09/01/23 00:52:08 qutcDMI1
スペースが無くて読みにくそう&誤字脱字があるので直します。スミマセン;
午前3時、東京都新宿区。人がとっくに去った後の深夜のデパートの屋上で二つの影が街を見下ろ
していた。いずれも外見は大人の魅力を漂わせながらも可憐さの残る、20代前半と思われる美麗な
容貌の若い娘だった。
もう冬だと云うのに一人は袖無しで、光が意味を失う様な黒に近い暗灰色のタイトドレスに身を
包み、様々なアクセサリで腕や首元を飾った欧州系の美女だった。桃色の混じった長い栗色の髪を
金の髪飾りでとめており、右手には捩れた流木の様な妖しくも美しい曲線を描いた杖を携えている。
傍らに佇むもう一人は漆黒の闇に何故か染まらぬ純白地の和服に白足袋の上から漆塗りの黒い
下駄を履き、藤色の帯を巻いた淑やかな印象の日本女性だった。降ろされた美しい長髪と瞳は透き
通る様な水色を灯し、白い着物の裾と袖にも同じく水色の細かな雪の結晶模様が散りばめられている。
その幻想的な全貌は暗夜の海に浮上する氷塊の様であった。
美しくも得体の知れぬ二人の前には掌大の水晶珠が宙に浮かんでいた。静まり返る闇の不気味さと、
その有り得ない者達が起こす有り得ない現象の横で、昼間は子連れの買い物客で賑わう遊具の影さえ
もが魔物の群れの様に見えた。覗き込む様にして水晶球を見つめていた黒いドレスの女性が、ふと視
線を横に移す。ステンレス製の手すり越しに、深夜でも車の通行が絶える事の無い忙しげな道路を、
まるで何かを探る様にして見つめる。先程、付近の銀行に3人組の強盗が押し入ったのだという。水晶
珠に映し出された像に拠れば白いミニバス車に乗って依然として逃走中で、この付近の国道沿いを走
行しているものと思われた。
ここ200年程の間で社会規則の整備や文明の進歩が急速に進み、人間の社会が随分と複雑化してくれ
たおかげで彼女達妖怪が人間社会に紛れ込むのも昔よりは面倒になった。彼らの生活に紛れるにしても、
いくらか準備せねばならないものもできてきた。その中で資金は最も基本的なものといえた。もちろん、
善良な一般市民や、あるいは彼らの世界で「銀行」と呼ばれる施設から財産を収奪する方法も無い訳で
はなかった。しかしその場合には彼らのいる世界で「警察」と呼ばれる所謂治安部隊から、約10年から
20年程の間―その期間は地域によって異っていたが、今彼女達がいる国では―狙われ続ける事になる
のだった。もっとも、超人的な力を持つ彼女達にとって警察の武力それ自体はよほどの低級妖怪でもない
限りまず殆んど脅威となり得ない。しかしある人間―特に集団、から長期的に目を付けられるというの
は、彼女達が人間社会に紛れて生活する上でも厄介となるのだ。任務を余計に複雑化させない為にも、警
察に狙われるという事態はなるべく避けたかった。それ故、強盗やマフィアといった犯罪者から資金を奪
うという手法が一般的であった。狙えそうな「獲物」が見つけ易いという点において、犯罪の多い地域と
いうのは彼女達にとって都合が良かった。比較的犯罪が多発すると聞きつけてこの地に足を運んだのもそ
ういった理由からだった。