09/06/23 21:52:04 QDqMsh4D
「お、おい、どうするよ」
「好きにして良いっていわれても、これじゃ・・なぁ」
「ひでえな、臭くてそんな気になれねぇよ」
「俺、次が3日後だから、それまで我慢するわ」
「そうだな、じきに新しい姉ちゃんとできるのに、こんな汚い女を使うことないだろ」
「なんだよ、わざわざ来たのによぉ・・・。せめて体ぐらい洗っとけよなぁ」
(汚い・・・? 私が・・・・?)
勝手なことを言い放って男たちが去っていった後、残されたリアンは、突きつけられた暴言を反芻していた。
これまでの人生の中で、一度として受けたことの無い言葉。
自分を表現するために使われることなど、決して無いと思っていた形容が、間違い無く自分に向けて使われていた。
打ちひしがれるリアンに追い討ちをかけるように、更に数人の男が現れ、そして何もすることなく去っていった。
幾人かはリアンを避けるようにして廊下の向こうに姿を消し、帰りには明らかな嫌悪を浮かべて通っていった。
誰からも賞賛され、男たちの憧れと、女たちの嫉妬を集めていた自分が、今は誰からも見向きもされず、いや、
むしろ嫌悪の対象としてここにいる。
その認識は、救いの無い状況に置かれたリアンを、更に追い詰めるに十分なものだった。
(お風呂に入れば・・・・体を洗えれば・・・・・)
汚れさえ落とせば、この場所を通る全ての男の足を止めさせる自信があった。
だが、それは、この場所に巣食っている、下劣な盗賊たちに再び体を汚される事を意味している。
汚されるために体を磨くことに、いったい何の意味があるだろう。
そんな思いが、リアンをずっと迷わせていた。
だが、迷っていられる時間は、それほど多く残っていない。
空腹と、喉の渇きとが、しきりに体を苛んでいる。
食事を得るにも、水を得るにも、まずは男たちの足を止め、その求めに応じることから始まる。
そのためには、なによりも最初に、この汚れた体を洗わなければならない。
「・・・・・」
次にやってきた男に声をかけ、体を洗ってもらおう。
そう思いきる事は、簡単ではなかったものの、なんとかできた。
だが、その先、実際に声をかけて哀訴の言葉を口にすることは、どうしてもできなかった。
決意の後に、何組もの男たちが姿を見せ、そして誰もが、自分を求めないまま去っていった。
その男たちの背中を、喉にまで上ってきた声を口に出せないまま見送ったリアンは、自身の自尊心に恨み言を呟きながら、
汚れた体をゆっくりと動かした。
「・・・・・・」
それほど長くない廊下の左右を伺い、人のけはいが感じられないのを確かめたリアンは、屈辱に唇を噛みながら、
既に3分の1程まで汚水が溜まっている木桶をにらみつけた。
少しの間躊躇っていたが、いつ誰が来るか判らない状況に、さっさと済ましてしまおうと心を固めたのだろう。
桶に向かって足を進め、跨いで腰を落としていく。
(ふふふっ、これを見逃す手はないね)
リアンを打ちのめす、絶好の契機を前にして、それに目をつぶる理由はない。
エイリアは足音を殺して廊下に出、さりげなく角から姿を現した。
それほど長い廊下ではない。
角を曲がって前を見れば、廊下の真中で用を足そうとしているリアンの姿が、嫌でも視界に入ってくる。
半端ですが、今回はここまでです。
続きは明日にでも。