09/04/22 15:01:11 jqOolyPU
市が目を覚ますと、日が随分と高かった。
重たい体をどうにか起こし、市は侍女を呼ぶ。あれから何度となく求め合い、交わりあったのだ。
思うように体が動かない。何度も名を呼び、嬌声をあげたためか、妙に喉がひりつく。
傍らに夫の姿はすでに無い。いつも朝早くから鍛錬をしている彼は、もうとっくに起床し、
外に出てしまったのだろう。
(長政さま……とても元気……)
やけに黄色く見える春の光を浴びながら、市はそんなことを思った。
どうにか身支度を整え、のろのろと朝食をとっていると、聞きなれた大きな足音が聞こえ、がらりと
音をたてて襖が開いた。
「市、遠乗りに行くぞ!早く支度をしろ!」
部屋に入るなり夫は言い、市の前にどしりと座った。
「え…?」
唐突な要求に、市はきょとん、と長政を見つめる。何故か長政の顔は耳まで朱に染まっている。
「き、今日は天気が良いからな!こういう日には遠乗りに行くのが正義なのだ!」
「でも…長政さま……」
「もうほとんど食べ終わっているな!行くぞ!」
「はい…」
強引に手をとられ、そのまま身を起こされる。市は訳も分からず、ずかずかと先を行く長政に
ただただついていっていたが、城中の者たちの「ゆうべはおたのしみでしたね」とでも言いたげな目線を
感じるうちに、彼の唐突な要求と、城を飛び出さんばかりの早さで歩を進める訳が、なんとなく分かった
気がした。
昨夜の余韻は市が思ったよりも長政の体に残っていたようだ。
「ハイヤ……ぐあっ」
いつものように馬に飛び乗ることができず、長政はしたたかに鞍に尻を打ちつけた。
「なっ…なにを見ている!さっさと乗れ!」
決まり悪そうにそっぽを向きながらも差し出された手を取り、市は長政の前に座った。
馬が歩きだす。春の風が優しく髪をなでる。
「………その……体は何ともないか?」
「はい…市は平気……」
今更といえば今更な問いに、市の口元に微笑みが浮かぶ。
―春の日も、この人も、とても温かい…。
長政の胸に頬を寄せながら、市はそっと目を閉じた。
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以上です。
おそまつでした。