キモ姉&キモウト小説を書こう!Part12at EROPARO
キモ姉&キモウト小説を書こう!Part12 - 暇つぶし2ch2:名無しさん@ピンキー
08/05/18 18:15:34 gCIE4vRQ
■お約束
 ・sage進行でお願いします。
 ・荒らしはスルーしましょう。
  削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
  削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
 ・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
 ・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。

■投稿のお約束
 ・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
 ・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
 ・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
 ・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
 ・作品はできるだけ完結させるようにしてください。

SSスレのお約束
・指摘するなら誤字脱字
・展開に口出しするな
・嫌いな作品なら見るな。飛ばせ
・荒らしはスルー!荒らしに構う人も荒らしです!!
・職人さんが投下しづらい空気はやめよう
・指摘してほしい職人さんは事前に書いてね
・過剰なクレクレは考え物
・スレは作品を評価する場ではありません

3:名無しさん@ピンキー
08/05/18 18:15:56 gCIE4vRQ
■誘導用スレ
嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ あの女49も!
スレリンク(eroparo板)
ヤンデレの小説を書こう!Part15
スレリンク(eroparo板)
いもうと大好きスレッド! Part4
スレリンク(eroparo板)
お姉さん大好き PART5
スレリンク(eroparo板)

4:名無しさん@ピンキー
08/05/18 18:19:17 uCNVD3Vz
>>1
乙!
1月あたり1スレのペース…よりかは少し遅いか

5:変名おじさん ◆lnx8.6adM2
08/05/18 19:01:15 xouxRRrb
>>1の方、スレ立て乙です
では僭越ながら最初の投下をば

6:加賀見の校舎の有栖様
08/05/18 19:02:46 xouxRRrb
ぴんぽんぱんぽーん。

『二年C組の来栖川 白兎(くるすがわ はくと)君、二年C組の来栖川 白兎君。
 生徒会長がお呼びです。至急、生徒会長室に向かうように。
 繰り返します。二年C組の来栖川 白兎君、二年C組の来栖川 白兎君。
 お姉様がお呼びです。直ちに生徒会長室へ向かって下さい』

ぴんぽんぱん、

『・・・・・・はぁ』

ぽーーーーんん。



昼休み。
談笑と興奮、次の授業への僅かな憂鬱と倦怠の空気に包まれた、
私立加賀見(かがみ)高校の二年C組教室。
最後に謎の嘆息を残して終わった放送に、まさに来栖川 白兎その人である僕は伏せていた机から顔を上げる。

「・・・うわぁ」

と同時に周囲から穏やかではない視線が突き刺さるのを感じた。
放送で呼び出された当人をぐるりと取り囲む目、目、目。
クラス中の瞳という瞳が僕一点に集中している。
どれもこれも目蓋を半ばまで下げていて、持ち主の不機嫌なこと請け合いだ。
全員が早く行け、と促している。
流石にいたたまれなくなって無言で立ち上がると、一緒に移動した視線が背中や首筋を撫でるのが分かった。

「う」

蛇が這うみたいな気持ちの悪いぞくぞくが首筋から上がってくる。
進路上で必要最低限に僕を避けるクラスメイト達を背に廊下に出ると、
同じ目をした隣のクラスの生徒やたまたまここを通っていた先輩後輩に出迎えられた。
早足から駆け足へ。自然に速くなる足を意識して加速させ、僕は呼び出された場所へと急ぐ。
ことの原因、僕を呼び出した張本人である姉さんの下へと。

7:加賀見の校舎の有栖様
08/05/18 19:03:41 xouxRRrb
その部屋に入った時、初めに聞こえたのはカンッ、という甲高い音だった。

「あら。白兎、もう来てくれたのね。嬉しいわ。
 山根も思ったより仕事が早いのね。あとで褒めておかなくちゃ」

赤いソファと精緻な彫刻が施された机と椅子に、何冊もの蔵書を飲み込んだ本棚。
加賀見高校に一つしかない生徒『会長』室で、僕を迎えた姉さんが柔らかく微笑む。
備え付けられた天窓から降り注ぐ光の中央に立つ姉さんを収めた視界の中、
その手首から先が霞んだかと思うと、もう一度カンッと音が鳴った。

「丁度この暇潰しにも飽きてきた頃だったの。
 さっきから全然反応がなくてね。いい加減、物理的にクビにしてやろうか迷っていたところ」

言い終えてから、また音が響く。光を反射して輝く銀色の刃が視界を走った。
姉さんの投げたナイフで示された先、通常の教室に倍する広さを誇る生徒会長室の壁に、
ピンで縫い止められたみたいに磔になった人が見える。
死体の白線をなぞるように突き刺さった無数のナイフ。
そんな凶器の群に囲まれた、女性用の落ち着いた紫色のスーツに包まれた姿。
項垂れた状態で髪に隠された顔は見えないけど、どこか見覚えのある雰囲気の女性だ。

「三月(みつき)先生・・・?」
「そうね」

疑問の割合が多い声に、低く短く、姉さんが答える。

「正解よ白兎、見事にね。けれど感心しないわ。私の前に立って、まさか最初の言葉が他の女の名だなんて。
 ましてやそれが、課題や罰を口実に貴方と二人きりになろうとしていた無能愚劣な担任の名前。
 悲しいわね。たとえ騎士の剣(つるぎ)でも、きっとこうまで私の心を裂けはしない」

憂鬱そうに言いながらゆっくりと、指に刃を握った手が上がる。唸りに似た風切り音。
投擲されたナイフが銀光を引いて輝きながら宙を滑った。一瞬の後、これまでで一番高い音が鳴る。

「ほら見て頂戴。涙の海に揺られるあまり、自慢のナイフも外れてしまう」

僅かに刃先のブレた凶器は冷たい壁に拒絶され、三月先生の下に溜まった液体の中で水音に沈んだ。

「これは慰めが必要だわ」

その光景に気を取られて反応が遅れる。
近付いた声に振り向いた先、拗ねたような顔をした姉さんがいた。じっと僕を見上げる二つの瞳。
反射的に、硬くなった体が後ろへ下がろうとする。
それよりも早く回された両手が僕の背を撫で、抱き寄せられた胸を姉さんの額が擦った。

「ね、姉さん」

開いた口から、決して姉さんが名前を教えてくれない、だけど確かに匂う香水の香りが入って鼻腔を通る。
香水になって棘の抜けた上品な薔薇の香り。
漂ってくる姉さんのお気に入りの香気に包まれ、意識から遠のく抵抗を忘れかけたぎりぎりの所ではっとする。
慌てて視線を下に向けようと転じた視界は、だけど唇に添えられた細い指によって止められた。

「もう。白兎ったらいけない子。
 何度も何度も私が注意をしているのに、いつも兎のような駆け足でそれを忘れてしまう」

背中に触れたままの姉さんの腕に込められる力が強くなり、
唇に別れを告げた指が五本に増えて首を撫で、僕の強張りを解きながら二人の高さを合わせる。

8:加賀見の校舎の有栖様
08/05/18 19:04:38 xouxRRrb
「や・く・そ・く。
 二人きりの時は、名前で呼んでくれなくてはイヤよ?」

薔薇にない甘さを含んだ吐息が耳に吹きかけられた。くすくすと笑う声が聞こえて、柔らかい拘束が解かれる。
離れた姿を追うと、大きくない歩幅で一歩だけ下がった姉さんが険のない目で僕を見詰めていた。

「さ、白兎。私の可愛く愛しい弟────最初に私にかけるべき言葉はなあに?」

空間の中央に降る光を背にした姉さんが問う。
左右へと伸ばされた手に、肩にかかって背中まで流れる茶色の髪が揺れた。
童女のように無邪気な顔で僕を促す姉さんの声に怒りはない。
あくまでも無垢にこちらの返答を待つ姿が、僕の良心に似た何かを突いた。

「分かったよ・・・・・・有栖(ありす)」
「うふ」

最初から勝負にする気もなかった根競べがそれで終わり、軍配は姉さんの方に上がる。
何時だったか。もう何年も前に交わした、と言うよりも誓わされた約束。
決して忘れていたわけではないそれを口にした僕に、姉さんは花開く笑みで応えた。

「うふふふふ」

来栖川 有栖。僕より一つ年上の姉。私立加賀見高校三年生にして生徒会長。
僕の対となる、どこぞの作家好きの両親が付けた名前を持つ女性。

「ああ。幸せだわ、幸せだわ。何て甘美なのかしら。名前で呼び合う二人、まるで恋人のようよ。
 どんなに上等な詩でもこうまで私の心は満たせない。白兎、貴方は本当に私を不思議の国に呼び込む案内人ね。
 罪な子だわ。気が狂ってしまいそうよ。I am getting mad as a hatter!」

最後に高い鳥のような叫び。
気狂いを鳴き上げた姉さんが手を広げて踊り出し、喜びに合わせて動く体で薔薇の香りを撒いていく。
広くても閉ざされた生徒会長室。
振り撒かれる香気は密室の中で段々と濃く強く積み重なり、
僕には芳香の渦の中心で舞い踊る姉さんそのものが薔薇の花に感じられる。
背中までを覆う薄く色の抜けた茶色の長髪に、全体を赤くした加賀見高校の制服。
動作に合わせて揺れる胸の薔薇飾りと、舞に合わせてくるくるとスカートの上で曲線を描く茨を模した装飾。
レースでティアラの形を付けたヘッドドレスが左右に踊る。
その姿は、きっと一歩でも校舎の外に出れば奇異の目で見られるだろう。
薔薇に染めた衣装の奇抜と物言いの異様。下手をすれば官憲の世話になる可能性すらある。

なのに。狂気的でさえある姉さんのその姿は、何故だかひどく美しいものに見えた。

普通なら間違いなく指差される衣装に身を包んで、だけど姉さんは少しも物怖じしない。
畏れも遠慮も憚りもなく、ただ自分の思う様に振舞っている。
何も言えずに見守るだけの僕の前に存在する不思議な、不可侵の荘厳さ。
降り注ぐ光を浴びて、聳え立つ本棚の城壁を背にくるくると踊り狂う姉さん。
さながら女王のように誰も寄せ付けずステージを独占する姿に、ふと教室を出る時に浴びた視線を思い出す。
クラスメイトの目に光っていた嫉妬と羨望と、畏敬。
姉さんに呼ばれて行く僕へ向けた敵意に近い視線と、僕越しに姉さんを見る瞳に浮かぶ憧れと敬意。
姉さんが全生徒の頂点に立つ生徒会長、であると同時に生徒会長室なんて物を作れる権力を持った唯一の人物、
この私立加賀見高校の理事長を務める人物だからというだけでは絶対にないだろう。
学業、運動、芸術。姉さんの優秀さを示す功績は、校長室に無数のトロフィーや賞状として並んでいる。
形に残らない成果を上げた活動も数多い。
集団での行事や活動でも、リーダーとして多くの活躍を見せたと聞いている。
能力と人格と、容姿。人間の三要素を揃えた姉さんの影響力は必然に大きい。
僕と姉さんの周囲に限定しても、死んだ両親の保険金から始めて財産を築いたのもそうだし、
姉さんが中学生の時に買い上げたこの学校を数年で並以上の進学女子高にしたのも、
そこに特例として僕を入学させた上で周囲から反発を買わずに未だにお姉様と呼び慕われていることもそうだ。
通称『加賀見のアリス』、来栖川 有栖。
天才で、綺麗で、完璧で、欠点の無い────なのに確かに何処かが壊れた、僕の姉さん。

9:加賀見の校舎の有栖様
08/05/18 19:06:25 xouxRRrb
コンコン。



唐突に。
そんな姉さんのダンスが止められた。僕が閉めた扉にノックを二回。
二人目の誰かの訪れに、姉さんは彫像のように停止する。それで生徒会長室から音が消えた。
木製の隔たりを経た向こうにいる誰かが応答を待ちながら気配を探る沈黙の中、
姉さんの瞳だけがすっと僕の背後を向く。

「誰かしら?」

上げられていた手が下がる。同時に室内の気温が冷え込んだみたいに僕の肌が震えた。
頬の横を貫く姉さんの視線に阻まれて、振り向くことが出来ない。

「あ、あの・・・山根ですっ、お姉様」

返答に続いて、せめてもと凝らした耳がドアノブの回転音を捉えた。
姉さんの許可なく開かれた扉から来訪者の入る気配がして、内蔵を回されたような感覚が僕の中に広がっていく。
届かない背後へと向かわせていた瞳を前に戻すと、姉さんが薄く笑っているのが見えた。
まるでチェシャ猫のように。

「そ、そのぅ・・・・・・言いつけの通りにしましたので、ご報告に」

一度言葉が揺れて、視線が僕の背を這うのを感じた。

「弟さんを呼べばよろしかったんですよね・・・?」

暗くなった生徒会長室に自信のなさそうな質問が淡く木霊する。
溶け消えた声の後には、よく聞くと微かに乱れた息遣いが続いていた。
もしかするとあの放送を終えてから文字通りに駆けつけたのかもしれない。
機材の使用前後の手続きや、使い終わってからの礼もあったのだろう。
せめてもう少し早く、或いはゆっくりと片付けてから来てくれていれば。そう考えずにはいられなかった。

「そうね」

僕が三月先生の名前を呼んだ時と同じ、いやそれ以上に低くなった姉さんの声。

「その通りだわ。ご苦労だったわね、山根」

山根と呼ばれた人が労いの言葉に喜色ばむのが分かる。

「────それで?」
「え?」

続く姉さんの言葉に強張るのも。

「それで、それがどうかしたのかしら?」
「え? お、お姉様・・・?」

彼女の困惑が伝わって来る。理由は理解出来た。おそらく、期待していたのだろう。
最初、僕がここに来た時に姉さんが口にした『ご褒美』とやらを。
姉さんも、それを期待した相手の働きを予想してそれらしいことを口にしたはずだ。
彼女の真剣さとは違う、きっと欠伸のような気軽さで。

10:加賀見の校舎の有栖様
08/05/18 19:07:37 xouxRRrb
「分からないかしら。
 それと貴女が今ここにいる、私と白兎との逢瀬を邪魔している理由に何の関連があるのかと訊ねているのよ」
「お、逢瀬・・・? いえあのっ、でもっ・・・・・・だって、お姉様が働き次第では褒めて下さるってさっき・・・!」

僕を挟んで言葉を交わす二人の雰囲気が変わっていく。
片方は意味の分からない状況に荒立ち、もう片方は全てを知っていながら凍りそうに冷たく。
深まった姉さんの笑みに、僕の周囲までが急速に熱を失うのを感じた。

「ああ。そう、そういうことね。なるほど」

頷いてから一歩、舞踏の間に開いた距離に姉さんが踏み出す。僕の方へと。

「これはとんだ期待外れだわ。
 貴女はそこそこに優秀だからそれなりに私を理解していると思っていたけれど。どうやら買い被りだったようね」

足音はない。
床に敷かれた絨毯に受け止められる姉さんの重さは、血を吸ったような赤色の中に柔らかく沈んでいた。
耳が痛くなる沈黙を、音もなく姉さんは歩む。茨の飾りを揺らめかせ、薔薇の香りを引き連れて。

「なら教えて上げましょう」

その台詞と共に伸ばされた手を、今度は避けようとすることなく受け容れる。
擦れ合う制服の音が聞こえるくらいに静かだった。
頭一つ分以上も低い姉さんに抱き締められた僕は、下を向くべきか迷ってからそのまま抱き返す。
姉さんの顔は見えない。

「っ!?」

小さく、彼女が大きな驚きを呑む気配がした。

「ふふ。ちゃんと分かってくれているのね。有難う、白兎」

礼を言った姉さんが吐息と赤花の匂いを残して離れる。

「さ。これで理解出来たでしょう?」

恥じるでもなく、憚るでもなく。どころか誇らしげに弟と抱擁を交わして見せた姉さんが言った。

「私が何より優先する白兎と、白兎を誰より愛している私と。
 それ以外に、私にとって重要な『何か誰か』がこの場にあると思って?」

多分、姿の見えない彼女と姉さんの身長にそれ程の差はないのだろうけど。
笑みを浮かべながら語り続ける姉さんは、何故か相手を見下ろしているように見えた。

「つまりは邪魔なの。貴女」
「そんっ・・・!?」

言いかけて、言い切れない言葉。叫ぼうとした彼女に、制服の内側に手を入れた姉さんがそれを取り出す。
木のグリップの中央を縦に走る溝。そこに鈍い金属の光を収めた、長方形に丸みを加えた物体。

「だからね? 早くここから出て行ってくれないかしら」

相手の言葉を断ち切った空間に響く鋭い音。
本来なら女子高生には似つかわしくない折り畳みナイフが、姉さんの腕の一振りでカチリと刃を噛み合せて固定した。
振り切られた腕が、見せ付けるような余韻を持ってゆっくりと上がる。

11:加賀見の校舎の有栖様
08/05/18 19:08:55 xouxRRrb
「それとも」

姉さんが、笑った。





「 そ ん な に 私 に 殺 さ れ た い ? 」





銀光が走る。

「ひぃぃいいいいいいっっ!?」

顔の横を通った風と、硬質な音にドアノブの回転音。
その三つに遠ざかる悲鳴を足した四つが過ぎてから、また僕の周囲に静寂が戻った。

12:加賀見の校舎の有栖様
08/05/18 19:10:14 xouxRRrb
「ごめんなさい、白兎。見苦しいモノを見せたわね」

山根、と呼ばれた彼女が去ってから。珍しく困ったみたいな顔をした姉さんが頭を下げた。

「別にいいよ、姉さ────んぐ」

また、唇を押される。

「・・・・・・気にしないで、有栖」
「そうさせてもうらうわ」

要求に従って訂正すると、指と一緒に体も離れた。

「それにしても」

間合いを計るように姉さんが口を開く。

「あの娘があんなに使えなかったとは思わなかったわ。あとでしっかりと始末をしておかないと」

物理的にクビにすることではないだろう。おそらく。

「まあいいわ。この程度、私達の愛の前には障害になり得ない」

姉さんが軽く手を打ち鳴らす。

「さて。白兎、貴方を呼んだのは他でもないわ」

引き寄せられた視線が、そこだけ僕と同じ色をした瞳に絡め取られた。

「結局はあの山根もそうだったけれど、生徒会に思いの外使える人材が集まらなくてね。
 朝から書類の整理に難儀してストレスが溜まってしまったわ。ストレスの解消には好きなことをするのが一番。
 そう思って貴方を呼んだのよ」

細く、薔薇や茨の装飾に反して白い肌の腕が僕へと伸ばされる。

「おいで、白兎。貴方の大好きな赤く色付いた人参はここよ。
 愛し合う二人が揃ってすることは、必然に当然にたった一つだわ」

誘われて巣穴から伸びた手が掴まれた。そのまま引っ張られ、危うく足を踏み外しそうになりながら歩み寄る。

「さあ、白兎。私の可愛らしく素敵な弟。
 それでは十分に存分に────私とイチャイチャしましょう?」


キーーーンコーーーーンカーーーーーンコーーーーーン。
キーーーンコーーーーンカーーーーーンコーーーーーンン。


予鈴が鳴った。午後の授業を控えた学び舎に鐘の音が隅々まで響き渡り、次の授業への準備を催促する。
教室移動を終えていない生徒の胸に早鐘を鳴らす警告は、生徒会長室にも容赦なく伝わる。

「・・・・・・残念だわ」

悔しげに姉さんが呟く。

「本当、いつだって神様は気が利かないものね。雑用を押し付ける意地悪な女達に、魔法の終わる十二時の鐘。
 愛し合う運命にある二人の逢瀬には、いつも無粋な邪魔が入ってしまう」

興醒めだわ、と付け足してから僕を見上げた。

13:加賀見の校舎の有栖様
08/05/18 19:11:18 xouxRRrb
「仕方がないわね。愛する弟の学業に支障をきたさせる訳にはいかないもの。
 でも・・・・・・せめて口直しは欲しいわね」

つ、と唇が寄せられる。

「白兎。キスを、してくれないかしら?」
「ね・・・・・・有栖?」

流石にぎょっとする。そんな僕を見てくすくすと姉さんは声を立てた。
下を向いて、手で上品に口元を隠してから一頻り笑って顔を上げる。

「ごめんなさい。でも相変わらず恥ずかしがり屋なのね。ふふ。
 可愛いけれど、男子たる者、女性の誘いは受けておくものよ?
 女の方からこんなことを願うだなんて、本当は私も恥じているのだから」

言われて見ると、確かに姉さんの頬は薄く薔薇色に色付いていた。
姉さんの恥ずかしがっている姿なんて滅多に見ない。

「でも、やっぱり恥ずかしいよ、有栖」

とは言え、それとこれとは別の問題。
姉さんの頼みを断るのは気だけでなく血の気が引くが、姉さんと違ってすぐに応じられるほど僕は■■ていない。

「・・・・・・そう。うふふ、いいわ。今はその瞳だけで許して上げる。イケズな白兎も愛らしいもの」

幸い、姉さんは強くは求めずにいてくれた。

「でも」

そう思った僕の左胸。心臓の上に、手が当てられる。



「ねえ白兎。
 あなたが胸に抱えたこの心臓(トケイ)は、一体いつになったら高鳴りを始めてくれるのかしら?」



「有栖・・・?」

どこか、これまでと響きの違う声。何かに突き動かされた、確かに絡め取られていた僕の視線が姉さんの瞳を通り抜けた。

「もう何年になるかしら。貴方が私をそう呼ぶように、私が貴方にそう呼ばせてから」

上げられた姉さんの手が、端から指を折っていく。

「一年? 二年? 三年・・・・・・? 思えば長いものね」

数えて五本。作った拳が解かれ、花開いた五指が僕の顔に添えられた。

「もうそれだけの間、私は白兎、貴方に焦がれていることになる。
 いいえ。違うわね。本当はそれよりも、ずっとずっと昔から。
 外を駆け回る貴方の姿を、窓辺から見詰めていたあの懐かしい過去から」

弱弱しい拘束に引かれて、誘われるままに姉さんの顔に近付いていく。

14:加賀見の校舎の有栖様
08/05/18 19:12:25 xouxRRrb
「いつになれば、貴方は私が貴方を想う程に私を想ってくれるのかしら?
 そのために、私は何をすればいいのかしら?」

途中で片方の手が落とされた。軽快な金属音が響いて、姉さんの手にもう一度ナイフの輝きが握られる。
僕を覗き込む姉さんの首筋を、浅く刃が撫でた。

「私がここに赤い線を引けばいい? 或いは貴方の兵士となって、貴方に近付く者を皆殺しにすればいい?
 それとも、あそこで寝ている女のトランプみたいに薄い胸を貫いて、
 私の隅々までを林檎のように染めてしまえばいいのかしら?
 そうすれば、貴方は私を、私と貴方だけで閉ざした鏡の国へ案内してくれる?」

カンッ、という甲高い音。虚空に幾筋かの傷を刻んだ刃が、いまだ磔になっている三月先生の頭上を刺し貫いた。

「ね、白兎。もしもそれが叶うのなら、私は本当に何だって出来てしまうのよ?
 私が求めるのは女王を守る騎士ではなく、この身を貪ってくれる魔獣(ジャバウォック)なのだから。
 焦らすのはいいけれど、あまり意地悪をして待たせ過ぎてはダメ。
 熟れ過ぎた林檎は腐れるの。乙女の心はハンプティ・ダンプティのように繊細で脆いもの。
 どうかそれだけは憶えていてね? たとえこの身が砕けようとも、私の愛は永遠だけど」

「有────」



キーーーンコーーーーンカーーーーーンコーーーーーン。



鐘が鳴る。気付けば、五時限目の授業が始まる時間だった。



「・・・・・・戯言が過ぎたわね。
 ごめんなさい、白兎。貴方を遅刻させてしまうことになったわ。私、駄目な姉ね」

呟くように零した姉さんが、僕に背を向ける。赤い色の絨毯の上。
しずしずと音もなく歩む制服の背が遠ざかった。微かな移り香だけが、僕の傍に漂う。

「もう行きなさい。時間にだらしのない教師が担当なら、授業の開始には間に合うこともあるでしょう。
 私も後片付けを済ませたら行くとするわ」
「あ・・・・・・うん」

脳裏に、姉さんに憧れているクラスメイト達の目が浮かぶ。
確かに、姉さんに呼ばれただけでなく昼休みが終わっても一緒にいたとなったら問題かもしれない。

「それじゃあ姉さん・・・・・・また後で」

ちらりとこっちを見た姉さんに手を振ってから扉へ向かう。訂正を求める声はなかった。
ドアノブを回し、僕の身長より高い重厚な出入り口を開け放つ。
体の向きを入れ替えて閉める最中に中を見ると、姉さんは笑顔で手を振ってくれていた。
扉が閉まる。

「ふう」

隔てられた向こう側に一つ息を吐いて、早足で歩き出す。背にした生徒会長室が見えなくなった頃、聞きなれた担任の声が廊下に響いた気がした。

15:名無しさん@ピンキー
08/05/18 19:14:42 2EFw7XKk
支援

16:変名おじさん ◆lnx8.6adM2
08/05/18 19:15:22 xouxRRrb
投下終了
前スレだと少し容量に不安があったのでこちらに投下しました
今回は名前や単語をかのアリスストーリーから引用していますが、分からないところがありましたらみwiki先生に聞いてください
では、失礼します

17:名無しさん@ピンキー
08/05/18 19:19:43 2EFw7XKk
投下乙でした

18:名無しさん@ピンキー
08/05/18 19:21:24 xouxRRrb
>>15の方、ありがとうございます

それと編集人の方も更新お疲れ様でした
投下から保管まで数分。凄え

19:名無しさん@ピンキー
08/05/18 23:03:38 y7Cb4VTR
姉コワスw
だがこれはこれで!

20:名無しさん@ピンキー
08/05/18 23:26:21 Mh1l9S8Z
山根ちゃんが二人の恋路を邪魔しないよう願う。

21:名無しさん@ピンキー
08/05/18 23:29:07 Pu5bkaNE
>>20
楽に死ねなくなるな

22:名無しさん@ピンキー
08/05/18 23:34:28 xff+qTyv
グッジョブ!
Mで姉好きな俺としては最高の作品だわw


23:名無しさん@ピンキー
08/05/19 04:02:10 f4rWGujZ
GJ!!!
姉、良い味出してるジャマイカ!
ぜひ、続きを読ませてください!

24:名無しさん@ピンキー
08/05/19 15:52:40 ZUTEyRkv
よく読むとラスト一行で担任が殺られている件

25:名無しさん@ピンキー
08/05/19 18:54:06 E0q+Nv3n
いや、最初っから殺されていただろう?

26:名無しさん@ピンキー
08/05/19 19:52:19 TKEBkvgB
>>25
「死体の白線をなぞるように」で勘違いしたのかもしれないけど、
最初の段階ではまだ「物理的にクビ」にはなってないだろ。

27:名無しさん@ピンキー
08/05/19 20:11:33 Lia6rkvE
>>25
凶器の群に囲まれて、とナイフの刺さる音が肉に対してのものじゃないので生きているよ
磔にした方法までは書いていないけど、液体は尿で絶賛気絶中
んで最後で断末魔。ヤマネの邪魔によるストレス発散の八つ当たりウマー

28:無形 ◆UHh3YBA8aM
08/05/19 20:34:47 uzRhzf52
投下します。

29:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM
08/05/19 20:37:22 uzRhzf52
※※※

冬の澄んだ星の下。
僕と姉は、じっと空を見上げる。
こほこほと咽る姉に若干の不安を抱えたまま手を差し伸べた。
「はい、しろ姉さん。お茶」
「ありがとう、クロ」
精彩を欠く笑顔は、それでも凛として美しい。
再び風邪をぶり返したらしい姉は、それでも外に出ることを望んだ。
今日は快晴。
遥か上空には、満天の星星。
絵画なんかじゃない。天然の絶景。
小さく、或は大きく。
漆黒の中に、明滅する星明かり。
何億年も昔から。
不滅の黒の中に生きた白。
それは、燃え尽きたとしても永遠なのだと僕は思う。
地上にいる綺麗な輝きを持った星。
僕はそれを見る。
今ここに在る理由―
それを思い出しながら。

――――――――――――――――――

落ち着いた雰囲気の和室に、鼻歌が響いている。
陶然とした様子で痛んだ本を捲る僕の姉。
見ているものは、この間発掘したアルバムだ。
『弖爾乎波』と書かれた掛け軸を背に、姉の表情は明るい。
「ふふふ。この時のクロ、可愛かったなぁ・・・。お姉ちゃん、お姉ちゃんて、抱きついてきて」
「・・・その時抱きついてきたのって、しろ姉さんの方じゃないか」
「この時は、お姉ちゃん、あ~んして、って、ねだって来たのよね」
「無理矢理食べろって云ったのはしろ姉さんじゃ・・・」
「クロ、煩いわよ」
「・・・・・」
一睨みされて僕は黙る。
写真の過去は同一なのに、記憶には大きな差があるようだ。
「ふふ。この時は一晩中、私の傍を離れなかったのよね」
にこ~、と笑いながら、昔の僕を見ている。
姉はアルバムが好きだ。
過去を眺めて身を捩っている事が多い。
本人に云わせると温故知新であるらしいのだが、僕の素人観察では、単純に過去に浸っているだけよう
に思えるのだが。
(まあ、しろ姉さんが幸せなら、それで良いか)
うふふ、うふふふふ、と笑う姉を見ながら、僕は立ち上がる。
「クロ?どこに往くの?」
ゆるみきった笑顔だったはずの姉が、真顔で僕を見上げている。
「いや、部屋に戻ろうかなって」
「どうして」
「いや、どうしてって・・・」
ここにいても姉はアルバムを見ているだけなのだし、僕も暇なのだし。
「部屋で本でも読もうかなって」
「なら―ここで読めば良いでしょう?私の傍を離れる理由にはならないわ」
「いや、でも」
「でも、何?」
「・・・・」
どうも本気で仰っている御様子。
僕は「判ったよ」と頷いた。
勿論、抵抗が無駄だと「判った」のである。
「すぐに戻ってくるのよ?良い本が見つからないなら、私の持ってる本を読めば良い」

30:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM
08/05/19 20:39:52 uzRhzf52
そう云ってゆるんだ笑顔に戻る。
「この頃からクロは、私無しじゃ何もできなかったんだから」
ふふふふふふ・・・。
クネクネと動いている。
(仕方ない)
僕はため息を吐きながら廊下を進んだ。
見慣れた扉の前へ来て、自分の空間への入り口を開く。
「あ、クロくん。おかえりなさい」
「・・・・・」
扉を閉める。
今、“向こう側”に誰かいたぞ?
柔らかい雰囲気の、凄い美人でえっちな体つきのお姉さんが。
(いや。まさかな・・・)
もう一度扉を開いた。
「・・・・・」
いる。
笑顔でベッドに腰掛けている人がいる。
「クロくん?どうしたんですか?」
どうしたって。
「それ、僕の科白です。甘粕先輩」
そう、甘粕櫻子。
昔馴染みの、綺麗なお姉さん。
それが、鳴尾家の一室にいる。
「また他人行儀な呼び方するんですね」
プクっと頬を膨らませるこの人の心の内は、正直まるで読めない。
僕は首を振りながら、部屋に入ると、素直に疑問を口にする。
「どうして僕の部屋にいるんですか?」
「クロくんの部屋に来たから、クロくんの部屋にいるんですよ?」
のらりくらりと。
この人は相変わらずのようだ。
「いえ、目的を聞いているんですけど」
「むう」
先輩は唇を尖らせる。どうやら拗ねているらしい。
「クロくん酷いですよ。私がここに来た理由なんて、愛弟に逢いに来たから、に決まってるじゃないで
すか。私、クロくんのこと、大好きなんですよ?」
「・・・・」
(ストレートに云うなぁ)
頭に血がのぼるのがわかった。
「ふふふ。クロくん、お顔、まっかですよ?」
嬉しそうにニコ目が笑う。
絶対判っていてやっているのだ、この人は。
気恥ずかしさから、僕はそっぽを向いた。
その瞬間―
「え」
身体が宙に浮き、景色が廻った。
(投げられた!?)
状況を理解した時はすでに、僕の身体はベッドに着地していた。
「はい。捕まえました」
仰向けになった僕の上に、柔らかくて良い匂いのする体が乗っかっている。彼女の両手が、僕の身体に
添えられていた。
「あ、甘粕先輩、何するんですか」
「ですから、捕まえたんですよ?クロくんは櫻子お姉ちゃんのものですよ?」
「・・・・」
ですよ?って・・・。
本当に子供っぽい悪戯が好きな人だ。
「どいて下さい」
「どくほうが良いですか?」

31:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM
08/05/19 20:41:57 uzRhzf52
「当然で、」
むにゅりと。
大きな“何か”が言葉紡ぐ事を妨害する。
普段は『たゆん』で『ぷるん』と動いている“それ”が僕の胸板の上で歪に撓んでいた。
「・・・う・・・・」
「クロくん、静かになりましたね?嬉しいんですか?」
シャンプーの香が鼻孔を擽る。
嗅覚と視覚と触覚が甘粕先輩で占められる。
「ど、どいて下さい」
「嫌です」
小首を傾げて可愛く云われた。
(駄目だ)
僕も男なのだ。
これ以上は血が溜まってしまう。
頭に上った血が、下半身に集合してしまう。
(申し訳ないが、力ずくでどいて貰おう)
そう思ったのだが、
「あ、あれ?」
「どうしました?」
「いや、あの、身体が―」
動かない。
そう云おうとして、思い当たった。
動かないのではなく、動けないのだと。
今僕の上に圧し掛かっている美人さんは、古流柔術の達人でもあったのだ。
「・・・甘粕先輩」
「櫻子お姉ちゃんですよ?」
「いや、あの、僕のこと、押さえつけてます?」
「捕まえたって、云ったじゃないですか」
その割には、全然痛くないのだが。
僕の胸中を察したのだろう。先輩は“笑顔で笑う”。
「一応、奥許し間近の身分ですからね。痛くしない押さえ方も覚えてますよ?逆に、必要以上に痛くす
ることも出来ますけど」
やってみますか?
等と気軽に云ってくれる。
「本当に痛そうなので、勘弁して下さい」
「本当に痛いですよ?押さえたときに警戒するのは、含み針とかの暗器ですから。それをさせないため
の激痛なんですよ」
でもまあ、
「イタイのよりも、キモチイイほうがクロくんも良いですよね?」
「い、いや、あの・・・」
大きくて柔らかい何かが擦り付けられて、むにむにと形を変えた。
本当に気持ち良い。
「クロくん」
「な、何ですか?」
「本当に襲っても―良いですか?」
「な、」
そんなの、駄目に決まってる。
僕はぶんぶんと首を振った。
「だ、駄目です!離れて下さい」
「でも、私も“その気”になってきちゃったんですよ。冗談のつもりだったんですけど」
間近にある先輩の顔が赤い。
これは照れか。
それとも。
(まずい・・・)
色色な意味で、この人には抵抗できそうも無い。
けれど抵抗に失敗すると、その後も。その先も。
きっと大変なことになる。
「優しくしたほうが良いですか?乱暴にしたほうが良いですか?」
「や、止めてくれるほうが良いです」

32:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM
08/05/19 20:44:16 uzRhzf52
「それは、め、ですよ?」
ニコ目が眠り目になって、顔が近づいて来る。
僕は精一杯もがくが、身動ぎ出来ない。
その時。

「クロ、まだ本は決まらないの?」

凛とした声と、ノック音が響いた。
痺れを切らした姉がやってきたのだ。
「し、しろ姉さん!」
(そうだ、しろ姉さんに助けを呼べば―)
「駄目ですよ?」
上に乗っかっている誰かが、耳元に唇を寄せる。
「鳴尾さんを中にいれちゃ、駄目です。クロくんだって、“こんな姿”を鳴尾さんには見せられないで
しょう?」
「う・・・」
「そう。良い子ですね」
頬に口付けされる。
「クロ、返事しなさい?聞いているの?」
「クロくん。あの人を追い払って下さい。そうしたら、“ご褒美”をあげますよ?」
「い、いらないです、ご褒美なんて」
「じゃあ、“お仕置き”が良いんですね?」
くすくすと笑う。
こんな状況なのに、明らかに楽しんでいる。
「クロ、聞こえてるんでしょう?開けるわよ?」
「さあ、クロくん、追い払うんですよ?」
「し、しろ姉さん!」
僕は大きな声を出した。
「クロ、聞こえているのなら、返事は早くしなさい」
「う、うん。ごめん。す、すぐに往くから、部屋で待ってって」
「すぐにイクんですか、クロくんは?」
駄目だ、この人、サドだ。
「・・・・」
扉の向こうは沈黙。
気配は残っているので、立ち去ってはいないようだが。
「クロ」
「な、何?」
「判ったわ」
その声と共に、歩く音が遠ざかる。
「うぅ・・・」
僕は良くない選択をしてしまったのではないだろうか?
それこそ深みに嵌るような。
けれど先輩は上機嫌に笑う。
「くすくす。上手くいきましたね?じゃあ、続きをしましょう?」
そう云って再び顔を近づける。
刹那。

ドカン!

と。
凄まじい音が響き、何かが吹き飛んでいた。
それは、僕の部屋の扉だった。
長方形にあいた穴の向こうに姉がいる。
どうやらドアを蹴り破ったらしい。
(離れたの、助走をつける為か・・・)
「あらあら。乱暴ですね」
「・・・・・」
肉親はじっと僕らを見つめている。
姉の表情に変化は無い。

33:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM
08/05/19 20:46:49 uzRhzf52
けれど、いつも一緒にいる僕には判る。
怒っている。
姉は間違いなく、怒っている。
「甘粕」
姉が口を開き。
「こんにちは。鳴尾さん」
僕を組み倒したままの誰かが、柔らかく笑う。
「何をしている?」
「ナニをしています」
ブン、と突風が僕の頭上を吹き抜ける。
それは姉の放った突きであった。
恐ろしく速く、力強い。
けれど僕を押さえつけていた人は、ベッドに手を着いて回転し、ひらりと身をかわしていた。
「ん~。残念ですね。鳴尾さんにバレちゃいましたか。今日はここまでですね」
着地した甘粕櫻子は出口を背負う。
それは、いつでも逃亡可能な立ち居地だ。
「力づくって嫌いじゃないんですけどね。いくら私でも、鳴尾さん相手では荷が重いです。それにして
も、よくドアを蹴破ろうなんて思いましたね」
「・・・クロに何かあったことは声で判った。この子が困るような事態が起きているなら、可能性は限
られる」
「流石お姉さんですね。でも、ドアに鍵は掛かって無かったですよ?」
「云いたいことは、それだけか?」
すうっと。
姉の瞳が細くなる。
「元からクロくんに逢いに来たわけですし、鳴尾さんには云う事なんて無いですよ」
くすくす笑う先輩に。
姉は予備動作の無い蹴りを放つ。しかし見切っていたのか、先輩は後方に跳躍していた。
「もう。だから私じゃ鳴尾さんには適いませんって。弱いもの虐めは駄目ですよ?」
「虐めではない。害獣駆除だ」
「にゃ~ん」
再びの攻撃と、再びの回避。
速すぎて目が追いつかない。
(しろ姉さんの拳足をあっさりかわせる人、はじめて見た)
充分な距離をとって、先輩は肩を竦める。
「クロくんになら叩かれても良いんですけど、それ以外は嫌なので今日は帰ります」
のんびりとした口調だった。
背を向け、廊下に出ても、姉は追わない。
この人を相手に深追いすることの危険性を知悉しているからだ。
「クロくん、今回はここまでですね」
先輩は芝居がかった所作で振り返り。
ちゅっ。
そんな音と共に、投げキスが放たれる。
けれど僕の身体は、すぐ傍にいる肉親に引っ張られた。
キスの軌道上から姉の腕の中へと保護されたのだ。
「むぅ」
甘粕先輩は眉を逆立てる。
「今のは少し、腹が立ちました」
「・・・・」
姉は黙したまま。
僕を後ろに、構えなおす。
一方の甘粕櫻子は首を振った。
「弱いって不利ですね。思う通りに振舞えません」
もう帰ります。
振り返ろうとして。
「あ、そうだ、鳴尾さん」
動きを止めて、顎に指を当てる。
「鳴尾さん、どこか体調でも崩してますか?凄く弱弱しい動きでしたけど?」
(え―)
あの動きで?

34:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM
08/05/19 20:49:00 uzRhzf52
僕は姉を見た。彼女は答えず、じっと構えをとっている。
「まあ、どっちでもいいですね。じゃあクロくん。また逢いに来ますね?その時、続きをしましょ?」
ひらひらを手を振って、今度こそ本当に立ち去った。
けれど実姉は構えを解かない。
凛とした後姿まま。
僕はそこに声を出す。
「しろ姉さん、身体、まだ悪いの?」
「クロ」
姉はこちらを向かぬまま、実弟の言葉を遮った。
「今すぐお風呂入って来なさい」
「え?」
「お風呂。穢されたでしょう?すぐに入りなさい」
「いや、穢されたって・・・。それよりも、身体平気な、」
「早く往きなさい。事情はその時に聞かせて貰うから。私はこの部屋の掃除をしておくわ」
静かな瞳が僕を捉える。
「・・・・・・」
余計なことは云わない方が良い。
僕はそう判断して頷いた。
部屋を出るときに、一瞬だけ振り返る。
具合が悪い様子は、特に感じられなかった。

※※※

風呂から上がり、冷蔵庫の前に来た僕は、そこで「不審人物の進入を許した」母にお説教をしている姉
を見つけた。
甘粕櫻子は御丁寧に、僕の母に御機嫌伺いをしてから部屋に上ったらしい。その事が、殊更姉の怒りに
火を注いだようだった。
触らぬ神に何とやら。
口を挿む気は更更無い。
牛乳なり水なりを飲んで部屋に戻ろうと冷蔵庫を開けただけだ。
けれど。
保冷庫を覗いた僕は、そこで余計な疑問を口にしてしまったのだった。
「プリンがないけど、もう食べたの?」
云い終わるか終わらないか。
3つ上の肉親が、冷蔵庫の中を凝視していた。
「な、なんでないのよ・・・」
ぽっかりと空いたスペース。
其処には朝まで確かに、姉のお気に入りの焼きプリンが入っていたはずだった。
わなわなと震える姉は母を睨み。
ガクガクと震える母は、引きつった顔をする。
「わ、私じゃないわよ。至路のお友だちの・・・・甘粕さん?彼女が食べてたのよ?」
「何故害獣に餌を与えるの?」
そう問う姉の顔には、青筋が浮かんでいる。
冷静さを装うという、努力を放棄した姿だった。
「く、来路、何とかしなさい・・・!!」
母の瞳は息子にそう呼びかける。
けれど僕は首を振った。
ゼリーとかケーキとかフルーツならば兎も角、プリンとなれば手に負えない。
僕は母を捨て殺しにして部屋へ戻った。
数十分ぶりに見る我が部屋は、随分と風通しが良くなっている。
扉が無いのだから当たり前だが、ベッドの上にマットレスも無い。
替わりにあるのは、姉の使用している和蒲団だった。
(シュールな光景だ・・・)
室内には、仄かにアルコールの匂いが香る。
多分、消毒用のアルコール製剤を姉が噴霧したのであろう。
彼女にとって、ニコ目の美人さんは「害獣」であり、「黴菌」なのである。
「・・・・マットレスも捨てられたんだろうなぁ」
甘粕櫻子が“手を着いた”寝具である。
姉が残そうはずも無い。

35:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM
08/05/19 20:51:31 uzRhzf52
僕はベッドの上にある和蒲団に腰掛ける。
すると、タイミングを見計らっていたかのように、携帯電話が振動した。名は、甘粕櫻子とある。
「こんにちは、クロくん」
受話器越しの柔らかい声。
さっきまで聞いていた、騒ぎの張本人。
彼女に間違い。
「甘粕先輩」
「はい。櫻子お姉ちゃんですよ。今、大丈夫ですよね?」
「え?大丈夫って・・・?」
「鳴尾さん、其処に居ないでしょう?」
「!」
驚いた。
「何でしろ姉さんがここに居ないと?」
「“その為”に、プリンを食べました」
「・・・・」
どうも計算ずくであったらしい。
甘粕櫻子は一つの行動を一つの目的の為だけにしない人だ。
この間の携帯電話も然り。
『今』が『次』に繋がっている。
「鳴尾さん、クロくんのお母さんを叱っていると思うんですが、どうですか?」
「総て先輩の掌の上です」
「ふふふ。そうですか」
顔は見えない。
だけど向こう側では、“笑顔で笑う”女性の姿が容易に想像出来た。
「―で先輩、一体どうしたんですか?」
「いえいえ。さっきはきちんとお話できませんでしたからね。クロくんの声が聞きたかったんです」
「・・・そりゃ、ろくろく話もしないで、押し倒されただけでしたからね」
「あれはクロくんがいけないんですよ?お姉ちゃんを誘惑するから、ああなっちゃったんです」
クロくんは悪い子さんですね。
本気とも冗談ともとれる態で、甘粕櫻子は云った。
「・・・・・」
僕は一一反駁しない。
何を云っても無駄だと判断したから。
この人は、僕をからかいたいだけなのだ。
「兎に角、もう押し倒すのは止めて下さいね?」
「私、クロくんのお姉ちゃんですので」
「・・・どんな理論か拝聴しましょう」
「簡単ですよ。―クロくんが本当に望むことなら、全力で応援しますし、クロくんが本当に嫌がるの
なら、絶対にそれはしません」
「僕、離れてくださいって云いませんでしたっけ?」
「私のおっぱい、嫌いですか?」
「―」
言葉に詰まる。
あの感触を思い出して、顔が赤くなった。
甘粕櫻子は、そんな僕の様子を把握したらしい。受話器の向こうから、ふふふと柔らかい声が響いた。
「それで答えは充分です」
「いや、何も云ってません」
「はい。云えませんでしたね」
「う・・・」
「可愛いですよ、クロくん」
「からかわないで下さい」
「云いませんでしたっけ?私、クロくんのこと、可愛がるのも、いぢめるのも大好きなんですよ?」
「・・・・」
僕は頭を抱える。
振り回されるほうは、たまったものではない。
「でも、しろ姉さんを怒らせるのは勘弁して下さい」
「それは結果です。私、鳴尾さんの存在は度外視していますから」
「結果が出てるから、お願いしてるんですが」
「クロくん、鳴尾さんに懐きすぎです。お姉ちゃん、いじけますよ?」

36:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM
08/05/19 20:53:59 uzRhzf52
「いや、あの・・・」
「冗談ですよ。―ねえ、クロくん」
「はい」
「Euclase・・・ってお店、知っていますか?」
「Euclase?」
聞いたことがある。
繁華街にある、人気店。
パンとケーキの販売をしている、カフェでもある場所。
洋菓子にはさほど興味が無いので、あまり近づかない場所だ。
「あそこ、パンとケーキばかりが有名なんですけど、プリンも美味しいんですよ?」
「プリン?・・・・あ」
「鳴尾さんの機嫌、直るといいですね」
「ありがとうございます。でも、どうして」
「云いましたよね?私、クロくんが本当に望むことなら、応援するって」
「・・・・・」
「この先何があっても、私はクロくんの味方です。鳴尾さんが怒るようなことがあっても、それだけは
変わりません」
受話器の向こう。
其処は見えない。
だから、姉を自称するこの人が。
どんな顔で。
どんな仕種で。そう云ったのかは判らなかった。
だけど、僕の耳に届く柔らかい声は、とても優しかった。

※※※

コホコホと。
僕の横では、小さく咽る姉の姿がある。
それは、“此処”が寒いからではないだろう。
風邪―
以前臥していた病気を再発させた為だった。
『Euclase』
甘粕櫻子に紹介されて訪れた店。
そこには、広いカフェがある。
冬だというのに、客の多くが屋外カフェで寛いでいた。
「星を観に往きましょう?」
そこで空を見上げた姉は、僕にそう云った。
冬の空は高い。
丘に上がれば、きっと綺麗な星空が見える。
僕に断る理由は無い。
だけど。
「しろ姉さん、本当に大丈夫?」
「ええ。何も問題ないわ」
道中が寒かったせいか。
『Euclase』から戻る頃には、姉の体調が悪化していた。
顔色が優れず、微熱があるようだった。
それでも大したことは無いからと、星を観に外へ出る。
普段は、僕が体調を悪くすると、それだけで外出を禁ずる姉が、自分のことになると途端にこれだ。
医者の不養生じゃあるまいしと、僕は宥めた。
けれど、結局押し切られるような形で、街の外れにある丘に上った。
「はい、しろ姉さん。お茶」
「ありがとう、クロ」
精彩を欠く笑顔は、それでも凛として美しい。
「でもしろ姉さん、無茶は駄目だよ?家に帰ったら、すぐに蒲団に入ってね?」
「判ってる。けど、クロ、今はそんな無粋なことは云わないの」
姉は背後から僕を抱きしめる。
とても暖かい。
そのままの姿勢で、僕らは空を見上げた。
永遠の白を煌かせる不滅の黒。

37:永遠のしろ ◆UHh3YBA8aM
08/05/19 20:56:23 uzRhzf52
二色のみが存在する、荘厳なる銀河の暗黒。
世界を覆う、無限の空。
黒いキャンバスには白のみが存在し、天然の名画は世界そのものを包み込む。
唯、其処にある。
それだけで美しい。
技巧も、意匠も無い。
在るように、在るだけだ。
「綺麗ね」
「うん」
ぎゅうっと。
姉は僕を抱く手を強めた。
この人も―
この空と同じ。
在るだけで美しい。
“そういうもの”を、僕はふたつしか知らない。
ひとつは僕を抱く姉。
そしてもうひとつは、記憶の遥か彼方に。
子供の頃、外国人に逢ったことがある。
幼稚園に入る前か、入った頃か。
少なくとも、総てが霞む、不確かな記憶の向こうの物語。
“それ”がどんな人で、どんな状態で、何を話したか。
まるで覚えてはいない。
顔も、性別も、大まかな年齢すらも。
だけど、誰よりも、何よりも綺麗な、碧(あお)い瞳だけは記憶に残った。
あれほど綺麗な瞳は見たことが無い。
今までも、そしてこれからも。
“その人”とは、二度と逢うことはなかったし、これからも逢わないだろう。
だから、“それ”はすでに終わった碧。
終焉の碧。
だけど、記憶にはずっと残る。
多分、この夜も。
「クロ」
「うん?」
「来年もまた、こうやって星を観ましょう?」
「うん」
「絶対よ?再来年も、その次も、ずっと、ずっと一緒にここへ来るの」
「うん・・・」
姉は戒めを解き、僕の横に並ぶ。
綺麗だ、と思う。
星空も。彼女も。
僕は天を仰いだ。
五代絵里は綺麗な景色は心が震えると云ったけれど、満たされることもあると感じた。
空を見ているだけで口元が自然に綻んだ。
すぐ傍にいる肉親は、果たしてどのような表情をしているのだろうか。
いつものような凛とした顔か。
それとも、穏やかな微笑だろうか。
僕は地上に目を戻す。
横に居る姉は。けれど空を見上げてはいなかった。
身を屈め。
背を丸めていた。
咳をしているようだった。

38:名無しさん@ピンキー
08/05/19 20:59:35 9afNt++N
支援

39:無形 ◆UHh3YBA8aM
08/05/19 21:00:33 uzRhzf52
投下ここまでです。
中中投下出来なくて申し訳ないです。
では、また

40:名無しさん@ピンキー
08/05/19 21:01:01 fRdnZ4KS
投下乙でした

41:名無しさん@ピンキー
08/05/19 21:10:47 KLv5kNEB
>>39
超GJ!!でも、しろ姉が・・・・・

42:名無しさん@ピンキー
08/05/19 21:10:56 qzXgQYEq
乙です
続き楽しみにしてます

43:名無しさん@ピンキー
08/05/19 21:22:14 f4rWGujZ
GJ!! とても良かった。
次回楽しみにして待ってる。

44:名無しさん@ピンキー
08/05/19 22:07:22 1Qb09FDo
GJ!!
この姉さんはとある漫画の姉さんと雰囲気が似ててかなり好きだ!!
…病気ってところまで似なくてもよかったのに…

45:名無しさん@ピンキー
08/05/19 22:38:29 wE6mQIKC
病気って風邪じゃないの?

46:名無しさん@ピンキー
08/05/19 22:54:05 E0q+Nv3n
GJ!やっぱり良いなしろ。甘粕先輩なんかエロイぜ。続き楽しみにしています。

47:名無しさん@ピンキー
08/05/19 22:54:27 1MJz/sBR
そう思っといた方が楽しめるよ

48:名無しさん@ピンキー
08/05/19 23:09:29 VLTTprkG
先輩にちょっとぐらついた俺がいる
ああいう話し方好きだw
そして投下超GJ

49:名無しさん@ピンキー
08/05/20 01:05:43 1H1hEYdJ
無形氏が来てる…!
乙です!

50:名無しさん@ピンキー
08/05/20 02:05:53 ZM8bZrCv
GJ!!なんか題名と咳で嫌な連想をしてしまった。もう、考えないようにします。

51:名無しさん@ピンキー
08/05/20 03:47:52 pJTtoBd4
GJ!
しかし、しろ姉も良いが甘粕先輩も捨てがたい…
つまりしろ姉正妻の ハ ー レ ム ED でおk(スレち?サーセン)

52:名無しさん@ピンキー
08/05/20 04:09:12 s3a4jWoZ
それは双方認めないから不可能だな。

53:名無しさん@ピンキー
08/05/20 07:12:26 jbwzLqiK
つまりしろ姉さんに膝枕されながら甘粕先輩に足コキされて「こんなふうにされて勃起しちゃうなんて変態さんですねぇ」と言われながら
しろ姉さんに「ふふ、気持ち良いのだから仕方のない事よね」と言われたいわけですね

54:名無しさん@ピンキー
08/05/20 08:25:26 0IfBoJCv
まぁ一話の時点でしろ・くろのどちらかが欠けるのは暗示されていたけど……しろ姉さんには幸せになってもらいたい
とにかく無形氏GJ!!

55:名無しさん@ピンキー
08/05/20 12:17:27 lkluXv8w
GJ!ほトトギすのほうも楽しみに待ってます

56:名無しさん@ピンキー
08/05/20 16:16:49 SIfHR26a
また死亡なのか・・・・?キモ姉やキモウトは本当に死亡率高いな・・・・

57:名無しさん@ピンキー
08/05/20 16:37:43 8fYcG4O2
携帯から失礼
無形氏が投下されていたとは……
帰ってからじっくり読ませていただきます
>>56
俺も書いてるんだけども、このジャンルは非常にオチがつけにくい
和解ってのも難しいし
結果、結末のパターン化は避けられない
まぁ、書き方次第かも知れないけど

58:名無しさん@ピンキー
08/05/20 18:34:29 9RoFadk6
>>39
GJ!!!!

全裸であなたを待ってました!
次回も楽しみに待ってます!!


59:名無しさん@ピンキー
08/05/20 19:32:49 s3a4jWoZ
そういえば携帯から省略文入れるのってどうやるんだっけ?ちょっとパソコン行かれちまってな…かといって携帯の使い方はわからないし…

60:名無しさん@ピンキー
08/05/20 20:23:25 y2SsuxHU
失せろ

61:名無しさん@ピンキー
08/05/20 20:34:54 z6lLNImw
省略文てなんだっけ?

62:名無しさん@ピンキー
08/05/20 20:36:15 SIfHR26a
>>57
結末のパターン化は仕方ない?…本気でいってるのか?

>>59
ここで聞くなよ

63:名無しさん@ピンキー
08/05/20 20:49:01 d2lAXANe
携帯の質問スレできくかぐぐれよ

64:名無しさん@ピンキー
08/05/20 21:32:01 N7spX5Um
長編完結8作品のうち少なくとも5作品はキモ姉・キモウト死亡エンドじゃないのに、
なんでまた死亡か・・・みたいな流れになってるの?

うがった見方すれば、
作者さんが思うように書きにくい雰囲気作ってでも自分の好みの流れを
押し付けようとしてるみたいなんだけど

そんなことはないと思うけど、すこし自重しようや

65:名無しさん@ピンキー
08/05/20 21:45:12 FzsblHvG
面白い作品にかぎって死亡エンドだから
みんな不安なんだよ

66:名無しさん@ピンキー
08/05/20 21:47:15 8fmr25Vj
>>65
死亡エンド以外は駄作と申したか?

67:名無しさん@ピンキー
08/05/20 21:49:11 rndXdXB3
そこまでは言ってないでしょw

68:名無しさん@ピンキー
08/05/20 22:21:56 HuMo2Pko
別にリアリティはいらないよ
キモ成分が強ければご都合展開でも構わない

69:名無しさん@ピンキー
08/05/20 22:39:51 d2lAXANe
読者がごちゃごちゃいって変に展開がかわるよりか作者が考えてるようにやらせるのがいいとおもう
変に展開を変えると話がごちゃごちゃするし、作者が張ってた伏線とかが回収されずらいし
いろいろ話として逆につまらなくなるな

全然あわない作品ならスルーすればおkだし

70:名無しさん@ピンキー
08/05/20 22:44:51 D46nueJB
まだまだ続くだろうし、もちっと余裕をもって読んでいくのをお勧めする。

71:名無しさん@ピンキー
08/05/20 23:08:29 ETplDGyZ
>>64
水戸黄門をみてみろよ
勧善懲悪こそ日本人的グッドエンドなんだぜ?
腹黒むふふなキモウト達だって最後は善に目覚めて死んでいくのさ

72:名無しさん@ピンキー
08/05/20 23:35:38 fcqwEieu
むしろ腹黒キモウトは死なせなければならないとという不文律ができてるから
結末が分かりきっていてつまらないw

73:名無しさん@ピンキー
08/05/20 23:42:48 d2lAXANe
>>72 なら自分でかけ

74:名無しさん@ピンキー
08/05/20 23:44:42 qPJ9+JVQ
>>72
がんばって誘導かけようとしてるね^^

75:名無しさん@ピンキー
08/05/21 00:05:42 HEqJjsxj
キモウトなんぞ死なせとけ!以後一切の抗議は受け付けません!!

76:名無しさん@ピンキー
08/05/21 00:56:09 bffjXT9s
キモ姉が死ぬか否かということよりも。
俺の大好きな巨乳かつロングヘアな姉なのかどうかってことの方が大事だろ。

77:名無しさん@ピンキー
08/05/21 01:20:04 QVh5jR4m
死んでるより生きてるほうがお得感があるじゃないか。

78:名無しさん@ピンキー
08/05/21 01:48:21 0VriRxGb
うるせー微乳おかっぱ和風妹が至上だ青ゴケ

79:名無しさん@ピンキー
08/05/21 02:38:45 DAUTTH2K
必殺!!大・脱・走! エンドな小説って見たことないな。
 例
女と姉(妹)の戦い勃発!
      ↓
少年「もう嫌だ!耐えられない!こんな血生臭い日常と濃厚な愛情!」
      ↓
少年は逃亡した。女からも、そして姉からも。
      ↓  
少年、国外逃亡又は失踪  
   エピローグへ。

80:名無しさん@ピンキー
08/05/21 02:48:20 D2RMQvsb
安易に獲物を逃がすような姉や妹など、キモ姉やキモウトとは程遠いな

81:名無しさん@ピンキー
08/05/21 02:49:41 A1d0zJDI
魂の匂いで居場所が分かるよ、きょうだいだもの

82:名無しさん@ピンキー
08/05/21 04:07:24 DAUTTH2K
エピローグ
少年は某県某市に潜伏していて、そこでまた出会いがはじまr…
ある日自宅に帰ったら姉が居た!…という罠(笑)

83:名無しさん@ピンキー
08/05/21 06:49:34 /ctsoKRD
まあ保管庫で短編でも読んで落ち着こうぜみんな
短編ならキモ姉妹の勝率は9割超えだ

84:64
08/05/21 07:11:15 bQe5f8zS
>>71
すまん。言葉足らずで逆に取られたかもしれんが
>>72みたいに死亡エンドつまらんとか、
また死亡かよ・・・(やめれ)とか、死なすなよってことを匂わせて
作者に書かせまいと牽制するのは、作者の選択肢を狭めるからやめようやってことね

ま、いいたいことは>69と同じで、作者の好きなように書いて欲しいってことだから
また死亡か・・・の意味あいが
上島的「死なすなよ? 絶対死なすなよ?」でもおなじだがw

自分好みの話を読みたい気持ちはわからないでもないが、
どうせなら>79みたいに選択肢を広げるもののほうが

85:名無しさん@ピンキー
08/05/21 09:21:40 ZDSJO6WR
キモウトが死ぬとただの兄想いの妹にしか見えなくなるから不思議

86:名無しさん@ピンキー
08/05/21 09:30:03 jRz2WrSP
また妹死亡だと普通の二次元だからな
しかしそこは作者の見せ方次第か

87:名無しさん@ピンキー
08/05/21 10:01:25 zs1Ef8i9
なにげに>>81が名言を言ったことについて

88:名無しさん@ピンキー
08/05/21 11:06:40 jRz2WrSP
あ、>>86がまあと書いたつもりでまたになってる

89:名無しさん@ピンキー
08/05/21 13:55:50 maFHKi71
なぜおまいらは好きな展開の話を自分で書かないのか

90:名無しさん@ピンキー
08/05/21 15:42:52 KmmwjCDa
書いた職人、書いている職人予備軍だって中にはいるはずさ
しかしようやく全裸待機の辛くない季節になってきたな

91:名無しさん@ピンキー
08/05/21 15:48:01 zs1Ef8i9
>>90
昼は良いが夜はまだ少し寒いだろ? 姉貴のストッキングで良ければ使ってくれ
つ黒ストッキング

92:名無しさん@ピンキー
08/05/21 17:04:09 FvzFl3Ts
>>91
あ、あなたは私のストッキングで何してるのよっ!








わたしを触ればいいのに、馬鹿…………

93:名無しさん@ピンキー
08/05/21 17:24:46 f59qeXgk
心配は要らないさ
朝起きた時、布団をめくれば内側にキモ姉妹がいるはずなのだから

94:名無しさん@ピンキー
08/05/21 19:14:39 Ulsb5nmV
気も狂うような暑さと湿気・・・。そして熱病と死を運ぶ虫ども・・・。緑に塗りこめられてはいるが、ここは地獄に違いない。
だが、物心ついてからずっと、キモ姉とキモウトの手から死にもの狂いで逃げ回っていた俺にとって、この内乱のクメン王国は天国と言ってよかった。




続かない

95:名無しさん@ピンキー
08/05/21 23:00:47 f59qeXgk
そして一話のラストで謎の美女・美少女のやり取りが入るんですね、わかります

96:名無しさん@ピンキー
08/05/22 13:55:09 XT3DfU5a
>>89
お前は他人のオナーニを見るのが趣味なのか



97:名無しさん@ピンキー
08/05/22 14:42:13 oprXty9T
オナーニバロスwww

98:名無しさん@ピンキー
08/05/22 14:50:01 Guu+0Yxn
「オナニーと見せかけてオナーニだなんて失望したわ。
でも愛してる! さあお姉ちゃんが正しいオナニーの仕方を教えてあげるからちょっと来なさい>>96ちゃん!」

99:名無しさん@ピンキー
08/05/22 15:58:11 UcfhzLRv
オプーナ

100:名無しさん
08/05/22 17:33:53 9Si5v9D3
100

101:名無しさん@ピンキー
08/05/22 18:32:20 mJydqPCy
オナーニが通じないこんな世の中じゃ

102:名無しさん@ピンキー
08/05/22 19:00:54 QA8SEkb7
>>99
         / ̄\
        |妹男姉|
         \_/
          |
       /  ̄  ̄ \
     /  \ /  \
    /   ⌒   ⌒   \      よくぞ殺伐としかけたこのスレで言ってくれた
    |    (__人__)     |      褒美としてキモ姉妹のSSを読む権利をやる
    \    ` ⌒´    /   ☆
    /ヽ、--ー、__,-‐´ \─/
   / >   ヽ▼●▼<\  ||ー、.
  / ヽ、   \ i |。| |/  ヽ (ニ、`ヽ.
 .l   ヽ     l |。| | r-、y `ニ  ノ \
 l     |    |ー─ |  ̄ l   `~ヽ_ノ____
    /籠の中 ̄ヽ-'ヽ--'  / 綾シリーズ  /|
   .| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/|    | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/| ______
/永遠のしろ/|  ̄|__」/__(仮)   /| ̄|__,」___    /|
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/  妹姫  ̄/ ̄ ̄ ̄ ̄|/ 桜の網 /|  / .|
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/l ̄ ̄ ̄ ̄| ̄ノスタルジア ̄|/| /
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|

103:名無しさん@ピンキー
08/05/22 19:02:42 7z0jfy/e
籠の中ひとつもらおうか

104:名無しさん@ピンキー
08/05/22 19:02:57 14BLmH4p
「オプーナ」←パンふいたw

105:名無しさん@ピンキー
08/05/22 19:35:33 LjDe6Kyh
>>102
陳列商品の基準が気になる

106:名無しさん@ピンキー
08/05/22 20:01:22 kJM4QeLr
>>105
人気のあるものと、あとは過去ログで読んだら妹姫の人がちょっと悲惨でな。投下時期がスレ初期の荒れてた頃だったんだ
未完だがしろはガチ、ノスタルジアは(オレ主観で)期待・・・? てことで
あくまでオレ基準であって、これが絶対というつもりはない

キモ姉妹作品の商品棚・・・・・・いつか見てみたいな

107:名無しさん@ピンキー
08/05/22 23:10:39 g9ctAxhv
なんか棚の前でどれにするか迷ってうろうろしそうだww

108:名無しさん@ピンキー
08/05/22 23:45:17 pKgY0NJl
馬鹿かおまいは
全部買えばいいだろうが

109:名無しさん@ピンキー
08/05/23 01:59:50 4vZB5Ydb
すべて頂こう
なに、釣りは要らんさ

110:名無しさん@ピンキー
08/05/23 05:44:32 V2jWNgfd
オプーナを買う権利はいらんが
永遠のしろを読む権利は欲しいw

111:名無しさん@ピンキー
08/05/23 08:32:43 IIdC1Axl
同人でいいからキモ姉妹イベントとかないもんかね?
エロパロ的にはヤンデレに負けていないジャンルなのに・・・
あれか。実際に兄・弟を監禁したニュースとかがないからイカンのか

112:名無しさん@ピンキー
08/05/23 08:34:38 3u6ipVsT
キモ姉妹が世間にばれるようなヘマをするとでも

113:名無しさん@ピンキー
08/05/23 10:56:38 4/vc9o8B
そういやそうだな

114:名無しさん@ピンキー
08/05/23 11:09:27 8mQFlvfu
つまり全国の男性若年層行方不明者の数だけキモ姉妹がいるわけか


そう考えると凄いなw
そして第一部監禁調教編から第二部キモ姉妹対警察の逃避行・追撃編が始まると
もちろん婦警は従姉妹で

115:名無しさん@ピンキー
08/05/23 11:20:55 h3SZ6Udw
ツンデレやヤンデレと同じことにならないか心配

116:名無しさん@ピンキー
08/05/23 13:29:47 8mQFlvfu
キモ姉妹だけはさすがの女性誌様も手を伸ばせないからな

「これが噂のキモ姉妹!こうすればアナタもモテモテ!
先ずはアナタのお兄ちゃん・弟を異性として意識してみよう!」

とか絶対にあり得ない
安心できる聖域だ

117:名無しさん@ピンキー
08/05/23 14:01:01 DEfaUwfw
むしろ「ストーカー指南」を参考にしてるキモ姉妹とか

118: ◆busttRe346
08/05/23 14:51:56 gaKr2Xoy
グロ描写が含まれているので苦手な方はスルーしてください。
監禁トイレ最終話投下します

119:監禁トイレ最終話
08/05/23 14:52:31 gaKr2Xoy
呆気なかった。
リビングにていつもと同じ椅子で、いつものように、両親は向かい合って座っていた。
私達はその背後にそれぞれ回り込み、ロープを首にかける。体重をかけロープを一気に下へ引っ張る。
ひゅっ、と息を呑む音が聞こえた。ロープを通じて手に届く、大物の手応え。
暴れる義父の背が衝立になって私からは何も見えない。が、この男からは母が全く同じ構図で
苦しんでいる姿が見えるはずだ。彼はロープを掴み、必死に後ろを振り向こうとしていた。
ようやくこちらを向いた義父からは、困惑している様が面白いほどに読み取れる。
『何が起きてる!?』『どうして!?』『何故!?』
そんな言葉を今にも喋り出しそうな瞳を見つめ、私は心中で呟いた。

――馬鹿ね、前を見ればすぐに分かるのに。すがたかたちは違えど同じ状態のお母さんが見えるわよ?
合わせ鏡みたいにね。罪状は……分かるでしょ?

瞳が激しく動き回り、眼球内をあちこち飛びまわる。
「かっ……」
青黒く肥大した舌が口からぬらりと現れる。
あはは、カメレオンだ。カメレオンがもがいてる。

しね。
しね。
くたばれ。
くたばれ。
私から彼を奪った罪を、思い知れ。

ロープを通して伝わってきていた力が消失した。念のため、無抵抗な肉にさらにロープを食い込ませる。
目の前の半身も仕事を終えたようだ。
二匹のカメレオンをそのままにキッチンにあったワインを開封し、中身をグラスに注ぐ。
それを差し出し、乾杯しよう、と声をかけた。彼女は礼も言わずにそれを受け取った。

――乾杯の音頭は?互いの健闘を祈って?

――己の勝利を祈ってで良いんじゃない?

――じゃあ乾杯。

――乾杯。

さぁ、一つ終わった。そしていよいよ始まる。

ワインを一気に流し込む目の前の私を見ながら、始まりの合図を待った。
グラスの砕ける、始まりの合図を。








120:名無しさん@ピンキー
08/05/23 14:53:58 gaKr2Xoy
「そっか、薬、吸わなかったんですね」
彼女は気にした様子もなく僕に言った。
その間に僕の指はボタンを押していた。もうどうなろうと構わない。ただここから早く出たかった。
逃げ出したかった。
スピーカーに向かって叫ぶ。見つかってしまった時点で、無意味な事くらい理解していた。でも誰かに
伝えずには、叫ばずにはいられなかったのだ。
「助けてください!人が、死んで……!!」
「無駄ですよ。それ、壊れてますから、いえ、正確には壊しましたから」
スピーカーからは何の応答も無かった。たった一つの脱出経路は、本当に呆気なく消失した。
「何で、殺したんだよ」
もう動くことのない、義妹の体を支えて、僕は萌姉ちゃんを睨みつけた。
「そんなに悲しい?蕾が死んだのが、そんなに悲しい?」
彼女は嬉しそうに問い掛ける。
そして後ろ手でドアを閉め、回転式のロックをかけようとした。
だが、ドアにロックはかからなかった。
ドアが第三者の手によって開かれたからだ。ロックバーはむなしく一回転し、振り子運動を続ける。
それは番との別れを惜しんで、手を振っているようにも見えた。

「両手を上げろ」

姉さんが――摩季姉さんが、萌姉ちゃんの背中に右手を突きつけて立っていた。
「ねえ……さん?」
思わず、口をついて出た。
摩季姉さんは僕の方を見て、少しだけ表情を緩めた。
「無事で良かった……達哉、早くその娘から離れて」
それだけ言って、また萌姉ちゃんの後頭部に視線を戻した。萌姉ちゃんはナイフを捨て、素直に
両手を上げる。
「違う、違うんだ。姉さん、蕾が、死んでるんだ。死んでるんだよ、コイツ……」
もうそこには蕾がいないのに、空っぽのはずの体はやたらと重かった。
「そう、殺したのね……お父さんやお義母さんと一緒に」
「親父も、花苗さん、も?」
信じないようにしていたのに。蕾の言葉は紛れもない真実だったのだ。
「二人は、リビングで首を絞められていた。飲みかけのワインが入ったグラスが二つ。片方は、
割れて床に落ちていた。三人が殺された時間はほぼ同時期のはず」
じゃあ…最初から…?この監禁が始まった時にはもう、蕾は死んでいた?
「薬か、それとも単純に不意をついて暴力を振るったか。とにかく、この人は、はじめから一人だった……」
皆、僕の知らない所で死んでいく。また吐き気が込み上げてきた。
僕からは見えないが、姉さんの右手の先には何か武器が握られているらしい。


121:名無しさん@ピンキー
08/05/23 14:55:41 gaKr2Xoy
ねじこむように右手を押しつけられた萌姉ちゃんの体は少し震えはしたものの、彼女は相変わらず
平然としていた。緊迫したこの状況にも、妹の死にも、何も感じていないみたいに。
「ねえ、そんなに悲しいんですか?死んじゃったのがそんなに悲しかったですか?」
能面が僕に囁く。

何かがおかしい。
ここにきて僕はようやく違和感を覚えた。
「蕾が死んだ事が悲しいのなら、気にする必要はないですよ」

何かがおかしい。
萌姉ちゃんの口調じゃない。
「義兄さん、私は生きてますから」
「……嘘だ、あり得ない……。姉ちゃん、頼むから悪ふざけはやめてくれ」
彼女は、まだこのなりすましを続行させるつもりのようだった。よく見れば姉ちゃんの姿は……。
スニーカー。
ジーンズ。
厚手のパーカー。
そして髪を一つに束ねた、ポニーテール。蕾の格好だ。わざわざ着替えたのか。
彼女は笑みを零し、口を開く。
「それともたっくんは、私に生きていてほしい?」

「もう良い」

摩季姉さんの静かな声が、それでも圧倒的に響き渡る。
「あなたがどっちか、なんて興味は無いの。早く達哉を返して。手錠の鍵はどこ?」
「ああ……挨拶が遅れたわ、お久し振りです、摩季さん。鍵はパーカーの右ポケットに」
姉さんが右手の何かを左手に移しかえ、右手をパーカーのポケットに突っ込む。
「ねえ、摩季さん。私、本当はあなたも殺そうと思ってたの」
「……」
萌姉ちゃんがニヤニヤとどこか破綻した笑顔で話しかけている。
摩季姉さんは無言だ。
「だって、あなたも義兄さんのことが好きでしょう?彼の前ではずっと、“お姉さん”の顔でいようと
努力してたみたいだけど、私には分かってましたよ」
『違う』
僕も、摩季姉さんも同じ言葉を発した。
当然だ。僕達は家族で、間に流れる愛情は親愛しかありえない。
それなのに。
それなのに、どうしてそんな顔するんだよ。どうして僕に申し訳なさそうな顔するんだよ、姉さん。
姉さんは目当ての物を見つけたらしい。右手をポケットから抜くと、僕に小さな金属片を投げてよこした。
手錠の鍵だ。受け取るとすぐに鍵を差し込み、捻る。
散々僕を苦しめた銀色のブレスレットが、獲物を解放した。
「だってね……。あなたが達哉に近付く度に、臭うのよ、それはもうひどい悪臭が。腐った雌のにおい。
発情した女のにおい。私ね……」


122:名無しさん@ピンキー
08/05/23 14:57:16 gaKr2Xoy
いつの間にか、僕の目に映る萌姉ちゃんの姿が少しだけ大きくなっていた。たった一歩分の、拡大化。
けれどその一歩が、彼女を脅かす凶器の威力を完璧に打ち消した。
彼女と摩季姉さんの間の空白が、そのまま僕の視界になる。だからようやく姉さんの持っていたモノの
正体が分かった。

摩季姉さんが握っていたのは、スタンガン。
触れれば絶大な効果をもたらすそれは、裏を返せばほんの少し距離を置くだけで、手を塞ぐだけの―――

「姉さんッ!!」

お荷物と化す。
走り出す。間に合ってくれ。間に合えよ、頼むから!!
摩季姉さんが左手を突き出すも、萌姉ちゃんはとっくにその場から移動していた。
しかも移動した先は摩季姉さんの目の前。左手はがっちりと捕らえられ、無防備な姉さんには
最悪の結末しか残っていなかった。
「私、あなたのその臭い。大嫌いだったの」
張り詰めた布を切り裂く音。その背後に混じり入る、柔肉が歪み、裂ける音。
血が姉さんの足を伝って、床に色を添える。
受け身を取る事もなく、摩季姉さんの体は床に倒れた。
「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははッ!!
ずっと我慢してたから見逃してあげてたのに!!死ね!死ねッ!!さっさと死ね!!達哉と私の
邪魔する奴なんてみんな死ねッ!!」
僕に羽交締めにされて尚、萌姉ちゃんは暴れ回る。早く、姉さんを助けなくてはならない。こんな
イカれた奴に姉さんを殺させてたまるものか。
「義兄さん、邪魔、しないでください」
彼女はいとも簡単に僕を振り払った。壁際まで吹っ飛ばされ、蕾の隣に倒れ込む。
萌姉ちゃんが床に落ちたナイフを拾い、僕に突き付ける。
「さて、続きです。義兄さんは蕾と萌と、どっちに死んで欲しいんですか?」
「ふざけるなよ、もう、頼むからやめてくれよ……。そんなのどっちだって構わない!!姉さんを
助けなきゃ……」
血と呻き声が床を這う。まだ姉さんは生きている。例え虫の息だろうと、生きている。
「それは困ります。どっちか選んでください」
「萌姉ちゃん、本当にやめてくれ……蕾は死んでるんだよ、もう選ぶとか、そんな話はとっくに
終わってるんだよ!!」


123:名無しさん@ピンキー
08/05/23 14:58:43 gaKr2Xoy
「だから死んでないって言ってるでしょう……?」
彼女の顔が、まるで、まるっきり蕾にしか見えない。
「そうですね……。これなら納得してもらえるでしょうか。昔、私が木登りをして降りられなくなった時、
義兄さんは私を助けてくれましたよね?アレは確か私が姉さんと喧嘩して家を飛び出した時でしたっけ。
誰にも分からない所にいたはずなのに、義兄さんだけが私を見つけて、助けてくれました。
義兄さんが受け止めてくれるって分かっていたから、私は迷いなく木から飛び下りる事が出来たんです」
それは誰にも語った事のない、義妹との思い出だ。

「じゃあ……死んだのは……萌姉ちゃ、ん?」
「私が帰り道で苛められてた時、たっくん、助けてくれたよね?嬉しかった……。そのあと、誰にも
言わないでくれた事も。あの時から私はたっくんさえいてくれれば何だって出来るって思えるように
なったんだよ?」
それは二人だけの秘密だった、義姉との思い出だ。

「義兄さんが風邪を引いた時、うなされながらも私の名前を呼んでくれた事。それを指摘した時の
恥ずかしそうな顔、今でも忘れられません」
義妹との。

「たっくんとテスト勉強した時、懐かしいな。あの時、私の教えた教科の成績だけが良かったんだよねぇ……」
義姉との。

互いの記憶が入り交じる。記憶と共に、表情も言動もその持ち主のものへと移り変わる。
「萌姉ちゃん……?」
「なぁに?」
「蕾……?」
「何ですか、義兄さん?」

「本物はどっち……?」

混乱につぐ混乱の中でようやく発せた疑問に、“彼女”は答えたのだ。

「どっちがいい?」

やっぱり、澄みきった瞳で。








124:名無しさん@ピンキー
08/05/23 15:00:33 gaKr2Xoy
視界はひたすら一色の朱に、しかし流動的な赤に染められていた。下腹部に焼きゴテでも当てられたような、
灼熱の痛みが渦巻いている。股間を、自分の女としての象徴を蹴られたのだ。
あの女の履くスニーカー、その先端に付けられた小さなカッターの刃に「女性」を根こそぎ奪われた。

何故、スタンガンを選んだ。
躊躇すべきではなかった。相手は父も、母も、妹も殺した紛う事なき殺人犯だ。
刑事としての理念がそうさせたのかもしれない。
まだ家族と思い込んでいた妄念がそうさせたのかもしれない。
迷いなど捨て、打ち抜いておけば良かったのだ。今度こそ、自分が羽化する機会は永遠に失われた。
鎖は己より遥かに柔いロープに絞められ、千切れたのだ。気付かず、殻に篭り続けた結果が、これだ。
後悔が身体を冷まし、精神を覚ましていく。五感に纏わりついていた霧が晴れていく。
それで気付いた。
自分の血液とは別の、ある種の生臭さ。まぐわいの匂い。一方は心地よく、もう一方は嫌悪を交えて
鼻孔をつく。目の前には、朱と白が渦巻く粘液。達哉が犯され、侵され、冒された事の証。
(痛い……)
声にならない叫びが、体を動かす。全身をまさぐり、指が鉄塊に触れる時を待つ。
どうして私は駄目で、どうして彼女は良くて、どうして私は許されず、どうして彼女は赦されて――
彼女の熱にあてられてか、ようやく触れた鉄塊はほの暖かかった。
彼女が達哉に近付いている。また犯そうとしている。達哉が食べられる。存在ごと食いつくされてしまう。
助けなきゃ。
食い尽くされる前に。
彼女に従属されてしまう前に。
目の前の達哉も、彼女の中の達哉も、解放してあげなければ。
(達哉から)
ホルダーから引き抜いた拳銃を掲げ、震える指で安全装置を外す。
トリガーを引いた。
「はなれて」
視界の隅で、あのマーブル模様の水溜まりが彼女の血に飲み込まれていった。








125:名無しさん@ピンキー
08/05/23 15:02:10 gaKr2Xoy
――ああ、意外と軽い音なんだな。
漠然とそう思った。薬莢の弾ける音を脳が認識した次の瞬間、僕の耳は何らかのフィルターでも
かかったように、聴力を失った。例え軽くても、強大で凶暴な音だったのだろう。
音量だけでなく、物理的な破壊力も。
もっとも、耳に襲いかかってきた突然の襲撃者が、発砲音だと分かったのは一発目のあと、姉さんの
手に握られた拳銃を見たあとのことだ。
僕へと手を伸ばしていた“彼女”が、ふらついた。
「あ……?」
多分、本人も自分の下腹部を見るまでは、分かっていなかったに違いない。銃弾が埋め込まれた点を
中心にして、Tシャツが黒ずんでいく。
「あ、あ、あ、だめ。待って。駄目。達哉が出ていっちゃう。せっかくもらった、のに、達哉が
出ていっちゃう。待って。行かないで」
多分、この監禁が始まって初めてだ。
こんなにも憔悴し、生半可なものではない苦悶を浮かべている彼女の姿は。彼女は命以外の何かを、
必死にとどめようとしていた。傷口を両手で押さえ、待って、行かないで、と叫ぶ。
しかし、その叫びすらも許されなかった。押さえつけた両手の上から、さらに何度も銃弾が撃ち込まれた。
指が千切れ、腹は抉られ、鮮血が散る。
「だめ、だめ、だめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめ
いかないでいかないでいかないでいかないでいかないでおねがいだから、わ、たし、から、にげ、な、」
銃声の嵐の中で泣き叫ぶ彼女の声だけは、何故かはっきりと聞こえていた。
拳銃はやがて弾を全て吐き出し、彼女の下腹部は肉も骨も皮もぐちゃぐちゃにかき混ぜられ、
床には真っ赤なスープが広がっていた。
「いかない、で……」
摩季姉さんの血も、彼女自身の血も混じり合った床に、倒れ込む。そして動かなくなった。
摩季姉さんはもう標的のいない、無人の空間に向けて、トリガーを引き続けている。
ぼんやりとだが、がちっ、がちっ、と撃鉄の音が耳に飛び込んできた。
「姉さん……もう、良い。終わったから」
僕が声をかけると、顔に感情が戻ってきた。ゆっくりと焦点を合わせ“彼女”を見つめた後、指を
一本ずつ拳銃から引き剥がし、床に捨てる。
そして摩季姉さんは思い出したように、
「いたい……」
と呟いた。
「いたい……いたい。いたいよ、たつやぁ……」
姉さんは泣いていた。涙が血溜まりの中に、吸い込まれていく。


126:名無しさん@ピンキー
08/05/23 15:03:52 gaKr2Xoy
僕も泣いていた。
姉さんの姿が悲しかったのか、それとも結局なにも出来ず家族を失い、傷つけた自分が
憎らしかったのか、それともここまできても、身の安全を確保できたことに安堵したからなのか、
自分でも把握出来ない。
「今、行くから。姉さん」
立ち上がり、摩季姉さんへ足を踏み出す。

「いかないで」
足を掴まれた。
彼女が、身体を引きずって僕の足下まで移動していた。もう両の手合わせて、五本しかない指が、
僕の足にすがりつく。
――まだ、生きて……
“彼女”の視線すらちぐはぐな顔が、僕を見上げていた。床を這い、僕の足にしがみついて、哀願する。
「いかないで、おねがいだからいかないで」体が、動かない。
「たつやぁ、痛いよ……お姉ちゃん、いたくてたまらないよ」
彼女の指が、食い込む。姉さんが泣いている。
「わたしのことだけみて」
音が、聞こえる。
「たつや、たつや、はやく」
サイレン音。
「ねえ、どっちにでもなってあげる。すきなほうになってあげるから、いかな、い、で」
徐々に近付くパトカーのサイレン音の中、彼女の瞳孔が広がって――






事件から一週間が経った。僕は病室の天井を見てぼけっとしていた。事件の余波を考えての事だろう、
広い個室をあてがわれた。他人から根掘り葉掘り聞かれる事が無いのは確かにありがたい。
健康状態は良好。
精神状態も良好……だと思う。
医者にはしばらく様子を見た方が良い、と言われた。締め切られたカーテンを少しだけ捲る。
病院の外はカメラマンや記者でごった返している。
「退院時はあの中を通るのか……」
考えるだけでうんざりだ。

――コンコン。

「どうぞ」
声をかけるとドアが音も無く横に滑る。
二人の刑事がそこにいた。
「角倉さん、その後具合は如何ですか?」
親しげに話しかけてくるのは、僕を保護してくれた初老の刑事。
「僕は平気ですよ。病院の方々には気を使わせすぎて恐縮してるくらいですから」
「まあゆっくりしてください。誰の目から見ても酷い事件でしたから、ね……」
こういう状況に慣れていないのか、その刑事が作る真面目な顔は、少しぎこちない感じがした。
普通、刑事って逆だろうに。
「正直な所あんまり実感無いんですよ。あそこで何があって、何を見て、何を聞いたか、全部
思い出せるんですけどね。それが今の僕と……その、結び付かない、というか……」


127:名無しさん@ピンキー
08/05/23 15:05:19 gaKr2Xoy
「出来る事なら忘れた方が良いのかもしれませんな……。ただこんな会話をしてなんですがね、
一つはっきりした事があるんですよ」

「“彼女”は『角倉 萌』だったのか、『角倉 蕾』だったのか、なんですがね……」

――ああ、やっぱり本題はその話か。

何となく予想はついていた。
あの二人は、世間一般の双子のイメージからご多分に漏れず、本当に良く似ていた。
しかしいくら双子でも全てが同じという訳ではない。分かりやすいところで指紋などがその例だ。
形こそ似通っていても、同一の指紋を持つ事は不可能だ。
トイレから出てしまえば、“彼女”の正体はあっという間に白日の下にさらされる。
刑事が僕に近付く。煙草の苦い匂いが鼻に纏わりつく。
「“彼女”の名前は――――」



「いぃやあ゛あ゛ああああぁぁぁぁッ!!」



もうとっくに慣れてしまった悲鳴が轟く。刑事二人は驚いていた。
「すいません、ちょっと失礼します」
僕はスリッパに足を差し入れると早足でドアへと向かう。
「あ、あの、今の」
「……姉さんなんです。ここで待っててもらえませんか?」
今の姉さんを見せるのは、お互いの為にも良くないだろう。返事を待たずに隣の病室へと向かう。

「い゛やぁああッ!!だづや゛ッ!!だづや゛ぁッ!!」
ドアの先では姉さんが吠えていた。
目は真っ赤で、焦点は揺らいでいて、鼻水と涎を垂らし、唾を飛ばし、喘ぐように吠えていた。
暴れる体を看護師が三人がかりで押さえ付けている。
「姉さん」
僕が呼び掛けると、姉さんはぴたりと動きを止め、母親を探す迷子のように僕へと手を伸ばす。
「たつや、たつやぁ……お姉ちゃんのところに来て」
姉さんに近付くと指を絡め合う。姉さんは僕の胸に頬を擦りつける。鼻骨と胸骨が擦れて少し痛い。
「どこに行ってたの……離れないで。たつやがいないからお姉ちゃん、恐い夢を見たわ」
「ごめんね、姉さん。……少し眠ろう?手を握っていれば恐い夢なんて見ないよ」
姉さんの頭を撫でながら、話しかける。姉さんは僕を見上げ、
「うん……。でももう少しこのまま」
そう言って胸に顔を埋めた。
看護師に目配せをして、錠剤を受け取る。
「姉さん、薬飲もうか。早く良くならないと」
姉さんは素直に従い、錠剤を飲む。看護師はそれを確認すると静かに部屋を出ていった。


128:名無しさん@ピンキー
08/05/23 15:07:11 gaKr2Xoy
あの日を境に、姉さんは女としての部分を失い、家族を失い、姉としての自分も失った。
「もう達哉しか残っていないの」
目覚めてからの姉さんは、そればかり言う。

――“彼女”は『角倉 萌』だったのか、『角倉 蕾』だったのか――

壊れた姉さんを抱き締めながら、刑事の言葉を思いだす。
『すきなほうになってあげる』
萌姉ちゃんの記憶を持っていて、蕾の記憶も持っていた“彼女”はそう言った。
どっちにもなれるからどっちでもない“彼女”。
姉さんが寝たら、“彼女”の正体を聞く事になるはずだ。でも聞いても何も変わらない。
どこからどこまでが萌姉ちゃんとの思い出で、何から何までが蕾との記憶だったのか、今の僕には
分からないのだから。まるで、ピース一つ一つが純白の正方形のパズルでも相手にしているみたいだ。
どんなに組み上げても、正解は分からない。どんな風にも組み上げられるけれど、答えは分からない。
何故、“彼女”はあんな事件を起こしたのか。何故両親を殺し、自分の片割れを殺し、双子を演じたのか。
もしかしたら“彼女”は、「本当の自分」を僕に選んで……いや、見つけて欲しかったんじゃないだろうか。

ずっと騙し続けていたけれど、原初の自分の姿に気付いてほしくなってしまったんじゃないだろうか。
――角倉達哉との思い出を作り上げてきたのは全部、自分なんだ――
そんな自己主張のつもりだったのかもしれない。

結局答えは分からなかったし、答える義理も無かった。今でも責任感は感じていない。
ただ“彼女”を見つけてあげられなかった事に、少しだけ無力感は感じていた。
僕が“彼女”から逃げさえしなければ、こんな事は起きなかったのだろうか?
全てが狂言だったのか真実だったのか、“彼女”が死んでしまったので今となっては分からないけれど。

「誰もいない場所で、ずっと、ずっと二人でいれたらいいのに……」
囁き声が僕の思考を断ち切った。
「姉さん……?」
返事は返ってこなかった。規則正しい、深い呼吸が聞こえる。
「おやすみ、姉さん」
姉さんに布団をかけ、静かにドアを閉めた。
それじゃあそろそろ聞きにいこう、“彼女”の名前を。“彼女”の正体を。自分の病室へと足を運ぶ。


129:名無しさん@ピンキー
08/05/23 15:09:28 gaKr2Xoy
いつもよりスリッパが重い。それでも、歩く。
あの日、姉さんは僕以外の全てを失った。
僕は、姉さんすらも失った。




あの日以前の、何も知らなかった頃の僕は、まだあのトイレに監禁されている。
そして、永遠に解放される事はない。



【エピローグ】
深夜。
飲み物を切らしたので、近くのコンビニに何か買いに行く事にした。
ダウンを羽織り、隣人を起こさぬよう静かにドアを閉める。前のアパートとあまり変わらない、
古臭いアパートだ。家賃もほとんど変わらない。
週刊誌の記者達が連日詰めかけるのに辟易して引っ越したのだが、正解だったようだ。
待っていたのは以前と変わらない、穏やかな焼き増しの日々。
変わったのは、未だ回復の見込みのない姉さんの見舞いという行為が、日常に付け加えられた事くらい。
回復した後には何らかの制裁が加えられる事を考えると、姉さんにとっては今のままの方が
良いんじゃないかとさえ思ってしまうのだけれど。

コンビニまでは以前より少し歩く。この時間でも大分暖かくなってきた。
このダウンももう少しすれば必要なくなるだろう。
突き当たりを右に曲がり、コンビニから伸びる、蛍光灯の光を確認した。

何かが、

僕の口を、

塞いだ。

振りほどけない。もがく端から力が抜けていく。

「ねぇ、達哉?二人っきりになれるとっても素敵な場所、見つけたの……。……行こう?」

薄れゆく意識の中、耳元で姉さんが囁いた。




《END》LESS……


130: ◆busttRe346
08/05/23 15:11:29 gaKr2Xoy
投下終了です。最後までお付き合いいただきありがとうございました。
それでは失礼します

131:名無しさん@ピンキー
08/05/23 15:36:12 Kt5DmstC
GJ!!!!!! 今までありがとうございました。
もし、よろしければ次回作もよろしくお願いします。

132:名無しさん@ピンキー
08/05/23 15:57:31 2AwDDZxj
>>130

GJェェェェェェッ!!!!!
素晴らしい作品ありがとうございました
お疲れ様でした!



惜しむらくは、萌姉さんには幸せになって欲しかった…


133:名無しさん@ピンキー
08/05/23 16:14:57 8mQFlvfu
長かった・・・・・・長かったぞ!

ようやくこの一言が言える!



完結乙かれぇぇえええっ!
Gj!

134:名無しさん@ピンキー
08/05/23 16:17:19 HKeEFK5p
GJ!摩季姉さんの大勝利ww

135:名無しさん@ピンキー
08/05/23 18:22:43 /l/fDR62
「こうして神作品は完結した!」すごく良かったです。今まで一番愛読していた作品なので、こうして完結したのはすごい嬉しいです。個人的には蕾派でしたが…次回作、できれば楽しみに待っています。本当にありがとうございました。

136:名無しさん@ピンキー
08/05/23 18:42:25 eG0dKlYP
ディ・モールトGJ!! でらGJ!! なまらGJ!! 超GJ!!
いやー良かった。まさかの結末でビックリですわ
摩季姉の蹴られた部分がエグくて思わず股関押さえちまったぜ……
なんつーか、摩季姉はもっとこう、幸せになってほしいね…うん……
なんにしろ完結お疲れ様です!素晴らしい作品をありがとうございます!!

137:名無しさん@ピンキー
08/05/24 01:31:20 zNDNOVJ9
完結乙!
そしてGJ!

138:妹が病んだ原因 第六話
08/05/24 02:15:18 ONE7CENV
投下予告

139:妹が病んだ原因 第六話
08/05/24 02:16:33 ONE7CENV
―――――――――――――

 暗い、暗い部屋の中。
 月明かりを背に一人の少女がたたずんでいる。

「あははっ♪」

 少女は携帯電話を片手に誰かと会話しているようだった。
 短く切り揃えられた黒髪に覆われている横顔は十六歳という年齢からは想像もつかないほど幼く、
 幼女のような笑みをこぼしている。
 そして、そんな愛くるしい外見に似つかわしくない、彼女が着てる真っ白な入院服と、
 服に映えるようにまっ黒な、右目を覆う眼帯。
 それらを纏いながら無邪気に笑う彼女は可憐であり異端であった。

「そう、そう!会えたの!会えたのね!」
 電話の相手に見えるわけでもないのに彼女は喜びを体現するように狭い部屋中を、
 ピョンピョン跳ね回る。
 暗がりの中での片目にもかかわらず、慣れたものなのか彼女は躓くことなく部屋中を飛び回る。
「どうだった?どうだった?……うんっ!そうでしょうそうでしょう!!
 言ったとおりだったでしょう!!」
 部屋にポツンと置いてある簡素なベッドに飛び乗り、興奮したままギシギシと揺らす。
 電話の相手は彼女の興奮ぶりがうかがえたらしく、苦笑しつつも彼女をたしなめる。
「落ち着いてなんかいられないわよ!!あなたが動いたということはもうすぐ、もうすぐなのよ!!」

 そう。長かった。
 あの時から十年もたった。
 傷が完治し、充分に力を蓄え、いくつもの準備をするのに十年かかった。

「ええ、ええ。長かった、長かったわね。本当に、あなたがいてくれてよかったわ。
 いくらあたしが優秀でも一人でできることには限界があるものね。
 今回のことだってそうよ。あたしじゃあの子がいる限り近づけないもの」
 決して日向に出ることは許されなかった。
 彼に近づくことさえできない。
 彼女がいるから。彼女のせいで。自分はずっと、十年もの間この部屋以外に存在できなかった。
 彼が自分のことを見てくれないとわかっていたから、だから苦しくともここにいるしかなかった。



140:妹が病んだ原因 第六話
08/05/24 02:17:07 ONE7CENV

「そうね、そうね。そんなのはもう終わり。もうあの子の思い通りになんかさせない。
 十年前は油断したけど今度は万全。あの子の幸せを壊して、希望を潰して、存在を消し去ってやるの…」

 彼女はその片目にどこまでも深い憎しみを宿し呟く。

 そう。今の自分と同じように……

「ええ?……だめよ。あの子は自分の居場所に戻るの。
 身の程をわきまえずに十年も隣に居座り続けたんだから、殺さないだけマシでしょ。
 もっとも、もっとも。今度こそ本当に自殺しちゃうかもね。あははっ!!」

 電話の声は黙り込む。

「もう、もう。あなたはあたしの友達でしょう。あの子の心配なんかしなくていいの。
 それとも何?やっぱり、やっぱりあたしよりもあの子のほうがいいの?」
 電話の声はあわてて否定する。
 その質問は電話の主にとっては残酷な質問。
 にもかかわらず無邪気な彼女は平然と口にする。
 彼女の時は彼が離れてからずっと止まったままだ。
 だからこそ、子供の無邪気さは無自覚に相手を傷つける。
 否定するのを聞いた彼女は満足げに頷き、
「うん、うん!あたしたちは友達だもんね!」
 上機嫌にベッドから飛び降りる。

「だからね、だからね。友達だからあたしのためにあの子に殺されてくれるでしょ?」

 邪気はないけど悪意はあるから。
 無自覚に、無意識に、唯々自分の幸福のために。
「うん、うん。ありがとう。」



「風子」



 彼女は傷つけ、壊し、滅ぼしていく。
 

 動き出した流れは止まらずに加速する。
 

―――――――――――――



141:妹が病んだ原因 第六話
08/05/24 02:17:33 ONE7CENV

「おーにーさーん!!」

 俺が校門の前で麻里を待つために生ける仏像と化しながら、
 本日の夕飯のメニューはシェフの気まぐれ料理がいいな、と思案にふけっていると、
 聞き覚えがあるような気がしないこともない声が鬼ごっこに興じている。
 アクセントが違う気がしたが字面をとらえると確実に鬼ごっこだ。
 そもそも俺は一生、麻里とともに鎖国して生きていくことを誓ったのだから、
 アクセントがどうとか知ったこっちゃないのだ。
 麻里と会話できればモーマンタイ。

「あー。遅いなぁ」
「当たり前のごとく無視しやがりましたね」

 ふむ、空気がやけにうるさいな。

「もしも~し?お兄さん?聞こえてますかぁ~」
「……」
「お~い?お~に~さ~ん~」
「……」
「まーちゃんにお兄さんにキズものにされたって泣きついてやるぅ…」

 それをやると死ぬのは君だったりするんだが…

「ええい。さっきから何なんだやかましい。俺は貴様みたいな凡百の一般人何ぞにかまってやるほど暇ではないのだ。
 わかったのならさっさと消えるなり消えるなり消えるなりするがいい」
「ひどっ!?ボクの扱いひど過ぎでしょ!?」

 テンション高いなぁ……
 つーか、この子一人称が『ボク』なのか。
 やだなぁ。あの人と同じってだけでこいつのことはなんか嫌になるな。
「う~いいもんいいもん。男はお兄さんだけじゃないんだもんね。
 ボクなんか引く手数多なんだから……」
 勝手に落ち込みだしたぞ。
 というか、あまりのシスコンぶりに男どもからひかれにひかれまくり、
 挙句、相馬が妹のこと以外に興味を示したら奇跡(誇張表現)、とまで言われる俺を男扱いするのか。
 頭のいとをかしな奴もいたもんだな。
 そういう奴は経験上、ウチのオブジェになっちゃうルートに一直線なんだが。
 ここで余計な事を言ってフラグが立つと、二、三日ぶりに行方不明事件で騒がれそうになるから自重して、
 俺はとりあえず今ここに立っている原因について情報を仕入れるか。


142:妹が病んだ原因 第六話
08/05/24 02:17:56 ONE7CENV

「あーもしもし、ふーちゃんさんや」
「ふーちゃんさんってなんですかぁ…なんですかぁ?」
 わかりにくいので補足すると最初の「なんですかぁ」はちゃんとさんを混同させたことに対する不満であり、
 後の「なんですかぁ」は俺の呼びかけへの回答である。
 この子もなかなか難解な日本語を使うな。
「いやね、お兄さんは別に怪しいもんじゃなくてただ単に妹君はどこで何をしているのかなー、
 と兄心ながらに心配しているんでね」
 要約すると、テメェ麻里をどこへやった!!、ってところかね。

 すると、それまでのいじけていた様子から一転、いたずっらこのように笑い出す。
「にゃふふふ♪やっぱり兄妹だねっ!お互いがお互いのことを思う、
 ああ!!美しきかな兄妹愛!!」
 テンションの落差が激しく喧しい娘っこという評価が確定した。
 というかなんなんだ。誰も貴様の感想なんか求めてなんぞないのだ。
 貴様のその目障りなツインテールを固結びで電柱にくくりつけてやるぞ。
 わかったらさっさと麻里の居場所を吐くがいい!!ハハハハハハハハハ!!
 などという戯言は心の保管庫に留めて置くこととしよう。

「麻里の居場所がどこかとっとと吐かないとそのやかましく騒ぐ口を、
 たまたま手に持っていたこの金属バット~(某ネコ型ロボット風味)で塞いでやるぞ♪」 
「うわっ!!こわっ!!ってかなんで金属バットなんか持っているの!?」 
「すべては麻里のために……」
「意味分かんないし、答えになってないし、そこはかとなくジリジリと金属バットを近付けないでごめんなさい言います言います言わせてくださいだから下げて下げて金属バットを下げて~!!」

 うむ、聞き分けのいい後輩だな。

「あ~怖かった。目が笑ってなかったよ。あれはマジだったね。うん。
 はあぁ、なんでボクがこんな目に遭っちゃうのかなぁ……」
 おいおい。また落ち込んだよ。
 しょうがない。今度は剣道部から借り受けた木刀で……
「あっ!そ、そうそう!まーちゃんね、まーちゃん」
「ちっ」
「? 今、何か隠したぁ?」
「いえいえ、なにも」

 以外と危機察知能力に優れた奴め。

143:妹が病んだ原因 第六話
08/05/24 02:18:22 ONE7CENV

「そういえばさっき、お互いに、とか言ってたけど」
「そうそう、それ!ボクがお兄さんのとこへ来たのはそれだったのっ!」
 木刀はその辺にポイして証拠隠滅。
 剣道部に怒られるかもしれんが、そんなのはいくらでも何とかなるだろ。
 それよりも今の最優先事項は麻里の情報を得ることだったりする。
 授業が終わりかれこれ一時間。
 いつもならとっくに帰宅し麻里とのあま~いスウィートタイム(意味の重複)に、
 学校においてすり減った(主に先輩のせい)俺の精神は癒されているはずなのだが。
 もしや麻里の身に何か!?
 おいおいおいおい、ヤベェよ、ゲキヤバだよ。 
 麻里の身に何かあっただって?
 そんなことになったらボクちゃんもうおさきがまくらのどうしようもなくあばばばあばっばばばば

「あの~おにいさん?」
「ふはははは!!人類など滅ぶがいいさ!!ハーハッハッ!!!」
「ひいっ!?」
 はっ。い、いかんいかん。まことに遺憾ながら精神があっちに行ってしまった。
 気がついて辺りを見回すと幸いにして人はいなかったので俺はほっと一安心。
 ふー。危なかったぜ。もし誰かに見られでもしたら、
 俺はともかく麻里が、あんたのお兄さんって頭おかしいんじゃない(以下略)
 ともかく誰にも見られなかったのだから引き続き麻里のことを待つか。

「あー。遅いなぁ」
「いきなり元に戻ったと思ったらまた無視ィ!!
 ヒドイ!!ヒドイよおにーさんっ!!
 ハッ!!も、もしかしておにーさんって巷で流行しているといわれているツンデレってやつ?
 やだなーもーそれならそうとちゃんと言ってよぉ。
 おにーさんをめぐるボクとまーちゃんの三角関係、にゃふふふ♪たっのしそぉー♪」


144:妹が病んだ原因 第六話
08/05/24 02:18:48 ONE7CENV

 それならそれで麻里が容赦なく日本刀を振り回してきそうだよなぁ。
 でも、麻里が望むならそっちの昼ドラ路線も考えておくか。
 この泥棒ネコっ!!、みたいなね。 
 そんな麻里も萌えー
 とはいえ今のはさすがに俺のほうがおかしかったので一応会話を元に戻すか。
「俺は好きなやつ(=麻里)にはダダ甘だから君に対してのは、
 好意の裏返しではなく単純な意地悪だ」
 勘違いすんじゃねぇこのメス豚、は麻里のために取っておこうかな。

「やだなぁ。冗談に決まっているじゃないですかぁ。
 まーちゃんとは親友ですよ。し・ん・ゆ・う。
 親友のお兄さんを奪い取ろうなんてこれっぽち思っちゃいないよぉ」
 とか言ってにゃふふふと笑う。
 なんかこれ以上こいつに付き合っているのは面倒になってきたな。
 会話が戻るどころか、完全に脱線して道路にでも突っ込みそうな勢いになってきたし、
 そろそろいい加減情報を聞き出すか。

「で、その親友さんはどこにいるんだ?」
「あっ、そうそう、そうだった!
 そもそもボクはこんなとこにわざわざ世間話をしに来たわけじゃないんだよ。
 伝言があったんだよねぇ、伝言」
「伝言?」
「えーっと。コホン。少し用事があるので兄さんは先に帰っててね、夕飯までには戻るから。
 とまーちゃんから言伝を頼まれたボクでしたぁ」


145:妹が病んだ原因 第六話
08/05/24 02:19:16 ONE7CENV

 なんだ遅くなるのか、だったらさっさと帰って麻里のために御馳走でも作っておけば、って俺料理できないけど。
 あいにく家事はからっきしダメなんだよなぁ。
 じゃあ、しょうがない。麻里のために心をこめて買い物だけでもしようか、と結論し歩き出す。
 歩き出し、
 歩いて、
 歩いているんだけども、

「何で君がついてきているわけ?」
「へぇ?」
 なぜだか知らないが俺の隣をついて歩いてくるふーちゃん。
 俺の隣は麻里の特等席だから今すぐにでも消え去って欲しいのだが。
「やだなぁ。ボクは帰るなんて一言も言ってないじゃん。
 ちょっとお、お兄さんとゆっくりお話してみたかったんだよねぇ。
 だからぁ、一緒に帰ろう?」 
 
 別に帰ってもかまわないのだが、帰っているところを麻里に見られて死亡エンド(この子が)になるかもしれないしな。
 まあ、それでもいいか。
「別に一緒に帰ってもかまわないが、俺のことは『先輩』と呼べ」
「はぁ……」

 これでこの子は後輩キャラでツインテなボクっ子という高ステータスを手に入れたわけだ。
 というか俺のことを兄というカテゴリに属する呼称で読んでいいのは麻里だけなのだ。
 そんなことは口が裂けたら言えないが。
 そんなこんなで俺の中で後輩キャラに任命されたふーさんちゃん(仮称)とともに帰路に着く。
 結句、喧し姦し騒乱娘は終始、俺と麻里の蜜月について質問し続けていた。
 俺も、麻里のすばらしさについて語るのはやぶさかではないので質問にきっちりと答えていた。
 そんなこんなで分かれ道。

146:妹が病んだ原因 第六話
08/05/24 02:19:48 ONE7CENV
 
「それじゃ」
 と、右手を上げハードボイルド風に去ろうとしようとしたところを、遮られる。
「おに、じゃないや…先輩」
 ん?と疑問を口に出さずにテレパシーだけで伝えることを試みるが失敗したらしい。
 結果、俺は無言で次の言葉を待つこととなる。
「先輩にどうしても聞きたいことがひとつあるんだ」
 どうやら今日一緒に帰ろうと言い出した本当の目的はこちららしい。
 ああ、そんなことに気づかずに俺は何意気揚々と語っていたんだ、と自己嫌悪に苛まれるのは日常茶飯事なので気にしない。
 くけけ。麻里のいない俺はご飯のないチャーハンのようなものなのでいつにもまして思考がブレ易くなっている。
 といわけなので用件があるなら速やかによろしく。
 どうやらマジな話らしくさっきまでの能天気な雰囲気は霧散し、真摯な目をしている。
 紳士を自負する俺としてはきちんと正装しないとな、ってスーツ忘れちゃったよ。ははは。持ってないけど。
 俺の脳がはいている戯言は聞こえていないらしく(聞こえていたら引かれているだろう)まっすぐに俺を見ている。
 ホントに同一人物なのかな、とか無益な思いつき。たぶんこっちが地な。
「先輩は」

「今、幸せなの?」

 おいおい何を言ってやがりますかこのおぜうさんは。
 幸せ?幸せかだって?そんなの決まってんじゃん。
 麻里がいて、麻里がいて、麻里がいてくれる。
 そんな日常のどこに不満があるって?
 不満なんかない。俺はこの地球上にいるどんな人間よりも幸せなんだ。
 麻里がいるから。麻里が隣にいる限り俺は幸せなんだ。
 麻里だけが、麻里だけが俺のすべてであり幸せであり絶対なんだ。
 そう、そうだ。幸せなはずなんだ。なのに、なのに……

 何で俺は何も言えないんだっ!!!


147:妹が病んだ原因 第六話
08/05/24 02:20:10 ONE7CENV

 いつも適当なことを吐く口は動かず、震えるような嗚咽を漏らすだけ。
 簡単だ。一言、いつものようにシスコンぶりを多大にアピールしつつ、麻里の素晴らしさを称えた後、
 俺はこんな妹を持って最高に幸せだ、と高らかに宣言すればいい。
 それなのに俺の口は動かない。
 喉元に来ている言葉を、何かが無理やり押し込んでいるような違和感を感じる。
 俺の深い深い場所から這い出る何かに体が支配されつつある。
 どうして、どうして。

 幸せなはずだ
 チガウ
 麻里が隣にいてくれる
 チガウチガウ
 ずっと、ずっと笑ってくれる
 チガウチガウチガウ
 だから、幸せなんだ、幸せなはずなんだっ!!
 チガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ
 

 麻里がいるから、俺は誰よりも幸せなはずなんだっ!!!


148:妹が病んだ原因 第六話
08/05/24 02:20:35 ONE7CENV


「先輩」
 混乱している俺を見ながらふーちゃんは続ける。
 その顔は俯いている俺からは確認することができない。
「まーちゃんもおそらくは苦しんでいる。
 それをまーちゃんはずっと解決しようとしてきた。
 それが、おそらく、まーちゃんが言っている『約束』」
 何を言っているかはわからない。
 ただ、俺の頭が軋む音が聞こえるだけ。

「聞いてなくてもいいから聴いて。
 これは先輩たちのために言うことだから。
 先輩、あなたたち兄妹が幸せになるには逃げちゃダメ。
 逃げないで真実と向き合うの。もう二度と忘れちゃだめ。
 忘れてしまうと先輩もまーちゃんも幸せになれないから…」
 
 なんだ。なんなんだ。こいつは、いったい、俺の、俺たちの何を知っているんだ!
 忘れるな、だ、と?俺は何を、忘れている?
 それが、それが今俺を苦しめているのか?
 麻里が幸せになれないだと?どうしてそんなことが言えるんだ?
 いったいなんだっていうんだ……
「ボクが言えるのはここまで。
 先輩。今感じていると思うそのこころ。
 それこそが先輩が本当にまーちゃんを想っている証。
 それを忘れないで。お願い。
 ボクじゃ、『友達』のボクじゃだれも救えないから……」

 なんなんだよっ!!
 俺たちは何なんだよっ!!
 
 麻里。麻里ぃっ!!苦しんでいるのか?幸せじゃないのか? 
 お前は何を思っているんだ?何を抱えているんだ?
 俺は何を忘れているんだ?
 わからないわからないわからない
 
 
「俺はっ……俺はっ!!!」

 幸せじゃなかったのかっ!!!


149:妹が病んだ原因 第六話
08/05/24 02:21:12 ONE7CENV
―――――――――――――

 うずくまっていたお兄さんを置いて、帰り道を歩く。
 
「ちょっと、いきなりすぎたかな……」
 いずれ言うべきことだったとしても少し時期が早すぎたんじゃないだろうか。
 でも、まーちゃんの監視の目をくぐってお兄さんと接触するチャンスなんかおそらくもうなかったように思う。
 今日まーちゃんが来れないのは、おそらく姉さんのおかげだろう。
 あの人のことだからこういった手助けはおそらくもう期待しないほうがいいだろう。
 多分、今日のが姉さんからの最初で最後の贈り物。

「姉さん……」
 幼いころからずっと憧れていた姉さん。
 でも、絶対に届かない。あの人の視界に入ることさえできないと知っていた私はずっとあきらめていた。
 姉さんに認めてもらいたかった。姉さんに見てもらいたかった。
 姉さんに近づきたくて、一人称を姉さんとおなじ『ぼく』にして。
 でも、あの人はボクに、いや、世界に興味がなくて。

「ああ……だからボクは……」
 あの兄妹が羨ましかったのかもしれない。
 お互いがお互いをどこまでも欲し求め合う。
 そんな関係に。

「だからこそハッピーエンドじゃなきゃいけないんだ」
 そう。彼らの物語はハッピーエンドにしなくてはいけない。
 彼女も、まーちゃんも、お兄さんも。決して失わず、決して死なない。
 笑いあって、手を取り合っている、そんな最高なハッピーエンド。
 彼女の思い通りにさせない。
 まーちゃんの思い通りにさせない。
 そのためにはお兄さんがすべてを知る必要がある。
 種は植えてきた。
 でも、その種が芽吹くにはもう少し時間がいる。
 それまで二人がなにもしないとは思えない。
 最悪、ボクは何もできず、何も残せずに彼女のシナリオ通りにまーちゃんに殺され、
 そしてすべてが彼女の思い通りになってしまうかもしれない。
 そうなると、ボクのしていることは無駄になる。

「そうならないように頑張らないとねっ!!」

 姉さん。
 ボクの親友たちが幸せになれるかどうか見ててね。
 ボクは頑張るから。

「にゃふふふ♪そうと決まったら行動あるのみだねっ!」

 自分を奮い立たせて夜の道を行く。

 自分ではなく他人のためにすべてを懸けて……

 
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