09/11/24 21:34:45 8nnMNSMk
>>926の続き
「早くしないと遅刻するわよ!」
母親がキッチンでせわしなく動きながら、
いつものように起きてくるのが遅い自分を怒鳴りつけてくる。
その後姿も、いまの私と同じように全部丸出し。
新聞片手にトーストを頬張っている父親の背中は、
いつもと同じように普通の背広。
つまり、丸出しではない。
どうやら男の人はそのままで、女性だけがうしろ丸出しになっているらしい。
親子とはいえ父親におしりを見せるのはためらわれたが、
逆に堂々としていないのもヘンだと思って、なるべく平然を装って椅子に座る。
直接おしりにあたるクッションの感覚は、どうにも落ち着かないものだったけれども、
どうにかこうにか食パンをやっつけ、そのままあわてて身支度を整える。
玄関に並んだ靴はちゃんと「うしろ側」まであるもので、
ここだけいつもどおりでちょっとだけ安心。
こんなことでホッとしちゃうなんて、どれだけ追い詰められているんだろうか。
ドアを開けると、いつものようにいつもの景色。
しかし、会社に、駅に、学校に向かう人々の姿のなかに、
ちらほらと肌色が見え隠れする。
赤いランドセルを背負った女の子。
単語帳を見ながら歩いている中学生。
校則ギリギリのスカート丈にしている高校生。
流行のファッションに身を包んだ大学生。
スーツ姿でビシッと決めたかっこいいOLのお姉さん。
その誰も誰もが、前だけ普通でうしろは丸裸で歩いている。
玄関から足を踏み出せない自分がバカらしくなるほど、みんな堂々としている。
なんか悩んでいるのが逆に恥ずかしくなってくる。
背中やおしりに感じる風が、火照る体をやさしく冷ましていく。
丸出しは恥ずかしいけれども、これはこれで開放感があって気持ちいいかも。
道行く女の人と同じというのもあいまってか、
駅につく頃にはすっかりこの状況に慣れてしまった。
このあと「うしろも服が覆っている世界」に戻ったときが心配になってしまうぐらい。
だけど、世界の変化は「うしろ丸出し」だけじゃなかった。
ホームに滑り込んできた車両の窓に張ってあるピンクのステッカー、
そこには白い文字で大きく『痴漢専用車両』と書いてある。
あごがかくーんと大きな音を立てて落ちた。
なんだこれは。