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第二話「過去の傷跡」
「俺、彼女できたわ」
浩司は、カフェでとある人物に昨夜のことを報告していた。彼の報告を聞くと、相手は祝福するかのようにほほ笑んだ。
「おめでとう。よかったね、浩司君」
さながら、それは妖精の微笑のように美しかった。しかしその一方で、その顔は瑞々しい幼さを失ってはいない。
彼女の名前は、黒埼小雪といった。桐原浩司とはいわゆる同い年で幼馴染という間柄である。そして、現在彼と一緒の大学に通っている。
あまり運動は得意ではないが、頭脳明晰で、浩司のできない家事を軽々とやってのける。そして、身体の起伏は年相応なものの、
その顔だちは男を惹きつける、美しいものであった。
性格も優しく努力家で、誰もが好印象を持つであろう人物である。
そして、浩司が負い目を、責め苦を背負っている人物でもあった。
あれは、浩司と小雪が小学2年生の時であった。マンション住まいであった二人は、他のマンション住まいの子供たちと、よく一緒に遊んでいた。
部屋にいるときはゲームやおもちゃで遊んだり、外にいるときは、もっぱらマンション全体を使った鬼ごっこをやったり。その中でも特に、鬼ごっこはよくやった。
都会っ子には珍しく、彼らは身体を動かす遊びを好んだ。
その日も、いつものように鬼ごっこをやっていた。浩司も小雪も鬼ではなく、必死にマンション内を逃げ回っていた。特に浩司は、いつも以上に神経を張り詰め、逃亡していた。
最近よくつかまっていたので、そのことを気にしての行動である。
―よし、ここにもいない―
浩司は足音を殺し、ゆっくりと移動していた。今日こそは捕まらないぞ!そう自分に言い聞かせて。
2階の踊り場について周りを見渡すと、小雪が階段に座っていた。走りつかれたのだろうか。声をかけようと思った浩司だったが、ふとあることを思いついた。
―いいこと思いついた―
浩司は今まで以上に抜き足差し足で、休憩している小雪の背後に移動する。
そして「わっ!」という瞬間だった。本当に、他意はなかった。単なる子供心でのいたずらであった。
そのはずだった。だが、ふと、小雪が立ち上がったのである。
あ。という瞬間には、バランスを失った小雪が階段を転げ落ちていた。どうしようもなかった。
「小雪……? 」
恐怖も何もなかった。人ごとのようだった。
そのあと小雪は病院に運ばれた。診察を待っている時間が、嘘のようだった。まるで夢を見ているようだった。
「現実感」が圧倒的に不足していたのだ。子供だから仕方がない。
どうであれ、この時点では、浩司はこの事の重大さを理解していなかった。
しばらくして診察室から看護師がでてきて、小雪の両親をよんだ。何やらおじさんとおばさんが怖い顔してる。
浩司は、そんな認識だった。
しばらくして、彼女の両親が診察室からでてきた。
小雪は両足を悪くしていた。
―治らないかもしれない―
―一生車いすの生活かもしれない―
小雪の親から、そう言われた。