ちりとてちんでエロパロ 第四席at EROPARO
ちりとてちんでエロパロ 第四席 - 暇つぶし2ch250:名無しさん@ピンキー
08/05/30 22:50:39 3lBVIgiu
しーそうそうそうこそうじゃく

なんかいい語呂

251:名無しさん@ピンキー
08/05/31 00:27:31 sQZN3CQS
キミ犯のテロップに
青木一って出てたvW

252:名無しさん@ピンキー
08/05/31 00:33:20 4uFxgpOu
自分もそれ気になったww<青/木/一

若狭が心配で忍んで出たのかと妄想しました

253:名無しさん@ピンキー
08/05/31 00:52:33 HlsRg3+v
雨続きなので思いつきで書いてみました。
小草若→喜代美、一門復活後?くらいの曖昧な時期設定。
エロなし、小草若の片想い話です。
関西弁も小浜ことばも自信ないので、おかしかったら指摘お願いします。

254:白き花の如く 1
08/05/31 00:53:08 HlsRg3+v
「喜代美ちゃーん。って、あれ?」
いつもなら稽古中でない限りは挨拶する妹弟子の声がしない。
台所をひょいと覗いたが、求める人影はいなかった。
「若狭なら買い物行っとるぞ」
代わりにぬっと出てきた大男。
草々が鬱陶しげに自分を見ながら言うのにかちんと来る。
「お前に聞いとらんわ!って、傘持ってったんかな」
梅雨の明けきらない変わりやすい空模様、小草若が到着したときに少し降り始めていた。
「あいつ出てくときは降ってなかったんやないか」
「ほな迎えに行かな」
それより稽古!という草々の声を聞き流し、いそいそと玄関へ向かう。
傘を広げ、もう一本余分に持って歩き出した。
一年で一番日の長いこの季節だが、厚い雲に覆われた空は薄暗い。
雨が上がればきれいな夕焼けが見られるかもしれない。
隣には、誰よりも大切な女の子がいたらもっといい。
静かに降り続く雨の中、緩みがちな顔を引き締めながら歩いていく。
住宅街の中の狭い道、向こうから自動車が来たので端に寄って立ち止った。
ろくにスピードを落とさず、雨粒を撒き散らしながら車は走り去っていった。
嫌な予感、と呟いて足元へ視線を落とし、裾の水はねの跡に舌打ちする。
「ちっ、ついてへんわ」
なんやねんあの車、と毒づきながら顔を上げると、雨の匂いに混じって微かな芳香。
元を探して見上げると、視界に緑と白のコントラストが飛び込んできた。
大樹に青々と茂る葉と、その隙間を埋めるかのように咲く大きな白の花。
花のひとつが両手を広げたほどもあるそれは、芳しい香りを放っている。
「この花―」
裾の汚れも忘れ、目を奪われた。
―これは泰山木いうんやで。
―タイ、サン、ボク?
―そや。木に咲く花では一番大きいで、きれいやろ。
いつか歩いていたとき、まだ手を引かれるくらいの歳の頃、父親に名を教えられた花だった。
馥郁とした香りも、子どもの目から見ても驚くほど大きな花弁も―つながれた手も。
ひとり歩いているときに思い出すには、感傷的すぎる記憶だった。
「あかん、喜代美ちゃん困っとるわ」
さっと目を逸らして灰色の道を歩き出す。
だが、霧雨に包まれてなお鮮やかな白色の花びらは、瞼の裏に焼きついて容易には離れなかった。

255:白き花の如く 2
08/05/31 00:54:11 HlsRg3+v
五分ほど歩き、角を曲がった先で視線を留める。
「喜代美ちゃん?」
スーパーの軒下、両手にビニール袋を提げて空を見上げる女の子。
途方に暮れたように、また俯いてため息をつく。
そばまで行くとようやく気付いてくれて、その顔がぱっと輝いた。
「小草若兄さん!」
―あかん、可愛い。
自分を、というより自分の手に握られているもう一本の傘を見た笑顔であっても、内心メロメロになる。
「傘持たんと出てきたんやないか思うて、迎えに来たったで~」
「助かります! ありがとうございます。忙しいのにすいません」
「ええねんええねん。ほれ、重いやろ。ひとつ持ったる」
傘を差し出す代わりに買い物袋をひとつ受け取ろうとすると、そこは不器用な喜代美のこと。
あたふたと荷物を持ち替えて受け取ろうとして、手を滑らせて。
「あっ!!」
地面に落ちる直前でキャッチしようとしたのかどうか、地面にビニール袋と喜代美が転がった。
「そこで転ぶとは、逆に器用すぎるで喜代美ちゃん……」
ああ~卵がぁ~と足元であたふたと散らばった品々を集めながら嘆く彼女に、思わず吹きだした。
周囲を歩く人の目がやや気になるが、今はそれどころではない。
自分の傘も閉じて地面に置いて、一緒に拾ってやる。
雨と泥まみれになった食材にがっくりと肩を落とす喜代美の手から買い物袋を引き取って、傘を渡した。
「ほら、あんまり遅いと師匠に叱られるで。って、雨止みそうやな」
「あ、ほんまですね」
立ち上がった喜代美を見ると、手と膝が汚れてしまっている。
すっとハンカチを差し出すと、なにからなにまですいません~と恐縮しながら受け取ってくれた。
「擦りむいたりしてへんか?大丈夫か?」
「子どもやないんやから、大丈夫ですよ」
いや、大丈夫やないから聞いとんねん、と言おうとして、やめた。
迎えに来たことか、持つ荷物が減ったことか、ハンカチ借してもらったことか。
なにが嬉しかったのか判らないが、喜代美がにっこり笑っていた。
他の兄弟弟子に邪魔されずにこの笑顔を見られただけで、来たかいあったというものだ。
「よっしゃ、帰るで喜代美ちゃん」
戻ればこの女の子の笑顔は二番弟子の大男に向けられてしまうのだから。
今くらいは独り占めしたっていいだろう。
「ほんで、今日は晩ご飯なに作るつもりなんや?」
そんな何気ない会話ひとつも、自分にとっては大切な時間なのだと、再確認しながら歩く夕暮の道。

256:白き花の如く 3
08/05/31 00:55:17 HlsRg3+v
「そや、来るときここで車に思いっきり水引っ掛けられてなぁ」
行きの途中、アクシデントの起こった場所まで戻ってきていた。
ほら、水跳ねとるやろと立ち止まって裾を指差す。
「ほんまですね。こすれば落ちる思うでえ、帰ったら洗いますね」
「ああ、ええねん。そんなつもりで言うたんやないで。そろそろクリーニング出さな思うてたとこやし」
「でもそれくらいなら」
しばしその場で押し問答して、クリーニングするからと納得してもらったそのとき。
「なんや、ええ香りしますねここ」
喜代美がきょろきょろと辺りを見回した。
―泰山木だと、すぐに気付いた。
小柄な喜代美の視界には入っていない。
「この花の匂いやで」
垣根越しの頭上を指すと、喜代美が空を仰ぐように見上げた。
雨雲が去って、沈みかけた夕陽が世界をオレンジ色に染めている。
「わあ、大きい花」
夕暮れの風の中、喜代美は微笑んだ。
ふわりと空気を孕んで、彼女のスカートが揺らめいた。
その姿ごと風にさらわれてしまいそうで、思わず手を伸ばしかけた。
―この瞬間を、一枚の絵として閉じ込めてしまえたら。
不意に、そんなことを思った。
変わらない時間、咲き続ける花を望む愚かさを知らない歳ではない。
それでも。
「小草若兄さん、きれいですね」
じっと眺めていた喜代美が、自分を振り返った。
大樹の花々はなにかを主張するように咲き誇っている。
白い花びらは夕陽に染まり、橙色の濃淡を見せていた。
「ああ、きれいやな。……きれいやで」
掛け言葉に気付くはずもなく、彼女は再び垣根越しの樹木を仰ぎ見る。
風はまた、喜代美の黒髪を乱していく。
唇に微笑を刻んで見上げているその横顔を、まばたきも忘れて見つめる。
今だけは―
目の前にいるこの子が花に見飽きるまで、この幻想のような時間に身を任せていたい。
だからどうか、美しく咲け。
少しでも、一秒でも長く。
止まない胸の痛みも愁いもなにもかも含めて。
鮮やかな白の大輪に、そっと祈った。



ゆふぐれの泰山木の白花はわれのなげきをおほふがごとし(茂吉)

257:名無しさん@ピンキー
08/05/31 00:56:45 HlsRg3+v
読んで下さった方、どうもありがとうございました。
茂吉ファンがもしいらしたら謝りますスイマセン。
しかし……キミハン見てたのにテロップに気付かなかったorz

258:名無しさん@ピンキー
08/05/31 01:09:29 fXBgCIvW
>>253 GJ~
茂吉をみて茂山吉弥と変換したのは内緒だ

259:名無しさん@ピンキー
08/05/31 01:31:02 TxK8eZqM
GJ!
優しいね。季節にもぴったりで素敵です!雨の後の夕暮れに薫る白い花と彼女と、
それにただ見とれる小草若が映像つきで目に浮かんできました。

260:名無しさん@ピンキー
08/05/31 05:48:45 NGPlwZd0
良かったなあ。
時期も今ころか。
天満宮に泰山木が
あるんかなあ。

261:名無しさん@ピンキー
08/05/31 16:03:51 0cxS/xCf
>>253
GJ!
なんという繊細な情景。
引用された詩ともあいまって、この一編のSSそのものがまるで一枚の水彩画のよう。
素晴らしい。としか言いようが無いです。

262:名無しさん@ピンキー
08/05/31 23:23:53 wbmDvAnq
GJ!綺麗にまとまってますね~
小草若ってこういう純情テイストは勿論、シリアスも本格エロもギャグも
みんな不思議と嵌まるキャラだよね。

263:名無しさん@ピンキー
08/06/01 00:54:25 9UFlRpcn
ここで空気読まずに四草もの投下しますが、始めにお断りを。
アニメxxxHoLiC主題歌19才の歌詞丸パクリという厨丸出し文なんで、
嫌悪を感じるかたはスルーお願いします。
第11週の捏造設定で若狭→草々前提の四草×若狭。エロあり。

264:四草×若狭 1
08/06/01 00:56:52 9UFlRpcn
その年の夏は、今思い返しても不快指数の高い日が続いていた記憶がある。
だからなのだろう。
あの無性に苛ついていた日々は。

茹るような蒸し暑さは午後の陽射しを一層不快なものにさせていた。
肌に纏わりつく熱気が鬱陶しい。
うんざりするようなアスファルトの照り返しに焼かれながら、天狗座からの出前を受け取りに行った俺は、
さらにうんざりするような光景と出くわす羽目になった。

兄弟子と若い女の二人連れ。それを物陰から見ている阿呆。

「なに油売ってんのや、こんなとこで」
案の定、見ているこっちが惨めになるくらい慌てふためく阿呆娘。
あまつさえご丁寧に電信柱と激突してひっくり返ってやがる。
心底うんざりして舌打ちが鳴る。
―まるで俺が転ばせたみたいやないか
呆然とへたりこむ阿呆をそのままにする訳にもゆかず。
俺はしぶしぶながらその阿呆―妹弟子の徒然亭若狭を自室へ連れ帰ることとなった。

「ほんまにすいません、四草兄さん…」
ちっこい体をさらに縮めながら俺について部屋に入って来る。
とりあえず薬箱から消毒液と軟膏を取り出し。
「腕、見せえ」
細かに擦り傷のついた白い腕に処置を施す。
びくん
痛みに震えるその身体に、顔を合わせず質問を浴びせる。
「つけてたんか、草々兄さんのこと」
「ち、違います!……お使いの途中で、偶然見てしもて…」
「で、咄嗟に隠れたと」
こくんと頷く白い顎が目に入る。
(とことん、間の悪い奴や)
妙に苛立ちが募る。

「…ありがとうございました」
礼を言って腕を引っこめる若狭を止める。
「待て、まだ足もケガしとるやろ…ジーパン脱げ」
「はあああああっ!?」
盛大に後ずさる阿呆。なに考えてんねんこいつ。
「アホ、おまえジーパンぱっつんぱっつんやから手当て出来んやないか」
「あ。ほうですね…」
えらいすいません、とぺこぺこしながら素直に脱ぎだす妹弟子。
(おまえ、目の前にいるのは棒きれかなんかとちゃうねんぞ)
自分で命じといた癖にその素直さが面白くない。
変に煩悶する俺をよそに、するすると厚手の布地が取り払われる。
下から現れる、むっちりとした太腿とすんなりと伸びる白い脛。
だぼっと垂れるシャツの裾で下着を隠し、所在無げに座り込む。
なんてことはない。
部屋に来る女で見慣れている姿だ。しかも、その女たちより数段下のガキだ。
―なにを興奮してんねん、俺は。

265:四草×若狭 2
08/06/01 01:01:23 9UFlRpcn
幸い、布に包まれていた膝はかすり傷程度で済んでいた。簡単に消毒液を吹きかける。
「ひゃっ!」
滲みるのか、ふるんと揺れる白い太腿。
今更ながら思う。
こいつが入門して随分経つが、こんなあられもない姿曝してんのはまだ誰も見たこと無いだろう。
師匠も、こいつに惚れてる兄弟子も。…あの、男も。

「なっ!なにするんですか四草兄さんっ!」
太腿に手を這わせてのしかかる俺に激しく抵抗する若狭。
その目は恐怖と困惑で揺らいでいる。
(まあ、そらそうやろな)
判ってたら、幾ら阿呆でもこんな男の部屋に来てこんな無防備な姿になってない。
なおも暴れる四肢を押さえつけ、その耳に囁く。
とっておきの毒を。

「…今頃、草々兄さんはあの女としてるんやろな」
こういうことを。

ひくん、と身を震わせて抵抗が止む。
此処ではない何処かを見つめる瞳。
「悔しくないんか?…同じ『きよみ』やのにな」
はっとしたようにみるみる潤んでゆくその目。
暗い嗜虐がじわりと拡がる。
卑劣な罠。
「…内弟子修行中は、恋愛禁止です」
最後の抗い。
「これは恋愛違う」
逃げ道を用意。
「ただの色事や」
噺家なら修行の内やで?
欺瞞。

「…あっ…はぁっ……ああ……」
もはや抗う気も失せたのか、素直に俺に従う肌。
絹のように滑らかな肌。19歳の、生娘の肌。
(処女抱くんは久し振りやな)
陶器を扱うようにそっと触れてゆく。
壊したくない。…これ以上、傷をつけたくない。
我ながら勝手な言い草だ。何も知らぬ少女を騙してこんなことをしている癖に。
(あの恐竜頭にこんな芸当出来る訳ないやろ)
あの女には一指も触れていない。賭けてもいい。
こうしたかったのだ。おまえを、俺が。
苦痛を取り除くように。緊張を解すように。ゆっくりと指を這わせる。

無垢な肌が快楽に染まる頃。
おずおずと俺の背にまわされる細い腕。
「…すき……にいさん…」
甘く、切なく、愛しげな呟き。
かっと血が滾る。鼓動が高鳴る。歓喜に身が震える。
「……すき」
今一度、甘い吐息を紡ぐ愛しい唇。
目眩がする。
ついぞ言う筈のなかった科白が知らず口を吐く。
「……喜代美」
俺もや。そう囁きかけた瞬間。
大きな瞳がはっと見開き。諦めたかのようにすぐ閉じられた。
瞳に浮かんでいた落胆の色。
違う。
こいつが抱かれているのは、俺ではない。此処にいる筈もない、あの男。

266:四草×若狭 3
08/06/01 01:02:38 9UFlRpcn
冷静になってみれば至極当然のことだ。
あれほど虐げられても兄弟子を恋うているこの娘が、
たかが肌を合わせたくらいで心移りする筈もない。
(…おまえ騙した報いやな)
こんな年端もゆかぬガキの言動に一喜一憂する己が滑稽だ。

腕の中の少女を見下ろす。
半裸に乱れて露わになる白い肌は薄紅色に染まり、蒸れて女の香が立ち上ぼる。
このまま帰すのか。
あの男の元へ。
この女に想われる価値も判らぬ男の元へ。
否。
答は否、だ。

「ああ…っ!…やあっ……!」
申し訳程度に引っ掛かっていたシャツを剥ぎ、ブラをむき、白い果実に喰らいつく。
あの野暮ったい身形からは想像もつかないほど艶めかしい女の正体。
柔らかく弾んでは包み込み、俺を誘う。蠱惑する。
(これが、ほんまのおまえなんか)
零れ出る嬌声を押し殺そうと、赤く熟れた唇を噛む少女。
傷になるのを恐れて咄嗟に己のそれで塞いだ俺は。

―ああ…
その甘やかな感触に囚われる。熱い吐息が絡む濡れた唇。
重ねるだけでこの身を蕩かすそれは、無情にも俺以外の男の名を紡ごうとする。
それを封じる為に深く舌を捩じ込む。
愚行。
閉じられた瞳は俺を映すことなど無い。
その瞳を抉じ開ける為に、張り付いた最後の下着に指をかける。
びくりと見開かれた恋しい瞳は、俺を映して怯える。
求めるものとはかけ離れた現実。
「しい、そう、にいさ…!」
「濡れたパンツ穿いて帰りたないやろ?」
布の下の蜜を指の腹でつっとなぞり。
「――ッ!」
くぷ、と浅く指を沈め震える少女に突き付ける。
「判るか?…ここに、入れるんや」
男のアレを。

丹念に解した未通の箇所がしとどに濡れる。腕の中の憐れな獲物は既に忘我の境地だ。
手早く服を脱ぎ、尻ポケットに突っ込んでいた財布からゴムを取り出し。
袋を破って少女の小さな口に押し込む。
「っん……?」
「初めては痛いからな…ようしゃぶっとけ」
何を強いられているのか漸く合点がいったらしい。悲痛に揺れる瞳。
それでも言われるまま舌を絡める従順を哀しく思う。
無垢な少女の唾液に濡れたそれを嵌め、その身に押し入る。
圧迫に軋む少女の純潔。愚劣な征服欲に満たされる己を嘲笑い、果てる。


全てが終り。
力無く横たわる白い裸身が呟く。
「…色事も修行の内、なんですよね」
俺に向けられる何も映さぬ瞳。
「またこの部屋来てもええですか…四草兄さん」

267:四草×若狭 4
08/06/01 01:08:08 9UFlRpcn
苛立っていた。何もかもに。
鬱陶しい残暑の熱。
算段の平兵衛を教えてくれない師匠。
そして。
俺の嘘に乗っかる体裁を取り、この部屋に来る妹弟子。

「あっ…はぁんっ…ああ……んっ」
貪婪な若い肌は瞬く間に快楽を得て、溺れ耽る。
俺はただ一個の性具となり、女の欲を満たす。
勘違いしてはいけない。
これは情交などではない。妹弟子の自慰に付合っているだけだ。
瞼を閉じてその裏に愛しい男を映す、情欲に濡れた艶めかしい媚態。
囚われそうになる恋慕に気付かないふりをする。ただ行為に集中する。
考えるな。
目ヲ開ケテクレ
俺ヲ見テクレ
今オマエヲ抱イテイルノハ誰ナノカ
オマエヲ欲ッシテイルノハ誰ナノカ
俺ハズットオマエヲ―
五月蠅い。
羽虫のように繰り返す耳鳴りを振り払う。
愛撫の指に一層力を込めた時。
「―そう、にいさん……」
一瞬、呼ばれたのかと錯覚する。
判っている。九分九厘無い。
それでも、しっかりおっ勃っている己が無様だ。
戒めるように、熟した唇へ齧り付く。暖かな感触に身が千切れるほど痛む。
―これは、俺への罰や。
叶う筈も無い愚かな欲望のままに、無垢な少女を蹂躙した己への。
「…どうして」
ふいに。離れた唇が開き、問いかけてきた。
この、俺に。
「どうして、キスしてくれなるんですか…」
四草兄さん。
「…なにひとつ出来ひん、私に」
(…おまえこそ、その唇に毒塗ってこの部屋に来てるやろ)
でなければ説明がつかない。
こんなガキのキスひとつで、身体も脳も溶けてしまいそうなこの俺の。

唇はなおも言葉を紡ぐ。切れ切れに。
「…厭やのに」
こんな気持ちも。
こんな毎日も。
「…四草兄さん」
兄さんを、こんなことに利用してる、汚い私も。
「……喋るな」
頼むから、もうこれ以上。
俺もおまえも。
汚れてる魂だけを取り除くのが無理なら、何処へ向かって歩けば良いというのだろう。
宙ぶらりんな嘘と偽りの恋を抱えたままで。

ただ無心に、乳房を吸う。ただ無心に、蜜を啜る。
白く滑らかな19歳の肌を存分に味わう。
細い指が髪に絡む。白い腕が首にまわる。舌を絡める。唾液が交わる。
無言で膝を割る。女の腰があがる。誘い込まれる。
身を進めながら今一度、己に言い聞かせる。
(これは恋愛違う)
(…ただの色事や)
原始の雄と雌に返り、互いを貪る。後はただ、背中のふたつある獣。

268:四草×若狭 5
08/06/01 01:08:47 9UFlRpcn
その夜の寝床寄席は散々なものだった。
まず、二人の兄弟子が直前に喧嘩を始めて出番を削られ。
急遽三人会となった本番で、俺の高座はボロボロに終った。
師匠に無断でかけた算段の平兵衛。…あいつが見ていなかったのが唯一の救いだ。
激怒した草原兄さんが冷えきった客席を盛り返し、師匠に繋げて幕を引いたが。

「今日はもう遅い。話は明日や」
いつの間にか師匠の隣に来ていた妹弟子を横目に、お疲れ様でしたと頭を下げて帰路につく。
(…破門、か)
そんな考えがちらちら脳裏を掠める。
それもいいかもしれない。どうしようも無い想いを抱えたまま、半端な落語を続けるよりは。
埒も無いことを自問しつつ自宅に帰り着いた俺は。
「お疲れ様でした」
部屋の前に佇む妹弟子に無言でドアを開けた。

「遅かったですね四草兄さん、どこか寄りなったんですか?」
それには答えず逆に聞く。
「…なんで来た」
よもや俺に抱かれる為ではあるまい。何故かそう直感した。
「四草兄さんにお礼言わな思って」
寝床に居た時は気付かなかったが、彼女は妙に晴れ晴れとした顔をしていた。

「今日、エーコに会いに行っとったんです」
エーコ。彼女の幼馴染みの恋敵。
「…全部、ぶちまけて来ました。私の汚い気持ちも、全部。ほんで」
東京には行かんといて。草々さんの側におったげて。
「そう、言いに」
「ええんか、それで」
「…悔しいです。今は悔しい」
でも、胸はって生きたいから。草々兄さんの前でも。エーコの前でも。
「四草兄さんの、前でも」
その吹っ切れた表情は、今まで見た中で一番美しいと思った。

「…もう、ここ来る必要ないな」
「ご迷惑、おかけしました」
「別に、なんでもないことや」
嘯く俺に彼女は囁いた。
とっておきの毒を。
「四草兄さんには、沢山の女の人のひとりなんやろけど」
―私には、初めての男のひとやから。
唇に落とされた、甘やかな感触。

去って行く女を見送りながら、ぼんやりと考える。
何故、抱き締めなかった。何故、引き止めなかった。
さもしい未練。
「…下らない」
最初から判りきっていたことではないか。この結末は。

「ク、ク、ク、クダラナイ クダラナイ」
俺の呟きの何がそんなに気に入ったのか、籠の中の平兵衛が高らかに鳴く。
「言うな平兵衛」
黒く誇らしげな羽を撫でて彼に告げる。
「こんな人生がええんや…俺は」



〈幕〉

269:名無しさん@ピンキー
08/06/01 01:24:20 jxRzgGvz
GJ!!!!

久しぶりの四草×若狭で萌えた!

270:名無しさん@ピンキー
08/06/01 02:18:03 kqIEK1k2
>>263
GJ!!
久々のCPにwktkして投下完了待ってました!
3で終わりか…と思ったら続いていてしっかり完結、しかも本編生かしつつ…すばらしいです
性描写が新鮮
共犯ってのもいい
女に対して(苦悩しつつも)とにかくかっこいい四の話が好きだー
また投下してください!

271:名無しさん@ピンキー
08/06/01 04:03:47 95tNZpqj
GJです!!
読みながら本当、ドキドキしました…。
クールな描写&四草×喜代美独特の背徳感に惚れ惚れ。
また楽しみにさせて頂いております。


272:名無しさん@ピンキー
08/06/01 10:27:17 jgwHJOvg
GJ
いつもながら四草の熟達っぷりには脱帽
裸見ただけで他の事が頭から飛んでしまう人種には、遠い道のりだよなあ…

273:名無しさん@ピンキー
08/06/01 18:30:12 95tNZpqj
本当に素敵な話の後で恐縮ですが、小草々→若狭投下します。
時期は小草若が失踪から復帰した年の夏あたり。
小ネタ系でエロなし。なのに何でか長いです。
お暇つぶしに、よろしければドゾ。

274:小草々→喜代美 1
08/06/01 18:31:35 95tNZpqj

「さ、師匠どうぞもう一献!」
「あ、ああ。おおきに」

草々の盃が空くや否や、小草々がさっと酒を満たす。

「ささ、どうぞ!あ、おつまみ足りませんね。何にしましょ?」
にこにこと笑いながらも、小草々は気遣いを忘れない。

「あ、すみません草々兄さん…私気ぃつかんでぇ…」
「ホンマ小草々は気ぃがきくっちゅうか、底抜けに抜かりないな~」
「目ざといっちゅうか、計算高いんでしょ」

ここは寝床。久しぶりに一門揃っての夏の酒盛りの真っ最中。
家族の待つ草原兄さんは、酒に後ろ髪をひかれつつも家へ帰り、皆程よく酒が回り
落語以外の話にも舌が軽くなり始めた頃合いである。

「で…何の話やったっけ?」

すでに少し呂律の回らなくなりかけた草々が、真っ赤な顔で盃に手を伸ばす。

「やだなあ師匠!おかみさんとのな・れ・そ・めの話ですよ~!」
小草々が明るく笑う。その顔には『興味津々』とでかでかと書かれているかのよう。
「なれそめ言うても…、、もともと若狭が師匠んとこ来て…なぁ若狭?」
振られた若狭は、真っ赤な顔でうつむく。
(可愛ええなぁ…)
そんな某数名の心の声はさておき。
「ほぅですよね…、、私が草々兄さんのこと好きになってぇ…片思いでぇ…
 って何でこんな話しとりなるんですか!恥ずかしいやないですか!きゃあ!」
酔っ払ってはいてもあんまりの恥ずかしさに限界を超えたのか、若狭は突然立ち上がる。
「ごめんなさい!だいぶ酔うたみたいやでぇ、ちょっと外で頭、冷やしてきますさけ!」
言い残して、ぱたぱたと慌しく駆け出して行ってしまった…。

残された男4人。あっけにとられてその小さな後姿を見送る。



275:小草々→喜代美 2
08/06/01 18:32:15 95tNZpqj

そやけど、と酒をあおりながら口を開いたのは小草若。
「若狭がお前のこと好きやったんはともかく、お前がいつから何で若狭に惚れたんか、
 底抜けに俺も疑問やってん。」
なんでや?と物問いたげな目を草々に送る。
「ああ…、、俺が破門になって、京都の北の町で土方やっとった時、な…」
そこまで言って、草々は果たして口にして良いものかと少し迷う。
今日は…どうも酒を飲みすぎたらしい。自分でもずいぶんと口が軽いなと思う。
「なんやなんや!そこで止めるんかい!底抜けに気になるがな!」
「そうですよ師匠!あ!お酒足りませんか?さささ、どうぞ!」
「…」
徳利を手にしようとした小草々を制するように、四草は黙って草々の盃に酒を注ぐ。
…どうやら聞きたいようである。
期待に満ちた眼差しと無言の圧力。草々はぐいっと酒をあおり。

「雨に濡れて俺、風邪ひいてもて。廃屋で一人熱にうなされとったんや。
 親父の形見の座布団は犬にかじられるし、なんや一人やいうんを身にしみて感じとって…。
 で、その晩、夢見たんや。何やあったかいもんが、ずうっと側におってくれて。
 俺は一人やない言うてくれて…。おかみさん、みたいなあったかさやった。」

そこまで話して、草々は少し後悔する。やっぱり話すべきやなかったんやないかと。
これは、誰にも話したことない、若狭と自分だけの…思い出。
けれど、酒にしびれた頭は言うことを聞いてくれず、舌が勝手に回り続ける。
…ええい、ままよ!

「目ぇ覚めたら…若狭が微笑んどって。いっつもあんなおどおどしとるのに、なんや包み込むみたいな…
 そんな微笑で見とったんや。看病してくれとったんはあいつで、俺は一人やない言うてくれたんも
 あいつで…。その時…」

呂律の回らない口でひとしきり喋り終えたと思う間もなく。
「すまん若狭!」
そう一言叫んで、草々は撃沈した。どうやら酒量が臨界点を越えたらしい。


276:小草々→喜代美 3
08/06/01 18:32:55 95tNZpqj

「あああ…つぶれてまいよった。ま、俺らも初耳のそんな話するくらいやから、相当酒まわっとったんやな」
少し複雑な顔の小草若。
「それにしても、あれがきっかけやったんかあ…」
あ~あ、とため息をつく。
「俺が尊建の奴殴ったんがある意味きっかけ、みたいなもんやん…。なんちゅうこっちゃ」
あああ俺のアホ!と一人で勝手に暗くなる小草若はさておき。
「おかみさん、それまでずうっと片思いやったいうことですよね?うわ、けなげですね…」
感じ入ったように小草々がもらす。
「…相当ひどい扱い、草々兄さんにされとったけどな。俺が会った時にはもう草々兄さんに惚れとったな」
ちろり、とウーロン茶をなめながら四草が呟く。
「そうやったんか…俺かなり長いこと気づかへんかったからなあ…」
「小草若兄さん、何自分で気づいたようなこと言うてはるんですか。教えてもろてやっと知ったくせに」
「ま、そやけど…。まあそれはええがな!それにしても若狭の看病で落ちたんやなあ草々。
 俺も熱出した時一回看病してもろたけど、あの時はそれどころちゃったんやけど、
 ホンマあれは今考えると…うひょひょひょひょ!」
いきなり自分の世界に入る小草若。
はぁ、と嫌そうな顔でため息をつく四草。
「熱って、あれ仮病の時やないですか」
そう突っ込みをいれるが、妄想の世界に突入した小草若には聞こえていない。
いつの間にか、小草々も黙って…何かに思いを馳せている、ようだった。


(そっか…おかみさん、看病属性、あるんや)

「大丈夫、小草々くん?」
自分の側について、看病してくれるおかみさん。
心配そうに揺れて自分を見つめる大きな瞳。自分を気遣う言葉を紡ぐちいさな紅い唇。
額に伸ばされる白魚のような手。おかみさんの手作りの、特製病人用メニュー。
「小草々くん、食べられる?あ~ん、して…」
熱いお粥をそっとよそい、ふうふうと冷まして自分の口に…

あ~ん、と口を開きかけて、小草々は我に返った。
誰にも…見られていない。ほっと胸をなでおろす。
(アホや僕…でも。)
正直…おかみさんは、ほんま可愛い。何しろ小草々が一番年が近いという若さだし。
つまりアレだ。師匠の奥さんやのに、そんな目で見てしまう。
(アホアホ僕のアホ!師匠おかみさんほんますいません!)
でももしも、一度だけ、一度だけでもそんな風に看病してもらえたら。
(男の、ロマンや…)

よし。



277:小草々→喜代美 4
08/06/01 18:34:54 95tNZpqj

「おはよう…ございます…」
「あ、小草々くん、おはよ…ってどないしたん!?」
よろよろと入ってきた小草々の姿に、若狭は仰天して駆け寄る。
なにしろ顔は真っ赤、目はうつろで…足元はふらふらとおぼつかず、今にも倒れそう。
「風邪、引いてしもたみたいで…ホンマすみません…でも大丈夫ですから…」
そう言いながらも咳き込んで、柱にもたれかかる小草々の姿に、若狭はおろおろする。
「大丈夫やないやない!今日は家の仕事なんかええから、部屋で寝とかな!
 ええと、くすりくすり…」

おろおろと自分を心配するおかみさん。
熱でふらふらしながらも…小草々の心は浮き立っていた。
(すみませんおかみさん…こんな不埒で不肖の弟子で)
この数日、夏とは言え冷水風呂に入り裸で寝るという涙ぐましい努力の末、やっと手に入れた熱。
小草若師匠は仮病でも看病してもらえたということだが、それはあんまりにも申し訳ない。
何しろあの忙しい可愛いおかみさんに手間をかけさせるのだ。
(おかみさんに看病してもらえるんやったら、、ガチで熱、出しますて)
内弟子部屋の自分の布団で、うっとりと妄想にひたる。
なにしろ高熱。自分の体感的には39度近い…ような気がする。
熱にうかされて妄想も走る走る。

額にそっと伸ばされたおかみさんの手を引き寄せて。
驚いて自分を見つめるおかみさん。
「ごめん…なさい。熱なんて久しぶりで、なんや不安に…なってもて。こどもみたい、ですね…」
弱々しく微笑む自分。そんな自分を慈愛に満ちた微笑でつつむおかみさん。
「ええよ…それで不安やのうなるんやったら…。早う元気になってね」
自分の手をその柔らかい白い手でそっと握り返し。
もう一方の手は自分の髪を、あやすように柔らかく撫でて。
いつしか夢うつつ、優しいその膝に甘えるように頭をもたせかけ、そして。
柔らかい腿の感触を感じながら、これは熱のせいだと自分に言い聞かせながら。
おかみさんのたおやかな手にそっと口づけて――あとはその腕ごと、自分の体に引き寄せるように。


それはないやろ、と普段の自分なら冷静に突っ込みを入れるレベルの妄想にふけっていると。



278:小草々→喜代美 5
08/06/01 18:35:30 95tNZpqj

「小草々くん、、入るで?」
おかみさんの声。
「あ、はい!」
あわててにやつく頬を引き締める。
内弟子部屋の薄い戸が開いて、入ってきたのは心配そうなおかみさんと――四草師匠?
なんでなんで四草師匠?と目を白黒させる自分に、四草師匠は薄く笑った…ように見えた。

申し訳なさそうなおかみさんの声が響く。
「小草々くんが具合悪い時に、ほんま申し訳ないんやけど…今日はずしにくい高座があってぇ…」
(は…?あああああ!そやったあっっ!!!!)
「草々兄さんも今日は地方でおんならんし、高座休ましてもろて看病しようおもてたんやけど…」
(アホアホ僕のアホ!何でちゃんと日チェックせんかってん!)
「そしたら、四草兄さんがぁ、『今日は仕事ないで俺にまかせ』言うてくれなって…」
(はあああっ!?)
「そやから…困ったことあったら、四草兄さんにお願いしてな。ホンマ、こんな時に
 おかみさんらしいことできんで悪いんやけど…」
…もはや申し訳なさそうなおかみさんの声すらうつろに響く。

「ええから安心して高座勤めて来い。俺にまかしとったらええ」
四草師匠の声に、おかみさんはきまり悪げに、でも安心したようににっこりと微笑む。
「ほんま、、ありがとうございます。四草兄さんって、ほんま頼りになる…」
その時のおかみさんの、四草師匠を見つめる感謝と敬意の入り混じった目。
(四草師匠、株上げてるやん…)

その瞬間、ほとんど気を失うように、すとんと眠りに、落ちた。
…多分、落胆のあまり。



279:小草々→喜代美 6
08/06/01 18:36:09 95tNZpqj

目が覚める。
熱のせいか、心なし見慣れた部屋の風景が少しゆがんで見える。
その上入り口付近に、変な黒い塊が…。
その塊がふいにぐぐっと動いて、低い声が響く。
「目ぇ、覚めたか」
「ひぃぃぃぃっ!」

よく見ると、四草師匠だった…。
「なんちゅう声だすねん」
呆れたような四草師匠の声。あああ、おかみさんおれへんの夢やなかったんや…。
心なしか容態がひどくなったような気さえする。
「もう昼や。メシ、食べたらええ」
よく見ると、四草師匠は手にお盆を持っていて、その上では小さな土鍋が湯気を立てていた。
「男の作ったもんやで、味は保障せんけどな」
そう薄く笑う。
少し、感激した。そして後悔も少々。
(よう考えたら、僕のためにわざわざ四草師匠がおってくれとんなるんやんか…)
なのに、自分の考えたことときたら。
(ほんま、僕は修行ができてへん。四草師匠に申し訳ない…)

「四草師匠…ごはんまで。ホンマ、ありがとうございます…」
言いながらガンガンと痛む頭を抱えて起き上がり、小鍋に目を落とす。
中にはほかほかと湯気を立てる卵入り雑炊。
「ほな、お言葉に甘えて…頂きます」
さじですくい、口へと運ぶ。

「……し、四草、師匠…」

雑炊は、、、かき混ぜていないのか、生煮えとうすら焦げた部分が絶妙に入り混じり。
米から炊いたそれは、ごりごりした部分がまったりと口に残る。
そして、えもいわれぬバランスで変な味。しかも…奇妙に甘ったるい。
はっきり言って…食えたものではない。

「男の手料理やからな。塩と砂糖間違えたりしとるかもしれんし、煮具合も微妙かも
 しれんけどな。栄養は保障つきや。なんせ栄養ドリンクまで入れといたからな」

(栄養ドリンク入り、ですか…)
思わず脱力する。ふっと笑う四草師匠。間違いなく確信犯や…。
ふらふらとさじを置きかけた自分の動きを目ざとく見つけ、ぎろりとその目が鋭く光る。

「風邪はたっぷり食べな治らん。それに…まさか『わざわざ』『俺が』作ったった雑炊、
 まさか残すわけ、あらへんよな?」

凶悪な薄ら笑い。

もちろん…全部食べた。死ぬ気で。



280:小草々→喜代美 7
08/06/01 18:36:46 95tNZpqj

そんな雑炊をなんとか飲み下した後、薬をのんで横になる。早く治したい一心で。

「熱、下げるもん持ってきたで」

再び四草師匠。手にはお盆をもっている。
見ると、その上にはおしぼりと思しきタオルが鎮座し、氷嚢らしきものがのっていた。
(ごはんはあんなやったけど、こんなことまでしてくれるなんて…)
少し、感激した。そして後悔も少々。先ほどもこんなことを思ったような気がするが。
「ありがとうございます、四草師匠…」
言いかける自分の額に、四草師匠がそっとタオルを乗せる。
そのタオルは、熱に火照った自分の額を心地よく冷や…

「ぎゃあぁぁぁ!熱っ!熱っ!熱いですて!!」

恐ろしいほどの熱おしぼり。おそらく電子レンジでわざわざ作ったと思しき。

「ああ、風邪の熱は、熱をもって熱を制したらええか思うて」

…そんな話きいたことがない。

「軽い大人の冗談や。それでべたつく汗拭いて、後で着替えとけ」

(そしたら、でこに乗せたんはただの嫌がらせですやん…)
涙目になる自分に、さらにトドメ。
「氷嚢は、わきの下に入れるねん。自分で入れとけ。」
言いながら、温かい布団の中に有無を言わせず氷嚢を放り込む。

ひゃあああああああああ

声にならない小草々の悲鳴を知らぬげに、四草は涼しい顔で本棚にもたれかかる。

「熱があったら寝苦しいやろ?子供みたいやけど、話でもしたろ」
「ええええ、ええです!もうお気遣いなく!」
「遠慮するな。そやな…こんな話、どないや。ええ季節やし」

延々と聞かされたのは、四草師匠の実に実に堂に入った…古今東西凄惨極まるド怪談の数々。
自分もええ年で、怪談なんて聞かされたからてどない言うことはない。
けれど。
半端ない。出る。これは絶対、夢に出る。
熱でただでさえ悪夢を見がちな今は、確実に出る。
はっきり言って、稲川淳二より50倍くらい怖い。四草師匠の表情込みで。

―案の定昼からの睡眠は、どこまでも暗く赤くよどんだ、凄惨な血の色だった…。



281:小草々→喜代美 8
08/06/01 18:37:49 95tNZpqj

けれど、次に目が覚めた時には、ずいぶんと体が軽くなっていた。

無理にでも雑炊を体に入れて、栄養をとったせいかもしれないし。(例えあんな地獄雑炊でも)
早く治りたい一心で、しっかり睡眠をとったためかもしれないし。(そう、逃れたい一心で!)
わきの下に氷嚢をいれたのが、結構効果的だったのかもしれないし。(心臓停まるか思うたけど)
血の色によどんだ夢のせいで、寝ている最中汗だくになったためかもしれない。(死ぬほどうなされたけど)

夕方、そっと扉があいて、四草師匠が入ってくる。
「だいぶ、顔色ようなったみたいやな」
自分の顔をみて、いつもの無表情に薄い笑みをうかべる。
「明日には、熱下がるやろ」
「はい。今日はありがとう、ございました…」

去り際に、四草師匠がこちらを振り返った。
「これに懲りたら…変なことは、夢見んこっちゃな」
唇の片端を吊り上げたその顔は、もう全部お見通しといった表情で。
「…なんの、ことですか?」
かろうじてそう答えたものの、自分でも呆れるほどのスイマセン声だった。

「ま、ええわ。これで俺も病人の看病に自信ついたしな」

(…まあある意味、一日で熱引かせる腕は凄いわな…はあ)

「それにしてもガチで熱だすとはな…その根性だけは認めたる」

けれど、とその目が語る。鋭い熱を宿して。


若狭は、その程度では、渡さんで――。


***************

以上でした。
一見乱暴だけどわきの下氷嚢は効くと聞いたので、思いついた話です。効果はあるんでしょうか?
なんか…素敵な綺麗な話ばかりなのに、こんなん混ぜてすみません。

282:名無しさん@ピンキー
08/06/01 19:24:07 JiUp/MDC
>>263
>>273 どちらもほんとにGJGJです
鶴の恩返しじゃないが、見えないところで自分が痛い思いもして
本人にはけして言わないで、いろいろ守っているのが
四草はほんとに似合うなあ

やっぱ忍びの人だからかなあ

283:名無しさん@ピンキー
08/06/01 22:03:39 xRsw/mjz
>>273
GJ!
小草々vs四草第2ラウンドですね(って、前の方と違うのかな?)
小草々はちょっとかわいそうだけど、算段の四草かっこいいなぁ
そして小草若のつぶやき(尊健殴ったせいで…)に、そういやそうだったと悲しくなったorz

小さい頃高熱出したら脇の下も冷やしてましたよ
効いていたんじゃないかな…たぶん

284:名無しさん@ピンキー
08/06/01 22:12:35 cpGXnkKx
GJです
小草々対人兵器四草仕様vW
小草々の皮算用っぷりvW

旦那である草々を無視した二人の対決が
シリーズ化していくと
うれしいです

285:名無しさん@ピンキー
08/06/02 11:22:45 ta/gV+AZ
>>273
GJ!
算段vs鉄砲第二戦、四草のワンサイドっぷりに吹きました。
そんな二人の争いなぞ対岸の火事で相変わらずラブラブな草々若狭も密かに萌えです。
ところで急な熱発の場合、頭部よりもリンパ節を冷やす方が効果的なので
四草師匠の処置はまったく正しいんですよ。

286:名無しさん@ピンキー
08/06/02 11:54:40 3kZ6OwHk
.>>273
GJ! 笑わせてもらいました。
四草がネギ持ってきて、「これ尻につっこんだから熱下がるで」と
言ってきたらどねしょ、と思ってましたが、そこまで鬼ではなかった
ようで、ほっとしました。

287:名無しさん@ピンキー
08/06/02 16:09:31 SB86WRJN
>>263
>>273
GJGJ!
どちらも、すごくおもしろかったです。
どうして四草はこう、痛そうな感じが似合うんだろうか…。
小草々、もう少し精進せんと勝てんぞ~。勝てるのか??

288:名無しさん@ピンキー
08/06/02 16:18:18 SB86WRJN
空気読んでなくてすみませんが、>>91の二番煎じを投下します。
今度は小草若バージョンです。
またしてもエロなし。若狭内弟子修行中の、小草若→喜代美。

自分でも、縮小コピーみたいにになってるのはよくわかってるのですが
一緒に浮かんできてたもんで、書いてしまいました。
>>91-93から微妙に続いていますが単独でも読めます…。
ただ、同じテイスト(にしたつもり)なので、小草若が女々しいです。
お嫌な方はスルー願います。

同様に、>>78の「恋に焦がれて鳴く蝉よりも 鳴かぬ蛍が身を焦がす」からの妄想です。

289:昼蝉1(小草若→喜代美)
08/06/02 16:19:15 SB86WRJN
真夏の大阪は暑い。
刺すような太陽がアスファルトを焦がし、逃げ水がそこかしこにゆらめいていた。
「暑いですけど、ほんまにええお天気ですね~」
これくらいのほうが夏らしくてええですよね、と続ける喜代美に
「せやろ~!たまには歩くのもええよな!」
と、大きくうなずきながら小草若は答える。

うだるような暑さだったが、底抜けに青い空と輝く木々の下を歩くのは
夏を満喫できてそれなりに気分のいいものだ、と思う。
まして、喜代美と二人で歩けるのならば。

テレビの生放送が終わったのはお昼前。
その後局内で昼食をとりながら打ち合わせをし、テレビ局を出た。
珍しくあとのスケジュールがあいているから、歩いて帰ろうと提案したのは
荷物持ちとしてついて来ていた喜代美と二人で歩きたかったから。
ただ、それだけだった。
さすがに暑すぎやけどな。
小草若は苦笑する。
真夏のしかも平日の昼間、歩いているのはいかにも必要に迫られていそうな
サラリーマン風の人々ばかり。
街の雑踏と溶け合って歩くと、喜代美といることが日常のように思えてくる。
喜代美が自分の隣にいてくれることが、あたりまえのような。
ずっと、自分ともに歩いていってくれるような。
…それは錯覚に過ぎなくて、喜代美にとって自分はただの兄弟子にしか過ぎないのに。
じんじんと響く蝉の声を聞きながら、小草若は自戒する。

局に仕事で来ていた柳眉と、自分の出番が終わるのを待っていた喜代美が
話をしていたのを聞いたのは単なる偶然だった。

「若狭も大変やな。女の子やのにカバン持ちせなならんて」
まぁ内弟子やから当然なんやけど…それでもなぁ。
と穏やかないつもの笑顔で、柳眉は喜代美に話しかけていた。
「ほやけど、勉強になりますさけ」
「勉強、なぁ…」
意味ありげな柳眉の顔。
小草若は立ち聞きのようになってしまっている自分に気がつくが、
既に出るタイミングを失っていた。
…何を言いたいねん。
「ほんまなら、寄席に行くカバン持ちが一番勉強になるんやろけどなぁ、
今の徒然亭ではなかなかむつかしいやろ」
喜代美はきょとんと首を傾げている。
「3年前なら草若師匠やら草々やらのカバン持ちやったんやろけど…」
自分では不足だと言わんばかりの柳眉の言い方に、小草若は一瞬むっとしかける。
しかし喜代美の表情の揺らぎを見てとり、そんな気持ちがすっと冷えるのを感じた。

それは…予期せずその名を耳にし。
瞬間、揺らめいた感情。恋する女の。

きっと柳眉は気がつかなかっただろう。
一瞬のことだ。
しかし、自分には―
あの「女の表情」が、胸に突き刺さる。
愛しい少女が誰を思っているのか、思い知らされるから。

290:昼蝉2(小草若→喜代美)
08/06/02 16:20:30 SB86WRJN
その名だけで、喜代美の気持ちを波立たせる男…。
自分は嫉妬をすべきなのだろうか。
あの男に。
…あいつに対しては、もう嫉妬しとるんかなんやらわからんな。
小草若は自分の胸の内すらはかりかね、苦笑する。
わかっていることはただひとつ。
それが瞳に出るほど喜代美の心には草々しかいない、ということ。

ふと我に返ると、柳眉の声はまだ続いていた。
「…まぁ小草若のまわりに対する気遣いは勉強になるやろ。
あれはあれで、なかなかすぐにできることやないさかいな」
今更そんなフォローしても遅いっちゅーねん。
小草若は髪をかきあげた。
自分は見てしまったから。喜代美の瞳の揺らぎを。
だから、歩きたくなったのかもしれない。喜代美と、二人で。

「すごいセミの声ですねぇ」
喜代美が言った。蝉時雨が降り注ぎ、じりじりと夏の空気がまとわりつく。
「そういえば!」
思いだした!というように喜代美が話し出す。
「私、この前、四草にいさんにセミみたいやって言われたんです!」
「はぁ?蝉?…なんやそれ」
なんで蝉やねん。けったいなやっちゃ。
「喜代美ちゃんが蝉やなんて、またえらい可愛らしい蝉やな」

喜代美は話し始める。
…それはつい最近の出来事。
四草の落語会に喜代美も出たのは聞いていた。その帰り道でのことらしい。

「蛍がたくさんいて、ほんまに綺麗だったんです。私捕まえたくて…。
ほしたら、四草にいさんがおまえはセミみたいやなって言いなったんです。
うるさいってことや思うんですけど~」
でもセミでも蜩やったらいいなぁと思うんです~…
あ、けどぉ、徒然亭にぴったりやなとも言ってくんなりましたけど~…

喜代美の要領えないさえずりを、しかし小草若は途中から聞いていなかった。

ああ、蛍と蝉か。

四草は連想したのだろう。
恋する蝉と蛍を。
なるほどな、四草からすれば喜代美ちゃんは蛍やのうて蝉か。

四草らしい言い方やな、と小草若は思う。
"蝉のように、鳴いたらええ。はっきり好きや言うたらええ、草々にいさんに。"
案外妹弟子に甘い四草のことだ、そんなはっぱをかけたつもりなのかもしれない。
…単なる皮肉かもしれないが…。
いや、どっちにしても皮肉なこっちゃな。
ふと、おかしくなる。
色恋が禁止なのをわかっていて煽っているのだとしたら、
誰にとっても、これ以上の皮肉はない。
たとえ四草にそんなつもりはなかったとしても。

喜代美は、蝉ではなく蛍だろう。
小草若は思う。
瞳に草々への熱い思いを灯して、ふわりふわりと漂う。
恋する男へ、声に出さずに光を灯してみせる、小さな小さな蛍。
なんて愛らしく、いじらしい光。
むしろ木の上で鳴きつづける蝉は、俺の方か。
恋い焦がれて声高に鳴いてみせる。けれど…。

291:昼蝉3(小草若→喜代美)
08/06/02 16:22:34 SB86WRJN
「でもセミって」
喜代美が木を見上げて、言った。まぶしげに目を細める。
「こんなに声が聞こえるのに、どこにおるのかは見えんのですね。
木の上におるからかなあ…」
白いうなじに、真夏の太陽が反射した。
木漏れ日のなかで、喜代美の姿だけがくっきりと浮かび上がって見える。
こんなにもまぶしいのに、目を離せない自分。
「あっついからなあ、いくら蝉でも葉っぱの陰にでも隠れたいやろ」
言いながら、小草若はひそかに自嘲した。
どんなに声高に鳴いてみせても、姿の見えない蝉。
まるで自分のことのようだ。
喜代美から、自分の姿は見えない。

見つけて、自分を。
身を焦がして鳴かずにいられない、自分を見つけて。
木の葉に隠れて見えない、自分を見つけて。
焦がれて鳴く蝉のほうが、光る蛍よりも思いが弱いなんて誰が決めた?
こんなにも思っているのに―

たとえ、叶わない思いだと心の奥でわかっていても。
この娘の恋うている男はただ一人だとわかっていても。
万にひとつでもと思えば、自分は声の限りに鳴かずにはいられない。

まだ目を細めて、木の上をさがそうとしている妹弟子の姿を見ながら
小草若は思う。
見つけてもらえる日は、来るのだろうか。
その日は、この思いの終着点になるだけではないのだろうか。
見つからずに、鳴いている方が幸せなのかもしれない。
けれど…耐えきれるだろうか。

小草若は、答えの出ない思いをそっと押し込め、
いつもどおりの明るい声で、喜代美ちゃーん、と呼びかけた。
自分だけは、この名前で呼び続ける。
それが、自分の鳴き声だから。
「あっついさかい、アイス食べよ、アイス!俺が100個買うたる!
な、喜代美ちゃん!」





おしまいです。お粗末さまでした。ありがとうございました。
季節まるで無視ですみません。

292:名無しさん@ピンキー
08/06/02 22:46:40 /4QeeSsh
GJ
小草若も四草も切ないのう…


293:名無しさん@ピンキー
08/06/03 01:06:58 lhH7x5Ie
GJ
都都逸いいねー、なん通りにも解釈できるってのが魅力だ
そういや三千世界~の高杉晋作には「わしとお前は焼山葛 裏は切れれても根は切れぬ」
って色っぽい作もあるんだけど、これ恋歌に見せかけた脅迫文だったりするんだよね
(送られたのは部下の山県狂介)
昔の人は小梅ちゃんレベルに粋だわ

294:名無しさん@ピンキー
08/06/04 00:37:22 lUmpZX5+
>>288
GJ!です。
姿を見せずに焦がれて鳴く蝉=小草若
闇に紛れてその身を焦がす蛍=四草
一篇の歌から二つの叶わぬ恋路を編み出すその手腕。お見事です。
蝉も蛍も恋する娘に想いは届かないというのがまた哀しい。

295:名無しさん@ピンキー
08/06/04 00:39:35 lUmpZX5+
本日DVD発売記念、というのに託つけまして。
小草若改め四代目草若×A子ことスポンサー様のゲロ甘SS投下失礼します。エロありです。
放送終了後設定、小草若ヲタのドリーム入ってます。

296:Winding road 1
08/06/04 00:41:03 lUmpZX5+
―四代目・徒然亭草若でございます。

俺の襲名に纏わる様々なイベントも一段落し、久々の休暇を京都の古いホテルで過ごす。
若い時分はいきがって肩肘を張り、酒の味も分からなかったバーも、
漸く、落ち着いて楽しめる年齢になった。
あの頃の俺が、今の自分を見たらなんて思うだろう。
(なんやいけ好かん、スカしたおっさんやて睨んどるやろな)
青臭いかつての己を容易に想像して独り苦笑する。

「今晩は…すみません、遅くなってしもて」
「ええて。俺も今来たとこや」
隣のスツールへ約束の女性が腰をかける。
その女性―上方落語界悲願の常打小屋、ひぐらし亭のスポンサーにして
若狭塗箸製作所の女社長、和田清海。

一門の妹弟子の幼馴染みである彼女は、タレント時代の俺のアシスタントを務めていたこともあり。
交遊は実に十五年にのぼる。
十五年。この短いようで長い年月は、俺たちの関係を目まぐるしく変えていった。
彼女は、恋人であった俺の兄弟弟子と別れ東京へ旅立ち。
その兄弟弟子は、俺の想い人でもあった妹弟子と結ばれ。
東京で姿を消した彼女がまた大阪に現れ、今度はこの俺が大阪から姿を消し。
彼女と、妹弟子の故郷で再び巡り逢った俺は。

「―あの時、エーコちゃんに会えなかったら、俺はこの名前になってなかったやろな」
襲名披露の日に伝えた感謝を再度述べる。
いや、幾ら感謝をしてもし足りない。
彼女がいなければ俺は、まだどこかの路上で道に迷い続けていたのだから。

「草若さん、今夜はここに泊まってるんですよね」
俺の礼を控え目に遮ると、彼女は切れ長の目をこちらに向けた。
「お話、お部屋でしても構いません?」

「それで、話ってのはエーコちゃん…」
「草若さん、私」
澄みきった力強い瞳が俺を映す。生温いふたりの関係にピリオドを打つ予感。
「四代目・徒然亭草若の女に、相応しないですか?」

「エーコちゃん、それは…」
「言い直します」
俺の言葉を恐れるように、彼女は続ける。
「若狭塗箸製作所社長の男に相応しいんは、四代目や、ゆうことです」
俺を求める真直ぐな瞳。煌めく視線に吸い込まれる。
「…ええんか?俺で」
「私は、ひぐらし亭のスポンサーやでぇ」
悪いようには、させませんよ?
尚も躊躇う俺に、おどけてみせる殺し文句。
「敵わんな…エーコちゃんには」
我が愛しのスポンサー様へ、敬意を込めて。唇を奪う。

297:Winding road 2
08/06/04 00:41:46 lUmpZX5+
互いの目を見ながら、服を脱ぐ。互いの姿に煽り合う。
先にベッドへ上がった彼女は、片腕をあげて俺を迎える。
誘う白く長い腕を捕らえ、その手に口付ける。
手の甲へは、尊敬のキス。手のひらへは、欲望のキス。
そのまま美しい腕に唇を這わせ。辿り着いた首筋に吸い付き。
片手で彼女の結い上げた髪を解く。さらりと指に絡む長い髪。
「綺麗や…エーコちゃん」
「…あんまり、見んといてください」
恥ずかしい、と伏せる愛しい美貌へありったけの口付けを浴びせる。
「俺に見せて。エーコちゃんを、全部」

「…草若さん…んっ…草若さん……」
小振りだが形の良い乳房を掌に納めて、ぴんと立ち上がる乳首を口に含む。
色を帯びた溜息とともに細い腕が首にまわされ、俺の頭を引き寄せる。
「エーコちゃん、もっと?」
意地悪く聞く俺に。
「…あの、上はええから……下も…」
消え入りそうな声で大胆に強請る彼女。
そのさまに自然と笑みが零れる。
「分かってるって。俺、楽しみは後にとっておくタイプなんや」
そう言った瞬間、彼女の目がきらりと光った。
「…そんなこと言うてるから、ビーコ取られてまうんですよ」

ぐさり。
忘れた筈の古傷が抉られる。
「…この状況で、そゆこと言う?」
「ええ言います。四代目にはもっとしっかりして戴かないと。スポンサーとしては」
俺の顔があまりに情けないのか、くすくす笑いながら答える意地悪な彼女。
「…今日かて、私から誘わんかったら、一生手ぇ出さへんつもりやったでしょう?」
ちょっと拗ねたような顔で俺を見上げる。
―相当、怒ってるなこれは。

意気地の無い俺を、いつもいつも叱咤し激励して甘やかせてくれる彼女。
そんな彼女に甘えて、答を保留にしたまま先延ばしにしていた卑怯な俺。
―ごめん、エーコちゃん。
(女から誘ってくるのを待つなんて、ええ年した男のやることや無いな)
バーで酒飲んでカッコつけてるだけが大人の男違うぞ、俺。

「…ほんまごめんな、エーコちゃん」
「また、そうやってすぐ謝る」
彼女の機嫌はなかなか直らない。
「謝れば許して貰えるゆうんが、草若さんの狡いとこです」
「どないせえっちゅうねん…」
だから、と美しい顔を赤らめて彼女は続ける。
「もっと、強引に奪ってくれたらええんです。そやないと私」
さっさと見切りつけて、他の男に乗り換えるかもしれへんですよ?

―脅迫ですか。

298:Winding road 3
08/06/04 00:42:25 lUmpZX5+
俺の腕の中で俺を脅す、年下の美しい攻撃者。
手入れの行き届いた髪。美しく整えられた爪。真直ぐに澄んだ切れ長の目。
それら全てが、彼女のしなやかで強かな武装。

そういえば。
かつて。自分が守りたいと願い、か弱いと思い込んでいた小さな妹弟子は。
その実、太く逞しくどっしりとした「お母ちゃん」であった。
師匠の草々でさえも持て余す、若く不遜な弟子たちを
ころころと笑いながら手玉に取る、若狭の姿を思い出し苦く笑う。

おんなは、こわい。

たおやかな外見で軽々と男を欺く。
(…いや)
ただ単に、俺に女見る目が無いだけか。

「…で、どねするんですか草若さん?」
俺を見上げて煌めく瞳。
ここまで挑発されて黙ってられるか。
「前言撤回や」
「え……?…あっ、きゃあっ!」
膝裏に手をかけ、彼女の長い足を左右に割り開く。
「あっ、そんな…草若さん!」
「…下、可愛がって欲しいんやろ?」
さらけ出された秘処をぺろりと舐める。
「やっ!」
急な刺激に跳ね上がるしなやかな女体。立場逆転。
「俺のこと苛めるからや」
ありがとう、俺の愛しいひと。
「今夜はとことん、エーコちゃんを苛めたる」
覚悟はええか、スポンサー様?

「やっ…ああん……やん……っ!」
絶え間なく流れる嬌声をBGMに、彼女の秘め処を楽しむ。
舌でつついたり、舐めあげたり。唇で溢れる蜜を啜っては指で穿ったり。
思い出したように赤く尖る芯を弄っては、震える白い内股を撫でてあげる。
「エーコちゃん、こっちは猫っ毛なんやな…」
柔らかな恥毛を梳くと、それだけの刺激で過敏なそこは愛液を垂らす。
「…あっ…そう、じゃく、さん…っもう……」
羞じらいも何も全部捨てて、淫らな腰が俺を呼んで浮き上がる。
たまらなくいやらしくて綺麗。
「ちょっと待っててな、準備するから」
用意してたゴムを装着…する筈がなかなか嵌らない。
(クソッ…久々やからな)
悪戦苦闘する俺に。
「手伝いましょうか?」
いつの間にか起き上がって俺の手元を見ている彼女が言う。
「ちょ、エーコちゃんっ」
落ちる髪を耳にかけて、慌てる俺を尻目に綺麗な指が器用にゴムを嵌める。
「…私、そんなに待ってられへんもん」
俺を見上げて悪戯っぽく光る目。その奥に見える哀願と焦躁。
「ほんま、敵わんな…エーコちゃんには」
ひとつ苦笑して、彼女の唇を吸い。そのままゆっくりとシーツに押し倒す。

299:Winding road 4
08/06/04 00:43:07 lUmpZX5+
また、彼女の足を同じ形に開いて。
濡れ濡れと俺を待ちわびるそこへじわじわと入ってゆく。
「あっ…あっ……」
身体を進めるたびに、彼女の唇から歓喜の音色があがる。
その声に連動するかのように、柔らかな壁が俺を締めつけ奥へと誘う。
「入ったで…エーコちゃん…」
温かな鞘に収まると一息ついて、両手で彼女の顔を包む。
「…嬉しい…草若さん」
同じように、彼女の綺麗な手も俺の顔を包み込む。
「ずっと、待ってたんよ…草若さんのこと」
「これでも、飛ばしてきたつもりなんやけど」
底抜けに、お待たせしました。エーコちゃん。
いっぱい回り道をした俺は、漸く辿り着いた彼女に百回分のキスをした。

「はっ…あぁんっ……やん…っ!」
長い髪をシーツに泳がせ、俺の下で乱れるしなやかで美しい裸身。
切なげに喘ぐ痴態に、イってしまいそうになるのを堪えて腰を振る。
身体と身体をぶつけるたび、玉のような汗が飛ぶ。
瞳の中に俺を映して潤む切れ長の目。煌めく視線に侵される。
「エーコちゃん、一緒に、いこ?」
上擦る俺の声に、嬉しそうに微笑む彼女。
一段と高く突き上げて、細い腰を力いっぱい引き絞って。
彼女を抱き締めた。

「実はな、俺のとこにも来てるんや」
俺に寄り添う細い肩を抱きながら、ぽつりぽつりと言葉を繋げる。
襲名が決まった頃から、弟子入り志願の若いのが俺の門を叩くようになった。
「…正直、迷うてる」
俺は、草々みたいに正当派の古典かけられるわけや無いし。
草原兄さんみたいに落語の造詣深いわけでも無い。
「…そんな俺がなに教えられんのか、判らんのや」

「…ええと思います」
彼女は控え目に、けれどきっぱりと言い切った。
草若さんは草若さんの明るくて楽しい落語、伝えてゆけばええんです。
「…私は、ビーコみたいにおかみさんとして支えることは出来ひんのやけど」
俺を見上げる真直ぐな瞳。
ひぐらし亭のスポンサーとして、バックアップしていきますから。

「…ありがとう、エーコちゃん」
我が愛しのスポンサー様。俺の隣を歩いてくれるひと。
甘たれの俺に必要なのは、俺に守られる女でも俺を支えてくれる女でもなく。
こうして一緒に前を見て歩いて行く女だったのだ。
(そのことに、四十過ぎてから気付くなんてな)
あまりに回り道な俺にこっそり苦笑してから、隣の彼女にキスをした。
―大好きやで、エーコちゃん。


〈終〉

300:名無しさん@ピンキー
08/06/04 01:51:38 y+cilS32
四代目×スッポンサ~様!待ってました!
二人とも素敵な大人の男女だ…すごく幸せな気持ちで拝読しました。
本編放映中も小草若ちゃんの幸せを願ってきたけれど、
いいね、40過ぎてもこんな幸せが待ってたのなら。GJでした!


301:名無しさん@ピンキー
08/06/04 03:22:28 0D3wfiMR
自分は小草若→喜代美が好きだが、この物語はGJ!でした!
幸せになれそうで、良かったね!
四代目草若!

302:名無しさん@ピンキー
08/06/04 13:43:04 gZmPaZWB
GJ!
小草若×A子読みたかった!
A子がめちゃくちゃ経験豊富な感じでちょっとびっくりだけど、
この2人ならA子リードなのも自然だね。

303:名無しさん@ピンキー
08/06/04 22:27:59 xUWWXpMJ
GJです!
想いが通じ合ってる大人同士の恋愛という感じで
会話もエロも品があって素敵でした。
結婚の形態に縛られない四代目×A子の関係もいいなぁ~

304:名無しさん@ピンキー
08/06/05 01:27:21 E3sqfkDi
GJ!
A子から誘うってところが、なんともこの二人っぽくてよかったです。

305:名無しさん@ピンキー
08/06/05 04:39:53 pDfXn3go
糸子の自慢の巨乳を揉み解す喜代美と清海

306:名無しさん@ピンキー
08/06/05 17:56:18 ccbyC4Lz
A子とB子は生まれた日が同じで時間も近かった。
そこで看護婦のミスで取り違えられてしまったのです。
本当は友春とB子、A子と正平が兄弟なのです。

307:名無しさん@ピンキー
08/06/06 16:52:59 x/Kmau4d
第100話で四草→若狭の小ネタ投下。
若狭が四草の年齢を磯七さんに聞いて、ビックリしていた話の続き。

308:小ネタ 倉沢忍の憂鬱
08/06/06 16:54:01 x/Kmau4d

「ありがとうございます。袖から勉強させていただきました」
ぺこりと頭を下げながら、自分を出迎える若い女。妹弟子の徒然亭若狭。

今日の天狗座での高座は、事前に楽屋へ訪れ落語が受けないと悩む若狭の為、
急遽予定のネタを変更して手本を示した『まんじゅうこわい』。
袖に下がった四草は、待っていた彼女の期待通りの反応に心中ほくそ笑んだ。
(…ええもんやな)
若く可愛らしい女に、尊敬と憧れの大きな瞳で見つめられるのは。
人妻の身となったとはいえ、兄弟子と妹弟子には変わりないわけで。
こうして若狭と二人きりで過ごすのは、四草にとって貴重な至福の時だ。
しかしその時間は長くは続かない。
「いやいや良かったで、散髪屋組合の皆も大喜びや」
無粋な闖入客の登場に甘い逢瀬は破られ、その上。
「ほな四草兄さん、私はこれで」
若狭はさっさと場を切り上げて去っていってしまった。
(…チッ)
贔屓客に対してあるまじき態度ではあるが、四草は内心舌打ちをする。
そんな彼の心中など知る筈も無い徒然亭贔屓の散髪屋、磯七は上機嫌で話しかける。
「若狭も勉強熱心でええこっちゃ。兄弟子としても教え甲斐あるやろ?」
「ええまあ」
(あんたが邪魔さえしなけりゃな)
内心毒づきながらも適当に相槌を打つ。
「しっかしアレやな。若狭も妙なとこで落語界に疎いんやな」
苦笑しながら磯七は続ける。
「若狭、あんたのこと今の今まで同い年くらいや思てたんやと」
「…は?」
「兄弟弟子の順番、年齢順やて勘違いしてたらしいで」
あんたと若狭じゃ干支一巡り離れてんのにな、ほんまおかしな子や。
そう笑う磯七をよそに固る四草。
(…同い年?同い年やて?)

四草の脳裏に苦い思い出が甦る。
―大人の男の人って、やっぱり大人っぽい子が好きなんやろか?
あれはまだ、彼女が片思いする兄弟子に恋人がいて、自分が相談相手にされてた頃。
『四草兄さんは、どね思います?』
見上げた顔があまりにいじらしくて。思わず。
『俺やったら、10も年下の女なら老けたのより可愛らしいの選ぶけどな』
おまえみたいに。そうたっぷり含みを持たせて肩を抱いたというのに、反応は。
『…四草兄さんて、ロリコン?』

(あれはそういう意味やったんか!)
「おーい四草?」
今更ながら愕然とする四草に訳が分らない磯七。
兄弟子に混乱を残し、若狭は天狗座を後にするのであった。


終る

309:名無しさん@ピンキー
08/06/06 21:31:45 tPo4lHQm
>>308
GJ!
空気読めない散髪屋さんに萌えw
4草は、年齢不詳でしたよね。
妙に落ち着いて年寄りくさいところもあったけど、見かけは若い時もあり。
とっても新鮮な小話でした。ありがとー。


310:名無しさん@ピンキー
08/06/07 00:06:46 ypEPZzBL
GJ!
若狭の天然萌え。磯七さんのおかげで危機脱出!
そういえば縁側でアイス奢らされた時の2人は同い年くらいに見えたなあ。
で、年齢差がわかったこの回から四草の前髪が上がった。

311:名無しさん@ピンキー
08/06/07 09:32:16 kVnDDWB0
GJ
四草カワユス


312:名無しさん@ピンキー
08/06/08 00:38:34 SVC2BLsW
DVDで初めて小浜編見た感想。
初っ端からの伏線バリ張りまくりとか、正太郎ちゃんの素敵爺さんっぷりにも驚いたけど、
A子のB子ラブ度に正直ドギモ抜かれた。
もしA子が男の子だったら、草々小草若じゃ太刀打ち出来なかったかもしれない思った。

313:名無しさん@ピンキー
08/06/08 05:27:18 9l5qZg2X
小草々と若狭の話、投下します。
徒然亭で起こったささいな事件とその顛末。
時期は、小草若が復活したあたり?適当です。
アホみたいに長くてエロなし、しかも軽く鬱。
そんなのですが、よろしければどうぞ。

314:小草々→若狭 1
08/06/08 05:30:26 9l5qZg2X

ぬけるような青空だった。どこまでも、吸い込まれそうなほどに。

「小草々くん、今日たくさん買い物あるでぇ、悪いんやけど一緒に行ってくれるやろか?」

久々の陽気、それに彼女との外出。
彼女との他愛もない会話。自分の肩よりずっと下の位置から、こちらを時々見上げて微笑む白い横顔。
おかみさん――徒然亭若狭との、二人だけの時間。
たとえ、師匠のおかみさんと弟子という関係にすぎないとしても。
煌めくようなひととき、だった。
そう、あの瞬間までは。

大きな荷物を抱えて、駅の階段を頼りない足取りで降りる彼女。
駆け上がって来る子供を避けて、よっこらしょと荷物を抱えなおしたその瞬間。
荷物の重みに小柄な体は、ぐらりとバランスを失って。
あ、と丸く開く唇。大きく見開かれた瞳。ふわりと浮く小さな体。
慌てて支えようとして気づく。間に合わない。自分のバランスを保ったままでは。
彼女が。

落ちる――!

瞬間、自分は両腕にあふれる荷物を放り出し。
落下する彼女の体を支えようと身を乗り出し、もろともにバランスを失う。
宙に投げだされる体。
ただ、彼女の体を包むように抱きしめて、自分が下になるようにと、それだけを思って。

次の瞬間、地面に叩きつけられる衝撃。

目の裏が、はじけるような感覚。
拡散していく意識の中で、彼女が怪我をしていなければいいな、と思った。
そして…彼女が泣かなければいいな、と。

そして―ブラックアウト。



「なぁ…いつか、目ぇ覚めるんやろか?」
昏々と眠り続ける小草々を見つめながら、ぽつり、と小草若が呟く。
「アホか!何言うとるねん!覚めるにきまっとるやろが!」
血相を変えて振り返り、噛み付くようにどなる草々。
「草々、病院や。大声出すな。小草若もおかしなこと言うな。医者は怪我自体は大したことない言うとったやろ。」
静かに、けれど苛立ちを隠せない様子でたしなめる草原。
「けど!頭、打って…こんな長いこと…」
小草若の声が、弱々しく途切れる。
「うるさい!治るにきまっとるやろ!」
「二人ともやめ!俺らにできるんは…目ぇ覚めるんを待つことだけや」

そんな騒ぎも耳に入らぬように、若狭はただ小草々の枕元で、その左手を両の掌に包み込む。
「ごめんなさい…、ごめんなさい、、小草々くん…」
ただそれだけをうわ言のように呟きながら。その表情には…疲労の色が濃い。
小草々が病院に運び込まれたとき、若狭は半狂乱だった。
「私のせいで!小草々くんが…こそうそう、くん…、、いやあああ!!!!」
夫の草々がいくら慰め落ち着かせようとしても、どうしようもないほどに。
以来一週間…片時も小草々の枕元を離れようとはしない。

憔悴しきった妹弟子の横顔を、四草はただ見つめる。その目に僅かに痛ましげな色を宿して。



315:小草々→若狭 2
08/06/08 05:33:23 9l5qZg2X

長い長い夢を見ていた。

その中にいつもいたのは、あどけない顔立ちの女。

自分の名を呼び、ごめんなさいごめんなさいと泣きじゃくるかと思えば。
自分の顔を見上げて、優しく包み込むようににっこりと微笑む。
そうかと思えば、頬を上気させ、怒りで瞳を燃え立たせながら自分を平手打ちし。

このおんなは、だれだ。
とてもとても大切なことのように思えるのに。

自分で夢だと自覚しているくらいなのだから、きっと理想の女でも思い描いているのだろう。
愚かしい夢だ。まったく愚かしくて…なぜだか判らないが愛しい夢。

夢を見ている間、左手が…いつもいつも温かかった。
何か、とても愛しいものに包まれているかのように。


眩しい。
目を開くと…そこには自分を見下ろす男数名。
(むさくるしいな…)
正直、そう思った。ふふ、とほんの少し笑いが漏れる。
「「「「小草々!!!!」」」
目の前の男たちは、泣きながら笑って自分に抱きつこうとして、ええ年して医者らしき男に怒られたり。
大きな目から涙をぼろぼろこぼしながら自分の頭をくしゃくしゃになでまわしたり。
丸い顔をしわくちゃにして、うんうんと頷きながらへなへなと座り込んだり。
少し離れたところから、目に暖かい安堵を浮かべてこちらを見つめたり。

朧に霞んだ記憶の淵から、彼らの名前が浮かんでくる。
師匠。小草若師匠。草原師匠。四草師匠。敬愛する落語家達。自分の第二の家族。
そして自分は――落語家・徒然亭小草々。
ここは――病室?
なぜこんなところに?

その時、がたん、と大きな音が響いた。

一斉に皆がそちらを振り返る。
(―――!)
そこには…立ち尽くす若い女。足元に、お盆やタオルを撒き散らして。
大きな目をいっぱいに見開いて。その顔は奇妙に歪み、涙がぼろぼろと零れ落ちて。
「こ、そうそう、くん…」
それは…まぎれもなく夢にいつも現れ続けた女。それは判る。けれど。
その姿を目にした瞬間、心ははじけんばかりに妖しくざわめくのに。

「どなた…ですか?」

その瞬間。皆の表情が、凍りついた。



316:小草々→若狭 3
08/06/08 05:38:15 9l5qZg2X

「なんで若狭のことだけ覚えてへんねん!なんでや!」
徒然亭に小草若の悲痛な声が響く。

記憶障害。部分的な健忘。
時間がたてば、治る。けれどそれがいつのことかは。医者は、そう言った。
意識を取り戻した小草々は、見下ろす4人のことを覚えていて、いつもの通り明るく笑った。
なのに若狭のことは―ひとかけらとして覚えていなかった。
蒼白になって崩れ落ちた若狭の表情とその後の状態は…見るも無残なもので。
そしてもう一つ。小草々が失ったもの。

「そ、そや!落語会やろ!小草々復活の寝床寄席!」
沈鬱な雰囲気を破るように草原が提案した。
ひょっとしたら…それがきっかけになって、若狭のことを思い出すかもしれない、との期待をこめて。
「ええですやんええですやん!久々に寝床寄席っちゅうのも底抜けに乙やがな!な、な?」
小草若が、ことさらに明るい声を出して同調する。草々も、それにつられたように大きく頷く。

「そやな!それぞれ得意ネタかけよやないか!小草若お前は…寿限無やろ。で、俺は…」
「しゃいしゃいしゃい!何でお前が勝手に決めるねん!」
「そないなこと言うても、小草若兄さん寿限無以外ないやないですか」

久しぶりの、いつもの空気。若狭もほんのすこし微笑を浮かべかけて。

「ま、寿限無が妥当やな。で、四草は算段の平兵衛で、若狭は創作、で、小草々は…」
穏やかな顔でまとめながら、草原兄さんが小草々を振り返る。

「『鉄砲勇助』やな、やっぱり」

当然、乗ってくるものだとばかり誰もが思っていたのに。なのに小草々は戸惑ったような表情を浮かべて。

「てっぽう、ゆうすけ…?」

冗談かと。冗談なら良かったのに。いつもの嘘なら。
小草々の中からは、彼が培ってきた落語のすべてが、跡形もなく失われていた。
必死に思い出そうと頭を抱える小草々の顔が、みるみる蒼ざめていく…。



317:小草々→若狭 4
08/06/08 05:40:11 9l5qZg2X

(てっぽう、ゆうすけ、か。)
小草々は思う。病室の白い天井を見つめながら。
自分と同じ名を冠した落語。自分がこよなく愛した落語…らしい。
とんでもない嘘つきの話。けれど、、思い出せない。
夢にいつも居た女―若狭が持ってきてくれたCDを聞いても、初めて聞いたものだとしか。
それだけではなく…聞いているだけで途中で間断なく吐き気が襲い掛かる。
それは鉄砲勇助だけでなく、ほかの落語についても同じだった。
落語をなくした、落語家。
存在する、価値を失ったもの…。
師匠は、「慌てることない。ゆっくり養生して、思い出して、覚えて行ったらええ」
そう言って自分を励ましたけれど。
その日は…いつか訪れるのだろうか?
ひどい吐き気に襲われながら、絶望にも似た思いが胸をよぎる。
自分の看病に来てくれている若狭は、そんな自分の背を必死にさすりながら、
「ごめんなさい、ごめんなさい…」と泣き崩れた。

彼女は何も悪くなんてないのに。
自分の計算高さは…嫌になるほどに承知している。ならば。
そんな自分が彼女をかばって怪我をしたのだとしたら…それはそれだけの価値があると判断したから。


それに…笑っていたほうが、きっとずっと可愛いだろうに。

彼女は――師匠の妻、だと聞いた。
ならば、自分はそれを承知で弟子入りしたはず。
なのに何だ、それを聞いた時の衝撃は。まるで胸に錐を差し込まれたかのように。
なぜ、自分はあんなにも彼女の夢を見た?
そして自分の中に残る、彼女を思うたびに湧き上がる想いは何だ?
わからない。
ただ判るのは…彼女がとても、大切だったということだけ。
この計算高い自分が、階段のてっぺんからダイビングしても守りたいと思うほどに。
けれど、なぜ?
おかみさん、だからなのだろうか? それとも――。



318:小草々→若狭 5
08/06/08 05:47:36 9l5qZg2X

(今日は、もしかしたら)
小草々くんの記憶が、戻っているかもしれない。
そんな希望は、毎朝病室の扉を開くたびに…粉々に打ち砕かれる。
けれど、願わずにはいられない。
今日も、扉を開く。笑顔を作って。

「おはよう、小草々くん。どない?」
そんな自分に向けられるのは…戸惑いと遠慮がないまぜになった虚ろな瞳。
以前は、決して自分に向けられたことのなかった…。

「…おはようございます、若狭さ…おかみさん」
おかみさん、という言葉が決して彼の中には根付いていないことを示すその声音。
胸が、苦しい――。

「ほんまは夜もついてたいんやけど、お医者さんに追い出されてしもて」
無理に微笑んで、冗談めかして言いながら、枕元の椅子に座る。
「そんな…ええんです。具合も悪ないですし。そんなご迷惑をおかけするわけには…
 今かて毎日、僕に一日中ついてて下さって。それももう、大丈夫ですから…貴女が体、壊してしまいます…」
小草々くんが遠慮がちに微笑む。申し訳なさそうに。以前よりずっとずっとよそよそしい口調で。
涙が、勝手にあふれそうになる。それを隠すように顔を左右に振る。
「迷惑やなんて!私が、私のせいでこんな…大切な大切な落語、失くしてしもたのに…」
嘘つき。
本当は、落語よりも自分の記憶を彼が失くしてしまったことが、ショックでたまらないくせに。
どうして?どうして私のことを?
つまらない嘘をふりまきながら、にこにこと笑う彼。
「おかみさん」と、明るく懐っこく呼びかける声。
こんな頼りない私を、誰よりも慕ってくれた。
山ほどの仕事があっても、軽口を叩きながら、いつも私を助けてくれた。
私なんかよりずっと器用で、落語の才能もずっとずっとあって――!
なのに、私が、私のせいで、小草々くんは落語が。
償いきれない。どうやっても。どうすれば。

319:小草々→若狭 6
08/06/08 05:50:42 9l5qZg2X

「若狭さん…泣かないで…」

気づけば、涙がとめどなくあふれていて。
とめようと思えば思うほどに、次から次へと涙がこぼれおちて。
元の小草々くんに、いつか戻れるのだろうか?
あの、朗らかな声で「おかみさん」と呼んでくれる青年が、好きだった。
それは恋などではないけれど、でも、とてもとても好きだった。
(小草々、くん――)

ただただ泣きじゃくる自分の体が、そっと抱きしめられる感触。

「泣かないで…わかさ、さん…。どうしたらええか、わからんようになってしまう…」
小草々くんの声が、頭の上から聞こえる。戸惑ったような、混乱したような声が。
「こんなこと…して、怒って、はりますよね…」
答えられない。ただ、じっとその胸の鼓動を感じていた。細いけれど筋肉質の腕。広い固い胸。
彼が…自分を包んでしまえるほどに大きな、大人の男だということに、初めて気づいたような思いがした。

「ずっと…僕の中にあるんです。何か、貴女をとても大切に思う気持ちが。」

自分の中から一つ一つを掘り出すように、とつとつと紡がれる言葉。

「けど…それが何なのか、何故なのかわからない。でも、そんな姿見たら…抑えきれんようになってしまう…
 このままやったら、記憶が戻らんままに貴女のこと、好きになってしまう――」

苦しげに言って、彼は抱きしめた腕をそっと解放する。

「だから、もう来ないで、いいですから…来ないで…」

その苦痛と絶望にみちた表情。
どうすればいい。どうすれば。頭の中が混乱して、もう、わからない。
けれど…これはすべて、私のせい。
私にできることはただ――彼が記憶を取り戻すまで、毎日彼を訪れることだけ。
たとえ…その結果、どんなことになったとしても。

だから、涙で汚れた顔を、懸命に笑みの形に整える。努めて何でもないふりをして。
「何言うてるの。来ないわけないやないの。だって、だって…」
笑顔がゆがむ。涙がこぼれる。
「小草々くんの落語、小草々くんの明るい声、また、聞きたいから…」



320:小草々→若狭 7
08/06/08 05:52:23 9l5qZg2X

その言葉の通り、彼女は毎日やって来た。その後も。
毎朝自分の元を訪れ、果物をむき、食事に付き添い、そっと自分の汗をぬぐい…。
あえて落語の話はさけ、明るさを装って話をする。自分が疲れないように気を配りながら。
ふるさとの話、家族の話、そして抱えてきたコンプレックスの話も。
「こんな話、前はしたこともあらへんかったね」
彼女は笑う。悲しげに。

彼女のことは思い出せない。
けれど…判ってしまった。思わず抱きしめた瞬間に、それは確信に変わった。
自分は間違いなくこの女を想っていた。きっと、とても長い間。とても強く。
なぜなら、病室の扉が開いて彼女の小さな姿が目に映るたびに。
自分の枕元に座る彼女が、自分を見つめるたびに。
そっと悲しげな微笑を浮かべるたびに。
切ないほど、この胸が高鳴るから。
抱きしめたいと、自分のものにしたいと、心が狂おしく叫ぶから。
だから、もう来ないでほしいと告げた。
取り返しのつかないことになる前に、自分の前から姿を消して欲しいと。
落語を失って、彼女も失う…それは今の自分のとっては、絶望と同義だったけれど。

けれど、彼女は毎日やってくる。心に涙をいっぱいにためて。
無理に微笑みの表情を作って優しく付き添う彼女を見るたび、罪悪感に打ちひしがれる。

自分で来るなと言っておきながら、この時間がいつまでも続けばと願ってしまうから。

彼女は苦しくて苦しくて、もう耐えられないほどに違いないのに。
自分のせいでこんなことになってしまったと、自分を責め続けながら。

もし、この自分の中にある想いの暗さを知ったなら、彼女は来なくなるのだろうか?
「好きになってしまう」などどいう生易しいものではないことを。
どれほどに彼女を欲し、心も体も自分のものにしたいと思っているのかを。
その小さな体を隅々まで犯しつくして、自分で満たしてしまいたいという思いを抑えきれなくなりそうなことを。

目を開くと、すぐ傍に彼女の白い顔。
ベッドの傍らの椅子に掛けたまま、眠る彼女。
疲れて…いるのだろう。当たり前だ。もう何日になるのか。
記憶が戻れば…彼女は解放される。夢で見た、花のような笑顔を取り戻す。

ん…と、小さく呟いて、彼女の唇が小さく開かれる。
ほとんど反射的に。引き寄せられるように。
眠る彼女の唇に、そっと口づけた。おそらくは…初めての彼女へのキス。
甘く柔らかな唇。しびれるような陶酔と罪悪感。
(最低、やな…僕は。)
好きな女をさんざん苦しめて、その上寝込みを襲ってキス、ときた。
このままだとこの先何をすることやら、と他人事のように思う。

もしかして、とぼんやりと考える。
彼女への想いを完全に自覚したということは、記憶が戻りかけているのだろうか?
…自分は、果たして本当に記憶が戻ればいいと思っているのだろうか?



321:小草々→若狭 8
08/06/08 05:54:26 9l5qZg2X

夢を見た。
高座で堂々と、けれど愛らしく『ちりとてちん』をかける彼女。
それは、彼女に初めてあった日の記憶。
夢の中で、自分は笑い、そしてどうしようもなく惹きつけられて。
そう、あの時とまったく同じに。
次々と脳裏に蘇る彼女の姿。彼女と共に過ごした日々。落語に明け暮れた毎日。
泣いて、笑って、すっとんきょうな声をあげて。
いつも彼女は、あたたかかった――。

夢から覚めた時―自分の頬は涙でぐしゃぐしゃに濡れていた。
全てを、思い出していた。彼女のこと。落語のこと。何もかも。
(あまりにも思い続けたことは、思いの強さゆえに、記憶が戻るのに時間がかかるのだろうか)
そんなことを、ぼんやりと思う。

まもなく自分の元を訪れるであろう彼女に、告げるはずだった。すぐに。
きっと、あの白い花のような笑顔を浮かべてくれるだろうと思いながら。

けれど、彼女を目にした瞬間、言葉は凍りついた。はっきりと理解してしまったから。

記憶が戻れば、彼女はもう、自分の傍にはいなくなるのだと。

例え、その表情がいつも暗い影を帯びていようとも。
自分に向ける眼差しが、罪悪感と苦しみで光を失っていようとも。
無理やりに作ったような微笑が、胸を貫くほどに悲しげだったとしても。
優しく自分を気遣う一つ一つの仕草が、決して愛ゆえではなく、ただ自分への罪悪感ゆえだったとしても。

良かった。それでも。
ただ、彼女が自分の傍に居てくれさえすれば。
自分の落語家としての未来と引き換えにしたとしても。
この記憶が失われている限り、彼女は自分に囚われ続ける。
それはつまり――彼女を手に入れるということ。

その代償として、彼女にどれほどの苦痛を強いるのか。
彼女の微笑が、日ごとにはかなくなってゆく。
表情に、ますます悲しみの影が濃く落ちてゆく。
彼女が、失われてゆく…。

初めて彼女に会ったその日、彼女を手に入れると決めた。
たとえ、どんな手を使ったとしても。
たとえ、何を失うことになったとしても。
それほどに、焦がれて焦がれて焦がれ続けた。

ほら、もうすぐ手に入る。焦がれ続けた望みが叶う。
彼女は自分に囚われた。もう逃れられない。蜘蛛の巣にかかった可憐な蝶のように。

なのに、なぜ、こんなにも苦しい――?



322:小草々→若狭 9
08/06/08 05:55:56 9l5qZg2X

その数日後だった。
夕刻、ひっそりと影のように、一人の男が病室を訪れた。
それは、彼女が水を取りに席をはずした、ほんの僅かの間のこと。
徒然亭、四草。
油断なくいつも何かを見据えるようなその鋭い目が、自分を静かに見つめる。

「…満足か?若狭はもうすぐ、お前のもんや。罪悪感に縛られて、もう、身動きできへん。
 もう…お前しか見えへん。お前のために、何もかもを投げ出すやろう。」

いつもの、感情を押し殺したような低い声。けれど…その声のわずかなぶれは何だ?

「けど…若狭が、若狭やなくなっていく…。お前も、わかっとるんやろ?」

ぶれはますます増幅されて、今や感情を覆いつくせず悲痛に震える声。
ひたと自分を見据えるその目から、つうっと頬をすべり落ちるもの。

「若狭が、壊れてまう…」

目をそらしようもなく、突きつけられた事実。

わかって、いた。ただ、目をそらしていただけ。
このままでは、彼女がただ「彼女の姿をしたもの」になってしまうこと。
ありありと見えていたその終着点から、必死に目をそらして、
自分はただ、一時の狂った夢にひたっていたかったにすぎないのだと。

あまりにも、愚かで無様な。

彼女の花のような笑顔。愚かしいほどの純真と直情。感情のままにくるくると変わる表情。
限りなく、愛しい。思うだけで胸をつかれるほどに。
けれどそれらは、今まさに彼女から失われていこうとしている。自分が、それを摘み取ろうとしている。
自分は、彼女が彼女であるが故に、どうしようもなく彼女に焦がれるのに――!

今はもう誰もいない部屋の中、頬を一筋の涙が落ちる。
それは――別れの涙。
ほんの短い間だけでも、かくもいびつな形でも、自分だけのものであった彼女との。


彼がベッドから落ちたのは、その翌朝のことだった。



323:小草々→若狭 10
08/06/08 05:57:19 9l5qZg2X

「兄さん!小草々くんが、小草々くんが!」
顔を輝かせながら、若狭が徒然亭に駆けこんでくる。
はあはあと息を切らせながらそこまで言い、一片の曇りもない、花のような笑顔を浮かべる。

「落語のこと…私のこと…思い出したんです!」

「「「ほんまか!!!」」」

最高の笑顔で微笑みながら、涙をぼろぼろと流して顔をくちゃくちゃにして。
それは、実に実に変な顔。けれど、どこまでも若狭らしい表情。

「今朝、起きる時小草々くんベッドから落ちてぇ、目ぇ回してしもてたから、
 どねしょう思うて慌ててお医者さん呼びに行ったんです。そしたら、」
そこまで言って、若狭はぜえぜえと息をつく。呼吸をするのも忘れて一息に喋っていたらしい。
「小草々くん、気がついてあわてて正座して、『あ、おかみさん!?お、おはようございます!』って!
 私の顔見てもほんま前の通りで! 『私のこと…わかるん?』って聞いたら、ふふ、
 『何言うてはるんですか?当たり前やないですか!僕がおかみさんのこと忘れるわけないでしょ!』って!
 記憶失くしてたこと、ベッドから落ちたショックでどっかに飛んでしもたみたい!」

こんなに生き生きと喋る若狭は、本当に久しぶりのこと。

「でぇ、半月も記憶失くしてたって言うたらびっくりして、早よ落語の稽古したいって!
 前に草原兄さんの言うてた寝床寄席の話したら、もう、すぐにでも出たい勢いで」

そう若狭はくすくすと笑う。

「『鉄砲勇助かけさせてもらいます!』って!!!」


<終>



324:名無しさん@ピンキー
08/06/08 06:01:17 9l5qZg2X
読んでくださった方がいたら、ありがとうございました。
小草々くん、看病してもらいそこなっていたので、
若狭に看病してもらえるバージョンを、と…。
でもこれ嬉しくないですよね。失礼いたしました。

それより何より改行エラーも重なって10レスも使用…本当にすみません。

325:名無しさん@ピンキー
08/06/08 10:32:24 7rUKB9DC
まさか小草々が切なくて泣く日が来るとは思わなかった、GJです!!
そしてやっぱり、全てお見通しの四草がいい味ですね。
同病相哀れむってやつでしょうか・・・。
ラストの明るくふるまう小草々が泣けました。

326:名無しさん@ピンキー
08/06/08 22:59:51 oQKySHHu
>>324
GJ!!良いものを読ませて頂きました。
やっぱり嘘山はストーカー気質が似合いますねw
四草の役回りも含め、良かったです。
往年の?野島○司ドラマのよう…と思ってしまいました。

327:名無しさん@ピンキー
08/06/09 00:55:09 /sUa2VKy
決着のつけ方がひたすらに切ない…・゚・(ノД`)・゚・
以前どおりの仮面をかぶって、ラストの若狭との会話をした時の
小草々の心情を思うと泣けた。
初めざっと見て長っ!と思って挫折しかけたんですが、読んで良かったです。

328:名無しさん@ピンキー
08/06/09 01:07:29 GoOGf+NE
ほんと、長さを感じさせないくらい良い話しでした。
GJです。
今まではあんまり小草々好きじゃなかったんだけど、考え直しました。
切な過ぎる!!
それがイイ!

329:名無しさん@ピンキー
08/06/09 10:34:42 tJQPOg4I
>>288
>自分だけは、この名前で呼び続ける。
>それが、自分の鳴き声だから。


この一節を読んだ途端、思いもかけずぶわっと涙が溢れてしまいました。
自分でも泣くなんて思いもしなかったけど、小草若の切なさや一本筋の通った凛とした姿勢が感じられて。
小草若ファンではなかったのですが、改めて最後まで見てから小草若を見直すと
本当に誰よりも辛くて厳しい道を行った人だと思います。
良い話しをありがとうございました。

330:名無しさん@ピンキー
08/06/10 11:46:12 0dvPpqsr
流れ読まずにバカネタ投下失礼します。
草々若狭夫婦+師匠と兄弟子たち。ドタバタギャグです。

331:葛饅頭に熱い麦茶もオツなもんだ 1
08/06/10 11:47:50 0dvPpqsr
徒然亭一門が天狗座において華々しく復活公演を果たしてから丸一年と半年。
長雨が続いたここ数日が嘘のような五月晴れ。
一門の集う家で、師匠と弟子たちは長閑かに到来物の葛饅頭で涼を楽しんでいた。

「そういや草々と若狭は?まだ戻らへんのか?」
公演の翌年に結婚した一門の二番弟子と末っ子弟子は、本日それぞれに高座があり
夫婦そろって住まいの離れを出払っていた。
「もうそろそろ帰る頃や思いますけど」
二つめの葛饅頭に黒文字を入れながら筆頭弟子が答えた時であった。
「ひゃあああああああッ!」
門の向こうからけたたましい叫び声をあげ、庭に転がり込んできたのは
噂をすればなんとやらの末っ子弟子、徒然亭若狭。
「こら!なにを騒々しい…」
「なんやなんや何があった?」
「どした若狭?」
口々に問詰める兄弟子らの声をかき消すかのように。
「わぁあああかぁあああさぁあああッ!!」
破鐘のような声が辺り一面に鳴り響く。
「ひぃいいいッ!」
若狭の口から恐怖の悲鳴が漏れる。
「んん?草々も一緒やったんか?」
「師匠、どうもそういう状況とちゃうようですよ」
呑気な師弟の会話をよそに、こけつまろびつ縁側からおたおた上がり込んで来る若狭。
「し、師匠!兄さん!助けて…!」
その台詞が終わる間も無く。
「待てや、若狭!」
兄弟子であり夫である二番弟子、徒然亭草々が姿を現す。
「おお、草々お帰り」
「ただいま戻りました師匠」
きっちり師弟の挨拶を交わしながらもギロリとした目はターゲットを捕捉する。
「ひぇえええええっ!」
大中小の兄弟子らの陰に逃げ込むターゲット。
「隠れても無駄や!」
長い腕に首根っこ掴まれてズルズル引き摺り出されるターゲット。
触らぬ草々に祟り無し。兄弟子たちはあっさりとその場を二番弟子に明け渡した。
「ひどい、兄さんら!あんまりです!」
「若狭、ええかげん観念せい!」
見放された哀れな妹弟子は巨大な手にがっちりとホールドされる。
「まーた夫婦喧嘩か?」
「相変わらず学習能力の無い夫婦ですね」
「おい、あんま手荒な真似は…」
遠巻きに声かけする兄弟弟子たちの眼前で。
ガバッ
いきなり獲物に覆い被さる巨体。
「んむっ!?」
ズッギュウウウウウン
荒木漫画なら効果音がつきそうな勢いで、桃色の唇に分厚い男の唇が襲いかかる。
「…んっ…ぁんっ……」
ぼと。
弟子三人の皿から葛饅頭が落ちた。

332:葛饅頭に熱い麦茶もオツなもんだ 2
08/06/10 11:48:42 0dvPpqsr
五月晴れの柔らかな光が差し込む座敷。
卓袱台の上に並んだ涼しげな葛饅頭。
ずー。師匠の草若が茶を啜る音。
あくびが出るほど長閑かな邸内の居間に。

くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅ

あまりにも場違いな淫猥の水音が響く。
目の前で繰り広げられる信じられない光景。
あの朴念仁の二番弟子が舌技を駆使して妹弟子の愛らしい唇を犯している。
「んっ……ぁふ……んんっ……ふっ……」
その唇から、常の姿からは想像もつかないほど艶めいた嬌声が漏れる。
逃れようと足掻く身体はしっかりと堅い腕に捉えられ。
振り払おうとする小さな頭はがっちりと巨大な手に押さえ込まれ。
角度を変え、深さを変え、太い舌が小さな口内を蹂躙する。
音を立てて吸われるたび、白い頬が目元があでやかに朱に染まってゆく。
「…ふっ……ぁん……んん……ぁふっ…」

真っ昼間の光にそぐわない睦み事が続くこと約15分。
ぷはっ
つ、と唾液を絡めて漸く唇が離れた。
解放された若狭は酸欠なのかけふけふ咳込んでいる。
妻の唇を充分に堪能した草々はぺろりと上唇を舐め、満足げな低い声で囁いた。
「…チョコとバニラの味がする」
「そっ、そんなわけないですっ!ちゃんと歯磨きしましたもんっ!」
叫んでからハッと青褪める若狭。
「ふっふっふっ…語るに落ちたな……若狭…」
再び響き渡る破鐘の声。

「ようも俺のチョコアイスをぉおおおッ!!」

「ほやかてあの冷蔵庫壊れててッ溶ける前に食べえて烏山さんがッ!」
「言い訳すんな!」
「草々兄さん横暴!」
「なんやとコラ!」
「ひぃいいいッ!ごめんなさいぃいいいッ!」
またも低次元な鬼ごっこを開始する兄妹弟子夫婦。

「そうか…あの楽屋の冷蔵庫、ついにイカれたんか」
「…しみじみするとこちゃいます師匠」
「まさか恐竜頭の草々兄さんにあんな算段が出来るとは…!」
「いや、あれは底抜けに食い意地はってるだけやろ」
嵐の去った卓袱台に和やかな空気が戻ってきた。

長閑かな梅雨晴れの午後。柔らかな光が差し込む居間。
卓袱台の上には涼しげな葛饅頭。
「ぎゃあああああああッ!」
離れでなんか末っ子弟子の断末魔が聞こえたよーな気もするが。
師弟水入らずの団欒を楽しむ彼らには関係無いことであった。






元ネタは先輩のアイス勝手に食べて半殺しの目にあったという芸人さんのトークです。

333:名無しさん@ピンキー
08/06/10 12:45:13 a4XckwVM
あ~底抜けに笑わせてもらいました…。
てか、15分は長いだろ!草々!w
それを見せられていた師匠以下4人のことを思うと…さらに爆笑ですww

334:名無しさん@ピンキー
08/06/10 16:39:50 n67jzNSz
>>330
GJ!草々ちっさいなw
15分…兄弟弟子らは本編一回分の時間キスシーン見せられてたのか。

335:名無しさん@ピンキー
08/06/10 19:48:04 j9x0Orbe
途中で我に返った四草が
「後何分キスし続けるか賭けますか?」と算段しそう…orz

336:名無しさん@ピンキー
08/06/10 23:33:43 ycVYXkcN
GJ!
相変わらずの夫婦と見せつけられる弟子sが最高ですね。
15分間の独身2人の反応を見続けたいw
センスのいいギャグの運びに脱帽です。
また楽しみにしております!

337:名無しさん@ピンキー
08/06/11 00:04:51 wQX/qDN8
めっちゃ面白い!
GJです。笑わせてもらいました。

338:名無しさん@ピンキー
08/06/12 11:32:10 W09sHvVr
ここって今何人職人さんがいるのかな?
小草々の人と都都逸の人と小ネタの人が同じってのはわかるけど。
前スレの職人さんはどっかいっちゃった?それともDVD視聴中?

339:名無しさん@ピンキー
08/06/12 14:41:17 gOlyXveL
野暮は無しってもんよ>>338
コテ無しスレで職人さんの詮索なんざ無粋なだけさ。
それより>>57のオール○イトニッ○ンの続きを1ヶ月も待ってるんですけどお母さん。

340:名無しさん@ピンキー
08/06/12 17:24:42 OFNvll/H
青木喜代美このヤマいただき!

341:名無しさん@ピンキー
08/06/12 17:39:04 TiCkDFEJ
>>339
ノシ おいらも待ってるよ、お母さん( ´∀`)

342:57
08/06/12 21:08:50 oWL3l6fZ
>>339>>341
まさかそんなお言葉をいただけるなんて!
ありがとう・゚・(ノД`)・゚・。
書き手さんも読み手さんもレベルがあまりに高いので、すっかり自信を失って放置してたのでした
でももう一回頑張ってみます!

ちなみに>>338と同じこと思ってた…w

343:名無しさん@ピンキー
08/06/13 01:22:13 ghyDWXp6
数字の避難所とは住民が違うのかな
同じような
違うような

344:名無しさん@ピンキー
08/06/13 02:34:48 hdqBj7Pv
>>338
こんなん書くのは無粋なのは十分承知ですが…
自分小草々の者ですが、都都逸&小ネタの職人さまとは別人です。
あんな知的で素敵な作品は自分には無理!なので、申し訳なく思った次第で…。
同じ方だと思っていただけたなんて自分にとっては光栄ですが。

>>57さま。続き、楽しみにさせて頂いております!

末筆ながら長いのに>>314読んで頂いた方、本当にありがとうございました。

345:名無しさん@ピンキー
08/06/13 18:52:43 DOaxKb63
まあ、小草々話にしろ小ネタにしろ、複数あるわけだから…。
都々逸だって二人いるでしょ。
どれのことを言ってるんだかわからんしなw

しかし、職人さんの書きたくなる時期っていうのは重なるのかなあ…。
一気に来る時もあれば、今みたいなときもある。
こうやって待つのもええもんや~。

346:名無しさん@ピンキー
08/06/13 19:29:13 YtZ/Rkru
>>342
お母さんだって、むっちゃハイレベルな書き手さんですよ。
あのオー○ナイト○ッポン、底抜けに爆笑させてもらったんですから。
自分も続き楽しみにしてますね。

347:345
08/06/13 22:18:46 DOaxKb63
ああ、わかりにくいけど、だから詮索はよそうぜ、って話ね。

前スレでもやってる人いたから、ちょっと気になってた…。
合ってたとしても、あまり特定されたくない人もいるだろうし、
(前スレの職人さんは特定されてもよさそうだったけどさ)
まして違ってたら、どちらの職人さんに対しても失礼な気がするよ。

348:名無しさん@ピンキー
08/06/14 00:14:44 FVcIhKNX
特定したら何だっちゅう話でもあるね

349:名無しさん@ピンキー
08/06/14 05:04:32 tQ8HY28b
盗っ人のように場繋ぎ投下します。
草々視点の第11週捏造設定で草々×A子。+B子。ぬるいエロあり。
キミ、○○の人だよね?的犯人当てはどうぞ無しの方向でお願いします。

350:Romanticist Egoist 1
08/06/14 05:05:20 tQ8HY28b
彼女と出会った日のことは、今でも鮮明に覚えている。

あれは、まだ入門前だった妹弟子―師匠の家に下宿していた喜ィ公に焚き付けられて
三年ぶりの高座をなんとかやり通せたその翌日。
目茶苦茶ではあったが、それでも俺の為に下座を務めてくれた喜ィ公への礼で
久し振りにレストランへ入ったその帰りに。

絵に描いたように可憐な少女が微笑んでいた。

少女の顔には見覚えがあった。福井で恐竜の化石を発見した女子高生。
切り抜いた新聞記事の不鮮明な写真よりもずっと、実物の彼女は美しかった。
いや、美しいのは見た目だけじゃない。
「あの化石、ほんまはビーコなんです…」
そう正直に打ち明けてくれた真直ぐな瞳。
その目から零れる涙を見た時、俺はその美しさに心を奪われた。

彼女と出会ってから、目の前に拡がる世界は一変した。
この世はこんなにも鮮やかな景色を持っていたのか。
燻り続けた三年の月日が嘘のように俺の体が心がざわめいている。
兄弟弟子と数を競って付き合った娘たちや、肌を合わせた女たちには持ち得なかった感情。

これが、恋か。
俺は今、恋に落ちたのか。

噺の中だけなら何度となく自分の口から語ってきたこの情に、俺は初めて捕われた。

最初は俺の片思いだったこの恋は、ひょんなことから実を結んだ。
切っ掛けは俺の一門に入り、若狭と呼ばれるようになった妹弟子が
彼女へ、俺の高座を見るよう勧めてくれたことからだった。

「ビーコ、どうしてます?落語頑張ってます?」
俺と会う時はいつも必ず妹弟子のことを尋ねてくる彼女。
その妹弟子も、俺が出かけるたび
「今日、エーコと会いなるんです?」
気のないふりをしつつも興味津々といった目で聞いてくる。
(ほんま、よう似とる)

行きつけの居酒屋で、理不尽に彼女へ罵声を浴びせた若狭を怒鳴りつけたこともあったが
本来、ふたりは親友なのだろう。落語の喜六と清八のように。
幼馴染みだという少女ふたりの学生生活を思い浮かべてみる。
同姓同名で、小学生の頃からエーコ、ビーコと呼び合っていたというふたり。
きっと姉妹のように仲良く、いつも一緒にいたのだろう。
想像は飛躍する。
落語の稽古をする俺の隣で微笑む彼女。
照れくさそうに親友を「姉さん」と呼ぶ妹弟子。
それは、そう遠くない未来予想図に思えた。
彼女が、俺と俺たちの落語を支えてくれる。
若狭もきっと喜ぶだろう。

351:Romanticist Egoist 2
08/06/14 05:05:58 tQ8HY28b
紫陽花が濡れる頃に始まった恋は、身を焦がすような夏を経て
萩の零れる季節を迎えた。

彼女に、東京行きの話が持ち上がったのは丁度その頃だった。
大阪ローカル局で番組アシスタントや天気予報キャスターを務めていた彼女へ
東京のニュース番組がスカウトの声をかけてきたのだという。
「エーコが活躍するとこ、見たいな」
親友の成功を夢見る無邪気な妹弟子のように、俺は素直に喜べなかった。
むしろ、手前勝手な恐怖が先立っていた。
彼女が、俺の側から離れてしまう。
遠距離恋愛。そんなものは考えられない。
俺の望みはただ一つ。彼女と一緒にいることなのだから。

「東京へは、行かんといて欲しい。好きやから、一緒にいて欲しい」
俺の精一杯の告白に、彼女は迷っているようだった。

「今夜、部屋へ来てくれませんか?」
彼女から連絡があったのは、俺が一門恒例の居酒屋の寄席を
直前の下らない喧嘩で出番禁止となった、冴えない夜のことだった。
「…どうしたんや、エーコちゃん!?」
ドアを開けて俺を出迎えた彼女は、酷く泣き腫らした顔をしていた。
「なんでもない…なんでもないんです」
強がって微笑む彼女を俺は黙って腕の中へ引き寄せる。
「…俺の前で無理して笑うこと無い」
しかし彼女は、気丈にも俺の腕をそっと押し退けた。
「今日は、草々さんにお願い、あるんです」

彼女の纏う雰囲気そのままに清楚で、それでいて華やかなこの部屋。
ここでの思い出はどれも温かくて甘酸っぱいものばかりだ。
そんな部屋の真中で彼女は切り出した。
「東京、行こう思てるんです」
「……そ、か」
終った。そう理解した俺はそのままこの部屋を出ようとした。その時。

「待ってください」
俺の服を掴んで俯いたまま、引き止める彼女。
「最後に、思い出、欲しいんです」
「…思い出?」
意を決したように、彼女は美しい顔を持ち上げる。
「……私のこと、抱いてください」

「…残酷やな、エーコちゃん」
俺は初めて。
恐れるものなど何も無い、傍若無人な彼女の若さを憎んだ。
俺は君が思うほどそんなに強い男じゃない。
今、君を抱いてしまえば。俺は一生君を忘れられない。
行かないでくれと、ここに居てくれと、また無様にすがってしまうかも知れない。
躊躇う俺に、彼女は必死に訴える。
「草々さんと最後に思い出作れたら、私、東京でも頑張れる気ぃするんです」
―思い出。

352:Romanticist Egoist 3
08/06/14 05:06:54 tQ8HY28b
「俺は、エーコちゃんに思い出になんかされた無い」
大人気ない、みっともない反発。
「判ってます…私が、どんな酷いこと言ってるか」
でも、と真摯な瞳が俺を貫く。
「草々さん、だから。私が初めて好きになった、私が尊敬する草々さんだから」
私の、初めてのひとになって欲しいんです。

「…後悔、しないな」
漸く絞り出した俺の答に、彼女は黙って頷いた。


初めて入る、彼女の寝室。
ふわりと甘い香りが漂い、俺の鼻腔を刺激する。
「草々さん、これ…」
突っ立っている俺に、おずおずと彼女が渡した小さな袋。
「……どうしたんや、これ」
「…前、大学の友達に、冷やかし半分で持たされてたんです」
「そやな…嫁入り前の身体、やもんな」
渡された避妊具を、俺は握り締めていた。

部屋の電気を消して、寝具の上へ彼女をそっと横たえる。
そのまま、静かにブラウスのボタンへ指をかける。
カーテンから漏れる月明りの中、白く儚げな裸身が徐々に浮かび上がる。
下着へ指を伸ばした時一瞬びくりと慄いた身体は、それでも抵抗なくされるがままだった。
全てを露わにしてから、俺は彼女に口付ける。
初めて触れた唇は甘く苦い味がした。

初めて触れる君の肌。初めて耳にする君の声。
君の全てを知るのは、君が俺の元へ来てくれる時だと信じていた。
冷えきった心のまま、それでも俺は君の温もりを求め続ける。
君の身体に潮が満ちる頃、避妊具をつけた俺は静かに君に潜っていった。
たった零コンマ数ミリの樹脂の厚みがもどかしい。
本当は。
生で君を感じたい。生の君の胎内に注ぎ込みたい。
ずっと側にいて欲しい。ずっと俺を支えて欲しい。
病める時も健かなる時も。死がふたりを分かつまで、永遠に。

終りの時がくる。
少女の中から身を引き、崩れる身体をまたそっと横たえる。
破瓜を終えた彼女は、言葉も無くはらはらと涙を流していた。
「…ごめん、痛かったよな」
「違います…違うんです、草々さん、私」
「なんも言わんでええ」
涙を拭い白く細い身体を胸の中に引き寄せる。
堰を切ったように嗚咽する彼女。その下から震える唇が紡いだ名は。

「びーこ…」

俺では無い、幼馴染みのもの。
びーこ。びーこ。びーこ。びーこ。
泣きじゃくりながらただ一心に親友の名を呼び続ける彼女。
その真意を知る術を俺は持たず。
もう二度と抱くことのない細い肩をただ抱き締めていた。

353:Romanticist Egoist 4
08/06/14 05:07:50 tQ8HY28b
「…大丈夫、ですよ」
彼女に正式に別れを告げた日の夜。
縁側からぼんやり月を眺めていた俺に、若狭は言葉を選ぶように話しかけてきた。
彼女に思い止どまるよう、俺の側にいてやって欲しいと頼み込んでくれたという妹弟子。
最後の夜。俺の腕の中で俺ではなく、彼女が呼んでいた彼女の親友。

そういえば。
彼女と別れて、家に戻った俺を待ち構えていたこの妹弟子は。
話を聞くやいなや、俺を押し退けるように彼女を追って飛び出して行ったのだ。
その後、ふたりの間にどんなやり取りがあったか知る由も無いが。
帰ってきた若狭は泣きそうな、それでいて戸惑っているような妙な顔をしていた。
俺は、そんな若狭に何も言えないまま無為の時間を過ごしていた。

ふと、先日の寄席で出番禁止となった兄弟弟子との喧嘩の原因。
若狭が俺を好きだという小草若の話を思い出した。
試しにその与太話を伝えてみると案の定、妹弟子はきょとんとした顔をしていた。
「あるわけ無いやないですか」
そう笑い飛ばす若狭の顔は、どこか寂しそうだった。
(…当たり前や)
若狭はずっと俺と彼女との仲を心配してくれていたではないか。
(小草若の奴、適当なことを)

若狭と彼女は、俺なんかよりもずっと。それこそ小学校の頃から付き合っていた親友なのだ。
なのに今日、その親友に別離を告げられたのだ。
俺の、せいで。

すまん、若狭。
腑甲斐ない兄弟子ですまん。
おまえが引き合わせてくれた、おまえの大事な親友にフラれてまうような兄貴ですまん。
せっかく、おまえが引き止めてくれたというのに、俺は彼女を。

乏しい頭の中、謝罪の科白だけなら山ほど浮かんではきたが。
どれもこれも口に出した途端、嘘臭くなりそうなものばかりで止めた。
「…ありがとうな」
やっとそれだけ言葉にすると。
「ええ妹弟子持って良かったですね」
若狭は笑って、ちょっとおどけて返してみせた。
「ほんまやな」
駄目な兄貴思いの、妹の頭をわしわし撫でてやる。
くすぐったそうに撫でられている若狭へ、俺自信にも言い聞かせるように。
「落語、頑張ろうな」
そう、告げた。

頑張ろう。遠い東の空の下で、ひとりで頑張る彼女の耳に届くように。
俺たちは俺たちの目の前にある落語を。
そしていつの日か。再会するであろう彼女に、胸を張って向き合えるように。
俺たち兄妹、力を合わせて。
頑張ろうな。



〈終〉


354:名無しさん@ピンキー
08/06/14 06:07:12 tZJv7B2b
乙!
ええで、ええで!

355:名無しさん@ピンキー
08/06/14 12:05:30 nE+jjT7W
うわー、めちゃくちゃ新鮮な思考でした、乙です!
草々の純粋かつ単純思考に、唸らされました。
やっぱり、エーコと草々って似ている部分があるんですね。

356:名無しさん@ピンキー
08/06/15 17:05:53 T7LAqqVR
ロマンティストエゴイストか・・・

357:名無しさん@ピンキー
08/06/16 00:08:17 RgiVQcIY
A子とやってるほうがソウソウは自然だと思う。うん。
GJです

358:名無しさん@ピンキー
08/06/16 06:00:49 mDFSGPVd
独身時代は理想の清楚可憐なお嬢様系美女と交際して
一つ屋根の下にいた自分にメロメロな妹的美少女と結婚…
マガジン系エロコメの主人公かお前>草々

359:名無しさん@ピンキー
08/06/16 10:46:01 FTDoXh3Z
前に草々×若狭の職人さんが書いてたけど
天然ドジっ子、コケティッシュに可愛くて巨乳、
出会ってからずっと草々一筋でゾッコン、加えて血は繋がらない妹キャラ

本当にどんなエロゲのヒロインですか
国営放送のヒロインとは思えん

360:名無しさん@ピンキー
08/06/17 00:45:56 0idw/ou9
>>359
ちりとてちんがエロゲVer.だとこんな感じ?

天然ドジっ娘、ロリでハンドボール大のお乳なわかさちゃんは落語家の卵なんです
そんなわかさちゃんは兄弟子の草々おにいちゃんがだーい好きv
だけど草々おにいちゃんは現役女子大生美人お天気おねえさんのエーコちゃんに夢中…
草々おにいちゃんを取られたくないわかさちゃんは、お師匠さんや草原おにいちゃん
小草若おにいちゃんや四草おにいちゃんに手伝ってもらって
今日も「大人の女の人」を目指してお色気のお稽古に励んじゃうんです!

どんな一門やねん(尊建)


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