☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第82話☆ at EROPARO
☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第82話☆ - 暇つぶし2ch450:名無しさん@ピンキー
08/08/29 22:07:36 uIF/uAMY
イメージっつう時点で一人一人感じ方違うんだから異なるのは当たり前なんだし
いちいち自分のイメージを書き連ねてくのはどうかと……

451:名無しさん@ピンキー
08/08/29 22:19:09 2bu7HzV8
しかし、世界転覆させようとした犯罪者すら、数年後には更正したと見なされ社会復帰できるこの世界で、
社会的抹殺ってどこまでされるんだろ。

452:名無しさん@ピンキー
08/08/29 22:28:02 fb5mYg7H
ブラックリストにでも登録されるんでない?
特定の施設は利用できない入れないとか。

ちょっと違うか。

453:名無しさん@ピンキー
08/08/29 22:35:08 TN4YMiCR
中学2年生の頃のノートを全次元世界にむけて公開される

真面目に考えると雇用禁止とかかね?

454:名無しさん@ピンキー
08/08/29 22:48:56 grV+5t11
社会保障番号とか、銀行口座とかを
すべて書き換えられるとか。

455:名無しさん@ピンキー
08/08/29 22:53:36 q6tiGqVE
背中に「私はロリコンです」と入れ墨を彫られるとか。

456:名無しさん@ピンキー
08/08/29 22:53:57 ugLiiiyS
実は一部の法の保護が受けられない、とか。
重態にならない限り怪我させても罪にならない、みたいなのだと結構きついと思われ

457:名無しさん@ピンキー
08/08/29 23:27:49 XJyXZfeQ
>>453
黒歴史ノート公開とかなんという鬼畜

458:名無しさん@ピンキー
08/08/29 23:32:13 CJpsrzr8
>>447
昔復讐モノっぽく書いたこともありますが、自分のイメージもそんな感じでした。
隊長三人娘は、身内に不幸があったら責任感じて内に潰れそうなイメージがありますね。
作家さんごとにイメージは違うけど、長編などでキャラの行動が一貫したイメージに基づいて書かれてるものが読み易い感じがします。


459:名無しさん@ピンキー
08/08/29 23:44:22 7r3LkV8R
ミッドチルダには伝統的な犯罪者の減免法があった(裏)そうそれは性的な無料奉仕
今日はそんな毎月何日かそんな日があるナンバースの一人を紹介しよう

秘密のクラブ

ぬらりとした暗闇が広がっているその中になまめかしいほどの白い裸体が浮かんでいた
そのふくらみは未だまだ幼く眼帯の少女は抑えきれない羞恥にうつむいていた
「あ…」
男がやってきた、ここのところ連日チンクの減免に協力してくれている人物だ、政府の高官らしい
彼のプレイはいささか特殊だったゆえに効果も絶大、ナカジマ家の為にも妹達の為にも自分も協力的であるのが望ましい…はずだ

「おお…きょうも美しいなチンク君…お人形のようだ…はは、ほうぅら、今日はこんなプレゼントを持ってきてあげたんだよ…」
「…あ、ありがとうございま…ぁ…っあ…ぅ」

男は優しく抱擁したかのように見えた、チンクは礼を言おうとして身悶えした
男の手がチンクのお尻に沿い揉んだ
「柔らかいお尻だ…マシュマロのようだね…」
次いでマスクを被った中年の男は手に持ったうずらの卵大のローターをチンクのアナルにあてると
そのまま差し込んだのだ

つぶり
「そんっな…あぅ…ふぁっ…あぅ…はっ…あっ…あああ…」
ぬずずずう

そのまま奥まで押し込まれる、腸を逆に撫で上げられるような感覚に男の胸に手を当てて歯を食いしばるチンク

「どれ」

カチっ ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ

「っひっい!?うぁあああああああああ!!」

ビクリとチンクは白い髪を振りエビのように床で身悶えた、スイッチを止めると男は満足そうに頷いた
白い髪の少女はハァハァと犬のように息をつき唾液が床を舐めた

「ふむふむ感度は良好だな…さぁ立ちなさい夜のお散歩の時間だ」

「はぁあ…ぁ…は、は…い…」


素肌の上にコートを羽織り、よろよろと立ち上がった、今夜は何をさせられるのだろうか
そう思うと知らずチンクの体の奥に熱いものが灯るのを感じた瞳に被虐の色が僅かに瞬いた
男はそれを見逃さなかった

首輪をつけられ縄で引かれた

チンクは思った、これは罰、罰なのだ…

促されて街頭の瞬く深夜の街に踏み出した                      
                                        エロパロ的にはこんなんで?











460:名無しさん@ピンキー
08/08/29 23:48:25 SfxZs6/W
>>459速く続きを書く作業に戻るんだ!

461:GJ
08/08/29 23:49:18 2bu7HzV8
>>459
さあ、ディード編とセイン編を書く作業に戻るんだ。

462:名無しさん@ピンキー
08/08/29 23:50:17 v+ubL7VP
>>459
    _∩
( ゚∀゚)彡 MOTTO!MOTTO!
 ⊂彡

463:名無しさん@ピンキー
08/08/29 23:56:12 7r3LkV8R
ディ…ディードは…目隠ししておっぱいで奉仕の刑、むせかえるほどの大量の白濁を喉の奥に流しこまれる

セイン、セインはえーと…能力的に壁を境に別々の部屋の男達に上半身と下半身を犯される刑…

464:名無しさん@ピンキー
08/08/29 23:58:42 CJpsrzr8
>>459
どうかクア姉を宜しくお願いします……

465:名無しさん@ピンキー
08/08/30 00:03:16 WE2OXCJX
>>463
ありがとうございます。これで今夜は安らかに眠れそうです。

466:名無しさん@ピンキー
08/08/30 00:10:13 yFo0Thna
ノーヴェあたりは、夜の公園で輪姦露出プレイとかw
あと、目隠ししたまま、男子公衆トイレに手錠で拘束して放置もいいと思うんだ。



467:名無しさん@ピンキー
08/08/30 01:11:12 l6duhBkT
ディエチは俺の所に永久就職でおk?

468:名無しさん@ピンキー
08/08/30 01:55:59 SnKlY2Ga
んじゃ、ウェンディは俺の
性欲処理機兼子孫繁殖装置になってもらうわ

469:名無しさん@ピンキー
08/08/30 02:18:36 Da7gtb9n
なんという産む機械
じゃあセッテは俺がもらうわ

470:名無しさん@ピンキー
08/08/30 04:14:52 fQTtnz74
ならばオットーは俺の専属お世話係り(嫁ともいう)になってもらう。

471:名無しさん@ピンキー
08/08/30 04:21:48 Or1SNf6Q
チンクは俺の娘でFA?

472:名無しさん@ピンキー
08/08/30 09:53:36 IlIAyblq
なんかエロなしのSS用の板ができたらしいが、移動する人とか出るのかな?

創作発表 URLリンク(namidame.2ch.net)

473:名無しさん@ピンキー
08/08/30 10:30:58 VwNJIwfc
そもそもこのスレはエロパロといえどもエロオンリーじゃないわけだから、移動する必要もないし。
たまに変なのも湧くけどさ、なのはエロパロスレはこのままでいいんじゃない?

474:名無しさん@ピンキー
08/08/30 10:38:07 F8vreNl7
>>473
同意
エロありだろうが、なしだろうが楽しめれば問題なしだろ

475:名無しさん@ピンキー
08/08/30 11:36:26 aO/zjSiC
まぁ向こうにリリなののができたら考える
現状だと放送も終ってるし二手に分かれたら過疎りそうだけどね
昔に比べるとやっぱ減ったよね投下

476:名無しさん@ピンキー
08/08/30 11:51:45 fvRKwa3m
>>475
減ったか?>投下
落ち着いたとは思うけど
一日に何作も投下があるほうが異常だったんだから

477:名無しさん@ピンキー
08/08/30 11:56:02 JICSeX+z
>>475
そりゃ本編終わってから結構経つんだから仕方ない
劇場版公開したらまた増えるかもな

478:名無しさん@ピンキー
08/08/30 12:07:29 oM+1rAej
>>473
今までもエロ、非エロともにいい具合に共存してきたんだ。今更分断する必要もないんでないかい?
今、ヴァイスが主役の非エロSSを書いてる。職人さんの迷惑にならない程度に投下したいな。

479:名無しさん@ピンキー
08/08/30 12:58:49 F0/FV6tU
>>476
だがエロパロ板で「普通」っつったら……数ヶ月・数年単位で1スレ使い切るペースだぜ?
このスレも最初期はまさにそうだったけどよ。ここもいつかはまた過疎るんだろうな

480:名無しさん@ピンキー
08/08/30 13:08:55 l6duhBkT
>>479
盛者必衰だからな、しょうがない
でもリリカルシリーズが発表される限りは栄え続けるんじゃない?

481:B・A
08/08/30 14:59:08 28uAuMX+
規制が未だ解除されていないので、ネカフェから投下します。



注意事項
・B・A版エリルー時空のお話
・主人公はヴィヴィオ
・オリキャラが出ます
・非エロでバトルです
・sts本編から11年後の物語
・フェイトが天寿を全うしております
・その他かなりの捏造多し(特に古代ベルカや聖王に関して)
・タイトルは「Das Erbe zur Zukunft」 意味:未来への遺産
・SSXの内容は風の噂程度にしか知りません(←もう持っている人に対して)
・作中においてヴィヴィオの言葉と行動に矛盾が生じてしまいますが、あくまで本人の気持ちの問題ということにしてください
・前提作品『Ritter von Lutecia』
      『Nach dem eines Speerritters』

482:Das Erbe zur Zukunft①
08/08/30 15:00:12 28uAuMX+
第28話 「SECRET AMBITION」



少女には目指すべき目標があった。
幼き日に、孤独な暗闇から救い出してくれた母のようになりたい。それは裏を返せば、彼女の娘であることに対する免罪符を求めているのと同じであった。
だから掲げた理想も目指す正義も使用する魔法も、全てが母親の真似でしかなかった。
一度はそれに挫けそうになったこともあった。
自分がしていることは母親の真似でしかなくて、最初から開拓されている道を歩いているだけなのではないのかと悩んだこともあった。
そして、それは事実その通りであった。もしもこのまま時が進めば、自分は当然のように本局教導隊に入り、
多くの魔導師達に戦技を教える日々を送ることになっていただろう。
だが、その道中で感じ、得たものは紛れもない自分自身の内から出た感情であった。
きっかけは憧れだった、
始まりは憧憬だった。
何もかもが母親と同じで、けれど友を救いたいと思う気持ちだけは自分自身の誇りだった。
これだけは、誰の言葉にも左右されない、自分の内側に問いかけて見つけ出した答えなのだから。
だから、例え立ち塞がる敵がどれ程強大であっても躊躇しない。胸に刻んだ青臭い信念を、エゴイスティックなまでに貫き通す。
手にした力は、思いを貫く魔法の力。誰かの悲しみを撃ち抜く力。
その思いを胸に、ヴィヴィオは大空を力強く羽ばたいた。
自分という敵を打ち倒し、闇に囚われた友を救うために。

「アクセルシューター・・・・・・シュートっ!」

重い駆動音と共にカートリッジが炸裂し、三十二発の虹色の球体が不規則な軌道を描きながら聖王ヴィヴィオへと迫る。
誘導操作弾であるという利点を最大限に活かしたその軌道は、純粋に目標を追尾するものから相手の動きを先回りするもの、かく乱のためにわざとジグザクに飛ぶものなど、
複数の軌道を重ねることでさながらサーカスのアクロバットのように青空を縦横無尽に駆け回り、逃げ回る聖王ヴィヴィオと激しいドッグファイトを展開する。

「王の背中を舞うとは、不敬な弾だ!」

振り返りざまに聖王ヴィヴィオは砲撃を放ち、追尾するシューターを打ち消さんとする。すかさず、ヴィヴィオは思念制御でシューターを誘導、
まるで蛇が木の枝に絡みつくように極太の砲撃を避け、動きの止まった聖王ヴィヴィオの体に次々と着弾する。
立て続けに命中したシューターは一発だけでも鋼の装甲に穴を穿つ程の威力を秘めており、非殺傷設定であったとしても当たれば激しい苦痛が全身を襲う。
だが、朦々と立ち上がる白煙を睨みつけながらヴィヴィオは更にカートリッジをロードし、駄目押しとばかりにディバインバスターのチャージを開始した。

「ディバイン・・・・・・」

「見せてやろう・・・・・これが、王の戦いだ!」

「・・・・・バスタァァァッ!!」

白煙を振り払って姿を現した無傷の聖王ヴィヴィオに虹色の砲撃が直撃し、灰色の魔力光が落葉のように散っていく。
やはりと言うべきか、彼女の聖王の鎧は堅牢であった。精神を乗っ取られたことで魔力の性質まで変化してしまったのか、
その強固さはヴィヴィオのそれを遙かに上回っており、戦車をも容易く粉砕する砲撃を直に受けても僅かに仰け反らせる程の効果しか与えられない。

「この程度では、王の歩みは止まらぬ」

戦況を見守るシグナム達が驚愕の声を漏らす。
聖王ヴィヴィオはディバインバスターの直撃を受けてなお、前進を始めたのである。
ヴィヴィオが必死でリンカーコアを活性化させて魔力を注ぎ込んでも、その攻撃は聖王ヴィヴィオの肉体が纏う灰色の光に阻まれ、掠り傷一つ負わせることができない。


483:Das Erbe zur Zukunft②
08/08/30 15:00:59 28uAuMX+
「王とは媚びず、己が所業を省みぬものだ。受けて返す、それが我が王道よ!」

「奇遇だね、私も同じだ!」

光の奔流を割って繰り出された聖王ヴィヴィオの拳をラウンドシールドで受け流し、即座にアクセルフィンを羽ばたかせて離脱する、
すかさず後を追う聖王ヴィヴィオではあったが、その眼前にはお礼とばかりにばら撒かれたディバインシューターの群れが待ち構えていた。
アクセルシューターを習得しているヴィヴィオにとってその魔法は既に下位ランクに属するのだが、無詠唱でカートリッジを消費せずに発動でき、
尚且つコントロールのためにこちらの動きを止める必要がないという利点がある。直撃を食らっても僅かに怯む程度である聖王ヴィヴィオを前にして
その利点は微々たるものだが、それでも距離を取るには十分な隙となった。

「デバイスがない分、撃ち合いでは不利か・・・・・・・・・なかなか粘るではないか、私よ。そんなにこの娘を助け出したいか?」

「当然だ。セリカちゃんは、私の友達だ」

「言い訳にしか聞こえぬ」

「他に理由なんかない。友達っていうのはそういうものだ」

「共感できんな」

「戦う理由なんてそれだけで十分だ。聖王、お前は何のために戦う!?」

「ベルカの・・・・いや、我が国のためだ」

「その先には何がある?」

「永遠の富と繁栄」

「平和じゃないんだね」

「我が王道の綻びに気づけたか、私よ」

先程までのやり取りが嘘のように静まり返り、空に静寂が戻ってくる。

「ないんだね、終わりが・・・・・・・」

世界は一つではない。次元という海を隔てて無数の世界が混在しており、未だ確認されていない世界も無数に存在する。
聖王が掲げた王道は、確かに全てを支配することができれば争いはなくなるかもしれない。だが、肝心の支配すべき世界に果てなどというものは存在しない。
無限に広がり続ける次元世界に終わりはなく、祖国に恵みをもたらす聖王の戦いが終わることはない。そして、だからこそ彼女の国は繁栄を続けることができたのである。

「一つの世界に終始すれば、或いは見つけられたかもしれぬ。だが、止まってしまえば衰えるのが世の理だ。滅びぬためには戦い続けるしかない。
果てなき永遠の闘争が唯一救いの道であると悟った聖王の血族は、そのために自ら戦地に赴き、誰よりも濃く鮮血に染まることを選択した」

平穏という名のぬるま湯に浸かってしまえば、その先に待っているのは緩やかな衰退だけ。さながらコップの水が水蒸気となって蒸発してしまうかのように
緩慢な滅びの坂道を転がっていく。己の国を永遠に存続させることを願う聖王にとって、それはどうあっても受け入れ難い真理であった。
故に、彼女達の一族は戦い続けたのである。平和に甘えず、平穏をかなぐり捨て、自ら混沌を求め、戦争という一つの経済の下に自国を置くことを考えだした。
そして、そこまでしてなおベルカは滅んだ。

484:Das Erbe zur Zukunft③
08/08/30 15:01:35 28uAuMX+
「私よ、お前の言う通り私は一人であった。常に最前線で戦い、国のために全てを投げ出した。友と語らう舌も夫と見つめ合う瞳も持たなかった。
だが後悔などしておらぬよ。ベルカは私に夢を見せてくれた。我が統治の下で、繁栄を謳歌する民の笑顔は何よりも勝る至高の悦楽であった。
だから私は戦おうと決めた。どれだけ多くの屍を積み重ねようとも、その微笑みだけは絶やしてはならぬと」

「矛盾している。国民のためと言うなら、どうして国民に犠牲を強いる!?」

「その痛みを忘れぬために、我々は民の先陣を切るのだ」

「私には理解できないな。誰かを傷つけてまで幸せになりたいなんて思えない」

「ならば問い直そう。私よ、我が王道に代わるものをお前は保持しているか? 私を否定するには、その代わりとなるものを持つことが最低条件だ」

聖王ヴィヴィオに問われ、ヴィヴィオは僅かに逡巡した後にレイジングハートの先端を彼女に向ける。それが、今のヴィヴィオの偽らざる本心であった。

「答えはなしか」

「正義と政治に王道なしだ。今はなくても、いつか見つけ出す」

「保留というわけか」

「私にできることなんて、砲撃を撃つことくらいだ。エリオお兄ちゃんみたいに速く走れないし、ルーお姉ちゃんやキャロお姉ちゃんみたいに召喚獣の使役もできない。
クロスレンジは得意じゃないし、戦術なんて全然思いつかない。ううん、それだけじゃない。私は自分の周りのことで手一杯だ。
困っている人を助けたいと思っていても、セリカちゃんみたいに世界中の人を救いたいとは思わないし、あなたみたいに自分を犠牲にしてまで国に尽くしたいとも思わない。
ママみたいに最後まで戦える保障もどこにもない。私は死にたくないし戦いたくもない。それでも・・・・・・・・・」

毅然と見上げた視線は強く、その表情は二十歳にも満たない子どもとは思えぬ程引き締まっていた。
自分の口にしていることがただのわがままであるとわかっていながら、それでもヴィヴィオは目を背けずにきちんと自分と向かい合って胸の内を言葉へと変える。

「それでも、私の力で助けられる人がいるのなら、私は戦う」

「目の前で苦しむ人を救うためにか?」

「それしかできることがない」

「お前の目の届かぬところで苦しむ人間は?」

「私じゃ救えない」

「見捨てるのか?」

「私一人じゃ救えない。けれど、私は一人じゃない。私にできないことはその人がしてくれる。私よりも速く走れる人、魔法の上手い人、力持ちの人、頭のいい人、
そんな人がたくさんいる。だから、私はその人達にできないことをする。私は世界を救うんじゃない、そこに住む人を助けるんだ。それが私の戦いだ」

今日という日まで、ヴィヴィオは多くの人間の生き様を目にしてきた。
愛する者のために全てを投げ出した者がいた。
大切な家族のために己の心を殺した者がいた。
胸に描いた理想のために命を削った者がいた。
目指した夢を叶えた者がいた。
自分の正義に押し潰された者がいた。
様々な価値観が生まれては消え、我を通すこともままならない生き難い社会。それが今のミッドチルダだ。だが、だからこそ生きていける。
多くの思いが交錯するから争いが生まれるのだとしても、その争いの中で芽吹く繋がりは何よりも大切でかけがえのないものなのだから。
だからヴィヴィオは、ただ純粋に助けたいという願いのみを糧に魔法の力を振るい続ける。差し伸べた手を掴んでくれたかどうかという結果よりも、
手を差し伸べるという行為自体が何よりも尊いのだから。

485:Das Erbe zur Zukunft④
08/08/30 15:02:06 28uAuMX+
「私はみんな大好きだ。だから、私はみんなと生きていく!」

例えそれがもう一人の自分を否定することになろうとも、人間の持つ可能性に賭けたかった。
かつて自分を命懸けで救ってくれた人の涙が、生きとし生きる全ての生物に宿っていると信じたいから。

「お前は・・・・・騎士なのだな」

「そしてお前は王だ」

「王が戦わずして、誰が国を守る?」

「世界を守るのは王じゃない、人だ」

「何故、そこまで信じられる?」

「絶望する理由がないだけだ」

「その言葉、欠片でもこの娘に伝えてやればどうだ?」

「そのための言葉だ。私は最初から、お前なんかと戦っていない!」

虚空から出現した虹色の糸が聖王ヴィヴィオの四肢に絡みつき、身動きが取れぬように拘束する。
同時に、レイジングハートのカートリッジ機構が駆動して高純度の魔力がデバイス内の回路を循環し、槍の先端に虹色の光が凝縮していく。

「私が戦っているのは、セリカちゃんだけだ! お前は邪魔をするなぁっ!!」

叫びと共にエクセリオンバスターが放射され、聖王ヴィヴィオの姿が虹色の奔流に呑み込まれる。
だが、次の瞬間にはバインドを引き千切った聖王ヴィヴィオがカイゼル・ファルベを翼のように押し広げながらヴィヴィオの砲撃を二つに割り、
海面から飛び出たトビウオのように獲物目がけて滑空する。

「それでこそ私だ。私は誰にも理解されず、孤独の中で戦う姿こそよく似合う」

「言葉にすればわかりあえるさ。でなきゃ、人は一人じゃ生まれてこない。みんなと分かち合うために、人は孤独を恐れるんだ」

繰り出された拳をラウンドシールドで受け流し、擦れ違い様にショートバスターを連射して牽制、即座にアクセルフィンで横滑りして用意しておいた
ディバインシューターを展開する。敢えてコントロールを度外視して弾数のみを優先したそれは瞬く間に視界を埋め尽くし、海流のように蠢きながら前進していく。

「その孤独が、多様な価値観が全てを滅ぼす。わからぬ訳ではないだろう!」

極太の砲撃がディバインシューターの壁を焼き払い、滑空した聖王ヴィヴィオの蹴りが容赦なくヴィヴィオの体を捉える。
瞬間、ヴィヴィオもまたレイジングハートを振るい、ショートバスターを発射する。打撃と砲撃がそれぞれの聖王の鎧とぶつかり、
飛び散った火花を垣間見る暇さえ与えずに両者の体は独楽のように回転しながら宙を舞った。

「孤独が争いを生むのなら、それを拭う幸を王が与えれば良い。王とはそのための機械、国を動かす心臓だ! 末端でしかない騎士が敵うと思うな、私よ!」

「王様がそんなんだから、争いはなくならないんだ。言葉にすれば分かり合える、思いをぶつければ分かり合える。そのために人は生きているんだ!」

聖王ヴィヴィオが放った魔力弾の雨を、ヴィヴィオは乱射したシューターで迎撃し、再び砲撃のチャージを開始する。
その隙を突いて聖王ヴィヴィオは拳を握り、追い縋ろうとするディバインシューターを蹴散らしてヴィヴィオへと迫る。

486:Das Erbe zur Zukunft⑤
08/08/30 15:02:45 28uAuMX+
「ディバイン・・・・・・」

「はああぁぁぁぁっ・・・・」

「・・・バスタアァァァッ!!」

拳が届く寸前でチャージを終えたヴィヴィオがディバインバスターを発射し、轟音を上げながら虹色の閃光が迫りくる聖王ヴィヴィオを飲み込まんと大気を焦がす。
攻撃に集中している聖王ヴィヴィオに回避の術はなく、直撃を受けて仰け反った隙にバインドを展開、SLBのチャージタイムを稼ぎつつ一気に距離を取るのが
ヴィヴィオの狙いだ。だが、攻撃が間に合わないことを事前に気づいていた聖王ヴィヴィオは即座に用意しておいた砲撃を放ち、威力の相殺を図る。

「なるほど、この娘の記憶の通りだ。お前はお前の母とよく似ている。どれだけ苦しんでも絶望せず、屈しようとしない。諦めるということを知らない。
だが、それがこの娘を追い詰めた。お前の母に憧れ、その強さを目指し、そして手が届かなかったと知るとこの様だ」

光の奔流を割って飛び出した拳が、ヴィヴィオの聖王の鎧とぶつかって鈍い音を響かせる。思わず耳を塞ぎたくなるその音は、人間の骨が砕ける音だ。
しかもそれは一度だけではなく、強固な聖王の鎧を半ば強引に突破せんと力を込める度に、不快な旋律と化して断続的に空に響き渡るのだ。
また、砲撃の威力を殺し切れなかったのは、聖王ヴィヴィオの右腕に深い裂傷が起きており、そこから痛々しいまでに真っ赤な血が流れ落ちているのを見て取れた。

「セリカちゃん!?」

「考えることを放棄し、自分であることを拒絶した挙句、何の見返りも求めずに自己犠牲だ。駒として使い潰す以外の価値など、この娘には存在しない」

「止めろ・・・・・それ以上、セリカちゃんを傷つけるな!」

「喜べ、セリカ・クロスロード。お前は遂に、成りたかった英雄になれるのだ。お前は死して私に勝利をもたらし、私は目の前の私の体へと移る。
生前の私と同じ遺伝子だ、きっとよく馴染むであろうな。その喜びと共に、お前のことを褒めてつかわそう。それが私の与えたお前の役目だ」

灰色の虹がヴィヴィオの聖王の鎧を徐々に侵食し、ゆっくりと拳が不可視の壁を突き抜けていく。それは同時に、彼女の右腕がどんどん壊れていっているのと同義であった。

「自分を取り戻して! 聖王に好き勝手させるなんて、セリカちゃんらしくないよ! このままじゃ、セリカちゃんが死んじゃう!」

「無駄だ、私の言葉はこいつに届かぬ!」

「死んだらそこで終わりなんだよ! もう戦えないんだよ! みんなの笑顔を守りたかったんじゃないの!? ここで死んだら、
今日まで頑張ってきたこと全部が無意味になるんだよ! 思い出して、どうしてここに立っているのかを、何故この道を選んだのかを! 
例えその結果が間違っていても、みんなから否定されたとしても、その道を選んだからここにいるんだってことを忘れないで! 
どうして戦いたいと思ったのか、その気持ちを否定しないで!」

直前まで迫った拳は実際の大きさよりも遙かに大きく見え、触れた先から砕けていってしまうような凶悪な気配を纏っていた。
その死の具現ともいえる拳を前にして、ヴィヴィオは視線を逸らさずに聖王ヴィヴィオの内に沈んでいるセリカに向けて語りかける。

「私だって悩んだ。自分がやってしまったことに後悔して、躓いて、それでもみんなから笑われるような小さな理由に縋ってここまで来た。
小さい頃の私は弱くて泣き虫で、転んでも一人じゃ起きられなくて、みんなにもたくさん迷惑かけて、私なんかいない方が良いんだって思ったこともあって
・・・・・・・それでも、私のことを守るって抱きしめてくれた人がいて、その人に憧れたから・・・・・・その憧れが私を私にしれくれるから、
私はここに立っている。それが正しいのかどうかはわからない。けれど、その気持ちに間違いがないことだけはわかる。憧れることが間違いだなんて、
誰にも言わせない。思い出して、セリカちゃんがみんなの笑顔を守りたいって思った理由を、高町なのはに憧れた訳を! 自分を否定してでも戦おうって決めた原点を
・・・・・・・・胸に宿った、熱い彗星のような鼓動を・・・・・・・その憧れだけは、忘れたりしないで・・・・・・セリカちゃん!」

虹の鎧が砕け、死の拳が唸りを上げる。
その戦いを見守っていた人間の誰もが目を背け、ヴィヴィオ自身ですらここで終わりなのかという諦観の念を抱く。だが、その一撃が頭蓋を砕くことはなかった。
まるで場違いな静寂が空に戻ってくる。
目の前の出来事にヴィヴィオが息を呑み、聖王ヴィヴィオもまた驚愕に眉をひそめる。その視線の先には、突然動かなくなった聖王ヴィヴィオの右腕があった。

487:Das Erbe zur Zukunft⑥
08/08/30 15:03:20 28uAuMX+
「う、動かぬ・・・・・・」

「セリカちゃん・・・・そこに・・・・」

「く・・・・このおぉっ!!」

ヴィヴィオが何かを言おうとした瞬間、苛立ちで顔を歪ませた聖王ヴィヴィオが空いている左手を翻して無防備なヴィヴィオの体に魔力弾を撃ち込み、
怯んだところで放たれた回し蹴りが側頭部を殴打する。容赦のないその一撃にヴィヴィオは耐え切れず、視界が暗転すると共に何か見えない力に体が引きずられていく。
堕ちているのだ。
頭部への一撃で意識が飛び、アクセルフィンを維持できなくなったようだ。
どこかに機能障害が発生しているのか、レイジングハートに内蔵されているはずの自動浮遊機能も発動してくれない。

(届いたのに・・・・・・今、確かに届いたのに・・・・・・私の力じゃ、ここが・・・・・限界・・・な・・・の・・・・・)

衝撃が体を走る。
どうやら、殴られているらしい。放っておけばこのまま地面に激突して潰れたトマトのようにみっともない姿を晒してしまうというのに、
あの尊大な王様は不様に死ぬことすら許してくれないようだ。
その時、声が聞こえた。
母から譲り受けて以来、ずっと一緒に戦ってきた鋼の家族、レイジングハートの声が。

《まだです》

(レイジング・・・・ハート・・・・・・・)

《まだあなたは、全てを出し切っていない。あなたにはまだ、やれることが残っているはずです》

(けど・・・・・ブラスターモードは・・・・・・・・)

ヴィヴィオの脳裏に、感情のままにブラスターモードを起動させてセリカを傷つけてしまった時の出来事が蘇る。
あれは自分も敵も傷つける破滅の力。相手の意思など無視して悪魔の如き暴力で捩じ伏せる恐ろしい機能だ。使えば己の命だけでなく、誇りまで失うことになる。

「あんな思いは・・・・・もう嫌だ・・・・・・・」

《それは私達の力です。ですが、あなたの力は・・・・・あなただけの力は、まだ残されている・・・・・・・》

「私に・・・・・そんな・・・・も・・・・」

《否定しないで下さい。王であることも兵器であることも忌むべきことかもしれません。ですが、その力は罪なき無垢なあなたの可能性です。
あなたの一部なのです・・・・・・だから・・・・・・・・・》

奇しくもそれは、かつてセリカが口にしたのと同じ言葉であった。

『あんたの一部に変わりないんだから、きっちり最後まで付き合いなさいよ』

かつて聖王の力に悩んでいた時、セリカが自分にかけてくれた言葉。同情でも否定でもなく、ただ事実だけを述べた冷たい言葉。
けれど、その言葉のおかげで自分の力と向き合うことができた。彼女がいたから、自分は魔導師であり続けることができたのだ。

488:Das Erbe zur Zukunft⑦
08/08/30 15:04:05 28uAuMX+
《だから・・・・・・ご自分まで否定しないでください、マスター!》

そしてヴィヴィオは、己の奥に眠る忌むべき力を解放する。
痛みに震える体に鞭を打ち、全身を引きずる重力に逆らって、際限なく澄み渡る意識のままに、ヴィヴィオは脳裏に描いた雷光を現実へと侵食させた。





その瞬間、誰もがヴィヴィオの敗北を確信した。
意識を失い、落下していくヴィヴィオに迫りくる聖王ヴィヴィオの拳から逃れる術は最早ない。堅牢を誇る聖王の鎧も同じ聖王の前には無力であり、
レイジングハートが自動詠唱したプロテクションもほとんど意味をなさなくなっている。だが、その絶望は他の誰でもない、ヴィヴィオ自身の手によって扶植された。

《Sonic Move》

雷光が空を駆け抜ける。
その場にいた誰もが、己の目を疑った。必殺を賭して拳を放った聖王ヴィヴィオですら、いったい何が起きたのか把握し切れておらず、
突如として姿をかき消したヴィヴィオの姿を求めて周囲を見回している。
そんな中、唯一ヴィヴィオの動きを追うことのできたごく一部の者は、彼女の佇まいにある人物の姿を重ね、歓喜と畏怖の入り混じった戦慄に背中を震わせた。

「あ・・・・あれ・・・・あれは・・・・・」

その速さを誰よりも目に焼き付けていたエリオが声を震わせ、隣にいたキャロが堪え切れずに涙を浮かべてエリオの腕に縋りつく。
シグナムは万感の思いでヴィヴィオを見上げ、ティアナは驚愕の余り言葉を失っていた。

「あれは・・・・母さんの魔法だ」

聖王の魔の拳から逃れるためにヴィヴィオが使用した魔法。それはエリオとキャロの母であり、シグナムの好敵手であり、ティアナのかつての上司であり、
そしてヴィヴィオのもう一人の母親であった、フェイト・T・ハラオウンが得意としていた加速魔法、ソニックムーブであった。





一度として使ったことがないにも関わらず、寸分の狂いなく発動したソニックムーブの感触を、ヴィヴィオは言葉に表すことができなかった。
嬉しいのか悲しいのかもわからず、自然に溢れてくる涙を止めることができない。
ただ、この瞬間から自分はさっきまでと違う位置に立つことができるようになった、それだけは理解できる。

「いくよ、レイジングハート」

《Yes, my master》

再びソニックムーブを発動し、光速の矢と化したヴィヴィオが聖王ヴィヴィオへと迫る。それは余りに無謀な突撃であった。
ヴィヴィオの領分は誘導操作弾と砲撃による中・長距離戦であって、接近戦はどうしても聖王ヴィヴィオに劣ってしまう。
いくら魔力が残り少ないからといって、一か八かの突撃を仕掛けるのは愚の骨頂と言っても良い。
だが、稚拙なはずのヴィヴィオの一撃は呆気なく聖王ヴィヴィオの防御を打ち崩し、聖王の鎧を中和しつつ振り下ろした拳が聖王ヴィヴィオの顔面を捉える。
それは、スバルが習得しているシューティングアーツの打撃コンビネーション、ストームトゥースであった。

「動きがさっきと違う!? 何だ、その力・・・・・・」

「これは私の兵器としての力、お前にはない、私だけの力だ。私はもう逃げない、この力とも真正面から向き合って生きていく
・・・・・・・・ここからが、正真正銘の全力全開だ」

手の平から生みだした魔力球が破裂し、眩しい輝きが聖王ヴィヴィオの視界を焦がす。その隙を突いて再び背後に回り込んだヴィヴィオは、
まるでエリオのようにレイジングハートを両手で構え、聖王ヴィヴィオを串刺しにせんと大気を引き裂く。

489:Das Erbe zur Zukunft⑧
08/08/30 15:04:42 28uAuMX+
「馬鹿め、殺気が殺し切れておらぬ!」

振り返りざまに放った回し蹴りがレイジングハートの先端を打ち砕く。その瞬間、今にも串刺しにせんと槍を振るっていたヴィヴィオの姿が溶けるように掻き消え、
そのすぐ後ろから染み出るように本当のヴィヴィオが姿を現す。

「幻影!?」

「紫電一閃!」

炎を纏った拳が聖王の鎧を焼き、周囲に猛烈な陽炎を生みだした。その歪んだ空間を引き裂き、聖王ヴィヴィオのハイキックがヴィヴィオの頭蓋を砕かんと迫る。
しかし、その一撃は今までのどの防御魔法よりも強力な障壁が完膚無きまでに防ぎ切り、聖王ヴィヴィオはヴィヴィオに触れることすら敵わなかった。

「トーデス・ドルヒ」

「くっ・・・・調子に乗るな!」

聖王ヴィヴィオはバックステップを踏みながら死角から迫る短剣を破砕、砲撃の態勢に入る。
それを見たヴィヴィオはすかさず用意しておいた術式をレイジングハートに走らせ、激発音声を紡いだ。

「縛って、鋼の軛!」

瞬間、遙か眼下の大地を突き破って出現した無数の虹色の針が、滑空する聖王ヴィヴィオを縫いつけんと迫る。
そして彼女が回避に気を取られている内にヴィヴィオは風に流れる雲の中から適当なものを見繕い、足下に放電を纏う魔法陣を展開する。

「サンダァァァァ、レイジィッ!!」

「回避・・・・間に合わん!」

幾筋もの落雷が降り注ぎ、バリアで防ぎ切れなかった電撃の余波が聖王の鎧に弾かれて霧散する。
これが純粋魔力の砲撃ならば或いは鉄壁の防御を抜けていたかもしれないが、電撃を伴う分その破壊力はヴィヴィオの代名詞ともいえる
ディバインバスターを遙かに上回り、過負荷でかなりの魔力を消耗させることができたはずだ。

「まったく、次から次へと面白い手品を見せてくれる」

僅かに体を帯電させながら、聖王ヴィヴィオは唇の端を釣り上げる。体はお互いにもう限界のはずなのだが、彼女はまるで堪える素振りを見せていなかった。
骨折している上に肉が裂けている右腕もまるで気にならないようで、片腕のハンデにも付け入ることができない。
何とかして大技をぶつけて聖王ヴィヴィオを昏倒させなければ、こちらが先に魔力切れを起こしてダウンしてしまう。

(残りはマガジン一個と四発・・・・・・・何とか動きを止められれば・・・・・・・)





二人の聖王の戦いは、時を追うごとに苛烈さを増していった。
数々の魔法を自分の内より汲み上げて自分だけの戦術を構築し、果敢に攻めるヴィヴィオと、彼女の怒涛の攻めをまともに食らってもない倒れない聖王ヴィヴィオ。
当初こそこれはヴィヴィオの個人的な戦いだからと傍観していた面々は、激しさを増すその戦況に、最早自分達が介入することは不可能であると悟っていた。

490:Das Erbe zur Zukunft⑨
08/08/30 15:06:11 28uAuMX+
「ソニックムーブにサンダーレイジ、それに幻術も・・・・・・」

「わたしのブーステッドプロテクションとルーちゃんのトーデス・ドルヒ」

「ヴィータのアイゼンゲホイルとザフィーラの鋼の軛、そして私の紫電一閃」

「見て、あのレイジングハートの構え方はエリオの槍術よ」

「それにシューティングアーツも・・・・・・・・・」

「これが、レリックウェポンの真の力・・・・・兵器として生み出されたヴィヴィオに組み込まれた、高速学習能力・・・・・・・」

高速データ収集による攻撃の無効化及び学習は、ヴィヴィオが生み出される際に付属された機能であり、
幼い頃のヴィヴィオはこの機能に従って無意識の内に魔導師や騎士に興味を示し、本能的に身を守るために戦い方を学習していた。
そして、一度でも学習した魔法はデータとしてヴィヴィオの内に記録され、それを無効化する能力を彼女は有している。
だが、なのはの娘として普通の人々と共に生きると決めたヴィヴィオは、その力を嫌悪し、コントロールの方法を身につけてからは
自主的に使用したことは一度としてなかった。その力を自覚する度に彼女は、自分が人間ではなく兵器であるということを思い知らされるため、
ずっと忌み嫌ってきたのだ。それはヴィヴィオが母親と同じ戦い方に固執していたことからも容易に想像がつく。
だが、ヴィヴィオが今使用している魔法や技は全て忌み嫌っていたその力を使って学習したものであり、彼女はそれを用いて戦うことに何の躊躇も抱いていない。
それは彼女が自分の思いを貫くためにその力と向き合い、遂に自分の一部として受け入れることができたからだ。
しかもそれは、ただ戦い方を模倣しているだけではない。最初は拙く、形を真似ていただけの粗悪な模倣でしかなかったが、
次第に自分の戦い方に合わせて最適化し、他の魔法や技術と複合させることで全く新しい戦術へと昇華させていっている。
それはもう誰の真似でもない、ヴィヴィオが一人で完成させた、ヴィヴィオだけの戦い方だ。

「ヴィヴィオの中には、あたし達やなのはさん・・・・・みんなの思いが生きているんだ」

何気ないスバルの呟きに、その場にいた全員が同意する。

「ヴィヴィオは多くの人達から学んだことを、思想や信念をただ受け継いだだけじゃない。それに対して自分で考え、形を変えて自分だけのものへと成長させている。
過去から継承した思いを、今という自分の中で育み、未来へと繋ぐ・・・・・・・・・ヴィヴィオには、人間の持つ無限の可能性が秘められている」

「人の欲望から生み出された彼女が、人間の希望を象徴している・・・・・・みんな見えるか、ヴィヴィオは今、自分の力で羽ばたいているぞ」





全てを投げ出し、考えることを止め、混濁する意識の闇に呑まれたはずだった。外の戦いから目を背け、何もない世界で自己が消えるまで漂い続ける不確かな存在。
そんな残骸に成り果てたはずなのに、気付けば自然と浮かび上がろうとしていた。

(何でかな・・・・・・・何で、こんなに必死なんだろう?)

感覚すら消えた孤独の闇の中で、どうして自分はこんなにももがいているのだろう。
もう自分の役目は終わったはずなのに、どうしてまだ戦おうと足掻いているのだろう。
大好きなあの人はもういないのに、どうして消えたくないと念じているのだろう。

491:Das Erbe zur Zukunft⑩
08/08/30 15:07:03 28uAuMX+
『セリカちゃん!』

あいつが呼んでいる。
友達だから、ただそれだけの理由でボロボロに傷つきながら、それでも懸命に羽ばたいて立ち向かってきた少女。
あいつを見ていると無性にイライラしてくる。お節介焼きで優柔不断で何かにつけて悩みまくる上に、人を疑うことを知らない純真な魔導騎士。
ハッキリ言って大嫌いの部類に入る人間なのに、どうしてこんなにもあいつのことが気になるんだろう。どうして、あいつの言葉がこんなにも胸に突き刺さるんだろう。

(ああ・・・・そうか・・・・・・あいつだけだ、私を否定したのは・・・・・・)

みんなの笑顔を守りたい。そんなご大層な夢を、彼女だけが真剣に取り合ってくれた。そして、そのために暴走した自分を真っ向から否定してくれたのも、あいつだけだ。
思えば、自分のためにこんなにも真剣になってくれた人間はいなかった。誰もが自分の夢をせせら笑うか、無知な子どもを見るような目で見下す中、
彼女だけがその夢を正しいと言ってくれた。そして、そのための方法を間違えていると断じてくれた。
自分に生き方を教えてくれたシエン・ボルギーニですらしてくれなかったことを、彼女だけがしてくれたのだ。友達だから、ただそれだけの理由で。

(違う・・・・・友達って、理由にならない・・・・・・・理由もなく真剣になっちゃう相手が・・・・・・友達って言うんだ・・・・・・・)

どんなに拒絶しても彼女は諦めず、最後の最後まで自分の名前を呼んでくれた。
どんなに傷つけても躊躇わず、最後まで自分のことを友達と呼んでくれた。
友達だから真剣に向き合ってくれて、自分の怒りを受け止めてくれて、間違っていることを指摘して、一番大事なところは認めてくれた。

『例え自分を否定しても、戦おうって決めた原点を・・・・・・・・胸に宿った、熱い彗星のような鼓動を・・・・・・・その憧れだけは、忘れたりしないで』

シエンに命じられたから戦った。彼のために自分を投げ出し、偽りの聖王となってあいつを傷つけた。何でそんなことをしようと思ったのか。
どうして自分の存在がなくなってでも、平和な世界を作りたいと願ったのか。その答えは、自分の中のずっと深いところで今もまだ燻っている。

(だって、楽しそうだから・・・・・・みんなが笑っているのを見ると、私まで笑えるから・・・・・・・だから、それが私の原点
・・・・・・英雄に憧れたのもそれが見たかったから・・・・・あの人が・・・・・なのはさんが笑っていたから・・・・・・・・・)

強くて美しかった高町なのは。だが、セリカを惹きつけて止まなかったのは、彼女が災害現場から救出した子どもを抱え上げて微笑んでいる写真だった。
子どもの無事を、ただ純粋に喜んでいた彼女の微笑みに、自分は目を奪われた。

(私もあんな風に笑いたくて・・・・・あんなに眩しく笑えるのなら、私も魔導師になって、みんなの笑顔を守りたかったから
・・・・ずっと側で、誰かの笑顔を・・・・・・ああ、そうか・・・・何でこんな思い違いを・・・・・・・)

何もない暗闇に向けて、セリカは自嘲する。

(私はみんなの笑顔を守りたいんじゃなくて、みんなの笑顔が見たかったんだ)

けれど、力を求め続けて最初の思いを忘れてしまった。目的を見誤って、自分を犠牲にして戦うなどという考えを抱いてしまったのだ。
ただ守りたいという思いに駆られて、前提から間違えて、その先にあるものが何か知ろうともせずに、
ずっとそれが自分の願いだと思い込んで、今日まで走り続けてしまったのだ。
だが、気付くのが遅すぎた。やり直したくてもやり直すだけの力がもう残っていない。もう一度戦いたくても、指先一つ動いてくれない。
心のどこかでまだ、あの人と同じ場所に逝きたいと思っているから、どうしても最後の一歩を踏み出せない。
あの人の声が聞こえたのは、正にその時だった。

                                                              to be continued

492:名無しさん@ピンキー
08/08/30 15:08:14 mpNHUJug
支援するぜい

493:B・A
08/08/30 15:11:48 28uAuMX+
以上です。
本当はこれと次話を一話で終わらせるはずだったのですが、分量増えまくったので2つに分けました。
よって一話余分に増えて予定終了話はきっちり30。
いや、エピローグが一話で収まればの話ですが。

494:名無しさん@ピンキー
08/08/30 15:34:42 mpNHUJug
あう、支援間に合わなかった……代わりにB・A氏にこれをつGJ
熱い戦闘、いいなあ……自分も今戦闘シーンを書いてるけど面子の都合上ちっとも
熱くならないぜ。

最近のペースが落ち着いてるのは規制に引っかかってる職人氏が多いのかな?



495:名無しさん@ピンキー
08/08/30 15:54:44 7l5HUJ9n
最近氏が来ないので心配だったぜ
GJ!
もうこの展開熱すぎるだろ!!!
間違いなくBGMは水樹じゃなくてスパロボのラスボス戦のだな
とうとうヴィヴィオの思い届くのか?
次回も燃えさせてくれ!

496:名無しさん@ピンキー
08/08/30 16:28:59 Nd1ghgp7
>>492>>494
エロパロ板の一番上の宣伝スレは一体何のために設置されてるのかと小一時間(ry

497:名無しさん@ピンキー
08/08/30 17:13:55 vcd1H6yj
>>496
完全に部外者ですまんがどういう意味なのか教えていただきたい
純粋にわからん

498:名無しさん@ピンキー
08/08/30 17:17:51 GskjJmSX
>>497
つスレッド924

>>493
GJ!いやもう分量気にせずゆっくり納得いくまで書いてください。

499:名無しさん@ピンキー
08/08/30 17:29:13 Iucvsigy
やっぱ分割で書いてると
容量オーバーとかしやすいな。
投下しちゃった分は直せないし。
難しいな。

500:名無しさん@ピンキー
08/08/30 17:39:25 pEkfoCp7
>>498
717しか、ないんだけど……?
壺、じゃ見えないのかな。

501:名無しさん@ピンキー
08/08/30 17:54:57 GskjJmSX
クグっても出てこない?
俺もdat落ちとかの情報載せてるスレで見聞きしただけなんだが

>//----------------------------------------【編集後記】
>識者の方からアドバイスをいただきました。昨日の「アダルト専用サーバのご案内スレ」ですが、
>通称「スレッド924」と呼ばれるスレで、『板内での告知・宣伝などを目的とした「書き込めない」「落ちない」
>「ちょくちょく上がってくる」特殊なスレッド』(2ちゃんねるwikiより引用)だそうです。

>114 名前: 名無しさん@お腹いっぱい。 [sage] 投稿日: 2008/08/28(木) 06:40:08 ID:riV2p/mE
>>113 運営が張ってる広告専用スレ

>イパーン人は書き込めないんだけど、書き込みの操作をすることで
>連投規制の支援ができる、便利なスレ

502:名無しさん@ピンキー
08/08/30 17:56:52 vcd1H6yj
>>501
サンクス やっと見えた

503:ぬるぽ ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:32:50 Ym+ydcd5
 スマン、ありえねーくらい間を空けてしまった。申し訳ない。80スレの頭で書いた寿司のやつの続きです。
15レスくらい使わせてもらいます。途中で規制される可能性があるので、ちょっと時間がかかるかも。

・前編、後編の二回。今回は後編
・エロくない作品
・ほのぼのと真面目の入り交ざった作品
・時間軸はA’sのちょい後の軸と、Stsのちょい前の軸の混合
・NGにしたい人はトリップかIDでよろしく。

~~前編のあらすじ~~

 なんやかんやで、八神家の五人は、ヴィータのゲートボールの知り合い・鈴木老人の寿司屋にやってきた。
もうすぐ、鈴木老人の店はなくなってしまうのだが、果たして……


↓以下、本編スタート

504:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:34:12 Ym+ydcd5
「―うむ。はやてちゃんにしぐなむさんにしゃまるさんにざふぃーらさん、じゃな」
「うちのヴィータが、いつもお世話になってます」

 鈴木老人にぺこりと頭を下げるはやて。

「いやいや。わしらこそ、びーたちゃんのおかげで、随分と外に出るのが楽しくなったもんじゃ。
 今日はみなさんのために、赤字覚悟で思い切りいい魚を仕入れてきた。半分やけくそじゃ」
「えっ? いや、そんな……」
「ええんじゃ、ええんじゃ。どうせもうすぐ店はなくなるんじゃ。炎が消える前の最後の瞬きじゃ」

 そう言って鈴木老人は豪快にふひゃひゃと笑ったが、事情が事情だけに、八神家の五人は笑えない。
豪快な笑いの中に、どこか寂しげなものが混ざっていることに気が付くのは、容易かった。

「あの……」
「はは、すまんの。では、そろそろ始めようかの」

 そう言うと、鈴木老人は準備を整える。ではここから、八神家が味わった寿司のうち、五品を紹介しよう。


505:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:35:28 Ym+ydcd5
~~秋刀魚の握り~~

「へぇー、秋刀魚って、お寿司で食べられるんですか?」

 秋刀魚の調理法というと、塩焼きしか思いつかない人がほとんどではないだろうか。
ところがどっこい、実はこの大衆魚、寿司ネタとして非常に鮮烈な味を持っているのだ。

「世間一般ではあまり知られてはおらんようじゃがのぅ。めちゃくちゃうまいぞ」

 料理の知識にはそこそこ自信のあるはやてだが、秋刀魚が寿司ネタとして優れた面を持つということは、
皆目知らなかった。驚きと同時に、はやての口から疑問の声が漏れる。

「知らんかったわぁ……でも、秋刀魚のお寿司って全然見ぃひんね。どうしてやろ?」

 漁獲量が昔より減ってきているとはいえ、秋刀魚はまだまだスーパーに行けば見ることができる魚だ。
そんなポピュラーな魚なのに、寿司ネタとして使われるという話をあまり聞かないのはどうしてだろうか。

「秋刀魚は鮮度が落ちやすくてのう。鮮度が落ちると、寿司ねたとしての味は極端に落ちてしまう。
 つまりは鮮度が勝負の魚なんじゃ。今日は特別に、仕入れてもらった。では―」

 その言葉を境に、鈴木老人の周りの空気がスッと変わった。

「握るぞい」

 真剣な眼差し。いつもと違うその様子に、ごくり、と生唾を飲むヴィータ。
と、次の瞬間!まるで鷹が獲物を攫うかのように、木桶に右手を突っ込んで中の酢飯を掴み取る鈴木老人。
鮮やかな手つきでそれを丸めると同時に、左手には秋刀魚の切り身がのっかっている。
丸めた酢飯を切り身の上に置いた―かと思ったときには、既に寿司の形がしっかりと形成されていた。

(なんと……この老人、只者ではない!)

 目の前の老人から放たれるオーラに、思わず背筋をブルッと震わせるザフィーラ。

(な、なんなの、この人……!)

 圧倒されるその仕事ぶりはまるで―目の前の一人の老人に、光が凝縮していくようだと感じるシャマル。

(くっ、馬鹿な……! この私が、目で追うのが精一杯だと!)

 自分がライバルと目する少女のスピードに勝るとも劣らない、と驚愕するシグナム。
凄まじい勢い。それでいて雑な感じは全くなく、丁寧な仕事ぶり。あっという間に、十貫の寿司が出来上がった。

「さあ。どうぞ、召し上がれ」

 秋刀魚の上には、一般的なワサビではなく、生姜がのっかっている。ワサビより、生姜のほうが相性がいいのだ。

「……んっ、はぅん……!」
「……っ……おいし……」

 口内にじゅわっと広がる脂の味が、なんとも鮮烈。おっとりとした(?)感じではなく、勢いのある味の脂だ。
青魚にありがちな臭みがほとんど感じられないのは、薬味の生姜の効果だけではなく、下処理が丁寧だからだろう。
身もとろけるような食感。その秋刀魚の身が、ほのかなだしの香りがする酢飯と非常によく合う。
素材がよいのはもちろんだが、職人の腕によって見事に素材の魅力が引き出され、一流の寿司となっていた。
内心、たかが秋刀魚だと思っていたはやては、その認識を大幅に改めた。

(うわぁ……秋刀魚だと思って馬鹿にしてたら、あかんわあ……)


506:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:37:27 ESYNTb+e
~~赤貝の握り~~

「ほぅれ、ご開帳じゃ」
「うわぁ! すごい、真っ赤!」

 鈴木老人が貝を開くと、中から真っ赤な水が溢れ出した。赤貝が赤いのは、身だけではない。
赤貝の身や体液が赤いのは、人間の血液が赤いのと同様、ヘモグロビンによるものである。

「うちの店で扱っている赤貝は、本物の赤貝じゃぞい」
「えっ? 本物って……」
「世の中に出回っている赤貝の大部分はのう、実は偽物なんじゃ」

 実は、赤貝は最近やっと養殖ができるようにはなったものの、まだまだ高級品。
一流の寿司屋などでないと、なかなか取り扱うことができない。
そこで、赤貝とよく似た貝を赤貝と称して売るというのが、いかにも日本人の考えそうなことである。
残念ながら、読者の諸君が寿司屋や缶詰で食べているのは、十中八九、赤貝の偽物だ。

「この世界って、結構いい加減ねえ……」
「うぬ……我々も、何が真で、何がそうでないか、それを見極める目をしっかりと持たねばならんな」

 ざわざわする八神家を、鈴木老人が諭した。

「だからのう、よく知っておいて欲しいんじゃ。本物の味を、な」

 目の前に置かれた赤貝の握りは、『大人の事情』などまるで知らないかのように、美しく輝いていた。
鼻にスッと抜ける爽やかな香り。それでいて、底の見えないような奥の深い味。
本物の味がこの一貫に凝縮されている―まだ世の中をほとんど知らない10歳のはやてだが、そう思った。

~~炙り金目鯛の握り~~

「へぇー、金目鯛を握り寿司に……」

 秋刀魚の時と同様、またしてもはやての口から「へぇー」が飛び出した。
はやては、金目鯛の料理法というと、甘辛く煮付けることしか思い浮かばなかった。

「これはのう、とある駅の駅弁を参考にして作ってみたんじゃが」

 皮を残した金目鯛の切り身を、炭火で軽く炙る。香ばしい匂いが立ち込めた。
その切り身と酢飯を、光速で寿司に仕立て上げていく手つきの鮮やかなこと。

「うまい……」
「なんという……上品で軽い味だ……!」

 その美味さに、ザフィーラとシグナムが揃って声を上げる。
さっと炙ることによって、適度に身が引き締まった金目鯛は、しっとりと、それでいて洗練された味がした。
炙られて香ばしくなった皮の食感が、金目鯛の淡白な身の旨みを引き立てる役割を果たしている。
金目鯛にある独特のクセは感じられない。酢飯との一体感も素晴らしい。

507:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:38:06 ESYNTb+e
~~四海巻き~~

 四海巻き、とは断面が四角い巻き寿司のことである。
巻いて包丁で切ると、四角い断面にはマグロや胡瓜・玉子焼きやでんぶなどがカラフルに、美しく配置される。
見たことがある、という人も少なくないだろう。
だが、作り方が非常に難しく、最近ではこれを巻ける職人が少なくなってきたらしい。

「ほれ、こうやって、こうして……完成じゃ!」

 全く迷いがなく、鮮やかな手つきで四海巻きを完成させる鈴木老人。包丁でカットすると、断面が現れる。

「うわあ~……」
「わあ、きれいやなぁ……」

 ヴィータとはやてが、その美しい断面にうっとりとした声を揃って上げた。
他の三人も、感嘆の眼差しで四海巻きの芸術的な断面を見つめている。食べる前に、まず鑑賞。

「食べるのが勿体無いわね……」

 名残惜しそうに四海巻きを眺めた後、ゆっくりと口に運ぶシャマル。

「……っ!!……!」

 まるで、仕事帰りのサラリーマンが一杯やり始めたときのような、くはぁーっという表情を浮かべた。
なんという美味しさ。様々な具が渾然一体となり、それを寿司飯が見事にピタッと一つに纏めている。
寿司飯とは、なんという偉大なものなのだろう。
目で見て楽しみ、舌で味わい愉しむ。これぞまさしく、四海巻きの真骨頂だ。


508:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:38:44 ESYNTb+e
~~炙り大トロの握り・塩~~

「いよいよ、最後の一品と行こうかのぅ。らすとにふさわしい一品を用意したぞ」

 柵取りされたマグロの大トロが、神々しいまでの光を放つかのように、どーんと登場した。
見事な刺身包丁によってその身は大きくカットされ、次には炭火で炙られる。
その極上の大トロを、豪快且つ繊細な技で寿司にしていくのは、まさに、ごっど・おぶ・寿司職人。

「うは……」

 誰からともなく、ため息が漏れた。大きくカットされた大トロは、シャリの上から悠々とはみ出している。
表面を軽く炙った黄金に輝く大トロに少々塩を振り、その上に白髪ネギと大根おろしがちょこんと載っていた。

「これが大トロ……私、食べるの初めてやわ……」

 以前、友人達と青森に行った時には、あの有名な『大間のマグロ』を食べる機会があったが、
あの時食べたのは赤身だった。大トロの部分は食べていない。
(某友人がマグロの目玉という爆弾を頼んだりはしたが)
こんなにいいものを自分が食べてもいいのだろうか、という背徳感と、美味しいものに対する期待感。
逡巡しながらも、はやては炙り大トロの握りに、ぱくりと食い付いた。

「……っ!!」

 はやての身体に、電撃が走った。

「……んはぁっ……」

 まるで、性的に最も脂がのった時期の女性が絶頂でもしたかのような表情と声を上げるはやて。
よく、大トロを食べたときの表現として、「口の中でとろけていくようだ」というのがあるが、まさにそれだ。
程よく炙られて香りの高まった大トロがみるみる融けていき、甘い脂となって口の中で唾液と混ざり合っていく。
白髪ネギと大根おろしが、その脂をなんとも爽やかなものに昇華させている。

 まさしく、至高の一品!

509:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:39:20 ESYNTb+e
「―どうじゃ。満足してくれたかい?」

 ニコニコとしながら、目の前の五人を眺める鈴木老人。

「すげー……こんなにうめーものが、この世界にはあったのか……」
「これが寿司……単なる食べ物ではなく、まるで完成された芸術品のようだ。素晴らしいです、御主人」
「シャマル。お前も少し、この方を見習ったほうがいい」
「な、な、な、なんですって!」

 ザフィーラに掴みかかるシャマルを横目に、はやては満面の笑みを浮かべながら鈴木老人に言う。
今のはやての表情は、心も身体も満ち足りた者にしかできないものだろう。

「私―食べ物で感動したん、初めてです。ほんまに美味しかった。ありがとうございます」
「うんうん。最高の褒め言葉じゃ。みなさんに喜んでもらえて、わしも嬉しいのう」

 ずずずず、とお茶をすするはやて。ぷはぁ……と一息ついた後、こう言った。

「それにしても、こんなに美味しいお寿司を握れる人が、こんなに近くにいたなんて、知らんかったわぁ……」

 その言葉に、鈴木老人の眉がピクリと動いたように見えた。そう、はやての言う通りだ。
なぜ、これほどの腕を持つ人物が、このような目立たない場所で埋もれているのだろうか。
先ほどから抱いていた疑問を払拭すべく、シグナムが、ゆっくりとこう切り出す。

「御主人。あなた、只者ではありませんね」
「はは、そんなたいしたもんじゃないぞい。わしはただの老いぼれじゃ。ふひゃひゃひゃひゃ……」
「……私は、食べ物の世界のことは正直よくわかりません。
 しかし、あなたの持つ雰囲気は一流そのもの、ということだけは確信を持って言うことができます。
 そのようなお方が、なぜこんな目立たないところに……」

豪快に笑い飛ばす鈴木老人を、じっと見据えるシグナム。
その視線に、それまでニコニコと相好を崩していた鈴木老人が、ふと真面目な顔つきになった。

「……なかなかに鋭い目をお持ちの娘さんじゃのう。ここまでやってしまうと、さすがに隠せんか」

 ふぅーと大きく息を吐いた後、どかっと椅子に腰掛けて、鈴木老人は語り出した。


510:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:40:07 ESYNTb+e
「……昔はな、銀座の一流店で職人をしておった」
「銀座で!?」

 鈴木老人の言葉に、はやてがビックリした声を上げた。

「ぎんざ? じーちゃん、どこだよそれ」

 はやて以外の四人は銀座を知らない。驚愕の表情を浮かべるはやての横で、ぽかーんとしている。
はやてが、興奮気味の声で四人に話し出す。

「みんな、銀座っていうのはな!(……大幅に中略……)そういうところなんや」
「「へぇー」」
「鈴木のじーちゃん、そんなにすごいところにいたのに、どうしてこの街に来たんだよ」

 ヴィータの問い掛けに、鈴木老人は複雑そうな表情になった。

「……何かが、違うような気がしての……」
「……?」
「はやてちゃんやびーたちゃんには難しい話かもしれんがの。あの店に来るのは、接待のお客ばかりじゃった」
「せったい? なんだそりゃ?」

 案の定、接待という用語がわからないヴィータ。

「簡単に言うと、仕事じゃ。仕事のために食べに来るんじゃ」
「仕事で? あたし達みたいに、鈴木のじーちゃんの寿司を食べたいから来るわけじゃないってことか?」
「まあ、そういうことじゃな。もっと言うと、わしの握った寿司を味わいたくて来るんじゃなくて、
 わしの寿司を仕事の『道具』として使うために来店する。そういうのが何か、違うような気がしての……」
「…………」
「純粋に、わしの寿司を『美味しい』と言ってくれるお客さんが見たくてのう。ここに越してきたんじゃ」
「……よくわかんねーな。そういう世界のことは」

 わかんねーな、と言いつつ、ヴィータは鈴木老人の気持ちが少しわかったような気がした。
時空管理局に入局して一年、複雑な『大人の世界』というものを少しは見てきたのだ。
鈴木のじーちゃんは、大人の世界の複雑な部分に絡め獲られちまったんだな、と。

「はは……びーたちゃんには難しすぎたか。いや、すまんかった。気にせんでくれ」

 力なく笑う鈴木老人に、シグナムが再び問い掛ける。

「……ところで―よろしいのですか、御主人? この店をもうすぐ畳むと伺いましたが」

 その途端、沈痛な面持ちになる寿司職人。しばらく黙り込んだ後、苦々しく呟く。

「……仕方あるまい。魚は年々値上がりしておる。いいものも手に入りにくくなってきておる。
 わしのような小さな店では、もう限界じゃ。これ以上はどうしようもない……」
「あなたには、まだ十分な力がある。このまま終わってしまうのは実に惜しい。何とか、ならないんですか?」

 何とかしようと一生懸命に頑張った結果がコレだと、そうわかっていながらも、
シグナムはそう言わずにはいられなかった。

「いいんじゃよ、もう。じじいはいささか疲れたわい……」

511:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:40:48 ESYNTb+e
 帰り道―明るく輝く満月の下を、車椅子に乗ったはやてを囲みながら、八神家は淡々と歩いていた。

「……現実というのは、残酷なものだな」

 ポツリ、とシグナムが漏らす。その表情は、沈痛なものだった。

「もういい、とおっしゃっていたが、内にはまだ、この道を歩み続けて生きたいという情熱があるのだろう。
 そうでなければ、今日のように素晴らしいものを作ることなどできはしまい」
「そうね……」

 シャマルも、同調する。

「あれほどの腕と情熱を持ちながら、己の道を途中で断念せざるをえないとは……」
「どうにか、ならないものかしら?」
「……我々には、どうすることもできん。実に、無力だ」

 管理局や魔法関係のことならばともかく、この世界の一般人に過ぎない鈴木老人の店の経営など、
はやて達にはどうすることもできないのは明白だ。

「……残念やけど、なんともならんやろうなぁ。住む世界でも替えない限りは……」

 はやての言葉に、ふぅーっ一同がため息をついた。
だが、しばらく歩いた後、はやては突如自分で言った言葉を、ん?と思った後、あっ!と思った。

(そうや……! 住む世界を、替えれば……)



「―みっどちるだ? そりゃあ、一体どこじゃい?」
「えっと、まあ……とりあえず、一度来てみませんか?」

 ミッドチルダは外国のとある街だ、と適当に誤魔化した上で、はやてとヴィータは説明した。
上述したように、ミッドチルダには生の魚介類をそのまま食するという文化がない。
そもそも、生に限らず、魚介類を食するということがあまりない。
需要が少ないわけだから、魚というものに商品価値はそれほど認められず、したがって安価。
ミッドチルダでなら、何とか寿司屋をやっていけるのではないかと考えた。
(もっとも、市場が発達していないという別のリスクはあるのだが)

512:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:41:34 ESYNTb+e
「……せっかくじゃが、やめにしとくわい。あんた達に迷惑はかけたくないんでの……」
「そんな、私達は迷惑なんか―」
「いやいや、ええんじゃ。ありがとう、はやてちゃん、びーたちゃん」

 諦めというかなんと言うか、もはや達観してしまったかのような、その表情。
だが、店の奥に引っ込もうとした鈴木老人を、ヴィータの声が引き戻した。

「……あれは、嘘だったのかよ?」
「……?」
「この前、『おいしい』と言ってくれる人が見たくて、って言ってたじゃねーか。あれは嘘かよ」
「…………」
「いろいろ理由をつけて……本当は、うまくいかなくなるのが怖くて、びびってるだけじゃねーのか」
「こら! ヴィータ!」

 いつもなら、はやてに「コラ!」と言われれば、そこで終わりである。だが、ヴィータは引かなかった。

「この前の鈴木のじーちゃん、すごく生き生きしてた。本当はまだ、お店、続けたいと思ってるんだろ?」
「いや、わしは……」
「鈴木のじーちゃんの寿司、すごくおいしかった。あたし、また食べたい」

 訴えるヴィータの眼差しは、真剣そのもの。真っ直ぐに目の前の老人を捉えている。
その視線に射すくめられ、鈴木老人は押し黙ってしまう。場に沈黙が流れた。

「……びーたちゃんの言う通り、度重なる苦境で、わしは臆病になっとったのかもしれんのう……」

 その言葉が出たのは、唐突だった。

「わしの寿司をまた食べたい、か……そう言われてしまうと、やめてしまうわけにはいかんのう。
 どこまでやれるかは、わからんが……」
「それじゃあ……」



 そもそも、魔法の存在を知らない人間を、ミッドチルダに連れてくること自体、問題といえば問題なのだが、
そこは管理局の有力魔導師や実力者と太い繋がりがある八神家。
周囲の協力の下、なんやかんやでうまいことやり、『鮨の鈴木・みっどちるだ本店』をOPENさせてしまった。

―ミッドチルダ初の寿司屋が開店した裏側には、こういう事情があったわけである。


513:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:42:12 ESYNTb+e





514:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:42:44 ESYNTb+e
「……のう、はやてちゃん。どうやら随分とお疲れのようだが、大丈夫かえ?」
「えっ?」

 鈴木老人に声を掛けられ、はやてはハッとした。
気分転換のために管理局を抜けて外に食べに来たというのに、どうしても仕事のことが頭から離れない。
せっかく食べにきた寿司も、それほど味わった気がしない。

「なにか、悩みでもあるんじゃないかえ?」
「いや、そんな……そういうわけや、ないんですけど……」
「ふひゃひゃひゃ、隠しても無駄じゃよ。顔にしっかりと書いてあるぞい」

 やはり、数十年間、カウンター越しに客と接してきた職人は違う。人を見る目は伊達ではない。
隠そうと思っても、あっさりとこちらの心の中を見破られてしまった。
しばらく黙っていたはやてだが、やがて、ぽつりぽつりと喋り出した。

「……今の仕事が、あんまりうまくいってないんです……」
「それはそれは……大変じゃのう……」

 うんうんと頷きながら、鈴木老人は次の寿司を握り始める。
鮮やかな手つきで握られたそれは、きらきらと輝きを放ちながら、はやての目の前に置かれた。
だが、はやては心ここにあらずといった感じで、手をつけようとしない。

「あんまり、一人で抱え込まんほうがいいと思うがのぅ……ささ、召し上がれ」
「……私にしか、できない仕事なんです。私が頑張らな、みんなに迷惑が……」

 鈴木老人に勧められて、ようやくはやては目の前の寿司を口に入れた。

「…………」

 絶品のはずなのに。とっても美味しいはずなのに。
はやては思う。これを美味しいと思えないなんて、きっと自分は心が病んでいる証拠だな、と。
でも、仕事の手を緩めたり、ましてや休むわけにはいかない。新しい部隊はどうしても必要なのだ。
今、自分が頑張らなかったら、全てがパーになってしまう。

「ふーむ……」

 はやての言葉を聞いた鈴木老人は、しばらくの間じっと考え込んでいたが、いきなりこう切り出した。

「……はやてちゃんは、寿司が握れるかい?」
「え?」
「わしと同じように、寿司を作ることができるかえ?」
「いや、そんな……私には、無理です」
「まあ、そうじゃな。自分で言うのも何じゃが、みっどちるだで寿司を握れるのはわしだけじゃ。
 そういう意味では、この仕事はわしにしかできんのう」
「…………?」

 鈴木老人の言葉の意図がわからず、はやては黙って話を聞いていた。

515:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:43:32 ESYNTb+e
「じゃがのう、はやてちゃん。わしは一人でこの仕事をしとるとは思ってはおらんぞ。
 例えばのう……寿司を握るためには魚が必要じゃ。じゃが、わしは魚の獲り方など知ってはおらん。
 寿司を握るためには、魚を獲ってきた人から、買わなきゃならん。お米や酢も同じじゃ」
「…………」
「他にもあるぞい。この店―建物はわしでは造れん。誰かに建ててもらわにゃならん。
 電気やがすや水道も、わしの力ではどうにもならん。誰かに送ってもらう必要がある。
 いや、そもそもここでこうして寿司を握れるのは、あの時みなさんが助けてくれたからじゃ」
「…………」
「こうして考えてみると、わしゃあ、世の中のことの万分の一もできん。なんとも非力じゃ。
 人間なんて、みなそんなもんじゃないかえ? 一人でできることなど、たかが知れておる。
 つまりの―わしがここで寿司を握るためには、様々な人の助けがどうしても必要になるわけじゃ」

 その言葉に、はやてはハッとした。

「はやてちゃんも、同じじゃないかえ? わしゃ、仕事の内容がどんなものかまでは知らんがのぅ。
 はやてちゃんにしかできないものだとしても、その仕事をするはやてちゃんが生きていくためには、
 様々な人の助けが必要なはずじゃ」
「……私……」

 自分は一人なのだと、いつしかそう思うことにはやては慣れてしまっていた。
だが、鈴木老人の言葉を聞いてはやては思った。
今の自分が一人に追い込まれてしまっているのは、他でもない、自分自身のせいではないか……、と。

「今のはやてちゃんを見ておると、一人で全部抱え込もうとしているように見えるのう。それはいかんぞい。
 一人で抱え込まずに、もっと周りを見て、頼ってもいいと思うが、どうじゃろうか」
「御主人の言う通りです、主」

 今まで黙って話を聞いていたシグナムが、力強く頷いた。
はやての肩をポンと叩きながら、優しくも強い口調で言う。

「我々では力不足かもしれませんが……あなたの力になりたいと、私は思っています。
 あなたの力に、あなたの支えになってくれる人間は、他にもたくさんいます」
「シグナム……」
「あ、あたしも!」

 出遅れたと思ったのか、座っていたヴィータが、勢いよく立ち上がって叫んだ。

「あたしは、その……はやてがどんな仕事をしているかは、詳しくはわからないけど……
 はやてに文句を言う奴がいたら、そいつ、ぶっ飛ばしてやるから……」
「ヴィータ……」

 たどたどしい感じのヴィータの言葉だったが、気遣いは充分に伝わってきた。

516:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:44:20 ESYNTb+e
「わしも、はやてちゃんの力になりたいと思うとる。はやてちゃんが、わしの寿司を食べてくれて、
 笑顔になってくれて、また明日から頑張ろうと思ってくれるなら、わしゃあ、死ぬまで寿司を握るぞい」

 三人の言葉を聞いて、はやては胸が熱くなった。人間、辛いときほど周囲の支えがありがたく感じられるものだ。
ありがとう、と言おうとした。だが―

「はやて……?」
「主……」

「あ……」

 気が付いたときには、溢れ出した涙が、はやての頬を伝っていた。

「え……?」

 慌てて目をこすって涙を拭こうとしたが、一度溢れ出した涙の奔流を止めるのは、無理だった。
人前では涙は見せるまいと、そう決めていたはずなのに。

「あかん……なん、で……」

 まだ18歳の女の子でしかないはやてがこの世界で生きていくには、いろいろと辛いことが多すぎた。
辛かったことはその度に、心のゴミ箱に放ってきたつもりだったが、完全に消去することなどできなかった。
誰かにこの辛さをわかって欲しかった。
でも、自分は頑張らないといけないから、この辛さも一人で処理しなければならないと勘違いしてしまっていた。

「……ごめん、な……私……あり……が……」

 自分のことを支えてくれる優しい人達は、こんなにたくさん、近くにいたのに……。
どうして、一人だなんて思ってしまったのだろうか。どうして、孤独だと思ったのだろうか。
どうして、一人で頑張らなければいけないなんて、思い込んでしまったのだろうか。

 優しくて、温かい存在が見えていなかった自分が、悔しくて、情けなくて、申し訳なくて。

 はやてはひたすら、泣いた。

517:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:45:11 ESYNTb+e
「主……」

 両手で顔を覆ったまま、うっうっと嗚咽しているはやての肩をグッと抱き、頭を撫でるシグナム。

「はやて……」

 こういう時、どうすればいいのかわからなくて、心配そうな表情を浮かべることしかできないヴィータ。
鈴木老人は優しくはやてに話しかける。

「……笑ってくれんか、はやてちゃん。さっきは力になりたいと言ったが、わしもはやてちゃんから力をもらいたいのじゃ。
 はやてちゃんが笑ってくれれば、わしゃあ、いくらでも頑張れる気がするんじゃがのぅ……」

 人は誰も一人では決して生きてはいけない。助けて、助けられて、そうやって生きていくのだ。
これからは一人で抱え込まずに、もっと周りの人達に頼っていこう。
逆に、自分が誰かの力になれるなら、精一杯頑張って、力になってあげよう。
そう思うと、はやては幾分、心が楽になった気がした。

 ゆっくりと顔を上げると、自分のことを優しく見守ってくれているシグナム、ヴィータ、寿司職人・鈴木老人。
明日からも大変なことがたくさんあるだろうけど、自分は一人じゃない。はやてはもう一度認識した。

「ふひゃひゃ、しんみりしてしもうた。よぅし、次の一品はさーびすじゃあ!好きなものを頼んでくれて構わんぞ」
「ホントか、じーちゃん!それじゃ、あたしは車海老!」

 ここぞとばかりに、値段の高いものを何の躊躇もなく注文するヴィータ。

「こら、ヴィータ!お前、少しは遠慮というものをだな……御主人、私は鮑を」
「―ってオイ!言ってることと、やってることが違u
「主、御主人の温かい心遣い、ありがたく頂戴いたしましょう。何になさいます?」

 澄ました顔で、聞こえないふりをするシグナムがおかしくて、はやては思わずクスッと笑う。
まだ涙の残る目で、それでも精一杯の笑顔を作って、はやては言った。

「私は……炙り大トロで―!」



お わ り

518:ぬるぽ ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:46:10 ESYNTb+e
(  ;∀;)イイハナシダナー

 自分がこうしてSSを書いて投稿できるのも、様々な人の助けがあってこそ。
スレ住人が相互感謝の気持ちを忘れないように、という意味も込めての作品でした。
作中の通り、我々なんて世の中のことの一万分の一のことも知らないんだから、お互いに感謝し、
助け合って生きていきませう。……誰か一緒に映画行ってくれませんかのぅ orz

 これの続編として、機動六課設立の見返りとして上層部のじーさん共に身体を要求されて陵辱されるはやて、
という鬱話を書こうと思ったが、来月末から三ヶ月の長―い研修に入るので、多分もう年内に書くことはないかな。
というわけで、よいお年をwwwwwwwww

519:名無しさん@ピンキー
08/08/30 20:48:46 pEkfoCp7
>>518
GJ!
関西在住ならご一緒にw
あー、すし食いたくなってきた。


ふと、ナガジマ家もこんな感じでミッドチルダに来た、だったら面白いなあと思った。

520:名無しさん@ピンキー
08/08/30 21:09:37 ELUTYbDD
>>518
GJ!
面白かった。
いいね、鮨。
普通にいい話で、しかも前半が美味い話だった。
サンマ食いてぇ。どっかのホームベースが肝美味いって言ったたのを思い出したよ。

521:名無しさん@ピンキー
08/08/30 21:24:10 oM+1rAej
>>518
GJ!!80スレに戻って読んだけどすごく面白かったです!!
何かこう、ほのぼのとしてて思わず八神家を応援したくなるSSですね。

研修の合間にネタを考えるのもいいのでは?

522:名無しさん@ピンキー
08/08/30 21:25:33 xoiGq/ad
このスレやたら無駄に続いてるのに
保管庫どんだけ見づらいんだよ、タグとかいらねえから
普通にカプ同士で分けろよ

523:名無しさん@ピンキー
08/08/30 21:29:48 GskjJmSX
>>518
GJ!炙り焼きは本当に旨いですよね

524:名無しさん@ピンキー
08/08/30 21:32:10 WQey7ztn
>>522
またお客様気分のバカか
見づらいなら整理する側になって自分でやれ

525:名無しさん@ピンキー
08/08/30 21:36:49 jY/fodx1
保管庫にあるのが全てカプもので分類できると正気で思ってるんだろうか……

526:名無しさん@ピンキー
08/08/30 21:45:48 JS4Gp9ok
>>518
寿司を食べるときの喘ぎ声が無駄にエロすぎワロタ

527:名無しさん@ピンキー
08/08/30 22:25:24 93ZEUBGI
レスが反映されねええええええええ

528:名無しさん@ピンキー
08/08/30 22:25:42 93ZEUBGI
あ、PINKには書けた

529:名無しさん@ピンキー
08/08/30 22:33:29 Ua5S0Aku
なんか送信したはずのレスが誤爆でもなくどこかに消えるバグが出てるね。
俺もさっきなった。

530:名無しさん@ピンキー
08/08/30 22:43:44 93ZEUBGI
>>529
どうやら全域的に治ったみたい
スレ汚し失礼した

531:詞ツツリ ◆265XGj4R92
08/08/30 23:05:17 aRkUxruT
ここ連日の雷雨でビクビク状態の日々です。

突然ですが、「しんじるものはだれですか?」の続きを30分から投下してもよろしいでしょうか?

30KBで、今回はエロはありません。

532:名無しさん@ピンキー
08/08/30 23:07:58 oM+1rAej
>>531
tkpls

533:名無しさん@ピンキー
08/08/30 23:23:45 JICSeX+z
>>531
カモン!

ところで誰か>>532の意味を教えてくれないか

534:名無しさん@ピンキー
08/08/30 23:24:56 LLbxQ3Lx
>>533
投下プリーズかな多分。

535:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92
08/08/30 23:30:30 aRkUxruT
とにかくプリーズと読めましたw
では、投下開始します。








 何故わたしは彼を好きになったんやろうか。
 わからへん。
 いつの間にか好きになっていた。
 だから恋に理由なんかない。
 ただただ、私は愛し続けるやろう。

 この命が尽きるまで。



 しんじるものはだれですか?




 某月、某日。

「それで、君はちゃんと仕事の重要性を理解しているのか?」

「うぅ、すんません」

 アースラの執務官室。
 持ち主の心を表したのか質素極まる机の上で、一人の人物がため息を吐き出していた。
 黒い制服、黒髪に黒い瞳、日系人を思わせる父譲りの色を受け継いだ少年とも青年とも言えない人物が机を指で叩きながら、ジロリと目の前の少女を睨んだ。
 彼の名はクロノ・ハラオウン。若干十四歳でアースラの執務官に配属されたアースラの切り札とも言われた少年。
 その彼が年月を重ね、十八歳になり、低かった身長が見違えるほど高くなった成長した姿だった。
 そして、その前でカーペットにしゅんっとなって小さくなっている少女の名は八神 はやて。
 地球では小学六年生、しかし一度時空管理局に入れば特別捜査官として名を馳せる才女だった。
 しかし、その威厳は欠片もない。


536:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92
08/08/30 23:31:29 aRkUxruT

「コレを見てくれ。これは何に見える?」

 そこにあったのは何個も0が続いた数字と、ずらずらと書き綴られた被害報告と苦情の数々。
 それを直視し、はやてはあははーっと明後日の方向に目を向けて。

「ええと、給料明細?」

「ち・が・う。これは君が―正確には君たち三人が吹っ飛ばした建物の被害額とその報告だ」

 ニッコリとクロノが微笑む。
 全てを温かく照らすような表情―けれど、それははやてにはまるで地獄に落ちろとファックポーズを取る閻魔のように見えた。

「訊ねたいんだが、なんで毎回毎回君たちは簡単な鎮圧任務でも被害を出すのかな?」

「えーと、なのはちゃんが全力全開で砲撃を―」

「ああ。それはなのはからよく聞いているよ、何故か涙を流しながら私がやりましたぁああ! だからごめんなさいい! とうるさく言っていたから、始末書200枚を手書きで提出するように命じておいた」

 うわーとはやては心の中で引き攣った声を上げた。
 報告書を200枚、しかも手書き。
 夏休みの溜まった宿題を一日でやるよりもきつい仕打ちだと思った。

「なのははまだミッドチルダ共通語に不慣れだからね、いい勉強になるだろう」

 しかも普段は日本語でいいのに、ミッドチルダ共通語で書くように命じたらしい。
 爽やかな笑みで告げるクロノはそのことに何の罪悪感も感じていないようだった。
 呼び出される2時間前に聞いたなのはの「悪魔なのー!!」という悲鳴はきっとこの笑みを見て叫ばれたものに違いないだろう。

「あとさらに聞いたところだと、フェイトも被害を出してるな。なになに? 出来れば尋問用に捕縛してほしかった人物を、重傷に追い込んで、面会謝絶の重態だとか?」

「えっと、それはやねー。戦闘中でフェイトちゃんが背後から飛んできた魔力弾をよけて、反撃でサンダーブレイドを打ち込んだんやけど……うっかりその傍で水場に立っていたターゲットまで一緒に感電して……」

「なるほどなるほど。まあ咄嗟の事態だからね、反撃の種類も選べないだろうから、とりあえずフェイトには力尽きるまで大型スフィアからの砲撃でディフェンス訓練を受けるように指示しておいたよ」

 ……なんという悪魔。
 あのうすっぺらいフェイトちゃんの防御力やと、スフィアからの砲撃なんか受けたら火星までぶっ飛んでまうやろ。
 と、はやては思ったが口にはしなかった。
 一時間前に聞いた「お兄ちゃんの鬼ー!!」というフェイトに叫び声を上げさせた、クロノのとても楽しそうな笑みを目の前にしているのだから。

「そして、はやて」

「な、なに?」

「君は二人と一緒になって戦闘をしていたはずなんだが―君には指揮官権限を与えてあるんだ。何故二人を止めなかったのかな?」

「え、えーと……私もいっぱいいっぱいやったというか、二人の暴走を止めるのは無理だったというか」

 人差し指を突き合わせながら、はやてが言い訳をするとニコニコとクロノの笑みが深まっていく。
 にこにこと笑みが柔らかく、優しくなっていくのだが―反比例するかのようにはやての背筋に恐怖が走った。
 逃げたい。
 今すぐリイン、ユニゾンやー! と叫びながら全力疾走で逃げ出したくなる。
 けれど、それは許されない。
 何気に両手でS2Uとデュランダルの待機状態のカードを握り締めた彼からの追撃が背中に直撃し、某正義のヒーローに蹴り飛ばされる怪人よりもぶっ飛ぶことになるだろう。
 それぐらい彼は怒っている。間違いない。


537:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92
08/08/30 23:33:05 aRkUxruT

「く、クロノ君……怒ってる?」

「いや、僕は怒ってないよ? 精々君の指揮官適正を見極めた局員に苦情と、あとついでに判断力を鍛えるために極限まで追い詰めるか、そうだそれには模擬戦休憩無しで僕が相手してやろう、大体八時間ぐらい。としか考えてないな」

「めっちゃ怒ってるやんかー!!!」

 どこからどうみても大激怒だった。
 研修期間中の預かりになっている三人が問題を起こせば苦情が飛んでくる身だ。
 今は退艦したリンディの替わりに艦長になっているあの飄々爺さんと違って、クロノは責任感が強いとも言える。
 飛んでくる苦情の一つ一つをしっかりと受け止め、その問題性を理解しているのだろう。
 だから、彼はきっとこう思っているはずだ

 僕の教育―いや、調教が足りなかったんだと。

「あかん! 調教されてまう!」

「は?」

 ついに脳まで春になったのか、と冷ややかな目でクロノがはやてを見つめるが、被害妄想で満杯な小学六年生の割には耳年増な少女はいやいやと身体を捻っていた。

「ああ、私はきっとクロノ君に酷い目にあって、お嫁にいけなくなるんやね……」

「はぁ……ていっ」

 ゴガンといい音が響いた。
 あいたー! と叫んで悶絶するはやてが頭を押さえて、クロノは起動状態にしたS2Uで肩を叩きながらため息を吐く。

「ふざけるようなら、さっきなのはとフェイトに科したペナルティを両方共こなしてもらってもいいんだが?」

「え、あ、いえ! ごめんなさい、真面目にやります! 許してください!」

 ぺこぺこと頭を下げるはやて。
 誰しも命は惜しかった。
 なのはの精神をガリガリと削って、SAN値がゼロに限りなく近づくような拷問も。
 フェイトの肉体をゲシゲシに苛め抜いて、新しい領域の扉が開きそうな拷問も真っ平御免だった。
 今のクロノならディフェンス訓練をさせながら、始末書を書かせるような無理難題も押し付けてくるだろう。

「しかし、はやて。どのような問題でも、現場責任者―つまり指揮官が背負う責任は大きい。それを指揮し切れなかったのははやて、君の責任なんだぞ?」

「それはわかっとる」

 キリッと顔を真顔に変えて、はやてはしっかりと返事を返した。
 おふざけだった表情から一変した顔だった。
 うん、とクロノがどこか満足したように頬を緩めると、S2Uを待機状態に戻した。

「まあ今後からはさらに注意するように。同じようなことが頻発するようだったら、リイン無しでマルチタスク三重処理の訓練を受けてもらうからな。それぞれミッド式とベルカ式の広域結界構築に、自分へのブーストの術式演算だ」

「うへー、なに、その衝突必死の術式チョイス」

「それをこなしてこそのマルチタスクだろう? 君はレアスキル分、所持魔法が多いんだ。誰よりも多くの魔法を使いこなすべきだ、持っているだけでは腐るだけだからね」

 淡々と厳しい要求を告げるクロノの発言は間違っていなかった。
 はやてはかつての闇の書―蒼天の書を受け継いだ夜天の主。
 レアスキル蒐集を所持し、ざっと数えても三桁を超える魔法を記憶している。
 しかし、その全てが使いこなせているとはいえない。


538:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92
08/08/30 23:33:37 aRkUxruT
 たった三年前までは単なる小学生だったのだし、魔導師になった経緯も異常とも言える出来事でだ。
 魔導師の力と技を手に入れただけで、その後は必死に知識を詰め込んで、俄仕立ての魔導師になった。
 その際には目の前の人物からも多くの師事を得ている。
 それこそ、先生と呼んでもおかしくないほど―

「まあそれは後の課題として、はやてにもしっかりと何かをしてもらうぞ」

「う」

「他の二人にも申し訳ないからな、贔屓だーっと怒られるのは不本意だ」

 クロノはそういいつつも困った様子もなく、頬に指を立てて何をしてもらうのか考え始めた。
 どんな難題が飛び出してくるのか、冷や汗たらたらではやてが待っていた時だった。

『クロノくーん? まだお説教中―?』

「エイミィ。なんだ?」

『なんだじゃないよー、説教が長いのはいいけどね。そろそろ予定座標への次元航海を開始するから、その前に武装隊とのミーティングをするんじゃなかったの?』

「ああ」

 うっかり忘れていたとばかりにポンッとクロノが手を打つ。
 僕としたことがっと、少しだけばつ悪そうに口元を緩めると―不意にクロノの目がはやてを見つめた。

「なんや?」

「いや、丁度いい戦力がいたなと思ってね」

「へ?」

 ニヤリとクロノが口元の脇を歪めて、笑った。

「いい機会だ。現場の空気を味わうといい」

 へ? とはやてが首を傾げる中、クロノは静かにS2Uを展開させて、告げた。

「遺跡調査、僕と付き合ってもらうぞ?」




539:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92
08/08/30 23:34:55 aRkUxruT


 あらゆる次元世界を航海する海の役割として未探査世界の調査が存在する。
 そして、その中でもアースラは無人世界―まだ文明が発達していない、或いは文明が滅び去った世界の探査を目的としていた。
 各主要世界からの連合機構であり、多次元世界の代表として文明世界との接触と交渉するには人員も足りず、権限も足りない。
 決して劣るというわけではないが、必要とされている役目が違うのだ。
 本来ならば第97管理外世界の接触もまたアースラの権限から超えているものだった。
 A級ロストロギア・ジュエルシード。
 幾多の被害を齎したロストロギア・闇の書。
 この二つに広大な惑星の一つの町で立て続けに発生したのは如何なる運命なのか。
 誰かの策略か。
 それとも気まぐれな神の導きか。
 誰も知る由はない。
 知ることも出来ない。
 シナリオを描く運命の導き手と接触することなど誰にも出来ないのだから―




 転送ポートから降り立った大地の上、砂塵が舞う大気。
 空は砂塵の雲に覆われて、薄暗く、眩く、不透明。
 有害物質の混じった砂塵は設定を調整したバリアジャケットが遮断し、複数の魔導師たちが降り立っていた。
 目的は一つ、この世界で発見された古代文明の遺跡。
 そこでの調査結果の回収なのだが―武装隊が降り立ったのには理由がある。

「さて、ここからが本番なわけだが―」

 黒い法衣型のバリアジャケットに身を包み、両手にS2Uとデュランダルを握り締めたクロノは告げた。

「エイミィ、先遣調査隊からの連絡は?」

『さっきから通信を送ってるんだけど、やっぱり返事が無いよ。通信は届いているみたいなんだけど……』

 先遣調査隊。
 アースラよりも先にこの地に訪れ、遺跡の調査をしていた一団から定時連絡が途絶えて二日。
 アースラはその調査と確認に訪れていた。

「応えるものがいない、か」

 クロノは表情を厳しく、呟いた。
 その横に立つ同じく騎士服姿を纏い、シュベルトクロイツを握り締め、ユニゾン状態の黒い翼を生やしたはやてが首を傾げる。

「つまり、どういうこと?」

(どういうことですぅ?)

 ユニゾン状態のリインフォースⅡもまたはやてにしか聞こえない声を上げる。


540:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92
08/08/30 23:35:59 aRkUxruT

「さてね。通信が届いているということは通信機能が壊れたわけじゃない、ただ―嫌な予想が立つだけだ」

「へ?」

「三班に分かれましょう。アインス隊長、ツヴァート隊長、それぞれルートAとBから部隊を率いて侵入してください」

「了解」

「あいよ」

 アースラの武装隊を指揮する分隊長の二人が威勢よく指を上げる。

「はやて、僕たちは二人でCルートを進むぞ」

「あ、了解や」

 遺跡の中に入るルートは三つ。
 正規ルートであるAとBのルートと、裏門であるCルート。
 遺跡の見取り図は先遣隊からの定時連絡による情報で手に入っている。
 故に迷う必要もなくクロノは歩き出し、はやてもその後ろを付いていく。

「なぁ、クロノ君?」

「なんだ」

「私ら、二人だけでCルートいくんか?」

「そうだが?」

「危険、やない?」

(クロノさんとはやてちゃんだけじゃ、危ないですよー)

 今までの任務はいつも武装隊やヴォルケンリッター、なのはたちが居た。
 最低でも三人だった。
 けれど、今は二人。
 それも閉所で何が起こっているのかわからない危険な場所。
 はやてが戸惑うのも仕方が無かった。

「危険、だろうな」

「それなら―」

「しかし、これがベストなんだ」

「ふぇ?」

 クロノは感情の抜け落ちた顔で告げる。
 緩やかに、言葉を刻みつけるように、手を振った。

「高位魔導師と普通の魔道師、その戦力差から考えれば」

 砂塵の舞う大地から空を見上げて、クロノは呪うように言った。

「君も理解するべきだ。君たちと僕らの差を」

 才は無く、血反吐を吐くような思いで力を手に入れた少年はただ思う。
 常人から超越者への領域に踏み込んだ狂人は静かに歩き出した。

541:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92
08/08/30 23:37:08 aRkUxruT


 砂塵に埋もれた遺跡の扉。
 その横にあったパネルにクロノが携帯情報端末から伸ばしたチューブを突き刺し、端末にコードを打ち込むと鈍い地響きを立てて動き出した。

「まだ機能は動いているんやね」

「ああ。先遣隊はホストコンピューターを探して調査をしていたはずだが……」

 そう告げて、クロノがゆっくりと指を曲げる―アクション・トリガー成立。
 瞬間、クロノの顔面一センチの位置で火花が散った。
 チュインッという金属音、一瞬だけ停滞したそれは黒い塊。鉛玉。
 すなわち質量兵器での銃撃だった。

「え?」

(なんですー!?)

「一足遅かったようだな」

 クロノが足を踏み出し、S2Uの尖端を扉の向こうに向けた。
 飛び散る火花、銃弾が足元を飛びまわる、壁を銃弾が駆け抜けて、銃撃音が鼓膜を刺激する。

「下がるんだ」

 その瞬間からクロノの空気が変わった。
 いや、隠してもいなかった雰囲気にはやてがようやく気付いただけだった。
 はやてが戦闘体勢に入り、クロノは―既に思考を切り替えている。

「クロノくん、危ないで!?」

 銃撃が降り注ぐ、その中でクロノは突き進む。
 障壁がひしゃげ、不可視の壁が次々と虫食いのように食い破られていく。
 その中でクロノは身体機能を弄り、瞳孔を細めた。
 虹彩を広げて、闇へと同調する。

 見えた。

「そこか」

 アクショントリガー成立。
 目を見開き、リンカーコアから魔力を放出し、破壊のイメージを演算処理で現実へと変換する。
 僅かに唇が歪む―小さな愉悦。
 ぞくりとはやての肌が泡立つ、恐怖の予兆。
 スティンガー・スナイプ。

「―スナイプショット!」

 弾丸加速のスペルワード。
 空間を切り裂くように右手を振るう、その軌道に合わせて光弾が飛んだ。
 青白い鬼火のような一撃、それは鋭く飛び去って―何かを砕いた。ばしゃりと生々しい音を響かせた。

「がぁああ!」

 悲鳴が上がった。
 暗がりの中で何かが倒れる音がした。
 はやては目撃する、それは人間だと。


542:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92
08/08/30 23:37:52 aRkUxruT

「そっちもだ!」

 S2Uを横に薙ぎ払う。
 まるでピアノ線で操られているかのように、青白い光弾が急激に軌道を変えて飛翔した。
 弾道操作、魔法の恩恵、そこから打ち出された弾は物理法則に縛られることなく自在に軌道を変える。
 銃撃を放っていた人物が、暗がりの中で泡を食ったように走り出す―その背に光弾がめり込んだ。

「散れ」

 クロノの呟き。
 同時にめり込んでいた光弾が爆散し、人影は手榴弾の直撃でもあったかのように吹き飛んだ。
 奇怪な姿勢で壁に激突し、赤黒いものを撒き散らしながら床に崩れ落ちる。
 銃撃はそこで止んだ。
 否、既に打ち放つものはそこにいなかった。

「や、やりすぎちゃうか? 非殺傷設定でも、あれじゃ重傷やで……」

「完全に戦闘能力を削ぐならあの程度でも優しいほうだ」

 そう告げて、クロノはデバイスを振るうと、倒れ付した二体の人影にバインドを掛ける。
 同時に近づいたことで、その人相を理解した。

「盗掘者、か」

 クロノが目を細める。
 そこにあった光景。
 それはこちらに向けていた銃火器を床に落とし、防塵マスクを被った男たちが倒れ付した姿。
 ―魔導師ではないな。
 魔導師ではあっても低レベルの弱い存在。そう判断する。
 魔法の力に頼れない、奇跡の力を編み出せない存在は質量兵器という力を得て、その差を埋めようとする。
 それは正しい。
 正しいが、そんな当たり前の常識は一人の超越者の前には無意味だった。
 悲しいほどに圧倒的な差があった。

「はやて、障壁を忘れるな。バリアジャケット程度では貫かれる」

 クロノは静かに告げると、銃撃の止んだ道を進み始める。

「う、うん」

(オートプロテクションを発動しておくですー)

「頼むわ」

 リインの返事にはやてがゴクリと喉を鳴らしながら返事を返した。
 ずかずかと進むクロノの背中、その背に僅かな違和感を感じながら。



543:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92
08/08/30 23:39:22 aRkUxruT


 遺跡の内部は朽ち果てていた。
 かつては文明の最先端を進んでいたのだろうその内部は風化した紙とも金属とも思えぬ欠片を散りばめさせ、ひび割れた壁が続く。
 その道を物珍しそうにはやては眺めながら、警戒を続けるクロノの後ろを付いていった。

≪ここから先の廊下を曲がれば、先遣隊のベースキャンプ位置のはずだが……≫

≪敵の根城の可能性、大やね≫

 気付かれる可能性を極力減らすために念話でクロノとはやては会話していた。

≪ああ≫

 短い返事。
 それに加えて二人は足音を立てていなかった。
 床から数センチ上を滑るように飛んでいた。
 飛行魔法の応用である浮遊、無声と消失した足音というのは室内戦において極めて有利な要素である。
 通常の物理法則を操作することが出来る魔導師。
 その可能性はどこまであるのだろうか。
 その利便性は計り知れないものがあった。
 そして、二人は静かに廊下の角まで辿り着き、静かに床に着地する。

≪どう?≫

≪動いている、な。声がする、どうやらアインス隊長とツヴァート隊長が上手くやっているらしい≫

 耳を澄ませば怒鳴り声が響き渡り、奥からは銃撃音が響いていた。
 ビリビリと心が、身体が震えそうな声、音。
 はやては無意識に震える自分の手を押さえようともう片方の手で押さえつけようとした―その時だった。
 クロノが左手に握っていたデュランダルを待機状態に戻した。

「へ?」

 震えた手を、無造作にクロノに掴まれた。
 ゴワゴワとどこか硬くて、細い自分の手よりも逞しい少年の手が包んでいた。
 他人の体温が伝わってきて、どこか熱かった。

≪怖いのか?≫

 クロノの問い。
 それにはやては極自然に、けれど顔を少しだけ赤くして答えた。

≪あ、当たり前や≫

≪そうか≫

 けれど、何故だろう。
 手の平から、指先から伝わってくるクロノの体温を感じていたら、何故か震えが止まっていた。
 身体がぽかぽかとしてきて、どこか胸が熱くなる。
 この感覚がリインに伝わらないことを何故かはやては祈っていた。


544:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92
08/08/30 23:40:22 aRkUxruT

≪怖いとき、誰かの手を握るといい≫

≪え?≫

≪一人なら出来ないことも二人なら出来る。そう信じられるだろう?≫

 そう告げるクロノは何故か渇いた目を浮かべていた。
 その手に握るはやての体温をなんとも思っていないかのように、温かい体温とは裏腹に冷たい鋼のような瞳を浮かべて、その右手にS2Uを掴んでいた。
 何故かはやてはそれを悲しいと感じた。
 何故か痛々しいと感じていた。
 理由なんかない。
 理由が分からない。
 ただ空虚な気配を漂わせるクロノが切なくて、右手に握るクロノの左手の感触を忘れないように指を絡めていた。
 力強く握ったその手は頼りがいがあって、まるではやてを支えてくれるような気がした。

≪うー、リインもいるですよー!≫

 リインフォースⅡが可愛い声を出して、主張した。
 はやては音も立てずに苦笑する。

≪そうやな、私は一人とちごたんやな≫

 クロノ君が居て、リインもおる。
 震えは止まっていた、代わりに力が沸いていた。

≪もう大丈夫だな≫

 瞬間、するりとクロノの手がはやての指から抜け落ちた。
 もう十分だろうと判断して、左手の自由を取得する。

(あ)

 何故かその時はやては惜しいと感じた。
 けれど、そんな感傷は数瞬。両手でシュベルトクロイツを握り直す。
 クロノは口を僅かに歪めて、念話で誰かに言葉を送ると、いけるか? とはやてに視線を送った。

≪大丈夫や≫

 はやては頷く。
 そして、クロノは左手に再び起動状態にしたデュランダルを握ると、僅かに指を動かした。
 デバイスを操作・詠唱省略・演算開始。

≪まず僕が奴らの目を潰す、援護を頼む≫

 クロノは無造作とも言えるタイミングで廊下から足を踏み出す、黒い法衣が暗がりに紛れて、目立たずに廊下から姿を現す。
 クロノの目に飛び込んできたのは広い室内。
 遮蔽物の少ないイスやテーブル、その奥にいる無数の銃器を手に持ち、怒鳴り声を上げている人物。
 そして、その部屋の横で―無造作に並べられた人間サイズの袋。
 それを見た瞬間、クロノは静かに手の中のデバイスを握る手を強めた。


545:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92
08/08/30 23:41:20 aRkUxruT

「ん?」

「ま、まどう―」

 クロノの存在に気付いた声、されど遅い。

「遅い」

 演算処理完了・魔力伝達・顕現開始。
 クロノは右手を降り抜いた、青白い魔力光を放ちながら、一直線に光の弾が音速に迫る勢いで室内の奥の床に直撃し―

「ブレイク」

 瞬間、白い光が全てを包んだ。
 空気がかき乱されるような爆音に、閃光が闇に満ちていた。
 今まで暗がりに慣れていた目にその光は凶悪だった。網膜が焼きつくような光量に絶叫が上がる。

「スティンガーレイ!」

 その中で足音も聞こえず、魔法を放つ声すらも聞こえないまま、目を閉じたクロノが動いた。
 マルチタスク起動。
 並列思考で共に同じ演算処理を行い、しかしその軌道のみを違えるイメージを持ち合わせ、両手に握る二振りのデバイスを振り抜く。
 縦に、横に、空間に線を刻み込むような動作と共に青白い光線が飛翔した
 白い世界に壊れた人形のような人影が踊り狂う、光が終わる、白い世界が終わると共にどさりと崩れ落ちる音がした。

「くそったれ!」

 ガチャガチャという金属音。
 未だに残る数十人の男たちが武器を構えるのを理解、クロノはそれに恐れる事無く足を踏み出そうとするが。

「甘いで! リイン!」

≪はいですー!≫

 その背後から、シュベルトクロイツを掲げ上げ、その黒き翼を羽ばたかせたはやてが躍り出る。
 魔力供給・バレルフィールドを展開・演算処理終了・顕在化開始。
 ミッドチルダ式の魔法陣が次々と展開されて、遺跡内部の壁を照らし出す、盗掘者たちの目に黒き翼を生やした天使の如き少女の姿が映る。

「全弾もってけ! アクセルシュータァアア!」

 オーケストラの指揮でもするかのように騎士杖を振り抜き、光が拡散した。
 それはまるで流星群のようだった。
 狭い通路の中、はやての前方から撃ち出された無数の光弾はクロノの脇を綺麗に潜り抜けて、カクカクと直角に折れ曲がりながら、その悉くを武装した盗掘者たちに着弾する。

「がぁああ!」

 スタン設定。
 非殺傷設定の弾丸は魔力を持つものにはそのリンカーコアにダメージを与えて魔力ダメージを与え、相殺し切れぬ過剰魔力によって肉体の神経に負荷を叩き込み、麻痺させる。
 リンカーコアを持たざるものには相殺すらも許されず、麻痺するのみ。
 大リーグピッチャーが投げ放つ球よりも速く鋭い、確かな威力を持った魔力弾の直撃に人体は容易く吹き飛んだ。
 壁に、床に、空に、蹴飛ばされた小石のように吹き飛んだ盗掘者たちがそれぞれの固い壁に激突し、悶絶する。後に残るのは呻き声のみだった。
 視界内の全ての人間を見事に撃ち抜いた少女はふぅっと額の汗を拭った。

「さっすが私、お手柄やん」

≪やったですー!≫

 ニコリと笑みを浮かべるはやてに、クロノは静かに目線を向けた。


546:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92
08/08/30 23:42:02 aRkUxruT

「この部屋には―もういないか?」

 探査魔法を駆使し、動体反応を探る。
 視覚内に映る人数が全てがどうか探査し、クロノは警戒を怠らない。

「んー、まあ大丈夫やろ。私とクロノ君の仕事に手抜かりはなしや!」

≪ですー!≫

 はやてが無邪気に笑い、リインが同調するように声を上げた。
 そんなはやてを冷たい目で、嘆くかのように、羨むように、ただ渇いた目で一瞥し―瞬間、クロノは足場を踏み変えた。
 探査反応2、背後からだ。

「はやて!」

「へ?」

 クロノがドンッとはやてを肩で押し飛ばす。

「なにす」

 るんや! そう叫ぼうとした時だった。
 赤い華が裂いた。クロノの体から赤く染まり、遅れて銃声が轟いた。
 カランと右肩を打ち抜かれたクロノの右手から、S2Uが零れ落ちる。

「クロノ君っ!」

 そこでようやくしりもちをつき、痛みの走った腰の痛みも忘れてはやてが絶叫を上げた。
 銃撃のマズルフラッシュは彼女たちの背後、そこには二人のマスクを付けた男たちが居た。
 騒ぎを聞きつけて、巡回から戻ってきたのだろう二名。
 その喉の奥から聞こえる声は憤怒に満ちていた。

「死ねぇえええ!」

「っ!」

 続いて叩き込まれる銃撃を、クロノは左手に握ったデュランダルの先に発生させたラウンドシールドで凌ぐ。
 障壁に直撃し、跳弾した銃弾は床に、天井に着弾し、火花を散らす。

「化け物が!!」

 恐怖に怯えるような叫び声が聞こえた。
 実際恐ろしいのだろう。
 魔導師は恐ろしい。たった一本の杖でビルを崩壊させることも、地面を粉砕することも、何人もの人を殺すことも容易な存在なのだから。
 忌避の目はいつだって見てきた。
 はやても、クロノも当たり前のように受けてきたのだ。
 見れば奥にいる二人の片割れが肩にごつい鉄の塊を背負い、その砲口をはやてたちに向けていた。
 はやてはそれに見覚えがあった。
 あくまでも映画の中だが、確かにそれは―

「ロケット砲や!」

 パスンとどこか気の抜けるような音と共に噴射炎を吹き出し、ロケット弾が飛び出す。
 それを回避するには体勢が悪すぎた。
 はやてはしりもちをついたまま、クロノはラウンドシールドを展開したまま身動きが取れない。


547:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92
08/08/30 23:43:10 aRkUxruT

「くっ!」

≪障壁を!≫

 はやてがシュベルトクロイツを振り翳し、障壁を展開しようとする。
 しかし、間に合わない。
 如何にシュベルトクロイツが高性能だろうが、ユニゾンデバイスが補助についていようとも、一呼吸するよりも早く演算処理を終えるなど不可能だ。
 ロケット弾をたった一つのラウンドシールドで防げるか?
 手榴弾の熱量と衝撃ならば二人のバリアジャケットで防げるだろう。しかし、ロケット弾は? 防げるかもしれないし、凌駕するかもしれない。
 故に。

「止まれ」

 そんな賭けに出る気はクロノにはさらさらなかった。
 二人に直撃するロケット弾、それが二人に迫る一メートル前で―光の鎖に縛られて停止した。

「え?」

 ディレイドバインド。
 クロノが得意とする空間設置型バインド。
 座標領域に侵入した全ての物体を停止させる魔法。それは人体でも、ロケット弾でも例外ではない。

「っ、ユーノなら銃弾でも止めるんだろうが」

 無限書庫で働いている悪友の名前を上げて、クロノは皮肉げな笑みを浮かべる。
 己の未熟さに。
 己の至らなさに。
 己の脆弱さをせせら笑うかのような笑み。

「クロノく―」

「返すぞ」

 はやてが声を掛けるよりも早く、クロノはデバイスを降り抜いた。
 飛行魔法の亜種、ベクトル操作。
 ロケットへと働いていたベクトルを真逆に変える、右は左に、上は下に、正面は後方に。
 バインドを解除。

「消し飛べ」

 そして、加速。
 まるで超能力のように、手で触れる事無くロケット弾が真逆の方角に―すなわち撃ち放った二人へと飛翔した。

「なっ!」

 避ける暇などない。
 先ほどのはやてたちの状況の鏡写し、違うのは魔法が使えないということだけ。
 すなわち防ぐ手段などなく―二人にロケット弾が着弾する。衝撃で爆砕し、爆風と衝撃破がグロテスクに人体を砕いた。
 爆音が鼓膜を震わせる。
 爆風が皮膚を震わせる。
 生臭い香りが、鼻腔を刺激した。
 人間はあっさりと死ぬものなのだと理解させた。

「これで最後、か?」

 探査反応はないな、とクロノは打ち抜かれた肩に手を当てながら呟く。
 その様子を呆然と眺めていたはやては不意に我に返ったように、声を上げた。


548:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92
08/08/30 23:44:38 aRkUxruT

「っ、クロノ君!!」

 人が死んだ。
 それも間接的に魔法を使っているとはいえ、質量兵器でだ。
 問題ではないのか? いや、それ以上にはやてはショックを受けていた。

「い、今……」

 人が死んだのだ。
 あっさりと知り合いの男性が人を殺した。
 若干十二歳の少女は手を震わせていた。
 人を傷つけたことがないわけじゃない、死体を見たことが無いわけじゃない、けれど―誰かが殺すところを見たことはなかった。
 吐き気が遅れて込み上げてくる。
 はやての声は震えていた。

「どうかしたか?」

 けれど、クロノはまるで気にした様子もなく、ただはやてを気遣うような言葉を吐き出した。
 その顔には動揺の一つもなく、涼しい顔。
 今居る場所は確かな戦場なのだと告げるように、当たり前の顔をしていた。

「クロノ君……その人たち」

「殺したよ」

 あっさりと告げられた事実に、はやては震えた。

「なんで! クロノ君の腕なら殺さなくても―」

「彼らは調査隊を殺した」

 静かにクロノは部屋の隅を一瞥する。
 そこに並べられたゴミのような死体袋、おそらくデータを抜き取った後は放置しておくつもりだったのだろう。

「危険性が高いからね、執務官の判断で殺傷許可は降りる。無闇に危険を負ってまで非殺傷で留めるよりは、殺したほうがこちらの安全性が高い」

「っ、そんな言い方はないやろ!」

「なら、君は一生手を汚さずに戦い続けられると思っているのか?」

「それ、は」

 その言葉にはやては言い返すことは出来なかった。
 はやてが使う魔法、なのはたちが使う魔法、それらは非殺傷設定という人を殺さずに済む安全性を持っている。
 けれど、使うのは紛れも無い破壊の力。
 並大抵の爆薬や銃器など比較にならない破壊を齎すことの出来る技術なのだ。
 はやては言い返さない。
 そんなのは不可能だと知っているから。
 自分の使う力が都合のいい御伽噺のような力では無いことを知っているから。
 いつかはやても人を殺すだろう。
 なのはもフェイトも手を血に染めるだろう。
 戦い続ければ、誰かを護るために魔法を使えばいつか誰かを殺す。
 それは免れない運命。
 だけど。



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