09/03/30 20:00:27 zaAf0ZL3
「近衛将軍オール、ただいま参上致しました」
ドアを二度ノックし、返答を伺う。
「開いているわ。入って」
この部屋の主の凛とした声が聞こえた。
「失礼致します」
一言声をかけ中に入る。書類に囲まれるようにして一人の女性が座っている。
「ごめんなさい、少し待っていて。すぐに終わるから」
「ああ、わかった」
ちらりとこちらに視線を向け、彼女は机に視線を戻した。
ザギヴ・ディンガル…ネメアなき後のディンガル帝国を統治する皇帝だ。かつての冒険仲間でもある。
どういうわけかザギヴは俺を気に入ったらしく、すべてが終わった後、近衛将軍になってくれるよう頼まれた。さんざん迷ったが…
「ごめんなさい、待たせたわね。オール」
「いや…」
…どうやら一段落ついたようだ。ペンを置いたザギヴはいつもの準備を始める。
「貴方はルーマティーでいいのよね?」
「また晩酌に付き合わされるのか?」
「酔った私が襲われたらどうするつもりかしら?騎士様?」
軽く受け流された。最近はよくこうして呼ばれる。復興にもめどがつき、時間に余裕ができたのだろう。ザギヴの楽しみのひとつとなっているようだ。
しかし警備は賊の侵入をやすやすと許すほど甘くないし、酒を好まない俺をわざわざ相手に選ぶこともないと思うが…。
「出来たわ。オール、座って」
用意ができたらしい。彼女のグラスにはワイン、俺のカップにはルーマティー。いつも晩酌が始まったはずだった。