08/10/17 16:20:51 OBmylwYG
夜はすっかり更けていた。覚醒し始めのぼんやりとした頭でもそれははっきりとわかった。たくさんの星が
またたいているのを見つけて、ようやく目が覚めたと確信することができた。ふらついた足取りで荷馬車から
危なっかしく降り立ったC.C.は、焚き火の匂いのするルルーシュの元へと静かに歩み寄った。その身体には毛布を纏っている。
「起きたのか」
「ああ」
野宿をするとき、C.C.だけはいつも荷馬車で睡眠をとっている。藁に紛れて寝るのだ。今日は情事に疲れ明るいうちからその身を
横たえていたため、現段階で胃に何も入っておらず空腹に目を覚ましたのだった。ルルーシュの隣に腰掛ける。ちょうどいい丸太を見つけたものだな、とC.C.は思った。
いつ捕ったのか知れないが、ルルーシュが細切れの枝に突き刺したまま置いていたらしい魚を数匹火にかけた。
焼けるのを待つ間、差し出されたオレンジを、喉の渇きもあってすぐに平らげた。
「その、悪かったな」と、珍しく抑揚のはっきりした声でルルーシュが呟く。
「何がだ」
「正直、やりすぎた」
「……普段抑えてるから、たまに爆発するとこうなるんだ」
はだけた毛布の下であかあかと残る情事の名残に視線を這わせる。下着の中も、見るには及ばずきっと同じようになっていることが容易に推測できた。
「悪かった」
「今日は珍しく興奮していたな? このロケーションが気にいったのか?」
いつもの調子で皮肉たっぷりに言う。変態という単語まで用意していたが、ルルーシュが今日に限って突っかかってこなさそうな雰囲気だったために飲み込んだ。
「そうじゃない。…その……だな、感謝、しているんだ。C.C.、お前には、救われている」
揺らめく炎を見据えながら、ぎこちなく言う。
「……感謝? ずいぶん殊勝なことを言うじゃないか」
それも脈絡もなしに。しかしC.C.は浮き立つ気分を感じていた。心晴れやかになり、燃えるようだった性行為の疲れは発した言葉から感じられないほどだった。寸前までのけだるげな声色とはまったくの別人だ。
「ああ、もう言わないかもしれないな……」
永い旅を考えればまさか、と思うがルルーシュの性格を考えるとありうることかもしれない。
「ならば、何もかも言っておけ。今のうちにな」
一度ルルーシュと目が合った。
「乗せられている気もするが……まぁそうだな……悪くない、か」
「私の心にだけ留めといてやろう」
そこでぱちぱちと火花の爆ぜる音だけに耳を傾けた。この少しの間が、次にルルーシュが語る言葉の重さを物語っているように思えた。
「ずっと、共にあってほしいと思ったんだな。救われているからこそ」
まるで他人を分析しているかのように言うのをC.C.は黙って聞く。
「離れがたくさせたかったのかもな。今日の、暴走……といっていいあれは」
「幼稚だな」
ルルーシュは何も言わず、口元を掌で隠している。そのポーズがひどく白々しく感じ、C.C.は顔を綻ばせる。
「ずっと共にあってほしい、とはお前の願いか? ルルーシュ」
無言だったが肯定ととる。迷いなく。迷う必要さえない、そんな気配を感じたのだ。C.C.は続ける。
「安心しろ。ギアスがなくとも、たとえギアスがあったとして私には効果などなくとも、その願いだけはきいてやれるよ」
そしてC.C.の愛されたいという願いはルルーシュが叶えてくれている。
というより一言愛していると言ってくれればそれでよかった気もする。けれどその一言よりも嬉しかった気もする。どちらがよかったのかは分からないが、
この結果に満足している。ルルーシュが自分を必要としてくれるなら、どこかに消えてしまうということはきっとない。先立つ不安より今を噛み締めればいい
という答えに、最高の結果がついてきた。
C.C.は毛布に顔をうずめ、目を閉じ、ルルーシュの言葉をひとり反芻した―。
終わり
「それにな、ルルーシュ」
「私のここは、もうお前のものを覚えてしまっているんだ。離れられるはずがない」
「……下ネタは、嫌いだ」
「なに? 人がせっかく励ましてやったというのにっ」
「そんな下品な励ましかたがあるか!」
「さんざん蹂躙していただろうが! 何がいまさら下ネタは嫌い、だ!」
「だ、黙れっ。いいからもう上で寝とけ!」
「はん、なんだそれは? お前の上に乗れということか?」
「ばっ、ち、違うっ! 都合よく意味を履き違えるな!」
「もう遅い」
「んんっ―!?」
第二ラウンド、開始。