09/02/03 15:45:40 Bal2euS9
何故……何故なんだろう。
何でこんなところに獣人族の少女が……?
見間違いなんかじゃない。俺みたいなすべらかな鱗ではなく、体中から生えている赤茶色の毛を見れば一目瞭然だった。話には聞いたことがあったが、本当に獣人族は体の一部分を隠すかのように服を着るみたいだ。
ふくよかな胸に当てられた白い帯状の布に、閉じられた股に履いている胸当てと同じ繊維であろう布が、それを物語っていた。
「……にしても、困ったなぁ」
他に誰もいないのにそう呟くと、頭の後ろを掻きながら思案をし始める。
家の前でどさりと何かが地面に落ちるような音がして飛び起きたけど、出て見てみればこの場所には似つかわしくない獣人族の少女。
今は月がはっきりと見えるくらいの深夜であることを考えると、わざわざ人目を忍んで国境を越えてきたに違いない。それを裏付けるかのように、少女の体のあちこちにる擦り傷や切り傷があった。
「とりあえず……家の中で寝かせておこう」
このままにしておくのはさすがに気が引けるので、少女を抱き上げて家へと戻ることにした。……と、決めたのは良かったのだけど。
「んっ……」
少女は目を一旦強く瞑り、そして月明かりに目を細めながらもゆっくりと目を開いていく。そしてその目の中に自分の姿が映ると、少女は目を瞬かせる。
「は、離してっ!」
自分自身がおかれている状況に気づいたのか、少女はその華奢な体からは想像もつかないほどの強い力で突き飛ばされた。その反動で勿論少女は倒れ込んでしまう。
倒れたのは大したことはないかもしれないけど、傷を負っている少女にとっては「痛っ……」と小さく声を上げてしばらく震えてしまうほどの追い打ちだった。
「来ないで……!」
心配して近づこうとすれば、少女は痛みに泣きそうになりながら足を引きずり後ずさる。
こうまで拒絶されるのは別に自分が強面というわけではない。竜人と獣人は昔から仲が悪く、どちらも『獣人は野蛮』だとか『竜人は凶悪』だとか教育しつつ忌み嫌い続けてきたからと言わざるを得ない。
しかし両者とも一歩譲らないために、両国の境には巨大な壁が建てられている。その国境をなぜこの少女は越えてきたのだろうか……。