08/07/07 22:11:50 HhzaoHZl
『おい、なんでついてくるんだよ』
『あのお姫様がどんな顔で人間と住んでいるのか気になるじゃない。
それに、同じクラスになったんだし。ご挨拶ついでよ』
『姫様っていうな! リカに聞こえるだろ!』
(……リカなんて今の場面にいたっけ)
オートプレイを止めて、バックログを読み返す。
リカも一緒に帰っているのはわかったけど、何故そうなったのかを覚えてない。
ボクとしたことが。
……駄目だ。
こんな状態じゃゲームに申し訳ない。
セーブして、一つだけ起動しているディスプレイの電源を切った。
手持ち無沙汰に、教科書とノートを広げてみる。
けれど、書かれた文字はボクの網膜だけを流れていき、頭にはまったく記憶されない。
……なんだろうな。
今日、ヘンなものでも食べたかな。
あの弁当も、くずれたケーキも、ヘンといえばヘンも極まったものだったけど。
椅子に背を預けて、原因と、その対策を、改めて考える。
とたんに、ドコドコとドアの叩かれる音と共に、間の抜けた声が聞こえてきた。
「神にーさまー、いれてくださーい!」
……なんだあいつは。部屋には来るなって言ってあるのに、それすら守れないのか。
椅子から立ち上がってドアに行くと、なぜか珍しくカギがかかっていない。
そのままドアを開いていく隙間からは、満面の笑顔が見え始める。
「なんだ」
「ケーキです! 今度はお母様に教えていただいて、ちゃんと作ったんですよ!」
割烹着かエプロンなのか、料理するときに着るヘンな服をまとったまま、ケーキを見せる。
母さんも一応は店で出すケーキも焼くから、それが本当なら食べられるものだろうけど。
見た目もずいぶんしっかりしているし。
「ボクは甘いものは嫌いだって言ったはずだ」
「でも、本当においしくできたんです!」
「……味見だけだぞ」
ドアを開けて招き入れる。
ソファーなどはないから、ベッドに座る。当然のように横に座ると、
それを差し出してきた。半ホールも持ってこられてもどうしろというんだ。
隣から嫌になるくらい期待を込めた視線をあてられ、しょうがなしに
フォークで生クリームごと口に入れる。……まぁ、たしかに味もちゃんとしているようだが。
「どうですか?」
「……うまかったよ」
全てをたいらげてから伝える。今更伝えても、嬉しそうな顔はもう変わらなかったが。
ボクの手から皿を下げる。
「エヘン、またお料理のレベルがあがりました」
「レベル1からならスライムを倒したって上がるからな」
ボクの言葉にも動じずに、にこにことエルシィはすぐに座ったところから立とうとする。
「おやすみなさい、神様」
腰を上げるエルシィ。無意識にボクの手が袖を掴んだ。