【古味直志】ダブルアーツinエロパロ板 第2話at EROPARO
【古味直志】ダブルアーツinエロパロ板 第2話 - 暇つぶし2ch2:名無しさん@ピンキー
08/07/29 19:16:34 swCih2fr
   _,,....,,_  _人人人人人人人人人人人人人人人_
-''":::::::::::::`''>   ゆっくりしね!!!         <
ヽ::::::::::::::::::::: ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
 |::::::;ノ´ ̄\:::::::::::\_,. -‐ァ     __   _____   ______
 |::::ノ   ヽ、ヽr-r'"´  (.__    ,´ _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ 、_ イ、
_,.!イ_  _,.ヘーァ'二ハ二ヽ、へ,_7   'r ´          ヽ、ン、
::::::rー''7コ-‐'"´    ;  ', `ヽ/`7 ,'==─-      -─==', i
r-'ァ'"´/  /! ハ  ハ  !  iヾ_ノ i イ iゝ、イ人レ/_ルヽイ i |
!イ´ ,' | /__,.!/ V 、!__ハ  ,' ,ゝ レリイi (ヒ_]     ヒ_ン ).| .|、i .||
`!  !/レi' (ヒ_]     ヒ_ン レ'i ノ   !Y!""  ,___,   "" 「 !ノ i |
,'  ノ   !'"    ,___,  "' i .レ'    L.',.   ヽ _ン    L」 ノ| .|
 (  ,ハ    ヽ _ン   人!      | ||ヽ、       ,イ| ||イ| /
,.ヘ,)、  )>,、 _____, ,.イ  ハ    レ ル` ー--─ ´ルレ レ´


3:名無しさん@ピンキー
08/07/30 02:04:00 suWzf+Qb
乙1

4:名無しさん@ピンキー
08/07/30 04:30:23 vCNmkyqk
>>1
乙!

5:名無しさん@ピンキー
08/07/31 00:50:10 YD71egTU
「(今なら……今なら塩田鉄人の気持ちがわかるっ!!)」
 かつて同じ状況に陥った尊敬すべき(ジャンプの)先輩を思いながら自らの無力を呪う。
「(やばい……!!)」




「(やばい……チ○ポが馬鹿になってしまったっ!!)」
 自然と前のめりになる姿勢に感付かれぬよう、少し足を速める―が、
「……キリさん?」
 流石に不自然だったのか、怪訝な顔をしながら声をかけられてしまう。
「な、なにかな!?」
 不自然さに拍車をかける反応に自分で気付きつつも顔だけなんとか
 彼女の方に向ける。
「いえ……その、特になんでもないんですけど……」
 うかがうようにこちらを見るエルーに、空気を読まずに馬鹿度が上がっていく。
「(可愛い……じゃなくて、このままじゃ気付かれる!! た、確か……)」
 先人の知恵を借りるべく必死に静める方法を記憶から―
「……赤木ゴリ子?(ぼそ)」
「えっ?」
「い、いやいやいや何でもない」
 思わず口に出してしまった事に更に慌てながらも愚息を確認すると
 少し馬鹿度が下がっている!!
「(よしっ!)」
「どうかしたんです―あ」
 喜びも束の間―おそらく愚息を確認した視線を追われてしまったのだろう。
 エルーの視線は完全にエレクトした愚息にロックオンされていた。
「い、いや、これは違っ!!」
「ご、ご、ご、ごめんなさいっ!!」
 顔を真っ赤に染めて目を逸らすエルー。
「キ、キ、キリさんだってそういう時もありますよね!!(?)」
「いや、ほんとに違くてコレは―」
「ごめんなさいっ! わ、私がずっと近くにいるからですよね!!」
 こうなったらこの暴走機関車は簡単には止まらない事を俺は知っている。
 ようやく「そういう事もある」と説明できたときには既に2分近く経過していた。

6:名無しさん@ピンキー
08/07/31 00:52:53 YD71egTU
「(あれ……?)」
 いつも自分のペースに合わせてくれる優しいキリさんが急に早歩きに。
「……キリさん?」
「な、なにかな!?」
「いえ……その、特になんでもないんですけど……」
 キリさんの不自然な反応に「何かあった事」を確信する。
 もしかして―ガゼルが近くに?
 そういえばキリさん険しい顔で何か考えてるみたい……。
「……赤木ゴリ子?(ぼそ)」
「えっ?」
「い、いやいやいや何でもない」
「どうかしたんです―あ」
 すごく慌てた様子のキリさんに緊張を高めながらキリさんの視線の先を追う―と、
 テント(/////)がありました。
「い、いや、これは違っ!!」
「ご、ご、ご、ごめんなさいっ!!」
 初めて見る男の人の男の人(?)に慌てて目を逸らす。
「キ、キ、キリさんだってそういう時もありますよね!!(?)」
 そ、そうよ。男の人なんだからそういう時くらいある。
 あれでもコレってHな事とか考えてる時に大きくなるってマーサが……(←ロクな事教えねぇなコイツ)
「いや、ほんとに違くてコレは―」
「ごめんなさいっ! わ、私がずっと近くにいるからですよね!!」
 そ、そうだ。私がずっといるせいでキリさんきっとずっと我慢してて―

 (キリ説明中)

「何も無くてもなっちゃう事もあるんですね……」
 説明されながらもどうしても気になって視線が行っちゃうわけで……
「そ! だからちょっと悪いけど気にしないでもらえる?」
「え、えぇ! だ、大丈夫です! ちっとも気にならないな~……」
 言いながら視線が釘付けになっていたことに気付き慌てて目を逸らす。
 顔に手をあてて大きな溜め息をつくキリさんから視線を逸らしたままおそるおそる声を出す。
「そ、それ……」
「ん?」
「どうしたら治まるんですか?」

7:名無しさん@ピンキー
08/07/31 09:07:22 gqQl5WPP
元ネタかなにかあるの?

8:名無しさん@ピンキー
08/08/01 11:36:54 SIQZd4XO
幕張とか、すんげ懐かしー
糞ワロタ
GJ


9:名無しさん@ピンキー
08/08/01 13:49:25 T6/hWOg4
なつかしかったぜwww
かのおや?のネタだっけか?
鬼のチンポの奴。

10:名無しさん@ピンキー
08/08/01 13:51:06 T6/hWOg4
間違えた。塩田のネタだったね。

11:名無しさん@ピンキー
08/08/01 14:40:48 eH035p9Z
ていうか続きが見たいぜ!

12:名無しさん@ピンキー
08/08/02 09:43:16 Kv2L0rU8
大分後ろに来たのぅ
何とか踏ん張ってくれんかなぁ……

13:名無しさん@ピンキー
08/08/03 01:03:08 ID1du/7Y
いつの間にか前スレ落ちてた
980超えてたしまぁいいか

14:名無しさん@ピンキー
08/08/03 14:22:06 lP0fqQIV
打ち切りフラグか?

15:名無しさん@ピンキー
08/08/03 16:12:19 ID1du/7Y
そ、そんなことない!

16:前スレ936
08/08/03 21:42:49 0teuGA/a
何となく続きが描きたいので、ちまちま書いてた。
そしてやはり頑張ったけどエロはない。
スイ再登場前に書き上げたかったのに手遅れだった。でもこうだったらいい
のにという願望のみで書いたよ。

17:2
08/08/03 21:44:19 0teuGA/a
朝の日差しが苛立たしいほどに煌いている。
今日も良く晴れるのだろう。
よるべなく夜を明かしてまだ人の少ない街の通りを歩くスイに、遠くから声をかける
者がいた。
「おう、どこ行ってたんだよ」
「…お前らには関係ないだろ」
声の主をちらりと見て、スイはあからさまに嫌そうな顔をして見せた。
それはスイが良く知る、幼馴染のキリとシスターのエルーの二人だった。訳あって
常に手を繋いでいなければならないというのに、それほど不自由をしているように
は傍目からは感じない。まあそれなりに二人とも今の状況に慣れているということ
なのだろう。
そんな、どうでもいいことすらも何故か無性に苛ついた。八つ当たりだとは分かって
いるのだが。
「心配してたんですよ、スイさん。これから御一緒に朝食でも如何ですか?」
自由な方の片腕でパンの包みを抱えたエルーは、そんな心中も知らぬ様子でふ
んわりと幸せそうに笑っている。
二人のそれぞれの荷物からするに、食材を買いに街外れの市場にでも行っていた
のだろう。
「あたしはいいよ、別に」
「お前さー、自由行動はいいけどせめて飯ぐらい一緒に食えよな。姿も見せないん
じゃどっかで怪我でもしてるかって気になるだろ」
「あたしがそんなヘマなんか!」
キリの言葉にいつものように返しかけて、咄嗟に口を噤んだ。そういえばあの男に
完敗したのはこの二人の目前だった。あんな醜態はみっともない。そんな感情だ
けが心の中に血のように真っ赤な飛沫を上げて迸った。
「ヘマなんか絶対に…」
呟いたまま俯くスイの鼻先を、突然オレンジの香りが掠める。キリの抱えた紙袋に
は幾つもの果物が顔を覗かせていた。
「お腹、空いていますでしょう?あまり悩むのは良くないですよ」
微笑むエルーにつられるように、ぐううと腹が鳴る。途端にこれまで禄にものを食
べていないことに今更気がついた。
「お前らなあ、あたしは」
「いいから飯食おうってば。腹に詰め込まなきゃ何も始まらないぜ」
二人はスイの苛立ちをやんわりとかわして、宿屋へといざなった。仕方なくという
風を装って従うしか今はないようだった。戦うばかりでは腹は少しも満たせないの
だから。

18:3
08/08/03 21:45:15 0teuGA/a
キッチンを併設しているせいでそれなりに広い部屋には、温かな良い匂いが漂っ
ている。
「驚きました、キリさんすごくお料理が上手なんですよ」
「んー、まあウチはそういう教育だったからな」
「今日のオムレツ、期待してて下さいね。スイさん」
てきぱきと卵を溶いて焼いているキリの側で、エルーは嬉しそうに笑っている。さっ
きから感じていた苛立ちの中に紛れた、わずかにあった嫉妬の感情がようやく分
かった気がした。
付き合っていた頃のキリは、あんな風に楽しそうな様子を見せたことは一度として
なかった。まあ、いつも勝手に振り回していただけだから当然だが。
男というものは、こういう女を守りたいと思うのだろう。そして女はエルーのような女
でいる方が幸せに生きられるのだろう。
それぐらいは分かっていた筈が、似合わな過ぎて目も耳も塞いでいた。
武の民の中の希少種、クリアナギンとして生まれたが故に普通の女でいられない
ことが今になってスイの中に歪みを生み出しているのだ。
所在なくテーブルについているスイの前に、形良く仕上げられたオムレツとソテー
された何種ものハムが載ったプレートが置かれた。御丁寧にもオレンジを絞った
ジュースまでが添えられている。
よほど改心の出来なのか、自慢そうにキリがえへんと胸を張っている。
「ほら食えよ、腹減ってんだろ」
「…サンキュ」
ほかほかのオムレツを一口食べると、バターの風味と卵の香りが一気に身体中を
満たしていった。空腹のせいもあるだろうが、本当に美味しい。
「美味いな」
「だろ」
「食材、たくさん買いましたから遠慮なくどんどん召し上がって下さいね。パンもあ
りますし」
キリが褒められたのが自分のことのように嬉しいのか、エルーは柔らかい笑顔を
崩さない。その顔を見ていると今度は決して覆せない劣等感が沸きそうで、その
後はただひたすらプレートの上の料理と運ばれるパンをがつがつと食べ尽くすだ
けだった。

19:4
08/08/03 21:45:59 0teuGA/a
「…美味かった、ありがとな」
空になったプレートの上にフォークを置くと、ようやくスイは満足げに伸びをした。続
けざまに料理を作っていたキリが、そしてエルーがその物音に振り返る。
「もういいのか?」
「あのなあ、あたしがどんだけ食うと思ってんだよ」
子供のように頬を膨らませていると、オムレツとハムを持った別のプレートがテー
ブルに置かれた。
「じゃ、これ隣に持って行くからちょっと待ってな」
「隣?」
「ああ、この街に来る時に言っただろ。俺たちの護衛を頼みたい相手がいるって。
それ、昨日いきなりお前がつっかかった奴だよ」
ざわり、と音を感じるほどに血が騒いだ。立ち上がりざまに産毛までが逆立つ思
いがした。
「あの男が、隣の部屋にいるのか?」
「いるけど?」
「な、何で奴がここに」
「まあ護衛を断られはしたけど、側にはいてくれるようだからな。たまたま今朝は
爆睡していたようだったんで市場には俺たちだけで行ったんだ」
本当は危険なことですけどね、とキリの側を片時も離れない(離れられない)エル
ーが少しだけ顔を曇らせた。
「…これ、あたしが持ってくよ」
ひどく強張った顔をしたスイを見て、二人は呆気に取られたようにぽかんと口を開
けていた。
「こんなトコで面倒は、やめてくれよ。一応身を隠してるんだから」
スイの激しい気性を思い出したのか、キリはやや慌てたようだ。そんな様子が何
だかおかしくて軽く笑う。
「バカにすんなよ、お前らに迷惑はかけない。ただ奴の顔を拝みたいだけだ。この
あたしを負かした男だからな」
それでも心配そうな二人を尻目に、さっさと温かいプレートを持ってスイは部屋を出
た。幸い、角部屋のせいもあって隣室は一つしかない。
深呼吸をする暇も惜しんで、隣室のドアを叩いた。
返事はなかったが構わずにドアを開いて中に入る。スイが探していた男は窓辺で
ぼんやりと外を眺めていた。
「何だ、寝てたかと思った」
「…お前は、昨日の奴か。あいつらの仲間だったか」

20:5
08/08/03 21:46:47 0teuGA/a
ファランという名らしいその男は、スイを見ても殊更どうということもなく不機嫌そう
な顔をしたままだ。
「朝飯を持って来たぞ。腹は減ってるだろ」
「まあな」
プレートをテーブルに置くと、承諾もなしに傍らの椅子を引き寄せて座った。ファラ
ンは全く気にすることもなく向かい側に座って黙々と食べ始める。朝の光の下だと
いうのに、跳ね返すばかりの迫力を持った黒い髪に黒い瞳の男だ。近くで改めて
眺めると特有の雰囲気があって魅かれないでもない。
負かされたことで文句の一つも言おうと思っていたのに、変な気分だった。
「他人が食うのがそんなに面白いか」
「かもな」
「変な奴だ」
この部屋に入って来た時から、きんと冷えた空気は変わらないままだ。慣れない
雰囲気に頬が奇妙なほどむずむずしながらも、スイは目の前の男から目が離せな
くなっていた。
「そう悪くない身体つきだ、ただ物を知らな過ぎるな」
「えっ?」
不意に、ファランはまっすぐ見つめ返してきた。
「着衣では筋肉の付き方が良く分からんが、自己流でもそれなりには鍛えていた
んだろう。だが、無駄な動きで良さが隠れている。基礎的な鍛え方も知らずに今ま
で来たようだな」
言葉を放ちながら腕を伸ばして、フォークの切っ先をスイの喉元にぐいと突きつけ
てきた。何の気配も感じていなかっただけに、不覚としか言いようがない。
「あ…」
「奴が、キリが話していた。生粋のクリアナギンの娘と同行していると。どんな女か
と思えばここまで未熟な奴とはな」
「しつ、れいなことを言うな!」
かあっと頬が熱くなった。クリアナギンとして生まれて、その血を誇りと思わなかっ
た日はないだけに自分だけでなく大元でもある武の民そのものをも侮辱されたよう
に思えた。
だが、ファランは少しも動じる気配がない。

21:6
08/08/03 21:47:24 0teuGA/a
「何を怒る。それほど悪いことでもないだろう。お前が女であるならな」
「あたしは生まれてから死ぬまで、万民を統べる最強のクリアナギンでなければ
ならないんだ!それが代々の誇り、あたしの唯一の自我だ」
我を忘れそうなほど激昂し、立ち上がるスイを相変わらずつまらなそうな冷めた目
で見上げてファランは唇の端だけで薄く笑った、ように見えた。そんな些細なもの
に目が移ることは、既にスイが今の今まで感じていた敗北を際立たせていた。
「誇りに自我か。よほどクリアナギンの血は大事と見える。それがお前自身の決
定的な不幸だと気付きもしないほどにはな」
「不幸、だと?」
「所詮は男と女では身体の作りも違えば体力も違う。張り合って生きることに何の
意味がある?完遂したとして、それがお前の幸せか?」
挑むように黒い瞳が見つめている。これまで信じていた価値観がこんなことで覆さ
れそうになる恐怖よりも、不思議な期待感が沸き始めていた。
「あ、あたしはそれで良かった。今までずっと信じていた。誰よりも強くあれと言わ
れ続けて育てられたからな。疑うこともなかった」
「今はどうだ」
「…そんなこと知らない、その認識を捨てろとでも言うのか?」
「今捨てれば、まあ幸せにはなるぞ」
「ふざけた断言を…それをお前がくれるとでも言うのか?」
我ながら支離滅裂なことを言っている、とスイは自嘲していた。男になれない、今
更女にも戻れないのであればこの存在など何の意味もないではないかと。
だが、ファランの返事は意外なものだった。
「無謀な戦いさえしなければ、長い髪の女はそう悪くない」
無様にも、涙が零れた。

22:7
08/08/03 21:48:12 0teuGA/a
「これで泣くのか、変な奴だ」
「うるさい、あたしだって女だ。あたしだって」
止まらずにぼろぼろ泣くスイの頬を滑る男の指が、黒髪を一房巻きつけて引き寄
せる仕草をした。黒い瞳が暗い情を湛えている。
「嫌というなら、すぐにここから出て行け」
「訳の分からないことを言う奴だ。あたしが」
引き寄せられるまま、側へと歩み寄ると一層深く色味を増した瞳に身の内が熱く
なった。これまで男など特にどうということもなく相手をしてきた。身体を重ねた数
など何の意味もないと切り捨てていた。
だが、この男は何かが違う。初めてそんな確信があった。
「それを拒否するものか」
「いい覚悟だな」
挑み合う眼差しがひどく心地良い。伸ばされる腕に絡め取られるように身を委ねれ
ば、見た目よりは随分と広い胸に抱き留められて思わず目眩がした。背中に纏わ
りつく長い髪がさらさらと腕を滑っていく。
「名は何という?」
「スイ、だ。タームの街では最強の」
その言葉にやや細められていた目が鋭さを増して、唇を塞がれた。同時に頭を押
さえつけられるように抱き込まれて意識が飛びそうになった。これまでの経験が全
部ふっ飛ぶほどに、この男が与えてくるものは衝撃的ですらあった。
鼻先を擦り合わせるほどの近さで、戦いの中で生きる男と女が見つめ合う。
「忘れろ」
「忘れられる訳がない。これはあたしが生きる理由だ」
「適切な鍛錬をして、きちんと筋肉をつけられれば何とかなろうがな」
「さっき言ったことと、やや違うな」
「自分自身の誇りをそこまで死守するなら、それはそれで幸せなことだろうと思っ
たまでのことだ。そんな女も嫌いではないぞ」
またも戯言を、と言いかけた口が言葉を失った。突然身体が浮き上がったのだ。抱
き上げられていると認識したのはすぐ後だったが、抗議すら出来ない。
「あ…」
「スイ、お前は面白い女だ」
奥のベッドを目指して大股で歩く男は、どこか愉快そうでもあった。
こういう男は、あたしも嫌いじゃない。スイは今まで誰も見たことのない女の顔をして
一切逆らわないままファランを見上げていた。

23:8
08/08/03 21:48:45 0teuGA/a
その頃。
「スイさん、遅いですねー」
朝食を終えて、すっかり食器を洗い終えてしまっても隣の部屋からスイが戻ってくる
様子はなかった。さすがに心配になったのかエルーがそわそわと戸口を見る。
「いいんじゃね?自分を負かすほど強い奴に、何か教わってんだろ。それがあいつ
の成長になれば上々だろ」
「でしょうか…」
テーブルの上にはお茶の入ったカップが二つ。鬼の居ぬ間の何とやらという雰囲気
が二人の間には流れていた。
「ま、放っておこうぜ。それよりさ」
「もう、キリさんたら」
頬を撫でる手が日毎に優しくなっていることを感じているのか、エルーはぎこちなく
目を閉じた。


終わり

24:名無しさん@ピンキー
08/08/04 00:52:19 GN7BHjCg
心地好くて読みやすい文なのでファランスイとキリエルのダブルエッチが続きで見たい

25:名無しさん@ピンキー
08/08/04 01:42:48 +bVCFvR3
上手いな
ほんのりエロを連想させる終わり方がいい

26:名無しさん@ピンキー
08/08/04 22:41:32 4YfzLeD9
素敵でした

27:名無しさん@ピンキー
08/08/05 00:40:25 AvRWFRJG
GJ
いいもの読ませてもらった

28:名無しさん@ピンキー
08/08/05 02:33:53 ei/HqrZU
>>17
GJ!
キリとエルーは既にラブラブかっ!?

>>5-6 の続きでっす。が無理やり足したんでびみょ。

29:名無しさん@ピンキー
08/08/05 02:36:28 ei/HqrZU
「そ、それ……」
「ん?」
「どうしたら治まるんですか?」
「ちょっと放っておけば大丈夫だから気にしな―」
「だ、だってさっきからずっとそのままじゃないですか!」
「あ、あとは出せばたぶん治まるけど……」
「出せ……あ」
 キリさんの言っている意味に気付くと同時に顔に血が集まってくるのを感じる。
「い、いやっ! ホントにちょっと放っておけば―」
「―せてください」
「え?」
「わ、私のせいなんですからお手伝いさせてください。
 私だって(マーサに渡された本を読んで)何すればいいかくらい知って……」
「いやいやいや、ほんとに気にしないでもらえると一番嬉しいんだけ―」
 キリさんの言葉をさえぎり、人目に付かなそうな路地に引っ張っていく。
「ちょっ!? アンタまさか本気かっ!!?」
「本気ですよ。私、キリさんのためならどんな事でも出来るんですから!」
 言いながら大きく深呼吸して覚悟を固める。
 ―大丈夫、きっと出来る。
 キリさんの背中を壁に押し付け、前にしゃがみ込む。
 ちょうどテント(/////)が目の前に来て鼓動がすごく早くなっていくのを感じる。
 固まっているキリさんを上目に見上げて、少しだけわがままなお願い。
「―キリさん。お願いがあるんですけど……」
 言葉も出せずにコクコクうなずくキリさんに―少しだけ―安心して、
「両手使いたいから……頭撫でててくれませんか?」
 別に撫でてもらっている必要は無いけど、少しだけわがまま。
 キリさんの手が優しく頭に乗ったのを感じて、そっと手を離す。
「じゃ、じゃあ……始めますね」
 ズボンに手を伸ばしてボタンを外し、そのまま下着ごと下ろす。

30:名無しさん@ピンキー
08/08/05 02:38:17 ei/HqrZU
「ふわっ!!?」
 勢いよく飛び出してきたキリさんの男の子(?)がほっぺに当たり思わず声をあげてしまう。
「だだ、だ、大丈夫?」
 キリさんがかけてくれた言葉に行動で反応すべく男の子に向き直る。
 ―大丈夫、頑張れ! エルレイン!
 本で見たのよりずっとグロテスクな見た目に感じる気後れを払拭すべく自分を鼓舞する。
 意を決し、目を閉じてそっと口を近付ける。(←いきなり口なあたりがマーサの教育間違ってる)
 ―たぶん、もう少しで届く。苦くないといいな……
「ちょっと待ったっ!!」
 届く直前、キリさんの声にびっくりして思わず動きを止める。
 開いた目の前が大迫力だったけど気にせずに視線をキリさんにあげる。
「……どうしたんですか?」
 私の質問にキリさんはしばらく固まって、ようやく口を開いた。
「あ~……、アンタこういうの初めてなんだろ?」
「あ、当たり前ですっ!!」
「その、なんつーんだろ。初キスなんだとしたらそれじゃない方がいいと思うんだけど」
 ―そっか。私、キスより先にしようとしてるんだ……。
「だだだ、だって、仕方ないじゃないですか! 
 キリさんだって好きでもない子とキスしたくないでしょっ!」
「そりゃ勿論そうだけど、フツーはフェラも好きでもない子にはされたくないと思うぞ」
「―っ!!?」
 思いもかけないキリさんの言葉に一気に頭に血がのぼる。
 確かに私が強引に連れてきたけどキリさんのためを思ってしてるのに
 そんな事を言われるとは思ってなかった。
 キッ! と見上げるとキリさんは困ったような顔をして空いている手で
 頬をかいていた。
「あー、エルー。聞いて欲しい」

31:名無しさん@ピンキー
08/08/05 02:42:25 ei/HqrZU
「あー、エルー。聞いて欲しい」
「なんで―っ!?」
 大きな声で言い返そうとした瞬間、体がぐっとキリさんに抱き締められていた。
「エルー、聞いて欲しい」
 そこでキリさんは深呼吸をして―
「―好きだ。キスさせて欲しい」
「―っ!!」
 唐突に重ねられた唇に驚いて目を見開いた後、ゆっくり目を閉じる。
 唇が触れるだけのキスだけど、心が幸せで満たされていく。
 唇がそっと離れた後は、ドキドキがすごいけど何故か気持ちは落ち着いていた。
「……騙されませんよ?」
「なんでだよっ!?」
 精一杯の照れ隠し。
「舌、出して……」
「ん……」
 キリさんに言われるまま目を閉じて舌を出す。
「んぅ……っ」
 初めての感覚にオーバーヒート気味の頭で、ごめんなさい、私こんな事考えてました。
 ―キリさんきっとさくらんぼとか結べるんだろうな~ (←教育が間違(ry

32:名無しさん@ピンキー
08/08/05 08:45:50 ewLxiVTR
見たいぞ続き!う~~ん見たい

33:名無しさん@ピンキー
08/08/07 00:43:32 5tM6IRGN
エルーかわいいよエルー

34:名無しさん@ピンキー
08/08/07 17:41:11 w20djhkm
エルーのフェラはもゆる

35:名無しさん@ピンキー
08/08/08 01:36:27 nUfUU9KA
エルーたんハァハァ

36:名無しさん@ピンキー
08/08/08 23:18:51 Z0g9756W
スイのことも忘れないであげてくだしあ

37:名無しさん@ピンキー
08/08/09 14:23:59 AS7BUL20
誰か、コミケでダブルアーツの同人誌出すとこ知ってれば教えていただきたい

38:名無しさん@ピンキー
08/08/09 16:17:50 8oKwwd/d
俺も欲しいが、ネットではいくら探しても見つからん。
サークル側はサイトや私設コミけカタログとかに載せてほしいが、
もうネットではこれ以上はムリそうなので、
会場でジャンプスペースを中心に周って直接探そうと思う。


39:名無しさん@ピンキー
08/08/09 18:19:09 o91YYTgS
コミケとかさっぱりだってばよ
東京在住はいいな

40:名無しさん@ピンキー
08/08/10 20:48:23 oEYuvaSx
この後、金色のファルコと言う強敵に、
エルーとキリの必殺技・南斗鷹耀爪を仕掛けます。

41:名無しさん@ピンキー
08/08/11 00:19:42 vzmivp0r
単行本買った人いる?
4日くらい前から、近くの店10軒以上回ったのに、どこも完売だったんだけど…

42:名無しさん@ピンキー
08/08/11 00:23:19 tjhWAiUI


元々冊数が少ないような印象。
発売日の翌日にはなくなってた。

43:名無しさん@ピンキー
08/08/11 00:42:30 zqTiOzdq
地方の書店じゃ大手のとこ以外は入荷してないか入荷数が少なくて売り切れが多かった
どうしても見つからないならネットで買ったが早いかも

44:名無しさん@ピンキー
08/08/11 06:14:30 Y3v3NYS2
冊数は少ないみたいだな
売り切れ店続出だった

45:名無しさん@ピンキー
08/08/11 11:34:49 bHD0dXnu
買った。
売れきれ多いのか…うちの近所のTSUTAYAには残ってたけどなぁ…

46:名無しさん@ピンキー
08/08/11 18:47:03 ZaR098qg
今週のエルーがエロい

47:名無しさん@ピンキー
08/08/11 21:23:48 Dz9dcAwu
単行本マジオヌヌメ
アイランドと描き下ろし分だけでも価値があると思う

それはそうと僕のかわいいスイタソ×ファランはまだでつか^^^^^^^^^^

48:名無しさん@ピンキー
08/08/11 21:50:04 vWGegRob
スイはともかくファランは動かすのが難しそうだ

49:名無しさん@ピンキー
08/08/11 21:51:25 TGnM5wXk
アイランドは見た
書き下ろしってどんなの?

50:名無しさん@ピンキー
08/08/11 23:07:04 tjhWAiUI
ショートギャグとキリの両親の馴れ初め。
マジで。

51:名無しさん@ピンキー
08/08/11 23:40:12 TGnM5wXk
それは気になるな
応援の意味も含めて買ってくる

52:名無しさん@ピンキー
08/08/12 00:55:16 SaVUzsnk
売り切れってそんなに人気あるのか
こないだ掲載順が下になってたのでホッとした


53:名無しさん@ピンキー
08/08/12 05:46:13 if2wgHUL
単行本は予想外の面白さだった
これでキリの両親とアイランドの女の子で1本ずつ書ける

54:名無しさん@ピンキー
08/08/12 09:48:21 Bf7RLwoL
次号はドベ2らしいぞガクガクブルブル

55:名無しさん@ピンキー
08/08/12 13:39:40 1dZpfK3V
>>37
ROMのカラログで「ダブルアーツ」で検索したが、ヒットは無し…他に略称とか無いよな?
時間余ったら俺もジャンプ系ぐるっと回ってみようかな

56:名無しさん@ピンキー
08/08/12 20:30:59 if2wgHUL
>>55
2回目

まずはペーパー配布みたいだよ。今年のはルール凄く厳しいから
自分も実家で父のコピー機借りて作ってる

57:名無しさん@ピンキー
08/08/12 22:44:33 arHv2YVt
な、なんだってーー!!

58:名無しさん@ピンキー
08/08/12 23:59:05 StCgA1Sm
どこサークルだ!?

59:名無しさん@ピンキー
08/08/14 22:30:42 C8ak2qMs
アーツの同人わくわくてかてか

60:名無しさん@ピンキー
08/08/15 00:14:25 nYUSoE8+
明日の夏コミの同人は、1箇所だけコピー本出す情報を入手した。
カタROMで「ダブルアーツ」検索すると備考だったかに書いてあって1箇所だけひっかかるところ。
メインは銀魂みたいだが…まぁ第一目標だけど、あんま期待しすぎないほうがいいかも。
基本は足で探す、だな

61:名無しさん@ピンキー
08/08/15 11:13:48 m5PjIEGK
ネットじゃ買えんよなぁ


62:名無しさん@ピンキー
08/08/15 22:09:15 JGMQCq+A
コミケ1日目。最初にチェックしたサークルに行って、ダブルアーツの本1冊は買えた。
ジャンプスペースのノーマルやマイナーなの扱ってるところ一つ一つ見て回ったが、
全く見つからなかった。
ゼロではないが…はっきり言って足りない。
ぬらりは3,4箇所で本出してたのに。あとトリコもペーパー配ってたサークルがあったみたい。

>>56はどこのことを言っているんだ?見つけられなかった。

63:名無しさん@ピンキー
08/08/15 22:38:38 STBouu/+
>>62
>>56ではないから何とも言えないけど

今日は爆破予告(愉快犯の仕業)があったから他のマイナー作品の場合だと
ペーパー配布を中止したそうだよ。自分が標的だったら厭だもんな…

64:名無しさん@ピンキー
08/08/15 23:05:04 pqzF3vCi
ハタ迷惑な愉快犯だ

65:名無しさん@ピンキー
08/08/16 13:29:52 aOBU9VvT
近所のTSUTAYAは単行本無かった
畜生、バリハケンは置いてあるくせに

66:名無しさん@ピンキー
08/08/16 17:23:56 kdVbS9Mj
>>65
つまりは、そういうことだ
発行部数が薄いのか人気なのかどTTなのか良く分からんが・・・

67:66
08/08/16 17:24:35 kdVbS9Mj
訂正
× どTT
○ どっち

68:名無しさん@ピンキー
08/08/16 22:43:25 hK5+o47o
単行本そんなにいいのか?幸い近所の本屋にまだあるんだが
本誌で毎回後ろの方なのが気になるな。実際の人気はどの程度なんだか

69:名無しさん@ピンキー
08/08/16 22:56:54 DRV53aYI
とりあえず買っとけ

70:名無しさん@ピンキー
08/08/17 09:37:20 qR8tczek
漫画喫茶に置いてある1巻は、ナルトの43巻よりも手垢にまみれていた




買って損はない

71:名無しさん@ピンキー
08/08/17 12:58:17 KpME7aXV
エルーが手垢にまみれてただって!?

72:名無しさん@ピンキー
08/08/17 19:33:39 VphchexF
>>70
すごさが分からん

73:名無しさん@ピンキー
08/08/18 13:09:53 RW4WckR+
ナルトは買うくせにアーツは買わずに喫茶で済ます輩共め!

74:名無しさん@ピンキー
08/08/18 15:02:08 Btn+pHEq
そういうことかw

75:名無しさん@ピンキー
08/08/18 17:39:26 KwOxdNc0
>>70
早速探して買ったぞ!
これでスイたんは俺の嫁

76:名無しさん@ピンキー
08/08/18 19:44:35 uFsxvedw
>>75
当然赤マルも買ったよな

77:名無しさん@ピンキー
08/08/18 23:28:13 6RVSDX4u
赤丸打ってないなー

78:名無しさん@ピンキー
08/08/19 12:50:11 eVxQmBnF
垢○買った
これで昔も今もスイたんは(゚Д゚)オレの嫁じゃぁぁっ!!

79:名無しさん@ピンキー
08/08/19 13:25:48 BVgYCfXu
俺もスイになら何回ふられても許す
スイをフった奴は心が広くなかったようだな

80:名無しさん@ピンキー
08/08/19 19:49:55 GJlZNSxj
コミケではダブアツの同人は見つからなかったが、
感想書いてるサークルの人にエルーのスケブ描いてもらったぜ。カワイイー

しかし、資料がなかったので苦労をかけてしまった。
思えばサークルさんが本出してる持ちキャラしか頼んだことなかったし、盲点だった。
次からは単行本を持っていかねば

81:名無しさん@ピンキー
08/08/19 20:26:36 VdNKm9gG
>>79
でもスイから振られることもあるぜ。

82:名無しさん@ピンキー
08/08/20 03:39:10 u1NAxGBQ
>>80
俺が頼みたいことは言わずとも分かってくれるな

83:名無しさん@ピンキー
08/08/21 12:02:10 Sq6qpB3T
>>82
UPですね、わかります

84:名無しさん@ピンキー
08/08/21 14:39:05 Bx6aY5vp
お願いすます

85:小ネター(単行本になってないネタあり)
08/08/22 02:19:38 gDKq2Pna
エルーは考えないようにしていた。
考えると、自分がどうにかなってしまいそうだったからだ。
「なぁ」
だから、先程からずっと何度も声をかけてくれている少年にも応えられなかった。
心ここにあらずという少女にキリは繋いでいた手をぎゅっと強く握り締め、もう一度大きな声で呼びかけた。
「なぁ!」
「え、あっ、ハイ」
キョロキョロと目を振り、エルーは強く握り締められた手を見つめた。
「なぁ、どうしたんだ」
「い、いえっ、別に……」
明らかにカタコトのような、ぎこちない返答にキリは首をかしげた。
「どうかした?」
「いっ、いえっ! ほんと、お気になさらずっ!」
そうは言うもののキリは気になって仕方ない。
握っている手から感じるものも、何かいつもと違う気がした。
エルーはまた落ち着かない感じで、キリを誤魔化そうと空いた手をぱたぱたしている。
「あー、おかーさん、あのふたりおててつないでるよ。なかよしだねー」
「指差しちゃいけませ」
無邪気な子供が大声で出したその言葉は明らかにエルーとキリに向けられた言葉だった。
微笑ましげな光景がすぐに想像出来るが、それは初めから想像からかけ離れたものになっている。

まだ幼い子供だったこと。
母親の言葉が途切れたこと。
周りの視線が投げかけられず、背けられていたこと。
微笑ましいとばかりにくすくす、ともしない凍った空気。
そして、エルーの手にこわばりを感じたこと。

「行きましょう。キリさん」
「……ああ」
少女の声が耳に痛い。先程のカタコトではない、すべてを抑えこんで搾り出す声は痛いばかりでなく胸にくる。
2人は人混みを避けるように、通りから裏路地に駆けて入っていった。


86:小ネター(単行本になってないネタあり)
08/08/22 02:20:37 gDKq2Pna
エルーはシスターだ。
不治の病、透過病―通称トロイにかかった命をほんの一時を永らえさせるために、自分自身を犠牲にする。
触れただけでトロイは感染するのだが、耐性の高いシスターはその患者に触れることで逆にその毒を患者から吸い出して負うことが出来る。
それでも患者も、彼女達も完全には治らない。
トロイにもれなく感染した彼女達は、感染していない人達からすれば恐ろしい凶器そのものだ。
トロイに感染していない者に触れれば毒を与え、トロイの患者に触れれば自身を犠牲に一時を与えるというどちらつかず。
たとえ同じシスターであっても、肌が触れあうことでどちらかにトロイの毒が移り寿命が速まってしまう。
彼女達はそれ故に肌を露出させない衣服をまとい、人とその心と接触することを避けていく。
人を避け続け、人知れず発作を起こし、そして彼女達は文字通りこの世から消えていく存在。
そんなシスター・エルーに触れられ、手を繋いでいるキリは特別な少年だった。
触ってもトロイに感染しない、誰もが待ち望んだ救世主の卵。
更に不思議な力フレアを持つ、とても自ら言ってのけた「一般市民A」からはかけ離れた役者だ。
しかしこのことを公にすることは避けられ、人目を忍ぶ旅を……非常に目立つ仲間と続けている。

裏路地を抜けて、通りから離れていく。
誰からも見えない狭い角で2人の足は止まった。
キリの持つフレアのおかげで疲れてはいない。
それでも少女の消耗はひどく、ずずっとその場に座り込んでしまった。
「何考えてたんだ?」
彼女に、キリは躊躇わずに聞いた。
聞かれたエルーは口をつぐんでいたが、ぽつりと言葉に出す。
「……あの子とか」
「あの子って、さっきの子?」
「それと、ついこの前会ったシスターの……」
「あぁ、えーっとシスター・ハイネ」
その2人がどうかしたのだろうか、キリが首をひねる。
ふと目を向けると、顔をうずくめたエルーから湯気のようなものがじゅわわっと上がっている。
まだよくわからないキリは、とりあえず大丈夫かと不安になっておそるおそる彼女に触れようと手を伸ばす。
「……今の私達、周りからどう見えるんでしょう」
ぴたりとキリの手が止まる。
「シスターの治療としてじゃ、こんなに長く手を繋いでいる必要はないんです」
それはエルー、いやシスターを狙って襲ってきたガゼルの暗殺者も指摘していたことだ。
「周りから見て、私達はどう見えるんでしょう」
エルーは笑っていた。いや、嘲っていた。
人と接触を避けるシスターの少女と一見は変哲も無い少年。
容姿も似ていない2人を繋ぐ要素はどこにもなく、服装から見て取れるシスターの実情を知るものからすればおかしすぎる。
あの子はシスターも何も知らなかったけれど、周りは知っていた。
だから、逃げ出すように通りから離れた。
覚悟をしていても、常に耐え切れるものではない。
「どう、って」
キリは言いよどむと、エルーは畳みかけるように言う。
「あの子はなかよしだね、ハイネさんからはし」
「し……?」

87:小ネター(単行本になってないネタあり)
08/08/22 02:21:31 gDKq2Pna
『式には呼んで』
キリはあー、と思い出す。エルーの湯気は未だに上がっている。
彼女は顔を赤くして、キリに訴えかけるように叫んだ。
「年頃の男女が手を繋いでいれば、そういう私達はどう見られますか!?」
「え、それは」
「もう、私は……自分が、何が何だか……」
彼女の頭は混乱していた。
混乱するから、考えないようにしていた。
周りから、そんな風に、そういう2人に見られることが自分にとってどうなのか。
人を避けて生きるシスターになって、初めて感じた温かな掌のぬくもり。
この世界に救いが見えた喜び。
2人で死線をかいくぐり、ぎりぎりのところや目一杯のお情けで生き延びてきた。
そして、今がある。これからも、この手を繋いでいる限り彼と一緒に明日が来る。
シスターでありながら、彼となら他のトロイ患者いや発作が起きないという点では一般市民と同じでいられるようになった。
そんな彼女に訪れた心の変化だった。
この少年が嫌いか好きか、で言えば……嫌いじゃない。
けれども、それ以上はいけない。
これはマーサからの指令であり、私情を挟むことなんて出来ない。
元よりシスターはそれを許されてこなかった。
そう頭では理解しているのに、触れ合ってしまった心が揺れている。
あってはならないことに、彼女は自分自身を嘲うしかなかった。
決して口に出すべきではなかった、少なくとも今出していいものじゃない。
だけど、うずくまった所為でよく聞こえる自分自身の心臓の鼓動が脅しているようだったから。
「どうって、やっぱ……」
「それ以上は言わないでくださいっ」
キリはびっくりすると、エルーはああとまた湯気をじゅわじゅわ出して顔をうずめてしまう。
彼女は今までそういうことに対し突っぱねてきたのに、段々と考えてしまうようになったのだろう。
有無を言わさず巻き込んでしまった彼のことを案じ、そしてエルー自身が彼のことを詳しく知らないことからそのことについて想像したりもした。
スイや彼自身の口から彼をひとつ知って、また彼女の知らないことを隠すように言われたりして……日に日に彼のことを考える時間が増え続けていった。
そもそもこの状況を続けて彼を意識するな、という方が出来ない話だ。
シスターとして生きてきた為、そういう耐性を付けられず、ついには頭が回らなくなった。
しかし、それでもキリはあっけらかんと言う。

88:小ネター(単行本になってないネタあり)
08/08/22 02:23:07 gDKq2Pna
「うーん、やっぱ恋人とかじゃないかな」
「こっ」
友達や親友をすっとばして、恋人。
エルーが開いた口がふさがらず、そこからも湯気が出始めた。
この状況下になってそういうネタでからかわれ続けてきたが、その相方から言われるのはまた大きい。
何を今更、と言わないでほしい。
悲しいことに、彼女はそういうことを許されないと科せていたのだ。
そういう男女の繋がりなんて、深い崖の向こう側で演じている劇のようにしか思えず見てこなかった。
「確かに手の繋ぎっ放しはさ、そう見られても仕方ないかもしれない」
「きききキリさんはいいんですかっ」
うーんと考え込む相手を気遣うはずが、エルーは思い切り自爆した。
彼女はもう何が何だかわからない状態だった。
「いや、なんつーか」
「いい、イヤなんですか」
うまく伝えようとするキリを、エルーはまくしたてる。
今の彼女の心はどこかでほっとしているような、残念がっているようなものがうずまいている。
下手な返答をキリがすれば、この先の旅路は相当重く気まずいものになるだろう。
どう見えるで恋人として答えてしまった以上、友達として好きなどで彼女の心に平穏が訪れてくれるとも限らない。モヤモヤが残ってしまうと、関係や戦闘がぎくしゃくしたものになるのでとてもまずい。
「……あれだ。周りから恋人に見えても、まぁ当人同士は恋人じゃないんだし」
「キリさんは私のことが嫌いですか?」
「嫌いじゃないよ。そう見られることに抵抗もおぼえない。でもさ、恋人ってのは周りから見られるからなるもんじゃない」
「それは……そうですね」
ふしゅーとエルーの湯気が収まってきた。
限定しすぎて考えていた思考が、ようやく正しく機能し始めてきた。
手をずっと繋いでいても、そう見られても構わない。けれど、恋人じゃない。
「でも、そうなると私達のことを説明するのが難しいですね」
「そうそう。最初はそう考えていたんでしょ?」
からかわれるようにキリに言われ、エルーはむっと黙った。
手を繋ぐことをやめられないこの2人の関係を、行く先々会う人達にどう説明していくべきなのか。
正直に話していっていい人達だけとは限らないし、一度口に出した秘密はいずれ他の人も知ることになる。
それにここまできてしまったエルーが今までのようにからかわれ続けていると、その思考がまたおかしくなってしまいそうだった。
「いっそ、そう言っちゃうかぁ」
「そ、そう言うって」
「ん、だから恋人」
「~~~!!?」
「だってさ、その方が早いじゃん」
単純明快なキリの答えに、エルーの心臓は鼓動が早すぎて苦しい。
しかし、どこか胸にちくりと何かが残っているのも気づいていた。
言った彼もまたどこか浮かない顔、いや諦めているような表情が見え隠れしていた。
「そう言うって決めてさ、もう割り切っちゃった方がいいんじゃないかな」
いくらエルーの存命とキリの能力を隠す方便とはいえ恋人として見られるのも名乗るのも構わないけれど、恋人じゃない。
それって、どうなんだろう。
エルーの胸の鼓動が、彼女自身に何かを訴えかけている。
「……キリさんの思う恋人のすることって何ですか?」
「え? あー」
彼は言葉を少し濁し、考え、思い起こす。
何をどう考えても、あの両親のことしか出てこない。
あとスイからの3度の告白も出てきたが、無視する。

89:小ネター(単行本になってないネタあり)
08/08/22 02:24:33 gDKq2Pna
「こ、恋人がするのって……やっぱキスとか」
「き」
またエルーが固まり、キリも自分で言っておいて照れを隠せない。
「両親とか親戚の人が子供とかに親愛の~ってやるのもあるけどさ、血の繋がってない2人がするのはやっぱそういう好きだからじゃないの」
説明が説明になっているだろうか。
もういい加減にしないと、自分もどうかしてしまいそうだ。
ずずっと壁をこするようにして、キリも地面に座り込む。
それから、エルーに宿に戻ろうかと声をかける。
それで、この会話はひとまず終わりだ。
「や」
「キス、すれば恋人になれるんですか……?」
キリの言葉、思考が停止した。
同じ目線になった彼女の瞳が真っ直ぐこちらを見て、離れない。
ぎゅっと握った手が今まで感じたなかで一番熱く思えた。
エルーの頭からは湯気は出ていないが、既にオーバーヒートしてどこか焼き切れてしまったようだ。
「私も、キリさんもお互いのことは嫌いじゃない。周りからもそう見えていて、あとはその……すればなれますか?」
「それは……」
何か違う。
確かに条件で言えばそうだけれど、嫌いじゃないとそういう好きでは定義が何か違う。
「だって、おかしいじゃないですか」
「おかしくても、そうじゃないと周りに説明が」
「胸が、苦しいんです!」
エルーの訴えに、キリが固まる。
「発作じゃないのに、それよりずっと苦しい……これは何ですか」
キリには説明が出来なかった。
彼女の鼓動につられているのか、彼の鼓動も早くなっていく。
「わからないんです……」
あの子やハイネにそんな風に見られた時のこと。
自分の本当の気持ちはどうだったんだろう。
「恋人は、そういう好き同士だからキスが出来るんですよね?」
「いや、でも」
そういう好きではなくて、ただの嫌いじゃない同士ならキスなんて出来ないはずだ。
いや、もし血も繋がっていない2人がキスも出来るようならその嫌いじゃないはそういう好きということになるんだろうか。
「そしたら、これが何なのかわかるんですよね?」
エルーがぎゅっと、自らの胸をつかんで、彼に問いかける。
その答えはキリにも、エルーにもわからない。
お互いが正しい認識や思考回路をしているのかもわからないまま、エルーの身体は少しずつ彼に寄り添っていく。

ただ、今まで気づかなかっただけで。
お互いが、どこかで知らずに踏みとどまっていた一線があったのかもしれない。
それを越えてしまったら、嫌いじゃないは何に変わるのだろう。

じり、じりと迫るエルーの唇が止まった。
ぎゅっと強く目を閉じ、震え、固まっている。
2人の身体は密着にぎりぎり届かないまで寄せ合い、互いの心臓の鼓動が触れ合う服の上から伝わってきている。
同じように目を閉じていたキリは宙をかいていた腕で彼女の頭をかき抱いて、その唇を勢いよく重ねた。
無我夢中だった。作法も何もわからなかった。
そうやって勢いのまま動いていた2人が、そのカタチで止まった。
ただその手を離さないよう、指と指を絡めたまま、爪が立つほどに握り締めて。

90:名無しさん@ピンキー
08/08/22 02:29:13 gDKq2Pna
以上ー。
続きは全力で以って何も考えていないっ!
一発ネタがちょっと長引いただけだ!
他サイトやらこのスレ上でネタが被ってたらマジですまん!

91:名無しさん@ピンキー
08/08/22 05:20:16 B2GotmSO
面白かったよ

92:名無しさん@ピンキー
08/08/22 12:31:42 vYroIQhQ


93:名無しさん@ピンキー
08/08/22 12:52:37 X2SrBlkf

エルー可愛いよエルー

94:名無しさん@ピンキー
08/08/23 00:47:20 Wejzc6kn
面白いっすよ

95:名無しさん@ピンキー
08/08/23 00:54:30 qUmu1RP6
このままエロに突入してもいいんだけどなー
出来なくもないが、このままでもいい気もする
誰か書かないw?

96:名無しさん@ピンキー
08/08/23 01:38:41 5XLSxOVr
んじゃ、呼び込みage
下がり気味ですよ。

97:名無しさん@ピンキー
08/08/23 02:47:07 0oAVrDTg
普通に神乙!!!!

98:名無しさん@ピンキー
08/08/23 13:40:37 4plva82M
うんこのニチニチ音は誤魔化せても
ドア開けてるんだし、うん臭は誤魔化せないと思うんだよな
でも三ヶ月位こんな生活繰り返してたら
うんこのニチニチ音も気にしなくなるんだろうな

99:名無しさん@ピンキー
08/08/23 15:31:33 0BwXTvqb
ダブルアーツの同人ってこういうのか?

URLリンク(image.blog.livedoor.jp)

100:名無しさん@ピンキー
08/08/23 16:01:40 IJ+6q4JE
>>98
「おみみもおはなもふさいでるからーっ!!」


・・・誰も元ねたわからんか。

101:名無しさん@ピンキー
08/08/23 19:13:27 d9IU9eSi
最初の5話くらいは二人の生活を突きつめて描いて欲しかったぜ

102:小ネター
08/08/23 23:59:37 qUmu1RP6
「え」
「え」
そこを見て、2人は同時に叫んだ。
「えええええええええ」

「ようこそ、ネスノの宿に」
ほがらかなおばさんが異様な4人組を屈託なく迎え入れてくれる。
普通の少年、大男、髪の長い少女、そしてトロイ感染者であるシスター。
特にシスターの存在は嫌がられることも多く、宿のなかをあまり歩くななどと言い含められたりすることもある。
こうやって迎え入れてくれるのはエルーにとっては心が楽だ。
「1泊でいいのかい?」
「ああ。出来れば4人一緒の部屋がいい」
ファルゼンが短く答える。護衛なのだから離れては意味が無いが、普通は男女か何かで二部屋に分かれるものだろう。
「シスター連れってとこでもうワケありみたいだし、いいけどさ」
「すまんな」
おばさんはいぶかしむが、手を繋いでいるキリとエルー、残りのファルゼンとスイをそれぞれ見る。
「……そうかい。この先の道のりは結構きついから、ウチ自慢のでたっぷり休んで鋭気を養っていくといいよ」
おばさんは意味ありげににぃっと歯を見せて笑う。エルーはいち早く何か勘違いされたっと思いツッコもうとするが、スイがその言葉さえ押しのけるように興味を示す。
「ウチの自慢は風呂さ」
「ふろぉ?」
「そうさ。ま、ゆっくりしてきな」
鍵と部屋の位置をキリに伝え、耳元で「頑張んな」と告げる。エルーががうと噛みつくように否定するが、放っておくように無視しておくのが一番いいとキリが手を引っ張っていく。下手に言い訳をすると、余計に想像力をかきたてるだろう。
スイがキリから鍵をひったくり、だだだだっと駆けて部屋に飛び込んでいく。
部屋は大きなもので、ベッドも4つ置いてある家族向けのものだった。
「2人のベッドはくっつけておくか」
「はい」
ファルゼンが少しだけ持ち上げ、ベッドを横にずらす。それを見ながら、エルーは心のなかで「宿を出る時は絶対に元に戻すのを忘れないようにしよう」と固く誓った。
「ん?」
「どうしました?」
部屋の内装を見ていたキリが何か気づいたのと同時だった。
「ふーろッ、ふーろ!」
スイが部屋を走り回り、お目当てのドアを見つけて開ける。
「うおー!」
歓声が上がり、キリとエルーがその後に続いてそこを見てみる。
言葉を失う、絶句した。
「おっもしれー! ふろんなかにトイレがあるー!」
スイがはしゃぎ、見ろよ見ろよと指差す。
そして、2人は絶叫した。
珍しいユニットバスというやつだが、これにはエルーの心が激しく動揺した。キリも同時に思う。
―やべぇ。
ドーンと事態の重さが黒い塊となって2人の頭の上にのしかかる。
今まで、手を繋いで離せない2人のトイレは『2人も同時に入れない個室』という狭い空間だったから、成立していた。どちらか片方がトイレの外に出て耳を塞いで、終わるまでじっと待つ。
しかし、ここのトイレは風呂と合体している。1人が外に出ているということが出来ない。
更にそれに合わせてか、今までの宿や家に比べて風呂場が広いのだ。4倍か5倍あるそこは湯船も大きく、確かに「自慢の風呂」と言ってもいい。
「なぁ、どうすんだこれ」
「……どうしましょう」
エルーが絶望的という声を細々と出す。この風呂は今まで出会い、ぶつかってきたどんな敵よりも凶悪に見えた。
「どうした」
ぬっと背後からファルゼンがのぞきこみ、そして眼下のなんとも情けない顔をした2人を見た。いや、確かに同情するほかない。ファルゼンは顔を覆い、はぁとため息をついた。


103:小ネター
08/08/24 00:03:30 MWzFQ6Fo
「いや、ここらで宿はウチだけだよ」
あの広いユニットバスについて、おばさんに尋ねた。
「あ、あのっトイレも別でもっと狭い風呂のある部屋はありませんか?」
必死になって聞くエルーに、おばさんはぷっと笑う。
「おかしな娘だね。広い風呂がいい、っていう人はいるけど狭い風呂がいいだなんて」
笑うおばさんだが、これはエルーとキリにとっては死活問題といっていい。だが、希望の光は見えてこなかった。
「残念だけど、どこもあんな風呂だよ。トイレ付きってのは実は設計ミスなんだけど」
ああ、この宿を設計した人が憎い。エルーは打ちひしがれうなだれ、orzとなっている。おばさんはおやおやと目を見張る。
「まぁ、1泊だけなんだし我慢しとくれ」
それだけ言って、おばさんは忙しそうに仕事に戻っていった。

「どうする」
どっかりとベッドに座ったファルゼンが、彼に対し向かい合って同じように腰かけているエルーとキリに向かって問うた。
「どうするも何も」
「……今日1日は我慢するしか」
ああ、もう泣きたいという感じだ。ファルゼンは、まぁそうするしかないなと頷いてみせる。
「風呂は仕方ないにして、トイレはどうする」
「んー……耳栓と目隠しで大丈夫かな?」
エルーの落ち込みようは凄まじい。キリもつられるように暗い。
「出来れば鼻もつまんでください……」
「わかった」
今回ばかりは災難、としか言いようがない。ファルゼンはむすっと黙っている。
そんな全体的には暗いなか、局所的にはめちゃくちゃ明るい笑い声がしている。あひゃひゃと腹を抱え、面白そうにスイが笑っているのだ。
スイの笑い声がいっそう悲劇をかきたてる。
「あのー、すいません。ほんっと真面目な話なんで」
エルーが弱々しくスイに言うと、抱腹絶倒だったスイが起き上がって2人を見た。
「もういっそ2人して一緒に風呂も入っちまえよぉ」
なっ、とエルーもキリも顔を赤らめる。
「入りません!」
「そういう冗談はよしてくれ」
エルーが思い切り突っ込むと、何か考えていたようなファルゼンが口を開いた。
「……無理なのか?」
「え」
「2人が、一緒に風呂に入るというのは」
エルーとキリの口がぽっかりと開き、それから絶叫がまた宿中に響きわたった。

104:小ネター
08/08/24 00:06:58 MWzFQ6Fo
「むりむりむりむりむりむりです!!」
顔を真っ赤にしてエルーがファルゼンに何を言っているんですか、と立ち上がって強く言ってのける。しかし、ファルゼンは涼しげな顔で問い返す。
「何がまずいんだ?」
「全部です! 第一、おお男の人と一緒にお風呂なんてそんな!」
「少し落ち着こう」
困った顔を見せるキリがたしなめると、エルーもしゅんとなってベッドに座りなおし、気まずそうにキリとファルゼンの顔を見る。
「まずいというのは、お互いの裸を見られるのが嫌だというんだろう。なら、トイレと同様に目隠しをすればいい」
「いや、そんな」
そんな問題ではない。エルーはもっと強く言うべきかどうか、と口ごもる。
「キリの何が信じられないんだ?」
「え」
「今まで、お前という存在を受け入れて、旅にまで付き合ってくれている男の何が信じられないんだ」
「それは……」
エルーは、同じように動いたキリと顔を見合わせた。
キリのことを信用していないわけではない。それでも、これとそれは別問題だ。
「理性がどうの、男の本能が信じられないなら、お互いに服を着て風呂に入ればいい」
「服!?」
「別に着衣のまま湯船に入れ、というわけじゃない」
例えばエルーが服を脱いで風呂を楽しむ間、キリは服と目隠しを付けたまま一緒にいる。

エルーが洗い終わったら、彼女がバスタオルを巻くなど濡れても構わない・裸ではない格好になってと目隠しをつけてキリの風呂に付き合う。

勿論、極力彼女を見ないようにして洗い終えたキリが服まで着終えたら目隠しをする。

エルーが服を着る。
何も風呂は裸でしか入ってはいけないわけではない。
「問題はないと思うが」
「うーん」
確かに、お互いの裸を見合わないという点では問題はなさそうだ。あとは互いの自制心次第だろう。
「要は2人のどちらかがどこでも肌にさえ触れていれば問題はないわけだから、目隠しをしている方に肩など触れてもいいところに手を置いてもらっていればいい」
「それはそうなんだけど」
ちらっとキリがエルーの方を見る。説明はきちんと聞いて理解したものの、受け入れはまだ出来ないようだ。
「それに、今までそんな体勢を続けていてまともに風呂に入れるとは思えんのだが」
ファルゼンの言う通り、それはそうだった。狭い風呂で、1人ずつお互いを見ないように手を繋ぎあって入るのはかなり大変だ。片手で髪や身体を洗ったり、まともに湯船につかれることはなく扉に近いところにあるシャワーですませるしかない。
この方法が可能になるなら、極端に狭い風呂でなければこれから続けていくことも出来るだろう。
「俺は良くわからんが、年頃の女性と言うのはきちんと身体を洗えないというのは気になるんじゃないのか」
「……それはそうですけど」
エルーは空いている手でぎゅっと膝の辺りをつかんだ。ファルゼンの言う通りだ、気にならないわけがない。
「別に変な匂いはしないけどな」
キリがエルーのうなじ、首もとの辺りの匂いをかぐようにしていたので彼女はぎゃっと悲鳴を上げて思い切り押し飛ばした。天然なのか、たまにこういうことをしてくるから心臓に悪い。
「結局、あんた次第だと思うんだけど……」
押されて倒れてあてててとベッドから起き上がるキリがエルーの顔を見る。彼女が顔を伏せ、黙って考える。
「絶対のぞかないし、変なとこも触らない。俺を信じてくれないか」
「……」
キリの言葉、その顔にやましいことなんて一切見えなかった。そういうことをする人でもない、と今までの旅で知ってきた。エルーはわかっている。
それに両手を使って思う存分身体を洗い、たっぷりの湯の張った湯船に足を伸ばして入る。想像するだけでなんて気持ちいいことだろう、と思う。その隣に服を着ているとはいえ男の人がいるという羞恥心で、エルーの心は揺れている。
「まぁ、風呂場の外、この部屋には俺もいる。変な悲鳴が聞こえたら、飛び込んで叩き飛ばしてやる」
ガゼルの暗殺者を瞬殺した男の言葉だと、それは相当恐ろしく頼もしい限りだ。変なことをしないと心に決めているキリでも冷や汗がだらだらと流れる。
・・・・・・
「わかりました」
長い沈黙。たっぷりと時間を使って、エルーはそう答えた。安堵の息、やれやれと方の力を抜いた。
「絶対絶対見ないでくださいよ?」
「おう。わかってる。そっちもあんまり長風呂しないでくれよ?」
ぎゅっとつかんだ手を強めに握り、エルーの言葉にキリが応えた。まだ不安で、恥ずかしさの残るエルーもそれでようやくくすっと笑みがこぼれた。
いつの間にか部屋の外に出ていたスイがにやっと笑っているのには、2人は気づきもしなかった……。

105:名無しさん@ピンキー
08/08/24 00:20:38 m/BuXzJu
超GJ
だが一つ修正してくれ。ファルゼンて誰だw

106:名無しさん@ピンキー
08/08/24 00:23:15 MWzFQ6Fo
続きは考えてないわけでもないっ!

エルー風呂に入る

キリ、その手を肩に置く。風呂の湯気といつもより温かな肌、目隠しでどきどきする。

身体を洗う時にお湯が跳ねてエルーが声をかける。大丈夫などというやり取りあり。背中洗おうか、なんて言おうとしてしまって慌てるキリ。

何気ない、背中は無理だけどなんてふざけ半分で「髪洗ってやろうか」なんて言ってしまうキリ。どきっとするものの、お願いしますと答えてしまうエルー。

背中に触れて洗うなんて無理だけど、髪を洗うのも無理と心臓が壊れそうなくらい動悸がおさまらないキリとエルー。

落ち着いて湯船につかるエルー、今までの旅の話をポツリポツリ感謝の言葉も添える。

エルーがバスローブっぽいものを着て、キリの風呂の番。

流石に「さっきのお返しに背中流そうか」なんてエルーも言えないまま、気まずい雰囲気で身体を洗うキリ。

キリが髪を洗おうとし、エルーも思い切って言おうかとする。

ファルゼンがうとうとし始め、タイミングを狙いに狙いまくって服は着ているスイが風呂場に乱入。

髪を洗う直前でキリは反撃出来ず、エルーは目隠ししててわけがわからない。

なんとか追い出したが、エルーの目隠しと服がはだけてしまっていてしかもごちゃごちゃしてた間に2人が向かい合ってて固まるキリ。

湯気で見えなかったなんていうけど、心臓がぶっ壊れそうなくらい跳ねてるキリと自然現象的な勃起。

服を着なおして目隠しをと慌てるエルーが足を滑らせて、2人がもつれて倒れこんで……。

わっふるわっふる。→ヤッても声を漏らすとファルゼンが飛び込んでくるから、声を抑えたものに。


のぼせあがって出てくる2人、スイはにやにや、うとうとしていたファルゼンは何事もなくてよかったと〆る。

さーて、どうすっかw
書きたいけど手元にジャンプねぇ、単行本は1巻しか出てないからいまいち台詞回しがつかめんのよな。


>>100
もしやストレンジ+だったりするのかい?

107:名無しさん@ピンキー
08/08/24 00:23:37 fKQiUefy
ごめん、ファラン・デンゼルじゃないっけ?

108:名無しさん@ピンキー
08/08/24 00:26:23 MWzFQ6Fo
>>105
すまん、素で間違えてたww
ファランだよな、うわー何と混同してたんだ、俺……

修正効かんから恥かくままでいいや

109:名無しさん@ピンキー
08/08/24 01:00:20 DR4SFZUQ
>>108
人の名前を間違えるとは何と無礼な男だ、失礼にも程がある。
逃げないでちゃんと罪を償えよ。

そうだな、>>106の事を全部書けばみんな許してくれるんじゃないか?

110:名無しさん@ピンキー
08/08/24 01:09:05 Ux8oU6H4
そうだな。106の内容を書いてくれれば許さないこともないな。(笑)
て訳で続きの早期投下を切に願うわ。└|∵|┐

111:名無しさん@ピンキー
08/08/24 01:26:18 MWzFQ6Fo
だろうなぁw
善処する
でもwikiに一人称とか出てないから色々見てまわるしかないなw

万一小ネタが保管庫とか入るなら名前の修正だけ頼みたい

112:名無しさん@ピンキー
08/08/24 06:00:17 2BYbWGh4
トイレイベント避けられないのは分かるけど生々しいよな

113:名無しさん@ピンキー
08/08/24 17:26:02 Ux8oU6H4
ファンとしては目を背けたいが避けては通れぬ道だ。

114:名無しさん@ピンキー
08/08/24 20:20:37 Rvp/IbU1
寧ろ見たいだろそこは

115:名無しさん@ピンキー
08/08/24 21:45:59 5bjyQ/WN
うん見たい

116:名無しさん@ピンキー
08/08/24 22:24:22 1eL8xCxB
うんは見たくない

117:名無しさん@ピンキー
08/08/24 22:33:57 d55o48fC
恋人同士になっちゃえば、風呂やシャワーなんて毎回一緒に入れるし、(むしろ入るし)トイレすらも羞恥プレイの一つとなる。ベッドも一つで足りるし。いいことづくし。

早く押し倒せよキリ。ダブルアーツの練習とかしたら汗の匂いでたまんなくなるだろ(´3`)

118:名無しさん@ピンキー
08/08/24 23:18:35 ZVslGUOr
キリは14歳の時に恋をしないと誓ったからねえ……。

119:名無しさん@ピンキー
08/08/25 01:50:42 2W4mGFBa
スイの罪は深いな
ここはガゼルに凌辱され徹底的に罰を与えられるスイのSSを待つしかあるまい

120:名無しさん@ピンキー
08/08/25 11:44:59 SBMIjgU1
赤丸売り切れてたし
どういう話の流れだったんだ

121:名無しさん@ピンキー
08/08/25 18:13:15 9193EVDw
>>120
説明するとだな。



ある日キリはスイに付き合えと言われ、何となくOKする。
翌日、スイから他に好きな奴ができたから別れてくれと言われる。
次の日、やっぱりお前じゃないとダメ、もう一度付き合ってと言われる。
次の日、やっぱり別れてくれと言われる。
次の日、フラれた。お前しか見ないからと言われる。

次の日キリはフラれて、もう恋なんてしないと誓ったそうな。

122:名無しさん@ピンキー
08/08/25 19:59:31 SFbtl/d2
恋をしないならセフレになればいいじゃない(アントワネット)。

123:名無しさん@ピンキー
08/08/25 20:03:35 JrmLsVHz
文字にするとアレだが
スイの可愛さといったらもー

124:名無しさん@ピンキー
08/08/25 20:12:43 AvHsZOCk
スイはホントいきいきと描かれてるよな

125:名無しさん@ピンキー
08/08/26 00:07:45 BI+TsHQ8
本編の掲載順位が……。
アンケ出そうぜ。

126:名無しさん@ピンキー
08/08/26 00:48:37 rZh/nS0C
みんな出しててこれなんだぜ
ワンピのシャボンティ編とか面白いし票吸われちゃったんかね

127:名無しさん@ピンキー
08/08/26 01:02:49 w+HeUDdN
>>106
>もしやストレンジ+だったりするのかい?

アンタすげぇわ。

128:名無しさん@ピンキー
08/08/26 01:08:09 5r41xcVX
まだ今週のジャンプ読んでないんだけど…、ダブルアーツの掲載順位何番目だったの?

129:名無しさん@ピンキー
08/08/26 01:15:19 m4Xt15ek
早く読め。
ジャガー入れないで下から2番目。

130:名無しさん@ピンキー
08/08/26 04:04:18 rOAVnso5
打ち切り一直線の家電の次

131:名無しさん@ピンキー
08/08/26 16:55:31 soy+bpQi
打ち切りに怯えず読めてた頃が懐かしいな・・・


132:名無しさん@ピンキー
08/08/26 23:29:10 G93U9Xxi
このまま終わるとすれば、ひたすらラブコメを期待した自分が馬鹿みたいに思えてくる

133:名無しさん@ピンキー
08/08/27 01:40:51 IXEDgaBg
ラブコメはここで楽しめばいいじゃないかw

なぁに、その内持ち直すさ
今のアニメ化作品だって最初はそんなもんだった
後々から自分の個性や押し出すべきところを知って、それで今があるんだから

俺達はアンケを出せばいい
応援すればきっと届く


みえるひととユンボル?
……( ゜д゜)ナンノコトダイ?


134:名無しさん@ピンキー
08/08/27 12:53:21 L0ar/VIu
もう打ち切りが怖くて安心して読むことが出来る状態じゃないな。そろそろくら替えするかな…。

135:名無しさん@ピンキー
08/08/27 14:01:34 payWLv6e
お前のような奴がいるから切られるんだぞ!

136:名無しさん@ピンキー
08/08/27 17:31:52 01Z8lHCG
アーツはきっと持ち直すさ、そう信じよう。
さぁ、アンケを出し続けようじゃないか。

137:名無しさん@ピンキー
08/08/27 18:07:12 eYmG9BL3
アーツは何度でも蘇るさ
そういや赤マル番外編でキリの童貞が確定したみたいな流れになってたようだけど
あの後事に及ぶ→破局ってのはないのか?
誰かそのSS書いてくれないかな・・・
いやお願いします

138:名無しさん@ピンキー
08/08/27 23:56:13 L0ar/VIu
135氏136氏137氏、すみません。くら替えなんてしません。嗚呼、僕はなんで事を言ってしまったんだ…。

139:名無しさん@ピンキー
08/08/27 23:59:40 GyRAibvF
まあ、しょうがないさ

140:名無しさん@ピンキー
08/08/28 00:00:21 5v9t/baD
PC規制中の上、本誌の展開でどんどん書きにくくなってるw
こりゃ早めに完成させねーとな……期待はさせられん内容だが

141:名無しさん@ピンキー
08/08/28 00:04:18 Vn0SS0+C
展開なんて無視しちゃって結構
何ならトロイの設定とか消しちゃってもおkですよ

142:名無しさん@ピンキー
08/08/28 09:02:20 VKxQv4Kx
小説書くよー

143:>>111だが書いたぞw
08/08/28 16:07:00 Cq7TLD7p
しゃしゃしゃとキリが窓の外から見える景色をスケッチしている
ドアががちゃりと開き、ファランが顔を見せる
「……」
ファランは部屋のなかの空気が少しおかしいことに気づき、1人で買い物に行ったのはまずかったかと思う。
「スイはまだ帰ってきてないよ」
「そうか」
スイがすぐ戻るものと思って部屋を出たのだが、予想がはずれてずっとキリとエルーは2人でいたわけだ。
どうしたものか、ファランは言い出しかねていた。
明らかにエルーがそわそわもじもじして、キリの方を見ていないでいた
「俺も帰ってきたことだし、そろそろ風呂入ってこい」
ビクゥと反射的にエルーの背が伸び、キリが気のない返事をする。
「や、やっぱり今日は入るのやめません……?」
エルーがおそるおそる言うのに、ファランはふぅとため息をついた。
気持ちはわかるが、一度決めたことをうだうだと言っているのは感心しない。
ファランはどっかりとベッドに座り、2人を、エルーを見る。
「安心していってこい」
「は、はい」
有無を言わさぬ迫力にエルーが気圧されるのを、キリが空いた手でポンとエルーの肩をたたいた。
うぅ、とうなっていたが、エルーはふっと天井を見上げ、それからこくりと頷いた。
羞恥心は未だにある。避けて通りたい。
それでも、繋いだ彼の手が勇気をくれる。信じられる。
エルーはバスローブや目隠しを手に取り、風呂場へ一歩また一歩と確実に向かう。
彼女の決意を一部始終見ていたファランは、何を大げさなと心の隅に思いつつ風呂場のドアが閉まるのを見届けた。


144:>>111だが書いたぞw
08/08/28 16:11:25 1d9WEWo8
「目隠し、きつくないですか?」
「うん」
キリの肩や首筋に触れながら、エルーは自分の手できゅっと目隠しをつけている。
その方が安心出来るだろ、とキリの方から言い出したことなので彼女は反対しなかった。
「じゃ、あとはいつものように……服を脱ぎますんで」
「おう」
耳栓はすると何かと危ないだろうということなので、付けていない。
キリは後ろを向いて、エルーが片手片手入れ替えて服を手渡すのを受け取る。
この時、しゅるしゅるという衣擦れの音がやけに耳に聞こえると思った。
いつもとは違う目隠しがそうさせるんだろうか、とキリは頭のなかで風景画を描き続ける。
「お、終わりましたんで歩きます」
「あ、うん」
下着は今までもエルーがキリの見えないところ、袋などにしまっていた。手渡し出来るわけもない。
エルーがキリの手を取り、自らはその背を向けてゆっくりと歩く。もう片手を使ってあまりない胸をタオルで隠す。
服を着た少年と何も身に付けていないエルー、普通では考えられないシチュエーションだけに彼女の心臓は動悸がおさまらない。キリの方はどうなんだろう、とちらりと後ろ目で見るが特に顔を赤らめることもない。いつもの表情に思える。
「どうした?」
エルーはハッと我に返る。風呂場がいつもより広いとはいえ、そう歩くわけでもない。彼女はふるふると頭を振り、気を取り直す。
「じゃ、ここで座ります」
彼女はゆっくりとした動作で、キリの手が離れないように椅子に座る。
エルーはキリの手を引いて、自分の首筋辺りに置かせた。
それから、なんとなく無言になってしまって、これ以上何かを言うのがまた恥ずかしくなって、エルーは目の前の蛇口をひねった。

145:>>111だが書いたぞw
08/08/28 16:15:37 FCqQw+nw
キリは頭のなかで風景画を描き続けていた。
そうでないと理性が保たないわけではなく、単純にそれしかすることがなかったのだ。
エルーが風呂場で裸でいるのは、目隠しをしていても今までと同じだ。
一緒に入っている、といっても同時に湯船につかるということでもない。
異性に興味がないわけでもないが諸事情もあって、周りからすればキリはどこか冷めているように見える。
実際、諸事情もあってキリは「なんか、もうどうでもいいや」とか思っていたりする。それより絵を描いたり、何かを彫っていたりする方が楽しかった。
「じゃ、ここで座ります」
エルーにそう言われ、キリは彼女の手に導かれるまま、おそらくうなじの辺りに手を置くことになった。手を繋ぐよりも、ずっと離れやすそうだった。
じゃーと彼女が手桶か何かにお湯をためる音がし、肌に風呂場の湯気がまとわりついてきた。
―ん。
細い首筋だな、とキリは思った。なんだか華奢で、触れていられるところが少なくて。
「ひゃっ」
エルーが驚くような声を出し、キリも少し慌てる。
それでもまた無言になってしまい、彼は頭のなかに描いていた風景画を丸めて捨てた。
ばしゃーっとお湯が流れる音と、それがキリの足元にかかったのを感じる。
「っと」
「あ、すみません、お湯かかりましたかっ?」
「いや、気にしなくていいよ」
「服にかかったら大変ですもんね」
「いや、洗濯前の服だからこれ。っていうか今さら今さら」
彼女には見えないだろうけれど、キリが自分の服のすそを引っ張った。そうでした、とあはははとエルーの軽い笑い声が風呂場に響く。
キリの耳から入って、頭のなかで心地よく響いて余韻が残る。
「じゃ、じゃあシャワー流しっぱなしにしてもいいですか?」
「へ? いいけど」
それからすぐに聞き慣れた水音が風呂場に聞こえ、ことんと床にそれが置かれたようだ。
―身体洗うのかな。
もしかしたら、身体をタオルでこする音とか何とか聞かれたくないのかなとキリは考える。乙女心というのはよくわからない。
彼の手を置いた首筋の下にある背中、男である彼より小さいのに色んなものを背負ってきた背中だ。
「背中……」
「え?」
思わず口に出てしまったのをエルーが聞いてしまったようで、キリは誤魔化した。彼女もそれ以上は追及してこない。
―男同士なら背中流してやろうか、なんて言っちゃうんだけど。
そう思った瞬間に、自分がファランと裸の付き合い・背中の流しっこをしているイメージが出てきて、恐ろしくなって頭のなかからそれを振り払う。
全身が服の上からでも湯気に包まれたことがわかり、彼女の肌に触れている指先がいつもより温かくいや熱く感じてきた。熱いけれど、嫌と思うような不快でもない。
ふと彼女の首筋の、背骨をつぅっとなぞるように指を動かしたくなった。邪にも思えるそれはすぐ彼の頭のなかから振り払う。
ぴしょーんと天井から落ちる水音と、シャワーの流れる音が風呂場のなかにあり続けた。

146:>>111だが書いたぞw
08/08/28 16:32:39 zipYdK8F
すまん、やっぱパソコンで書いたのを携帯に送ってコピペしまくろうと思ったんだが途中から出来ないorz
浅はかだった
規制解除おとなしく待つわチキショウ

147:名無しさん@ピンキー
08/08/28 17:08:38 afGHlpwe
   ___  
  / || ̄ ̄||  F5F5F5
  |  ||__|| (д゚*)     
  | ̄ ̄\三⊂/ ̄ ̄ ̄/  
  |    | ( ./     /

148:名無しさん@ピンキー
08/08/28 18:23:21 Vn0SS0+C
GJ
だが何でそんなID変わってんだ?

149:名無しさん@ピンキー
08/08/28 22:25:53 veo7OVFe
専ブラとか入れてないしよくわからんので、コピペするたびにいちいちページ開いたり閉じたりして接続切ってるからだと思うw
規制解除はいつになるのか……携帯はめんどい

150:名無しさん@ピンキー
08/08/29 14:13:10 ikE9QjEL
ええい111はまだか!

F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5
F5F5F5/ || ̄ ̄||F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5
F5F5F5|  ||__||F5(д゚*)F5F5F5F5F5F5F5F5F5F5
F5F5F5| ̄ ̄\三⊂/ ̄ ̄ ̄/F5F5F5F5F5F5F5F5
F5F5F5|    | ( ./     /F5F5F5F5F5F5F5F5

151:名無しさん@ピンキー
08/08/29 19:42:17 16/cISl4
規制解除ってどのくらいかかるの?

152:名無しさん@ピンキー
08/08/29 21:09:52 Hdk/i+7P
>>111
ワッフル!ワッフル!

153:名無しさん@ピンキー
08/08/30 01:14:10 0LXQcvi0
空気を読まず短編投下ー
エロが無くてごめんよ



「だから不可抗力だってば…」
先刻からずっとエルーは拗ねている。
偶然キリの手が自分の胸に当たったからだ。
彼の弁解に対しても聞く耳を持つ気は無いらしい。
スイは外出中であり、からかう人間も居ない。
それが逆に気まずい空気を作り出しているのだろう。

「…もうお嫁に行けません」
そんな大袈裟な、と言葉を溢してしまいそうになったが無理矢理堪える。
それを言った所でこの雰囲気は消えないと彼は悟っていた。

―そうだ、
とキリは閃いた。
からかう人間が居ないなら、自分でからかえば良い。
我ながら愚かな策だが、他に手が無いのも事実だった。
「じゃあ、オレが責任取るよ。それなら問題無いだろ?」

ぴく、と少し動じるエルー。
みるみる耳が赤くなっていく。
「キリさんのばか…」

どうやら彼女は今の言葉を本気と捉えてしまったらしい。
しかし、ノーとは言わない。
予想とは違う反応が返ってきたが、キリに後悔は無かった。

ぎゅっ、と繋いだ手を強く握るエルー。
それが彼女なりのイエスの意味だと、彼には分かった。

154:名無しさん@ピンキー
08/08/30 02:31:50 TvUX37HH
甘~~いWWW

155:名無しさん@ピンキー
08/08/30 03:16:38 qhmNvnVw
ここのSSは何故いつもHの一歩手前で終わるんだw
だけどGJせざるを得ない・・・くやしいっ

156:名無しさん@ピンキー
08/08/30 09:01:03 dKxSVD49
虫歯になっちゃうwww
gj

157:名無しさん@ピンキー
08/08/30 16:09:59 uyGTA/C4
>>153
続ける気はないのか…?

158:名無しさん@ピンキー
08/08/31 14:07:24 72EXiilm
>>153
うむ、ほどよい甘さ

スイはもらったw

159:名無しさん@ピンキー
08/08/31 23:15:07 SM3xmJsB
>>155
確かにw

160:名無しさん@ピンキー
08/09/01 11:44:42 Y7rGb60b
URLリンク(imepita.jp)

161:名無しさん@ピンキー
08/09/01 15:07:34 Bvg48SA8
アーツの掲載位置やべぇ、早くアンケ出さないと……。

それにしても今週のエルーは可愛すぎだと思うんだ。


162:名無しさん@ピンキー
08/09/01 18:52:47 DEGPJ0OU
今週やばいな。もう恋してる顔だもん

163:名無しさん@ピンキー
08/09/01 19:35:58 Q8dLx9Yt
思った。あれは恋してる

164:名無しさん@ピンキー
08/09/01 19:47:11 XYrJI1Wy
恋するエルーたんハァハァ
つーかエルーたんスレでやってやれw

165:名無しさん@ピンキー
08/09/02 00:53:58 RkFkkLL4
規制から1週間は経った
もう代理投下頼みたいくらいだw
実際の投下時に一行の長さ調整とかしないと駄目だろうし、難しいかぁ……

166:名無しさん@ピンキー
08/09/02 10:23:47 p9gYmLmS
>>111さんかな?
読みづらくてもよいから
読みたいです
続き気になってもきゅもきゅ
とんだ焦らしプレイwww

167:名無しさん@ピンキー
08/09/02 10:41:52 vSNdJMUq
今の悲しみを紛らわしてくれるなら何だって構わんよ

168:名無しさん@ピンキー
08/09/02 11:01:05 4Skwih5z
誰か捨てアド晒してくれれば原稿送るし代理投下は出来るけどな
それとも原稿そのものをアップするかか
こんな時期に巻き添え規制なんて

169:名無しさん@ピンキー
08/09/02 14:01:33 BC4aHXXy
打ちきりか…

170:名無しさん@ピンキー
08/09/02 17:50:52 +jyPlVvf
>>165
汎用SS投下スレ
URLリンク(jbbs.livedoor.jp)

ここのSSも収蔵してくれてるエロパロ保管庫の人が借りてる掲示板のスレ。
ここに投下して誰かにコピペを頼めばOK!


171:名無しさん@ピンキー
08/09/02 18:53:00 f/aVJYp8
ありがとう
こんなスレがあったのかw!
日付変わるまでには投下するからコピペ頼んだ

172:名無しさん@ピンキー
08/09/02 21:11:40 hPTA/fNU
>>170に投下を終えましたw
長らくやきもきさせてすみませんでした。

下手に本編のフォロー的なものを入れずに、とっととエロに入っていれば良かったかなと後悔。推敲も足りなかったかも。
本編は残念なことになったようで、悔やむばかりです。
シチュ的にはおいしいので、ネタが続けばこちらにはあんなので良ければ投下するので宜しくですw

>>153
あなたは空気なんて読まずにもっと投下してくださいお願いします。
ニヤニヤさせてもらいました!
GJ!


173:名無しさん@ピンキー
08/09/03 13:41:30 NQQtepFE
見てきた
スイGJとエルーに萌え死んだ

174:名無しさん@ピンキー
08/09/04 07:16:08 Btf8hzP4
>>167
逆に考えるんだ
むしろSSは創り易くなったと考えるんだ。

175:名無しさん@ピンキー
08/09/04 17:38:30 XM0M8PZi
>>174
それだ!!!
ということで来週のジャンプ読んだらSSを書こうと思う

176:名無しさん@ピンキー
08/09/04 18:47:24 ll94eSqo
蛇口をひねり、お湯を風呂桶にため終えたころだった。
「ひゃっ」
思わず声が出てしまった。キリの手が、ほんの少しだけ動いたようだ。
たったそれだけなのに、今までとは全然違う反応を見せてしまってエルーはバツの悪い感じが胸のなかにあった。
とりあえず目の前のお湯を肩から、少しずつ全身を濡らすようにかける。後ろにキリがいることも忘れず、首筋にはなるべくかからないように注意を払ったつもりだった。
「っと」
「あ、すみません、お湯かかりましたかっ?」
「いや、気にしなくていいよ」
「服にかかったら大変ですもんね」
「いや、洗濯前の服だからこれ。っていうか今さら今さら」
キリの言葉にそうでした、とあはははと笑ってしまった。そして、同時に本当に彼が後ろに立っているのだということを改めて認識した。
「じゃ、じゃあシャワー流しっぱなしにしてもいいですか?」
「へ? いいけど」
万一でも、何か恥ずかしい音が聞こえたら嫌だなと思ってシャワーの温度を調節して出しっ放しにする。暴れないように、自分の足でえいやっと踏みつけておく。
「背中……」
「え?」
キリがなんでもないと誤魔化した。エルーもそれ以上は追及しなかったけれど、気になる。
―背中、背中、何か変だったかな?
エルーはわずかに首をひねりながら、身体を洗い始める。今まで両手を使って洗えることはなかったので、これは本当に気持ちが良かった。
こうして力強く、マッサージをするように念入りにごしごしと肌をこすって洗う感じがたまらなかった。
そのおかげか血の巡りが良くなり、段々身体のなかから温まってきた。自分の肌に触れているキリの指先がいつもより温かくいや熱く感じてきた。熱いけれど、離したいと思うような不快でもない。
彼の手が置かれている首筋が、くすぐったいというか心地よいというか不思議な感じがした。
―あっ、湯桶じゃなくてシャワー使ってれば……。
湯桶でかぶるのではなく、弱めのシャワーを使えばお湯はそうはねない。最初からそうしていればキリにかかったりすることもなかった、とエルーは今さらながら気づいた。
ちょっとしたことだが、それなりに肩を落とした。これからそうすればいいか、とすぐに気を取り直す。
足で押さえつけていたシャワーを手に取り、少し勢いを弱めて身体にかけていく。ついでに髪を濡らそうと、いやその前にキリに一言断りを入れておくことにする。
「これから髪洗うんで、シャンプーとか指にかかるかもしれません」
「あ、ああ」
キリが言いよどむ。エルーもいちいち一言ずつ声をかけていくのが、気恥ずかしいというかこそばゆい。ひとつひとつ答えが返ってくるのが、嬉しい。
どうしたんだろう、フフッとエルーは微笑んで首をちょっとだけすくめる。




177:名無しさん@ピンキー
08/09/04 18:48:22 ll94eSqo
「あ、あのさ」
「は、はい」
「髪洗うの手伝おうか?」
「へっ」
キリの突然の提案だった。早くものぼせてきたのだろうか、自分の顔が熱い。
エルーの頭のなかがぐぅるぐぅる渦巻いているようで、同じように舌もよく回っていない気がする。言葉がのどまで出かかっていそうで、ごくんとつばを飲み込んで落ち着かせる。
「お、お願いします……?」
ようやく出た言葉がそれで、エルーは固まった。それから、ゆっくりと後ろを振り返るのとほぼ同時にキリがぺたんと床に座った。思わずきゅ、ばっとエルーは真正面を向き、姿勢を正してしまう。相手は目隠しをしているのに、まともに顔を合わせられない。
「あ、あのさ」
「は、はひ」
「前見えないから、シャンプー、髪につけるのはやってくれない?」
「あ、はいはい!」
エルーがぎゅっぎゅとシャンプーのノズルを押し、手のひらにそれをためる。すっと自分の髪にのせ、のばして、指を立てて泡立てる。
そこでこつんとキリの指がぶつかったのがわかって、反射的に彼女は右手を引っ込めてしまった。宙を浮いたその手は行き場を探し、落ち着いた先は自分の太ももと膝の裏だった。
エルーの首筋にまだキリの指の感触があるので、空いている右手だけで彼女の頭髪を優しく撫でる。エルーは彼の手にぶつからないよう、自分の左手で残ったスペースを洗いたてた。
傍から見ればおかしな光景だ。銭湯で似たようなサービスがあったかな、と思うけれどエルーはされたことがない。
キリの指先は優しかった。繊細で器用な手先を活かして、エルーの右頭部を丁寧に洗髪してくれる。触っている彼の指が思いのほか硬く、女の子の自分とは随分違った。
―この手、この指で色んなものを作ったり……私や色んな人を救ってくれたりするんだ。
それを1人占めしているようで、ちょっぴり贅沢な気分だ。それに手を繋いでいる時とはまた感じ方に差があり、今一緒に自分の頭に触れているのでよくわかる。
そう優しいけれど、何か切なくなるこの感じをエルーはつかみそこねていた。
それからキリの左手も参戦したのを、また指同士がぶつかったので気づけた。エルーは両手を下ろし、黙って洗われることにした。こてんと後ろに首を傾け、キリに預けてしまう。しゃかしゃかと動く指が、今までにない安息を感じさせてくれる。
「ん、シャワー」
キリにそう言われ、エルーは名残惜しそうにシャンプーの泡を洗い流した。左手は離れていくけれど、右手はつむじから首筋の背骨をそってまた肩の辺りに置かれる。エルーはその手を取って、キリに立ち上がることを促した。
「湯船につかりますんで」
「うん」
重なり合った2人の手は指先だけ絡めて、転ばない程度でほんの少しだけ足早に歩いた。


178:名無しさん@ピンキー
08/09/04 18:49:00 ll94eSqo
「あ、あのさ」
「は、はい」
「髪洗うの手伝おうか?」
「へっ」
キリの突然の提案だった。早くものぼせてきたのだろうか、自分の顔が熱い。
エルーの頭のなかがぐぅるぐぅる渦巻いているようで、同じように舌もよく回っていない気がする。言葉がのどまで出かかっていそうで、ごくんとつばを飲み込んで落ち着かせる。
「お、お願いします……?」
ようやく出た言葉がそれで、エルーは固まった。それから、ゆっくりと後ろを振り返るのとほぼ同時にキリがぺたんと床に座った。思わずきゅ、ばっとエルーは真正面を向き、姿勢を正してしまう。相手は目隠しをしているのに、まともに顔を合わせられない。
「あ、あのさ」
「は、はひ」
「前見えないから、シャンプー、髪につけるのはやってくれない?」
「あ、はいはい!」
エルーがぎゅっぎゅとシャンプーのノズルを押し、手のひらにそれをためる。すっと自分の髪にのせ、のばして、指を立てて泡立てる。
そこでこつんとキリの指がぶつかったのがわかって、反射的に彼女は右手を引っ込めてしまった。宙を浮いたその手は行き場を探し、落ち着いた先は自分の太ももと膝の裏だった。
エルーの首筋にまだキリの指の感触があるので、空いている右手だけで彼女の頭髪を優しく撫でる。エルーは彼の手にぶつからないよう、自分の左手で残ったスペースを洗いたてた。
傍から見ればおかしな光景だ。銭湯で似たようなサービスがあったかな、と思うけれどエルーはされたことがない。
キリの指先は優しかった。繊細で器用な手先を活かして、エルーの右頭部を丁寧に洗髪してくれる。触っている彼の指が思いのほか硬く、女の子の自分とは随分違った。
―この手、この指で色んなものを作ったり……私や色んな人を救ってくれたりするんだ。
それを1人占めしているようで、ちょっぴり贅沢な気分だ。それに手を繋いでいる時とはまた感じ方に差があり、今一緒に自分の頭に触れているのでよくわかる。
そう優しいけれど、何か切なくなるこの感じをエルーはつかみそこねていた。
それからキリの左手も参戦したのを、また指同士がぶつかったので気づけた。エルーは両手を下ろし、黙って洗われることにした。こてんと後ろに首を傾け、キリに預けてしまう。しゃかしゃかと動く指が、今までにない安息を感じさせてくれる。
「ん、シャワー」
キリにそう言われ、エルーは名残惜しそうにシャンプーの泡を洗い流した。左手は離れていくけれど、右手はつむじから首筋の背骨をそってまた肩の辺りに置かれる。エルーはその手を取って、キリに立ち上がることを促した。
「湯船につかりますんで」
「うん」
重なり合った2人の手は指先だけ絡めて、転ばない程度でほんの少しだけ足早に歩いた。


179:名無しさん@ピンキー
08/09/04 18:51:27 gULpuOPY
ぬるぽ

180:名無しさん@ピンキー
08/09/04 18:52:54 ll94eSqo
「オレはあんたを不幸にさせない」
エルーはハッと顔をあげ、少しだけキリの方へ首をひねる。顔は見れない。
「これからもやっぱ旅先々でシスターのことやトロイで言われていくんだろうけど、
せっかく一緒にいて、手を繋いでいるんだ。もうあんただけの重荷にしないで、オレにも背負わせてくれよ」
きゅっと肩越しの手が動く。
「これ以上、キリさんに迷惑かけるわけには」
「迷惑じゃないって。ていうか、何を今さら。こんなこと言わせんなっつーの」
「あ……すみません」
「また謝る」
エルーはぶくぶくと湯のなかに沈む。こういう話になると、どうしても後ろ向きになってしまう自分が嫌だ。
「とにかく、もうあんたは1人じゃないんだから。そこんとこよろしく」
「……はい」
マーサに拾われて、シスターとして生きることを決めて、沢山の人に出会ってきた。
救おうとしてきた多くの人に避けられ、距離を置いて、自ら遠ざける。
どんな間柄の人間であってもそうしなければならない、触れれば感染る不治の病。
いつかシスターとしての限界を超えて発症することも、当たり前のことであったのに、
頭の上では覚悟していたのに、いざその瞬間になれば恐ろしかった。この世界から文字通り消える。
骨も何も残らない。自分を知るものがどれだけいたか、その人達は自分の死をどれだけ悲しんでくれるだろうか。
もしかしたら消えたことすら気づいてもらえないかもしれない。
「はい」
エルーはキリの言葉をかみしめ、ゆっくりと反芻する。


42 名前:名無しさん@ピンキー 投稿日: 2008/09/02(火) 20:20:34 [ .xGCpjtg ]

シスター同士でも触れ合うことに躊躇われるというのに、彼は迷わず苦しんでいたエルーを拾い上げた。
とっさの行動でシスターとは気づかなかっただけかもしれない、いや彼はそうであっても躊躇わなかっただろう。
そういうことなどから彼を馬鹿だ、青臭い、理想論ばかりと片付けることは簡単だ。こうして彼の温かな手に触れている間にも、
世界で多くの人がトロイで亡くなっていく。元よりシスターの数が足りない、完全な治療にはならないことから救世主は待ち望んだ存在だった。
それなのに、たった1人のシスターであるエルーを救い出し、それだけに一生懸命になってくれている。どうかしている、
事態は一刻も争うだろうに悠長過ぎる。理解が足りていないのかもしれない。ただファルゼンが全滅してしまったから、
護衛をつけて、自分達も強くなろうという考えは間違ってはいない。けれども彼女も、世界もまだ救われていない。それだけが事実だ。
だけど、一般市民Aだった彼にいきなり世界を救うかもという重荷は厳しすぎる。彼にはまだ世界が見えていない、
目の前のシスターを救い出すだけで手一杯でいる。それだけでも取りこぼしそうなくらい、彼はつたない。
今はまだ彼の行く末を見守っていよう。おかしい? 甘すぎる? 彼が今取っている行動はいずれ様々なカタチでの責任となってのしかかるだろう。
悪く言えば今までのツケがのしかかるということであって、本当にこれから先、彼の未来には何が待っているかわからない。
最悪すら、今では考えられないほどに想像を絶するものかもしれない。

一緒にいよう。それが許されている限りでいいから、この手が分かつまで。

「はい。ありがとうございます」
エルーはキリに応えた。彼はお礼と謝ってばかりと言っていたけれど、それは彼ばかりでなくこの世界や今まで出会ったきた人達、
そして自分自身にも向けて言っていたのかもしれない。
「……そろそろあがりますね」
「もう、か?」
「これ以上入ってたらのぼせちゃいます」
エルーはあははと笑い、そう言って湯船のなかで立ち上がる。彼もそれに合わせて立ち上がったことを、首に置かれた手の感触でわかる。
この頭の熱さはのぼせそうなだけじゃないから、笑って誤魔化した。笑うより嘲うの方が近いかもしれない。
いつからだろう。世界や他の人達にかけていた心が、すぐ後ろにいる少年と自分の方ばかりへと移りいったのは。


181:名無しさん@ピンキー
08/09/04 18:52:57 gULpuOPY
ワロタ

182:名無しさん@ピンキー
08/09/04 18:53:57 ll94eSqo
「これから髪洗うんで、シャンプーとか指にかかるかもしれません」
「あ、ああ」
キリが言いよどんだ。
いちいち断りを入れてくれる彼女の気配りに、意識して動揺しているみたいで恥ずかしい気がしてきた。
「あのさ」
肩に置いた手にかかる濡れた髪の感触、その下に続く彼女の背中に何か思うがあった。そう、ひとつでも彼女の労をねぎえたらと思った。
「は、はい」
「髪洗うの手伝おうか?」
いやらしい気持ちなんてない。
「へっ」
突然の提案だったし、断られるかなとキリはすぐに諦めかけた。相手は年頃の女の子だ。流石にそんなことさせてくれるわけがない、むしろ変に警戒させてしまったかなと心のなかでため息ひとつ吐いた。
「お、お願いします……?」
エルーの戸惑いを見せるような、了承の言葉を聞いてキリは何かを思う前にどすっとびしょ濡れの風呂場の床に直に座り込んだ。
彼女の肩に置いた手の、指の力が思わず入ってしまいそうなのをこらえた。ツッコミを入れた方がいいのだろうか、なんて自分から言い出しておいてそれはないだろと言うのもおかしい。
「あ、あのさ」
「は、はひ」
「前見えないから、シャンプー、髪につけるのはやってくれない?」
「あ、はいはい!」
彼女がぎゅっぎゅとシャンプーのノズルを押し、手のひらにそれをためるような音が聞こえた。それを髪にのせ、のばして、指を立てて泡立てるのも音でわかった。
キリは意を決し、空いた手の方で彼女の頭に触れる。
手で頭の形をさぐり、離さないようにしっかりとつかもうとする。その時、こつんと彼女の指がぶつかったのがわかった。それがすぐに引っ込んでしまったのを、キリは少し残念に思い、なんで!?とその思ったことに対してまたツッコむ。
とにかく、とキリは彼女の髪をわしゃわしゃと洗い始めた。こうやって他人の髪を洗うなんて初めてのような気がする。幼い頃、両親に洗われたことはあった気がするけれど自分が両親にしてやった記憶はなかった。
傍から見ればおかしい光景に違いない。それでもキリは出来るだけ優しく、丁寧に、髪を洗う。おかゆいところはありませんか、なんて冗談も言い出せないくらい必死だった。
―この髪、毎朝いっつもハネてるよなぁ。
他人のことは言えやしないが、とキリはクスッと笑った。シャンプーしている間でさえ、髪がハネようとうずいているのがわかる。
片手だけでは難しくなってきた。なんとなくバランスが悪い。彼女の髪には触れているから、首のところに置いた手は離しても大丈夫だろう。
キリは両手を使ってエルーの髪を洗い始める。彼女の指にまたぶつかったのを追うけれど、どこかにいってしまったようだ。残念に思う自分に首をかしげる。
それからエルーがこてんと後ろに首を傾け、キリに預けてきたことに驚いた。硬直しないで耐えるまま、無心にしゃかしゃかと指を動かした。もうどこかヤケが入っているのは否めない。
「ん、シャワー」
いっぱいいっぱいのキリはそれだけ言うのが精一杯だった。彼女がシャンプーの泡を洗い流してくれると、ほっとしたのも事実だった。
キリはまず左手をそっと離し、右手は離さないようにつむじから首筋の背骨をそってまた肩の辺りに置く。決していやらしい意味でも目的でもないけれど、危うく鎖骨の方まで滑っていきそうになったのは目隠しのせいだ。そういうことなのだ。
頭を少し持ち上げた彼女はその手を取って、キリに立ち上がることを促してきた。
「湯船につかりますんで」
「うん」
会話はそれだけで、彼女が今何を考えているのか全くわからない。重なり合った2人の手は指先だけ絡めて、転ばない程度でほんの少しだけ足早に歩いた。


183:名無しさん@ピンキー
08/09/04 18:54:50 ll94eSqo
ちゃぷ、ちゃぷん、ざぷんと湯船につかったような音がした。お湯があふれてくることはなさそうなので、キリは手の位置を組み替えつつ湯船に背中を預けるように座り込んだ。
「う~~~、はぁ」
「あんたオヤジくさいぞ」
「失礼なこと言わないでください」
彼女がそう言うの聞いて、キリは吹き出した。いつものやり取りだ。
「……」
また無言になった。別に会話し続けなくてもいいのだけれど、今の状況だと少し気まずい。
エルーはシスターだ。それがこの世界でどんな意味を持つのか、大人達はみんな知っている。
肌がむき出しになるお風呂を誰かと一緒に入るなんて考えられないことだろう。それに1人旅が基本のようだから、その間の苦労は想像に難くない。もっと人が優しければいいのに、と思うが周りが彼女を避けることは至極当然のことだ。
キリの家族との交流で泣かれてしまった時、もっとよく考えてみるべきだった。手を繋いで旅をしてきて、彼女の境遇を同じ視線で見て、痛感した。
泣きたくなる。
「キリさん」
「なに」
だけど、今はキリが彼女の傍に……一緒にいられる。
ある意味世界からはずれたものが出会い、互いに必要なと感じあえたこと、無意味なわけがない。
「ありがとうございます」
「……いきなり何だよ。ていうか、あんたオレに謝るかお礼ばっかり言ってない?」
「私の気持ちですから」
「ふーん」
それを言うならオレからもエルーに言いたいな、と口を開こうとした時、また彼女が喋り始めた。
「キリさんの手って凄いな、って改めて思って」
髪を洗ってもらったことがそんなに嬉しかったのか何なのか、彼女の声ははずみはしゃいでいるように聞こえた。こちらもそれだけ喜んでもらえて、何よりだと思う。
「髪洗ってもらった時、なんか贅沢な気分でしたよ」
「んなことねーって。オレの手より、あんたの背中の方が凄いと思うね」
「せ、背中ですか」
湯船のなかでばしゃばしゃと動く音がして、あふれ出た湯が彼の背中をつたうが気にしない。
「オレが街のなかで絵とか彫刻とかしてる間、あんたはずっとトロイの治療をしてたんだろ」
「治療だなんて」
トロイは完全に治る病ではない。シスターが出来るのは、ほんの少し時間を与える為に患者の毒を肩代わりする程度だ。
「シスターってことで色んな風に言われたり、見られたりしたんだろ。なのに、ずっとシスター続けて、凄いよ。オレなんかには絶対出来ない」
「そんな。私がシスターをしていたのは、それしか出来なかったからです。間に合わなかった時だって……!」
「それでも、あんたは自分を捨てないで続けてこれたんだ。ずっとずっと、ほんとに色んなもの背負ってさ」
耐性があるということは、他のトロイ患者より長く生きられるということだ。自分の思うままに、夢を追いかけることも出来たはずだ。それなのに、シスターは自分の時間を他人に分け与えることを選んだ。
湯船越しに感じる、彼女の背中。本当の目で見るより、ずっと大きく感じられた。


184:名無しさん@ピンキー
08/09/04 18:57:29 ll94eSqo
「オレはあんたを不幸にさせない」
自己犠牲は好きになれない。たった1人で背負い込むようなことを、見てはいられない。自分も他人もどちらも大切なものだと、救いたいと思うからだ。
「これからもやっぱ旅先々でシスターのことやトロイで言われていくんだろうけど、せっかく一緒にいて、手を繋いでいるんだ。もうあんただけの重荷にしないで、
オレにも背負わせてくれよ」
きゅっと肩越しの手が動く。
見ていてオレがツラいから、彼女のわがままを聞いてやらない。それくらいしないと、優しい彼女はすべてを勝手に1人で背負い込もうとするだろう。
「これ以上、キリさんに迷惑かけるわけには」
「迷惑じゃないって。ていうか、何を今さら。こんなこと言わせんなっつーの」
「あ……すみません」
「また謝る」
謝りたいのはこちらの方だと、彼はひとつ息をつく。
「とにかく、もうあんたは1人じゃないんだから。そこんとこよろしく」
「……はい」
キリは小さな母親と大きな父親の間に生まれ、平穏に育ってきた。あの街が、目の前にいた人達が彼の世界だった。生まれ持ったその力と才能で沢山の人や心と触れ合い、
感謝されてきた。自分の力や特技が他人の役に立てるのが嬉しかった。
感謝祭には小さな頃から手伝い、貢献してきたつもりだった。けれど今年はいつもと違って最高責任者を頼まれた。流石にそれは出来ない、と断った。
スイは面白そうだからいいじゃねーかと言うし、両親はやってみたらと軽く言う。この手に出来ることはフレアと作品を作ること、まだ子供である自分ではとても責任が持てない。
そう言うと大人達は笑った。俺達が一丸となってお前を支える、フレアだって1人じゃ何も出来ないだろ、お前も16歳になるしな、少しきついかもしれないがやるんだ、
この街みんながお前の味方だ、この街のみんなから信頼されてるお前ならやれる。無責任な言葉もあったけれど、皆の言葉に悩んで推されて考えて決心した。
「はい」
それが彼の答えだった。
彼女は反芻するように、キリに語りかけるようにその言葉を繰り返した。


185:名無しさん@ピンキー
08/09/04 18:59:51 ll94eSqo
エルーと出会って、キリの生活は変わった。発作で苦しむ彼女を、
シスターと気づく前に拾い上げたことが始まりだった。今までと同じように、
大抵の病気ならフレアがあれば何とかなると思っていたのかもしれない。
いくらフレアでもトロイには効かないからやめるんだ、と周りからそれを試すことは止められていた。
浅はかだった。それからまだ見ぬ世界の広さ、自分の小ささを自覚することばかりが起きた。
いきなり救世主の卵と言われたり、ガゼルの暗殺者達から命を狙われることにもなった。
ノリや勢いだけでは何も解決しないし、無力を痛感する。
無策で窮地に飛び込んだこともあった。繋いだ手を離さないと言っておきながら、何度も彼女の手を離してしまった。
それからすぐに彼女に起きる発作を見れば、今のままのフレアではトロイを完全には治療出来ないことは明白だ。
今までとは何もかも違う、広がった世界で彼は何とか出来なかった。
それなのに、周りはどうしようもない彼をどうしようもなく庇ってくれる。ただ守られるだけではツラい。
ファルゼンが全滅し、個人の護衛に頼らざるを得ない今、自らが強くなる為の修行などそんな余裕はないはずだ。
だけど、彼は広がった世界と彼女を守れるだけの力が欲しかった。
正直、世界と言われてもピンとこないし。けれど目の前に見える人くらいは守りぬきたい。
トロイで消えた街は数知れず、今もその脅威に怯える人は絶えない。そんな世界に待ち望んだ救世主の卵と言われた一般市民A、
それは感謝祭の最高責任者の肩書きよりも重い。まだ救うべき世界が見えていないし、
目の前のシスターでさえ満足に助けられない情けない男だ。
大人は責任を取るものであり、それを取ろうとしない大人は無駄に歳を食ったガキだ。
今はまだ庇われてばかりのキリだが、大人になろうとあがいている。自分の今している行為もその代償も、
背負っていこうとしている。自らの行く末に何があるのか、想像もついていない。
目指すトロイ研究所で自分に何をされるのかさえ、わからない。
一緒にいよう。それが許されている限りでいいから、この手が分かつまで。
「はい。ありがとうございます」
エルーは何度も彼に応えるよう、返事をした。思うところが、自分と同じようにあったのだろうか。
その間の取り方と風呂場に小さく響く声が、耳に心地よかった。
「……そろそろあがりますね」
「もう、か?」
「これ以上入ってたらのぼせちゃいます」
彼女はあははと笑い、そう言って湯船のなかで立ち上がる音を立てた。キリもそれに合わせて立ち上がる。
その表情が見えないまま聞こえた笑い声は、何だか切なかった。
彼女を守れるだろうか、いや守ってみせる。そして彼女の思いに応えること、それが自ら手を差し出したキリが取るべき責任だ。


186:名無しさん@ピンキー
08/09/04 19:02:07 ll94eSqo
「っしょ、と」
ぎゅっとエルーはバスローブの帯を縛る。身体や髪は一通り拭いたけれど、
これからキリのお風呂に付き合うのだ。きちんとした就寝着はまだ無理だが、
バスローブにくわえて濡れてもいい薄手の上着をはおっている。
もちろん下着は新しいのを着用しているが、
上は濡れてもいい余分な洗い換えが間に合わなかったのでショーツだけだ。
だから上着をはおっているのだ、これでそれがわからないはずだ、
とエルーは自分に言い聞かせ顔に出ないように努める。
「着た?」
「はい」
「目隠し取って」
「いいですよ」
キリが結び目をほどこうとするのを、エルーが手伝う。
ぱらりとほどけた目隠しはエルーの手におさまり、彼は目をこすった。
少しきつく縛りすぎたかな、大丈夫ですかと彼女が覗き込む。
「あ、大丈夫だから」
キリがきょろきょろと風呂場を見て、それからエルーを見た。
風呂上りで、髪もまだ乾いていない彼女が小首をかしげてこちらを見ている。
風呂場の明かりは大したことないはずなのに、まぶしくて正視しにくい。
「……」
「今つけますんで、服を脱ぐのはもうちょっと待ってくださいね」
若干の照れを見せながら念を押すエルーがじっと目隠しそのものを見ているところに、
キリが声をかけた。
「目隠しするの不安?」
「やっ、そういうわけじゃ」
そこまで信用されるのも、キリ自身がなんだか怖かった。
「……別にオレはいーよ、しなくても。男なんて見るべきとこ少ないしさ。
タオル着けるし、基本ずっと後ろ向いてるわけだし」
転ぶことさえ気をつければ、そう難しいことではない。しかし、エルーは真っ赤になって否定した。
「ななな何を言うんですか、もう! すぐつけます! さぁつけましたっ」
手早く、ぎゅっとエルーが目隠しを装着する。キリはぽかんとそれを見て、
吹き出した。それから彼女の手が離れないよう、いつもと同じように服を脱ぎ始めた。




187:名無しさん@ピンキー
08/09/04 19:02:40 ll94eSqo
「ちゃんとついてきてる?」
「大丈夫です」
早々に脱いだキリは風呂場を歩き、ぺたんと座り込んだ。彼女の指先は彼の右肩にちょこんとした感触とともに置かれている。今までもこういうところに触れられたことはあるのに、やはり何か違うように思える。
「遠慮せずにもっとべたーって触ればいいのに」
「いいんですっ」
「ほら」
ぐいっとエルーの手首を取り、キリは掌全体を押し付けさせた。1mmでも離れたら発作が起きてしまうのだ。ちょこっと触っているだけだと、安心出来ない。
「ちょ、キリさんっ」
「今さら照れない」
「っ、今は違うんです!」
目隠しはしているが、異性が目の前で裸になっている。いつもなら腕で距離を置き手を繋ぐのだが、今はその肩へ直に触れているのだ。意識して当然だが、そういう問題ではない。
「お湯かかんないようにシャワー使った方がいいよな?」
「はい。そうですね」
エルーの失敗をキリが活かし、その温度を調整してシャワーを弱めに出し始める。後ろにいる彼女を見ながら、かからないように慎重に全身にお湯を浴びる。
それからごしごしと全身をくまなく洗う。エルーと同様、思い切り両手を使って身体を洗うのは久し振りだ。気持ちがいい。

エルーは動悸を抑えようと頑張っていた。
服の上からではない、直に彼の首筋へ手を置いていることに動揺を隠せなかった。目隠しをしている分、その固い肌触りを更に意識してしまう。
これで手の平をずらして、また指先だけにしようとしたら彼にまた手首を取られる。そんなことされたら、余計に鼓動が早まってしまう。
自分でも変に自意識過剰だよね、と思う。彼を信じていないわけではないのに、どうしてもそういう方面を意識してしまう自分が嫌だ。今までの旅でもそんな失礼なことを考えてしまったこともあり、その夜は申し訳なさでなかなか寝つけなかった。
まさか期待しているわけでもないのに、とエルーは自らの首をぶんぶんと横に振る。本当に頭がのぼせているのかもしれない。早く出て、頭を冷やしたい。
……沈黙が始まった。談笑なんてなくてもいいのに、やはり気まずい空気のような感じがした。
エルーは直に触れている彼の首筋から、その服を着ていてはわからないたくましさを感じていた。やはり女の子の自分とは違う、男の子のものだ。
また何か思い浮かべてしまったので、エルーはまた頭を思い切り振ってそれを振り払う。彼がそれに気づいて後ろを見たので、余計に恥ずかしい。その上見て見ぬふりをしてくれるのか、沈黙は続く。


188:名無しさん@ピンキー
08/09/04 19:04:12 ll94eSqo
ファランは暇だった。
悪いことではない。何事も起こらないのなら、それに越したことはない。無駄なことはしたくない。
「……」
現在もスイの帰らない部屋に聞こえるのは風呂場からの小さなシャワー音だけ、暇な彼がうとうととついまどろんでしまう。落ちかけたところ、カッと目を見開くことの繰り返しだ。
この半端な状態のままではいざという時、対応が出来ない。ここで彼は数分間眠りにつくことに決めた。ほんのわずかでも集中して眠れれば、本来の就寝時間まで耐えられるはずだ。少なくとも、今の状態を続けるよりいい。
決断したファランの行動は早く、固く目を閉じた。体勢はあくまで崩さない。
数秒後、彼は安らかな眠りについていた。


189:名無しさん@ピンキー
08/09/04 19:06:59 ll94eSqo
沈黙は続き、キリは身体を洗い終えた。ばしゃーっとお湯で泡を流し、ふぃーっと一息つく。
次は頭を洗うのだが、なんとなくここで動きを止めた。もしかしたらエルーが、なんてものが脳裏をよぎったからだ。
しかし、その気配は無さそうなのでキリは黙々とシャンプーのノズルを押して、出てきたものを髪に伸ばす。
わしゃわしゃと先程彼女にやってあげたように、自分の髪を洗う。
洗っている間にそのことを鮮明に思い出して物凄く恥ずかしくて、消えてしまいたくなってきた。自分に当たるように、洗髪している手の動きが早まる。
それと気のせいか、エルーの手の感触が少しずつ上にずれていっているように思える。うなじ、そしてえりあしに指先が触れている気がするのだ。
勢いづいていたキリの手がそのまま止まり、エルーの指先を全神経集中させて追いかけ待ってみる。
緊張と同時に顔が熱くなってきた。彼女は無言で、彼がごくりとつばを飲み込んだ。

その時だった。
風呂場の窓から何者かが、足音も立てず侵入してきた。
全神経を集中させていたおかげでその異変に気づけたキリだが、
目にシャンプーが入ってよく見えない。エルーは目隠しをしていて、よくわからない。
なんかいいところだったのに、2人がほぼそんなことを思っていた。
キリが足音もなく現れた侵入者に気づけたのは、それにおぼえがあるからだ。
「なぁーにやってんのかなぁ、おふたりさん」
にまにまと不気味な笑顔で2人を見ている侵入者、キリが確信を持って声に出した。
「おまっ、スイ!」
「え? スイさん!?」
エルーは目隠しをはずそうかどうか迷いながらも結び目に手をかけるが、
勢い任せ出つけてしまったそれは意外にも固かった。キリはシャンプーの泡というかつてない妨害に苦戦していた。
「いーねぇ、らぶらぶで」
はぁんとうっとりするような声と仕草をスイが見せ、2人をからかう。
「って、お前早く出てけ! このパターン2度目かっ?」
「やだ」
きっぱりと言い捨ててきた。スイは獲物を見る目で、じりじりと2人に迫っていく。
エルーとキリの2人が一緒に風呂へ入ることになったと決まった時、
スイは乱入して遊んでやろうと決めた。それから部屋の外のファランの隙を待ち、思い切り暴れられそうな時をじっと待っていたのだ。
それでもあのファランに気づぬよう気配を絶って、足音も無く忍び寄り、
足場の悪い窓から侵入してみせるとはクリアナギンの血と才能の無駄遣いだった。
ここでエルーが叫べばファランは飛び起きるがスイは逃げ、残ったキリは言い訳の間もなく叩き飛ばされる。
かといって、エルーが撃退しようとすればトロイがスイに感染ってしまう。
ここはキリが動いて、大きな音を出さずにスイを追い出すしかない。
無理だ。
それを悟った瞬間に、スイにキリの前隠しのタオルを取られた。慌てて片手で隠し、
スイをうまく開かない目で追う。どこにいる、広いとはいえ風呂場という空間は限られている。
「っ、いた!」
「どこですか!?」
エルーの真後ろだ。にぃーっと笑うスイが、何もわからないエルーの上着のボタンをはずし、
バスローブの帯と目隠しをほどいた。なんと言う早業、しかも彼女自身には指一本触れていない。
またしても血と才能の無駄遣いっぷりを披露してくれる。
キリが捕まえようと振り向くと、エルーが置いていた手がずれる。しかも床は濡れている上、
泡が残っていてよく滑る。体勢を崩し、それでいて手か身体のどこか一部でも離れないようにするだけでいっぱいいっぱいだ。
ばっしゃーと水音と共に転んだ音が風呂場に響き、スイがぴょんぴょん跳ねて倒れたキリを小ばかにする。
スイが思わず声に出して笑い始めると、風呂場のドアの外から物音がした気がする。
引き際を知るスイはキリのタオルを手に持ったまま、また窓から外へと逃げ出した。
こっそり窓の外で張り付いていることもなく、
本当に宿の正面から入ってファランのいる部屋に何食わぬ顔で戻っていったらしかった。いや、後者は推測だが前者は確かなようだ。
「てててて」
「だ、大丈夫ですかキリさん」
彼女の手の感触が背中に感じる。どうやら離れなかったようだ。
キリはエルーの左手を取り、ぶつぶつとスイへの文句を言いながら起き上がった。
彼女の右手はキリの肩にあるようで、かなり2人の距離が近くなっている。
それからぴたっと固まった。



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