【ご主人様】メイドさんでSS Part5【召し上がれ】at EROPARO
【ご主人様】メイドさんでSS Part5【召し上がれ】 - 暇つぶし2ch2:名無しさん@ピンキー
08/06/19 00:11:11 efJKgTwb
■お約束
 ・sage進行でお願いします。
 ・荒らしはスルーしましょう。
  削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
  削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
 ・趣味嗜好に合わない作品は、読み飛ばすようにしてください。
 ・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。

■投稿のお約束
 ・名前欄にはなるべく作品タイトルをお願いします。
 ・長編になる場合は、見分けやすくするためトリップ使用推奨。
 ・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに注意書きをしてください。お願いします。
 ・作品はできるだけ完結させるようにしてください。

3:名無しさん@ピンキー
08/06/19 00:11:43 efJKgTwb
◆正統派メイド服の各部名称

頭飾り:
Head-dress
("Katjusha","White-brim")
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ,ィ^!^!^!ヽ,
                    ,/゙レ'゙´ ̄`゙'ヽ
襟:.                 i[》《]iノノノ )))〉     半袖: Puff sleeve
Flat collar.             l| |(リ〈i:} i:} ||      .長袖: Leg of mutton sleeve
(Shirt collar.)           l| |!ゝ'' ー_/!   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  /::El〔X〕lヨ⌒ヽ、
衣服:               (:::::El:::::::lヨ:::::::::::i        袖口: Cuffs (Buttoned cuffs)
One-piece dress         /::∧~~~~ヽ;ノヾ;::\_,  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
. ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  /:_/ )、_,,〈__`<´。,ゝ 
               _∠゚_/ ,;i'`~~''j;:::: ̄´ゞ''’\_     スカート: Long flared skirt
エプロン:           `つノ /j゙      'j;:::\:::::::::;/´::|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
Apron dress            /;i'        'j;::::::::\/ ::::;/
(Pinafore dress)         /;i'         :j;:ヽ:::/ ;;r'´    アンダースカート: Petticoat
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   /;i'       ,j゙::ヽ/::;r'´    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                 /;i'_,,_,,_,,_,,_,_,_,_,i゙::::;/ /
浅靴: Pumps        ヽ、:::::::::::::::::::::::__;r'´;/            Knee (high) socks
ブーツ: Lace-up boots     `├‐i~ーヘ,-ヘ'´          靴下: Garterbelt & Stocking
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  i⌒i.'~j   fj⌒j   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
.                   ̄ ̄     ̄

イギリスの正装メイド服の一例
URLリンク(www.beaulieu.co.uk)

ドレスパーツ用語(ウェディングドレス用だがメイド服とは共通する部分多し)
URLリンク(www.wedding-dress.co.jp)

4:名無しさん@ピンキー
08/06/19 00:38:19 T8ZAFE6k
>>1

5: ◆DcbUKoO9G.
08/06/19 01:53:27 ejsLHI1k
>>1乙です。
麻由と武のSSを投下します。エロ無しにつき興味ない方はスルー願います。
時期的には、2人の婚約中の話です。麻由視点。


「同窓会」

同窓会のお知らせが来たのは、武様と婚約して3ヵ月目のことでした。
結婚式まであと3ヶ月、遠野家へ嫁ぐために毎日ダンスや着付けなど上流階級の婦人に必要なことを学んでいた時です。
武様の妻になれることの幸せを噛みしめていたものの、慣れぬことに四苦八苦していた私には嬉しい知らせでした。
2年前の第2回同窓会の時は、メイド長になってまだ日が浅かったために欠席していたのです。
職務を全うするだけで毎日くたくたに疲れていましたし、お休みも取りづらかったので諦めたのでした。
しかし、今回は行きたいと強く思いました。
これが、北岡麻由として出席する最後になるでしょうから。
同窓会は土曜日ですから、レッスンのお休みとも重なります。
一日くらいお屋敷を離れて昔の友達と旧交を温めても良いのではないかと考え、武様に出席の許可をお願いしました。
「高校の同窓会?」
「はい。行ってはいけませんか?皆と会うのは6年ぶりだから、ぜひ行きたいんです」
お願いすると、武様はなぜか渋々といった様子で頷かれました。
「そうか、じゃあ行っておいで。
その代わり、必ず婚約指輪をつけて行くんだ、いいね」
「はい」
「なるべく女友達とだけ話しなさい」
噛んで含めるように言い聞かされて、私は首を傾げました。
「親しい男友達はいませんでしたから、お言いつけの通りになりますわ」
「そうか」
何せ、私は中学1年生の頃から武様に思いを寄せておりましたもの。
「なるべく早く帰っておいで、待っているから」
抱き締められて囁かれ、そのまま唇が重なりました。



出席に○を付けたハガキを出して1ヵ月後、同窓会の日がやって来ました。
頭の中でクラスメイトの顔を思い出し、誰々はどうしたかしら、今日は会えるかしらと胸が躍って。
ウキウキしながら着替え、武様のお言いつけ通りに婚約指輪を取り出して指に嵌(は)めました。
通常、ダンスや着付けのお稽古の時には外しておりますから、これを見るのは久しぶりのことです。
指輪は、プロポーズをお受けした2日後、都内の宝飾店をあちこち連れ回されて選んだ物です。
今まで安価な品にしか縁のなかった私は、奥の別室に通され、白い手袋をした店員さんが恭しく持って現れる指輪の数々に度肝を抜かれました。
どれも大きくまばゆいダイヤが競うようにデザインされ、正視できないほどに輝いていたのを思い出します。
値札がついていなくても一目で高級だと分かるそれを指に嵌めるなど畏れ多くて、もっと石の小さいものにして下さいとお願いしたのですが。
一生に一度の贈り物なんだから、君に一番似合う物を選ぶと仰る武様に押し切られてしまいました。
とっかえひっかえして指に嵌めて見せた結果、最終的にはプラチナの台の中央に大きなダイヤが一粒あり、周囲に小振りなダイヤが取り巻いているデザインの物になりました。
これが一番似合うと武様が仰って、私もそれならと頷いたのです。
あれからもう何度も見ているというのに、手に取った指輪が燦然と輝くのに思わず目が奪われます。
これを頂いて指に嵌めることができるなんて、本当に夢のようです。
手の角度を変え、窓からの光に反射してきらきらと指輪が輝くのを飽かずに眺めました。


その時、23歳の時に行われた最初の同窓会の時のことが脳裏に甦りました。
指輪はとても綺麗だけど、駄目です、今日はつけて行けません。
あの時、私は女の子達がつけていた指輪を羨んだのです。
当時の私は武様と秘密の関係を続けていましたが、まさか将来結ばれることになるとは全く思っていませんでした。
それゆえ、彼女達が嵌めている婚約指輪や結婚指輪を見て、好きな人と結婚できる女性と自分との違いに悲しくなったのです。
私達はあの頃より年を重ね、結婚という問題は非常にデリケートなものになっています。
武様に頂いたこの立派な指輪を嵌めて行けば、そんな気はなくとも見せびらかすようで、良くないと思ったのです。
これが指に輝いていれば、間違いなく人目を引くでしょうから。
私は婚約指輪を外し、代わりに4年ほど前に自分で買ったファッションリングを嵌めました。
当時のお給料で買えた安価な品ですが、ブルートパーズの水色がとても綺麗な指輪です。
薬指に指輪をしていくことが求められているのですから、これでも大丈夫でしょう。


6: ◆DcbUKoO9G.
08/06/19 01:54:17 ejsLHI1k
同窓会会場まで送り届けてくれるという運転手さんの申し出を断ってお屋敷を出て、駅まで歩きました。
外を一人で歩くのも、切符を買って電車を待つのも久しぶりのこと。
メイド長の頃は忙しくて外にはあまり出かけませんでしたし、今は連日のお稽古でずっとお屋敷の中にいます。
高校生の頃に毎日通っていた駅までの道を歩いているうちに、何だか楽しい気分になってきました。
当時は定期券を見せて通っていた改札も今は自動になっています。
年月の流れを思いますが、それでも私の心は浮き立ったままでした。
8つ先の駅まで行き、同窓会の会場に到着します。
会費を払って中に入ると、早く着いたこともあってまだ人はまばらでしたが、何人か知った顔が見えました。
誰のところに行って話し掛けようかと視線をさ迷わせていると、急に後ろから肩を叩かれました。
「北岡」
振り返ると、そこにいたのはスーツ姿の男性でした。
「えっと…茂田君?」
「うん」
名を呼ぶと、男性は嬉しそうに顔を綻ばせました。
茂田(しげた)君は中学高校と6年間同じ学校で、高校2年の時には同じクラスになったのを覚えています。
よく傘を忘れる人で、雨の日には行きや帰りに私の傘に入れてあげたことがあるのを思い出しました。
雨が降っているのに傘を忘れるなんて私よりもそそっかしい人でしたが、今はその癖も直っているのでしょうか。
「お久しぶりです」
「ああ久しぶり。お前、綺麗になったな」
にっこりとするその笑顔は当時のままです。
しかし、続いて言われた言葉に私の頬が熱くなりました。
「からかわないで、そんな…」
「いや、綺麗になったよ。なんか、着てる服もしゃれてるし」
「そ、そう?」
連日のダンス練習で身体が引き締まったお陰でしょうか。
夜、武様に抱かれる時にそう言われたことを思い出して、さらに頬に血が昇りました。


数人が加わりそのまま話しているうちに会が始まり、先生の挨拶や学生時代のスライド上映などがありました。
高校時代の思い出が一気に甦り、とてもとても懐かしくなって。
目頭が熱くなり、何度もまばたきをしました。
歓談の時間には幾人もが話しかけに来てくれて、思い出話に花が咲きました。
皆例外なく私を褒めてくれ、照れくさくなって俯きました。
「幸せそう」とも言われ、さらに面映くなってしまいました。
もうすぐ武様の妻になれるという嬉しさが内面から溢れているのでしょうか。


「あー!麻由!!」
突然甲高い声で名を呼ばれ、驚いて周囲を見回しました。
すると、つかつかと大股で近寄ってきた背の高い女性に手を掴まれるやいなや、上下にぶんぶんと激しく振られてしまいました。
「懐かしいっ!」
いたく感動しているらしい彼女は、その言葉とともに私を抱き締めました。
周囲の人が息を飲んだのが聞こえます。
「おい加納、北岡がびっくりしてるじゃないか。離してやれよ」
「何よ、人が再会に感激してんだから邪魔しないでよ、シケタ」
「シケタじゃねえよ、茂田!」
2人が言い合っている隙に私はその人の腕から逃れ、大きく息をつきました。
「はいはい、分かったわよシケタ」
「てめえ!俺は茂田だって高校ん時から散々言ってただろうが」
茂田君をからかうその姿には見覚えがあります。
「あの…、奈々ちゃん?」
おそるおそる呼びかけますと、その人は勢い良くこっちを見ました。
「そうよ、覚えててくれた?嬉しいっ!」
また私は勢い良く抱き締められ、もみくちゃにされてしまいました。
喜怒哀楽の表現の激しい彼女の姿は当時と変わりません。
加納奈々子ちゃんは、高校2年と3年の時に同じクラスになった女性で、卒業後は大学を経て栄養士になった人です。
とても楽しい人で、高校卒業後しばらくは連絡を取っていましたが、最近は疎遠になってしまっていました。
再会してこんなに喜んでくれるなんて私としても嬉しいですが、ぎゅうぎゅうと抱き締められるのは少し苦しいです。


7: ◆DcbUKoO9G.
08/06/19 01:55:21 ejsLHI1k
見かねた同級生が奈々ちゃんを引き剥がしてくれ、違う友達の方に引っ張っていってくれました。
行った先でもキャーという奈々ちゃんの叫び声が聞こえましたが、とりあえず解放されてホッとします。
「なあ、北岡」
髪と服を直し終えたところで、私は向かいにいた男性に話しかけられてそちらを向きました。
「え、何?」
「お前さ、最初の同窓会でデモンストレーションやっただろ?」
「そうだったかしら」
「うん。『お帰りなさいませ』ってやつ」
「あ…」
前の同窓会のことを思い出しました。
卒業して5年後、23歳の時に初めて同窓会が開かれ、出席した時のことです。
大学を卒業して社会人一年目の人は会社のグチ、早く結婚した子は旦那さんやお姑さんのグチなどを言い合って。
せっかくの同窓会がどことなく暗い雰囲気になってしまい、白けたムードが漂ってしまったのです。
これではいけない、何か余興でもやって盛り上げようと誰かが発案しました。
そして幹事以下何名かが協議した結果、珍しい職業についた人がその職業特有の一芸を披露することになったのです。
自衛隊に入隊した数名はほふく前進を、英会話の先生になった人は即席の英会話教室を。
救急隊員になった人は人工呼吸の実演をすることになり、患者役を誰にするかで一しきり盛り上がりました。
そのお陰で会場の雰囲気も明るくなり、よかったと笑っていると、幹事がいきなり私の名を呼びました。
学年でただ一人メイドになったということで引っ張り出され、お前も一芸をやれと言われてしまったのです。
メイドといいましても、普段のお仕事は地味なものです。
前に演じた人のように絵になるパフォーマンスができるわけではありませんが、何もしないのではせっかくの雰囲気が壊れてしまいます。
頭の中でぐるぐると考えた結果、毎日しているお仕事を実演して見せることに決めました。
私たちメイドには当たり前のことが、皆にはきっと珍しいのでしょうから。
そこで、テーブルクロスを借りてのベッドメイキングと、ご主人様の朝のお見送りと夕のお出迎えの実演をしたのです。
声の出し方・お辞儀の角度・頭を下げている時間など、当時のメイド長に厳しく躾けられた内容を思い出しながらやりました。
いい加減にやっては、遠野家メイド全体の恥になりかねませんから。
ほふく前進をやった自衛隊員の時のような喝采は起こらず、ぱらぱらとまばらな拍手を貰って私の実演は終わりました。
「壷だ」「壷だな」と囁き合う男性の声は聞こえたのですが…。
遠野家にある骨董品の壷のことをなぜ今言うのかと不思議に思いました。
尋ねてもはぐらかされ、壷がどうしたのか釈然としなかったのを覚えております。


「あれさ、今もやってんの?」
男性の声に追憶からさめ、私は目を瞬かせました。
「ええ、やってるけど」
婚約後も武様のお見送りとお出迎えは毎日欠かさず続けています。
結婚しても、きっと欠かすことはないでしょう。
「ちょっとやってみてくれよ」
「え、今?嫌よ」
「男の夢なんだよ、その『ご主人様~』ってやつは、さ」
その人の言葉に、何人もの男性が同時に振り向き、頷きました。
統率の取れた動きが何だか怖いです。
「な、一回だけ」
男の夢だなんて大げさすぎると思うのですが…。
あ、もしかしたら、男一匹功成り名遂げて、メイドを雇えるくらいの地位と収入のある男になりたいということなのでしょうか。
それなら納得がいきます、確かに出世は男性の夢でしょうから。
私がお出迎えをやってみせることで成功のイメージができるのなら、ここはやるべきなのでしょう。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
そう判断した私は、メイド時代にしていたように教科書通りの動きと発声を再現しました。
所定の秒数お辞儀をして頭を上げますと、実演を促した面々は実に様々な表情をしていました。
固まっている人、にやけている人、なぜか頬を染めている人。
様々に違うその顔を順々に見ていくと、さっきの男性が口を開きました。
「さすがに本物は違うな、時給いくらのとは」
「時給?」
私達は時給ではなく月々の給金を頂いているのですが。
「いや、こっちの話だ」
慌てて言葉を続けたその男性を見るともなしに見詰めました。


8: ◆DcbUKoO9G.
08/06/19 01:56:47 ejsLHI1k
「お出迎えしたらさ、やっぱ、すれ違い際に尻の一つも撫でられるのか?」
が、別の方向から聞こえた違う声にカッとなりました。
「武様はそんなことなさらないわ!!」
思わず言い返す声が大きくなり、しまったと手を口に当てました。
「たける様?」「誰だそれ」「察するにご主人様の名前だろう」「うぉー、名前に様付けかよ」「呼ばれてみてえ」
私の叫んだのを聞いた人達が大小様々な声で口にするのが聞こえました。
「お、お前さあ。ご主人様のこと名前で呼ぶの?」
「たまには…呼ぶけど…」
恥ずかしくなり、返答する声が小さくなってしまいました。
人前で武様の名を口にするのはいまだに慣れません。
反面、二人きりの時は「あなた」と呼ぶように言い含められていますのに、つい「武様」と呼ぶ癖が出てしまって。
そのたびにお仕置きだと称していろんなことをされ、くたくたになってしまうのが常なのです。


「頼む!俺もその呼び方で呼んでくれ!」
誰かがいきなり大声で叫び、ビクッと身体が跳ねました。
「うわ、ずるい」「北岡さん俺も」「俺も」
また皆が口々に言い、私は困ってしまいました。
私が様をつけて呼びたいのは武様お一人なのに。
気が進まないのですが、メイドを雇うのは男の夢だとさっき教えられたことが頭に甦ります。
断りたいですが、同窓生の立身出世の一助となるためには聞き入れるべきなのでしょうか。
「…じゃあ、一人だけなら…」
私が言うなり、そこにいた男性達は命でも賭かっているかのように熱の入ったジャンケンを始めました。
これほど立身出世の意欲があるなら、何も私が名を呼ばなくても皆それぞれの職場で活躍できると思いますのに。
「いやったああぁ!」
白熱したジャンケン大会の結果、勝ったのは茂田君でした。
まるでゴールを決めた時のサッカー選手のように激しいアクションで快哉を叫んでいます。
何がそんなに嬉しいのでしょう、勝負事に熱くなる性質なのでしょうか。
闘争心は出世のためには是非必要なものだとは思いますが…。
「えー、オホン。じゃあ頼むよ」
茂田君が自分の耳をぐりぐりとマッサージし、咳払いをして私に向き直りました。
「名前だけでいいの?」
「うーんと、そうだなあ…。
じゃあ、名前の後に『お風呂の用意ができました』って言ってくれ」
「そんなこと、言ったことないわ」
お屋敷の大浴場は24時間入浴できますし、武様の居室のお風呂もありますから、こう口にしたことは今までありませんのに。
「いいんだ、それで頼む」
「うん…」
きっと、茂田君がメイドを雇うようになったらこう言ってほしいのでしょう。
「じゃあ」
すっと息を吸い込み、言葉にしようとしたところで気付きました。
「…ごめんなさい、下の名前、何だったかしら?」
私の質問を聞いた茂田君は盛大にずっこけてしまい、皆から一斉に笑い声が上がりました。


名前を知らなかった失礼を詫びていたところ、私はまた奈々ちゃんに捕まって別の方へ引っ張られていきました。
今度は女同士の話になり、ファッションやケーキ屋さんの話に花が咲きます。
「麻由、あんた結婚は?」
「えっ?」
高3の時のクラスメイト(確か、水野さんです)が急に話題を変えました。
その質問に頬が熱くなり、あたふたしてしまいます。
「実は、婚約中なの、今…」
武様のお顔が浮かび、胸がドキドキします。
少し前までは決して結ばれることは無いと思っていた方が、私の婚約者だなんて。
こうして人前で口にしても、まだ現実味がありません。


9: ◆DcbUKoO9G.
08/06/19 01:57:45 ejsLHI1k
「なるほどなあ、綺麗になるわけだ。愛されパワーってやつか……え、婚約!!」
さっきのジャンケン大会に加わっていた男性の声がし、私はそちらを向きました。
「いつだよ、誰?俺達の知ってる奴?」
「え…と…」
武様はつとに有名な方ですが、その名は知られていてもお顔を見たことの無い人がほとんどのはず。
それは「知っている」うちに入るのでしょうか。
「どんな奴?なあ」
「初恋の人なの」
迷ってそう答えますと、皆が息を飲むのが聞こえました。
初恋の人と結ばれるのがそんなに珍しいのでしょうか。
「え、俺?」
後方から、今気がついたような茂田君の声が返ってきました。
「馬鹿ね!本人の知らない婚約なんてあるわけないでしょうが」
「そうか…」
「大体、なんで麻由があんたなんかに初恋するのよ」
「…」
奈々ちゃんに突っ込まれ、茂田君はまた黙ってしまいました。
「どんな人?」
「えっ?」
「婚約者。ちゃんとあんたのこと幸せにしてくれるんでしょうね」
「うん。ちゃんと約束してくれたし、毎日そう言ってくれてるけど」
「毎日っ!?」
「ええ」
武様とは一つ屋根の下に暮らしていますので、毎日顔を合わせます。
忙しい方なのに、私の為に時間を作って下さるのは本当に有難いことです。
「それで、これ?」
奈々ちゃんが私の左手を掴み、指輪を示しました。
「いえ、これは…」
婚約指輪の代わりにつけていたファッションリングに皆が注目したのが分かりました。
「言っちゃあ何だけど、これ婚約指輪じゃなくってただのファッションリングよ?」
「ええ、そうよ」
頷きますと、奈々ちゃんの額に青筋が立ちました。
「『ええ』ですって?あんた、自分が何を言ってるか分かってんの?
婚約指輪っていえば、給料の三か月分って相場が決まってるじゃないの。
なのにあんたの彼氏は、見たところせいぜい3万ぽっちの、そんなのしか買ってくれないの?」
早口でまくし立てられ、あっけに取られてしまいました。
奈々ちゃんは勘違いをしているようです。
これは私が自分のお金で買ったもので、武様に頂いたものではありません。
値段に関しては、確か29800円でしたから、ほぼ当ってはいるのですが…。
「違うのよ、これは私が買ったの。貰ったのではないの」
「あんたが!?」
誤解を解こうと慌てて言うと、奈々ちゃんは悲鳴のような叫び声を上げました。
その声に、同窓生達の目がまたこちらに集まりました。
「…麻由、今なんて言った?」
俯いた奈々ちゃんの肩がわなわなと震えています。
何かいけないことを言ったのかと不安になりました。
「だから、この指輪は、私が買ったと…言ったんだけど」
「ああ!」
奈々ちゃんは頭を大きく左右に振り、私をキッと睨みつけました。
「麻由、悪いことは言わないからやめなさい。
あんた、騙されてんのよ。指輪も買えない甲斐性無しと結婚したって幸せになれるわけないじゃないの」
「えっ?」
「なまじメイド長なんかやってるから、変な男に引っ掛かっちゃったんだわ、きっとそう。
自分に生活力があるからって、駄目な男と付き合うのはやめなさい、あんたには『だめんず』なんて似合わないの」
「奈々ちゃん…」
「婚約指輪は、ダイヤの三枚爪リングって決まってんの、それも贈れない男となんて結婚しちゃだめ」
「立爪だろ」
「うるさいわね!」
茶々を入れた人を奈々ちゃんは一喝して黙らせました。


10: ◆DcbUKoO9G.
08/06/19 01:59:37 ejsLHI1k
「いくら毎日幸せにするって言ってくれたって、そんな男は駄目」「やめときなさいよ」「そうだよ」「俺が本物をあげようか?」
あちこちから一斉に言われ、勢いに飲まれた私はあっけに取られてしまいました。
「『幸せにしてやる』なんて甘い言葉に騙されちゃ駄目よ、麻由」
奈々ちゃんが私の両手をがっちりと掴み、同情の目でこちらを見ました。
「あんたも辛いのね、ううん、隠したって私には分かる。
女が一人で生きていくって大変なんだから。そこんとこ、ゆっくりと話し合いましょ、今日は朝まで」
「えっ?」
「同窓会の二次会ってことで、いいわね、私がお店決めるから」
「あ、あの…」
「じゃあこれから、二次会行く人っ?」
奈々ちゃんが大声で叫ぶと、ガタガタと椅子を揺らして何人もが立ち上がりました。
男女比は7:3といったところでしょうか。
「あら案外いるじゃないの、まあいいわ。店は歩きながら決めましょ」
奈々ちゃんは大きく頷き、私の手をぐいぐいと引っ張ったまま歩き出しました。
二次会なんていきなり言われても困ります、武様に早く帰ってくるようにと言われていますのに。
「あのね、奈々ちゃん、私は今日はもう失礼し…」
「何言ってんの!あんたの為にやるんじゃないの!」
「え…」
「今の男なんかと別れて、もっとマシなの見つけなさいってば!
こんなに集まってるんだから、ちょうどいいわ、私が見繕ってあげる」
「見繕う…」
「誰を選んだって、女に婚約指輪を買わせるようなしみったれよりはマシだわ」
後ろを振り返った奈々ちゃんが大きく頷きました。
「だから、この指輪は私が自分で…」
「ああ、それはもういいんだったら!聞いてるだけでムカムカするわ」
「……」
説明しようとしても、奈々ちゃんは手を振るばかりで聞く耳を持ってくれません。
私はこのまま二次会へ連行され、朝まで付き合う羽目になってしまうのでしょうか。


手を引っ張られたまま同窓会の会場を出ると、すぐ前に大きな黒塗りの車が止まっておりました。
下町には場違いなほど高級な、しかしどこか見覚えのあるような…?
前を見ずに歩いていた奈々ちゃんがその車に体当たりしそうになって、慌てて立ち止まります。
「危ない、もうっ!」
今の奈々ちゃんには、この車すら気分を害する理由になるようでした。
これ以上刺激するのは良くありません。
このまま付き合って、隙を見てお屋敷に今日は遅くなる旨の電話をするしかなさそうです。


「奥様、お迎えに上がりました」
急に聞こえた声に、私はハッとして周囲を見回しました。
耳に馴染んだこの声は、確か…。
きょろきょろと首を左右に振り、すらりとした初老の男性に目が留まります。
車の脇に立っていたのは、執事の山村さんでした。
黒い執事服をいつものように一部の隙もなく着こなすその姿は、長年親しんでいるというのに今日も素敵に見えます。
「奥様……?」
奈々ちゃんが首を傾げます。
山村さんがゆっくりとこちらへと歩いてこられ、私の眼前で足を止められました。
「奥様、旦那様が屋敷でお待ちでございます」
「え?」
武様と婚約したとはいえ、私はまだ奥様とは呼ばれておりませんのに。
なぜ今、山村さんはそんな風に私を呼ぶのでしょう。
「麻由、どういうこと?」
奈々ちゃんが私の顔を穴が開くほど見詰めました。
「遠野家の執事をしております、山村と申します。
お嬢様は、麻由様のご学友であられますか?」
「は、はい…」


11: ◆DcbUKoO9G.
08/06/19 02:00:49 ejsLHI1k
山村さんが奈々ちゃんの方を向き、3年前に「執事之友 第651号」のカラーグラビアに登場された折と同じ微笑みを向けて質問されました。
それにあてられたのか、奈々ちゃんはボンッと音がするくらいに赤くなり、もじもじと答えました。
「奥様。旦那様におかれましては、ご自分がプレゼントなさった指輪を奥様が嵌めておいでにならなかったことにひどくお怒りになっていらっしゃいます。
一刻も早く出向いて指輪を嵌めてくるようにと仰せられましたので、僭越ながら私が参上致しました」
「え…」
「失礼致します」
手が取られ、薬指のファッションリングが外されました。
そして、山村さんはまるで手品のようにあの婚約指輪を取り出し、私の指に嵌めたのです。
「ま、眩しい…」
奈々ちゃんが呆然と呟くのが聞こえました。


「あの、麻由の婚約者って…」
「はい。我が主人、遠野武でございます」
山村さんが実直に答えた瞬間、真っ赤だった奈々ちゃんの顔が今度はサーッと青くなりました。
「と、遠野、遠野家の…?」
救いを求めるような目でこちらを見る奈々ちゃんに、私は頷きました。
「か、甲斐性、ありまくりじゃないの……」
「太刀打ちできねぇ……」
奈々ちゃんと茂田君が呟くのが聞こえました。
「では、今日のところはこれで失礼させて頂きます。
奥様、旦那様がお待ちでございます。屋敷へ戻りましょう」
あれよあれよという間に山村さんにてきぱきと車に押し込まれ、私は会場を後にしました。
振り返りますと、そのままの姿勢で固まっている二人が見えます。
本当のことを言いそびれてしまったことに、申し訳なくなりました。


「山村さん、どうして『奥様』なんて」
先程そう呼ばれたことを思い出して言いました。
婚約中なのに、そう呼ばれるのはまだ早いです。
武様が私の旦那様になられることはとても嬉しいのですが、それとこれとは別問題だと思うのです。
「間もなくそうなられるのですから、問題は無いでしょう。
それに、同窓生の方々をけん制せねばとご主人様も仰いましたので、敢えて『旦那様』『奥様』とお呼び致しました」
「けん制?どうしてです?」
「お分かりにならないのなら、それで良うございます」
「はあ…」
それきり黙ってしまった横顔を見詰めながら、私はもっと大事なことを聞かねばならないことに思い至りました。
「あの…山村さん?」
「はい」
「武様は、やっぱり、お怒りになっていらっしゃったんですか…?」
「ええ、それはもう」
「…どんな風に?」
聞くのがものすごく怖いのですが、聞かないわけにはいきません。
胸を押さえながらおそるおそる尋ねました。


12: ◆DcbUKoO9G.
08/06/19 02:01:56 ejsLHI1k
「指輪を外していくなんて、やましいことがあるんじゃないか、確かめてくると仰って。なだめるのに苦労致しました」
「…」
「あだ心をお持ちになるような方ではありませんと私が申し上げても、聞く耳を持って下さいませんで」
…まるで、さっきの奈々ちゃんのように?
「今にも飛び出して行かれそうになったので、このままでは御家名が傷つくことになると思いまして。
気が咎めましたが、少々手荒な真似を致しました」
「えっ?」
見た目に似合わず剣道五段の山村さんの「手荒な真似」なんて…。
武様は一体何をされてしまったのでしょう。
「山村さん、あの、一体何をして…」
背筋が寒くなるのを感じながら尋ねました。
「『束縛する男は嫌われます。それに、相手を信じてあげない男は、女性に最も嫌われるものでございます』と申し上げたのです。
それ以外に何かしたわけではないのですが、ご主人様は相当ショックを受けられたご様子で」
「はあ…」
「がっくりとして意気消沈なさいましたから、結果的に手荒な真似だったと判断致した次第です」
「そうですか…」
「屋敷に戻りましたら、ご主人様の居室には誰も近付けないように致しますから。
後のフォローは宜しくお願いします」
「えっ、そんな!」
冷や汗が出ました、このまま帰ったら武様にどんな目に合わされるか分かりません。
それこそ、さっきの奈々ちゃんとは違う意味で、朝まで……。
「山村さん、私は別に他意があって指輪をしていかなかったわけじゃないんです。
こんな立派なものをしていったら、見せびらかすようで良くないんじゃないかと思って、それで…」
「申し開きは、ご主人様の前でなさいませ」
「うっ……」
車のドアを開けて逃げ出したい衝動に駆られました。
しかし悲しいかな、この高級車に乗りなれぬ私にはその操作の仕方も分かりません。
これからのことを思って青くなっている私を乗せて車は静かに進み、そうこうしているうちにお屋敷の門扉が開いて玄関に到着してしまいました。
「ご主人様は、部屋でふて寝しておいでです。後は宜しくお願い致します」
車のドアを開けてくれた山村さんに一礼して見送られ、私は武様の居室へ向かって階段をとぼとぼと上っていきました。


─終─

13:名無しさん@ピンキー
08/06/19 02:29:32 8OnQTotW
GJ!!

山村さんもGJ!
雑誌に載ったことあるのかwww

14:名無しさん@ピンキー
08/06/19 04:57:54 Ro1jzgqt
>>12
GJです

麻由天然すぎるw麻由可愛いよ麻由

山村さんの載った執事之友ぜひ読みたいw

15:名無しさん@ピンキー
08/06/19 08:08:18 WdYAw/02
茂田君報われねぇーテラ不憫ッス

なんかコメディちっくなのもいいもんだな。

16:名無しさん@ピンキー
08/06/19 09:53:26 T7V2kljr
前スレのこれ張っておきますね^^

369 名無しさん@ピンキー 2008/06/12(木) 23:12:11 ID:nuLX4RTp
麻由さんが、婚約中にクラス会に行ったら
密かに思いを寄せていた男共とかが
旦那様と婚約したのを知って大ショックとか!

久方ぶりに見たら良いオンナになってるのだろうな

17:名無しさん@ピンキー
08/06/19 12:54:51 wMMQsiQ2
>>1
新スレ記念パピコ

18:名無しさん@ピンキー
08/06/19 21:56:15 un1lnFBF
いや~、面白かった!
エロ無しでも読ませてくれますねよ! ぜんっぜんOK!

19:名無しさん@ピンキー
08/06/19 21:57:16 un1lnFBF
>>18
ごめん、面白すぎて興奮して誤字が出た。

20:名無しさん@ピンキー
08/06/19 23:51:07 qT5n7a8/
>>1

そして◆DcbUKoO9G.氏は超GGGGJJJJ!!!!

21:名無しさん@ピンキー
08/06/20 01:05:21 HjQG7SeY
>>1

>>12
GJ!!!

22:名無しさん@ピンキー
08/06/20 14:40:29 61UdoNPz
>>1乙&麻由さんの作者様乙

前スレで出てたスレタイ候補(次スレの時用に転載)

【エプロン】【ドレス】
【ご主人様】【旦那様】
【奉仕】【敬愛】
【美しき】【一輪の花】

【女中でも】【OK】
【貴方のために】【尽くしたい】
【朝の支度から】【夜のご奉仕まで】
【優等生も】【ドジっ娘も】

【スカートを】【めくるな!】
【優しく】【厳しく】
【ご主人様】【お嬢様】
【ご主人様】【お茶ですよ】

【お帰りなさい】【ご主人様】
【これが私の】【ご主人様】
【朝ごはんを】【召し上がれ】
【ご主人様】【お茶をどうぞ】

> ……字数制限ってどのくらいだっけ
> 48バイトまで。
> メイドさんでSS Part5
> で20バイト、【】【】で8バイトだから、
> 残り20バイト。全角で10文字まで。

23:名無しさん@ピンキー
08/06/20 20:21:50 zyxd11ag
>>22
や、流石に【これが~は冗談だからさ・・・

24:前スレ369
08/06/20 21:37:07 zhVWbdDU
GJ!です。
これが読みたかった!
やっぱり幸せな婚約時代ものが良いですね

25:前スレ369
08/06/20 22:11:08 zhVWbdDU
>茂田(しげた)君は中学高校と6年間同じ学校で、高校2年の時には同じクラスになったのを覚えています。
>よく傘を忘れる人で、雨の日には行きや帰りに私の傘に入れてあげたことがあるのを思い出しました。
>雨が降っているのに傘を忘れるなんて私よりもそそっかしい人でしたが、今はその癖も直っているのでしょうか。


・・・・・茂田くん
今日は、とことん飲もう!
俺が奢っちゃる!


26:名無しさん@ピンキー
08/06/20 22:14:15 61UdoNPz
>>23
あ、いや、分かってる
分かっているが、せっかくだったので

27:名無しさん@ピンキー
08/06/21 14:37:09 CDjppNOY
身長が1500メートルなメイドさん
踏みつぶされそうになったから文句言おうと見上げたら手のひらの上に摘み上げられて
「どこ見てるんですか?えっちなのはいけないと思います」と顔の前に持ってかれてめっ、てされる
いや違うんですよスカートはいてるんだからそれは不可抗力ですよというかそもそも貴女たちのおかげで
部屋とか家具とか大きすぎて生活に困ってるのですが・・・
ところでこれだけ身長差があるといろいろ拡大してるのですよ呼吸とかだから顔の前なんぞに置かれると鼻に吸い込まれ
「くしゅんっ」
はい鼻の穴から飛び出しました絶叫マシンなんて目じゃないです滞空時間も射出速度も
とりあえず床に激突死はまぬがれたようですがここは一体でどこで・・・
「あん、くすぐったいですよぅ」
ああそうですかどうりでふかふかだと思ったのですよここなら突っ込んでも大丈夫
でもねそんなに揺らさなくてもいいじゃないですかたしかに胸は敏感な部位でしょうが1000分の1しかない人が
上でちょっと動いたくらいで感じるってどれだけ感度いいんですかそれだったら風が当たるだけできもちいいんじゃなんですか?
「先輩、ご主人さまは私と話をしているんです!」
「ふふ、雇い主を私なら踏みそうになったり吸いこんじゃうなんてまだまだね。その点私なら安全ですよ、ご主人さま~うりゃうりゃ~」
ちょ、指で押し付けないで柔らかいです気持ちいいですが潰れますいやほんと潰れまs(むぎゅ)
はっぴーえんど?

というような展開が小6のころからの10年近い夢ですなんとかならぬものか

28:名無しさん@ピンキー
08/06/21 18:35:27 BXMVqS/w
麻由さんが帰った後の二次会の情景をオマケSSで・・・・
どうかお願いします

29: ◆dSuGMgWKrs
08/06/21 19:35:26 tMqoQTFt
前スレ>>336-343
『メイド・初音』の続きです。エロなし。

――――

『メイド・小雪』

あわてて食堂に飛び込むと、すでに全員が朝食の席に付いていた。

「おはようございます、お父さま、お母さま、お兄さま」
テーブルの横で頭を下げ、コックが引いた椅子に座る。
待っていたように父が箸を取った。
うちの朝食は和食と洋食が交互に出る。
忙しくてなかなか家族がそろうことがないので、平日の朝食だけは全員で、というのがきまりになっている。
末っ子で下っ端のぼくが、その席に遅れるなんてもってのほかなのに。

「直之さんも二十歳におなりになって、もう大人かと思いましたら。ねえ、正之さん」
兄びいきの母が、味噌汁の碗を取り上げて兄に言う。
「…すみません」
まさか、メイドが起こしてくれなかったので、などという言い訳は出来ない。

初音がなつかしかった。

小雪がぼくの担当メイドになって、5日目。
メイド学校の特別コースを主席で卒業し、半年ほどこの家で働いてしきたりを覚えただけだが、小雪は新人メイドのわりによく仕えてくれる。

ただ、ぼくは週末が近づくにつれて寝起きが悪くなる。
大学やサークルやつきあい、自宅での勉強や家族ぐるみ会社ぐるみの交際なんかが、そんなに疲れるわけではないけど、もとから低血圧ぎみなせいかもしれない。
だから、初音は木曜と金曜はいつもより30分早く起こしてくれた。
ま、小雪はそれを知らないんだから、ぼくがそうしろと言わなければいけなかったんだ。
それが、「メイドを育てる」ということで、二十歳になったぼくの最初の仕事だから。

朝食を終えて食堂を出てくると、廊下で小雪が待っていた。
「あの、申し訳ございませんでしたっ」
頭を下げる。
その横を、ぼくは速度を落とさずに通り抜けた。
「小雪のいたらない点は、なんでもおっしゃってくださいませ、ご主人さま」
小柄な小雪は、小走りになってぼくに付いてくる。
「どんなお叱りでも、お受けしますからっ」
ため息が出る。
これじゃまるで、ぼくがメイドをいじめているみたいに聞こえるじゃないか。
見ると、うっすら涙ぐんでさえいる。

初音はこうじゃなかった。
かゆいところに手が届く、という言葉がぴったりくるくらい、ぼくの考えていることを察して先回りしてくれた。
万一、それが食い違ったとしても、他の使用人もいるこんなところで、半べそかいて追いかけてくるような、ぼくの品格を下げるような真似はしなかった。
もっとも、夜になってからぼくの部屋でみっちりお仕置きをしてやることはあったけど。
あれは、楽しかったな。

玄関で振り返り、小雪からカバンを受け取った。
「いってくる」
「いってらっしゃいませ」
次男坊のぼくには、出かける時も帰ってきた時も、父や兄のように使用人が総出で見送ったり出迎えたりすることはない。
担当メイドだけが、そうしてくれる。
大勢でかしずくように仕える兄の担当メイドより、ぼくの担当メイドのほうが負担が大きいとも言える。


30: ◆dSuGMgWKrs
08/06/21 19:35:56 tMqoQTFt
二十歳になって、ようやく自家用車での通学が許され、ぼくは自分でハンドルを握るようになった。
免許は大学に入ってすぐに取ったけど、友人たちと出かけるときには運転しない、という初音の規則があったので、もっぱら運転の練習のための運転で、日曜日に初音を隣に乗せてぐるぐる走り回ることが多かった。

初音が膝の上に地図を広げてナビと比べながら、信号や対向車、車線変更のタイミングなどを指示してくれた。
夏にはキャミソールにホットパンツの私服で、初音は日焼け止めを何度も塗りなおしていたっけ。
エアコンが寒いと、膝にショールをかけて脚を隠してしまうから、ぼくは少し暑いのをガマンして、その代わりサービスエリアでソフトクリームを食べた。
ほっぺたについたクリームを、初音が指で取ってくれた。
その指をそのまま含んだ唇に、車の中でキスした・・・。

ああ、大学の入学祝いにこの車を買ってもらったときも、ぼくはもうひとつグレードの高いのを欲しがったんだっけ。
だけど、初音が分相応なものになさいませ、と言ったんだ。
それから、こっそりとカタログを広げたぼくの耳元でささやいた。

若葉マークのうちは、助手席に乗せるのは初音だけにしてくださいませね。

結局、いまだに助手席には初音以外に誰も乗せていない。



週末だというのに、友人たちと食事をしてもひとりだけ盛り上がれず、店を変えるときに別れて帰宅した。
小雪が出迎えてくれ、鞄を預ける。
部屋に戻ったところで、軽くシャワーを使うことにした。
初音と一緒でないのに、風呂につかるのも面倒くさい。
脱いだシャツを丸めてカゴに放り込んだところで、小雪が立っているのに気づいた。
用を言いつけられるまでそこにいるのだろう。
別に、問題はない。
それが、メイドとして正しい。

初音だったら、ぼくがシャツを脱いだら受け取ってくれて、先にシャワー室にお湯を出してあたためてくれて。

「…小雪」
「はい!」
小雪は、嬉しそうに返事をした。
主人から用を言いつけられないメイドというのは、居心地が悪いものなんだろう。
「今日は、もういいよ。ご苦労さま」
ただそこに立っているのもかわいそうだ、と思ったのだ。
すると、小雪はみるみるうちにしおれたようにうつむいた。
「・・・あの、ご、ご主人さま」
「なに」
「なにが、お気に召さないのでしょう。あの、もちろんいたらないのは存じておりますけど」
チノパンのボタンに手をかけたまま、ぼくは小雪を見た。
「ん?いや、べつに。小雪はちゃんとやってるよ」
確かに、一般的なメイドとして小雪に落ち度はない。
部屋もきれいに掃除されてるし、頼んだことはしておいてくれる。
「…そうですか」
メイド服の前で、小雪は組んだ両手をぎゅっと握り締めた。
「お疲れ様でございました。おやすみなさいませ」

ひとりになって、ちょっとだけほっとした。


31: ◆dSuGMgWKrs
08/06/21 19:36:30 tMqoQTFt
バスルームから出て、テレビをつける。
チャンネルをいくつか変えて、バラエティー番組くらいが頭を使わなくてよさそうだと決める。
髪から水がしたたるのでタオルを首に巻いて、ソファに座る。
黙っていても出されていた飲み物が、テーブルにない。
小雪を呼んで言いつけるのも面倒で、ぼくは小型冷蔵庫を横目で見たまま背もたれに寄りかかった。

「直之さま。よろしゅうございますか」
ノックと同時にドアの向こうから聞き覚えのある声がして、ぼくは立ち上がった。
「どうぞ」
二呼吸おいて、ドアが開く。
入ってきたのは、もううちで20年近く働いているメイド。
少し長めのスカートは、ベテランメイドの証だ。
部屋の中に入ってドアを閉め、ウエストの位置で両手を組んで、腰を折る。
「おくつろぎのところ、失礼いたします」
「う、うん。なんだい、久しぶりだね、千里」

千里は、パジャマの下だけはいて、タオルを首に巻いた状態で、あたふたとテレビのボリュームを下げようとリモコンを取り上げたぼくを見て、つつましく笑う。
さすがベテランメイド。
当主の息子に対する礼を尽くしながらも、余裕のある態度。

「もう、外は涼しゅうございますよ。お風邪を召しませぬように」
近づいて、背伸びをするようにしてタオルを取り、髪を拭く。
「うん。ありがとう」
なつかしい匂いがした。
千里の匂い。

千里は、ぼくが小学から中学までの間の担当メイドだった。
ぼくは兄に比べて落ち着きがなく、いたずら好きだったから、相当苦労したはずだ。
担当を初音に引き継いだあとも、初音のような縁がなかったせいもあって、ずっとここで働いている。

千里は、ぼくにパジャマの上を着せ掛けた。
どうも、千里にとってぼくはまだまだ小学生の男の子らしい。
かいがいしくアイスティーを出してくれ、それからぼくを座らせて隣に立った。
「少し、よろしゅうございますか?」
なんだろう。
というか、なにか用があるから来たんだろうな。
「うん」

座って、というとソファの端に静かに腰を下ろして、ぼくのほうに体を向ける。
「小雪が、泣いておりました」
いきなり、言われた。
「え?!」
「小雪がお気に召しませんか。それとも」
ぽかんと口を開けたぼくに、千里は厳しい顔で言った。
「初音と、比べておしまいですか」
「……う」

千里に言われて、気づいた。
確かに、小雪の仕事ぶりには問題はない。
それなのに、なんとなくよそよそしい気がする。
それは、小雪が気に入らないとか、いたらないとか、そういうことではない。
小雪がなにかするたび、ぼくが心の中で初音と比べているからだ。

初音なら、こうしてくれる。
初音なら、こう言う。
初音なら。


32: ◆dSuGMgWKrs
08/06/21 19:37:03 tMqoQTFt
「それは仕方のないことでございますよ。初音は4年間も直之さまにお仕えしたのですからね。あうんの呼吸というものもできておりましょう」
「・・・・・・いや、ぼくだって、わかってるよ。最初から、小雪が初音と同じようには」
「ほら、もう比べておいでですよ」
千里の手が、ぼくの前髪を整える。
「・・・あ」
「初音をお忘れくださいませ、とは申しません。でも、もう少し小雪のことも見てやってくださいませ」
「・・・見てるよ。小雪はちゃんと言ったことをやってくれる。一度言ったら、次もやってくれる。時間さえかければ、いいメイドになってくれると思ってるさ」
「そうでございましょうか」
千里は、背筋を伸ばしたままちょっと肩をすくめた。

「失礼いたします」
そう断ってから立ち上がり、ぼくの手を取って立たせる。
「大きくなられましたね」
確かに、背はまだ伸びているらしい。
兄などは、とっくに追い越したぼくを見上げて、「お前はストレスがないから、栄養が頭より身体に行くんだな」と笑うくらいだ。
小さい頃は見上げていたはずの千里が、ぼくの胸くらいまでしかない。

「では、お尋ねいたします。初音は、背がどのくらいございましたか」
質問の真意がわからないまま、ぼくは千里の頭の上、自分の肩の辺りに手をかざした。
「このくらいだよ」
抱きしめた時、顎を上げさせるとちょうどいい具合にキスできる。

「では、小雪はどのくらいでございましょう」
うっ、と返事につまる。
もちろん、小雪を抱きしめたこともキスしたこともない。
ぼくは曖昧に手を上げ下げした。
「こ、このくらいじゃないか?」
千里が眉を上げた。
子供の頃は、この千里のくせが怖かったものだ。
千里が眉を上げたときは、必ずなにかぼくが失敗をした時で、その後は叱られることが多かった。

「では、小雪の利き手はどちらか、ご存知でございますか」
もう一度、言葉に詰まる。
特に違和感を感じたことはないから、右利きじゃないだろうか。
小雪がぼくの頼んだ買い物をメモしたり、荷物を受けとったりするのは、どっちだったかなんて覚えていない。
「小雪の今日のリボンは、何色でございましたか」
リボン?リボンなんかついてたっけ?
「小雪の腕時計のベルトの色は、黒でございますか、赤でございますか」
千里の質問が無茶になってきた。
「メイドの腕時計なんか、気にしたことないよ」
「では、初音の腕時計もご存知なかったのでございますね」
・・・ご存知、だ。
初音は、細くて茶色い革ベルトの、スクエア型の金縁の小さな腕時計をしていた。文字盤は、ローマ数字だった。
「そ、そりゃ、初音は4年も一緒だったんだから。だけど、ぼくだって4、5日めの時は初音の腕時計なんか知らなかったよ」

「直之さま」
千里が、両手でぼくのパジャマの襟をひっぱった。
「もちろんでございます。ただ、わたくしが申し上げたいのは」
千里の顔が、そばにある。
ちょっぴり、齢を取ったな。
ものすごく怖いメイドだったけど、ぼくの担当になった頃の千里は、まだ二十歳そこそこだったんだ。
メイドというより、母のようにぼくの世話をしてくれて、小学生の頃なんかは、千里がいなきゃ夜も昼もあけなかった。
いつまでも変わらないと思ってたけど、間近で見ると、少しだけ小じわがある。
千里は、若くて楽しいはずの20代を、ぼくのために費やしてくれたんだ。
ぼくは、千里を大事にしないといけないのに、まだこうして心配をかけている。

33: ◆dSuGMgWKrs
08/06/21 19:37:35 tMqoQTFt
「とにかく、小雪を見てくださいませ。ああ、やってるなー、ではなく、初音ならこうなのに、ではなく、もっと小雪を注意して見てやってくださいませ」
「…千里」
「はい」
「齢とったね、おまえ」
千里が、にっこりした。
「そのくらい、小雪のことを観察なさいませ。小雪は一生懸命でございます。あの子は、いい子ですよ」
「・・・うん」
「それが、直之さまのお仕事でございます。今までは、直之さまの素行が悪ければ初音が非難されましたが、これからは小雪の働き振りが悪ければ、直之さまが非難されるのでございますよ」
「・・・うん」
「ご主人さまと担当メイドとの仲がギクシャクしていれば、使用人たちにはそれがわかります。担当メイドでさえ信頼できないような方を、どうして他の使用人が信頼できましょう」
「・・・うん」
「小雪の良いところを、探してやってくださいませ。小雪を理解してやってくださいませ」
「・・・うん」
二十歳になって、メイドが変わって、車で学校に行けるようになって、いろいろな規則から解放されて、ぼくは大人になったような気がしていた。
なのに、一番身近にいるメイドさえ、泣かせてしまったんだ。

すっかりうつむいてしまったぼくを、千里は昔どおり抱き寄せて、ポンポンと背中をたたいた。
ぼくも昔のように千里の身体に腕を回して、抱きつこうとした。
でも、そうするには千里はもう、ぼくより小さすぎた。
「・・・ぼくには、まだまだお説教をしてくれるメイドが必要だよ、千里」
「なにをおっしゃいますやら。でしたら、必要な時に小言のひとつも言えるように、小雪を教育なさいませ」
ぼくをソファに座らせて、千里はぼくの頭のてっぺんにそっとキスしてくれた。
子供の頃に、してくれたように。
よくできましたね、と言うかわりに、いつも千里はそうしてくれた。
「わたくしに小言を言わせるのは、これを最後にしてくださいませね。担当でもないメイドがこんなことを申し上げるのは、本当はいけないことなのでございますから」
千里の小さな手が、ぼくの肩に置かれ、そして離れた。
「すっかりお邪魔をしてしまいました。おやすみなさいませ」

ぼくは、立ち上がったりせずに、出て行く千里を目で追った。
千里は、ドアのところで振り返った。
「もうひとつ、お尋ねしてもようございますか」
「なんだい?」
「直之さまは、担当がわたくしから初音になった時も、わたくしを懐かしんでくださいましたでしょうか」
ちょっとだけ頬を赤らめてそう言う千里が、かわいらしかった。

「うん。千里が恋しかったよ」

千里は、今まで見たことがないほど嬉しそうに、そして少し寂しそうに笑い、その笑顔がなぜかぼくの胸を締め付けた。


34: ◆dSuGMgWKrs
08/06/21 19:38:03 tMqoQTFt
千里が出て行ってから、ぼくは担当メイド直通のインターホンを取った。
「なにか、夜食が欲しいんだけど」

小雪が、肩で息をしながら夜食の乗った重いワゴンを押してきたのは、10分後だった。
見ると、サンドイッチに焼きおにぎり、グラタンにピザ、甘いもので鯛焼きやケーキまである。
「・・・小雪。ぼくはそんなに大食漢に見えるのかい」

じゅうたんに膝をついて、ワゴンから数々の料理を取り出しながら、小雪は首をかしげた。
「でも、ご主人さまがなにを召し上がるかが、わからなかったものですから」
「それにしては、短い時間によくこんなに準備できたね」
熱々のグラタンをそうっとテーブルに置く。
「はい。もしかしてお夜食を召し上がるとおっしゃったら、すぐにお出しできるようにしておきました」
夜食なんて、小雪に頼むのは初めてだ。
「もしかして、毎日準備してたのかい?」
「はい。あの、なにをお召し上がりになりますでしょうか?」
手を止めて、ぼくを見上げる。
うん。腕時計のベルトは、赤だ。
リボンは、ああ、制服の胸についてるのか。これも、赤。

「いい匂いだね。グラタンをもらうよ」
小雪が置いたグラタン皿の前に、腰を下ろす。
「はい、かしこまりましたっ」
ぼくの足元に、小雪がぺたんと座る。
スプーンでグラタンをすくうと、ふうふうと息を吹きかける。
なにをしてるんだ?

「はい、ご主人さま、あーんしてくださいませ」
ぼくは、大げさでなく頭を抱えた。
「ご主人さま?」
「いや、小雪。自分で食べるから」
「え?でも、熱うございますから」
「うん、でもだいじょうぶだよ」
小雪が肩を落とした。

「そうでございますか・・・。申し訳ございませんでした」
そっとスプーンを置く。
そんなに落ち込まれても困る。
膝立ちのまま下がっていく。

小雪の置いたスプーンを取り上げて、ぼくはうつむいている小雪を見た。
―小雪を、見てやってくださいませ。理解してやってくださいませ。
千里の言葉を思い出す。


35: ◆dSuGMgWKrs
08/06/21 19:38:32 tMqoQTFt
「小雪」
「はいっ」
ぴょこん、と立ち上がる。
「あのさ。なんで今、小雪はグラタンをふうふうして食べさせようとしてくれたわけ?」
「え、あの、だって、熱うございましたから」
「でも、ぼくだって子供じゃないんだし、熱くたって自分で冷まして食べるとは思わなかった?」
「・・・でも」
とまどったように、小雪は両手をもじもじと動かす。
「ご主人さまがご自分で出来ることをみんなご自分でなさったら、メイドの仕事なんてなくなってしまいますし、それに」
「それに?」
「ふうふうして、差し上げたかったのですもの」
小雪が、耳まで真っ赤にして、そう言った。
「ぼくに?」
「はい」
「もう二十歳の、ぼくに?」
「も、もうしわけありません。でも、あの」
だんだん、小雪を困らせるのが楽しくなってきた。
「そうか、小雪はぼくなんかまだ子供だと思ってるんだね。担当メイドの仕事なんか、子守だと思ってるんだろ」
「そんなことございません!」
「どうだかね。悪かったね、同期の中でも貧乏くじを引かせて」
「ちがいますっ!」

小雪は、主人の話を途中で遮るという過ちを犯したことに気づいていなかった。
「小雪は、小雪は、このお屋敷にお勤めすることになって、初めてご主人さまを拝見しました時から、ずっと、ずっと、こんな方の担当メイドになってずっとお仕え出来たらと」
「・・・・・・」
「でも、ご主人さまには初音さんが担当でいらして、ほんとにすばらしいメイドで、あんなふうになりたいって、そうしたら今度は初音さんがお辞めになって担当が新人から選ばれるっておっしゃって、どきどきして」
小雪の両目に涙が盛り上がってきた。それをこぼすまいと必死で目をしばたいている。
「もう、ご主人さまをお廊下でお見かけしても逃げ出してしまうくらいどきどきして、そうしたらほんとうにほんとうに担当メイドを拝命して、夢みたいで、ご主人様に気に入っていただきたくて」
ついに、ぽろっと涙が一粒落ちた。
「初音さんにいろいろお聞きしたかったのに、全部直接ご主人さまに教えていただきなさいとしか言ってくださらなくて、でもご主人さまは小雪にはなんのご用もなくて、それで、それで、初めてお言いつけ下さったお夜食なのに、小雪は失敗を」
「もういいよ」
これ以上は、罪悪感に勝てそうにない。
ぼくは、座っていたソファの隣をポン、と叩いた。
「ここにお座り」
小雪は、驚いたような顔をして、それからおずおずと近づいてぼくの隣に腰を下ろした。
手をとって、スプーンを握らせる。
「やっぱり、まだ熱いよ。ふうふうしてくれるかい」
小雪が、まだ涙の残る目をぱっと見開いて、それから初めて見る笑顔で言った。
「はいっ!」
とっくに食べやすい温度になっているグラタンを、ふうふうする。
差し出されたスプーンをぱくっと咥えると、それだけで小雪は頬を染めた。

なんだ、けっこうかわいい顔をしてるじゃないか。
初音は美人系だけど、小雪はかわいい系だな。
・・・いけない、また初音と比べてる。

ぼくがグラタンを飲み込むのを待って、また小雪がふうふうする。
「はい、どうぞ、ご主人さま」
差し出されたスプーンを持っているのは、右手だった。
あとで小雪を立たせて、背の高さを測ってみよう。
それから、そのちょっと仰々しい呼び方を変えさせよう。
担当メイドは、担当メイドにだけ許された主人の呼び方があるではないか。



きっと、小雪はぼくのいいメイドになる。

そんな気がした。

――了――

36:名無しさん@ピンキー
08/06/21 20:07:40 pzrPXlRP
gj

37:名無しさん@ピンキー
08/06/21 20:46:15 SDF6zIsx
ほんわかGJ!

38:名無しさん@ピンキー
08/06/21 20:46:54 sJrJrH3U
小雪ちゃん健気で可愛いよ(*´Д`)
GJ!!

39:名無しさん@ピンキー
08/06/21 22:21:26 pOluQ2yi
いい
これはいい
小雪ちゃんいいわ
是非我が家へ来て欲しい

40:名無しさん@ピンキー
08/06/22 00:48:37 da+E4s9i
つ[売約済]

41:名無しさん@ピンキー
08/06/22 09:58:06 NMLru8vd
世話を焼かせてもらえないと落ち込む小雪ちゃんが可愛い。
あと千里さんgj。

42:名無しさん@ピンキー
08/06/23 07:11:41 6x156haT
どうしよう千里さんが激しくツボだ
優しく叱られたい

43:名無しさん@ピンキー
08/06/23 22:43:29 NUdoVW1z
例えば、同級生オニャノコが後にメイドさんになるお話だとして
第1章で同級生時代、第2章以降でメイドさんになる話の構成とした場合
第1章だけ投下時点だと、メイドモノに見えないと思うが、投下できるのかな

注意書きで、第2章以降はメイドさん編になりますと断ればおk?
それとも、第1章は別スレに投下しないと駄目なんだろうか

44:名無しさん@ピンキー
08/06/23 22:55:20 bg1FEEMy
注意書があればいいとは思うけど、あまりに第一章に
力を入れられても読んでる方は興味削がれちゃうから、
そこそこ簡潔にまとめた方がいいと思う。

別スレからジャンプするのはやめた方がいい思う。
最悪、元のスレへカエレ!と言われる。
そういった実例も見て来た。

45:名無しさん@ピンキー
08/06/23 23:46:07 NUdoVW1z
>>44
ありがとう、参考になった

前述のような事情があっても、スレ移行はあまり良くないんだね
気をつける

46:名無しさん@ピンキー
08/06/23 23:54:44 Cj7n5EcS
とりあえずメイド編から始めておいて、外伝などで学生編をあとから出すという手もある。

47: ◆dSuGMgWKrs
08/06/24 06:01:47 EUoS3+OG
『メイド・小雪 2』

「違うだろ、小雪。大芝先生のゼミの日は、ぼくはポロシャツを着るんだよ」

朝の着替えの時にそう言うと、小雪は大慌てでまたクローゼットを開けた。
「申し訳ございません!うっかりいたしましたっ、うっかり、…うっかり?」
Tシャツの入っている引き出しを開けて、小雪は人差し指をほっぺたに当てて、首をかしげた。
「そうでございました?」

ぼくがぷっと笑うと、小雪は小さな唇をとがらせた。
「んもう、おからかいにならないでくださいませっ」
もちろん、ぼくはゼミの先生ごとに服装を決めたことなどないし、だいたいポロシャツは着ない。
まったく、小雪はからかいがいがある。

「ごめんごめん、ちょっと困らせてみたかったんだよ。怒ったかい?」
小さな小雪の頭に手を乗せて、撫で撫でする。
最初の数日は気づかなかったが、小雪はほんとに小さい。
子供の頃の担当メイドだった小柄な千里と同じくらいか、それよりちょっと小さいし、細い。
夏の半袖の制服から出た二の腕なんて、ぼくの手首かと思うくらいか細いし、ウエストなんて本当に内臓が全部入っているのだろうかと思うくらい、きゅっとくびれている。

「そんな、とんでもございません、小雪が直之さまのことを怒るだなんて、そんなふうに小雪のことを・・・、ひどうございますっ」
「わかったわかった、ごめんよ。知ってるよ、小雪がぼくのこと大好きだってことはさ」
小雪はぽっと頬をピンク色にして、また唇をちょっとだけ突き出した。
今日の口紅のツヤツヤした薄いピンク色と頬が同じになった。

ぼくは二十歳の誕生日を迎えて、初めて担当メイドが新人になった。
今までは年上のメイドばかりで教育される側だったから、今はこの小雪をからかったりちょっとだけいじめたりするのが楽しくてたまらない。
小雪も真面目な性格だし、ぼくのクセや好みを覚えようと一生懸命だから、何にでも真剣だ。

ぼくがいつまでも小雪の頭を撫でているので、小雪はぼくのシャツを抱きしめたまま居心地悪そうにした。
「あ、あのっ、直之さま、いつまでも、そのような格好ですとっ」
「うん?どのような格好?」
「ですから、あのっ」
パジャマを脱いだところでポロシャツ騒ぎになったので、ぼくは上半身裸だった。
「おっ、お風邪を召しますっ!」
「うん、大丈夫だよ。もう秋だけど、ここんとこは残暑が厳しいし、今も暑いくらいだよね」
ちょうど、小雪の目の前にぼくの胸がある。
「で、で、でも、ほら、シャツを。あの、お食事に遅れるといけませんしっ」
ああもう、このままずっとずっと小雪の頭を撫でていたい。
「うん、そうだね」
撫で撫で。
「それに、あの、あのっ」
「うん、なんだい?」
撫で撫で。
「このまま、このままずっとそうなさってますと…」
とうとう、小雪は抱きかかえたぼくのシャツに顔をうずめてしまった。
「うん、ずっとこうしてると?」
撫で撫で。
「こっ、小雪の頭がカッパになってしまいますっ!」
ぼくはのけぞって笑ってしまった。

まったく、小雪には飽きない。
ぼくは、それなりに小雪を気に入ってきていた。

48: ◆dSuGMgWKrs
08/06/24 06:02:26 EUoS3+OG
満足するまで小雪をからかってから、ぼくは余裕を持って朝食の席に着いた。
父がフォークを取り上げて、食事が始まる。
「先月までうちにいた、初音だが」
いきなり父がいいだして、ぼくはオムレツが喉に詰まりそうになった。
もちろん、食事の席で咳き込むような行儀の悪いことは許されない。
ぼくは隣にいる兄と同じように、全くの無表情と無関心を装った。
「そろそろ結納ではなかったかな」

どきっとした。
もちろん、初音はそのために退職したのだし、結婚を先延ばしにする理由などない。
相手はいわゆる玉の輿で、三男とはいえ明治維新前からの家柄の息子だ。
うちと同じように、戦後の財産税や財閥解体を生き残った資産家。
パンにバターをつけながら、母が満足げに頷いた。
「初音でしたら、きっと三条のお宅でも気に入っていただけますわね。うちはメイドといっても、どこへ嫁がせても恥をかかない教養を身につけさせておりますもの」
確かに、うちのメイドたちは仕事の一部として、社交マナーや文化教養の講義を受けねばならないはずだ。
万一の時は、奥方や令嬢の身代わりもこなし、誰の目に留まって所望されても困らないように。
初音も、ダンスやお茶やお花に舞踊、英語にいたるまで週に一度はなにかしらを習っていたはずだ。
三条家の若奥様になったくらいで、困るようなことは何もない。
「なにかの席で顔を合わせても、もううちのメイドではないからな。三条に失礼のないように接しなければな、直之」
もちろんわかってる。
「市武くんは、人柄がいい。初音も安心だ」
当たり前だ。
顔がよくたって家柄がよくたって、性格の悪い男になんか、初音をやるものか。
ぼくは急に食欲がなくなった。
勝手に席を立つことはできないので、皆が食事を終えるまで適当に食べているふりをした。

まだ、ぼくは初音の名前を聞くと胸が痛んだ。
ぼくの初音。
ぼくだけのものだった、初音。
いまはもう、三条市武さんの初音なんだ。

食堂から出るとき、隣を歩いていた兄がぼくにこっそり言った。
「私も、七緒が交代した時は辛かったが、今は菜摘に満足しているよ」
足が止まった。
日頃、兄弟らしく一緒に遊んだり話をしたりする機会もなく育ったせいか、兄はさほど身近な存在ではない。
すっかり忘れていたけど、兄もぼくと同じように、ぼくより早く、4人目の担当メイドを使っているのだ。
もしかして、兄も三人目の、16の誕生日から二十歳までの担当だった七緒に、いろんなことを教わったんだろうか。
ぼくが、初音に対して抱いたような感情を、七緒に抱いたのだろうか。
七緒は、兄の担当を外れてしばらくして、一身上の理由で辞職した。
もしかして、新しい担当メイドである若い菜摘が、兄によって兄好みに教育されていくのを見るのが忍びなかったとか・・・。

ぼくが立ち止まったのを見て、兄が振り返った。
「おまえ、全くダメでもないんだろ?今夜、部屋に来いよ。たまに話をするのもいいだろう」
片手でくいっとグラスを傾ける真似をして、兄は正面玄関に向かった。
父と一緒に出社するために、使用人たちの総見送りを受けて、車に乗る。

兄の話を聞いてみたい、と思った。

49: ◆dSuGMgWKrs
08/06/24 06:03:10 EUoS3+OG
「直之、聞いたぞ」
授業の合間に、聡が声をかけてきた。
倉橋家の跡取り息子だ。
向こうは家柄的には格下だが跡取り、こちらは次男ということで、子供の頃からなにかと気が合う。
「なんだい?」
「三条の市武さん、婚約したっていうじゃないか。しかも、きみの家のメイドだって?」
「ああ、それか。でももう退職したからね。うちのメイドじゃないよ」
せいぜい何気なく、ぼくは笑って言った。
「ま、三条家も三男だといろいろ自由だよね。で、どうなんだよ」
「どうって?」
「その、市武さんの婚約者だよ。どんな人だい?」
「どんなって」
最高だよ、と言いたいのを、ぐっとこらえる。
「うちにもメイドはたくさんいるからね」
「でも、市武さんが見初めるくらいだから、美人なんだろ?どの子かなあ、ぼくもきみの家のパーティーなんかで見たことがあるかな」
「…あるんじゃないかな。そういう席には出るメイドだったから」
初音を人前に出さないで、誰を出すんだ。初音はうちの看板メイドじゃないか。
看板メイドなんて言葉があるのかどうかは知らないけど。
だいたい、初音に気がつかないなんて、聡の目は相当なふし穴だ。

「そうか。直之んとこのメイドはレベルが高いからな。なんて言ったっけ、運動会の時にお弁当を持ってきてくれてた」
いきなり小学校の思い出か、と笑ってしまった。
「千里かい?」
「ああ、うん、そうだ。あの人きれいだったよな。ぼくなんかぼーっと見とれてたよ。直之の弁当がうらやましくてうらやましくて。おにぎりがアンパンマンになってたよな」
聡が本気でなつかしそうなうらやましそうな顔をした。
そういえば、小学校の運動会は、いつも千里がお弁当を持って応援に来てくれたな。
ぼくはいっつも徒競走で2位だったけど。
がっかりして帰ると、千里は僕の頭にキスして、言うんだ。

―直之さまが入賞なさって、千里は、鼻が高うございました。

「千里ならまだうちにいるよ。もうとっくに30越えたけど」
「いやいや、あの人なら30でも40でもキレイだよ。そうか、まだいるのか。会いたいなあ」
「なに言ってんだか。ぼくは君のお母さまが来てくれてるのの方がうらやましかったよ」
聡が階段教室の机に突っ伏した。
「そんなもんか?君んちくらいになると、奥さまが息子の運動会の応援、ってわけにはいかないのかな」
それはどうだろう。
ただ、うちの母がそういう行事を嫌っているだけかもしれないけど、ぼくは笑ってごまかした。
「はあ、ぼくなんかは三条家の披露宴によばれるかどうか、微妙だよなあ。あ、今度、君の家で交流会をやるときには、千里さんに会わせてくれよな」

市武さんと初音の、披露宴。
初音の白無垢やウエディングドレス姿は、どんなにかきれいだろう。
でも、隣にいるのは市武さんなんだ。
初音はきっと嬉しそうに恥ずかしそうに、市武さんの隣で微笑むんだろう。
ぼくは、それを見ていられるだろうか。

―初音のことを忘れろとは申しませんが…。

わかってる、わかってるよ千里。
ぼくだって、三条家の嫁になった初音に良からぬ思いは持たないよ。
それに、ぼくには小雪がいるから、さ・・・。

「…聡の家にもメイドはいるだろ。人の家のメイドばっかり気にするなよ」
授業の準備をしながら言うと、聡は自慢の腕時計を見た。
なんていったかな、大学の入学祝に買ってもらったっていう、どこだかのブランドの。
「まあな。あ、今年うちに入ったメイド、ちょっといいのがいるんだよ。見に来るか?」
教室に人が増えてきて、聡が小声になる。
ぼくが笑っていると、教授が入ってきた。

聡に、絶対に小雪は会わせないでおこう。千里にもだ。

50:名無しさん@ピンキー
08/06/24 06:08:05 In7K99V0
s

51: ◆dSuGMgWKrs
08/06/24 06:23:11 In7K99V0
「私は、16だったな」

夜になってから兄の部屋へ行くと、兄はぼくを大きな革張りのソファに座らせた。
なるほど、これが跡取り息子の部屋のソファか。
大きさとふかふかのクッションに、ちょっと他人事のようにそう思った。
兄の担当メイドの菜摘が、かいがいしく酒とつまみの準備をしてくれる。
ぼくと兄は5つ違いだから、兄が二十歳のときに担当になった菜摘は、今22歳。
5年も担当をしているということは、ぼくと初音より長いわけで、菜摘は兄が目配せ一つしないのになんでも先回りして世話を焼く。
ぼくの大学の話や、兄の仕事の話なんかをしながら、ぼくもこんなふうに小雪を教育できればいいんだけど、と菜摘の作ってくれた二杯目の甘いカクテルを舐めたところで、兄が言った。

「は?」
ぼくが顔を上げると、兄はふっと笑う。
少し長めの前髪の間から、弟のぼくが見てもぞくっとするような色っぽい切れ長の目がのぞく。
この兄ときたら、眉目秀麗という言葉のために生まれてきたような人だ。
顔良し頭良し運動神経良し性格良しの家柄良しで、幼稚舎から大学まで、ぼくが後を追って入学するたびに伝説を聞かされた。
教科書を取り出すそのしぐさすら優雅で品があって、視線を向けられただけで女の子は舞い上がったこと、
学校中の女の子だけでなく、女教師や生徒の母までを次々と夢中にさせ、
次々とつきあう女の子を代えたのに周囲の評判を下げず、別れてからも兄のことを悪く言う女の子は一人もいなかったこと。

「女だよ。16で七緒が担当になって、すぐ抱いた」
「…あ、ああ、そう」
こういう場合、どういう返事をすればいいんだ。
ちらっと見ると、菜摘は平然とした顔でチーズを取り分けている。
「菜摘、直之はゴーダを食べない」
「かしこまりました」
ぼくがゴーダチーズを苦手にしているなんて、兄に言ったことがあっただろうか。
なにかのパーティーや、関連会社の子女を集める交流会の席かなにかで、ちょっと選り好みをしているのを見たことがあるのかもしれない。
さすが、グループ企業の総帥になろうという人は観察力と気配りが違うと感心してみる。

「まあ、七緒はそういうメイドだし、別にのめりこみもしなかったつもりだが」
…そういうメイド、っていうのはどういうことだ。
16からの担当メイドは、そっち方面だけの教育係だとでも言うんだろうか。
兄ならぼくと違ってメイドに細々と説教されることもなかったかもしれないが、だからって。
少なくとも、初音は違う。
ぼくは、初音をそういう、性欲の対象だけのメイドにはしなかった。

ぼくの表情を観察するように見て、兄はまた笑った。
少しも嫌味でなく、皮肉っぽくもなく、ばかにしたようでもなく、優しい笑み。
どうやったら、こんな風に笑えるんだ。

「それでも、担当が替わったときは寂しかったものだよ」
櫛形に切られたカマンベールチーズを口に運びかけた手を止めた。
兄はウィスキーのグラスを片手で持って、一口飲んだ。
「今のお前の気持ちがわからないでもない」
そうだろうか。
七緒を、『そういうメイド』などと言う兄に小さく失望したぼくは、返事をしなかった。
「まさか、結婚しようなんて思ってなかっただろうな」
菜摘が小さなフォークに刺したオリーブを兄に手渡す。
「そういうメイドにのめりこむ危険はあるからな。従兄弟の涼太郎、あいつが以前、そう言ってごねたらしい」
涼太郎は父方の従兄弟で、ぼくより二つくらい年上だ。
でも、二十歳のメイド交代のときにそんなことを言ったとは聞いていなかった。
恐らく、両親が反対し、本人も納得したのだろうけど。
もし、ぼくが初音と結婚したいと言っていたら、どうなったのだろう。
初音は、三条に行かずに、ここにいてくれただろうか。

52: ◆dSuGMgWKrs
08/06/24 06:25:58 In7K99V0
「あれは、メイドがかわいそうだった。そのまま働くつもりだったのに、いきなり暇を出されたそうだ」
「え…」
「主人のわがままが、メイドの人生を変えてしまうということもある。お前は、よく我慢したよ」
ぼくはちょっとだけ頷いた。
兄は兄なりに、自分も経験した、二十歳のメイド交代の時期にいる弟を気遣ってくれているのがわかった。
もし、ぼくが初音と結婚したいと言っていたら。
初音は三条市武との縁談も破談にされて、ぼくと二度と顔を合わせないようにどこかへやられてしまったのだろうか。

「で、小雪はどうだ?」
ぼくがぼんやりとカマンベールチーズを咥えていると、兄はまた平然と話題を変えた。
「小雪?」
さっき、自分の部屋を出てくるときに、小雪には今日はもういいから自分の部屋で休みなさい、と言い置いてきた。
スカートの前で手を合わせて、ぴょこんと頭を下げた小雪を思い出す。
「どうって?」
気がつくと、兄は隣に座って世話を焼く菜摘の膝をスカートの上から撫でていた。
「抱いたんだろう?」
「!」
ぽろっとチーズが落ちた。
菜摘がそっと動いて、それを拾う。
兄の隣に戻ると、また黙って膝を撫でさせている。
気のせいか、菜摘の目元がとろんと潤んでいた。

なんだ、これは。
眉目秀麗完全無欠だと思っていた兄が、予想以上の好色らしいという衝撃。
「いえ、だって小雪はまだ」
「なんだ、思ったより手が遅いんだな。小雪のあのお前の慕いようは、とっくに済ませたのかと思っていたのに。な?」
兄が菜摘の顔を覗き込むようにする。
「正之さまのお手が早すぎるのでございます」
「そうか?」
「はい。菜摘など、ご挨拶したその日のうちにお召し上がりに」
な、なんだ、この主人とメイドの睦言は。
「それは、お前があまりにおいしそうだったからだな」
「ま…」
放っておいたら、このままここで何かが始まりそうで、ぼくは不自然に咳払いし、カクテルをあおった。
「えー、あー、そうだ、例えば、メイドを躾けるのに、兄さんなりの秘訣とか、そんなのありましたか?参考までに」
徐々に上がってきた兄の手が、菜摘の太ももを撫でている。
いいのか、これで。うちの会社は。
「そうだな。菜摘は飲み込みが早かったし、よく出来たメイドだからな。強いて言えば」
ウィスキーグラスの氷が、カランと音を立てた。
「毎回、きちんとイかせてやることかな」
だめだ、これは。
兄が真顔でテクニックを語り始め、その間にも菜摘の脚を撫で続け、ぼくは目のやり場に困りながらなんとか話を打ち切って立ち上がった。
兄が、見送ろうと腰を浮かした菜摘の腕を引いて、自分の方に倒れこませる。
ドアのところでちらっと振り返ると、酒の入った兄はすっかりその気のようで、菜摘の顎に指をかけてキスしていた。片手は胸をまさぐっている。
「あん・・・」
ドアを閉める直前に、聞いたことのない菜摘の声がした。



まったく、兄の意外な面を見せられたものだ。

体の奥がかっと熱くなった気がする。
ぼくは兄の部屋に行ったことを後悔しながら、自分の部屋のドアを開けた。

53: ◆dSuGMgWKrs
08/06/24 06:28:09 In7K99V0
「お、おかえりなさいませ」
クローゼットを開けてその前に座り込んでいた小雪が、ぼくを見てぴょんと立ち上がった。
「なんだ、休んでいなかったのか」
つい今までしていた話が話なので、ぼくは小雪を見るのがちょっと照れくさかった。
「は、はい。まだお戻りにならないと思っておりましたのでっ」
「ふうん」
目をやると、クローゼットの中の引き出しが開いてぼくの服が出ている。
「なにをしている?」
「あ、あの、あの、こ、衣替えでございます」
「こんな季節に?こんな時間に?」
「う、え、あ、あの」
しどろもどろになっている。
主人の留守に、主人の部屋で衣類を片付けたり掃除をしたりするのはメイドの仕事だ。
だが、どうも様子がおかしい。
ぼくは小雪の側に寄った。
「なにをしていたんだ?」
「あ、あのっ」
「小雪」
ぼくは、小雪の頭に手を乗せて、撫でた。
「正直に言わないと、カッパになるよ。いいのかい」
小雪が、うう、とうめいた。

「ボタンでございます」
「ボタン?」
「はい、今日直之さまのシャツにアイロンをおかけした時に、お袖のボタンがひとつ、緩くなっておりましたのですけれど、後でお付け直しするつもりで、あの、忘れてしまいました」
なんだ。
そんなことか。
隠すようなことでもないのに、小雪があまりにうなだれているので、ぼくの中にちょっといたずら心が芽生える。

「小雪。主人の服のボタンを付け忘れるなんて、とんでもなく悪いメイドだよ」
「はい。申し訳ございません」
「もしぼくが緩んだボタンのままそれを着て出かけたらどうするんだ。日中、ボタンが取れて袖口がブラブラするじゃないか」
「はい。申し訳ございません」
「小雪はまだ新人だから仕方ないかもしれないが、主人としてはメイドをきちんと躾けなければならない」
「はい」
「メイドが粗相をしたら、しかるべきお仕置きも必要だ。わかるね」
「……はい」
さて、これから小雪をどうしてやろう。

兄と菜摘の痴態を見せ付けられたばかりだし、これでメイドが初音なら間違いなく「脱ぎなさい」と言うところなのだけれど、どうも小雪にいきなりそれは可哀相だ。
しかし、二度とボタンを付け忘れたりしないように、しっかり反省させる必要がある。
ぼくはうつむいた小雪から離れて、ソファに腰を下ろした。
「こっちに来なさい」
小雪が、僕の前に立つ。
「そうだね。歌でも歌ってもらおうか」
小雪はびっくりしたように顔を上げ、両手で口元を覆った。
「う、歌でございますか?!」
「そうだ、なんでもいいよ。歌いなさい」
耳も首も真っ赤に染めて、小雪は一歩下がった。
「あ、あのあのあの、直之さま」
「なに」
「こ、こ、こ」
「こ?」
「こ、小雪は、あの、お、お、お、お」
「お?」
「音痴でございますっ!」
ぼくは、思わず噴出しそうになったのを、ぐっとこらえた。
「かまわない。歌いなさい」
小雪は泣き出しそうな顔をしながらしばらく考えて、それでも主人の命令に従った。

54: ◆dSuGMgWKrs
08/06/24 06:30:16 In7K99V0
「ぽっぽっぽ~、はぁとぽっぽ~」

今度こそ、ぼくは噴出した。
すばらしい選曲センスだ。
そして、本当に音痴だった。
「なおゆきさまの、いじわる…」
最後まで歌ってから、小雪は両手でスカートを握り締めるようにして、顎が胸に埋まってしまいそうにうなだれた。

心ゆくまで笑ってから、ぼくは自分の膝を手のひらで叩いた。
「わかったわかった、もういいよ。反省しただろ?こっちにおいで」
小雪ははい、と返事をして顔を上げ、それからちょっと首をかしげた。
ここに、というのがどこかわからなかったのだろう。
ぼくはもう一度、膝を叩いた。
「さ、おいで」
小雪の顔が、火を噴いたようになる。
人間の顔というのは、どこまで赤くなれるものなのだろう。
「そ、そちらでございますか?」
「何度も言わせるものではない。命令は一度できちんと理解して従いなさい」
うん、我ながら、いい躾をしてるじゃないか。
「はい…」
小雪がぼくの膝の上に、浅くお尻を乗せた。
体重をかけないようにしているのか、脚がぷるぷると震えている。
ぼくは小雪のウエストに手を回して、ぐいっと引き寄せた。
「ひぁっ!」
思わず出た声を戻そうとするように、口を押さえる。
膝に乗せてみると、小雪は軽かった。
見た目どおり華奢な体つきをしている。
これでは、毎日のハードなメイド仕事はきつくないのだろうか。
顔を寄せてみると、覚えのある香りがした。
「あ、あの、直之さまっ」
「なに」
後ろから抱きしめて小雪のうなじに軽くキスしてみる。
胸は、まあ、平らではないかな。
「あ、あの、小雪は今日はお庭の草むしりなどいたしましてっ」
「うん。ご苦労様」
「それから、お廊下の窓拭きなども」
「そう。大変だったね」
「で、ですからあの、すっ、少し汗などもかきましたので」
「今日は暖かかったからね」
「で、ですからっ」
「小雪はちっとも汗臭くなんかないよ。いい香りがするくらいだ」
いやあん、と小さく言って、小雪は今度は両手で顔を覆ってしまった。
小さな小雪が膝の上で脚をパタパタさせたくらいで、ぼくの腕から逃れられるわけもない。

「ねえ、小雪」
呼ぶと、小雪はぴたっと動きを止めた。
回した腕に、小雪の心臓が飛び出しそうにドキドキしているのが伝わってくる。
そういえば、初音がいなくなってから、もう一ヶ月以上ぼくは禁欲生活をしている。
小雪はまだ未体験だと思っていいだろう。
その時は、優しくしてやらないとな。
「はいっ、あの、大浴場の!」
「大浴場?」
「び、備品のシャンプーをっ!」
緊張のあまり、変なことを口走っているのかと思った。
ぼくはちょっと考えて、そして理解した。
住み込みの使用人たちの部屋には、それぞれ簡単なシャワーの設備しかついていない。
あとは共同の大浴場があって、ゆっくりお湯に浸かりたい時などはそこを利用することになっている。
小雪はその大浴場にあるシャンプーを使って、髪を洗っているんだろう。
だから、他のメイドたちとすれ違った時に感じるのと同じ香りがするんだ。
覚えがあるのは、そのせいか。

55: ◆dSuGMgWKrs
08/06/24 06:32:37 In7K99V0
「ふうん」
ぼくはきれいに結い上げて、後れ毛をピンで留めた小雪の髪に鼻をうずめるようにして深く呼吸した。
「小雪は、どこから洗うの?」
「は、はっ?!」
「お風呂で最初に洗うのはどこ、と聞いたんだよ」
腕に伝わる小雪のドキドキが大きくなる。
「あの、あの、えっと、かっ、髪の毛でございますっ」
「それから?」
「それから、あの、顔を」
「そして?」
「そして、あの、う、腕などを」
「うん、それから?」
「そ、それから、あの、身体でございます」
膝の上で小雪がこれ以上ないほど小さく縮こまる。
わざと何かの間違いのように胸にタッチした。
「きゃっ!」
「ここはいつ洗う?」
「う、え、あ、うう」
返事が言葉にならない。
「ボディソープも備品?ぼくと同じ香りにしてみるかい?」
「え、えええ、ええ?!」
小雪はぼくの膝の上でパニックになっている。
それがおもしろくてかわいくて、ぼくは小雪をぎゅうっと抱きしめ、それから解放した。

「ボタンは明日でいいよ。お風呂に入っておやすみ。また明日、起こしてくれ」
ぴょんとぼくの膝から飛び降りた小雪は、スカートの乱れを手で直しながら、頭を下げた。
「は、はいっ、では、お疲れ様でございました、おやすみなさいませっ」
まだ顔を真っ赤にしたまま、ドアのところで、もう一度頭を下げる。
顔を上げたとき、ぼくは機嫌を損ねていないことを伝えるために、笑顔で手を上げた。
小雪の顔が、ぱっと明るくなる。
兄のように視線を合わせる全ての女性をうっとりさせるには程遠いけど、まあ小雪に喜んでもらえるくらいなら、ぼくの笑顔もそう捨てたものではない。

手の中にまだ、小雪の温もりが残っていた。
惜しいことをしたかな。

―菜摘など、ご挨拶をしたその日のうちに。

兄の担当メイドの、色っぽい目つきを思い出した。
体の一部が、まだ熱を持っていた。

まあ、いい。
小雪はまだ子供子供している。
無理強いするのは本意ではない。

いずれそういう時が来たら。

――了――

56: ◆dSuGMgWKrs
08/06/24 06:34:33 In7K99V0
途中から規制かかって携帯から投下しました。
見苦しい点ありましたら失礼。

57:名無しさん@ピンキー
08/06/24 08:06:35 AxYfv4M/
>>56
GJ!
小雪ちゃんカワイイ。どんだけ萌えさせてくれるんだってくらいカワイイ。
前回投下の食事シーンで「直之の兄貴ってどんな人なんだ?」と思ってたので今回分かってよかった。
直之と小雪の進展も気になるけど、初音のことも気になるわ。

それと、朝から携帯投下乙です。

58:名無しさん@ピンキー
08/06/24 17:46:47 ifK5NUgD
>>56
GJ!

今まで4時間ほどBOOK〇FFで立ち読みしてたら「エマ」っていう漫画があって思わず全巻買って来てしまった
で、いつになったら俺の家にメイドがくるのかね?

59:名無しさん@ピンキー
08/06/24 19:29:36 JWRLBFHz
>>58
目を閉じればホラw

60:名無しさん@ピンキー
08/06/24 22:39:18 oUHHku6D
これは直之には過去にすがってもらって
小雪ちゃんは俺が引き取るしかないな

61:名無しさん@ピンキー
08/06/25 00:20:48 6vLcu7rb
>>58
>エマ全巻
なにをいまさらw

62:名無しさん@ピンキー
08/06/25 01:48:19 EWA0EExX
シャーリーの方がカワイイ

63:名無しさん@ピンキー
08/06/25 02:16:05 ajWQu5RD
某アニメに登場したステルスメイドさんってのに惹かれたw
主人はメイドがいること自体知らなかったけど、ちゃんと働いてるとかすばらしいw
うちにも目には見ないけどいるんだろうか?

64:名無しさん@ピンキー
08/06/25 11:47:46 I2LSWwCg
うちには小雪ちゃんがいます。
毎日頭をなでなでしてます。
目に見えないけど。

65:名無しさん@ピンキー
08/06/25 21:54:35 LOza4N1r
頭がカッパになっちゃいますよ。




とリアル会話でも言ってしまった俺って一体…

66:名無しさん@ピンキー
08/06/25 22:13:40 A9+CQnfO
>>65
小雪ちゃんに視野狭窄してしまっていますね。
他のメイドさんに目を移してみるのもよいでしょう。

67:名無しさん@ピンキー
08/06/26 12:28:27 tzM59xAc
百合さんは夏を前にテレテレのトロトロになっているに違いない

68:名無しさん@ピンキー
08/06/27 00:58:07 gA++Gz+X
咲野は夏向けの嘘っこ誘惑ネタをまた先輩メイドに仕込まれてるんだろうな。
麻由は結婚準備で忙しいんだろうきっと。
いい夏だなチクショウ。

69:名無しさん@ピンキー
08/06/27 07:24:58 Da8YuSof
夏だ水着だメイド祭り

70:小ネタ
08/06/27 19:27:45 DcBwkeer
 ―あっ、今日は何時もより早く3割引に、ラッキー

 スーパー高富のお惣菜・お弁当コーナーの値引き開始時間はマチマチだ。
 毎日同じ時間にすると、それを狙ってその時間まで売れなくなるからか、客に値引き開始
時間を読ませない為、毎日時間をずらしている様である。
 たまたま足りない物を買いに来た時間帯に、3割引品が残っていたのはラッキーだったと、
璃樹那は思った。

 ―ハンバーグにすると、ご主人様喜ぶかな…
 買い物に来た目的の物と、ハンバーグ丼2つと、揚げシュウマイもカゴに入れた。
 些か胃に重い感じもしない事もないが、ご主人様なら喜んで平らげるだろう。

 レジに並びお会計を済ませて帰ろうとした時、ふとお惣菜コーナーに目をやった。
 
 ガンッ……
 ショックだった。
 半額シールを持って、早速残っていたお惣菜類にシールを貼り始める店員さんの姿が
見える。
 さっきまでの「私ってお買い物上手」と少しいい気分だったのが、一気に冷やされた。
 残るのは…… 敗北感。

71:3割引5割引
08/06/27 19:28:52 DcBwkeer
 <場面は、お屋敷に>


 「<かくかくしかじか>……というような事があったんですよ。 3割引でいい買い物
 したなぁと思ったんですけど、あともう少し待ってれば5割引で買えたのに……」
 
 帰るなり、ご主人様にそう璃樹那はボヤいた。

 「あぁ、そういう事もあるよね。 でも3割引で買えたんだから良かったじゃないか」
 「そ、そんなに落ち込むなって。 そうだ、代わりに今日は夜のお勤め時間を3割引、いや
 5割引にするよ。 璃樹那もそれで疲れなくてラッキーだろう?」

 「ご主人様、夜のお勤めは契約内容には入っておりません。 純然たる私の好意に拠る
 ものでございます。 といいますか、なんとか5分もたせてるってトコロが3.5分や2.5分で
 終わってしまうんですか? むしろ全然物足りません。 せめて10割増、いや20割増を
 目指して頑張って下さい」

 ―なんて言える筈もない。

 「お気遣いありがとうございます、ご主人様」
 ニコッと璃樹那は微笑んで答えた。
 夜のご奉仕後に不完全燃焼の体をどう慰めようかと、考えながら。

72:名無しさん@ピンキー
08/06/27 23:30:42 E0bbwbL6
gj
なんかすごいかわええ(;´Д`)ハァハァ

73:名無しさん@ピンキー
08/06/28 12:20:49 UzpspslO
主人の気遣いにケチをつけるとはけしからんメイドだ。
俺が(性的な意味で)お仕置きしてくれる!

74:名無しさん@ピンキー
08/06/28 18:15:36 sn6CDV/9
マゾい主人はむしろその通り
罵って貰った方がオッキする

75:名無しさん@ピンキー
08/06/28 19:52:30 egyUPTd4
逆に考えるんだ、回復が猛烈に早くて5分×20セットをこなせる旦那様だと!

76:名無しさん@ピンキー
08/06/28 20:39:39 tmkf0ERe
いかしメイドさんが五割三割にこだわるなんてきっと貧乏なご主人様なんだろうな

77:名無しさん@ピンキー
08/06/28 21:09:20 P1ZtEb96
前スレで誰かが書いてた「落魄したご主人様~」ってやつなんじゃね?
それはそれで味わい深い。
この場合だとメイドさん萌えに加えて頼りないご主人様萌えもある。

78:名無しさん@ピンキー
08/06/28 22:05:19 Ohj6Otmw
前スレ埋め乙

79:名無しさん@ピンキー
08/06/28 22:11:58 9tCX0awb
かおるさとー氏GJでした
ようこそメイドさんの世界へw

80:名無しさん@ピンキー
08/06/28 23:16:05 mdB/rLk8
鋭角噴いたGJw

81:名無しさん@ピンキー
08/06/29 00:29:22 frplpwYj
>>76
色々有って金が無くなる

使用人が雇えなくなる

メイドの一人が「私はお金が欲しくて傍に居るわけではありません」とか言い出す

無いに等しい給料なのに働いてくれるメイド

貧乏でも良いじゃない

82:名無しさん@ピンキー
08/06/29 01:05:43 224H87Xx
   ↓
でもって、彼女は諜報員だった
   ↓
旦那様の返り咲いた地位を使って任務完了
   ↓
プロポーズされた翌日、置き手紙を残して姿を消す
   ↓
空港OR港で、相棒から「いい男だったじゃない このまま嫁に行けば?」
   ↓
「あんな抜けた男(ひと)は願い下げ あのひとには可愛い奥さんがお似合い 任務だったのよ」
   ↓
流れる涙


こうですか?

83:名無しさん@ピンキー
08/06/29 02:04:03 wvNfYZKx
>>82
ちょww
それはwwww

84:名無しさん@ピンキー
08/06/29 04:08:43 pCXD1Hqm
いよいよ出発! というときに駆けつける旦那。
  ↓
顔を合わせないまま「お別れです」というメイド。
  ↓
旦那は彼女の素性を実は途中から気がついていた。「だけどボクはっっ」
  ↓
無情にも閉まるゲート。
  ↓
「キミの事が好きなんだ! ずっとそばにいてくれ!!!」
  ↓
「あーあ しかたないわね。実はあなたのチケットはないのよ…」と相棒に言われる。



こうですか? わかりま… というか>83が元ネタを知ってるっぽいんだが、
教えてくれないか?
>83さんよ、冥途が待ってるぜ?

85:名無しさん@ピンキー
08/06/29 11:31:00 vN/KaPTG
>>84
どっかで見かけた気がスる
なんかのコピペと思う

86:名無しさん@ピンキー
08/06/29 18:12:25 OdbnEsEw
362 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/08/19(土) 05:01:00 ID:rppsuWjM
ここね

過去スレデータベース
URLリンク(www.geocities.co.jp)
今スレ
スレリンク(army板)

メイド教官とは?
初代スレで書かれたとあるレスがあまりに名作だったため設定が何度か書込まれたが
未だにSSが書かれない幻の作品である

>>121
「私の人生で一番辛く、苦しい時 支えてくれた君以外愛することができない
結婚してくれ」 とご主人様がプロポーズした直後に(その為の裏工作を
色々やっていたのだが)返り咲いた地位を通して任務完了。
翌日、ご主人様が花束と指輪をもって帰宅すると、いつもどおり整頓された
家の中で彼女と彼女の荷物だけがない
テーブルの上には、手紙が1通・・・・
「私はただのメイドにすぎません」で始まるわかれの言葉が
「どうか 私を忘れて」という言葉と共につづってある。

そのころ、彼女は港、もしくは空港で 
「いい男だったじゃない。このまま結婚すれば」という相棒に
「あんな、抜けたひとは願い下げよ・・・・あのひとには可愛いおくさんがお似合い
 ・・・・任務だったのよ」と眼を合わさずに返答
 流れる涙

87:名無しさん@ピンキー
08/06/29 21:58:12 pDe6YFjt
>>84
補足すると他の板発祥のお話
何故かこのスレでも、落魄ご主人様関係のお話として
以前からいる住人には割と知られている・・・・・・・・・・・・・
かもしれない

>>82はそれを踏まえた上でののっかりw

>>84みたいな展開も全然ありだと思う
作品化に期待

88:『真・専属メイド』
08/06/30 04:38:09 v7Tda18H
覚えている方がいるかは分かりませんが前々スレ辺りで「真・専属メイド」を
書いていた者です、長い期間空いてしまいましたが新しいの投下します。

一応全員を出すつもりです。

89:『真・専属メイド』
08/06/30 04:39:34 v7Tda18H
『優雅な休みの過ごし方・雪乃編』
1
 雪乃の声で目が覚め、身支度を済ませて朝食へと向かう、大体のメイドが
俺を起こすため俺より先に起きてしまうので俺は彼女達の寝顔を見る機会が少ないのが
未だに勿体ないと思う。
「どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもない」
 その内、夜中トイレに起きたときじっくり見てやるからいいさ。
 朝食を済ますと部屋に戻る、今日の午前中は予定がないし午後も講習を少し
受けて終わり、ほとんど休みのような日、しかも明日は本当の休み。
 サイコー!と、叫びたい気持ちもあるが少し悩む部分もある。
「明日はお休みですよね」
 キた、この話題、雪乃の目が心なしかギラついている。
 欲情燃やして走るメイド達は休日前に激しいアプローチを始める、俺と夜を
共にするのは1人、メイドは7人、一週間は7日、大体のメイドが一週間の
おあずけを強いられているのだ、そりゃあ獣にもなるだろう。
「雪乃は昨日一緒に寝ただろう?」
「関係ありません、それにご主人様がお仕事を控えている日はあまり求められませんから」
 つまり休みの前の日や休日なら気兼ねなくやれるというのだ、少し怖い。
 そう、このため俺はろくに休日を過ごした試しがない、この間の7人同時は
さすがにモノが千切れるかと思った。
 そして考えた、休日丸々を俺一人で過ごす方法を。

「では私は一旦部屋に戻らせて頂きます、御用がお有りでしたら」
「うん、わかった」
 雪乃と別れ、自室に戻ると俺はある物を取り出す、早くしないと
雪乃達は勝手に理由を付けてやって来るつもりだ、その前にこれを
飲んでおかないといけない。
「え~っと、原液はまずいから水で薄めて・・・と」
 俺が持っているのは先日、俺のメイド達の教育係のメイドから盛られた
抜群に効く精力剤である、あの時は大変だった・・・。
「このぐらいかな・・・よし」
 ぐいっ、と薄めた精力剤を飲む、喉が熱くなり身体中が火照り始め
下半身が疼き始める、意識がちゃんとしている、成功だ。


90:『真・専属メイド』
08/06/30 04:40:34 v7Tda18H
2
 内線でまずは雪乃を呼びつける。
「何でしょうか」
「こういう用さ」
「きゃっ!?」
 そうだ、休み彼女達に潰されてしまうのだから休みの前に
彼女達の相手をしてやればいい、7人もいるけど。
「はぁっ・・・あっ、あのっ、ご主人様?んくぅ!?」
 後ろから抱き締める形を取り左手は胸を、右手はスカートの中へと伸ばす。
「なにって、雪乃が望んでいたことだよ?」
「そんっ、な、当然過ぎます・・・あっあっ」
 一年ほどの付き合いで俺なりにメイド達の事は知っているつもりだ。
 雪乃、メイド長で普段はクールな立ち振舞いで隙がなさそうだが。
「ほら、眼鏡は邪魔だよ」
「あっ!」
 性的な弱点は7人の中では目立ったモノがなく、むしろ技術力、持続力に優れ
相手をして一番疲れる、勿論体力的な意味で。
 しかしそんな雪乃も眼鏡を外して優しく抱き締め、髪を撫でると。
「ぁぁ・・・ご主人様ぁ・・・」
 この通り、いつもは眼鏡を取らせてもらえず大概マウントポジションで
搾り取られてしまうので今回みたいに隙を突くしかない。
「ほら、脱げたよ」
「ぁ・・ありがとうございます・・・」
 お互い裸になると若干放心気味の雪乃を組み伏せ
メイド達の中でも1、2を争う巨乳の頂きへと口を寄せる。
「んっ!ふぁぁぁ」
「ふっ、本当に眼鏡がないと弱々しくなっちゃうんだな」
「め、眼鏡がないと不安になってしまうんです・・・」
「だからこんな事されるのが弱いのか」
「ぁぁ・・・ぁあぁあ・・・」
 雪乃の頭を俺の胸の位置に来るように抱き締めると雪乃の顔は赤く染まり
瞳を潤ませて俺を覗き込んでくる。
「!・・・(か、可愛い)」
「ご主人様・・・」
「こんな時ぐらいはしっかり者じゃない雪乃が見たいな」
「・・・はぃ」
 唇を重ねると激しく求め合う、両手を胸へと当てゆっくりと揉んでいくと
雪乃は時折体を反応させる、胸の中心が十分に硬くなったのを確認すると
掌でコリッ、コリッと刺激していく。
「ふむぁあっ!むうっ!ん!」
 俺に唇を塞がれ十分な声を挙げられず、目の中の欲情の色が濃くなっていく。

91:『真・専属メイド』
08/06/30 04:43:19 v7Tda18H
3
 俺は唇も胸を離さないまま確認もせずモノを雪乃の中へと挿入を試みた。
「んぐうっぅっつ!!ん゛ん゛!!」
 毎日の鍛練(?)のおかげで一回でうまい具合に入る、雪乃のソコは
思った以上に濡れていた。
 腰を動かすと雪乃の手が俺の背中に周り必死にしがみつく。
 口、胸、秘所への同時責めはさすがの雪乃にも効いているようだ。
「ぷはぁっ!あっ!あ、あ、だ、ダメっ!おかしく、おかしくなっちゃいます!
ご主人様ぁ!ご主人様ぁ!!」
「おか、しく、なっていいんだよ・・・今は!」
 ごりっ、雪乃の弱い部分へと俺のモノが擦り付けられ雪乃は激しく
痙攣して絶頂へ向かう、そして俺も絶頂へと向かうために腰の動きを
加速させていく、この時はもう両手は胸になく、雪乃を貫くための
腰を支える役目に変わっていた。
「いくぞ!雪乃!」
「いやぁっ!だめです!あ、あ、さっきイッたばかり、な、のにっ!
あぁぁああああ!!」
 中で放たれた衝撃で雪乃は強制的に絶頂へと向かわされる。
 ぐったりと横たえる雪乃をもう少し見ていたいがそうもいかない。
「雪乃」
「・・・ぁ、んっ、ご主人様・・・」
「続き、やるぞ」
「へっ?」
 彼女達が一回で満足するはずはない、そのための精力剤、時間が惜しいので
早速二回戦を始める、体力的にも全然大丈夫、俺は。
「す、少しやすませてください・・・久しぶりにあれだけ激しくされたので、腰が・・・」
「だめ」
「そんなっ、・・・ああああ!!」

――



「ぅ・・・むぅ・・・ご主人様ぁ・・・」
「ふぅ・・・」
 疲れはて眠る雪乃を横目に時計を確認する。
 朝食が終わり雪乃を呼び出したのが7時半、今が10時だから2時間半
このペースなら明日までに全員と相手出来そうだ。
「よし、ゆっくりとお休み、雪乃」
 着替え、部屋を出ると次のメイドの元へと向かう。

―つづく



92:名無しさん@ピンキー
08/06/30 06:14:18 PHHn7hAh
GJ!雪乃かわいいよ雪乃
あと六人か……普通に過ごした方が休めそうww

93:名無しさん@ピンキー
08/06/30 08:10:38 MTPfhVD2
おかえり & GJ!
勿論 覚えているよ
前回あまり出番がなかった冬美さん(22)に 活躍して欲しいな

94:名無しさん@ピンキー
08/07/02 17:50:15 5rXVJNUj
>>76
むしろメイドさんがしまり屋で、裕福なご主人様にも「無駄遣いはいけませんよ」と注意してると、萌える

95:名無しさん@ピンキー
08/07/02 17:55:02 CeIhygQ1
>>94
たまにプレゼントすると、
「使用人ごときの為にこんな無駄遣いをして!」
と怒りつつ、内心大喜びなんですね、わかります

96: ◆dSuGMgWKrs
08/07/02 21:13:29 gFlAbeMM
『メイド・小雪 3』

三条家から、正式に披露宴の招待状が届いた。

三男のことであり、事業的にメリットのある婚姻でもないので、式と披露宴はほとんど身内で行うという。
「どうしても、好きな娘と結婚したいと言いましてね。末っ子には甘くなりました」
三条の当主はそう苦笑いしたものの、メイド出身の初音の人柄は相当気に入っているようだった、と兄が教えてくれた。
初音なら、きっと三条家に見合う家柄出身の兄嫁たちともうまくやれるだろう。

初音の主家とはいえ、小規模な披露宴でもあり、うちを代表して出席するのは父ではなく兄、ということになった。
ぼくは少し複雑な気分で、それを聞いた。
初音の晴れ姿は見たいけれど、市武さんと並んでいるのは見たくない。

学生時代はスポーツマンだったという市武さんは、背が高く体格もがっしりしており、夏はヨットに冬はスキーと、いつも日に焼けている。
以前、交流会で一泊のキャンプに行ったときは、水辺で魚を釣り、ピッタリしたTシャツで逆三角形の見事な上半身を見せ、女の子たちを騒がせていた。
その胸に抱きしめられた初音を想像すると、胸の奥がぎゅうっと痛くなる。
三条家から持ちかけられた縁談を父が受けた形とはいえ、一緒に暮らせばきっと初音は市武さんを好きになる。
ぼくだけが見ていた笑顔を市武さんに向け、ぼくだけが口付けていた唇で市武さんにキスをし、僕だけが抱いていた身体を市武さんが抱く。
そしてそのうち、二人の間にはとてもかわいらしい子どもが産まれるだろう。

「あの、まちがっておりましたでしょうか」
おずおずと小雪が言い、ぼくはぼんやりしていたことに気づく。
買っておいてくれと頼んでいた買い物を小雪に渡されたところだった。
「ああ、いや。これでいいんだよ」
渡してもらった万年筆の換えインクを、机の引き出しにしまう。
「ありがとう。よく見つけてくれたね」
「はい、直之さまにお教えいただいた書店で注文いたしました」
ほっとしたように、小雪が笑う。
ま、小雪は小雪でなかなかがんばっている。
かわいくないこともない。
ぼくは、立ち上がるとぼくの胸までしかない小雪の頭に、手のひらを乗せた。
「ごほうびに、カッパにしてやろうか」
ぼくが小雪の小さいのをおもしろがって、いつも頭を撫でるものだから、小雪はそこだけ髪が薄くなるんじゃないかと心配しているのだ。
ところが、いつも困った顔をするだけの小雪が、今日はぷくっと頬を膨らませた。
「かまいません。直之さまが小雪をカッパになさりたいのでしたら、小雪はカッパになりますっ」
お。
珍しく、反抗的。
撫で撫で。
「でっ、でも、小雪がカッパになりましたら、きっとみんながどうしたのか聞きます。旦那さまも奥さまも、きっとお尋ねくださいます。そうなりましたら、直之さまは、メイドをカッパにしたことがみなさまに知られてしまいますからっ」
撫で撫で。
「それは困るな。メイドをカッパにするのはあまり誉められたことではない」
撫で撫で。
「そ、そうでございましょう、ですから」
「小雪には、いいカツラを誂えてあげるからね」
ふぇぇん、と小雪が泣き顔になった。

まったく、まったく小雪はおもしろい。


97: ◆dSuGMgWKrs
08/07/02 21:14:09 gFlAbeMM
ぼくはソファに座ると、小雪を自分の前に立たせ、まだぷっくりふくれたままの頬を指先でつついた。
「どうした?不機嫌じゃないか。誰かにいじめられたか?」
主人に担当メイドとして仕えられる特別コースを卒業したからといって、そのメイドたちがみんな担当メイドとして働けるわけではない。
月々の余分な手当てと、自分だけの主人を持っているというステイタスをうらやまれることもあるのだ、と千里が教えてくれたことがある。
それは、次の担当メイドになる初音への気遣いを教えてくれたときの言葉だけど、きっと千里の体験でもあっただろう。

担当メイドに選ばれるだけあって、小雪は新人のわりによく気がついて細々と働くメイドではあるけど、たくさんいるメイドの中には、自分の方が担当メイドにふさわしいと考える子がいることもある。
小雪の頬がしぼんだ。
「そのようなことはございません」
「でも、今日の小雪はちょっと違うよ。ぼくは小雪の主人だからね。お見通しなんだ」
「……」
「こら。主人が何か言ったら、必ず返事をしなさい」
「…はい」
「で?どうして今日の小雪はそんなにご機嫌斜めなんだ?」
「そのようなことは、ございません」
おお、やっぱり反抗的。
「ふうん、そう来るんだ」
小雪が、ちょっと不安そうな顔をする。
ぼくは自分の膝を叩いた。
「ここに来なさい」
「…はい」
小雪は素直に後ろを向いて、ぼくの膝にお尻を乗せる。
うん、いい躾が出来ている。

ぼくは小雪の腰に手を回し、膝の裏にもう片方の腕を入れて横向きにした。
ソファに座ったままお姫様抱っこをする形になり、小雪は目を白黒させた。
「ひぁっ、な、直之さま?」
ひっくり返りそうになって、とっさにぼくの首にしがみつく。
はっと気づいてあわてて離したところを、背中に腕を回して引き寄せた。
体格差で、小雪はぼくの胸に顔を押し付けられて呼吸困難になった。
「む、きゅぅっ」
「ほら、言いなさい。でないと、カッパになる前に窒息するよ」
小雪の足が、ぼくの脇でパタパタする。
「お、お許しくださいませ、むきゅっ」
「言うかい?」
「申し上げます、申し上げますから、きゅぅぅ」
「よし」
少しだけ腕を緩めると、小雪は呼吸できるようになり、それでも身動きできない程度に抱きしめられたままで、もじもじする。

「あ、あの」
「これくらいなら話はできるだろう。さ、言いなさい。今日の小雪は、なにをそんなに拗ねてるんだ?」
「拗ねているわけではございませんけれども…」
顔を覗き込まれるのが恥ずかしいのか、小雪は自分からぼくに顔を押し付けるようにうつむく。
「…今日、お昼を頂くときに、他のメイドたちと一緒に使用人の食堂に参りましたのですけれど」
「うん」
「そこで、遙さんが、あの、先だってお辞めになりました初音さんのお式がお決まりになったというお話をなさいました」
まあ、メイドというものは噂好きと決まっている。
初音の結婚はメイドたちにとっても憧れの玉の輿だし、式が決まったのは事実なのだから話題にもなるだろう。
「でも、あの。初音さんは、あの。こ、小雪などはあまりお話することもございませんでしたので、あの、ほんとに存じませんのですけれども」
「うん」
「あの、あくまでも遙さんのおっしゃることで、ほんとうかどうかというのは、あの、直之さまのお耳に入れるようなことではないと存じますけれども、あの」
「……うん?」
「ですからその、は、初音さんは、三条さまのお宅に参られましても、その、あちら様のお気に召さないのではないか、ということを」
「…なんだって?」


98: ◆dSuGMgWKrs
08/07/02 21:15:40 gFlAbeMM
遙というのは、うちの中堅メイドの一人だ。
年齢も初音に近い。
ただ、主人家族の誰かの担当、というのではなく、一般的に全体的な仕事をこなすメイドのはず。
同僚として初音のことも良く知っているだろうが、それなら尚のこと、初音が三条家に気に入られないなどと噂するなどと。
ぼくが少しムッとしたのに気づいたのか、小雪が縮こまる。

「遙は初音のことを良く知っているだろうに、そんな陰口をいうのはいただけないね」
ここで遙を責めると、小雪が言いつけたような形になるので、ぼくは控えめに、それでもはっきりと不快感を表した。
「は、はい。あの、でも」
「遙はあとで叱っておく。もちろん、小雪から聞いたとは言わないから安心おし」
「いえっ、そういうことではございませんっ」
小雪が急に頭を上げたので、ぼくの顎にごつんとぶつかる。
「きゃあっ、申し訳ございません、どうしましょう!」
別に、小雪の頭がちょっとぶつかったくらいでは痛くもなんともない。
小雪を抱いた手を緩めなかったので、また小雪は手足をぼくの膝の上でパタパタするだけだ。

「大丈夫、痛くないよ。なにがそうではないんだ?」
「…はい、あの」
小雪はほっとしたような顔をしたものの、心配そうに身体をよじってぼくの顎をそっと指先で触れる。
「よかった、赤くなったりしておりません」
「うん」
ぼくは脚をゆすって、小雪に話の先を催促した。
「…ですから、あの。…三条さまは、あの、初音さんを奥さまになさったら、そのことにお気づきになるでしょうからと」
「そのこと?」
小雪はまたぼくの胸に顔を押し付けた。
「…直之さまの……お手つきだからと」

ふう。

吐いた息で、小雪の髪がふわりと揺れた。
言いにくいことを、小さな小さな声で言って、小雪はまた小さくなる。
「それで?それを聞いて、小雪は不機嫌になったのかい」
「ふっ、不機嫌だなどということはございませんけれど、でも、あの」
小雪を抱きしめたまま、カッパにならないように頭の後ろを撫でる。
「初音さんは素晴らしいメイドだったと聞いておりますし、小雪も初音さんのようになりたいと思いますし、直之さまの担当メイドだった初音さんが、三条さまでお気に召していただけないなんて、それはまるでなにか直之さまがいけないと言われているように思いまして、それで」
「うん。それで」
「小雪はただ…悲しかったのでございます」

まったく。
まったく、小雪はかわいい。

ぼくは、小雪をぎゅっと抱きしめた。
胸の中で小雪がまた小さく、むきゅっ、と鳴いた。
「あのね。小雪」
「ひゃい」
くぐもった声で返事が返ってくる。
「こういう家柄では、別にうちだけではなくて、三条さんのところでも同じだけどね」
「ひゃい」
「主人がメイドに手をつけるなんて、珍しくもなんともないんだよ」
「ふぇえ?!」
「だから、ぼくが…、ぼくが初音となにをどうしていたかなんて、誰も問題にしないし、三条さんだって初めからご存知なんだ」
「ふぇ…」
「三条さんは、それでもお父さまに、初音をくださいとおっしゃったんだよ。初音はそのくらいすばらしい女性なんだ。必ず、気に入ってもらえるさ」
「……」
「小雪?」
「れも…」
小雪がパタパタしたので、ちょっとだけ腕を緩めてやる。


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