★女同士の壮絶なバトル Round4★at EROPARO
★女同士の壮絶なバトル Round4★ - 暇つぶし2ch12:名無しさん@ピンキー
08/10/12 04:37:26 Q9izYcGe
>>9
喧嘩屋女とチャイナドレスの拳法女が戦い、大振りな喧嘩殺法を華麗な動きでカスらせもせずに鋭い一撃を与え続ける拳法女。
持ち前のタフネスで耐えるも、必殺の一撃をドテっ腹にくらい嘔吐悶絶。
余裕を見せ付けるように近付き、言葉で殴り屋女を嬲る拳法女。
ファイターとしてプライドの高い者同士、やられっぱなしではいられるかと必死に立ち上がり殴りかかる喧嘩屋女。
しかし、先程よりも余裕でかわし続ける拳法女の一撃が喧嘩屋女の顎を捉える。
トドメの膝蹴りが喧嘩屋女の腹を狙うも、本能で拳法女にしがみつきクリンチ状態にしようとするも――
ゴスッ、っと鈍い音が喧嘩屋女の股間から響く。
無防備な喧嘩屋女の股間を、腰が浮き上がる程の一撃が見舞われてしまう。
白目を剥き、自分を支える拳法女の体を滑る様に崩れ落ちる喧嘩屋女。
しかし、崩れ落ちる喧嘩屋女の髪を掴み、軽く蹴り喧嘩屋女を地獄から引きずり上げる拳法女―…どちらが地獄かはわからないが。
拳法女に縋り付く様に体を支える喧嘩屋女。 トドメを刺そうとする拳法女の股間に――
ガズン、とヘッドバッドを叩き込んだ。 突然の反撃に驚き、遅れて痛みを認識する拳法女。
その無防備な股間に、試合開始直後なら一撃で相手をKOさせられる程の威力を持つ喧嘩屋女の一撃がアッパーで吸いこまれ――

ということか?

>>10
無茶を言うな
ネタなり展開なり、提供しようぜ

13:名無しさん@ピンキー
08/10/12 07:45:27 ulGyHJHL
>>12
お前さんの豊富な妄想力には俺も勃起せざるを得ない

14:5
08/10/12 10:57:30 0XT+Mt3a
>>12
ありがとうございます。
はい、その通りです。私の中でのローブローは股間でした。
>>13の方と同様に朝から興奮してしまいました!
続きが早く読みたいですね!

15:8
08/10/12 11:21:46 QHxrXXA6
>>14
股間狙いを…ろーぶろーとかって…オマイ…
それならそうと手早くそう言えよう…
俺がピエロみてーじゃないかよwwwww

もうオマイ寝てろよwwww

16:名無しさん@ピンキー
08/10/12 11:46:59 YmsGJR5t
前擦れより気持ち悪くなってんな
キチガイ多過ぎワロタ

17:名無しさん@ピンキー
08/10/12 14:17:11 6JMkbAB/
ちくしょう…
嘔吐や失禁は許されるのになぜ脱糞を認めねえ!

18:名無しさん@ピンキー
08/10/12 14:31:49 KhAnK2nL
それが好きっちゅーのはかなりコアだろ・・・

19:名無しさん@ピンキー
08/10/12 16:27:25 Q9izYcGe
>>17
脱糞が必然の流れなら俺は…許容するっ!!!

20:5
08/10/12 23:17:33 0XT+Mt3a
>>15
いや、申し訳ない。はっきりと書けばよかったですね。
わざわざ書いてもらったのに……

21:名無しさん@ピンキー
08/10/12 23:59:06 C68et2J1
チョイと書いてみました。宜しければ。

22:ボクシング物
08/10/13 00:00:59 C68et2J1
「ああー!!」 少女の口から悲鳴が上がる。
『おおー、マイティ・キャットの激しい一撃!さあもろに股間に受けてしまったキャンディ立ち上がれるか!』

リングの上に二人の少女が立っている、二人ともごく僅かな面積の水着を身に着け、
両手にはボクシングのグローブがはめられている。
今相手の股間に激しいローブローを叩き込んだ少女の頭にはまるで猫の耳のような
カチューシャが付いており、黒いマイクロビキニのボトムには猫の尻尾が付けられていた。
そして、激しいローブローを受け、ロープにしがみついている少女はその白い水着の股間部分をわずかに黄色く染めている。
「あ、あぁぁ……」 息も荒く、ぽたぽたと垂れる汗と、股間の液体が、少女の限界が近いのを知らせている。

猫の少女も荒い息を吐き、じっと眼の前の少女を見つめたまま内股で動こうとしない。
彼女もまた限界が近かった。


(あ、うぅう、もう駄目……たすけてお姉ちゃん)
ロープにしがみついたままうつろな目で少女は目の前のネコ少女を見つめていた。








「では、これに着替えてください」 係の男はそうとだけ言った。
姉の事を聞いても他の事を聞いても男は先ほどから何も答えないので、少女は仕方なく質問をやめて、言われたとおり目の前の極小ビキニへと着替える。
(はずかしい……)
わずかに胸の先端とお尻と股間を隠しているそれは動くとすぐ外れてしまいそうな、頼りない物だった。
(きっと、これからたくさんの男の人たちに体を触られるんだ)
少女は絶望的な思いで着替えを終わらす。


23:ボクシング物
08/10/13 00:02:33 C68et2J1
「ではこれを履いてください」
渡されたのはブーツだった。
「ブーツ? なんでこんなもの?」
少女がはき終わるのを待ち、男が次に取り出したのは。
「えっ!? なんですか? まさか私に……?」
それはボクシングのグローブであった。
「わ、私、ボクシングとかできません!!」
だが少女がいくら何を言おうと男は淡々と少女にボクサーとしての準備を施してゆく。
(うう、おねえちゃん) 少女の目から涙がこぼれる。
と、そのとき、コンコン
ドアがノックされて、
ガチャリ
女が一人入ってきた。
「準備できた? あら、かわいいわね」
胸元が大きく開いた黒いドレスを着た女は、くすくすと笑って言った。

「あ、あなた誰ですか!? わたしをどうするきですか!? お姉ちゃんは!?」
「私は麗華、あなたにはこれからボクシングの試合をしてもらいます、
お姉さんは無事よ、他に質問は?」
まるでそうと知っていたかのように女は少女の質問に答えると楽しそうに目を細める。
「あ、う、あ、わ、私殴り合いなんてしたくありません……」
「だめよ」
一言短く言い放つとじっと少女の目を睨む。
「あ、あぁぁううぅ」
言葉に詰まった少女を見て再び優しい顔に戻った女は少女の頭を優しく撫でる。
「大丈夫よ、痛いことなんてないし、それにね」
女は少女の耳元にそっと唇を近付けると、
「この試合に勝ったらあなたのお姉さんに合わせてあげる」
甘い息がかかり思わず少女はブルリと身をよじらす。
「ほ、ほんとうですか?」
「もちろん、だから頑張りなさい」
女が頭を撫で、
「は、はい……」
少女は力なく頷いた。


24:ボクシング物
08/10/13 00:03:28 C68et2J1
その部屋は大きく、薄暗かった。
部屋の真ん中にはリングが置いてある、そしてよく見るとそのリングには、猫のコスプレをした少女が立っていた。
(私、あの子と殴りあうんだ)
じっとグローブを見つめながら思う、この試合に勝てば姉に会えると彼女は言った。
(怖いけど頑張らなくちゃ……)心の中で決心した瞬間。
「その意気よ」 心を見透かしたように麗華が囁く。
その声を聞きドキリとしながら少女はゆっくりとリングに上がった。

その瞬間、ばっ! と、リングに強烈な光があたり、あたりから歓声が上がる。
「えっ!? ええ!?」 大勢の観客が集まっていたことに少女は驚く。
『皆さんお待たせいたしました! これより美少女同士によるローブローボクシングを行います!!』
そんな少女を無視するようにアナウンサーの大声が響く。
「え? ロー……? なんですか?」リング下にいる女へと視線を投げかけると、女はくいっと顎で指し示す、そこには、コップを持って立つバニーガール姿の女が立っていた。
だがその姿は、ウサギの耳と首の蝶ネクタイ、そして網タイツ以外何も身につけてはいなかった。 
少女はごくりと唾を飲み込む。
「飲みなさい」 女の命令口調にびくりと体を震わせて恐る恐るコップを手に取りその中の水をグイッと飲みほす。
向い側のネコの少女も同じように飲んでいた。
「あの子のパンチが痛くなくなる魔法の薬よ、だから安心なさい」
優しい声で説明してくる麗華。
そして、
「あなたのリングネームだけど貴女甘くておいしそうだから、キャンディってつけてあげたわ」
「……」何と言っていいか分からず正面のネコ少女を見ると、じっとこちらを睨みつけている。 と、急にグルっとおなかが鳴る。その途端。
『二人の美少女が相手の股間を攻め合い、先に相手を先頭不能にしたほうの勝利!
このローブローボクシングを制するのは果たして今日初挑戦のキャンディか!れともマイティ・キャットが三戦目にして初勝利を挙げるのか!!』
「え!? 股間!? ど、どういうことですか?」
「そのままの意味よ、ああ、そうそう、さっきの薬、痛みを快楽に変える薬なんだけど激しい利尿効果があるから気をつけてね」
くすくすと笑いながら女がやさしい声で忠告し、絶望感の中ゴングが鳴った。


25:ボクシング物
08/10/13 00:04:36 C68et2J1
弾かれるように、キャットが突進してくる。
「えっ……ああっ!!」
避けようとしたその瞬間足がもつれてキャンディは大きく転倒する。
その瞬間会場から大きな笑い声が巻き起こる。
だがキャンディにとっては笑いごとではなかった、マットに大きくお尻を打った瞬間激痛の代わりに何とも言えない甘美な感覚が電流のように走った。
その瞬間股間から温かいものがちょろちょろとこぼれる、慌ててキャンディは股間に力を込めてそれをせき止める。
「立たなきゃ、負けちゃうわよ」 麗華が楽しそうに告げる。
(そ、そうだ、た、立たなきゃ)よろよろとロープにしがみついて立ち上がろうとしたその時―。

ボスン!
マイティ・キャットのパンチが立ちあがりかけたキャンディの股間にクリーンヒットした。
「ああー!!」
大きな悲鳴をあげ再び倒れこむキャンディ。 打破それは先ほどとは違い相手のパンチをもろに受けてのダウンだった。

『おおー、マイティ・キャットの激しい一撃!さあもろに股間に受けてしまったキャンディ立ち上がれるか!』

通常のボクシングであればもちろん立ち上がる途中をたたくのは反則である。
だがことこの試合においては有効打となる

「ああ、いやいや、漏れちゃう、おしっこが、ダメ駄目……」
口をパクパクさせながら全身から脂汗を流し、わずかずつ恥ずかしい液体をこぼしながらキャンディは必死に襲い来る物と闘っていた。

マイティ・キャットはと言えば彼女もまた利尿剤の効果が回ってるのか、ハタマタ様子を見ているのか、近づいてこない。

なんとかふらふらしながらもキャンディは立ち上がる。
何とか大勢の見守る中の失禁は避けることができたが、事態は全然好転してはいなかった。
泣きそうになりながらキャンディはボクシンググローブを構える。
(絶対、絶対に負けたくない!)
じっと、キャンディは目の前のネコ少女を睨みつけた。


26:ボクシング物
08/10/13 00:05:27 C68et2J1
(まさかあれで立つなんて) キャットは立ち上がった少女を見て驚いていた。
息が荒くなりおなかもグルグル鳴っている。
(早く決めないと私のほうがお洩らししちゃう!)
それだけは避けたかった、先の試合ではもう少しのところで漏らしてしまいTKO負けをしているキャットにとって、新人相手のこの試合だけは勝ちたかった。
(ここで負けたら……)
負けたくないのはキャットも同じだった。
「このー、さっさと負けなさいよー!」
叫ぶとキャンディの股間めがけてパンチを叩き込む。
が、それはキャンディに当たることはなかった、大ぶりのパンチは動きが鈍くなった素人のキャンディでも容易によけることができた。
「あっ!?」猫の少女が驚いた瞬間、
ぐちゅ
熟れた果実を潰したような音が音が集音マイクを伝い、会場に鳴り響く。
キャンディのカウンターパンチが、マイティキャットの股間へと叩き込まれたからだ。

「あああ!!!」 今度は集音マイクを使わずとも良く音が会場の端々まで聞こえた。
『おおおー何とここで起死回生のキャンディのカウンターパンチだ―!!さあ、キャット大ピンチ果たして大丈夫なのか!!』
会場からは大声援が巻き起こる。

「ああ! いや、いや! 負けたくない! 負けたくない! 」
どっと倒れこみ、何とか這い上がろうとロープまでキャットは手を伸ばし立ち上がろうとした瞬間。
ドス!
先ほどのお返しをするように猫少女の股間にパンチが叩き込まれる。
「や、やめ!! あ、や! やめてぇぇぇぇ!」
ロープをつかみ必死に攻撃に耐えるが、キャンディのパンチは終わらない。
「も、漏れ、漏れちゃ、だ、だめいや! いやぁぁぁぁぁ!!」
ブシャァァァ!!

キャットの股間より激しい水飛沫が飛び、キャンディを黄色く染めると、
猫の少女は自分の体液の水溜りにゆっくりと崩れ落ち、
激しくゴングが打ち鳴らされた。
その瞬間、大歓声が巻き起こり、
レフリーが高々とキャンディの右腕をあげた。


27:ボクシング物
08/10/13 00:06:06 4UpEV6Cq
「麗華さん、私、勝ちました」
「ええ、よかったわ、見ていてコッチガ濡れて来ちゃった」
クスリと笑う麗華。
二人は選手控室へと戻ってきていた。
「約束です、お姉ちゃんに合わせてください」
「いいわよ、あなたはその資格を手にしたんだもの」
「?」
よくわからない、そんな少女の態度を可笑しそうに見ながら。
「だってあなたのお姉さんはここのチャンピオンだもの、勝ち続ければ会えるわよ」
そう言うと女は今日一番の大声で笑った。







28:名無しさん@ピンキー
08/10/13 00:07:23 4UpEV6Cq
以上です。 
ありがとうございました~。

29:名無しさん@ピンキー
08/10/13 00:47:08 8LdhXQPK
>>28
GJ!
面白かったです。

30:名無しさん@ピンキー
08/10/13 04:22:53 aSo+NvrA
>>15
ローブローって股間打ちの事だと思ってたんだが…違うのか?
格闘技系の試合見ててもローブローってぇと大体、股間殴ってるんだが

31:名無しさん@ピンキー
08/10/13 04:31:34 248e/1w8
>>30
そのローブローを股間狙いって知らんヤツがいるんだから、
とっとと勿体ぶらずにハッキリと股間ですって書いとけって事だろ。

そういえば股間打ちの話って女の子が電気あんまで悶絶!スレに昔幾つか作品があったな

32:名無しさん@ピンキー
08/10/13 04:39:54 aSo+NvrA
>>31
なるほどなー
知らずに言葉だけ見たら勘違いするかも知れんわな

シロウトがやり合っても、今一つ「壮絶」感を感じないから俺はあんまり好きじゃないんだよねぇ
ある程度の「強さ」的なものがないと「壮絶」っぽさを感じないのは俺だけなのかな?

こういう言い方をしておいてなんだけど、別に>>28を否定してるわけじゃないし、流れを読んで投下した事には賞賛を贈る
乙!

33:名無しさん@ピンキー
08/10/13 14:40:23 PlJL7+Im
>>28
こういう展開は好物だ。GJ。
素早い投下にもう一つGJ。

34:名無しさん@ピンキー
08/10/13 17:50:46 6CcTfw7t
エッヂの時より多いGJにワラタ

35:名無しさん@ピンキー
08/10/13 18:00:46 G3WtkBF0
お前は下らん事で笑いすぎだ

36:名無しさん@ピンキー
08/10/13 19:18:09 248e/1w8
まあエッヂはエロいから読んだ後は抜いちゃうからな

37:名無しさん@ピンキー
08/10/14 02:58:19 5drQATgK
賢者モードで感想かくってキツイしな

38:名無しさん@ピンキー
08/10/15 00:02:59 9DUJDisn
まあ実際問題、エッジの一話一話のクオリティはそこそこ高い。それでも投下されるのが当たり前ってなったら、感想は減るもんだよ。慣れとか飽きとかで。

39:名無しさん@ピンキー
08/10/15 08:17:07 lCHm1AbY
>>38
慣れと飽きってw
書き手にとっては戦力外通告だろw



40:名無しさん@ピンキー
08/10/15 10:33:49 DNOOUsqK
っつか、エッヂの人には、ワンパってのが一番心に突き刺さっちゃったぽいね

まさかワンパターン言われたぐらいで潰れるとは思わなかった

41:名無しさん@ピンキー
08/10/15 10:52:36 9DUJDisn
このスレの荒らしほどツンデレらしいツンデレもそうないな。
じゃあ俺も。
は、早く書きなさいよエッジの馬鹿!!
ワクワクさせ逃げなんて…ゆるさないんだから…!

42:名無しさん@ピンキー
08/10/15 12:42:47 jpE8eB+J
エッヂがワンパターンとかないわwwww
俺の知らん間に世間のワンパターンっていう言葉の意味って変わったのかと思ったわ

43:名無しさん@ピンキー
08/10/15 16:26:57 lCHm1AbY
敵が強い伏線→負けそう→微妙覚醒→実は格が違う
こんなんばっかじゃね?w



44:名無しさん@ピンキー
08/10/15 16:30:36 VlpCu98f
そうしないと両方のやられが堪能できんではないか
大枠の流れなんてぶっちゃけどうでもいいんですよ

45:名無しさん@ピンキー
08/10/15 17:00:10 9DUJDisn
sage

46:名無しさん@ピンキー
08/10/15 19:19:04 EapOJpEP
>>43
それ何ていうジャンプ漫画?


47:格闘物
08/10/16 00:04:03 Fy06AEH7
また書かせてもらいます。


金網で囲まれたリングの上で二人の少女が激しい打撃戦を繰り広げていた。
バシン、バシ。
長い黒髪を後ろでしばった少女が目の前の小柄で色の黒い少女に打撃を浴びせる度に
会場から大声援が上がる。

「残念、もう始まってましたか」
二人の試合を観客席に設けられたVIPルームから見つめる少女が呟く。
豪勢なドレスに身を包み、美しいブロンドが印象的な少女だ。
「ええ、三分ほど前に」
少女の傍らに立つ男が答える、びしっとしたタキシードに身を包み、年のころは
四十代前半と言ったところだろうか。
「二人ともすごいわね、あ! 今の痛そう……」
リング上では黒髪の少女が、ショートカットの日焼けした少女に回し蹴りを
叩き込んだところだった。
金髪の少女がそっと目をそむけながら、だがちらりと横目でそれを追いかける。
「勝ったほうがお嬢様の持つXXX(トリプル・エックス)クラウンに挑戦できますからね、両者ともに必死でしょう」
「そっか~、そうよね」
半分ほど男の台詞を聞き流しながらリングの上の試合へと少女は集中した。




リングの上では攻防が続いていた、水色のシンプルなレオタードタイプの水着を身に付けた少女は長い黒髪を揺らしながら鮮やかな打撃の連続技を決めていく。
彼女の名前は『高崎龍子』空手をベースにしたその闘い方は華麗かつ見る者を虜にした。
息をつかせぬ連続蹴りが、まるで獲物に食らいつく龍の牙の様に襲いかかる。
だが、あせっているのはむしろ攻め立てている龍子のほうであった。
バシン! バスッ!
派手な音と共に蹴られているグレイのセパレートタイプのコスチュームを身に付けた小柄な少女 『グレイス』 は、そのたびに派手に吹き飛んでいた。
柔術を極め、本国に帰れば大英雄の彼女が龍子の華麗なる蹴り技の前になすすべもなく翻弄され続けている。
そうだれもが思っていた。
VIPルームの少女と、龍子、そして、
蹴られているグレイスを除いて。


48:格闘物
08/10/16 00:05:35 Fy06AEH7
「く、こ、この! 」
龍子が叫び蹴りを叩き込むと、ガードの体制から派手にグレイスが吹き飛ぶ。
「ハア、ハア、ハハ……」
荒く肩で息をする龍子、じっと立ちあがるグレイスを見つめる。
「あんた、化け物? なんでこんだけヤラレテ立ち上がれるの?」
「…………」
質問に答えずじっと龍子を見つめたまま再び左右の手でガードを固めるとゆっくりと近づいてくる。
「く、このー!!」
本日何度目であろうか、グレイスの即頭部にハイキックが飛ぶ。
だが今度は今までとは違った、グレイスがその脚をキャッチするとそのまま龍子を引き倒してグラウンドへと持ち込んだ、今まで蹴りが飛ぶたびに龍子に対して飛んでいた
歓声が一瞬のうちに悲鳴に変わる。
「!? し、まっ」
シマッタ! そう思う前に龍子はロープへと手を伸ばす、グレイスが足の関節を取りに来ている、 ― 完全に極まる前にロープに逃れなければ ―
そう思った瞬間だった。
クチュ
信じられない感覚が龍子の全身を襲う。
「え!? あ、う、うそ」
コスチュームの股間部分、その隙間にグレイスが指を差し入れてきたのだ。
「な、何してんのアンタ!!? 」
「……痛いのは……いやでしょ?」
そう言うと、なおもクチュクチュと音をたてて龍子の下半身をグレイスは攻め立てた。
「は、ああ、くうぅぅ」
何とか歯を食いしばるとロープ目指して手を伸ばし右手の先がサードロープに届く。

「ざんねん」 一言そう言うとすっとグレイスは離れる。
龍子はロープを掴みながらヨロヨロ立ち上がるとギロリとグレイスを睨みつける。
「どういうつもり?」
「貴女のこと……傷つけるの……いやだから……」 ぽそりと、目の前の龍子に呟く。
膝十字固めに入ろうとしていたところを何とか振りほどき、ロープへと逃れた。
観客達にはそう見えただろう。
湧きおこる大歓声の中、彼女の声ははっきり聞こえた。


49:格闘物
08/10/16 00:08:24 Fy06AEH7
「な!?」 その言葉に龍子はわが耳を疑い、拳をきつく握り締める。
「リュウコ……強い……でも貴方は……私に勝てない」
感情の無い声が龍子の耳を打つ。
「だから――」
「ざけんな!!」何かを言いかけるグレイスに走り寄ると固く握った拳を叩きつける。
とっさにガードするがまたその体制のまま吹っ飛ばされる。
(まただ……)今まで味わっていた違和感が一気に噴き出る。
殴った感触がほとんど感じられないのだ。

― くっ! ― 唇をきつくかむと今度は立ち上がりかけているグレイスに殴りかかった。
すっと、再び頭をかばうように防御を取るグレイス。

ドス!

だが今度はガードをしていないグレイスの腹部めがけてパンチを叩き込む。

「キャャッ! アウゥゥ……」 一瞬、龍子は驚きで目を大きく見開く。
思った以上の手ごたえと共に、あまりにもグレイスが可愛らしい声で鳴いたからだ。
「へ、へえー、あんたの声けっこう可愛いじゃん」
そう言うと背中を丸めたグレイスの髪の毛を鷲掴みにする。
「あんたさあ、今まで自分から吹き飛んでたでしょ? でもこうされたらどう?」
髪の毛を掴んだまま、パンチを顔面に叩き込む。
「キャゥゥ…… 」
咄嗟に顔をかばおうとした手の間隙を縫うように拳を叩きつける。
「なめたこと言ってたバツよ、たっぷり味わいなさい」
グレイスの顔にパンチが叩き込まれていく、龍子の言うように今までは自分から飛び上がりダメージを軽減していたが髪の毛を掴まれたまま打撃を受けたのでは逃げようがない、
目鼻立ちのしっかりとした可愛らしい顔がみるみる腫れ上がっていく。
「アウっ、アぁ、ヒィ」
それまで龍子を応援していた声援もその凄惨な光景にしんと言葉を失い始めていた。

何とか手をつかもうともがくがその手を払いのけるかのごとく拳が叩き込まれていく。
「おらー!!」
ひときわ大きな声を発すると最後に肘を叩き込み、今度は技ではなく、本当にグレイスは叩きのめされた。


50:格闘物
08/10/16 00:13:01 Fy06AEH7
「さ、て、と、じゃあ今度は痛くないことしようか」
リングの上でぐったりと動かなくなっているグレイスを見下しながら、
龍子はにやりと笑う、それはまさに獲物を目の前にした猫のそれのようであった。
「だ、だめ、やめ……」 力なく首を振るグレイスに近づくと、チューブトップタイプのリングコスチュームに手をかける、
と、それを一気に剥がし取った。

観客達の眼に小柄で日焼けした美少女の半裸が飛び込んでくる
「だ、だめ……!」
慌てて手で隠そうとするがその手は力なく龍子により引きはがされる。
「さてと、如何して欲しい? こう?」
そう言いながらグレイスの小ぶりの胸に手をかけてゆっくりと揉み始める。
「相手の弱い部分を攻め立てるのも格闘技の技だもんね」
そう言いながら両方の手を使いじっくりと左右の胸をもみしだきつつ、
ぴんと張った乳首を攻め立て続ける。
そのたびに体の下のグレイスから先ほど殴りつけていた時と同じような
可愛らしい嬌声が聞こえる。
それにすっかり気をよくし、
今度はチョコレート菓子の上の小さな小さなサクランボのようなそれに唇をそっと近づける。

そっと甘噛みをした後、ぺちゃぺちゃ音を立てて舌で丹念に舐めまわす。
突然降ってわいた光景に観客達から歓声が巻き起こる。
それは会場全体を揺らし二人の上に降り注いだ。
「アアァァ!? や、あ、んん……」
逃げようとしているのか、感じすぎているのか悲鳴を発しながら体をグレイスは動かし続けている。
「ふふふ、こういう試合も楽しいわね、どう、寝技のスペシャリストさん?」
「……お願い……下も」 うつろな声でグレイスが告げる。
「そう、じゃ、下を弄り倒したあと、KOしてあげる」
くすくすと笑い、くるりと体制を変えるとグレイスのほんのりと濡れたスパッツに舌を近づける。そして、濡れた線に沿って舌を往復させていった。
「ひゃあんん」
お尻の下からグレイスのかわいらしい声が聞こえてくる。
本国に帰れば大英雄として迎えられる少女がもはや唯のメス犬になり下がっていた。

51:格闘物
08/10/16 00:16:45 Fy06AEH7
「絶頂を迎えた瞬間お尻の下敷きにしてKOしてあげる!」
濡れた線をしたと指でなぞりながら龍子が勝利を確信したそのとき。
するりと何かが首に巻きついてきた、それがグレイスの脚だと気がついた時にはもう完全に首に巻きついた後であった。

「ぐ、! く、ぐぎぎ……は、はなせ!」 バチン! バチン! 必死に
太ももに拳を叩きつけるが、そんな力の入らない攻撃では意味がなかった。
「……油断……大敵」 グレイスはそう呟き、先ほどと同じように龍子の下半身へと、指を滑らせた。そして同時に、股間の部分をずらす。
「や、やめ!! だめ!!」足の間から龍子の必死の講義が聞こえ、同時にロープ目指してジリジリと進み始める。
(今度はなれたらダメージの大きい私が不利) そう判断したグレイスは一気に龍子を落としにかかった、クレバス部分を指で掻き混ぜるのと同時に、クリトリスをつまむ。
関節技で鍛え上げた指先は、龍子のそれよりはるかに繊細で、相手の急所を攻めるのに的確である。
「ひいいぃぃだ、だめ、だめ!!」 
龍子は叫びながら必死にロープに進み続ける彼女の進む後には
ポタポタと愛液が垂れていく。
だがグレイスも逃がすまいと必死だった。
逃したら手負いの熊のように襲いかかってくるであろう、
それを防ぎきる力はほとんど残ってない。

両者の我慢比べが始まる。
その様子を観客達は固唾をのんで見守った。
そしてついに
「ああ、も、もうだめ、もうだめ!!」
ブシャアァ!!
派手な音と声をあげ、ついに龍子がロープより30センチほど前で力尽きた。
自分の顔にかかった対戦相手の愛液を嘗めまわすと自分の勝利に酔いしれた。

「なかなか、まあ、うん、いい試合、でした、わね」
VIPルームの中で少女はこほんと咳払いをする。
外に出ていた男が今は少女の後ろで黙って頷く。
「さあ私も帰って練習しなければ……」
そう言うと男の前にすっと手を出す。
男はうなずくとアタッシュケースより下着を取り出した。
濡れた下着をその場に捨てると新しいモノに穿き替え少女は部屋を後にした。


リングでは熱戦を制したグレイスがレフェリーに手を挙げられたまま全観客の拍手をいつまでもその身に浴びていた。


52:名無しさん@ピンキー
08/10/16 00:18:51 Fy06AEH7
終わりです、エロくしてみたらあまり『壮絶』って感じではなかったかもです

ありがとうございました、では~。

53:名無しさん@ピンキー
08/10/16 08:17:31 uWF7MQtV
>>52
GJ!
レズファイト面白かったです。


54:名無しさん@ピンキー
08/10/16 09:15:21 ORTVyWty
義理GJですっかり図に乗っちゃったらしいな

55:機械男爵【芥】
08/10/16 10:51:18 HOCg4+B9
そーいや、ハートにひぃつけてっていう格闘女子育成ゲーあったな。
あれで陵辱したらどないやろ。
いや、するけどさぁ。
URLリンク(managoiors.blog39.fc2.com)
おもにうちので、そーれーがーオレのメーイーン♪
フィルター掛かったら、「閲覧できましぇん」
ヤッパリーなー♪


56:名無しさん@ピンキー
08/10/16 12:34:14 gtgIvqXa
>>54
エッジ乙カレー

57:名無しさん@ピンキー
08/10/16 12:48:01 ORTVyWty
はい僕エッジですww

58:名無しさん@ピンキー
08/10/16 16:39:24 78l1TL7S
>>52
ひょっとして前スレでも書いてた人かな?成長早いなーw
ドキドキしちまいました。GJ!

59:名無しさん@ピンキー
08/10/17 10:43:27 zgSByipW
>>43
最近長いバトルが多いからそんな感じしたが、前スレ読み返すと茜・ヴェラ・青葉・香蘭・アルマと5戦してる中で、
悠里が覚醒してるのは実は青葉・アルマ戦だけなんだよな

60:名無しさん@ピンキー
08/10/19 14:23:39 CuXa5LLc
ビジネスジャンプのくの一モノがいい感じ。

あまり間が開くのもアレなので、短いですが投下します。
続きは近いうちに。
ぼちぼち新展開しますんで、ゆるりとお付き合い頂きたく

61:The Edge ep.9-3  1/4
08/10/19 14:24:53 CuXa5LLc
1.

「えらい騒ぎやねぇ。何やあったんやろか」
和服を着た恰幅の良い女が呟いた。
名は楓。おっとりして見えるが古武術の師範だ。
彼女はざわつく通りを一瞥し、向かいの相手に視線を戻した。
「あんたも。どないしたん?香蘭」
その相手、香蘭は神妙な面持ちで通りの先を睨んでいる。
「……ひどく、嫌な感じがする。見知った人間かもしれん、悪いが席を外すぞ」
香蘭は立ち上がって告げた。
拳法家である香蘭と古武術を嗜む楓の茶会。
表向きは武を修めた者同士の親睦の儀だが、その実は裏に黒さを抱えた曰くつきの会合だ。
だがそれさえ無碍にしてしまうほど、香蘭の感じた悪寒は大きかった。
「待ちぃ、ウチも行くわ。他ならんあんたの勘やしな」
楓も裾を正して立ち上がる。不穏な空気は、彼女とて全く感じないわけではなかった。



悠里の大きく沈み込んだアッパーが莉緒に突き刺さる。
柔らかい腹はくの字に折れ、軽々と宙に浮いた。それを投げ捨てる動きを引きの手に、左のフックが叩き込まれる。莉緒はかろうじて腕で防ぐ。
少女は知らぬ間にガードを始めていた。どんな攻撃も気合だけで受けてきた彼女が、防御せざるを得ない気迫。

体中を痺れに包まれながら、しかし少女の脅えは刻一刻と鎮まっていた。
受けた熱さが心地よい暖かさへ変わってゆく。
莉緒は強い女性に憧れてきた。
虐められっ子の彼女にとって、学園のカリスマたる青葉は眩しかった。
だが、莉緒が戦うのはその姉の仇討ちゆえではない。
神格化していた姉さえ上回る“悠里”と、どこまでやれるのか。それを知りたいだけだ。

莉緒は殴られながら、特等席で悠里に見惚れた。
カーディガンを翻して締まった身体がせり出してくる。
右手も左手も、飛びかかる蛇のごとくしなやかに曲がり、その中心では直視が躊躇われるほど力を持った眼がこちらを丸呑みにしている。
視線など彷徨わそうと思えばいくらでもできた。
シャツを押し上げるいやらしすぎるほど大きな胸でも、血にまみれた桜色の唇でも。
しかし脇見には限度がある。
それらの恍惚を一瞬で消し飛ばす痛みが、細い腕からもたらされるからだ。
か細い腕。その細さに惑わされてはならない。
その打撃を受けても泣かなかったならば誇って良い。それほどの重撃だ。
美しい女神に殴られる。莉緒はその行為に満たされながら、別の欲求に突き動かされてもいた。
その女神を、殴り倒す。
殴り終わりでガードが甘い。この隙に目線より少し下、薄いシャツに覆われた腹部へ叩き込む!

62:The Edge ep.9-3  2/4
08/10/19 14:25:44 CuXa5LLc

少女は踏み込んだ。
砂利を踏みしめ、腰を捻って腕を叩きつける。
当てれば、当たりさえすれば、その威力はプロレスの試合で実証済みだ。
鈍い音がする。打撃の手応えが肩にまで伝播する。
「う゛ッ!!!」
押し殺した悲鳴が耳元で漏れた。ブローが効いているのだ。
カベルナリアを脱してからの悠里は、勇ましくも避けるという行為をしなくなった。
真正面から力で叩き伏せようとばかりに。
避けないならばこちらの攻撃も当たる。そしていかに腹筋を鍛えようが、莉緒の馬鹿力は人体の耐久限界を上回る。効かぬ道理などあるはずもなかった。

悠里は腹を押さえて凄絶に睨み据えてくる。莉緒にはそれが誇らしくて仕方ない。
もう一撃と拳を叩き込みにいく。しかし今度はミドルキックに阻まれた。
身体が後ろへ吹き飛んで距離が空く。さすがの豪打だ。
しかし、莉緒はまた突進した。
相手が構えた瞬間のダッキングは賭けだった。賭けは当たり、悠里のジャブが頭を掠める。
懐に入って前屈み。莉緒はそのままぶちかます。
「ごおう!!」
ひどく苦しげな声。がら空きのボディへ走り込みの頭突きを喰らわしたのだ。
相当な苦しみだろう、悠里は反撃してこない。チャンスだ。
莉緒は頭を振り上げ、悠里の顎をぶち上げてのけぞった胴へ狙いを定めた。
至近距離なら全てに手が届く。鳩尾にも、アバラにも。
そして莉緒は、女がもっとも殴られるのを嫌う箇所を凝視する。
女体で一番に護るべきものとして秘匿される器官―― 子宮だ。

少女は歯を食いしばり、首に筋を立てる不細工面を晒してまで渾身の力を振り絞った。
一撃で子宮を砕かんと気合を込めた。
悠里はまだ仰け反ったままだ、時間にして一秒足らずなのだから仕方ない。
しかし莉緒は、その一刻に長い長い時間を感じた。
子宮を殴るのだ、この美しい女帝の子種の受け皿をへし曲げてしまうのだ。弱虫だった自分が。
「ははははっ!!!!!」
あまりの嗜虐性に笑いが止まらない。
車が爆発する瞬間を見守るように、無邪気な莉緒は、締まった腰へ拳が吸い込まれていく様に目を輝かせた。
変化は起きる。衝撃を受けた物体には必ず。

少女の拳は実に中ほど以上も悠里の腹部に潜りこみ、悠里の右膝が跳ね上がった。
それは防御ではなく反射。腹筋や側筋、大腿筋が甚大な損傷を受けたことを明示していた。
「ぐッ…うぅうおお゛おォおおお゛お゛!!!」
打った莉緒でさえ当惑する。
悠里の身体は莉緒の腕に巻きつくように折れ曲がり、螺旋状に宙を足掻き、丸まって地に倒れ臥した。


63:The Edge ep.9-3  3 /4
08/10/19 14:26:33 CuXa5LLc

「えぐい…」
観衆の女が悲鳴を上げる。同性ゆえ、それがどれほどあってはならない事か理解したのだ。
所詮は人の打撃、車に跳ねられたわけでもない。しかしあれだけ派手に体が捩れるとなれば、ダメージは測り知れない。事実あの悠里が丸まったままピクリとも動かないのだから。
「痛っ」
声がしたが、それは悠里ではなく、打ち倒した少女のものだ。
彼女は血の出た拳を見つめている。
握りこんだ拳の中、親指の爪が他の指に圧されて根元から陥没したようだ。
柔らかな手と変異とも言える怪力の生み出す歪さが、彼女自身に返ってきていた。
だが勿論、その巻き添えは少女に限らない。まともに腹で飲み込んだ悠里は比にならない苦痛だろう。
打撃が鍛え上げた拳で放たれたのならばまだ良かった。
質量を備えた軟体ものほどえぐいものはない。
硬い物は外側を壊すだけだが、柔らかい物は変形して張り付き、力を内に浸透させてしまう。

「おねえさんダイジョーブ?ねこみたいになってるけど」
丸まった悠里を見下ろし、莉緒が声をかける。悠里は少し指を動かして反応こそしたものの、起き上がる気配はない。
「おねんねはダーメだよぉ」
莉緒は呟きながら、悠里を踏み越えて公園端に置かれた椅子へと歩いていく。
休憩するのか、と観衆にようやく安堵の空気が流れた。ダウンの後、それは当然の流れだ。
しかし少女に休息などする気はさらさらなかった。
少女はどっしりとした木の椅子を掴み、悠里の元に引きずっていく。
観衆が言葉をなくした。木造りの『凶器』は満面の笑みをもって振り上げられる。
少女の気分は大物を捌く漁師だ。
血の海の中で悠里の美顔に跨り、蕩けきった陰部を鼻へ擦りつけて愉悦を迎える。
そんなイメージが脳内を駆け巡っていた。これはその最後の一手。

しかしその一手は不発に終わる。振り下ろされた木の椅子は、背もたれをへし折られた。
横臥から跳ね上がった悠里の蹴りで。
“木こり娘”の通り名は伊達ではない、それを莉緒は今一度噛み締める。
悠里は立ち上がった。ダメージは確実にある。口の端から泡を吹き、目は虚ろになっている。
それでも簡単に倒れそうにないのは王者ゆえか。
「あふ、か、かぁっこいい……」
莉緒はそのぐちゃぐちゃになった美貌に恍惚の表情を浮かべた。
悠里が地を蹴り、凶器を超える凶刃がしなう。

64:The Edge ep.9-3  4/4
08/10/19 14:29:20 CuXa5LLc

雨が降り始めていた。

何度目の相打ちだろう。莉緒のナックルが悠里の下腹を抉り、悠里のミドルが莉緒の脇腹を抉る。
双方の腰が瘧にかかったような痙攣をみせる。
シャツから覗く2人の腹部はおぞましいほどの赤紫に変色していた。
顔はチアノーゼで土気色になり、濡れた髪が貼り付いている。
少女の方は解らないが、悠里のずり下がった黒タイツには赤い液が滲んでいた。
血尿だ、と見つけた観客が騒いで久しい。
その通り、腎臓を幾度と無く殴りつけられて催した失禁は血尿だ。
だがそれが一過性の騒ぎで収まってしまうほど、この殴り合いには異常なことが多すぎた。

「おねえさん、またあの低い声で啼いてよ。ぞくぞくしちゃったぁ」
「あら、ちびちゃんだって地面叩きながら転げまわってたじゃない。可愛かったわ」
2人は組み合いながら顔を見合わせ、唇を重ねる。
水音を立てて恋人のように濃厚な口づけを交わしながら、瞳では射殺すように睨みあう。
それは息の塞ぎ合いに他ならなかった。
寒さゆえの白い息か、或いは火照りきった身体の湯気か。
白いもやに包まれながら桜色の唇が蠢きあう。
その下では、再び人体に致命的な害を及ぼす拳が柔肉を叩き潰す。
殴打されて目を見開いてもすぐに睨み返し、接吻は肺がひしゃげるまで止めない。
溢れ出る唾液の濃さでダメージを比べあうように。

やがてどちらからともなく打ちの回転が増した。
無呼吸連打でサンドバックを叩くように猛烈に相手の腹だけを殴りつける。
相手の白黒する目だけを信じて腕を酷使する。腹で跳ね回る様は正気の沙汰ではない。
30発は入っただろうか、唐突に2人の頬が膨らんだ。
「おごろおおおおおぅおッっっ!!!!」
声にもならない声を上げて二人が口を離す。口の高低差が成す滝のように、半固形の吐瀉物が流れて水溜りを泡立てた。
2人は泥水を跳ねさせてその場にうずくまり、肩を震わせながら僅かばかりの休息を取る。
それでも目だけは逸らさない。
動けるようになればすぐに水飛沫を上げて飛び掛っていく。


悠里は、自分の胸の奥がけたたましく笑っているのに気付いていた。

65:名無しさん@ピンキー
08/10/19 19:10:45 n0h0LIh8
うおっ!?怪力打撃を子宮に食らっちゃってる!?
好みの展開だ…

66:名無しさん@ピンキー
08/10/19 19:47:58 XzO+0xyD
エッジ消えろ
こんな暴力バトルはつまらない

67:名無しさん@ピンキー
08/10/19 20:37:16 8KjUMALW
うはっ!キタキタキタ!!乙です

悠里覚醒したにも関わらず、押し切られてる。全て出し切った上での完全敗北フラグも立ってていい感じ
子宮潰しでダウンした時に失禁してくれた方が、個人的には良かったんだけどな
面白いからいいか

次回決着か?全裸で正座して待ってるよ

68:名無しさん@ピンキー
08/10/19 20:52:06 Vn2gzakd
バトルスレで暴力ダメって全否定じゃね?
何で見てるのって話だ

69:名無しさん@ピンキー
08/10/19 21:42:16 n0h0LIh8
まあ荒らしだし

70:名無しさん@ピンキー
08/10/19 23:09:54 iXW43ahj
>>66
地下女、コテ入れ忘れてるぞw

71:名無しさん@ピンキー
08/10/20 00:32:42 YpxiMkLx
色々とフラグ立ってていいな、今回。 本人言う通り短いけどw
新展開ってのが気になる気になるwktkだぜ

GJ!

72:名無しさん@ピンキー
08/10/21 01:07:08 evrUMymf
Wゲロうめぇ

73:名無しさん@ピンキー
08/10/26 09:47:38 YiMv/8Al
俺の経験上、格闘物で主人公が死闘の最中で笑い始めた場合には対戦相手はびびって小物化して
腕の骨とか折られて転げ回るとか無様な姿をさらす

そんなジンクスを怪力小娘には頑張ってぶち破って欲しいな
そろそろ悠理の惨めに地面に横たわる姿を拝みてぇ

74:The Edge ep.9-4  6/6
08/10/26 14:38:25 SdJekNRM
1.

雷雨が周囲の音をかき消してゆく。
記録的な豪雨の中、それでも多くの観客がある物に見入っていた。
雨を弾いて戦う2人の女性。
どのくらいの時が経ったろう。1時間かも知れないし、2時間かも知れない。
だがその戦いは延々と続いているように感じられた。
殴り合いのインパクトが観衆の一瞬一瞬を濃密に彩っていくからだ。
外から見てそうならば、戦っている本人たちはどれほどの感覚だろう。
それが解るものは場に2人しか存在しない。

悠里はチアノーゼで真っ赤な顔で蹴りを放った。
恐ろしいまでの馬鹿力は何故か、狂った精神を支えるものは何か。
そんな理論的な思考はとっくに捨てた。
今はただ、次の一撃で相手が倒れるかどうか。それしか考えない。
頭が回らないのだ。
子宮の損傷が痛手だった。恥骨に力が入らず、攻撃がほぼ手打ちになってしまう。
鼻血でしづらかった息もさらに細まり、もう何分まともに息を吸っていないかわからない。
腰が浮き、息ができない。水の中で溺れながら殴り合っているに等しかった。

顔に貼りつく前髪を払い、悠里は莉緒の姿を豪雨に求める。
ここでも不利があった。悠里は小さな莉緒を視線を下げて探さねばならない。
逆に莉緒から悠里はどのようにしていても見える。
その僅かな索敵力の差が悠里を後手に回していた。
「い゛っ!!」
悠里が顔を顰めて片足を引く。泣き所を強烈に蹴りつけられたのだ。
思わずよろけた瞬間、首の後ろに悪寒が走る。とっさに頭を庇うが、ぶつけられた質量は咄嗟の防御を遥かに凌駕した。
広場に置かれた何かで殴りつけられたらしい。頭が白くなる。
それでも悠里の眼は殴りつける莉緒のシルエットだけを見据えていた。
そこか。
悠里は持ちこたえ、土を蹴り上げて猛然と少女に迫る。しかしその途中で視界に黒い線が走る。
意識が飛んだ瞬間のものだ。
そう認識したとき、悠里の身体は前のめりに倒れこんでいた。
疾走のエネルギーをそのままに、土を大きく抉って膝をつく。


75:The Edge ep.9-4  2/6
08/10/26 14:39:07 SdJekNRM

心臓が止まりそうなほど息が苦しい。それでもすぐに立ち上がらなければならない。
このまま膝をついていればされるがままだ。そうすれば戦いは終わる。悠里はそれを嫌った。
しかし、嫌った理由は負けるからではない。
 ―せっかく面白くなってきたのに、もう退場なんて!
助走をつけて飛びかかってくる莉緒を認識したとき、悠里も飛び出していた。
膝まづいた状態から跳ね起きると同時に迎え撃つ。
莉緒のキックは空を切った。代わりに悠里の蹴りがその腹に叩き込まれる。
「ぎゃぶっ!!」
腹を折って少女は呻く。横隔膜が破れそうな重さだ。しかし悠里の攻撃はそれで終わらない。
「はぁっ!」
蹴りの回転を利用してさらにもう一撃が腹に見舞われる。少女が目を閉じた。
駒のような連続蹴りは、三度目、足の甲が莉緒の胸にめり込むことでようやく止まる。
「お゛がッ……」
今度は少女が崩れ落ちる番だった。

この娘もダメージを負うと倒れるのだ。悠里の心が躍る。
いつだったかもそうだ。舐めきった白人少女は、悠里の横蹴りで初めてのダウンを喫した。
その時は心配になって様子を見たため反撃を許したのだったか。
今度はそうはしない。
悠里は腹を抱えてうずくまる少女の頭上で脚を引き絞る。戦斧に例えられる剛脚を。
莉緒が顔を上げた時、視界には悠里の後ろ髪が靡いていた。
胴回し回転蹴り。普通ならまず成功しない大技だが、それゆえ当たれば威力は計り知れない。
それは莉緒の頭を真芯で抉り、歪む顔を泥水に叩きつける。水溜りの中にあぶくが沸く。

堅い手ごたえがブーツ越しに返ってきた。あれで決まらないはずがない。
爽快な身の動きだった。
跳ね起きた状態からの3連旋風脚、さらには実戦でほぼ幻といっていい胴回し回転蹴り。
人一人倒すには十分にも十分だ。最初の一蹴りでも良かったかもしれないのに。
悠里は久々に息を吸い込む。体中にガタがきていて、もう息をするのさえつらい。
だが胸の高鳴りは今まででも最高だ。
「あはははははっっ!!!!」
悠里は手を広げ、天を仰いで高らかに笑った。
しかし、悠里はそれでも莉緒が立ってくる事を予見していた。
実際に少女の手は動く。手だけではない、脚も、腰も、よろめきながら起き上がる。
まるで人形が動くような不自然さ。鼻筋に髪からの血が流れている。
「……血が出てる」
莉緒は手で顔を撫でながら呟き、笑った。


76:The Edge ep.9-4  3/6
08/10/26 14:40:10 SdJekNRM
異常。その言葉がこれほど似合う状況を観衆は知らなかった。
血塗れになった女2人が笑いながら殴り合う。
親子がじゃれるような体格差ながら、それは茶化せる類のものではない。

莉緒の振り回す手が、避けようとした悠里の服の端を捉える。
雨でぐっしょりと濡れたそれから飛沫を飛ばしながら、少女は全身のバネを活かして悠里を投げ飛ばす。
普通ならば頭から地面に叩きつけられるところを、悠里は猫のように身体を円転させてこらえた。
「ついで」で斧が振り上げられる。それは少女の脇を抉って右肩を不自然に跳ね上げる。
もはや音もなく悠里が笑う。
傍目にその攻撃のモーションは見えなかった。ただ莉緒の身体がコマ送りのように仰け反りまた俯く様を見て、そこに怒涛の打撃が叩き込まれているのが想像できるだけだ。
何の音かわからない。
人の潰れた悲鳴か、肉が鈍く弾ける音か。ともかくも不可解な音でラッシュは止まる。
2人は同時に膝をついた。殴られていた莉緒はもちろん、殴っていた悠里までも真っ青な顔で土を搔く。
恐ろしいほど腕が震えていた。腕立て伏せを限界までやりこんだ、あの状態が殴り合いで起きている。

「ああああああ゛!!!」
叫び声を上げたのは莉緒だ。それは悲鳴ではなく咆哮に違いなかった。
物理的にもう戦おうとするのが自然ではない身体を気合で鼓舞する。
その顔はなおも人形のように愛らしいが、なんという表情だろう。泣いている、怒っている、笑っている。
どれを取っても間違いではなく、どれを取っても十分ではない。
胸の内から溢れる無数の感情を、余すことなく表情筋へつぎ込んで生まれる鬼面。
その顔から繰り出されるアッパーを観衆の誰もが本能的に恐れた。
大砲のようなそれに晒される悠里に同情してしまうものさえいた。
それは胸に叩き込まれた。豊かな脂肪の集まりが小さな拳で磨り潰され、奥の筋肉が軋む。
悠里は喰らいながら両の手で肩を押さえた。まるでそうしなければ身体がバラバラになるかのように。
堅く噛み締めた口が抉りこみに開いてしまう。
すらりとした身体は斜めに宙へ浮き、丸まった背中から地につき、胸へ徹る痛みでさらに跳ね上がった。
悠里は横臥したままボロボロのタイツに包まれた脚を小さく動かしていた。
余りに大きなダメージをそうして紛らわせようとしているのかもしれないが、やがて身体が痙攣する。
衝撃を抱えきれない。
「く……ッ……くっ、そおおおおおおおおッッ!!!!!!」
怒声が数刻雨音をかき消した。観衆が一様に耳を疑う。それは悠里の声だろう。
だがあの凛とした女王がそのような声を発するなど、余りにイメージの範疇から外れすぎる。

反応が違うのはただ一人。座り込んだまま顔を押さえて甲高く笑う莉緒だけだ。
彼女もまた、悠里を倒せたことに歓喜を抑えきれない。
彼女は決闘相手がヒト以外だと理解した。この高揚感は虎やヒョウを殴り倒した時のものだ。
まだ立つか?それは経験の浅い彼女にはわからない。少なくともこれで勝ちとは思えない。
自分の脚を殴り飛ばして悠里が土を舞わせたのを見て、莉緒はああそういうものかと学んだ。


77:The Edge ep.9-4  4/6
08/10/26 14:41:06 SdJekNRM

身体がバラバラだ、と悠里は感じた。
痛みで壊れようとしているのではない。動作の活力が一つずつ違うのだ。
相手に向かおうと走る足取りは雲を歩くように頼りなく、脚力はほぼ尽きていると思えた。
だが相手の蹴りをかわすジャンプ力は万全の状態より上だ。
一跳びで莉緒の胸まで飛び上がり、胴を足がかりにさらに上へ。少女の頭を完全に超えた。
何をする?ここまで高くなっては蹴りしかない。
蹴りだ。木こり娘と恐れられた圧縮バットをも蹴り折る一閃。
千切れそうになる腰を切ってそれを放つ。我ながら惚れ惚れするキレで少女の首を刈る。
 ―持ちこたえようとしてる?馬鹿ねェ、出来るわけないじゃない。
少女の踏ん張りが地から引っこ抜かれ、派手に身体が倒れる。
一瞬耐えられたことで悠里のバランスも崩れて、墜落した。しかしそれを甘受する。
というより受身を取る気力がない。
相手を壊す事にしか気が向かない。それ以外の事に身体が感応しない。

また2人して項垂れ回復を図る。だがそれはもはや休息なのか。
咳き込む息には血の飛沫が混じり、腕も脚も雨をぬぐう事さえ億劫なほど重い。
もはや数分で戻るダメージではない。むしろ時が経つほど立ち上がるのが困難になる。
だが2人はしばし動けなかった。疲労は勿論だが、それ以上に体中を痺れさせるものがある。
相手を叩き伏せる幸せ、それを消化しきるのに時間が要った。
その証拠に、立ち上がった二人は血塗れのまま、瞳に爛々と光を孕んでいる。
夜空に輝く蛾の燐粉の如きおぞましい光を。

身体に満足感が染みた。
人の身体を痛めつけるのがこれほど楽しいとはリングでさえ思ったことがない。
この公園に立ったときはなんと思っていたか。
先に手を出すのはいけない?小さな子供に殴られても返してはいけない?
馬鹿馬鹿しい。
それは自分を取り囲むハイエナに情けをかけるのと同じだ。
疫病の原因となる蚊を潰すことに躊躇いを感じるのと同じだ。
害を為すなら叩き潰せ。戦いを挑んでくるなら圧倒的な力で思い知らせてやれ。
それが自然なことだ。


78:The Edge ep.9-4  5/6
08/10/26 14:41:48 SdJekNRM
2.

「……なんや、アレは?……一体アレは何や!」
楓は隣の香蘭に問うた。口調が荒ぶっているがそれどころではない。
長年武に携わってきた彼女の感覚がそれをひどく嫌悪していた。
香蘭も息を呑んでいる。ならばそれはやはり異常な物に違いない。
「悠里、お前まさか……!!」
若々しい美貌を歪めて香蘭が呻く。
いつも傲慢な香蘭のその顔を、楓は少なくとも付き合って10年来見たことがない。



悠里は雨に視界を遮られながら走る。手と足が同時に出る不自然な走り。
距離を詰めることより相手を殴ることを優先する様は獣以下だ。
だが相手とて獣以下。豪腕が迫る。
その豪腕は寸前で止められた。その腕に構おうとした身体が宙を泳ぐ。
そして押し倒された。ほぼ川のようになった足場ではタックルなど切れない。
悠里は体勢を変えようとした。しかし自衛のためには身体が動かない。
足首と腿ががしりと固定されるのを、悠里はもがきながら感じる。
緊張で吐きそうだ、それどころではないのに。
そして悠里は顎が外れそうなほど叫んだ。左脚を限界以上に極められている。
右脚が動かそうともしていないのに地を跳ねる、その飛沫が顔にまでかかる。
「離せぇええーーーーっッ!!!!」
悠里は傍にある莉緒の頭を殴りつけた。小さく呻くのが聞こえる。
さらに殴る。殴る。拳から血飛沫が舞うが、どこからどう出ているかなどわかりはしない。
2人の白い肌で血に濡れていない箇所などないのだ。
その血を浴びながらさらに殴りつける。脚の痛みがよく拳を固めてくれる。
辺りでそれまで聞こえなかった阿鼻叫喚が起きている。初心なものだ。
悠里はそれ以上に叫びながら莉緒の後頭部を殴りつけた。
何発目だろう。ようやくにして脚の極めが解け、莉緒の身体が崩れる。
悠里の腹に置かれた顔は白目を向いていた。

 ―何だ、もう…気を失ってたんじゃない。

悠里はそう思った。そして生まれた感情は、安堵ではない。
凄まじい、激昂。


79:The Edge ep.9-4  6/6
08/10/26 14:42:50 SdJekNRM

「寝てんじゃないわよッッ!!!」
悠里は吼えた。失神した少女を今まで以上の力で殴りつける。紅い物が顔にかかる。
逃がさない。楽にしない。もっと、もっと苦しめてやる。泣き喚かせてやる!
「悠里っ!!」
傍らで声がした直後、悠里の頬に熱さが走った。
一瞬硬直して、血に溶けたような拳が止まる。ゆっくりと殴られた方を見ると、そこには見知った顔がいた。
「香……蘭………?」
彼女は仁王のような壮絶な顔でこちらを睨んでいた。
なぜそんな顔をするのだろう?悠里はぼんやりとした頭で考え、手元を見た。
血にまみれた手。白目を剥いた少女。真っ赤な服。喧騒。
ひとつ、ひとつ、異常が頭のそばをすり抜ける。鉄くさい味が口中に広がる。
「あ…?あ……」
悠里は目を見張った。
「あああああぁああああ゛!!!」
「よせ、悠里!」
香蘭は叫び始めた悠里の首元に手刀を打ち下ろす。的確なそれは一瞬で悠里を静めた。
「……今は泣くな、小悠。心が壊れる」
脱力した悠里を、香蘭は優しく抱き止める。

莉緒の身体を毛布で包んで抱え、香蘭は楓に視線を向けた。
「……この娘は私が引き取る。重症だが力を尽くせば助かるかもしれん。代わりに…」
「ウチにこの娘を引き取れ、言うんか?」
「頼む。アレを見た後で信じろとは言えんが、元来は優しい娘だ。…私にとっての恩人とも言える」
香蘭が頭を下げる。これも初めての事だった。
楓はしばし逡巡したのち、渋々と頷いた。

悠里を背負う際、楓は悠里が片手に何かを握っている事に気づいた。
あれほどの死闘でもなお離さずにいたそれは、空手の帯だ。実力とはやや不釣合いな茶帯。
楓は目を細めた。


80:名無しさん@ピンキー
08/10/26 16:27:26 mI+CMtrf
>>78
ageてるがいいのか?

81:名無しさん@ピンキー
08/10/27 02:56:03 KU6QHpiJ

1回ギブアップして堕ちてるとはいえ、打撃無効&怪力&サブミッション使い相手に強引に勝ち切るとは
最後の最後までどっちが勝つか分らないくらいの激闘、GJっす

82:名無しさん@ピンキー
08/10/27 08:21:59 dy3+9Alf
エッジはとっとと消えろ
本気でウザい

83:名無しさん@ピンキー
08/10/27 08:46:02 HEkOoJ65
>>82
悠里が負けなかったから?ウザくはないけど。
毎週なんて相当な重荷のはずじゃないかな。

もう書かないとも言わずに消えてく地下女なんかは、
ホントにウザいけどね。

エッヂの人乙

84:名無しさん@ピンキー
08/10/27 16:56:51 ZoPDlV74
エッヂいいね
エロなしでも充分楽しめるのが凄いな

85:名無しさん@ピンキー
08/10/27 17:13:53 FA7yaA7o
やっぱこれだけ続いてこれだけ勝つキャラだと、どうあっても壮絶な敗北を見たくなるし、
それって読ませるって事だよな。


86:名無しさん@ピンキー
08/10/27 22:49:14 xBvjItmC
いつも思うんだが

銃使えよw

87:名無しさん@ピンキー
08/10/27 22:57:48 GEkCrXya
>>86
バトル物で銃持ったら戦闘力たったの5のゴミになるんだぜ

88:名無しさん@ピンキー
08/10/28 00:57:43 kyCRPpnN
>>83
別に重荷じゃあないだろ。
エッジは毎日ブログを更新する暇人だ。

89:名無しさん@ピンキー
08/10/28 11:47:43 2zDf1eHl
ブログ?
分かり易く見つかる?

90:名無しさん@ピンキー
08/10/28 21:17:54 JPBeSb8d
エッジが嫌いじゃなくてゆうりがビッチすぎて嫌

91:名無しさん@ピンキー
08/10/28 22:05:05 j1HacPaV
エッヂ途中でクソになったから読んでねー

92:名無しさん@ピンキー
08/10/29 10:38:50 pwh4R6lk
てかアンチ必死すぎ

93:名無しさん@ピンキー
08/10/29 11:51:57 pYveP16m
ミヤビかそこらだろ?
実力で人の目を引けないから、遠くから吠えるだけ。可哀想な奴らだな

94:名無しさん@ピンキー
08/10/29 12:35:58 q44QTofO
>90がミヤビ
>91が地下女

ってとこか?w

95:名無しさん@ピンキー
08/10/29 16:31:06 kdxDWUju
で、ブログってどこ?
ネタ?

96:名無しさん@ピンキー
08/10/29 17:03:31 oxfVWkct
アンチの必死な釣りだろ
スレでエッヂのブログなんて何処にも出てないし

97:名無しさん@ピンキー
08/10/29 17:24:17 q44QTofO
彩の作者=ミヤビと間違えてんじゃないか
ミヤビはホムペ持ってるから

98:名無しさん@ピンキー
08/10/29 19:16:05 pwh4R6lk
>>93>>94は便乗してこのスレ荒らすなよ


99:名無しさん@ピンキー
08/10/31 11:47:46 C7aPGav3
ジエッジはここまでで6~7割終了という感じです。
あまり長くはなりません。たぶん…。


私のブログは「大樹のほとり」でGoogleさんに訊いて頂ければ、すぐ見つかると思います

100:The Edge ep.10  1/8
08/10/31 11:48:54 C7aPGav3
0.

電流の流れるリングの中、一度だけ奇跡が起こった。
電圧に身体が弾け飛ぶ瞬間、素人に近い黒髪少女が放った踵落とし。
それはバットをスイングするような音を立ててユーリの頭へ突き刺さった。
ユーリはよろめき、マットに顔から倒れこむ。
オッズでは圧倒的優位な少女のダウン。場は阿鼻叫喚に包まれた。

大方の期待通り、ユーリは立ち上がる。だがその額からは夥しい血が流れていた。
起き上がった彼女は逃げる悠里を捉え、実に淡々とその脚をへし折った。
本気にさせてしまったのだ。
素人の少女が、軍隊格闘の英才教育を受けたユーリを。

右手と左脚があらぬ方に曲がり、少女は相手にしがみついて攻撃を凌いだ。
自分の身体がどんな状態にあるのか解らない。
解体された生肉が脳裏に浮かぶほど、内の内までが痛んだ。
悲鳴は殺さない。耳に響くそれが、この世に残す最後の声だと思えたから。

少女はただ必死で抗った。戦い方は知らなかったが、死にたくなかったから。
何度も、何度も相手を殴りつけ、蹴りつけた。だが白人の少女はまるで怯まない。
瞬きもせず睨みすえる眼。
圧倒的な声援の中、ユーリは強く獲物の肩を掴んだ。
黒髪の少女は絶望に目を閉じる。

しかし、いつまでも衝撃は与えられなかった。
目を開けると、ユーリは尚も自分を睨み据えている。あらゆる感情の入り混じった壮絶な表情で。
だがその瞳は、もう悠里を映してはいなかった。

動かない時の中、ユーリの血だけが流れ落ちてゆく。

少女は……いや、『悠里』は、そこに全てを理解した。

101:The Edge ep.10  2/8
08/10/31 11:49:44 C7aPGav3
1.

「……起きてるぅ?」
ふいに声をかけられ、悠里は夢から醒めた。
目の前には一人の少女がおり、料理の載った盆を持っている。
食事を持ってきてくれたのだ。
山菜の炊き込み飯に焼き鮎のほぐし身、金平ゴボウ。
手の凝った和料理は旨そうに湯気を立てていた。
「食べさせたげよっか」
少女はにやけて言う。
「結構よ。自分で食べられるわ」
悠里は箸を取りながら答えた。
確かに数日前までは打撲や筋肉痛が酷く、彼女の手を借りもした。
だが悠里にはそれが不快だった。
食事の補助をされるという情けなさもある。
が、何より少女の表情には明らかな悪意が垣間見えたからだ。

少女はつまらなさそうに目を細める。
「そ、もう平気なんだ。じゃあ食べ終わったらついて来てくれる」
悠里は箸を止めた。
美味い料理ばかりだが、これほど重苦しい食事もない。
「師範がお呼びよ。師範代じゃなくて、師範。……すっごいよね、悠里さま」
少女はさも面白そうに悠里へ目をやる。
彼女にとっては師範代でさえも大きな存在であり、師範など天上の人であるようだった。

102:The Edge ep.10  3/8
08/10/31 11:50:25 C7aPGav3

座敷には旅館で嗅ぐ「木の匂い」が漂っていた。
何十畳なのか数え切れない青畳。開け放たれた障子からは紅葉を映す池が見える。
純和風のその空間に、スウェットとジーンズという悠里の出で立ちはひどく浮いていた。
出で立ちだけではない。
胴着を着た数十の門下生、そしてその中心に鎮座する楓。
それら全員から悠里を異端とする氣が発せられている。
悠里はそれをひしひしと感じながら、あえて背を伸ばし堂々と奥へ向かった。

「お疲れのとこ、済まへんなぁ」
楓が立ち上がる。ごく自然な動作ながら、悠里はそれを注視した。
武を知らぬ身のこなしではない。
着物を纏ったのほほんとした見た目通りではないだろう。
「いえ、お世話になりました」
頭を下げる悠里に、楓は笑いかける。
「ああ、そなぃええんよ。総合格闘技の女王ともあろうお人が」
楓は言った。その言葉に悠里は表面上笑みを浮かべ、内心で警戒する。
総合格闘技の女王。
そう称される時は大抵厄介事がついてきた。
純粋に憧れて口にするものも勿論いるが、大方は挑発だ。
悠里が顔を上げると、楓は意味ありげに横へ視線を投げる。
悠里ははっとした。
視線の先には一人の門下生。その手には茜の茶帯が握られている。

「済みません、拾っておいて頂けたのですね」
悠里が帯へと歩き出したその先へ、楓が足袋を滑らせる。
悠里は足を止めた。
「悠里はん、あれはあんたには返せまへん」
楓は悠里を静かに睨み据える。
「……どうして?」
「帯は武を修めた人間を称える為の物や。あんたの戦いは、武術やない」
悠里の笑みが消えた。
「総合格闘技?そんなもん所詮はお遊びや、一流の武道とは比にもならへん。
 とうに旬を過ぎた武道家崩れ、道半ばで暴力に靡いた半端者の殴り合い。
 武道が銀幕なら、あんたの居るお山は場末のポルノ映画…」
楓がそう蔑んだ直後、彼女に暴風が襲いかかる。

悠里とて世話になった立場で蹴りを放つ非礼は百も承知だ。
だが王者である以上、舞台への暴言を聞き流す訳にはいかなかった。


103:The Edge ep.10  4/8
08/10/31 11:52:02 C7aPGav3

やはり普通ではない、と悠里は確信した。
楓は悠里の不意打ちを完全に受けて見せたのだ。
傍目には見えない、正面にいて初めてわかる正拳突き2発を囮にしたミドルキック。
突きの2打目に反応できれば上等、1打目で動けたならばかなり出来る。
しかしそのいずれもがフェイクであり、反応しようがしまいがミドルキックに打ち倒される。
アリーナでは全ての選手がそうだった。
しかし楓は正拳のフェイクなど端から問題とさえせず、的確に本命のミドルを見抜いた。
その眼力もさることながら、さらに驚くべきはそのミドルキックをさらりと捌いたことだ。
悠里の蹴りはただ強いだけではない。
下段から中段へ、上段から下段へ。しなやかな筋肉で蹴りの最中に軌道を変え、
被弾する箇所を読ませずにヒットさせる。故に必倒なのだ。
だが楓はそれにさえ惑わされない。
むしろ、彼女が「払う」動きに蹴りの軌道が吸い込まれたようでさえあった。

流された蹴り足を戻して半身に構え直す、その瞬間に悠里は違和感を感じた。
足が動かない。
一瞬の隙に楓が構えに割り込んできたのだ。一歩踏み出し、悠里の足の甲を踏みつけて。
足搦(しっきゃく)。骨法の封じ技だ。
足の甲を潰しそうなほど踏みしめたまま、楓は猛然と悠里に迫った。
巨大な岩を彷彿とさせる圧迫感。単なる恰幅の良さだけでなく優れた重心の据えが為せる業だ。
咄嗟に出せる攻撃では止まらない。
その圧倒的な質量を止める術がない。

踏まれた足だけを釘付けされ、悠里の上体が後ろに跳ねる。
掌底で肩を打ち抜かれた。悠里の首に筋が浮く。危険なダメージだと頭より先に身体が訴えている。
一度息を吸ったとき、悠里は自らのダメージを悟った。
呼吸が苦しい。これは鎖骨が折れている。
肩が下がり、胸筋が支えを失ってずり落ち、横隔膜が圧迫されているのだ。
「『鎖骨』」
楓が静かに呟く。呟きながら悠里の垂れた腕を引き、素早く足を払った。
「…っ!」
悠里は痛みのあまり反応が遅れ、しかも畳の目に沿って払われたので踏みとどまることができない。
受身も取れずに畳へ叩きつけられる。肺がひしゃげる。
悠里が目を開いて見たのは、四股を踏むように振り下ろされる踵だった。
「『第八胸骨』」
平らになった胸へ踵を振り下ろされ、下部のアバラが実にあっけなく持っていかれる。
悠里の口から大量の空気が漏れた。


104:The Edge ep.10  5/8
08/10/31 11:53:10 C7aPGav3
2.

門下生達は正座した膝が震えるのを感じていた。
彼らは悠里を知っている。武を志すならば、異種格闘技の王者は嫌でも気に掛かるものだ。
圧倒的な力を持つとの噂だった。
その王者が目の前で叩きのめされている。
偉大なる彼女らの師範は、一切の手加減を捨てていた。
まったく出し惜しみをせずに悠里という人間を「壊していく」。
彼女らの学ぶ古武術が殺人術であると見せるかのように。
いや、楓は今、師範ではない。完全に武を極めた一人の女となっている。
長年の鍛錬で得た技の髄をもって女帝を叩き潰している。
 …ただその様は、普段彼女の説くあるべき姿とはほど遠い。
楓は恐れていた。悠里の何かをひどく恐れて、それを殺そうとしていた。

「ッ……!」
悠里は転がるようにして楓の乱打から抜け出し、一度膝を突きながらも身を起こす。
無理に動かした肩からゴリゴリと骨折特有の軋轢音が響いた。悠里が顔を顰める。
楓はその隙を見逃さない。
重厚な身体が驚くべき速さで迫り、悠里は本能的に顔を庇った。
そこからまた折檻が始まる。
執拗に腹部を叩いて前屈みになった所へ局所蹴り。たまらず転がるのを掴み起こして張り手。
頬への張りで外れた顎をかち上げ、よろめいた所を一本背負い。
悠里は成す術もなくやられていた。実力が劣るのかはわからない。
勝負事には流れがある。流れを掴み損ねれば力が伯仲していても一方的に負ける。
そして今は楓がその流れを一方的に制していた。悠里とて掌の上で踊るしかない。
それでも、悠里は立ち上がった。
暴風を纏った岩のような楓に何度叩き伏せられても、その脚にすがりついた。

真上からの掌打で悠里の顔が真っ赤に染まる。
悠里は崩れ落ち、妙な息を繰り返した。気息奄々ながらも、燃えるように楓を睨み上げる。
「まだぁ、負けや認めへんの……」
悠里が跳ねるように飛び起きるながら出した蹴りを、楓は正面から受け止めて突き返した。
「…けだものめ!!」
楓は般若の形相になった。

105:The Edge ep.10  6/8
08/10/31 11:53:46 C7aPGav3

悠里は鎖骨の折れていない方の腕で鋭い突きを放つ。しかしそれは捌かれ、掴まれた。
脇で悠里の肩を固定するように押さえ、楓は掴んだ腕を捻り上げる。
腕は一瞬壮絶に捻じ曲がった。暴れた為に極めはすぐに外れるが、悠里は腕を庇うようにして倒れこむ。少なくともスジは痛めているだろう。
両腕を殺されて転がる姿は痛々しいが、楓に容赦はない。
悠里の右足首へ足を乗せた。悠里がはっとそこを見た瞬間、足に重量が込められる。
ぐぎっという音で悠里の足首が外れた。痛みでのたうつ悠里を追いかけ、楓は残った左足を掴んだ。
暴れまわる胴を豊満な体で押さえ込み、すらりと長いその左脚を慈しむように包み、
へし折った。

やがて楓は、動かせるのが頭だけとなった悠里の上に馬乗りになっていた。
その白い喉元に手をかけながら。
「負けや、認めぇな」
楓が抑揚のない声で言った。悠里は彼女を睨みながら、何も答えない。
楓が手に力を込めた。喉の血色が白と赤に分かたれる。それでも悠里の瞳は変わらない。
門下生が息を呑んで見守るなか、楓が前傾になった。
悠里のむちりとした腿が痙攣する。悠里の顔が次第に青白くなっていく。
楓を持ち上げて細い腰が浮く。どれほどの苦しみの力が生じているのだろうか。
風がそよぐ。
長い、長い静寂だった。二人は長い静寂の中で睨みあっていた。
そのまま永遠に互いを睨み据えているように思えた。
だが門下生に目を逸らすものはいない。彼女らはやがて訪れる一瞬を知っている。

かこんっ

庭園のししおどしが音を立てた。同時に持ち上がっていた楓の腰がずんと下がる。
その視線の先では、悠里の瞳孔が喘ぐように開閉し、最後に大口を開けるように開ききり、上を向いた。
静かだった。
つんとした香りがふいに清涼な空気に混じりだす。
伸びやかな脚の間、青畳が濡れて濃さを増していく。
醜悪なその姿に、数十の門下生ははっきりと悟った。


悠里が、負けたのだ。



106:The Edge ep.10  7/8
08/10/31 11:54:25 C7aPGav3
3.

「あの……!」
年端もいかぬ若い門下生は、姉弟子の門下生に尋ねた。
視線は道場の一角を見つめて固まっている。
そこには一人の女が磔にされ、人の腰ほどの高さに吊り下げられていた。
頑丈な竿竹に腕を縛り付けられ、まんぐり返しで足首までもがその手首に括られ。
秘部を余すところなく晒しながら身動きの取れない、残酷な磔だった。
歳若い門下生はその顔に衝撃を受けた。
姉弟子達に口にする事をタブーとされた、名門道場にそれほどの影響力を持つ絶対王者。
吊り下げられているのは悠里その人だ。

武道家見習いの彼女は、まずその身体に見惚れた。
艶めく黒髪や豊かな乳房、すらりとした脚などはモデルならば似たものも居よう。
しかし凹凸のある締まった腹はただごとではない。よく見れば手足の指も変形している。
間違いなく血の滲むような修練を積んでいる。
すごい身体だ、と思った。
高慢ちきなサディストながら、その強さだけは否定する者のいない悠里。
何故あれほど強いのか、それが裸体を見て解る。生半可な鍛錬で作れる身体ではない。
その悠里がここに捕らえられている。
彼女は全身に汗を浮かせていた。それを覆うようにオイルが塗りたくられる。
そして性感エステのようなマッサージが施されていた。
腋や内腿を撫で、血管レベルから官能を研ぎ澄ませる。尾骨の手前でも指が蠢いており、くちゅくちゅと中を弄くっている音がする。
そうとう気持ち良いのだろう。門下生は悠里のしこり立った乳頭を見て思う。

「見せしめよ」
姉弟子は言った。
「力を律せず、ただのケダモノに堕ちた女がどうなるか。それを見ろと師範は仰ったわ」
今や周囲の門下生も練習をやめ、悠里を露骨に眺め始めている。
男女総勢86名。その中で気高い悠里が恥辱の晒し者となっていた。


107:The Edge ep.10  8/8
08/10/31 11:55:06 C7aPGav3

視線が集まったのを認め、悠里を嬲っていた女の一人がディルドーを取り出した。
場がざわつく。それは男の標準サイズよりも遥かに長大で反りも凄く、亀頭部分には冗談のように劣悪なイボがびっしりと散りばめられていた。
そしてさらに驚くべきことには、それが宛がわれたのは前にせり出した女穴にではない。
その後ろ、真下に息づく菊の蕾だった。
「おしりに……あんなものが……!?」
「入るわ。あの女アンタが来る前から一時間ばかり、こってりお尻の穴をほじられてたもの。
 声出さなかっただけすごいと思うわ。あの人ら、元が女専門のSM嬢らしいし」
姉弟子は悠里を嬲る女達を示して言った。
SM嬢には、仕事の一環で格闘技を習ううちにのめり込む者も多い。
姉弟子の話が本当だとすれば、彼女らは女を調教する専門家ということになる。

「そら、入れて欲しいの?さっきは指をきゅんきゅん締めてきたもんねぇ、女・王・さま?」
女はディルドーのイボで悠里の肛門をくすぐっていた。呼吸に合わせて微かに沈めたりもする。
そうして神経の密な菊輪をしばし嬲ったあと、ディルドーは掴み直され、一拍置いて強く抉り込まれた。
「る゛っ!!」
声にもならない声で悠里が大股開きを閉じかける。
「あ~ずっっぷり入っちゃったねぇ。ゴメンねぇ」
女は悪びれた様子もなく言うと一旦ディルドーを抜き、即座に更なる奥へと叩き込んだ。
ぐちぃっ。
悠里の腸の深くで汁気をもった何かが潰れた音がし、悠里の脚が跳ね上がる。

「あ!やっぱ…きついかもね」
姉弟子はふと声を上げた。年若い門下生が振り向く。
「思い出したけど、『アレ』、すっごいヤバイらしいの。前には入らないくらい長いのもそうなんだけど、
 反りがえげつないって。あの人らの誰かが自分用に買って、いっぺん奥まで嵌めてみたときに
 ビックリして思わず抜いちゃった…とか聞いたな」
「……!…そ、そんな……!」
少女は悠里を見た。
彼女は動けぬまま、ずぐっずぐっと尻穴へ凶器を突き立てられ、苦悶の表情で天を仰いだ。

彼女に勝ちがあるのかはわからない。
だがそれは明らかに、86人の門下生と悠里1人との、熾烈な心の戦いだった。


108:名無しさん@ピンキー
08/10/31 17:23:42 oD9Vv+08
ブログ見た
エッジは物書くのが心底好きなんだなー
彩とか地下とかの、にわかとは違うわけだね

109:名無しさん@ピンキー
08/11/01 00:59:01 Qoxusi7K

念願の悠里失禁KOが見れた。これで3年は戦えるね。GJ

怪力ロリガキと戦ってもナンともなかったのに、これだけ破壊されると少々違和感が・・・
裏ワザ満載の古武術相手だと、基本的に攻撃を避けない悠里は相性最悪だわな

青葉戦の延長上みたいな感じがするが、どう逆襲に転じるのか楽しみ

110:名無しさん@ピンキー
08/11/01 03:05:02 rtJBtEPS
悠里の方は本調子じゃなかったってのもあるが
暴走モードに入ったらある意味猛獣と大差ないから
達人クラスにとってはむしろチョロい相手なのかも

そしてアナルは大好物であります!!

111:名無しさん@ピンキー
08/11/01 05:21:40 V3Cm/jth
乙!

こういう展開になったら、一度くらい悠里をアヘらせての失神KOってのも見てみたいかも

112:名無しさん@ピンキー
08/11/01 06:35:59 394qb0r2
GJ!
快楽に蕩けきる悠里ってのも見たいねぇ
そんで年少弟子に軽蔑の眼差しで「…なによこれ…呆れた…。まるでただの豚じゃないですか」
とか罵られてアヘ顔にペッって唾とか吐かれたりして。

実際には気高く耐えるか、堕ちてなお美しい…とかで年少弟子感動っていうオチだろうけどw


113:名無しさん@ピンキー
08/11/02 00:25:49 lJ5DyZDk
だんだん展開がバキみたいになってきてるな

バキがさらにエロくなったみたいな

114:名無しさん@ピンキー
08/11/02 01:39:02 6xCFb9cv
尻の穴をほじられてるシーンも見たかったが乙

115:名無しさん@ピンキー
08/11/02 06:36:35 whSILou6
>>114エッジの人はおいしいシーンを割愛する傾向があるよね
長くなり過ぎないようにってのと別のフェチに傾倒しすぎないようにって配慮からだろうか

116:名無しさん@ピンキー
08/11/02 10:36:44 IDZMyysT
スレタイの通りに主題であるバトル部分で魅せたいと心掛けてるんじゃね?

117:名無しさん@ピンキー
08/11/02 11:04:33 XLaE1lFt
>尻の穴をほじられてるシーン

尾骨の手前でも指が蠢いており、くちゅくちゅと中を弄くっている音がする。
そうとう気持ち良いのだろう。門下生は悠里のしこり立った乳頭を見て思う。

ここにちょっとはあるな


118:名無しさん@ピンキー
08/11/02 17:19:18 rWuRPsGA
>>115
おいしいシーンって書くの大変だよ。 長くなってグダる場合もあるし。
あんまり、その辺に力入れすぎると軸がブレる事もあるから分配は大変だと思うよ

まぁ、もうすこし悠里の悲鳴とか聞きたい気もするがw

119:名無しさん@ピンキー
08/11/04 11:32:36 P2O1CuyB
>>118
骨折られるときとか「あぎゃあああ」とか
「ひぎゃあああ」とかは欲しかった。
悲鳴がない分、あっさりやられた感じ。

120:名無しさん@ピンキー
08/11/04 17:26:19 0nXCxKPB
悲鳴が欲しかったのは同意

首締めで落とすんじゃなくて、肋骨を折られるタフの毒蛭みたいな技で
許しを請い心を折られて失禁…なのも見たかった

121:名無しさん@ピンキー
08/11/04 19:56:03 DbvdBFFE
いや言いたい事は分かるし、俺もそういうの凄く見たいが
そこまで無様な姿さらしたら話が終わっちゃうような…
今後の展開も計算せずにそんなシーンは挿入できないだろ
アナザー展開の外伝とかならともかく

122:名無しさん@ピンキー
08/11/04 23:57:23 0nXCxKPB
莉緒戦で恐怖に震え涙流しながら「ギブアップです」なんて言わせたんだから許容範囲じゃない?
問答無用のガチ敗北シーンなんだし

ってつい妄想を膨らませてしまうな
とりあえず次回wktk

123:名無しさん@ピンキー
08/11/05 12:06:51 bOiIy9Uh
ストーリーものだとその辺が難しいよな
ガチ敗北が見たいけどやっちゃうと話が終わっちゃう
だからどうしても、やられ→覚醒して勝利のパターンになる

124:名無しさん@ピンキー
08/11/05 12:20:44 zGxaAHd9
ガチ敗北って言っても、別に死ぬ訳じゃないんだからw
いいでしょガチ負けしても

125:名無しさん@ピンキー
08/11/05 18:23:50 +wHxJjVR
ガチ負け自体はいいけどあんまり無様な姿さらしちゃキャラ変わっちゃうし続けづらいのは確かだろう
ただでさえ死線くぐってるような過去持ってるだけにそういう姿出しづらいのに

見たいのはそりゃ同意するけども

126:名無しさん@ピンキー
08/11/05 19:50:07 Sg/5SrS8
エッジさぁ別スレ立ててやってくれ
新参が入りづらい



127:名無しさん@ピンキー
08/11/05 21:20:32 dRbT80P4
別スレ立てろとか、鯖圧迫するような事しんなよ
新参がはいりづらいとか、普通に入ればいいだろ
新規投稿が無いのを彼のせいにするのは筋違いも甚だしいし

128:名無しさん@ピンキー
08/11/05 22:12:26 NqGu4VZ6
つうかエッジが居なかったらとっくに終わってただろこのスレ

129:名無しさん@ピンキー
08/11/06 00:15:08 D6tvSn7m
じゃあ、零時半くらいに投下していい?
手遊びで何年かぶりに書いたバトルで全然アレだけど。
あとエロいシーンまで書かなかったけど。

130:名無しさん@ピンキー
08/11/06 00:30:30 jCxs4G5j
よろしいじゃなくって?

131:名無しさん@ピンキー
08/11/06 00:32:00 D6tvSn7m
んじゃ。いきます。
タイトル仮題で。

132:名無しさん@ピンキー
08/11/06 00:32:11 udPg3tRT
おkおk!
新人さんは大歓迎だ

133:名無しさん@ピンキー
08/11/06 00:32:44 D6tvSn7m
 この県立武道館が新築されてからすでに十五年を経過しているはずだが、使用者が丁寧なのか清掃業者の仕事がいいのか、それほどの年月が経過しているようには一見して思えなかった。
 二階が剣道場で、一階が柔道場と弓道場がある。柔道場は二面しかないが、それでも地方の武道館としては十分な規模だ。
 アイがここに来るのは初めてではなかったが、前にきてからはもう二年くらい経つし、こんな―深夜で、誰もいないという状況では当然なかった。
 いや。
 誰もいない、というはずはない。
 靴を脱いでから自分で持ち、そのまま柔道場に入る。
 照明が煌々と畳の床を照らす中で、軽く見回すと、いた。
 道場の日の丸の真正面の壁に背を預け、素足を伸ばして座っている。
 少女だ。
 少女が座っていた。
 黒いスパッツに、セーラー服の上だけという何処か異様な格好だった。
「アンタが、そう?」
 低く抑えた声で、その少女が聞いてくる。
「あ、すみません」
 アイは靴と鞄を道場の隅に置いて、ブレザーの上着を脱ぎ、少し考えてから立ったままで右足を背中の方に軽く上げて爪先をつまみ、靴下を脱ぐ。次は左足。少しひっかかりはしたが、すぐに脱げた。
「スカート脱がないの?」
 と言われて、アイは「あ、大丈夫です」と答える。
「大丈夫ならいいんだけどね。後悔しないなら。―念のため聞いてるけど、アンタで間違いない、よね?」
「あ、間違いないです。ここで、やるんですよね」
「ここだよ。ここが、今日のナイトパーティーの舞台だよ」



 Blood Night Party (仮題)



 アイは柔道場の真ん中でとんとんとその場で小さく跳ねる。
 スプリングが利いている。
 二メートル離れたところに立っている少女も首を回してから、畳を見下ろした。
「条件は聞いてると思うけど、確認するよ」
「はい」
「武器の使用は不許可」
「はい」
「ただし衣服を使っての締めとかはアリ」
「はい」
「―ま、そんくらい」
「はい。あ、勝ち負けはどう決めるんです?」
 少女は顔を上げ、アイの眼差しを受ける。
「それは、自分らで決めるんだよ」
「審判はいないんですよね」
「カメラでの監視はされているけどね」
「そうですか」
「質問はそれだけ?」
「はい」
 そう、と少女は言って、時計に目をやった。
 壁にかけられたた時計の表示は、十一時五十九分。
「こちらからも質問だけど……負けたらどうなるかは、聞いてるよね?」
「聞いてます」
「覚悟はしているんだ」
「負けませんから」
「みんな、そういうつもりでここにきているんだけどな―」
 声と共にもれでたのは、溜息であった。
 カチリ。
 静かな道場の中に、その音はやけに大きく響いた。
 零時零分の表示。
 アナログ時計の分針と時針が12の上で重なった瞬間。
 少女が跳ねた。
 
 飛び込むような右ストレートであった。

134:名無しさん@ピンキー
08/11/06 00:33:35 D6tvSn7m
 ナイトパーティー。
 それは誰が始めたのかも解らない、戦いの夜宴だ。
 時に学校で。
 時に公民館で。
 時に武道館で。
 深夜零時に行われる闘争の舞台。
 参加者が全員でどれだけ、果たしてどんな人が参加しているのかの全容は知れない。どのような機構がそれを成立させているのかも判然としない。
 ただ、その存在は武道・格闘技の世界に携わる者の一部の間に都市伝説じみた胡散臭さで伝わっている。
 むしろただの都市伝説の類なのだとアイは思っていた。
 アイ―それは渾名だ。
 対戦者である少女の名前はケイと聞いているが、それだって多分、本名ではないはずだ。
 ナイトパーティーで本名を名乗る者は少ない、という。
 どう考えても非合法なのだから、むしろ当然ではあるのだろう。
 しかしそれは解っていたが、対戦相手のデータがまるで解らないというのはあまり嬉しいことではない。有利不利の条件でいえば向こうも同じはずではあるが、初めての自分に対して、ケイという人は多分、何度か夜宴を経験しているはずだった。
 経験の差は絶対的なものではないけれど、戦いなどというものは場慣れしているかどうかというのは重要な要因であるに違いなかった。
 とはいえ。
(形式はそれなり整ってはいるけど、ほぼ野試合みたいなもの……だとすると、どう仕掛けてくるのかは―)
 自ずと解る。
 自分の顔面に伸びる拳を横っ飛びにかわし、前方回転受身の形で立ち上がる。
「ちっ」
 ケイの声が聞こえた。会心に近い一撃であったのだろう。それをまさかこんな簡単に回避されるとは思っていなかったのか。
(飛び込み突き、日拳か―空手か何かか)
 立ち上がると同時に両手を前に出し、伸ばした指を向けるように中段の構えをとる。
 ケイが「合気道?」と呟いた。呟いてから、後ろに下がりながら何処からか取り出した黒い拳サポーターを嵌める。総合の試合などでみるそれだ。
 そしてその場でフットワークを取り始めた。
「今ので、だいたい新人の子はびびるんだけどね。けっこうやるね、あんた」
「そりゃ、どうも」
 笑うように声を掛けてくるケイに対して、アイの声は冷たい。
 しかし、傍目ほどにも彼女が冷静であるということはなかった。むしろ、内心の焦燥で心が乱れていると思ってもいい。
(大袈裟によけちゃった……いつもなら、ああいうのは呼吸投げとかでどうにかしていたはずなのに……!)
 やはり、場慣れしていない悲しさか。
 呼吸を整えて心気の乱れを静めようとしつつ、アイはケイの様子を眺める。観察といってもよかった。
 ―身長160センチ弱。体重は多分、四十キロ程度。
 それは自分と大差はない。身長は自分が少し大きいか。
 ショートカットなのも同じだ。フットワークをとりつつ青紫のヘアバンドで前髪を押さえたが、自分も何かもってくればよかったと思った。
 そういえば鉢巻は血や汗などをとめるためにするのだと昔聞いたことがあったが、同じ理由だろうか。単に髪の毛が戦いでは邪魔だというだけなのだろうけど。
 拳サポーターをつけるということは、打撃系か―あるいは総合か。
 最近は打撃ができないと総合の世界は厳しいという話も聞いていた。柔術が最強であったというのは、もう十年以上前の話だと。
 いずれにせよ、ここに来ているということならば生半の相手であるはずはなかった。
 多分、自分とそんなに変わらない年頃のはずではあるけど。
「合気道相手ってのは始めてだけどさ」
 ケイはトントンとフットワークで左右に跳ねだす。
「ボクサーの拳に、どう合わせられるか―」
 とん、と間合いが詰まった。

135:名無しさん@ピンキー
08/11/06 00:35:27 D6tvSn7m

 最初の左ジャブは距離を測るためだ。
 届かないのは承知の上で出された拳が鼻先を掠めても、アイの表情に変化はない。
 わずかに腰を捻っての右。
 アイの前に出していた右手が動き、ケイの拳の軌道を逸らす。
 畳を蹴ってケイはアイの右側面に回り込む。そこからの振り回すような左のフック―
 正調の格闘技者には慣れぬ側面からの打撃を、視界の外からのフックでこめかみえぐりこむか、あるいは鼓膜を塞ぐように叩くという、彼女のK.O.パターンだ。 
 アイはそれすらもよけた。
 拳が空振りし、相手の姿を見失った時、ケイの顔から初めて余裕が抜けた。

(動きが繋がらない)
 焦るな、とアイは自分に言い聞かせる。
 同時に逆効果か、とも思う。
 そんなことを考えたら余計に焦る。
 ひとつひとつの動きを自然に行えばいい。
 普段どおりにやれば負けない。
 多分。

(古流ってやつか)
 最近テレビとかで見るアレだ。
 胡散臭い和服を着たおっさんがなんか色々と言ってたりするのを、何度かテレビでみたことがある。
 正直な話、身体文化とかそういうのにはあまり興味がない。
 ケイは基本的にボクシング一筋だった。
 ボクシングだけやっていられたらよかった。
 他の格闘技と比べて自分がどれだけ強いとか、そういうことは考えたこともない。ボクシングというスポーツの中で自分がどれだけ戦えるのかだけを考えていた。
 ―全ては過去のことになってしまったけれど。
 アイの姿を見失った瞬間、ケイは飛びのいていた。
 そして改めて、アイの姿を見る。
 さきほどはどうやってかわされたのか、恐らくはボクシングでいうダッキング……しゃがんだのだろうとあたりはつけた。
 そこから反撃をしてこなかったのか、考える必要はない。
 異種格闘に限らず、戦いの原則はひとつだとケイは考えている。
(自分のペースを貫けばいい……!)
 左のジャブ。
 左のジャブ。
 右左のワンツー。
 拳と拳と拳と拳の弾幕。
 相手がどういう技を使うのか、それが解らなければとにかく出させなければいいというだけの話である。
 相手の体格が倍あるというのならともかくとして、ほぼ自分と同サイズの戦いはどれだけ一方的にラッシュを仕掛けられるかで勝負は決まると考えてもいい。
 攻撃は最大の防御とはいうが、そもそもからして防御は難しいのである。
 素手の攻防なら尚更のことだ。
 ボクシングでは高度なディフェンス技術があるが、それは実はグローブの性能に拠っている部分が大きい。
 グローブを嵌めた者同士の戦いでは、拳を掲げるだけでもある程度の打撃の軽減が可能になる。しかし素手での戦いではそう上手くはいかない。腕のガードを通り抜けて拳が飛んでくる。
 そして、打撃というのは前に前に向かってすすむものでもある。

136:名無しさん@ピンキー
08/11/06 00:36:45 D6tvSn7m
 体重を乗せて足をすすめ、拳を打ち出す。
 距離はどんどん縮まる。
 防御している人間は後ろに下がるか左右に逃れるしかない。
 しかし上体で必死に手を動かしながら足を捌いてゆくというのは、そうそう簡単にできることでもないのだった。
 ケイはこのナイトパーティーですでに五回戦っていた。
 その五回の戦いはどれもは勝利できたが、最初の二回はわけもわからず我武者羅に戦っていただけだった。
 彼女が戦術をちゃんと組み立てられるようになったのは、三回目からだ。
 それが―このラッシュである。
 左右の攻撃を相手の何処を狙ってもいいから叩き続けて圧力をかける。
 ボクシングでは攻撃できる部位は体の腰から上の前面だけであるが、このルールでは何処を狙ってもいい。そうなると洗練されたボクシングの技術は、彼女の戦いに劇的な効果をもたらせた。
 側面からの攻撃である。
 そもそも、ボクシングにおいて何故攻撃の部位が正面のみに限定されることになったのか?
 それは、人間の体というものが側面からの打撃に対して弱いからである。
 特に側頭部はただでさえ耳という急所があるのだ。
 その上に、人間は視界の外から不意を撃たれると防御姿勢が間に合わず、思いもかけないダメージを負うことがあった。ボクシングにおいてもっともK.O.が高いブローが視界の外から襲ってくるフックなのも、それが原因である。
 それらを踏まえたうえでボクシングによって鍛えられて洗練されたフットワークを駆使し、側面からさらにフックという攻撃を使い、ケイは勝利を積み重ねた。
 その相手の中には打撃に習熟した者もいたが、ボクサーのフットワークには対処できなかったのか、あるいは場慣れしていないのか、ケイの攻撃の前に沈んだ。
 考えてみれば、だいたいのスポーツ格闘技において、戦いは正面に向かい合った者同士の攻防になる。
 打撃部位もボクシングほどに限定されている訳ではないが、ほぼ前面と思っていい。戦いで横に回りこまれたからいって、真横から攻撃を仕掛けられるということはまずないのだ。それが反応をほんのわずかに遅らせる。
 そのあたりの攻防の感覚は、センス以上に慣れの問題なのだろう。
 彼女は明らかに、ひとつの独自スタイルを完成させようとしていた。
 しかし―
 拳を、アイは捌いている。
 左右の手を使い、逸らし、押さえ。
 左右の足を使い、引いて、押して。
 ケイのラッシュとフットワークに、手と体の捌きだけで対処している。
 むしろケイの方がアイに側面へと廻り込まれかけさえもした。
(コイツ―)
 巧い。
 今まで戦ったどんなボクサーとも、武道家とも違う。
「ッッッ!」
 焦りが戦慄に変わった瞬間、彼女は思い切り後ろに飛びのき、息をついた。
 アイは前に出ようとしかけて、同じく滑るように畳の上を下がり、間合いを広げた。
 そして、ふー、と大きく息を吐いた。
 ケイはその様子を見ていたが、その場でとんとんと軽くステップを踏みつつ、現状の再認識にとりかかる。
(余裕があるってわけでもないか……こっちも必死だったけど、向こうも必死だったんだ)
 ラッシュを始めて一分という時間であったが、完全に防がれたのはまったく初めてだった。想定すらしたことがない事態だ。
(こっちのパンチとか見えているのか。反撃してこないのは、あの様子だと単純に「できない」と考えた方がいいみたいだけど……)
 何故だろう、と考えてからほどなく答えが浮かぶ。
(ハンドスピードか)
 アイが一体なんの格闘技か武道をやっているのかの見当はつかないが、恐らくボクサーではあるまいと思った。
 ボクサーのハンドスピードに勝る格闘技というのを、ケイは知らない。あるとしたら空手か拳法の類だろうとは考えるが、アイが果たしてそのようなものの使い手なのかどうかは解らない。
 いや、のっけの受身での回避、最初の構えから考えて、合気道とかそのようなものではないかと思う。
 恐らくはこちらの打撃に対して、反撃の暇を見つけられないのだろう。あるいはそれとも、合気道には打撃技はないのかもしれない。
 そこまで考えてから。
(そもそも、合気道って、どう戦うんだ?)
 護身術としてはよく聞くが、腕を掴まれたり、服を持たれたりする時に使う技術なのではないのか。
 仮に殴りかかってきた時に掴んで投げるとしても、素人ならばともかく、打撃の専門家の攻撃を捌けるものなのだろうか。
(ああ、そうか)
 結論が、出た。

137:名無しさん@ピンキー
08/11/06 00:39:44 D6tvSn7m

 合気道には、ボクサーと戦える技術がないのだ。

 ジャブやストレートを掴みとるだなんて真似ができるはずがない。空手のようなテレフォンパンチというのならまだしもとして、脇を絞り、細かいモーションで繰り出される打撃は、日本の武道を相手に作られた合気道では対処しきれないのだろう。
 にもかかわらずアイがケイとの攻防を可能としているのは。
(きっと、凄く目がいいんだ。動体視力とか反射神経とか、むちゃくちゃいいんだ)
 その天性ともいう資質が、技術の不足をカバーしている。
 本来防ぎきれない打撃を防ぐということを可能としている。
 ケイは唇を軽く噛んだ。
 それはつまり、アイは自分以上の才能を持っているということを意味していた。
(もしもボクシングや、そうでなくても空手とかされてたら、私では勝てないかもしれない)
 素直に思う。
 しかし。
(だけど、今なら)
 勝てる。
 とん、とケイは畳を蹴った。

 アイは最初の構えをとり、迎え撃つ。

 左から右のワンツーで入る。
 アイの両手がそれを捌く。
 先ほどと同様の攻防が始まった。
 違うのは、互いが互いの動きに慣れたのか、踏み込みがやや深いことだろう。
 ケイは踏み込んで打ち、牽制を打ちながら下がる。
 アイは下がりながら捌き、牽制を逸らしながら踏み込もうとしてくる。
(やっぱり見えているんだ)
 仮にもボクサーの拳を、まったくクリーンヒットさせずに、しかも側面に回り込もうとしてからの打撃にも上手く合わせて捌く。
 恐ろしいほどに目がいいのだ。
 そして手も早い。
 ボクサーの彼女ほどではないが、かなりのものがある。
(本当に、ボクシングされていたら、勝てなかった)
 もしも、もしもだが。
 もしも、この相手がボクシングをやっていたら、彼女の叔母さんよりも強いボクサーになっていたかも知れないと、そんなことが脳裏を掠めた。


138:名無しさん@ピンキー
08/11/06 00:42:18 D6tvSn7m
 ケイの叔母さんはボクサーだった。
 ケイの叔母さんは強いボクサーだった。
 ケイの叔母さんは強いボクサーだった、けれど。

 プロボクサーにはなれなかった。

 実力が足りなかったというわけではない。むしろ、当時において、叔母さんよりも強い同階級のプロの女子ボクサーというのは、世界を探してもそうそういなかったのではないかと思う。世界ランキングで五位以上はあったと、贔屓目でなしに思う。
 もしかしたら、日本ランキングの男子選手ともまともに戦えたのではないかというほどにだ。さすがに、上位選手を相手には勝てないだろうけれど。
 ケイの叔母さんは、元々は少林寺拳法の選手だった。
 高校時代は全国大会の上位入選の常連であったが、卒業と同時にボクシングジムに入って、二年とかけずジムがそれほど大きくなかったということもあるが、所属していた男子選手の誰よりも強くなっていった。
 他のジムの女子ボクサーとの交流試合で、彼女は八年の現役時代の間に六十五戦六十三勝二分という驚異的なキャリアを残している。
 そのほとんどがスパーリングに毛の生えたようなものであり、フルラウンドの試合はなかったにしても、これは並みの戦績ではない。
 その中にはアメリカからきていた、後の世界チャンピオンもいたという。
 そんな強い人だったのに、どうしてプロになれなかったのか―
 簡単な話である。
 単純に、その時代に女子ボクサーのプロには、日本ではなれなかったからだ。

 今でこそ日本プロボクシング協会は女子ボクサーにも門戸を開いてはいるが、前世紀までは頑ななまでに女子ボクサーの試合興行を許可しなかった。ボクシングジムに所属するボクサーはかなりいたが、試合には出させてもらえなかったのである。
 今はなくなったが、日本女子ボクシング協会がキックボクシングジムが母体になっていたのもそのことに関係する。
 女子ボクサーが試合に出ようとしたら、キックボクシングのジムに所属していなければならなかったのだ。
 ボクシングジムに所属する実力のある女子ボクサーもいたはずである。ケイの叔母さんがそうであり、実際に、そのような選手と女子ボクシング協会の選手とのマッチメイクは試みられていたが、日本ボクシング協会の横槍で多くが成立しなかったという。
 勿論、協会がそのようなことをした背景も様々なものがあり、一方的に責められるものではない。
 それでも、思う。
 それでも、ケイは思う。
 そのようなことを知りながらも、思う。
 もう少し柔軟に協会が応じてくれていたら。
 叔母さんは、プロボクサーになれて、もしかしたら世界チャンピオンになっていたのかもしれない。
 いや、きっとなれていたに違いない。

139:名無しさん@ピンキー
08/11/06 00:43:56 D6tvSn7m
 ケイは家庭用のハンディカメラで撮った、叔母さんの最後の試合を見たことがある。
 すでに最盛期を過ぎていたにもかかわらず、恐ろしいほどの強さであった。
 ごくごく短いラウンドで、発足したばかりとはいえ、日本女子ボクシング協会のプロボクサーを軽々と倒していく。
 大人と子どもほどの実力差があった。
 みんな口々に「もったいない」と言っていた。ケイだって思った。
 しかし、もう無理だったのだ。
 叔母さんがプロの女子ボクサーとして一線にたつのは、もうその時には無理だったのだ。
 一児の母になっていた、叔母さんでは。
 フルラウンドを、試合会場の緊張感の中で戦うスタミナがないのだと。
『恨んでないよ』
 と叔母さんはいう。
 彼女はジムの会長の三男と恋仲になっていた。
 それが行動の全てを縛った。
 叔母さんには日本でプロになれないのなら、海外にいくという選択肢もあった。実際に、そういうことをしているボクサーもいる。
 そうしなかったのは、叔母さんには早くから恋人がいたからだった。
 恋人を捨てることが、彼女にはできなかったのだ。
『恨んでないよ。本当に』
 と叔母さんはいう。
 本当に本気でプロとして戦いたかったら、男を捨てて、ジムを捨てればよかったから。
 だからつまり、自分にとってのボクシングというのは、男よりも価値は下なのだと。
 はっきりとは口にしなかったけれど。
 そんな風に、叔母さんは、だけど何処か憂鬱そうに話していて。
(嘘だ)
 とケイは思っている。
 今は後進のプロボクサー志願の子に指導している叔母さんを見ていると、何か上手くいえないけど、胸の奥底がざわめくのだ。
 ボクシングより男をとったとしても。
 そのことで後悔はしていなくても。
 本当にそうだとしても、
(叔母さんは、全部を出し切りたかったんだ)
 それだけは確信できた。
 せめて、全力で表舞台で戦えていたのなら。
 叔母さんは、もっと明るい顔で笑えていただろう―

 とん、と踏み込む。
 
 拳を出す。
 捌かれる。
 拳を出す。
 逸らされる。

 さっきからそれの繰り返しだった。
 戦慄は感嘆となり、焦燥を通り越して怒りさえ呼んだ。
 ケイはなんだか許せなくなった。
 自分の攻撃の悉くを捌いてしまう相手の才能にではなくて。
 これほどの才能をもちながらも、アイがボクシングや空手などを選ばず、合気道だか古武道だか何か知らないが、表舞台に立たない道を選んだということに。
 こんな場所で戦う破目になってしまったことに。
 怒ってしまったのだ、
 それは理不尽極まりない感情ではあった。
 その人がどの道を選ぼうとも、自ら望んで、そしてこれほどの力を得るまでには並大抵ではない努力と覚悟がいったはずだから。
 そんなことは解っていた。
 だが、思うのだ。
(叔母さん以上の才能の持ち主が、こんなところにくるな―!)

 さらに踏み込む。

140:名無しさん@ピンキー
08/11/06 00:46:15 D6tvSn7m

(きっつ)
 アイは相手の圧力が上がったことに気づいた。
 気づいたが、だからと言ってどう対処できるというわけでもなかった。
 左右の拳は恐るべき速さであり、フットワークもまた脅威だった。
 スプリングが仕込まれた畳は衝撃を吸収する仕掛けになっているはずだが、ケイのそれを阻害するようなものではないらしい。むしろ反動がついているのではないかと思えた。あらかじめ、ここがどの程度にバネが効くのか、念入りに確かめていたのだろう。
(このままだと押し切られる)
 相手の攻撃は解る。
 どう来るのか、だいたいタイミングも解っている。
 稽古のとおりに動けていたなら、もう勝負はついているはずだ、と思う。
 しかしそれがアイにはできないでいた。
(失敗できない)
 それを考えることができる時間はない。ただ、心の何処かで恐れているのだと、自分でも解る。
 稽古は随分とした。
 相手が彼女の兄か、姉弟子でなければ、ほぼ十中八九の割合でそれは成功するはずだった。
(私は怖いんだ)
 アイの心の中の最も理性に遠い部分が、だからこそ冷静に答えを出した。
(真剣勝負の場で稽古どおりに動けるか、自信がないんだ)
 戦いと稽古とでの間合いの違いが、自分を迷わせている。
 実戦では、通常よりも相手との距離が近くに感じるという。
 よく笑い話としてよく聞く話ではあるが、ヤクザ同士が座敷で切りあいになった際、当人同士は壮絶な戦いをしたつもりであったが、傍目から見ていた芸者が見ると、腰が引けた状態で刀を突き出してチョンチョンとやりあっていただけであったという。
 同様の話は幕末にもある。
 それは恐怖心の故えであるが―
 アイは昔、教わったことがある。

『剣は足で切るという』
『はい』
『意味合いは二つある。足を進めることによって重心を移動させて斬撃の威力を出すということと』
『はい』
『深く踏み込まないと、真剣で殺傷できる間合いに入れないということだ』
『はい』

『相手の股の間に膝をいれるように踏み込めとか、剣の鍔元で切れ、というわよね』
『姐さん……』
『あ、ごめんなさい、師範クン。自分でいうつもりだったんだよねー♪』
『そうだけど、茶化さないでくださいよ』

『あの、―姐さんも兄さんも、今は稽古中……』

『……恐怖を克服するということは、恐怖を感じなくなることじゃないんだ。例えば―ビル火災などで高所から飛び降りていく者がいるが、あれは絶望のあまりに身を投げているのではなく、極限状態で視覚が以上に高まり、距離が近くに感じるからであるという』
『あ、はい』
『死の間際の人間の集中力は、そのようなことを可能とする。脳は恐怖を感じた時、肉体が危機に陥った時、どうにかしようと通常ありえぬ運動を行い―』
『まー、ようするにノルアドレナリンの分泌作用なんだけどね。あと扁桃体の』
『姐さん煩い』

『……………二人とも、道場でいちゃついてないで』

141:名無しさん@ピンキー
08/11/06 00:47:20 D6tvSn7m

『恐怖を克服するということは、恐怖を我が物とすることだよ』
『あるものはなくせないのよ、―ちゃん』
『怒りとか恐怖とか、そういうものはなくせない。感情をコントロールするということは、抑制するということではなくて、制御するということなんだ』

『―――』

『恐怖も怒りも、自分の一部であるということを知ればいい』
『武道とか格闘とかは、そういうものなのよ』
『感情も肉体も何もかも、五体五情の全て、それこそ全身全霊を以ってことにあたるということは、そういうことだ』
『全てをひっくるめて、〝自分〟なのよ』

『恐怖を操り、集中を高めろ』

『必要なのは、それに負けないこと。呑まれないこと』

『降り注ぐ、太刀の下こそ地獄なれ、だ』

『基本でしょ? 合気道とは、入り身の武道―』

(― 一歩前へ!)

 踏み込む。

「――ッ」

 ケイは拳に今までとは違う感触が当たったのに気づき、それでも反射的に左のフックを繰り出した。
 それは初めてアイの顔面を捉えた。
 今日初めてのクリーンヒットであり、しかし今までの彼女のキャリアではなかった感触であった。
(硬い)
 アイの声が聞こえた。
「いたい」
 慌てて拳を引き、次のコンビネーションに移ろうとして―

 ぞわり

 背筋を這い上がる冷たい衝撃を、ケイはその後、一生忘れることはなかった。
 全身の筋肉が脈動したかのように、彼女は撥ねた。
 それはバックステップなんて言い方の似合わない、もっと衝動的で反射的で本能的な動きだった。
 そこからさらにどたどたと足を動かす。もはや、フットワークなどと言えまい。
 逃げるような動作だ。
 いや。
 逃げたのだ。
 アイとケイとの距離は五メートル近く広がった。通常の徒手での戦闘ではありえぬ間合いだ。
 ケイはフットワークを踏むのをやめ、拳を上げて構えをとった。
(何、この感じ……)
 戦いの際に慄くと書いて、戦慄と言う。
 ケイは今までの戦歴で、この夜の戦いで、幾度となくそれを感じたことがあった。
 感じたつもり、だった。
「いたいけど」
 アイは構えを解き、やや前のめりになった姿勢で呟いていた。

「当たったからって、死ぬようなものじゃない」

 ぞわり


142:名無しさん@ピンキー
08/11/06 00:50:14 D6tvSn7m
 今の、この感じに、この寒気に比べたら。
 今までに感じたそういうのは、ちょっと肌寒い秋風程度のものだ。
 この感覚は、例えるのなら、極寒の極地に吹きすさぶ嵐だ。
 人間の生存など本来許さない、清冽で峻烈な大地の果てに立たされたかのような。
 アイは前髪をかきあげて、左右に分ける。
 汗をぬぐうためだったのか、髪が乱れたからなのか。
 その時にケイの目は、アイの赤くなった額を見た。
(まさか)
 額で受けたのか。
 ならば打撃が効かなかったのも、あの感触も解らないでもない。
 それだけならば、それほど驚くべきことではない。
 額の骨は、人体の部位では踵に続いて硬い。
 ボクサーでもインファイターが時に相手の打撃を潰すのに、そこで受けることがある。
 姿勢を低くしたら、当たり前のように自然に当たりもする。
 むしろ、近接ではそのような場合が大半だろう。
 しかし。
 しかし。
 しかし、この子は―
「どう来るのか解っていたんですけどね」
 するり、と歩み寄ってくる。

「見えてない打撃をわざと受けるのは、ちょっと勇気がいりました」
「見えてない―?」

 ケイの表情が訝るものになったのを見たからか、アイの顔に浮かんだのは、今日で初めて見せる笑顔だ。

「見えない攻撃は怖いですけど。怖かったですけど。だけど、」

 なんてことはなかったですね―。
 両手を下げた姿勢で、アイは進んで来る。
「……ッ」

143:名無しさん@ピンキー
08/11/06 00:51:56 D6tvSn7m
 ケイは震える足に力を籠め、それから両手をキツく握り締めてから、緩めた。
 無防備に見えるアイが、とてつもなく危険であると彼女は悟っている。
 それは直感としか言いようがなく。
 ただ、疑問がひとつだけわいていた。
(見えてなくて、どうやって捌いてた?) 
 殺気を読むとかだろうか。
 漫画でよくあるような。
 馬鹿な。
 いや、しかし。
(そうだ。この子のハンドスピードは私より遅い―)
 遅くありながらも、間に合っている、ということに彼女は気づくべきであった。
 もっというのならば、仮に同じ速度であったとして、先に打たれた拳を、後から出した手で防ぐなどということはできるものではない。技術がどうこうではなくて、物理的に間に合わないのだ。
 ならば。
 腕は、相手より先か、少なくとも同時に動いてなければ、捌けないはずではないか。
(この子は、私の動きを読み取れている……)
 ボクサーでもないのに。
 いや、一流のボクサーでもなかなかできないことを、この自分とそんなに変わらない、下手したら中学生程度の少女が可能にしているのだ。
 とある番組で、ある世界チャンピオンクラスのボクサーの動体視力を測定したことがあった。
 その結果は意外なことに、一般人とさほど変わらないレベルであったという。
 それなのに彼はボクサーの拳を受け、回避、カウンターを合わせられるのである。
 しかし、分析するとそれがどうして可能なのかが解った。彼は目で拳だけを見て避けているのではなくて、相手の重心の移動の床をこする音を感じ取り、それに合わせて動いているのだ。
 攻撃の際には重心を移動させるというのはあらゆる格闘技、武術で共通している要素である。
 人間にとっての最大のエネルギーは自分の肉体という質量であり、それを効果的に使うには重心移動をしなければならない。
 道理である。
 ならば、重心の動きを見れば、相手の打つタイミングが解るはずだった。
 そのボクサーは、プラスしてリズムを把握している。
 動きには一定のリズムがあり、一ラウンド目は相手のそれを掴むのに費やし、二ラウンド目からはそれに合わせて攻撃をする。
 実際はほとんどのボクサーは同様のことをしているはずである。人間の反射神経や動体視力では及ばないレベルでの打撃の攻防をしていれば、必然、そのような技術に至る。
 しかし、それらは未だ多くが感覚的な領域であった。
 一流のトレーナーを擁する一流のジムであるのならばともかくとして、そのような感覚的な技術を鍛えるメソッドは、場末のジムではもっていないというのが現状である。
 だが、そのような一流のボクサーにしても、どのような攻撃がどういうところを狙っているのかなどまでは……。
 アイの足がようやく止まった。
 三メートル。
 あそこは。
(あと一歩か)
 だらり、と彼女も両手を下げた。
 あそこは。
 この距離は。

(あと一歩で、お互いを攻められる距離だ)

 アイがどのような攻撃手段を持っているのかなどは解らない。
 解らないが、ケイにはそれが確かな事実なのだと思える。
 そして向こうも、自分の最長射程が把握できているのだ。
 どうやって把握したのかは解らないが、それも確かだろう。
(よくわからないけど、動きを読まれている以上は―)
 読まれない動きをするか、そうでもなければ、読まれても捌けない速さを出すしかない。
 ならば。 
 そうするならば。
 とんとん、と二度ほど跳ね、また落ち着く。
(最速で、一番リーチの遠い打撃を―)
 打つ。


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