【貴方なしでは】依存スレッド3【生きられない】at EROPARO
【貴方なしでは】依存スレッド3【生きられない】 - 暇つぶし2ch550:心の隙間
09/02/15 18:20:45 jSQHCAMk
「……ごめんね…」

「え?なにが?って……お母さん…目…」

「ううん、なんでもない…ちょっと先生と話してくるわね?」
そういうと母は病室を出ていった。

「……」

私に指摘されて慌てて目を伏せたが、瞼が腫れて目が真っ赤に充血していたから泣きはらした後だとすぐに分かった。

「なにが正しくて、なにが間違いなんだろう…」

どうすればこうならなかったとか、今更考えても答なんて見つからない。
ただ私の体内時計は、家庭が壊れたあの日で止まってるのかもしれない…。

勇もお母さんも関係を修復しようと頑張っていたのは分かってる。
だけどお母さんに勇を盗られたら私は勇がいない生活をしなければならない。
ここ数年私の家族は勇だけだと自分に言い聞かせ、ごまかし続けてきた。

「お父さん……お父さんはお母さんのこと許したの?」

窓の外に広がる青空に向かってつぶやくが、返答など返ってくるはずもない。

「…許す努力…か…」
ふぅ…と溜め息を吐き目を閉じる…眠気などまったく無かったのに、何故か深い眠りについてしまった…。



―母の夢など数年間まったく見なかったのに…



なんでだろう?この日初めて無邪気に母に甘える夢を見た。

551:心の隙間
09/02/15 18:21:19 jSQHCAMk
父に教えられたことがある…。

身近な人に目を向けれない人間は、絶対に人の心の声を聞けないと。

『世界中の人間を守れとは言わない…せめて自分の大切な人ぐらいは守れるようになれ……息子のおまえは俺が守るから。』

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「大切な人…か…」

―時計を見る。何時間寝たのか分からないが夕方の7時を過ぎている。

身体から薬が抜けたのかおなかがキリキリと痛む…
「なんだろこれ…ご飯の食い過ぎか?」

「こら!なに座ってるの勇!!」
いきなり声をかけられてビックリした…
「あれ?お母さん?」

「ほら先生も来たから早くベッドに横になって。」

母の後から続いて四十代前後の白衣を着た短髪の男と若いナースが一人入ってきた。

「気分はどう?良くなった?」

「少しだけ…。」

「今日はまだ疲れが溜まってるからね、明日になれば楽になるよ。」

「はぁ…」

「それとね…薬のことだけど…」

ペラペラと話し続けるが、どうでもいい。
俺が聞きたいことはなんの病気かってことだ。
俺の頭の中では吐血した時点で父と同じ病気だと思いこんでしまっている。

552:心の隙間
09/02/15 18:21:48 jSQHCAMk
医者がなにか話してるが頭に入ってこない。
受け答えもすべて空返事で返している。
この先生が悪い訳じゃない…だが先延ばしにされてるみたいでイライラする。
早く教えてほしい…

「それとy「あの!!」

我慢が出来なくなって医者が話してるところを割って入ってしまった。

「ん?なに?」
紙をペラペラと捲りながら話していたため、その手がピタッと止まる。

「すいません…あの…俺ってなんかの病気なんですか?…」

聞くのは怖い…だが聞かずに終わるのがもっと嫌だ。

「ん?あぁ…そうだね、お母さんには言ったけど君には言ってなかったね。」

その言葉を聞いて母に目を向けるが、母は俺に背中を向け花瓶の水を入れ替えているため、表情が分からない。

―まだやりたいことだっていっぱいある。

父とも約束もした。

まだ生きていたい!!

「君はね……」

553:心の隙間
09/02/15 18:22:09 jSQHCAMk

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「いつの間に寝たんだろ…」

変な夢…母の夢なんてまったく見なかったのに。
複雑な心境になる…
私の夢に勇が出なかったことなんてまず無いと思う。
さっき見た夢は、母と私2人きりだったけど。悪夢とはかけ離れた穏やかな夢だった。
「なんでだろ…よくわからないな……ん?…」
ふと身体が軽いことに気がついた。

「あれ?…点滴はずれてる…」

腕を見ると私に刺さっていた針は無くなっていた。

一応周りを見渡す…誰もいない…
窓の外を見ると寝る前とは違う吸い込まれそうな暗黒が広がっている。
「何時間寝たんだろ…」
壁に掛かっている時計を見上げる。

「8時…かなり寝たなぁ……」

寝起きであまり頭が働かないので冷たい水で顔を洗いたい。
「トイレに行こ…そこで顔洗えばいいや…」

起きあがり下半身をベッドから外に出すと、靴を履き、扉に向かって歩き出す。
ドアノブに手を掛けようと右手を差し出すとドアノブが独りでに回った。
瞬間扉がガチャッと勢いよく開いた。

「あぶなっ!?なっなに!?」

554:心の隙間
09/02/15 18:22:37 jSQHCAMk
勢いよく開けられた扉が鼻先をかすったのでビックリして後ろに仰け反ってしまった。

「あれ?麻奈ちゃん?なにしてるの?」

扉の向こうにいたのは母だった。

「いや…なにしてるって…ちょっとトイレに…」

顔にぶつかりそうになったことを言おうとしたが、言い争いをしたくない。
「そう?気をつけてね」

母とすれ違い部屋を後にする…が気になることが一つある。

「……勇はどうしたの?」
もう8時だ。
母の言うとおりなら勇はもう起きてるはず…
「勇?……勇は入院することになったわよ…」

―は?なにいってるの?…意味が分からない…

「…勇の病室どこ…」

「え?なに?」

「勇の居場所を聞いてるのよ!!勇はどこよ!?」

「ちょっ!?麻奈美!」

―気がつくと母につかみかかっていた。
母に罵倒っていたのは覚えているが、なにを言ったのかわからない…父と勇の状況があまりにも似すぎてて、頭が真っ白になっていたからだ。

555:心の隙間
09/02/15 18:23:14 jSQHCAMk
「麻奈美!!勇の病室に連れていくから落ち着いて!!ねっ?」

母が私の両手を掴んで諭すように話しかけてくるが駄目だ…感情が押さえられない。

「勇に!…勇に会いたい!!…お願いだから勇に会わせて…お願いだから…」

「麻奈美……ほら勇に涙姿見せるつもり?勇がまた心配するわよ?」


「え…?」


勇が心配?


―そうだ、私は勇の姉なんだ。
今苦しんでるのは勇本人に違いない…

「ほら涙拭いて…」
母にハンカチで涙を拭われる。

「うん…お母さんありがとう……それとごめんなさい…」
何故か分からないが自然と口から出た言葉だった。

「ん?べつに良いわよ…ほら勇に会いに行きましょ?」
さっきまで渦巻いてた感情は嘘のように消え去っていた。

私がこんなにもうろたえていたら勇も道を見失う…。
これからは勇の姉として…家族として勇を守らなきゃ駄目だ。




勇がいない人生なんて今は考えられない。
だけど私の精一杯を勇に見せてあげたい。

「今度は私が勇を支えなきゃ。」

556:心の隙間
09/02/15 18:25:17 jSQHCAMk
これで今日は終わりです。
なるべく早く続きもかきますので
もう少しつきあってください。


557:名無しさん@ピンキー
09/02/15 22:49:45 KN/drogg
一番槍GJ
新作待ってました
勇の病気が気になるぅ

558:名無しさん@ピンキー
09/02/15 23:06:21 dpCK2vIW
乙。
続き期待してます!

559:名無しさん@ピンキー
09/02/15 23:23:42 WTKnIoKw
これで盲腸とかいうオチがついてどっとはらいのハッピーエンドなのか
はたまたシリアス展開か
続きが楽しみっす

560:心の隙間
09/02/16 19:15:16 DXB7gHLN
ありがとうございます。
明日の朝には投下できると思います。

できればこのスレも活気づいてほしいんだけどね~上手くいかないですね。
では、失礼します。

561:名無しさん@ピンキー
09/02/16 19:46:36 utGHpeCk
がんばってくれ
待ってるわ

562:心の隙間
09/02/18 00:56:29 hHJ/mBqo
―母がいなくなり、父が他界、自分が壊れ、次に姉が壊れた時。昔と比べて精神面は強くなったと思ってた。

家族が絆を取り戻せばみんなが幸せになる…。
しかし自分が考えている以上に現状は深刻で、母と俺が和解すればすむことだと勝手に思いこんでいた。

一度出来た心の隙間は数年では埋められない…。

「体も心も弱いんだな俺は…」
自分の弱さに苛立ちを覚えるが、どこに持っていけばいいか分からない。

この前まで姉ちゃんと2人で楽しく暮らしていたのに…。
未来に不安が無いのかって言われれば、不安だらけだった。

でも本当に楽しかった…。

「この病気のことは絶対に姉ちゃんには言えないな…」

姉は絶対に自分のせいにするだろう…
これ以上姉を追い込めない。
俺からしたら一番の被害者は姉なのだ。

「一応お母さんにもお姉ちゃんには言うなって言ったけど……」

もう謝られるのは母だけでいい。
医者が出ていった後30分近く泣きながら謝られた。

父は絶対に家族を泣かせたことは無かった。
泣かせたと言えば父が亡くなった日ぐらいだろう。

「本当……強くなったと思ったんだけどなぁ…」


実際は空回りするだけで父のように強くなれなかった。

563:心の隙間
09/02/18 00:56:59 hHJ/mBqo
―「勇、起きてる?中に入るわよ?」


少し窓の外を見て呆けていると。ドアをノックする音と母の声が聞こえた。
部屋に何もないからか、やけに音が響く。

「体の調子は?疲れてない?」

「え?あぁ…うん、全然大丈夫。」

母が部屋に入って来たが、扉を閉める気配が無い。

「お母さん?寒いんだけど…」

今は真冬だ…さすがに開けっ放しにされると肌にこたえる。

「えぇ…なにしてるの?早く入ってきなさい。扉閉めなきゃ。」
母が扉から上半身を部屋の外に出し、誰かに話しかけている。

「なに?誰かいるの?」
話し相手の小さな声は聞こえるが姿がまったく見えない。

「えぇ?……泣いたせいで目が変って…目なんか気にしないわよ……なに?……鏡なんか持ってないわよ…はぁ、今化粧したばかりでしょ……ホラッ」

途切れ途切れしか聞こえない声を聞こうとするがやはり誰か分からない。
母に腕を引っ張られ腕だけ部屋の中に入っているが、確実に拒否反応がでている。
「お母さん誰なの?…すんげー嫌がってない?その人…」

「嫌がってんじゃなくて、恥ずかしがってんの……よッ!!」



「キャッ!?」


564:心の隙間
09/02/18 00:57:46 hHJ/mBqo
母が強引に相手の腕を引っ張ると。女性らしい声と共に母と言い争っていた人物が姿を現した。



「あれ?……お姉ちゃん?」

姿を現したのは下を向いて目を伏せている姉だった。

逆に予想外だ…姉ならスッと部屋に入ってくると思っていたし。
なにより母とあんなに話してる姉なんて見たことが無かったからだ。

「…」

「お姉ちゃんさっきからなんで下向いてんの?」
部屋に入ってきてからずっと下を向きっぱなしだ。

「いや、ちょっと…寝過ぎで…目が腫れてて…」

「いや、俺は別に気にしないけど…。」

「ほらね、勇が気にするわけ無いでしょ?目もそんなに腫れてないわよ?てゆうか、なんのために化粧したか分からないわよ麻奈ちゃん…」
母が姉にフォローを入れるが姉は一切顔を上げない。

「まぁ別にお姉ちゃんが見せたくなかったら別にいいけど…」
無理矢理に見せろなんて言う必要もないし、本人が嫌がってんなら仕方がない。
「うん…ありがとう…」

なんだろう…変に空気が重い。
母も姉もどことなく元気が無いみたいだ。

「えっと…あっそうだ、お姉ちゃん風邪は大丈夫なの?体だるくない?」


なにか話をしないと気まずい空気に押しつぶされてしまいそうだ。


565:心の隙間
09/02/18 00:58:07 hHJ/mBqo
「うん…点滴で熱も下がったし体も楽だよ。」

「そっか、よかったね…。」
なんでこんなに話しづらいんだろ…。
母も立ってるだけでなにも話さない。

「……勇、入院するの?」

姉の言葉を聞いた瞬間母を睨みつけた。

「これは言わなきゃ、どうせ後々分かることよ。」

母の言うことが正しいのですぐ目をそらす。
「……うん、ちょっとだけね…まぁすぐ帰るよ。」
当たり障り無い答えを返す。

「勇…なんの病気なの?」

「え?…なんの病気って……それは……その……」


―ヤバい…考えるの忘れてた…どうしよう…。
母に助けを求める目を向けるが、溜め息を吐いて「あなたが言いなさい。」って顔してる。

しょうがない自分のことだからなんとかするしかない。
「え~と……盲腸?…だったよ。」

―姉は俺に対して、もの凄く高度な技を使う時がある―

「嘘でしょ。」

即答で返された。

「勇…嘘つく時の苦笑いの癖治したほうがいいわよ?」

そんな癖があったのかと慌てて両手で頬を触った。

「ほら…嘘だ…」

「え?……あっ!?」
すぐに手を下ろすがもう遅い。
母も呆れた顔をしてため息を吐いている…。


566:心の隙間
09/02/18 00:58:50 hHJ/mBqo
「勇…やっぱり麻奈ちゃんにも本当のこと言ったほうがいいわよ?」

姉の肩を優しく掴み、小さく呟く。

「……」

―やっぱり無理か…
こうなったらもう姉に嘘は通用しないだろう。

「そうだね……わかった…お姉ちゃん、嘘ついてごめん。」
姉に向かって頭を下げる。

「べつにいいよ…私を思っての事なんでしょ?」

いつの間にか姉も顔を上げている。
姉が言ってたように目が少し充血し、瞼が腫れていたが酷いと言ったほどではなかった。

―その充血が気にならないくらい姉の目は真剣なのだ。


「俺ね……」


「うん……」




「胃潰瘍だってさ。」

567:心の隙間
09/02/18 00:59:26 hHJ/mBqo
―「胃潰瘍…?」

「そう、胃に穴開いてるんだってさ。」
笑いながら話すが姉は顔を崩さない。
多分姉は父と同じ病気を考えていたのだろう、俺だって考えてた。

「でもね麻奈美、もうちょっとで危なかったのよ?。」

「え?」

「先生にもうちょっと早く連れてきてくださいって言われたわ。」
そんなこと言われてたんだな…知らなかった。

「お母さんのせいじゃないよ…自分の体をちゃんと管理してなかった俺が悪かったんだよ。」
母は申し訳なさそうに話すが、母は知らなくて当然だ、一緒に暮らしていないのだから。

「…胃潰瘍って食生活とかストレスでなるんだよね…」

―やっぱりきた…

「…そうみたいだね…あんまり知らないけど…」
話をごまかそうと頭で考えるが、なんてごまかせばいいか分からない…。

「……やっぱり私は勇のことなにも分かって無かったのね…姉なのに。」
こうなることが嫌で姉に言わないでおいたのに…

「そんなんじゃ無いよ、こればっかりは自分のことだから…」
治すどころか胃が余計に痛くなる…。

「勇の為とか都合の言いように自分に言い聞かせて…私今まで何してたんだろ…お父さんとも約束したのに……やっぱり私いなきゃ…」


568:心の隙間
09/02/18 00:59:58 hHJ/mBqo

「お姉ちゃん!!!」
「真奈美!!!」
母とほぼ同時に姉に向かって怒鳴る。
声のでかさに姉が肩を強ばらせて目を瞑る。
さすがに聞き逃せない言葉が出かけたので止めた。

「お姉ちゃん…それとお母さんもだけど、こればっかりは自分の体の管理を怠ったことが原因だから。怒られることがあっても、謝られる筋合いはないよ。」

ちゃんと言い聞かせないとこのままお互いにずっと引きずっていくだろう。
この事態でまた家族が離ればなれになるのは絶対に嫌だ。

「わかった?お姉ちゃん…」
姉にもう一度言い聞かせる。
「うん…わかった…」
小さくだがはっきりと頭を縦に振ってくれた。

「…勇……ありがとう、私ね…これからは絶対に勇が自慢できるお姉ちゃんになるか…ら…だから……だから…強くなるから……お願い…」

最後の声は聞こえなかった…。だけど言いたかったことは分かる。
涙声は聞こえないが震える体と姉の手の甲に落ちる水滴が、どれほどの思いで伝えているか十二分に心へ伝わってくる。

姉が言った最後の言葉の返事は決まってる…


「あたりまえでしょ?、俺の家族はお姉ちゃんとお母さんだけなんだから。」



「ッ!?勇ッ!!!」

569:心の隙間
09/02/18 01:00:36 hHJ/mBqo
姉が勢い良く抱きついてくるのを受け止める。
ベッドに座ったままなので、後ろに倒れそうになってしまった。


「これからも一緒に頑張っていこうね?」

「うん!!絶対に頑張るから!!ゆう!勇!!」
感極まってるのはわかるが、姉が頬ずりをしてくるので姉の涙やらなんやらでお互い顔がえらいことになっている。

少し苦笑いになってしまうが、幸せな苦笑いもあるんだなって本当に痛感した。
母のことが気になり母に目を向けると姉の少し後ろで座り込んで泣いている。

母も辛かったんだろう……罪悪感に苛まれ誰に許してもらえばいいかさえわからなかったはずだ。

「ははっ…まだまだお父さんみたいな人間にはなれそうに無いな。」

姉を抱きしめたまま窓の外をみる―

空には一面綺麗な星空。
父も空からちゃんと見てくれてるはずだ。
夢の中で父に言われた言葉を思い出す。
「疲れたら甘えろ…か…」
いつの間にかハグに母も加わり凄まじいことになっている。

「勇!!真奈美!!ごめんね!!私もこれからは母としてあなた達を絶対に守るから!!」

―お互いに少し道に迷っただけ…

「うわぁぁぁ~~ん!!お母さん!お母さん!ごめんなさいぃ!」


570:心の隙間
09/02/18 01:01:07 hHJ/mBqo
―家族が道に迷えば探すのが当たり前。

「本当にごめんなさい!!許してもらうまでいつまでも償い続けるから!」

―見つけたら手を繋ぎ、後は出口を探すだけ。

「私の方こそ意地になってて!!」

―その出口が今やっと見つかった気がした。


母も姉もなにを言っても泣きやまなかった。
しかしふと考えるとここは病院だ。
さすがにこんだけ声を出せば、誰かが注意しにくるはずだ。

「二人とももう泣きやんでね…ここ病院だから…」

母も姉も思い出したように口に手を当てる。

「それとこれは二人に相談なんだけども…話を聞いてもらっていい?」

俺の入院をきっかけに、母と姉にしてもらいたい重大なことがあった。

「え?なに?」

目を擦りながら聞き返してくる。
涙で化粧が取れてるのが気にならないくらい、無我夢中だったみたいだ。


「それはね……」


―今日の出来事が、家族の心の隙間を埋める第一歩になってくれるに違いない。

「えぇ……私は大丈夫だけど…」

「…私も大丈夫よ…勇と約束したからね…」

母と姉が顔を見合わせて笑う。


―はじめから心の隙間なんて無かったんじゃないかって思わせるぐらい二人は自然に笑っていた。

571:心の隙間
09/02/18 01:10:47 hHJ/mBqo
今日は終わりです朝に投下するって書いたんですが…遅れてしまい申し訳ありませんでした。
あと二回ぐらいで終わりかな?


572:名無しさん@ピンキー
09/02/18 02:43:05 EJ2qlIB9
もう、エロは諦めました。人間、諦めるのにも勇気がいるんですね。
そんな私ですが作者にこの言葉を……GJ!

573:名無しさん@ピンキー
09/02/18 03:22:10 rO3OEZA3
GJ!! 何か、ハッピーエンドっぽいですね・・・

574:名無しさん@ピンキー
09/02/19 18:52:34 NhsNo5Ee
エロは…ごめんね。
途中までシリアスでいこうかと思ってましが…。
なんかこの家族に愛着わいてきて無理でした。
多分明日の朝か夜までには投下できそうです

575:名無しさん@ピンキー
09/02/19 19:26:07 KrJkMlaM
おっけーですよGJ.待ってます。

576:名無しさん@ピンキー
09/02/19 21:09:00 WLEuqAYL
>>574
エロ大盛りでよろ

577:名無しさん@ピンキー
09/02/20 02:55:09 4wTGJALN
よし、全裸で待機してる

578:名無しさん@ピンキー
09/02/20 15:24:50 6bZZttS/
ここまでエロがないエロパロのSSは初めてだ。
まあおもしろいけどね

579:心の隙間
09/02/20 17:31:09 4z5syA7w

「はぁ~お腹減ったなぁ…」

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

入院生活が始まって一週間が経ち、病院の空気にも慣れてきた今日この頃。
7日間丸々点滴で過ごした人生なんて、これ一回で十分だと身に染みて感じた。

体重も一週間で七キロも痩せた…。
さすがに何か食べたいと思っていたら、今日から病院食がでるとのこと。

胃が弱っているためお粥らしいが、米が食べれると思うと嬉しくてしょうがない。

「はぁ~夜まで待てない…」
時計を見るとまだ昼の3時だ。

母は仕事、姉は大学。
二人とも俺が退院するまで休むと言ったが、さすがにそれは無理がある。
俺は知らなかったが姉に関しては最近大学をサボりまくってまで俺との時間を作っていたらしく。
大学生活がかなり危うい状態のようだ。
姉には大学生活もエンジョイしてもらわないと困る。

「夕方にはお姉ちゃんが見舞いにくるって言ってたな…」
嬉しいのだが二人とも忙しい中、朝と夕方の一日二回も見舞いにくるから気を使ってしまう。

一応無理しないでとは言っているが見舞いにくると姉も母も面会時間ギリギリまで話していく。


「まぁ誰も来ないよりはいいよな…」


580:心の隙間
09/02/20 17:31:30 4z5syA7w

―コンっコンっ。

「あの~スイマセ~ン…こちら中村 勇さんの病室……あ!!勇だっ!!」

ノックが聞こえたかと思うと。こちらから返事を返す前に扉が開き2人の男女が入ってきた。

「あれ?なんでここがわかったの?」

入ってきたのは同級生の高橋と大樹だった。

「担任が勇が怪我して入院してるって聞いてさ。おまえの家に電話しろっ電話しろって高橋がうるさくてよ~。」

「な!?今言わなくてもいいでしょ!?だいたいあんたが勇が入院するなんて何かあったんだ!って騒ぐから心配になったんでしょ!!」

2人とも病院がどういう場所がいまいちわかってないらしい。
「見舞いに来てくれたのは嬉しいけど…ちょっとだけ静にな?」
二人を落ち着かせるために俺も静に喋る。
高橋はわかってくれたみたいだが、大樹がくせ者だった…。

「勇!!お姉さまから聞いたよ!!胃潰瘍だってな…悪かったなぁ…しつこくマックに誘って…まさかここまで思い詰めてたなんて知らなかったんだ!!許してくれ!!」

そう言うと大樹が高橋の頭を掴んで二人で頭を深々と下げてきた。

「ちょっと!!なんで私まで巻き込むのよ!!?」


581:心の隙間
09/02/20 17:31:55 4z5syA7w
「楽しいからずっと見ていたいんだけど…ここ病院だから…ね?」
夫婦漫才を見てるみたいで楽しいが。さすがにこのまま騒げば2人とも追い出されるだろう。

「あっごめん…勇、病気なのに…」
高橋が下を向いてうなだれる。

「まぁ勇よ…高橋も謝ってることだし許してやれよ…」
自分のことを棚に上げてよく言う。
高橋は大樹のほうを睨みつけ今にも飛びかかりそうだ…。

「高橋も大樹のこと本気で相手してたら胃潰瘍になるよ?」
高橋の肩をポンポンと叩きながら落ち着かせる。

「ふぅ…そうね…」

高橋も夫婦漫才に疲れたのかパイプいすに腰を下ろす。
大樹もこれ以上騒げばどうなるかわかったようだ、部屋から廊下に頭だけだして看護婦がどうたら呟いている。

「勇…大丈夫なの?…まだ辛いんじゃない?」
高橋が心配そうに聞いてくる。

「もう大丈夫だよ、1ヶ月入院しなきゃダメみたいだけど、体もだいぶ楽になったしね。…心配かけてごめんね?」

「ううん…早くよくなるといいね、みんな心配してたよ?いつかわからないけど、部活の先輩とかクラスのみんなで勇のお見舞いにくるってさ。」


「…そっか…本当にみんなに迷惑かけるなぁ。」


582:心の隙間
09/02/20 17:32:31 4z5syA7w
―「べつにいいんじゃね?一人で生きてる訳じゃあるまいし。」

「え…?」
扉から顔を引っ込めて、大樹がこちらに近づいてくる。

「中学の時からずっと一緒につるんでるけどさ、親父さんが死んだ後おまえは一切弱い心を人に見せなかったよな。」
大樹がいつになく真剣な表情で話しかけてくる。

「俺が知ってる人の中で一番尊敬する人は間違いなくおまえだ。」

「やめろよ恥ずかしいな…」
恥ずかしいことをよく真剣に話せるなと思うが自分自身大樹の声に真剣に耳を傾けている。

「だけどな…中学の時から…今でもだけど、いつも思ってたことがあるんだ。」
高橋も大樹のこんな真剣な顔を見たことが無かったのだろう…大樹の顔を不思議そうに眺めている。


「……おまえなんで周りにいる人間に頼らねぇの…?」

―大樹の言葉に心が揺れる。

「いつも思ってた…みんなといる時は笑ってるくせに。一人になると寂しいのか悲しいのか、訳分かんねえ表情してたもんな。」

「……」


「おまえが親父さんを目指してるのは知ってるよ……俺も親父さんによくしてもらってたしな……でも親父さんだって疲れた時ぐらい誰かしらに甘えてたんじゃねぇの?」

583:心の隙間
09/02/20 17:32:57 4z5syA7w
―疲れたら甘えればいい―

「あ……」
夢で言ってた父の言葉を思い出す。

「おまえの親父さんだって超人じゃないんだから…疲れたら休憩するだろ。目的地も分からず、休憩もしないで走り回るから体壊すんだよ、バカ勇。」

「そっか…そうだな…本当にバカだな俺は…」
父の言ってる言葉の意味がやっと分かった気がする。

「まぁ、俺の言いたいことが伝わってたら言いよ……」

大樹も照れてるのか俺の方をまったく見ない。

「ビックリした…まさか大樹があんなまともなこと言うなんて……」
高橋も大樹に驚きの目を向けている。

「アホか!俺はいつだってまともだ!」
平手で高橋の頭をパチンと叩く。

「痛ッ!叩くな!高校生の癖にウルトラマンごっこしてた人間が言う台詞じゃないわね。」

「ばっ!?おまっ!秘密って言ったじゃねーか!!」

高橋は大樹にウルトラマンごっこを無理やりさせられて別れを決めたらしい。
つきあって三日でウルトラマンごっこは大樹の中でセーフだったのだろう…アホまるだしだ。

「ははっ大樹だからな、そこは我慢しなきゃつきあえないよ」

「勇もあぁ言ってるじゃねーか!おまえが悪い!」



「なんですってぇ!?あんたがッ!」


584:心の隙間
09/02/20 17:33:20 4z5syA7w
―本当にこの二人の友達になれてよかったと思う。

「ほら、静にね。」

「そうだぞ?勇の見舞いじゃなく騒ぎにきたのかおまえは?」

「ぐっ……大樹…後で覚えておきなさいよ…」
高橋の言いたいことは分かるが大樹に口で勝てる人を見たことがない。
…まぁ大樹が高橋に喧嘩で勝ってるとこも見たことないけど。
「まぁ、元気そうでなによりだわ…早く病気治して学校に来なさいよ?」

「わかってるよ、こんなとこまでわざわざ悪かったな、退院したらお礼するよ」

イスから立とうとする高橋が中腰でピタリと止まる。

「あのさ…それじゃ一つだけ聞いてほしいんだけど…」

「なんだ?あんまり高いもの買えないぞ?」
神妙な顔つきで話そうとする高橋は少し怖かった。

「あっあのさ…」

「うん…」
大樹も意味が分からず高橋の顔を見ている。

「も、もしよかったら…」

「う、うん」

「…わっわたしの…こっ…ことも、下のなっなまえでy―「ガラガラガラ」

「「「勇ぅ~!!」」」


「よ…ん……で…」


「は!?なっなんだ!!?」

585:心の隙間
09/02/20 17:33:43 4z5syA7w
高橋の話を真剣に聞いていたので、いきなり扉が開いたことにビックリした。

「なっなんだおまえら!!なんで今日くるんだよ!?」
大樹も驚いている。
高橋に至っては、驚きを通り越して放心している。

「ばか!!おまえら授業サボって見舞いに行きやがって!俺らも授業終わったから心配で見舞いに来たんだよ!!」

「みんな…てゆうか何人いるの!?」
部屋の中でも15人はいる。

「いや、わかんね。なんか部活の先輩もきてるみたいだけど…」
後ろのほうで俺の名前を叫んでいる。
嬉しいが何度も言うようにここは病院なんだけど…。

「少しくらい休憩しても、ここに来たみんなはおまえから離れていかねーぞ?」
大樹が嬉しそうに話す。

「うん…ありがとう…」

父のようになりたい…父のようになって家族を守れる人間になりたい。
それだけ考えて生きてきた…
―目標にはできるけど、本人にはなれない…
父から教わったものを同じようにしても父にはなれない。

なぜなら俺に無い物を父は持っているからだ…。
逆に父に無い物を俺は持っている。

これからは自分自身を貫いていこう。

こんなに自分を支えてくれる人がいるんだから。

586:心の隙間
09/02/20 17:34:08 4z5syA7w
この後一時間近く入れ替わり立ち替わり人が入ってきて騒ぎ倒して看護士に怒られ帰っていった。

最後に残った高橋と大樹も疲れた顔をしている。
「んじゃ…俺らも帰るわ…またくるからな?ちゃんと病気治せよ?」
大樹が俺の頭をポンッと叩いて扉を出ていった。
「それじゃ…またくるね…ちゃんと休んでね…」
どことなしか落ち込んでるみたいだ。

「わかった、それじゃーな、早苗。」

高橋がビクッとなり、こちらに振り返る。
「なんだよ?おまえが言えっていったんだろ?」

「え!?あっ!!うん……ありがとう…ちゃんと体治しなさいよ!?まってるからね!!?」
そう言うと、ゆるみきった顔で大樹の後を追いかけた。

「ふぅ…帰ったか…」

少し寂しいがこれでやっと落ち着ける。
時計を見るともう6時30分だ。
もうすぐ待ちに待った夕食がくるはず。
「さすがにお腹へったな…」
お腹をさすりながら呟く。
目を閉じ、ボーッとしていると。
遠くからカラカラと何かを押す音が聞こえる。
「…やっときた…」
音を聞いてすぐにわかった。
夕食を乗せた小さな台がこちらに向かっている…。
看護士の声も近づいてくる。
こっちも座って食事がくるのを待つ。


―コンっコンっ

587:心の隙間
09/02/20 17:34:56 4z5syA7w
「勇くん、夕食ですよ~?入りますねぇ~」

きた!!
待ちに待った食事がやっと運ばれてきた…。

「はい、しつれいしま~す。」
看護士がベッドについてる台に夕食を置く。

「はい、それじゃ残さず食べてくださいね?」

「えぇ……(マジでお粥だけだ)…」
なにかおかずがついてくると思っていたのでガッカリする。

「あぁ、それとお母さんきたわよ。」

「え?そうなの?」
仕事が終わるのは早すぎる。

「うん、なんかお友達も一緒みたいだったわよ?。」
そういうと看護士のお姉さんは病室を出ていってしまった。
「お母さんの友達…?」
なぜ母の友達が見舞いにくるのだろう…意味が分からないが見舞いに来てくれるのであれば、対応しなければならない。
早く夕食にありつきたいが仕方がない…お客さんを迎えなければ。

―「あら勇?夕食?ごめんね~少し早くきちゃった。」
母入ってきてその後から女性が入ってきた。
「お久しぶりね…勇くんでいいかしら?」

「え、えぇ……(誰だこの人…まったく覚えていない)」
入ってきた女性は身長が高くモデル体型の美人だが。すっかり記憶から消え去っている。


「ふふっまぁ覚えてるわけないわね…ほら入っておいで。」


588:心の隙間
09/02/20 17:55:41 4z5syA7w
その女性が横に声をかけると一人の少女が姿を現した。


―「え!?凪ちゃん!!?」
その女性の横にいたのは凪だった。

「え?っと…あれ?どういう…」
理由が分からず頭で考えるが、まったく浮かび上がってこない。

「前に言ったわよね?恭子がうちの会社の社長だって。」
そんなことを言ってた気がする…てことは…。

「凪ちゃんのお母さん…?」

「ピンポーン、大正解!」
凪母が両手でピースをする。

「でもなんでわかったの?俺はお母さんに言ってないよ?」
そう…凪のことを母にはまったく言っていないのだ。

「…それがね、凪の携帯の待受が勇くんの写メールなのよ。」

「は?俺の?」
凪が慌てて凪母を止めに入ろうとするが逆に凪の携帯を取り上げてしまった。

しかし俺には凪と写メを撮った記憶が全くない…。

「多分気づいてないわよ勇くん…だって…ほら。」
凪の携帯の画面を見せられる。

画面には情けない顔で爆睡してる自分の寝顔が写っていた。


589:心の隙間
09/02/20 17:56:13 4z5syA7w
「お兄ちゃん!!見ちゃ駄目!!」
凪母から携帯を取り返そうと必死になってピョンピョン飛び跳ねている。
「ははっまぁ許してやってね?凪も悪気があってやってるわけじゃないからね?」
凪母から携帯をとるとカバンの中に携帯を隠してしまった。
チラチラと泣きそうな顔でこちらを見ているがべつにこれぐらいでは怒りはしない。
「でもそれだけじゃ分からないはずじゃ…」
凪の携帯をみただけで父と離婚して名字が変わってるのに俺が母の息子だなんて気づくはずがない。
「少し前にね?あなたのお母さんが私にやたら息子の自慢をしだしたのよ…」

母に目をやるが「なにか?」と言った感じの目で返された。
「優しいわ、男前だわ、可愛いわベタぼめするから、顔を見せなさいって言ったらあなたの写メールを撮ってきたのよ。」

「また写メ!?」

今度は母の携帯を見せられる。
画面いっぱいにご飯を食べてる自分の顔が写っている。

「この写メールをみた時にどこかで見たことがあるなぁ~と思ったのよ、そしたら凪の携帯に入っている、男の子と同じ顔だったわけよ、わかった?」

「はぁ…なんとなく」
少し強引な感じはするがここまで来てるのだから本当なんだろう。


590:心の隙間
09/02/20 17:57:02 4z5syA7w

「んで一週間前にあなたのお母さんから勇くんが入院してるって泣きながら話し聞かされたのよ……それを凪に話したら、病院の場所も知らないくせに泣きながら、また家出しようとしてねぇ~。悪いと思ったんだけど来させてもらったわ。」

「そうですか…迷惑かけて申し訳ありませんでした。」

やっと少し状況が把握できてきた。
凪は凪母の後ろに隠れてモゾモゾしている。

「……それじゃ、ちょっとお母さん達は出かけてくるから。凪…迷惑かけちゃダメだからね。」

「え!?」
―意味がわからない。
病院に子供を普通置いていかないだろ。

「それじゃ、勇も優しくしてあげなきゃダメだからね?また後でくるわ、んじゃ」
そういうと二人ともそそくさ部屋を出ていってしまった。
残された俺と凪はポカ~ンとしてるだけだった。

「凪ちゃん……元気だった?」
声をかけると凪の頭だけコクっと頷く。

「そっか…風邪とか大丈夫?最近風邪が流行ってるみたいだから…」
また頭だけコクっと頷く。
自分の服の胸元を握りしめて下を向いているため表情はわからない。



「お兄ちゃん……病気なの?…大丈夫…?」
聞き取りづらいか細い声で凪が聞き返してきた。

591:心の隙間
09/02/20 17:57:28 4z5syA7w
「え?大丈夫だよ、もうすぐしたら家に帰れるよ?」

「よかった……お兄ちゃん…?」

「ん?なに?」

「お兄ちゃんの隣に座ってもいい?」
なぜ許可を求めるのかよくわからない、緊張してるのかもしれない。

「うんいいよ、おいで。」
凪にむかって手招きをする。

「やった!…それじゃ…よいしょっと…」

「…あぁ…だから許可を求めたのね……」
パイプいすに座るんじゃなくてベッドの中に入ってくるって意味か。

「お兄ちゃん…暖かい…」
真冬の中スカートで来てるのだから寒いに決まってる。
よく見るとほんの少し化粧してる…。

「お化粧してるの?…可愛いね」

「あ……ぁりが…と…ぅ」
顔が真っ赤っかでえらいことになっている。

ふとお粥に目を向ける。
まだ湯気がたっている…
美味そうだなと考えていると凪が気まずいことを言い出した。

「お兄ちゃん……私がご飯食べさせてあげるね!」
言うや否やスプーンとお粥が入ったお皿を掴んで俺の前まで持ってくる。
「はい、あ~ん!」


「ははっそれぐらい自分で食べれ…」


「…お口…あ~ん…して…」


「ないかもね…」

一生懸命口元にお粥の入ったスプーンを持ってこられたら自分で食べるなんて言えない。

592:心の隙間
09/02/20 17:58:00 4z5syA7w

「あ~ん……パクッ……うん、美味しい。」
久しぶり食べる米は本当に美味しかった。

「ふふ~ん、美味しいでしょ?」
さも自分が作ったかの如く誇らしげに話す。
多分凪が食べさせてるから美味しいと言わせたいのだろう。

「うん、美味しいね。ありがとう、凪ちゃん。」

「うん!!もっと食べさせあげる!はい、あ~ん…」
このお粥が無くなるまで食べさせてくれるらしい。

「あ~ん…」
―前と比べて少し積極的になった気がする。
初めて会った日は物凄く大人しい子だと思ってた。
なにをするにも顔色ばかり伺ってた。
まぁ他人に接する時は顔色も伺うか…ましてや知らない男の高校生となると、なおさらだ。

―「はい、終わり~!美味しかった?」
皿とスプーンを台に戻して、もう一度ベッドに入り直す。

「うん、ごちそうさま。美味しかったよ、凪ちゃんも腕疲れたでしょ?」

「ううん、大丈夫!」
変な緊張がとけて安心したのか、凪の位置が俺の隣から膝の上になっている。

「あ!?そうだ!!…ふふ~ん…お兄ちゃんビックリするよ?」

俺の指で遊びながら思い出したように声をあげる。
よく分からないが物凄く嬉しそうだ。

593:心の隙間
09/02/20 17:58:29 4z5syA7w
「お兄ちゃんの家の前にでっかい真っ白な家がいっぱいあるでしょ?」

「うん、あるね。その家がどうかしたの?」
最近、家前の道を挟んだところに住宅街が建てられた。
どの家もかなり立派で古家としてはあまり好ましくなかった。
「私とお母さんね~そこに引っ越すことになったの!」



―「え?…は!?なっなんで?」
急な展開に頭が追いついていかない。
凪は満面の笑みで話すが、多分俺は苦笑いだったと思う。

「えっとね、もうすぐ私中学生でしょ?」
たしかに会ったとき、小学6年生だって言ってた。

「だから私、中学は〇〇中学校に行くの!」

「え!?マジで!?」
これには驚いた。
○○中学校は俺が通ってた中学校だ。

「マジで~!だから退院したら引っ越し手伝ってね!?」

「う、うん、でもなんで?凪ちゃん中学校は決まってるはずじゃ…」
凪が通うお嬢様、お坊っちゃん小学校は隣にも同じようなお嬢様、お坊っちゃん中学校がある。
その小学校に通うと97%でその中学校に入ることになるらしい。

「こっちのほうが楽しいし、お母さんも自然が多い方がいいってさ。」
凪母…恐るべし。
金持ちの考えることはよくわからない。
てゆうか積極的すぎるだろ。

594:心の隙間
09/02/20 17:59:05 4z5syA7w
「それとね…その家の近くにね…私の好きな人が…いるから。」

後ろから見ても分かるくらい耳が真っ赤だ。

「へぇ~一途だねぇ、んじゃ頑張らなきゃね。」
隣町まで追いかけてくるぐらい、好きなんだな。
少し感心する。

「うん…がんばる…お兄ちゃん…。」
凪も中学生だ。
行動と見た目が幼すぎて小さい子供のように接してしまうが立派な女性。
好きな人の一人や二人いて当たり前な歳だ。


―コンっコンっ

凪にもう一度ど頑張れといいかけたところに誰かが扉をノックする。

「ん?お母さん達帰ってきたかな?」

時計を見るともう七時半だ。

「お母さん達どこにいってたんだろーね?」

「なにか美味しい物でも食べにいってたんじゃない?」

「え~ずるい!」
凪が俺の顔を見て不機嫌そうに言う。


―ガラガラッ


―「入るね~勇~大好きなお姉ちゃんが来ましッ!?…た…よ…。」


―扉から入ってきたの母達ではなく大学帰りの姉だった。

595:心の隙間
09/02/20 18:04:16 4z5syA7w
今日はこれで終わりです少し長かったので疲れました…。
あと二回の投下で終わりそうです。

エロは次なにか書くことがあればそっちに入れるので勘弁してください。


596:名無しさん@ピンキー
09/02/20 18:44:17 8w1hTKoE
いいとこで切ったなおいw

GJ!!続き待ってます!!

597:名無しさん@ピンキー
09/02/21 00:06:52 cUfYPT2J
修羅場再び?
…にはならないよな?

598:名無しさん@ピンキー
09/02/21 00:40:54 PocPjWow
早苗の蜜壷はしとどに濡れそぼって・・・・・

599:ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6
09/02/22 23:40:26 AJWULkuU
<私が私でいられる時>、一年ぶりの続きです。
本編はもうほとんど完結です。
随分とご無沙汰なので、保管庫でアップしました。

URLリンク(green.ribbon.to)

これまでの分は

URLリンク(green.ribbon.to)

の真ん中当り、「依存・修羅場シチュ」にあります。

600:名無しさん@ピンキー
09/02/23 01:47:42 W1K3dgk5
おおお久しぶりじゃないか!
今から読んできます

601:名無しさん@ピンキー
09/02/23 15:54:49 v/K28hTG
読ませて頂きました!

貴方に惜しみないGJを!やっぱり物語は底抜けにハッピーなエンディングじゃなきゃね!?

602:名無しさん@ピンキー
09/02/23 16:58:31 1Qb6t+fL
まとめてで失礼だが、心の隙間、ゲーパロ両氏ともGJ!

「ぴ、ぴ、ピラルクー」でどうしても吹いてしまうのは俺だけじゃないはずw

603:名無しさん@ピンキー
09/02/23 17:07:20 +jlqEGmf
神GJ

604:名無しさん@ピンキー
09/02/23 18:14:47 tWok7hzy


605:依存系幼なじみ(0/5) ◆9DJPiEoFhE
09/02/24 05:36:18 YFNOwbAs
5レス投下します。

606:依存系幼なじみ(1/5) ◆9DJPiEoFhE
09/02/24 05:37:23 YFNOwbAs
 頭部を鈍器で殴られたかのような衝撃。今日も一日の始まりだ。
「ってぇ……」
「浩樹(ひろき)、起きたぁ? もいっちょいっとくぅ?」
 甘えるような声で囁く少女。言葉と行動が違えば天国なのだろうが。
「起きた起きた。見ればわかるだろ、妻依(さより)」
「何よ、嫌そうな声出しちゃって。やっぱりもいっちょ……」
 拳を振り上げる。
「やめい。そりゃ毎朝毎朝殴られてれば嫌な顔にもなるだろ」
「毎朝殴ってくれって言ったのは誰だっけ?」
 整った美麗な、しかし幼さを残す顔を歪ませてこちらを見下ろす妻依。にやにやすんな。
「いや、そりゃ、だって、起きれないし……てかその言い方は語弊があるぞ。別に殴ってくれとは」
「はいはい自業自得。さ、着替えるわよ」
「聞けよ……」
 そう言いつつもしぶしぶと従う自分。慣れとはかくも恐ろしいものである。
「未だにこのパジャマ着てるのね。かっわいい~」
「茶化すなよ。時間ないんだろ」
 顔に血が上っているがわかる。今着ているパジャマは小学生からのものだ。寝巻きというものは自分が一番楽に過ごせるものにするべきであって、そういうものは時間が経てば経つほど変えられないものなのだ。だから仕方がない。仕方がないのだ。
「はい、終わり」
 手馴れた様子でネクタイを軽く締められ、ポンと胸を叩かれる。
「ん」
 妻依は顎をついと上げ、薄い……失礼、小ぶりな、いや、ささやかな、取るに足りない、粗末な……これ以上考えても僕の語彙じゃ墓穴を掘ってしまいそうだ。つまり、その、洗濯板を張った。
「っでぇ!」
「今、失礼なこと考えたでしょう?」
 頭をさする自分と張り付いたような笑顔で問う妻依。穴はすでに掘りきっていたようだ。
 さて、気を取り直して次からはずっと俺のターンだ。
「お前こそずっとそのパジャマだよな」
「……仕返しのつもり? 言っとくけど、あんたがそれ着てるからあたしもこれずっと着てるのよ」
 ターンエンド。もう僕のライフは0だ。
「ほらほら、顔赤くしてないで続けなさいな。本当に時間なくなってきちゃった」
 妻依には勝てた試しがない。無駄な抵抗は諦め、急いで制服に着替えさせる事に努めた。

607:依存系幼なじみ(2/5) ◆9DJPiEoFhE
09/02/24 05:38:24 YFNOwbAs
「行って来ます」
「行って来ます」
 家を出る。
 今日は快晴だ。しかし冬空に雲ひとつないと逆に寒く感じる。
「寒いわね」
 ぶるりと体を震わせる。妻依も同意見のようだ。
 いつものように二人で登校する。会話はない。幼馴染といってもそんなものだろう。
 昔はともかく、もう思春期もそろそろ終わりという年頃だ。異性の幼馴染というのは意識する対象ではなくなってしまっている。ありふれた言い方だが兄妹のようなものだ……姉弟かもしれないが。
「飯塚(いいづか)さん、桜咲(さくらざき)くん、おはようございます」
 振り返ると、クラスメートの三神さんが小さく手を振りながらこちらに歩いているところだった。
「おはよ」
「おはよう」
 挨拶を返す。
「ふふ」
 三神さんが小さく笑った。笑い方も人が違うとこんなに上品に見えるんだな。朝に見た邪悪な笑顔とは大違いだ。
「何にやにやしてるのよ、実夏」
 にやにや? 三神さんの笑みは微笑んでいるという表現が正しい。自分と同じ基準で物事を考えるのはどうかと思うぞ、妻依。
「あ、浩樹、あんたまた騙されてる。この子は」
「二人は本当に仲がいいんだなって」
 三神さんが妻依を遮るように笑顔で言い切った。
「そりゃ悪くはないわよ。幼なじみなんだから」
「そうだよ、こんな暴力幼なじみと一緒にいれるのは僕だけだと自負してるよ」
「せんでいい! ……さっき、痛かった?」
「ん、いつものことだし。それに大体、僕が悪いし」
「いつも、ごめん」
「くすくす」
 三神さんから視線を感じる。
「何よ」
「何でもありませんよ」
 その時の三神さんの顔はとても綺麗な笑顔だった。

「今日は一段と寒いですね」
 どうやら誰もが今日の天候に関しては共通認識を持つらしい。まぁ真冬の朝なんてそんなものだろう。
「そうね、毎朝毎朝寒くてやんなっちゃう」
「飯塚さんと桜咲くんには関係なさそうですけどね」
 そう言ってくすり。
「どういう意味?」
「そのままの意味ですよ。あったかそうだなぁって思っただけです」
 妻依と二人して首を傾げる。
 三神さんはそう言うが、僕らは取り立てて特別な防寒をしているわけではない。
 妻依は制服に市販のダッフルコート、それに手編みのマフラーと手袋。僕に至っては制服に妻依と同じマフラーと手袋という始末だ。寒そうと思われるならともかく暖かそうと思われる謂れはないはずだ。

608:依存系幼なじみ(3/5) ◆9DJPiEoFhE
09/02/24 05:39:25 YFNOwbAs
「そこの二人、止まれ」
 校門を抜ける。この寒空の下、三十分近くも歩き続けるのは苦行だ。
「おい」
 家からだと自転車通学の許可がでないギリギリの距離なのだ。十メートルくらい大目に見ていただきたい。まぁ、自転車でも寒いことには変わらないのだが。
「貴様ら! 止まれと言っている!」
「何よ」
 鬱陶しそうに妻依が応える。
「何度も何度も言ってることなんだが、誰も見ていないところだったら何をしていても誰も文句は言わない。だが、ここは学校だ。最低限度の校則は守って欲しい」
 苦々しげにこの学校の生徒会長である上原さんがそう言ってくる。
「何度も何度も聞いてることだけど、あたしは別に校則を破ってなんかいないじゃない? こいつは知らないけど」
 僕を顎でしゃくる妻依。
「僕だってそんな覚えなんかないですよ」
「自覚のない悪が一番の悪だとはよく言ったもんだ……」
 上原さんがぼそぼそ何か呟いたが僕には何と言ったのかはわからなかった。
「だから、その、べたべたとくっつくのを止めてくれ、とそう言っているんだ」
 べたべた? 僕らはそんなことをしている覚えはない。
「だから、そんなことはしてないじゃない」
「そうですよ」
「ぐっ……いや、つまり……」
「お二人が仲睦まじく手を繋いで身を寄せ合っている姿を全校生徒に晒していることが、校紀を乱すことに繋がるかもしれないと生徒会長さんは心配しているのですよ。ね?」
 今までどこにいたのか、三神さんが割り込んできた。
「そ、そうだ。不純異性交遊をするななどとは言わん。ただ、何だ、もう少し節度を守って欲しいというか、その、他人の目を気にする努力をして欲しい」
 上原さんはなぜか顔を俯かせながらそう言った。
「手ぇ? 手を繋ぐなんてこと普通でしょ? それにこんなに寒いんだし、誰かにくっついてないとやってられないわよ」
 白いため息をつきながらうんざりしたような表情を作る妻依。それに関しては僕も同意だ。加えれば早く教室に行きたい。
「ふつうじゃない! 貴様らの基準は知らんが世間ではそういうことは恋人同士でしかやらんのだ!」
 鼻息も荒くがなりたてる上原さん。せっかくの美人が台無しだ。
「だからあたし達は恋人なんかじゃないって。ねぇ、浩樹」
「そうですよ。ただの幼なじみです」
 淡々と返す。何となく火に油を注いでるな、とも思いつつ。
「恋人じゃないぃ? どう考えても」
「事実はどうであれ、周りにどう見えるかが問題だと生徒会長さんは言いたいのですよ。ね?」
「あぁ、そっか。それならそうと早く言いなさいよね」
 すっと腕から離れる妻依。寒い。
 その場を去る僕ら三人。
 振り返ってみると、校門の前で上原さんは毒気を抜かれたように呆然としていた。

 妻依と三神さんはクラスが同じだが、僕は別だ。一年と二年のメンバーはほとんど変わっていないのに僕らは離れてしまった。少々面倒だが、クラス分けは水ものなのだから仕方がない。そう思いながら、僕は一限の準備を始めた。

609:依存系幼なじみ(4/5) ◆9DJPiEoFhE
09/02/24 05:40:32 YFNOwbAs
 チャイムが鳴る。今日もようやく一日が終わりだ。私は鞄に教科書を詰め込み、隣のクラスに入る。
「あれ?」
 いつもの席に彼がいない。どうしたことだろう、何かあったのだろうか。
「誰もいない教室を覗いたりしてどうしたの? 妻依」
 後ろからの声に振り向くと、不思議そうな顔をしているクラスメイトがいた。
「ひろ、いや、このクラスはどうしたんだろうって」
「最後の授業の先生が病欠とかで自習だったらしいよ。うちのキムも休めっての」
 キムとはついさっきまでうちのクラスで授業をしていた数学教師のことだ。妖怪ラリホー、α波製造機など、異名の多さだけが取り得である。
「……そうなんだ。ありがと、瑠璃」
 瑠璃に礼を言ってその場を後にする。
 さて、彼はどこに行ったのだろうか。帰宅したということは考えられない。なぜなら、私が同じ立場だったらそうすることは絶対にありえないからだ。
 まず昇降口で彼の下駄箱を確認する。うん、靴はある。
 次に彼が一番いる確率の高い図書室へ。放課後の図書室というものは試験前でもなれば閑散としているものだ。今日も例に漏れずここは静寂に満ちていた。
 念のため、通路にある座席も含めて隅々まで探したが彼の姿はなかった。次。
 可能性は低いが生徒会室へ。
「おや、一人とは珍しい」
 嫌な奴に会った。回れ右をしようとするが。
「桜咲君をお探しだろう。いくら恋人とはいえ常に一緒で気が滅入らないのか」
 会長はそう問うた。私は彼女を見据えた。
「だから、恋人同士ではないのよ」
「ただの幼なじみだと」
「ええ」
「それは、いつか恋人同士になるかもしれない、という意味も含まれているのか?」
「考えたこともないわ」
「それでは、いずれお互い別の恋人ができる日が来るかもしれない、と」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「君は曖昧だね」
「あたしは他の人より成長が遅いのかもしれない。恋とか愛だとかそういうものがよくわからないの」
「私だってわからんさ。それでも君が彼といたいという気持ちは変わらないのだろう」
「そうね、それは本当。昔から、彼と過ごした記憶の中でそれだけは一度も変わっていないわ」
「……そうか」
 顔を伏せる会長。そして生徒会室を占める沈黙。
「……で?」
「で、とは何だい」
 まだいたのか、とでも言いたそうな顔で会長がこちらを見上げた。
「いや、こういうシリアスな会話をした後に浩樹の場所を教えてくれるのがお約束かなーって」
「ゲーム脳も大概にしたまえ。そもそも私は最初に君が一人なのを珍しがったじゃないか」
「だったら思わせぶりな会話しないでよ!」
 まったく、喋り損だ。早く浩樹を探しに行かねば。もう日はずいぶんと傾いている。
「しかし、こんな時間までここで話していてよかったのかい? もう桜咲君は帰ってしまったのではないか?」
「ううん、浩樹は絶対にあたしを待っているわ」
 これだけは言い切れた。そうして生徒会室を後にする。
「わかってるよ」
 会長はニヤリと人の悪そうな笑みを浮かべた。

610:依存系幼なじみ(5/5) ◆9DJPiEoFhE
09/02/24 05:41:34 YFNOwbAs
 どこを探しても彼の姿はない。
 駄目元で、最初に探した図書室に入った。
 目の覚めるような赤。窓から夕焼けが差し込み、部屋は相変わらず静寂に満ちていた。 そんな中、備え付けの机で舟をこぐ者が一人。
 向かいの椅子に座って眺めた。アホ面だ。それ以外に表現しようがない。そんな顔を見ていると私はどうしても顔の緩みが抑えられなかった。だから……

 頭部を鈍器で殴られたかのような衝撃。
「ってぇ……」
「お目覚めぇ? 居眠りとはいい身分ねぇ?」
 目の前には妻依、いや殺意の波動に目覚めた者がいた。
「うわっ、はんにゃ、ってぇ! いや妻依、いつの間に」
 ボカボカ殴るのはやめて欲しい。ただでさえできの良くない頭が悪化してしまう。
「今何か言った? こっちの台詞よ! さっきはあんた図書室にいなかったじゃない」
「え? 僕はずっとここにいたはずだけど……」
 そう、僕は六限が休講と聞いてからずっと図書室で妻依を待っていた。褒められる理由はあっても殴られる理由はないはずだ。
「六限の終わった直後! この部屋誰もいなかったわよ?」
「あー、その時は、トイレ、行ってたかも……」
 あの時は僕の中のテロリストが大暴れだったのだ。早々に最善の処置を講じる必要性があった。
「トイレなんてずっと我慢してなさいよ」
「無茶言うなって」
 ぷいと顔を背ける妻依。それを見て気づいた。つまり妻依は六限が終わってから僕をずっと探して歩き回っていたということになる。
 この暖房の効いた図書室ではなく、身を刺すような寒さの校内を。
「ごめん」
 素直に謝る。申し訳ない気分でいっぱいになった。
「お詫びに帰りにアイス奢りなさい」
「え、この冬のしかも夕方に?」
「い・い・か・ら! 行くわよ!」
「……わかったよ」

 腕を組んだ二人が部屋を出て行く。
 一部始終を眺めていた図書委員の男子生徒は久々の光景を堪能したことに満足しつつ欠伸をひとつ。
 とっくに過ぎた閉館時間をまた顧問の教師に注意されることを憂いつつ、読みかけの文庫本に栞を挟み、すでにほぼ終えていた退室準備を手早くこなし、図書室を後にする。
 冬の日の入りは早い。少し前まで騒がしかったそこは、完全なる暗闇と静寂で満たされた。

611: ◆9DJPiEoFhE
09/02/24 05:42:35 YFNOwbAs
投下終了です。
書き忘れましたがエロなしです。

612:名無しさん@ピンキー
09/02/24 13:02:15 q2aDpOuh
投下乙
続き期待

613:名無しさん@ピンキー
09/02/24 20:47:40 oNgr3B5b
wktk

614:名無しさん@ピンキー
09/02/24 21:30:54 5eNMk5EX
>>610
GJ!これはいい依存。
一人で帰るのそんなに嫌かw

615:心の隙間
09/02/25 03:40:51 7veM0QOl
>>611
よかったです。
GJ!!
ゲーパロさんも楽しかった

616:名無しさん@ピンキー
09/02/25 03:47:49 7HQLlxcE
>>611
こういうのなんかいいね、本人達に自覚がないのがおもしろい。


そして、ゲーパロマンセー!

617:名無しさん@ピンキー
09/02/25 04:06:12 p1eurv0u
>>611
ネタの仕込み方が上手いな。こうもすんなりと。
それぞれが思惑ありげに依存カップルを見守っている雰囲気が良い。

618:名無しさん@ピンキー
09/02/25 08:36:56 HLWCZKoc
>>611
GJです。
幼馴染のまま踏み込んでいったらこうなりました、という感じだな。

619:心の隙間
09/02/25 20:28:54 7veM0QOl
明日の朝には投下できるかもしれないです。
遅れても明日の21時までには投下します。
それでは

620:名無しさん@ピンキー
09/02/26 11:28:59 v3suS8n0
待ってます。

621:名無しさん@ピンキー
09/02/26 23:21:47 hAJ4hqrT
まだかな

622:心の隙間
09/02/26 23:48:57 q7RgKJAu
すいません、投下したいんですけど。
なぜかできない…

もう少し待ってください

623:心の隙間
09/02/27 01:04:56 gLF4+23k

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「ふふ…あの二人仲良くしてるかしら?」
楽しそうに話す恭子になぜか少し苛立ちを覚える。

「仲良くしてるかって……そりゃ勇は面倒見がいいからね。妹できたみたいな感じじゃないの?」
レモンティーが入ってるカップから口をはなして返答する。
少し返答に棘があったかと恭子を見るが、気づいていないみたいで笑みを浮かべている。

―私達は今、恭子の頼みで勇が入院している病院から少し離れたオープンカフェで時間を潰している。

凪ちゃんがどうしても勇と二人で話をしたいそうだ。
「ふふっ…家出の後、家に帰ってきてからずっと携帯握ってるから何事かと思ったけど…とうとう凪にも春がきたわね。」

「……」

時計を見る…7時20分。
8時になったら面会時間が終わる。

「あら?もうこんな時間…それじゃいこっか?」
恭子が席をたち伝票をとる。

私と恭子がカフェに入ると、どっちがお金を払うかジャンケンで決める。
私たち2人の学生からの決まり事だ。

恭子の旦那である修司くんも子供っぽい恭子の仕草が一番好きだったらしい。


624:心の隙間
09/02/27 01:05:19 gLF4+23k
理想の女性像は?と聞かれれば間違いなく恭子と答えるだろう。
あんなふうに男の人に甘えてみたかった。
「ほら!おいて行くわよ?」
恭子の声が後ろから聞こえてくる。
振り返るともうレジをすませてコートを羽織っている。

「う、うん!今いく!」
慌てて私もコートを手に取り恭子の後を追う。

外にでると冷たい風が勢い良く肌に突き刺さる。
昔は真冬にミニスカートを着てもまったく気にしなかったが30半ばになれば昔みたいに短いスカートなんて着れない。
悲しいことだが、そんな服装をしたとろこで喜んでくれる人もいない。

「はぁー…はぁー…少し遅くなったかもね…凪心配してるかしら?」
恭子が自分の手に息を吹きかけると、寒さで白くなった息が両手を包み込む。

「大丈夫よ、もうすぐ中学生でしょ?」
来月から高原一家が家の前の住宅街に引っ越すことになった。
その新居から凪ちゃんは中学校に通うらしい。
通う中学校は新居に近い私と恭子の母校。
勇の通ってた中学校でもある。

凪ちゃんに頼まれたと言うのだが、まず娘に頼まれたって一軒家を買うなんてあり得ない。
そこには少なからず私も関係してくるのだ。

625:心の隙間
09/02/27 01:05:42 gLF4+23k
―勇の約束。

少しギクシャクするが麻奈美も精一杯頑張ってくれているので順調に勇との約束を継続できている。

あの勇の一言がなければ確実になかった現実。
勇と麻奈美には感謝してもしきれない気持ちでいっぱいだ。

「あんた…物凄く泣きそうな顔してるわよ?」
恭子が心配そうに話しかけてくれてる。

「バカ、子供じゃあるまいし…早く病院いきましょ。」

多分私は本当に泣きそうな顔をしていたのだろう。
少し滲んで視界が見づらくなっている。
今日はあまり勇と話していない。
面会時間の終了が近づいてるが恭子が隣にいる限り、走る訳にもいかない。

「ちょっ!ちょっと」」

頭ではゆっくり歩いてるつもりだったが
自然と足が速まっていたみたいだ。

―急激に勇に近づきすぎたのだろう。
最近、勇の顔を見ないと落ち着かなくなっている。

玄関前から上を見上げると勇の病室が見える。

「勇見えないかなぁ…」

「ははっ見えるわけないでしょ?」

小さく呟いたのに恭子に聞こえたみたいだ。
「ふふっ…わかってるわよ…」
分かってることだがなぜか寂しさがこみ上げてきた。

「…わかってるわよ…」

勇の存在がどれだけでかいか思い知らされてしまう。

626:心の隙間
09/02/27 01:06:09 gLF4+23k

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「お姉ちゃん、ちょっと…凪ちゃんも…」
なぜか姉もベッドに入ってきて姉と凪に挟まれてしまった…。
この部屋だけえらく濃い空気が流れている気がする。

―姉が部屋に入ってきて凪の顔を見た瞬間、時間が止まったかのように三人とも停止した。

数秒の間だったのだが何時間も時間が止まったような錯覚に陥っていたのだ。

「あれ?…なんで……え?」
姉もパニックに陥ってるのだろう。
手もポケットに入ったり後ろにいったり忙しない…。
表情も病室を間違ったかの如く申し訳なさそうに周りを見渡していた。

「えっとね…ちょっとややこしいんだけどね…」

戸惑っている姉に凪がいてる理由を話すと。
話が終わった瞬間冷静な顔つきで「嘘つけ」と言われた。

「本当だって…もうすぐお母さんも帰ってくるから聞いてみたらいいよ。」

「そう…わかった。」
分かってくれたのか姉はパイプいすに座り、大きなため息をついた。

「体の調子はどう?少しは楽になった?」

「うん、もう大丈夫だよ。」

駅から走ってきてくれたのだろう……顔が熱を帯びて赤くなっている。

627:心の隙間
09/02/27 01:06:41 gLF4+23k
「ごめんね?今日おそくなっちゃって…友達が離してくれなくて…」
この言葉を聞いて安心した。
大学でもちゃんと楽しんでるようだ。

「来てくれるのはありがたいけど、たまには友達と遊びなよ?ストレスたまるよ?」

「勇と話すことにストレスなんて微塵にも感じたことないわよ…それに大丈夫、大学では友達ともよく話すから。」
まぁ、大学で友達ができただけでも大進歩としておこう。

「それと…これ…」
姉がカバンから何かを取り出す。

「おぉ!!お姉ちゃん、それはっ!!」

姉がカバンから取り出したもの……それは真っ赤なリンゴだった。

「ふふっ…美味しそうでしょ?勇大好きだもんね。」
姉が真っ赤な果実を俺の目元まで持ってくる…

「それ…どうするの…まさか俺の前で食べるの?……さすがにお姉ちゃんでも怒るよ?」

「そんなことしないわよ…お医者さんに聞いたらリンゴなら少し食べてもいいそうよ?」
この時ほど姉に感謝した日はないだろう…。

「マジで!?お姉ちゃん愛してる!!早く食べさせて!!」

姉の顔がリンゴの如く真っ赤だったがそれ以上に魅力的な真っ赤な果実に夢中だった。


「ゴッ…ゴホン…しょうがないわね…剥いてあげるから少し待ってて。」

628:心の隙間
09/02/27 01:07:09 gLF4+23k
「うわ~すご~い!皮全部繋がってる~!」

凪が珍しいものを見るように身を乗り出して眺めている。

「ふふっ…凪ちゃんも料理するようになれば、すぐに覚えるわよ♪」
器用な手つきで皮を剥いていく姉も少し誇らしげだ。

「これで…よしっと!はい勇、召し上がれ。」
芯の部分を切り落とし、皿に並べて手渡しされる。

「…姉ちゃん…これ…」

丁重に切りそろえられたリンゴは物凄く美味しそう……だが。

「ん?なぁに?食べさせてほしいの?」
そういうと俺の皿に手をかけようとする。

「違うよ!!…なんで俺の皿だけリンゴ二きれしか入ってないの!?」
姉と凪のお皿には四きれある。
新手の嫌がらせかと思うほどあからさまな行動に、苛立ちを覚える。

「お医者さんにいってよ、あまり食べささないでくださいって言われたんだから。第一お粥食べたんでしょ?」

「ぐっ!?……っいただきます!!」
自分の病気だからしかたないリンゴを食べれるだけでも姉に感謝しなくては。

久しぶりの好物を口に入れようとする……が口に入る前に腕を掴まれ阻止される。




―「お兄ちゃん…あのね……その…私がお粥の時みたいに食べさせてあげよっか…なんて…」

629:心の隙間
09/02/27 01:07:37 gLF4+23k
口の前でフォークに刺さったリンゴがピタッと停止する。

「…食べさせてもらった……?」
姉のほうを振り替えれない…振り返ったら大惨事になると直感で感じたからだ。

「家では私がいくら食べさせてあげると言ってもさせてくれなかったのに……凪ちゃんにはさせるんだ…ふ~ん…」

あぁこれは怒ってる…

「いやっ!…あれだよ!…ほらっ!!今病人でしょ?だからしかたなくみたいな…感じで…」

「そう…それじゃ私が食べさせてあげる、私も隣にいくわ…ちょっと横に寄ってよ勇。」
そう言うと、イスから立ち上がり掛け布団をまくりあげてベッドに入ってこようとする。

「ちょっ!?なっなんで!?狭いよ!!」
さすがに三人は狭い…この2人は俺が病人だと認識してるのだろうか。

「大丈夫よ、落ちないから」

姉は落ちないかもしれないが凪が危うい。
落ちまいと必死に左腕にしがみついているが、このままいけば凪が落ちてしまう。

「お姉ちゃん!!ちょっと危ないからマジで!」
左手で姉の肩と顔をグイグイと押し返す。

「コラッ!!勇ッ!お姉ちゃんに向かってッ…!泣くわよ!?」

なぜ俺の周りはこんなに騒がしいのが多いんだろう…


630:心の隙間
09/02/27 01:08:11 gLF4+23k

「わかったから、お姉ちゃん!!」
まず興奮を冷まさないと姉が本気で泣きそうだ。

「ふぅんとぅ~?~うぅ―」
姉の頬を全力で押し返しているので裏声でもない低音の声が口から漏れている。

「本当だって!!……それじゃ凪ちゃん悪いけどイスに移動できる?」
どちらが小学生かわからなくなる。

凪が少し考えた末思いついたかのように提案をだす。

「う~ん……それじゃ…こうしたらお姉さんも入れる。」

そういうと布団を捲り上げて股の間に凪が入り込んできた。

まぁこれなら、三人でも入れる…が姉の顔が嬉しさからではなく、怒りで鬼の如く真っ赤になっている。

凪も姉の異変に気がついてるのだろう…俺の両太股を離すまいとがっしり掴んでいる。

「凪ちゃん?…前にも言ったけどその場所はっy「お姉ちゃん?ほっほら!!リンゴ食べなきゃ!」
この話題は早く終わらせないとややこしいことになる。

「……そうね、わかった…それじゃ、勇…あ~んして。」

姉も凪を諦めたのかすでにリンゴにフォークを刺して口元に持ってきてくれてる。
凪は複雑そうな顔をしているが、今の姉に触ってはいけないと分かってるのだろう…。なにも言わずにリンゴ食べている。

631:心の隙間
09/02/27 01:08:34 gLF4+23k

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「はぁ~美味しかったぁ~」
数少ないリンゴの切れ端だったが口に入れた瞬間、今まで食べたリンゴの中で一番美味しいと感じた。

「そう言われると嬉しいわ。それじゃまた私が食べさせてあげる。」

姉も凪も「自分が食べさせたから美味しかった。」と考えているらしい。



「ふふっ……それじゃ…交代ね!!はい、私に食べさせて。」
そういうと姉にリンゴの入ったお皿を渡される。

「え!?俺が食べさせるの!!?」

凪も驚いた顔をして姉の顔と自分のお皿を交互に見ている。
凪のお皿にはもうリンゴはない…。
時間をかけて食べさせてくると思ったら凪が食べ終わるのを待っていたのか…。

「ほら!早くして、あ~ん…」
なぜ目を瞑るかわからないが、これは食べさせるまで口を閉じないだろう。

「わかったよ…はい、あ~y「コンっコンっ…ガラガラガラッ」



―「ごめ~ん、ちょっと遅くなっ…ちゃ……た…」

ノックが聞こえたかと思ったら、こちらから返事をする前に勢いよく扉が開けられた。

「ほら、なぎ…さ…も…」

母の後に続いて凪母も入ってくる。



「…なにしてんの…?」

632:心の隙間
09/02/27 01:08:55 gLF4+23k

母の声に一番に反応したのが姉だった。
口元で停止しているリンゴをパクッと頬張ると、凪母に頭を下げそそくさとベッドから降りてパイプいすに座った。

姉もパニクったのだろう。
涼しげな顔をしているが、靴を履き忘れている…。

―「ははっ…ちょっと三人で遊んでただけだよ。」

「遊ぶのは結構だけどあんまり無茶するともう一つ胃に穴があくわよ?」

「はぁ…気をつけます…」
クスクスと凪母がなにか悟ったように話す。

「ほら、凪帰るわよ、もう勇くんといっぱい話したでしょ?」

「えぇ~まだお兄ちゃんと話したい~」
凪が抗議の声を上げるが、もうすぐ面会時間も終わる。

「俺は暇だからいつ来てもいいよ?それにあと三週間もすれば退院だから、いつでも遊べるしね。」

頭を撫でると少したってから凪がコクッと頷いた
「……それじゃまたお見舞いにくるね?約束ね?」

「うん、約束。またきてね。」

約束で納得したのかベッドから降りて凪母の元まで小走りで駆け寄る。

「はいはい、それじゃ、帰ろっか?。」

凪母に抱きついてるとこを見ると、まだ子供みたいで可愛らしく感じる。

633:心の隙間
09/02/27 01:22:07 gLF4+23k

「ふふっ…勇くんは子供の相手も女性の相手も得意なのね?こんどは2人で話しましょうね。」

「いえ、そんな…はい…」
凪母の雰囲気は少し苦手だ。
女性らしさが全面に出ているので、あたふたしてしまう。

「お母さん!?ダメだからね!?」
凪が精一杯背伸びをして母に文句を言う。

「あら?凪もお父さんが欲しいっていってたじゃない。あんなに若いお父さんがいたら素敵じゃない。」

「お父さんは天国にいるもん!!だからいい!」
小学生相手だから通じる挑発だと思う…。


―「ボソッ…年増のくせに…」


「わかったって。ほら、凪もちゃんと勇くんにお別れしなさい……それと…今の聞こえたわよ?あんたも私と同じ歳でしょーが。」

母の小さな呟きが凪母にも聞こえたようだ。

「それじゃお兄ちゃん、またくるからね。」

「うん、またね。ばいばい。」
こちらに元気よく手を振り病室を後にする凪を見送る。

「…少し疲れた顔してるわよ?」

「そうだね…少し疲れたかも…」

今日2度目の嵐が過ぎ去って落ち着きをとりもどす。


634:心の隙間
09/02/27 01:22:41 gLF4+23k

「勇、冷蔵庫に残りのリンゴ入れとくけど勝手に食べちゃダメだからね?それとポカリも入れとくから。」
カバンからリンゴとポカリを冷蔵庫に入れている。
リンゴは冷蔵庫に入れたらダメらしいがあまり気にしない。

「うん、ありがとう、お姉ちゃん。」
あ姉も満足したのか帰る用意をしている。

「勇ちょっと寝るの待ってね、体拭かなきゃ。」

そういうと母が部屋についてる水道から小さい桶にお湯を入れ、カバンからタオルを取り出してベッドに腰掛ける。

「それじゃ上着脱いで背中向けてくれる?」

「うん、わかった。」
母は俺の背中を拭いて帰るのが日課になっている。

三日に一度で大丈夫だし、自分でできるといったのだが「垢がたまると悪影響だし、一人じゃ綺麗に背中を拭けないでしょ?」と言われて母にお願いをしている。

「お母さん、私がしようか?仕事で疲れてるでしょ?」

「ありがとう、でも大丈夫よ、これぐらいは私にさせてね?」
なぜ姉が落ち込むのかわからないが、早くすませて欲しい。
家族とはいえ女の人に肌を触られるのは正直恥ずかしい。



―「…勇…ありがとうね…」

「……うん」
唐突にお礼を言われたが何のことを言ってるのかすぐにわかった。

635:心の隙間
09/02/27 01:23:06 gLF4+23k
―俺と母と姉の約束…。

それはまたあの家で家族一緒に住むことだ。

入院した次の日から2人には一緒に暮らしてもらっている…この話が凪母の耳に入り。
母が地元に帰るなら良い機会だし私も帰るっとなったそうだ。
凪母と家の母は少し仲が好すぎるみたいだ。
姉と母の2人暮らしに始めは不安だらけだったが、日に日に家族らしい会話も増えてきているらしい。
「どう?2人の生活でなんかあった?」

「麻奈ちゃんが、フライパンを焦がしたわ、あと勇の部屋のベッドも壊したわ。」

「ちょっ、ちょっと、お母さん!?お母さんだって雨降ってきた時、慌てて洗濯物取り込もうとして、閉まってる扉のガラスを走って頭突きで割ったじゃない!!それに勇のベッドはお母さんも関係してるんだからね!?」

ほんの些細なことだが聞いてるうちに、話の中で小さな幸せが少しずつ溢れてきているのが分かった。

「ははっ本当に?」

「本当よ?まさか雨が降ってくるとは思ってなかった…。
天気予報では晴れのマークがニコニコしてたのに…。天気予報なんて信用できないわ。」

「反省そこっ!?ガラス割ったとこでしょ普通…」

姉と母の言い争いも幸せの風景の一部になっている。


636:心の隙間
09/02/27 01:23:51 gLF4+23k
「まぁガラスは明日ガラス屋さんに来てもらって新しいガラスと交換するわ…フライパンも今日帰りに買って帰る。
あと、麻奈ちゃんが壊した勇のベッドだけど勇が退院したら買いにいきましょ?…ベッドの上でなにしたらあんな壊れかたするのかしらねぇ?」

「まだ言うかッ!!お母さんが勇のシーツを私に渡さずベッドに潜り込むからッ!」

「いや…まぁ楽しそうでなによりだよ。」
元気すぎて少し不安になってきた…。

「仲良くやってるから勇も早く体治して家に帰ってきなさい。治ったら家族みんなで旅行いきましょう。」

「そうよ?もうすぐ春だし桜咲いたら花見も行きたいね。」
2人はもう退院したらなにするか決めてるみたいだ。

「うん、すぐに治すから待ってて。」

「えぇ、私はいつまでも待つわよ?」

「私も…だから早く良くなってね?」

―小さな幸せは人間の欲に埋もれてしまう。
その小さな幸せを無くして初めて気づく本当の幸せの意味。

今この部屋には俺とお姉ちゃんとお母さんしかいない。

端から見たらなんの変化もない家族に見えるだろう。

たが胸を張って誰よりも幸せだと言える。

―だってそこには家族にしか見えない幸せが溢れているのだから―

637:心の隙間
09/02/27 01:33:23 gLF4+23k
今日の投下終了。
次の投下で終わりです。
なんやかんやでここまで来ましたねw。


638:名無しさん@ピンキー
09/02/27 01:53:08 f40NK+o+
GJ!

639:心の隙間
09/02/27 21:14:28 gLF4+23k
明日か明後日に投下するかもだけど
これ見てる人一人しかいない臭いなw


640:名無しさん@ピンキー
09/02/27 21:31:29 50e4orLM
>>639一人がGJと打ち込むとき、その裏では100倍の人が投下に感謝し、更に100倍の人が続きを期待している。
そして俺と>>638がGJと打ったということは、2万人がこの作品の完結を期待しているという事だ!

641:名無しさん@ピンキー
09/02/27 22:09:09 32sx4MpQ
20001人目参上!
GJ!
そして続き期待

642:名無しさん@ピンキー
09/02/28 05:00:18 Y6ej3Hi/
>>641
お前だけに、いい格好させるかよ

643:名無しさん@ピンキー
09/02/28 10:39:22 DIX/mR7X
誘い受け

644:名無しさん@ピンキー
09/02/28 15:30:29 o3xCreO0
>>639
おいおい俺もいるぜ

645:名無しさん@ピンキー
09/03/02 21:48:39 tXr4pvOg
俺もいるぜ俺を置いていくなよ!

646:名無しさん@ピンキー
09/03/02 23:22:29 mAqLh1yw
おまえ等いったい今までどこに(ry

647:名無しさん@ピンキー
09/03/03 09:04:48 s+eOd4T1
保守

648:心の隙間
09/03/04 04:04:00 ADPolyeK

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇



「ふぅ…やっとかぁ…長かったなぁ…」

―入院から1ヶ月。
今日ようやく晴れて退院の日を迎えれた。
ベッドから降りて窓を開ける。
冬風の冷たい匂いではなく、春の息吹…桜の甘い匂いが微かに香る。

下の駐車場を眺めると道にそって桜の木が植えられている。
まだ七分咲きだが見ていると心が落ち着く。
咲き乱れる桜ほど綺麗な花はないって聞いたことがあるけど、桜は満開になる前が一番綺麗だと思う。

「なに見てるの?……あぁ……もうすぐ桜も満開になるわね。」
荷造りを終えた母がペットボトルのお茶を差し出してくる。

「ありがとう…そだね、桜が咲いたら、みんなで花見に行こうね。」
少し前に約束した花見は凪家族と俺たち家族。それに大樹と早苗も加わり七人ですることになった。
なぜ大樹と早苗が加わることになったかと言うと、見舞いに来てくれた大樹と母が鉢合わせしてしまったのだ。
終始大樹が母のことをべた褒めするので「今度花見に行くけどくるか?」と誘うと何が何でも行く!とのことだ。

母と大樹が楽しく話してるのを見て少し嫉妬してしまったのは口が裂けても言えない。

649:心の隙間
09/03/04 04:04:36 ADPolyeK

早苗も同様、「花見に行くから早苗もいかない?」と誘うと友達と花見に行ったことがないらしく、すごく喜んでいたのを覚えている。

何回か見舞いに来てくれたけど大樹と早苗が2人で見舞いに来たのはあの一回だけだった。

なぜ別々にくるのかと早苗に聞いたら、「勇が勘違いするでしょ?だから別々にきてるのよ。」らしい

大樹が意味深に「あいつは怖いぞ。」と言っていたが今でも意味があまり分からない。


―「…ねぇ、勇?」
窓の外を眺めていると母に服の袖を引っ張られた。

「ん?なぁに?」

「今日から一緒に三人で住むんだけど…勇は本当にいいの?迷惑じゃないの?」
まだ母の中では罪悪感に苛まれているらしい。
溝がすぐに埋まるとは思っていないが、少しやるせない気持ちになる。

「前にも言ったけど俺は家族三人で暮らすことが本当に嬉しいし、楽しみなんだ。お母さんが帰ってくるのに不平不満は無いよ。」

「ありがとう……勇は本当に男前になったわね…私も負けずにがんばらなきゃね。」

母の言葉が「ごめんなさい」から「ありがとう」に変わったのが一番の嬉しい変化だ。

650:心の隙間
09/03/04 04:05:11 ADPolyeK
―「…2人ともなに見つめあって惚けてるの?私のいない間に……。」

ビックリして振り返ると、いつの間にかトイレから戻ってきた姉が真後ろに立っていた。
姉は女性と話すとなんでも変な方向に持っていく癖があるみたいだ。

「べっ、べつに見つめ合ってないよ、」

「そうよ?…第一息子と母なんだからべつに見つめ合うぐらい普通だよ?」

母が言ったことに疑問をもったがまぁ見つめ合う家族だっているだろう…あまり深く考えないようにしよう。

「普通じゃないでしょ…まぁいいわ…荷物はまとめたんでしょ?早く帰ろうよ。」

「そうね…それじゃ私はナースの人達にお礼言いにいくから先に表玄関まで行っといて。すぐに私も行くから。」
母がそう言うと、前もって買ってきてたケーキを冷蔵庫から取り出し、部屋を後にする。

「それじゃ行こっか?」

「うん…」

1ヶ月お世話になった病室を見渡す。
この部屋に少し愛着が沸いてきていたのかもしれない。
私物が無くなって真っ白な風景になった部屋を見渡すとどこか寂しく感じる。
もう来ることもないだろう…

「お姉ちゃん……玄関まで手繋ごっか?」


「え?………うん……はいっ!」


651:心の隙間
09/03/04 04:05:42 ADPolyeK
俺から手を繋ごうなんて、言ったことがないから驚いたのだろう。
少し戸惑っていたがすぐに手を差し伸べてきた。

「さっ行こっか?」

「うん。」
姉に手を引かれ部屋を後にする。

「早く家に帰りたいでしょ?リクエストなんでもして良いよ?作れる範囲なら。」

「ははっ、今から考えとくよ。」

今から家に帰り、俺の退院祝いをしてくれるらしい。
夕方には凪と凪母も参加すると言ってたので、俺たち家族が食材を買って家に帰らなければならない。


―「まだちょっと肌寒いな…」

母を待つために病院から出る。
ロビーで待っていても良かったのだが、早く病院から出たかったのと、一際でかい桜の木が病室から見えたので、近くに行って下から眺めたかったのだ。

「うわ~綺麗な桜…満開になったらすごいでしょうね。……」

「うん、上から見えたから近づきたかったんだ……綺麗だね。」

この一本だけやたらでかい…なのに物凄く繊細で桜の色も綺麗だ
姉も見惚れている。

「ん?な~に?何か顔についてる?」

「いっ…いや、べっ、べつに…。」

姉の横顔を眺めていると見られてることに気がついたのかこちらに振り向いた。
慌てて目を反らすがなぜかオドオドしてしまった。

652:心の隙間
09/03/04 04:06:25 ADPolyeK

「…さっきね?…勇に手を繋ごうっていわれた時、ビックリしたけど物凄く嬉しかった…」

握っている手をもう一度しっかり握り返してくる。
少し手汗をかいてるが、離すどころか姉は力強く握っている。

「…勇……今しか言わないことだから…私の話聞いてくれる?」

顔が髪に隠れて表情が見えない。
声を聞く限り泣いてる訳でもなくはっきりと話している。

「うん……べつにいいよ。」

多分お母さんが居てると話せないことなのだろう。
2人だからこそ話せる話だってある。

「…私ね?……勇が他の人と話してるのを見かけると、たまに物凄くイラッと来るときがあるの……姉なのに嫉妬なんておかしいでしょ?」

「……」

その感情がおかしいのか正直わからない…俺はこの家族で育ったから他人の家族と比べることなんてできなかった…。

姉に彼氏ができれば少なからず嫉妬するかもしれないし。
母が再婚すれば始めは反対するかもしれない。
ただ仲が良い家族には良くあることじゃないのかと俺は思っている。

「私バカだから………こんなこと普通聞かないと思うけど………私どうしたら勇の自慢のお姉ちゃんになれるの?」


653:心の隙間
09/03/04 04:06:54 ADPolyeK

―「自慢の……お姉ちゃん…?」

「うん……ずっと考えてたんだけど、正直自慢のお姉ちゃんってどんなのかわからなくて……一応いろんなことしたけど勇と一緒にいる時が一番楽しいし……自慢のお姉ちゃんって……勇に近づかなきゃ自慢のお姉ちゃんになれるの?……わからない…」

入院してる間ずっと考えてたのか…。
入れ替わりで姉が入院したらたまったものじゃない。

「…お姉ちゃんにとってさ…俺って胸張って弟ですっいえる?」

「あたりまえじゃない!?勇は私の弟よ!!」

「あたりまえ…だよね?俺も一緒…あたりまえなんだよ。」

「え…?」

「俺の姉はお姉ちゃんだけだし、お姉ちゃんしか考えられない…だってあたりまえに毎日一緒にいたからね。」

「ぇ……あ…」

「他人に自慢なんてしなくても俺のお姉ちゃんってだけで大満足だよ?家族愛なんて俺たちが決めることでしょ?他人が決めることじゃないでしょ。」

「……」
そう…これは俺たち家族のことなんだ…いちいち他人に自慢なんかしても、なにも得る物なんて無い。


「今の俺があるのもお姉ちゃんのおかげなんだよ?俺が自慢って言うなら、自慢の弟にしたお姉ちゃん自信、誇りに思っても罪にならないでしょ?」

654:心の隙間
09/03/04 04:07:27 ADPolyeK

「勇…」

「だから強いて言うなら普段のお姉ちゃんが自慢できる姉かな?」
そう…普段の姉こそ一番魅力的だと断言できる。
正直無理してる姉はみてるほうが痛々しくなる。

「そう………ふふっ……勇って本当に女ったらしね……ちょっとドキドキしたよ?。」

姉が髪をかきあげてこちらを見る姿に少しドキッとした。
さっきまでの姉と違って表情がどことなく色気を感じたからだ。
なにか吹っ切れたみたいに清々しい顔をしている。

「女ったらしって……人聞きが悪いな…」
心を見透かされてるみたいで恥ずかしくなり桜の木に目を向ける。

枝の間から差し込む太陽が眩しい…。



「勇?」



「ん~?なに?」




―「心から愛してるわ…。」



「うん…ありがとう。」

家族愛か別の愛情か……姉の声からは判別できなかった。

ただ多分もうこの言葉は聞けないと思う……。
姉として一つの区切りなのだろう。


「ふふっ…勇に彼女ができたら大泣きしてやるから、おぼえてなさい?。」

恥ずかしいが桜よりも姉の笑顔のほうがはるかに綺麗だった。

655:心の隙間
09/03/04 04:08:01 ADPolyeK

―「こらー!!勇も麻奈ちゃんも、お母さん置いてなにウロウロしてるのよー!?」

声につられて後ろを振り返ると、こちらに走ってくる母が視界に入る。

「あぁ…そういや玄関前で待ってろって言われてたね…忘れてた。」

「はぁ、はぁッ忘れてたって……てゆうか仲良く手繋いでなにしてたの?」

多分探してくれたのだろう。
服が少し乱れている。

「ん?上から見た時この桜だけ目立ったから近くで見たかったんだよ。だから見てた。」

「そう…じゃあ、なんで手繋いでるの?」
どことなく膨れっ面に見える。

「お母さん…知らないの?姉弟で手を繋ぐなんてあたりまえなのよ?…見つめあうのがあたりまえみたいにね。」

姉なりの母に対する仕返しなのだろう。
だが母は「あっそっか。」と普通に流してしまった。

最近分かったことだが母は魔性の天然らしく、姉が言うには1ヶ月一緒に暮らしたけど、未だに行動パターンが読めないらしい。

「それじゃ、私は反対の手…を握りたいけど荷物あるからこうするね。」
開いてる腕を母が組んでくる。


「まぁいいけど…車までだよ?」

こうやって三人で歩く桜道が一番の退院祝いかもしれない。

656:心の隙間
09/03/04 04:08:30 ADPolyeK

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

― 「この辺までくるとやっぱり安心感があるなぁ…。」
車に乗って40分、やっと地元についた。

ここまで来ると見慣れた建物がいくつも並んでいる。

いつも見ていた建物だが、なぜかテンションが上がる。

「そうね……」

母の車に乗るのはこれで二回目だが、運転はかなり慎重だ。

だから運転中の母に話しかけても、あまり返答が返ってこない。
母の身長のせいで少し前が見づらいらしい。

「もうすぐ家かぁ~なんだかワクワクする。」

「おかしなこと言うね勇は、自分の家へ帰るのにワクワクするの?」

後部席から身を乗り出し話しかけてくる姉を、母が危ないと注意する。

自宅へ帰るのにワクワクするなんて入院しなければ分からない感情だと思う。

このワクワクはもう経験したくない。


懐かしさに浸っているとポケットに入ってる携帯がヴーッヴーッと震えるのを感じた。

携帯をポケットから出してディスプレイを見る。


「誰だろ?………凪ちゃん?。」

携帯の画面には「凪ちゃん」と表示されている。

657:心の隙間
09/03/04 04:14:43 ADPolyeK
ありがとうございます。
少し長いので切りました…後半部分は20時までには絶対に投下します。

では仕事いってきますね。

658:名無しさん@ピンキー
09/03/04 08:22:42 I6e8uLcs
そこまで気合入れて投下時間指定しなくてもw
GJ! 長かった物語もそろそろフィナーレなのか。感慨深いな。

659:名無しさん@ピンキー
09/03/04 11:26:34 Jt0DDngE
GJ

660:僕が大嫌いだって言うと、こいつは愛してるって言う。
09/03/04 18:32:31 RAD3wjfo

僕はこいつが嫌いだ。
僕と同じ声。同じ顔。僕はこいつの「代用品」として育てられた。

「企業」の創設者、その血を最も濃く受け継いだ小さな少女は、生まれた時から敵に囲まれていた。
だから、「企業」は一つの保険をかける事にした。
危険から少女を遠ざけるために。
「もしも」の時、少女の不在を隠すために。
つまりは、影武者という代用品を使って。

「でも、僕はあなたの事が大好きですよ」

僕はこいつが心底嫌いだった。

こいつと同じ顔でさえ無かったら、僕は僕として生きることが出来たろうに。
こいつと同じ声でさえ無かったら、僕は僕として生きることが出来たろうに。

こいつと同じでさえ無かったら――
僕はこいつを、愛する事が出来ただろうか。

「構いません」

こちらの考えを見透かしたように、言う。

「あなたが僕を愛してくれなくても、あなたが僕を憎んでも、僕は構いません」

だから、だからどうか。

「何処にも行かないで。何処へも行かないで。僕を、独りにしないで。」
「あなたを縛った僕を許してくれなんて言わない。あなたが望むなら僕は今すぐ舌を噛み切ります。だから」

だからどうか、僕を置いて死なないでください―


661:僕が大嫌いだって言うと、こいつは愛してるって言う。
09/03/04 18:36:06 RAD3wjfo

僕が死んでも誰も悲しまないと思ってた。
「代用品」が居なくなったって、何も変わらないと思ってた。だけど。

僕と同じ顔が泣いていた。
僕と同じ声で泣いていた。

結局、僕は死ねなかった。



僕の世界には、価値のあるものなんて一つしかない
その一つが無くなってしまった世界なんて、滅びてしまえばいい
僕がそう思っていること、あなたは知っていましたか?

662:名無しさん@ピンキー
09/03/04 18:39:36 RAD3wjfo
ちょっと思い付いたんで、場繋ぎ的に投下
「代わり」にしかなれなかった少年に恋した「代わり」のいる少女、みたいな?
続くかどうかは微妙ですけど――

さて、半裸で待とうか

663:心の隙間
09/03/04 19:46:57 ADPolyeK

―「凪、勇くんなんだって?」

「べつに良いよだって!!お兄ちゃん達もまだついてないんだってさ。」

時計を見るともうすぐ四時になる。

やはり少し早すぎたみたいだ。
凪に早く行こうと言われて、予定より二時間も早く私たちは家を出てしまった。

買い物もまだ行ってなかったらしい。
早く付くのならと、私たちも一緒に買い物へ行くことになった。

「勇くん大丈夫かしら……奈々の運転は怖いからね…身長が低いから危なっかしいのよ…。」

あの子の助手席に座ったことがあるけど、正直心臓に悪い。

「…奈々って……誰?」


「ん?勇くんのお母さんよ?」

「あっそうなの?可愛い名前だね。」


―名前で思い出した。
勇くんが入院中、私が奈々の名前を呼んだら不思議そうに「奈々ちゃんって誰ですか?」って聞いてきたことがある。

さすがに私も奈々もポカーンとしてしまった。

あなたの母の名前よと教えると、物凄く驚いてた記憶がある。

さすがに天然爆発なあの子でも相当ショックだったらしく。その日は一日中、上の空だった。


664:心の隙間
09/03/04 19:47:30 ADPolyeK

まぁ息子に名前を知られて無いなんて気落ちどころではないだろう。
奈々には心中お察しする。

「もうすぐ勇くんの家につくわね…楽しみ?」

「うん!!早くお兄ちゃんと遊びたい!!」

凪もまだまだ子供。
あの子が小学生になびくとは思えないけど、面倒見は良いみたいだ。

「…勇くん……はぁ…」

凪に聞こえない声で小さく呟く。


―勇くんを一番始めに見た瞬間、呼吸をするのを忘れるくらいビックリした。

麻奈美ちゃんと話しをしていても勇くんが気になってしかたがなかった…。

なぜ気になったかと言うと、奈々の旦那に似ていたから…。
そして誰より私の旦那に雰囲気が物凄く似ていたのだ。

一瞬で目を奪われて初恋の時のように心臓が大きく跳ね上がった。

あの時。なんとか勇くんと話がしたい、声が聞きたい…だから麻奈美ちゃんを引き止めようと必死になった。
しかし用事があると麻奈美ちゃんに会話を中断されて勇くんと話すことが出来なかった…。

「ふふっ……恥ずかしいわね…高校生相手に…」

帰り際、見えなくなるまで勇くんの背中を眺めていたのを覚えている……背中姿だけでも目に焼き付けるために…。


665:心の隙間
09/03/04 19:48:02 ADPolyeK

私と凪は本当に似ている。
顔や性格は勿論なのだが、一番私の血を濃く受け継いでる部分がある。

それは一つの物に魅了されると、その物しか目に写らなくなるのだ。

簡単な話、産まれもっての依存症なのだ。
携帯番号を聞いてくるあたり凪はかなり本気らしい。

父が亡くなってすぐ、運命的に父に似た人と出会った……。
勇くんは依存するならもってこいの人間なのだ。
多分凪より私が先に出会っていれば、歳関係なしに勇くんと関係を持とうとしたかもしれない。

皮肉にも私の大親友の息子と言うことで叶わなかったが…


―「あぁっ!お兄ちゃんだ!!お~い!」

車の窓も開けず手を振る凪に少し苦笑いをしてしまう。
玄関先で私達が来るのを待ってくれていたのだろう。
笑顔で凪に手を振っている。

「お兄ちゃん!!」

玄関前で車を停めると、凪が助手席から飛び出して勇くんに駆け寄る。

「ははっいつも元気だね凪ちゃんは。」

やはり何度見ても似ている…
凪を見る目もあの人と同じ父親が娘に見せる目と同じだ。

凪は気づいていないだろうが、勇くんは凪のことを完全に妹か娘として接しているだろう。

これから成長する凪と勇くんが、どうなるか楽しみだ。

666:心の隙間
09/03/04 19:48:30 ADPolyeK

「こっちは大丈夫ですよ~。」

「お母さん、こっちもOKだよ~。」

車を奈々宅の駐車場に入れるために勇くんと凪がサイドから誘導してくれる。

奈々の車が奥に停まっているので誰かに誘導してもらわなければ、ぶつけそうで怖いのだ。

「勇くんも凪もありがとうね、もう大丈夫よ。」
勇と凪のお陰で綺麗に停めることができた。
エンジンを止め、後部席からカバンを掴み、ミラーで少し前髪を整えて外にでる。
ドアを開けると強い風がヒュッと音をたてて車の中に入ってきた。
先ほど整えた前髪が乱れる。
春風にイラッとしてもしかたがないので適度に髪を整えて再度外にでる。

「風が少し強いですね。大丈夫でしたか?」

駐車場の奥から勇くんと凪が出てきた。
少し苦笑いをしているが、セミのように腰にへばりついてる凪を鬱陶しがる訳でもなく頭を撫でながら引きずるように歩いてくる。

「コラ、凪!!勇くん退院したばかりなのよ?無茶しちゃダメじゃないの。」

私の声に反応した凪が、慌てて勇くんから離れる…が手はしっかりと繋いだままだ。

667:心の隙間
09/03/04 19:48:51 ADPolyeK

「わざわざスイマセン、こんな所まで来ていただいて。」

「良いのよ、凪がお世話になってるんだし。それとそんなにかしこまって話さなくてもいいわよ?普通に話して。」
礼儀正しく話す勇くんに少し寂しさを感じる。

「ははっ癖なんです。他人の年上女性と話す時、なぜか緊張するんですよ。」

「あら、そうなの?でもお隣さんになるんだから、普通が一番気が楽よ?」

かわいい癖だが私だけが蚊帳の外みたいでムズムズする。

「そうですか?わかりました…なるべく普通に話すようにがんばります。…それじゃ中に入りましょっか?まだ肌寒いですし。」

春とはいえやはり薄着だと少し寒い。

「そうね、お邪魔するわ。」

家にお邪魔したのは奈々が結婚した日以来。
もう十数年前になる。

懐かしい…あの時も家の前で落ちた桜の花が風で舞っていたのを覚えている。



―「……ッ、あっ!!」


舞っている桜に目を奪われ、足元の段差に気が付かなかった。

無防備に前へ倒れ込む…。
このまま落ちれば確実に怪我をするのを頭ではわかったのだが硬直して手が前に出なかった。

怪我を覚悟して目をギュッと瞑る。





―「…っと、大丈夫ですか?恭子さん。」

668:心の隙間
09/03/04 19:49:32 ADPolyeK
なにが起こったか分からなかった…。

倒れ込んだ先は固いアスファルトではなく柔らかい「なにか」。

そして私の名前、「恭子」と聞こえた。
恐る恐る目を開ける。

「…」

どうやら私は誰かの胸板に顔を埋めているみたいだ…。

「お母さん!?」

凪の声が聞こえる。支えてくれたのは凪?
有り得ない…凪が私を支えれる訳がない。
それに男性の声だった…。
だとすると一人しかいない。

―「大丈夫ですか?どこか痛めましたか?」

視線を上げると心配そうに支えてくれる勇くんの顔が私の目の前にあった。



「ひゃっ!、ひゃいっ!?」

慌てて勇くんから離れるが、少し足を挫いたみたいで痛みが走る。

「おっと…歩けます?」

よろけた私の腰に手をまわして耳元で呟く。

「だっ大丈夫よ!少し挫いただけだから…支えてくれてありがとう。」

多分悪気は無いと思う…だが私には十分すぎるほど毒なのだ。

「いえ、どういたしまして。それじゃ中に行きましょう。」

「えぇ…。」

勇くんにだきしめられた時、一瞬だが私は母ではなく女になっていた。

「…はぁ……どうしよう…」


心の中で凪に謝るが、勇くんに抱きしめられた感触が体から抜けることは無かった。

669:心の隙間
09/03/04 19:50:08 ADPolyeK

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「あぁ~やっぱり我が家が一番落ち着く~」

1ヶ月ぶりの我が家はどこも変わっていなかった。
リビングしか見ていないが姉の部屋も、俺の部屋も、母と父の部屋も、変わってい無いだろう。

「ほら、紅茶。恭子と麻奈美も、はい。」
お盆に乗せてある紅茶を俺と姉、凪母に渡される。

「ありがとう、お母さん。」

「あら、ありがとう。」

三人ともそれを受け取りソファーに座る。
久しぶりに座るソファーは眠たくなるぐらい心地がよかった。

「そういや凪ちゃんは?居ないけど。」

リビングを見渡すが姿が見えない。
さっきまで俺と遊んでいたが、いつの間にか居なくなっている。

「あれ?本当だ…あの子どこに行ったのかしら。」

「まぁ玄関の閉める音はしなかったし。多分二階にいったのよ。」

紅茶をのんきに飲んでいる…探しに行く気は無いみたいだ。
「ふぅ……ちょっと探してくるよ。」

紅茶をテーブルに置いて立ち上がる。

―「あらそう?お願いね、あなた。」

凪母の発言に母と姉が紅茶を吹き出す。

「ゴホッ…ゴホッ…あっ、あっ、あなたぁ!?恭子あんたねぇ!!」

670:心の隙間
09/03/04 19:50:31 ADPolyeK

「冗談でしょ?なにをそんなに取り乱してるのよ…」

母と姉は冗談の区別がつかないのだろうか…。

てゆうかなぜ冗談を言った凪母が顔真っ赤っかなんだ?
チラチラとこちらを見ている……はぁ…乗らなきゃダメなのか……。




―「…それじゃ探してくるよ……恭子。」



「ブファッ!!なっなっ?きょっ!?なにっいッて!?」

今度は凪母が勢い良く紅茶を吹き出した。

意味が分からない……チラチラ見ていたのは、冗談に乗れって意味じゃなかったのか…。

「きょっ!きょっ?きょうっこ!?」

母はもう紅茶の入ってるカップを持っていない。
多分テーブルの下に落ちているのだろう…。
姉は…よく分からない、放心状態で窓の外を眺めている。

「…もう凪ちゃん探しに行くからね?」

あまり相手にしてたら長引くと思いリビングを後にしようと扉まで歩く。
するとこちらから開ける前に扉が勢いよく開かれた。

―「お兄ちゃん!?大変!!」
入ってきたのは目的の人物凪だった。
なにやら息を切らしえらく慌てている。

「どうしたの?なにかあった?」



「お兄ちゃんの部屋…誰かいるかも……」

671:心の隙間
09/03/04 19:50:57 ADPolyeK

「は?俺の部屋に?」

みんなの声がピタッと止んだ。

「嘘…ヤダ、私たち以外に誰がいるのよ…」

「凪、それ本当なの?」

「本当だって!!二階に見に行ってよ!!」
さっきまでの楽しい気分が嘘のように一気に不安に煽られた。
「俺ちょっと見てくるわ、みんなまってて。」
男は俺だけ…流石に女性を行かすわけにはいかない。

「勇!危ないわよ!もし刃物持ってたらどうするのよ!?そ、それよりまず警察にッ!!」
流石に刃物は怖い。やはり警察に連絡するべきか…。

「凪どんな人だったの?顔見た?」

「ううん、見てない…でも部屋が滅茶苦茶だった…泥棒かも…」

「え?誰か見た訳じゃないの?」

「うん……お兄ちゃんの部屋に入って電気つけたら…タンスとかベッドとか滅茶苦茶だった…」




―「「あぁ、それ私達よ。」」

声を揃えて母と姉がハモる。

「「「は?」」」

こちらも俺と凪と凪母でハモってしまった。

「麻奈ちゃんと争ってると散らかっちゃうのよ。」


(子供が怖がるほど散らかすってどんな争いだよ…。)

672:心の隙間
09/03/04 19:51:23 ADPolyeK

「でも散らかすってレベルじゃ…」

凪の不安な声を聞いていると流石にこちらも不安になってきた。

「…ちょっと部屋見てくるよ。」

母と姉にそう言い放つとリビングを後にする。
走って二階に上がり部屋の前に立つ。

「お兄ちゃん気をつけてね~?」

一階から凪の声が聞こえるが凪はまだ誰かいてると心配してるみたいだ。

「すうー…はぁー…すうー…はぁー……よしッ!」

深呼吸をして、一気にガチャッ!と扉を開ける―。



「……なんだ…これ…」
タンスは服が溢れており。
ベッドは破れてるどころか中のバネが飛び出ている。
フローリングには服やパンツがばらまかれている。

「勇が帰ってくるまでに片づけようとしたんだけどねぇ…片づけても片づけても麻奈ちゃんが邪魔しちゃうのよ。」

「お母さんじゃない!!私が片づけようとしたらお母さんが勇のベッドに潜り込むのよ!?」

二人ともリビングに居たのにいつの間にか二階に上がってきていた。

「いや、喧嘩は仲が良い証拠だからいいんだけど…なぜ俺の部屋なの?もしかしてお姉ちゃんの部屋やお母さんの部屋もこんな感じ?。」



「「ううん、勇の部屋だけ。」」

673:心の隙間
09/03/04 19:51:47 ADPolyeK

「えぇ!?なんで!?」

平然とハモったが、なぜ他の場所は安全で俺の部屋だけ争いの場になるのか分からない。

「それは……これが原因よ…」

「…なにそれ?それがどうしたの?」


「これは綱引きのヒモ……通称、トランクスよ」
母が下から拾い上げたのは俺のパンツだ…しかもよく見ると完全に伸びきっている。

「これで綱引きしてたの?……二人で?」
母からパンツを取り上げて母の目線に持っていく。

「まぁ大まかにいえばそうね…白熱してくると麻奈ちゃんがパンツを取り上げて勇のベッドに潜り込むのよ。」

「逆でしょ!?お母さんが負けたふりしてッy「わかった、わかったから…まぁとりあえずもう綱引きは止めてね…パンツいくらあっても足りないから…」
このまま行けばまたなにか犠牲がでるかもしれない。
早く止めた方がいいだろう。

「これはまた…派手に遊んでるわね…」

いつの間にか後ろから凪と凪母も来ている。
凪母が呆れたようにため息混じりに呟く。

「まぁ…この部屋は明日片づけます…どうせベッドも買わなきゃならないし。」


―今更だが姉と母を見ていると実家に帰ってきたと深く実感できた。

674:心の隙間
09/03/04 20:19:20 ADPolyeK

俺の部屋を後にし、リビングに戻る。

緊張がとけたのか、みんなへたり込んでしまった。

ふと時計を見るともう5時…。

「…お母さん、買い物行かなきゃ。もう5時だよ?」

俺の声を聞いてみんな時計に目を向ける。
先ほどまで聞こえてた風の音も聞こえなくなっていた。

「うん、そうね。風も止んだみたいだし行こっか?…あっ!それと恭子は休んでなさい?足挫いたんだから。」

凪母の足には一応湿布を張ったがあまり無茶しないほうがいいだろう。

「えぇ、そうするわ…凪はどうする?」

「…私は……お母さんと一緒に待ってる!!」

俺たちと一緒に行く準備をしていたが止めてしまった。

「ん?べつに良いわよ?行きたいんなら」

「ううん、ここで待ってる。」

凪なりの母への思いやりなのだろう。
知らない家に一人は少し寂しい。

「そっか…それじゃなるべく早く帰ってくるから待っててね?」

小学生がここまで気を使えるのは親の賜物だろう…凪母も気づいているらしく、満面の笑みを浮かべながらムツゴロウの如く凪を撫で回している。


―「それじゃ、行ってくるから。」

「うん、気をつけてね!!」

玄関先まで見送りにきた凪に手を振り家を後にする。

675:心の隙間
09/03/04 20:20:55 ADPolyeK

―「なんか懐かしく感じるね…」

「うん…なんか子供の頃を思い出すよ…」

スーパーに行くために見慣れた歩道を家族三人で歩く。

昔はよく姉と一緒に母に連れられてスーパーに行っていた。
買い物に行くと一つお菓子を買ってもらう…それが嬉しくて母についていってた覚えがある。

「ここら辺も変わったよね…昔はここに公園あったのに…。」

昔あった公園や広場が住宅やビルにかわっている…。

新しい時代に追いつくために、環境も進化していかなければならない。
それは分かっているのだが思い出の場所が無くなるのは、やはり寂しい…。

―「そりゃ年が経てば人間と同じ変わる物もでてくるわよ……あっほら!、見えてきたわよ。勇なにが食べたいか決まったの?」

子供の時からよく行く近所のスーパーが見えてくる…。
唯一このスーパーだけが昔から変わっていない。

「うん、凪ちゃんと恭子さんにも聞いたけど、焼き肉で大丈夫だってさ。」

退院したら肉が食べたいと思っていたのでオーソドックスな焼き肉に決めた。

「焼き肉ね…わかった……それと恭子さんじゃなくておばさんで大丈夫よ?」

凪母に対抗してなにか得があるのか…家を出てからずっとこの調子だ。

676:心の隙間
09/03/04 20:21:34 ADPolyeK

「おばさんなんて失礼でしょ…」

凪母の姿を見ておばさんだなんて口が裂けてもいえない。
見た目がおばさんと言う言葉からかけ離れているからだ。

「私と同じ歳なのよ?それに、見た目も私と変わらないでしょ?昔はよく似てるって言われたもん。」
一年前のように凪母と同じような服装をしていたら、凪母と並んでも違和感が無いと思う。

今は母親という雰囲気が全面的に押し出されているので、凪母と並ぶとどうしても凪母に目がいってしまうのだ。

「まぁ、いいや……早く材料買って帰ろう。凪ちゃんと恭ッ……凪ちゃんのお母さんも待ってるから。」

言い合いのループは避けたい。
それに言い争いをしていると余計にお腹が空いてくる。

「そうね…それじゃパッパッと買って帰ろう。」

来慣れた場所だ…目を瞑っても目的地まで歩いていける。
カゴを掴んで肉売場へ歩いていく。

姉は野菜売場へ向かう。

母はお菓子売場へと一直線。

なぜか分からないが昔から母はスーパーにつくと、お菓子売場へ直行するのだ。
そしていつも待たされる…。

買ってくれるのは嬉しいが、子供に混じってお菓子選びをする母を待つのが小学生の頃は苦痛でしょうがなかった。

677:心の隙間
09/03/04 20:22:03 ADPolyeK

―焼き肉に必要な食材はカゴにすべていれた。
肉を見ていると余計にお腹が減ってくるが、それと同時に楽しみでもある。

「もう忘れ物ないよね?それじゃ会計しにレジにいこっか?」

忘れ物がないようにもう一度確認する。

「うん大丈夫!それじゃいこっか?」

姉とカゴを二人で持ちレジに向かう。
前に来たときも同じことをしたがやはり恥ずかしい。


―「ありがとうございましたー…。」

姉は気にしていないみたいだが、やっぱり店員に睨まれた…。
姉曰く普通のことらしい。

「早く帰ろっ二人とも待ってるから。」

「そうね、早く帰ってみんな…で………あ~っ!!」

姉が思いだしたように後ろを振り返る。

「買い忘れ?戻る?」

今ならまだスーパーを出たところだからすぐに戻れる。




―「………お母さん……忘れてる…」



「はぁ?……………あッ!!」

姉がなにを言ってるのか意味が分からなかったが、母のことを思い出すと慌てて振り返る。

ガラス越しにスーパーの中を覗くと両手いっぱいに、お菓子を抱え込んだ母の姿が見えた…。


キョロキョロと周りを見渡し、泣きそうになりながら俺達を探すその姿は、迷子そのものだった。

678:心の隙間
09/03/04 20:22:27 ADPolyeK

―「グスッ…ヒック…うぅ…ひどい…」

「ごめんって…別に忘れてた訳じゃなくてちょっと驚かそうとしただけだよ?ねぇ、お姉ちゃん。」

歩きながら母を慰めるが、母の存在を素で忘れていたため、誤魔化すしか方法が浮かばなかった…。

「ふぇ?あっうん、私たちがお母さん忘れるわけ無いじゃん。」
姉が思い出さなければどうなっていたか…多分大泣きだっただろう。

息子としてあるまじき行為だが、いつもは姉と二人で買い物に行っていたので、自然と二人で外に出てしまったのだ。

「グスッ…絶対に忘れてたのよ…グスッ…あの戸惑いようは半端じゃなかったもの…」

この時点で嘘は無理だとわかり、姉と二人で母に謝り倒してなんとか許してもらった。

帰りはきた道と違う道を歩いて帰る…子供の頃からの習慣だ。
空を見上げると一面オレンジ色になっている。

もうすぐ新学期になる…あと数年もすれば姉の就職だ…こうやって三人一緒に買い物もなかなか行けなくなるだろう。
考えると少し鬱になる…。




―「あっ見て勇……あそこ懐かしいね…。」

姉が指さす場所。
それは夢の中で最後に父を見た場所…。

「………うん。」


父と歩いた思い出の場所……河原歩道だ。

679:心の隙間
09/03/04 20:23:07 ADPolyeK

「ちょっと河原までいこうよ。」

そう言うと俺達の返事を聞く前に姉が信号を渡ってしまった。

「ちょっと……ったく……まぁ少しなら大丈夫か…お母さん行こ?」

早く家に帰らなければならないのだが自分自身もう一度あの道を歩いてみたかった。

「ふふっそうね、それじゃ、行こっか。」
母には俺の気持ちが見透かされていたかもしれない。

姉の後を追い、信号を渡る。
階段を登り、見慣れたレンガの石畳に足をつけ、周りを見渡す。



―驚くことに見渡す景色は小学生の頃と全く変わっていなかった…。


なにかしら変わっていると思いこんでいたので、風景が全く変わっていないことに嬉しさがこみ上げてくる…。

「うわぁ~なにも変わってないわね~」

「本当…周りは変わってるのにこの場所だけ全然変わってない…」

母と姉も懐かしんでいる…
やはり母と姉もこの道は特別な場所として心に残っているようだ。

「勇とお父さんがこの道通って帰ってきたよね……。」

姉が頭を撫でてくる…心が昔に戻っているのか撫でられることが心地よく感じる。

「うん…俺の一番大好きな場所…」

タイムスリップしたように風景も…景色も…風の匂いさえも昔と同じなのだ。


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