ちりとてちんでエロパロ 第四席at EROPARO
ちりとてちんでエロパロ 第四席 - 暇つぶし2ch280:小草々→喜代美 7
08/06/01 18:36:46 95tNZpqj

そんな雑炊をなんとか飲み下した後、薬をのんで横になる。早く治したい一心で。

「熱、下げるもん持ってきたで」

再び四草師匠。手にはお盆をもっている。
見ると、その上にはおしぼりと思しきタオルが鎮座し、氷嚢らしきものがのっていた。
(ごはんはあんなやったけど、こんなことまでしてくれるなんて…)
少し、感激した。そして後悔も少々。先ほどもこんなことを思ったような気がするが。
「ありがとうございます、四草師匠…」
言いかける自分の額に、四草師匠がそっとタオルを乗せる。
そのタオルは、熱に火照った自分の額を心地よく冷や…

「ぎゃあぁぁぁ!熱っ!熱っ!熱いですて!!」

恐ろしいほどの熱おしぼり。おそらく電子レンジでわざわざ作ったと思しき。

「ああ、風邪の熱は、熱をもって熱を制したらええか思うて」

…そんな話きいたことがない。

「軽い大人の冗談や。それでべたつく汗拭いて、後で着替えとけ」

(そしたら、でこに乗せたんはただの嫌がらせですやん…)
涙目になる自分に、さらにトドメ。
「氷嚢は、わきの下に入れるねん。自分で入れとけ。」
言いながら、温かい布団の中に有無を言わせず氷嚢を放り込む。

ひゃあああああああああ

声にならない小草々の悲鳴を知らぬげに、四草は涼しい顔で本棚にもたれかかる。

「熱があったら寝苦しいやろ?子供みたいやけど、話でもしたろ」
「ええええ、ええです!もうお気遣いなく!」
「遠慮するな。そやな…こんな話、どないや。ええ季節やし」

延々と聞かされたのは、四草師匠の実に実に堂に入った…古今東西凄惨極まるド怪談の数々。
自分もええ年で、怪談なんて聞かされたからてどない言うことはない。
けれど。
半端ない。出る。これは絶対、夢に出る。
熱でただでさえ悪夢を見がちな今は、確実に出る。
はっきり言って、稲川淳二より50倍くらい怖い。四草師匠の表情込みで。

―案の定昼からの睡眠は、どこまでも暗く赤くよどんだ、凄惨な血の色だった…。



281:小草々→喜代美 8
08/06/01 18:37:49 95tNZpqj

けれど、次に目が覚めた時には、ずいぶんと体が軽くなっていた。

無理にでも雑炊を体に入れて、栄養をとったせいかもしれないし。(例えあんな地獄雑炊でも)
早く治りたい一心で、しっかり睡眠をとったためかもしれないし。(そう、逃れたい一心で!)
わきの下に氷嚢をいれたのが、結構効果的だったのかもしれないし。(心臓停まるか思うたけど)
血の色によどんだ夢のせいで、寝ている最中汗だくになったためかもしれない。(死ぬほどうなされたけど)

夕方、そっと扉があいて、四草師匠が入ってくる。
「だいぶ、顔色ようなったみたいやな」
自分の顔をみて、いつもの無表情に薄い笑みをうかべる。
「明日には、熱下がるやろ」
「はい。今日はありがとう、ございました…」

去り際に、四草師匠がこちらを振り返った。
「これに懲りたら…変なことは、夢見んこっちゃな」
唇の片端を吊り上げたその顔は、もう全部お見通しといった表情で。
「…なんの、ことですか?」
かろうじてそう答えたものの、自分でも呆れるほどのスイマセン声だった。

「ま、ええわ。これで俺も病人の看病に自信ついたしな」

(…まあある意味、一日で熱引かせる腕は凄いわな…はあ)

「それにしてもガチで熱だすとはな…その根性だけは認めたる」

けれど、とその目が語る。鋭い熱を宿して。


若狭は、その程度では、渡さんで――。


***************

以上でした。
一見乱暴だけどわきの下氷嚢は効くと聞いたので、思いついた話です。効果はあるんでしょうか?
なんか…素敵な綺麗な話ばかりなのに、こんなん混ぜてすみません。

282:名無しさん@ピンキー
08/06/01 19:24:07 JiUp/MDC
>>263
>>273 どちらもほんとにGJGJです
鶴の恩返しじゃないが、見えないところで自分が痛い思いもして
本人にはけして言わないで、いろいろ守っているのが
四草はほんとに似合うなあ

やっぱ忍びの人だからかなあ

283:名無しさん@ピンキー
08/06/01 22:03:39 xRsw/mjz
>>273
GJ!
小草々vs四草第2ラウンドですね(って、前の方と違うのかな?)
小草々はちょっとかわいそうだけど、算段の四草かっこいいなぁ
そして小草若のつぶやき(尊健殴ったせいで…)に、そういやそうだったと悲しくなったorz

小さい頃高熱出したら脇の下も冷やしてましたよ
効いていたんじゃないかな…たぶん

284:名無しさん@ピンキー
08/06/01 22:12:35 cpGXnkKx
GJです
小草々対人兵器四草仕様vW
小草々の皮算用っぷりvW

旦那である草々を無視した二人の対決が
シリーズ化していくと
うれしいです

285:名無しさん@ピンキー
08/06/02 11:22:45 ta/gV+AZ
>>273
GJ!
算段vs鉄砲第二戦、四草のワンサイドっぷりに吹きました。
そんな二人の争いなぞ対岸の火事で相変わらずラブラブな草々若狭も密かに萌えです。
ところで急な熱発の場合、頭部よりもリンパ節を冷やす方が効果的なので
四草師匠の処置はまったく正しいんですよ。

286:名無しさん@ピンキー
08/06/02 11:54:40 3kZ6OwHk
.>>273
GJ! 笑わせてもらいました。
四草がネギ持ってきて、「これ尻につっこんだから熱下がるで」と
言ってきたらどねしょ、と思ってましたが、そこまで鬼ではなかった
ようで、ほっとしました。

287:名無しさん@ピンキー
08/06/02 16:09:31 SB86WRJN
>>263
>>273
GJGJ!
どちらも、すごくおもしろかったです。
どうして四草はこう、痛そうな感じが似合うんだろうか…。
小草々、もう少し精進せんと勝てんぞ~。勝てるのか??

288:名無しさん@ピンキー
08/06/02 16:18:18 SB86WRJN
空気読んでなくてすみませんが、>>91の二番煎じを投下します。
今度は小草若バージョンです。
またしてもエロなし。若狭内弟子修行中の、小草若→喜代美。

自分でも、縮小コピーみたいにになってるのはよくわかってるのですが
一緒に浮かんできてたもんで、書いてしまいました。
>>91-93から微妙に続いていますが単独でも読めます…。
ただ、同じテイスト(にしたつもり)なので、小草若が女々しいです。
お嫌な方はスルー願います。

同様に、>>78の「恋に焦がれて鳴く蝉よりも 鳴かぬ蛍が身を焦がす」からの妄想です。

289:昼蝉1(小草若→喜代美)
08/06/02 16:19:15 SB86WRJN
真夏の大阪は暑い。
刺すような太陽がアスファルトを焦がし、逃げ水がそこかしこにゆらめいていた。
「暑いですけど、ほんまにええお天気ですね~」
これくらいのほうが夏らしくてええですよね、と続ける喜代美に
「せやろ~!たまには歩くのもええよな!」
と、大きくうなずきながら小草若は答える。

うだるような暑さだったが、底抜けに青い空と輝く木々の下を歩くのは
夏を満喫できてそれなりに気分のいいものだ、と思う。
まして、喜代美と二人で歩けるのならば。

テレビの生放送が終わったのはお昼前。
その後局内で昼食をとりながら打ち合わせをし、テレビ局を出た。
珍しくあとのスケジュールがあいているから、歩いて帰ろうと提案したのは
荷物持ちとしてついて来ていた喜代美と二人で歩きたかったから。
ただ、それだけだった。
さすがに暑すぎやけどな。
小草若は苦笑する。
真夏のしかも平日の昼間、歩いているのはいかにも必要に迫られていそうな
サラリーマン風の人々ばかり。
街の雑踏と溶け合って歩くと、喜代美といることが日常のように思えてくる。
喜代美が自分の隣にいてくれることが、あたりまえのような。
ずっと、自分ともに歩いていってくれるような。
…それは錯覚に過ぎなくて、喜代美にとって自分はただの兄弟子にしか過ぎないのに。
じんじんと響く蝉の声を聞きながら、小草若は自戒する。

局に仕事で来ていた柳眉と、自分の出番が終わるのを待っていた喜代美が
話をしていたのを聞いたのは単なる偶然だった。

「若狭も大変やな。女の子やのにカバン持ちせなならんて」
まぁ内弟子やから当然なんやけど…それでもなぁ。
と穏やかないつもの笑顔で、柳眉は喜代美に話しかけていた。
「ほやけど、勉強になりますさけ」
「勉強、なぁ…」
意味ありげな柳眉の顔。
小草若は立ち聞きのようになってしまっている自分に気がつくが、
既に出るタイミングを失っていた。
…何を言いたいねん。
「ほんまなら、寄席に行くカバン持ちが一番勉強になるんやろけどなぁ、
今の徒然亭ではなかなかむつかしいやろ」
喜代美はきょとんと首を傾げている。
「3年前なら草若師匠やら草々やらのカバン持ちやったんやろけど…」
自分では不足だと言わんばかりの柳眉の言い方に、小草若は一瞬むっとしかける。
しかし喜代美の表情の揺らぎを見てとり、そんな気持ちがすっと冷えるのを感じた。

それは…予期せずその名を耳にし。
瞬間、揺らめいた感情。恋する女の。

きっと柳眉は気がつかなかっただろう。
一瞬のことだ。
しかし、自分には―
あの「女の表情」が、胸に突き刺さる。
愛しい少女が誰を思っているのか、思い知らされるから。

290:昼蝉2(小草若→喜代美)
08/06/02 16:20:30 SB86WRJN
その名だけで、喜代美の気持ちを波立たせる男…。
自分は嫉妬をすべきなのだろうか。
あの男に。
…あいつに対しては、もう嫉妬しとるんかなんやらわからんな。
小草若は自分の胸の内すらはかりかね、苦笑する。
わかっていることはただひとつ。
それが瞳に出るほど喜代美の心には草々しかいない、ということ。

ふと我に返ると、柳眉の声はまだ続いていた。
「…まぁ小草若のまわりに対する気遣いは勉強になるやろ。
あれはあれで、なかなかすぐにできることやないさかいな」
今更そんなフォローしても遅いっちゅーねん。
小草若は髪をかきあげた。
自分は見てしまったから。喜代美の瞳の揺らぎを。
だから、歩きたくなったのかもしれない。喜代美と、二人で。

「すごいセミの声ですねぇ」
喜代美が言った。蝉時雨が降り注ぎ、じりじりと夏の空気がまとわりつく。
「そういえば!」
思いだした!というように喜代美が話し出す。
「私、この前、四草にいさんにセミみたいやって言われたんです!」
「はぁ?蝉?…なんやそれ」
なんで蝉やねん。けったいなやっちゃ。
「喜代美ちゃんが蝉やなんて、またえらい可愛らしい蝉やな」

喜代美は話し始める。
…それはつい最近の出来事。
四草の落語会に喜代美も出たのは聞いていた。その帰り道でのことらしい。

「蛍がたくさんいて、ほんまに綺麗だったんです。私捕まえたくて…。
ほしたら、四草にいさんがおまえはセミみたいやなって言いなったんです。
うるさいってことや思うんですけど~」
でもセミでも蜩やったらいいなぁと思うんです~…
あ、けどぉ、徒然亭にぴったりやなとも言ってくんなりましたけど~…

喜代美の要領えないさえずりを、しかし小草若は途中から聞いていなかった。

ああ、蛍と蝉か。

四草は連想したのだろう。
恋する蝉と蛍を。
なるほどな、四草からすれば喜代美ちゃんは蛍やのうて蝉か。

四草らしい言い方やな、と小草若は思う。
"蝉のように、鳴いたらええ。はっきり好きや言うたらええ、草々にいさんに。"
案外妹弟子に甘い四草のことだ、そんなはっぱをかけたつもりなのかもしれない。
…単なる皮肉かもしれないが…。
いや、どっちにしても皮肉なこっちゃな。
ふと、おかしくなる。
色恋が禁止なのをわかっていて煽っているのだとしたら、
誰にとっても、これ以上の皮肉はない。
たとえ四草にそんなつもりはなかったとしても。

喜代美は、蝉ではなく蛍だろう。
小草若は思う。
瞳に草々への熱い思いを灯して、ふわりふわりと漂う。
恋する男へ、声に出さずに光を灯してみせる、小さな小さな蛍。
なんて愛らしく、いじらしい光。
むしろ木の上で鳴きつづける蝉は、俺の方か。
恋い焦がれて声高に鳴いてみせる。けれど…。

291:昼蝉3(小草若→喜代美)
08/06/02 16:22:34 SB86WRJN
「でもセミって」
喜代美が木を見上げて、言った。まぶしげに目を細める。
「こんなに声が聞こえるのに、どこにおるのかは見えんのですね。
木の上におるからかなあ…」
白いうなじに、真夏の太陽が反射した。
木漏れ日のなかで、喜代美の姿だけがくっきりと浮かび上がって見える。
こんなにもまぶしいのに、目を離せない自分。
「あっついからなあ、いくら蝉でも葉っぱの陰にでも隠れたいやろ」
言いながら、小草若はひそかに自嘲した。
どんなに声高に鳴いてみせても、姿の見えない蝉。
まるで自分のことのようだ。
喜代美から、自分の姿は見えない。

見つけて、自分を。
身を焦がして鳴かずにいられない、自分を見つけて。
木の葉に隠れて見えない、自分を見つけて。
焦がれて鳴く蝉のほうが、光る蛍よりも思いが弱いなんて誰が決めた?
こんなにも思っているのに―

たとえ、叶わない思いだと心の奥でわかっていても。
この娘の恋うている男はただ一人だとわかっていても。
万にひとつでもと思えば、自分は声の限りに鳴かずにはいられない。

まだ目を細めて、木の上をさがそうとしている妹弟子の姿を見ながら
小草若は思う。
見つけてもらえる日は、来るのだろうか。
その日は、この思いの終着点になるだけではないのだろうか。
見つからずに、鳴いている方が幸せなのかもしれない。
けれど…耐えきれるだろうか。

小草若は、答えの出ない思いをそっと押し込め、
いつもどおりの明るい声で、喜代美ちゃーん、と呼びかけた。
自分だけは、この名前で呼び続ける。
それが、自分の鳴き声だから。
「あっついさかい、アイス食べよ、アイス!俺が100個買うたる!
な、喜代美ちゃん!」





おしまいです。お粗末さまでした。ありがとうございました。
季節まるで無視ですみません。

292:名無しさん@ピンキー
08/06/02 22:46:40 /4QeeSsh
GJ
小草若も四草も切ないのう…


293:名無しさん@ピンキー
08/06/03 01:06:58 lhH7x5Ie
GJ
都都逸いいねー、なん通りにも解釈できるってのが魅力だ
そういや三千世界~の高杉晋作には「わしとお前は焼山葛 裏は切れれても根は切れぬ」
って色っぽい作もあるんだけど、これ恋歌に見せかけた脅迫文だったりするんだよね
(送られたのは部下の山県狂介)
昔の人は小梅ちゃんレベルに粋だわ

294:名無しさん@ピンキー
08/06/04 00:37:22 lUmpZX5+
>>288
GJ!です。
姿を見せずに焦がれて鳴く蝉=小草若
闇に紛れてその身を焦がす蛍=四草
一篇の歌から二つの叶わぬ恋路を編み出すその手腕。お見事です。
蝉も蛍も恋する娘に想いは届かないというのがまた哀しい。

295:名無しさん@ピンキー
08/06/04 00:39:35 lUmpZX5+
本日DVD発売記念、というのに託つけまして。
小草若改め四代目草若×A子ことスポンサー様のゲロ甘SS投下失礼します。エロありです。
放送終了後設定、小草若ヲタのドリーム入ってます。

296:Winding road 1
08/06/04 00:41:03 lUmpZX5+
―四代目・徒然亭草若でございます。

俺の襲名に纏わる様々なイベントも一段落し、久々の休暇を京都の古いホテルで過ごす。
若い時分はいきがって肩肘を張り、酒の味も分からなかったバーも、
漸く、落ち着いて楽しめる年齢になった。
あの頃の俺が、今の自分を見たらなんて思うだろう。
(なんやいけ好かん、スカしたおっさんやて睨んどるやろな)
青臭いかつての己を容易に想像して独り苦笑する。

「今晩は…すみません、遅くなってしもて」
「ええて。俺も今来たとこや」
隣のスツールへ約束の女性が腰をかける。
その女性―上方落語界悲願の常打小屋、ひぐらし亭のスポンサーにして
若狭塗箸製作所の女社長、和田清海。

一門の妹弟子の幼馴染みである彼女は、タレント時代の俺のアシスタントを務めていたこともあり。
交遊は実に十五年にのぼる。
十五年。この短いようで長い年月は、俺たちの関係を目まぐるしく変えていった。
彼女は、恋人であった俺の兄弟弟子と別れ東京へ旅立ち。
その兄弟弟子は、俺の想い人でもあった妹弟子と結ばれ。
東京で姿を消した彼女がまた大阪に現れ、今度はこの俺が大阪から姿を消し。
彼女と、妹弟子の故郷で再び巡り逢った俺は。

「―あの時、エーコちゃんに会えなかったら、俺はこの名前になってなかったやろな」
襲名披露の日に伝えた感謝を再度述べる。
いや、幾ら感謝をしてもし足りない。
彼女がいなければ俺は、まだどこかの路上で道に迷い続けていたのだから。

「草若さん、今夜はここに泊まってるんですよね」
俺の礼を控え目に遮ると、彼女は切れ長の目をこちらに向けた。
「お話、お部屋でしても構いません?」

「それで、話ってのはエーコちゃん…」
「草若さん、私」
澄みきった力強い瞳が俺を映す。生温いふたりの関係にピリオドを打つ予感。
「四代目・徒然亭草若の女に、相応しないですか?」

「エーコちゃん、それは…」
「言い直します」
俺の言葉を恐れるように、彼女は続ける。
「若狭塗箸製作所社長の男に相応しいんは、四代目や、ゆうことです」
俺を求める真直ぐな瞳。煌めく視線に吸い込まれる。
「…ええんか?俺で」
「私は、ひぐらし亭のスポンサーやでぇ」
悪いようには、させませんよ?
尚も躊躇う俺に、おどけてみせる殺し文句。
「敵わんな…エーコちゃんには」
我が愛しのスポンサー様へ、敬意を込めて。唇を奪う。

297:Winding road 2
08/06/04 00:41:46 lUmpZX5+
互いの目を見ながら、服を脱ぐ。互いの姿に煽り合う。
先にベッドへ上がった彼女は、片腕をあげて俺を迎える。
誘う白く長い腕を捕らえ、その手に口付ける。
手の甲へは、尊敬のキス。手のひらへは、欲望のキス。
そのまま美しい腕に唇を這わせ。辿り着いた首筋に吸い付き。
片手で彼女の結い上げた髪を解く。さらりと指に絡む長い髪。
「綺麗や…エーコちゃん」
「…あんまり、見んといてください」
恥ずかしい、と伏せる愛しい美貌へありったけの口付けを浴びせる。
「俺に見せて。エーコちゃんを、全部」

「…草若さん…んっ…草若さん……」
小振りだが形の良い乳房を掌に納めて、ぴんと立ち上がる乳首を口に含む。
色を帯びた溜息とともに細い腕が首にまわされ、俺の頭を引き寄せる。
「エーコちゃん、もっと?」
意地悪く聞く俺に。
「…あの、上はええから……下も…」
消え入りそうな声で大胆に強請る彼女。
そのさまに自然と笑みが零れる。
「分かってるって。俺、楽しみは後にとっておくタイプなんや」
そう言った瞬間、彼女の目がきらりと光った。
「…そんなこと言うてるから、ビーコ取られてまうんですよ」

ぐさり。
忘れた筈の古傷が抉られる。
「…この状況で、そゆこと言う?」
「ええ言います。四代目にはもっとしっかりして戴かないと。スポンサーとしては」
俺の顔があまりに情けないのか、くすくす笑いながら答える意地悪な彼女。
「…今日かて、私から誘わんかったら、一生手ぇ出さへんつもりやったでしょう?」
ちょっと拗ねたような顔で俺を見上げる。
―相当、怒ってるなこれは。

意気地の無い俺を、いつもいつも叱咤し激励して甘やかせてくれる彼女。
そんな彼女に甘えて、答を保留にしたまま先延ばしにしていた卑怯な俺。
―ごめん、エーコちゃん。
(女から誘ってくるのを待つなんて、ええ年した男のやることや無いな)
バーで酒飲んでカッコつけてるだけが大人の男違うぞ、俺。

「…ほんまごめんな、エーコちゃん」
「また、そうやってすぐ謝る」
彼女の機嫌はなかなか直らない。
「謝れば許して貰えるゆうんが、草若さんの狡いとこです」
「どないせえっちゅうねん…」
だから、と美しい顔を赤らめて彼女は続ける。
「もっと、強引に奪ってくれたらええんです。そやないと私」
さっさと見切りつけて、他の男に乗り換えるかもしれへんですよ?

―脅迫ですか。

298:Winding road 3
08/06/04 00:42:25 lUmpZX5+
俺の腕の中で俺を脅す、年下の美しい攻撃者。
手入れの行き届いた髪。美しく整えられた爪。真直ぐに澄んだ切れ長の目。
それら全てが、彼女のしなやかで強かな武装。

そういえば。
かつて。自分が守りたいと願い、か弱いと思い込んでいた小さな妹弟子は。
その実、太く逞しくどっしりとした「お母ちゃん」であった。
師匠の草々でさえも持て余す、若く不遜な弟子たちを
ころころと笑いながら手玉に取る、若狭の姿を思い出し苦く笑う。

おんなは、こわい。

たおやかな外見で軽々と男を欺く。
(…いや)
ただ単に、俺に女見る目が無いだけか。

「…で、どねするんですか草若さん?」
俺を見上げて煌めく瞳。
ここまで挑発されて黙ってられるか。
「前言撤回や」
「え……?…あっ、きゃあっ!」
膝裏に手をかけ、彼女の長い足を左右に割り開く。
「あっ、そんな…草若さん!」
「…下、可愛がって欲しいんやろ?」
さらけ出された秘処をぺろりと舐める。
「やっ!」
急な刺激に跳ね上がるしなやかな女体。立場逆転。
「俺のこと苛めるからや」
ありがとう、俺の愛しいひと。
「今夜はとことん、エーコちゃんを苛めたる」
覚悟はええか、スポンサー様?

「やっ…ああん……やん……っ!」
絶え間なく流れる嬌声をBGMに、彼女の秘め処を楽しむ。
舌でつついたり、舐めあげたり。唇で溢れる蜜を啜っては指で穿ったり。
思い出したように赤く尖る芯を弄っては、震える白い内股を撫でてあげる。
「エーコちゃん、こっちは猫っ毛なんやな…」
柔らかな恥毛を梳くと、それだけの刺激で過敏なそこは愛液を垂らす。
「…あっ…そう、じゃく、さん…っもう……」
羞じらいも何も全部捨てて、淫らな腰が俺を呼んで浮き上がる。
たまらなくいやらしくて綺麗。
「ちょっと待っててな、準備するから」
用意してたゴムを装着…する筈がなかなか嵌らない。
(クソッ…久々やからな)
悪戦苦闘する俺に。
「手伝いましょうか?」
いつの間にか起き上がって俺の手元を見ている彼女が言う。
「ちょ、エーコちゃんっ」
落ちる髪を耳にかけて、慌てる俺を尻目に綺麗な指が器用にゴムを嵌める。
「…私、そんなに待ってられへんもん」
俺を見上げて悪戯っぽく光る目。その奥に見える哀願と焦躁。
「ほんま、敵わんな…エーコちゃんには」
ひとつ苦笑して、彼女の唇を吸い。そのままゆっくりとシーツに押し倒す。

299:Winding road 4
08/06/04 00:43:07 lUmpZX5+
また、彼女の足を同じ形に開いて。
濡れ濡れと俺を待ちわびるそこへじわじわと入ってゆく。
「あっ…あっ……」
身体を進めるたびに、彼女の唇から歓喜の音色があがる。
その声に連動するかのように、柔らかな壁が俺を締めつけ奥へと誘う。
「入ったで…エーコちゃん…」
温かな鞘に収まると一息ついて、両手で彼女の顔を包む。
「…嬉しい…草若さん」
同じように、彼女の綺麗な手も俺の顔を包み込む。
「ずっと、待ってたんよ…草若さんのこと」
「これでも、飛ばしてきたつもりなんやけど」
底抜けに、お待たせしました。エーコちゃん。
いっぱい回り道をした俺は、漸く辿り着いた彼女に百回分のキスをした。

「はっ…あぁんっ……やん…っ!」
長い髪をシーツに泳がせ、俺の下で乱れるしなやかで美しい裸身。
切なげに喘ぐ痴態に、イってしまいそうになるのを堪えて腰を振る。
身体と身体をぶつけるたび、玉のような汗が飛ぶ。
瞳の中に俺を映して潤む切れ長の目。煌めく視線に侵される。
「エーコちゃん、一緒に、いこ?」
上擦る俺の声に、嬉しそうに微笑む彼女。
一段と高く突き上げて、細い腰を力いっぱい引き絞って。
彼女を抱き締めた。

「実はな、俺のとこにも来てるんや」
俺に寄り添う細い肩を抱きながら、ぽつりぽつりと言葉を繋げる。
襲名が決まった頃から、弟子入り志願の若いのが俺の門を叩くようになった。
「…正直、迷うてる」
俺は、草々みたいに正当派の古典かけられるわけや無いし。
草原兄さんみたいに落語の造詣深いわけでも無い。
「…そんな俺がなに教えられんのか、判らんのや」

「…ええと思います」
彼女は控え目に、けれどきっぱりと言い切った。
草若さんは草若さんの明るくて楽しい落語、伝えてゆけばええんです。
「…私は、ビーコみたいにおかみさんとして支えることは出来ひんのやけど」
俺を見上げる真直ぐな瞳。
ひぐらし亭のスポンサーとして、バックアップしていきますから。

「…ありがとう、エーコちゃん」
我が愛しのスポンサー様。俺の隣を歩いてくれるひと。
甘たれの俺に必要なのは、俺に守られる女でも俺を支えてくれる女でもなく。
こうして一緒に前を見て歩いて行く女だったのだ。
(そのことに、四十過ぎてから気付くなんてな)
あまりに回り道な俺にこっそり苦笑してから、隣の彼女にキスをした。
―大好きやで、エーコちゃん。


〈終〉

300:名無しさん@ピンキー
08/06/04 01:51:38 y+cilS32
四代目×スッポンサ~様!待ってました!
二人とも素敵な大人の男女だ…すごく幸せな気持ちで拝読しました。
本編放映中も小草若ちゃんの幸せを願ってきたけれど、
いいね、40過ぎてもこんな幸せが待ってたのなら。GJでした!


301:名無しさん@ピンキー
08/06/04 03:22:28 0D3wfiMR
自分は小草若→喜代美が好きだが、この物語はGJ!でした!
幸せになれそうで、良かったね!
四代目草若!

302:名無しさん@ピンキー
08/06/04 13:43:04 gZmPaZWB
GJ!
小草若×A子読みたかった!
A子がめちゃくちゃ経験豊富な感じでちょっとびっくりだけど、
この2人ならA子リードなのも自然だね。

303:名無しさん@ピンキー
08/06/04 22:27:59 xUWWXpMJ
GJです!
想いが通じ合ってる大人同士の恋愛という感じで
会話もエロも品があって素敵でした。
結婚の形態に縛られない四代目×A子の関係もいいなぁ~

304:名無しさん@ピンキー
08/06/05 01:27:21 E3sqfkDi
GJ!
A子から誘うってところが、なんともこの二人っぽくてよかったです。

305:名無しさん@ピンキー
08/06/05 04:39:53 pDfXn3go
糸子の自慢の巨乳を揉み解す喜代美と清海

306:名無しさん@ピンキー
08/06/05 17:56:18 ccbyC4Lz
A子とB子は生まれた日が同じで時間も近かった。
そこで看護婦のミスで取り違えられてしまったのです。
本当は友春とB子、A子と正平が兄弟なのです。

307:名無しさん@ピンキー
08/06/06 16:52:59 x/Kmau4d
第100話で四草→若狭の小ネタ投下。
若狭が四草の年齢を磯七さんに聞いて、ビックリしていた話の続き。

308:小ネタ 倉沢忍の憂鬱
08/06/06 16:54:01 x/Kmau4d

「ありがとうございます。袖から勉強させていただきました」
ぺこりと頭を下げながら、自分を出迎える若い女。妹弟子の徒然亭若狭。

今日の天狗座での高座は、事前に楽屋へ訪れ落語が受けないと悩む若狭の為、
急遽予定のネタを変更して手本を示した『まんじゅうこわい』。
袖に下がった四草は、待っていた彼女の期待通りの反応に心中ほくそ笑んだ。
(…ええもんやな)
若く可愛らしい女に、尊敬と憧れの大きな瞳で見つめられるのは。
人妻の身となったとはいえ、兄弟子と妹弟子には変わりないわけで。
こうして若狭と二人きりで過ごすのは、四草にとって貴重な至福の時だ。
しかしその時間は長くは続かない。
「いやいや良かったで、散髪屋組合の皆も大喜びや」
無粋な闖入客の登場に甘い逢瀬は破られ、その上。
「ほな四草兄さん、私はこれで」
若狭はさっさと場を切り上げて去っていってしまった。
(…チッ)
贔屓客に対してあるまじき態度ではあるが、四草は内心舌打ちをする。
そんな彼の心中など知る筈も無い徒然亭贔屓の散髪屋、磯七は上機嫌で話しかける。
「若狭も勉強熱心でええこっちゃ。兄弟子としても教え甲斐あるやろ?」
「ええまあ」
(あんたが邪魔さえしなけりゃな)
内心毒づきながらも適当に相槌を打つ。
「しっかしアレやな。若狭も妙なとこで落語界に疎いんやな」
苦笑しながら磯七は続ける。
「若狭、あんたのこと今の今まで同い年くらいや思てたんやと」
「…は?」
「兄弟弟子の順番、年齢順やて勘違いしてたらしいで」
あんたと若狭じゃ干支一巡り離れてんのにな、ほんまおかしな子や。
そう笑う磯七をよそに固る四草。
(…同い年?同い年やて?)

四草の脳裏に苦い思い出が甦る。
―大人の男の人って、やっぱり大人っぽい子が好きなんやろか?
あれはまだ、彼女が片思いする兄弟子に恋人がいて、自分が相談相手にされてた頃。
『四草兄さんは、どね思います?』
見上げた顔があまりにいじらしくて。思わず。
『俺やったら、10も年下の女なら老けたのより可愛らしいの選ぶけどな』
おまえみたいに。そうたっぷり含みを持たせて肩を抱いたというのに、反応は。
『…四草兄さんて、ロリコン?』

(あれはそういう意味やったんか!)
「おーい四草?」
今更ながら愕然とする四草に訳が分らない磯七。
兄弟子に混乱を残し、若狭は天狗座を後にするのであった。


終る

309:名無しさん@ピンキー
08/06/06 21:31:45 tPo4lHQm
>>308
GJ!
空気読めない散髪屋さんに萌えw
4草は、年齢不詳でしたよね。
妙に落ち着いて年寄りくさいところもあったけど、見かけは若い時もあり。
とっても新鮮な小話でした。ありがとー。


310:名無しさん@ピンキー
08/06/07 00:06:46 ypEPZzBL
GJ!
若狭の天然萌え。磯七さんのおかげで危機脱出!
そういえば縁側でアイス奢らされた時の2人は同い年くらいに見えたなあ。
で、年齢差がわかったこの回から四草の前髪が上がった。

311:名無しさん@ピンキー
08/06/07 09:32:16 kVnDDWB0
GJ
四草カワユス


312:名無しさん@ピンキー
08/06/08 00:38:34 SVC2BLsW
DVDで初めて小浜編見た感想。
初っ端からの伏線バリ張りまくりとか、正太郎ちゃんの素敵爺さんっぷりにも驚いたけど、
A子のB子ラブ度に正直ドギモ抜かれた。
もしA子が男の子だったら、草々小草若じゃ太刀打ち出来なかったかもしれない思った。

313:名無しさん@ピンキー
08/06/08 05:27:18 9l5qZg2X
小草々と若狭の話、投下します。
徒然亭で起こったささいな事件とその顛末。
時期は、小草若が復活したあたり?適当です。
アホみたいに長くてエロなし、しかも軽く鬱。
そんなのですが、よろしければどうぞ。

314:小草々→若狭 1
08/06/08 05:30:26 9l5qZg2X

ぬけるような青空だった。どこまでも、吸い込まれそうなほどに。

「小草々くん、今日たくさん買い物あるでぇ、悪いんやけど一緒に行ってくれるやろか?」

久々の陽気、それに彼女との外出。
彼女との他愛もない会話。自分の肩よりずっと下の位置から、こちらを時々見上げて微笑む白い横顔。
おかみさん――徒然亭若狭との、二人だけの時間。
たとえ、師匠のおかみさんと弟子という関係にすぎないとしても。
煌めくようなひととき、だった。
そう、あの瞬間までは。

大きな荷物を抱えて、駅の階段を頼りない足取りで降りる彼女。
駆け上がって来る子供を避けて、よっこらしょと荷物を抱えなおしたその瞬間。
荷物の重みに小柄な体は、ぐらりとバランスを失って。
あ、と丸く開く唇。大きく見開かれた瞳。ふわりと浮く小さな体。
慌てて支えようとして気づく。間に合わない。自分のバランスを保ったままでは。
彼女が。

落ちる――!

瞬間、自分は両腕にあふれる荷物を放り出し。
落下する彼女の体を支えようと身を乗り出し、もろともにバランスを失う。
宙に投げだされる体。
ただ、彼女の体を包むように抱きしめて、自分が下になるようにと、それだけを思って。

次の瞬間、地面に叩きつけられる衝撃。

目の裏が、はじけるような感覚。
拡散していく意識の中で、彼女が怪我をしていなければいいな、と思った。
そして…彼女が泣かなければいいな、と。

そして―ブラックアウト。



「なぁ…いつか、目ぇ覚めるんやろか?」
昏々と眠り続ける小草々を見つめながら、ぽつり、と小草若が呟く。
「アホか!何言うとるねん!覚めるにきまっとるやろが!」
血相を変えて振り返り、噛み付くようにどなる草々。
「草々、病院や。大声出すな。小草若もおかしなこと言うな。医者は怪我自体は大したことない言うとったやろ。」
静かに、けれど苛立ちを隠せない様子でたしなめる草原。
「けど!頭、打って…こんな長いこと…」
小草若の声が、弱々しく途切れる。
「うるさい!治るにきまっとるやろ!」
「二人ともやめ!俺らにできるんは…目ぇ覚めるんを待つことだけや」

そんな騒ぎも耳に入らぬように、若狭はただ小草々の枕元で、その左手を両の掌に包み込む。
「ごめんなさい…、ごめんなさい、、小草々くん…」
ただそれだけをうわ言のように呟きながら。その表情には…疲労の色が濃い。
小草々が病院に運び込まれたとき、若狭は半狂乱だった。
「私のせいで!小草々くんが…こそうそう、くん…、、いやあああ!!!!」
夫の草々がいくら慰め落ち着かせようとしても、どうしようもないほどに。
以来一週間…片時も小草々の枕元を離れようとはしない。

憔悴しきった妹弟子の横顔を、四草はただ見つめる。その目に僅かに痛ましげな色を宿して。



315:小草々→若狭 2
08/06/08 05:33:23 9l5qZg2X

長い長い夢を見ていた。

その中にいつもいたのは、あどけない顔立ちの女。

自分の名を呼び、ごめんなさいごめんなさいと泣きじゃくるかと思えば。
自分の顔を見上げて、優しく包み込むようににっこりと微笑む。
そうかと思えば、頬を上気させ、怒りで瞳を燃え立たせながら自分を平手打ちし。

このおんなは、だれだ。
とてもとても大切なことのように思えるのに。

自分で夢だと自覚しているくらいなのだから、きっと理想の女でも思い描いているのだろう。
愚かしい夢だ。まったく愚かしくて…なぜだか判らないが愛しい夢。

夢を見ている間、左手が…いつもいつも温かかった。
何か、とても愛しいものに包まれているかのように。


眩しい。
目を開くと…そこには自分を見下ろす男数名。
(むさくるしいな…)
正直、そう思った。ふふ、とほんの少し笑いが漏れる。
「「「「小草々!!!!」」」
目の前の男たちは、泣きながら笑って自分に抱きつこうとして、ええ年して医者らしき男に怒られたり。
大きな目から涙をぼろぼろこぼしながら自分の頭をくしゃくしゃになでまわしたり。
丸い顔をしわくちゃにして、うんうんと頷きながらへなへなと座り込んだり。
少し離れたところから、目に暖かい安堵を浮かべてこちらを見つめたり。

朧に霞んだ記憶の淵から、彼らの名前が浮かんでくる。
師匠。小草若師匠。草原師匠。四草師匠。敬愛する落語家達。自分の第二の家族。
そして自分は――落語家・徒然亭小草々。
ここは――病室?
なぜこんなところに?

その時、がたん、と大きな音が響いた。

一斉に皆がそちらを振り返る。
(―――!)
そこには…立ち尽くす若い女。足元に、お盆やタオルを撒き散らして。
大きな目をいっぱいに見開いて。その顔は奇妙に歪み、涙がぼろぼろと零れ落ちて。
「こ、そうそう、くん…」
それは…まぎれもなく夢にいつも現れ続けた女。それは判る。けれど。
その姿を目にした瞬間、心ははじけんばかりに妖しくざわめくのに。

「どなた…ですか?」

その瞬間。皆の表情が、凍りついた。



316:小草々→若狭 3
08/06/08 05:38:15 9l5qZg2X

「なんで若狭のことだけ覚えてへんねん!なんでや!」
徒然亭に小草若の悲痛な声が響く。

記憶障害。部分的な健忘。
時間がたてば、治る。けれどそれがいつのことかは。医者は、そう言った。
意識を取り戻した小草々は、見下ろす4人のことを覚えていて、いつもの通り明るく笑った。
なのに若狭のことは―ひとかけらとして覚えていなかった。
蒼白になって崩れ落ちた若狭の表情とその後の状態は…見るも無残なもので。
そしてもう一つ。小草々が失ったもの。

「そ、そや!落語会やろ!小草々復活の寝床寄席!」
沈鬱な雰囲気を破るように草原が提案した。
ひょっとしたら…それがきっかけになって、若狭のことを思い出すかもしれない、との期待をこめて。
「ええですやんええですやん!久々に寝床寄席っちゅうのも底抜けに乙やがな!な、な?」
小草若が、ことさらに明るい声を出して同調する。草々も、それにつられたように大きく頷く。

「そやな!それぞれ得意ネタかけよやないか!小草若お前は…寿限無やろ。で、俺は…」
「しゃいしゃいしゃい!何でお前が勝手に決めるねん!」
「そないなこと言うても、小草若兄さん寿限無以外ないやないですか」

久しぶりの、いつもの空気。若狭もほんのすこし微笑を浮かべかけて。

「ま、寿限無が妥当やな。で、四草は算段の平兵衛で、若狭は創作、で、小草々は…」
穏やかな顔でまとめながら、草原兄さんが小草々を振り返る。

「『鉄砲勇助』やな、やっぱり」

当然、乗ってくるものだとばかり誰もが思っていたのに。なのに小草々は戸惑ったような表情を浮かべて。

「てっぽう、ゆうすけ…?」

冗談かと。冗談なら良かったのに。いつもの嘘なら。
小草々の中からは、彼が培ってきた落語のすべてが、跡形もなく失われていた。
必死に思い出そうと頭を抱える小草々の顔が、みるみる蒼ざめていく…。



317:小草々→若狭 4
08/06/08 05:40:11 9l5qZg2X

(てっぽう、ゆうすけ、か。)
小草々は思う。病室の白い天井を見つめながら。
自分と同じ名を冠した落語。自分がこよなく愛した落語…らしい。
とんでもない嘘つきの話。けれど、、思い出せない。
夢にいつも居た女―若狭が持ってきてくれたCDを聞いても、初めて聞いたものだとしか。
それだけではなく…聞いているだけで途中で間断なく吐き気が襲い掛かる。
それは鉄砲勇助だけでなく、ほかの落語についても同じだった。
落語をなくした、落語家。
存在する、価値を失ったもの…。
師匠は、「慌てることない。ゆっくり養生して、思い出して、覚えて行ったらええ」
そう言って自分を励ましたけれど。
その日は…いつか訪れるのだろうか?
ひどい吐き気に襲われながら、絶望にも似た思いが胸をよぎる。
自分の看病に来てくれている若狭は、そんな自分の背を必死にさすりながら、
「ごめんなさい、ごめんなさい…」と泣き崩れた。

彼女は何も悪くなんてないのに。
自分の計算高さは…嫌になるほどに承知している。ならば。
そんな自分が彼女をかばって怪我をしたのだとしたら…それはそれだけの価値があると判断したから。


それに…笑っていたほうが、きっとずっと可愛いだろうに。

彼女は――師匠の妻、だと聞いた。
ならば、自分はそれを承知で弟子入りしたはず。
なのに何だ、それを聞いた時の衝撃は。まるで胸に錐を差し込まれたかのように。
なぜ、自分はあんなにも彼女の夢を見た?
そして自分の中に残る、彼女を思うたびに湧き上がる想いは何だ?
わからない。
ただ判るのは…彼女がとても、大切だったということだけ。
この計算高い自分が、階段のてっぺんからダイビングしても守りたいと思うほどに。
けれど、なぜ?
おかみさん、だからなのだろうか? それとも――。



318:小草々→若狭 5
08/06/08 05:47:36 9l5qZg2X

(今日は、もしかしたら)
小草々くんの記憶が、戻っているかもしれない。
そんな希望は、毎朝病室の扉を開くたびに…粉々に打ち砕かれる。
けれど、願わずにはいられない。
今日も、扉を開く。笑顔を作って。

「おはよう、小草々くん。どない?」
そんな自分に向けられるのは…戸惑いと遠慮がないまぜになった虚ろな瞳。
以前は、決して自分に向けられたことのなかった…。

「…おはようございます、若狭さ…おかみさん」
おかみさん、という言葉が決して彼の中には根付いていないことを示すその声音。
胸が、苦しい――。

「ほんまは夜もついてたいんやけど、お医者さんに追い出されてしもて」
無理に微笑んで、冗談めかして言いながら、枕元の椅子に座る。
「そんな…ええんです。具合も悪ないですし。そんなご迷惑をおかけするわけには…
 今かて毎日、僕に一日中ついてて下さって。それももう、大丈夫ですから…貴女が体、壊してしまいます…」
小草々くんが遠慮がちに微笑む。申し訳なさそうに。以前よりずっとずっとよそよそしい口調で。
涙が、勝手にあふれそうになる。それを隠すように顔を左右に振る。
「迷惑やなんて!私が、私のせいでこんな…大切な大切な落語、失くしてしもたのに…」
嘘つき。
本当は、落語よりも自分の記憶を彼が失くしてしまったことが、ショックでたまらないくせに。
どうして?どうして私のことを?
つまらない嘘をふりまきながら、にこにこと笑う彼。
「おかみさん」と、明るく懐っこく呼びかける声。
こんな頼りない私を、誰よりも慕ってくれた。
山ほどの仕事があっても、軽口を叩きながら、いつも私を助けてくれた。
私なんかよりずっと器用で、落語の才能もずっとずっとあって――!
なのに、私が、私のせいで、小草々くんは落語が。
償いきれない。どうやっても。どうすれば。

319:小草々→若狭 6
08/06/08 05:50:42 9l5qZg2X

「若狭さん…泣かないで…」

気づけば、涙がとめどなくあふれていて。
とめようと思えば思うほどに、次から次へと涙がこぼれおちて。
元の小草々くんに、いつか戻れるのだろうか?
あの、朗らかな声で「おかみさん」と呼んでくれる青年が、好きだった。
それは恋などではないけれど、でも、とてもとても好きだった。
(小草々、くん――)

ただただ泣きじゃくる自分の体が、そっと抱きしめられる感触。

「泣かないで…わかさ、さん…。どうしたらええか、わからんようになってしまう…」
小草々くんの声が、頭の上から聞こえる。戸惑ったような、混乱したような声が。
「こんなこと…して、怒って、はりますよね…」
答えられない。ただ、じっとその胸の鼓動を感じていた。細いけれど筋肉質の腕。広い固い胸。
彼が…自分を包んでしまえるほどに大きな、大人の男だということに、初めて気づいたような思いがした。

「ずっと…僕の中にあるんです。何か、貴女をとても大切に思う気持ちが。」

自分の中から一つ一つを掘り出すように、とつとつと紡がれる言葉。

「けど…それが何なのか、何故なのかわからない。でも、そんな姿見たら…抑えきれんようになってしまう…
 このままやったら、記憶が戻らんままに貴女のこと、好きになってしまう――」

苦しげに言って、彼は抱きしめた腕をそっと解放する。

「だから、もう来ないで、いいですから…来ないで…」

その苦痛と絶望にみちた表情。
どうすればいい。どうすれば。頭の中が混乱して、もう、わからない。
けれど…これはすべて、私のせい。
私にできることはただ――彼が記憶を取り戻すまで、毎日彼を訪れることだけ。
たとえ…その結果、どんなことになったとしても。

だから、涙で汚れた顔を、懸命に笑みの形に整える。努めて何でもないふりをして。
「何言うてるの。来ないわけないやないの。だって、だって…」
笑顔がゆがむ。涙がこぼれる。
「小草々くんの落語、小草々くんの明るい声、また、聞きたいから…」



320:小草々→若狭 7
08/06/08 05:52:23 9l5qZg2X

その言葉の通り、彼女は毎日やって来た。その後も。
毎朝自分の元を訪れ、果物をむき、食事に付き添い、そっと自分の汗をぬぐい…。
あえて落語の話はさけ、明るさを装って話をする。自分が疲れないように気を配りながら。
ふるさとの話、家族の話、そして抱えてきたコンプレックスの話も。
「こんな話、前はしたこともあらへんかったね」
彼女は笑う。悲しげに。

彼女のことは思い出せない。
けれど…判ってしまった。思わず抱きしめた瞬間に、それは確信に変わった。
自分は間違いなくこの女を想っていた。きっと、とても長い間。とても強く。
なぜなら、病室の扉が開いて彼女の小さな姿が目に映るたびに。
自分の枕元に座る彼女が、自分を見つめるたびに。
そっと悲しげな微笑を浮かべるたびに。
切ないほど、この胸が高鳴るから。
抱きしめたいと、自分のものにしたいと、心が狂おしく叫ぶから。
だから、もう来ないでほしいと告げた。
取り返しのつかないことになる前に、自分の前から姿を消して欲しいと。
落語を失って、彼女も失う…それは今の自分のとっては、絶望と同義だったけれど。

けれど、彼女は毎日やってくる。心に涙をいっぱいにためて。
無理に微笑みの表情を作って優しく付き添う彼女を見るたび、罪悪感に打ちひしがれる。

自分で来るなと言っておきながら、この時間がいつまでも続けばと願ってしまうから。

彼女は苦しくて苦しくて、もう耐えられないほどに違いないのに。
自分のせいでこんなことになってしまったと、自分を責め続けながら。

もし、この自分の中にある想いの暗さを知ったなら、彼女は来なくなるのだろうか?
「好きになってしまう」などどいう生易しいものではないことを。
どれほどに彼女を欲し、心も体も自分のものにしたいと思っているのかを。
その小さな体を隅々まで犯しつくして、自分で満たしてしまいたいという思いを抑えきれなくなりそうなことを。

目を開くと、すぐ傍に彼女の白い顔。
ベッドの傍らの椅子に掛けたまま、眠る彼女。
疲れて…いるのだろう。当たり前だ。もう何日になるのか。
記憶が戻れば…彼女は解放される。夢で見た、花のような笑顔を取り戻す。

ん…と、小さく呟いて、彼女の唇が小さく開かれる。
ほとんど反射的に。引き寄せられるように。
眠る彼女の唇に、そっと口づけた。おそらくは…初めての彼女へのキス。
甘く柔らかな唇。しびれるような陶酔と罪悪感。
(最低、やな…僕は。)
好きな女をさんざん苦しめて、その上寝込みを襲ってキス、ときた。
このままだとこの先何をすることやら、と他人事のように思う。

もしかして、とぼんやりと考える。
彼女への想いを完全に自覚したということは、記憶が戻りかけているのだろうか?
…自分は、果たして本当に記憶が戻ればいいと思っているのだろうか?



321:小草々→若狭 8
08/06/08 05:54:26 9l5qZg2X

夢を見た。
高座で堂々と、けれど愛らしく『ちりとてちん』をかける彼女。
それは、彼女に初めてあった日の記憶。
夢の中で、自分は笑い、そしてどうしようもなく惹きつけられて。
そう、あの時とまったく同じに。
次々と脳裏に蘇る彼女の姿。彼女と共に過ごした日々。落語に明け暮れた毎日。
泣いて、笑って、すっとんきょうな声をあげて。
いつも彼女は、あたたかかった――。

夢から覚めた時―自分の頬は涙でぐしゃぐしゃに濡れていた。
全てを、思い出していた。彼女のこと。落語のこと。何もかも。
(あまりにも思い続けたことは、思いの強さゆえに、記憶が戻るのに時間がかかるのだろうか)
そんなことを、ぼんやりと思う。

まもなく自分の元を訪れるであろう彼女に、告げるはずだった。すぐに。
きっと、あの白い花のような笑顔を浮かべてくれるだろうと思いながら。

けれど、彼女を目にした瞬間、言葉は凍りついた。はっきりと理解してしまったから。

記憶が戻れば、彼女はもう、自分の傍にはいなくなるのだと。

例え、その表情がいつも暗い影を帯びていようとも。
自分に向ける眼差しが、罪悪感と苦しみで光を失っていようとも。
無理やりに作ったような微笑が、胸を貫くほどに悲しげだったとしても。
優しく自分を気遣う一つ一つの仕草が、決して愛ゆえではなく、ただ自分への罪悪感ゆえだったとしても。

良かった。それでも。
ただ、彼女が自分の傍に居てくれさえすれば。
自分の落語家としての未来と引き換えにしたとしても。
この記憶が失われている限り、彼女は自分に囚われ続ける。
それはつまり――彼女を手に入れるということ。

その代償として、彼女にどれほどの苦痛を強いるのか。
彼女の微笑が、日ごとにはかなくなってゆく。
表情に、ますます悲しみの影が濃く落ちてゆく。
彼女が、失われてゆく…。

初めて彼女に会ったその日、彼女を手に入れると決めた。
たとえ、どんな手を使ったとしても。
たとえ、何を失うことになったとしても。
それほどに、焦がれて焦がれて焦がれ続けた。

ほら、もうすぐ手に入る。焦がれ続けた望みが叶う。
彼女は自分に囚われた。もう逃れられない。蜘蛛の巣にかかった可憐な蝶のように。

なのに、なぜ、こんなにも苦しい――?



322:小草々→若狭 9
08/06/08 05:55:56 9l5qZg2X

その数日後だった。
夕刻、ひっそりと影のように、一人の男が病室を訪れた。
それは、彼女が水を取りに席をはずした、ほんの僅かの間のこと。
徒然亭、四草。
油断なくいつも何かを見据えるようなその鋭い目が、自分を静かに見つめる。

「…満足か?若狭はもうすぐ、お前のもんや。罪悪感に縛られて、もう、身動きできへん。
 もう…お前しか見えへん。お前のために、何もかもを投げ出すやろう。」

いつもの、感情を押し殺したような低い声。けれど…その声のわずかなぶれは何だ?

「けど…若狭が、若狭やなくなっていく…。お前も、わかっとるんやろ?」

ぶれはますます増幅されて、今や感情を覆いつくせず悲痛に震える声。
ひたと自分を見据えるその目から、つうっと頬をすべり落ちるもの。

「若狭が、壊れてまう…」

目をそらしようもなく、突きつけられた事実。

わかって、いた。ただ、目をそらしていただけ。
このままでは、彼女がただ「彼女の姿をしたもの」になってしまうこと。
ありありと見えていたその終着点から、必死に目をそらして、
自分はただ、一時の狂った夢にひたっていたかったにすぎないのだと。

あまりにも、愚かで無様な。

彼女の花のような笑顔。愚かしいほどの純真と直情。感情のままにくるくると変わる表情。
限りなく、愛しい。思うだけで胸をつかれるほどに。
けれどそれらは、今まさに彼女から失われていこうとしている。自分が、それを摘み取ろうとしている。
自分は、彼女が彼女であるが故に、どうしようもなく彼女に焦がれるのに――!

今はもう誰もいない部屋の中、頬を一筋の涙が落ちる。
それは――別れの涙。
ほんの短い間だけでも、かくもいびつな形でも、自分だけのものであった彼女との。


彼がベッドから落ちたのは、その翌朝のことだった。



323:小草々→若狭 10
08/06/08 05:57:19 9l5qZg2X

「兄さん!小草々くんが、小草々くんが!」
顔を輝かせながら、若狭が徒然亭に駆けこんでくる。
はあはあと息を切らせながらそこまで言い、一片の曇りもない、花のような笑顔を浮かべる。

「落語のこと…私のこと…思い出したんです!」

「「「ほんまか!!!」」」

最高の笑顔で微笑みながら、涙をぼろぼろと流して顔をくちゃくちゃにして。
それは、実に実に変な顔。けれど、どこまでも若狭らしい表情。

「今朝、起きる時小草々くんベッドから落ちてぇ、目ぇ回してしもてたから、
 どねしょう思うて慌ててお医者さん呼びに行ったんです。そしたら、」
そこまで言って、若狭はぜえぜえと息をつく。呼吸をするのも忘れて一息に喋っていたらしい。
「小草々くん、気がついてあわてて正座して、『あ、おかみさん!?お、おはようございます!』って!
 私の顔見てもほんま前の通りで! 『私のこと…わかるん?』って聞いたら、ふふ、
 『何言うてはるんですか?当たり前やないですか!僕がおかみさんのこと忘れるわけないでしょ!』って!
 記憶失くしてたこと、ベッドから落ちたショックでどっかに飛んでしもたみたい!」

こんなに生き生きと喋る若狭は、本当に久しぶりのこと。

「でぇ、半月も記憶失くしてたって言うたらびっくりして、早よ落語の稽古したいって!
 前に草原兄さんの言うてた寝床寄席の話したら、もう、すぐにでも出たい勢いで」

そう若狭はくすくすと笑う。

「『鉄砲勇助かけさせてもらいます!』って!!!」


<終>



324:名無しさん@ピンキー
08/06/08 06:01:17 9l5qZg2X
読んでくださった方がいたら、ありがとうございました。
小草々くん、看病してもらいそこなっていたので、
若狭に看病してもらえるバージョンを、と…。
でもこれ嬉しくないですよね。失礼いたしました。

それより何より改行エラーも重なって10レスも使用…本当にすみません。

325:名無しさん@ピンキー
08/06/08 10:32:24 7rUKB9DC
まさか小草々が切なくて泣く日が来るとは思わなかった、GJです!!
そしてやっぱり、全てお見通しの四草がいい味ですね。
同病相哀れむってやつでしょうか・・・。
ラストの明るくふるまう小草々が泣けました。

326:名無しさん@ピンキー
08/06/08 22:59:51 oQKySHHu
>>324
GJ!!良いものを読ませて頂きました。
やっぱり嘘山はストーカー気質が似合いますねw
四草の役回りも含め、良かったです。
往年の?野島○司ドラマのよう…と思ってしまいました。

327:名無しさん@ピンキー
08/06/09 00:55:09 /sUa2VKy
決着のつけ方がひたすらに切ない…・゚・(ノД`)・゚・
以前どおりの仮面をかぶって、ラストの若狭との会話をした時の
小草々の心情を思うと泣けた。
初めざっと見て長っ!と思って挫折しかけたんですが、読んで良かったです。

328:名無しさん@ピンキー
08/06/09 01:07:29 GoOGf+NE
ほんと、長さを感じさせないくらい良い話しでした。
GJです。
今まではあんまり小草々好きじゃなかったんだけど、考え直しました。
切な過ぎる!!
それがイイ!

329:名無しさん@ピンキー
08/06/09 10:34:42 tJQPOg4I
>>288
>自分だけは、この名前で呼び続ける。
>それが、自分の鳴き声だから。


この一節を読んだ途端、思いもかけずぶわっと涙が溢れてしまいました。
自分でも泣くなんて思いもしなかったけど、小草若の切なさや一本筋の通った凛とした姿勢が感じられて。
小草若ファンではなかったのですが、改めて最後まで見てから小草若を見直すと
本当に誰よりも辛くて厳しい道を行った人だと思います。
良い話しをありがとうございました。

330:名無しさん@ピンキー
08/06/10 11:46:12 0dvPpqsr
流れ読まずにバカネタ投下失礼します。
草々若狭夫婦+師匠と兄弟子たち。ドタバタギャグです。

331:葛饅頭に熱い麦茶もオツなもんだ 1
08/06/10 11:47:50 0dvPpqsr
徒然亭一門が天狗座において華々しく復活公演を果たしてから丸一年と半年。
長雨が続いたここ数日が嘘のような五月晴れ。
一門の集う家で、師匠と弟子たちは長閑かに到来物の葛饅頭で涼を楽しんでいた。

「そういや草々と若狭は?まだ戻らへんのか?」
公演の翌年に結婚した一門の二番弟子と末っ子弟子は、本日それぞれに高座があり
夫婦そろって住まいの離れを出払っていた。
「もうそろそろ帰る頃や思いますけど」
二つめの葛饅頭に黒文字を入れながら筆頭弟子が答えた時であった。
「ひゃあああああああッ!」
門の向こうからけたたましい叫び声をあげ、庭に転がり込んできたのは
噂をすればなんとやらの末っ子弟子、徒然亭若狭。
「こら!なにを騒々しい…」
「なんやなんや何があった?」
「どした若狭?」
口々に問詰める兄弟子らの声をかき消すかのように。
「わぁあああかぁあああさぁあああッ!!」
破鐘のような声が辺り一面に鳴り響く。
「ひぃいいいッ!」
若狭の口から恐怖の悲鳴が漏れる。
「んん?草々も一緒やったんか?」
「師匠、どうもそういう状況とちゃうようですよ」
呑気な師弟の会話をよそに、こけつまろびつ縁側からおたおた上がり込んで来る若狭。
「し、師匠!兄さん!助けて…!」
その台詞が終わる間も無く。
「待てや、若狭!」
兄弟子であり夫である二番弟子、徒然亭草々が姿を現す。
「おお、草々お帰り」
「ただいま戻りました師匠」
きっちり師弟の挨拶を交わしながらもギロリとした目はターゲットを捕捉する。
「ひぇえええええっ!」
大中小の兄弟子らの陰に逃げ込むターゲット。
「隠れても無駄や!」
長い腕に首根っこ掴まれてズルズル引き摺り出されるターゲット。
触らぬ草々に祟り無し。兄弟子たちはあっさりとその場を二番弟子に明け渡した。
「ひどい、兄さんら!あんまりです!」
「若狭、ええかげん観念せい!」
見放された哀れな妹弟子は巨大な手にがっちりとホールドされる。
「まーた夫婦喧嘩か?」
「相変わらず学習能力の無い夫婦ですね」
「おい、あんま手荒な真似は…」
遠巻きに声かけする兄弟弟子たちの眼前で。
ガバッ
いきなり獲物に覆い被さる巨体。
「んむっ!?」
ズッギュウウウウウン
荒木漫画なら効果音がつきそうな勢いで、桃色の唇に分厚い男の唇が襲いかかる。
「…んっ…ぁんっ……」
ぼと。
弟子三人の皿から葛饅頭が落ちた。

332:葛饅頭に熱い麦茶もオツなもんだ 2
08/06/10 11:48:42 0dvPpqsr
五月晴れの柔らかな光が差し込む座敷。
卓袱台の上に並んだ涼しげな葛饅頭。
ずー。師匠の草若が茶を啜る音。
あくびが出るほど長閑かな邸内の居間に。

くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅ

あまりにも場違いな淫猥の水音が響く。
目の前で繰り広げられる信じられない光景。
あの朴念仁の二番弟子が舌技を駆使して妹弟子の愛らしい唇を犯している。
「んっ……ぁふ……んんっ……ふっ……」
その唇から、常の姿からは想像もつかないほど艶めいた嬌声が漏れる。
逃れようと足掻く身体はしっかりと堅い腕に捉えられ。
振り払おうとする小さな頭はがっちりと巨大な手に押さえ込まれ。
角度を変え、深さを変え、太い舌が小さな口内を蹂躙する。
音を立てて吸われるたび、白い頬が目元があでやかに朱に染まってゆく。
「…ふっ……ぁん……んん……ぁふっ…」

真っ昼間の光にそぐわない睦み事が続くこと約15分。
ぷはっ
つ、と唾液を絡めて漸く唇が離れた。
解放された若狭は酸欠なのかけふけふ咳込んでいる。
妻の唇を充分に堪能した草々はぺろりと上唇を舐め、満足げな低い声で囁いた。
「…チョコとバニラの味がする」
「そっ、そんなわけないですっ!ちゃんと歯磨きしましたもんっ!」
叫んでからハッと青褪める若狭。
「ふっふっふっ…語るに落ちたな……若狭…」
再び響き渡る破鐘の声。

「ようも俺のチョコアイスをぉおおおッ!!」

「ほやかてあの冷蔵庫壊れててッ溶ける前に食べえて烏山さんがッ!」
「言い訳すんな!」
「草々兄さん横暴!」
「なんやとコラ!」
「ひぃいいいッ!ごめんなさいぃいいいッ!」
またも低次元な鬼ごっこを開始する兄妹弟子夫婦。

「そうか…あの楽屋の冷蔵庫、ついにイカれたんか」
「…しみじみするとこちゃいます師匠」
「まさか恐竜頭の草々兄さんにあんな算段が出来るとは…!」
「いや、あれは底抜けに食い意地はってるだけやろ」
嵐の去った卓袱台に和やかな空気が戻ってきた。

長閑かな梅雨晴れの午後。柔らかな光が差し込む居間。
卓袱台の上には涼しげな葛饅頭。
「ぎゃあああああああッ!」
離れでなんか末っ子弟子の断末魔が聞こえたよーな気もするが。
師弟水入らずの団欒を楽しむ彼らには関係無いことであった。






元ネタは先輩のアイス勝手に食べて半殺しの目にあったという芸人さんのトークです。

333:名無しさん@ピンキー
08/06/10 12:45:13 a4XckwVM
あ~底抜けに笑わせてもらいました…。
てか、15分は長いだろ!草々!w
それを見せられていた師匠以下4人のことを思うと…さらに爆笑ですww

334:名無しさん@ピンキー
08/06/10 16:39:50 n67jzNSz
>>330
GJ!草々ちっさいなw
15分…兄弟弟子らは本編一回分の時間キスシーン見せられてたのか。

335:名無しさん@ピンキー
08/06/10 19:48:04 j9x0Orbe
途中で我に返った四草が
「後何分キスし続けるか賭けますか?」と算段しそう…orz

336:名無しさん@ピンキー
08/06/10 23:33:43 ycVYXkcN
GJ!
相変わらずの夫婦と見せつけられる弟子sが最高ですね。
15分間の独身2人の反応を見続けたいw
センスのいいギャグの運びに脱帽です。
また楽しみにしております!

337:名無しさん@ピンキー
08/06/11 00:04:51 wQX/qDN8
めっちゃ面白い!
GJです。笑わせてもらいました。

338:名無しさん@ピンキー
08/06/12 11:32:10 W09sHvVr
ここって今何人職人さんがいるのかな?
小草々の人と都都逸の人と小ネタの人が同じってのはわかるけど。
前スレの職人さんはどっかいっちゃった?それともDVD視聴中?

339:名無しさん@ピンキー
08/06/12 14:41:17 gOlyXveL
野暮は無しってもんよ>>338
コテ無しスレで職人さんの詮索なんざ無粋なだけさ。
それより>>57のオール○イトニッ○ンの続きを1ヶ月も待ってるんですけどお母さん。

340:名無しさん@ピンキー
08/06/12 17:24:42 OFNvll/H
青木喜代美このヤマいただき!

341:名無しさん@ピンキー
08/06/12 17:39:04 TiCkDFEJ
>>339
ノシ おいらも待ってるよ、お母さん( ´∀`)

342:57
08/06/12 21:08:50 oWL3l6fZ
>>339>>341
まさかそんなお言葉をいただけるなんて!
ありがとう・゚・(ノД`)・゚・。
書き手さんも読み手さんもレベルがあまりに高いので、すっかり自信を失って放置してたのでした
でももう一回頑張ってみます!

ちなみに>>338と同じこと思ってた…w

343:名無しさん@ピンキー
08/06/13 01:22:13 ghyDWXp6
数字の避難所とは住民が違うのかな
同じような
違うような

344:名無しさん@ピンキー
08/06/13 02:34:48 hdqBj7Pv
>>338
こんなん書くのは無粋なのは十分承知ですが…
自分小草々の者ですが、都都逸&小ネタの職人さまとは別人です。
あんな知的で素敵な作品は自分には無理!なので、申し訳なく思った次第で…。
同じ方だと思っていただけたなんて自分にとっては光栄ですが。

>>57さま。続き、楽しみにさせて頂いております!

末筆ながら長いのに>>314読んで頂いた方、本当にありがとうございました。

345:名無しさん@ピンキー
08/06/13 18:52:43 DOaxKb63
まあ、小草々話にしろ小ネタにしろ、複数あるわけだから…。
都々逸だって二人いるでしょ。
どれのことを言ってるんだかわからんしなw

しかし、職人さんの書きたくなる時期っていうのは重なるのかなあ…。
一気に来る時もあれば、今みたいなときもある。
こうやって待つのもええもんや~。

346:名無しさん@ピンキー
08/06/13 19:29:13 YtZ/Rkru
>>342
お母さんだって、むっちゃハイレベルな書き手さんですよ。
あのオー○ナイト○ッポン、底抜けに爆笑させてもらったんですから。
自分も続き楽しみにしてますね。

347:345
08/06/13 22:18:46 DOaxKb63
ああ、わかりにくいけど、だから詮索はよそうぜ、って話ね。

前スレでもやってる人いたから、ちょっと気になってた…。
合ってたとしても、あまり特定されたくない人もいるだろうし、
(前スレの職人さんは特定されてもよさそうだったけどさ)
まして違ってたら、どちらの職人さんに対しても失礼な気がするよ。

348:名無しさん@ピンキー
08/06/14 00:14:44 FVcIhKNX
特定したら何だっちゅう話でもあるね

349:名無しさん@ピンキー
08/06/14 05:04:32 tQ8HY28b
盗っ人のように場繋ぎ投下します。
草々視点の第11週捏造設定で草々×A子。+B子。ぬるいエロあり。
キミ、○○の人だよね?的犯人当てはどうぞ無しの方向でお願いします。

350:Romanticist Egoist 1
08/06/14 05:05:20 tQ8HY28b
彼女と出会った日のことは、今でも鮮明に覚えている。

あれは、まだ入門前だった妹弟子―師匠の家に下宿していた喜ィ公に焚き付けられて
三年ぶりの高座をなんとかやり通せたその翌日。
目茶苦茶ではあったが、それでも俺の為に下座を務めてくれた喜ィ公への礼で
久し振りにレストランへ入ったその帰りに。

絵に描いたように可憐な少女が微笑んでいた。

少女の顔には見覚えがあった。福井で恐竜の化石を発見した女子高生。
切り抜いた新聞記事の不鮮明な写真よりもずっと、実物の彼女は美しかった。
いや、美しいのは見た目だけじゃない。
「あの化石、ほんまはビーコなんです…」
そう正直に打ち明けてくれた真直ぐな瞳。
その目から零れる涙を見た時、俺はその美しさに心を奪われた。

彼女と出会ってから、目の前に拡がる世界は一変した。
この世はこんなにも鮮やかな景色を持っていたのか。
燻り続けた三年の月日が嘘のように俺の体が心がざわめいている。
兄弟弟子と数を競って付き合った娘たちや、肌を合わせた女たちには持ち得なかった感情。

これが、恋か。
俺は今、恋に落ちたのか。

噺の中だけなら何度となく自分の口から語ってきたこの情に、俺は初めて捕われた。

最初は俺の片思いだったこの恋は、ひょんなことから実を結んだ。
切っ掛けは俺の一門に入り、若狭と呼ばれるようになった妹弟子が
彼女へ、俺の高座を見るよう勧めてくれたことからだった。

「ビーコ、どうしてます?落語頑張ってます?」
俺と会う時はいつも必ず妹弟子のことを尋ねてくる彼女。
その妹弟子も、俺が出かけるたび
「今日、エーコと会いなるんです?」
気のないふりをしつつも興味津々といった目で聞いてくる。
(ほんま、よう似とる)

行きつけの居酒屋で、理不尽に彼女へ罵声を浴びせた若狭を怒鳴りつけたこともあったが
本来、ふたりは親友なのだろう。落語の喜六と清八のように。
幼馴染みだという少女ふたりの学生生活を思い浮かべてみる。
同姓同名で、小学生の頃からエーコ、ビーコと呼び合っていたというふたり。
きっと姉妹のように仲良く、いつも一緒にいたのだろう。
想像は飛躍する。
落語の稽古をする俺の隣で微笑む彼女。
照れくさそうに親友を「姉さん」と呼ぶ妹弟子。
それは、そう遠くない未来予想図に思えた。
彼女が、俺と俺たちの落語を支えてくれる。
若狭もきっと喜ぶだろう。

351:Romanticist Egoist 2
08/06/14 05:05:58 tQ8HY28b
紫陽花が濡れる頃に始まった恋は、身を焦がすような夏を経て
萩の零れる季節を迎えた。

彼女に、東京行きの話が持ち上がったのは丁度その頃だった。
大阪ローカル局で番組アシスタントや天気予報キャスターを務めていた彼女へ
東京のニュース番組がスカウトの声をかけてきたのだという。
「エーコが活躍するとこ、見たいな」
親友の成功を夢見る無邪気な妹弟子のように、俺は素直に喜べなかった。
むしろ、手前勝手な恐怖が先立っていた。
彼女が、俺の側から離れてしまう。
遠距離恋愛。そんなものは考えられない。
俺の望みはただ一つ。彼女と一緒にいることなのだから。

「東京へは、行かんといて欲しい。好きやから、一緒にいて欲しい」
俺の精一杯の告白に、彼女は迷っているようだった。

「今夜、部屋へ来てくれませんか?」
彼女から連絡があったのは、俺が一門恒例の居酒屋の寄席を
直前の下らない喧嘩で出番禁止となった、冴えない夜のことだった。
「…どうしたんや、エーコちゃん!?」
ドアを開けて俺を出迎えた彼女は、酷く泣き腫らした顔をしていた。
「なんでもない…なんでもないんです」
強がって微笑む彼女を俺は黙って腕の中へ引き寄せる。
「…俺の前で無理して笑うこと無い」
しかし彼女は、気丈にも俺の腕をそっと押し退けた。
「今日は、草々さんにお願い、あるんです」

彼女の纏う雰囲気そのままに清楚で、それでいて華やかなこの部屋。
ここでの思い出はどれも温かくて甘酸っぱいものばかりだ。
そんな部屋の真中で彼女は切り出した。
「東京、行こう思てるんです」
「……そ、か」
終った。そう理解した俺はそのままこの部屋を出ようとした。その時。

「待ってください」
俺の服を掴んで俯いたまま、引き止める彼女。
「最後に、思い出、欲しいんです」
「…思い出?」
意を決したように、彼女は美しい顔を持ち上げる。
「……私のこと、抱いてください」

「…残酷やな、エーコちゃん」
俺は初めて。
恐れるものなど何も無い、傍若無人な彼女の若さを憎んだ。
俺は君が思うほどそんなに強い男じゃない。
今、君を抱いてしまえば。俺は一生君を忘れられない。
行かないでくれと、ここに居てくれと、また無様にすがってしまうかも知れない。
躊躇う俺に、彼女は必死に訴える。
「草々さんと最後に思い出作れたら、私、東京でも頑張れる気ぃするんです」
―思い出。

352:Romanticist Egoist 3
08/06/14 05:06:54 tQ8HY28b
「俺は、エーコちゃんに思い出になんかされた無い」
大人気ない、みっともない反発。
「判ってます…私が、どんな酷いこと言ってるか」
でも、と真摯な瞳が俺を貫く。
「草々さん、だから。私が初めて好きになった、私が尊敬する草々さんだから」
私の、初めてのひとになって欲しいんです。

「…後悔、しないな」
漸く絞り出した俺の答に、彼女は黙って頷いた。


初めて入る、彼女の寝室。
ふわりと甘い香りが漂い、俺の鼻腔を刺激する。
「草々さん、これ…」
突っ立っている俺に、おずおずと彼女が渡した小さな袋。
「……どうしたんや、これ」
「…前、大学の友達に、冷やかし半分で持たされてたんです」
「そやな…嫁入り前の身体、やもんな」
渡された避妊具を、俺は握り締めていた。

部屋の電気を消して、寝具の上へ彼女をそっと横たえる。
そのまま、静かにブラウスのボタンへ指をかける。
カーテンから漏れる月明りの中、白く儚げな裸身が徐々に浮かび上がる。
下着へ指を伸ばした時一瞬びくりと慄いた身体は、それでも抵抗なくされるがままだった。
全てを露わにしてから、俺は彼女に口付ける。
初めて触れた唇は甘く苦い味がした。

初めて触れる君の肌。初めて耳にする君の声。
君の全てを知るのは、君が俺の元へ来てくれる時だと信じていた。
冷えきった心のまま、それでも俺は君の温もりを求め続ける。
君の身体に潮が満ちる頃、避妊具をつけた俺は静かに君に潜っていった。
たった零コンマ数ミリの樹脂の厚みがもどかしい。
本当は。
生で君を感じたい。生の君の胎内に注ぎ込みたい。
ずっと側にいて欲しい。ずっと俺を支えて欲しい。
病める時も健かなる時も。死がふたりを分かつまで、永遠に。

終りの時がくる。
少女の中から身を引き、崩れる身体をまたそっと横たえる。
破瓜を終えた彼女は、言葉も無くはらはらと涙を流していた。
「…ごめん、痛かったよな」
「違います…違うんです、草々さん、私」
「なんも言わんでええ」
涙を拭い白く細い身体を胸の中に引き寄せる。
堰を切ったように嗚咽する彼女。その下から震える唇が紡いだ名は。

「びーこ…」

俺では無い、幼馴染みのもの。
びーこ。びーこ。びーこ。びーこ。
泣きじゃくりながらただ一心に親友の名を呼び続ける彼女。
その真意を知る術を俺は持たず。
もう二度と抱くことのない細い肩をただ抱き締めていた。

353:Romanticist Egoist 4
08/06/14 05:07:50 tQ8HY28b
「…大丈夫、ですよ」
彼女に正式に別れを告げた日の夜。
縁側からぼんやり月を眺めていた俺に、若狭は言葉を選ぶように話しかけてきた。
彼女に思い止どまるよう、俺の側にいてやって欲しいと頼み込んでくれたという妹弟子。
最後の夜。俺の腕の中で俺ではなく、彼女が呼んでいた彼女の親友。

そういえば。
彼女と別れて、家に戻った俺を待ち構えていたこの妹弟子は。
話を聞くやいなや、俺を押し退けるように彼女を追って飛び出して行ったのだ。
その後、ふたりの間にどんなやり取りがあったか知る由も無いが。
帰ってきた若狭は泣きそうな、それでいて戸惑っているような妙な顔をしていた。
俺は、そんな若狭に何も言えないまま無為の時間を過ごしていた。

ふと、先日の寄席で出番禁止となった兄弟弟子との喧嘩の原因。
若狭が俺を好きだという小草若の話を思い出した。
試しにその与太話を伝えてみると案の定、妹弟子はきょとんとした顔をしていた。
「あるわけ無いやないですか」
そう笑い飛ばす若狭の顔は、どこか寂しそうだった。
(…当たり前や)
若狭はずっと俺と彼女との仲を心配してくれていたではないか。
(小草若の奴、適当なことを)

若狭と彼女は、俺なんかよりもずっと。それこそ小学校の頃から付き合っていた親友なのだ。
なのに今日、その親友に別離を告げられたのだ。
俺の、せいで。

すまん、若狭。
腑甲斐ない兄弟子ですまん。
おまえが引き合わせてくれた、おまえの大事な親友にフラれてまうような兄貴ですまん。
せっかく、おまえが引き止めてくれたというのに、俺は彼女を。

乏しい頭の中、謝罪の科白だけなら山ほど浮かんではきたが。
どれもこれも口に出した途端、嘘臭くなりそうなものばかりで止めた。
「…ありがとうな」
やっとそれだけ言葉にすると。
「ええ妹弟子持って良かったですね」
若狭は笑って、ちょっとおどけて返してみせた。
「ほんまやな」
駄目な兄貴思いの、妹の頭をわしわし撫でてやる。
くすぐったそうに撫でられている若狭へ、俺自信にも言い聞かせるように。
「落語、頑張ろうな」
そう、告げた。

頑張ろう。遠い東の空の下で、ひとりで頑張る彼女の耳に届くように。
俺たちは俺たちの目の前にある落語を。
そしていつの日か。再会するであろう彼女に、胸を張って向き合えるように。
俺たち兄妹、力を合わせて。
頑張ろうな。



〈終〉


354:名無しさん@ピンキー
08/06/14 06:07:12 tZJv7B2b
乙!
ええで、ええで!

355:名無しさん@ピンキー
08/06/14 12:05:30 nE+jjT7W
うわー、めちゃくちゃ新鮮な思考でした、乙です!
草々の純粋かつ単純思考に、唸らされました。
やっぱり、エーコと草々って似ている部分があるんですね。

356:名無しさん@ピンキー
08/06/15 17:05:53 T7LAqqVR
ロマンティストエゴイストか・・・

357:名無しさん@ピンキー
08/06/16 00:08:17 RgiVQcIY
A子とやってるほうがソウソウは自然だと思う。うん。
GJです

358:名無しさん@ピンキー
08/06/16 06:00:49 mDFSGPVd
独身時代は理想の清楚可憐なお嬢様系美女と交際して
一つ屋根の下にいた自分にメロメロな妹的美少女と結婚…
マガジン系エロコメの主人公かお前>草々

359:名無しさん@ピンキー
08/06/16 10:46:01 FTDoXh3Z
前に草々×若狭の職人さんが書いてたけど
天然ドジっ子、コケティッシュに可愛くて巨乳、
出会ってからずっと草々一筋でゾッコン、加えて血は繋がらない妹キャラ

本当にどんなエロゲのヒロインですか
国営放送のヒロインとは思えん

360:名無しさん@ピンキー
08/06/17 00:45:56 0idw/ou9
>>359
ちりとてちんがエロゲVer.だとこんな感じ?

天然ドジっ娘、ロリでハンドボール大のお乳なわかさちゃんは落語家の卵なんです
そんなわかさちゃんは兄弟子の草々おにいちゃんがだーい好きv
だけど草々おにいちゃんは現役女子大生美人お天気おねえさんのエーコちゃんに夢中…
草々おにいちゃんを取られたくないわかさちゃんは、お師匠さんや草原おにいちゃん
小草若おにいちゃんや四草おにいちゃんに手伝ってもらって
今日も「大人の女の人」を目指してお色気のお稽古に励んじゃうんです!

どんな一門やねん(尊建)

361:名無しさん@ピンキー
08/06/17 00:48:42 cPbKMHCr
>>360 wwwwwwwww

362:名無しさん@ピンキー
08/06/17 10:26:30 zXPol6op
>>360
最後の一行にハゲワラ

363:名無しさん@ピンキー
08/06/17 10:59:49 hKf6QDhG
お師匠さんやおにいちゃん達が、どんな手伝いをしてくれるのか、
激しく気になるエロゲだwww

364:名無しさん@ピンキー
08/06/17 12:11:03 x53Wa1WN
お手伝いの途中で4番目のお兄ちゃんに美味しく頂かれる
分岐シナリオがやりたいですw

365:名無しさん@ピンキー
08/06/17 17:25:06 Q1YhHEV/
ちりとてはエロゲ、つーより乙女ゲーの方が近いんでね?

366:名無しさん@ピンキー
08/06/17 17:29:38 Rt7pQJaO
小草若ルートや四草ルートがやってみたいww

367:名無しさん@ピンキー
08/06/17 17:59:56 oJbl+xnh
若狭を主人公にした場合は乙女ゲーで
草々を主人公にした場合はエロゲだな

エロゲの場合は小草若や四草や師匠による寝取られ要素有り

しかしお嬢様で清楚な清海と
天然で妹キャラの喜代美

二人のきよみの間で揺れ動く男て
どんなあだち充漫画

368:名無しさん@ピンキー
08/06/17 22:48:19 KiDwiYxA
ついでだから友春ルート、あるいは尊建・柳眉ルートも入れてくれ。
乙女ゲーにしても、A子とか順子主人公もアリだよなー、正平ルートとか。

369:名無しさん@ピンキー
08/06/18 00:54:23 DwfH73Uu
>>368
特典ディスクで糸子のドキドキ夫婦生活編もつけて下さい

370:名無しさん@ピンキー
08/06/18 00:57:16 r9gZTgqi
>>369
奈津子の仰天生活もぜひw

371:名無しさん@ピンキー
08/06/18 01:12:12 gHtk9Ru4
正平ルートで近親相姦とかどうだろうかw

372:名無しさん@ピンキー
08/06/18 04:02:19 treahKcG
オイオイwwww

373:名無しさん@ピンキー
08/06/18 07:44:09 rhv/m6LD
隠しシナリオで鞍馬会長ルートがあるんですね、わかります。

374:名無しさん@ピンキー
08/06/18 12:11:53 Tsr1fVWA
>>373
それもう乙女ゲー違うから。
なんか徒然亭若狭の野望~風雲血風録~だから。

375:名無しさん@ピンキー
08/06/18 18:13:49 1uHK/4qK
僕は姉に恋をする

376:名無しさん@ピンキー
08/06/18 18:19:36 FYxCJb/d
糸子&奈津子を荒縄拘束

377:名無しさん@ピンキー
08/06/18 22:27:17 r9gZTgqi
3もソンケンも縛られ系似合うな

378:名無しさん@ピンキー
08/06/19 08:56:49 mynBiusf
変態柳眉の一人勝ち

379:名無しさん@ピンキー
08/06/19 12:35:14 6G4RJdfG
W清海の肉便器


380:名無しさん@ピンキー
08/06/19 21:25:04 NbBDBkE9
おまえらwww

381:名無しさん@ピンキー
08/06/19 22:46:19 cKToXXyr
ひぐらし亭のなく頃に

382:名無しさん@ピンキー
08/06/19 22:54:08 OMtxldqn
ひぐらし亭がないたらホラーだなぁw

383:名無しさん@ピンキー
08/06/19 23:01:22 YPDJPwC+
カナカナカナカナカナ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ギャーーーー

384:名無しさん@ピンキー
08/06/20 15:46:40 A8x+hwO3
みんなDVDに夢中ですね

385:名無しさん@ピンキー
08/06/20 16:27:21 JVjb33Jt
一気に見ると面白いもんね
自分は小浜編見てないから新鮮だった


と言うわけでABキボン

386:名無しさん@ピンキー
08/06/20 19:16:22 OT23QrXN
Bのレイプものキボン
AVみたいなの

387:名無しさん@ピンキー
08/06/22 00:54:09 TSTv6oRe
完全に趣味で書いた小次郎×奈津子の日常ネタです。
エロどころか色気もない小話です。
本編の肉じゃが記念日の回が自分的に好きすぎて
このバカップルはお互いベタ惚れなんだろうなーという妄想から書きました。
性格やら口調やら違ってても気にしないで下さい…
小次郎が200万当てる前の話です。

388:あるくみち 1
08/06/22 00:54:46 TSTv6oRe
カタカタカタ。
興に乗っているときはキーボードを叩く指が軽い。
「―いくだろう、マルっと。よっしゃ、ノルマ達成!」
後でチェック入れて送れば十分締切りに間に合う。
他にも仕事は滞留してはいるが、近々に迫っているものは……
「しまった、あの記事書かなきゃ」
手帳を開いて至急の依頼を思い出した。
書き終えたばかりの文書を保存して閉じる。
次なるノルマの資料を探すべく立ち上がると、背後でがさごそと音がした。
「ん?」
ボサボサ髪にヘアバンド、眼鏡という在宅スタイルのまま振り返った。
「なっちゃん、仕事終わったんか」
「小次郎、帰ってたの」
スーパーへ買い物に行っているとばかり思っていたが、いつの間にか帰ってきたようだ。
床に散乱していた雑誌やら紙片が仕事前より整然としている。
音を立てないように整理してくれていたことに気付いた。
「ほんまに集中しとると聞こえんのやなぁ。不用心やで」
いつもと同じおっとりした口調。
の、はずが妙につっけんどんに聞こえた。
「小次郎、機嫌悪い? どないかしたん?」
そう水を向けてみたものの。
「別にどうもしませんよーだ」
……この子どもっぽい言い方こそ、ご機嫌ナナメの証拠。
何か原因あるだろうかと考えるも、目の前のノルマを思い出すと仕事モードに切り替わる。
「そうだ資料! ここに置いといたコピーとバックナンバーに付箋つけたのどこ?」
「ほい、これ一式」
床の上のひとつの山を示されて、ありがとう~と言いながら取り上げた。
そのまま机にバサッと置いて、また仕事に取り掛かる。
取材の録音テープを聞き直し、無造作に資料を広げてはブツブツ独り言を唱える。
勢いとモチベーションが保たれているうちに、と没頭しながら、ふと思う。
こんなときは、体温のない機械にでもなったかのようだ。
今の格好といい、どこまでも女を捨てている。
ちらりと苦笑したが、点滅するカーソルにぱっと気持ちを切り替えた。
これさえ終われば一段落できる。
そうしたら小次郎ともゆっくり過ごせるのだという、我ながら判りやすい目標を掲げ、猛然とキーボードを叩き出した。

389:あるくみち 2
08/06/22 00:55:52 TSTv6oRe

「小次郎~お腹空いたんやけど」
仕事机からくるっと振り向くと、ラップのかかった皿とメモがテーブルに載っていた。
「小次郎? いないん?」
立ち上がってメモを手に取る。
「―こんな時間に宝くじを買いに出るって?」
ピクリとこめかみが脈打つのが判った。
夕飯、というより既に夜食に近い時間になっているが、支度しておいてくれたのは助かる。
しかし、作った張本人は室内どこにも姿はなく。
「どこへ泊まるっていうんよ!」
ぺしっとメモをテーブルに叩きつけた。
イライラもそのままにあぐらをかいて視線をめぐらす。
そのとき、整理された資料の山の隣に郵便物が積まれているのが目に入った。
「おかしいな……」
重要なものもあるので、判りやすく机かテーブルに載せてあるのが常なのに。
―まるで私が見てはいけないかのように、目立たないように置かれている。
とはいえ、見本誌やらダイレクトメールやらで、目新しいものはない。
「ん?」
ひらり、と封書が一通、郵便物の間から滑り落ちた。
拾い上げると、真っ白な封筒に手書きで宛名が記されている。
差出人は、もう忘れかけていた、ずっと遠い過去の男。
他のものをすべて床へ放置して、封を切るのももどかしく、中身を広げた。
家庭的な面のなにひとつない自分に失望して去っていった男のひとりだった。
目を通して、他愛無い内容であったことにほっとする。
「まぎらわしい出し方せんといてよ、もう」
片手に握ったままだった封筒を改めて見つめた。
明らかに仕事関係ではない体裁の、男からの手紙。
小次郎が不機嫌になった理由はこれだろうか?
こんなものに嫉妬するような男ではないことくらい、承知しているはずなのに。
ふっと苦笑して、手紙を封筒に戻すと脇へ放った。
「そうそう、お腹空いてたんやった」
電子レンジで温め直した夜食を食べつつ、隅に置かれたエプロンを見る。
長年の生活でひとりなど慣れたはずだった。
小次郎と暮らし始めて、ふたりで過ごす日常の心地よさを知ってしまった。
こんな夜は、どれだけ部屋が散乱していても広く感じて。
機械を解体して、体温の戻った女になって、情けないくらい寂しさを覚えた。

390:あるくみち 3
08/06/22 00:56:49 TSTv6oRe
まだ真夏に入る前の季節、冷房をかけずに寝ても明け方は涼しい。
―それなのに、妙に暑く、寝苦しさを感じた。
それでも昼間取材に駆け回り、夜は原稿に打ち込んでいた日のこと。
意地でも朝まで眠ってやる、と頑張って目をつぶってみたが。
「重いっ! 苦しい!」
首元になにか圧迫感を覚えて、異物を勢いよく腕ではねのけて目を開けた。
「痛たた……なっちゃん、乱暴やで」
「小次郎!」
暗がりではっきりは見えないが、小次郎が腕をさすっているところからすると、異物はそれだったようだ。
枕元の時計を見ると、時刻は午前五時。
「ていうか、いつの間に帰ってきたんよ」
すっかり目が覚めてしまい、身体を起こしてぺたんと座った。
気まずそうに小次郎もあぐらをかいて向き直る。
「さっき」
「さっき? こんな時間に?」
「高速バス乗って、バス停からここまで歩いてきたら今になったいうわけや」
「歩いてって」
「まだ電車もあらへん時間やで、面白いから線路歩いて、ほれ」
最寄駅の名を言って、へへへと笑う。
いたずらが成功した子どもか、とがっくり肩を落としかけて。
懐かしい映画のワンシーンを思い出した。
まあ、帰ってきたからいいか。
「とりあえず、おかえり」
でもなんといっても眠い!と布団にもぐり込む体勢になる。
「なっちゃん、あのなあ」
「ん?」
「もう出てけ思ったときは、ちゃんとそう言ってくれて構わんで」
「……はぁ? あんた、なに言ってんの」
身体を倒しかけた、半ば寝る格好のままで呆気に取られる。
薄闇の中、なんだかしょんぼりと情けない顔をした小次郎が自分を見ている。
中途半端な体勢のせいで、職業病の肩こりと腰痛が一気に襲ってきた。
「あいたた……」
「えっ! なんや痛そうやけど大丈夫なんか?」
「んー、まあなんとか」
よいしょ、とまた身体を起こして、肩をさすって軽く舌打ちする。
―原稿終えた後にマッサージしてもらわなかったからだ。
「あのね、いつあたしが出てってほしい思うような言動に出た?」
「いや、その」
「手紙のせい?」
ストレートに聞くと、小次郎はさっと目を逸らして、頭をぽりぽりと掻いた。
その判りやすさに肩の痛みも忘れて、思わず笑ってしまった。
「笑うとこやないやろー。あれ前付き合ってた男なんやろ、より戻したいとかそういうんやろどうせ」
「そんなわけあらへんわ、今さら」
「昔の男ってのはほんまなんか」
ぷい、とそっぽ向かれたまま聞かれて、小さく頷いた。
「そうね、当たってる」
もうずっと昔すぎて顔も覚えてない、と言うと、横目でちらりと視線が向けられた。
お菓子を出されて機嫌の直りかけた子どものような表情に、頬が緩む。
こんな男が自分に惚れてくれて、しかも一緒に暮らしている、今。
声を上げて世界中あらゆるものに感謝したいと思ってるなんて、恥ずかしくて言えないけど。
「映像関係の仕事してて、こないだ自主制作で映画作ったら賞取ったっていうのよ」
その上映会の招待と、ついでにどこかで記事にしてくれないかという依頼だったのだと告げた。

391:あるくみち 4
08/06/22 00:57:24 TSTv6oRe
「ちなみに! その作品で主演した女優さんと去年結婚したんだって」
「ほー、結婚……」
「小次郎が心配するようなこと、なにもないんだから」
「ははっ、なんやそんな内容だったんかぁ。まぎらわしいのう」
「あんたが早とちりしたんやないの」
ふふっと笑ってから、思いついたことを聞いてみる。
「ねえ、嫉妬した?」
「はあっ?」
「したでしょ? だから夜に宝くじなんて口実作って出てったんでしょ」
「してませんよーだ。ほんまに宝くじ買いに行こう思っただけやで」
くだらない言い合いをしながら、ごろんと寝そべった。
慣れた手つきで小次郎がマッサージをしてくれて、肩こりやら腰痛やら不安やらが消えていって。
心地よさに半ばウトウトしていると、色んなことがどうでもよくなった。
「絶対、わしも二百万当てたるからな」
「ほんまに絶対当ててみせてよね」
夜明けまで、あと少し。
シングルベッドでふたり、寄り添ってもう一眠り。
こんな日常が続くなら、結婚なんて形態にこだわらなくてもいいかなと思う。
ぼんやりと考えているうちに意識が落ちていった。
そうしてまた浅い眠りの世界に戻って、夢を見た。
小次郎と手をつないで、真夜中ふたりで線路をどこまでも歩いている。
少しずつ空が明るくなって、線路を出て、一面の緑の中を朝日に向かってさらに進む。
光に溢れて、眩しくて、どこまでも歩いていけそうで。
―こんな風に、人生も歩いていくのだろう。


 <終>

392:名無しさん@ピンキー
08/06/22 02:00:12 Ib+0plwW
GJ!!
あたたかくてとても素敵でした!
小次郎いつまでも子供みたいで、それがまた小次郎らしいね。
変なカップルだったけどw、何気に見ていて一番安心できる
カップルでもあったなあ。

393:名無しさん@ピンキー
08/06/22 12:51:23 tsg3pfpd
>>387
GJ!
雨の日に爽やかなCPが読めてとっても良かったです。
奈津子さんに弱気な小次郎おじちゃんと、
そんなおじちゃんにメロメロな奈津子さんえーなー。
なんかもうどこまでも手ぇ繋いで歩いていったらええねん!

394:名無しさん@ピンキー
08/06/22 18:56:44 td63eEja
>>387
GJ!
小次郎おじちゃんも奈津子さんもかわいくて、すごくよかったです!!
二人ともお互いが大好きなんだろうなぁ、って感じがにじみ出てて、ほんわかした気持ちになりました。

395:名無しさん@ピンキー
08/06/24 02:57:34 XTW1tREJ
発作的投下失礼します。
年季明けのかかった天狗座の一門会後の設定で独身の兄弟子三人→若狭。
一部エロ妄想ありです。

396:ハーレクインどもの夜(延陽伯の上階)
08/06/24 02:58:46 XTW1tREJ

眠れぬ夜は、つらつらと妹弟子の姿を思い浮かべる。

三年前、十九で入門してから酒も煙草も色恋も禁じられ、ひたすら内弟子修行に励む
色気の欠片も無い子どもは、気がつけば密やかに女に育っていた。
いつまでたっても垢抜けない衣服の下に豊かな乳房と細い腰と
形の良い尻を持っていることを俺は知っている。
そして、その身はまだ男を知らずにいることを。

白く肌理細かな肌は触り心地が良さそうだ。
柔らかな少し癖のある髪。長い睫毛に縁取られた大きな瞳。
ぷくんと膨らむ薄紅の唇。まるい頬。
あの少女のように愛らしい顔が俺に向けられ、少しはにかんで俺の名を呼び、
俺の腕の中で情欲に濡れてゆく。
―四草、兄さん…
甘い声を思い描いた瞬間、ぞくりと背筋が震えた。
(…そんな年でもないやろ)
勃ち上がりかけたブツに自嘲し、手を伸ばす。まるで青臭いガキに戻ったようだ。
瞼を閉じ、女の姿態を呼び起こす。服を剥いだ白い裸が闇に浮かぶ。
たわわに実る乳房の先にある乳首は唇と同じ薄紅色だろう。
指を添えれば固く尖り舌で転がせばいい声で鳴くだろう。
滑らかな下腹を辿れば、髪と同じように癖のある柔らかな恥毛が茂っている。
その中に沈む小さな突起を擦れば奥の泉が溢れ出す。
充分に潤みを湛えたそこへ、猛る己を突き刺し揺さぶる。
甘い歓喜の悲鳴を脳内に響かせ、熱を解放した。

熱の引いた体を起こし後始末をする。まだ女の残像は消えない。
昨夕の一門会でのあいつは傑作だった。
直前まで無理だの何だのと騒いでいた癖に、本番では
師匠や俺たちを枕に使い、堂々と一門の露払いをしてみせた度胸の良さ。
(ほんま、ええ女になったもんや…)

一つ気になることがある。
ずっとをあの女を追っていた兄弟子のみならず、鈍感な想われ男まで
最近、もの欲しげな目であいつを見るようになった。
―あのガキどもに渡してしまうのは少々惜しい。

一門会の高座をやり遂げたあいつの年季明けは、師匠の宣言通り今年の大晦日まで。
内弟子部屋を出、師匠とも想う兄弟子とも離れて暮らすようになる。
大して収入も無い妹弟子を、兄弟子の俺が食事に誘うのはごく自然のことだ。
(…天満で飯でも奢ってやるか)
純真無垢な女に、絵空事でない色恋を教えるのもまた一興。
まずはこの俺を、ただの兄弟子では無くお前を狙う男の一人だと判らせてやろう。

算段はついたか、平兵衛?

397:ハーレクインどもの夜(マンションの一室)
08/06/24 02:59:28 XTW1tREJ

喉の渇きで目覚めて、ガンガンと唸る頭を持ち上げてベッドを抜け出す午前三時。
(たた…完全に飲み過ぎ、や)
ほうほうの体で辿り着いた洗面所で口を濯ぎ、流れる水を顔にかける。

六年ぶりの一門会は大盛況に終った。
徒然亭一門は晴れて天狗芸能傘下の落語家として大手を振って歩いて行ける。
父も、草原兄さんも、草々も、四草も。
そして、年明けから一人前の落語家として巣立ってゆく喜代美ちゃんも。
だけど、俺は。
タレント活動にも陰りが見え、落語家としてもうだつの上がらない俺は。

冷たい部屋の空気は酔いの醒めた体になおさら寒い。
唯一の温もりが、己の体温を移した布団だけというのがなんとも惨めだ。
嫌でも孤独を実感してしまう、こんな夜は。
考えまいとしているあのことに頭が向いてしまう。

―この部屋に、喜代美ちゃんがいてくれたら。

あまりにも現実味の無い願望。あの子は、残酷なまでに草々しか見ていない。
一度きりの抱擁は、あの子の冷たい目とともに突き放された。
思い出すだけでキリキリと心の臓が痛む。
それなのに、手酷く拒絶されたというのに俺の腕は
浅ましくも抱き締めたあの子の感触を忘れられない。
あの子の小さくて温かくて柔らかな体。
ふわんと仄かに甘い、いい匂いのする女の子の体。
俺を突き飛ばした筈の細い腕は、俺の背にまわりぎゅっと抱き締めてくれる。
俺の大好きな可愛い顔で俺を見上げて微笑んでくれる。
ぴったりとくっついた体が下からとろとろに溶けて混ざりあって。
蕩けるような快感が全身を貫き、くすぐったいキスを何度も何度も交わして。
―小草若、兄さん…

なんて幸福で愚かで空虚な妄想。

それでも俺は、一縷の望みに縋ってしまう。
母も、父も、落語も。
俺の欲しかったものは全てあいつに奪われてしまった。
せめて、あの子だけは。

あの子があいつを見なくなる日なんて来るのだろうか。
まして、俺に振り向いてくれる日なんて。
ベッドに戻り、冷えた布団の中でまんじりともせず考える。
年が明ければ、あの子はあの部屋を出る。やっとあいつから離れられる。
あの子がここへ来てくれたら。俺はやって行けそうな気がする。
ふたりで力を合わせて、辛い時間も乗り越えられそうな気がする。
例え勝機は儚くても、あの子の笑顔が手に入るのなら。
俺は最後の希望に掛けよう。

それが、この永い恋の敗北だとしても。

398:ハーレクインどもの夜(草若邸内弟子部屋)
08/06/24 03:00:09 XTW1tREJ

夢を見た。

独りぼっちで闇の中に取り残される、あれは幼い俺。
泣きじゃくりながら、それでも叶わぬ恋をするように光を求めて彷徨う。
ふいに、暗闇の中で俺は温かくて柔らかなものに引き寄せられた。
淡く光を纏うそれは、人の、若い女の像を結ぶ。
そのかたちは俺のよく知る娘の姿となる。
(わ、かさ…?)
俺を安心させるかのように、ふわりと微笑んだ彼女は
腿の上に小さな俺を乗せ、ふくよかな胸に俺を抱く。
―独りには、させません
冷たく濡れる俺の頬に温かな唇が落ちて、流れる涙をそっと吸いあげる。
まるで、慈母。
彼女の胸の中で俺は、やっと見つけた光に包まれる幸せを感じていた。
―草々、兄さん…

ぽかりと目が開いた闇の中、見知った天井にそっと息を吐く。
(今の夢…)
あれは紛れも無い、つい先日にあった記憶の残滓。
師匠に破門を宣告されて、当ても無く独り日雇いの仕事に就いていた俺を
単身迎えに来てくれた妹弟子。
あの時、朝の光の中にいた若狭に包み込まれるように見つめられて
俺の中に満ちてきた思いは、あれは。

出会ってから三年。
気がつけばいつも俺の傍らに若狭がいた。
桜の映える春も。焼けつく空の夏も。紅葉の照る秋も。木枯しの吹く冬も。
巡る季節を続く日々を若狭とともに過ごしていた。

首を回らせ、薄い壁を見る。
腕一本は優に入る穴。そこは一枚のカレンダーで塞がれているだけだ。
その向こうにあの娘がいる。
若狭がここにいるのもあと僅かだ。年季が明ければ内弟子は皆、師匠の家を出る。
当たり前のことだ。
だが、隣室で眠る娘がここを去るのは奇妙に不自然に思えてならない。

今まで意識したことも無かったが、若狭ももう二十一だ。
年季明けにはちょうど二十二になる。
二十二の若い女の一人暮らし。
俺や師匠の目を離れた途端、妙な男が近付くかも知れない。
不吉な予測に鮮明な映像が浮かぶ。
誰とも知らない男が若狭の横にいる。若狭が男に寄り添う。
男はあの小さな肩を抱き、まるい顎を持ち上げそして淫らな口づけを―
やめろ、触るな、そいつは俺の―俺の大事な―
(若狭は、俺の、何や?)

体を起こし、薄い壁に凭れる。若狭の寝息を感じようと息を殺す。
しかし、隔てられた距離はあまりに遠い。
布団を抜けた俺に、しんしんと冷気が忍び寄る。
あの温かな光が恋しい。闇の中で俺を包んでくれた光。

…若狭。

399:名無しさん@ピンキー
08/06/24 10:40:05 SaUbqyIP
うおお、カッコいい!
三者三様の愛情がグッときた!!
GJっす!

400:名無しさん@ピンキー
08/06/24 23:07:25 Ypf+p1q+
わー。
このところ新作少なかったから、コジロウナツコも三者も嬉しい。
どっちもGJです。うう、新作うれしいよ。

DVD2も出たし、また投下いっぱいあると良いなあ。

401:名無しさん@ピンキー
08/06/25 01:42:28 vVvX/DdF
>>395
発作的にこれだけ書けるってすごい…GJです
副題も凝ってるなぁ
四草パートの色男らしい締め方と、小草若パートの覚悟を決めた締め方に特にやられた~

402:名無しさん@ピンキー
08/06/25 02:26:03 avpt41ff
>>387 GJ!
ナツコジええなあ~破れ鍋に綴じ蓋CPは最高に萌えなんだぜ
ビジュアルも対照的なのがさらに良v

ところでハーレクインていうとか○くりサーカスの
ヒロインに横恋慕してた関西弁の自動人形が真っ先に浮かんでしまうね…

403:名無しさん@ピンキー
08/06/25 03:52:46 tJjq62Eg
>>402藻ちょっと詳しく知りたい。関西弁の自動人形。

404:名無しさん@ピンキー
08/06/25 12:30:34 pFLv8Xas
>>396
年季明けでいきなり人妻になっちゃった喜代美に
寝床で昼ごはん奢らせたのは
  そ  の  せ  い  か  !

405:名無しさん@ピンキー
08/06/25 22:21:08 FUYIRgKJ
>>395
GJ!!!
それぞれ特徴が出ていて上手いですね~。
ホント、発作的とは思えない完成度の高さです。
四草が一番ムッツリなのがウケましたw
また期待しております!

406:名無しさん@ピンキー
08/06/26 22:54:48 Y6tnOYQO
このスレで四草=ムッツリが刷り込まれたせいで
DVDの四の視線がヨコシマなもんに見えて困る

407:名無しさん@ピンキー
08/06/27 00:25:22 q8fZ0cqT
ようやっとDVD3巻と4巻をレンタルできた
これはたまらん(´Д`;)ハァハァ
消えかけてた火がまた灯っちゃったよ
職人さんたちもDVDで充電してまた戻ってきてください

408:名無しさん@ピンキー
08/06/28 11:44:40 +VhnyFcc
自分はダメだ
小草若が可哀想杉で
エロ妄想どころじゃないよ

DVD3が出ないと
ゆっくり妄想も出来やしねぇ

409:名無しさん@ピンキー
08/06/29 12:28:20 0mH51FMq
保守がわりに偏った趣味全開のギャグネタ投下で失礼します。
「聞かぬは一生の箸」に出てきた小浜市民会館の落語会のチラシの名前を
若狭と同期の若手落語家じゃないかな?と勝手に思った妄想の産物です。
設定は若狭新婚の年の夏で海ネタです。

410:夏のビーチの開放感はハンパねえ1
08/06/29 12:28:59 0mH51FMq
万葉亭柳笑、土佐屋尊朝、鏡福々。
聞き慣れない名前かも知れませんが、しばしのお付き合いをお願いします。

僕らは平均年齢23.5才。
万葉亭一門、土佐屋一門、鏡一門。
上方落語の名門の末席を汚します、年季明け1年未満の超・若手落語家なんです。
未来の上方落語界を担う期待の新星たち…と言えば聞こえは良いけど
金無し。芸無し。仕事無し。
それぞれ一門の兄弟子たちに日々こき使われるぺーぺーなのです。
そんな僕らの同期にいるのが徒然亭一門の紅一点、末っ子弟子の徒然亭若狭。
上方で数少ない女噺家の中でも彼女は出色だったりします。
なにってビジュアルが。
落語家だってのに彼女はちょっとしたアイドル並にカワイイんです。
年齢は僕らとほぼ同じ22才なんですけど、
黙っていれば10代でも余裕で通るくらいの童顔。
ちっちゃくて色白で大きな瞳に愛らしい唇。
にこって笑うとその目がきゅってなくなるのがまた可愛くて。
そんでもってかくれ巨乳!
唯一の汚点と言えば。
「これで人妻や無かったらなぁ…」
そう。彼女は同期で唯一の既婚者なんです。
なんせ年季明け早々、同門の兄弟子に手ぇ付けられてしまったもんですから。
それも女食いで有名な四草兄さんでは無く、落語バカの草々兄さんに。

年明けまで天狗芸能に半分干され状態にあった徒然亭一門にいては
同期とはいえ、他一門の人間は彼女に近付く機会はなかなか無くて。
まして内弟子修行中の身ならなおさらで。
歯がみする思いで年季明けするを待っていたというのに、この仕打ち。
落語の神様、僕らのことお嫌いですか?

そうは言っても同期の僕らは一人立ちとなった今、
彼女と仕事で一緒になる機会も増えたわけで。
で、人妻とはいえやっぱりカワイイ女の子と仲良くなれるのは嬉しいわけで。
そりゃ兄さんの女に手ぇ出すなんて仁義に反することしでかしたら
この業界で生きていけないことはわかってますけど、
ちょっとくらい親しくなってもええと思うんですよ同期としては。
そんなわけで僕ら3人、徒然亭の若狭ちゃんと一緒の仕事があれば
一にも二もなく飛び付くようになってたんです。
まあ、仕事選ぶ余裕なんて無いからけっこうギリギリなんですけど。
辛くて厳しい内弟子修行をやっと終えた今、
このくらいの楽しみがあったってバチは当たらないと思うんです。
そうやないですか神様?僕ら間違ってませんよね?

411:夏のビーチの開放感はハンパねえ2
08/06/29 12:29:34 0mH51FMq
青い海。白い砂浜。眩しい太陽。
なにより、うるさい兄弟子連中がいない開放的空間!

本日の営業は、天狗芸能所属タレントさんのビーチイベントの司会&前説という
別に落語家でなくてもええやん的お仕事だったけど、文句は言いっこ無し。
なんたって今回のこの仕事、イベントアシスタントが若狭ちゃんなんです!
年明けから数ヶ月、テレビタレントをしていた若狭ちゃんは
落語家に専念するようになった今でも、知名度はバツグンなわけで。
この手のイベントには引っ張りだこだったりするんです。
ビーチイベント=海水浴場。
打ち上げは当然、この海岸で!もちろん若狭ちゃんも一緒に!
僕らにとってのメインイベントはむしろこっち、みたいな?
それを思えば炎天下の元、汗まみれの砂まみれで走り回る苦労もなんのその。
「お疲れさまです!」
「はい、お疲れ」
ビーチイベントは大盛り上がりの中、無事終了。
渡されたわずかなギャラを握り締めた僕らは、いよいよ本日のメインイベント
『徒然亭若狭ちゃんと打ち上げパーティー』に向けて闘志を燃やしてました。

「へ?ここで打ち上げやるん?」
とっくに帰り支度をしていた若狭ちゃんを呼び止めて、準備開始。
「そそ。まだ日ぃも高いし、せっかく海に来てるんやし」
「こうやって同期の僕らだけで集まるのも滅多にないやろ?」
「若狭ちゃんとこの草々兄さん、今日は泊まりで落語会やて聞いたで」
もちろんこれはリサーチ済みの情報。主役に帰られたら元も子もない。
う~ん…てちょっと考えていた若狭ちゃんだけど。
「そやね。せっかくみんなで海、来てるんやもんね」
よっしゃあああ!

青い海。白い砂浜。まだまだ眩しい太陽。そして
「柳笑くん尊朝くん福々くん、こっち空いとんなるで!」
眩しい笑顔で手を振る僕らの姫君。この柔らかい福井なまりがまたカワイイ。
「こんなんやったら水着、持ってくれば良かったぁ…」
服の裾を摘んでぼやく彼女に僕らの目がキラーンと光る。
「水着やったらそこのショップに売ってるで、買うたろか?」
「ええよ、そんなん。お金もったいないし」
「ええて、せっかく海に来てるんやで?」
「僕、昔スポーツ用品店でバイトしてたからええの選んだる」
「ほやかて…」
渋る彼女に最後の駄目押し。
「実は僕らも海パン買お思てるんや。若狭ちゃんも一緒にどや?」
「あの店まとめて買うたら割引きなるらしいで」

412:夏のビーチの開放感はハンパねえ3
08/06/29 12:30:24 0mH51FMq
『割引き』『みんなで』『せっかくの海』
このフレーズが効いたみたいで、僕らは若狭ちゃんとショップに入りました。
出先の出費はかなり痛いけど、それもこれも若狭ちゃんの水着姿のため。
「う~…これにしよ」
無難にワンピを選ぼうとする若狭ちゃんを慌てて止める。
「若狭ちゃん、それ上下左右に伸びるから体型モロバレなるで」
「えええっ!そうなん?」
「そや、むしろこういうほうが目立んでええんやで?」
そう言って僕らが勧めたのはビキニ+パレオの最強コンボ。
「ほら、これ着てる人けっこういるやろ」
「ほやね~、ありがと柳笑くん」
(…やった)
言い訳するみたいだけど、僕の説明にウソは無いですよ?
ワンピ系がかえって体型目立つのは本当の話。
ただここまで来たなら、噂の若狭ちゃんの巨乳を一目拝みたい思うのは
男子としてイケナイことでしょうか?

細工は隆々、仕上げをごろうじろ。
「若狭ちゃ~ん、準備できた?」
「ん~、もうちょっと」
ビール、焼きそば、タコ焼き、イカ焼き、焼きモロコシにスイカ。
準備万端な僕らは主役の登場を今か今かと待構えてました。
僕らが若狭ちゃんに選んだのは、ホルターネックタイプのビキニとロングパレオ。
彼女の白い肌に似合う、パステルカラーの花柄プリント。
そんでもって。
「おい、アレ用意できたか?」
「ばっちりレンタルしてきたで」
鼻息も荒く引きずってきたのは、一人乗り用のバナナボート。
…えーと、白状します。
バナナボートにまたがるビキニの女の子が、どんな格好になるかは
賢明な諸兄ならご存じでしょう。
…まあ、つまりそーゆーコトです。
落語家である前に、僕らは健全な男の子なんで!
海でビキニで女の子ときたら、シタゴコロ全開になるのはしょうがない話なんで!
なにしろ、人妻な若狭ちゃんとこんな風に遊べる機会はまたと無いし、
そう思えば自然とヒートアップしてきてしまうんです僕ら。

青い海。白い砂浜。眩しい太陽。
素晴らしきかなこの開放的空間!まさにパラダイス!

「ほー…なかなか楽しそうやないか」
突然、背後から聞こえた声に僕らは一瞬で固まりました。
「またえらくハメ外したカッコしてるなお前ら」
「仕事場に海パンねえ…」
「落語家ゆうん忘れてるんちゃうか?」
…ええ、まさか思いもしませんでした。
まさかまさか大阪にいるハズの兄弟子連中が、こんなとこに現れるなんて!

413:夏のビーチの開放感はハンパねえ4
08/06/29 12:30:54 0mH51FMq
青い海。白い砂浜。眩しい太陽。

その下に現れたまるでチンピラかヤクザのような男4人。
万葉亭の柳眉兄さん。土佐屋の尊建兄さん。
そして、徒然亭の小草若兄さんに四草兄さん。
(なんで?なんでいんのこの人ら)
(今日は確か高座入ってたんちゃうの?)
僕らの心の声が聞こえたみたいにニヤリと笑う兄弟子たち。
「高座終わらしてから、お前らが心配になって見に来たったんや」
「わざわざ俺のスーパーカー!出してな」
「運転したのは僕ですけどね」
あー、小草若兄さんのスポーツカー飛ばしてきたんですか…
そのお目当ては。
「で、若狭は?」
…やっぱり。
噂では聞いていたんです。若狭ちゃんがこの兄弟子たちに可愛がられてること。
そして、草々兄さん以外にも若狭ちゃん狙いの兄さんがいたらしいということ。
だけど。
(こんなフルメンバーやなんて聞いてないで!)

マズい。非常にマズい。この人らにあの若狭ちゃんを見せてしまったら…!
「柳笑くん尊朝くん福々くん、お待たせ…てなんで兄さんらぁがおるん?」
思いっきりバッドタイミングや若狭ちゃん…
更衣室から現れて僕らと兄弟子たちの注目を集めた、その姿は。

トップスからあふれそうになっている、噂どおりの超巨乳。
きゅっとくびれたウエストに形の良いおへそ。
パレオのスリットからのぞく真っ白な太腿がまたセクシーで。
当初の予定なら大歓迎のハズやけど…

「…どうしたんや、その水着」
めっちゃ気まずい沈黙が落ちる中、口火を切ったのは
若狭ちゃんを上から下までじっくり見ていた小草若兄さん。
「あ、これ柳笑くんらぁが選んでくれたんです。昔、スポーツ用品店でバイトしてたって」
「ほー、スポーツ用品店でバイト…初耳やな」
わざとらしい感嘆の声をあげる柳眉兄さん。
若狭ちゃんんん!それ思いっきり地雷いいいっ!
「…で、そのバナナボートは?まさか若狭乗せる気ちゃうやろな?」
げえっ!尊建兄さん目敏い!
慌てて隠したけれど後の祭り。心なしか気温が下がってるよーな…
その時、一陣の風がヒューっとパレオを巻き上げて
「きゃあっ!」
めくれた下からハイレグカットのビキニパンツが。
「…ほんま、ええ趣味しとるな。お前ら」
すうっと四草兄さんの口角がV字につり上がる。
…目が笑ってない、目が笑ってないこの人おおお!

神様、落語の神様。僕らのこと本気で嫌ってます?



終了


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