08/08/29 04:22:42 Yazg5L4o
今日は第七小隊の訓練日。
こんな日は決まって、バードウォッチングをする為に訓練所を抜け出す。
もちろん、アリシアやラルゴに見つかればただじゃ済まないだろうし、
他の仲間達からも冷たくされるに違いない。
小隊隊長としての仕事は、鋭い観察力を養うことであるからだ。
・・と、言うことにしておけば、まぁ夕飯抜きくらいで許してもらえるだろう。
だが、今日はそう上手くは行かなかったようだ。
「ウェルキン。」
森への道を歩いている途中、若干怒り気味なアリシアに声をかけられてしまった。
口を尖らせ、腕を組んだ様子は甲虫類のカブトムシにそっくりである。
「ちょっとオハナシがあるの。着いて来てもらえる?」
動揺しているのを悟られないように慎重に、作り笑顔で返事をした。
「どうしたんだ、アリシア・・今日も訓練だよね。僕は、
隊長としての訓練がまだ残っているんだ。それじゃ!後で。」
いつもの逃げ口上でそそくさとアリシアをかわそうとするが、
「今日もその双眼鏡で誰かを覗くんでしょ?私には分かってるのよ。」
「覗くって人聞きの悪い言い方はよしてくれ。僕はこれから・・・」
思わず野鳥観察だと言いそうになるのを堪えて、
「あ、いや、新しいオーダーを教わりに墓地へ行くところ、なんだ。うん、そうなんだ。」
「・・・ふーーーん、あっそう、墓地に居るご老人を覗きに行くのね。」
双眼鏡片手にあたふたする様子を勘付かれてしまったようだ。
もうバレバレよという顔をされてしまった僕は、あえなくアリシアに拘束されてしまった。
それから数時間。僕は、アリシアの尋問に似た説教を聴かされた挙句、
酒を強制されてしまい意識が無くなってしまった。
「どスケベなウェルキン隊長を拘束しました。」
微かにアリシアの声が聞こえたが、意識は未だ明暗を彷徨っている。
「助かりました。昨日お風呂に入っていたとき、
背筋が凍るような視線を感じて、不安で・・夜も眠れませんでした。」
アリシアの隣で話しているのはスージーだった。
「まさか隊長が、信じていたのにショックです。」
「当然だわ。説教だけで済んだのが幸運だったと思いなさい!ウェルキン。」
声はハッキリ聞こえてるのに・・・身体が動かない。
(違うんだ!僕は本当にバードウォッチングをしていて・・・
野鳥が木の枝に居るのを覗いて、じゃない、観察していたんだ。
そこがたまたま官舎だったんだ、信じてくれ、アリシア!)
アリシアは金魚のように口をパクパクして寝ている僕の姿を見て、
「寝顔は素敵なんだけどね。」
と呟いた。アリシアが不機嫌になったのは言うまでも無い。