【異形化】人外への変身スレ第三話【蟲化】at EROPARO
【異形化】人外への変身スレ第三話【蟲化】 - 暇つぶし2ch69:名無しさん@ピンキー
08/04/23 08:04:04 Ilg4ZcNh
>>68
GJ!
ねばつく唾液や臭いといった不快感をあおる表現や、公衆の中で変身が継続される残酷さと焦燥が素敵。
悪堕ちしないで意識を再起させた展開も、自分は変身に変身者の感情を醍醐味として求めるんで楽しめた。
文書力も謙遜する以上にあると思う。自然に読めたし、板的にもあんまりごってりしてるより良い。

確かに展開としては無駄があったかもしれないね。
速筆で読者としては嬉しいのだけれど、一日おいてから文章を検討し直すと良いかも。

今後の作品も楽しみにしてます。

70:名無しさん@ピンキー
08/04/23 10:11:32 uMpxT9+I
>>68
話自体は面白し、文体も読みやすいんだけど、留実が人外に変異するのが唐突に始まって、
その変異を自分で勝手に納得しているのに、オレは違和感を感じる

例えば、魔界で戦って破れた魔物(ケルベロス等)の身体の一部が人間界に落ちてきて、
拾う若しくは知らずに食べるとかする事で変異が始まって、力(魔力でも身体的な力でも良い)を
振るうことの快感、或いは性的な快楽によって「人外」への変異を望みそれを受け入るとか…


71:名無しさん@ピンキー
08/04/23 23:06:33 /8AmpS2l
要約すると俺の好みの展開じゃなきゃ糞!
俺のリクエスト通りに書きやがれ!
ってことですね!?

72:名無しさん@ピンキー
08/04/24 01:20:33 9kmULkfE
>>71
納得するかしないかは好みとは別でしょ。煽るにもスマートなやり方があるんじゃない?

少なくとも>>70の言ってることも一理あるように思える。俺は全然気にならなかったけど。

73:名無しさん@ピンキー
08/04/24 01:43:02 0JGpLkbv
スマートじゃない指摘にスマートな煽りは必要ないよw

74:名無しさん@ピンキー
08/04/24 12:19:54 Ib6xABQj
獣化スレの件といい、なんか自称評論家が居付いてないか?
SSは自分の思い通りでなきゃって妄想持ちが  

75:名無しさん@ピンキー
08/04/24 12:52:13 GKXNQAY3
獣化スレのはシチュエーションではなく技術面に対するツッコミが多いのでまた違うと思うが

>>70は「例えば」で挙げてる例がやたら具体的かつ限定的なのでリクエストっぽく感じるんだと思うw

76:名無しさん@ピンキー
08/04/24 17:26:01 9kmULkfE
書き手としては読んでもらったってわかる分、ただGJされるより嬉しい。
>>68じゃないし人それぞれだけど。

77:名無しさん@ピンキー
08/04/25 15:24:45 LwldoL9d
>>68ですけど僕自信ほんとは精神的にも変身していく過程が大好きなんですけど
実際書こうとすると難しく、あんな形にしてしまいました

78:名無しさん@ピンキー
08/04/26 11:27:58 X/C9VOFn
SSの投下が無いせいか、ずいぶんと引っ張っているね。
要は 起承転結 が在った方が良いよと言うことなんでしょ
きっと

79:名無しさん@ピンキー
08/04/26 19:12:03 O8Lcxtbc
今頃なんですが、新スレ乙です!今SS二本まとめ読みしました

>>3-12 clown様
今回はエロエロですね!全開で揺れまくる乙女心が素敵でした。

>>35-68 >>68
>>69様の指摘通り、口臭とか鷲鼻とかかなりイヤなアイテムを効果的に使っているのが
新鮮でした。ここまでやるか、みたいな。女の子が可愛らしいので、うまくバランスが
とれてる感じですね。
>>70様の指摘、好みは別れますし、設定に凝る話はそれはそれで好きなんですが、
なんの理屈もなくいきなり異形化するというのは、かえって恐い上に世界観を狭めなくて、
自分はアリかなと思いました。
(ひょっとして>>38の小説はそれに対する作者の自己注釈かな、などと思ったり…)
何になるのかすら全然予想できない怖さがよかったです

続編または新作も是非読んでみたいと思いました

80:名無しさん@ピンキー
08/05/01 16:01:08 Ea4msbU8
ほしゅ

81:名無しさん@ピンキー
08/05/05 05:30:49 ohjZQPPc
ほしゅ蛇

82:名無しさん@ピンキー
08/05/06 20:54:01 vu8RrZgr
ほしゅ豚化


83:名無しさん@ピンキー
08/05/08 15:36:08 FkVuqhpW
ほしゅ山犬


84:名無しさん@ピンキー
08/05/08 15:38:05 szwfP7DY
居着いた結果がこれだよ

85:名無しさん@ピンキー
08/05/08 21:28:26 JVi4gi6D
作品が投下されない、って結果?

86:名無しさん@ピンキー
08/05/08 22:25:27 hHxHM5WC
前スレが埋め中で?案外と盛況だったりする
あっちが埋まったらこっちに来るんじゃないかな

87:名無しさん@ピンキー
08/05/11 22:47:12 FuJcdSIg
保守

88:名無しさん@ピンキー
08/05/15 15:24:10 +PLiaUxv
ほしゅ

89:名無しさん@ピンキー
08/05/17 12:12:03 AeJbhREd
保守代わりに雑談
前スレ602の
「宇宙人、ていうのもありですかね
グレイタイプ(ただし女性的なラインは維持)とか、
緑や青の皮膚になるとか 」
とかいうのはいいな、と思ったんですがもしかしてスレ違いでしょうか?
別にこういうのの投下を期待してるわけではないですけど・・・。

90:名無しさん@ピンキー
08/05/17 18:52:08 XJj9IkpQ
>>89
>ただし女性的なラインは維持
多分、この辺がスレ違いというかウケ良くないんだと思う。
要は人間ぽい体つきって事でしょ?
このスレ的にはもっと容赦なくTFして欲しいんじゃないかなぁ。

91:名無しさん@ピンキー
08/05/17 19:35:33 /4fPe80U
いやいや、女性的なボディラインは許容範囲ですが

俺は顔重視なので顔が変わってくれればそれで(ry

92:名無しさん@ピンキー
08/05/17 22:05:57 fHheNur8
けどやっぱり
多脚の方が変身した!って気がするかも。

いやあくまでも私の意見ですが

93:名無しさん@ピンキー
08/05/18 01:31:52 4EyigiQk
変身する物よりも変身していく過程、描写と
心の変化が分かる事が分かれば何でもおk

と個人的には思ってる

94:名無しさん@ピンキー
08/05/18 19:43:45 9gfhzsIE
保守

95:名無しさん@ピンキー
08/05/20 07:43:51 7RNnfCHO
ほしゅ

96:名無しさん@ピンキー
08/05/22 00:57:36 0+khvQDF
ほしゅ


97:名無しさん@ピンキー
08/05/24 07:49:09 i4kGnkAu
保守でのみ進行するスレ

98: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:43:54 OV1BTzi+
新しいものを書きましたので、数日に分けて投下いたします。

タイトルは長すぎるということなので、ここに。
『アガレスは慈悲深く、なれど尊厳を破壊する』です。

99: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:44:34 OV1BTzi+
第一章……一日目
 
 
「リネット王女、ご機嫌麗しゅう。我が名はアガレス。変化の公爵」
目の前にいる美しい女は、そう名乗ってわたしに笑いかけた。
異形の存在だった。
鰐の背に乗り、肩には鷹を止まらせている。緑の衣を身に纏い、片足を淫らにも
剥き出しにしている。王宮で魔道師に教わった通りの姿をしていた。
顔立ちには非の打ちどころなく、真っ当な装束で着飾れば、王室の舞踏会に現れても
不思議でない気品を備えている。年の頃は兄上と同じくらい。二人を並べれば、
似合いの美男美女と取り沙汰されてもおかしくなさそうである。
なのにそこには何か、人を怖気立たせる瘴気のようなものが漂っていた。
魔族の大立者アガレスともなれば、それも無理はない。戦いにおいては地震を起こす
ほどの強力な魔力を誇り、言葉を巧みに操っては人々の尊厳を破壊するという。
なぜか慈悲深いという言い伝えもあるそうだが、悪魔の慈悲などまやかしに過ぎまい。
恐怖に萎えそうになっている心を強いて奮い立たせ、常と変わらぬ態度を取ろうと
努めた。王女たるもの、気品を失うことなどあってはならない。
「これは夢、ですね」
わたしとアガレスを取り巻くのは無明の闇。踏みしめる大地も仰ぐべき天もない。今
わたしが着ているのは、今日の式典用に誂えていたドレスだが、その後の騒動で埃や
泥にまみれたはずのそれは、最初に袖を通した時と変わらない美しさを保っている。
「いかにも。いちいちそちらへ足を運ぶのは、ぶっちゃけ七面倒臭いので」
終わりの方は俗な言葉過ぎて何を言っているのか定かでないが、言いたいことはおおむね
理解した。
悪魔はそれぞれが各々の領域からあまり遠くへ出ようとしない。それはもちろん人を
警戒してのことではなく、悪魔同士の縄張り意識がひどく強いためであるという。
ゆえに労を惜しんで夢の中で人に働きかけるのはよくあることだと、これも魔道師に
教わったことがある。

100: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:45:15 OV1BTzi+
夢であれば、悪魔の魔力であってもさしたる効果を発揮しないとも聞いた。もとより
王家の一員として無様に怯えるつもりはないが、なおのこと恐れる必要はない。
そこで、わたしは魔族に問いかけた。
「今日の出来事は、あなたの仕業ですか」
「半分正解でございます。貴女様を連れ去りしは、当人がこっ恥ずかしい名乗りを上げた
通りに、魔王ダークエンペラーことマールドラ町の三十四歳独身無職のトム・ブラウン
でありまして、わたくしは彼奴に少々力を与えた上でいささかそそのかしたまでのこと」
アガレスの語った内容は驚くべきことだった。
わたしが暮らすエルスバーグの城に今日突如襲来し、わたしをさらってこの洞窟に
監禁したあの魔王とやらは、実は単なる我が国の辺境の町の住民であり、この悪魔の
手引きを受けたというのか。
「なぜそのようなことを?」
悪魔は人の天敵であり、人を殺し傷つけ苦しめるのが生業のようなものである。しかし
悪魔は人間以上に知性の高い種族でもあり、その行動には合理性があるはず。
それが、わざわざ人間に魔力を与えて暴れさせるとはどういう了見なのか。破壊行為を
働きたいのであれば直接動けば済むものを。
「さて、長くなりますが、ご静聴いただくといたしましょう」

101: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:46:16 OV1BTzi+
「ものには順序がございます。まず手始めにはエルスバーグより遠く離れし大国
ポートスパンの伯爵家ご令嬢オクタヴィア・アルビステギの話から」
「その名前は覚えています」
「左様。彼女はこのエルスバーグを昨年訪れたことがございます。とは言えポートスパン
王家ご息女来訪の折の随身ですから、むしろその名をご記憶なさっているリネット様の
記憶力が優れていると申すべきでしょう」
「つまらぬ世辞などいりません。少し愉快でない出来事があったから覚えていただけの
ことです」
エルスバーグを見下した、無礼な振る舞いの数々。それだけならば耐えもしたが、
世話を任せた女官たちに傷を負わせるに及んで我慢も限界に達し、衆人環視の元であの
思い上がった娘を面罵した。外交問題に発展してもやむなしと思っていたのだが、幸い
ポートスパンの姫君が冷静で賢明な方であったおかげで、ことは速やかに収まった。
結果、オクタヴィア一人が満天下に恥を晒す格好になったわけだ。
「これは失敬。いかにも、あれは不愉快極まりない事件でしたね。わたくしは
オクタヴィアの口から事情を聞きましたが、それでも非は明らかにあのお脳の足りない
小娘にあるとわかりました」
「あなたはオクタヴィアに会ったということですか?」
「はい。それがこの糞ったれな事態すべての発端でして」
アガレスは唇を歪めた。あまりわたしが見たことのない種類の笑み。
「ポートスパン帰国の後、憤懣やるかたないオクタヴィアは先祖伝来の宝物庫の中に
とある品物が入っていることを思い出しました。正確に使用すれば、ある代償と
引き換えに悪魔を呼び出して使役できる杖です」

102: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:47:20 OV1BTzi+
息を詰めて話に聞き入るわたしに対し、アガレスは大袈裟なまでにため息をついて肩を
すくめてみせた。
「要するにこれ、わたくしが大昔にこしらえた罠なんですがね。使い方には一々面倒な
手順があり、呪文詠唱の一言、準備した魔力触媒の品質、召喚の際の手振り一つ、
果ては儀式の日時や場所まで、どれか一つでも指定の作法にのっとっていなけりゃ、
たちまち愚かな召喚術士気取りをとっ捕まえておいしくいただく寸法。それらすべてを
間違えないくらい賢い者なら、代償に差し出すものを惜しむに決まってるから、こんな
杖を使うわけがない。どっちにしろ、わたくしが実際に人間に仕えて労働に励む可能性
なんてこれっぽっちもないはずだったんですけど、ねえ」
「……オクタヴィアは成功したわけですか」
「話が早くて助かります。猿が紙にペンででたらめに書きつけたら抒情詩ができたって
くらい低い確率のはずだったんですが」
「それで、彼女の望みは?」
聞くまでもないことだが、確認せずにはいられない。
「貴女様の破滅。肉体的苦痛と精神的恥辱にまみれた生涯。当然、オクタヴィア本人は
こんな簡潔な物言いはしてないわけですが、長ったらしくてうんざりする恨み節を
要約するとそんなとこです」
アガレスの答えはあまりに予想通りだった。
「ま、こちらとしても代償を確実にいただける契約ですんで。仕事はきっちりやらせて
いただきます」
「……代償、とは?」
「あまり慰めにもならないでしょうが」
アガレスはこれも予想通りの答えを返した。

103: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:48:05 OV1BTzi+
「それにしても落ち着き払っておられる。たとえ安全な夢の中とは言え、悪魔を前にして
こうも平然と話ができる人間はあまりいませんよ。しかもたった今ご自分の破滅を宣言
されたというのに」
「怯え震えて乞い願えば破滅から逃れられるというのなら、いくらでも浅ましい振る舞い
をしてみせますが」
「あいにくそういうわけにもいきません」
悪魔について学ぶ際、アガレスの名は極めて早い段階で教わることとなる。それほどの
存在が、獲物の嘆願や小芝居ごときで己の行動を変えるとは思えなかった。
「それに、心は今日の午後よりすでに、千々に乱れております。城壁や王宮が破壊され、
多くの人が傷つきました」
ロビン。
魔王を名乗る者に果敢にも斬りかかって、強烈な魔力で壁まで吹き飛ばされたロビンは、
どうなったことだろう。
近衛兵に取り立てられて日が浅い彼は、剣の腕前なら近衛の中でもすでに一、二を争う
のだが、城内での作法についてはまだ勉強不足なところがあり、家柄のおかげで素早く
出世したような者どもにたびたび嘲られていた。
なのに生真面目に穏やかに勤め上げるばかりの彼がいじましくて、今朝、わたしは思わず
彼らの只中で言ってしまったものだった。
―六代前のジェイコブ王は庶民の出ながら剣術に秀でて王女の危難を救い、近衛の職位
から王になったとか。皆の者も何よりまず職務に励まれるように。
普段ロビンをいじめている者たちの唖然とする顔を見たくて口にした言葉だったが……
あの言葉がロビンに余計な傷を負わせる原因になったのではないかと、わたしは不安に
おののいていた。
最悪の想像が口から飛び出してしまう。
「中には命を落とした方もおられることでしょう」
アガレスはわたしの問いに対して沈黙で回答した。

104: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:48:57 OV1BTzi+
「繰り返しになりますが、なぜ力強き悪魔アガレスともあろう者が、あのような粗暴で
愚かな人間を手先としているのですか? 願いが単にわたしの破滅一つであるならば、
わたしだけを狙えばよかったものを!」
アガレスは、眉根を寄せる。まるで困った人間と同じように。
「そうしたいのは山々ながら、問題がいくつかございます。まず、このエルスバーグは
口うるさいアモンのテリトリーでして、そこへわたくしがのこのこ現れて一暴れした
暁にはしきたりがどうの礼儀がどうのといった揉め事になるのは必定なわけです。他にも
この近くにはベリアルとかグラシャラボラスとかどうにも面倒な輩が多いし」
何やら、わが一家の親戚づきあいにも似ている話。そういう問題では人も魔族も
変わらないということなのだろうか。
「さらに、わたくしが直接貴女様に危害を加えるてなことになると、エルスバーグおよび
周辺国が傾きます」
「……それはどういう意味ですか?」
「この近郷がなかなか微妙な力関係でバランスを取っていることはご存知でやんしょ?」
なぜか道化芝居の三下のような口調になる。妖艶な美女の姿にはふさわしくない。
「そのど真ん中に位置するエルスバーグが突然悪魔の襲来を受けて王女をさらわれた
なんてことを知ったら、周りの国が色々企み出すものでしてね。エルスバーグの国内も
動揺しまくればあっという間に西部大陸大戦争の始まり始まりってなもんでげす」
「……それは、魔族の望むところではないのですか? 死と破壊こそが悪魔の本懐と
いうものでは?」
わたしが口を挟むと、アガレスは悲しげに首を振った。
「人間の皆さんはどうにも誤解なさっておられる。もっとも、昔の我々の行為に原因が
あるのですからこれも自業自得というものですが」
台詞だけ抜き出すとなかなか悲痛だが、言い方が安っぽい役者めいていて、説得力は
微塵も感じられなかった。

105: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:49:46 OV1BTzi+
「魔族は、生物の精神活動を喰らいます。人間が他の動物や植物を喰らうように」
「精神活動、ですか。喜怒哀楽などの?」
「はいその通り。生物ですから植物や他の動物からも摂取できないことはないのですが、
心穏やかな植物や知性に乏しい動物の精神という奴は、あまりコクや深みといったものが
ないわけですよ」
口調はふざけているが、わたしには初耳の話だった。
「喜怒哀楽を食べられた人間は死ぬのですか?」
「いえいえ、そんなことはござんせんよ。人が焚き火にあたって暖を取るのと似たような
もので、わたくしどもは横から皆様のおこぼれにあずかっているに過ぎません」
「ですが……」
それならどうして、魔族と死や破壊がこうも密接に結びついているのだろう?
「ただですね、とりわけ美味なのが死ぬ直前の感情の爆発でして」
「!」
「苦痛とか悲哀とか後悔とか激情とか絶望とか、そういうものは思い出すだけでも
よだれが垂れるくらいおいしくてですね、なのでわたくしどもは昔はそりゃあ乱獲
しまくったわけでございます」
「…………」
「ただ、人間たちが植物や動物を採取狩猟するよりも栽培や育成で安定した収穫を目指す
ほうが得だと気づいたように、我々も次第に変わっているところでして。今時の悪魔と
いう奴は、人の世の大規模な混乱など、頭の悪い下等な連中を除けばもはや誰も望んで
おりません。一瞬の快楽に身を委ねても、また人が増え始めるまでの長い期間は餓えに
喘ぐことになるわけですからねえ」

106: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:50:55 OV1BTzi+
「…………」
アガレスの言い分は、それなりに筋が通っているようにも思われた。
「ですが―」
どの道、わたしがこうして囚われの身となった以上、戦乱は避けられないのでは
ないだろうか?
そう続けようとしたわたしをアガレスの言葉が遮った。
「この件は、ほとんどの人間が納得の行く形で収拾をつける運びになっております。
筋書きはすでに書き上げてありまして、後はその通りに役者が動いてくれればいいだけの
話」
貴女はその「ほとんど」には入っていないのですけれどね、とアガレスは付け加える
ように呟いた。その声音は妙にしんみりとしたものだった。
「様々な人の生き死にも、あなたたちにとっては芝居……あるいは駒遊びの一種という
わけですか」
「否定はいたしません」
アガレスはわたしの批判を軽く受け流す。
もっとも、わたし自身王家の人間として、いずれはそうした駒遊びにじかに関わったかも
しれないのだが。
「トム・ブラウン改めダークエンペラーは、駒としてはまさにうってつけなんですね、
これが」
はしゃぐように悪魔は話題を転じた。

107: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:51:53 OV1BTzi+
「死んだ父親の遺産で悠々自適を気取っていたのが怪しい事業に手を出したのが災いして
今では食うや食わずの貧乏暮らし。そのくせ気位が高いせいで人に頭を下げて働くことに
踏み出せない。しかも最近では母親に、近衛兵に取り立てられた年下の従兄弟と
比べられて、鬱屈を抱えながら自堕落な生活を送っていたという典型的な穀潰しです。
リネット王女のような若くて魅力的な女性と出会えないものかと考えながら、しかし
外に出るでもなく妄想の中で日々遊んでいただけの屑です」
「でも、あなたがそそのかさなければ、こんな大それたことはしなかった」
「王女はお優しいですね。自分をさらった相手だというのに」
その声は、さっきと同じくどこかしみじみとした響きを伴っていた。
「王族たるもの、国民を気遣えなくなったらおしまいです。それが悪魔にたぶらかされた
愚か者というのなら、なおさら」
もちろん建前に過ぎない。怒りや憎しみや恐怖の念を、あの自称魔王に対しては
抱き続けている。しかしすべてを仕組んだ張本人の前でそんな感情を顕わにしても
空しいだけだということは理解していた。
 わたしが睨むように見つめると、アガレスは視線を逸らした。
「話を戻しますが、彼は多少の知識はあれど大した魔力を持ってはいなかった」
アガレスが語る言葉に思い出すのは、堅牢な城壁を難なく突き破り、ロビンをあっさりと
なぎ払った、魔王を名乗る男の絶大な魔力。
「いや、今も大した魔力じゃございません。あれを倒せる人間は、世界に二十人ぐらいは
いるでしょうね」
「に、二十人?」
人の身であれに対抗できる者が二十人もいることが、むしろ信じられない。
「ええ。その辺もうってつけと評した理由です。悪魔アガレスに挑んで姫を救わんとする
のは至難の業ですが、あのダークエンペラーに立ち向かうのはさほど困難な話でない」
「つまり彼は、征伐されるために力を与えられたわけですか」
「そういうことです。だからと言って貴女が憐れむ必要はないと、台本を書いた者と
しては助言しておきましょう」
「……あなたはさらに彼を操るわけですね」
「ええ。貴女を破滅に導くために。まあ、一つだけご安心を。貴女は彼に肉体的に
汚されることはありません。彼奴にはわたくしがきつく言い聞かせておきますので」
「それも、戦乱を避けるための布石ですか?」
「よくおわかりで」
仮面のような笑みを浮かべると、アガレスは優雅に一礼して消え失せた。

108: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:52:49 OV1BTzi+
第二章……十日目
 
 
「リネット王女、ご機嫌麗しゅう」
夢の中へ姿を現したアガレスに、わたしは無言で飛びつこうとした。
しかしわたしの身体は奴の身体をすり抜けてしまう。魔族が人間に危害を与えられない
ように、人間も夢の中では無力である。
それでも、今日の怒りと悲しみは誰かにぶつけずにいられなかった。
今日、目の前でたくさんの人が命を落とした。
わたしを救うために編成された部隊。この洞窟へ突入し、わたしの目の前まで
迫りながら、彼らは壊滅した。わたしの牢番に配置されていたブラックドラゴンの
炎と角と爪と牙と尾によって。
自称魔王はすでにこの洞窟を離れ、わたしに三度の食事を運ぶとき以外は別の地に築いた
居城に引きこもっている。そこで配下にするモンスターの生産に取りかかっているらしい
が、そんな奴が最初に作り出した強力なモンスターが、このブラックドラゴンだった。
牛や馬の十倍はある巨大な全身を漆黒の鱗で覆われ、腐臭漂わす息を吐き散らし、周囲を
動き回る生き物を見境なく食い漁り、長すぎる尾を引きずりながら四つ足で無様に
這い回る、おぞましくて醜くて、知性のかけらも見当たらない魔物。
だがその鱗と角は鍛錬を積んだ兵士の剣を弾き返し、肺腑に秘めた炎は敵対するものを
簡単に焼き殺し、魔物の甲羅とて噛み砕く牙は鍛造した鎧など意に介さず、四肢と尾は
すべてが石柱のような威力で殺到する兵士を砕いた。しかも造物主の命令には極めて
忠実で、わたしのいる牢内には炎の一息すら吹き込まない。
そんな黒い竜は、王国軍の精鋭で構成された部隊を蹂躙した。最後に煙幕を張って
戦線離脱を図った者たちがいたので、何人かは逃げおおせたかもしれない。
でも。
「彼は……」
思いが唇からこぼれ出てしまう。

109: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:53:23 OV1BTzi+
しかしわたしの怒りにも悲しみにも表情を乱さず、アガレスは微笑みかけてきた。
「ロビンのことですね」
「!」
「以前にお話ししました通り、トム・ブラウンには年若い従兄弟がいます。剣の腕により
近衛兵に取り立てられたその者の名はロビン。姫を救出する部隊に彼が含まれていれば、
トムが彼に対する恨みを晴らさんとブラックドラゴンを特別にけしかけたのも、これを
知っているなら驚くことではありません」
「お前は最初からそれを知っていたのか!」
ブラックドラゴンにとりわけ徹底的に嬲られたロビン。にも関わらず、何度も何度も
立ち上がり、鉄格子の向こうのわたしを見つめ、一途に突き進んできたロビン。
あれは、魔王によって事前に指示されていた黒竜が手加減した結果なのかもしれない。
しかし同時に、ロビンが誠実に務めを果たそうとしたからでもあるだろう。そうで
なければもっと早く後退して逃げることだってできたのに。
「トムとロビンの関係については。しかし王女のロビンへの恋心ばかりは
存じ上げませんでした」
「! こ、恋などではない!」
「そうですか。ではそういうことで」
わたしの言葉を否定もせず、アガレスは再度微笑んだ。
「今宵は心の準備をしていただこうと、敢えて来訪した次第。明日、貴女はこれまで
以上に悲惨な目に遭いますので」
「……今日以上に悲惨なことなど、あるものか」
「それはいささか想像力が欠如しておりますね。お忘れなきよう。わたくしは貴女を
破滅させるため、貴女の尊厳を破壊するために働いているのでございますから」
アガレスは優雅に一礼して消え失せた。

110: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:54:29 OV1BTzi+
第三章……十一日目
 
 
「リネット王女、ご機嫌麗しゅう」
三度現れたアガレスと向かい合う自分の姿を見下ろして、これが夢の中の出来事だと
確認する。確認できてしまう。
なぜなら今、わたしは昨日までのように人間の姿をしているから。
「竜の身体には慣れましたか?」
「……慣れるものか」
昨日、わたしの目の前でロビンたちを惨たらしく傷つけたブラックドラゴン。
わたしの魂は今、その醜く罪深い竜の身体に封じ込められている。
 
 
今朝―洞窟の中ではあるが、魔法による灯りである程度の時刻はわかる―、
わたしの牢にあの自称魔王が朝食を携えて現れた。以前から自分の力や自分が
生み出した魔物の強さを自賛して止まないあの者は、あろうことかわたしに求婚した。
―エルスバーグはじきに僕に支配されるのだから、新国王の妻となるのが旧王家の
姫たる君にはふさわしいでしょう。
気取ったわりに品がなくまるで似合わないたわ言に対し、わたしは鉄格子の奥から
冷笑と短い侮蔑の言葉で応じた。
アガレスと交わした会話は覚えていた。わたしの破滅とは、すなわちここで殺される
ことかと推察もした。でもそれを恐れはしなかった。
前日にロビンの切り裂かれ焼け焦げ砕かれ一部が失われた姿を見た時から、わたしの中の
何かはすでに死んでいたのだから。
だが、彼奴はわたしを殺しはしなかった。

111: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 20:55:35 OV1BTzi+
―予言通りの返答だな。魔神様は常に正鵠を射抜きなさる。
顔をしかめながらそう言うと、あの男はブラックドラゴンを呼び寄せて、なぜか呪文を
唱えると黒い竜の全身を魔力の鎖で縛り上げた。
そしてわたしに顔を向け、アガレスの操り人形であるあの男は歪んだ笑みを浮かべて
言ったのだ。
―僕が好きなのは君の肉体であって、魂には興味がない。むしろ従順な魂を入れ、
その肉体に相応しく育てるほうが好もしい。
直後に唱えられた呪文は、光の輪のようなものだった。それが直線に近い形に
引き伸ばされると、それぞれの端がわたしとブラックドラゴンの体内に吸い込まれる。
―お前は一体、何を
わたしが『わたし』の声でしゃべれたのは、そこまでだった。
輪の端が身体に入り込んだ結果、身体には二本の光の糸が生えているようになっている。
その一方が外へ引き出され、それにわたしは為す術もなく引きずられる。また、もう
一方はこちらへ引き込まれていく。
わたしの身体はまったく動いていない。しかし『わたし自身』は糸に雁字搦めにされた
ように感じていて、糸とともに凄まじい勢いで動き始めている。
すぐにわたしは『わたしの身体』の外に引きずり出され、『リネット』の姿を外から
見ることになった。魂を抜かれたような虚ろな表情をしていた。
わたしは自分が光る球体のような存在となって光の糸に絡みつかれていることを
理解した。そして、鉄格子を超えて糸の進む先にはブラックドラゴンの身体がある
ことも、竜の身体から飛び出した光る球体が糸に乗って『リネット』の身体へと
向かっていることも。
抗おうにも抗う方法もわからないうちに、わたしは邪悪な黒竜の身体の中に吸い込まれて
いき、その身体の新たな持ち主となった。
―この洞窟は君に差し上げよう。迷い込んで来たモンスターや動物、もちろんお好みと
あらば人間も、君の食料になるはずだ。その鎖はもうしばらくすれば消滅するように
設定してあるから心配はいらないよ。
魔王は牢の鍵を開けながら、もったいぶった口調で言う。そして、突如人間の少女に
なって呆然とその場にへたり込んでいるさっきまでのブラックドラゴンを優しく
抱き寄せると、跳躍の呪文を唱えて消えてしまった。
後に残されたのは、さっきまでエルスバーグ王国の王女であったはずの、
醜いブラックドラゴンが一匹。

112: ◆eJPIfaQmes
08/05/24 21:00:16 OV1BTzi+
今夜はここまでです。
前スレ『ベルゼブブの娘』と共通する名前がちょっと出てきますが、
設定的にはあちらの数十年前の話という感じです。

113:名無しさん@ピンキー
08/05/24 21:07:52 O0y9tNdH
>>112
GJ!
続きを全力で待たせてもらいます!

114:名無しさん@ピンキー
08/05/24 23:01:25 mVYxXeho
GJ!俺にとってあんたなしじゃTFは語れない!

115: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 00:52:56 WzqdZqYP
「ダークエンペラーは古い物語を読んでいて、白紙から自分好みの女性に仕立て上げる
お話に心惹かれるものがありましたので、彼好みのアドバイスをしておきました。
もっともブラックドラゴンは無知この上ないですから、実際に満足のいく成長を遂げる
には四、五年は待たないといけないわけですが」
「……その間に彼は滅ぼされ、『心を病んだ王女様』は数年後に回復を遂げるという
わけですか」
なぜかわたしは、再びアガレスに対して敬語を用いていた。悪魔に対する憎しみ以上に、
金属の軋みのごとき鳴き声とは違うまともな人間の言葉をしゃべれる喜びが大きかった
からかもしれない。
「さいでございます。これなら『王女』は損なわれず、しかし実際には王女は苦痛に
見舞われる。依頼主と周囲の皆様の矛盾する要求をうまいこと切り抜けたすんばらしい
発想と自負しておりますが?」
「そしてわたしは邪悪な竜として討伐されるというわけですね……」
もうわたしは夢の中でしか言葉をしゃべれない。不恰好な四つん這いでは字を書くことも
ままならない。何より今の醜い身体では、人と言葉や意思を疎通させること自体が
不可能だ。つまりは魔王の手先にして王女救出部隊の仇でもあるブラックドラゴンと
思われたまま、やがて現れる勇敢な冒険者の手でみじめに殺されて屍を晒すのみ。
嘆きの呟きに返答を期待したわけではなかったが、アガレスは道化た笑みを引っ込めると
神妙な顔をして言った。
「勘違いしないでいただきたいんですけどね、わたしは依頼主にとって最善の手を
打ち続けるつもりですが、別に貴女の未来が確定したわけではありませんよ?」

116: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 00:53:32 WzqdZqYP
「……え?」
「悪魔が万能じゃないことくらい、おとぎ話でご存知でしょ? 運に恵まれれば、
どうにかなるかもしれませんよ。元の身体を取り戻せるかどうかはわかりませんが、
こちらの意図した破滅ぐらいは免れるかもしれません」
「しかし、この状況はすでに詰んでいます」
竜とて決して無敵ではない。すでに情報は伝わっているはずだから、洞窟の外に出れば
優秀な魔術師たちによる遠距離魔法の集中砲火を浴びて滅ぼされる。かと言ってここに
篭もっていても、魔力を秘めた武具で身を固めた腕利きの剣士や騎士に乗り込まれたら
それまで。人と戦うつもりなどないわたしはいいように嬲り殺されるだろう。
仮にそうした人材の手配が遅れるとしても、この巨体を維持する食料をどうするか。外に
出た場合、牧場などを襲って牛や羊を丸呑みでもしないことには胃袋が満たされそうに
ない。内に潜み続ける場合、辺りを蠢き回るおぞましいモンスターを捕食することに
なる。どちらも耐えがたく、だが空腹も今日一日ですでに忍耐の限度に達している。
「これくらいは妥協と開き直りで乗り越えられるでしょう」
わたしが陥っている窮境を理解しているだろうに、アガレスは一言で切り捨てた。
「ではまたいずれ。たぶん貴女とは次に会うのが最後になるでしょうね」
言い残すと、アガレスは優雅に一礼して消え失せた。

117: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 00:54:13 WzqdZqYP
第四章……六十日目
 
 
「リネット王女、ご機嫌麗しゅう」
闇の中にアガレスが現れた。
反射的に身構えて、ここが夢の中であることを思い起こす。自分が本来は人間であった
ことも。
わたしの姿はたちまちブラックドラゴンから人間に戻った。今のわたしからは奪われて
久しい姿へ。周囲から褒めそやされ、自分でも内心誇らしく思っていた、それなりに
美しい少女の姿へ。
「機敏な反応でございましたね。さすがに五十日モンスターと戦い続けると、野生の
勘のようなものが鋭くなってくる」
「…………」
言いたいことが多すぎて、さらに久しく話というものをしてなかったせいで言葉をうまく
発せられなくて、また、アガレスがまず口にしたこの言葉に我知らず打ちのめされて、
わたしはしばらく黙りこくってしまった。

118: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 00:56:04 WzqdZqYP
すでに日数を数えるのは止めていたが、確かにわたしはこの数十日間洞窟の中で
モンスターと戦い続けていた。それらを喰らうために。
外に出るのは、食料確保に関してと、わたしをモンスターと判断して問答無用で
襲撃するであろう兵士や冒険者に対してと、二つの不安によって断念した。
その点この洞窟には弱いモンスターがふんだんに生息し、しかも今のわたし―
ブラックドラゴンの戦闘能力を活用するには絶好の環境であり、さしたる困難もなく
生き延びることができるのだった。
アガレスと会った翌日、最初に喰らったモンスターは今でも忘れられない。甲羅で身を
守り無数の触手を蠢かせて這い回る、メバと呼ばれるモンスター。グロテスクな外観な
上、甲羅を剥いでも中の肉さえ人間には有毒で、しかも樽ほど大きく人間にとっては
凶暴な魔物ということもあり、人がこれを食した記録などどこにもない。
ただわたしは、人間の王女として囚われの身であった頃、今現在のこの身体である
ブラックドラゴンが、床や壁をのそのそ這い回るこのメバを見つけると嬉々として
捕食するのを何度となく目にしていたのだった。
もちろんいきなりそんなものを口にする勇気があったわけではない。しかしその時
わたしの近くにいた、食べるのにまだ抵抗の少ない他のモンスターは、素早く動き回る
種類のものばかり。ドラゴンになって丸一日も経っていなくて身体を使いこなせず、
飢えで衰弱もしているわたしには捕えられそうになかったのだ。
同じ生き物が、単に魂が変わっただけで、それまで食べていたものを突然毒に感じる
わけもない。そう自分に言い聞かせながら、わたしは前肢でメバの甲羅を押さえつけた。
メバは危険を感じたか、柔らかく粘つく触手を何十本とうねらせ、一部はわたしの
前肢に届く。その不快さに耐えられず、わたしは肢を離してしまった。

119: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 00:56:49 WzqdZqYP
それでも、いつまでも何も食べないままではいられない。肢の先から力が抜け、ただ歩く
ことすら苦痛になり、蝙蝠や鼠が変じた素早いモンスターが不穏にもわたしの周囲を
ちょろちょろと徘徊し始める。生まれて初めて、わたしは餓死の危険を肌身に感じた。
思いついて、メバに炎を吐いてみる。だが火力の加減をまだできなかった当時の
わたしは、メバを完全な灰にしてしまった。
わたしは覚悟を決めた。
手近なメバを掴み取って口の中に放り込み、一心不乱に噛み砕く。ドラゴンの鋭い牙は
甲羅をも簡単に咀嚼できた。触手はしつこく口の中で蠢き続けたが、舌と唾液で牙に
絡みつくそれらをこそげ落とし、無理矢理喉の奥に送り込んだ。
人間の味覚では表現できないその味は、しかしドラゴンとなっているわたしにはさして
不快でもなかった。
一度開き直ってしまうとその後の心理的な抵抗は一気に減り、わたしは様々な
モンスターを食べ漁るようになった。
それらの中には、こちらの硬い鱗をも切り裂く刃のような角を備えた鷹や、稚拙ながら
魔法を使って眠らせようとする蛙など、ドラゴンの強大な力をもってしても一筋縄では
いかないモンスターが多くて、それらを狩るうち、戦闘などとはまるで無縁に王女と
して暮らしてきたわたしは、いつしかブラックドラゴンとしての能力を十二分に発揮
できるようになっていたのだった。

120: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 00:57:49 WzqdZqYP
「まあ、それでもにわか仕込みの王女様が勝てるほど、甘い相手ばかりではないという
ことでございます」
アガレスは軽く笑う。わたしは返す言葉もない。
今、こうして夢を見ているわたしは、現実では頑丈な檻の中に閉じ込められている。
洞窟の近くにある村の一角に設置された檻の中に。
アガレスが以前語った存在。アガレスが力を貸し与えている自称魔王に立ち向かえる、
数少ない冒険者。今日、そのうちの一人が、わたしの寝ぐらであった洞窟を襲ったのだ。
 
 
今日、目を覚ましたわたしは、とりあえず目の前を這っていた五匹のメバを平らげて
朝食とした。
空腹を癒すと、毎朝毎夕の日課になった作業を始める。
『私はエルスバーグ王女のリネットです。魔王により竜と魂を入れ替えられましたが、
あなたがたと敵対する意思はありません』
と、前肢の爪を使って洞窟のあちこちの壁に彫りつけていくのだ。
洞窟全体には魔王による維持魔法がかかっており、朝と夕方になると洞窟のあらゆる
損傷が自動的に修復されてしまう。おかげで激しい戦闘が起きても洞窟はまず崩落しない
わけだが、そのたびにわたしの爪痕は空しく消し去られる。
それでもわたしは毎日二回、修復された直後の傷一つない壁に文字を刻む。無益で
恐ろしい戦闘を避け、自らが救われる可能性にすがって。同時に、自身が単に本能しか
持ち合わせない竜ではないことを確認するために。
作業の順番としては洞窟入り口近くから始めるのが基本だが、その日の気分で適当な
ところから始めることも珍しくない。今朝は起き抜けに、牢屋前の最も広々とした一角
―わたしと入れ替わる前からブラックドラゴンが寝起きしていた場所でもある―から
書き始めることとした。

121: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 00:59:03 WzqdZqYP
と、書き終えた直後、洞窟入り口の方向から奇妙な物音を聞き取る。
ブラックドラゴンの聴覚は、モンスターの中では大したことはないが、それでも普通の
人間よりははるかに鋭敏だ。そんな今のわたしの耳は、金属の鎧をガシャガシャと
騒々しく鳴らしてこちらへ歩み来る何者かの足音を聞き分けていた。
最初わたしはいよいよ人間がやって来たかと思って緊張した。『リネット』の身柄は
魔王が押さえている。それを魔王が広く宣言していれば、ここにリネットはいないと
して問答無用に攻撃が始まるだろうが、そうでなければ人質を警戒して慎重な行動を
取るはず。わたしにも自分の事情を説明して理解してもらう余地はある。
だが足音を聞くうちに、疑念が生じ始めてきた。
わたしがドラゴンになってから、洞窟内に人間が入って来たことはない。それでも、
鎧を着た近衛兵や騎士の足音は昔から聞き慣れている。その記憶に照らし合わせると、
足音の主はあまりに無警戒なのだ。
よほど腕前に自信のある練達の武人ならば、敢えて示威行動の一環として聞こえよがしに
音を立てるようなこともあるかもしれない。しかしその足運びたるやどうにも不器用、
まるで床を出たばかりの病人のようによろめき、時に壁に手をつくのか一際盛大な
金属音を響かせている。だが足取り自体は一定に保たれていた。
―魔物?
鎧を着るのは人間ばかりではない。オークやゴブリン、コボルドなどの亜人が、襲った
人間から剥ぎ取った大きさの合わない鎧を着飾ることもあれば、妖術によって
生み出された骸骨剣士などの不死生物が武具で身を固めることもある。
―骸骨は食べられないけれど、亜人なら。
わたしは涎を垂らし、舌なめずりをした。亜人は弱くて仕留めやすい絶好の食料なのだ。
ことに豚と人を混ぜ合わせたような姿のオークは、肉が多くて美味である。
わたしは素早く洞窟の構造を頭に思い描き、待ち伏せにうってつけの地点まで忍び足で
移動した。四本肢の巨体を動かすことにもすでに熟達し、角や尻尾を壁にぶつける
ような無様な真似ももうしない。

122: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 01:01:10 WzqdZqYP
相手の不意を突ける場所に陣取り、息を殺して待つ。
来た。
わたしは飛びかかり、前肢でなぎ払う。高熱の炎を吐けば一番強力な攻撃になるが、
その場合は炭化してしまって食べられないので、よほど危険と判断した時以外は
使わないようにしている。
壁に叩きつけられた敵は、だが、即座に体勢を立て直すと剣を構えてわたしに
斬りかかってきた。
その姿は、鎧の中に腐肉をまとい、時折ぼろぼろと床にこぼしさえする、亡者。
―ゾンビ?
だが普通の―わたしの知識は王宮で魔道師に教わっただけの、通り一遍のものに
過ぎないが―ゾンビであれば、こうも機敏な動きはできない。先刻までの、音でのみ
聞いていた遅々とした動きと、この姿とはぴたりと一致する。なのに今現在のこの
俊敏な動きは明白に異常であった。
とっさに身をかわしたわたしの前肢を、人型のものが持つには長大な剣が払う。一本の
爪を斬り落とし、届いた切っ先は鱗を斬り裂いて足首からもどす黒い血を流させた。
痛みはさほど感じない。竜の身体は繊細ではない。
しかしもちろん、わたしはただの低能な竜とは違い、それなりの知性を有している。
目の前の敵は剣呑な存在であると判断する。どこか別の遺跡や洞窟から這い出て来た
古代の魔物だろうか。それとも魔王が生み出して性能を試すためにわたしにけしかけた
新型のモンスターだろうか。いずれにせよ、倒すしかない。
だけど、炎を吐くのは躊躇してしまった。
一つには、わたしは炎を吐くと直後に大きな隙ができるため。生まれながらのドラゴン
ならこんなこともないのかもしれないが、わたしはそうなってしまう。もしこの
ゾンビが焼かれても動けるほど強力な呪力で動いているなら、骨だけの姿でも剣を
振るえるかもしれない。そうなったら隙の生じたわたしは格好の標的だ。

123: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 01:02:06 WzqdZqYP
そしてもう一つは……説明もできない、ただのためらい。
相貌も腐れ果て、今のわたし以上におぞましい汚れたモンスター。なのに、何となく、
見覚えがあるような気がしてしまう。もしかしたら、かつてこの洞窟で命を落とした
者の成れの果てかもしれない。わたしを救うためにここへやって来て、わたしの
この身体によって命を奪われた兵士かもしれない。
―倒した後に身元の確認をし、わたし自身が元に戻った後で遺族へ報告をする。
実現可能かどうかは定かでないがそれを目標として、わたしは行動することにした。
戦いは熾烈を極めた。
ゾンビの特徴としては、痛覚の欠落が挙げられる。ゆえにこちらの打撃は相手の肉体を
破壊するほど強烈なものでなければ意味がなく、他のモンスターであれば簡単に気絶
させられるような衝撃を与えても、それだけではしかたがない。わたしは後の先を
取られて何度となく全身を斬り刻まれた。
そしてまた、最初からわたしを翻弄した高い反応速度。殴っても応えないわけだが、
そもそもなかなか当たらない。
さらにこのゾンビは、なぜかいくつかの魔法も使うのだ。ブラックドラゴンの身体は
魔法への耐性もそれなりにあり大きな傷を負うほどではないが、火球や氷の矢を
目の前で放たれると目くらましの効果まで発揮するからたちが悪い。
それでも元々の耐久力の違いが大きかったためだろう。わたしはどうにかゾンビ剣士の
両腕両脚を解体することに成功した。

124: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 01:03:49 WzqdZqYP
立ち上がれず、それでもなおじたばたと動き回る、生ける屍。
その様子を見ているうちに、わたしはここしばらく考えないようにしていたことを
つい考えてしまった。
醜いドラゴンの巨体で洞窟を蠢き、モンスターを襲っては喰らう、今のわたし。
美しい靴を履き王宮の磨きこまれた床の上でダンスを踊る代わりに、裸足の四つん這いで
岩と泥と苔が混ざり合った上を歩く。
柔らかなフリルで飾られたドレスを身にまとう代わりに、鉱物のような鱗で全身を
覆われている。正確にはそれこそが今のわたしの皮膚。
毎朝侍女にくしけずってもらっていた長い蜂蜜色の髪の毛はどこにもなく、二本の鋭く
まっすぐな角が前に突き出ている頭。
歌を歌い詩を口ずさんだかつての口とはまるで形の違う、獣や爬虫類のごとく前に
突き出た口。その上顎と下顎には牙がびっしりと生え揃っていて、モンスターの
甲羅だろうが骨だろうがお構いなしに噛み砕く。
その口の中に収まるのは、料理人が丹念に調理した食べ物ではない。仕留めたばかりの、
あるいは生きたままの、味つけもされてないモンスターの肉。それだけ。
ただただ必死に、生き延びることだけを意識している今のわたしだが、そんなわたしは
果たしてまだ『リネット』を名乗るに値する存在なのだろうか? もうわたしは
ブラックドラゴンであることに馴染みすぎてしまっているのではなかろうか?
そんなことを考えてしまっていたせいだろう。ゾンビの着ていた鎧の端に彫り込まれて
いた文字を見て、わたしは完全に凍りついた。
『ロビン』
この腐りきった、腐汁を撒き散らす、眼窩から眼球の垂れ下がった動く死体が、ロビン。
わたしがうっすらと好意を抱いていた青年。
わたしは、自分が好きだったはずの相手を気づきもせずにバラバラに引き裂いていた。
ドラゴンの本能に衝き動かされるように。
慙愧の念など即座に湧くはずもなく、ただ瞬時の衝撃と混乱がわたしの動きを止める。
そして、敵にはそれで充分だった。

125: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 01:06:54 WzqdZqYP
地面に倒れてもがいていたロビンの亡骸が、突如背中から羽を生やして宙に舞う。
―!
距離を取ろうとしたわたしだが、反応が間に合わない。
そしてロビンの死体は、今度は腹から無数の触手を、そして口からは紫色に濁りきった
ガスを、わたしに向かって吐き出した。
どちらか片方だけならば、それでもまだ対処できたかもしれない。しかし触手は
わたしの四肢を封じ、ガスはブラックドラゴンであるわたしの頑健な肉体さえも
一時麻痺させるほどの毒性を有していた。
―よし、よくやったぞ、ロビン。
そう言いながら、洞窟入り口の方向から新たな人影が歩み寄って来た。
わたしやロビンと同年代の、一見平凡な、しかし数多の修羅場を潜り抜けた風格を
漂わせる青年だった。
―炎を吐かなかったのはロビンがスケルトンとして動き続ける二段構えを警戒したから
なのか? ブラックドラゴンにしちゃ知恵が働く戦いぶりだったな。さすがは王女様の
番兵を任されるだけのことはある。殺すのは止めだ。
青年はそう言うと、ロープを取り出してわたしを縛り上げる。よほど強力な魔力が
込められているのか、わたしはかすかな身動きも声を上げることさえもできなくなった。
どうやら彼が、かつてロビンだったゾンビを操っていたらしい。と言うことは、彼こそは
魔王を倒す実力を持った冒険者なのだろうか。そう言えば冒険者には魔物使いを生業と
する者もいると聞いたことがあった。
それなら彼に、さっき洞窟奥に刻みつけた文を見てもらえれば。『リネット』の救出も
彼の任務のようなのだし、これから奥へ進んでもらえれば。
―ま、ロビンもぼろぼろだし、今日のところは一旦帰るか。明日朝一番で強化した後、
改めて奥に挑むとしよう。
冒険者はそう言うと、わたしをロビンと二人がかりで引きずりながら洞窟の外へ出て
行ってしまった。

126: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 01:10:58 WzqdZqYP
「リネット様の破滅は、最終段階に達しました」
アガレスは、飄々とした声音でわたしに宣告する。
「肉体的な苦痛。精神的な恥辱。この五十日で王女はそれらを存分に体験し、しかも
今後もそこから抜け出す見込みは皆無に等しい」
たぶんアガレスが言うからには、そうなのだろう。
よしんば仮に『リネット』の身体と生活を取り戻せたとしても―
「もし万々が一、元に戻ることができたとしても、この苦痛と恥辱は魂にまで焼きつき、
王女は決してまっとうな幸福など得ることができない。そうお思いになりませんか、
オクタヴィア様?」
突如アガレスが背後に呼びかけると、闇の奥からポートスパンの伯爵令嬢が姿を見せた。
深い眠りにでも陥っていたところだったのか、夢の中でもネグリジェを着ていて、
だらしなく着崩している。
オクタヴィアは、急の出現に戸惑うわたしを一瞥して言った。高慢がすべての美点を
台無しにする、古い家柄の愚かな貴族にありがちの醜さには、一層磨きがかかっていた。
「まだこの女、夢の中では人間の姿じゃないの。実際はどんな浅ましい化け物になって
いるのか、はっきり見せて欲しいわね」
「かしこまりました」
オクタヴィアの要求に、アガレスは唯々諾々と従う。そしてわたしに指を向けた。
「アガレス、あなた、何を……」
「悪魔は夢の中では力が激減します。しかし何もできないわけじゃありません。
夢魔なんて連中もいるわけですしね」
そして変化の公爵は、わたしに一条の光を発射する。
それに射抜かれたわたしは、夢の中なのに激しい熱に襲われた。光の当たった部分から
身体全体へと、耐え難い熱さが広がっていく。
目眩を感じ、立っていられなくなって、わたしは両手を下に突いてしまう。
すると。
人間であった―夢の中では人間のままでいられた―わたしの身体が、次第に変化
し始めた。

127: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 01:12:35 WzqdZqYP
長く伸ばした髪の毛が抜け落ちていく。
白く滑らかな腕が黒みを帯びた硬い皮膚へと変わりながら太く大きくなっていき、
五本ある小さな指は鉄をも両断する長く凶悪な爪を備えた四本の指へと形を変えていく。
顎の形が変わっていく。鼻を伴って前方へ長く伸びていく。その内側では歯が牙へと
変化していく。
全身が巨大化していき、最近の夢の中でわたしがずっと着ていたドレスは簡単に破れ、
虚空の中に散り散りになってしまった。
身体の中で内臓まで変わっていくようだ。ドラゴンには炎を生み出す器官があるようで、
呼吸器と入り混じるそれの影響により、吐く息は火山地帯のごとき腐臭を漂わせるように
なっていく。
髪のすべて抜け落ちた頭部には二本の角が、尻からは体長に匹敵する長さの尾が、
圧倒的な存在感とともに生え揃う。まるでわたしに、今の自分が人でないと常に
言い聞かせるためのように。
熱さが全身から引いていった時、わたしは完全なブラックドラゴンに成り果てていた。
「これにてリネット王女は夢の中でもドラゴンの姿で生きていくこととなりました。
いかがでしょう、オクタヴィア様?」
「この先一生? 本当に?」
喜色満面に、オクタヴィアが確認する。
「これまでアガレスが言を違えたことがありますか? 契約が続く限り、アガレスは
貴女様の忠実なしもべです」
アガレスの言葉は真実だとわたしにはわかった。
全身を―ここは夢なのだから、つまりはわたしの魂を―何かが縛りつけている。
これが解かれない限り、わたしは今後人の姿をとることができそうにないと肌身に
感じられてならなかった。

128: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 01:14:09 WzqdZqYP
身悶えする。声を上げようにも、軋むような声しか出せない。
そんなわたしを見て、オクタヴィアはさらに笑みを深くした。
「あはははは! それが今の王女様? まあ怖い、何ておぞましいお姿かしら!」
そう言いながらも、弾むような足取りでわたしの足元に近寄って来る。夢の中で
ある限り自分がわたしに危害を加えられたりはしないとよく知っているのだろう。
「ご機嫌はいかが? 気位の高い高慢ちきで取り澄ましたお姫様! あの時はあたしに
恥をかかせてさぞよいご気分だったことでしょうけど、こうなっちゃみじめなもの
よね! ざまあみなさい、邪悪なドラゴン!」
幼い言葉を稚拙に連ねてわたしを罵る。どうやらあの一件は、本当に彼女にとって
屈辱的だったらしい。
言いたいことはあるが、口を開いても単にオクタヴィアを喜ばせるだけだ。そう認識
したわたしは、じっとその場に佇んだ。
「ねえアガレス、こいつが何を考えているかがわかんないとつまんないわ」
「では元に戻しましょうか?」
「なんでそんなことすんのよ! 姿も声もそのままで、ただ思っていることはこちらに
伝わるようにしなさいよ!」
「かしこまりました」
その瞬間、わたしの中で何かが外に開くような感覚があった。泳いだ後に耳に入っていた
水が抜けていく時のような雰囲気。
―……アガレス。
「聞こえておりますよ、リネット様」
「こんな奴に様をつける必要なんかないってば! ……でも、ほんとにアガレスは
何でもできるのね」
わたしはオクタヴィアを見下ろした。
―ポートスパンのオクタヴィア。
「な、何よ」

129: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 01:16:06 WzqdZqYP
―わたしを逆恨みするのは構いません。このような姿に身をやつしたことも、わたし
一人の問題であれば、まだ耐えられます。
「はん、何殊勝なこと言っちゃってんのよ。どうせ建前のくせに」
いかにもその通り、建前だ。こんな目に遭わされて耐えられるわけがない。でも、
建前を押し通すべき場面というものはある。
―ですが、あなたの私怨がエルスバーグの罪なき民を多く死に至らしめた。そのことに
ついては、今、どのようにお考えか。
「そんなの、あたしのせいじゃないわよ。アガレスがまどろっこしいことしたのが
悪いんじゃない」
―今、と問うている。すでに事は起こり、結果が生じた。それに対してあなたは
いかように考えるのか。
重ねて訊ねると、オクタヴィアはそっぽを向いた。
「別に知らないわよ。よその国の兵隊なんかが何人死んだって、あたしにはこれっぽっち
も関係ない話だもの」
―……わたしは、あなたを許しません。決して。
「許さなければどうだっての? 何かできるものならしてみなさいよ!」
貴族の家に生まれた下賤な娘は、わたしを挑発するように手をひらひらと振った。
「ところでオクタヴィア様。明日の成り行きですが……」
アガレスが、娘に耳打ちした。
「あはははっ! それいいわね! こいつってば、今よりまだ酷いことになるんだ!」
手を打って、わたしを指差し、これ見よがしに笑う。
わたしはただそれを見つめる。その程度の言葉で動じたくないという気持ちが強かった
が、これ以上どう状況が悪くなるのか見当がつかないせいでもあった。

130: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 01:17:20 WzqdZqYP
「気に入っていただけましたか?」
「そうね、大満足!」
かりそめの主従による会話が続く。
「わたくしからはこれ以上するべきことが思いつかないのですが、オクタヴィア様には
何か案がございますか?」
「何よそれ。考えて手を打つのがあんたの仕事でしょ」
「ですから、これまでわたくしは色々考えて様々に手を打ってきたわけです。リネット
王女をここからさらに虐げる方法は、当面思いつきません。オクタヴィア様には何か
考えつくことはございませんか?」
重ねてアガレスが問いかける。
「んー、別にないわ」
「そうですか。何か思いついていただければ、それの実現に向けて努力いたしますが?」
もう一度問われしばらくは考え込んでいたが、結局大したことを思いつかなかったのか、
首を横に振る。
「しつこいわねー、もういいわよこれで」
「はあ。もういい、ですか」
わたしと話す時と違ってそれまで無表情に振る舞っていたアガレスが、初めて
オクタヴィアに向けて笑みを浮かべた。
ひどく邪悪な笑みに見えた。
「それはすなわち契約の完了ということでよろしいですね?」
「さっきからうるさいわよ! そろそろこのつまんない場所から元のベッドに戻しなさい
ってば!」
幼児のように手足をばたつかせる娘を、アガレスは冷ややかに見つめた。
「契約完了。ゆえに今後、わたくしは貴女に従ういわれはございません。そして
わたくしは、貴女に代償を要求いたします」

131: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 01:18:40 WzqdZqYP
「……代償?」
「貴女が作動させた杖には注意書きがついていたはずなんですがね。まあ、貴女バカ
ですし、ろくに読まずにでたらめに動かしたみたいですから、気づいてなかったとしても
不思議はないんですが」
「アガレス! 何よその失敬な口の利き方は!」
「言ったでやんしょ? 契約は終わったって。正直この六十日間、苦痛で苦痛で
たまりませんでしたよ、貴女みたいなバカ娘の醜い願いを叶えるために東奔西走する
のはね」
すっかりわたしの知るいつもの調子を取り戻したアガレスは、肩をすくめると
オクタヴィアを見下して言った。
「で、あなたが知らずに契約まで済ませた『代償』なんですがね。貴女の魂そのもの
ですよ。ちゃっちゃと渡していただきます」
「……え?」
「え、じゃないですよ。魂。心。悪魔がそれを要求するなんて、砂漠で喉の渇いた
人間が水を求めるのと同じくらいありふれた話だと思いますがねえ」
「あ、ちょ、ちょっと、待ちなさいよ」
「待ちません。貴女の願いは叶った。リネット王女はこれ以上はなかなかないってくらい
完全に破滅した。貴女自身が契約完了を否定しなかった。なら、こちらはこちらで最後の
清算を済ませても、何ら問題はないでしょう?」
「だ、だって、あたし、そんなの知らなくて―」
わたしもすでに知っていたし、たとえ聞かされていなくても推測は容易だった話なの
だが、オクタヴィアには本当に寝耳に水だったらしい。
「無知は罪ですよ。人生最後にいい教訓を得ましたね、お嬢さん」

132: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 01:19:31 WzqdZqYP
アガレスは、掌をオクタヴィアに突き出す。
するとそこへ引かれるように、娘の身体から光る玉が飛び出して、掌の中に収まった。
―死んだのですか?
「正確にはまだですね。魂がしばらく抜けてても肉体は動いてるものです。リネット様の
魂をそちらに宛がってしまえばちょうどいいのかもしれませんが、わたくしの立場上
それはできないので悪しからず」
―それは、わたしからもごめんこうむります。
人間の、それも同年代でそれなりに身分の高い、少女の身体。今の身体に比べれば
もちろん魅力的だが、それでも我慢できることとできないことはある。
「まあ、そう言うだろうと思ってました。かと言って腐らせるのももったいないので、
適当に見繕っておくとしましょうかね」
―当人の魂はどうするのです?
平然と悪魔とそんな会話ができる自分が不思議だ。やはりわたしは魔物として生きる
うちに、すでに人の道を踏み外しているのかもしれない。
「そうですね。食べ応えがあるなら別の身体に移植したりしてじっくり感情をしゃぶり
尽くすところなんですが、あいにくこの娘は虫みたいなものですからちっとも美味じゃ
ない。まあ、相応しいところへ落ち着くんじゃないかと思いますよ」
光る玉を無造作に弄びながらアガレスは言った。
「ところで王女様」
―何ですか?
「明日、貴女様に何が起きるか教えて差し上げましょう」
そう切り出すと、アガレスはわたしに待ち受ける事態について話し始めた。
 
 
「では、さらばです」
わたしとの会話を終えると、アガレスは闇の中に消え失せた。

133: ◆eJPIfaQmes
08/05/26 01:27:32 WzqdZqYP
今夜はここまでです。短い話ですので、次回の投下で完結となります。

134:名無しさん@ピンキー
08/05/26 01:28:41 SCPd3vuH
GJ!目が離せないぜwktk

135:名無しさん@ピンキー
08/05/26 02:20:17 CwRrMd4v
これは期待してしまうぜ。GJ!

136:名無しさん@ピンキー
08/05/26 06:37:41 8bKGdplf
GJ!入れ替わり式のTFに加えて、肉体変化のTFもあるなんてかなり美味しいな。
登場人物一人一人のキャラ付けが決まってて面白い。

137:名無しさん@ピンキー
08/05/26 10:01:05 oWA1jSj8
保守だけで進むだけだったスレにこんな大作が投下されるなんて!
次が気になるぜ!

138:名無しさん@ピンキー
08/05/27 22:47:41 6xoh9xIw
続きが気になるのぉ~

139:名無しさん@ピンキー
08/05/28 03:40:13 mNzhcqXO
ちょっと前まで過疎ってたのにこんな良スレになるとは

140:名無しさん@ピンキー
08/05/28 21:25:41 KJoiayoa
ベルゼブブの作者様ですよね
満を持してという感じでとてもうれしいです!

141: ◆eJPIfaQmes
08/05/30 00:45:29 pmQNeIlZ
終章……六十一日目
 
 
「さあて、機嫌はどうだ? 楽にしてろよ」
冒険者は昨日と同じようにゾンビのロビンと二人がかりで、縛り上げられたわたしを
檻からずるずると引きずっていく。その行く手には、借りきったらしい村の倉庫。
広々とした床に描かれているのは魔法陣。
 
 
「あの冒険者は魔物使いです。それも、ちょっと外法に手を染めていましてね」
昨晩の夢の中でアガレスは言った。
―魔物使いの外法とは?
魔物を手なずけ使役する冒険者。そこにどのような禁忌があるというのか。
「あのゾンビ、不自然でしたでしょ? いえゾンビそのものが不自然と言えば不自然
なんですけど」
 
 
わたしは魔法陣の上に転がされた。少し離れたところにもう二つの魔法陣があり、
三つで正三角形を構成している。その片方に、ゾンビが足を踏み入れた。
 
 
―確かにそうでしたね。背中に翼を生やし、触手も備え、呪文を使った上に、戦闘と
なると異様に素早くなりました。
「つまりあれが、あの冒険者の研究の成果ですよ」
―魔法か何かで、魔物に特殊な能力を付加するということですか?
「惜しい。もう少し強引な手です」

142: ◆eJPIfaQmes
08/05/30 00:46:20 pmQNeIlZ
わたしとロビンがそれぞれの魔法陣に完全に入っていることを確認すると、冒険者は
呪文を唱え出した。西部では耳慣れない、恐らくは東方の言葉。
それと同時に足元の魔法陣が光り輝く。床に描かれていたはずの紋様が回り始め、
わたしの身体を飲み込んでいく。
目を転じればゾンビのロビンも同様に、魔法陣の中に吸い込まれていくところだった。
 
 
「モンスター同士を合成させるんですよ」
アガレスの言葉にわたしの理解が追いつかない。
「呪法の一種で二体のモンスターを溶かし、粘土細工のようにぐちゃぐちゃにして
一体化し、それぞれの持つ長所や特性は生かしたまま新たなモンスターを作り出す。
無理矢理一つにされる当事者の意思を除けば、実に合理的で優れた手口ですな」
 
 
自分で料理をした経験はないが、料理しているのを眺めるのは好きで、しばしば城の
調理場へ足を運んだことがある。
今のわたしの身体は、たぶんその時に見た一塊のバターのようになっていることだろう。
熱せられた鍋に放り込まれ、あっという間に溶け出して、他の材料と混ざり合っていく。
熱こそ感じないものの、わたしは間違いなく身体が溶けていくのを、また他の存在と
混じり合っていくのを、感じていた。

143: ◆eJPIfaQmes
08/05/30 00:48:07 pmQNeIlZ
昨晩そう聞かされて、わたしは直前にオクタヴィアが手を叩いて喜んでいたのを
思い出した。たぶんあの娘はわたしが何と合成させられるのかも聞いたのだろう。
一方わたしは自分で推測した。最も強い手駒とその次に強い手駒。より困難な局面に
挑む上では、この二つを足すのが最善の選択のはず。
つまりわたしは、ただの醜いドラゴンよりもなお無惨な存在になるわけだ。
―心は、どうなるのです?
身体に関しては諦めもつく。どの道、今の身体に未練などない。むしろ強化されれば
生き残る確率が高まるのだから、容貌などどうでもいい。
それでも、心が変わってしまうのは恐ろしかった。
アガレスは、おもむろに口を開いた。
 
 
魔法陣の中で肉体が混ぜ合わされているわたしのすぐ傍に、誰かがいる。
―姫様姫様リネット姫様
わたしを呼んでいるわけではない。その声は、ただひたすらに一途である。
死者は生前の妄執に支配されると聞く。ゾンビの中に宿っている魂のかけらは、死ぬ
間際に心を占めていた意志のかけらに衝き動かされて、骸となった後も動き続けようと
したのであろうか。
―食べ物食べ物
―食べる寝る交わる産む食べる寝る交わる産む
周囲には他の思念も屯していたが、いずれもより単純な衝動しか持ち合わせて
いなかった。色々足し合わされてはいても、あのゾンビの中心にはロビンがいたと
いうことか。
―ロビン。
わたしは、ロビンの思念に寄り添った。
 
 
「心も混ざり合う模様ですね。流されるがままにいれば」
―それはつまり、流されまいとすれば、わたしはわたしで在り続けられるということ
ですか?
「はい、おそらく」

144: ◆eJPIfaQmes
08/05/30 00:49:18 pmQNeIlZ
モンスターを合成するのにかかる時間はほんの一瞬。つまりその間に触れ合った
わたしとロビンの心の逢瀬もほんの刹那。
しかしわたしにとっては、一生忘れられないほどの濃密な瞬間だった。
―姫様、ご無事でしたか!
―ええ。あなたたちが助けに来てくれたのですもの。
―よかった。本当によかった。
―ありがとう。あなたたちのような家臣を持てたことを誇りに思います。……いえ、
あなたという人に出会えたことを。
心が重なり溶け合っていくがごとき、恍惚の一瞬。
そのまま一つになってしまえれば、あるいは最も幸福だったのかもしれない。
でも。
―さようなら、ロビン。
わたしはロビンの心のかけらを己から引き剥がした。この精神世界で強力な意志を
発揮できるわたしは、他の魂を次から次へと押し潰し、粉々に砕き、無に帰していく。
―姫様
―あなたの魂に誓って、わたしは人間に戻ります。あなたが敬愛したリネットに戻り、
あなたの墓前に改めて伺います。だから、今はひとまずお別れです。
ああ、これもまた建前だ。
わたしは単に怖いのだ。ゾンビや触手と混じった結果、自分がリネットでなくなるのが
恐ろしいのだ。それをこんな言葉で飾り、自分の選択を美化しようとしている。
―姫様、どうかご無事で。
なのにロビンは、無垢な声音でわたしに言うと、おとなしく粉々に砕かれていった。
―ロビン。
わたしは、ひとしずくだけ涙をこぼした。

145: ◆eJPIfaQmes
08/05/30 00:49:48 pmQNeIlZ
「今も述べたように、精神世界では心の力がものを言います。他者を強く拒絶し消し去る
くらいの意気込みで望めば、合成されても心まで変容させられることはないでしょう」
アガレスはわたしに明日の心得を説くと、座っている鰐の上で足を組み替えた。
「もっともその場合、魔物使いに不審がられる危険性はありますね。忠実な魔物と
足し合わせたはずなのに反抗的な態度を取ったりしたら、怪しまれること請け合い
でしょう」
―モンスターの身体に慣れた次は、猟犬としての生活に慣れる必要があるわけですね。
わたしがドラゴンの身体でため息をつくと、アガレスは慰めるように笑いかける。
「まあ、今は辛抱していれば、そのうち言葉をしゃべれるモンスターになれるかも
しれませんよ。その時にうまくやれば、『リネット王女』の身体を取り戻すことだって
ありえない話じゃありません」
妖しくもどこか人の良さそうなその笑顔を見ているうちに思い出した言葉を、ふと
話題に出した。
―あなたに関して『慈悲深い』とする評がありますね。
「そうですね。とんでもない勘違いだとは思いますが」
―けれど今回、わたしは何度かあなたの慈悲に助けられてきたように思います。
先ほどの助言もそうですが、この身体にされる直前直後の警告、や、励まし……
言いかけて、改めて意識した。
この出来事のほぼすべてを仕組んだのはアガレスであることを。発端であるオクタヴィア
と末端で直接わたしを虐げた自称魔王の間に位置してはいるが、オクタヴィアの漠とした
恨みに具体的な形を与え、ダークエンペラーに予言という形で詳細な示唆を与え続けた
のはこの悪魔であることを。
そして思い出す、初めて出会った時に聞かされた魔族の糧。
「おわかりになったようですね。わたくしの『慈悲』の意味が」
―ええ。

146: ◆eJPIfaQmes
08/05/30 00:51:05 pmQNeIlZ
気がつくと、わたしはそれまで立っていたのとは別の魔法陣の上に立っていた。全身を
縛っていた鎖も存在しない。
自分の身体を見下ろし、覚悟していたにも関わらず、その新たなおぞましさにやはり
愕然としてしまう。
爛れ、腐れ、いくらかは骨まで剥き出しになったドラゴンの死体。それが妖力によって
動いている。
ドラゴンゾンビ。それが今度のわたしの身体だった。
「ちょっと身体を動かしてみな」
魔物使いは気軽に声をかけてきた。
腐汁を垂らし今にももげ落ちそうな前肢を、試しに持ち上げ振るってみる。と、それは
生きたブラックドラゴンだった時を大きく上回る速さと勢いを有していた。危うく床を
壊してしまいそうになる。炎も問題なく吐けた。
「後は、背中の翼の具合も見たいな」
言われて初めて翼の存在を意識する。ドラゴンの巨体を持ち上げるに足る大きな翼―
もちろんそれも腐りかけだけど―が生えていて、羽ばたかせるとふわりと宙に浮いた。
「それと、魔法」
生まれてから一度も習ったことがないにも関わらず、わたしは特段意識するまでもなく、
昨日ゾンビのロビンが用いたのと同じ魔法を一通り発動させることができた。この腐った
脳のどこに記憶されているのやら、つくづく不思議に思う。
「で、隠し武器の麻痺毒ガスと触手」
喉の奥に炎を生む器官とは別の存在を感じる。そちらへ意識を切り替えて吐き出すと、
紫色に濁り果てた煙が猛烈な勢いで発生した。
最後に腹に力を入れると、メバのそれによく似た触手が飛び出し、わたしの意思に従って
ぬらぬらと蠢いた。
エルスバーグ王女リネットが、つくづく化け物に成り果てたものである。

147: ◆eJPIfaQmes
08/05/30 00:51:55 pmQNeIlZ
「さ、行くぜ。昨日の洞窟を隅から隅まで探索して、王女様を見つけ出す。それさえ
済めば後は魔王の居城に乗り込んで成敗するだけだ」
自分がすでに王女を見つけているとも知らない冒険者に連れられ、わたしは倉庫の外へ
歩み出た。
すると、倉庫の屋根からふらふらと飛んで来たものが、わたしの皮膚にたかる。今の
わたしにとっては小さな、でも人の掌くらいは大きな、蜂や虻を連想させる不気味な虫。
「へえ、デビルワスプか」
魔物使いはわたしにへばりついているそれを見て言った。
「なかなか珍しい魔物じゃないか。基本的に人間を強く警戒するはずなんだがなあ……」
そんなことを言ってる間にも、虫はわたしの身体を這いずり回る。
そして、首筋から顎を回り込んで鼻先に出たところで、わたしと目が合う。
それだけで、閃くものがあった。
「自分から寄って来るモンスターなんてそうそういないし、とりあえず連れて行くか。
何と合成すればいいかはよくわからんけど」
わたしが前肢で叩き潰すよりわずかに早く魔物使いが言い、今のところは『ご主人様』
に逆らうのもためらわれるわたしとしては、この虫を殺すわけにもいかなくなった。
矮小な虻は、わたしの身体を好き勝手に歩き回り、時折腐った皮膚をぺちゃぺちゃと
さも美味そうに舐め上げていく。
こんな姿になってまで、オクタヴィアはとことんわたしに嫌がらせをしたいようだ。
それでも極力こちらの前肢や尾や翼に打たれなさそうなところを選んで飛び回る辺りが
実に浅ましい。
もっとも、浅ましさではわたしも大差ないことに思い至り、内心で苦笑する。
ならば、浅ましかろうがとにかく生きると決めた以上、つまらぬ虫に煩わされるくらいは
甘受しよう。これしきのことも辛抱できないようでは、王女の姿を取り戻すなんて
夢のまた夢だ。
不快な感覚に耐えながら、わたしは昨夜アガレスと交わした最後の会話を思い出して
いた。

148: ◆eJPIfaQmes
08/05/30 00:53:25 pmQNeIlZ
―あなたの『慈悲』の意味。それは、例えば今回なら、わたしを簡単に絶望させて
しまわないため。無気力で空虚な、感情に乏しい存在にしてしまわないため。
なぜなら魔族は、生物の感情を食するから。とりわけ激しい感情を好むから。
―明日起こることを今告げたのも、そのため。わたしが魂まで変わり果てることを
恐れると期待して。あのロビンみたいにわたしが薄ぼんやりした存在になっては、餌が
まずくなると考えたからでは?
「まったくもって仰せの通りです。アモンは今の貴女の心の有りようがずいぶん
お気に入りのようでしてね。わたくしとしてもあれに恩を売っておくのは得策という
わけで」
アガレスは、悪びれもせずおどけた一礼をよこした。
まさに、悪魔。
どれほど憎んでも憎みたりない悪魔。
そうした憎いという気持ちすらもこの者にとっては滋養となるのだろう。
だから嫌がらせに、というわけでもないが、わたしは敢えて首を垂れた。
―……ですが、それでもわたしはあなたの慈悲に感謝します、アガレス。
「え?」
戸惑った顔。もしかしたらこのぺらぺらとしゃべり無意味なまでによく笑う悪魔が
わたしに初めて見せたかもしれない種類の顔。
―あなたが教えてくれなければ、明日わたしはわけもわからずロビンと一つになり、
鈍重な魔物になっていたことでしょう。それを運良く免れたとしても、ロビンの心と
触れ合う機会を虚しく逸したことを悔やみ続けたことでしょう。いえ、それ以前、
王宮から洞窟にさらわれた時や、ロビンが人としての命を落とした時、あるいは
ブラックドラゴンと身体を入れ替えられた時、絶望に陥ってとうに狂い果てていた
かもしれません。だから、それらのことに関しては、感謝いたします、アガレス。
と、アガレスは明後日の方向を向いて、珍しくも激しい口調で言い返してきた。
「貴女をここまで破滅させた相手に向かって何を言っているのですか? そんなつまらぬ
言葉を吐くのは、おやめいただきたい!」

149: ◆eJPIfaQmes
08/05/30 00:54:22 pmQNeIlZ
―?
なぜここでアガレスが怒りを顕わにするのかわからない。まさか好意に類する感情を
向けられたら害毒になるというわけでもないだろう。これまでわたしたちは、お互いに
表面的なものに過ぎないと承知した上ではあったが、穏やかな、一種の敬意に近いものを
示しながら、こうして夢の中で会話し続けてきたのだから。
……あるいは。
ひょっとしてアガレスは、自らの為した行為が感謝などに値しないと認識していれば
こそ、こうしてわたしの謝意を拒絶するのだろうか。
もちろん、これは人としての―少なくとも精神的にはまだ人としての―わたしが
勝手に想像した感傷に他ならないのだろう。しかし、己が振る舞いの罪深さを自覚し、
それがゆえに被害者から忌み嫌われることを望みこそすれ感謝などされたがらない、
されたら拒んでみせる。……そんな姿は、魔族としてはひどく露悪的な気がする。
それではまるで、むしろ潔癖すぎるがゆえに自らの悪行を誰より自らが許せないという
ような……。
―魔族は、
「何です?」
―人の喜怒哀楽を糧とするならば、そしてもはや死を無闇に撒き散らさないつもりで
あるならば……魔族は、人を喜ばせ楽しませることでも生きていけるのではありません
か?
「…………今さら、遅いですよ」
アガレスは、いつものへらへらとしながらも整った顔を醜く歪め、吐き捨てるように
言った。
「我々は貴女方を利用し、食い物にする。それが定められた関係です。今さらどの面
下げて、殺した者たちの子孫相手に愉快な道化を演じろと?」
アガレスのその言葉は、わたしの推測を否定するものではない。「今さら」。「殺した
者たち」。それらが、この悪魔の抱える罪の意識を物語っているように思えてならない
のだ。

150: ◆eJPIfaQmes
08/05/30 00:55:02 pmQNeIlZ
もっとも、これはすべて今しがたわたしが思いついたことに過ぎない。確認しようにも、
嘘つきかもしれない人に「あなたは嘘つきじゃありませんよね」と訊ねるようなもの
だろう。
「そんなことはどうでもよろしい。どうせ貴女は人でなくなったのだから、余計なこと
など考えることもない。元に戻れれば別ですがね」
だからわたしは、それ以上真偽定かならぬ魔族の心情に分け入ることはせず、ただ
アガレスの言葉に乗ることにした。
―そうですね。わたしは元に戻ってみせます。
魔物使いの道具となり魔王に挑み倒れるか。その前に他のモンスターと合成されて
自我を失い愚かになるか。首尾よく魔王を倒せても、自分が『リネット』だと納得
させることができずに終わるか。はたまたそれをわからせたとしても、元に戻る手段が
得られないまま、おぞましい姿の元姫君として未来永劫王宮の地下牢にでも監禁される
か。
わたしが元に戻れる見込みなどどれほどあることだろう。それでも、諦めることだけは
したくなかった。
―要求を、一つ。その暁には、夢の中でのこの姿も元に戻していただけませんか?
「いいでしょう。その時にはもう一度貴女の夢を訪れると約束しましょう」
わたしに視線を戻し、完全に平静を取り戻したアガレスが言う。
―待っていますわ。
「これっきり二度と会うことはないでしょうがね」
アガレスが唇の端を吊り上げる。わたしはドラゴンの顔なので笑えなかったが、
心の中で笑みを返してみせた。
この悪魔ともう一度会いたい。言葉を交わしたい。そう強く願った。
「では、さらばです」
アガレスは一礼すると、闇の中に消え失せた。

151: ◆eJPIfaQmes
08/05/30 00:58:27 pmQNeIlZ
これにて『アガレスは慈悲深く、なれど尊厳を破壊する』は終了です。
読んでくださった方々に感謝いたします。
好意的なご感想の数々もありがとうございました。

152:名無しさん@ピンキー
08/05/30 01:40:22 8cFbxhJ/
GJ!アガレスと王女の格好いいこと格好いいこと!
次の作品にも期待してます。

153:名無しさん@ピンキー
08/05/30 01:45:08 Xp97NDDn
GJ!
あなたがいる限りこのスレは不滅だ!

154:名無しさん@ピンキー
08/05/30 17:05:05 e7hJZUtN
すばらしい、姫様にほれました。
彼女にならやられてもいいw

155:名無しさん@ピンキー
08/06/07 07:47:51 f3GYAFBL
保守

156:名無しさん@ピンキー
08/06/07 11:53:52 dVyXBrU6
強制TFと上位者たる悪魔ってのは相性がいいよな。

157:名無しさん@ピンキー
08/06/08 08:49:28 1dTUgv25
アガレスの解釈がおかしいな。ちゃんと文献読んで書いてる?
幾ら自分風にアレンジといってもそこらへんしっかりしてないとうすっぺらいぜ・・・

158:拾った(アニメサロンで)
08/06/08 13:29:48 dTYL1SCO
479 名前: メロン名無しさん 投稿日: 2008/06/06(金) 22:20:38 ID:U12izmRZ0
少女の体のまま、体つきだけがボディビルの全国大会女性チャンピォン並みの筋肉質になる
482 名前: メロン名無しさん 投稿日: 2008/06/08(日) 10:44:19 ID:BBryzBs90
>>479

そして、全身の皮膚が真赤に変色して剛毛に覆われ、額から2本角を生やして、犬歯が全部牙に変わって、瞳の色が金色に染まり、更に虎の毛皮製の晒と褌を身にまとって、とどめに金棒を握り締めさせれば……


そりゃ、鬼じゃないか!

159:名無しさん@ピンキー
08/06/08 13:30:42 dTYL1SCO
整理後



少女の体のまま、体つきだけがボディビルの全国大会女性チャンピォン並みの筋肉質になる
そして、全身の皮膚が真赤に変色して剛毛に覆われ、額から2本角を生やして、犬歯が全部牙に変わって、瞳の色が金色に染まり、更に虎の毛皮製の晒と褌を身にまとって、とどめに金棒を握り締めさせれば……


そりゃ、鬼じゃないか!

160:名無しさん@ピンキー
08/06/08 15:40:45 ItR3adeu
>>157
設定なんてただのフレーバーじゃないの?
ただ文献にしたがってるだけのほうがよっぽど薄っぺらいだけだと思うけどな。

161:名無しさん@ピンキー
08/06/08 16:29:02 lkq1Hp60
と言うか「アガレス」という名を持っているからって
こちらの神話のそれと同一であるなんて保証は何も無いわけだし。

「バハムート」という名のドラゴンに対して
「バハムートって形状的にはカバじゃね? それにベヒーモスと別扱いっておかしくね?」
と突っ込むのも逆に無粋だしな。

162:名無しさん@ピンキー
08/06/08 18:30:55 lLlOCrgd
>>99-150 ◆eJPIfaQmes様
時間がとれずなかなか読めなかったのですが、ようやく読めました。
>>136様も書いてますがTFの見せ方が凝っていますね。
しかも、唯一人間のままでいられた場所でTFに追い込まれる、というかなり残酷なシチュで。
以前別の方の作品で話題になっていた話ですが、自分はTFの主体になる
ヒロインは気丈で聡明なタイプの方が萌えるので、姫はとても魅力的でした
>>148のアガレスのためらいも、心理の奥行きを感じさせてよかったです
美女の姿を借りた悪魔というだけで最高なのに、言動がいちいち素敵でした

163:名無しさん@ピンキー
08/06/10 19:28:35 5jvFt8uK
ほしゅドラゴン

164:名無しさん@ピンキー
08/06/11 18:31:05 FV/J2YgJ
前スレとうとう(やっと?)落ちた
終盤は埋めも兼ねて結構話し合いが盛んだったようだが
あの流れはこっちには持ってこれないものだろうか

165:名無しさん@ピンキー
08/06/11 20:00:47 reIWUDMB
積極的にネタ振りしたんだけれど、殊更降りなおす話題もなく……

166:名無しさん@ピンキー
08/06/12 12:17:18 vS9to7Rx
>>31
の追加ムービーがニコニコかyouTUBEに出ないかな…。

167:名無しさん@ピンキー
08/06/12 16:41:27 HDHUJDDl
>>166
なかったっけ?
前に過去スレに貼られてて見た様な気がするが

168:maledict ◆sOlCVh8kZw
08/06/12 17:18:20 oZeSvxCr
前スレ、自サイトの倉庫に保管させて頂きました。

ところで、DAT2HTMLというソフトで変換してるんですが、
できあがったHTMLファイルは専ブラでは開けないみたいなんです
以前別のdatを手に入れたとき、それを自サイト(今のところではない)に
保存した上で何かやったら専ブラで見られるようになったのですが、
どうやったのかよく思い出せません。
パソコン詳しくないので、いい方法があったら教えて下さい。すみません

169:名無しさん@ピンキー
08/06/12 18:32:23 asQM+/4z
保管してくれただけでも激しく乙

170:名無しさん@ピンキー
08/06/12 19:51:30 E9O6mbLB
>>168
保管乙。

お世話になってるスレだから自分ももっと貢献したいが、筆は進まず…。

171:名無しさん@ピンキー
08/06/14 12:52:45 0CNhAwuo
高校の頃1人で考えてたファンタジー系のラノべに竜に変身する竜神族の少女が
1人味方キャラとして登場してた。
【外見】普段は外見が10代後半の美少女、でも戦闘時に竜(ワイバーン)に化ける。
人間時の戦闘力は低いが、変身時は反則的な強さを誇る。変身後の姿はモンスター
ハンターのリオレイア亜種(ピンク)みたいな感じ。変身使うと戦力が上昇するが
その姿を(特に男性に)見られるのを嫌っている。

ファイヤーエムブレムのキャラをそのまんま使ったみたいな感じだけどね。
普段は可愛いくて、変身すると強くなるものの異形になるせいで変身を嫌ってる
キャラとか可愛くて萌える。BDZのザーボン見たいに変身後が極端に醜いのは嫌だけど。

172:名無しさん@ピンキー
08/06/14 21:57:40 6PN/TGPa
よし、書いて投下するんだ。

モンハンのモンスターならフルフルが可愛くて好きだな。

173:名無しさん@ピンキー
08/06/14 22:36:37 0CNhAwuo
 そのラノベは実を言うと設定を考えただけで自分に文才&根性が無い、のと話が長くなりそう
なのとで書くのを断念したまま放置してある。それに上の娘はメインヒロインでは無いし・・・
欲しければ物語全体の大まかな設定と、上の娘だけの細かい設定だけでも良ければ投稿するけど。
需要があるなら、この娘を主人公にした外伝的な短編でも作ってみようかな。

【名前】ティアマトー
【外見】人間年齢18,9歳位の美少女。ピンクの髪に青い眼を持つ。変身時は桜色の鱗と翼に、
澄んだ蒼い眼を持つワイバーン。
【家族構成】竜人族の父親(黒い鱗に赤い眼)と、人間の母親とのハーフ。両親は共に大きな戦で
命を落としている。彼女の姉が今でも生きているが、優しい性格の妹とは異なり、冷酷非常な性格で
物語の敵役の中の一人として登場する。姉(蒼い鱗に金の眼)とは物語終盤で壮大な決戦を繰り広げる。

【性格】明るく優しく前向きで普段大人しい。変身後は森一つを焼き尽くせるほどの強大な力を持って
はいるが、基本的に平和好きで極力戦いを避けようとする。竜人族を始め、ドワーフやエルフ等の多種族
(これも物語りに味方キャラとして登場する)が人間と共存できる社会を望んでいる。男性に少なからず
興味はあるが、不器用で想いを伝えるのは苦手。
【生活】竜人族は人間から差別されるため、産まれた時から両親と森の洞窟で隠れる様に暮らしていた。
生後わずか数年で両親が亡くなる。洞窟を訪れる人間は少ない為、友達は森の動物ぐらいしかいないが、
彼らの事を非常に可愛がっており、また動物側からも慕われている。人間里で暮らした経験は無いが、
幼い頃に母親から人間の生活について聞かされているため、少しは人間の生活に関する知識がある。
森が人間やモンスターに襲われると、動物を守るために戦う事がある。ヒロイン達と出会い、森を去る事に
戸惑いながらも、途中から人間の街に滞在する事になる。

長くてスマソ。

174:名無しさん@ピンキー
08/06/14 23:01:25 0CNhAwuo
あと良ければ、物語の登場キャラ(上みたいなのを全員分書いてると10レス以上は使い
そうなのでここでは省略)

【味方側(初期はヒロインⅠⅡのみ、他の3人は後から加わる)】
ヒロインⅠ(人間の剣士)
ヒロインⅡ(人間の魔法使い)
ヒロインⅢ(この娘が上のやつ)
ヒーローⅠ(エルフの美形戦士)
ヒーローⅡ(ドワーフの巨漢)

【敵側】
ヴィランⅠ(敵軍リーダーでⅡ~Ⅶを統率、最強の敵で物語のラスボス。大剣と魔法を
共に用いる人間の青年。)
ヴィランⅡ(敵軍副将、ダークエルフの女性。弓に短剣と回復魔法を用いる。)
ヴィランⅢ(頭の切れる錬金術師の男。火薬や毒等の化学兵器で戦う。機械に強い。)
ヴィランⅣ(神職にも関わらず殺生を行う邪悪な武装修道士。鎖鎌で戦う。)
ヴィランⅤ(長剣2本を手に持ち、1本を口に咥える3刀流の剣士。柄の悪い青年。)
ヴィランⅥ(戦闘で無残に負傷した身体をⅢに改造して貰ったサイボーグ、主に銃器で戦う。)
ヴィランⅦ(デカいオーガの大男。力はあるが脳と素早さがない。鉄球や棍棒などで力任せに戦う。)

ヴィランⅧ(上に書いたティアマトーの姉。悪役集団であるⅠ~Ⅶに協力し力を貸す。強さはⅡ~Ⅶ
よりは上で、Ⅰよりは弱い。)

175:名無しさん@ピンキー
08/06/15 00:46:32 xBpTc41i
設定を考えて後は脳内補完、よくあることです

176:名無しさん@ピンキー
08/06/15 01:07:53 7V7f027T
ゲームなり小説なり漫画なり、設定を考えるのって面白いよな。
その娘を主人公にした外伝的な短編、読んでみたい。

177:名無しさん@ピンキー
08/06/19 20:53:50 /6AurfoB
ほしゅワイバーン

178:名無しさん@ピンキー
08/06/20 03:14:13 YFNXv8cf
ワイバーンといえば海原みなもちゃんが変身してましたね

179:名無しさん@ピンキー
08/06/21 00:12:37 I3h+E6OJ
>>178
探そうとしたら多すぎて頭がパンクした

180:待ち切れず俺が書いちゃったお(^ω^)
08/06/22 01:23:07 atu4Kb8G

 初夏の森に静かな夜が訪れた。獣も鳥も寝静まり、満月の綺麗なよく晴れた穏やかな夜だった。
その外れにある岩山にいる者達を除いて・・・。
 そのブナの原生林を見渡す荒涼とした岩山の上に巨大な一つの青黒い影が上空から舞い降りた。
岩山の上には既に先客と思わしき六つの影があったが、その風貌からして彼らが異様な一団である
事は誰の目にも明らかだった。
 「御救援の程、感謝致します。」
 その不気味な集団のうち、薄紫の長髪を左右に結び、鋭い眼に尖った耳を持った年の頃20代半ば
と思われる女性が影の舞い降りた場所に向かって丁寧に一礼をした。
 「そういう依頼だからさねぇ。」
 謎の影が降りた場所には、もう一人の女性の姿が現れた。こちらは蒼い眼に金色の長髪を靡かせた
年の頃20代前半と思われる長身の女性だった。彼女は先に来ていた六人の存在を確認するかの如く彼
らをゆっくりと見回していった。
 「総大将様は、どこへ。」
 「はっ、重大な仕事があるとの事で留守に。敵の討伐は我らのみに任されると。」
 尖った耳を持つ方の女性が主の留守を説明した。
 「ひゃーっひゃっひゃっ!小難しい理屈は構わねぇから、早くぶっ潰そうぜぇ。殺し屋として血が
うずうずしてしょうがねぇや!」
 六人の中で一番の巨躯を持つ大男が耐え兼ね、声を張り上げた。
 「そうは行きませんね。これは私共にとって厄介な敵となるであろう者の早期討伐という重要なる
任務。安易な感情で動かれては計画の遂行にも不備が生じましょう。折角強力な外部協力者を見つけ
たというのに・・・計画が失敗に終ってしまっては元も子もありません。」
 「ぶっ殺せる・・・俺も楽しみいい事。でも計画失敗・・・よくない。」
 六人の中で薬品の様な異様な匂いを放つ男と、鋼鉄の義手や武器を身体に仕込んだ異様な風貌の男
とが静かにその大男を制した。
 「ちっ、ああがったよぉ・・・黙ってりゃあいいんだろぉ?」
 「まあ待て、もう少ししたら嫌というほど殺れるぜ。クククッ・・・」
 口に長剣を咥えた明らかに柄の悪そうな青年がそれをなだめた。
 先の六人に新たな一人を加えたその一団は獲物を狙う猛獣のともつかない獰猛な笑みを浮かべ、
目下に広がるブナ林へと視線を降ろした。

181:名無しさん@ピンキー
08/06/22 15:36:59 ggJ3xD1d
ええと、連載形式?だったらその旨を明示しておいた方が良心的かも。
メインディッシュが楽しみ。

182:名無しさん@ピンキー
08/06/23 01:39:19 o2ovRTKB
俺の拙い文才でとりあえずここまで書いてみたorz
※以下の作品は連載物です。


 その少女は夢を見ていた、少女の幼い頃の記憶を映し出した夢。しかし、それは幼少時の微笑ましく
楽しい思い出などでは決して無かった。炎に包まれる街と身体に吹きつける熱風、死体の海に腐り焦げ
た匂い、叫び声を挙げながら逃げ惑う人々。全てが阿鼻叫喚の地獄の様相を呈していた。降り注ぐ炎や
砲弾に矢の嵐の中を、少女は父と共に飛んで逃げる。一頭の巨竜と、一頭の子竜となりながら・・・


「夢、か・・・」

 少女は定期的にこの夢を繰り返し見る。あれが少女から両親を、全てを奪い去った大戦だった。
忘れたいが、しかし少女の脳裏に刺青の様に掘り込まれ、決して忘れ得ぬ記憶。年端もゆかぬ少女が
背負い出すには余りにも残酷な記憶。この記憶が以来、少女を苦しめて止まなかった。

「引きずっても仕方無いよね。」

 洞窟の暗闇の中から少女は、日差しを求めて伸びる花の様に外へと這い出していった。外の陽射しが
それまで闇に隠されていた少女の全貌がゆっくりと照らし出されていく。年の端二十そこそこの若い娘
だった。白くきめ細やかな肌に、美しく整った桜色の髪、全てを透かしてしまいそうな碧眼に、果実の
様に柔らかな肉体、その優しく清楚な全貌は天使の様だった。深い森の中に独り佇むその少女は、どこか
神々しくさえあった。
 洞窟の外にはサヨナキドリの歌声が響き渡り、少女の大好きなスイカズラの香りが当たり一面にたち
こめていた。平和そのものの光景である。この森での暮らしこそが、辛い過去を背負い、孤独に苛まれる
少女を救ってくれる存在だった。

「水浴びでもして、少し冷やして来よっかな。」

 言いながら、少女は彼女のお気に入りの泉へと足を運んでいった。

183:名無しさん@ピンキー
08/06/27 00:48:38 /bgJyDIC
保守わーうるふ

184:名無しさん@ピンキー
08/07/01 06:06:27 W0nq8IPh
保守らいかんすろーぷ

185:名無しさん@ピンキー
08/07/01 15:28:39 wtPa4OES
保守d e a r 

186:名無しさん@ピンキー
08/07/01 19:44:13 S1O1TneS
つづきまだー?

187:名無しさん@ピンキー
08/07/03 19:06:28 Cys6bH2A
>>186♀ワイバーンまだです。ごめんなさい・・・orz 忙しくて、中々時間が取れないもので。
ちなみに当初は、主要登場人物(5名)の何人かが敵軍(8名)との決戦のさなかに死亡するという
設定で、♀ワイバーンもその中の一人だったのですが。もう少し書いてみて、小説&ワイバーン娘
の人気が高そうであれば、「死亡する」から「重傷は負うも一命を取り止める」とかにあらすじを
少し変更してみようかとも考えてます。

188:名無しさん@ピンキー
08/07/04 23:59:07 b9O8mraG
変身ネタでもないあらすじだけじゃリアクションのとりようがないよ。

種族の被差別と、変身後の容姿がコンプレックス、ってのは王道で良いよね。
楽しみにしてる。

189:名無しさん@ピンキー
08/07/07 08:29:11 EBS3U4HK
ほっしゅ

190:名無しさん@ピンキー
08/07/10 08:48:22 /Q9jDj8G
保守

191:名無しさん@ピンキー
08/07/16 00:11:08 SgEw6ITp
保守蜘蛛女たんイートミー

192:名無しさん@ピンキー
08/07/17 02:05:52 JOS/k89q
嘗て無い停滞に

俺の胸は爆発寸前!

193:名無しさん@ピンキー
08/07/17 02:59:07 4b5OQ94c
>>192
正味な話、小説を書くこと自体が趣味じゃないと、胸が爆発寸前じゃなきゃ書けないよ
だからまあ、期待してる

194:名無しさん@ピンキー
08/07/20 11:30:28 OtN386sr
もうこのスレオワタ

195:名無しさん@ピンキー
08/07/21 01:05:34 8bexLpE6
近いうち何か投下します。だから保守

196:名無しさん@ピンキー
08/07/21 10:12:22 tUwnHF0B
期待保守

197:名無しさん@ピンキー
08/07/22 17:27:33 9NjRkB7D
「佐織~、ご飯の時間だ」
研究室の一角、しかしそこは独房と呼ぶに相応しい場所だった。
佐織はいつものように暗闇から前足だけを覗かせる。
「今日は佐織の大好きな毒蜘蛛だよ。
なんとオーストラリア産~!高かったんだぜ、コレ」
俺は手に持った皿を佐織に見えるように傾けてみせた。
皿の上では色鮮やかな巨大な蜘蛛が手足をもぞもぞ動かしている。
「入るよ・・・」
俺はごくりと生唾を飲んで、鉄の格子に手をかけた。
ギギギギギ・・と派手な音を立てながら、重い扉が横にすべる。
「ほーら、佐織、うまそうだろう?」
なるべくおどけてしゃべってみたが、やはり声は震えていた。
そう、今日はいつもと違う。
普段は食事を与えるとき中になんか入らない。今日は特例中の特例。
独房に足を踏み入れると、空気が一変したのがわかった。
そして同時に悟ってしまったんだ。

今日俺は佐織に殺されるんだって。

198:名無しさん@ピンキー
08/07/22 17:29:41 9NjRkB7D
付き合うってほど大袈裟なもんじゃない。ただ彼女が俺に惚れてただけ。
仕方ないから一緒に遊びに行って一緒に住んでセックスして。
別に楽しくなんかなかった。
でも、彼女は、佐織はいつも心の底から楽しそうに笑っていた。
佐織には悪いけど、俺はそんときの佐織の顔をよく思い出せない。
だってあのときの俺は、どうかしてたんだ。

自己紹介が遅れたけど、俺はある研究室で助手をしている。
なんかわけのわからない大きな団体で、どんな活動をしてるかもよくわからない。
でも俺はそこで自分にわかることを自分のできる範囲でやってる。
仕事ってそういうもんだろ?
とにかく俺はわけわからないなりにもちゃんと仕事をして女とも遊んでたわけだ。

199:名無しさん@ピンキー
08/07/22 17:31:02 9NjRkB7D
しかし運命は突然狂ってしまった。俺のついてる教授の一言で。
「今度の実験には被験者が必要だ」
ふーん。それで?
「来栖君(俺の名字ね)にお願いしたいのだが」
ちょ、待てよ。
「お、俺ですか?あの、実験てどんな・・」
「まあ今度のはちょっと大掛かりなものになりそうでね、
私の知り合いといえば、君ぐらいしかいないだろう?だから君にお願いしたまでだ」
「はあ、まあそれはわかりますが、実験って・・」
「内容は君に言っても到底わからんよ。イエスかノーかだけ聞かせてくれ」
まあこの業界ネジが一本や二本足りない人間は多いからな。珍しいことじゃない。
「まあ断るようであれば?私もクビ、当然君も」
「あ、ああ待って!います!一人、俺の知り合いに調度いいのが!そいつに頼んでみますよ」
頭の中にあいつの顔が真っ先に思い浮かんだ。
「本当か、よかった。じゃあうまいこと頼んでくれよ」
教授はまるでこうなることを予想してたみたいに軽い足どりで立ち去っていった。

200:名無しさん@ピンキー
08/07/22 17:41:36 9NjRkB7D
「な?そんな怪しい実験じゃないんだ。ほんとだって!頼むよ」
佐織はなかなか首を縦に振らなかった。まあ当然だけど。
「シンちゃん(俺の名前ね)の言うことは聞いてあげたいけど、やっぱり怖いよ・・」
「わかる!佐織の不安は痛い程わかる!けど、俺は
一緒に経過を見届けなきゃならないからさ、頼むよ、俺には佐織しかいないんだ」
口からデマカセ、まったくヘドが出る。
「ほんとに?」
しかし佐織はというと顔を赤くして満更でもない様子。もう一押し。
「当たり前だろ、それに俺がそんな危険なこと、佐織にさせると思うか?」
「ううん?」
「じゃあ決まりな」
「うん!」
「サンキュ」
俺は佐織の唇にキスしてやった。
佐織は待ってましたといわんばかりにキスに夢中になる。
これだから女は嫌いだ。
こんな普通な女どうなったって構わない。
このとき俺は、快く実験を引き受けてくれたにも関わらず、沙織のことを内心嘲笑っていた。

201:名無しさん@ピンキー
08/07/22 17:42:16 9NjRkB7D
実験はさっそく翌日から行われることになった。
「まさか女を連れてくるとは思わなかったよ」
教授もご満悦。そりゃ男よりはやりがいがあるだろう。
「じゃあさっそくだが来栖君、これをあの子に」
教授に渡されたのは注射器だった。中には青紫色の見たこともないような色の薬品。
さすがに俺も躊躇した。
「こ、こんなの射って佐織は大丈夫なんでしょうね」
「わからん。実は私も何も知らないのだよ。
噂ではどこかの国の政府が作った薬品で、極秘に日本に持ち込まれたとかなんとか」
噂かよ・・・。話は聞かれてないものの、佐織も不安そうにしている。
俺もどうしていいかわからずもたついていると、耳元で教授が囁いた。
「これはね、もうクビとかそういう次元の話じゃない。
君も関わった以上ここでやめるのは危険だ。もちろん彼女も。
もう後戻りはできないんだよ・・」
教授の声はまるで楽しんでいるように聞こえますけど・・。
まあたしかにここまで来たらやるしかない。俺は腹を決めて佐織に近づいた。

202:名無しさん@ピンキー
08/07/22 17:42:59 9NjRkB7D
「シンちゃんひょっとしてこの注射、私に射すの?」
「そうだよ、なに、ビビっちゃってる?」
「当たり前じゃん!こんな気持ち悪いの!私帰る!」
佐織はクルッと向きを変え、カツカツと靴を響かせながら出口へ向かう。
こうなりゃ力づくでも!
「待てよ!」
俺は佐織の腕をぐっと掴んだ。
「いったあい!」
佐織が振り返ると同時に俺は素早く佐織の二の腕の付け根にプスッと注射を差し込んだ。
「あっ!」
注射の中の液体は少しずつ、確実に減っていき、
佐織の腕に注ぎ込まれていく。
まるで時間が止まったように数秒が過ぎ、注射の中は空っぽになった。
俺は注射針を抜き取る。
佐織は目に涙を一杯ためて、
「バカ!」
と言い残し実験室を出て行った。
放心状態の俺。教授が俺の肩をポンと叩いて言った。
「楽しみだな」

203:名無しさん@ピンキー
08/07/22 17:49:47 9NjRkB7D
その後三日間、俺達は泊まり込みで佐織を観察した。
しかし様々な検査をしても、なにひとつ変化は見られなかった。
やっぱりあれはただの色水だったのだろうか。
教授もおもしろくないといった様子で、ついに実験は終了することになり、
俺と佐織は帰宅することを許された。
佐織は金一封をもらい、かなり浮かれていた。
ま、結果オーライか。これで俺も肩の荷が降りるってもんだ。
家に着くと佐織はすぐにキスしてきた。やることにしか興味がないのかこの女は。
しかし俺の頭の中にはあの液体の青紫色が鮮明にこびりついていて、
どうしても佐織とセックスする気にはなれなかった。
佐織ははぶててふて寝。俺が潔癖すぎるのかそれとも。

しかしその日の夜、俺の勘が間違っていなかったことが証明されることになる。

204:名無しさん@ピンキー
08/07/22 17:50:30 9NjRkB7D
「ぐぎゅるるるる~」
「ぐぎゅるるるる~」
寝静まった夜の空間に異音が響く。
まったくなんの音だ。思わず目が覚めてしまった。
横を見ると佐織も寝返りをうってよく眠れないようだ。
不思議に思い佐織に聞いてみた。
「なあ、これ、なんの音だろう?」
すると佐織も起きているようでこっちを向いた。
しかし俺は佐織の顔を見て思わずのけぞった。
目が赤く血走って、ギラギラしている。
「おい、ちょっと、どうしたんだよ」
「お、お・・」
かすれた声を振り絞るように佐織は口を開く。
「お、お腹が、空いて、眠れないの・・」
「へ?」
俺は思わず間の抜けた返事をしてしまった。
「お腹が空いて眠れないのよぉ・・!」
暗闇なのでよく見えないが佐織は涙を流していた。
「じゃあ、なんか食えよ」
「食べたよ!実はさっき起きてカップ麺食べたの。でも全然満たされない・・」
ぐぎゅるるるるる!その音はむしろ腹の音だと思えないほど大きな音だ。
「それ、佐織の腹の音か」
「うん、恥ずかしいけど、止まらない・・」
今頃になって変化が現れたってことなのか。俺は起きて携帯を手にとった。

205:名無しさん@ピンキー
08/07/22 17:52:11 9NjRkB7D
その後俺達は研究所に向かい、教授にいきさつを話した。話してる間も佐織の腹の音は鳴り続けてかなりうるさい。
「じゃあこういうことか。この三日間見えないところで佐織君の身体は変化していた。
そして今日になって初めて見えるところに変化が現れるようになったと」
「そうなんですかね」
「そうだとも!」
教授は目を輝かせた。
「そしてカップ麺を食べても腹がふくれない、つまり今の彼女の身体が欲しているのは
人間の食物ではないということだ。違うかね?」
「まあ、そういうことになりますかね・・」
「私に心あたりがある。ちょっと待っていてくれ」
そう言うと教授は研究所の奥へと駆けて行った。

206:名無しさん@ピンキー
08/07/22 17:53:19 9NjRkB7D
「シンちゃん、もうお腹が空いて頭がおかしくなりそうだよ・・!」
佐織はもう半泣き状態だ。腹の音は更に大きくなっていく。
「大丈夫だ。今教授がなんとかしてくれるって」
「そんなの信じられないよ・・」
俺もだよ・・。早く帰って眠りたいよ、全く。
「おおい、すまんな遅くなって」
しばらくして教授が戻ってくる。手に何か持ってるが?
「佐織君、いま君が欲しがっているのはスバリこれだろう」
教授は手に持っていた容器を机の上にどんと置いた。
それは虫かごだった。中を覗いてみると、そこにいたのは見たこともないような大きな蜘蛛。
全身が茶色い毛で覆われていて見るからにグロテスクだ。
「きゃあ!なにこれ!」
佐織は一目見ただけで悲鳴をあげた。
教授はニヤニヤしながら佐織に言い放った。
「これが君の食料だよ」

207:名無しさん@ピンキー
08/07/22 17:54:06 9NjRkB7D
「こんなの食べるわけないじゃない!あたし虫とかダメなんだから」
「そんなことはない、よく見てごらん」
教授は必死で目を逸らす佐織の目の前にかごを持って行き
しつこく佐織の顔に近づける。
「ちょっとやだ、やめてよ!」
「いいからちゃんと見て!」
教授はぐいっと佐織の顔を両手でつかみ、虫かごの方を向かせた。
「あ、あ、気持ち悪い・・」
佐織の声が震える。
「気持ち・・・悪いよぉ」
しかし少し様子がおかしい。佐織の目は真っすぐに蜘蛛を見つめていた。
やがて教授がゆっくり佐織の顔から手を離しても、
佐織の目は蜘蛛から離れない。むしろ凝視している。
ぐぎゅるるるるる!
佐織の腹がけたたましく鳴り響く。まるで蜘蛛に反応しているようだ。
やがて、じっと見つめていた佐織の口の端からてらてらと光るものが見えた。
佐織はだらしなくよだれを垂らしていたのだ。

208:名無しさん@ピンキー
08/07/22 17:54:51 9NjRkB7D
「教授・・」
佐織が静かに口を開く。
「ちょっと、この蜘蛛触ってもいい?」
呂律の回らない喋り方。
「ああいいとも」
教授はゆっくりと蓋をあけ蜘蛛を取り出し、佐織の手に乗せた。
佐織は蜘蛛をとろんとした目で眺めている。数分前まで暴れていたのが嘘のようだ。
口からはとめどなくよだれがどぷどぷ溢れている。
しかし本人はまったく気付いていない様子だった。
なんだか異常なシチュエーションだが、俺は今まで見た佐織の中で一番綺麗だと思ってしまっていた。
しばらくして佐織は小さな声でこう言った。
「いただきます」
そう言うと佐織は大きく口を開け、ばくりと蜘蛛を一口で食べた。

209:名無しさん@ピンキー
08/07/22 17:55:49 9NjRkB7D
ぼり・・・ぼり・・・ぼり・・
蜘蛛を租借する音。思わず鳥肌が立ってしまう。
しかし当の佐織はというと、うっとりとした表情を浮かべ、
味わうようにゆっくりと口を動かしている。
佐織の唇の端から蜘蛛の脚がぴょんと飛び出していて、
咀嚼する度に少しずつ中に入っていく。
佐織は本当に蜘蛛を食べたんだ。俺は改めて目の前で起きたことを実感した。
やがて蜘蛛をごくんと飲み込み、佐織はぷはあと息をついた。
しかし数秒後、自分が何をしたかに気付いたようで
サーッと血の気が引いたように顔が青くなった。
「いやああああああああ!」
研究室中に佐織の声が反響した。
「食べちゃったあああ私、虫たべちゃったよおお・・」
佐織が泣くのも当然だ。俺は佐織の肩を優しく抱き寄せた。
「ううう苦いぃ後味が苦いぃ・・」
うぇ。勘弁しろよ・・。
蜘蛛を食ってから佐織の腹の虫はすっかりおさまっていた。

210:名無しさん@ピンキー
08/07/22 18:13:56 jifykBx7
連投支援

211:名無しさん@ピンキー
08/07/22 18:16:04 9NjRkB7D
いまんとこここまでしか書けていません・・・

支援サンクスでした

212:名無しさん@ピンキー
08/07/22 18:27:07 tV2qbfUH
GJ!蜘蛛を食べるシーンがすごい好き。本人の意志に反して、って最高だよね!

213:名無しさん@ピンキー
08/07/23 03:06:25 qGqmANPm
GJです。すごくいいですね。
さて、佐織は何になりつつあるのか。続きが楽しみです。

214:名無しさん@ピンキー
08/07/25 12:52:08 45/Obcyq
近いうちにワイバーン娘うpします。文才には期待しないで下さい。

215:名無しさん@ピンキー
08/07/27 03:44:28 MMByZ5JL
まだー?

216:195
08/07/28 16:13:54 h7nUauJC
>>197-209様乙です!続き楽しみです!

実を言うと近いうち投下すると言いつつ、まだだったりします。
(流れからすると当然195=197に見えそうですが)
…すみません

217:名無しさん@ピンキー
08/07/28 21:04:01 /tC3OS5S
分かった早く投下するんだ!いいか、絶対だぞ!!約束だからな。

218:195
08/07/30 22:45:59 Ua7xUukr
来週…来週には…

219:名無しさん@ピンキー
08/08/01 20:32:34 s8z2RCGI
>>218
そういってどうせ書かないんだろ。書く書く詐欺Uzeeeeeeeee

220:名無しさん@ピンキー
08/08/01 20:37:45 360Tb+Kr
     ____________
    ヾミ || || || || || || || ,l,,l,,l 川〃彡|
     V~~''-山┴''''""~   ヾニニ彡|       書く・・・・・・!
     / 二ー―''二      ヾニニ┤       書くが・・・
    <'-.,   ̄ ̄     _,,,..-‐、 〉ニニ|       今回 まだ その時と場所の
   /"''-ニ,‐l   l`__ニ-‐'''""` /ニ二|       指定まではしていない
   | ===、!  `=====、  l =lべ=|
.   | `ー゚‐'/   `ー‐゚―'   l.=lへ|~|       そのことを
    |`ー‐/    `ー―  H<,〉|=|       どうか諸君らも
    |  /    、          l|__ノー|       思い出していただきたい
.   | /`ー ~ ′   \   .|ヾ.ニ|ヽ
    |l 下王l王l王l王lヲ|   | ヾ_,| \     つまり・・・・
.     |    ≡         |   `l   \__   我々がその気になれば
    !、           _,,..-'′ /l     | ~'''  小説のうpは
‐''" ̄| `iー-..,,,_,,,,,....-‐'''"    /  |      |    10年後 20年後ということも
 -―|  |\          /    |      |   可能だろう・・・・・・・・・・ということ・・・・!
    |   |  \      /      |      |


221:名無しさん@ピンキー
08/08/01 21:02:43 s8z2RCGI
>>220
Warota。

222:名無しさん@ピンキー
08/08/03 02:26:36 D40/2hh8
>>182ワイバーン娘の続き。

 小鳥の囀りを聞き早朝の涼しく湿った風を麗しい身体に受けながら、少女は泉へと辿り
着いた。少女の向かいには、小高く聳えた黒い岩壁の上から、湧き出た水が小さな一筋の滝
となって流れ落ち、それが下に広がる岩盤に流れ落ちて作られた、浅く広い天然の浴場が有
った。壁面から生えるシダや年季を感じさせる苔、更にそれを包む万緑を讃えた周囲の木々
が無機質な岩にまで生命感を与えていた。

 少女は暫く泉の前に立つと、腕を頭上に伸ばし大きく深呼吸した。木々の香りやそれを
縫って降り注ぐ太陽の暖かさを少女は吸い込む、やがてそれは体の中に広がり、嫌な夢の
記憶を浄化していった。

 やがて少女は羽織っていた足首ほどまでもある薄茶色のケープを外すとそれを綺麗に畳み、
泉のほとりの平たい岩の上へと載せた。同じ様にして膝下まである波打った薄手の黒いスカート、
レースで飾られた白い長袖のブラウス、純白のスリップ、そして清楚なパンティーを順番に
ゆっくりと脱いで行く。一糸纏わぬ姿となった少女の胸がたわみ震えた。


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