の耳の後ろをつっついた。
しかし……。
『ぐげぼらばぎぶが…ひでぶぅううううう……っ!!』
結果はまたしても大失敗。
生徒達に弄ばれた疲れのためか最初の時よりも激しい奇声を上げて、望は意識を失った。
「うぅ……ようやく思い出しましたよ。みんな好き勝手やってくれて……私を殺す気ですか…」
「あはは、みんな先生が大好きって事ですよ。だから、ちょっと大目に見てあげてください、先生」
「そういうあなただって結構な回数押してたじゃないですか…」
「あはは、だって先生の声可愛いから…」
そうだった。
クラス挙げての大陵辱劇。
今の自分がこんな有様なのは、何もかも彼の生徒達の悪ふざけのせいなのだ。
とはいえ、彼らにされるがままだった自分が恥ずかしくもあり、望は怒る気にもなれない。
ただ、災難が去ってくれた事に感謝し、深くため息をつくばかりである。
それに……
「……風浦さんの太もも、柔らかくて温かくて気持ちいいし……まあ、いいですか…」
「先生、何か言いました?」
頭上から問いかけられて、望は顔を真っ赤にする。
彼女に聞こえないよう、ほんの小さな声で呟いたのに。
というか、彼女の事だ。こちらが何を考えていたかなんて、お見通しに決まっている。
「………別になんでもありませんよ」
それでも、素知らぬ振りで望は答えてみたが、
「えへへ、先生に膝枕喜んでもらえて、私も嬉しいですよ」
ほらやっぱり。
見抜かれている、見透かされている。
なんだか無性に悔しくて、望は頬をぷーっと膨らませた。
その表情が可愛いと、可符香はさらにくすくすと笑う。
もうすっかり彼女のペースだ。
無論、それはいつもの事なのだけれど、散々生徒達に好き勝手にされた後で、さらに彼女にまで手玉に取られるのは望も面白くない。
(何とか、仕返しできないでしょうかね……)
子供じみた対抗心を燃やして、頭脳を回転させる望はある事を思いつく。
「風浦さん…」
「はい?」
望に名前を呼ばれて、可符香は彼の顔を覗き込むように前かがみになった。
そこで、すっ、と望の手の平が彼女の耳元に、気づかれぬようそっと忍び寄る。
やられっぱなしではたまらない。
彼女に、可符香に仕返しをするのだ。

259:266
08/12/23 07:39:03 y8RSMO+c
望と可符香は、教師と生徒という間柄を越えて、互いの想いを通じ合わせた仲だった。
恋人として付き合い始めてから日は浅いが、幾度かの夜を共に過ごして、望は可符香の敏感な部分を把握していた。
自分の手のひらで、指先で、彼女の繊細で過敏な性感に訴えかけ、彼女と共に高まる熱情に身を委ねるのは望にとって至上の喜びだった。
今、望の指先が向かう先、耳たぶのふちの辺りを甘噛みして舌先でなぞってやると、彼女はいつも切なげな声を漏らして身をくねらせた。
いつも自分を振り回してばかりいる彼女を、今日はこちらから驚かせてやろう。
彼女の死角からゆっくりと近づく望の指先は、ついに目的の場所にたどり着く。
可符香の耳たぶを絶妙な力加減でなぞり、そのまま首筋までつーっと指先を這わせる。
しかし……。
「先生、どうしたんですか?」
無反応。
(えっ!嘘でしょう!?)
思いがけない結果に驚愕する望は、もう一度、可符香の耳たぶに、首筋に刺激を与える。
だが……。
「ちょっと、先生、手遊びはいいですから、何が言いたいんですか?」
今度は明らかに自分の耳を触ってくる望の指先を視界に捉えて、可符香は言った。
(か、感じてない……でも、いつもなら…)
その場の雰囲気とか、お互いの気分やコンディションとか、そういった行為に関わる要素のいくつかが欠けている事を考えても、
望のいたずらに対して彼女が全くの無反応というのは、考えてもいなかった事態だった。
驚愕し、慌てふためく望の思考は当然の如くある可能性について考え始める。
(もしかして、私としている時の彼女の反応は全部…………演技だった!?)
一度思考がマイナス方向にベクトルを向けると、生来の気性も手伝って望の想像は悪い方にばかり加速していく。
幾つもの夜を共に過ごした喜びが、望だけの一方的な思い込みだったとすれば……。
(もしかして、そもそもの初めから彼女は私の事なんて……)
もはや望は顔面蒼白、冷や汗で全身がびっしょりと濡れて、まともな思考ができなくなっていく。
「先生?顔が真っ青ですよ、大丈夫ですか、先生?」
彼女の、可符香の呼び声が遠くに霞んで聞こえる。
(本当に、本当に好きだったんですけどね……そうですか…そうだったんですか……)
胸にぽっかりと穴が開いたような、そんな空虚な気持ちに支配されて、望の体から力が抜けていく。
「先生!!しっかりしてください、先生っ!!」
一方、さも望を心配するかのような呼びかけをしながら、可符香の内心は冷静だった。
(ほんと、先生は甘いなぁ…)
可符香は望の性格を熟知していた。
良く言えば純粋で素直、悪く言えば単純。
そんな彼の行動を、絶望教室の黒幕たる可符香が察知できない筈がない。
彼の性格ならば、九分九厘、自分がされたのと同じ事を彼女にも仕掛けてくる。
それに素直に応じてあげても良かったのだけれど、可符香は生来のいたずら好きだ。
望の行動の一枚上手を行って、彼を翻弄してやろうという思惑の方が強く働いた。
ポーカーフェイスは彼女の大の得意技。
それにいくら敏感な部分でも、ちょっと触られたぐらいならどうという事もない。
(先生ったら馬鹿だなぁ……私、好きでもない人とエッチな事したり、その上感じてる演技をするなんてしませんよ…)
なんて考えながら、可符香は内心でくすりと笑う。
今の望のうろたえ振りはそのまま可符香への愛情の裏返しだ。
(私、愛されてるんだなぁ……)
今にも泣き出しそうな望をよそに、可符香はすっかり幸せ気分に浸っていた。
ところが……。
(ふえ……っ!?)
不意に、思いがけない刺激が彼女を襲った。
さっきと同じ耳たぶに、さっき以上の繊細な手つきで望の指が触れ、絶妙な力加減でその部分を刺激したのだ。
その驚きと衝撃のあまりに、彼女は声を出す事さえ出来なかった。
しかし、それを望はまたしても無反応だったと解釈して、再度の愛撫を行う。

260:266
08/12/23 07:39:57 y8RSMO+c
(あ……あぁ………っ!!!!)
ついさっきまで演技を続けていた手前、次の刺激に対しても、可符香は声を上げる事が出来なかった。
表情もとりあえずは平静を装って、内心の動揺を押し隠す。
そんな彼女の前で、望はゆっくりと体を起こした。
「風浦さん…私は…私は……っ!!」
目がマジだ。
ここに至って可符香は事態を理解する。
(やばい…先生、追い詰めすぎちゃったかも……)
するり、静かに伸ばされた腕が可符香の体を抱き寄せる。
悲しげな瞳に見つめられ、両の腕で抱き寄せられて、可符香の心臓はバクバクとうるさいくらいに音を立てる。
それでも、彼女は今更、演技をやめる事が出来ない。
自分のいたずらで、そこまでの意図はなかったとはいえ、望を追い詰めてしまった後ろめたさ。
それに少しばかりの妙な意地が邪魔をして、彼女に素直な反応を許してくれない。
「……………」
彼女はただ沈黙し、いつも通りの笑顔を維持する。
望がもう少し冷静だったならば、彼女の頬に差したほのかな赤みに気付いたかもしれないが。
「風浦さんっ!!!」
「先生、顔怖いですよ?ほんとに、どうしちゃったんですか?」
強く強く呼びかける望の声と、素知らぬ振りの可符香の声。
一言弁解すればすぐに収まる、そんな程度のすれ違いが事態をあらぬ方向に転がしていく。
ただただ必死なばかりの望は、可符香の体に指を這わせ、彼の知る限りの彼女の弱点へと攻撃を試みる。
(ふ、風浦さんは多分私を嫌ってる……それなら、こんな行為許される筈がないのに……)
不安に揺らぐ思考の中でそんな事を考えながらも、望の指は止まらない。
かつて彼女とともに過ごした数々の夜の記憶を追い求めて、望は可符香の体を弄る。
一方の可符香の感情も複雑なものだった。
(今更、演技だったなんて言えない………)
いつもの柔軟な適応力は消え失せて、脱ぎ捨ててしまえばそれで全てが終わる筈の仮面をかぶり続ける。
しかも……。
(それに、先生だって私の気持ち、もう少し信用してくれてもいいのに……っ!!)
そんな小さな怒りが彼女をかつてないほど意固地にさせてしまっていた。
(私が先生を好きなんだって事、ちゃんと信じてくれないから……っ!!!)
その気持ちが、次々と押し寄せる刺激の波への防波堤となる。
腕の下側を、腋の下へと向けて一直線に望の指がなぞる。
力加減は触れるか触れないかほどの、じれったいぐらいの感触。
普段の可符香なら、思わず悩ましげな声を上げていただろうが……。
(……ぁ…ひぁ……あ……)
ゾクゾクとする刺激に声を上げそうになりながらも、外見ではあくまでもノーリアクション。
しかし、それは望のさらなる責めを誘発する。
腕をなぞった指先をざわめかせながら、次に向かうのは脇腹。
焦らすような微妙な力加減を維持しながら、望の手が何度も可符香の脇腹を上下する。
(……っく……でもっ…これぐらいぃ……っ!!)
反射的に身をくねらせそうになったのをぎりぎりで抑えて、可符香はひたすらに耐える。
「ちょっと、先生、くすぐったいですよぉ♪」
なんて、おどけた口調で答えて、あくまで動揺を見せようとしない。
だが、その減らず口を言う事に集中した意識の裏をかいて、望の右手は移動していた。
今度は背中だ。
また、つーっとじれったくなるぐらいの力加減で指先が背中をなぞる。
(………ひゃ…っ!!?)
この時、一瞬可符香の目が驚きに見開かれていたのだが、追い詰められた望は気付きもしない。
そのまま、指先をさまざまに使って、彼女の背中を愛撫する。
(…ひゃっ…ああっ……こ、こんな事…嫌いな人にさせるわけないのに…いい加減、先生気付いて…っ!!)
望の手のひら、指先に心も体も乱されながら、自分が仕掛けたいたずらは棚に上げて可符香は望の鈍感を恨む。
「…きゃっ…もう、先生、ほんとくすぐったいんですよぉ♪」
出てくる言葉は、暗に望を焦らせ、挑発するものばかりになってしまう。
それが事態をさらに泥沼化させる事など、すでに彼女の思考にはなかった。

261:266
08/12/23 07:40:40 y8RSMO+c
(…きゃうぅ…あああっ……こんな…焦らされてばかりいたら…私……っ!!)
今度は望の左の手の平が、大胆にも彼女の太ももの内側に伸びた。
決して秘めやかな場所へ立ち入る事はせず、敏感なももの内側の皮膚だけを徹底的に刺激する。
望の愛撫はいつも以上に繊細で、精密で、可符香の身も心も追い詰められるばかりなのだが
「だから先生、くすぐったいんですってばぁ…もうこれ、完全にセクハラですよ」
彼女はあくまでも意地を通して、平静な振りを保ち続ける。
実際のところ、既に彼女の頬は紅潮し、呼吸はだんだんと荒くなっていた。
可符香自身もそれを自覚していて、だからこそ、そんな自分の変化に気付かない望が憎らしくなってしまう。
(…あっ…やああっ…も…せんせ…だめ……っ!!)
今の可符香の体はぎりぎりまで張り詰めた糸も同然だった。
それを繋ぎ止めているのは、ひとえに彼女の望に対する健気な意地ばかり。
いまにも中の水が溢れ出そうな、なみなみと注がれたコップ。
決壊寸前のダム。
そんな彼女の状態を知る由もなく、望はさらなる行動に移る。
(あ…や…今、そこ、触られたら……)
望の両の手の平が、そっと彼女の胸に覆いかぶさる。
そして、分厚い冬服とブラの上からだというのに、彼の人差し指はその下でピンと張り詰めた彼女の胸の先のピンクの突起を捉える。
ぐん、と押し込まれた指にその突起は形を歪めさせられて、可符香の神経に電気が流れたような激感が襲い掛かる。
「………ぁ…」
ついに微かに漏れ出た声にも気付かず、望はさらに指の腹でそこをぐりぐりとこね回す。
ブラの裏地に擦られて、甘やかな刺激が可符香の胸いっぱいに広がり、そのまま全身を駆け巡る。
(…あ…も…だめぇ……っ!!)
限界だった。
最後に指先で先端を弾かれた刺激が、ついに可符香の強固な守りを突き崩す。
「………っああああああああああ!!!!!!」
我慢できずに声を上げた。
それに驚愕したのは、忍耐を続けてきた可符香よりも、むしろ望の方だった。
「…えっ?…あれ?…風浦さん……?」
そのままぐったりと自分に身を任せてへたり込んできた彼女の姿を見て、望はようやく気付き始める。
(わ、私は何かとんでもない間違いを……)
彼の思考は即座に事の真相には至らないまでも、自分の不安、彼女の好意が演技だったのではないかという考えが間違いだった事にたどり着く。
そして、その直後……。
「ひゃっ!!…ふ、風浦さん何をっ!?」
可符香の腕が望の体をぎゅーっと抱きしめた。
そして、ぽつりと一言。
「……せんせいの…ばかぁ…」
それは根競べに負けた可符香の、精一杯の望への抗議だった。
おぼろげに事態を理解し始めていた望は、申し訳なさと安堵が入り混じった声で
「すみませんでした……」
素直に謝った。
そんな望の体に、可符香はぎゅーっと顔を押し付けたまま、彼の耳の後ろにそっと手を伸ばし
「……あ…」
優しく触れた。
望はそんな彼女の手の平にそっと自分の手を重ねる。
ぬくもりを求め合うように、二人の手の平はそのまま指を絡ませ合う。
そして、残されたもう一本ずつの腕で、二人は互いの体を強く抱きしめた。
「本当にすみません…」
もう一度望が謝ると、可符香は答の代わりに握り合った手にきゅっと力を込めた。
全く、お互い何を必死になっていたのやら。
抱きしめ合うぬくもりに、二人はようやく心からの安堵を得たのであった。

262:266
08/12/23 07:44:42 y8RSMO+c
一本目はこれでお終いです。
それと、大事な注意点を忘れていました。
一本目の話はマガジン掲載の163話、まだコミックスに入ってない話が前提です。
いまさらの注意で申し訳ないです。
では、二本目、短くてエロがありません。
いってみます。

263:266
08/12/23 07:45:42 y8RSMO+c
さざ波ひとつない水鏡のような静寂の中に、私は足を踏み入れる。
見慣れた机、見慣れた椅子、見慣れた黒板。
いつも通りの教室が月の明かりに照らされて、いつもとは違う色の中に沈んでいる。
まるで忘れ去られた遺跡にいるような、不思議な気分。
カツコツ、と私が僅かに立てる足音も、水面に起こした波紋がいつかは拡散して消えるように、周囲の静寂に飲み込まれていく。
私は静かに椅子を動かして、いつもの自分の席につく。
「風浦さん」
「可符香ちゃん」
「あはは、可符香ちゃん」
「ねえ、風浦さん」
「よう、風浦」
「やあ、風浦さん」
目を閉じれば聞こえてくる。
この学校で、同じ時間を過ごす大切な友人達の呼び声。
そして、喧騒に満ちたこの場所の真ん中にいつもいるあの人の笑顔。
「先生……」
呟くと、あたたかな気持ちが胸に広がっていく。
自他共に超ポジティブと認める私にだって、胸が締め付けられるように苦しくて、眠れなくなる夜がある。
自分の背後にぽっかりと開いた穴の深さに、一人きりの布団の中で震えるしかない時がある。
でも、やっぱりポジティブシンキングが私の取り柄。
悪い事ばかり考えてしまう時には、楽しい場所に行けばいい。
誰もいないこの教室は、だけど、今の私の幸せの象徴で、中心だ。
ただこの教室に、この席に座っているだけで、私の胸の内に溢れ出てくる様々な想い。
それは今まで体験してきたみんなや先生との幸福な思い出であり、
これから待っているであろうみんなや先生と一緒の未来への予感だ。
ここにいて、ただその想いに身を委ねていれば、暗い気持ちなんてすぐにどこかに行ってしまう。
「……………」
だから、今私の頬を流れ落ちた熱い雫の感触は嘘っぱちで、
自分の体をぎゅっと抱きしめていなければどこかに吹き飛ばされてしまいそうなこの体の震えも当然偽物だ。
「大丈夫、私は幸せなんだから……」
ちょっと暗い気持ちになる事ぐらい、誰にでも良くある事。
それは私も例外じゃないけれど、それに囚われ過ぎるのは決して利口な事じゃない。
ポジティブに、明るく、楽しく。
そんな想いで心を満たしてくれるだけのものを、私は今の生活から得ているのだから。
「…あ…うあ……うわあああああああん……っ!!!」
大丈夫、これは、この涙は一時だけのもの。
大丈夫。
大丈夫。
大丈夫。
ぼろぼろと、顔を濡らす涙や鼻水、みっともなくてみんなには見せられないな。
だけど、時には素直に感情を吐き出すのも大切な事だと、どこかで聞いた事もある。
だからこれは大丈夫なんだ。
私の幸せに必要な、ごく当たり前の事。
だけど。
だけど、もし、吐き出しても吐き出しても止まらない涙が、今の私を形作る全てなのだとしたら……。
私の心を満たしているのは、このみっともなくて惨めな涙だけを満々と湛えた湖なのだとしたら……。
足元が崩れていくような、とてつもない恐怖が私を飲み込む。
「寒いな……」
私の心が涙の湖の底に沈んで消えていく。
そう思った、そんな時だった。
「…………あ…」
温かい手のひらが私の頬を拭って、私は顔を上げた。
「だ、だ、だ、大丈夫ですか!?」
耳に馴染んだ優しい声。
明らかに私を心配して動揺しているその声音のおかげで、その人が今、どんな表情をしているのか、
涙で霞んだ私の目でも、簡単に想像する事が出来る。
「どうしたんです、あなたは?こんな時間に学校で……」
言いながら、柔らかいハンカチが私の顔を拭う。

264:266
08/12/23 07:46:32 y8RSMO+c
そのハンカチを、まだもう少し涙の止まらない私に渡して、その人は私の顔を覗き込んだ。
「…せんせい……」
ようやく涙を拭い去った瞳で、私は先生の心配そうな顔を見つめる。
「本当にどうしたんです?何かあったんなら、私が相談に乗りますよ?」
ああ、やっぱりこの人は、先生は優しいな。
でも、その問いかけはちょっと答えるのが難しい。
「何でもないですよ、先生……」
「…な、何でもないのにあんなに泣く人がいますか!?」
ほら、本当の事を言ったのに信じてもらえない。
だから、私はいつもの笑顔をゆっくりと思い出しながら、こう答えるのだ。
「本当に何でもないんです。何でもないのに、こうなっちゃうから困ってるんです……」
私のその言葉に、先生はどうしても納得がいかないようで、でもどう言葉を返していいかわからなくて、結局辛そうに沈黙する。
だから、私はそんな先生を元気付けてあげたくて、いつものような軽い調子で話しかける。
「それより、これもいつもの私のいたずらかもしれませんよ。油断してていいんですか、先生?」
「教室に入ってきた私に気付かないぐらい本気で泣いてたのに、それはないでしょう?」
「気付いてないふりをしてたのかもしれませんよ?」
「それでも、泣いているあなたを放っておくより、こうした方が百万倍ましです」
生真面目に答えた先生のその言葉に、私の胸の奥が震えた。
「さあ、宿直室に行って何か甘くて温かいものでも飲みましょう」
そう言って、先生は私の肩を抱いて、ふらふらの私の体を支え起こす。
先生の腕の中、その温かさに包まれた私の瞳からは、完全に涙は消えていた。
たまらなく優しいぬくもりに包まれたこの場所で、私は再び思う。
先ほどまで頬を濡らした涙は、仮初めのものに過ぎないと強く確信する。
「私は時々不安になるんですよ。いつも明るく笑っているあなたの笑顔の影に、なんだかとても悲しい何かがよぎるような気がするんです」
だから、私は先生の心配そうなこんな言葉に、強い自信を持ってこう答えるのだ。
「いやだなぁ、先生。私は今、とっても幸せですよ」
なぜならば。
あなたが傍にいてくれるのなら、どんな恐怖も悲しみも、私に毛筋一本ほどの傷も負わせられないのだから。
あなたの傍にいる限り、私の胸の奥にはどんな強い風でも消せない、暖かな炎が宿り続けるのだから。あなたは知っていますか?
あなたがいる限り、私はこの先ずっとどんなものにだって負ける事は有り得ないんだって。
先生。
先生。
先生。
臆病な私の、素直に伝える事すら出来ないこの想いがある限り、私は絶対に幸福なんです。
「さあ、行きますよ」
私を支える先生の腕に、ぎゅっと力がこもるのを感じた。
その優しい感触に身を委ねて、先生と一緒に、私は宿直室に向かって歩き出した。

265:266
08/12/23 07:47:27 y8RSMO+c
これでお終いです。
失礼いたしました。

266:名無しさん@ピンキー
08/12/23 19:56:12 O4uuxh26
この空気の中投下してくれた>>266を俺はきっと忘れない
可符香好きなのでよかったよ、GJ!

267:名無しさん@ピンキー
08/12/23 22:13:47 eCOVABV0
ありがとう266
お前の男気に感動した!
いまからss作るぜ!

268:名無しさん@ピンキー
08/12/24 02:34:16 3mY7VIV7
流れ切って悪いんだけど
望が智恵先生とヤるために生徒達数人とHする話ってなかったっけ

269:名無しさん@ピンキー
08/12/24 09:40:59 3mYGWWZy
保管庫にある
「非はまた望」

270:名無しさん@ピンキー
08/12/24 20:04:12 HCyE3fe0
>>266GJ!
カフカせつなす

271:266
08/12/24 22:57:07 UNDVWqEs
また書いてきました。
エロじゃなくて申し訳ないですが、2のへのクリスマスの話です。
望カフ成分を含有しています。
それでは、いってみます。

272:266
08/12/24 22:57:55 UNDVWqEs
抜き足、差し足、気配を忍ばせて、人気のない廊下を望は進む。
目的地はもうすぐ目の前、ほとんどの電気が消されて真っ暗な学校の中で、唯一明かりの点いている場所。
彼の受け持つクラス、2のへの教室からは室内の煌々とした光が漏れて、暗い廊下を照らし出している。
そこから聞こえる、少年少女達の声。
本当に楽しそうなパーティーの喧騒。
その様子を伺いながら、望は一歩、また一歩と教室に近づいていく。
「べ、別に寂しいとかじゃないんですからねっ!ただ、何か問題があったら、やっぱり担任の私が責任を取らされるわけですから……」
誰に咎められたわけでもないのに、しきりに言い訳を口にする望。
教室の明かりを見つめる彼の眼差しには、明らかな羨望の色が含まれていた。
「ほんと、クリスマスとか興味ないんですから……私にとっては苦痛なだけなんですからっ!!」
そんな事を呟きながら、望はじりじりと教室に接近していく。
なんでこんな事をしているのやら、自分でも情けないぐらいだ。
望は教室へと歩を進めながら、今日の昼の出来事を思い出す。

「先生はクリスマスパーティー、参加しなくてもいいですよ」
にっこりと笑って、可符香が言った言葉の意味を、望は一瞬理解できなかった。
「はい?えっと、それはどういう…」
「先生ってクリスマスにトラウマがあるじゃないですか。だから、クリスマスパーティーに参加しなくていいって、そういう事です」
確かに可符香の言うとおり、望にとってクリスマスは素直に喜べるイベントではない。
彼の誕生日、11月4日から、赤ん坊が大きくなって母親のおなかから生まれてくるまでの十月十日を遡ると、ぴったりとクリスマスイブに重なる。
自分はクリスマスに浮かれた両親が勢いで作った子供ではないのか。
学生時代に友人にそう指摘されて以来、望はクリスマスを素直に楽しめなくなってしまった。
それは事実なのだけれど……。
「私たちがクリスマスに向けて準備しているのは先生も知ってると思いますけど、だからって気を使って無理に参加する必要なんて全然ないんです」
「え、ええ……それはわざわざお気遣いどうも……」
こうもはっきりと来なくていいなんて言われてしまうと、流石に辛くなってしまう。
彼のクラスの生徒達は年中行事などの際には望の所に押しかけて、わいわいと騒ぐのがお決まりとなっている。
それをいきなり、こんなに素っ気無くされてしまうと……
「会場にはこの教室を使うつもりです。もうちゃんと学校の許可も取ってありますから、先生は宿直室でのんびりしててください」
「そ、そうですか…でも、学校を使うのなら誰か監督する人がいないと…」
「それも大丈夫です。智恵先生も参加する予定になってますから」
そう言われると、もう望はぐうの音も出ない。
今年のクリスマスの集いに、望が介入する余地は全く無いという事だ。
「それじゃあ、私もみんなと一緒に買出しに行かなくちゃならないので…」
「あ、は、はい、気をつけて行くんですよ」
そして、用件を伝え終えた可符香はくるりと踵を返して、望の元から去っていった。
残された望の胸中には、なんとも釈然としない感情だけが残されていた。

終業式を終えた学校の廊下は昼間だというのに静かで、そこを歩く望にさらなる孤独感を募らせる。
「毎年ごねてましたからね、愛想を尽かされたという事でしょうか」
望がクリスマスのイベントを嫌がるのは、ほとんど毎年の風物詩になっていた。
そろそろ、生徒達もそんな望に飽き飽きしたのだろう。
今年は言われたとおりに静かにしていよう。
そう思って、望が宿直室の扉を開けると
ふわっ
香ばしい匂いが望の鼻腔をくすぐった。
「あ、先生、おかえりなさい」
宿直室の中、炊事スペースに立っていた霧が振り返って望に声をかけた。
どうやら料理の真っ最中らしいが、コンロにかけられた大なべは明らかに望や交達だけで食べるには大きすぎる。
「クリスマス用の料理を作ってるところだよ。パーティーにはみんなで料理を持ち寄るの……」
霧が嬉しそうに言ってから、急にハッとなった様子で
「あ、先生は参加しないんだったね………」
悲しそうにそんな事を言う。

273:266
08/12/24 23:00:02 UNDVWqEs
「い、いえ、別にそんな事は気にしなくていいんです。どうせ、私、クリスマスは苦手なんですから…」
「先生の分、ちゃんと置いていくから、きっと美味しいから、ちゃんと食べてね」
「ありがとうございます、小森さん…ところで、そういえば交の姿が見えないようですけど……」
どこにいるとも知れない兄から預かっている甥っ子の姿が見えない事に気づいて、望がたずねる。
「ああ、交君なら先生と入れ違いに教室へ行ったよ」
「教室へ?」
「うん、パーティーの飾りつけを手伝うって言ってた」
という事は、霧も交もクリスマスパーティーに参加するという事だ。
まあ、考えてみれば当然だろう。
特にまだ小さな交にとって、クリスマスは心待ちにしていたイベントのはずだ。
(仕方がありませんね。今夜は一人ぼっちですか…)
望は小さく、ため息をついた。

その後も、仕事の合間に校舎を歩いているときに、家庭科室で料理をしたり、玄関からツリーを運び入れる生徒達の姿を何度も目にした。
じわじわと望を蝕んでいく孤独感と寂寥感。
あまりにいたたまれなくて宿直室に戻ってみると、既にそこには霧の姿はなかった。
ちゃぶ台の上には、じっくり煮込まれたミネストローネと、ハンバーグのトマト煮込みがラップをかけられて置かれていた。
『温めて食べてください。先生を残してパーティーに行ってごめんなさい―霧』
置手紙を読むと、改めて一人ぼっちになった実感が湧いてくる。
「うう、寂しいです…孤独です……ああ、もう死んじゃおっかなぁ…」
そんな事を呟いても、かまってくれる人間は当然ゼロ。
望は一人むなしく部屋の隅で体育座りをする。
「ああ、でも……そうだ、一人いるじゃないですか、私の近くにいる人がまだ…」
と、そこで望はとある人物の事を思い出した。
「常月さーんっ!常月さーんっ!!」
常月まとい、望に四六時中付きまとう彼女と、この孤独な聖夜を耐え忍ぼう。
ところが……
「常月さん?いないんですかー?」
何度名前を呼んでも、待てど暮らせど返事が無い。
「まさか…彼女まで……」
常に彼女に監視されているような状況がかなりアレだった事は事実だけれど、何もこんな時にいなくならなくても……。
和やかな時間を提供してくれる、霧や交の姿も無く、ストーカー少女にまで見放されてしまった。
うら寂れた宿直室の片隅で、望はついに本当の一人ぼっちになってしまった。

というわけで、あまりの孤独感に耐えかねた望は、自分の心に何かと言い訳をしながら、静かにパーティー会場に忍び寄っていた。
早くあの教室に入ろう。
それで、クリスマスなんてやっぱり楽しくないとゴネて、生徒達にからかわれたりしよう。
さびしいのは、もう絶対に御免だった。
「さあ、行きますよ……」
望の手が教室の扉にかかる。
そのままゆっくりと扉を開こうとした、その時だった。
ガラララッ!!!!
「えっ!!?」
望が開くより早く、教室の扉が勢いよく開いた。
そして、仲から伸びたいくつもの手が、望を掴んだ。

274:266
08/12/24 23:01:37 UNDVWqEs
「うわわわわわわわっ!!!!」
抵抗する暇も無く教室に引きずり込まれ、尻餅をついた望が見たのは、彼のクラスの生徒達の満面の笑顔。
「メリークリスマス、先生っ!!」
その真ん中に立っていた少女、風浦可符香が明るい声で言った。
「こ、これは一体どういう……って、うわあっ!!」
訳がわからないまま問いかける望の声を無視して、誰かが望の左腕に縋り付いた。
「ああ、やっぱり私を追いかけて来てくれたんですね、先生……」
「つ、常月さんっ!?」
すると、今度は望の右腕を別の誰かがぐいっと引っ張る。
「違うよっ!先生は私のために来てくれたんだよっ!!!」
「小森さん、お、落ち着いてくださいっ!!」
火花をバチバチと散らす霧とまといの間に挟まれて、望はおろおろとうろたえる。
そんな3人を見ながらくすくすと楽しそうに笑う周囲の生徒達の様子に、望の混乱は深まるばかりだ。
「何なんですか、これは?一体何がどうなってるんですっ!?」
再び叫んだ望の疑問に答えてくれたのは藤吉晴美だった。
「つまり、先生は罠にはまったんですよ」
「罠?」
「そう、普通に誘ったんじゃ絶対に嫌がる先生を、クリスマスパーティーに参加したくなるようにする罠です」
そう言われて望は思い出す。
そう言えば、今日に限って霧も交も、まといさえもいなくなってしまった事。
さらに決定的なのは、昼間に言われたあの言葉。
『先生はクリスマスパーティー、参加しなくてもいいですよ』
今思い出してみれば、あそこで突き放されたのが、望の調子が狂い始めたそもそもの始まりのような気がする。
会場がわざわざ学校だったのも、望に準備の様子やパーティーの賑わいを見せるため、
さらには望が参加したくなった時、すぐに行ける場所という条件で選ばれたのだろう。
「というわけで、今回の件についてはみんなの共犯なんですけど、そもそものアイデアを出したのは…」
そう言って晴美が指し示した人物は…
「えへへ、ちゃんと先生が来てくれて良かったです」
にっこりと笑う、風浦可符香その人だった。
望はその可符香の笑顔に苦笑を返しながら立ち上がる。
「そういう事だったんですか……見事、やられちゃいましたね…」
全て彼の生徒達の手の平の上だったという事か。
散々、寂しい思いをさせられたせいで、クリスマスに対する鬱屈が気にならなくなっているのも、恐らくは計算の内なのだろう。
教室の中を見渡せば、クラスの普通の生徒達だけでなく、天下り様やら娘々、それにマリアの友人らしい褐色の肌の少女や、
2のほの万世橋わたる、ついでに景と命、望の二人の兄達までが参加している。
「それじゃあ、途中からの参加ですが、私も楽しませてもらいますよ」
望が恥ずかしそうにそう言うと、教室中が歓声に沸き上がる。
2のへのクリスマスパーティーはここからが本番だった。

2のへのクリスマスイブの大騒ぎは、望の途中参加によってさらに加速した。
特に望の周囲には彼を慕う女子生徒達が集まり、きゃあきゃあと悲鳴を上げながら望を玩具にしていた。
左右の腕を掴む霧とまといに加えて、背後からあびるが望の首に包帯を巻きつけてきて、望はほとんど身動きが取れなくなってしまった。
それを面白がって他の女子生徒、大草さんや晴美が突っつきまわす。
さらに、その輪に入ろうと奈美が近付いて来たのだが、
緑色に塗られオーナメントをぶら下げてっぺんに星を装備したクリスマス仕様のバットを振り上げて、
頬を真っ赤に染めて突っ込んでくる真夜に吹っ飛ばされてしまった。
鋭いスイングを食らって悲鳴を上げる望を見て、料理にむしゃぶりついていたマリアがけらけらと笑った。
別の一角ではこの機会に一儲けしてやろうと商売道具を持ち込んだ美子と翔子が、
自己流サンタスタイル(ゴーギャンの絵のような極彩色、膝からトナカイの頭が出てる)で決めた木野に
話しかけられてどう対処していいかわからずオロオロとしていた。
それを何故だか褒められたのだと勘違いした木野が、今度は愛のいる方に向かうと
「す、す、すみません~っ!!!」
と言いながら、彼女は卒倒してしまった。

275:266
08/12/24 23:03:06 UNDVWqEs
訳がわからずうろたえる木野だったが、倒れてきた愛の体をキャッチできたので、その辺はラッキーだったと言えた。
カエレはミニスカートのサンタルックだったのだが。
「なんで下に白タイツ穿いてんだよっ!義務を果たせよ、パンツッ!!!」
「だからパンツって言わないでよ、訴えるわよっ!!!」
衣服の一部仕様に激怒した臼井と激しく言い争っていた。
そんなカエレの白タイツの脚を眺めていた芳賀が、
「白タイツってのもオツなもんだと思うけどな…」
なんて事を呟いていた。
クリスマスに着想を得て話し始めた久藤准の今夜のお話は、いつもの泣ける話、悲しい話ではなく幸せで心温まるストーリー。
「もっと話してくれよ、久藤の兄ちゃんっ!!」
交にせっつかされて、准は次々とお話を紡ぎ出す。
周囲には、智恵先生や、芽留、万世橋、それにいつの間にか潜り込んでいた一旧など、何人もの人たちが彼の話に聞き入っていた。

「ねえ、そろそろケーキを切り分けた方がいいんじゃない?」
パーティーが盛り上がる中、そう言ってみんなに呼びかけたのは晴美だった。
「そうね、じゃあ私がきっちり全員平等になるよう切り分けて……」
「ひとつのケーキを全員の人数分で薄切りにするつもりなんでしょ、千里」
「うっ……だ、だったら他にどうやって分ければいいのよっ!!」
ケーキは各人が家で作ったり、ケーキ屋で買ってきたりしたものが十数個あった。
打ち合わせが不十分だったせいで、みんなが気を使いすぎてこの人数で食べるには少し多めのケーキが集まっていた。
「だからきっちり打ち合わせしなさいって言ったのに……」
「千里、この際それはどうでも良いんじゃないの?」
「何よ、晴美!どうでもいいわけないでしょっ!!」
「大事なのは、誰に食べてもらえるかじゃないの、千里?」
「えっ?」
晴美は睨み付けてくる千里ににこりと笑って
「千里もケーキ作ってきたんじゃない。どうせなら、先生に食べてもらいたいわよね?」
晴美の言った通り、千里は自分でケーキを作ってきていた。
もちろん、望にたっぷり食べてもらえるなら、それに越した事はないのだけれど……。
「で、でも、ちゃんときっちり分けないと…」
「いつもの押しの強さはどうしたのよ?せっかくのチャンスじゃない」
晴美に促されて、顔を赤く染めた千里がこっくりとうなずいた。
包丁片手に自作のケーキの前に立ち、臆病なぐらいの慎重さで望の分のケーキを切り分ける。
「それじゃあ、残りはこっちで切り分けとくから、行って来なよ、千里」
「あ、うん……」
ケーキを載せた皿を持って、がちがちに固まっている千里の肩を、晴美がぽんと押してやる。
千里はケーキを持って、女子達に弄ばれてズタボロの望のところへ。
「せ、先生、食べてください……」
ケーキ皿をぐいと望に差し出した。
「あ、ありがとうございます。それでは……」
ケーキを受け取った望は、千里の緊張が伝染したみたいにおずおずとフォークでケーキを一口分、口に運ぶ。
「どうですか?」
「はい、おいしいです。とっても美味しいですよ、木津さん」
望のその言葉を聞いて、千里の顔がぱっとほころぶ。
本当に嬉しそうな千里の顔を見ていると、望もなんだか気分が良かった。
「そのサンタのマジパン細工も自信作なんです、ちょっと食べてみてください」
「そうなんですか?では……」
にこにこ顔の千里に促されて、今度はサンタの砂糖菓子を口に運ぶ。
一口では食べきれないので、首のあたりでパキリと折ってしまう。
すると……

276:266
08/12/24 23:03:52 UNDVWqEs
「うわあああ、こ、これは何ですかっ!?」
悲鳴を上げた望に、千里は嬉しそうに笑って答える。
「どうですか、すごいでしょう?」
首のところで折れたサンタのマジパン細工、その断面から赤黒い何かが流れ出ている。
「ただのイチゴシロップだと実際とは色が違っちゃいますから、再現には苦労しました」
そのサンタは、体を流れる血液から、臓器や骨まで全て再現されていた。
血液がわりのシロップが染み出さないように、まず外側だけを作って、内側にうすくホワイトチョコをコーティングしたそうだ。
「そのホワイトチョコがいい感じに脂肪の雰囲気を再現して、予想以上の出来栄えでしょう?」
「そ、そ、そうですね……」
食べないとどんな事をされるかわからないので、望はなるべく断面を見ないようにしながらサンタの残りの部分を食べた。
口の中で噛み砕くと、内臓を再現したグミの感触がやけに生々しく口に残った。
「先生に満足してもらえて、私とっても嬉しいです」
「そ、そうですか、それはなによりです………」
ようやくサンタを飲み込んだ後では、甘くとろける筈の千里のケーキの味が何となく無味乾燥なものに望むには思えたのだった。

ようやく千里のケーキを食べ終えた望は、今度は糸色家の兄妹達、景、命、倫の集まる一角に向かった。
「ふわ~っ!!やっといらっしゃったのれすね、おにいさまぁ~」
「ちょ、倫、どうしたんですか……って、お酒臭い?」
いきなり妹に抱きつかれて、望はうろたえた。
しかもあからさまなまでの酒の臭い、景はともかくいい大人の命がついていながら、どうしてこんな有様に……。
「どういう事ですか、命兄さん、倫にお酒なんて飲ませてっ!!」
「ろうもこうも…倫がぁ…呑みたいっていうもんらからぁ……」
酔っ払ってやがる。
仕方なく景の方をにらむと、こちらもほろ酔い加減でニヤニヤと笑っていた。
「いや、最初は俺が呑ませたんだよ。ちょっとぐらいなら付き合ってもらってもいいかなって…」
「いいわけないでしょう、景兄さんっ!!」
倫に最初に酒を勧めたのは景だった。
無論、横で見ていた命は止めようとしたのだが……
『いいじゃありませんの、命お兄様…これくらい嗜み程度には呑めなくては糸色の女は務まりませんわ』
そう言って、くいっと一息に倫はグラスを空にしてしまった。
さらに……
『さ、命お兄様も一杯いかがですか?』
慣れない酒に頬を上気させ、上目遣いにこちらを見てくる倫の姿に、命は一発でやられてしまった。
『そ、そうか…すまないな』
なんて言いながら、愛しの妹が注いだ酒を飲み干した。
『うふふ、さすが命お兄様は大人ですわね…素敵な呑みっぷりでしたわ…』
そして、自分の方を見て微笑む倫に完全に骨抜きにされてしまった。
後はそのままズルズルと、倫も命も酒に飲まれていったわけだ。
「止めてくださいよ、景兄さんっ!!」
「そうは言っても、あんなに楽しそうに飲んでるのを邪魔したくなかったしな……」
一向に話が噛み合わない景との会話を続けていた望に、今度は命が抱きついてきた。
「望ぅ、クリスマス、楽しんでるかぁ?」
「ちょ、兄さんまで…やめてくださいよっ!!」
逃れようとじたばたともがく望だが、倫と命は望むの体にしっかりとしがみついて離れない。
「おにいさまは、じぶんがクリスマスにいきおいでつくられたこどもだから、クリスマスが苦手なんでしたわよね?」
「そうですよ、それがどうかしましたかっ!!?」
「悲しいぞ望、それがなければお前は生まれなかったというのに……」
「いや、命兄さん、そういう問題じゃないですから…」
「いやですわ、おにいさまがうまれてこないなんていやですわぁ~」
「私も嫌だぁ…望、そんな悲しい事言わないでくれぇ~」
変なスイッチが入ってしまったらしく、泣きながら縋り付いてくる兄と妹に望はもみくちゃにされる。
「望ぅ、大好きだぞぉ~」
「わたくしも…おにいさまのことすきぃ~」
「いい加減にしてください、酔っ払いども…景兄さんも笑ってないで助けてくださいよぉ…っ!!!」
ある意味、これ以上ないぐらい仲睦まじい弟妹たちの様子を見ながら、景は嬉しそうに笑って杯を傾けるのだった。


277:266
08/12/24 23:04:34 UNDVWqEs
暴走兄妹の魔の手から命からがら逃れた望は、教室の壁際に立って一休みしていた。
ここに来てからせいぜい2時間も経っていないというのに、もうクタクタだ。
周囲の騒ぎから一歩身を引いて頭を冷やしていると、可符香が小走りに望のところにやって来た。
「楽しんでますか、先生?」
にっこりと笑ってそう問いかけた彼女。
「そうですね…こんなのは私も久しぶりですから、よくわからないんですが……」
望は少し悩んでからこう答える。
「でも、まあ、みなさんに散々引っ張りまわされたおかげで、トラウマなんて思い出す暇もなかったのは確かですね…」
そんな望の答に、可符香は嬉しそうに微笑んで見せる。
それから、彼女は何かを思い出したような顔になって
「そう言えば、この後はプレゼント交換ですね」
そう言った。
「そうなんですか?困ったな、私は何も用意してないですよ」
「先生はこういう形での参加だったんですから、仕方がないですよ」
「まあ、そうですねぇ……でも…」
すると、望は突然、可符香の肩をそっと抱き寄せて
「あなたぐらいには、何かプレゼントしてあげたいんですが……」
「えっ?」
可符香が、望の意図を察する前に、望の唇が可符香の唇に触れた。
「メリークリスマス、風浦さん……」
「ふえ…あ……」
ゆっくりと事態を理解して、可符香の顔が赤く染まっていく。
「だ、誰かに見られたらどうするんですか、先生………っ!!」
「大丈夫、こういう騒ぎの中では、案外目立たないものなんですよ」
いつになく動揺した可符香に、望は微笑んでウインクする。
可符香はさきほどの感触を確かめるように、そっと自分の唇に触れて、そのまま俯いてしまった。
「ありがとうございました、風浦さん…久しぶりにクリスマスらしいクリスマスでしたよ……」
「ど、どういたしまして…せんせい……」
と、そんな時だった。
「それでは、そろそろプレゼント交換を行いまーすっ!!」
集められたプレゼントを整理する千里の横で、晴美がみんなに向かって呼びかけた。
「おっと、そろそろ始まるみたいですね。風浦さん、あなたも行ったほうがいいですよ」
「そうですね……でも、本当は先生にも参加してほしいんですけど……」
「まあ、私も今はそういう気分なんですが、今更プレゼントを買いには行けませんし……」
残念そうにそう言った望に、俯いていた顔を上げ可符香が答える。
「いやだなぁ、先生、プレゼントならもうここにあるじゃないですか」
「へっ?」
そして望は気がつく。
彼女の顔に浮かぶ笑顔に先ほどまでの恥じらいはなく、いつも悪戯を仕掛けてくる時のような輝きが瞳に宿っている事に。
「ちょっと待ってくださーいっ!!先生も、プレゼント交換に参加するそうですっ!!」
「ええっ!!ちょ、風浦さんっ!?」
可符香の言葉で、教室中の視線が一気に望に集まる。
「そのプレゼントとはなんと……」
そして、そこで彼女が指差したのは…
「先生自身っ!!!先生がプレゼント分を体で支払うそうですっ!!!!」
「ふ、ふ、風浦さあああんっ!!!!!」
驚きの声を上げた望は、いつの間にか自分の首に何かが巻かれている事に気がつく。
それは、クリスマスプレゼントの包装に使われる、真っ赤な可愛いリボンだった。
「ちょ、みなさん落ち着きましょう……そんな、人間を物みたいに扱う事、許されるはずが……」
教室中の女子が、ゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえたような気がした。
「それじゃあ、先生、私も先生狙いでがんばりますからっ!!!」
となりを見ると、可符香がそんな事を言って微笑んできた。
もう、これは逃れようの無い運命であるらしい。
糸色望の長い長いクリスマスイブの夜は、これから始まるのであった。

278:266
08/12/24 23:05:41 UNDVWqEs
これでお終いです。
ご覧になってくださったみなさんにメリークリスマス!
それでは、この辺で失礼いたします。

279:名無しさん@ピンキー
08/12/25 00:24:10 +h9AS2Rd
GJ
ほのぼのしてていいね

なるべくなら間を置いて投下したいがクリスマスネタだから今じゃないと…もう25日だし
しかも1レス小ネタのはずが2レスになってしまったorz

280:2レス劇場「聖なる夜をあなたと」(1/2)
08/12/25 00:31:46 +h9AS2Rd
可符香「先生、着庄日おめでとうございます!」
絶望「いきなり喧嘩売ってますね」
可符香「先生のお父様とお母様の共同作業の成果ですよ、素晴らしいじゃないですか」
絶望「共同作業はクリスマスツリーを飾る程度にして欲しかったですよ」
可符香「当時は子供が3人もいましたしね」
絶望「3人も生んどいてクリスマスにハッスルとか言うな!」
可符香「言ってません」
絶望「だいたいですね、西洋の慣習を持ち込んだ挙げ句、それをセックスの日にしてしまう日本がおかしいんですよ!」
可符香「わあ先生、豪快なセクハラですね!」
絶望「商店街のクリスマスツリーをあなたも見たでしょう?」
可符香「クリスマスって感じがしますよね」
絶望「あれは『ケーキを買え』『レストランを予約しろ』などといった脅迫ですよ!そしてクリスマスイヴには恋人といないと世間様に後ろ指を指されます!」
可符香「それでは私たちも後ろ指を指されてるんですか?」
絶望「独り者ですから当然ですよ!絶望した!ふしだらな文化を持つ日本に絶望した!!」
可符香「そうそう、今日はそんな可哀想な先生にお願い事があって来ました」
絶望「…お願い?」
可符香「はい、ちょっとした共同作業です」

281:3レス劇場「聖なる夜をあなたと」(2/3)
08/12/25 00:39:03 +h9AS2Rd
絶望「クリスマスに共同作業って…(どきどき」可符香「クリスマスの私たちにぴったりの共同作業なんですけど」
絶望「まさか…(ごくり)…いえ、私もこれでもきょ、教育者のはしくれですから、お、お断りします!」
可符香「そんなあ先生、一緒に列車旅行した仲じゃないですか~」
絶望「それはその…」
可符香「…分かりました。では他の人に頼むことにします」
絶望「!?それだけは駄目です!」
可符香「え、どうしてですか?」
絶望「ど、どうしてって……もう良いです、私が引き受けます!」
可符香「本当ですか!じゃあ服を脱いでください!」ぐいぐい
絶望「え、こんなところで!?もっと優しくお願いしますっ!」

282:3レス劇場「聖なる夜をあなたと」(3/3)
08/12/25 00:41:56 +h9AS2Rd


可符香「わあ、よく似合ってますよ先生」
絶望「…何ですかこれは」
可符香「トナカイさんの着ぐるみです」
絶望「見れば分かります!あとそこにあるのは…」
可符香「そりと袋です」
絶望「そしてあなたの格好は…」
可符香「もちろんサンタさんです!ふふふ、似合ってますか?」
絶望「共同作業ってまさか…」
可符香「クリスマスですもの、全国の子どもたちに夢と希望と現実を!」
絶望「もうグダグダですから!」
可符香「それ、出発しんこー!」ぴしーん
絶望「痛い!鞭打たないで!絶望した!クリスマスに絶望したぁ!」

283:名無しさん@ピンキー
08/12/25 00:46:02 +h9AS2Rd
おしまい

そして結局2レスでギリギリはみ出したので3レスになるというグダグダっぷりに泣いた
小ネタなのに

284:糸色 望 ◆7ddpnnnyUk
08/12/25 06:39:00 zl1rX9EP
望「私のトルコンは中間速度域での加速力低下を抑える設計で、変速段での運転で高速まで
引っ張ることの出来るタイプのトルコンが採用されています。このため、起動トルクが弱くなります。
コンバータはDW14E/C形で、構造は変速1段・直結2段の多段式で、コンバータは1段5要素です。
発進時にはトルコンを長々と空回りさせながら、数拍おいてゆっくりと動き出す有様です。
このため、3段6要素のトルコンを搭載した勝 改蔵と比較して出足が悪いように見えます。

このような構成ですので、鞭を打たれても速く走れといわれても無理があります。
何故なら、起動直後の特性が不利という欠点があるからです。」

285:糸色 望 ◆7ddpnnnyUk
08/12/25 06:49:32 zl1rX9EP
しかし、少し動き出すと、勝 改蔵や可符香や千里や真理谷 四郎では急激にトルクが低下し、
加速力が落ちますが、ルルーシュや糸色 望、ギンコでは比較的落ちが緩やかであるため、
15km/hあたりからは、勝 改蔵、可符香、千里、真理谷 四郎の編成を大きく引き離すことになります。

50km/h域での動輪周引張力では、ギンコと改蔵で比較してみますと、改蔵が約900kgに対しギンコは約1,240kg、
セバスチャン・ミカエリスと糸色 望で比較してみますと、セバスチャンが約1,800kgに対し望が約3,840kgと逆転しており、
本来は、特急用の変速機から流用したが故の、中間速度域での性能をより重視した特性が現れています。

286:名無しさん@ピンキー
08/12/25 20:31:49 4cKeAbup
>>278
実際にありそうな話で脳内にその風景が自然と浮かんでくるいい作品です。久しぶりに心温まる作品を読ませていただきました。

287:名無しさん@ピンキー
08/12/25 23:47:34 G5xQ96Nf
こんなスレだけど投稿してくれてアリガトオ

288:名無しさん@ピンキー
08/12/29 21:56:34 wbIYzRvA
ここにきて過疎…

289:名無しさん@ピンキー
08/12/30 09:33:39 /BJVWnTT
やだなぁ、職人さんがいるこのスレで過疎なんてことありませんよ
ネタを冬の祭典の出し物に注ぎ込んでしまっただけですよ

290:名無しさん@ピンキー
08/12/30 14:17:47 QXzwft/W
圧縮近いな。
大丈夫だと思うけど、保守。

291:266
08/12/30 14:57:36 u4lt1JGc
書いてきました。
万世橋×めるめるのエロなし、短いやつです。
本当は、別カップリングのエロ有りを書きたかったんですが、実家に帰らなくてはならず、タイムアップ。
なんか、申し訳ないです。すみません。


292:266
08/12/30 14:58:17 u4lt1JGc
芽留は元旦が苦手だった。
別に何かトラウマがあるとか、そういう話ではない。
いわゆる『あけおめメール』のせいだ。
年始の挨拶を携帯電話のメールや通話で行おうとする人が多すぎて、毎年起こるお馴染みの大混乱。
そのために毎年、年明けの瞬間からしばらく、彼女の唯一のコミュニケーション手段である
携帯メールはほとんど使用不可能の状態に陥ってしまう。
携帯各社もメールの送信に制限をかけたり、通話・メールを控えるように呼びかけるだけで、
根本的な対策は打ち出せていないのが現状だ。
今日は12月31日、大晦日。
時間は既に23時57分、もう少しで新しい年が始まる。
芽留はベッドの上に体を投げ出して、ぼんやりと除夜の鐘が鳴り響く音を聞いていた。
毎年毎年、同じような無力感に苛まれ続けた芽留は、最近ではすっかり諦めモードに入って、
年が明けてしばらくした後、確実にメールを送れるようになるまで待つのが通例になっていた。
本当は、クラスの仲間たちに、大好きな友達達に、少しでも早く『あけましておめでとう』と、そう伝えたいのだけれど……。
それでも、芽留が携帯を強く握って手放さないのは、今の芽留にどうしても、
できるだけ早くその言葉を伝えたい相手がいるからだ。
【無事に年を越せたみたいだな。一応言っといてやるぜ。あけましておめでとう、だ。キモオタ!!】
文面だけは既に打ち込んであるメールを眺めて、芽留はため息をつく。
(もうちょっと、うちの親父がマトモなら、直接会って伝えるって方法もあるのになぁ……)
芽留の父親は、彼女を溺愛していた、それも間違った感じに。
娘に近付く不埒な輩は全てぶっ飛ばす。
本気でそんな事を考えている彼にとって、芽留と最近親密になったその人物はまさに最大の敵だった。
『めるめる、お正月は私といっしょに初詣に行こうな』
なんていつも以上にしつこく言ってきたのは、芽留を、彼女をアイツに会わせないためだ。
何かと化け物じみた父親を相手に、芽留もこっそりと家を抜け出せる自信はなかった。
【というわけで、お前の初詣には付き合ってやれそうにないから…】
アイツにも、その辺の事情は断っておいたのだが、それに対するアイツの返事は…
「そうか、じゃあ、仕方がないな」
味も素っ気もない返事に、あの後、芽留はずいぶんと腹を立てたものだけど
(やっぱり…会いたい……)
今となっては、そんな思いがつのるばかりだ。
しかし、親バカにしてバカ親の極致たる彼女の父親の事だ。
我が娘を逃すまいと、どうやら家の中は結構な警戒態勢のようだ。
その上、彼女の母にも、今度の元旦は家族3人で初詣に行こうなんて伝えておいて、
家族みんなでの約束という既成事実で、芽留を絡め取る作戦に出ていた。
(もう、諦めるしかないよなぁ……)
芽留の口からまたこぼれ出る、深い深いため息。
すっかり意気消沈した芽留は、むなしく鳴り響く除夜の鐘に耳を傾ける。
(わたるの…バカ野郎ぅ……)
心の中で、芽留は今はここにいない、アイツへと悪態をつく。
百八回目の鐘が鳴った。
年が明けた。
そんな時だった。
ピンポ~ン。
こんな時間にはそぐわない、玄関のチャイムの間の抜けた音が鳴り響いた。
(へ……?)
不思議に思って顔を上げた芽留の耳に、今度は父親の素っ頓狂な声が聞こえてきた。
「誰だこんな時間に………って、お前はあああああああっ!!?」
驚いてベッドから飛び上がった芽留は、携帯を片手に自分の部屋の外へ。

293:266
08/12/30 14:58:54 u4lt1JGc
一階への階段をとたたたたた、と降りて、玄関にたどり着くと、そこで待っていたのは……。
「よう」
【わ、わたるぅ……?】
ごついコートを着込んで、首にマフラーなんぞ巻きつけて、芽留の待っていたアイツ、
万世橋わたるがそこに立っていた。
初詣には行けないっていったら、あんなに素っ気ない返事を返してきたのに、一体どうして……?
呆然と立ち尽くす芽留に、わたるはニヤリと笑って
「行くぞ、初詣」
そう言った。
【えっ!?でも、オレは……】
「何だよ、家から出られそうにないっていうから、こっちから迎えに来てやったのに…」
その言葉に芽留の胸が熱くなる。
(そっか…そうだな、コイツはこういう奴だった……)
自分が伝えたあんな言葉程度で、止まってくれるような奴じゃなかった。
嬉しさがこみ上げて、両手でぎゅうっと携帯電話を握り締めていた芽留に、わたるが言う。
「どうした、行くのか、行かないのか?」
【い、行くにきまってんだろ!!】
「それなら、さっさと準備をして来い」
わたるに促されて、芽留は二階に駆け上がり、愛用のコートを持って再び玄関に戻ってくる。
「め、めるめるぅ~」
そんな芽留の姿をおろおろと見ていた父に、芽留は
【それじゃあ、行って来るっ!!】
満面の笑顔でそう伝えて、そのままわたるの腕を引っつかみ、家を飛び出す。
「お、おい、ちょ…落ち着けよ…」
ほとんどわたるを引っ張るようにして進んでいく芽留。
わたるはそんな芽留を慌てて引き止める。
「大事なのを忘れてるだろが…」
【何だよ?】
きょとんとした芽留に、わたるは改まった顔になって
「あけましておめでとう。……まあ、今年もよろしく頼む…」
ぺこりと頭を下げた。
その変に神妙な表情がなんだかおかしくて、そしてその言葉を聞けた事が何よりも嬉しくて
【おう。あけましておめでとう!!今年もよろしくな、わたるっ!!】
芽留は笑顔でそう答えたのだった。

294:266
08/12/30 15:00:28 u4lt1JGc
これでお終いです。
まだ30日なのに大晦日なネタとか、ほんと色々中途半端ですみません。
ともかく、皆さん、良いお年を。

295:名無しさん@ピンキー
08/12/30 23:48:01 xyJgbpM5
電波一本でスレ取得したら…
来ていたか、万世橋マン!
帰省先でニヤニヤしたぜ

296:名無しさん@ピンキー
08/12/31 04:20:59 vmuv1iFm
まさかわたるだったなんて。
それにしても芽留ちゃん可愛いなぁ。
乙でした。

297:糸色 望 ◆7ddpnnnyUk
08/12/31 04:52:10 VF8EqaYc
万世橋を渡るキハ40系。

298:名無しさん@ピンキー
09/01/01 01:13:34 +hqnSNfn
んふぅ、私の全てはあなたの物ですっ!ぶちゅー、ちゅばっ!
オチンチン様っ、ブルマ好きの変態女にオマンコして下さいっ!お願いします、お願いしますぅ!
んあぁ……言った、言ったわよぉ!んふぅ、ついに、ついに最低な誓いをしたわよぉ!躾て、躾てぇ!
早く千里をブルマ好きの変態女に躾てぇ~ん!
んは、オチンチン、ブルマに当たってるぅ!来て、来てぇ!ブルマをぶち破って、思いっきりオチンチン突っ込んでぇ!
むああああぁ~ん!は、はいってきらぁ!あ、あはぁ!あはぁ、すごいっ!
ブルマが破れてぇ……オチンチンが無理矢理入ってくるぅ!
あ、ああぁん……奥、奥の奥までぇオチンチンはいってきれぇ……
あは、わらひのすべれを……ろかしちゃうっ!ぬは、ぬほっ!オマンコ、オマンコぉ!
ブルマぁ……ネバネバのヌルヌルでぇ!い、いぐ、いぎまずっ!
いっちゃうっ!いぐぅうううううううぅぅぅ!!!
んはぁ、あ、あはぁ……すごい、すごいわぁ……こんなに凄いのは初めてぇ……
んあ、ブルマ、ブルマぁ……あは、素敵、ブルマぁ素敵ぃ~ん……
んあ、んああぁあ、あっ、ああぁん!いいわ、いいわぁ!最高に気持ちいいわ!
んふぅ、あ、あっ、子宮に当たってるぅ!
素敵、素敵ぃ!もっと、もっと小突いてぇ!
私を溶かして、もっと溶かしてぇ!ブルマ好きの変態にしてぇ~ん!
むあああぁ~ん!今、今ぁ……なった、なったわぁ!私、完全にブルマの虜になったぁ!
千里の全てぇ……完全にブルマに支配されたぁ!
もう、もう駄目ぇ!興奮していっちゃうっ!さあ、先生の子供仕込んでぇ!私をボテ腹のお嫁さんにして!
そうよ、そうよぉ!あなたの、先生の赤ちゃんが欲しいのよっ!ブルマ姿で私、妊娠したいのっ!
もちろんよ、言ってやるわっ!学校中に、私がどんなに先生に可愛がられたかぁ……
ボテ腹をさらしながら、ブルマ姿でオナニーしてやるんだからっ!
むぉおおおぉ~ん!来た、来た、あはぁ、ブルマ好きの変態女興奮しまくりっ!
妊娠確実っ!子種、子種ぇ!ブルマ姿で妊娠っ!
ぬは、ぬほ、ぬほほほほ!いぐ、いぎまずっ!いっちゃうっ!
ぬほ、ぬは、にょほほほほほっ!ブルマ好き千里っ!い、いぐぅううううううううぅぅぅ!!!
うは、うあぁ……出てる、出てるぅ……ドピュドピュ子宮に出てるぅ……
んあ、んああぁ……ブルマもネバネバでぇ……あはぁ、すごいわぁ……凄すぎるぅ~ん……
あはぁ、ブルマベトベトして気持ちいいわぁ……
私ぃ、このまま一生ヌルヌルのブルマを穿いていたいわぁ……んふぅ……

299:名無しさん@ピンキー
09/01/01 01:15:46 3+4NiuH7
ワロタ!

300:名無しさん@ピンキー
09/01/01 07:17:30 XqauMMqM
智恵先生でもおk

301: 【大吉】 【805円】 ◆n6w50rPfKw
09/01/01 16:56:18 tdVJtRjs
明けましておめでとうございます。
今年もどえっちエロエロ満載のSSが書けますように。

302: ◆n6w50rPfKw
09/01/01 16:57:32 tdVJtRjs
やったー!

303:名無しさん@ピンキー
09/01/01 18:57:43 3+4NiuH7
よろしくお願いしますです

304:名無しさん@ピンキー
09/01/02 00:27:05 HTBTNlPb
作者どころか読者までいないのか

305:名無しさん@ピンキー
09/01/02 00:55:27 3D7EP2W6
>301

マジで期待してます。

306:名無しさん@ピンキー
09/01/02 10:41:40 OiBH+T9h
自分のサイトもつようになっちゃった人多いからね

307:名無しさん@ピンキー
09/01/02 13:14:47 y3jeTPgU
urlplz

308:名無しさん@ピンキー
09/01/02 13:22:09 y3jeTPgU
するなよ

309:名無しさん@ピンキー
09/01/02 21:13:43 PJ1fAKxZ
もうだめだね、このスレ。

310:名無しさん@ピンキー
09/01/02 22:47:51 HTBTNlPb
たかをくくったんだ!

311:名無しさん@ピンキー
09/01/02 23:12:32 MHUzMT0P
安い値を付けやがって!

312:名無しさん@ピンキー
09/01/03 00:25:34 aQHh0UfT
最後まで残ったオレタチが真の精鋭だぜ

313:名無しさん@ピンキー
09/01/04 02:06:06 8cPYpAzK
保管庫行って読んできたんだが、15スレ目の『いっKYうさん』が秀逸だった。
作中に漂う微妙な空気が最高。それでいて一旧さんらしい。
エロ無しだけど。

314:名無しさん@ピンキー
09/01/04 16:01:31 9FfPbIui
あれ好きだなぁ
保管庫だとちょうどその隣にある「勝たせ船」も好き
みんなで鍋囲んでね

315:名無しさん@ピンキー
09/01/04 22:57:04 Do28Iiov
じゃあ、保管庫の私のお勧め作品でしばらくはいくか。

316:名無しさん@ピンキー
09/01/04 23:26:28 PWf8j5TO
新規投稿があるならそれに越したことはないですが
しばらくそうやって空気を回復させるのもいいかもね
でも不味い褒め方すると自演ぽくなるな……

5スレ目の『机の下に入ってると童貞君○○。○○誤解されるぞ』が軽妙な文体で面白い
エロパロならではだよなー、と思う

317:名無しさん@ピンキー
09/01/05 00:59:02 EEKtceGj
絶望少女達が絶命に次々食われちゃう話が異色だが好きだ
最後もきれいにしめてたしクオリティ高かったと思う

318:名無しさん@ピンキー
09/01/05 04:51:43 dKucctfn
タイトル忘れたが

あびるのバイト先で着替えを覗く臼井
なんだかんだで臼井が重傷
病院で臼井が目覚めたのであびるは病院を出る
臼井が後を追って会話

この作品にはエロがないけどオチが秀逸
「あぁ、そうだったのか」となること間違いなし

319:糸色 望 ◆7ddpnnnyUk
09/01/05 10:21:41 66n/irNS
まったく、臼井のやつ・・・。
おかげで血まみれの悲惨な最終回となってしまったぞ・・・。

320:名無しさん@ピンキー
09/01/05 10:34:24 H6QjbVQe
この流れけっこういいな
保管庫、有名どころの作品はひととおり読んだけど
それ以外の作品はどれを読めばいいか悩んでたんだ

321:名無しさん@ピンキー
09/01/07 11:05:36 25vSkn1T
年明けて1週間経つと言うのにSS1本の投下もなし・・・
本当に寂れちゃったのね・・・

ところで保管庫にあった可符香のアナザーエンディングの長編SSって削除されちゃったの?
読みたいのに見つからないんだけど・・・

322:名無しさん@ピンキー
09/01/07 12:26:31 9fBqf3ef
「アナザー・エンディング」ってのならあったけど、それが君の言ってるSSと同じものかどうかはちょっとわからん

アニメが終わってしばらく経ちアニメから入った人達もぽつぽつ去り
昔からやってきた人らにしても萌えをあらかた形にしてしまった状況なんかね
絶望先生関連の二次創作サイト自体がけっこう減った
「可符香は腹黒じゃない」って暴れた奴がいたせいでかわからんが二次可符香自体の2ch上の評判も悪化した気がする

323:266
09/01/07 16:34:55 rOxwgGXJ
書いてきました。
昨年末に万世橋×めるめるを投下した時に言ってたアレをようやく完成させました。
カップリングは木野×加賀で、一応エロもありです。
それでは、いってみます。

324:266
09/01/07 16:37:00 rOxwgGXJ
彼がうちのクラス、2年へ組にやってきたのは、新しい年度の始まったばかりの四月の出来事だった。
新学期に伴って編入されてきたその人は木野国也という名前だった。
最初に抱いた感想は、もともと同学年の別のクラスの生徒が編入されてくるなんて変な話だな、と思った事ぐらいだった。
クラスのみんなも木野君の存在よりも、そもそも学校の部外者なのに平然とクラスの席に着いていた
先生の妹、倫さんの方にばかり注目していた。
私もずいぶんと驚いて、彼女の姿に釘付けになってしまったのだけれど
(ああ、私のようなものがじろじろと彼女の事を見るなんて……)
それがとてもとても失礼な事のように思えてきた私は、さっと倫さんから視線を逸らした。
そして、目が合った。
もう一人の新しいクラスメイトの視線と、私の視線がぶつかり合った。
(あわわわわわ……っ!)
失礼な行いを避けようとして視線を逸らしたはずが、今度は木野君を真正面から見つめる事になってしまった。
ほとんど面識も無い彼の顔を真正面から覗き込むなんて、私はなんて不躾な事を。
そう思って、私が謝ろうとしたその時だった。
彼はにこりと微笑んでくれた。
ぺこりと、私に向けてお辞儀をしてくれた。
それにつられて私もお辞儀を返すと、彼は嬉しそうにもう一度笑ってくれた。
気が付くと、いつも私の胸をきゅうきゅうと締め付けるあの罪悪感はどこかに消えていて、
なんだか不思議な、ふんわりとした気持ちだけが胸の奥に残っていた。
それが、私、加賀愛と木野君の2年へ組での日々のはじまりだった。

4月、新学期の始まりに伴って何故だか2年へ組に編入されてしまった俺、木野国也。
久藤を初めとしていくらか友達や知り合いはいたものの、自分一人で新しい環境に飛び込むという事で、
それなりには緊張していた。
朝、ホームルームが始まるまでの時間を、自分の席に座ってぼんやりとしながら過ごす。
教室を見渡して、新しいクラスメイト達の姿を観察した。
「………なんというか、壮観だな…」
思わず呟いていた。
何しろ、このクラスの連中は1年の時には、それぞれのクラスにその人有りと言われた奇人変人ぞろいなのだ。
例えば、我が友にしてライバル、久藤准もそうだ。
成績は優秀、人当たりの良い好人物ではあるが、奴の語るストーリーはどんな奴でも感動させてしまう事で有名だ。
そんなお話をふとした瞬間に閃いては、速攻で話し始めるのだからたまらない。
しかも、話を聞いている最中はこちらもストーリーに没入して止める事が出来ないのだ。
当人に全く悪気は無いものの、これは結構扱いづらい。
他にも、『正義の粘着質』木津千里、『DV疑惑』小節あびる、『毒舌メール』音無芽留、『女子高生主婦』大草真奈美、
『腐女子』藤吉晴美、『人格バイリンガル』木村カエレ、『ネットアイドル』ことのん、『超ポジティブ』風浦可符香、などなど。
ある意味オールスター、ある意味混沌の坩堝。
アクの濃い連中が一同に会しているその様子は、一種壮観ですらあった。
そんなクラスの中だったからこそだろうか、彼女の姿は俺の視界の中に強く浮かび上がってきた。
後ろでくくってまとめた髪と、左目の下の泣きボクロ。
いかにも気弱そうで、いつも困ったような顔をしているけれど、それだけじゃない。
その瞳の奥には、いつも人を気遣う、優しい光が宿っているように見えた。
(誰かな、あれ……?)
久藤あたりにでも聞いてみようと思ったが、間もなくホームルームが始まってしまった。
担任の糸色先生が2年へ組がまたしても留年する事なんかを全くクラスに説明していなかったらしく、
それをさらっと流そうとした事を発端にやいのやいのと始まる騒ぎ。
さらに俺の他にも先生の妹までもがさらっと編入していたりして……。
(まあ、この様子だと俺もその口なんだろうけど……)
なんて事を考えながら、教室内の騒ぎを眺めていた、そんな時だった。

325:266
09/01/07 16:37:38 rOxwgGXJ
(あれ……?)
こちらを見つめてくる視線と目が合った。
それは、さっき俺が目に留めた優しい瞳の彼女だった。
俺と目が合うと、ただでさえ困ったような表情が、今にも泣き出しそうなくらいの顔になった。
(ちょ…こういう時、どうすればいいんだ?)
とりあえず微笑みかける。
ついでにぺこりとお辞儀をしてみる。
訳もわからぬまま、それだけやってみたものの、自分でもこの行動に意味があるかどうかわからなかった。
だけど……。
(あ……)
ぺこり。
彼女はお辞儀を返してくれた。
何だかそれが嬉しくて、思わずまた笑顔になっていた。
彼女の方も、困ったような表情は相変わらずだけど、どことなく少し安心したような顔をしていた。
(良かった……)
俺の胸に残った、何とも言えない幸福感。
思えば、全てはこの日から始まっていたのかもしれない。
加賀愛。
それからすぐに知る事になった、それが彼女の名前だった。

こうして始まった2のへでの日々は、個性的過ぎる担任とクラスメイト達にかき回されて、あっという間に過ぎていった。
相変わらず加賀さんはいつもぺこぺこ謝って、申し訳なさそうにしていた。
だけど、クラスのみんなは加賀さんのそういう所もちゃんとわかって受け入れてあげているみたいで、少しホッとする。
そして、それから気づく。
(……って、また俺は加賀さんを見てたのか?)
あんまり露骨に女の子の姿を追っかけまわすのは、褒められた事じゃあない。
恥ずかしくなって、さっと視線を逸らす。
だけど、我慢できずに少しだけ、もう少しだけ彼女を見る。
(あ……笑ってる……)
たくさんの女子達に囲まれて、いつもの困った顔で、だけど彼女は笑っていた。
本当に楽しそうに。
なんだか、俺まで楽しくなるようで、嬉しくなるようで、先ほどの反省も忘れたまま、俺は加賀さんの笑顔を見つめていた。

ふとした瞬間に気づく視線、あの人の、木野君の視線。
新学期の始まりの、あの時と同じ、屈託の無い眼差しが私を見つめている事に気が付く。
その度に私はドキドキして、だけど単なる自意識過剰な勘違いなんじゃないかと考えたりして、
どっちつかずに揺れ動く心が私を苦しめる。
そんな思いを抱いたままの私を取り残して、時間はどんどんと過ぎていった。
そして、季節は巡り梅雨に入ったある日の事。
「掃除当番代わりにやってくれたんだ。恩に着るよ」
一人考え事をしながら掃き掃除をしていた私は、その声を聞いた瞬間、心臓が飛び出るかと思った。
(木野君だ……っ!!)
すっかり動転して、くるくると空回りをする思考の中、何とか考える事が出来たのは……
(そ、そうだ…私、このままじゃ恩着せがましくなっちゃう…)
私の目下の悩みであった『恩着せがましい人』からの脱却の事だった。
「困りますっ!」
思わずそんな事を口走ってしまったけれど、私の悩みなんて知るはずのない木野君はきょとんとするばかり。

326:266
09/01/07 16:38:35 rOxwgGXJ
と、そこへ風浦さんが通りかかった。
「そこは明確に否定しないと恩に着られてしまうよ」
「明確に」
風浦さんの言う通りだ。
そう思った私は、必死に考えてこう言った。
「あなたのためにやったんじゃないんだからね!」
明確に否定しよう。
それだけを考えるあまり、少しキツイ言い方になったんじゃないか。
一瞬、そんな不安がよぎったけれど、私は止まる事が出来なかった。
「誤解しないでよね!」
そう言って、ぷいっとそっぽを向いた。
(…あ…あぁ…こ、これはいくらなんでも…ちょっと……)
勢い任せの自分の発言に今更ながら後悔し始めた私は、恐る恐る木野君の方を振り返った。
すると……
「えっ?」
何故だか木野君は頬を赤く染めていて、私から微妙に視線を逸らして
「でも、とにかく、ありがとう、加賀さん……っ!」
それだけ言うと、そのまま私の所から走り去って行ってしまった。
(怒らせたのかな……でも、それとはちょっと違うみたいだし……)
残された私は呆然と、木野君が去った方を見つめ続けていた。

「なあ、久藤、前に話した好きな娘の事なんだけどさ…」
「ん?」
図書室で返却された図書の整理をしながら、俺は久藤と話していた。
「俺、何からしていいかわからなくて、それで、彼女にプレゼントをあげてみたんだ。誰からのプレゼントかわからないように、こっそりとだけど…」
「ああ、タラバTシャツ」
「ぶふううううううううううううううっ!!!?」
いきなり話の確信を突かれて、俺は思わず噴きだした。
「お、お、お前なんでそれを……!?」
「い、いや……その、なんていうか木野のセンスは独特だからさ…」
内心を看破されて動揺しているのは俺なのに、何故だか久藤の方が困惑した表情を浮かべていた。
「だから、木野が私服でいるとこ知ってる人なら、大抵気付いたんじゃないかな……?」
「そ、そうか?」
久藤の引きつった笑いが気になったが、ともかく俺は話を前に進める事にした。
「とにかく、プレゼントはしてみたんだけど、それからどうしていいかわからなくて…
…プレゼントも喜んでもらえたかどうか、本当は自信がないし…」
「う、うん、ファッションのセンスは人それぞれだからね…」
「そっか、そうだよな……彼女に似合うと思ったんだけど…」
確かに久藤の言う通りだ。
タラバTシャツを受け取った加賀さんは、どうもそれを持て余しているように見えた。
「俺、次はどうしたらいいんだろ?久藤、お前モテるし、何かいいアイデアないか?」
「ううん…そうは言うけど、僕は読書にかまけてばっかりで、そういう経験はあんまりだから……
木野の方こそどうなんだよ?」
「今まで成功した事がないから、こうして聞いてるんじゃねえか」
どうやら久藤にとっても守備範囲の外の話だったらしい。
それでも、俺は藁にもすがるような気分でさらに久藤に詰め寄る。
「全く無いって事はないだろ?」
「そう言われれば、そうだけど…」
「やっぱりあるんじゃねえか!」
「でも、小学生の時の話だよ……」
「む……」
確かにそこから高校生である俺が活かす事の出来る知識を汲み取るのは難しいだろう。
しかし……
「頼む。それでも構わないから、話してくれないか……」
そう言って、久藤の目をじっと見つめた。

327:266
09/01/07 16:39:09 rOxwgGXJ
やがて、久藤は仕方が無い、といった感じに微笑んで
「わかったよ。あの時の事は良く覚えてる。参考になるかはわからないけど、そこまで言うのなら……」
そう言って、久藤は話し始めた。

久藤と彼女が出会ったのは、二人がまだ小学三年生の頃だった。
当時から本が大好きだった久藤は、町の図書館に本を借りに来て彼女と出会った。
彼女は久藤以上の読書家で、当時はまだ普通の本好きな少年程度だった久藤に色んな本の事を教えてくれた。
それから二人は、図書館でちょくちょく出会っては自分の読んだ本についての話をした。
いかな読書少年少女といえど、この世には読みつくせない程の本がある。
お互いのお勧めの本を紹介したり、二人で一緒に一冊の本を読んだり、
そうやって久藤と彼女はだんだんと仲良くなっていった。
久藤は言った。
「たぶん、その頃から僕は彼女の事が好きだった。ただ、それが良くわかってなかっただけで…」
可愛らしい顔にちょっと不釣合いな大きな眼鏡。
歯並びを直すための矯正器具を恥ずかしがって、笑うときに口元を隠す仕草が可愛かった。
ときどき、本を読む事をやめて、じっと彼女に見入っていて、目が合ったりした事もあった。
その時の久藤は、恥ずかしさのせいで、彼女も自分と同じように顔を赤くしている事に気が付かなかった。
「そして、ある日言われたんだ。次の日曜日のお昼に図書館に必ず来てほしいって…」
その話を聞いたとき、久藤は不思議に思った。
次の日曜は改修工事のため、図書館はお休みなのだ。
だけど、すでに彼女に惹かれ始めていた久藤は、彼女に会えるならばとその日も図書館へと行く事にした。
彼女は図書館の横の駐輪場で待っていた。
『来て』
促されるまま、久藤は彼女と一緒に近くの公園へ。
その公園の隅っこのベンチに、二人で並んで座った。
どことなく赤い顔をした彼女、久藤の胸もドキドキしていた。
『いい天気ね』
彼女はちらっと空を見てそう言った。
そうだね、と久藤が同意すると、彼女は今度ある運動会もこんな風に晴れたらいいな、と言った。
それから彼女はぽつりぽつりと自分の学校の事を話し始めた。
久藤もそれに合わせて、同じように学校の話で応えた。
とりとめのない会話だけが青空の下を流れていく。
大した事は話してないはずなのに、彼女との会話はそれだけでとても楽しくて、少しそわそわドキドキした。
そのまま、どれくらいの時間が経っただろう。
いつの間にか太陽は西の空に沈みかかろうとしていた。
夕日に真っ赤に染まった公園。
そこで彼女は急に改まった口調になって
『ねえ、聞いてほしい事があるの……』
なんだろう?
彼女の放つ真剣な空気に気が付いて、久藤は彼女に真正面から向き直った。
夕日に照らされた彼女の顔は、今にも泣き出しそうな、どこか苦しげな、何とも言えない表情をしていた。
久藤は彼女が心配になって、『大丈夫?』と声を掛けようとした。
その時だった。
『好きなの…』
彼女は言った。
『久藤くんのこと、好きなの……』
言い放たれた言葉を久藤が理解するまでに、それから数秒の時間が必要だった。
ようやくその言葉の意味を理解した久藤は、呆然として言葉をなくした。
だけど、目の前でとても苦しそうにしている彼女を見て、何か言わなければいけない、そう強く思った。
だから、久藤は自分の胸の奥の気持ちを、そのまま言葉にした。
『僕も、好きだよ……』
瞬間、久藤は彼女に勢いよく抱きつかれた。
頬に感じた柔らかな感触が、キスだと気が付いたのは、彼女の腕の中から開放された後の事。
『ありがとう、久藤くん……大好き』
そして、彼女の顔に浮かんだ幸せそうな笑顔を見た。
夕日に照らされた彼女の真っ赤な顔と、きらきらと光る髪の毛の美しさ。
久藤はただ、夕日の中の彼女の姿に心を奪われて……。

328:266
09/01/07 16:39:48 rOxwgGXJ
「そ、それで……」
「それで、も何も小学生だからね。前よりは意識をするようになって、仲良くなって、それだけだよ」
語り終えた久藤は、ふう、とため息を一つついた。
そして、昔を思い出すように図書室の外の空を見つめて、言葉を続けた。
「その後、中学生になる時に彼女はどこか遠くに引っ越していった。何か複雑な事情があったみたいで、
 彼女の新しい住所を知る事は出来なかった。……ちゃんとしたお別れもできなかったよ……」
「そうだったのか……」
「でも、彼女の事は今もハッキリ覚えてる。あの時の夕日も………。そして、これからもきっと忘れる事はないと思う」
久藤はどこか寂しげな、それでいて少しだけ幸せそうな微笑を浮かべていた。
思いもかけず、重たい方向に転がってしまった話に俺が言葉を返す事が出来ずにいると、
そんな空気を吹き飛ばすように久藤は殊更明るい調子で口を開いた。
「まあ、ともかく、残念だけど木野の役に立つ話じゃないのは確かだね」
「あ、ああ……」
「だから、良いアドバイスをしてあげられる自身もない。あの娘と離れ離れになってからは僕の恋人はもっぱらこいつ等ばっかりだったからね」
久藤は整理していた本の一冊を手に取り、そんな事を言って肩をすくめて見せた。
「そうか。変な事聞いて、悪かったな……」
「別にかまわないよ。それより、さっさと仕事を終わらせて帰ろう」
なんともバツが悪くて、ぺこりと頭を下げた俺に、久藤は笑顔で答えた。
それから二人で、本の整理と片づけを終わらせて、図書館を出るときにはもう太陽は西の空に沈もうとしていた。
何もかもが茜色に染められた窓の外の景色を見ながら、俺はふと考えた。
小学生の頃の久藤のガールフレンド、彼女が久藤に告白した、その時の夕日もこんな風だったんだろうかと。

「あ、また……」
朝、学校の下駄箱から上履きを取り出そうとした私は、そこに何かが入れられている事に気が付いた。
取り出して、それが何であるかを確かめる。
【君に似合うから】
そんなメッセージが添えられたその包み。
これでかれこれ七度目になるだろうか。
これは名も知らない誰かからの、私に対するプレゼントらしいのだ。
ガサゴソと包みを開けて中身を確かめる。
Tシャツだ。
三つの顔と六本の腕を持つ自由の女神が胸元にプリントされ、布地全体に般若心経が書いてある。
よくわからないけれど、とにかく私なんかには及びも付かない凄いセンスの服である事は確かだ。
私には到底着こなせる自信がない。
(せっかくプレゼントしていただいたのに……)
私の胸は申し訳なさでいっぱいになる。
だけど、それと同時に私の心の奥底で、ある一つの感情が疼き始める。
あり得ない期待、都合のいい妄想が湧き上がる。
これが、あの人からのプレゼントなら………。
『でも、とにかく、ありがとう、加賀さん……っ!』
彼の、木野君の言葉が私の中に蘇る。
四月に、初めて目が合った私に投げかけてくれた笑顔を思い出す。
私はTシャツを入れた包みをぎゅっと抱きしめる。
それが何の確証も無い推測である事はわかっている。
単なる自分にとって都合のいい妄想である事には気付いている。
それでも、今の私にはその湧き上がる感情の波を、抑える事ができなかった。

教室の、自分の席についた私はぼんやりと黒板の方を眺めていた。
プレゼントはそのままでは少しかさばるので、Tシャツと包みに分けて丁寧に折りたたんで鞄に入れてある。
頭の中でぐるぐる渦巻いているのは、やっぱりそのプレゼントの差出人の事。
少なくとも、その人が木野君であるかどうかを確かめる事自体はそんなに難しくはないはずだった。
プレゼントに添えられたメッセージの文字と、木野君の字を比較してみればいい。
でも、その機会はなかなか訪れなかった。
木野君の字を見られる機会がないのだ。
今まで、木野君が、例えば黒板に文字を書くとか、私の見られる所で字を書く事はなかった。
それならば、こっそり木野君のノートか何かを調べれば……。

329:266
09/01/07 16:40:57 rOxwgGXJ
そこまで考えて、私はハッと我に帰り、ぶんぶんと首を振る。
(いけない。そんな、人の物を勝手に見るだなんて、そんな事しちゃいけない……っ!!)
プレゼントの事を気にするあまり、考えが思わぬ方向に行ってしまっていた。
申し訳なさでいっぱいの私は机の上に突っ伏する。
だけど、私は心のどこかで気が付いていた。
私が、木野君のノートを開けてまでその事を確かめようとしないのは、
それがいけない事だからという理由だけではない事に。
私は怯えている。
私の自分勝手な期待が、妄想が、打ち砕かれてしまう事を恐れている。
私は、これが木野君からのプレゼントであると信じたいんだ。
だから、プレゼントの差出人の事を深く追求しようとしないんだ。
少なくとも、それを確かめないうちは、これが木野君からのプレゼントだという可能性も消えないのだから……。
(ああ、私はなんて卑怯なんだろう……)
日に日に募る想いが、迷いが、私を苦しめる。
でも、こんな私にはそれを振り切る勇気さえなくて………だけど。

だけど、そんな私の悩みはいとも簡単に断ち切られた。
ある朝、私は自分の下駄箱の中に、いつものプレゼントとは違う何かが入っている事に気が付いた。
それは手紙だった。
差出人の名前は無い。
白い封筒に入れられた便箋には、あのプレゼントのメッセージと同じ字でこう書かれていた。
【今日の放課後、17時、図書室で待っています。】
ドクン。
締め付けるような胸の疼きを感じながら、手紙を手にした私は呆然と立ち尽くしていた。

「やばい。ミスった……っ!!」
「どうしたの?」
突然素っ頓狂な声を出した俺に、久藤が少し驚いた様子で問いかけた。
「加賀さんへの手紙、名前書いとくの忘れた…っ!!」
「あちゃ~」
青ざめる俺と、苦笑する久藤。
西日の差し込む放課後の図書室で、俺は一世一代の勝負に出ようとしていた。
加賀さんに手紙を送り、今日、この場所で会いたいと伝えたのだ。
目的はもちろん、俺のこの想いを加賀さんに伝える事。
今回の計画のために、久藤は今日の放課後の図書室を俺と加賀さんだけで使えるように色々と手を回してくれていた。
それだというのに……。
「ああ、痛恨のミスだ~ぁっ!!誰かもわからない奴からの呼び出しなんて、加賀さんきっと来てくれないぞっ!!」
「大丈夫だよ、木野。彼女の性格なら、きっと来てくれるさ」
「そ、そうかな、久藤~?」
「うん。だから、ほら落ち着いて。木野の勝負はこれからが本番なんだから」
久藤が俺の方を励ますように、ポンポンとたたく。
(そうだ。こんな事で動揺してちゃいけない。俺は、俺は加賀さんと……)
俺はぐっと拳を握り締める。
この日のために何度も頭の中でシミュレーションを繰り返し、彼女に伝えるべき言葉を考えてきたのだ。
今更、逃げ出す事は出来ない。
加賀さんを呼び出す時間の指定だって、考え抜いての事だったのだ。
先日聞いた、久藤の小学校時代の恋の話、確かに今の俺に役に立つような情報は無いように思われた。
でも、ただ一点だけ、汲み取る事ができたものもあった。
「…………」
俺は窓の外の、西へと傾いていく太陽を見つめる。
話の中で、久藤は彼女に告白された時の夕日がかなり印象に残っている様子だった。
夕日の中での告白。
全てが茜色に染まった中で、愛の言葉を告げる。
要するに雰囲気作りということだ。
焼け石に水かもしれないが、それでもやらないよりはマシだろう。

330:266
09/01/07 16:42:13 rOxwgGXJ
「それじゃあ、健闘を祈るよ」
「お、おうっ!!」
約束の時間が近付いてきて、久藤は図書室を後にした。
一人ぼっちになった俺はもう一度窓の外を見る。
少し雲は多いが、まあ、まずまずの空模様。
「後は、俺次第ってわけだ……」
パンパンと自分の頬を叩いて、俺は気合を入れなおす。
なんとしても、加賀さんにこの想いを伝えるのだ。
今の俺の胸の内は、燃え上がらんばかりの情熱に満たされていた。
だけど。
だけど、俺は気付いていなかった。
窓の外、ゆっくりと増え始めた雲によって覆われた空が、だんだんと暗くくすんだ色に染まっていく事に。

「ああ、行かなくちゃ……行かなくちゃいけないのに……」
放課後の学校、手紙をぎゅっと握り締めた私は、おろおろと廊下を行ったり来たりしていた。
時刻は間もなく、17時になろうとしていた。
それなのに、私の足は図書室に向かってくれない。
臆病な私は、図書室に向かう事を決心できない。
プレゼントの送り主が木野君だったなら。
そんな自分勝手な妄想を壊される事を恐れて、卑怯な私はそこから逃げ出そうとしていた。
確かめなければ、まだずっと心地よい夢を見ていられるから。
そんな理由で、この手紙に込められた想いをないがしろにしようとしていた。
「すみません…すみません……っ」
呟いて、私は廊下に膝をついた。
だけど、そもそも届いてもいない謝罪の言葉にどんな意味があるだろう。
それは、自分の犯した罪に図々しくも許しを求める怠惰なあり方だ。
だけど、ただ怯えるばかりの私の心は、これ以上どんな事をしていいか、何も考える事ができなくて…。
ふと、顔を上げる。
先ほどまでの眩しい西日が、黒い雲に覆い隠されていた。
そして、気が付く。
鼻をかすめる、においの存在に
「雨の…におい?」
呟いたときには、雨粒が窓ガラスにぶつかりはじめていた。

壁に掛けられた時計は、既に17時の50分を過ぎ、もうすぐ18時になろうとしていた。
一人きりの図書室で、椅子に座った俺はただただ待ち続ける。
ちらちらと入り口の扉を横目に見ては、あの娘が姿を現す事を願い続ける。
窓の外からは急に振り出した雨の音が聞こえてくる。
ついさっきまで辺りを照らしていた太陽は隠れて、電気を点けていない図書室の中は薄闇の中に沈んでいる。
まるで、今の俺の心の中みたいだ。
「………やっぱり、無理だったのかな…」
呟いて、苦笑いする。
手紙に名前を書き忘れたのがまずかったのか。
だけど、それだけが理由とも思えない。
久藤の言う通り、あの優しい加賀さんが、それだけの理由で呼び出しを無視する筈が無い。
もしかしたら……。
俺は想像する。
「もしかしたら、加賀さんは全部気が付いていて………」
最初から、全部俺のやった事だと、加賀さんは知っていたんじゃないだろうか。
だけど、加賀さんの胸の中にある答はイエスではなかった。
加賀さんは優しいから。
優しすぎるから。
きっと、それをどうやって俺に伝えていいかわからなくて。
悩んで、悩んで、どうしていいかわからなくなって……それで…。
「ごめんな…加賀さん……」
今の自分の頭の中に広がっている空想が、何の根拠も無いものである事はわかっている。

331:266
09/01/07 16:42:51 rOxwgGXJ
それが、本物の加賀さんの優しさを歪める事だというのもわかっている。
だけど、とりとめのない不安に取り付かれた俺は、それを止める事が出来なくて……。
久藤が人払いをした図書室に、やって来る人は誰もいない。
だから俺は一人ぼっちのまま、不安に苛まれながら、それでも未練ったらしく加賀さんを待ち続ける。
窓の外の雨は、しばらく止む気配はなさそうだった。

折り畳み傘を叩く雨の音だけに心を集中させながら、ただひたすらに前に向かって歩く。
辺りを包み込む雨音は、卑怯な私を責め立てているみたいだ。
「すみません…すみません……」
私は、逃げ出した。
今も右手に持った、この手紙に込められた想いの重さに耐えかねて、逃げ出してしまった。
自分にとって都合の良い、空想遊びをやめたくない。
たったそれだけの理由で、手紙をくれた顔も知らない誰かの想いを踏みつけにしてしまった。
だから、私は少しでも早く学校から離れたくて、一心に前だけを見つめて歩く。
まわりの事は何も考えない。
前へ、少しでも前へ。
それだけを考えているうちに、いつしか私の中から周囲に向ける注意力さえ失われてしまっていた。
それは、一瞬の出来事。
キキ――――ッ!!!
「きゃあっ!!?」
赤信号の横断歩道に脚を踏み出しかけていた私は、猛スピードで横切った車にあおられて尻餅をついた。
その弾みで、私は持っていた手紙を手放してしまう。
「ああっ!!?」
風に吹かれて、あわや水溜りに落ちようとする寸前に、私は何とか手紙を掴んだ。
その代償として、折り畳み傘は吹き飛ばされ、私自身が身代わりに水溜りに突っ込んでしまったのだけど。
「はぁ…はぁ……」
そこまでするのなら、手紙に込められた願いを汲んで図書室に行けばいいものを。
手紙をぎゅっと握り締める私の体の上に、容赦なく雨が降り注ぐ。
今の無様な自分の有様は、私の犯した罪に対する報いのように思えた。
道端に膝をついたままの私は、もう一度手紙を開いて、そこに書かれた文章を見つめる。
【今日の放課後、17時、図書室で待っています。】
この手紙の主は、今も図書室で私を待っているのだろうか?
ぼんやりと、そんな事を考えていた私は、突然ある事に気が付いた。
手紙の、便箋の上にうっすらと残る文字のような跡。
いや、違う。
これは、文字そのものだ。
よく見れば、便箋のあちこちに残るそれは、手紙の主の試行錯誤の跡なのだ。
きっと、私に手紙を出す事で頭が一杯になって、慌てん坊のその人は便箋を重ねたまま、
下敷きを使うのも忘れて、何度も何度も手紙を書き直したに違いない。
そして、私の瞳はその痕跡の中に埋もれた、たった四文字のその言葉を見つける。

【好きです】

それは、今私の胸の内に渦巻いている、木野君へと向かう気持ちと同じもの。
自分の胸に手を当てる。
この気持ちを抱えて過ごす日々の、その切なさを私は知っている。
「行かなくちゃ……」
中途半端にくすぶり続けていた心に、ようやく火がともるのを感じた。
私は立ち上がり、学校からの道を振り返る。
「待ってて…お願いします、待っていてください……っ!!!」
そして、私は走り出す。
道に転がった傘を拾う事もなく、叩きつける雨も意に介さずに。
ただ、走り抜ける。
学校へ。
約束の図書室へと、私は走り続ける。

332:266
09/01/07 16:44:32 rOxwgGXJ
カチコチと時計の音だけが空しく響く。
時刻は既に18時の30分を過ぎている。
加賀さんはまだ来ない。
いや、きっと、正しくは……もう来ない。
「我ながら、未練たらたらだよな……」
窓の外は相変わらずの雨模様だ。
通り雨かと思っていたが、結構長引いている。
一応、学校の傘たてに置き傘はしてあるので、まあ、帰りの心配はないのだけれど。
なんて事を考えて、学校から帰る算段をしている一方で、俺の体は椅子に縛り付けられたように動いてくれない。
拒否しているのだ。
心が、体が、加賀さんがここにやって来ないという事実を受け入れる事を拒んでいるのだ。
「情けないなぁ……でも…」
駄目になるなら、せめて、きちんと加賀さんに想いを伝えてからと、そう思っていた。
今朝、加賀さんの下駄箱に手紙を入れた時は、こんな一人ぼっちの結末は想像もしていなかったのに。
カチコチ、カチコチ。
時計の針は残酷に時を刻む。
18時50分、もうすぐ19時だ。
そろそろ観念した方がいいだろう。
「宿直室に寄って、先生でも茶化してから帰ろうかな……」
ようやく立ち上がる決心をして、俺は図書室の入り口の扉へと向かう。
ポケットに手を突っ込み、鍵を取り出す。
いくらショックでぼんやりしていたとはいえ、施錠もせずに部屋を出て、
今回のこの場所のお膳立てをしてくれた久藤に迷惑をかけるわけにはいかない。
と、そこで俺は気が付く。
「足音……?」
こちらへ向かって来る小さな足音を聞いても、諦めきった俺の心はほとんど動かなかった。
たぶん、先生が見回りでもしているのだろう。
だけど、よく聞くとその足音は歩いているにしては、ペースがかなり早いようだった。
だんだんとこちらに近付いてくるにつれて、女の子が息を切らす声まで微かに聞こえ始める。
まさか、もしかして………。
「…………」
今、起ころうとしている事がどうしても信じられなくて、俺は事実を確かめようと扉に手を伸ばす。
だけど、それよりも早く、足音は図書室にたどり着いた。
「あ……」
ガラララララララッ!!!!!
俺の目の前で、勢い良く扉が開く。
飛び込んできたのは、俺がずっと待ちわびていた人物。
「加賀…さん……?」
俺は呆然と彼女を見つめた。
彼女はどうゆうわけかずぶ濡れの、ところどころ泥に汚れた格好でそこに立っていた。
そして、その顔は、瞳は、今にも泣き出しそうに震えて……
「木野君だったんですね……手紙…」
「ああ……うん…」
問われるままに肯いた俺の胸に、そのまま彼女は倒れこんできた。
「すみませんっ…本当に…すみません……っ!!!」

木野君の胸にしがみついたまま、私は全てをぶちまけた。
私の中に渦巻いていた気持ちを、卑怯で弱い自分を、全て言葉にした。
「…だから…私はそんな自分勝手な理由でこの手紙に込められた気持ちから逃げようとしていたんです……っ!!」
「加賀さん……」
「木野君は、ずっとここで待っていてくてたのに……なにに、私は……」
木野君の手が、そっと私の肩に触れる。
ああ、こんな時でも、木野君はとっても優しい。
そして、それが余計に辛くて、切なくて、私の瞳からはぼろぼろと涙が零れ落ちる。
「すみません…木野君……すみませんっ…」
今の私の胸の内は後悔の気持ちで満たされていた。
そうでありながら、その一方で手紙の差出人が木野君であった事を、
どこかで喜んでいる浅ましい気持ちも私の中に確実に存在していた。
そんな自分が悔しくて、だから、涙はいつまでも止まってくれない。

333:266
09/01/07 16:45:34 rOxwgGXJ
そんな時だった。
「えっ……?」
木野君の手の平が、私の頬を流れる涙を拭った。
そして、その手の動きに促されるように顔を上げると、少し困ったように笑う木野君の顔が私を見下ろしていた。
「でも、加賀さんはこうして来てくれたじゃないか」
木野君は言った。
「だけど…私は散々自分勝手に迷って…木野君が待っていてくれなかったら…私は……っ!!!」
「加賀さんは、怖かったんだろ?色んな事が怖くて、ここに来るのを迷っていた。それなら、俺も大して変わらないよ」
木野君は、少し照れたように笑って続ける。
「待ってた、って言ってくれたけど、俺も加賀さんと変わらない。ただ、怖かっただけだ。
怖くて、ここを立ち去る気力も出なかっただけ。
こういう事って、きっと誰だって怖いと思う。でも、加賀さんはこうして来てくれたじゃないか…………」
「木野君……」
「それはきっと、…加賀さんは優しい人だって事だと、俺はそう思うよ」
木野君のその言葉は、後悔と罪悪感でいっぱいになっていた私の心に温かな光を投げかけた。
凍り付いていた心が、再び息を吹き返そうとしているのを、私は感じた。
いつの間にか涙の止まっていた私の顔を見て、木野君は満足そうに肯く。
それから木野君は、何かを思い出したような表情になって
「それで、その……改めて聞いてほしいんだけど……」
急に自信のなさそうな声になった木野君。
自分を必死で落ち着かせるように、何度も深呼吸をして…
「加賀さん……」
やがて覚悟を決めたような表情で、私を真正面から見つめ、その言葉を口にした。
「俺、加賀さんの事、好きだ……」
その一言が、私の胸の奥に届いた瞬間、私を縛り付けていた迷いの鎖は全て断ち切られた。
私も真正面から木野君を見つめて、彼の気持ちに、勇気に応えるべく、自分の気持ちを言葉に変える。
「私も…私も好きです、木野君の事……」
私は、木野君の胸にすがり付いていた腕をそっと彼の背中に回した。
すると、それに応えるように、木野君の腕が優しく私を包み込む。
互いに抱きしめ合う腕にぎゅっと力を込めて、私と木野君は互いの瞳を見つめ合い……
「加賀さん……」
「…木野…君……」
そのまま惹かれあうように、互いの唇を重ねた。

一心に木野君と唇を重ね合わせ続け、互いの腕の中に相手のぬくもりを求める。
雨に濡れて、冷え切っていた筈の私の体は木野君の体温と、自分の内側から湧き上がる熱が合わさり、
火傷をしてしまいそうなほどに燃え上がっていく。
息が続かなくなるまでキスを続けて、ようやく唇を離した私たちは、熱に浮かされた瞳で見つめあう。
もっと木野君と触れ合っていたい。
もっと木野君の体温を感じていたい。
今まで感じた事もないような激しい衝動が、自分の中に渦巻いているのを感じる。
見つめる木野君の瞳にちらちらと輝く炎。
たぶん、きっと木野君も今の私と同じ気持ちなんだ。
「加賀さん…俺…もっと加賀さんの事を……」
「…あっ…木野君っ……」
木野君の腕に、ぎゅうっと力が込められる。
私もただただ夢中になって、木野君の体をぎゅっと抱きしめる。
全身で互いの体温を、肉体を、その存在の全てを感じて、私たちの興奮はさらに高まっていく。
「加賀さん…」
「いいですよ、木野君…私も木野君をもっと感じたい」
私の言葉に促されて、木野君の手の平が私の体の上を愛撫し始める。

334:266
09/01/07 16:46:12 rOxwgGXJ
恐る恐る、私の反応を伺いながらも、木野君の手の平は次第に私の全身を撫で回し、蕩かしていく。
「あっ…くぅん…はぁ…はぁ…木野…くんっ…」
木野君の指先に、手の平に触れられて、私の体が燃え上がる。
うなじに、背中に、わき腹に、木野君の手の平が触れた軌跡が、火傷のような疼きを伴って私を苛む。
もっと、木野君に触れられたい。
もっと、私の体をこの疼きで満たしてほしい。
そんな衝動に促されて、私は知らず知らずのうちに、木野君の手を取っていた。
「加賀さん……?」
「…木野君…お願いします…ここも…木野君の手で……」
私は木野君の手の平を自分の胸元に導く。
木野君の手の平は、最初はためらいがちに、壊れ物を扱うような手つきで私の胸を揉む。
「…あっ…ふあ……ああっ…」
その微かな感触だけで、次第に荒くなっていく私の呼吸。
それに呼応するように、木野君の愛撫もだんだんと大胆になっていく。
それは胸だけにとどまらず、激しさを増した木野君の愛撫に、私の全身が翻弄される。
「…木野君…ひぅ…ああんっ…木野くぅんっ!!」
「…ああ…加賀さん……っ!!」
首筋や鎖骨にキスされて、乳房を揉みしだかれ、乳首をこね回される。
お尻や太ももの内側にまで木野君の手の平が伸びて、撫で回される感触で私の全身に電流が走る。
今まで、誰かにもされた事のないような行為の数々。
普段だったら恥ずかしくて想像もできないような事を受け入れられたのは、
きっとその相手が木野君だったからという、ただそれだけの理由なのだろう。
「ああっ…や…ふああっ!!…あ…ひあああっ!!!」
痺れて、感じて、乱れて、いつもの私は溶けてなくなり、ただひたすらに木野君の熱に溺れていく。
やがて、木野君の指先はスカートの内側へ、下着の奥に隠された私の一番敏感な場所へと向かう。
「…加賀さん…い、いいかな…?」
「はい…私も…木野君になら…してもらいたいです…」
木野君の手の平が、私のショーツの中に滑り込んでいく。
脚の付け根の間、木野君の指先はそこにある茂みを撫でて、その一番奥へと到達する。
そしてついに、木野君の指先がその場所に触れた。
「…ひあっ…ああああああ――っ!!!!」
背筋を通って、全身を駆け巡る電流。
ビクビクと体が痙攣して、私は思わず大きな声を上げてしまった。
「加賀さん…だいじょうぶ?」
私の激しすぎる反応見て、心配そうな視線を送ってきた木野君に、私はこくりと肯いて答える。
それを受けて、再び木野君の指先が動き始める。
くちゅくちゅと、浅い部分をかき回されるだけで、いやらしい水音が聞こえてくる。
その度に、全身を駆け抜けていく甘い痺れに、私は何度も声を上げて、木野君の体に縋り付いた。
「…ひゃあぅっ…くあああっ!!…あ…あああんっ!!」
次第に奥へ奥へと侵入してくる木野君の指。
抜き差しされるごとに私の内側から溢れ出た液体がしたたって、図書室の床に小さな水溜りを作る。
私の頭は強すぎる刺激にすっかり痺れ切って、もう何も考える事が出来ない。
もっと熱く、もっと強く、木野君を感じたい。
そして、どうやらその気持ちは木野君も同じだったようだ。
「加賀さん……」
呼びかけられて、私は木野君の顔を見上げる。
「加賀さん…俺……」
木野君が全てを言い切る前に、私はそれを理解した。
木野君の瞳を見つめて、ただ一度、私は肯く。
「加賀さん…好きだ…愛してる……」
「木野君…私も…好きです…」
木野君の手が私のショーツをゆっくりと下にずらしていく。
そして、露になった私の大事な場所に、木野君の大きくなったモノがあてがわれる。
自分の恥ずかしい場所を始めて男の子に見られて、男の人の大きくなったモノを目にして、
恥ずかしさとも興奮とも判別できない感情が、私の胸の鼓動をバクバクと早めていく。

335:266
09/01/07 16:46:42 rOxwgGXJ
「…いくよ…加賀さん…」
「…はい…木野君……」
互いに肯き合う私と木野君。
愛しい人と一つになれるという期待と、初めての行為に対する不安。
二つの感情に心をかき乱されながらも、私たちはついに最初の一歩を踏み出した。
ゆっくりと、木野君の分身が私の中に入ってくる。
私の体が木野君を受け入れていく。
「あ…痛ぁ…ああっ!」
「か、加賀さん!?」
突然襲ってきた引き裂かれるような痛みに、私は思わず悲鳴を上げた。
それに反応して、木野君の挿入が止まる。
「だ、大丈夫です。これぐらい平気ですから…お願いです、続けてください、木野君……っ!」
私には痛みよりも、木野君と一つになれるこの時間が終わってしまう事の方が恐ろしかった。
木野君の背中をぎゅっと抱きしめると、それに促されたように木野君が私への挿入を再開する。
「…あっ…くぅ……ああっ…」
私のお腹の中で、痛みと熱が暴れまわる。
木野君を受け入れているという実感。
その存在感に、私の胸は締め付けられるような気持ちでいっぱいになる。
痛くて、熱くて、切なくて、そして幸せで……。
形容しがたい感情の嵐が心に吹き荒れて、私は無我夢中のまま木野君にささやいた。
「動いてください…木野君っ!!…私…もっと、木野君の事を感じたいんですっ!!!」
「わかった…わかったよ、加賀さん……」
木野君の腰が前後にゆっくりと動き始め、それにあわせて私の中の木野君も動き出す。
まだ初めての痛みの消えない内側の壁を擦られるたびに、痛みと熱が怒涛のように私に襲い掛かる。
「…はうっ…あああっ…くぅ…あああああんっ!!…木野君っ!!…木野くぅううんっ!!!!」
何度も声を上げる私を慰めるように、木野君は繰り返し私にキスをしてくれた。
繋がり合った部分も、幾度となく交わすキスも、抱きしめ合う体も、全てが灼熱の中に溶けていくようだった。
溶けて、溶け合って、混ざり合って、木野君と一つになっていくようなそんな錯覚を覚える。
いや、きっと間違いなく、今この瞬間の私と木野君は、巨大な熱の本流の中で一つになろうとしていた。
「ああっ!!加賀さんっ!!加賀さんっ!!」
「…ひあああっ!!…木野…くぅんっ!!!…あ…きゃううううっ!!!」
やがて激しい熱と痛みに混ざって、迸る電流のようなものを私は感じ始める。
小さな稲妻が体中の到る所で弾けて、その度に視界が真っ白になって、さらに私は木野君との行為に没入していく。
弾ける刺激に頭の芯まで痺れ切って、さらに大胆に木野君を求めてしまう。
「…や…きゃああんっ!!…ひあぁ…ああああっ!!!」
木野君に何度もキスをしてもらい、こちらからも何度もキスをせがんで、
その回数はもう数え切れないほどだ。
木野君が動くたびに繋がり合った部分から駆け上がってくる刺激は、
もはや痛みも熱も痺れも一体となって私を蕩かしていく。
「木野君っ…木野君っっっ!!!!…私っ…私ぃいいいっ!!!!」
「加賀さんっ!!…俺ももうっ…!!!」
愛しさが、快楽が、巨大な一つの津波となって私と木野君を飲み込み、はるか高みへと押し上げていく。
そしてついに、高まり続けた熱の渦の中で、私と木野君は限界を迎えた。
「…ああっ!!加賀さんっ!!加賀さん――っ!!!」
「ふああああああっ!!!!ああっ!!木野くぅううううううんっ!!!!!!!!!」
木野君の熱が体の奥で弾けるのを感じながら、私は絶頂へと上り詰めた。

336:266
09/01/07 16:47:07 rOxwgGXJ
全てが終わって、俺の腕の中で力尽きた加賀さんの姿を見ながら、俺は窓の外の雨音に聞き入っていた。
薄暗い図書室の中、淡々と降り続ける雨の音だけをBGMに見つめる加賀さんの姿は、
言葉に出来ないくらいきれいだった。
そして、俺はある事に気が付く。
(ああ、そういう事だったのか……)
久藤が、彼女に告白された時の夕日を、そしてそれに照らされた彼女をとても鮮明に覚えていた事。
それは夕日の美しさとかとは全く別のものだったのだと。
互いの気持ちを通じ合わせた、そんな瞬間だったからこそ、
それは世界で一番きれいな夕焼けに変わったのだ。
無音の静寂より、もっと静かで優しい雨音のメロディ。
それに包まれて愛しい加賀さんをこの腕に抱きしめるこの幸せ。
(たぶん、これからきっと、俺は雨の日が好きになるんだろうな……)
そんな事をぼんやりと考えていた時、加賀さんがうっすらと目を開けた。
「木野君……」
その顔に浮かんだ微笑に、その優しい声に、応える様に俺は加賀さんの唇にそっとキスをした。

私たちが帰る時になっても、雨はまだ降り続いていた。
私が傘をなくしてしまったので、木野君は相合傘で送っていくと言ってくれた。
一つっきりの傘の下、木野君と並んで歩く私の心は、幸せに満たされていた。
だけど……
「加賀さん…ちょっと…」
「どうしたんですか?」
木野君が困ったような表情で私の方を見てきた。
「相合傘なんだからさ。そんな傘の外の方にいられたら、意味がないんだけど……」
「あっ…いえ…これは……」
木野君の傘は折りたたみ式で、二人で入るとどうしてもはみ出してしまう。
それが申し訳なくて、私はなるべく傘の外側に出ていたのだけれど……。
「加賀さん、俺にそんな遠慮しなくてもいいんだぜ。
なんていうか、その、もう俺たちは……恋人同士…なんだから…」
木野君が顔を真っ赤にしながらそんな事を言った。
言われた私の方も、赤面するしかない。
そのまま言葉を返せずにいた私だったけれど、
しばらくした後、落ち着きを取り戻しようやく自分の思いを口にする。
「でも、木野君がずぶ濡れになったりしたら…私、申し訳なくて…」
「それが加賀さんの気持ちってわけか……」
私の言葉にしばし思案顔になった木野君は、それから突然私の肩を抱いて
「それじゃあ、こういう解決策はどう?」
私の体を抱き寄せて、狭い折り畳み傘の下に強引に二人の体を収めた。
「木野君……」
「け、結構、いいアイデアだと……思うんだけど…」
私の肩を、体を抱き寄せる、木野君の腕の力強さ、優しさ。
木野君の腕の中、私の心は今まで経験した事もないような幸せでいっぱいになっていた。
わたしはそんな木野君の気遣いと優しさに
「ありがとうございます、木野君…」
そう言って、精一杯の笑顔で応えたのだった。

337:266
09/01/07 16:47:38 rOxwgGXJ
以上でお終いです。
それでは、失礼いたします。

338:名無しさん@ピンキー
09/01/07 17:49:05 Q/0BJKST
乙!!!GJ!!!
あなたの木野×加賀が読めて嬉しい。この2人いいよね


339:名無しさん@ピンキー
09/01/08 01:19:26 9s7hs1L1
みなぎってきた!
いいものをみた!

340:名無しさん@ピンキー
09/01/10 21:41:50 cf0qdsYG
書き込む際に表示される規制を外す方法を誰か知らない?
投稿したいのだけど、自宅のパソコン(CATV回線)だと規制されるので(今は職場のパソからコッソリ)。

341:名無しさん@ピンキー
09/01/10 22:52:00 pbDFK3sP
数日待てば解除されることもないでもないですよ

342:名無しさん@ピンキー
09/01/10 23:22:08 EMU7ViUh
こちらから外すのはさすがに無理じゃないかな。

URLリンク(qb5.2ch.net)
ここに規制情報が載ってるだろうから、該当するものがあったらそれ以外のプロバイダで投下するか。
●買うって方法や、代理投下を依頼する方法もあるにはあるけど。


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