ケロロ軍曹でエロパロ 其の7at EROPARO
ケロロ軍曹でエロパロ 其の7 - 暇つぶし2ch2:1
08/06/17 01:57:24 rR6TfTz8
前スレ落ちたのでたてました。

3:名無しさん@ピンキー
08/06/17 13:40:55 rR6TfTz8
保守

4:名無しさん@ピンキー
08/06/17 21:34:57 njbUk45/
ほしゅあげ

5:名無しさん@ピンキー
08/06/18 13:30:12 R1UqkS8h
保管庫、ケロロのみの独立ページができてたのな
保管庫管理人GJ!

6:名無しさん@ピンキー
08/06/18 18:09:58 3dC/yUN5
ほんとだ。保管庫管理人さんGJ!
ということで喜びの保守あげ。

7:名無しさん@ピンキー
08/06/18 18:11:36 3dC/yUN5
ごめん、あげてなかった…

8:名無しさん@ピンキー
08/06/19 02:30:50 /MjSFVXO
1乙
前スレ落ちてたのな

9: ◆K8Bggv.zV2
08/06/19 22:51:29 Kua0Xt85
>>690の続きです



「ん…ッ」

夏美が目を覚ます。
ぼんやりと見上げる視線の先には、
ついさっき本当に心が通じ合うようになったばかりの大好きな男の優しい笑顔があった。

「夏美」
「ギロロ…」

気分はとても安らいでいたけれど、しかし、身体中は違和感だらけだった。
そう、リビングのソファーにギロロと並んで座った状態で、
ギロロの胸元に縋り付くように抱きついたまま眠りに落ちたので、体中が凝ってしまっていたのだ。
それはギロロも同じで、
そんな夏美の眠りを妨げぬようにとその身体をちょうど良いと思われる角度のまま支え続けたために、
かなりの負担が両腕と腰にかかっていた。

「ふぁ…。ごめん…」
「気分は、どうだ?」

ちょっと首を傾げながら優しい眼差しで夏美の瞳を覗き込むようにしながら問いかけてくるギロロに、
夏美は柔らかく微笑みながら素直に本音を漏らす。
「うん…、ちょっと、身体、痛いかも…」

夏美の言葉に、その体に無理がかからないように細心の注意を払いながら、
ギロロは、自分の胸元に縋り付いた状態の夏美がソファーから立ち上がるのを上手に補助する。

「ありがと…」
「すこし、ストレッチをしたほうが良かろう」
ギロロがソファーから立ち上がりながら提案すると、夏美は嬉しそうに頷いた。
「うん!」
「では、指を組み合わせて、腕をぐっと上に伸ばしながら背伸びをするように全身を伸ばす…」

夏美は、ギロロの実演付きの丁寧な指導に素直に従う。
大好きな男に体を絡めて寝て、更に起き抜けにその男と一緒にストレッチとは、
いかにもスポーツ万能の夏美らしい素敵な“恋愛初イベント”となった。

10: ◆K8Bggv.zV2
08/06/19 22:52:39 Kua0Xt85
ストレッチを一通り終えたところで、
夏美はギロロの前にサッと回りこむと、彼の腕にそっと掌を当てながら一心に顔を見上げて話しかける。

「ねえ」
「ん?」
「お夕飯、一緒に作ってくれる?」
「もちろん手伝うのはかまわんが、俺は余り料理はしたことが無いし、器用でもないぞ」

「傍にいてくれるだけでいいから…」

顔をポッと赤く染めて俯いてしまった夏美の頭上に、ギロロの優しい声音がフワリと降ってくる。

「ああ。夏美が望むなら…」

「ありがと!」

夏美は一瞬にして太陽のような笑顔になる。
それを見て、ギロロもとても嬉しくなった。

キッチンに移動した二人は、早速、料理の準備に取り掛かる。

「じゃ、これを着けて」
「うん」

ギロロのがっしりとした体躯と戦闘服には冬樹用のエプロンは少し小さめで余りに家庭的だったが、
しかし、そのアンバランスさが夏美にはとても好ましいものに感じられた。

ガスレンジとまな板の前に夏美が立ち、ギロロはシンクでの洗い物と食材の移動を担当する。
ギロロがいつケロン人姿に戻るか予測が付かない以上、
彼に刃物や火や熱湯を扱わせるわけにはいかないのであった。

「タマネギはね、こうして飴色になるまで炒めてから入れると、コクが出るのよ」
「ほう…、そうなのか…」

二人は、ごく自然に体を寄せ合いながらフライパンを覗き込む。

ふっと顔を上げた夏美が、夢見るようなうっとりとした眼差しで、
自分のすぐ隣に立ってフライパンを覗き込んでいるギロロの精悍な顔をそっと見上げた。

「ねえ、ギロロ…」

甘い声で呼びかける夏美に、ギロロは慈しみ深く微笑みながら返事をする。

「ん?どうした」

夏美は、もう、ギロロの表情を確かめるためにそれをチラチラと盗み見る必要は無くなった。
この自分が呼びかければ、大好きな男から素晴らしい笑顔がいつでも返ってくるようになったのだ。

また、体格の地球人化はギロロの意識にも大きな変化をもたらした。
今まではいつも見上げていた夏美を今度は見下ろすようになったことで、
ギロロにとって、夏美は、上位或いは対等な存在から保護の対象へと変化した。
一方、ギロロの顔を見上げるようになった夏美も、
ギロロのことを、自分よりもあらゆる意味で“大きな存在”だと認識するようになっていた。

夏美を“護りたい”ギロロと、
そんなギロロに“護られたい”夏美、という理想的な組み合わせが生まれつつあった。

11: ◆K8Bggv.zV2
08/06/19 22:54:22 Kua0Xt85
「あのさ、この間クルルが言ってた『アニマ』と『アニムス』って言葉の意味、調べた?」

「いや、クルルに訊ねるのは癪だし、
ケロロに調べてもらおうと思っていたのだが、いろいろバタバタしていたので、あいにく未だだ」

「あのね、冬樹から聞いたことがあるんだけど、
『アニマ』っていうのは、男の人にとっての『理想の女性』で、
『アニムス』っていうのは、女の人にとっての『理想の男性』なんだって…」

「ほう…」

「それでね…、今のギロロの姿が…」

「今の俺の姿が…?」

「…あたしの…」

「夏美の…?」

「…『アニムス』なの…」

「ん…?え…!?…なっ!!」

きわめて初歩的な三段論法に気が付いたギロロが、耳の先までを見る見る真っ赤に染め上げて俯く。

夏美は、たおやかな手つきでフライパンの中のタマネギをゆっくりとかき混ぜながら、
そのヘラの先を見詰めたまま、とても優しい声でギロロに語りかける。

「地球人の姿になっても、顔の傷、あるでしょ?」

「ああ…」

地球人化した後も、うっすらとではあるがはっきりと残っている左頬の縫い傷の跡。

超井の頭公園での“初デート”のとき、
飛び切りの美少女-夏美-と美丈夫-地球人ギロロ-という組み合わせは周囲の注目を集めたが、
しかし、そんな無責任なギャラリーのうちの一部は、ギロロの顔の傷に気付いたような素振りだった。
もし、この傷跡が夏美にとって負担になっていたら申し訳ないことだとギロロは思った。

12: ◆K8Bggv.zV2
08/06/19 22:55:16 Kua0Xt85
「あたし、嬉しかった…」

「えっ?」
夏美の意外な言葉に虚を突かれたギロロは、全く無防備な声を上げてしまった。

その声に一拍遅れてゆっくりと顔を上げた夏美は、
ちょっと潤んだ眼差しを、
軽い唸りと共に熱気を吸い上げているレンジフードのフィルターのあたりに彷徨わせながら呟く。

「あたし、ギロロのこと…」

「?」

「傷跡も、何もかも、あたしはギロロの全部が好きなんだってことが分かって、ほんとに嬉しかった…」

「夏美…」

ギロロの胸の奥が、ズキンと甘く痛む。
思わず夏美の肩先を抱こうと手を伸ばしかけたが、
今、夏美がかき混ぜているフライパンの横の大きめの寸胴鍋には熱湯が滾り、
その中ではニンジンとジャガイモが激しいダンスを踊っていたから、
夏美の安全を第一に考えるなら、この場での強い抱擁は諦めざるを得なかった。

「お料理が終わったら、ね」

ギロロの切なげな様子に気付いた夏美が、その顔をそっと見上げながら優しく微笑みかける。

「あ、ああ…」

己の切ない心の内を大好きな女に見透かされてしまった歴戦の勇士は、
顔を真っ赤にしてドギマギしながら所在無く視線を泳がせるしかなかった。

13: ◆K8Bggv.zV2
08/06/19 22:57:07 Kua0Xt85
ピンホーン!ピンポーン!
玄関のチャイムが鳴った。

「ただいまー」

図書館から冬樹が帰ってきた。

「冬樹、お帰り!」
「お帰り。研究は順調か?」
リビングに入ってきた冬樹に、
夏美とギロロはお互いにさっと離れるでも照れるでもなく、寄り添った姿のまま振り返って声をかける。

「ただいま…」
そんな二人の余りの違和感の無さに、冬樹のほうが気恥ずかしくなって少しばかり赤くなってしまった。

帰宅早々見事に当てられてしまったが、しかし、冬樹は二人の様子をとても好ましいものとして歓迎した。
確かにギロロはケロロ小隊の中では一番声高に実力での任務の遂行-地球侵略-を主張する“武闘派”だが、
『任務か夏美か』の二者択一の場面では必ず夏美を選択するということを冬樹は良く知っていた。
その意味では、逆に、パートナーである小雪は夏美にべったりであるものの、
ケロロ小隊から半分独立したような立場で独自の道徳律に従って地球を愛しながらも、
『武力を用いずに行うケロン軍の勢力拡大』を『理想的な侵略』と定義するドロロの方が、
万一の場合には夏美に-そして地球に-とって大変危険な存在となる可能性があった。
そうであれば、冬樹にとってのギロロは、
もし、ケロン人と地球人の利益が真っ向から激しく対立した際に大切な姉を託せる唯一の存在となるはずだ。

冬樹は、この二人の関係を静かに、しかし、しっかりと応援することに決めた。

そうした訳で、いつものように冬樹はその場での一番無難な話題を探す。

キッチンにはタマネギを炒めた香ばしい甘い香りが満ちており、
ガスコンロの上には根菜を煮ている寸胴鍋。そして、食卓の上にはカレールーの箱。

「カレーだね!」
本当にお腹が空いている冬樹は、思わず嬉しい声を上げた。

「そうよ!沢山作るから、いっぱい食べなさい!」
「伍長が手伝ってくれたの?」
「ああ、大したことはしてないが」
「ううん、とっても助かるよ。よかったね、姉ちゃん!」
「な…!こ、こら、冬樹!」

さすがの夏美も、冬樹のこの言葉に頬を染めながら唇を尖らせたが、
ギロロは、姉の傍にこの自分がいることを冬樹が肯定的な目で見ているということを感じ取った。

14: ◆K8Bggv.zV2
08/06/19 22:59:33 Kua0Xt85
「もう!余計なこと言うと、食べさせないわよ!」
「えー、食事を与えないのは“虐待”に該当するよー」

キッチンに明るい笑い声が満ちる。
と、そこへ、今日の“影の主役”が登場した。

「盛り上がってるところへ、水を差してやりにきたぜ~」

クルルが、キッチンのドアをゆっくり押しながら入ってきた。

「あら、今日はカレーにしようかと思ってたんだけど…」
夏美は両手を腰に当ててクルルと向かい合うが、その表情はとても穏やかだ。

「変なことを言ったりしたりすると、シチューに変更しちゃうわよ!」

「あ、ああ、それだけは勘弁してください!」

クルルのコミカルな口調の悲鳴に、また、キッチンが暖かい笑い声に包まれた。

「素直でよろしい。いっぱい作ったから、沢山食べなさい!」

「じゃ、しっかりと出発前の腹ごしらえをさせてもらうぜ」

「え?『出発前』って、どっかへ出かけるの?」
「ああ、地球の南米地域にな」
夏美の問いにクルルはさらりと答えたが、この『クルル』と『南米』の組み合わせに食いついたのは冬樹だ。

「何しにいくの?」

クルルによれば、南米の古代の空中都市の交通手段であった『天の浮舟』の原動力は特殊な電磁波であり、
その発生装置は南米大陸の西側の海底にあって、それは今も不安定ながら機能し続けているものの、
もう寿命が近いこともあって時々暴走状態に陥り、
その結果として発生するのが『エルニーニョ現象』と『ラニーニャ現象』だという。

クルルの瓶底メガネをじっと見詰めながらその言葉に聞き入っている冬樹の瞳は、爛々と輝いている。

ここに、クルルの止めの一撃。

「で、その電磁波の発生装置のエネルギー源やら構造やらを調べに行くんだが…」

15: ◆K8Bggv.zV2
08/06/19 23:01:45 Kua0Xt85
「?」

ここでクルルは、
もうワクワク・ドキドキに耐えられないという表情で自分の顔を凝視している冬樹から目線を外し、
夏美に許可を求めた。

「弟を借りてぇんだが、いいか?」

「えっ!?」
夏美と冬樹は、同時に驚きの声を上げた。

クルルは、数値の計測や分析だけなら自分ひとりで十分なのだが、
南米の『空中都市伝説』の謎に十全に接近するためには、
是非とも、それを良く知る現地人-つまり地球人-の意見を聞く必要がある。
そこで、“現地人”代表としての冬樹の知識が必要なのだという。

「ダメよ!」
その場の誰もが当然のように予想した、その通りの夏美の一言。

だが…

この言葉に一番落胆したのはもちろん冬樹だが、しかし、一番動揺したのは、誰あろう夏美自身だった。
何のことはない。
この夏美の拒絶は、ケロロたちとの永い付き合いで習い性となった、いわば反射的なものであったからだ。

16: ◆K8Bggv.zV2
08/06/19 23:02:29 Kua0Xt85
「えー!」
今度はクルルと冬樹のコンビが、揃って不満の声を上げる。

「(うーん…、頭ごなしに『ダメ』は、ちょっとキツかったかな…。あたしがギロロと仲良くしてるのに、
冬樹には『クルルと遊びに行っちゃダメ』って言うのも、ちょっと気が引けるわ…。
それに、クルルにはこれからもいろいろと世話になるだろうし…。そうよね、ここは一つ…)」

夏美は、威厳を保つためにわざともったいぶった態度でクルルに問う。

「冬樹が危ない目に遭ったりはしないんでしょうね?」

「モチコース!」

「『南米大陸を侵略であります』とか言わないわよね?」

「あくまでも調査だけだ。今回は…」

「『今回は』って何よ!」
と、夏美はまたしてもうっかりとクルルの言葉に反射的に噛み付いてしまった。
だがしかし、ここで夏美はアクロバティックな発想で対話の破綻の危機を乗り切る。

「冬樹!」

「は、はい!」
夏美の本心を知らぬ故に話の行く末に気が気ではない冬樹は、緊張して素っ頓狂な声を上げる。

「もしクルルが妙なまねをしたら、すぐにアタシに知らせるのよ!いいわね!!」

夏美は、冬樹をクルルに対する“お目付け役”に任命した。
もちろん、“お目付け役”たる者、監視対象の行動に逐一目を光らせねばならない。
頭の回転が速い冬樹は、一瞬にしてそれがどういう次第になるのか察した。

「え!?う、うん!了解!!」

そう、冬樹はクルルを監視するために彼と一緒に南米に“行かなければならなくなった”のだった。

こうして八方丸く収まったところでちょうどタマネギの色味も良い頃合いとなり、
夏美はカレーの仕上げに入った。

17: ◆K8Bggv.zV2
08/06/19 23:03:38 Kua0Xt85
「いただきます!」

一同の楽しげな食前の挨拶がダイニングに響く。

一口目を慎重に味わった冬樹は「とっても美味しいよ!」と素直な感嘆の声を上げ、
一方、クルルはただひたすらにパクついている。
夏美は、冬樹の反応に嬉しそうに礼を言いつつクルルに「もっと味わって食べなさいよ」と小言を言い、
ギロロは、そんな食卓の様子を幸せそうに見渡している。

「おかわり!」
「えー!もう食べちゃったの?ちゃんと噛んでる?」
「噛んでますとも!で、おかわり!」
「はいはい」

クルルが差し出す皿を夏美が受け取った、その時…

キッチンのドアが、ゆっくりと開いた。

ピタリと会話が途絶え、一同の視線がドアに集まる。

「…ただいまであります…」

現れたのは、すっかりやつれ果てたケロロだった。

「ボケガエル…、あんた…」

夏美は、思わず驚愕の呟きを漏らしてしまった。

いつもなら小憎らしいほどぷくぷくしている頬はゲッソリとこけ落ちて頬骨が突き出し、
目の下にはくっきりと青黒いクマが出来ている。
肌は、汚れてはいなかったけれど、いつもの艶が全く失せてしまっていた。
そして、食卓に歩み寄る足取りは、相当に重かった。

「軍曹…」
「ケロロ…」

心配そうに呼びかける冬樹とギロロに、
ケロロは力の無い目を向けると、ポツリと一言願い事をする。

「冷たいものを一杯、貰えるでありますか…」

18: ◆K8Bggv.zV2
08/06/19 23:04:32 Kua0Xt85
冬樹がコップに麦茶を注ぎ分け、丁寧にケロロの目の前に差し出した。

「ありがとうであります…」

みんなが心配そうに見詰める中、
ケロロはぎこちない手つきでコップを受け取るとそれを一気にグイッと煽る。

空になったコップを持ったまま暫くの間ケロロはボーっとしていたが、
力の無い目で壁にかかった時計を見上げ、気の抜けた声でギロロとクルルに告げた。

「一時間後に、第六会議室に集合であります…」

ケロロはそのままふらりと回れ右をすると、
夏美がカレーを勧めるのを「帰りの船内で済ませてきたから」と丁寧に断り、地下の基地へと戻っていった。

「軍曹、だいぶ疲れてるみたいだったね。大丈夫かな…」
ケロロのことが心配で堪らない、といった表情で冬樹がギロロを見る。

「ああ…。あの様子だと今までずっと一週間以上も本部で油を絞られたようだな。
ま、それはこちらの事情だが、しかし、アイツには十分休養をとるように勧めてみる」

「うん…」

軍本部からケロロに加えられた叱責なり叱咤なりの原因は地球侵略の遅延が原因に決まっていたから、
いくらケロロの有様が気の毒過ぎるとはいっても、
まさかそれに「うまくいくといいね」とか「応援してあげる」などと励ますわけにも行かなかった。

ケロロの登場によってすっかり重苦しくなってしまった場の雰囲気は、
彼が去った後もそのままそこに居座り続けた。

19: ◆K8Bggv.zV2
08/06/19 23:05:42 Kua0Xt85
一時間後、ギロロたちは地下基地の会議室に集合した。

ケロロは、モアの献身的とも言える補佐を受けながら会議を主催したが、
その目も当てられぬ憔悴振りにタママもドロロも驚愕し、
タママは、桃華に頼んで自分でも滅多に食べられない外国の菓子を沢山送り届けることを、
ドロロは、小雪と一緒に気力体力回復の霊薬を製作して届けることを、それぞれ約束した。

会議そのものは別段内容といえる内容は無く、
度重なる侵略日程の遅延に、軍本部は非常な不快感を持っていること、
とにもかくにも、一刻も早く地球を制圧せよとの厳命、
そして、軍本部としては『ケロン軍による地球の制圧』に関心があるのであって、
それは『ケロロ小隊による地球の制圧』と必ずしも同義ではない
-つまり、交代要員の派遣がありうる-との軍幹部の意向がケロロから伝えられただけであった。

「以上であります。では、解散…」

モアに支えられて会議室から退出するケロロの弱々しい後姿に、小隊全員、かける言葉もなかった。

もちろん、この会議の内容は夏美たちには内密にされたし、
そして、会議の散会後、クルルが密かにケロロの元を訪れたことを、他の小隊員は知らなかった。

20: ◆K8Bggv.zV2
08/06/19 23:06:31 Kua0Xt85
ケロロの部屋。
卓袱台を挟んで小声で話し合うケロロとクルル。

「クルルから予め聞いていなかったら、我輩、今頃、銃殺場の露と消えていたところであります…」

「ああ、無事で何よりだ。で、連中は本気なのか?」

「本気も本気。恐ろしいほどでありました…」

日向家を含めた基地全体に
盗聴・盗撮網(?)を張り巡らせている張本人であるクルルまでもが小声で話さなければならないほど、
事態は深刻であった。

ケロロによれば、
今度の作戦が失敗したその時は、“方面軍司令官の署名入りの命令書が届く”とのこと。
『命令書』とは、もちろん、ケロロ小隊の地球戦域からの撤退命令書のことである。
つまり、今度の作戦がケロロ小隊にとっての文字通りのラストチャンスとなるのだ。

「大丈夫でありましょうか…。
もし夏美殿とギロロにばれたら、我々二人とも、銃殺よりも酷い有様になることは確実であります…」
疲れ切ったケロロが、頼りなげな呟きを漏らした。

「隊長、『毒を食らわば皿までも』って地球の諺、知ってるか?」
クルルが、ケロロを宥めるように真面目な口調で答える。

「一応…」

「OK。俺だって、まだ死にたくはねぇからな。とにかく、俺を信じろよ。
俺が今まで肝心なところでしくじったこと、あったか?」

「それは…」

「じゃ、俺は今から日向弟を連れて、南米地域へ“遊び”にいってくるぜ。
いいか?くれぐれも弱気に流されるんじゃねぇぞ。前進あるのみってヤツだ」
普段の彼からは想像できないようなポジティブなことをいいながら、クルルはドアへと歩いていく。

「了解であります…」

クルルが出て行ったドアが閉まりきるのを確かめると、
ケロロは、いかにも大儀そうに溜息を付きながら絨毯の上に仰向けに大の字に伸びてしまった。

21: ◆K8Bggv.zV2
08/06/19 23:07:29 Kua0Xt85
「おじさま!入ってもいいでしょうか?」

せわしなくドアをノックする音と共に、モアの切羽詰った呼び掛けが聞こえる。

「モア殿、お待たせしたであります…」

ケロロの優しい声での返事が終わらぬうちに、
勢いよく開いたドアから、クルルとの密談の間ケロロの部屋から退出を命じられていたモアが、
自分自身の心配事でもそんな顔はしないだろうというほど心配そうな面持ちで駆け込んできた。

「おじさまッ!」

ゆっくりと上半身を起こしかけているケロロのすぐ横にペタリとヘタリ込むように座り込んだモアは、
ケロロの両肩先をそっと掌で包み込むようにして支え、彼が身を起こすのを補助する。

「お身体、大丈夫ですか?」
「心配かけて、すまんであります…」

切なさを堪え切れないモアの問いかけに、ケロロは力の入りきらない微笑をモアに返した。

「偉い人に叱られたのですか?」

「ん~…」

返答しにくい質問に思わず口篭るケロロの様子に、モアの顔色がさっと失せる。

「ごッ、ごめんなさいッ!お仕事のことに口を出したりして…」

「いいんであります…」

肩先を包んだままのモアの優しい手に、ケロロはそっと自分の掌を被せた。

「あっ…」

モアの頬がいつもの血色を取り戻し、そして、そのまま恥ずかしげな桜色に染まっていく。

22: ◆K8Bggv.zV2
08/06/19 23:08:32 Kua0Xt85
「モア殿は、いつも優しいであります…」

「おじさまッ!」

心配と気恥ずかしさで不安定な煌きを放っていたモアの美しいアンバーの瞳に、
見る見るうちに涙が溜まっていく。

「おじさまが居ない間…、モアは…、寂しくて…、寂しくて…」

「モア殿…」

「やっと帰ってきてくださったら…、とても、お疲れの様子で…。
モアは…、心配で…、心配で…、もう…、もうッ…」

モアは、可愛らしい頬を次々に伝い落ちる涙で濡らし、ヒックヒックとしゃくり上げながら、
細くて長い腕をそっと伸ばして少し軽くなっているケロロをひょいと持ち上げて膝の上に乗せ、
ふっくらと愛らしく膨らむ両胸の谷間にケロロの頭を埋め込むようにして、
その全身をきゅっと抱きしめた。

「おじさま…。こんなに軽くなってしまって…」

ケロロの体重の減少をありありとその手と膝の上に感じたモアが、悲しげに呟く。

23: ◆K8Bggv.zV2
08/06/19 23:09:18 Kua0Xt85
次の瞬間…

「おじさまッ!」

モアは、胸に抱いたケロロの頭をそっとそこから離して優しく腕に抱きなおすと、
力無くモアの顔を見上げるケロロのまん丸の目を、涙に濡れた瞳で軽く睨み付けた。

「はい…、何でしょ…」

「モアに寂しい想いをさせた罰です。このまま、私に抱っこされていてください…!」
普段のモアに似つかわしくない『罰』という言葉と、
この自分の体をとても愛しげに抱く彼女の腕の温もりに、ケロロは抵抗の意志を放棄した。

「了解であります…」

モアは、再びケロロの頭を自分の胸元に愛しげに抱えると、
背中を少し丸めながら、まるで赤子を抱きしめるように、彼を抱く腕にそっと力を込めなおす。

モアの甘い香りと温もりと、胸元のフワフワとした柔らかさ、
そして、その腕に込められた優しい力がもたらすちょうど良い包まれ感がとても心地いい。

なんともいえない安心感に、ケロロの意識がすっと遠のいていく。

「…」

「…、あれ…?おじさま…?」

いつしかケロロは、モアの優しい腕に身体を預けたまま、
プカプカと呑気な鼻提灯を出したり引っ込めたりしながら、安心しきった呆け顔で眠りこけていた。

24:名無しさん@ピンキー
08/06/19 23:12:12 Kua0Xt85
今回は、以上です。

全然エロくなくて、すみません。

25:名無しさん@ピンキー
08/06/20 02:14:44 XzBL8tqR
だんだんとエロい事になるのだと期待している。

26:名無しさん@ピンキー
08/06/20 17:45:55 Fe9MMWtP
俺ギロ夏派なのにモアケロにまで開眼しちまったじゃねーか!


27:名無しさん@ピンキー
08/06/22 07:43:10 cP1MdVdT
小雪×桃華が好きなんだけど何でだろ…絡み皆無なのに

28:名無しさん@ピンキー
08/06/22 12:13:51 b8KGP+GW
>>27
アニメじゃたまに絡んでるような 自分もそのカプ好きだ

29:名無しさん@ピンキー
08/06/22 19:03:28 cP1MdVdT
>>28
同志がいて嬉しい。ありがとうですぅ

30:名無しさん@ピンキー
08/06/23 12:48:43 74/0kH8Z
貧乳カップル愛好者の集合所はここですか?

31:名無しさん@ピンキー
08/06/24 04:53:14 HF6hDuBy
ひんぬーから地球外生命体まで、幅広くお待ちしております

32:名無しさん@ピンキー
08/06/24 20:54:53 Oa1GUM9x
山奥の小屋にモモッチ閉じ込めて二人きり。
外ではドロロが小屋の周りに何かを出して他人に気付かれないようにする。
中では小雪ちゃんが半無理矢理ハァハァ(でも同意)

もしくは雪山の小屋で裸で暖めあう二人。
みたいなの書こうとしてるけど小雪ちゃん口調わからん…

33:名無しさん@ピンキー
08/06/25 14:49:12 pWl6UdCe
そういえばモモッチって小雪ちゃんの事なんて呼んでるの?

34:名無しさん@ピンキー
08/06/25 21:17:42 ewY+za7n
>>33
冬樹と同様、「東谷さん」じゃないの?

35:名無しさん@ピンキー
08/06/30 07:36:09 RL+7+I1h
静かだな…
ちょっとあげよう

36:@
08/07/01 21:06:57 IK3tlue9
冬樹×アリサなんてどうだ?

37:名無しさん@ピンキー
08/07/02 02:26:26 tJLVsGgD
保管庫読んでから、ギロ夏の続きをwktkしながら待ってます

38:名無しさん@ピンキー
08/07/05 23:27:36 7ARl3WFk
作品待ち保守

39:名無しさん@ピンキー
08/07/10 21:58:16 VMRtRH40
保守

40:名無しさん@ピンキー
08/07/13 08:07:32 hF9J9tqR
保守です

41:名無しさん@ピンキー
08/07/15 08:33:01 Pxrlw/lY
なんという過疎
寂しいなあ

42:名無しさん@ピンキー
08/07/17 18:41:15 Cjg6vp63
ギロ夏書きのお方が帰ってくるまで待ってる。というわけで保守。

43:名無しさん@ピンキー
08/07/18 13:46:35 JekNHxdJ
暇なんで替え歌を

恥ずかしい染みのちり紙を捨てたら勿体無いんです♪

44:名無しさん@ピンキー
08/07/21 02:06:59 Vf+UVG8f
一昨日の放送のギロ夏見てこのスレ来ちゃいました

45:名無しさん@ピンキー
08/07/22 16:34:56 c/gpFTHU
ギロ夏待ち保守

46:名無しさん@ピンキー
08/07/23 00:17:57 yawP5Frp


47: ◆K8Bggv.zV2
08/07/23 00:20:27 yawP5Frp
すみません、さげ忘れてしまいました。

大変お待たせいたしました。ギロ夏の続きを投下させていただきます。

48: ◆K8Bggv.zV2
08/07/23 00:21:46 yawP5Frp
>>23の続きです



「冬樹~。出発は8時半だぜぇ」

「うん、わかった!」

「帰りはいつ頃なの?あんまり遅くなっちゃダメよ」

「おいおい、俺たちゃ小学生かよ。行き先は南米だぜ!ま、明日の今頃には帰れるとは思うが…」

リビングでの今日これからの行動予定の打ち合わせが終わった。
夏美は洗い物に取り掛かり、冬樹は持参したい文献を探しに二階の自室へと足取りも軽く上がっていく。
クルルが告げた出発時刻までには、まだ少々の間があった。

「夏美、洗い物なら、俺が…」
皆がそれぞれの場所へと向かったのでリビングのソファーに一人取り残されたギロロが、夏美に声をかける。
ギロロはまだ地球人姿だった。

「すぐ終わるから。そしたら、そっちへ行くわね!」

夏美は、泡だらけの手と皿をシンクから出さないように気をつけながら、
きゅっと首だけ器用に捻ってギロロを振り返ると、軽くウインクする。

「あ、ああ…」

顔を真っ赤にして目線を当て所も無く泳がせるギロロの初々しい様子に、夏美は思わずクスッと笑った。

49: ◆K8Bggv.zV2
08/07/23 00:23:03 yawP5Frp

暫くして、シンクで水が流れる音が止んだ。

「お・ま・た・せ…!」

スリッパを可愛らしくパタパタと鳴らしながら、洗い物を終えた夏美がソファーに近づいてくる。

そんな夏美の可愛らしい顔からギロロは真剣な視線を外すことなく、また、その熱い視線に夏美も応えて、
二人の間に微妙な視線の絡みあいがうまれる。

「ウフフ…」

夏美は柔らかく微笑みながら、ギロロが腰掛けているところからほんの少し離れたところにちょこんと腰掛け、
そして、テーブルの上のテレビのリモコンを取り上げると、少し音量を上げた。
テレビでは人気のあるお笑いバラエティーが放映されていたが、夏美が今、その番組に興味を持っているとは思えない。

画面の音量の表示バーがふっと消えるのを確認すると、夏美はかろうじて聞こえる声でギロロに話しかけた。
そう、夏美が音量を上げたのは、ギロロとの会話を秘匿したいがためだった。

「さっきの…、約束…」

「?」

怪訝そうな視線を返すギロロに、
夏美は、少し視線を下へと落とし、頬の辺りをちょっと薄紅に染めて、言葉を繋ぐ。

「熱いお鍋が火にかかってたから…。火傷したらさ、大変じゃない…」

そう、夕飯の支度の冒頭で、夏美の言葉に感動したギロロは彼女を抱擁しようとしたが、
コンロ上で沸騰している鍋を危険と見てそれを中止し、
それに気付いた夏美は、料理が終了した後での抱擁を約束したのだった。

もちろんギロロも、『熱いお鍋』のフレーズを聴いた瞬間にその次第を思い出した。
ギロロの耳が、その先端までカッと赤くなる。

「え…、あ!ああ…。ふ、不要なリスクは、慎重にこれを避けねばならんからな…。
と、と、特に、そ、それが…、た、た、た、『大切な存在』の安全にかかわるときには、だ…」

照れ隠しのためにわざわざ小難しく遠回しな言葉を選んでいるが、
その割にそれがすんなりと出てこないところはギロロらしいご愛嬌である。

50: ◆K8Bggv.zV2
08/07/23 00:23:50 yawP5Frp
「ありがと…!」

洗い物で頼りなくふやけてひんやりと冷たくなった夏美の指がギロロの造りの良い手の甲にそっと触れる。
そして、それはそこに浮き出ている筋を辿りながら指へと辿り着くと、ゆっくりとギロロの指に絡まり始めた。

「夏美…」

ギロロの切ない呼びかけに、夏美は、言葉ではなく熱く潤み始めた上目遣いで応える。
ソファーの座面の上では、今の二人の視線と心の有様を表すかのように、指同士がきつく絡まりあっている。

「でも…」

夏美の言葉にギロロはふっと顔を上げ、指先の動きを止めた。

「ん?」

「続きは、冬樹たちが出かけたら…、ね…」

動きを止めているギロロの指先を、夏美は『隙あり!』とばかりきゅっと握り締めた。
その“続き”なるものの行き着く先が何処になるのかは明らかではなかったが、
しかし、そうであったが故に、ギロロは首から上を真っ赤に染め上げて俯く他無かった。

「な…!う、う~ん…」
「フフフ…」

そんなギロロの様子がとても好ましく、
夏美はわざと下からギロロの顔を覗き込むようにしながらにっこりと微笑みかける。

51: ◆K8Bggv.zV2
08/07/23 00:24:36 yawP5Frp
ピンポーン!ピンポーン!

「えっ!」
「誰だ?」

こんな時間に、そしてこんな体勢をとる中で突然鳴った玄関チャイムに、
思わず夏美はギロロに縋り付こうと身を寄せ、ギロロは、そんな夏美の肩先に手を添えそうになる。

「ただいまー!」

玄関から聞こえてきた声の主は、この家の主人、秋だった。

「ママだわ!」
「ちょっ、夏美!待て…」

表情をぱっと明るく変えた夏美はソファーから身軽に立ち上がると、
驚き慌てるギロロをよそに、指を絡めたままの彼の手を引っ張って、秋を迎えるために小走りで玄関へと向かう。
恥ずかしいなどと躊躇っている場合ではなかった。
『絶対この人!』という男を見つけて、そしてお互いに気持ちをしっかりと確認しあったからには、
一秒でも早くも秋に報告して二人の仲を認めてもらう必要があった。
そして何より夏美は、大好きで大切な母・秋に対して誠実でいたかったのである。

二人が玄関へと出ると、秋が、この時期のバイク乗りが否応無しに着ざるを得ない長袖ジャケットを脱いだところだった。
汗を含んで素肌に纏わり付く薄手の白いTシャツから立ち上る濃くて生々しい秋の匂いが、玄関に満ちてくる。

「お帰りなさい、ママ!」

「あ、秋…。お…、お帰り…」

ライダーブーツを脱ごうと足元に視線を落としていた秋がギロロの声に気付いてヒョイと顔を上げた。
そして、玄関マットの上に手を繋いで並んでいる夏美と見知らぬ若い男性の姿を発見し、たちまちその目が点になる。

52: ◆K8Bggv.zV2
08/07/23 00:25:47 yawP5Frp

「!?」

さすがの秋も、『息を呑む』との表現どおり、暫く呼吸を失念してしまった。
もっとも、夜、年頃の娘が待つ自宅に帰ったところ、その娘が全く見知らぬ男と手を繋いで自分を出迎える、
という状況に遭遇すれば、普通の母親なら悲鳴を上げていたかもしれなかった。

「あの…、夏美…。そちらは…、どちら様…?」

「ギロロ…」

恐る恐る尋ねる秋に、夏美は頬をポッと紅に染めてもじもじと恥ずかしがりながらも、
それでもギロロと絡めた指を解かずにはっきりと言ってのけた。

「ギロちゃん…、なの?」

秋は、目をまん丸に見開いてギロロの顔を覗き込む。
なるほど、美男といっていい整った顔の左側にはギロロの特徴である縫い傷がある。

「ああ。驚かせて、すまん。確かに自分はギロロ伍長だ」

少し落ち着きを取り戻し興味津々といった表情で顔を覗き込んでくる秋の視線をこそばゆく感じながら、
ギロロもきちんと返答した。

「ママの探し物を手伝ってくれたの、このギロロなの…」

地球人の、それもこれだけの偉丈夫ならば、日向魔窟のダンボールの小山も物の数ではないだろう。

「ふ~ん…、なるほどね…」

秋はまだ完全に驚愕から解放されてはいなかったものの、夏美とギロロの間に存在する只ならぬ雰囲気に、
彼女は我知らずニヤリとしてしまうのだった。

「ママ、お帰り!」

この時、夏美とギロロにとって心強い援軍が到着した。
クルルに同行するための支度を整え、リュックを担いだ冬樹が二階から降りてきたのだ。
冬樹は、玄関の人間模様が微妙な状態に陥っていることを素早く見てとると、
いかにも嬉しそうに小走りにギロロに近づき、
とても親しげに彼の腕に自分の腕を軽く絡めながら満面の笑みで秋に話しかける。

「凄いでしょ?この人、伍長なんだよ!軍曹が変身させたんだ!!」

これらの様子を見て、聡明な秋は大まかながらも事態の概要と本質を悟った。

53: ◆K8Bggv.zV2
08/07/23 00:26:30 yawP5Frp
「事情は大体分かったわ。お風呂に入ってご飯を頂いたら、ゆっくりお話しを聞くわね」

ライダーブーツを脱いだ秋は、ニヤニヤ、いや、ニコニコと夏美たちに微笑みながら廊下に上がる。
と、この時、秋は冬樹の肩にリュックがかかっているのを発見した。

「あら、冬樹はお出かけなの?夜の外出は余り感心しないわね~」

「え…、あ!こ、これは…」

秋の言葉に、冬樹は思い切り慌ててしまった。
「今からクルルと二人で南米に行く」などといえば、
「宇宙人と子供だけで南米に行かせられない」とかなんとかストップがかかる可能性があったからである。

その時、廊下の床面が小さく開き、そこからウィーンという微かな唸りと共にクルルがせり上がってきた。

「あら、クルちゃん!」
「冬樹にオカルトの知識を借りたくてな。今から俺ん所に来てもらうんだ。
そんで、その代わりに俺が冬樹の宿題の面倒を見るってわけだ。Give and Take!」

宿題のことは初耳だったものの、
クルルの、出かけるとも出かけないとも言わない上手い説明に、冬樹も一生懸命に「うん、うん」と頷いてみせる。

「冬樹、クルちゃんに宿題全部やってもらっちゃダメよ」
「あははは…」
「ま、持ちつ持たれつってことで。クックックッ…」

「じゃ、お風呂をいただくとしますか!」

秋はニッコリと皆に微笑みかけ、
それを合図に、夏美とギロロはカレー鍋を温め直すためにキッチンへ、冬樹はクルルについて地下基地へと向かった。

54: ◆K8Bggv.zV2
08/07/23 00:27:53 yawP5Frp
「ふぅ~、やっぱり、生き返るわね~」

湯気に霞む洗い場の中。

一糸纏わぬ秋が、その豊満な肉体をひっきりなしに降り注ぐ熱いシャワーの湯粒に晒していた。

「ギロちゃんが、人間の姿にねぇ…」

湯の滴る白くたっぷりとした乳房を、秋自身の掌がゆっくりと撫で上げる。
それは掌からの圧迫を素直に受け入れ、ふよふよとその形を変えていく。

「ケロちゃんの星の技術って、凄いのね」

掌を離すと、湯によって桜色に染まりつつある熟れ切った乳房は、ぷるるんっ!と元の形に戻った。

「それにしても、ギロちゃん、なかなか格好良かったわね…」

乳房を解放した掌は、鳩尾、わき腹、臍の周辺を撫で回すと、
湯の流れに従って下へと流れる黒々と茂った恥毛へと辿り着いた。

「ふぅ…」

湯のせいでほんのりと薄紅に染まった白い指が、豊かな茂みをそっと掻き分けるように湯で濯ぐ。

この時期、ライダーは股座に大量にかく汗に悩まされる。
特に女性の場合には、穿いているGパンなどに失禁のそれに似た大きな滲みを作るほどにもなる。
だから、清潔を心掛けるとすれば、嫌でもこの箇所を洗わないわけには行かないのだ。

秋は、少し腰を落として股をちょっとだけ開いた。
恥毛に隠された秘裂に導かれるようにして、あっという間に湯が秘所に回りこんでくる。

55: ◆K8Bggv.zV2
08/07/23 00:28:40 yawP5Frp
「…」

湯の滴る秘花に細い指先がそっと近づき、そして、黒い巻き毛が密生する大きな花びらに触れた。

「んッ…」

秋は壁の保持具からシャワーヘッドを外すとそれを秘裂に近づけ、
そして、ヘッドを上向きに返してそこから噴出する湯粒を直に秘所へと吹き付ける。

「…ふっ」

こうしているあいだにも、秋の指先は大きな花びらの上をゆるゆると這い回っていたが、
その動きは、恥毛に染み込んだ汗を濯ぐのが目的なのか、
それとも、花びらに性的な刺激を与えようとしているのか、定かではなくなっていた。

「夏美と…、あ…ッ、ギロちゃん…か…。んッ…」

やがて、大きな花びらを弄っていた指先はそこから離れて花びらと花びらの間を満遍なく濯いだ後、
小さくて薄い花びらへと辿り着く。

指先が、小さくひらひらと頼りないそれをそっと優しく摘むように摩りながら、表面のベタつく汗を濯いでいく。
だが、汗のベタつきがすっかり洗い流されてしまってからも、指先はその動きを緩めなかった。

「はァ…」

汗を流したばかりの秋の艶やかな白い肌は次第に紅に染まり、
シャワーが直接当たっていない背中には再び汗の玉がキラキラと浮かび始めた。

「こんなことするの、ほんと、久しぶり…」

艶っぽい秋の呟きが、シャワーの音に溶けていく。

無毛の小さな花びらを弄り終えた指先は、今度は、秋の女の中心へと辿り着いた。

赤く熟れた膣口は、既に汗とは全く違うヌメリを緩やかに滴らせていた。

「んん…ッ」

指先が、一瞬の躊躇の後、その熱くヌメる秘穴にヌプッと差し込まれる。

「くッ!」

56: ◆K8Bggv.zV2
08/07/23 00:30:14 yawP5Frp
秋の指先が、ヌルヌルと絡みつく愛液を上手く使って、
久しぶりの異物の侵入に少し緊張気味の膣口をクニクニと揉み解していく。

「ああ…」

膣内にそろそろと侵入した指先が、膣壁をさわさわと撫でるように弄り始める。

「んァ…ッ!」

気がつけば、
赤く膨れて包皮から頭を出し始めた大き目のクリトリスに、シャワーの湯粒がバラバラと容赦なく当たっていた。

「こっちも…ッ」

女の部分の前端の、左右の小さな花びらが出会う場所にあるその淫芽を、
秋はクイッと曲げた指の関節を使ってグリグリと押しつぶすように刺激し始める。

「ひ…、あ…ッ!」

ほんの小さな淫芽からの甘い刺激が下腹部全体に染み渡り、自然に腰が艶めかしく蠢きだす。

57: ◆K8Bggv.zV2
08/07/23 00:31:04 yawP5Frp
「あッ、ああッ…」

堪らなくなった秋は、シャワーヘッドを壁の保持具に掛けると、
両手の指を動員して、ブックリと膨れている淫芽を包皮の拘束から解放しにかかる。

淫芽が僅かに顔を覗かせているその周りの皮膚を、体内へと押し込むようにグイッと両脇へと引っ張る。

狭い穴から、ぷるんッ!と極小サイズの男の亀頭のような赤く腫れたクリトリスが顔を出した。

「んんッ…!」

少しの間をおいて、生臭い恥垢の匂いが秋の鼻をくすぐる。

下腹から続く湯の流れを利用して、完全に突出した淫芽を指でそっと摩って恥垢を洗い流す。
だが、そっとやっているつもりでも既に火が点いている女の中心はとても敏感になっており、
ささいな指の動きにも、腰が逐一カクカクと反応する。

「あんッ…」

綺麗に洗いあがった濃いピンク色の淫芽を軽く押し潰すようにぷにぷにと揉むと、
そこからの刺激がまず背骨を突き刺し、それはそのまま突き進んで脳天を直撃した。

「ああッ…、あああ…ッ!」

喉の奥から漏れる声を抑えられない。
それに比例するように淫芽を弄る指先の動きが、だんだんとせわしなさを増してくる。

「も…、もう…、ダメぇ…ッ!!」

全身を美しい桜色に上気させている秋の魅力的な肢体が、湯粒と湯気の中でぐうっと大きく仰け反る。

「ひあああッ!!」

きゅっと締まったウエストがぐいぐいと艶めかしく打ち振られたかと思うと、
次の瞬間、そこは激しくガクガクと痙攣し、秋は久しぶりの激しい絶頂にその身を委ねた。

58:名無しさん@ピンキー
08/07/23 00:35:49 yawP5Frp
今回は以上です。

ギロ夏なのに秋ママ独りHですみません。

次回はギロ夏イチャイチャ展開突入を予定していますが、
投下時期は、今回同様少々お時間を頂く事になってしまうかもしれません。
真に勝手ながら、ご了承下さいませ。

59:名無しさん@ピンキー
08/07/23 01:46:19 MTWaEv6o


60:名無しさん@ピンキー
08/07/23 07:33:43 juzavGPc
なんですかこのエロカオスワールド(別名:桃源郷)は
永住しますね

61:名無しさん@ピンキー
08/07/23 18:09:45 t5dxan7R
冬桃できますか?

62:名無しさん@ピンキー
08/07/24 02:16:22 eVifv55x
>>58
GJ!

63:名無しさん@ピンキー
08/07/26 02:02:10 U8zcevWY
保守

64:名無しさん@ピンキー
08/07/26 12:42:17 om1YdNGO
>>61
同じく冬桃見たい。

65:名無しさん@ピンキー
08/07/28 02:32:51 3c7BfclY
保守

66:名無しさん@ピンキー
08/07/31 00:41:48 huCY9L6I
保守

67:名無しさん@ピンキー
08/07/31 21:26:47 /hO+jyWH
前みたいな「沈黙の面接」とかそう言う
名作また見たいな~
カンタンに言えばケロプルorガルプルでやってほしい

68:bbbb
08/08/04 22:51:18 /BxmnUc4
URLリンク(blog.shard.jp) こぴぺで

69:名無しさん@ピンキー
08/08/05 00:11:06 IuyRIJ1i



70:名無しさん@ピンキー
08/08/05 01:10:13 b5tdi8zs



71:名無しさん@ピンキー
08/08/07 01:57:11 zSFK3/YJ
保守

72:V3
08/08/07 21:29:51 vnKteFze
URLリンク(www.758deli.com)
URLリンク(www.758sm.com)
URLリンク(nagoyadelie.blog112.fc2.com)

73:名無しさん@ピンキー
08/08/11 07:27:38 AxKi6d2c
保守

74:名無しさん@ピンキー
08/08/12 01:00:36 AsPQfX88
556のオナニー

75:名無しさん@ピンキー
08/08/13 00:47:13 BFi/6OMa
>>74
激しいんだろうな…

76:名無しさん@ピンキー
08/08/13 17:00:09 zw+nGRRt
いちいち大声出して状況説明して周囲にバレバレなんだろうな

77:名無しさん@ピンキー
08/08/13 18:32:21 8cVUjXKd
そして近隣の人達に謝りまくるラビー…

78:名無しさん@ピンキー
08/08/13 19:16:51 4gGnXk3F
>>77
「スミマセン、スミマセン、兄がマスばかりカイてスミマセン... 」
と連呼して謝りまくるワケか。
まるで羞恥プレイだなw

79:名無しさん@ピンキー
08/08/13 20:49:27 Lq8/jKwq
>>78
556のって考えたくもねぇよw
556が女性キャラ犯しまくるエロ同人はあるけども・・・

80:名無しさん@ピンキー
08/08/13 22:22:35 NI24CHL6
じゃあ556×カラーボックスで

81:名無しさん@ピンキー
08/08/14 03:03:38 1xjy1E7K
ラビー!カラーボックスの新しい使い方を発見したぞ!!

82:名無しさん@ピンキー
08/08/14 07:39:50 1hO15Tc5
よかったね、お兄ちゃん・・・

83:名無しさん@ピンキー
08/08/14 14:13:08 guUjHuLU
>>81
ちょwww
こないだうちの方でラビーが結婚する話やって、
その時カラーボックスに空いてた穴から556がその様子を見てたんだけど、

まさか…その穴で…。

84: ◆K8Bggv.zV2
08/08/16 01:53:31 LHT+gEta
おそらく、“H描写無し”の投下というのは、
このスレ始まって以来、今回が最初で最後だろうと思います。
今後の下地作り(伏線)とお考え下さり、温かく見守ってやってください。
この冬桃では、冬樹君と裏桃華をイチャイチャさせていきたいと思います。

85: ◆K8Bggv.zV2
08/08/16 01:54:47 LHT+gEta
>>57の続きです。


>>61にリクを頂きましたので、構想の中にありました冬桃を先行制作・投下させていただきます。
このエピソードの時制はギロ夏イチャイチャの後となります。



郊外の高速道路をのんびりとした速度で流す桃華専用のパールホワイトのリムジンの中。

運転席からパーティションガラスで仕切られた豪華な車室には、桃華とポールとクルルの姿があった。

「で、クルルさん。私にとって、“とても重要なお話”とはなんでしょうか?」

桃華が座っている高級な布張りの座席のその横の、頑丈だが簡素な造りの補助席には、
にこやかにしてはいるものの決して警戒を解かない表情のポールが控えている。

「俺はお嬢さんに『二人きりでお目にかかりたい』って申し上げたはずなんだが…」

クルルは少々の非難が混るジットリとした視線を桃華へと投げるが、
それを受け止めた桃華は、ちょっと小首を傾げながら表面だけの微笑をクルルへ返す。
ポールの同席を許せということらしい。
クルルは、首と両肩を少し竦めた。

「まあいい。で、こういうのに興味はあるかい?」

クルルは何処から取り出したのか一枚のCD-ROMを中指と人差し指に挟んでそれを桃華に示したが、
その表面には、桃華の位置からもはっきりと分かるくらいの大きな字で『極秘・冬樹』と書き込まれていた。

それまで曖昧な微笑みを浮かべていた桃華の眼差しが、一瞬にしてその文字に熱く収斂する。
ポールとクルルは同時にそれに気が付いたが、しかし、どちらもポーカーフェイスに徹した。

「それは?」

ポールが発言の予兆として僅かに上半身を乗り出したが、それを制するかのように桃華が急いで質問を返す。
そのCD-ROMが冬樹に関係あるものであるということ、
或いは少なくともクルルが桃華にそういう風に思わせたがっているということは明白であった。
しかし、こういう心理戦の場合、相手の思惑に乗せられたらもうその時点で負けであり、
桃華としては、クルルの目的や真意が不明である今の段階でCD-ROMへの興味をあからさまにすることによって
クルル主導の会話に引き込まれるという状態だけは避けたかった。
そして、それを避けるには、まず相手に存分にしゃべらせてからその中にある矛盾点を追及するのが最上であった。
だが、そんなことは先刻お見通しのクルルは、その質問を逆用して桃華の興味を煽り立てにかかる。
クルルは、桃華の美しいアメジストの瞳にジトッとした視線を据えながら、ゆっくりと話し始めた。

86: ◆K8Bggv.zV2
08/08/16 01:55:44 LHT+gEta
「このROMには、最新かつ詳細な日向冬樹のデータが入ってる」

「はい」

「アンタんとこに、『スーパーバーチャルシミュレーター』って奴があるだろ?」

「はい」

「このROMをそれにセットしてシミュを展開すりゃ、万事上手くいくって寸法なんだが…」

CD-ROMを摘んだクルルの手が、グイッと桃華の方へと突き出される。
桃華の細くて美しい指先が、それを受け取ろうとすっと伸びたその時…

「ご厚意は真に有り難いのですが、
西澤家も、そしてNPGも諜報部門を擁しておりましてな、独自に調査した情報を少々ながら持っておるのです」

桃華の親代わりを自負するポールの言葉が、CD-ROMの受け渡しを遮った。
ケロロ小隊は、桃華のイギリス留学話に絡んでの梅雄と彼が率いる特殊部隊の地下基地への侵入を体験しており、
その際、小隊は実質的に敗北を喫していたから、
クルルは西澤家の特殊活動部門の存在とその能力の高さを十分に知っていた。
そしてなにより、その時、ポールも共闘者としてその場にいたのである。
つまりこれは、クルルに対しての最大限の牽制なのであった。

「ですが、どうしても受け取れ、とおっしゃるなら致し方ございません。これは、このポールめがお預かりを…」

クルルが差し出すCD-ROMを無遠慮に鷲掴みにしようと伸ばされたポールの白手袋の指先を、
クルルは、CD-ROMを差し出しているその手をスッと引っ込めることで巧みに避ける。

「む!」
「まあ、待ちなって」

クルルが持ちかけた桃華への一方的な便宜供与に明らかな不安と不審を感じたポールは、
いささか強引かつ一方的に会見の幕引きを図ろうとしたが、それは敢え無く失敗した。

「『短気は損気』って言うだろ?」
「ほう…、この私めが“短気”だとおっしゃいますか?」

双方共に相当の抑制を効かせてはいるが、
その言葉や態度の端々には相手をして自らの意志に従わせようという強い意志が強く滲んでいた。
桃華としては、この二人を真っ向から対立させてはならないということは分かっているのだが、
しかし、ポールの行動はこの自分の身を案じてくれるが故であり、
だからといってクルルの目的や真意が読みきれない状況でその機嫌を損じれば、
さっきまでとは一転して、冬樹に関する最新で詳細なデータの提供を拒否されるかも知れない、
というジレンマの只中にあった。
また、この場でクルルからCD-ROMを無理やり奪っても無意味だろう。
結果が読めない交渉の場に『切り札』のすべてを持参するお人好しは居ないだろうし、
何より、それはただの一個の情報記録媒体であっていくらでも複製が可能なのであり、
本当に重視すべきは、
ケロロたちの基地のメインコンピュータの中にある元の、或いはもっと詳細なデータなのであった。
そうであるが故に、尚更、クルルと事を構えるのは得策とは言い難かった。

87: ◆K8Bggv.zV2
08/08/16 01:56:39 LHT+gEta
「クルルさん。お話は大変有り難いのですが、
私たちは、どうしてクルルさんが突然そういうご提案をなさったのか、そのお気持ちを量りかねているのです」

今回を逃せばもう二度と訪れないであろうチャンスをものにするために、桃華は直球で勝負を挑んだ。
直截に問題の核心を突けば、隠し事があるほうの分が悪くなるからだ。

「あんたの親父さんと、差しで話をしてえんだが…」

クルルの言葉が終わらぬうちに、『そらみたことか』と言わぬばかりの勢いでポールが話しに割って入る。

「お嬢様。この話、お断りになられるのがよろしいかと存じます!」

再三のポールの介入に、不愉快さを顕にしながらクルルが声を荒げる。
「話しは最後まで聞きな!ケッ、全く…、年甲斐のねえ爺さんだぜ…」
「何と!少々無礼が過ぎませんかな?クルル殿…」
「無礼、か…」

クルルは、摘んでいたCD-ROMを座席の上に無造作に放り出すと、これまた何処から取り出したのか、
時刻と簡単なコメントがびっしりと印刷されたB5版程度の紙切れを、今度はポールに向けてゆっくりと差し出した。

「これ、何だろうな~」

桃華の視線と関心は先ずはもちろん放り出されたそのCD-ROMに注がれたが、
その様子を看取したポールは、「動いてはなりません」という意味の視線を素早く桃華に送る。
それに納得した桃華は、
この緊迫した状況下で新たにクルルが提示した紙切れに興味を移し、それをそっと横から覗き込む。

「…!ポ…、ポールッ…!」

紙切れを一瞥した桃華は小さく悲鳴を上げ、その顔色からは見る見るうちに血の気が失せていく。
その様子に驚き、急いで紙切れに視線を落としたポールも、かなりの衝撃を受けた様子だ。

「はて…、それは何ですかな…?」

懸命に動揺を堪えつつしらばくれるポールに、クルルは容赦なく畳み掛ける。

「おいおい、『何ですかな?』はないだろ?ほれ、よく見てみなよ。そしたら思い出せるかもだぜぇ…」

それは紛れも無い、桃華の親衛隊が製作した冬樹をはじめとする日向家全員の行動記録であった。
そこには、起床から就寝までの全行動が分単位で詳細に記録されているだけでなく、
食事の内容やそれを食べる順番、学校での友人との会話の内容、
そして、あろうことか冬樹が自室のPCからアクセスしたサイトとその時間までもが記載されていた。

88: ◆K8Bggv.zV2
08/08/16 01:57:36 LHT+gEta
「それは文章だけのバージョンだが、写真入のレポートも作られてる。そうだな?ポールさんよ…」

「う…」

「それ、全部アンタがやらせてるんだよな?」

「ううむ…」

「まさか、アンタの隣にいるお嬢様の御指示でこんな趣味の悪い“覗き”をしてるんじゃあないよなぁ?」

「…」

勿論、厳密に言えば桃華の直接の指示ではなかったが、しかし、桃華はこの活動に暗黙の了解を与えると共に、
その成果を積極的に利用して何ら憚るところがなかった。
だが、ポールとしてはそうした事情を説明することなど絶対に出来なかった。
もっとも、これらの情報は絶対的に信頼できる少数の諜報部員たちの手で完全に数値化された後、
西澤家のメインコンピュータに入力されてデータベース化された後に利用されるので、
収集した情報が漏洩して冬樹たちの名誉を傷付けるようなことになる心配は無かったが、
しかしそれでも、床下や天井に潜み、
高感度の集音マイクなどの情報収集用の特殊機器を使って長期かつ計画的に行われているこの隠密の活動は、
明らかに非合法であると同時に、それを行っているものの品性を疑わせるに十分なものであった。
それらの活動が桃華の暗黙の了解無しには決して行われるものではないということをクルルは百も承知していたが、
しかしそれでも、いや、そうであればこそクルルはポールをネチネチと追い詰めた。
ポールがその紙切れの内容に関して合理的な説明を行えないとすれば、
ポールに対するクルルの優位は計り知れないものとなる。
また、桃華が自分の黙認下でそれが行われたことを白状した場合、クルルの優位は更に揺ぎ無いものとなるだろう。

「俺が無礼者だってんなら、アンタは“ストーカー”だ。
無礼者は嫌われるだけで逮捕なんぞされやしねぇが、ストーカーは立派な犯罪だぜぇ。
このことを日向家の連中が知ったら、どう思うかねぇ。クックックッ…」

それだけは絶対に避けなければならない。
この場合、「マスコミにバラす」などと言われても地球の経済の半分を牛耳る西澤家の者にとっては痛くも痒くもなかった。
そんな“つまらない”記事を掲載・配信したものは、黙って干し上げるだけだ。
だが、我が家の中のみならず、
学校や勤め先での一挙手一投足までを大規模かつ継続的に盗み見ていた者を簡単に赦免する者がいるなどとは、
さすがの桃華にもポールにも容易に想像できなかった。

「しかし、その資料が当家の製作にかかるものであるという証拠は…」

必死に平静を装ってのポールの反撃-悪足掻き-に、クルルは溜め息混じりに「やれやれ」と呟くと、
またも何処からか数枚の写真を取り出し、それをポールの膝の上にバラっと撒くように投げ出した。

そこには、透明フード付きのヘルメットに防弾・防刃仕様の隊員服を着こんだ桃華の親衛隊員である吉岡平が、
くもの巣が張る狭苦しい縁の下や埃だらけの天井裏で悪戦苦闘しながら通信機材を扱う様子が、
その表情がはっきり分かるくらい鮮明に写っていた。

「(もはや、これまで…)」

追い詰められたポールは、
なるべくクルルの注意を引かぬよう注意しながら、さりげなく車内のバーカウンターににじり寄った。

89: ◆K8Bggv.zV2
08/08/16 01:58:36 LHT+gEta
「いやはや、そこまでご存知だとは…。よろしゅうございます。
では、冷たいものでも飲みながら、詳しいお話を承ることと致しましょう」

神妙な言葉と共に、
ポールは高級材でカバーされた小型冷蔵庫の扉を静かに開けると、その中へと手を伸ばす。
その様子を、顔色を失ったままの桃華が思い詰めたような眼差しで眺めている。

冷蔵庫の中には、ソフトドリンクとそれを注ぐグラスが数個ずつ入っていたが、
それらが並べられている棚の更に奥には、緊急信号の発信ボタンが巧妙に隠されて取り付けられていた。
一度このボタンを押せば、
西澤家精鋭部隊の戦闘員を満載して付かず離れずの距離で随伴している黒塗りの大型ワンボックスカーが、
ものの数秒でこのリムジンのすぐ後ろにピタリと付くという算段になっていた。

慎重に伸ばされたポールの白手袋の指先が、もう少しでボタンに届くというその瞬間。

「高速に乗ってからずっと、この車の4、5台後ろを追尾してる黒くてデカいワゴン。
あん中には、この前、俺たちの基地に侵入した黒ずくめの鍵爪連中が山ほど乗ってるんだよな?」

土壇場でのクルルの直截な問いに、さすがのポールもついに開き直った。

「そうです!得体の知れぬ宇宙人からの不審な提案を、そのまま信じられるはずなどありませんからな!!」
「で、俺が妙なマネをしたら、あいつらに俺を始末させるってわけか…」
「クルル殿から桃華様にコンタクトが会った直後、
旦那様にお願いして本部の精鋭部隊から選り抜きを一個分隊ほど派遣していただいたのです。
いかなる手段を使おうともお守りすべきは、お嬢様お一人…」
「なら、そのスイッチは押さないほうがいいぜ」
「何をいまさら。侵略を事とする宇宙人でも、やはり死は恐ろしいのですかな?」

自らの逆転勝利を確信しクルルの向こうを張って皮肉っぽく口元を歪めてほくそえむポールに、
それ以上にヘラヘラとしたせせら笑いを浮かべたクルルが、大逆転の一撃を放った。

「いいか、爺さん。いま、俺たちの基地の自爆装置は、待機状態になってる。
で、俺の身体に埋め込まれてるセンサーは一定の信号を常時発信しているが、
一、死亡に伴う生体パルスの消失、二、身体への一定以上の物理的衝撃を原因とする神経パルスの異常、
三、極度の心理的動揺を原因とする血中のホルモン濃度の急激な変動、
のうちの一つ以上を感知すると信号の発信を停止する。
すると、それを感知した自爆装置がすぐさま起動するって寸法さ。
もちろん、意図的な妨害によって信号が受信できなくなった場合でも同様だ」

クルルは、まるで他人事のような調子でそう言うと、
『これがその信号の発信用のアンテナだ』といわぬばかりの手つきで
片方のヘッドホンを操作してアンテナをピンと一本突き出すと、
それを弄りながらクーックックックッと心の底から愉快そうに笑った。

90: ◆K8Bggv.zV2
08/08/16 01:59:25 LHT+gEta
「爆発の威力は、地球人に分かりやすくいうなら、戦闘機で運搬・投下が可能な核兵器クラスってところだ。
基地は地下にあるから、当然、爆風は上の方へ抜けることになる。そして、俺たちの基地は、日向家の真下。
確か、冬樹は今頃、オカルト仲間とチャットで大盛り上がりのはずだったな…」

クルルの言わずもがなの説明に、桃華の顔色が蝋のようになる。

「おのれ…」

チリリリリン、チリリリリン、チリリリリン…

逆転勝利にニヤけるクルルを狩るものの目で睨み付け、握り締めた拳を憤怒で小刻みに震わせるポールの横で、
車室備え付けの優雅な形の自動車電話のベルが涼やかに鳴った。

「旦那様…!」

通常、この車にかかってきた電話は、まず助手席のSPが受け、それから車室の電話機へと転送する。
その手順を踏まずにいきなり車室の電話が鳴ったということは、
電話の主は、直通回線の番号を知っている者、すなわち梅雄以外では有り得なかった。
ポールは握り拳を解いて、受話器を取り上げ、耳に当てた。

「もしもし…」
『ポール、なかなか難儀をしているようだな』
「旦那様…」

もちろん梅雄は、今までの車内の会話をすべてモニターしていた。
ポールから精鋭部隊派遣の要請があった以上、これは当然の措置だった。

「いや…、その…」
『そこにいるクルルというのは確か黄色い固体だったな。電話を替わってくれ』
「しかし…」
『大丈夫だよ。久しぶりに面白い交渉が出来そうだ』
「はあ…」

梅雄からの直接の指示を受け、ポールは全く無表情な一使用人の顔に戻って丁寧にクルルへと受話器を差し出す。
クルルもそれを丁寧に受け取ると、ヘッドホン越しに耳に押し当てる。

「もしもし、そちらはNPG総裁、西澤梅雄様でしょうか」
『ああ、そうだ』
「自己紹介させていただいてもよろしいでしょうか?」
『うむ』
「自分は、ガマ星雲第58番惑星宇宙侵攻軍特殊先行工作部隊作戦通信参謀クルル曹長であります。
直接お話しするのは、今回が初めてかと…」
『そうだな。で、私との一対一の直接交渉が望みだとか』
「はい。是非とも…」
『了解した。で、こちらからもいくつかお願いがあるのだが、聞き入れてもらえるかな?』
「はい」
『では、先ず一つ。自爆装置のリンクをなるべく早期に解除してもらいたい。
二つ。ポールたちの行った日向家に対する情報収集活動については、日向家の方々に内密に願いたい』
「了解いたしました」
『有り難う。では、我々が“差し”で話が出来るような環境を整えねばならんな。
秘密回線などの用意があれば、この場で差し支えない程度にそれを承ろうか』

世界の半分を統べる男と宇宙からの侵略者の交渉は、順調に始動した。

91: ◆K8Bggv.zV2
08/08/16 02:00:48 LHT+gEta
西澤家。シミュレーター室。

広大な部屋の真ん中に設置された巨大なシミュレーターの前に佇む桃華とポール。

クルルから提供を受けたデータが入力されたスーパーバーチャルシミュレーターは、
今まさに計算の結果を弾き出そうとしていた。

「桃華様、私は未だにクルル殿の真意が…」

これが最後、とポールは桃華に疑念を伝えるが、桃華はそれににっこり微笑んで答えた。

「お父様が大丈夫とおっしゃったのだからきっと大丈夫です」

あの時、リムジンの中で行われたのはクルルと梅雄が直接交渉するための下準備に関する打ち合わせであり、
後に行われた両者の交渉の内容は桃華にもポールにも知らされなかった。
しかし梅雄は、クルルからもたらされる情報について『有効に使わせてもらったらどうか』と言ったし、
桃華としても、その情報の安全性と有効性にある種の確信を持っていた。
なぜといって、梅雄に紹介してもらう見返りに提供した冬樹のデータが役に立たなかったとなれば、
クルルは、桃華だけでなく梅雄の機嫌をも大いに損じる危険に直面するからだ。
それに、その気になればケロロたちは梅雄と直接コンタクトを取ることが可能なのであり、
それを考えれば、わざわざ桃華を間に入れたということには何か重大な意味が隠されているに違いないからだった。
そして、桃華にとってはこれが一番重要なことだったのだが、
クルルからの情報を有効に活用せよと言うことによって、梅雄は、桃華が冬樹に接近することに許しを与えたのだった。


シミュレーターが計算の終了をブザーで知らせた。

「では、行ってきますね」

桃華は、心配げなポールの視線を背中に感じつつ、シミュレーターの中へと消えていった。

92: ◆K8Bggv.zV2
08/08/16 02:01:35 LHT+gEta
数十分後。
突然、シミュレータールーム内に警報音が響いた。

「何事だ!」

クルルが提供した情報に未だに信を置いていないポールが、苛ついた声を上げる。
すかさず、隣接する制御室の技師からスピーカーを通じて説明がなされる。

『桃華様ご自身により、シミュレーションのリセットおよびリスタートが行われました』

「うむむ…」

心中に盤踞するクルルへの苦々しさをそのまま表情に出しつつ、ポールは唸りとも溜息ともつかぬ声を漏らした。

『シミュレーター、リスタート!』

スピーカーからの技師の声と同時に冷却ファンの音を高鳴らせはじめたシミュレーターを横目で見ながら、
ポールは、厳しい声で指示を出す。

「桃華様の心身に過度の負担がかかっていると判断される場合には、シミュレートを強制終了するのだ。よいな!!」
『はい』

もちろん技師はすぐさま返事をしたが、
しかし、その後も数十分おきに数回に亘って桃華自身の手によるリセットとリスタートが繰り返され、
そして、制御室からの強制終了信号も、桃華自身の操作によって悉く退けられた。

93: ◆K8Bggv.zV2
08/08/16 02:02:36 LHT+gEta
もう、とうに夕食の時間は過ぎていた。

シミュレーションルーム内には、メイド隊によって桃華の食事用のダイニングテーブルが設えられ、
ポールにもサンドウィッチなどの軽食が供されたが、もちろん彼はそれに手をつけなかった。
ポールは、早い時期から技師たちに命じてシミュレーター内の桃華の心身の状態をモニターさせており、
その結果によれば、桃華は大変に疲労してはいるもののその心身に病理学上の異常は生じていないという。

「桃華お嬢様…」

その内部での、
桃華の死闘とも呼べる程の労苦を全く知らぬ気なシミュレーターの静かな佇まいを見上げるポールの胸中に、
さまざまな思いが渦巻く。

やはり、あの宇宙人を信頼してはならなかったのではないか…
いや、桃華様ご自身のご意志でシミュレーションを繰り返しておられるのだから、
桃華様は、そこに何らかの意味や意義を見出していらっしゃるのだろう…
それにしても、これほどの時間がかかるとは、果たして…

その時。

『シミュレーションを終了します』

かすかなモーター音と共にシミュレーターの入り口が開き、そこから静かに桃華が歩み出てきた。

「桃華様ッ!」

桃華の下へと早足で近寄ったポールは、彼女のただならぬ有様に思わず絶句した。

桃華は、普段なら鮮やかな肌色で柔らかな微笑を絶やさない可愛いらしい顔を青白く強張らせ
その視線は定まらず、全身を脂汗でじっとりと濡らしていた。ポールへと歩み寄る足元も覚束無い。

「お嬢様…」
「ポール…。大変なことになりました…」
「何ですと!」

桃華の弱々しい返事に、ポールの目が一瞬にして『狩るものの目』へと変ずる。

「やはりあのクルルという者の言うことなど、信用してはならなかったのです…!」

ポールの激昂を宥め、そして、シミュレーターの中での出来事を説明しようと、
桃華は憔悴しきった顔をふっと上げ、腕を力なく伸ばすと掌をそっと彼の二の腕に当てた。

「そうではないのです…」
「しかし、その御様子は…」
「違うのです…。ですが…、私には…、余りにも…」

力無く俯き青白い頬を涙で濡らしながら呟く桃華の様子に、
ポールは上品な白手袋に包まれたがっしりとした握り拳をぶるぶると震わせる。

「あのクルルなる者…。かくなる上は、私がこの手で…!」
「そうではないのですッ!ポールッ!!」

桃華は悲鳴のような声を上げ、
さっと上げた顔をくしゃくしゃに歪めて半ベソになりながらポールの腕をゆさゆさと揺さぶる。

「ありとあらゆる方法を試しました…。お食事を食べさせてあげたり…、ペルーの遺跡で夕日を観たり
お風呂に無理やり一緒に入ったり、冬樹君の部屋に夜中に忍び込んだり…」

94: ◆K8Bggv.zV2
08/08/16 02:05:13 LHT+gEta
ここで、ツッタカスッポコという暢気なBGMに乗せて桃華の回想が展開される。

『はい、あ~んしてください。冬樹君!』
『いいよ、自分で食べられるから…』
『そ、そうですか…』

『夕日、綺麗ですね…』
『うん…、でも、国立博物館の特別展示、見たかったな~』
『はあ…』

『ふ、ふ、ふ、冬樹君…、お、お背中、お流しします…』
『わあっ!だ、ダメだよ、女の子が入ってきちゃ!僕、もう上がるから、良いって言うまで、目、瞑っててくれるかな…』
『すみません…』

『だ、誰!?西澤さん…?西澤さんなの?どうしたの、こんな夜中に!』
『あ、あ、あの…、ふ、ふ、冬樹君と一緒に…、寝たくて…』
『僕のベッド、シングルだから一緒は無理だよ。僕、リビングのソファーで寝るから、西澤さんは僕のベッド使って』
『あ…、有り難うございます…』

「つまり、あのクルルという宇宙人からもたらされた情報は、何の役にも立っていないということではありませんか!」

桃華の回想に尚更いきり立つポールに、がっくりと肩を落とした桃華が首を左右にフルフルと力無く振りながら答える。

「いえ…、最後の最後で、大いに役に立ちましたわ…」


95: ◆K8Bggv.zV2
08/08/16 02:06:04 LHT+gEta
またもツッカタスッポコというBGMに乗せての桃華の回想。

『冬樹君…。その…、女性が苦手とか…、女性が嫌いとか…、そういったことは…』
『ないよ』
『では、今、お付き合いなさっている女性がいるとか…』
『いないよ』
『冬樹君は、私のことが御嫌いですか?そうでなくても、私のことを迷惑とお感じでしょうか?』
『全然そんなこと無いよ』
『では、私とお付き合いしていただけないでしょうか…?』
『うん、いいよ』
『えっ…?いいんですか!?』
『うん』
『…本当に…?』
『うん。これから、宜しくね』
『…はい』

「…ということは、つまり…」
「…はい…」
「直截な申し入れが、最も効果的である、と…」
「…そうなんです…」

この結果に、ポールは、うーむと腹の底からの唸りが混じった溜め息をつき、
桃華は、この結果を他者に告げたことで緊張の糸が切れたのか、へなへなと力なくその場にへたり込んだ

「お嬢様…」

ポールは桃華を優しく助け起こすと、そのままその手をとって、設えられているテーブルへと導いた。
席に着いた桃華の斜め後ろに着いたメイドが、冷たいお絞りをさっと差し出す。
アイスティーが作られ、それは運ばれてきたサンドウィッチと共に桃華に供された。

「ポールにも同じものを」
「かしこまりました」

桃華は身振りでポールにテーブルに着くように勧め、ポールは「恐れ入ります」と深々と一礼してその指示に従う。
桃華の白く細い指先が優雅な仕草でティーカップの取っ手を摘み上げ、そのまま口元へと運んでいく。
金の縁取りが施された白いティーカップの縁が、
ようやく血色を取り戻した桃華の愛らしい唇に軽く押し当てられる。

と、次の瞬間…

桃華はそのままティーカップをグイッと煽り、
細い喉仏をコクコクと鳴らしながら冷たい紅茶を一気に喉の奥へと流し込んだ。

「ぷはーッ!あー、生き返るゼ!!」
「お嬢様…!」

思わずハッと桃華の表情を窺うポール。
そこには、普段は可愛らしくカールしているこめかみの飾り毛をピンと立て、
眉と目を挑戦的にキリリと吊り上げ表情を引き締めた裏桃華の顔があった。
表のそれよりも明らかに逞しい手がスッと差し出すカップに、すぐにメイドがなみなみとアイスティーを注いだ。

「ポール…、早速、明日…、な!」
「承知いたしました…!」

不敵な笑みを浮かべる主に、老執事は丁重だが力強い言葉を返した。

96:名無しさん@ピンキー
08/08/16 02:07:19 LHT+gEta
今回は、以上です。

97:名無しさん@ピンキー
08/08/16 09:59:17 7tNT4TqU
GJ!
続きを期待しております!!

98:名無しさん@ピンキー
08/08/17 19:04:26 u+X06UZw
保守

99:名無しさん@ピンキー
08/08/17 22:34:19 lZuSeFJ/
続き気になる! なるべく早くイチャイチャさせてあげてください!
待ってます!

100:名無しさん@ピンキー
08/08/19 21:01:12 uOdyH3Uj
保守

101:名無しさん@ピンキー
08/08/21 20:28:26 oK2q7FXf
保守

102:名無しさん@ピンキー
08/08/22 22:37:31 ZImS6hgQ
補修

103:名無しさん@ピンキー
08/08/24 15:37:16 KHlua0Ao
保守

104:名無しさん@ピンキー
08/08/25 21:23:38 ZqM3xXqx
hosyu

105:名無しさん@ピンキー
08/08/27 20:17:33 U1tVPUDP
保守

106:名無しさん@ピンキー
08/08/31 07:42:29 OUpSQ7ZZ
保守

107:名無しさん@ピンキー
08/09/03 21:12:38 sKyzMOiC
保守

108:名無しさん@ピンキー
08/09/05 00:23:27 IwtqX7QV
ケロ夏が好きな自分は少数派か…

109:名無しさん@ピンキー
08/09/05 02:17:47 JdH3+0m2
ケロモアも少なくない?王道だと思ってたのに…(泣)

110:名無しさん@ピンキー
08/09/05 14:29:49 CjiOAjDD
同じ王道でも冬桃は割りと多いよな
ガルプルもまた誰か書いて欲しい


あとついでに景気アゲ

111:名無しさん@ピンキー
08/09/05 16:43:37 ZVnfx0mz
>>108>>109
もっとマイナーな
夏ギロ派の俺がいます


112:名無しさん@ピンキー
08/09/05 18:17:40 5NSRsnQR
>>111
ここに同志がいるから大丈夫

113:名無しさん@ピンキー
08/09/06 12:53:36 v0YbCOTp
だからおまいら作品化する作業へ戻れと

114:名無しさん@ピンキー
08/09/06 20:48:40 cdnOotZK
架空請求メールを配達して届け先のヴァイパーに乱暴されるメルルのSS求む

115:名無しさん@ピンキー
08/09/06 22:04:09 2zBWx7t2
>>95の続きとクル秋待ち保守

116:名無しさん@ピンキー
08/09/09 01:38:16 aj9P92vs
冬樹×ナスカ(ミルルも可)派は私だけだろうな…。

117:名無しさん@ピンキー
08/09/09 14:21:08 PO/fs+ZE
さぁ、SSを投下して布教活動に入るんだ!

118:名無しさん@ピンキー
08/09/09 17:25:55 oJKC5aGG
ダークケロロ×ミルル(ナスカ)誰か求む

119:名無しさん@ピンキー
08/09/09 23:31:47 2Qr5NR96
>>116
たぶん、君だけだ。
けれどナスカの巨乳は鷲掴みにしたいとおもう

120:名無しさん@ピンキー
08/09/12 21:14:28 KXxCQC+H
ガルプルだよ!!
ダークケロロ×ミルルだよ!!
メルマルだよ!
蛇メルだよ!!
とりあえずケロン人だよ!!

121:名無しさん@ピンキー
08/09/13 11:33:29 I4NwWodp
766 名前:風の谷の名無しさん@実況は実況板で[sage] 投稿日:2008/09/13(土) 11:14:26 ID:8wz8olgx
夏美の目に映ってた文字

『夏美どの、そんなことしたらい
 きっとほんとうは、やっちゃいけ
 分かっていたんでありましょう?』

何の話だろ




ここなら言える
どうみてもオナーニ覗かれてます。本当にありがとうございました

122:名無しさん@ピンキー
08/09/13 11:39:13 Lcv5B5p4
>>121
オカズはやはりサブロー先輩?

123: ◆K8Bggv.zV2
08/09/14 11:35:30 QEWi4/n6
※お詫びとお断り
エロくないし、イチャイチャもしてません。それなのに、めちゃくちゃ長いです。
また、H要素を殆ど持っていない冬樹を桃華に対して何とか合理的にムラムラさせるため、延々と心理描写を展開し、
原作とアニメ(TV・劇場版)のエピソードを混在させると共に二人の年齢と学年を13歳・中学二年とさせていただきました。

124: ◆K8Bggv.zV2
08/09/14 11:36:35 QEWi4/n6
「冬樹君…、その…」
「うん。何か気付いたことや特に気になる展示品はあった?」

太陽は完全に傾き空は群青色に染まりかけていたが、まだまだ大気は湿った熱気に満ちていた。
そんな外気と隔絶され快適にエアコンが効いた冬樹の部屋の真ん中には、
床に臨時に設えられた小さな円卓を挟むようにして、
爽やかな緑色の半袖の開襟シャツに白いハーフパンツという如何にも涼しげな姿の冬樹と、
エレガントなデザインの白いノースリーブのワンピースを優雅に着こなした桃華がそれぞれ楽に足を崩して座っている。
円卓の上には『マヤ・インカ・アステカ 古代文明への招待』という表題の厚いパンフレットが二冊と、
よく冷えたミネラルウォーターを満たしたコップが二つ仲良く並んでいた。
二人は、オカルトクラブの活動の一環として、
国立中央博物館で行われている文部科学院主催の特別展示を今日一日を費やしてじっくりと見学したのだった。
この日程自体は、夏休みが始まる前から既に冬樹によって企画されていたもので、
桃華は昨日の疲れがまだ完全には抜けていなかったものの、昨日の決意どおり、今日告白することにしたのである。
だから、桃華にとってこの博物館見学はデート以外の何物でもなかったのだが、
食中りの心配がある時期だけに手作りの弁当の持参は断念して、お昼は館内の簡易食堂で軽く済ませ、
三時のおやつはこれまた売店でお土産用の『縄文クッキー』とやらを一袋買って慎ましく二人で分けて食べ、その代わり、
先ほど済ませた少し早めの夕食は、桃華行きつけのレストランを借り切っての飛び切り豪華なものとしたのだった。

「で、西澤さんが面白いって感じた展示品は、何?」
「あ…、あの…、ですね…」

「ん?」と小首を傾げてこちらを覗き込む冬樹の大きくて澄み切ったサファイアの瞳に、
桃華は一瞬にして頬から耳の先までをその名の通り桃の花びらのような可愛らしい桃色に染め上げて、俯いてしまう。

冬樹へ、自分の想いを伝える…

ただそれだけのことなのに、身体全体がカッと熱くなり、額に脂汗が滲み、心臓は早鐘を打つように高鳴り、
水泳中に息継ぎが上手くゆかないときのように呼吸が苦しくなって、肘と膝の振るえを抑えるのがやっとだ。
そんな桃華の心の中で、いつも通りの裏桃華と表桃華の口喧嘩が開始される。

「(こら、表!さっさとコクらねぇか!!)」
「(そ、そ、そんなに急かさないでください…。こういうことには、タイミングというものが…)」

俄かに美しいアメジストの瞳を伏せて脂汗を流しながらモジモジし始めた桃華に、
朴念仁代表たる冬樹が、悪気など全く無いにしても、どうしようもない一言を浴びせる。

「トイレ?」

「(ほら見ろ!テメェがはっきりしねぇから、トイレ我慢してるみたいに見えてるじゃねぇか!!
早くコクらねぇと、場の雰囲気がコントか堂々巡りの勘違いラブコメみてぇになっちまうぞ!)」
「(う~…)」

冬樹の善意(?)の勘違いと裏桃華からの核心を突く指摘という十字砲火に曝され、
一瞬にして完全に退路を塞がれた表桃華は激しく動揺し、その人格制御力が著しい低下の兆しを見せ始める。
このままでは、表裏共にそれを望んでいなくても、自動的に裏桃華の人格が肉体を支配することになってしまうだろう。

125: ◆K8Bggv.zV2
08/09/14 11:38:40 QEWi4/n6
「(何をぐずぐずしてやがる!!面と向かってバシッとコクりゃ上手くいくってシミュの結果が出てんだろうが!!)」
「(そ…、そうですね…)」
「(『そうですね』じゃねぇよ!早くコクれっつの!)」
「(はい…)」

裏の叱咤を受けた表は、おずおずと冬樹に向かって顔を上げ、話を切り出す。

「あの…、冬樹君…」
「(おっしゃー!いけー!そのまま一気に行けーッ!!)」
「うん?」
「あ…、え~と…、その…、お、王様などの支配者の埋葬のときに仮面を被せるという習慣は、
ふ、普遍的なものと考えていいのでしょうか?」
「(だあああああああーーーーッ!!馬鹿ヤローッ!!)」
「なかなか面白いところに注目したんだね。さすが西澤さん!
うん、そうだね。確かに今日見たみたいな貴石や宝石を素材にしていたり、エジプトのピラミッドに葬られたような…」

桃華にも分かりやすいようにと言葉を選んでゆっくりと丁寧に自説の開陳を開始する冬樹の嬉しそうな顔を見ながら、
桃華の心の中で、
両肘の先を両外側へとグッと張って胸の前で握り締めた両の拳をプルプルと震わせる裏が、思い切り表を詰りつけた。

「(こらッ!表ぇッ!!この期に及んで、テメェは一体何言ってやがる!
王様のお面の話なんざ、付き合い始めてからゆっくり聞きゃあいいじゃねぇか!!)」
「(ですが『さすが西澤さん』と褒めていただきました…)」
「(馬鹿ヤロ!!褒めてもらうのが目的じゃねぇだろうが!!早くコクれよ、この野郎ッ!!)」

表のこうした優柔不断さや一見コントのようにも見える表裏の遣り取りは、決してただの照れ隠しではなかった。
その根底には、桃華が普段から不知不識の内に感じ抱いている深刻な危機感があったのである。

西澤梅雄という男と西澤家、そして彼が総裁を務めるNPGは全世界の経済の半分を掌握しており、
その影響力は経済のみならず政治を始めとする社会全体に深甚に及んでいた。
だから、そんな西澤家の周囲には、何時も何某かの意図を持った相当数の人物が右往左往していた。
その大半は、西澤家が持つ権勢のおこぼれに何とか預かろうという姑息な意図を持った小物であったが、
中には、極めて危険な意図を持った者もいた。

具体的には、事業に失敗した経営者や社会の落伍者、政治活動家や社会運動家たちなどであり、
彼らのほぼ全てが、己の不遇や社会にある諸悪の根源をNPGの責任として恨み、憎む者だった。
そうした彼らの脅威は、桃華の身の上に『暗殺と誘拐の危険』という具体的な影響を及ぼしていた。

126: ◆K8Bggv.zV2
08/09/14 11:39:41 QEWi4/n6
この際、身代金を要求するいわゆる営利誘拐については、さほど心配する必要は無かった。
『西澤家からせしめた金で一生涯遊んで暮らす』などということは、
同家の調査能力と本部直轄の精鋭部隊の実力を見誤った大間抜けの夢想でしかなく、
実際、NPGの海外現地法人の社員を狙った誘拐事件は過去に数件あったのだが、
いずれのケースでも、犯人たちは仲間割れによる撃ち合いなどを原因としてほぼ全員が死亡しており、
生き残った犯人は例外なく警察に駆け込んで自首し、その後の生涯を刑務所の中で“平穏”に過ごしていた。
これについては、鉱山の開発や観光施設の建設の中止を要求しての犯行に関しても同様だった。
何故なら、『NPGの者を誘拐すれば要求が通る』という先例を作れば、
そうした犯行が続発することは火を見るよりも明らかだったからである。

だが、問題は“捨て身”の暗殺者や誘拐者であった。
桃華をその場で、或いは誘拐して殺害した犯人に犯行後に自殺されてしまった場合、
如何に梅雄といえども全く為す術はなかったからだ。

もちろん、こうした深刻で生々しい想定や懸念は桃華本人に直接告げられたことは無かったが、
それでも感受性が豊かな桃華は、ポールや親衛隊の動向などから大体の事情は察知していた。
今現在だって親衛隊が日向家を遠巻きにしていたし、
これからの帰宅も、本当は冬樹に屋敷まで送ってもらいたいのを辛抱して、
迎えのリムジンの通行が可能な大通りまでのほんの数十メートルのエスコートのみに泣く泣く止めたのだった。
そんな状態だったから、桃華にとって、冬樹に交際を申し込むということは、
こうした自分の全く尋常とは言い難い境遇に冬樹を巻き込むということ以外の何物でもなかったのだが、
しかし、逆にそうであったが故にこそ、
冬樹のその何の虚飾も無い純粋で暖かな人柄から滲み出てくる本当の優しさと安らぎを、
どうしても桃華は必要としたである。


「(よぉしッ!決めたッ!!)」
「(…?)」

裏は強い決意を漲らせた眼差しで、困惑に沈む表の顔を睨み付けた。

「(テメェが冬樹君にコクらねぇんなら、俺がコクるぜッ!!)」
「(ええッ…!?)」

二人は同一の人格なのだから、どちらが告白しようとも同じなのではないか?という疑問は、
正しく当事者以外のお気楽なものというべきであろう。根本的には同一の存在であるからこそ、
逆にその些細な相違が当事者同士(?)にとっては重大で決定的なものに感じられるのである。

「(テメェが冬樹君のこと要らねぇってんだったら、この俺が貰う!!)」
「(ちょっと!一体何を言い出すかと思えば…)」
「(ふん!いくらしっかりきっちり段取り整えたって、テメェはコクらねぇじゃねぇかッ!
小学校ん時からずっと想い続けてきた男の心がすぐ手が届くところにあるってのに…)」
「(…)」
「(テメェみてぇな根性無しに、冬樹君はもったいねぇんだよ!
俺だけ冬樹君と幸せになるから、テメェは黙って指銜えて見てな!!)」

127: ◆K8Bggv.zV2
08/09/14 11:40:26 QEWi4/n6
ニヤリと口元を歪め、「さぁ~て」と言いながら身体の支配権を奪取しにかかる裏を、
表が必死に大声で制する。

「(待ちなさいッ!!)」
「(待たないね!俺は、いや、俺たちは、今まで散々待ったろうが!!)」
「(とにかくお待ちなさい!)」
「(何時まで待ちゃいんだよ!十年後か?百年後か?
テメェだけ千年でも一万年でも待ってな!俺は、今すぐコクる!!)」

裏の言葉の正しさも、その苛立ちも、表は痛いほどに十分よく理解していた。
ならば、とるべき行動は、最早一つだった。

「(告白します…!)」
「(またまた~。無理すんなって。ま、デートの時は付いてきてもいいからよ!だけど、見るだけだぜ~)」
「(いいえ!私、告白いたします!!)」

ようやく決意を固めた表を、ニヤニヤしながら裏が更に煽り立てる。

「(へ~え、コクるんだ…)」
「(ええ!)」
「(ホントにか?)」
「(はい!)」
「(この場で?)」
「(そうです!)」
「(今すぐ?)」
「(しつこいですわ!)」
「(ふう~ん…)」

「じゃあ…」と言うが早いか、表の一瞬の隙を付いて身体の支配権を奪取した裏は、
テーブルの上にバシッと両手をつくとズイッと上半身を冬樹の方へと乗り出し、
その顔を冬樹のそれにぎりぎりまでぐっと近付けた。

「わぁッ!ど、どうしたの!?西澤さん…」
「表の奴が、冬樹君に話があるっていうから、聞いてやってくれッ!」
「お…、『表』って…。君は…」

冬樹は、桃華の表情が先程までと明らかに違うことにすぐ気が付いたが、
そうこうする内に裏は桃華の心の奥にすっと引っ込んで、そして、突き飛ばすように表を前面へと押し出した。
だが、冬樹に思い切り顔を近付けた状態のままの交替だったため、表-つまり何時もの桃華-は、
瞬時に首から上を真っ赤に染め上げながら机の上に大きく乗り出している上半身を素早く手前に引っ込めると、
そのまま腰を引きつつ白くて綺麗な細い足をきちんと畳んで正座し、冬樹にきちんと正対した。

「西澤さん…、その…、今のは確か…」

桃華の様子のめまぐるしい変転に冬樹は目を白黒させているが、しかし裏が言うように、『その時』は今しかない。
桃華は自らを鼓舞するように、
無意識のままぐっと握り締めた拳をもう片方の掌で強く包み、それを自らの心臓の辺りにギュウッと押し当てた。

「冬樹君!!」
「はい!」

128: ◆K8Bggv.zV2
08/09/14 11:41:06 QEWi4/n6
その表情と声音を切なさで一杯にしながらの桃華の懸命の呼びかけに、
思わず生来の生真面目さが出た冬樹は胡坐をパッと解き、桃華に倣って慌ててきちんと正座する。

「私は、冬樹君のことが好きです!」

桃華は気恥ずかしさを必死に堪え、戸惑いが浮かんでいる冬樹のサファイアの瞳をじっと見詰めながら、
清水の舞台から飛び降りる覚悟をもって、自分の人生で唯一最大の望みを一気呵成に言の葉に載せて冬樹へと伝えた。

「え…?」

全く予想だにしていなかった桃華の言葉に虚をつかれた冬樹の表情が一瞬虚ろになるが、しかし、
それは決してその申し込みを迷惑だと思ったり断る口実を模索する為のものでない事は、桃華にも容易に理解できた。
品よくぴたりと合わせた膝先の振るえを何とか堪えつつ、桃華は更に話を核心へと導いていく。

「私と、お付き合いしてください!!」
「…、僕と?」
「はい!」
「…、西澤さんが…?」
「はい!小学校の時から好きでした…。ずっと、ずっと…!」
「…、小学校の時って…」

桃華の言葉によって話の概要が見えてきたことで、虚ろだった冬樹の顔に僅かながら表情が戻ってきた。
しかし、その心中(しんちゅう)では何かが激しく揺れ騒いでいるらしく、その目線は微妙に定まりを欠いている。
だが、もう、このまま突き進む他に桃華の採るべき途は無かった。

「是非お願いします!!」

拳を解いた桃華の両掌が、細かく震えるその膝の前にそっと揃えられ、
桃華は美しい所作で深々と頭を下げた。
その際、座っている場所がテーブルに近かったので、
その下げた頭の先がテーブルの縁に軽く当たって小さくコツンと音を立てたが、
双方共にそんなことに関心を向ける余裕など勿論全く持ち合わせてはいなかった。

部屋を、そして二人を支配する沈黙と静寂…

それはほんの数秒も無く、そして決して重苦しいものでもなかったが、
しかし、桃華にとっては永劫にも感じられる永い永いものであった。

129: ◆K8Bggv.zV2
08/09/14 11:42:09 QEWi4/n6
冬樹は、「小学校の頃から好きだった」という桃華の言葉に、
小学校時代からの桃華との関わりについてその全てを思い出そうと必死になっていた。
そして…

「(そんな…)」

冬樹は、とんでもないことに気が付いた。
そう、これまで冬樹の傍には何時でも桃華がいたのであり、
そして、それは全く偶然などではなく、桃華の必死の努力の結果であったのだ。

小学校時代、桃華と二人で学校非公認の『オカルトクラブ』を立ち上げ、卒業に際しては、
桃華は進学が決まっていた名門校への入学を辞退して冬樹と同じ吉祥学園への入学を選択した。
ケロン人の居候を抱える者同士が日向家に集合して行った情報交換が終了した後、
玄関で見送った冬樹が「どうして決まってた進学校やめて、吉祥学園に来ることにしたの?」と問うと、
桃華は、暫しの沈黙の後、幸せそうに頬を染めて微笑みながら「ナイショです」と答えた。
中学に入ってからは、西澤家所有のリゾート用の島への旅行に始まり、日向家地下のケロン軍基地の調査、
バレンタインデー、ケロロたちとの怪談勝負、裏桃華の誕生、桃華のイギリス留学騒動での梅雄との対面や、
桃華親衛隊の抜き打ち試験にやってきた桃華の母・桜華との対面など矢継ぎ早にいろいろなイベントが発生したし、
更に、ケロン軍の古代兵器・キルルとの戦闘やNPGの海洋調査隊が発見した謎の生物の正体を探る旅では、
命の危機にも遭遇しながら二人は共に同じ時間を過ごしたのであった。

進学先を変えるということは、その後の人生行路のほぼ全てを変えるに等しいだろう。
また、桃華が表裏二人に分裂した騒動の折には、
大財閥の令嬢という一見華やかな立場は実は“籠の鳥”だと説明するポールの言葉を補足するように、
「それだけではない気がするんです」と表桃華は呟いていたし、
何より、梅雄によってイギリスへ連れて行かれそうになった際、普段なら父に逆らうことなど思いもよらない桃華が、
真正面から必死に梅雄と対峙しつつその背中で自分を庇う冬樹の袖をぎゅっと掴みながら、
「私は、ここにいたいんです!」と涙声で叫んだのではなかったか。

そればかりではない。そうした様々な出来事の最中、
桃華は冬樹に対していきなりモジモジしだしたり謎をかけたりと珍妙に思える言動をとることがままあったが、
それが、冬樹に対しての所謂『アプローチ』だったということは、最早疑いようがなかった。
それに、桃華の分裂の原因の一端がこの自分にあることは今や明白だった。
そうまでしてこの自分の傍に居ることを選択してくれたその上に、
いろいろな機会を捉えて不断に懸命なアプローチを繰り返し、しかしそれが一向に通じなくとも、
それでも諦めずに想い続けてくれていた桃華の切なく真剣なその心情は冬樹にも容易に理解できた。

「(なんてことだ…)」 

全身からサァッと音を立てて血の気が引いていくのが分かる。
それと入れ替わりに、とても嫌な冷や汗が首筋や背中、腋の下にじわじわと滲み出してくる。
冬樹は、最早犯罪的とも言うべき己の鈍感さを、今までの人生で一度も経験したことが無い程の激しさで憎み、悔いた。

「(僕は今まで、西澤さんに、どれほど辛い思いをさせてきたんだろう…)」

130: ◆K8Bggv.zV2
08/09/14 11:43:09 QEWi4/n6
桃華への申し訳無さと己自身への憤りが嵐のように激しく冬樹の心を苛み、その苦しみは容赦なく身体をも蝕んでゆく。
肋間の筋肉の強張りと横隔膜の鈍痛によって呼吸は深さもリズムも思うに任せず、
心臓はギシギシと軋みながらやっと必要最低限の鼓動を維持している。
その余りの胸苦しさに冬樹はこめかみに脂汗を浮かべ、我知らず奥歯をギリリッと噛み締めて眉間に深い皺を寄せた。
だがしかし、こんな苦しみも、桃華が今までに過ごしてきた眠れぬ夜の苦悶に比べれば遥かに軽いに違いなかった。

とにかく桃華に、今までのことを詫びなければならない。

勿論、たった一言二言の詫びの言葉によって桃華の心が癒されるとは思われないが、しかし、それでも、
詫びることによって、桃華が今までに蒙った精神的苦痛の責任が、
この自分の常軌を逸した一種異常とも言える朴念仁振りにあったのだということを認めるべきだと冬樹は強く思った。
桃華に聞こえぬように注意しながら、冬樹は、んんッと小さな苦しい溜め息を鼻から吐いて胸元の緊張を僅かに解すと、
苦しい喉元を必死に励まし、
テーブルの向こう側で深々と頭を下げている桃華に向けて短い詫びの言葉を何とか搾り出した。

「ごめん…」

シミュレーションの結果と180度相違する冬樹のこの言葉に、心臓が止まるほどの衝撃を受けたのは桃華である。
これを-当然のことながら-交際の申し込みの拒絶と受け取った桃華は、
それまで全くの二つ折りに伏せ続けていた上体を、両の腕を思い切り突っ張って一息に引き起こした。
その顔は既に表情と血の気を失いかけていたが、冬樹のその厳しい表情を目の当たりにするや、
桃華の顔色は、見る見るうちに死人のそれのような半透明の薄青色に変じていった。

「い…、今…、何て…」

喉元を何回もヒクつかせた後でやっとそれだけを呟くことができた桃華の絶望に沈むアメジストの瞳から、
大粒の涙が後から後からぽろぽろと零れ、それは生気と何時ものふくよかな張りの失せた頬を伝い下り、
細かく震える顎先から、同じく力なく震える膝元へと引切り無しに滴り落ちていく。
シミュレーションなどというものは、喩え半日を費やして何度も何度も反復したとしても、
やはりそれは結局のところシミュレーションにしか過ぎないのであろうか…?

「に…、西澤…、さん…?」

この桃華の有様を目の当たりにして驚いたのが冬樹であった。
ただ一言なりと詫びることを許してもらいたいとの思案の末に出た言葉が「ごめん」だったのであり、
冬樹としては、桃華を地獄の縁に追い詰めるようなことを言った覚えなど全くなかったからである。
激しい落胆により気を失わんばかりの桃華は、普段の美しい血色を失った唇を何度か力なくパクパクと動かした後、
消え入るような擦れ声をやっとのことでようやく絞り出した。

「お付き合い…、して…いただけない…のですか…?」
「え…?ええッ!!」

又も冬樹は大いに驚いた。
勿論それは、今、この自分が桃華に対して交際の申し込みを受け入れるか否かについての返答を、
ましてやそれを拒絶するような返答をした覚えなど全くなかったからであるが、
しかし、良くも悪くも、これが『日向冬樹』という男なのであった。

131: ◆K8Bggv.zV2
08/09/14 11:43:51 QEWi4/n6
「ちょっと待ってッ!違うよッ!!」
「ヒヘッ!?」

いきなりの冬樹の大声に、勘違いの失意によって腰が抜けかかっていた桃華は小さく飛び上がり、
正座の状態できちんと揃えられていた両足首は外側にずれ、そうしてできた隙間に可愛い尻がポンと嵌まり込んだ。
冬樹は、慣れない正座に痺れかかっていた両足を振り回すように解いて少しよろけながらも素早く立ち上がり、
少しふらつく足首を励まして桃華に歩み寄ると、その真横にペタリと正座し、これ以上無いほどの真剣で深刻な表情で、
涙の跡がくっきりと残る桃華の顔をじっと覗き込んだ。

「違うんだ!」
「は、はい!」
「西澤さんと付き合わないって言ってるんじゃないんだ!」
「はい…」

状況が良く飲み込めない桃華は、泣き腫らした大きなアメジストの瞳をパチクリさせながら冬樹の顔をそっと覗き込む。
自分の言葉が足りぬばかりに桃華の可愛らしい顔を涙で汚してしまった冬樹は、またも謝る他無かった。

「ごめんね…」
「はい…」

桃華は、この自分に対して冬樹が何かを詫びているということは理解できたが、何を詫びて知るのかが分からなかった。
しかし、状況は桃華自身が思っているよりも絶望的ではないということは、何となくではあるが分かった。

「そうじゃなくて…」
「はい…」

やはり何が『そうじゃない』のかは不明だが、しかし、この言葉が更なる何らかの発言の前置きであることは確かだ。

「…、今まで…、気が付かなくって…、ごめんね…」
「はい…」

つまりこの『ごめん』は、自分が『今まで気が付かなかった』ことに対しての詫びの言葉らしい。
ならば冬樹は、今まで『何に』気が付かなかったことをこんなにも真剣にこの自分に対して詫びているのだろうか?
桃華が、ようやく活動を再開し始めた思考で、冬樹と自分の『今まで』のことを思い返し始めた、その時…

「今まで、西澤さんの気持ちに気が付かなくて…、本当に…、本当に、ごめんッ!!」

膝の先に両掌をしっかりとつき、そして深々と頭を下げた冬樹は、
すぐ目の前の絨毯の毛並みをじっと睨み付けながら、桃華に心底から詫び続ける。

「今まで…、ほんとに、ごめん!ほんとに気が付かなかったんだ!
わざと知らん振りしてたわけじゃないんだ。ほんとに、本当に、ごめんなさいッ!!」

滑稽なまでの生真面目さと不器用な誠実さ。
やはりこれが、『日向冬樹』という男なのである。

132: ◆K8Bggv.zV2
08/09/14 11:44:45 QEWi4/n6
「西澤さんが二人に分裂したのも、僕の責任だと思う…。
僕が…、もっと早く西澤さんの気持ちに気付いていれば…、あんなことには…」

桃華は、暫くただぼんやりと、
自分のすぐ横で額を絨毯に擦り付けんばかりに身体を全くの二つ折りにして縮こまりながら懸命に詫び続ける冬樹の背中を眺めていたが、
やがて、まだ泣いた後の腫れがうっすらと残る両の瞼をふっと軽く閉じると、重ね合わせた両掌をそっと胸元に押し当てた。

「(冬樹君…)」

桃華の頬が、まだ涙の跡を残しながらも見る見るうちに何時もの美しい血色とふくよかさを取り戻していく。
冬樹のことを好きになってからもう何年も経つけれど、
今この瞬間ほど、冬樹のことを好きになってよかったと思ったことは無かった。
冬樹という男と出会えた幸せを噛み締めながら、桃華は、やはり何時もの愛らしい薄桃色に復した唇を微かに動かして、
そこから、まるで天使が語りかけるような優しく慈しみ深い囁きを冬樹の頭上に降らせた。

「いいえ…、許してあげません…」
「ごめんなさいッ!本当に、ごめんなさいッ!!」

その声音の優しさに一向に気付かず、ただ『許さない』という台詞のみに激しく反応する冬樹に、
桃華は思わず笑い出しそうになったが、しかし、これからのこともあるので、もう少しばかり冬樹を困らせることにした。

「いいえ、許しません!」
「…、どうすれば…、許してくれる…?」

おずおずと頭を上げる冬樹に、すかさず桃華は頬をぷっと膨らませてプイッと反対側を向くと、
先程よりもトーンを落とし硬くした口調で苦情を述べ始める。

「女の子の片思いの辛さというものを、少しは男の子も理解すべきです」
「はい…」
「それを、『気が付きませんでした。ごめんなさい』で済まされては、女の子は皆、恋煩いで死んでしまいます」
「うん…」

冬樹の神妙な相槌が可笑しくて仕方ない桃華だったが、しかし、もう潮時だろう。
桃華は、そっぽを向いたまま、微笑みそうになる口元を必死に力を込めて歪め、
なるべく深刻そうな声音が出るように懸命に喉と声帯を調節して、止めの質問を繰り出した。

「冬樹君は、私が死んでしまってもいいというのですか?」

133: ◆K8Bggv.zV2
08/09/14 11:45:31 QEWi4/n6
桃華はこの『死』という単語をしっかりとした覚悟の下で使っていた。
冬樹の“特別な存在”になれないとすれば、桃華にとって、この世での生など全く何の意味も価値も無かったからである。
だが先程、自身の不注意な発言によって桃華を死人のような有様にしてしまった冬樹にとって、
この質問は如何にも生々し過ぎるものだった。

「そんなこと…!とんでもないよ!!そんなこと、一度だって思ったことない!!」

冬樹は弾かれた様に顔を上げ、思わず己の立場を忘れてグッと膝を乗り出しつつキッと引き締めた表情で気色ばむが、
しかし、それに全く動じない桃華は、それまで顔と喉元に入れていた余計な力を全て抜くと、身体はそのままに、まず、
ふんわりと優しく微笑んだ顔だけを冬樹の方へ向けて、
まだ多少の緊張が残っている冬樹の大きなサファイアの瞳をじっと見詰めながら優しい声音でそっと優しく囁く。

「なら、私が死ななくても済むように…」

そして桃華は、
足の両側に掌をついて二挙動ほどをかけて身体全体を冬樹の方へ向け、その正面にきちんと正座すると、
それまで柔らかく微笑んでいたその表情をほんの少しだけ引き締めて、ゆっくりと言葉を完結させた。

「私のことを、好きになってください!」

「西澤さん…」

冬樹は思わず自分でも気恥ずかしさを感じるくらい切ない声で目の前の桃華の名を呼んでしまったが、
それは半ば、桃華がほぼ完全に落ち着きを取り戻したことに安心し、
半ば、その真剣な告白に感動してのことだった。
この、「命懸けです」と言わぬばかりの桃華の告白に、
この自分が桃華に与えている影響が如何に大きいのかを思い知らされた冬樹は、
ついさっきの桃華と同様、しっかりと覚悟を定めて、ちょっと前に屈んですっと両手を伸ばして桃華の手をとると、
それをそっと持ち上げてから優しくキュッと握り締め、
桃華の美しいアメジストの瞳を真正面から見詰め返しながらしっかりと頷いた。

「うん、わかった」

それまで硬く引き締められていた桃華の表情が、
まるで嵐が去った直後の雲間に日差しが差し込むようにパアッと何時もの明るさと柔らかさを取り戻し、
そして、それは更にこれ以上無い位の幸せな満面の笑みへと変わっていく。

「それじゃあ…!」

桃華の劇的な変化の有様を文字通り目の当たりにした冬樹は、自分自身にもしっかりと言い聞かせるように、
一番肝心な言葉を桃華に告げる。

「うん!好きになるッ!」

表情を更にパァッと明るくする桃華に、
冬樹は太陽の様に眩しくて優しくて温かい笑顔を贈りながら、もう一度、その全てをはっきりと告げた。

「僕、西澤さんのこと、好きになるよ!」

134:名無しさん@ピンキー
08/09/14 11:46:20 QEWi4/n6
今回は、以上です。

135:名無しさん@ピンキー
08/09/15 08:49:14 TdnEiov9
GJ!
つーか、素晴らしい最終回ですた

136:名無しさん@ピンキー
08/09/15 09:30:20 eVFXEKrv
下衆な俺には眩しくてGJとしか言い様がありません


>>135
終わらせんじゃねええw

137:名無しさん@ピンキー
08/09/15 13:48:40 JPvxwiVr
投稿乙です

じっくりと読ませてもらいましたよ、次回以降も期待しています


138:名無しさん@ピンキー
08/09/16 21:48:33 cKocJtYE
言葉遊びになるかも知れないけど、
「西澤さんに死んで欲しくない」
と思っている時点で、もう既に好きになってるのでは?

ぶっちゃけ、何とも思ってない相手なら生きようが死のうが
知ったこっちゃないし...

139:名無しさん@ピンキー
08/09/17 00:01:40 /+mbonWJ
恋愛感情のないただの友達またはクラスメートや部活仲間でも
死んで欲しくないと思うもんじゃないか、普通は

140:名無しさん@ピンキー
08/09/17 00:28:23 hitXF/8I
>>139同意。
138は好きな奴以外どうでもいいのか。

141:名無しさん@ピンキー
08/09/17 14:50:03 SYXYUHAU
0か1かのデジタル世代なんだろ

142:名無しさん@ピンキー
08/09/20 00:08:50 2qat37zE
保守

143:名無しさん@ピンキー
08/09/20 01:08:59 vmpH6LT6
新参なんだけどさ、擬人化で女体化でロリなクルルって駄目?
需要あったら書きたいんだけど。

144:名無しさん@ピンキー
08/09/20 07:36:09 PQT03FSQ
ケロロ小隊全員女体化なら見たい

145:名無しさん@ピンキー
08/09/20 10:36:45 TuoUhQ0Y
正直ロリなのに純粋じゃないからダメ

146: ◆HegzoUyjQs
08/09/20 16:58:43 O6mVci3U
【お詫び】
クル夏が好き過ぎて頭がどうにかしそうだったので文字にしました。
未熟な面の多い文章ですので初めにごめんなさい。
誰か一人にでも楽しんでいただけたら幸いです。

147:クル夏(1/3) ◆HegzoUyjQs
08/09/20 17:01:04 O6mVci3U
「このっ、ボケガエルー!」
「ケロッ!」

ケロロは反射的に跳ねる。
夏美の回し蹴りはケロロのつま先ギリギリを通過。
思わぬ成功に喜びの表情を浮かべるもつかの間、手のひらを最大限に使った頭部鷲掴み、そして投げられる。思い切り。
背面だけがぺったんこになったケロロに、元通りにしなさいよっ。と背中越しに言い去っていく夏美。
そこでDVDは終了した。
4色のカエルの集まった一室でケロロは机をバンッと叩き、注目を集める。

「諸君!どう思うかね!この怪力!」
「どうっていわれてもぉー・・・」

軍曹への返答に困ったタママはチラリとギロロ、クルルの反応を待つ。

「ふんっ、いつもと変わらないじゃないか」

ギロロと思った事が同じだったのに安心し、そうですよぅ。と頷く。
ところでちゃんと壊した家具は直したんですか?と夏美の怒りの原因について聞こうとタママがお菓子を飲み込み発言しようとしたが、特殊な笑い声が聞こえてやめる。飲み込む前に口内のポテチを増やした。

「クックック、前より力が強くなったな」
「そう!そうであります!さすがクルル曹長!前より体のひねりが少ないのに力が強化されているのであります!これは由々しき事態!」
「貴様の鍛錬が足らんのだ」
「ちょっとギロロ伍長!そんな他人事みたいに!」
「他人事だろうが!悔しければ鍛えろ!軍人だろ!」
「あ、軍曹さん、今日はそろそろ帰りますねぇー」

桃っちと約束があるんですよー。とにこにこと席を立つタママ。
便乗しギロロも今日の議題がこれだけなら帰る。と続く。
タママは笑顔で手を振り、ギロロは眼でケロロを貫く。
それに怯んだケロロは引き止める言葉も喉に詰まる。
大きな眼には部下の背中が扉で完全に遮られる光景が映った。
ガクリ。と大げさに項垂れるケロロ。
だがそのまま控えめなククク笑いをしているクルルに悲劇のヒロインのように弱弱しく、しかししっかりとしがみ付いた。

「ねぇーん。クルルぅー」
「ククっ。それで、オレはどうすればいいんだ?」
「なんかこうーペコポン人の筋力を弱めるーとかそういう発明できないかなぁーなーんてぇー」

これはペコポン侵略にもおおいに役立つと思うんだよね!と私的な恨みをカモフラージュするケロロ。
そして期待していた答えを見事言うクルルにケロロは顔を輝かせた。

後日、『か弱いか弱い夏美殿作戦』の手順が決定、そして決行。
実験対象、日向夏美。
作戦開始。実験対象者帰宅直後。

「くぅー、ドキドキしてきたぁー」

148:クル夏(2/3) ◆HegzoUyjQs
08/09/20 17:02:47 O6mVci3U
作戦開始までもう少し。ケロロの体内時計が鳴りはじめる。
この作戦が成功すれば、もう夏美殿が我輩にあれこれ偉そうに命令することもなくなるであります。
ペコポン侵略もこれが成功したら予算を集めて規模を大きくすれば・・・。
ケロロの頭に邪な考えが駆け巡り、素敵な未来にケーロケロと鳴いた。
その時無線機が鳴る。とる。

「標的、日向夏美。もうすぐ玄関につくぜぇー。クックック」
「こっちはすでに準備完了であります!」

無線機を端っこに置くとケロロはエプロンのポケットの中の感触を確認する。
準備OK。玄関のドアを瞬きもせずに凝視する。
ドアノブが動く。緊張が走る。

「ただいまー。あれ、ボケガエルどうしたの?」

ドアが閉められる。これで空気の逃げ道は減った。
まるいまるい眼を見開く、ポケットに手を突っ込む、取り出す。

「夏美殿!覚悟であります!」
「え、ちょっ!な」

ポケットから取り出したのはスイッチ。夏美が何か言い終えるの前に押す。
瞬間ブシューっと玄関が白い煙に包まれる。
作戦手順その1、眠らせる。
ケロロはすばやく近くの部屋に非難。
夏美も後追いかけ部屋に入ってくる事も予定していたが、驚きから煙を吸い込んでしまったらしく音がない。
そっ・・・と顔半分を出し覗く。玄関に横たわる赤い髪。

「こちらケロロ軍曹であります。作戦成功!ぐっすりであります」
「じゃぁさっそくこっちまで運ばなきゃな。ククッ」

ケロロは作戦通りクルルの発明品を使って一人夏美を運ぶ。迅速に。
クルルのラボに着くとそこにはペコポン人一人横たわれる台。
そこに夏美を横たえる。
台の上を見れば何か大きく緻密な機械。

「おぉ!これでペコポン人の筋肉を弱めるのでありますな!」
「この機械で特殊な電波を出し筋肉を脂肪に変える。それで筋力は著しく落ちて、か弱い、平均女子以下となる。クークックック」
「ほほーぅ、さすがクルル曹長!でー、どのくらいかかるでありますか?」
「まぁ1時間くらい状況をみながらだな。やりすぎちまうと脂肪しかない大変な状況になっちまう」
「脂肪だけのふにゃふにゃペコポン人になったら大変でありますからな!」
「ほい、スイッチオン」

クルルがスイッチを押すと静かな起動音をたて動き出す。
特殊な見えない電波が夏美を包んでいる証拠だろう。
しかし一時間何をしていようか。とケロロは悩む。
クルルは夏美殿の様子を見ているし。と思った所で眼を見開く。

「ク、クルル曹長?」


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