08/12/09 22:58:41 50uB/UkR
>>242
個人的に凹んだのです…
具体例だと
乃木坂美夏の作戦
『人間万事塞翁が馬』と言う故事がある。
人生に於いては何が起こるかは誰にも分からなくて、しかもそれで事態がどう転ぶのかすら後になってみなければ判らないと言う意味らしい。
いや、何か毎回似た様な件(くだり)で始まる話をしてる気がするが、俺としてもそう何度も人生の転機が訪れる事態が起きて欲しいわけじゃないんだよ。
相変わらずの長い前置きに加えて要領を得ない説明だが、これから話す内容を考えれば一言断りたくもなると言うものだ。
つまりは、今回も例に漏れず。一体何処で俺の人生にロケットエンジンが取り付けられたのだろうかと、そんな事を考えてしまうくらいに今回の出来事は打ち上げ軌道の計算をミスった観測衛星みたいに俺の予想を越えていったと言う事なんだけどな。
う~む……。まさか本当にこんな結果になるなんて、一体誰が想像出来ただろうね。
尤も、今回は騒動の中心で且つ張本人が一番驚いていたのかもしれんが。いや、俺だってまだ十分に驚いているんだが。
取り敢えず、良い加減にそろそろ本題について話そうと思う……。
「あ、やっと出てきた。やっほ~、おに~さ~ん♪」
昇降口から校庭に出た途端、校門の方からやけに聞き覚えのある声が聞こえてきた。
いや、それだけでもう誰なのかは判るんだが、そのちんまい影はトレードマークのツインテールを揺らして、海を割る聖人の様に下校していた生徒たちが割れて出来た道を縫って俺に駆け寄って来たのだった。
「も~、いくら掃除当番だからって女の子を待たせてる時は早めに上がらなきゃダメだよ?おに~さん」
人差し指を立てた美夏が俺を見上げながらそんな事を言ってきたが、生憎と俺の記憶の引き出しを探してみても何処にもこのツインテール娘との待ち合わせなんて予定は見当たらなかった。(つまりアポ無し。)
と言うか、待たせたと言ってもほんの少し前に来たばかりだろう。
「あ、やっぱり気付いてたんだ?なら、もっと早く来てくれれば良かったのに」 そりゃあ、美夏も春香並みに目立つ容姿だからな。校門で人集りが出来てれば掃除していても気付くと言うものだ。
「おい、見てみろよ。あれ美夏様じゃないのか?しかも、綾瀬が何かいちゃもん付けてるぞ」
「何ぃっ!?またか!?また綾瀬なのか!?」
「あの野郎、春香様の妹の美夏様をこの極寒の空の下で待たせておいて、自分は悠々と暖房の利いた部屋から下校だと?」
「何それ?最っ低~」
「って言うか、春香様だけじゃ飽き足らず、美夏様にまで手を出してるって本当だったの?」
「何ぃ!?おい、星屑親衛隊に召集かけろ。今日こそ綾瀬の野郎を始末するぞ」
「ふふふ、海と山とどちらが良いかしら」
おい、待て。何でいきなり美夏との待ち合わせから(繰り返すが、美夏のアポ無し)そんな竜巻が起これば桶屋の業績が鰻登りな展開になるんだ?
そんな事を考えている間にも、俺(と美夏)の周りには落ちた飴に群がるオオクロアリの如く蠢く黒い山が出来始めていた。
「にゃ?この人たち、何だか皆おに~さんに用があるみたい?人気者だね、おに~さんは♪」
そんな周囲の生徒を見渡て美夏が何故か嬉しそうにそんな事を漏らしたが、獲物を取り囲む狼の様な血走った目の生徒たちが友好的に見えたのなら俺は眼科よりも精神科に行かなきゃならんだろう。
「あ、そうそう。実は少しおに~さんに相談があって―」
周囲からの殺気なんてまるで気付かずに美夏が話をしてきたが、それよりも今は自分の生存本能の警鐘に耳を傾ける事にした。
グラウンドでも体育館でもないのに、部活の道具を掲げて津波の如く押し寄せてくる群衆に捕まれば、度重なる転生を繰り返して最終的にトイレの雑巾になった古タオルよりもズタボロになるのは確実だろう。
「美夏。スマンが少し走るぞ?話はそこで聞くから」
「え?おに~―、きゃっ!?」
「あっ!?綾瀬が美夏様をさらいやがったぞ!!」
「えぇい、親衛隊はまだか!?この儘じゃ、美夏様が綾瀬の毒牙にっ!!」
「いやぁ!!美夏様が汚されちゃう!!」
……。いや、これはもう集団ヒステリーを通り越しては暴動なんじゃないのか?と言うか、一体お前らの中ではどれだけ俺は危ない奴なんだよ?
(俺の)血に飢えたバーサーカーと化した生徒たちから美夏の手を引いて逃げながら、俺たちは学校を飛び出したのだった。