【こわしや我聞】藤木俊作品全般でエロパロ_8at EROPARO
【こわしや我聞】藤木俊作品全般でエロパロ_8 - 暇つぶし2ch2:ツンデレ王子
08/08/19 04:49:17 FU8X/mcR
申し訳ない
前スレにギリギリ入ると思ってたら…入らなかった><

こっちに新たに全部投下します

3:誕生日_1
08/08/19 04:50:02 FU8X/mcR
―8月某日

「社長!社長!」

 プレハブ小屋の一室、工具楽屋のオフィスである。
 この日は現場の仕事が入っていなかった為、工具楽我聞は書類仕事に精をだしていた―はずであった。
 ところが、彼の秘所である國生陽菜が判を貰おうとしたところ、我聞は社長椅子に腰掛けたままうとうととしているではないか。
 陽菜は彼の肩に手を掛けると、ゆさゆさと揺さぶり起こそうとする。

「…ん……あ、國生さん」
「『あ、國生さん』じゃありません!社長、こちらに判をお願いします!」
「ああ、すまない」

 バン!と卓上に書類を叩きつける陽菜。
 その剣幕におののきながらも軽く目を通し判を押すと、自分の席へと戻る陽菜の後姿を眼を擦りながら眺める。

(む…いかんいかん、仕事中に居眠りなど)

 気合いを入れなおす為に己の頬を叩くと、デスクに残っている書類に目を通し始めた。

「はるるん、そんなにカリカリしなくても…」
「カリカリなんてしてません!」

 技術部長である森永優が取り成すも、けんもほろろと言った感じで取り付く島もない。

「我聞くん、陽菜ちゃんと何かあった?喧嘩でもしたの?」

 我聞の許へと赴き耳打ちをする優。
 だが、そう言われても我聞にも彼女の不機嫌の理由など知る由も無い。強いて挙げるなら、やはり先程うたた寝をしていた事だろうか。

「いや、オレもさっぱり…」
「今日の陽菜くんは、何時にも増してピリピリしとるのう」
「我聞くんがなかなか告白しないからじゃないの?」

 専務の中之井千住を交え我聞・優の3人はこそこそと、ここ数日の彼女の態度について話し合う。それが耳に入ったのか、陽菜は例の凍える視線で彼らを見やった。


4:誕生日_2
08/08/19 04:50:33 FU8X/mcR
「仕事仕事」

 中之井と優はそれぞれに呟きながら己の業務へと戻っていく。
 そこに、17時を告げる時計の音が鳴り響いた。

「じゃぁすみませんが、後はよろしくお願いします。緊急でしたら携帯に連絡下さい」

 高校を卒業して直ぐに買い求めた最新機種の携帯電話を掲げて告げると、我聞はそそくさと帰宅したのだった。




「最近の社長、何かおかしくないですか?」

 陽菜の父、武文の爆弾発言から2年半。
 この2年と半年の間、我聞はひたすら社長業を勤め上げてきた。真芝壊滅による本業の激減により当初こそ赤字に悩まされはしたものの、彼の働きと営業部長である辻原蛍司の働きによって最近は黒字が続いていたのだ。
 それなのに、7月の末辺りから我聞の様子が変わり始めた。工具楽屋の仕事自体には手を抜くとかいった様子は無い。むしろ以前よりもスピーディにこなし、必ずと言って良いほど17時には退社するのである。

「まぁねぇ」
「じゃが、きちんと仕事はこなしておるようじゃし、問題は無いじゃろう」
(でも、今までは仕事中に居眠りなんて無かったのに…)

 陽菜が訝しげな表情で考え込んでいると、外からカツンカツンと階段を上ってくる音が聞こえてきた。

「ども、お疲れさまです…って、どうしたんですか?」

 戻ってきた辻原は、事務所内で3人が神妙な顔をしているのに気付き不思議そうに尋ねる。ただし、声の調子はいつのも飄々としたままだ。

「辻原さんはご存知無いですか?」
「は?何をです?」
「最近の我聞くん、何か様子が変じゃないって話してたのよ」
「んー、そうですねー」



5:誕生日_3
08/08/19 04:51:36 FU8X/mcR
 顎に手をやり考える素振りを見せる辻原の口から出たのは、とんでもないものだった。

「もしかしたら、デートじゃないですか?」
「……」
「……」
「……」
「「「ぇええええ!!」」」

 これにはGHKデルタ1としても暗躍する優を始めとして、他の2人も驚きを隠せないで居る。

「そ、それ本当?辻原くん、相手の娘とか知ってんの?」
「いえ、あくまでも私の想像に過ぎませんが」

 我聞は携帯電話を持って約1年。しかも最新機種。
 迷惑メールなどから出会い系サイトに登録してしまったものの、相手の執拗な誘いに断り切れずに会う事になったのではないか。そして、一度だけのはずが相手の娘が好みのタイプだったので、そのまま関係が続いているのではないか―と、これが彼の言い分である。

 冷静に考えれば、我聞の性格上起こりえるはずは無いと気付いたであろうが、彼の最初の言葉で動揺していた3人はそこまで頭が回っていない。

「嘆かわしいですぞ、社長!そのような物に頼ろうとは!」
「こ、こうしちゃ居られないわ!はるるん、後を追って真相を突き止めるのよ!」

 ぼやく中之井。慌てて飛び出そうとする優。
 だが、そんな中1人だけ周囲の反応と違う陽菜。

「はるるん、どうしたの?早くしないと我聞くん見失っちゃうよ」

 陽菜の腕を掴み、連れ出そうとする優。
 しかし、予想に反して彼女は抵抗を示すと、今にも消え入りそうな声で『やめましょう』呟いた。

「…へ?」
「やめましょう」
「な、なんで?」
「もしそれが本当だったら、社長の邪魔になりますから」



6:誕生日_4
08/08/19 04:53:08 FU8X/mcR


―もしかしたら、デートじゃないですか?

 その言葉を聞いた瞬間、私は巨大なハンマーで頭を殴られたような気がしました。

(社長が…デート…)

 お父さんのあの言葉以来、それまでの社長と秘書って関係よりも少しは進んだ気がしていたんです。あの時の社長の反応も満更では無いと言った感じでしたし、それが私にはとても嬉しかったのですから。
私自身、お父さんの言葉に度肝を抜かれましたが、あれ以来そうなればいいなと常に思っていました。
 私が彼の事を意識するようになったのは、やはり桃子さんからの『嫁候補』って言葉が原因だと思います。いえ、もしかするともっと前から私は社長に惹かれていたのかも知れません。

 優さんが後を追おうって言った時、私も一緒に行きたいと思いました。
でも、身体が動いてくれなかったんです。腕を取られた時もそうでした。

 辻原さんが仰っている事は嘘だと分かっていました。
いえ、頭ではそう理解したつもりでした。彼の性格上、出会い系サイトなど利用するはずが無い―と。
 ですが、心が、身体が言う事を聞いてくれませんでした。
 もしそれが本当だったらどうしよう。もし彼が他の女性と手を繋いだり腕を組んだりしている所を目撃してしまったら…。
 そんな考えが私の知らないところで湧いてくるのです。

「はるるん、どうしたの?」

 優さんが心配してくれていますが、私は声が出ませんでした。彼女に心配を掛けたくは無かったのですが…。
 せめてジェスチャーででも大丈夫だと伝えようと思い頭を振ったのですが、その拍子に手に何やら水滴が落ちて来たのです。そこで漸く、私は泣いているのだと思い至りました。

「陽菜ちゃん…」
「だ、大丈夫です。すみませんが、今日はお先に失礼します」

 皆さんの制止の声を振り切って工具楽屋を飛び出した私は、何時もより早い時間に寮へと帰宅したのです。


7:誕生日_5
08/08/19 04:53:46 FU8X/mcR
 



 翌朝我聞が出勤してみると、オフィス内には異様な空気が漂っていた。

「?どうしたんですか、皆」

 彼の問いに答える者はおらず、代わりに中之井と優からどこか蔑みの色を含んだ視線が返される。

(何なんだ、一体?)
「そういえば國生さんは?」
「彼女は今日お休みと連絡が有りましたよ」

 重苦しい雰囲気の中、応接用のソファーに腰掛け雑誌を読んでいた辻原が答えた。

「そうですか…」

 彼女に何があったのか気になるところではあったが、今日は現場での作業が予定として組まれている為、今すぐ彼女の部屋へ様子を見に行くわけにもいかない。

「では、行ってきます」

 作業着に着替え終わった我聞は、後ろ髪を引かれる思いながらも現場へと駆け出した。




 習慣とは恐ろしいもので、あれだけ泣きはらした翌日だというにも関わらずいつも通りに目が覚めてしまった。昨夜の内に優に休みの連絡を入れておいたのだが。

(しゃちょう…)

 ヘッドボードの上に飾っていた集合写真を手に、想いを馳せる。

「私はどうしたらいいんですか?」

 答えが返ってくるわけでは無いのを承知の上で写真立ての中の我聞に問いかける。



8:誕生日_6
08/08/19 04:54:19 FU8X/mcR
(それでも…社長と一緒に…居たいです)

 我聞の父であり工具楽屋の先代社長でもあった工具楽我也から高校進学の祝いとして貰い、我聞自身からも“家族の一員だから”と手渡された彼の母親の形見でもある手鏡を覗く。
 泣きはらした所為で、目の周りが真っ赤に腫れあがっている。

(こんな顔じゃ、愛想尽かされちゃう)

 顔を洗って心を落ち着かせると、陽菜は決意を新たに明日は出社しようと心に誓うのだった。



 それから1ヵ月。
 我聞の傍で日常を過ごしたいとの想いから、陽菜は彼の秘書を続けていた。
あの時の彼女の決意、それは少しでも我聞と一緒に居る事。そして、例え今他所の女性に気持ちが向いていたとしても、絶対に自分の方を向かせようと自身を磨くのを怠らないことであった。
 その努力の所為か、この1ヶ月で彼女は傍目からでも直ぐに判る程に変貌を遂げていた。

「最近、陽菜くんは前にも増して明るくなったのう」
「ええ、しかも前より美しさに磨きがかかった様にも見えますね」
「そりゃそうよ!恋する女は強いのよ!」

 社内でそのような評価を受けているとは、本人は気付いていない。

「工具楽我聞、ただいま戻りました」

 そんな中、現場へと出ていた我聞が戻ってきた。

「お疲れさまです、社長」

 陽菜は手を留めて立ち上がると、まだ残暑厳しい中で汗を流した彼の為に冷たい麦茶を入れる。
 そんな彼女の様子と打って変わって、我聞の様子は何故だかそわそわと落ち着きが無い。

「あ、あの國生さん」
「はい、何でしょう社長」
「そろそろ仕事上がりの時間だけど、この後何か用事あるかな?」


9:誕生日_7
08/08/19 04:55:04 FU8X/mcR
「いえ、特には…」
「じゃ、この後残ってくれないか?大事な話が有るんだ」

 一瞬びくりと身を震わす陽菜。少し間をおいて、はっきりとした声で頷いた。



 付き合っている訳では無いから、別れ話では無いだろう。
 あの時の言葉を無かった事にして欲しい、とでも言われるのだろうか。
 正式に付き合って欲しいと告白されるのだとすれば、これほど嬉しい事は無いのだが。
 いやそれとも、私はクビだろうか。自惚れる訳では無いが、私はこの社にとって必要な人材だと思う。だが、社長は彼だ。一社員である自分に彼の決定を覆す権利は無い。

 皆が帰宅した後の工具楽屋の応接室。
 陽菜はそんな不安と期待が入り混じった気持ちで、我聞を待っている。
 押し潰されそうになりながらも気丈に待ち続け、やっと我聞が姿を現した。

「すまん、遅くなった」
「いえ、大丈夫です。それより」
「ああ。だがその前に、國生さん、今日は何の日か覚えてる?」
(何の日…私の入社日は今日じゃ無いし…)
「えっと…9月の17日、ですよね?」

 恐る恐る確認する陽菜に対し、我聞は大きく頷いてみせる。

「そう、9月17日。君の誕生日だよ」
「あ…」

 自分でも忘れていたのだろう。
 言われて初めて思い出した、そんな表情で上目使いに我聞を見る。

「それで、その…渡したい物が有るんだ」
「社長…」

 まだ言葉だけ、それでも陽菜は感極まって今にも泣き出しそうになっている。

「これを誕生日プレゼントにするのは如何かとも思ったんだが、これしか思い付かなかったんだ。嫌でなければ…受け取って欲しい」

 そう言って我聞はズボンのポケットから小さなブルーの箱を取り出した。


10:誕生日_8
08/08/19 04:57:39 FU8X/mcR
「こ、これ…」
「國生さん、いや、陽菜さん。オレと結婚して欲しい」

 我聞はそう言うと、陽菜の目の前で手にした箱を開いた。
 そこには、10カラット―とはいかないながらも、美しく輝くダイヤがはめ込まれた指輪が収まっていた。

「…社長」

 終に堪えきれず、ぽろぽろと涙を零す陽菜。

「受け取ってくれるね?」
「はい…はい…」

 しゃくり上げながら頷く陽菜の左手を持ち上げると、我聞は手ずからその指輪を彼女の薬指へと通していった。

「好きだよ」
「私も…愛してます、我聞さん」



11:後日談_1
08/08/19 04:58:30 FU8X/mcR
「そう言えば、我聞さん」
「ん?どうしたの?」

 婚約してから半年。
 どうやら会社の皆や果歩たちに覗かれていたらしく、翌日には全員に知れ渡っていた。なんでも、面白半分に覗こうと優さんが盗撮していたらしい。それを我が家で皆揃って見ていたらしいのだ。

(まったく、悪趣味だよな)

 しかし、お陰で隠す必要は無くなった訳だし、まあ良しとするか。

「あの時、しばらく帰社が早かったですよね?何をしてらしたのですか?」
「ああ、あれね」


 実は、会社が黒字続きだからと言って家計までそうかと言えば、全然違っていたのだ。何しろ食べ盛りの人間が揃っている為、火の車とまではいかなかったがそこから彼女へのプレゼント代を捻出するのは到底無理な話だった。
 そこで、短期でのアルバイトをしていたのだ。

「そうだったんですか。私はてっきり、他所に恋人でも作ってるのかと思っていました」

 それを聞いた途端、オレは愕然とした。
 確かに彼女への指輪の為とは恥ずかしくて言えなかったオレが悪い。けど、そんな誤解を与えていたとは夢にも思っていなかったのだ。

「すまん、陽菜さん。オレの説明不足の所為で」
「いえ、今では杞憂だったと判ってますからいいんです」

 それから彼女は話してくれた。何故にそう言った誤解が生じたのかを。

「辻原さんも酷いなぁ、あのバイト紹介してくれたの辻原さんなのに」
「えっ、そうなんですか?」
「うん、オレが悩んでいたら良い方法が有りますよってね」

 確かに皆には内緒にしててくれって言ったけど、そんな誤解を生むような言い方しなくてもいいじゃないか。
 これは後から聞いたんだが、辻原さん曰く
『その方が、後からの感動も一入(ひとしお)だと思いまして』


12:後日談_2
08/08/19 04:59:48 FU8X/mcR
だそうだ。

「辻原さんには、してやられましたね」
「ああ、全くだ」
「でも、そのお陰で私も決意出来たんですから」
「え?何を?」
「ふふ、そ・れ・は・秘密、です♪」

 そう微笑む彼女と手を繋ぎ、オレたちは歩き出した。
 オレの母に彼女の事を報告する為に―


END




13:ツンデレ王子
08/08/19 05:03:02 FU8X/mcR
今回は以上です

いやー、思いついて書き出したら止まらないw
お陰でこんな時間なっちゃいましたよw

誤字脱字や
「このキャラはこんな喋り方ちゃうわい!」
など有りましたら、ご指摘お願いします^^;

感想など頂ければ幸い

では、これにて~ノシ

14:ツンデレ王子
08/08/19 15:23:55 XoxDfjSS
今気付いた

後日談_1の
>あの時、しばらく帰社が早かったですよね?
帰社 ではなく 退社 ですね

保管庫入れる際、修正できるならお願いします

15:名無しさん@ピンキー
08/08/19 16:06:38 je457lvb
んもー超乙だよ低能。
國生さんの可愛らしいこと。

つか帰社より>>3の誤字を何とかしてやれよw秘書さんがあんまり可哀相だ

16:名無しさん@ピンキー
08/08/19 19:32:40 iQHXyI55
おつー
しかし1スレに2年かかってる割には500KBで終了とは

17:名無しさん@ピンキー
08/08/19 19:58:21 GUN7JVsN
乙乙乙

しかしアゲるのは最後だけでもいいとおもうよ

18:名無しさん@ピンキー
08/08/21 01:30:26 ZrIuOoyW
スレ建て&投下乙っ
それじゃあその波に乗って新スレ一発目のネタ系投下します

エロなし、13レス予定
『我聞が福引で頑張ったそうです』

19:1/13
08/08/21 01:31:28 ZrIuOoyW
「まったく、果歩は毎回こんな荷物を持って歩いているのか」

まだ日も高く、見るからに、そして聞こえるからに休日らしさを表している慌しさが陽気を誘う。
あたり一面とは言い難いものの、ごたごたしてはいるが居心地が悪く無い商店街の片隅で、
ぶつぶつと何にいちゃもんをつけているのかわからないな、と頭を捻る一見優秀な弟と、
肉体的には優秀であるが、こう、何もかもがすっとんでる兄が一匹。
うららかな気温に踊らされながら、すったかすったか買い溜め任務を着々と遂行していた。

「兄上、あの福引は」
「おお、そういえば貰ったな。引換券みたいなものを」

ガラガラとありきたりな音が鳴り響き、愕然とその列を後にする輩を眺めながらポケットから二枚の挑戦券を引き出した。

「ここは正々堂々、一人一枚で勝負だな」

何が正々堂々なのかよくわからないがきっとそうなのだろうと、無理やり反論を叩き出す頭に鞭打って納得。
時には強引に話を持っていったり、理不尽なことも自己完結しないといけないと学んでいる自分が恐ろしい。
そんな素直さ全開の斗馬に渡されたチケットを店員はにこやかに受け取り、勝負を促す。
こいよ、と挑発しているようにも見えた。
よかろう、我を侮ったこと後悔するがいい。
斗馬の勝負が、今、始まった。

「残念でしたぁ、こちら残念賞のティッシュになります」

目指した特賞に陣取っている軽井沢への旅を逃し、涙目どころでなく号泣気味な弟を一瞥し奮起一番。
がっちり奪い取ってやると鼻息荒く、不審がっている店員に引換券を差し出す。

「おりゃぁっ!!」

怒号が響く中、そんな声と真逆のようにカランと小さな音と共に現実がこの世界に降り立った

「おめでとうございまぁ~~す」
「どうだ、斗馬っ!!」

はっはと満面の笑みで弟に顔を向ける。勝負事に自分が負けるわけが無いであろうとの言葉も付加えて。

「こちら三等のみみちゃん人形になります。どうぞ」

そう言う店員から大きさに関して定評のあるみみちゃん人形なるうさぎが、綺麗にラッピングされて登場した。

「え? みみちゃん?」

カランと飛び出した赤玉と店員の言葉に騙されたが、三等らしい。
今になって気が付く兄に少し落ち着けよとタメ口ききながら説教でもしてやるべきなのかと本気で考え始める斗馬。

「は、ははは……これは勝ちなのか?」

こいつのアリガタミを理解出来ない我聞が弟に助け舟を求めても、相手にしてくれる様子は見られなかった。



20:2/13
08/08/21 01:32:30 ZrIuOoyW
~~天野の場合~~

「くぐっちじゃん、何やってんの?」
「おぉ、天野か。いや、買い出しだけど」
「ふ~ん……って、そのうさぎはっ!?」

即座に間合いを詰め、詳細を吟味するようジロジロみみちゃんを見つながら、ニタニタ話しかけてくる。

「これは、るなっちへの……」
「なんで國生さんが出てくるんだ?」

心底不思議そうに驚いている姿から想像するに、あぁ、こいつはこういう奴だったんだよなと再認識させられる。

「それより、どうだ? みみちゃん」
「え? あぁ、こいつね。かわいいんじゃない?」

うさぎだし、恐かったら反則であろう。そもそもうさぎ人形が気に食わないのは滅多に無いだろうなとも思う。

「そうか。ならどうだ? 引き取ってもらえないか?」
「あたしがっ!?」

あんまりにもなことを言い出す我聞に口あんぐりといった反応を示しそうになる。

「嫌なのか?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」

るなっちに渡せばともう一回言えば渡すのだろうか? と考えてみても、先ほどの反応から推測するに可能性は低い。
しかもこの性格が響いて、頑なに渡すのは躊躇うであろうし、下手なことはいえない。
どうすれば進展するのかもわからない関係なのに、このチャンスを逃すのはもったいないな。
こんなにもこの二人の仲を考えているのは自分くらいであろう。友達思いな自分が少し誇らしい。
あ、中村と友子も少し考えてそうな気がするな。あいつら親切だしね。
佐々木は無理だろう。るなっちに気があるし、そもそもそこまで踏み込んで考えてる風には見えないし。
まったく、あいつは本当にどうしようもない奴だな。今度しっかりとヤキ入れてやるべきなのか?

「じゃあほら、おまえの家にでも置いておいてくれ」
「あ、うん……ありがとう」
「はっは、礼にはおよばんさ。じゃあまた学校で」
「……学校で」

なし崩しに渡されてしまったニヤケ面のみみちゃん人形を眺めながらこれでよかったのかと自問自答。
でもあたしが断ったとしてもきっとるなっちには渡さないんだろうなとも思う。
誰かに渡そうとしたものを違う人に渡すとも思えないしね。
くぐっちはそういう人だ、だからきっとこれが最善策なのであろう。
気が付いたら遠くに行ってしまっていた仲の良い兄弟の後姿を眺めながら、
今日から家で世話するうさぎ人形に悲しい思いをさせないよう精一杯大切にしてやろうと誓った。
本当はココに来るはずじゃなかったのと、言わせないためにも。



21:3/13
08/08/21 01:33:35 ZrIuOoyW
~~住の場合~~

「こんなところで何つっ立ってんだ?」
「おぉ、中村と住か。いや、これを貰ってさ」
「あ、それみみちゃん」

後方から聞こえてきた聞き覚えのある声に振り返り、斗馬そっちのけで世間話を繰り広げていく。
こういう時、部外者は居心地悪いんだよなと斗馬は改めて思う。
そんな斗馬放置でみみちゃん人形に住が食いついていた。

「知ってるのか? 丁度良かった、これ貰ってくれないか?」
「え? わたしが?」
「中村に渡すわけが無いだろうが」

またまた~と言ってのける我聞を気にも留めず、住と中村の視線は極自然に交わっていた。

「もしかして嫌か?」
「そうじゃないけど、中村君以外からプレゼントは貰えないの」
「あぁ、そうか。そうだよな。これは無礼を」
「ううん、いいよ。こちらこそゴメンね。また学校で」
「おう、中村もまた学校で」
「おぉ、元気でな」

大げさに手を振る我聞をその場から動かず笑顔で見送る。
なんで我聞は常日頃、あんなにも元気満天で生活できるのかと疑問に思う。
どうにか姿が霞んで見え始めたときに中村から口を開いた。
お互い基本的には考えていることが同じであったのであろうことは、先ほどの視線交換でおおむね伝わっていた。

「あの人形どうなるんだろうな」
「妹さんにあげるんじゃないのかな?」
「國生には渡さないのかね」
「どうだろう。それより……」
「それより?」
「わたしもみみちゃん、欲しいな」
「あの大きさのか?」
「うん」

あれだけの大きさだと購入金額はいったいどれぐらい飛んでいくのだろうか? 
できれば避けたいと思い、何か他にいい方法はないかと思考を巡らせる。

「福引にかけるのが得策だな」
「運任せですか」
「しょうがないだろ、流石にアレは厳しい」

む~、とふくれる住が無性に可愛らしく見え、身長効果も加わってやけに幼く見えた。
同い年なのに完璧な上下関係? ともいえる関係を作ってる気がして少し複雑な気持ちになる。
嬉しいような、悲しいような。

「まぁとりあえず福引券貰う為に買い物いくか」
「……うん」

彼女の後頭部を軽く二度叩き、しっかりと手を握って我聞達と逆に道を辿って行く。
どうか、みみちゃんが当たりますように
そう彼女の為に存在の確認が取られていない神様にそっと願ってみる。




22:4/13
08/08/21 01:34:46 ZrIuOoyW
~~ほっちゃんの場合~~

「お、エロ社長。こんな道の真ん中でまたセクハラか?」
「なっ!? 何をいきなり言い出すんですかっ!?」
「HAHAHA、そんな隠すことじゃないだろ? どうせセクハラ大好きなんだろ?」
「んなわけないじゃないですかっ!! 常識的に考えてくださいよ」
「誰が常識ないだこのやろうっ!!」

兄が見知らぬ女性に蹴り飛ばされている姿を眺めながら、こいつは女癖の悪い奴なんだなと初めて気が付いた。
何故こんな中身を吐露しまくっているのに兄の周りには魅力的な女性ばかり集まるのだろうか? 
今度じっくりと聞き出してみようと思う。
変な音を体や口から出しながら飛んでいる今ではなく、もっと落ち着いているときに。

「保科さん……そんなこと言ってませんて」
「まったく、これだからエロ……ってなんでこんな人形持ってんだよ」
「それはさっき貰ったんですよ。福引です」
「はぁ~~ん」

マジマジとうさぎの人形と睨めっこ。
最初から笑いっぱなしの人形相手に勝負を挑んでも連戦連勝、
歯ごたえの無い相手と戦ってもなんら面白くは無いなと目を離す。

「どうですか? この人形持ち帰ってくれませんか?」
「なんでだよ? ……ははぁ~ん、ここで媚売っておこうって魂胆だな」
「違いますって。そもそも俺社長だし」
「まったく浅はかな奴よのぉ~」
「いやいや。ってかやっぱりこういうのが部屋にあった方が」
「どういうことだこのやろうっ!!」

膝が我聞の顎にがっしりヒットし、空高く舞い上がる我聞。
弟の目には完璧にこの二人の上下関係が線引きされてしまったのは言うまでも無い。
チビか? 童顔か? 女らしくないってか?
などとギャアギャア騒ぎ立ててはいるが何一つ我聞には届いていなかった。
既に夢の中、現実に帰ってくるまでここから動けないのかなと斗馬はため息一つ。
もちろん心の中で。蹴られたくないし。

「おお少年、こいつは没収したって伝えといてくれ」
「ら、らじゃーっ!!」
「よし、いい返事だ。兄貴にも見習わせたいぐらいだ」

グシャグシャ髪の毛を掻き回し、満足げにその場を後にすることにする。
あんな奴の弟にしてはしっかりものだったな。そういえば妹もいたよな。しかも二人。
年の割りにしっかりしてる奴が多いな、と思うも、そうなるしかなかったのかと自己嫌悪。
あたしだって頑張って生きてるやい、そう胸張って言ってやる。
そんな感じで自分に言い聞かせ、再び戦利品に目を落す。
あたしの当分負ける気配の無い睨めっこ顔をあざ笑うかのようにニヤケてるうさぎが憎らしい。
こうなりゃフルボッコだな。
そう心に誓っているうちに、あっさりとニヤケてしまう顔を抑えるのに少し手間取った。


23:5/13
08/08/21 01:35:48 ZrIuOoyW
~~果歩の場合~~

「「ただいまぁ~」」
「お帰りなさい、ってそれはいったい何よ?」
「みみちゃんだ」

何ってそういう意味じゃないっつーのと思いながらも、自分の説明が足りなかったと言えば足りなかった。
まったく、何がみみちゃんだっての。

「んで、それはどうしたのよ」
「おお、福引で勝ち取ってきた」
「あぁ、そういえば福引やってたわね」

どうせならもっと有意義なものを取ってくれば良かったのに。
確か特賞は軽井沢ペアチケット、あぁ、もったいなかった。GHK的にだけどね。

「ほらこれ、やるよ」
「え? なんで」
「俺らじゃどうしようもないしな」

頷く斗馬。まぁそりゃそうだろうな。こいつらの部屋にこんなものがあったら確かに気色悪い。
そう言われてしまうとそんなに興味なかったとしても、興味が湧いてきてしまうのが人間ってもんだ。
まったくもって不思議な生き物だ。
みみちゃんでなく、わたしたち人間の話だけど。

「どうだみみちゃん、かわいいだろ」
「そりゃそう作ってるんだからかわいいでしょうが」
「はは、そうだな」

そう言いながらそっと、みみちゃんなる人形をわたしに優しく手渡してきた。
文句しか言ってないわたしと、言われっぱなしなのに嫌な顔一つしない兄。
どうして同じ屋根の下で育ったというのにこうも変わっていくものなのだろうかと、本気で考えてみる。
血か? わたしは兄弟の中でどちらかというと母の血が濃い気がする。
仙術もそうだが、こう、雰囲気が違うのが手に取るようにわかる。
たまに考えることは、わたしだけが残った家族で違うということ。
そんなことが気になって気になってしょうがなかったことが、鮮明に思い出されていた。

「そんなところに立ってても何もないだろうが」
「あ、あぁ。うん。今手伝うね」
「その前にそれをしまって来いよ。珠には秘密だぞ?」

そう自分の前で、秘密だぞ? 的仕草をしたかと思うと大荷物を抱えて台所に引っ込んでいった。
あの狭い部屋で、この小さい家でどう誤魔化し切れというのだ。
全て筒抜けで、隠し事なんて出来たことは無かったではないか。
今思い出した、結局深く考えることなんて一度もできなかったんだ。
そう、くだらない事で悩むことも出来なかった。微々たる変化もすぐに見透かされてしまった。
くよくよ悩む時間ぐらい欲しいよね、と試しに話しかけてもみみちゃんは答えてくれない。
ため息交じりでそそくさと部屋に帰っていくことにする。ダメダメな兄を手伝わなくちゃね。
そういう会話は面と向かって言わなきゃね、とどこからか声が聞こえてきた気がした。


24:6/13
08/08/21 01:36:49 ZrIuOoyW
~~珠の場合~~

「「ただいまぁ~」」
「お帰りなさい、ってそれはいったい何よ?」
「みみちゃんだ」
「みみちゃんっ!?」

にゅっと沸いて出た珠がキラキラと、思いのほか興味を示していた。
もちろん、こんなにも食いつくとは誰もが想像していなかった。

「なんだ、知ってるのか」
「うんっ! まるちゃんも知ってるよ」
「今はそんなのが流行ってるのね」

これぐらいならピチピチの女子中学生でも知ってるのであろうが、まったくついていけない自分がいる。
その瞬間、自分が既にピチピチでないことを悟った。そう、瞬時に。
愕然と膝を突きたくなる衝動に駆られるも、本当にギリギリのところではあるが踏ん張っている果歩。

「じゃあ珠、こいつを貰ってくれるか?」
「本当にっ!? いいのっ!?」

今にでも地球一周できそうな勢いの笑顔を披露しながら我聞に張り付く。
正確にはみみちゃん越し、ではあるのだけれども。

「あぁ、もちろんだ。果歩がそれでいいならな」
「姉ちゃんいいの?」

ここで初めて不安そうな面持ちを披露するも、

「え? あ、あぁ。いいわよ……」
「だってぇっ!! やったぁっ!!」

飛び跳ねながら、とても大事そうにみみちゃんを抱きかかえる。
その仕草が年相応で、やっぱりまだまだこどもなんだなと高校生風情が考えている。
そんな暖かな視線の範囲内に紛れ込む不穏な空気感。

「ふふ……女の寿命っていくつなのかしらね」
「か、果歩? どうしたんだ? 腹でも痛いのか?」
「ぇえ? まったくもって健康体よ? ただ若々しさが足りないだけよ」

はははと少し壊れ気味な果歩が荷物を受け取って台所に向かっていった。
嬉々として自室に向かって行く珠とは反対に、まんま明暗であるように感じられる。
斗馬と目で意思の疎通を試みるも、原因不明の故障はどうしようもないなとすぐに結論が出た。
何せ謎だらけ、お互いがこの件から手を引くことを誓い合った。
そう、触らぬ神に崇り無し、だ。
静かに合掌しあい、この日は何も無かった日に決定した。
決まったものは決まったんだ、と確認しあいながら。


25:7/13
08/08/21 01:37:51 ZrIuOoyW
~~優の場合~~

「やっほう我聞くん、今帰りかい?」
「えぇ、丁度買い物も終わって」
「むむっ!! そのぬいぐるみは」

ささっと瞬時に間合いを詰め我聞の荷物からぬいぐるみだけ奪い取る。
滑らかな動作と、なんら躊躇わない身軽さに翻弄され我聞はピクリとも動けなかった。

「これはいったい……いや、それより……」
「あぁ、これですか? さっき福引で貰ったんですよ」
「ほほぅ、福引ねぇ」
「それが気になるんですか?」
「そりゃ……興味深いね」

我聞がかわいらしいぬいぐるみを持っていたとして、じゃあそれの使い道は? と即座に浮かんでくる疑問。
多分、我聞を少しでも知ってる人なら即答で國生陽菜にプレゼントと答えるであろう。
しかも完璧なラッピング。
誕生日には早いが、それでもこれだけの物貰って嫌な気分になることはないであろう。
なんてついているんだと、GHKついに完全勝利かと頭の中でこれでもかとファンファーレが鳴り響いていた。

「じゃあ優さん受け取ってくださいよ」
「……はい? 何を言っているのかな? 我聞くん?」
「いや、だからこれどうしようもないんですよ」
「な、なぁ、何を言ってるんだこらぁっ!!」
「えぇっ!? なっ、ちょっと」
「これははるるんに愛と共にプレゼントでしょうがっ!!」
「なぁっ!? 優さんこそ何を言い出すんですかっ!?」
「それはこっちの台詞だっつーのっ!! おとなしくはるるんに渡しなさい!!」

お互いに一歩も引かずにギャアギャア騒ぎながら押し付けあっている。
まぁ我聞が押しているのは、単に引けないからと状況そのまんまだからではあるのだが。

「これを渡して愛の一つでも囁けば落ちるってのっ!! ってかもう落ちちゃってるってのっ!!」
「さっきから何わけのわからないことを言い続けてるんですかっ!?」
「えぇいっ!! 何が何でも受け取らないぞコンチクショーっ!!」
「そんなこと言わないでくださいよっ!!」

「斗馬さん、あのお二人は先ほどから何についてあんなにも熱くなっているんですか?」
「いや、あの……」

あなたの為にデルタ1が頑張ってます
なんて口が裂けても言えなかった。

「どうすればこの騒ぎは収まるのでしょうか」

むむむと悩んでいる姿に、あなたがアレを奪えば終わりますと、どれだけ言いたかったことか。
絶対に言えないし、言えるわけがない。
もし言えたとして、理解してくれたとしても、きっと走り去ってしまうだろうなと簡単に結末が予知できた。
そろそろ大姉上が怒気混じりで登場しそうだ。正直、かんべんして欲しい。
そんな悩み事などお構い無しに騒ぎ続ける標的Aとデルタ1。
もう、勝手にしてくれ


26:8/13
08/08/21 01:39:17 ZrIuOoyW
~~桃子の場合~~

「ガモ~~ンっ!! お帰りなさぁいっ!!」
「ただいま……って、桃子っ!? なんでおまえがここに居るんだっ!?」
「遊びに来てあげたのよ。それなのにこの家にはガモンはいないし、薄胸はうるさいし」

ただいまを自分から発する前に、まぁいつものことではあるが、若干爆走気味に桃子が飛びついてきた。
満天の笑みともいえるものから、プンスカとふくれてグチの量なら数知れずといった面持に推移しているのだが、
どちらかというとそういうのも込みで楽しそうだな、と我聞なりではあるが理解している。

「そんなことより、コレなに?」
「あぁ、これか? これはみみちゃんだ」
「みみちゃん?」

なんのこっちゃと頭に?を浮かべるという、天才らしからぬ唖然と言った事態発生。
桃子自身が、はっと気付くまで時は止まりきっていて、我聞もニンマリ満足顔のままであった。
その笑顔にまた硬直しそうになるも、強靭な精神力(本人談)でどうにか本題へ帰還する。

「よ、要するにぬいぐるみってことね」
「まぁそうなるな」
「これはアタシへのプレゼントねっ!?」
「ん? あぁ、そうだ」

よっっっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!!!
なんて頭の中でガンガンに鳴り響いている勝利の咆哮を雑音としか捉えられないくらい動揺しきっている。
そう、これは確実に~~愛~~が込められたプレゼントであるからだ。
こんなに大きなぬいぐるみを綺麗に、美しく、丹誠込めてラッピングしてくれた。
これは即、結婚への前段階なのねと、指輪は金銭的にキツイからそのつなぎね、等と
次から次へと止めどなく沸き起こる妄想を、なんら疑うことも無く真実であると思い込んでいた。
我聞の顔を覗き込んでも満足そうに微笑んでいるだけ。
我聞の考えとしては、こうも簡単にこのぬいぐるみの処理が上手くいくなんてな、
なんて思っているとは微塵も想像できていない。
幸せ者といえば世界トップレベルの幸せ者である。

「ありがとうっ!! 大切にするからっ!!」
「そうか、そう言ってもらえると俺も嬉しいよ」

そう笑顔の交換、なんて素晴らしいんでしょう。どこかに婚姻届は落ちてないのかしら?
気の利かない紙切れね。
そんな止まらない妄想が現実世界に影響を及ばさ無いのにかなりご立腹。
もうここまで来たら誰にも止められない。


27:9/13
08/08/21 01:40:34 ZrIuOoyW
「それでね、ガモン……」
「ん? どうかしたのか?」
「えぇっと、指輪のサイズなんだけど……」
「ってドサクサに紛れて何を言い出すんじゃおんどりゃぁっ!!」

びくっと驚く桃子含む三名、声だけが先行してその体が後から宙を滑らかに流れて登場した。
もちろん、とび蹴りで。
とっさではあるがその殺気全開の攻撃をヒラリと避ける桃子。
伊達に五研のアタマを張っていたわけではないようだ。
こいつらに関わってからグイグイと身体能力が伸びていった可能性も否定はできないが。

「カホはいったい何を言い出すのかしら? アナタは了承すれば言いだけよ」
「あんたこそ頭の中いったいどうなってるのよ。今度キノピーにメンテでもしてもらったら?」
「そういうアンタは食事のエネルギーはどこに行ってるのよ? 胸にも頭にも行ってないようよ」
「何よっ! 胸はあんたのほうがないでしょうがっ!」
「ふん、なんとでも言うがいいわ。結果的にアタシがガモンの奥さんなんだから」

ギャアギャア騒ぎ立てる二人を眺めながら、今日も平和だなと思う緩い兄と、
もう何がなんだかわからず、下手に参加したら冗談抜きで身の危険が、なんて考えてる弟。
同じ空間、同じように物事を見ているはずなのにここまで考えにひらきが出てきてしまっている。

「カホもしっかりと目に焼き付けとくべきよ、この愛の証をっ!!」
「ってただのぬいぐるみじゃないのよ。よこしなさい、陽菜さんにあげてくるからっ!!」
「なっ、ちょっとっ!? 近寄らないでよ」
「よこせ、よこせっ! よこせっ!!」
「カホ、ま、ちょっとタンマっ!! ホンキで恐いわよっ!?」

そんな現状を悲しんでいるのは、笑顔全開のみみちゃんだけであった。
もちろん、誰もそんなことには気付きもしないのであるが。

「よこせぇっ!!!!」


28:10/13
08/08/21 01:41:36 ZrIuOoyW
~~陽菜の場合~~

「ところで兄上、そのぬいぐるみはいったいどうするのですかね?」
「あぁ、そうだな……」

斗馬がニヤニヤとした表情を出してしまっては、兄の性格上、絶対に陽菜に渡すことは無いであろうと直感的に理解した。
そう、これは自分にしか成し遂げることのできない任務である、と。
もし、この任務の失敗が姉上にばれたら……地獄一直線コースな展開が目に浮かぶ。
嫌な汗が背中を流れることだけは避けねばと手に力が入る

「國生さんに贈ろうかな~、と」
「そ、それはナイスアイデアですぞ」

予想に反してすんなりと、そして少し照れくさそうに言ってのける兄が微笑ましく、軽く殺意が湧いてきた。
年齢だと圧倒的に兄には及ばないのだが何故微笑ましいのかな、とも考えてしまう。
先ほどまでの茶化した気持ちが少し恥ずかしく、どっちが幼いのやら、と自責の念が込み上げてきた。
まぁもちろん幼いのは自分の方なのだけれども。

「それでは兄上、荷物はわたくしめが必ずや我が家まで持ち帰りますので」
「いや、そうは言ってもこれかなり重いぞ? おまえにはまだ無理だ」
「思い立ったが吉日、即行動が成功の鍵を握っているもの同然……」

うんうん頷きながら反論する我聞を言いくるめようと努力努力。
ちょっとしたことかもしれないが、紳士的に応援してみたい、なんて少し大人びた考えが誇らしく思えてくる。

「そうは言ってもだな、國生さんの家も近いわけで」
「さぁさぁ、荷物を渡して優秀な秘書の下へ。さぁさぁ」
「わかった、わかったから……まったく、気をつけて帰るんだぞ?」

そう言って大事そうにみみちゃんをぎゅっと、力いっぱい大切に抱きしめながら走りだす。
自分に渡された重荷も、やさしく手渡されれば幾分軽く感じる。
精神的なことなのにこれだけ事実を捻じ曲げるとは、なんて実感できた有意義な休日。
ごろごろ過ごしてたら味わえない大発見、姉上に感謝の気持ちを伝えようかな、なんて考えてもみる。

「本当に大丈夫なのか?」

少し離れて、すぐに今までの場所に振り返る兄。
いつまで心配しているのだろうか? 成長しているのは自分だけでないと学んでみて欲しい。

「なんの問題もないっ!!」

心配性で、少し考え方がおかしく、すぐに曲がった結論を導き出す我が家一のトラブルメイカー。
そんな問題だらけの、非常に頼りになる兄の背中をわずかでも押せればと、自分でも驚くくらいな大声で返事をした。
その声に押されてか、緩みきった表情を隠すこともせず再び前を向き駆けていく兄。
なんだなんだと振り返る野次馬視線が無性に恥ずかしく思えたが、ばんっ、と胸を張って帰路に着く。
今自分にできることをすればいい。
そう言い聞かせ、耳から入ってくる雑音を気にもせず、雲かと勘違いするような荷物を手に家に向け歩を進める。
今晩の夕飯はとっても美味しそうだな、なんて鼻歌交じりにニヘラっと笑みが零れた。



29:11/13
08/08/21 01:42:39 ZrIuOoyW
ピンポ~ン
とありきたりな音が響いている中、我聞の鼓動は早く、弾け飛びそうな心臓は走ったからかな?
なんて推測が正しいのか正しくないのかの答えが導き出されるには時間が足りな過ぎた。

「はい、どちら様でしょうか?」
「あ、えっと。工具楽です」
「社長? 少々お待ちください」

用事なら電話でもいいよな、なんて今更ながら気付く。
きっと不思議がって出てくるのだろう、っと我聞にしてはありえないほどのスピードで脳みそフル回転。
既に休みに入った体と真逆に心臓のギアがトップに入っていくことに気付き、先ほどの答えが見つかった。
あぁ、緊張ね
そう軽く受け止めるも、余裕ゼロな極限状態。
昔渡した手鏡とは状況が違うし、心境も違う。

「何か急なことでもあったんですか?」
「いや、ちょっと渡したいものが」
「渡したいもの?」

チャイムを鳴らしてからすぐ、流れるように登場した陽菜に緊張MAXな男は躊躇わず口を割った。
そう、下手に考えることも出来ず、ここにきて誤魔化すことも出来ず。
普段より数段おかしい我聞を謎に思いながらも、後ろ手に隠された物体に興味津々。
これまた流れるように我聞の背後確認。仙術使いも驚きの軽やかさであった。

「これは……」
「みみちゃんって言うらしいんだ」
「えぇ、知ってます。これをわたしに?」
「あぁ、ほら、家には女の子二人居るし、取り合いになったら不味いからさ」

あたふたと目は泳ぎ、両手をばたつかせ、足もしっかりと直立することも出来なくなっていた。
そんな我聞に目もくれず、じっ、とみみちゃんを見つめ続ける陽菜。

「あの~、國生さん?」
「あ、はい。少々お待ちください」
「え、あぁ、はい」

そう言って我聞に目配せ一つなく、再び家の中に入っていく陽菜。
やっぱり変わってる人だなと、お互いが自分を棚に上げ、まさかお互いが同じ思いであるとは思いもしないであろう。
家の中からばたばた、がたがたと何をしているのか容易に想像できる音が耳から伝わってきた。
きっと何か探しているんだろうなと、呆然とみみちゃんを抱え立ち尽くしながらそう考えていた。


30:12/13
08/08/21 01:43:41 ZrIuOoyW
「お待たせいたしました」
「いやいや、それより何してたの?」
「えぇ、これを探していました」
「これ? これは」
「五等の夏野菜種セット、だそうです」

陽菜の手の中には何種類もの野菜種があふれかえっていて、後ずさりしそうになってしまう。
それを持ってきた陽菜自身も少しう~ん、といった感じであり、複雑な心境であることは伝わってきた。
そんな陽菜を見ながら、ふと気になるワードが含まれていたことに遅まきながら気付いた。

「五等ってことは」
「そうです、わたしも挑戦したんですよ」
「それでこれか」
「はい。でも、一応当たりですからね」
「いや、俺は何も言ってないんだけど」

負けではないんだ、と言わんばかりにキラリと輝く瞳が眩しく、思わず口から本音が零れた。
少しの間があり、不意に訪れる可笑しさ。
どちらとも無く笑い出していた。

「まぁそういうわけで、貰ってくれるかな?」
「喜んで。社長こそこれを受け取ってもらえますか?」
「任せとけ! 成長しきったら我が家で野菜パーティーだな」
「とても楽しみですが、盛り上がるのでしょうか?」
「それは、どうだろう」

お互いの荷物を交換するところまで続いていた明るい雰囲気は消え去り、お互い真剣に考え出した。
う~~ん、なんて悩みだし、どう盛り上げるかで構想を練り合う。

「本当のことを言うとですね」
「ん? あぁ、どうしたの?」

急に耳に届いた陽菜の声によって妄想世界から強制帰還させられる。
少し俯き気味な顔が気になり、真剣に耳を傾ける。

「みみちゃんを、その……狙ってたんですよ」
「……あ、あぁ。福引ね」
「今、いい年して、って思いましたか?」
「いいや。それより、コイツも本当に欲しがってる人の下へ来れて幸せだろう。大切にしてやってくれ」
「はいっ!」

先ほどまでの不安なんてどこ吹く風、ぱっと広がる笑みが楽しげでついついうつってしまう。

「さて、それではわたしは買い物に行ってきますので」
「買い物? 今から?」
「えぇ、調味料などのストックが突然欲しくなりまして」
「だからさっき早く出てこれたのか」

あまりの速さに自分の考えがまったくと言っていいほどまとまっていなかったことを思い出した。
実際問題、どれほど時間があってもしっかりとまとまるわけもなく、むしろぎこちなくなるとは思いもしない。
それが良いところであり、悪いところでもあるのだが。


31:13/13
08/08/21 01:44:42 ZrIuOoyW
「そういえば福引って今日までだっけ?」
「そうですね。偶然です」
「偶然って」

きっぱり、すっぱり、そしてさらっとまんま素顔で言ってのける陽菜。
その陽菜に少し噴出しそうになるも、後々許してもらえそうにないのも経験的にわかった。
わざわざあのジト目を披露されたいと思うものは極少数だろうな、なんて考えていた。
そしてお互いそれだけの経験を積み、歩み寄ってきった。
別にこの二人だけに言えた事ではないが、それだけの時間を皆で共有してきた。

「社長? 何をお考えですか?」
「いや、別に」
「そうですか」

もちろん陽菜も経験的、でなくわかり安すぎたとも取れるが我聞の考えを理解している。
言葉と裏腹に、当然ジト目で訊ねてみる。

「ソ、ソレヨリ……うん、急がないと福引終わっちゃうかもしれないな」

若干どころでなく、純度100%の棒読みで逃げようと試みる。
そしてそのまま力押し、強引に話をぶった切る。

「それは困りますね」
「だろ? じゃあ行こうか。荷物持ちは必要になりそうだしね」

目的不明の買い物になるのは陽菜としては時間の無駄である。
はっ、と驚き、気が付けば我聞のペース。

「そう、ですね。それではお願いします」
「急ごうか、思い立ったが吉日、即行動が成功の鍵を握っているのも同然らしいからな」
「そうですね。では、みみちゃんを置いてきますね」

再びバタバタと室内に入って行き、枕元に大事そうにみみちゃんを座らせる。
すぐに仲間を連れてきますから、少しの間待っていてくださいね
優しく囁き、ぐっと気持ちを込めた合図を送って再び駆け出していく家主。
そんな負けず嫌いの背中をじっと見つめ、ポツリと残された完全に無音といえる部屋の中、
あなたとなら、一人っ子でも悪くはないかな
と、そっと静かな部屋に響いては消えていった。


32:名無しさん@ピンキー
08/08/21 01:45:41 ZrIuOoyW
以上です
わかりにくい作りな上、イロイロスミマセン
でも新スレだし、新作もあったし、多めに見てくだせぇ
ではでは

33:名無しさん@ピンキー
08/08/21 03:00:14 p7zkwh2y
>>32
GJ!
コレだけのパターンを書き別け出来るのは、正直凄いと思いますです、はい
ほのぼのしたし、作中に良いネタを見つけさせて頂きましたしね

最後にもう一度、GJ!


34:名無しさん@ピンキー
08/08/21 23:10:41 WSyxVvCd
ちょw新スレ早々転がっちゃったんだぜ?
そして久々にこの言葉を送りたい。

低脳乙!

35:名無しさん@ピンキー
08/08/21 23:38:04 1TZ6J+u+
サムネイルで騙されたヤツは手を挙げなさい
ノシ

36:名無しさん@ピンキー
08/08/21 23:43:11 ZolJE+Na
ノシ
上手く騙されたぜ……

37:名無しさん@ピンキー
08/08/22 01:38:01 7iKNUtR4
ほしゅりたい

38:名無しさん@ピンキー
08/08/22 21:33:04 Byy3AH/V
>サムネイルで騙されたヤツ

ノシ
いや、騙されるってw

39:名無しさん@ピンキー
08/08/23 01:03:03 pZ/pSp4T
保守

40:名無しさん@ピンキー
08/08/23 09:19:32 pZ/pSp4T
保守

41:名無しさん@ピンキー
08/08/24 01:27:51 +KRCAdOy
保守る

42:名無しさん@ピンキー
08/08/24 20:09:36 +KRCAdOy
ほす

43:名無しさん@ピンキー
08/08/25 00:39:33 mAzvwuDX
ちょw
しばらく見ないうちに新スレになってるしブログも神更新w
祭りじゃ祭りじゃあ!

44:名無しさん@ピンキー
08/08/25 22:59:13 xuIljD/g
ブログ更新記念

45:名無しさん@ピンキー
08/08/25 23:03:47 4bOrkdDl
おっぱいキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!

46:名無しさん@ピンキー
08/08/26 21:28:38 L/ZNt+gy
まだ油断はできん保守

47:名無しさん@ピンキー
08/08/27 21:11:34 lX9MvAZP
ほふ

48:名無しさん@ピンキー
08/08/29 22:49:39 lgVYdrBM
ほしゆ

49:名無しさん@ピンキー
08/08/30 11:07:44 cVfghJ/X
保守

50:名無しさん@ピンキー
08/08/31 12:03:30 Z0uRW9Dj
斗馬のエロパロキボンヌ!

51:名無しさん@ピンキー
08/09/02 13:00:11 zO54WeyF
おっぱい見たかった・・orz

52:名無しさん@ピンキー
08/09/03 07:16:41 dbi8gBck
おっぱいも國生さんのぱんつも見れた俺は間違いなく勝ち組

53:名無しさん@ピンキー
08/09/04 04:50:58 Z5FVE2HA
ありがとうヤフーのキャッシュ!
ありがとう!

54:名無しさん@ピンキー
08/09/07 20:43:05 XPNiV0jy
ほちゅっ

55:名無しさん@ピンキー
08/09/09 13:18:08 x1deHAJg
斗馬のエロパロまだー?

56:名無しさん@ピンキー
08/09/12 16:26:09 xpav7+pG
ていのう!ていのう!

57:名無しさん@ピンキー
08/09/16 12:32:35 /DdhFvYX
とーこ!とーこ!

58:名無しさん@ピンキー
08/09/21 21:40:25 pDHX8O54
本格的に過疎化が進んでしまったか

59:名無しさん@ピンキー
08/09/22 22:02:21 DpEgPOz9
>>58
まあ、ネタがないからしょうがない
今度の読みきりに期待しようぜ

60:名無しさん@ピンキー
08/09/23 14:42:59 v5GmkI4+
斗馬のエロパロ書けばまた盛り上がるさ!

61:名無しさん@ピンキー
08/09/28 15:20:57 pzNJDl6W
ほしゅ

62:名無しさん@ピンキー
08/10/01 20:34:52 Od6pQHtZ
たまにはアゲてみる

63:名無しさん@ピンキー
08/10/04 13:03:22 bVoQM3vX
王道きぼん

64:名無しさん@ピンキー
08/10/06 00:55:31 TKOZ/+yt
バンジー

65:名無しさん@ピンキー
08/10/09 19:42:15 bZUmrpfV
あか☆スタ

66:名無しさん@ピンキー
08/10/09 22:24:16 RH2L+b4G
はるるん・・・ハァ ハァ ハァ

67:名無しさん@ピンキー
08/10/12 18:12:45 yGxyPt+c
あくぇsfdtyれdふゅfdr

68:名無しさん@ピンキー
08/10/15 14:55:52 VpwqT2YQ
読み切りが超にちように載るってな

69:名無しさん@ピンキー
08/10/16 01:45:59 kPmJhnAb
今週の予告見てwktkした

70:名無しさん@ピンキー
08/10/16 17:58:09 mu+zhKtX
斗馬のエロパロ誰か書いてくれ!

71:名無しさん@ピンキー
08/10/21 22:19:55 zAxsaEcI
そろそろ発売日だな

72:名無しさん@ピンキー
08/10/22 10:46:59 zPDpTrOs
たのしみだ

73:名無しさん@ピンキー
08/10/26 08:39:12 p1JrL4p3
あかねかわゆすなあ

74:名無しさん@ピンキー
08/10/26 13:31:01 p4afRASy
Dカップ!!

75:名無しさん@ピンキー
08/10/26 13:56:06 bgtxgtLX
百合系のSSってある?
あ、ふたなりは邪道だからね。

76:名無しさん@ピンキー
08/10/26 22:48:37 yLxkSq1j
読み切り読んだ
なんてエロパロ向きなヒロインなんだ!

なんてエロパロ向きなヒロインなんだ!

77:名無しさん@ピンキー
08/10/26 23:05:20 oaHH5RNT
何で2回言うの?
しかしそんな事を言われるとすっごい気になる…
明日にでも買ってくるか

78:名無しさん@ピンキー
08/10/27 00:41:55 yoNNb+KY
そばかす柔道少女とは雲泥の差だな。

79:名無しさん@ピンキー
08/10/27 08:21:27 s/Bl0Pw/
>>77
大事なことだから

80:名無しさん@ピンキー
08/10/27 21:00:39 0cS9hZg0
確かにかわいかったw

81:名無しさん@ピンキー
08/10/27 21:48:38 mwz79bZE
確かに、ありゃたまらん
新聞部の皆さんに「お礼」と称してあんなことやこんなことを…
いや、新聞部の皆さんが「お礼」と称してあんなことやこんなことを…

いかん、妄想エンジンに火が付きそうだ

82:名無しさん@ピンキー
08/10/29 02:00:10 KgyQPSm/
あか☆スタ読んだ
あかねちゃん可愛いよあかねちゃん

しかし、男性陣が3人も必要だったのか激しく疑問
一人一人の付き合いが薄くなるから、ここからラブコメに持っていくのは厳しいとおもた

何が言いたいかと言うと、エロパロ作るのは難しいなぁ、と

83:名無しさん@ピンキー
08/10/29 02:11:11 nwfH7/+7
連載にするならシリーズごとにかわいい女の子が入れ替わり立ち代り登場して、超新聞部にアレな取材されるのか
……あれ? それって何かと被らね?

84:名無しさん@ピンキー
08/10/30 21:54:52 rH6rcRwJ
味噌汁方式じゃなくアイマス方式で
一人だけをしっかり書き込んでくれれば良いのでは
ちょっとした育成モノみたいな感じで

85:名無しさん@ピンキー
08/11/02 18:10:55 466/Nmqk
工具楽斗馬のエロパロを書いてくれ!

86:名無しさん@ピンキー
08/11/07 22:06:39 tI0DUYOS
色々期待込みでほしゅ

87:名無しさん@ピンキー
08/11/09 18:31:35 yaZDk/UA
>>83
あれ、こわしやとか卓球部とかいる学校だね

88:名無しさん@ピンキー
08/11/13 11:26:53 04Bgt7+f
おっぱお

89:名無しさん@ピンキー
08/11/17 20:40:51 hafcvt9F


90:名無しさん@ピンキー
08/11/18 22:02:40 fNOO6msB
ああああああああああ

91:名無しさん@ピンキー
08/11/22 20:33:52 9uIM9g4a
新作はまだかのぉ

92:名無しさん@ピンキー
08/11/29 10:33:48 cYoIh2l8
>>91
12月中になにか来るらしいぜ
ソースは公式

93:名無しさん@ピンキー
08/12/03 12:42:53 oItjpTMw
ブログ確認
期待が止まらねぇw

94:名無しさん@ピンキー
08/12/03 21:06:07 dYqcwLhc
サンデーさっさと発表しろや

95:名無しさん@ピンキー
08/12/09 15:52:33 5rDazPpx
断固保守

96:名無しさん@ピンキー
08/12/09 23:46:53 f8LeTQYp
同じく断固ほしゅ

97:名無しさん@ピンキー
08/12/13 01:31:38 u2SDN5Xd
新連載ひゃっぽう


98:名無しさん@ピンキー
08/12/14 19:29:56 De2InjO/
kwsk

99:名無しさん@ピンキー
08/12/14 19:57:31 zFgNWdVi
【我聞】こわしや我聞(藤木俊)スレ【斗馬】2
スレリンク(rcomic板:553-555番)


100:名無しさん@ピンキー
08/12/14 22:45:30 ivqi4yo0
お、次は本誌で読みきりかと思っていたが、連載か
これは楽しみだ

101:名無しさん@ピンキー
08/12/16 09:06:26 BRf3TB8R
待ち続けた甲斐があったな

102:名無しさん@ピンキー
08/12/17 07:56:09 tFwl7Q8L
軽く泣きそうだ……

103:名無しさん@ピンキー
08/12/22 07:26:10 +ctGV5m2
保守

104:名無しさん@ピンキー
08/12/25 14:24:21 NLSdcUIg


105:名無しさん@ピンキー
08/12/28 10:02:14 +rLO1qeX


106:名無しさん@ピンキー
09/01/01 22:58:03 XjlCKcp4
アッーーーーー!

107:名無しさん@ピンキー
09/01/04 14:13:10 45qRompL
イッーーーーー!

108:名無しさん@ピンキー
09/01/05 10:30:42 j+v2QBca
ウッーーーーー!

109:名無しさん@ピンキー
09/01/07 11:27:58 iW4tZ89j
本誌新連載age

110:名無しさん@ピンキー
09/01/07 12:38:37 Aikt5NJJ
しかもエロパロにしやすい題材

幹部ルックの姉ちゃんの鞭を最初に受けるのは、おまえだから俺は、靴なめるから

111:名無しさん@ピンキー
09/01/07 18:17:28 SU6lICB+
亀甲縛りカバンであれやこれや
これから出る素敵アイテムにも期待したい

112:名無しさん@ピンキー
09/01/07 21:46:35 WwPJ6JrP
今度は無乳かw
実にかわいらしい

113:名無しさん@ピンキー
09/01/08 00:43:36 6bEUw72Y
前回のヒロインはクーデレだったな。
今回のヒロインはツンデレであることに期待している。

114:名無しさん@ピンキー
09/01/09 20:40:48 B1RkU+K5
すばらしい

115:名無しさん@ピンキー
09/01/11 05:12:43 tT1tZEhn
はじめてのあくで

116:名無しさん@ピンキー
09/01/13 13:23:40 oLyPUItV
くだらん

117:名無しさん@ピンキー
09/01/14 02:28:33 Ho1t/QJ4
ギガグリーンの載ってるサンデー超を手に入れる方法は無いものか・・・
都内で売ってる所あったら教えてください

なんであの時買わなかったんだ、俺の馬鹿 orz


118:名無しさん@ピンキー
09/01/14 21:43:01 vqiRggXn
しまパン!しまパン!

119:名無しさん@ピンキー
09/01/17 15:17:18 PV2ChNYJ
しまパンw
使うとは思わなかったぜ

120:名無しさん@ピンキー
09/01/19 09:31:56 uNvdw7ed
斗馬のエロパロを誰か書いてくれ。

121:名無しさん@ピンキー
09/01/20 10:08:48 JdYb6dLO
なんか一話目でジロキョーでエロまで妄想いった。
やべーとか思ってたら二話目でもうお前ら結婚しろよとか思っちまった辺りどうしようもねぇw
ああいうドタバタノリで周りから見りゃイチャこきかじゃれてるよーにしか見えません
て感じのに弱いんだ。いやまだどうなるかも解らんけれども!!
その内書きたいものだがあの二人需要あるんかねぇ。
ともあれ明日が楽しみです。

122:名無しさん@ピンキー
09/01/21 16:12:27 kAZ9iSvU
>>121様に超期待age

123:名無しさん@ピンキー
09/01/21 23:05:14 eooXre2N
同じく熱烈期待だがsage

124:名無しさん@ピンキー
09/01/24 09:56:49 Dtiu9Ak1
取り敢えず ほしゅ

125:松雪 ◆EBmiO0Ld5.
09/01/25 22:12:05 zJ/5sCaH
超久しぶりに投下

はじめてのあく・・・ではなく、今更ギガグリーンネタだったり


126:松雪 ◆EBmiO0Ld5.
09/01/25 22:12:57 zJ/5sCaH
 昔から、私はなんでも出来た子供だった。

 成績はクラス―いや、学区内でも一番良く、多分日本中で考えても上位だっただろう。
 身長は低いが身体能力は低くなく、短距離走で全国大会に出た事もある。

『アキラちゃん、すごいねー』

 他人は、私の事を恵まれていると言う。
 なるほど、確かに私の家は裕福だ。
 勉強は家庭教師が付きっ切りで見てくれたし、運動も学習の一環として鍛えられた結果だった。
 他人から見れば、恵まれている環境なのだろう。

 でも、私は自分が恵まれていると思ったことは無い。

 両親は仕事にかかりっきりで、一緒に食卓を囲んだ記憶すら無い。
 家庭教師達はあくまでビジネスとして私に付き合い、それ以外の事を教えようとはしなかった。
 それが両親の希望なのか、それとも無愛想な私と一緒に居たくなかっただけなのかは知らないが。
 おかげで、5人いた家庭教師の名前はまったく覚えていない。
 もしかしたら、最初から名乗っていなかったのかもしれない。
 それでも、家庭教師としての仕事はきっちりと行い、私の知的好奇心を満たしてくれたのはありがたかった。
 居心地が悪かろうが、興味が持てるだけマシだった。

 ツマラナイ学校に比べれば、だが。

127:松雪 ◆EBmiO0Ld5.
09/01/25 22:13:42 zJ/5sCaH
『アキラに任せておけばいだろ』
『アキラちゃんは私たちと違うもんねー』

 友人という名の仮面を被ったその子達は、面倒な事は全て私に押し付けていった。

 別に難しい事ではないのに。
 調べれば簡単に終わるのに。
 やれば出来るはずなのに。

 面倒な事はしたくない、という理由だけで、彼らは全てを私に押し付けた。
 押し付けられた事自体は、別に気にしていない。
 学校の授業はすでに家庭教師から学んでいたし、いいヒマ潰しになったから。
 だけど、どうしても理解出来なかった。

 なぜ、自分でやろうとしないのか。
 
 難しいのなら、手伝うから。
 分からない事があるなら、教えるから。
 そう言って、一緒にやるように促したけれど、誰も一緒にやることは無かった。
 結局、そう言う事自体が面倒になって、私は何も言わなくなった。
 無駄な努力に時間を割く事ほど、意味が無いものは無いと知っていたから。

 そんなツマラナイ学校と、居心地の悪い家を往復するだけの日々。

 それでも当時の私は、それが普通なのだと思っていた。
 そう、彼に会うまでは―

『ヒーローにならないか?』


128:松雪 ◆EBmiO0Ld5.
09/01/25 22:14:29 zJ/5sCaH
***

 ……PiPiPi……PiPiPi……

 断続的に聞こえてくる電子音に、私の意識は急速に現実へと引き戻されていく。

「ん……」

 カーテンの隙間から漏れる陽光に目を細めながら、私はゆっくりと身体を起こした。
 そのまま、聞き慣れた電子音を奏でる目覚まし時計を乱暴に叩いて黙らせる。

「……変な夢」
 
 溜息と共に呟いて、私はおおきく背伸びをする。
 今更、あんな夢を見るとは思わなかった。
 もう、思い出すこともないと思っていたのに。

「ふう……」

 背伸びの終わりと共に、もう一度溜息が漏れ出た。
 八つ当たり気味に叩いた目覚まし時計に視線を落とすと、仰向けに倒れている以外は何事も無かったかのように正確な時間を刻んでいた。
 100均で買ったやぼったい時計だが、その頑丈さだけは褒めてやってもいい。
 
 ―まるでどこかの誰かみたいだ。

 そんな事を考えつつ、いつもの時間である事を確認してベッドから抜け出す。
 今日は休日だが、そんな事は関係ない。
 日課は毎日続けてこそ意味があるのだから。
 年季の入った黒いジャージに身を包み、使い古した運動靴の紐を結ぶ。
 毎朝のジョギング。
 それが一人暮らしを始めてからの日課だった。
 トレーニングと―パトロールを兼ねて。


129:松雪 ◆EBmiO0Ld5.
09/01/25 22:15:10 zJ/5sCaH
「行ってきます」

 誰もいない部屋に向けてそう言うと、私は準備運動もそこそこに走り出す。
 休みの日くらいゆっくりしたら? と言う人もいるけれど、私はそうは思わない。
 そして、彼もそう言わないだろう。
 休日だろうが、祝日だろうが。
 雨が降ろうが、台風が来ようが。
 槍が降ろうが、砲弾が降ろうが……いや、これはさすがに元凶を探すけど。
 まあ、とにかく、彼はきっとこう言うのだ。
 
 ヒーローに休日は無い―と。

130:松雪 ◆EBmiO0Ld5.
09/01/25 22:16:52 zJ/5sCaH
***

 マンション前の道路から商店街を抜けて、河川敷まで。
 それがいつものコース。
 まだ早朝だというのに、商店街にはすでに仕事を始めている人の姿があった。

「おはよう、アキラちゃん。今日も早いね」

 声の方向に顔を向けると、行きつけの八百屋の店主が人懐っこい笑顔でこちらを見ていた。

「おはようございます、八百屋のおじさん」
「毎朝、頑張るねぇ。さすがは正義の味方。こりゃ俺もうかうかしてられないな」
「おじさんは運動より先にダイエットすべきだと思う」
「はは、確かに。最近は下っ端スーツ着るのも一苦労でさ」

 ちなみにこの人、悪の組織の下っ端23号だったりする。
 というか、この商店街の男連中ほとんどが悪の組織に所属している。
 この町に来た当初は悪の組織に属している人が普通に暮らしているのを見てびっくりしたものだが、当人達曰く、

『それはそれ、これはこれ』

 という事で、今ではすっかり慣れてしまった。

「お、アキラちゃんじゃねーか」

 八百屋の向かいにある魚屋から、これまた見知った顔の店主が声をかけてきた。
 勿論、彼も(以下略

「おいおい、八百屋の旦那。アキラちゃんのトレーニングの邪魔しちゃ駄目だろ」
「ちょっと挨拶しただけで邪魔なんてしてないさ」
「どうだか……この前も野菜オマケして、手加減してもらおうとか考えてたくせに」
「な! そ、そういうあんただってサービスしてただろ!」
「ふ、甘いな八百屋。俺は『優先的に俺を狙ってもらう』為にサービスしたのさ!」
「な、なんだってー!」
「……」

 前言撤回。あまり慣れてません。
 まあ、彼らは彼らなりに充実してるみたいなので、変なストレスを溜め込むよりは、これはこれでありなのかもしれない。


131:松雪 ◆EBmiO0Ld5.
09/01/25 22:17:37 zJ/5sCaH
「あんた、エーコ様FCの誓いを忘れたのか! 『その11:エーコ様以外に踏まれてはならない』を!」
「忘れてなどない! だが戦闘中にヒーローにやられるのは下っ端戦闘員の仕事であり義務であり不可抗力だ!」
「くっ! た、確かにその通りだが……」
「エーコ様に踏まれるのは幸せだ……だが、毎回毎回メインディッシュだけではマンネリで飽きが来てしまう! お前だってたまには甘いデザートを食べたくなるだろう!」
「―っ!」
「エーコ様とアキラちゃん、交互に踏まれ、そして蹴られて事こそ、真の下っ端道を極める事が出来るのだ!」
「そ、そうか! そうだったのか!」

 ビシッ! と私―の足を指差しながら力説する魚屋の店主。
 それを感激した面持ちで見つめる八百屋の店主。
 ……今ここで止めを刺すべきかどうか悩んでいるのは内緒だ。
 いや、それはそれで喜ばれそうな気もするけど。

「……じゃあ、私行きます」
「おう、アキラちゃん、頑張りなよ! 今度はもっと強く蹴ってくれよ!」
「あ、アキラちゃん、僕にも強く蹴っていいからね」
「分かってくれたか、八百屋の旦那!」
「ああ、兄貴! 一生ついていきやす!」

 なんというか……世界は思ったよりも平和だと思う。
 とりあえず、今度から二人のサービスは断ろう、うん。

「さてと……」

 道草を食った分、少しペースを上げて走りだす。
 このままだと、いつもの時間に間に合わない。
 私は腕を大きく振ると、強く地面を蹴った。
 同年代の子よりも軽く小さい身体は、私の意志通りに加速する。
 スピードに乗ったまま商店街を駆け抜け、路地裏を抜け、河川敷の方へ向かう。
 これなら約束の時間には間に合うだろうが、それでもペースを緩める事はしない。
 そして、川縁の土手を越えて開けた視界の先に―
 
「……お、きたきた。遅かったですね」

 河川敷にある遊歩道で、彼はいつものように待っていた。
 タオルを首にかけて、ゆっくりとした動きでストレッチをしながらこちらに語りかけてくる。

「うん……ちょっとね」

 さすがに悪の組織の人と世間話してました、とは言えず、私は息を整えながら曖昧な返事を返す。
 決めていた時間は朝の6時。
 ちなみにまだ6時にはなっていない。
 それでも彼は、当たり前のように私を待っていた。
 ……それが分かっていたから、私も急いだのだけど。
 歯切れの悪い私の言葉に疑問符を浮かべながらも、彼がそれ以上追及することは無かった。

「……よし、じゃあ今日もやりますか、アキラさん」

 私の息が整ってきた事を確認すると、彼は私に向かって拳を構える。
 さすがに毎日続けている分、構えだけは様になってきた。

「今日こそ一本取りますよ」
「やれるもんならやってみなさい、ヒカル」

 彼の名は緑川ヒカル。
 最近、ヒーローになったばかりの新人であり―そして、私がヒーローになるキッカケを作った人物だ。


132:松雪 ◆EBmiO0Ld5.
09/01/25 22:18:47 zJ/5sCaH
***

 ヒカルと一緒にトレーニングをするようになったのは、彼がギガグリーンを受け継いでから暫くしてのことだった。
 ある日、真剣な顔で私に近づいてきたかと思うと、

『黒澤さん、お願いがあるんですが』
『緑川君……何?』
『お、俺に手取り足取り教えてください!』
『……暴漢を撃退する方法なら、今ここでその身に叩き込んであげるけど』

 言い方は紛らわしい(というか完全にアウトだ)が、要はどのようなトレーニングをしているのか教えて欲しいという事だった。
 元々、トレーニングはしていたらしいが、さすがに自己流では不安だったようで私に尋ねたらしい。
 とは言っても、私も別に特別なトレーニングをしている訳ではない。
 とにかく鍛えたいと言うのであれば、赤井さん辺りに教えを請うべきだと伝えたのだが……

『あの人、真顔で太平洋を走って往復して来いって冗談しか言ってくれないので……』

 ……それが冗談かどうかは、彼の為に黙っておいた。
 本気だと分かれば、やりかねないし。

『それで私に聞きに来た、と』
『そうです。他のメンバーに聞こうかとも考えたんですが……』
『……あの二人はあまり参考にならないわね』

 青島さんはトレーニングではなく、ギガスーツ(変身スーツ)を改造する事で戦闘能力を高めている。
 技術部に内緒で勝手に改造しているので、その技術部の評判はすこぶる悪いのだが、その改造の腕は確かであり、青島さんが作ったものが技術部にフィードバックされて、正式採用された武器も少なくない。
 ……問題は自分のスーツだけでなく、他人のスーツまで改造したがるという事だが。
 うっかり彼に強くなりたいなんて言ってしまったが最後、

『とりあえずドリルつけるか』

 何て事になりかねない。
 多分強くなるのだろうが、どう考えてもマッドサイエンティストの発想だ。
 ちなみに私のスーツに勝手にミサイルを取り付けた時は、即座に全弾を青島さんにお返しした。
 どこに付けられていたかは聞かないで。とゆーか、聞くな。


133:松雪 ◆EBmiO0Ld5.
09/01/25 22:20:17 zJ/5sCaH
『青島さんは言わずもがな、横山さんも……』
『あの人も特殊だしね……』

 横山さんはパッと見て何か目立つ技能は無い。
 運動能力は平凡だし、頭もよくは無い……というか、ちょっと弱い。
 秀でていると言えば、スタイル位……いや、私だってあと数年すればあの位は―と、話が逸れた。
 とにかく、彼女は普通の人だ。
 唯一つ、ギガスーツとの相性が信じられないくらい良い、という点を除けば。
 ギガスーツにも相性があり、同じくらいの強さの人が着たとしても、相性の良い方が最終的には強くなる。
 生身での戦闘能力で言えば、横山さんはギガレンジャーの5人の中で最弱なのは間違いない。
 でもギガスーツを着ると、横山さんの戦闘能力は一気に跳ね上がる。
 単純な力比べなら、ギガレッド以上かもしれない。
 それほど、彼女とギガスーツの相性はいいのだ。
 一度、彼女になにかトレーニングをしているのか聞いたことがあるのだが、

『食う、寝る、遊ぶ』

 豚になれ―危ない危ない、うっかり本音が漏れた。
 つまりは何もトレーニングしなくても普通に戦えるくらい、彼女はスーツとの相性がよいのだ。
 それはもう、ギガスーツに愛されていると言っていいほどに。
 ギガレンジャーになるには身体能力も大事だが、この相性も同じくらい重要になる。
 いくら身体能力が高くても、相性が低ければギガレンジャーにはなれない。
 ちなみにヒカルはスーツの相性が最低基準に達していなかったのだが、今後に期待と言う事で入隊を許された過去がある。
 私にトレーニングのやり方を聞きに来たのも、その事に負い目があったからだろう。 

『まあ、教えるくらいなら別にいいけど……』
『本当ですか、黒澤さん!』
『でも、一つだけ条件がある』
『な、なんですか』

 教える事自体は別に問題ない。
 ただ、ちょっと引っかかっている事があった。


134:松雪 ◆EBmiO0Ld5.
09/01/25 22:21:01 zJ/5sCaH
『黒澤さんって呼ぶの禁止』
『……へ?』

 どんな無茶な条件を想像をしていたのか、彼は間抜けな顔で私を見つめ返す。

『私の方が年下なんだから、敬語なんて使わなくていい。名前もアキラって呼び捨てでいいから』
『で、でも、黒澤さんの方がヒーローとしては先輩ですし……』
『嫌なら教えない』
『う……』

 別に難しい事じゃないと思うのだけど、見た目通りの体育会系の彼の場合、なかなかに難しい事らしい。
 腕を組み、眉間に皺を寄せて、たっぷり30秒は考えて―

『じゃ、じゃあ、せめてアキラさんと呼ばせてください。敬語は努力しま……努力するから!』
『……』
『そ、その代わり、俺の事も緑川じゃなくてヒカルって呼び捨てでいいですから! お願いします!』
『―っ!』

 真面目な目で、彼はじっとこちらを見つめてくる。
 そのまっすぐな視線は、『あの時』とまったく変わっていなかった。

『しょ、しょうがない……それで我慢する』
『じゃ、じゃあ―』
『明日の朝6時に河川敷の遊歩道に来る事。言葉で教えるより、一緒にトレーニングした方が効率がいいでしょう』
『あ、ありがとうございます、黒―じゃなくてアキラさん!』
『遅れないようにね……ひ、ヒカル……』
『ハイ!』

 こうして、私とヒカルは一緒にトレーニングをする事になったのだ。


135:松雪 ◆EBmiO0Ld5.
09/01/25 22:21:56 zJ/5sCaH
***

「? どうしたんですかアキラさん? 何か嬉しそうですけど?」
「……気のせいよ」

 昔を思い出していたら、顔に出ていたらしい。
 咳払いして間を取ると、正面で構えているヒカルに向かって私も拳を構える。
 トレーニングと言っても、別に特別な事はしていない。
 子供の頃に護身術として教わった格闘技―太極拳と合気道をベースに私が考えたオリジナルの型を繰り返すだけだ。
 静と動を併せ持った太極拳と、受けに特化した合気道。
 体格的に劣る私には、このスタイルが自分のベストだと確信していた。

「じゃあ、もう一度」
「ハイ!」

 彼の着ているジャージは泥と汗ですでにボロボロだが、そのやる気だけは始めた時とまったく変わっていなかった。

「では―行きます!」

 型と言えば演舞を想像する人もいるが、実際には全然別物だ。
 演舞とは舞であり、芝居。人に見せ、人を魅せる事に主を置いた動き。
 型とは技であり、実戦。自分を守り、相手を倒す事に主を置いた動き。
 その動きを繰り返す事により、相手の動きに対して考えるよりも早く身体が動くように覚えこませる。

「まだ遅い……まだ考えてる」
「ウスっ!」

 勿論、相手が同じ動きをしてくれる訳は無い。
 じゃあ、どうするか。
 簡単な事だ。
 相手がどう動いても対応できるように、沢山の型を覚えればいい。
 実際には人間の身体の構造から出来る動きは限られてくるので、覚えるのは200程度で十分なのだが。
 
「はっ!」

 私の動きに対応して、ヒカルは身を翻らせた。
 右の上段蹴りを左腕でブロックし、がら空きになった私の身体めがけて最短距離で右の拳を突き出す。
 右足はまだ空中にあり、残る片足でできる動きは限られている。
 かわせない間合い。
 だけど―


136:松雪 ◆EBmiO0Ld5.
09/01/25 22:22:42 zJ/5sCaH
「甘い」

 ブロックされた右足をヒカルの左腕に引っ掛けるように絡ませ、残る左足で地を蹴る。
 突き出された拳を空中で仰け反りながらかわし、そのままヒカルの左腕を手で取り、全体重をかけてその腕を伸ばす。
 いくら私の身体が軽いとはいえ、突きを出して不安定になっている状態では支えきれるものではない。
 そのまま、絡まりあうように私たちは地面へと崩れ落ちる。

「いたたたたたた! 決まってる! ギブ! ギブです!」

 右腕でバンバンと地面を叩きながら、ヒカルは情けない声をあげる。
 いつもは男らしい彼だが、こういうときに出す声はちょと可愛い。

「すいません、マジ決まってますから! 変な音なってますから! ミシミシって! 筋がー骨がー!」

 さすがにこれ以上はマジ泣きしそうだったので、ちょっと勿体無く思いながらも手を離した。
 一応、きちんと見極めて極めていたので、後に残るような痛みは無いはず……多分。

「また同じ間違いをした罰……今のはスウェーでかわすか、右足を取りにいくって教えたはず」
「あ、そ、そういえば……」

 体格がいい分、それに頼った戦い方をするのが彼の悪い癖だ。
 軽い私の蹴りだから簡単にブロックできただろうが、もしもっと体格のいい相手と戦った場合、ブロックした腕ごと持っていかれる可能性がある。

「まだ完全にスーツに適応できてないのだから、力比べをするのは危険よ……まず、自分の弱さを認めなさい。そこが原点よ」
「はい……」

 スーツの事はずっと気にかけているのだろう、目に見えてしょげ返るヒカル。
 だが、それはれっきとした事実であり、弱点だ。
 それを認め、そして受け入れない限りは強くなれない。

「そろそろ時間ね……じゃあ、今日はここまで」

 時計を一瞥し、時刻を確認する。
 7時。
 ダラダラと長くやるより、時間を決めて集中してやるためにトレーニングの時間は一時間と決めていた。


137:松雪 ◆EBmiO0Ld5.
09/01/25 22:23:43 zJ/5sCaH
「ま、まだやれます! 今日は休日で時間もあるし……」
「その腕でやるの?」
「う……」

 ちょっと力を入れすぎたのか、彼の左腕はまだ痛みが残っているようだった。
 ……今度からは、もう少し手加減しよう。

「もっとトレーニングしたいなら、型をちゃんと覚える事。まだまだ遅いから」
「はい……」

 自分の弱さが不甲斐ないのか、ヒカルはうつむいて唇を噛む。
 だが、それも一瞬の事。
 勢いよくと立ち上がり、まっすぐな瞳で前を見て、私に向き直る。
 『あの時』と同じように。

「お疲れさまでした!」

 弱さを認め、不甲斐ない自分を奮い起こし、彼は大きな声で叫んだ。
 その叫びは、もっと強くなってやるという決意の表れなのかもしれない。
 私に一礼した彼は、そのまま振り返る事無く土手に向かって歩いていく。
 その後ろ姿を見つめながら、私はしばし逡巡する。

 ―何か声をかけるべきだろうか?

 トレーニングは終わりだが、今日は休日。
 彼が行った通り、時間はまだあるのだ。
 たまには気分転換もいいかもしれない。
 早朝の空は綺麗に澄み渡り、今日は一日いい天気だろう。
 うん、そうだ、もしヒカルに何も予定が無ければ、どこかに―


138:松雪 ◆EBmiO0Ld5.
09/01/25 22:24:34 zJ/5sCaH
「ひ、ヒカ―」
「おはよー、緑川くん!」
「あ、亜久野!?」

 私が声をかけようとした、同じタイミングで。
 ヒカルの腕に、見覚えのある女性が抱きついていた。

「な、なんでここに!?」
「緑川くんがここでトレーニングしてるって聞いたから、見に来ちゃった」
「だ、誰に聞いたんだよ!」
「えーと……ほら、ギガレンジャーの黄色の……横山さんだっけ?」
「あ、あの人は……」

 ……横山め……

「……あ、おはようございます。ギガブラックの人ですよね?」

 声をかけようとした体勢で固まっていた私に気付いたのか、彼女が笑顔で問いかけてくる。 

「……そうだけど」
「お互い、この姿でお会いするのは初めてですよね。悪の組織キルゼムオールでブラックレディをやってます、阿久野フミといいます」
「……黒澤アキラよ」

 悪の組織の幹部がにこやかにあいさつしてくるのは絶対におかしいはずなのだが、何故かこちらも名乗らなければいけないような雰囲気なので取り合えず名乗ってみる。
 ヒカルは何を言っているのか分からないという顔でこちらを見ていたが―実際、私も分からなかった。

「いつも、うちの怪人や下っ端たちがお世話になってます」

 お世話した覚えはない―と言おうと思ったが、ふと八百屋&魚屋の店主の顔が浮かんだのでグッと言葉を飲み込む。
 あの商店街でもう二度と買い物はしないでおこう、うん。

「隠れて見させていただいたんですけど、やっぱりお強いですね……でも、こっちも負けませんからね! 同じ黒をイメージするキャラとして、お互い頑張りましょう!」
「う、うん……頑張ろうね」

 な、何を言っているのか(以下略


139:松雪 ◆EBmiO0Ld5.
09/01/25 22:25:25 zJ/5sCaH
「って、今の見てたのか阿久野?」
「うん、バッチリ見てたよ! 緑川くんが可愛い悲鳴あげるのも!」
「なるほど……バッチリ見ていて、俺の腕に抱きついてるわけだ」
「えへへー、また可愛い悲鳴を聞きたいなー、なんて」

 この子、可愛い顔してなかなかやるわね……さすがは悪の組織の幹部。

「すまんが、悲鳴をあげる前に気を失いそうなんで離れてくれ……あ、それとアキラさん」
「……何?」

 腕の痛みからだろう脂汗をダラダラと流しながら、ヒカルは首だけを回して私へと尋ねた。

「さっき何か言いかけました?」
「……別に、何も」

 そう、別になんでもない。
 あなた達がこれから二人でどこに行こうと、私にはまったく関係無いから。

「そ、そうですか……」

 私の言葉に何かを感じ取ったのか、ヒカルは怯えた顔で言葉を返す。

「緑川くん、お弁当作ってきたから一緒に食べよっか。朝食まだでしょ?」
「あ、ああ……とりあえず腕を放してくれないか」
「あ、そうだ黒澤さんも一緒に食べませんか? みんなで食べた方が美味しいですし」

 彼女の方はまったく何も感じていないようで、無邪気な笑顔をこちらに向けてくる。
 もしこれが分かっていながらこの笑顔なのだとすると、この女、とんだ女狐だ。
 まあ、さすがにそれは穿ち過ぎだろうけど。

「私は……遠慮するわ」
「そっかー、残念」
「いや、そろそろ腕を……」
「あ、ちょうど向こうにベンチあるね! 行こう、緑川くん!」
「ぎゃああああーーー! 筋がー骨がー!」

 空は綺麗に澄み渡り、今日は一日いい天気だろう。
 そんな空の下に響く、ヒカルの絶叫を聞きながら、私はふと後悔する。
 うん、そうだ、こんな事ならいっそ―

「折ればよかった」

 と。


140:松雪 ◆EBmiO0Ld5.
09/01/25 22:26:53 zJ/5sCaH
とりあえずここまでです
続きはまた来週……投下できたらいいなぁ

では ノシ

141:名無しさん@ピンキー
09/01/26 20:28:24 d86jvznN
うおお!
復活! 松雪さん、復活!

相変わらず低脳で素晴らしい作品、ありがとうございます

続きを全裸にネクタイ締めて待ってます!

142:名無しさん@ピンキー
09/01/27 05:25:16 bl2ByCWc
121ですが投下します。
あの三話の衝撃やら萌えやらの勢いのまま書き上げてみた。
色々とおかしい所もあると思いますが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
はじめてのあく、ジロー×キョーコで。エロは期待しないでくれ…。

143:名無しさん@ピンキー
09/01/27 05:26:41 bl2ByCWc

 それは、お姉ちゃんこと阿九野エーコの言葉から始まった。
 ……多分この人、面白ければそれでいいのではなかろーか。


「えええっ!?ちょっ……!!お、お姉ちゃん、それは……」
「成果見せる度に少しずつ、解りやすいごほーびは与えないとね?」
「で、でも、そんなことするの?」
「言葉だけじゃ、流石にあいつでも感付いちゃうかもしれないからねー。実は改造される気なんて全然ありませんでしたー、なんて知られちゃうと、あいつ何するかわかんないよー?」
「うぅ……でも……」
「それで時間稼ぎして、改造される前に真人間にしちゃえばいいんだから!!キョーコちゃんふぁいとー!!」
「あうぅ……」


「乙女の体はデリケートなんだから、しっかり調べてからにしなよ?ちゃんとやさしーく、ちゃんと素手でね!!」
「むぅ……。しかし科学者としては」
「道具使うのは後!!まずは表面を生でチェック!!いいね?」
「む……。まあいい、改造するにも順序というものがあるからな。心得た!!」



144:名無しさん@ピンキー
09/01/27 05:31:27 bl2ByCWc
 そんなこんなと。
 何だかんだと丸め込まれたキョーコとジロー両名は今。
「よし!!では第一段階、いくぞっ!!」
「うぅ……。もう何だこれ……」
 キョーコの自室でキョーコを改造する前段階、素体の点検を開始しようとしていた。
(優しく、だったな……)
 取り敢えず、それを念頭に。
 キョーコは学校指定の体操服に身を包み、ジローの眼前に座っている。
 本来ならば研究室でじっくりといきたい所ではあるが、生憎キョーコの家にはそんなものは無いし、造ってもいない。
ジローにとって造る事自体は簡単なのだが、間違いなくキョーコが怒るだろうし。
(オレの自室は何故か姉に禁じられたからな……。むぅ。何故だ。その方が色々道具も使えるというのに。……いや、使うのは素手のみ、点検可能箇所も、露出している箇所だけ、という約束だったな……)
 制約はあるが、まぁ仕方ない。そう考え、改めてキョーコを見る。
 正座だ。眉を八の字にした困り顔で、何やらもじもじと足を動かしている。
 口はへの字に結ばれ、先程から一言も発しない。両手はグーの形に固定され、膝の上。
 上目遣い気味にこちらの様子を窺い、目が合うと気まずげに逸らす。
 ……落ち着かないのは緊張の為だろうかとジローは思う。別に痛みなど与えないというのに。
 何せ、いつかは自分の優秀な部下となる大事な体なのだ。
 今回は改造はする気はないし、どうしてもというのなら麻酔を使っても構わない。……それはこちらが拒絶されている様で何だか嫌だな、と自覚無く思いつつ。
「……そう心配するな。別に痛みは無い。少々お前の体を調べるだけだ」
「……健康チェックとかだけじゃダメなわけ?えーと、ほら、なんか機械とかでこうウィーンって。……まぁジローの造ったやつとかだと怖いけど」
「失礼なっ!?……っと。まぁ、今の暴言は許してやろう。姉上との約束だからな。今日は素手のみでやる。
本来ならじっくりたっぷりいじくりまわしたい所だが仕方ない。科学者たるもの、素体の状態を調査し、良好に維持し、調整するのは当然!!それがオレのキョーコの事となれば、それは最早義務だろう!!」
「……あーうん、そーだねー」
 いっそ素晴らしい程に棒読みでキョーコ。
 相変わらず誤解を招きまくる言い方しおって……とも思うが、正直今更だ。
 それに姉に丸め込まれた感もあるが、自分も同意して了承してしまったのだから仕方ない。
キョーコは早々に諦めた。
どうせ何を言ったところで、ジローがやめる筈もないのだ。



145:名無しさん@ピンキー
09/01/27 05:32:54 bl2ByCWc

 ともあれ、最初は腕からだ。
 体操服は半袖である。
 腕をとって、肘辺りから形と感触を確かめる様に撫でる。
「……ん、む……」
「む、痛かったか?」
「あ、ん、いや……」
 吐息に混じった微かな声に反応するジローに、曖昧に返すキョーコ。
 別に痛かった訳ではない。ないのだが……。
「ちょ、ちょっとくすぐったかっただけ……」
 大体がこんな行為をする事自体初めての事である。 腕とはいえ、異性に肌を撫でられる、など。
 くすぐったかったのは本当だが、それだけでもなく。……キョーコ自身にも実際なんだったのかはよく解っていないのだが。
「ふむ、そうか?」
 難しいものだな……などと呟きながら、その行為を再開させる。
 手の平で柔らかく腕を包んでみたり、緩く揉んでみたり、指先でなぞる様にしてみたり。
 丹念に、指の先まで、爪の形まで己の手指に覚え込ませる様に、入念に。
 勿論両腕を、時間をかけてじっくりと。
(むう、やわいな……。この腕で何故ああも破壊力のある攻撃が可能なのか……)
「ぁう……」
(ん?)
 つう、と手の甲に透けて見える血管をなぞる様に触れると、微かな声と共にひくん、とキョーコの体が震えた。
(……もしや触れられるのが苦手なのか?)
 疑問と共にそれは困るな、と思いつつ様子を見ようとして。
「んっ……」
 何かに耐える様な声に、動きを止めた。
(……や、約束だからなっ!!キョーコが触れられる事を苦手としていても、ここで止める訳にもいかんっ!!という訳でさっさと終えてしまおう!!)
 そう言い訳の様に自身を納得させ、何故か凄まじく落ち着かない気分になりながらも、行為を続行した。

146:名無しさん@ピンキー
09/01/27 05:35:06 bl2ByCWc
 そして。
 二の腕に差し掛かった時に脂肪過剰とか余計な事をのたまって殴られたりもしたものの、その行為は滞りなく進み。
 一通りの『調査』が終わる頃。
「……ふむ。こういう感じか。……よし、その時にはロケットパンチ……いや、ドリルの一つでも……」
 満足気に頷き、不穏な事をほざきつつ顔を上げて。
 ……絶句した。
「……お、おぉっ……!?」
 見上げた先にはキョーコの顔。何故か真っ赤で涙目で息を乱してふるふる震えてました。
「……キョ、キョーコ!?どうしたっ!?……ハッ!!どこか痛くしたかっ!?」
 思わずオロオロしつつ問うも、キョーコはぷるぷると首を振るだけで。
「……い、いーから、続き、しなさいよ……」
 そんな事を言うが、その声も些か震えていた。こちらを睨んでいる様だが、なんというかいつもの凶暴性が全く無くてジローは戸惑う。
 涙目も直っていなければ、顔も赤いままで。
(……うぅ……何これ……もー早く終われー!!)
 キョーコの内心はこんな感じだったりするが。
 ジローの手はやはり男のものだけあって大きくて変に意識してしまう所から始まり、触れ方も科学者としてのものなのか存外に繊細で調子狂うし、触れられた場所は何故か熱を持って、くすぐったいだけではない未知の感覚が襲ってくるしで……。
「……ジロー……?」
「い、いや、しかし……」
 続きを促す様に呼ばれ、ジローは戸惑いつつ、ちらりと次の『調査』するべき箇所を見る。
 約束では、今のキョーコの姿の、露出した部分、という事で。
 ……次は足、という事になるのだ。キョーコの着ている体操服はブルマなので、足の付け根から足の先までだ。
(……何か……ヤバくはないだろうか……)
 具体的に何がヤバいのかは解らないが。
 今更事の危険性に朧気にでも気付き、ごくりと唾を飲み込むジローであった。


147:名無しさん@ピンキー
09/01/27 05:37:33 bl2ByCWc


 取り敢えずベッドに腰掛け『調査』の続き。
 双方共に、動きがぎこちないのは仕方ない。
「いっ、いくぞっ……」
「へ、変なとこ触るんじゃないわよ!?」
「触るかぁ!!」
 そんなやり取りをして、多少空気も変わったが、払拭する程のものでもなく。
 変な緊張感のある中、腕の時と同じく形を確かめる様に、まず足の外側を手の平で包み、腿から下へゆっくりとなぞっていく。
「んっ……」
「………」
 内腿に手をかければ体ごと揺れ、息を詰めたのが解る。
 ジローの手にも、随分と柔らかな感触が残り。
「ひゃぅ……」
「………………」
 肌を撫でる度に、ぴくぴくと微かな反応を返し、普段ならば出さない類の、吐息混じりの声を漏らす。
「っ、ん……!!」
「………………………」
 ちろりとキョーコの顔を見てみれば、頬を紅潮させ、汗ばみながら息を乱し、与えられる感覚に目を閉じて耐えている様がありありと。
(………………………………集中できんんん!!)
 色々と常人からは外れていても、健全な男子としてはこの状況はなんともアレだ。
(いや!!いやいやいや!!科学者としてこんな事で手を止めるなど!!……くそう、罠かっ!?おのれキョーコめ……おかしな技をっ!!)
 なんという冤罪。というか寧ろ言いがかり。キョーコに言ったら蹴られるだろう、間違いなく。
 しかしキョーコにとっては幸か不幸か口には出さず。
(だがこの程度でオレを止められるなどと思うなよキョーコ!!)
ギラリと瞳を光らせ、気を取り直し、ジローは行為に戻る。
「ふぁ!?」
「うおっ!?」
と、力が入ってしまったのか、大きな反応と共に悲鳴じみた声が上がり、反射的にキョーコの足から手を離してしまう。
「……な、なんだ、どうした?……痛くしたか?」
「あ……。う、ううん、ちょっと驚いただけ……」
(……ぐぬぅ)
 文句と同時に手やら足やらが直ぐ様出てくるのが常だというのに、よりにもよってこの状況で随分と大人しいキョーコに、ジローは焦る。
 その理由が解らない為、焦りは加速し止まらない。
 行為を続行しようにも、何故か身の内に存在する躊躇いに、手が動かない。
(………………むうぅぅぅ………………)
 内心で唸るも、一向に出口は見つからず。

148:名無しさん@ピンキー
09/01/27 05:39:46 bl2ByCWc
「……どーかした?」
(……お前がそれを言うか……)
 そんなきょとん、とした、無防備な幼い顔をしてこちらの顔を覗き込むのはやめてほしい。ジローは切実に思う。
 しかし、同時に閃いた。
「……むっ!?そうか!!」
「え!?なになに!?」
「……顔が見えるからいかんのだ!!」
「……はぁ?」
「という訳で場所移動だ!!」
「え?え?え?」
 事態を把握できないでいるキョーコを置いて、ジローは場所を移動する。
 ベッドの上、キョーコの背後に回り、すとんと腰を下ろす。
「え、ちょっ……?な、なに!?」
「気にするな。少し角度を変えてみただけだ」
「え、えぇ~……」
「……仕方なかろう。本来なら横になって行う所をそれだけは嫌だとお前が……」
「だ、だって、なんかそれって、その……良い気しないしさぁ……」
 色々と不安な事この上ない。
 ……一応、年頃の乙女なんだしさぁ……とか思うし。ジローに言っても解りゃあしないだろーから言わないけれど。
 そう内心で愚痴ってみるが、当然ジローに伝わる筈もなく。
「とにかく続けるぞ!!」
「……うー」
 もうどーしようもないので好きにさせるキョーコである。
 ……ところで。
 今の状態を改めて考えてみると。
(……顔が見えなくなって気が散らなくなったのはいいが……これは……)
(……な、なんか密着度が高くなってない?これ……)
 そりゃあ背後から足の『調査』となれば。キョーコを腕に抱え込む形にもなる訳で。
(……しまった……この体勢……無理がっ……!!)
 失策に気付き、ぎりっ、と歯を軋ませるジローの目に入ってきたのは、キョーコのうなじ。
(………………こ、孔明の罠っ!!)
 ジローは混乱している!!
 とまぁ、そんなネタはともかく。
 今回の『調査』は、露出部分に限る、との事で。
 つまりは、顔やら、うなじやら、首筋やらもその対象となる訳で。
(……使うのは素手のみ。しかし……)
 なんというか。
 この箇所に使うのは。

   かぷ

「ひゃう!?」
 ……口、もしくは歯。そして。

   ……ぴちゃ

「やっ、ふぁ!?」
 ……舌、とかではないだろうか、と。
 考えて導き出した答えでも、唐突に浮かんだだけの発想でもなく。自覚なくただそうしてみたいと思ったその欲望に、ジローは忠実に従った。
「なっ、ななっ、なにをっ!!」
「……皮膚の薄い場所の『調査』は、ここで行うのが丁度良いだろう」
「ちょっ……いやそれはちょっと!!」
 慌てて振り返り、その行為を止めようとするが、目が合った途端にキョーコの方が動きを止めた。ジローのいつになく真剣な瞳に捕らわれた様に、体が動かない。
(え?え!?ちょっ、なにこの展開!?)
 わたわたしつつ、取り敢えずジローから離れようとするも、ジローの腕に阻まれて。
 するり、と首筋を撫でられ、頬を手に包まれ。
「……『調査』だ」
 常時より低い声に、鼓膜を震わせられた瞬間。
「……んぅっ……」
 唇を、塞がれた。

149:名無しさん@ピンキー
09/01/27 05:41:40 bl2ByCWc

─とか、やっぱりこんな感じ?」
 朗らかというか、とぼけたというか。
 ほんわかした空気を纏いつつ、にこにこしながら一通りの妄想を語り終えてそう言うのは、左右に一房ずつくくった髪を前に垂らした少女。
 キョーコの友人、ユキである。
 その眼前には妄想の犠牲になった本人、キョーコが机に突っ伏している。
 そしてキョーコのもう一人の友人アキ。……こちらは語られた妄想の内容っぷりにぐはぁ!!と叫び、ショートしたまま固まっていた。彼女のポニーテールはぷらぷらと揺れているが。
「……なっ……何でそんな話にっ!!」
「えー、だってー……ねぇ?」
「意味ありげなその顔と態度やめー!!何でそんな展開になんなきゃなんないのよー!!」
 うわーん!!と涙飛び散らせつつそう抗議するも、全く効果は得られずに。
「大丈夫!!はぢめては不安だとは思うけど、きっとその内慣れるから!!」
「会話になってないぃー!!」
 頭を抱え絶叫するキョーコ。援軍は期待できない。
「何だ!?どーしたキョーコ!?」
「ふぎゃーーーっ!?」
 代わりにいらん奴が来た。
 妄想の犠牲者その2、阿九野ジローその人である。
「う、うわわわわ」
「む?どうした?」
「わあぁっ!!ちょっ、待っ!!」
 妄想語りの内容が内容だっただけに、思わず顔を赤くして後退る。
「ええいわからん!!ちゃんと説明をしろ!!」
 と、その分の距離を一気に詰め、ジローがキョーコの腕を掴む。
「あ゛」
「む?」
 固まるキョーコ。その反応に怪訝そうな声を漏らすジロー。
 そんなジローの目の先、キョーコの顔が真っ赤に染まっていく。更に瞳が潤み、涙目に。
 眼前でのその変化に、ジローもぎしっ、という擬音が聞こえてきそうな程に解りやすく固まった。
「……どうっすか、解説のユキさん」
「いやー、ギャラリーがいる時点でこの先は見込めませんねー」
 そして、友人二人の見守る中。
「ばかーーーーっ!!!」
「何故だぁぁぁっっ!!?」
 キョーコの黄金の右により、ジローはお空の星になるのだった。
 やはり解説のユキさんの言葉通り、残念ながらこの先は見込めなかった様です。


 とはいえ。

「……ううっ、ちがう、ちがうぅ……!!あたしはあんな妄想みたいにはなんないんだからーーっ!!」
 自室にて頭を抱え、涙目で吠えるキョーコと。

「……何だあの反応は……。……ああもうわからん!!かわいいのはいいが何なのだあの反応は!?……いや待てオレ今何言った!?」
 同じく自室でどうしようもなく混乱しまくるジローはともかく。

「……ほほう」
 二人の様子に怪しい笑みを浮かべつつ、きらりんと瞳を光らせるエーコお姉ちゃんがいる時点で、この先どうなるのかは解らないのであった。


150:名無しさん@ピンキー
09/01/27 05:45:11 bl2ByCWc
終わります。
まだどーなるか解ったもんじゃないので妄想オチに逃げてみた。
そして本番まではいかなかった。すまない。
お目汚し失礼しました。

151:名無しさん@ピンキー
09/01/27 09:59:50 bb7+pwiS
ありがとうありがとう
存分にニヤニヤさせて頂きました

152:名無しさん@ピンキー
09/01/27 10:36:56 hhsWgZUJ
すばらしかSSやね。

153:名無しさん@ピンキー
09/01/27 15:32:58 DYGCAmu9
ナイス低脳!

154:名無しさん@ピンキー
09/01/27 15:47:15 8EsYdKjo
松雪氏も122氏もGJ!

このまま、盛り上がっていきますように

155:名無しさん@ピンキー
09/01/28 01:24:01 JdxUxbqF
松雪氏、GJ

121氏、「阿九野」ではなく「阿久野」な

156:121
09/01/28 02:20:38 lEma78F5
>>155
うわすまん!!原作読みながら書いた筈なのに、それと思い込んでた様だ…。
そしてレスしてくれた人達ありがとう。
次書く事あったら気をつけます。

157:名無しさん@ピンキー
09/01/30 09:48:31 Ty+w71xN
久しぶりに来たら…何だこのGJっぷり!? けしからん(笑)

158:名無しさん@ピンキー
09/01/31 00:44:18 OSnv0JcJ
もうね、低脳。まじで低脳。さいこう。
すんばらしい。

159:松雪 ◆EBmiO0Ld5.
09/02/02 22:51:45 dvIKZTux
>>139からの続きです

160:松雪 ◆EBmiO0Ld5.
09/02/02 22:52:41 dvIKZTux
***

 私の元に『正義の味方』となのる人達が現れたのは、中学に入ってしばらく経った頃だった。

『近頃はどこも人材不足で、ヒーロー候補を探すのも一苦労なんだ』

 テンガロンハットをかぶった男性が、苦笑しつつ私に話しかける。

『だから……もし君にその気があるなら、一緒に地域の平和を守ってみないか?』

 胡散臭いにもほどがあるその台詞。

『興味ないです』

 勿論、そんな戯言を信じるような私ではなかった。

『他に用事が無いのなら、失礼させていただきます』
『え、あ、ちょ、ちょっと!』

 まだ何か言いたげな男性を尻目に、私はさっさと歩き去る。
 さすがに何度もこんな事があれば、断るのもすっかり慣れてしまう。
 実際、似たような誘いは他にもあった。

『一緒に世界を目指さないか?』
『一緒に世界を征服しないか?』
『一緒に二人だけの世界で暮らさないか? ハァハァ』

 さすがに最後のは何か犯罪の匂いがしたので、警察に突きだしたが。

『……めんどくさい』

 人に必要とされるのは悪い気はしない。
 でも、そのどれもが『私』ではなく『私の能力』が目当てなのだと分かっていた。

 ―自分では何の努力もせず、ただ人を当てにするだけ。

 そんなツマラナイ世界は、学校の中だけで十分だ。
 最初のうちは丁寧に断りの言葉を作っていたが、やがてそれも面倒になって、結局はさっさと断わるようになった。
 下手に丁寧に断わるよりも、問答無用で断わってしまったほうが後腐れが無いと気付いた事も理由の一つ。
 どんな誘いでも、にべも無く断れば普通はもう来なくなる。

161:松雪 ◆EBmiO0Ld5.
09/02/02 22:53:31 dvIKZTux
 来なくなる―はずだった。
 
『やあ、また会ったね』
『……』

 この自称正義の味方は普通ではなかったようだ。

『また来たんですか?』
『諦めが悪いのと、負けず嫌いなのが自慢でね。たとえジャンケンでも勝つまでやめないのがモットーなんだ』
『……凄くはた迷惑なモットーですね』
『はは、そう褒められると照れるな』
『褒めてないです』

 勿論、今回も速攻で断わった。
 それでも、この男性は次の日も、その次の日も私の前に現れた。
 自分で言うだけあって、諦めが悪いのは本当らしい。

『……どうしようかな』

 夕暮れの河川敷で、私は川面を見つめながら考えていた。
 赤井と名乗った男性は、結局毎日のように私の前に現れては正義の味方にならないかと勧誘していた。
 それだけ本気で誘ってくれているのは分かったし、それだけ必要とされているのは嬉しかった。
 だから、私は迷っていた。
 この人達なら、ツマラナイ日常を変えてくれるんじゃないか、と。
 だけど、私は迷っていた。
 結局、どこに行ってもツマラナイ日常のままなんじゃないか、と。

『おねえちゃん、どうかしたの?』

 ふと横を見ると、犬を連れた少女が心配そうにこちらを見ていた。
 散歩中らしいその少女は、膝を抱えながら思考にふけっている私の姿を、具合が悪いのと勘違いしたらしい。

『ううん、なんでもない。ちょっと考え事してるだけ』
『かんがえごと?』
『そう……これからどうしようかな、って』


162:松雪 ◆EBmiO0Ld5.
09/02/02 22:54:45 dvIKZTux
 少女を心配させないように、私は笑顔で言葉を返す。
 それでも少女はまだ心配そうに私の顔を覗き込む。

『なやんでるの?』
『なやんでる……うん、そうだね、悩んでる』

 少女の問いかけに、私は素直にうなずく。

『……どうしようか悩んでるんだ。やった方がいいのか、それともやらない方がいいのか……どっちがいいのか分からなくて』

 まだ小学校にもあがっていないだろう少女にこんな事を言ってもしょうがないのは分かっていた。
 それでも打ち明けたのは、誰でもいいから聞いて欲しかったからかもしれない。

『? えーと……』
『ふふ、ごめんね、まだ分からないよね』

 案の定、少女は頭に疑問符を浮かべながら小さく首を傾げる。
 だけど次の瞬間、少女は何かを思い出したように顔をあげた。

『えっとね、となりのにーちゃんが言ってたよ。『やらずにこうかいするくらいなら、やってからこうかいしろ』って』
『―っ!』

 きっと、その少女はその言葉の意味を理解して言ったわけではないのだろう。
 その言葉を少女に伝えた人も、少女が理解するとは思わずに言ったのだろう。

『そっか……そうだよね』

 だけど、私にはその言葉が理解できた。
 どうやら私は、私が思っていた以上に臆病になっていたらしい。

『ごめんね、心配かけて。でも、もう大丈夫』

 少女にもう一度笑顔で答える。
 今度は少女も笑顔を返してくる。
 子供というのは、私が思っている以上に感情に敏感なのかもしれない。

163:松雪 ◆EBmiO0Ld5.
09/02/02 22:55:27 dvIKZTux
『どういたしまして。じゃあね、おねえちゃん!』
『うん、じゃあね』
『行こう、シロ!』

 犬と一緒に元気よく駆けていく少女を見送ると、私はゆっくりと立ち上がる。
 うん、そうだ、何を迷っていたんだろう。
 どうせ今のままでもツマラナイんだ。
 だったら、やってみてもいいんじゃないか。
 それでツマラナイままだったら、その時に考えればいい。

『あの子に感謝しなきゃ……って、あれ?』

 少女が駆けていった方向にもう一度視線を送ると、駆けていったはずの少女がこちらに戻ってきていた。
 だが、何か様子がおかしい。
 見ると、さっきまで一緒にいた犬がいなくなっている。

『おねえちゃん! シロが! シロが川に!』

 私を見つけた少女は、半泣きになりながら私にすがり付いてくる。
 その慌てように、私も慌てて少女の視線を追う。
 少女の視線の先―それは川の中。
 そこに、先ほどまで少女と一緒にいた犬がいた。

『ちょうちょ追いかけて、水の中に落ちて、引っ張ったけど助けられなくて―』

 慌てている少女の口ぶりから、大体の事情は把握できた。
 半泣きになっている少女をなだめながら、私は周囲を見渡す。

 ―駄目だ、誰もいない。

 誰かを呼びに行く? いや、そんな時間は無い。


164:松雪 ◆EBmiO0Ld5.
09/02/02 22:56:19 dvIKZTux
『いい、落ち着いて聞いて。今から誰かを呼びに行ってくれる?』
『う、うん! おねえちゃんは?』
『私は―シロを助けに行くから』

 そう言うと、私は川へ向かって走り出す。
 シロと呼ばれた犬は、流されながらもこちらに向かって泳いでいるが、川の流れは予想以上に速く、このままでは岸にたどり着けないだろう。
 躊躇している時間は無い。

『えい!』

 勢いをつけて飛び込み、シロの元へと泳ぎ始める。
 川の流れに苦戦しながらも、私はなんとかシロの元へとたどり着く。
 よし、あとは岸に帰れば―

『くっ!』

 岸までは10メートルほどの距離。
 でも、その10メートルが遠かった。
 せめて上着だけでも脱ぐべきだったと、今更な思考が頭をよぎる。
 身体に絡みつく服を疎ましく思いながらも、私は必死で岸へと向かう。
 あと7メートル……5メートル……
 時間にすればほんの数十秒の事なのだろうが、私には何時間にも感じられた。
 だけど、岸まではあと3メートルもない、これなら―

『痛っ!』
 
 鈍い痛みが私のふくらはぎを襲う。
 足をつった!?
 こんな時に!?
 痛みに身を捩らせながら、せめてシロだけでもと、岸へ向かってシロを押し出す。
 押し出されたシロは必死で泳ぎ、なんとか岸へとたどり着く。
 よし、あとは私も―
 腕の力だけで身体を浮かせようとするが、濡れた服が邪魔をする。
 足はもう使い物にならない。

 ―あと少し、もう少しなのに。


165:松雪 ◆EBmiO0Ld5.
09/02/02 22:57:15 dvIKZTux
 すでに泳いでいるというより、もがいているといった方が的確な表現だろう。
 それでも私は必死に岸へと向かう。
 だが、水の流れは無慈悲に、そして残酷に私を岸から引き剥がす。
 駄目、もう―

『諦めるな!』

 諦めかけた、その時。
 私の腕を掴む、力強い腕。
 そして次の瞬間、私は岸へと引っ張り上げられていた。

『大丈夫か?』

 吸い込んでしまった水に咳き込みながら、私はその声の主へと視線を移す。
 そこには先ほどの少女と、助けた犬と、そして―

『まったく、無茶するなよ』

 ずぶ濡れになりながらも、心配そうに私を見つめる彼がいた。

『あのね、となりのにーちゃんが近くにいてね―』

 どうやら少女にさっきの言葉を吹き込んだ張本人らしい。

『あ、ありが―』
『お礼はいいから安静にしてろ。足つってるんだろ』

 そう言うと、彼は私の足に手を伸ばす。

『な、何を!』
『準備運動もせずに飛び込むからつるんだ。焦っていたのは分かるけど、ちゃんと準備は怠るなよ』
『いや、そうじゃなくて―』

 私が何かを言いかける前に、彼は私のふくらはぎに手を這わせ、ぐっと力を入れて足を伸ばす。


166:松雪 ◆EBmiO0Ld5.
09/02/02 22:58:00 dvIKZTux
『痛っ!』
『ほら、じっとしてろ。ちゃんと伸ばさないとまたつるぞ』

 だからそうじゃなくて……もういいや、どうでもよくなってきた。
 とりあえず、彼が私を助けてくれたのは事実なんだ。
 もし彼が助けてくれなかったら、私は確実に沈んでいただろう。

『……もういいか』

 十分に時間をかけて伸ばした後で、彼はやっと私の足から手を離した。
 そっと足を動かしてみる。
 まだ少し痛みは残っていたが、またつるという事はなさそうだ。

『よし、大丈夫そうだな。それじゃあ……』

 その様子を見て、やれやれといった感じで彼は私の顔を正面から覗き込むと―

 パンっ!

 私の頬を、平手で叩いた。

『何やってるんだ!』

 そして、怒声。

『たまたま俺がいたからいいものを、誰も来なかったらどうするつもりだったんだ!』

 叩かれた頬に手を当てながら、私は驚愕の表情で彼を見る。

『なんでも一人でやろうとするな! あのままだとお前が溺れていたんだぞ!』
『で、でも……誰もいなかったから……』
『俺がいただろうが!』



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