08/08/19 23:21:57 3wQr66wQ
今日はここまでです。>>10のタイトル番号を間違えてしまいました。正しくは42です。
あと追記ですが、一応誰も死なない予定です。怪我に関しても障害とかは残さずに五体満足で回復する様にしてます。
「明らかにこれは死んだー」って思える様な描写があってもそれは(以下略)です。
13:名無しさん@ピンキー
08/08/19 23:26:01 4i+0yDLr
つまらん
14:名無しさん@ピンキー
08/08/19 23:30:55 4i+0yDLr
つまんないから二度と書くな
15:名無しさん@ピンキー
08/08/19 23:33:16 G+YoNE39
NGID/4i+0yDLr
16:名無しさん@ピンキー
08/08/19 23:35:58 cySKohqy
なんだろ、この欝展開とハジケ展開の混在っぷりは……。
あんた、凄すぎだよ……
17:名無しさん@ピンキー
08/08/19 23:36:12 JJeubAiw
この少年ジャンプのすぐ消えるギャグマンガみたいなノリがなきゃな…
正直エロとギャグが中途半端で読むに堪えない
18:名無しさん@ピンキー
08/08/19 23:44:23 F9x68ERn
GJ!!です。
ヴィヴィオとクアットロの言い合いあたりまでは、ドロドロした感じでしたが、
改造人間が出てからが神展開過ぎるwww
そして、ナーノにちょっと興味持ってるクアットロが気になるw
19:名無しさん@ピンキー
08/08/19 23:52:28 Olau4LZ+
鬱とコミカルを合わせることで両方をより際立たせる……だっけ?
鬱描写の中にコミカルを入れて際立つわけないじゃん。中途半端に混ざって悪い意味でシュールになるだけだよ?
際立たせたいなら鬱パート、ギャグパートに分けてギャグならギャグ、鬱なら鬱とそれぞれに全力で描き込まなきゃ。
どうもアクロバティックなことをしようとしすぎて迷走している気がする
20:69スレ264
08/08/19 23:52:55 0o49pcpz
業務連絡です。
80スレの保管完了しました。
職人の方々は確認お願いします。
21:名無しさん@ピンキー
08/08/19 23:56:17 ZLkgCRGE
司書殿に敬礼!保管業務乙であります!
22:名無しさん@ピンキー
08/08/20 00:25:12 QXypOyS1
鬱とコミカルのどっちを際立たせたいのかわからん
あとクアの台詞の「~」が多すぎて読んでてウザい
23:名無しさん@ピンキー
08/08/20 00:29:04 yOjpRVhG
>>20
いつもありがとうございます。
この礼はSSを上げることで。
24:名無しさん@ピンキー
08/08/20 03:43:47 rJEePzQP
≫12
乙、と言いたいところだが一言。
その分量なら投下時間的に前スレの埋めとして投下出来るはずだ。
前スレが埋まってもないのに、毎度毎度少ない分量で一発目に投下する。
あんたは一番槍投下するためにSS書いてんのか?違うだろ?
一番槍ばっか狙うんじゃなくて、もっと推敲に時間かけてくれよ、頼むから。
25:名無しさん@ピンキー
08/08/20 05:28:26 8kj0ILwI
見えないんで分からないが、一人で色々新しい事をやって目立とうとして失敗してる、で良いのか?
>>6辺りの人は一度自分で客観的に評価してみようぜ
26:名無しさん@ピンキー
08/08/20 06:07:14 81UnmWIG
>>22
キャラの把握が出来ていない人によくあるな
セリフの記号的な使い方は
語尾をめったやたらに画一化するのが、某作品の二次創作に多かったと聞く
ex.「~だぜ」「~なのだわ」
文章量が少ない短レス・豆篇ならともかく…
27:名無しさん@ピンキー
08/08/20 07:20:50 Mi0md9jK
ちょほぃと相談。
ここに長編を何度か投下しているんだが、
一度投下した作品の加筆修正・再編集版を、その筆者自身が同人誌にしたりしても大丈夫ですか?
28:名無しさん@ピンキー
08/08/20 07:23:52 eN6UNihL
>>27
駄目な理由はないと思いますが。
29:名無しさん@ピンキー
08/08/20 07:52:58 NDb19Xr2
>>27
貴方が書いたものならなんの問題も無い
>>26
なんかハリポタの日本語版思い出したぜw
ゆうこりんはキャラ壊しすぎ……原作はみんな普通なのに……
30:名無しさん@ピンキー
08/08/20 08:49:52 JITEZCIc
>>12
毎回毎回思うことだけれど、ギャグとシリアスどっちつかずで、非常にバランスが悪いものになっているな。
そもそもこの作者さんのユーなのネタ、なのはがやたら白痴化したり、フェイトを必要以上に貶めたりし過ぎだと思う。
キャラ破壊系のギャグならそれでもいいんだけれど、中途半端にシリアスが混じっていると、読むに耐えないものになるだけだと思う。
31:名無しさん@ピンキー
08/08/20 08:57:51 Ssp+fa5R
スゲーな。
そんなに好きでもないのに毎回読んでるのかw
ヒマなのかw
32:名無しさん@ピンキー
08/08/20 09:04:29 dS/2Yd8Z
気に食わない作品があるからっていちいち批判なんかするなよ
嫌ならスルーすればいいだけなのにわざわざ全部読んで文句つけるとかアホかと
やっぱ夏だなぁ
33:名無しさん@ピンキー
08/08/20 09:14:09 RcDpFp8G
>>1乙!
>>6乙!
いいか、みんな
(゚д゚ )
(| y |)
エッチとエロでは単なるスケベ野郎だが
H ( ゚д゚) ERO
\/| y |\/
二つ合わさればヒーローとなる
( ゚д゚) HERO
(\/\/
君も此処でヒーローになってみないか!?
∩
( ゚д゚ )/
m9 ノ
ノ ヽ
(_ノ ⌒゙J
34:名無しさん@ピンキー
08/08/20 09:14:21 JITEZCIc
先にも書いたけれど、この作者さんの作品はギャグ話ならむしろ好きな方なんだよ。
半端にシリアス混ぜると変な化学変化起こしてダメになるわけで。
35:名無しさん@ピンキー
08/08/20 09:37:21 L7KnUUo7
前スレ>>568
GJ!!
以前の作品も好きだっただけにその後を書いてくれるのは嬉しい
やっぱバカップルのような関係になれたか。エリオよく頑張った。
そして年下に主導権握られてしまうティアもかわいいな
まだこの後の続きも見たいという欲求が…
36:名無しさん@ピンキー
08/08/20 09:50:46 NDb19Xr2
>>34
例え自分がこれはダメと思っても、これはいいって思う人だっているだろうし、
スルーしとくのが基本でしょ
批評スレでもないのに自分が嫌だからって理由でダメ出しとかガキ丸出しもいいとこだよ
第一、なんでそんな上から目線なのさ
「こうした方が私はよくなるように思います」みたいな書き方は出来ないのか
そもそも人の文にダメとか言えるほどの文章書けるの?
37:名無しさん@ピンキー
08/08/20 10:13:46 ETNjtL5S
きっと>>36は高潔な自己犠牲を払っているのだろう
38:名無しさん@ピンキー
08/08/20 10:15:40 JITEZCIc
>>36
>「こうした方が私はよくなるように思います」みたいな書き方は出来ないのか
だからこそ、半端にシリアス混ぜずにギャグならギャグに徹底した方がいいと思って言っているんだけれど、私の言葉足らずで理解出来なかったみたいだね。その点は済まない。
>そもそも人の文にダメとか言えるほどの文章書けるの?
職人でなければ作品への感想すら書いてはいかんスレだったのかここは?
39:名無しさん@ピンキー
08/08/20 10:18:43 dS/2Yd8Z
>>38
お前頭悪いだろ
とっとと消えろ夏厨
40:名無しさん@ピンキー
08/08/20 10:19:28 JITEZCIc
>>39
そっくりそのままお返しするよ。
41:名無しさん@ピンキー
08/08/20 10:21:13 dS/2Yd8Z
うわぁ・・・
42:名無しさん@ピンキー
08/08/20 10:33:43 fmCtJzfu
みんな一回テンプレのマナーを読み直そうぜ
批判する内容が正しくてもテンプレが守れないなら荒らしと同じだよ
それともこれも夏が過ぎれば治るのかねぇ
43:名無しさん@ピンキー
08/08/20 11:05:26 Ssp+fa5R
なんぞこの流れw
44:名無しさん@ピンキー
08/08/20 11:36:20 /eH/cmdQ
少頭冷
45:名無しさん@ピンキー
08/08/20 12:05:47 JITEZCIc
>>44
確かに大人気なかった。不快に思われた方には申し訳ない。
46:名無しさん@ピンキー
08/08/20 12:30:19 sS/om8K1
まず作者に謝るのが先だろうに・・・
47:名無しさん@ピンキー
08/08/20 14:00:27 NcnzGtD0
>>45
謝りたいなら敬語を使ってください
48:名無しさん@ピンキー
08/08/20 14:02:20 YqCDDfFQ
売り言葉に買い言葉は確かに大人気ないな
けど別に>>30自体は
>2.粗暴あるいは慇懃無礼な文体のレス、感情的・挑発的なレスは慎みましょう。
のように粗暴な言葉づかいでもないし、挑発的でもないと思う
内容だって的外れなわけじゃないしこの程度では失礼にはあたらないんじゃないかな?
確かに作者様の文が好きな人も多いだろうけど一読者の一意見としては真っ当なんじゃない?
ま、そんなことをいちいち考えるより今からSSX新キャラをいかにエロに絡ませるか妄想するほうがよっぽど建設的だけどね!
49:名無しさん@ピンキー
08/08/20 14:11:59 zufisJcQ
よしじゃあ、1人で暮すにはちょっと広いマンションにヴォルツを上げて全身の火傷跡をなめてあげるスバルをですね
50:名無しさん@ピンキー
08/08/20 14:22:03 ZUDBm4ME
SSX絡みのネタを投下されてもネタバレが怖くて一般発売までスルーしそうな俺
51:名無しさん@ピンキー
08/08/20 14:24:17 HoE87QJ5
ただここで相談すると即効ネタバレに抵触しそうでどうもな。
52:名無しさん@ピンキー
08/08/20 14:42:16 OvOJo2d6
3期新キャラなのにSSXに名前すら出してもらえなかった人達が
2期キャラなのにも関わらずSSX登場を成し遂げたあの人を拉致して調教するとかどうよ?
53:名無しさん@ピンキー
08/08/20 16:38:12 FhjG9UGc
前スレ571氏
デレるティアナがもの凄くイイです
これからエリオに調教…もといラブラブしながら生きていくんだろうなと想像
いつかまた書いてくれると嬉しいです
54:名無しさん@ピンキー
08/08/20 17:56:19 U13VwDtF
SSXネタとしては、スバルとヴォルツ。
(遂にスバルにもノーマルなフラグが!!)
酔っ払ったスバルを部屋まで送るヴォルツ。
しかしスバル酔い+戦闘機人パワーにより押し倒されてしまい、理性が吹き飛ぶ二人。
55:名無しさん@ピンキー
08/08/20 19:36:36 AzaiJorW
とは言え、SSXのネタを含む投下は、一般発売まで自重しようと思っている俺ガイル・・・
諸兄としてはどう思う?事前に注意書きが有ればネタバレOK?
56:名無しさん@ピンキー
08/08/20 19:41:44 yOjpRVhG
ただ、SSX見た人間は、SSXに含まれている展開ができなくなってしまう。
(あるキャラクターがある集団に所属するという展開が書けない)
で、知らない人間は、当然単なる自分展開としてそれを書けるわけで。
その辺りのさじ加減をどうするか。
57:名無しさん@ピンキー
08/08/20 19:42:16 yOjpRVhG
見た。じゃないな。「聞いた」だ。
58:名無しさん@ピンキー
08/08/20 20:31:39 ijFKkIfI
>>55
感想レスのほうででバレが含まれちまうかもしれんし、
わがままいえば一般発売までとっておいてホスィな
59:名無しさん@ピンキー
08/08/20 20:43:27 eN6UNihL
>>58
一般販売というと10月末か。
結構遠いのが悩みどころだわな。
60:名無しさん@ピンキー
08/08/20 20:45:13 dAsjUcBo
しかし一般販売10月末だからなー
自分的には前書きにSSXネタ警報でOKと思いたい所だが
61:名無しさん@ピンキー
08/08/20 20:57:47 QXypOyS1
なんか無性にバレ貼りたくなってきた
誰か止めてくれ
62:名無しさん@ピンキー
08/08/20 20:57:51 XEJfe3hb
前スレ>>468>>506氏
スマン、なんやかんやで予告日に書けなかった……。
まだ暑い日が続くので、もう少し全裸待機願います。
未完で終わらせることは絶対しないので。
63:名無しさん@ピンキー
08/08/20 21:10:52 YqCDDfFQ
自分から話題を出しといてアレだけど>>48は
一般発売に向けて妄想を今の内に溜め込んどこうって意味だったんだ
やっぱり買っていない人で楽しみにしている人もいるだろうし、そういう人も職人が投下した時にリアルタイムで感想を書きこみたいだろうしね
64:名無しさん@ピンキー
08/08/20 21:13:22 LnESJUaR
一般販売組としては発売まで待ってて欲しいな・・・
65:B・A
08/08/20 21:48:36 kvaUvLtf
一般販売まで2ヶ月か・・・・・・それまでにこのスレ90が超えそう。
今は投下大丈夫ですか?
66:B・A
08/08/20 21:58:07 kvaUvLtf
誰もいないようなので投下していきます。
注意事項
・B・A版エリルー時空のお話
・主人公はヴィヴィオ
・オリキャラが出ます
・非エロでバトルです
・sts本編から11年後の物語
・フェイトが天寿を全うしております
・その他かなりの捏造多し(特に古代ベルカや聖王に関して)
・タイトルは「Das Erbe zur Zukunft」 意味:未来への遺産
・シエン爺さんはどこまでもタフだった
・漫画なら聖王陛下のネームで一コマ埋まりそう
・SSXの内容は風の噂程度にしか知りません(←もう持っている人に対して)
・前提作品『Ritter von Lutecia』
『Nach dem eines Speerritters』
67:Das Erbe zur Zukunft①
08/08/20 22:00:04 kvaUvLtf
第27話 「MASSIVE WONDERS」
海底に沈んでいく石のように、シエンの意識は暗闇へと堕ちていった。
この選択が正しかったのかどうか、それはシエン自身にはわからない。まだやれることがあったかもしれないし、もう自分にできることは何もないかもしれない。
だが、何れにしても死にいく自分にはもう関係のないことだった。このまま底まで堕ちて煉獄の炎に焼かれるだけだ。きっと娘と同じ場所に逝くことはできない。
多くのものを蔑ろにしてきた自分にはそれに相応しい罰が待っているはず。それに異存はなかったが、残してきてしまった子ども達のことが唯一気がかりであった。
ケーニッヒ・エリオ・スクーデリアとセリカ・クロスロード。
愛娘を失って孤独な日々を過ごしていたシエンにとって、二人との触れ合いは懐かしい家族の温もりを思い出させてくれた。
一時は、死んだ娘のことを忘れて三人で新たな人生を歩めるかもしれない、そう考えたこともあった。だが、安らぎは彼を娘の死から解き放ってはくれなかった。
皮肉にも、無邪気に笑うセリカと父を失ったショックに沈むケーニッヒを見る度に、彼の心は見えない鎖によって雁字搦めになっていた。
そして、シエンの思いとは裏腹に、二人の子ども達の人生は狂いを見せ始めた。
ケーニッヒは何かに取り憑かれたかのように戦技を学び、シエンがロート・シルトという組織を作り上げて管理局に反旗を翻らせようとしていることを独自に突き止め、
半ば無理やり組織の活動に参加するようになった。
シエンへの憧れが強かったセリカはエリートコースへのキャリアを蹴って管理局に入局、だが意固地で感受性が強かった彼女は犯罪者に対して行き過ぎた暴行を働くなどの
問題を起こし、時に悪を悪と断ずることができない管理局の体制に耐えかね、彼女もまたロート・シルトに参加した。
せめて真っ当な幸せを掴んで欲しいと願っていたはずが、気づけばまるで正反対の場所に二人を追いやってしまった。
全ては、娘の死を振り切れなかった自分の弱さが招いた過ちだ。
今頃、二人はどうしているであろうか? 特にセリカはケーニッヒと違って戦下手だ。最悪、退き際を見極められずに未だ戦い続けている恐れすらある。
彼女の性格を考えれば、大人しく降伏してくれることを期待するのも難しい。
思えば、彼女はシエン・ボルギーニの被害を最も受けた人物であった。そもそも、セリカ・クロスロードは戦いに向いていない。
魔法を上手く使えぬ体質もさることながら、彼女の強すぎる感受性は自分でも知らず知らずの内に無関係な他者の苦痛に共感し、
まるでそれが自分のことであるかのように心を傷める。そして、その痛みは苦痛の原因への激しい憎悪へと転化され、
精神の均衡を図るために自分の怒りの捌け口としての必要悪を見出してしまうのだ。
過剰なまでに悪を憎む心は、ある意味で自己防衛の役割を果たしているのである。そんな人間が戦場に立てばどうなるかは言うまでもない。
だが、シエンは厳しい現実に傷つき、悩むセリカを救うことができず、やがて彼女は悪を憎み、犯罪を憎み、管理局を憎み、
かつて友と呼んだ者すら憎むようになった。多感過ぎることを除けばごく普通の少女であった彼女は、こうして戦い続ける修羅へと堕ちていったのである。
或いは、これこそが自分に課せられた罰なのかもしれない。セラ・ボルギーニを死なせてしまったことを悔やみ、
ミッドチルダを混乱に陥らせた自分に課せられた重い罰。ならばそれはもう十分に役目を果たした。シエン・ボルギーニはこのまま悔やみながら死んでいく。
だから、セリカ・クロスロードにはせめて幸福な結末が訪れてくれることを祈らずにはいられない。
そうして、シエンの意識は段々と暗闇に沈んでいく。
68:Das Erbe zur Zukunft②
08/08/20 22:00:37 kvaUvLtf
だが、不意に温もりが冷え切った体を包み込んだ。まるで春の日差しに照らされているかのような温かさに、擦れ始めたシエンの意識は急速に覚醒していく。
同時に、沈んでいた体が何かに引きずられるように浮かんでいった。
□
気がつくと、抜けるような青空が広がっていた。意識を失う前に垣間見た錆色の空ではない、降り注ぐ陽光を遮るものが何一つない真っ青な空だ。
自らの命と引き換えにしてミッドチルダの民に返却したはずの空が、どこまでも目の前に広がっている。
「生きて・・・・いるのか?」
呟くと、全身に激しい痛みが走り、喉から擦れるような音が漏れる。まるで全身の至る所に楔を打ち込まれたかのような錯覚は、
同時にこの老いた肉体がまだ生きていることを如実に物語っていた。
「余り喋らないで、心臓が半分吹き飛んでいるんです。治癒魔法で応急処置は施しましたが、無理に動いたり大声を出したりしたら苦しいだけですよ」
メガネをかけた金髪の男が顔を覗かせ、穴の空いた胸に手をかざしながら囁く。どうやら、彼が死にかけの自分の治療を施してくれた人物のようだ。
かざした手からは注がれる淡い魔力光が傷口に浸透し、ジンワリとした熱と共に出血が治まっていっている。
「君は・・・・・・・」
「ユーノ・スクライア、通りすがりのしがない考古学者ですよ」
「スクライア・・・・・・そうか、聖王の・・・・・」
「ええ、ヴィヴィオの父です」
「まさか、敵の親族に助けられるとはな・・・・・・・地獄が満員で、追い返されたか」
擦れる喉で自嘲し、シエンは再び青空を見上げる。
「まだ・・・・・死ぬなということだな」
どうやら、自分にはまだ役目があるようだ。組織の長としての役目か、一人の親としての役目か、或いは稀代の犯罪者として裁かれる役目か、
何れにしろ、折角拾った命をむざむざ捨てる程シエンは愚かではなかった。例え、その先に待つものが何であったとしてもだ。
「セリカは・・・・・・・私の娘はどうなった? 君の娘と、空で戦っているはずだ・・・・・・・」
その問いに、ユーノは空の彼方を一瞥して沈黙した後、酷く言いにくそうに顔をうつ伏せながら答えた。
「・・・・・まだ、戦っています」
「そうか・・・・・・・」
諦めとも嘆きとも取れるため息を漏らし、シエンはポツリポツリと語り出す。
気を抜けばすぐにでも引きずられてしまいそうになる意識を、懺悔することでこの世に縛り付ける。
「あの娘には、本当に悪いことをした・・・・・・あの娘は本当に、普通の子どもだったんだ・・・・・・私と違って・・・・・・あの娘は争いと無縁の世界に生きて
・・・いた・・・・・だが、私が狂わせてしまった・・・・・あの娘の苦悩・・・・嘆きから、救えず・・・・・ただ、戦う力だけを与えてしまった・・・・・・・・」
普通に生きて、幸せな生活を送る道もあった。だが、彼女はそれを選ばずに恩人と運命を共にする道を選んでしまった。何一つ戦う理由を持たなかった彼女は、
憧れと理想だけを胸に戦いに身を投じてしまった。
69:Das Erbe zur Zukunft③
08/08/20 22:01:11 kvaUvLtf
「止めることもできた・・・・・・力ずくで、あの娘を戦いから遠ざけることもできた・・・・・・だが、私にはできなかった。
ただ、私の役に立ちたい一心で・・・・・・眩しい夢を追いかける彼女を・・・・・残骸でしかなかった私は、止められなかった・・・・・・・」
「その気持ち、よくわかります。僕もある人の人生を捻じ曲げてしまった。普通に生きていけるはずだった女の子に魔法の力を与え、戦いに巻き込んでしまった。
それで救えるものはありましたが、失ったもの、傷つけてしまったものも多かった・・・・・・・ですが、それを悔やんで否定してしまえば、
その人の思いまで踏み躙ることになるんじゃないでしょうか?」
ユーノの脳裏に、最愛の妻の姿が思い浮かぶ。
高町なのは。
第97管理外世界で、ごく普通に生きていた少女。彼女の人生は、ユーノと出会ったことで一変してしまった。魔法の力を手に入れ、望まぬ戦いに身を置き、
何度も危ない目にあった。積み重ねた無理が祟って死にかけたこともあった。それは全て、自分と関わってしまったからだ。
ユーノ・スクライアという人間と関わらなければ、彼女はきっと戦いとは無縁の生活を送り、平和な世界で喫茶店の店長にでもなっていただろう。
その平凡な幸せを奪ってしまったのは、間違いなく自分の罪だ。そのことについて悩んだことは、一度や二度ではない。だが、彼女はそれを責めなかった。
それどころか、魔法と出会ったおかげで多くの友人達と出会うことができ、困っている人達の手助けができるようになったと、感謝を述べたのだ。
目を背けたくなるような絶望を何度も垣間見たはずだ。
その手で救うことができなかった命もたくさんあったはずだ。
それでも、彼女は責めなかった。やがては魔法の力を失い、戦闘魔導師でいられなくなっても彼女は責めなかった。
それが今の否定になってしまうから、どんな結果でも後悔しない。自分の意思を貫いたのだから、過去の自分は否定しない。
重傷を負って搬送された病院でも、JS事件が終結した時も、プロポーズを受け入れてくれた時も、そう言って彼女は自分のことを責めようとはしなかった。
「僕なんかが言えた義理じゃないと思いますが・・・・・・・後悔も懺悔もやろうと思えば誰でもできます。
けれど、行動することは・・・・・自分から何かをしようとすることは、きっと勇気がいることです。だから、もう少し自分を許してみたらどうですか?」
「許すか・・・・・・・許せていたら、こんな姿は晒しておらぬよ」
「不器用ですね、お互いに」
お互いに苦笑を漏らし、二人は頭上に広がる青空を見上げた。
戦いの音はすぐそこまで聞こえてきている。意識せずとも感じ取れる魔力の渦、それは開かれた世界でぶつかり合う二人の少女のものだった。
「大丈夫です、あなたの娘はヴィヴィオが必ず助け出す。何と言っても、僕となのはの娘ですからね」
「難しいぞ・・・・・・私の娘はかなりの頑固者だからな。だが、今だけは信じさせてもらうと・・・する・・・か・・・・・」
傷の痛みに表情を引きつらせながらも強がりを見せるシエンにつられ、ユーノもまた笑みを零す。だが、彼の内心はシエン程穏やかではいられなかった。
彼の脳裏に浮かんでいるのは、カリム・グラシアが預言者の著書によって宣託したある一節だった。その不吉極まりない言葉を思い返す度に、
ユーノの背筋に凍えるような寒気が走り、最悪の結末が想像されるのである。
『二つの星は大地を焼き、かくして王は天へと昇る』
今、クラナガンの空で二人の聖王が対峙している。この一節は、戦いの果てにそのどちらかが死亡することを予言しているのだ。
70:Das Erbe zur Zukunft④
08/08/20 22:01:48 kvaUvLtf
(なのは、レイジングハート・・・・どうかヴィヴィオに力を貸してあげて・・・・・・・そして、どうか誰も悲しまない結末を・・・・・・)
瓦礫の街中で、ユーノはそう祈らずにはいられなかった。
□
それは異様な光景であった。
まったく同じ顔を持つ二人が、同じ空間に浮遊している。険しくも端正な美貌も風になびく長髪の色も、緑と赤のオッドアイも、何から何まで全て同じ。
違いがあるとすれば、それは髪型と装着しているバリアジャケットであろうか。ヴィヴィオのそれは母が現役時代に使用していたエクシードモードであるのに対し、
もう一人のヴィヴィオが展開しているのは黒のインナーに金色の装飾が施された白いジャケットと純白のマントを纏っている。
その全身から滲み出ているのは間違いなく王者の風格。神々しいまでのその輝きは、明暗がはっきりと別れた黒と白のカイゼル・ファルベとなってその身を包みこんでいた。
「お前は・・・・・本当に・・・・・・・」
気圧されそうな圧迫感と戦いながら、ヴィヴィオはレイジングハートを強く握り締めてもう一人の自分を睨みつける。たったそれだけだというのに、
許容しきれない気持ち悪さが沸き起こった。全身の細胞が殺意を持ってしまったかのように疼き、直視することもできないどす黒い感情に呼吸不全すら起きている。
まるで、人智の及ばない存在が二人を戦わせようとしているかのように、ヴィヴィオの内から不快な衝動が責め立ててくる。
「お前は本当に、私なの!?」
「愚問だな、私よ。私がお前であることは、お前自身が誰よりも理解しているだろう? 何より、この瞳と魔力の輝きが全てを物語っている」
「だったら、何でセリカちゃんの中から出てきたんだ! その娘とお前は、何の関係もないだろう!」
「そうでもないぞ、私よ。何故なら、私はこの娘に呼ばれて出てきたのだからな」
「な・・・・に・・・・」
「私は、聖王の記憶の中でずっと私を呼び起こしてくれる者を待っていた。私の意識と強くシンクロし、その記憶をダウンロードできる存在を」
「まさか、お前・・・・・・・・」
「そうだ、私は自分の全ての記憶を聖王の記憶に移植しておいたのだ。遠い未来の世界で復活し、再び世界を手に入れるためにな」
言うなり、聖王ヴィヴィオは手にしていたRHの先端を眼下の建物に向け、無造作に魔力弾を連射した。本来は対応していないベルカ式の術式を無理やり走らされたためか、
発射された魔力弾の威力は建物の壁を僅かに削る程度の威力しかなく、RH自体はプログラムの処理が追いつかずに宝石部分が悲鳴を上げる様に明滅している。
「止めろ! それはセリカちゃんのデバイスだ、お前のじゃない!」
激昂したヴィヴィオが後先も考えずに突撃し、渾身の力を込めてフラッシュインパクトを放つ。
だが、その一撃はRHで軽々と受け止められ、衝撃を諸に受けたRHの胴体に僅かなヒビが入る。
「鈍器としても使えぬか。ミッド式のデバイスは何百年経とうと脆いな」
瞬時にRHを消失させ、聖王ヴィヴィオは身を捻るようにヴィヴィオの体を受け流し、その胴体に強烈な膝蹴りを叩き込む。
凝縮された魔力が込められたその一撃はヴィヴィオの体を易々と吹き飛ばし、向かい側のビルに大きな穴を穿った。
71:Das Erbe zur Zukunft⑤
08/08/20 22:02:21 kvaUvLtf
「私はな、ずっと探していたのだよ。己の支配を盤石なものとする方法をな」
「支配・・・・だって?」
「そうだ、私は全てを支配したい。他国に攻め込み、その土地を搾取し、資源を略奪し、技術を奪う。そうしてベルカは繁栄してきたのだ。
しかし、人間とはいつか老いて死ぬもの、それは聖王とて変わりはない。そして私が死ぬということは、長い目で見ればこの世の全ては何れ死して滅ぶことを物語っている。
聖王の血統も、ベルカも、そして次元世界そのものも、その運命から逃れることはできない。だが、遙か古代のアルハザードではそれすらも克服する術があったという。
私はそれを欲した。全てを支配し、ベルカに永遠の繁栄をもたらすためには、この命がいくつあっても足りぬ! そのために人と財を使い、様々な文献を調査させ、
研究を行わせた。だが、死者の蘇生やクローン技術の再現は不可能だった。それは確かに存在していることは当時の歴史が証明していたが、
その方法はどこにも残されていなかった。だが、その過程で得たものも多く、私はそれに賭けることにした。私よ、お前は融合型デバイスの暴走は知っているか?
デバイスが術者の意思を乗っ取り、自律行動を行う現象だ。私は、それに賭けることにした」
「それが・・・・・・聖王の記憶・・・・」
「そうだ。クローニング技術の過程で生み出された記憶転写技術を応用し、本来は戦闘知識のみを保存しておく聖王の記憶に私自身の記憶の全てを移植する。
あれは元々ただの情報記憶媒体だったからな、それ自体は難しいことではなかった。後は、私が死んだ後に誰かがそれに触れ、その人物の精神を乗っ取るだけで良い。
完全とは言えないが、これで私は永劫の時間を生きることができる。だが、まさか生前の肉体まで再現できるとは思わなかった。
この娘の体質は異物に対して柔軟であるが故により深くまで浸透できたということか」
「なら・・・・・そいつを破壊すれば、セリカちゃんを助けられる!」
瓦礫を払い除けて立ち上がり、ヴィヴィオはアクセルフィンを羽ばたかせる。
すかさず、聖王ヴィヴィオは手の平をかざして魔力弾を乱射し、ヴィヴィオを撃ち落とさんとする。
「そう簡単にはいかぬ」
「やってみなくちゃわからない!」
「そうではない・・・・・お前に、果たしてこの娘の心を開かせることができるかと言っているのだ」
魔力弾の乱射を止め、瞬時に肉薄した聖王ヴィヴィオは固く握りしめた拳をヴィヴィオの胴体へと叩き込む。瞬間、展開された二つの聖王の鎧が鬩ぎ合い、
視界を焼き尽くす眩い輝きを迸るが、それは瞬く間に灰色の光に侵食され、聖王の鎧を突き破られたヴィヴィオの体が大きく後退する。
「この娘にはな、自分の意思と呼べるものがないのだ。語る正義は全て他者の受け売り、しかも自分はそれに疑問を持つことなく全てを肯定し、
ただ愛する男に命じられるがままに力を振るう自我なき兵士。それがセリカ・クロスロードという娘の正体だ。曲がりなりにも信念を持つお前に、
果たしてこの娘の苦悩が理解できるか?」
足下にベルカ式魔法陣が展開し、かざした両手から極太の砲撃が放たれる。それをギリギリのところでかわしたヴィヴィオは、すぐさま反転してレイジングハートを構え、
アクセルシューターを連発して聖王ヴィヴィオを牽制する。
「理解できるかなんて関係ない、私はセリカちゃんと分け合いたいんだ! 言葉にしなくちゃ、話し合ってみなくちゃ、力になれるかどうかもわからないじゃないか!」
「いいや、断言しよう。私にはこいつの苦悩は理解できぬ。私よ、お前の理想も借り物だが、その意思は確かに本物だ。お前は誰かに乞われて戦っている訳でもなければ、
状況に巻き込まれている訳でもない。お前はお前の意思で戦場に立ち、他者の真似であることを承知で己の信念を振りかざしている。だが、この娘は違う。
この娘の正義は借りっぱなしだ。憧れた英雄の真似をして己の命を削り、愛する男のために自我すら投げ出す。何故なら、この娘にはお前と違って誇れるもの、
譲れぬものを何一つ持たないからだ」
降り注ぐ誘導操作弾を全て弾いた聖王ヴィヴィオが虚空に無数の短剣を出現させ、その全てをヴィヴィオ目がけて発射する。
回避不能なその弾幕をヴィヴィオはプロテクションを張って防御するが、足を止めた瞬間を見計らって接近してきた聖王ヴィヴィオが
強烈な回し蹴りを叩き込んでプロテクションを粉砕し、そのまま鋭い角度で踵落としを打ち込んでヴィヴィオを地面に叩きつけんとする。
72:Das Erbe zur Zukunft⑥
08/08/20 22:03:28 kvaUvLtf
「私よ。お前という存在が何故この時代に生まれたのか、それはこの娘の記憶を検索して大よその見当はついている。
お前は聖王のゆりかごを起動させるために生み出されたが、何者かに助け出されて今は時空管理局に所属している。
その人生の中で、お前は常人には計り知れぬ苦悩を感じたはずだ。だが、この娘にはそういった逆境が何一つない。
確かに魔法に関しては不利な体質かもしれないが、そもそもこの娘が魔導師を志したのは、高町なのはの強さと英雄としての功績に引かれたからだ。
普通に生きていれば苦難とは無縁の生活を送れたかもしれないごく普通の少女、だがその心は怒りに満ちている。世界全てに対する怒りと憎悪、
全てを救いたいと思いながら全てを憎む矛盾した感情。恐らくは全ての人間が抱いたことのある感情・・・・・・・争いなど、この世からなくなってしまえば良いと。
そんな理不尽な感情を、お前は理解できるか? 不条理によって生み出された私が、条理の中で生まれた感情に共感できるか?
戦うための兵器でしかない聖王が、争いを憎むこの娘の心を開かせることなどできぬよ」
「私は聖王でもなければ、兵器でもない!」
再び飛翔し、弾幕をばら撒きながらヴィヴィオは聖王ヴィヴィオの周囲を旋回する。迂闊に近づけば格闘で圧倒され、
離れれば周りを鑑みない射撃で流れ弾が地上に降り注ぐ。それを防ぐためには、相手よりも高い位置を陣取って受け手に回るしかなかった。
「私だって、できることなら誰とも戦いたくない! 争いがなくなれば良いって考え方にも共感できる!」
「だが、お前の思考にはその先がある。『もしも争いが起きれば、それを止めるために自分は戦う』と。私という存在は無意識下で争いを肯定し、
武力を手に取ることも厭わないのだ。しかし、この娘にはそんな考えはない。自分のことを棚に上げて、争いを起こす者が悪い、誰かを傷つけようとする者が悪い、
悪事を働く者が悪い、そういった非常に短絡的な思考形態を形作っている。だから非情にもなれるし自分の命も軽々と投げ出せるのだ。
自己と呼べるものが存在しないのだから、他者に対する共感はあってもそれを理解できない。こいつはな、みんなが笑顔でいられるのなら死んでも良いと思っているのだ。
笑止・・・・・自分を蔑ろにしている者に、守れるものなど何一つない!」
「だったらお前はどうなんだ! 一方的な支配を望むお前の方こそ、人の気持ちがわからないんじゃないのか!」
両者の砲撃が激突し、激しい火花が飛び散る。ぶつかり合う魔力はほぼ互角、しかし、疲弊しているヴィヴィオと違い、
精神だけの存在である聖王ヴィヴィオは肉体の限界など気にせずに魔力を絞り出せるため、長期戦になれば宿主であるセリカの肉体が保たなくなる可能性がある。
(マガジンは予備の分も含めて後3つ。何とか隙を見つけてスターライトブレイカーをぶつけられれば・・・・・・・・・)
「足を止めるとは余裕ではないか、私よ」
いつの間にか背後に回り込んだ聖王ヴィヴィオが、その拳に灰色の魔力を纏わせる。反応の遅れたヴィヴィオは咄嗟にシールドを張るが、
繰り出された拳に纏われた魔力は堅牢な防御を瞬時に破壊し、轟音と共にヴィヴィオの体を吹っ飛ばした。
「かはっ・・・・・・・」
飛びかけた意識を根性で繋ぎ止め、アクセルフィンを羽ばたかせて空中で踏ん張りをつける。
「私が人の気持ちを理解できぬか・・・・・・・言い得て妙だな。私は人の愚かしさを誰よりも知っているが故に、誰にも理解されない。
それは他人のことを理解できぬのと同義か」
どこか自嘲するように呟き、聖王ヴィヴィオは懐かしむように空を見つめた。
73:Das Erbe zur Zukunft⑦
08/08/20 22:04:18 kvaUvLtf
「私よ、人間は誰もが違う価値観を抱き、異なる思考形態を形作っている。そして考え方の違いから争いが起き、
放置すればやがて人間は互いに憎み合って滅ぼし合うだろう。故に指導者が必要なのだ。争う必要がない幸福と富を与える強き王が必要なのだ」
「それは、お前の生きていた時代でのことだろう。けど、今の時代に王なんて必要ない!」
「果たしてそうか? お前が言うように、目の前で苦しむ人間を救い続けたとしても、それは根本的な解決にはならぬ。
もっと目線を高く持て、もっと視野を広く、王者の思考で物事を考えろ。大切なのは富める国、豊かな世界、平和な次元だ。ただ救っただけでは何も変わらぬよ」
「そのために、目の前で困っている人を見捨てても良いって言うの!?」
「救えるのなら私も救うさ。だが、憧れだけでは国は守れぬ、世界は救えぬ。お前やこの娘が所属する時空管理局もそうだろう? 出来うる限りのことはするが、
不可能ならば容赦なく切り捨てる。大のために小を犠牲にして次元世界の調和を保っている。我が王道はそれと何も変わらない。繁栄のためならば如何なる犠牲も厭わない。
その先に確かな未来が待つと言うのなら、我は修羅にでも羅刹にでもなろう。それが理解できぬと言うのなら・・・・・・・・」
聖王ヴィヴィオのかざした手の平に、極小の球体が出現する。大きさは野球ボール程度だが、そこに込められている魔力量は半端ではない。
例え魔力資質を持たない者でも、発せられる気にあてられて失神してしまう程のどす黒い魔力の塊だ。
「広域攻撃魔法・・・・・・」
術式の形ははやてが使用するデアボリック・エミッションと似ている。ならば効果範囲もそれとほぼ同等であり、機動の遅い自分では回避は困難だ。
だが、一対一のこの現状で何故そのような扱い辛い魔法を選択したのだろうか?
その問いの答えは、ふと視界の隅に映った存在によって導き出された。
(お兄ちゃん・・・・それにみんな!?)
自分と丁度対角の位置に存在するビルの屋上にエリオ達が佇んでおり、その後ろには翼に傷を負って横たわっているフリードの姿があった。
思わず逃げろと叫んだが、それが叶わぬことは明白だった。翼に傷を負っているせいでフリードは飛ぶことができず、エリオ達も先の戦いで酷く消耗している。
今から逃げても間に合わず、また疲弊した彼らではこれから放たれる攻撃を防御することもできないだろう。
彼らを救うためには、自分が盾となって広域防御魔法を展開するしかない。
踊らされていることに歯嚙みし、ヴィヴィオはアクセルフィンを羽ばたかせてエリオ達の前に回り込む。
移動の際に何の妨害もなかったのは、相手が自分を試しているからだ。言葉通り、目の前で苦しむ人間を救って見せろと、
「ヴィヴィオ!」
「みんな、できるだけ固まって体を伏せて・・・・・・・」
ヴィヴィオの声は固かった。
父親譲りの防御魔法にはそれなりの自信はあるが、元より聖王の鎧という最上級の盾を持つヴィヴィオにとって、
本格的に腰を据えて相手の攻撃を受け止めたことは余りなかった。教官免許取得試験に毎年落選していた理由も、
聖王の鎧を持つが故に防御面が比較的疎かになりがちであるという欠点を指摘されていたからだ。
だが、今回ばかりはそんな言い訳も通用しない。とにかく持てる魔力の全てを出し切らなければ、後ろにいる友人達を守ることはできない。
「できるよね、レイジングハート」
《できるできないではなく、やるかやらないかです。何事も、できないと思い込んだ時点でそれが成功することはありません》
強気な発言は年長者故の余裕か、或いは弱気になりつつある自分への気遣いか、何れにしてもレイジングハートの存在はヴィヴィオにとってとても心強かった。
思えば、彼女はいつも自分の側にいてくれた。いがみ合っていても、落ち込んでいた時も、レイジングハートは本当の姉のように自分のことを心配してくれていた。
そして、いざという時にはいつだって全力で応えてくれる。ならば、今回もきっと何とかなるはずだ。
「なら止めるよ、絶対に」
《All right, lady》
続けざまに二発のカートリッジを炸裂させ、エリオ達を包み込むようにプロテクション・パワードを展開する。
そして自身はリンカーコアを加熱させて聖王の鎧を極限まで硬化させ、更にカートリッジを連発して前面にワイドエリアプロテクションを展開した。
74:Das Erbe zur Zukunft⑧
08/08/20 22:05:41 kvaUvLtf
「無茶だよ、ヴィヴィオ! そんなにカートリッジを使ったら・・・・・・」
キャロが悲鳴を上げるのも無理なかった。不足する魔力を補うためとはいえ、何発もカートリッジを使用すればそれだけ魔法の制御も難しくなる。
現にヴィヴィオの表情は険しく、暴走寸前の魔力をギリギリのところで抑え込んでいるといった具合だった。だが、こうしなければみんなを守ることができないのだ。
他に頼れる者がこの場にいない以上、無理をしてでも自分一人が頑張らねばならない。
「お願い、レイジングハート!」
直後、解放された圧力が黒い渦となって全てを飲み込み、圧倒的な魔力の奔流が展開した障壁を激しく揺さぶった。
余りの衝撃に魔力を込めてしっかりと踏ん張っていたはずの体がジリジリと後ずさり、レイジングハートを握る手が圧力に耐えかねて震え始める。
早くも限界に達したヴィヴィオは辛そうに表情を歪めるが、後ろにいるエリオ達を守るためにも根を上げる訳にはいかず、歯を食いしばって黒い渦が消えるのを待った。
だが、淀みは消えるどころか時間と共にその激しさ、力強さを増していき、構築された虹色の障壁を抉り続けていく。
これ以上は保たない。
経験が無常な現実を認め、ヴィヴィオの心を絶望が支配する。
そして、彼女の視界は漆黒の闇に包まれた。
□
どことも知れぬ闇の中を、セリカは波間に揺れる小船のように漂っていた。
思考は完全に停止し、ただ懐かしい記憶だけが延々と再生されている。何年経とうとも決して色褪せないその記憶は、自分と最愛の人が出会った最初の瞬間から始まっていた。
それよりも前の思い出は確かにあったはずだが、セリカにとっては楽しい両親との思い出よりも、愛する老人と過ごした時間の方が何万倍も尊いものだった。
(私は・・・・・・私は、何で戦おうって思ったんだっけ・・・・・・)
ゆっくりと再生されていく思い出はどれも楽しいものばかり。中には辛い記憶もあったが、取り立てて珍しいものではなかった。
誰かに苛められることもなく、大きな病気や怪我も負わず、犯罪に巻き込まれたこともなく、平凡で穏やかな時間だけが流れていく。
だが、その裏にはいつも場違いな感情が潜んでいた。
例えば、テレビで報道されている陰惨な事件に誰よりも胸を痛めていた。
例えば、遠い次元世界で起きている戦争に必然性を感じることができなかった。
例えば、身体障害者の姿を見ているだけで吐き気を覚えた。
例えば、誰にも気づいてもらえずに片隅で震える捨て犬を無視することができなかった。
例えば、フィクションでも人が死んでいく姿を見るのが嫌だった。
普通の人間ならば適当に折り合いをつけて受け流すそれらを、セリカ・クロスロードは一つとして無視できなかった。
平凡であるが故にどこまでも偽善、エゴイスティックなまでの優しさが、彼女と周囲に些細ではあるが決定的な溝を生み出してしまった。
75:Das Erbe zur Zukunft⑨
08/08/20 22:06:39 kvaUvLtf
『どうして・・・・・どうしてみんな何とも思わないの? こうしている間にも、たくさんの人が苦しんでいるんだよ!』
『戦争なんてよくないことだ。どうしてそれがわからないんだ!』
『何で悪いことするんだ! そんな奴はいなくなれば良いんだ!』
『嫌だ・・・・・辛いのも苦しいのも見たくない。悪いことする奴も苦しんでいる人間も、みんな私の前から消えちゃえば良いんだ!』
世界がどこまでも穏やかで優しければ、彼女はここまで苦しむことはなかった。或いは彼女がもう少し鈍感なら、様々な事象を気に止めることもなかっただろう。
だが、世界は全ての人間に対していつも平等かつ非情であり、そんな現実はセリカ・クロスロードの精神をどこまでも磨り潰していった。
そして、日常的な幸せも些細な不幸に塗り潰され、研ぎ澄まされた感性が際限なく広がり続ける中で、セリカはなのは・T・スクライアという人物の存在を知った。
不屈のエース・オブ・エースと呼ばれ、多くの事件を解決に導き、また優秀な魔導師を数多く生み出してきた管理局の英雄。
彼女が解決した数々の事件、類希なる魔法の才能、最強の名を欲しいままにする実力、逆境をバネにして立ち上がった不死性、
どんな窮地でも諦めずに不可能を可能にする英雄的行動、そのどれもがセリカの心を捕らえて離さず、取り立てて目立つもののなかった彼女の人生に一つの指針を打ち立てた。
英雄になる。
なのは・T・スクライア。いや、高町なのはのような英雄になれば、この世界で苦しんでいる全ての人間を救うことができる。
そうすれば、きっとみんな笑顔で暮らすことができる。何一つ生きる方針を持たなかった彼女の人生は、そうして一つの目標を手に入れた。
そして、セリカ・クロスロードの戦いは始まった。
サンクト・ヒルデ魔法学校中等部に編入した彼女の前に最初に立ち塞がったのは、満足に初歩の魔法も使用できない自身の不憫な体質であった。
目覚ましい結果を出すこともあれば目も当てられぬ悲惨な結果で終わることもあり、ただでさえ人よりも遅れている身の上でその何倍もの修練が必要となった。
だが、セリカはそんな逆境にもめげずに訓練を重ね、すぐ側で労せずに結果を出せるヴィヴィオを見て競争心を熱く燃え上がらせた。
奇しくも、目標とする人物の娘が彼女の打倒すべきライバルとなったのである。その過程で、シエンからヴィヴィオが過去に実在した聖王と呼ばれる人物のクローンで
あることを聞かされたセリカは、彼女が管理局入りしたことに一つの希望を見出した。ひょっとしたら、ヴィヴィオが世界を変えてくれるかもしれない。
そんな淡い期待を抱いたのである。だが、彼女のささやかな願いに反して世界は何一つ変わらず、ヴィヴィオは新設部隊の一分隊長に収まって
自分本位な夢を追いかけているだけであった。
セリカの絶望は深かった。そして、その絶望は彼女に更なる力をもたらした。誰も英雄にならないのならば、やはり自分がなるしかないとより実戦的な訓練を積み、
既に決まっていた就職口を蹴って管理局に入局した。恩人であるシエン・ボルギーニがそうしたように、彼女もまた苦しむ人々の命を救わんと正義を志したのである。
だが、そこで待っていたのは組織としての効率を重視する余り形骸化してしまった正義だった。
犯罪者の人権が守られ、被害者はマスコミの晒しものとなり、確たる証拠がないから悪徳マフィアを見逃し、被害者だけが増えていく。
正義のための暴力すら行使するためには何重もの手続きを踏まねばならず、魔導師ランクの保有制限によって肝心な時に全力を出すことができない矛盾した現状。
目の前で起きている小さな事件を見逃し、どこかで起きている大きな事件のために少ない戦力を割く。それはあくまでセリカの主観であり、
現実問題として地上本部は非常によくやっていた。本局との連携もスムーズに行われており、十年前と比較すれば犯罪の発生率や検挙率は著しく好転している。
だが、その裏で理不尽に涙し、不幸に嘆いているほんの僅かな人々をセリカは見捨てることができなかった。そして、どうやっても弱者の嘆きがなくならないと悟った時、
セリカは自分が代わりに彼らを救う道を選んだ。
76:Das Erbe zur Zukunft⑩
08/08/20 22:07:10 kvaUvLtf
ヴィヴィオは世界を守るために無関係な人間を巻き込むことはいけないことだと言っていた。
しかし、セリカは今日までその手で救ってきた人々と同じ数だけの人間を犠牲にしてきたのだ。
十のために十を犠牲にした。
百のために百を切り捨てた。
千のために千を焼き払った。
たった一人を救うために何十人もの人間を傷つけたこともあった。
残り僅かな命を繋げるためにこの先何十年も生きられたはずの人間を押しのけたこともあった。
建物一つを犠牲にして幼い命を救ったこともあった。
破綻しているとしか思えない価値観。
正し過ぎるが故に間違っている倫理感。
正当であるからこそ異端となってしまった正義感。
それらは個人的な主観としてはどこまでも正しかった。目の前で苦しんでいる人をたった一人も見過ごすことができず、この手で救える全ての人を救おうと尽力した。
その代償として、それ以上の不幸を振りまきながら。
そんなことを繰り返している内に、セリカは自分が何をしているのかもわからなくなってしまった。
どうすれば求めている世界を創りだせるのかわからず、誰かを傷つける毎日。
どうすれば誰も傷つかなくて済むのかわからず、誰かを苦しめる毎日。
理想だけがどこまでも高くて、そこに辿り着くだけの力がなかった。手の平から零れてしまう命すら掬いたくて、自分自身を蔑ろにする以外の道が見当たらなかった。
『中将・・・・・私は、正しいことがしたいだけなんです。したいだけなのに、私はみんなを傷つけている・・・・・・誰も苦しんで欲しくなんかないのに、
誰かを救いたいと思ったら、誰かが嘆いている・・・・・・・』
『セリカよ。この世は常にそういった不条理で満ちている。完璧を期した計画が破綻し、杜撰な対応が功を制することもある』
『なら、この世に正義はないんですか!? どうして神様はこんなにも不平等なんですか!?』
『この世に神はおらぬよ。故に、平和は人の手で造らねばならぬ』
『中将?』
『君が望む世界、私が創ろう。逆賊の名を着せられようとも、我が命に賭けて、このミッドチルダに永遠の平和をもたらそう』
そう言ってのけたシエンの背中はどこまでも大きく、言葉では言い表せられない悲壮感に満ちていた。
まるで、二度と帰ることのない旅に出るかのような、そんな決意を秘めた背中だった。
待つこともできた。
彼が世界を閉ざし、平和な世界を作り上げて戻ってくるのを家で待ち続けることもできた。
だが、別れれば二度と会えない気がした。彼が敗北する姿なんて想像もできなかったのに、何故だかもう会えなくなるような気がしてならなかったのだ。
『私も連れて行ってください』
『だが、君は・・・・・・・』
『私の力も、使い方次第で役に立ちます。お願いです、中将の正義を、私に背負わせてください』
その日から、シエン・ボルギーニが彼女の正義となった。
彼に命じられるままに戦技を磨き、彼に命じられるままに作戦を遂行する。そこに自分の意思と呼べるものはなく、
ただ課せられた仕事をこなすだけの玩具の兵隊であるだけで良かった、何も考えなければ傷つくこともなく、冷徹なままに他人を傷つけることができる。
無条件に誰かを信頼し、その人物の言葉に全てを委ねていれば例え悪行でも善行と思いこむことができる。
何よりも、倒すべき敵が明確な形を持っていることは彼女にとって非常に心地よく、世界の在り方自体に憎悪を抱いていたセリカは、
管理局という敵を見出すことでやっと精神の均衡を図ることができたのである。そして、彼女は自身の能力を最大限に活かすために聖王の記憶を欲し、
それを用いて偽りの聖王になる道を選んだ。苦痛も死も覚悟の上で、たった一人の敵と戦うためだけに禁断の力に手を伸ばした。
77:Das Erbe zur Zukunft⑪
08/08/20 22:07:47 kvaUvLtf
(けど、全部なくなった・・・・・・中将は死んだ・・・・・あいつにも勝てなかった・・・・・・後はこいつが・・・・・聖王が全部やってくれる。
私達じゃできないことを、みんなが幸せでいられる世界を、きっと作ってくれる・・・・・・・だから、きっとみんな笑顔になれる
・・・・そしたら・・・・・・・・そしたら・・・・・・・)
壊れてしまったレコードのように、そこから先の情景が思い浮かばなかった。
みんなの笑顔を守って、それから何がしたかったのか。
平和な社会を作って、いったいどうしたかったのか。
今まで、目先の目標だけを追い続けてきた彼女には、それを達成してから何をしたいのかという考え方が、決定的に抜け落ちていた。
(まあ・・・・・良いか。私の正義は所詮借り物・・・・・もう中将もいないんだ。だったら、私なんかがいなくても・・・・・もう、良いよね
・・・・・・休んでも良いよね・・・・・・シエン・・・・・)
□
そして、彼女の視界が漆黒の闇に包まれた瞬間、異なる四つの光が壁となって迫りくる漆黒の濁流を押し返した。
「よく耐えたな、ヴィヴィオ」
紅衣をはためかせ、大槌を片手で提げている少女が唇の端を釣り上げる。反対側には剣を携えた緋色の騎士が障壁を展開しており、
バランスを崩して傾いた体は筋骨隆々とした青年が片手で支え、その後ろには緑色の衣を纏った女性が佇んでいる。
「ヴィータちゃん・・・・シグナムさん・・・・・ザフィーラ・・・・それにシャマルおば・・・・お姉さん・・・・・」
「話は後だ。三人とも、持ち堪えろよ!」
「へっ、誰に言ってんだよ!」
「これくらいの衝撃、何てことはないわ」
「盾の守護獣の名は、伊達ではないということを見せてやろう」
集結したヴォルケンリッターが持てる力の全てを結集させ、渦を巻く殺意の嵐を押さえつける。
古代ベルカが遺した至宝、一騎当千の古兵の力の前に、さしもの聖王ヴィヴィオの攻撃も歯が立たず、やがて黒い奔流はその勢いを失って虚空に霧散していった。
「ヴォルケンリッター・・・・・・まさか、あの狂った魔導書が未だ存在していたとは」
霧散していく黒い渦の向こうから現れた人物に、ヴォルケンリッターの面々は懐かしくも複雑な感情が湧きあがった。
彼女達とて古代ベルカに生みだされた魔導生命体、時の聖王とお目にかかったことも一度や二度ではない。
だが、かつては一騎士として中世を誓っていた人物が、ヴィヴィオと戦っているという状況は、彼女達にとって余り喜ばしいことではなかった。
「久しいな、烈火の将よ」
「そちらこそ、息災そうでなによりです、聖王陛下」
「皮肉か? いや、お前は今の状況が掴めていないのだな。ならばそのまま知らぬ方が良い。刃を合わせるのならば、無知であった方が気楽であろうからな」
「その勿体ぶった言い回し、何百年経ってもちっとも変ってねーな、陛下は」
「紅の鉄騎か。お前もその生意気な喋り方は相変わらずのようだ。風の癒し手も蒼き狼も・・・・・・見たところあの管制人格はいないようだが、
まだ目覚めておらぬのか。ならば片手落ちも良いところか・・・・・・それで、そこにいる私は当代の主か?」
「生憎、ヴィヴィオは我らの友人です。それと、既にあなたがよく知る闇の書はこの世に存在しない。我らは我らの意思で剣を振るっているまでです」
「何だと?」
今まで懐かしい旧友と再会したかのように饒舌に喋っていた聖王ヴィヴィオの表情が、汚らわしい汚物を目にしたかのように激しく歪む。
そして、次の瞬間には気が狂ってしまったかのように髪をかき上げて哄笑を漏らした。
78:Das Erbe zur Zukunft⑫
08/08/20 22:08:26 kvaUvLtf
「くくくく・・・・・はははっ・・・・・己の意思だと? 虚像でしかないお前達が、造られた人形であるお前達が、何度となく災厄を振りまいてきたお前達が、
ただ断罪されるためだけに多くの者を犠牲にしてきたヴォルケンリッターが、自分の意思で戦っているだと!?」
まるで踊るように、腹を抱えて体をくの字に曲げ、よく澄んだ声で笑い続けた。ヴィヴィオと同じ声で、だがヴィヴィオでは絶対に覚えることのない感情のままに。
その目に宿っていた光は、確かな侮蔑の色であった。
「堕ちてしまったな、人形よ。お前達の美点など、ただ黙って主に従っているだけの操り人形であったということだけであったというのに」
「てめー、それはどういう・・・・・」
「よせ、ヴィータ」
激昂して飛び出そうとするヴィータを、ザフィーラは片手で制する。
「王よ、やはりあなたのお考えは変わらなかったのですね」
「無論だ。兵隊に感情などいらぬ・・・・・・王の手足となって王が命ずるままに戦い、そして死ぬ。その犠牲は恵みとなって国に還元され、新たな争乱を生き抜く糧となる」
その傲慢極まりない物言いに、誰よりも敏感に反応したのは他でもない。
争いを好まず、争いを終わらせるためにその力を振るうもう一人の聖王、ヴィヴィオ・T・スクライアその人であった。
「何だそれは! それじゃ、まるで暴君じゃないか! そんな治世のどこに平和があるって言うんだ!」
「私よ、お前は王というものを理解しておらぬようだな。王とはな、どこまでも残酷で気紛れで、そして民を裏切らぬものだ。
民草が捧げた国を、土地を、忠誠を、最大限に浪費して臣民が求めるものを勝ち取るのだ。我ら聖王の血族はそのために自らの肉体を武器へと変え、
強大な武力である聖王のゆりかごを手中に収めた。王とは人ではない、国を動かすための一つの現象、そして我々は暴君であるが故に英雄だ。
繁栄を、平和を、秩序を、それを望むのならば一度として歩みを止めてはならぬ。戦わぬから傷つかぬのではない、傷つかぬために戦うのだ」
それは戦乱の時代を生き抜いた武人であるが故に語れる覇道であった。
誰よりも民を思うが故に民を顧みず、国のために身命を捧げて国そのものとなった王。
そこにいるのは聖王ヴィヴィオという個人ではない。遙か古代に繁栄を極めた、古代ベルカという一つの国であった。
そこには確かに笑顔があった。
他国を侵略し、搾取した富が隅々まで行き渡り、貧しい人間は誰一人として存在しなかった。誰も彼もが豊かであるため犯罪など起きず、
定期的に巻き起こる騒乱は常に勝利で終わるために不満が募ることもない。その代わり、多くの屍の山が築かれるだけだ。
一見すると犠牲を最小限に収めることのできた事象でも、積み重ねれば救った命よりも遙かに多くの命を蔑ろにしてしまう。
大のために小を犠牲にするどころの話ではなく、より大きな幸福のためならばそれ以上のものを犠牲とする。
その結果として、幸福の天秤は常に一方向に傾き続けていたのだ。
「何だよそれ・・・・・・・そんなの、セリカちゃんが望んだ世界と全然違うじゃないか・・・・・・お前はそんな混沌とした世界を、この時代で再現する気なのか!」
「無論、我が悲願はベルカの永遠の繁栄にある。そのためにまずこの世界を征服し、次元世界統一の狼煙を上げる。
この肉体を捧げた娘も喜ぶであろうな。望む形ではないとはいえ、誰もが笑顔でいられる世界を特等席で見られるのだから」
「ふざけるな! セリカちゃんは、そんな世界なんてこれっぽっちも望んじゃいない! セリカちゃんは、誰も傷つかない世界が見たかったんだ!
お前が作ろうとしている世界なんて、傷だらけで継ぎ接ぎだらけじゃないか! そんなんだからベルカは滅んだんだ!」
「私よ、いくら私でも我が国を侮辱することは許さぬ。それは、我が臣民への侮辱だ」
聖王ヴィヴィオの纏う気配が変わり、質量すら伴っているかのような凄まじい殺気が迸る。先程までの人間味を感じられなかった言動からは想像もできないその姿は、
彼女が如何に己の国を愛し、王であることに誇りを持っていたのかを如実に物語っていた。だが、己だけでなく親友の正義すらその身に背負ったヴィヴィオは、
叩きつけられる殺気を真っ向から受け止め、鋭い視線で切り結んだ。
79:Das Erbe zur Zukunft⑬
08/08/20 22:09:07 kvaUvLtf
「聖王、私とお前は別物だ。小さい頃からずっと、聖王であることが嫌だったけれど、お前を見て気持ちが変わった。
お前のような暴君を討てるのなら、この力も悪くない。お前を倒し、セリカちゃんを助け出し、私は人として生きる」
「そしてどうする? 苦しむ人間全てを救うと言うのか? そんなことは不可能だ。得るものがなければ、この世はただ減っていくばかりだぞ。零れた水は汲まねばならぬ」
それは正に真理。平和という名の水は零れてしまうからこそ、人々は互いに争い合うのである。
そして多くの犠牲と不幸を積み重ねて勝ち取られたそれは時を経てまた零れ、争いが起きる。
だが、ヴィヴィオのまっすぐな信念はそんな道理すらも押しのけ、青臭い理想を振りかざす。
「水が零れるのなら、誰かと一緒に支えれば良い。お前も見ただろう、ヴォルケンリッターは力を合わせてお前の攻撃を防いでみせた。
どんな困難が起きようとも、みんなで力を合わせれば何とかなるんだ。一人では無理なことでも、二人でなら何とかなる。二人で駄目なら三人、
三人で駄目なら四人、それでも駄目ならもっと大勢で。個人でできることに限りがあっても、国や世界が一つになれば、できないことなんてありはしない!」
「か弱き者が口にする信頼と協調か、くだらぬ」
「お前はそうやって人間の感情に共感しようとしなかったから、いつも一人だったんだ。何でもかんでも一人でやろうとしたから、ベルカを守ることができなかったんだ!
何でも知ったふりをした頭でっかちな王様、お前の王道はいつか国を滅ぼす。私はいつか滅んでしまう争いの道より、ゆっくりでも良いからみんなと一緒に
平和を目指す道を選ぶ! その途中でどんなに辛い戦いが起きたとしても、私達時空管理局は決して挫けたりしない!」
「不可能だ」
「やってみなくちゃわからない!」
法の番人の理想と覇王の道理が。
生者と死者が。
連帯と孤高が。
騎士と王が。
若者と大人が。
愚者と英雄が。
譲れぬ思いを賭けて、激しく火花を散らせる。
対峙しているのは寸分違わぬ風貌の少女二人。陽光を照り返す金色の槍と、黒き野望を纏った拳が向かい合う。
ヴィヴィオ・T・スクライアは望まぬ神を否定し、聖王ヴィヴィオは目障りな若人を排除する。
これから繰り広げられる戦いの熾烈さを予感しながら、両者は自嘲を禁じ得なかった。
この戦い、仮にどちらが勝ったとしても得るものは何もない。何故なら、どんなお題目を並べ立てたとしても、結局のところこれは自傷行為でしかないのだから。
to be continued
80:B・A
08/08/20 22:10:09 kvaUvLtf
以上です。
シエン爺さんにはまだ役目があるので残ってもらっています。そのために事前にユーノを
クラナガンにまで移動させていたんだし(あの回は無印へのオマージュでもあったけれど)。
順調にいけば後2話で終われます(可能形なのが痛いけれど)。
81:名無しさん@ピンキー
08/08/20 22:25:27 yOjpRVhG
GJ
ヴィヴィオが聖王に勝利したら、聖王の王としてのビジョンを超える何かを提示しなきゃならない。
多分それって、戦いに勝利するより難しいぞ、がんばれ、ヴィヴィオ。
82:名無しさん@ピンキー
08/08/20 22:42:34 ijFKkIfI
>>80
相変わらず熱いぜGJ
最初はヴィヴィオが借り物と言われていたのに、ここにきてセリカこそが己の意思を持たぬときたか・・・
ただどうもこの長編の諸所で、とあるエロゲを連想してしまうんだが。影響受けてる?
あと2話ガンガレ
83:名無しさん@ピンキー
08/08/20 22:42:41 tzUNo7NR
GJ。ヴィヴィオがなのはさん以上に熱いキャラになってるw
なんつーかセリカは某赤い弓兵を彷彿とさせますな。
目についた不幸を無視できず、結果として聖王なんて守護者よかタチ悪いものになってしまった。(むしろ金ぴか?)
セリカのは生来のモノだけにより救えないですね。
ヴィヴィオは彼女を救えるのか?
84:554
08/08/20 23:22:01 lpRXMM0A
B・A氏GJ!
正義とは何かってのは永遠のテーマであると共に、文章にするのってものすごく難しいですよね
そんな文章をこの短期間にこれだけ書けるB・A氏が素直に羨ましいとです。
さて、こんな時間でしか投下できないクリニック・Fなどいかがですか?
85:名無しさん@ピンキー
08/08/20 23:24:53 yOjpRVhG
投下please
86:名無しさん@ピンキー
08/08/20 23:25:11 EJWGcnuR
GJ。
ユーノといい、ヴィヴィオといい、聖王陛下といい、
今回はずっと水橋のターンだったな。
87:554
08/08/20 23:31:13 lpRXMM0A
前スレでザ・シガー氏が同じようなシチュで書いていたのでこれはマズいと思い急ピッチで仕上げました。
いつものように書いていますが、今日一日でかなりの精神力を消費したのもまた事実orz
そんなわけで投下します&注意書きです。
・カップリングはジェイル(あえてこう表記)×ウーノ
・スカの性格がかなり変化してます。それについては後に触れますが、気になる人はNGしてください。
・なのはキャラはスカとウーノ以外はフェイトくらいしか出ません。しかもかなり後半。よってほぼオリジナルストーリー。
・エロです。しかも今日は夕闇のの中(ry
・NGワードは「小さな町の小さな診療所 クリニック・F」です。
それでは原案の73-381氏に多大なGJを送りつつ、投下したいと思います。
88:小さな町の小さな診療所 クリニック・F
08/08/20 23:32:34 lpRXMM0A
「あ、ジェイル先生だー」
「あらホント。いつもお世話になってます」
「いえいえ、こちらこそこの間はモロヘイヤの苗ありがとうございました」
「あのくらいはお礼なんかに入らないよ。いつも世話になってるんだから、あのくらいは当然です」
こんな会話が何度交わされただろうか。
灰色を基調とした比較的地味な色の着流しを着たジェイルと、自身の髪の色に合わせた藍色に桔梗をあしらった上品な浴衣を着たウーノが連れ立って歩いている。
歩いている場所は診療所から歩いて十分ほどの神社。今宵、年に二度ほどの賑やかな様相を見せている。
一度が元旦の初詣。そして夏のこの時期は境内に夜店が並び、広場では太鼓が打ち鳴らされその周りを盆踊りの集団が囲っている。すなわち、夏祭りである。
記憶力に関しては人間離れしたものを持つ彼だけに道行く人に声を掛けられてはやれ「鈴木さん薬飲んでます?」だとか、やれ「高橋さん腰は大丈夫ですか?」などと、一人一人に丁寧にそして律儀に返答をしている。
一人一人の会話の量はそれほど多くはないが、それが何十人単位で続けば話は別である。そしてその間、彼の一方城を歩いているウーノは一人置いてけぼりである。
「どうしたんだい、ウーノ? そんなしかめっ面をして」
「何でもありませんっ」
そうジェイルが機嫌を取ってみても頬をふくらませてそっぽを向くウーノだが、ジェイルの視線が彼女から離れると同時に彼女の視線はジェイルの背中へと注がれている。
機嫌が悪い理由が分からずに頭を掻くジェイルにとって見れば困惑で、してやったりのウーノにとっては駆け引きが成功して満面の笑み。傍らから見ているだけなら実に微笑ましい様子である。
それが、片方は長身でモデルではないかと思うほどのビジュアルにも関わらず地域にも知られる心の優しい青年で、片方は女性としては背の高い方で綺麗だという形容詞の似合う女性かついつも献身的にパートナーの男性を支えている。
そんな二人が寄り添い合って付かず離れずの言動を繰り返していたら、露店で店番のおっちゃんもたちまち笑顔になるというものである。
89:小さな町の小さな診療所 クリニック・F
08/08/20 23:33:17 lpRXMM0A
「いいねえ、目の保養になる」
「ああ、あの二人はいい。見ているだけで青春してたあの頃を思い出させてくれ「ちょっとアンタ達!! サボってないで店番しな!!」
「……ああ、あの頃が懐かしいや」
「ホントだな……」
□ □ □ □ □ □
「なあ、せっかく来たのだから機嫌を直してくれないかい?」
「……ドクターが悪いんじゃないですか」
神社の祭りと言っても賑やかなのは露店が入り乱れて活気だっているエリアと、太鼓の勇ましい音とお囃子の賑やかな音色が響き渡っているエリアだけである。
神社の境内は、収穫を祝って豊作の神に祈るこの祭りでも式典が終われば言い方は悪いがお役御免といった感じで夜の闇と静寂が空気を支配していた。
その神社の裏の縁側に、ジェイルとウーノは二人並んで座っていた。周りには人の居る気配すらない。
「私が一体何をしたと言うんだい?」
「自分の胸に手を当てて考えてください。私は知りません」
シチュエーション的には誰もが羨む甘いひとときだが、二人の間に流れる空気は刃物のようにぴりぴりと研ぎ澄まされたものだ。
そんな空気の中に頭を掻きながら冷や汗を浮かべるジェイルと、頬を膨らませそっぽを向いて拗ねた表情をするウーノがいた。
本人としては自分はジェイルを困らせているんだ、という気持ちでいるウーノだが、二人の距離のせいか若干朱の指した頬の具合とその拗ねた表情はジェイルにとって劣情を抱く材料にしか成り得なかった。
90:小さな町の小さな診療所 クリニック・F
08/08/20 23:33:59 lpRXMM0A
「じゃあ、こうすれば許してくれるかな?」
「何を……んむっ……」
月夜に照らされた二人の影が、その瞬間一つに重なって、離れた。
「っは、……そ、そんなことで誤魔化されるような私じゃないんですからねっ」
「それじゃ、お気に召してくれないみたいだからもう一度」
「ちょ、ちょっと待っ、んっ……」
もう一度その影が重なり一つになる。
しかし、先刻とは違い、その影は一向に離れる気配を見せない。それどころか、影の交わりは先刻よりも深い。
「んふっ……っ……っちゅ……」
粘性の音が二人の間から紡ぎ出され、それは一種の効果音であるかのように、二人の興奮を高めていく。
ウーノは自分の口内が焼けるような熱さを放ち、そしてその中に舌や口内だけでなく自分自身をも蹂躙せんとするものの存在が暴れ回っていることをはっきりと自覚していた。
そのまま十秒、二十秒と時間は過ぎていき、ついに一分に達しようかというところでウーノがいつの間にか自分の腰に据えられていたジェイルの手を強引にふりほどき、顔を離す。
「っぁ……はあっ、はあっ……。い、いきなりなんて酷いじゃないですかっ」
「そんな口ぶりの割には嫌がっていないようだが?」
「……その質問は、ずるいです」
言うなり頬を紅く染め、俯き加減で上目遣い。加えてテンションの上がっているジェイルは我慢というものを知らない。
そうなれば、どういう事になるかはお互い周知のことである。
ジェイルはウーノの背中に回り、彼女の胸の辺りをまさぐりだすと、着ていた浴衣が徐々にはだけていき、最後には常人よりは少し大きめの彼女の可愛らしい乳房だけが艶やかな紺の浴衣から覗いている格好になっていく。当然、彼女の息は荒い。
91:小さな町の小さな診療所 クリニック・F
08/08/20 23:34:33 lpRXMM0A
「下に何も付けてこなかったのか。通りで歩いているときにモジモジしているわけだ」
「っあっ……だって浴衣はぁっ、……着けなくていい、ひあっ、ってくら、まさんがはあっ……」
「なるほど。後で鞍馬さんにはお礼を言っておかないと」
「ふえっ……?」
今はさほど重要視されていないが、本来浴衣は下着を着けずに着る服装である。
ウーノは話の流れから、着付けや仕立てを伊吹に任せていた。ウーノ自身としては申し訳ない気持ちで一杯だったが、彼女の顔からは喜々とした表情が読み取れたので、おとなしく甘えることにしたのだった。
そこから入れ知恵されたのであろう。現代では下着を着けて浴衣を着る女性が殆どだというのに、ウーノはそれを鵜呑みにして下着を履かずに浴衣を着ていたのだ。
「あるいは、期待していたのかい?」
「…………」
胸を揉みしだき続けながらジェイルは耳元で囁く。当然、彼女からジェイルの顔は見えないし、ジェイルから彼女の顔もまた見えない。
だが、ジェイルには無言の肯定という決して覆らない事実と共に、耳朶まで真っ赤になった彼女の熱がその事実を裏付けていた。
伊吹から入れ知恵をされたのも事実であるが、こんな展開になることを期待していたこともまた事実。そして無言の肯定と熱を持った体の状態。
ウーノにとっては、そのジェイルの囁きに対して肯定しないことが唯一の抵抗であった。
「んふぅ……ふぁ……」
体は燃えるような熱を帯び、脳からはビリビリとした刺激が絶えず体へと伝えられる。
自分でももう限界だというのに顔の見えない彼からは胸の疼きしか沈めてはくれず、先程から嫌と言うほどに股間の熱が収まらない。
ウーノは意を決して、顔を俯かせながら懇願する。
「む、胸ばっかりで、はうっ、ずる、いですっ……」
「ふふふっ、その言葉待ってたよ」
92:小さな町の小さな診療所 クリニック・F
08/08/20 23:35:13 lpRXMM0A
言い終えた後のウーノはやってしまった、という虚脱感を味わうと共に、これから始まる事に対しての期待や羨望が脳をよぎり、一層股間の疼きが刺激される。
しかし、そんな間もジェイルは少々しか与えてくれず、ウーノの胸に添えられていた手を彼女の腋に手をやり、強引に持ち上げる。
何も言わないジェイルに不信感を抱きつつもされるがままにされるウーノは、胸を愛撫され続けて一人では立てない状態である。
しばらくそのままにされていると、ジェイルは一つの木の根本でウーノを下ろし、手をその木の幹へと添えて自分はウーノの後ろに回った。
ウーノが何をされるのか分かったときには既に浴衣を捲られ下半身を顕わにされ、ジェイルの眼前に自分自身の恥ずかしい部分が丸見えになっている状態であった。
ジェイルは腰を下ろすとそこへと顔を近づけ、既に準備万端であるそこをまじまじと見つめた後、満足そうに顔をそこへ埋める。
「ひあっ……!」
「もうあふれ出すほど濡れちゃってる。上の口は素直じゃないけどこっちは本当に素直だね」
「そ、そんなこと……ふあっ……!!」
ジェイルのざらついた舌でそこを嘗めるたびに股間からは愛液が滴り落ちてジェイルの顔を濡らす。
ウーノの顔が羞恥による紅から次第に快楽による紅に変わっていくのが、熟したトマトを更に熟すかのように鮮やかに変わり、見る者(この場合はジェイルだけである)を楽しませる。
やがて美味しそうに嘗めていた部分から顔を離し、今度は立ち上がって自分の股間を外へとさらけ出す。
その姿は凶悪と言えるほどにそそり立っており、後ろを向いたウーノはその大きさに目を奪われ、喉をごくんと鳴らした。
焦らされて焦らされて焦らされて。そして、彼女は耐えられなかった。
「さて、どうして欲しい?」
「……い、挿れてほしいです! 私の熟れて熱くなって液が零れ落ちてるだらしのないおまんこに挿し込んで、掻き回して欲しいです……!!」
「よくできました」
「ぁっ……ふあぁあぁぁぁ……!! おくまで、おくまできちゃうよぉぉぉ!!」
彼女に賛辞の言葉を一つ与えると、遠慮無しにその凶悪なモノを彼女の奥底まで突き刺した。ウーノはその刺激に耐えられず、完全に尻を突き出す格好となってしまっている。
それと同時に快楽の混じった歓喜の声を上げるウーノの顔は、快楽で真っ赤になり眉は歪められても尚、口元には笑顔が浮かんでいた。
やがて奥まで一気に貫いたことを確認すると、ゆっくりと左右に動きだし、そのスピードを速めていく。
93:小さな町の小さな診療所 クリニック・F
08/08/20 23:35:52 lpRXMM0A
「おくにっ……! おくに、あたってるふぅうっぅう!!」
「相変わらず名器だね。君の中は」
「あ、ありがとぃあっ、ございますぁんっ……」
木に手を突き尻を突き出すウーノと、手で彼女の尻を押さえつけ欲望を叩き込む。客観的に見れば獣も同然の姿であった。
しかし、彼らの指針となっているのは相手を想うが故。お互いがお互いを性欲の捌け口としているのではなく、単純な愛の営み。
「自分で腰を振ってないな、ウーノ。前に教えたはずだが」
「す、すいまひあっ……!」
「お仕置きだな、ウーノ」
「はいぃ、んぅっあ……! ウーノにぃいっ、お、おしおきおねがいしま、んあっああ!!」
ぱんっ、ぱんっ、とウーノの尻を叩く音が、それこそ他の人間に知れてしまうのではないかというほどに大きな音が神社の境内に木霊する。
ウーノが激しくされているのは単に彼女がそういったことが好きなのであって、ジェイル自身の欲望だけで彼女を虐げているのではない。
根っからのM体質であるらしい彼女の性癖を知ってからというもの、ジェイルの心も次第に攻める方へと傾き出さし、それから拍車を掛けてこのような状況である。
しかし、彼女を愛しく想うのは変わりなく、事実ウーノという名前をその科白ごとに入れているのも彼の優しさ故のことである。
「さて、そろそろ私も限界だが、ウーノはどうして欲しいのかな?」
「なかにぃっ! だ、だしてくださんぃあっ! おねがいしまふっあああっっ!!」
途切れ途切れになりながらの懇願に、ジェイルの限界値は限界に更に近づく。それは彼の苦悶の表情からも伺い知ることが出来る。
やがて、先刻から早まっていた左右の運動のスピードが更に速まり、行為の終着点が近づいていることを二人は往々に感じていた。
ぐちゃっ、ぐちゃっ、という粘性を伴った音は更に大きくなり、ウーノの上げる嬌声もまた一段と大きくなる。
「ぐうっ、射すぞウーノッ!!」
「なかにぃぃああっ!! なかにぅああああっっっ!!!」
「ぐぅぅッ!」
94:小さな町の小さな診療所 クリニック・F
08/08/20 23:36:52 lpRXMM0A
どくどくと、毒々しい白い液体がウーノの膣内で射出され、ウーノの中の奥底で弾け出す。
やがて数秒の後に結合されたモノ同士が抜け、ウーノのそこからは白い液体がごぽごぽと噴出してくる。
彼らはまだ、己の体を支配する倦怠感から抜け出せずにいた。
□ □ □ □ □
「今日は一段と激しかったようだけど?」
「知りませんっ……!」
あれからというもの、もう帰りたいと言うウーノをなんとか説き伏せ、もう一度祭りの喧騒の中へ引き戻すことに成功したジェイル。
色々な液体で服も体も汚れてしまっているから無理だ、というのがウーノの抵抗だったが、それを予感していたかのように「服に付かないように気を配ってたんだ。ほら」というジェイルの科白と、
用意されていたかのようなウエットティッシュの登場で、ウーノのささやかな抵抗は幕を閉じたのであった。
そんなこんなで、行為の前のように仲良く手を繋ぎ、祭りを練り歩く二人。道行く人の視線もまた、行為の前と同じく時にニヤニヤと、そして時に羨ましげな視線といった見守るような視線のみが二人に注がれていた。
と、そんなところに向こうからこちらに手を振りながらたこ焼きを食べる女性が、焼きそば屋の前でおーい、と呼ぶ。傍らには食を止めるように諭す男性の姿も見えた。
「こんばんは。宇都宮さんと……立川さんも一緒ですか」
「なんかコイツがいきなり押しかけてきて腕を掴まれむごっ」
「な、なんでもないですよー。あははは……」
95:小さな町の小さな診療所 クリニック・F
08/08/20 23:37:22 lpRXMM0A
咄嗟に口を押さえる疾風は赤を基調として足下に花火をあしらったいかにも現代風の浴衣を身に纏っている。それが彼女の活発な印象によく似合っているようにジェイルは感じた。
一方の押さえられた方の隼はいかにも突拍子もなく来たという服装で、下半身はスポーツ系の半ズボンのジャージで上半身はこれも某有名スポーツメーカーのロゴの入ったTシャツというラフな格好である。
「いやー、保育士仲間がみーんな彼氏持ちだの夫が居るだので溢れてしまいまして。悔しいので生物学的には男であるコイツを引っ張ってきたんですよ、ええ」
「ああ、そうだったんですか」
「……なんですか? そのニヤニヤした目つきは。青のりでも付いてますか?」
「いえいえ何でも。ただ、仲がよろしいなぁ、と」
「ばっ……!」
意地の悪い笑顔を浴びせられた疾風はその科白に赤くなって黙り込んでしまう。先程も言ったが、無言は肯定と同じである。
「あら、そう言うことですか」と続けるウーノと、「は? どういうことだ?」と頭の上にクエスチョンマークを浮かべる隼が好対照で、思わずジェイルは吹き出す。
それをジト目で見つめる疾風は、普段はからかう側の人間であるが故に墓穴を掘った自分自身の虚しさを噛みしめ、そして事態を好転もしくは話題の転換を企み周囲を見渡す。
「あっ、あそこに歩いてるの護くんじゃない?」
「ホントだな。でも隣に女の子がいるぞ……しかも、手繋いでやがる!」
かーっ、羨ましい!! と、頭を抱えながらまくし立てる隼であったが、その彼の手をしきりに見つめては自分の手を出したり引っ込めたりを繰り返す人物がいたことを彼は知らない。
無論、気づいている人間二人は笑いを堪えられない様子で、それに気づいた。疾風は顔を真っ赤にして睨むもそれ以上の反撃は出来ず、ただ羞恥で顔を俯かせることしかできなかった。
そんなこんなで四人騒いでいると、歩いていた護の方も気が付いたらしく、塞がっていない右手を宙に上げて合図を送る。
「ジェイル先生こんばんは! ほら、藤花ちゃんも」
「こ、こんばんは、ジェイル先生」
「はい、こんばんは。その浴衣似合ってるね」
「あ、ありがとうございます……」
96:小さな町の小さな診療所 クリニック・F
08/08/20 23:37:55 lpRXMM0A
護と手を繋いでいたのは先日すったもんだあってその後母親からこっぴどく叱られた、鮮やかな黄色の浴衣を身に纏った剣藤花その人であった。
その手には護の手がぎゅう、と握りしめられており、てをまじまじと見つめる大人四人に対して顔を赤くする彼女が彼のことをどう想っているのかはそれだけで一目瞭然であった。
「あーもう! なんでお前はそこまでされて分からないんだッ!!」
「え? なんのこと?」
「それって自分に向けられた科白じゃないわけ?」
「は? どういうことだ?」
「あーもう……。これだから男は……。藤花ちゃんだっけ? 護は苦労するわよ」
「……護くんを悪く言わないでくださいっ」
「あ、ああ、ごめんごめん。それだけ言えるんなら大丈夫だな」
そんなやり取りを傍らで見てにこにこと微笑を浮かべるジェイルとウーノ。
少なくとも今この瞬間だけは幸せであると断言することが出来た。
その幸せは未だ不安定な台座の上で揺れ続けていることを、まだ彼らは知らない。
「私が教えてあげるわ、隼くん。それはね」
「な、何言おうとしてるんですかウーノさんっ!! あー、心臓止まるかと思った」
「大丈夫。心臓が止まっても私が治せる。だから話しちゃっても良いよ、ウーノ」
「では改めて。疾風さんがこんなに慌ててるのはね」
「だからそういう問題じゃないっての!!」
その足音が着実に近づいていることを、まだ彼らは知らない。
97:小さな町の小さな診療所 クリニック・F
08/08/20 23:39:19 lpRXMM0A
今回の投下は終了です。 こ、ここまで長かった…。
次回は番外編ですので気を抜いて(?)お待ち下さい。
98:名無しさん@ピンキー
08/08/20 23:39:59 LnESJUaR
水橋ヴォイスはエリ○ギャーが一番萌える。
>>80
GJ。
蘇った古き王をヴィヴィオは打倒できるのか!? 続き楽しみに待ってます。
いつか私もこんな熱い長編を書けるようになりたいぜ。
99:名無しさん@ピンキー
08/08/21 00:10:54 EGGjKt/6
>>80
なんだか聖王にギル様に通じるものを感じてしまった。
しかしあんな揺るがない信念を否定したからには「皆でなんとかする」なんていう曖昧なものではない答えを導き出さなきゃいけないよなあ。
100:名無しさん@ピンキー
08/08/21 00:34:21 wVSXd5F0
かぁ~、GJ!
やっぱ祭りの暗がりでアハンウフンはお約束ですよね!?
ウーノ姉はやっぱナンバーズエロス担当だ、こんな人がいたらそりゃ外だろうが致しちしまうわ。
しかし、なんかもうこのまま永住して欲しい心から願いますが、局の捜査が確実に近づいている予感、凄く恐いわぁ~。
101:名無しさん@ピンキー
08/08/21 01:18:42 Q7SvZr7H
>>99
どちらかというと自己肯定全開のセイバーだな
ギル君は自分本位だから
102:名無しさん@ピンキー
08/08/21 03:06:58 mldqcCpR
最初に正義を語ったやつが後から正義を語るやつに勝つ話はもういらない
聖王が世界を破壊して全てを無にしてくれたら万々歳だ
103:名無しさん@ピンキー
08/08/21 09:41:21 VvZ5l7tF
>>80
GJ!!!
改めてヴィヴィオが生きていくうえでの試練の戦いだと思った
それと同時にやっぱヴィヴィオは支配者には向いてないとも
エリオと同じ誰か大切な人をひたすら守ろうとする騎士の称号が一番だ
104:名無しさん@ピンキー
08/08/21 11:12:41 bYsLv7KR
>>80
GJ!!です。
聖王の道は征服し統治を成し遂げる上で膨大な死者を出す道でしょうけど、
次元統一できれば、その後の争いはほとんど無くなる。
ヴィヴィオ達の道は聖王の道のように急激に大量の死者は出ないけど、
紛争や戦争が続くので最終的には聖王の道より死者を出すかもしれないのか、
誰もが自身の大切なものを守ろうとするから争いが生まれるんだよなぁ。
105:名無しさん@ピンキー
08/08/21 11:21:26 syzKtA8u
>>80
まぁ、戦わずに豊かで平和にできない。
それは無能の言い訳だったりすると思うぞ。
106:名無しさん@ピンキー
08/08/21 14:28:33 CJLSUCe+
GJとかもう枕詞だろ。
いとおかし(可愛いなお前。ケツ出せよ。)
107:名無しさん@ピンキー
08/08/21 14:31:22 CJLSUCe+
ゴメン誤爆した。
108:名無しさん@ピンキー
08/08/21 14:47:56 zE3V0jHn
どんな誤爆だw
109:名無しさん@ピンキー
08/08/21 16:13:02 z8G5Oqh/
>>102
んじゃ、そういう破滅願望満載のSSを書いて叩きつけてきたまえ
さぞやいい文章が読めるに違いない
110:名無しさん@ピンキー
08/08/21 17:10:08 CJLSUCe+
きたまえ! キリッ
きたまえwww腹筋ちぎれるwww
111:名無しさん@ピンキー
08/08/21 21:40:32 2H/ai3yK
一人で笑い転げてるのって傍から見ると近づきたくないよね
112:名無しさん@ピンキー
08/08/21 22:35:37 horfYieY
>>80
GJ!なんか話の展開から
種死の最終回が頭をよぎったのは自分だけか。
流石にヴィヴィオには「覚悟はある…私は最後まで闘う!」
なんて答えは出して欲しくないw
聖王の答えにただの人として生きる彼女はどんな回答を出すのか。
でも出した答えに最終的に聖王が納得するなんてのは勘弁してほしいな。
戦乱を生き抜きその果てに掴んだ彼女の答えは決して「間違っていない」んだし。
113: ◆Ev9yni6HFA
08/08/21 22:54:21 zbPUBJS6
何か過疎ってますがこれから投下したいと思います
114:尊ぶべき愚者 ◆Ev9yni6HFA
08/08/21 22:59:29 zbPUBJS6
・非エロです
・オリキャラ多数
・独自解釈を含みます
・sts開始前の地上本部をメインにした話なので六課の面々については察してください
・NGワードは「尊ぶべき愚者」で
115:尊ぶべき愚者 十七話 1/27 ◆Ev9yni6HFA
08/08/21 23:01:12 zbPUBJS6
二尉が精密検査を受けるとかでその日の訓練は中止となった。
本人は心配するなと言っていたが、医療スタッフの顔が険しかったのが気になる。
当日に言われて暇を持て余していたティアナは准尉に誘われてクラナガンに繰り出していた。
抵抗はあったがこういう付き合いも大事だと了承した。
「お!」
「うげ……」
十字路を曲がった直後に准尉は苦々しい声を上げた。
顔は引き攣り、体が後ろに下がる。
「よお、偶然だな。准尉」
黒髪の男性が片手を上げ親しげに声をかける。
「本当に偶然ですね、外交官。一人ですか?」
「いや、三人」
外交官と呼ばれた男性が振り返ると二人分の影が向かってくる。
赤髪の男性と青髪の女性で二人とも見覚えがある。
執務官と親友であるスバル・ナカジマの姉、ギンガ・ナカジマだ。
「また微妙な組み合わせですね。ナカジマ陸曹と面識ありましたっけ?」
准尉が肩を落として全身を脱力させる。
どうやらこの場から去りたがっているようだ。
「あの、准尉……」
「これから飯食いに行くからお前も来いよ」
助け船を出す前に先手を打たれた。
外交官は准尉と肩を組み親密そうにするが准尉の方は目に見えて嫌がっている。
「どうせ、例の店行く気なんだろ」
「まあ、そうなんですけど……」
顔を合わせず、視線は足元を彷徨う。
そのまま小声でぶつぶつ呟いていた准尉だが、とうとう諦めたのか渋々頷く。
116:尊ぶべき愚者 十七話 2/27 ◆Ev9yni6HFA
08/08/21 23:02:11 zbPUBJS6
「執務官、店に着いてからで良いのでちょっと確認してほしい所が」
「うん? ああ、分かった」
「今度はファナウンテラスって所に行きたいんだが」
「一人で行ってください」
「そう言うなよ。俺達、親友だろ?」
仕事の話でもしているらしく親しげな執務官とギンガ。
更に一方通行にも見えるが仲良しな准尉な外交官。
そうなると一人余るのは自明の理な訳で、ティアナは四人から一歩分下がって歩いていた。
と、唐突に足を止めて周辺を見渡す。
「どうした?」
「あの、何か聞こえませんか?」
雑踏の中で危うく聞き漏らす所だったが、確かに聞こえた。
最初は建物の間を風が通り抜ける音かと思ったが、耳を澄ませると泣き声のようだ。
「あれじゃね? フェレットの鳴き声とか」
「いや、どうも人の泣き声に聞こえますけど」
「なんだ、准尉。知らないのか? フェレットは喋るんだぞ」
「それ、使い魔か何かですか?」
前方で行われているやり取りを無視して意識を集中させる。
活気溢れる街で一人で泣いている声の主へと。
「こっちです!」
117:尊ぶべき愚者 十七話 3/27 ◆Ev9yni6HFA
08/08/21 23:03:41 zbPUBJS6
裏路地に入って少し進んだ所に人影が見える。
更に近付くと重ねられた廃材に座った少女がすすり泣いていた。
「お父さん、お母さん、みんな……」
割と高級そうな衣服を身に着けているが、迷子か家出か。
近付く途中で踏んだ砂利が乾いた音をあげ、少女の顔がこちらを向く。
陽光を連想させる眩い金髪。
その両目は普段なら深緑のような翡翠と炎のような紅玉の瞳をしているのだろうが、今は赤く泣き腫らされていた。
「何で泣いていたのかな」
出来るだけ警戒心を抱かせないように優しく話しかける。
相手の少女は両手で目を擦りながら、
「べ、別に泣いてなどいない」
本人はそう言うが真っ赤に充血した両目が言葉より雄弁に事実を物語っている。
「つーか、何でこんな裏路地にいんだよ。善良な奴の多い聖王教会とは訳が違うんだぞ」
外交官と離れられて此れ幸いと付いて来た准尉が呆れ顔だが、知り合いなのだろうか?
118:尊ぶべき愚者 十七話 4/27 ◆Ev9yni6HFA
08/08/21 23:05:14 zbPUBJS6
「わたしが何処で何をしようがわたしの勝手だろ」
「泣いてる子供をほっとけるかよ」
「とにかく一緒に行きましょ。ここは危ないから」
「首都っていったって治安は完璧じゃないんだぞ」
准尉が手を差し伸べるが少女は一瞥しただけで動こうとしない。
「! なあなあ、そこの暗がりに男達が倒れてるんだが」
「だから、わたしは自分一人でも大丈夫だ」
「はいはい。ギンガさん、食事ってこの子も一緒で大丈夫でしょうか?」
「ええ、大丈夫。花やかでいいわね」
過半数の同意が得られたので正式に決定。
後は少女の説得だけだ。
「いや、だからそこの暗がりに、なあ、執務官。
お前もなんか言って……おい、なに本通りから「自分はこの一団には関係ありませんから」って面してんだよ」
「いや、面倒事には関わらない主義なので」
「じゃあ執務官なんてやってんじゃねぇよ! さあ、お前も裏路地に来い。恐れる事はない。勇気を出して一歩踏み出せばいいんだ」
「いえ、本当に遠慮しときます。聖王教関係の友人からも忠告されてますし」
「お前は汎神論の世界の人間だから神罰とか怖くないだろ」
「それは何か違うような」
119:尊ぶべき愚者 十七話 5/27 ◆Ev9yni6HFA
08/08/21 23:08:50 zbPUBJS6
「外交官の誘いは受けても俺達の誘いは駄目ってのか?」
「別にそういう訳ではないが……」
「ご馳走してあげるって言ってるんだから大人しく受けときなさいよ」
「一緒に食事が出来たら私達は楽しいから私達の為と思って、ね?」
「・・・・・・ま、まあ、そこまで言うなら行ってやらない事もないが」
躊躇いがちに准尉の手を取る。
「まったく、素直じゃないんだから」
自分でも分かるくらいニヤニヤしながら少女の背中を叩く。
「ッ! だから、私は! お前達がどうしてもと言うから仕方なくだな!」
「はいはい。じゃあ、行きましょうか。准尉にギンガさん」
裏路地から出ると外交官がしゃがみ込んで地面にミミズのような線を書いている。
「? 何を遊んでるんですか。さっさと行きますよ」
准尉が外交官の脇に手を突っ込んで無理矢理立たせる。
「……お前等、将来大物になるぜ。方向性までは知らないが」
120:尊ぶべき愚者 十七話 6/27 ◆Ev9yni6HFA
08/08/21 23:09:34 zbPUBJS6
六人がやって来たのは一件の居酒屋だった。
店に入る前に男三人は肩を組んで楽しげな女子三人から離れる。
「実はお前達に言っとかないといけない事がある」
「奇遇ですね。俺もです」
外交官と准尉の視線がぶつかり合い、組んでいる腕にも力が入る。
二人がゴクリと固い唾を飲み込み、
「わりぃが、代金頼むわ」
「そのまんまお返ししますよ。予定が三倍になったらどうしようもないですから」
「・・・・・・俺、外交官なんだけど。言っちまえば一国の代表よ? 言っちゃうよ。明日朝一番でゲイズ中将に言っちゃうよ。
お宅の平の局員は政府高官に無理矢理奢らせるんですか? って」
「……分かりましたよ」
権力には勝てず不承不承のまま執務官の方を向く。
「あの二人で割り勘を」
准尉は執務官に期待を込める。
生真面目でお人好しな性格のようなので頼まれれば断れないだろう。
しかし、執務官は薄ら笑いを浮かべ、
「すまない。持ち合わせがもうないんだ」
申し訳なさそうに呟いた。
もう、というのがミソだった。
121:尊ぶべき愚者 十七話 7/27 ◆Ev9yni6HFA
08/08/21 23:10:33 zbPUBJS6
「……もしかして今までずっと一緒だったんですか?」
「調査にはそうする事が最適だと考えたんだ」
間違いだったかも、と小声で付け加えた。
「ずっとただ飯食らいかよ」
「仕方ないだろ。金ないんだから」
悪びれる様子を微塵も見せず外交官はあっけらかんと答える。
権力は人格者に付与される訳ではないのだな、と准尉は嫌な事を悟った。
「外交官なのに金がないんですか?」
「ないんだよ、国全体で金が。俺にしたって外交官という名の使いっ走りだし」
がま口の財布を開いて逆さまにする。
埃しか落ちてこなかった。
「……そっちも大変なんですね」
「基本的に自給自足で産業とかないからな。ミッドチルダから見れば文化レベルは低いんだろうなぁ」
「……まあ、今回は俺の奢りで」
「有り難う」
122:尊ぶべき愚者 十七話 8/27 ◆Ev9yni6HFA
08/08/21 23:11:37 zbPUBJS6
「おや。久し振りだね、あんちゃん」
「どうも」
暖簾を潜って店内に入り、厨房で包丁を研いでいる親父に挨拶をする。
「最近二尉が来ないけど、どうしてる?」
「何時もどおりですよ」
「そうかい? 室長さんが、「もし来たらすぐに自分に連絡して何も出さないでくれ」とか言ってたから」
「・・・・・・そう、ですか」
二尉の様子が負傷前と変わらないと思っていた准尉だったがそう言われると不安になってくる。
彼が無茶をする人間だというのはよく知っているので尚更だ。
室長に詳しい容態を聞くべきかもしれない。
「そういえば、最近新しいアルバイトの子が入ったと思うんですが……」
「おお、入ったよ。知り合いかい?」
「ええ、まあ、ちょっと。今日は休みですか?」
「いくつも掛け持ちしてるみたいだからねぇ」
「そうですか。あー、後ほど話があります」
その話がこの店に来た一番の目的なのだが、どうも気が重い。
第三者にはとてつもなく説明しづらいからだ。
六人用のテーブルはないので四人用のテーブル二つに男女がそれぞれ座る。
いきなり別れてしまったが食事が始まれば勝手に動くだろうと准尉は楽観視する。
その間にも外交官は壁にある品書きを眺めて思案をしている。
「えーと、豚とろ焼きに刺身の盛り合わせにもつ鍋に・・・・・・あーもうめんどくさい。メニューにあるの一通り頼む」
「・・・・・・人の金だと思って好き勝手してますね」
良心は相手を見極めるべきだというのが本日二度目の教訓だった。
123:尊ぶべき愚者 十七話 9/27 ◆Ev9yni6HFA
08/08/21 23:12:26 zbPUBJS6
「この店の雰囲気は嫌いじゃないな」
簡単な料理や飲み物が運ばれてきた所で食事がスタートする。
「十年くらい前、あるロストロギアを回収する為に出向いた街にも似たような店があってさ」
外交官は糸を引いた豆を二本の細長い棒で器用に掴んで口に運んでいく。
腐ったような臭いを発するそれをよく食べられるな、と准尉は顔をしかめた。
「ロストロギアの回収は管理局の仕事なんですけどね」
「仕方ないだろ。そのロストロギアが暴走すると俺達の世界も侵食されるって言われたら手を打たない訳にはいかないだろうが。
それに、被害者やその家族が大勢いてな。彼等の事を考えると行動しないといけないと思ったんだ」
「……外交官の世界が無事って事はちゃんと回収出来たんですか?」
「いや、まあ、回収したのは管理局なんだけどな」
「……無駄働きですね。最初から管理局に任せとけば良かったのに」
「今にすれば俺もそう思うかな。被害者には何も出来なかったし、途中で変な仮面した奴に襲われるしさ、何なの、あいつら」
「知りませんよ」
何処かで聞いた気もした准尉だが、すぐには思い出せなかったので質問されないように否定しておく。
「管理局は管理局で、虹砲をぶちこもうとするし、逃げるの大変だったんだぞ。あれを使うとか正気か? 俺が泳げないと知っての仕打ち?」
「事情は分かんないですけど指揮官がそうしないといけないと判断したなら……」
突然上がった甲高い音に准尉の発言は中断される。
音源を探すと執務官が申し訳なさそうな表情で床に落ちたスプーンを拾い上げていた。
「すみません」
鈍感な准尉にも今のが偶然ではなく、執務官が話の流れを変えようとしたのは分かった。
流石に理由までは不明だが、そもそも食事時にする話ではない。
124:尊ぶべき愚者 十七話 10/27 ◆Ev9yni6HFA
08/08/21 23:13:16 zbPUBJS6
「・・・・・・そういえば外交官って何歳なんですか?」
十年前に危険なロストロギアの回収を任せられていたという事はそれなりの筈なのだが。
「何歳に見える?」
問い返されたので外交官の顔をじっと見つめる。
一見すると病気かと思うほど青白い肌をしているが常人以上の健康体である事は身をもって理解している。
黒い髪の毛は艶やかな光沢を放ち瞳は血のように赤い。
これで女だったら言う事はないのだが。
「えーと、二十七くらい?」
「ぶっぶー」
「二十五?」
「全然だな」
「三十五?」
「ちげーよ」
「もしかして四十超えてます?」
「よーく考えれば分かるぞ」
腕組みをして思案する。
ミッドチルダでは若作りしている人間が多い。
知り合いの知り合いには孫までいるのに二十代でも通用するのもいると聞いた気もする。
そもそも外交官は違う世界の住人なので若く見える種族なのかもしれない。
准尉が考え込んでいる間、外交官は愉しそうに酒を呷る。
「准尉。多分、お前が考えているより問題は単純だ。なあ、執務官」
話を振られた執務官は食事の手を一旦止めて頷く。
「ですね。ただ、ミッドチルダの人間には難しいかもしれません」
「ぅんと、降参です」
お手上げとばかりに両手を上げると外交官は落胆したように息を吐いて棒を鼻先に突きつけてくる。
125:尊ぶべき愚者 十七話 11/27 ◆Ev9yni6HFA
08/08/21 23:14:05 zbPUBJS6
「お前なぁ、俺の話を聞いてなかっだろ」
「は?」
「俺は懇切丁寧に説明したぞ。俺の世界には太陽がなくて人工物の月しかないって」
「……ああ!」
そこで外交官の言わんとする事が理解出来た。
「だからお前達の使う暦の概念そのものがないんだよ。まあ、俺は仕事柄多少は使ってるが」
「大変じゃないですか、それ?」
「そりゃもう。暦の概念があっても世界によって一日が十時間だったり逆に三十時間だったり、一年が二百五十日くらいしかなかったり。
最近はもっぱら遅刻の言い訳に使ってるが」
外交官が話の最後に自身の株を下げるような発言をするのは悪癖なのだろうか?
「ランスター、今の話、なかなか重要だったが、聞いてたかい?」
「え? あ、はい!」
食器を持ったままティアナが慌てて振り向く。
恐らく話し半分だっただろう。
「管理外世界には自分達の常識は通用しないという事だ。自分の常識を絶対視してると足下を掬われてしまう。
執務官は次元航行部隊でも重宝されるから頭の片隅に置いておいて損はない」
126:尊ぶべき愚者 十七話 12/27 ◆Ev9yni6HFA
08/08/21 23:15:33 zbPUBJS6
「あなた、家族は?」
「大家族でな。特に妹がたくさんいる」
野郎三人と同様に女子三人も雑談を始めている。
ギンガとティアナは顔見知りなので話題の中心になるのは少女に関する事だ。
ただ、名前を聞いてもはぐらかすだけで一向に答えようとしないのだが。
「あなたによく似てる?」
「というより瓜二つだ。年の違う一卵性双生児だな。一度、ガラス越しで会った時に鏡だと勘違いしてしまったよ」
「じゃあ可愛いのね。会ってみたいわね」
「では、住所を教えるから会ってやってほしい。彼女達も喜ぶ」
少女はギンガが仕事用に持っていたペンとメモ用紙を拝借して更々と住所を書く。
そのメモ用紙を受け取ったギンガの表情が眉を寄せ怪訝なものになる。
だが、それも一瞬。
何事もなかったようにメモ用紙をティアナに渡す。
渡され、内容を確認したティアナはその理由に気付いた。
書かれた住所にあるのは一般家庭ではなく孤児院だからだ。
ティアナ自身、兄が死んだ後に入る事も考えたので地理的には間違いない。
興味を引かれたものの、流石に初対面の人間が踏み込んでいい話題ではない。
ギンガもそう考えたからこそ無言だったのだろう。
「妹さんの事は分かったけど、お兄さんや弟さんは?」
「兄の一人は現在ミッドチルダにいると思うが、性格や言動に難があってな……会うと気分を害す可能性が・・・・・・」
「うげ……もしかしてあの十四歳の兄貴か? 明星だか、紋章だか名乗ってる」
背中合わせで座っていた外交官が渋い声で割り込んでくる。
「ああ。妹の一人がそんな事を言っていた」
「あいつ、近くにいんのかよ。寒気がしてきた・・・・・・」
127:尊ぶべき愚者 十七話 13/27 ◆Ev9yni6HFA
08/08/21 23:16:13 zbPUBJS6
「彼女のお兄さんってどんな人なんですか?」
外交官の突発的な行動を見ていた准尉は関心を駆り立てられた。
純粋に彼女の兄弟というものを想像出来なかったのも理由の一つだが。
問われた外交官は渋い表情のまま小皿に立てた箸をぐるぐると回す。
「個人的な感想を言うと哀れな奴ではあるんだが、一緒にいたくはないな」
「彼女の言う通り性格に問題が?」
「お前の方から歩み寄れば上手くいくと思うが、会わないに越した事はない」
外交官も会わないに越した事がなかった人物にランキングされているのだがわざわざ言う必要もない。
「・・・・・・ちょっと気になったんですけど、兄弟の話はしてたけど親の話はしてないですよね」
木の股から生まれたという事はないだろうから両親はいる筈だが、不自然なほど話題に出ていない。
外交官の方を見ると難しい顔で右手に持ったソース入りの容器と左手に持った悪臭を放つ小皿を交互に見つめて唸っている。
「……彼女、両親いないんですかね?」
本人には聞こえないよう、耳打ちするような小声で話しかける。
「両親に該当する存在は死んでるな」
「それで」
泣いていたのはそれが原因だろうか?
「……そんな単純じゃないと思うけどな」
「どういう事です?」
「仮に生きていても彼女の方から引き取りを拒否する公算が高いんじゃないかとな」
「だからどういう意味ですか?」
もし、という仮定が無意味だとは理解しているが、それでも両親が生きていれば喜んで一緒に暮らすだろう。
128:尊ぶべき愚者 十七話 14/27 ◆Ev9yni6HFA
08/08/21 23:16:49 zbPUBJS6
「お前には関係ない話だ」
「ここまで言っといてそれじゃ生殺しですよ」
「我慢する事を覚えろ。忠告しとくが、何にでも首を突っ込みたがるその癖は今の内に直しとけ。いつか命に関わる」
「彼女と出会ったのはあんたに引っ張り回されたのが原因だったような……」
図星だったのか外交官は押し黙り、口を大きく開いて小皿の中身を一気にかっ込んでそのまま飲み込んでしまう。
「とにかく。今日は仕方ないにしてもあんまりあの子に関わるな。互いにとって望ましくない」
「何でそんなに……」
教会で会った時には既に少女の事をよく知っている風だったが、ここまで強情になる理由が解せない。
「あの子はお前が思ってる以上に重要な人物だ。誰がミッドチルダに連れて来たのやら」
「重要人物、ですか?」
ギンガやティアナと笑みを交えて楽しそうにしている少女を年相応で外交官の言う重要人物には見えない。
むしろ外交官に誇大妄想癖があると言われた方がしっくりくる。
「お前が不審な事故死を遂げてもちょっと夢見が悪くなるだけで俺は構わないけどな」
「大袈裟な。まあ、前向きに検討しますよ」
「そりゃ俺達の間じゃ検討するつもりがない時の返答だ」
慨然として咨嗟しながら目だけは別の方に向いている。
准尉もつられて同じ方向に視線をやるがそこには壁しかない。
129:尊ぶべき愚者 十七話 15/27 ◆Ev9yni6HFA
08/08/21 23:18:06 zbPUBJS6
「やはり情報が少ないです」
他の四人が楽しそうにしている中で仕事の話をしなければならない事にギンガは多少の物悲しさを覚えた。
仕事の結果が思わしくないなら尚の事だ。
提出の期日が迫っているので仕方ないのだが。
「実行犯がいない以上、仕方ない面もある。
本局としたら最低限の体裁が調えられた報告書が提出されれば問題なしと判断するだろうけど……」
「実際に被害を被った地上部隊には何としても全てを解明しなければならないという意地みたいなのがありますね」
「……シェオルの入手先は僕も知りたいと思ってるしね。他にはロストロギア、エイドスクリスタルに次元災害、ヒドゥンか。
当事者であるブリュメールは行方不明だし、スクライア司書長が休暇中で無限書庫は仕事が遅いし」
「シェオルの事は執務官でも分かりませんか?」
執務官が23管理外世界の出身者だと知ったのは偶然だった。
最初こそ驚いたものの執務官の視点から考えてみれば当然かもしれない。
自分の父親も母親の不審死について調査を続けているのだ。
故郷から失われた筈のロストロギアがテロに利用されたと知ればいてもたってもいられないだろう。
「残念ながら。少なくとも世界創造、下手すればもっと前からあった筈だから。
最古の記録では既に崇められていたから誰も詳しく調べてないんだ。
しかし、アルカンシェルの直撃を受けても無事とはね」
そこまで言って執務官は急に思い詰めた表情になる。
口元を手で覆い、深く息を吐く。
「ナカジマ陸曹、ちょっと外に出よう」
そう言って席から立つ執務官にギンガも続くが色気のある話は期待出来ないだろう。
130:尊ぶべき愚者 十七話 16/27 ◆Ev9yni6HFA
08/08/21 23:18:51 zbPUBJS6
店の外に出れば室内での食事により火照っていた体が冷たい夜風で引き締まる。
軽く伸びをして相変わらず深刻げな執務官を見据える。
「これは、極秘事項なんだけど、ちょっと拙い事態になりそうだから言っておく」
執務官はそこで言葉を一旦切り、周囲を警戒するように見渡す。
動きを止め、五十メートル程先のビルの屋上を忌々しげに睨み付けていたが視線を落として嘆息する。
「先の事件の際、ガジェットと一緒に戦闘機人が現れた事で本局の一部は君達姉妹が敵性組織のスパイじゃないかと疑っている」
ギンガは一ヶ月前に会った隻眼の少女の事を思い出す。
当時は気にする余裕がなかったが他者から見れば疑わしい点も存在する。
「そんな筈はないと再三進言したものの中々聞き入れてもらえなくてね。
管理局における戦闘機人関係の技術はまだまだ未熟だからこちらの検査では発見出来ない通信機があるんじゃないかって言ってきて」
管理局の技術が劣っているという理由の他に脳や心臓のような重要な器官は完全に調べきれない事情がある。
そこに本人の意思とは無関係に得た情報を送信する装備があっても不思議ではない。
「レリック事件は僕の担当じゃないし、近い内にミッドチルダを離れると思う。だから、君の方でも警戒しておいてくれ」
「・・・・・・」
監視対象に監視している事を伝えるのは論外であり共犯者として拘束されても文句は言えない。
後に監視対象が白だと判断されても調査途中に伝えたなら弁明は出来ない。
「どうして、私にそんな事を言うんですか?」
「・・・・・・本人の意思ではどうする事も出来ない問題を責め立てるのが気に入らなかったのかな、多分」
執務官は何となく自信なさげな顔つきで言葉を選ぶように絞り出す。
「執務官は子供みたいな所がありますね」
「・・・・・・そうかな?」
「そこに怒りを感じてリスクを度外視して行動するのは子供ですよ。人を簡単に信じる所も」
「簡単に信じてるつもりはないけどね」
「じゃあ私を白だと思った根拠は?」
131:尊ぶべき愚者 十七話 17/27 ◆Ev9yni6HFA
08/08/21 23:19:33 zbPUBJS6
顎に手を当てて少しだけ沈黙。
眼球だけ動かして夜空を見上げ、そしておもむろに、
「直感」
そう、一言だけ呟く。
「直感、ですか。法の執行人としてはどうかと思いますけど・・・・・・」
「そうかなぁ。僕の直感は外れた事ないんだけどな。
それに君が仮に黒だとして、会って一月も経ってない僕より先に責任を追及される人間は大勢いる」
「時間は関係ないですよ。調査を命じられたのは執務官なんですから」
「あんまりそういう常識は通用しないよ、管理局。表沙汰には出来ない類の調査だし」
一時、二人の間に沈黙の時間が流れる。
執務官の用件は終わったが話の切り方が拙かった。
「それと執務官?」
「何かな」
「スプーンに罪はないので大切に扱わないと駄目ですよ」
「そうだね。准尉を殴るよりはいいが短絡的すぎた」
「……やっぱり23管理外世界の事は」
アルカンシェルで壊滅したという執務官の故郷。
管理局の判断は止むを得ないと思うが、やはり宿怨のようなものを抱いているのだろうか。
しかし、聞いてどうすると頭の中で別の声が囁く。
執務官が恨みを抱いていると答えたとしたら、これからどうする?
加害者側が被害者にどんな言葉をかけるつもりだ? まさか恨んでいるのが執務官一人だと思っている訳ではないだろうな?
次々に浮かんでは消える言葉を振り払う。
執務官が何と答えても自分は出来る事をやるだけだ。
平静を装って返事を待つが、
「そろそろ戻ろう。ランスターにあのお二方の相手は荷が重いんじゃないかな」
表情を見せないままギンガに背中を向けて店に入ってしまう。
そこでギンガは自分が安堵している事に気付いた。
結局の所、今の自分には他人の憎しみの矢面に立つ覚悟がなかったのだ。