【カノカレ】上月司作品でエロパロ【れでぃ×ばと】at EROPARO
【カノカレ】上月司作品でエロパロ【れでぃ×ばと】 - 暇つぶし2ch750:名無しさん@ピンキー
10/04/21 00:11:28 OSOiawWZ
腹黒な所を除くと以外と特徴が少ないんだよなあ。
美人で優等生というくらいで

751:名無しさん@ピンキー
10/04/21 00:15:59 WlO8UhCz
一応幼馴染みって接点はあるけど、胸のサイズも80って中途半端だからなぁ
みみなやピナみたいにつるんぺたんだったり、深閑や四季鏡みたいにばいんばいんだったらまだ印象もあるんだが

むしろ鳳が秋晴と昔どんな接点があったのかが気になる。
私的には幼い頃に家族と日本に来た鳳が一人で迷ってしまったのを、幼い頃の秋晴に助けられて、それが鳳の初恋で、そのまま初恋の相手を想い続けてるとか、幼い頃の秋晴との別れに際して「おおきくなったら結婚しようね」って約束してたりとか

752:名無しさん@ピンキー
10/04/21 00:34:14 R2Ob3MLZ
朋美はそういう意味で明治にとって一種の基準というかニュートラルに近いんだよな
こういうハーレムエロゲだと100cmおっぱいとか絶壁とか妹とか先輩とか高飛車みたいにパッと見で目立つ属性があるキャラのほうが特定のファンがつきやすい

753:名無しさん@ピンキー
10/04/21 00:54:42 WlO8UhCz
>>752
まぁ幼馴染みってだけで十二分にヒロインとしての強みはあるんだけどね。
朋美はどちらかと言えば、東鳩2のタマ姉に似てるかな、タイプ的には。



754:名無しさん@ピンキー
10/04/21 06:13:50 EnV/RT2Q
>>753
タマ姉はどちらかといえば白よりだと思う。
再会型幼馴染で主人公より立場が上・高性能・空回りしがちとか共通点はあるが今まで腹黒さんに似てると思ったことはないな。
二人ともダブルヒロインの片割れといってもいいだろうが、
・腹黒さん:扱い的には第一のヒロインだが人気はない(らしい)
・タマ姉:第一のヒロインではないが人気は高い
・・・黒すぎると一般受けしにくいだろうけど、腹黒さんは黒いからこそだし難しいな。

755:名無しさん@ピンキー
10/04/21 07:33:21 WlO8UhCz
>>754
後、忘れられがちだが主人公に何らかのことをした結果、後々忘れられないトラウマ的なものを植え付けてるな。

セルニアさん家のメイドさんをヒロインにしたくなってきた
理由はない

756:名無しさん@ピンキー
10/04/21 11:49:20 R2Ob3MLZ
世話焼きとお姉さんでは似てはいても大きな差があるからね
単純にまだ明治に対して自分がどうするかを決めかねているからタマ姉にある恋する乙女成分がほとんど見受けられないのも大きい気が

757:名無しさん@ピンキー
10/04/21 13:42:18 WlO8UhCz
まぁちょい似てるかなって思ったぐらいなだけだから、気にしないで貰えると助かる

758:名無しさん@ピンキー
10/04/21 22:13:27 EnV/RT2Q
逆に、腹黒さんがタマ姉みたいに最初から秋晴への想いを自覚していてその成就のために策を巡らすキャラだったら、
よほどのうっかりかへたれでもないかぎり他のヒロインが付け入る隙が無くなる気がする。タマ姉は参戦遅くしてバランスとってたな。
メインヒロインの独走を許さないキャラづくりのバランスは、メインばっか優遇して他のヒロインのファン涙目なラノベにも分けてあげて欲しいところだ。

759:名無しさん@ピンキー
10/04/22 12:09:21 iD4PY2gE
>>755
アンナはぽっと出の割にインパクトあったよなー

760:名無しさん@ピンキー
10/04/22 23:23:59 0fpMpXMB
俺的にはセルニア父のほうがインバクトあったな

761:名無しさん@ピンキー
10/04/23 00:07:53 C+ziOzzE
セルニア父と朋美父はインパクト強すぎるわ。


美佳子さんとラブコメするやつ書いてたら、少しだけ鬱になった

762:名無しさん@ピンキー
10/04/25 16:19:27 FvYlwhQT
朋美の叔父(オリキャラ)が朋美にえっちぃ乱暴してて
朋美はそれを断れなくて、なぜか大地に八つ当たり
みたいなss書いてるんだけど

どうしてもオリ設定、キャラ&百合っぽいの

が必要になってくるんだけれども、これについてこの掲示板の
許容範囲はどの程度なのか教えてほしいです。

一応カプはノーマル(彩京、大地→秋春)なわけなんだが

763:名無しさん@ピンキー
10/04/25 16:57:52 GzP/YOpf
世界観残ってればおkなんじゃね

764:名無しさん@ピンキー
10/04/25 18:53:21 oGURKr+u
ただ、そういうのを嫌う人もいるから、最初に注意とNG用に何か用意しておくといい

765:名無しさん@ピンキー
10/04/25 21:09:16 dF8g5KD4
投下前に属性言ってトリつけてくれればなんでもいいよ

766:名無しさん@ピンキー
10/04/25 23:41:22 MCR5LbnI
注意書きさえあればいいよ

767:名無しさん@ピンキー
10/04/25 23:47:48 wQ/0Lyst
面白けりゃなんでもいいよ

768:名無しさん@ピンキー
10/04/26 02:25:10 c3lFpM23
762ですありがとう。とりあえず前書きは理解 。おもしろければとか真理すぎてワロタ

あと767の言ってるトリってなんのことで?

769:名無しさん@ピンキー
10/04/26 02:28:25 c3lFpM23
あ ↑765です

770: ◆kR9lpurGm.
10/04/26 03:53:57 DCdQZxbW
>>769
トリップのこと。
名前欄で名前の後に"#"を入力したあと適当な文字列なりパスワードなりをいれて書き込むと暗号化された文字列が出る。
パスワードが同じなら毎回同じトリップになるので、職人さんやコテの本人証明に使われたりする。
上は名前欄に「#7777」と入れた場合。

771:名無しさん@ピンキー
10/04/26 23:32:08 OPGaPUPC
本人確認というかNG用だろうね

772:名無しさん@ピンキー
10/04/27 15:41:01 q5ChBrXu
保管庫入れた後引き取るときに必要
特にアレげなのがよく沸くスレだと

773:名無しさん@ピンキー
10/04/27 15:45:22 XYyGb/yX
ここは、あんまりアレな人は沸かないけど、やはりトリップは
付けてくれた方が分かり易くて良い。
てか、本スレもこのところ平和だが、いつもの奴も規制されてるのか

774:名無しさん@ピンキー
10/04/27 18:27:06 dyDGnc6Q
>>773
いつものやつ?

775:伊南屋 ◆WsILX6i4pM
10/04/27 23:18:59 VCxDfd8O
『AWE OF SHE』

 甘い薫り、大気を伝わる体温、浅く荒い吐息。
 潤んだ瞳、薔薇色に染まる頬、半開きの口唇。
 薄闇の中に浮かぶ艶姿。虚ろに揺らめく視線が微かに絡む。
 居心地の悪い照れくささから思わず視線を逸らし、虚空をさ迷う。それでも重ねられた手は離さずに。
「…………」
 端的に言ってこっ恥ずかしい。
 なんだこれは、なんなんだこれは。
 日野秋晴にとってこんな体験は初めてだった。
 間接照明だけが灯された部屋。しかもそれが女子の部屋と来ている。挙げ句、部屋の主と向かいあって密着距離でベッドに座っている。妙な緊張感と親密さの折り混ざった複雑な雰囲気から、秋晴は微動だに出来ずにいた。
 まるで恋人のように。
 まるで秘事のように。
 二人は掌を重ね、互いの体温が感じられるような距離で相対している。
 ましてその相手が、あの―彩京朋美なのだ。
 まるで初夜を過ごす彼氏彼女だ。
 いや、あながち間違いでもないのだろうか。彼氏彼女では―ないけれど。
 付き合う訳じゃない。気の置けない友人同士のじゃれあい、その延長だ。
 その、はずだ。
「秋晴……」
「お、おう」
 朋美が秋晴を見つめる。気圧されて仰け反りそうになるのをなんとか堪えて秋晴は応えた。
 真っ直ぐに視線がぶつかる。互いの瞳に映る真意を図るように二人は見つめ合う。
 きゅっと、朋美の手が秋晴の掌を掴む。縋るような、それでいて躊躇うような。そんな力加減。
 朋美がゆっくりと身を寄せる。鼻先、いくらか見下ろすような位置まで朋美の顔が近付く。
 熱の篭もった吐息が秋晴の顎を掠め、総毛立たせた。
 痺れたような思考。目の前の見慣れた少女を掻き抱きたくなる衝動をなんとか抑える。
 しかしそれはあっけなく揺さぶられた。上目遣いで放った朋美の、たった一言で。

「ちゅー、して?」

 † † †

 ―遡ること約半日。
 最早、秋晴にとって恒常業務の一部となりつつあるVSセルニア戦が今日もセルニアが登校してすぐの早朝から(秋晴の意志に反して)勃発した。
「何をいやらしい目で見ていますの?」
 本当に、本当にたまたま目を向けた先が丁度教室に入ってきたセルニアの胸元だったと言うだけじゃこの掘削機は黙っちゃくれないんだろうなぁ。
 というかチラ見しただけなのにあっさり気付く辺りこいつもどういう勘の良さをしてるんだか。

776:伊南屋 ◆WsILX6i4pM
10/04/27 23:20:09 VCxDfd8O
 さて、どう反応したものやら。しばし思考を巡らせシミュレートしてみる。
 別に見ちゃいない。→「しらばっくれるなんて本当に下衆ですわね!」
 お前をいやらしい目で見るわけない。→「私に魅力がないとでも言うつもりですの!?」
 胸じゃなくドリルを見ていたんだ。→「私をバカにしていますの!?」
 うん。分かっちゃいたんだがいつも通り八方塞がりっぽい。
「あ~そのなんだ」
「なんですの? 言い訳なら聞きますますわよ。聞くだけですけど」
 ……素直に謝ろうかとも思ったが、その意欲を持って行かれてしまった。なんでこいつは朝からこうまでしてキレられるんだ?
 願わくば、その余りあるエネルギーを分けて欲しいとすら思う。
「どうしましたの秋晴? それとも自らの変態性を認める気にでもなりましたの?
 良いですわよ。それならば然るべき国家権力に通報の上フレイムハート家の誇りにかけて二重に社会的抹殺をしてあげますわ」
 ……なんっでこんなにコイツはキレてんだろうなぁ!? 俺のことがそんなに気に入らないか!?
 流石に秋晴の方も怒りの感情を高ぶりを自覚し始めた時、不意に二人の会話に乱入する者が現れた。
「そこまでですよセルニアさん」
「……っ! 彩京さん……!」
「あんまり秋晴くんを虐めないであげて下さい。可哀想じゃないですか」
「貴女はこの性犯罪者を庇い立てする気ですの?」
「話が一方的だと言ってるんです。たまたま視線がそこに向いただけという可能性だってない訳ではないと思いますが?」
 そこまで言って朋美は苦笑を浮かべる。
「だってほら、セルニアさんのは……目立ちますから」
 なんてタマだ。と秋晴は内心驚嘆する。
 それこそ自分のような男子が言ったら間違いなくセクハラに該当するような事をしれっと言ったのだ。
「それともセルニアさんは自らの身体を恥じていらっしゃるんですか?」
「何をバカな! 私、セルニア・伊織・フレイムハートに恥じる部分など髪の毛一本からつま先の爪まで一つとしてありませんわ!」
「でしたら多少、視線を浴びるくらいは許してあげるのも女の度量だと思いますよ?」
「……っ!」
 言葉に詰まるセルニアを見て、秋晴は上手くはぐらかしたなと朋美を見る。
 そうとは気付かれない内に秋晴が故意に、劣情があって見たのかという問題からセルニアの度量という問題にすり替えた。
 人一倍プライドが高いセルニアの性格を上手く使った誘導だった。

777:伊南屋 ◆WsILX6i4pM
10/04/27 23:21:21 VCxDfd8O
 まして頭に血が昇ったセルニアはその事に気付いていない。
「というわけで今回の所は許してあげませんか?」
「~~っ! ふんっ!!」
 ぐるりと踵を返し、セルニアが自分の席へと向かっていく背中を見ながら、秋晴はそっと朋美に耳打ちをする。
「何が目的だ」
「どういう事かしら?」
「お前が何の対価もなく俺を助けるとは思えないんだよ」
「ふ~ん……残念。今回は正真正銘の良心からくるボランティアよ」
「は?」
「セルニアさんも女の子だからね、イラつく日があるのは分かるんだけど、余りにも見てられなかったから」
「イラつく……日?」
「秋晴、言っておくけど、それ以上は本当にセクハラよ?」
 じとりと睨まれてようやく秋晴も朋美の言わんとする事を理解した。
「あ~……すまん」
 流石にこれは反省すべきだった。
「わかれば良いのよ」
「で、だ。やっぱりだな、助けられて終わりってのも俺が落ち着かないんだ。なんかして欲しい事とかないか?」
「あら、殊勝な心がけね? じゃあ卒業まで使いっ走りにさせて貰おうかな?」
「な、おま……」
 無茶な要求に狼狽える秋晴を見て、朋美が悪戯げに笑う。
「ふふっ、冗談よ。さっきも言ったけどボランティアのつもりだったんだから。でもそうね。せっかくだから後で愚痴聞きでもして貰おうかな?」
「愚痴聞き?」
「そう。あんたならわかるでしょ? 私が普段どれだけ猫被って我慢してるか」
「そりゃまあ……」
 そのストレスの捌け口にいびられる身としては堪ったものではないが。
「不安そうにしないの。本当に愚痴聞いて貰うだけよ。何もサンドバッグにしようって訳じゃないんだから」
「まあ、そういう事なら良いんだけどよ。じゃあどうする? 明日は休みだしどこかに出掛けるか?」
 そこで朋美は少し考える素振りを見せて答えた。
「そうね……いや、別に出掛けるのも悪くはないけどどこで誰に見られるか分からないわ」
「まあ外出するのが俺らだけって訳でもないだろうけどよ。でもどうすんだよ? 白麗陵の方がよっぽど見られる心配が多いだろ」
「そうでもないわ。多少のリスクがあるけど一カ所だけ他人の目を気にしなくて良い場所があるもの」
「そんなとこ一体どこにあるんだよ? 人目が付かないなんてそれこそ個室がある上育科の寮くら……い……の」
 まさか、と秋晴は息を呑む。
「そう。私の部屋なら人目の心配ないわ」

 † † †

 そして夜である。

778:伊南屋 ◆WsILX6i4pM
10/04/27 23:22:24 VCxDfd8O
 当然、正面きって寮に入ろうものなら即座に門前払いが関の山だろう。
 ならば忍び込むしかないが、こちらの場合は見付かれば更にヤバい。痴漢扱いされてご用となることだって考えられる。
 深閑に説教されるくらいならまだしも場合によっては退学、最悪警察に引き渡される恐れすらある。
 今更になって他にやりようがあったのではないかと後悔するが時既に遅し。
 今や寮の玄関から朋美の部屋まで半分を超過する行程を消化してしまっていた。
 こうなれば進んだ方がリスクは少ない。帰りは皆が寝静まった頃を狙えばその際のリスクはぐっと低くなる。
 ……行くしかない。
 覚悟を決めて踏み出す。残るは階段を一階分と朋美の部屋までの直線。
 階段を一気に駆け昇る。階上に辿り着いた所で壁に張り付いて廊下の向こうの様子を伺う。
「……ちっ」
 人影が二つ。その二つは話をしながらこちらに近付いてくる。そのままどこかの部屋に入ってしまえば良いが、このままこちらに来るようでは非常にまずい。
 じり、と後退る。
 声は徐々に近付いてくる。どうもこのまま階段まで来るようだ。
 どうする? 引き返すか? 考える暇はない。ここに居ても見付かるだけだ。
 後退を決意した秋晴だったが、その決意はあっさりと絶望に変えられる。
 かつ、かつ、かつ。階下から響く足音に自らが青ざめていくのを感じる。
 万事休すか。思わず頂垂れて瞼を閉じる。
 まるでギロチンの刃を待つ死刑囚のような心持ちだった。
 近いのは階段の足音。それが近付いてくる度脈拍が激しさを増していく。
 足音がすぐ傍で止まり、肩に手が置かれる。
 ―終わった。ゲームオーバーだ。もう助からない。
「何してるのよ秋晴」
「ぅおわっ!?」
(ばかっ! しーっ!)
 口を掌で抑えられ、声を制される。
 見れば口元に指を当てて「静かに」のジェスチャーをしている朋美が居た。
「あら? 今の声は……」
「男の方だったような気が……」
 角の向こうから訝しむ声がする。
(もう……こっち来て!)
(お、おう)
 手を引かれ階段を駆け降りる。降りきった所で壁に張り付き、朋美がざっと廊下を確認すると、再び手を引かれる。
(ここに隠れて!)
(なっ!?)
 背中から押し込まれたのは階段下に設置してある掃除ロッカーだった。基本的に業者が清掃を行うのだが、一応の備品として掃除用具は揃っている。

779:伊南屋 ◆WsILX6i4pM
10/04/27 23:23:30 VCxDfd8O
 お陰で箒やらモップやらをしこたまぶつけたがなんとか悲鳴はこらえた。
「あ、彩京さん」
「どうも、ご機嫌よう」
 ロッカーの扉越し、階段を降りてきたのであろう上育科生と猫を被った朋美の会話が漏れ聞こえてくる。
「今、殿方の声がしたような気がするんですけど」
「そうなんですか?」
「ええ、一瞬なので確かな事は言えないんですが」
 上育科生の言葉に、朋美は考えるように間を置いてから答えた。
「寮生のどなたかが男の子でも連れ込んでいるのかも知れませんね?」
「まさか、そんな上育科生はいませんよ」
「ええ、そうですね。ですからきっと気のせいですよ」
「そうなのかしら?」
「ええ」
 それから二、三言交わしてから二人の上育科生が立ち去っていく足音が聞こえてきた。
 それでも尚、息を殺しているとロッカーの扉が外から開いた。
「もういいわよ」
 促されてロッカーから出る。
「悪いな」
「いいわ、こんなリスキーな事言い出したのは私だし。貸し借りはなしにしてあげる」
 その言葉については秋晴も異論なく承諾する。
「しかし、よくもまあ堂々とシラが切れるもんだな」
「堂々としてなきゃ切れるシラも切れないわよ。そんな事より早く行きましょう。また誰か来るかも知れないんだから」
「おう」
 そのまま朋美の先導に従い歩き始める。幸いそこからは誰かに脅かされる事無く部屋まで辿り着くことが出来た。
「寿命が縮まるぞ、まったく……」
 中に入り、扉が閉まった所で秋晴は堪えていたものを全て吐き出すように盛大な溜め息を漏らした。
「何事もなくて良かったじゃない。ちょっと待ってね。飲み物出すから」
 そう言って備え付けてある冷蔵庫まで歩いて行く朋美の後ろを追うように部屋の中を進む。
 見慣れぬ女子の部屋だと思うとどうにも居心地が悪いような気もして、秋晴は妙にそわそわしてしまう。
「まあ座ったら?」
 言われ、部屋の中央に置かれた小さな応接セットの椅子に腰掛ける。
 テーブルに置かれたのはグラスに注がれたコーラだった。
「紅茶とかじゃないんだな」
「そりゃあこれから盛大に愚痴を吐こうってのに紅茶もないんじゃない? それに私は部屋に居るときはこういう飲み物の方が多いわよ?」
 そう言って朋美自身も椅子に腰掛ける。

780:伊南屋 ◆WsILX6i4pM
10/04/27 23:24:31 VCxDfd8O
「部屋に一人で居るとき位は好きなものを楽しみたいじゃない? 校舎内だとどうしてもお茶とかばかりになっちゃうから、ね?
 美味しいんだけど、そればっかりだとやっぱり味気ないし」
 既に愚痴吐きは始まっているらしく、朋美は饒舌に話し始めた。
 それに耳を傾け、時折返答を返す。
 同意をしてやったりすると、意外な程嬉しそうに「そうでしょ?」と返して来て、本当に感情を共有できる相手がいないのだと思わされる。
 堅苦しい暮らし。演じなければならない優等生。成績を保つ為の労力。
 孤独なのだと思った。辛いのだろうとも思う。
 性悪な部分。腹黒い部分もあるにせよ、それを投げ出さずひたむきに耐える朋美を秋晴は単純にすごい、と思った。
 ―いや、今更か。
 それらを常に完璧にこなしたからこそ、人望を集め、トップの成績を出し続けているのだ。
 でもそれは―。

 寂しいんじゃなかろうか?

 本当の自分を誰にも見せずに、優等生の仮面を被り、偽りの自分という殻に閉じこもっている。
 だとしたら、唯一素の顔を見せることが出来る自分は、朋美にとっての救いなのではないだろうか?
 愚痴を聞いて欲しいというのも、本心からの願いなのではないだろうか?
「朋美」
「それで―え? なに?」
「お前って凄いよな」
「な、なによ藪から棒に」
「いや、改めてそう思ってさ。辛いのによく頑張ってんなって」
「そ、そう……」
 急に沈黙が降りてきてしまって焦る。
(な、なんか変な事言ったか? 俺)
 気まずさが徐々に重みを増そうとするのを遮ったのは朋美の方だった。
「朝のさ」
「え?」
「朝のアレって実際どうだったの?」
「アレ?」
「だから、セルニアさんの胸。本当はどうだったの?」
「んなっ!? た、たまたまだ! たまたま!」
「でも、興味はあるんじゃない?」
「いや……う……」
 強く否定する事もし難く、言葉に詰まる秋晴に、朋美は意外な程無邪気な笑いを向けた。
「良いのよ。別に責めてるんじゃないわ。普段こういう下世話な話も出来ないから、なんとなくね」
「そうか……」
「で、どうなの?」
「ない……とは言えねえよ流石に。男の性だな」
「あはは、オトコの子って感じね」
 なんとなくバカにされたような気がするが、必死になって反論するのもみっともないような気がして、秋晴は黙り込んでしまう。
「ま、私もね……男の子についてとか、興味あるけど話せないから……」

781:伊南屋 ◆WsILX6i4pM
10/04/27 23:26:32 VCxDfd8O
「興味って……」
「バカね。恋愛とかの話よ」
「う、悪い」
「その……“そういうの”も興味ないわけじゃないんだけど……」
 少しだけ顔を赤らめて朋美がぽつりと呟く。
「え……っ」
「な、なに言ってるんだろ私」
 急に恥ずかしくなったのか椅子から立ち上がると、そのままベッドまで歩いてうつ伏せに身を投げる。
 秋晴から見えないようにシーツに埋めた顔を僅かに向けて、朋美が零す。
「…………試してみる?」
「……何をだよ?」
「秋晴は女の子に興味がある、私も男の子に興味がある。だけどお互いに何も知らない。だから試してみようかなって」
「……だから、試すって何を」
「恋人ごっこ……かな?」
 心臓が早鐘のように鳴る。今目の前の少女が何を言っているのか、にわかに理解出来なくなる。
「イヤ……かな」
 嫌ではない。単純な見た目の話をすれば整った顔立ちをしているし、十分に魅力的な存在だ。
 性格も、確かに腹黒さや人にトラウマを植え付けた挙げ句ほじくり返すような所はあれど、結局の所は嫌いになれないのだ。
 でなければ何故、今まで友人付き合いを続けて来たのか。
 つまるところ、日野秋晴は彩京朋美という存在を嫌いになれない。あまつさえ、好意とも呼べる感情を持っているのだ。
「いやじゃ……ない」
「じゃあさ」
 言って朋美が身を起こし、ベッド上にぺたんと座る。
「こっち来てよ」
 誘われるまま、フラフラと立ち上がりベッドに近付く。
「ちょっと待って」
 朋美が枕元にあったリモコンを手に取る。照明用のものだったらしく、操作に応じて室内が薄暗くなっていく。
「少しは雰囲気出るかな?」
 照れたように言って、朋美は自分の正面を掌で軽く叩いた。
「座ってよ」
 心臓が早鐘のように鳴るのを聴きながら、秋晴はベッドへと上がる。僅かに軋んだベッドの音が、二人分の体重を主張するように鳴る。
 静かに伸びて来た手が、そっと重ねられる。それに伴って互いの距離が近付く。
「あくまで恋人ごっこ……だからね」
 確かめるような朋美の声を、秋晴はどこか遠くの事のように聞いていた。
 そうして―。
「秋晴……」
「お、おう」
「ちゅー、して?」
 話は冒頭に戻るのだった。



782:名無しさん@ピンキー
10/04/27 23:28:01 XYyGb/yX
おお、腹黒さんなのに萌えるww
続き、正座して待ってるよ

783:伊南屋 ◆WsILX6i4pM
10/04/27 23:28:50 VCxDfd8O
以上、秋晴×朋美でAWE OF SHEでした。
もっと短かめでイチャイチャした話にするつもりがシリアス度増して続き物になりました。
本番は次になります。ではでは。

784:名無しさん@ピンキー
10/04/27 23:35:31 K1sVxORL
まさかのリアルタイム

続きにやにやして待ってます

785:名無しさん@ピンキー
10/04/27 23:36:10 q5ChBrXu
朋美がやるならこんな感じっぽいなーと思いつつ続きを全裸待機

786:名無しさん@ピンキー
10/04/28 13:13:05 KPGr3/3U
伊南屋さん久しぶりGJ!

787:名無しさん@ピンキー
10/04/28 18:39:06 r2N0yNz5
伊南屋さんの朋美待ってました!!!
GJです!!!

788:名無しさん@ピンキー
10/04/28 21:32:59 rIwg5gIo
久々の朋美
GJです

789:名無しさん@ピンキー
10/05/01 19:05:31 CM7rZq2Q
GJ!!

790:名無しさん@ピンキー
10/05/01 19:06:00 CM7rZq2Q
sage忘れ

791:名無しさん@ピンキー
10/05/02 23:13:36 YKTM0NNY
これでエロシーンまでいけばようやく、朋美は初HSSかw

792:名無しさん@ピンキー
10/05/03 00:01:11 5fyOQOcc
GJです

793:名無しさん@ピンキー
10/05/04 11:57:55 wlDLPm8b
萌王で簡易カレンダーみたいなのがあったが大地結構顔出してるんだよな

794:名無しさん@ピンキー
10/05/04 15:37:59 lDeFzVaG
アニメ終了後、原作全巻読んで漸くここにたどり着いたが、最高だな。
特に伊南屋氏の大地モノと髭右近氏の四季鏡モノは最高すぎる。

795:名無しさん@ピンキー
10/05/04 19:33:22 2EneFhJL
髭右近氏には是非、四季鏡続編や別の話、もしくは他のルートを書いて欲しい。

796:名無しさん@ピンキー
10/05/14 18:44:32 A5kPLfph
また新作あがってる!
GJです

797:伊南屋 ◆WsILX6i4pM
10/05/16 22:25:05 DSonOKCy
『AWE OF SHE』

「ちゅー、して?」
 微かなその囁きはしかし、秋晴の脳を―思考を確かに揺さぶった。
 喉が鳴りそうになるのを堪えて、秋晴は朋美の唇へと、ゆっくり自らのそれを近付けていく。
 後数センチという距離になって、朋美の瞼が閉じられる。薄い瞼を縁取る睫の一本一本すら確認できるその距離は、秋晴の血圧を更に高める。
 掠める吐息の暖かさに、今度こそ秋晴の喉が鳴った。
 ひりつくほど渇いた喉を唾液が濡らす。それでもやはり喉は渇きを訴え続けた。
 不意に、重ねた掌を朋美が動かした。一瞬離れるのかと思い、追いすがりそうになった秋晴の手を再び朋美の手が捉える。今度は指を絡めて。
 重ねられた掌。その接触面がじっとりと汗ばむ。
 それでも離す事はせず、むしろ愛撫するように指を蠢かせ、すり合わせる。
 秋晴が恐る恐る力を込めれば、朋美が握り返し、密着してくる。
 求められている。その確信は秋晴の背中を押し、決心を促した。
 躊躇いが薄まり、思い切って唇を近付け、触れあわせる。
「ん……」
 重ねた唇の僅かな隙間から漏れる朋美の声と、ぷっくりとした柔らかさ、暖かさに秋晴の動悸が跳ね上がる。
 ばくばくと聞こえそうな程に激しく脈打つ心音を聴きながら、それすら気にならない程秋晴は重ねた唇に意識を集中させていた。
 自然な衝動として、ほぼ無意識の内により、強く唇を押し付ける。不慣れな秋晴のその動作は互いの歯の衝突を引き起こした。
 かちり、と歯がぶつかって軽い衝撃が互いを襲う。
「……へたくそ」
「悪い……」
 謝る秋晴に対して朋美が取った行動は笑いを零すというものだった。
「嘘よ。これで慣れてたら本当に怒ってたけどね」
 くすくすと笑う朋美に、秋晴の方も肩の力が抜ける。
 ひとしきり朋美が笑うと、再び手に力が込められた。
「もっと……して?」
 ぐ、と息を飲む。
 甘えるような声音、縋る視線、やわやわと絡ませた掌。
 まるで恋人にするような仕草だが、どこかぎこちなさもある。
(そりゃ、“ごっこ”だもんな)
 考えないようにして更に唇を重ねる。柔らかさを確かめるような慎重なキスはやがて、互いの柔らかさを求めるようなそれに変わっていく。
「んん……」
 時折漏れる声に、甘く痺れるような陶酔を感じながら無心に口付ける。
「ふ……は」
 ようやく秋晴が唇を離すと、今度は朋美の方からキスをしてきた。

798:伊南屋 ◆WsILX6i4pM
10/05/16 22:26:27 DSonOKCy
 互いに昴ぶりを隠せないまま、キスを繰り返していく。
「ん……、ん……」
 ちゅ、ちゅ。と啄むような口付けを交わしたかと思えば、唇を擦り付けるように押し付ける。
 ようやく、今度こそキスを止ませると荒い息を吐きながら朋美が俯いて囁いた。
「……どうだった?」
「ぅ……え?」
 余韻に惚けていたせいで気の抜けた返事をすると、朋美が幾分責めるような口調になる。
「だから、キス……してみて」
 上目遣いに恥ずかしげに問う朋美に少しだけ胸を高鳴らせながら秋晴も照れ混じりに正直な答えを口にする。
「あぁ……なんていうか……驚いた」
「驚いた?」
「いや、気持ちよくて……」
「……私も」
 顔を真っ赤にして背けながら、手はむしろ強く握って朋美が答える。
「ね、秋晴……」
「……なんだ?」
「ぎゅって……して?」
 朋美が絡めた手を解き、両腕を差し出すように広げる。胸が締め付けられるような感覚。
 そっと、身を寄せて包み込むように抱き締めてみる。
「ふあ……」
 吐息の漏らした吐息が首筋を撫で、ぞくりとする。
「なんかね?」
「おう」
「……ほっとする」
「……俺も」
 躊躇いがちなやりとりの間に、朋美の腕が秋晴の背に回される。
「……ん~」
 やんわりと締め付けられ、体の密着度が高まった。
 朋美の女らしい柔らかさや匂いがより感じられるようになって、思わず秋晴も腕に力を込める。
「ん……っ」
「悪い、痛かったか?」
「ん~ん、……もっと」
「お、おう」
 容易く潰れそうな柔らかさにおっかなびっくり抱き締める力をきつくする。
「これくらい……か?」
「ん……」
 はふ、と朋美が息を吐く。
「……なんかさっきから子供みたいだな」
 甘えた口調、態度からそんな事を零す。
「そうかな? ……そうかも」
 朋美はぼんやりと呟いて、それを恥じるでもなく更に要求を重ねた。
「もう一回、ちゅーして?」
 言葉にはせず、行動で応える。
「ん……っ」
 口付けをした瞬間、朋美の身体が微かに震えて硬直するが、すぐに積極的なキスと抱擁をしてくるようになった。
 重ねた唇と、寄せ合った身体。その柔らかさ、ぬくもりに否が応にも本能を刺激される。
 これ以上は理性が保たない。そう判断して秋晴は身体を離す。
「ぁ……」
 名残惜しげに漏れた声を黙殺して秋晴は告げた。
「ここら辺でよくないか?」
「どうして……?」

799:伊南屋 ◆WsILX6i4pM
10/05/16 22:27:37 DSonOKCy
「どうしてって……これ以上エスカレートするわけにもいかないだろ?」
「嫌なの?」
「……っ! 嫌じゃないから困るんだろうが!」
 思わず声を荒げて秋晴が答える。
「……悪い」
「…………」
 朋美がしばらく考える素振りを取る。
「う~ん……。……えいっ」
「ぅのわっ!?」
 いきなり強く肩を押され後ろに倒れ込む。ベッドの柔らかさのおかげで痛みを感じる事はなかったが、面食らったお陰で思考も動作も停止した。
 その隙を突いて、秋晴の身体に朋美の身体がのし掛かった。
「……私もね? 嫌じゃないよ?」
「は……?」
 秋晴が何かを答えるより早く、唇が重ねられる。
「んむ!? ん……んん!」
 抵抗しようにも華奢な身体をどう扱ったものか考えあぐね手が出ない。
 そうこうする内に首に腕が回され、折り重なるように身体が密着していく。
 胸も腰も何から何まで当たっているというのに朋美は更に身体を触れあわせてくる。
 再び本能のぐらつきを感じる。危険だと思う間にも、身体は反応していく。
「やめ……ん、止めろって! んむぅ!?」
 抵抗を口にしても、その合間にキスを重ねられ上手く喋る事が出来ない。
 いよいよ下半身へと流れ込む血液の集中を止められなくなってくる。意志の力も限界が近い。
「ちょ……っ、これ……んぅ! 以上はっ……ん!」
「ん……いいから」
 何が、と問う前に秋晴は遂に自分の下半身が硬さを得た事を自覚した。
 羞恥が頭を染める。せめて気取られぬようにと身体を動かそうとして、しかしそれは朋美に機先を制された。
 ぐり、と半ば膨張した部位に、朋美の腰が押し付けられた。
 更にそれは断続的な動きとして秋晴を刺激し、より硬い吃立を促す。それに抗う事が出来る筈もなく硬さはどんどんと増していく。
「ぅくっ!」
 与えられる刺激に声を上げてしまう。それを見て朋美の口端が吊り上がり、嗜虐的な笑みを象った。
「ん……」
 首筋に朋美の唇が触れる。小刻みにキスを重ねられると、背筋がざわついて総毛立った。
「朋……美……」
 みるみるうちに最高潮まで膨らんでいく股関は、既にその存在を隠す事は出来ない程で、朋美の押し付けられる腰は迷いなく的確な動きになっていく。
「ぅく……っ!」
 痒痛にも似た快感が走り、声を漏らす秋晴を、朋美がじっと見る。
 どう動けば秋晴が感じるのかを一つ一つ探るようにしていく。

800:伊南屋 ◆WsILX6i4pM
10/05/16 22:29:59 DSonOKCy
 時折、思い出したようにキスをするが、その頻度が徐々に落ちていった。
 違和感を感じて朋美の表情を観察してみる。
「ん……ん……」
 微かに口から声を零しながら、その表情は陶然としていた。
 それは嗜虐の喜びだけでなく純粋な悦楽に濡れているように見えた。
 感じているのか。そう思うと朋美と目が合った。
「…………」
 声に出したかどうかすら曖昧に朋美が唇を動かす。
「え?」
「なんでもない」
 言って動きを再開する。触れ合った部分が熱いのは摩擦か体温か。判然としないそれをぼんやりと感じる。
「……したい?」
 唐突な問い掛けだったが、その意図はすぐに知れた。この状況だ、連想は一つしかない。
 意図は分かる。分かるからこそ答えられない。
「だんまり?」
 更に問う朋美を睨むようにして秋晴は沈黙を貫く。
「……意地っ張り」
 拗ねたように朋美が言って、動きを止ませる。
 身体が離れていくのに安堵したのも束の間、下半身に朋美の手が伸びてきた。
 手際良く動く朋美の手に、ろくな反応も出来ないままに下半身を晒す事になってしまう。
 秋晴が抗議しようと口を開こうとすると、朋美が狙い澄ましたかのように唇を奪う。
 驚いて硬直する間に、更に舌が滑り込んで来る。
 ぬるぬると口腔を這い回る肉の塊。柔らかいその感触と、自分の物ではない唾液の味。
 たっぷり秋晴の粘膜を蹂躙してから朋美が離れていく。二人の唇に掛かる透明な糸を驚愕と混乱を抱えたまま秋晴は見ていた。
「な……ん……」
 秋晴が言葉にならない疑問をぶつけても、朋美は何も答えない。代わりに朋美が剥き出しとなった下半身に跨るように腰を下ろす。
 違和感―いや、分かっている。
「お前……いつの間に!?」
 晒された下半身に触れたのは下着越しではない直接の粘膜。微かにぬかるんだそれが、音を立てて滑った。
「キスしてる間に」
 それだけ言って朋美が越しを揺り動かす。今度ははっきりと秋晴を擦り上げ、未知の感覚に腰が震えた。
 堅くなった幹を朋美の愛液が濡らす。濡れた箇所が空気に触れるとひんやりとして、まるで痺れたようだった。
「ん……」
 眉根を寄せながら、朋美が割れ目を押し付ける。一層ぬかるんだその部位は更に高く音を立てる。
「……っはぁ」
 熱の篭もった吐息が鼻先を掠める。ひくりと分身が疼いて、情動が沸き立つ。
 気が付けば秋晴は、自分からも動きを起こしていた。


801:伊南屋 ◆WsILX6i4pM
10/05/16 22:31:02 DSonOKCy
「んっ……ふ……はっ……ぁ」
 秋晴も、朋美も無心だった。触れ合った粘膜が卑猥な音を立てるのも構わず擦り付け合う。
 熱が高まるのを抑える事も出来ずに秋晴は快感を貪る。
 激しくなっていく動きに刺激は増す一方だったが、ある一点でそれが止まった。
「……入りそう」
 朋美が呟く。
 その言葉通り、大きく腰を引いた秋晴の切先は朋美の中心を捉え、身を埋没させようとしていた。
 潤んだ花弁から幹へ、雫が伝い落ちていく。
「秋晴……したい?」
「いいのか?」
「うん……」
 朋美の答えを聞いても躊躇いは消えなかった。
 それを察してか、先に動いたのは朋美だった。
「……っ」
 秋晴に朋美の体重がのし掛かる。腰を沈めようとしているが、抵抗と痛みからだろう。それはなかなか進まない。
 唇を噛んで受け入れる痛みに耐える朋美に胸が痛む。
「無理は……」
「無理じゃ、ないっ」
 更に腰が沈む。
 先端に感じる抵抗が更に増し、やがて肉を裂くような感覚に取って代わる。
「ぁく……っ!」
 不意に取っ掛かりが消えたかのようにすとんと朋美の腰が落ち、根元まで飲み込まれた。
「はい……った……」
 証拠とばかりにきつい締め付けが起こり、秋晴にも実感を与える。
 結合部からは血が滲むように流れ、純潔が散った事を示している。
「あきは……る……っ」
 目尻に雫を浮かべて見詰める朋美を見て胸が痛む。
 ―俺が……朋美の初めてを奪ってしまった。
 想いを確かめた訳ではない。
 付き合ってもいないのに、好き合ってもいないのに。
「朋美……」
 自分が萎えていくのが分かる。そっと朋美の体を押し退けようと肩に手をかける。
「嫌……だった?」
 朋美の声がそれを制する。
「……嫌なわけじゃない。けどよ、これで良いのか? 付き合ってる訳じゃないんだ。恋人ごっこ……なんだろ?」
「……っ」
 朋美が秋晴をきつく抱擁する。僅かに震えた体を抱き返そうとして、しかし躊躇いがそれを許さなかった。
「私は……好きなの」
「え?」
「好きなの……秋晴が。だけど、答えを聞くのが怖かった……。秋晴の心が誰を向いてるか分からなくて。
 だからこんな騙すみたいな事したの。もっと優しくして欲しいの。秋晴が欲しいの。秋晴に欲しいがってもらいたいの」
「朋美……」

802:伊南屋 ◆WsILX6i4pM
10/05/16 22:31:54 DSonOKCy
「だめ、なの? ならそう言って。謝るから……」
「……朋美っ!」
 あらんばかりの力で朋美を抱き締める。その事に躊躇いはもうなかった。
「俺は……嫌なんかじゃねえよ。お前は……、誰よりも頑張って、誰よりも我慢して、誰にも弱音吐かないで……。
 それだけだったらすごい奴で終わりだった。
 ……でも、俺に愚痴ってるお前見て、すごいけど普通の奴なんだなって思った。完璧なんかじゃない、普通に弱さも持った人間なんだって。
 支えたいって……思ったんだ」
 朋美の肩を支え、僅かに体を引き離して、じっと瞳を見詰めて秋晴は言う。
「支えさせてくれないか? お前を。ずっと誰かを支えたいって想ってた。その誰かが分からなかったけど、今は分かる」

「朋美。お前を支えたい」

 朋美の顔が、くしゃりと歪む。
「秋晴……ぅ……っ」
 嗚咽を遮るようにキスをする。優しさと慈しみを込めて。
「ん……ぅ、ん……ちゅ」
 愛おしい。愛おしい。愛おしい。
 心に溢れる想いを伝えるように、朋美の暖かさを求める。
「俺を、朋美のものにしてくれ」
「うん……っ、うんっ」
 萎えた自身はとうに硬さを取り戻していた。
 その幹をなぞるように、朋美の秘部がゆっくりと上下する。甘さと痺れのない交ぜになった快感が脳髄を刺激する。
 抜ける直前まで引き抜かれ、また最奥へと埋没していく。
 肉の滑る感覚。潤んだ柔肉に包まれ扱かれる官能。
 それは今まで感じたどんな快感よりも強く、秋晴を陶酔させる。
 たどたどしい抽挿は徐々に小慣れた動きになり、一層の心地よさを与える。
 幹を伝う鮮血すら潤滑液となって二人の結合を助ける。
「あき……はる」
「朋美……っ」
 互いの名前を呼ぶことすら心を昴ぶらせ、悦楽を呼び覚ます。
「痛く……ないか?」
「……ちょっと。でも、気持ち良いよ?」
「……そうか」
 強がりだとは分かっている。分かっていて敢えて指摘する事はしない。
 ただ少し優しく動く事を心掛ける。それだけで十分だ。
「んっ……! く……っ、ふぅ……っ!」
 熱に包まれ、愛液により滑らかな摩擦が繰り返される度に絶頂へとじりじり追いやられる。
 亀頭がざらついた粘膜を擦り上げると、秋晴の背筋に悪寒めいた快感が走り、朋美の方も内壁を収縮させる。
「そこ……いい……っ」
 無言で頷いて、そこに集中的に当たるようにしてやる。


803:伊南屋 ◆WsILX6i4pM
10/05/16 22:33:02 DSonOKCy
 効果は覿面で、朋美の声に甘さが混じり、繋がった部分は潤みを増した。
「ぁ……っ、あき……は、る……っ!」
 しがみつくようにして名前を呼ばれる。背に回した腕に力を込める事で応えやると、朋美の甘い嬌声が上がった。
「ん……っ、あっ! あ……はぁ……っ!」
 ぬちゃぬちゃと卑猥な音を立てる結合部と、微かに涎で濡れた唇から零れる嬌声とで聴覚を刺激される。
 重ねた肌、触れた柔らかさ、朋美の匂い、蕩けた痴態。唇を重ねれば微かに甘くすら感じる唾液。
 五感全てが心地良かった。
 全身の器官が性感帯にでもなったかのように、あらゆる一つ一つが互いを絶頂へと追いやっていく。
 腰がぶるりと震えた。
「朋……美っ!」
「でる……? でちゃう?」
「あぁ……っ」
 答えた刹那、朋美の秘壺がぎゅっと締まる。そのまま出せと言わんばかりの動きに、また腰が震える。
「朋美……ヤバい……っ」
「うん……、うん……っ!」
 最奥を押し付けながら擦り付けられる。亀頭の先端がぐりぐりと押し潰され、射精感が限界に近付く。
「ちょ……このままじゃ……膣中にっ!」
「いい……から、いいから……出して」
「あ、あ、あぁぁっ」
 頭が真っ白に爆ぜる。次の一瞬には下半身が激しい脈動と共に精液を朋美の胎内に吐き出していた。
「は……はぁ、は……っ」
「んん……っ、く……ぅ」
 肺が酸素を求めて激しく喘ぐ。徐々に呼吸が落ち着いていくのを確かめてからようやく秋晴は朋美を見た。
 陶然と満たされた表情を浮かべる朋美に問いを投げ掛ける。
「良かったのかよ……膣中に出して……」
「……さぁ?」
「さぁ? っておい」
「支えてくれるんでしょ? それともこういうのは範疇外?」
「いや……そういうわけじゃないけど」
「……大丈夫な日よ」
「え……あ?」
「私がそこまで考えてないわけないじゃない」
 朋美がしたり顔で笑う。
「出来ちゃったらもったいないじゃない。秋晴と出来なくなっちゃうし」
 そこまで言うと今度は照れた様子で「ま……いずれは欲しいけど」と呟いた。
 秋晴はしばらく呆けていたが、すぐに苦笑を浮かべた。
「……ったく。まあそん時はそん時で責任とるつもりだから、引っ掛けみたいなのは無しにしてくれよ?」
「……うん。ありがと」
 お互いなんとなく可笑しいような、幸せなような空気に包まれて、笑みを浮かべる。
 ひとしきり笑うと、不意に朋美が照れながら言った。

804:伊南屋 ◆WsILX6i4pM
10/05/16 22:34:16 DSonOKCy
「その、さ。今日大丈夫な日だし。私も落ち着いたからさ……あの、したかったら……良いのよ?」
 言われて、秋晴は自分がまだ朋美から引き抜いておらず、しかも硬さを残したままだった事に気付いた。
「あ~、じゃあ……いいか?」
「うん……」
 そっと朋美を抱き締めて、今度は自分が上になるように体を重ねる。
 そっと口付けて、秋晴は朋美を再び求めていった―。

 † † †

「痛ぇ……」
「私も……」
 昼も近い、遅い朝。目を覚ました二人に襲いかかったのは筋肉痛だった。
「やっぱり普段使わない筋肉使うんだな……内股が痛ぇ」
「そうね……私なんかまだ何か入ってる気がする。……嫌ではないんだけど」
 嫌ではないの一言に気恥ずかしさを覚えて、秋晴は赤面を誤魔化すように切り出した。
「あ~……、そろそろ帰るわ」
「え? ゆっくりしてけば良いじゃない」
「いや、さっき見たら携帯に大地の着信が何件も……心配かけるのも悪いし帰るわ」
「そう……」
「……大地に、ってか周りには黙ってた方が良いか?」
「そうね……私も一応卒業までは優等生の仮面被らなきゃだし……あ~~っ!」
「ど、どうした!?」
「うっさい! 本当はもっと学校でもイチャイチャしたいのに我慢しなきゃいけないんだもん!」
「ばっ……馬鹿っ! そんなんこっちも……」
「う~……っ」
 呻きを溜め息に変えて朋美が言う。
「でも我慢する。我慢するから秋晴」
「なんだ?」
「頑張れるようにちゅー」
「……分かったよ」
 全く仕方ないお嬢様だ、と秋晴は苦笑する。
 でも、頼って貰えたり、甘えられるのは悪くないとも思う。
 自分の存在で支えられる相手が居ることは嬉しい。
 だから秋晴はキスをする。

 愛しい、自分の敬う少女へと。



805:伊南屋 ◆WsILX6i4pM
10/05/16 22:36:53 DSonOKCy
毎度、伊南屋です。
というわけで『AWE OF SHE』でした。
予定よりシリアスになったな……と思っているのでもっとイチャラブした後日談でも書こうかしら。とか言って確約できないですけど。
ではではまたお会いしましょう。
以上、伊南屋でした。

806:名無しさん@ピンキー
10/05/16 23:04:21 Jg2GAs44
>>805


807:名無しさん@ピンキー
10/05/17 00:05:07 U6/ryTh6
流石のクオリティですね
なんだかんだでいい終わり方で良かったです

808:名無しさん@ピンキー
10/05/17 05:33:26 Uxs5VKwx
>>805
乙です。
原作のイメージが全然崩れないのでとても読みやすかったです。
後日談も期待。

809:名無しさん@ピンキー
10/05/17 17:02:42 QI5+K9cB
>>805
GJ!
後日談とか楽しみすぎる

810:御秀堂
10/05/17 17:03:24 3oLeD2gV
URLリンク(www.akanpo.com) SexSlave
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811:名無しさん@ピンキー
10/05/17 19:58:36 yGMkqepZ
>>805
うおおおおおGJ!

>もっとイチャラブした後日談でも書こうかしら
今からwktk

812:名無しさん@ピンキー
10/05/19 00:56:55 r2oLNW8X
>>805

GJ
朋美が可愛い・・・・


暇つぶしに考えてたデレデレ深閑×優しい秋晴のやつを真剣に作ってみようかなぁ

813:名無しさん@ピンキー
10/05/19 13:14:39 jhyx/M9X
>>812
期待して待ってるぜ

814:名無しさん@ピンキー
10/05/19 19:32:34 OQ+5ulom
深閑先生期待

815:名無しさん@ピンキー
10/05/24 22:05:50 UnnSG/F1
朋美とセルニアの二股ものってのは、
どうだろう
誰か、書いてくれないかな

816:名無しさん@ピンキー
10/05/25 09:10:42 TUItgvcb
二股の後に両手に花エンドしか見えない。


そりゃそうと、深閑ネタを書くために深閑がメインに食い込む話を読み返したが、あのスペックでデレたらチート以外の何物でもないな

817:名無しさん@ピンキー
10/05/25 09:42:16 3NAHZQ71
アイシェお嬢様と一緒になればハーレム公認で全指に花エンドが!

深閑√はもれなく付いてきそうなオマケな子がチート分相殺するんじゃね?

818:名無しさん@ピンキー
10/05/25 09:52:39 TUItgvcb
>>817
つか深閑√のキーパーソンがダメ理事長くさいよな。


彩京母の単独ルートとかマジ欲しいな

819:KAL ◆oEZLeorcXc
10/05/27 17:57:06 IwbDScWx
スレの流れを読まず初投稿。
SS自体初なので助言いただけると嬉しいです。
特に一回のどれくらい似たほうがいいとかあったらよろしくです。

注意書き的なもの?
秋晴×みみな
11巻直後くらい?
エロまでいってない
誤字脱字見直しましたがあったらすみません


820:KAL ◆oEZLeorcXc
10/05/27 18:00:15 IwbDScWx
『Her wherever you like』

 暖かな日差しの差し込む午後のカフェテラス、日増しに気温が下がる中で今日は比較的に暖かい。
 今日みたいな日を小春日和と言うんだろうか。あと半月で今年も終わる。
 思い返せばいろんなことがあった。白麗陵に来たこと自体もそうだがそれ以上に白麗陵に来てからは毎日がお祭り騒ぎで楽しかった。もっとも再開した幼馴染や身の敵にされている金髪ドリルや様々な苦難や困難の阿鼻叫喚もなかったと言えば嘘になるが。
 それも最近は落ち着いてきて安定した平和とも言えなくもない日々を秋晴は送ることが出来てきた。
 しかし―
「…………今日も暇だ……」
 ―秋晴は誰も寄りつかない担当エリアでぼーっとしていた。
 誰も来ないとは言っても服や髪をビシッっとセットし、待っている姿勢も背筋を伸ばしている。誰がいつ来てもいいように。
 ただ実際は誰も来ないのが現実だ。日常茶飯事とさえ言える。編入して半年以上経って知り合いは増えたものの秋晴に付きまとうイメージは未だに最悪なものだった。
 普段ならば知り合いの誰か―特に最近はセルニアと朋美が競って訪れるのだがそれでも毎日ではないし、今日は互いに用事があるらしく誰も訪れず閑古鳥が鳴いている状態だ。
 毎度のことと覚悟はしているがやはり辛い。それにやはり知り合いではどうしたって奉仕活動の本懐よりも別の部分の方が大きくなってしまう。全く知らない相手とは言わなくてもあまり知らない相手を迎えたい。現状それは無理な話であるが。
 それでも一縷の望みと直立していると―

『―……生徒の呼び出しを行います。高等部一年従育科日野秋晴さん、すぐに理事長室まで来て下さい。繰り返します、生徒の呼び出しをします―』

 ―身に覚えの無い呼び出しがかかる。
 何かしただろうか?秋晴は記憶を辿るが心当たりはない。それに自分が奉仕活動の最中なのはあのパーフェクトな深閑ならば把握しているはずなので呼び出しを受ける事自体がおかしい。
 何か緊急事態でもあったのだろうか?時間を確認すると奉仕活動の終了時間はあと五分ほど。少し考えて―そのまま呼び出しに応じることにする。
 幸か不幸か誰にも給仕をしていないので片付けるものもない。残り時間はあと少しで誰も来る予定がないのだから早めに切り上げても問題はないだろう。
 秋晴は同じ従育科の生徒に先に抜けることだけを伝えて理事長室に向かった。


「―という訳で日野さんには数日間、桜沢さんのお手伝いをしてもらいます」
 理事長室で秋晴を待っていたのは部屋の主である天壌慈楓はおらず、呼び出した本人の深閑と予想外の人物―白麗陵で誰よりも年上で誰よりも年下な見た目で有名な桜沢みみな先輩だった。
「……いきなりだな」
「それは重々承知しております。しかし今回の限っては可及的速やかに事を運ばねばなりませんので」
 深閑の口調はいつも通りだがその中に少しだけ、本当に少しだけだが焦りのようなものを感じる。
 あの常に冷静で何事にも動じなであろう完璧超人が若干でも焦っている―これは相当な事態だと秋晴は判断する。
「…………嫌……だった、かな……?」
 状況を理解している秋晴が嫌がっていると思ったのだろう。いつものスケッチブックを持ったみみなが少し涙目になっていた。
「いや、そうじゃない。嫌じゃない。ただ、あんまりにも急過ぎて……個展ってその…何日、それどころか何カ月も前から準備するものだろ?だから不思議に思ってさ」
 焦って答えた秋晴の言葉にみみなは安心する。同時にみみなの機嫌が直ったことに秋晴は安心する。
「確かに本来はそうです。そうなのですが―今回は非常に特殊なケースと考えてください。それと個展というよりはレセプションに近いものなのです」
「まあ、そこら辺は別にいいんだけどさ…」
 その言い方はどうにもバツの悪そうで……今日の深閑は本当に珍しい、なんて不謹慎なことを秋晴は考えていた。

821:KAL ◆oEZLeorcXc
10/05/27 18:01:51 IwbDScWx
 深閑の話を要約するとこうだった。
 一ヶ月後に白麗陵主催のパーティ、その筋の社会を主賓とした催しがある。その中に桜沢みみなの熱烈なファンも存在する。そして二ヶ月後に桜沢みみなの個展が開かれる事が決定していた。その流れでパーティの参加者が新作が見れるなら、と絡めてきたのだ。
 来月にはちょうどみみなの個展が開催される予定であり、期間的には余裕もあった。ずっと活動を休んでいたみみなも悪いと思ってかその件に了承、そこまではよかったのだが―
 いろいろあってパーティの日程がズレてしまったのだ。もちろんそれは誰の責任でもないし、誰もが期待していたみみなの新作が見れないと言うのは残念だが仕方ない、そう思っていたのだが―誰でもない桜沢みみながそれをよしとしなかったのだ。
 もちろん立派な油絵なんかは新作として出すことはできないが、今からでも見せれるものはある。無論それは描けばいいと言うわけではなくて完成された作品でなくてはいけない。
 白麗陵としてもみみなを利用するわけではないが本人の意思が元である。故に特例として授業休んでの作品制作の許可が出た。
 そしてその間の手伝いとして秋晴に白羽の矢が立ったのだった。
「期間としては今週末までを予定していますが、今週末まで必ずという限りではありません。桜沢さんの作品の目処がつき次第になります。その間日野さんにも授業を休んで頂く形になります」
「その間の授業はどうするんだ?」
「幸い今週から来週にかけての授業内容は今期の復習という形でしたので休んで頂いても支障はありません」
 深閑が緊急事態とはいえ授業を休むなどと言う許可を深閑が出したのはそういう理由か。
「それに従育科試験ではありませんがこういった事も必要な経験ですのである意味授業の一環とも言えます。ただ―当然強制ではありません」
 強制ではない。つまりは断ってもいいと言うことだ。断れると言うことだが―秋晴はチラリと小さなみみなの様子を窺ってから聞いた。
「仮に俺がいつもの授業に出たいですって言ったらどうなるんだ?誰かが替わりをするのか?」
 おそらく自分が呼ばれたのはみみなの指名なんだろう。絵を描くなんて神経を使う作業に全然知らない他人を同伴させるなんてできないだろうし、お世辞にもみみなは知り合いが多いとは言えない。
 その知り合いも考えてみれば朋美やピナや上育科が殆どのはずだ。従育科で知り合いとなると秋晴以外は四季鏡早苗くらいである。
「その場合は桜沢さん一人で行って頂く予定です」
 ああ、やっぱりそうなのか。秋晴は薄々感づいていた。もちろん四季鏡が役に立たないと思ったわけではない。
 もう一度、みみなの方を見る。顔を真っ赤にして真剣にこちらを見ている。耳まで真っ赤だ。その目は涙目で、手に持ったスケッチブックは力いっぱい握りしめられている。
 何もしていないのにこちらが悪物の気分になる。いや、何もしていないのが悪いんだろう。
 とりあえずこの視線には耐えられない。何というか本当は欲しいお菓子を無理やり我慢させられている子供みたいな、無言の訴え。みみなの外見でやられてしまうと反則である。
「どうしますか?日野さん」
「……キ、キミが嫌ならいいんだよ?……復習だって、大切だし……授業を休むのは、よくないことだと思うし……」
 ますますみみなの目が涙目になる。そして深閑の視線が痛い。いや、普段通りなのだがみみなを苛めている自分に対しての冷ややかな視線に感じられる。被害妄想だろう。
「…………まあ、断る理由なんてないんだけどな。俺でよければ手伝うぜ、先輩」
「本当っ!?」
 一瞬でみみなの目が輝く。さっきまでこの世の終わりみたいな目をしていたと言うのに。
「ああ、俺に力になれることなら何でも言ってくれ。よろしくな、先輩」

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

次の日、いくつかの画材を持った秋晴とみみなは白麗陵の敷地内を歩いていた。
 本来ならば授業が行われている時間なのでとても静かだった。
「結構重いんだな……」
「ゴ、ゴメンね……」

822:KAL ◆oEZLeorcXc
10/05/27 18:02:53 IwbDScWx
「いや、先輩がいつもスケッチブックしか持ってなかった理由が分かった。絵描く人っていろいろ持ち歩いてるイメージだったからなんでだろうとは思ってたんだけどな」
 秋晴は手に持った、そして一部担いだ様々ん道具を見る。初めて見るものばかりで、授業でいろいろな知識の造詣を深めたつもりだったがまだまだ自分の知識は底の浅いものだと実感をする。
「にしてもいっぱい種類があるんだな。知らない世界だっとはいえ改めて驚いた」
「……まだ何描くか決まってないからいろいろあった方がいいかなって……ゴメンね」
「気にすんなって。その為に俺がいるんだからさ」
「う、うん…」
 本来ならばこの量の画材は必要ない。言ってしまえば秋晴は油絵や水彩画や他諸々の画材をまとめて持っているのだ。重いのは当然である。
 それを理解しているみみなは悪い気がするし、逆にどれを何に使うか分からない秋晴には「こんなにもいろいろ使うって大変だな」と思うだけであった。

「先輩は描くことだけ考えてくれればいいからさ。そっちは手伝えないしな」
「…ありがと」
「気にすんなよ。それに礼なら絵が完成する時まで取っといてくれよ」
「う、うん……わかった」
 元気のなかったみみなが笑顔になる。それを見て、
「やっと笑ってくれたな」
「え?」
 何のことだか分からずにきょとんとしたみみなとは対照的に秋晴の表情は一安心した顔になり―

「いや、朝からずっと元気なさそうな顔してたから気になっててな。やっぱ先輩は笑顔が一番だ」
 
 と何の気なしに言った。
 実際秋晴にはその言葉以上の意図はなかったし、その言葉以上の意味もなかった。しかしそれは聞く人が聞けば勘違いをする言葉だ。
「えぇっ…………またキミはっ……そういうことをいう…………」
 そしてみみなはその勘違いをする側の人間だった。
 顔はおろか耳まで真っ赤にして照れてしまった。元々達者でない口もいつもに増して重くなる。
 ここまで動揺してしまえば誰だって自分の発言を思い直し気付くのだ、気がきくのに抜けている、言ってしまえば朴念仁の秋晴にはそんな心配は無用だった。
「だって落ち込んでたり俺に気を使ってちゃいい作品なんてできないだろ?」
 重たいものを持っていた為にみみなの方を見ていなかったのも理由の一つではあるんだろう、秋晴はいたっていつも通りだった。
「…………そっち…………なんだ……」
 みみなは先程の動揺と違う方向で動揺した。もちろん秋晴の言葉は彼の本当の気持ちであって嘘ではないのだろう。
 だからこそ過剰反応してしまった自分が情けない。
「どうかしたのか?」
「な、なんでもないっ」
 なぜか落ち込んだり沈んだりといった方向の変化には敏感な秋晴はこういう時に厄介だ。
 女心を全く持って分かっていない。
「いや、でも何か、」
「なんでもないのっ!」
「……ス、スマン」

823:KAL ◆oEZLeorcXc
10/05/27 18:03:25 IwbDScWx
 二人の間に微妙な空気が流れる。秋晴は原因が分からなくて、みみなは原因を分かってもらえなくて。秋晴がもう少し女心を理解すれば解決するのだが、それができればそもそもの行き違いは起こっていなかっただろう。
 ただ歩いていても仕方ない、空気に耐えきれずに話しだしたのは秋晴だった。
「あーっと…………ところで今日はどこか行く場所決めてるのか?」
「…………えっと……」
 またも動揺してしまうみみなに秋晴はなるべく口調がきつくならなように答えた。
「特にないのか。んじゃ天気もいいし少し歩くか」
「で、でも重くない?」
「そうでも無いぞ。この前授業で持ったベッドのが重かった」
「ベ、ベッド?」
「ああ、『他の使用人の手が塞がっている時に時に突然主人が模様替えをしたいと言った時』の為にベッドを運んだんだ」
「それは……すごい、ね……」
「そんなことを言い出す主人には仕えたくないってくらい重かったな」
「…………そうなんだ……」
 また少し落ち込んでしまったみみなの様子を気にしながら秋晴は考える。
 今日はどうやらいつにも増してみみなの感情の振れ幅が大きいようだ。この小さな先輩(と言うといつも決まって「また子供扱いしてっ!みみなはもう大人の女性なんだからねっ!」と全く説得力の無い言葉を言われる)は子供のようにコロコロと感情が変わる。
 子供のようにと言うと語弊があるが口に出さないだけで不満や喜怒哀楽を隠そうとしていて明らかに顔に出てしまう。少なくとも秋晴はそう思っていた。セルニア辺りも表情が分かりやすいがこの先輩の分かりやすさはまた違っている。
 そして今は不機嫌で元気がないダウナーモードだった。
 このままで絵を描くなんて上手くいくはずもなく、どうにかしようと秋晴が思いついたのは―我ながら名案だった。
「なあ先輩、何描くかって決めてないって言ってたよな?」
「うぅ~……えっと…」
 みみなの反応は口籠り、目は泳ぎ、秋晴の顔を全く見ない。歩くスピードも遅くなり、何も決めてないのは明らかだ。それを隠せていないのも明らかで、むしろみみなが隠そうと言う気があるのか疑わしい反応だった。
 いつもならこのまま秋晴が有耶無耶にして話が流れるのだが、今回ばかりはそれはみみなの為にも自分の為にもならないと苦渋の決断をする。
「正直に言ってくれ、別に怒らないし急かしてる訳じゃないから」
「……うん、ホントはあんまりあてがないの……」
 あんまりと言うのもみみななりの気遣いだろう、正確には全く当てがない。
 彼女には悪いがそれは秋晴の予想通りで、それはとても好都合だった。
「んじゃさ、着いて来てくれるか?」


「…………すごい……」
「だろ? この前ランニングしてる時に見つけたんだ。いい景色だから先輩にも見せたくてさ」
「うんっ。ありがと」
「どーいたしまして」
 二人がいるのは白麗陵の裏山を少し登った場所にある開けた空間で、崖と言うほど迫り出てはいないがその場所からは山の下に広がる景色を一望できる。
 裏山自体が針葉樹が多く冬になってもその景観は失われない。それどころか澄んだ空気により視界がクリアになって感じ、紅葉の秋に勝るとも劣らない美しさがある。
 そして目の前には白麗陵の立派な建物が広がっていて、簡単に言うと絵画のように綺麗な景色だった。
 秋晴が案内したのはそんな場所だった。
 以前大地とランニングをした際に見つけた場所なのだが寮からの距離もそこまでなく、またいつか来たいと思っていた場所だった。
 山道を大量の画材を担いで登るのは大変だったが、この景色、そしてみみなの喜んだ顔を見れただけで充分だった。
 秋晴はその顔を満足そうに眺め、少し離れたところに画材を置く。汚れないように、壊れないように細心の注意を払い、そしていつでもみみなに希望されたら渡せるように。
 数分間の作業を終え、何をしようかと考える。よく考えれば今回は絵のモデルでもないしかといって何も持っていない。もし持っていたとしてもみみなの集中力を乱すようなことはできない。
 必然的に手持ち無沙汰になり、みみなに目がいく。
 景色の美しさにスイッチが入ったようで腰を下ろし一心不乱にスケッチブックを埋めていた。
 その顔は真剣そのものでいつも子供のように笑っているみみなとは少しだけ雰囲気が違い、十九歳という年相応な雰囲気を持っていて、それでいて好きなことをしている時の人の一番いい顔だった。
 いつもの振る舞いやその体躯からは想像もできない一面に思わず目を奪われる。ついつい、やっぱりすごい人なんだなぁ、と失礼なことを考える。
 風景をスケッチするみみな、それを見つめる秋晴。それは互いに楽しい時間だった。

824:KAL ◆oEZLeorcXc
10/05/27 18:04:10 IwbDScWx
 一時間半ほど時間がたつとみみなの顔が少しだけ険しい顔になり、手が遅くなる。集中力が切れたのか、何か問題があったのか、ついにその手が止まる。
「先輩」
「…………何?」
 かつてないほどぶすっとした不機嫌なみみなの顔に一瞬秋晴は提案をためらう。
「もし邪魔じゃなかったらでいいんだけど…休憩にしないか? 集中力切れてきたろ?」
「……大丈夫だよっ、みみなは大人だからまだ頑張れるもんっ」
 明らかに煮詰まっていて言っている内容が支離滅裂だ。
「大人も子供も関係ないって……。さっきから見てたけど手が止まってるし」
「…………さっきから見てた…ってみみなを?」
「ああ、真剣に描いてるなーって思ってみてた」
「……うぅ~………」
 みみなの顔がボンっと赤くなる。見透かされたのが恥ずかしいのだろうか?秋晴はあと一押しだと思い―
「温かいココアもありますので休憩いたしませんか?」
 普段の口調ではなくわざと奉仕活動の時の口調で話しかけた。
 手には温かい湯気の出たココア。コート着用、その裏にはカイロがいくつもついているとはいえ寒い季節、風がなく日差しが暖かくても体は冷え切っている。
 集中力が切れ、寒さも自覚してしまった今みみなの行動は一つだった。
「うー……分かったよ」
 もちろんもうすぐ休憩の予定だった。絵というのは存外体力も集中力も使う作業なのだ。ただそれを見透かされたのが悔しいのかみみなの頬はぷくっと膨らんでいた。
「はー暖まるなー」
「…………うん、ありがと」
「いや、これも立派なサポートだから当然だ」
 みみなは手のココアの熱を感じ、自分が意識していたより体温が低くなっているのを自覚する。
 もちろんそれは絵を描いていない秋晴も同じでこの寒空の下にいれば体温は下がる。
 休憩のタイミングは互いにとって絶妙だった。
「ところでさ、もし嫌だったら答えなくていいんだけど……何でまた急に描く気になったんだ?」
「え?」
「たしか前にしばらくどこにも出さないとか言ってた気がしたし、最初に会った時に聞いた気がするけど誰かに期待されて描くみたいなの嫌いって言ってた気がしたからさ。今回の件なんてモロにそれだと思うし……」
 秋晴は口に出してから、しまったと思う。いくら気になったからと言って今聞く話ではない。下手したらみみなのモチベーションを下げる結果になる。
「え、えっとね……描きたくなったから……かな?」
 返ってきた答えから安堵を得る。が、よく分からない表現だ。
「描きたくなった?」
「あのね……好きなものを描きたいってだけじゃなくて、私の絵を好きって言ってくれる人のために描きたくなったの。前と違って期待に応えなきゃって感じじゃなくて……あの、その……」
 みみなの声は最初こそはっきりした口調だったもののどんどん自信を無くし、尻窄みになっていく。
 ただそれは秋晴の疑問の答えとして十二分に満たしていた。
「うん、なんとなく分かった」
「うまく言えなくてごめんね」
「いや全然問題ない」

825:KAL ◆oEZLeorcXc
10/05/27 18:05:54 IwbDScWx
 みみなの気持ちの全てが伝わった訳では無い。ただそれでも嫌々描いている訳ではないし、何より描きたいものを描いていると言う気持ちが伝わる答えで、秋晴には十分だった。
「でもそれがどうかしたの?」
「いや、それならいいんだよ、前みたいに無理やりっていうか責任感とかからじゃなくて先輩が描きたくなったんならさ」
 秋晴が心配していたのはみみなが嫌々描いている、嫌々とまではいかなくても押し付けられた責任で絵を描きだしたのではと心配したからだった。
 半年ほどみみなとすごしてきて、目の前の彼女は大人であると知っていた。
 見た目や行動が大人なのでは無く、考え方、行動原理と言うべきか根底に他人を気遣う気持ちがある。
 世間的な見た目を気にする朋美や自分の家の誇りを気にするセルニアとはまた違った他人を気にする優しい、お人好しな部分がある。
 だから秋晴は今回の話を聞いて少しだけみみなのお人好しな部分が責任感に駆られてしまったのかと思ったのだ。
 杞憂に終わってよかった。そして心配事が解消した今、秋晴にできることは一つだった。
「いい絵、描けるといいな」
「うんっ」
 みみなが頑張りたいと言うなら秋晴にできるのはみみなの応援をすることだ。
 そして応援されたみみなは改めて頑張ろうと思った。
 期待をしてくれてる人の為に、自分の為に、そして目の前のファンの為にも。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 みみなの作品の締め切りが予定より早くなり秋晴をお供に白麗陵を闊歩することになる少し前の祝日のことである。
 秋晴はトライアクアランドに来ていた。
 もちろん一人ではなく、先日の秋葉原の散策の三人で前回来た時とは全く違うメンバーと来ていた。
 ピナ、みみなとそれぞれ遊園地に行く約束をしていたこと、鳳にあの日のお礼をすると約束していたこと、そしてピナが招待券をまた貰ったこと、全てが都合よく滞りなく運んだ結果だった。
 チケットを見た時に秋晴が「皆で行くんだな、誰と行く?」と言った瞬間、ピナの目がキッと睨むように強くなり、すぐにがっかりした顔になった。「どうかしたのか?」と聞いた秋晴に対して「何でも無いのじゃ」と落胆した顔でピナが返したのはまた別の話である。
 とにかく秋晴はみみな、ピナ、鳳の四人で訪れていたのだが―今実際にテーブルに座っているのは秋晴とみみなの二人だけだった。
 秋晴はそもそも前回の来園の際に全アトラクションを制覇してしまっていた。その上前日午後の従育科の特別授業によって体力の残りが少なかった。
 一緒に行くと言うのは当然来園までを指すのではなく、一緒にアトラクションを回る事を指す訳で最初は行動を供にしていたのだ。
 しかしここでアクシデントが起こる。アクシデントというべきか考えておけば予想できたことなのだが―小さな最年長、桜沢みみなの疲れてしまったのだ。
 考えてみれば至極当然なことで、みみなは遊園地に来たことがなかった為に、絶叫アトラクションに限らず遊園地で遊ぶという行為にどれほどの体力が必要かを知らない。
 その上みみなは病気は治っていてもずっと入院生活だったことで深窓の令嬢にすら敵わない体力の低さである。
 更に更に出発前のことである、瞼の重そうなみみなと―
「先輩眠いのか?」
「だ、大丈夫だよっ」
「楽しみで寝れなかったのか? 遠足前の小学生みたいに」
「そ、そんなことないもん! みみなはもう大人なんだから楽しみで寝れなくなるなんてことないもんっ!」
 ―秋晴が交わしたお約束の極みな会話が付け加わった末、みみなは数えるほどのアトラクションでダウンしてしまったのだ。
 故に秋晴とみみなの休憩組、ピナと鳳の活動組に分かれる形になったのだ。
 四人が別行動になって実に一時間ほど、そろそろ戻ってくるかと思いきや全く連絡がない。楽しんでいることはいいことだがこのままでは復活したみみなと合流する前に全アトラクションを制覇してしまうのではないだろうか。

826:KAL ◆oEZLeorcXc
10/05/27 18:06:37 IwbDScWx
「にしても……そもそもピナは乗り物が苦手だって言ってた記憶があるんだけどな」
「そうなの? なんかピナちゃんっていつも元気だから、ジェットコースターとか好きなイメージだったけど……」
「まあ、言われてみればそうかもな。食わず嫌いならぬ載らず嫌いだったのかもな」
 ここにいない二人のことを思い出す。自分の体調不良は気にしないでいて欲しいがみみなのことは考えてあげて欲しい。二人でアトラクションに行くことも考えたがそれでは入れ違ってしまいそうだ。
「まあ……鳳が好きなのはなんとなく予想はしてた」
「そうなの?」
「ああ、思い当たる節があってな」
「そう、なんだ」
 思い出されるのは鳳、轟、セルニアと実質四人で受けた従育科試験のことだった。あの馬はすごかった。そして余計なトラウマまで思い出しそうになり頭を振る。
「…………」「…………」
 とたん、二人の間に沈黙が訪れる。こうして一時間ほど、みみなの調子が戻ってから三十分もこうして話しているのだ。いい加減話のネタも尽きてしまう。
 そもそも互いに顔見知りであるのだが学年が違い秋晴は従育科の生徒であり、共通の話題などほとんどない。
 お互いに顔を見合わせ気まずそうに目を逸らす。沈黙、そして空気の気まずさを一度意識してしまうドつぼに嵌る。ましてや二人は互いに積極的に話題を振る正確ではないし、ちょうどいいきっかけもない。
 意を決して秋晴が話を切り出すが―
「にしても秋ももうすぐ終わりだな。ってかもう冬なのか? 今日も座ってると寒いしな」
「そうだね……」
「だよなー、この前の授業の体力作りだって……いや、こんな場所で話すことじゃないか」
 ―話の展開を上手く持っていけずに会話が途切れてしまう。
 別に何かを話さないといけないなんて決まりはない。ただ、黙っていれば間が持たない。
 そして何より、二人になってからずっとみみなの表情が暗い。体調が悪かったせいかと思ったがどうやら違うようで、体調が戻ってからも笑ったり喜んだりの明るい表情にも少しだけだが陰りが見える。
 原因が分からない秋晴にはどうにもしようがないなのだが、どうしたって気になってしまうし一緒にいる以上笑顔でいて欲しい。
 何を話そうかと考えて、あることを思い出す。
「あ」
「どうしたの…?」
「えーと……」
 思いついて口に出そうとするが寸前で躊躇う。それは今のみみなの話すことで機嫌が良くなる話題とは一概に言いきれなかったからだ。
「…何もないなら、いいけど……?」
 秋晴の躊躇に肩を落とすみみな。何か勘違いされてしまったようだ。
 どうしたもんか、と思いもはやどうにでもなれと話を続ける。
「いやさ、先輩に言おうと思ってたことがあったんだ」
「みみなに?」
 心当たりがないというみみなのきょとんとした顔色を疑いながら恐る恐る秋晴は続ける。
「ああ、この前見たんだよ。ずっと見よう見ようとは思ってて……ただいろいろあって見れなくてさ。でもこの前やっと見れたんだ」
 話を切り出しておいて自分の言葉が上手くまとまっていないのを自覚する。ずっとみみなに話したかったことなのだがどうにも言葉出てこない。
「あれすごいな。何かこう……言葉じゃ表現できないものって感じでさ。見た瞬間電気が走った感じでさ。俺なんか言われても嬉しくないのかもしれないけどさ」
「えっと…………何の話……?」
 言葉を慎重に選びながら話す秋晴は伝えようと必死で対するみみなも一生懸命内容を把握しようとしていたが分からないでいた。
 どうにも空回りした二人である。

827:KAL ◆oEZLeorcXc
10/05/27 18:07:46 IwbDScWx
「先輩の作品……『落日の壁影』だっけ?」
 秋晴の口から出たのはみみなの予想もしていない単語だった。
 落日の壁影。それは白麗陵図書館に展示されているみみなの作品で白麗陵の生徒なら誰でも知っている。
 みみなと秋晴は殆ど絵の話をしない。それはみみなに対する気遣いなのか話し辛いからなのかとにかく互いに話題を持ち出すことがなかった。
 だから秋晴の口からその言葉が出たことにみみなは驚いていた。
 そんなみみなを余所に秋晴は続ける。
「今更なのかもしれないけどこの前見たんだよ。ホンットすごかったよ。芸術とか全然分からないと思ってたんだけど、純粋に感動した」
「えぇ? あ、えっとっ……」
「あースマン。俺一人だけ盛り上がっちゃってるな」
 話しだしてすぐに上がったテンションについていけないみみなを見て落ち着く秋晴。言ってしまった後で、やっぱりみみなに絵の話を振らない方がよかったかと思いどうしたものかと耳の安全ピンを触る。
「ちっ、違うの! あの……なんていうか……」
 目のあった瞬間俯くように視線を逸らすみみな。ああ、これは本格的にやってしまったのかと思った。
 しかし、よく見るとみみなの顔が赤い。頬が風邪をひいたように朱に染まり、耳まで真っ赤でゆでダコのようになっている。
 そしてよくよく考えてみればみみなは自分の言葉に必死に答えようとしている。それはつまり―
「……先輩、もしかしてだけど照れてるのか……?」
「えぇ!? えっとっ……そ、そんなことないよ!! みみなは、それくらいじゃ…」
「別に隠さなくてもいいと思うんだけどな。人間誰でも褒められたら嬉しいし照れるだろ? まあ、俺みたいに絵に疎いヤツに言われても嬉しくないのかもしれないけど」
「うぅ~……そんなこと、ないけど……」
 急に出された話題に対応し切れず、しかもそれが自分を純粋に褒める言葉でその相手が興奮すらしてしまっている。
 それに戸惑っていたのだ。
 秋晴は考える。みみなは謙虚というか自分の感情を隠すことが多い。褒められたことや楽しいこと喜ぶことなど様々なことを隠す。今回も明らかに照れ隠しである。
「嫌じゃないなら素直に照れてくれって……何か変なセリフだな」
「そうだね」
 まだ恥ずかしいのかみみなは顔を俯けてしまった。これでは秋晴がみみなを苛めているようだがみみなの顔は笑っていて元気がでたことに安堵をする。
 みみなに対して絵の話題を持ち出すことは秋晴には冒険だった。
 それはもちろん秋晴自身がみみなの作品を見たことがなかった事実にも起因するがそれ以上にどうしても話しづらかったからだ。
 秋晴が彼女の作品を知る前からみみなの絵が誰からも絶賛されているのは知っていたし、誰からも新作や絵についての話を振られていると考えると絵の話題を振り辛かった。
「キミは、みみなの絵がもっと見たいの?」
「ん? ああ、見たいか見たくないかって言われれば見たいな」
「そう、なんだ」
 みみなが聞きたがっている、そう判断した秋晴は自分の感想をありのまま表現した。
「ああ、さっきも言ったけど見た瞬間電気が走ったみたいになってさ。感動した。その日のうちに朋美に先輩描いた絵の写真とかありったけ見せてもらったしな」
「えぇっ。えっと……うぅ~」
「いや、ホントすごいと思ったぜ? 正直昔は美術館とか退屈なだけだったし、今も行こうとは思わないけど先輩の絵があるなら行きたいってくらいだ」
「そ、そんなに言われると……」
「悪い悪い、また興奮しちまったな。まあ、そんなわけで俺も先輩のファンの一人だ。尤も期待はしても押し付ける気はないからな。新作見たいって期待はあるけど無理やり描いても先輩が楽しくないと思うしな」
 秋晴の顔は真剣で楽しそうでお手伝いをした子供のようにみみなに話をした。自分の気持ちを話したくて仕方ない、と言った感じだった。
 対してみみなはその素直な気持ちを話す秋晴に嬉しい気持ちを感じつつそれ以上の気恥ずかしさでいっぱいだった。

828:KAL ◆oEZLeorcXc
10/05/27 18:09:35 IwbDScWx
「それに……先輩の絵ってさ。すっごい楽しそうなんだよな。絵が好きで好きでそれが根底にあるからなのかな? 絵からも楽しんで描いてますってのが伝わってくる感じで元気が出る。だから無理やり描いたって俺が好きな先輩の絵にはならない気がするんだ」
「うぅ~……キミは本当に……」
 それは秋晴の心の底からの気持ちであり、重い期待とは違ったみみなの後押しをしてくれる確かな力の言葉だった。
 思わず強く語ってしまった秋晴は少し恥ずかしくなりみみなから視線を外す。みみなはみみなでかつてないほどに真っ赤になって俯いてしまった。
 気まずいというよりは気恥ずかしい沈黙が二人の間に流れる。
「あのねっ、実は来年の頭に個展をする予定なの」
 沈黙を破ったのはみみなの言葉で、その内容は秋晴にとって予想外だった。
「…………マジか」
 最初は何の話かピンと来なくて呆けてしまった。少しずつその意味をかみ砕きその言葉を理解する。
「うん、予定通りなら一月の終わりか二月くらいの予定」
「割とすぐ…なのか? 三ヶ月くらい先だけど個展って準備がかかりそうだし」
 秋晴には絵の知識など無くし、そういった催しがどうやって準備されるかを知らない。しかしそれでも絵に時間がかかるだろうことは分かるし、ある程度の準備がいるのは当然なのも知っている。
 それに記憶の限りみみなはずっと作品を描いていない。もちろん秋晴の知る限りだしスケッチは毎日しているようだから作品の元自体はあるのかも知ればいが。
「少しギリギリかな? でもずっと休んでたから、描きたい絵はいっぱいあるから。それに…」
「それに?」
 何かを言おうとして止まってしまうみみな。やっとあった視線を逸らされてしまう。小さな横顔は耳まで真っ赤になっていて、何か都合の悪いことでもいいそうになったのだろうかと秋晴はぼんやり考えた。
「なんでもないっ。お、大人にはいろいろあるのっ」
「そうだったな」
 必死になって取り繕うみみなに苦笑しながら秋晴は答えた。
 それはみみなの照れ隠しなのかその言葉通りの意味なのか、秋晴には分からないがどちらもたいして変わらない。
 彼女それで納得しているならそれでいいのだと思う。
「見に来て、くれる?」
 不安そうに上目遣いで聞いてくる。こちらの行動を一挙手一投足気にしていて瞬きすら注目されている気がする。
 それは恰も子供が親に何かをねだるようで、言葉によっては一生ものの傷を負わせることができそうな弱々しい強制力があった。
「モチロンだ。というか行かせてくれ」
 秋晴の答えはもちろんそんな傷を残すような答えではなく、みみなの望む答えだった。
 その言葉を聞いて涙目で不安そうだった顔は一瞬のうちの明るい笑顔になる。
 みみなは子供のような満面の笑みの後、すぐにそれを取りつくろうと冷静を装った大人っぽい顔をした。
「約束だからね? 来てくれなかったらダメなんだからね」
「ああ、絶対行く」

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 みみなの作品作成の手伝いとして秋晴が同行して数日、結果的に言うと秋晴はみみなの役に立っていた。
 一つは秋晴の予想通りの荷物持ちとして。上育科の生徒であり、更に本来病気で入院していたこともあり、みみなは体力的には周囲の人間にどうしても劣ってしまう。そもそも小柄な体躯の為の大きなものを上手に持つことができないかった。
 もう一つは白麗陵の案内役として。様々な授業で白麗陵全体の施設を使う従育科に対して上育科の生徒の行動範囲は限られていて、一年多く過ごしているみみなよりも秋晴の方が白麗陵の敷地内を知っていたのだ。秋晴のお陰でみみなの知っている場所はぐんぐんと広がった。
 そして最後にみみなの露払いとして。白麗陵での桜沢みみなの名は全ての生徒に知られていると言っても過言ではなく、その作品を見た人はもれなくみみなのファンとなっていた。その彼女が白麗陵内で個展の為の新作を描いていると聞いて興味が湧くのは当然であった。
そして秋晴がそんな興味本位の生徒達を露払いする役になるのは必然の結果だった。
 尤も、秋晴の勘違いされた悪名はいまだ健在で殆どの場合何かした訳ではなく秋晴の顔を見てすぐにどこかに逃げてしまうのだったが。

829:KAL ◆oEZLeorcXc
10/05/27 18:10:40 IwbDScWx
「役に立ってはいるんだけど、じわりじわりと真綿で首を絞められてる気分だ」
 昼過ぎ、秋晴とみみなは昼食と休憩を兼ねてカフェテラスにいた。つい先程も数人の上育科の生徒がみみなの姿を見つけ近付いてきたのだが、二人分の食事を持った秋晴が来るのを見て一目散に逃げ出してしまったのだ。
「…………ゴメンね」
「先輩のせいじゃないだろ? それに前から解ってたことだし…役に立ってる訳だからマシかな」
 もう慣れてしまって溜息をつくのも億劫だ、とは思っていても気にならない秋晴ではない。しかしそれがみみなのせいでないことは明白だ。
 作品制作が順調でないこともあるのだろう、みみなの様子は落ち込んでいていつもの状態とは程遠かった。
 今は週の半ばで一応の期日である週末まではもう時間は少ない。どうにか力になろうにもみみなの創作意欲を刺激できるような場所は全て案内してしまったし、作品に対するアドバイスなんて秋晴にできるべくもない。
できることと言えば荷物持ちと露払い、あとは精々気分転換の話し相手くらいだ。
「んで、午後はどうする?」
「えっと……」
 とりあえず午後の予定を話そうとした二人であったが―

「おおっ、アキハル! ちょうどいい所に」

 ―予想外の乱入者もいる訳であり、必ずしもままならないことがある。
「ピナ? どうしたんだそんなに急いで」
 勢いよく飛びこんできたのは銀髪ツインテールのオタク王女だった。
 いつも騒が……元気いっぱいの印象だが今日は一段と落ち着きがない。
「とにかく妾を助けるのじゃ!」
「またお前何かしたのか?」
「誤解じゃ! 今度ばかりは妾に責任はない!」
 秋晴はどうやらまた何かしでかしたらしいと理解して溜息をついた。少なくとも何か厄介事に巻き込まれているのは確実で、しかもこの流れは秋晴も巻き込まれる流れだ。これは困った。自分一人ならどうにかなるし、諦めもつくが今日は一人ではない。
「先輩にいたずらしたって前科があるしな」
「昔の事じゃ!」
 昔のことと言うがあの猫耳事件は秋晴の記憶にも新しい。あれはあれで眼福だったのだろうがそういった趣味の無い秋晴にはどうでもいいことだった。
「エストーさん、なぜ逃げるんですか?」
 ゆったりとした独特の声。喧騒の中でも彼女だと把握できる特徴のある声が聞こえる。秋晴が振り向いた先にいたのは四季鏡沙織だった。
 どうやらピナを追っていたの彼女らしい。
「逃げるも何も嫌じゃと言っておるだろうがっ! 妾はサオリとは違うのじゃっ!」
「でもものは試しと言いますし」
「だから嫌じゃっ!」
 二人がそろった途端に口論になる。口論と言っても沙織はいつも通りの口調の為に一方的にピナが怒っているように見える。
「……誰かこの状況を説明してくれ」
 従育科でも顔の知れた目立つ二人が目の前で騒いでいると自分やみみなも目立ってしまう。ただでえ面倒事は避けたいのに。その上秋晴には事の発端が分からないので動きようがない。
「お姉ちゃん! やっと追いついた……日野さん? なぜここに?」
「四季鏡まで……むしろ何でお前らがここにいるか聞きたいよ」
 遅れてきたのは沙織の妹である四季鏡早苗だった。この三人とはまた不思議な組み合わせであるがそれ以上にトラブルの原因にしかならない凶悪な組み合わせである。秋晴は巻き込まれることを覚悟した。もっとも既に巻き込まれるているのだったが。
「日野さんも説得してくれませんか? エストーさんが着れば似合うと思うんですけど」
「だから妾は絶対にそんなものを着ないと言っておろうっ!」
「と、とりあえず状況を教えてくれ」
 沙織とピナの二人が秋晴に詰めよる。しかし秋晴は状況すらも知らないので何もできない。

830:KAL ◆oEZLeorcXc
10/05/27 18:11:15 IwbDScWx
「サオリが嫌がる妾に無理やりそれを着せようとするのじゃっ!」
「エストーさんに似合うと思って持って来たんですけどねぇ」
 互いに互いの主張をする二人。これでは何の説明にもなっていない。
「……四季鏡、お前が説明してくれ」
 何一つ状況を掴めない秋晴は溜息をつきながら縋る思いで早苗に訊ねた。
「えっと…今日は私とピナちゃんで衣装合わせの日だったんですけど…それを聞いたお姉ちゃんが手伝うって一緒に着てくれたんです」
 衣装合わせとはピナの同人活動の一環のことだろう。それには秋晴とみみなも参加をしていてそう言えばそこに四季鏡も加わると言う話をしていたような気がすると秋晴は思い出す。
「妾は許可した覚えはないがなっ! あまつさえあんなものを妾に着せようと」
 たしかに沙織は参加するとは言っていない。本人曰く自重した結果というかそんなようなことを言っていた。そしておそらく今回の騒動の原因となったであろう単語に引っ掛かった。
「あんなもの?」
「これです」
 沙織は手に持っていたものを広げ秋晴に見せる。
 服である。白と黒がベースの普段から秋晴達が見な慣れた服、そうメイド服である。
「うわぁ……」
 そのメイド服を見て秋晴は絶句する。従育科の制服である為に白麗陵内では珍しいことはない。秋晴が驚いたのはそのデザインである。
 全体的にフリルがあしらわれている、白と黒の配色がベースなのは従育科の制服と同じだ。しかし、その制服は異常な露出度だった。
 何というかメイド服の雰囲気の水着と言った感じで、胸元が大きく開いていて長いスカートがついているのに太腿の辺りの布が存在しない。メイド服だと思ったことが間違いである気がするレベルの代物で少なくとも白麗陵の制服とは似ても似つかないものだ。
 確かにこれを着るのは恥ずかしい。露出としては普段ピナが来ているディーバの衣装と変わらないが、普段見慣れたメイド服を露出方向に改造したと言える服だ。嫌がるのも無理はないと秋晴は思った。
「エストーさんに似合うと思うんですけどね」
 ニコニコと屈託のない笑顔で言う沙織を見てどうしたものかと秋晴は言葉に詰まった。ピナに助け船を出そうと思ったのだが何を言えばいいのかが思いつかなかった。
 四季鏡姉妹には正直羞恥に関しての常識が通じないからである。特に姉の沙織に関しては何かにつけて気付いたら服を脱いでいることがある。というか何か問題があると脱いでいる。そんな彼女にピナの気持ちが分かるとは思えない。
「えーっと沙織さん、これは……ピナじゃ……」
「アキハル、何か言いたげな顔じゃな?」
 秋晴の言おうとしたことに対して敏感に反応し、ピナは蛙を見る蛇のような目で睨みつけた。確かに秋晴の言おうとしていたことはピナにとってとても失礼なことだったのだが、それを先回りしたのだった。 
「いや、睨むな睨むな。お前は着たくないんじゃなかったのかよ」
「むぅ、そうじゃが…」
 しまったと思い、秋晴は明らかに不機嫌なピナを何とか落ち着かせる。ピナも秋晴を追求するより沙織の持っている衣装を着たくないという意志のが強いようでそれ以上の追及をしなかった。
「ってか沙織さん、そんなものどこから?」
「撮影で使ったんですよ。実際にはサイズが合わなくて私は着てないんですけれど、エストーさんがこういうの好きだったと思いまして貰って来たんです」
 そんなもの持ってこないで欲しい。というかそれは可愛い程度の衣装では無い。
「ピナはコスプレ好きなイメージがあるけど…それは微妙に違う気が」
「その通りじゃっ!」
「着ていただければ良さも解ると思うんですけどねぇ」
「そんな良さなぞ分かりたくもないわっ!」
 再び口論が始まってしまい諦めを覚えながらも秋晴はずっと見ていただけの早苗に話しかけた。
「なあ、四季鏡。何で沙織さんはあんなに乗り気なんだ?」
 いつになく熱心な沙織の理由さえ分かればこの事態を収拾できるのではないかと思い藁をも縋る思いの秋晴。
「えーと、話せば長くなるんですけれど……そもそもピナちゃんが私に相談してきたんですよ」
 早苗はとても言いにくそうに話した。

831:KAL ◆oEZLeorcXc
10/05/27 18:12:20 IwbDScWx
 相談とはなんだろうか。正直ピナは交友関係が御世辞にも広いとは言えない。相談を持ちかけられるのはいつも決まって秋晴であるのだがそれを早苗に相談したと言うことは自分では駄目なのだろうか?
 ピナに頼られていると自惚れている訳ではないが少しだけ自身がなくなってしまい、その相談内容と言うのが気になる。
「相談? 何の相談だ?」
 少しだけ後ずさる早苗の表情を見て秋晴は違和感を感じる。確かに自分が相談されたことをおいそれと他人に言うことはできない。しかし、よく考えれば早苗自身も多くの相談を秋晴に持ちかけることが多い。しかし今回はそんな話を聞いていない。
 もしかしたら俺には相談できないのか?とも思うし、何か信用をなくすことをしたのか?とも思い気持が急いてしまう。
「俺も力になれるかもしれないだろ?」
 先程より強い口調で言う。
 その真剣な目に気押されたのかピナと秋晴の方を何度か交互に見る。そして恐る恐るその口を開―
「それが……もっと色気を出、」
「サナエ! それそれは言ってはならぬ!!」
 ―くことはできなかった。何か言おうとした早苗にピナが飛びかかりそれを阻止したのだ。
 その内容がなんだったのかは語られなかったが余程の内容だったようでピナは焦っており、勢いよく早苗にぶつかった。もはや突進というレベルでそれを早苗が支えられるべくもなく、秋晴を巻き込んだ。
「ひぁんっ!」
「うわっ!」
「のわっ!」
 三人はそのまま床に倒れ込んでしまう。近くにいた沙織やみみなが巻き込まれなかったのが不幸中の幸いであろう。
「いたたたた」
「日野さん、すみませんっ」
「いてててて……大丈ブッ!?」
 ピナと早苗は秋晴の上に乗る形になり一方的に下敷きとなる。普段から従育科として鍛えている秋晴にとってそれ自体は問題でなく、傷も擦り傷程度でむしろ上に乗っている二人が怪我をしていないか心配だった。
 そう思い視線を向け大丈夫かと訊ねようとしてそのまま止まってしまう。
 上に乗ったままのピナと早苗も自分達の状態には気付いていなかった。
「あらまあ」「…………」
 そんな三人を見ていた沙織とみみなだけが正しい反応をする。と言っても本来なら早苗の反応は可笑しいもので顔を真っ赤にしているみみなが正しい反応なのだが。
 秋晴は大の字になって床に寝そべる形になっていた。その体を両側から挟みこむように早苗とピナが座っていた。座ると言っても足から突っ込むような形でまるで秋晴の顔に膝蹴りを入れるているように見える。
 そして二人のスカートはどういう力が働いたのか腰どころか胸の辺りまで持ちあがってしまっていて、端的に言うと秋晴の目の前に、数センチ先と言う眼前に二人の脚と下着が露わになっていたのだった。
「「きゃあああああああああっ!!」」
「いてええええええええええっ!!」
 二人がほぼ同時に叫びその場から飛び退いた。もちろん下敷きになった秋晴のことなど気にもせずに。
 その反応は年頃の女の子として当然なのだがその下にいた秋晴は軽いとは言え二人分の体重の衝撃をまともに与えられて一瞬意識が飛びかける。
 地面で仰向けに唸っている秋晴の様子を気にしつつも互いに恥ずかしいのだろう。ピナと早苗は顔を真っ赤にしていた。
「と、とにかく嫌なのじゃ!」
「ピナちゃん……走ると危ないですよぉー」
「早苗に言われとうないわっ!」
「え? それはどういう……きゃあ!」
 そして二人はそのまま走りだしてしまった。むしろ逃げ出したのかもしれない。まあ、仮にも異性にあんな姿を見せてしまったら仕方ないかもと秋晴は思いながらとりあえずは事態は収拾したのかと溜息をつこうとして何も解決していないことを思い出してより深い溜息をついた。
 そしてこの場に残った張本人を見ていい加減慣れつつある沙織のある行動を指摘する。
「何というか…。そして沙織さん何をなさってるんですか?」
「…………ふぇっ!?」
「色仕掛け……ですかねぇ?」
 ピナに露出度大のメイド服を着せようとしていた張本人の沙織はなぜかその上着を脱いでいたのだ。その行動にみみなは顔を真っ赤に俯いている。
 対して秋晴は何かにつけて脱ぐ癖がある彼女にもうだいぶ慣れていた。慣れていたと言ってもその姿を見ないのは礼儀だし顔が赤くなるのは例え慣れても変わらなかったのだが。
 顔を背けて沙織の言葉を思い出す。彼女は今、色仕掛けと言った。おそらく言葉通りの意味だろう、そしてその対象はおそらく秋晴である。 
「…………意味が分かりません」

832:KAL ◆oEZLeorcXc
10/05/27 18:13:23 IwbDScWx
「エストーさんを説得してもらおうと思いまして。着れば良さが解ってもらえると思うんですけど」
 ああ、そうかと彼女の言葉に納得をする。直接話せば分かるし早苗のヘンテコ常識の大元である彼女の知識だ。これが彼女の常識なのだろうと、相変わらず間違った常識なんだと何度目かの溜息をつく。
「冗談ですよ。実はさっき上着を少し引っ掛けてしまいまして、破れていないかの確認をしていたんです」
「………………なぜこのタイミングで」
 沙織の言葉に不信感を感じながらも秋晴が振り向くと既に上着を着ていた。どうにも本気なのか本気じゃないのか分かってるのか分かってないのか掴めない不思議な人だ。
 とりあえずやっと落ち着いた状況を整理する。色仕掛けか本気だったにしろ嘘だったにしろ沙織があの衣装をピナに着せたいのは本気なようだ。
「えーと……何でそんなに着せたいんですか? あんなにピナは嫌がってるのに」
 沙織は勘違いされがちだが頭が悪い訳ではないし本人が嫌がっているようなことを無理強いするような性格ではない。そんな彼女がピナに無理に衣装を着せようとしていることは秋晴に違和感を与えていた。
「本人の為だからです」
「……ピナの?」
「はい」
 沙織は何の躊躇いもなく、笑顔のままで言いきった。
 ピナ本人はとても嫌がっている、しかし沙織はピナの為だと言う。嘘ってことはないだろうし、勘違い思いこみという線もあるがそのどちらも違うようで、秋晴に思い当たるのは一つだけだった。
「えーと、さっき言いかけてたピナの相談事が関係あるんですか?」
「そうですね。日野さんに詳しくは言えませんけど…少なくとも私の口からは言えませんね」
 自信なさそうな秋晴の言葉を肯定してくれた沙織にほっとする、が自分には言えないという言葉を聞き少しだけ落ち込んだ。先程もその相談内容を話そうとした早苗に飛びかかってまでピナは秋晴の耳に入るのを阻止した。
「そうなのか……」
 そんなにも信用がないのか自分は、と秋晴は目に見えて落ち込んだ。理由は分からないがとにかく秋晴には聞かれたくないらしい。
「…………とにかく……本人が嫌がってるなら俺は説得できませんから」
 何だろう、この表現できない喪失感は。ピナに信用されていた、頼られていたのを心の支えにしていた訳ではないが、どうしたって落ち込んでしまう。
「色仕掛け失敗ですかねぇ、残念ですね。ではまた機会によろしくお願いします」
 落ち込んだ秋晴にそんなことを言ってそのまま沙織は「失礼します」とその場を離れた。あの色仕掛けとやらは本気だったのか?と思えなくもないようなよく分からないセリフだった。
 たった数十分にも満たないわずかな時間だったが秋晴の体感としては何時間以上もの疲労がたまっており、しかも問題は何一つ解決しておらずただ巻き込まれただけだった。
「………………またなんてあって欲しくない……」
 秋晴は誰に対してでもなく何に対してでもなくふと呟いたのだった。
 騒ぎを深閑に知られる訳でもなく、一緒にいたら話が二重にも三重にもこじれてややこしくなるであろうセルニアや朋美がいなかったことは不幸中の幸いだった。
 ピナには……どこか俺の知らないところで幸せになってもらおう。沙織はあれで年長者であるから何か考えがあるだろうし、助けるのは何かあってからでも遅くない。むしろこれを機にピナの自由奔放な性格が落ち着けばいいと思っていた。
「まったく人騒がせな……先輩?」
 そしてほぼずっと黙っていたみみなの存在に気付く。

833:KAL ◆oEZLeorcXc
10/05/27 18:14:25 IwbDScWx
 ピナ達三人が来てからほぼ終始何も話さなかったから思わず彼女の存在に失念していた秋晴だったが、よく見るとその顔は涙目になっていて呆けた表情で何かをぶつぶつと呟いていた。
「……キミは……やっぱりああいうのが………ふぇ?」
「どうしたんだ? ぼーっとして」
 いきなり脱ぎ出した沙織に対して固まっていた訳ではないだろう。何か考えているようにぶつぶつと呟いていたのだ。
「な、何でも無いよっ!」
「いや、明らかにぼーっとしてたぞ? 何か独り言、」
「何でも無いのっ!」
 いきなり声を荒げるみみなに秋晴は驚いた。なぜか急に激昂してしまったのだ。何か気に障ることでも言ったのだろうか?
「な!? 何だよいきなり……」
 みみなのあまりに急な変化に秋晴は原因を考える。あの三人が何かした訳で無いし、昼食前は別に機嫌が悪いと言うこともなかった。
 しかし目の前のみみなは見るからに不機嫌で、涙目で唇を震わせて、静かな怒りを宿している。
「今日はもういいから」
「え?」
 先程までの強い口調とは違い、一瞬で萎んだ風船のように落ち込んだみみなの落ち着いた言葉に秋晴は更に驚く。ただでさえ感情が高ぶった原因が分からないのにそれが一瞬で冷めてしまったのだ。余計に混乱してしまう。
「今日は、止めにするのっ。今日は描かない」
 冷たい口調で不機嫌そうにみみなは言う。
「じゃあねっ!」
 そしてそのままみみなはその場を後にしてしまった。
「…………何だよいきなり……」
 残されたのは大量の画材。人が少ないとはいえ取り残された秋晴に集まる奇異な視線。どう考えても自分が悪者だ。しかも今回は誤解ではなくおそらく自分が原因である。
 とりあえず片付けるしかないよな、と思い荷物を整理する。
 全てみみなの私物であり、みみなの部屋に行かなくてはいけない。ただ、先程のみみなの怒った原因が分からなくては再びみみなの機嫌を損ねてしまうだろう。
 自分の行動を思い返してもどうしても原因が分からない。
 頭を抱えていると、みみなの座っていた椅子に置いてあるものに気付く。
「これは…………」
 みみながずっと持っているスケッチブックであった。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 時間は過ぎ、時刻は夕暮れ。
 夜の帳が下りてきてどんどんと暗くなっていく。そして季節は冬、気温はどんどん下がっていく。
 みみなは一人、お気に入りの場所である石碑を背に空を見上げていた。
 この石碑の場所は自室よりもどこよりも落ち着ける場所である。が、それでもみみなの胸のもやもやしたものは無くならず、ずっとイライラしたままだった。いつもならばこの場所に来ただけで心が落ち着き、頭は澄んでいき透明になれる。
嫌なことを全部忘れられる。そのはずだった。
 原因は分かっている。もやもやしたものが何かも、その原因も全てを理解している。
 ただしそれは認めたくない。認めたくないと言うのは少し違う。自分はどうすればいいのか分からないのだ。ずっと知識でしか知らなかった経験、ただ知っていただけの感情が自分に芽生えている。それを自覚してしまった時からずっとその扱いに困っていた。
 考えるのを止めればいい、そう思ってこの場所に来たのだが―それは失敗だった。ここはみみなの秘密の場所であるが、みみなだけの秘密の場所では無い。全ての元凶とも言えるみみなと彼の秘密の場所なのだ。
 ずっとそんなことを考えながら悶々と思考をループさせていた。
「……寒い……」
 思わず呟いてしまう。
 石碑にしゃがみ込んでどれくらい時間がたっただろうか、最初は恥ずかしさや怒りや緊張や焦りや様々なものから熱くなっていた体温も今ではすっかり冷え切ってしまっている。寒いからと秋晴に貰ったカイロもすっかり冷たくなってしまった。
 なぜだろうか、悲しくなって涙が出そうになる。何がきっかけだったのだろうか、何が悪かったのだろうか、どうすればよかったのだろうか、どうしかったのだろうか。いくら自問自答を繰り返しても今のみみなに答えが出るはずはなかった。


834:KAL ◆oEZLeorcXc
10/05/27 18:15:39 IwbDScWx
思ったより長くなってしまっていてOTL
読むのと書くのは違いますね。
とりあえずキリがいいとこまで投稿しました。
続きは後日に。

835:名無しさん@ピンキー
10/05/27 23:14:37 h7ioDrEq
取り敢えずメ欄にsageと入れると無駄に煽る人がやって来ないと思う

836:名無しさん@ピンキー
10/05/27 23:20:17 2akEEUKw
やっと読み終わった。続きを正座してまってるよ。
最近は暖かくなったんで全裸も気にならないし。

>>835
こっちは本スレと違って大丈夫じゃね

837:名無しさん@ピンキー
10/05/29 02:06:41 cBMyQiio
GJです!

特にみみな好きではない自分が「みみな、かわいい」と言ってしまいました
続き、楽しみにしてますね!

誤字、脱字は声にだして確認すると減りますよ
ただ、軽い羞恥プレイにはなりますんで気をつけてください


838:名無しさん@ピンキー
10/05/29 02:12:23 cBMyQiio
>>836
この板のよそのスレではあげるだけでくそ書き手扱いされることもあるので、sageた方がより安全でいいと思う

連投すいません


839:名無しさん@ピンキー
10/05/31 18:03:13 XL5cNXlU
捕手

840:名無しさん@ピンキー
10/06/03 19:16:24 Iy6dewy9
保守

841:名無しさん@ピンキー
10/06/04 13:54:23 HYxZW95K
捕手

842:名無しさん@ピンキー
10/06/08 00:31:45 CZY9bLLw
補修

843:名無しさん@ピンキー
10/06/09 18:25:04 BJsxNjKh
干す

844:名無しさん@ピンキー
10/06/16 20:22:16 gKVb0cc9
哺乳

845:KAL ◆oEZLeorcXc
10/06/19 06:16:37 mt6NsofQ
さまざまなアドバイスありがとうございました。
820-833の『Her wherever you like』 の続きになります。
キリがいいとこからはじめるのでほんの一部ですが前回と同じ文面あります。
注意書き的なもの?
秋晴×みみな
11巻直後くらい?
なんかエロは無理でした。。。。

846:KAL ◆oEZLeorcXc
10/06/19 06:19:04 mt6NsofQ
『Her wherever you like』

 時間は過ぎ、時刻は夕暮れ。
 夜の帳が下りてきてどんどんと暗くなっていく。そして季節は冬、気温はどんどん下がっていく。
 みみなは一人、お気に入りの場所である石碑を背に空を見上げていた。
 この石碑の場所は自室よりもどこよりも落ち着ける場所である。が、それでもみみなの胸のもやもやしたものは無くならず、ずっとイライラしたままだった。
いつもならばこの場所に来ただけで心が落ち着き、頭は澄んでいき透明になれる。嫌なことを全部忘れられる。そのはずだった。
 原因は分かっている。もやもやしたものが何かも、その原因も全てを理解している。
 ただしそれは認めたくない。認めたくないと言うのは少し違う。自分はどうすればいいのか分からないのだ。ずっと知識でしか知らなかった経験、ただ知っていただけの感情が自分に芽生えている。それを自覚してしまった時からずっとその扱いに困っていた。
 考えるのを止めればいい、そう思ってこの場所に来たのだが―それは失敗だった。ここはみみなの秘密の場所であるが、みみなだけの秘密の場所では無い。全ての元凶とも言えるみみなと彼の秘密の場所なのだ。
 ずっとそんなことを考えながら悶々と思考をループさせていた。
「……寒い……」
 思わず呟いてしまう。
 石碑にしゃがみ込んでどれくらい時間がたっただろうか、最初は恥ずかしさや怒りや緊張や焦りや様々なものから熱くなっていた体温も今ではすっかり冷え切ってしまっている。寒いからと秋晴に貰ったカイロもすっかり冷たくなってしまった。
 なぜだろうか、悲しくなって涙が出そうになる。何がきっかけだったのだろうか、何が悪かったのだろうか、どうすればよかったのだろうか、どうしかったのだろうか。いくら自問自答を繰り返しても今のみみなに答えが出るはずはなかった。
「…………え?」
 ふと背中に重みを感じる。最初は何か分からなかった。人の体温を感じる布。
 触れて分かる。これは従育科の外套だ。そしてこれは―
「この寒いのに……やっぱりここだったか」
 その振り向いた先にいたのは外套の持ち主である秋晴だった。
「…………な、何でここにいるのっ!?」
 必死に潤んだ涙目を隠しながら平静を装って声に出す。その努力も空しくみみなの声は震えていて今にも零れそうな声だった。
 その顔を見ないようになのか秋晴はみみなと違う石碑の面に寄り掛かり空を見上げながら答えた。
「あの後画材を先輩の部屋に返しに行ったんだけどいなかったろ? 待ったんだけど帰って来なかったし、あの時すっげー機嫌悪かったみたいだし、それに……」
「……それに……?」
 秋晴は慎重に言葉を選びながらゆっくりとみみなに話を続ける。
「元気なさそうだったから心配になってな。俺が原因かなっとも思ってたし」
 その話し方は心の底からみみなを大切に思っている、みみなの力になりたいと訴えるようで何の打算もない、純粋な想いだった。
「……キミは……」
 いつからだろう、他人の親切を素直に受け取れずに自分がまるで腫れ物を触るように接されていると思うようになったのは。
 いつからだろう、自分の価値は絵にしかないと、この手は誰かを喜ばす為の絵を描く為にあるのだと考えるようになったのは。
 いつからだろう、秋晴の純粋な想いが自分が求めていたものだと気付いたのは。
「…………なんでもない」
「いや、言いかけたのなら言ってくれよ」
「なんでもないのっ!」
 みみなの感情が全く読めない秋晴は戸惑う。引くべきか押すべきか。みみなの顔はかつてないほど思いつめていてその顔はいつになく真剣だ。
 自分で力になれるのか、何も知らない自分がこの先輩の為にしてやれることはあるのかと考えて―秋晴は腹を括った。それは力に慣れると思ったからではない。みみなが助けを求めていると思ったからだった。
「…………隣、いいか?」
「…………ダメ……」
 秋晴はみみなの否定を無視して彼女と同じ石碑の面、つまり真横に座る。

847:KAL ◆oEZLeorcXc
10/06/19 06:20:56 mt6NsofQ
 一瞬だけビクッとして驚いたみみなであったがそこを動く様子はなかった。
「………………みみなはダメって言ったのに……」
 子供のように膨れて文句を言うみみなの体温は外套越しでも分かるくらいに低かった。かなり長い時間この場所にいたんだろう。その体温が低くなるのも構わずにこの場所に縋っていたんだろう。
「どうしてみみながここにいるって分かったの?」
「あの後画材を先輩の部屋に返しに行ってさ、鍵自体は何とか説明して開けて貰ったんだ。んで、その後に先輩が全然帰って来なくてどこにいるんだろうなーって考えたらさ。一番に思い浮かんだんだのがここだったんだ。先輩のお気に入りの場所だったなって」
「…………うん」
 その言葉はみみなのことを誰よりも理解している人間にしか言えない言葉で、少なくとも白麗陵において誰よりもみみなを理解しているのが秋晴であることを証明する言葉だった。
 その言葉を聞いてみみなは自分が喜んでいるのを自覚する。秋晴が誰よりも自分を理解していくれるのが嬉しい。
「あのさ、先輩。俺に非があるなら直すし、原因があるなら努力する。だからその怒ってる理由話してくれないか?」
 横並びで座っている為に互いの顔は見えない。もちろん少し横を向けば相手の表情を見ることなどすぐできるのだが、互いにそれができないでいた。
「……みみなは、怒ってなんか、怒ってなんかないもん……」
 互いの表情が分からなくても声だけで伝わるものはある。みみなの声は明らかに不機嫌で、空を睨みつけていた。
「明らかに怒ってるし、元気ないぞ」
 みみなには秋晴の気持ちが分からなかった。心配してくれているのは分かる、ただそれがどこから来るのかが分からなかった。自分だからと思いたかった。でもその確証はない。だからこそ焦り、戸惑い、心にもないことを言ってしまう。
「キ、キミにみみなの何が分かるのっ」
 欠片も思っていない言葉。
 秋晴は自分の気持ちを汲んでくれているとずっとみみなは思っていた。それはみみな以外に対してもそうだ。お節介でお人好しで、見た目と違って誰よりも優しい。
相手の気持ちが分からないのは自分の方で口にした言葉を撤回したくなる。秋晴のことを分かっていないのは自分の方だと。
「…………分かるつもりなんだけどな」
「え?」
 秋晴の言葉はみみなの予想したものではなかった。てっきり「勝手にしろ!」とか「ふざけるな!」とかそんな言葉が返ってくると思っていたからだ。
「もちろん全部じゃないし分かる範囲になるけど……少なくとも先輩が絵を本気で好きだとか、今度の個展やパーティを本気で成功させたいんだとか分かる。だってここ数日間ずっと一緒にいるんだぜ? 分からない訳ねーじゃねーか」
 不安そうに語る秋晴の言葉にみみなは涙が出そうになる。自分を見ていてくれたことに。誰でもない桜沢みみなを知っていてくれることに。
「勘違いしないで聞いて欲しいんだけど。描いて欲しいんだ、絵」
 声にならないみみなの感動を知ってか知らずか秋晴はその思いの丈を続けた。
「無理に描かせたいって訳じゃないんだ。まあ、先輩の絵に期待してるってのは俺の本当の気持ちでもあるんだけどさ。見たいって以上に先輩に描いて欲しいんだよ」
 それは秋晴のみみなを思っての言葉であり、同時にそれは何の打算もないみみなへの気持ちで合った。
「…みみなに、描いて欲しい…?」

848:KAL ◆oEZLeorcXc
10/06/19 06:21:45 mt6NsofQ
「ああ、最初の日に先輩が言ってたろ? 『私の絵を好きって言ってくれる人のために描きたい』ってさ。それってさ、すっげー大切な気持ちだと思うんだよ。何がきっかけかは知らないけどさ、先輩にとって期待とかって重荷にしかなってなかったみたいだったろ?
 その重荷だったことが先輩にとっての後押しになったみたいだったから」
 いつの間にか互いに向き合っていた。暗がりで互いの顔は見えない。
「前に先輩の絵を見て感動したって言ったろ? だから正直俺も期待しちゃってるんだ。どうしたって先輩に勝手な期待をしちゃうんだ。でもその期待が先輩のやる気の元になってくれるなら嬉しいって思ったんだよ」
 みみなにとって期待とはずっと重りだった。絵を描くという自分の好きなことを暗くさせる足枷でしかなかった。
「これからも先輩の絵に期待をしてくるヤツは大勢いると思う。だから先輩に自分からその期待に答えたいって聞いた時、本当に良かったなって思ったんだ」
 だからあの日、秋晴と二度目にあったあの日。彼に言われた言葉はみみなを助ける一筋の光だった。
「だからさ、俺も力になりたいんだよ。先輩の力になりたいんだ。今回俺を指名してくれて嬉しかったんだぜ? 荷物持ちでも頼ってくれて、先輩の力になれて嬉しかったんだ」
 その笑顔はあの日と変わらなかった。みみなの手助けをしてくれるとこの石碑の前で約束してくれたあの日と。
 ずっと見つめあっていたことに気付き秋晴は顔を恥ずかしそうに背け、「俺じゃあ役者不足だったのかもしれないんだけどな」と小さく呟いた。
「そんなっ」
 上手く言葉にならない。 
「そんなことないよっ」
 言いたい言葉が出てこない。秋晴がこんなにも自分のことを考えていてくれて、自分の為にしてくれた想いに答えたいのにも関わらず言葉が出てこない。
「あの、あのねっ……みみなは、みみなはっ……、」
「ゆっくりでいい。俺はここにいるから。先輩が嫌って言っても側にいるから」
 今にも泣きそうに動揺したみみなを見て秋晴は不安になる。
 勝手なことを言い過ぎたか?全然違ったか?よく鈍感とか唐変木と呼ばれる秋晴である、正直思い込みが激しかったり的を外した言葉でなかったとは言い切れない。
 どうしたものかと思い、そのままみみなの頭を撫でていた。
「落ち着いたか?」
「ありがと」
「どういたしまして」
 落ち着いたみみなの頭から手をどかす。小さな声で「あっ」と残念そうな声が聞こえたのは気のせいだろう。
 少しの沈黙の後、みみなはその身を少しだけ秋晴に寄せてその口を開いた。
「あのねっ、うまく言えないかもだけど……聞いてくれる?」
「当然だ、ゆっくりでいいから話してくれ」
「キミは女の子と仲がいいよね」
「…………へ?」
 秋晴は予想外の言葉に思わず目を丸くする。みみなが不安定になっていた原因が自分だとは思っていたし、その理由はイマイチ良く分かっていなかったのだがそれは明らかに予想外の言葉だった。
 みみなはそんな秋晴の混乱を気にせず続けた。
「ピナちゃんにもそうだし、さっきだって……」
「いや、え? あ、と……そんなつもりは……」
「無いの? まったく無いって言える?」
 明らかにうろたえる秋晴を責め立てるようなみみなは先程までとは違い元気いっぱいで少し怒っており、その頬は子供のように膨れていた。
 思い当たる節が全くないとは言い切れない秋晴はそのまま黙ってみみなの言葉に耳を傾ける。


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