ちりとてちんでエロパロ 第四席at EROPARO
ちりとてちんでエロパロ 第四席 - 暇つぶし2ch200:ウソツキより愛をこめて 3
08/05/24 23:46:43 sx7G5T8i

その日から――人生が、狂い始めた。
大学の講義は単位を落とさぬ程度。
落語に、明け暮れた。
CDを聞き、本を読みあさり、ビデオを食い入るように見て。
そして時間を作っては、落語会へと足しげく通う。
落語家に、なると決めた。
大学を卒業しないなど、親はひっくり返っても承知しないだろうから、大学の残り二年は
落語の腕を磨くと決めた。

徒然亭若狭が、欲しい。
嘘で塗り固めた自分の中で、この感情だけが…嘘いつわりないただ一つの真実。
…たとえ、狂っていると言われようとも。


徒然亭の落語会で、偶然一度だけ、兄弟子達と歩く彼女に至近で出くわしたことがある。
少しのリスクも犯すべきではない。そう思ったけれど、彼女の声を近くで聞きたい。
その思いに引きずられるように…声をかけていた。
「若狭さん、頑張ってくださいね」
そう微笑んだ自分に、花が開いたようににっこりと微笑んで。
「はい!ええ落語できるように、がんばりますさけ…」
彼女をガードするように徒然亭小草若と徒然亭四草がそれとなく送る視線を避けるように、
そっと頭を下げて立ち去る。

あまり、接近しないほうが良い。おかしなファンだと怪しまれないように。
あくまで自分は…落語好きな大学生。
「落語好きが高じて、落語家になる夢を捨てられずに徒然亭の門を叩く」日まで―彼女に接近は、しない。



201:ウソツキより愛をこめて 4
08/05/24 23:47:56 sx7G5T8i

大学四年。卒業が間近に迫った年。
あわただしく就職の準備をすすめる周りは、のん気げに構える自分を心配し、
「はあ?落語家?折角この大学入って、わざわざそんなもんにならんでええやん」
訝しげに自分を見る。
当然親は――大反対した。
けれど…もう決めた。
どうせ嘘で塗り固めてきた。落語家になるためなら、どんな嘘でもつこう。

入門するなら…徒然亭、草々。
彼女に一番近い男。上方落語界若手髄一の実力者。
弟子入りを志願したとて、何の不思議があろう?
草々に弟子入りすれば、彼女は自分のおかみさんとなる。
それは――彼女と共に過ごす時間を約束された立場。

深呼吸とともに、気持ちを落ち着ける。
記憶に刻み込んだ、徒然亭の電話番号をプッシュする。
もちろん、一度で、しかも電話で弟子入りできるなどとは思っていない。
今日は弟子入りしたい旨を伝えて、何とか会って欲しい旨を訴えるのみ。
無論、そんな約束が一度で取り付けられるとも思っていない。
何度も何度も、その熱意に相手がほだされるまで。

徒然亭草々の楽屋に何度も押しかけ、繰り返し電話をかけ。
そのたびに「まだそんな立場やない」とすげなく断られた。

けれど、徒然亭草若が亡くなってしばらく後。
まだ慌しい時期だろうからと、半ば諦めつつかけた電話で、
「一度、会いにこい」との、返事を手に入れた。



202:ウソツキより愛をこめて 5
08/05/24 23:48:39 sx7G5T8i

勝った――。
ここまでくれば、あとはもらったも同然。
後は、自分の得意分野。
落語がどれだけ好きかを伝え、徒然亭の面々を笑顔で騙しきれば。

古めかしい徒然亭の門前に立ち、呼吸を整える。
(あと少し。あと少しで。)
ゆっくりと呼び鈴を押す。

しばらくして出てきたのは―夢にまで見た、女。
少し緊張した面持ちの彼女が、あ、と何かに気づいたようにほわりと微笑む。
「ずうっと前に、私に『頑張ってください』言うてくれたひとですね――」
(覚えて、いた?)
「まだたくさんの人の前に慣れん頃やったでぇ、ほんま嬉しかったんです」
懐かしむような、優しい眼差し。
「あ、ほんま気ぃきかんでぇ…。草々兄さんに弟子入り希望のかた、ですよね?」
小さな、自分の胸ほどしかない体。白い花のような顔。
目を奪われる。返事が遅れる。抱きしめたいと欲する腕をおしとどめる。
落ち着け、と自分を叱咤する。今日を乗り切れば、毎日彼女と過ごせるのだから。
「…あ、はい!木曽山、勇助と言います」
内心の動揺を悟られないように、完璧な、緊張した笑顔を作る。
憧れの落語家の元を訪れて、弟子になれるだろうかと不安に揺れていると見えるように。



203:ウソツキより愛をこめて 6
08/05/24 23:49:20 sx7G5T8i

予想通り。何もかも予想通り。
ちょいとおだてあげると、徒然亭の面々は手もなく相好を崩し、自分を認めた。
もちろん、思ってもいないことなどは口にしてはいない。
一番効果的な嘘は、真実の中に紛れ込ませた、ほんのひとしずくの嘘。
徒然亭草原の芝居噺はかなりのものだし。
徒然亭小草若の明るい華は、真似をできるものではない。
徒然亭四草の算段の平兵衛は、抑えた演出が聞かせる。
そして若狭は…最近はじめた創作落語が、きっと古典より向いている。
ただ、それぞれが喜びそうなエッセンスを、口当たり良くまぶして感想を伝えただけ。

そして徒然亭草々を陥落させるには、情でほだすのが一番。
どうせ許可を与えない親は亡くなったことにして――チェックメイト。


その日のうちに向かいの居酒屋で入門祝いが催された。
何かネタをやってみろと促されて、そこで「鉄砲勇助」を披露する。
ほんの自己紹介代わり。名実ともに。
自分は「鉄砲勇助」。それと伊達に大学時代を落語に費やしたわけではないという証明を兼ねて。
もう明日からは、自分は徒然亭の新弟子。
何もかも、自分の描いた、いびつな設計図通り―



204:ウソツキより愛をこめて 7
08/05/24 23:50:03 sx7G5T8i

「…おい」
店を出た時、後ろから声がかけられた。
感情の読めない、低い声。徒然亭、四草の声。
たっぷり2つ数えて、無垢な笑顔を作って振り返る。
「何ですか、四草師匠?」
こちらをじっと見つめる鋭い視線。自分より上背の低い彼の、言いようのない威圧感。
「…前に、会ったことあるな。」
「え?」
「…若狭に声かけたこと、あるやろ?」
思わず、狼狽した。
(落ち着け)
何も狼狽する必要はない。ただ一度、頑張ってくださいと声をかけただけなのだから。
「え、は、はい!あの時四草師匠、おられましたよね!覚えていて下さったんですか!?」
思わぬ僥倖に感激していると見えるように、驚いた笑みを作る。

「…忘れるわけ、ないやろ?」

にいっと徒然亭四草の唇が吊り上がる。見透かすような目。背筋がぞっとする。
なんだこの感覚は――?

「あんな飢えた目で若狭を見とったら、な」

みやぶられて、いた…?
まさか。周りの誰も彼も、今まで騙しとおしてきたのに。
ひび割れそうになる表情。うわずりそうになる声。言うことを聞かない鼓動。
何とか押し隠して、抵抗を試みる。
怪訝そうな表情と、傷ついたような目線を作り上げ。
「な、なんでそんなこと…。僕はそんな――」
「…『鉄砲勇助』か。ようも言うたもんやな。見事に表情作りよる」
徒然亭四草の目がらんらんと輝く。
「筋金入りやな。けど…あの目に気づかれとる以上、無駄や」

…それもそうだ。すうっと力を抜く。
「…素はなかなかふてぶてしい顔やな」
薄くにやり、と笑う男に冷めた目線を送る。
「…で?何の用ですか、四草師匠?」



205:ウソツキより愛をこめて 8
08/05/24 23:50:46 sx7G5T8i

「若狭を手に入れるために、落語家になる、か…」
すうっと笑みをひそめて、四草が呟く。
「…そんなわけ、ないじゃないですか。おかみさんになるひとですよ?」
もちろん嘘。見破られていることも、承知の上。
徒然亭四草の顔を、真正面から見つめる。この男は。この感情を見せない男は。

「貴方は…徒然亭若狭を手に入れたいと思っているんでしょう?」

でないと、、見破れるわけがない。この自分の、あのほんの一瞬の眼差しを。

徒然亭四草の目が、すうっと細められる。
その鋭い目線を、真正面から見返す。

「そんな筈ないやろ。兄弟子の嫁の妹弟子、や。他人の女に手え出す趣味は、あらへん」

これも嘘。もちろん嘘。向こうも、見破られていることは承知の上。

「そうですよね。変なこと言ってすみません、四草師匠」
「そうやな。俺も変なことを訊いたな」

言葉とは裏腹の、燃えるような敵意を鋭い目に宿して。
徒然亭四草は、笑った――。


徒然亭若狭を手に入れるために、最も障害になるのは――間違いなく、この男。
夫たる徒然亭草々でも、気のない振りをしようと努めても彼女を目でおう徒然亭小草若でもなく。
けれど、と木曽山勇助は思う。
自分は全てを棒に振っても、あの女を手に入れると決めた。
決めたからには、必ず、手に入れる。

「なにしとんなるんですか~四草兄さん!木曽山君!」

こちらに明るく微笑みかけて小走りに駆け寄る彼女を。
例え、誰が邪魔しようとも―


<終>



206:名無しさん@ピンキー
08/05/24 23:51:32 sx7G5T8i
お疲れ様でした。読んでくださった方がいたらありがとうございます。
エロまで及ばないでほんますみません。
これストーカーですね。嘘山ごめんよ。
嘘山、どこからどこまでが嘘なのか良くわからないので、
いっそのこと一つを除いて全部嘘にしてみましたバージョンでした。

207:名無しさん@ピンキー
08/05/25 00:20:59 anZrcuAx
>>206
GJです。
けど嘘山君、このあと散々草々若狭夫妻の営みを聞かせられる羽目になるのね・・・・・

208:名無しさん@ピンキー
08/05/25 00:59:02 8OQlSJSx
>>206
超GJ!!
どんな人物かと思いきや、本編ではあっさり片付けられたからね
こんな裏があったらおもしろすぎる
そしてやっぱり四サマ!!かっこよすぎるー!!www
会見でさらに色気増してたし、これ読んでハァハァしますた

209:名無しさん@ピンキー
08/05/25 01:00:43 HYux3VTR
>>206
うわぁあぁGJGJGJ!!!
ぞくぞくくる素敵な作品でした。
エロもひっそり期待します

210:名無しさん@ピンキー
08/05/25 03:57:42 eTWqPakH
>>206
GJ!
鉄砲vs算段家の対決が格好いい!
どちらも胸に徒然亭若狭への欲望を秘めて…というのがなんともエロス。
ふてぶてしい素顔の木曽山に惚れました。

211:名無しさん@ピンキー
08/05/25 07:19:57 W+nGxH67
>>206
GJ!木曽山若狭に一目惚れだったんか~。
可愛いやつっちゅうか、やっぱストーカーっちゅうかw

212:名無しさん@ピンキー
08/05/25 08:00:43 ZoKo5PXR
>>206
GJGJ!
本編のウソヤマVS四草は笑えたけど、
あの一瞬の緊迫感がどわわーっと盛り上がって、脳裏に蘇りましたw
いいわ~。

213:名無しさん@ピンキー
08/05/25 08:02:01 Q4m6b7hw
>206
GJ!
ダーク嘘山いいね。4が見抜いてるのに、草々兄さんは何も気づいてなさそうだw

214:名無しさん@ピンキー
08/05/25 08:07:39 LUR6ddEy
>>206
GJ!!
ストーカー気質、似合いますね嘘山w
こんなこと考えてそう、と思いつつ楽しく読みました。
四草とのやり取りが大ヒットです。
第二弾も期待しておりますー。

215:206
08/05/25 23:49:56 jF1LxnyG
GJ下さった方本当にありがとうございます。
…最近なんだか微妙に精神的に病んでる系の話しか浮かんでこないので、
こう、明るい話でも書いてみたいものです…DVD待ちかな。

歴代スレの神々の名作、只今倉庫にて順に熟読中なのですが、本当最高ですね。
改めて倉庫神&歴代創作神々に感謝です…!

216:名無しさん@ピンキー
08/05/26 02:37:42 G6prBbZW
小草若兄さんのがっつりエロが読みたいなあ。
なかなか無いような気がするけど。キャラ的に難しいのかな?
なんせ喜代美抱きしめた時もえらいお上品な、はかない抱きしめ方だったしなあ…
自分で書けたらいいけど、エロエロの腕がorzだし。


217:名無しさん@ピンキー
08/05/26 03:20:22 zSCtbgAV
>>216
その二人のがっつりといえば、2スレめ35~の「アンバランスなkissをして」
それ何度も読み返してる
あとは前スレの妄想寿限無の夢実現編も官能的
でも数が少ないのは同意
書いてみたくなって投下したこともあるけど、いまいちだったwww

あの抱きしめかたはよかったね
勢いはあったけど、壊れ物のように抱き寄せて…
新鮮だったな

予告観てwktkしすぎてその部分だけリピートしまくった
そして本編観て涙…

218:名無しさん@ピンキー
08/05/26 13:13:46 m5NZpi1s
小草若基本お坊ちゃまだからエロくするの難しい…
A子との考えてみるけど二人とも育ちがいいから濃いH出来なくて
かといってギャグにもなりにくそうで。

219:名無しさん@ピンキー
08/05/26 16:10:55 inqQPF5c
すみません。
この流れに乗っかりまして、出来心で書きなぐったエロ小草若を投下してみます。
内弟子修行時代で小草若×喜代美。エロあり。

220:小草若×喜代美1
08/05/26 16:12:34 inqQPF5c
毎日俺は彼女の前で道化の仮面を被る。

「喜代美ちゃ~ん、今日も底抜けに可愛いな~大好きやで~」
「あ、おはようございます小草若兄さん」
日常茶飯時の軽い告白。彼女ももう慣れっこで、本気になどしていない。
当たり前だ。本気に取られない為の道化の仮面だ。
その下にある真実の叫びを悟られない為の。

愛してる。愛してる。愛してる。俺の可愛い、喜代美。


彼女とは、出会いからして道化じみたものだった。
落語の師である父が、母を失い自暴自棄の沼から這い出せずにいた頃。
事情を知らなかった俺は、父を非難することしか出来ずにその日も父の家に行き。
彼女に、出会った。
父の事で頭が一杯だった俺は、彼女を父が連れ込んだ女かと思い込み随分失礼な罵声を浴びせかけた。
当然、憤った彼女に鞄でぶっ叩かれる羽目になったのだが。
まさか、誰しも冗談だと思うだろう。
その時俺は、彼女に一目惚れしてしまったのだ。

当時、父からも落語からも離れタレント業に専念していた俺には。
名うての女誑しの弟弟子ほどでは無いが、言い寄る女に不自由はしていなかった。
明るくておもろい男は、ここ大阪ではモテの必須条件だ。
そこそこに女遊びも経験したし、中には名前を出せば皆が羨むようなモデルの卵と付合った事もある。
それだけに自分でも信じられなかった。
まさかこの俺が、こんな垢抜けない女の子に本気になるなんて。

しかし、その女の子―喜代美ちゃんは、知れば知るほど魅力的な少女だった。
不器用で鈍臭いけど、真直ぐで一生懸命で。他人の為に泣いたり笑ったり出来る心の綺麗な子。
彼女に背中を押されるように復活を果たした徒然亭一門に、その彼女が入門して来た時。
俺は既に彼女の虜になっていた。

彼女への恋を自覚してから。俺は仮面を深く被るようになった。
だって相手はまだ18の少女。
30近い男に本気で言い寄られては怯えさせてしまうだけだろう。
それに。彼女には想い人がいる。
俺の兄弟弟子でガキの頃からの腐れ縁の、徒然亭草々。
あの馬鹿男は彼女の恋心など眼中に無く、よりによって彼女の友人に夢中になってる始末だ。
それでも彼女は健気にあの馬鹿を想っている。
その小さな背中を見つめながら、声には出さず語りかける。
―俺じゃ駄目か?
その一言を口に出せないまま。今日も俺は道化を演じる。
彼女の笑顔を曇らせたくないから。これ以上。

221:小草若×喜代美2
08/05/26 16:13:26 inqQPF5c
午後の収録を終えて。俺はいつものように草若邸へ向かった。
喜代美ちゃんの顔を見るために。

今日は、父も草々も磯七さんとこの落語会に呼ばれていて。
草原兄さんは緑姉さんの実家へ颯太連れて泊まりに行っていて。
四草は店が忙しいらしく朝からバイトに駆り出されていて。
―今行けば、喜代美ちゃんと二人きりで過ごせる。
そんなスケベ心を抱えながら枝折戸を開けた俺は。
庭先から見える居間に目指す姿を見つけた。
無防備に横たわる愛しい少女の姿を。

「き、喜代美ちゃん!?大丈夫か?」
「………くー」
不吉な想像に駆け寄った俺をよそに、彼女の口からは健康的な寝息が洩れている。
「ったく、人騒がせやな…」
ほっと安堵した俺は、急に間近で見る彼女の寝顔を意識してしまう。
閉じた瞼に縁取られた黒く長い睫毛。ぷっくりと清潔な桃色の唇。薄紅の差す白くまるい頬。
その愛くるしい顔は、どことなく疲労の色が浮かんでいて。
(疲れてたんやな…)
男でもきつくて音を上げる内弟子修行。
それを女の子で、こんな小さな身体で必死にこなしているのだ。
誰もいないこんな時間、つい気が緩んでしまうのも仕方ない。
(けど、こんなとこで寝てたら風邪ひくで)
「喜代美ちゃん起き…」
彼女を抱え起こそうとした瞬間。
「……ん…ううん…」
くたんと。バランスを崩した女体がもたれかかってきた。

「き、喜代美ちゃん…!?」
俺の腕の中に預けられる、温かくて柔らかな重み。
ふわんと鼻をくすぐる女の子特有のいい香り。
そして。そして。
「…これ、ちょっと、マズいやろ」
俺の右手には。ちょうど彼女のふくよかな胸が当たっていた。

当たっている、なんてもんじゃない。
体重をかけてもたれてくる乳房は。
まるで俺の右手を包み込むように柔らかく押し迫ってくる。
服の上からだというのにしっかりと重くたわんでいて。
(わかっていたけど喜代美ちゃん、巨乳なんやな…)
いや、胸だけじゃない。俺の身体に当たる腰も、太腿も。
少女の身体はしっかり女の形に成長しているのだ。
(あかん、妙な気起こしそうや)
なんとか右手だけでも退かそうとした俺は。
むぎゅ
…かえって強く鷲掴んでしまった。
(あかんやないか―!)
「ご、ごごごめん喜代美ちゃんっ!」
慌てる俺の耳に飛び込んできたのは。
「……んっ…」
快感を伝える女の溜息。
―俺の中で何かが弾けた。

222:小草若×喜代美3
08/05/26 16:14:14 inqQPF5c
そこからの時間は、魔が差したとしか言い様が無い。
眠る少女を左腕に納め、右手は。少女の乳房を揉みしだいている。
「……んっ…んんっ…」
何も知らない唇から濡れた吐息が漏れる。
もっと。そうねだるように、柔らかな身体が擦り寄ってくる。
「喜代美ちゃん…」
あかん。あかん。
そう頭では警鐘を鳴らしているのに、右手は彼女に囚われてゆく。
薄手のパーカーの裾から手を差し入れると、滑らかな肌を指先に感じる。
その先には。
薄い布地に包まれた、蕩けるまでに柔らかな生の乳房が。
つ、と俺の指が触れると。
「ああ……ん…」
堪えられない、とでも言うような快楽の声。
誘われるように。ゆるりと指を食い込ませる。
掌に感じる、先端の突起。
おそるおそるブラをずらすと、ぷっくりと尖り自己主張をしているのがわかる。
そっと摘んでみる。
ぴくん、と震える。
「喜代美ちゃん、気持ち、ええ?」
欲に掠れた俺の声に。
「…ん……きもち……ええ……」
夢うつつで答える、濡れた女の声。
頭が真っ白になる。何も考えられない。
その甘い吐息に誘われ、唇を寄せたその時。
「…こ、そうじゃく、にいさん……?」
とろりと潤んだ瞳が、俺を見た。

ぎくり。
冷水を浴びたように手が止る。
彼女の瞳はそれ以上の追求はせず、またゆっくりと閉じられた。
憑物が落ちたかの如く、手を抜き彼女を横たえ。
俺はそのまま便所に駆け込んだ。

「……くっ…はっ…」
既に完勃ちだった俺のモノは、二・三度扱いただけで簡単に精を放った。
あらぬ方向へ飛び散ったそれを紙で丹念に拭う。
左腕の柔らかな重み。
右手の蕩ける感触。
耳につく濡れた吐息。
とろりと俺を捉えた目差し。
それらを全て拭い去り熱の引いた俺を襲ったのは、吐き気のする後悔と嫌悪。
(何をしたんや、俺は)
愛しい、愛しい少女に。
あんなに大事にしてちたのに。あんなに大切にしていたのに。
「終い、やな…」
悔やんでも悔やみきれない。
何の為に俺は道化を演じていたのだ? 彼女を傷つけない為ではないか。
(それを、俺が傷つけてどないすんねん)
寝ている間に、兄弟子と信じた男に無体を働かれたのだ。
(顔も、見たくないやろな…)
自業自得だ。

ともかく、彼女をあのまま冷えた座敷に置いておくわけにもいかないだろう。
鉛のように重い身体を引き摺りつつ、俺はまた、彼女の横たわる居間へと戻った。

223:小草若×喜代美4
08/05/26 16:14:52 inqQPF5c
「喜代美ちゃん、喜代美ちゃん…」
震える手と震える声で彼女を呼ぶ。
覚悟は出来ている。
どんな罵声を浴びせられても、どんな冷たい目で見られても。
それだけのことを俺はしたのだ。
青ざめた顔で待つ俺にかけられた彼女の最初は。
「…はれっ?小草若にいさんっ!?」
そのどれでもない、すっ頓狂な驚愕だった。

「すすすすみませんっ!仕事片付いて、なんやふわーって気持ちようなって気ぃついたら…」
「ええて、ええて、今はだーれもおらんのやし」
―助かった。
行為の最中夢うつつだった彼女は、完全に覚醒した今、何も覚えていなかった。
それをいいことに卑怯な俺は、妹弟子を心配する優しい兄弟子の仮面を被る。
「ほんまはあかんのやけどな、今は俺しかおらん…内緒にしたる」
「わあ!ありがとございます小草若兄さん!」
偽りの優しさにはしゃぐ彼女の声に、ちくちくと罪悪感が胸を刺す。
俺は知ってしまった。
君の身体を。
君の肌を。
君の濡れた声を。
君の―快楽に耽る、女の顔を。

無邪気な少女の中に眠る、快楽を求める、女。
でも、それは。
俺だけの秘密。
俺の胸の、一番奥の奥に仕舞い込んで鍵を掛けた、秘密。


「喜代美ちゃ~ん、今日も底抜け~に大好きやで~」
「小草若兄さん、草原兄さんがあっちで呼んどりましたよ」

今日も俺は、君の前で道化の仮面を被る。
君が本気にする筈も無い、日常茶飯時の軽い告白を繰り返す。
この仮面を外すのは。
君が、もっと大人になってから。
俺の胸に秘めた、あの日の女に君が近付いてから。
その日まで。
俺は何度でも君の名を呼ぶ。
道化の仮面の下で、真実の君への恋を叫び続ける。

愛してる。愛してる。愛してる。俺の可愛い、俺だけの、喜代美。




〈了〉


以上です。
ごめんなさいごめんなさい。なんかもうひたすらにごめんなさい。

224:名無しさん@ピンキー
08/05/26 16:48:21 35WM4SeV
何を謝る必要が。
GJです!!

若狭が結婚した後の小草若を思うと、泣ける…。

なんで普段おちゃらけてるくせに、こんなに苦悩する姿が似合うんですかね、小草若は。

225:名無しさん@ピンキー
08/05/26 17:31:41 VqZgfmSJ
底抜けにGJです!

本編でも、小草若にはぜひとも幸せになってほしかった…
切ないです

226:名無しさん@ピンキー
08/05/26 22:23:06 G6prBbZW
>>219
GJです!!
胸をつくあまりの切なさ。苦しい想いが辛すぎて涙…。
道化の仮面という悲しいフレーズが、小草若とオーバーラップしすぎる。
本当にね…幸せになってほしかったです。

>>217
「アンバランスなkissをして」、自分も何回も読みました!
今回また読んで、また小草若ものがっつりエロの腕に圧倒されながら泣いた…。
妄想寿限無の夢実現編…自分のだorzエロの腕ねえなと思い知らされたあの辺り。
官能的と思ってくれた人がいて本気で感激した。腕磨いてまたチャレンジしてみたい。

小草若の抱きしめに象徴されるあの、明るさの影の繊細さ切なさが何とも言えず良いね。
ちなみに自分も予告見てwktk→本編でorz…ってなったw
小草若×喜代美派の夢を一瞬で叩き潰してくれました…。

227:名無しさん@ピンキー
08/05/26 23:30:53 IcAjdUyH
>>223
書きなぐってこのクオリティはすごいです。脱帽。
直接的じゃないのがまたエロい!
小草若の心情が切ないのに、手を出しかけるあたりも生々しくて良かったです。

228:名無しさん@ピンキー
08/05/26 23:40:08 zSCtbgAV
>>219
タイミングも内容もGJです!
バレなくてよかったーと小草若と一緒に安堵w
道化の仮面って、なんて切ない表現…あああ・゚・(ノД`)・゚・。
次もバレないようにね(応援)

>>226
好きな作品の作者さんとはやっぱりツボが被るんですね!!
こちらも感激です
立ちバッk(ryマダァ-? (・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン

229:名無しさん@ピンキー
08/05/27 00:35:37 V1SXkaf7
うはw
過去スレ三席目の変態柳眉×若狭読み返したww
何度読んでも変態すぐるwww
この職人さんはもういないのかな…

ちなみに小草若×若狭は同じく三席目の「不信の時」が好きだ。

230:名無しさん@ピンキー
08/05/27 02:11:50 e4C5V+MG
>>219
超GJ!!!
冒頭とラストの小草若の叫びが胸に迫ってくる…。
今日のぐる関で小草若姿の茂山氏を見て、夏のスピンオフは
小草若の一番つらい時期が始まる頃か…と切なさ再到来だったので
まさにすごいタイミングで読ませてもらいました。
またの投下お待ちしています。

ところで喜代美、皆様巨乳設定は当然wで確定してるんだね。
いやそこがまたいいんだけど。中の人そんなにすごいのか…。
ゆったりした服が多かったんで微妙にわからんかったw見る目ないな自分。

231:名無しさん@ピンキー
08/05/28 04:59:34 mvjVNFvR
友春×順子投下します。
順子ちゃんの気持ちを妄想しただけです。内容薄めエロあり。
順ちゃん、はじめての恋?

232:恋歌 1
08/05/28 05:00:40 mvjVNFvR


ひとをこいする。

それはどんな気持ちなんだろう――?
自分の気持ちを誰かに傾けて、その人で心をいっぱいにする。
それは…自分には訪れたことのない感情。

たくさんの恋を見た。
誰それが好きだと頬を赤らめる高校のクラスメートたち。
下宿先の「草々さん」のことを話す、B子の恥らったような表情。
B子に何年も何年も好きだ好きだと繰り返す友春さん。
人気タレントなのに、B子の姿を見つけた瞬間に、TVカメラや体面も気にせず、
目を輝かせてB子に駆け寄った徒然亭小草若さん。
そして、偶然訪れたA子の部屋で「落語家なんかと付き合うな」と友春さんに言われた時の、
初めて目にするA子の反発する姿。

そんな感情は、自分にはとてもとても遠いように思えていた。

自分は「いつも冷静な、しっかり者の順ちゃん」で。
いつも一歩引いたところから、どこか冷静に観察していた。
少し、ほんの少し、誰かにそんな強い感情を持てる皆がうらやましかったけれど。

なのに、いつからだろう。
恋、という言葉を思い浮かべるたびに、いつも一人の顔を思い浮かべるようになったのは。
これは恋なんかじゃない。
あんなアホ。
口を開けばB子B子。
製作所の跡取りであることを自慢するかと思えば、一転「自分に製作所がやっていけるやろか?」と
泣き言をこぼし。
かと思えば能天気でなんも考えとらんし。

なのに、友春さんが泣き言をこぼすたびに、なぜか心の中がぽっと温かくなって、ふっと
あたたかく抱きしめたいような、包み込んであげたいような気持ちが浮かんできたり。
B子との恋について相談されるたびに、なぜか心のどこかがちくりと痛んだり。

これは恋じゃない。
泣き言をこぼす友春さんを叱り飛ばし励ましながら、繰り返し言い聞かせる。
この人は――B子を恋しているのだから。



233:恋歌 2
08/05/28 05:01:32 mvjVNFvR

「草々さんと結婚することになったん――」
電話でそうB子から告げられた時、あまりの急な話に驚いたけれど。
でも、B子の片思いの期間を知っているから、それが報われたことがとても嬉しかった。
結婚式の朝、白無垢姿でそっと佇むB子は…今までにみた何よりも綺麗だった。
何かを見て、こんなに綺麗だと思ったことはなかった。
綺麗に化粧をして少し恥らうようにうつむくB子は、幸せと、恋に輝いていた。

B子の家族や、徒然亭の人たちに囲まれて行われた和やかな結婚式。
のはずが…
うちのお父ちゃんとお母ちゃんが鯖持ってなだれ込んできて、徒然亭近所の居酒屋夫妻と
バトルを開始すると思えば。
それを見てみんな止めるどころか、B子の兄弟子の人とB子のおじさんは賭けを始めて、
みんなそれに乗っかりだしたり。
散々な様相を呈し始めて。
挙句の果てには――花婿のように盛装した友春さんまで現れて。

庭先から、つかつかと近づく友春さん。
B子を…奪いにきたのだろう。
ずっとずっと思ってきたB子が、結婚してしまうのに耐えられず。

見ていられなくて、くるりとB子に背を向ける。
心が苦しくて。そんな場面は見たくないと心が悲鳴を上げて。

だから――何が起こったのか、わからなかった。
突然背中に何かがすがりついて、すごい勢いで引き寄せられて。
何が起こったのかが判ったのは、友春さんの声が耳元で響いた時。
動けなかった。友春さんに抱きしめられていると気づいて。
何も考えられなかった。
ただ一つだけ……とても、あたたかいと思ったことを除いては。



234:恋歌 3
08/05/28 05:02:38 mvjVNFvR

ひとって、あたたかい…
知ってしまった。知らなければ、その温もりが愛しくなることなんてなかったのに。
抱きしめる腕のあたたかさ。そして体のあたたかさ。
友春さんと、逢瀬を重ねる。
魚屋食堂に電話がかかる。そのたびに軽やかにはずむ胸。
「製作所やけど、鯖頼むわ」――それが逢瀬の合図。
了解ならば、「本数は?」――それは時間の指定。

いつもの場所に停められた友春さんの車。
飛び込むと、愛しげにこちらを見て微笑む顔。
それだけで、ふうっと舞い上がるこころ。
これが…恋?
恋とは、、なんて、あたたかくてしあわせな気持ちなんだろう。

「順子…」
唇が重なる。あたたかく。
頭の中が、とろけそうになる。
「順子…好きや」
友春さんのかすれた声は、胸に甘く甘く響く。
「…私も…好きや」
友春さんの手が、服の上から胸に添えられゆっくりと揉みしだく。
むさぼるようにお互いの服を脱がせあう。
友春さんの唇が胸の先端を吸い上げ、もう片方の胸の先端を指で転がす。
体に、緩やかな痺れがはしる。
「あ、、」
「順子…めっちゃ、可愛い…」
「…アホっ…、、ああっ!」
胸を思うさま揉みあげられる。首筋を舐めあげられる。
ぞくりとするような…官能。
思わず、友春さんの背中にすがりつく。その感覚が怖いような気がして。
ふっと笑って友春さんが私の頬を撫でる。
「そんな顔したら…可愛いて、どうしょうものうなる…」
「…や…っ、そん、な」
友春さんの指が、秘所を撫でる。ゆっくりと、慈しむように。
耐え切れず声が漏れる。体が反り返る。
やがて濡れた音。とめどなくあふれるそれを指に絡め、友春さんはゆっくりと中に入れる。
「ふ、ああっ…」
自分の中が犯される感覚。もっと、もっとと求める気持ちを抑えられない。
「めっちゃやらしい、顔…」
そんな言葉にさえ、もういつものように「アホ!」と返すことなどできず、
出るのはただ喘ぎ声。
2本、3本…と指が増やされるたび、その指が中をかき回すたび、体が甘く震える。
頭の中が、白くほどかれていく。
ただ、友春さんの熱を帯びた体にすがりついて、その感覚に耐えることしかできない―



235:恋歌 4
08/05/28 05:03:48 mvjVNFvR


「順子っ、じゅんこっ、」
ただ自分の名を呼びながら、友春さんがはげしく突き上げる。
「ふっ、、くぅ…ん、…と、もはる…っ!」
奥の奥まで友春さんを感じながら、絶頂を迎える。
うめくような声と共に、中まで友春さんのあたたかいもので満たされて。

その意味も考えようとせず…自分は、その温かさと朧げな官能の波に酔いしれて。
息を荒げて、けれど優しく自分に微笑む友春さんの胸の中で、幸せを感じていた。


ただただ、恋の甘さに溺れて、いた。

その代償は、とてもとても大きなものだったのに。

子供が、できた。
そんなこと、どう言えばいい?
どうすればいい?
これは…自分の引き起こしたこと。天災なんかじゃない。
友春さんは製作所の跡取り息子。自分はお父ちゃんの作った食堂を守りたい。
一緒になんか、なれるはずがなかったのに。
初めて感じるあたたかさに溺れて、取り返しのつかないことを。
どうして、どうして恋なんか。
友春さんが、、愛しい。けれど、B子みたいに祝福されて一緒になるなんて、できるはずがなかったのに。
あの幸せに輝く未来が、自分と友春さんの間にはあるはずがなかったのに。
心が引き裂かれる。
あのひとと一緒にありたいと悲鳴をあげる心。
結婚することなんて絶対出来ないと、冷静に判断する心。
苦しくて、息がつまりそうに。
誰か、誰か、助けて。
B子――


恋とは――こんなにも苦しいものだなんて。


知らなければ、良かったのに――




236:恋歌 4
08/05/28 05:05:01 mvjVNFvR
以上です。話的には暗い終わりですが、本編ベースなので
結果は本編につながります。最初あげててすみません。
お目汚し失礼しました…。

237:名無しさん@ピンキー
08/05/28 05:11:48 mvjVNFvR
あ…どうでもいい話ですが、タイトル「順恋歌」のつもりだったのにorz
なにからなにまで手落ちだらけで申し訳ないです…。

238:名無しさん@ピンキー
08/05/28 07:50:38 jryNXCLU
>>237
GJです
冒頭のみんなの恋を冷静に見つめるくだりが実にこの子っぽいし、すごく好みの書き出しでした
個人的にタイトルはそのままでGJです
連想させる人たちにあまりいいイメージがないので…

239:名無しさん@ピンキー
08/05/28 08:47:38 CxnaBoBE
>>237
いいねえ…。
なんか、ああ、順ちゃんはこうやって恋をして、
B子に相談したくなるくらい考えたんだなあ、って思った。

240:名無しさん@ピンキー
08/05/28 13:37:18 EoeEFPjI
避妊失敗して出来たのかなと思ってたけど、
アホボンだからついつい…そのままやっちゃったのかな?

241:名無しさん@ピンキー
08/05/28 19:13:54 O9w8d1rN
>237
GJ! 順ちゃんとボン、いい組合せだよね。
順ちゃんとボン父・母との会話も怖いけど見てみたい。
最初はぎこちなかったんだろうなー。
双子もすごく可愛かったから、孫可愛さにどんどん嫁とも仲良くなったのかな。

242:名無しさん@ピンキー
08/05/28 23:58:07 7tooivOm
>>237
GJ!
小浜のロミジュリカプにまた会えて嬉しかったです!
順ちゃん見てると本当に恋は思案の外だなって思う。

243:名無しさん@ピンキー
08/05/29 20:41:07 RFzNPNh4
ちょっと息抜き小ネタ投下。草々×糸子(若狭)っぽい。


結婚生活二年と三ヶ月。
俺は今、人生の岐路に立たされている。

「ほら草々さん遠慮せんと」
「ああっ!ずるいずるいお母ちゃんばっかり!」
妻・若狭の母で俺の義母の糸子さんは、結婚前からの馴染みで。
こうして大阪に泊まりに来るのもしょっちゅうだ。
…それはそれでいいんだが。
「ほんに喜代美は幸せもんやな~、こーんな男前の草々さんに可愛がってもらえて」
なでなでなで
「ちょっとお母ちゃん!草々兄さんはわたしのや!」
すりすりすり

久し振りだからと酒が入ったヨッパライ母娘二人、俺の右と左にぴったりくっついて。
俺の両腕に二人の胸が。俺の両耳に二人の吐息が。
まあ、なんだ。いわゆる両手に花状態?

(よう考えたらお義母さん、俺と十くらいしか違わんのやな…)
成人した子の母親とは思えない、色の白さ。肌理細かな肌。胸の豊かさ。
(…童顔やし)
こうして見ると母娘はまるで姉妹のようにそっくりだ。
(…あっちの具合も一緒やろか)
不埒な想像が頭を過ぎった瞬間。
むぎゅ
「あらあら草々さん、こっちも立派なんやね~」
お、おおおおおお義母さんんん!?
「お母ちゃん!勝手に触らんといて!」
ぎゅむ
わ、わわわわわわわかさあああ!?
勃ち上がりかけた俺のモノへ、母娘の白魚のような指が絡み付く。
「どんどんおっきくなるんやね~」
「もう!お母ちゃんがそんなんするからやろ!」
…ちょっと待て、どうしたらええんやこの状況!?

1.このまま母娘どんぶり
2.もしかして母娘どんぶり
3.やっぱり母娘どんぶり

三択の意味ねえええええええッ!!!



<糸冬>

244:名無しさん@ピンキー
08/05/29 21:08:02 7dLTxHlF
>>243
超GJ!!
めいっぱい笑わせて頂きました!
そういや意外に年齢差ないんですよね~。美味しい設定だw

245:名無しさん@ピンキー
08/05/29 22:16:16 vcSgoc7s
GJ!
新しい世界を見た気がするw

246:名無しさん@ピンキー
08/05/30 01:06:57 YAOR/sxR
GJ!面白いですね~!
おかあちゃんの年齢と比べてみるとそんなもんなんだね。
ぜんっぜん気がつかなかった…。
エロゲみたいな実質意味なし選択肢にコーヒー吹きそうになったw


247:名無しさん@ピンキー
08/05/30 06:20:57 9snEyOF/
よく考えたら、草原や四草のほうが年近いんだな>糸子さん
うっかり糸子さんとクジラの竜田あげとか給食バナで盛り上がって
若狭や小草々ら若者組に「えー知らないですー」言われて落ち込んだりする兄弟子ズとか

248:名無しさん@ピンキー
08/05/30 10:25:44 OL91N3ZX
若狭と同年代だが、鯨の竜田揚げは給食で出たぞ。
娘の小学校でも先日出たらしい。

249:名無しさん@ピンキー
08/05/30 22:08:10 DeUl+SvN
>>247
草原は小次郎とほぼ同じ歳のはず・・・
糸子と喜代美のまんなかへんに四草草々小草若なんだよね

250:名無しさん@ピンキー
08/05/30 22:50:39 3lBVIgiu
しーそうそうそうこそうじゃく

なんかいい語呂

251:名無しさん@ピンキー
08/05/31 00:27:31 sQZN3CQS
キミ犯のテロップに
青木一って出てたvW

252:名無しさん@ピンキー
08/05/31 00:33:20 4uFxgpOu
自分もそれ気になったww<青/木/一

若狭が心配で忍んで出たのかと妄想しました

253:名無しさん@ピンキー
08/05/31 00:52:33 HlsRg3+v
雨続きなので思いつきで書いてみました。
小草若→喜代美、一門復活後?くらいの曖昧な時期設定。
エロなし、小草若の片想い話です。
関西弁も小浜ことばも自信ないので、おかしかったら指摘お願いします。

254:白き花の如く 1
08/05/31 00:53:08 HlsRg3+v
「喜代美ちゃーん。って、あれ?」
いつもなら稽古中でない限りは挨拶する妹弟子の声がしない。
台所をひょいと覗いたが、求める人影はいなかった。
「若狭なら買い物行っとるぞ」
代わりにぬっと出てきた大男。
草々が鬱陶しげに自分を見ながら言うのにかちんと来る。
「お前に聞いとらんわ!って、傘持ってったんかな」
梅雨の明けきらない変わりやすい空模様、小草若が到着したときに少し降り始めていた。
「あいつ出てくときは降ってなかったんやないか」
「ほな迎えに行かな」
それより稽古!という草々の声を聞き流し、いそいそと玄関へ向かう。
傘を広げ、もう一本余分に持って歩き出した。
一年で一番日の長いこの季節だが、厚い雲に覆われた空は薄暗い。
雨が上がればきれいな夕焼けが見られるかもしれない。
隣には、誰よりも大切な女の子がいたらもっといい。
静かに降り続く雨の中、緩みがちな顔を引き締めながら歩いていく。
住宅街の中の狭い道、向こうから自動車が来たので端に寄って立ち止った。
ろくにスピードを落とさず、雨粒を撒き散らしながら車は走り去っていった。
嫌な予感、と呟いて足元へ視線を落とし、裾の水はねの跡に舌打ちする。
「ちっ、ついてへんわ」
なんやねんあの車、と毒づきながら顔を上げると、雨の匂いに混じって微かな芳香。
元を探して見上げると、視界に緑と白のコントラストが飛び込んできた。
大樹に青々と茂る葉と、その隙間を埋めるかのように咲く大きな白の花。
花のひとつが両手を広げたほどもあるそれは、芳しい香りを放っている。
「この花―」
裾の汚れも忘れ、目を奪われた。
―これは泰山木いうんやで。
―タイ、サン、ボク?
―そや。木に咲く花では一番大きいで、きれいやろ。
いつか歩いていたとき、まだ手を引かれるくらいの歳の頃、父親に名を教えられた花だった。
馥郁とした香りも、子どもの目から見ても驚くほど大きな花弁も―つながれた手も。
ひとり歩いているときに思い出すには、感傷的すぎる記憶だった。
「あかん、喜代美ちゃん困っとるわ」
さっと目を逸らして灰色の道を歩き出す。
だが、霧雨に包まれてなお鮮やかな白色の花びらは、瞼の裏に焼きついて容易には離れなかった。

255:白き花の如く 2
08/05/31 00:54:11 HlsRg3+v
五分ほど歩き、角を曲がった先で視線を留める。
「喜代美ちゃん?」
スーパーの軒下、両手にビニール袋を提げて空を見上げる女の子。
途方に暮れたように、また俯いてため息をつく。
そばまで行くとようやく気付いてくれて、その顔がぱっと輝いた。
「小草若兄さん!」
―あかん、可愛い。
自分を、というより自分の手に握られているもう一本の傘を見た笑顔であっても、内心メロメロになる。
「傘持たんと出てきたんやないか思うて、迎えに来たったで~」
「助かります! ありがとうございます。忙しいのにすいません」
「ええねんええねん。ほれ、重いやろ。ひとつ持ったる」
傘を差し出す代わりに買い物袋をひとつ受け取ろうとすると、そこは不器用な喜代美のこと。
あたふたと荷物を持ち替えて受け取ろうとして、手を滑らせて。
「あっ!!」
地面に落ちる直前でキャッチしようとしたのかどうか、地面にビニール袋と喜代美が転がった。
「そこで転ぶとは、逆に器用すぎるで喜代美ちゃん……」
ああ~卵がぁ~と足元であたふたと散らばった品々を集めながら嘆く彼女に、思わず吹きだした。
周囲を歩く人の目がやや気になるが、今はそれどころではない。
自分の傘も閉じて地面に置いて、一緒に拾ってやる。
雨と泥まみれになった食材にがっくりと肩を落とす喜代美の手から買い物袋を引き取って、傘を渡した。
「ほら、あんまり遅いと師匠に叱られるで。って、雨止みそうやな」
「あ、ほんまですね」
立ち上がった喜代美を見ると、手と膝が汚れてしまっている。
すっとハンカチを差し出すと、なにからなにまですいません~と恐縮しながら受け取ってくれた。
「擦りむいたりしてへんか?大丈夫か?」
「子どもやないんやから、大丈夫ですよ」
いや、大丈夫やないから聞いとんねん、と言おうとして、やめた。
迎えに来たことか、持つ荷物が減ったことか、ハンカチ借してもらったことか。
なにが嬉しかったのか判らないが、喜代美がにっこり笑っていた。
他の兄弟弟子に邪魔されずにこの笑顔を見られただけで、来たかいあったというものだ。
「よっしゃ、帰るで喜代美ちゃん」
戻ればこの女の子の笑顔は二番弟子の大男に向けられてしまうのだから。
今くらいは独り占めしたっていいだろう。
「ほんで、今日は晩ご飯なに作るつもりなんや?」
そんな何気ない会話ひとつも、自分にとっては大切な時間なのだと、再確認しながら歩く夕暮の道。

256:白き花の如く 3
08/05/31 00:55:17 HlsRg3+v
「そや、来るときここで車に思いっきり水引っ掛けられてなぁ」
行きの途中、アクシデントの起こった場所まで戻ってきていた。
ほら、水跳ねとるやろと立ち止まって裾を指差す。
「ほんまですね。こすれば落ちる思うでえ、帰ったら洗いますね」
「ああ、ええねん。そんなつもりで言うたんやないで。そろそろクリーニング出さな思うてたとこやし」
「でもそれくらいなら」
しばしその場で押し問答して、クリーニングするからと納得してもらったそのとき。
「なんや、ええ香りしますねここ」
喜代美がきょろきょろと辺りを見回した。
―泰山木だと、すぐに気付いた。
小柄な喜代美の視界には入っていない。
「この花の匂いやで」
垣根越しの頭上を指すと、喜代美が空を仰ぐように見上げた。
雨雲が去って、沈みかけた夕陽が世界をオレンジ色に染めている。
「わあ、大きい花」
夕暮れの風の中、喜代美は微笑んだ。
ふわりと空気を孕んで、彼女のスカートが揺らめいた。
その姿ごと風にさらわれてしまいそうで、思わず手を伸ばしかけた。
―この瞬間を、一枚の絵として閉じ込めてしまえたら。
不意に、そんなことを思った。
変わらない時間、咲き続ける花を望む愚かさを知らない歳ではない。
それでも。
「小草若兄さん、きれいですね」
じっと眺めていた喜代美が、自分を振り返った。
大樹の花々はなにかを主張するように咲き誇っている。
白い花びらは夕陽に染まり、橙色の濃淡を見せていた。
「ああ、きれいやな。……きれいやで」
掛け言葉に気付くはずもなく、彼女は再び垣根越しの樹木を仰ぎ見る。
風はまた、喜代美の黒髪を乱していく。
唇に微笑を刻んで見上げているその横顔を、まばたきも忘れて見つめる。
今だけは―
目の前にいるこの子が花に見飽きるまで、この幻想のような時間に身を任せていたい。
だからどうか、美しく咲け。
少しでも、一秒でも長く。
止まない胸の痛みも愁いもなにもかも含めて。
鮮やかな白の大輪に、そっと祈った。



ゆふぐれの泰山木の白花はわれのなげきをおほふがごとし(茂吉)

257:名無しさん@ピンキー
08/05/31 00:56:45 HlsRg3+v
読んで下さった方、どうもありがとうございました。
茂吉ファンがもしいらしたら謝りますスイマセン。
しかし……キミハン見てたのにテロップに気付かなかったorz

258:名無しさん@ピンキー
08/05/31 01:09:29 fXBgCIvW
>>253 GJ~
茂吉をみて茂山吉弥と変換したのは内緒だ

259:名無しさん@ピンキー
08/05/31 01:31:02 TxK8eZqM
GJ!
優しいね。季節にもぴったりで素敵です!雨の後の夕暮れに薫る白い花と彼女と、
それにただ見とれる小草若が映像つきで目に浮かんできました。

260:名無しさん@ピンキー
08/05/31 05:48:45 NGPlwZd0
良かったなあ。
時期も今ころか。
天満宮に泰山木が
あるんかなあ。

261:名無しさん@ピンキー
08/05/31 16:03:51 0cxS/xCf
>>253
GJ!
なんという繊細な情景。
引用された詩ともあいまって、この一編のSSそのものがまるで一枚の水彩画のよう。
素晴らしい。としか言いようが無いです。

262:名無しさん@ピンキー
08/05/31 23:23:53 wbmDvAnq
GJ!綺麗にまとまってますね~
小草若ってこういう純情テイストは勿論、シリアスも本格エロもギャグも
みんな不思議と嵌まるキャラだよね。

263:名無しさん@ピンキー
08/06/01 00:54:25 9UFlRpcn
ここで空気読まずに四草もの投下しますが、始めにお断りを。
アニメxxxHoLiC主題歌19才の歌詞丸パクリという厨丸出し文なんで、
嫌悪を感じるかたはスルーお願いします。
第11週の捏造設定で若狭→草々前提の四草×若狭。エロあり。

264:四草×若狭 1
08/06/01 00:56:52 9UFlRpcn
その年の夏は、今思い返しても不快指数の高い日が続いていた記憶がある。
だからなのだろう。
あの無性に苛ついていた日々は。

茹るような蒸し暑さは午後の陽射しを一層不快なものにさせていた。
肌に纏わりつく熱気が鬱陶しい。
うんざりするようなアスファルトの照り返しに焼かれながら、天狗座からの出前を受け取りに行った俺は、
さらにうんざりするような光景と出くわす羽目になった。

兄弟子と若い女の二人連れ。それを物陰から見ている阿呆。

「なに油売ってんのや、こんなとこで」
案の定、見ているこっちが惨めになるくらい慌てふためく阿呆娘。
あまつさえご丁寧に電信柱と激突してひっくり返ってやがる。
心底うんざりして舌打ちが鳴る。
―まるで俺が転ばせたみたいやないか
呆然とへたりこむ阿呆をそのままにする訳にもゆかず。
俺はしぶしぶながらその阿呆―妹弟子の徒然亭若狭を自室へ連れ帰ることとなった。

「ほんまにすいません、四草兄さん…」
ちっこい体をさらに縮めながら俺について部屋に入って来る。
とりあえず薬箱から消毒液と軟膏を取り出し。
「腕、見せえ」
細かに擦り傷のついた白い腕に処置を施す。
びくん
痛みに震えるその身体に、顔を合わせず質問を浴びせる。
「つけてたんか、草々兄さんのこと」
「ち、違います!……お使いの途中で、偶然見てしもて…」
「で、咄嗟に隠れたと」
こくんと頷く白い顎が目に入る。
(とことん、間の悪い奴や)
妙に苛立ちが募る。

「…ありがとうございました」
礼を言って腕を引っこめる若狭を止める。
「待て、まだ足もケガしとるやろ…ジーパン脱げ」
「はあああああっ!?」
盛大に後ずさる阿呆。なに考えてんねんこいつ。
「アホ、おまえジーパンぱっつんぱっつんやから手当て出来んやないか」
「あ。ほうですね…」
えらいすいません、とぺこぺこしながら素直に脱ぎだす妹弟子。
(おまえ、目の前にいるのは棒きれかなんかとちゃうねんぞ)
自分で命じといた癖にその素直さが面白くない。
変に煩悶する俺をよそに、するすると厚手の布地が取り払われる。
下から現れる、むっちりとした太腿とすんなりと伸びる白い脛。
だぼっと垂れるシャツの裾で下着を隠し、所在無げに座り込む。
なんてことはない。
部屋に来る女で見慣れている姿だ。しかも、その女たちより数段下のガキだ。
―なにを興奮してんねん、俺は。

265:四草×若狭 2
08/06/01 01:01:23 9UFlRpcn
幸い、布に包まれていた膝はかすり傷程度で済んでいた。簡単に消毒液を吹きかける。
「ひゃっ!」
滲みるのか、ふるんと揺れる白い太腿。
今更ながら思う。
こいつが入門して随分経つが、こんなあられもない姿曝してんのはまだ誰も見たこと無いだろう。
師匠も、こいつに惚れてる兄弟子も。…あの、男も。

「なっ!なにするんですか四草兄さんっ!」
太腿に手を這わせてのしかかる俺に激しく抵抗する若狭。
その目は恐怖と困惑で揺らいでいる。
(まあ、そらそうやろな)
判ってたら、幾ら阿呆でもこんな男の部屋に来てこんな無防備な姿になってない。
なおも暴れる四肢を押さえつけ、その耳に囁く。
とっておきの毒を。

「…今頃、草々兄さんはあの女としてるんやろな」
こういうことを。

ひくん、と身を震わせて抵抗が止む。
此処ではない何処かを見つめる瞳。
「悔しくないんか?…同じ『きよみ』やのにな」
はっとしたようにみるみる潤んでゆくその目。
暗い嗜虐がじわりと拡がる。
卑劣な罠。
「…内弟子修行中は、恋愛禁止です」
最後の抗い。
「これは恋愛違う」
逃げ道を用意。
「ただの色事や」
噺家なら修行の内やで?
欺瞞。

「…あっ…はぁっ……ああ……」
もはや抗う気も失せたのか、素直に俺に従う肌。
絹のように滑らかな肌。19歳の、生娘の肌。
(処女抱くんは久し振りやな)
陶器を扱うようにそっと触れてゆく。
壊したくない。…これ以上、傷をつけたくない。
我ながら勝手な言い草だ。何も知らぬ少女を騙してこんなことをしている癖に。
(あの恐竜頭にこんな芸当出来る訳ないやろ)
あの女には一指も触れていない。賭けてもいい。
こうしたかったのだ。おまえを、俺が。
苦痛を取り除くように。緊張を解すように。ゆっくりと指を這わせる。

無垢な肌が快楽に染まる頃。
おずおずと俺の背にまわされる細い腕。
「…すき……にいさん…」
甘く、切なく、愛しげな呟き。
かっと血が滾る。鼓動が高鳴る。歓喜に身が震える。
「……すき」
今一度、甘い吐息を紡ぐ愛しい唇。
目眩がする。
ついぞ言う筈のなかった科白が知らず口を吐く。
「……喜代美」
俺もや。そう囁きかけた瞬間。
大きな瞳がはっと見開き。諦めたかのようにすぐ閉じられた。
瞳に浮かんでいた落胆の色。
違う。
こいつが抱かれているのは、俺ではない。此処にいる筈もない、あの男。

266:四草×若狭 3
08/06/01 01:02:38 9UFlRpcn
冷静になってみれば至極当然のことだ。
あれほど虐げられても兄弟子を恋うているこの娘が、
たかが肌を合わせたくらいで心移りする筈もない。
(…おまえ騙した報いやな)
こんな年端もゆかぬガキの言動に一喜一憂する己が滑稽だ。

腕の中の少女を見下ろす。
半裸に乱れて露わになる白い肌は薄紅色に染まり、蒸れて女の香が立ち上ぼる。
このまま帰すのか。
あの男の元へ。
この女に想われる価値も判らぬ男の元へ。
否。
答は否、だ。

「ああ…っ!…やあっ……!」
申し訳程度に引っ掛かっていたシャツを剥ぎ、ブラをむき、白い果実に喰らいつく。
あの野暮ったい身形からは想像もつかないほど艶めかしい女の正体。
柔らかく弾んでは包み込み、俺を誘う。蠱惑する。
(これが、ほんまのおまえなんか)
零れ出る嬌声を押し殺そうと、赤く熟れた唇を噛む少女。
傷になるのを恐れて咄嗟に己のそれで塞いだ俺は。

―ああ…
その甘やかな感触に囚われる。熱い吐息が絡む濡れた唇。
重ねるだけでこの身を蕩かすそれは、無情にも俺以外の男の名を紡ごうとする。
それを封じる為に深く舌を捩じ込む。
愚行。
閉じられた瞳は俺を映すことなど無い。
その瞳を抉じ開ける為に、張り付いた最後の下着に指をかける。
びくりと見開かれた恋しい瞳は、俺を映して怯える。
求めるものとはかけ離れた現実。
「しい、そう、にいさ…!」
「濡れたパンツ穿いて帰りたないやろ?」
布の下の蜜を指の腹でつっとなぞり。
「――ッ!」
くぷ、と浅く指を沈め震える少女に突き付ける。
「判るか?…ここに、入れるんや」
男のアレを。

丹念に解した未通の箇所がしとどに濡れる。腕の中の憐れな獲物は既に忘我の境地だ。
手早く服を脱ぎ、尻ポケットに突っ込んでいた財布からゴムを取り出し。
袋を破って少女の小さな口に押し込む。
「っん……?」
「初めては痛いからな…ようしゃぶっとけ」
何を強いられているのか漸く合点がいったらしい。悲痛に揺れる瞳。
それでも言われるまま舌を絡める従順を哀しく思う。
無垢な少女の唾液に濡れたそれを嵌め、その身に押し入る。
圧迫に軋む少女の純潔。愚劣な征服欲に満たされる己を嘲笑い、果てる。


全てが終り。
力無く横たわる白い裸身が呟く。
「…色事も修行の内、なんですよね」
俺に向けられる何も映さぬ瞳。
「またこの部屋来てもええですか…四草兄さん」

267:四草×若狭 4
08/06/01 01:08:08 9UFlRpcn
苛立っていた。何もかもに。
鬱陶しい残暑の熱。
算段の平兵衛を教えてくれない師匠。
そして。
俺の嘘に乗っかる体裁を取り、この部屋に来る妹弟子。

「あっ…はぁんっ…ああ……んっ」
貪婪な若い肌は瞬く間に快楽を得て、溺れ耽る。
俺はただ一個の性具となり、女の欲を満たす。
勘違いしてはいけない。
これは情交などではない。妹弟子の自慰に付合っているだけだ。
瞼を閉じてその裏に愛しい男を映す、情欲に濡れた艶めかしい媚態。
囚われそうになる恋慕に気付かないふりをする。ただ行為に集中する。
考えるな。
目ヲ開ケテクレ
俺ヲ見テクレ
今オマエヲ抱イテイルノハ誰ナノカ
オマエヲ欲ッシテイルノハ誰ナノカ
俺ハズットオマエヲ―
五月蠅い。
羽虫のように繰り返す耳鳴りを振り払う。
愛撫の指に一層力を込めた時。
「―そう、にいさん……」
一瞬、呼ばれたのかと錯覚する。
判っている。九分九厘無い。
それでも、しっかりおっ勃っている己が無様だ。
戒めるように、熟した唇へ齧り付く。暖かな感触に身が千切れるほど痛む。
―これは、俺への罰や。
叶う筈も無い愚かな欲望のままに、無垢な少女を蹂躙した己への。
「…どうして」
ふいに。離れた唇が開き、問いかけてきた。
この、俺に。
「どうして、キスしてくれなるんですか…」
四草兄さん。
「…なにひとつ出来ひん、私に」
(…おまえこそ、その唇に毒塗ってこの部屋に来てるやろ)
でなければ説明がつかない。
こんなガキのキスひとつで、身体も脳も溶けてしまいそうなこの俺の。

唇はなおも言葉を紡ぐ。切れ切れに。
「…厭やのに」
こんな気持ちも。
こんな毎日も。
「…四草兄さん」
兄さんを、こんなことに利用してる、汚い私も。
「……喋るな」
頼むから、もうこれ以上。
俺もおまえも。
汚れてる魂だけを取り除くのが無理なら、何処へ向かって歩けば良いというのだろう。
宙ぶらりんな嘘と偽りの恋を抱えたままで。

ただ無心に、乳房を吸う。ただ無心に、蜜を啜る。
白く滑らかな19歳の肌を存分に味わう。
細い指が髪に絡む。白い腕が首にまわる。舌を絡める。唾液が交わる。
無言で膝を割る。女の腰があがる。誘い込まれる。
身を進めながら今一度、己に言い聞かせる。
(これは恋愛違う)
(…ただの色事や)
原始の雄と雌に返り、互いを貪る。後はただ、背中のふたつある獣。

268:四草×若狭 5
08/06/01 01:08:47 9UFlRpcn
その夜の寝床寄席は散々なものだった。
まず、二人の兄弟子が直前に喧嘩を始めて出番を削られ。
急遽三人会となった本番で、俺の高座はボロボロに終った。
師匠に無断でかけた算段の平兵衛。…あいつが見ていなかったのが唯一の救いだ。
激怒した草原兄さんが冷えきった客席を盛り返し、師匠に繋げて幕を引いたが。

「今日はもう遅い。話は明日や」
いつの間にか師匠の隣に来ていた妹弟子を横目に、お疲れ様でしたと頭を下げて帰路につく。
(…破門、か)
そんな考えがちらちら脳裏を掠める。
それもいいかもしれない。どうしようも無い想いを抱えたまま、半端な落語を続けるよりは。
埒も無いことを自問しつつ自宅に帰り着いた俺は。
「お疲れ様でした」
部屋の前に佇む妹弟子に無言でドアを開けた。

「遅かったですね四草兄さん、どこか寄りなったんですか?」
それには答えず逆に聞く。
「…なんで来た」
よもや俺に抱かれる為ではあるまい。何故かそう直感した。
「四草兄さんにお礼言わな思って」
寝床に居た時は気付かなかったが、彼女は妙に晴れ晴れとした顔をしていた。

「今日、エーコに会いに行っとったんです」
エーコ。彼女の幼馴染みの恋敵。
「…全部、ぶちまけて来ました。私の汚い気持ちも、全部。ほんで」
東京には行かんといて。草々さんの側におったげて。
「そう、言いに」
「ええんか、それで」
「…悔しいです。今は悔しい」
でも、胸はって生きたいから。草々兄さんの前でも。エーコの前でも。
「四草兄さんの、前でも」
その吹っ切れた表情は、今まで見た中で一番美しいと思った。

「…もう、ここ来る必要ないな」
「ご迷惑、おかけしました」
「別に、なんでもないことや」
嘯く俺に彼女は囁いた。
とっておきの毒を。
「四草兄さんには、沢山の女の人のひとりなんやろけど」
―私には、初めての男のひとやから。
唇に落とされた、甘やかな感触。

去って行く女を見送りながら、ぼんやりと考える。
何故、抱き締めなかった。何故、引き止めなかった。
さもしい未練。
「…下らない」
最初から判りきっていたことではないか。この結末は。

「ク、ク、ク、クダラナイ クダラナイ」
俺の呟きの何がそんなに気に入ったのか、籠の中の平兵衛が高らかに鳴く。
「言うな平兵衛」
黒く誇らしげな羽を撫でて彼に告げる。
「こんな人生がええんや…俺は」



〈幕〉

269:名無しさん@ピンキー
08/06/01 01:24:20 jxRzgGvz
GJ!!!!

久しぶりの四草×若狭で萌えた!

270:名無しさん@ピンキー
08/06/01 02:18:03 kqIEK1k2
>>263
GJ!!
久々のCPにwktkして投下完了待ってました!
3で終わりか…と思ったら続いていてしっかり完結、しかも本編生かしつつ…すばらしいです
性描写が新鮮
共犯ってのもいい
女に対して(苦悩しつつも)とにかくかっこいい四の話が好きだー
また投下してください!

271:名無しさん@ピンキー
08/06/01 04:03:47 95tNZpqj
GJです!!
読みながら本当、ドキドキしました…。
クールな描写&四草×喜代美独特の背徳感に惚れ惚れ。
また楽しみにさせて頂いております。


272:名無しさん@ピンキー
08/06/01 10:27:17 jgwHJOvg
GJ
いつもながら四草の熟達っぷりには脱帽
裸見ただけで他の事が頭から飛んでしまう人種には、遠い道のりだよなあ…

273:名無しさん@ピンキー
08/06/01 18:30:12 95tNZpqj
本当に素敵な話の後で恐縮ですが、小草々→若狭投下します。
時期は小草若が失踪から復帰した年の夏あたり。
小ネタ系でエロなし。なのに何でか長いです。
お暇つぶしに、よろしければドゾ。

274:小草々→喜代美 1
08/06/01 18:31:35 95tNZpqj

「さ、師匠どうぞもう一献!」
「あ、ああ。おおきに」

草々の盃が空くや否や、小草々がさっと酒を満たす。

「ささ、どうぞ!あ、おつまみ足りませんね。何にしましょ?」
にこにこと笑いながらも、小草々は気遣いを忘れない。

「あ、すみません草々兄さん…私気ぃつかんでぇ…」
「ホンマ小草々は気ぃがきくっちゅうか、底抜けに抜かりないな~」
「目ざといっちゅうか、計算高いんでしょ」

ここは寝床。久しぶりに一門揃っての夏の酒盛りの真っ最中。
家族の待つ草原兄さんは、酒に後ろ髪をひかれつつも家へ帰り、皆程よく酒が回り
落語以外の話にも舌が軽くなり始めた頃合いである。

「で…何の話やったっけ?」

すでに少し呂律の回らなくなりかけた草々が、真っ赤な顔で盃に手を伸ばす。

「やだなあ師匠!おかみさんとのな・れ・そ・めの話ですよ~!」
小草々が明るく笑う。その顔には『興味津々』とでかでかと書かれているかのよう。
「なれそめ言うても…、、もともと若狭が師匠んとこ来て…なぁ若狭?」
振られた若狭は、真っ赤な顔でうつむく。
(可愛ええなぁ…)
そんな某数名の心の声はさておき。
「ほぅですよね…、、私が草々兄さんのこと好きになってぇ…片思いでぇ…
 って何でこんな話しとりなるんですか!恥ずかしいやないですか!きゃあ!」
酔っ払ってはいてもあんまりの恥ずかしさに限界を超えたのか、若狭は突然立ち上がる。
「ごめんなさい!だいぶ酔うたみたいやでぇ、ちょっと外で頭、冷やしてきますさけ!」
言い残して、ぱたぱたと慌しく駆け出して行ってしまった…。

残された男4人。あっけにとられてその小さな後姿を見送る。



275:小草々→喜代美 2
08/06/01 18:32:15 95tNZpqj

そやけど、と酒をあおりながら口を開いたのは小草若。
「若狭がお前のこと好きやったんはともかく、お前がいつから何で若狭に惚れたんか、
 底抜けに俺も疑問やってん。」
なんでや?と物問いたげな目を草々に送る。
「ああ…、、俺が破門になって、京都の北の町で土方やっとった時、な…」
そこまで言って、草々は果たして口にして良いものかと少し迷う。
今日は…どうも酒を飲みすぎたらしい。自分でもずいぶんと口が軽いなと思う。
「なんやなんや!そこで止めるんかい!底抜けに気になるがな!」
「そうですよ師匠!あ!お酒足りませんか?さささ、どうぞ!」
「…」
徳利を手にしようとした小草々を制するように、四草は黙って草々の盃に酒を注ぐ。
…どうやら聞きたいようである。
期待に満ちた眼差しと無言の圧力。草々はぐいっと酒をあおり。

「雨に濡れて俺、風邪ひいてもて。廃屋で一人熱にうなされとったんや。
 親父の形見の座布団は犬にかじられるし、なんや一人やいうんを身にしみて感じとって…。
 で、その晩、夢見たんや。何やあったかいもんが、ずうっと側におってくれて。
 俺は一人やない言うてくれて…。おかみさん、みたいなあったかさやった。」

そこまで話して、草々は少し後悔する。やっぱり話すべきやなかったんやないかと。
これは、誰にも話したことない、若狭と自分だけの…思い出。
けれど、酒にしびれた頭は言うことを聞いてくれず、舌が勝手に回り続ける。
…ええい、ままよ!

「目ぇ覚めたら…若狭が微笑んどって。いっつもあんなおどおどしとるのに、なんや包み込むみたいな…
 そんな微笑で見とったんや。看病してくれとったんはあいつで、俺は一人やない言うてくれたんも
 あいつで…。その時…」

呂律の回らない口でひとしきり喋り終えたと思う間もなく。
「すまん若狭!」
そう一言叫んで、草々は撃沈した。どうやら酒量が臨界点を越えたらしい。


276:小草々→喜代美 3
08/06/01 18:32:55 95tNZpqj

「あああ…つぶれてまいよった。ま、俺らも初耳のそんな話するくらいやから、相当酒まわっとったんやな」
少し複雑な顔の小草若。
「それにしても、あれがきっかけやったんかあ…」
あ~あ、とため息をつく。
「俺が尊建の奴殴ったんがある意味きっかけ、みたいなもんやん…。なんちゅうこっちゃ」
あああ俺のアホ!と一人で勝手に暗くなる小草若はさておき。
「おかみさん、それまでずうっと片思いやったいうことですよね?うわ、けなげですね…」
感じ入ったように小草々がもらす。
「…相当ひどい扱い、草々兄さんにされとったけどな。俺が会った時にはもう草々兄さんに惚れとったな」
ちろり、とウーロン茶をなめながら四草が呟く。
「そうやったんか…俺かなり長いこと気づかへんかったからなあ…」
「小草若兄さん、何自分で気づいたようなこと言うてはるんですか。教えてもろてやっと知ったくせに」
「ま、そやけど…。まあそれはええがな!それにしても若狭の看病で落ちたんやなあ草々。
 俺も熱出した時一回看病してもろたけど、あの時はそれどころちゃったんやけど、
 ホンマあれは今考えると…うひょひょひょひょ!」
いきなり自分の世界に入る小草若。
はぁ、と嫌そうな顔でため息をつく四草。
「熱って、あれ仮病の時やないですか」
そう突っ込みをいれるが、妄想の世界に突入した小草若には聞こえていない。
いつの間にか、小草々も黙って…何かに思いを馳せている、ようだった。


(そっか…おかみさん、看病属性、あるんや)

「大丈夫、小草々くん?」
自分の側について、看病してくれるおかみさん。
心配そうに揺れて自分を見つめる大きな瞳。自分を気遣う言葉を紡ぐちいさな紅い唇。
額に伸ばされる白魚のような手。おかみさんの手作りの、特製病人用メニュー。
「小草々くん、食べられる?あ~ん、して…」
熱いお粥をそっとよそい、ふうふうと冷まして自分の口に…

あ~ん、と口を開きかけて、小草々は我に返った。
誰にも…見られていない。ほっと胸をなでおろす。
(アホや僕…でも。)
正直…おかみさんは、ほんま可愛い。何しろ小草々が一番年が近いという若さだし。
つまりアレだ。師匠の奥さんやのに、そんな目で見てしまう。
(アホアホ僕のアホ!師匠おかみさんほんますいません!)
でももしも、一度だけ、一度だけでもそんな風に看病してもらえたら。
(男の、ロマンや…)

よし。



277:小草々→喜代美 4
08/06/01 18:34:54 95tNZpqj

「おはよう…ございます…」
「あ、小草々くん、おはよ…ってどないしたん!?」
よろよろと入ってきた小草々の姿に、若狭は仰天して駆け寄る。
なにしろ顔は真っ赤、目はうつろで…足元はふらふらとおぼつかず、今にも倒れそう。
「風邪、引いてしもたみたいで…ホンマすみません…でも大丈夫ですから…」
そう言いながらも咳き込んで、柱にもたれかかる小草々の姿に、若狭はおろおろする。
「大丈夫やないやない!今日は家の仕事なんかええから、部屋で寝とかな!
 ええと、くすりくすり…」

おろおろと自分を心配するおかみさん。
熱でふらふらしながらも…小草々の心は浮き立っていた。
(すみませんおかみさん…こんな不埒で不肖の弟子で)
この数日、夏とは言え冷水風呂に入り裸で寝るという涙ぐましい努力の末、やっと手に入れた熱。
小草若師匠は仮病でも看病してもらえたということだが、それはあんまりにも申し訳ない。
何しろあの忙しい可愛いおかみさんに手間をかけさせるのだ。
(おかみさんに看病してもらえるんやったら、、ガチで熱、出しますて)
内弟子部屋の自分の布団で、うっとりと妄想にひたる。
なにしろ高熱。自分の体感的には39度近い…ような気がする。
熱にうかされて妄想も走る走る。

額にそっと伸ばされたおかみさんの手を引き寄せて。
驚いて自分を見つめるおかみさん。
「ごめん…なさい。熱なんて久しぶりで、なんや不安に…なってもて。こどもみたい、ですね…」
弱々しく微笑む自分。そんな自分を慈愛に満ちた微笑でつつむおかみさん。
「ええよ…それで不安やのうなるんやったら…。早う元気になってね」
自分の手をその柔らかい白い手でそっと握り返し。
もう一方の手は自分の髪を、あやすように柔らかく撫でて。
いつしか夢うつつ、優しいその膝に甘えるように頭をもたせかけ、そして。
柔らかい腿の感触を感じながら、これは熱のせいだと自分に言い聞かせながら。
おかみさんのたおやかな手にそっと口づけて――あとはその腕ごと、自分の体に引き寄せるように。


それはないやろ、と普段の自分なら冷静に突っ込みを入れるレベルの妄想にふけっていると。



278:小草々→喜代美 5
08/06/01 18:35:30 95tNZpqj

「小草々くん、、入るで?」
おかみさんの声。
「あ、はい!」
あわててにやつく頬を引き締める。
内弟子部屋の薄い戸が開いて、入ってきたのは心配そうなおかみさんと――四草師匠?
なんでなんで四草師匠?と目を白黒させる自分に、四草師匠は薄く笑った…ように見えた。

申し訳なさそうなおかみさんの声が響く。
「小草々くんが具合悪い時に、ほんま申し訳ないんやけど…今日はずしにくい高座があってぇ…」
(は…?あああああ!そやったあっっ!!!!)
「草々兄さんも今日は地方でおんならんし、高座休ましてもろて看病しようおもてたんやけど…」
(アホアホ僕のアホ!何でちゃんと日チェックせんかってん!)
「そしたら、四草兄さんがぁ、『今日は仕事ないで俺にまかせ』言うてくれなって…」
(はあああっ!?)
「そやから…困ったことあったら、四草兄さんにお願いしてな。ホンマ、こんな時に
 おかみさんらしいことできんで悪いんやけど…」
…もはや申し訳なさそうなおかみさんの声すらうつろに響く。

「ええから安心して高座勤めて来い。俺にまかしとったらええ」
四草師匠の声に、おかみさんはきまり悪げに、でも安心したようににっこりと微笑む。
「ほんま、、ありがとうございます。四草兄さんって、ほんま頼りになる…」
その時のおかみさんの、四草師匠を見つめる感謝と敬意の入り混じった目。
(四草師匠、株上げてるやん…)

その瞬間、ほとんど気を失うように、すとんと眠りに、落ちた。
…多分、落胆のあまり。



279:小草々→喜代美 6
08/06/01 18:36:09 95tNZpqj

目が覚める。
熱のせいか、心なし見慣れた部屋の風景が少しゆがんで見える。
その上入り口付近に、変な黒い塊が…。
その塊がふいにぐぐっと動いて、低い声が響く。
「目ぇ、覚めたか」
「ひぃぃぃぃっ!」

よく見ると、四草師匠だった…。
「なんちゅう声だすねん」
呆れたような四草師匠の声。あああ、おかみさんおれへんの夢やなかったんや…。
心なしか容態がひどくなったような気さえする。
「もう昼や。メシ、食べたらええ」
よく見ると、四草師匠は手にお盆を持っていて、その上では小さな土鍋が湯気を立てていた。
「男の作ったもんやで、味は保障せんけどな」
そう薄く笑う。
少し、感激した。そして後悔も少々。
(よう考えたら、僕のためにわざわざ四草師匠がおってくれとんなるんやんか…)
なのに、自分の考えたことときたら。
(ほんま、僕は修行ができてへん。四草師匠に申し訳ない…)

「四草師匠…ごはんまで。ホンマ、ありがとうございます…」
言いながらガンガンと痛む頭を抱えて起き上がり、小鍋に目を落とす。
中にはほかほかと湯気を立てる卵入り雑炊。
「ほな、お言葉に甘えて…頂きます」
さじですくい、口へと運ぶ。

「……し、四草、師匠…」

雑炊は、、、かき混ぜていないのか、生煮えとうすら焦げた部分が絶妙に入り混じり。
米から炊いたそれは、ごりごりした部分がまったりと口に残る。
そして、えもいわれぬバランスで変な味。しかも…奇妙に甘ったるい。
はっきり言って…食えたものではない。

「男の手料理やからな。塩と砂糖間違えたりしとるかもしれんし、煮具合も微妙かも
 しれんけどな。栄養は保障つきや。なんせ栄養ドリンクまで入れといたからな」

(栄養ドリンク入り、ですか…)
思わず脱力する。ふっと笑う四草師匠。間違いなく確信犯や…。
ふらふらとさじを置きかけた自分の動きを目ざとく見つけ、ぎろりとその目が鋭く光る。

「風邪はたっぷり食べな治らん。それに…まさか『わざわざ』『俺が』作ったった雑炊、
 まさか残すわけ、あらへんよな?」

凶悪な薄ら笑い。

もちろん…全部食べた。死ぬ気で。



280:小草々→喜代美 7
08/06/01 18:36:46 95tNZpqj

そんな雑炊をなんとか飲み下した後、薬をのんで横になる。早く治したい一心で。

「熱、下げるもん持ってきたで」

再び四草師匠。手にはお盆をもっている。
見ると、その上にはおしぼりと思しきタオルが鎮座し、氷嚢らしきものがのっていた。
(ごはんはあんなやったけど、こんなことまでしてくれるなんて…)
少し、感激した。そして後悔も少々。先ほどもこんなことを思ったような気がするが。
「ありがとうございます、四草師匠…」
言いかける自分の額に、四草師匠がそっとタオルを乗せる。
そのタオルは、熱に火照った自分の額を心地よく冷や…

「ぎゃあぁぁぁ!熱っ!熱っ!熱いですて!!」

恐ろしいほどの熱おしぼり。おそらく電子レンジでわざわざ作ったと思しき。

「ああ、風邪の熱は、熱をもって熱を制したらええか思うて」

…そんな話きいたことがない。

「軽い大人の冗談や。それでべたつく汗拭いて、後で着替えとけ」

(そしたら、でこに乗せたんはただの嫌がらせですやん…)
涙目になる自分に、さらにトドメ。
「氷嚢は、わきの下に入れるねん。自分で入れとけ。」
言いながら、温かい布団の中に有無を言わせず氷嚢を放り込む。

ひゃあああああああああ

声にならない小草々の悲鳴を知らぬげに、四草は涼しい顔で本棚にもたれかかる。

「熱があったら寝苦しいやろ?子供みたいやけど、話でもしたろ」
「ええええ、ええです!もうお気遣いなく!」
「遠慮するな。そやな…こんな話、どないや。ええ季節やし」

延々と聞かされたのは、四草師匠の実に実に堂に入った…古今東西凄惨極まるド怪談の数々。
自分もええ年で、怪談なんて聞かされたからてどない言うことはない。
けれど。
半端ない。出る。これは絶対、夢に出る。
熱でただでさえ悪夢を見がちな今は、確実に出る。
はっきり言って、稲川淳二より50倍くらい怖い。四草師匠の表情込みで。

―案の定昼からの睡眠は、どこまでも暗く赤くよどんだ、凄惨な血の色だった…。



281:小草々→喜代美 8
08/06/01 18:37:49 95tNZpqj

けれど、次に目が覚めた時には、ずいぶんと体が軽くなっていた。

無理にでも雑炊を体に入れて、栄養をとったせいかもしれないし。(例えあんな地獄雑炊でも)
早く治りたい一心で、しっかり睡眠をとったためかもしれないし。(そう、逃れたい一心で!)
わきの下に氷嚢をいれたのが、結構効果的だったのかもしれないし。(心臓停まるか思うたけど)
血の色によどんだ夢のせいで、寝ている最中汗だくになったためかもしれない。(死ぬほどうなされたけど)

夕方、そっと扉があいて、四草師匠が入ってくる。
「だいぶ、顔色ようなったみたいやな」
自分の顔をみて、いつもの無表情に薄い笑みをうかべる。
「明日には、熱下がるやろ」
「はい。今日はありがとう、ございました…」

去り際に、四草師匠がこちらを振り返った。
「これに懲りたら…変なことは、夢見んこっちゃな」
唇の片端を吊り上げたその顔は、もう全部お見通しといった表情で。
「…なんの、ことですか?」
かろうじてそう答えたものの、自分でも呆れるほどのスイマセン声だった。

「ま、ええわ。これで俺も病人の看病に自信ついたしな」

(…まあある意味、一日で熱引かせる腕は凄いわな…はあ)

「それにしてもガチで熱だすとはな…その根性だけは認めたる」

けれど、とその目が語る。鋭い熱を宿して。


若狭は、その程度では、渡さんで――。


***************

以上でした。
一見乱暴だけどわきの下氷嚢は効くと聞いたので、思いついた話です。効果はあるんでしょうか?
なんか…素敵な綺麗な話ばかりなのに、こんなん混ぜてすみません。

282:名無しさん@ピンキー
08/06/01 19:24:07 JiUp/MDC
>>263
>>273 どちらもほんとにGJGJです
鶴の恩返しじゃないが、見えないところで自分が痛い思いもして
本人にはけして言わないで、いろいろ守っているのが
四草はほんとに似合うなあ

やっぱ忍びの人だからかなあ

283:名無しさん@ピンキー
08/06/01 22:03:39 xRsw/mjz
>>273
GJ!
小草々vs四草第2ラウンドですね(って、前の方と違うのかな?)
小草々はちょっとかわいそうだけど、算段の四草かっこいいなぁ
そして小草若のつぶやき(尊健殴ったせいで…)に、そういやそうだったと悲しくなったorz

小さい頃高熱出したら脇の下も冷やしてましたよ
効いていたんじゃないかな…たぶん

284:名無しさん@ピンキー
08/06/01 22:12:35 cpGXnkKx
GJです
小草々対人兵器四草仕様vW
小草々の皮算用っぷりvW

旦那である草々を無視した二人の対決が
シリーズ化していくと
うれしいです

285:名無しさん@ピンキー
08/06/02 11:22:45 ta/gV+AZ
>>273
GJ!
算段vs鉄砲第二戦、四草のワンサイドっぷりに吹きました。
そんな二人の争いなぞ対岸の火事で相変わらずラブラブな草々若狭も密かに萌えです。
ところで急な熱発の場合、頭部よりもリンパ節を冷やす方が効果的なので
四草師匠の処置はまったく正しいんですよ。

286:名無しさん@ピンキー
08/06/02 11:54:40 3kZ6OwHk
.>>273
GJ! 笑わせてもらいました。
四草がネギ持ってきて、「これ尻につっこんだから熱下がるで」と
言ってきたらどねしょ、と思ってましたが、そこまで鬼ではなかった
ようで、ほっとしました。

287:名無しさん@ピンキー
08/06/02 16:09:31 SB86WRJN
>>263
>>273
GJGJ!
どちらも、すごくおもしろかったです。
どうして四草はこう、痛そうな感じが似合うんだろうか…。
小草々、もう少し精進せんと勝てんぞ~。勝てるのか??

288:名無しさん@ピンキー
08/06/02 16:18:18 SB86WRJN
空気読んでなくてすみませんが、>>91の二番煎じを投下します。
今度は小草若バージョンです。
またしてもエロなし。若狭内弟子修行中の、小草若→喜代美。

自分でも、縮小コピーみたいにになってるのはよくわかってるのですが
一緒に浮かんできてたもんで、書いてしまいました。
>>91-93から微妙に続いていますが単独でも読めます…。
ただ、同じテイスト(にしたつもり)なので、小草若が女々しいです。
お嫌な方はスルー願います。

同様に、>>78の「恋に焦がれて鳴く蝉よりも 鳴かぬ蛍が身を焦がす」からの妄想です。

289:昼蝉1(小草若→喜代美)
08/06/02 16:19:15 SB86WRJN
真夏の大阪は暑い。
刺すような太陽がアスファルトを焦がし、逃げ水がそこかしこにゆらめいていた。
「暑いですけど、ほんまにええお天気ですね~」
これくらいのほうが夏らしくてええですよね、と続ける喜代美に
「せやろ~!たまには歩くのもええよな!」
と、大きくうなずきながら小草若は答える。

うだるような暑さだったが、底抜けに青い空と輝く木々の下を歩くのは
夏を満喫できてそれなりに気分のいいものだ、と思う。
まして、喜代美と二人で歩けるのならば。

テレビの生放送が終わったのはお昼前。
その後局内で昼食をとりながら打ち合わせをし、テレビ局を出た。
珍しくあとのスケジュールがあいているから、歩いて帰ろうと提案したのは
荷物持ちとしてついて来ていた喜代美と二人で歩きたかったから。
ただ、それだけだった。
さすがに暑すぎやけどな。
小草若は苦笑する。
真夏のしかも平日の昼間、歩いているのはいかにも必要に迫られていそうな
サラリーマン風の人々ばかり。
街の雑踏と溶け合って歩くと、喜代美といることが日常のように思えてくる。
喜代美が自分の隣にいてくれることが、あたりまえのような。
ずっと、自分ともに歩いていってくれるような。
…それは錯覚に過ぎなくて、喜代美にとって自分はただの兄弟子にしか過ぎないのに。
じんじんと響く蝉の声を聞きながら、小草若は自戒する。

局に仕事で来ていた柳眉と、自分の出番が終わるのを待っていた喜代美が
話をしていたのを聞いたのは単なる偶然だった。

「若狭も大変やな。女の子やのにカバン持ちせなならんて」
まぁ内弟子やから当然なんやけど…それでもなぁ。
と穏やかないつもの笑顔で、柳眉は喜代美に話しかけていた。
「ほやけど、勉強になりますさけ」
「勉強、なぁ…」
意味ありげな柳眉の顔。
小草若は立ち聞きのようになってしまっている自分に気がつくが、
既に出るタイミングを失っていた。
…何を言いたいねん。
「ほんまなら、寄席に行くカバン持ちが一番勉強になるんやろけどなぁ、
今の徒然亭ではなかなかむつかしいやろ」
喜代美はきょとんと首を傾げている。
「3年前なら草若師匠やら草々やらのカバン持ちやったんやろけど…」
自分では不足だと言わんばかりの柳眉の言い方に、小草若は一瞬むっとしかける。
しかし喜代美の表情の揺らぎを見てとり、そんな気持ちがすっと冷えるのを感じた。

それは…予期せずその名を耳にし。
瞬間、揺らめいた感情。恋する女の。

きっと柳眉は気がつかなかっただろう。
一瞬のことだ。
しかし、自分には―
あの「女の表情」が、胸に突き刺さる。
愛しい少女が誰を思っているのか、思い知らされるから。

290:昼蝉2(小草若→喜代美)
08/06/02 16:20:30 SB86WRJN
その名だけで、喜代美の気持ちを波立たせる男…。
自分は嫉妬をすべきなのだろうか。
あの男に。
…あいつに対しては、もう嫉妬しとるんかなんやらわからんな。
小草若は自分の胸の内すらはかりかね、苦笑する。
わかっていることはただひとつ。
それが瞳に出るほど喜代美の心には草々しかいない、ということ。

ふと我に返ると、柳眉の声はまだ続いていた。
「…まぁ小草若のまわりに対する気遣いは勉強になるやろ。
あれはあれで、なかなかすぐにできることやないさかいな」
今更そんなフォローしても遅いっちゅーねん。
小草若は髪をかきあげた。
自分は見てしまったから。喜代美の瞳の揺らぎを。
だから、歩きたくなったのかもしれない。喜代美と、二人で。

「すごいセミの声ですねぇ」
喜代美が言った。蝉時雨が降り注ぎ、じりじりと夏の空気がまとわりつく。
「そういえば!」
思いだした!というように喜代美が話し出す。
「私、この前、四草にいさんにセミみたいやって言われたんです!」
「はぁ?蝉?…なんやそれ」
なんで蝉やねん。けったいなやっちゃ。
「喜代美ちゃんが蝉やなんて、またえらい可愛らしい蝉やな」

喜代美は話し始める。
…それはつい最近の出来事。
四草の落語会に喜代美も出たのは聞いていた。その帰り道でのことらしい。

「蛍がたくさんいて、ほんまに綺麗だったんです。私捕まえたくて…。
ほしたら、四草にいさんがおまえはセミみたいやなって言いなったんです。
うるさいってことや思うんですけど~」
でもセミでも蜩やったらいいなぁと思うんです~…
あ、けどぉ、徒然亭にぴったりやなとも言ってくんなりましたけど~…

喜代美の要領えないさえずりを、しかし小草若は途中から聞いていなかった。

ああ、蛍と蝉か。

四草は連想したのだろう。
恋する蝉と蛍を。
なるほどな、四草からすれば喜代美ちゃんは蛍やのうて蝉か。

四草らしい言い方やな、と小草若は思う。
"蝉のように、鳴いたらええ。はっきり好きや言うたらええ、草々にいさんに。"
案外妹弟子に甘い四草のことだ、そんなはっぱをかけたつもりなのかもしれない。
…単なる皮肉かもしれないが…。
いや、どっちにしても皮肉なこっちゃな。
ふと、おかしくなる。
色恋が禁止なのをわかっていて煽っているのだとしたら、
誰にとっても、これ以上の皮肉はない。
たとえ四草にそんなつもりはなかったとしても。

喜代美は、蝉ではなく蛍だろう。
小草若は思う。
瞳に草々への熱い思いを灯して、ふわりふわりと漂う。
恋する男へ、声に出さずに光を灯してみせる、小さな小さな蛍。
なんて愛らしく、いじらしい光。
むしろ木の上で鳴きつづける蝉は、俺の方か。
恋い焦がれて声高に鳴いてみせる。けれど…。

291:昼蝉3(小草若→喜代美)
08/06/02 16:22:34 SB86WRJN
「でもセミって」
喜代美が木を見上げて、言った。まぶしげに目を細める。
「こんなに声が聞こえるのに、どこにおるのかは見えんのですね。
木の上におるからかなあ…」
白いうなじに、真夏の太陽が反射した。
木漏れ日のなかで、喜代美の姿だけがくっきりと浮かび上がって見える。
こんなにもまぶしいのに、目を離せない自分。
「あっついからなあ、いくら蝉でも葉っぱの陰にでも隠れたいやろ」
言いながら、小草若はひそかに自嘲した。
どんなに声高に鳴いてみせても、姿の見えない蝉。
まるで自分のことのようだ。
喜代美から、自分の姿は見えない。

見つけて、自分を。
身を焦がして鳴かずにいられない、自分を見つけて。
木の葉に隠れて見えない、自分を見つけて。
焦がれて鳴く蝉のほうが、光る蛍よりも思いが弱いなんて誰が決めた?
こんなにも思っているのに―

たとえ、叶わない思いだと心の奥でわかっていても。
この娘の恋うている男はただ一人だとわかっていても。
万にひとつでもと思えば、自分は声の限りに鳴かずにはいられない。

まだ目を細めて、木の上をさがそうとしている妹弟子の姿を見ながら
小草若は思う。
見つけてもらえる日は、来るのだろうか。
その日は、この思いの終着点になるだけではないのだろうか。
見つからずに、鳴いている方が幸せなのかもしれない。
けれど…耐えきれるだろうか。

小草若は、答えの出ない思いをそっと押し込め、
いつもどおりの明るい声で、喜代美ちゃーん、と呼びかけた。
自分だけは、この名前で呼び続ける。
それが、自分の鳴き声だから。
「あっついさかい、アイス食べよ、アイス!俺が100個買うたる!
な、喜代美ちゃん!」





おしまいです。お粗末さまでした。ありがとうございました。
季節まるで無視ですみません。

292:名無しさん@ピンキー
08/06/02 22:46:40 /4QeeSsh
GJ
小草若も四草も切ないのう…


293:名無しさん@ピンキー
08/06/03 01:06:58 lhH7x5Ie
GJ
都都逸いいねー、なん通りにも解釈できるってのが魅力だ
そういや三千世界~の高杉晋作には「わしとお前は焼山葛 裏は切れれても根は切れぬ」
って色っぽい作もあるんだけど、これ恋歌に見せかけた脅迫文だったりするんだよね
(送られたのは部下の山県狂介)
昔の人は小梅ちゃんレベルに粋だわ

294:名無しさん@ピンキー
08/06/04 00:37:22 lUmpZX5+
>>288
GJ!です。
姿を見せずに焦がれて鳴く蝉=小草若
闇に紛れてその身を焦がす蛍=四草
一篇の歌から二つの叶わぬ恋路を編み出すその手腕。お見事です。
蝉も蛍も恋する娘に想いは届かないというのがまた哀しい。

295:名無しさん@ピンキー
08/06/04 00:39:35 lUmpZX5+
本日DVD発売記念、というのに託つけまして。
小草若改め四代目草若×A子ことスポンサー様のゲロ甘SS投下失礼します。エロありです。
放送終了後設定、小草若ヲタのドリーム入ってます。

296:Winding road 1
08/06/04 00:41:03 lUmpZX5+
―四代目・徒然亭草若でございます。

俺の襲名に纏わる様々なイベントも一段落し、久々の休暇を京都の古いホテルで過ごす。
若い時分はいきがって肩肘を張り、酒の味も分からなかったバーも、
漸く、落ち着いて楽しめる年齢になった。
あの頃の俺が、今の自分を見たらなんて思うだろう。
(なんやいけ好かん、スカしたおっさんやて睨んどるやろな)
青臭いかつての己を容易に想像して独り苦笑する。

「今晩は…すみません、遅くなってしもて」
「ええて。俺も今来たとこや」
隣のスツールへ約束の女性が腰をかける。
その女性―上方落語界悲願の常打小屋、ひぐらし亭のスポンサーにして
若狭塗箸製作所の女社長、和田清海。

一門の妹弟子の幼馴染みである彼女は、タレント時代の俺のアシスタントを務めていたこともあり。
交遊は実に十五年にのぼる。
十五年。この短いようで長い年月は、俺たちの関係を目まぐるしく変えていった。
彼女は、恋人であった俺の兄弟弟子と別れ東京へ旅立ち。
その兄弟弟子は、俺の想い人でもあった妹弟子と結ばれ。
東京で姿を消した彼女がまた大阪に現れ、今度はこの俺が大阪から姿を消し。
彼女と、妹弟子の故郷で再び巡り逢った俺は。

「―あの時、エーコちゃんに会えなかったら、俺はこの名前になってなかったやろな」
襲名披露の日に伝えた感謝を再度述べる。
いや、幾ら感謝をしてもし足りない。
彼女がいなければ俺は、まだどこかの路上で道に迷い続けていたのだから。

「草若さん、今夜はここに泊まってるんですよね」
俺の礼を控え目に遮ると、彼女は切れ長の目をこちらに向けた。
「お話、お部屋でしても構いません?」

「それで、話ってのはエーコちゃん…」
「草若さん、私」
澄みきった力強い瞳が俺を映す。生温いふたりの関係にピリオドを打つ予感。
「四代目・徒然亭草若の女に、相応しないですか?」

「エーコちゃん、それは…」
「言い直します」
俺の言葉を恐れるように、彼女は続ける。
「若狭塗箸製作所社長の男に相応しいんは、四代目や、ゆうことです」
俺を求める真直ぐな瞳。煌めく視線に吸い込まれる。
「…ええんか?俺で」
「私は、ひぐらし亭のスポンサーやでぇ」
悪いようには、させませんよ?
尚も躊躇う俺に、おどけてみせる殺し文句。
「敵わんな…エーコちゃんには」
我が愛しのスポンサー様へ、敬意を込めて。唇を奪う。

297:Winding road 2
08/06/04 00:41:46 lUmpZX5+
互いの目を見ながら、服を脱ぐ。互いの姿に煽り合う。
先にベッドへ上がった彼女は、片腕をあげて俺を迎える。
誘う白く長い腕を捕らえ、その手に口付ける。
手の甲へは、尊敬のキス。手のひらへは、欲望のキス。
そのまま美しい腕に唇を這わせ。辿り着いた首筋に吸い付き。
片手で彼女の結い上げた髪を解く。さらりと指に絡む長い髪。
「綺麗や…エーコちゃん」
「…あんまり、見んといてください」
恥ずかしい、と伏せる愛しい美貌へありったけの口付けを浴びせる。
「俺に見せて。エーコちゃんを、全部」

「…草若さん…んっ…草若さん……」
小振りだが形の良い乳房を掌に納めて、ぴんと立ち上がる乳首を口に含む。
色を帯びた溜息とともに細い腕が首にまわされ、俺の頭を引き寄せる。
「エーコちゃん、もっと?」
意地悪く聞く俺に。
「…あの、上はええから……下も…」
消え入りそうな声で大胆に強請る彼女。
そのさまに自然と笑みが零れる。
「分かってるって。俺、楽しみは後にとっておくタイプなんや」
そう言った瞬間、彼女の目がきらりと光った。
「…そんなこと言うてるから、ビーコ取られてまうんですよ」

ぐさり。
忘れた筈の古傷が抉られる。
「…この状況で、そゆこと言う?」
「ええ言います。四代目にはもっとしっかりして戴かないと。スポンサーとしては」
俺の顔があまりに情けないのか、くすくす笑いながら答える意地悪な彼女。
「…今日かて、私から誘わんかったら、一生手ぇ出さへんつもりやったでしょう?」
ちょっと拗ねたような顔で俺を見上げる。
―相当、怒ってるなこれは。

意気地の無い俺を、いつもいつも叱咤し激励して甘やかせてくれる彼女。
そんな彼女に甘えて、答を保留にしたまま先延ばしにしていた卑怯な俺。
―ごめん、エーコちゃん。
(女から誘ってくるのを待つなんて、ええ年した男のやることや無いな)
バーで酒飲んでカッコつけてるだけが大人の男違うぞ、俺。

「…ほんまごめんな、エーコちゃん」
「また、そうやってすぐ謝る」
彼女の機嫌はなかなか直らない。
「謝れば許して貰えるゆうんが、草若さんの狡いとこです」
「どないせえっちゅうねん…」
だから、と美しい顔を赤らめて彼女は続ける。
「もっと、強引に奪ってくれたらええんです。そやないと私」
さっさと見切りつけて、他の男に乗り換えるかもしれへんですよ?

―脅迫ですか。

298:Winding road 3
08/06/04 00:42:25 lUmpZX5+
俺の腕の中で俺を脅す、年下の美しい攻撃者。
手入れの行き届いた髪。美しく整えられた爪。真直ぐに澄んだ切れ長の目。
それら全てが、彼女のしなやかで強かな武装。

そういえば。
かつて。自分が守りたいと願い、か弱いと思い込んでいた小さな妹弟子は。
その実、太く逞しくどっしりとした「お母ちゃん」であった。
師匠の草々でさえも持て余す、若く不遜な弟子たちを
ころころと笑いながら手玉に取る、若狭の姿を思い出し苦く笑う。

おんなは、こわい。

たおやかな外見で軽々と男を欺く。
(…いや)
ただ単に、俺に女見る目が無いだけか。

「…で、どねするんですか草若さん?」
俺を見上げて煌めく瞳。
ここまで挑発されて黙ってられるか。
「前言撤回や」
「え……?…あっ、きゃあっ!」
膝裏に手をかけ、彼女の長い足を左右に割り開く。
「あっ、そんな…草若さん!」
「…下、可愛がって欲しいんやろ?」
さらけ出された秘処をぺろりと舐める。
「やっ!」
急な刺激に跳ね上がるしなやかな女体。立場逆転。
「俺のこと苛めるからや」
ありがとう、俺の愛しいひと。
「今夜はとことん、エーコちゃんを苛めたる」
覚悟はええか、スポンサー様?

「やっ…ああん……やん……っ!」
絶え間なく流れる嬌声をBGMに、彼女の秘め処を楽しむ。
舌でつついたり、舐めあげたり。唇で溢れる蜜を啜っては指で穿ったり。
思い出したように赤く尖る芯を弄っては、震える白い内股を撫でてあげる。
「エーコちゃん、こっちは猫っ毛なんやな…」
柔らかな恥毛を梳くと、それだけの刺激で過敏なそこは愛液を垂らす。
「…あっ…そう、じゃく、さん…っもう……」
羞じらいも何も全部捨てて、淫らな腰が俺を呼んで浮き上がる。
たまらなくいやらしくて綺麗。
「ちょっと待っててな、準備するから」
用意してたゴムを装着…する筈がなかなか嵌らない。
(クソッ…久々やからな)
悪戦苦闘する俺に。
「手伝いましょうか?」
いつの間にか起き上がって俺の手元を見ている彼女が言う。
「ちょ、エーコちゃんっ」
落ちる髪を耳にかけて、慌てる俺を尻目に綺麗な指が器用にゴムを嵌める。
「…私、そんなに待ってられへんもん」
俺を見上げて悪戯っぽく光る目。その奥に見える哀願と焦躁。
「ほんま、敵わんな…エーコちゃんには」
ひとつ苦笑して、彼女の唇を吸い。そのままゆっくりとシーツに押し倒す。

299:Winding road 4
08/06/04 00:43:07 lUmpZX5+
また、彼女の足を同じ形に開いて。
濡れ濡れと俺を待ちわびるそこへじわじわと入ってゆく。
「あっ…あっ……」
身体を進めるたびに、彼女の唇から歓喜の音色があがる。
その声に連動するかのように、柔らかな壁が俺を締めつけ奥へと誘う。
「入ったで…エーコちゃん…」
温かな鞘に収まると一息ついて、両手で彼女の顔を包む。
「…嬉しい…草若さん」
同じように、彼女の綺麗な手も俺の顔を包み込む。
「ずっと、待ってたんよ…草若さんのこと」
「これでも、飛ばしてきたつもりなんやけど」
底抜けに、お待たせしました。エーコちゃん。
いっぱい回り道をした俺は、漸く辿り着いた彼女に百回分のキスをした。

「はっ…あぁんっ……やん…っ!」
長い髪をシーツに泳がせ、俺の下で乱れるしなやかで美しい裸身。
切なげに喘ぐ痴態に、イってしまいそうになるのを堪えて腰を振る。
身体と身体をぶつけるたび、玉のような汗が飛ぶ。
瞳の中に俺を映して潤む切れ長の目。煌めく視線に侵される。
「エーコちゃん、一緒に、いこ?」
上擦る俺の声に、嬉しそうに微笑む彼女。
一段と高く突き上げて、細い腰を力いっぱい引き絞って。
彼女を抱き締めた。

「実はな、俺のとこにも来てるんや」
俺に寄り添う細い肩を抱きながら、ぽつりぽつりと言葉を繋げる。
襲名が決まった頃から、弟子入り志願の若いのが俺の門を叩くようになった。
「…正直、迷うてる」
俺は、草々みたいに正当派の古典かけられるわけや無いし。
草原兄さんみたいに落語の造詣深いわけでも無い。
「…そんな俺がなに教えられんのか、判らんのや」

「…ええと思います」
彼女は控え目に、けれどきっぱりと言い切った。
草若さんは草若さんの明るくて楽しい落語、伝えてゆけばええんです。
「…私は、ビーコみたいにおかみさんとして支えることは出来ひんのやけど」
俺を見上げる真直ぐな瞳。
ひぐらし亭のスポンサーとして、バックアップしていきますから。

「…ありがとう、エーコちゃん」
我が愛しのスポンサー様。俺の隣を歩いてくれるひと。
甘たれの俺に必要なのは、俺に守られる女でも俺を支えてくれる女でもなく。
こうして一緒に前を見て歩いて行く女だったのだ。
(そのことに、四十過ぎてから気付くなんてな)
あまりに回り道な俺にこっそり苦笑してから、隣の彼女にキスをした。
―大好きやで、エーコちゃん。


〈終〉

300:名無しさん@ピンキー
08/06/04 01:51:38 y+cilS32
四代目×スッポンサ~様!待ってました!
二人とも素敵な大人の男女だ…すごく幸せな気持ちで拝読しました。
本編放映中も小草若ちゃんの幸せを願ってきたけれど、
いいね、40過ぎてもこんな幸せが待ってたのなら。GJでした!


301:名無しさん@ピンキー
08/06/04 03:22:28 0D3wfiMR
自分は小草若→喜代美が好きだが、この物語はGJ!でした!
幸せになれそうで、良かったね!
四代目草若!

302:名無しさん@ピンキー
08/06/04 13:43:04 gZmPaZWB
GJ!
小草若×A子読みたかった!
A子がめちゃくちゃ経験豊富な感じでちょっとびっくりだけど、
この2人ならA子リードなのも自然だね。

303:名無しさん@ピンキー
08/06/04 22:27:59 xUWWXpMJ
GJです!
想いが通じ合ってる大人同士の恋愛という感じで
会話もエロも品があって素敵でした。
結婚の形態に縛られない四代目×A子の関係もいいなぁ~

304:名無しさん@ピンキー
08/06/05 01:27:21 E3sqfkDi
GJ!
A子から誘うってところが、なんともこの二人っぽくてよかったです。

305:名無しさん@ピンキー
08/06/05 04:39:53 pDfXn3go
糸子の自慢の巨乳を揉み解す喜代美と清海

306:名無しさん@ピンキー
08/06/05 17:56:18 ccbyC4Lz
A子とB子は生まれた日が同じで時間も近かった。
そこで看護婦のミスで取り違えられてしまったのです。
本当は友春とB子、A子と正平が兄弟なのです。

307:名無しさん@ピンキー
08/06/06 16:52:59 x/Kmau4d
第100話で四草→若狭の小ネタ投下。
若狭が四草の年齢を磯七さんに聞いて、ビックリしていた話の続き。

308:小ネタ 倉沢忍の憂鬱
08/06/06 16:54:01 x/Kmau4d

「ありがとうございます。袖から勉強させていただきました」
ぺこりと頭を下げながら、自分を出迎える若い女。妹弟子の徒然亭若狭。

今日の天狗座での高座は、事前に楽屋へ訪れ落語が受けないと悩む若狭の為、
急遽予定のネタを変更して手本を示した『まんじゅうこわい』。
袖に下がった四草は、待っていた彼女の期待通りの反応に心中ほくそ笑んだ。
(…ええもんやな)
若く可愛らしい女に、尊敬と憧れの大きな瞳で見つめられるのは。
人妻の身となったとはいえ、兄弟子と妹弟子には変わりないわけで。
こうして若狭と二人きりで過ごすのは、四草にとって貴重な至福の時だ。
しかしその時間は長くは続かない。
「いやいや良かったで、散髪屋組合の皆も大喜びや」
無粋な闖入客の登場に甘い逢瀬は破られ、その上。
「ほな四草兄さん、私はこれで」
若狭はさっさと場を切り上げて去っていってしまった。
(…チッ)
贔屓客に対してあるまじき態度ではあるが、四草は内心舌打ちをする。
そんな彼の心中など知る筈も無い徒然亭贔屓の散髪屋、磯七は上機嫌で話しかける。
「若狭も勉強熱心でええこっちゃ。兄弟子としても教え甲斐あるやろ?」
「ええまあ」
(あんたが邪魔さえしなけりゃな)
内心毒づきながらも適当に相槌を打つ。
「しっかしアレやな。若狭も妙なとこで落語界に疎いんやな」
苦笑しながら磯七は続ける。
「若狭、あんたのこと今の今まで同い年くらいや思てたんやと」
「…は?」
「兄弟弟子の順番、年齢順やて勘違いしてたらしいで」
あんたと若狭じゃ干支一巡り離れてんのにな、ほんまおかしな子や。
そう笑う磯七をよそに固る四草。
(…同い年?同い年やて?)

四草の脳裏に苦い思い出が甦る。
―大人の男の人って、やっぱり大人っぽい子が好きなんやろか?
あれはまだ、彼女が片思いする兄弟子に恋人がいて、自分が相談相手にされてた頃。
『四草兄さんは、どね思います?』
見上げた顔があまりにいじらしくて。思わず。
『俺やったら、10も年下の女なら老けたのより可愛らしいの選ぶけどな』
おまえみたいに。そうたっぷり含みを持たせて肩を抱いたというのに、反応は。
『…四草兄さんて、ロリコン?』

(あれはそういう意味やったんか!)
「おーい四草?」
今更ながら愕然とする四草に訳が分らない磯七。
兄弟子に混乱を残し、若狭は天狗座を後にするのであった。


終る

309:名無しさん@ピンキー
08/06/06 21:31:45 tPo4lHQm
>>308
GJ!
空気読めない散髪屋さんに萌えw
4草は、年齢不詳でしたよね。
妙に落ち着いて年寄りくさいところもあったけど、見かけは若い時もあり。
とっても新鮮な小話でした。ありがとー。


310:名無しさん@ピンキー
08/06/07 00:06:46 ypEPZzBL
GJ!
若狭の天然萌え。磯七さんのおかげで危機脱出!
そういえば縁側でアイス奢らされた時の2人は同い年くらいに見えたなあ。
で、年齢差がわかったこの回から四草の前髪が上がった。

311:名無しさん@ピンキー
08/06/07 09:32:16 kVnDDWB0
GJ
四草カワユス


312:名無しさん@ピンキー
08/06/08 00:38:34 SVC2BLsW
DVDで初めて小浜編見た感想。
初っ端からの伏線バリ張りまくりとか、正太郎ちゃんの素敵爺さんっぷりにも驚いたけど、
A子のB子ラブ度に正直ドギモ抜かれた。
もしA子が男の子だったら、草々小草若じゃ太刀打ち出来なかったかもしれない思った。

313:名無しさん@ピンキー
08/06/08 05:27:18 9l5qZg2X
小草々と若狭の話、投下します。
徒然亭で起こったささいな事件とその顛末。
時期は、小草若が復活したあたり?適当です。
アホみたいに長くてエロなし、しかも軽く鬱。
そんなのですが、よろしければどうぞ。

314:小草々→若狭 1
08/06/08 05:30:26 9l5qZg2X

ぬけるような青空だった。どこまでも、吸い込まれそうなほどに。

「小草々くん、今日たくさん買い物あるでぇ、悪いんやけど一緒に行ってくれるやろか?」

久々の陽気、それに彼女との外出。
彼女との他愛もない会話。自分の肩よりずっと下の位置から、こちらを時々見上げて微笑む白い横顔。
おかみさん――徒然亭若狭との、二人だけの時間。
たとえ、師匠のおかみさんと弟子という関係にすぎないとしても。
煌めくようなひととき、だった。
そう、あの瞬間までは。

大きな荷物を抱えて、駅の階段を頼りない足取りで降りる彼女。
駆け上がって来る子供を避けて、よっこらしょと荷物を抱えなおしたその瞬間。
荷物の重みに小柄な体は、ぐらりとバランスを失って。
あ、と丸く開く唇。大きく見開かれた瞳。ふわりと浮く小さな体。
慌てて支えようとして気づく。間に合わない。自分のバランスを保ったままでは。
彼女が。

落ちる――!

瞬間、自分は両腕にあふれる荷物を放り出し。
落下する彼女の体を支えようと身を乗り出し、もろともにバランスを失う。
宙に投げだされる体。
ただ、彼女の体を包むように抱きしめて、自分が下になるようにと、それだけを思って。

次の瞬間、地面に叩きつけられる衝撃。

目の裏が、はじけるような感覚。
拡散していく意識の中で、彼女が怪我をしていなければいいな、と思った。
そして…彼女が泣かなければいいな、と。

そして―ブラックアウト。



「なぁ…いつか、目ぇ覚めるんやろか?」
昏々と眠り続ける小草々を見つめながら、ぽつり、と小草若が呟く。
「アホか!何言うとるねん!覚めるにきまっとるやろが!」
血相を変えて振り返り、噛み付くようにどなる草々。
「草々、病院や。大声出すな。小草若もおかしなこと言うな。医者は怪我自体は大したことない言うとったやろ。」
静かに、けれど苛立ちを隠せない様子でたしなめる草原。
「けど!頭、打って…こんな長いこと…」
小草若の声が、弱々しく途切れる。
「うるさい!治るにきまっとるやろ!」
「二人ともやめ!俺らにできるんは…目ぇ覚めるんを待つことだけや」

そんな騒ぎも耳に入らぬように、若狭はただ小草々の枕元で、その左手を両の掌に包み込む。
「ごめんなさい…、ごめんなさい、、小草々くん…」
ただそれだけをうわ言のように呟きながら。その表情には…疲労の色が濃い。
小草々が病院に運び込まれたとき、若狭は半狂乱だった。
「私のせいで!小草々くんが…こそうそう、くん…、、いやあああ!!!!」
夫の草々がいくら慰め落ち着かせようとしても、どうしようもないほどに。
以来一週間…片時も小草々の枕元を離れようとはしない。

憔悴しきった妹弟子の横顔を、四草はただ見つめる。その目に僅かに痛ましげな色を宿して。



315:小草々→若狭 2
08/06/08 05:33:23 9l5qZg2X

長い長い夢を見ていた。

その中にいつもいたのは、あどけない顔立ちの女。

自分の名を呼び、ごめんなさいごめんなさいと泣きじゃくるかと思えば。
自分の顔を見上げて、優しく包み込むようににっこりと微笑む。
そうかと思えば、頬を上気させ、怒りで瞳を燃え立たせながら自分を平手打ちし。

このおんなは、だれだ。
とてもとても大切なことのように思えるのに。

自分で夢だと自覚しているくらいなのだから、きっと理想の女でも思い描いているのだろう。
愚かしい夢だ。まったく愚かしくて…なぜだか判らないが愛しい夢。

夢を見ている間、左手が…いつもいつも温かかった。
何か、とても愛しいものに包まれているかのように。


眩しい。
目を開くと…そこには自分を見下ろす男数名。
(むさくるしいな…)
正直、そう思った。ふふ、とほんの少し笑いが漏れる。
「「「「小草々!!!!」」」
目の前の男たちは、泣きながら笑って自分に抱きつこうとして、ええ年して医者らしき男に怒られたり。
大きな目から涙をぼろぼろこぼしながら自分の頭をくしゃくしゃになでまわしたり。
丸い顔をしわくちゃにして、うんうんと頷きながらへなへなと座り込んだり。
少し離れたところから、目に暖かい安堵を浮かべてこちらを見つめたり。

朧に霞んだ記憶の淵から、彼らの名前が浮かんでくる。
師匠。小草若師匠。草原師匠。四草師匠。敬愛する落語家達。自分の第二の家族。
そして自分は――落語家・徒然亭小草々。
ここは――病室?
なぜこんなところに?

その時、がたん、と大きな音が響いた。

一斉に皆がそちらを振り返る。
(―――!)
そこには…立ち尽くす若い女。足元に、お盆やタオルを撒き散らして。
大きな目をいっぱいに見開いて。その顔は奇妙に歪み、涙がぼろぼろと零れ落ちて。
「こ、そうそう、くん…」
それは…まぎれもなく夢にいつも現れ続けた女。それは判る。けれど。
その姿を目にした瞬間、心ははじけんばかりに妖しくざわめくのに。

「どなた…ですか?」

その瞬間。皆の表情が、凍りついた。



316:小草々→若狭 3
08/06/08 05:38:15 9l5qZg2X

「なんで若狭のことだけ覚えてへんねん!なんでや!」
徒然亭に小草若の悲痛な声が響く。

記憶障害。部分的な健忘。
時間がたてば、治る。けれどそれがいつのことかは。医者は、そう言った。
意識を取り戻した小草々は、見下ろす4人のことを覚えていて、いつもの通り明るく笑った。
なのに若狭のことは―ひとかけらとして覚えていなかった。
蒼白になって崩れ落ちた若狭の表情とその後の状態は…見るも無残なもので。
そしてもう一つ。小草々が失ったもの。

「そ、そや!落語会やろ!小草々復活の寝床寄席!」
沈鬱な雰囲気を破るように草原が提案した。
ひょっとしたら…それがきっかけになって、若狭のことを思い出すかもしれない、との期待をこめて。
「ええですやんええですやん!久々に寝床寄席っちゅうのも底抜けに乙やがな!な、な?」
小草若が、ことさらに明るい声を出して同調する。草々も、それにつられたように大きく頷く。

「そやな!それぞれ得意ネタかけよやないか!小草若お前は…寿限無やろ。で、俺は…」
「しゃいしゃいしゃい!何でお前が勝手に決めるねん!」
「そないなこと言うても、小草若兄さん寿限無以外ないやないですか」

久しぶりの、いつもの空気。若狭もほんのすこし微笑を浮かべかけて。

「ま、寿限無が妥当やな。で、四草は算段の平兵衛で、若狭は創作、で、小草々は…」
穏やかな顔でまとめながら、草原兄さんが小草々を振り返る。

「『鉄砲勇助』やな、やっぱり」

当然、乗ってくるものだとばかり誰もが思っていたのに。なのに小草々は戸惑ったような表情を浮かべて。

「てっぽう、ゆうすけ…?」

冗談かと。冗談なら良かったのに。いつもの嘘なら。
小草々の中からは、彼が培ってきた落語のすべてが、跡形もなく失われていた。
必死に思い出そうと頭を抱える小草々の顔が、みるみる蒼ざめていく…。




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