08/10/04 21:04:45 l/tRA/Fz
それだけ言うともう耐えられないといった様子で視線凶華は逸らした。
言われた凰火は固まる。
そうきたか。ここできたか。たしかに良いムードかもしれない。
ただ…、今まで一度もまだしていないのだ、その行為を。
「凰火…」
寝間着のすそをきゅっと握る凶華の手が可愛い。
夫婦なのだから何を躊躇うことがあるのか、そう思いながらもいまいち踏ん切りがつかなかった。
別にしてもいいのだが、する状況にならなかった。いや、そうだっただろうか。
色々と言い訳をしてみるが、ただ自分に意気地がないだけなんだと思う。
凰火が思考の渦の中を彷徨っていると再び大きな瞳で見つめられた。
「一億回でなくていいから」
「凶華……」
大事な存在は、壊したくないから。触れるのも臆病になる。
少女漫画に従ったかのように凶華は目を閉じる。王子様のキスを待つ、お姫様のように凶華は待つ。
小さな唇がやけに艶かしく見える。普段はただうるさいだけの言葉しか紡がない唇が。
凰火はそっと凶華の頬を手のひらで包む。ぴくりと反応しつつも瞳を閉じたままの凶華。
「凶華…」
まるで凶華との距離が今の倍の倍の倍くらいあるような気がしながら凰火は顔を近づけた。
ぷにっと触れるやわらかい感触。ふぅっと小さな隙間から漏れる息が凰火の唇にかかる。
やわらかい、やわらかくて蕩けてしまいそうで、ほんのり甘い気がする。
初めて味わう妻の唇はまるで砂糖菓子のように感じられた。
ほんの少しの間触れるだけで、離れてしまった短いキス。それなのに目を開けてみると目の前の妻
は瞳を潤ませて頬を赤らめて、微かに震える体をぎゅっと自ら抱きしめていた。
「どうですか?」
少し意地悪に感想なぞ聞いてみるがきゅっと目を瞑って何かを耐えるようにしている。
甘ったるい息を吐いてから少し落ち着いたのか、凰火の方を見上げると唇を開いた。
「凰火、どうにかしろ。胸がきゅうってなって苦しい」
どうにかしろと仰いまいしても。
こちらはあなたのその様子と言葉で下半身で息子がきゅうってなって苦しいのですよ。
「おそらく、僕がなんとかしようとしても、あなたの胸の苦しさは増すばかりではないかと」
自惚れてそんなセリフを吐いてみるも、凶華は相変わらず潤んだ瞳で見上げてくる。
「なんなのだ貴様、そんなに凶華様を苦しめたいかっ」
「えぇと、僕のせいであなたがそういう風に苦しくなるのなら……悪くはないですね」
そうにっこり微笑むと、凰火は我慢しきれなくなったかやや強引に凶華の顎を掴むと先程より乱暴に
口付けた。
「ん…っぷ、…お、…ぅ…かぁ」
凶華の唇が開いた隙に、凰火は舌を潜り込ませた。驚いて引っ込んだ凶華の舌を追いかけ、絡め取る。
ぬるりと不思議な感触の裏側からざらざらした表から余すところなく舐めまわし、ちゅっと吸う。舌を開放す
ると、今度は口腔内をこれでもかと言うほど蹂躙しつくし、最後に色づく唇に甘噛みしてから放した。
「はふぅっ……おうかぁ……凰火ぁ……」
なんだこれ、と凶華ははぁはぁと荒い息をつく。
「こっちが大人のキスですね。お気に召しませんでした?」
「なんか、へん……」
凶華は凰火の大きな胸に頭を擦り付けた。ようやく自分から近づいてきた猫を凰火は抱き寄せる。
「なんか、体がへんだよぅ…凰火ぁ……、あつくって、なんだかむずむずするぅ…」
甘えるように高い声で搾り出すように喋る凶華に更に欲望を滾らせた凰火はぎゅっと抱きしめると、はぁー、
と長いため息をついた。
「すみません、そんなつもりはなかったのですが……」
「へ?」
訳の分からない夫のセリフに凶華が混乱している間に、凰火は凶華を仰向けると覆いかぶさるように向き
合った。