零総合 十at EROPARO
零総合 十 - 暇つぶし2ch250:海咲×円香
10/02/02 11:27:25 f9V2qc3z
あまりにも誰もいないみたいなので海咲×円香で妄想駄文初投稿
誰も書かないよりはマシだよね…

百合(微エロ)注意
始めて書いたものなので本当に駄文です
みさまどだとッ!?なんでも構わん!!というお方や仏のような寛大な精神の持ち主のお方はどうぞ読んでやって下さい



251:海咲×円香
10/02/02 11:28:04 f9V2qc3z
疲れた。円香、ちょっとお茶いれてきてよ」
「まだ始めてそんなにたってないよ海咲…」

蒸し暑い夏の季節も遠のき、秋の雰囲気の漂う少し肌寒い夜、二人の少女、
麻生海咲と月森円香がせまりくる中間テストに備え、テスト勉強にいそしんでいた

「やめる、とはいってないでしょ。お茶入れてきてって言ってるの」
「ご、ごめん…紅茶?」
「うん」
「ちょっと待ってて」

トトト…と部屋から出ていく円香を尻目にサラサラとノートを写していく海咲

二人でテスト勉強、といってもほとんど別の作業で海咲が円香のノートを写し、
円香はいつも通りの予習をしているだけである

真面目な円香は後に海咲が見るということもあってか授業の内容をしっかりノートに写し
なおかつ復習やテストに出そうな所を几帳面にメモまでしている。

そんなノートのお陰もあってか円香はもちろん、海咲の成績は上位であった

だが海咲の場合普段ほとんど真面目に勉強をしないのにもかかわらずテスト前のちょっとの
勉強で点が取れるという事をみると元々頭が良いという事なのだろう


円香がお茶を入れに行って数分後「海咲、入っていい?」とドアの外から声がかかってくる

「どうぞ、いちいち確認いらないわよ…」
と答えるがなぜか部屋に入って来ない

「えと…その…」と扉の外でモゴモゴと聞こえる

「どぉしたのよ…」
「あの…両手がふさがっちゃってて…」
「あぁ…」
開けてほしいならそう言いなさいよ…と思いつつ扉を開けるとほのかに湯気のたったカップを両手に持ったまま
「ごめんね、ついでだから自分のもいれちゃって…」
と心底申し訳なさそうに謝る円香
「…お盆とか使いなさいよ」
「ごめん…」
「て言うか寒いから早く入って」
「あ、うん…ごめんね」
「全くもぅ」
とスゴスゴと入ってくる円香を迎えれ、やれやれと溜め息をつきながら扉を閉める海咲

どう見ても紅茶を入れるのを頼んだ人間の態度ではない
そもそも紅茶を頼んだのは海咲であり、部屋に入れなくなった事など諸々海咲が原因なのだが
労いの言葉はおろか、気のきいた言葉もはない。
二人にとってこのような光景は常であったが不満を漏らしたところで海咲が
不機嫌になるだけ、と言うのは誰よりも円香がわかっているし、物心ついた頃からずっと一緒にいるので
ほとんど慣れっこであった


252:海咲×円香
10/02/02 11:28:40 qM46mNKG
「ストレートで良かった…?」
「うん」
二人で勉強するには少し小さめなテーブルに紅茶の入ったカップを置き心配そうに聞く円香
「こんな時間だしミルクティーって気分じゃないわ」
そう言って紅茶を一口飲み
「…美味しいじゃない」

いつもの気の強そうな顔がフワリと柔らかい笑顔になる

「ホント?よかった」
それを聞いた円香もパァっと明るい表情になる

普段から凛とした表情崩さず、特に笑顔などは見せたりしないので周りの人間には美人だが近寄りがたい
存在となっている海咲だが、時おり円香だけに見せる笑顔が、円香は好きであった

他人には見せないその笑顔が見れただけで、どんな苦労も何も溶けてなくなってしまうのだから単純だな…と円香は自分でも思う


それからは特になにかあるわけでもなく、静かな時間が過ぎていった
プライドの高い海咲はノートを見せてもらうことは許すくせに、円香に勉強を教えて貰うといったことはしたことがなかった。

その為部屋には二人のノートにペンを走らす音、時おりページをめくる音、そして窓の外から
控えめな虫の声だけが少々聞こえるだけであった


そうこうしてる内に時刻は深夜0時を過ぎた辺り
「終った…疲れた…」
「あ…お疲れ様」
「ノートは全部写し終えたし後は明日やるわ…私はもう寝るけど円香はまだ続けるの?」
「え、と…海咲が寝るなら私も部屋に戻ろうかな…」
「…そう」

明日も学校があるのでそろそろ寝なければならない
円香が自分の部屋に戻る為に片付けてをしていると

「…今日はこっちで寝れば?」
とベッドに座りながら円香の方を見ずに問いかける海咲

予想外の申し出にドギマギしながら
「え、でも…明日学校だし…」
「…いいから」

とベッドから円香の手を取る海咲

二人で一緒に寝る、というのは始めてではない
円香が麻生家に引き取られたばかり頃海咲は隣に誰か寝てないと落ち着かないから、とほぼ毎日
一緒のベッドで寝ていたのだがそれも小学生までで、中学、高校に進むにつれて減っていった
しかし、元々霊媒体質の海咲が霊的なものを見てしまった日や、感じたりする日はやはり円香と二人で寝ることはある

そしてもう一つ…



253:海咲×円香
10/02/02 11:31:16 f9V2qc3z


海咲に導かれるようにしてベッドに座った円香
少しの間見つめ合うが、恥ずかしさからか頬を紅く染めて目線を少し下にずらす円香


繋いでない方の手をソッと円香の頬に置き
「円香…」
といつもよりも少し甘い声で囁くようにこえをかける海咲

そこで観念したのか顔を紅く染めオズオズと頬に置かれた手に自分の手をかさね、スッと目をつむる円香

それを見て満足そうに微笑み、海咲はそっと円香の額に唇を落とす
額に触れた瞬間「ん…」と声をもらす円香
その様子に胸がくっとしまる感覚を覚える海咲
そのまま唇を重ねようとすると…

「み、みさき…」
「…なによ」
「伯父さん達が起きちゃうよ…」
麻生の家に引き取られた円香は海咲の父親と母親を伯父さん伯母さんと呼ぶ

「大丈夫よ…もうとっくに寝てるし」
「でも…」

これからって時に…
とその時、海咲の心に悪戯心にも似た何かが芽生えてきた

「それに…誰も最後までやるなんて言ってないでしょ?」
「…え?」
「私はただ一緒に寝たらって言っただけよ?」
「そ、それは…」
「もしかして期待しちゃった?」
「ち、違うよ…」

フフ…とどこか艶のある含み笑いをしながらサラリと言う海咲

「今のはお礼よ、ノートの」
「…」
「ひょっとしてがっかりしちゃった…?」
「そ、そんなこと…」
「ウソ…そんなに顔紅くして説得力ないわよ…?」
「うぅ…」

少し虐め過ぎたかしら、と思ったがこれからって時に余計な事を言ってきた円香が悪いんだから
と悪びれる気は全く無い海咲なのであった



254:海咲×円香
10/02/02 11:32:23 f9V2qc3z


「でも…」
「ん?」
「海咲だって顔…真っ赤だよ…」
「えっ」
ハッとして自分の頬に手をあてる海咲
(熱い…)

透き通る様な白い肌の海咲は円香に負けず劣らず真っ赤になっていた

「な、なによっ…もぅ電気消してきて!」
「ご、ごめん」

予想外の反撃に少し声を荒らげてしまった

パチッ

程なくして扉の傍の電気を消す音と共に部屋が暗くなり窓から入ってくる月の光だけがうっすら照らしているのみとなった
海咲はその時になって始めて今日は月明かりがとても綺麗だと知った

月の光と手探りを便りにベッドに近づく円香
と、ぼんやりと窓の外の月を眺める海咲がうっすらと見えてくる

(…綺麗)
日本人離れした目鼻立ちのしっかりした海咲の顔は月の光に照らされていつにも増して艶めかしく、美しいく写っていた

思わず見とれてしまう円香
と、それに気付いた海咲は
「なに…どうかしたの?」
とうっすらと見える円香に視線を向けて尋ねる
「…え?あ…海咲が綺麗だなって思って…」
と伏し目がちに正直に答える円香
言われた海咲は「バカじゃないの…」とついっと顔をそむけるが月の明かりでも耳が紅く染まっている様に
見えるのは円香の気のせいだろうか


255:海咲×円香
10/02/02 11:33:03 f9V2qc3z

そしてベッドまでもう少し、というところで突然腕を掴まれ、そのままベッドに押し倒されてしまった

「み、海咲…?」
「…今日は優しくしたげようと思ったけど」
「…」
「気が変わった」
「寝るだけじゃ…なかったの…」
「言ったでしょ?気が変わったって…」
「でも…ぅん!?」

言い終わらない内に唐突に唇を塞がれたため最後まで言うことはなかった

ちゅ… ん…ふっ…んん…

部屋にはどちらとも取れぬ声がうっすらと聞こえる

始めこそ少しの抵抗をしていた円香だったが、直ぐに海咲を受け入れ始めていた

始めはお互いの唇をついばむように重ね、そして海咲はうっすらと開かれていた唇の間に自らの舌で少し舐める
するとオズオズと円香も舌を絡めつつその舌をを自らの口内に受け入れる

その頃になると円香の腕がそろそろと海咲の背中に回ってくる


こうして二人の甘い長い夜はふけていった







翌朝…と言ってもまだ外はかなり薄暗い時間に携帯のアラームがピピ…と一瞬だけ鳴り、反射的にアラームを止める円香
両親が起きる前に自室へ戻らなければならない円香は自分だけに聞こえる様に携帯のアラームをセットしていた

元々寝起きは良い方のなのだが、流石に起きるのが億劫だった
でも起きない訳には行かない

ふと、起こしてしまってないかと隣で眠っている海咲を見る
寝る直前お互いを抱き合うようにして眠りについたが今は仰向けでスヤスヤと規則正しい寝息立てて眠っている
普段の大人びた顔付きではなく、まるで子供のようなあどけない寝顔に、円香は少し胸がざわつくような気がした

「…みさき?」
ソッと愛しい人の名前を呼んでみる
やはり眠っているようで返事は帰って来ない

ちょっとぐらい良いよね…
ごめんね…と心の中で詫びつつゆっくりと海咲の顔を寄せ、もう少しで唇が触れる寸前で
「海咲…大好き…」
と吐息の様な切なげな言葉を囁きソッと唇を合わせた

これからも海咲の気分で冷たくされたり、わがままを言われたり素っ気なくされたりするだろう
だが海咲さえ望んでいてくれるならずっと側にいたいと願う円香なのだった

ちなみに翌朝、起きたら隣に円香が居なかったという理由で半日以上ずっと不機嫌だった海咲に
原因が分からない円香が振り回されるのはまた別のお話



256:海咲×円香
10/02/02 11:38:21 f9V2qc3z

以上です
作品を投稿するのもはじめてなので区切るとことか規制がかかったりして
中途半端なとこで区切ったりしてますすみません…orz

感想とか一言でももらえるとうれしいです

誰かこれをきっかけにSS投稿増えるといいな…

257:名無しさん@ピンキー
10/02/03 17:30:24 +rsbb7/S
乙!
やっぱみさまどはいいな!

258:名無しさん@ピンキー
10/02/03 23:49:18 KTqvVnx8
まさかこの時期になってみさまど読めるとは夢にも思って無かったわw
内容もすごく良いしGJ!

259:名無しさん@ピンキー
10/02/04 17:34:05 XfVuIO7I
規制で書き込めなくてレスが遅れましたみさまどSS書いたものです
>>257-258
うおぉぉレスありがとうございます!
みさまどいいですよね!零SSは昔から読んだりしてたんですがみさまどにはまったのは最近ですw
実はもう一本みさまどでSS書いてるんで完成したらまた読んでやってください!

260:名無しさん@ピンキー
10/02/06 02:41:17 x5g0hCts
久しぶりに覗いたら上物が来てるじゃないか(*´ω`)ハァハァ
新年一発目だし、こりゃGJだぜ

261:海咲×円香 バレンタイン編
10/02/12 14:36:29 4OEAryLp
どうも前回みさまどを書かせてもらった者です
レスありがとうございます!自分にはもったいないお言葉でとても嬉しい限りです
と、いうわけで性懲りもなくまた書いてしまいました

一足早いですがバレンタインネタで作ってみました
また海咲×円香です 百合注意
長いです。本当に長いです。ちゃんと短くまとめれないのも文章がないせいです…すみません…
長すぎて規制されたりして変な所で区切っちゃうかもしれないので日を分けて投稿させていただきます
一応もう書き終わってるんですけどね
なにっ!みさまどだと!?長ければ長いほどいい!!てか短くてもいい!えぇい何でもいいっ!早くしろ!というお方や
どんなSSにしろ作品が投稿されるのはいいことです。といった悟りを開いてるお方などよければ読んでやってください
長すぎて規制されたりして変な所で区切っちゃうかもです。変なところで終わってたら規制されたと思っててください


262:海咲×円香 バレンタイン編
10/02/12 14:37:41 4OEAryLp

今日は2月14日のバレンタインに後一日と迫った2月13日世間はバレンタイン一色に包まれていた
一歩街を歩けばバレンタイン、テレビをつければバレンタイン、誰かと話をすればバレンタイン
麻生海咲はうんざりだった
はっきり言って海咲はバレンタインが好きではなかった
チョコレートが嫌いと言うわけではなく、バレンタインの雰囲気が嫌だった
男も女も何やらソワソワとして落ち着かないし、世間がバレンタインへの参加を強要するかのような煽りも不快だった


その夜、風呂から上がった海咲は台所で食事の後片付けの手伝いをしていた円香に風呂が空いた事を伝える為に食堂に行こうとすると
食堂に近づくにつれ、台所から甘い匂いがしている事を気がつく
あぁ…明日はバレンタインだったわね…
2月に入ってからのそこら中でのバレンタインプッシュのお陰で嫌でも直ぐにわかる

そんな事をぼんやりと考えつつ、食堂を通り過ぎ台所を覗く海咲

そこには友達であり家族でもある月森円香の見知った華奢な背中があった

「円香」
と声をかけるとビクリと驚いた用に振り向き
「あ…海咲」
と少しバツの悪そうな顔をしてニコリと笑った

何故そのような顔をしたかと言えば、単純に海咲がバレンタインというイベントをあまり良く思ってないというのを知っているのと、だからといって円香が海咲に何も贈らなかったりすると一週間以上は不機嫌になる事は確実なので
何だかんだで毎年何かしらチョコレートを送っている円香はなるべく何を作っているか内緒で進めたいというのがあるからである

「何作ってるの?」
分かってるが一応聞いてみる
「えと…クッキー…今年はちょっと頑張ってみたんだけど中々うまくいかないの」
そういって少し照れた様な顔をしてえへへと笑う円香

ふぅん…と興味の無さそうな返事をした後お風呂空いたから、と伝え、その場を後にしようとしたのだがふと、いくつかの出来上がったクッキーが目にとまった

それに気付いた円香が
「あ、それ失敗作…焼きすぎちゃったみたいで、ちょっと固くなっちゃった」
「そう…一つ貰うわよ」
その中の一つを摘まんで尋ねる海咲
「いいけど…ちょっと苦いよ?」そんな答えを聞いてか聞かずかお構い無しにひょいと口に放り込む海咲

出来たばかりと思われるクッキーは香ばしくて味も悪くない
強いて言えばちょっと固いが全く気にならなかった
「これが失敗作?…普通に食べられるし美味しいわよ」
「ホント?ありがとう」
素直に喜ぶ円香
「でも駄目なの甘さも足りないしもっとサクサクしてる筈なんだけど」
「わからないわね…充分食べられるならいいじゃない」
そう言う海咲に円香は首を軽く横に降り
「海咲には…ちゃんとしたの贈りたいから…」
そう言った後にもちろんお義父さんとお義母さんにもね、と少し慌てたように付け足す円香の頬は少し赤い

そんな様子に一瞬ドキリとなりながら、それに気付かない様にして
「…まぁ頑張りなさい」
とそのまま自室へと戻る海咲

「よくやるわね…」
自室に帰りベッドに座りながらポツリと呟き、何気なくベットの上にあった雑誌を開いた

必勝!!大切な人にチョコレート!バレンタイン大特集!!

パタンと読まずに雑誌を閉じそのまま雑誌はまた枕元に放り投げておいた

263:海咲×円香 バレンタイン編
10/02/12 14:38:25 4OEAryLp
そして次の日の2月14日バレンタイン当日

海咲は朝食を食べながらテレビから流れるバレンタインチョコ人気ランキングを聞き流しつつ今日が何事もなく終わってくれることを密かに願った
実を言うと海咲がバレンタイン嫌いな理由はもう一つあった
言うまでもなくモデルの様な美少女の海咲は男女問わず人気があった
基本的に他人に態度は冷たいので余り表だってモテてる、と言うのとは違うが交際を申し込まれることは決して少なくは無かった
そんな男女問わず人気な海咲がバレンタインと言う絶好のイベントに何事も無く過ごせた試しほとんどは無かった
憧れのアイドルにプレゼントするつもりでチョコを渡してくる後輩女子学生
ガチで告白にくる女子学生、どさくさに紛れ告白してくる男子学生等からチョコ等を貰うものの、正直知らない他人から物を貰った物を食べる気は全くしなかったし、だからといって「いらない」と断ると泣き出す様な女子学生まで現れる始末

海咲がそんな事を思い出し少し憂鬱になっていると
先ほどまで隣に座って朝食を食べていたいた円香がいつのまにやらいなくなっている事に気付いた
と思うと円香が綺麗にラッピングされた袋を持って食堂に現れた

「お義父さんお義母さんバレンタインのクッキーなんだけど…良かったら貰って」といって両親に包みを渡す円香
「おぉありがとう円香」「私にも?ありがとうね円香ちゃん」

そう言って嬉しそうに受け取る両親を尻目に(はいはいどうせ私はお菓子とか作れませんよ、親孝行な娘じゃなくてごめんなさいね)と心の中でぼやきつつトーストをかじる
「あの…海咲?」
と、いつの間にか隣に少し不安そうな円香がオズオズと話しかける「なによ」
「…海咲にも…良かったら」
「…そりゃ貰うけど」
「ありがとう」
そう言ってホッとした様子でにこやかに、可愛らしく包装されたプレゼントを渡してくる円香
ありがとうって逆でしょ普通…
自分でわかっているのにお礼の言葉は素直に出てこない

その横では「開けていいかい円香?」「まぁお父さんたらせっかちね」と幸せそうな両親が早速円香の手作りクッキーに舌鼓を打ち「うん、流石円香美味しいよ」と感想を述べている
それを聞いた円香もホッと安堵した表情を浮かべている

…なにか面白くない
「ごちそうさま」
そう言って円香から貰ったプレゼントをテーブルにおき、そのまま学校指定のコートを着てマフラーを巻いてカバンを持ち学校に行こうとする海咲
「あ、海咲…これ…」
とテーブルのクッキーの袋を遠慮がちに指差す円香
「帰ってきてから食べるわよ。もう学校行くわよ?」
「え、あ…ちょ、ちょっと待って」
少し何か言いたげな円香だったが慌てて準備をしはじめる

そんな円香を尻目に「行ってきます」と両親に告げ円香を待たずにそのまま玄関の扉を開けた


264:海咲×円香 バレンタイン編
10/02/12 14:38:58 4OEAryLp
2月の半ばだけあって外の空気はまだとても冷たく少し身が縮むようだった
その寒さを誤魔化すように歩いていると少しして後ろから円香が追いついていた
そんな円香を一瞥だけし、そのまま歩き続ける海咲
そんな雰囲気の海咲を察してか円香も何か話すわけでもなく、しばし無言で並んで歩く二人の少女

とそこへ少し強めの風がふいたて思わず身をすくめる
(今日ニュースでは冬のわりに暖かい方とか言ってたのに…)そんな事を考えながら何気なく隣の円香を見ると…
「…あなたマフラーはどうしたのよ?」
円香はコートを着てるだけでマフラーをしていなかった
「え?あ…」
「忘れたの?」
「そうみたい…」
「全くもう…取りに帰ったら?」
「あ、いいよもうだいぶん駅に近いし、今日はあったかい方みたいだし」
どこがよ…と海咲は思ったが「そう…」とだけ返してそのまま登校することにした
心の何処かに自分が急かせたせいで円香はマフラーを忘れたんじゃないかと思い申し訳なく思う自分がいたがやはり素直に詫びを入れる事はできない
そんな自分に対して軽い憤りを覚えながら海咲と円香は学校に向かった

まだ登校時間には少し早い時間と言うこともあってか学校に登校してくる生徒はポツポツとまばらである

校門をくぐり駄箱をカチャリと開けるとなんとチョコレートらしき袋が入っている
今時珍しい方法ね…半ば呆れつつそれを何気なく手に取り、取りあえずカバンにしまう。
勿論食べるつもりはない。ただでさえ他人から貰ったチョコを食べるのを嫌がる海咲が顔も知らない他人のチョコを食べる気はサラサラ無かったがこのまま入れっぱなしにするのもおかしい
毎年の事だがこういったチョコをどう処理するかが悩みの種であった
食べないからといって捨てるのは勿体無い、というか気が引ける

海咲は溜め息を付きながらしょっぱなから幸先が悪いわ…とうなだれるのだった

それからは休み時間や教室移動の際に呼び止められたりしてチョコ等を渡されようとするが基本的に受け取るのを断れば諦めていたのでそれほど大変ではなかった
しかし女子校じゃあるまいし何故に渡す相手が私なのよ…と海咲は心底複雑な思いであった


265:海咲×円香 バレンタイン編
10/02/12 14:39:50 4OEAryLp

そしてそんなこんなで昼寝みの時間になった
いつものように少し小さめな弁当を持って海咲の席にくる円香
自分の弁当のフタを開けながら
「やっと半分過ぎたわ…早く学校終わらないかしら…」
と独り言の様に呟く海咲
そんな様子の海咲を少し心配そうに気遣いながら
「海咲今年はいくつ貰ったの?」
と聞きにくそうに尋ねる円香
「そんなのいちいち数えて無いわよ」
ぶっきらぼうに答える海咲
「ごめん…」
そう言って悲しそうにうつ向く円香を見て(円香に八つ当たりしてどうするのよ…)とまた自分に嫌気がさす海咲
そこからは特に会話もなくただ弁当を食べる二人

そして先に食べ終わった海咲が弁当のフタを閉めつつ席を立った
「何処行くの?」
「手を洗いにいくだけよ」
「うん…」
そう言って教室を出ていく海咲
手早く手洗いを済ませ、まだ人がまばらな廊下を歩いているとそこへ「麻生先輩!」と声をかけられる
嫌な予感がしつつ顔だけをそちらに向け「何か?」と対応する海咲
「あ、麻生先輩…これ…貰って下さい…!」
そう言ってこれまたやけに派手なチョコレートらしき袋を差し出して来るのは一つしたの後輩の女子学生だった。上履きの色で分かる。そしてもちろん見覚えはない
「ごめんなさいね、受け取れないの」
取りあえずテンプレの反応を返す海咲
「迷惑なのはわかってます…でもお願いします貰って下さい…気に入らなければ捨てて下さって結構です」
だからその捨てるのが嫌だから受け取れないって言ってるのよ…
最早捨てるのが前提である
「不味いとか美味しいとかそう言う問題じゃないの、人から物を貰うのが嫌なの。だから受け取れないわごめんなさいね」
海咲なりにだいぶ優しく言ってるつもりだが、そう言ってる間にもチョコを差し出す女子の目はどんどんうるんできているのがわかる
途方にくれる海咲だがここで泣かれたりするのが一番面倒だ
「わかったわ…受け取るだけよ…」
「…!!ありがとうございます!」
途端に先程の涙目はどこへやらパァァっと顔を輝かせ嬉々としてチョコを差し出す後輩
溜め息混じりに受け取る海咲
お礼を言って足早に差って行く後輩は見ながらどうしたものかと考える海咲であった


266:海咲×円香 バレンタイン編
10/02/12 14:40:17 4OEAryLp
教室に戻った海咲だが自分の席の回りに4、5人程の人が集まっているのを見る
いや、正確には海咲の席の隣にいる円香の回りに人だかりが出来ていた
珍しいわね…と遠巻きによく見ると少し戸惑ったような顔をしている円香の手の中には少し大きめの袋が握られている

「やっぱり月森さんって料理上手なんだね」「いつも麻生さんと食べてるお弁当も月森さんの手作りって本当?」「一度食べてみたかったんだぁ」「いつも手伝いしてるの?」「お菓子も作れるんだ~」

どうやら昨日の試作クッキーの余りを配っているようだ
「え、どれどれ俺も貰って良い?」「あ、俺も俺も」
そんな騒ぎを聞き付けてか他のクラスメイトにも騒ぎは感染しつつある
ただでさえ普段余り人と喋らないのに男子生徒との会話(?)まで入りあたふたとした様子の円香

…なにそれ

邪魔だし。私の席の周りに人混み作らないでよ
何故か無性に腹が立った海咲は人混みになりつつある自分の席に戻る気にもならず、そのままくるりと反転して教室を出ていった
手には少し派手なプレゼントを持っているのでそのまま校内をうろつく気にもならずとりあえず人が少なそうな屋上に行く事にした


重い屋上の扉を開けると今朝程じゃないにせよ2月の風が容赦なく吹き付けてきたがそんなのお構い無しにそのまま屋上の空の下に出ていった
それに今の海咲にはこの冷たい風がむしろ心地よかった
予想通りこの寒さの下では人は誰もおらず海咲一人だけだった

そのまま柵にもたれかかる様にして校庭を眺める。しかしやはり屋上と同じで2月の空の下ではやはり人はほとんどいなかった
「なによ…」ポツリと呟く海咲
先程までは意味不明な感情で教室を飛び出すように出てきた海咲だが冷たい風に吹かれていくぶんか頭も冷え少し冷静になりつつあった

私はなにをこんなに怒っているんだろう
円香が目立つのが気に入らないの?円香がチヤホヤされてるのが悔しいの?
引っ込み思案で友達が決して多いとは言えない円香に他の友達や男友達だって出来るならそれは良いことじゃない。なんで素直に喜んであげれないの…それが…友達…ってものじゃないの…

ホント…私って最低…

そこまで考えるとそれ以上考えるのを止め、柵に項垂れる様に額をつけた
氷の様な鉄製の柵が額の温度を奪っていく
このままこんな汚い感情も一緒に吸いとってくれればいいのに
そう願う海咲だったがこの意味不明感情は海咲を解放してはくれなかった


267:海咲×円香 バレンタイン編
10/02/12 14:40:51 4OEAryLp
キーンコーンカーンコーン
無機質な昼休み終了のチャイムの音が鳴り、ハッと我に帰り慌てて腕時計をみるとなんと十分以上そこで項垂れていた事に気が付く
体はすっかり冷えきっている
なにやってんのよ私は…そんな自分にまた嫌になりながら急いで教室に戻る海咲

教室に入ると運の良い事にまだ先生はきていなかった
当たり前だが先程の席の周りの人混みも消えている
そのまま自分の席につく海咲
と、何処からか視線を感じる海咲
そちらに視線を向けるとやはりというか、パチリと円香と目があった
どこ行ってたの?
心配そうなその目はそう言っていた
関係ないじゃない
プイッと直ぐに視線をそらす海咲
と、もぅ充分頭は冷えたかと思ったがまだ円香に対して八つ当たりしている自分に気が付き、また落ち込む海咲
それでもまだチラチラと心配そうな視線を向けてくる円香だったが先生が教室に入って来たので二人の無言の会話は終わりを告げた


そして何も内容が入って来ない授業も終え、帰りのHRの時間になった
ありがたいことに担任の教師と先程の授業の教師は一緒なのでそのままHRとなった
空き時間があってはその間円香とうまく喋れる気がしなかった
殆ど意味の無いHRが終わりようやく帰る時間になる
いつもの様に円香と一緒に帰るつもりも待つつもりも無かった
今円香と喋ると必ず傷つけてしまう…そんな確信があった
もう直ぐに帰ろう…
しかし、そんな思いは直ぐに崩れさった
「麻生ちょっといいかな」
見れば同じクラスの男子生徒。普通に好青年で女子からの支持も高い。が、正直全く興味なかった
「ごめんなさい、急いでるの」
この間約0,3秒。即答である
「頼むよ麻生…どうしても聞いてほしいことがあるんだ」
「ここでいいわ。なに?」
「えと…ここじゃ駄目なんだ…」
伊達に何度も交際を申し込まれてはいない。最初からそんな気はしていたが長年の経験からすればこれは間違いなく告白の類いだ。いやむしろ経験の必要もないくらい明白だ
「私はここで構わないわよ」
流石の麻生さんは公衆の面前で振る気である
「た、頼むよ麻生…時間はとらせないから」
「…」
ここまで食い下がらないのも珍しい…もうこれは遠回しのノーサインととらえてもおかしくはない言い回しであるにも関わらずまだ諦めない
玉砕覚悟というやつだろうか
「…わかったわよ。さっさとしてくれるかしら」
折れた。言うこと言わなきゃ気がすまないということなら言わせてやってもいい。
それにこれで円香と帰らなくてすむ言い訳も出来る、というのが大きかった
「ホントか?!?すまん麻生」
嬉しそうな男子生徒を尻目にあんたがそれ(玉砕)で満足ならね
と、そんな冷めた事を思いつつ円香を探すと少し離れた所でうつ向き気味にこちらの様子をうかがっているようだった。聞いていた様なら話は早い
「円香」
呼ばれた円香はビクリと顔を上げる
「先に帰ってて」
「え、でも…」
「待たないでいいから」
「…うん」
円香の顔を見ないで言う海咲に円香の瞳が悲しく揺れているのを気付くことはなかった

268:海咲×円香 バレンタイン編
10/02/12 14:41:45 4OEAryLp

「それで、何処へ行けば良いのかしら?」
「じゃあ屋上で」
またあそこに行くの…
嫌でも昼間の事を思い出し行く気がぐっと失せたが仕方ない。
「…わかったわ」
もうさっさと終らせて早く帰りたかった
そしてその場に立ち尽くす円香を残し教室を出ていった

本日二度目の屋上にでる海咲。やはり人は一人もいない
昼間と違うのは校庭にクラブ活動をしている学生が何人かチラホラと見える所か
「麻生」
声を聞いて目的を思い出す海咲
呼び掛けに答えずそちらに体向き直す
「その…逆チョコって知ってるか?」
知ってるわ。女だけに飽き足らず男にまでにもチョコを買わせようという企業戦略の事でしょ、と口には出さずにひねくれた事を考える海咲
「俺…作ってみたんだ」
少し恥ずかしそうに無機質な袋を出す男子
「そう」
たしかこの男はサッカー部のエースだったかしら。きっとこの男のファンの娘ならこんな逆チョコなんてしてる事さえギャップが良いとかいって余計好きになるのかしら…と言うかそれがこの男の狙いなの?ホントわからないわね…
この状況にまるで他人の事の様に観察をしている海咲
「あの…よかったらさ…付き合ってくれないかな」
「ごめんなさい。興味無いの」
シレッと答える海咲
「わ、分かってるんだ、好きじゃなくてもいい。友達になってほしいんだ」
「ごめんなさいね、ありえないから」
恐ろしい程容赦ない。ただ本来ならそもそも別の場所を指定してきたら絶対に行かない。海咲がわざわざこんな所まで付き合っているのは奇跡に近い
…たとえ円香と帰らずにすむ、というのが一番の理由だとしてもだ
「友達ってだけでもいいんだ…携帯アドレスとか駄目かな?」
「駄目ね、無闇にアドレスは教えない主義なの」
「そうか…」
「ごめんなさいね。じゃあもう行くわね」
「あ、あぁ…ありがとうな…わざわざ」
「別に」
さてこれで帰れる
ふと何気なく校庭をみると先程より人が増えている。帰宅する学生、クラブ活動をしている学生、バレンタインらしく告白らしき事をしてる男女までいる
…校庭からじゃ見えにくい場所を選んだつもりかもしれないけどここからじゃ丸見えね…
そんな事を思いその男女を何気なく見ていると…
……!?円香!?
よく見ればなんと女は円香だった。物心ついた頃からずっと見てきた姿だ。見間違う筈は無い
「ちょっとごめんなさい急ぐから!」
「え、あ、ちょっと」
チョコの袋を持ってつっ立っている男子をその場に残し屋上を出ていく海咲
行ってどうするとか何か考えているわけではなかった。ただ、いてもたってもいられなくなったのだ

269:海咲×円香 バレンタイン編
10/02/13 00:44:42 0JMPJsE+

見付けた…!
真っ直ぐに屋上から見た場所に行き、円香を見付けた海咲。しかし、夢中で屋上を飛び出してきたがいざ来てしまうとどうすればいいかわからない
とりあえず状況を把握しなきゃ…
そう思いソッと二人からは見えない柱の影に背中を預けもたれるようにして円香と男の様子をうかがう事にする
チラリと円香の顔を見てみると遠目でも分かるくらいに顔が赤い…
恐らくこんなこと初めてで恥ずかしさと困惑してるのが大きいのだろうが海咲にはそれが面白くない
「バカ…そんな顔したら男はますます脈ありとか思って調子にのるだけじゃないっ…!」
思わずそんな心の声が漏れる海咲
男の方は…と見ると何処か見覚えがある…と、ふと先程告白してきた男といつも行動を共にしてる男ということを思い出す
これは偶然だろうか…
少し考える海咲だが直ぐに想像がついた
なるほど…さっきの男がまず私に声をかけて円香を一人にしてそこへあの男がアタックにいったのね…
いつも円香と一緒にいる私が邪魔だったって訳…どおりで必死に食いついてくると思ったわ…さっきの男もチョコまで用意したからには私を遠ざけるだけが目的じゃないでしょうけど、お友達にチャンスも作ってあげれて一石二鳥ってわけ…泣かせるじゃないの…
ハァ…と思わず呆れて溜め息が漏れる海咲
あくまで推測の域なのでなんとも言えないがとりあえず今はそんな事はどうでもよかった

もう一度ソッと柱の影にから顔を覗かせる海咲
なにやってんのよ私は…と心の隅で呆れ返ってる自分がいるがそんな自分の声に耳を塞ぐ
残念ながら会話は聞こえないがどうやら告白を断っているようなのは確かのようだ
こっちが情けなくなる程何度も頭を下げている…
しかし、男の方は諦めていないようで中々解放しようとしない。
気の弱そうな円香の性格を見て強めにいったら付き合えるかも、とか思ってるのかしら?ふざけないでよ…!
そんな光景を見ているとだんだんとイライラが増していく海咲
と、なんと円香が携帯を取り出した
ちょ、ちょっと!まさかアドレス交換する気なの!?
ギョッとして思わず少し身を乗り出す海咲
しかし携帯を持ったままオドオドとしているだけの円香
どうやら交換する気は無いようだが男に言われて出してしまったと言うところか…
そんな円香の様子に痺れをきらしたのか、なんと男が円香から携帯を受け取り、操作し始めた
…!!あの男いい加減に…!!
気が付けば海咲は柱の影から出て真っ直ぐに二人の方へ肩を怒らせて歩いていっていた
そして二人の間に割って入り男の手から円香の携帯をパシッと奪い取った
「えっ!?海咲っ!?」
「あ、あれ…麻生さん?」
驚く二人を無視して円香の手を掴み
「帰るわよ!」
とそのままその場を離れようとする海咲
「え、あ、ちょっと待てよ!」
呆気にとられていた男が我に帰り呼び止めるが
「……何かしら…!」
いつもの澄んだ綺麗な声でなく低めの少しドスの気いた声と共にゆっくりと振り向く海咲
その瞳は氷の様に冷たく、普段の美しい顔にも闇が入り、零シリーズのラスボスも裸足で逃げ出す形相である
「な、なんでもないです…」
思わず後退りをしながらそう言うのがやっとの様子の男
「あらそう…じゃあさようなら…」
そのまま円香を引っ張る様にしてその場を後にする海咲
「こ、こぇぇ…」
後にはそのままその場にへたりこんでしまった男だけが残ったのだった


270:海咲×円香 バレンタイン編
10/02/13 00:45:37 0JMPJsE+
先程の興奮醒めやらぬまま、円香の手を引っ張る様にして校庭を突っ切る海咲
「み、海咲…」
背後から声が聞こえるがそれに答えずにそのまま校門を抜けても止まらず円香の手を引いたまましばらく歩き続けた

そしてそのまま歩き続け、人通りの無い場所までくると繋いだ手をふりほどく様にして離し円香の方へくるりと向きなおした

「……」
「海咲…?」
「なにしてたの?」
「え…」
「なにしてたのって聞いてるの!」
声を荒げる海咲
「えと…その…」
言いにくそうにうつ向く円香
「あなたがボーっとしてるから変な男につけこまれるんでしょう!」
「……ごめん」
やっとそう言う円香
「全くもう!携帯まで出して信じられない…あなたがそんなだから…!」
「……」
「そんなだから…」
そこから言葉が続かなくなる海咲。涙が溢れそうになっている自分に気付いたからだ
対する円香も何も言わずただうつ向いてしまっている

そこから何も言わずくるりと身をかえし、そのまま歩き始める海咲
このままでは円香の前で泣き出してしまう。それだけは絶対に避けたかった

少し歩くと、後ろから遠慮勝ちに付いてきている気配がする
「ついてこないでっ!」
後ろを見ずに叫ぶように言い放つ海咲
ビクリと止まる足音の気配
もうそこから後ろを気にする余裕はなかった
そのまま何も考えず逃げるようにその場から立ち去った

271:海咲×円香 バレンタイン編
10/02/13 00:52:28 0JMPJsE+
すみませんここでいったん区切らせていただきます。ここで、と言っても既に昼の貼り付けの規制で弾かれていましたが…w
続きはまた明日に貼り付けようと思います。無駄に長くてホントすみませんスレ汚ししてしないか心配です…

272:名無しさん@ピンキー
10/02/15 01:39:29 4gCG6wjH
円香かわいいよってバレンタイン終わっちゃったよお!

273:海咲×円香 バレンタイン編
10/02/20 02:14:45 nFy8zg7k
すみません規制されて書き込めませんでした…orz
読んでくれてる人いるんですね!嬉しいです!一人でも読んでくれる人がいるとわかるだけでもだいぶ励みになります!ありがとうございます
というわけで続き張っていきます


274:海咲×円香 バレンタイン編
10/02/20 02:15:27 nFy8zg7k
ふと気が付くと家に着いていた。どうやって帰ってきたかほとんど思い出せない
何も考えていなかった。頭が考えるのを拒否していた
ガチャリと扉の鍵を回し、少し大きめの扉を開ける
当然だが誰もいない
シンと静まり帰った家の中に入りフラフラと自室に向かう海咲
ふと、テーブルに置いてある今朝円香から貰ったクッキーの袋が目に入った
手に取る気にはならず部屋に向かう海咲
そして自室の扉を閉めようとしたのだが…

パタン、と部屋の扉を閉める
持ってきてしまった…
どうしても無視できなかった
コートとマフラーをハンガーに掛け洋服タンスにしまうと力なくベッドに座る海咲
「…」
ソッと袋を開ける海咲。まさかこんな気持で食べることになるなんて…
クッキーの袋を開けるとフワリと甘い匂いが漂ってきた
その甘い香りで気分が落ち着いていくのが分かる
一つをを摘まみ半分をかじる海咲
「…美味しい」
思わず口からそんな感想が漏れる。本当に美味しかった。一日置かれたクッキーはとても甘くて、それでいて甘過ぎずサクサクと柔らかくて…昨日つまみ食いしたクッキーとは明らかに違った
料理に詳しくない自分には上手く言葉にできないが本当に美味しかった
円香はこれを完成さすまでどれだけ費やしたんだろう…大量の失敗作を出してまで…私と…お父さん達の為に…
手に持っていた半分を食べ、もう一つを手に取ろうとするとクッキーの袋の横にもう一つ袋が有ることに気が付く
何かと思い袋を開けてみるとなんと円香の手編みらしい手袋が入っていた
「これ…」
円香はわかっていたのだこんな私のこと…
そこまで考えて不意に視界が涙で歪んだ

分かっていた。今朝からのこの感情は…嫉妬だって事
円香にとって自分が誰よりも特別な存在じゃないと気がすまないのだ
それが例え両親であろうとプレゼント等が同じなのは気に入らない
自分が一番になりたかった
円香の一番大切な人に
私が…円香を一番大切な人と思っているのと同じように、円香に思って欲しかったのだ

私は…円香の事が…好き…

ポタリ…と制服のスカートに大粒の涙が一つ落ちる

今まで考えないようにしていた。それを自覚してしまうと何かが壊れてしまうような気がして
円香が友達に囲まれたり男の子と話したりしている時でもそれを嫉妬と自覚しないようにしてただただ、イライラとしたり嫌な気分になっていた
円香が自分以外の誰かを見るのが嫌なのだ。どうしようもなく
理不尽な八つ当たりもした。円香は悪くないのに悪いのは全部私なのに…
それなのに円香はいつも私の傍にいてくれた。ただ、寄り添うように傍にいてくれた
今回だって私だけの為に手袋まで用意してくれてた
それなのに私は…


275:海咲×円香 バレンタイン編
10/02/20 02:15:56 nFy8zg7k
手袋を胸に抱きかかえるようにし唇を噛み締める
涙が次から次へと溢れでてくる
円香……円香に会いたい…円香に会って謝りたい…円香…早く帰って来て…会いたいよ…

とその時ガチャリと玄関の扉が開く音がする

ハッとして慌てて涙を拭い自室を飛び出し玄関まで降りていき
「円香!?」
と出ていったが
「んー海咲ちゃん?ただいま~」母親だった
「…お帰りなさい」
「どうしたの?円香ちゃんまだ帰ってないの?」
「別に…なんでもない」
「そう?なんだか元気がないみたいよ?」
「何でもないっていってるでしょっ」
そのまま部屋に戻る海咲

辺りはもう暗くなりはじめている。いくらなんでももう帰って来てもいい頃なのにまだ帰ってこない
今更ながら帰り道での行動が海咲に重くのしかかった
どうして私はいつもこうなんだろう…ずっと傍にいてほしいにのに遠ざけてしまう

とにかく謝まらなきゃ…そう思い制服のポケットから携帯を取り出し(今何処にいるの)と短い文章を作成し送信した
取りあえず今何処にいるかだけでも知りたい…

ところが五分たっても十分たっても円香から返信が来ない
いつも円香は海咲のメールの返信を怠ったことはなかった。直ぐに返事をしてくれていたのに
返事をしたくないほど落ち込んでしまったの…
嫌…円香にだけは嫌われたくない…
自分からあんな仕打ちをしておきながらこの様だ。…私は本当に弱い人間だ…ほんの少し円香が遠のいていく事を感じると途端にもうこんなに弱ってしまっている
(お母さんも心配してるの。何処にいるかだけでも教えて)
また送信。もはや返信をまっていられなくなった。母親の事を言えば円香もきっと返信するはず
しかし、やはり返信は来ない
電話をしてみるがしばしの呼び出し音の後に留守電に繋がるだけだった
(ごめんなさい私が悪かったから何か返信して)
(どうしたの?無事なの?何かあったかと思うじゃない。お願い返信して)
そんなメールを時間を空けつつしばらく送りつけ、合間に何度も電話をする海咲だがどうしても返信は来ない。最初のメールが送信されてからなんと既に一時間もたっていた
いよいよ海咲は本当に不安になってきた。まさか円香の身に何かあったの…?強姦に襲われたり…ってまさかあの男に捕まってるんじゃ…
探しに行かなきゃ!
いてもたってられなくなる海咲
制服のポケットに円香から貰った手袋をいれ、洋服タンスからコートをひっつかみマフラーを巻くと部屋を飛び出していった


276:海咲×円香 バレンタイン編
10/02/20 02:17:02 nFy8zg7k

「あら?海咲ちゃんどこいくの?」
それは私が一番聞きたい
「ちょっと出てくる」
「ちゃんと仲直りして帰ってくるのよ~」
お見通しと言うわけか…
「行ってきます」
気にせずにそのまま玄関を飛び出した

もう辺りは暗くなっており、寒さは今朝よりも増しているようだった
こんな寒い中何処にいるのよ…
そして最後にもう一度…と電話をかける海咲
携帯からは虚しく響く呼び出し音がなるだけだ…とその時
ヴヴ…
コートのポケットからわずかな振動を感じる海咲
まさか…と恐る恐るコートのポケットを探ると……あった…円香の携帯
そういえばあの男から円香の携帯を取り返してから円香に返してなかった…
最悪だわ…ということはあの子携帯も持たずににこんな時間まで…
もぅ…何処にいるのよ…こんな時円香が行きそうな所っていったら…
あそこ…かしら…

家から少し遠い場所にある子供の頃二人でよく遊んだ公園がある
取りあえず一番近くのそこへ行く事にした。

少しして公園に着いてはみたが暗くなった公園には誰もいないようだった
いや…一人いた…電灯の照らすブランコにポツリと一人キコキコいわせながら座っている女らしい人影ががみえる
円香だ。まさか一発で見付けれるとは
直ぐにでも駆け寄りたい衝動に駆られる海咲

しかし何て声をかければいいのだろうブランコに座ってうつ向く円香はこちらに気付いている様子はない
まさかこの寒空の下ずっとここにいたの…風邪ひいたらどうすんのよ…
とにかく謝らなきゃ…


277:海咲×円香 バレンタイン編
10/02/20 02:17:24 nFy8zg7k
ゆっくりと円香に近づく海咲
と、足音に気付いてか不意に顔を上げる円香
「「あ…」」声をハモらす二人
そしてビクリと足を止める海咲
「海咲…」
謝らなきゃ
「…高校生にもなってブランコ?」
「…」
そうじゃないでしょ!謝りなさい海咲!
「…探したわよ…心配かけて…」
海咲の気持ちとは裏腹に言葉は上手く出てこない。
円香はと言えば先程顔を上げたかと思えばまたうつ向いてしまったきり黙ったままである
「…」
「…何か喋れば?」
そう言って円香の前まできてその場に膝を抱えるようにしてしゃがみこみ、円香と目線を合わせる海咲
「…ごめん……」
「っ…謝らないでよ…」
悪いのはこっちだし謝りたいのもこっちなのに
「ごめんなさい…私…いつも海咲に迷惑ばかりかけて」
ポタリ…とうつ向いたままの円香の顔か涙が地面に落ちて行き、そのまま地面に吸い込まれていった「円香……」
「み、海咲に心配かけて…余計な事したり…嫌な気分に…させたりして…」
涙ながらに語る円香の言葉は途切れ途切れだ
「…止めて」
「私なんか…海咲の傍にいないほうが…よかったんじゃない…かなって!?」
唐突に言葉が切れる円香。
気が付けば海咲は円香をそっと抱き寄せていた
「止めて…お願い…そんな事言わないで…」
「み、みさき…」
「…私が悪いの…全部…」
「…そんな」
「迷惑なんて思ってない…私は…――円香とずっと一緒にいたいの…」
思っていたよりもずっと簡単に言葉は出てきた
「……みさき…私…も…」
「…うん」
涙を流す円香に対し抱き寄せた腕を少しずらしよしよしと頭を撫でる海咲。切り揃えられた髪は撫でるのに合わせてサラサラと滑り海咲をどこか懐かしい気持ちにさせた
「……私も…海咲の傍に…いたいよ…」
エグエグと涙声でそう告げる円香。ソロソロと円香の腕が背中に回って来るのを感じる
「うん…ありがとう…」
「みさき…寂しかったよ…!」
「私も…円香に会いたかった…」
それからしばらく無言で抱き合う二人。時折スンスンと鼻をすする音につられて自分も泣き出しそうになるが我慢する。それに先程まであんなに不安になり弱気になっていたのに円香が傍にいるだけで途端に落ち着いている自分に気が付いた
やはり私には円香がいないと駄目みたいね…
離れていたのはほんの数時間。しかし二人にとってはとても長い時間離れていたように感じ、その隙間を埋めるかのようにお互いを抱き寄せる二人


278:海咲×円香 バレンタイン編
10/02/20 02:18:14 nFy8zg7k
「…海咲ありがとう…もぅ大丈夫」
「うん…」
そっと体を離す二人
円香が泣き止むまでお互いを抱いていたせいか顔を合わせるのが久々な気がした
「「…」」
なにか気まずい…
と突然円香がフフっと笑う
「な、なにがおかしいのよ…」
「うん…ちょっと昔を思い出したの…海咲…子供の頃からちっともかわってない」
「…?」
「うん…子供の頃ね…私が寂しくて泣いてた時とか…いつもこうやって私が泣き止むまで頭撫でてくれたよね…」
「…あなた泣き虫だったものね…」
えへへ…と恥ずかしそうに笑う円香
「ありがとう…海咲」
そう言って微笑む円香の笑顔をみて頬が少し熱くなるのを感じる海咲
「…別にたいしたことじゃないわよ…寒いしもう帰るわよ」
それを誤魔化すようにしながら言う海咲
「うん」
スッと立ち上がる二人

そこに少し冷たい風が吹き付けてくる
少し身震いをして円香の方を見るとやはり寒そうにしていた
そういえば円香は今朝マフラーを忘れて出てきていた。この寒い中コートだけだ
「円香」
と声をかけると此方を向く円香
「寒いから…」
「え…」
と困惑してる円香を他所に自分が巻いていたマフラーを外し円香に巻き付け始める海咲
「でも…海咲が寒くなっちゃうよ」
「大丈夫よ…私にはこれがあるから」
と、いったん手を止め、制服のポケットから円香の手袋をはめる海咲
「あ…それ…」
「あ、ありがとう…あったかいわ…」
「…良かった」
そう言って再び円香にマフラーをクルクルと巻き付けてから気付いたがお互い正面を向いていたので凄く顔が近い
気付かなければ良かった…と思ったがもう遅い
らしくもなく少しうつ向き気味にマフラーを巻く海咲
円香の方も顔を赤くしてうつ向いている


279:海咲×円香 バレンタイン編
10/02/20 02:18:38 nFy8zg7k
「お、終わったわよ」
「…ありがとう海咲…」
スッと顔を上げる円香
至近距離で視線が絡む二人
いつもは恥ずかしさから直ぐに視線をそらすのだが今日は何故かお互い視線をそらせなかった
薄暗い電灯の灯りでも充分に分かるほど顔が赤い円香。少し熱が入ったようにうっとりとした瞳に目が離せない
円香があの男に告白された時のただ恥ずかしさからくる赤い顔とは明らかに違う自分を見る熱の入った瞳
綺麗過ぎてどうかなってしまいそうだった
あぁ私は…こんなにも円香の事…愛してる…
改めてそんな事を思う海咲
見つめ会った時間は数秒なのかもしれないが二人にとってとても長い甘美な時間が流れる
気付けば海咲はマフラーの端を持っていた手をソッと引き寄せるようにして円香の顔を寄せて自分の唇と円香のを合わせていた
二つの影が一つになったのは一瞬で直ぐにまた二つに別れた
「…海咲!?」
「……!」
当たり前だが驚いたような円香の顔
海咲自身もなぜあんな事をしたのか分からない。自然と引き寄せられるように唇を合わせてしまっていた
火が出るんじゃないかと思う程顔が赤くなっている円香
対する自分も熱い程顔が熱を帯びてる事がわかる
「海咲…」
唇を指先で軽く触れるようにしてワタワタしている円香
「…バ、バレンタインだから」
「え…」
「バレンタインだからプレゼントよ…これでアイコだからホワイトデーはお返ししてあげないから…」
軽くソッポを向きながらそう言う海咲
円香はというと目をパチパチとしてポカンとしてたかと思うと
「…ズルい」
と言ってクスリと笑った
「でもありがとう…海咲…」
「…べ、別に」
2月の寒空の下だったが二人は身体も心も暖かだった
「さぁ帰りましょう。お母さんが心配してるわ」
「あ、うん」
そう言って歩き始める二人
と…円香がオズオズと手を握ってきた
大丈夫…もう離してあげないから
そんな気持ちをこめて何も言わずただギュッとその少し冷えた手を握り返した

毎年憂鬱でしかなかったバレンタインだがたまには悪くないわねとしみじみ思う海咲なのだった



280:海咲×円香 バレンタイン編
10/02/20 02:22:57 nFy8zg7k

以上です
なんかもう色々すみませんでした
落ちがないのは一応仕様です
ほんと長くてすみません
もしよろしければまたなにかコメント入れてくれれば凄く嬉しいです
駄文の分際でコメントを欲しがるなんて厚かましいですがコメントをいただけると本当に嬉しいのでw
またSS職人さんが再び現れてみさまどを書いてくれるその日まで私のみさまど普及活動は続きます(ぇ
実は一応この話の円香視点も書いてはいるんですが…まぁこれもまた同じくらい長いので貼り付けるかちょっと反応見てから考えます…


281:名無しさん@ピンキー
10/02/20 12:03:18 DAEVrSmc
GJ!!
はじめから両想いなのにすれ違ってしまう
この微妙な距離感が個人的にたまらないんだよなみさまどはw

実はここ数日続きが投下されるのを
wktkしながらこっそり待ってたりしたんだが
レスした方がよかったな、スマソ
俺みたいな人は複数いると思うので気にすることはないと思うが…
これからもどんどんみさまど投下してくれると嬉しい
円香視点もぜひみたいw

282:名無しさん@ピンキー
10/02/20 14:06:52 h8nCo8YU
GJ
ニヤニヤしながら見てますたww
ぜひ円香視点も!

283:名無しさん@ピンキー
10/02/20 14:17:26 DstpjTiF
GJ!GJ!!

ぜひこの流れで流歌も!!

284:名無しさん@ピンキー
10/02/21 14:02:28 a56uEzhv
わざわざレスをありがとうございます!救われましたw
貼り付けてもいいみたいなんで円香視点を書き上げようと思います
まだ全部書き終わってないので…近いうちに貼り付けるんでそのときもまた生暖かい目で読んでやってくださいw

285:名無しさん@ピンキー
10/02/22 01:10:11 im5B4Cb8
GJ。円香見てるとほんと切なくなるよ。本当に可愛いなこの二人は!

ところで重箱の隅つつくみたいで申し訳ないんだけど、零の時代は
携帯ない時代って設定だからメールはないかもしれないよw

286:海咲×円香 バレンタイン編 円香視点
10/02/28 16:35:45 4JfJtdMx
どうもみさまどバレンタインの海咲視点を書いた者なんですがやっと円香視点が書き終わりました…
…長すぎです…ダラダラと長いです。予想はしていましたが月森さんは麻生さんよりウジウジと考え事しすぎて物凄いことになりました
さらに今回SSを書くに当たってSSの書き方や、やってはいけないタブーなるものを色々調べてみたんですが3つぐらいタブー犯してました
謙虚とかではなく本当にただの妄想駄文なので期待しないで見てやってください
今回も長いのでいっきに投稿しきれないので日にちを分けて投稿させていただきます。連続投稿規制回避のため時間も空けるのでいきなり終わるかもです。規制されませんように…

海咲×円香 もちろん百合注意
・みさまどだとぉぉぉぉ!!なんでもかm(ry という人
・上でもいった用に駄文なんでどんなSSでも普通に読むよーという心の広い人どうぞ読んでやってください


287:海咲×円香 バレンタイン編 円香視点
10/02/28 16:37:31 4JfJtdMx

2月13日
月森円香はその日の夕食の片付けを手伝い終えると義理の母親に台所を貸してもらい明日のバレンタインに備えクッキーを作る準備を始めた

去年はベタにチョコレートを作ったので今年はクッキーを作る事にしたのだが中々上手くいかない
最初のクッキーが焼き上がったのだが出来がいまいちだった
まぁ最初から成功する筈が無いことは承知の上だ
早速先程の失敗を生かして二度目に挑戦にとりかかろうとすると背後から
「円香」
と声をかけられる
振り向くと風呂から上がったばかりと思われるこの家の娘で円香の大切な友達であり、同時に家族でもある麻生海咲の姿があった
「あ…海咲」
もうバレてしまった。当たり前だが一緒に住んでいるので毎年バレンタインのプレゼントを最後まで隠し通せた試しはない
「何作ってるの?」
そう言って近寄ってくる海咲はまだ髪が完全に乾いていない様でフワリとシャンプーの良い匂いがした
そんな海咲にクッキーを作っている事や上手くいかない事を話すのだが返ってきたのは
「ふぅん…」と言ういかにもどうでもよさげな気の抜けた返事だった
海咲がバレンタインが余り好きじゃないのは知っている
バレンタインというイベント自体が好きじゃない事もあるようだがもっと大きな要因として
美人で誰でも目を引くその容姿は男の子はもちろん女の子にも人気なようで毎年いくつかチョコを貰ったり交際を申し込まれたりしてる
でも海咲はそんな事嬉しくも何ともないみたいで毎年バレンタインが近づいてくると慢性的に不機嫌になりがちなのだ
特に貰ったチョコの処理が悩みの種らしかった
たしか去年はお義父さんに無理矢理食べさせてたような…
そんな事を思い出していると海咲が先程量産してしまったクッキーを見ている事に気付く
「あ、それ失敗作…焼きすぎちゃったみたいで、ちょっと固くなっちゃった」
一緒の家に住んでいるとこんな風に失敗作さえも見られてしまう
「そう…一つ貰うわよ」
と言ってクッキーを手に取る海咲
「いいけど…ちょっと苦いよ?」と、言い終わるか終わらないかの内にヒョイと口に放り込む海咲
失敗作とは言え、美味しくないっていわれちゃったらどうしよう…

288:海咲×円香 バレンタイン編 円香視点
10/02/28 16:39:46 4JfJtdMx
そんな事を思い不安になる円香だったが
「これが失敗作?…普通に食べられるし美味しいわよ」
「ホント?ありがとう」
海咲に褒めて貰えた…。思わず笑顔になる円香だったが
「でも駄目なの…甘さも足りないしもっとサクサクしてるはずなんだけど…」
「分からないわね…充分食べられるならいいじゃない」
「海咲には…ちゃんとしたの贈りたいから…」
円香がそう言った後海咲が少し目が泳ぐように視線をずらしたのを見て
「もちろんお義父さんやお義母さんにもね」
と慌てて付け足す円香
動揺させちゃったかな…
もちろん、義理の両親にちゃんとした物を贈りたいのは本当だ
十年前に引き取ってくれてなければ身寄りの無い自分は今頃どうなっているかもわからないし、義父母ともにとても良くしてくれている。
麻生家の両親には感謝してもしきれない
しかしそれ以上に、毎年結構な数のプレゼントを渡され、そのほとんど全て受け取るらず断っている海咲だったが円香からのプレゼントだけは素直に受け取ってくれている
そのことを意識してか海咲がバレンタインにそれほど乗り気じゃない事が分かっていてもどうしても力が入ってしまうのだ
「…まぁ頑張りなさい」
少し呆れる様にして言い残して海咲は自室に帰っていった
さて続きだ。先程の失敗を生かして次こそ納得のいくものをつくらなければまた失敗作が増えてしまう…

さて数時間後…そんな決意虚しくやっと納得できるクッキーができあがったのは最初のクッキーから数えて三度目の試みでの事であった
これなら海咲に…もとい両親と海咲に喜んでもらえるかも
とふとテーブルを見ると失敗作が山とつまれていた。そういえばこの失敗作どうしよう…と今更ながらに気付く円香
自分で食べるには多すぎるし海咲や両親に食べてもらうんじゃ意味がない
一つをつまんで食べながら少し考えとりあえず明日学校に持っていってみようかなと考えた。
たしかに海咲の言う通り味も悪いわけではないみたいだし…
さらに去年のバレンタインに義理チョコの余りを配っている人を思い出したのだ
引っ込み思案な円香が自分から配るなんて事はできなさそうだがとりあえず持っていく事に決めた
両親と海咲の分を袋に詰めて失敗作…もとい誰かに配る分を少し大きめの袋に詰めて自室に戻る円香
そしてこの日の為に作っておいた手編みの手袋を手に取った
気に入ってくれると良いけど…
海咲はあぁ見えて実は結構寒がりで毎年の冬になると早く春にならないかしらと口癖の様にぼやいていた
シンプルなのが好みの海咲にあわせて黒を基準にした手袋
学校にも付けて行っても支障のないデザインに仕上げたつもりだ
学校まで着けていく程気に入ってくれるかわからないが登下校につけられなければ殆ど意味がない
綺麗にラッピングをして海咲の分の袋に入れて腕に抱き明日の事を思った
海咲…喜んでくれるかな…受け取ってもらえなかったらどうしよう…手袋だって変に思われないかな…
そんな事をふつふつと考え先程から海咲の事ばかり考えている自分に気が付いた
そんな自分に対して苦笑しもう寝ることにした。少しクッキー作りに時間をかけすぎたようだ。もう深夜0時を回っていた
ベッドに入ると連日の手袋作りで夜遅かったせいかすぐに眠りについた

289:海咲×円香 バレンタイン編 円香視点
10/02/28 16:40:18 4JfJtdMx
2月14日バレンタイン当日
円香はいつものように朝食とお弁当作りの手伝いをした後海咲の隣で朝食を食べていた
ダラダラと流れる朝のニュース番組の中、気温情報だけ耳に入ってくる
(今日は暖かい方…良かった海咲が寒くなくて…)
そんな事を思い手早く朝食を食べ終わると「ご馳走様」といって食器を流しに持っていきそれから一旦部屋に戻った
もう制服にも着替えているし学校に行く準備も済ましてあるのだがプレゼントのクッキーは部屋に置いてある
配るクッキーの入った大きめの袋をカバンに入れ三つの綺麗にラッピングされた袋を持ってそのまま食堂に降りて行った
食堂に戻ると早速海咲にプレゼントを渡そうと思ったが何やら憂鬱そうに考え事をしている様なので朝食を食べている両親にプレゼントを渡すことにした
「お義父さんお義母さんバレンタインのクッキーなんだけど…良かったら貰って」
「おぉありがとう円香」「私にも?ありがとう円香ちゃん」
そう言って喜んで受け取ってもらえ円香は救われるようだった
さて次は海咲…と海咲の方を見ると何やらムスッとしてトーストをかじっている…少し気弱になりながらもオズオズと
「あの…海咲?」
と声をかける
「なによ」
スッと此方を向く少し切れ目の綺麗な瞳
「…海咲にも…良かったら」
「…そりゃ貰うけど」
受け取って貰えた…!
思わず笑顔になり
「ありがとう」
とお礼を言って手渡す円香
毎年いろんな人からのバレンタインのプレゼントをことごとく拒否している海咲を知っているだけに受け取って貰えないんじゃないかという不安は拭いきれなかった
しかし海咲は今年もちゃんと受け取ってくれた。それだけで円香は自然と笑顔になった
その横では両親がクッキーを気に入ってもらえた様で早速食べてくれている
味も良いと言ってくれてホッと胸を撫で下ろす円香
と隣で「ご馳走様」と言って立ち上がりさっさと学校に行く準備をしはじめる海咲
プレゼントはテーブルに置いてしまっている
「海咲…これ…」
オズオズとクッキーを指差す円香
「帰って来てから食べるわよ。もぅ学校行くわよ?」
一応クッキーだけじゃなくて手袋も入っているんだけど…
そんな円香を尻目にさっさと学校に行く準備をする海咲
「え、あ…ちょ、ちょっと待って」
と慌てて自分も準備をする円香
そんな円香を待たずに
「いってきます」と両親に告げて先に食堂を出ていってしまった
海咲に置いて行かれた…
途端に不安になる円香
「ちょっと海咲ちゃん!全くもう…円香ちゃん気にしなくていいのよ」
「あ、はい…私も行ってきます」
「はい、いってらっしゃい」
ペコリと頭を下げて直ぐに海咲の後を追う円香
玄関を出て中と外の気温の違いに身震いしながらも、天気予報通りそれほど寒いとは感じなかった


290:海咲×円香 バレンタイン編 円香視点
10/02/28 16:40:57 4JfJtdMx

小走りで歩くと少しして海咲に追い付いた
チラリと円香を一瞥するだけでそのまま歩き続ける海咲
少し早歩きなのは不機嫌な証拠…
そんな海咲を気遣ってそのまま何も話さずに隣を歩く円香
考えてみれば不機嫌になるのも当然かも知れない
バレンタインが好きじゃ無い海咲に対してプレゼントを渡したりして、捉えようによっては嫌味としても取れるわけだし…
何より自分だけ両親にプレゼントを渡したりして海咲としても面白くないに決まってる…
何年か前に海咲も一緒に両親にバレンタインにお菓子を作ろうよと誘った事があるのだが「なにそれ冗談でしょ」ときっぱりと断られてしまった
結局私は自分の自己満足の為に毎年海咲に嫌な思いさせてしまってる…
そんなネガティブな思考に陥っていた円香に
「…あなたマフラーはどうしたのよ?」
と声をかけられハッと我に返る円香
そう言えば今朝はマフラーをせずに家を出てきてしまった
「忘れたの?」
「そうみたい…」
海咲に置いて行かれると思うとつい焦ってしまった。
「全くもう…取りに帰ったら?」
「あ、いいよもうだいぶん駅も近いし、今日はあったかい方みたいだし」
こう見えて円香は寒さに強い
まだなにか言いたげな海咲だったが「そう…」とだけ言い、それからは特に何か喋る訳でなく学校に向かった
今の海咲のちょっとした気遣いが嬉しかったのは内緒だ

学校にはついたが早く家を出たせいかまだあまり生徒は登校していないようだった
海咲と二人しかいない下駄箱で靴を履き替え、ふと隣を見ると迷惑そうな顔をした海咲がチョコをカバンにしまっていた
なんと下駄箱にチョコが入っていたらしい。今時凄い方法だと思ったがこうでもしないと受け取って貰えないと言う事だろうか…

それからも海咲と行動していると度々女の子からチョコを渡される現場に居合わせたが全て断っていた。改めて海咲の人気を思い知る円香なのだった

291:海咲×円香 バレンタイン編 円香視点
10/02/28 16:41:22 4JfJtdMx
そして昼休みになった
いつもの様にお弁当を持って海咲の席に行くと
「やっと半分過ぎたわ…早く学校終わらないかしら…」
と不機嫌そうに呟いていた
当たり前だが誰かからチョコを受け取る側ではない自分には良くわからないが海咲の立場になって考えるとああやって断っていくのも大変かもしれない。円香の知るだけで今日は二人も断っていた
「海咲今年はいくつ貰ったの?」
と聞いてみたが帰ってきたのは
「そんなのいちいち数えて無いわよ」
という不機嫌な返答だった
ごめん…と謝り、また海咲に嫌な思いさせちゃった…どうして私はいつもこうなのだろう…と落ち込む円香
そこからは特に会話もなくただ弁当を食べる二人
と、先に食べ終わった海咲が席を立った
「どこいくの?」
「手を洗いに行くだけよ」
「うん…」
そう言って教室を出ていく海咲
一人になりハァ…と溜め息をつく
とそこへ
「月森さん」
「え…あ、はい」
不意に声をかけられ、気の抜けた返事を返す円香
見ればクラスメイトの女の子二人だった。手には小さな銀紙で包まれたチョコが数個入った透明な袋をもっている
「これ、バレンタインの義理チョコで配ってるんだけど月森さんも良かったら食べて」
「あたしも、ハイ。この前日直手伝ってくれたお礼だよ」
「あ、ありがとう…」
少し動揺しながらも受け取る円香
と、そういえば自分も配る用のクッキーがあった事を思い出した
「ちょっと待ってて」
と言って自分の席に行きクッキーの入った袋を持って戻り
「あの…良かったらこれ…食べて貰える?お返しと言うか私もバレンタインの余りなんだけど…作り過ぎちゃって」
「え、良いの!食べる食べる!」「手作りクッキー?すごーい私なんてせいぜいチョコ溶かして固めるだけだよ」
そう言いガサガサとクッキーを一つ取り食べると
「へー美味しい!」「どれどれ…ホントだ売ってるやつみたい!」
「そんなことないよ」
「うぅん普通に美味しいよ!手作りクッキーで普通に美味しいの初めて食べた」「ちょっとそれぶっちゃけ過ぎよw」
「あ、ありがとう…」
今更それは実は失敗作だとは口が裂けても言えない
「へぇ月森さんクッキー作ったんだ?」
「うん、凄く美味しいよ」
周りにいた女の子も反応があったので
「あ、良かったら食べて一杯あるから…自分じゃ食べきれなくて」
元々失敗作という負い目もあってか自分から配る事ができなかったのでこの流れは正直助かった
「ホント!じゃあちょっともらうね」「あたしも貰っていい?」
「うん、減ってくれた方が助かるから…」
「じゃあ遠慮なく……ホントだ!美味しい」「凄いね手作りとは思えないや」
と、気が付けば周りに結構な人が集まり始めていた
普段から余り大勢の人と喋ったりするほうではないので戸惑う円香だったがクッキーが減ってくれるのはありがたかった


292:海咲×円香 バレンタイン編 円香視点
10/02/28 16:41:44 4JfJtdMx

「やっぱり月森さんって料理上手なんだね」「いつも麻生さんと食べてるお弁当も月森さんの手作りって本当?」
「一度食べてみたかったんだぁ」「いつも手伝いしてるの?」
「あ、俺も貰っていい?」「俺も俺も」
次々に浴びせられる質問や、普段喋らない男子まで入ってきてにあたふたとしていると教室の扉付近にクルリと踵を返して出ていく海咲がチラリと見えた
手には少し派手な包みらしきものを持っている
どこ行くんだろうと考えて、ここは海咲の席だった事を思い出す
また嫌な思いさせちゃったかな…
そうやって密かに落ち込む円香を他所にクッキーは順調に減っていった
「で、月森さんは誰にあげてるの?」
「え?」
「これって余りなんでしょ?本命とかいるの?」
「あ、それあたしも聞きたいw」
「い、いないよ…」
クッキーも減ってきていつの間にか興味の対象は円香に移ったようである
「ふぅん…じゃあ誰に上げたの?」
「えと…お義父さんとお義母さんと…海咲に」
「麻生さん?」
「あぁ友チョコね二人いつも一緒にいるもんね」「あれ?麻生さんって甘い物が嫌いじゃなんじゃないの?」「バレンタインチョコとか結構貰うけど全然受け取らないって噂だよね」
「うん一応食べてくれるよ」
「へぇ~でも麻生さんが羨ましいかも」「そうだねこんな美味しいクッキー貰えるなんて」
「…そんな事ないよ」
クッキーなんて私の自己満足なだけで海咲は迷惑してるし…今だって自分の席の周りに人混みを作って嫌な気分にさせてるし…
「でもこんな美味しくクッキー作れるなんて男子に上げたら絶対落ちるね」「そうそう。こんなクッキー貰ったりしたら一発で落ちるよ」
「それはないよ…」
「いや、こんなクッキー貰えるなら俺は付き合うなw」「俺もこんなクッキーとか作れる人と付き合いてぇよw」
「あんた達ただクッキー食べたいだけでしょ」
アハハ…と力なく笑う円香
ただ美味しいお菓子が作れるというだけで可愛くて綺麗で美人な海咲と違って地味で内向的な自分が男の子にそんな対象として見られるなんて気は全くしなかった



293:海咲×円香 バレンタイン編 円香視点
10/02/28 16:42:17 4JfJtdMx
「ところで月森さん。麻生さんって誰かと付き合ったりしてないの?」
「あ、そうそう気になってた!麻生さん凄く綺麗だもんね~」
「え…海咲?」
クッキーも無事無くなり男子もいなくなり女子の数も減ると少し声を潜め、バレンタインらしくそんな話題を振られる円香
「うん。月森さんいつも一緒にいるから…何か知ってたりする?」
「んと…別に誰とも付き合ってはいないよ」
「へぇ~凄いモテてるのにね」「あんな綺麗なのに…ひょっとしてあれじゃない?好きな人とかいるんじゃない?」「あ~そうかも!麻生さんって案外自分が好きになった人には凄い奥手と言うか不器用そうw」「なにそれw可愛いwでも分かるかも~w」
キャハハと笑い合う二人を他所に円香は別の事を考えていた
海咲に好きな人…もし海咲に好きな人が出来たら…私はどうすればいいんだろう…
…どうする?私がどうこう言える立場なんかじゃないし、そんな資格も無い…私は…海咲にとって今はただの…誰かの代わりなんだから…海咲に好きな人が出来たら私は…
「じゃあ月森さんって気になる人とかいるの?」
「え…私…?」
不意に浴びせられた質問によりどんよりと考えこんでいた円香は驚いて顔を上げた
「うんうん誰かいるの?」「あぁ~聞きたいかも」
二人とも凄い興味津々だ…何か答えないと…気になる人…気になる人…
何故か期待に答えなければと思い考え出す円香。しかし…
…どうして海咲の事ばかり思い浮かぶの…
考えても考えても思い浮かぶのは大切な友達である筈の海咲の顔だけだった
ウソ…違う…海咲のはそんなんじゃ…私はただ…
「あの…つ、月森さん?月森さん!」
「ふぇ!?あ、なに?」
「なんか凄い顔真っ赤だけど…大丈夫?」
「え、嘘…」
慌てて顔に手をやる円香。海咲の事考えて頬が熱くなるなんて…
「ひょっとして気になる人の事考えて照れたの?可愛いかもw」「その顔…絶対誰か気になる人いるでしょw」
「そ、そんなこと無いよ…!」
「ウソだ~その顔は絶対いる顔だよ」「え~誰々?うちのクラスの男子?」
「い、いないってば…」
どうして女の子というのはこの手の話になるとこうも食い付くのか…
円香がどうしたものかと悩んでいると…
キーンコーンカーンコーン
という字にしてしまえばどうしようもなく情けなくなる昼休み終了のベルが鳴った
「あ、もぉ…良いとこなのに…」
「じゃあ月森さん、クッキーありがとね」
「うん…」
「月森さん…頑張ってねw」
(何を…)アハハ…と力なく笑いつつ二人を見送った後自分も席に戻る円香


294:海咲×円香 バレンタイン編 円香視点
10/02/28 16:42:59 4JfJtdMx
そういえば海咲はまだ帰ってこない…何処いっちゃったんだろう…と思った矢先に教室の後ろのドアから少し急ぎ気味に海咲が入ってきた所だった
そのまま席に付き少し乱暴に持っていたプレゼントをカバンにしまい込む海咲
何かあったのかな…と見ているとふと、海咲が此方を向いて視線があった
どこ行ってたの?と心配しながら海咲を見るのだが
プイと視線を外す海咲は関係無いじゃない、と言っているようだった
それからもチラチラと海咲の様子をうかがうが担任の教師が入って来たので前を向いた

授業が始まるがあまり内容が頭に入って来ない
さっきから先程の事ばかり考えてしまう
海咲に好きな人…私の……気になる人…
いけない…授業に集中しなきゃ…このノートは後で海咲も見るんだから!しっかりしなきゃ
と誤魔化し、それ以上考えるのは止める事にした

さて授業が終わって帰りのHRになった
続けてHRをやりだす教師
結局先程の授業は余り集中できず、HR中もほとんど聞き流していた。そんなHRも終りやっと帰る時間になる
上手く喋れるか自信は無かったがとりあえずトロトロと帰る準備をすまし、海咲の元に向かおうとすると…海咲は男に話しかけられていた
いけないと思いつつ会話を聞いてみるとどうやら告白の類いらしい。何故そんな事が分かるかと言えばその男の言動がわかりやすいと言うのは勿論だが、円香は海咲と行動を共にする時間が多い分、海咲が告白される現場に立ち会う事が割と多かった
そんな現場に立ち会ってしまった円香はと言えば、あわあわとその場から消えようかとかどうしようかと考えるのだが、次の瞬間には男は振られており、円香が気をきかせていなくなる時間等は無いのであった
そんな経験が結構あり、なんとなくわかってしまうのだ
さて男はどうやら場所を変えたいと言う申し出らしいが…
海咲は今まで場所を変えて欲しいと言われて、それに合わせて変えた事が無かった。どうせ断るんだからそんなのに付き合ってられない、と言う事らしい。
当然今回も「そう、なら私は用はないから」とサラッと言って一緒に帰ってくれるはずと円香は心のどこかで安心しきっている部分があった。しかしなんと…
「…わかったわよ。さっさとしてくれるかしら」
え……!?
カバンを持つ手にグッと力が入る
海咲が場所を変えるのを受け入れたなんて…
会話を聞いても、どう見ても海咲は嫌々という感じがまるわかりなのだが、円香は単純に驚きが勝ってそんな事に頭は回ることは無かった
海咲が…嘘…どうして…そんな…

295:海咲×円香 バレンタイン編 円香視点
10/02/28 23:17:13 4JfJtdMx
「円香」
不意に名前を呼ばれハッと顔を上げる円香
「先に帰ってて」
どうして…直ぐに振らないの…?待ってるよ…
「え、でも…」
「待たないでいいから」
「…うん」
海咲は…あの男の告白を受ける気なのだろうか…
私は……もう…いらないの……?
呆然と立ち尽くす円香
そんな円香を残し男と教室を出ていく海咲

…置いて…行かないで……

そんな二人を円香はただ見送る事しかできなかった

そのままその場から動けない
回りの音が雑音にしか聞こえない。まるでノイズの様だった
…帰らなきゃ…そうだ…帰ろう…海咲に…そう言われた…から
ボーっとした頭でそれだけを思い帰ろうとすると…
「あの…月森さん!」
と不意に肩を軽くたたかれる円香
「…!!…え、あ…何でしょうか…」
ビクリと振り向くとクラスメイトの男がたっていた
「あ、ごめん。い、いや…さっきから呼んでるのに聞こえてないみたいだったからさ…ハハ」
「あ…それは…ご、ごめんなさい」
ペコリと頭を下げる円香
「い、いや、いいんだよ。そんなことよりさ、今ちょっと時間あったりする?」
「…?えと…」
「あ、いや、少しの時間なんだけど…」
「…何か用…なんですか…?」
ただでさえ今頭が混乱してる上に普段男子と喋らないのでぎこちない言葉使いなる円香
「うん、まぁそゆ事。ちょっとここじゃ駄目だから校舎裏の…今は枯れてるけど桜の木があるとこ知ってる?そこではなしたいんだけど…」
「……?わかりました」
普段の円香ならこの時点で告白の類いだと気付いただろう。しかし今は軽い思考停止状態にあったし、何より自分が
男性から告白されるなんて可能性を最初から全く考えてもいなかったので特に考えもせずに頷いてしまった

296:海咲×円香 バレンタイン編 円香視点
10/02/28 23:18:01 4JfJtdMx
「ホントに!ありがとう!じゃあ行こうか」
「あ…ハイ…(何でお礼?)」
そのままその男の後ろをついていく円香
そして男の言う校舎裏に着いた
人通りも少ないし静かな場所だ。普段あまりうろつく方でない円香にとって珍しい場所だった
キョロキョロと珍しそうに辺りを見回す円香
「月森さん」
「あ、はい」
「その…もうだいたいわかってると思うけど…」
「……?」
「よ、良かったら俺と付き合ってくれませんか!」
「………え…」
えぇぇぇぇぇぇッ!?
「い、いきなりで驚いたかもしなれないけど…俺…前から月森さんの事気になってて…」
「    」
パクパクと言葉にならない声を発する円香
完全に予想外だ(円香にとって)まさか自分が告白されるとは…こんな時どうすればいいの…
パニックになりつつある頭を一生懸命に使い、海咲がどうやって告白を断っていたか必死に思い出す円香


――――――――――――

「ごめんなさい。興味ないの」
「ありえないわ。ごめんなさいね」
「そう…私は別に好きじゃないわ」
「気になるの?そう…私の方は全然気にならないわ」
「あらそう…私以外を狙ってちょうだい」
「残念だけど私は全く興味ないわ」
「無理ね、諦めてちょうだい」

―――――――――――――

…強烈過ぎて全然参考にならない!
と、とりあえず謝ろう!断るんだから、謝ろう…!海咲もたしかごめんなさいって言ってた

「ご、ごめんなさい!わ…私その…あの…」
深々と頭を下げ、なりやらゴニョゴニョと呟く円香
「え…あ、いや…そんな謝らなくていいって!」
「でも…その…ごめんなさい!」
「わ、分かってるよ、好きじゃいってのは分かってる!だからその…」
「……?」
「友達からでいいんだ、携帯のアドレスとか教えてもらっちゃ駄目かな…」
「え……」
こ、これは…
海咲の告白シーンに立ち会った時にほとんどの全てあった「友達から…」パターンだ…
円香は以前一度だけ海咲に聞いてみたことがある

297:海咲×円香 バレンタイン編 円香視点
10/02/28 23:20:02 4JfJtdMx
――――――――――――――――――――――――

「ねぇ…海咲…別にアドレス位いいんじゃない?付き合わなくても案外普通に良い友達になれるかも知れないし…」
円香としては海咲が告白を受けたりアドレスを交換するなど本心から決してしてほしくは無かったが単純に疑問だったからだ
「はぁ?…あなたバカじゃないの?一度こっちを好きだと言った相手と良い友達になんてなれるわけないでしょ!それにそんなことしたら相手に貴方にはまだ可能性がありますよ、って言ってあげてるようなもんじゃない」
「う、うん…」
「可能性が無いなら下手に希望持たすよりキッパリ断って上げた方が相手の為よ」
つまり可能性は無いんだ…
「円香もバカみたいに興味が無い人にアドレス教えちゃ駄目よ」
「わ、私は告白なんかされないから大丈夫だよ…」
「…どうかしら」

――――――――――――――――――――――――


ダメ…可能性がないならアドレスは教えちゃダメ…
「…月森さん?」
「ご、ごめんなさい…その…アドレスもちょっと…」
またもペコペコと頭を下げる円香
「え…そ、そうか…」
「ごめんなさい!」
「そっか…ひょっとして付き合ってる人とかいるの?」
「い、いません」
「じゃあ好きな人とかいるんだ…」
好きな人……
またも忘れようとしていた事が浮かんでくる
海咲…そういえば海咲は今頃何してるんだろう…告白は断ったのかな…それとも……
……だとしたらどうなの?友達として喜んで上げるべきじゃないの?結果として私だけバレンタインのプレゼントを受け取ってくれてたような私だけに向けられていた優しさや笑顔が…別の誰かに向けられる事になっても…私が…置いて行かれる事になっても…私は………
「好きな人は…いません」
海咲が……幸せなら……
「じゃあ…どうして…ひょっとして携帯もってないとか?」
「…も、持ってます」
スッと携帯を出してしまう円香
「どうしても駄目かな…アドレスだけでも」
「……」
あなたには可能性がある…
可能性が…
「あの…月森さん?」
ちがう…ダメ……私は…海咲じゃないと嫌っ…私は海咲が……一番好きなの…海咲じゃないとダメなのっ…
「…ア、アドレスを忘れてしまいました」
決心はしたものの携帯を出しておいて今更引っ込みがつかない円香。とりあえず誤魔化そうとするが
「…?あぁそれなら真ん中のボタンを押してから0を打てば表示されるんだよ」
少し得意気に話す男。残念ながらこの男全く空気を読んではくれなかった
「え、えと……だ、ダメみたいです!わ、私の古い携帯だから…」
「あれ?大抵の携帯はそれでいける筈だけどなぁ…ちょっと貸してみて」
「へ…え…!?あのっ…」
混乱する円香を他所に円香の携帯をヒョイと手に取ると操作をしはじめる


298:海咲×円香 バレンタイン編 円香視点
10/02/28 23:22:48 4JfJtdMx

ダメ…嫌っ……海咲…助けてっ…!!
うつ向き唇を噛んで泣きそうになりながら円香がそう思ったその時
ザッザッザッと少し乱暴に歩く足音が背後から近づいてきた
と思うとサッと二人の間わって入り、円香の携帯をパシッと奪い取った
驚いて顔を上げると…
「えっ!?海咲っ!?」
「あ、あれ…麻生さん?」
そして海咲は驚く円香の手を掴み「帰るわよ!」
とそのまま円香の手を引いてその場を立ち去ろうとするが
「え、あ、ちょっと待てよ!」
と呼び止められる
ビクリと立ち止まる円香
どうしようもう一度謝ろうか…と思っていると
「…何かしら」
と海咲が男に向かってゆっくりと振り向いた。隣からじゃ顔はよく見えないが雰囲気で分かる。滅茶苦茶怒っている…
「な、何でも無いです…」
「あらそう…それじゃさようなら…」
そう言って再び手を引かれその場を後にした

校庭をグイグイと手を引きながら先を歩く海咲
「み、海咲?」
声をかけるがそれに答えずそのまま歩き続ける海咲
海咲…本当に来てくれた……
とりあえず今はそれしか考えられなかった。もう色々とありすぎてとても混乱していた
と気が付けば人通りの少ない場所に来ていた、と突然繋いだ手をふりほどくようにして離し、こちらを振り向く海咲
「……」
「海咲…?」
「何してたの?」
「え…」
「何してたのかって聞いてるの!」
ビクリと肩をすくめる円香
「えと…その…」
何も言えずうつ向く円香
「あなたがボーっとしてるから変な男につけこまれるんでしょう!」
「……ごめん」
「全くもう!携帯まで出して信じられない…あなたがそんなだから…!」
「……」
「そんなだから…」
そこから急に黙りこむ海咲
円香はというとうつ向いたまま何も言えなかった
全部私が悪い…はっきりしなかったのも…海咲に迷惑かけたのも…海咲が怒っているのも…全部…全部私のせい…
何も言えずただうつ向いて自分を責める円香
と、海咲が再び歩き出したようだ
海咲…謝らなきゃ…海咲…
円香が歩を進めようとすると
「ついてこないでっ!」
こちらを向きもせずにそう言い放った
その言葉を聞いた途端足が動かなくなった。まるで地面と一体化したみたいにそして円香自身も動けなくなった
そうしえるあいだにも海咲は先に行ってしまっている

置いて…行かないで…

どんどんと離れていく海咲の姿を円香はどうすることもできなくただ呆然と見つめていた


299:海咲×円香 バレンタイン編 円香視点
10/03/01 01:12:10 6/CItt5j
海咲が完全に見えなくなってやっとフラフラと歩き始める円香
置いていかれた…拒絶された…海咲に…海咲にだけは…嫌われたくなかったのに…
全部私のせいだ…全部…私が悪い…
ふと頬が濡れている事に気付き、自分が泣いている事に気付く
…こんな所で泣いちゃ…だめなのに…
グイと乱暴に涙を拭い、とりあえず場所を代えなきゃ…と歩きだした
どうしよう…何処に行こう…
家には海咲がいる…ついてくるなと言われた…だから帰れない…

私には居場所が無い…海咲のそば以外…海咲に置いて行かれたら私には何処にも居場所が無い…
思えば引き取られた麻生家にも海咲がいてくれたから自分は家族として自分を麻生家に置くことが出来た
うまく家族になれていなくても海咲が手を引いてくれていた
海咲がいなければ…私は…

とぼとぼと歩き続ける円香
何処に行けばいいかわからなくなっていた。しかし気が付けば海咲のいる家の方向へと歩いていた
ダメ…海咲に言われた…家には帰れない…
と立ち止まる円香。ふと横を見ると子どもの頃海咲とよく遊んでだ少し広い公園があった。子供の頃と言っても海咲と円香には7才以下の記憶が無いので7才からの事だけれど
フラッと引き寄せられる様に公園に入っていった
公園に入った時にはだいぶ日も暮れており、公園はオレンジ色の光に包まれていたが、まだ楽しげに遊ぶ子どもが何人か見えた
トスっと近くにあったベンチに力なく座る円香
走り回る子ども達に昔の自分を重ねてみる円香
あの時から私…いつも海咲を追いかけてたな…海咲が外に遊びに行くって言ったら自分も外にいったし、帰ると言われれば一緒に帰ってた…海咲の傍にいられればなんでも良かった
海咲、海咲、海咲…私は昔からいつも気が付けば海咲の事ばかりだ…こんなの…迷惑だよね…嫌だよね…ごめんね海咲…ごめんなさい……
また涙で視界が歪んでくる…
そっと涙を拭い、そこからはただ何も考えずに無邪気に遊んでいる子どもを眺めていた
そんな子ども達を見ていると不安定だった心も落ち着いてくるようだった。だんだんと冷静になっていた所で先ほどの光景が思い浮かんでくる
海咲を怒らせちゃったな…こんなに怒らせちゃったの初めてかも…今朝から海咲に嫌な思いさせてばっかりだったもんね…
でも…それなのに海咲は助けに来てくれた…いつもそう…私がどうしようもなく困った時とか寂しかった時海咲はいつも助けてくてくれた
それなのに…私は海咲に何もしてあげれてない…そんな私に海咲を好きになる資権利なんて…無いよね…
皮肉な事に男の告白にって自分の気持ちを自覚させられてしまった円香。気付かなければよかったと思ったがもう遅かった


300:海咲×円香 バレンタイン編 円香視点
10/03/01 01:16:57 6/CItt5j

ずっと前から円香は海咲への想いがただの友達に対して向けられる物とは明らかに違うものというのは薄々気付いていた
ただその気持ちが何なのかは自分でもよく分からなかった。
いや、ひょっとしたら無意識に自覚しないように目を背けていただけなのかもしれない
楽しく遊びまわる女の子の二人組みを見てあの頃に戻れたらと思う円香。こんな想いを自覚してしまってこれからどうすればいいのか…

そんなことを延々と考えている間に辺りは段々と薄暗くなってきた。遊んでいた子供も一人また一人と減っていった
そんな光景をなんとなく眺めていると段々と心細くなってくる。自分達で帰る子ども、親に迎えにこられて帰る子ども
そして辺りもすっかり暗くなり公園には誰もいなくなっていた。なんだかあの時と同じ…私にはお迎えが来なかった…海咲を始め次々と親と一緒に帰っていく四人の友達…一人ぽつんと残された病室
子ども心にも薄々と分かった。自分には親が迎えにこない事…一人ぼっちだって事
ベンチからスッと立ち上がりトボトボと公園内を歩き出す円香。あの時…不安で寂しくて仕方が無かった。事件以前の記憶が消えた円香には親の記憶もほとんど無かったため親を求めて泣くこともできなかった
そんな中唯一円香が求めていたのは海咲だった。事件以前の事なので記憶はほとんど無く曖昧ではあるが誰かに酷く虐められた時海咲がたびたび助けに来てくれてたような気がするし、いつも一緒にいてくれていた。円香には海咲しかいなかった
みさきちゃんに会いたい…みさきちゃん寂しいよ…助けて…みさきちゃん…
一人の病室で延々と呟いていたような気がする。今と一緒だ…私…あの時から変わってない…
もういい加減家に帰らなければ海咲の両親も心配するし帰らなければならないというのは分かっているのだがどうしても帰ることができなかった
ふと歩みを止め、隣を見るとブランコがあった。そういえば海咲小さい頃よくブランコ乗ってたっけ…私は怖くて乗れなかったな…

「まどかちゃんも乗ろうよ!たのしいよ!私も一緒に乗るから」と言われて散々いやだいやだとわめいたけど、そんな私に機嫌を損ねて「もぅまどかちゃんと遊んであげないからっ」と言われて恐々と一緒にブランコに乗ったっけ…
凄く怖くて必死に鎖にしがみ付いてただけだったけど海咲と一緒だったから楽しかっ……いや、やっぱり怖かった…いきなり二人乗りは酷いよ海咲…
少し苦笑しつつソッとブランコに座る円香。キィ…っと軽く音が鳴りユラユラと揺れるブランコ。暗くなった公園は小さな電灯の明かりだけが照らしてるだけだった
辺りには誰もおらず、なんだか世界に自分しかいないんじゃないかと錯覚を起こすようだった。…あながち間違っていないかもしれない…私は…一人ぼっちなんだから…

…いや…一人ぼっちは嫌…海咲…会いたい…置いて行かないで…私を一人にしないで…海咲…

ハッとして軽く頭を振るようにして先ほどの気持ちを振り払う円香。こんな自分では駄目だとわかっているのにどうしても海咲を求める気持ちが消えることは無かった。大嫌いだ…こんな時まで海咲に助けを求める自分が…
こんな私なんて…海咲の傍にいる資格なんてあるわけがない…
その時自分に足音が近づいて来ていることに気付く円香こんな時間に誰だろう…?フッと顔を上げると…
「「あ…」」
海咲だった。海咲の姿を見た途端に安心感に包まれる円香
また来てくれた…今日のクラスの男の子に告白された時も…そしてあの時も…


301:海咲×円香 バレンタイン編 円香視点
10/03/01 01:17:31 6/CItt5j

――――――――――――――――――――――――

一人きりになった病室でひたすら心の中で海咲の名前を呼び続けていた円香。無駄だと分かっていたが円香には海咲を求めずにはいられなかった
それでも病室には一人きりのままで…この病室と同じでこのまま自分はずっと一人ぼっちなんだ、そう自覚して寂しさと不安でどうしようもなくなったその時病室の扉が勢いよく開き海咲が飛び込んできた
「ふぇ!?みさきちゃん!?」突然のことに驚く円香を他所にその小さな手をぎゅっと握り「まどかちゃん!一緒のお家に住むのっ!また一緒に遊べるよっ!」
そう言って自分の手を握ったままはしゃぐ海咲。その時何が起こったのかわからなかったがそのキラキラとした笑顔をみているだけで不安で一杯だった心が落ち着いていくのをぼんやりと感じていた
その後は海咲の両親が入ってきて色々と話をしたり、退院の準備をしたりした気がするがあまり覚えていない。ただその間ずっと海咲が手をつないでくれていたことは覚えている

――――――――――――――――――――――――

…海咲はこんな私をいつも助けてくれて…それなのに…私は…
「…高校生にもなってブランコ?」
「…」
なにも答えられない円香
「…探したわよ…心配かけて…」
…また海咲に迷惑をかけてしまっている…どうして私はこうなんだろう…私はこんなにも海咲に助けてもらっているのに…いろんなもの貰ってるのに…
私は何もしてあげれてない…心配かけたり迷惑かけたり嫌な気分にさせたり…そればっかりだ…
「…何か喋れば?」
そう言って自分の前まで来て膝を抱えてしゃがみこんだ様子の海咲
「…ごめん……」
「っ…謝らないでよ…」
謝る事しかできなかった
「ごめんなさい…私…いつも海咲に迷惑ばかりかけて」
本日何度目の涙だろうか。気が付けばポタリ…と自分の涙が地面に落ちて行き、そのまま地面に吸い込まれていった
「円香……」
「み、海咲に心配かけて…余計な事したり…嫌な気分に…させたりして…」
泣いては駄目だと分かっているのに止められない。一杯一杯になる円香
「私なんて…海咲に傍にいないほうが…よかったんじゃない…かなって…!?」
トン…と自分の額が海咲の胸の辺りに当たり自分が抱き寄せられたことに気が付く
「止めて…お願い…そんな事言わないで…」
「み、みさき…」
何が起こっているかわからない。ただこうしていると弱りきっていた心が満たされていくのがわかった


302:海咲×円香 バレンタイン編 円香視点
10/03/01 02:14:48 6/CItt5j

「…私が悪いの…全部…」
「…そんな」
そこにはいつものわがままで強気な海咲ではなく、自分を責める弱気な海咲がそこにいた
「迷惑なんて思ってない…私は…――円香とずっと一緒にいたいの…」
今の海咲に対して私ができる精一杯のことは…
「……みさき…私…も…」
「うん…」
勇気を持つこと…勇気をもって今の自分の正直な気持ちをちゃんと伝えることだけ…
背中にあった腕がソッと移動し、頭が撫でられるのが感じる。それは円香を懐かしい気持ちにさせ、今まであった不安が消えていくようだった
「……私も…海咲の傍に…いたいよ…」
「うん、ありがとう…」
これから先また海咲に私は迷惑かけたり、なにかお返しできるか分からないけど…やっぱり私は…自分勝手かもしれないけど…海咲がいないと駄目だから…
「みさき…寂しかったよ…!」
「私も円香に会いたかった…」
それからしばらく無言で抱き合う二人。涙は出てくるが今までの涙とは違い円香の心は穏やかだった。
離れていたのはほんの数時間。しかし二人にとってはとても長い時間離れていたように感じ、その隙間を埋めるかのようにお互いを抱き寄せる二人

「…海咲ありがとう…もぅ大丈夫」
「うん…」
もう少しこのままでいたいという気持ちを抑え、そっと体を離す二人
泣き止むまで海咲にお互いを抱いていたせいか顔を合わせるのが久々な気がした
「「…」」
なんだか恥ずかしい…
少し赤い顔をした海咲を見て、そういえば海咲も変わってないなと嬉しくなっってフフっっと笑う円香
「な、なにがおかしいのよ…」
「うん…ちょっと昔を思い出したの…海咲…子供の頃からちっともかわってない」
「…?」
「うん…子供の頃ね…私が寂しくて泣いてた時とか…いつもこうやって私が泣き止むまで頭撫でてくれたよね…」
虐められた時、寂しかった時、一人でこっそり泣いていても海咲はいつも私を見つけてくれて…
「…あなた泣き虫だったものね…」
少し呆れたように言う海咲。その顔を見て幼い頃の海咲の姿が浮かんだ「もぉ…まどかちゃんまた一人で泣いてる…」
そんな呆れた顔してても泣き止むまでずっと傍にいてくれたよね…
「ありがとう…海咲…」
「…別にたいしたことじゃないわよ…寒いしもう帰るわよ」
「うん」
スッと立ち上がる二人

303:海咲×円香 バレンタイン編 円香視点
10/03/01 02:15:17 6/CItt5j
そこに冷たい風が吹いてきた。先ほどまでそれどころじゃなかったので気が付かなかったが流石にだいぶ冷え込んできていた。そこへ
「円香」
と声をかけられそちらを振り向くと
「寒いから…」
「え…」
困惑してる円香を他所に自分が巻いていたマフラーを外し円香に巻き付け始める海咲
フワリと巻きつけられるマフラーは温かくて海咲の匂いがした
「でも…海咲が寒くなっちゃうよ」
人より海咲は寒がりなのに…
「大丈夫よ…私にはこれがあるから」
と、いったん手を止め、制服のポケットから円香の手袋をはめる海咲
「あ…それ…」
「あ、ありがとう…あったかいわ…」
「…良かった」
ちゃんと着けてくれるんだ…ありがとう…海咲
再び円香にマフラーをクルクルと巻き付けられてから気付いたがお互い正面を向いていたので凄く顔が近い
気付かなければ良かった…と思ったがもう遅い
少しうつ向き気味にマフラーを巻かれる円香
そうしてる間にも大好きな人の匂いにも包まれて頭もポーっとしてくる円香
「お、終わったわよ」
「…ありがとう海咲…」
スッと顔を上げる円香
至近距離で視線が絡む二人
いつもは恥ずかしさから直ぐに視線をそらすのだが今日は何故かお互い視線をそらせなかった
薄暗い電灯の灯りの下にでも分かる透き通るような白い肌に対して紅い頬は余計に際立つようだった。いつもの切れ目な強い意志のこもった瞳
ではなく、どこか少し弱ったようにうっとりとした熱の入った瞳に目が離せない。綺麗過ぎてどうかなってしまいそうだった
私…こんなにも海咲の事…大好きなんだ…
改めてそんな事を思う円香
見つめ会った時間は数秒なのかもしれないが二人にとってとても長い甘美な時間が流れる


304:海咲×円香 バレンタイン編 円香視点
10/03/01 02:16:11 6/CItt5j

その時スッと引き寄せられる感覚がしたと思うと唇に軽く触れるようにして海咲が一瞬だけ円香と唇を合わせた
二つの影が一つになったのは一瞬で直ぐにまた二つに別れた
「…海咲!?」
「……!」
え…何が起こったの?事故…?事故なの…?あれ…私ひょっとしてキスした?へ?あれ?
完全にパニックになる円香
海咲の方はというと自分でも驚いているようで真っ赤な顔のまま硬直している
火が出るんじゃないかと思う程顔が赤くなっている円香
「海咲…」
ど、どうしよう…え、まさかと思うけどひょっとしてキスしたのって私からだった…?自分で気付かない内に…?ひ、否定できない…
「…バ、バレンタインだから」
「え…」
「バレンタインだからプレゼントよ…これでアイコだからホワイトデーはお返ししてあげないから…」
軽くソッポを向きながらそう言う海咲
へ…?しばらく思考停止する円香だったが「…ズルい」といってクスリと笑った
バレンタインにキスでお礼なんて海咲だから許される行為なんだからね
「でもありがとう…海咲…」
「…べ、別に」
2月の寒空の下だったが二人は身体も心も暖かだった
「さぁ帰りましょう。お母さんが心配してるわ」
「あ、うん」
そう言って歩き始める二人
歩き始める海咲の手をそっと握る円香。するとぎゅっと握り返されるその手からはもう離さないから…という意思が伝わってくるようだった
自分が編んだきめの細かい手袋と海咲の温もりの残ったマフラーに包まれ、一人きりじゃないということを実感する円香であった



305:海咲×円香 バレンタイン編 円香視点
10/03/01 02:17:30 6/CItt5j

「あ、そうそう円香これ返すわ」
「あ…私の携帯…あれ?海咲が持ってたの?」
「あなたまさか携帯持って無いの気付いてなかったの?」
「うん…忘れてた」
「…全くもう」
「エヘヘ…」
カチャ
「…え?着信23件、メール12件…?」
「え? あっ…!!」
カチカチ…
| 新着メール |
|  海咲   |
|  海咲   |
|  海咲   |
|  海咲   |
|  海咲   |
|  海咲   |
|  ・    |
|  ・    |
|  ・    |

「これ…///」
「ちょ、ちょっとそれ貸しなさい!///」
「だ、駄目っ」
「あ、あなたは私の言う通りにしてればいいのっ」
「い、いやっ」
「あ、ちょっと!待ちなさいっ!」
 




 おしまい

306:海咲×円香 バレンタイン編 円香視点
10/03/01 02:22:10 6/CItt5j
以上です
はいというわけでこれが海咲円香共通のオチでしたす。長々と書いておいて え、何これ…ってかんじですが勘弁してくださいw
月森さんが麻生さんの愛のこもったメールが読めたかどうかは想像に任せますw
日を分けてといいましたが時間をあけて投稿したら普通に全部貼り付けられましたね。また規制されてしまう前に全部貼り付けておきました

>285
うわぁぁぁぁぁばれてしまいましたか!!wご指摘の通り零の時代には携帯無いというのは大体の話を作り終わった時に気付きましたが、読んだら分かるように携帯って結構なキーアイテムだったのであえてそれで強行させていただきました。でも御指摘ありがとうございました!

次になにか駄文投稿する時はもっと短く完結にまとめれるようにします
書いてて楽しかったですがもの凄い時間かかりましたしね…w
ちなみに今回のバレンタイン編でのみさまどは以前投稿したテスト勉強の後にイチャイチャしはじめるテスト勉強編のみさまどとは別のみさまどです(バレンタイン編→テスト勉強編?)
ついでに今更ですが円香の両親の呼び方も伯父さん、伯母さんからお義父さん、お義母さんに変更しました。遠戚とはいえずっと家族として一緒に暮らしてておじさん、おばさんは変かな…と思ったので…
後、流歌が完全に空気な件についてはすみません。流歌はちょっと話に絡めるには難しいですし、いまいちキャラが把握できないんで…(海咲円香もキャラ把握しきれてませんよね、すみません)
機会があれば出してはみたいですが…当分海咲と円香には二人でイチャイチャしててもらいます(ぇ
それでは長々と読んでいただいてありがとうございました!感想とか何かレスいただけるとPCの前で歓喜いたします

307:名無しさん@ピンキー
10/03/03 14:33:56 H8+RPwBD
みさまどの続き来てましたか
やっぱりこの二人はいいなぁ
文章が上達していってるのも感じられてGJですよ
携帯の件、持ってても違和感ないしいいんじゃないでしょうかw
生意気な言い方かも知れませんが、楽しみにしているのでこれからも無理しない程度に頑張ってください

308:名無しさん@ピンキー
10/03/06 20:29:05 JhO68fWL
千歳をレイプしたい

309:名無しさん@ピンキー
10/03/06 20:36:28 v6yAu7F/
懐かしい、俺は千歳と遊びたい

310:名無しさん@ピンキー
10/03/06 21:11:03 R7Li2L7c
霊になってまでアレなさってる亞夜子の様子を詳しく!超詳しく!

311:名無しさん@ピンキー
10/03/07 02:50:05 ndHdLRBI
もし19世紀に戻れるなら、千歳の家に忍び込んで、屋敷中の押入れを引っ掻き回して千歳を探し、見つけたら大償が起こる前にセックスを教えたい。

312:名無しさん@ピンキー
10/03/07 19:24:42 VeTFCiHr
お前ら変態だな!
俺はノーマルだから、深紅一筋。

313:名無しさん@ピンキー
10/03/07 23:34:59 vR2LjLc9
>>312
あれ?俺カキコしたっけ?

314:名無しさん@ピンキー
10/03/08 00:47:31 o0eN9nAF
俺は先回りして澪と千歳をどうにか仲良くさせて百合ん百合んさせたいw

315:名無しさん@ピンキー
10/03/08 22:12:06 Jk0Sdc0M
シリーズ最優秀ロリキャラの座を賭けて、千歳が桐生姉妹や葛原梢たちと鎬を削る!
…っていう電波をさっき風呂入ってたら受信した

316:名無しさん@ピンキー
10/03/09 11:55:48 vvuTVjD2
誰か過去スレのdatアップしてくれー
どうやら保管庫は機能していないようで…

317:名無しさん@ピンキー
10/03/13 09:26:56 yD7aoRnw
過去スレも神SS多かったよな…(遠い目)

318:名無しさん@ピンキー
10/03/13 16:02:52 ROBOd0yK
前スレとか結構良かったね…
dat落ちミラー変換機に突っ込めば見られるけどいちいち面倒だしdatファイル欲しいね

319:名無しさん@ピンキー
10/03/14 10:02:59 K+73Aq0t
あんま関係ないけど、当時天倉姉妹にハアハアしすぎて川澄さんにまでハアハアした俺が通りますよ

320:名無しさん@ピンキー
10/03/15 13:19:20 AV9MAZ5+
そこは川澄だけじゃなく神田とセットでハアハアするとこだろうが

321:名無しさん@ピンキー
10/03/15 21:12:56 LS6tnWDk
久しぶりにこのスレ来ました。
SSは書けないから絵描きましたよ。
千歳ちゃんとちゅっちゅしたい

URLリンク(218.219.242.231)

322:名無しさん@ピンキー
10/03/16 07:57:54 Nxhn4toF
>>321
おお!
まだ、このスレは死んでないと再認識した。


323:名無しさん@ピンキー
10/03/18 16:13:02 jtUSYlPl
>>319
むしろ紗重&黒繭が怖すぎて一時期川澄さんの声が聴けなくなった俺が通りますよ

324:名無しさん@ピンキー
10/03/18 20:37:52 aECpCmG8
>>321
GJ!!
昔に比べると過疎ったかもしれんがこんな高クォリティな絵も見られるから零スレはやめられんw
これからもひっそりと保守されるべき

325:名無しさん@ピンキー
10/03/21 14:51:28 8wbHaAfV
お絵かきソフトの練習がてらもういっちょ描きました。
虚エンド後の家での一コマ的な感じです。

URLリンク(218.219.242.231)

326:名無しさん@ピンキー
10/03/22 21:33:13 ib3PS6Tp
問答無用で保存した。

327:名無しさん@ピンキー
10/03/22 23:41:49 Ik/kWjq5
>>325見ると虚エンドもハッピーエンドなんじゃないかと思えてくる不思議
まぁ個人的には虚ろエンドはハッピーエンドなんだがな!!
足の悪い姉と目の見えない妹の二人で支えあって生きていくとか最高だろ…

328:名無しさん@ピンキー
10/03/28 15:51:14 QZlgZUOl
そうだよなあ・・・。
黒繭の笑みが邪だとしたって、>>325みたいな邪さだとしたら、
ある意味掬われるしな。

時に>>325見てて何となくハダカエプロンが澪のような気がしてたんだが、
冷静に考えたら逆だよな。
なんか明るく元気そうな感じが澪っぽくて、かつエプロンドレスに戸惑い気味な感じが繭っぽくて、
勘違いしてしまった。

さて、まだだいぶ沈んでるから、たまには息継ぎにあげとくか。

329:名無しさん@ピンキー
10/03/28 15:51:47 QZlgZUOl
あがってねえwwww

あがれーあがれー。

330:名無しさん@ピンキー
10/03/28 16:17:05 6GVnyBJr
螢澪まだー

331:名無しさん@ピンキー
10/04/02 00:04:54 nlolm2Mg
んなもんいらねケイスレ腐女子はひっこんでろ

332:名無しさん@ピンキー
10/04/02 03:21:28 oQXilXfx
久々に来てみたら素敵な絵師さんが来てた!>>325GJ!
この姉妹とちーちゃんはほんと可愛いな

333:名無しさん@ピンキー
10/04/03 23:58:01 3Phr1NNW
蛍怜~

334:名無しさん@ピンキー
10/04/04 04:44:29 BA9YFOU0
蛍怜ならよし
螢怜なら許さぬ

335:名無しさん@ピンキー
10/04/04 11:08:54 /OdunvR5
赤の他人と三親等を比べるなよ変態

336:名無しさん@ピンキー
10/04/04 14:56:29 tVBNEca5
螢怜~

337:名無しさん@ピンキー
10/04/05 23:56:55 Va1vqnNY
螢怜はっ

338:名無しさん@ピンキー
10/04/06 00:02:13 sFIdIkl2
いっそのこと澪怜というのはどうじゃ

339:名無しさん@ピンキー
10/04/06 00:58:33 I7d7QQMH
普通に深紅か優雨を希望
深紅と繭を黒化する輩は俺が許さん
繭はパンツ撮った時に紗重を祓えないかと思った

340:名無しさん@ピンキー
10/04/07 07:44:35 1SEdvmht
螢澪はねぇのかおら!!

341:名無しさん@ピンキー
10/04/09 23:31:44 nf7Ym2m0
螢澪







っていうと怒る人いるから螢怜かいて

342:名無しさん@ピンキー
10/04/10 12:35:18 jLztRQ91
澪「おはやう~お姉ちゃん~」
繭「おはよ、澪。…ん? 何かしら…手紙?」

あまりにこのスレでの扱いが酷いのでエシディシ並に泣いてきます。HEEY~あんまりだぁ~。
ついでに千歳を樹月のところに連れて行ってくる。
追伸 アリーデヴェルチじゃなくてアリーヴェデルチだぞ
by天倉螢

澪「…まぁ、確かに本編であれだけ格好良く動き回ってるのに弱いからってネタ扱いされたらぐれるよね」
繭「そこに痺れぬ憧れぬぅ!」
澪「こいつ、新手のスタンド使いか!?」
繭「澪、や ら な い か」
澪「ウホッ」
繭「だが断る」
澪「おい、言い出しっぺ」
茜「やらないで」
薊「やって」
浅葱「しゅじゅじゅ」
澪「おい、なんか変なの一人。見分けつかないからやめろ」
薊「ごめんなさい、私人形で」
澪「いやいや、あんたは正しいから良いじゃない! そうじゃない浅葱だよ、浅葱! ってか何で居る!!」
海咲「私のキングクリムゾンの力で…」
澪「あんたかよ! ってかイベントで病院の屋上にいつの間にか移動してるのキングクリムゾンって認めるみたいな発言すんな! ってかあんたディアボロかよ!!」
繭「………」ドドドドドドドドドドドド
澪「なんか変な立ち方してるし!」
浅葱「………」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
澪「何で対するのがあんたなの!? ねぇ、おかしくない!?」
霧絵「恐怖の片鱗を味わったぜ」
澪「最強呼ばわりされてるラスボスがそこで恐怖を味わってどうすんだぁぁあああっ!!」

それから数時間後。帰ってきた螢おじ…もといお兄さんは、ウガツンジャーとカナデンジャーを連れて帰ってきました。
私はそんな螢さんが大好きです。好き。好き。大好き。超愛してる。

螢「スレの螢澪はやめろみたいな空気を平気で踏み越えやがっただと!?」
澪「子作りしましょ」
螢「み、澪、やめ、んぐっ!?」

千歳「保守」


343:名無しさん@ピンキー
10/04/10 15:25:30 Qgd/bvq5
スレストさせて独占するのを全く気にしないのが
こいつの特徴だというのがわかった

344:名無しさん@ピンキー
10/04/11 01:09:03 lhRRe+W9
>>342
螢澪ありがとー!!

345:名無しさん@ピンキー
10/04/11 03:16:40 fAKsLSl0
深紅澪

346:穏やかな目(1)
10/04/11 03:54:57 fAKsLSl0
深紅澪(?)投下します弱冠ホラー気味


「澪ちゃん…私じゃ…だめかなあ?」

「え?」

私は深紅さんへ視線を向けた。怜さんはいない、二人だけでやることもなくただソファに座ってコーヒーを飲んでいる。
日の光に照らされた深紅さんの髪は普段よりも明るくて、私はなぜか「亜麻色の髪の乙女」を思い出した。

「…ごめん、忘れて今の」
「…はあ」

寂しそうに微笑む深紅さんを見て、私はなんと間の抜けた答えをしたのだろう。
少しの後悔と自責の念で、私は居間に置かれた鏡へと視線を走らせる。
そこには白いワイシャツを着た女性……私が映っていた。5年、そうあれから…あの村での事件から5年経っていた。
少しずれたメガネを右手で修正する。

「メガネ…似合うようになったね」
「そうですね…」

ふわりと微笑む深紅さんに見惚れていることを悟られないようにしながら私も微笑む。
目はもともとそんなにいい方じゃなかった、でもメガネをかけたのは自分の気持ちを悟られないようにするため。
そして相手の視線に耐えるため。特に深紅さんの。

「深紅さん…はなんでついていかなかったんですか?」

私は聞いた。怜さんは今仕事で海外に行っている。螢叔父さんも一緒だ。

「怜さんと?…それはお邪魔かなと思ってのことよ…」

ああ、それは私も思った。怜さんは深紅さんに気にしないでいいのよと言っていたが、
やはり二人の仲を考えると気にしてしまう。


347:穏やかな目(2)
10/04/11 03:58:30 fAKsLSl0
「それに…」
「それに?」

まだ続きがあったのか、と思いながら私は深紅さんを見つめた。深く穏やかな茶色の瞳、
それは私に『あのひと』を思い出させる。大切な…大切な…あのひと。

「澪ちゃんと二人きりになりたかったから」

心臓が跳ね上がった。なぜこのひとはそんな目で私の気持ちを揺さぶるようなことを言うのだろうか。
そんな目で言わないで…私は「あのひと」と深紅さんをまた重ねてしまう。

「…嫌なの?」
「そんなことないです…それに」
「それに?」

いたずらっこのように目を輝かせて深紅さんが私に聞き返す。しまった…つい余計なことを言いそうに…

「澪ちゃん教えて…」

…もうあきらめよう、私にはもうこの想いを隠すことはできない。

「……私も深紅さんと二人になりたかったんです」
「……」

深紅さんは何も言わず、私の傍に座る。そして私の肩に頭を預ける。
どこかで見た風景…デジャブを私が襲う。私の肩にもたれた深紅さんがやけに幼く見えた。


「私もよ………澪」

そして悟った。ああ、そうか…深紅さんは確か霊媒能力が誰よりも…高かった。

「…久しぶりだね、お姉ちゃん…」

私は深紅さんに宿った姉に微笑んだ…


END



次ページ
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch