夏目友人帳でエロパロat EROPARO
夏目友人帳でエロパロ - 暇つぶし2ch691:名無しさん@ピンキー
09/12/23 20:45:06 PdyjbcWM
>>689 GJ!
友人帳のふいんきを壊さずに話を進めてあって良かったお

この作品の言いたいポイントはここか?
>「男の子と同じ部屋なんて初めてだから緊張するけれど、夏目君なら平気よ」
タキ可愛いよタキぃぃ!

んだから ここの会話なり、仕草をもっと厚くして欲しかったっス

692:名無しさん@ピンキー
09/12/23 20:46:35 PdyjbcWM
>でも、sageような
スマン ><;

693:名無しさん@ピンキー
09/12/23 23:12:15 kf9YihGI
>>690
レスありがとうございます、嬉しいです
sage忘れてました、スミマセン

>>691
その部分の描写、余計な気がして(その禄の告白シーンの印象が強くなるかと思って)推敲段階で削ってました。
お気に召さないかもしれませんが、推敲前投下してみますね

694:名無しさん@ピンキー
09/12/23 23:14:04 kf9YihGI
―その弐―(推敲前・タキ描写多いです)
最後、タキがちょっと「あかく~」の国府化してます


「ようこそいらっしゃいました。時期外れでして賑わってはございませんが、お部屋と食事、温泉はゆったりとお楽しみいただけるようになっております。どうぞごゆっくり」
仲居さんに案内された部屋は広く、やはり窓から海が見渡せるようになっていた。部屋の中は暖かい。

先生はさっそく座卓の上の茶菓子に手を伸ばし、タキにお茶を入れてもらっている。
「夏目君!大変!」
タキが突然声をあげた。
「どうした!?」
「テレビがあるわ!100円入れないと動かないタイプよ!見なくちゃ!」
「…そ、そうか…」
宿に到着してから、タキの様子が何となく変だ。そわそわと先生に話しかけているかと思えば、ふと俯いて黙る。
「(ずっと、人と話さない様にしていたんだよな…旅行でも寂しかったのかもしれないな)」
夏目もはしゃぎたくなる気持ちはよく理解出来る。

テレビをつけようとしているタキを見ながら、洗面所の鏡で首筋を確認したが何ともなかった。
「…気のせいか。ところでタキ。聞きたいんだけれど」
「何かしら?」
「どうして君の荷物もここにあるんだ?」
タキが答えるまで少し間があった。見ると僅かに頬が赤い。
「…だって同じ部屋だもの」
「…まさか一部屋しか予約しなかった、とか…」
「私達まだ高校生よ?バイトもしていないのに一人一部屋なんて贅沢出来ないわ」
夏目の顔がさーっと青くなる。「宿の人に言ってもう一部屋用意してもらってくる!」
「夏目君ダメよ!私余分のお金なんて用意してないもの!」
それは夏目も同じだ、同じだが。
「…タキは同じ部屋で構わないのか?…その…」
「ふん、お前の様なモヤシを警戒する女などいるものか」
「モヤシとは何だ!モヤシとは!ニャンコ先生の分の刺身はないからな!」
「何だとっ!モヤシのくせに私の美味いものを奪う気かっ!」
タキがクスクス笑いだし、「…はっ!」我にかえった夏目はパンチを繰り出してくる先生のでかい頭を押さえつつ、もう一度聞いた。
「その…タキは本当におれと同じ部屋でいいのか?男と一緒じゃ気をつかうだろう?」
どことなく硬かった表情がほぐれ、ふわりとした笑顔になる。
「猫ちゃんも一緒だし、その方が楽しいと思うわ」
また僅かに頬を染め、微かな上目遣いで続ける。
午後の陽射しにタキの柔らかな輪郭が淡く溶け、その儚い美しさから夏目は目がそらせない。

「男の子と同じ部屋なんて初めてだから緊張するけれど、夏目君なら平気よ」
また微笑んで、でもはにかむように言う。

タキがいいと言うのに、これ以上反論する言葉も宿代も持ち合わせてはいない夏目だった。
「なら…悪いけど一緒の部屋に泊まらせてもらうよ。ニャンコ先生いびきかくなよ」ささやかな仕返しをする。

露天風呂を堪能(先生と一緒に入りたいと言うタキをなんとか説得)した後は、海の幸たっぷりの夕食(夏目と先生で刺身他の取り合いバトルが勃発するもタキが刺身を分けてくれ和解、酒を寄こせと騒ぐニャンコ先生をなだめ)、グッタリした二人は早めに寝ることにした。

『(…布団がくっついている!)』夏目もタキも何となく赤面してしまう。
「せ、先生の寝相が悪いから間空けるよ」
「え、ええ…」
「何だとっ!高貴な私のねぞっ」先生の口をふさぎ夏目は布団を入り口近くまで寄せる。気恥ずかしさでうつむいたままの二人は「…おやすみなさい」「…おやすみ」言葉少なに布団に入った。
『(…眠れるだろうか…)』夏目もタキも、心臓が耳元にあるかのように感じていた。

「(…今すぐそこに夏目君が…私…ああだめよ、余計眠れなくなるじゃない!考えちゃだめ。それに猫ちゃんだっているし…)」
「(ああ!つるふか猫ちゃんを抱いて眠りたいっ!)」
「(夏目君…もう眠ったかしら…はっ!寝返りをうてば夏目君の寝顔がすぐそこに?!)」
夏目はいつの間にか寝入った様で、微かな寝息が聞こえる。
「(…私ひとりで緊張し過ぎよ、眠らなくちゃ)」
タキもそっと眼を閉じた。

695:691
09/12/24 00:52:50 zgjyyu0U
>>694 GJ!
やはり女の子の描写が増えるというのはイイッす
確かに作者さんの思うとうり、文章を削ったり入れたりする判断は難しいですお

さて、仲良くなったことだしセカンドインパクトも期待してるっスよ

696:名無しさん@ピンキー
09/12/24 14:15:14 xVQU5fvj
夏タキ投下した者です

続きというかおまけというかも投下しておきます
エロなしです、ごめんなさい。1レスです


エロは時間かかるんで、書けたらまた来ます
失礼しました~

697:名無しさん@ピンキー
09/12/24 14:22:17 xVQU5fvj
―その八―(おまけ)


淡く射し込む朝日で、夏目は目が覚めた。隣にはタキがまだ眠っている。
「(…あったかい)」
人の温もりとはこういうものなのか―静かに微笑み、タキの柔らかな髪をそっと撫でた。

「やっと起きたか。ふん、なんだその弛んだ顔は」
「まあまあ斑様、夏目様もお疲れでございましょう」
妖二人が枕元にいた。
「…いっ、何時からそこにっ!」
慌てて起き上がると、布団がずれたせいかタキも目覚める。
「…夏目君?…おはよう…っきゃあ!」
座るニャンコ先生と明石を見つけ、タキの顔が見る間に朱に染まる。
思わずタキを後ろに庇い、夏目は言った。
「…人の寝顔を黙って眺めてるなんて、ニャンコのくせに悪趣味だぞ」
精一杯の照れ隠しだ。
「なっ…!高貴な私にむかって悪趣味とはなんだ悪趣味とは!それにニャンコではないといつも言っておるだろうが!」
怒る先生と明石を追い出し、夏目とタキは身支度を整える。何となく気恥ずかしくて、まだお互い目が合わせられない。
タキを気遣って、夏目は障子の向こうに移動した。
「…ふぅ。」
微かにため息をつく。どんな顔をして話したらいいのか全然わからない。
何気なく外を眺めて、着替えの手が止まった。


「(…やっぱり夏目君て優しい)」
移動した夏目を目で追って、タキは思う。
昨夜の事が蘇り、タキは着替えつつも自分の体に目がいってしまう。
「(ここを夏目君の唇が…)」
「(手があんなに優しく…)」
「(あ…ここは…は、恥ずかしいっ)」
真っ赤になりながら着替えを終えると、障子の向こうで待っていてくれた夏目が声をかけてくる。
「タキ、こっちに」
熱い頬をぺちぺちと叩きながら近づくと、
「…海が、綺麗なんだ。すごく」
タキは息をのむ。澄んだ冬の大気を透して陽の光は海に降り注ぎ、小さな波の表面が揺れて輝く。きらきら、きらきらと。
「…きれいね、とても。とても」
この景色を自分に見せようと呼んでくれたことがただ嬉しかった。
「…タキ、ありがとう」
夏目が呟き、ふと指先が触れ合う。
夏目の顔が少し赤く見えるのは朝日のせいだけではないだろう。
自然に笑みがこぼれてくる。なんだか、すごくすごく嬉しい。
「どういたしまして」
顔を見合わせ、クスクスと笑いあう。


698:名無しさん@ピンキー
09/12/24 14:26:37 xVQU5fvj
と思いきや2レスでした…ごめんなさい

―その九(おまけ続き)―


「夏目、飯が来たぞ!私の分もちゃんとあるんだろうな!」

騒がしく入って来た先生をなだめ、朝食をとる。
夏目から一夜干し、タキから卵焼きをせしめた(口止め料?)先生は、満足げに日向ぼっこなどして、タキに撫でられている。

隅に座していた明石がすう、と夏目の傍に寄ると、
「夏目様、この度は本当にありがとうございました。無事、呪も新しい力を得る事ができました」
深々と頭を下げた。
「つきましては、私めの名前、友人帳に差し上げたいと存じます」
「いや、いらないよ。お前を従えるつもりは無いし、どちらかと言えば名前を全て返してしまいたいくらいだし」
夏目はさらりと答える。妖を物の様に使いたくはない。祖母もそんなつもりで友人帳を作ったのではないのだから。
「…何か御礼をしたかったのですが」
「…ならこれからは、お前の呪で誰かが幸せになるような使い方をしてくれないか」
望まぬことで涙する人がいないように。
「…かしこまりました。夏目様は本当にお優しい。では私めはそろそろ失礼いたします。帰路、お気をつけてくださいませ」
艶々と笑った明石は、微かな琴の音とともに消えた。
「お土産でも買って、帰ろうか」
荷物をまとめ、宿の人達に見送られながらまた海沿いの道を駅へと辿る。
風は少しあるが、きらきらと輝く海を背に。

僅かに後ろを歩くタキは、両手いっぱいに紙袋やら何やら下げている。
「(お土産、色々選んでたしな)」その姿が可愛らしくて思い出し笑いをしてしまう。
「(こういう時はきっと男が荷物を持つんだろうな…言ってみようか)」
意を決して声をかける。
「…タキ、少し持とうか」
その声で海を見ていたタキは夏目を見、花が咲く様に笑った。
「ありがとう。でも大丈夫。夏目君もお土産、たくさんあるもの」
夏目の両手もタキと同じ状態だ。
「(…本当は夏目君と手を繋いでみたかったんだけれど)」
きっと夏目は照れながらも手を出してくれるだろう。
でもそれをからかう相手がいる時に言うことで、優しい夏目を困らせるのは嫌で、言えなかった。
だから代わりにタキは言った。
「…また、またいつか来られるといいなあ」
もちろん、一緒に。
夏目は少し驚いた顔をした後、タキを見て笑った。
「そうだね、また一緒に」タキも驚いた顔になり、そして二人で笑った。
先生は欠伸をしている。


今度は暖かい春の日に来よう。
お土産は一つだけにして、手を繋いで君と歩こう。
並んで。

どこまでも。


699:名無しさん@ピンキー
09/12/24 21:08:32 x5wnV+C7
gj!
タキかわいいよタキ

700:名無しさん@ピンキー
09/12/25 12:38:22 VWastiAS
>>696-698 GJ!
タキは人気ものだから書くのは難しいだろうけど、次作をまったりと待ってますね

701:名無しさん@ピンキー
09/12/25 15:16:18 7I7uu4Dc
>>699
ありがとうございます!

>>700
ありがとうございます!クリスマスなんで頑張って書きました。

5レスあります。
最後ちょいエロで止めてますが、続きエロで書いた方が需要あるでしょうか?

とりあえず暇がなくなってしまったので途中ですが投下していきます
年明けには続き持ってきます!ごめんなさい

702:名無しさん@ピンキー
09/12/25 15:17:24 7I7uu4Dc
夏タキ クリスマスバージョンです

―その壱―

「…なんて言ったらいいんだ?」
夏目は通学途中、いや昨夜から困惑し続けていた。

昨日は久しぶりに早く帰った滋さんと塔子さん、夏目とニャンコ先生の4人で食卓を囲んだ。
「明日はクリスマスねえ」
少女のようにウキウキとした塔子が言う。
「ああ、そうだな。ケーキは買ってこようか?それとも作るのか?」
「(クリスマスを誰かと祝えるなんて、初めてだなあ…)」
夏目も塔子のウキウキが移ったような気分になる。
「私ね、とても良い考えがあるの。ふふ、滋さんも貴志君も驚くと思うわ」
「うん?」
「はい」
一息ついて塔子が発した言葉に、夏目は凍り付いた。
「うふふ、貴志君のね、彼女さんも呼ぶの!私張り切ってごちそう作るから♪もちろんケーキも手作りよ!」
「…ほう。貴志、彼女がいるとは初耳だぞ」
滋の目がキラーンと光る。「いや、あの、何かの勘違いじゃないですかっ?」
焦る夏目に塔子が追い打ちをかける。
「貴志君、この間お友達と一泊旅行にいったでしょ?北本君と西村君とだって言っていたけど、駅でさよならしてたの、女の子だったの!」
「お買い物の時にちょっと駅の近くのお店に行ったら偶然!おしとやかそうでとっても可愛らしいお嬢さんだったわ♪」
「(見られていたのかっ…しかも塔子さんにっ!)」
夏目は食卓に突っ伏したい気持ちになった。
「貴志、彼女なのか?相手のご両親はちゃんと知っているのか?名前は何ていうんだ?」
見られていてはさすがに誤魔化しようがない。
「…多軌 透さんっていいます。彼女というか、何というか…」
「きちんと付き合うつもりがあるのなら、多軌さんのご両親に了解をとってご招待しなさい」
叱られるのを覚悟していたが、続く滋の言葉が夏目は素直に嬉しかった。
「隠したい気持ちもわかるが、ちゃんと紹介してほしいんだ、貴志」
「ここは君の家で私達は家族で、君が好きになった相手には、私達も会いたいよ」
「そうよ、貴志君。遠慮なく連れて来て頂戴」
優しい人達。あたたかな笑顔。
「…はい。明日、聞いてみます」

そう言ったはいいが、
「…なんて言おう…ニャンコ先生!なんて言えばいいんだ!?」
「知るかアホウが」
混乱する夏目をジロリと一瞥し、先生は眠ってしまう。
「タキのクラスに行って呼び出す…とか?…おれには無理だ…」
「うう…とりあえず寝る…」
明け方まで悩んだ挙げ句、何一つ思いつかなかった自分が、夏目は情けない。
「…学校に行って、後はどうにかするしかないか…」
グッタリと疲れている夏目とは正反対に、旗でも降りそうな勢いの塔子さんに送り出され、学校へ向かう。「今日は終業式だったな…」
ふう、と吐く息が白い。
「(藤原さんの所に来たのも冬だったな…)」
タキはどんな顔をするだろう。もう家族や他の誰かとの予定があるかもしれない。
でも、もし来てくれたなら滋も塔子も心から喜んでくれるだろう。
優しいあの人達に少し恩返しが出来るような気がした。
「(…よし!)」
気合いを入れた瞬間、
「…夏目君、おはよう」
「うわっ!」



703:名無しさん@ピンキー
09/12/25 15:18:17 7I7uu4Dc
―その弐―

タキがいた。夏目の心臓がバクバク鳴っている。
「(び…びっくりした…)」
「どうしたの?そんなに驚いて。通学路で会うなんて珍しいわね」
「あ、ああ…ちょっと考え事をしていて」
タキの手が頬に触れる。ふわり、と良い香りがして夏目はふと酔ったような気分になった。
「隈が出来てるわ。何かあったの?」
心配そうな不安気な顔。
「…タキは、今日、終業式の後に何か予定があるかい?」すらすらと出てくる言葉に夏目は驚いていた。

「特に何もないけれど」
「(やっぱり何かあったのかしら…寝不足みたいだし。妖関係?)」
タキは、まさか夏目の自宅に招待されるなどと思ってもいない為、答えた後に考え込んでいた。
「…良かったら今夜家で一緒に食事しないか?藤原さん達に紹介したいんだ」
夏目の言葉に耳を疑う。
「…ええーーーっ!」
「この間の旅行、改札前で別れる所を塔子さんに目撃されてた様なんだ。彼女なら連れて来いって」
タキは自分が耳まで赤くなるのがわかった。心臓が跳ね上がる。
「(か、彼女?!夏目君そう言った!?…どうしよう、駄目、恥ずかしくて声がでなくなりそうっ)」
「…タキが嫌なら無理にではないから」
夏目の声がほんの少し寂しそうになり、タキは彼を抱きしめた衝動にかられる。
「(私、嬉しいんだ。夏目君が好きでたまらないんだ)」
「ありがとう、とても光栄よ。ぜひご一緒させて頂戴」
一番の笑顔で言えたと思う、顔が赤いのはきっと気づかれたけれど。

一度帰宅してから待ち合わせることになった。
「おーい夏目ー全部終わったぞー」
西村、北本に起こされて一緒に学校を出る。
「お前、今日もずっと寝てたなあ。記録更新だぞ」
「何か悩んでるなら言えよ?お前水臭いんだからな」
夏目は微笑む。
「…ああ、ちゃんと言うよ。今日は単に寝不足なんだ」
「ならいいけどさ。よし、冬休みは遊ぶぞーっ!カラオケも行くし忘年会も新年会もあるからなっ」
「ちゃんと来るんだぞ夏目」
「わかったわかった」
苦笑しつつも、夏目は嬉しい。
「(妖が見える事も、タキの事も…いつか、全部話すから)」
優しい友人達に心の中で言って、手を振り別れる。それぞれの帰る場所に。

家では塔子が目を輝かせて待っていた。
「どう?どうだった?貴志君」
「えーと…夕方待ち合わせて連れて来ます。『喜んで』と伝えてください、と」
「良かった♪これから腕によりをかけてごちそう作らなくちゃっ♪貴志君も楽しみにしててね」
「猫ちゃんのごちそうもあるのよ、ふふ」
とてとてと寄ってきたニャンコ先生を抱き上げて、夏目は部屋に入る。
「もしかして塔子さん、朝からずっとあんな感じだったのか?」
「お前の『彼女』が来ると言ってな、鼻歌なぞ歌いながらだ。まあ私は美味いものが喰えれば構わんが。」「…それにしてもタキが『彼女』とは、事実を知ったら滋も塔子もさぞ驚くだろうな」
「…下品だぞ、先生」
ニヤニヤ笑う先生に夏目は仕返しをする。
「下品とはなんだ!私を誰だと思って…」
怒りまくる先生を放っておき、夏目は着替えを済ませて家を出た。待ち合わせはすぐ近くの公園にしてある。
夕暮れが近い街はオレンジ色に染まり、どことなく慌ただしい。いつもは見かける子ども達も、ごちそう目当てに既に帰宅したのだろうか。
「…クリスマスか…楽しみだな」



704:名無しさん@ピンキー
09/12/25 15:19:06 7I7uu4Dc
―その参―

「な、何着て行こう…」
タキは帰ってからずっと悩んでいる。
買い物など一年以上殆どしていなかったため、最近やっと友達と一緒に買った数少ない「よそゆき」を部屋中に広げているのだ。
「…ああ…どうしよう…」
母には夏目の家に招待された事を伝えたが、その時すでに「男の子ね?顔が赤いわよ」と見抜かれてしまった為、タキはいっそう緊張していた。

「…彼女ですって」
ふふ、と笑う。緊張しつつもこぼれてくる笑みは抑えられない。
きっかけは少し不本意だったけれど想いを伝え、結果他人に心を開かない夏目に少し近づく事が出来た。
もっと近づけるだろうか。「普通」の恋人同士にはならなくていい。ただ、傍にいて同じものを見ていたい、前の時の様に。

「…はっ!こんな時間に!」
時計は待ち合わせ時間近くを差していた。
「ぼんやりし過ぎよ、透!急がなくちゃ、ああ髪もこんなにぼさぼさっ」
慌てて身支度をする。結局買ったばかりの落ち着いたワイン色のワンピースを選んだ。
胸の下で切り替えられたAラインに少し左寄りに共布のリボンがついている。
襟元から白い釦がついているのが気に入って買ったものだ。
髪にはさっと櫛を通し、コートを羽織って飛び出すように家を出る。履き慣れない靴で走るのは大変だが、夏目を待たせたくない。
待ち合わせ場所近くでスピードを落とし、息を整えながら歩く。遅れずに済みそうだ。
「(へ、変じゃないかしら…)」
また乱れた髪を手で直し深呼吸を一つ。
「(普通に普通に…)」

夏目は公園の入り口に立っていた。夕焼けの空を見上げている。
夕暮れ時の穏やかな色に染まって微かに笑っているその姿は、声をかけるのを躊躇う程綺麗だった。

「…タキ」
はっとする。夏目に見惚れていたのを気づかれただろうか。
「…ごめんなさい、待たせたかしら。…何を見ていたの?」
「さっき着いたばかりだよ。夕暮れの色がきれいだったんだ」
「…それに、大切な人達と一緒に過ごせるのがとても幸せに思えて」
夏目はふっ、と息を吐いてタキを見つめる。
「今日は来てくれてありがとう、タキ」
「…いいえ。私もとても嬉しいわ、楽しみね」
夏目が「大切」と表現する中に自分も含まれていることに気づいて、タキはどくん、と鼓動が早まった。

「行こうか」
「ええ」

どんな夜になるんだろう。恋人同士に見える自分達の姿に、二人は気づいていない。


705:名無しさん@ピンキー
09/12/25 15:20:01 7I7uu4Dc
―その四―

ぽつぽつと話をしながら歩き、藤原家に着いた二人は同じ事を考えていた。
『(…また緊張してきた!)』
「(どんな話をすればいいんだろうか…)」
「(失礼のないようにしないと…)」
深呼吸をしていると、玄関が内側から開かれる。優しく微笑む滋と塔子が立っている。
「ようこそ」
「さあさあ、どうぞあがってくださいな。まあ、やっぱり可愛らしいお嬢さん」
「は、はじめましてっ!多軌と言います。お邪魔します」
紹介くらい自分がしようと思っていたのに、先を越されてしまった夏目は苦笑する。
「(やっぱりタキはしっかりしているな…)」

食卓についた二人は目を見張った。
「うわあ!」
「塔子さん…すごいですね」
所狭しと並べられた料理の数々、数々。オードブルにチキンにサラダにスープにパエリアに(太巻きや海老フライなんかもある)―ケーキは苺とチョコの二種類あった。
「もう嬉しくて嬉しくて、つい作り過ぎちゃったの。ケーキはさすがに一つで良かったのよねえ、ふふ」
「…美味しそう。私、嬉しいです、こんなに歓迎していただいて」
タキはにっこりと笑った。夏目を大切に思っている気持ちがタキを迎える様子で伝わってきた。
「(本当に喜んでくれてるんだ、私が来たこと)」
子どものようにはしゃぐ塔子を滋が優しく見ている。ここはとてもあたたかい場所なんだ。

全員席について滋がシャンパンをあけ、食事が始まる。ニャンコ先生の席も夏目の隣にちゃんと用意されていて、タキは思わずくすりとする。
「ごめんなさいね、大人だけ飲んじゃって」
ふふ、と頬を染めた塔子が笑う。
「多軌さんは貴志君とどうやって知り合ったのかしら?聞いてもいい?」
柔らかな物腰ながら聞きどころは押さえてくる。
「それは私も聞きたいな、貴志。女の子に言わせるもんじゃないぞ」
滋から追求され、夏目は「うっ」と詰まりうっすら汗をかいている。
「(そうだ、藤原さん達は何も知らないんだったわ)」
タキが答える。
「私がずっと探していたものがあって、偶然会った夏目君の協力で見つける事が出来たんです。必ず見つけなければいけないモノだったから助かって。それから」
夏目とそっと視線を交わす。ほっとした表情だった。
「あらあらそうなの!貴志君ったら白馬の王子様みたいね」
「颯爽と現われたのか、貴志」
「…滋さん、塔子さん、勘弁してください…」
赤くなる夏目が珍しいのか、お酒が入っているからか夏目をからかうような藤原夫妻と照れる夏目の姿がなんとも微笑ましい。



706:名無しさん@ピンキー
09/12/25 15:28:45 7I7uu4Dc
―その伍―


「今日は本当にありがとうございました。とても楽しかったし、美味しかったです」
タキが挨拶すると、滋と塔子はまたあたたかい笑顔になる。
「また、いらしてね」
「貴志をよろしく」
手を振る二人にお辞儀をし、送ってくれる夏目と並んで夜道を歩き始める。

「…とてもあたたかくて、優しい人達ね。良かった、夏目君が幸せそうで」
「ああ、…幸せなんだ、すごく」
タキはふと、自分の瞳から涙が零れたのに気づく。
「…タキ?どうした?」
「…私、嬉しかったの。夏目君が幸せで。大好きな人が幸せな姿を見ることが出来て」
ああ、とタキは思う。
「貴方が怖い思いや悲しい思いをする事がなくなれば良いと思う。でもそれは難しい事だとも思う」
「だから、夏目君が帰る場所があのあたたかくて優しい人達の所で良かった」
心からそう思う。
「…タキ」
ふいに抱きしめられた。
「ありがとう、タキ。本当に、本当にそれだけで十分だよ」
そっと唇が重ねられる。
「…好きだよ」
お互いの鼓動が早まる。息が弾む。
タキは自分から夏目の首に腕を回しくちづける。舌を絡め何度もキスを交わすと、夏目が言った。
「…タキ。おれ、止められなくなるよ」
胸元の白い釦が手早く外され、夏目の手が滑り込んでくる。
「んっ!」
「冷たい?それとも…もう感じてくれてるの?」
蕾にくるくると触れられ、声をあげそうになるのをタキは必死でこらえる。
夏目の胸を押し返しながら、タキは呟く。
「駄目よ」
「…止められないって言ったよ、透」
手首を押さえられ、耳元で囁く声は甘い。
「夏目く…」
「貴志」
言葉は唇で遮られる。遠くの街灯の光が夏目の瞳で煌めいた。
胸は露になり、夏目の舌は舐め、時に甘噛みをし、いじめるように愛撫する。
「んっ…!」唇を噛んでタキは喘ぎをこらえるが、ぞくぞくとした快感が体を巡った。
夏目の右手が内股をなで、下着の隙間からするりと中に忍び込む。指先で弄ぶようにされると、タキの体がびくりと震える。
「…はっ…だめっ」
「…どこが?」

707:支援
09/12/25 18:00:50 VWastiAS
>>702 ここで止めとは殺生な、需要は有るお。 エロシーンが短くてもイっからオチを早めに付けて欲しいお

708:名無しさん@ピンキー
09/12/25 18:46:05 7I7uu4Dc
>>707
すみません!頑張りました!

明日から休みなしになりましたが(笑)
2レス投下します~

709:名無しさん@ピンキー
09/12/25 18:47:04 7I7uu4Dc
―その禄―

夏目は、愛撫する右手はそのままに、タキの首筋に舌を這わせた。舌と指先の動きに反応してタキが身を震わせる。
タキの肌は上気して、とろりと溢れるものと溶け合う程に熱かった。
「…はあっ」
必死で声をあげるのを我慢するタキの切なげな表情に、夏目の体は火照る。
「…透」
そっと囁く。


タキは快感の波に必死で耐えていた。
「(こんな場所でっ…声…だしちゃだめ…っ)」
少しでも口を開けば声をあげてしまう。
「(…夏目君…どうして急にっ…)」
夏目が触れた部分が灼けるように熱い。体の芯まで火照って震えて、寒さもわからない。
うっすらと開いた目に夏目の顔が見える。タキは絞りだすように言った。
「な…つめくん…哀しいの…?」

「え…」
夏目の手が止まる。
「…涙」
タキは手を伸ばして長い睫毛が影を落とす瞳を拭った。

「…おれ」
夏目ははっとする。目の前で自分を見つめるタキの大きな深い瞳にも涙が浮かんでいた。
嫌がるタキを無理に押さえつけてしまった。
辛い思いをさせてしまった。
そのくせ泣いてなんかいた。
「…ごめっ…」
顔を覆う。
「(…タキを独り占めしたくなったのか?)何してるんだ、おれっ」

狼狽える夏目を、タキはそっと抱きしめる。
「…教えて?」
うなだれた頭をタキの肩に乗せたまま、夏目はぽつりと言った。
「…タキを、独り占めしたくなったんだ。今があまりにも幸せだったから、手を離したくなかった。…ごめん、こんなのただの言い訳だ」
「(…夏目君)」
タキは夏目がいとおしくてたまらない。
「…夏目君。私達は離れないわ、何があっても。私も藤原さん達も。急がないで。大丈夫だから」
「…タキ」
今度はタキが囁く。
「…続き、してくれる?」夏目が顔を上げ、涙でしっとりと濡れた瞳がタキを見つめる。うっとりする程に美しい。

タキは恥ずかしがりながら、スカートを持ち上げる。夏目が触れる部分は、まだ濡れたままだ。ついっとなぞられ、小刻みに突くようにされてぬるぬると滑る。
「…あっ」
「透、いい?」
返事を待たずに夏目はタキの中へと突き入れる。
「…はあっ(…気持ち、いいっ…だめっ…声っ…)ああんっ」
最初はゆっくりと、徐々に夏目の動きが激しくなり、タキもこらえきれずに声を洩らす。
「はっ…あんっ」
「あっ…くっ…」
二人とももう限界だった。「…たか…しくんっ」
「透っ」
同時に果てた二人はそのまま頬を寄せ、抱き合う。汗で顔に張り付いた髪をかきわけてキスをした。


710:名無しさん@ピンキー
09/12/25 18:47:48 7I7uu4Dc
―その七―

何とか服装を整えた二人はタキの家へ向かう。
「…ごめん」
「遅くなったこと?それとも襲ったことかしら?」
夏目の横顔に涙はないことを確かめて、タキはからかうように言ってみる。
「…両方、かな」
「…泣いたりしないでね。辛かったら話して。私達ならきっと負けないわ」
夏目が立ち止まる。
「…タキ」
「…一緒なら大丈夫よ、きっと」
夜目にも輝くように、夏目の周りの闇などに負けないように、タキは精一杯笑う。太陽のように。花のように。月のように。
「…ああ、そうだね」
夏目の手が、タキの手を優しく握る。

「…タキのご両親に何て言ったらいいかな」
「襲われて襲い返したら遅くなりましたって言おうかしら」
「…頼むからそれは止めてくれ」
声をあげて笑った。


こうして歩いて行こう。

昼も夜も。

光の中も暗闇も。

君と。

711:名無しさん@ピンキー
09/12/25 19:04:36 VWastiAS
>>708 GJ! 待ってたカイが有ったお

>襲われて襲い返したら遅くなりましたって言おうかしら
こうして彼女はちょとずつ、夏目に対して態度がデカくなるんだろうなぁ
と思うと、夏目が女の子にモテルのも大変かと

さてSSは、投下量をこなすのも大事だけど 質も大事だから
次回からは完成して推奨してから投下すると、より良くなっていくと思うお

712:名無しさん@ピンキー
09/12/26 17:35:47 30XWQjCa
>>710 乙
作家さんが増えるというのはいいことだな

713:名無しさん@ピンキー
09/12/27 00:36:16 Zzi9c8eQ
>>711
ありがとうございます!
確かにタキはどんどん強気になりそうな予感が
夏目がもてるとタキ上位という構図が出来そうです

SS、質を良くできるよう精進しますね


>>712
ありがとうございます!
地味に投下するんで呼んで頂ければ嬉しいです

714:名無しさん@ピンキー
09/12/27 00:37:47 Zzi9c8eQ
で、さっそく投下します

ヒノ夏、キスのみです
次から2レスになります

715:名無しさん@ピンキー
09/12/27 00:38:35 Zzi9c8eQ
―その壱―

夏目は寝込んでいた。
ここ数日、昼夜を問わず友人帳を狙う妖と名を求める妖が立て続けに現れて、殆ど眠れなかったのだ。
思えば、それ自体が前触れだったのかもしれない。

「貴志君、お薬頂いてきたわ。飲んだらしっかり眠るのよ」
夏目を心配する塔子にも僅かに頷くだけだ。
「…軟弱者が。無理をするからだ」
塔子が階下へ消えたのを確認し、ニャンコ先生が呟く。呼吸は浅いが眠った様子の夏目を見やり、ため息をつく。
「(夏目が弱っているのに感づいた奴等が集まって来ているか)」
「…仕方ない。私が直々に追い払ってやろう、高くつくぞ」
音もなく白い妖の姿に戻ると、窓から出ていった。


「夏目ー、猫だるまー。…ちょっと誰か返事くらいおし」
すっと窓辺に現われたのは、ヒノエ。
「寝込んだというから見舞いに来てやったのに」
柿。山葡萄。栗。茸。山菜。畳の上に無造作におかれる。

「…眠っているのかい?夏目」
ヒノエが覗き込むと、苦しそうに息を吐き、うなされているようだった。
「…まったく、こんな病人をほったらかして斑の奴は何をしているんだい」
そっと夏目の額に手をあてる。ひんやりとした妖の肌は高熱の体に心地よいだろう。
「…レイコ」
ふと、思い出す。
目の前の少年と同じ顔の娘を。
少年とは違って、人を見切ってしまった娘を。
疎外され忌み嫌われても強かった娘を。

…自分を呼ばずにとうに逝ってしまった人の娘を。

ヒノエは思う。
何故妖の名だけ集め、従える等と言ったのだろう。
なのに何故呼ばないのだろう。
人に傷つけられるのならば、妖を使って傷つけてやれば良かったのに。
…助けてやれたかもしれないのに。

「…レイコ。…レイコ」
少年の髪を撫でる。
長い睫毛に縁取られ、今は閉じた瞼を撫でる。
頬を撫でる。
唇を撫でる。

「レイコ」
この淡い色の髪も、強い眼差しも、白い肌も、妖と言葉を交わす唇も、みな同じに見えるのに。

ここに居るのは、ヒノエのいとおしい娘ではない。

人は儚い。いつか失うことなど知っていた。
それでも、
「…レイコ」
冷たい涙は零れ落ちる。
逢うことの叶わない娘と同じ顔の少年の頬に。



716:名無しさん@ピンキー
09/12/27 00:39:22 Zzi9c8eQ
―その弐―

「…ヒノエ、…泣いて…いるの…か?」
夏目が薄く開けた目に蒼白い月光が宿る。
声は枯れ、弱々しい。

「…夏目、お前も私を置いていくのだろうね」
レイコと同じように。
残されるのは嫌だなどと、妖らしくもないが。

「…レイコさん…の事…泣いて…」
夏目の声はかすれてよく聞こえない。
「ああ、そうだよ。笑うかい?…もう居ない娘を思って泣く妖を」
ヒノエは、夏目の鼻先まで顔を寄せた。涙がまたぽつり、ぽつりと落ちる。

「…わら、わない。…妖、だって…悲し…なら泣けば…いい」
夏目の瞳がヒノエを見つめる。
「…おれは、…レイコさん…の…為に、泣いて、くれることが…嬉し…いよ」

ヒノエは目を閉じた。

この少年は、何故妖にも優しいのだろう。
自らを人と隔てる存在に。
「…夏目、一つだけ頼みがあるよ」
「…なん…だ?」
「一度だけ、お前の唇を貸しておくれ」

レイコとの思い出を、悲しみで染めない為に。
少年を娘の代わりにしない為に。

「…わか…った」
しばしの後、ヒノエの思いを悟ったか夏目が目を閉じる。
軽く結ばれた唇にそっと口づけ、ヒノエは去っていく。

「…早く元気におなり」
月明かりの下、優しい言葉を残して。


「うわっ!離せヒノエっ!」
抱きつくヒノエを夏目が振り払った。
「…つれないねえ。いいじゃないか、それくらい」
ヒノエは笑う。
「夏目!この間の払い賃がまだだぞ!この私が直々に払ってやったのだ、饅頭くらいで済むと思うな」
「わかったわかった、今度焼き肉食わせてやるから」「何?!本当だろうな!今度と言わず今だ、今!」

騒がしい二人を眺めてヒノエは思う。
「…こんなのも、悪くないかねえ」


いつか、別れる時は来るだろう。

その時まで、一度でも多く名を呼んでもらおうか。

目の前にいる、
優しい人の子に。


717:名無しさん@ピンキー
09/12/27 02:18:00 DAW2CZQG
GJ!であります

718:名無しさん@ピンキー
09/12/27 09:36:21 oC+6e9uF
ヒノエの想いせつないよヒノエ

いやぁ女妖の純愛っていいもんですねぇ。
GJです。

719:名無しさん@ピンキー
09/12/27 23:22:24 kg8ZKBC5
頑張っちょるねえ、勢いを感じるお

720:名無しさん@ピンキー
09/12/28 08:52:42 STuzWJlq
>>717
ありがとうございます!

>>718
ありがとうございます!
ヒノエはこれからも夏目を見る度にレイコを思い出すだろうけれど、せめて悲しくないと良いなと思います

>>719
頑張ります!

721:名無しさん@ピンキー
09/12/28 09:03:17 STuzWJlq
そういえばタイトルつけてなかったんで。

>>682-688『君の傍』
>>697-698『手をつないで~君の傍おまけ~』
>>702-706>>709-710『あたたかい場所』
>>715-716『名を』


次作鋭意制作中です
あまり長いより、短くまとめて各パート投下の方(それぞれ一作品として読めるような)がいいでしょうか?

いつもたくさんレス消費してしまうので。ごめんなさい

年明けくらいには投下できるよう努力します

722:名無しさん@ピンキー
09/12/28 11:55:13 nvIsRvQh
レス消費数は気にしなくてもいいと思うよ、良い内容で書いてるんだから
ただしダラダラ書きとか、推奨無しになっていくのはカンベンな

723:名無しさん@ピンキー
09/12/28 17:32:41 ppZhM3lA
それと全レスする必要も無いんだぜ
面倒だろ、さすがにw

724:名無しさん@ピンキー
09/12/29 07:51:33 wM6Hg1K1
>>721
タイトルの有る作品っていいね

725:代行
10/01/02 10:20:50 ugA8U8wf
携帯規制の巻き添えになってます…

夏タキ他投下してた>>721です
SS完成しましたが解除まで投下出来そうにないです。ごめんなさい

解除になり次第良作一つでも多く投下できるよう頑張っておきます!待って頂けたら嬉しいです。

726:代行
10/01/05 08:55:04 /6lCxeKZ
保守

727:代行
10/01/05 08:55:16 PKp3uahb
保守

728:名無しさん@ピンキー
10/01/08 09:34:22 eqsT+kxn
おーい。
誰もいないな…

729:名無しさん@ピンキー
10/01/09 20:50:11 TuhGvwjj
規制って怖いな

730:名無しさん@ピンキー
10/01/10 21:06:15 PR+BCpze
夏目の魅力とは何だろう
浪花節に出てきそうな人情味とかかなぁ

731:名無しさん@ピンキー
10/01/11 22:51:12 K30KcAgs
子供っぽい思考

732:名無しさん@ピンキー
10/01/12 07:53:21 5vteG0ip
良くも悪くも青いところ


733:名無しさん@ピンキー
10/01/12 16:07:11 WwB71qxR
尻が?

734:名無しさん@ピンキー
10/01/14 01:12:23 9l5qaCUn
夏目はガキだからなあ
先生にも柊にも言われてたしね

735:名無しさん@ピンキー
10/01/14 18:22:50 Dpkb3aDt
だがそのガキの思う方向に進んでしまうモノたちの多いことよ

736:名無しさん@ピンキー
10/01/19 21:47:14 6hBJ3h0q
皆夏目が好きなんだよな
男女問わずハーレム状態

737:名無しさん@ピンキー
10/01/20 22:47:39 t1K6mLfp
>>736
×男女問わずハーレム状態
○男女妖問わずハーレム状態

738:名無しさん@ピンキー
10/01/25 04:11:20 KXN9Cewe
保守

739:名無しさん@ピンキー
10/01/27 22:20:54 Sdv5IxvF
>>721です
祝!規制解除やったー
さっそく投下します

燕×谷尾崎
祭の夜、エロなしで4レスです

740:名無しさん@ピンキー
10/01/27 22:28:20 Sdv5IxvF
『人も、妖も』

―その壱―

―嬉しい。貴方に逢える。
私からただ見つめるのではなく。
私は翔ぶように走る。
身に纏った淡い青の花の浴衣は羽根のように翻って、面を外した顔は喜びで染まっているだろう。

祭囃子が聞こえてきた。
道行く人々は皆同じ場所を目指している。
この中に貴方がいる、何処だろう。きっとすぐに見つけられる。
追い越しざま人の肩にぶつかった。
「ごめんなさい」
言ってまた実感する。今の私は貴方に触れられるんだ。

いた。見つけた。
足を止め息を整える。
ちゃんと話せるだろうか。浴衣の乱れを直し髪を撫でつける。
おかしくないだろうか。
私はすっと近づく。貴方の処へ。

「…あの、谷尾崎様」
声をかけたが貴方は気づかない。もう一度。
「谷尾崎様」
聞こえないようだ、何故?と浮かんだ疑問はすぐに消える。
『お前の妖力では、人と言葉を交わすことは無理かもしれないけれど』

ああ、そうだった。
この気持ちを言葉では貴方に伝えられないんだ。
怖じ気づきそうになるのをぐっとこらえた。
あの人は、何の為にこの浴衣を持って来てくれたのだ。
せめて、精一杯の笑顔で伝えられるだろうか。

また貴方に追いつき、つい、と袖を引く。
「うん?」
こちらを見下ろす顔には僅かに驚きの色。
「何か用かな?」
懐かしい貴方の声だ。優しくてあたたかな貴方の声だ。
貴方の目で私を見、その声で私に話しかけてくれる。冷たい水底でこの日をどんなに願ったことか。
なんて嬉しいんだろう、何という喜びだろう。

身振り手振りで私、貴方と祭の方を示す。
「どうしたんだい?誰かとはぐれたの?…もしかして君は話せないのか?」
こくり、と頷く。
「そうか…案内所に連れて行こうか?」
懸命に首を振り、人で賑わう方向と貴方を指差す。

―お願い、一緒に祭を見たい。

「祭が見たいのかい?あちらに行けば家の人に会えるのかな」
また懸命に頷く。

「そうか…。ちょうど私もね、一人で見るのはつまらないと思っていたんだ」
貴方は私に向かって話す。
「娘がね、熱を出してしまって…奥さんと留守番なんだ。お土産だけでも買って行こうと来たんだけれど」


741:名無しさん@ピンキー
10/01/27 22:30:21 Sdv5IxvF
―その弐―

「娘がね、熱を出してしまって…奥さんと留守番なんだ。お土産だけでも買って行こうと来たんだけれど」
貴方は優しく笑う。ああ変わらない。貴方の優しさは二十年前と同じ。
暗闇となる寸前だった私に人の温もりを思い出させてくれた。

「これも何かの縁だ。一緒に回ってくれるかい?」
もう一度懸命に頷く。三度目だ。気持ちが通じたのが嬉しくてたまらない。

「じゃあ行こうか」
貴方の手にそっと触れると、にっこりと微笑んで手をつないでくれた。

―ああ、人とはこんなにもあたたかいんですね。

祭は賑わっていた。
屋台や出店の眩しい光に人が集まっては離れる。
ずっと水底にいた私には不思議な光景だ。

貴方に連れられてのぞいた一つの出店では、四角い桶に水を張り、小さな金魚を泳がせていた。
水面がゆらゆらと揺らぐ。
水の中の沈んだ村に似ているようで思わず座り込む。

真上に灯された明かりの淡い橙色を映した中に、より濃色の魚達は泳ぐ。

ひらひら、ひらひらと水中に舞う金魚のひれはまるで私と同じ浴衣姿のよう。

「…金魚すくい、やってみるかい?」
すっ、と貴方は私の傍に座って店の男に声をかける。

受け取った棒がついた丸いものは、水に浸かるとすぐふわふわと溶けてしまい、魚達を捕らえる事は出来ない。
「…難しいね」
貴方が笑ったのが嬉しくて私も微笑む。

立ち上がった時もまた手を繋いでくれた。

―冷たい私の手は貴方の手のひらでぬくもっていくようです。

歩きながらも貴方は私にたくさん話しかけてくれる。
優しい瞳で私を見て。
私は幸せをかみしめる。

「あれは射的」
「お、大判焼き。今はクリームなんて洒落たのがあるね」
「水風船を頼まれたんだよ、君は何色が良いと思う?」
「お好み焼きも良いけど、やっぱりたこ焼きにしようかな」
「ああ、あったあった。綿飴」
店先で見慣れぬ箱からわきでてくるのは、白い綿の様なもの。
「(…雲、みたいだな)」
木に登って眺めた空を思い浮かべる。
貴方は二つ、と指差す。一つはお土産、と言いながら。
「はい。…雲みたいだよ」
―今、私は貴方と同じ事を思っていたのですね。

渡してくれた人の食べ物は、ふわふわしてとらえどころがなくて、とても甘い。
「美味しいかい?」
こくり、と頷く私に貴方はまた笑顔を向けてくれる。
―なんて幸せなんでしょう。このまま傍にいられたら良いのに。


742:名無しさん@ピンキー
10/01/27 22:41:51 Sdv5IxvF
―その参―

匂いがする。周囲の空気が湿気を含みしっとりと濃度を増す。
雨が近い。
祭の夜は、もうおしまい。私の弱い妖力も。一晩限りの浴衣の力も。
―お別れをする時ですね。
貴方の手を引き、少し離れた場所の人の群れを指差した。
「ああ、家の人を見つけたかい?」
微笑んで頷く。本当はそんな人いないけれど、逢いたい人は貴方だけれど。
「そうか。良かったね」
貴方も微笑む。
ふと、声をかけられた。
「あれ、谷尾崎さん。今日は娘さんと奥さんは?」
貴方と同じくらいの歳の男は知り合いの様だ。
「ああ、熱を出してしまってね。代わりにこの娘さんと…」
話す声を聞く。もうさようならを言わなくては。
―貴方には聞こえないけれど、私の声でありがとうと伝えたいのです。貴方と歩けてとても楽しかったと。

「じゃあ、せっかくだ。君と一緒に写真を撮ろう」
え、と思う。
「とても楽しかったよ、ありがとう。会えた記念だ」ふふ、と思わず笑いたくなった。
―私が言いたかったこと、貴方に先に言われてしまいましたね。

「並んでね、こっちを見て。」
貴方の隣に身を寄せる。いちばんの笑顔になろう。貴方の記憶に残るのなら。

「写真、出来たら君にもあげよう。…せめて、名字だけでも分かれば届けられるんだが」
少し困った表情で貴方は言う。
たぶん届かない言葉を、私は口を開いて貴方に告げる。微笑んで頭を下げ、くるりと踵を返して人に紛れた。

貴方は私の様な異形とは違う。もう逢うことはないでしょう。でも。
今日の貴方の温かな手も。優しい声も。
私を見る眼差しも。
忘れることはないのです。
とうとうと降る雨はすべてにまつわり水を呼び、私はまた水底に帰るけれど。
そこから遠く見上げる外の景色は、きっと違って見えます。
―ありがとう、優しい人達。

谷尾崎様。
あの時、貴方が私の姿を見ることができず良かったのですね。醜い悪鬼ではなく、一人の娘として貴方に逢えました。

夏目様。
貴方が異形を見る人で良かったのです。優しい姿であの人に逢う事ができました。
写真とやらは私の姿だけでなく、喜びも写してくれるでしょうか。
私はまた兄弟達と眠りにつきます。それはとても優しくてそして温かな眠りです。
ありがとう。私は人が好きです。
誰かを想う気持ちはきっと同じなのでしょう。それはたぶんあたたかいのでしょう。

人も、妖も。


743:名無しさん@ピンキー
10/01/27 22:44:01 Sdv5IxvF
―その四―

その人は写真を出しながら言った。
「もしかして、君は夏目君じゃないかい?」
夏目は怪訝そうに答える。
「…そうですが」
「そうか!良かった。あの娘さんの事を知っているならもしやと思ったんだ」
その人は笑顔になる。

「写真の娘さんがね、そう言ったんだ。届け先を聞いたら夏目、と」
燕は言葉を交わせたのだろうか、と夏目は思う。
「ずっと言葉は出なかったんだけれどね、最後別れ際に」
「…他に何か言っていましたか?」
「ああ。ありがとう、と言ったのが微かにね」
「…そうですか」
「写真は君に預けるよ。それじゃ」
谷尾崎は手を上げて帰って行った。

夏目の目からは涙がこぼれる。昨日までの雨のように。
「…燕。お前の想いは届いていたよ。…良かったな」
本当に良かったね。
お前は幸せだっただろう。嬉しかっただろうね。
おれもとても幸せだよ。
人も妖も同じだね。

ゆっくりとおやすみ。
またいつか、優しい人に逢えるまで。


744:名無しさん@ピンキー
10/01/27 22:44:51 Sdv5IxvF
その壱最後とその弐頭がだぶりました
すみません

745:名無しさん@ピンキー
10/01/27 22:48:34 Sdv5IxvF
>>721です
えーとエロパロなのにエロなしは申し訳ないので、続いて
滋×塔子 エロありです
4レスですたぶん

746:名無しさん@ピンキー
10/01/27 22:50:29 Sdv5IxvF
『とても大切 ~帰る家 滋・塔子編~』
―その壱―

「戸締まりはしっかりするんだぞ」
「ご飯もちゃんと食べて頂戴ね」
「火の元にも注意して」
「風邪をひかないように暖かくしてね」

塔子が商店街の福引きで、特等の『年末温泉一泊の旅~上質の宿でゆったりとした新年を~』を引き当て、年も押し迫った31日。

準備はとうに終えているが、滋と塔子は中々出かけられずにいた。

「本当に一緒に行かなくて良いの?」
塔子は貴志に問う。
「はい、大丈夫です。滋さんも塔子さんも楽しんで来て下さい」

貴志の分の部屋も予約して一緒に行こうと二人は言ったのだが、「友達から忘年会に誘われたんです」というのに重ねて誘う気にはなれない。
最近は仲の良い友達も出来たようで、貴志の表情も随分と明るくなった。

「…本当に大丈夫なんだな?明日の夕方には帰るから」
「お土産たくさん買ってくるわね。寂しかったら電話してね」
「はい。気をつけて」
「いってきます」
滋と塔子は笑顔で見送る貴志に振り返って手を振る。
「さあ、行こうか」
滋が手を取ると、塔子がうふふとあどけなく笑った。
「ちょっと照れちゃうわね♪」

幾つか電車を乗り換え、到着したのは静かな山あいの宿。
大きくはないが、手が行き届いた居心地の良さが感じられる。
案内されたのは中庭の池が見下ろせる二階の部屋だった。

「お食事は何時頃になさいますか?」
そうねえ、と塔子は小首をかしげる。
「お風呂はいつでもご利用頂けますので、よろしければどうぞ。お肌がすべすべになりますよ」
仲居の言葉に反応した塔子の瞳は浮き浮きとしている。
「まあ、じゃあさっそく入って来ようかしら♪滋さんは?」
本当にいつまでも少女の様なひとだ。滋は笑いながら答えた。
「それなら夕食は遅めにしてもらって、ゆっくり入って来るといい。20時頃でお願いしよう」

部屋で待っているよ、と言う滋に手を振って塔子は風呂へ向かい、滋は一人中庭を眺める。夕闇から夜へと変わる空を映す大きな池は、澄んだ鏡のようだ。
「二人で旅行とは久しぶりだな…」

貴志が家に来てから、あの家も大分賑やかになった。
塔子は元々良く笑うひとだが、二人きりで暮らしていた頃よりもずっと生き生きとして楽しそうだ。
滋は貴志と暮らす事に決めて良かったと思う。


747:名無しさん@ピンキー
10/01/27 22:53:50 Sdv5IxvF
―その弐―

ただ、貴志は。
いまだに迷惑をかけてはいけない、甘え過ぎてはいけない。そんな空気を感じさせる。
いや、笑顔も良く見せるようになったし決して打ち解けていない訳ではない。
それでもどことなく他人行儀なのはこれまでの環境のせいか、それとも。
「…あの家は私達家族三人の家なんだよ」
何か訳があるのかも、とふと滋は思った。


「…滋さん」
襖がすっと開いて、塔子が戻ってきた。そのまま隣に立って一緒に池を眺める格好になる。
「いいお湯だったかい?」
「ええ、とっても。貸し切り風呂もあるんですって」それにね、と塔子が続ける。
「この池、年に一度、大晦日にだけ鐘の音が聞こえるという伝説があるんですって。今女将さんに教えてもらったの」
「ほお、不思議だね」
「もうずぅっと誰も聞いていないそうなんだけれど。ね、聞けるかしら」
まだほんのり上気した顔に優しい笑みを浮かべる。
「聞けるといいね」
彼女は本当に笑顔が似合う。
陶器の表面を薄い透明な膜で覆ったようなうなじに、湯上がりのまだ濡れたままの髪からほつれた後れ毛がはらはらとかかっていた。
緩めに合わされた浴衣の襟元からは湯の匂いと入り混じって甘美な女の香りがする。
滋の腕は無意識のうちに塔子をしっかりと抱きすくめていた。
ぴったりと密着したその体の香気が滋を昂ぶらせた。
塔子を抱きしめて薄化粧の唇に口づけ、まだされるがままの塔子の舌に舌を絡める。
微かに恥じらいつつも、塔子は控えめに応えてきた。
色白の首筋から鎖骨へとゆっくり唇を這わせていくと、塔子の呼吸に喘ぎの色が混じる。
空いている両手を襟から中へと滑りこませ、出産を経験していない女特有の、まだしっかりとした張りのある胸を掴む。
そのたっぷりとしたボリュームは普段の姿からは想像できない程だ。
手のひらで滑らかな肌の感触を味わいつつ、指先で先端をくりくりと弄ぶと塔子の唇から声が漏れ始めた。
「…は、あ…滋、さん」
甘える様な声が可愛らしい。
「…塔子…」
言って浴衣の帯を解き、一気に脱がせてそのまま畳に押し倒すと、目を逸らし恥じらう表情が目に入った。
本当に可愛いひとだ。


748:名無しさん@ピンキー
10/01/27 22:59:08 Sdv5IxvF
―その参―

「…君はいつも綺麗だよ」
囁いて胸にそっと口づけては強く吸う。瞬く間にいくつものキスマークか塔子の上半身を飾った。
そのまま紅い部分をじっくりと責める。ねぶるように唾液を絡ませ、舌先で捏ね回すようにしては噛み。
「あっ…ああっ…」
抑えられなくなったのだろう、控えめだった塔子の喘ぎも高くなってくる。

すうっと指先は足の付け根から下着の隙間へと伸ばすと、顔に似合わずそこは濃い。
湿った手触りの中に一段と滑る谷間を探りあてて、指て軽く擦ると粘度を増した液体が溢れ塔子が身を捩る。
「ん…んっ」
ちゅく、ちゅくと音を立てるそこを愛撫したまま下着を脱がせた。
柔らかくなってきているが、まだ細くくびれて分な肉のない腰と、同じく平らなままの下腹部、日に焼けておらず青白いような内股が現れる。
「んっ…はあ、ん」
微かに触れるか触れないかで内股を舐める滋の舌と、つぷ、と音を立てて中を弄る滋の指に敏感に反応し、塔子は肢体を震わせ甘い声をあげる。
滋の愛撫に悦ぶさまは昼と違って艶めかしい。
ぬる、と指を抜くと間をおかずに滋は塔子の中に侵入していく。
「はあっ、あんっ」
一際高い声で塔子が鳴く。じっくりと、ゆっくりと、内側の襞や感触、凹凸を味わいつつ出し入れする。
「あっ…はっ」
快感で淡い桃色になった皮膚の表面からは、熟れた果実の色気が香り、
滋の動きにあわせて柔らかな胸はそれ自体が生き物のように揺れ、
汗で乱れた髪が頬に額に張りついて、悶える塔子の表情をより隠微に魅せる。
塔子の左足を滋は自分の右肩に乗せ、より奥深くへと突き上げていく。
ぐちゅっぐちゅっといやらしい音と、塔子の切なげな喘ぎ、滋の荒い息遣いで部屋の中は満たされる。
「あんっ!あっ…ああっ!」
たがが外れたようにはしたなく声をあげる塔子が、左腕を滋の背中に回ししがみついてきた。
「滋さんっ…このままいってっ…」
滋は崩れおちそうな塔子をしっかりと抱きしめ。
一緒に達した。


互いに身を整え終えると、ちょうど扉がノックされて夕食の膳が運ばれて来た。
「ごゆっくりと行く年をお過ごしくださいませ。御用の際は内線でお呼びだし下さい」
そう言って仲居は下がった。

「自分でお料理しないのもたまにはいいのねえ」
これが美味しい、このお皿が素敵と座卓一杯に並んだ料理にひとしきり感激している。


749:名無しさん@ピンキー
10/01/27 23:03:02 Sdv5IxvF
―その四―

「いつも貴志君にいっぱい食べてもらおうって頑張っちゃうから」
「私は君の料理がいちばんだけれどね」
まあ嬉しい、と照れた塔子がふと呟く。
「…今度は貴志君と一緒に来たいわね」
「ああ、そうだな」
「…貴志君、ずっとあの家にいてくれるかしら。突然出ていってしまいそうで心配」
箸を置いて池の方を見ていた塔子からは笑みが消え、不安げな表情に変わる。
「何故?」
「…貴志君、私達に言えないことがあるんだと思うの。隠しているのじゃなくて、言えないこと」
ふう、と息を吐き、手にしていたグラスをことりと座卓に置く。
「きっとね、私達に心配をかけたくなくて言えないの。それを話したら、今の生活が壊れてしまうんじゃないかって」
塔子は真剣な顔で先を続ける。
「そのせいでいなくなってしまうような気がしたの」「…それはいやかい?」
滋の言葉に少し怒ったような声が答える。
「いやよ、とてもいや。滋さんだって同じでしょう?貴志君は家族だもの」
本当に貴志のことを思っているから。
「…私達では、力になってやれない事なのかもしれないよ」
塔子が笑顔になる。優しい、向けられた相手の心をほぐすような笑み。いつも少女の様で、でもとても強いひとだ。
「そうね、でも。一緒にいる事で力になれるかもしれないでしょう?だから貴志君にはいてもらわなくゃ」
「…そうだな」
私も同じ気持ちだよ、と滋は頷いた。
夜が帳を降ろし、黒々と揺れる水面を眺めながら、二人は語り合う。
「私達は頼りないのかな」
「気を遣ってばかりなの、本当に。大人に心配をかけないつもりでいて、困った子ね」
「面倒事も心配もどんとこい、なんだがな」
顔を見合せ笑う。
「ずっと居てもらわなくては困るだろう、あの家は貴志の家だ」
「そうよ、出ていくなんて言ったらお仕置きものよ。多軌さんと結婚して、孫の顔も見せてもらうんだから」
「そうだな、今から楽しみだ」
お互いの手がそっと重なり、塔子は滋に身を寄せた。
窓の外には師走の闇が満ちている。
滋は塔子の肩に優しく手を回し、塔子は滋の胸に頬を寄せる。
「貴志は、いつか…話してくれるだろう」
「…ええ、そうしたらうんと叱ってやらなくちゃ」
もっと家族を頼りなさい、私達を信じなさいと。

何処からか、除夜の鐘らしき音が聞こえている。それはとても遠く、澄んだ夜に微かに響く。

「…それから、二人で抱きしめてあげましょう。お帰りなさいって」
「もちろん」
いつか訪れるその時に、
私達が君の力になれていたら、君の本当の笑顔が見られるだろうから。

窓の外には、ひらひらと雪が舞い始めていた。
滋は塔子の肩を抱き寄せ、そっと口づける。
「信じていよう」

私達のとても大切な、あの優しい子を。


750:名無しさん@ピンキー
10/01/27 23:03:54 Sdv5IxvF
また明日来ます~

751:名無しさん@ピンキー
10/01/28 13:21:16 1oqXHU2T
>>721です
連続で投下します。長くてすみません
まずは誰得ですが西北夏目・エロなし4レス
ニャンコ先生・エロなし3レス
続いてタキ・妄想ちょいエロ4レス


752:名無しさん@ピンキー
10/01/28 13:22:04 1oqXHU2T
『待ってるよ ~帰る家 西村・北本編~』

―その壱―

「おーい。なーつめーこっちこっちー」
西村が呼ぶ声に気づき、珍しげに辺りを見回しながら夏目が駆け寄ってきた。
「お、今日はニャンコは一緒じゃないのか」
「そういつもついてくる訳じゃないさ…この辺、来たことないな」
「夏目はあんまり人が多い所には来そうに見えないもんなー」
「若さが足りないぞ」
夏目が苦笑する。
「…否定できない」

忘年会をやろう、終業式の日に言い出した西村が率先して計画を立てたのだ。
「さあ、カラオケだっ!行くぞ!あわよくば可愛い子とお近づきに!」
「個室でどうやってお近づきになる気だ」
一人盛り上がる西村に北本は冷静につっこむ。
行動力があるのはいいが、それが『彼女』という未だ見えない方向に最近どうもズレてきている。
「そこは美形をエサにして…さあ、歌うんだ夏目!」
期待に満ち溢れた目を輝かせた西村がマイクを渡すと、夏目が困った顔をする。
「いや、おれはほんとに歌えないんだ」
「いいんだ夏目、可愛い子がくればそれで!音痴だって笑わないからさ」
ぐっと拳を握る西村に押し負けた夏目がマイクを構える、が。
披露されたのは「立ち尽くす」という見事なまでの世間離れっぷりで、そのまま夏目は固まった。
「…ごめん、全然知らないんだ。悪い」
「気にするな。西村、夏目をダシに使うなよ」
夏目に答えて西村に見やると、開いた本を腕に抱え立ち上がっている。
「これ!これならみんなで歌えるだろ」
示した画面には可愛らしい猫が跳ね回っていた。
『童謡・猫ふんじゃった』
「な?夏目」
得意満面の西村に二人は一瞬沈黙し―そして爆笑。
「よ、よく見つけたな」
北本は笑いこけながらどうにか言葉を発する。
いつも北本がフォローするのが西村も分かってはいて、たまに不用意なことを口にしてしまう彼なりの、夏目への気遣いだった。
「これなら歌え、るよ」
夏目は腹を押さえて笑い転げている。
その後の西村の選曲により、必然的に個室内は童謡のオンパレードとなった。

もし通りががりで部屋を覗いた女の子がいたとしても、童謡を「あ」の項目から順に歌いまくる男三人にはまず声をかけようとは思わなかっただろう。

「と、いうわけで!女の子との出会いはなかったけどっ」
悔しげな西村が面白い。
「夏目には特別編集のCDを貸してやろう!」
監修おれ!と続ける。
「それで次こそ女の子とお近づきにっ!」
「そこは諦めろ」
二人で笑いながら、少し後ろを歩く夏目を振り返る。
「…頑張って練習するよ」
かけた言葉に笑顔が返って来た。表情も態度も固かった夏目が、二人には少しずつ馴染んでくれているのが嬉しかった。


753:名無しさん@ピンキー
10/01/28 13:23:03 1oqXHU2T
―その弐―

「ここここーおれんち。うるさい兄貴がいるけどさ、まあ寛いでくれよ」
二次会は西村の部屋でゲーム大会らしい。
「なあなあ夏目ー」
「…ん?」
必死で慣れないコントローラを握る夏目に、西村は軽く話し掛けた。
「今度さあ、五組の多軌さん紹介してくれよー」
「うわっ」
夏目のミスに西村はしてやったり、と笑う。
「何動揺してんだ、夏目」北本も続く。

最近、夏目と多軌さんが以前よりどこか親しげになったと思う。
なかなか打ち明けないというより、話すつもりがなさげな夏目を追及するには絶好のチャンスだ。
西村の部屋で逃げ場はない。この機を逃さず白状させる。
青春まっさかりの男友達を差し置いて、彼女―しかもすごく可愛い―をつくっただなんて、ごまかせると思うなよ。

「多軌さん可愛いよなー。おしとやかだし、あのはかなげな感じがまた!」
「色白の肌に黒く大きな瞳!少しくせのあるやわらかそうな髪!」
まだ続いているゲームを難なくこなしつつ西村は一人で騒いでいる。
「友達なんだろー?なら紹介したっていいじゃないかー」
「それとも駄目なわけがあるのか?」
北本も加勢に入り、顔を赤くして黙る夏目に迫った。困らせるのは好きじゃないが、それとこれとは話が別だ。
「…いや、あの」
「駄目なのか?」
「そういうわけじゃ」
「独り占めなんてずるいぞ」
夏目の手はとうに止まっている。
「その、さ」
「ただの友達なら紹介できるよなー」
「…友達だけど」
「けど?彼女じゃないんだろ?」
「彼女、じゃ」
「じゃ?」
ニヤニヤとしながらもすかさず入る西村のつっこみに、ついに夏目が負けた。

「彼女じゃないけどっ…タキは駄目だ!」
西村も北本も、うおーっと声をあげて夏目に詰め寄る。
彼女なんだろ、どこに行った、何をしたと二人で追及を続けるも夏目は口を割らない。当然のごとくゲームもボロ負けした。

「よし、夏目は罰として新年会に何か「オタノシミ」を持ってくること!」
「多軌さんの話の続きに決まりだな」
「おれ達より先に彼女を作ったからだぞ」
「まあ、夏目と多軌さんならお似合いだ。許してつかわす」
ずーんと落ち込む肩を叩きながらの西村の言い草に、夏目がプッと吹き出す。
「あ、また優越感漂わせる気か?」
「いや、そんなことないって」
楽しいな、三人は。西村の言葉に北本が返す。ちょっとうるさいけどな、と笑った。


754:名無しさん@ピンキー
10/01/28 13:24:48 1oqXHU2T
その参―

そのまま西村の家で夕飯をご馳走になり、9時になる頃、北本と夏目は帰宅することにした。

「何だよー夏目も北本も泊まってけばいいのにさー」
西村は心底残念そうだ。
「いや、それはまたの機会にさせて貰うよ」
「おれも、また今度な」
「そうかー。よし!そこまで送っていってやる」

コートを羽織り玄関を走り出てくる西村を待って三人は歩き出す。
「なあ夏目、藤原さん達旅行なんだろう?遠慮してるのか?」
淡い月明かりが照らす夜道を並んで歩きながら、西村は夏目の顔を覗き込んだ。吐く息が白い。
「いや、そういう訳じゃないよ、ありがとう。北本は泊まらなくていいのか?」
「ああ、妹が待ってるし。それに三人一緒の方が楽しいからな」
次は泊めてもらうよ、北本は夜空に上る湯気の様な息を見ていた視線を西村と夏目に戻した。

「…れ」
急に、前を見ていた夏目が何か言って視線を足元に落とし、黙り込む。
「どうした?夏目」
…まただ。時々こんな風に夏目は不自然に目を逸らす。
西村がちらっと北本を見、すぐに夏目に戻す。
「なあ、夏目」
「ん?」
「お前、おれたちに隠してることがあるよな」
夏目が一瞬息を呑み、すぐに微笑みを装うのが分かる。お前、隠すのが下手になってきたぞと北本は心の中で言う。
「…ああ、タキの事か?」
しらばっくれるな、分からないふりをするな、夏目。それは本当のお前じゃない。
「…きっと簡単に言えないことなんだよな?」
そういって西村が歩みを止めた隣に北本は立ち、微笑みで覆われた夏目の本心を探る。
「目が笑ってないぞ」
「…!」
ぐっ、と夏目が構えるのが分かった。でも、ここで退くわけにはいかない。

「お前が隠したいならそれでいいかとも思った。でもな、夏目」
「おれも西村も、夏目の話ならどんな話だって聞くんだ。覚えておいてくれ」

もうひとつ言うぞ、と西村が続ける。
「話したらお前が辛くなるのか?おれ達に気を遣っててのはなしだぞ、夏目がだ」
それは嫌なんだ、気づいてくれ夏目。
「夏目が辛いんなら、言わなくていい」

沈黙は僅かな時間だっただろうか。
「…ごめん。いつか」
夏目がすっと息を吸い、顔を上げて北本と西村を見返す。
「…いつか話せるようにするから。待っていてくれるか?」
北本と西村は、ははっと笑った。
「おれ達はいつも待ってるよ」
「みずくさいんだよ、夏目はさ」
「…そうだな」
夏目が小さな声で、ありがとうと言った。
誰からともなく、また肩を並べて夜道を歩く。


755:名無しさん@ピンキー
10/01/28 13:26:08 1oqXHU2T
―その四―

「ごめんな、問い詰めたりしてさ」
「いや、気にしてないよ」
夏目の言葉に西村がかぶせてよし!と握りこぶしを作った。
「次は新年会な!集合うち!場所未定!電話するからなっ」
「ああ、わかった。楽しかったよ、ありがとう」
「じゃあ、おれここだから。また来年な、夏目」
「おれも帰るかー。また来年な!気をつけて帰れよー」
「ああ、また来年」
皆で軽く手を上げ別れる。

北本が家に帰るとほぼ同時に西村から電話がかかってきた。走って帰ってぎりぎり間に合うかの距離だ。
「(…お前は本当に行動力があるよな)」
苦笑しながら出ると、案の定新年会の話だった。
「寒いけどさー釣りに行くってどうかな?」
「自転車でか?」
「やっぱり寒いかなー…夏目、ちゃんと家に着いたかなー」
突然話がずれる西村に北本は笑いつつまた突っ込む。
「新年会の話はどうなったんだ」
「だってさあ、多軌さんと待ち合わせてたりしたらズルいだろー」
やっぱり夏目んちまでついてって確かめれば良かったかなー、などと西村は言う。
「ちょっとは夏目を心配してやれよ、お前は」
「でもさー」
あの夏目に限ってそれはないだろう、と言いかけた北本を遮って西村が大声を出した。
「ああーっ!北本!外見ろ外!」
「外?」

ひらひらと雪が降っていた。
「夏目、ちゃんと帰ったかな。…新年会、夏目ん家に突撃するか」
西村がまた言った。

除夜の鐘が聞こえる。
もうあと数時間後だけれど、また来年会おう。
来年もたくさん出かけてたくさん話そう。
夏目、おれ達は遠慮されるのはご免だぞ。

そしていつかお前が話してくれるまで。
「…待ってるよ」
おれ達は。


756:名無しさん@ピンキー
10/01/28 13:27:00 1oqXHU2T
『妖宴 ~帰る家 斑編~』

―その壱―

「…何もおらんぞ」
野原は薄と枯れ草ばかりで、既に陰り始めた冬の日差しが寒々しい。
「冬だしなあ…」
「つまらん!お前の散歩はつまらんぞ夏目」
家に居ても暇なので、夏目の散歩に付き合ってやったが、蜻蛉も蛙もいないわ師走の風は冷たいわで散々だった。
「よし饅頭を奢れ」
「…何でだよ」
「お前に付き合って腹が減ったのだから当たり前だ」
「まあ…寒いしいいか」
『七辻屋』の縁台に腰を下ろすとすぐに茶が出た。一つ。夏目を小突く。
「すいません、この猫の分も貰っていいですか」
「猫ちゃんもお茶を飲むの?渋いのねえ」
人の善さそうな女は笑いながら饅頭と一緒に茶をもう一つ置いていった。

「先生は夕飯何がいい?」
隣でぼけっと茶を飲んでいた夏目がいきなり言う。
依代の体はちんまりとして丸く、縁台に乗っていても夏目を見上げる格好になる。本来の高貴な姿とは天地の差だが、まあこれにも大分馴染んだ。
「…まさかお前が作る気か?」
「塔子さん特製弁当は昼に食べてしまったし」
塔子と滋は朝から何やら一騒ぎして出かけて行った。旅行だとかで明日の夕まで戻らないらしい。
夏目と二人きりで、特に妖が襲ったり訪ねたりしてこないとなると、大してする事もなく退屈だ。

「饅頭をもうひとつ頼め。ついでに茶のお代わりもだ」
「あまり太ると何も捕まえられなくなるぞ、先生」
「このプリチーな私のどこが太っているというのだ!貧弱モヤシが!」
こいつはいつも生意気な口を叩く。
「っ貧弱モヤシ!?…先生の分の夕飯作ってやらないからな」
「ふん、丁度いい。今夜は森でちょびとヒノエ主催の飲み会がある」
お前の貧相な飯など食いたくないからな、そう毒づいてやった。
「ニャンコ先生は作れるのか?その短い手足で」
夏目が笑いながら言い返してくる。
「高貴で優雅な私が飯など作るか」
全くもって可愛げのない。私がいなくてはすぐに妖どもに喰われてしまうだろうに。

「それにしても大晦日に飲み会って…妖の忘年会みたいなものか?」
「まあそうだな、美味い酒が出るそうだ」
「飲み過ぎるなよ、先生」せっかく答えてやったというのに、師に向かって何という態度だ。
「お前ごときに言われるまでもないわ」
そう言い放って睨み付けてやるが、まったり茶を飲む夏目は気づかない。
頭突きでもくらわせてやれば良かったか。


757:名無しさん@ピンキー
10/01/28 13:28:04 1oqXHU2T
―その弐―

「そういえば、おれも夕方から西村と北本と出かけるんだ」
「…あまり人が集まる所に行くなよ」
「え…どうして」
本当にこいつには友人帳の持ち主の自覚が無くて困る。
「…妖も混じっているからだ。気をつけろ」
縁台から華麗に飛び降りつつ、顔も向けずに何気なく発した忠告が、まるで夏目を思いやっているかに聞こえて大笑いしたくなった。
「(…私も用心棒らしくなったものだな、人の子相手に)」
精々、退屈しのぎのお守りをしてやるさ。

さて。まだ飲み会まで時間はあるが、夏目の相手などこれ以上する義理もなし、森までのんびり向かうとしよう。
「私はもう行くぞ」
夏目の返答は聞かなかった。


もう日も落ちた闇の中には、たくさんの妖達が集まっている。
「斑殿が来たぞ」
「ご無沙汰しておりましたな」
馴れ馴れしい低級妖怪もいるが今夜はよかろう。

「なんだい、手土産もなしかえ猫ダルマ」
絡んできたヒノエはもう酔っている。
「わざわざ参加してやったのだ、土産など持ってくるか」
「まあ、良いであります。顔デカ猫の一匹くらいで私主催の宴は揺るぎませぬ」
ちょびが言う。
こいつはいつでも態度がでかい。
「…客人の身だ。聞かなかった事にしてやる」
そういって杯を手に取る。美味い酒に酔うのも、暇潰しだ。

「…夏目はどうしてるんだい」
ヒノエが隣に座って問うてきた。
「人間どもと忘年会をするそうだ」
「へえ。あの夏目がねえ。…やっぱりレイコとは違うんだねえ」
闇を透かして遠くを見る様に懐かしい名を口にする。
とうの昔に逝った人の娘ことなど忘れればいいと思うが、私もヒノエも不意に思い出すのは同じ顔の夏目の傍にいるからか。

「私は時々心配になるんだよ、高望みじゃないかとさ。夏目は…人も妖も両方なんざ難しいだろう」
「夏目殿にしてみればどちらも同様に大切なのでありましょう」
「ふん、それくらい私だって解っているさ。だからこそだよ」
本当にその通りだ。あの阿呆はなかなか学習しないですぐに首を突っ込む。
「斑、お前は何時まで夏目の用心棒を気取るつもりだい?」
「…あいつが死んだら友人帳は私のものになる約束だからな。それまでだ」
「…へえ。暇潰しにしては奇特なもんだねえ」
ヒノエが続ける。
「まあ、私みたいにならないようにおし」
レイコの事を言うんだろうが、私と夏目の間は用心棒と不肖の弟子という程度だ。ヒノエとは違って別れなど慣れている。


758:名無しさん@ピンキー
10/01/28 13:28:43 1oqXHU2T
―その参―

そう考えて、今は少し違うような気がした。
夏目は、自分が長生きしたら、私が友人帳を手に入れるのが遅くなるなどと笑う。
それが気に入らない。
違うだろう。笑い事か、と腹が立つ。
お前は友人帳を簡単に私に渡さない為に、長生きするのだろう?
儚い生にしがみつく人とはそういうものだろうが。
「何を黙ってるんだい、陰気だねえ」
ヒノエに言われて我に返る。美味い酒など久しぶりだから酔いが回ったのかもしれん。
「…散歩でもしてくる」
そういって森の方へ向かった。
少し歩くと、人の祭りの匂いがする。鐘の音も響いてくる。
星の光りで薄らと明るい中を、何かががさがさと走ってくるらしい。
「…うん?何だ?」
「ニャンコ先生!良かった!…ああ、こんな時なのに我慢できない!」
しっかりと抱きしめられて息が詰まる。
「(は、離せーっ)」
短い手でぴしぴしと叩くと腕が緩み息が出来るようになった。

「…誰かと思えばタキか。何事だ」
「な、夏目君がお寺の池に入ったまま上がって来ないの!」
人の娘は夜目にも真っ青な顔色だ。
「何だと?…まったく世話の焼ける…その袋は何だ?」
ぶつぶつと愚痴を言いたかけたその時に良い匂いが鼻腔をくすぐった。
「え…お土産のイカ焼き」「それで手を打ってやろう!」
白い妖の姿に戻り娘を背に乗せる。
「どこだ?」


やはり私が護ってやらなくてはな。弱い人の子に長生きさせるのも、良い暇潰しになるだろう。

情が移ったなどと、私らしくもないことにはまだ気づかないふりをしていよう。
この悔しい様な嬉しい様な気分にも。
妖の時は長いのだ。
なあ、夏目。


759:名無しさん@ピンキー
10/01/28 13:29:24 1oqXHU2T
『逢えて良かった ~帰る家 タキ編~』

―その壱―

年の瀬の街は海みたいだ、と透は思う。
さざめく会話や笑い声。
商店の呼び込み。
車やバスの走行音。
冬枯れの野山を渡る北風。
寄せて返す喧騒に透は攫われいく様な錯覚に陥る。

「(…何してるのかな)」
浮かぶのは夏目の事だ。
透が好きだと言ったら好きだよと応えてくれた。クリスマスには「彼女」として夏目の家に招待された。
「(これって彼女、なのかなあ)」
恋人ならば踏むであろう段階をすっとばした感はあるが、夏目との距離がここ最近で一気に近づいたのは確かだ。
しかし、透から付き合ってとは言っていないし言われてもいない。違和感の正体がそれだと分かっているくせに何故か行動しない自分が歯痒い。
初詣にでも誘おうか、思考はそこでストップしたまま気づけば大晦日の夜になっていた。

「多軌ぃ」
クラスの娘に呼ばれ、靄々とした透の思いは人混みに紛れて消える。
「少し待っててー」
二年参りに誘われて混雑の中お参りを済ませ、その後が長い。
出店に目を惹かれなかなか帰れないのだ。こればかりは女の子の性で、
「あ、これ可愛い…(ふふ、ニャンコ先生そっくり)」
透は根付けを手にとる。陶器でできた小さな姿は、見慣れた猫に良く似ていた。
「3つください!これとこれとこれ」
手早く可愛い顔のものを選び袋に入れて貰う。
「(…後で渡しに行ってみようかな)」
それは曖昧さを解消してくれるきっかけになるだろうか。
途端、透の奥に夏目との二度の「接触」が鮮明に蘇る。
―つう、と透のラインをなぞる唇と舌と。
―からだの隅々まで触れた指先。
―それから。
じわ、と疼く芯が熱を帯びる。
「(もしかしたら、また…きゃああ!何考えてるの透っ!)」
独り歩きする妄想に、赤くなった頬をぺちぺちと叩いてひとつ深呼吸すると、友人達を追った。
と、その時。
視線の隅を人影が横切る。あれは、
「(夏目君?!)」
さっと振り返ると本堂の裏手に走って行くのがかろうじて見てとれた。
「(慌ててる…!何かあったのかもしれない!)」
「ごめんなさい、私ちょっと用が出来たみたい。先に帰ってね!」
友人に向けてそう叫ぶと、透は人の間を縫って夏目の消えた方へ駆け出した。


760:名無しさん@ピンキー
10/01/28 13:30:06 1oqXHU2T
―その弐―

本堂の裏手は藪か森かの境界がない有様だが、透はそのまま進む。
頭上から見下ろす月と、背後から頼りなく届く境内の灯り程度では歩き難い。闇が濃くなる少し手前できらり、と何かが光った気がして立ち止まる。
「(…何?…池?)」
透が目を凝らすと黒い水面の端に人影らしきものが見えた。と、急にそれは飛ぶように池の真上へと移動する。
「(えっ!?…夏目君だ!)」
自分には見えない何者か―恐らく妖―に捕まったのか、夏目が池に落ちた。
「っ!なつ…」
透の声は激しい水音に消され夏目には届かなかっただろうか。
池の側まで走りながら透は呼ぶ。
「夏目君!夏目くーんっ!」
すぐ爪先に迫る水面には、返事どころか波紋すらおきない。
「どうしよう…」
透は焦る。人を呼ぶわけにはいかない、妖の仕業ならば。
「(早く、早く何とかしなくちゃ。夏目君に何かあったら…)」
そんなこと、考えたくもないけれど考えてしまう。助けられない自分が腑甲斐なくて、涙が出そうだ。手が震える。
私はどうしたらいい?今何が出来る?

ふと目をやった先、森の中の何かに気づき、透はざかざかと藪に分け入る。草や小枝で額に頬に、スカートとブーツの間の皮膚にと傷つくがそれに構ってなどいられない。
「(あれは多分…いいえ、きっとそうよ。そうであって、お願い!)」
心臓がどくどくと跳ねて近いと思った距離が遠い。妖に対抗する力のない私でも、せめて。

好きな人の危機を、力ある者に報せるくらい出来るようになりたい。

淡く光る丸い姿が見え、透は心の中で叫ぶ。やっぱりそうだ!
「ニャンコ先生っ!良かった!」
思わず飛びつき、余りの可愛さに我慢出来ずに力いっぱい抱き締めてしまう。
腕を短い手で叩かれ、透ははっと我に返った。
「(私ってば!夏目君のピンチになんて不謹慎な…っ)」
軽く落ち込みつつ腕を緩めると、深呼吸とともに体に似合わぬ不遜な声。
「…誰かと思えばタキか。何事だ」
透は必死で今見た事を話した。何としても先生に行って貰わなくてはならない。
「何だと?…まったく世話の焼ける…」
酒臭い招き猫がブツブツ文句を言う姿はなかなかにシュールだが、今の透が頼れるのはこの妖だけだ。
「ん…?その袋は何だ?」
透は手に下げていたビニール袋の存在を思い出す。
「え…お土産のイカ焼き」家族に頼まれたものだ。必死で走ったからだろう、中の紙袋の口が少し開き、微かにタレの甘辛い匂いがする。
「それで手を打ってやろう!」
「(ええ?!イカ焼きで?!)」

761:名無しさん@ピンキー
10/01/28 19:24:47 1oqXHU2T
―その参―

もう冷めちゃってるけどいいの?と問う暇もなく、
「特別だ、乗れ。夏目の消えた場所に案内しろ」
妖の姿になったニャンコ先生の首筋に、透はしっかりとしがみついた。

「どこだ?」
「向こう!森を抜けてすぐの池に…っ」
ふわり、と体が浮く。顔を髪を耳元を風が吹き抜ける。
「(早いっ…それに…ふかふか…)」
こんな時なのにすごく安心する。それはきっと、
「(…先生なら大丈夫だからだ)」
そう確信していた。
「ここだな。降りろ、タキ」
ざざっ、と透は藪に飛び降りる。
「先生、夏目君をお願い!」
「…誰に向かって頼んでいるつもりだ」
ふん、と鼻で笑い、白く輝く姿の先生は池に沈んだ。

「夏目君…先生…」
どくどくと早鐘を打っていた心臓は少し落ち着いてきていたが、握った手のひらも背中もじっとりと汗ばんでいる。
寺の境内の方角からはまだ喧騒が聞こえる。ほんの僅かしか離れていないのに、冬枯れの草木と水の匂いしかしないここは別の場所の様で、透の不安を一層強くする。

「(…お願い、どうか無事に、帰ってきて)」
握り締めた指が痛い。手のひらには多分食い込んだ爪の跡があるだろう。
夏目も先生もきっと大丈夫だという気持ちと、いいしれぬ心細さでどうにかなってしまいそうだ。
姿を見せて、良かったと安心させて欲しい。抱きついて触れられることを確かめたい。はやく、と透はただ願う。
「逢いたいよ…っ」


水際に立つ爪先が湿り気を帯びてきた頃、透は回りの空気が一瞬揺れた気がして池を見つめた。
ふわふわと白いものが舞い上がってくる。
「え…なにこれ…雪?」
何故雪が出てくるの、と水面を覗き込んだその時。

ざぶ、と水音がした。
透の横に夜目にも銀糸の様に輝く妖が降り立つ。
「帰ったぞ」
その言葉に、背から降り立ってなお首筋に埋めていた人は顔をあげて、
「…タキ」
先生も夏目もずぶ濡れだった。
「良かった!夏目君!無事ね?」
透はばっと駆け寄り、思わずニャンコ先生に抱きついてしまう。
「ありがとう先生!」
「(はっ!ここは夏目君に抱きつくべきだったか!…でもふかふかっ!)」
零れ落ちそうだった涙は、すぐに乾き始めた先生の柔らかな毛並みが吸い取ってくれた。


762:名無しさん@ピンキー
10/01/28 19:26:14 1oqXHU2T
―その四―

「…ハンカチくらいじゃ駄目ね、早く着替えないと」
透は夏目の体を少しでも拭いてあげたかったが、髪からも服からも水が滴る程に濡れていて、何の役にも立たない。
どうしよう、と呟く透に夏目が問う。
「タキが先生を呼んでくれたのか?」
「ええ、本堂近くの出店にいたら夏目君が走って行くのが見えて」
透はニャンコ先生に会った経緯を手短に説明する。
「そうか…助かったよ、ありがとう」
笑う夏目に透はかぶりを振る。

「今夜、ここに来て良かった。夏目君を見つけられたもの」
「え…?」
「貴方を助けることが出来たの」
夏目の様に妖が見え話が出来る訳ではないし、当然払う力などない。
妖に関わって夏目が往生していても透が役立つことなど稀だろう。
でも。今夜は貴方を見つけられたよ。
透はすっと息を吸った。

夏目の胸に顔を寄せる。
「…濡れてしまうよ」
腕が背中に回るのが分かった。
「(私は…この人を守りたい。傍にいることしか出来ないけれど。だから)」

除夜の鐘だ。
ずっと鳴っていたことに初めて気づく。
雪が降っていた。静かに、静かに。

「…逢えて良かった」
貴方に、とそっと口づけた。


763:名無しさん@ピンキー
10/01/28 20:31:52 1oqXHU2T
夏目・エロなし6レスです
『帰ろうか ~帰る家 夏目編~』

―その壱―

―忘年会、楽しかったな。
初めて友人とあんなに騒ぎ普通の高校生になれた気分が嬉しくて、夏目は藤原家へ向かう道を歩きながら微笑んだ。

でもその帰り、まだ友人達と共にいても普段と変わらず妖は現れた。
『…夏目レイコ。名を返せ』
『今は出来ない。後にしてくれ』
次はすぐ名を返してやろう、浮かんだ思いに夏目は苦笑する。
以前は苦痛ばかりだった妖との関わり方も人との関係も、友人帳を見つけてからは随分変わった。

「友人」と呼べる相手が出来たから。
その西村にも北本にも、夏目だけの問題で今以上に心配をかけたくない。いつか必ず話すから、もう少し。
『待ってるよ』と、西村と北本の言葉が聞こえる。
「…嬉しかったんだ。ごめん」
と。ありがとう、と呟いた。

ちらちらと星が瞬く暗い夜空を仰いで、もう二人の優しい人達を思った。
「旅行、楽しんで来てくれるといいな…」


塔子が商店街の福引きで当てた、年末年始の温泉旅行。
その出発日の今朝になっても、夏目が家に一人残るのを気にして、主に塔子が大騒ぎして出かけて行った。
帰りは明日の夕方の予定だし、ニャンコ先生も飲み会があるらしい。
だから、すぐそこに見えている藤原家に今夜、夏目は一人だ。

「(やっぱり、西村の家に泊めて貰えば良かったかな…)」
ふと浮かんだ言葉にすぐさま首を振る。
何を呼び込んでしまうかわからないのにそれは出来ない。
慣れていた一人が今はさみしいと感じる、それはとても幸せだからなのだろうか。

「…田沼のところにお参りにでも行ってみるか」
ひとりごちて踵を返した。

764:名無しさん@ピンキー
10/01/28 20:32:33 1oqXHU2T
―その弐―

除夜の鐘が響く寺の境内はごった返していた。
「(…こんなに)」
一見人と区別出来ないモノから、牛頭に着流しやら尻尾や角や羽が生えているモノ、明らかに妖と判るモノまで相当数がいる。

「(まずかったか…先生に言われたのにな)」
―人の多い場所に近寄るな、妖が混じっているぞ―
無意識にバッグの上から中の友人帳を押さえた。
早く帰った方が良さそうだが人に逆らって戻るのは難しく、仕方なく流されるように前に進んだ夏目は休憩所に出てほっと一息つく。

「夏目」
びくっとした。さっと振り返ると、見慣れた笑顔がある。
「田沼。なにしてるんだ?…甘酒か」
甘い匂いが気持ちを落ち着かせてくれる。
「ああ、手伝いに駆りだされて。今年は随分忙しいんだ」
温かな甘酒が手渡される。田沼は寺の住職の息子だ。
田沼が声をひそめる。
「夏目、ここに来て大丈夫なのか?」
「え?」
「…たくさん混じってるだろ、多分。おれには気配しか分からないけれど」
「(ああ、妖の事か)」
夏目は何気ない風を装う。
「…ありがとう。大丈夫だと思う。田沼は平気か?」「父がいるから。…えーと、ニャンコ先生?は一緒じゃないんだな」
「先生は飲み会なんだ」

話しながらも田沼は甘酒を注いで並べていく。
次々と訪れる人達は、それを受け取り温かそうに手のひらで包んでいた。

「夏目はどうするんだ?」「何をだ?」
「まだ話してないんだろ。…藤原さん」
「…ああ」
「ずっと言わずにいるのか?」
西村と北本にも言われた事だし、田沼とは以前話していた。

全部話してもここに居られるのだろうか。
塔子さんと滋さん、西村に北本、田沼、そしてタキ。優しい人達の傍に。
「カリメ」の時の様にいつか災厄を呼んでしまうのではと夏目は不安になるのだ。
それは『見える』田沼には言えない。余計に心配させるだけだ。
だから夏目は、ほんの少し違う答え方をした。

「…心配、かけたくないんだ」
藤原さん達にも。優しい友人達にも。呟いて顔を上げると、田沼と目があう。
「夏目、そんなに気を遣ってばかりいるなよ。心配かけたって構わないんだぞ」
「藤原さん達の所が、お前の帰る家だろう」
「…田沼」
とても優しい口調だったから、本当にそう思うか、関わったら不幸になるかもしれないんだぞ、とは聞けなかった。

「良い年を」
田沼が笑う。
「…ああ、田沼も。また来年な」
夏目が少し歩いて振り返ると、田沼が軽く手をあげて微笑んでいた。

そこここにいる家族を眺めてみる。
肩を寄せ合って暖をとっている夫婦と兄弟。
両親に片方づつ手を繋いで貰っている幼い子。
「(…帰る家か…)」


765:名無しさん@ピンキー
10/01/28 20:33:13 1oqXHU2T
―その参―

人波に翻弄されるがまま夏目は参道沿いの出店を眺めた。
「(この梅の花の根付け、塔子さんにどうかな…滋さんはこれかな)」
立ち止まって木目の達磨を手に取り隣を見て思わず吹き出す。
その先生そっくりの招き猫の造形に、タキの顔が頭に浮かんで結局3つ買ってしまった。
「(…喜んでくれるかな。あとは先生にイカ焼きでも…本当に中年なんじゃないか?)」

そんな風に考えていると、目の前を何か過った気がして足元を見る。
「簪…?」
「…それは私のものだ」
拾い上げたそれは横から伸びてきた手に取り上げられ、ひらりと紅い花が散る。
「あ、すみません」
謝って顔を向けると、結い上げた黒髪に椿を一枝差し、すらりと紅い花の着物姿の女性と目があった。

女の目が磨がれた刃の切っ先の様に細くなる。
「…また会ったな。先程は退いてやったが二度はない。さあ、名を返せ」
すらり、と冷えた音がした。
「(…さっきの妖か!人がいる!ここじゃまずい!)」
夏目は咄嗟に身を翻し、人混みをかき分け本堂の裏手へ回る。
息を切らし藪を抜けると池があった。
「…こ、こなら…うわっ!」
膝に手をあて息をついた途端、首筋を掴まれ放り投げられる。
「(やばっ!落ちる!)」
視界の端にタキを見た気がした瞬間、盛大な水音で夏目の周囲全てが閉じた。


「…あれ?おれ、妖に池に投げ込まれたのに…?」
呆然として辺りを見回す。
地面は苔むしているが雑草らしきものは生えておらず、手入れの行き届いた様子の庭園に夏目は座っていた。
目の前の池な水面は鏡のように滑らかで、体は濡れていない。
「どういう事だ?」
「…名を、返せ」
赤いものが視界に入り反射で横に転がる。さっきまでの場所に突き立てられているのは、大鎌のような。
さーっと血の気が引いた。「(これって…やばくないか?)」
何とか立ち上がり、走ろうとする夏目が見たのは。

「と、塔子さんに滋さん?!」

池の反対側の建物の二階、明るい室内は暗い庭から良く見える。
そこには楽しそうに食事をする二人の姿があった。
「なんで…ここ、旅館の庭なのか?」
「よそ見をするとは」
はっと身を引いた目の前を風が切る。いや、きっと風だけではない。
ぞっとしつつ、夏目は唇を噛み締める。
「やめろ!名はすぐに返す!」
つ、と立ち止まった妖がにいっと笑うのが分かった。
「…それで済むと思っているとは愚かな」
ひょうと風を切る音がする。


766:名無しさん@ピンキー
10/01/28 20:33:51 1oqXHU2T
―その四―

「何年待ち望んだか、お前の首を落とすのを!」
広い庭ではないが、少しでも宿から離れたい。
せっかくの旅行なのに、見つかったら二人に迷惑をかけてしまう。
妖は追ってくる。ニャンコ先生もいない、武器になるようなものもないがやるしかないんだ。

夏目は田沼に言われた言葉を思い出す。
「(帰るんだろ、あの家へ。考えろ!)」

はっと気づいた。今は夜だ、夏目の姿は見えにくいはず。
『お前は美味そうな匂いがするのだ』
そう先生が言っていた。―匂い、かもしれない。

回れ右をし、樹木の陰を伝って池の方へ戻った。
「どこに隠れた」
そっと池に足を入れる。
「(っ!冷たい…)」
静かに静かに沈むと、カバンの中から友人帳を取り出し開いた。
暗い水中で友人帳がぱらぱらとめくれていく。
「(もっと近くに…来い)」

夏目の息が限界となるより僅かに早く。
友人帳は妖の名を見つけた。

ざあっと浮かび上がると同時にぱんっと音を立てて手を合わせ、言う。

「受けてくれ、君の名だ。『椿』」

くわえた和紙にふっ、と強く息を吐くと名は幾重にも絡まる糸にも似た様子で、妖の元へと吸い込まれていく。

妖がにやりと笑う。
「返して貰ったぞ、私の名。…ならば今度は私がお前の首を貰おう」

「(そうだ!名を返すだけでは駄目だと…)」
振り上げられた大鎌から顔を腕で庇い、夏目は目を閉じた。


767:名無しさん@ピンキー
10/01/28 20:34:37 1oqXHU2T
―その伍―

「夏目!捕まれ!」
声に反応し、伸ばした腕ごと夏目の体は妖の背に放りあげられた。
「ニャンコ先生…!」
「阿呆!わざわざ言ってやっただろうが!」
妖の姿では頭突きも猫パンチも無いが、だからこそ叱られたその事実が痛い。
「…ごめんなさい」
素直に出た謝罪をふん、と流して先生の鼻先は妖に向く。
「これは私のものだ、手出しをするな!」
まばゆい光と突風に弾かれそれは倒れる。
その隣に。

闇を白くくりぬき、着物の女が音もなく現れた。
「妖?!」
「新手か!」
夏目と先生が身構えたのに女が口を開く。
「…お許し下さい。斑様、夏目様」
きん、と通る声だった。

「…何故名を知っている」
先生の問いに女妖は答える。
「「友人帳」をお持ちの人、と言えば夏目様。白く優美なそのお姿は斑様。下界を見下ろし暮らす私は良く存じておりますわ」
にっこりと笑う。

「私は「雪華」、これは「椿」。私の友人が失礼を致しました。どうかお許し下さい」

「…どういうことだ?」
夏目の問いにもおっとりと微笑む。
「この池は、冬の間私達の住み処への道でございます」
「椿の一族は気難しく、夏目様に負けたこの者は恥と罵られ、此処の通りを禁じられました。みすみす人に名を奪われる等情けない、二度と戻るなと」

膝に乗せた椿の髪を撫で、夏目の視線に気づいて優しげに言う。
「気を失っているだけですわ。ご心配なく」
「…そうか」
夏目がほっと息をつくと、先生にこづかれた。
「殺されかけたというのに何を呑気な!」

雪華は淡々と続ける。
「名を取り戻し、報復せねば戻れぬとでも考えたのでございますね。形式に囚われた者達になど構うな、あの人の娘は我々に害をなす者ではない」
「除け者とされても私はお前と一緒に居よう…そんな私の言葉も一蹴されました」
「私は椿をかけがえのない友と思っておりましたが、彼女にとっては一族との血の繋がりの方が重要だったのでしょうか」
氷で創られた人形の様な顔が気づかぬ程に曇る。
「…信じて貰えなかったのでございます、私を」
心なしか口調も沈む。

夏目には、雪華のさみしさが痛い程に感じられた。
「すまなかったな…雪華…」
この妖は、一度断ち切られた繋がりをまた取り戻せるのだろうか。
「お前は椿に信じて貰うことは出来るのだろうか」
夏目の自問の様な呟きに女妖は微笑んだ。
「お優しい方ですのね。今の夏目様が謝る事ではございませんよ」
椿の髪をまたいとおしげに撫でる。


768:名無しさん@ピンキー
10/01/28 20:35:15 1oqXHU2T
―その禄―

「血の繋がりなどただそれだけの事。…繋がりとは作るものでございましょう。時はかかりますが、私は伝えれば届くと信じております」
夏目様もおわかりでしょう、と友を想う女妖は言った。
「そう、だろうか」
あの時。椿が退いたのは友人と一緒だった夏目を気遣ったのか。確かめられない事だが、そうなら良いなと思った。
雪華にそれを話そうとして、ふと夏目は気づく。
「…今?今の夏目と言ったか?まさか…レイコさんを知っているのか?」
「お名前とお姿だけは。…ご存じですか?「雪華」とは雪の結晶」
ふわり、と袖を振るとはらはらと花弁が零れ落ちた。雪だ。

「せめてものお詫びでございます…夏目様の大切な方達にもご覧頂ければ幸い」その声はもう遠い。
「っ!待ってくれ雪華!」
伝えるべきだった言葉は行く先を失い、暗い夜空に舞う雪を見ながら夏目は言う。
「…椿に、謝れなかったな」
祖母が邪気無くした事で、友人からも一族からも長い間引き離していたのだ。
夏目は自らと似た思いを抱えた妖に、一言ごめんと謝りたかった。気遣いをありがとうとも言えれば良かった。
雪華にはそうだねと頷いてやりたかった。
それが、ただの自己満足であっても。

「レイコのした事だ。お前のせいじゃない」
「先生…」
それでも伝えたかった。―たとえ届かずとも。

「…帰るぞ、夏目」
「…ああ」

夏目は暖かな明かりのこぼれる窓を見上げて、傍らの妖に寄りかかる。
あの人達と離れてしまうのは嫌だな、と思う。
椿も雪華も、妖だってきっと同じなんじゃないか。

せめて、これからは離れずにと祈ってみよう。

暗闇に覆われていた景色を白く照らすように雪は次々と降ってくる。
全てがまっさらな色に染められていく、それは明るくあかるく。
微かに鐘の音が聞こえた。
「…帰ろうか」
家に。


769:名無しさん@ピンキー
10/01/28 22:41:27 1oqXHU2T
夏タキ・エロありで9レス
完結します

『一緒に帰る、家になる ~帰る家 夏目・タキ編~』
―その壱―

二人は夜道を急ぐ。
頬に当たる風は冷たい。
地面は、数日前に片付けたばかりのクリスマスツリーの真綿に似た雪に覆われ、それを仄かな月が照らしている。

「大丈夫?夏目君」
「…何とか」
妖に池に落とされ全身ずぶ濡れの夏目は震えながら答えた。
顔色は青いというより蒼白で、隣を歩くだけでもその身の寒さが感じられる。
タキがコートを貸したけれど、あまり意味はなかったみたいだ。

「…着いた」
声が細い。
タキは夏目から受け取った鍵で玄関を開け、壁を探って灯りを点けた。
「お風呂はどこ?」
「…突き当たりを右」
お邪魔します、と呟いて小走りで家にあがると、靴下だけの足の裏から廊下に体温が吸い取られるようだ。
とん、とんと夏目が階段を上る足音。

浴室のドアを開けてタキが確認したスイッチは、
「(良かった、家と同じ)」浴槽に湯を張って満ちる湯気にひととき気持ちはほっとするも、自室へ行った夏目が気がかりだ。
戻った脱衣所の棚にバスタオルを見つける。
「お借りします」
また呟いて手に取り、階段を極力静かに駆け上がって夏目の部屋に向かう。
襖が半端に開いていたのですぐに分かった。

「夏目君っ」
夏目がそのまま布団に倒れこんでいる。霜が着いたような髪もじっとりと水気で重たい服もそのままだ。
顔色が先ほどと違って赤く、かけ寄って触れた額は熱かった。
タキは急いで夏目の体にバスタオルを巻き付け、湯を入れた洗面器とタオルを浴室から持ってくる。
「開けるね」
小さなたんすと押し入れから着替えを探し出した。


770:名無しさん@ピンキー
10/01/28 22:42:10 1oqXHU2T
―その弐―

「(脱がさなきゃ)夏目君、ごめん」
濡れた服は脱がせにくい。べたべたと体に張りついて、一緒に夏目の肌も体温もはがれてしまうのではないかと思う。
真っ赤になりながら必死で夏目を裸にし、温かな湯気ののぼるタオルで体を拭き、何とか着替えさせられた。
もう一度髪を拭き、布団をかける。
「これじゃ寒いかも…どうしよう」
布団の横に腰を降ろしてタキは考える。誰もいない家の中はひんやりと寒い。
―そうだ、家。一度戻って。
タキが立ち上がろうとしたその時、夏目が何か言った。

「…」
「何?…夏目君?」
「…なにも、できなかったんだ」
「…さっきの、妖のこと?」
「ごめん…て言いたかったのに」
口調ははっきりしているがその声はか細く、目の上まで濡らしたタオルが覆っているためその表情は読み取れない。

なんとなく、タキには夏目が泣いているように感じられた。

「…言えない」
妖の事だろうか、それとも。
「…一人になるのは…嫌だ」
立ち上がりかけていた足を戻し、タキはさらさらと冷たい畳の上に座った。
「(そうだ、今の夏目君を置いていくなんて駄目)」
「どこにも行かない、一緒にいる」
夏目が首を巡らせ、タオルがずれた下から潤んだような瞳が覗く。
「…寒いんだ、手を」
「手?」
「手を…つないで…」
夏目が自分から甘える様な言葉を口にするなんて、初めてかもしれない。
タキは掛け布団の隙間から僅かに伸ばされた手を握る。
それだけでは足りない気がして、思い切って布団に滑り込み夏目を抱きしめる。
「…一人になんてしないから」

まだ湿り気を帯びた髪を胸に抱き寄せ、背中にしっかりと腕をまわし、呟いて目を閉じた。


771:名無しさん@ピンキー
10/01/28 22:42:56 1oqXHU2T
―その参―

夏目が目を覚ますと、自分を抱き抱えるようにして隣にタキがいた。
昨夜虚ろな意識の中でタキに言った事も覚えている。
「(…居てくれたのか)」

まだ頭の芯に熱い塊がある様な気分だが、どうやら熱は下がったらしい。
部屋の中はぼんやりと明るく、長い夜は終わっていた。
「(何時だろう…)」
夏目が起き上がろうと身動ぎするとタキも目を開く。
「おはよう…大丈夫?」
「うん、平気みたいだ…」「何時かな…ちょっと見てみるね」
入り口の襖に寄せて置かれたかばんを取ろうとタキが立ち上がりかけると、足にまとわりついていたスカートが捲れる。
反射的に外そうとした夏目の視線はそのまま凍りついた。
「…タキ。どうしたんだ、その傷」
自分の足を見たタキは何でもない事の様に答える。
「傷?ああ、昨夜藪に入った時に」
タキの膝の辺りには引っ掻いたような沢山の細かい傷と、血がうっすらと滲み擦れた跡がある。
よく見ると額や頬にも擦り傷があった。
「…ごめん」
「大丈夫。なめたら治るわ」
笑ってくれるタキに、夏目は俯いてしまう。
「また巻き込んでごめん」
―タキに怪我をさせてしまった。いつもいつも、大切な人達に迷惑をかけて、気遣わせて、心配させてばかりで。
―おれは何て弱いんだろう。

「この家に、ずっと居たいんだ。藤原さん達にも西村にも北本にも…おれの事で悲しんで欲しくないんだ」
事実を知っているからこそ。
「…田沼とタキには尚更」
彼らと自分を守るために、せめて巻き込むことのないように。
「…強くなる」

夏目君、と呼ばれる。
確かな光をたたえたタキの漆黒の瞳が、しっかりと夏目に向けられている。
「滋さんも塔子さんも、西村君も北本君も田沼君も」
息をつく、その姿さえも凛としている。
「私も。迷惑だなんて思わない」
「夏目君の居場所はここで帰る場所もここ。もう見えているかしら?貴方の傍にみんないるわ」

「それはきっと、一人よりずっと強いの」
信じて。タキの瞳にも言葉にも力がこもる。

「優しい出会いもあるんだもの。…妖と関わるのも悪い事ばかりじゃないのでしょう?」
先生みたいにね、とタキが笑った。

しんと冷えた部屋の空気が、やわらかくあたたかな色に変わる気がした。

―とても強く聡明な君に、おれは教えられることばかりだ。


772:名無しさん@ピンキー
10/01/28 22:43:46 1oqXHU2T
―その四―

「おまじないをしてあげる。信じられるおまじない」
「…おまじない?」
聞き返す夏目の前に立ち、タキは軽く顎を引く。
「すごい効き目よ?」

そう言って、コサージュのついたカーディガンと、滑らかな素材のブラウスの釦を自ら外していく。
ぷつ、ぷつんと微かな音は何故か官能的に響いた。
滑らかで染みひとつない白い肌に、淡いピンク地により濃い同系色のレースの花が散ったブラが映える。

「…そんなに見つめてたら照れるよ」
くすくすと笑うタキの頬も、はだけた服の隙間から覗く素肌も甘い色に香るようだ。
躊躇いのないその仕草に魅せられていた夏目は我に返る。
「ま、待ってくれタキ」
何を、と言い掛けた夏目の唇にタキはしなやかな指を当てた。
「駄目よ?邪魔しちゃ。…おまじないって言ったでしょう」
タキは艶然と笑む。
「…ちゃんと見ていてね」
背中に手を回して服の下からブラのホックを外し、肩に引っ掛かった部分は器用に袖口から抜き取った。
その下からはぽつりと淡紅色の花を咲かせた丸くなだらかな曲線が現れる。
す、と立ち上がり屈んでソックスを脱ぐ仕草に、裸に上着を羽織っただけの胸元は当然無防備になる。
弾力と張りを保ったままの乳房は下を向いてたぷん、と揺れた。
そのまま膝上のてろんとしたスカートの裾を両手でたくし上げる。
白く張り詰めた太股の外側のラインをなぞりつつゆっくりと下着を足首まで下ろし、片足ずつ後ろに跳ね上げるようにして脱ぐ。

下着以外の服を羽織っただけのタキの姿はどうしようもなくいやらしくて、夏目は思わず目を逸らす。
ふわり、と甘酸っぱい果実に似たタキの香りがした。首筋にするりと手が伸びて、同じ匂いがする柔らかい唇が重ねられる。
舌先がつ、と唇を舐めて隙間から割り込むようにぽってりとしたものが差し込まれた。
は、はあ、と弾むお互いの息が混ざり合う。
舌を探りあて絡めてくるのに夏目が応えると、途端に唇は離された。
「…夏目君も、脱がせてあげる」
細い指で釦を外し、片方ずつ抱えるようにして袖から腕を抜く。そのままシャツを背中側に落としつつ抱きついてきた。
ぎゅっと温かなタキの胸が押しつけられ、跳ね返される感触の中の先端はすでに固い。
どくどくと脈打つ音が、自分のものかタキのものか夏目は判断出来なかった。


773:名無しさん@ピンキー
10/01/28 22:44:27 1oqXHU2T
―その伍―

「クリスマスのお返し。元旦だからお年玉かな」
顔を離して言うその頬にはほんのりと朱がさしている。
「(綺麗だな…)」
夏目は素直にそう思う。タキは強くて真摯で、とても美しい。
眩しい程に。

「キスからちゃんとしてね?…次は胸。あとは…」
少し首をかしげくすっと笑いながら、
「…おまかせ」
耳たぶを甘い囁きと微かな悦びの色を含んだ吐息がくすぐる。

夏目は促されるままキスをする。
最初はゆっくりとお互いの唇の先端で軽く初々しく食みあい、僅かに湿り気を帯びて葡萄の粒に似たタキの唇を味わう。
どちらからともなく、貪るように奥まで舌を絡め始め、口腔内は互いの息と唾液で熱く充たされる。
「っは…」
磨かれた石の様につるりとした歯の裏側を、微かにざらつく舌の表面をじっくりとなぞって、口づけは徐々に濃密になる。
「んっ…」
ふるふると頼りなく身を震わせていたタキが弾む息の下誘う。
「…つぎ、は?」
布団に押し倒した弾みで、はだけたブラウスが胸を隠す。
繊細な刺繍が施された上からでもつんとまるく尖った部分は目立って、生地の下に微かに桃色が透ける。
夏目はそのまま布のうえから乳首を口に含み、ちゅ、と吸う。
「やっ…染みになっちゃ…う」
肘の内側で顔を覆ってタキが抗議するのに、
「…こんなに固くしてたら、仕方ないと思うよ」
エッチだね、と囁いてまた強く吸いつく度にタキは喘いだ。
「ふっ…んん…っ」
「タキは…ここ、弱いのかな」
試してみようか、と言って服を避け、熟れる寸前の白桃の様な柔らかな起伏を手のひらでゆっくりと撫でる。
カーテンを透かして窓から射し込む光に、固くぷっくりとした頂点は紅い果実。
指先で軽く触れ上下に左右に回すようにし、軽くくいっと摘むとタキの体は敏感に反応した。
「あっ」
という声と同時にびく、と震える。
すかさず口でくわえ、舌先で突くように舐め、小刻みに吸う。
「っは、あ…はあっ…んんっ」
食感はこりこりと心地よく、執拗に舐めているとタキの息遣いが一層乱れる。
「っふ…はんっ…」
「感度が、いいね」
夏目に返すタキの声は喘ぎ混じりで切なげだ。
「…とても、どきどき…す、るの…んっ…それに…透、でしょ…たかし、く、はんっ」
心なしか身を震わすタキに、夏目はささやかな仕返しを試みた。


774:名無しさん@ピンキー
10/01/28 22:45:07 1oqXHU2T
―その禄―

「透。…今日はちゃんと、良い声聞かせてくれよ」
タキの顔が見る間に赤くなるのを確かめて、蕾を口に含み舌先でこねるようにくりくりと転がし甘噛みする、今度は左。
「んっ、ああっ」
タキの体はリクエストに素直に応え、白い頤(おとがい)を反らして悶える。
「っ…あ…あんっ」
その間に夏目の右手の指はスカートに隠れた足の間に忍び込んでいき、淡い茂みと熱を帯びた花の中から小さな花芯を探り当てる。
ぬるぬるとしたそこを突き、摘む様に愛撫すると、
「やっ、あっ…だめっ」
喘ぎながらもタキが手で遮る。
「後はおまかせ、だろう?」
力の入っていない手を払いのけ何も言わせず指先を滑り込ませると、タキの中はねっとりとまとわりつき、くちゅくちゅと湿った音をたてた。
「あっ…あっ、…はっ…はあっ」
良い声で喘いでくれる。
膝の傷にゆっくりと舌を這わせるとタキは吐息を漏らす。
「…はあっ」
「…舐めたら治るよ」
そのままスカートの中に顔を入れ、むせるような女の香りで満ちた太股から足の間までじっくりと舐め上げる。
膨らみを舌で軽く触れるように責めつつ指の動きを早めると、タキは体をくねらせ淫らな声でねだった。
「…貴志、くんっ…欲しいっ」
それには答えずカーディガンとブラウスは一度に、スカートは焦らす様に脱がせてからゆっくりと侵入する。最後まで入った瞬間、タキがびくん、と体を震わせた。
「…はっ…あ…あつ…いよっ貴志くん…の」
「…どう、する?」
「たくさん、動いて…」

しっとりとした睫毛の陰の潤んだ瞳も、
快感の為に先程よりずっと赤みを増した頬も、
汗ばんで吸いつく肌も、
口元にひとすじ張りついた髪も、
喘ぎで息も絶え絶えな声も、その全てが艶めかしく。

夏目がそのまま前後に動き始めると、タキの喘ぎが更にいやらしくなる。
「ああっ、あんっ!」
身悶えるその整った顔には恍惚が浮かぶ。
「あんっ!はんっ!」
奥まで激しく突き上げるとタキのからだは反り、腰が夏目をねだるかのようにくねる。
「すごっ…だめ…やあっ…!」
繋ぎ目から溢れる蜜が激しい音をたてている。きゅうきゅうと中は吸いつくような感触と共に締め付けられていく。
「っまだっ…だめぇ…っ…もっとっ…」
腰がぐっと夏目に向かって押しつけられ、指先は引き裂くようにシーツを掴む。
「もっ…とっ…あんんっ!あっ…はっ」


775:名無しさん@ピンキー
10/01/28 22:45:43 1oqXHU2T
―その七―

タキのからだも内側もより大きく震えた。絹を染め上げる様に、透き通った肌の内側から桜色が浮かび上がってくる。
「あんっ!」
動きながらすくい上げる様にして抱きしめると、より深くまで届いたのかタキは一際高い声をあげた。
「…良い声だね」
向かい合い頬を寄せて囁く。
「やっ…そ、んな…ことっあんっ…言わないでっ…はあんっ」
唇も胸も擦れる程に近く、密着した部分からは互いの粘膜の温度も触感も快感も全てが直に伝わる。
恥じらいながらも抗えないタキの乱れる姿がいとおしい。
「んっ…気持ちっ…いっ…!」
思わずタキが発した言葉に夏目の理性は飛んだ。
「…っ透!」
「貴志くんっ…私もっ…」
タキの中で夏目は達した。

776:名無しさん@ピンキー
10/01/28 22:46:21 1oqXHU2T
―その八―

枕元に寄せた時計を見ると7時だった。とっくに年は明けたのか。
「ニャンコ先生、帰って来ないな…」
夏目の言葉にタキが反応し、焦って立ち上がる。裸のままで服を探す背中とちらっと見えたおしりが可愛らしい。
「帰ってくる前に服、着なくちゃ!」
夏目は苦笑する。確かにそうだ。こんな姿を見られたらからかわれるに決まっている。

慌てて脱ぎ散らかした服を着終えたタキが突然はしゃいだ声になる。
「そうだ!夏目君と先生にお土産があるの」
先程までの色気とは別人みたいな満面の笑みが可愛らしい。
「へえ、何?…おれもタキにお土産があるよ」
「じゃあ私から。すごく可愛いの!三人お揃い♪」
「…可愛い?」
嫌な予感がする。
「ほら見て!先生そっくり!」
やっぱり。目の前には、招き猫。夏目は畳に突っ伏しそうになるのを辛うじて腕で支えた。
「…タキ。同じだ」
「…え」
畳の上に夏目の買った根付けも一緒に並べると、タキが目を見張った。
ちょっとブサ気味の招き猫が四つこっちを見つめている。
これはとんでもなく妖しい。
「先生ばっかり四つもあるな…」
「すごい状況だわ…」
「…何か呼び出せそうだ」
ぷっ、とどちらからともなく吹き出すともう笑いの連鎖は止まらずに、二人で腹が痛くなるまで笑った。


「昨夜はありがとう。…一緒に居てくれて、嬉しかった」
タキを見つめていた目をすっと逸らして夏目は言う。切なげな表情。長めの前髪が瞳を隠す。
「タキは…帰るんだろう?」

タキは何故か、夏目の言いたい事が分かってしまった。

「私、一度帰ってまた来てもいい?」
微笑んで言うタキを夏目が驚いた顔で見ている。
「それで、藤原さん達が帰って来るまで夏目君と一緒にいたいんだけれど」
どうして分かったんだ?と書いてあるみたいだ。

タキはとてもとても嬉しくなる。夏目がいとおしくてたまらない気分になる。

「一度帰ったら着替えて、食糧を確保してくるの!おせちとか!お雑煮とか!ミカンとか!」
だってお腹がすいたもの!とぐっ、と胸の前で手を握った。
「はは、タキはしっかりしてるな…」
一呼吸して、
「ありがとう」
夏目は笑う。



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