08/06/24 22:09:19 jMzCiawa
>>143
あー、すまん
某スレで非エロ連載してるわ。
時々同じネタでエロいのも書くけど
151:名無しさん@ピンキー
08/06/24 23:25:39 CHQDlscs
ここは書いたもん勝ちな部分があるから、
特に尋ねたりせずに無言で投下しちゃえば、
内心どう思っていても表面上は特に文句は言わずに賞賛してくれると思うよ。
152:名無しさん@ピンキー
08/06/25 00:17:45 PsZV7b+n
でも、お願いですので文章の基礎は守って下さい
面白い文章なのに基礎がなってないのが多いです
ここ読むだけでいいので
ラノベ研究所 文章のルール
URLリンク(bunnsyou.fc2web.com)
153:名無しさん@ピンキー
08/06/25 21:49:10 U97rJzlU
>>152
大変参考になります。
単純な事ですが、・・・と・・・・・・なんかも。
154:名無しさん@ピンキー
08/06/25 23:09:08 /6BMt8j8
三点リーダーは厳密なルールじゃないんだけどね
特に「…」でも「・・・」でも、本当は構わないんだよ。
だけど「……」ってやらないと、うるさく言う奴がいるんだよね
だから「……」ってやった方が無難ではある
155:名無しさん@ピンキー
08/06/25 23:17:45 kpWdvXBW
別にネットのSSにとやかく突っ込む必要ないだろ
156:名無しさん@ピンキー
08/06/25 23:56:14 T49spQ65
こういうスレッドに投稿する場合は、
必ずしも通常のSSの書き方が上手くいくとは限らないからなぁ。
改行のタイミングとかで結構悩む。
157:名無しさん@ピンキー
08/06/25 23:58:55 kpWdvXBW
ネットの場合はネットだと割り切ってる
字下げも、!も?も一字空けしないでいいし、改行も多くていいし
絵文字のないケータイ小説という認識だしね
印刷用の投稿作品とはまた別な気がするんだよね
158:名無しさん@ピンキー
08/06/26 00:05:44 q595Fi/t
ネットのSSはモニターで見るけど、こういうカッチリした文章は普通、紙面媒体で見るものだしな。
まぁ、気になる人もいるよって話だろう。
表現豊かで、かつ読みやすい文章っていうのは少しでも文章を書く機会のある人なら
誰でも目指すところだろうし。
そのための目安にはなるんじゃないかな。ガッチガチに固めて書けば良いってもんでもないんだろうけど。
……あー、それにしてもネタはあるけど文章にならねぇ。
誰か俺にラヴクラフト並みの語彙をくれ。そしたら妄想を文章に書くから。
159:名無しさん@ピンキー
08/06/26 00:13:12 p2G3LWKQ
>>158
とりあえず全集を読み返してから執筆してみれw
名状し難き宇宙的エロ小説を狂おしく期待。
いあ! 駒形切妻屋根!
160:名無しさん@ピンキー
08/06/26 00:17:35 q595Fi/t
いや、俺が欲しいのは『ラヴクラフト並みの語彙』であって、『ラヴクラフトそのものの語彙』じゃないんだ
第一、『男根を飲み込んだ膣口は非ユークリッド幾何的に歪んで云々』なんて文章を読んで誰が喜ぶんだよw
161:名無しさん@ピンキー
08/06/26 00:49:54 oAGERN/t
>>160
俺が喜ぶ。ネタとしてw
まあもし書けたらクトゥルフスレ(というのが最近立ったらしいが)に
投下してみるのも面白いかもしれんぞ。
162:毛羽毛現の人
08/06/26 03:02:55 q595Fi/t
誰もいない。
投下するなら今のうち……。
163:『“真紅の女王”の事』
08/06/26 03:04:43 q595Fi/t
O incontestable Abyss,
What light in thine embrace of darkness sleeps―
―Clark Ashton Smith『Ode to the Abyss』
「……ここ、どこだろう」
白亜の中を、一人の少年が彷徨っていた。名を、夢路刹那という。
視界のすべて白く、前後左右はおろか、上下の区別さえ確かなものではない。
こうして足裏に感じる感覚がなければ立っているかどうかすらわからない、そんな空間に彼はいた。
とりあえず、歩いてみる。
なんとなく、その方向へ行くのが良いような気がしたからだ。
そうしてどれだけ歩いたのか。
ふと目を上げてみれば、目の前に山のように巨大な扉があった。
巨人でなければこんな扉、使いはしないだろう。
扉の真正面に立っていた刹那からは見えなかったが、扉を支える柱にはこう刻まれていた。
ここ過ぎて曲節の悩みのむれに、
ここ過ぎて官能の愉楽のそのに、
ここ過ぎて神経のにがき魔睡に。
刹那が扉に近づいてみると、扉は少し開いている。どうやら、子供くらいなら通ることができそうだった。
扉の隙間からは、暗黒が漏れ出している。
そのあまりの昏さに、刹那はごくりと生唾を飲み込んだ。なんだか得体の知れない背筋がぞくぞくする感じがあったからだ。
しかし他に行く当てもない。
とりあえず扉をくぐってみることにした。
「失礼しまーす……」
おそるおそる中へと踏み込む。内部は先ほどまでいた光しかない白亜の暗黒と対照的な、闇しかない漆黒の空間だった。
ビクビクと怯えつつも完全に中へ体を滑り込ませる。
その瞬間―
「ひっ!?」
扉が完全に閉まってしまった。これで完全に真っ暗闇だ。
―ど、どどどどうしよう。まさか僕ずっとここにいなくちゃいけないんじゃ……。
そんな不安が心を埋め尽くし、泣き出そうかという瞬間、唐突に薄ぼんやりと周りが見えるようになった。
それはわずかな反射光を水晶体で集めて見るといったものではなく、闇そのものを透過して見通すことができるような感覚だ。
周りが見えるようになったことでとりあえずの平静を取り戻した刹那は、再び闇の中を歩き出した。
どうやらここは、図書館のようなものらしい。
前後左右はおろか上にすら果ての見えぬ書架には大小様々な石や金属、陶器の板、それから葉や皮紙、パピルスなど
手に取るだけで崩壊しそうな本や巻物が所狭しと並んでいる。
銘板、断章、巻物、本など乱雑に入り乱れ、記録媒体の形態や文字にまるで統一性のないように見える並びであるが
見る者が見れば、関連する記録物が年代順に配列されていることが判っただろう。
刹那は知る由もなかったが、そこに収められた『記録』は読書家や書痴、オカルティストなどであれば一瞥しただけで
歓喜のあまり卒倒してもおかしくはないものばかりであった。
例を挙げれば、『エルトダウン・シャーズ』、『ナコティック・フラグメント』、『キタブ・アル=アジフ』、『妙法蟲聲經』、『ナインス・ゲート』、
『デロメラニコン』といった実在すら疑われていたものから、プラトンのアトランティス三部作のうち、未完であったはずの第二部
『クリアティス』の完全版と“書かれてすらいなかった”第三部『ヘルモクラテス』など、存在しない書すら鎮座していたのである。
164:『“真紅の女王”の事』
08/06/26 03:06:07 q595Fi/t
「おや……客人とは…珍しいね……」
不意に声が聞こえた。
すぐ近くから聞こえるような、とても遠くから聞こえるような、不思議な響き方をしている。
「ひぃ」
その反響の仕方も不気味だったが、人気のないところで突然聞こえた声に驚き、思わず小さく悲鳴を上げる。
背筋を走るぞわぞわした感覚がいよいよ強くなる。
脊髄から伸びた神経叢がそのまま蟲の足になって皮下を這いずり回っているようだった。
「なにも…そんなに怯えることはないじゃないか……急に声をかけたのは…悪かったけれど、ね……」
背筋のぞわぞわが最高潮に達した瞬間、刹那の体に柔らかいものが絡みついた。
「ひゃあああああああああああんむぅっ!?」
とうとう悲鳴を上げた刹那の口腔を、湿った何かが蹂躙する。
何が起こっているのかわからない。とりあえず暴れて振りほどこうとするもののビクともしない。
―助けて、お姉ちゃん!
心の中で絶叫し、いつも黒髪シニヨンヘアーで気だるげな目の姉に助けを求めてみても、事態はなんら好転しなかった。
なすがままだ。
大きなナメクジのようなそれは歯列を撫で、舌に絡みつく。
「んっ、んんぅ……」
くぐもった悲鳴が、だんだんと気色の違うものになりはじめる。
糖分のような甘さではない。しかし甘いとしか言いようのない不思議な感覚が刹那を支配していた。
「ん、ぷは、ぁ……」
蹂躙が終わり、離れていく。
刹那はそれがとても残念だった。だから、蕩けはじめて焦点を失いつつあった瞳を凝らして相手が何だったのかよく見ようとした。
「…図書館では…静かに、ね……少々強引な手を…使わせてもらったよ……」
そこにあったのは、悪戯っぽく微笑む美しい女性の顔だった。
白皙の肌に、シニヨンに纏められた濡れたような黒髪。
美しい線を描く柳眉に、鋭くもどこか気だるげな目は紫水晶のようだ。
冠のような白い牙の飾りがついた真っ赤な大きな帽子をかぶっている。まるっきり魔女のとんがり帽子だ。
服は詰襟のロングコートとローブを合わせたような形をしている。ビショップスリーブのせいでそう見えるのかもしれない。
楕円形に開かれたコートの胸部から覗く服と、腰に拘束具のように何本も巻かれたベルトだけが黒い。
その女性の顔があまりにも美しかったので、刹那はしばし呆然とし―そして彼女の服にも負けぬくらい赤面した。
女性は笑みを深めると優しく、しかし力強く刹那を抱きしめる。
「フフ……君は、かわいい…ね……」
「あ、あうぅぅ」
刹那はより赤面し、そしてなんだかどうにも恥ずかしくなって女性の腕の中で身じろぎする。
それを見た女性がますます笑みを深め、抱きしめていく。
そんなループがどれだけか続いたころ、女性が口を開いた。
165:『“真紅の女王”の事』
08/06/26 03:07:13 q595Fi/t
「ここは…どこでもあってどこでもない場所…夢幻(無限)図書館と、呼ぶ者もいる……。
夢でしか訪れることができない…限りない広さと本を持つ場所、ということらしい……」
本当は名前なんてないのだけれどね―女性は続けた。
「そして私は…ここの司書、だよ……」
「それって貸し出しとかしてる人のことですよね? ……あの、名前は……?」
名前、と女性はつぶやいて、考え込みだした。
―聞いてはいけないことだったろうか。
あんまり女性が悩んでいるので刹那は少し心配になる。
それが顔に出ていたのだろう。女性は悩んでいたわけを説明し始めた。
「私には…力がある……私の名を知っただけで…人が狂うくらいの、ね……だから…本当の名前は教えられないんだけれど……
それでは君が困るだろう…名前は有るが無いに等しく…無いに等しいが有る……そうだね…『無有』とでも…呼んでくれ」
刹那には女性―無有の言ったことの意味がよくわからなかったが、とりあえず名前を教えてもらったことだけは理解する。
「『ないある』さん、ですか……あ、えっと、僕は夢路刹那っていいます」
「ゆめじ…せつなくん、か……いい名前だね……」
あう、と言葉にならない声を漏らすと刹那は再びうつむいた。名前を褒められたのが恥ずかしかったのである。
無有は微笑を浮かべると、再び刹那を抱き寄せた。
「わぷ」
無有はどちらかというとスレンダーな体型をしているが、それでも胸は十分に豊かといえるだろう。
その豊かな双丘の谷間に刹那の頭は挟み込まれた。
なんだかひどく安心できる匂いだ。最近もこの匂いを嗅いだことがある……一体どこで?
そこまで考えたとき、すっと無有が体を離した。
やはり彼女が離れるのは名残惜しい。
半身を喪失するような感覚を感じながら刹那は無有の顔を見上げた。
「さて……私はどうして君がここへ来たのか……そしてここで何を願うのか……それをすでに視ている……けれどあえて訊こう……。
どんな願いもかなうなら……君は…何を願う……? 一つだけ…叶えてあげるよ……」
一つだけ、どんな願いでも叶えてくれる―?
それはあまりにも唐突な質問だった。
頭が混乱してなんと答えるべきかわからない。願い事、願い事、願い事……。
今一番かなえたい願いは―
「……えっと……僕の願い事は……無有さんに…お姉ちゃんになってもらいたい、です」
言った。言い切った。
刹那は、自分の顔が今まで以上に真っ赤なのが理解できた。
恥ずかしい。それでも無有がどんな顔をしているのかが気になった。
驚いているだろうか。呆れてるだろうか。もしかしたら―嫌がっているのではないだろうか。
おそるおそる顔を見る。
無有は―
166:『“真紅の女王”の事』
08/06/26 03:08:05 q595Fi/t
―彼女は笑顔だった。
今までのような感情を隠すようなどこか遠い笑顔ではなく、もっと親近感を感じることのできる感情の宿った笑顔。
そこにある感情は―歓喜。
心の底から、刹那の願いを喜んで叶えようという笑顔だった。
「その願いは…受理、されたよ……さあ…契約を……」
やさしく刹那の頬を両手で包み込むように押さえると、そっと唇を寄せた。
「わ、んむぅ―」
しばし唇だけのキスを行ない―そのまま深い口づけに移る。
ああ、さっきの大ナメクジみたいのは舌だったのか―すでに茫洋としはじめた頭で、刹那はそんなことを思った。
静謐な闇の中に淫靡な音だけが小さく響く。
「ん…ふぅっ……」
どれだけの間、そうしていたのかはわからない。
途中から、刹那の意識は半ば飛んでしまっていたからだ。
ようやく唇が離れ、刹那は大きく息を吸った。
「んぷ、はぁ……」
「ふふ……それじゃあそろそろ…本番といこうか……」
気だるげな無有の瞳に、どことなくサディスティックな色が宿った。
それがとても恐ろしく見えて、刹那は少し怯えながら無有に尋ねる。
「ほん、ばん…?」
「そう…本番だよ……これから…もっと気持ちよくしてあげるよ……」
耳元で、そうささやく。吐息がくすぐったくてゾクゾクする。それもまた心地よかった。
無有が刹那を押し倒す。
しかし、刹那は頭を床にぶつけることはなかった。
浮いているのだ。
ふわふわした透明な空気のベッドに横たわったとしたら、きっとこのようになるのだろう。
そのまま無有は刹那のズボンへと手を滑り込ませた。
「ふぁ、ナル姉ちゃ…やめ……ひうんっ」
刹那のその言葉に、無有が反応した。
「ナル…姉ちゃん……?」
無有の手の動きが止まる。
―先ほどまで私のことは『無有さ』んと呼んでいたはず。ならば、ナル姉ちゃんとは誰だ?
この状況で“私の刹那”に名前を口走らせるのは一体誰なのだ―ゆらり、と無有の中に嫉妬の炎が揺れた。
167:『“真紅の女王”の事』
08/06/26 03:09:09 q595Fi/t
それを察したのか否か、刹那があわてるように口を挟む。
「あのね…『ナイアル』だから略して『ナル姉ちゃん』って……そう呼んだら、ダメ……?」
まるで怯える小動物のような視線を無有―改め、ナルへと向ける。
刹那の言葉に、ナルは自分の心が打ち震えるのを感じた。
「いや…かまわないよ……君が私を呼んでくれるなら…なんだって、ね……」
そう言って再び刹那の陰茎を玩弄しはじめる。
「ひぅ、ぁひああ…や、だぁ……へんにぃ…へんになっちゃうよぉ……」
刹那ははじめての快感に喜びと恐怖を覚え、とうとう目尻に涙を浮かべはじめた。
「あ、あひ、あひゃあああああ、出る、オシッコでちゃうよお! ああ、ああああああああああ!」
ついに絶頂を迎え、射精する刹那。
陰茎をいじっていた繊手を青臭い白濁が汚した。
「あ、あふぅ…ぁぁ……」
はじめての射精に目の前にチカチカと星を飛ばす刹那。
「ふふ……その顔も…かわいいよ、刹那くん……」
ナルは指についた精液を舐め取っていく。
「…甘い…甘露、だね……」
そう言うと、いまだ息を荒げて状況をつかめなくなっている刹那の股間に顔を近づけた。
射精の余韻に脈打つ陰茎にそっと頬をすり寄せる。
「あ…っ」
キメ細かい絹のような滑らかな頬を何度も何度もすり寄せていく。
可愛らしさの残る陰嚢を揉み上げ、裏筋に舌を這わせる。
感覚が敏感になっていたところへの追撃である。萎んでいた刹那の陰茎は快感に耐え切れず再び屹立した。
それを確認するとナルはコートの前を開く。
露わになったのは胸の谷間を隠すタイプのホルターネックの黒い肌着、同じく黒のショーツにガーターストッキング。
透けるような白い肌も艶かしい光沢を放つ下着類も非常に扇情的で、刹那は思わず唾を呑んだ。
恥ずかしくて視線を背けたいが、それ以上に雄としての本能がナルの肢体を凝視させていた。
進退窮まり硬直した刹那の手をナルはやさしく包むと、そっと自らの乳房へと導く。
168:『“真紅の女王”の事』
08/06/26 03:10:10 q595Fi/t
「あっ……」
「ぁふ……ん…触り心地は…どう、かな……?」
ナルはひどく愛しそうな表情でそう問いかける。
「え、と……すごくやわらかくって……気持ちいいです」
素直にそう答える。その間も手と視線は胸元から離れることはない。
一心不乱に揉みしだき続けている。
その懸命さがなんだか可愛らしく見え、ナルはふっと口元を綻ばせた。
「ねぇ、刹那くん……もっと…気持ちよくしてあげるよ……」
「え?」
きょとん、として思わず手の動きを止めてしまう刹那。
その間にもナルはショーツの股布部分をずらして陰部を露わにする。
うっすらとした繁りに覆われた秘裂は、すでに十分な湿り気を帯びていた。
「それじゃあ…挿入るよ……」
「え、あの、ちょっと」
困惑する刹那を置いてきぼりにして、ナルは嬉しげに、しかし淡々と屹立した男根に腰を下ろした。
「ん…んん―!」
「え、あ―い、いたい! いたいよぅ!」
挿入していくうちに、包皮がめくれて亀頭が露わになったのだ。
急にめくられたうえに敏感な粘膜をさらけだされた刺激が痛みとなって脳をガンガンと叩いている。
その感覚に思わず悲鳴を上げ、涙を流す刹那。
「だいじょうぶ……もうだいじょうぶだから……」
本当はこの台詞を言うのは逆であるべきなんじゃないかな―そんなことを考えつつ、そっと刹那を抱きしめ、頭や背中を撫でさすって
落ち着かせる。
よほど痛かったのだろう。目をぎゅっと閉じたまま、あううぅぅと小さく唸り続けている。
そんな様子もまた可愛らしくて、庇護欲と嗜虐心がそそられる。
「だいじょうぶ……だいじょうぶ……」
ナルは限りなく万能無敵に近しい存在だ。
たとえば自分の体液を麻酔性を持った媚薬などという都合の良いものに変えることもできる。
だから、刹那の目尻に溜まった涙を啄ばむように舐め取りながら、少しでも彼が楽になるように自らの愛液を媚薬へと変化させた。
そうしてしばらく経つと、媚薬が効いてきたのか刹那はだいぶ落ち着いてきた。
169:『“真紅の女王”の事』
08/06/26 03:11:02 q595Fi/t
「…なんか……おちんちんがジンジンする……」
―訂正。別の意味で落ち着かなくなってきていた。
「…痛くしてすまなかったね……おわびに…すごく…気持ちよくしてあげるから……」
言うが早いか、腰をグラインドさせ始めるナル。
「ひぁ、あ、あ、あああああああああああああっ!?」
絡みつく膣粘膜。その襞一つ一つが亀頭をこすっていくたびに、例えようもない快感が走る。
怒涛のように押しよせる間隙のない快感に一気に絶頂へと押し上げられていく。
経験のない刹那には、そのなかば苦痛ですらあるような過剰な快感に耐えられようはずもない。
あっという間に絶頂を迎え、再び射精する。
「あ、かは、あああああああ! また…また出てるよぉ!」
「あったかい……刹那くんのが…私の膣内に……ああ……」
だが、ナルはこれで満足しない。まだ彼女が絶頂を迎えるには足りない。
それに先ほど痛い思いをさせた償いには一回の絶頂などでは十分ではないと彼女は考えている。
「それじゃ、あっ……もう一回…イこうか……?」
語尾こそ疑問系だが、体はすでにそのための行動に移っている。
有無を言わさず再び開始されるグラインド。
精液を潤滑剤にして行なわれるそれは、一回目よりもずっと激しい。
「い―ひぃ、い、あああああああ!」
射精し終えたばかりで感覚が敏感になった亀頭をすりあげられ、思わず悲鳴を上げる。
淫猥な、粘着質な水音が暗黒の静謐の中に響いている。
平衡感覚、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚―その瞬間、刹那のすべての感覚が快楽を貪ることに集中していた。
快感は神経の閾値を越えて、まともな状態ではなくなっている。
ふわふわして気持ち悪さすら快感になりつつある平衡感覚、閃光に神経を焼かれたように視界は白い。
聴覚とて無事ではない。キンキンと耳鳴りがするほかはロクに音など聞こえない。
舌も唾の味すらわからず、あれほど濃密に漂っていた雄と雌の匂いも今では不確かだし、ナルが自分を抱きしめているかどうかすら
わからなくなりつつある。
だが、そんなメチャクチャになりつつある感覚すら今では快感だった。
正確には、どんな刺激も快感としてしか認識できなくなりつつあった。
心臓が早鐘を打ち血管が血圧で膨張と収縮を繰り返すことすら今では快楽として敏感に感じ取っていたのだ。
すでに身を焦がす快感は、刹那を発狂寸前のところまで追いやりつつある。
170:『“真紅の女王”の事』
08/06/26 03:11:50 q595Fi/t
「い、いい…いいよぉ……刹那くん、刹那くん、刹那くん―!」
自失の域にあった刹那の手が無意識のうちにナルの乳房を揉み、まさぐる。
すでに肌着もめくりあげられ、美しい双丘が外気にさらされている。
その外気の冷たさが体の熱気を冷ますのが心地よく、また同時に『刹那を気持ちよくしてあげなきゃいけない』ということを
ナルに思い出させてくれた。
ぎゅっと刹那を抱き寄せる。刹那が右の乳房を咥えた。
軽く歯を立て、乳首を甘噛みする。
それは女を悦ばせようとする男の本能だったのか、それとも母を求める子供の本能だったのか―あるいは両方か。
絶妙な力加減で揉み、吸い、噛んでいく。
的確に行なわれる胸への責めに、一気にナルの絶頂感が高まっていく。
まず一回。ナルは軽く絶頂を迎えた。腰の辺りから背筋を電流が走ったように、ビクビクと小さく痙攣する。
まだ終わりではない。責めは続いている。
「ああ、私ももう…もうイく……ああ…ああああああああああああ!」
「かっ、はぁ……!」
嬌声とともにひときわ大きく痙攣し、絶頂を迎えるナル。
それと同時に刹那の陰茎に襞一つ一つが別の生き物のように絡みついていた膣がぎゅっと収縮する。
その強い刺激は大きな快感となって刹那を襲い、三たび射精を行なわせた。
どちらからともなくお互いを抱き寄せ、抱擁しあう二人。
絶頂の余韻の中、白濁した刹那の意識がまどろみに沈み始める。
「…ん、ふぅ……これで…契約は完了だ……約束どおり…私は君の姉になる……しかし気をつけておくといい……。
『わたしたち』はとても…いぢわるなんだ……もしかしたら…君を裏切る形で、契約を叶えてしまうかもしれない……。
だから…私との再会を…望むのであれば……この宇宙に…祈るがいいよ……。
千の『わたしたち』の中から…再び、この私と出逢えるように…ね……」
そう言って微笑むナル。
ふと、刹那は違和感を感じた。まどろみに消えようとする意識を振り絞り、その正体を探る。
そして突き止めた。
彼女の右目は、いつのまにか燃える炎のような真紅の虹彩となっている。
そして虹彩は三つ巴に別れており、それぞれの巴形に黒い瞳孔が存在していた。
そのことを認識したと同時に、刹那の意識は白い闇へと落ちていった。
171:『“真紅の女王”の事』
08/06/26 03:23:18 q595Fi/t
あまりの夢に一気に眠気が飛んでしまった刹那は、バチッと音がしそうな勢いで目を開いた。
もし彼の寝顔を覗き込んでいる人がいたら、その人はびっくりして心臓麻痺を起こしていたかもしれない。
そんな目の覚まし方だった。
―ああ、『だからあの人は僕の姉』なのか。
夢を反芻しながら、少し寝ぼけた頭でつらつらとそんなことを考える。
寝ぼけた思考はどんどん飛躍していく。
それにしても、と思う。
呼び覚まされた記憶を見ているわけではなく、あれは間違いなく夢の中で現在進行形で体験を積み重ねていたのだと
刹那は感覚で理解していた。
―そういえば以前あの人は言っていた。『夢の中』では現世の法則は通用しない、と。
なら、あれはやはり現在起こったことなのだろう。そして願いは時空を超越して過去で叶えられているということ……
そこまで考え、刹那は気持ちを切り替えて起きることにした。部屋を出て一階へ降りる。
階段を下りる途中から、トントンという包丁の小気味よい音と味噌汁の香ばしい匂いが届いてきた。
これは刹那の毎朝のひそかな楽しみである。
リビングのドアを開けキッチンに目をやると、そこにはいつもどおり刹那の姉がいた。
白皙の肌に頭の後ろでまとめられた濡れたような黒髪。
袖をまくった白いブラウスに黒のロングスカート。そのうえにオレンジのチェック柄のエプロンをしている。
せわしなく動き、朝食の準備を整えていく。
ふと、その動きを止めて視線を刹那に向ける。
「……おはよう、刹那くん……いい夢が見れた…みたいだね……」
彼女は、今まで夢の中でしか見たことのない色気を帯びた瞳で笑顔を向けた。
その視線が持つ意味はすなわち、夢で結んだ『契約』が、あれで終わりではないことを意味していた―
オワリ
172:『“真紅の女王”の事』
08/06/26 03:25:59 q595Fi/t
以上。投下終了。
ナルさんの正体?
名前が『無い有る』だったり、服装が『真紅の女王』だったり、右目が『燃え盛る三つの瞳』だったりするような方です。
やっぱSSって難しい。っていうか俺にはいろいろ無理。でもまた書きたいなぁ……。
できれば今度は『黄色い衣の王様』あたりで……
それではごきげんよう。ノシ
173:名無しさん@ピンキー
08/06/26 07:49:36 U2NBT0wN
>>172
GJよ
174:名無しさん@ピンキー
08/06/26 09:43:09 fGh1he7l
GJ!
姉属性持ちにはたまらんですわい
175:式神馴らし 2話 中編
08/06/26 22:43:29 swntcSIw
こんばんは
SS投下します
176:式神馴らし 2話 中編 1/5
08/06/26 22:44:02 swntcSIw
>>102-107の続き
差し出された右手を、一ノ葉が掴む。
色白で細い手を、初馬はしっかりと握り返した。
「まずは、立つことから始めるぞ」
「あ、待て」
制止も聞かずに、一ノ葉の腕を引き上げる。腰が持ち上がったところで、素早く両手を
腋の下に差し入れた。そのまま、腰を入れて身体を持ち上げる。
一ノ葉が両足で直立していた。
「は、放すなよ……」
震える足に力を入れながら初馬の肩を掴み、引きつった声音で言ってくる。怯えたよう
に下げられた尻尾。焦げ茶の瞳と狐耳を不安げに動かしていた。
両手に掛かる身体の重さに、初馬は口端を持ち上げる。
「どうだ? 初めて二本足で立った感想は」
「……分からぬ。視線が高くなって気持ち悪い。二本足で立つというのは、思いの外大変
なのだな。今まで二本足で立つなんて考えたこともなかったし、足が震えて倒れそうだ。
絶対に放すなよ……!」
泣きそうな顔で睨んでくる一ノ葉。不安を吐き出すようにまくし立てていた。初めてで
まともに立てるわけもない。初馬が手を放せば、倒れるだろう。
二度ほど首を縦に動かし、初馬は呟いた。
「でも、そう言われると放したくなるのが、俺の性格」
「って!」
一ノ葉が眼を丸くする。
初馬は一ノ葉から手を放し、肩を掴んでいた手を振り解いていた。
「待て待て、待て……うあ、ああ……!」
両手と尻尾を振り回しながら慌てる一ノ葉。支えを失い身体が傾く。反射的に傾いた先
へと足を踏み出すが、逆に踏み出しすぎて逆方向へと傾いた。
「おお、お……?」
口から漏れる気の抜けた声。重心を立て直そうとするものの、平衡感覚もままならない。
一歩飛び跳ねてから、膝が折れる。ぴんと伸びる尻尾。
「ほい」
177:式神馴らし 2話 中編 2/5
08/06/26 22:44:23 swntcSIw
両手を差し出し、初馬は倒れそうな身体を掴んだ。
慌ててしがみついてくる一ノ葉。両腕で初馬に抱きついたまま、額に怒りのマークを浮
かべている。普通は怒るだろう。
「……貴様は何を考えているんだ? ワシをからかって面白いとでもいうのか!」
「うん」
初馬は即答した。
左手で一ノ葉を抱きかかえたまま、右手で頭を撫でる。
「お前は反応が面白いから、からかい甲斐があるんだよ。可愛い女の子にイタズラしたい
というのは、男の本能であるからして、どうにも自制できなくて」
「貴様はぁ……」
口を震わせながら睨んでくる一ノ葉。
この反応が面白く、ついつい意地悪してしまうのだ。狐色の髪を指で梳きながら、初馬
はほんわかとした気持ちで頷いた。
「子供か、子供なのか……ひッ!」
言いかけた一ノ葉の口が止まる。
初馬の右手が狐耳を摘んでいた。髪の毛とは違う柔らかな獣毛に覆われた、大きめの三
角耳。外側が狐色で内側が白、先端が黒い。
「っ……ぁ……は……」
耳を弄る指の動きに合わせて、ぱくぱくと一ノ葉の口が動く。震える舌先、喉から漏れ
るか細い呼吸、引きつったように曲がる尻尾。
二十秒ほど狐耳を楽しんでから、手を放した。にへらと笑いつつ、
「あー、もう。癖になるなぁ、この手触りは」
「ッ、癖になるな!」
左手で初馬に掴まったまま、右手で頬を引っ張る一ノ葉。上がった呼吸と、紅潮した頬。
膝が笑っていて、腕にも力が入っていない。
初馬は一ノ葉の頭を撫でつつ、
「相変わらず敏感なヤツだな。要望があれば、いつでも可愛がってやるのに」
「セクハラも止めろ!」
犬歯を見せて威嚇しながら、一ノ葉が頬を摘む指に力を入れている。平静を装っている
ものの、爪を立てているためさすがに痛い。
初馬は腕を振りほどいて、一歩後ろに下がった。一ノ葉の両二の腕を掴む。細いながら
も引き締まった筋肉が詰まっている。
「さーて、緊張も解けたところだし、歩く練習始めるか」
「絶対本気だっただろ!」
178:式神馴らし 2話 中編 2/5
08/06/26 22:44:53 swntcSIw
初馬の両腕を掴みながら、一ノ葉が怒りの声を上げた。
実のところ、このまま押し倒してしまってもいいかな? とは思ったが、さすがに当初
の目的から外れてしまうので自重することにする。
「じゃ、まずは足踏みから。俺の真似をすればいい」
マイペースに言いながら、初馬は右足を上げて、下ろした。続けて左足を上げて、下ろ
す。その動作を繰り返し、その場で足踏みを始めた。
釣られるように、一ノ葉も足踏みを始める。
「うぅ、難しい……」
喉から漏れる呻き。爪先と踵を少しだけ持ち上げる、頼りない動かし方。片足を上げる
たびにバランスが崩れ、初馬の腕に重さが掛かった。
ワンピースの裾と狐色の髪が不安定に揺れ、尻尾が上下に動いている。
立つのでさえ無理なのに、足踏みはきついだろう。
それでも初馬は元気よく声を上げた。
「もう少し足を高くー。1、2、1、2」
「イち、にィ、いチ、にぃ」
かけ声に釣られて数字を数える一ノ葉。怯えたような擦れ声ながらも、足が徐々に上がっ
ていく。最初は五センチくらいだった高さが、十センチを越えていた。
「その調子その調子」
初馬は励ましの声を掛ける。
元々一ノ葉の身体能力は非常に高く、適応も早い。
そのまま一分、二分と続けるたびに、不安定だった足踏みも形になってきた。最初の頃
は足を上げるたびに左右に揺れていた身体も、しだいに安定してくる。
五分ほども続けると、足踏みも普通の形になっていた。
初馬は右手を持ち上げ、人差し指を立てる。
「じゃ、このまま歩いてみるぞ」
「待て、待て……! もう少し練習させろ」
必死に上腕を掴みながら、一ノ葉が反駁してきた。ぴんと立つ狐耳と尻尾。まだ足踏み
を出来るようになっただけだ。歩くのは早いだろう。
「お前なら大丈夫だ」
179:名無しさん@ピンキー
08/06/26 22:45:16 pNeEzI1g
這い寄る混沌をおねーちゃんにしてしまうとは…GJ。
そいやちと前にあったクトゥルフスレって即死したのかね。
180:式神馴らし 2話 中編 4/5
08/06/26 22:45:16 swntcSIw
しかし、初馬は気にせず後ろに下がる。
まだ足踏みで精一杯の状況で、腕を引き戻すという動作ができない。一ノ葉の身体は引っ
張られるままに、前へと傾いた。
「と、っとぉ!」
咄嗟に右足を突き出し倒れるのを防ぐ。
「やれば出来るじゃないか」
「待てと言ってるだろうに! っお、ととと」
初馬は構わず後ろに歩いていた。
両腕を引っ張られて、半ば倒れるように前に進んでいく一ノ葉。視線が激しく動き回り、
狐耳があちこちに向いていた。必死に周囲の状況を確認しようとしている。
不安げに動く尻尾。狐色の髪とワンピースの裾が揺れていた。
「ええい、止まれ!」
初馬を睨み、声を上げる。
しかし、初馬は涼しげに言い放った。
「大丈夫だろ? 一応歩けてるし」
千鳥足めいた動きながらも、一ノ葉は歩いている。引っ張られていると言っても過言で
はないものの、前へと進んでいるのは事実だった。
「というわけで、とりあえず自力で歩いてみてくれ」
言うなり、初馬は手を放して数歩後退った。
支えを失い、眼を見開く一ノ葉。ぴんと立った尻尾と狐耳。
「ま、待て待て、待って……。お、あああっ」
ばたばたと腕を振り回して、平衡が崩れる。身体が前へと傾いていき、慌ててそちらへ
と足を踏み出した。この動きはさきほどと同じ。
「……うぐぐ」
しかし、今度はバランスを崩すことなく踏みとどまった。左手を頭上に振り上げ、右手
を斜め後ろに向けて、尻尾を左後ろへと伸ばした姿勢。かなり滑稽な姿。
「ぷ」
「そこ、笑うな!」
181:式神馴らし 2話 中編 5/5
08/06/26 22:45:37 swntcSIw
思わず吹き出した初馬に、怒声が飛んでくる。
「すまんすまん」
謝るものの、一ノ葉の注意は既に自分に戻っていた。
「よし、落ち着けワシ。このまま気を付けの姿勢に―」
両腕をゆっくり脇へと下ろしながら、尻尾も下ろしていく。奇妙な体操をしているようにも見え
るが、本人は至って大真面目なのだろう。
両足が並び、両手が下ろされる。尻尾も定位置へと戻った。
落ち着いたようなため息が吐き出される。
パチパチ、と。
初馬は思わず拍手をしていた。
「おー、上出来。じゃ、歩いてみようか」
「言われるまでもない!」
気丈に言い捨ててから、一ノ葉は左足を前に踏み出した。左足を持ち上げながら重心を
前方へと移動させつつ、五十センチほど前に足を下ろし倒れるのを防ぐ。人間が無意識下
で行っている極めて複雑な動作。
続いて右足を軽く後ろに蹴り込みながら、再び重心を前に移動させる。
「あ……」
一ノ葉の顔に浮かぶ当惑。蹴り込みが強すぎたらしい。対処できない速度で重心が前へ
と移動していく。人間なら咄嗟に歩幅で修正するのだが、そうはいかない。
何とか右足を踏み出してみるものの、蹴り込みの勢いを殺すには至らない。すがるよう
な眼差しを向けてくる一ノ葉。泣き笑いのような顔。
「ふべ……!」
そして、顔面から芝生に突っ込んだ。
両手を伸ばし、受け身も取れずうつ伏せに倒れる。
ぴんと伸ばされた尻尾。ふわりと跳ねたワンピースの裾が、尻尾をすり抜け背中まで捲れ
ていた。太股からショーツ、尻尾の付け根、後ろ腰まで丸見えになっている。
三秒ほどしてくたりと萎れる尻尾。
初馬は両腕を組み、沈痛な面持ちでかぶりを振った。
「痛そうだ」
「痛いに決まってるだろうが!」
顔を跳ね上げ、一ノ葉が叫んでくる。
182:名無しさん@ピンキー
08/06/26 22:46:31 swntcSIw
以上です
次回はそのうち。
多分一週間後くらい?
183:名無しさん@ピンキー
08/06/26 22:48:00 swntcSIw
あと質問
この文章形式は読みやすい? 読みにくい?
184:名無しさん@ピンキー
08/06/26 23:02:15 sSxgteWU
今回もGJでした。次回期待しています
読みやすいか読みにくいかは、人によるかと思う。
最近はたぶん、あなたの文章形式の方が読みやすいとする人が多いんだろうけど
正直、俺は読みづらい。
だけど気にする必要はないかと。書いた通り、人によるので。
185:名無しさん@ピンキー
08/06/26 23:14:26 p/rcQT0C
ひでぼんの書を思い出した
186:コマネコ その1
08/06/27 01:13:24 3ufy6tpG
雨がしとしとと降っている。 湿っぽい。
依頼を受けて来てみたものの、どうにもこうにも廃村というものは気味が悪い。
辺りに明かりらしき明かりはなく、いくつもの潰れそうな小屋やそこら中にぼうぼうと茂った草木。
聞こえてくる音は風の唸る音とそれによって擦りあう葉の音だけ。
小屋の一つ一つの窓からこちらを見られている気がしてどうにもこうにも落ち着かない。
依頼内容はこういうもの。
「最近、ある妖怪が人を騙しては八つ裂きにするという事件が多発している。~~という廃村は知っているか?
どうやらそこにそいつの『ねぐら』があるらしい。君にはそこに行ってそいつを退治・・
まぁ、殺しても良いが、どうにか人を襲わないようにでもしてきてほしいのだ」
よくもまぁ、簡単に言ってくれる。
人を騙せるほど知恵があり、尚且つ人を八つ裂きにできるほどの力を持った妖怪。
そんなものを『人を襲わないようにしろ』だなんて、どうすりゃいいのだ。
一回や二回、躾がてらに退治をした程度じゃ言うことを素直に聞いて貰えるとは思えない、
かといって単純に考えれば、殺すしかないのだろうか。
いやいや、殺すのは俺の性に合わない、ここは何とかトンチを利かせて・・。
かさっ。
「!」
187:コマネコ その2
08/06/27 01:14:45 3ufy6tpG
確かに聞こえた。 何かが動いた音。
「・・・」
咄嗟に身構え、こちらを気取られぬよう息を殺すがそれ以降、相手の動きが見えない。
しばしの沈黙。
もしかしたら、ただのネズミの類だったかもしれない。
だとしたら、俺の勘も鈍ったものだ。
かさかさっ、がさっ。
「!?」
音がまた聞こえてきた。 今度は音が大きい。
それどころか近づいてくるような音。
がさがさがさがさがさっ!!
「(来るかっ!?)」
がさっ。
『にゃー』
「あらっ・・?」
拍子抜けである。どうやら、本格的に勘が鈍ったらしい。
ぼうぼうと茂った草の根元から、ひょっこりと顔を出したもの。
それはツヤツヤとした黒毛の猫だった。
かすかな月の光で目を爛々と光らせ、こちらを見ている。
「なんだ、驚かすなよ、ほら、チチチッ…。」
しゃがみ込んで、指を出しておいでおいでをする。
案外人懐っこい猫なのか、特に物怖じせずにこちらまでトタタっと駆け寄ってくる。
『にゃー?』
「ごめんな、今はオヤツなんて持ってないんだ」
188:コマネコ その3
08/06/27 01:16:25 3ufy6tpG
『にゃー』
どうやらすごく人懐っこいらしい。
俺の足元にぐしぐしと頭をこすり付けている。
「ははは、可愛いなお前、ん…?」
気のせいだろうか、この猫から何か『気』のようなものが洩れている。
「(いや、気のせいじゃないっ!!)」
俺は転がるようにして『そいつ』から飛び退く!
「お前、もしかして『すねこすり』かっ!?」
体勢を立て直して、『そいつ』に問いかける。
『にゃー?』
「おおよその正体はわかっているんだ…、それ以上とぼけるようなら一度、術で…」
右手でぎっ、と「形」を作る。
すると、黒猫の形をした『そいつ』がこちらを見据えたまま口を開いた。
『勘は良いみたいですけどぉ、残念ですね、私は『すねこすり』ではないんですよぅ』
その流れで、あんな犬もどきと一緒にしないでください、と付け加える。
体は猫なのに人のように喋られると違和感がある。
「お前は一体・・」
何者なんだ、と聴こうとしたところで
『まずはご自分から名乗ってはいかがです?』
もっともなことを言われた。
妖怪(?)に対してでも礼儀は持つべきだ。
「俺の名前は・・『狗牙』(くーが)。 まぁ本名ではないが通り名みたいなもんだ」
『くーが…。 あぁ、わかりました! あの何だかっていう機関の人ですねっ!』
随分楽しそうだが、とりあえず名乗って欲しい。
『んふふふー、失礼しましたー。 私の名前は『コマ』と言いますっ。』
189:コマネコの人
08/06/27 01:22:19 3ufy6tpG
九十九神のSSの得ろ部分を書こうとしていたんだ・・。
気付いたら、流れ込んできていた何かを書いていたんだ・・。
(とりあえず、続くよ)
ここに投稿した以上はエロまで書くよ。
正確にはエロまで書いてはいるけど、中途半端に止まっているから
書き下ろしたら投稿するよ。
がんばるよ。
190:名無しさん@ピンキー
08/06/27 01:59:11 EnNDPHO6
>>189
投稿することで自らを追い詰め、より完成度を高めようというのか……なんという背水の陣。
続き期待してるぜ。
あと書いてる途中で別のネタが浮かんで、そっちに集中してしまうなんてロスじゃ日常茶飯事だぜ!
191:名無しさん@ピンキー
08/06/27 11:49:29 x6gtxKPq
>>175
一の葉かわいいよ一の葉
個人的にはかなり読みやすいっす。PCから読んでると適度に空行があった方が一息いれつつ読めるので
>>186
わたし待つわ いつまでも待つわ
なぁに、自分の妄想でニヤニヤしてる俺キメぇで止まるよりはずっとマシさ!
192:名無しさん@ピンキー
08/06/27 13:26:31 Fxx6fhzj
この世のすべての乙とGJをあなたに贈ります
193:名無しさん@ピンキー
08/06/27 21:26:00 7rEptEeo
コマと聞くと足洗邸の住人を思い出すw
194:名無しさん@ピンキー
08/06/27 21:51:19 sZWp9Khm
>>191
一ノ葉だ、一ノ葉!
「の」はひらがなでなく、カタカナで「ノ」だ!
195:名無しさん@ピンキー
08/06/27 22:33:38 EnNDPHO6
>>193
ん、飴ちゃんやろ。
足洗邸は血の人もエロかったが、毛の人はもっとエロかったなぁ。
196:名無しさん@ピンキー
08/06/29 16:59:27 vqZHHjnE
・清純派淫魔
・淫天使
・九尾の雪狐
197:名無しさん@ピンキー
08/06/29 19:49:23 IOQIpUhM
・出血に弱い吸血鬼
・冷え性の雪女
198:保守小ネタ
08/06/29 20:15:39 CTxU5czb
>冷え性の雪女
「……うー、さぶっ」
「何と言うべきか……お前って何だったっけ?」
「なによ。雪女よ。それがどうかした?」
「……いや、今6月だよな、って思ってさ」
「そうね。毎日ジメジメしてやんなっちゃう」
「……そりゃ、そんなのの中に入ってたらジメジメもすんだろ」
「何か文句あるの?」
「主に電気代的に文句はあるな。……とりあえず、出ろ、そのコタツから」
「横暴だー! 私が冷え性だって知ってての狼藉!?」
「冷え性の雪女なんか聞いたことねえよっ!? しかも冷え性って
レベルじゃねえ! なんだ六月にコタツに潜って『さぶっ』って
言ってる雪女って!?」
「……駄目よ、目の前の現実を受け入れなきゃ。ねっ?」
「『ねっ?』じゃねえっ! とりあえず、電気代かさむし、いい加減それは
片付けさせてもらうからな。寒いのは厚着とかで何とかしろ」
「酷いっ!?」
「……俺も、クーラーつけるのは我慢するから」
「……うぅ~」
「な?」
「仕方が無いわねっ! ……じゃあ、とりあえず今日の所は」
「今日の所は?」
「人肌で暖めてもらいましょうか」
「……ったくしゃーねーな」
「んっ……やっぱりお前のここ、冷たいな」
「んぁぅっ! い、いきなり入れないでよ……もっと、ゆっくり……」
「こうやって繋がってる時じゃないと、お前が雪女だって事、
忘れそうになっちまうな」
「……じゃあ、たまに吹雪吹こうか?」
「いらんわっ!」
「冗談よ。私が雪女だとか、そういう事はどうでもいい事よ。
大事なのは……」
「俺がお前を好きで、お前が俺を好きな事、だろ?」
「……い、言われると恥ずかしいもんね、そういう台詞」
「言ってる方は恥ずかしくなかったのか? 俺、結構恥ずいぞ……」
「……恋は盲目?」
「じゃあ俺はお前にもう恋してないってことですかい」
「何言ってんのよ……恋は終わって、今はもう……愛して、くれてるから」
「……またそういう恥ずかしい事を」
「うん……今のはちょっと恥ずかしかった。えへ」
「じゃあ、お前も俺を愛してくれてるって事だな?」
「……当たり前じゃない」
「……そっか」
「……」
「……」
「そろそろ、動いても大丈夫か?」
「う、うん……もう大丈夫。っていうか前戯してから入れてくれたら
いつもこうやって待たせることも無いんだけど……」
「だって、それじゃ温くなって、よく冷えたお前のアソコを味わえないだろ?」
「……普通温かい方がいいんじゃないの?」
「俺は好きなんだよ……お前の冷たいアソコが、さ」
「変な人」
「そりゃ、雪女を嫁にしようってんだ……変人じゃなきゃ勤まらん」
「そうかもね……あんっ!」
「じゃ、しっかり温めてやるから……覚悟しとけよ!」
「う、うん……ひあぅっ、あっ、ひぃん……よろしく、ね……んっぁ!?」
こうして、夜は更けていくのであった。 おわりー
199:名無しさん@ピンキー
08/06/29 20:44:44 JdVravxK
>>198
GJ
か、かわいいぞw雪女
200:コマネコ その4
08/06/30 02:50:41 WfNSUy6a
「俺がここに来た察しはついているな?」
念を押して聴いてみる。
『…なんのことですかぁ?』
くいっと首を傾けて?マークを頭の上に出すコマ。
「何度も言わせないでくれ、『とぼけるな』」
『そんなこと言われましても、知らないと言ったら…』
そこまで言ってコマが突如視界から消えた。
『知らないのですよっ!!』
声のする方向に振り向くと、猫の手には不釣り合いな大きさの爪をこちらの顔面目掛けて振り下ろそうとするコマの姿。
「ぬぉっ!?」
『あぁ、避けちゃ駄目ですよぅっ!』
間一髪、爪が鼻先をかすめたが、とりあえず避けることには成功したようだ。
「不意打ちは卑怯じゃないか?」
『列記とした戦術ですよぅ~♪』
コマとまともにやりあってもやりづらい、動きを止めるか。
コマを見失わないよう、見据えたまま自分の腰についている呪符ホルダーに手を伸ばす。
伸ばす。 伸ばす。 伸ばす・・?
「あれ・・。」
しまった、どこかで落としたか…?
『お探しのものは、これですかぁ?』
コマが足で「ぽむっ」と踏みつけたもの、それはまさしく俺が探していた呪符ホルダー。
『これで私の動きを止めようって言うのですね~』
コマが楽しそうな声で喋りながら、まるで毛糸玉で遊ぶ猫のように呪符ホルダーをぺしぺしと弄ぶ。
「くっ…」
まぁいい、武器はまだある。
なにかあったかなとウェストバッグに手を伸ばそうとした時、コマがその動きを静止する。
201:コマネコ その5
08/06/30 02:51:24 WfNSUy6a
『あぁん、動かないでくださいよぅ?』
コマの体から「ガカッ!」と怪しい光が放たれ、目を眩ませられる。
『下手に動かれたら困りますから…んふふっ♪』
目が急な明るさに慣れて、周りのものが見えるようになった時、目の前にいたものは『黒猫』から『若い女性』に変化を遂げていた。
年齢は18ぐらい、背は160ぐらい、少し長めでツヤツヤと光る黒髪を下げ、白い和服を着ている女性。
頭に猫のような耳を生やし、着物から飛び出るように尻尾が生えている。
胸は少し大きいぐらいで総合的に見て中々良いスタイルをして…
『くーがさんはエッチなのですねぇ~、私の人間体(にんげんたい)、そんなに好きになっちゃいましたか?』
言われて我に返る。
「くそっ、チャーム(魅了)か何かだな!?」
『失礼な、まだ使ってませんよぅ~!』
猫の時からそうだったが、やけに楽しそうに喋る。
というか、使えるのか、チャーム。
『さぁて、どうでしょうかね♪』
手の内を探ろうとしても無駄のようだ。
『さてと、ど・れ・に・し・よ・う・か・な…?』
あの、なにをやられておられます?
『なにって、呪符を選んでいるのですよぅー、見てわかりません?』
「それはわかっている。その俺の呪符をどうするつもりなんだ」
『いやぁ、私、呪符って話には聞いていたり、使われたりしたことはあるのですけど』
「ふむ」
『いざ本物を手に入れてしまうと』
「ふむ」
コマが呪符の一枚を「ぴっ」と二本指で挟むようにして抜き出す。
『使ってみたくなっちゃって♪』
「!」
ドゴッン!!
呪符が光り、音が鳴ったと思った途端、俺の後ろにあった木造家屋がガラガラと音を立てて崩れてゆく。
あまりの破壊力に俺も驚きだが、一番驚いているのはそれを放ったコマ自身だった。
『す、すごいですね…コレ』
202:コマネコ その6
08/06/30 02:52:37 WfNSUy6a
まずいものを敵の手に渡してしまったかもしれない。
呪符は札に術の簡略式が書いてあるものなので、ちょっと起因力を与えることが出来るヤツなら誰でも使用が出来る。
それに加えて、ここに来るために揃えた呪符は万全を期して強力なものを用意した。
あの初発を貰っていたら、完全にアウトだったな。
『えーと、じゃあ次の呪符は~っと♪』
おいおい、待てよ、完全に味をしめてるよ。
「ちぃっ!」
三十六系、逃げるにしかず! 出直しだ!
『あ、待ってくださいよぅ、これなんていかがですかー?』
びかっ、チュインッ! ずざざざざざざっ!!
「おい、なんかレーザーみたいなの出てるぞ!?」
『すっごーい!』
びかっ、ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
「危ねぇっ! 地面が割れ始めた!!」
『んー、もうっちょこまかと!』
びかっ!! パシンっ!
「しまった!!」
ツタのようなもので絡め取られる手足。そのままX字(垂直方向)に固定されてしまう。
捕縛用の呪符!? 今までの呪符は完全に囮として使っていたというのか!!
『やったぁっ、ラッキーですよぅ~♪』
割と適当に使っていたらしい。
『残念ですねぇ、もうちょぉっと楽しめるかなぁ、と思っていたのですけど…んふふ』
ふんふふ~ん♪と鼻歌まじりにこちらに悠々と近寄ってくるコマ。
「来るなっ!」
『釣れないですねぇ…、結構私好みなのにぃ』
嬉しそうなのか、残念そうなのか微妙な顔をする。
『まぁ、どちらにせよ、ここで死んでもらうのですけどねぇ…』
203:コマネコ その7
08/06/30 02:54:04 WfNSUy6a
コマが一枚の呪符を構える。
その呪符に記された文字、『破壊』。
「おい、よせ、その呪符はやめておけっ!」
『えー、なんでですかー、こんなに強そうなのにぃ…』
「そんなのを使ったら、俺の存在そのものが吹飛ぶ!!」
『好都合じゃないですかっ☆ んふふ♪』
コマが嬉しそうに呪符をこちらに向ける。
「お、おい、ほんとに、やめ・・」
『コレで…さよならですっ!!』
びか――っ!!
・
・・
・・・
『あれ・・?』
中々発動しない呪符を疑問に思い、呪符に顔を近づけるコマ。
その時!!
ドゴンッ!!
『う、うにゃぁーっ!?』
呪符から出た衝撃波はコマの顔面に直撃した。
それと同時に俺にかかっていた捕縛用の『呪』が解ける。
「だから、言っただろ、『やめておけ』ってな」
コマの意識はここで飛ぶ。
――30分後
『ん…んにゃっ…?』
むずがゆそうに目を覚ますコマ。
ぎしっ…!
猫特有の顔を洗う行動を取ろうとして腕を動かそうとするが全く動かない。
腕どころか足も動かない。
見れば、コマはさきほど自分が「してやった」、『X字で拘束される』捕縛用の「呪」にかかっていたのである。
「お目覚めかい、コマとやら?」
コマを覗き込むような形でわざとらしく語りかける。
204:コマネコの人
08/06/30 02:57:49 WfNSUy6a
とりあえず、今日はここまで。
あんまり連投もよくないだろうしね!
察しの良い人はわかってるかもしれないけど、そろそろだよ!
205:名無しさん@ピンキー
08/06/30 07:48:07 +dczXWGR
GJ
ついコマネチと読み違えてしまう
206:名無しさん@ピンキー
08/07/01 20:59:59 OaGeorkB
GJ!
そろそろ服脱ぐか…。
>>205
ちょww不覚にもwww
207:名無しさん@ピンキー
08/07/02 21:07:49 /JTMJQkq
投下いい?
208:式神馴らし 2話 後編
08/07/02 21:26:22 /JTMJQkq
>>176-182の続き
初馬は腕組みを解いてから、右手で顎を撫でた。
「いきなり歩けと言うのも、無茶な気がする」
「当たり前だろ」
率直な感想に、一ノ葉が率直な意見を返す。
尻尾を持ち上げてから、両腕を地面についた。足を引きながら上体を持ち上げ、その場
に腰を下ろす。最初の恰好。以前なら起き上がることもできなかった。これは十分に成長
と言えるだろう。
「まったく。もう少し考えてから行動しろ」
座ったまま、睨み上げてくる一ノ葉。
「そもそもワシが人間の姿でいることに、何か必要性でもあるというのか? 誰かに見せ
るわけでもあるまい。ワシは最初から狐なんだぞ?」
「うん。ないな……」
初馬は考えることもなく頷いた。人間の姿になった一ノ葉を式神として使うことは考え
ていない。当然だが、本来の狐の姿が最も力を発揮できるのだ。
一ノ葉が目付きを険しくする。
「ただの思い付きか?」
「うむ……。お前を買い物にでも連れて行ってやろうかと考えてたんだが。キツネの姿の
まま人前に連れ出すわけにもいかないし、ずっと家に籠もってるのも退屈だろ」
視線を逸らして初馬は答えた。
実家の式神は仕事の無い時、人間に化けて遊びに出掛けたりしている。しかし、一ノ葉
は自分で化けられないし、人間の身体の動かし方も知らないので、自由に外には出歩けな
い。ずっと家に閉じこもっているのも身体に悪い。
「何を企んでおる?」
狐色の眉毛を傾け、一ノ葉が胡乱げな眼差しを向けてくる。ぴんと立てられた狐耳と、
リズムを取るように左右に揺れる尻尾。一種の威嚇だった。
初馬は頭を掻きながら、苦笑する。
「信用ないなぁ、俺……」
「信用も何も―貴様がどうやってワシを式神したのか、まさか覚えていないわけではあ
るまい? 一週間も経っていないのだからな」
一ノ葉が不敵に笑った。挑発するような獰猛な表情。
あの時、本気で戦っていたらもう少し素直になっていただろう。しかし、冗談のような
罠にはまってあっさりと屈服してしまった。戦いはコミュニケーションであるという、誰
かの言葉を思い出す。
209:式神馴らし 2話 後編 2/5
08/07/02 21:26:55 /JTMJQkq
「分かったら、さっさと変化を解け」
一ノ葉の言葉に、初馬はぽりぽりと頬を掻いた。
ふと脳裏に閃いた思いつきにぽんと手を打つ。
「そうだ、アレやってみよう」
「……アレって何だ?」
囁くような問い。
初馬は数歩下がって、両手を向かい合わせた。両手で印を結んでいく。教えられてはい
たものの、今まで一度も使う機会のなかった術。
「だから、貴様は何をやろうとしている!」
声を荒げる一ノ葉。両手を地面に突いて起き上がろうとするものの、座った常態から立
ち上がる方法が分からない。膝を動かしたり腰を持ち上げたり。
「大丈夫だ。痛くはないから」
「ええい、思いつきで変なコトするのは止めろ!」
一ノ葉が声を上げた時には、術が完成していた。
右手の中指と人差し指を伸ばした刀印を一ノ葉に向け、
「式操りの術!」
「ッ……」
肩が跳ねる。
驚いたように自分の身体を見下ろす一ノ葉。
「式操りの術……?」
狼狽えた声。
自分の使役する式神との感覚共有を行い、自分の身体を動かすような感覚で式神を自在
に操る術。共有の度合いによって、使い道が色々変わる。知っていても意外と使わない術
でもあるのだが。
「何をするつもりだ?」
探るように眼を細める一ノ葉に対し。
初馬は人差し指を立てた。
「いちいち俺が教えるより、実際に歩いてみる方が手っ取り早いからな。習うよりも慣れ
ろとも言うし。それに単純に俺もこの術に興味がある」
告げてから右手で印を結ぶ。意識を集中させると、一ノ葉の感覚が流れ込んできた。そ
れほど強い共有ではないが、身体を動かすことはできるだろう。
一ノ葉がその場に両手を突いた。
210:式神馴らし 2話 後編 3/5
08/07/02 21:27:25 /JTMJQkq
「ん?」
眉根を寄せる。自分の意思による動きではない。初馬が式操りの術を通して、一ノ葉の
身体を操っていた。手を突いた感触が伝わってくる。予想はしていたが、他人の感覚は現
実味のないものだった。
「下手に逆らうと転ぶから、大人しくしてろよ」
初馬は一ノ葉を見つめた。
両手を突いて膝を折り、地面に足裏を付け、そのまま膝と腰を伸ばして立ち上がる。言
われた通り抵抗はしない。転ぶのは嫌だろう。
「なるほどな」
一ノ葉が頷く。不満そうに。
勝手に歩き出す足。右足と左足を交互に動かし、両手腕を振り、前へと進む。左右に揺
れる尻尾。それは今までとは違う慣れた動きだった。
足運びの感覚と、尻尾の左右に揺れる感覚、腕を振る感覚が伝わってくる。
六歩進んで、初馬の前までたどり着き、一ノ葉は足を止めた。両手を下ろした緩い気を
付けの姿勢。自分の意思ではないが。
「どうだ、自分で歩く感覚ってのは? 少しは理解できたか?」
「まあな」
一ノ葉は答えた。
「実際に動いてみると分かる。重心の運びは、ワシが思っていた以上に難しい。普段気楽
に歩いている人間も、かなり複雑な動作をしているのだな」
感心したように足を見つめてくる。
人間の足運びや重心移動は、それだけで論文が書けるほどの複雑さだ。人型ロボットが
歩けるようになるまで数十年の月日を要したのは、有名な話である。現在でも軽く走った
り、階段を昇ったりすることしか出来ていない。
初馬は印を解かずに左手を差し出した。
「このままアパートまで帰るぞ」
「いい加減、変化を解け。あと勝手に人の身体動かすな……」
半眼で呻く一ノ葉。他人に身体を動かされるのは気にくわないだろう。一ノ葉は他人に
干渉されるのを嫌う。ましてや身体を支配されるのは、もっと嫌だろう。
しかし、初馬は気にせず言った。
「アパートまでは歩いて十分くらい。お前は物覚えが早いから、歩くって感覚も理解でき
るだろうし、俺も女の子と手を繋いで帰りたいと思ってたし」
211:式神馴らし 2話 後編 4/5
08/07/02 21:27:49 /JTMJQkq
一ノ葉の右手が上がり、初馬の左手に重なる。
その手を握り締め、初馬は右手の印を解いた。直接触れて居れば印を結んでいなくとも
動かすことができる。芝生に張った結界を解いてから、並んで歩き出した。
「晩飯は何にするかなぁ」
そんなことを良いながら公園を横切り、道路へと出る。
日没前の薄暗い道。人のいなくなる時間には早いが、幸い人はいない。一ノ葉にかけた
隠れ蓑の術はまだ有効なので、見つかる心配はない。
住宅街の道を歩きながら、初馬はほんわかと笑った。
「あぁ、幸せ―」
左手でしっかりと一ノ葉の手を握り締める。暖かな人のぬくもりと、細く柔らかい女の
子の感触。足の動きに合わせて前後に動いていた。
呆れたような一ノ葉の呟き。
「女と一緒に歩くだけで幸せになれるとは、単純な男だな」
「可愛い女の子と手を繋ぎながら気ままに帰る―若い男として、これ以上の幸せがある
とでもいうのか? 今感動で泣きそうだぞ、俺」
初馬は真顔で言い切った。可愛い女の子と手を繋いで帰るという漫画のような一コマ。
このような体験を出来る人間は、それこそ一握りだろう。
「貴様は……」
目蓋と尻尾を下ろし、明らかに引いている一ノ葉。
初馬はこほんと咳払いをして、
「それより、尻尾って変な感覚なんだな」
術式を介して一ノ葉から流れ込んでくる感覚。足を進めるたびに左右に揺れる尻尾と、
狐色の毛に覆われた芯、根本に感じる尻尾の動き。
どれも現実味のないものだが、奇妙なものである。
一ノ葉が小さく鼻を鳴らした。狐耳が跳ねる。
「ワシにとっては人間の感覚全般が変なものだがな。まったく……。早く変化を解いて元
の姿に戻せ。狐の姿が一番落ち着くのに」
「それに胸も意外と邪魔なんだな」
初馬の呟きとともに、一ノ葉の左手が自分の胸を撫でる。そこはかとなくイヤらしい動
き。一ノ葉がそうしているのではなく、初馬が動かしているのだが。
現実感がないものの、手の感覚も伝わってくる。
手の平に感じる生地の手触りと、柔らかく張りのある膨らみ。歩くたびに微かに揺れて
いた。胸に重りを付けているという表現は、あながち間違いではないだろう。
212:式神馴らし 2話 後編 5/5
08/07/02 21:28:13 /JTMJQkq
「……喉笛噛み千切っていいか?」
犬歯を剥いて睨んでくる一ノ葉。
左手が降りる。さすがにやり過ぎたらしい。
「ははは」
初馬は明後日の方に向かって笑ってから、話題を変えた。
「しかし、式操りの術も成功してよかった。失敗することも覚悟してたんだけど、予想よ
りも上手くいったし、これなら色々と面白いことも出来そうだし」
「何を企んでおる?」
一ノ葉が眉を寄せる。他人の身体を自由に操ること。その気になれば、色々なことがで
きる。一ノ葉にとってそれはぞっとしない。
初馬は答えず、別のことを言った。
「晩飯何にするかな?」
「だから、何を企んでおる!」
一ノ葉が声を荒げた。
「秘密、秘密。あとそろそろいいかな?」
初馬は頷いてから、左手を放した。
「とりあえず、解除」
「ッ!」
操作を解除され、足をもつれさせる一ノ葉。狐耳がぴんと立ち、尻尾が伸びる。多少で
あれ歩く感覚を理解したためか、いきなり倒れることはなかった。
しかし、そのまま歩くことも出来ず、慌てて初馬の左腕にしがみつく。
「いきなり何をする! 転ぶところだったぞ」
「この方がいい」
左腕に掛かる一ノ葉の重さを味わいながら、初馬は答えた。手を握って歩くよりも、腕
を組んで歩く方が嬉しい。これは個人の好みだろうが。
諦めの表情で歩きながら、一ノ葉が呻く。
「貴様は……つくづくアホだな」
213:名無しさん@ピンキー
08/07/02 21:30:13 /JTMJQkq
以上です
式神馴らし 2話 終了
3話、4話のネタは既に考えていますが、
投下は多分数週間後になります。
214:名無しさん@ピンキー
08/07/03 01:22:36 D4vSMLO1
>>213
GJっした。次回楽しみにしてますよー。
一ノ葉の外見が俺の中ではすっかりシャオムゥだ…
215:名無しさん@ピンキー
08/07/03 07:23:44 XnZo1jG6
俺の設定
一ノ葉=狐なホロ
初馬=日本人なロレンス
216:名無しさん@ピンキー
08/07/03 08:11:09 1T9t4Hs6
>>215
作者は違うと言ってるが
ホロとロレンスを意識しているのは明白
217:名無しさん@ピンキー
08/07/03 16:41:24 cVc4z6ao
ホロとロレンスがわからんかった俺が恥ずかしい
ググってみたけどアニメのキャラなのね
218:名無しさん@ピンキー
08/07/03 17:47:01 td0XcCj4
母性全開の狐妖怪と狼妖怪と生活したい
219:名無しさん@ピンキー
08/07/03 19:51:04 q0DuWKCD
式操りの術で何をするんだろう?
wktkが止まらない
220:名無しさん@ピンキー
08/07/03 21:39:45 F1v/Qvng
wktk wktk
221:コマネコの人
08/07/04 23:57:38 Lo77ax+r
他の人の小説でwktkしてるところに水をさすかもしれぬが、
続き投稿してもよかと?
とりあえず30分後くらいに前の続き投稿します。
いや、駄目って言われても投稿しますけどね…。
222:名無しさん@ピンキー
08/07/05 00:03:52 VwLVyEvc
おk
223:コマネコの人
08/07/05 00:29:54 aD9dlPaN
したらば、投稿するよ。
ちょっと長いかも…。
224:コマネコ その8
08/07/05 00:30:40 aD9dlPaN
『こ、ここここれはどういうことですか!』
「なにが?」
『さ、さっき私はトドメの一撃をあなたに使おうとして…!』
「あぁ、あれはだな」
簡単に話せばこうだ。
呪符(武器)を使う上において、それを奪われて相手に使われるという事態は強力な武器であるほど避けておきたい事態である。
そのため、呪符ホルダーにはあらかじめ3枚に1枚ぐらいの割合で自分だけがわかるような『ダミー』を潜ませており、その『ダミー』が使用されると、全ての「呪術的要素」がリセットされ、同時に使用者に気絶程度のダメージを与えるのである。
『な、ななな…ずるいですよ、卑怯ですよ!!』
「俺はちゃんと忠告していたんだからな?」
『う、うぐぐぐ、こうなったら…』
「変化すれば、猫に戻った分、小さくなれるから、その流れで捕縛から逃れられると思ったか?」
『ぇ、ぁ、ぁれ、変化できないですよぅ!?』
コマが目に見えて焦り始める。
「ちょぉっとばかし、お前の首に俺特製の『飼い猫の首輪』をつけさせてもらった」
『なんですかぁ、それぇ!』
コマが首を横にブンブンと振ると、首輪についた小さな鈴がチリチリと鳴った。
「それはな、お前の能力を制御するためにつけた。今のお前は俺がそれに許可を出さない限り人並みの女の子と同じ状態にあると言って良いだろう」
『はーずーしーてーくーだーさーいー!!』
チリチリチリリリチリリ。
コマがブンブンと体を動かそうとするが、がっちりと拘束されているため揺れ動く程度にしか動かない。
「まぁ、落ち着けって」
コマののど元を軽く、くすぐってやる。
『…んにゃっ、ごろごろ。…ってやめてくださいよっ!』
若干、目が細まっていたところを見ると、割と気持ちよかったのかもしれない。
225:コマネコ その9
08/07/05 00:32:00 aD9dlPaN
「まぁ、兎も角として、一応、俺の立場上お前を退治せにゃならんわけだが…」
『や、やめてくださいよぅ! 私何も悪いことして…んにゃっ!?』
コマの体がビクンッとエビのように腰から跳ねる。
「どうした?」
『な、なんでもないですよっ! …あにゃぁっ!?』
また跳ねた。 絶対何かあるな。
隠し方も切羽詰っているように感じる。
「やっぱり何かあるな?」
『い、いま、私が変化してからどれぐらい経ちましたんにゃぁんっ!? 経ちましたかぁっ!?』
「ん、あ、時間? そうだな最初の変化からは大体40分くらいかな…?」
そう言っている間にもコマの体はビクン、ビクンと跳ね続ける。
ほんのりとだが、顔も赤らんでいる気がする。
『そ、そんなに長い時間…』
「どうしたんだ、事情を話してくれれば助けにならんでもないぞ?」
コマの顔が一層赤みを増した。
『そ、そんなこと私の、ゃぁぁっ…言えるわけ、んにゃぁ…』
な、なんだ、急に色っぽい声を出し始めた。
「へ、変な声出すな! また何か企んでるのか!?」
『ち、ちがっ、ごろごろ…わたひっ、わたひぃ…にゃぁぁ…』
色っぽいと思ったら、急に切なそうな声になり始めた。
『さわってぇ…、お願いですから、触って下さぃぃ…切ないんですぅぅ』
「ば、ばか、なに言ってんだ、おまえは! 少しは場っていうものをだなっ!」
『言いますぅ…正直に言いまひゅかりゃぁ…』
なんのことだ。
『わ、わたひ、長いこと人間になってりゅとぉ…』
ふむ。
『は、はっ、発情しちゃうんれすぅぅ…んぁぁぁっ!?』
あぁ、つまり今の状態は物凄く疼いてしょうがないのだけど、自分では動けないからどうしようもない、という状況か。
良いことを聴いたかもしれない。
これを上手く利用すれば『約束』ぐらいは結べそうだ。
『ひゃ、ひゃぅっ…うにゃぁぁっ!?』
ちょっと耳に息を吹きかけただけなのにこの反応。 いけるな。
「コマよ、何とかしてやっても良いぞ」
『ほ、ほんろれすかぁっ!?』
「ただし条件がある」
『にゃ、にゃんでもいいれふぅ、ひゃやきゅどうにかしてくらひゃぃぃ…!』
「その言葉、二言はないな?」
『ないれふ、ないれふきゃらぁぁぁっ! ひゃやきゅぅぅっ!!』
「心縛術・口約束!!(しんばくじゅつ・くちやくそく)」
途端にコマの体を光が包み込む。
『な、なんれふかぁっ、これ、なんれふぅぅぅ!?』
一瞬、物凄い勢いで光ったかと思うと、それはすぐに霧散してしまった。
『はぁっ…はぁっはぁっ…』
「少し収まったか?」
『な、なんとか・・んぁぅっ!?』
多少の制御術じゃどうにもならんな…。
かと言って相手の意思も尊重せにゃ…
『い、良いですよ…?』
え?
『くーがさん、気を使ってくれなくても…』
「いや、しかしだな、あまりこういう状況になれていないから…」
『い、いいのですっ、この疼きを止めて下さるならどんなことだって甘んじて受け入れます…』
「んーむ…」
『は、はやくしな・・いと・・また来ちゃっ・・来ちゃっ・・・ふにゃぁぁぁんっ!?』
「わ、わわわ、わかった、何とかやってみる!」
と言っても性的欲求による疼きを沈めるって言ったら、アレが最善策だろうが…。
『はやくぅぅ…』
ごくり・・・。
「えぇぃ、ままよ!!」
226:コマネコ その10
08/07/05 00:34:34 aD9dlPaN
コマの着物の帯をしゅるりと外してやる。
帯をそのまま地面に落とし、着物の前をはだけてやると、コマの肌はほんのりと紅潮し、その上、うっすらと汗で濡れていた。
苦しそうに上下する胸、心臓の鼓動が強いのかコマの胸は一定のリズムでふるふると揺れていた。
出来るだけ気が迷わないように、俺はまっすぐコマの胸に手を伸ばした。
その手をコマは切なげとも懇願しているとも取れる目で今か今かと誘っていた。
『はぅっ…』
俺の掌がコマの胸に覆いかぶさったとき、コマはぴくりと体を揺らした。
コマの胸は心地良く吸い付くような手触りで、出来ることなら思いのままに堪能したいところだったが、俺は出来るだけ優しく、ゆるやかに、コマをいたわるようにやわやわと揉みこんでいった。
事情が事情だ、欲望のままに、なんて手荒なことはしたくない。
『ふにゃぁぁっ……はふっ、はぁぁぁっ…』
コマの体が俺の揉みこみに合わせて妖艶な舞いを見せる。
『だめですぅ…胸ばっかり、だめですよぅ……これ以上、切なくなったら、わたしぃ…』
コマの息遣いが荒くなっていく。
潤む瞳で俺を求めるようにして見つめてくる。
あまりそんな目で見られると、変なスイッチが…。
『…ふにゃあぁんっ!? あ、あ、あにゃっ…く、は、んんっ…!』
気付けば、俺はコマの乳首に鋭さのあるキスを何度もしていた。
『だ、だめです…変に…なっちゃぃ、にゃぁ…』
キスをそのまま、胸から首筋へ、首筋から口元へと運ぶ。
『んちゅっ…んんっ…ちゅぷっ…』
キスが恥ずかしいのか、コマはうっすらと目を閉じている。
口内へ舌を差込み、お互いの舌を絡ませあう。
コマの舌は猫独特のザラザラとした舌で、最初は違和感があったが舌を絡ませあううちにそれは心地良い感触へと変わっていった。
『んっ、んんぅっ…ぷはっ、んちゅぅっ…くちゅっ…くーがひゃん、ぷはっ…』
「なんだ?」
コマが何か言いたそうだったので、一旦キスを止めて至近距離で見詰め合う形となる。
キスが止まり、離れていくのが若干、名残惜しそうだったが、コマが口を開く。
『お願いです…、逃げないので、呪いを一旦解いてくれませんか…? 決して逃げないことを誓います…今はただ…切なくて…』
何故か、だが。
今、コマが口にしていることは信じられるような気がした。
コマにかかっている捕縛の『呪』を一旦解除する。
途端にツル状の拘束物はかき消えて、コマが解放される。
227:コマネコ その11
08/07/05 00:36:56 aD9dlPaN
解放されたコマは重力に従い、俺のほうによりかかるように倒れてくる。
『ありがとうございます…んっんんっ…ぷちゅっ…』
間髪居られずにコマが俺の首と頭に手をかけ、さっきの続きと言わんばかりにキスを始める。
「?」
気付くと、俺の上半身の服が脱がされ始めていた。
『一緒に…気持ちよく…んちゅっ』
駄目だ、流されている、俺、流されている、コマのペースに、流されている。
どうにかして、一旦流れを俺の下に…。
『ついでに下も脱い…あにゃぁぁっ!?』
コマの背筋がぴぃんと伸びて俺の胸に飛びつくような形になる。
『ふゃぁっ、背中、背中だめですよぅっ…!』
コマの背中に上下に線を描くように指を這わせる。
「お前にばかり『してやられる』のも嫌なんでな…」
『そ、そんなっ、わたひっ、ふにゃぁん!?』
俺によりかかるようになり、崩れ気味の体勢のところに追い討ちをかける。
『み、みみっ、みみもだめっ、ですっ、だめえぇぇっ!』
軽く抱きしめてコマを逃げられないようにして、耳元に「ふっ、ふっ」と息を吹きかける。
勿論、背中を這わせる手は休めない。
むしろ、背中を這わせていた手をふとももにも伸ばす。
コマの体が俺の思い通りに体を震わせ、ぴくぴくと弾ける。
『ぅぁ、くっ、ぇ、ぁ、ぃっ…』
俺は這いまわせていた指をコマの秘部へと持っていく。
くちゅっ。
『ん、ふぁっ、ふぁぁぁっ!?』
コマの体が今までは違うほどビクビクッと攣縮を起こす。
「もしかして、今のでイったのか?」
俺はほんの一瞬、コマの秘部に指を這わせただけである。
それほどまでに上り詰めていたということなのか。
『はぁっ、はぁっ、はっ…まだ、足りないです…今のじゃ、まだ…』
228:コマネコの人
08/07/05 00:45:02 aD9dlPaN
とりあえず、今日はこんな感じで。
物語そのものを短く書くのが難しい気がするのは私だけなのかなぁ?
簡潔にまとめられないだけかもしれないけど…。
229:名無しさん@ピンキー
08/07/05 07:49:17 VwLVyEvc
GJ
欲を言えば地の文を増やしてほしい
230:名無しさん@ピンキー
08/07/05 19:15:45 2u0cJo47
GJ
投下するときは、とくになにも言わず投下していいよ
231:コマネコの人
08/07/05 20:30:45 aDW2pN0g
色々と不慣れな部分がある自分にアドバイスをありがとごじゃます。
次からは唐突に投下しまs
質問です!
『地の文』とは?
①エロじゃない、日常会話のシーン(キャラクタのベースとなるシーン)
②セリフ以外の状況説明文
③エロシーン全般
ドノアタリデショウカ。
232:名無しさん@ピンキー
08/07/05 20:49:02 cEzur3DJ
>>231
2番です。
1番はなんていうか知らないけれど、3番は濡れ場。
233:コマネコの人
08/07/05 21:00:34 aDW2pN0g
素早い返事、どもなのです。
とりあえず、現在の作品はそのままの調子で続けて、
次あたりで実験的に色々やってみようと思います。
234:名無しさん@ピンキー
08/07/05 21:22:18 cEzur3DJ
おそらくこの場合の地の文とは、
・舞台説明(場所や時間など、その場の状況の描写)
・人物説明(登場人物の表情や行動などの外的描写、および感情などの内的描写)
をもっと充実させてみては? というような意味難じゃないかな?
一人称、三人称でこのあたりの書き方がずいぶんと変わってくるから、とにかくたくさん書いて慣れることが大事だと思うよ。
キャラの萌えを描写するには、セリフだけじゃあ物足りなく感じるときがあるからね。
その為には1番も必要だし。
235:名無しさん@ピンキー
08/07/05 21:48:15 pDykQZoi
>>23
描写には会話文よりも地の文の方が重要。
一部を除いて、登場人物の特徴は行動に表れる
それを会話文で表現することはまず不可能
また、地の文を適当にすると背景や状況の描写が少なくなり
その場面をイメージしにくくなる。
本人は状況を想像できているのに、
読み手は全く想像できないのはよくあること
些細なものの描写をきっちり行うことにより、
文章にリアリティが出てくる。
一文章書きより
236:名無しさん@ピンキー
08/07/05 22:38:08 HmemFN5m
初心者SS書きの俺には
「地の文は大切」ってのよくわからなかったけど
>>233 のを見てとってもよく理解できた。
情報量が非常に少なくなるんですな。
ありがとう。
237:名無しさん@ピンキー
08/07/06 00:14:57 mmH8MXkX
>>236
そりゃあ最悪地の文なけりゃセリフだけの対話形式になっちゃうわけで・・・
そえでもおもしろければ良いんだけど・・・ね
しかも厨房のネットSSなんかでよく見かけるからイメージ悪いしね>地の文が少ない
238:名無しさん@ピンキー
08/07/06 00:30:01 /OSP6z4+
>>237
地の文って意外と大変なんだよな
会話文で続ける方が楽だから
つい楽しちゃう
239:名無しさん@ピンキー
08/07/06 01:05:56 P9a82KSU
>>237
そうなのか?
俺厨房のころ書いてたSS「地の文が多すぎていけない」って言われてたぜ?
240:名無しさん@ピンキー
08/07/06 01:08:41 yv8xaQFg
まあその辺の話は書き手控え室でやろうぜ
241:コマネコの人
08/07/06 02:11:47 YeYi1J6m
今、ちょっと全体的に書き終えた部分の文章を見直してきました。
あれですね、設定とか使いたいシーンとかメモしておいたノートがあるのですが
なるほど、今自分の文と比較して読むと、完全に自分の脳内で補完していて、
文章まで描写が回ってませんね…。
(要は脳内妄想で補正をかけてた)
最初のほうぐらいしかマシ(?)な情景描写してませんしね…。
とりあえず、
『読み手がとっぷり世界に浸れるけど、変な言い回しとかでくどくならない文』
っていうのを次回から書いてみようと思います。
色々と波風立ててすみませぬ。
教えて貰ったことを無駄にしないように頑張ります!
242:名無しさん@ピンキー
08/07/06 08:45:11 qX4V05es
波風立ててないよ。まあこれ以上はこんなスレもあるから参考に
SS書きの控え室 82号室
スレリンク(eroparo板)
みんな>241に期待してるってことさ。がんばれー
243:名無しさん@ピンキー
08/07/07 20:44:32 f8ho8Z8U
七夕ですよ
244:名無しさん@ピンキー
08/07/07 20:54:03 3aIOIH6N
彦星(あれ? こいつなんかユルくなってね?)
織り姫(…いつまでたっても彦星はヘタクソねぇ…)
245:名無しさん@ピンキー
08/07/08 01:37:23 eb6Jrzm5
七夕は人外萌え的にはいまいちネタにしにくいな
246:名無しさん@ピンキー
08/07/09 16:49:15 086MZ8ie
橋となる鶴を擬人化して二人で可愛がるとか
247:名無しさん@ピンキー
08/07/09 20:05:07 1jfSHnkL
彦星はどうみても天の川に沈んでるんだが。
丸一年天の川さんに囚われる彦星?
248:名無しさん@ピンキー
08/07/10 13:20:34 QuvyjzCL
>>247
メインブースターがイカれただと!?
249:名無しさん@ピンキー
08/07/10 17:09:31 nG9wttMF
>>248
ちょw
250:名無しさん@ピンキー
08/07/10 22:33:50 GR8F/9/a
>>248
水没王子乙
251:名無しさん@ピンキー
08/07/13 10:17:48 WsubUqom
狐耳巫女キボン
252:名無しさん@ピンキー
08/07/13 17:58:07 DqfBszT0
>>248
こんなところでなにしてるんですか?
水ボッツダルバww
253:名無しさん@ピンキー
08/07/13 19:35:21 3PUK6VgV
>>251
狐メイドじゃ駄目?
254:名無しさん@ピンキー
08/07/13 20:51:25 j/dCNnfC
誰がイヤと言おうか。
255:名無しさん@ピンキー
08/07/13 21:41:01 3PUK6VgV
じゃ、そのうち
256:名無しさん@ピンキー
08/07/14 00:08:34 FE2nIRaJ
水没メイド・・・いやなんでもない
257: ◆uC4PiS7dQ6
08/07/14 08:57:03 GAsAG34i
誘導されて来たんですが、スレの流れを見てたら何となく何となく、違うかな? って思ったんで一応確認。
URLリンク(same.ula.cc)
※以前書いたSSのエロパートのみです。
モンスター娘やら搾精生物に性的に食べられるって話しは、ここで良いのでしょうか?
258:名無しさん@ピンキー
08/07/14 16:40:15 cRXE1Oqg
>>257
擬人化した凶暴な♀動物が逆レイプするスレっていうのもあるけどどっちかと言えばこっちっぽい気がする。
259:名無しさん@ピンキー
08/07/15 00:25:31 H8P6ML38
>>251
狐の女子高生17歳はだめか?(注:かのこんをイメージしない様に)
実は相手を同年にするか、大学生にするか、美術の先生にするか迷ってる最中。
260:名無しさん@ピンキー
08/07/15 00:41:24 ZLjVFBLG
>>259
お兄ちゃんと呼ばれる大学生。
261:名無しさん@ピンキー
08/07/15 07:24:15 9pMwTRrh
>>258ありがと
262:名無しさん@ピンキー
08/07/15 21:04:47 5mqNc4pL
>>259
ちょっとだけ大人の同年
263:名無しさん@ピンキー
08/07/17 17:58:31 sxq53PA7
コマネコの人はどこに消えてしまったのだろう?
264:式神馴らし
08/07/18 20:28:37 7IJkU89q
投下いいですか?
265:18スレの314
08/07/18 20:51:40 gKc6RvOe
投下が被りそうですね。
私も投下準備完了しましたが、少し長いのでお先にどうぞ。
266:式神馴らし 3-1 1/6
08/07/18 21:14:05 7IJkU89q
ではお先に失礼します
生木を蹴ったような、重く鈍い音。
伸ばした足に返ってくる、確かな手応え。
初馬の右足が、一ノ葉の腹へと突き刺さっていた。瞬身の術の踏み込みから、全身の捻
りと脚全体の筋肉を用いて放たれた蹴り。重い手応えがしっかりと伝わってきた。
それも一瞬。
悲鳴も上げずに一ノ葉が吹っ飛ぶ。十メートル近く宙を舞い、地面に叩き付けられ、二
度跳ねる。だが、意識を刈り取るには至っていない。受け身を取るように転がってから、
四つ足で立つ。大きく跳ねる尻尾。
「今のは効いた……。さすがは、白砂の跡取り」
震える脚で何度か足踏みしてから、睨み付けてきた。咥内の血を横に吐き捨てる。血と
泥で汚れた毛並み、焦げ茶の瞳に灯る殺気。
街外れの空き地。最初に一ノ葉の封印を解いた場所である。
初馬は持ち上げていた小太刀を下ろした。口元に浮かぶ苦い空笑い。
「間一髪……でもないか。まったく、予想以上の強さだ。こないだあのまま戦ってたら危
なかったかもしれない、ホント。準備期間あってよかったよ」
左胸から、左肩と左上腕に四本の創傷。焼けるような痛みと、流れ落ちる赤い血。前脚
の爪から放たれた高速高圧の空気、鎌鼬の斬撃だった。
「痛い……。長くは持たないかな? そろそろ決めるぞ」
右手で傷口の上辺りを撫でる。
狙いは首筋だったが、蹴りと小太刀の防御で辛うじて軌道を逸らしていた。それでも術
防御を施された鎖帷子を着込んでいなければ、傷は肺まで達していただろう。
「そうかい」
一ノ葉が妖力を練り込む。口笛のような鳴き声。
口を大きく開き―
咥内から膨れ上がった蒼い狐火が、爆ぜた。百本以上もの蒼い槍と化して飛来する。狐
火の槍。一発の威力はそれほどでもない。だが、この数。防がなければ危険だ。
267:式神馴らし 3-1 2/6
08/07/18 21:15:19 7IJkU89q
躊躇はない。初馬は全身に霊力を流し込む。鉄硬の術の防御。
同時に右手を閃かせ、小太刀を投げ付けた。術による加速によって、回転しながら飛ん
でいく刃。当たれば無事では済まない。
「甘い……!」
一ノ葉は横へと跳んで、小太刀を躱す。
そして、目を見開いた。
「ッ!」
その眉間に、全体重を乗せた踵が突き刺さる。骨が軋む、確かな手応え。
真正面から槍の雨を突っ切り、縦回転の胴回し回転蹴り。七本の槍が、防御を貫いて身
体に突き刺さっていた。一ノ葉の目眩ましを、逆に目眩ましとして使ったのである。半ば
捨て身の賭けだったが―賭けには勝った。
受け身も取れず、一ノ葉が地面へとめり込む。
余力を全部絞り出したような一撃に、地面がえぐれた。緩く跳ね上がった一ノ葉に、もう
意識は残っていない。白目を剥いたまま、気絶している。
反動で跳ね返り、両足で着地する初馬。
「これで、トドメだ!」
駄目押しとばかりに狐火の槍を振り下ろした。途中で捕まえてきた一本。
蒼い槍が意識のない一ノ葉を貫く。腹から背中まで、硬度を持った炎が突き抜けた。一
度激しく痙攣し、口から細い炎を吐き出す。肉の焼ける独特の匂い。
妖力の支えを失い、狐火が消える。
一ノ葉は力無く地面に伏していた。全身に打撲と創傷、骨折も数カ所、腹に焦げた穴が
開いているが、これでも死なないのが人外である。
初馬は荒い呼吸を繰り返していた。痛みが強すぎて、痛覚自体がろくに働いていない。
全身から肉の焦げる臭いがしてる。
「決闘は、俺の勝ちだな……」
一ノ葉に告げるように、短く呟いた。
268:式神馴らし 3-1 3/6
08/07/18 21:15:57 7IJkU89q
それから三日後の午後一時。
街外れにある月ヶ池医院。表向きは普通の開業医だが、退魔師や人外の治療も行ってい
る特殊な病院。秘密裏というわけではなく、この辺りでは有名である。見た目も普通の病
院と変わらない。決闘の直後に一ノ葉を抱えて訪れた。
「お前、もう治ったのか?」
初馬は病院から出てきた一ノ葉を見つめる。
尻尾を揺らしながら、四つ足でとことこと歩いていた。全身に傷を負っていたはずなの
に、今は元通りに回復している。むしろ、以前よりも健康そうだった。
「貴様はボロボロだな……。人間は傷の治りが遅いと聞いていたが、噂通りだな。それで
も、病院から出られただけマシと言うべきか?」
初馬の横を通り過ぎる。
それに並ぶように初馬も歩き出した。露出している場所だけで、湿布が三箇所。服の下
には、あちこち包帯が巻かれていた。一応動けるだけで、健康とは言い難い。心持ち身体
もやつれている。
応急処置を受けた後、初馬は院長の紹介で近くの市営病院に入院した。全身の重傷につ
いては適当な方便で誤魔化したらしい。一ノ葉はそのまま大月病院で入院。
今日お互いに退院したのだが、回復量には大きな差があった。
「あの怪我だ……普通なら数ヶ月入院だろ。三日でここまで回復したのは、我ながら凄い
と思うよ。回復の術って便利だな」
頭を抑えて、呻いてみる。
大学は一週間の休学を申し出ていた。怪我が目立ちすぎるため、完治するまでまともに
出歩くこともできない。今は隠れ蓑の術を使って外出している。
初馬は右腕を下ろし、微笑んだ。
「一週間前の約束覚えているよな?」
「一応、な……」
269:式神馴らし 3-1 4/6
08/07/18 21:16:31 7IJkU89q
一ノ葉の返事。正面を見つめたままの硬い口調。
三日前の決闘よりもさらに五日前。初馬は一ノ葉に決闘を持ちかけた。一ノ葉が勝てば
契約を白紙にして解放する。再び式神にすることも考えない。
「俺が勝てば、俺を主人と認める。ついでに、しばらく俺の言うことを何でも聞く。録音もして
あるから、今更とぼけても無駄だぞ? さっそく実行して貰うからな」
「ああ……」
陰鬱に呻く一ノ葉。気分を表すように、尻尾が下がっている。
二つ返事で了承して決闘を行い、初馬が勝った。街外れの空き地での二十分にも及ぶ激
闘。あらかじめ父親とも相談してあり、病院への予約も付けておいたため、共倒れになる
こともなく治療を受けることができた。
諦めたように、そして腹を括ったような吐息。一ノ葉が顔を向けてくる。
「要求は何だ?」
「まず俺を『ご主人様』と呼べ」
初馬は真顔で告げた。きっぱりと、一分の迷いすらなく。
十秒ほどの沈黙。
諦観と覚悟を決めていても、実際に要求を突き付けられると躊躇が生じるらしい。視線
を泳がせてから、一ノ葉は改めて訊いてくる。
「……で、要求は何だ?」
「まず俺を『ご主人様』と呼べ。次に『よろしくお願いします、ご主人様』と言え。聞こ
えない振りしてると、要求は無制限に増えていくぞ? 語尾に『コン♪』付けろとか」
初馬は再び告げた。やはり、きっぱりと。
一ノ葉の表情が引きつる。無視すれば増える要求。以前なら絶対に嫌だと拒否していた
だろう。しかし、決闘に敗れたことにより、反抗心はある程度削られていた。
首を左右に振ってから、小声で呟く。
「ご、しゅじんさま……?」
「それから挨拶」
初馬は笑顔で促した。
270:式神馴らし 3-1 5/6
08/07/18 21:17:11 7IJkU89q
しかし、一ノ葉は狐耳を伏せて尻尾を下ろし、無言のまま見つめてくるだけである。諦
めと呆れと困惑と苛立ちの混じった奇妙な表情。叱られた子供のような、バツの悪そうな
面持ち。気持ちは分からないでもない。だが、見逃す気もない。
初馬は足を止めた。釣られて足を止める一ノ葉。
その場にしゃがみ込み、初馬は一ノ葉の頭に手を乗せる。
「はい、どうぞ」
「………。よろしくお願いします、ご主人様」
視線を逸らしたまま、棒読みで言ってくる一ノ葉。
「まあ、よろしい」
初馬は一ノ葉の頭を撫でる。滑らかな狐色の獣毛。手の平に伝わってくる、非常に心地
よい手触り。以前よりも毛並みが良くなっていた。
「あと丁寧語で話してくれ。ご主人様と呼ばれても、もいつものタメ口じゃバランス悪い
からな。敬語喋れとは言わないけど、そんな雰囲気は出せるだろ?」
「はい……。分かり、ました」
かなり嫌々と頷く一ノ葉。
元々他人に命令されるのが嫌いな性格だ。しかし、罵声が飛んでこないことを考えると、
随分と従順になったようである。
ぽんぽんと頭を叩いてから、初馬は立ち上がった。
「じゃ、しばらく俺の世話を頼むぞ」
「世話?」
訝る一ノ葉。
「そう、世話。退院はできたけど、まだ歩ける程度にしか回復してないんだから、身の回
りの世話して欲しい。お前ももう二本足で走れる程度になったんだし。掃除洗濯しろとか
無茶は言わないけどね」
271:式神馴らし 3-1 6/6
08/07/18 21:17:55 7IJkU89q
歩くことはできるが、走ると傷が染みるように痛む。体力もないため、一キロ歩くだけ
でバテてしまう。健康なら十キロくらいは簡単に走れたが、そこから考えればまだかなり
衰弱しているだろう。
「世話か……」
呻く一ノ葉。毎日の練習のおかげで、人間に化けても普通の人間と同じくらいに身体を
使いこなせるようになっていた。
「分かりましたよ、ご主人様……」
投遣りな言葉とともに、一ノ葉はかぶりを振ってみせる。
272:名無しさん@ピンキー
08/07/18 21:18:17 7IJkU89q
以上です
続きはそのうち
273:名無しさん@ピンキー
08/07/18 21:33:00 7IJkU89q
失礼、本文中で病院の名前修正するの忘れていた。
大月病院→月ヶ池病院
274:18スレの314
08/07/18 22:33:31 gKc6RvOe
お久しぶりです。18スレの314です。
妖精をネタにして一本書いてみました。
計50レスほどお借りします。一括投下には多すぎるので、前後編に分けさせて頂きます。
エロは後編のみ。本番無し。ENDで少しグロ描写有り、です。
その手の描写が苦手な方はスルー、若しくは『幸運の条件』をNG登録するようお願いします。
妖精スレの方が適しているかとも思ったのですが、あちらは主にホノボノ系のようなのでこちらに投下します。
>272氏
GJ
次からの展開が楽しみですね~。お世話!お世話!ご主人様をお世話!
275:幸運の条件
08/07/18 22:35:39 gKc6RvOe
―1―
「もし、そこのお若いの…」
「んあ?」
世の中には、カクテルパーティ効果というものがある。カクテルパーティのようなざわめきに満ちた雑踏の中でも自分の名前などは自然と聞き取る事が出来る、というヤツだ。
だが今は、雑踏どころか、通りは寒々しいまでに閑散としており動く気配は一つっきり。名を呼ばれてもいない。
しかし、その声にはまるで魔力でも含まれているかのようで、ざわめき以上に思考を分厚く包み込んでいた霞みをするりと潜り抜けて、呼びかけは青年の意識を揺さぶった。
青年はよたつく足を止め、シャックリでもするかのように危なっかしげにぐるりと辺りを見回す。頭の旋回速度は大分遅い。
が、何も見つからない。
煌びやかに夜を飾っていたネオンも、そのあらかたが落ちた街。所々で落ち着いた雰囲気を纏って光るのは、青年からすれば高嶺の花ばかり。
最終電車は当の昔に終点へ辿り着き、バスは勿論、タクシーさえもほとんど走っていないような時刻。
しばらくの空白の後、青年の頭の中にようやっと戸惑いと疑問が浮かんでくる。
友人知人とも分かれ、あてどなく暗い街を歩いていた青年はこんな町中で自分が呼びかけられるなんて思ってもみなかった。
カタツムリ張りに遅くなった脳でも疑問点までは行くものの、誰に呼ばれたのかと言う答えには一向に辿り着かない。
トロンと澱んだ目は青年の頭が鈍りきっている事を物語っている。
それだけでなく、阿呆のように半開きになった口から漏れる匂いからも、青年がたっぷりと酒を飲んだ後だと言う事は明白だった。
「こっちじゃよ、お若いの…」
再び彼を呼ぶ声がして、そこでようやく青年は声の主の居場所に気付いた。
声の主は、青年を名前で呼んではいない。けして大きな声でもない。せいぜい隣に聞こえる程度の、独り言と勘違いしそうなほどの声量だ。だのに、何故だか青年は自分が呼ばれていると分かった。
「お~?なんら、婆さん、占い師かあ~?」
安い居酒屋でしこたま飲んだ後遺症は抜けかけているとは言え、まだまだその足は酔いから抜け出せていない。時々危なっかしくふら付きながらも、青年は老婆へと足を向けた。
互いに寄りかかるようにして建つ細い雑居ビルとビルの境界。
その僅かに出来た間隙にすっぽりと嵌まるようにして、一人の老婆が小さな卓を広げ、その後ろに腰掛けていた。
老婆の顔の上半分はフードが作る影に隠れ、他も暗がりに溶け込むようにして見え辛いが、高く突き出した鼻から日本人ではないと分かる顔立ちだ。
確かに彼の言葉通り、老婆は一見すれば辻占いにも見える。
暗い隙間に陣取り、およそ現代の日本には似つかわしくないたっぷりとしたローブを纏い、すっぽりとフードを被っている。老婆は、占い師と言う言葉のイメージ、そして夜と言う時間の魔力も相まってこれ以上ないと言うくらいに妖しげな雰囲気をかもし出していた。
もしも彼の脳がアルコール漬けで無ければ、きっと彼は違和感を覚えたかもしれない。
276:幸運の条件
08/07/18 22:36:36 gKc6RvOe
辻占いと言えども客商売には違いない。街が賑わいを見せていた時とは違い、時刻が時刻だ。人気も消え失せた街角で、来る宛もない客を待とうとする者はそうそういないだろう。
実際、老婆は姿格好こそそれらしいが、占い師には見えなかった。
それらしい卓こそ広げられてはいるが、卓には筮竹やタロットや水晶球にその他諸々、一般的に占いに使われそうな道具が何一つとして置かれていないからだ。
「んん~?婆さん、俺の事、占ってくれるってのか?」
そんな事すらもピントのぼやけ切った頭では気付けない。
卓上には占い道具に代わって、別の物が置いてあると言うのに。
老婆の前にある折り畳み式の小さな卓の上には、小さな鳥籠のような物がいくつか鎮座していた。
卓全体を足元まで被うように広げられた灰色のテーブルクロスの上にあるのは、絡み合う蔓草をモチーフにしたと思われる小さな鳥籠。
それは、生きた樹が意思を持って自ら絡まりあい籠になった、と言われれば信じてしまいそうなほど精巧な品だった。
細い蔓が寄り集まり、時には解けて半ば球形をした籠を形作るフレームになっている。フレームには切ったり継いだりした跡も見当たらず、まるで本当に一本の樹から出来ているかのようだ。
蔓のあちこちからは大小さまざまなサイズの葡萄のような葉が、青々とした姿でぶら下がっている。
この籠の製作者の趣味は徹底しているようで、持ちにくさを許容してなお造形に凝っていた。
籠の天辺のリング状の持ち手すらも撚った蔦で出来ている。実用性はともかくとして、創作物や美術品として見ればそれだけでも見事な物だ。
しかし、それ以上に見事なのは籠の中にいるモノだった。
籠の高さはせいぜいが二十センチをちょっと超える程度。さほど大きくはない。また蔓草のフレームが形作る網の目も粗い。その寸法からすると入れるとすれば、小鳥かハムスターのような小さな愛玩動物くらいなものだ。だが、それらは粗い網目の隙間から逃げ出してしまう。
籠の中にいるモノは小鳥でも、ましてやネズミの類いでもなかった。
そのいずれかでも、否、この世界には存在すらしない筈の物だった。
ソレを一匹と呼ぶべきか、はたまた一体と数えるべきか。少なくとも人ではないのだから、『一人』は妥当でないのは確実だ。
人間、それも見目麗しい異国の少女を十分の一に縮めた上で背中に翅を生やせば、籠の中にいるモノになるだろうか。
鳥籠の底の小さな円形の床の上、膝を抱えて丸くなりピクリとも動かないのは、一体の妖精だった。
(最近のフィギュアってのはすげーなー)
目を丸くしながら籠の中を見詰める青年の、それが最初に浮かんだ感想だった。
青年の目がそちらに集中し、鈍った頭でもソレが何かを把握した頃合を見計らう。もっと違う角度から良く見ようと青年が体を動かし始めた頃、老婆は口を開いた。
老婆は先ほどの青年の質問には答えず、にやりと大きく笑って見せる。
お伽噺に出てくる魔女みたいな笑いを見せながら、老婆は青年に話しかけた。
「どうかね?お若いの。見事なもんだろう」
人間誰しも自分のとっておきを自慢するとなれば、顔の一つも緩むものだ。
277:幸運の条件
08/07/18 22:37:06 gKc6RvOe
肌はくすみ、皺だらけだが不思議と気力溢れる老婆の顔には、お客への愛想笑いと得意げな笑みが同居していた。
この時点になって、開店休業状態だった青年の脳味噌もようやく仕事をし始める。
いくつかの事柄を結びつけて、回答を出す。
「あー分かったぞー。婆さん、俺にコイツを売りつけようってんだろ?金なんかねーぞぉ?」
全部飲んじまったからな。
青年はそう言うや、げふぅっとアルコール臭を盛大に撒き散らしながらケラケラと笑った。
うざったい売り込みが始まる前にとっとと帰るか。
脳がアルコール漬けで働かないと言っても、その程度の感想は出てくる。が、青年が踵を返すよりも早く、老婆の言葉が彼の足を縛りつけた。
ほんの一瞬前まで思っていた事は、老婆の一言によってあっさり引っくり返された。
「いやいやいや、お代なんか頂戴しないさ。お若いの、アンタが欲しいと言うのなら差し上げるよ」
随分とおどけた口調の老婆。
両の掌が否定の形にヒラヒラ振られ、ついで青年に向かって差し出すようなジェスチャーをする。
ただでくれる、と言う。青年の側から無理に「ただでよこせ」と頼んだ訳でもない。
ならば断る道理はない。
「ふーん。くれるっつーなら貰わないでもないんらが……そいつぁ、販促かあにかか?」
隠そうとして隠れていない欲望丸出しの青年の問いにも、老婆は口元を歪め、曖昧な笑みを浮かべるだけ。
青年には老婆の意図がまるで読めなかった。
頭を捻ったものの、身体中に残るアルコールのお陰で物を考えるのがひどく鬱陶しく思える。頭の周りにまとわりつく小蝿を追い払うように、青年は考える事をあっさりと放棄した。
仮に青年が正常でも、彼は正解を言い当てる事は出来なかったろう。彼が取り立てて愚鈍だから、と言う訳ではない。それが誰であったとしても、老婆の思惑を見抜ける人物など人の世には存在しない。
「婆さん、それ、ほんろにくれるのか?」
数秒前まで感じていた薄気味悪さは、物欲の前に霞のようにすっかり消えていた。
「ああ、本当だともさ。可愛がってやっとくれ」
さあ、どうぞ。
どれか一つを選べ、と深い皺が刻まれ節くれ立った手が籠を指し示す。
老婆の手に促されて、青年は籠の一つを手に取ろうとする。しかし、籠の上空を青年の手は行きつ戻りつ。たっぷり数分も悩んだ末にようやく一つの籠に手をかけた。
老婆が肩を小刻みに揺らした。笑ったのだ。満足そうに仕草のみで笑いながら青年に語りかける。
278:幸運の条件
08/07/18 22:37:30 gKc6RvOe
「確かに彼女をただで差し上げるがの、その妖精にはいくつか守るべき事柄がある。
それさえきっちり守れば、妖精はきっとアンタに幸運を授けてくれるだろうよ」
老婆の顔と声から笑みが消えた。
商売人の顔から一転、厳かに言いながら老婆は親指と小指を畳んだ右手を示して見せた。
立っている指は三本。つまり、守るべき事柄は三つ。
「一つ。妖精だって飯を食う。
毎日、指貫一杯分の牛乳と蜂蜜を与えてやる事。ちゃんと新鮮なやつをじゃぞ?」
老婆が薬指を折る。
お前さんだって飢えるのは嫌いじゃろう?、と老婆は青年を見上げる視線で語る。
青年は納得したのかしてないのか判断しかねる微妙な顔で、曖昧に頷いた。
フィギュア、それはつまり樹脂や粘土の塊に過ぎない。
模型が飯を食ってたまるか。
この老婆は人とは違う物が見える可哀想な人物なのか、それともそういう設定なのか。文句を言って返せと言われるのも嫌なので、青年は黙って聞く。
「二つ。彼女は飯を食うだけじゃ生きてはいけん。腹と同様に心も満たしてやらねばならん。
そうせんと、いずれ心が飢え死んじまうからの。そこらへんは人も妖精も似たようなもんじゃな。
その娘は風属の妖精、流れる空気の中でこそ輝く娘。だから、毎日一回は自然の風に当ててやる事」
中指がゆっくりと折りたたまれる。
青年の思案を置いて、老婆は淡々と先へ進む。
「最後に三つめ。こいつが一番大切な事さね。
彼女はまだまだ若い。無垢な心を鎧う術は未熟じゃ。妖精は人の世にあってはか弱い存在にすぎんのじゃよ。
……故に、絶対に怖がらせたりしない事」
ゆっくりと、それこそ幼児に聞かせるように噛んで含めるような口調で言う。
教えられている当の青年はと見れば、アルコールの後押しする無礼さで老婆の言葉なんかほとんど聞いちゃいなかったが。
籠を引っくり返す暴挙にこそ出ていないが、青年は籠を上から下から、試すがめつ眺めていた。
怖がる?フィギュアが?
279:幸運の条件
08/07/18 22:37:57 gKc6RvOe
彼としては、籠の中で妖精が本物で老婆の言葉が事実だ、なんて欠片も信じてはいなかった。
彼がそれなりに丁寧に扱っているのは、ただ単に下手に動かして中の良く出来たフィギュアが壊れると困ると言うだけだ。話を聞いているのだって、老婆が機嫌を損ねて折角くれると言っている物を「返せ」と言われるのが嫌で、最後まで付き合っているに過ぎない。
そんな青年の無作法にも、老婆は気を悪くした風でもない。
「ただし、気をつける事だね……お若いの」
囁くような声で老婆がボソリと呟く。
妖精に見入っていた青年が、ぞくり、と身を震わせた。
若いのか年老いているのか、男なのか女なのかすらもあやふやな不思議な声音。それもごくごく小さい。それは、どこからか緩く吹き始めた風音にさえ吹き消されてしまいそうな程だ。
だと言うのに。
青年には老婆の言葉が聞こえた。
老婆の口元がもごもごと動いて何事かを喋っているという認識しか出来ないのに、その癖、老婆が何と口にしているかはしっかりと理解できる。まるで耳を通りこして、脳に直接話し掛けられているような感覚。
知覚と認識の差がズレを産み、目眩となって青年を襲う。
はじめは真綿で絞められるようだった違和感は、あっという間に恐ろしいほど強烈になって精神を蝕む。
目に映る全てから急速に現実感が失われていく。
胃から何かがせり上がる。地面が頼り無く波打ち始める。
老婆の言葉は続く。
「約束を違えて妖精を裏切った時、アンタはとてもとても大きな代償を支払うことになるだろうよ」
「ば、ばーさん、あんら、らに言って…」
それ以上は言葉にならなかった。
鈍痛と眩暈が青年の意識を掻き混ぜてクラムチャウダーみたいに変えていく。
老婆の背後にわだかまる暗闇が、じわじわと領土を広げ、街灯の光を侵蝕し始める。
「その事を、ゆめゆめ、忘れんことだね」
ぐらりと一際大きく視界が傾いだ。
加速度的に広がり続ける暗闇は既に老婆を飲み込んでおり、ついで大波のように膨れあがり、青年に圧し掛かってくる。
老婆の言葉が終わるか終わらないかの辺り。
そこで青年の意識は闇に飲み込まれ、途絶えた。
280:幸運の条件
08/07/18 22:39:30 gKc6RvOe
―2―
音楽が鳴っている。
携帯電話の安っぽいスピーカーから流れる音楽。好みの問題よりも、流行っているから、と言うだけの理由でダウンロードした曲だ。
いつもと同じ、どうと言うことのないアラーム。
だが今の二日酔いの頭には、地平線の果てまで鳴り響く割れ鐘のようにも思える。
「ぐっ……つーっ。あたま、が、いてぇ」
そんな青年の苦しみなど機械の知った事ではない。
青年の携帯電話は、事前に与えられていた任務をただただ淡々とこなす。血の通わぬ冷徹な機械は、青年の体調など気にかけずに彼を叩き起こそうとする。
無理やりに覚醒させられた青年が布団の中から身を起こした。墓場から蘇ろうとするゾンビのような動き。
動く死体のような青年の耳に、携帯電話の音楽に合わせて、もう一つの音が聞こえる。
突き刺さるような電子音とは全く異なる、心地良い鳥の囀りが聞こえる。
だが、スピーカーからの流行のポップスに合わせて歌う鳥なんかがいるものだろうか?
それに、なんか妙に女っぽい声色の鳥だ。
そんな事を体と同じくゾンビ同然の頭で考えながらも、携帯電話を捜し求めて動く。
昨晩はどうやって家まで帰ってきたのか、青年にはさっぱり記憶がなかった。記憶同様に放り出してしまったようで、彼の携帯電話もどこに置いてあるのかよく分からない。
記憶がない間に何かをやらかしてはいないか、と不安が青年の頭をよぎる。記憶を引っ張り出して確認したかったが、今はとにかく、二日酔いの頭の中に鈍痛を引き起こす音を止めたかった。
無造作に放り投げられたと見えて、部屋の隅にようやく求める騒音源を探し当てた。
拾い上げる。
ピッと言う短い電子音と共に延々とループしていた曲が止まった。
「Pyu?」
鳥の囀りは止まなかった。
気持ちよく歌っていた最中なのに不意に演奏を止められて、少し不満げな音を可愛らしい唇から漏らしながら伴奏相手を見やる。
伴奏者、つまりは青年の携帯電話を。
鳥籠の中から一対の視線が、青年の方向に向けられていた。
そこには文字通りの意味で小さな少女がいた。
小さく可憐で、無邪気そうな雰囲気をまとった、青年がフィギュアだとばかり思っていた小さな少女が。
まだアルコールに漬かった酔夢から抜けきっていないのか。そう自問する青年の顔が、少女が存在する事自体が信じられない、と如実に物語っている。
その視線の先、青年の心中を分かっているのかいないか。おそらくは何も考えていない態で、長く薄青い髪の毛の先端をくるくると指に巻きつけて弄びながら、少女は歌い続けている。
薄手のワンピースドレスから伸びる四肢は伸びやかで、若いが幼さを感じさせるほどふっくらとはしてない。かと言って成熟とも縁遠いようで、まだまだ熟しきっていない胸も腰も腕も太股も細い。
細いが脆そうな感じはせず、嵐が来れば柳のように柔軟に撓って彼女を攫おうとするあらゆる魔の手を受け流すだろう。
肌は白い。不健康な絵の具のような白さではなく、夏の午後の晴れ空に浮かぶ白雲さならがに透明感に溢れていた。
青年と止まった彼の携帯電話を見詰める瞳は、形の良いアーモンド型で、ほとんど白目の部分がなかった。眼孔ほぼ全てが薄青に染まり、そこだけ一際濃い青の瞳孔が、愉快そうな雰囲気を湛えて携帯電話を見ている。
少女のシンプルなワンピースは背中が大きく開かれて、やや露出度が高めになっていた。それは見る者にエロティシズムを掻き立たせる為のデザインではない。
純粋に物理的な理由であり―彼女が物理法則に拘束される存在なのか否かは置いておくとして―その背中の肩胛骨の辺りからはトンボのような翅が、二対四枚、伸びているからだ。
281:幸運の条件
08/07/18 22:40:29 gKc6RvOe
ジョン・アンスター・フィッツジェラルドを初めとする幾多の画家がモチーフとし、彼らの描いた妖精絵画の中から抜け出してきたかのような存在。
絵の中にいるのが飽きたから抜け出して来た、と言われれば信じてしまいそうな存在。
そう、まさしく少女は妖精としか呼べない存在だった。
その御伽噺や幻想文学の世界の住人である妖精が、青年の部屋にいて、鳥籠の中で楽しそうにハミングしている。
さすがに全ては覚え切れなかったと見えて、ところどころ誤魔化すような途切れ途切れのメロディラインは、ついさっきまで青年の携帯電話から流れていた曲に間違いない。
歌う妖精を視界の端に収め、青年は顔を顰めた。
アルコールの所為でだいぶ途切れがちの昨晩の記憶を、疼く頭痛を押し退けて何とかサルベージする。ようやく、夜更けに交わした老婆とのやり取りがぼんやりではあるが浮かび上がってきた。
会話の一端を思い出せば、それに引きずられるようにズルズルと幾つもの記憶がぶら下がって這い上がってくる。
エア。
澄み切った大気の名。
それが彼女の名。
その内心の呟きは口から漏れていた。
「Lyuuu!」
自らの名を呼ばれた、と思ったのだろう。
破顔一笑。
美しい可愛らしい、などのおよそ考えつくポジティブな要素のみを切り出してきて、そのままギュッと人型に凝固させたかのような笑顔。
幻想の中でのみ咲く花が顕れた。
そう青年に錯覚させるほどの可憐な笑顔である。
その浮世離れした笑顔を前にしても、青年にできることはと言えば、ぽっかりと口をOの字に開けて間抜け面を晒す事だけだった。
青年は彼女がロボットなのかとも思った。
が、それを瞬時に自分で否定する。こんな精巧なロボットが実用化されているなんて聞いたことがない。よしんば実用化されていたとしても、タダで貰えるほど安くは無いだろう。
自分が幻覚を見ていたり、頭がおかしくなったのかとも思った。
思わず、拳固でごすごすと側頭部を叩いてみる。極めて古典的かつ原始的だが、少なくともこれ以上の確認手段は青年にはなかった。
ただでさえ二日酔いで痛いのに、さらに痛かった。
「Pyuluu?」
自傷に走る青年の様子を、鳥籠の中の少女が小首を捻って不思議そうな顔で見つめていた。
痛みに青年の精神が正気に戻って、鳥篭もろとも少女が煙のように消える気配はないようだ。
選択肢は次々と消去されいく。
残る可能性は一つだけ。あまりと言えば、あまりの事実。青年がそれを認めるには結構な勇気がいった。
「こいつは、本物の、妖精…だってのか……?」
ただ呆然と呟くのが青年の限界だった。
日常会話で口に出すにはちょっと恥ずかしい単語だったが、そんなことは気にならず、認めがたい事実を自分に言い聞かせるように青年はそれを呟いていた。遭遇した事態があまりに突飛だと、人間の感情は上手く働かなくなるらしい。
にわかには信じがたい事ではあるが、彼女が妖精であると、そして妖精は実在すると信じる他ない。
ただ淡々と事実を受け入れていた青年に、他の事実が襲い掛かる。