SIREN(サイレン)のエロパロ第4日at EROPARO
SIREN(サイレン)のエロパロ第4日 - 暇つぶし2ch300:宮田×美耶子・其の三 第五回
09/08/16 15:54:13 Y2Zy/cLg

 暗い寝室のベッドで、美耶子はこちらに背を向けて横臥している。
 太い横縞のロングTシャツ姿。
 手足を小さく縮込めて―眠ってはいないようだが、拗ねているのか振り返りもしない。
「飯だぞ。さっさと起きないか」
「宮田さん……」
 美耶子の肩を揺さぶる宮田の後ろで、恭也は首を横に振った。
「放っておいてあげて下さい。それに……宮田さんにも話さなきゃいけないこと、あるし」
 宮田は恭也を振り返った。
 居間からの逆光を浴びた恭也の翳る顔には、あの日の朝と同様に、
重たい決意の表情が見て取れたのだった―。


 美耶子と恭也とを無理やり結び付けた放埓の夜から、今日で三日目になる訳だ。
 あの夜には結局、美耶子と恭也は、ただ一度きりの交接をしただけで終わった。
「本当に、もういいのか?」
 元通りに寝間着を着て、いつも通りに寝室のベッドに入った美耶子の耳元に、
宮田は囁きかけた。
「あっちで寝たって構わないんだぞ? お前がそうしたいんだったら―」
「どうして?」
 闇の中、美耶子は盲いた虚ろな瞳を宮田に向ける。
 その瞳には、責め立てるような怒気を孕んだ光が微かに宿っていた。

 宮田は、美耶子の光る瞳を無言で見返す。
 居間の方からは、恭也が聴いているポータブルプレイヤーのヘッドホンから漏れ出る音楽が、
断続的なリズムを刻んでひっそりと響いていた。

「お兄ちゃんは―私をどうしたいの?
恭也とあんなことをさせて……私が辛い思いをするの、面白がってるの?」
「辛い思いなんてしてない癖に」
「してるよ。だって私は……お兄ちゃんとしか、したくないのに」
「嘘だな。だったらなぜ彼を拒まなかった?
途中でやめることだって出来たはずなのに、なぜお前はそうしなかったんだ?」

 美耶子は、宮田の首っ玉に両腕で齧りついた。
「お兄ちゃんの……馬鹿!」
 強く囁く声。そして彼女は宮田の唇に接吻をする。幾度も幾度も。
 そうしながら首に廻していた腕を滑らせ、宮田の股間を探り出した。
 大人しく萎びた陰茎を、陰嚢ごと優しく揉みしだく。

 宮田は暫くの間、美耶子のしたいように手淫をやらせていたが、
やがて、細く冷たい指を引き剥がすと、寝返りをうって彼女に背を向けた。
「お兄ちゃん……」
 媚びるような甘え声と共に。美耶子は宮田の背中にすがりつく。
「もう私のこと、嫌いになった?」

 宮田は美耶子を振り返った。
 夜の闇に浮かび上がって見える白い頬を、そっと撫ぜる。
 美耶子の瞳に涙が溢れた。
「何で泣くんだ……」
 宮田は指先で美耶子の涙を拭う。美耶子の涙は、後から後から溢れ出して止まらなかった。
「俺は、そんなにお前に酷いことをしたのかな?」
「したよ。さっきからそう言ってるじゃない。私もう、どうしたらいいのか判らないよ……」

 宮田は宥めるように美耶子を抱き寄せ、ぽんぽんと背中を叩いた。
 そうすることしかできなかった。
 抱き締めている美耶子の躰からは、恭也の精液の匂いが立ち上ってくるようで、
どことなく不快感があってそれ以上のことをする気になれない。
 かといって、こうして涙している顔を目の当たりにすれば、邪険に扱うのも躊躇われた。

301:宮田×美耶子・其の三 第五回
09/08/16 15:54:47 Y2Zy/cLg

 結局宮田は美耶子が寝入るまで、そうして彼女を胸に抱いたままで過ごすこととなった。
 くたびれ果てた美耶子が、寝息を立て始めた後も―。
 恭也のヘッドホンから漏れていた音楽が途絶え、周囲がひっそりと静寂に包まれた後も、
宮田は冴えた眼で闇を見据え、夜が終わるのを孤独に待ち続けるだけだった。

 そうして何とかその夜をやり過ごし、眠り続ける二人を残して仕事に出かける宮田の心情は、
奇怪なものだった。
 もう暫くして眼を覚ませば、彼らはきっと、ゆうべの続きをし始めるのに違いないのだ。
 眠る前、美耶子は宮田に操を立てたいようなことを言っていたが、
そんな決意は、間近にいる恭也が少し強引に迫れば、脆くも崩れ去ってしまうことだろう。

 そう考えると、自分の留守中、好き勝手に愛欲を貪るのであろう彼らのことが、
腹に据えかねる。
 だがその一方で、宮田自身、そうなることを期待している節がないでもなかった。
 自分の居ない間に、恭也に抱かれる美耶子。絡み合う二つの裸体を思い出す。
 心に鋭い痛みを感じるものの、その痛みには言い知れぬ快感が潜んでいた。

 気もそぞろなまま一日の勤務を終えてアパートに戻ると、
美耶子と恭也は静かに宮田を迎え入れた。
 二人共にきちんと衣服を身に着け、性行為の名残りのしどけない様子などは、
微塵も感じさせなかった。
 居間のソファーや寝室のベッドもそれとなく点検したが、
いずれも清潔に整った状態に保たれており、乱れた形跡は残っていない。
(なんだ、何もしていなかったのか?)
 拍子抜けしてしまった。安堵の気持ちと、予想が外れて肩透かしを食い、
落胆したような気持ちとが綯い交ぜになった、不可思議な気分。
 しかしそんなぬるま湯のような安らぎは、ほんの一時のものに過ぎなかった。

 夕食の後、浴室に入った途端に、宮田が当初覚悟していた気配がむっと全身を包囲した。
 ぬくもった湿気に混じり、隠そうにも隠しきれないそれは、
男女が情交の際に漏らす淫液の臭気に他ならなかった。
 排水溝のカバーを外して調べると、髪の毛や石鹸滓の汚れに混じって、粘りの強い何かの液体が溝の中に絡み付いている気がした。
(そうか……ここで)

 風呂から上がった宮田は、恭也と美耶子を寝室に呼んだ。
「遠慮しないで、君もこっちに来なさい」
 寝室の入口で、棒立ちになって躊躇している恭也を、宮田はベッドに招き入れる。
 あまり大きくはないセミダブルのベッドは、三人で腰かけるとぎちぎちと窮屈だったが、
冷房の利いた室内では暑苦しさを感じることもなく、それぞれの肌と肌の触れ合う感触が、
いっそ官能的で心地好かった。
「さて美耶子。裸になって股を開け。今日の成果を見せるんだ」
 恭也と美耶子は、びっくりして眼を丸くした。

「何言ってるのお兄ちゃん。また酔っ払ってるの?」
「酔ってない。いいから早くしろ。それとも、無理やり引ん剥かれたいか」
「宮田さん……もういい加減やめませんか? そういうの」
 呆れた口調で言う恭也に、宮田は冷たい視線を浴びせる。
「ふん、今さら気取ったことを言うな。風呂の排水溝にしこたま精液を垂らし込んでた奴が」
 恭也の顔が、盛大に引き攣った。

「大方お前達は、今日一日セックスだけして過ごしていたんだろ?
俺が戻るまでに身仕舞いをし、部屋を片付けていたのは偉かったが、
証拠隠滅と呼ぶには詰めが甘かったな。
でもまあそれはいい。とにかく、初心者の恭也君と過度の行為に耽って、
美耶子の性器が爛れていたりしないかと心配なんだよ、俺は。ただそれだけだ」

302:宮田×美耶子・其の三 第五回
09/08/16 15:55:49 Y2Zy/cLg
「そんな……俺そんな乱暴にやってませんよ」
「恭也!」
 口を滑らせた恭也を美耶子が叱りつける。全く、語るに落ちるとはこのことだ。
 宮田は苦笑いをして肩を竦めた。

「ふ……乱暴にはしてないって? 本当か? どれ」
 宮田は、美耶子の躰を膝の上で仰向けにさせた。
 パジャマのズボンをパンティーと一緒に引きずり下ろして、眼に沁みるほどに白い太腿と、
 その真ん中に萌え立つ黒い恥毛を露わにした。
 今日、散々見たのであろうその場所から、恭也はそっと眼を逸らす。

 逆に宮田は、恥毛の中から微かに透けて見える鮮やかな紅色の粘膜に顔を近づけ、
指で探りながら大きく掻き分けた。
「ああ、お兄ちゃん……」
 気恥ずかしそうに額に手を翳す美耶子の正面に廻り、秘められた部分をさらに凝視する。
 美耶子のその部分は、この一日で一目見て判るほどの、あからさまな変化を遂げていた。
 宮田は言う。
「おい、随分と小陰唇が膨張してるじゃないか」

 そうなのだ。
 美耶子の、元来どちらかというと慎ましやかだった陰唇が、
ぽってりと普段の倍ほどの大きさに膨らんでいたのだ。
 陰裂から大きくはみ出たそれは、紅く色づいた様子といい、まるでたらこのようだった。
「こりゃあ、かなり摩擦したみたいだな―こっちはどうだ」
 柔らかく膨らんだ陰唇の上の方を探り、頂点の肉の芽を包皮からくるりと剥けば、
それもまた、絶頂間近でもあるかのように丸く飛び出し、真っ赤に熟れて艶々と輝いていた。

「ここも弄り倒されてるなあ。美耶子、ちょっと痛いんじゃないのか?」
「うーん、痛くはないんだけど……ちょっとだけひりひりしてる……かな」
「え!? そ、そうなの?」
 恭也は慌てて振り返る。
「ご、ごめん美耶子。俺……気付かなくて」
「大丈夫だよ。恭也が悪いんじゃない。ちょっとだけ……し過ぎちゃっただけだから」
「そんなにか。何回やったんだよ」

「……八、いや、七回……です」
「四回くらい、かな」
 恭也と美耶子は、それぞれ全然違う数を言った。
「どっちなんだ」
 よくよく訊いてみれば、発覚した事実は驚くべきものだった。
 要するに二人は、昼の間ほとんどの時間を繋がり合ったままで過ごしていたのだった。
 そのさなかに恭也が七回、美耶子が四回、オルガスムスに達したのだと、
まあそういうことらしいのだ。

「いい気なもんだな。この暑い中、こっちは汗水垂らして働いてきたってのに……。
お前達は部屋に篭って日がな一日セックス三昧か」
「しょうがないじゃない。お兄ちゃんが、私達をこんな風にさせたんだよ?」
 美耶子が小生意気に言い返すので、宮田は剥き身の陰核を指先で弾いてやった。
「ひっ」
 美耶子はぎゅっと眼を閉じ、小さく腰を跳ね上げる。

「確かに俺は、お前らに姦ってもいいと言ったがな。
一日中嵌めっぱなしで過ごしていいなんてことは、一言も言ってないぞ、こら」
 そう言って、腫れた陰核を人さし指でぐりぐりと押し潰す。
「ああ、はあぁ……」
 美耶子は眼を潤ませ、切ない吐息をはいて、膣口をひくりと蠢かせた。
 ひくひくと震える穴からは、白く泡立った粘液がどろっと溢れ出る。

303:宮田×美耶子・其の三 第五回
09/08/16 15:56:27 Y2Zy/cLg
 その反応の速さに、宮田は驚いた。
 日中ずっと快楽に耽り続けた躰は、性の感覚が鋭敏になって、
すぐさま男を迎え入れる準備が整ってしまうもののようだ。

「あ、あ……お、お兄ちゃん」
 瑞々しい鮮紅色の肉襞をひくつかせる美耶子は、
宮田の指によって、膣穴から溢れ出る淫液を陰裂に沿って伸ばされ、
尖り震える陰核に塗り込められると、半開きだった脚を自ら広げ、
膝を立てて濡れそぼつ穴をぐっと前に突き出してしまうのだった。
「ふん、何て格好だ美耶子。はしたない」
 嘲弄の言葉を浴びせ、宮田はふやけた指を陰部から離した。

「ああ……」
 会陰から内腿、尻の穴の方までひたひたに濡らしたまま、
美耶子は赤く上気した顔を苦しげに歪めて喘いだ。
 パジャマを着けたままの胸元を上下させ、
両乳房の頂点の突起を殊更に目立たせている美耶子をじっと見つめた後、
宮田は恭也を振り返った。
「続きは君がやってやれ」

 恭也は、赤らんで怒ったような表情を浮かべつつ、宮田と躰を入れ違えて、
美耶子の前に座った。
「恭也……」
 美耶子は、救いを求めるように恭也に向かって腕を伸ばす。
 早くも絶頂の兆候を現している膣口は、恥知らずなまでの露骨さでぱくぱくと、
陰茎を乞うて濁った体液を垂れ流した。

「ひりひりしてるとか言ってたからな。ぶち込む前に、ちょっと舐めてやるといい」
 宮田は後ろから恭也に言う。
「それとも、そんなことは昼間にもうやったか?」
「いいえ……してません、まだ」
 振り返らずに恭也は答えた。
 そして身を屈め、美耶子の股の間に顔を埋める。

「あんっ! やっ、恭……」
 恭也の頭が深く沈みこんで美耶子の中心部に接した途端、
美耶子は慌てたように脚をばたつかせたが、次の瞬間にはなまめかしく呻いて喉を反らし、
太腿で彼の頭を挟み込んだ。
「美耶子、そんなに締め付けると、恭也君が窒息してしまうぞ」
 宮田が注意をするも、美耶子の脚はその力を緩めない。
 それどころか、がに股の状態でもって足首を交叉させて、
もっともっと恭也の口を性器に押し付けようとして、渾身の力を込めるのだった。

 恭也は恭也で、そんな風に苦しい状態を強いられているのに、
まるで苦にする様子も見せず、濡れてわななく性器にがっぷりと口をつけ、
べちゃべちゃ音を立てながら、美耶子の快楽の源泉である場所に、献身的な奉仕を繰り返す。

「恭也君も。
あまりきつく舐め廻すんじゃなく、舌を柔らかくしてそっと撫でるようにやるんだ。
それにもっと、陰核の裏側とか、膣孔の周囲なんかを重点的に舐めてやった方がいい」
 宮田はやり方を指示すると同時に、美耶子の泣き所をも知らせてやるのだが、
恭也は宮田の言う通りにしようとはしなかった。
 ほとんど本能的に、自らの欲望に煽り立てられるままに、滅茶苦茶な動作で首を動かし、
陰核といわず、膣穴といわず、尿道口といわず、恥毛のへばり付いた大陰唇といわず、
餓えた犬畜生のように舌で蹂躙するばかりだった。

304:宮田×美耶子・其の三 第五回
09/08/16 15:57:14 Y2Zy/cLg

 そんな暴力的な啜門行為を受けながら、美耶子は蕩けるような声を上げてよがる。
 蛍光灯の明かりの下で艶のある黒髪を振り乱し、
茹った顔も、赤味の差した首筋までも汗びっしょりにして喘ぎ身悶えた。
 宮田はベッドから降りて美耶子の枕元に廻り、汗に湿ったパジャマの前を開け、
それを脱がせようとする。
 すると突然、美耶子の両腕が宮田を捉えた。
 美耶子は、宮田の背中に腕を廻して強く抱き寄せた。
 そしてほとんど強引に接吻をする。唇を吸いつけ、口の中に燃える舌を送り込んで、
ねっとりと絡んで舐め廻す。

 宮田は仕方なしに接吻に応え、開いた胸元から乳房を掴み出して、やんわりと揉みしだいた。
 ぴんぴん尖って指先を衝く乳首に微妙な震動を加え、次いでくりくりと転がして嬲る。
 別々の男の手によって、陰部と乳房を同時に責め立てられた美耶子は、
他愛もなく果ててしまった。
「ん……ううんんんっ」
 絶頂の発作に喉から漏れ出す淫声は、宮田の口に封じられ、苦しげに押し篭められる。
 それでも美耶子は唇を外そうとしない。
 宮田の口腔に桃色の熱い息を吹き入れながら、美耶子は恍惚のわななきに全身を委ねる。

 強張った乳房が、激しい鼓動に弾んでいるのを胸板で受け止める一方で、
宮田は、美耶子の股座に顔を突っ込んでいる恭也の方を横目で確かめる。
 恭也は、美耶子の性器の収縮を、舌の先でじっと味わっているようだった。
 最後まで、彼女の快楽の発作が収まり、首の周囲にきつく巻きついていた脚が、
力を失ってシーツの上に落ちるまで、そうして静止し続ける。

 完全に埒が明いたのを確認してから、彼はようやく美耶子の性器から顔を離した。
 ずっと息苦しい状態でいたためか、その顔は鬱血したように赤黒く、
美耶子の体液と、自身の汗とでぬらぬらぬめって酷い有様だった。

「これで拭け」
 宮田は美耶子から離れ、恭也にタオルを手渡した。
 彼が顔を拭いている間に、達したばかりの美耶子の性器を覗き込む。
 そこはさっきよりも物凄い見た目になっていた。
 腫れた陰唇は白濁した体液にまみれてべろんと捲れ上がっているし、
勃起したまま収まらない陰核は、上向きにぴょっこりと、
包皮から弾き飛ばされたみたいに突出して、なおも刺激を欲しているようだ。
 よほど舌で突き廻されたのか、黒い口を開いた膣孔は、
内部の血の色をした縁肉さえもはみ出させてふやけきっていた。

「優しく労わってやったという感じではないな、これは。
普通に性交をしたのと変わりないじゃないか」
 呆れた声で宮田が言うと、美耶子の指先が伸びて、何かを掴もうとするように、
中空をゆらゆら彷徨った。

「どうした美耶子」
「……お願い」
 片手を差し伸べた美耶子は、空いた手を自らの陰部に宛がい、そこをくっと寛げる。
 舐め廻されただけでは、足りないのだ。
 もっと奥まで―深い場所まで、慰めて欲しい。
 ぼんやりと気の抜けた表情を浮かべてはいても、美耶子の肉体は、
貪欲に男の陰茎を欲していた。

「俺のでいいのか?」
 訊いても答えないので、宮田は勝手にズボンを下ろし、
勃起しかけた陰茎を美耶子の手に握らせてみた。
「ああ……」
 美耶子は眉間に皺を寄せ、馴染んだ感触を愛しむ手つきで宮田の陰茎を撫で廻した。
 恭也はベッドの片隅に縮こまり、硬い表情で美耶子の手元に見入っている。

305:宮田×美耶子・其の三 第五回
09/08/16 15:58:01 Y2Zy/cLg

「いいだろう……では美耶子、ちょっと起きてみろ」
 宮田はベッドに胡坐を掻くと、美耶子の背中を抱いて膝の上に乗せた。
 向かい合うのではなく、二人で同じ方向を向いて密着した訳である。
「この状態で腰を落せ。お前が自分で挿れるんだ。できるだろう?
視界は恭也君のものを使えばいい」

 美耶子は、恭也の方を向いて少し戸惑った素振りを見せていたが、
すぐに腰を上げ、股の下に手を伸ばし、上向いた宮田の陰茎を掴んで、己の膣口に宛がった。
 そして、そのままぐっと腰を沈めた。
「ああ……あ」
 待ち望んでいたものを深く埋め込まれ、美耶子は歓喜の声を上げる。
 すかさず宮田は腰を突き上げた。
 背後からくびれた腰を抱き締め、乳房の膨らみを手で持って、
不自然な姿勢をものともせずに、くいくいと巧みな腰使いをする。

 下から貫かれる美耶子はうっとりと躰を反らし、M字にぱかんと股を広げた。
 足の裏はベッドについて自らの体重を支え、尻を揺すって下からの突き上げに応える。
 瞬く間に気ざした膣粘膜は、じゅぶじゅぶと音を立てながら硬い陰茎を強く挟み、
襞をぐねぐねのたくらせて摩擦した。

 恭也は、明るい場所でその全容を曝け出している美耶子と宮田の結合部を、
食い入るように見つめていた。
 眼を大きく見開いて、寄せた眉をぐっと吊り上げたそれは、阿修羅の表情そのものだ。
「あん、あ……いい……いい!」
 美耶子の唇から抑えきれない悦びの声が漏れ出し、乳房を掴んでいる宮田の手に、
そっと自分の手を重ねているのを目の当たりにした時、恭也の我慢は限界を越えたらしい。

 恭也は獣のような雄叫びを上げて、宮田との交接に酔い痴れている美耶子の躰を、
無理やり自分の方に引っ張った。
 態勢を崩され、結び合った性器を変な方向に捻られて、
美耶子と宮田は揃って小さな悲鳴をあげる。
 恭也は、股からぬるっと粘液を垂らした美耶子をベッドに押さえつけ、
一気呵成に陰茎を突き立てると、これ以上は不可能なくらいに尻を沈ませ、
せかせかと落ち着きなく抽送を始めた。

「お前なあ……」
 恭也の小さくこりこりとした尻が動くのを眺めながら、
宮田は呆れて笑い混じりの声を出した。
 昼間七回も射精しておいて、それでもなお美耶子を独占したいというのか。
 しかもその七回というのだって、宮田の手前控え目に言った回数だろうから、
実際にはもっと沢山やっている可能性が高いのだ。

「全く。こいつをどうしてくれるんだ」
 宮田は、美耶子の残滓にぬめり、物欲しげにびくびく脈打っている陰茎を手で掴んだ。
 そのまま、反対向きになった美耶子の頭の方へ廻る。
 美耶子は激しく躰を揺さぶられ、性の快感に揺蕩いながらも、
少し困惑している眼を宮田に向けた。

 ―ご、め、ん、ね。
 揺れて震える唇が、大げさに動いて言葉を紡ぎ出す。声はない。唇の動きだけだ。
 その唇の前に陰茎を突きつけると、美耶子は躊躇なくそれを咥えた。
 自分に姦されている美耶子が、片手間にそんなことをしているのを知った恭也は、
憎悪の篭った瞳で宮田の陰茎を見据えるも、結局どうしようもないことで、
諦めて膣の摩擦に没頭するしかなかった。

306:宮田×美耶子・其の三 第五回
09/08/16 15:58:35 Y2Zy/cLg

 一方の美耶子は、己の出した膣液にまみれた陰茎を、それにも構わず大きくすすり、
頬を窄めて熱心な吸茎を行った。
 口腔粘膜で亀頭全体を揉んだり摩ったりしながら、指で陰茎の根元を締め付け、
それを急速に前後に動かして擦り上げる。
「上手くなったな、美耶子」
 宮田はベッドに手をついて眼を瞑り、美耶子の口と手がもたらす快感に耽溺した。

 やがて、まずは恭也が皆に先駆けて快感の頂点へと昇り詰め、
 狂おしく呻いて乳房を掴み、陰茎を膣の一番奥まで届かせるように、
ぐっと腰を反り返らせた。
 ずん、と深い場所に衝撃を受けた美耶子は、陰茎を咥えたまま「んぐっ」と息をつめ、
 舐めたり擦ったりするのをいったんやめて、慎ましやかな絶頂を迎えたようだった。

 宮田は、恭也に膣を姦され、
それで絶頂を迎えた美耶子の口に愛撫されているのだという強い自覚の中で、
鋭い快感を伴う射精を行った。
 尿道管を焼け火箸で突き刺されたような熾烈な感覚は、宮田の全身を硬直させ、
下半身を不随意的にがくがくと震えさせた。

 美耶子は宮田の精液を、喉を鳴らして飲み干した。
 一滴も残すまいと吸い尽くし、擦る動きは、治まりゆく宮田の律動に合わせて、
次第に穏やかに、宥めるようにゆったりしたものに変えてゆく。

 精液を出しつくし、骨が抜けた心地の宮田は、陶酔に霞む眼を開けた。
 開けた途端、美耶子の胸に顔を乗っけていた恭也と、なぜか眼が合ってしまう。
 照れ笑いを浮かべて見せるものの、その内心はあまり愉快なものではなかった。
 宮田はすぐに目線を反らした。恭也という現実から眼を背けるように。
 射精直後に見た恭也の顔は、宮田の胸に、ざらついた後味の悪さを残した。


 その次の日も、事の成り行きは似たようなものだった。
 宮田が仕事に出かけている間中、美耶子と恭也は爛れた愛欲の時間を過ごす。
 宮田が帰宅してからは詰問。
 そして、そのまま三人で縺れ合っての複雑な性交に突入する。

 奇妙なことだが、恭也と関係を持って以来、美耶子は以前にも増して、
宮田に甘えるようになっていた。
 昼間、恭也と濃密な不貞行為を働いたことに対するある種の後ろめたさが、
美耶子をして、そんな態度を取らせる要因となっているのかもしれなかった。

「ねえお兄ちゃん……寝ちゃった?」
 夜も更け、恭也は居間のソファーで、宮田と美耶子は寝室のベッドでそれぞれ横になった後。
 明かりを落とした寝室で、美耶子は宮田の背中に躰を張りつけ、耳元に囁きかける。
「もう寝ろ……もう充分だろう、今日は」
 それほど眠い訳でもないのに、宮田は疲れた風な声を装い、
ランニングシャツの胸板やら下腹部やらをまさぐってくる指を、冷たく振りほどいた。

「お前、昼間に奴と十一回も姦ったんだろう? いったのは五回だったか?
あんまり姦り過ぎると糜爛(びらん)になるぞ」
「平気だよ。あそこ、ちっとも痛くないもん。
今日は、ずっと挿れたまんまにじゃなかったから。
それに……今日は私、控え目にしてたんだよ。お兄ちゃんのために。
あんまりいき過ぎないようにしてたの」
「何でだよ」
「お兄ちゃんに……いかせて貰いたかったから」
 美耶子の腕が、背後からぎゅっと宮田を抱き締めた。

307:宮田×美耶子・其の三 第五回
09/08/16 15:59:05 Y2Zy/cLg

「それにお兄ちゃん、今日は一度もいってないじゃない。
私が口でしてあげたのに、今日はいかなかった。だから―」
 美耶子は起き上がり、掛布を剥いで宮田の上に跨った。
 簡素なネグリジェも、下着も脱いでさっさと裸になる。
「見て、お兄ちゃん」
 膝立ちになった美耶子は、二本の指で性器の割れ目をぱっくりと広げて見せる。
 蒼い闇の中、彼女のその部分は、淫靡な桃色に濡れ光って見えた。
「私のここ……お兄ちゃんを欲しがってるの……恭也じゃ駄目なんだ。乱暴すぎるから。
お兄ちゃんみたいに優しく、恥ずかしいくらいに苛めてもくれないから……」

 宮田は、じゅくじゅくと発情液を湧き出させてうねり震えている美耶子の性器に、
醒めた視線を送った。
 あくまでも冷静に―だがその反面、トランクス一枚に覆われたのみの陰茎は、
頼りない布地を貫きかねない勢いで突き上がり、びくびく震えるその頂点に、
卑猥な濡れ染みまで作っていた。

「お兄ちゃん……」
 宮田の躰の反応を気配で感じ取ったのか、美耶子はうっとりとした吐息を漏らし、
そそり勃った部分に手を伸ばそうとした。
「駄目だ美耶子」
 宮田は、美耶子の手を強く押し返した。

「嵌める前に―お前のものをもっとよく見せろ。
俺の眼の前で、どんな風にまんこを弄って欲しいのか、自分でやって見せるんだ。
俺の居ない間、いつも独りでやっている時のようにな」
「そんなこと……」
「やれよ。苛めて欲しいんだろ?」
 宮田は腕を伸ばし、美耶子のなめらかな太腿を、さらりと撫ぜた。

 美耶子は意を決したように息を吸い、膝をにじらせ宮田の眼の前に股間を突きつけると、
すでに充分過ぎるくらいに大量の粘液にまみれた女性器に、静々と指を這わせた。
 嫋やかな白い指先が躍り、幾重にも折り重なる襞に包まれた膣口をもぞもぞとほじくったり、
陰裂を何遍にも渡って掻き廻したり。
 もう一つの手は両乳房を行き来しながら、桃色乳首の尖りを、くりくりと捻って押し潰す。
 膣から溢れる夥しい粘液は、指が動く毎にくちゃくちゃと快楽にまみれた音を鳴らし、
それが高まるのに合わせ、美耶子の唇からは、性器の快感に蕩けた甘い声が漏れ出し、
密やかに淫らにベッドの上を満たしてゆくのだった。

「美耶子。なぜ陰核に触らないんだ」
 宮田は、勃起しきって根元からもっこりと盛り上がっている陰核を指さして言った。
 美耶子のもっとも敏感な赤い釦。肉の真珠を触らずに自慰をするというのは、
少々不自然なことに思われた。
「ここは……」
「何だ? 言ってみろ」
 宮田は、眼の前でひくひく震えている陰核を、ぞろりと撫で上げた。

 美耶子は肩を跳ね上げ、大仰に顔をしかめて腰を引いた。
「ごめん、ちょっと……」
 股間を手で押さえ、誤魔化すように美耶子は笑う。
「痛んだのか?」
 宮田は眉をひそめる。美耶子の手を外し、眼を凝らして陰核の辺りを注視した。
 暗いのではっきりとは判らないが、こうして見る限り、特に異常はないように思える。

「恭也が―私をいかせようとして、そこばかり強く弄ったの。それで」
 美耶子の言葉に、宮田は舌打ちをした。
「言わんこっちゃない……擦り切れちまったんだろう。まあ仕方ないな。
この二日間の、ご乱行のツケが廻ったんだ」
 宮田は陰核の頂点にそっと触れて、持ち上げた。

308:宮田×美耶子・其の三 第五回
09/08/16 15:59:47 Y2Zy/cLg
 よくよく見ると、陰核の裏つらのへこみが若干赤くなっているようだ。
 そこに、これ以上ないくらいの柔らかなタッチで舌を宛がう。
「ああ……」
 美耶子の表情が、痛みとは一転した恍惚に蕩けた。

「美耶子、やはり今日は大人しく寝ておけ。
この程度なら、一晩弄らずそっとして置けばすぐ良くなる。だから―」
「嫌っ」
 美耶子は、宮田の上に覆い被さってかぶりを振った。

「そんなに姦って欲しいのか」
 宮田が訊くと、美耶子は真剣な面持ちで、こっくり頷く。
「しょうがないな……じゃあ、四つん這いになってケツをこっちに向けろ」
 美耶子は、すぐさま言われた通りの姿勢を取った。
 宮田は起きて裸になり、膝をついて、美耶子の尻を背後から抱え込む。
 後ろからなら、陰核に負担を与えないだろうと考えたのだ。

 雌犬の姿勢を取った美耶子の陰門を亀頭の先で探り、力を込めてずぶずぶと侵入する。
 美耶子は弓なりに腰を反らせ、歓喜の叫びを上げた。
 宮田もまた、美耶子の襞の弾力を味わいながら、満足げに呻いた。
 邪魔の入らぬ二人きりの状態での挿入は、本当に久しぶりのことで、
そのせいか、美耶子の肌の感触や、火照って煮え立ったみたいな肉穴の蠢きが、
殊のほか新鮮に、魅力的に感じられる。

 深く浅く。直線的に貫くかと思えば、くるくると螺旋状に腰を捻り廻して、
膣の奥深い場所を隈なく捏ねくり、強烈に摩擦する。
 宮田の動きに応え、尻を突き上げたり回転させたりする美耶子もまた、
 生きた蛇のように千変万化の動きをする陰茎に我を失い、
夢中になってあられもなくよがり狂って、膣穴を収縮させた。

 ぱんぱん、ぐちゅぐちゅ、と互いの肉や粘膜、それに垂れ流しの発情液の音が、
この上なく淫蕩に鳴り響く中、二人の性器の快楽は際限もなく高まってしまう。
 彼らは理性も分別も、何もかもがすっ飛んで消え去ってしまうあの瞬間を求めるだけの、
ふしだらな獣に成り下がってしまった。

「おお、お、お兄ちゃん……お兄、ちゃあん!」
 先にその瞬間に到達したのは、美耶子の方だった。
 無体な快感に耐え切れず、上半身をベッドに突っ伏して尻だけを高く掲げ、
 全身の力を膣で陰茎を締めることだけに使いながら、
無我の桃源郷にその身を舞い上がらせた。
 びくびくと尻を震わせながらすすり泣き、意味不明の世迷言を喚く美耶子は、
美耶子の子宮は、膣の入口まで下りてきて、宮田の亀頭に強く吸い付く。

 それは、射精を乞う動きだった。
 宮田は眼を閉じ、美耶子の胎内で起こっている凄まじい性の蠢動の中で陰茎を波打たせ、
どくどくどくどく精液を放った。
 真っ白な可愛い尻の肉を両手で掴み、腰を何度も跳ねさせて、絶頂の痙攣を繰り返す。

 いっそ苦痛であるほどの悦楽の刻がようやく終わり、宮田は美耶子から離れる。
 宮田の支えを失って、美耶子の尻はシーツの中に落ちた。
 その時、居間との仕切りであるアコーディオンカーテンが、微かな音を立てた。
 音のした方に目線を送る。
 カーテンの隙間に、光る眼があった。

 なるほど、あれだけ派手な音を立てて狂態を演じていれば、
隣室にいる恭也が気付かない訳がないのだ。
 恭也から視線を外した宮田は、「またか」と、どこかで思いながら、
うつ伏せで荒い呼吸を繰り返している美耶子を見下ろした。
 長い大量の黒髪をシーツの上に撒き散らした美耶子は、気付いているのかいないのか、
小さく寝返りをうって、アコーディオンカーテンに背中を向けたのだった。

309:宮田×美耶子・其の三 第五回
09/08/16 16:00:19 Y2Zy/cLg

(ひょっとすると、美耶子と恭也の喧嘩は、ゆうべのあれが原因になったのかもしれんな)
 居間のソファーで、恭也の準備した夕食に箸をつけながら、宮田は密かに考える。
 床に座った恭也の方を見た。
 恭也もまた宮田を見返す。
 二人の背後にあるテレビでは、お笑い芸人達が集まって、どうでもいいようなトークをして、
喧しく盛り上がっていた。

「あのですね―」
 少し味の薄い野菜炒めの、やたら大きなキャベツ片を口に運んで飲み下した後、
恭也は口火を切った。
「俺、もう東京に帰ります」
「……そうか」

 思いもよらない台詞だったが、まあ当然といえば当然の話だ。
 恭也は、夏休みを利用して旅行をしているのだ。
 夏休みならいつかは終わるし、終われば、元通りに家に戻って学校に通わなければならない。
「実は……親から携帯に電話がかかってきちゃって。
俺はもう少しこっちに居たいって、言ったんですけど」
「いつ帰るんだ」
「お盆が終わるまでに―十五日までには、絶対帰って来いって。
でなきゃ、二度と家には入れないって」

「そりゃあ仕方ないな。君は、一週間で戻ると言って出てきたんだろう?
それがもう、今日で十一日目だ。親御さんだって心配になるさ」
 宮田が言うと、恭也はしかつめらしく頷いた。
「それでですね、明日……新幹線のチケット予約しようかと思ってて」
「明日? 随分と急だな」
「今の時期は新幹線も混むから、早く席取らないと。それに……早い方がいいんです。
あんまりゆっくりしちゃうと、つらくなるから」
「何がつらい?」
 恭也は、何も答えずに味噌汁をすすった。
 宮田も味噌汁の椀に口をつける。豆腐と葱の味噌汁は、少し冷めていた。

「寂しくなるな」
 箸を置き、恭也を見つめて宮田は言った。恭也は眼を伏せ、しょんぼりと微笑む。
「そうですね……」
「でもまあ、東京とここならそれほど離れているって訳でもないからな。
新幹線を使えば二時間半―電車の乗り継ぎを鑑みても、三時間半程度だ。
来ようと思えばいつでも来られる。また遊びに来ればいい」
「……はい」
「ああ、そういえば恭也君。自転車はどうするんだ? 新幹線で持って帰れるのか、あれ?」
「折り畳み式なんで、小さくして運べるんです」
「宅配便で自宅に送った方が、楽なんじゃないか?
混雑した新幹線の中じゃあ、置き場所にも苦労しそうじゃないか」
「いやあ、まあそうかもしれないっすけど。何とかしますよ。
宅配便なんて使っちゃうと、金かかりそうだし―」

 宮田と恭也がそんな話をしていた処、アコーディオンカーテンが派手な音を立てて開いた。
 強い感情を爛々とその眼に湛えた美耶子が、唇を震わせている。
「何で……そんな風に言えるの……」
 低く唸るような声で、美耶子は言った。
「二人とも、何でそんな、何でもないことみたいに、そんな……」

310:宮田×美耶子・其の三 第五回
09/08/16 16:00:57 Y2Zy/cLg
「美耶子? どうしたの?」
 言葉を詰まらせ、泣き出した美耶子を見て、恭也は心配そうに立ち上がった。
 美耶子のそばへ行き、肩に手を置こうとするが―。

「お前達は、勝手過ぎる!」
 突然、美耶子が大きな声を出したので、恭也はびっくりしてその手を引っ込めた。
「時間が来たからもう帰るだなんて……寂しくなるなって、それだけで終わりだなんて……。
どうして? どうしてそんな、簡単に言えるの?
今まで私をあんな風にしてた癖に、どうして……」
 美耶子は両手で顔を覆った。
 恭也はどう対処したらいいのか判らず、ただおろおろと美耶子を見つめている。
 宮田もまた何も言わず、身動き一つせずにじっと美耶子を見上げているだけだった。

「結局……お前達は、私で遊んでただけなんだ!
それでもう飽きたから……私を恭也に抱かせたり、それも飽きたらさっさと終わらせる。
ただそれだけなんだ! 私の気持ちはどうだっていいし、私がどうなったって、
関係ないと思ってる……」
「そ、それは違うよ……」
「うるさい! 嘘つき嘘つき嘘つき! お前だってそうだ!
もう私に飽きたから、そんな簡単に家に帰るなんて言えるんだ!
私と逢えなくなったって、別にいいと思ってる! ふざけるな!
私は……私はお前の、お前達のおもちゃじゃない!」

 そう言うなり、美耶子は恭也を押し退け、玄関に向かって走り出した。
 柱やらダイニングのテーブルやらに躰をぶつけながらも、
ほとんど迷うことなく玄関ドアまで辿り着いたが、
掛かっていた内鍵を開けるのに手間取っている。
 それを、すかさず恭也が捕まえた。
「美耶子、待って」
「嫌! 離せ!」

「行かせてやれ」
 恭也と美耶子が揉み合っている玄関先に、宮田の声が響いた。
「宮田さん……でも」
「いいんだ。ここから出て行きたいというんなら、好きにさせればいい」
 宮田は恭也と美耶子の間に割り込み、玄関の内鍵を開けた。
「ほら行けよ」
 ドアを開け、薄暗い明かりの灯った廊下に美耶子を押し出す。
 美耶子は憎々しげに表情を歪めた後、裸足のままで駆け出した。

「美耶子!」
 手探りで、危なっかしく廊下を去ってゆく美耶子を追って行こうとする恭也を、
宮田は引き留める。
「俺が行く。君はここに居ろ」
「宮田さん……」
「大丈夫だ。俺がちゃんと話しておくから―君は、片付け物でもして待っていてくれ」
 宮田はひらりと手を振り、サンダルを突っかけて廊下を歩き出した。


 アパートの外に出ると、ちょうど美耶子が建物の角を曲がっていく処だった。
 多分、裏の駐車場に行くのだろう。宮田は後を追う。
 駐車場の奥、ツツジの植え込みの前に、ぽつねんと佇んだ美耶子の後ろ姿が見える。
 電柱にくっ付いた外灯の光が、美耶子の立ち姿をスポットライトのように照らし出していた。
「そこか? ケルブの墓にしたのは」
 カバーのかかった車の陰から声をかける。美耶子は振り返らないし、何も返事をしない。

311:宮田×美耶子・其の三 第五回
09/08/16 16:01:39 Y2Zy/cLg

 宮田は美耶子のそばへ行き、煉瓦で組まれた花壇の縁に腰かける。
 そこからは、美耶子の端整で冷たい横顔がよく見えた。
「美耶子、こっちへ来て座れ。話がある」
 宮田は言ったが、美耶子はなおも立ち尽くし、押し黙ったままでいる。

「……お兄ちゃんは、もう私に飽きたんだ」
 ようやく口を開いたかと思うと、美耶子はそんな言葉を吐き出した。
「前にお兄ちゃんは、私に言った。
もう一年も付き合っているから、お前もそろそろ、俺に飽きただろうって。
でもそうじゃなかったんだ。飽きていたのは、ほんとはお兄ちゃんの方だったんだ。
だからあんなことをした。私を恭也に押し付けてしまって、それで、私から開放されたい。
そう思ってたんだ」
「そんなことはない」
「嘘だ!」
「嘘じゃない」
 落ち着き払った静かな口調で宮田は言った
「いいからこっちへ来い美耶子。俺は―お前に話さなきゃならないことがあるんだ」

 美耶子は、硬く強張った表情を浮かべて宮田の眼の前に立つ。
 宮田は美耶子の手を取り、引っ張って自分の隣に座らせた。
「俺がお前を恭也に抱かせたのは、お前がそれを望んでいることに気付いたからだ」
「じゃあ、あれは私のせいだって言うの!?」
「いや、そうじゃない」
「だって……」
「美耶子」
 宮田は美耶子の手を握った。

「恭也に出逢ってから、お前は変わったよ。
おそらく、お前自身は気付いていないんだろうけどな。
あの日―ケルブの喪われた日を境に、お前は恭也に惚れたんだ。
傍目から見れば明白だったよ。
恭也がアパートに来てからというもの、お前はいつでも恭也ばかりを視ていた。
俺のそばに居ても、お前の頭の中が恭也のことで一杯になっているのが、はっきりと判った。
だから」
 そう言ってから、美耶子の手を握る力を強くする。
「だから俺は……俺自身の手によって、お前と恭也とを結びつけたんだ。
俺が知らない間に、恭也がお前を奪ってしまうことは許せなかったし、
耐えられないと思ったから。
無論どんな経緯であれ、お前と恭也が性交をするのは歓迎すべきことではなかった。
でもそうするしかなかった。
俺は、どうあっても状況を自分自身でコントロールしたかったんだ」

「……やっぱり勝手だよ。お兄ちゃん」
 宮田に手を握られるに任せ、美耶子は力なく呟いた。
「勝手にそんな風に思い込んで、勝手に……。ほんと、馬鹿みたい。
私を何だと思ってるの?」
「生き甲斐だと思ってるよ」
 思いもよらぬ台詞を聞き、美耶子は思わず顔を上げた。

「それに関しては、お前と村を出ると決めたあの夜から、なんら変わっていない。
お前と共に在るために、俺は今、こうして生きているんだ。
言ったろう? 俺は、俺が死ぬ最後の刻までお前のそばに居る。いや、居なければいけない。
俺自身が決めたことなんだ。
この先何が起ころうとも、その決意が揺らぐことはない。絶対に」
 宮田は、強い意志を篭めた視線を、前方に向けて語った。
 これといって何を見ている訳でもないその視線は、
強いて言うならば、未来に向けられたものであったのかも知れない。

312:宮田×美耶子・其の三 第五回
09/08/16 16:02:10 Y2Zy/cLg

「そんな風に思ってくれてるなら……恭也と、あんな風にさせないでくれればよかったのに。
それだったら、私も我慢して、それでいつかは忘れられたはずなのに……」
「それについてはさっき話した通りだ。だいたい、お前にはまだ難しいかも判らないが、
人間の心というのはそう単純にはできていない。
抑え付けた欲求というものは、必ずどこかに支障を及ぼすものだ。
下手をすれば爆発を起こしてしまうかもしれない。それは避けたかった」
「でも! 恭也とこんな風になっちゃってから別れる方が、私にはつらいよ」
「だったら……別れなきゃいいじゃないか」
「え?」

 美耶子は、不思議そうな表情を宮田の方に向ける。
 宮田は悪戯っ子のように微笑んだが、それは美耶子には判るまい。
「東京に帰る恭也を追って、俺達も東京に越せばいいのさ。
そうすれば、お前はいつでも好きな時に恭也と逢えるようになるだろう?」
 宮田の提案に、驚いた美耶子はぽかんと口を開ける。

「お兄ちゃん、それ……本気で言ってるの? だってそんな……診療所はどうするの?」
「まあ、辞めざるを得ないな。
これまで世話になった犀賀先生を裏切るようで、申し訳なく思うけど……仕方ない」
「そんな! 東京に行って、お兄ちゃんはどうするつもりなの!?」
「大学の医局に戻ろうかと思ってる。そこで、ある研究をしたい」
「研……究? 何の研究?」
「お前の血に関する研究だ。
お前の―神代家に伝わる、“死ぬことのできない呪い”をもたらす因子についての研究。
“永遠に続く不完全な不死”を治療する方法を見つけ出すんだ。
永遠に続く苦しみから、お前を解き放つために」

 美耶子は、はっと息を漏らした。
「お兄ちゃん……」
「本当を言うとな、もうずっと前から考えていたことなんだよ。
この土地で働きながら生活の基盤を作り、ある程度落ち着いたら始めるつもりだった。
けれど、少々落ち着き過ぎてしまった。この町での生活が、肌に合い過ぎたんだな。
いつまでもこんなことではいけない。こうしている間にも、時間はどんどん進んでいるんだ。
俺の頭と躰が達者な内に始めなければ……。
恭也のことは、その事実を思い起こすいいきっかけだったよ」

「お兄ちゃん!」
 美耶子は、宮田の肩にもたれかかった。
 宮田の首筋にしっかりと頭を食い込ませ、嗚咽を漏らして彼女は泣いた。
「―もちろん、俺がお前の血の秘密を解明しきれる保証はない。
俺にそこまでの天分があるかどうか……だが努力はする。少なくともお前をあの、
神代の屋敷の地下遂道に棄てられた御隠居様達のような目に合わせはしない。
それだけは約束する」
「うん……うん」
「ただし。研究のために時間を裂く都合上、
これまでのようにお前とゆっくり過ごすことは難しくなるだろうから、
それだけは覚悟しておいてくれよ。
そんな研究をしているだけじゃあ食えないから、
余所の病院でバイトもしなけりゃならなくなるだろうしな。
東京は物価が高いから、暮らし向きだって今より厳しくなるかもしれないし―」

「私は……お兄ちゃんが一緒に居てくれれば、それだけでいいよ」
 宮田の肩の上で、美耶子は小さく囁いた。
「他に何もいらない。もしも、お兄ちゃんの研究が上手く行かなくったって……。
お兄ちゃんが私を助けようとしてくれたってことだけで、それだけで私は嬉しい……」
「馬鹿、上手く行かないかも、なんて言うな。
最初から負けるつもりでかかったら、勝てる喧嘩も勝てなくなる」

313:宮田×美耶子・其の三 第五回
09/08/16 16:02:53 Y2Zy/cLg
「うふ……お兄ちゃんに取って、お医者の研究は喧嘩と一緒なの?」
「そうさ。神様を相手にした喧嘩だよ」

 宮田と美耶子は、鼻をつき付け合って笑った。
 そして久々の、本当に久々の、和やかな口づけをする。
 まだ時刻は八時前で、駐車場前の道にはぽつぽつと人通りがあったが、
彼らの手前にある銀色のカバーをかけた車が、寄り添い合う二人の姿を上手く隠してくれた。


 話が終わって宮田と美耶子がアパートに戻ると、食事の後片付けを終えた恭也が、
居間のテーブルでノートパソコンを開いて何やら調べ物をしていた。

「あっ、美耶子……」
 彼は美耶子の姿を見るなり立ち上がり、
「心配」という文字を大きく書き込んだような顔をして駆け寄った。
「もう心配ないよ、恭也君。美耶子にはちゃんと言って聞かせたから」
「うん。ごめんね恭也。心配かけて」
「あ、ああ……そんなこと」

 恭也は、数十分の間にすっかり機嫌を直して穏やかに微笑んでいる美耶子を前に、
戸惑いを隠しきれない面持ちになった。
 そんな恭也を見て、宮田と美耶子は並んでほくそ笑む。
「な、なんすか二人とも……」
「うふふ……何でもないよ。そんなことより……ねえ、パソコンで何を見てたの?」
「新幹線のチケットか?」
「ああ、そのつもりだったんですけど……ちょっと、気になるものを見つけちゃって」

 それは、恭也行きつけのオカルトサイト上にある、一件の記事であった。
 かいつまんで述べると、今から三年前の夏、とある海水浴場が突然の高波に襲われ、
多数の海水浴客が犠牲になるという痛ましい事件があって、
それ以来、その海水浴場では時おり、水着姿の小さな女の子の霊が現れるようになったと、
まあそういった内容だ。

「その海水浴場っていうのが、どうも名古屋にあるらしいんですよ。
名古屋って、ここと東京のちょうど中間点じゃないですか。
それで、帰る前にちょっと寄ってみようかなあ……と
ここから愛車を使って行けば、交通費の節約にもなるし」
 恭也のその言葉を聞いて、宮田は噴き出した。
「ここから名古屋まで自転車で行くだと? 正気かお前」
「厳しいっすかね」
「二百キロぐらいあるんだぞ。まあどんなにがんばっても、丸一日以上は確実にかかるだろう。
途中で宿を取ることを考えたら、交通費の節約どころの騒ぎじゃない」

 話している最中、宮田と恭也は、背後にちょっとした気配を感じて振り返った。
 美耶子が、何かを期待するかのように瞳を輝かせている。
「美耶子どうしたの?」
「海、行きたい」
 美耶子は恭也の方に顔を向けて言った。
「私、本物の海見たことない。見たい。海見たい!」
「うわっ!」
 突然美耶子は、恭也に掴みかかった。恭也は美耶子ごと床にひっくり返る。

「い、行きたいって……そんなこと言われても」
「大丈夫だよ。お兄ちゃんが車で連れてってくれるから」
「おい」
「車だったら自転車より早く行けるもんね。交通費の節約もできるし、一石二鳥だよ」
「……そ、そうかな」

314:宮田×美耶子・其の三 第五回
09/08/16 16:03:28 Y2Zy/cLg
「こら!」
 勝手に話を進める二人の傍らで、宮田は声を上げた。

「ねえ、いいでしょお兄ちゃん?
せっかく明日からお盆休みなのに、家でじっとしてるだけなんてつまんないよ。
それに……一緒に行けば、恭也とのお別れも先に延ばせるし……」
 美耶子は恭也から離れると今度は宮田の腕を取り、
それを軽く揺さぶりながらおねだりをする。
 こうやれば、宮田が当然自分の言うことを聞くものと信じて疑わない素振り。
 事実、美耶子の目論見は、確実に成功しているのであった。

「しょうがないな……」
 ため息混じりに宮田が言うと、美耶子は「わあっ」と歓声を上げて宮田に抱きついた。
「ありがとうお兄ちゃん! 私、嬉しいよ!
恭也とお兄ちゃんと、みんなで一緒に海に行けるなんて、ほんとに夢みたい……」
 躰をぴったりすり寄せてしなだれかかる美耶子を抱きとめ、宮田は苦笑いをする。
 怒ったり泣いたり笑ったり―短時間のうちにくるくると表情を変える美耶子は、
まるでスロットマシーンのようだと思った。

 しかし今夜の美耶子は、宮田に取ってはずれの目を出した。

「お兄ちゃん。私、今日はあっちで寝る」
 明日にはさっそく出発しようということに話が決まり、
早いうちから部屋の明かりを落とした寝室で、美耶子は、至極素っ気なく言った。
「昼間にね、私、恭也に酷いこと言っちゃったの、色々と……。それを謝りたいの。だから」
 暗闇の中、美耶子の瞳は静寂の光を湛えて宮田を見つめた。

「構わんけど、静かにやるんだぞ」
 宮田が答えると、美耶子は深く頷き、
そして、アコーディオンカーテンの向こう側に消えて行った。

 独り残された宮田は、ベッドに仰臥して息を詰める。
 隣の部屋からは、密やかな衣擦れの音と共に、
彼らの囁き合っている声が微かに聞こえてくる。
 やがて、それらの物音が収まり、急にしんと静まり返った。

(始まったな)
 じっと澄ませている宮田の耳に、一定の旋律を持った、
何かの擦れ合うような響きが伝わって聞こえてくる。
 衣擦れとは明らかに異なっているそれは、裸の肌と肌とが合わさって立てている音に、
相違なかった。
 その音が高まるのにつれ、二人の息ざしが荒く乱れ始めているのも判る。
「お兄ちゃんは……」
「だって恭也は……だから……ちょっとだけ」
「違うの、もう少し下……うぅんっ」
 睦言を囁く美耶子の声が、引き攣れたように裏返った。

 そんな妖しげな物音を耳にしているうちに、宮田の陰茎には血が集まりだしていた。
 勃ち上がった陰茎にそそのかされるように、宮田はすっと起き上がり、
音もなくアコーディオンカーテンに近づいて、隙間から隣を覗いた。
 物凄いものが見えた。

 表の街灯に薄っすらと照らされたソファーベッドの上には、
美耶子と恭也の肉体だけがあった。
 クッションもタオルケットも、互いの衣服も床に捨て去り、
裸の二人は、声を押し殺して絡み合っている。

315:宮田×美耶子・其の三 第五回
09/08/16 16:04:03 Y2Zy/cLg

 こちら側を向いた美耶子は、躰を横向きにして真っ直ぐに寝そべっていたが、
片方の膝を持ち上げて大きく股を広げていた。
 恭也は美耶子の躰に背中から寄り添い、脇から廻した手で乳房を弄くりながら、
下の方では節くれだった指先をもぞもぞと蠢かせて、
広がりきった美耶子の性器に手淫を施しているのだった。

 美耶子の性器の様子は、恭也の手にすっぽり包まれてしまってよく見えはしなかったが、
自らの手でもって口を押さえている美耶子の、眉根の寄った苦しげな表情や、
恭也の指先の蠢きにつれて、ぴくっぴくっと震える太腿や足の親指の動作によって、
感じている快楽がこの上ないものであることは、明白だった。

 暗く見通しの悪い中、宮田の視線は、
陰核に押し潰すような愛撫を受けている美耶子の股間に、じっと注がれる。
 すでにすっかり物慣れた様子である恭也の手は、美耶子の恥毛を掻き分けて、
陰核や、そのずっと下に位置する膣の入口をしきりに弄り廻していたが、
おもむろにその手を止めると、美耶子の割れ目をぱっくりと広げたようだった。
 濡れた粘膜の分かれる音が微かに鳴り、次いで、美耶子の股の間から、
膨れ上がった恭也の亀頭がぴょこんと顔を出す。

 美耶子は瞼を僅かに開けて、恭也の亀頭を手で包んだ。
 少し躰を折り曲げ、初々しい桃色をしたその肉の玉を、膣に埋没させる手伝いをしている。
 間もなく、闇に沈んだ恭也の下半身が美耶子の尻を押し上げ、
ソファーベッドをぎいと軋ませると同時に、美耶子が堪えきれずに喘ぎ声を漏らし出した。
 恭也の陰茎が、美耶子の膣を姦したのだ。

 そこまでを辛抱強く見守っていた宮田は、さすがにもう辛抱ならず、
寝間着のズボンの中から自らの陰茎を引きずり出した。
 異様な胸の高鳴りと耳鳴りとに苛まれながら、反り返ってかちこちに強張っているそれを、
静かに摩擦する。
 揉んで、扱いて、ぬらぬらと撫で廻すその手の淫乱さとは裏腹に、
彼の眼は美耶子と恭也の交接の様子を冷静に観察する。

 まだ三日ほどしか経っていないのにも関わらず、もう二人は互いの躰に馴染み合い、
その腰の動かし方も、小気味いいまでに調子が合っていて、
まるでダンスでも踊っているかのように見えた。
 特に美耶子の方は、背後から突き上げる恭也の直線的な抜き挿しを受け止めながら、
腰をよじり、くねらせ、回転させるようにしながら微妙に震わせる、といった、
巧みにして繊細な動きをして、性交の快味を高める努力を怠らない。

 宮田は美耶子の、鍛え上げられた俊敏な動作を見せる腰の辺りや、
淫らに突き出し、ふるふると揺れ弾んでいる乳房、
そして、性の快楽に歪みながらも、見る者を惹き付けずにはおけない可憐な美しい顔を、
感慨深く眺めた。
 無垢で清らかな神の許嫁であった美耶子。
 それをこんなにふしだらな、男の淫夢の中にしか出てこない、
夢魔のような女に育て上げたのは、他ならぬ自分自身だ。
 にもかかわらず、美耶子の美しさ妖艶さは、その宮田にさえ計り知れぬほどの、
強烈な輝かしさを放って圧倒してくるのだ。

 こんなにも素晴しい女に成長した美耶子が、
自分ではない、他の男に抱かれ、性欲快楽に酔い痴れているのだという事実。
耐え難い残酷な事実が宮田の胸を食い破り、陰茎の真芯を捻り上げて、
嫉妬の昏い炎でちりちりと炙る。
 もはや宮田は、摩擦や漏れ出る粘液の音を隠すことも止め、
がっしがっしと乱暴に、暴力的に陰茎を擦り、自慰に没頭していた。

316:宮田×美耶子・其の三 第五回
09/08/16 16:04:39 Y2Zy/cLg

 しかし、美耶子も恭也も、宮田の立てる物音になど気付きはしない。
 彼らの営みも、すでに最高潮に達しようとしていたからだ。
 恭也が背後からぎゅっと抱きすくめている上半身の下で、
陰茎に挿し貫かれた美耶子の下半身は、理性も技術も失った滅茶苦茶な、痙攣的な動きをして、
そこいら中にあるものをぎしぎしと狂おしく振動させている。
 陰茎が出たり這入ったりする毎に、膣穴から漏れ聞こえるぐぼっぐぼっという怪音も物凄く、
肉のぶつかり合う音や、限界に向かって激しく熾烈になる息遣いなんかとも合わさって、
途轍もない卑猥さを醸し出していた。

 やがて、完全にのぼせ上がった恭也は、後ろからぐっと美耶子の躰を押し倒し、
華奢な背中に乗りかかって、がくがくと腰を揺さぶり始めた。
 真っ白なか細い肢体に圧し掛かっている恭也の有様は、
肉食の獣が逃げそこなった若い雌鹿を食い荒らしている姿、そのものだ。
 恭也の体重を受け止める美耶子も、もはや激しい快感が来かかっていて、
重さを感じるどころではなく、むしろ膣の奥底より湧き起こる衝動に従って、
膝をつき、丸い尻を高く突き上げ、恭也の攻勢に抗うように、ぐりぐりと下半身を捻り廻した。
 この凄まじい、まさに命懸けの男女のまぐわいを前にして、
宮田の手淫の手もどんどん素早さを増してゆく。

 そしてついに、二つの躰が一つに融け合ったように、
びくんびくんと屈曲しながら、大きく痙攣したかと思うと、
二人の口から絶え入るような呻き声が吐き出され、
そのまま、震えわななく下半身以外の全てを硬直させて、快感の頂点を極めた。

 見事に一致した幼き二人の絶頂―。
 永く引き続くそれは、二人の躰を捕らえて離さぬようで、
限度を越えた快楽が苦しくなったのか、美耶子はソファーの縁に爪を立て、
恭也の躰の下から抜け出そうと懸命になって身を悶掻く。
 一方の恭也は、そんな美耶子を逃すまいと悪鬼の形相でその身に喰らいつき、腰を突き立て、
絶頂の痙攣を繰り返している膣の奥に、暴行じみた打撃をずんずんと加え、
度を越えた快楽に気を失いかけている美耶子の躰を、
ソファーから突き落とさんばかりの勢いでもって、前に押し出してゆくのであった。

 しかしそんな彼の狂態は、断末魔のあがきにも似たものに過ぎず、
いきなり「ううっ」と呻くと同時に躰を強張らせ、
尻を変な風にくねらせたあげくに、糸が切れたように美耶子の背中に倒れ込み、
そのまま、臀部の筋肉を引き攣らせながら、すすり泣くような息ざしをして、
動きを止めてしまった。

 宮田は、彼らの動作が完全に静止して、嵐のような呼吸のみとなり、
それさえも段々と大人しく治まってゆくのを見届けた処で、
自らの手の平に向かって小刻みな射精を行った。
 腰が砕け、思考力を失くした頭の中で、紅い閃光が幾つも明滅して眩暈を催す。
 骨が蕩けてくずおれてしまいそうな感覚に耐え、宮田は出した精液をティッシュで拭った。
 美耶子と恭也は、性交を終えた時の姿勢のまま、ソファーからずり落ちそうな格好のまま、
じっとして動かない。
 どうやら、完全に気を失っているようだった。

「ったく。しょうがねえなあ」
 宮田は、舌打ちをするとそっとアコーディオンカーテンを開き、
ソファーの下に落ちているタオルケットを拾い上げて、二人の躰に掛けた。
「風邪を引かせる訳にもいかん」

 ついでに彼はキッチンに向かう。喉が渇いていた。
 しかし、冷蔵庫の中には何も飲み物がなかった。
 発泡酒の缶はもちろんのこと、牛乳さえも残っていない。
 水で我慢しようかとも考えたが、この土地の不味い水道水を飲みたい気分でもない。
 少し迷ったあげく、宮田は財布を持ってアパートの外に出た。
 コンビニエンスストアにでも行って、何か冷たいものを買ってこようと考えたのだ。

317:宮田×美耶子・其の三 第五回
09/08/16 16:05:14 Y2Zy/cLg

 夜の道には、引くことを忘れたような昼間の熱気が、しつこく留まり続けていた。
 地面からじわじわと立ち上ってくるそれは、陰鬱な湿度をまとって肌に絡み付き、
躰を重たく感じさせる。
 ぬるい沼の底に居るみたいな不快な空気の中を、
歩くというより泳ぐような心持ちで進んでゆく―。

 マンションの立ち並ぶ住宅街の一角に、ふと白い人影を見た。
 小さく華奢な後ろ姿。背中に下ろした長い黒髪。奇妙な感覚に胸が疼く。
 おそらく、年若い少女であると思しき彼女は、どこかで見覚えがあるような気がした。

 宮田に見られていることに気付いたからか、彼女は急に走り出す。
 宮田は―反射的に、彼女の後を追っていた。
「―おい!」
 背後から呼びかけてみるも、彼女は立ち止まることはおろか、振り返りさえしない。
 いつしか宮田は、本腰を入れて彼女を追跡していた。
 宮田は気付いてしまったのだ。
 今日、駐車場に行った美耶子と同じく、彼女は裸足だった。
 放って置いてはいけない気がした。

 だが、白っぽいワンピースらしきものを身に着けた彼女は、裸足であるにも関わらず、
異様な俊足だった。
 宮田がほぼ全速力で追っているというのに、一向に追いつけない。
 いくらこちらがサンダル履きの走りづらい状態とはいえ、これは解せないことだった。
 宮田は、少々むきになって少女の背中を追い続けた。

(こんな夜更けに、大の男が女の子を追っかけ廻してるなんざ、尋常なことではないな。
人に見咎められたら警察沙汰になる)
 心の片隅でそう考えるも、ある意味幸いなことに、通る道すがら他の人影は全く見られない。
 それでいて、少女にも全く追いつけない。

 そうして、暫く走り続けているうちに、とうとう少女に撒かれてしまった。
 少女を見失った宮田は、息を切らし、膝に手を置いてがっくりとうなだれる。
「くそ……」
 額の汗を手の甲で拭い、頭上の突き出し看板を見上げると―。

〈犀賀診療所〉

 診療時間が終わっているので看板の電気は消えているものの、
そこにあるのは、紛ごうことなく診療所の看板であった。
 宮田は、看板を仰いで呆然と立ち尽くす。
 自分はいつの間に、こんな場所まで走って来たのだろう?
 走って来た道のりもまるで覚えていない。
 これではまるで……あの少女に、この場所までおびき寄せられたようではないか。
 薄気味の悪い思いに、背中の汗がすっと引く。

 その時、明かりの消えた診療所の窓の中で、小さな光が揺らめくのが見えた。
 宮田はにわかに緊張する。そして、現実的な恐怖心が胸の中を満たした。

 大して儲かっている訳でもないのに、犀賀診療所には時おり賊が侵入することがある。
 たいがいは、覚醒剤の類が目当ての薬物依存症患者なので、
それほど大きな被害が及ぶこともないのだが。

「ああいった連中は例外なく躰が弱っているからな。
警察なんかを呼ぶまでもなく、いつも俺が自分でとっ捕まえてるんだ。
そして、うちの患者にしてやる。その方が稼ぎになるから建設的だろ?
まあ、よほど酷ければ専門の更生施設を紹介するがな」

318:宮田×美耶子・其の三 第五回
09/08/16 16:05:43 Y2Zy/cLg

 以前、診療所が荒らされた際、犀賀は事もなげにそう言ったものだった。
「警察に突き出さないで済むんなら、それに越したことはないんでしょうけど……。
しかし、もし逆上した犯人が襲い掛かってきたらどうするんですか?」
 宮田が問うと、
「そんな時には君、こいつがものを言うのさ」
 そう言って犀賀がロッカーから掴み出したのは、なんと狩猟用の散弾銃であった。
 銃口を突き付けられた宮田は思わず両手を上にあげたが、それを見ていた幸江は笑った。
「大丈夫よぉ。それ、弾は入ってないから。ただ相手を脅かすのに使うだけよ」

 訊けば犀賀は、故郷の村では狩猟が趣味だったそうで、
村から出て来る時に一応銃も持って来たのだが、
こんな都会ではなかなか狩りを楽しむ機会にも恵まれないので、とりあえず弾を抜いて、
“威嚇用”として診療所にしまってある訳だった。

(あの猟銃を使う破目にならなけりゃいいけどな)
 素早く階段を駆け上がった宮田は、診療所のドアの前に立って中の様子を伺う。
 ドアノブに手を掛けると―やはり、鍵は開いているようだった。
 宮田は音を立てないよう注意しながらドアを開けて、中に入った。
 下から見えたあの明かりは、位置的に診察室で灯っていたものに間違いないが、
今、衝立の向こうにある診察室は、暗い闇に沈み込んでいる。
 ここから伺ってみても、人の気配は感じられない。

(勘違いだったのか? しかし、鍵が開いていたのも事実だ……)
 一応調べておいた方がいい。
 宮田は、入口の脇に置いてある非常用の懐中電灯を手に取った。
 診療所の入口は一つしかないから、万一賊が隠れていたとしても、
こっち方面を確保しておけば逃げられないはずだ。
 受付と待合室を兼ねた入口ドア前のフロアから、診察室の入口である衝立の隙間へと、
そろそろ進んでゆく。
 懐中電灯を中に向け―前触れも無く、スイッチを入れた。

 懐中電灯の光は、小柄な人物の姿を照らし出した。
 白い服を着た女の後ろ姿。
 一瞬、夜道で見かけた少女のことを思い出す。
 しかしここに居る女は、さっきの少女とは明らかに別人だ。
 女は―ナース服を身に着けているのだ。
 宮田は息を飲んだが、すぐに落ち着きを取り戻して女に呼びかけた。
「……誰だお前は。ここで何をしている?」

 女は、ゆっくりと宮田を振り返った。
 髪をひっ詰めて結い上げ、ナースキャップを頭に取り付けた女の容姿は、
幸江に酷似していた。
 だがこれは幸江ではない。歳が違う。
 この女は、どう見たって二十代の半ば以上には見えない。
 五十過ぎの中年女である幸江と比べれば、親子といってもいいほどの年齢差だ。

「宮田先生……」
 女の発する声もまた、その容貌と同様に幸江とよく似ている。
 嫌な感じだった。何とも言えず不気味で、そして不吉な感覚。
 宮田の悪感情を煽り立てるかのように、女は薄っすらと笑みを浮かべた。
「宮田先生……あのねえ……私、判っちゃった」
 虚ろに微笑む女は、虚ろな声で語り出す。
「そう……判っちゃったの、全部。気が付いちゃったんだ。
あーあ。せっかくここまで、上手く行ってたのになあ。
あともうちょっとで、完全に気付かないまま、
そのまんまで終わらせられるはずだったのにさあ……。
つまんないわあ。ほんと、つまんない。これというのも全部あんたのせいなのよ」

319:宮田×美耶子・其の三 第五回
09/08/16 16:06:19 Y2Zy/cLg

「……俺のせい?」
「そうよ」
 女の笑顔がかき消える。その声音も、暗く陰鬱なものに変じてしまう。女は続けた。

「最初にあんた達を見た時、何となく嫌な感じはしたのよ。
あんたとあの女の子―うん、とっても嫌な感じだった。
見た途端、左のおっぱいが疼いたもの。
私、悪いことが起きる時って、決まって左のおっぱいが疼き出すのよ……。
だから私、あの人に言ったのよ。
彼は素性が判らない人だから、雇うのはやめといた方がいいって。
なのにあの人、聞き入れてくれなかった。
初めてだったわ。あの人が、私の願いを聞いてくれないなんてこと。
この町に住むようになってから、あの人は、私の言うこと何でも聞いてくれていたのに。
それもきっとあんた達のせいね。
あんた達がここに持ち込んだ、あっち側の空気のせいなのよ……。
だけどさ、ほんとに不思議なものよねえ。
こういう誤差ってさ、何か勝手に修復されてしまうものらしいのよね。
小さな傷が独りでに、気が付かないうちに治ってしまうみたいに―。
そう。私もあんたも、この世界の小さな傷の一つに過ぎないのだわ。
だったら見逃してくれればよさそうなもんなのに、けちね。
同じような傷がひとつ処にできるのは、傷が深くなり過ぎるから宜しくないって、
まあそういうことなのかもしれないけれど」

「お前は……何を言っているんだ」
 宮田は、からからに干からびた喉から声を絞り出した。
 感情は押し殺したつもりだったが、それは成功していない。声に怯えが滲み出ている。
 女は、けたたましく笑い出した。
「あはははは……どうやらあんたも気付き始めたみたいねえ……くく、いい気味だわ。
このままあんたも気付いちゃえばいいんだ。全部終わらせちゃえばいいんだ!」

 女は両手を高々と掲げ、癇に障る笑い声を辺りに響かせた。
 宮田は耳を塞ぎたくなる。
 あるいは、女を縊り殺して永久に黙らせてしまいたいとさえ思った。

「聞きなさい!」
 宮田の考えを見透かしたように、女が叫んだ。
「あんたにも教えてあげるわよ! この世界の真実ってやつを!
ねえ? あんただって一度ぐらい、不思議に思ったことあるでしょう?
今の自分が、どうして幸せなのか?
自分たちの生活に、なぜ幸せだけがあるのか?
私もねえ、幾度となく悩んで考えたものよ。
考える度に怖くて怖くて、どうしようもなくなった……。
でもね、やっぱり知りたかったのよ。
真実から眼を塞がれているのって、とっても不安なものだもの。
馬鹿みたいよね。そんな無意味なこと、思い煩ったってしようがないのにさ。
それでも多分、私とあの人の前にあんた達さえ現れなければ、
そんな不安を抱えたままでも平穏に、幸せの日々を続けられたはずなんだけど……」

 女の表情が、寂しげな翳りを帯びた。
「だけどもう駄目。私は気が付いちゃったから。私の暮らしに幸せだけがある理由。
それはね……」
 女は宮田を真正面から見据える。そして、宮田の方を真っ直ぐに指さして、言った。



320:宮田×美耶子・其の三 第五回
09/08/16 16:06:55 Y2Zy/cLg

「それは全部、ただの私の夢だからなのよ!」


 宮田は、高らかに言い放った女の顔をまじまじと見つめた。
 呆れ果てて言葉も出ない。毒気を抜かれるとは、まさにこのことだ。
「―信じてないのね?」
 指さしていた手を下ろし、女は不敵に微笑む。
 くすくすと笑い声を漏らしながら、女はゆっくり後ずさった。
「でもね、本当のことなの。この世界の全ては、みんな私の見ているただの夢。
あんただって、私が作り出した夢の中の住人に過ぎないのよ……。
どう? 驚いたでしょう? それともまだ信じられないかしら?
くっく……まあいいけど。だったら今から、その証拠を見せてあげるわ」

 女は窓際まで後ずさると、掛かっていたブラインドを引きちぎって、大きく窓を開いた。
 生ぬるい夜風が、ぞわりと部屋に這入り込んで、女の後れ毛を舞い上がらせる。
「いいこと? この世界は私の夢だから、私の願いは何でも叶うの。
本気で願いさえすれば、どんなに突拍子もないことだって実現できる……。
今からその証拠を見せてあげるわ!
私、ここから空飛んで見せてあげる!
堕ちやしないわよ! 堕ちて怪我なんてしないし、もちろん死ぬことだってないわ。
だって私の夢なんだもの。私の望まないつらいことは、何一つ起こりゃあしないんだから、
安心してちょうだい。じゃ、行くわよ!」

 女は窓枠に飛び乗ると、何の躊躇もなくそこから飛び降りた。
 いや、女からすれば、飛び降りるつもりなどさらさらなかったのかもしれないが、
 三階の窓枠から外に踏み出せば、遥か下の地面に墜落するのが道理だ。
なぜならここは、彼女の言う処の「私の夢の世界」なんぞではない、
ただの現実世界であるからだ。

 宮田はため息をつくと、のろのろと窓枠に近づいた。
 女を見殺しにしてしまったようで後味は悪かったが、その一方で、
いささかばかりほっとしたのも事実だ。
 ―やはりここは、夢の世界なんかではない。普通の世界なのだ……。

 しかし。
 そんな宮田の儚い安堵は、窓から顔を出して、下を見た途端に消失してしまった。
 下の道路に、女の姿が無かったのだ。
「……馬鹿な!」
 街灯に照らされた地面に眼を凝らす。居ない。女が居ない。
「そんな……この一瞬で、どこにも行ける訳が……」
 その時、はっと思う処があり、宮田は顔を上げた。
 そういえば―女は確か、空を飛んであげると言ったのだ。

 夜空を見上げる。
 薄汚れ、星ひとつ見えないみすぼらしい夜空には、暗闇以外の何ものも見当たらない。
 懐中電灯を虚空に翳して必死になって見廻したが、そこにもやはり、
何も見出すことは叶わなかった―。


【Continue to NEXT LOOP…】


 *このエロパロSSはフィクションであり、
   実在のゲーム・キャラクター・団体・事件及び地域などとは一切関係ありません。


321:名無しさん@ピンキー
09/08/17 12:02:16 pzB2X/nh
おお…一体どうなるんだ

322:名無しさん@ピンキー
09/08/17 18:05:22 VKtXemP0
乙です!
エロも淫靡でいいけど、ストーリーから目が離せない…!

323:名無しさん@ピンキー
09/08/18 10:34:10 bIaa+wsS
どうなるんだー!

324:宮田×美耶子・其の三 第六回
09/08/22 20:40:58 KLwOACey
終わりませんでした。(TдT)
あと一回続きます。



 少女を追って歩き続けて、もう何時間になるのだろう?

 ちらりちらりと。
 長い黒髪を、真白き二の腕を物影から見え隠れさせながら誘いをかける、
少女の後に付いて歩き―。
 気付けばこうして、奴らの築き上げた、いびつで不可解な建造物の中にまで迷い込んでいる。

「……おい」
 瓦礫や廃材を寄せ集めて、でたらめな形に組み上げられた橋桁の隙間から、
少女に対する何度目かの呼びかけを試みる。
 まあどうせ、これもまた黙殺されるのであろうけど……。

 そう思いきや、少女は立ち止まった。
 生臭い雨水に浸食された瓦礫の山を背に、少女はゆっくりこちらを見返る。
 光の無い暗い路地。
 ずっと離れた位置に居る彼女の白い顔が、闇にぽっかり浮かび上がって見えている。

 そして、その顔は―。


325:宮田×美耶子・其の三 第六回
09/08/22 20:41:29 KLwOACey

 アパートの外は、うんざりするほどの快晴だった。
 狂暴なまでにぎらつく太陽。毒々しい青色に塗り込められた空には、雲ひとつない。
 今日も暑くなるのだろう。まだ朝の九時だというのに、今からこうでは先が思いやられる。
 しかも今日は、盆の帰省ラッシュによる混雑の予想される道で、
長時間に渡って車の運転をしなければならないのだから、堪らない。


 あの不可解な現象を目の当たりにした後、帰宅した宮田は、一晩中まんじりともせぬまま、
朝を迎えてしまった。
 眠ることなどできはしなかった。
 消えた少女。消えた女。女の投げかけた、意味不明な言葉の数々。
 ―あれらの事象こそが、全部ただの夢だったのだ。
 そんな風に片付けてしまうことも試みたが、それは無駄だった。
 サンダル履きで走り続けたためにできた小さな靴擦れの痛みが、
ゆうべの体験が現実であることを、容赦なく裏打ちしているからだ。

 様々な思考を無為に巡らせながらベッドの中で輾転反側し続け、
赤い眼をして居間に出てきた宮田を見て、恭也は驚きの声をあげたものだった。
「宮田さん……何でそんな、ゾンビみたいな顔になってるんですか」
 洗面所の鏡を覗くと、確かにそう言われても仕方のない、やつれ果てた顔が映っていた。
「そんなんで、車の運転大丈夫なの?」
 美耶子の心配は、主に今日の旅行のことであるらしい。
「大丈夫だよ。海水浴が楽しみで眠れなかっただけだ……。
さあ。そんなことより今日は忙しいぞ。
今から旅行の準備を始めて、夕方までには宿に着かなけりゃならんからな」

 名古屋の海に泊りがけで行くことは、昨夜のうちに決まっていた。
 恭也がインターネットで付近の宿を検索し、電話で予約を取っていた。
 ちょうどオンシーズンで良い宿はみんな塞がっていたが、少し外れにある民宿には、
僅かばかりの空きがあった。
「ねえ恭也。民宿……って、どういうの?」
「ええ? 民宿は民宿だよ。こう、畳の部屋とか風呂とかがあって……」
「お風呂ならこのアパートにもあるよ? このカーペットを捲ったら畳だってあるし」
「うーん……まあ、行けば判るさ。それより美耶子、水着とか持ってんの?」

 当然持っているはずもない。
 宮田もそうだし、恭也だって水着持参でこの土地に来た訳ではない。
「出発の前に水着を買わんとな。他に買い揃えるべきものは―」
 点検、確認してメモを取る。一連の作業を終えると、宮田は立ち上がった。
「じゃあ、俺は先に出かけてくる。
銀行で金を下ろさにゃならんし、車も借りなきゃならないからな。
こっちの用意ができたら電話を入れるから、それまでお前達はここに居ていいよ」
「判りました。じゃあ俺、掃除とかしておきますから……これで最後だし」
「ああ……ありがとうな」

 宮田が恭也達より一足先にアパートを出たのには、理由があった。
 些末な用事を片付けるためというのは、表向きの言い訳に過ぎない。
 出かける前に―彼にはどうしても、確認しなければならないことがあったのだ。


326:宮田×美耶子・其の三 第六回
09/08/22 20:41:57 KLwOACey

 犀賀と幸江のマンションは、町に隣接する高級住宅街の中ほどにあった。
 閑静な気品溢れる通りの佇まいからは、
このすぐそばに、あのスラム街のように不潔で混沌とした町があるのだということが、
どうにも想像し難い感じだった。
 白いタイルを基調にした外壁の、瀟洒な十二階建てマンションを見上げる。
 犀賀がこのマンションを買ったのは、今から十三年ほど前であるそうだ。
 マンションが建つ前の完成予定図を見て、幸江が一目惚れをしたのだという。
 エントランス前に設置されたプレートの部屋番号―803を入れ、呼び出しボタンを押す。
 呼び出し音が小さく響くのを聞きながら、宮田は小さく深呼吸をした。

 休暇初日の朝っぱらから、上司の家に赴きたいと考える人間は、あまりいないことと思う。
 無論、宮田だってそうだ。
 しかも前もって何の連絡も入れず、いきなり訪問しようというのだから、
さすがの宮田もいささかばかり緊張を覚えている。

 アパートを出る前、宮田は昨晩のことを伝えておこうと、犀賀に携帯で電話をかけた。
 あの消えた女のことはともかくとして、診療所の鍵が開いていたのは事実だ。
報告の義務があると思った。
 ところが、かけた電話には、誰も出なかった。
 否、正確にいうなら―『おかけになった電話番号は、現在使われておりません』という、
無機質な案内メッセージのみが返答したのだった。
 このマンションの固定電話のみならず、犀賀と幸江それぞれの携帯電話も、
さらには、念のためにかけた診療所の電話でさえも、同じ反応だったのだ。

 これはただごとではない。
 眩い朝の光を打ち消すような、寒々しい恐怖心にも似たものが、宮田の体内を駆け巡る。
 矢も盾も堪らず、宮田は犀賀のマンションまで来ていた。
 昨日聞いた話では、犀賀と幸江が旅行に出かけるのは午後以降のはずだから、
今日はまだここにいるはずだ。

『―はい』
 呼び出し音が途切れ、女の声がスピーカーから流れた。
「幸江さん? 宮田です。どうもこんな朝早くに……」
 幸江の声が聞けたことにほっとして、息せき切って宮田は喋り出す。
 が。
『……どちら様でしょうか?』

 氷のように冷ややかな声。
 しかもその声は、幸江のものではなかった。
 重く冷たい塊が、宮田の胃の底に、ごろりと転がり込む。
「あの……そちらは犀賀さんのお宅では」
『違います』
 感情を交えぬ声で女は言い放つ。冷淡というよりは、緊張して強張っている感じの硬い声。
 突然やって来た、素性の判らぬ訪問者を訝る若い主婦、といったところか。
 スピーカーからは、背後で小さな子供がはしゃぎ廻っているような声が、
喧しく漏れ聞こえていた。

 宮田は、慌てて自分の入力した部屋番号を確認する。
 803。何回見ても間違いない。
 そして、犀賀の自宅がここであることだって、間違いないはずだった。
 ここには何度か来ているし、上がらせてもらったことだってある。
 そうだ。未だに忘れてはいない、幸江の言ったあの言葉。

「本当は、この上の角部屋も空いてたんだけどさあ。ここの部屋番号が気に入ったのよ。
803……八月三日。それはね、私とあの人が、初めてこの町に来た日なの―」

327:宮田×美耶子・其の三 第六回
09/08/22 20:42:26 KLwOACey

 背後から頭をどやしつけられたような気持ちで、宮田はマンションを後にしていた。
 本当はもう少し粘って話を訊きたかったのだが、
相手の女から一方的にインターホンを切られてしまったのだ。
「どうなってるんだ……」
 とぼとぼと歩き続け、やがて診療所ビルの前まで辿り着く。
 そして宮田は見た。
 三階の窓の脇。簡素な突き出し看板は、真っ白だった。
 消えているのだ。
 昨夜までそこに書かれていたはずの―「犀賀診療所」の文字が。

「君、ちょっと」
 宮田は、ちょうど真横を通り過ぎようとしていた、白い厨房着姿の女性の肩を掴んだ。
 彼女はこの近くの定食屋で働いている店員で、
以前店の客が暴れて手が付けられなくなった時、宮田に助けを求めてきたことがある。
「あの、あそこの看板はどうしたんだ? 診療所の看板は」
 宮田が白い突き出し看板を指さして問うと、彼女は怪訝そうな顔でそれを見上げたが、
すぐに「ああ」と気の抜けた声を出して言った。
「あそこの診療所……潰れはりましたよ?」
「潰れた!?」
「はい。そうですねえ……もうふた月ぐらい前だと思うんですけども。
不景気ですからねえ。厳しいんと違いますか? 歯医者さんも」
 そう言って女性店員は笑ったが、
その笑顔は明らかに、初めて対面する相手に向けられたものであった。

 女性店員が立ち去った後も、宮田はじっとその場に留まり続けていた。
 虚しく看板を仰ぎ見ているその表情は哀しげだったが、
なぜだか少し、笑っているようでもあった。
 半笑いの彼は、よろめきながらビルに入る。
 内壁の塗料と埃の臭いの入り混じった階段を上り、三階まで進んで、
プレートの無いドアを開けた。

 ドアの向こう側には、がらんとした灰色の空間が広がっていた。
 内装工事を途中で放っぽり出された、剥き出しのコンクリ壁や配線類に覆われた部屋。
 そうか。物が無い状態だと、ここはこんなに広かったのか。
 場違いな感慨に耽っていると、部屋の中央で、黒い塊がむっくり身を起こした。
 雑然と薄汚れた部屋と同化していたその黒い塊は、人だった。
 ぼろを身にまとって寝ていた、浮浪者の老人だった。
 大柄な彼は宮田を見ると、歯の抜けた口で何かを喚き立てながら近寄ってきた。
 非常に聞き取り難いのだが、その言葉は英語であるらしい。外国人か?
 そういえば、黒く汚れた髭もじゃの顔の中で、異様に光っている瞳の色が随分と薄い。

 老人に掴みかかられそうになったので、それを振り払って宮田はドアを閉めた。
 もうここに用はない。
 虚ろに穴の開いた心を抱いて、宮田は階段を下りて行く。
 暗い、もう彼とは無関係になってしまった古いビルの外に出ると、
膨張しつつある太陽が、汚い町を痴呆じみた光で焼き尽くそうとしていた。

328:宮田×美耶子・其の三 第六回
09/08/22 20:42:55 KLwOACey

 それからの宮田は何も考えず、目の前にある、差し当たっての責務のことだけ考え、
それをこなしてゆく作業だけを淡々と進めた。
 すなわち。銀行で金を下ろし、ついでに各種振込みなどを済ませ、
レンタカー屋へ車を借りに行く。
 しかしここで問題が起こった。免許証を忘れて来たらしいのだ。
 いつも財布に突っ込んであるはずの運転免許証が、どこを探しても見当たらない。
 免許証がなければ車は借りられない。
 仕方がないので、いったんアパートへ探しに戻ることにした。
「アパートに、まだ俺の部屋があればいいがな」
 独り呟き、くすくすと笑いながら立ち去る宮田を、レンタカー屋の若い男性店員が、
困ったような笑顔で見送る。

 アパート裏の駐車場前まで来た時、猫の鳴き声がしたので見ると、
銀のカバーが掛かった車の下に、灰色の猫がうずくまっているのが見えた。
「……ケルブ?」
 躰が大きく、ふてぶてしい顔をしたその猫は、死んだケルブによく似ていた。
 だがしかし、そんなはずはない。ケルブは死んだのだから。
 案の定、宮田がそばに近寄ると、灰色猫は車の後ろに走り、
植え込みの奥に姿を消してしまった。

「ケルブじゃない、か。そりゃあそうだ……しかしよく似てたな」
 カバーの掛かった車のボンネットに手をついて、猫の消えた先に眼をやる。
 ケルブが埋まっているのは、確かあの辺りだっただろうか。

 そんなことより―ふと気になることがあった。
 今、この手で触れている車のことである。
「これは、もしかすると―」
 宮田は思い切ってカバーを取り払った。
 カバーの中から出てきた車は、あまりにも懐かしいあの車だった。
 村から美耶子を連れ出す時に乗って来た、あの青い車。
 それなりに愛着のある車だったから、
手放した時には少々寂しい思いをしたものだったが―。

「そうか……お前はずっとここに居たんだな」
 ズボンのポケットを探ると、当然のようにキーがある。
 なるほど。ここにこの車があれば、わざわざレンタカーを借りに行く必要もない訳だ。
「何でも願いは叶う。どんな突拍子もないことも実現できる―か」
 跳ね返った泥水で汚れたままの車のボディーを撫で、声を上げて宮田は笑った。

 ますます強さを増した太陽の光線が、車と、陰気な笑い声を上げる宮田のうなじを、
じりじり音を立てて焼いていた―。

329:宮田×美耶子・其の三 第六回
09/08/22 20:43:20 KLwOACey

「美耶子ほら、あれが海だよ」
 〈わ〉ナンバーのミニバンの窓を開け、恭也が海を指さしている。

 予想にたがわぬ渋滞の高速を乗り越え、湾岸沿いの道に下りると、
途端に空気が変わってしまった。
 生命の源泉を感じさせる潮風が奇妙な清しさで胸をさらい、太陽の放つ熱波も、
濃紺の海の水に和らげられて、煌めき四散している感じがする。

 あれから―あの懐かしい車と再会してから、宮田はアパートに戻り、
免許証を持って予定通りに借りた車で出発した。
 あの車を使う気になれなかったからだ。
「ああ、免許証ですよね? 玄関先に落ちてましたよ」
 帰るとすぐに、恭也が拾っていた免許証を渡してくれたから、何ら問題はなかった。

 消えてしまうこともなく、アパートで留守番をしていた美耶子と恭也をピックアップした後、
何事も無かったかのように買い物を済ませ、車を走らせ数時間。
 予定を大幅に遅れたものの、何とか陽の高いうちに海まで来ることができたので、
三人ともほっとしていた。

 目当ての海水浴場は、思ったほどには混雑していなかった。

 駐車場にもかなり余裕があったし、浜に出ても芋洗いとはならず、
それなりに泳ぐことを楽しむことができそうな塩梅だった。
「やっぱ三年前の事件が後を引いてんのかもしれないですね」
 水着の上にいつものモスグリーンシャツを羽織り、デジカメを手にした恭也が、
山に囲まれて横たわる鈍色の砂浜を見渡して言った。
「それほど大きな海水浴場でもないから、元々こんなもんなんじゃないか?」
 水着に半袖のパーカー姿で、海の家で借りたパラソルを砂の上に突き立てながら、
素っ気なく宮田は言う。

 彼らの後ろでは、黒いワンピースの水着を身に着けた美耶子が、
小さくなってしゃがみ込んでいた。
「どうした美耶子? ご希望通り、海に連れて来てやってってのに」
「うん。海は嬉しいんだけど……」
 美耶子はもじもじと足元の砂を弄る。
「水着って……ちょっと恥ずかしいね。なんだか裸でいるみたい」

「そんなの慣れれば平気だよ。みんな同じような格好なんだからさ。
恥ずかしがることないじゃん。ほら」
 恭也は美耶子の手を取って立ち上がらせた。

 水着姿の美耶子は、普段とはまたちょっと趣の違う美しさを放っている。
 彼女の着ている黒い水着は、大型量販店に寄った際、
手近にあったものを宮田が適当に選んで買い与えたもので、
飾りも何も無い質素な作りのものだったが、まるで美耶子のためにあつらえたかのように、
よく似合っていた。
 海獣の皮膚のような光沢をもって躰にぴったり張り付いているそれは、
美耶子の肢体のラインを美しく際立たせているし、
その布地の黒さもまた、彼女の透けるような肌の白さを、よりいっそう強調している。

 実際、美耶子が立ち上がった途端、周囲に居た人々は老若男女問わず、
みんなが美耶子に注目したものだった。
 羨望、憧憬、欲望、嫉妬―様々な感情の篭った視線が、美耶子の長い脚や、横顔や、
潮風に煽られる髪の毛などに集まっている。
 それらを肌で感じ取った美耶子は、物怖じするように肩をすくめる―。

330:宮田×美耶子・其の三 第六回
09/08/22 20:43:48 KLwOACey

「美耶子、泳ごう」
 美耶子に絡みつく不躾な視線を振り払うように、明るい声で恭也は言った。
「すいません宮田さん、荷物お願いします」
 そう言ってシャツを脱ぎ、デジカメを包んでレジャーシートの上に放ると、
恭也は美耶子の手を引いて、波打ち際へと走ってゆく。

 彼らの後姿を見送り、宮田はシートに座った。
 パラソルの下で、波と戯れる美耶子と恭也を遠く眺める。
 初めのうちこそ、周囲から投げかけられる視線や、異様に塩辛い海の水などに戸惑い、
怯える素振りを見せていた美耶子だったが、
やがて、白い泡となって弾ける波のしぶきや、波に引かれて蠢く足元の砂の感触、
寄せては返す海水のうねりの不思議な面白さに魅入られ、夢中になってそれらに触れ、
すくい上げ、躰を浸してはしゃぎ廻った。
 そんな美耶子の姿に、当初あからさまな欲望の視線を送っていた男共も、
これはただの子供と見たか、すぐに興味を失って散ってしまった。

 宮田もまた、呆れ笑いをして視線を外し、パーカーを脱いでシートに横たわる。
 シート越しに伝わる、熱を持った砂の感触が心地いい。
 燦々と煌めく太陽。熱気と湿り気とを孕んだ潮風。
 人の声やざわめきの向こうで、果てることなく繰り返される波の音。
 ―まあ、来てやって良かったかもしれんな。
 豊穣な自然のもたらす安らぎに眠りを誘われた宮田は、
そのまま、舌の上のボンボンのように、とろとろと意識を蕩かしていった―。

331:宮田×美耶子・其の三 第六回
09/08/22 20:44:55 KLwOACey

 曖昧な夢から覚めて意識を取り戻した時、すでに陽は翳り始めていた。
 吹き付ける潮風は涼やかになり、傾きかけた太陽が、砂の上に長い影を落としている。
「あ、お兄ちゃんが起きた」
 いつの間にか隣に座っていた美耶子が、
紙コップに入ったカキ氷をストローで突付きながら、宮田の顔を覗き込む。
「やめろ」
 ストローの先に付けた氷の雫を胸の上に垂らされた宮田は、
美耶子の手を押さえて顔をしかめた。

「宮田さんも氷食べますか? なんなら俺買って来ますけど」
 美耶子の後ろから顔を出した恭也が言う。
 宮田は「いや、いい」と言いながら躰を起こし、脇に置いた携帯を見た。
 時刻は四時を十五分ほど廻ったところ。二時間ばかり眠っていたことになる。

「ちょうどいい頃合だ。そろそろ民宿に向かおうか」
 宮田は立ち上がって荷物をまとめにかかった。恭也はそれを手伝う。
「民宿、民宿」
 歌うように繰り返しながら、美耶子はぶらぶらとその辺をうろついている。
 その美耶子の動きが、急にぴたりと止まった。
 美耶子は、浜のずっと向こう側に見える木の茂みの方を向いている。

「どうしたんだ、美耶子」
 宮田が肩を叩くと、その肩が微かに震えた。
 振り返った顔からは、一切の表情が失われている。
「ケルブ」
「え?」
 美耶子は真っ直ぐ腕を伸ばし、茂みを指した。
「今あっちの方にね……ケルブが居たみたいなの。気配を感じた」
「何だと?」

 宮田は深い緑の塊に眼を凝らす。
 しかしよく判らなかった。位置が遠過ぎるのだ。
 もっと近づいてみれば―足を踏み出しかけたところで、
自分のしようとしていることの馬鹿馬鹿しさに気付き、舌打ちをする。
「ケルブがこんな処にいるはずないじゃないか」
 独りごちる言葉を吐くと、
「そうだよね……うん、そんなはずはない」
 と、美耶子もぼんやり頷いた。

332:宮田×美耶子・其の三 第六回
09/08/22 20:45:35 KLwOACey

 予約を取った民宿は、海水浴場から車で三十分ばかりの場所にあった。
 貧相な松並木がしょぼしょぼと点在している海岸の、突き当たりに見える小さな岬。
 そこにぽつんと建っている、黒い屋根瓦の二階建ての家がそうだ。
 砂利敷きの駐車場に車を停め、蝉の死骸がそこら中に転がった緑の中の小道を通り、
開きっぱなしのガラス戸の玄関に立って声をかける。

「ゆうべお電話いただいた……ああ、はいはい」
 出迎えた小さな老婆は、一般家庭のものより気持ち広い程度の土間の隅に据えられた、
受付というか、荷物置き場と化している棚の上から宿帳を取り、老眼鏡でそれを確認して、
幾度も頭を上下に振った。
「それではお部屋に案内しますんで……ああ、スリッパはそこ」
 老婆は上がり框の横の靴箱を指してから、
板張り廊下のすぐ手前にある木の階段を、よたよたと上がって行く。

 案内されたのは、八畳ほどの、角の二面に障子の張られた部屋だった。
 障子の向こうは窓になっていて、松林に囲まれた小さな入り江を見下ろせる。
「ここにも海があるんだね」
 恭也と並んで浜を見下ろした美耶子が言う。
「あそこも泳げる場所なのかな?」
「泳げないこともねえんだけど、岩がごろごろしてっから……。
近所の子供くらいだねえ、あすこで泳ぐのは」
 美耶子の言葉に答えて老婆は言った。

「じゃあ、今からあそこで泳いでもいいの?」
 美耶子は老婆を振り返った。宮田は呆れて口を挟む。
「美耶子お前……たった今泳いできたばかりじゃないか」
「でもちょっとしか泳いでないよ。私、もっと泳ぎたいもん」
 美耶子が口を尖らせて言うのを見て、老婆はしゃがれた声で笑った。
「晩飯までに戻って来なさんなら、構わねえけど……。
だけんど、あんまり沖まで出ねえようにしてな。特にあの、洞窟んとこには近づかんように」

 老婆は、入り江の先の向こう側を指さした。
 夕日を浴びた黒い岸壁の下の方に、ひときわ黒く窪んでいる場所がある。
「あの洞窟は……あの世と繋がってる場所だからねえ」

「あの世と繋がってるって、どういう意味なんですか?」
 老婆の言葉に、恭也は即座に食いついた。
 オカルトマニアとしての好奇心にその眼が燃えている。
 その勢いに怯むでもなく、老婆はのんびりと答えた。
「あすこに入るとねえ、神隠しに遭うんよ。消えちまうの。この世から。
危ねえから入っちゃ駄目だよ」
 そう言って総入れ歯の口をにっと剥いて見せた後、よろりとお辞儀をして、
老婆は部屋を出た。


「神隠しの洞窟か……」
 開け放した窓から半分海に沈んだ洞窟を見やり、物々しく恭也は呟いた。
「海水浴場は外したっぽかったけど、思わぬ処で思わぬ情報をゲットしたな。……よし」
 恭也はリュックサックから、未だ湿っている水着と、デジカメ、懐中電灯を取り出す。
「おいまさか、今から入るつもりなのか?」
 宮田は微かに顔をしかめる。
「やめとけよ。もう夕方なんだぞ。神隠しうんぬんはともかく、
中がどんな構造になっているかも判らない洞窟の探索を始める時間じゃない。
やるんなら、せめて明日にしておけ」

「そうだよ恭也。やめた方がいい」
 美耶子も、恭也の腕を掴んで止めた。
「そんなことより、今は私のそばで一緒に泳いで。私独りじゃ無理だもん。お願い」
 美耶子にお願いをされると、恭也は逆らえない。

333:宮田×美耶子・其の三 第六回
09/08/22 20:46:25 KLwOACey
 部屋で水着に着替えた二人は、夕焼けで真っ赤に染まった小さな入り江に出る。
 宮田も、彼らの後に付いて出た。部屋に一人で居たって仕方が無い。
 入り江は、砂も乏しくごつごつと岩だらけで、
老婆の言うようにあまりいい浜ではなかったが、それでも美耶子は、楽しそうに海の水と戯れ、
明るい歓声を辺りに響かせて遊んだ。

 恭也は、はしゃぎ廻る美耶子に辛抱強く付き従い、彼女の眼となり、時には手足ともなって、
我がまま王女の水遊びの手伝いをしている。
 彼の態度からは、それを苦にしている雰囲気は全く感じられず、
むしろ、様々な新しい発見を珍しがっている美耶子の、驚きや感動に共感し、
一緒になって楽しんでいるようにさえ見えた。
 宮田は海べりの黒い岩の上に腰かけて、
夕日に照り映え、水しぶきをまとって輝く美耶子の姿を眼で追った。

「お兄ちゃーん」
 やがて、熟しきった夕日が海の向こうにある山の稜線に触れて、その形を失い始めた頃。
 ようやく気が済んだのか、美耶子は宮田のもとに戻って来た。
 恭也は海の中に腰まで入り、例の洞窟を遠巻きに写真撮影しているようだ。
「夕日の洞窟を撮っておくんだって」
 岩に上がり、潮水をしたたらせる躰を宮田の隣に寄せて、美耶子は言う。
「好きだなあ、あいつも」
 真っ赤な光の中、黒ずんだ影法師と化した恭也の上半身に視線を投げかけ、
宮田は片方の頬を上げた。

 夕日の入り江は、穏やかな倦怠感を湛えて一日の終わりを迎えようとしていた。
 波の音。周囲の林から聞こえてくるひぐらしの声。
 夕飯を煮炊きする匂いが、どこか懐かしい記憶を呼び起こすように、切なく胸に迫る。

「お兄ちゃん……今日はありがとうね。海まで連れて来てくれて」
 美耶子は濡れた髪を向こうに掻き上げ、宮田の肩に頭を乗せる。
「―ねえお兄ちゃん。お兄ちゃんだけに教えてあげる。
まだ恭也にも話してない、私の本当のこと」
「何だよ」
「あのね、私の眼―恭也だけが見えるの」
 遠く海面に眼を向けて、美耶子は言った。

「今までもね、草や木は見えてた。ケルブみたいな猫とか、動物なんかも。
だけど……人で、あんなにはっきり見えたのは、恭也が初めてだった」
 海から、ひときわ強い風が吹き上がって、美耶子の髪をなびかせた。
「でもね、見えているって言っても多分、お兄ちゃん達が見てるようなのとは違うんだ。
光が……躰の輪郭に沿って出ている光が見えてるの。
それはね、生き物ならみんなが出してるものだから、
集中すればお兄ちゃんのだってちゃんと見えるんだよ? だけど……」
「恭也のは、集中するまでもなくよく見えている……か?」
「そう! 本当に、全然違うんだ。あの日―初めて恭也を見た時、本当にびっくりした。
見たことなかったから。人なのに……あんなに強くて……あんなに綺麗な光」

 宮田は、何も言わずに、美耶子の告白に耳を傾けていた。
(俺の光はどう見えるんだ?)
 そんな疑問が心をかすめたが、そんなものは、聞くだけ野暮なものだと思った。

 やはり彼と美耶子は、確かな運命によって結び付けられた者同士だった。
 恭也と邂逅したあの日、宮田が立ち並ぶ二人の姿に対して抱いた印象は、
それを示したものだったのだ。
 ぼんやりと、心を躰から乖離させた宮田の視界で、恭也の影法師が真っ直ぐ横に腕を伸ばし、
何かを指した。
 美耶子は、彼に向かって何かを言いながら岩を降り、浅瀬の中を歩いてゆく。
 宮田は、恭也と同じ影法師に変わってゆく美耶子を、美耶子の残した水溜りと共に見送る。

 民宿の軒下にある外灯が、思い出したように小さく点り、視界の端で白く瞬いた。

334:宮田×美耶子・其の三 第六回
09/08/22 20:46:53 KLwOACey

 茜色の空がすみれ色に変わり、群青色の星空と成り果ててしまうのに、
そう時間はかからなかった。
「今夜の客はあんたらだけだから、サービスしといたよ」
 そう言う老婆と、この家の嫁と思しき痩せた中年女が部屋まで運んで来た夕飯の、
予想以上の量の多さに驚きながらも、三人で黙々とそれを平らげてしまうと、
入り江の見える部屋にはすっかり、夜の帳が下りていた。

「風呂は時間で別れてますんで。九時までが男風呂で、九時から十一時半までが女風呂です」
 夕飯の後、食器を片しに来た中年女が、無表情にそう告げる。
「お兄ちゃん……」
 美耶子が傍らで腕を突付いた。
 先頃、アパートでは独りの入浴を覚えた美耶子だったが、勝手の判らないこの場所で、
それを行うのは無理がある。

 宮田は、中年女にそのことを話した。
 美耶子と一緒に風呂に入らねばならぬこと―美耶子の眼が不自由で、
入浴に介助が必要であることを説明する。
 中年女はぽかんとして聞いていたが、神妙な顔をして首を傾げた後、
「今夜はお客さん達だけですから大丈夫ですけど。
一応お入りになる時、暖簾を降ろしといて下さいね」
 と、それだけを言って、食器を乗せた盆を運んで行った。

 部屋に残された三人の間に、僅かばかりの沈黙が流れた。
「あの……」
 真っ先に沈黙を破ったのは、恭也だった。
「お風呂、お先にどうぞ」
「いや、君が先に行けよ。こっちは多分、時間がかかるから」
 宮田の台詞をどう受け止めたのか、恭也は少し顔を赤らめそっぽを向く。

「みんなで入ったらいいじゃないの」
 美耶子が、何の躊躇もなくそう言った。
「さっき水着を絞りに行った時、お風呂場がちょっと見えたけど結構広そうだったよ。
あれだったら三人でも入れるはず」
 美耶子は座布団から立ち上がった。
「み、みんな一緒にって、でも……」
「駄目なことないでしょ。もうみんな、何度も裸を見せ合ったんだから」
 それを聞いた宮田は、声を上げて朗らかに笑った。

「美耶子の言う通りだ……今さら体面を取り繕ったって、意味はないってことだな。
じゃあ行こうか」
 宮田はスポーツバッグからタオルや着替えを入れた袋を取り出す。
「どうした? 君も早く仕度しろ」
「いや、やっぱ俺……後でいいっす!
あの洞窟のこととか、民宿の人達にもっと訊いてみたいし……。
俺のことは気にしないで、お二人でお先にどうぞ」
 恭也は、逃げるようにして襖向こうの廊下へ行き、階段を下りてしまった。
「お兄ちゃん。何で恭也はあんなに恥ずかしがるんだろう?」
「さあなあ……そういう性格なんだろう。
まあいいさ。とりあえず、俺達だけで風呂を済ませちまおう」

335:宮田×美耶子・其の三 第六回
09/08/22 20:47:22 KLwOACey

 風呂場は、階段を下りて、そこから折り返した廊下を真っ直ぐ歩いた突き当たりにあった。
 紺地に「男湯」と、白く染め抜かれた暖簾を言われた通りに外し、
磨りガラスの引き戸を開けると、温かな湯の香りが、ふわりと漂って躰を包んだ。
 板張りの脱衣所で服を脱ぎ、中に入る。
 家族風呂を少し大きくしたぐらいの風呂場は、
洗い場も、掘り下げた形の浴槽も、石を模した黒っぽいタイルに覆われている。
 カランは四つ、二つずつが壁に面してついており、それぞれの蛇口の上には、
横に長い鏡が張ってあった。
「ここ、お屋敷のお風呂に少し似てる」

 宮田の腕に寄り添って、裸の美耶子は言った。
「お屋敷……神代の家のことか」
 美耶子は頷く。
「あそこのお風呂の方が、もうちょっと広かったけど……でも、何となく似てるよ。
浴槽の縁が低いとことか」
「風呂の形状なんて、それほど種類のあるもんじゃあないからな……。
さあ美耶子、こっちへおいで」

 宮田は美耶子の手を取り、鏡の前、カランの上の出っぱった部分に座らせた。
「……少し日に焼けたな」
 美耶子の顔も躰も、昼間に浴びた日光に火照って赤味を帯びている。
 夏の熱気を吸収し、艶々と輝いている手脚の中心で、
水着に隠されていた胴の部分だけが蒼白さを残し、妙な生々しさを発散していた。
 宮田は、美耶子の前にひざまずき、肩に残っている水着の線を辿って、
冷たくふやけた感じのする乳房を、手の平で包んだ。
「また少し大きくなった」
 張りつめて上向いた乳房を、ゆっくりと撫で廻す。

「こんな処で……悪戯しないで」
 美耶子は、長いまつげを揺らめかせながら言うが、それでいて、
自ら進んで宮田の手の動きを止めようとはしない。
 それをいいことに、宮田は美耶子の乳房を両手で掴み、
海の匂いがする胸元に顔を埋めてしまった。
「ああ、お兄ちゃんってば」
 乳房の谷に触れる宮田の唇は、そのままなめらかな肌を滑り落ち、
下腹部を通って黒い茂みにまで届く。
 そこには、ひときわ強く海の匂いが留まっているようだった。

「そういえば……こうしてお前と風呂に入るのも、随分久しぶりのことだ。
独りで入るようになっちまったからな、お前。
どうだ? ちゃんと独りで洗えているのか?」
 宮田は美耶子の太腿に手を置き、ぐっと左右に押し広げた。
 一日を海で過ごした美耶子の性器は、そこはそれほど焼けてはいない内腿の中心で、
ちんまりと唇を閉ざして沈黙している。
 二本の指を使って開いてみても、
薄い桃色の膣口は、ぽつんと小さな窪みを見せているだけだし、陰唇に埋もれた陰核は、
その所在さえも判然としない。

 宮田は、包皮の上から陰核をくりくりと扱き、針の穴のような膣口を、
もう一方の手の親指で揉みほぐした。
 美耶子は「はあ……」と心地好さげにため息をつくと、少し腰を前にずらし、
宮田が弄りやすいように性器を突き出す。
 やがて、しこり出した陰核が、包皮から珊瑚色の顔を覗かせるのと同時に、
揉まれて柔らかくほぐれた膣口から粘液が溢れ出して、
宮田の親指をぐいぐいと飲み込む蠢きを始めた。

336:宮田×美耶子・其の三 第六回
09/08/22 20:48:03 KLwOACey

 宮田は中指で美耶子の汁をすくうと、それを陰核に塗りつけ、
すりすりと裏側から撫で上げたり、てっぺんに細かい震動を与えたりして刺激する。
「あ……ふ……くうっ」
「だいぶん勃起してきたな」
 美耶子の陰核が、硬く尖って指先を押し返すようになった処で、宮田は手を止めた。
 ぴくぴくとわななき、包皮からずる剥けになった陰核の根元を、
最大限まで引っ張って見つめる。

「やっぱり……ここに滓が堪ってる」
 宮田は、陰核の左の根元を指で触れた。
「嘘っ」
「嘘じゃない。視てみろ、ほら」
 宮田は美耶子の股間に眼を近づける。
 宮田の言うことは、正しかった。
 陰核包皮の左の根元には、白い塊が小さく挟まっているのが、はっきりと見えていた。

「そんなあ。毎日皮を剥いて、ちゃんと洗ってたのに!」
 美耶子は頬を赤らめ、困惑した声で叫んだ。
「お前の性器は、どうしてもここに滓が堪りやすい構造になってるみたいだな。
昔っからそうだった……そう。俺が初めてお前の健診をした時にも、確かこうなっていた」

 宮田は、その時のことを懐かしく思い返していた。
 忌まわしきかの村の、忌諱の中心地であった美耶子の生家・神代家。
 こけおどし的に豪奢な造りであるにも関わらず、どこかうら寂しく、
薄ら寒い印象を抱かせるあの屋敷で、初めて宮田は、医師として美耶子に接した。
 少年の頃より、その存在だけは知っていたし、遠くから姿を見る機会も幾度かはあったが、
至近で対面したのは、あの時が最初であっただろう。
 日本人形のように髪の長い、虚ろな眼をした美少女。
 己の運命に絶望し、この世の孤独と悲しみを一身に背負って心を閉ざしていた美耶子は―
陰核包皮から溢れ出さんばかりに、恥垢を溜めていたものだった。

「なあにお兄ちゃん? 何で笑ってるの?」
 美耶子がむっと頬を膨らませている。
 宮田は、笑い声を噛み殺しながら首を左右に振った。
 そう、あの時にも宮田は笑ったのだ。
 戦慄を覚えるほどに美しい少女だった美耶子を、裸に剥いて股座を覗き込んだ時、
その美しさにそぐわない、あまりに酷い性器の汚れように、
宮田は、腹を抱えてげらげらと笑い出してしまったのだった。
 宮田の態度に立腹し、泣きべそを掻いて喚き散らしていた美耶子の幼い顔を、
今でもはっきりと覚えている。

「美耶子―お前は大人になったよ。
村に居た時から比べると、本当に大人になって、綺麗になった」
「そんなお世辞言って。何かいけないことでも企んでるの?」
「お世辞なんかじゃないさ。
神代の屋敷で初めてお前と対面した時には、ほんの子供にしか見えなかったのに。
今ではこんな……少なくとも躰だけは大人になったし、女になった」
「当たり前じゃない。もう一年以上経ってるんだよ? あれから」
「ああ、そうだよな……」

 あれから一年。
 たったの一年で、こんなにも美耶子は成長した。
 そして、これからも成長していくだろう。
 その代わり、自分はどんどん年老いてゆく。
 老いて力を失ってゆく自分を取り残し、美耶子は、美耶子の女としての性は、
眩いばかりの大輪の花を咲き誇らせるに違いない。

337:宮田×美耶子・其の三 第六回
09/08/22 20:48:26 KLwOACey

 宮田は確信していた。
 今後、長い年月を生きていくさなかに、いずれ美耶子は自分を捨てる。
 今の彼女がいくら否定しようとも、それは未だ、庇護者の存在なしには生きられない彼女の、
幼く頼りない心がそう言わせているだけのことだ。
 弱りゆく男を捨てて、美耶子は選ぶのだ。彼女と同等の、若さに満ち溢れた新しい男を。
 他者の視界に頼ることなく、初めてその眼でじかに見ることのできた、
暖かい光輝に包まれているという、あの少年を。

「美耶子」
 宮田は美耶子の名を呼び、美耶子の悦びの源泉に唇を押し当てた。
 火のように紅い陰核に、吸いついて、吸いついて―。
「ああっ、お、お兄ちゃ……!」
 いきなり激しく吸い上げられた美耶子は、苦痛じみた快感を陰核の芯に受けて、
ぐっと腰を反らせた。
「―汚れを取らなきゃならんからな」
 言い訳するように宮田は言い、唾液を絡ませた舌を伸ばすと、
陰核の根元をべちゃべちゃと舐め廻した。
「あう……や、そ、そんなの……っ」

 通常であれば、こういう汚れを落すにはシャワーの強い水圧を当てるものなのだが、
この民宿の風呂にはシャワーが無かった。
 だから、舌で無理やりこそげ落すしかない。
 強く強く。陰核の根元をえぐるように舌で突き廻しながら、すくい上げるように弾く。
 熾烈なまでに責め立てられて、美耶子の顔は悦楽に歪む。

 しかし今、宮田が舌で小突いている場所は、
美耶子本来の泣き処である陰核の裏側からは場所がずれているため、
決定的な刺激ではないのがもどかしく、美耶子は、靴の上から足を掻いているような、そんな、
焦れるような快感に苦しめられる。
「ああん……もっと……もっとぉ」
 激しくも見当外れの責めに耐えかねた美耶子は、自ら股を大きく広げ、
陰核の真下にある尿道口の辺りをしきりにひくつかせて、淫らな責めのとどめを乞うた。

 それでも宮田は無言のまま―口が塞がっているのだから仕方がないのだが―
とにかく、何も返事をせずに陰核の根元を舌先で弾き続ける。

 そうして、どれくらいの時間が過ぎたのだろうか?
「―取れたぞ」
 舌の先でこそげ取った白い滓を、人さし指の先に乗せて宮田は言った。
 眼の前にそれを掲げて幻視を促すも、美耶子はぐったりと大股を広げたまま、
尋常ならざるほどに大きく膨れ上がった陰核を丸出しにして、
狂おしく肩で息をし続けるだけだった。

「お……兄……ちゃん」
 やがて美耶子は、情欲に酩酊しきった声音で宮田を呼ぶと、
ふらりと危なっかしく腰を上げる。
 尻の下まで垂れていた発情液が、いやらしくタイルに糸を引く。
 今にも転んでしまいそうな美耶子の躰を、すんでの処で宮田は抱きとめた。

 その勢いのまま美耶子は、濡れたタイルの床に宮田を押し倒し、
狙いたがわず唇に吸いついた。
 たった今まで己の汚猥を掻き混ぜていた舌に、ためらうことなく舌を絡めて、
ぬるぬると扱いた。
 塩辛い陰部の味とは一転し、少女の甘い唾液を送り込まれた宮田の舌が、痺れて蕩ける。
 背中の下の硬い感触。胸板の上で、充実した乳房の重みが心地好かった。

338:宮田×美耶子・其の三 第六回
09/08/22 20:48:50 KLwOACey

「して……今すぐにして、お兄ちゃん……お願い」
 唇を外さずに、美耶子は囁いた。
 吐息が熱を帯びている。
 さらに熱を帯びた股間が、無意識的に動いて宮田の強張ったものをぐりぐりと挑発していた。

 宮田はふっと笑いを漏らすと、素早く起き上がって美耶子と躰を入れ違えた。
「姦ってやるのは構わんがな。あまり大声を出すんじゃないぞ?
さっきの婆さんなんかにばれて、心臓発作でも起こされたらかなわん」
 言いながら、陰核の裏つらを指でこちょこちょくすぐった。
 それだけで美耶子は、うっとりと首を反らせて喘いでしまう。
 べたべたに濡れきった膣口も。欲しがって、泡立った汁にまみれながら、
ぱくぱくと穴を収縮させていた。

 すでに出来上がった状態である美耶子の肉の穴は、しなやかに勃起した陰茎を、
瞬く間に飲み込んでしまう。
 しこしこと濡れた熱い肉襞に胴締めをされた陰茎は武者震いをし、
すぐさま、張り出したカリ首でもって粘つく孔内を攪拌し始めた。
「ああん、あ、あっ、あっ、あ……」
 美耶子の紅い唇から、牝の声が漏れる。
 短い動きでぐいぐいと。微妙な捻りを加えながら、ずずっと奥まで。
 硬いタイルの床に肘と膝をついた宮田は、突いたり、しゃくり上げたり、
膣穴上部のしこりをぶるぶると震わしたりと、変幻自在の動きで若い膣を翻弄する。

 それは、宮田が知りうる限りの技術を総動員した、快楽の動きであった。
 淫魔そのものと化したかのようなその腰の使いようは、
宮田をして、最後の悪あがきにも似たものであっただろうか。
 ―まだだ。まだ俺は、美耶子を……。

「やはあっ! や……おに、お兄ちゃ……凄……」
 タイルに押し付けられ、激しく揺さぶられる美耶子は、宮田の動きを受け入れて、
懸命になって腰を突き上げる。
 両腕を床につき、限界を越えるほどに尻を持ち上げ、弓なりに躰を反らせて、
宮田の下腹部に恥骨をすり合わせる。

 宮田は、美耶子の腰のくびれを、両腕で抱きかかえた。
 ぐっと引き寄せた美耶子の躰は、すでにオルガスムスの兆しを見せている。
 しっとりと汗ばみ、硬く張りつめた二つの乳房は、風船のように膨れ上がっているし、
反対方向に折り曲げられた膣穴は、ぎりぎりと狭くなって、脈打つ陰茎を喰い締めている。
 それでいて、濡れたくさむらに覆われた穴の周りのびらびらは、
たぐまったり伸び広がったりしながら、柔らかくぬめって陰茎の根元を優しく舐り、
ぐじゅぐじゅと恍惚の汁をまき散らしながら、甘ったるさに酸味の混じった、
淫らがましい匂いを強く濃く立ち上らせた。

 そして、宮田の腕が、乱れて絡まった黒髪ごと美耶子の背中を抱き締めた時、
美耶子の灼熱の膣も、ついに快楽の限界に達した。
「あああっ」
 宮田の腕の中、自分で自分を支えることさえできなくなった美耶子は、
抱き締める腕の中に完全にその身を預け、白い尻を中心に、ぶるんぶるんと全身を律動させる。
 むらむらと盛り上がって波状に蠢く膣の肉は、陰茎を吸い上げて奥深い子宮の中に取り込み、
こりこりとした入口で吸い付いて、咀嚼しようとしていた。

339:宮田×美耶子・其の三 第六回
09/08/22 20:49:19 KLwOACey

 美耶子の女の器官に亀頭を、尿道口をねっとり喰いつかれた宮田は、
陰茎の芯を揺るがし、滾りに滾った欲望の昂ぶりを、一挙に放出した。
 どばっと噴き出したそれは、美耶子の子宮頚管に打ち当たり、
じわりと跳ね返って狭い粘膜の中を循環し、膣の入口からどぼどぼと溢れ出る。
 それさえ逃すまいと、収縮を続ける美耶子の膣孔の痙攣はきりもなく続き、
至上の快楽を味わう二人の性器を嬲って、蕩かせて、いつまでもいつまでも離さなかった。

 強烈な快楽を共有し終わった二人は、だるい躰を起こして躰を洗う作業にかかった。
 といっても、実際に作業をするのは宮田一人だ。
「お兄ちゃんに頭を洗って貰うの、久しぶりだね」
 美耶子の長い髪を、シャワーの無い風呂場で洗うのは一苦労だった。
 しかし美耶子は、洗面器に湯を溜めては泡立った頭にかけるという、
宮田の労働を手伝うでもなく、ただ、頭を反らせて眼を閉ざしているだけだ。
「全く……こんな苦労をさせられるんだったら、お前なんか、
さっさと恭也にくれてやった方がいいかもな」
「駄目ですよーだ。私はこれからも、ずっとずっとお兄ちゃんと一緒だもん」

 湯船の中で、美耶子は宮田にしなだれかかって甘え声を出す。
 確かに彼女は今、本心からこの言葉を言っているのには違いあるまい。
 けれどそれは―あと何年続くものなのだろう?
 苦み走った笑みを浮かべ、宮田は美耶子の肩に湯をかけた。
 日に焼けた肌にさら湯が沁みて、美耶子は少し眉をしかめた。


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