08/07/13 12:40:14 kIRIFEvT
淳の気配が消えたのを確認すると、美耶子はふっと安堵の息を吐いた。
そして気付く。自分が、宮田の身を案じて庇っていたのだということを。
―ううん、違う。私はただ、淳の思い通りにさせたくなかっただけ。
淳は、以前から宮田を疎んじていた。
医師という立場上、自分よりも美耶子に―美耶子の肉体に接することの出来る宮田に、
淳は嫉妬しているのだ。
かといって淳は、美耶子を愛している訳ではない。
淳が美耶子に抱いているのは、執着心と独占欲だけだ。美耶子はそれを見透かしていた。
―淳は私を自分の持ち物だと思っていて、それを他人に取られたくないだけなんだ。
そんな下らない理由で宮田を失脚させようとする淳が、美耶子には腹立たしかった。
―そんな我儘であいつを……あの医者を、私から奪おうとするなんて……。
ここまで考えて、美耶子はハッとする。
自分は、宮田のあの健診を、望んでいる?
違う。そんなはずはない。
あの羞恥と屈辱の時間を自ら欲しているなんて、そんな馬鹿げたことは……。
美耶子は一人首を振り、大きく深呼吸をした。
息を吸うと、未だ鼻腔に残っている宮田の精液の香が蘇り、美耶子の躰を熱くする。
足の裏で感じたあのしなやかな硬さ。切ない震え。そして、そして―。
「いやあっ!」
闇の中で美耶子は叫び、手探りで座敷の中に駆け込んだ。
用意されていた夜具に伏し、早鐘を打つ胸を布団に押し付けた。
「こんなの嫌。みんな嫌い。大嫌い……」
火照る躰が、宮田の感触を反芻しようとするのを拒絶するように。
美耶子は枕に顔を埋め、弱々しく呟いた。
【了】