08/09/07 03:22:47 l5CMkRXT
「貴族の令嬢さんが志願兵なんて、ツイてねぇよな。」
ラルゴはアリシアの部屋のベッドに座り腕を組んでいる。
「それもそうだね。この前の森林補給基地の確保作戦でも、
彼女一人、前線に出て戦うのを嫌がっていたわ。怖がっていたのかも・・。」
ロージーは戦場に慣れていない彼女をサポートする、先輩であった。
「・・・うん。彼女はね、すべての人が幸せになれたら嬉しいってよく話してくれたんだ。
銃を取って人を殺めて、人が死んで幸せなんてなれないって。」
「だがそれでは戦場で通用しないぞ。」
ラルゴは生温いスージーの発言を一蹴した。
この瞬間だけ、アリシアの部屋には重苦しい空気が流れていた。
「エレノアさん、なんで人と人が殺し合わないと幸せになれないのですか。」
エレノアの胸に顔を埋めて泣いているスージー。そこには、
悲しみの中に怒りが混じっていた。やるせない気持ちと癒えない罪の傷に、
ウェルキンの軽率な行動という塩で傷口を広げてしまっていた。
「スージー、私たちが今住んでいる街や故郷、誰かの為に、
義勇軍になったのは第七小隊だけではない。その中には、
望まない戦争の為に命を投げ出しても厭わないなんて人は居ないの。
でも、誰かが立ち上がらなければ救えない"幸せ"があるのよ。
そして、それは敵国の兵士も同じ。お互い、傷つけ合う事を望んでいない。」
エレノアはスージーを優しく抱きしめ、ゆっくり唇に接吻をした。
男女の愛とは形が違えど、温もりを確かめ合うのに性別など関係なかった。
「・・・この隊には色々な人が居て、色々な性格に出会って戸惑います。
でもそれらは、私が貴族として狭い空間に押し込められていたら、
きっと、これっぽっちも感じる事がなかった感情かもしれません。
さっきの、ウェルキン少尉の事。ちゃんと話を聞かずに、一方的に怒鳴って、
逃げてしまったこと謝らないといけません。」
エレノアはクスっと笑って背中をポンと軽く叩くと、
「行ってらっしゃい。」と笑顔で彼女に微笑みかけた。
それに応える様に、スージーもまた「はいっ!」と可愛く元気な声で部屋を後にした。