戦隊シリーズ総合カップルスレ 8at EROPARO
戦隊シリーズ総合カップルスレ 8 - 暇つぶし2ch2:名無しさん@ピンキー
08/10/07 22:25:23 mKQzN6xD
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3:名無しさん@ピンキー
08/10/07 22:43:30 ftQeb/r7
>>1
乙!!

>>前スレ661
できればでいいんだが初めから投下してもらえないだろうか

4:前スレ661
08/10/08 01:47:29 1+oavPHl
>>1 乙です。
>>3 スレをまたぐとわかりづらいですよね。うっかりしましたすみません。
お言葉に甘えて、もう一度最初から投下させていただきます。

相変わらずの金黄です。
お暇つぶしによろしくお願いします。

5:5-1
08/10/08 01:48:49 1+oavPHl

ガイアーク反応ではなかったのかもしれない。
事実、ボンパーはなんの反応も示さずだったからだ。

 日課のロードワーク中、邪悪な者の存在を感じ取り、大翔は振り返った。
過去にガイアークの愚かな蛮機獣に後をつけられたことがあり、もしやまたかと思ったのだ。
「ただのバカならほうっておくが」
しつこいバカは始末が悪い。
このまま見逃したとして、標的が美羽になることを想定し、大翔は眉をひそめた。
足を止め、背後に迫る邪悪な気配に語りかけた。
「何の用だ」
 現れた姿は黒いコートを身につけた女だった。
彼女はフードをとると、妖艶に口元をつりあげた。
ゾクリと寒いものが大翔の背をはしる。
纏う衣こそ違えど、顔立ちその姿はケガレシアであったからだ。
しかし、ケガレシアではないと直感で悟った。
それではこの女は?
「わたしをどうして捨てたの?」
冷たい水が話しているようだった。
そして、蛮機獣ではありえない花のような香りが漂ってきた。
女は大翔のほうに手を伸ばした。
大翔は拳を固め腰を落として身構える。
変身するべくウィングトリガーを握る手から力が抜けたのはその時だ。
「わたしが何をしたの」
その言葉はいくつもの女の声が重なって大翔の耳に届いた。
「わたしたちが何をしたというの」
間合いを取り女に鋭い視線を送るしかできない。
息苦しさとは違う、甘い痺れに絡めとられるように大翔の自由は奪われていく。
女は大翔に歩み寄ってくる。
美しい人の形をしているが、白すぎる肌は柔らかみも温かみもない。
「あんなにかわいがってくれたのに」
「わたしたちはすてられた」
「わたしたちはみむきもされなくなった」
「いつもいっしょだったのに」
「どうして」
大翔は耳を押さえようとした。
押さえたところで意味がないのはわかっていたが、そうしないではいられなかった。
敏感すぎる大翔の意識の中に、いくつもの「声」が入ってくる。
これに拳では対抗できなかった。
腕が上がらず耳もふさげず、声が絶えず響く。
頭が割れるように痛んだ。
とうとう大翔はアスファルトに膝をついた。
唇をかみしめ、息を止めて言葉の洪水と全身を貫く甘い痺れに耐えた。
女はそんな大翔を見下ろしながら妖艶にゆったりと微笑む。

6:5-2
08/10/08 01:49:38 1+oavPHl
「 trick or treat?」
「な…に…?」
大翔の前に女も膝をついた。
腕を伸ばし、大翔の首にまわした。
身動きの取れない大翔に女は不思議そうな顔をして尋ねた。
「お菓子をくれないの?」
「それならいたずらをしなければ」
「そうね、いたずらをしなければ」
女は大翔に口づけた。
触れられた唇の冷たさ。
同時に流れ込んだのは、たくさんの声、耳障りな笑い声、むせかえるほどの花の香り。
眩暈に襲われながら、大翔は女から離れようと渾身の力を拳に込めた。
しかし女は口づけながら抱きしめ、大翔の体をわが身を包む黒いコートに包んでいった。
「いたずらをしたわ」
「だって」
「お菓子をくれないのだもの」
「気に入ったわ」
「連れて行きましょう」
「もっといたずらをしなければ」



「アテンション!」
花の香りに酔わされ朦朧としていた大翔の意識が呼び戻された。
「アニから離れなさい!!」
この邪悪な者の気配を感じた美羽が駆け付け、ゴーオンシルバーの姿で銃の狙いを定めていた。
「ゴーオン!」
銀色の光は女の眉間を砕いた。
まるで陶器のように砕けていく女の顔。
頭の中から声が消えた。
砕けた破片とはらりと落ちた黒いマント。
その上に大翔は崩れ落ちるように倒れた。
「アニ!」
美羽の悲鳴のような声が聞こえる。
姿は消えても濃厚な花の香りが大翔を苛む。
駆け寄ってきた美羽に抱き起こされた時、大翔は完全に意識をなくしていた。

7:5-3
08/10/08 01:50:17 1+oavPHl

 走輔に担がれ、ギンジロー号のベッドに寝かせられた大翔はまるで呼吸をしていないかのようだった。
お人形みたいだと早輝は思った。
大翔のジャケットなどから採取したわずかなガスから、連は沈静と催淫の作用があることを導き出した。
「このガスを大量に吸入した場合、身動きが取れなくなる上に、気分が高揚して身に迫る恐怖すら感じなくなってしまう」
「その隙に命を奪われるわけ?いくらきれいな人でも怖すぎるよ」
ぶるっと範人が身を震わせた。
「命を奪われたことすら本人には自覚できないかもしれないっすね」
「ある意味も幸せな死に方だ。苦しくもなく、あるのは快楽、いつの間にか死んでいるなんて」
軍平が眉をひそめている。
しかし、その大きな手のひらは先刻から黙りこくったままの早輝の頭にのせられ、不器用になぜていた。
「心配するな、寸でのところで美羽の機転で危機を逃れたんだ。こんなふてぶてしい奴が、簡単にやられるわけがない」
パソコン上のデーターを見つめながら、顎に手を当て連がつぶやいた。
「蚊が人を刺す過程と酷似しているっすね」
「蚊?」
「そうっす。蚊はもともとは樹液なんかを餌にしているもんなんすけど、メスだけが産卵期にタンパク質を必要とするために血を吸うわけっす」
「メスしか刺さないっていうのは聞いたことあるよ。それがかゆくなるモトなんだよね」
「吸血する際に唾液を注入するんすよ。メカニズムはややこしいから省くっすけど、血が固まらなくなるから吸いやすくなるわけっす
まず、唾液を麻酔のように刺して注入、吸血とともに蚊の体内に戻る。さらにその唾液の成分には感覚を鈍らせるものがあって、
刺されていることを生物に悟らせない作用があるっす。」
「ねぇ、蚊の中に戻ってしまうってことはさ、痒くなるモトは残ってないってことじゃないの?」
「忘れたころに痒みがくるのは、唾液が残っているからっす。中途半端に血を吸い切れなかった場合、唾液が体内に残るっす。
それが痒みになってあとからくるっすよ」
へーえ、と感心したように頷いた範人。
その二人の会話を黙って聞いていた軍平が難しい顔で腕を組み、連に言った。
「蚊の唾液と大翔が浴びたガスの作用は似ている、と」
連はうなずいた。
軍平は続ける。
「途中で助かった大翔の体内には・・・」
「毒ガスが大量に残っているということになるっす。あくまでも仮説っすけどね」
「蚊の痒いのもいつの間にかなくなってるでしょ?大翔の場合もこのまま休んでいれば大丈夫じゃないの?」
連は範人に微笑んだ。
「そうだといいっすけど。俺もそれを期待しているっす」

8:5-4
08/10/08 01:51:14 1+oavPHl
「どうしてついてくるの?」
大翔が倒れてからの美羽は情緒不安で、すぐに声を荒げる。
そんな彼女のあとを追いながら、走輔は言った。
「お前、あん時の大翔に似てるからだよ。ハンマーバンキにお前がやられた時の大翔に!」
美羽は足を止めた。
拳を固め、強い声で言い放つ。
「許せないの!蛮機獣を倒しても、アニの意識は戻らない。アニにもしものことがあったら」
「喧嘩相手を探して、あてもなく街ん中を歩いているってわけか」
「違う!私には邪悪なものを感じる力がある!」
走輔は痛々しいと美羽に対して思った。
こんな時、気の利いた人間なら男なら、優しい言葉の一つでもかけてやれるだろうが、あいにく走輔はそんな言葉を持ち合わせていなかった。
「ちょっと、なにするの!」
突然手首を強い力でつかまれ、美羽は抗った。
「うるせーな、一人で突っ走ってんじゃねーぞ。
お前がそんなことじゃ、お前の相棒だって気が気じゃねぇはずだ。ジェットラスの声に耳を貸してねーだろ!」
怒鳴られて美羽は唇を引き締めた。
夜の街を彷徨い歩いたところで、何もならないことは美羽自身よくわかっている。
だが、居ても立っても居られない。
悔しそうに美羽は顔をうつ向かせた。そして、涙をひとつ、足元にまで落とした。
「暴走してばっかりの、走輔にそんなこと言われるなんて」
気丈な美羽が走輔の胸に寄り掛かった。
普段なら飛び上るほど驚く走輔だが、今は黙って受け止めることができた。
美羽の肩に腕を回し、言い聞かせるように何度も繰り返した。
「お前は一人じゃねぇぜ。俺たちで大翔を助けるんだ」


9:5-5
08/10/08 01:52:09 1+oavPHl

 連は解毒剤ができないかと考えていた。
「自発的に抗体でもできればいいっすけど」
メカ相手なら百戦錬磨の連でも、生身の人間相手では勝手が違う。
さらに言えば、未知の生命体の発した新種の毒性など、現代医学でどうにかなるものだろうか。
ベッドの傍では早輝が無言まま椅子に座っている。
「スマイルが消えてしまってるっすよ」
自分のことを言われたと気がついた早輝は、弱々しい笑みを見せた。
「連、休んで。ずっとデーターと睨めっこしてたでしょ。大翔さんのことはあたしが見てる。
何かあったらみんなに知らせるよ」
「大丈夫っす。これくらい」
「休めるときに休んで。何があるかわからないし」
連は深く息を吐き、仕方なく頷いた。
「そうさせてもらうっす」
 連がいなくなり、部屋に静けさが増した。
大翔の寝息でも聞こえれば安堵できるのに、その呼吸はひどく浅い。
「大翔さん、目を覚ましてよ」
伏せられたままの瞼に金色の髪が束で落ちている。
そっと指で払い、早輝は切なそうに見つめた。
「毒りんごでも食べちゃったの?」
薄く眼を閉じながら大翔の閉じられた唇に自分のそれを寄せていく。
「起きて、お願い」
大翔の頬に早輝の黒髪がこぼれるように落ちる。
触れた唇は生きているのかと思うほどに冷たく、それが早輝を一層悲しませた。
「童話みたいにキスくらいで目を覚ますわけないよね」
大翔から離れようとした瞬間、痛みを伴うほどの強い力で両肩を掴まれ体が反転させられた。
何事かと顔をあげた早輝の身はベッドに転がされており、再び肩の痛みのために早輝はうめいた。
大翔が上にいた。
別人かと思うほど暗く鋭い目で、早輝を見下ろしていた。
瞳が青い。
肩に指が食い込むかというほどの強さで押さえつけられ、早輝は茫然と大翔を見つめた。
「意識が戻ったの?」
大翔が低い唸り声をあげた。
襟元に手をかけられ力任せにジャケットを剥がれた。同時に布で擦った首筋に鋭い痛みが走る。
叫ぼうとした唇をふさがれ、声は言葉にならなかった。
早輝は彼を振り払おうともがき抗った。
そんな抵抗をものともせず、早輝の脚の間に大翔の片足が割り込んでくる。
容赦なく差し入れられた舌が早輝の声を呼吸を奪う。
大翔さん、嫌、やめて!
逞しい肩を押し返しながら、言葉にできないながらに叫んだ。
必死だった。
突然、大翔の動きが止まった。
全身の力という力を弛緩させたように、どさりと早輝の上に倒れこんだ。

10:5-6
08/10/08 01:56:33 1+oavPHl


 気がつけばギンジロー号のベッドに上に寝かされており、美羽と軍平から見下ろされている状態であった。
美羽はともかく眼前に軍平もいるこの状況に再び意識をどこかに飛ばしたくなったが、目を覚ましてしまったからには仕方がない。
「やられぱなしとはお前らしくもない」
さっそく軍平に肩を押された。
額にあてられたタオルを持っていたのが美羽だと気がつき、大翔は軍平を無視して美羽に笑いかけた。
「ありがとう美羽。もう大丈夫だ」
美羽の大きな瞳が大翔を見つめ、抱きついてきた。
「よかった、アニ。丸一日目以上を覚まさなかったのよ」
「一日?」
それほどのダメージを受けていたのかと大翔は驚く。
ケガレシアと同じ顔をした美しい蛮機獣。
「あれからあの蛮機獣が現れたか?」
「いいえ、アニ。でもね、軍平が調べてくれたところによると」
「左京さんからの情報なんだが、ここ数日の間、若い男性の行方不明が多発してたらしい。
自ら消えたのか誘拐されたのかは不明だが、
あえて被害者とさせてもらう。さらに捜査した結果、その共通している特徴は実に大翔、お前にだったんだ。
年齢はもちろん、体格が似ている者、武術に長けている者・・・ボクサーもいた。
偶然かもしれないが、偶然として見過ごせない」
「蛮機獣のターゲットは大翔だったってことっすか? でも、その事件とガイアークを結び付けるのは短絡的すぎるっす。
ガイアーク反応もなかったっすから」
いつの間にか、美羽と軍平の背後に土鍋を持った連が立っていた。
「アニが倒れた時もボンパーはガイアーク反応を示さなかったわ。わかったのはアニと私だけよ」
「誘拐事件が起った時はどうだったすか?」
美羽は口を閉ざし、しばし考え、きっぱりと首を横に振った。
「頻繁に起きていたようだけど、感じなかったわ。アニは?」
「俺も感じなかったが、ガイアークとは無関係とは言えない」
「なぜっすか?」
「顔がケガレシアだった。ケガレシアではなかったが、器がそっくりだった」
軍平が顎に手を当てながら、
「俺の元刑事の・・・いや、警官の勘からすれば。ターゲットが大翔だったなら以前の被害者たちは
実験的に利用されたような気がしているんだ」
「蛮機獣に個別攻撃を受けたことがある。ヨゴシュタインやヒラメキメデスの件もある。
俺がターゲットになったとしても不思議はないが」
「ガイアークにとってもゴーオンゴールドは驚異だということっすね。大翔、起き上がれるっすか?」
実は、ヨゴシュタインより連の持っている土鍋がどうしても気になる。もちろん嫌な予感ということで。
大翔は尋ねた。
「連、それはもしや俺のために?」
連はニッコリと笑った。そして、蓋をあける。
「そうっす。特製ニンニク粥っす。これを食べて早く元気になるっす」
ゴロゴロといくつもニンニクの欠片が入ったおかゆをみて、大翔はうめいた。
「食欲がまだ・・・ないんだ」
「そんなことを言っていると、元気になれないっす」
「いや、無理に食べてもよくないはず・・・」
「オカンの言うことが聞けないっすか~?!」

11:5-7
08/10/08 01:58:27 1+oavPHl

 無理やり食わされた連のニンニク粥は、意外なことに美味だった。
なぜか敗北感を覚えつつ、大翔はベッドから降りた。
「走輔と範人と早輝は?」
「病人がいるのに走輔がいてはやかましいことこの上ないから、調査に行ってもらった」
調査、と呟き大翔はジャケットを羽織った。
「世話になった。美羽、戻ろう」
「もう、戻るっすか?無理はしないほうがいいっす。というか、一人にならないほうがいいっす」
連の言葉に軍平も同調した。
「己を過信するなよ。休息をとり回復するのも大切なことだ」
「アニ、私もそう思う」
美羽にしては珍しいことを言う。帰りたくないということかと大翔は了承し、短い息をついた。
「自分のベッドで休みたいんだ、美羽」
「夕べ早輝がずっとアニのそばにいてくれたのに、お礼もせずに帰るつもり?」
早輝には会いたくなかった。
ダメージを受けた無様をさらした後では。
なぜか早輝のほうも姿を見せていない。
「とにかく俺は帰る。ボエール教官と今回の件を話し合いたい。
美羽は俺の代わりに早輝に礼をしておいてくれないか」
まったく、と美羽が唇を尖らせつつ、了承した。

 自宅に着くと同時に、まだふらつく身体を目覚めさせるように、大翔はシャワーを浴びた。
足まだ心許無く、歯がゆい。
ガウンをまといタオルで髪を拭きながら、大翔は倒れこむようにソファーに横になった。
この奇妙さはなんだろうか。
頭痛?
焦燥感?
落ち着かない、我が身が我が身ではないかのように。
意識が沈んでいくように瞼が重くなっていく。
大翔はそのまま目を閉じた。

12:5-8
08/10/08 02:01:07 1+oavPHl
「死にぞこないのゴーオンゴールド、起きるでおじゃる」
意識はその声をとらえたが、瞼はどうしても開けられなかった。
この妙な語りの語尾、ガイアーク3大臣ケガレシアか。
「まぁよいでごじゃる。その無様な姿を見られただけでもわらわがここまで出向いた甲斐があったというもの」
無抵抗のままでは倒されるのは必至。
意識の中で焦る大翔。
しかし、ケガレシアは自ら手を下すつもりはないと言った。
「よいことを教えてやるでおじゃる。今、お前を襲っている不調は毒のせいでおじゃる。時がたつにつれ強さを増してお前を蝕んでゆく」
「あれはお前が作った蛮機獣か?」
ケガレシアの姿をした黒いフードをまとった、まるで魔女のような姿。
「蛮機獣とは違うでおじゃる。あやつの本体は捨てられた人形。人間共が自ら作り出した怨念に姿を与えてやったまで。甘い餌で虜にし魂を蝕み食らいつくす。
ヒューマンワールドの自然界とやらにも数多くそのような手段をとる賢い生き物が多数おるであろう?」
高らかにケガレシアは嗤う。
大翔は目を開いた。
意識が覚醒し始めた。
「俺は食われてなどいない」
「同じことよ」
ケガレシアは覚醒した大翔に顔を近づけ、その瞳を覗き込んだ。
「魂を食らうと同時に酔わせるでおじゃる。花の香に酔ったであろう? 魂を食らわれなくともお前の中にはその毒がたーんまりと残っているでおじゃる。食われなくとも毒にやられていれば早い死か遅い死か。
そなたが人形のようになるか獣のようになるか楽しみでならぬ」
忌々しい、女だ。
毒の華と呼ぶにふさわしい。
大翔は身動きが取れずにいるわが身を呪った。
「ひとつだけ、助かる方法を教えてやるでおじゃる」
鋭く睨む大翔に向かい、ケガレシアは愉快そうに赤い唇を釣り上げ、高らかに笑う。
「毒を吐きだせばよい。快楽におぼれお前は獣のように女でも男でも襲い精を吐けばよい。
そうじゃ、試しに大切な妹でも犯してみたらどうじゃ?」
「黙れ!」
自由にならない体でケガレシアに向かった大翔を、ケガレシアは扇の一振りでなぎ倒した。
床に転がる大翔をさも愉快そうに眺め、
「苦しむがいい、ゴーオンゴールド。われらが望む汚く住みやすい世界に目障りでおじゃる」
 ケガレシアの・・・邪悪な者の気配が立ち消えた途端、体から不自由さが消えた。
奪える命を奪ってゆかなかったことを、悔やませてやる。
床に転がったまま、大翔は天井を見ていた。
 人でなくなるというのか。
理性を失い、己を抑制できなくなる。
それも死に値するものかもしれない。

その時は己を消すまで。

13:5-9
08/10/08 02:03:39 1+oavPHl
「アニが地下に閉じこもって出てこないの」
ギンジロー号に青ざめた表情の美羽が飛び込んできたのは二日後の朝だった。
その言葉にいち早く反応したのは早輝だった。
ジャケットの破れを不器用そうに縫っていた手を止め早輝は、白いシャツのまま立ちあがった。
早輝の首には黄色のスカーフが巻いてある。
「大翔さん、また変わってしまったの?」
美羽は厳しい表情で早輝に歩み寄り、肩に手を置き、強い口調で言った。
「アニは目覚めてからダメージはあったけれど、異変という異変はなかった。
早輝は何の話をしているの?何を見たの?」
一方の早輝は肩の痛みに顔をしかめていた。
「早輝・・・?」
美羽は肩から手を外し、うつむく早輝の頬に手をあてた。
「肩が痛むの?」
肩を見せてと美羽に言われ、早輝は後ずさった。
「なんでもない、なんでもないよ」
「早輝!」
咄嗟に早輝の手をつかみ、美羽はあたりを見渡すと、
「男子は外へ!」


Tシャツを脱いだ早輝の肩を見て、美羽は息を飲んだ。
指の形にあざが残っている。
スカーフを外すと、擦り傷が首筋に走っていた。
「まさか、これをアニが?」
黙ったまま、早輝は脱いだTシャツに袖を通し、首にスカーフを結びなおした。
「大翔さんじゃないよ」
ぽつりとつぶやいた。
「あれは大翔さんじゃない」
語尾の掠れた早輝を美羽は抱きしめた。
「・・・ごめんね、ごめんなさい」
美羽の肩に頭をのせて、早輝はあれ以来初めて声をあげて泣いた。


しばらく早輝の自室から出てこなかった美羽と早輝を食事だと呼びに行った範人は、
美羽が早輝のジャケットに針を刺しているのを見て不思議そうに尋ねた。
「どうしたの? 二人とも暗いよ」
美羽は答えず、手際よく縫い進めている。
その空気を窺いながら、範人はさらに言った。
「大翔のことはどうなっちゃったの?」
突然、早輝がベッドから立ち上がった。
「スマイル満開っ、充電完了っ!」
縫い終わったらしい美羽が怪訝そうな顔でぷちんと糸を切り、早輝に言った。
「早輝、無理しないで。アニのことは私が」
大丈夫よ、と言う美羽に早輝は笑顔を向け手を伸ばした。
「ジャケットありがとう」
美羽から手渡されたジャケットを羽織ると、肩の痛みに片目を閉じながら勢いよく袖を通した。
「範人、メニューはなに?」
「早輝が急に元気になって、この展開についていけないボク・・・」
早輝に腕を掴まれ、部屋から引きずりだされた範人はしきりに首をかしげていたが、思い出したように、
「早輝、美羽、オムライスだよ!」
範人が逃げるように皆のもとに行ってしまった後、早輝は美羽にそっと耳打ちした。
聞いて美羽は複雑そうに口を押さえ、嘘よ!と言いかけた。
が、思い直したらしく、しっかりと頷いたのであった。
「妹が許すわ、思いっきりひっぱたいてよし!」

14:5-10
08/10/08 02:06:25 1+oavPHl
 兄の風上にも置けぬと美羽は怒り心頭。
まあまあ、もともとはガイアークが悪いんだから、となだめる早輝。
自分のことなのにどうしてそんなに呑気なのと叱られる始末。
美羽の手にはジェットラスとトリプターの炎神キャストと炎神ソウルがある。
その両方のホログラムを呼び出し、美羽は語りかけた。
「アニはトリプターも置いて行ってしまったのね」
大翔を慕っているトリプターは元気がなく、
「トサカにくるぜ・・・アニキのヤツ」
そんなトリプターに美羽はいたわる様な眼をむけたものの、一転して厳しく言い放った。
「仮にも相棒なら、アニを連れ出して。地下室くらいぶっ壊しても構わないわ」
エエエエー?!と全身でのけぞる(?)トリプター、美羽の相棒のジェットラスがあわてたように仲裁に入った。
「待つんだ、バディ。君も十分承知のはずだ、我々の姿はこのヒューマンワールドでは・・・」
ジェットラスの言葉をさえぎるように美羽は言った。
「10分しか持たない。それがなにか? アニを連れ出すのに10分もいらないはずよ」
トリプターは意を決したようにバタバタバターッ!と、飛び立っていった。
ジェットラスも追うように飛び立とうしたが、
第六勘でガイアークの気配を察知した美羽に呼び止められる。
「敵のお出ましみたい。今度はどんな蛮機獣かしらね」


 肩の怪我を美羽に気がつかれる以前に、連には気付かれていたらしい。
「大翔と関係があるっすね?」
違うと云いかけた。
しかし、連の聡明な眼差しはそれを許さなかった。
「あの時、早輝を一人にするんじゃなかったっす」
連が不意に触れたのは、黄色のスカーフの下にある傷。
無意識に体をこわばらせてしまった。
その反応に驚いた連だったが、何かを悟ったように手を引いた。
そうしていつものように薬箱を出してきて、簡単に手当てをしてくれた。
「とにかく今回の出動はお預け。わかったっすか?」
「お留守番?! やだ、私も行く!」
「肩の故障あるのについてこられたら足手まといっす」
「故障っていう程度のことじゃないよ・・・肩とかは」
連に生真面目に言われ、早輝はつい自分の胸に手をあててしまった。
実は肩よりもこっちのほうが痛い。
くっきりあざが付いている。しかも指の跡だ大翔のばかやろー!
あの時はどさくさで分からなかったが。
気分的に大暴れしたいところだった早輝は、連においてゆかれてしまった後、
ポンパー相手にプンスカ怒りまくっていた。
早輝がいなくとも相棒のベアールVまで出動している。
早輝の分まで頑張ってくるでぇ! と陽気に出かけて行った。
「誰がベアールの運転するのよ!」
「早輝、何をそんなに怒っているんだボンボン」
「ボンちゃんはわからなくていいのっ!」
そこにトリプターからギンジロー号に通信が入った。
美羽と話せば叱られると思ったらしい。
「どうしたの?大翔さん出てきた?」
「来るな来るな一点張り。アニィどうしちゃったんだ」
早輝とボンパーは顔を見合わせた。
そもそもトリプターがギンジロー号にアクセスしてくること自体珍しいことだったりするのだ。
「天照大野神みたいだボンボン」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
早輝が黙りこくっていた。
普段がスマイル満開なだけに・・・ボンパーは機械なのに震え上がった。
「トリプター私を大翔さんの所に連れて行って」
「操縦桿はアニィだけの・・・」
「連れて行ってってば。トリガーここにあるじゃんっ」

15:5-11
08/10/08 02:09:23 1+oavPHl

トリプターはリミットの10分を過ぎてキャストとソウルに分かれてしまった。
早輝はその二つを拾い、いい子いい子となぜてバッテリーにつないでやった。
海沿いの別荘のような美しい建物の地下に、ゴローダーGTの実験OKな施設があるとは。
地下室の鉄の扉の前で腕組みをして早輝は仁王立ち。
この扉の頑丈さではこちらからの声など遮断されるに違いない。
が、そんなこと構っていられるものか。
早輝にしては勇ましく髪をかきあげ、大きく息を吸った。
「大翔さんのどすけべ! お嫁入り前なんだからねっ、責任とってよねっ 潔く出てきてよっ」
ドアは開かなかったが、しばらくして大翔の声がインターフォンから聞こえてきた。
「俺がなにかしたのか」
「しらばくれるなら、見てみればいいよ」
「なにを」
早輝は腕を組みなおした。心持顎を上げて言い放つ。
「胸。大翔さんに掴まれて痣になってます。そんなにおっきくないけど痛いんだからねっ」
インターフォンから聞こえてきたのは、ドツテンガラガラガシャンのような、何かを落とす派手な音。
クールな大翔らしくもない。
「それは・・・本当に?」
「本当だよ」
それからしばらくドアの前で待っていると、大翔が出てきた。
その姿をみて早輝の目がしらが熱くなったが、歯をくいしばって耐えた。
怒っている姿勢を崩さないように、早輝は大翔をにらみつけた。
大翔は憔悴した表情で、壁に寄り掛かる。
「意識がない間にやらかしたらしいな。すまない」
「やらかしたじゃすまないよ」
早輝が一歩詰め寄ると、大翔は一歩横に逃げた。
それをされて早輝はまたムッとして、さらに近づく、大翔は同じだけ遠ざかる。
それを何度かやって、早輝は大翔を怒鳴りつけた。
「大翔さんなにやってるの?!」
苦しげに顔をゆがめながら、大翔は言った。
「近寄るな。どうなっても責任取れない事態になるかもしれ・・・」
「とっくになってるんだってば!」
早輝は大きく一歩踏み出し、大翔に飛びついた。
大翔の腰に腕をまわしてしがみつく。
腕を掴まれ、外されそうになったものの、一生懸命にしがみついたら大翔のほうがあきらめたらしい。
「・・・首、どうしたんだ」
「大翔さんにやられたのっ。肩も痛いし、首だって傷だけじゃないよ筋を違えたし、
腕だって足だってあざだらけだし」
そうか、と大翔がつぶやいた。
恐る恐る早輝の背に腕を回そうとして、思いとどまる。
「今度は、早輝を殺してしまうかもしれない」
意味とは裏腹にやさしい声だった。
抱きついたまま見上げると、柔和に微笑む大翔がいた。
「だから、離れてくれ」
早輝は首を横に振った。強情を貫くなら今だと言わんばかりに。

16:5-12
08/10/08 02:11:09 1+oavPHl
 頭上でため息が聞こえる。
「意識を見失わないようにしていることだけで精一杯なんだ。お前にここにいられると、俺は俺自身を失う。
その痣も傷もそうしてつけてしまったんだろう・・・すまなかった」
早輝は首を横に振った。
離れない、絶対に離れない。
そんな早輝に言い聞かせるように大翔は続けた。
「早輝を犠牲にして俺が楽になるらしい。そんなことになるくらいなら自らを消す。だから、今は離れていてくれないか」
「いつもそうやって一人で解決しようとする・・・」
大翔の表情に切なさがよぎる。
力を込め、早輝の腕をつかみ、我が身から外した。
早輝の手をつかんだまま、大翔は涙をいっぱいに溜めた瞳を覗き込んだ。
「どうして私が犠牲になるの?大翔さんが楽になるなら、どんなことだってするのに そんなの犠牲なんて言わないよ」
大翔は早輝の首のスカーフを指した。
「俺はこの傷をつけた記憶がまるでない。自分がどんな事をするのか、どんな風になるのか、わからない。
今もギリギリのところで正気を保っている」
「大翔さんの言っていることがわからないよ。連は大翔さんが花の香りの毒に苦しんでるって言ってた。
楽になるっていうのはその毒が消えてしまうってことなの?それなら私にできることはなんでもする、だから」
早輝の手首が痛むほど強く大翔は力を込めた。
「犯されて殺されてもいいのか、俺に?」
早輝が目を見開いた。
「その毒のお陰で。抑制が利かない、コントロールが利かない、
今の俺はブレーキもハンドルもないアクセルだけで自爆寸前の状態なんだよ」
見上げてくる早輝の目から顔をそらした大翔は、彼女の手を放し背を向けた。
今ならまだ、扉の向こうへ行けるだけの気力がある。
「はっきり言って。私バカだからわからないんだ。私が大翔さんにおっ、おかされたらいいの?!」
「そういう言い方はするな」
こんなタイミングでの早輝の小ボケに大翔は首を垂れつつ、ドアの向こうに行こうとする。
「いいよ。大翔さんならいいよ!」
慌てて大翔の背にしがみついた。
「早輝!」
たまらずに大翔が声を荒げる。
「よくないから言ってる!!」
強張ったままの大翔の背に額を押し当て、早輝は言った。
「あの時も大翔さんはやめてって心で願ったら、やめてくれたよ」
「・・・」
「大翔さんは負けないよ。信じてる」
さらに早輝は続けた。
「大翔さんがいい。大翔さんじゃなきゃ嫌。・・・あと何んて言ったらわかってもらえるの?」
大翔が首だけ振り返る。
早輝は腰にまわしていた腕を解いた。
ドアに寄りかかり向かいあった大翔は、早輝の体を抱きしめた。
なんて甘美な拷問だろうと、やるせなく思いながら。

17:5-13
08/10/08 02:16:48 1+oavPHl
 寝室のドアを閉めた後も、大翔はそこに寄りかかったままだった。
踏み出すのを躊躇するように、そこにいた。
早輝はそんな大翔から離れ、大きなベッドの前に立つ。
首に巻いていた黄色のスカーフをほどいた。
ジャケットの襟元に手をかけながら、自分の指先がうまく動かないことに気がついた。
それでも、動揺していることは悟られたくなくて、
ぎこちないながらもファスナーをおろし、ジャケットを脱いだ。
置く場所なんて考える余裕もなく、
床に身につけていたものを落としてゆきながら、あえて大翔から背を向けた。
夕暮れで部屋の中が薄暗くなっていることが、ありがたかった。
「・・・もういい」
大翔の声を聞いて、早輝は目を伏せた。
聞こえないふりをして服を脱いでいく手は止めなかった。
すべて脱ぎ終えてからどうしたらいいのかわからず、早輝は自分の体に腕を回すしかなかった。
大翔が歩み寄ってきた。
羞恥だけではない恐怖が早輝の体を無意識にすくませた。
青い眼をした大翔に乱暴された記憶が無意識にそうさせるのだ。
肩に大翔の着ていたジャケットをかけられた。
「無理しなくていい。十分だ。ありがとう」
早輝はうつむいて、大翔のつま先に訊ねた。
「私じゃダメ?」
大翔は頭を横に振った。
「そうじゃない、そうじゃ・・・」
早輝は腕をのばしてつま先で立ち、大翔の唇にキスをした。
肩から大翔のジャケットが滑り足元に落ちる。
早輝は耳元で大翔が息をのむ音を聞いた。
箍が外れたように強く抱きしめられ、身をすくませる。
大好きな人からの抱擁なのに体が恐怖を覚えていることが悲しい。
大翔が早輝の肩や左の乳房を見て瞳を揺らす。
細い体に残された痣の痛々しさが、それらの記憶のない大翔を責める。
大翔の唇が早輝の痣をたどっていく。肩に胸に華奢な首筋へ。
いとおしむように大翔のてのひらが早輝の背を廻る。
掠れた声なのか吐息なのか、早輝の唇から洩れた。
それに自分自身で驚く早輝に大翔は笑いかけた。

18:5-14
08/10/08 02:17:18 1+oavPHl
大翔はベッドに膝をつきシャツを脱ぎ捨てる。
横たわる早輝の両肩を挟むように手をつき、戸惑い残る唇に口づけた。
やがて、彼の温かく滑らかな肌が重なり早輝は静かに息を吐いた。
誰かの体温をこんなに身近に感じたことはなかったから、その心地よさに目を閉じる。
金色の髪が早輝の耳を擽る、唇が首筋に口づけを重ねていく。
大翔は時折早輝の名前を呼んだ。
堪えるような吐息とともに、早輝と呼ぶのだ。
「制御・・・できなくなりそうだ、すまない」
だが、その呟きのあと大翔の力が強くなり、名前を呼ばれなくなった。
性急に早輝の体に触れ始め、時には痛むほどに加減のない力で押さえつけてくる。
大翔の瞳が青みを帯びていた。
早輝は両掌で彼の頬を包み、キスをねだった。
行かないで、戻ってきて。
大翔は苦しげな息をついて、きつく眼を閉じ、早輝の肩の上あたりのシーツを強く固く握りしめた。
そんな大翔に早輝は自ら唇を合わせた。
今この時だけでもいい。
私のすべてがあなたのものだったらどんなに素敵だろう。
あなたが口づけてくれた胸も瞼も唇も、触れていった体中の至る所すべてが。
あなたのものになれたら。
「ん・・・」
脚の間に大翔の体が滑り込んだ。
唇を合わせながら、早輝はきゅっと目を堅くつぶった。
自分の体がまだ彼を迎え入れる準備ができていないような気がした。
初めてだからよくわからないけれど。
固いものに貫かれたとき、それは確信となった。
息が止まるほど、痛かった。
だけど痛いなんて絶対に言わない。早輝は大翔の肩に唇を押しつけ、声が漏れるのを抑えた。
おそらく彼の瞳は一層青くなっているだろう。
強張る早輝を押さえつけるように抱いた大翔が動き出した。
「あ・・・」
唇を噛んだり浅く浅く息を吐いたりしながら、早輝は引き裂かれるような痛みをこらえた。
気がつかないうちに涙がこぼれていた。
「大翔・・・さん、大翔さん」
うわごとのようにか細く名前を繰り返していたら、不意に応えるように耳元で名前を呼ばれた。
「さ・・・き、大丈夫か」
ああ、大翔さんが戻ってきた。
そのあと、すまないとかもう少し我慢しろとか勝手なことを言われたような気がしたが、
今までで一番の痛みに襲われそれどころではなかった早輝の思考回路は停止状態。

19:5-15
08/10/08 02:20:54 1+oavPHl
 おわった・・・のかな?
呼吸の荒い大翔が体の上でぐったりとしている。
まだ彼が体に入っている違和感があるものの、終わったならよかったと心から思った。
でも、本当にこんなことで大翔さんを苦しめている毒が出ていくの?
大翔が顔をあげた。
目があって早輝はほっとして微笑んだ。
瞳が青い色をしていない。
「気分は、ど?」
今の今まで心配そうに早輝を見下ろしていた大翔はくすりと笑い、悪くないねと答えた。
よかったぁ・・・と、本格的に全身の力が抜けた瞬間、早輝は眉をひそめて間近にある大翔の顔を見た。
「なんで?」
早輝に覆いかぶさりながら、大翔はとぼけてみせた。
「まだ、残ってるかもな、なんせ強力な毒薬だったらしいから」
「えっちしたらなくなるんじゃないの?!私の勘違いだったわけ?」
「所詮、ケガレシアの言うことだ、すべて信じるのも無理がある」
とかなんとか言いながら大翔は早輝の柔らかい胸に口づける。
早輝あわてて大翔から逃れようと足をバタバタさせてみた。
まだ大翔自身が早輝の中にあって、固くなってきたような気がしてならないのださっきから。
「だめ、もうだめ」
痛いの、やだ。
実際は先刻の痛みのほうがましだったかもしれない。
大翔に口づけられた場所から甘い痺れがおこり、自分の声ではないような甘ったるい嬌声が漏れてしまうたび、あわてて口を押さえた。
そうすると、先刻噛み切ってしまった唇が痛んで・・・。
大翔の手が早輝の前髪を撫ぜて、唇に触れた。
切なそうな眼。
「噛み切るほど苦しかったんだ」
「・・・」
「罪滅ぼしをしなきゃならないな、俺としたことが」
大翔の声の調子がクールではなく、からかうみたいだったので、絶対にもう一度するつもりだと悟り、早輝は大翔の肩を叩いた。
この変り様は何?!余裕たっぷりでございますみたいな態度は何?!
「そんなのお気になさらずっ」
「いやいや、遠慮なさらず」

20:5-16
08/10/08 02:22:07 1+oavPHl

 結局大翔にされるがまま、あーだこーだ、なすがままきゅうりがぱぱの結果、
体力の限界もありで動けなくなった早輝はシーツにくるまり顔を引っ込めたまま。
死ぬほど痛かった最初のあれは半分大翔が別人だったので仕方ないとはいえ、その次からがよくない。
ぜんっぜん痛くなんてなかったけど。
思い出しただけでも恥ずかしくて死にそう。
大翔に囁かれた言葉や、彼の唇や指先から与えられた快感に悶えさせられて言わされた言葉や、
どう抑えようとしてもでてしまった嬌声や、喘いだ自分の声とか姿とか。
「もうお嫁にいけない・・・ムリ」
「さーき」
シーツ越しに指で突かれ、早輝はいよいよ身を固くした。
「大翔さんのバカ、えっち」
「そんなことを言われたのは生まれて初めてだ」
大翔はシーツごと早輝を抱え、歩き出した。
「どこに行くの」
ついたところはバスルームだった。
広い浴槽に乳白色のお湯が張ってあった。
大翔は、早輝の頭であろう部分あたりのシーツを引っ張り、顔を出させた。
「戦闘で傷を負った時、このお湯で癒すと治りが早いんだ」
「戦闘してないもん」
「でも、痛いところばかりだろ」
早輝は頬を朱に染め、上目使いに大翔を睨んだ。
「誰のせいだと思ってるんだろう・・・」
するとあろうことか、クールで世界一キラキラなアニのはずの男が舌を出したのだ。
「早く入らないと、一緒に入ると言うぞ」


 結局湯船につかった早輝は、服を着たままの大翔を突き飛ばし浴室の床に尻もちをつかせ、何度もお湯をかけて彼の服を台無しにしてしまった。
「大翔さんどうして堂々とここにいるの、お風呂なのに!大翔さんはこんなところでキスなんかするから退場だよっ」
濡れ髪をかきあげ、大翔は笑った。
そんなに言うなら拗ねて背中を向けた早輝の首にキスしてやろうか。
白い透き通るような細い肩にも背中にも。
だが、それをしたらますます拗ねてしまうだろうから、大理石の浴槽に腰を掛け、片手ですくったお湯を早輝の肩かけていた。
「trick or treat?・・・か」

21:5-17
08/10/08 02:24:34 1+oavPHl

「早輝はどこに行ったんだ?!」
ギンジロー号の外では走輔が眉を吊り上げて仁王立ちしていた。
かと思うと、突如猛ダッシュ開始。
その様子を頬杖をつきながら眺めていた美羽は、まったくもう、と微笑みながらの溜息をつく。
「中に入ったらどうっすか?そろそろ冷えてきたっす」
ドアから連が美羽に声をかけた。
確かにベンチセットに座ること1時間、お尻も冷えてきた。
「連は気にならないの?」
「早輝の居場所なら見当がついてるっす。走輔が暴走するから黙っているだけっす」
美羽は指を鳴らして、
「さすが連」
「例のガスの人体に及ぼした実例データーを大翔にまとめてもらえるように、美羽から頼んでもらいたいっす」
「オーケー」
「大翔は回復できたんすか? 美羽、なんか余裕っぽいっすけど」
「たぶん、大丈夫よ。いつものアニに戻ってる」
1時間ほど前にもう大丈夫だと大翔の意思が伝わってきた。
テレパスを飛ばせるほど回復しているなら、大丈夫だろう。
「早輝を迎えにいかないの?」
連は伏し目がちになり笑みを作った。
「オカンもいろいろ複雑なんす」
連にしてはよくわからないことを言う。
美羽は言葉の意味より、連の表情に相槌をうった。
「今回はその・・・いろいろあったみたいだけど、アニは基本は絶対的紳士だから心配することないわ」
「・・・そうっすね」


連の言う通り、早輝は大翔といるはず。
でも、走輔には教えてあげない。
もう少しだけ、あなたの姿を独り占めしていたい。
そう言ったらあなた驚くでしょうね。

甘い甘いお菓子をくれたら、このいたずらをやめてあげてもいいけれど。


22:5
08/10/08 02:28:02 1+oavPHl

見苦しい点も多く、さらに長々とスレを使ってしまい申し訳ありませんでした。

それでは失礼いたします。

23:名無しさん@ピンキー
08/10/08 08:56:51 l10Z30ih
GJ!
あー金黄もえ……

なすがままきゅうりがぱぱとかw言葉を選ぶセンスがリズミカルで読みやすくて好きです


24:名無しさん@ピンキー
08/10/08 09:20:27 Qn4kk4t5
あなたが神か。

大翔が、凄く早輝に甘くて優しいところがイイ!

神様ありがとう!!

25:名無しさん@ピンキー
08/10/08 11:00:31 q0ViAaji
1乙 4GJ!

26:名無しさん@ピンキー
08/10/08 13:59:04 nfuwvkbe
金黄あんまり好きじゃないから、最近多すぎてげんなり。
しかもスルーしたいのに、スレタイが数字だからNGにしにくいし。
タイトルに入れてくれたらNGワードに入れてみなくてすむのに


27:名無しさん@ピンキー
08/10/08 15:32:50 obRAkCEE
GJ
今回も萌えました。
最近番組見ても黄金要素を探してしまう。
ちなみにほのかに香る黄金青の三角関係に身悶えてました。

28:名無しさん@ピンキー
08/10/08 16:27:15 pnPPpUQ1
>>26
>>1
たとえ金黄が好きでなくても、あからさまな他カプ批判はどうかと思う。
職人さんにも金黄好きの人にも失礼なのでは。

ただ金黄職人さんも、タイトルにそのカプが好きでない人への注意のために
カプ名を入れた方が良かったかもしれない。
SSのタイトルが数字だけと言うのも味気ないので、本編風のタイトルも付いて
いたらもっと良いとも思うが。

29:名無しさん@ピンキー
08/10/08 17:04:07 aolgB6+7
金黄職人さんは金黄なんて眼中になくても、萌えに引っ張ってしまうほど上手い書き手だと思っていた。
もっと作品を読みたいので、スレタイの工夫して欲しい。

30:名無しさん@ピンキー
08/10/08 17:17:21 aolgB6+7
スレタイじゃなく
>>28に同意です
ssのタイトルのこと
スマソ

31:名無しさん@ピンキー
08/10/08 20:35:24 l9esbTBT
GJ!!
今まで意識した事のなかった金黄にすっかりメロメロになってしまったw
赤銀、青黄要素もあって、緑もかわいくて、もうお腹いっぱい、食べられない、大満足!って感じです。
うますぎる。GJ!

32:名無しさん@ピンキー
08/10/08 20:36:13 l9esbTBT
>>26
あなたが青黄を好きなように、金黄が好きな人もいるんだよ……

33:名無しさん@ピンキー
08/10/08 21:35:29 nfuwvkbe
書き方が悪かったかもな。

職人及び、他の皆さんにも不快な思いをさせてすみません

34:名無しさん@ピンキー
08/10/08 22:48:39 U+zdSk6z
ここはエロパロ板だぜ?
大人しくマターリ萌えてこうや

35:名無しさん@ピンキー
08/10/08 23:02:33 q0ViAaji
だがタイトルが欲しいと言うのは同意。
保管庫では一律「無題」になるから、味気ないってのと紛らわしいってのとで、
日頃からSS(今回の金黄に限らず)にはタイトルがあるとよりいいなあと
思ってたよ。

36:5
08/10/08 23:28:44 1+oavPHl

折角、新しいスレッドになったばかりだというのに、
私の配慮足りず、混乱の原因になってしまって申し訳ありません。

実はタイトルをつけるのが苦手で、NOで済ませてしまっていました。
短いお話ならともかく、長いというのに配慮不足でした。
これからは作品カプがNGの方にもスルーしていただけるように心がけますので、
またなにか書けた際には、お邪魔させてください。

皆さん、本当にありがとうございました。

37:名無しさん@ピンキー
08/10/09 00:20:30 5D9pKD/0
>>36
次回作楽しみにしてます。
萌えをありがとうw

38:名無しさん@ピンキー
08/10/09 00:50:05 azlhg52v
>>36
今回もGJ!です
というより今回は特に特にwww
あなたのSSで金黄が好きになりました
赤銀も金黄青も楽しみです
次回作待っていますから!

39:名無しさん@ピンキー
08/10/09 05:37:01 x2aF93pz
>>36
ケガ様が悪役なのが残念だったが、
銀黄友情に萌えた!GJ!


しかしG3Pとか見てると、ケガ・黄・銀で普通に恋バナとかしてそうに感じてしまうw

40:名無しさん@ピンキー
08/10/09 17:09:38 iWkWbVI3
どっかのスレで、ケガ様はガイアークの美的基準ではブスだから
「顔は…だが、実力で大臣になった女」だという話を見て以降
キタ×ケガに萌えてきてしょうがない

41:名無しさん@ピンキー
08/10/10 00:21:32 9YMwF/v2
ガイアークの3大臣がヤッターマンの悪役3人と被って楽しすぎる
やっておしまいでおじゃる なんてケガさまに言ってほしい

42:名無しさん@ピンキー
08/10/10 20:01:07 BeHy/yux
金黄青GJ
黄はどんな組み合わせでもおいしいよ!

今週の放送は黄姉→黒話と見せかけて
最終的に黒→黄みたいにならないか期待している黒黄者が通りますよ
まぁ黒&黄メインなだけでwktkなんだが

かと思いきや、G3P写真集でデッカイ緑黄燃料投下
おまいらリアル高校生カップルかと!

とりあえずなんでも美味しくいただける自分は勝ち組

43:名無しさん@ピンキー
08/10/13 03:29:22 FElj2Env

今日の話ひどかったな。
黄色姉、マジで悪魔だった。

44:名無しさん@ピンキー
08/10/13 23:04:58 AtE841W8
青が黄色姉に触りもしなかったのは、
やっぱり妹の方が(以下ry

45:名無しさん@ピンキー
08/10/13 23:22:35 GIqMERBm
触らなかったのは青の性格でしょw

46:名無しさん@ピンキー
08/10/13 23:48:45 AtE841W8
>触らなかったのは青の性格
いや、他のメンバーには触りまくりじゃないですか。赤とか緑とかw

それは置いといて、本スレの評判は悪いみたいだけど
黒に姉を追い返すように説得するシーンが
黄色がせまっているように見えたw



47:名無しさん@ピンキー
08/10/14 22:02:20 ZoUhn7vD
>>46
あれは不意打ちだっただけに悶えた
袖掴んで上目遣いは反則

48:名無しさん@ピンキー
08/10/15 01:51:33 JwyElDxU
轟音青黄です。
エロなしで青がヘタレですが、よかったら読んでもらえるとうれしいです。

49:轟音青黄「小悪魔ナムスメ」1
08/10/15 01:52:52 JwyElDxU
最近になって、寝る時間が一時間遅くなった。
しかし、ベッドに入るのはいつもと同じ時刻。
今晩も、すぐには眠らずに、寝っころがって本を読む。
お気に入りの作家だが、活字を目で追うだけ。
けだるい中、時間だけが刻々と進んでいく。
「今夜は、もう来ないか。」
ベッド脇のランプを消そうとしたとき、遠慮がちにノックが鳴った。
「どうぞ。」
薄く扉が開いて、華奢な身体をすべりこませるように入ってきたのは、時間を潰しながら待ち続けた人物。
黄色いパジャマに、黄色い枕を手にした黒髪の女の子は、思いつめた顔で見つめる。
「連……。やっぱり眠れないの。……いい?」
「いいっすよ、早輝。こっちにおいで」
もう、慣れた。
左側に身体をずらして、早輝が入るスペースを作ってあげると、うれしそうにベッドに入ってきた。
改めて、ランプを消そうと身体を起こす。
「ん?」
下を向くと、早輝がぴたっと身体をくっつけるように抱きついてくる。
姉の早苗が来てからというもの、昔を思い出したのか甘え癖がひどくなったようだ。
「ちょっと、待つっす。」
明かりを消すと、暗闇の中、ゆっくりと仰向けに横たわった。
早輝は待ち構えたかのように、青いパジャマの胸元に、顔を擦り付けるように動かしてきた。
そんな彼女の動きを見つめながら、呼吸をおだやかに整える。
お目当てのものを探り当てたのか。
ぴたっと止まる早輝の動き。
耳を胸元に当てている彼女の黒髪を、梳くように撫でていった。

誰も知らない彼女と二人だけの秘密。

「やっぱり、落ち着くの。連の心臓の音聞いていると」
「そうっすか。」
「ありがとう、連。おやすみなさい…」
「おやすみ…。」
他に言葉はいらない。
黙ったまま、早輝の頭を撫で続ける。
あとは、早輝が寝静まったら、彼女の部屋まで運ぶ。
ただ、それだけだ。
毎日ではなかったが、早輝は眠れないと、こうして心臓を聞きにくるようになった。
初めて、ベッドに入ってきたのは、半月ほど前か。
あの時は、黄色い枕の他に、お気に入りの熊のぬいぐるみを持ってきていたな。


50:轟音青黄「小悪魔ナムスメ」2
08/10/15 01:56:23 JwyElDxU
「さ、早輝、一体どうしたっすか?」
「連、どうしても眠れないの。一緒に寝てもいい?」
連の返事も聞かずに、さっさと枕と熊のぬいぐるみをベッドに置いた。
「や、…やばいっすよ。いくらなんでも。」
今にも毛布をめくって入りそうな早輝に、あわてて両手でダメダメと防御する。
「だって、走輔はいびきがうるさいし、範人は寝相が悪いし、軍平は歯軋りがうるさいんだもん。」
「お、俺だって、寝言言うかもしれないっすよ…。」
彼らとも寝たのかどうか気になったが、とりあえず今は早輝を追い出すのに精一杯だった。
「寝言なら、いいもん。いいでしょ?」
さらに身を乗り出してきて、洗い立てのシャンプーの香りが連をくすぐる。
思わず頭がクラクラして、距離をあけるために、ベッドの端に移動した。
「あっ、そうだ!ズバリ、温かいミルクでも飲むといいっす!」
「ありがと♪連!」
てっきりミルクでも飲んでくれるのかと思ったが、早輝はあっさりと連のベッドに入り込んでしまった。
自分の馬鹿さ加減に頭を抱えこむ。
早輝と距離を保つために、ベッドの端に移動したことで、逆に陣地を早輝に与えることになったのだ。
えへへ、と嬉しそうな彼女に、連はため息をつくと、ベッドの3分の1くらいのスペースに背筋も腕も足もピンと伸ばして横になった。
いつもそうだ。
早輝に限らず、メンバーに強くお願いされると、結局最後は諦めて折れてしまう。
そんな連の性格を、早輝も十分すぎるくらい分かっている。
熟睡して早輝に抱きついたらどうしよう、と悶々としていると、いきなり早輝が連の胸板に頭を乗せてきた。
「うわっ!」
さらに反対側に逃げようとしたが、いく手を阻むように壁がある。
「お願い、じっとして。」
早輝の声が、いつになく真剣だったので、言われるままに仰向けに身体を戻した。
「何しているんすか?」
「心臓の音を探しているの。」
「へ?」
一体この娘は何を言っているんだと思ったが、優しい連は口に出さない。
「赤ちゃんはね、お母さんの心臓の音を聞きながら、お腹の中で育ったんだよ。」
「それはそうっすが…。」
実をいうと、別の所がすでに反応していた。
落ち着きを取り戻そうと、そばのぬいぐるみを見たりする。

51:轟音青黄「小悪魔ナムスメ」3
08/10/15 01:58:00 JwyElDxU
「だからお母さんの心臓の音を聞くと、落ち着くの」
「はぁ……」
「あれ、おかしいな。心臓ないの?」
「なかったら大変っす」
うふふと笑うと、また真剣な顔で探し始めた。
本気でそんなことを信じるとは…。
オカン違いな気もするが、なぜここまで強引に自分のベッドに入り込んだのか、ようやく連は分かった気がした。
3分の1から半分に陣地をひろげると、身体をリラックスさせて、深く深呼吸。
静かな時間が流れる。
「あ、聞こえた。」
「早輝……」
「思ったとおりだ。すごく安心する…。連の…心臓の…音……」
しばらくすると、すーっと早輝の安らかな寝息が聞こえてきた。
「早輝?」
返事はない。
もう一度声をかけたが、すっかり熟睡している。
「まさか…」
自分でも信じられなかったが、狸寝入りではないようだ。
早輝を起こさないように、そっと身体をずらす。
なんとか、早輝の頭から解放されて起き上がると、連はベッドから出た。
「やっぱり、マズいっすよね。」
黄色い枕と熊のぬいぐるみを持って、部屋のドアを開ける。

深夜の廊下には当然のことながら人はいなかった。
普通なら、しん…と静まりかえっているはずだが、廊下でも聞こえる鼾と歯軋りの音。
大丈夫、これなら目を覚まさないだろう。
念のため、範人の部屋も覗いた。
「むにゃむにゃ…。冷奈さん…」
ベッドを見ると、思い切り掛け布団をはぐらかして、すやすやと寝ていた。
「範人、風邪ひくっすよ」
掛け布団を直してやって、早輝の部屋へ。
主がいないベッドに、枕とぬいぐるみを置くと、ドアを半分開けたまま、今度は自分の部屋へ。
「お姫様、お引越しっすよ」
すっかり熟睡している早輝の身体を抱き上げた。
壁にぶつけないように注意を払いながら到達すると、熊のぬいぐるみの横に早輝を寝かせて毛布をかける。
早輝のやすらかな寝顔に、優しく髪の毛をなでながら連は微笑んだ。
「おやすみ」
これが、毎回続いた。



52:轟音青黄「小悪魔ナムスメ」4
08/10/15 01:59:40 JwyElDxU

どうやら、そのままウトウトと眠ってしまったらしい。
ハッと目を覚ましたが、胸に感じる重みで、まだ早輝を部屋に運んでいないことに気づいた。
いつものように身体をずらして起き上がろうと、早輝の両肩に手をかけるが、パジャマの胸元の部分が強く掴まれているのに気づく。
「早輝…。起きてるんっすか?」
囁くように言ったが返事はない。
結局、起き上がるのはやめた。
肩に置いた手を戻し、またまっすぐ身体を伸ばす。
「早輝…。起きているなら、聞いてほしいっす。」
聞いてくれるか分からないけど、話すなら今しかない。
「眠れないのは心配だけど、いつまでもこんなこと続けるのは良くないっす。ちゃんと、一人で眠れるようにならないと…。早輝だって、そのくらい分かっているっすよね?」
「……何でダメなの?」
やっぱり起きていたのか…。
さらに、パジャマを強く掴まれたが、痛いとは言わないでおく。
「何でって…。やっぱり、嫁入り前の娘が、男のベッドにもぐりこんで添い寝するのは、よくないことだと思うっす。」
「だって……、連はオカンじゃない。」
「そうっすよ。俺は、みんなのオカンでありたいと思うっす。でも、それとこれとは別で…。世間はそんな風には見てくれないっすよ」
「……やっぱり、迷惑なんだ」
「そうとは、言ってないっす。こういうのは教育上、良くないって―」
早輝のすすり泣く声が聞こえてきた。
「さ…早輝?」
「迷惑なら迷惑って、そういえばいいじゃん。世間とか教育とか言って、あたしが来るのが嫌なんだ~!」
顔に両手を当てて、胸元で泣きじゃくる。
軍平とは違って、女の子の涙に免疫がない連は、オロオロするしかなかった。
「早輝、迷惑なんかじゃないっすよ。ただ、早輝に毎回来られると、今度は俺の方が眠れなくなっちゃうんす」
「やっぱり、迷惑だったんじゃない。」
「そうじゃないっす!早輝のことが好きだから、このままだと我慢できなくなるんすよ!」
思わず言ってしまった本音。
その本音に顔をあげた早輝の目には、どう見ても涙がこぼれていなかった。
「それ、ホントなの?連。」
「っていうか早輝、泣いてたんじゃ…。」
早輝は悪びれずにえへへと笑顔を見せる。
さすが、あの悪魔なお姉さんの妹だけあるっすね。
…とはさすがに言えなかった。
「ねぇ、連、あたしのこと好きなの?」
「好きっすよ。」
「オカンが娘を好きってことじゃなくて?」
「それもあるけど…、でも違うっす」
「それって、異性として好きってこと?」
「そうっすよ」
「じゃぁ、あたしと、したい?」
あまりにものストレートな言い方に、もし飲み物を飲んでいたら、きっとむせていたに違いない。
それでも連は、まっすぐ早輝を見て答えた。
「したいっすよ。ずっと前から…」
下から真面目な表情で見つめられて、早輝の顔がちょっと赤くなった。
「ありがと。」
「早輝…。」
「でも、今は心の準備できてない……。」
「分かってるっすよ。そのくらい、ちゃんと待てるっす。」
「ありがと、連。うれしい…」
また胸元に顔が飛び込んできた。
腕を背中に回して、ポンポンと優しく背中を叩く。
目を閉じて軽く眠る体勢に入る早輝を見つめていたが…。
「あ」
全く解決していないことに気づいた。

53:轟音青黄「小悪魔ナムスメ」5
08/10/15 02:05:01 JwyElDxU
「だから、早輝。やっぱり、こうして添い寝をするのは良くないっすよ」
「むぅぅぅぅ。どうしてぇ?だって、お互い好きならいいじゃん」
「そうじゃなくて、このままだと、俺、本当に眠れなくて…」
実を言うと、かなり限界にきていた。
毎回早輝を部屋に運んだ後、ベッドに入ると、まるでぽっかりと穴があいたような、今まであった抱き枕が取られたようなそんな虚無感に襲われる。
自分で自分を慰めても、虚しさだけが残り、結局悶々として満足に眠れない日が続いた。
だからといって、部屋に運ばなかったら、今度は蛇の生殺し状態、である。
いくら早輝が「その気」になるまで、待つつもりではいるとしても、ここまで身体が触れ合いすぎるとつらい。
そんな連の気持ちも知らずに、早輝は能天気に言った。
「やっぱり、あたし連の心臓の音聞きたいもん。だから、そうだよ、連も別にあたしのこと運ばなくいいから、眠たかったら先に寝ればいいじゃない。」
「そうっすね…って、それじゃぁ添い寝になっちゃうじゃないっすか。……もしかして、早輝、俺のことからかってるっすか?」
「うん♪」
にっこりうなづく天使の笑顔。
連は起き上がると、早輝の頭に毛布をかぶせた。
きゃぁと毛布の中でじたばたする早輝を無理やり捕まえて押さえつける。
「オカンをからかうなんて、そんな娘に育てた覚えはないっす!おしおきっす!お尻ペンペンっす!」
毛布ごしに、お尻と思われる部分を、ペシペシと叩いた。
「キャーッ、連のエッチ。」
手足をバタバタさせながら抵抗する娘だが、嫌がるどころかきゃっきゃと喜んでいる。
「オカンに向かってエッチとは何っすか!ごめんなさいは!」
「ごめんなさーい。」
一応降参してきたので、毛布をあげると、早輝が上目遣いで顔を出した。
「ちゃんと、自分の部屋に戻って、眠れるっすね?」
「はーい。」
ほっと、ため息。
ちゃんと分かってくれたのか不安になるが…。
ふと、早輝の方を見ると、口をとがらせておねだりしてきた。
「おやすみのチューゥ」
正座して、肩を左右に振って甘えてくる。
「わ、わかったっすよ…」
コホンと咳払いをして、早輝の両肩に手を置く。
なんていうか、もうちょっとムードというか…、こう改まるとなんとなくやりにくい。
子供っぽいなぁとは思うけど、愛らしいところはもちろん、いじらしい所もかわいい。
ギャラリーはいないのに、つい回りを見たりして、緊張してしまう。
く、口にしていいんすよね?と思いながら、顔を近づけていくと、早輝がぱっちりと目を開いて見つめていた。
「……目閉じてほしいっす」
「どんな顔するのか見たいもん。」
「……また、からかっているっすか?」
「うん♪」
今度は直にお尻ペンペンしてやる、と思う前に口をふさがれた。
いきなりだったので、今度は連の方が目を見開いたまま固まっている。
「好きだよ、連」
いたづら好きな天使は、唇を離すと満面の笑みで囁いた。
そして、固まったままの連に改めて唇を重ねてくる。
柔らかくて甘い感触に、ようやく固まっていた連の瞳がゆっくり閉じていった。
―これからも、こんな感じで振り回されるんすかね?
それも悪くない。
たどたどしく侵入してきた舌を、連は味わうように迎え入れた。


54:轟音青黄「小悪魔ナムスメ」6
08/10/15 02:08:19 JwyElDxU
カーテンから洩れる朝の光に、ハッと目を覚ますと、当然のことながら胸に重みは感じなかった。
「夢…だったっすか?」
いつものように、心臓の音を聞きに来た早輝を、寝付くまで待って、そして部屋に運んだ、のか?
それにしては、夢中で言った告白とか、柔らかい唇の感触とか鮮明に覚えているのだが…。
深くため息をつくと、なにやら毛布の中に違和感を感じた。
毛布をめくりあげてみると、そこに転がっていたのは熊のぬいぐるみだった。
「早輝……。」
ベージュの熊のぬいぐるみは、早輝のお気に入りのもう一つの相棒。
「でも、なんでここに…?」
初めて心臓の音を聞きに来た時は、枕の他にぬいぐるみも持っていたが、それ以降、早輝は枕だけしか持って来ていない。
それは、昨晩も同じだった。
連は、ぬいぐるみを持ち上げた。
寝ている間にずれてしまったが、きっと連の心臓の上に置いてあったに違いない。
もちろん、自分の代わりに。
昨晩だけは、連は早輝を部屋に運ばなかった。……自分で戻った早輝は、連が寝付いたあとに、わざわざぬいぐるみを置きに連の部屋へ戻ったのだ。
「夢じゃなかったんすね」
連は、ぬいぐるみをしっかりと抱き締めた。

当分、眠れない日々が続くと思うけど、それも悪くない。
<終わり>

55:名無しさん@ピンキー
08/10/15 03:06:23 CvrhYJ3N
おおお~GJです。


56:名無しさん@ピンキー
08/10/15 10:14:12 oD4LFowq
なんという甘々。GJ!

57:名無しさん@ピンキー
08/10/15 13:24:52 yLyK5KO/
可愛いなぁ…良いなぁ。青黄GJ!
ほわ~んとしました!

58:名無しさん@ピンキー
08/10/18 01:57:33 3hCzGmjB
青黄かわいくて凄くいいいです。
又次回楽しみにしてますね

59:名無しさん@ピンキー
08/10/19 07:26:13 jkuunt8t
保管庫の更新、お疲れ様です。
名無し様も管理人様も、いつも本当にありがとうございます!

60:名無しさん@ピンキー
08/10/19 10:00:33 YFV6t2Zr
レッドが…

61:名無しさん@ピンキー
08/10/19 16:30:19 ZNK68YZw
今週は炎神中心だったが来週は人間中心ぽいな

62:名無しさん@ピンキー
08/10/20 07:52:35 jg/MO+jN
あんまし盛り上がってないね…走輔がチョコみたいになったのに

63:名無しさん@ピンキー
08/10/20 09:43:18 22feNQeX
不謹慎と思いつつも、来週の銀の涙にドキワクな自分がいるw

64:名無しさん@ピンキー
08/10/20 15:35:06 vBRSp8aq
>>63
同意せざるを得ない。

65:名無しさん@ピンキー
08/10/20 18:11:02 53G4twim
管理人さん、保管庫の更新乙でした。

66:名無しさん@ピンキー
08/10/20 22:54:28 K3aCe22A
最後のシーンは、気づいたのが金だったから良かった。
だから、残りのメンバーのはしゃぎっぷりがいい対比になったし。
銀は言うまでもなく、今回のシーンは金銀がいてこそ成り立ったなぁと思ったよ。
来週次第で、赤銀また書けそうだね。

67:名無しさん@ピンキー
08/10/20 23:30:57 eCDHGqhf
>>63
今週ラストでの銀のリアクションがあまりに期待通り過ぎてニヤけてしまった俺はもう駄目だと思う

68:名無しさん@ピンキー
08/10/20 23:50:41 3wAfnnkj
まあな~、死ぬわけないってわかりきってるからこそ、のニヤニヤなんだがな。
でも、赤銀だけじゃなくて、他のメンバーも活躍しそうだし、楽しみだよ

69:名無しさん@ピンキー
08/10/21 13:45:58 ncvFaf3V
現在、赤銀にドキワクしている。>>36です。

こちらのスレでは轟音キャラと、放送している物語には出ていないキャラクターの話はOkですか?
轟音緑とケガレシアに姿がそっくりな蛮機獣の話です。
OKならば投下させていただきたいのですが。
相変わらず長いし、ハッピーエンドでもありません。

70:名無しさん@ピンキー
08/10/21 15:26:00 dKBZhLXj
さあ投下作業に入るんだ

71:名無しさん@ピンキー
08/10/21 16:29:47 jaNAjCA7
>>69
誘い受けお窺いウザイ。投下したいんだったら叩かれるの覚悟で無言で
続き物ならともかくいちいち身分を明かす必要もない


72:名無しさん@ピンキー
08/10/21 16:42:33 ncvFaf3V
69です。
>>5の続きものになってしまったので、身分を明かしました。
誘い受けのつもりではなく、今回こそはご迷惑をおかけしたくので
前もっておたずねしたつもりでした。
申し訳ありませんでした。
投下は見合わせます。

73:名無しさん@ピンキー
08/10/21 17:17:18 SRa5QnwW
まぁまぁ、マターリいきまそー

74:名無しさん@ピンキー
08/10/21 17:38:57 78P+Caro
キャラの問題ならおkです。
緑の話読みたいので投下してください。
大人のスレだから職人さんに対して叩き覚悟なんてないです

75:名無しさん@ピンキー
08/10/21 19:23:18 LEVBq1mZ
私も読みたいですし、良かったら気にせず投下してください。

76:名無しさん@ピンキー
08/10/21 20:31:55 qalwdT6n
なんか物言いのきつい人がいるねー。
職人さんは大事大事よー。

自分は楽しみにしてます。
気が向いた時にでも投下していただけたら嬉しいです。

77:名無しさん@ピンキー
08/10/21 21:59:37 yCFTPMbL
誘い受けは確かにウザイけど
これは誘い受けではなくてスレ違いかどうかの確認でしょ

まあスルー可能なようにNGワードらしきものを設定した上で
問答無用で投下すればいいだろうし、
この程度で見合わせるくらいなら最初から投下を考えんなと

78:名無しさん@ピンキー
08/10/21 22:04:07 9l21/Yta
投下は大歓迎だよ。
ただ今後も、陵辱とかスカとかオリキャラとか出るんだったら、
注意書きを入れて、タイトルかIDでNGワードを入れるようにしておけばいいんじゃないかな。
どちらかというと、タイトルがあったほうがうれしい。
自分も保管庫作ったことあるけど、タイトルがないのは、管理がやりづらかった。




79:名無しさん@ピンキー
08/10/21 22:21:10 78P+Caro
作品投下するのって勇気がいるのに
ウザイなんてレスされたら投下できないよ
>>78のように親切なレスはありがたいね
テンプレに追加したくらいです

80:名無しさん@ピンキー
08/10/21 22:35:19 dKBZhLXj
前回のタイトルの時も今回も、荒れたうちに入んないよ。
次どうすればいいか試行錯誤してけばいいだけ、投下しちゃいなよ。無問題。

81:名無しさん@ピンキー
08/10/21 23:19:32 f8SreqZD
誘い受けって言葉聞いたことないんだけど何だ?
職人さんどんどん投下しちゃいなー

82:名無しさん@ピンキー
08/10/21 23:25:52 ncvFaf3V
投下します。

カプは轟音緑×汚に似ている蛮機獣(オリキャラ)
ハッピーエンドではありません
タイトルは Under the Same Sky 

>>5のssと繋がっています。

タイトルNGワードでお願いします。

83:轟音緑×オリキャラ「Under the Same Sky」
08/10/21 23:29:07 ncvFaf3V
「はい!おまたせ。やけどしないでね!」
 焼きたてのクレープをくるくると器用に紙に包み、チョコレート色の小型バスの屋台から女の子の二人連れに手渡した。
笑顔で立ち去る客に手を振った城範人は、頭に巻いたタオルですら通過してこめかみから垂れてくる汗を手の甲でぬぐった。
「この屋台サウナだよ・・・」
以前よりも白が濃くなった青空を見上げ、範人はつぶやいた。
「僕の季節が終わっちゃうなぁ」
公園通りを行き交う人たちの服装も統一感がない。
「半そで、カーディガン、長T、パーカーうわ、ノースリーブにボアつけてるよ」
パタパタと左手のひらを仰ぎ、ささやかな風を自分の顔に送っていた範人の目が大きく見開かれた。
「なにあれ」
屋台の数メートル先。
黒いフードを頭から被って歩く姿はまるで魔女。
客もいないことだしと暇にまかせて凝視していたら、不意に魔女が足を止めこちらを見た。
フードからわずかにのぞいた顔を見た瞬間、無意識に範人は屋台の手すりに手をかけ、飛び越えていた。
「おねえさ・・・じゃない、冷奈さんっ!」



「ガイアーク反応のないガイアーク?」
須塔大翔の言葉を香坂連は複雑な表情で繰り返し、そして人さし指を口もとにあてた。
コツコツ踵を鳴らして歩き始め思考を巡らせる連に、大翔は低い声で続けた。
「ボンパーには反応しない、俺と美羽だけが感じとることができる邪悪な気配」
連が小さく唸り目を閉じた。
彼の歩みは止まらない、ゆっくりとギンジロー号の中に踵の音を響かせる。
「蛮機獣ではないってことっすか。それともガイアーク以外にもなにかが存在するってことっすか」
連の問いは大翔に向けられたものではない。自身への問いかけである。
それをわかっていながらも大翔は答えた。
「ガイアークであることは確かだ。それくらいは俺たちにもわかる」
大翔はガイアークの気配と表現した。
ガイアークの気配を持つ者っすかと連が足を止めた時、不意に大翔が思いついたかのように顔をあげた。
「範人に女装させた老婦人と気配が似ている。魔女博士オーセンといったか」
「あれは範人が自分からスカートをはいたっす」
「そんなことはどうでもいい」
重々しい息をつき、大翔はテーブルに両肘をついた。
指を組み合わせ、大翔は目を閉じた。
「それが近くにいる。歩いている・・・街を群衆に紛れて歩いている」
「感じるっすか?」
大翔は目を開いた。
「近いな」
連は大翔に向けて指を鳴らした。
「ジャンクワールドの関係者かもしれないっすね。歩いているだけっすか」
大翔はうなずいた。
攻撃を仕掛ける風でもないらしく、それが大翔の戸惑いの元凶でもあった。
「美羽の意見はどうなんすか」
「美羽は女だと言っていた」
「女・・・っすか」
女だからなんなのだと、大翔と連はそれぞれ無言で顔に書く。
しかし、女の勘は第六勘以上に鋭い時もあることを、二人はそれぞれの経験上理解しているつもりだ。
だから、無視もできない。
ふっと連が笑みを漏らした。
上目遣いの目線で見とがめた大翔に、連は言い訳するように言った。
「こうして俺に謎かけをしてくれるってことは、大翔なりに俺の思考能力を評価してくれているのかなって、思ったっす」
言われて大翔は不機嫌そうに眉を寄せた。
「悪いか」
言葉は悪いが肯定だ。
連は目を細め、まんざらでもなさそうな表情で大翔から背を向けた。

84:轟音緑×オリキャラ「Under the Same Sky」
08/10/21 23:30:27 ncvFaf3V

範人が全力で走っている間、魔女はただそこに立っていた。
範人が満面の笑顔で彼女の前に立った時も動かなかった。
「冷奈さん、冷奈さんだよね?!」
ゆっくりとしたしぐさで黒のフードを外し、不思議そうに首をかしげた。
そうしてすべて現れた魔女の顔が、汚石冷奈その人であったことを範人はその場で飛び上がって喜んだ。
「やっぱり、冷奈さんだ!」
上気する範人の頬に対して、彼女のそれは体温など持っていないかのように涼しげだった。
瞬きをひとつして、範人を凝視する。
それほど見つめられて思わず息をのんだ範人は、クレープの屋台を放ってきてしまったことを思い出し、頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。
「やばーい!」
範人の大声にわずかに目を見開いている彼女の手首をつかみ、範人は立ち上がった。
「僕、今はバイト中なんだ。クレープ屋なんだ。食べていってよ、僕のクレープおいしいんだよ! ね、冷奈さん!」
範人に突然走りだされ、黒のフードをなびかせて引きずられるように足を動かす。
嫌がるわけでもなく、まるで人形のように彼女は範人についていく。


クレープ屋の前では数人の列ができていた。
範人は愛想笑いを浮かべながら、ペコペコ頭を下げて屋台に乗り込んだ。
そこで手首をつかんだままの魔女を思い出し、一旦外に出ると椅子をひとつ出してニッコリ笑いかけた。
「ごめんね、座って待ってて」
椅子と範人を見比べたあと、彼女は静かに腰をおろした。
「範人くんあの人なに?」
お客さんに問われて範人は何と答えればいいのかわからず、笑ってごまかした。
「もうすぐハロウィンだから? 人形?」
言われてみればハロウィンにぴったりの魔女のよう。
「まぁ、そんなとこ」
それから範人は待たせていた客のために、フル回転でクレープを焼き始めた。

一通り客がはけると夕暮れになろうとしていた。
「冷奈さんごめんね、はいこれ」
焼きたてのクレープをさしだすと、無言で範人を見る。
「たべて?」
おずおずというように手を伸ばし、クレープを手にした魔女は先ほどまで見ていた客たちがやっていたようにパクリと一口。
「おいしい?」
範人の問いに無言でコクリと頷いた。
「よかった」
ニコニコとしてそれを見ている範人は、どう考えても舞い上がっていて勢いだけで行動していたから、この魔女のような女性が本当に汚石冷奈なのか疑いもしなかった。
ただ、すごい偶然は運命だくらいに考えていたのである。

85:轟音緑×オリキャラ「Under the Same Sky」
08/10/21 23:33:21 ncvFaf3V

 店じまいをしたころ、エコバッグを手にした早輝がやってきた。
「範人、一緒に帰ろ。バイト終わりの時間でしょ。お買い物してきたよー!」
「うん」
頭からタオルを取った範人の背後でクレープをもくもくと食べている
黒いコートの女性を見た早輝は、はて、と首をかしげた。
どこかで見たことがあるような人なんだけど。
「範人、お客さん?」
「ううん、好きな人」
早輝は再び、はて、と首をかしげた。
今度は反対側にしてみた。
「範人、そんな人いたっけ」
「それが偶然出会ったの」
「偶然」
「それも凄い偶然、僕が見逃していたらすれ違ったまま通りすぎちゃったぞ、みたいな、
すごい偶然でさ。これはもう運命、運命だよね」
範人の盛り上がりに早輝はついてゆけず、範人のシフトチェンジャーにパルカのソウルを入れてみた。
「なにがどうしちゃったの、パルカ」
「範人のラブがアルデンテじゃすまなくなってるってことだよ、セニョリータ~」
やはりわけがわからない。
クレープを食べていたはずの女性が不意に立ち上がった。
早輝と範人は何事かと顔をそちらに向けた。
食べかけのクレープをテーブルに置き、魔女は歩き出した。
無言で前を見つめて。
その視線の先にはこの頃では見慣れてしまった異様な蛮機兵ウガッツたちがわらわらと向かってきていた。
「なんでこんなところで?!」
「とにかく変身だよ、早輝!」
「そ、そうだね、範人!」
ゴーフォンとシフトチェンジャーを掲げた二人の前で、バサッと黒のマントを手で跳ね上げ、初めて彼女が口をきいた。
「邪魔よ」


 夕暮れも過ぎ、人もまばらになった公園通り降り立ったゴーオンウイングスはウガッツたちに囲まれたゴーオンイエローとグリーンを発見。
そして、ウガッツに片手のみで応戦する黒いマントの女。
「アニ、どういうこと?」
「ガイアーク反応のないガイアーク・・・あの女だったか」
大翔がつぶやき、いつものように、
「美羽、お前の勘は正しかったらしい。行くぞ」
「オーケー!」
軽やかにウガッツたちを倒していた黒いマントの女が、振り返りざまにコンクリートに転がり、ウィングスの攻撃を避けた。
ウガッツと戦っていた範人はそれを見て、大翔に叫んだ。
「なんで?! 冷奈さんを攻撃するんだよ!」
「ガイアークだからだ」
「なに言っちゃってんの?!」
範人は彼女をかばうように大翔との間に立った。
「どいて、範人、それは蛮機獣なのよ!」
ウガッツに蹴りを入れて美羽が叫ぶ。
大翔が地を蹴りロケットブースターを構えている。

86:轟音緑×オリキャラ「Under the Same Sky」
08/10/21 23:35:12 ncvFaf3V
「消えろ!」
女はフードをかぶり、大きく両手を広げるとマントの中に黒い空間が発生した。
自らを覆うようにその腕をかかげた瞬間、眩い光線が大翔により彼女に向って放たれた。
「冷奈さん!」
叫びとともに飛び出したゴーオングリーンが彼女の盾になった。
「範人!」
早輝が駆け出して叫んだ。
地に倒れた範人を驚きの眼差しで見つめたのち、彼女は次の攻撃を察知するとその場に膝をつき、
倒れたままの範人とともにマントに身を隠した。
「範人、連れて行かれるぞ! 範人!」
大翔が手を伸ばし、マントを取り去ろうとしたその時、
「やめて!大翔さん!」
駆け出していた早輝が、大翔に向かって腕を広げ、腕にしがみついた。
「なにをしているの、早輝!」
ウガッツの相手を一人でしていた美羽の声。
「どくんだ、早輝!」
「どかない!」
「早輝!」
大翔が早輝を振り払った時には、範人の姿は消えていた。
もちろん、黒いフードの女も。

87:轟音緑×オリキャラ「Under the Same Sky」
08/10/21 23:35:44 ncvFaf3V
ギンジロー号ではスマイルを失くした早輝が美羽に責められていた。
「ありえない。あの時、なぜ、アニの邪魔をしたの?!おかげで範人は蛮機獣に連れられて行方不明よ。命だってあるかどうか!」
「ごめんなさい」
「謝っても済むことじゃないよ、早輝!」
「走輔と軍平が現場に戻って手掛かりを探しに行っているっす。美羽も落ち着いてもう一度俺に状況を説明して欲しいっす」
連が腕を組み、大翔と美羽と早輝を見渡した。
「結論から言うと、範人をさらった女は、俺に例の毒を吹き込んだ蛮機獣だ」
「美羽が倒したはずじゃなかったっすか」
「復活したのかまたあらわれたらしい。俺たちが感じていた気配はあいつだったということだ」
「大翔も美羽も一度遭遇しているのになぜ、わからなかったんだろう」
「以前とは違う気配だったからよ。何かが違っているはず」
美羽の強い口調に連は口をつぐみ、口もとに指をあてその場を歩きだした。
「以前と違う気配、何かが変わった、何が」
連の呟きが続く中、ぽつりと早輝が、
「ウガッツに追われていたの、あの人」
「追われていた?」
三人が早輝に注目する。
早輝はうつむいたまま頷いた。
再び、連が歩きだした。
「人形から作られた、蛮機獣・・・ガイアークにも追われている。オーセン・・・」
連の呟きに大翔が頭を振る。
「まさか。ジャンクワールドへ飛んだなんて言わないだろうな?」
「確証が持てないのがつらいっすけど、それしかない」
連は静かにテーブルに手をついた。
「軍平と走輔がなにか手がかりをつかんでくれるといいっすけどね」
「もし、範人がアニと同じようにあの蛮機獣の毒に侵されてしまっていたら、どうなるの?」
美羽の真摯な問いかけに、連と大翔は答えられずに口を閉ざしたまま。
しばらくして早輝が言った。
「もし、範人がそんなことになっていたらあたしがなんとかする」
今まで早輝を見ようともしなかった大翔が睨む。
「なんとかって、何をする気だ」
「あたしが、範人におかっ・・・!!」
勢いよく立ちあがった大翔の手で口をふさがれ早輝は言葉を継げなかった。
その代りに大翔が、
「させられるわけがないだろう!?」
キョトンとした美羽とため息をつく連。
「そういや解毒方法をまだ聞いてなかったっすね。それが分かれば今回の範人の万が一に対応できるんすけど」
冷ややかな目を大翔に向け、連は目をそらした。
咳払いをして大翔は早輝の口から手を放し、椅子に腰をおろした。
早輝は完全にそっぽをむいている。
胡散臭そうにそんな二人の男を美羽は斜めから見て呟いた。
「アニと連、キツネとタヌキみたいだよ」

88:轟音緑×オリキャラ「Under the Same Sky」
08/10/21 23:36:20 ncvFaf3V
 目を覚ましたのはガラクタの中だった。
最近こんなのばっかじゃん、と範人はうんざりとした顔で起き上がった。
夜なのかあたりは暗く、膨大なゴミの山の天辺で大の字でひっくり返っていた範人は一人だった。
シフトチェンジャーが手首にあることに安堵しつつ、範人はパルカに呼びかけた。
「ねえ、ここがどこだかわかる?」
パルカの姿は現れず、反応もない。
いつもは元気よく飛び出してくれるのに。
嫌な予感がした。
範人はもう一度体を捻りぐるりと360度を見渡した。
見る限り続く、廃材と荒廃の大地。
暗闇の向こうには草木の絶えた干からびた砂漠があるに違いない。
「ジャンクワールドにまた来ちゃったわけ?」
以前は早輝と一緒だったが、今回は一人で飛ばされてしまったらしい。
「冷奈さんはいないし、どこに行ったんだろう」
独り言が続き、自分でむなしくなってきた。
大翔の攻撃を彼女の代わりにまともに受けたので、肩から胸にかけて怪我をしているようだ。左肩を押さえてみるが痛みは治まらない。
それでもこうしていられるのだから、大翔は繰り出した攻撃をあの極限状態にもかかわらず逸らしてくれたのだろう。
「足は無事だから歩いてみちゃおうかな」
スクラップの山から降りてみれば、なにかいいことがあるかもしれない。
いいこと。
いいことといえば。
あ、と範人は膝を叩いた。
「ジャンクワールドにはお仙さんがいるじゃん♪」


 魔女博士オーセンは確かにジャンクワールドの住人だ。
しかし、ジャンクワールドは広いはずで、早々簡単に会えるはずもないのに範人はスクラップの山を降り終えると、適当に歩き出した。
「お仙さーん、いませんかー?!」
「ヒューマンワールドの孫娘よ、あいかわらずじゃのう」
返事なんて期待していなかったというのに、背後から懐かしい声が聞こえて範人は子犬のように勢いよく振り返った。
箒にまたがった眼鏡をかけた老婆が眉間にしわをよせながらも、微笑んでいた。
範人は傷の痛みもそっちのけで走り寄った。
「お仙さんっ」
空から範人を見下ろしていたオーセンは静かに着地をし、範人に箒の後ろに乗るように促した。
「もともとは一人乗りだ。絶対に無駄な動きはするでないぞ」
「うんっ」
ジャンクワールドとはいえ、空を飛ぶのは快感だった。
「ねぇ、お仙さん、どうしてあそこにいたの?」
「お前さんを探していたからだ。頼まれてな」
「頼まれた?」
「そうだ、それに・・・」
「なに?」
「孫娘に会えるとなれば、こうして箒を飛ばしてとんでくるのさ」
はははははと笑うオーセンに範人は嬉しさのあまり抱きついた。
「お仙さ・・・ううん、おばあちゃーんっ」
「コラッ、暴れるな落ちたらどうする!」

89:轟音緑×オリキャラ「Under the Same Sky」
08/10/21 23:37:32 ncvFaf3V
「相変わらずなんだね、お仙さんちって」
ヒューマンワールドで女装をしたあの廃屋のようなオーセンの館。
しかし、鉄扉が家の奥にあり、その先の部屋で発明をしたり研究をしたりしているのだそうだ。
「掃除は終わったかい?」
家に入るなりオーセンが声をかけると、黒いマントの背中が振り返った。
舞踏会に行く前のシンデレラのように箒をもっていた。
「冷奈さん!」
範人が驚きの声をあげると、バツが悪そうに首をすくめ、
「わ、わたしはそのような名前ではないでおじゃる」
「おじゃる?」
「おじゃるはよしなさい」
女はオーセンがたしなめたので、慌てて頭を下げる。
近づいてくる範人におびえるように後ずさりながら、
「もともと名前なんか、ないの、だから」
助けを請うように、範人の後ろで腕を組むオーセンに視線を送る。
オーセンは笑いながら、
「そやつはもともとはヒューマンワールドで捨てられ、ジャンクワールドにやってきた何体かの人形だったのだ。だから、名はない」
それを聞いて範人は切なくなった。
しかし、持ち前のいい加減さと能天気はどうにも変るわけがなく、
「名前がないならレナさんでいいよね」
「いいよねと言われても」
「名前がないと不便だから、レナさんでいいじゃん」
範人は満面の笑みで頷いた。
自らの名をレナと決めつけられ、またもオーセンに助けを求めるように視線を送った。
「いいのでしょうか、博士」
「いいのではないかのう」
「そうですか」
「うむ」
それより、とオーセンは範人の左肩に目をやった。
「手当をしてやりなさい。傷を負っているようだ」


 範人の肩に傷薬を塗り、レナは彼の背中に訊ねた。
「これはあの時の」
「うん。大翔がうまくやってくれたみたいでかすり傷みたいなもんだよね」
「なぜ、庇ったりしたの」
白いシャツに袖を通しながら範人は淡々と答えた。
「好きな人を守りたかったからだよ」
「私は冷奈という人間ではないのに」
ぱふん、と襟首から頭を出して範人はレナを見た。
見られたレナの表情は暗い。
「あの時、僕はあなたを守りたかったの。大翔のシャイニングタガーなんて普段はおっかなくて近寄れないけどさ」
「ヒロトとはゴーオンゴールドのことね」
「うん」
レナは悲しげに眼を伏せ、ゆっくりと開いた。
「生きていたのね、彼」
範人はその表情と言葉の意味が分からず首を傾げた。
「ジャンクワールドに来てすべてを思い出したわ。私はゴーオンゴールドを抹殺するためにケガレシア様に姿を与えられ、
キタネイダス様に命を与えられた。
けれど、ゴーオンシルバーにここを撃ち抜かれて命まで奪えず、毒を吹き込んだだけて抹殺に失敗した」
ここ、と自らの眉間を指さして、レナは続けた。
「私はさまよっていたわ。自分が何者かもわからず。蛮機兵達がなぜ私を追うのかすらわからなかった。
そうしていたらあなたが」
ヒューマンワールドに帰りなさいと、レナは言った。
魔法博士には頼んであるから、と。

90:轟音緑×オリキャラ「Under the Same Sky」
08/10/21 23:38:05 ncvFaf3V
ヒューマンワールドに戻りたければ、オーセンに頼めば事は簡単だ。
それなのに範人はガラクタを片づけて歩くレナの手伝いをしてついて回っている。
丸一日をそうして過ごしたレナは夕方にとうとうキレた。
「ヒューマンワールドに戻りなさいといったでしょう?! ここはジャンクワールド、私たちのようなガラクタが住む世界なのよ」
「よっこらしょ」
範人はレナの言葉を無視してガラクタを持ち上げては、荷車に積んでいる。
「聞きなさい、範人!」
「やだ。僕はレナさんといたいの」
「なにをバカなことを。ヒューマンワールドを守るヒーローなんじゃないの?

「そうだけど、レナさんといるとドキドキするんだから仕方ないでしょ」
話にならんとレナは頭を抱えた。
「こんないい加減な人間相手にあの方々は苦戦を強いられておられるなんて」
「なんでレナさんはお仙さんにこき使われてるの? どうせ僕のことを探してほしいって頼んだり、ヒューマンワールドに送ってほしいって頼んだりしたからこき使われてるんじゃないの?」
「それは・・・そうだけれど、それだけではないのよ」
「ふーん。じゃなんで?」
「博士を尊敬しているから。ガラクタの一つにすぎなかった頃から博士のことは存じ上げていたわ。命と姿をもらえることを望んだのも、博士のようになりたかったからなの。お手伝いをさせていただけるなら本望よ」
「もうひとつ聞いていい?」
範人はレナに近づき、真顔で尋ねた。
「大翔に毒を吹き込んだって、どうやったの」
いい加減うっとおしくなっていたレナはこめかみをひくつかせながら、
「それをなぜ今?」
「知りたいから。大翔は簡単にやられたりしないからね」
「私の吐く息にはキタネイダス様から頂いた毒素が含まれている。それを口と口を介して吹き込んだ。あの時ほとんどの毒素を使ってしまったから今は・・・」
突然肩を範人に掴まれ、レナは眉間を寄せた。
今度はなんだというのだ、この人間は。
今までに見たこともないほど真剣な顔をしているし。
「それって・・・それってさ、レナさん」
「なに?」
「大翔とキスしたってこと?!」
「キス?」
「はー?!わかんないなんてありえないでしょ、キスってチューだよ、チュー!」
「顔が、顔が近い、範人、顔がちかい」
「ずるいよ、なんで大翔に」
それで大翔が死にかけたことはどうでもいいのか。
範人はずるいずるいとレナにダダをこねた。
「なにがずるいのかよくわからない。抹殺されたいとでも?」
「違うよ、キスだよっ」
意味のわからない言葉でダダをこねられても、レナとしてはどうしようもない。
そもそも、自分はガイアークの手下で、少年の立場は敵である。
好きだのなんだのとわめく相手ではないはずだ。
「範人、あなたは自覚が足りないみたいね。私はあなたの仲間を抹殺するために作られた・・・」
続きは言えなかった。
肩を掴まれたままであり、とても顔が近い状態で説教を始めたレナの唇に自分のそれを押しつけた範人。
何が起こったのか、5秒ほどして理解した聡い人形は、即座に範人の怪我をしている肩を押し怯んだ隙にその腕から抜け出した。
「人の話を聞きなさい! 自殺してどうするの!」
いたたたた、と肩を押さえたまま顔をしかめていた範人は、
「自殺なんてしてないよ。なんで僕がそんなのするの。キスしたんだよ、わかんないみたいだから」
「あれがキスというなら、私に対してするのは自殺行為!」
ナンデ?と無邪気に尋ねる範人にいよいよどう対応すればよいのかわからなくなったレナは、そのまま身を翻しオーセンの元に走った。
「あの無法者を今すぐヒューマンワールドに送りつけてください!」
「ゴールドの坊やに使ってしまってお前の毒はほとんど薄れているとはいえ、そうして動いている以上、残っている。それを範人のバカは自分から吸い込んでしまったというわけか」
「はい」
不貞腐れたようにレナはうなずいた。
「そうなると、簡単にヒューマンワールドに帰せんぞ。毒を抜いてやらねば」
レナは首を垂れた。
「なんなんでしょうか、あの人間は・・・」
オーセンはほほほと笑い、レナの肩を叩いた。
「しばらくは大変なことになるかと思うが、私の孫娘を頼んだよ」

91:轟音緑×オリキャラ「Under the Same Sky」
08/10/21 23:38:57 ncvFaf3V
「範人、あなたの寝る部屋はここではないでしょう」
布団に横になり、天井を睨みながら生真面目に告げるレナに対し、範人はレナの隣にもぐりこんで子犬のようにコロンコロン寝返りを打っている。
「離れたくないんだ、レナさんと」
キス以来範人は、今までに増して付きまとってくるわ、好きだの愛しているだのと連呼、抱きついてくる上に隙あらば唇を合わせようとしてくる始末。
すべて自らが吐き出した毒素のせいだとレナはうんざりと思い、範人を見た。
「私は一緒にいたいと言われれば構わないけれど、もともとはそのあたりにいるガラクタと同じよ」
範人はニッコリ笑った。
「レナさんはレナさんでしょ。人形でもなんでもいいよ、大好きだから。そばにいるとドキドキするんだ」
範人が腕を伸ばしてくる。
本来ならば避けなければならないのに、それをできないレナがいる。
頭を抱え込まれ抱きしめられて、レナは聞いたことのない音を聞いた。
それは範人の胸の奥から聞こえてくる。
「範人・・・この音はなに?」
「音?」
「範人のここから聞こえてくる、定期的に鳴っている」
すると、範人の腕の力が強くなった。
「ドキドキってその音のことだよ。レナさんのことを考えたりこうしていたりすると大きくなって強くなる」
耳を範人の胸にあてた状態で、レナは目を閉じた。
うらやましい。
人形である自分には存在しない音だ。
気がつくと範人の頬が甘えるようにすり寄っていた。
唇が触れた。
羽が触れるようなキスを範人はレナの唇に何度も繰り返し、大好きだと言う。
そのうち、目を閉じた範人が深く唇を重ねてきた。
それは、レナに不思議な感覚を呼び起こした。
体が思考を拒否するなんてありえないことを。
範人につられるように目を閉じてされるままに吐息を絡ませた。
いけない。
このままではますます、範人は毒素を取り込んでいく。
レナは範人の体を押した。
「範人。離れて」
ぼんやりとした顔の範人がレナを見る。
その唇に範人がしてくれたようにキスを落としてみたい。
しかし、それが禁忌なのだ。
レナは優しくその唇に指をあて、説いて聞かせるように言った。
「あなたの体に入った毒素を抜き出さなければ、明日にもあなたは自己意識をなくしてしまう」
「・・・」
「自分がゴーオングリーンだということも忘れてしまう、やがて衰弱して死に至る・・・私の体にあるものはそういうものなの。キスすればあなたは何度でも吸い込んで、
毒素をため込んでしまうの・・・生殖行為をしたことはある?」
レナの言葉に範人は笑った。
「内緒」
「いまからして。そうすれば毒素は抜ける。私でも人間体をしているから可能なはず」
範人にしては珍しく考え込むような顔をしていたと思えば、
「キタネイダスってムッツリスケベだね」
「は?」
「えっちすれば毒が抜けるって、超えっちだなー。すっごくしたいなあとは思ってたけどさ、そのせいだったんだ。我慢するの大変だったよ」
「わけのわからないこと言ってないで、早く」
「いいの?遠慮しないよ僕」
レナはうなずいた。
でも。
キスは絶対にしないで。

92:轟音緑×オリキャラ「Under the Same Sky」
08/10/21 23:39:59 ncvFaf3V
 実際、自分が自分ではないような倦怠感に付きまとわれていた。
気を許すと、眠ってしまっていたかのように記憶を失くしてしまう。
大翔に吹き込まれた毒の残りですらこの効果。
大量に吸収させられたあの時の大翔のダメージは相当だったことだろう。
そんなことを考えながらも範人は素早くシャツを脱いだ。
相手の気が変わらないうちにことに及ぶに限ると踏んだからだ。
「僕のことなんて見てないでレナさんも脱いでよ」
「わたしも?」
「脱がなくてもいいよ。その方が何倍もえっちだし。大歓迎」
軽口をたたきながら、半身を起こしたレナの服に手をかけた。レナは範人にされるがまま服を脱がされた。寝間着は一枚しか身に着けていなかったようで、すらりとした裸身が現れた。
「きれいだ」
心からのつぶやきを範人は漏らした。


「レナさん、寒いの? 体、冷たいよ」
「体温なんてないもの」
事実、重なっている範人の重みや温かさすらわからないのだ。
範人はレナを抱きしめたり胸に頬を埋めたりしながら、想いを口にする。
そんな範人の柔らかい髪をなぜながら、レナはずっと考えていた。
私は何をすればいいのだろう。
「範人、大丈夫? なにか手伝うことはない?」
「そうやって髪の毛を撫ぜてもらうの気持ちいいよ」
「気持ちいい?」
気持ちいいとはどんな事なんだろう。
「ねぇ、レナさん。僕はレナさんに触ったりしていると気持ちいいんだけど、レナさんは気持ちいい?」
レナは首をかしげた。
範人が両脇に手をついて、見下ろしていた。
心なしか怒っているようだ。
「僕だけ気持ちいいのは嫌だ」
感触はなくても、範人と肌を合わせていることはずっとこうしていてもいいと思えるが。
「私は人間とは違うから・・・」
「こんなにきれいで柔らかくて、人と何が違うのさ」
「触られていることはわかるけど、範人の言う気持ちいいというのは違う気がする」
「気持ちいいのもわからないのに、僕とセックスしてるの?僕を助けたいって気持ちは嬉しいけど・・・レナさんにとってこれは義務だけなの?」
「範人」
範人が傷ついているそのわけすら察することができない自分にレナは冷静ではいられず、どうにかして範人に笑ってほしいと思った。
でも、なにをどう言えば、どうすればいいのだろうか。
「範人、私は・・・人間と違うからあなたが望むように「気持ちいい」ようにはなれないし、わからない。でも、
範人のドキドキを聞きたい、範人にドキドキして欲しい・・・の」
不意に困ったような顔になり、どうしよう、と範人がつぶやいた。
「レナさんにむちゃくちゃキスしたい」
「それはだめ」
細身の少年の体はしなやかにレナに重なり、強く強く抱きしめられた。
その息苦しさにレナは頬笑みを浮かべた。


 あどけない表情で眠る範人の素の胸に、レナはそっと耳をあてた。
先刻聞いたよりゆっくりな音がする。
すると眠っているはずなのに、範人は腕をのばして、レナの肩を引き寄せた。
このままジャンクワールドで命の終わりを穏やかに待とうと思っていた。
以前のように人形に戻るだけのことだ。
キタネイダスに再び毒素を与えてもらいながら、人のような物として存在するのは最早望むところではない。
それに人形に戻っても、以前のような寂しいガラクタではないだろう。
範人が沢山くれた好きだという言葉や抱擁は、人に捨てられてしまった寂しさ悲しみなど霞のように掻き消してくれた。
゛レナさんにむちゃくちゃキスしたい゛
範人の言葉がよみがえる。
範人の緩やかな鼓動を聞きながら、レナは思う。

私も範人にキスをしたい。

93:轟音緑×オリキャラ「Under the Same Sky」
08/10/21 23:40:51 ncvFaf3V
「ヒューマンワールドへ行きたいだと?」
オーセンは渋い顔で頭を振った。
「ジャンクワールドの空気がお前の体から毒が出ていくのを遅らせているのに。それがどういうことがわかっていないわけはないだろう?」
レナは薄く微笑んだ。
「この体に未練はありません。範人をヒューマンワールドへ帰さなければなりませんし・・・ヒューマンワールドならこの薄れて弱まった毒など、
浄化してしまうそんな場所があるのではありませんか」
オーセンはしばらく口を閉ざしていたが、
「ヒューマンワールドには森があることを知っているか」
「モリ、ですか」
「木がいくつも生えるそんな場所があるのだ。水は澄み、空気の穢れを浄化してゆく作用がある」
そんな場所、想像もしたくはないがとオーセンは言い、慈愛に満ちた眼差しをレナに向けた。
「行ってみるがいい、森へ。範人と共に」



「ヒューマンワールドで捨てられた私を拾いジャンクワールドへ連れてくださったのは、博士だったわ。人形だったわたしに知恵を授けてくださった」
レナは被っている黒いフードを指して、
「これは博士がお若かりし頃にお召しになっていたものを下さったもの。
キタネイダス様がヒューマンワールドの人間がジャンクワールドを侵略すると仰ったので、私はヘルガイユ宮殿へ行き、
博士はヒューマンワールドへ向かったのよ。故郷を守るためにね」
ふーん、と範人は砂の上に腰をおろして、レナの話にうなずく。
そして、ニッコリと笑ったかと思うと途端に不貞腐れた。
「僕は帰らないよ。さっきから回りくどい話してさ。帰れって言うんでしょ」
「仲間のことが気になっているくせに」
「それは・・・」
レナは範人の隣に座った。
「ヒューマンワールドには森というものがあると博士から教えていただいた。どんな穢れも消してしまう力がある場所だと。そこに私を連れて行ってほしい」
範人は砂をつかんで、手のひらから細く落としはじめた。
「森に行ったらレナさんはどうなるの」
一瞬言葉を失くしたものの、ややあってレナは微笑むことができた。
「毒が消えたら、人に近くなれるような気がするわ」
「レナさんはレナさんでいいのに」
「範人と森に行きたい。連れて行って」
しょうがないなぁーっ、と範人は手を広げ、握っていた砂を一気にこぼした。
手をパンパンとたたき砂を落としてから、自分の掌とレナを交互に見た。
「レナさん、手つないでいい?」
くすりと笑い、レナはうなずいた。
レナの白い手を握り、範人は言った。
「一緒に森に行こう。森は緑色でね、僕の色で一杯なんだよ」
あ、そうだ、と範人は楽しそうに笑い、
「僕、いいこと考えついたんだよ」
「どんな」
「こんなの」
範人はレナの頬にチュッと音をたててキスをした。
「これなら大丈夫でしょ?あのね、世の中で一番素敵な音はキスの音なんだって」
キスをされた頬に手のひらあてて、レナはしばらく範人を見つめていた。
「どしたの、レナさん」
「ありがとう、範人。とても素敵な思いつきだわ」

94:轟音緑×オリキャラ「Under the Same Sky」
08/10/21 23:42:31 ncvFaf3V
「お仙さん、ありがとう、またね!」
レナはしばらく立ちすくんでいたものの、思い切ったようにオーセンに抱きついた。
その背中をあやすように叩きながら、オーセンは言った。
「安心してお行き。ガイアークの愚か者どもにもうお前を渡しはせん。必ずここに連れ帰ろう」
涙というものがあるならきっと、こぼれていたに違いない。
レナはオーセンから離れ、深く頷いた。
「さらば、わが、孫娘たちよ!」

95:轟音緑×オリキャラ「Under the Same Sky」
08/10/21 23:44:13 ncvFaf3V
オーセンがヒューマンワールドへと時空をつなげてくれたおかげで、
あっけないほどにヒューマンワールドに立ち戻ってしまった。
山奥へと突然落とされた範人は茂る葉の上に尻もちをつき、
レナは悠々と足もとから降り立ち、物珍しそうにあたりを見回していた。
「バルバルーカッ!心配したよ、アミーゴ!」
シフトチェンジャーに飛び込んだパルカがホログラムになって表れた。
「ごめんごめん、いろいろあってさ」
「それが炎神?」
パルカはレナの顔を見て文字通り飛び上がった。
「ハントッ、このセリョリータ、ケガレシアそっくりバルバルッ。アリエナくってアルデンテッ!」
「レナさんだよ。ケガレシアに似てると言えば似てるけど」
レナはパルカに申し訳なさそうに、
「これはケガレシア様にいただいた姿だからごめんなさい」
「この人は僕の大切な人なの。だから大切にしてよね、パルカ」
バルカは炎神のくせに肩をすくめた。
「オーケー、わかった、アミーゴ」
バルカが納得していないのは、声のトーンでわかる。
しかし、そこは能天気な炎神バルカ。
「なんとかなるよね、バルバル~カ♪」
「そ、なんとかなるなる、なせばなる♪」
楽天的すぎる二人にレナの方がは心配になって、首を垂れてしまう。
「このようないい加減な相手に苦戦されている、ガイアークの大臣って一体・・・?」


「苦しそうだね、セニョリータ」
森の奥へ奥へと歩みを進めていると、突然パルカがレナに話しかけてきた。
レナにとって森の清々しすぎる空気は、命の基である毒素を浄化してしまうらしく大変つらいものだった。
錘を体中につけて歩いているような。
範人は休もうかとレナを気遣うが、レナには休んでいる時間がなかった。
この場所で息絶えても構わないはずなのにレナは前に進むことを望んだ。
森の奥深くに行けば、きっと・・・ガイアークの手は及ばないはず。
彼らは美しい環境を忌み嫌う。
オーセンはレナをガイアークに渡さないと言ってくれた。
毒素が抜けきって、動けなくなり抜け殻と化したあと、ガイアークの手に落ちれば再び毒素を吹き込まれる。
そのために、蛮機兵ウガッツたちはレナを追いかけていたのだ。
もう一度、蛮機獣として再生するために。
「範人、あなたの仲間と連絡は取った?」
「向こうから通信が入ったよ。無事だと伝えておいた。休もうレナさん」
範人が前方を指さした。
「あそこにきれいな川がある。きっと飲める水だろうから休もうよ。僕も辛くなってきた」

96:轟音緑×オリキャラ「Under the Same Sky」
08/10/21 23:45:09 ncvFaf3V

 範人が抱きかかえてくれなければ座ることもままならない。
レナは範人の胸に寄り掛かり、肩に頭をのせた。
「範人、私から花の香はする?」
くんくんと鼻をきかせて範人は首を横に振った。
「しないよ。僕あの香り好きだったのに」
「いいの、しなくて・・・いいの」
目を開き、見上げると深い緑だった。
レナはその碧さに感謝した。
この森という場所を教えてくれたオーセンに感謝した。
「範人のようにすべてを受け入れてくれる・・・」
「なんか言った?」
声を出すことも精一杯だ。
「範人、ドキドキを聞かせて」
「え?」
「胸の音・・・範人のドキドキの音」
範人はレナを抱きかえて、耳が胸に当たるようにしてくれた。
強く引き寄せてレナの髪にキスをする。
幸せという言葉。
意味がわからなかった愛しいという言葉。
範人の鼓動はレナにとってそれらそのものだった。
「眠いわ・・・寝てもいい?」
「いいよ。僕が守ってあげるから安心して」
レナは手を伸ばした。
指先で範人の頬に触れた。
顔を寄せてくれた範人の頬に唇を触れさせ微笑んだ。
「私が眠ったら、唇にキスして範人」
「いいよ、何度でも」
範人がうなずく。
それを見て、レナは目を閉じた。
範人の頬から指が滑り落ちた。


「アミーゴ」
レナを抱いて小川を見続けている範人に、ホログラムのパルカが現れ声をかけた。
「レナさんが寝てるから静かにしてね、バルカ」
バルカはそんな範人を悲しそうに見つめ、らしくもなく黙ったまま姿を消した。
パルカが姿を消した後、範人はレナの唇に自分のそれを重ねた。

97:轟音緑×オリキャラ「Under the Same Sky」
08/10/21 23:46:06 ncvFaf3V
 範人たちがいる山のふもとでは走輔たちが、範人を探していた。
ボンパーと美羽がガイアーク反応を感じ取ったこともあり、彼らは急いていた。
上空からウィングスが探索をしている。
「早輝」
前を歩く早輝の背を連が呼びとめた。
しかし、早輝は返事をせずに歩いて行く。
連は藪を進む足を早め、早輝の肩に手を置いた。
力をこめて振り返らせると、早輝の眼は涙でいっぱいだった。
「どうしたっすか」
早輝は無言で頭を横に振った。
「範人が生きてて安心した?」
頷き、早輝は涙を手の甲で拭う。
連は早輝の頭に手を置き、笑いかけようとした。
しかし、早輝の涙はそれだけではなさそうだと気がつき、それを訊ねてしまうか迷って笑うことができなかった。
かわりに、早輝の頭を抱え込み、胸に引き寄せる。
努めてオカンのようにそうしたつもりだ。
「どうしたっすかー?そんなに泣いてたら目がなくなってしまうっすよ」
早輝が連のジャケットをつかむ。
「連・・・ごめん、泣いてる場合じゃないのに、ごめんね」
「いいっすよ」
連のゴーフォンに走輔から通信が入った。
「ウガッツが山ほどいやがる!軍平が範人のいる方向に向かってるって言う、
俺たちはこいつらをやっつけるから、連たちは早く範人を見つけてくんねぇか」
「ウイングスはどうしているっすか」
「わかんねえ。ボンバーに聞いてもパルカが応答しないらしい」
早輝が顔を上げた。
涙を拭き、先刻までとは違う、意を決した表情で連から離れた。
「わかったよ、走輔!」
走輔の声が途絶えた後で早輝は言った。
「大翔さんより早く範人を見つけなきゃ」
連は先を進もうとする早輝の手をつかんだ。
「早輝は何を知っているっすか、なにがあったっすか」
「連に言ってもわからないよ、だって」
「だって?」
「女のカンだもん!」
そうっすか、と連は手を放した。
理不尽で理屈の通じない話は苦手だが、理解できないこともなかったからだ。
「連がお地蔵様を守ろうとしたとき、軍平カッコよかった。
連のこと信じてすごくカッコよかった。あたしもあんな風になにがあっても範人のこと信じたいの」
早輝の真摯な言葉が連の胸をついた。
「俺も範人を信じるっす」
「こちらウイングス。範人を発見したわ。今からポイントを指示するからね!
それから・・・範人の傍で大きな邪悪な気配を感じてる」
美羽の声だった。

98:轟音緑×オリキャラ「Under the Same Sky」
08/10/21 23:46:42 ncvFaf3V
「その蛮機獣をこちらに渡すぞよ、ゴーオングリーン」
腕の中にいるレナは目覚める気配がない。
「嫌だ」
範人はレナを抱いたまま立ち上がる。
声の主が並みの相手ではないことを把握しながらも、範人は怯む様子を見せなかった。ゆっくりと振り返る。
「大臣なのにわざわざ出できたんだ。ガイアークって暇なんだね」
「ひまっ?!なわけないぞよ、その蛮機獣は私の最高傑作であるからして、わざわざ出向いたまでだぞよ!」
「範人、その最高傑作、こちらに渡すんだ」
キタネイダスとは逆の方向から大翔の声がした。
「渡したら、レナさんをどうするの大翔」
範人は両者からレナを守るように強く抱き、数歩下がった。
ゴーオンゴールド姿の大翔は、ロケットブースターの刃先をキタネイダスに向けると、
「そいつらの手に渡る前に破壊する」
「絶対にさせないよ、大翔」
「感傷に酔うのも大概にするんだ。時間をやるからその間に心を決めろ範人」
時間は、と大翔はつぶやいた。
「こいつらを片づけている間だけだ」
範人はレナの体を下し、シフトチェンジャーに触れた。
「僕は守りたいものを守るために戦う! チェンジソウル・セット! レッツ・ゴーオン!」
ギアを入れると緑炎のソウルに範人の体が包まれた。
「身勝手な奴だ」
大翔はつぶやき、縦横無尽に蛮機兵たちをなぎ倒していき、キタネイダスに迫らんとする。
「アミーゴ、セニョリータはもう!」
「わかってるよ!」
パルカの声に範人は怒鳴り声で答えた。
「わかってるよ、わかってるんだ!それでも渡さない!」
地に横たわるレナは相変わらず眠るようにそこにいる。
「はやくよこすぞよ!」
キタネイダスが棍棒を振り下ろしながら迫ってくる。
「渡さないって言ってんだろっ!」
ブリッジアックスを構え、迎え撃つ。
自らの攻撃が跳ね返されたことに驚きを隠せずも、キタネイダスは無限の形に振り回し、さらに挑んでくる。
「空気が澄みすぎて調子が出ないぞよ」
アテンションと声がした。
大翔の狙いがレナに向いたことを悟った範人はレナの体覆いかぶさる。
背にキタネイダスからの一撃を受け、激痛に身をのけぞらせた。

99:轟音緑×オリキャラ「Under the Same Sky」
08/10/21 23:48:16 ncvFaf3V
上空にいたジェットラスに吊ってもらい、駆け付けた早輝と連は飛び降りながら変身、
地に降り立つとダメージのために変身が解除されてしまった範人の元に駆けつけた。
「大丈夫、範人?!」
「ダイジョーブ・・・。来てくれたの」
「当たり前っす、一人で頑張らせてすまなかったっす」
範人を守るように立ちはだかる連と早輝に大翔が言った。
「またお前たちは!」
「大翔さんだって範人がかばったから撃てなかったくせに!」
早輝が大翔に訴えた。
「範人の気持ち、わかってよ!」
「感情論優先で戦えるか!」
「戦えるよ!」
早輝は胸を押さえた。
「範人が命を賭けて守るなら私だって守る!大翔さんみたいに強くないけど想いがあればなにより強くなれるんだから!」
大翔は舌を打ち、早輝を無視してロケットブースターを構えた。
「なんてことをするぞよ!」
悲鳴にも似たキタネイダスの声、大翔の放った冷気がレナの体を包んだ。
範人はみるみる凍りついてゆくレナの体にすがりついた。
「レナさん!」
冷気を浴びても破壊されない体を範人は茫然と見つめ、そして大翔を見た。
「せいぜい仮死状態だ。それなら悪さはできないだろう。
渡さないというなら、ヘタレていないでキタネイダスを倒せ」
戦闘の中、早輝は黄色い声をあげて、大翔に飛びついた。
「大翔さん!ありがとう、やっぱり大好き!」
首に抱きつかれ、大翔は焦ったように早輝の体を振り払う。
「わかったから、みんなとにかくまじめにやれ!」
そこにどこかで聞いたような高笑いが響いた。
一斉に上空を見上げると、箒に乗った眼鏡の老女が現れた。
「キタネイダス、久しぶりだのう」
「ま、魔法博士、オーセン・・・!」
地に降り立ったオーセンは杖をキタネイダスに向け、
「また花盛りにされたくなかったら、消えるのだ。この娘は私の孫娘だ。お前なんぞに二度渡しはしない」
「たかが魔女の分際で!」
キタネイダスはそういうものの、腰が引けている。
ほどなくキタネイダスは撤退した。
花盛りにされたことが相当のトラウマらしい。


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