08/09/07 21:41:04 e3ExnRuD
「でも俺は……俺が……」
なぜ今になっても真奈美を庇おうとしているのか分からない。
しかし、肝心の言葉がでない。
「兄さん、お姉ちゃんは兄さんを襲ったんです」
二度目の指摘に、俺はあのときのことを思い返していた。
「優しくて、本気で抵抗できない兄さんを」
強くでられない俺を、「愛してるから!」と、真奈美は愛を強要した。
「兄さんは、お姉ちゃんを完璧な存在だと勘違いしていませんか?」
美奈の追い打ちをかけるような一言に、俺は頭を殴られたような衝撃を受けた。
「勉強もできて、真面目で、教師や友達からの信頼も厚い。運動も部活もソツなくこなす」
美奈は真っ直ぐに俺を射抜く。全てを見通していると言わんばかりに。
「でも、お姉ちゃんは10代の高校生なんです」
美奈は客観的な事実のみを指摘する。さすがに、俺は言葉に詰まる。
「あんなことを許してはお姉ちゃんのためにも兄さんのためにもなりません。そうでしょう?」
確かに、そうかもしれない。俺は今まで真奈美を完璧な存在と見ていた。だがそれがいけなかったのかもしれない。
「ですから兄さん、話してください。私が側にいます」
……そうだ。確かに美奈は正しい。ここで真奈美を許してしまえば真奈美は増長するかもしれない。決意するには、十分だった。
「実は―」
結局、俺は昼休みの出来事を、美奈に話した。
「……そんなことが」
「うん、まぁ……」
全てを話した後、幾分か楽になったが、告げ口をしたような罪悪感が広がる。
「最低ですね、お姉ちゃんは」
姉である真奈美のことをバッサリと斬る。だが、確かに事実でもあるのだ。
「これじゃ、兄さんが悪者じゃないですか!」
美奈は、激しく声を荒らげる。その目は、怒りに燃えていた。
「……え?」
暗闇の向こう。美奈の家の前で何かが蠢いた。
「美奈……?」
その声の主が近づいてくる。暗闇にいたのは、真奈美だった。
「え、ゆ、祐介?」
「あ……」
俺は一歩、後退していた。フラシュバックというほどのものでもないが、突然だったので、心が落ち着いていなかったのだ。
「あ、あのね、この前は」
俺を見つけるやいなや、真奈美は必死な形相で迫ってくる。何かにすがるような、そんな響きがあった。
「それ以上、近づかないでください。兄さんに」そこに、冷たい声と共に美奈がさっと割り込む。
「どいてよ! 私はっ」
そこで真奈美は何かを悟ったような、はっとした表情になった。
「……なんであんた達が一緒にいるの? こんな時間に」