【貴方なしでは】依存スレッド3【生きられない】at EROPARO
【貴方なしでは】依存スレッド3【生きられない】 - 暇つぶし2ch600:名無しさん@ピンキー
09/02/23 01:47:42 W1K3dgk5
おおお久しぶりじゃないか!
今から読んできます

601:名無しさん@ピンキー
09/02/23 15:54:49 v/K28hTG
読ませて頂きました!

貴方に惜しみないGJを!やっぱり物語は底抜けにハッピーなエンディングじゃなきゃね!?

602:名無しさん@ピンキー
09/02/23 16:58:31 1Qb6t+fL
まとめてで失礼だが、心の隙間、ゲーパロ両氏ともGJ!

「ぴ、ぴ、ピラルクー」でどうしても吹いてしまうのは俺だけじゃないはずw

603:名無しさん@ピンキー
09/02/23 17:07:20 +jlqEGmf
神GJ

604:名無しさん@ピンキー
09/02/23 18:14:47 tWok7hzy


605:依存系幼なじみ(0/5) ◆9DJPiEoFhE
09/02/24 05:36:18 YFNOwbAs
5レス投下します。

606:依存系幼なじみ(1/5) ◆9DJPiEoFhE
09/02/24 05:37:23 YFNOwbAs
 頭部を鈍器で殴られたかのような衝撃。今日も一日の始まりだ。
「ってぇ……」
「浩樹(ひろき)、起きたぁ? もいっちょいっとくぅ?」
 甘えるような声で囁く少女。言葉と行動が違えば天国なのだろうが。
「起きた起きた。見ればわかるだろ、妻依(さより)」
「何よ、嫌そうな声出しちゃって。やっぱりもいっちょ……」
 拳を振り上げる。
「やめい。そりゃ毎朝毎朝殴られてれば嫌な顔にもなるだろ」
「毎朝殴ってくれって言ったのは誰だっけ?」
 整った美麗な、しかし幼さを残す顔を歪ませてこちらを見下ろす妻依。にやにやすんな。
「いや、そりゃ、だって、起きれないし……てかその言い方は語弊があるぞ。別に殴ってくれとは」
「はいはい自業自得。さ、着替えるわよ」
「聞けよ……」
 そう言いつつもしぶしぶと従う自分。慣れとはかくも恐ろしいものである。
「未だにこのパジャマ着てるのね。かっわいい~」
「茶化すなよ。時間ないんだろ」
 顔に血が上っているがわかる。今着ているパジャマは小学生からのものだ。寝巻きというものは自分が一番楽に過ごせるものにするべきであって、そういうものは時間が経てば経つほど変えられないものなのだ。だから仕方がない。仕方がないのだ。
「はい、終わり」
 手馴れた様子でネクタイを軽く締められ、ポンと胸を叩かれる。
「ん」
 妻依は顎をついと上げ、薄い……失礼、小ぶりな、いや、ささやかな、取るに足りない、粗末な……これ以上考えても僕の語彙じゃ墓穴を掘ってしまいそうだ。つまり、その、洗濯板を張った。
「っでぇ!」
「今、失礼なこと考えたでしょう?」
 頭をさする自分と張り付いたような笑顔で問う妻依。穴はすでに掘りきっていたようだ。
 さて、気を取り直して次からはずっと俺のターンだ。
「お前こそずっとそのパジャマだよな」
「……仕返しのつもり? 言っとくけど、あんたがそれ着てるからあたしもこれずっと着てるのよ」
 ターンエンド。もう僕のライフは0だ。
「ほらほら、顔赤くしてないで続けなさいな。本当に時間なくなってきちゃった」
 妻依には勝てた試しがない。無駄な抵抗は諦め、急いで制服に着替えさせる事に努めた。

607:依存系幼なじみ(2/5) ◆9DJPiEoFhE
09/02/24 05:38:24 YFNOwbAs
「行って来ます」
「行って来ます」
 家を出る。
 今日は快晴だ。しかし冬空に雲ひとつないと逆に寒く感じる。
「寒いわね」
 ぶるりと体を震わせる。妻依も同意見のようだ。
 いつものように二人で登校する。会話はない。幼馴染といってもそんなものだろう。
 昔はともかく、もう思春期もそろそろ終わりという年頃だ。異性の幼馴染というのは意識する対象ではなくなってしまっている。ありふれた言い方だが兄妹のようなものだ……姉弟かもしれないが。
「飯塚(いいづか)さん、桜咲(さくらざき)くん、おはようございます」
 振り返ると、クラスメートの三神さんが小さく手を振りながらこちらに歩いているところだった。
「おはよ」
「おはよう」
 挨拶を返す。
「ふふ」
 三神さんが小さく笑った。笑い方も人が違うとこんなに上品に見えるんだな。朝に見た邪悪な笑顔とは大違いだ。
「何にやにやしてるのよ、実夏」
 にやにや? 三神さんの笑みは微笑んでいるという表現が正しい。自分と同じ基準で物事を考えるのはどうかと思うぞ、妻依。
「あ、浩樹、あんたまた騙されてる。この子は」
「二人は本当に仲がいいんだなって」
 三神さんが妻依を遮るように笑顔で言い切った。
「そりゃ悪くはないわよ。幼なじみなんだから」
「そうだよ、こんな暴力幼なじみと一緒にいれるのは僕だけだと自負してるよ」
「せんでいい! ……さっき、痛かった?」
「ん、いつものことだし。それに大体、僕が悪いし」
「いつも、ごめん」
「くすくす」
 三神さんから視線を感じる。
「何よ」
「何でもありませんよ」
 その時の三神さんの顔はとても綺麗な笑顔だった。

「今日は一段と寒いですね」
 どうやら誰もが今日の天候に関しては共通認識を持つらしい。まぁ真冬の朝なんてそんなものだろう。
「そうね、毎朝毎朝寒くてやんなっちゃう」
「飯塚さんと桜咲くんには関係なさそうですけどね」
 そう言ってくすり。
「どういう意味?」
「そのままの意味ですよ。あったかそうだなぁって思っただけです」
 妻依と二人して首を傾げる。
 三神さんはそう言うが、僕らは取り立てて特別な防寒をしているわけではない。
 妻依は制服に市販のダッフルコート、それに手編みのマフラーと手袋。僕に至っては制服に妻依と同じマフラーと手袋という始末だ。寒そうと思われるならともかく暖かそうと思われる謂れはないはずだ。

608:依存系幼なじみ(3/5) ◆9DJPiEoFhE
09/02/24 05:39:25 YFNOwbAs
「そこの二人、止まれ」
 校門を抜ける。この寒空の下、三十分近くも歩き続けるのは苦行だ。
「おい」
 家からだと自転車通学の許可がでないギリギリの距離なのだ。十メートルくらい大目に見ていただきたい。まぁ、自転車でも寒いことには変わらないのだが。
「貴様ら! 止まれと言っている!」
「何よ」
 鬱陶しそうに妻依が応える。
「何度も何度も言ってることなんだが、誰も見ていないところだったら何をしていても誰も文句は言わない。だが、ここは学校だ。最低限度の校則は守って欲しい」
 苦々しげにこの学校の生徒会長である上原さんがそう言ってくる。
「何度も何度も聞いてることだけど、あたしは別に校則を破ってなんかいないじゃない? こいつは知らないけど」
 僕を顎でしゃくる妻依。
「僕だってそんな覚えなんかないですよ」
「自覚のない悪が一番の悪だとはよく言ったもんだ……」
 上原さんがぼそぼそ何か呟いたが僕には何と言ったのかはわからなかった。
「だから、その、べたべたとくっつくのを止めてくれ、とそう言っているんだ」
 べたべた? 僕らはそんなことをしている覚えはない。
「だから、そんなことはしてないじゃない」
「そうですよ」
「ぐっ……いや、つまり……」
「お二人が仲睦まじく手を繋いで身を寄せ合っている姿を全校生徒に晒していることが、校紀を乱すことに繋がるかもしれないと生徒会長さんは心配しているのですよ。ね?」
 今までどこにいたのか、三神さんが割り込んできた。
「そ、そうだ。不純異性交遊をするななどとは言わん。ただ、何だ、もう少し節度を守って欲しいというか、その、他人の目を気にする努力をして欲しい」
 上原さんはなぜか顔を俯かせながらそう言った。
「手ぇ? 手を繋ぐなんてこと普通でしょ? それにこんなに寒いんだし、誰かにくっついてないとやってられないわよ」
 白いため息をつきながらうんざりしたような表情を作る妻依。それに関しては僕も同意だ。加えれば早く教室に行きたい。
「ふつうじゃない! 貴様らの基準は知らんが世間ではそういうことは恋人同士でしかやらんのだ!」
 鼻息も荒くがなりたてる上原さん。せっかくの美人が台無しだ。
「だからあたし達は恋人なんかじゃないって。ねぇ、浩樹」
「そうですよ。ただの幼なじみです」
 淡々と返す。何となく火に油を注いでるな、とも思いつつ。
「恋人じゃないぃ? どう考えても」
「事実はどうであれ、周りにどう見えるかが問題だと生徒会長さんは言いたいのですよ。ね?」
「あぁ、そっか。それならそうと早く言いなさいよね」
 すっと腕から離れる妻依。寒い。
 その場を去る僕ら三人。
 振り返ってみると、校門の前で上原さんは毒気を抜かれたように呆然としていた。

 妻依と三神さんはクラスが同じだが、僕は別だ。一年と二年のメンバーはほとんど変わっていないのに僕らは離れてしまった。少々面倒だが、クラス分けは水ものなのだから仕方がない。そう思いながら、僕は一限の準備を始めた。

609:依存系幼なじみ(4/5) ◆9DJPiEoFhE
09/02/24 05:40:32 YFNOwbAs
 チャイムが鳴る。今日もようやく一日が終わりだ。私は鞄に教科書を詰め込み、隣のクラスに入る。
「あれ?」
 いつもの席に彼がいない。どうしたことだろう、何かあったのだろうか。
「誰もいない教室を覗いたりしてどうしたの? 妻依」
 後ろからの声に振り向くと、不思議そうな顔をしているクラスメイトがいた。
「ひろ、いや、このクラスはどうしたんだろうって」
「最後の授業の先生が病欠とかで自習だったらしいよ。うちのキムも休めっての」
 キムとはついさっきまでうちのクラスで授業をしていた数学教師のことだ。妖怪ラリホー、α波製造機など、異名の多さだけが取り得である。
「……そうなんだ。ありがと、瑠璃」
 瑠璃に礼を言ってその場を後にする。
 さて、彼はどこに行ったのだろうか。帰宅したということは考えられない。なぜなら、私が同じ立場だったらそうすることは絶対にありえないからだ。
 まず昇降口で彼の下駄箱を確認する。うん、靴はある。
 次に彼が一番いる確率の高い図書室へ。放課後の図書室というものは試験前でもなれば閑散としているものだ。今日も例に漏れずここは静寂に満ちていた。
 念のため、通路にある座席も含めて隅々まで探したが彼の姿はなかった。次。
 可能性は低いが生徒会室へ。
「おや、一人とは珍しい」
 嫌な奴に会った。回れ右をしようとするが。
「桜咲君をお探しだろう。いくら恋人とはいえ常に一緒で気が滅入らないのか」
 会長はそう問うた。私は彼女を見据えた。
「だから、恋人同士ではないのよ」
「ただの幼なじみだと」
「ええ」
「それは、いつか恋人同士になるかもしれない、という意味も含まれているのか?」
「考えたこともないわ」
「それでは、いずれお互い別の恋人ができる日が来るかもしれない、と」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「君は曖昧だね」
「あたしは他の人より成長が遅いのかもしれない。恋とか愛だとかそういうものがよくわからないの」
「私だってわからんさ。それでも君が彼といたいという気持ちは変わらないのだろう」
「そうね、それは本当。昔から、彼と過ごした記憶の中でそれだけは一度も変わっていないわ」
「……そうか」
 顔を伏せる会長。そして生徒会室を占める沈黙。
「……で?」
「で、とは何だい」
 まだいたのか、とでも言いたそうな顔で会長がこちらを見上げた。
「いや、こういうシリアスな会話をした後に浩樹の場所を教えてくれるのがお約束かなーって」
「ゲーム脳も大概にしたまえ。そもそも私は最初に君が一人なのを珍しがったじゃないか」
「だったら思わせぶりな会話しないでよ!」
 まったく、喋り損だ。早く浩樹を探しに行かねば。もう日はずいぶんと傾いている。
「しかし、こんな時間までここで話していてよかったのかい? もう桜咲君は帰ってしまったのではないか?」
「ううん、浩樹は絶対にあたしを待っているわ」
 これだけは言い切れた。そうして生徒会室を後にする。
「わかってるよ」
 会長はニヤリと人の悪そうな笑みを浮かべた。

610:依存系幼なじみ(5/5) ◆9DJPiEoFhE
09/02/24 05:41:34 YFNOwbAs
 どこを探しても彼の姿はない。
 駄目元で、最初に探した図書室に入った。
 目の覚めるような赤。窓から夕焼けが差し込み、部屋は相変わらず静寂に満ちていた。 そんな中、備え付けの机で舟をこぐ者が一人。
 向かいの椅子に座って眺めた。アホ面だ。それ以外に表現しようがない。そんな顔を見ていると私はどうしても顔の緩みが抑えられなかった。だから……

 頭部を鈍器で殴られたかのような衝撃。
「ってぇ……」
「お目覚めぇ? 居眠りとはいい身分ねぇ?」
 目の前には妻依、いや殺意の波動に目覚めた者がいた。
「うわっ、はんにゃ、ってぇ! いや妻依、いつの間に」
 ボカボカ殴るのはやめて欲しい。ただでさえできの良くない頭が悪化してしまう。
「今何か言った? こっちの台詞よ! さっきはあんた図書室にいなかったじゃない」
「え? 僕はずっとここにいたはずだけど……」
 そう、僕は六限が休講と聞いてからずっと図書室で妻依を待っていた。褒められる理由はあっても殴られる理由はないはずだ。
「六限の終わった直後! この部屋誰もいなかったわよ?」
「あー、その時は、トイレ、行ってたかも……」
 あの時は僕の中のテロリストが大暴れだったのだ。早々に最善の処置を講じる必要性があった。
「トイレなんてずっと我慢してなさいよ」
「無茶言うなって」
 ぷいと顔を背ける妻依。それを見て気づいた。つまり妻依は六限が終わってから僕をずっと探して歩き回っていたということになる。
 この暖房の効いた図書室ではなく、身を刺すような寒さの校内を。
「ごめん」
 素直に謝る。申し訳ない気分でいっぱいになった。
「お詫びに帰りにアイス奢りなさい」
「え、この冬のしかも夕方に?」
「い・い・か・ら! 行くわよ!」
「……わかったよ」

 腕を組んだ二人が部屋を出て行く。
 一部始終を眺めていた図書委員の男子生徒は久々の光景を堪能したことに満足しつつ欠伸をひとつ。
 とっくに過ぎた閉館時間をまた顧問の教師に注意されることを憂いつつ、読みかけの文庫本に栞を挟み、すでにほぼ終えていた退室準備を手早くこなし、図書室を後にする。
 冬の日の入りは早い。少し前まで騒がしかったそこは、完全なる暗闇と静寂で満たされた。

611: ◆9DJPiEoFhE
09/02/24 05:42:35 YFNOwbAs
投下終了です。
書き忘れましたがエロなしです。

612:名無しさん@ピンキー
09/02/24 13:02:15 q2aDpOuh
投下乙
続き期待

613:名無しさん@ピンキー
09/02/24 20:47:40 oNgr3B5b
wktk

614:名無しさん@ピンキー
09/02/24 21:30:54 5eNMk5EX
>>610
GJ!これはいい依存。
一人で帰るのそんなに嫌かw

615:心の隙間
09/02/25 03:40:51 7veM0QOl
>>611
よかったです。
GJ!!
ゲーパロさんも楽しかった

616:名無しさん@ピンキー
09/02/25 03:47:49 7HQLlxcE
>>611
こういうのなんかいいね、本人達に自覚がないのがおもしろい。


そして、ゲーパロマンセー!

617:名無しさん@ピンキー
09/02/25 04:06:12 p1eurv0u
>>611
ネタの仕込み方が上手いな。こうもすんなりと。
それぞれが思惑ありげに依存カップルを見守っている雰囲気が良い。

618:名無しさん@ピンキー
09/02/25 08:36:56 HLWCZKoc
>>611
GJです。
幼馴染のまま踏み込んでいったらこうなりました、という感じだな。

619:心の隙間
09/02/25 20:28:54 7veM0QOl
明日の朝には投下できるかもしれないです。
遅れても明日の21時までには投下します。
それでは

620:名無しさん@ピンキー
09/02/26 11:28:59 v3suS8n0
待ってます。

621:名無しさん@ピンキー
09/02/26 23:21:47 hAJ4hqrT
まだかな

622:心の隙間
09/02/26 23:48:57 q7RgKJAu
すいません、投下したいんですけど。
なぜかできない…

もう少し待ってください

623:心の隙間
09/02/27 01:04:56 gLF4+23k

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「ふふ…あの二人仲良くしてるかしら?」
楽しそうに話す恭子になぜか少し苛立ちを覚える。

「仲良くしてるかって……そりゃ勇は面倒見がいいからね。妹できたみたいな感じじゃないの?」
レモンティーが入ってるカップから口をはなして返答する。
少し返答に棘があったかと恭子を見るが、気づいていないみたいで笑みを浮かべている。

―私達は今、恭子の頼みで勇が入院している病院から少し離れたオープンカフェで時間を潰している。

凪ちゃんがどうしても勇と二人で話をしたいそうだ。
「ふふっ…家出の後、家に帰ってきてからずっと携帯握ってるから何事かと思ったけど…とうとう凪にも春がきたわね。」

「……」

時計を見る…7時20分。
8時になったら面会時間が終わる。

「あら?もうこんな時間…それじゃいこっか?」
恭子が席をたち伝票をとる。

私と恭子がカフェに入ると、どっちがお金を払うかジャンケンで決める。
私たち2人の学生からの決まり事だ。

恭子の旦那である修司くんも子供っぽい恭子の仕草が一番好きだったらしい。


624:心の隙間
09/02/27 01:05:19 gLF4+23k
理想の女性像は?と聞かれれば間違いなく恭子と答えるだろう。
あんなふうに男の人に甘えてみたかった。
「ほら!おいて行くわよ?」
恭子の声が後ろから聞こえてくる。
振り返るともうレジをすませてコートを羽織っている。

「う、うん!今いく!」
慌てて私もコートを手に取り恭子の後を追う。

外にでると冷たい風が勢い良く肌に突き刺さる。
昔は真冬にミニスカートを着てもまったく気にしなかったが30半ばになれば昔みたいに短いスカートなんて着れない。
悲しいことだが、そんな服装をしたとろこで喜んでくれる人もいない。

「はぁー…はぁー…少し遅くなったかもね…凪心配してるかしら?」
恭子が自分の手に息を吹きかけると、寒さで白くなった息が両手を包み込む。

「大丈夫よ、もうすぐ中学生でしょ?」
来月から高原一家が家の前の住宅街に引っ越すことになった。
その新居から凪ちゃんは中学校に通うらしい。
通う中学校は新居に近い私と恭子の母校。
勇の通ってた中学校でもある。

凪ちゃんに頼まれたと言うのだが、まず娘に頼まれたって一軒家を買うなんてあり得ない。
そこには少なからず私も関係してくるのだ。

625:心の隙間
09/02/27 01:05:42 gLF4+23k
―勇の約束。

少しギクシャクするが麻奈美も精一杯頑張ってくれているので順調に勇との約束を継続できている。

あの勇の一言がなければ確実になかった現実。
勇と麻奈美には感謝してもしきれない気持ちでいっぱいだ。

「あんた…物凄く泣きそうな顔してるわよ?」
恭子が心配そうに話しかけてくれてる。

「バカ、子供じゃあるまいし…早く病院いきましょ。」

多分私は本当に泣きそうな顔をしていたのだろう。
少し滲んで視界が見づらくなっている。
今日はあまり勇と話していない。
面会時間の終了が近づいてるが恭子が隣にいる限り、走る訳にもいかない。

「ちょっ!ちょっと」」

頭ではゆっくり歩いてるつもりだったが
自然と足が速まっていたみたいだ。

―急激に勇に近づきすぎたのだろう。
最近、勇の顔を見ないと落ち着かなくなっている。

玄関前から上を見上げると勇の病室が見える。

「勇見えないかなぁ…」

「ははっ見えるわけないでしょ?」

小さく呟いたのに恭子に聞こえたみたいだ。
「ふふっ…わかってるわよ…」
分かってることだがなぜか寂しさがこみ上げてきた。

「…わかってるわよ…」

勇の存在がどれだけでかいか思い知らされてしまう。

626:心の隙間
09/02/27 01:06:09 gLF4+23k

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「お姉ちゃん、ちょっと…凪ちゃんも…」
なぜか姉もベッドに入ってきて姉と凪に挟まれてしまった…。
この部屋だけえらく濃い空気が流れている気がする。

―姉が部屋に入ってきて凪の顔を見た瞬間、時間が止まったかのように三人とも停止した。

数秒の間だったのだが何時間も時間が止まったような錯覚に陥っていたのだ。

「あれ?…なんで……え?」
姉もパニックに陥ってるのだろう。
手もポケットに入ったり後ろにいったり忙しない…。
表情も病室を間違ったかの如く申し訳なさそうに周りを見渡していた。

「えっとね…ちょっとややこしいんだけどね…」

戸惑っている姉に凪がいてる理由を話すと。
話が終わった瞬間冷静な顔つきで「嘘つけ」と言われた。

「本当だって…もうすぐお母さんも帰ってくるから聞いてみたらいいよ。」

「そう…わかった。」
分かってくれたのか姉はパイプいすに座り、大きなため息をついた。

「体の調子はどう?少しは楽になった?」

「うん、もう大丈夫だよ。」

駅から走ってきてくれたのだろう……顔が熱を帯びて赤くなっている。

627:心の隙間
09/02/27 01:06:41 gLF4+23k
「ごめんね?今日おそくなっちゃって…友達が離してくれなくて…」
この言葉を聞いて安心した。
大学でもちゃんと楽しんでるようだ。

「来てくれるのはありがたいけど、たまには友達と遊びなよ?ストレスたまるよ?」

「勇と話すことにストレスなんて微塵にも感じたことないわよ…それに大丈夫、大学では友達ともよく話すから。」
まぁ、大学で友達ができただけでも大進歩としておこう。

「それと…これ…」
姉がカバンから何かを取り出す。

「おぉ!!お姉ちゃん、それはっ!!」

姉がカバンから取り出したもの……それは真っ赤なリンゴだった。

「ふふっ…美味しそうでしょ?勇大好きだもんね。」
姉が真っ赤な果実を俺の目元まで持ってくる…

「それ…どうするの…まさか俺の前で食べるの?……さすがにお姉ちゃんでも怒るよ?」

「そんなことしないわよ…お医者さんに聞いたらリンゴなら少し食べてもいいそうよ?」
この時ほど姉に感謝した日はないだろう…。

「マジで!?お姉ちゃん愛してる!!早く食べさせて!!」

姉の顔がリンゴの如く真っ赤だったがそれ以上に魅力的な真っ赤な果実に夢中だった。


「ゴッ…ゴホン…しょうがないわね…剥いてあげるから少し待ってて。」

628:心の隙間
09/02/27 01:07:09 gLF4+23k
「うわ~すご~い!皮全部繋がってる~!」

凪が珍しいものを見るように身を乗り出して眺めている。

「ふふっ…凪ちゃんも料理するようになれば、すぐに覚えるわよ♪」
器用な手つきで皮を剥いていく姉も少し誇らしげだ。

「これで…よしっと!はい勇、召し上がれ。」
芯の部分を切り落とし、皿に並べて手渡しされる。

「…姉ちゃん…これ…」

丁重に切りそろえられたリンゴは物凄く美味しそう……だが。

「ん?なぁに?食べさせてほしいの?」
そういうと俺の皿に手をかけようとする。

「違うよ!!…なんで俺の皿だけリンゴ二きれしか入ってないの!?」
姉と凪のお皿には四きれある。
新手の嫌がらせかと思うほどあからさまな行動に、苛立ちを覚える。

「お医者さんにいってよ、あまり食べささないでくださいって言われたんだから。第一お粥食べたんでしょ?」

「ぐっ!?……っいただきます!!」
自分の病気だからしかたないリンゴを食べれるだけでも姉に感謝しなくては。

久しぶりの好物を口に入れようとする……が口に入る前に腕を掴まれ阻止される。




―「お兄ちゃん…あのね……その…私がお粥の時みたいに食べさせてあげよっか…なんて…」

629:心の隙間
09/02/27 01:07:37 gLF4+23k
口の前でフォークに刺さったリンゴがピタッと停止する。

「…食べさせてもらった……?」
姉のほうを振り替えれない…振り返ったら大惨事になると直感で感じたからだ。

「家では私がいくら食べさせてあげると言ってもさせてくれなかったのに……凪ちゃんにはさせるんだ…ふ~ん…」

あぁこれは怒ってる…

「いやっ!…あれだよ!…ほらっ!!今病人でしょ?だからしかたなくみたいな…感じで…」

「そう…それじゃ私が食べさせてあげる、私も隣にいくわ…ちょっと横に寄ってよ勇。」
そう言うと、イスから立ち上がり掛け布団をまくりあげてベッドに入ってこようとする。

「ちょっ!?なっなんで!?狭いよ!!」
さすがに三人は狭い…この2人は俺が病人だと認識してるのだろうか。

「大丈夫よ、落ちないから」

姉は落ちないかもしれないが凪が危うい。
落ちまいと必死に左腕にしがみついているが、このままいけば凪が落ちてしまう。

「お姉ちゃん!!ちょっと危ないからマジで!」
左手で姉の肩と顔をグイグイと押し返す。

「コラッ!!勇ッ!お姉ちゃんに向かってッ…!泣くわよ!?」

なぜ俺の周りはこんなに騒がしいのが多いんだろう…


630:心の隙間
09/02/27 01:08:11 gLF4+23k

「わかったから、お姉ちゃん!!」
まず興奮を冷まさないと姉が本気で泣きそうだ。

「ふぅんとぅ~?~うぅ―」
姉の頬を全力で押し返しているので裏声でもない低音の声が口から漏れている。

「本当だって!!……それじゃ凪ちゃん悪いけどイスに移動できる?」
どちらが小学生かわからなくなる。

凪が少し考えた末思いついたかのように提案をだす。

「う~ん……それじゃ…こうしたらお姉さんも入れる。」

そういうと布団を捲り上げて股の間に凪が入り込んできた。

まぁこれなら、三人でも入れる…が姉の顔が嬉しさからではなく、怒りで鬼の如く真っ赤になっている。

凪も姉の異変に気がついてるのだろう…俺の両太股を離すまいとがっしり掴んでいる。

「凪ちゃん?…前にも言ったけどその場所はっy「お姉ちゃん?ほっほら!!リンゴ食べなきゃ!」
この話題は早く終わらせないとややこしいことになる。

「……そうね、わかった…それじゃ、勇…あ~んして。」

姉も凪を諦めたのかすでにリンゴにフォークを刺して口元に持ってきてくれてる。
凪は複雑そうな顔をしているが、今の姉に触ってはいけないと分かってるのだろう…。なにも言わずにリンゴ食べている。

631:心の隙間
09/02/27 01:08:34 gLF4+23k

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「はぁ~美味しかったぁ~」
数少ないリンゴの切れ端だったが口に入れた瞬間、今まで食べたリンゴの中で一番美味しいと感じた。

「そう言われると嬉しいわ。それじゃまた私が食べさせてあげる。」

姉も凪も「自分が食べさせたから美味しかった。」と考えているらしい。



「ふふっ……それじゃ…交代ね!!はい、私に食べさせて。」
そういうと姉にリンゴの入ったお皿を渡される。

「え!?俺が食べさせるの!!?」

凪も驚いた顔をして姉の顔と自分のお皿を交互に見ている。
凪のお皿にはもうリンゴはない…。
時間をかけて食べさせてくると思ったら凪が食べ終わるのを待っていたのか…。

「ほら!早くして、あ~ん…」
なぜ目を瞑るかわからないが、これは食べさせるまで口を閉じないだろう。

「わかったよ…はい、あ~y「コンっコンっ…ガラガラガラッ」



―「ごめ~ん、ちょっと遅くなっ…ちゃ……た…」

ノックが聞こえたかと思ったら、こちらから返事をする前に勢いよく扉が開けられた。

「ほら、なぎ…さ…も…」

母の後に続いて凪母も入ってくる。



「…なにしてんの…?」

632:心の隙間
09/02/27 01:08:55 gLF4+23k

母の声に一番に反応したのが姉だった。
口元で停止しているリンゴをパクッと頬張ると、凪母に頭を下げそそくさとベッドから降りてパイプいすに座った。

姉もパニクったのだろう。
涼しげな顔をしているが、靴を履き忘れている…。

―「ははっ…ちょっと三人で遊んでただけだよ。」

「遊ぶのは結構だけどあんまり無茶するともう一つ胃に穴があくわよ?」

「はぁ…気をつけます…」
クスクスと凪母がなにか悟ったように話す。

「ほら、凪帰るわよ、もう勇くんといっぱい話したでしょ?」

「えぇ~まだお兄ちゃんと話したい~」
凪が抗議の声を上げるが、もうすぐ面会時間も終わる。

「俺は暇だからいつ来てもいいよ?それにあと三週間もすれば退院だから、いつでも遊べるしね。」

頭を撫でると少したってから凪がコクッと頷いた
「……それじゃまたお見舞いにくるね?約束ね?」

「うん、約束。またきてね。」

約束で納得したのかベッドから降りて凪母の元まで小走りで駆け寄る。

「はいはい、それじゃ、帰ろっか?。」

凪母に抱きついてるとこを見ると、まだ子供みたいで可愛らしく感じる。

633:心の隙間
09/02/27 01:22:07 gLF4+23k

「ふふっ…勇くんは子供の相手も女性の相手も得意なのね?こんどは2人で話しましょうね。」

「いえ、そんな…はい…」
凪母の雰囲気は少し苦手だ。
女性らしさが全面に出ているので、あたふたしてしまう。

「お母さん!?ダメだからね!?」
凪が精一杯背伸びをして母に文句を言う。

「あら?凪もお父さんが欲しいっていってたじゃない。あんなに若いお父さんがいたら素敵じゃない。」

「お父さんは天国にいるもん!!だからいい!」
小学生相手だから通じる挑発だと思う…。


―「ボソッ…年増のくせに…」


「わかったって。ほら、凪もちゃんと勇くんにお別れしなさい……それと…今の聞こえたわよ?あんたも私と同じ歳でしょーが。」

母の小さな呟きが凪母にも聞こえたようだ。

「それじゃお兄ちゃん、またくるからね。」

「うん、またね。ばいばい。」
こちらに元気よく手を振り病室を後にする凪を見送る。

「…少し疲れた顔してるわよ?」

「そうだね…少し疲れたかも…」

今日2度目の嵐が過ぎ去って落ち着きをとりもどす。


634:心の隙間
09/02/27 01:22:41 gLF4+23k

「勇、冷蔵庫に残りのリンゴ入れとくけど勝手に食べちゃダメだからね?それとポカリも入れとくから。」
カバンからリンゴとポカリを冷蔵庫に入れている。
リンゴは冷蔵庫に入れたらダメらしいがあまり気にしない。

「うん、ありがとう、お姉ちゃん。」
あ姉も満足したのか帰る用意をしている。

「勇ちょっと寝るの待ってね、体拭かなきゃ。」

そういうと母が部屋についてる水道から小さい桶にお湯を入れ、カバンからタオルを取り出してベッドに腰掛ける。

「それじゃ上着脱いで背中向けてくれる?」

「うん、わかった。」
母は俺の背中を拭いて帰るのが日課になっている。

三日に一度で大丈夫だし、自分でできるといったのだが「垢がたまると悪影響だし、一人じゃ綺麗に背中を拭けないでしょ?」と言われて母にお願いをしている。

「お母さん、私がしようか?仕事で疲れてるでしょ?」

「ありがとう、でも大丈夫よ、これぐらいは私にさせてね?」
なぜ姉が落ち込むのかわからないが、早くすませて欲しい。
家族とはいえ女の人に肌を触られるのは正直恥ずかしい。



―「…勇…ありがとうね…」

「……うん」
唐突にお礼を言われたが何のことを言ってるのかすぐにわかった。

635:心の隙間
09/02/27 01:23:06 gLF4+23k
―俺と母と姉の約束…。

それはまたあの家で家族一緒に住むことだ。

入院した次の日から2人には一緒に暮らしてもらっている…この話が凪母の耳に入り。
母が地元に帰るなら良い機会だし私も帰るっとなったそうだ。
凪母と家の母は少し仲が好すぎるみたいだ。
姉と母の2人暮らしに始めは不安だらけだったが、日に日に家族らしい会話も増えてきているらしい。
「どう?2人の生活でなんかあった?」

「麻奈ちゃんが、フライパンを焦がしたわ、あと勇の部屋のベッドも壊したわ。」

「ちょっ、ちょっと、お母さん!?お母さんだって雨降ってきた時、慌てて洗濯物取り込もうとして、閉まってる扉のガラスを走って頭突きで割ったじゃない!!それに勇のベッドはお母さんも関係してるんだからね!?」

ほんの些細なことだが聞いてるうちに、話の中で小さな幸せが少しずつ溢れてきているのが分かった。

「ははっ本当に?」

「本当よ?まさか雨が降ってくるとは思ってなかった…。
天気予報では晴れのマークがニコニコしてたのに…。天気予報なんて信用できないわ。」

「反省そこっ!?ガラス割ったとこでしょ普通…」

姉と母の言い争いも幸せの風景の一部になっている。


636:心の隙間
09/02/27 01:23:51 gLF4+23k
「まぁガラスは明日ガラス屋さんに来てもらって新しいガラスと交換するわ…フライパンも今日帰りに買って帰る。
あと、麻奈ちゃんが壊した勇のベッドだけど勇が退院したら買いにいきましょ?…ベッドの上でなにしたらあんな壊れかたするのかしらねぇ?」

「まだ言うかッ!!お母さんが勇のシーツを私に渡さずベッドに潜り込むからッ!」

「いや…まぁ楽しそうでなによりだよ。」
元気すぎて少し不安になってきた…。

「仲良くやってるから勇も早く体治して家に帰ってきなさい。治ったら家族みんなで旅行いきましょう。」

「そうよ?もうすぐ春だし桜咲いたら花見も行きたいね。」
2人はもう退院したらなにするか決めてるみたいだ。

「うん、すぐに治すから待ってて。」

「えぇ、私はいつまでも待つわよ?」

「私も…だから早く良くなってね?」

―小さな幸せは人間の欲に埋もれてしまう。
その小さな幸せを無くして初めて気づく本当の幸せの意味。

今この部屋には俺とお姉ちゃんとお母さんしかいない。

端から見たらなんの変化もない家族に見えるだろう。

たが胸を張って誰よりも幸せだと言える。

―だってそこには家族にしか見えない幸せが溢れているのだから―

637:心の隙間
09/02/27 01:33:23 gLF4+23k
今日の投下終了。
次の投下で終わりです。
なんやかんやでここまで来ましたねw。


638:名無しさん@ピンキー
09/02/27 01:53:08 f40NK+o+
GJ!

639:心の隙間
09/02/27 21:14:28 gLF4+23k
明日か明後日に投下するかもだけど
これ見てる人一人しかいない臭いなw


640:名無しさん@ピンキー
09/02/27 21:31:29 50e4orLM
>>639一人がGJと打ち込むとき、その裏では100倍の人が投下に感謝し、更に100倍の人が続きを期待している。
そして俺と>>638がGJと打ったということは、2万人がこの作品の完結を期待しているという事だ!

641:名無しさん@ピンキー
09/02/27 22:09:09 32sx4MpQ
20001人目参上!
GJ!
そして続き期待

642:名無しさん@ピンキー
09/02/28 05:00:18 Y6ej3Hi/
>>641
お前だけに、いい格好させるかよ

643:名無しさん@ピンキー
09/02/28 10:39:22 DIX/mR7X
誘い受け

644:名無しさん@ピンキー
09/02/28 15:30:29 o3xCreO0
>>639
おいおい俺もいるぜ

645:名無しさん@ピンキー
09/03/02 21:48:39 tXr4pvOg
俺もいるぜ俺を置いていくなよ!

646:名無しさん@ピンキー
09/03/02 23:22:29 mAqLh1yw
おまえ等いったい今までどこに(ry

647:名無しさん@ピンキー
09/03/03 09:04:48 s+eOd4T1
保守

648:心の隙間
09/03/04 04:04:00 ADPolyeK

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇



「ふぅ…やっとかぁ…長かったなぁ…」

―入院から1ヶ月。
今日ようやく晴れて退院の日を迎えれた。
ベッドから降りて窓を開ける。
冬風の冷たい匂いではなく、春の息吹…桜の甘い匂いが微かに香る。

下の駐車場を眺めると道にそって桜の木が植えられている。
まだ七分咲きだが見ていると心が落ち着く。
咲き乱れる桜ほど綺麗な花はないって聞いたことがあるけど、桜は満開になる前が一番綺麗だと思う。

「なに見てるの?……あぁ……もうすぐ桜も満開になるわね。」
荷造りを終えた母がペットボトルのお茶を差し出してくる。

「ありがとう…そだね、桜が咲いたら、みんなで花見に行こうね。」
少し前に約束した花見は凪家族と俺たち家族。それに大樹と早苗も加わり七人ですることになった。
なぜ大樹と早苗が加わることになったかと言うと、見舞いに来てくれた大樹と母が鉢合わせしてしまったのだ。
終始大樹が母のことをべた褒めするので「今度花見に行くけどくるか?」と誘うと何が何でも行く!とのことだ。

母と大樹が楽しく話してるのを見て少し嫉妬してしまったのは口が裂けても言えない。

649:心の隙間
09/03/04 04:04:36 ADPolyeK

早苗も同様、「花見に行くから早苗もいかない?」と誘うと友達と花見に行ったことがないらしく、すごく喜んでいたのを覚えている。

何回か見舞いに来てくれたけど大樹と早苗が2人で見舞いに来たのはあの一回だけだった。

なぜ別々にくるのかと早苗に聞いたら、「勇が勘違いするでしょ?だから別々にきてるのよ。」らしい

大樹が意味深に「あいつは怖いぞ。」と言っていたが今でも意味があまり分からない。


―「…ねぇ、勇?」
窓の外を眺めていると母に服の袖を引っ張られた。

「ん?なぁに?」

「今日から一緒に三人で住むんだけど…勇は本当にいいの?迷惑じゃないの?」
まだ母の中では罪悪感に苛まれているらしい。
溝がすぐに埋まるとは思っていないが、少しやるせない気持ちになる。

「前にも言ったけど俺は家族三人で暮らすことが本当に嬉しいし、楽しみなんだ。お母さんが帰ってくるのに不平不満は無いよ。」

「ありがとう……勇は本当に男前になったわね…私も負けずにがんばらなきゃね。」

母の言葉が「ごめんなさい」から「ありがとう」に変わったのが一番の嬉しい変化だ。

650:心の隙間
09/03/04 04:05:11 ADPolyeK
―「…2人ともなに見つめあって惚けてるの?私のいない間に……。」

ビックリして振り返ると、いつの間にかトイレから戻ってきた姉が真後ろに立っていた。
姉は女性と話すとなんでも変な方向に持っていく癖があるみたいだ。

「べっ、べつに見つめ合ってないよ、」

「そうよ?…第一息子と母なんだからべつに見つめ合うぐらい普通だよ?」

母が言ったことに疑問をもったがまぁ見つめ合う家族だっているだろう…あまり深く考えないようにしよう。

「普通じゃないでしょ…まぁいいわ…荷物はまとめたんでしょ?早く帰ろうよ。」

「そうね…それじゃ私はナースの人達にお礼言いにいくから先に表玄関まで行っといて。すぐに私も行くから。」
母がそう言うと、前もって買ってきてたケーキを冷蔵庫から取り出し、部屋を後にする。

「それじゃ行こっか?」

「うん…」

1ヶ月お世話になった病室を見渡す。
この部屋に少し愛着が沸いてきていたのかもしれない。
私物が無くなって真っ白な風景になった部屋を見渡すとどこか寂しく感じる。
もう来ることもないだろう…

「お姉ちゃん……玄関まで手繋ごっか?」


「え?………うん……はいっ!」


651:心の隙間
09/03/04 04:05:42 ADPolyeK
俺から手を繋ごうなんて、言ったことがないから驚いたのだろう。
少し戸惑っていたがすぐに手を差し伸べてきた。

「さっ行こっか?」

「うん。」
姉に手を引かれ部屋を後にする。

「早く家に帰りたいでしょ?リクエストなんでもして良いよ?作れる範囲なら。」

「ははっ、今から考えとくよ。」

今から家に帰り、俺の退院祝いをしてくれるらしい。
夕方には凪と凪母も参加すると言ってたので、俺たち家族が食材を買って家に帰らなければならない。


―「まだちょっと肌寒いな…」

母を待つために病院から出る。
ロビーで待っていても良かったのだが、早く病院から出たかったのと、一際でかい桜の木が病室から見えたので、近くに行って下から眺めたかったのだ。

「うわ~綺麗な桜…満開になったらすごいでしょうね。……」

「うん、上から見えたから近づきたかったんだ……綺麗だね。」

この一本だけやたらでかい…なのに物凄く繊細で桜の色も綺麗だ
姉も見惚れている。

「ん?な~に?何か顔についてる?」

「いっ…いや、べっ、べつに…。」

姉の横顔を眺めていると見られてることに気がついたのかこちらに振り向いた。
慌てて目を反らすがなぜかオドオドしてしまった。

652:心の隙間
09/03/04 04:06:25 ADPolyeK

「…さっきね?…勇に手を繋ごうっていわれた時、ビックリしたけど物凄く嬉しかった…」

握っている手をもう一度しっかり握り返してくる。
少し手汗をかいてるが、離すどころか姉は力強く握っている。

「…勇……今しか言わないことだから…私の話聞いてくれる?」

顔が髪に隠れて表情が見えない。
声を聞く限り泣いてる訳でもなくはっきりと話している。

「うん……べつにいいよ。」

多分お母さんが居てると話せないことなのだろう。
2人だからこそ話せる話だってある。

「…私ね?……勇が他の人と話してるのを見かけると、たまに物凄くイラッと来るときがあるの……姉なのに嫉妬なんておかしいでしょ?」

「……」

その感情がおかしいのか正直わからない…俺はこの家族で育ったから他人の家族と比べることなんてできなかった…。

姉に彼氏ができれば少なからず嫉妬するかもしれないし。
母が再婚すれば始めは反対するかもしれない。
ただ仲が良い家族には良くあることじゃないのかと俺は思っている。

「私バカだから………こんなこと普通聞かないと思うけど………私どうしたら勇の自慢のお姉ちゃんになれるの?」


653:心の隙間
09/03/04 04:06:54 ADPolyeK

―「自慢の……お姉ちゃん…?」

「うん……ずっと考えてたんだけど、正直自慢のお姉ちゃんってどんなのかわからなくて……一応いろんなことしたけど勇と一緒にいる時が一番楽しいし……自慢のお姉ちゃんって……勇に近づかなきゃ自慢のお姉ちゃんになれるの?……わからない…」

入院してる間ずっと考えてたのか…。
入れ替わりで姉が入院したらたまったものじゃない。

「…お姉ちゃんにとってさ…俺って胸張って弟ですっいえる?」

「あたりまえじゃない!?勇は私の弟よ!!」

「あたりまえ…だよね?俺も一緒…あたりまえなんだよ。」

「え…?」

「俺の姉はお姉ちゃんだけだし、お姉ちゃんしか考えられない…だってあたりまえに毎日一緒にいたからね。」

「ぇ……あ…」

「他人に自慢なんてしなくても俺のお姉ちゃんってだけで大満足だよ?家族愛なんて俺たちが決めることでしょ?他人が決めることじゃないでしょ。」

「……」
そう…これは俺たち家族のことなんだ…いちいち他人に自慢なんかしても、なにも得る物なんて無い。


「今の俺があるのもお姉ちゃんのおかげなんだよ?俺が自慢って言うなら、自慢の弟にしたお姉ちゃん自信、誇りに思っても罪にならないでしょ?」

654:心の隙間
09/03/04 04:07:27 ADPolyeK

「勇…」

「だから強いて言うなら普段のお姉ちゃんが自慢できる姉かな?」
そう…普段の姉こそ一番魅力的だと断言できる。
正直無理してる姉はみてるほうが痛々しくなる。

「そう………ふふっ……勇って本当に女ったらしね……ちょっとドキドキしたよ?。」

姉が髪をかきあげてこちらを見る姿に少しドキッとした。
さっきまでの姉と違って表情がどことなく色気を感じたからだ。
なにか吹っ切れたみたいに清々しい顔をしている。

「女ったらしって……人聞きが悪いな…」
心を見透かされてるみたいで恥ずかしくなり桜の木に目を向ける。

枝の間から差し込む太陽が眩しい…。



「勇?」



「ん~?なに?」




―「心から愛してるわ…。」



「うん…ありがとう。」

家族愛か別の愛情か……姉の声からは判別できなかった。

ただ多分もうこの言葉は聞けないと思う……。
姉として一つの区切りなのだろう。


「ふふっ…勇に彼女ができたら大泣きしてやるから、おぼえてなさい?。」

恥ずかしいが桜よりも姉の笑顔のほうがはるかに綺麗だった。

655:心の隙間
09/03/04 04:08:01 ADPolyeK

―「こらー!!勇も麻奈ちゃんも、お母さん置いてなにウロウロしてるのよー!?」

声につられて後ろを振り返ると、こちらに走ってくる母が視界に入る。

「あぁ…そういや玄関前で待ってろって言われてたね…忘れてた。」

「はぁ、はぁッ忘れてたって……てゆうか仲良く手繋いでなにしてたの?」

多分探してくれたのだろう。
服が少し乱れている。

「ん?上から見た時この桜だけ目立ったから近くで見たかったんだよ。だから見てた。」

「そう…じゃあ、なんで手繋いでるの?」
どことなく膨れっ面に見える。

「お母さん…知らないの?姉弟で手を繋ぐなんてあたりまえなのよ?…見つめあうのがあたりまえみたいにね。」

姉なりの母に対する仕返しなのだろう。
だが母は「あっそっか。」と普通に流してしまった。

最近分かったことだが母は魔性の天然らしく、姉が言うには1ヶ月一緒に暮らしたけど、未だに行動パターンが読めないらしい。

「それじゃ、私は反対の手…を握りたいけど荷物あるからこうするね。」
開いてる腕を母が組んでくる。


「まぁいいけど…車までだよ?」

こうやって三人で歩く桜道が一番の退院祝いかもしれない。

656:心の隙間
09/03/04 04:08:30 ADPolyeK

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

― 「この辺までくるとやっぱり安心感があるなぁ…。」
車に乗って40分、やっと地元についた。

ここまで来ると見慣れた建物がいくつも並んでいる。

いつも見ていた建物だが、なぜかテンションが上がる。

「そうね……」

母の車に乗るのはこれで二回目だが、運転はかなり慎重だ。

だから運転中の母に話しかけても、あまり返答が返ってこない。
母の身長のせいで少し前が見づらいらしい。

「もうすぐ家かぁ~なんだかワクワクする。」

「おかしなこと言うね勇は、自分の家へ帰るのにワクワクするの?」

後部席から身を乗り出し話しかけてくる姉を、母が危ないと注意する。

自宅へ帰るのにワクワクするなんて入院しなければ分からない感情だと思う。

このワクワクはもう経験したくない。


懐かしさに浸っているとポケットに入ってる携帯がヴーッヴーッと震えるのを感じた。

携帯をポケットから出してディスプレイを見る。


「誰だろ?………凪ちゃん?。」

携帯の画面には「凪ちゃん」と表示されている。

657:心の隙間
09/03/04 04:14:43 ADPolyeK
ありがとうございます。
少し長いので切りました…後半部分は20時までには絶対に投下します。

では仕事いってきますね。

658:名無しさん@ピンキー
09/03/04 08:22:42 I6e8uLcs
そこまで気合入れて投下時間指定しなくてもw
GJ! 長かった物語もそろそろフィナーレなのか。感慨深いな。

659:名無しさん@ピンキー
09/03/04 11:26:34 Jt0DDngE
GJ

660:僕が大嫌いだって言うと、こいつは愛してるって言う。
09/03/04 18:32:31 RAD3wjfo

僕はこいつが嫌いだ。
僕と同じ声。同じ顔。僕はこいつの「代用品」として育てられた。

「企業」の創設者、その血を最も濃く受け継いだ小さな少女は、生まれた時から敵に囲まれていた。
だから、「企業」は一つの保険をかける事にした。
危険から少女を遠ざけるために。
「もしも」の時、少女の不在を隠すために。
つまりは、影武者という代用品を使って。

「でも、僕はあなたの事が大好きですよ」

僕はこいつが心底嫌いだった。

こいつと同じ顔でさえ無かったら、僕は僕として生きることが出来たろうに。
こいつと同じ声でさえ無かったら、僕は僕として生きることが出来たろうに。

こいつと同じでさえ無かったら――
僕はこいつを、愛する事が出来ただろうか。

「構いません」

こちらの考えを見透かしたように、言う。

「あなたが僕を愛してくれなくても、あなたが僕を憎んでも、僕は構いません」

だから、だからどうか。

「何処にも行かないで。何処へも行かないで。僕を、独りにしないで。」
「あなたを縛った僕を許してくれなんて言わない。あなたが望むなら僕は今すぐ舌を噛み切ります。だから」

だからどうか、僕を置いて死なないでください―


661:僕が大嫌いだって言うと、こいつは愛してるって言う。
09/03/04 18:36:06 RAD3wjfo

僕が死んでも誰も悲しまないと思ってた。
「代用品」が居なくなったって、何も変わらないと思ってた。だけど。

僕と同じ顔が泣いていた。
僕と同じ声で泣いていた。

結局、僕は死ねなかった。



僕の世界には、価値のあるものなんて一つしかない
その一つが無くなってしまった世界なんて、滅びてしまえばいい
僕がそう思っていること、あなたは知っていましたか?

662:名無しさん@ピンキー
09/03/04 18:39:36 RAD3wjfo
ちょっと思い付いたんで、場繋ぎ的に投下
「代わり」にしかなれなかった少年に恋した「代わり」のいる少女、みたいな?
続くかどうかは微妙ですけど――

さて、半裸で待とうか

663:心の隙間
09/03/04 19:46:57 ADPolyeK

―「凪、勇くんなんだって?」

「べつに良いよだって!!お兄ちゃん達もまだついてないんだってさ。」

時計を見るともうすぐ四時になる。

やはり少し早すぎたみたいだ。
凪に早く行こうと言われて、予定より二時間も早く私たちは家を出てしまった。

買い物もまだ行ってなかったらしい。
早く付くのならと、私たちも一緒に買い物へ行くことになった。

「勇くん大丈夫かしら……奈々の運転は怖いからね…身長が低いから危なっかしいのよ…。」

あの子の助手席に座ったことがあるけど、正直心臓に悪い。

「…奈々って……誰?」


「ん?勇くんのお母さんよ?」

「あっそうなの?可愛い名前だね。」


―名前で思い出した。
勇くんが入院中、私が奈々の名前を呼んだら不思議そうに「奈々ちゃんって誰ですか?」って聞いてきたことがある。

さすがに私も奈々もポカーンとしてしまった。

あなたの母の名前よと教えると、物凄く驚いてた記憶がある。

さすがに天然爆発なあの子でも相当ショックだったらしく。その日は一日中、上の空だった。


664:心の隙間
09/03/04 19:47:30 ADPolyeK

まぁ息子に名前を知られて無いなんて気落ちどころではないだろう。
奈々には心中お察しする。

「もうすぐ勇くんの家につくわね…楽しみ?」

「うん!!早くお兄ちゃんと遊びたい!!」

凪もまだまだ子供。
あの子が小学生になびくとは思えないけど、面倒見は良いみたいだ。

「…勇くん……はぁ…」

凪に聞こえない声で小さく呟く。


―勇くんを一番始めに見た瞬間、呼吸をするのを忘れるくらいビックリした。

麻奈美ちゃんと話しをしていても勇くんが気になってしかたがなかった…。

なぜ気になったかと言うと、奈々の旦那に似ていたから…。
そして誰より私の旦那に雰囲気が物凄く似ていたのだ。

一瞬で目を奪われて初恋の時のように心臓が大きく跳ね上がった。

あの時。なんとか勇くんと話がしたい、声が聞きたい…だから麻奈美ちゃんを引き止めようと必死になった。
しかし用事があると麻奈美ちゃんに会話を中断されて勇くんと話すことが出来なかった…。

「ふふっ……恥ずかしいわね…高校生相手に…」

帰り際、見えなくなるまで勇くんの背中を眺めていたのを覚えている……背中姿だけでも目に焼き付けるために…。


665:心の隙間
09/03/04 19:48:02 ADPolyeK

私と凪は本当に似ている。
顔や性格は勿論なのだが、一番私の血を濃く受け継いでる部分がある。

それは一つの物に魅了されると、その物しか目に写らなくなるのだ。

簡単な話、産まれもっての依存症なのだ。
携帯番号を聞いてくるあたり凪はかなり本気らしい。

父が亡くなってすぐ、運命的に父に似た人と出会った……。
勇くんは依存するならもってこいの人間なのだ。
多分凪より私が先に出会っていれば、歳関係なしに勇くんと関係を持とうとしたかもしれない。

皮肉にも私の大親友の息子と言うことで叶わなかったが…


―「あぁっ!お兄ちゃんだ!!お~い!」

車の窓も開けず手を振る凪に少し苦笑いをしてしまう。
玄関先で私達が来るのを待ってくれていたのだろう。
笑顔で凪に手を振っている。

「お兄ちゃん!!」

玄関前で車を停めると、凪が助手席から飛び出して勇くんに駆け寄る。

「ははっいつも元気だね凪ちゃんは。」

やはり何度見ても似ている…
凪を見る目もあの人と同じ父親が娘に見せる目と同じだ。

凪は気づいていないだろうが、勇くんは凪のことを完全に妹か娘として接しているだろう。

これから成長する凪と勇くんが、どうなるか楽しみだ。

666:心の隙間
09/03/04 19:48:30 ADPolyeK

「こっちは大丈夫ですよ~。」

「お母さん、こっちもOKだよ~。」

車を奈々宅の駐車場に入れるために勇くんと凪がサイドから誘導してくれる。

奈々の車が奥に停まっているので誰かに誘導してもらわなければ、ぶつけそうで怖いのだ。

「勇くんも凪もありがとうね、もう大丈夫よ。」
勇と凪のお陰で綺麗に停めることができた。
エンジンを止め、後部席からカバンを掴み、ミラーで少し前髪を整えて外にでる。
ドアを開けると強い風がヒュッと音をたてて車の中に入ってきた。
先ほど整えた前髪が乱れる。
春風にイラッとしてもしかたがないので適度に髪を整えて再度外にでる。

「風が少し強いですね。大丈夫でしたか?」

駐車場の奥から勇くんと凪が出てきた。
少し苦笑いをしているが、セミのように腰にへばりついてる凪を鬱陶しがる訳でもなく頭を撫でながら引きずるように歩いてくる。

「コラ、凪!!勇くん退院したばかりなのよ?無茶しちゃダメじゃないの。」

私の声に反応した凪が、慌てて勇くんから離れる…が手はしっかりと繋いだままだ。

667:心の隙間
09/03/04 19:48:51 ADPolyeK

「わざわざスイマセン、こんな所まで来ていただいて。」

「良いのよ、凪がお世話になってるんだし。それとそんなにかしこまって話さなくてもいいわよ?普通に話して。」
礼儀正しく話す勇くんに少し寂しさを感じる。

「ははっ癖なんです。他人の年上女性と話す時、なぜか緊張するんですよ。」

「あら、そうなの?でもお隣さんになるんだから、普通が一番気が楽よ?」

かわいい癖だが私だけが蚊帳の外みたいでムズムズする。

「そうですか?わかりました…なるべく普通に話すようにがんばります。…それじゃ中に入りましょっか?まだ肌寒いですし。」

春とはいえやはり薄着だと少し寒い。

「そうね、お邪魔するわ。」

家にお邪魔したのは奈々が結婚した日以来。
もう十数年前になる。

懐かしい…あの時も家の前で落ちた桜の花が風で舞っていたのを覚えている。



―「……ッ、あっ!!」


舞っている桜に目を奪われ、足元の段差に気が付かなかった。

無防備に前へ倒れ込む…。
このまま落ちれば確実に怪我をするのを頭ではわかったのだが硬直して手が前に出なかった。

怪我を覚悟して目をギュッと瞑る。





―「…っと、大丈夫ですか?恭子さん。」

668:心の隙間
09/03/04 19:49:32 ADPolyeK
なにが起こったか分からなかった…。

倒れ込んだ先は固いアスファルトではなく柔らかい「なにか」。

そして私の名前、「恭子」と聞こえた。
恐る恐る目を開ける。

「…」

どうやら私は誰かの胸板に顔を埋めているみたいだ…。

「お母さん!?」

凪の声が聞こえる。支えてくれたのは凪?
有り得ない…凪が私を支えれる訳がない。
それに男性の声だった…。
だとすると一人しかいない。

―「大丈夫ですか?どこか痛めましたか?」

視線を上げると心配そうに支えてくれる勇くんの顔が私の目の前にあった。



「ひゃっ!、ひゃいっ!?」

慌てて勇くんから離れるが、少し足を挫いたみたいで痛みが走る。

「おっと…歩けます?」

よろけた私の腰に手をまわして耳元で呟く。

「だっ大丈夫よ!少し挫いただけだから…支えてくれてありがとう。」

多分悪気は無いと思う…だが私には十分すぎるほど毒なのだ。

「いえ、どういたしまして。それじゃ中に行きましょう。」

「えぇ…。」

勇くんにだきしめられた時、一瞬だが私は母ではなく女になっていた。

「…はぁ……どうしよう…」


心の中で凪に謝るが、勇くんに抱きしめられた感触が体から抜けることは無かった。

669:心の隙間
09/03/04 19:50:08 ADPolyeK

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「あぁ~やっぱり我が家が一番落ち着く~」

1ヶ月ぶりの我が家はどこも変わっていなかった。
リビングしか見ていないが姉の部屋も、俺の部屋も、母と父の部屋も、変わってい無いだろう。

「ほら、紅茶。恭子と麻奈美も、はい。」
お盆に乗せてある紅茶を俺と姉、凪母に渡される。

「ありがとう、お母さん。」

「あら、ありがとう。」

三人ともそれを受け取りソファーに座る。
久しぶりに座るソファーは眠たくなるぐらい心地がよかった。

「そういや凪ちゃんは?居ないけど。」

リビングを見渡すが姿が見えない。
さっきまで俺と遊んでいたが、いつの間にか居なくなっている。

「あれ?本当だ…あの子どこに行ったのかしら。」

「まぁ玄関の閉める音はしなかったし。多分二階にいったのよ。」

紅茶をのんきに飲んでいる…探しに行く気は無いみたいだ。
「ふぅ……ちょっと探してくるよ。」

紅茶をテーブルに置いて立ち上がる。

―「あらそう?お願いね、あなた。」

凪母の発言に母と姉が紅茶を吹き出す。

「ゴホッ…ゴホッ…あっ、あっ、あなたぁ!?恭子あんたねぇ!!」

670:心の隙間
09/03/04 19:50:31 ADPolyeK

「冗談でしょ?なにをそんなに取り乱してるのよ…」

母と姉は冗談の区別がつかないのだろうか…。

てゆうかなぜ冗談を言った凪母が顔真っ赤っかなんだ?
チラチラとこちらを見ている……はぁ…乗らなきゃダメなのか……。




―「…それじゃ探してくるよ……恭子。」



「ブファッ!!なっなっ?きょっ!?なにっいッて!?」

今度は凪母が勢い良く紅茶を吹き出した。

意味が分からない……チラチラ見ていたのは、冗談に乗れって意味じゃなかったのか…。

「きょっ!きょっ?きょうっこ!?」

母はもう紅茶の入ってるカップを持っていない。
多分テーブルの下に落ちているのだろう…。
姉は…よく分からない、放心状態で窓の外を眺めている。

「…もう凪ちゃん探しに行くからね?」

あまり相手にしてたら長引くと思いリビングを後にしようと扉まで歩く。
するとこちらから開ける前に扉が勢いよく開かれた。

―「お兄ちゃん!?大変!!」
入ってきたのは目的の人物凪だった。
なにやら息を切らしえらく慌てている。

「どうしたの?なにかあった?」



「お兄ちゃんの部屋…誰かいるかも……」

671:心の隙間
09/03/04 19:50:57 ADPolyeK

「は?俺の部屋に?」

みんなの声がピタッと止んだ。

「嘘…ヤダ、私たち以外に誰がいるのよ…」

「凪、それ本当なの?」

「本当だって!!二階に見に行ってよ!!」
さっきまでの楽しい気分が嘘のように一気に不安に煽られた。
「俺ちょっと見てくるわ、みんなまってて。」
男は俺だけ…流石に女性を行かすわけにはいかない。

「勇!危ないわよ!もし刃物持ってたらどうするのよ!?そ、それよりまず警察にッ!!」
流石に刃物は怖い。やはり警察に連絡するべきか…。

「凪どんな人だったの?顔見た?」

「ううん、見てない…でも部屋が滅茶苦茶だった…泥棒かも…」

「え?誰か見た訳じゃないの?」

「うん……お兄ちゃんの部屋に入って電気つけたら…タンスとかベッドとか滅茶苦茶だった…」




―「「あぁ、それ私達よ。」」

声を揃えて母と姉がハモる。

「「「は?」」」

こちらも俺と凪と凪母でハモってしまった。

「麻奈ちゃんと争ってると散らかっちゃうのよ。」


(子供が怖がるほど散らかすってどんな争いだよ…。)

672:心の隙間
09/03/04 19:51:23 ADPolyeK

「でも散らかすってレベルじゃ…」

凪の不安な声を聞いていると流石にこちらも不安になってきた。

「…ちょっと部屋見てくるよ。」

母と姉にそう言い放つとリビングを後にする。
走って二階に上がり部屋の前に立つ。

「お兄ちゃん気をつけてね~?」

一階から凪の声が聞こえるが凪はまだ誰かいてると心配してるみたいだ。

「すうー…はぁー…すうー…はぁー……よしッ!」

深呼吸をして、一気にガチャッ!と扉を開ける―。



「……なんだ…これ…」
タンスは服が溢れており。
ベッドは破れてるどころか中のバネが飛び出ている。
フローリングには服やパンツがばらまかれている。

「勇が帰ってくるまでに片づけようとしたんだけどねぇ…片づけても片づけても麻奈ちゃんが邪魔しちゃうのよ。」

「お母さんじゃない!!私が片づけようとしたらお母さんが勇のベッドに潜り込むのよ!?」

二人ともリビングに居たのにいつの間にか二階に上がってきていた。

「いや、喧嘩は仲が良い証拠だからいいんだけど…なぜ俺の部屋なの?もしかしてお姉ちゃんの部屋やお母さんの部屋もこんな感じ?。」



「「ううん、勇の部屋だけ。」」

673:心の隙間
09/03/04 19:51:47 ADPolyeK

「えぇ!?なんで!?」

平然とハモったが、なぜ他の場所は安全で俺の部屋だけ争いの場になるのか分からない。

「それは……これが原因よ…」

「…なにそれ?それがどうしたの?」


「これは綱引きのヒモ……通称、トランクスよ」
母が下から拾い上げたのは俺のパンツだ…しかもよく見ると完全に伸びきっている。

「これで綱引きしてたの?……二人で?」
母からパンツを取り上げて母の目線に持っていく。

「まぁ大まかにいえばそうね…白熱してくると麻奈ちゃんがパンツを取り上げて勇のベッドに潜り込むのよ。」

「逆でしょ!?お母さんが負けたふりしてッy「わかった、わかったから…まぁとりあえずもう綱引きは止めてね…パンツいくらあっても足りないから…」
このまま行けばまたなにか犠牲がでるかもしれない。
早く止めた方がいいだろう。

「これはまた…派手に遊んでるわね…」

いつの間にか後ろから凪と凪母も来ている。
凪母が呆れたようにため息混じりに呟く。

「まぁ…この部屋は明日片づけます…どうせベッドも買わなきゃならないし。」


―今更だが姉と母を見ていると実家に帰ってきたと深く実感できた。

674:心の隙間
09/03/04 20:19:20 ADPolyeK

俺の部屋を後にし、リビングに戻る。

緊張がとけたのか、みんなへたり込んでしまった。

ふと時計を見るともう5時…。

「…お母さん、買い物行かなきゃ。もう5時だよ?」

俺の声を聞いてみんな時計に目を向ける。
先ほどまで聞こえてた風の音も聞こえなくなっていた。

「うん、そうね。風も止んだみたいだし行こっか?…あっ!それと恭子は休んでなさい?足挫いたんだから。」

凪母の足には一応湿布を張ったがあまり無茶しないほうがいいだろう。

「えぇ、そうするわ…凪はどうする?」

「…私は……お母さんと一緒に待ってる!!」

俺たちと一緒に行く準備をしていたが止めてしまった。

「ん?べつに良いわよ?行きたいんなら」

「ううん、ここで待ってる。」

凪なりの母への思いやりなのだろう。
知らない家に一人は少し寂しい。

「そっか…それじゃなるべく早く帰ってくるから待っててね?」

小学生がここまで気を使えるのは親の賜物だろう…凪母も気づいているらしく、満面の笑みを浮かべながらムツゴロウの如く凪を撫で回している。


―「それじゃ、行ってくるから。」

「うん、気をつけてね!!」

玄関先まで見送りにきた凪に手を振り家を後にする。

675:心の隙間
09/03/04 20:20:55 ADPolyeK

―「なんか懐かしく感じるね…」

「うん…なんか子供の頃を思い出すよ…」

スーパーに行くために見慣れた歩道を家族三人で歩く。

昔はよく姉と一緒に母に連れられてスーパーに行っていた。
買い物に行くと一つお菓子を買ってもらう…それが嬉しくて母についていってた覚えがある。

「ここら辺も変わったよね…昔はここに公園あったのに…。」

昔あった公園や広場が住宅やビルにかわっている…。

新しい時代に追いつくために、環境も進化していかなければならない。
それは分かっているのだが思い出の場所が無くなるのは、やはり寂しい…。

―「そりゃ年が経てば人間と同じ変わる物もでてくるわよ……あっほら!、見えてきたわよ。勇なにが食べたいか決まったの?」

子供の時からよく行く近所のスーパーが見えてくる…。
唯一このスーパーだけが昔から変わっていない。

「うん、凪ちゃんと恭子さんにも聞いたけど、焼き肉で大丈夫だってさ。」

退院したら肉が食べたいと思っていたのでオーソドックスな焼き肉に決めた。

「焼き肉ね…わかった……それと恭子さんじゃなくておばさんで大丈夫よ?」

凪母に対抗してなにか得があるのか…家を出てからずっとこの調子だ。

676:心の隙間
09/03/04 20:21:34 ADPolyeK

「おばさんなんて失礼でしょ…」

凪母の姿を見ておばさんだなんて口が裂けてもいえない。
見た目がおばさんと言う言葉からかけ離れているからだ。

「私と同じ歳なのよ?それに、見た目も私と変わらないでしょ?昔はよく似てるって言われたもん。」
一年前のように凪母と同じような服装をしていたら、凪母と並んでも違和感が無いと思う。

今は母親という雰囲気が全面的に押し出されているので、凪母と並ぶとどうしても凪母に目がいってしまうのだ。

「まぁ、いいや……早く材料買って帰ろう。凪ちゃんと恭ッ……凪ちゃんのお母さんも待ってるから。」

言い合いのループは避けたい。
それに言い争いをしていると余計にお腹が空いてくる。

「そうね…それじゃパッパッと買って帰ろう。」

来慣れた場所だ…目を瞑っても目的地まで歩いていける。
カゴを掴んで肉売場へ歩いていく。

姉は野菜売場へ向かう。

母はお菓子売場へと一直線。

なぜか分からないが昔から母はスーパーにつくと、お菓子売場へ直行するのだ。
そしていつも待たされる…。

買ってくれるのは嬉しいが、子供に混じってお菓子選びをする母を待つのが小学生の頃は苦痛でしょうがなかった。

677:心の隙間
09/03/04 20:22:03 ADPolyeK

―焼き肉に必要な食材はカゴにすべていれた。
肉を見ていると余計にお腹が減ってくるが、それと同時に楽しみでもある。

「もう忘れ物ないよね?それじゃ会計しにレジにいこっか?」

忘れ物がないようにもう一度確認する。

「うん大丈夫!それじゃいこっか?」

姉とカゴを二人で持ちレジに向かう。
前に来たときも同じことをしたがやはり恥ずかしい。


―「ありがとうございましたー…。」

姉は気にしていないみたいだが、やっぱり店員に睨まれた…。
姉曰く普通のことらしい。

「早く帰ろっ二人とも待ってるから。」

「そうね、早く帰ってみんな…で………あ~っ!!」

姉が思いだしたように後ろを振り返る。

「買い忘れ?戻る?」

今ならまだスーパーを出たところだからすぐに戻れる。




―「………お母さん……忘れてる…」



「はぁ?……………あッ!!」

姉がなにを言ってるのか意味が分からなかったが、母のことを思い出すと慌てて振り返る。

ガラス越しにスーパーの中を覗くと両手いっぱいに、お菓子を抱え込んだ母の姿が見えた…。


キョロキョロと周りを見渡し、泣きそうになりながら俺達を探すその姿は、迷子そのものだった。

678:心の隙間
09/03/04 20:22:27 ADPolyeK

―「グスッ…ヒック…うぅ…ひどい…」

「ごめんって…別に忘れてた訳じゃなくてちょっと驚かそうとしただけだよ?ねぇ、お姉ちゃん。」

歩きながら母を慰めるが、母の存在を素で忘れていたため、誤魔化すしか方法が浮かばなかった…。

「ふぇ?あっうん、私たちがお母さん忘れるわけ無いじゃん。」
姉が思い出さなければどうなっていたか…多分大泣きだっただろう。

息子としてあるまじき行為だが、いつもは姉と二人で買い物に行っていたので、自然と二人で外に出てしまったのだ。

「グスッ…絶対に忘れてたのよ…グスッ…あの戸惑いようは半端じゃなかったもの…」

この時点で嘘は無理だとわかり、姉と二人で母に謝り倒してなんとか許してもらった。

帰りはきた道と違う道を歩いて帰る…子供の頃からの習慣だ。
空を見上げると一面オレンジ色になっている。

もうすぐ新学期になる…あと数年もすれば姉の就職だ…こうやって三人一緒に買い物もなかなか行けなくなるだろう。
考えると少し鬱になる…。




―「あっ見て勇……あそこ懐かしいね…。」

姉が指さす場所。
それは夢の中で最後に父を見た場所…。

「………うん。」


父と歩いた思い出の場所……河原歩道だ。

679:心の隙間
09/03/04 20:23:07 ADPolyeK

「ちょっと河原までいこうよ。」

そう言うと俺達の返事を聞く前に姉が信号を渡ってしまった。

「ちょっと……ったく……まぁ少しなら大丈夫か…お母さん行こ?」

早く家に帰らなければならないのだが自分自身もう一度あの道を歩いてみたかった。

「ふふっそうね、それじゃ、行こっか。」
母には俺の気持ちが見透かされていたかもしれない。

姉の後を追い、信号を渡る。
階段を登り、見慣れたレンガの石畳に足をつけ、周りを見渡す。



―驚くことに見渡す景色は小学生の頃と全く変わっていなかった…。


なにかしら変わっていると思いこんでいたので、風景が全く変わっていないことに嬉しさがこみ上げてくる…。

「うわぁ~なにも変わってないわね~」

「本当…周りは変わってるのにこの場所だけ全然変わってない…」

母と姉も懐かしんでいる…
やはり母と姉もこの道は特別な場所として心に残っているようだ。

「勇とお父さんがこの道通って帰ってきたよね……。」

姉が頭を撫でてくる…心が昔に戻っているのか撫でられることが心地よく感じる。

「うん…俺の一番大好きな場所…」

タイムスリップしたように風景も…景色も…風の匂いさえも昔と同じなのだ。

680:心の隙間
09/03/04 20:27:13 ADPolyeK
―父と手を繋いで歩いた。

「これから俺、頑張れるかな……お父さん…。」

―疲れたら、おんぶしてくれた。

「俺…」

―もう、その父はいない。

「…うぅ…お父さん…」




―『見守ってるからな、勇』―



……ギュッ




「え…?」

今…父の声が聞こえた…幻聴にしてはハッキリと耳に残っている。

それに…。

「今の……手の感触…」
左手てを見る…微かに温もりが残っている。

「お父さんの手の温もりだった……」
周りを見渡すが父の姿らしき人物はいない…。
あたり前だ…父もういないのだから。


―「勇ー!!おいていくわよ~!?」

いつの間にか姉と母は先に歩きだしている。

「見守ってるから……か」
確かにそう聞こえた……

「勇~!待っててあげるから早く~!!」

父からの最後の励ましの言葉として受け入れよう…。


「お母さん、お姉ちゃん、ちょっとまってよ~!!」

父の声を胸に姉と母を追いかける……その姿は子供の頃に戻っていたのかもしれない。


―だって俺を迎えてくれる姉と母の姿も、昔となんら変わっていなかったのだから。

681:心の隙間
09/03/04 20:30:20 ADPolyeK

心の隙間はこれで終わりです。

見てくれた方々、長い間本当にありがとうございました。

682:心の隙間
09/03/04 20:43:19 ADPolyeK
>>662
GJ!続き楽しみにしてます!

683:名無しさん@ピンキー
09/03/05 00:37:42 +dN3fptj
>>681
GJ!!
長い間お疲れ様。


こんなこと言うとアレだけど、番外編とか書けそうだなw

684:名無しさん@ピンキー
09/03/05 09:09:59 z95wF2mO
>>682
GJ!!お母さん勢に萌えた!!
さて、次回作は何かな? 

685:名無しさん@ピンキー
09/03/06 01:32:27 XsHx1Mav
>>681
GJ!!
もし余力があるなら一年後あたりが見たいいいいいい

686:心の隙間
09/03/06 03:01:05 QHS7BUeZ
>>684
4月15日より後になるかもしれないです…。
>>683-685
少しだけ書いてます。なるべく早く投下しますね。


687:名無しさん@ピンキー
09/03/06 11:31:05 L3k2PkRp
>>682 >>681
…寂しかったんだな。

688:名無しさん@ピンキー
09/03/06 11:31:42 L3k2PkRp
まあともかくGJ!

689:名無しさん@ピンキー
09/03/08 11:51:26 /6bNtrYo
人いない…

690:名無しさん@ピンキー
09/03/08 20:01:10 +hym97Es
これは自演したくもなるな。

691:名無しさん@ピンキー
09/03/08 23:35:32 SvB3TRx6
誰も書こうって気が無いのが悪い
という訳で>>662期待

692:心の隙間~続
09/03/10 07:20:30 bEElFY9a


――
――


満開の桜が優しく揺れ、花びらが舞う。


この町に越してきた時も、新学期と共に綺麗な桜の花びらが咲き乱れていた。


―大切な人からの贈り物である私の宝物、熊の目覚まし時計を見る。
針は6時を指している。

「ふぁ~あっ…。」
大きな欠伸をし、両手を上にあげて背筋を伸ばす。
窓から入ってくる朝陽が気持ちいい。

ベッドから降りて、窓から外を眺めると綺麗な桜の木が見える。
その桜の木に朝陽が射して、よりいっそう花びらが明るいピンクになっている。

ある程度、景色を楽しむとまたベッドに戻る。
寝るためではなく、ベッドに置いてる携帯取りにいくために。

「ふふっ…おはよう。」
携帯を開くと、優しく笑う大好きな人の笑顔。

少し眺めた後、携帯の画面にキスをする。
張本人にしたいのだが目の前にすると、恥ずかしくて体が硬直してしまう。
携帯でも顔が熱くなるのに…考えただけでも熱がでる。

名残惜しいが携帯を閉じ、机に置く。

「早くしなきゃ…」

クローゼットから制服を取り出してベッドに放り投げる。
そう…私にはあの人と過ごす時間が少ないのだ。

早くしないとタイムリミットがきてしまう。

693:心の隙間~続
09/03/10 07:21:55 bEElFY9a
素早く制服に着替えて一階に降りる。

その足でリビングに入ると冷蔵庫から牛乳を取り出す。
コップ一杯に注ぎ込んで、一気に飲み干す。
洗面所にむかうと顔を洗い歯磨きをし終わると寝癖を整える。

最近お母さんに化粧の仕方も教わった。
学校なので、あまり派手にできないが、薄化粧のほうがあの人には好評だった。

「…よしっと……忘れ物ないかな…」

最近独り言が多い。
お母さんは仕事で忙しくて五時には家を出ていってしまう。
帰ってくるのも22時を過ぎてることが多い。
この町に引っ越してきたので職場が遠くなってしまったのだ。

「よし、大丈夫!」

リビングに戻り、お母さんが作ってくれた弁当を掴むと玄関にむかう。

靴を履き、玄関を開けると風に吹かれて甘い桜の匂いが嗅覚を刺激する。

「いってきま~す。」
誰もいない家に声をかけて玄関の扉を開ける。


―外に出るとまだ少し肌寒いが1ヶ月前と比べると全然違う。

「やっぱりまだ寒いなぁ…早く行こっと。」

これからむかう場所は学校ではない…目的地は自宅前の道路を挟んだ一軒家。

そこに住んでいるある人を今から起こしに行くのだ。


694:心の隙間~続
09/03/10 07:22:31 bEElFY9a

―「おじゃましま~す。」

その人の家の扉を鍵で開けて中に入る。
一人じゃ寂しいからいつでも遊びに来て良いとのことで鍵を渡されているのだ。
そのまま二階に直行する。
二階の一室の前に立つと扉に耳をつける。
なにも聞こえない…まだ寝ているみたいだ。

音が鳴らないように、ゆっくりと扉を開けて中にはいると。
私が大好きな匂いが部屋一面に広がっている。

ベッドに目を向けると、山のように膨れている。
もちろんベッドの中には持ち主が潜んでいる訳で頭まで布団を被って寝ているようだ。

バレないように、そ~っと忍び足でベッドに近づき、恐る恐る布団をめくる。
するとかわいい寝顔が姿を現した。

「ん、う~ん…」

眩しそうに唸るが目を覚ます気配が無い。

「…」

一年前からこの人は一緒に寝てくれなくなった。
理由を聞くともう中学2年生だかららしい。


―その夜私は大泣きしたのを覚えている。

寂しくて、悲しくて…この感情をどこに持っていけばいいか分からない…ただ、ワガママを言うと見捨てられそうで怖かったのだ。

695:心の隙間
09/03/10 07:23:08 bEElFY9a
少し前まで私のワガママはあの人なら何でも受け止めてくれると勘違いしていた。
優しさに甘えていたのだ。

一度あの人とケンカしたことがある…私のワガママが発端なのだが話がでかくなってしまい最終的に「バカ!!もうこない!絶交だからね!!」
と言ってしまったのだ。

言った直後、後悔したが意地になっていたため謝れなかった。

「そっか、それじゃ今日でお別れだね、さようなら。」
この言葉を聞いた瞬間頭が真っ白になった。

なにがなんだか分からず、空返事で「うん」と言って部屋を後にしてしまった…部屋の扉が閉まった瞬間、頭に「さようなら」の言葉が再生される…

この時初めて捨てられる危機感を感じた。
泣きながら「ごめんなさい」と謝ると許してくれたが、それからあまりワガママは言わなくなった。



―「…なにしてるの?」

「へ!?」

いきなり声をかけられて変な声がでてしまった。

さっきまで寝ていたのにいつの間にかおめめがパッチリだ…イロイロしようと思っていたが無理だった…


―「お、おはよう…お兄ちゃん」


―「お、おはよう凪ちゃん…」


大好きな、大好きな、お兄ちゃんのお目覚め。

696:心の隙間~続
09/03/10 07:23:59 bEElFY9a

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「ふぁ~あッ……もうこんな時間か…」
時計を見ると6時30分。
寝たのが3時…寝不足で頭がクラクラする。

「もう、お兄ちゃんまた夜更かししたでしょ~、ったく、本当に体壊すよ?。」

凪が呆れたように溜め息を吐く。
まぁ夜更かししているのは事実なので、しかたがない。

「そだね、もう少し早く寝るよ、朝飯は?もう食べたの?」

恭子さんが朝早い時凪は家で食べることになっている。
おもに俺か姉が作るのだが最近料理を覚えだした凪がよく作ってくれるようになった。

「まだだけど……それよりお兄ちゃん…。」

「ん?どうしたの?」
モジモジしている…これは凪の癖で、俺に対してなにか甘え発言をする予兆なのだ。



「……抱っこ。」

両手を差し出して甘えるような声を出す。
少し前にワガママを言わないと約束したが、凪の中で俺に甘えることはワガママに入らないらしい…。

「はいはい、これでいい?」

凪が膝に座りやすいようにベッドに腰を掛ける。

失礼しますと言うと膝の上に座る…礼儀正しいのだがその座り方に問題があるのだ。

697:心の隙間~続
09/03/10 07:24:43 bEElFY9a

「凪ちゃん…せめてイスに座るように座ってくれない?」

恥ずかしいことに、凪は真っ正面から抱きついてくるのだ。

「それ抱っこじゃないでしょ?…それにお兄ちゃんの顔見えないもん。」

小学生の時の凪なら大丈夫なのだがもう中学三年、さすがにイロイロ困ることがある。
首筋に鼻を押し当てているため、鼻息が当たってこそばゆい。
それにスカートを履いてるので、生足の感触がパジャマ越しでもわかる…

「でも…来年から高校生だよ?みんなに笑われるよ?」

我慢をしているが俺も男なので気まずいことになる前に止めたいのだ。

「べつに笑われてもいい……」

まいった…凪相手に説得はあまり通用しないようだ。

「それじゃ…高校生になったら強制的に終了だからね。」

「えっなんで!?嫌だよ?ねぇ、嫌だからね!?」

恭子さんから受け継いだ二重の目が見開くと少し怖い。

「ダメ~はい、この話終わり、ご飯食べよう。」

凪をベッドに座らせて立ち上がる。
それと同時に抱っこも終了になる。

「あっお兄ちゃん!?ちょっと待ってよ!!高校生になったら本当に終わりなの!?」


「うん、終わり。先に下に降りて朝飯作ってるからお姉ちゃん起こしてきてね~。」

698:心の隙間~続
09/03/10 07:25:07 bEElFY9a
凪に姉を任せて一階のリビングに向かう。

リビングの扉を開けると少し冷たい風がパジャマの隙間を通っていく。
正面の窓を見ると窓が半開している。

母が仕事に行く前に開けたのだろう、心地よい風に乗って桜の匂いが部屋に充満する。

「今日は食パンでいっか…」

朝食はいつも米なのだが、寝不足もあって米を洗うのが、めんどくさい。

姉が起きてくれば料理を作ってくれるのだが、最近姉と凪に料理は頼りっぱなしなので、朝飯ぐらいは作らなければ。


「なんか一人で料理するの久しぶりだなぁ…」

俺が料理をする時は常に母か姉か凪がいる。
このリビングで三日に一度は恭子さんと凪が夕食を一緒に食べにくる。
あまり恭子さんも凪も家族と変わりなくなってきた。
今が一番幸せなのかもしれない…。

「よしっできた!俺的料理完成!」

テーブルの上に料理がならぶ…料理と言っても食パンの上に卵とベーコンが乗っているだけなのだが…。
俺と姉にはコーヒー、凪には野菜ジュースを入れてテーブルにおく。


―「それにしても、お姉ちゃんと凪ちゃんなにしてるんだ?まだ寝てるのか?」


作り終えてふと気が付く…まだ姉と凪が二階から降りてこないのだ。

699:心の隙間~続
09/03/10 07:25:32 bEElFY9a

「お~い!パン焼けたよ~!?冷めるから早く降りてきて~!」

リビングから出て一階の廊下から二階の姉部屋にむかって声をかける。

「…」

返事がまったく無い…凪が起こしに行けばすぐに下に降りてくるはずなのだが…俺が起こしに行くと布団の中に引きずり込もうとするので、なかなかベッドから出てくれないのだ。

「ったく、しょーがないなぁ~。」
エプロンを階段の手すりに掛けて二階に上がる、姉は朝に弱く低血圧なので、すぐにベッドから出ないのだ。


―「…あれ?凪ちゃん?」
姉の部屋に向かうために俺の部屋の前を通ると、扉が開いており、ベッドが盛り上がっている。

「凪ちゃん?寝てるの?学校行かなきゃダメだよ。」
なぜ俺のベッドに潜り込んでいるのかわからないが、今寝たら学校に遅刻してしまう。

「こらこら、寝たらだめでしょ~が…」

容赦なく布団を捲り上げる。
さぼりは許さない。


―「……どうしたの?」
布団を捲り上げると、小さく丸まって、声を殺して泣いている凪がいた…

「なにかあったの?凪ちゃん大丈夫?」

背中をさすりながら抱き寄せると、大粒の涙を流しながらしがみついてきた。

700:心の隙間~続
09/03/10 07:25:55 bEElFY9a

「ヒック…お兄ちゃん…ウゥ…私…お兄ちゃんと…ヒック…」

途切れ途切れにしか聞こえないのでなにを言ってるのかわからないが、なんとなく言いたいことはわかる。

「あぁ~わかったから…もう言わないから、ほら早く下に降りよう…あと化粧なおさなきゃ…すごいことになってるよ?」
涙やら鼻水やらで綺麗な顔が台無しになっている。


「…うん……抱っこ…」

話をちゃんと聞いていたのだろうか…首に腕を絡めてくる…早く料理を食べなきゃ、マジで遅刻してしまう…

「また今度してあげるから…本当に遅刻するから先に下に降りてて、お姉ちゃん起こして俺も降りるから。」
渋る凪を一階に向かわせる。

「ふぅ、後はお姉ちゃんか…」

家族の中で母の次にやんちゃな姉を起こしに行く…まぁ三人しか家族はいないのだが、凪と恭子さんを合わせても、母のやんちゃぶりは群を抜いている。
その母の血を受け継いだ姉を今から起こしに行くのだ。

―「お姉ちゃ~ん?もう起きてくださいよ~」
コンコンとノックをする…返事は無し。

「お姉ちゃん、入るね?」

姉の返事は無いが扉を開ける。

ベッドに近づくと、幸せそうな顔で抱き枕を抱きしめ、気持ち良さそう眠る姉の寝顔があった。

701:心の隙間~続
09/03/10 07:26:41 bEElFY9a

「なんの夢みてるんだ…えらい幸せそうな顔しているけど…」
ニヤニヤしながら抱き枕にキスしている…
幸せそうな顔を見ていると起こし辛いのだがそうも言ってられない…

「お~い、起きてくれ~、朝飯できたよ~?」

「ん~うるさい…。」
うるさいとは何事だ…所々はだけているが寒くないのか、お腹むき出しでもにやけている。
しょうがないので強行手段で行くことにする…。


「よいしょっと………ほら、こちょこちょ~」


「やひゃははははは!?、ひ~ひひひひ、やめてぇ~起きるから~」
姉のお腹に体重をかけないように馬乗りなり、わき腹をくすぐる。

「ほら~こちょこちょ~」

「あっははははっ、止めなさッ、きゃはははは!、起きますからぁ~っ」

脇から手を離す。
物凄く疲れた顔をしており、ぐったりしている。
寝汗ではない汗のせいで肌にパジャマがへばりついている。

「起きるって言ったのになんで止めないのよ!?オシッコ漏らしかけたじゃない!」

「いつも起きないから少し長くしました。早く下に降りてきてね。」

姉を解放してベッドから降りようとする……が姉に足を掴まれた。


「ふふっ……さんざん私の体で遊んだんだから、お返ししなきゃね。」

702:心の隙間~続
09/03/10 07:29:45 bEElFY9a
「お兄ちゃんもお姉ちゃんも…朝から暴れすぎ、近所迷惑になるよ?」

「「すいませんでした。」」

姉に捕まった後、20分近く布団の中に引きずり込まれて、もみくちゃにされた…凪が見に来なければもっと長くやられていただろう…。

「もうお兄ちゃんが作った料理、冷めてるよ?」

「あぁ~そうだ!料理作ってたんだ!」

料理のことをすっかり忘れてた…姉を睨むが、そそくさとシャワーを浴びに風呂場に逃げてしまった。

「まぁ、いいか…早く食べて、行かなきゃ…大学生初日に遅刻するわけには行かないからね。」

そう…俺は姉と同じ大学を受験して晴れて今年から大学生なのだ。
姉も一年留年したので俺と一緒に行くことになっている。

やはりあの一年は大きかったみたいだ…姉に謝り倒したが、「勇と大学行けるなんて夢みたい!」とあまり気にしていないようだった。

「ほら、お兄ちゃんも着替えて、パジャマのまま行くの?」

凪に指摘されてパジャマのままだと初めて気がついた。

「それじゃ、着替えてくるから、リビングで待っててくれる?」

「うん、わかった…それじゃ、お兄ちゃんが作ったやつ暖め直すね。」

そう言うと凪は姉の部屋から出ていき、リビングに向かった。

703:心の隙間~続
09/03/10 07:57:19 bEElFY9a
服を着替えて、リビングに降りる、姉もお風呂から出てきてイスに座っている。

「勇は遅いなぁ~待ちくたびれてお腹空いたよ。」

さも早起きしたみたいに話す姉に少しムッときたが、反論すればまた長引く…。

「すいませんね、それじゃ~ご飯食べよっか?」

「うん、それじゃ、いただきます。」

―凪が二年前に越してきてこの生活か始まった…始めはどうなるかと不安だったがみんな仲良く今まで過ごしてこれた。

姉も凪も一緒に買い物に行ったりと仲の良い友達感覚で接しているみたいだ。

俺も二年たてば少しは成長できたかもしれない。
成長できたか父に聞いてみたいところだ…

父の夢はあの日以来一度も見ていないが、父との約束は今でも守っている。

隙間だっていつの間にか綺麗に埋まっていた。



―「勇…もうすぐお父さんの命日だから…お墓参りいかなきゃね。」

そう…もうすぐ父の命日なのだ…人生が一変した日、いろいろな物を失った日でもあり、たくさんの物を得た日でもある。

「うん、大学生になったこともお父さんに報告しなきゃいけないしね。」



―なによりこの新しく新鮮で楽しい日常を父に報告したくてたまらなかった。

704:名無しさん@ピンキー
09/03/10 08:09:46 bEElFY9a
少ないですが心の隙間続編は終わりです。

新しく書く時はもうちょっと濃い依存内容の物を書きたいと思います。

705:名無しさん@ピンキー
09/03/10 10:35:16 4ZIRyFfk
>>704
続きキタコレ
これからの展開に期待しています

706:名無しさん@ピンキー
09/03/11 01:13:56 BzNfTMZL
>>704
GJ!
新作楽しみにお待ちしております

707:名無しさん@ピンキー
09/03/11 11:14:18 cDord+bd
GJ
新作待ってる。

708:名無しさん@ピンキー
09/03/11 22:50:27 1dszr8hm
>>704
GJ!!!
新作は何時ごろだろ?

709:名無しさん@ピンキー
09/03/11 23:03:07 zpuxROha
妄想は有れど文は作れず…

710:名無しさん@ピンキー
09/03/12 00:18:04 Th56B7Cw
>>708
>>686に4月15日以降って書いてる。
>>709
頑張ってくれ!待ってます。

711:名無しさん@ピンキー
09/03/18 00:43:14 c8VPrBxI


712:名無しさん@ピンキー
09/03/20 04:04:39 aEA+EVX8
依存し合う女の子同士

という電波を受信した

713:名無しさん@ピンキー
09/03/20 10:14:50 cIL42gP1
さあ早くそれを文章にするんだ

714:名無しさん@ピンキー
09/03/20 20:02:08 SGoKmm67
双子姉妹を希望

715:名無しさん@ピンキー
09/03/22 13:43:48 UmztdGqy
誰もいないね~

716:名無しさん@ピンキー
09/03/22 22:49:15 8wE3zpkT
依存は小ネタが作りにくい


一応age

717:桜木マヤは俺の嫁
09/03/24 03:30:33 EG9au3hc
 土砂降りの雨の中を俺は傘も差さず走っていた。
こんなに急に降るなんて思っていなかったからとにかく早く帰るしかない。
あと少しで家に着くというところで、道の隅の黒い固まりに俺は気付いた。
最初はでかいゴミかと思った。
違う。
丸まっている猫?
違う。
それはうずくまった女の子だった。
「きみどうしたの? かぜひくよ」
女の子は何も言わず俺をじっと見ている。
「まいご?」
返事はない。
「まいごならうちにおいでよ」
今思えば俺はずいぶん遠慮のない子供だった。
その行動が俺の人生を変えることになるなんて、もちろん想像もしていなかったさ。


 目を覚ますと、視界全部が白い顔だった。
顔の主は灰色の瞳を微動だにさせず俺を見つめている。
いつものことでなければ飛び上がっているところだ。
「マヤ、頼むから寝ている俺を観察するのはやめてくれ。呪われそうだ」
「そう」
マヤは意に介さずとばかりに背を向け部屋の外に出て行った。
ご飯できてるから、とだけ小さくつぶやいて。
俺は何か言おうとしたが、朝日に照らされるマヤの銀髪はあまりに綺麗で、
俺はまだ夢の中にいるような気がしちまったんだ。
それにしても懐かしい夢だったな。
もう10年以上もたつのか・・・・・・。

 俺がリビングに降りると、そこには香ばしい焼き魚の香りが漂っていた。
マヤお得意の純和風献立だ。
料理に関してはすでにうちのオカン以上の腕前と言っていい。
学校の制服にエプロンというマヤの出で立ちも正直言って眼福だし。
俺はマヤと向かい合う場所に座っていただきますを言った。
両親が長期出張に出てからはや一週間、二人だけの暮らしにも慣れてきている。
うん、やはりうまい。
ふと顔を上げるとマヤはその無機質な目でじいっとこちらを見ていた。
「いつもありがとう、うまいよこれ」
「そう」
マヤは頬をわずかに染めて目をそらした。
意外に褒められるのに弱いんだよなこいつ。
米の一粒も残さずに平らげごちそうさまを言って席を立つ。
マヤが食器を片付けている間に俺は部屋に帰って着替えと支度。
全くもっていつも通りの平和な朝だ。

718:桜木マヤは俺の嫁
09/03/24 03:31:10 EG9au3hc
 俺とマヤは必ず二人並んで歩いて登校する。
学校が近くなるといろんな奴がマヤの前に現れては挨拶していく。
中にはアイドルに対面したファンのように興奮する女の子さえいる。
大抵俺は視界に入っていないとはいえ、そんなことを今更気にすることもない。
マヤは少々目立ちすぎる。
隣にいる平凡な男に気付かなくなるぐらいには。
170センチを超す長身、真っ白い肌や腰まで届く銀色の髪。
ソフトボールみたいな小さな頭と大きな灰色の瞳。
可愛いとか綺麗を超えた、ある種この世のものとは思えない幻想的な美しさ、
それが桜木マヤという少女だった。
誰もマヤを日本人とは思わないが、かといって何人なのかと聞かれても
誰にもわからない。俺にも、本人にさえも。

 あの日、あの雨の日に俺がマヤを連れて帰ったとき俺の両親は当然うろたえた。
マヤは自分の名前以外は何も知らず、親がどこにいるのかさえもわからなかった。
翌日オカンは警察に連絡したが何日待っても何一つ成果は得られない。
やがて児童福祉施設の職員さんが彼女を引き取ろうと現れた。
だけどマヤはそれを拒む。
ほんのわずかな期間だったが、仮の住まいとしてうちで暮らす内に
彼女はこの家が気に入ってしまったようなのだ。
何より俺にはずいぶん懐いていた。
職員さんが近づこうとすると彼女は俺の陰に隠れてひどくおびえる。
そんな様子を見たうちの両親はマヤを自分たちが育てることを決めた。
「元々女の子がほしかったしね。
 第一マヤちゃんあんたよりよっぽど可愛いじゃない」
それがオカンの言い分だ。
とにかくそれ以来マヤはうちの家族の一員になった。
年齢はもちろんわからなかったが俺と同じでいいだろってことになった。


719:桜木マヤは俺の嫁
09/03/24 03:32:03 EG9au3hc
 あれからもうずいぶんと経つ。
それにしてもまさかこんな美人になるなんてなあ。
なんとなくマヤの横顔をちらりと見ると、
その前からこちらを見ていたらしい彼女と目があった。
マヤはほんのわずかに口元をゆるめてわかりにくい笑顔を浮かべる。
「コウ」
「ん?」
「なんでもない」
「そうか」
「そう」
「マヤ」
「なに?」
「別に」
「そう」
マヤと歩いているときはいつもこんな感じでまともな会話はほとんどない。
それでいいと俺は思う。
いつまでもこのままの関係でいられるはずはないけれど。
校門をくぐると、クラスが違うのでここでいったんお別れとなる。
「じゃあな」
「うん」
別れ際彼女は必ず少し寂しそうな顔をする。
俺はいつものようにあえてそれを気にしないふりをしてさっさと立ち去った。
俺は寂しくなんかない。

「ようナイト君」
「その呼び方はやめろっつーに」
機嫌良く話しかけてきたのはクラスメイトの岡島だ。
俺のことを「姫のナイト」と呼ぶお調子者。
姫が誰かなんて言うまでもないだろう。
「耳寄り情報だぜ。姫がまたコクられた。今度は生徒会長だ!」
「ふ~ん」
ケータイをいじりながら適当に相づちを打つ。
ちなみに電話帳をスクロールさせているだけで意味のある操作はしていない。
「ふーんじゃねぇよタコ。
 ナイト様としてどういう了見なんだ。
 生徒会長のところに殴り込みに行かねぇのか」
「なんで殴り込むんだよ」
「姫をかけて決闘するに決まってんだろ」
偉そうにフフンと鼻を鳴らし胸を張る岡島。
「アホか」
ケータイを机において岡島を見上げる。
「俺はマヤの彼氏じゃない」
「じゃあ何か。兄か弟か。それとも単なる同居人、か?
 誰が信じるんだよそれ」
信じるも何もない。あいつと俺とは家族だ。
誰より大切な家族だけど、決して恋人同士なんかじゃない。
あいつは俺に懐いているだけだ。
刷り込みって奴だ。
恋愛感情とは違う。

720:桜木マヤは俺の嫁
09/03/24 03:33:11 EG9au3hc
「コウ!」
廊下を歩いていると後ろから大きな声で呼び止められた。
この声を間違えるはずがない。
そいつは校則なんぞ気にせず廊下を走って俺に追いついた。
「コウ、どこに行っていたの?
 教室にいないから探したよ」
マヤは息を切らせて肩を上下させている。
結構走り回ったんだろうな。
「別に、散歩していただけだよ」
「お昼ご飯は?」
「食堂で済ませた」
「どうして!?」
俺の弁当は毎日マヤが作っている。
マヤは家でそれを渡すことはせず、必ず学校で一緒に食べる。
「俺だってたまには食堂の飯が食いたくなることぐらいある」
嘘だ。
あんな400円の丼よりマヤの弁当の方が100倍旨い。
マヤはもう泣きそうな顔になっていた。
「あたしコウを怒らせた?」
「別に」
「飯島先輩に告白されたから?」
「違う」
俺がバカだから。
「あたしすぐに断ったよ。コウがいるのに、他の人となんて付き合えないよ」
「なんで!」
バカだからどうしていいのかわからないんだ。
「なんで断るんだよ! あんないい人他にいないだろ!
 俺なんかと比べものにもならないぞ!」
学校の廊下のど真ん中で俺は怒鳴った。
立ちすくんだままマヤはとうとう涙をこぼした。
「どうしてそんなこと言うの・・・・・・?」
俺はもう止まらなかった。
「マヤ、いい加減君は俺から離れるべきなんだ。
 俺なんかにべったりくっついていていい奴じゃないんだ。
 俺よりもっとふさわしい人がたくさんいるんだ」
「どうして・・・・・・?
 あたしはコウが一番好きなのに」
マヤは震えている。
こんなおびえたマヤを見たことがない。
これじゃまるで叱られる幼子じゃないか。


721:桜木マヤは俺の嫁
09/03/24 03:34:05 EG9au3hc
「だからそれは・・・・・・錯覚なんだよ。
 君は俺に拾われて、俺のおかげでのたれ死なずにすんだから、
 だから俺を好きだとカン違いしているんだ。
 俺に嫌われるとあの家に住めなくなると思っているから、
 だから俺を好きになるしかないんだ。
 ずっと俺にべったりで他の男とまともに話したこともないから
 俺が一番だと思い込んでるんだ・・・・・・」
「そんなじゃない・・・・・・そんなじゃないよ・・・・・・」
力なく首を振るマヤ。
「俺達は家族だ。家族はいつまでも一緒じゃない。
 いつか他の誰かを好きになって離ればなれになるんだ。
 だけどそれでも家族は家族、それはなにも変わらないんだ」
「違う!!」
マヤが叫んだ。
「あたしはコウが好きなの! あたしにはコウが必要なの!
 きっかけとか! 事情がどうとか! 錯覚とか!
 そんなのなにも関係ないよ!!」
胸にズシンと衝撃がかかった。
マヤが俺にぶつかってきたのだ。
「お願い、あたしを捨てないで。
 コウに捨てられたらあたし生きていけない」
「そんなわけが・・・・・・だって」
「知ってるよ。コウがあたしを嫌いになっても、
 パパやママまであたしを嫌いになったりしない。
 あたしはずっとあの家の子として生きていける。
 でも、ダメなの。
 コウじゃなきゃダメなの。
 コウがいるから生きていけるの。
 あたしにはコウが必要なの・・・・・・」
マヤは人目もはばからず泣き通しだった。
鼻水もグショグショに垂らして俺の制服ににじませた。
気がつけば俺達の周りには黒山の人だかりができている。
不思議と気にならなかったが。
「俺は・・・・・・俺だってマヤが必要だよ」
「それじゃあ」
「俺は・・・・・・そんなにいい奴じゃない。
 マヤに釣り合うような男じゃないし・・・・・・
 毎日君をオカズにオナニーしてるような奴なんだぞ」
「どうして言ってくれなかったの!」
突然マヤは顔を起こして俺をにらみつけた。
「あたしだって毎日コウでオナニーしてるよ!
 コウが出かけている日はコウの布団に潜り込んだりしてオナニーしてるよ!
 コウが寝ているときにこっそりコウにキスしたりしてるよ!」
「い、いきなり何言ってんだ!」
爆弾発言にもほどがあるぞマヤ。
「あたしたち似たもの同士だよ・・・・・・。
 ねえコウ。あたしのこと好きにならなくてもいい。
 家族のままでいいから、ずっとそばにいさせて」
「マヤ・・・・・・」

722:桜木マヤは俺の嫁
09/03/24 03:34:39 EG9au3hc
今まで見たこともないマヤのわがまま。
ずっと俺に忠実だったマヤの、絶対に譲れない一線がやっとわかった。
やっぱり俺はバカだ。
マヤがこんなに強い想いを持っていたのにそれに気付こうともしなかったなんて。
彼女を手放して、それからどうしようと思ってたんだ?
考えるほどに自分のバカさ加減に腹が立つ。
ここでケリをつけなきゃ一生もののド阿呆だ。
「ダメだ」
「え・・・・・・」
「好きにならないなんて無理だ。マヤのいない人生なんて無しだ。
 君は一生俺のものになれ」
そう、それが俺の本心。
結局俺だってマヤ抜きで生きていくなんて考えられないんだから。
「コウ・・・・・・!」
マヤの目からまた涙がこぼれた。
「マヤ」
「うん」
「結婚するぞ」
「うん!」
マヤは涙や鼻水でぐしゃぐしゃの顔をさらにくしゃくしゃにした。
そんなマヤの腰を乱暴に抱き寄せて俺は歩き出した。
目の前の人混みがモーゼの十戒のように割れていく。
俺はマヤを腕に抱いたままそこを突き進む。
「お、おいお前ら。どうする気だ?」
誰かが言った。
「家に帰る」
「午後の授業は? 帰ってどうすんだ?」
「夫婦の営みだ」
もう話すことはない。
俺は数十人の前でマヤにキスをした。
これが俺のファーストキス・・・・・・いや、違うのか? どっちでもいいか。
とにかく俺は見せつける必要があった。
無謀にもマヤに恋い焦がれるすべての奴らに対して。

桜木マヤは俺の嫁、ってな。



                完

723:名無しさん@ピンキー
09/03/24 10:53:18 WIq0JK0l
久々の投下に乙
そしてGJ!
ヤンデレ化がないマヤが良い!

724:名無しさん@ピンキー
09/03/24 21:31:37 nnirMJ/l
GJ!
ハッピーエンドな依存物っていいよね。


725:名無しさん@ピンキー
09/03/24 23:34:06 NDpze9Qr
GJ!!!

726:名無しさん@ピンキー
09/03/25 03:14:57 6S5pPGQW
GJ。癒される。

727:名無しさん@ピンキー
09/03/25 23:19:03 z8uBHwN2
久々に神をみたぜ・・・

728:名無しさん@ピンキー
09/03/27 16:43:40 WHuviSyk

次の8つのうち5つ以上あてはまると依存性人格障害が疑われます。

1.普段のことを決めるにも、他人からの執拗なまでのアドバイスがないとダメである。

2.自分の生活でほとんどの領域で他人に責任をとってもらわないといけない。

3.嫌われたり避けられたりするのが怖いため、他人の意見に反対することができない。

4.自分自身から何かを計画したりやったりすることができない。

5.他人からの愛情をえるために嫌なことまで自分から進んでやる。

6.自分自身では何もできないと思っているため、ちょっとでも1人になると不安になる。

7.親密な関係が途切れたとき、自分をかまってくれる相手を必死に捜す。

8.自分が世話をされず、見捨てられるのではないかと言う恐怖に異常におびえている。

まあジャンルの依存がイコール依存性人格障害な訳じゃあないがね。
って突然何貼ってんの俺

729:名無しさん@ピンキー
09/03/28 07:57:05 yFInZuwx
5つも当てはまった
ヤバいな俺

730:名無しさん@ピンキー
09/03/28 08:37:07 n/bnPX+2
結構当てはまってると一瞬吃驚した。
よくよく考えてみたら、ただ卑怯な奴なだけなんじゃねって事に気づいた。

731:ネトゲ風世界依存娘
09/03/28 20:32:54 GWXnS/xz
 生きていればいろんなことが起こるものである。
 有り得ないと思うようなことでも起こってしまうのが人生というものであろう。

 俺はしみじみとそう思った。

 ことの始まりは一週間前に遡る。

 俺はいつもの如く、VMMO……意識をオンライン世界に直結することで、本当に
異世界で冒険しているような気分になれるネットゲーム……で、遊んでいた。
 生活費以外の仕事の収入と仕事以外の時間を全てゲームに当てているいわゆる廃人と
いわれる人間である。

 俺がやっているVMMOは戦闘系スキルは武器や技ごとに分かれ、生産系スキルはさらに
細かく、一口に鍛冶といっても精錬スキルや採掘スキルなどの関連スキルが必要になるなど
分かれており、様々な職種のものと交流することで足りない部分を補っていくというシステムが
とられているゲームであった。
 そのためギルドシステムが発展しており、殆どの者はこれに加入している。
 だが俺はそんなゲームをソロで(知り合いは勿論大勢いるが)楽しんでいた。
 ゲームでは全部のアイテムとレベルコンプリートしないと気がすまないタイプの俺にとってこのゲームはまさに底なし沼である。

 何時もどおりに遊んでいたとき、俺は一人の女性(?)に出会った。実際に女性かどうかは
わからない。選択でどちらでも選べるからだ。
 とにかく、犬人族のその女の子は登録後初めに選ぶことの出来るはじまりの町の一つであり、
ゲーム中の主要6王国のひとつ、ミルガリンの首都、レトの中央広場で途方にくれていた。

 石畳で出来た広い広場にぽつんと立つその姿はまさに捨てられた子犬といった感じである。
なまじ生身に近い感覚があるだけに、戸惑いも大きいのであろう。不安そうに耳をぱたんと後ろに倒していた。

 俺は、裁縫スキルを上げるためにちくちくと最高級の革鎧を作りながら間違いなく
参加したての初心者であろう彼女を遠目で観察していたのだが。

(あ、声をかけようとしてる……無理だった。)
 ちくちく。

(おっ!今度こそ!!……あ、気づいてもらえなかった。)
 ちくちく。

(声をかけた!!おめでと……ありゃ。無視された。涙目だ。なんか苛めたくなるな。)
 ちくちく。おけ、鎧完成。

  涙ぐましい努力を続ける犬耳少女(?)がなんだか可愛そうになり、俺は声をかけることにした。
 スキルを上げ続けるだけでは正直しんどい。気分転換、きまぐれだった。


732:ネトゲ風世界依存娘
09/03/28 20:33:55 GWXnS/xz

「こんにちは。なんか探し物か?」
「ひゃあっ!あ、あの。こ、こんにちは!いえ、そんなのじゃないんです!」
 にこやかに声をかけると、犬耳少女は手をぶんぶんふって慌てていた。近くで
よく見ると初心者用の革鎧に初心者用の短剣を装備していることがわかり、予想が
当たっていたことを悟る。俺はなるべく意識してゆっくりと話しかけた。

「慌てずにゆっくり落ち着いて。いい?深呼吸。」
「はい……。」
 このゲームで深呼吸は意味は無い。気分の問題だ。

「で、どうしたの?」
「実は親に薦められて、ゲームに参加したんですが何をすればいいのかもわからずで……。」
 しゅんと、耳をたれて俯く少女。動物が混じったキャラは感情によって付属パーツが動く
ようになっている。全く製作者はよくわかっているといわざるを得ない。

「親が薦めるってまたなんで……いや、さっきの見てればわからんでもないか。」
「えええ、み、見てたんですか!」
「ああ。微笑ましかった。」
 くっくと笑うと、彼女は涙目で俯いていた。

「私、暗くて不細工で引っ込み思案だから……中学でも苛められて……
こういうゲームならどうかって……。」
「こらこら。こういうゲームで自分の身分が判る様なこと言ったら駄目だ。」
「そうなんですか。……ごめんなさい。」
 く、暗い。俺は内心顔を引きつらせながらも、笑顔で胸を叩く。

「まぁゲームは楽しくやるもんだ。今日は俺が町を案内しよう」
「え、いいんですか?」
 ぱぁぁぁっと表情が明るくなる。顔を上げた少女のキャラメイクはとことん地味で
あったが、髪や瞳の色合いは落ち着いた茶色を用いており、顔立ちは少々幼いが穏やかな性格で
あることを思わせることに成功していた。
 正直、笑顔は可愛かった。

「お兄さんに任っせなさっい!俺はベテランだからな。」
 わざと馬鹿っぽく大げさに身振りをつけて話すと彼女は徐々に緊張が取れてきたのか
微笑んでいた。

「有難うございます。親切なんですね。」
「暇だったしな。で、名前は?」
「えっと、若……じゃなかった。蕾です。」
「俺は匠だ。今日だけだと思うがよろしくな。」
 今日だけといった俺に彼女は驚きの表情を向けるが、俺は真剣な顔で続ける。

「今日だけ……ですか?」
「俺と君じゃ強さがぜんぜん違うからな。それに、蕾ちゃんは自分で頑張らないと意味ないだろ。」
「はい……。」
「だから、自分で楽しみを見つけていくんだ。」
「はい。」
 ぶっちゃけ、毎日初心者の相手なんてしてたらきりが無い。俺はそんな内心をおくびにも出さずに笑顔に切り替える。

「まあでも、今日は一緒に楽しもうな。」
「はいっ!よろしくお願いします。」
 犬耳少女─蕾は尻尾をぱたぱた振り耳をぴんと立て、満面の笑顔で頷いた。俺は表裏無く喜ぶ彼女に、多少の罪悪感を感じていた。



733:ネトゲ風世界依存娘
09/03/28 20:34:50 GWXnS/xz

「今日はそろそろ落ちようか。」
「はい。有難うございました。本当に楽しかったです。」
 現実世界で午前2時、出会ったのが夕方6時だったのでたっぷり8時間、町の主要施設案内を
した後に味を実際に感じることの出来る甘味処へ案内して奢りでケーキを食べたり、生産スキルを
実践してもらったり、町の外で狩りの仕方を教えたりしていた。

 腰の低い性格で引っ込み思案っぽい彼女も打ち解けると、一つ一つのゲームの演出に
年相応の女の子のようにかわいらしくはしゃいでいたのは印象的だった。

 時間が過ぎるのはあっという間で、今は出会った街中の広場で別れの挨拶をしていた。

「明日から頑張れるよな?」
「はい!匠さんにはなんてお礼をいったらいいか。」
 そういって笑顔で頭を下げる蕾をみて俺は心底いいことしたなぁと、充実した気分に
なっていた。……のもつかの間であった。

「な、なんだ?」
「きゃっ!!」
 ごごごごごごごっ!!!!!!!!!!と大きな地震が起き、世界中が崩壊するような地響きが轟く。
バグったか!?と思ったその瞬間、脳がミキサーにかけられたような不快感と痛みが俺を襲う。
 勿論そんなものに耐えられるわけも無く、俺は意識を失っていた。

 どれくらい気を失っていたのだろうか。判らないが目を開けると心配そうに俺を覗き込む
蕾の顔があった。

「あれっ……。どうなった?」
「わかりません。」
 俺の問いかけに彼女は涙を浮かべながら不安げに答えた。

「地震が起こったかと思うと街中の人が頭を抑えて蹲って……、私はちょっと頭痛が
きただけでしたけど匠お兄さんの苦しみ方は死んじゃうんじゃないかと思いました。」
「それは良かった。蕾ちゃんが無事で。」
 初めてのプレイでこんな事故であんな痛みを体験したらトラウマになる。
 そう思って俺は心底ほっとする。

「有難うございます。それで……気がついたら中央広場に急に人が大勢出てきて……。」
 俺はその言葉を聞いて周囲を見渡す。彼女の言葉通り、中央広場には普段以上の人や
獣人で溢れていた。



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