09/11/06 13:02:23 4x7TKf06
「余計なお世話かもしれないっすが、君の身の回りには結構歪が生じてるっす」
夜遅く、再び眠りについた妹を机の上から眺めながら、尊は言った。
「例えこの場は乗り切ったとしても、今後君と妹さんに悪意が降りかかる可能性は否定出来ないっすね」
終也が犠牲にしてきたもの―それに対する警告である。
「そういう意味では死神の虜になった方が、幸せかもしれないっす。変な言い方っすけどね」
終也は睨みも一瞥もせず、俯いている。
「…過去を清算出来ないのは理解している。俺は楽には死ねない」
それでも、僅かな幸せの為に自らの手を染め、死神と会い見えた―。
尊は不器用な青年を見て、はぁ―と溜息を吐く。
「とりあえず、そろそろ始めるっすか」
尊が、まだ眠ったままの妹の胸元に降り立つ。
「じゃ、いくっす」
割と緊張も感じさせず、尊は目を瞑る。
すると妹の体と尊の体から、不思議な物体が浮かび上がるように出てきた。
妹のそれは、大きいが弱々しい光。色は鈍い赤に近い。
一方尊のそれは、小さいが輝くような光を放っている。色は無色で透明感が強い。
終也は言葉も無く、その現象を背後で見守っていた。
やがて二つの物体は入れ替わるように別々の体へと、ゆっくりと沈み込んでいく。
尊の体は、ぱたりと倒れる。それと同時に、妹の目が開いた。
「これで良い」
妹の体に入った尊は、今まで自分が使っていた体を、そっと手に取る。
「約束通り、口調は妹さんに合わせる。君のことは、”お兄ちゃん”って呼ぶから」
「…!」
すると突然顔を真っ赤にするや否や、ぷいと顔を背けてしまう終也。
尊はその様子を見て笑いながらベッドから下り、眠りに落ちた本体を机の上に寝かす。
「じゃ、何か夜食を作るね?」
「……」
むず痒い、といった感じで嫌がる終也が滑稽だった。
「…俺の前では元に戻せ」
「分かったっす」
「ただし、すは付けるな。普通に話せ」
「君の言う通りにする」
笑顔で答える尊。だがその表情は妹のそれと同じで、まだ終也の動揺を誘う。
「…それにしても、これが人間の体か。思ったより、不自由な感じがする」
「変なことはするなよ」
すると悪戯心でも湧いたのか、尊は終也の目の前に立って、上目遣いで見る。
「例えば何?」
「……」
所謂シスコンって奴っすかね―尊はそう心の中で思ったが、口には出さなかった。
その軽い取り乱し様が、割と好みなのかもしれない。