☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第82話☆ at EROPARO
☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第82話☆ - 暇つぶし2ch400:名無しさん@ピンキー
08/08/28 23:41:27 nKqXO2Kt
>>349
遅レスですがGJ!!
親子2代あわせて乳とは
そんなにおっぱおがいいのか!
ええ、すごくよくわかります。

「ルー子のエリオ寝取り計画(失敗編)」ってことは成功編もありますよね。
そうだといってよバーニィーーーーーーー!!!!!!!!

401:246
08/08/28 23:45:04 A5o/nDiX
ごめんなさい。今回前の話の続きなのであらすじ。
なのはさんの体調が悪いと様子を伺うヴィータちゃん。なのはさんは大丈夫だと言い張ります。
ややあって、なのはさんが修理中のレイジングハートを受け取る為に教導隊オフィスを出て行きます。そこにいたのは
フェイトちゃん。なんか様子がおかしいぞ。
一方その頃、ヴィヴィオが在学中の学校で、聖王の鎧が発動したりして―。
以下から前回の続きです。



402:Cursed Lily
08/08/28 23:45:57 A5o/nDiX
 突然なのはがオフィスを飛び出してから数分。ヴィータは、なのはに確認してもらったスケジュールを再確認
しながら彼女の帰りを待っていた。
 腕を組み足を揺すらせ、苦笑する周りの視線を気にせずに。

「くそっ、こっちは心配してるって言うのに」

 昔からだ。本当にそう言うところだけは何が起こっても、どんな目にあっても変わってくれる気配は無い。
 恐らく高町なのはを良く知っている人間ならば、必ずと言って良いほど目にしてしまう彼女の最も駄目な所。
もう癖だと言い換えても良いだろう。
 それをまた目の前にしてもう我慢なんて出来る筈も無く。一度思いっきり怒鳴りつけてやらないと気がすまな
いと、ヴィータが拳をデスクに叩きつけた。
 それと同時、ヴィータのデスクに積まれていた資料が隣の席に音を鳴らして崩れていく。慌てて崩れた資料を
戻そうと立ち上がったヴィータが見たのは、見慣れた、この苛立ちの原因である彼女の手。

「もぅ、ヴィータちゃん何やってるの。あんまり暴れちゃ駄目だよ」

 今まで無かったレイジングハートがきちんと定位置にあると言う事は、レイジングハートを受け取る為にオ
フィスを出たのだろう。
 見上げたなのははヴィータの崩した山を元に戻す為、資料を一つずつ手に取り始めている。
 その笑みはオフィスに出る前から変わない。違っているのは先ほどよりも血の気が引いて白かった顔が青く
なっているのと、唇が震えているくらいか。
 途中、なのはが手にしていた資料が床へとこぼれ落ちた。ごめんと拾い始めるなのはの手を見て気付いたが、
その指先も滑稽な程に震えていて。
 なのはが床に落ちた資料を屈んで拾う。その度に拾った資料が手から落ちるものだから、それを拾う為にまた
屈む。何度も何度も、寒気がする程にそんな事を繰り返していた。笑顔で。

「お前さ、もう帰れよ。そんで休め。ヴィヴィオだって心配するだろ?」
「またさっきの? ほんとに私は大丈夫なんだから、ね?」

 その普段と変わらぬ口調に。その言葉に。そして何よりも、その笑顔に理解した。
 何を言っても無駄なんて当たり前。なのは本人が全く辛いと思っていないのだから、何度言っても焼け石に水
で終わってしまうのだ。

「やばいな……どうしよ……」

 きっと、自分なんかではどうしようも出来ない。
 故に呟きながらヴィータが出来るのは、なのはの様子を、笑顔の裏側を伺おうとする事のみ。
 ややあって、なのはが突然帰り支度を始めた。上司といくつか言葉を交わし、制止を求める上司の言葉を半ば
振り切る形でなのはが鞄を持ってオフィスを出る。
 なのはとすれ違う寸前、ヴィータが目にした横顔は今までの笑顔が嘘に思えるほど切羽詰っていて。何となく
ではあるけれど、ヴィータが察した。恐らくヴィヴィオの事で間違いない。
 なのはのデスクは資料が散乱したままだった。それを片付けながら、ヴィータが願うように呟いた。

「テスタロッサが何とかしてくれればいいんだけどなぁ―」



 辛くなんて無かった。それがあの子の為なのだと思っていたから。
 苦しくも無かった。あの子が苦しむほうが、何倍も、何十倍も辛いから。
 例えあからさまに避けられても、こちらを見ようとしてくれなくても、名前を呼んでくれなくたって構わない。
どうでもいいと思うことにした。一番最初に戻っただけと思うことにした。
 だって、あの子にママじゃないと言われる事の方が辛いから。
 あの子の温もりが傍に無い事の方が、彼女に拒絶されることよりも辛いから。
 自分はただ、あの子の事だけを考えていれば良い。あの子が笑顔でいられる事だけを考えて生きていれば良い。
 きっとそれが、あの子の母親として役割だ。


魔法少女リリカルなのはStrikerS
―Cursed Lily―
(3)

403:Cursed Lily
08/08/28 23:46:43 A5o/nDiX


「―あぁ、これもいいかな」

 数え切れるほどの本が宙を浮いていた。
 場所は無限書庫のとある一画。本と同じように宙を漂うユーノ・スクライアは、手にしていた本を一通り確認
してから頷くと前もって用意していたいくつかの本と共に自室である司書長室へと戻って行く。
 彼が手にしているのは、ここ最近に出版された執務官試験の為の参考書だ。何でも新しく執務官補佐になった
元機動六課のメンバーの子に必要との事で、依然にフェイトから以来されていたものをユーノが探す事と相成っ
たのだ。
 そんな訳でユーノは書庫から引っ張り出した数冊の参考書をデスクへ置き、今はコーヒーカップ片手に持って
きた本の内容を吟味しようと言う訳だが、これが中々難しい。

「しっかし、なんで僕がこんな事やらなくちゃいけないんだよ」

 そもそもユーノは執務官では無い。漠然と執務官試験に役立ちそうな参考書と言われても、首を傾げたくなる
のが現状だ。
 フェイトの兄であるクロノ・ハラオウンも無理難題を押し通そうとすることで無限書庫内では密かに有名だが、
それと同等の事を意識せずにやる妹の方が性質が悪いかもしれない。
 既に参考書を捲る事数十分。あまり知らない情報の波にやる気を揉まれ、ユーノは一人読書をする時の半分以
下の時間で目頭を強く抑えて本を閉じた。
 別に自分が選ぶ必要は無い。後でフェイト自身に選んでもらえば良いだけなのだ。
 が、約束の時刻になってもフェイトは訪れる気配がない。どこで油を売っているのかと時計と参考書の表紙を
交互に睨む事、更に三十分弱。

「―ごめん、遅れちゃった」

 やっとの事で無限書庫に姿を見せたフェイトは、ユーノが思わず駆け寄る程に血色の悪い顔で応接間のソファ
に座っていた。


404:Cursed Lily
08/08/28 23:47:29 A5o/nDiX
「なんか、顔色良くないけど……体調悪いの?」
「ちょっとだけ。毎月の事だから」

 暗に触れるなと言いたいのだろか。
 ユーノ自身、その事に触れる度胸も経験も勿論無い。内心慌てふためきながらもフェイトと反対側のソファへ
座り、秘書の差し出したコーヒーを飲み干し、何とかその場を切り抜けることにした。
 早速参考書を手に取ったフェイトは本の内容と自身を持ち込んだ資料を比較し、二三度頷き本を閉じるを繰り
返す。
 閉じた本に確りと付箋をしている辺り、どうやらフェイトの目に適う本を選ぶ事は出来たようでユーノが僅か
に安堵の息を零していた。

「ありがと。これ全部借りてくね。後、無理言ってごめん」
「いいけどさ、これからはもっとちゃんと探して欲しい本を教えてくれないと嫌だからね。そう言うとこちょっ
とクロノに似てきてる」
「ごめん……善処します」

 しゅんと身体を小さくするフェイトに苦笑し、ユーノがフェイトを促して立ち上がる。
 フェイトとの約束事はこれで終わり。後は溜まっている仕事を片付けて今日の仕事は終了だ。
 が、その前にもう一つ。仕事以外のプライベートな用件だ。

「ねぇ、フェイト。今日仕事何時に終わる予定?」
「え、……どうだろ。そんなに遅くならないと思うけど」
「じゃあさ……ええっと、ちょっと夕食付き合ってくれないかな。君が六課で言ってたやつの話しがしたいんだ」

 突然の誘いだ。
 ユーノの表情は強張ったまま。フェイトも俯いてユーノと同じ様に。

「うん、私もユーノに話したいこと……あるから―」

 ややあって頷いたフェイトに、ユーノが若干表情を和らげる。
 だがそれとは逆に、フェイトは俯いたままだった。


 彼のその一言で、嫌でもあの時の事が甦る。
 なのはからの突然の呼び出し。機動六課が解散してまだ一日しか経っていない日の事。
 伝えたい事がある。そんな事をなのはは言っていた。


* * *



405:Cursed Lily
08/08/28 23:48:31 A5o/nDiX
 教導隊部署を通じて突然入った連絡に、なのはは一心不乱にそこへ向かっていた。
 レールウェイに乗る時間も惜しく、タクシーを飛ばして彼女が向かうのはベルカ自治領、聖王教会本部だ。
 聖王教会に着くや否や自動で開く扉を強引に開き、財布に入っていた一番貨幣価値の高い札を投げ捨てるよう
に運転手に渡して聖王教会へ駆けていく。
 勿論つり銭の事なんて頭に無い。彼女は、焦っていたから。

「―お待ちしていました、高町一尉」
「ヴィヴィオはどこですか!?」

 碌な挨拶もせず娘の名を叫ぶなのはに、シャッハが僅かに表情を強張らせる。
 呼吸を乱しているなのはは落ち着いている時間なんて要らないと睨んでいるようで、シャッハは何も言わずな
のはを案内する事に終始した。
 シャッハがなのはを招いたのは、カリムの自室だ。部屋に入ってなのはが見たのはソファで寝息を立ててい
る愛娘の姿。
 今朝学院へ向かった時と同じように制服を着ていて、けれど膝には見覚えの無い絆創膏がいくつも。きっと、
転んでしまったのだろう。
 気付いたときには、カリムとシャッハの視線など忘れていて。なのははヴィヴィオの元へ駆け寄り声をかける
寸前だった。

「起こさないで上げてください。ようやく眠ってくれたところです。後シスターシャッハ、なのはさんにハーブ
ティーを」

 それをカリムが制止する。普段とは打って変わった厳格さを声の端々に感じさせながら。

「結構です。それよりヴィヴィオの事を話してください」
「シスターシャッハ、お茶の準備をお願いします。後なのはさん、申し訳ありませんがこのままヴィヴィオを休
ませてあげる気はありませんか?」

 嫌でも分かる遠まわしな物言いだ。娘に大事があってそれで落ち着けるなんて出来るはずが無いのに。
 感情的にカリムを睨むつけるなのはに対し、カリムは涼しげになのはの視線を交わしてヴィヴィオを見ていた。
 連絡を受けたシャッハがここへ連れて来てからも、ヴィヴィオは泣き止まなかった。疲れてしまったのだろう。
なのはがどれだけ怒気を撒き散らそうとも、ヴィヴィオにが起きる様子は微塵も無い。
 残念なのは、この少女の母がその事に今も気付いてくれないこと。

「ヴィヴィオがクラスメイトの子と先生を聖王の鎧で傷つけてしまったと伺いました。それは本当ですか?」
「はい。ヴィヴィオがそう言っていましたから」
「何故ですか?」

 カリムは無言。ソファにも座らずカリムの眼前のデスクに両手を着いているなのはを見上げ、溜息を吐くだけ。
その態度が、今はこの上なく不快だった。

「黙ってちゃ分かりません! 答えて下さい!」

 故にデスクに両手を叩きつけ、なのははカリムを睨む。落ち着かせようとするシャッハの手を払い、怒声と共
に撒き散らすはここへ訪れる間感じていた切なる欲求。
 ヴィヴィオがあんな事、自分の意思でする筈が無かったから。
 きっと、あんな事をした原因がどこかにある筈だから。
 何とかそれを知って、抱きしめたかったのだ。
 ―なのに。

「あなたがヴィヴィオの事を娘としてとても愛しているのは良く分かりました。それで、何故あなたは先程から
ヴィヴィオの心配しかしないのですか?」
「……だからっ、そんな事を聞いてるんじゃ―」
「この子が傷つけてしまった教師と、周りのクラスメイトの子達の事は全く気になりませんか?」

 無言になったのは、なのはだった。
 カリムの言葉に後ずさり、ソファに音を立てて腰を下ろす。瞬間、寝返りを打ったヴィヴィオに肩を震わせて。
それを見つめている表情からは血の気が引いていた。


406:Cursed Lily
08/08/28 23:49:17 A5o/nDiX
「勿論、ヴィヴィオの事で余裕が無かったのはわかります。ですが、あなたが今考えている事はいけない事の様
に思います」
「……」
「確かに聖王の鎧が発動したのは、クラスメイトの発言がきっかけだったようです」

 それを聞いて、一体何をしようとしていたのか。
 分からない。それがなのはが聞き出したかった最初の言葉を耳にした時の感想。
 なのはとてカリムの言葉の意味は分かっている。当然の事だ。心配しないほうがおかしい。彼女はそれが出来
ない程愛情と言うものに欠けている人間ではない。
 ―だったら、何故こんなにも納得が出来ないのだろうか。

「あなた以外の本当のままと言う事について、聞かれてしまったようです。それが嫌だったのでしょう。泣きな
がらヴィヴィオのママはあなただけだと言っていましたよ。この時期の子供は、特にヴィヴィオは精神が成熟し
ていますから。仕方が無かったのでしょう」

 カリムの言葉がどこか遠くで聞えていた。思考を埋め尽くすのはカリムの言葉でも想像してしまったヴィヴィ
オの泣いている姿でもなく、自分自身を呪う後悔の念。
 きっと、まだ駄目だったのだ。本当のママになんてなれていなかった。自分が本当のママだったなら、ヴィ
ヴィオはそんな事で傷つかずに済んだ筈だから。
 だから全て至らない自分の所為なのだろう―そう思っておかないと、駄目だった。

「……ヴィヴィオを連れて帰ります」

 ヴィヴィオに伸ばしたなのはの手は震えていた。それを一度拳を握る事でどうにか収め、ヴィヴィオを出来る
限り優しく抱きしめる。
 間近で見たヴィヴィオの顔には、涙の跡がいくつも残っていた。それに涙を浮かべそうになって、なのはは
ヴィヴィオの髪に頭を埋めて小さく、ごめんと繰り返す。何度も何度も。

「ザンクト・ヒルデ魔法学院へは、ヴィヴィオを自宅で休ませた後に伺わせて頂きたいと思います。重ね重ね、
申し訳ありませんでした」
「シスターシャッハ。送って差し上げてください」
「申し訳ありません。ヴィヴィオと二人で帰らせてください」

 カリムとシャッハの視線に背を向け、やっと触れる事の出来たぬくもりに目を瞑る。
 怖かったから。抱きしめて、ヴィヴィオの事をもっと近くに感じて、そうしていないと恐怖で震えが止まらな
かったから。
 そして、それを知っていて尚彼女はなのはに問う―否、知っているから問わなければと思ったのだ。

「もし今後この様な事が起こって、それがヴィヴィオに責があった場合……あなたはちゃんと叱ってあげられま
すか?」

 長い沈黙だ。少なくとも、ヴィヴィオが薄っすらと目を開けてしまうくらいには。

「……ママ?」

 目尻に涙を浮かべながら、ヴィヴィオがなのはの頬に触れる。いつもの様に溌剌とした心の底から安心できる
笑顔じゃない、泣きつかれて辛そうな笑みを浮かべながら。
 苦しかった。息が出来ないくらいに、胸が締め付けられた。嫌でも思い出してしまうのは、スカリエッティに
捕まり、泣き叫びながら自分を呼ぶヴィヴィオの悲鳴。

「ヴィヴィオが……笑顔になってくれるなら」

 でも、そうじゃなかったら―。

「私はどんな事をしても、この子の味方でいます」


407:Cursed Lily
08/08/28 23:50:07 A5o/nDiX
 カリムはそれ以上何も言わなかった。シャッハは口を閉ざしなのはから視線を逸らしていた。それを無視して、
なのはが部屋を後にする。
 誰も追いかける者はいない。当然だ。あんな事を言ってしまったのだから。
 カリムの問いかけを無視する事も出来た。けれどもヴィヴィオへの想いに嘘は吐けなかったから。
 不安だけが募る。
 あの日に、母になると誓ったはずなのに―。



 そう、誓ったんだ。
 彼女に自分の想いを告げてしまったあの日の事。
 この子の為に、あの子以外のいらない物を全て捨ててあげようと思ったんだ。


* * *


 時空管理局本局から転送ポートに乗り、ミッドチルダ首都クラナガンへ着いて十分弱。普段と全く変わらない
緑色のスーツを身につけたユーノは、フェイトとの待ち合わせに何も考えずにここを指定してしまった事に後悔
していた。
 辺りところ構わずいちゃつくカップルに、ガラの悪そうなチンピラ達と酔っ払い。それらが見ていて楽しい筈
も無く、フェイトの言葉どおり本局の待ち合わせでも良かったのではないかと思い始めていたのだ。

「まぁ、でも変な噂立っても嫌だからなぁ」

 その言葉が指し示すのは無論なのはの事だ。未だに想いを伝えられないとは言え、やはり想いを寄せてはいる
相手にいらぬ誤解などされたくないし、耳にもいれて欲しくは無かった。
 と、

「ユーノ、お待たせ」

 フェイトだ。ユーノと同じように仕事を終えたフェイトが、息を弾ませながらユーノの元へ走り寄っていた。
 久しぶりに見た彼女の私服はやはり所々に黒色が散りばめられている。そして思い出せばミニスカートが圧倒
的に多かった彼女だが、今回はジーンズにシャツと言ういたってラフな格好だった。
 特に何も装飾品をつけていないにも関わらず、いちゃついているカップルの片割れや酔っ払い達が振り向くく
らいには、やはり彼女は綺麗だとユーノが思う。

「大丈夫、そんなに待ってないからね。それより早く行こう。ここじゃ落ち着かないでしょ?」
「うん……そうかも」

 辺りを見渡し、自分を見る視線にユーノの背へ隠れようとするフェイトの肩に軽く触れ、向かうはユーノが
フェイトと無限書庫で別れてから予約したレストランだ。
 目的の場所へ着き、ポカンと口を開けているフェイトの視界に装飾が眩しい入り口と、その割には落ち着いた
店内が映っていた。
 普段余り外食をしないフェイトも勿論分かっているのだろう。ここは、気軽に行ける店なんかじゃ無い。

「一応、無限書庫司書長だからね。ある程度の融通は通るみたいだ」

 もしなのはを誘う時、予約が取れないのは情けないから。そう言ってユーノが照れくさそうに頬を掻いた。無
論、店を目の前にしてのやせ我慢だ。
 しかし店内に入れば、外で見た以上に圧倒されてしまうのは当然の事。それを堪えながら二人がウェイターの
案内で席に着く。
 だが非常にまずい。まずいなんて言葉では言い表せないほどに、ユーノはまずい事に気がついた。

「ユーノ……?」
「大丈夫! フェイトは黙って見てればいいから!」


408:Cursed Lily
08/08/28 23:50:53 A5o/nDiX
 まずこの店内の雰囲気。スーツだからといつものに袖を通したことに先ず後悔。
 ついでに、想像していたよりも一桁ばかり値段が高い。幸い財布の全財産を使えば払えない事は無いだろうが、
貯金を下ろさなかった事にもう一度後悔して。
 更に一番の問題は、メニューを見ても分からない事。本当にこの世に実在するのか分からない食べ物の数々。
最後に、普段碌な食事をしていなかった事に後悔した。
 眉間に皺を寄せてメニューを睨むユーノだが、感じるのは頭痛だけ。額からは大粒の汗が一筋、テーブルクロ
スに零れて染みを作った。

「―貸して」

 そして、そんなものを目の前にして待っていられる程、フェイトとて気は長くない。ユーノから強引に奪い
取ったメニューを一目確認し、全く以って意味が分からない事を理解してウェイターを呼ぶ。
 これ、とフェイトが指差したのは本日のお勧めメニューだ。こればかりはとユーノが避けていた、所謂こう言
う状況での定番メニューである。

「ごめん……フェイト……」

 全く情け無いことこの上ない。
 曖昧に笑うフェイトに、ユーノは肩を落とし深い溜息を吐く。
 もしこの場にフェイトではなくなのはだったならどうなるか。怒ると言う事は無いだろうが、呆れられてしま
うのは必至だろう。
 だがいくら後悔してももう後の祭りでしかない。幸いなのはこの場にいるのがなのはではなく、フェイトで
あった事くらい。

「そういえばさ、フェイト。話したいことあるって言ってなかったっけ?」

 気を取り直し、先ず聞くのは勤務時間中に耳にしていたその事だ。
 無限書庫や考古学で毎日頭を働かせるような事をしているからだろう。彼の元来の性格もあって、やはり一
度気になってしまった事は、最初に片付けないと落ち着かない。
 当然の如くフェイトに聞けば、瞬間フェイトの顔が何故か曇る。まるで、聞かれたくない事を聞いてしまっ
たかのように。

「どうしたの、フェイト?」

 だが、そんな筈は無い。元々、フェイトが伝えたかった事の筈だ。聞かれて困ることなど無いはずだ。あると
すれば、伝えたいけれど言いにくい事。
 そしてそれば、俯くフェイトの雰囲気から分かるように的外れなんかでは決して無い。

「もしかして、言いにくい事なのかな? 聞かない方が良い?」
「そんな事……無いけど……」

 俯くフェイトは曖昧に口ごもるだけで答えてはくれない。その様子に戸惑いを感じ、少し落ち着く為にと冷た
い水を喉に通した。
 ややあって運ばれた食事も手付かずのまま。フェイトはじっと、何かに耐えるように固く握った拳を膝の上に
置いたままだ。

「ごめん。もう聞かないからそんな顔しないで。ほらっ、せっかく来た料理冷めちゃうしさ」

 その辛そうな顔が見ていられなかった。理由は分からない。ただ、フェイトが何かを辛いと感じていることだ
けは理解できる。
 それを追い払うように、ユーノがナイフとフォークを手に取った。視線の先には本日のお勧めなのであろう料
理が皿の真ん中にちょこんと、一口で食べられるほどのサイズで乗っていた。
 フェイトに食べるよう促しながらユーノが一口。皿の上に乗っていた料理は、たったそれだけの行動で消えて
いた。


409:Cursed Lily
08/08/28 23:51:39 A5o/nDiX
「ユーノ、駄目だよ。そんなに頬張っちゃ」

 別に意識してやった事ではない。単に本当に一口で食べられてしまっただけの事。だが、別の客達の苦笑交じ
りの視線と引き換えにして、フェイトの笑みは取り戻せたようで。
 安堵はするがそれでもやはり顔は熱くなる。そして二皿目がテーブルへ出てくると同時、今度はちゃんとと料
理を切り分けようとするユーノに、フェイトが言った。

「あんまり気にしなくていいんじゃないかな。それに、こんな所より近くのファミレスの方がなのはは喜ぶと思
うよ。ヴィヴィオいるから」

 考えてみれば当然のこと。なのはがヴィヴィオを置いて一人で来るなんて考えにくい。
 すっかり抜けていた自身の考えに更に顔を紅くしながら、ユーノはフェイトの様子を注意深く伺った。
 特に気にする必要が無いほど、フェイトは笑顔だ。ユーノの言葉にも、何ら変わらない様子で笑みを返してく
れている。

「フェイト、大丈夫?」
「何が? あっ、ユーノこれ美味しいよ。早く食べないとだね」

 何かを誤魔化しているのは分かっている。だが、誤魔化さすと言う事はやはり自分には話せない事なのだろう
とユーノが内心頷いた。
 心配ではあるが、今の笑顔を無くさせてでも言葉にさせるのは気が引ける。それに、自分以外にもっとフェイ
トの力になってくれるでろう人間をユーノは数え切れぬほどに知っている。
 フェイトの家族達に、機動六課で知り合った皆、はやて達に、後なのは。特になのはなら、フェイトの心配事
くらい気付いている筈だから。

「あぁ、ほんとだ。さっきは味なんて分からなかったから」
「でしょ? せっかくなんだしもっと味わって食べなくちゃ」

 暗くなりそうな気持ちを払い、ユーノがフェイトの言葉通りの味に舌鼓を打つ。更にもう一口。やはり今まで
食べたものよりも味が良い事は確かだった。
 メインディッシュを食べた後、食後のワインを飲むフェイトはやはり慣れないのだろう。子猫がミルクを飲む
かのように少しずつ。味を確認しながら飲んでいた。

「そういえば、六課のパーティーでも飲まなかったね。はやては飲んでたけど」
「はやてはほら、好きそうだから。私は今まで飲んだことなんて無いし」

 はやてが聞いたなら怒鳴りつけてきそうな事を言いながら、二人は少しずつではあったが酒を飲み、他愛も無
い談笑を続けていた。
 八神家の面々がこの場にいたならば、もっと騒がしくなっていたのだろうか。結局六課のパーティーには現れ
なかったなのはは、やはり飲んだら酔ってしまうのか等色々と。
 ユーノは笑顔だ。仕事以外で久しぶりに心の底から楽しいと思っていたから。
 フェイトは同じように。終ぞユーノには言えなかったあの日の事を、笑顔の裏に隠しながら。



 だって言える訳が無い。目の前にしきりになのはの名を出して笑う彼がいたんだから。
 あの日、機動六課が解散した次の日だ。なのはに呼び出され聞いたのは、全く想像なんてしていなかったなの
はの今までの想い。
 今までの笑顔も温もりも何もかも。全てが、あの時嘘だったのだと教えられた。
 もうきっと、二度と彼女の前では笑えない。それくらいにはっきりと。
 親友だと、心の底から大切だと思っていたのに―。


* * *



410:Cursed Lily
08/08/28 23:54:19 A5o/nDiX
 ユーノと食事を取り分かれてから一時間弱。自室と言う、最も開放される空間へ戻ったフェイトは部屋着に着
替える気力すら起こらず、ベッドに横たわっていた。
 頭を鈍い鈍痛の様なものが巡る。飲みなれないものを飲んだからだろう。何をしても痛む頭に、恐らく酒は好
きになれないモノだと知りながら、ふと見上げた先、壁にかけられている数枚の写真に視線の動きが止まった。

「……なのは」

 呟く名は、つい最近まで親友だと思っていた彼女の名前。
 そして今は、自分に嘘を吐き続け、彼の想いを踏みにじった多分一番嫌いな女の名前。
 気持ちが悪かった。
 吐き気が治まってくれない。トイレへと向い、見よう見まねで喉奥に指を突っ込むが、一滴の胃液すら出てく
ることは無い。だからこれはきっと、あの日の事の所為なのだろう。そう思ってしまった。
 本当に気持ちが悪い。今にも泣きそうなくらいだ。
 同性にあんな感情を抱いた事は無い。自分があるのは異性だけ。だから理解なんて出来ないし、する気も起こ
りはしない。
 写真の中のなのはの笑顔は少しも色あせはしない筈なのに、この目に映るその笑顔が薄っぺらい仮面の様にし
か感じられない。
 悔しかった。腹が立った。不快だった。

「なのはが……友達になろうって言ってくれたのに」

 そして何よりも、あの時、初めて名前を呼んだ時の事を嫌なものとしか思えなくなった自分が辛かった。
 けれどもう、きっと元には戻らない。戻ろうと思えない。

「……」

 ビリビリ、と手に取った写真が破れていく。
 楽しかった、消えないはずだった思い出と一緒に消えていく。
 破れた写真の中、なのはの笑顔に涙が零れていた。まるで、自分が泣かせてしまったようで、どうして良いか
分からない。
 破れた写真の中に、彼女以外の皆がいる事さえ今はもうどうでも良くなっていて―。

「―ユーノ、もう寝ちゃったのかなぁ」

 寝る直前、無性に彼の声が聞きたくなってしまった。

411:246
08/08/28 23:56:40 A5o/nDiX
以上です。ありがとうございまいた。
今回は次回へ繋ぐユノフェイ&なのヴィヴィの今後の示唆みたいな感じでした。
次回はユノフェイ←なのはさんな部分が書けるかなぁと。
ところで、前後編くらいクロエイ書こうかなと思うのですが、クロノ君の浮気癖に定評のあるなのはエロパロで
の需要はどの程度なのでしょう……?
とりあえず、また次回です。

412:名無しさん@ピンキー
08/08/29 00:00:29 TN4YMiCR
GJでした
続きが楽しみなような、でも見たくないような……
>クロエイ
需要あるに決まってるじゃないですか!

413:名無しさん@ピンキー
08/08/29 00:05:50 SzEqqGLY
GJ!
欠けたパーツの完成が楽しみですけれど………完成図を見たいような見たくないような……。
でも欝ENDは嫌いじゃないw

414:名無しさん@ピンキー
08/08/29 00:22:15 FZND07HK
GJ!!です。
フェイトとなのはの間に何があったんだろう?


415:亜流
08/08/29 00:36:59 Y5ImOa+I
>>395
まとめお疲れ様です。
早速ですが、いくつか修正をお願いします。


・文言修正
【ユノアリSS Act.02 X-Rated】

修正前
>「もぅ………バカ!!はやてとかに聞かれでもしたらどうするのよ?!」

修正
>「もぅ………バカ!! はやてとかに聞かれでもしたらどうするのよ?!」


あと、レス区切りで発生した空白行の部分を以下のように詰めて下さい。

【こんなはずじゃなかったふたり。 ALTO View】
>「これだけ…あれば……んんっ…」
>指についたものを確認しないまま、あたしはそれをくすんだピンク色の後ろの孔の部分にあてがった。

>「はぁっ…はぁっ…はぁっ………!」
>強烈な快楽の波がある程度引いたところで、あたしの身体はすっかり脱力しきっていた。

>先輩は一呼吸おいて再びあさっての方向を見つめる。
>「でも、俺もそんなバカでクソマジメな執務官補佐を好きになってたんだ。いつの間にかな」


【ユノアリSS Act.02 X-Rated】
>こんなことを告白するのは恥ずかしいけど、これが正直な気持ち。
>「一応……前にアリサと結ばれたことを思い出しながらする、という手もあるよ?

>ブラの肩紐だけを外している手が止まり、アリサの頬はますます赤みを帯びていく。
>「あんまり……その、ジロジロ見ないでね?」

>「……えっち」
>アリサは何かを持ったままの右手で冷蔵庫の扉を閉め、開いた左手でお尻の部分を視界から遮る。

>すぐにでも暴発しそうな快楽に溺れそうなボクを見て、アリサは満足そうに笑みを浮かべた。
>「いつでもイッていいよ? 最後の仕上げに、お口の中で受け止めてあげるね」


以上です。


416:名無しさん@ピンキー
08/08/29 00:39:34 EWY2b20j
>>411
GJですぜい!!

なんという三角関係! こりゃ鬱に向かってまっしぐらですね。
なのは・フェイト・ユーノの関係にヴィヴィオがどう絡むか楽しみです。

417:名無しさん@ピンキー
08/08/29 00:46:02 92tUZaGV
>>411
GJですが、俺も続き楽しみだけど怖いw
完全になのは→フェイトなのって珍しいですね
ギャグだと結構あるけどシリアス系は。

あと、クロエイ全然需要ありますよ!
浮気も好きですが本妻もまたいいものです

418:亜流
08/08/29 01:11:22 Y5ImOa+I
ついでにチラシの裏

<以下チラ裏>
案がまとまったので作業を進めています。
明日か明後日には投下可能。
他にユノアリで書いておくSSがあるので投下間隔が少し空くかも。

419:名無しさん@ピンキー
08/08/29 01:42:04 hKoFjjpv
>>411
こりゃ怖いが続きが楽しみだ。

420:名無しさん@ピンキー
08/08/29 01:42:23 uIF/uAMY
>>411
GJGJGJ!
いいですねー、やっぱなのは→フェイトは最高ですよw
毎度246氏のssはツボのど真ん中に直撃して困る
次も楽しみに待ってますね!

>>417
確かにフェイトそんがなのはさんを嫌ってるのは新鮮だなw

421:野狗 ◆gaqfQ/QUaU
08/08/29 06:56:41 9tF+hNaE
>>395
いつもありがとうございます。
タイトルは「教えましょう」でお願いします。
お手数おかけします。

422:名無しさん@ピンキー
08/08/29 13:08:15 oBI7a1um
>>420
しかし二次だと確かにフェイト→なのはが多いが、本編中だとなのは→フェイトであることの方が多い気がする
フェイトは意外と交友範囲が広く、言われてるほどなのは依存って感じはしないんだよな

423:名無しさん@ピンキー
08/08/29 14:44:34 MEFNe2gS
>>422
俺には
なのは←→フェイト
に見える

424:名無しさん@ピンキー
08/08/29 15:02:59 PfstCt5h
なのは←オレ→フェイト

425:名無しさん@ピンキー
08/08/29 15:05:48 fb5mYg7H
両腕を引っ張られて引きちぎられるんですね
分かります。

426:名無しさん@ピンキー
08/08/29 15:07:58 HNerfIzz
矢印がその状態だと、一方的な思いを二人に向けてるだけですね。

427:名無しさん@ピンキー
08/08/29 15:11:48 8iYbreCg
>>422
確かにどっちかというとなのはがフェイトに依存してるかもねー
フェイトが死んでプレシア化するなのはとかも見たいぜ
王道的になのはが死んでフェイトがプレシア化するのも見たいけど

428:名無しさん@ピンキー
08/08/29 15:51:07 ZPxNRM92
ここで過去にユーノが死んでプレシア化するなのはって作品があったような記憶があるんだが

429:名無しさん@ピンキー
08/08/29 16:17:06 blXX/XZQ
フェイトはヤンデレるの多くね?

まぁ俺のフェイトそんは百合ん百合んでなのはさんは小悪魔だがな


430:名無しさん@ピンキー
08/08/29 16:20:55 uIF/uAMY
>>427
いいねー、俺もなのはさんが死んでプレシア化するフェイトそんはぜひ読みたいw
誰かが書いてくれる事を祈る

431:名無しさん@ピンキー
08/08/29 16:37:30 nG8KZCJh
しかし、テスタロッサ家は何か憑かれてるな・・・・
母といい娘といい、被後見人の皆様はそうでないことを願うしかないが

しかし、なのはのプロジェクトF的なものなんて想像できないな人格が丸くなるのか?


432:名無しさん@ピンキー
08/08/29 17:09:53 6eaEufmn
>>431
つ【リリカルふぇいと】

433:名無しさん@ピンキー
08/08/29 17:12:57 PfstCt5h
丸くなってNeeeeeeeeeeeeeeeeee

434:名無しさん@ピンキー
08/08/29 17:13:24 3Nuc3ToV
何故だろうか、なのはが死んでプレシア化するフェイトそんは想像付くのに
逆が想像付かないのは。キャラ固有の倫理観の違いか、これが。

>>431
つ リリカルフェイトのなのはそん 真の冥王様が出来上がってますよ

435:名無しさん@ピンキー
08/08/29 17:31:43 nG8KZCJh
リリカルふぇいとをさっと読んできた・・・

なのはそんヤバ過ぎるwwwアルフが可哀そうすぎるww色々とキャラが崩壊してるな
クロノがショタコンとかだいぶカオスでした

436:名無しさん@ピンキー
08/08/29 17:38:01 PfstCt5h
でも最近じゃ一番オモロイよな。

437:名無しさん@ピンキー
08/08/29 17:38:34 mMnzh05z
>>434
良くも悪くも、フェイトそんは思い詰めたら一直線で視野が狭くなるからじゃね?
逆になのはさんは激怒しててもVSクアットロの時みたいに冷静だろうし。
仮にそれぞれが『殺された』場合のシチュでも、フェイトそんと違ってなのはさんが犯人をヤるイメージが沸かない。
非殺傷設定の全力全壊・SLBexフルバーストで消し飛ばす光景はすぐ思い浮かぶがw

438:名無しさん@ピンキー
08/08/29 17:53:54 Q1VkviMe
なのはさんは、クールに確実に容赦ない殲滅という名の虐殺が信条なはず!

おや?誰か来たようd

439:名無しさん@ピンキー
08/08/29 17:55:39 4TZE+tOX
ティアナが執務官試験に合格したのがいつなのか、
特定できるような情報はSSXで出てた?
NanohaWikiではそういう情報は載ってないみたいだが。

440:名無しさん@ピンキー
08/08/29 18:00:44 8L59Tn/I
>>439
新暦77年頭くらい。

441:名無しさん@ピンキー
08/08/29 18:02:38 4TZE+tOX
>>440
ギャアァァァァァァ
今のうちに聞いといてよかった……あんがと

442:名無しさん@ピンキー
08/08/29 19:32:16 8iYbreCg
>>437
そういうなのはさんのイメージとかって見た人一人一人違うと思うぜ
各々好きななのはさんで妄想すればいい

443:名無しさん@ピンキー
08/08/29 20:01:06 vlrsiEs4
SSにするなら書き手の腕の見せ所だな

444:名無しさん@ピンキー
08/08/29 20:58:48 fb5mYg7H
なのはやフェイトはそれぞれの獲物でヤるってイメージだけど
はやては謀殺ってイメージ。

445:名無しさん@ピンキー
08/08/29 21:11:21 2bu7HzV8
はやては、万が一ヴィータが被害者の時だけは我を忘れて殺りにいってほしい。

446:名無しさん@ピンキー
08/08/29 21:49:06 TWfcnyc3
何故かはやての場合はヴィータに限らず、家族がそういう目にあったら、
どんな手も辞さず報復するイメージがある。

447:名無しさん@ピンキー
08/08/29 21:59:11 XSXbs4kp
はやてが家族殺られたら→我は忘れないけど報復は忘れない
フェイトがなのはさんやエリキャロだったら→責任感じて自失状態
なのはがフェイトさんだったら→空元気で無理し続けて傷癒えぬままの一生
なのはさんがヴィヴィオだったら→とことん自分を追い詰めていざプレシアママンの道へ
かなぁ……。
一番自分自身を追い詰めるのはなのはさんだと思う。
フェイトさんは逆に自分自身が経験してる事だから、プレシアママンにはならないしなれないからどうする事も出来なくなりそう。


448:名無しさん@ピンキー
08/08/29 21:59:23 RbSafNpm
直接的ではなく社会的に抹殺しそうだ

449:名無しさん@ピンキー
08/08/29 22:06:17 mH0iCC5n
変な噂流したもんでユーノに社会的に抹殺されそうになった
漫画なら見たことがある

450:名無しさん@ピンキー
08/08/29 22:07:36 uIF/uAMY
イメージっつう時点で一人一人感じ方違うんだから異なるのは当たり前なんだし
いちいち自分のイメージを書き連ねてくのはどうかと……

451:名無しさん@ピンキー
08/08/29 22:19:09 2bu7HzV8
しかし、世界転覆させようとした犯罪者すら、数年後には更正したと見なされ社会復帰できるこの世界で、
社会的抹殺ってどこまでされるんだろ。

452:名無しさん@ピンキー
08/08/29 22:28:02 fb5mYg7H
ブラックリストにでも登録されるんでない?
特定の施設は利用できない入れないとか。

ちょっと違うか。

453:名無しさん@ピンキー
08/08/29 22:35:08 TN4YMiCR
中学2年生の頃のノートを全次元世界にむけて公開される

真面目に考えると雇用禁止とかかね?

454:名無しさん@ピンキー
08/08/29 22:48:56 grV+5t11
社会保障番号とか、銀行口座とかを
すべて書き換えられるとか。

455:名無しさん@ピンキー
08/08/29 22:53:36 q6tiGqVE
背中に「私はロリコンです」と入れ墨を彫られるとか。

456:名無しさん@ピンキー
08/08/29 22:53:57 ugLiiiyS
実は一部の法の保護が受けられない、とか。
重態にならない限り怪我させても罪にならない、みたいなのだと結構きついと思われ

457:名無しさん@ピンキー
08/08/29 23:27:49 XJyXZfeQ
>>453
黒歴史ノート公開とかなんという鬼畜

458:名無しさん@ピンキー
08/08/29 23:32:13 CJpsrzr8
>>447
昔復讐モノっぽく書いたこともありますが、自分のイメージもそんな感じでした。
隊長三人娘は、身内に不幸があったら責任感じて内に潰れそうなイメージがありますね。
作家さんごとにイメージは違うけど、長編などでキャラの行動が一貫したイメージに基づいて書かれてるものが読み易い感じがします。


459:名無しさん@ピンキー
08/08/29 23:44:22 7r3LkV8R
ミッドチルダには伝統的な犯罪者の減免法があった(裏)そうそれは性的な無料奉仕
今日はそんな毎月何日かそんな日があるナンバースの一人を紹介しよう

秘密のクラブ

ぬらりとした暗闇が広がっているその中になまめかしいほどの白い裸体が浮かんでいた
そのふくらみは未だまだ幼く眼帯の少女は抑えきれない羞恥にうつむいていた
「あ…」
男がやってきた、ここのところ連日チンクの減免に協力してくれている人物だ、政府の高官らしい
彼のプレイはいささか特殊だったゆえに効果も絶大、ナカジマ家の為にも妹達の為にも自分も協力的であるのが望ましい…はずだ

「おお…きょうも美しいなチンク君…お人形のようだ…はは、ほうぅら、今日はこんなプレゼントを持ってきてあげたんだよ…」
「…あ、ありがとうございま…ぁ…っあ…ぅ」

男は優しく抱擁したかのように見えた、チンクは礼を言おうとして身悶えした
男の手がチンクのお尻に沿い揉んだ
「柔らかいお尻だ…マシュマロのようだね…」
次いでマスクを被った中年の男は手に持ったうずらの卵大のローターをチンクのアナルにあてると
そのまま差し込んだのだ

つぶり
「そんっな…あぅ…ふぁっ…あぅ…はっ…あっ…あああ…」
ぬずずずう

そのまま奥まで押し込まれる、腸を逆に撫で上げられるような感覚に男の胸に手を当てて歯を食いしばるチンク

「どれ」

カチっ ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ

「っひっい!?うぁあああああああああ!!」

ビクリとチンクは白い髪を振りエビのように床で身悶えた、スイッチを止めると男は満足そうに頷いた
白い髪の少女はハァハァと犬のように息をつき唾液が床を舐めた

「ふむふむ感度は良好だな…さぁ立ちなさい夜のお散歩の時間だ」

「はぁあ…ぁ…は、は…い…」


素肌の上にコートを羽織り、よろよろと立ち上がった、今夜は何をさせられるのだろうか
そう思うと知らずチンクの体の奥に熱いものが灯るのを感じた瞳に被虐の色が僅かに瞬いた
男はそれを見逃さなかった

首輪をつけられ縄で引かれた

チンクは思った、これは罰、罰なのだ…

促されて街頭の瞬く深夜の街に踏み出した                      
                                        エロパロ的にはこんなんで?











460:名無しさん@ピンキー
08/08/29 23:48:25 SfxZs6/W
>>459速く続きを書く作業に戻るんだ!

461:GJ
08/08/29 23:49:18 2bu7HzV8
>>459
さあ、ディード編とセイン編を書く作業に戻るんだ。

462:名無しさん@ピンキー
08/08/29 23:50:17 v+ubL7VP
>>459
    _∩
( ゚∀゚)彡 MOTTO!MOTTO!
 ⊂彡

463:名無しさん@ピンキー
08/08/29 23:56:12 7r3LkV8R
ディ…ディードは…目隠ししておっぱいで奉仕の刑、むせかえるほどの大量の白濁を喉の奥に流しこまれる

セイン、セインはえーと…能力的に壁を境に別々の部屋の男達に上半身と下半身を犯される刑…

464:名無しさん@ピンキー
08/08/29 23:58:42 CJpsrzr8
>>459
どうかクア姉を宜しくお願いします……

465:名無しさん@ピンキー
08/08/30 00:03:16 WE2OXCJX
>>463
ありがとうございます。これで今夜は安らかに眠れそうです。

466:名無しさん@ピンキー
08/08/30 00:10:13 yFo0Thna
ノーヴェあたりは、夜の公園で輪姦露出プレイとかw
あと、目隠ししたまま、男子公衆トイレに手錠で拘束して放置もいいと思うんだ。



467:名無しさん@ピンキー
08/08/30 01:11:12 l6duhBkT
ディエチは俺の所に永久就職でおk?

468:名無しさん@ピンキー
08/08/30 01:55:59 SnKlY2Ga
んじゃ、ウェンディは俺の
性欲処理機兼子孫繁殖装置になってもらうわ

469:名無しさん@ピンキー
08/08/30 02:18:36 Da7gtb9n
なんという産む機械
じゃあセッテは俺がもらうわ

470:名無しさん@ピンキー
08/08/30 04:14:52 fQTtnz74
ならばオットーは俺の専属お世話係り(嫁ともいう)になってもらう。

471:名無しさん@ピンキー
08/08/30 04:21:48 Or1SNf6Q
チンクは俺の娘でFA?

472:名無しさん@ピンキー
08/08/30 09:53:36 IlIAyblq
なんかエロなしのSS用の板ができたらしいが、移動する人とか出るのかな?

創作発表 URLリンク(namidame.2ch.net)

473:名無しさん@ピンキー
08/08/30 10:30:58 VwNJIwfc
そもそもこのスレはエロパロといえどもエロオンリーじゃないわけだから、移動する必要もないし。
たまに変なのも湧くけどさ、なのはエロパロスレはこのままでいいんじゃない?

474:名無しさん@ピンキー
08/08/30 10:38:07 F8vreNl7
>>473
同意
エロありだろうが、なしだろうが楽しめれば問題なしだろ

475:名無しさん@ピンキー
08/08/30 11:36:26 aO/zjSiC
まぁ向こうにリリなののができたら考える
現状だと放送も終ってるし二手に分かれたら過疎りそうだけどね
昔に比べるとやっぱ減ったよね投下

476:名無しさん@ピンキー
08/08/30 11:51:45 fvRKwa3m
>>475
減ったか?>投下
落ち着いたとは思うけど
一日に何作も投下があるほうが異常だったんだから

477:名無しさん@ピンキー
08/08/30 11:56:02 JICSeX+z
>>475
そりゃ本編終わってから結構経つんだから仕方ない
劇場版公開したらまた増えるかもな

478:名無しさん@ピンキー
08/08/30 12:07:29 oM+1rAej
>>473
今までもエロ、非エロともにいい具合に共存してきたんだ。今更分断する必要もないんでないかい?
今、ヴァイスが主役の非エロSSを書いてる。職人さんの迷惑にならない程度に投下したいな。

479:名無しさん@ピンキー
08/08/30 12:58:49 F0/FV6tU
>>476
だがエロパロ板で「普通」っつったら……数ヶ月・数年単位で1スレ使い切るペースだぜ?
このスレも最初期はまさにそうだったけどよ。ここもいつかはまた過疎るんだろうな

480:名無しさん@ピンキー
08/08/30 13:08:55 l6duhBkT
>>479
盛者必衰だからな、しょうがない
でもリリカルシリーズが発表される限りは栄え続けるんじゃない?

481:B・A
08/08/30 14:59:08 28uAuMX+
規制が未だ解除されていないので、ネカフェから投下します。



注意事項
・B・A版エリルー時空のお話
・主人公はヴィヴィオ
・オリキャラが出ます
・非エロでバトルです
・sts本編から11年後の物語
・フェイトが天寿を全うしております
・その他かなりの捏造多し(特に古代ベルカや聖王に関して)
・タイトルは「Das Erbe zur Zukunft」 意味:未来への遺産
・SSXの内容は風の噂程度にしか知りません(←もう持っている人に対して)
・作中においてヴィヴィオの言葉と行動に矛盾が生じてしまいますが、あくまで本人の気持ちの問題ということにしてください
・前提作品『Ritter von Lutecia』
      『Nach dem eines Speerritters』

482:Das Erbe zur Zukunft①
08/08/30 15:00:12 28uAuMX+
第28話 「SECRET AMBITION」



少女には目指すべき目標があった。
幼き日に、孤独な暗闇から救い出してくれた母のようになりたい。それは裏を返せば、彼女の娘であることに対する免罪符を求めているのと同じであった。
だから掲げた理想も目指す正義も使用する魔法も、全てが母親の真似でしかなかった。
一度はそれに挫けそうになったこともあった。
自分がしていることは母親の真似でしかなくて、最初から開拓されている道を歩いているだけなのではないのかと悩んだこともあった。
そして、それは事実その通りであった。もしもこのまま時が進めば、自分は当然のように本局教導隊に入り、
多くの魔導師達に戦技を教える日々を送ることになっていただろう。
だが、その道中で感じ、得たものは紛れもない自分自身の内から出た感情であった。
きっかけは憧れだった、
始まりは憧憬だった。
何もかもが母親と同じで、けれど友を救いたいと思う気持ちだけは自分自身の誇りだった。
これだけは、誰の言葉にも左右されない、自分の内側に問いかけて見つけ出した答えなのだから。
だから、例え立ち塞がる敵がどれ程強大であっても躊躇しない。胸に刻んだ青臭い信念を、エゴイスティックなまでに貫き通す。
手にした力は、思いを貫く魔法の力。誰かの悲しみを撃ち抜く力。
その思いを胸に、ヴィヴィオは大空を力強く羽ばたいた。
自分という敵を打ち倒し、闇に囚われた友を救うために。

「アクセルシューター・・・・・・シュートっ!」

重い駆動音と共にカートリッジが炸裂し、三十二発の虹色の球体が不規則な軌道を描きながら聖王ヴィヴィオへと迫る。
誘導操作弾であるという利点を最大限に活かしたその軌道は、純粋に目標を追尾するものから相手の動きを先回りするもの、かく乱のためにわざとジグザクに飛ぶものなど、
複数の軌道を重ねることでさながらサーカスのアクロバットのように青空を縦横無尽に駆け回り、逃げ回る聖王ヴィヴィオと激しいドッグファイトを展開する。

「王の背中を舞うとは、不敬な弾だ!」

振り返りざまに聖王ヴィヴィオは砲撃を放ち、追尾するシューターを打ち消さんとする。すかさず、ヴィヴィオは思念制御でシューターを誘導、
まるで蛇が木の枝に絡みつくように極太の砲撃を避け、動きの止まった聖王ヴィヴィオの体に次々と着弾する。
立て続けに命中したシューターは一発だけでも鋼の装甲に穴を穿つ程の威力を秘めており、非殺傷設定であったとしても当たれば激しい苦痛が全身を襲う。
だが、朦々と立ち上がる白煙を睨みつけながらヴィヴィオは更にカートリッジをロードし、駄目押しとばかりにディバインバスターのチャージを開始した。

「ディバイン・・・・・・」

「見せてやろう・・・・・これが、王の戦いだ!」

「・・・・・バスタァァァッ!!」

白煙を振り払って姿を現した無傷の聖王ヴィヴィオに虹色の砲撃が直撃し、灰色の魔力光が落葉のように散っていく。
やはりと言うべきか、彼女の聖王の鎧は堅牢であった。精神を乗っ取られたことで魔力の性質まで変化してしまったのか、
その強固さはヴィヴィオのそれを遙かに上回っており、戦車をも容易く粉砕する砲撃を直に受けても僅かに仰け反らせる程の効果しか与えられない。

「この程度では、王の歩みは止まらぬ」

戦況を見守るシグナム達が驚愕の声を漏らす。
聖王ヴィヴィオはディバインバスターの直撃を受けてなお、前進を始めたのである。
ヴィヴィオが必死でリンカーコアを活性化させて魔力を注ぎ込んでも、その攻撃は聖王ヴィヴィオの肉体が纏う灰色の光に阻まれ、掠り傷一つ負わせることができない。


483:Das Erbe zur Zukunft②
08/08/30 15:00:59 28uAuMX+
「王とは媚びず、己が所業を省みぬものだ。受けて返す、それが我が王道よ!」

「奇遇だね、私も同じだ!」

光の奔流を割って繰り出された聖王ヴィヴィオの拳をラウンドシールドで受け流し、即座にアクセルフィンを羽ばたかせて離脱する、
すかさず後を追う聖王ヴィヴィオではあったが、その眼前にはお礼とばかりにばら撒かれたディバインシューターの群れが待ち構えていた。
アクセルシューターを習得しているヴィヴィオにとってその魔法は既に下位ランクに属するのだが、無詠唱でカートリッジを消費せずに発動でき、
尚且つコントロールのためにこちらの動きを止める必要がないという利点がある。直撃を食らっても僅かに怯む程度である聖王ヴィヴィオを前にして
その利点は微々たるものだが、それでも距離を取るには十分な隙となった。

「デバイスがない分、撃ち合いでは不利か・・・・・・・・・なかなか粘るではないか、私よ。そんなにこの娘を助け出したいか?」

「当然だ。セリカちゃんは、私の友達だ」

「言い訳にしか聞こえぬ」

「他に理由なんかない。友達っていうのはそういうものだ」

「共感できんな」

「戦う理由なんてそれだけで十分だ。聖王、お前は何のために戦う!?」

「ベルカの・・・・いや、我が国のためだ」

「その先には何がある?」

「永遠の富と繁栄」

「平和じゃないんだね」

「我が王道の綻びに気づけたか、私よ」

先程までのやり取りが嘘のように静まり返り、空に静寂が戻ってくる。

「ないんだね、終わりが・・・・・・・」

世界は一つではない。次元という海を隔てて無数の世界が混在しており、未だ確認されていない世界も無数に存在する。
聖王が掲げた王道は、確かに全てを支配することができれば争いはなくなるかもしれない。だが、肝心の支配すべき世界に果てなどというものは存在しない。
無限に広がり続ける次元世界に終わりはなく、祖国に恵みをもたらす聖王の戦いが終わることはない。そして、だからこそ彼女の国は繁栄を続けることができたのである。

「一つの世界に終始すれば、或いは見つけられたかもしれぬ。だが、止まってしまえば衰えるのが世の理だ。滅びぬためには戦い続けるしかない。
果てなき永遠の闘争が唯一救いの道であると悟った聖王の血族は、そのために自ら戦地に赴き、誰よりも濃く鮮血に染まることを選択した」

平穏という名のぬるま湯に浸かってしまえば、その先に待っているのは緩やかな衰退だけ。さながらコップの水が水蒸気となって蒸発してしまうかのように
緩慢な滅びの坂道を転がっていく。己の国を永遠に存続させることを願う聖王にとって、それはどうあっても受け入れ難い真理であった。
故に、彼女達の一族は戦い続けたのである。平和に甘えず、平穏をかなぐり捨て、自ら混沌を求め、戦争という一つの経済の下に自国を置くことを考えだした。
そして、そこまでしてなおベルカは滅んだ。

484:Das Erbe zur Zukunft③
08/08/30 15:01:35 28uAuMX+
「私よ、お前の言う通り私は一人であった。常に最前線で戦い、国のために全てを投げ出した。友と語らう舌も夫と見つめ合う瞳も持たなかった。
だが後悔などしておらぬよ。ベルカは私に夢を見せてくれた。我が統治の下で、繁栄を謳歌する民の笑顔は何よりも勝る至高の悦楽であった。
だから私は戦おうと決めた。どれだけ多くの屍を積み重ねようとも、その微笑みだけは絶やしてはならぬと」

「矛盾している。国民のためと言うなら、どうして国民に犠牲を強いる!?」

「その痛みを忘れぬために、我々は民の先陣を切るのだ」

「私には理解できないな。誰かを傷つけてまで幸せになりたいなんて思えない」

「ならば問い直そう。私よ、我が王道に代わるものをお前は保持しているか? 私を否定するには、その代わりとなるものを持つことが最低条件だ」

聖王ヴィヴィオに問われ、ヴィヴィオは僅かに逡巡した後にレイジングハートの先端を彼女に向ける。それが、今のヴィヴィオの偽らざる本心であった。

「答えはなしか」

「正義と政治に王道なしだ。今はなくても、いつか見つけ出す」

「保留というわけか」

「私にできることなんて、砲撃を撃つことくらいだ。エリオお兄ちゃんみたいに速く走れないし、ルーお姉ちゃんやキャロお姉ちゃんみたいに召喚獣の使役もできない。
クロスレンジは得意じゃないし、戦術なんて全然思いつかない。ううん、それだけじゃない。私は自分の周りのことで手一杯だ。
困っている人を助けたいと思っていても、セリカちゃんみたいに世界中の人を救いたいとは思わないし、あなたみたいに自分を犠牲にしてまで国に尽くしたいとも思わない。
ママみたいに最後まで戦える保障もどこにもない。私は死にたくないし戦いたくもない。それでも・・・・・・・・・」

毅然と見上げた視線は強く、その表情は二十歳にも満たない子どもとは思えぬ程引き締まっていた。
自分の口にしていることがただのわがままであるとわかっていながら、それでもヴィヴィオは目を背けずにきちんと自分と向かい合って胸の内を言葉へと変える。

「それでも、私の力で助けられる人がいるのなら、私は戦う」

「目の前で苦しむ人を救うためにか?」

「それしかできることがない」

「お前の目の届かぬところで苦しむ人間は?」

「私じゃ救えない」

「見捨てるのか?」

「私一人じゃ救えない。けれど、私は一人じゃない。私にできないことはその人がしてくれる。私よりも速く走れる人、魔法の上手い人、力持ちの人、頭のいい人、
そんな人がたくさんいる。だから、私はその人達にできないことをする。私は世界を救うんじゃない、そこに住む人を助けるんだ。それが私の戦いだ」

今日という日まで、ヴィヴィオは多くの人間の生き様を目にしてきた。
愛する者のために全てを投げ出した者がいた。
大切な家族のために己の心を殺した者がいた。
胸に描いた理想のために命を削った者がいた。
目指した夢を叶えた者がいた。
自分の正義に押し潰された者がいた。
様々な価値観が生まれては消え、我を通すこともままならない生き難い社会。それが今のミッドチルダだ。だが、だからこそ生きていける。
多くの思いが交錯するから争いが生まれるのだとしても、その争いの中で芽吹く繋がりは何よりも大切でかけがえのないものなのだから。
だからヴィヴィオは、ただ純粋に助けたいという願いのみを糧に魔法の力を振るい続ける。差し伸べた手を掴んでくれたかどうかという結果よりも、
手を差し伸べるという行為自体が何よりも尊いのだから。

485:Das Erbe zur Zukunft④
08/08/30 15:02:06 28uAuMX+
「私はみんな大好きだ。だから、私はみんなと生きていく!」

例えそれがもう一人の自分を否定することになろうとも、人間の持つ可能性に賭けたかった。
かつて自分を命懸けで救ってくれた人の涙が、生きとし生きる全ての生物に宿っていると信じたいから。

「お前は・・・・・騎士なのだな」

「そしてお前は王だ」

「王が戦わずして、誰が国を守る?」

「世界を守るのは王じゃない、人だ」

「何故、そこまで信じられる?」

「絶望する理由がないだけだ」

「その言葉、欠片でもこの娘に伝えてやればどうだ?」

「そのための言葉だ。私は最初から、お前なんかと戦っていない!」

虚空から出現した虹色の糸が聖王ヴィヴィオの四肢に絡みつき、身動きが取れぬように拘束する。
同時に、レイジングハートのカートリッジ機構が駆動して高純度の魔力がデバイス内の回路を循環し、槍の先端に虹色の光が凝縮していく。

「私が戦っているのは、セリカちゃんだけだ! お前は邪魔をするなぁっ!!」

叫びと共にエクセリオンバスターが放射され、聖王ヴィヴィオの姿が虹色の奔流に呑み込まれる。
だが、次の瞬間にはバインドを引き千切った聖王ヴィヴィオがカイゼル・ファルベを翼のように押し広げながらヴィヴィオの砲撃を二つに割り、
海面から飛び出たトビウオのように獲物目がけて滑空する。

「それでこそ私だ。私は誰にも理解されず、孤独の中で戦う姿こそよく似合う」

「言葉にすればわかりあえるさ。でなきゃ、人は一人じゃ生まれてこない。みんなと分かち合うために、人は孤独を恐れるんだ」

繰り出された拳をラウンドシールドで受け流し、擦れ違い様にショートバスターを連射して牽制、即座にアクセルフィンで横滑りして用意しておいた
ディバインシューターを展開する。敢えてコントロールを度外視して弾数のみを優先したそれは瞬く間に視界を埋め尽くし、海流のように蠢きながら前進していく。

「その孤独が、多様な価値観が全てを滅ぼす。わからぬ訳ではないだろう!」

極太の砲撃がディバインシューターの壁を焼き払い、滑空した聖王ヴィヴィオの蹴りが容赦なくヴィヴィオの体を捉える。
瞬間、ヴィヴィオもまたレイジングハートを振るい、ショートバスターを発射する。打撃と砲撃がそれぞれの聖王の鎧とぶつかり、
飛び散った火花を垣間見る暇さえ与えずに両者の体は独楽のように回転しながら宙を舞った。

「孤独が争いを生むのなら、それを拭う幸を王が与えれば良い。王とはそのための機械、国を動かす心臓だ! 末端でしかない騎士が敵うと思うな、私よ!」

「王様がそんなんだから、争いはなくならないんだ。言葉にすれば分かり合える、思いをぶつければ分かり合える。そのために人は生きているんだ!」

聖王ヴィヴィオが放った魔力弾の雨を、ヴィヴィオは乱射したシューターで迎撃し、再び砲撃のチャージを開始する。
その隙を突いて聖王ヴィヴィオは拳を握り、追い縋ろうとするディバインシューターを蹴散らしてヴィヴィオへと迫る。

486:Das Erbe zur Zukunft⑤
08/08/30 15:02:45 28uAuMX+
「ディバイン・・・・・・」

「はああぁぁぁぁっ・・・・」

「・・・バスタアァァァッ!!」

拳が届く寸前でチャージを終えたヴィヴィオがディバインバスターを発射し、轟音を上げながら虹色の閃光が迫りくる聖王ヴィヴィオを飲み込まんと大気を焦がす。
攻撃に集中している聖王ヴィヴィオに回避の術はなく、直撃を受けて仰け反った隙にバインドを展開、SLBのチャージタイムを稼ぎつつ一気に距離を取るのが
ヴィヴィオの狙いだ。だが、攻撃が間に合わないことを事前に気づいていた聖王ヴィヴィオは即座に用意しておいた砲撃を放ち、威力の相殺を図る。

「なるほど、この娘の記憶の通りだ。お前はお前の母とよく似ている。どれだけ苦しんでも絶望せず、屈しようとしない。諦めるということを知らない。
だが、それがこの娘を追い詰めた。お前の母に憧れ、その強さを目指し、そして手が届かなかったと知るとこの様だ」

光の奔流を割って飛び出した拳が、ヴィヴィオの聖王の鎧とぶつかって鈍い音を響かせる。思わず耳を塞ぎたくなるその音は、人間の骨が砕ける音だ。
しかもそれは一度だけではなく、強固な聖王の鎧を半ば強引に突破せんと力を込める度に、不快な旋律と化して断続的に空に響き渡るのだ。
また、砲撃の威力を殺し切れなかったのは、聖王ヴィヴィオの右腕に深い裂傷が起きており、そこから痛々しいまでに真っ赤な血が流れ落ちているのを見て取れた。

「セリカちゃん!?」

「考えることを放棄し、自分であることを拒絶した挙句、何の見返りも求めずに自己犠牲だ。駒として使い潰す以外の価値など、この娘には存在しない」

「止めろ・・・・・それ以上、セリカちゃんを傷つけるな!」

「喜べ、セリカ・クロスロード。お前は遂に、成りたかった英雄になれるのだ。お前は死して私に勝利をもたらし、私は目の前の私の体へと移る。
生前の私と同じ遺伝子だ、きっとよく馴染むであろうな。その喜びと共に、お前のことを褒めてつかわそう。それが私の与えたお前の役目だ」

灰色の虹がヴィヴィオの聖王の鎧を徐々に侵食し、ゆっくりと拳が不可視の壁を突き抜けていく。それは同時に、彼女の右腕がどんどん壊れていっているのと同義であった。

「自分を取り戻して! 聖王に好き勝手させるなんて、セリカちゃんらしくないよ! このままじゃ、セリカちゃんが死んじゃう!」

「無駄だ、私の言葉はこいつに届かぬ!」

「死んだらそこで終わりなんだよ! もう戦えないんだよ! みんなの笑顔を守りたかったんじゃないの!? ここで死んだら、
今日まで頑張ってきたこと全部が無意味になるんだよ! 思い出して、どうしてここに立っているのかを、何故この道を選んだのかを! 
例えその結果が間違っていても、みんなから否定されたとしても、その道を選んだからここにいるんだってことを忘れないで! 
どうして戦いたいと思ったのか、その気持ちを否定しないで!」

直前まで迫った拳は実際の大きさよりも遙かに大きく見え、触れた先から砕けていってしまうような凶悪な気配を纏っていた。
その死の具現ともいえる拳を前にして、ヴィヴィオは視線を逸らさずに聖王ヴィヴィオの内に沈んでいるセリカに向けて語りかける。

「私だって悩んだ。自分がやってしまったことに後悔して、躓いて、それでもみんなから笑われるような小さな理由に縋ってここまで来た。
小さい頃の私は弱くて泣き虫で、転んでも一人じゃ起きられなくて、みんなにもたくさん迷惑かけて、私なんかいない方が良いんだって思ったこともあって
・・・・・・・それでも、私のことを守るって抱きしめてくれた人がいて、その人に憧れたから・・・・・・その憧れが私を私にしれくれるから、
私はここに立っている。それが正しいのかどうかはわからない。けれど、その気持ちに間違いがないことだけはわかる。憧れることが間違いだなんて、
誰にも言わせない。思い出して、セリカちゃんがみんなの笑顔を守りたいって思った理由を、高町なのはに憧れた訳を! 自分を否定してでも戦おうって決めた原点を
・・・・・・・・胸に宿った、熱い彗星のような鼓動を・・・・・・・その憧れだけは、忘れたりしないで・・・・・・セリカちゃん!」

虹の鎧が砕け、死の拳が唸りを上げる。
その戦いを見守っていた人間の誰もが目を背け、ヴィヴィオ自身ですらここで終わりなのかという諦観の念を抱く。だが、その一撃が頭蓋を砕くことはなかった。
まるで場違いな静寂が空に戻ってくる。
目の前の出来事にヴィヴィオが息を呑み、聖王ヴィヴィオもまた驚愕に眉をひそめる。その視線の先には、突然動かなくなった聖王ヴィヴィオの右腕があった。

487:Das Erbe zur Zukunft⑥
08/08/30 15:03:20 28uAuMX+
「う、動かぬ・・・・・・」

「セリカちゃん・・・・そこに・・・・」

「く・・・・このおぉっ!!」

ヴィヴィオが何かを言おうとした瞬間、苛立ちで顔を歪ませた聖王ヴィヴィオが空いている左手を翻して無防備なヴィヴィオの体に魔力弾を撃ち込み、
怯んだところで放たれた回し蹴りが側頭部を殴打する。容赦のないその一撃にヴィヴィオは耐え切れず、視界が暗転すると共に何か見えない力に体が引きずられていく。
堕ちているのだ。
頭部への一撃で意識が飛び、アクセルフィンを維持できなくなったようだ。
どこかに機能障害が発生しているのか、レイジングハートに内蔵されているはずの自動浮遊機能も発動してくれない。

(届いたのに・・・・・・今、確かに届いたのに・・・・・・私の力じゃ、ここが・・・・・限界・・・な・・・の・・・・・)

衝撃が体を走る。
どうやら、殴られているらしい。放っておけばこのまま地面に激突して潰れたトマトのようにみっともない姿を晒してしまうというのに、
あの尊大な王様は不様に死ぬことすら許してくれないようだ。
その時、声が聞こえた。
母から譲り受けて以来、ずっと一緒に戦ってきた鋼の家族、レイジングハートの声が。

《まだです》

(レイジング・・・・ハート・・・・・・・)

《まだあなたは、全てを出し切っていない。あなたにはまだ、やれることが残っているはずです》

(けど・・・・・ブラスターモードは・・・・・・・・)

ヴィヴィオの脳裏に、感情のままにブラスターモードを起動させてセリカを傷つけてしまった時の出来事が蘇る。
あれは自分も敵も傷つける破滅の力。相手の意思など無視して悪魔の如き暴力で捩じ伏せる恐ろしい機能だ。使えば己の命だけでなく、誇りまで失うことになる。

「あんな思いは・・・・・もう嫌だ・・・・・・・」

《それは私達の力です。ですが、あなたの力は・・・・・あなただけの力は、まだ残されている・・・・・・・》

「私に・・・・・そんな・・・・も・・・・」

《否定しないで下さい。王であることも兵器であることも忌むべきことかもしれません。ですが、その力は罪なき無垢なあなたの可能性です。
あなたの一部なのです・・・・・・だから・・・・・・・・・》

奇しくもそれは、かつてセリカが口にしたのと同じ言葉であった。

『あんたの一部に変わりないんだから、きっちり最後まで付き合いなさいよ』

かつて聖王の力に悩んでいた時、セリカが自分にかけてくれた言葉。同情でも否定でもなく、ただ事実だけを述べた冷たい言葉。
けれど、その言葉のおかげで自分の力と向き合うことができた。彼女がいたから、自分は魔導師であり続けることができたのだ。

488:Das Erbe zur Zukunft⑦
08/08/30 15:04:05 28uAuMX+
《だから・・・・・・ご自分まで否定しないでください、マスター!》

そしてヴィヴィオは、己の奥に眠る忌むべき力を解放する。
痛みに震える体に鞭を打ち、全身を引きずる重力に逆らって、際限なく澄み渡る意識のままに、ヴィヴィオは脳裏に描いた雷光を現実へと侵食させた。





その瞬間、誰もがヴィヴィオの敗北を確信した。
意識を失い、落下していくヴィヴィオに迫りくる聖王ヴィヴィオの拳から逃れる術は最早ない。堅牢を誇る聖王の鎧も同じ聖王の前には無力であり、
レイジングハートが自動詠唱したプロテクションもほとんど意味をなさなくなっている。だが、その絶望は他の誰でもない、ヴィヴィオ自身の手によって扶植された。

《Sonic Move》

雷光が空を駆け抜ける。
その場にいた誰もが、己の目を疑った。必殺を賭して拳を放った聖王ヴィヴィオですら、いったい何が起きたのか把握し切れておらず、
突如として姿をかき消したヴィヴィオの姿を求めて周囲を見回している。
そんな中、唯一ヴィヴィオの動きを追うことのできたごく一部の者は、彼女の佇まいにある人物の姿を重ね、歓喜と畏怖の入り混じった戦慄に背中を震わせた。

「あ・・・・あれ・・・・あれは・・・・・」

その速さを誰よりも目に焼き付けていたエリオが声を震わせ、隣にいたキャロが堪え切れずに涙を浮かべてエリオの腕に縋りつく。
シグナムは万感の思いでヴィヴィオを見上げ、ティアナは驚愕の余り言葉を失っていた。

「あれは・・・・母さんの魔法だ」

聖王の魔の拳から逃れるためにヴィヴィオが使用した魔法。それはエリオとキャロの母であり、シグナムの好敵手であり、ティアナのかつての上司であり、
そしてヴィヴィオのもう一人の母親であった、フェイト・T・ハラオウンが得意としていた加速魔法、ソニックムーブであった。





一度として使ったことがないにも関わらず、寸分の狂いなく発動したソニックムーブの感触を、ヴィヴィオは言葉に表すことができなかった。
嬉しいのか悲しいのかもわからず、自然に溢れてくる涙を止めることができない。
ただ、この瞬間から自分はさっきまでと違う位置に立つことができるようになった、それだけは理解できる。

「いくよ、レイジングハート」

《Yes, my master》

再びソニックムーブを発動し、光速の矢と化したヴィヴィオが聖王ヴィヴィオへと迫る。それは余りに無謀な突撃であった。
ヴィヴィオの領分は誘導操作弾と砲撃による中・長距離戦であって、接近戦はどうしても聖王ヴィヴィオに劣ってしまう。
いくら魔力が残り少ないからといって、一か八かの突撃を仕掛けるのは愚の骨頂と言っても良い。
だが、稚拙なはずのヴィヴィオの一撃は呆気なく聖王ヴィヴィオの防御を打ち崩し、聖王の鎧を中和しつつ振り下ろした拳が聖王ヴィヴィオの顔面を捉える。
それは、スバルが習得しているシューティングアーツの打撃コンビネーション、ストームトゥースであった。

「動きがさっきと違う!? 何だ、その力・・・・・・」

「これは私の兵器としての力、お前にはない、私だけの力だ。私はもう逃げない、この力とも真正面から向き合って生きていく
・・・・・・・・ここからが、正真正銘の全力全開だ」

手の平から生みだした魔力球が破裂し、眩しい輝きが聖王ヴィヴィオの視界を焦がす。その隙を突いて再び背後に回り込んだヴィヴィオは、
まるでエリオのようにレイジングハートを両手で構え、聖王ヴィヴィオを串刺しにせんと大気を引き裂く。

489:Das Erbe zur Zukunft⑧
08/08/30 15:04:42 28uAuMX+
「馬鹿め、殺気が殺し切れておらぬ!」

振り返りざまに放った回し蹴りがレイジングハートの先端を打ち砕く。その瞬間、今にも串刺しにせんと槍を振るっていたヴィヴィオの姿が溶けるように掻き消え、
そのすぐ後ろから染み出るように本当のヴィヴィオが姿を現す。

「幻影!?」

「紫電一閃!」

炎を纏った拳が聖王の鎧を焼き、周囲に猛烈な陽炎を生みだした。その歪んだ空間を引き裂き、聖王ヴィヴィオのハイキックがヴィヴィオの頭蓋を砕かんと迫る。
しかし、その一撃は今までのどの防御魔法よりも強力な障壁が完膚無きまでに防ぎ切り、聖王ヴィヴィオはヴィヴィオに触れることすら敵わなかった。

「トーデス・ドルヒ」

「くっ・・・・調子に乗るな!」

聖王ヴィヴィオはバックステップを踏みながら死角から迫る短剣を破砕、砲撃の態勢に入る。
それを見たヴィヴィオはすかさず用意しておいた術式をレイジングハートに走らせ、激発音声を紡いだ。

「縛って、鋼の軛!」

瞬間、遙か眼下の大地を突き破って出現した無数の虹色の針が、滑空する聖王ヴィヴィオを縫いつけんと迫る。
そして彼女が回避に気を取られている内にヴィヴィオは風に流れる雲の中から適当なものを見繕い、足下に放電を纏う魔法陣を展開する。

「サンダァァァァ、レイジィッ!!」

「回避・・・・間に合わん!」

幾筋もの落雷が降り注ぎ、バリアで防ぎ切れなかった電撃の余波が聖王の鎧に弾かれて霧散する。
これが純粋魔力の砲撃ならば或いは鉄壁の防御を抜けていたかもしれないが、電撃を伴う分その破壊力はヴィヴィオの代名詞ともいえる
ディバインバスターを遙かに上回り、過負荷でかなりの魔力を消耗させることができたはずだ。

「まったく、次から次へと面白い手品を見せてくれる」

僅かに体を帯電させながら、聖王ヴィヴィオは唇の端を釣り上げる。体はお互いにもう限界のはずなのだが、彼女はまるで堪える素振りを見せていなかった。
骨折している上に肉が裂けている右腕もまるで気にならないようで、片腕のハンデにも付け入ることができない。
何とかして大技をぶつけて聖王ヴィヴィオを昏倒させなければ、こちらが先に魔力切れを起こしてダウンしてしまう。

(残りはマガジン一個と四発・・・・・・・何とか動きを止められれば・・・・・・・)





二人の聖王の戦いは、時を追うごとに苛烈さを増していった。
数々の魔法を自分の内より汲み上げて自分だけの戦術を構築し、果敢に攻めるヴィヴィオと、彼女の怒涛の攻めをまともに食らってもない倒れない聖王ヴィヴィオ。
当初こそこれはヴィヴィオの個人的な戦いだからと傍観していた面々は、激しさを増すその戦況に、最早自分達が介入することは不可能であると悟っていた。

490:Das Erbe zur Zukunft⑨
08/08/30 15:06:11 28uAuMX+
「ソニックムーブにサンダーレイジ、それに幻術も・・・・・・」

「わたしのブーステッドプロテクションとルーちゃんのトーデス・ドルヒ」

「ヴィータのアイゼンゲホイルとザフィーラの鋼の軛、そして私の紫電一閃」

「見て、あのレイジングハートの構え方はエリオの槍術よ」

「それにシューティングアーツも・・・・・・・・・」

「これが、レリックウェポンの真の力・・・・・兵器として生み出されたヴィヴィオに組み込まれた、高速学習能力・・・・・・・」

高速データ収集による攻撃の無効化及び学習は、ヴィヴィオが生み出される際に付属された機能であり、
幼い頃のヴィヴィオはこの機能に従って無意識の内に魔導師や騎士に興味を示し、本能的に身を守るために戦い方を学習していた。
そして、一度でも学習した魔法はデータとしてヴィヴィオの内に記録され、それを無効化する能力を彼女は有している。
だが、なのはの娘として普通の人々と共に生きると決めたヴィヴィオは、その力を嫌悪し、コントロールの方法を身につけてからは
自主的に使用したことは一度としてなかった。その力を自覚する度に彼女は、自分が人間ではなく兵器であるということを思い知らされるため、
ずっと忌み嫌ってきたのだ。それはヴィヴィオが母親と同じ戦い方に固執していたことからも容易に想像がつく。
だが、ヴィヴィオが今使用している魔法や技は全て忌み嫌っていたその力を使って学習したものであり、彼女はそれを用いて戦うことに何の躊躇も抱いていない。
それは彼女が自分の思いを貫くためにその力と向き合い、遂に自分の一部として受け入れることができたからだ。
しかもそれは、ただ戦い方を模倣しているだけではない。最初は拙く、形を真似ていただけの粗悪な模倣でしかなかったが、
次第に自分の戦い方に合わせて最適化し、他の魔法や技術と複合させることで全く新しい戦術へと昇華させていっている。
それはもう誰の真似でもない、ヴィヴィオが一人で完成させた、ヴィヴィオだけの戦い方だ。

「ヴィヴィオの中には、あたし達やなのはさん・・・・・みんなの思いが生きているんだ」

何気ないスバルの呟きに、その場にいた全員が同意する。

「ヴィヴィオは多くの人達から学んだことを、思想や信念をただ受け継いだだけじゃない。それに対して自分で考え、形を変えて自分だけのものへと成長させている。
過去から継承した思いを、今という自分の中で育み、未来へと繋ぐ・・・・・・・・・ヴィヴィオには、人間の持つ無限の可能性が秘められている」

「人の欲望から生み出された彼女が、人間の希望を象徴している・・・・・・みんな見えるか、ヴィヴィオは今、自分の力で羽ばたいているぞ」





全てを投げ出し、考えることを止め、混濁する意識の闇に呑まれたはずだった。外の戦いから目を背け、何もない世界で自己が消えるまで漂い続ける不確かな存在。
そんな残骸に成り果てたはずなのに、気付けば自然と浮かび上がろうとしていた。

(何でかな・・・・・・・何で、こんなに必死なんだろう?)

感覚すら消えた孤独の闇の中で、どうして自分はこんなにももがいているのだろう。
もう自分の役目は終わったはずなのに、どうしてまだ戦おうと足掻いているのだろう。
大好きなあの人はもういないのに、どうして消えたくないと念じているのだろう。

491:Das Erbe zur Zukunft⑩
08/08/30 15:07:03 28uAuMX+
『セリカちゃん!』

あいつが呼んでいる。
友達だから、ただそれだけの理由でボロボロに傷つきながら、それでも懸命に羽ばたいて立ち向かってきた少女。
あいつを見ていると無性にイライラしてくる。お節介焼きで優柔不断で何かにつけて悩みまくる上に、人を疑うことを知らない純真な魔導騎士。
ハッキリ言って大嫌いの部類に入る人間なのに、どうしてこんなにもあいつのことが気になるんだろう。どうして、あいつの言葉がこんなにも胸に突き刺さるんだろう。

(ああ・・・・そうか・・・・・・あいつだけだ、私を否定したのは・・・・・・)

みんなの笑顔を守りたい。そんなご大層な夢を、彼女だけが真剣に取り合ってくれた。そして、そのために暴走した自分を真っ向から否定してくれたのも、あいつだけだ。
思えば、自分のためにこんなにも真剣になってくれた人間はいなかった。誰もが自分の夢をせせら笑うか、無知な子どもを見るような目で見下す中、
彼女だけがその夢を正しいと言ってくれた。そして、そのための方法を間違えていると断じてくれた。
自分に生き方を教えてくれたシエン・ボルギーニですらしてくれなかったことを、彼女だけがしてくれたのだ。友達だから、ただそれだけの理由で。

(違う・・・・・友達って、理由にならない・・・・・・・理由もなく真剣になっちゃう相手が・・・・・・友達って言うんだ・・・・・・・)

どんなに拒絶しても彼女は諦めず、最後の最後まで自分の名前を呼んでくれた。
どんなに傷つけても躊躇わず、最後まで自分のことを友達と呼んでくれた。
友達だから真剣に向き合ってくれて、自分の怒りを受け止めてくれて、間違っていることを指摘して、一番大事なところは認めてくれた。

『例え自分を否定しても、戦おうって決めた原点を・・・・・・・・胸に宿った、熱い彗星のような鼓動を・・・・・・・その憧れだけは、忘れたりしないで』

シエンに命じられたから戦った。彼のために自分を投げ出し、偽りの聖王となってあいつを傷つけた。何でそんなことをしようと思ったのか。
どうして自分の存在がなくなってでも、平和な世界を作りたいと願ったのか。その答えは、自分の中のずっと深いところで今もまだ燻っている。

(だって、楽しそうだから・・・・・・みんなが笑っているのを見ると、私まで笑えるから・・・・・・・だから、それが私の原点
・・・・・・英雄に憧れたのもそれが見たかったから・・・・・あの人が・・・・・なのはさんが笑っていたから・・・・・・・・・)

強くて美しかった高町なのは。だが、セリカを惹きつけて止まなかったのは、彼女が災害現場から救出した子どもを抱え上げて微笑んでいる写真だった。
子どもの無事を、ただ純粋に喜んでいた彼女の微笑みに、自分は目を奪われた。

(私もあんな風に笑いたくて・・・・・あんなに眩しく笑えるのなら、私も魔導師になって、みんなの笑顔を守りたかったから
・・・・ずっと側で、誰かの笑顔を・・・・・・ああ、そうか・・・・何でこんな思い違いを・・・・・・・)

何もない暗闇に向けて、セリカは自嘲する。

(私はみんなの笑顔を守りたいんじゃなくて、みんなの笑顔が見たかったんだ)

けれど、力を求め続けて最初の思いを忘れてしまった。目的を見誤って、自分を犠牲にして戦うなどという考えを抱いてしまったのだ。
ただ守りたいという思いに駆られて、前提から間違えて、その先にあるものが何か知ろうともせずに、
ずっとそれが自分の願いだと思い込んで、今日まで走り続けてしまったのだ。
だが、気付くのが遅すぎた。やり直したくてもやり直すだけの力がもう残っていない。もう一度戦いたくても、指先一つ動いてくれない。
心のどこかでまだ、あの人と同じ場所に逝きたいと思っているから、どうしても最後の一歩を踏み出せない。
あの人の声が聞こえたのは、正にその時だった。

                                                              to be continued

492:名無しさん@ピンキー
08/08/30 15:08:14 mpNHUJug
支援するぜい

493:B・A
08/08/30 15:11:48 28uAuMX+
以上です。
本当はこれと次話を一話で終わらせるはずだったのですが、分量増えまくったので2つに分けました。
よって一話余分に増えて予定終了話はきっちり30。
いや、エピローグが一話で収まればの話ですが。

494:名無しさん@ピンキー
08/08/30 15:34:42 mpNHUJug
あう、支援間に合わなかった……代わりにB・A氏にこれをつGJ
熱い戦闘、いいなあ……自分も今戦闘シーンを書いてるけど面子の都合上ちっとも
熱くならないぜ。

最近のペースが落ち着いてるのは規制に引っかかってる職人氏が多いのかな?



495:名無しさん@ピンキー
08/08/30 15:54:44 7l5HUJ9n
最近氏が来ないので心配だったぜ
GJ!
もうこの展開熱すぎるだろ!!!
間違いなくBGMは水樹じゃなくてスパロボのラスボス戦のだな
とうとうヴィヴィオの思い届くのか?
次回も燃えさせてくれ!

496:名無しさん@ピンキー
08/08/30 16:28:59 Nd1ghgp7
>>492>>494
エロパロ板の一番上の宣伝スレは一体何のために設置されてるのかと小一時間(ry

497:名無しさん@ピンキー
08/08/30 17:13:55 vcd1H6yj
>>496
完全に部外者ですまんがどういう意味なのか教えていただきたい
純粋にわからん

498:名無しさん@ピンキー
08/08/30 17:17:51 GskjJmSX
>>497
つスレッド924

>>493
GJ!いやもう分量気にせずゆっくり納得いくまで書いてください。

499:名無しさん@ピンキー
08/08/30 17:29:13 Iucvsigy
やっぱ分割で書いてると
容量オーバーとかしやすいな。
投下しちゃった分は直せないし。
難しいな。

500:名無しさん@ピンキー
08/08/30 17:39:25 pEkfoCp7
>>498
717しか、ないんだけど……?
壺、じゃ見えないのかな。

501:名無しさん@ピンキー
08/08/30 17:54:57 GskjJmSX
クグっても出てこない?
俺もdat落ちとかの情報載せてるスレで見聞きしただけなんだが

>//----------------------------------------【編集後記】
>識者の方からアドバイスをいただきました。昨日の「アダルト専用サーバのご案内スレ」ですが、
>通称「スレッド924」と呼ばれるスレで、『板内での告知・宣伝などを目的とした「書き込めない」「落ちない」
>「ちょくちょく上がってくる」特殊なスレッド』(2ちゃんねるwikiより引用)だそうです。

>114 名前: 名無しさん@お腹いっぱい。 [sage] 投稿日: 2008/08/28(木) 06:40:08 ID:riV2p/mE
>>113 運営が張ってる広告専用スレ

>イパーン人は書き込めないんだけど、書き込みの操作をすることで
>連投規制の支援ができる、便利なスレ

502:名無しさん@ピンキー
08/08/30 17:56:52 vcd1H6yj
>>501
サンクス やっと見えた

503:ぬるぽ ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:32:50 Ym+ydcd5
 スマン、ありえねーくらい間を空けてしまった。申し訳ない。80スレの頭で書いた寿司のやつの続きです。
15レスくらい使わせてもらいます。途中で規制される可能性があるので、ちょっと時間がかかるかも。

・前編、後編の二回。今回は後編
・エロくない作品
・ほのぼのと真面目の入り交ざった作品
・時間軸はA’sのちょい後の軸と、Stsのちょい前の軸の混合
・NGにしたい人はトリップかIDでよろしく。

~~前編のあらすじ~~

 なんやかんやで、八神家の五人は、ヴィータのゲートボールの知り合い・鈴木老人の寿司屋にやってきた。
もうすぐ、鈴木老人の店はなくなってしまうのだが、果たして……


↓以下、本編スタート

504:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:34:12 Ym+ydcd5
「―うむ。はやてちゃんにしぐなむさんにしゃまるさんにざふぃーらさん、じゃな」
「うちのヴィータが、いつもお世話になってます」

 鈴木老人にぺこりと頭を下げるはやて。

「いやいや。わしらこそ、びーたちゃんのおかげで、随分と外に出るのが楽しくなったもんじゃ。
 今日はみなさんのために、赤字覚悟で思い切りいい魚を仕入れてきた。半分やけくそじゃ」
「えっ? いや、そんな……」
「ええんじゃ、ええんじゃ。どうせもうすぐ店はなくなるんじゃ。炎が消える前の最後の瞬きじゃ」

 そう言って鈴木老人は豪快にふひゃひゃと笑ったが、事情が事情だけに、八神家の五人は笑えない。
豪快な笑いの中に、どこか寂しげなものが混ざっていることに気が付くのは、容易かった。

「あの……」
「はは、すまんの。では、そろそろ始めようかの」

 そう言うと、鈴木老人は準備を整える。ではここから、八神家が味わった寿司のうち、五品を紹介しよう。


505:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:35:28 Ym+ydcd5
~~秋刀魚の握り~~

「へぇー、秋刀魚って、お寿司で食べられるんですか?」

 秋刀魚の調理法というと、塩焼きしか思いつかない人がほとんどではないだろうか。
ところがどっこい、実はこの大衆魚、寿司ネタとして非常に鮮烈な味を持っているのだ。

「世間一般ではあまり知られてはおらんようじゃがのぅ。めちゃくちゃうまいぞ」

 料理の知識にはそこそこ自信のあるはやてだが、秋刀魚が寿司ネタとして優れた面を持つということは、
皆目知らなかった。驚きと同時に、はやての口から疑問の声が漏れる。

「知らんかったわぁ……でも、秋刀魚のお寿司って全然見ぃひんね。どうしてやろ?」

 漁獲量が昔より減ってきているとはいえ、秋刀魚はまだまだスーパーに行けば見ることができる魚だ。
そんなポピュラーな魚なのに、寿司ネタとして使われるという話をあまり聞かないのはどうしてだろうか。

「秋刀魚は鮮度が落ちやすくてのう。鮮度が落ちると、寿司ねたとしての味は極端に落ちてしまう。
 つまりは鮮度が勝負の魚なんじゃ。今日は特別に、仕入れてもらった。では―」

 その言葉を境に、鈴木老人の周りの空気がスッと変わった。

「握るぞい」

 真剣な眼差し。いつもと違うその様子に、ごくり、と生唾を飲むヴィータ。
と、次の瞬間!まるで鷹が獲物を攫うかのように、木桶に右手を突っ込んで中の酢飯を掴み取る鈴木老人。
鮮やかな手つきでそれを丸めると同時に、左手には秋刀魚の切り身がのっかっている。
丸めた酢飯を切り身の上に置いた―かと思ったときには、既に寿司の形がしっかりと形成されていた。

(なんと……この老人、只者ではない!)

 目の前の老人から放たれるオーラに、思わず背筋をブルッと震わせるザフィーラ。

(な、なんなの、この人……!)

 圧倒されるその仕事ぶりはまるで―目の前の一人の老人に、光が凝縮していくようだと感じるシャマル。

(くっ、馬鹿な……! この私が、目で追うのが精一杯だと!)

 自分がライバルと目する少女のスピードに勝るとも劣らない、と驚愕するシグナム。
凄まじい勢い。それでいて雑な感じは全くなく、丁寧な仕事ぶり。あっという間に、十貫の寿司が出来上がった。

「さあ。どうぞ、召し上がれ」

 秋刀魚の上には、一般的なワサビではなく、生姜がのっかっている。ワサビより、生姜のほうが相性がいいのだ。

「……んっ、はぅん……!」
「……っ……おいし……」

 口内にじゅわっと広がる脂の味が、なんとも鮮烈。おっとりとした(?)感じではなく、勢いのある味の脂だ。
青魚にありがちな臭みがほとんど感じられないのは、薬味の生姜の効果だけではなく、下処理が丁寧だからだろう。
身もとろけるような食感。その秋刀魚の身が、ほのかなだしの香りがする酢飯と非常によく合う。
素材がよいのはもちろんだが、職人の腕によって見事に素材の魅力が引き出され、一流の寿司となっていた。
内心、たかが秋刀魚だと思っていたはやては、その認識を大幅に改めた。

(うわぁ……秋刀魚だと思って馬鹿にしてたら、あかんわあ……)


506:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:37:27 ESYNTb+e
~~赤貝の握り~~

「ほぅれ、ご開帳じゃ」
「うわぁ! すごい、真っ赤!」

 鈴木老人が貝を開くと、中から真っ赤な水が溢れ出した。赤貝が赤いのは、身だけではない。
赤貝の身や体液が赤いのは、人間の血液が赤いのと同様、ヘモグロビンによるものである。

「うちの店で扱っている赤貝は、本物の赤貝じゃぞい」
「えっ? 本物って……」
「世の中に出回っている赤貝の大部分はのう、実は偽物なんじゃ」

 実は、赤貝は最近やっと養殖ができるようにはなったものの、まだまだ高級品。
一流の寿司屋などでないと、なかなか取り扱うことができない。
そこで、赤貝とよく似た貝を赤貝と称して売るというのが、いかにも日本人の考えそうなことである。
残念ながら、読者の諸君が寿司屋や缶詰で食べているのは、十中八九、赤貝の偽物だ。

「この世界って、結構いい加減ねえ……」
「うぬ……我々も、何が真で、何がそうでないか、それを見極める目をしっかりと持たねばならんな」

 ざわざわする八神家を、鈴木老人が諭した。

「だからのう、よく知っておいて欲しいんじゃ。本物の味を、な」

 目の前に置かれた赤貝の握りは、『大人の事情』などまるで知らないかのように、美しく輝いていた。
鼻にスッと抜ける爽やかな香り。それでいて、底の見えないような奥の深い味。
本物の味がこの一貫に凝縮されている―まだ世の中をほとんど知らない10歳のはやてだが、そう思った。

~~炙り金目鯛の握り~~

「へぇー、金目鯛を握り寿司に……」

 秋刀魚の時と同様、またしてもはやての口から「へぇー」が飛び出した。
はやては、金目鯛の料理法というと、甘辛く煮付けることしか思い浮かばなかった。

「これはのう、とある駅の駅弁を参考にして作ってみたんじゃが」

 皮を残した金目鯛の切り身を、炭火で軽く炙る。香ばしい匂いが立ち込めた。
その切り身と酢飯を、光速で寿司に仕立て上げていく手つきの鮮やかなこと。

「うまい……」
「なんという……上品で軽い味だ……!」

 その美味さに、ザフィーラとシグナムが揃って声を上げる。
さっと炙ることによって、適度に身が引き締まった金目鯛は、しっとりと、それでいて洗練された味がした。
炙られて香ばしくなった皮の食感が、金目鯛の淡白な身の旨みを引き立てる役割を果たしている。
金目鯛にある独特のクセは感じられない。酢飯との一体感も素晴らしい。

507:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:38:06 ESYNTb+e
~~四海巻き~~

 四海巻き、とは断面が四角い巻き寿司のことである。
巻いて包丁で切ると、四角い断面にはマグロや胡瓜・玉子焼きやでんぶなどがカラフルに、美しく配置される。
見たことがある、という人も少なくないだろう。
だが、作り方が非常に難しく、最近ではこれを巻ける職人が少なくなってきたらしい。

「ほれ、こうやって、こうして……完成じゃ!」

 全く迷いがなく、鮮やかな手つきで四海巻きを完成させる鈴木老人。包丁でカットすると、断面が現れる。

「うわあ~……」
「わあ、きれいやなぁ……」

 ヴィータとはやてが、その美しい断面にうっとりとした声を揃って上げた。
他の三人も、感嘆の眼差しで四海巻きの芸術的な断面を見つめている。食べる前に、まず鑑賞。

「食べるのが勿体無いわね……」

 名残惜しそうに四海巻きを眺めた後、ゆっくりと口に運ぶシャマル。

「……っ!!……!」

 まるで、仕事帰りのサラリーマンが一杯やり始めたときのような、くはぁーっという表情を浮かべた。
なんという美味しさ。様々な具が渾然一体となり、それを寿司飯が見事にピタッと一つに纏めている。
寿司飯とは、なんという偉大なものなのだろう。
目で見て楽しみ、舌で味わい愉しむ。これぞまさしく、四海巻きの真骨頂だ。


508:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:38:44 ESYNTb+e
~~炙り大トロの握り・塩~~

「いよいよ、最後の一品と行こうかのぅ。らすとにふさわしい一品を用意したぞ」

 柵取りされたマグロの大トロが、神々しいまでの光を放つかのように、どーんと登場した。
見事な刺身包丁によってその身は大きくカットされ、次には炭火で炙られる。
その極上の大トロを、豪快且つ繊細な技で寿司にしていくのは、まさに、ごっど・おぶ・寿司職人。

「うは……」

 誰からともなく、ため息が漏れた。大きくカットされた大トロは、シャリの上から悠々とはみ出している。
表面を軽く炙った黄金に輝く大トロに少々塩を振り、その上に白髪ネギと大根おろしがちょこんと載っていた。

「これが大トロ……私、食べるの初めてやわ……」

 以前、友人達と青森に行った時には、あの有名な『大間のマグロ』を食べる機会があったが、
あの時食べたのは赤身だった。大トロの部分は食べていない。
(某友人がマグロの目玉という爆弾を頼んだりはしたが)
こんなにいいものを自分が食べてもいいのだろうか、という背徳感と、美味しいものに対する期待感。
逡巡しながらも、はやては炙り大トロの握りに、ぱくりと食い付いた。

「……っ!!」

 はやての身体に、電撃が走った。

「……んはぁっ……」

 まるで、性的に最も脂がのった時期の女性が絶頂でもしたかのような表情と声を上げるはやて。
よく、大トロを食べたときの表現として、「口の中でとろけていくようだ」というのがあるが、まさにそれだ。
程よく炙られて香りの高まった大トロがみるみる融けていき、甘い脂となって口の中で唾液と混ざり合っていく。
白髪ネギと大根おろしが、その脂をなんとも爽やかなものに昇華させている。

 まさしく、至高の一品!

509:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:39:20 ESYNTb+e
「―どうじゃ。満足してくれたかい?」

 ニコニコとしながら、目の前の五人を眺める鈴木老人。

「すげー……こんなにうめーものが、この世界にはあったのか……」
「これが寿司……単なる食べ物ではなく、まるで完成された芸術品のようだ。素晴らしいです、御主人」
「シャマル。お前も少し、この方を見習ったほうがいい」
「な、な、な、なんですって!」

 ザフィーラに掴みかかるシャマルを横目に、はやては満面の笑みを浮かべながら鈴木老人に言う。
今のはやての表情は、心も身体も満ち足りた者にしかできないものだろう。

「私―食べ物で感動したん、初めてです。ほんまに美味しかった。ありがとうございます」
「うんうん。最高の褒め言葉じゃ。みなさんに喜んでもらえて、わしも嬉しいのう」

 ずずずず、とお茶をすするはやて。ぷはぁ……と一息ついた後、こう言った。

「それにしても、こんなに美味しいお寿司を握れる人が、こんなに近くにいたなんて、知らんかったわぁ……」

 その言葉に、鈴木老人の眉がピクリと動いたように見えた。そう、はやての言う通りだ。
なぜ、これほどの腕を持つ人物が、このような目立たない場所で埋もれているのだろうか。
先ほどから抱いていた疑問を払拭すべく、シグナムが、ゆっくりとこう切り出す。

「御主人。あなた、只者ではありませんね」
「はは、そんなたいしたもんじゃないぞい。わしはただの老いぼれじゃ。ふひゃひゃひゃひゃ……」
「……私は、食べ物の世界のことは正直よくわかりません。
 しかし、あなたの持つ雰囲気は一流そのもの、ということだけは確信を持って言うことができます。
 そのようなお方が、なぜこんな目立たないところに……」

豪快に笑い飛ばす鈴木老人を、じっと見据えるシグナム。
その視線に、それまでニコニコと相好を崩していた鈴木老人が、ふと真面目な顔つきになった。

「……なかなかに鋭い目をお持ちの娘さんじゃのう。ここまでやってしまうと、さすがに隠せんか」

 ふぅーと大きく息を吐いた後、どかっと椅子に腰掛けて、鈴木老人は語り出した。


510:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:40:07 ESYNTb+e
「……昔はな、銀座の一流店で職人をしておった」
「銀座で!?」

 鈴木老人の言葉に、はやてがビックリした声を上げた。

「ぎんざ? じーちゃん、どこだよそれ」

 はやて以外の四人は銀座を知らない。驚愕の表情を浮かべるはやての横で、ぽかーんとしている。
はやてが、興奮気味の声で四人に話し出す。

「みんな、銀座っていうのはな!(……大幅に中略……)そういうところなんや」
「「へぇー」」
「鈴木のじーちゃん、そんなにすごいところにいたのに、どうしてこの街に来たんだよ」

 ヴィータの問い掛けに、鈴木老人は複雑そうな表情になった。

「……何かが、違うような気がしての……」
「……?」
「はやてちゃんやびーたちゃんには難しい話かもしれんがの。あの店に来るのは、接待のお客ばかりじゃった」
「せったい? なんだそりゃ?」

 案の定、接待という用語がわからないヴィータ。

「簡単に言うと、仕事じゃ。仕事のために食べに来るんじゃ」
「仕事で? あたし達みたいに、鈴木のじーちゃんの寿司を食べたいから来るわけじゃないってことか?」
「まあ、そういうことじゃな。もっと言うと、わしの握った寿司を味わいたくて来るんじゃなくて、
 わしの寿司を仕事の『道具』として使うために来店する。そういうのが何か、違うような気がしての……」
「…………」
「純粋に、わしの寿司を『美味しい』と言ってくれるお客さんが見たくてのう。ここに越してきたんじゃ」
「……よくわかんねーな。そういう世界のことは」

 わかんねーな、と言いつつ、ヴィータは鈴木老人の気持ちが少しわかったような気がした。
時空管理局に入局して一年、複雑な『大人の世界』というものを少しは見てきたのだ。
鈴木のじーちゃんは、大人の世界の複雑な部分に絡め獲られちまったんだな、と。

「はは……びーたちゃんには難しすぎたか。いや、すまんかった。気にせんでくれ」

 力なく笑う鈴木老人に、シグナムが再び問い掛ける。

「……ところで―よろしいのですか、御主人? この店をもうすぐ畳むと伺いましたが」

 その途端、沈痛な面持ちになる寿司職人。しばらく黙り込んだ後、苦々しく呟く。

「……仕方あるまい。魚は年々値上がりしておる。いいものも手に入りにくくなってきておる。
 わしのような小さな店では、もう限界じゃ。これ以上はどうしようもない……」
「あなたには、まだ十分な力がある。このまま終わってしまうのは実に惜しい。何とか、ならないんですか?」

 何とかしようと一生懸命に頑張った結果がコレだと、そうわかっていながらも、
シグナムはそう言わずにはいられなかった。

「いいんじゃよ、もう。じじいはいささか疲れたわい……」

511:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:40:48 ESYNTb+e
 帰り道―明るく輝く満月の下を、車椅子に乗ったはやてを囲みながら、八神家は淡々と歩いていた。

「……現実というのは、残酷なものだな」

 ポツリ、とシグナムが漏らす。その表情は、沈痛なものだった。

「もういい、とおっしゃっていたが、内にはまだ、この道を歩み続けて生きたいという情熱があるのだろう。
 そうでなければ、今日のように素晴らしいものを作ることなどできはしまい」
「そうね……」

 シャマルも、同調する。

「あれほどの腕と情熱を持ちながら、己の道を途中で断念せざるをえないとは……」
「どうにか、ならないものかしら?」
「……我々には、どうすることもできん。実に、無力だ」

 管理局や魔法関係のことならばともかく、この世界の一般人に過ぎない鈴木老人の店の経営など、
はやて達にはどうすることもできないのは明白だ。

「……残念やけど、なんともならんやろうなぁ。住む世界でも替えない限りは……」

 はやての言葉に、ふぅーっ一同がため息をついた。
だが、しばらく歩いた後、はやては突如自分で言った言葉を、ん?と思った後、あっ!と思った。

(そうや……! 住む世界を、替えれば……)



「―みっどちるだ? そりゃあ、一体どこじゃい?」
「えっと、まあ……とりあえず、一度来てみませんか?」

 ミッドチルダは外国のとある街だ、と適当に誤魔化した上で、はやてとヴィータは説明した。
上述したように、ミッドチルダには生の魚介類をそのまま食するという文化がない。
そもそも、生に限らず、魚介類を食するということがあまりない。
需要が少ないわけだから、魚というものに商品価値はそれほど認められず、したがって安価。
ミッドチルダでなら、何とか寿司屋をやっていけるのではないかと考えた。
(もっとも、市場が発達していないという別のリスクはあるのだが)

512:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:41:34 ESYNTb+e
「……せっかくじゃが、やめにしとくわい。あんた達に迷惑はかけたくないんでの……」
「そんな、私達は迷惑なんか―」
「いやいや、ええんじゃ。ありがとう、はやてちゃん、びーたちゃん」

 諦めというかなんと言うか、もはや達観してしまったかのような、その表情。
だが、店の奥に引っ込もうとした鈴木老人を、ヴィータの声が引き戻した。

「……あれは、嘘だったのかよ?」
「……?」
「この前、『おいしい』と言ってくれる人が見たくて、って言ってたじゃねーか。あれは嘘かよ」
「…………」
「いろいろ理由をつけて……本当は、うまくいかなくなるのが怖くて、びびってるだけじゃねーのか」
「こら! ヴィータ!」

 いつもなら、はやてに「コラ!」と言われれば、そこで終わりである。だが、ヴィータは引かなかった。

「この前の鈴木のじーちゃん、すごく生き生きしてた。本当はまだ、お店、続けたいと思ってるんだろ?」
「いや、わしは……」
「鈴木のじーちゃんの寿司、すごくおいしかった。あたし、また食べたい」

 訴えるヴィータの眼差しは、真剣そのもの。真っ直ぐに目の前の老人を捉えている。
その視線に射すくめられ、鈴木老人は押し黙ってしまう。場に沈黙が流れた。

「……びーたちゃんの言う通り、度重なる苦境で、わしは臆病になっとったのかもしれんのう……」

 その言葉が出たのは、唐突だった。

「わしの寿司をまた食べたい、か……そう言われてしまうと、やめてしまうわけにはいかんのう。
 どこまでやれるかは、わからんが……」
「それじゃあ……」



 そもそも、魔法の存在を知らない人間を、ミッドチルダに連れてくること自体、問題といえば問題なのだが、
そこは管理局の有力魔導師や実力者と太い繋がりがある八神家。
周囲の協力の下、なんやかんやでうまいことやり、『鮨の鈴木・みっどちるだ本店』をOPENさせてしまった。

―ミッドチルダ初の寿司屋が開店した裏側には、こういう事情があったわけである。


513:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:42:12 ESYNTb+e





514:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:42:44 ESYNTb+e
「……のう、はやてちゃん。どうやら随分とお疲れのようだが、大丈夫かえ?」
「えっ?」

 鈴木老人に声を掛けられ、はやてはハッとした。
気分転換のために管理局を抜けて外に食べに来たというのに、どうしても仕事のことが頭から離れない。
せっかく食べにきた寿司も、それほど味わった気がしない。

「なにか、悩みでもあるんじゃないかえ?」
「いや、そんな……そういうわけや、ないんですけど……」
「ふひゃひゃひゃ、隠しても無駄じゃよ。顔にしっかりと書いてあるぞい」

 やはり、数十年間、カウンター越しに客と接してきた職人は違う。人を見る目は伊達ではない。
隠そうと思っても、あっさりとこちらの心の中を見破られてしまった。
しばらく黙っていたはやてだが、やがて、ぽつりぽつりと喋り出した。

「……今の仕事が、あんまりうまくいってないんです……」
「それはそれは……大変じゃのう……」

 うんうんと頷きながら、鈴木老人は次の寿司を握り始める。
鮮やかな手つきで握られたそれは、きらきらと輝きを放ちながら、はやての目の前に置かれた。
だが、はやては心ここにあらずといった感じで、手をつけようとしない。

「あんまり、一人で抱え込まんほうがいいと思うがのぅ……ささ、召し上がれ」
「……私にしか、できない仕事なんです。私が頑張らな、みんなに迷惑が……」

 鈴木老人に勧められて、ようやくはやては目の前の寿司を口に入れた。

「…………」

 絶品のはずなのに。とっても美味しいはずなのに。
はやては思う。これを美味しいと思えないなんて、きっと自分は心が病んでいる証拠だな、と。
でも、仕事の手を緩めたり、ましてや休むわけにはいかない。新しい部隊はどうしても必要なのだ。
今、自分が頑張らなかったら、全てがパーになってしまう。

「ふーむ……」

 はやての言葉を聞いた鈴木老人は、しばらくの間じっと考え込んでいたが、いきなりこう切り出した。

「……はやてちゃんは、寿司が握れるかい?」
「え?」
「わしと同じように、寿司を作ることができるかえ?」
「いや、そんな……私には、無理です」
「まあ、そうじゃな。自分で言うのも何じゃが、みっどちるだで寿司を握れるのはわしだけじゃ。
 そういう意味では、この仕事はわしにしかできんのう」
「…………?」

 鈴木老人の言葉の意図がわからず、はやては黙って話を聞いていた。

515:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:43:32 ESYNTb+e
「じゃがのう、はやてちゃん。わしは一人でこの仕事をしとるとは思ってはおらんぞ。
 例えばのう……寿司を握るためには魚が必要じゃ。じゃが、わしは魚の獲り方など知ってはおらん。
 寿司を握るためには、魚を獲ってきた人から、買わなきゃならん。お米や酢も同じじゃ」
「…………」
「他にもあるぞい。この店―建物はわしでは造れん。誰かに建ててもらわにゃならん。
 電気やがすや水道も、わしの力ではどうにもならん。誰かに送ってもらう必要がある。
 いや、そもそもここでこうして寿司を握れるのは、あの時みなさんが助けてくれたからじゃ」
「…………」
「こうして考えてみると、わしゃあ、世の中のことの万分の一もできん。なんとも非力じゃ。
 人間なんて、みなそんなもんじゃないかえ? 一人でできることなど、たかが知れておる。
 つまりの―わしがここで寿司を握るためには、様々な人の助けがどうしても必要になるわけじゃ」

 その言葉に、はやてはハッとした。

「はやてちゃんも、同じじゃないかえ? わしゃ、仕事の内容がどんなものかまでは知らんがのぅ。
 はやてちゃんにしかできないものだとしても、その仕事をするはやてちゃんが生きていくためには、
 様々な人の助けが必要なはずじゃ」
「……私……」

 自分は一人なのだと、いつしかそう思うことにはやては慣れてしまっていた。
だが、鈴木老人の言葉を聞いてはやては思った。
今の自分が一人に追い込まれてしまっているのは、他でもない、自分自身のせいではないか……、と。

「今のはやてちゃんを見ておると、一人で全部抱え込もうとしているように見えるのう。それはいかんぞい。
 一人で抱え込まずに、もっと周りを見て、頼ってもいいと思うが、どうじゃろうか」
「御主人の言う通りです、主」

 今まで黙って話を聞いていたシグナムが、力強く頷いた。
はやての肩をポンと叩きながら、優しくも強い口調で言う。

「我々では力不足かもしれませんが……あなたの力になりたいと、私は思っています。
 あなたの力に、あなたの支えになってくれる人間は、他にもたくさんいます」
「シグナム……」
「あ、あたしも!」

 出遅れたと思ったのか、座っていたヴィータが、勢いよく立ち上がって叫んだ。

「あたしは、その……はやてがどんな仕事をしているかは、詳しくはわからないけど……
 はやてに文句を言う奴がいたら、そいつ、ぶっ飛ばしてやるから……」
「ヴィータ……」

 たどたどしい感じのヴィータの言葉だったが、気遣いは充分に伝わってきた。

516:ゲートボールと寿司と八神はやて・後編 ◆6W0if5Z1HY
08/08/30 20:44:20 ESYNTb+e
「わしも、はやてちゃんの力になりたいと思うとる。はやてちゃんが、わしの寿司を食べてくれて、
 笑顔になってくれて、また明日から頑張ろうと思ってくれるなら、わしゃあ、死ぬまで寿司を握るぞい」

 三人の言葉を聞いて、はやては胸が熱くなった。人間、辛いときほど周囲の支えがありがたく感じられるものだ。
ありがとう、と言おうとした。だが―

「はやて……?」
「主……」

「あ……」

 気が付いたときには、溢れ出した涙が、はやての頬を伝っていた。

「え……?」

 慌てて目をこすって涙を拭こうとしたが、一度溢れ出した涙の奔流を止めるのは、無理だった。
人前では涙は見せるまいと、そう決めていたはずなのに。

「あかん……なん、で……」

 まだ18歳の女の子でしかないはやてがこの世界で生きていくには、いろいろと辛いことが多すぎた。
辛かったことはその度に、心のゴミ箱に放ってきたつもりだったが、完全に消去することなどできなかった。
誰かにこの辛さをわかって欲しかった。
でも、自分は頑張らないといけないから、この辛さも一人で処理しなければならないと勘違いしてしまっていた。

「……ごめん、な……私……あり……が……」

 自分のことを支えてくれる優しい人達は、こんなにたくさん、近くにいたのに……。
どうして、一人だなんて思ってしまったのだろうか。どうして、孤独だと思ったのだろうか。
どうして、一人で頑張らなければいけないなんて、思い込んでしまったのだろうか。

 優しくて、温かい存在が見えていなかった自分が、悔しくて、情けなくて、申し訳なくて。

 はやてはひたすら、泣いた。


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