【貴方なしでは】依存スレッド3【生きられない】at EROPARO
【貴方なしでは】依存スレッド3【生きられない】 - 暇つぶし2ch700:心の隙間~続
09/03/10 07:25:55 bEElFY9a

「ヒック…お兄ちゃん…ウゥ…私…お兄ちゃんと…ヒック…」

途切れ途切れにしか聞こえないのでなにを言ってるのかわからないが、なんとなく言いたいことはわかる。

「あぁ~わかったから…もう言わないから、ほら早く下に降りよう…あと化粧なおさなきゃ…すごいことになってるよ?」
涙やら鼻水やらで綺麗な顔が台無しになっている。


「…うん……抱っこ…」

話をちゃんと聞いていたのだろうか…首に腕を絡めてくる…早く料理を食べなきゃ、マジで遅刻してしまう…

「また今度してあげるから…本当に遅刻するから先に下に降りてて、お姉ちゃん起こして俺も降りるから。」
渋る凪を一階に向かわせる。

「ふぅ、後はお姉ちゃんか…」

家族の中で母の次にやんちゃな姉を起こしに行く…まぁ三人しか家族はいないのだが、凪と恭子さんを合わせても、母のやんちゃぶりは群を抜いている。
その母の血を受け継いだ姉を今から起こしに行くのだ。

―「お姉ちゃ~ん?もう起きてくださいよ~」
コンコンとノックをする…返事は無し。

「お姉ちゃん、入るね?」

姉の返事は無いが扉を開ける。

ベッドに近づくと、幸せそうな顔で抱き枕を抱きしめ、気持ち良さそう眠る姉の寝顔があった。

701:心の隙間~続
09/03/10 07:26:41 bEElFY9a

「なんの夢みてるんだ…えらい幸せそうな顔しているけど…」
ニヤニヤしながら抱き枕にキスしている…
幸せそうな顔を見ていると起こし辛いのだがそうも言ってられない…

「お~い、起きてくれ~、朝飯できたよ~?」

「ん~うるさい…。」
うるさいとは何事だ…所々はだけているが寒くないのか、お腹むき出しでもにやけている。
しょうがないので強行手段で行くことにする…。


「よいしょっと………ほら、こちょこちょ~」


「やひゃははははは!?、ひ~ひひひひ、やめてぇ~起きるから~」
姉のお腹に体重をかけないように馬乗りなり、わき腹をくすぐる。

「ほら~こちょこちょ~」

「あっははははっ、止めなさッ、きゃはははは!、起きますからぁ~っ」

脇から手を離す。
物凄く疲れた顔をしており、ぐったりしている。
寝汗ではない汗のせいで肌にパジャマがへばりついている。

「起きるって言ったのになんで止めないのよ!?オシッコ漏らしかけたじゃない!」

「いつも起きないから少し長くしました。早く下に降りてきてね。」

姉を解放してベッドから降りようとする……が姉に足を掴まれた。


「ふふっ……さんざん私の体で遊んだんだから、お返ししなきゃね。」

702:心の隙間~続
09/03/10 07:29:45 bEElFY9a
「お兄ちゃんもお姉ちゃんも…朝から暴れすぎ、近所迷惑になるよ?」

「「すいませんでした。」」

姉に捕まった後、20分近く布団の中に引きずり込まれて、もみくちゃにされた…凪が見に来なければもっと長くやられていただろう…。

「もうお兄ちゃんが作った料理、冷めてるよ?」

「あぁ~そうだ!料理作ってたんだ!」

料理のことをすっかり忘れてた…姉を睨むが、そそくさとシャワーを浴びに風呂場に逃げてしまった。

「まぁ、いいか…早く食べて、行かなきゃ…大学生初日に遅刻するわけには行かないからね。」

そう…俺は姉と同じ大学を受験して晴れて今年から大学生なのだ。
姉も一年留年したので俺と一緒に行くことになっている。

やはりあの一年は大きかったみたいだ…姉に謝り倒したが、「勇と大学行けるなんて夢みたい!」とあまり気にしていないようだった。

「ほら、お兄ちゃんも着替えて、パジャマのまま行くの?」

凪に指摘されてパジャマのままだと初めて気がついた。

「それじゃ、着替えてくるから、リビングで待っててくれる?」

「うん、わかった…それじゃ、お兄ちゃんが作ったやつ暖め直すね。」

そう言うと凪は姉の部屋から出ていき、リビングに向かった。

703:心の隙間~続
09/03/10 07:57:19 bEElFY9a
服を着替えて、リビングに降りる、姉もお風呂から出てきてイスに座っている。

「勇は遅いなぁ~待ちくたびれてお腹空いたよ。」

さも早起きしたみたいに話す姉に少しムッときたが、反論すればまた長引く…。

「すいませんね、それじゃ~ご飯食べよっか?」

「うん、それじゃ、いただきます。」

―凪が二年前に越してきてこの生活か始まった…始めはどうなるかと不安だったがみんな仲良く今まで過ごしてこれた。

姉も凪も一緒に買い物に行ったりと仲の良い友達感覚で接しているみたいだ。

俺も二年たてば少しは成長できたかもしれない。
成長できたか父に聞いてみたいところだ…

父の夢はあの日以来一度も見ていないが、父との約束は今でも守っている。

隙間だっていつの間にか綺麗に埋まっていた。



―「勇…もうすぐお父さんの命日だから…お墓参りいかなきゃね。」

そう…もうすぐ父の命日なのだ…人生が一変した日、いろいろな物を失った日でもあり、たくさんの物を得た日でもある。

「うん、大学生になったこともお父さんに報告しなきゃいけないしね。」



―なによりこの新しく新鮮で楽しい日常を父に報告したくてたまらなかった。

704:名無しさん@ピンキー
09/03/10 08:09:46 bEElFY9a
少ないですが心の隙間続編は終わりです。

新しく書く時はもうちょっと濃い依存内容の物を書きたいと思います。

705:名無しさん@ピンキー
09/03/10 10:35:16 4ZIRyFfk
>>704
続きキタコレ
これからの展開に期待しています

706:名無しさん@ピンキー
09/03/11 01:13:56 BzNfTMZL
>>704
GJ!
新作楽しみにお待ちしております

707:名無しさん@ピンキー
09/03/11 11:14:18 cDord+bd
GJ
新作待ってる。

708:名無しさん@ピンキー
09/03/11 22:50:27 1dszr8hm
>>704
GJ!!!
新作は何時ごろだろ?

709:名無しさん@ピンキー
09/03/11 23:03:07 zpuxROha
妄想は有れど文は作れず…

710:名無しさん@ピンキー
09/03/12 00:18:04 Th56B7Cw
>>708
>>686に4月15日以降って書いてる。
>>709
頑張ってくれ!待ってます。

711:名無しさん@ピンキー
09/03/18 00:43:14 c8VPrBxI


712:名無しさん@ピンキー
09/03/20 04:04:39 aEA+EVX8
依存し合う女の子同士

という電波を受信した

713:名無しさん@ピンキー
09/03/20 10:14:50 cIL42gP1
さあ早くそれを文章にするんだ

714:名無しさん@ピンキー
09/03/20 20:02:08 SGoKmm67
双子姉妹を希望

715:名無しさん@ピンキー
09/03/22 13:43:48 UmztdGqy
誰もいないね~

716:名無しさん@ピンキー
09/03/22 22:49:15 8wE3zpkT
依存は小ネタが作りにくい


一応age

717:桜木マヤは俺の嫁
09/03/24 03:30:33 EG9au3hc
 土砂降りの雨の中を俺は傘も差さず走っていた。
こんなに急に降るなんて思っていなかったからとにかく早く帰るしかない。
あと少しで家に着くというところで、道の隅の黒い固まりに俺は気付いた。
最初はでかいゴミかと思った。
違う。
丸まっている猫?
違う。
それはうずくまった女の子だった。
「きみどうしたの? かぜひくよ」
女の子は何も言わず俺をじっと見ている。
「まいご?」
返事はない。
「まいごならうちにおいでよ」
今思えば俺はずいぶん遠慮のない子供だった。
その行動が俺の人生を変えることになるなんて、もちろん想像もしていなかったさ。


 目を覚ますと、視界全部が白い顔だった。
顔の主は灰色の瞳を微動だにさせず俺を見つめている。
いつものことでなければ飛び上がっているところだ。
「マヤ、頼むから寝ている俺を観察するのはやめてくれ。呪われそうだ」
「そう」
マヤは意に介さずとばかりに背を向け部屋の外に出て行った。
ご飯できてるから、とだけ小さくつぶやいて。
俺は何か言おうとしたが、朝日に照らされるマヤの銀髪はあまりに綺麗で、
俺はまだ夢の中にいるような気がしちまったんだ。
それにしても懐かしい夢だったな。
もう10年以上もたつのか・・・・・・。

 俺がリビングに降りると、そこには香ばしい焼き魚の香りが漂っていた。
マヤお得意の純和風献立だ。
料理に関してはすでにうちのオカン以上の腕前と言っていい。
学校の制服にエプロンというマヤの出で立ちも正直言って眼福だし。
俺はマヤと向かい合う場所に座っていただきますを言った。
両親が長期出張に出てからはや一週間、二人だけの暮らしにも慣れてきている。
うん、やはりうまい。
ふと顔を上げるとマヤはその無機質な目でじいっとこちらを見ていた。
「いつもありがとう、うまいよこれ」
「そう」
マヤは頬をわずかに染めて目をそらした。
意外に褒められるのに弱いんだよなこいつ。
米の一粒も残さずに平らげごちそうさまを言って席を立つ。
マヤが食器を片付けている間に俺は部屋に帰って着替えと支度。
全くもっていつも通りの平和な朝だ。

718:桜木マヤは俺の嫁
09/03/24 03:31:10 EG9au3hc
 俺とマヤは必ず二人並んで歩いて登校する。
学校が近くなるといろんな奴がマヤの前に現れては挨拶していく。
中にはアイドルに対面したファンのように興奮する女の子さえいる。
大抵俺は視界に入っていないとはいえ、そんなことを今更気にすることもない。
マヤは少々目立ちすぎる。
隣にいる平凡な男に気付かなくなるぐらいには。
170センチを超す長身、真っ白い肌や腰まで届く銀色の髪。
ソフトボールみたいな小さな頭と大きな灰色の瞳。
可愛いとか綺麗を超えた、ある種この世のものとは思えない幻想的な美しさ、
それが桜木マヤという少女だった。
誰もマヤを日本人とは思わないが、かといって何人なのかと聞かれても
誰にもわからない。俺にも、本人にさえも。

 あの日、あの雨の日に俺がマヤを連れて帰ったとき俺の両親は当然うろたえた。
マヤは自分の名前以外は何も知らず、親がどこにいるのかさえもわからなかった。
翌日オカンは警察に連絡したが何日待っても何一つ成果は得られない。
やがて児童福祉施設の職員さんが彼女を引き取ろうと現れた。
だけどマヤはそれを拒む。
ほんのわずかな期間だったが、仮の住まいとしてうちで暮らす内に
彼女はこの家が気に入ってしまったようなのだ。
何より俺にはずいぶん懐いていた。
職員さんが近づこうとすると彼女は俺の陰に隠れてひどくおびえる。
そんな様子を見たうちの両親はマヤを自分たちが育てることを決めた。
「元々女の子がほしかったしね。
 第一マヤちゃんあんたよりよっぽど可愛いじゃない」
それがオカンの言い分だ。
とにかくそれ以来マヤはうちの家族の一員になった。
年齢はもちろんわからなかったが俺と同じでいいだろってことになった。


719:桜木マヤは俺の嫁
09/03/24 03:32:03 EG9au3hc
 あれからもうずいぶんと経つ。
それにしてもまさかこんな美人になるなんてなあ。
なんとなくマヤの横顔をちらりと見ると、
その前からこちらを見ていたらしい彼女と目があった。
マヤはほんのわずかに口元をゆるめてわかりにくい笑顔を浮かべる。
「コウ」
「ん?」
「なんでもない」
「そうか」
「そう」
「マヤ」
「なに?」
「別に」
「そう」
マヤと歩いているときはいつもこんな感じでまともな会話はほとんどない。
それでいいと俺は思う。
いつまでもこのままの関係でいられるはずはないけれど。
校門をくぐると、クラスが違うのでここでいったんお別れとなる。
「じゃあな」
「うん」
別れ際彼女は必ず少し寂しそうな顔をする。
俺はいつものようにあえてそれを気にしないふりをしてさっさと立ち去った。
俺は寂しくなんかない。

「ようナイト君」
「その呼び方はやめろっつーに」
機嫌良く話しかけてきたのはクラスメイトの岡島だ。
俺のことを「姫のナイト」と呼ぶお調子者。
姫が誰かなんて言うまでもないだろう。
「耳寄り情報だぜ。姫がまたコクられた。今度は生徒会長だ!」
「ふ~ん」
ケータイをいじりながら適当に相づちを打つ。
ちなみに電話帳をスクロールさせているだけで意味のある操作はしていない。
「ふーんじゃねぇよタコ。
 ナイト様としてどういう了見なんだ。
 生徒会長のところに殴り込みに行かねぇのか」
「なんで殴り込むんだよ」
「姫をかけて決闘するに決まってんだろ」
偉そうにフフンと鼻を鳴らし胸を張る岡島。
「アホか」
ケータイを机において岡島を見上げる。
「俺はマヤの彼氏じゃない」
「じゃあ何か。兄か弟か。それとも単なる同居人、か?
 誰が信じるんだよそれ」
信じるも何もない。あいつと俺とは家族だ。
誰より大切な家族だけど、決して恋人同士なんかじゃない。
あいつは俺に懐いているだけだ。
刷り込みって奴だ。
恋愛感情とは違う。

720:桜木マヤは俺の嫁
09/03/24 03:33:11 EG9au3hc
「コウ!」
廊下を歩いていると後ろから大きな声で呼び止められた。
この声を間違えるはずがない。
そいつは校則なんぞ気にせず廊下を走って俺に追いついた。
「コウ、どこに行っていたの?
 教室にいないから探したよ」
マヤは息を切らせて肩を上下させている。
結構走り回ったんだろうな。
「別に、散歩していただけだよ」
「お昼ご飯は?」
「食堂で済ませた」
「どうして!?」
俺の弁当は毎日マヤが作っている。
マヤは家でそれを渡すことはせず、必ず学校で一緒に食べる。
「俺だってたまには食堂の飯が食いたくなることぐらいある」
嘘だ。
あんな400円の丼よりマヤの弁当の方が100倍旨い。
マヤはもう泣きそうな顔になっていた。
「あたしコウを怒らせた?」
「別に」
「飯島先輩に告白されたから?」
「違う」
俺がバカだから。
「あたしすぐに断ったよ。コウがいるのに、他の人となんて付き合えないよ」
「なんで!」
バカだからどうしていいのかわからないんだ。
「なんで断るんだよ! あんないい人他にいないだろ!
 俺なんかと比べものにもならないぞ!」
学校の廊下のど真ん中で俺は怒鳴った。
立ちすくんだままマヤはとうとう涙をこぼした。
「どうしてそんなこと言うの・・・・・・?」
俺はもう止まらなかった。
「マヤ、いい加減君は俺から離れるべきなんだ。
 俺なんかにべったりくっついていていい奴じゃないんだ。
 俺よりもっとふさわしい人がたくさんいるんだ」
「どうして・・・・・・?
 あたしはコウが一番好きなのに」
マヤは震えている。
こんなおびえたマヤを見たことがない。
これじゃまるで叱られる幼子じゃないか。


721:桜木マヤは俺の嫁
09/03/24 03:34:05 EG9au3hc
「だからそれは・・・・・・錯覚なんだよ。
 君は俺に拾われて、俺のおかげでのたれ死なずにすんだから、
 だから俺を好きだとカン違いしているんだ。
 俺に嫌われるとあの家に住めなくなると思っているから、
 だから俺を好きになるしかないんだ。
 ずっと俺にべったりで他の男とまともに話したこともないから
 俺が一番だと思い込んでるんだ・・・・・・」
「そんなじゃない・・・・・・そんなじゃないよ・・・・・・」
力なく首を振るマヤ。
「俺達は家族だ。家族はいつまでも一緒じゃない。
 いつか他の誰かを好きになって離ればなれになるんだ。
 だけどそれでも家族は家族、それはなにも変わらないんだ」
「違う!!」
マヤが叫んだ。
「あたしはコウが好きなの! あたしにはコウが必要なの!
 きっかけとか! 事情がどうとか! 錯覚とか!
 そんなのなにも関係ないよ!!」
胸にズシンと衝撃がかかった。
マヤが俺にぶつかってきたのだ。
「お願い、あたしを捨てないで。
 コウに捨てられたらあたし生きていけない」
「そんなわけが・・・・・・だって」
「知ってるよ。コウがあたしを嫌いになっても、
 パパやママまであたしを嫌いになったりしない。
 あたしはずっとあの家の子として生きていける。
 でも、ダメなの。
 コウじゃなきゃダメなの。
 コウがいるから生きていけるの。
 あたしにはコウが必要なの・・・・・・」
マヤは人目もはばからず泣き通しだった。
鼻水もグショグショに垂らして俺の制服ににじませた。
気がつけば俺達の周りには黒山の人だかりができている。
不思議と気にならなかったが。
「俺は・・・・・・俺だってマヤが必要だよ」
「それじゃあ」
「俺は・・・・・・そんなにいい奴じゃない。
 マヤに釣り合うような男じゃないし・・・・・・
 毎日君をオカズにオナニーしてるような奴なんだぞ」
「どうして言ってくれなかったの!」
突然マヤは顔を起こして俺をにらみつけた。
「あたしだって毎日コウでオナニーしてるよ!
 コウが出かけている日はコウの布団に潜り込んだりしてオナニーしてるよ!
 コウが寝ているときにこっそりコウにキスしたりしてるよ!」
「い、いきなり何言ってんだ!」
爆弾発言にもほどがあるぞマヤ。
「あたしたち似たもの同士だよ・・・・・・。
 ねえコウ。あたしのこと好きにならなくてもいい。
 家族のままでいいから、ずっとそばにいさせて」
「マヤ・・・・・・」

722:桜木マヤは俺の嫁
09/03/24 03:34:39 EG9au3hc
今まで見たこともないマヤのわがまま。
ずっと俺に忠実だったマヤの、絶対に譲れない一線がやっとわかった。
やっぱり俺はバカだ。
マヤがこんなに強い想いを持っていたのにそれに気付こうともしなかったなんて。
彼女を手放して、それからどうしようと思ってたんだ?
考えるほどに自分のバカさ加減に腹が立つ。
ここでケリをつけなきゃ一生もののド阿呆だ。
「ダメだ」
「え・・・・・・」
「好きにならないなんて無理だ。マヤのいない人生なんて無しだ。
 君は一生俺のものになれ」
そう、それが俺の本心。
結局俺だってマヤ抜きで生きていくなんて考えられないんだから。
「コウ・・・・・・!」
マヤの目からまた涙がこぼれた。
「マヤ」
「うん」
「結婚するぞ」
「うん!」
マヤは涙や鼻水でぐしゃぐしゃの顔をさらにくしゃくしゃにした。
そんなマヤの腰を乱暴に抱き寄せて俺は歩き出した。
目の前の人混みがモーゼの十戒のように割れていく。
俺はマヤを腕に抱いたままそこを突き進む。
「お、おいお前ら。どうする気だ?」
誰かが言った。
「家に帰る」
「午後の授業は? 帰ってどうすんだ?」
「夫婦の営みだ」
もう話すことはない。
俺は数十人の前でマヤにキスをした。
これが俺のファーストキス・・・・・・いや、違うのか? どっちでもいいか。
とにかく俺は見せつける必要があった。
無謀にもマヤに恋い焦がれるすべての奴らに対して。

桜木マヤは俺の嫁、ってな。



                完

723:名無しさん@ピンキー
09/03/24 10:53:18 WIq0JK0l
久々の投下に乙
そしてGJ!
ヤンデレ化がないマヤが良い!

724:名無しさん@ピンキー
09/03/24 21:31:37 nnirMJ/l
GJ!
ハッピーエンドな依存物っていいよね。


725:名無しさん@ピンキー
09/03/24 23:34:06 NDpze9Qr
GJ!!!

726:名無しさん@ピンキー
09/03/25 03:14:57 6S5pPGQW
GJ。癒される。

727:名無しさん@ピンキー
09/03/25 23:19:03 z8uBHwN2
久々に神をみたぜ・・・

728:名無しさん@ピンキー
09/03/27 16:43:40 WHuviSyk

次の8つのうち5つ以上あてはまると依存性人格障害が疑われます。

1.普段のことを決めるにも、他人からの執拗なまでのアドバイスがないとダメである。

2.自分の生活でほとんどの領域で他人に責任をとってもらわないといけない。

3.嫌われたり避けられたりするのが怖いため、他人の意見に反対することができない。

4.自分自身から何かを計画したりやったりすることができない。

5.他人からの愛情をえるために嫌なことまで自分から進んでやる。

6.自分自身では何もできないと思っているため、ちょっとでも1人になると不安になる。

7.親密な関係が途切れたとき、自分をかまってくれる相手を必死に捜す。

8.自分が世話をされず、見捨てられるのではないかと言う恐怖に異常におびえている。

まあジャンルの依存がイコール依存性人格障害な訳じゃあないがね。
って突然何貼ってんの俺

729:名無しさん@ピンキー
09/03/28 07:57:05 yFInZuwx
5つも当てはまった
ヤバいな俺

730:名無しさん@ピンキー
09/03/28 08:37:07 n/bnPX+2
結構当てはまってると一瞬吃驚した。
よくよく考えてみたら、ただ卑怯な奴なだけなんじゃねって事に気づいた。

731:ネトゲ風世界依存娘
09/03/28 20:32:54 GWXnS/xz
 生きていればいろんなことが起こるものである。
 有り得ないと思うようなことでも起こってしまうのが人生というものであろう。

 俺はしみじみとそう思った。

 ことの始まりは一週間前に遡る。

 俺はいつもの如く、VMMO……意識をオンライン世界に直結することで、本当に
異世界で冒険しているような気分になれるネットゲーム……で、遊んでいた。
 生活費以外の仕事の収入と仕事以外の時間を全てゲームに当てているいわゆる廃人と
いわれる人間である。

 俺がやっているVMMOは戦闘系スキルは武器や技ごとに分かれ、生産系スキルはさらに
細かく、一口に鍛冶といっても精錬スキルや採掘スキルなどの関連スキルが必要になるなど
分かれており、様々な職種のものと交流することで足りない部分を補っていくというシステムが
とられているゲームであった。
 そのためギルドシステムが発展しており、殆どの者はこれに加入している。
 だが俺はそんなゲームをソロで(知り合いは勿論大勢いるが)楽しんでいた。
 ゲームでは全部のアイテムとレベルコンプリートしないと気がすまないタイプの俺にとってこのゲームはまさに底なし沼である。

 何時もどおりに遊んでいたとき、俺は一人の女性(?)に出会った。実際に女性かどうかは
わからない。選択でどちらでも選べるからだ。
 とにかく、犬人族のその女の子は登録後初めに選ぶことの出来るはじまりの町の一つであり、
ゲーム中の主要6王国のひとつ、ミルガリンの首都、レトの中央広場で途方にくれていた。

 石畳で出来た広い広場にぽつんと立つその姿はまさに捨てられた子犬といった感じである。
なまじ生身に近い感覚があるだけに、戸惑いも大きいのであろう。不安そうに耳をぱたんと後ろに倒していた。

 俺は、裁縫スキルを上げるためにちくちくと最高級の革鎧を作りながら間違いなく
参加したての初心者であろう彼女を遠目で観察していたのだが。

(あ、声をかけようとしてる……無理だった。)
 ちくちく。

(おっ!今度こそ!!……あ、気づいてもらえなかった。)
 ちくちく。

(声をかけた!!おめでと……ありゃ。無視された。涙目だ。なんか苛めたくなるな。)
 ちくちく。おけ、鎧完成。

  涙ぐましい努力を続ける犬耳少女(?)がなんだか可愛そうになり、俺は声をかけることにした。
 スキルを上げ続けるだけでは正直しんどい。気分転換、きまぐれだった。


732:ネトゲ風世界依存娘
09/03/28 20:33:55 GWXnS/xz

「こんにちは。なんか探し物か?」
「ひゃあっ!あ、あの。こ、こんにちは!いえ、そんなのじゃないんです!」
 にこやかに声をかけると、犬耳少女は手をぶんぶんふって慌てていた。近くで
よく見ると初心者用の革鎧に初心者用の短剣を装備していることがわかり、予想が
当たっていたことを悟る。俺はなるべく意識してゆっくりと話しかけた。

「慌てずにゆっくり落ち着いて。いい?深呼吸。」
「はい……。」
 このゲームで深呼吸は意味は無い。気分の問題だ。

「で、どうしたの?」
「実は親に薦められて、ゲームに参加したんですが何をすればいいのかもわからずで……。」
 しゅんと、耳をたれて俯く少女。動物が混じったキャラは感情によって付属パーツが動く
ようになっている。全く製作者はよくわかっているといわざるを得ない。

「親が薦めるってまたなんで……いや、さっきの見てればわからんでもないか。」
「えええ、み、見てたんですか!」
「ああ。微笑ましかった。」
 くっくと笑うと、彼女は涙目で俯いていた。

「私、暗くて不細工で引っ込み思案だから……中学でも苛められて……
こういうゲームならどうかって……。」
「こらこら。こういうゲームで自分の身分が判る様なこと言ったら駄目だ。」
「そうなんですか。……ごめんなさい。」
 く、暗い。俺は内心顔を引きつらせながらも、笑顔で胸を叩く。

「まぁゲームは楽しくやるもんだ。今日は俺が町を案内しよう」
「え、いいんですか?」
 ぱぁぁぁっと表情が明るくなる。顔を上げた少女のキャラメイクはとことん地味で
あったが、髪や瞳の色合いは落ち着いた茶色を用いており、顔立ちは少々幼いが穏やかな性格で
あることを思わせることに成功していた。
 正直、笑顔は可愛かった。

「お兄さんに任っせなさっい!俺はベテランだからな。」
 わざと馬鹿っぽく大げさに身振りをつけて話すと彼女は徐々に緊張が取れてきたのか
微笑んでいた。

「有難うございます。親切なんですね。」
「暇だったしな。で、名前は?」
「えっと、若……じゃなかった。蕾です。」
「俺は匠だ。今日だけだと思うがよろしくな。」
 今日だけといった俺に彼女は驚きの表情を向けるが、俺は真剣な顔で続ける。

「今日だけ……ですか?」
「俺と君じゃ強さがぜんぜん違うからな。それに、蕾ちゃんは自分で頑張らないと意味ないだろ。」
「はい……。」
「だから、自分で楽しみを見つけていくんだ。」
「はい。」
 ぶっちゃけ、毎日初心者の相手なんてしてたらきりが無い。俺はそんな内心をおくびにも出さずに笑顔に切り替える。

「まあでも、今日は一緒に楽しもうな。」
「はいっ!よろしくお願いします。」
 犬耳少女─蕾は尻尾をぱたぱた振り耳をぴんと立て、満面の笑顔で頷いた。俺は表裏無く喜ぶ彼女に、多少の罪悪感を感じていた。



733:ネトゲ風世界依存娘
09/03/28 20:34:50 GWXnS/xz

「今日はそろそろ落ちようか。」
「はい。有難うございました。本当に楽しかったです。」
 現実世界で午前2時、出会ったのが夕方6時だったのでたっぷり8時間、町の主要施設案内を
した後に味を実際に感じることの出来る甘味処へ案内して奢りでケーキを食べたり、生産スキルを
実践してもらったり、町の外で狩りの仕方を教えたりしていた。

 腰の低い性格で引っ込み思案っぽい彼女も打ち解けると、一つ一つのゲームの演出に
年相応の女の子のようにかわいらしくはしゃいでいたのは印象的だった。

 時間が過ぎるのはあっという間で、今は出会った街中の広場で別れの挨拶をしていた。

「明日から頑張れるよな?」
「はい!匠さんにはなんてお礼をいったらいいか。」
 そういって笑顔で頭を下げる蕾をみて俺は心底いいことしたなぁと、充実した気分に
なっていた。……のもつかの間であった。

「な、なんだ?」
「きゃっ!!」
 ごごごごごごごっ!!!!!!!!!!と大きな地震が起き、世界中が崩壊するような地響きが轟く。
バグったか!?と思ったその瞬間、脳がミキサーにかけられたような不快感と痛みが俺を襲う。
 勿論そんなものに耐えられるわけも無く、俺は意識を失っていた。

 どれくらい気を失っていたのだろうか。判らないが目を開けると心配そうに俺を覗き込む
蕾の顔があった。

「あれっ……。どうなった?」
「わかりません。」
 俺の問いかけに彼女は涙を浮かべながら不安げに答えた。

「地震が起こったかと思うと街中の人が頭を抑えて蹲って……、私はちょっと頭痛が
きただけでしたけど匠お兄さんの苦しみ方は死んじゃうんじゃないかと思いました。」
「それは良かった。蕾ちゃんが無事で。」
 初めてのプレイでこんな事故であんな痛みを体験したらトラウマになる。
 そう思って俺は心底ほっとする。

「有難うございます。それで……気がついたら中央広場に急に人が大勢出てきて……。」
 俺はその言葉を聞いて周囲を見渡す。彼女の言葉通り、中央広場には普段以上の人や
獣人で溢れていた。


734:ネトゲ風世界依存娘
09/03/28 20:35:27 GWXnS/xz
 ゲームでのこの首都の謳い文句は人口100万の都市というものであったが、参加プレイヤーの
数の関係上、そこまでの表現は出来ない。
 だが、今、広場は人ごみと喧騒で溢れており、実際に大都市の熱気が感じられた。作り物っぽかった
街並みも生活の雰囲気を感じさせる。それに、街の広さも大きくなっているような……

 俺は眉を潜めた。

「それから…ログアウトが出来ません。」
「システム画面が……出ないな。ステータスやスキル表示も何も出ない。」
 彼女はもう涙を流していた。俺の背中にも嫌な汗が流れる。
 まさかと思い、俺はズボンに手を突っ込みパンツの中を見る。全年齢推奨のこのゲームでは
禁止行為であるのだが……。

(で、でかい。)

 不審者丸出しのこの行為を彼女は泣いていて見ていなかったのは幸いだったろう。
 そして、頬をつねる。このゲームには味覚はあっても痛覚は無い。が、痛かった。これの意味するところは……。

「よくわからないが、とんでもない事に巻き込まれたかもしれないな。」
「匠お兄さん……私怖い……。」
 当然ながら蕾は怖がっていた。初めにあったときのような暗い表情で俺の服を掴んで離さない。
 俺だって怖い……が、努めて笑顔で頭を撫でる。

「大丈夫。心配するな。事情がわかるまで一緒にいてやるから。」
「はい。有難うございます。」
 子供にそうするように彼女の背中を軽く叩くと顔から恐怖心は消えたが、不安は消えていなかった。
 まぁ、俺だって不安だしな。

 だが、大人の自分がうろたえる訳にはいかない。見慣れているはずの世界が変貌した恐怖心を
抑えて俺は必死に己を保っていた。


735:名無しさん@ピンキー
09/03/28 20:40:59 GWXnS/xz
厨二病な電波が来たので書いて見た。
設定なんて、どうでもいいので依存娘が書きたかった。
反省はしていない。あんまり。


736:名無しさん@ピンキー
09/03/28 20:47:24 cGHsmZZy
元ネタは.hackか?とりあえず今後に期待

737:名無しさん@ピンキー
09/03/28 21:31:39 OsxVDyVn
GJ
続きは書くんだよな?

738:名無しさん@ピンキー
09/03/28 22:58:05 HqnKIMlR
なんとなくルサンチマン思い出した

739: ◆9DJPiEoFhE
09/03/29 03:28:01 COhumIqf
投下します。
3レスです。
科学的根拠だとか、実際はどうなんだとかそういうところは目を瞑っていてください。
ファンタジーです。
エロなしです。

一応、多分、続きます。

740:大草原の小さな女の子(1/3) ◆9DJPiEoFhE
09/03/29 03:28:31 COhumIqf
 とある時代、とある国のとある草原。
 そこはとてもとても辺鄙なところにありました。
 辺りいったいに広がる草の絨毯。人っ子一人見当たりません。
 そんな緑野のど真ん中で、ただ一筋もくもくと煙が立っています。
 おや、その煙が出ている建物から何か声が聞こえます。
 少し耳を傾けてみることにしましょう。

「茶」
「……」
「茶だ!」
「……」
「茶を煎れろと言うのが聞こえんのか!」
「……畏まりました」
 そう言ったのはエプロンドレスを着込んだ女性です。物腰柔らかに立ち上がり、しずしずとキッチンへと向かいます。背筋を伸ばし、品のある姿勢の歩き方から、育ちの良さが窺えます。
 一方、大声を上げて茶を請うたのは白衣を着込んだ男性です。白衣の下に身に着けているこれもまた白いフードを頭から被り、表情は窺えません。
「……どうぞ」
 コトリと男性の前に置かれたコーヒーカップ。ふわふわと湯気が漂っています。
「やればできるじゃないか」
 白衣の男性は、ふんと仰々しく嘆息します。なんだか偉そうですね。
「……ありがとうございます」
 ぺこりと一礼。エプロンドレスを着た女性は姿勢を傾けたまま、なぜかぷるぷると震えています。
「しかし、いくら作法がなっていても味がなっていなくてはどうしようもないからな。
 作法は基本というよりむしろ、前提条件でしかない。本質的に重要なのは、味だ。
 茶葉の風味をいかに生かし、最適の温度を身体で覚え、どのようにマグに煎れるか、それに限る」
 男は長々と語り始めてしまいました。女性は未だに頭を下げた姿勢のままです。心なしかひくひくと痙攣しているかのように見えます。
「そしてこれらのことを踏まえた上で、最も重要な点がある。わかるか? ……って何いつまでもお辞儀してるんだ」
 自分の語りに陶酔していた男は、そこで頭を下げ続けていた女性に気づきました。
「はっはっは、馬跳びでもして欲しいのか。文字通り馬鹿みたいだぞ」
「……っ!」
 ぶち、と何かが切れるような音がしました。
「人が下手に出てればあんたはぁぁぁぁ!!」
 ごす、と何かがひしゃげるような音がしました。
 見ると、床には真っ白な物体が転がっていました。
「だいたいなんでわたしがメイド服を着なきゃならないのよ! それもあんたなんかのために!
 いつまでお辞儀してるかですって? あんたが許すまで動くんじゃないって言ったんじゃない!
 それに、このわたしが、丁寧に、丹念に、手間隙かけて、文句も言わず、持ってきてあげたっていうのに、あんたってばぐちぐちぐちぐちぐちぐちと!
 お茶、もう冷めちゃってるじゃない! あんた、人を何だと思ってるのよ!」
 メイド服の女性はマシンガンのように捲し立てます。
 白い絨毯と化していた男性はむくりと起き上がりまして、こう呟きました。
「うるさい、幼女のくせに」
 屋敷にまた、爆音が響きました。

741:大草原の小さな女の子(2/3) ◆9DJPiEoFhE
09/03/29 03:29:03 COhumIqf
「ったく、加減を知れ、加減を。これ、直さにゃならんだろが」
「……それだけのことをさせるのはどなたでしたか。もう一発差し上げましょうか?」
「あー、わかったわかった。まったく仕方のない奴だな、君は」
「勝手に私が悪いみたいな流れにしないでください」
「ワガママなんだから。でもそういうトコロも好きだぜ?」
「語尾を上げる言葉遣いはお止めください。吐き気がします」
「そこまで言わなくてもいいじゃないか。俺は好きだ。よくなくなくない?」
「唐突に殺意が沸きました。お殺害してもよろしいですか?」
「しかし寒いな」
 壁にぽっかりと開いた穴を見つめながら、男。
「……それは、あん……あなたの」
 口ごもる女性─少女。落ち着いてきたのか、自分でもやりすぎだと薄々反省してきているようです。
「まぁ、僕のせいなんだけど。でも、思ったんだが」
「……何でしょう」
「ご主人様に歯向かうメイドってのも珍しいと思わないか。普通はなんでもハイハイ従っちゃうものだと思うのだが。従者って言うくらいだからな」
「だから私はあなたのメイドなんかじゃないのよ! 
 目が覚めたら、メイド服を着せられてベッドに寝かされていた上に、見知らぬ男から『毎日、僕の味噌汁を作ってくれ』って言われて、わたし、もう、わけわかんない!」
 混乱しているのか、いくぶん言葉遣いが乱暴になっている少女。
 そんな少女に、白衣の男性は言い聞かせます。

「やれやれ、だからさっきも言っただろう」

「君は、僕の創った人造人間だ」

「呼称は、アンドロイド、サイボーグ、クローン、ホムンクルス、なんでもいい」

「ただ、これだけは言える」

「君の命は、僕という人間によって創られた、モノだ」

 男は淡々と告げます。まるでそれが事実であるかのように。

742:大草原の小さな女の子(3/3) ◆9DJPiEoFhE
09/03/29 03:30:20 COhumIqf
「そ、そんなこと……あるわけ……ない……」
「君は、ない、ということを証明できるのか?」
「だって、だって! そんなもの作り話の世界でしか聞いたことない!」
「存在するということは簡単に証明できる。ただ、その存在を見せ付ければいいからな。
 でも、存在しないということを証明するには、全ての存在・可能性に関して、『ないこと』を示さなければならない。
 わかるか?
 つまり、君が世界中に存在する技術全てを僕に提示して、『そんなものない』と示してでもくれない限り、それが『ない』とは言い切れないんだよ」
「…………」
 少女は力が抜けたのか、その場にへたり込んでしまいました。
 長く重苦しい静寂が場を満たしました。
 男は黙って、すっかり冷め切ってしまったお茶を啜ります。
 しばらく沈黙が続いていましたが、ふと少女がハッとなり男にこう言いました。
「わたし、いや、私が作られたものだとしたら、キオクなんてものがあるはずがないじゃないですか。
 私にはありますよ。お茶の煎れ方も知っていますし、クローンが行進する映画も観ました。
 味噌汁だって飲んだことありますし、メイド服も以前に見たことがあります。
 あはは、冗談きついんだから。私がツクラレタソンザイナンテ」
「ふむ、そろそろ限界か」
 男は自分の右腕を見やりながら言いまス。
「アレ……? ナンダカ、カラダガ……?」
 少女の体ガ痙攣しだし、壊れタ機械のような動きをし始めましタ。
「君は創られたばかりで、代謝だとか生理的熱量だとかの調整がうまくいかないんだ。だから、定期的に僕から検診を受けなければならない」
「ネムク……ナッテ……」
 少女はもハや、何も聞こえテいないようでス。
「ひとまず、おやすみ。いい夢を」
 ソウシテ、少女ノ、目ノ前ハ、真ッ暗ニ、ナリマシタ。


ツヅク……?

743:名無しさん@ピンキー
09/03/29 11:03:25 rbEcLMnF
依存性人格障害
いわゆる「甘えの強い性格」です。
甘えが強く、大切なことも自分で決められず他人の判断に任せます。
並はずれて従順で、非常に受け身的、世話をやいてくれる人がいなければ何もできません。
いつもまわりから元気づけや励ましが必要です。
独立を避けるために、自分自身の欲求でさえも、他人の欲求に合わせます。
自分の責任を他人に押しつけるので、いざ1人になると非常に不安や抑うつにかられる人格障害です。

境界性人格障害と似ている点もありますが、
依存性人格障害のメインは「自分にかまって欲しい過剰な欲求と、それを維持するための服従的な行動」です。
比較的女性に多く、末っ子に多く見られます。

依存性人格障害が発生する過程には、親の子供への接し方があげられます。
この点は、回避性人格障害と似ています。
まず、過度に干渉的な母親、父親が存在します。
そして「世の中は危険がいっぱい」ということを子供に刷り込んでいくのです。
子供が少しでも自立しようとすると、親は子供を非難し、
忠実だとひどく溺愛します。
自立とは、親や社会から見放されるもんだよと刷り込んでいくのです

またコピペ

744:名無しさん@ピンキー
09/03/30 09:00:51 ifEbCUvs
>>79
ディケイド効果で先週末まで全部見直してた俺には余裕でした。

745:名無しさん@ピンキー
09/03/30 14:11:50 roOqpblZ
なんという亀レスww

746:名無しさん@ピンキー
09/03/30 14:28:04 ifEbCUvs
>>745
携帯で見てたら去年の夏場に投稿したのにレスしてた。
我ながら酷すぎる。

747:名無しさん@ピンキー
09/03/30 16:29:59 07TyDt7q
ところで過去スレは読んでると精神的に辛くなってくるな
草の生えたニコ厨の発言は大量にあるし
類似ジャンルへの敵視やマイナスイメージの押し付けみたいなレスが有るし……

748:名無しさん@ピンキー
09/03/30 21:01:11 ivNps40s
心の隙間みたいに長い作品を誰か書いてほしいな。

もう少しこのスレも元気になってほしいけど俺は…

749:名無しさん@ピンキー
09/03/30 21:36:22 o3lCTDjv
>>717に永住してもらいたい

750:名無しさん@ピンキー
09/03/31 08:44:05 uoQHZT0S
ここも寂しくなったもんだ

751:ネトゲ風世界依存娘 二話
09/04/01 22:40:40 3pWx0Q3a


 唐突だが、ギルドを作っているものたちは大抵溜まり場というものを持っているものである。
 俺自身はギルドに加入していないが、戦闘と生産の双方を廃プレイで楽しんでいた俺には多少のツテがあった。

 俺は耳を後ろに垂らし、泣きそうな顔で服を掴んで離さない蕾を連れながらレト中央銀行に向かって歩く。

 その敷地内の芝生に、知り合いがギルマスをしているギルド「ライトピアス」のたまり場はあった。
 ギルマスとはオフ会でも会ったのだが……そのときの惨劇は思い出したくもない。恐ろしいトラウマである。
 それでも付き合いが続いているのは友人としては気があうからだろう。

「やあ。やはり君もいたか。」
 溜まり場には数人の男女が芝生に座り込んでいた。その中で声をかけてきたのは長い薄紫色の髪の
人間の女だ。その女はにやにやと意地の悪そうな笑みを浮かべる。
 そう、こいつは俺にトラウマを植え付けた例のギルマスであった。
 女性としてはそこそこ高い身長のスレンダーな体を持ち、白のスーツのような服の上に繊細な装飾を
施した白の革鎧を着こなしている。ぱっと見は仕事の出来る大人の女性といった印象だ。
 犬耳少女はひっと小さく悲鳴を上げて俺の背中に隠れる。

「お前らはログアウトできるか?」
「無理だね。」
 困惑した様子のほかの者たちと違い、女は嬉しそうに無理だと笑った。

「原因はわかるか?」
「数日経たなければ確実とはいえないけど、この2時間で考えた推測でいいなら。」
 俺は頷くと彼女は説明する。

「我々は今異世界にいる。」
「はあ?」
 自信満々にそうそいつは言い放つ。

「ゲームの世界が受肉したという表現でもいいけどね。」
「わけがわからん。判るように説明してくれ。」
「ようは……だ。」
 薄紫色の髪の女は嬉しそうに楽しそうに笑う。

「ヴァーチャルなゲームの世界が、現実になってしまったということだよ。我々はゲームの能力を持ち、
資産を持ちながら現実となったこの世界で生きていかなければならないわけだ。」
「何でそんなことがわかる?」
「発汗、痛覚、生理的機能もどうやらある……ゲームにおいてあるべきではないしあるわけもない
肉体の機能。全ての規制行為の解除。機械的なシステム関連機能の消失。急激に大きくなった都市。
現実と同じ時を刻むようになった時間。生きているNPC。その他から考えた結果さ。大規模なパッチが
当てられたなんてことは無いと思うね。まあこの世界が現実だったらいいなって願望も混じっていることは否定しない。」


752:ネトゲ風世界依存娘 二話
09/04/01 22:41:53 3pWx0Q3a


 にやにやしながら話すそいつにそれまで隠れていた蕾が顔を真っ青にしながら話しかけた。

「では、私達はもう戻れないんですか?」
「君は誰?……まあいいか。わかんないけど数日中に帰れなければたぶんね。それ以上は現実の肉体も持たないだろうし。」
 たいしたことのないように女は言う。俺は紹介していなかったことを思い出して、慌てて再び後ろに隠れていたわんこの首根っこを掴んで前に出した。

「ああ。すまん。こいつは蕾っていうんだ。今日ゲームをはじめたらしい。」
「そうか……。ご愁傷様。ああ、私はハルっていうんだ。よろしく。」
 怖がる犬耳少女に頭を下げた後、苦笑しながらハルは俺の肩を両手で掴む。そして残念そうな顔で、

「そんなに女に飢えているなら私がいつでも相手にしてやるのに……よりにもよってこんな子供を……。」
 蕾の外見は10代前半で背も低く、胸もない。茶色の髪と瞳で印象としては柴犬の子犬といった感じだろうか。

「人聞きの悪いことを言うな。それにお前は男だろうが。」
「中の人などいない。というジョークが洒落ではなくなったな。今の私は身体も完全に女だ。」
 そう朗らかに笑う薄紫色の長い髪をもつスレンダーな美女、ハルの中の人はリアル8○1な男であった。

「で、蕾君。君はこれからどうするんだい?」
「え……?」
 不意に真面目な顔でハルは蕾に問いかける。

「言ってみれば君と彼とはほぼ見知らぬ他人。君のような女の子がそんな男とずっと一緒に
いるなんてことはないだろう。」
「はい……」
 こいつ楽しんでやがるな。そう苦笑しながら答えられずしょんぼりしている蕾の後ろ頭を
軽く叩き、助け舟を出す。

「子供を苛めてやるな。一人で生活できるまでは助けるさ。」


753:ネトゲ風世界依存娘 二話
09/04/01 22:42:35 3pWx0Q3a


「匠は甘いね。人を助けるというのは大変なことだよ。乱暴だが、お金を渡して放り出すのが
一番だと思うね。絶対苦労する。」
「いつになく突っかかるな。」
 少数精鋭で癖のある者が多いギルドを纏めていることもあり、この見慣れた変態は狭量ではない。
小声で俺だけに放り出すようにハルが呟いた後、理由を聞いた俺に彼女(?)は少しだけ考え、
笑って言った。異変の前とは違い、作り物ではない自然で妖艶な笑みだと俺は思う。

「女の勘だよ。」
「男だろうが。」
「心は女だ。そして今は身体も女だ。」
 俺は黙って肩をすくめた。

「ま、なんでもいい。ハル達にも蕾を自立させるのを手伝って欲しい。」
「悪い子ではなさそうだしそれは構わないが、こちらも頼みたいことがあるんだ。」
 ハルは少しだけ困った顔をたまり場で座り込んで話している他のメンバーに顔を向ける。

「期間限定イベントの性転換ポーションを持ってないか?」
「いつか遊びに使おうと思っていたから10個くらいは持っているが。」
「悪いが二つ欲しい。私はいいんだけどねー。」
「……なるほど。お前らには世話になってるからいいよ。価格が高騰しそうだな。」
「すまないねぇ。匠にはいつも迷惑かけて。」
「それは言わない約束だろ。お父っつぁん。」
 苦笑しながら意味不明なぼけを交わす俺とハルに蕾はわけがわからないといった顔を向けていた。
年代の違いを感じる。




754:ネトゲ風世界依存娘 二話
09/04/01 22:43:25 3pWx0Q3a


 俺はハルと情報のやり取りを約束し、蕾を連れて宿の密集している宿屋街へと向かった。
 半歩後ろで俺の服の裾を掴んで離さない犬耳少女の表情は相変わらず不安げでびくびくしたような感じで暗い。
 無言のまま宿に到着し、一番いい個室を二つ取る。余り広いと現実の自分の生活とあまりに違って
落ち着かないので、広さよりも清潔さで部屋は選んでいた。

 ルームサービスの夕食を部屋に運んでもらい、二人でテーブルを囲む。
 部屋はランプがいくつか置かれており、テーブルには蝋燭が置かれているがそれでもなお薄暗い。
 俺は『明かり』の魔法を詠唱し、現実程度の部屋の明るさを確保する。

 蕾はずっと不安げなままだ。料理にも手をつけていない。

「どうした。美味しいぞ?」
「匠お兄さんは……怖くないんですか?寂しくないんですか?」
 搾り出すような悲痛な声。俺は首を傾げる。

「別に。」
 正直な俺の返答に彼女は驚いたような顔で固まる。

「だけど、俺も蕾ちゃんと同じ立場なら焦るかもしれない。」
 肉料理にフォークを刺し、食べようか迷って一度フォークを置く。

「俺にはここに友人もいる。仕事で困ることもまずない。金もある。現実の家族は……まあ、一人暮らしだったしな。」
 憂いはない。仮に戻れなくなっても困らない。

「蕾ちゃんは違うだろ。」
「うん……。」
「だから別に怖くてもいいだろ。怖がってる子供を抱えてしまった俺まで怖がってどうすんだ。
余計不安にするだけだ。」
 ほら食え。と、肉を突き刺したフォークを口元に持っていくと犬耳少女は小さな口をようやく開いて食べた。
 咀嚼と同時にぺたんと寝ていた三角形の耳がぴんと立つ。

「まあ、何事もなく帰れるかもしれないしな。明日のことは明日考えようぜ。今は食え。」
「むしゃむきゅむきゅごきゅっ!」
 お腹が空いていたのだろう。俺が言う前に彼女は何かに取り付かれたかのように料理を貪り食っており、
お尻の部分が開いている背もたれの後ろでは尻尾が全力で振られていた。

「こくん。ん?」
「なんでもない。美味いか?」
 彼女は無言でこくっと頷いた。




755:ネトゲ風世界依存娘 二話
09/04/01 22:45:41 3pWx0Q3a


 食事を終え、少しだけ蕾と話をして彼女を部屋に帰らせると俺はベッドに横になる。

 彼女との会話はなるべく聞き役に徹していた。彼女は学校の話はあまりしなかった。他人に会話するのが
慣れていないのか、伝えようと一生懸命だが拙い彼女の話は殆どが家族との団欒の話だった。

 ベッドに横になりながら考える。あの時点で見放せといったハルの言葉は正しい。俺は彼女を
もはや見捨てることは出来ないだろう。
 捨てられてダンボールに入っている子犬に懐かれた様な複雑な気分といったところか。

 くだらないことを考えていると、睡魔はすぐにやってきた。魔法など強制の眠り以外の眠りという
概念もゲームにはなかった機能だ。あと肉体的な疲労もだ。

 かちゃ。

(………?)
 眠りの世界へ落ちようとしていたその時、小さな物音が静かな部屋に響く。

 …みしっ。

 ………みしっ。

 徐々に近づく、木の床を踏みしめる音。ぴたっと音が止まると俺は眼を開けた。目が合った瞬間、
犯人の耳と尻尾がぴんっと天井に向く。

「ひあっ!」
「何やってんだ?」
 気づかれていないと思っていたのか、蕾は飛び上がって驚く。

「ご、ごめんなさい。」
「何か用か?」
 今にも閉じそうな目を必死に開けながら、彼女に聞く。

「う、何でも……ないです……。」
「嘘付きは外に放り出す。」
「……ううう……ごめんなさい。一緒に寝ていいですか?」
 彼女は屈んでベッドに眠る俺を泣きそうに目を潤ませて上目遣いで見つめる。
 ロリコンじゃない。俺はロリコンじゃないので頷いてスペースを少し空けてやった。



756:ネトゲ風世界依存娘 二話
09/04/01 22:46:46 3pWx0Q3a


「有難うございます。眠れなくて。」
「そうか。もう起こすなよ?」
「はい。」
 彼女は外を歩いていた時のように服を掴み、俺がそんな彼女の頭を撫でると安心したのか
ようやく少しだけ可愛らしく笑みを零し、直ぐに寝息を立て始めた。
 俺はというと目が覚めてしまったのか、中々眠ることができなかった。

「う……ぅん。」
 彼女は、革鎧を脱いで大き目のシャツ一枚になっていた。
 着替えを買ってやらないとと思う。彼女の要望で顔を合わせながら眠っているが、少しだけ
視線を下に下ろすと、シャツの隙間から膨らみかけの小さな胸の谷間が見えてしまう。
 ……誓ってどきどきなんてしていない。

 彼女が完全に眠っているのを確認し、天井を向く。普段はおどおどしているので、誰も気づかない
だろうが彼女は怖いくらい整った顔立ちをしている。
 数年経って成長すれば誰もが羨む美女になるかもしれない。
 そんな彼女と向き合ってると自分が変な気になりそうな気がして怖かったのだ。
 煩悩を追い出して目を瞑り、今度こそ眠りの世界へと旅立とうとする。

 ふにっ

 腕から伝わる何かの柔らかい感触。目を開けると蕾が俺の腕を胸に抱えるようにしがみ付いていた。

「ん……お兄……さん……。」
「……。」
 俺が眠ることができるまでにはまだまだ時間がかかりそうだった。



757:名無しさん@ピンキー
09/04/01 22:53:22 3pWx0Q3a
3/27から電脳ダイブしてました。
申し訳ありません。

次回から色々全開で頑張ります。

758:名無しさん@ピンキー
09/04/02 00:23:55 NhBp5bmp
>>757
GJ
俺も昔にオンゲーをやっていたこともあって、この手の話題は大好きだ。話も面白い。
続きを待っています。

759:名無しさん@ピンキー
09/04/02 01:31:51 cXLLiSds
GJ
なんかやっと長い作品が来そうな予感。

760:名無しさん@ピンキー
09/04/02 02:16:09 X58R/16u
GJ!
俺も不測の事態に備えて、しっかりモンハンやろ。
じゃあな馬鹿共!俺はハンターとして生きていく

761:名無しさん@ピンキー
09/04/02 10:16:22 4eQnv/Q3
ネトゲ現役の俺にはイメージしやすい話だぜ

762:名無しさん@ピンキー
09/04/02 15:03:16 +l6iOMgJ
俺はマビノギを背景として見てしまう。

763:名無しさん@ピンキー
09/04/02 20:32:38 gfOT+hLM
生活系、生産重視のオンラインゲームだとマビノギ、ウルティマ・オンライン、
D&Dオンラインやエバークエスト2(サービス終了?)辺りもイメージとして
出てくるな。


764:名無しさん@ピンキー
09/04/02 23:38:09 3lVI702r
投下します。
ネトゲ面白いから危険すぎますね。

765:ネトゲ風世界依存娘 三話
09/04/02 23:38:59 3lVI702r


 翌朝、目を覚ますと目の前に犬耳の少女が眠っていた。
 一瞬何事かと焦るが、脳が目を覚ますと先日の出来事を思い出していた。

「起きたら夢だったって展開だと思ったが夢じゃなかったか。」
 小さく呟き、未だ眠っている少女の顔を見る。頬には涙の跡がついていた。

 俺は彼女を起こさないように気をつけてベッドから起き上がり、服を着る。異世界の朝は寒い。
 こちらの世界ももう春になろうというのに、空気が澄んでいるせいもあるのだろうが、冷え切っていた。
 満開の花のような見た目の季節感だけではなく、気温を感じることが出来るようになってしまったのは
いいことなのか悪いことなのか……判断に迷うところだ。

 宿の主人に頼んで羽織れる毛皮のコートと二人分の朝食を貰って部屋に戻り、職人が作ったと思われる
派手ではないが品のあるテーブルに朝食を並べる。
 そこまで準備すると、蕾の頬を軽くぺしぺし叩き、

「おい、朝だぞ。」
「ううん……お母さん後5分……。」
 むにゃむにゃとお約束な寝言を幸せそうな寝顔で蕾は呟く。寝かしておいてやりたい気持ちがちらっと
出るが容赦なく布団をひっぺがす。

「起きろっ!!」
「わぁぁっ!えっ?ええっ!!」
 犬耳少女は驚いて飛び起き、座り込んでわけがわからないといった感じで左右を見渡す。
 頭と一緒に耳がぴこぴこ動くのが小動物っぽくて可愛らしい。

「こ、ここどこ!?」
「落ち着け。そのコートさっさと着ろ。パンツ見えてるぞ。」
「きゃっ!お兄さんのえっち!」
 困惑よりも羞恥が勝ったのか、ショックで蕾も状況を把握したらしい。顔を真っ赤にして抗議しながら
ぶかぶかのコートを羽織る。
 下位の常駐型の火系統魔法を暖房代わりに唱え、蕾と二人でテーブルを囲んで椅子に座る。

「起こしてくれたのにえっちっていってごめんなさい。」
「謝るな。俺がえっちなのは間違いない。お前さんは対象じゃないけどな。」
 落ち着くとしゅんとなって彼女は謝る。そんな彼女に俺は笑顔で応える。

「とりあえずまずは朝ごはんだ!」
「えっ、目の前のはパンじゃないんですか?」
「……。」
 無言で頭にチョップを食らわし、何事もなかったかのように手を合わせる。

「いただきます!」
「いただきます。」
 一人と一匹は、目の前のパンと卵焼き、サラダという朝の基本セットに対して宣戦を布告した。
 四人前の朝食は二人の猛攻に僅か5分しか耐えることは出来なかった。




766:ネトゲ風世界依存娘 三話
09/04/02 23:39:56 3lVI702r


 朝食を食べ終えると、服を着替えて街を散策することに決めた。
 満腹になったお陰か俺の半歩後ろを歩く蕾は心なしか幸せそうだ。歩きながらゆっくりと左右に尻尾を振っている。

「今日から蕾ちゃんの自立を目指す。」
「はい。」
 銀行から自作の剣と女性用革鎧を引き出して渡して銀行の更衣室で着替えるよう促し、本日の目的地へと向かった。
 先日の夜に、ずっと一緒にいることに対して(主に理性的な意味で)危機感を覚えた俺はさっさと
一人暮らし出来る強さを持って貰おうと考えたのである。

 安全に食べていくなら生産系の職がいいのだろうがシステム機能がないため、スキルの熟練度的に
どうなるのか判らない上に、自分では物を作ることが出来るがどういう理屈でそれが出来るのか説明することが
出来ないので、生産職の知識を教え込むのは諦めた。

 そういうわけで戦闘系の仕事をこなしてお金を稼げるように頑張ってもらおうと思ったのだ。装備さえしっかり
しておけば、初級モンスターのエリアなら安全にお金を稼ぐことも出来るし、経験も積める。

 何より犬人族そのものが力強さと素早さを併せ持つ、戦闘向けの種族であった。反面不器用で生産職には向いていない。


「いらっしゃい。仕事かい?」
 仕事斡旋所は異変前と変わらない。仕事の内容と報酬が書かれた紙がいくつも張られており、NPCだった
中年の親父が退屈そうに座っている。
 違うのはそのNPCだった親父が『生きている』ことくらいだ。

「初心者向けの首都近郊のモンスター退治依頼はあるか?」
「ジャイアントラット駆除があるぜ。畑を荒らすこいつらを退治して欲しいそうだ。5匹で100。退治した数に
応じて報酬を払う。退治証明は尻尾でいい。あんたが受けるのか?」
 悪そうな笑みを中年の親父は浮かべる。

「後ろのこいつだ。」
「よ、よろしくお願いします。」
「こりゃ可愛いお嬢ちゃんだ。本当に出来るのかい?」
 訝しげな顔で親父は蕾を見つめる。人見知りの彼女はいっぱいいっぱいになりながらも頷いた。

「や、やります!」
「わかった。じゃあサインを頼むぜ。依頼は失敗したら3割を違約金として払わないといけないから気をつけるんだぞ。」
「わかりました。」
 俺は頑張る彼女の様子を見ながら心の中だけで応援していた。

「匠お兄さん。大丈夫みたいです。」
「よし、じゃあ指定された場所に行くか。場所はちゃんとわかっているか?」
「はい。地図を描いてもらいました。」
 真剣な顔で彼女は頷く。俺は彼女の頭を撫でた。

「そうか。偉いぞ。……頑張れ。」
「うんっ!」
 蕾は気持ち良さそうに顔を緩めて頷いた。




767:ネトゲ風世界依存娘 三話
09/04/02 23:41:10 3lVI702r


 戦闘のやり方は異変があっても変わらない。俺も何匹か試してみたが剣も魔法も違和感なく扱うことが出来た。
 一日だけだが戦闘はこなしていた蕾も同じらしい。

「元々、運動は苦手だったから……こんなに自分の身体が動くなんて信じられない。」
 郊外に広がる広大な畑で彼女は楽しそうに駆け回る。その姿はまるきり子犬であった。
 飼い主たる俺はというと見失わないように追いかけさせられるのだが、どれだけ動いても少ししか
疲労を感じない。不思議な感覚だった。

 お昼には二人並んで弁当を食べて休み、再び狩りを始める。夕方には尻尾の数は40本を越えていた。
 すっかり安心した俺は蕾を放置して一人、いろいろな魔法を実験していた。油断であった。

「きゃぁぁぁっ!な、なんですか!」
 遠くから蕾の悲鳴が聞こえ、それに驚きながらも俺は声に向かって全力で駆け出した。

 声の場所に辿りつくと二人組みの剣士が蕾を囲んでいた。穏便な雰囲気には見えない。蕾は剣を
向けられ腰を抜かして座り込んで震えている。

「わんちゃんよー。俺たちと遊ぼうぜ。」
「そうそう。折角リアルな感触再現されてるんだしさ。その顔、そそるなぁ。」
 見覚えがある。よく見るPKだ。異変前は結界があり、一定以上のランクの狩場でなければPKも
出来なかったのだが今回のことで出来るようになったのだろうか。

 苦労して敵を倒しかけたときに襲い掛かり、装備とモンスターを持っていく性質の悪い奴らで
中級プレイヤーからはゴキブリのように嫌われている二人組みだ。

「どこまでリアルかひん剥いて試そうぜ。」
「おいおい!先は俺だぞ!」
「はいはい。そこまでなー。」
 俺は相手を確認すると恐怖で動けない蕾を庇うように前に立つ。

「格好付けか?」
「ひゃはは、かっこぅいいー!」
 下品に笑う二人組み。俺は何も応えずに高速で詠唱する。

「『雷神』!」
 このゲームでは魔法には法則性があり、属性を詠唱で組み合わせて魔法を作成する。俺の唱えた魔法は
魔法の専門家、ハルが組んだ対個人用の上級魔法。性能はいいが必要スペックが高すぎて使える人間が
殆どいないのが難の魔法だ。

「な、なっ!!」
 一撃で一人が炭化する。人を殺せた。あっさりと。
 俺の心が全く揺れないことに自分自身驚いている。ゲームだと思っているからだろうか。

「街に戻る気配はないな。死んだか。」
 冷静に呟き、蕾には目を閉じていろと促す。俺は仲間が街に転送されずに戸惑っている男と平坦な声で話す。

「し、死んだ?」
「このゲームの復活アイテムは『気絶状態を回復するアイテム』だ。女を犯せるように人が殺せて何か不思議か?」
「ひひひひっ人殺し!!」
 剣士の男は怯えながら俺を罵る。

「弱い子供に悪戯しようとするやつなんぞ死んだほうがいいだろ。」
 俺は苦笑しながら無造作に刀を引き抜いて動揺していた男の首を刎ねた。そして、証拠を残さないように
炎で焼き尽くす。
 全てを焼き尽くして炎が消えるまで俺はなんとも言えずにそれを見つめていた。



768:ネトゲ風世界依存娘 三話
09/04/02 23:42:07 3lVI702r
「やっちまった。」
 空虚な心で思わず呟き、片手で頭を抱える。背中で守っていた蕾は二人がいなくなっても
まだ怯えて目を見開き、がたがた震えていた。

「怖がらせてごめんな。怖い目にあわせてごめん。見通しが甘かった。」
 声は出せず、怯えて震えながらも彼女は首を横に振る。俺がしゃがみ込んで彼女が立ち上がれるように
手を貸そうとしたが、

「ひぁっ!!」
 びくっと大きく震えるとしゃぁ……と静かな音を立てて、緑の芝生に小さな水溜りを作った。

「……なんというか、いろいろすまん。」
「ぁぅ……。ううう……。うわぁぁぁぁぁん!」
 羞恥で顔を紅く染め、恐怖で身体を震わせ、蕾は声を上げて泣いた。俺はどうすることもできずに
少しだけ距離を空けて座り、彼女が落ち着くのを待つことにした。


 彼女が泣き止む頃には完全に日が暮れており、疲労で動けなくなった彼女を俺は背負って歩いていた。
 空には二つの月が浮かぶ、地球のものとは違う満天の星空がある。
 素直に美しいと思う。

「蕾ちゃん。空を見てみなよ。」
「はい。……綺麗です。」
 背中の少女の表情は見えない。だが、魅入っているのは気配でわかる。暫く時間を置き、静かに語りかける。

「さっきはごめんな?」
「いえ、私のほうこそ。助けてもらったのにあんなに怖がってしまって。」
 彼女は恩知らずです。と情けなさそうに呟いてぎゅっと強く首にしがみ付く。か細い腕はまだ小さく震えている。

「俺怖いだろ?自分でも怖いからな。誰か優しいやつを紹介しよう。」
「そんなこと……ないです。匠お兄さん……私……やっぱり邪魔ですか?」
 さらに強くしがみ付く。

「何でもします。やります……だからこわいところにおいていかないで……一人にしないで……。」
 風に吹かれて消えるような声でそう呟く。PKはどうやら彼女に恐怖心を植え付けてしまったらしい。
 折角笑ってたのに。強く生きていけそうだったのに。俺は残念に思いながらも少し考えてから努めて明るく、

「あほ。お前一人くらいきちんと自立できるまできちんと面倒見てやる。」
「……本当?」
「お兄さんを信じろ。今日も守ってやったろ?」
 冗談めかして笑う。

「一緒……いてください……。」
「ああ。だけどお前もさっさと強くなれよ。」
「……うん。」
 犬耳少女は俺の背中に顔をぴたっとくっつける。震えはようやく止まった。

 仕事斡旋所へたどり着いた頃には彼女は背中から降り、いつものように半歩後ろを歩いていた。

「よう。遅かったな。首尾はどうだ……40匹か。ほらよ800Gだ。」
 親父から蕾にお金の入った袋が手渡される。
 依頼斡旋所から出ると蕾は暫く耳をぴこぴこさせて悩んでいるようだったが、袋をそのまま俺に渡そうとした。

「違う。それはお前がこの世界で稼いだお前のお金だ。大事に使えよ?」
「でも……。」
「頑張ったな。」
 何も言わせずに俺は頭を撫でて笑った。
 ここに着くまで無表情だった彼女の顔がゆっくりと歪み、俺に抱きついて大声で泣いた。
 今度はどうやらうれし泣きのようだった。

769:名無しさん@ピンキー
09/04/02 23:44:19 3lVI702r
投下終了です。

770:名無しさん@ピンキー
09/04/03 00:04:27 1q4PluYn
GJ
続きを期待します。
みんなゲームにハマってリアルで人殺しはだめだぞ

771:名無しさん@ピンキー
09/04/03 03:10:53 yoxXS78E
GJ
自分殺しもだめだぞ!

772:名無しさん@ピンキー
09/04/03 03:19:52 L+h99hiS
ボタン押すのとリアルにアクションするのは違うからな、まだ大丈夫だろ。

ただこれみたいに電脳世界的なものができたら現実にも危ない奴が出てくるかもな

773:名無しさん@ピンキー
09/04/03 19:03:44 BMLMl1KM
映画「アヴァロン」だとゲーム世界で死ぬと下手すれば廃人になるしなぁ。
多少なら吐く位で済むのだがやはり仮想現実とはいえ「死」というのは
結構反動が大きいのだろうな。


774:名無しさん@ピンキー
09/04/03 21:32:34 qvNzwJug
GJ
やべえ、またネトゲやりたくなってきた。

775:51
09/04/04 14:50:46 o1dvrReV
URLリンク(www1.axfc.net)
今回はHDDの物理障害で以前に作ったまとめが消えてしまい、ほとんど最初っから作り直しました
色々と雑です


ところでどなたか籠城戦 ◆DppZDahiPc氏の百合の話のタイトルを覚えている方いらっしゃいますか?
本人のサイトに行ってみたらもう消えていて確認できなかった……orz

776:名無しさん@ピンキー
09/04/04 16:52:15 E0YqfFah
>>775
超乙。

777:名無しさん@ピンキー
09/04/04 20:07:41 ScG8aNz7
スレチになるけどネトゲはグラフィックよりゲーム性だなぁ。
グラフィックは3日で慣れるけどゲームが続けられるかどうかは
別だしなぁ。


778:名無しさん@ピンキー
09/04/05 00:00:38 O2FKfV5Z
投下します。
相変わらずのエロ無し。

申し訳ない。

779:名無しさん@ピンキー
09/04/05 00:01:12 O2FKfV5Z


 朝起きて目を開けると女の子の寝顔がある。というのは長い間、一人暮らしをしてきた俺にはあまりない経験である。
 全くないことはないとは力強く主張しておく。

 昨日はあれから蕾が俺を離さず、結局宿も一部屋だけ取ることになった。懐かれるのは嫌ではないが
どうせなら色っぽい女性に懐かれたいものである。

 決して、腕に押し付けられる小さな胸や瑞々しく張りのある綺麗な肌や柔らかい身体に色気を感じてはいない。
 時たま漏れる吐息や寝言で俺を呼ぶ声にも何も感じていないのだ。

 ……本当だぞ?

 昨日と同じように二人でテーブルを囲んで朝食を取り、街に出る。今日の目的は日用品の買出しだ。
 今までゲームでは服が汚れたりといったことがなかったため、何着も服が必要になるといったことは
なかったのだが、異変後は汗をかけば匂いが出てしまうようになってしまっていた。
 男の俺はともかく、女の蕾には代えの服がないというのは少し辛いだろう。

 必要になるのは服だけではない。細々とした日用品も必要になる。風呂なんてないので清潔さを保つために
小まめに身体を拭かなければならないし、冒険をする場合にはテントなどの野営道具なども必要になる。

 生きていくために必要なものが増えてしまっていた。まぁ、現実世界では当たり前のことなんだが。
 他のは後回しでもいい。とりあえずは服だ。

 宿屋で街に点在する服屋の場所を聞き、俺達は町中を歩いていた。何時もどおり蕾は半歩後ろに控えて
服を掴んで歩いている。無表情だが尻尾がゆっくりとリズムよく振っていることから機嫌はいいのかもしれない。

「俺はセンスないから、ファッションとか詳しいハルでも誘うか?」
という俺の提案は、

「匠お兄さんは、私の服選ぶの……いや……ですか……そうですよね……。」
 反対はしないが耳が垂れてしょぼんとして泣きそうになったので自ら取り下げた。



780:ネトゲ風世界依存娘 四話
09/04/05 00:02:16 O2FKfV5Z


 自分で着る服ならユニ○ロでもなんでも気にしないが、人の服を選ぶのは非常に気を使う。出来れば遠慮したいのだが、

「好きなの買って良いぞ。」
といっても、

「匠お兄さんが選んでください。」
と、縋るような上目でお願いされるのだからどうしようもない。
 諦めて店内に並ぶ服を一つ一つ真剣に検討していく。

 普段着る服は鎧の装備の有無で大きく異なる。鎧を身につける場合は下の服はデザインよりとにかく
動きやすい服でなければならない。
 逆に考えれば動きやすければ、色だけを考えておけばいいのだから楽だ。彼女にあげた鎧は濃い茶色なので白い上着と黒のズボンで色のバランスを取る。冒険用なので同じものを三着購入しておいた。

 問題は街での散策用の私服だ。
 難しい顔で蕾を見つめる。茶色の髪。淡い茶色のかわいらしいくりっとした瞳。庇護欲を誘う小柄で
よわよわしい身体。いかにも小動物なびくびくした仕草。
 一瞬、リードのついた犬用首輪を思い浮かべてしまい、首を振って妄想を追い出した。

 自慢じゃないが女の子に服なんてプレゼントしたことない俺には少々難易度が高いクエストだ。ゲームでならともかく。

 ゲーム?
 服飾系のスキルはどうなっているんだろうか。作れるのは判っているがデザインは想像通りに物を
作れるのだろうか。今度試してみよう。

 そんなことを考えながらも服を必死で探していたが、5件目でようやく似合いそうな服を見つけていた。

「こんな感じでどうだ?」
「匠お兄さん……ありがとうっ!」
 購入したのはボーダーの模様の入った濃い茶色のスカートに胸元に赤い小さなリボンのついた白いブラウス。
 一張羅の初心者用の服を脱いで蕾はその服を着る。本当に嬉しいのか耳をぱたぱた動かし、
尻尾をぶんぶん振っていた。

「よく似合ってる。」
「えっ…えええ!本当ですか?」
 服を変えただけで印象が大きく変わった。まるで毛虫が蝶になったような気分だ。野暮ったい捨て犬
から小奇麗な飼い犬に変身している。
 可愛い服を着て嬉しそうな彼女を見ていると俺まで嬉しくなる。時間は掛かったが頑張った甲斐が
あったと素直に思えた。

「櫛やアクセサリーも買わないとな。」
「う……でも、匠お兄さん……お金……。」
「子供が金のことは心配するな。出世払いでいい。」
 ぽふぽふと頭を軽く叩くと、蕾は気持ち良さそうに目を細めていた。

「匠お兄さん。後下着……選んで下さい。」
 さらになにかを期待するような瞳で見つめる彼女だったが、

「お願いだからそれは自分で選んでくれ。」
と断ると、少し不満そうな顔をしながらこくんと一つ頷き彼女はとてとて下着の置き場へと歩いていった。




781:ネトゲ風世界依存娘 四話
09/04/05 00:03:14 O2FKfV5Z


 買物を終えて、宿に荷物を置きもう一度出かける。次の行き先は公演場だ。
 城を中心に盤の目のように道が走っているこの都市の東部にその建物はあった。公演場とは俺たち
プレイヤーが勝手に名づけた名前だ。主にプレイヤーの開催する音楽イベントのための施設になっているそこは、
多くのギルドの溜まり場でもある。

 β時代から特によくつるんでいた知り合いと組むときの待ち合わせ場所でもあった。しかし……

「いないか。」
「誰がですか?」
 何かのイベントがあるのか大勢の人が集まり、公演場はがやがやと活気に満ちていたがお目当ての
人物は残念ながらいなかった。

「一番長い付き合いの知り合いだ。相棒といってもいいな。そいつが俺達のように閉じ込められているかと思って。」
 いないことに内心ほっとする。この世界に閉じ込められてないということだから。

「そうなんですか。……女の人?」
 聞きにくそうに聞いてくる蕾に苦笑して首を横に振る。

「男だよ。蕾ちゃんと同じ犬人族の刀使いだ。ぶっきらぼうで愛想は良くないが気があってたまに一緒に狩りをしてたんだ。」
「匠お兄さんと一緒に戦える人なの?」
 ちょっと驚いた様子で蕾は俺を見る。PKとの闘い以降、彼女の俺を見る目がちょっと変だ。どこがとはいえないが。

「俺より強い。生産は出来ないけどな。」
「……。」
 表情を見ると俺の答えはちょっと気に入らなかったらしい。その知り合いは求道者といった感じで
近接戦闘に魂を賭けていた。
 スキルは高ければ高いほど上がりにくくなるが上限はないので、βから三年間近接戦闘に注ぎ込んでいた
彼に近接で勝てるものは下手するといないかもしれない。

「いないならしょうがないんだけどな。」
 ふぅ……と溜息をつく。ゲームだけの知り合いだったが三年も付き合いがあった友人だ。二度と会えないと
考えると寂しいものである。

「わ、私はずっといますから!」
 落ち込む俺に必死な顔で慰めようとしてくれているらしい蕾だったが俺は無表情で、

「お前さんはさっさと自立して独立しろ。」
「い、痛い。痛いよお兄さん!」
と、こめかみを両手でぐりぐりしていた。




782:ネトゲ風世界依存娘 四話
09/04/05 00:03:58 O2FKfV5Z


 もう暫く探したが、見つからなかったので公演場を覗いていくことにした俺達は、直ぐに興味本位で
覗いたことを後悔することになった。

「6000!」
「えええい、7500だ!」
「8000!」
「なにを!こっちは10000だ!!」
 俺は眉を顰めて目の前の光景を見つめる。

「た、匠お兄さんこれ……。」
 蕾は顔を青ざめて俺の腕にしがみ付く。

 公演場と呼ばれ、多くの音楽系ギルドが参加者たちを熱狂させてきたその壇上では、蕾と同年代くらいにしか見えない犬人族の少女が、下着一枚で首輪を付けられて立たされていた。少女は全てを
諦めたように死んだ瞳をして俯いている。
 恐らく、男たちが叫んでいる数字は『値段』。

 俺は近くにいた城の警備兵に近づく。

「すまない。俺達はこの町に初めて着たんだがこれは何をやってるんだ?」
 胡散臭げに話しかけるなというような顔を相手はしたが、黙ってお金を掴ませると説明をしてくれた。

「ここは公演場だ。演劇等が普段は行なわれるが、今日は月一の奴隷のセリだ。こんなもの、どの国にもあるだろう。」
「それもそうだな。この国ではどんなことをしたら奴隷になるんだ?」
「犯罪と借金だな。冒険者が身を持ち崩して自分を売るしか手がなくなることもある。後は奴隷商人に捕まって
違法に売られる場合もあるらしいが。あのガキみたいに親に売られる場合もある。哀れなもんさ。」
 あまり喜んで警備しているわけではないのか、その兵士は肩をすくめて言い捨てた。

「……帰るか。」
 悪趣味な見世物をこれ以上見るつもりはなかった。俺は帰宅を促すと、蕾はぶんぶんと縦に首を振って頷いた。


 帰り道、蕾は一言も口を利かなかった。口数は普段から少ないが、深刻に考え込んだような顔で
黙り込んで歩いているのは初めてである。
 壇上に上がっていた少女は年頃といい、種族といい、毛色といい……蕾によく似通っていた。
 案外子供っぽい正義感で助けようなんていうかと思ったが、それはなかった。ただただ、自分の思考に
沈み込むように考え込んでいた。

 蕾は多感な年頃だ。あんな光景を見せ付けられて何も考えるなというほうが無理なのかもしれない。

 時折泣きそうになったり、俯いたり、俺の服を思いっきりひっぱったり、怯えたりと挙動不審なことを
しながらも無言で歩く。

 宿に着きかけたとき、考えがまとまったのか真剣な顔で蕾は俺の眼を見つめた。

「……。」
 そして、口を開こうとして閉じる。目には何かを決意したような色。何か追い詰められたような余裕の無い表情。

 彼女は結局何も口には出さず。俺も何も言うことはなかった。




783:ネトゲ風世界依存娘 四話
09/04/05 00:05:16 O2FKfV5Z


 宿に入ると一人の男が待っていた。
 黒い毛並みの耳と尻尾、流れるような長い黒髪に長身。絵にかいたような美形の青年だ。装備も殆どが
黒で統一されている。蕾を小型犬といった印象だが、落ち着いた雰囲気のあるこいつは差し詰め
大型犬といったところだろう。

「久しぶり。」
 にこりともせず、青年は俺に向かって手を上げる。蕾は男に見られると情けない声を上げて俺の後ろへと隠れる。相変わらず人見知りをするやつだ。
 目の前の男─β時代からの知り合い─九朗は気を悪くした風でもなく、黙っている。しかし、彼女には目も合わせない。

「今日は公演場にいったんだが、入れ違いだったか。お前もやはりいたんだな。」
「すまない。」
 愛想がないので敬遠する者も多いが、俺はこの男が嫌いではなかった。お互い廃人だったし戦闘中は
何も言わなくても最高の連携を取ることもできる。
 男同士だから変な気を使うこともない。生産系アイテムは安く譲ってくれる。俺が作ったアイテムは大事に使ってくれる。
 会話はあまり続かないが下ネタ以外には反応はしてくれる。
とまあ、一緒に長時間いても疲れない相手なのだ。

「ハルから大体の事情は聞いている。」
「そうか。」
「私もハルの意見に賛成。」
 何のことかわからないといった感じで蕾は俺たちを見つめている。おそらくは金を渡して放りだせということだろう。
 彼は無表情に淡々と続ける。

「物価から考えれば100万もあれば一生遊んで生きていける。私が出してもいい。」
「おいおい。クロまでそんなこというのかよ。」
「出来ないのは長い付き合いだから判っている。幻滅されるかもしれない。でも言わずにはいれない。恩人だから。」
 何を言われているのか判ったのか蕾は不安げにこちらを見つめている。



784:ネトゲ風世界依存娘 四話
09/04/05 00:06:08 O2FKfV5Z


「どちらにしろ私は彼女のことはどうでもいい。」
 九朗は女には厳しいことで知り合い連中の中では有名だった。例外はハルだがやつは中身が男である。
 女性キャラは話しかけても殆ど放置するほど普段から女嫌いは徹底していたので俺はなんとも
思わなかったが、きつい言葉に蕾は泣いていた。

「恩人って、俺達はもちつもたれつ。借りなんてなかったと思うんだが。」
 生産素材を安く譲ってもらい、装備を安く提供する。そこに関係の優劣は無い。

「ある。」
 九朗はこくんと一つ頷く。懐から取り出したのは壊れた指輪だった。

「見覚えがあるな。」
「匠の魔法道具の一作目。」
 魔法の道具作成が実装された後、熟練度目的以外で初めて作ったもの。
 思い出した。『帰還』の魔法を付与した指輪だ。

「ヘカトンケイルと戦闘中に頭痛。咄嗟にこれを使って脱出。壊してごめん。それからありがとう。」
 無表情に九朗は淡々と呟く。……というか、まだ持ってたのか。二年位前の作品を。

「ありがとう。クロ。作成者冥利に尽きる。」
 俺は九朗の肩を叩き、心の底から笑った。自分の作ったものが大事にされているというのは、生産者にとって
最も嬉しいことだと思う。九朗も大きな尻尾をゆっくりと振っていた。

「……?」
 ぎゅっと蕾の服を掴む手に力が込められる。不思議に思ったがあまり気にしなかった。 
 なんだか涙目で九朗を睨み付けていたが相手はスルーしている。

「私は恩を絶対に返す。」
「気にするな。お前が助かって本当に良かった。」
「匠とは対等の関係でいたい。だけど、私はもう一つ匠に借りを作ることになる。」
 いつもゲームとはいえどんな苦境でも平然としていた九朗が、少し迷っているように見えた。
 そんなに言いにくいことなのだろうか。

「何でも言えよ。俺とお前の仲だろ。」
「ありがとう。性転換の薬を一つ譲って欲しい。」
 俺の頭は真っ白になった。

「……は?」
「すまない。騙すつもりはなかった。高いものだということも理解している。だが、どうしても生きる上でそれが私には必要だ。」
 九朗は珍しく早口で長々と話し、頭を下げる。
 俺は三年越しで知るはじめての真実に、頭が正常に働かなかった。というか俺の頭は悪すぎるのではなかろうか。

 蕾はますます、俺の服を掴む力を強めていた。



785:名無しさん@ピンキー
09/04/05 00:13:44 O2FKfV5Z
投下終了。

依存成分切れて中毒症状でそうなので次は他の人の作品で依存成分を補充するまで
書き溜めと推敲とプロット作り頑張ります。

786:名無しさん@ピンキー
09/04/05 01:01:47 yoeyKWkM
最後どういうこと?クロが女だったってこと?


787:名無しさん@ピンキー
09/04/05 01:18:09 lVz6Q2Ws
多分中の人が女なんだろ
まあ変化球で性倒錯者って可能性もあるが

788:名無しさん@ピンキー
09/04/05 03:02:11 aGQanLOO
確かにクロは女ぽく見える

789:名無しさん@ピンキー
09/04/05 03:52:06 fsBMbNro
新キャラと新展開キターw

修羅場がいくらあってもいいので、
さいごはハーレムエンドにしてください
おながいしまつ

790:180
09/04/05 13:30:43 QwyMlplQ
>>785
>>785は依存中毒とな?

例えば依存君が複雑な事情でメイドを雇っていてだな。

――俺は>>785が嫌いだ
>>785は親父の愛人の子供だった。俺の両親は両方とも会社の重役だったので俺の面倒を見る余裕が無く、
また母親は俺や親父を大して愛していなかった。それをいいことに、親父は愛人を住み込みの女中として雇ったのだ。
愛人は愛欲が強い女性だったらしく、親父により愛されるためにかいがいしく世話していた。
そんな親を見ていた>>785もまた、俺を世話していた。……あるいは、今から思えば親から捨てられないために努力しろと
刷り込まれていたのかもしれない。24時間一緒にいようとし、起床から着替えから風呂から就寝から、すべての世話をしようとした。
俺は、一人で出来ると反発した。幼稚園や小学校の中でも俺の事を「依存様」と呼んでいたのも気に食わなかった。

――俺は>>785が嫌いだ
>>785は俺の世話をすることを生きがいとしている。両親と愛人を事故で失った後、学園に通う様になった今現在に至るまで
二人暮らしをしている。しかし、俺は>>785の事がより嫌いになってきた。>>785の世話がより過剰になってきたのだ。
今では靴下一枚履くのにも>>785がやり、食事の時は俺が箸を持つことが無く、ある飲み物を飲みたいと思った時はすでに
>>785が用意しており、……性欲が高ぶったと思った時には、いつのまにかそばにいる>>785が処理をした。
そういえば、>>785は小さい時から俺の目をじっと見つめている。なぜか>>785に聞くと、目を見れば俺がどんな気分か、
どんな事をしてほしいのか推測できると言う。俺はそれを聞いたときに背筋が凍るような思いだった。

――俺は俺が大嫌いだ
俺は>>785に やめろ。と言った。彼女ができたからだ。>>785は哀しそうな表情をして
捨てるのですか?とか置いてかないでくださいとか言ったが、俺は固持した。すると、>>785は部屋に篭り
一日中泣いてばかりいるようになった。……結論から言うと、彼女とは長続きしなかった。当たり前だった。
>>785が世話をしてくれるように、彼女が世話をしてくれるわけではない。彼女は、彼女が自分の世話を
するのが当たり前だと(無自覚に)している俺に愛想がつきたのだ。
>>785の部屋の前に行き事の次第を言うと、>>785はドアを開け飛び出し俺にすがりつき大泣きしながらこう言った。お帰りなさい、と。
それを聞き、俺は目の前が真っ暗になった。
――俺は>>785に依存しているのかもしれない

このぐらいに>>785は依存中毒が酷いに違いない!
なんたって良作の依存作品を書くぐらいだからな。

791:名無しさん@ピンキー
09/04/05 14:36:55 pMNXDPeh
GJ!!
書き溜めも良いけど、すぐ帰ってきてね・・・・

792:名無しさん@ピンキー
09/04/07 00:02:52 oEznBdRp
只今このスレは464kbぐらい
あとSS1~2個分ぐらいはあるかな

793:名無しさん@ピンキー
09/04/07 22:04:40 osmiow+T
結局三日しか我慢できなかった。
投下します。

790の作品を待ち望んでいるのは自分だけではないはず。
凄すぎて吹いたw

794:ネトゲ風世界依存娘 五話
09/04/07 22:06:24 osmiow+T


 九朗は銀行で性転換ポーションを受け取った後、同じ宿に部屋を取って今は三人、同じテーブルについていた。
 コーヒーの香りが鼻を擽る。食料品や嗜好品が現実と同じようにあるのは救いだった。誰も何もしゃべらない。

 こと……。

 薬の入ったビンを九朗がテーブルに置く。

「ぐっ……!」
 一瞬の間を置いて、九朗の身体が作り変えられていく。ゆっくりと少しだけ身長が縮み、平らだった
胸部が盛り上がってシャツを持ち上げる。長い黒髪の艶がまし、鍛えられた無駄な筋肉の無い細いが
ごつごつとした肌が、女性らしいしなやかで柔らかそうな肌に変わる。
 元々美形で女性に間違われそうだった顔も、女性らしさが際立っている。眠たげな表情はそのままだったが。

「上手くいったか?」
「今確認する。」
 10分ほどかけて女性になった九朗は、自分の身体の調子を確かめるように軽く動かして礼を言う。

 蕾は椅子を立って身体を動かす九朗に見蕩れているようで、驚いて口をあけていた。
 俺も少し驚いていた。三年見慣れた男としての九朗より、今の女性の九朗のほうのほうがしっくりとくる。
 自然だと感じる。
 長い黒髪と黒い毛並みの耳と尻尾、黒いシャツは胸で押し上げられて臍がちらっと覗いている。
動きやすい黒いズボンを履いたそのしなやかな体躯の美女は確認を終えると安心したように小さく
息を吐き再び椅子に座った。

「大丈夫なようだ。」
「そうか。よかったな。」
 動揺を悟られないように努力しつつ、色々聞きたくなる好奇心を抑えてそれだけを口にする。



795:ネトゲ風世界依存娘 五話
09/04/07 22:07:42 osmiow+T

「……何故怒らない?」
 そう呟く九朗の表情は無表情で読めない。俺は、

「男だろうが、実は女だろうがクロはクロだ。俺は寧ろ気づかなかった俺が見捨てられないほうが不思議だ。」
と、本心から答えた。

「関係が変わるのが怖かった。離れてしまうかと思うと話す勇気が無かった。」
「そうか。」
 確かに女と知っていれば付き合い方は違ったかもしれない。その可能性は否定できない。

「だが、異変が起こった。私の心は女だ。男としては生きていけない。」
 もし、自分がいきなり女になったら……そう想像すると確かに恐ろしい。

「お陰で選択を迫られた。私は匠との友情より女であることを選んだ。」
 罪を告白するような重い口調。

「ちゃんとこうして本音で話してくれてるんだし問題ない。驚いたけどな。」
 コーヒーを一口啜り、俺は努めて明るく笑った。

「そういってくれて助かる。代金だが……。」
「いらないいらない。ハルのギルドの奴からも貰ってないし。」
 手を振って断ったが、九朗は首を横に振る。

「対価は支払わなければならない。」
「元々タダみたいなもんだ。」
「だが、現状なら幾ら積んでも欲しがるものもいるだろう。」
 ネカマやネナベがどの程度いるのか。参加者数を考えると結構いそうではある。

「それに女性用の装備も作ってもらわなければ。」
「ああ。そっか。」
 九朗の装備を作っているのは俺だ。オーダーメイドで男性用に作っているため、女性になって体格が
変わると身につけることが出来ない。刀以外は作り直しだ。
 さらにそれに魔法を付与する必要もある。九朗の装備は作ったばかりだったから……。

「私は今持ち合わせが無い。」
「だろうな。お金はあるときで良い。」
 こういう金銭面で九朗はしっかりしている。今までもこういう貸し借りが必要になりそうなことは
あったが、断られていた。

「適当な装備でお金を稼ぐから待っててくれ。」
「それは駄目だ。」
 反則的な強さの九朗でも、安物の装備ではこいつの装備を揃えるほどの金を稼ぐ狩場では危険だ。

「どうして?」
「今死ねば二度と復活できないからだ。お前に死んで欲しくない。」
「……。」
 九朗は少し考え込んでいたが、ふと何かに気づいたような顔を見せる。

「わかった。匠……頼む。」
「ああ。早めに用意するよ。」
 折れてくれたことに俺は少しほっとした……のもつかの間だった。

「借金には担保が必要だろう。」
「それで気が済むなら何でもいいぞ。」
「その言葉に二言はないな。」
 じっと見つめる九朗に俺は頷いた。



796:ネトゲ風世界依存娘 五話
09/04/07 22:09:55 osmiow+T

「匠は人間だからあまり変わった事は無いかもしれないが、異種族の私には人間のときに無かった種族
としての本能らしきものがいくつかある。」
 いきなり何を言い出すのか。

「犬人族は一生に一度だけ、一人にだけある契約を結ぶことが出来る。」
「ふむ。」
 そういや、ゲームには無かったが設定的にはそんなこともあったな。確か──

「首輪を召喚し、契約者にそれをつけて貰う。誓いの言葉共に口付けを交わせば契約者との関係は
絶対的なものになる。これは一度しか出来ない。」
「おい、まさか。」
「ああ。私自身を担保にする。」
 主従契約。首輪の意味するものは飼い主への服従。九朗の顔を呆然と見直すが、そこに冗談の色は
なかった。沈黙を破ったのは蕾だった。

「だ、だめです!そんなことっ!!」
「部外者が口出しするな。」
 九朗は冷たく言い捨てて蕾をにらみつける。気弱な蕾はひっと小さく悲鳴を上げながらも、

「で、でも、女の人なのに……あれは……。」
「私は自分を預けられないような相手と三年も行動を共にするほど酔狂ではない。」
 迷いの無い強い言葉。

「担保のほうが高すぎて釣り合いが取れていないぞ。」
 言葉の意味を考え、そう苦笑する。だが、俺に断るつもりは無い。断れば何をするかわからない。
 金を得るために他の者に同じ事を言うかもしれない。今始めて女とわかったとはいえ他の男に
この相棒を渡すことなど考えられない。
 このまま友人として付き合うにしても他の付き合い方を考えるとしても。

「卑怯だな。クロは。最高のものを作らせて貰う。報酬は出来てから頂く。」
「まあ、褒められたと思って置こう。よろしく頼む。」
 そう返して彼女は女性になってから初めて微笑んだ。



797:ネトゲ風世界依存娘 五話
09/04/07 22:10:54 osmiow+T


 作成は明日からにすることにし、装備の細かい仕様を詰めてから九朗は自分の部屋へと戻った。
 剣の腕を上げることは続けるらしい。あいつにはあいつなりの考えがあるのだろう。

「匠お兄さんは……あの人のことどう思ってるの?」
 二人に戻った後、彼女は冷めたコーヒーを飲みながら困惑しながら俺に聞いた。

「変わってない。相棒だ。」
「あんな約束受けるなんて……不潔だよ……。」
 そういや、本当に子供だったか。恋愛もしたことないんだろう。従属という言葉でそういうことを
考えるとは……耳年増というやつか?

「俺があいつに不当な命令をすると思うか?」
「……しないと思う。」
 事実、命令なんてする気はない。はっきりいって俺にとって九朗は蕾より大事だ。それは、女になっても変わらない。大切な友人だ。あいつの尊厳を奪うような命令なんて考えただけでぞっとする。

「なら問題ないだろ。」
「うん……でも……。」
「馬鹿なことを考えてないで早く寝ろ。」
「はい。」
 わかったのかわかってないのかよくわからない声を出して、当たり前のように俺のベッドに蕾は潜った。




798:ネトゲ風世界依存娘 二話
09/04/07 22:20:18 osmiow+T


 今日もいい天気です。私─蕾は街を散策しています。


 匠お兄さんは集中して作業をするそうで、翌朝、私は部屋を追い出されました。一般の方と違い、
プレイヤーのスキルなら一日あれば大抵のものが作れるらしいので便利です。
 とはいえ、材料は大量に必要になるそうですが……。

 私は今心底嫌そうな顔をした九朗さんと昨日買ってもらった可愛い洋服を着て
街を歩いています。
 無表情なので実際はわかりませんがそんな空気が流れていました。匠お兄さんに頼まれたので
しぶしぶといった感じです。

 思えばここに着てから色々なことがありました。特に大きい出来事は春日 若葉という人間だった
私が今では犬人族の蕾として生きることを余儀なくされたことでしょう。
 もっともこの身体には不満はありません。ちょっと小さくても可愛らしい姿は私の理想でしたから。

 初日は楽しかった。初めは声をかけても誰も反応してくれなくて困ったけど、匠お兄さんのお陰で
ゲームを楽しめました。でも、異変が起こって戻れなくなるとこの御伽噺のような世界が恐ろしくなったのです。
 私は他人が怖いです。男子は他の人より大きかった私の胸をじろじろ見てくるし、女子は私を暗いとか
ムカつくとかいって陰湿なことをしてくるし。
 ですが、私には優しい両親がいました。この世界にはそんな両親もいません。唯一の知り合いである
匠お兄さんもたった一日、彼が気まぐれで私を助けてくれただけ。

「で、蕾君。君はこれからどうするんだい?」
「言ってみれば君と彼とはほぼ見知らぬ他人。君のような女の子がそんな男とずっと一緒に
いるなんてことはないだろう。」
 匠お兄さんの知り合いであるハルさんの言葉は正しいと思う。



799:ネトゲ風世界依存娘 二話
09/04/07 22:22:26 osmiow+T


「子供を苛めてやるな。一人で生活できるまでは助けるさ。」
 だけど、そういってくれたことが私をどれ程安心させてくれたか匠お兄さんにはわからないでしょう。
 夜、私を励ましてくれたことでどれ程元気がでたことか。

 見知らぬ世界に何も判らないまま放り出される恐怖は、この世界に慣れている人にはわからないだろうから。
 子ども扱いは不満だけど。
 ……怖くて一人で寝れないけど子供じゃないの!
 匠お兄さんに触れていると、心が落ち着いて気持ちいいし頭を撫でられると本能的にどうしょうも
ないくらい嬉しくなっちゃうのが悪いんだから。

 初めに助けてくれたのが匠お兄さんで本当に良かったと思う。彼と一緒にいるとき、この世界は
楽しいけど本当にこの世界は怖いのだ。

 PKと呼ばれていた人たち。彼らのような人はきっと沢山いるんだと思う。人を傷つける武器を
平気で相手に向けるような人。私に何をしようとしていたかはわからないけど、きっと虐める
つもりだったんだと思う。
 匠お兄さんはそんなときでも助けてくれた。強くて格好良かった……。血に塗れた姿が怖くて
格好悪いところ見せちゃったけど、恐怖心と一緒に何故か下腹部が熱くなってしまって……なんでだろう。
 背負われているときも……濡れてるの気づかれないかどきどきしました。

 次の日は買物をしました。男の人と外を歩くの初めてで楽しかった。匠お兄さんにお任せで困らせて
しまったけど、真剣に選んでくれました。本当に頼りになる人。

 その後連れて行ってくれた公演場では、私と似た子供が売られていてぞっとしました。
 匠お兄さんと離れたときの自分の未来を見ている気がして……。身を守る術も生活の術もない私は、
今、文字通り命を匠お兄さんに握られています。私にはお兄さんしかいません。
 あの人に見捨てられたら……私はもう生きていけません。あんな風に売られるくらいなら……どうせなら……。




800:ネトゲ風世界依存娘 二話
09/04/07 22:24:31 osmiow+T


 そして、現れた隣を歩く人。匠お兄さんと3年の付き合いのある相棒といってた人。お兄さん曰く、
この世界一の剣士。綺麗な女性。この人がいれば私なんて必要なくなってしまう。捨てられて
しまうかもしれない。それは困ります。私にはお兄さんが絶対に必要だから。

 ふと、昨日の夜の九朗さんの話を私は思い出しました……。一生に一度……。

「その服、匠が?」
 考え込んだ私に隣から声をかけられました。私は少し驚きましたが頷きます。

「はい。選んでもらいました。」
「そう。」
 そして、再び口を閉じます。耳も尻尾も全く動かさない九朗さんはその真っ黒の瞳の奥で何を
考えているのか私にはわかりません。

「昨日はきついこといって悪かったね。」
「いえ、私こそ……。」
 悪い人じゃないのかもしれない。怖いけど。

「三年男として付き合っていたから、焦っていた。」
「匠お兄さんは一番気の会う男だって楽しそうにいってたから……驚きました。」
 九朗さんは頷きました。

「お陰で三年間、ゲーム内の恋人が出来ないか怯えていた。」
「ゲーム内の恋人?」
「君は始めたばかりだったな。言葉の通りゲーム内での恋人関係だ。結婚システムもあったからな。
あいつくらいのプレイヤーならかなりの割合で使っている。」
「匠お兄さんは使ってなかったんですか。」
「理由は判らないが。お陰で気軽に匠を誘えた。そして少し前あの異変が起こった。」
 断るということは、申し込む相手はいたんだ。

「私は異変が起こったとき神に初めて感謝した。」
「どういうことですか?」
「女性に戻るチャンスをくれたことを。そして、生き延びさせてくれたことを。」
「指輪のことですか?」
 確か匠お兄さんがくれた指輪のお陰で命拾いしたって……。



801:ネトゲ風世界依存娘 二話
09/04/07 22:26:19 osmiow+T


「現実世界の私は最期の退院中で異変の翌日、匠と別れて引退する気だった。」
「……?」
「重病患者は容態が落ち着いているときに退院が一度だけ許される。そういう意味で最期だ。そんなときでも
家に帰らず、金とゲームだけを与えていた親は私が消えて今頃清々していることだろう。」
「そんな……。」
 嘘をついている様子はありません。彼女は何時もどおりの表情で当たり前のことを離すような
感じで重い話をしました。

「普段は接続していない異変に巻き込まれる時間にログインしていたのもそのおかげだ。私は運がいい。
三年も我慢して、何もせずに何も言わずにただ諦めるつもりが機会を得たのだから。しかも、昔くれたアイテムで
命を助けてくれるおまけ付きだ。運命だな。」
 九朗さんは少しだけ幸せそうに微笑みました。女の私から見ても素敵な笑みだと思いました。

「でも、あの契約はしてしまえばどうなるか……。」
「そうだな。判らない。首輪をつければどうなるのか。だが、同時に期待もある。私は嬉しくてたまらない。」
「……?」
 次の言葉に私は少し驚きました。

「強くて優しい、理解のある主人を持つことは幸せだと思わないか?お前も犬人族になってしまったのなら
少しは理解できるんじゃないか?」
「そんなこと!……ありません……。」
「何にせよ、私はどんな手を使ってでも彼と一生を共にする。私はあいつがいないと生きている意味が無い。
誰にも邪魔はさせない。」
 九朗さんは迫力のある笑みで私を見ます。そのためには殺すことも厭わない。そんなぞっと
するような迫力が彼女にはありました。
 ですが、それでも私は……。
 決意を隠すために下を向いた私に九朗さんは、続けました。

「今の話は匠には内緒だ。フェアじゃないから。それに過去などもうどうでもいい。」
 そう無表情ではっきり言い切る九朗さんに臆病な私は恐怖を感じていました。

 ですがそれでも、私は決意していました。


─匠お兄さんと私はずっと一緒にいる─どんな手を使ってでも。







802:名無しさん@ピンキー
09/04/07 22:27:41 osmiow+T
以上で投下完了。

803:名無しさん@ピンキー
09/04/07 23:01:19 uaK6YTde
GJ!
しばらく投下はないと思ってたら、こんなに早く・・・・うれしくなっちゃうなぁ~あ♪
ところでタイトルが2話になっているのは?

804:名無しさん@ピンキー
09/04/07 23:56:42 BZh4dVmC
まずはGJ
しかしこのままだと血生臭い事になりそうだ。
一人じゃ足りないから、皆で匠の重しになって逃がさないとか、人類皆仲良くハーレムとかの方向に女性陣の考えがシフトしないと危なそう。
まぁなんにせよ平和的解決を願ってる。
久々にいい依存の匂いがしたからこれからも頑張って欲しい。

805:名無しさん@ピンキー
09/04/08 00:08:31 dzXMQq1E
強気系(実は臆病)と弱気系(苛められっ娘)の依存の会わせ技できたか……いいなこれ!GJッ!!

二人の鞘当てに期待
そして今後の展開に超期待!

806:名無しさん@ピンキー
09/04/08 00:42:14 3WOUriu7
最高です

807:名無しさん@ピンキー
09/04/08 01:22:12 K/VTNClh
何はともあれGJ!
これからの二人の融和に期待
ハーレムとかになると個人的には狂喜乱舞する
やっぱり依存は依存者同士が仲良ければ何人いてもいいよね!

808:名無しさん@ピンキー
09/04/08 05:08:54 PUzYebxP
ここはまとめないんだね

809:名無しさん@ピンキー
09/04/08 15:03:26 pzM5VR9+
>>802
GJ
最高だね。最後はハーレムendがいいなぁなんていう個人意見


是非ともまとめは作ってほしいがね



810:名無しさん@ピンキー
09/04/08 16:31:40 fm4I10rH
>>808

>>775


811:名無しさん@ピンキー
09/04/08 18:12:09 7kKHB/If
>>808
なんか最近保管庫無いって発言やたら見るけど
おみゃらなぜ自分で作ろうとしないよ
最初に一つ形式決めりゃあ後は簡単だに

過去ログなら>>775入ってるから今すぐがんばれ

812:名無しさん@ピンキー
09/04/08 20:43:32 fjMACuiZ
そろそろ次スレかな?

813:名無しさん@ピンキー
09/04/08 20:50:30 pzM5VR9+
>>811
作り方がわからないのですよ。私の場合は。申し訳ないね他人任せで

814:名無しさん@ピンキー
09/04/08 21:38:52 1vuTVvCg
ノクターンで依存ものな短編を見つけた
ただ依存→隷属になっちまったけどね
でも隷属も依存の範疇に含まれるのか?という疑問を抱き始めた

815:名無しさん@ピンキー
09/04/08 21:40:06 5xvMZoGa
wikiでまとめサイト作る案もあったが管理がな・・・・。

>>802
GJ!
>>809じゃないが犬耳二人とハーレムはいいなぁ、二重依存というかそんな奴。

オンラインゲームで馴染みのPTとかギルドでダンジョン潜ってたりすると
ゲームなのに現実に近い仲間意識というか守りたいって感情が出るん
だよなぁ。
俺の場合魔法使い系しかやったことが無いけど前衛が頑張っている間に
他の仲間をゲートで脱出させたり、自分が身代わりになって仲間が脱出
する時間稼いだりってのはよくあったなぁ。


816:名無しさん@ピンキー
09/04/09 00:05:43 louLzTgR
>>814
タイトル教えて

817:名無しさん@ピンキー
09/04/09 09:55:36 mIhbwQmd
>>814
「歌姫女さんと主婦の男くん」?


818:名無しさん@ピンキー
09/04/09 15:30:47 f96vleCn
ほのぼの(純愛的な意味で)するよなあの話。

819:名無しさん@ピンキー
09/04/09 21:51:43 ibxTcqqq
あの話すごいいいよね。
このスレともマッチしてるし

820:名無しさん@ピンキー
09/04/10 00:08:51 cDIS1LjC
知らない話題は~

821:名無しさん@ピンキー
09/04/10 05:35:25 swr+u807
>>816
『MISS!』って短編。
ただし近親、ロリが苦手な人にはオススメできません。

822:名無しさん@ピンキー
09/04/11 19:16:12 FyUufVuR
なんで俺が依存好きかわかった
・・・・・・自分に自信がないせいだ

823:名無しさん@ピンキー
09/04/11 20:30:51 d1rPC5oc
3スレの最期のSS投稿になるのかな。
というわけで投下します。

824:ネトゲ風世界依存娘 六話
09/04/11 20:32:24 d1rPC5oc


 会話が無くなり街を道を覚えるために散策していると、武器屋の前に見知った女性がいました。初めに
紹介してもらった薄紫色のスレンダーな女性。おかまの人?

「ハルさん。こんにちは。」
「……ちわ。」
 無愛想に呟いたのは九朗さんだ。

「ああ、九朗に蕾ちゃん。匠に無理やり襲われたりしてないかい?」
「た、匠お兄さんはそんなことしませんっ!」
 冗談だよとからかうようにハルさんは笑います。酷い冗談です。

「一緒に寝てますけど大丈夫です。頭撫でてくれます。紳士です。優しいです。」
「……。」
 ん?何か変な目で二人とも私を見ているような。

「あの馬鹿。ついに入ってはいけない道に……。」
「一発殴る。」
「あ、あの!私が無理やり頼んだんです!」
 私の必死な叫びにハルさんは溜息をつきました。

「冗談だよ。しかし、君たちが来てくれて丁度良かった。」
「何があった?」
「私はこの数日遊んでたわけじゃないからね。色々判ったよ。」
 今、ハルさんは前の鎧ではなく、男物の白いスーツを着ている。白い手袋をつけて腕を組みながら
話すその姿はいかにも仕事が出来る女性といった雰囲気があります。

「私の話の内容は、匠にも伝えて欲しい。」
「わかった。」
 そう前置きして、ハルさんは私達に現状どうなっているかを話してくれました。

「現在、この街にいる私達と同じ立場の者は1500人前後と予想してる。この街を拠点にしている
有力ギルドと連絡を取って人数を把握して計算して予測した数字だよ。」
「そんなに!」
 私達みたいな人がそんなにいるなんて驚きです。ですが、九朗さんは意外そうに言います。



825:ネトゲ風世界依存娘 六話
09/04/11 20:33:12 d1rPC5oc


「思ったより少ないな。」
「異変の時間が時間だからね。次に死んだ人間は生き返らない。」
「匠もそんなこといっていた。」
 ハルさんは九朗さんの言葉に小首を傾げました。

「そいつはおかしいね。どうやって知ったんだろう。」
「あ……私を助けるためにPKの人を……」
「それは相手に運がなかったね。」
 九朗さんも相手は死んでいるというのになんでもないというように頷く。

「蕾ちゃん。それは大っぴらには話さないこと。いいね。」
「はい。何故ですか?」
「人と人には思いもよらない繋がりがあったりするからだよ。復讐なんてされたくないよね?」
「な、なるほど……。」
「……格好良かったかい?」
 にやにやとハルさんは笑っていましたが、私は素直に頷きました。

「他には?」
 九朗さんは不機嫌そうに先を促します。

「種族によって人の性格に影響が出ているようだね。君たちも感じているかもしれないが。ドワーフは
頑固になったり、猫人族は孤立主義的になったり、エルフは賢者モードになってたり。」
「賢者モード?」
「帰ったら匠に聞いてみればいいよ。」
 ……何なんでしょう。九朗さんも首を傾げています。賢くなるのかな?

「後は一番重要なのが……この手紙を匠に渡してくれればいい。」
 ハルさんは小声で呟き、何時の間にか服の中に手紙の感触が。

「スリ……」
「便利な技能だろう。」
 呆れる九朗さんにハルさんは声を上げて笑った。

「じゃ、よろしく頼むよ。私は他の者にも会わないといけないから。」
「わかりました。」
 適当に挨拶すると風のように去って言った彼女の後ろ姿を私は見つめていましたが、九朗さんは
少し不審そうに後姿を見つめていました。

「……どうかしましたか?」
「ハルは少し苛立っていた。」
「えええ!私何か失礼なことしましたか?」
 私のせいで匠お兄さんとハルさんの仲が悪くなったりしたら……捨てられちゃうかも……

「違う。なるほど……それで手紙か。」
「じゃあ、どうしてでしょう。」
「想像はつく。だけど、君には今は話せない。」
 九朗さんは険しい顔をしました。

「……?」
「君は悩みがなさそうで羨ましいな。」
 小さく溜息をついて九朗さんが呟いたので。

「私だって人並みに悩んでます。」
 色々と悩んでます。と主張しておきました。




826:ネトゲ風世界依存娘 六話
09/04/11 20:34:00 d1rPC5oc


 初日で匠お兄さんと二人で歩いたような主要施設を一通り案内してもらって戻る頃には日が暮れていました。
 九朗さんは、何故かどんなときでもぴったりと離れず寄り添うように案内してくれました。
 質問には答えてくれますし、他愛のない話にも少しだけですが反応してくれます。

 匠お兄さんが絡まなければ親切ないい人です。

 稼いだお金を使って案内してもらった雑貨屋でお土産を買うと、私達は宿屋へと戻りました。
 部屋に戻ると、部屋は凄い惨状でした。

 色んなものが部屋中に散乱し、あらされ放題になっています。その中央ではお兄さんがぼろぼろに
なって倒れていました。

「た、匠お兄さんっ!!!!!!!」
 私は急いで駆け寄ります。ま、まさかど、泥棒に……

「すー…すー…」
 ……寝ているだけでした。なんだかやり遂げたような幸せそうな笑みで彼は倒れこむように眠っていました。
 無造作に散乱しているように見えた部屋の中には、鎧の部品や、服、アクセサリーなど様々な
ものも混ざっていました。
 これは作成したものなのでしょうか。たった、一日で……。

「流石だ。半分以上完成している。」
 うんうんと九朗さんは頷いています。無表情ですが尻尾がゆらゆら振られています。

「よく寝てますね。」
「余程集中してたんだろう。」
 ふと、気づいたように九朗さんは屈みました。そして立ち上がると手には小さな指輪が。

「これも直してくれたのか。」
 彼女は心なしか頬を染めて指輪を眺めていました。ためらいも無く、左手の薬指に嵌めました。
 表情は変わりませんが尻尾を振る速度があがっています。
 私はそれを自分でも驚くほど冷めた目で見ていました。




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